ライブ・『マッドネス』・ストリーミング
#UDCアース
タグの編集
現在は作者のみ編集可能です。
🔒公式タグは編集できません。
|
「はい、今日の配信もみてくれてありがとうございましたぁ。またみてくださぁい」
少年は薄暗い部屋で、自分の大好きなバーチャルアイドルの生配信が終わるのを名残惜しそうに見ていた。このバーチャルアイドルの毎週の生配信が、彼の退屈な日常を潤す唯一の楽しみだった。配信が終わったとき、あるものが彼の目に留まる。
「なんだろう、これ」
ウインドウに表示された『関連動画』の項目に奇妙な生配信動画のサムネイル。タイトルは文字化けして読むことができない。特別みたいものではなかったが、惰性でサムネイルをクリックする。このあとに待ち受ける塾の宿題から少しでも逃れたかったのだ。
その数分後、少年は叫び、自らの体を肉が抉れるまでかきむしり、病院へ救急搬送された。
●グリモアベースにて
「兄弟、クソッタレな邪神がクソッタレ復活する」
グリモア猟兵、ラウ・スターバック(ホットラインオペレーター・f18348)はテレビ放送であればがっつり『ピー』と音が被せられそうなスラングを交えて状況を率直に伝えた。猟兵たちを兄弟とも呼びかけたが、ここにいるものの中に血縁者はいない。事件解決のために集まった猟兵に親愛を伝えるためだ。
「復活場所はUDCアース、日本のある都市の海岸というところまでは特定できている。残念ながらこいつの復活そのものは阻止できない」
「阻止できないのであれば、可能な限り嫌がらせをしてから叩こうということ?」
「その通りだ兄弟!」
猟兵の問いかけにスターバックは手を叩いて肯定し、自身の私用品であるタブレットを取り出す。そこに写されているのは、とある動画サイトのスクリーンショットだ。
「邪神復活の数時間前に、各地で病院に救急搬送される民間人が見えた」
運ばれた者は全員、某動画サイトで同じ生配信の映像を見ていたとのことだ。未来予知に光景が見えたということは、邪神復活とこの事象は関係しているということで相違ないだろう。スターバックの考えでは、配信自体がなんらかの邪神復活の儀式の一部ではないかということだ。予知した邪神復活の光景にも近くに復活の儀式が行われている様子はなかった。
「じゃあその配信を止めてしまえばよいのではなくて?」
猟兵の問いかけにスターバックは首を横に振る。
「ところがどっこい、サイト自体になにか魔術的な細工がしているらしく、通常の手段ではハッキングが効かない。猟兵であればハッキングによる突破は可能だろうが、無理にハッキングをかけて更に酷い結果にならないとも限らない。となると残された方法はあとひとつ」
スターバックが言いよどむ。ハッキングができない動画サイトへの唯一の干渉方法。そう生配信の再生、閲覧だ。
「恐らく配信を閲覧してその影響を受けることで、どういうものか理解できるはずだ。無理に止めても良いものか、それとも慎重にやるべきなのか、確実な対処方法がわかる」
ただし問題がある。配信を見た者が病院送りになっているということは、おそらく配信の閲覧者に害を及ぼす細工があるはずだ。猟兵にとってもなにがしかの影響を及ぼす可能性は十二分にある。
「まとめるぜ。まず兄弟たちを邪神が現れる場所の付近まで送り届ける。UDCへインターネット環境の準備をしておくよう要請をするから、そこで配信を閲覧。動画の影響に耐えて、中断などをしていいか判断し、各種妨害を行ったうえで邪神を叩く」
UDCには配信を閲覧してしまった民間人への対処も要請してあるため、猟兵たちは邪神への対処に集中できる、とも告げられた。集まった猟兵たちを見渡し、スターバックは十字を切る。
「かなりハードなネットウォッチになるが、兄弟たちならできると信じてる。ゴッドスピード(神のご加護を)!」
習合意識
はじめまして!習合意識です。第六猟兵での初めてのシナリオになります。至らない点もあるかと思いますが、なにとぞよろしくお願いします。
今回はまず邪神討伐の前に、名状しがたい動画を見ていただくことになります。動画を見るための機材やインターネット回線は現地のUDCエージェントたちが用意しますが、自前の機材の持ち込みもオーケーです。
動画の内容及びどういった影響を及ぼすのかは不明ですが『海や水に恐怖心がある方』『過去に後ろ暗い経験がある方』『とても大切な人がいる方』は動画を見ることに覚悟がいるかもしれません……。
みなさまの素敵なプレイングをお待ちしております。
第1章 冒険
『狂気の解読』
|
POW : 狂気は精神力で克服する
SPD : 狂気に触れないよう器用にやる
WIZ : 狂気を思考で受け流す
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
九尾・へとろ
■WIZ
ほー、どうがはいしん?面白いのう、絵が動くのかえ。
色んな世界があるんじゃのー。しかし心に後ろ暗いもの、か。
ひょひょ、暗殺稼業で食っておったウチもその限りに入るのかの?
暗殺をしておった時に僅かあった良心をえぐられるのか。
見たくもない醜い人の腹の中を何度も見せられるのか。
それともありもしない心象風景が描かれるのか。
いずれにしろ、ウチの自我を砕くのは難しい。
なにせ人を殺めて飯を食っていたのじゃから。
ウチにとって当時のことは、朝に朝餉を頂くようなもの。日常じゃ。
どのような絵を見せられても答えは一つ。
そうしなければならなかったから。
その一言で片がつくのじゃよ。
さてさて。では見てみるとしようかの。
時刻は午後10時を回ったころ。インターネット文化に明るい者であれば、この時間からが動画サイトの『ゴールデンタイム』であることは常識である。猟兵たちのために機材を用意したUDCのエージェントもよくそのことを知っている。そんな時刻に邪神絡みの配信がされたら、と思うと冷や汗が止まらないだろう。だが九尾・へとろ(武舞の姫・f14870)にはその『常識』は通じていない。
「ほー、どうがはいしん?面白いのう、絵が動くのかえ」
九尾は動画サイトのトップページを興味深そうに眺め感心した。毎秒更新されるおすすめ動画、企業の作った手の込んだ飲食品の広告。見慣れぬ者が見れば、まるで万華鏡のように鮮やかかつ奇々怪々に見えるのかもしれない。
「さてさて。では見てみるとしようかの」
九尾はくるくる変わるトップ画面をひとしきり楽しんだ後、彼女は自身の仕事に取り掛かる。現地のエージェントたちは配信の再生が始まるとモニターの範囲外に移動し、耳栓をして退避をする。九尾は用意された粗末なパイプ椅子にちょこんと座り、しっかりと画面を眼に捉えた。未知なるものや敵に動じず相対する姿勢は猟兵由来というよりは、暗殺者としての彼女の才、能力の賜物だろう。
配信は静かに始まっていた。画面はどこか暗い倉庫のような場所を写す。武骨で冷たい壁や天井。床にはいかにも、というような禍々しく描かれた儀式のための召喚陣が見て取れる。ここまでは問題なし。視聴をしていても特に問題は起きていない。暗殺者として、そして経験を積んだ猟兵としての勘で、配信を止めてしまっても問題なさそうに感じる。だが、その勘が別の気配も感じ取らせた。
(こちらも見られている?)
暗殺対象がこちらに気づいた時に似た感覚が九尾に走る。その感覚とほぼ同時に画面が暗転し、ディスプレイに九尾の顔が鏡のように写される。次第にその顔は歪みはじめ、別の顔になり声を発し始めた。
「……まだ生きていたかった」
九尾にはうっすらだが見覚えがあった。彼女が暗殺者として才を振るっていた時に殺めた男の顔、画面に映っているのはそれだ。次第に顔の数は増えていき、そこから吐き出される呪詛も同じく濃密なものとなってく。
「……まだ死にたくなかった」
「家で子供が待っていたんだ。それなのになぜ……」
「嫌だ、私はまだ生きていたい」
「なぜ殺した」
なぜ殺した、なぜ、なぜ、殺した、殺した、なぜころした、なぜ、なぜ、なぜ!
呪詛の声が一層大きくなったとき、九尾の足を何か力強く掴んだ。自身の影から人の手が大量に伸び、九尾を『どこか』に引きずり込もうとしていた。常人であれば正気を失い、あらんかぎりの声で叫ぶところであろう。だが九尾は袖で口元を隠しながら答える。なぜか、決まっている。
「そうしなければならなかったから、じゃ」
その言葉の奥にある彼女の心中がわかる者はここにはいない。だが悪意ある『何か』を退けるには充分すぎる一言だった。伸びていた腕は次第に形がおぼろげになり消え失せたのだった。
成功
🔵🔵🔴
ロバート・ブレイズ
「私の出番か。狂気を蔓延させる邪神連中の成す事は如何にも『俗』で、全く人間が存在しなければ維持不可能なのだ。ならば此方から覗き込めば好い」
脳髄の蛆を使用し、自身の情報収集能力を上昇
隅から隅まで動画を『観察』しよう
狂気の類に陥るならば『海』の底
底の知れぬ深淵に身を投げるような感覚だ
だがそれすらも愛おしい
可能ならば此処で『正気固定機』を起動
自らが、最初から正気ではない
その場合は如何成るだろうか
「クカカ――連中の存在は俺の存在に等しい。近いものだ。ならば受け入れて終えば好い。否定するのは後程だ。此処は奴等の娯楽に心身を浸し、暗黒へと導かれるべき」
ああ。しかし
此れは何だ
あそこに俺の『独房』が
俺の悦びが
圧倒的狂気や恐怖が待つ中で平静でいられる者はそう多くはいない。いるとすればその人種は何通りかに分けられる。強靭な精神力の持ち主か、既に狂気に侵され正気ではないか、そして『狂気そのもの』か。ロバート・ブレイズ(Floating Horror・f00135)はまさにその『狂気そのもの』と言っても差し支えないだろう。
「私の出番か。狂気を蔓延させる邪神連中の成す事は如何にも『俗』である」
彼は堂々とした動作ででUDCが設営した視聴ブースを歩み進む。エージェントたちも狂気に対し見栄ではなく、このように威風堂々振る舞える存在は異質に見えるだろう。
「全く人間が存在しなければ維持不可能なのだ。ならば此方から覗き込めば好い」
「はぁ……」
案内するエージェントに対し、午後の退屈な講義を進めるようにとうとうと説く。エージェントは出来の悪い学生のように気の抜けた相槌をするだけで精いっぱいだ。だがこれがこの男の。ロバート・ブレイズのやり方なのだ。目には目を、歯には歯を、であれば狂気には光ではなく『狂気』を、だ。
ブレイズは厳かに配信を写すディスプレイと対峙した。カメラは床に描かれた召喚陣にズームしていく。よく見ればそれが人の血で描かれたことが分かるが、ブレイズは眉ひとつ動かさない。愚かな邪神の信徒がやりそうなことだ。その程度にしか受け止めていないのかもしれない。次第に配信からは音声が流れ始め、より混沌を深めていく。
「i@ iA suGurmuF Ftugn VST#! aI Ai fnuGurm VST#!」
画面の外で邪教徒が唱えているのか、およそ人が発しているとは思えないような禍々しい邪神礼賛を兼ねた呪文の言葉がブレイズの鼓膜を叩く。だが観察をやめない、狂気から目を背けない。否、抗わない。
「クカカ――連中の存在は俺の存在に等しい。近いものだ。ならば受け入れて終えば好い。否定するのは後程だ。此処は奴等の娯楽に心身を浸し、暗黒へと導かれるべき」
深い海の大きくうねる波に身を任せるがごとく、自身を蝕む狂気に身を委ねる。ブレイズは次第に理解し始める。この配信は見た者の『魂』とも呼べるものを引き込むものなのだと。だが引き込んだその先にあるのは、その先の世界はどんな景色なのか。そんなことに思考を巡らせている間に、ブレイズの周りに広がる景色はすっかり変わっていた。
「ク、クカカカカ、そうか。それが貴様たちが見出したものであるか」
そこは独房だった。冷たい床、冷たい鉄格子、冷たい明り、耳を澄ませば壁の中からネズミの『声』さえ聞こえてきそうだ。部屋の隅からは太さが20cmにもなりそうな厭らしく、おぞましい触手が這い出てくる。まさに狂気の部屋と呼ぶにふさわしい景色だ。ひとまず自分の仕事は終えただろう。そう、否定や考察は後程行えばいい。うねる触手の動きを、コーヒーに垂らされたミルクの線を見るように楽しむのもいいかもしれない。一人牢獄に残されたブレイズはしばらくの時間、狂気を浴び続けることになった。
大成功
🔵🔵🔵
鳴宮・匡
◆現職の傭兵、元UDC組織の戦闘員
◆アドリブ歓迎
……なんで「大丈夫か?」みたいな目で見られてるんだろう
後ろ暗いことなんて何一つしてないんだけど
人殺し? 仕事なんだから人くらい殺すだろ
……まあいいや
適当に流し見していくよ
感覚的におかしいと思う箇所はピックアップしておいて
あとで解析なりするだろうから参考として伝えておく
恨み言も、呪詛も、懇願も、数え切れないほど受けた
でも別に、そんなものは俺には一切響かなかったんだ
「他人」なんてどうでもよかったから
生きるための妨げになるなら殺すだけで
それに罪悪感を感じたことなんてない
……こんな人でなしにも、影響がある映像なのか
ちょっと、それには興味があるかもしれない
鳴宮・匡(凪の海・f01612)は視聴ブースの中で奇異の目を向けられていた。優男風である彼に対し向けられるのは『大丈夫か?』『あんなヤワそうな奴にわざわざこんな仕事を振らんでも』『気絶しても運ばんぞ』と言ったものだ。
「人を見た目で判断してはいけません、って学校で習わなかったのか」
鳴宮は自身の10代からの経歴を棚にあげつつ、彼らに聞こえるように独り言を発した。元来傭兵は戦地で一番過酷な場にいることの方が多い。目の前で仲間の頭が弾け飛ぶことは日常茶飯事。母子で塹壕に避難に来たと思えば自爆をかまされ、砲撃のショックでおかしくなって自害する上官にと、精神を抉られそうなエピソードには枚挙にいとまがない。そんな日常に晒されていれば多少の狂気は取るに足らない。
「さて仕事だ。集中集中」
自分の無くなった足を求めて這いずり回る兵士の姿を思い出したところで、思考を中断し目の前の仕事に目を向ける。
邪神復活のキーとなる配信は徐々にエスカレートしていく。およそ人間の発音しえない呪文に加えて、絹を裂くような女性の悲鳴が装着したヘッドホンから響いてくる。鳴宮にとって、これも戦地でよく聞く音声だ。今更どうということはない。自分に対し命乞いをする敵軍も、呪詛を吐き捨てながら自害する兵士も『どうでもいい』のだから。ノイズを脳内からシャットアウトし、映像を流し見する。これまでの調査で視聴したものに何らかの影響を及ぼすとのことだったが、自分に響くようなものが出てくるかは疑問符が頭の中でつく。
「こんな人でなしにでも影響はでる映像なのか」
そう言った直後だった。左肩に鋭い痛みが走った。経験で分かる。7.62×39mm弾、しかも粗雑な製造方法で作られた、紛争地帯でよく使われるものが命中した時の痛みだ。口から飛び出そうになる悲鳴を噛み殺し、肩を確認する。そこに外傷はなく、出血もない。当たり前だ、目の前にあるのは民生品のPC用ディスプレイで、アサルトライフルではない。彼を襲ったのは名状しがたい怪物の映像や、戦地にいる子供の悲鳴ではなく、強烈な銃撃の幻覚だった。腹部、太もも、脛と続けざまに似た痛みが走る。幻覚ではあるがしっかりとした痛みがある。そしてその狙われている個所は確実に『人を殺す時に有効な部位』であるというのが、鳴宮自身よくわかっていた。
「お前は空、虚ろ、お前が奪った命と比べてもお前の命はあまりに軽い」
頭の中で『何か』が鳴宮に囁きかける。お前の人生は無意味で、お前の放った弾丸はお前自身を殺すのだ、と。
「そうかい、どうでもいいよ」
一言吐き捨てて鳴宮は画面に向き直る。そう、傭兵は罵倒されたくらいでは銃撃やリロード、進軍をやめたりしない。淡々と仕事をこなすだけだ。痛みに耐えつつも、違和感のある声の響き方、月明かりの差し込み方などをつぶさに観察し、ピックアップし、彼は次の猟兵へバトンをつなぐ。傭兵は最後まで仕事をやり抜いたのだった。
成功
🔵🔵🔴
クロエ・ウィンタース
>大事な人
弟のノイエ
>行動
【SPD】アレンジ歓迎
基本、流される狂気は聞き流す
達観できるほど精神は強くはない
まともには受けない
害されようとする民には救いを。害された民には相手に報いを
例え罪が無く正当な理由があったとしても
狂気をもって罪の無い多くを害すると言うのなら俺は斬ろう
…ただ、弟のノイエ。
アレが害されるのであれば俺は三千世界を渡り、
害した相手を探し当て狂気を持って復讐を行うだろう
矛盾だ。そして傲慢だ
しかし何と笑われようがこれこそが俺だ。
自嘲しつつ居直りに近い気持ちで動画を聞き流しチェックする。
何とか違和感や場所を何とか突き詰めよう。
この胸に残った不快感に対しては動画の主に報いを与えようと誓う
狂気の探索行は猟兵たちの活躍により着実に進んでいた。仕事を終えた傭兵からバトンを受け取ったのは、クロエ・ウィンタース(刃狼・f15418)。彼女が歩むたびに銀の髪を月明かりが美しく照らした。彼女自身は狂気や、冒涜的な悪意を達観できるほどの精神力は持ち得ていない……と自身では思っている。だが、だからといって罪のない者たちに害意を及ぼし、日常を蝕むものを斬らない理由にはならない。そこに罪の意識や正当な理由があったとしても、だ。
「まともに受け取る気はないからな」
誰に言うでもなく、自身の目の前にあるディスプレイにそう告げる。邪神が作り出す悪意の狂気を受け取り続けるなど、キリがないどころの騒ぎではない。川の水を匙で掬い、枯らそうという行為に等しい。であれば行うは一つ、受け流す。川の中にたたずむ葦のように、狂気を受け流せばいい。
配信を見続けてから数分、目論み通りウィンタースは、自身の脳内を蝕もうとしている狂気を手なずけ、配信をつぶさに観察することに成功していた。前任者が抑えていたように、配信内の音声が若干くぐもって聞こえる。まるで何かに録音したものを再生し、それをマイクで拾い直しているような聞こえ方だ。月明かりが差し込む窓にも注目する。近辺に似たようなものがないか、虱潰しに探していけば恐らくこの忌まわしい儀式の場を見つけることはできるだろう。そうウィンタースが結論付け、仲間たちに共有しようと席を立った瞬間、彼女の耳に信じがたい声が聞こえてきた。
舌たらずだが、愛らしい、自身の弟の声だった。ウィンタースは一瞬身がまえる、努めて冷静になろうと瞼を閉じる。
(弟はここには来ていない、真に受けるな)
そう繰り返し唱え、目を開ける。
「ia! iAAAA! gROgunT! VSTQ!」
視線に飛び込んできたのは、背格好や着ているものは普段のそれだが、顔が浜に打ち上げられ、ガスが充満した鯨の遺骸のような形に変形した弟の姿だった。ディスプレイの中ではなく、ディスプレイとウィンタースの間に立ちはだかるようにして現れた『それ』は、彼女の『弟の声』で冒涜しがたい叫び声を発したのだった。しかしウィンタースは慌ても騒ぎもしない。彼女が纏う空気が次第に重くなっていく。
「お前は弟ではないし、たちの悪い幻術の類だろう」
淡々と目の前の怪物に告げる。事実彼女の言うとおりだった。あくまでも幻術、幻覚、実際にあるものではない。精神が弱いものを怯えさせ、壊れさせるためのからくりにすぎない。
「だが三千世界を渡り、お前を斬る理由にするには充分に足る行いと知れ」
お前にはもう逃げ場はない、斬ると宣告すると同義だ。そのメッセージが届いたかはわからない。だがウィンタースの目の前からその醜悪な何かは音も立てずに消え失せた。後に残ったのはディスプレイと、彼女を照らす月明かりだった。
成功
🔵🔵🔴
真木・蘇芳
【pow】誰かPCに詳しいやつと一緒に動画を確認するか。
狂気ね、俺はあまり怖いものはないな。
まあ他のやつがヤバそうなら引っぱたいて記憶ごと飛ばすか?
俯瞰して情報を探り、当たりがあればいいんだが。
俺は知恵を巡らすのは得意じゃないぞ。
勘でしか当たりを見られない不安はあるな。
もし俺の知らないトラブルには、容赦なく行動してくれ。
暴れるだけしか能がない俺が狂気落ちなんて笑えないからな
アト・タウィル
これはこれは……新しいものを見せてくれると
ふふ、それでは覗きこむとしましょうか
正気を失うとはどういうことか
正気であろうとする、それを諦めない心の動きでしょう
自身の信じる正気、それが手放せない……未練のようなものでしょう
なればこそ、受け入れましょう
私であることを、正気を疑うような化け物である私を、ただのちっぽけな人間の私を
私が私であれば、それはいつでも正気なのです
今まで見た、見続けた、世界の理に合わぬ化け物、それと変わらぬ私を
恐れる私はいないはず……
……少し、ほんの少しだけ止めてください
私が、ワタシが、わたし……?
フルートに口をつけて吹き鳴らす
音色に表す鎮魂の曲
……ふふ、わたしもまだまだですか
真木・蘇芳(フェアレーター・f04899)は手をこまねいていた。
「誰かパソコンに詳しい奴と一緒に見るか、と思ったが……」
生憎『めっちゃ自分パソコン詳しいっす!』と言ったような人物は現れなかった。既に仕事を終えた仲間たちに助力を乞うのもナンセンスだろう。
「しゃあねぇ、自分で見てみるか」
自分がどこまで配信の子細な部分に気づくかは分からない。知恵よりは勘、直感に頼る調査になるだろう。だが、自分が絶対にしくじらない、と思うほど真木は粗野ではなかったし、戦士としては堅実だった。
(俺みたいなのが狂気堕ちして暴走とか笑えないからな)
現地の協力員か、既に仕事を終えた仲間を探す。悍ましい狂気に蝕まれ、自分を自分で制御できなくなかった時に、自分を殴るなり、拘束するなりで止めてくれるような保険はあった方がいい。彼女はそう考えていた。結果としてはふさわしい人材は見つからなかったものの、これがいい結果に結びつくのだった。
アト・タウィル(廃墟に響く音・f00114)は配信が映るディスプレイを前に、綺麗な姿勢でパイプ椅子に座っていた。今回の事件はまさに彼女にうってつけの事件と言っても差し支えないだろう。人はなぜ正気を失うのか、彼女の持論はこうだ。人は正気であろうとするから苦しむ。自身と世界にあまねく存在する冒涜的で、強大な狂気の奔流との差で苛まれ、苦しむのだと。
「なればこそ、受け入れましょう」
拒むことで苦しむのであれば受け入れてしまえばいい。アト・タウィルという『怪物』のような個をアト・タウィル自身が認識さえしていればそれでよいのだと。もはや自分は狂気に触れられた化け物であり、今更狂気に触れ直しても、何も変わりはしないのだから。タウィルは膝の上に乗せた、見る者を不安にさせるようにねじり曲がったフルートを愛おしそうに撫でる。このフルートと、画面に広がる陰惨な光景を合わせ、彼女は新たな深淵を見ようとしていた。
「ふふ、それでは覗きこむとしましょうか」
そう少し笑うと、タウィルはフルートを口元に寄せ、鎮魂の曲を奏で始めた。
真木はUDCの立てたテントの中を歩き回りながら奇妙な音を聞いた。横笛、高音が綺麗な曲。曲名はわからないが直感で理解できた。だが耳に入れ続けている内に、胸の中に重いものが溜まっていくような感覚を覚える。
(何かヤバい)
彼女の勘が横笛の音に負けじと真木の脳内で警笛を鳴らす。これは放置していてはいけない、と。幸い音の出どころはすぐに分かった。が、状況はかなり悪かった。真木が見つけたのはフルートを吹くタウィルの姿だった。タウィルの長く伸びた影からは無数の手が這い出し、タウィルの足首を掴み引きずり込もうとしていた。付近の照明は明滅し、フルートの音に加え不快な嗚咽のようなトランペットの音が聞こえ始める。
「RaTAn ia rAtan azat T0るネnnbら azat」
召喚儀式の呪詛に合わせ、このような異界の言葉が聞こえてくる。最初こそ聞き取れない言葉だったが、次第に真木にも言葉の意味が頭に『入ってくる』ようになっていた。
「マジでヤバそうなやつじゃないか!」
真木はタウィルに近寄り、肩を揺さぶる。これで戻らないようであれば殴ることも厭わなかったが、幸いにもタウィルの演奏は止み、彼女の足元に絡みついていた腕も、名状しがたいトランペットの音も消え失せていた。
「止めてくださいまして、ありがとうございます」
演奏が中断されたタウィルは真木に微笑みかけ礼をする。『パソコン詳しいっす!』という奴と組んでいたら止められなかったかもしれないと考えると恐ろしい。
「収穫はありました」
タウィルが続ける。恐らくこの配信は『びっくり箱』と『掃除機』とのことだ。見た者を狂気によって怯えさせ隙を作り、その者の魂や健全な『正気』を『掃除機』で吸い取る。逆にそれ以上の『機能』はついていない。なので無理に止めたりしても問題は無いだろう、と。真木は感心半分あきれ半分で笑う。
「お前もよくやるよ」
だがタウィルは不気味なほど笑顔を変えずこう返した。
「ふふ、わたしもまだまだです」
そう、混沌と狂気の闇はまだまだ深く、この夜もまだ続くのだ。時刻は午後11時になろうとしていた。
苦戦
🔵🔵🔴🔴🔴🔴
シャイア・アルカミレーウス
噂に聞く呪いのビデオって奴の仲間かな?まあでも僕の勇者メンタルならサダコでもサダオでも返討ちさ!……物理的に殴れるなら。
(pow)
こういう手合いの依頼は初めてだから、とりあえずホラー映画でも見るような用意でいこう。
つまり最後までみる「勇気」と、どうか殴れる相手であります様にって「祈り」だよ!
『勇者の心得』で精神にへの耐状態異常力もアップだ!
後ろ暗いこと……後悔って言うなら、病院の事件の助けが間に合わなかった子たちかな。昔の私と同じように病気で苦しんでたところを付け込まれたあの子達。あんなことを繰り返さないためにも邪神を止めないとね!
「勇者の心得その4!勝って帰るまでが冒険、いのちをだいじに!」
リア・ファル
アドリブ歓迎
海や水に恐怖心がある?
…いや、宇宙の海はボクの海。幻想の大海も電子の海原も庭みたいなものさ
過去に後ろ暗い経験がある?
…ボクは戦艦、戦う艦船さ。自分で選んだ宿命を、後ろ暗いと思った事はないさ
とても大切な人がいる?
…猟兵にも沢山知り合いができたけど、どの人も大切かな
「今を生きる誰かの明日の為に」
この祈り/呪いがボクの始まり
うん、その為のボクだから。そうある事を自ら望んだボクだから。
それ以外の困難なんて、笑顔で(狂気の正気で)乗り切れるさ
視覚情報から情報集と演算解析、暗号作成の知識も使って読み解こう
「お助けキャラが先に脱落したりはしないでしょ」
UCで呪物鑑定も試みる
狂気に対し狂気で対抗するものがいれば、狂気に対し圧倒的『光』や『希望』で対抗するのも間違った選択肢ではない。シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)とリア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)はまさにそれを体現していた。
「これが噂に聞く呪いのビデオってやつの仲間かな? 返り討ちさ!」
……物理的に殴れるなら。と小さく付け加えるアルカミレーウスに、横にいるファルは可愛らしく笑う。周りにいるエージェントたちも釣られて笑顔になった。この1時間は猟兵たちにとってもエージェントたちにとっても過酷な1時間と言っても過言ではなかっただろう。ちょっとした微笑みが清涼剤になる。
もちろん彼女たちにも影がひとつも差さないということはない。狂気の鏡であるこの配信に対峙した時、自身たちの心の中にあるこれまでの過去や後悔がちらつく。ディスプレイの向こう側の存在もそれを感じ取ったのか、画面が暗転し映像を見せ始めた。画面の中では広大な銀河が広がる。よく見ると漆黒の宇宙空間で花火のような爆発が起きる。否、花火ではない。宇宙戦艦同士の砲撃戦、冷たい命のやり取りだ。ファルの胸に棘のような痛みのプログラムが走る。だが彼女は毅然と立ち向かう。
「…ボクは戦艦、戦う艦船さ。自分で選んだ宿命を、後ろ暗いと思った事はないさ」
であれば、と狂気の元は標的を変える。写るのは一転して病院の通路だ。清潔なイメージとは打って変わって薄暗く、寂しい景色だ。アルカミレーウスの拭いがたい記憶だ。
「昔の私と同じように病気で苦しんでたところを付け込まれたあの子達……あんなことを繰り返さないためにも邪神を止めないとね!」
それが勇者道を歩む、アルカミレーウスらしい回答だった。同じ悲劇は二度と起こさないという強い意志。悪意は真に受ければ受けるほどその強さを増す。だが二人のような、ここまでまっすぐな『覚悟』や『信念』を前にすれば強風の中で飛ぶシャボン玉に等しい。ディスプレイから聞こえてくる呪詛は徐々に小さくなっていく。
「……案外強気に出れば引っ込むものかもしれないね」
ファルはその反応を冷静に分析する。さらに考察するのであれば、配信に人を集めるということは、SNS上でインフルエンサーとして配信を広める者がいてもおかしくないということだ。であればそれを正面から論破、もしくは茶化して場を乱せれば動画の拡散は防げるかもしれない。
「そう! 冒険はこれからだ! 勇者の心得その4!勝って帰るまでが冒険、いのちをだいじに!」
アルカミレーウスが手を上に掲げながらそう声を上げる。そうこれは初戦、猟兵たちの冒険と戦いはこれからなのだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 冒険
『神の降臨を実況中継します!』
|
POW : 動画の撮影場所を探す
SPD : ネットを通じて配信者、関係者に接触
WIZ : 動画を解析、中継の妨害工作
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
猟兵たちの精神を削る活躍により、配信の正体がつかめた。配信は『魂』や『正気』を集めるための魔術であり、儀式であった。集めたそれらを元に、邪神は完全復活を遂げるつもりだろう。
それと同時に配信の対処法も見えてきた。まず配信自体にその儀式以上の機能はなく、猟兵の優れた能力があれば、電子的に介入し停止は可能であること。撮影箇所はおおむね絞り込まれ、突入することが恐らく可能であること。そしてこの配信自体を広める者がおり、それを妨害すれば、完全復活妨害への足掛かりになりうることを猟兵たちは突き止めたのだった。月は煌々と輝き、その光が落とす影が、狂気と混沌をより深くしていく……。
ロバート・ブレイズ
「ならば貴様等に『教育』が必要だ。我こそが冒涜の王。我こそが混沌の一個体――忌々しい同種どもを悉く滅ぼす、既知への嘲笑だと」
冒涜王発動
自身を普遍的無意識の領域
感情、精神、魂が存在する『空間』と同化し、直接『それ』を暴きに向かう。己の情報収集能力と『恐怖を与える』感覚で電子的に冒涜する
邪神が。狂気が『冒涜的』ならば彼等にとっての冒涜的を齎すのだ
「深淵を覗き込むのは容易い事だ。如何なる深淵でも『深淵』だと認識された時、此れは滑稽な舞台上と化す。俺の脳髄に這い寄る蛆虫や鼠ども、もはや滑稽な『当たり前』以外の何なのか」
ネットを通じて関係者と接触するのだ
精神世界の根底
「クカカ――既知への冒涜を知り給え」
アト・タウィル
ふふ、見るだけの価値はありましたね
それでは次は……
狂気をまき散らすこと、それを茶化すようにするのも面白そうです
配信を広める方がいるとか……ならば、その人へ届けねばなりませんね
良いものを見せていただいたお礼に、見た動画を想起する旋律を
トランペットの旋律も乗せられれば一番なのですが、それは望みすぎですね
さぁ、この音色なら、あなたの望む物を見せてくれますよ
……あまりの居心地の良さに帰ってこれなくなってしまわないよう、様子を見ながらですね
男は薄暗い部屋の中で一人口元を歪め、悦に浸っていた。彼は邪神を崇めるカルト集団の一員である。彼の所属する集団は小さくはあったが堅実であった。彼に与えられた役目は『宣教師』。いつの時代にあっても、邪神とその信奉者たちはその狂気を広めることに余念がなかった。ある時は偽の巻物を使い、ある時はインスマスの憐れな漁師に宝石を授け、ある時は新聞の広告欄で……とその時代で一番有効な方法をとっていた。この時代での『宣教』はインターネット、SNSだ。口頭での喧伝や新聞広告とは比べ物にならない速さで情報と狂気を広めることができる。
「私はこの時代に生まれてよかったよ」
彼は誰に聞かれるわけでもないのに、そう自慢げに言う。街頭で演説だなんて面倒くさい限りだ、楽でいい。自分以外にも複数の『宣教師』たちがいる。それぞれにネット上でのつながりはないが目的は一つ、儀式の要たる『配信』を拡散、つまりは『バズらせる』ことだ。この時代の人間は娯楽に飢え続けている。興味の引く文面を作り、対象のクラスターの前に出すだけでいい。彼が動画の宣伝を投稿すると、すぐさま反応が返ってくる。だが、その中に異質なコメントがあることに、彼は気づけなかった。
今のロバート・ブレイズ(Floating Horror・f00135)を傍から見れば一種の義務感に駆られているように見えたかもしれない。先ほどまでと同じく、UDCが用意したディスプレイの目の前に座ってはいるがその表情は険しいようにも、笑っているようにも見える。彼の目の前に映るのは、SNSの個人ページ。一見すればなんともない、フォロワーの多いアカウントのページというだけだ。だがブレイズはそこから狂気の奔流を感じ取ることができた。そう、自身は混沌の眷属であり、万能の徒と驕り高ぶる稚拙な狂気だ。見るに堪えない。
「ならば貴様等に『教育』が必要だ」
「仰る通り、その人へお礼を届けねばなりませんね」
アト・タウィル(廃墟に響く音・f00114)もブレイズに賛同する。ブレイズとは対照に彼女は少し喜んでいるとも取れなくはない調子だ。配信を通して常人が見れば耐えきれない、しかし彼女にとって目新しいインスピレーションを得たのかもしれない。それを表現しきるのは今の自分には高望みかもしれないが、気まぐれな混沌の従者たちが答えてくれればあるいは……。タウィルはフルートを構えブレイズに目配せする。
「ブレイズさん、参りましょうか。私たちの旋律に乗せ」
「クカカ――既知への冒涜を知り給え」
タウィルは演奏を始め、その調に合わせるようにブレイズはディスプレイを指でなぞった。
ディスプレイから本体へ、本体からWi-Fiへ、回線へ、海底ケーブルへ無貌と旋律の狂気が指向性を持って走る。その一手は鋭角の猟犬のように対象を見つけ、喰らいついた。部屋でせせら笑っていた『宣教師』の男は自身のパソコンの画面に乱れが生じ、ようやく事の異常性に気づく。自身が攻撃されるとは考えてもいなかった彼は、まずパソコンの不調を疑った。ケーブルは刺さっているか、ビデオカードに問題は無いかと確認をするが、機器にはなんの問題もない。だがディスプレイはSNSページではなく暗い森を映し出す。かつてありしンガイの森、異形たちの楽園、そして純然たる狂気の庭だ。おかしい、まずい、そう思い彼は迷いなくパソコンの電源ケーブルを抜く。しかし画面は依然狂気の庭を写し続ける。さらにひどいことに宣教師の耳には森のざわめきが這いよりはじめ、脳髄を侵していく。
「ああ! くそ! いまいましい! お前ら程度! 我らの白き神々に比べたら!」
宣教師の男はディスプレイを持ち上げ叩き割る。ようやく画面が消えほっと安堵する。しかしそれはつかの間の安息だった。彼の目の前は先ほどの部屋の中ではなく、深い森と化していた。森のざわめきも先ほどより強く聞こえる。宣教師はたまらず駆けだす。
「これは現実じゃない、これは現実じゃない、我が大いなる海の白き神よ、私をお救いください!」
宣教師は自身の崇める狂気の神へ命を乞う。その祈りが通じたか、森の先に光と明るい音がする。幻想の出口だ、彼は心より神に感謝し光に向け走る。だが彼を待ち受けていたのはさらなる狂気だった。
「RaTAn ia rAtan azat T0るネnnbら azat」
「ia IA guruhMUU azat」
「ai @1 doGUroru T0るネnnbら」
彼はいつの間にか漆黒の宇宙空間の中にたたずんでいた。この世の道理を全て否定するようなフルートの音が響き渡り、それに合わせ周りの星々が奇妙にくねり、汚泥を音に置換したようなトランペットの音が響くたびに星雲あ爆ぜる。そうこれは宇宙じゃない、そうこれは……
「……はは、あははは、あははははは!!」
宣教師は笑うしかなかった。これが狂気だと。これこそが狂気の本質だと気付いてしまった。彼は狭いワンルームでただ一人笑い続けた。自身の仕事を放棄し、それが妨害されたと他の仲間に警告を発することもできずに。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
九尾・へとろ
■WIZ
さて、ウチはとりあえず広めとる輩をえすえぬえす?とかで探すか。
一人で出来れば良いが、他の猟兵の力も借りれるならば借りて探すとしようかのー。
とりあえずこのどうがを広めとるやつに文句を言ってやめさせれば良いのじゃろ。
「フォロー外から失礼します。このような狂気的かつ冒涜的な動画を喧伝するのは配慮にもとるのではないのでしょうか」
「動画を楽しむ事が出来ない人もいるというのにこの配信を見ろ、などと吹聴するのは差別ではないでしょうか」
「全然反論になっていませんね。ちゃんと最低限文化的な生活を送れていましたか」
「逃げないで下さいね。こちらは質問をしているだけですので」
こんなもんかの?
■アドリブ共闘歓迎
標的を見つけ、遂行する。暗殺に限らず、あらゆる仕事に当てはまりそうな王道のテンプレートを九尾・へとろ(武舞の姫・f14870)はしっかりと実行していた。先ほどまでの禍々しい映像を流していたディスプレイは、動画サイトよりもさらに目まぐるしく情報が新しくなるSNSのサイトが表示されていた。九尾は『まうす』を使い表示される内容ひとつひとつを吟味する。
「これがえすえぬえすかえ。先刻の動く絵も面妖じゃったが、これもまた愉快よのう」
数秒置きに美麗なイラストや可愛らしいペットの動画、そしてそれよりも少し多い、先鋭化した人々の恨み節がタイムライン上に流れてくる。それを促すように画面はしの青い鳥のマスコットが『お前の今やってることを呟きな!』と煽り立てていた。
「すまんの、今からやることは教えられんのじゃ。また今度な」
標的の邪魔をしに行きます、とは見ず知らずの鳥には教えられない。九尾自身も他に見てみたい呟きがあったものの、名残惜しくページ上の『ばってん』を押して、この災禍を広げる存在を見つけに電子の海を探索し始めた。
動画を広める者の発見は少し時間を要した。使い慣れない機器を使っているということもあるが、SNSで特定のものを探すこと自体が砂漠で落とした針を探すような行為だ。詳しいものでも手こずる者はいるだろう。幸いにも現地のエージェントがマイクを設置し、音声入力ができるようになってからは調査は劇的に進んだ。
「なるほどこいつじゃな」
見かけたアカウントは綺麗な女性がアイコン画像で、面白い動画を主にシェアしているアカウントだった。動画に対する気の利いたコメントも人気を博している。そのシェア動画の中に、先ほど九尾が見ていた配信と同じURLがあった。UDCが懸命に封じ込めをしている中シェアをしているということは……。
「見つけた……とりあえずこいつをとめればいいんじゃな」
九尾は文字入力用のマイクを口元に寄せる。短い時間ではあるものの、この夜で彼女が得た知識は、もはや鍛え抜かれた太刀といっても差し支えないものへ変化していた。
「フォロー外から失礼します。このような狂気的かつ冒涜的な動画を喧伝するのは配慮にもとるのではないのでしょうか」
人気のコメントによくある返信を元に、九尾が考え繰り出した一言。相手からの返信はないが、それも含めて織り込み済みだ。
「逃げないで下さいね。こちらは質問をしているだけですので」
コメントしてこなくなったら負け、侍や武家の類がもっていそうな価値観を、この『えすえぬえす』の世界の住人が持っているのを見逃しはしなかった。すかさず攻撃されたアカウントを庇うようにフォロワーの返信が飛んでくる。外野からの攻撃を意に介さず、九尾は可愛らしい口元を踊らせ、もう一突き加える。
「動画を楽しむ事が出来ない人もいるというのにこの配信を見ろ、などと吹聴するのは差別ではないでしょうか」
ぱっと見はただの悪絡みのコメント、しかし『差別』という言葉が含むコメントの投稿は、火種が多いSNSにガソリンを撒くに等しい行為だ。
「今月ギガがないのでもう見れないです。確かに学生とかへの差別かも」
「いや、別にそういった意図の発言じゃないだろ」
馬鹿馬鹿しくコメントの一部を拾い上げるアカウントと、それを攻撃するアカウント。最初の着火点はそんなものだが枯れ野に火を放つがごとく延焼していく。
「月の容量が少ない契約しかできないのは低所得のせい」
「それは自分の努力不足でしょ。俺は努力した金で肉を食う」
「肉を食べるだなんて野蛮ですよ!」
「あなたが動物のご飯じゃない?」
センシティブな話題はあっという間に話題を汚染し、気味の悪い動画の話など、誰も見向きもしなくなってしまう。事の重大さに気づいた動画の拡散者はなんとか場を収めようと九尾にコメントを返す。だが九尾の目的はすでに達した。動画の拡散は止まっていたのだから。九尾は上機嫌そうに耳を動かし、最後に一言コメントを残しページを閉じる。
「全然反論になっておらんなぁ。ちゃんと最低限文化的な生活を送れておるか?」
タイムラインは議論の喧騒だけが残り、九尾のアカウントは削除済みになる。まるで仕事を終えた刺客が雑踏に消えるかのように。
成功
🔵🔵🔴
真木・蘇芳
【pow】とりあえず画像の場所だな
人気のない所、そして異質に淀んだ空気の場所を探せば自ずと見つかるだろ
邪神を呼ぶためにこんだけ尻尾出していて判らないなんてことはないだろう
野生の勘、勘とは経験則
だいたいこの手合いは自分の行動の失敗の勘定が入っていない
自信に満ち溢れている
だから行動や計画が穴だらけなんだ
それと挑戦的な意味合いもあるな
俺ならもっと隠れて儀式をするがなぁバレたら邪魔されるの判るじゃんか
その辺が狂気ならお粗末だぜ
さて、その邪神だか何だかを殴り倒しに行くか
これが俺の仕事だからな
奴らを脅かし、怖がらせ苦しめて息の根を止めてやろうぜ
他の猟兵が電子の海で邪神の信奉者たちと戦っている頃、真木・蘇芳(フェアレーター・f04899)は狂気の大元を探し出すため、夜の街を疾走していた。
「パソコンの前に座っているのは性に合わん」
じっと椅子に座り、辛抱強く画面に流れる文字列を眺めるよりは、身体を動かし足を使ったほうが性に合う。なにより、目の前で小生意気に、ここが自分の領土とばかりにのさばる邪神に我慢ならなかった。軽い身のこなしで鉄塔に登り、街を俯瞰する。
「邪神を呼ぶためにこんだけ尻尾出していて判らないなんてことはないだろう」
今回の敵の動きは油断しきった獣にも似た雰囲気を彼女は感じとっていた。自分たちが失敗するとは露程も考えていない。『神』という強大なバックがいるために自信がつき、行動が大胆になっている。森の中の獣で一番力が強いため、痕跡を隠すことなく徘徊する熊と同じだ。そんな不用心な獣を待つ結末は、ハンターによりもたらされる死、そして真木はそのハンターだった。人気のない地区、そして澱んだ空気が漂う箇所がないか感覚を鋭敏にする。己の野生の勘、それを形作る経験則をフル動員させる。そうして彼女が見つけ出したのは……。
「俺ならもっと隠れて儀式をするけどなぁ。狂気の結果ならお粗末だぜ」
真木の視線の先にあったのは港湾地区だ。倉庫とコンテナが並び立ち、クレーン用の照明が明るくつく場所。目立つようで、夜には人が寄り付かない場所。儀式をするにはもってこいだが、猟兵の優れた目から隠れるには不十分な場所だ。もしかしたらあえてこうしているのかもしれない『自分たちを見つけに来い』『お前ら程度に見つかっても何の問題もない』と。
「であれば挑戦的だな」
挑戦されればすることは一つ、挑戦を受けることだ。
「じゃあ殴り倒しにいこうか、その邪神だかなんだかを」
恐怖を知らぬ者に畏怖を、痛みを知らぬ者に苦しみを。それが彼女の仕事なのだから。仲間たちにこのことを知らせるべく、そして敵を打倒すべく、彼女は鉄塔より飛び降り、夜の闇に身を投じていった。
成功
🔵🔵🔴
リア・ファル
【イ・ラプセル】
アレンジ歓迎
魔術儀式なら止めようもあるさ
凄腕工作員程じゃないけど、現場特定と儀式介入は任せてよ
UC【我は満たす、ダグザの大釜】で取り寄せた機器で
「破魔」の魔術を込めた配信妨害用のウィルス動画USBを制作し、二人に渡しておく
「ボク特製の動画ジャックUSBだよ、撮影機材に使ってね」
中身の動画は、よくある深夜のTVショッピングだけど
配信ネットワークに「ハッキング」、
魂や正気を集めるなら、その経路(パス)を「呪詛」の知識で「追跡」
「情報収集」して撮影現場を絞り込む
場所を示したら、介入しよう
電子機器の遠隔操作や無線指示を出しながら、支援するよ
即席のチームにしては、上手く動けてるかな?
クロエ・ウィンタース
【イ・ラプセル】
>行動
【POW】
探す前に場所にアタリを付ける
こんぴゅーた?は良く判らんが
俺なりの考えを二人には話す
・俺が見たアレは浜にあがった鯨のナリをしていた
・海と海から来るものに関係あるモノか?
・海に関わりが深い場所で祭儀を行うのでは
・その上で人目が付かない様な場所はどこだ?
港やそれらの倉庫あたりに地図上でアタリを付け先行。
自分で見つければよし、外してもリアならまず見つけるだろう
リアから妨害用と通信用の機器を借りて
突入できるなら匡と一緒に突入して中の者を叩き伏せよう。
一般人なら一応峰打ち。それ以外は斬る
終わったらUSBとやらを放送機器に刺す
む、刺す所どこだ?匡!(ヘルプ
止む無し。壊すか
鳴宮・匡
【イ・ラプセル】
◆アレンジ歓迎
◆同行者の扱いはどちらも概ね「近所に住んでる後輩」くらいの距離感
……お前らなんでいるんだ?
いや、まあ丁度いいや
一先ず職員に声を掛けて
ピックアップした撮影場所と思しき箇所を聞いておく
リアから渡されたものの仕込みを終わらせてから
クロエを連れて突入準備
……さて、うまくやってくれるだろ
現場と思しき付近を捜索しつつ
場所特定の連絡を待つよ
はいはいクロエ、あんまりちょろちょろしない
逸ってもいいことないぜ
突入はクロエとタイミングを合わせる
複数箇所の出入口があれば手分けして
逃げ出す暇を与えないように迅速に動くよ
……あ、勿論全員殺すぜ
生かしておいていいことが一つもないからな
クロエ・ウィンタース(刃狼・f15418)と鳴宮・匡(凪の海・f01612)は月夜が照らす港湾地区を闇に紛れて移動していた。船と荷物の出入りするこの区域は、照明が多くあれど、コンテナや停泊するタンカーの影が二人の姿を巧妙に隠す。
「目標地点が近い、二人とも順調?」
そう二人に呼びかけたのは遠隔地で援護をするリア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)だ。ファルは二人の援護と並行して撮影場所の特定を行う。配信が邪神復活のためのエネルギーの収集機であれば、必ずそれを運び込む呪術的な血管、『パス』があるに違いない。そのネットワークの痕跡と、鳴宮、ウィンタースが集めた情報を統合していけば、かなり精度の高い位置情報を割り出すことができる。
「指定されたところまで来た。怪しい奴はいない」
地図を片手にウィンタースが報告する。港湾地区のコンテナや倉庫は膨大にある。ファルが辿りきれない部分は、現地の猟兵たちがカバーを行い、場所を絞り込む。
「分かった。ポイントシグマ、アール、2-3-9、ズールーまで移動して。大分絞り込めた、絶対に近くのはずだ」
「了解。クロエ、あの赤茶っぽい倉庫あるだろ。あそこまでいくぞ」
鳴宮が受け取った情報を咀嚼し連携をとる。即席のチームではあったが、知り合いなだけに連携はうまくとれていた。
「配信はまだ続いてるのか?」
とウィンタース。ファルは配信のトラフィックを分析し、現状の再生回数が減っていることを確認する。他の猟兵たちの妨害で順調に拡散は防げているようだ。その旨を連絡する。
「だけどいつまでも引き延ばせない。時間との勝負だ」
「任せてくれ、早急に斬り伏せる」
出発前に渡した妨害デバイスのことは覚えててくれているかな、と不安になる回答が返ってきたが心配を飲み込み、ファルは解析に戻った。
「いかにも、って感じだ」
鳴宮は目標地点に到着するなりそう口に出した。新しくも、かといって古くもない大型の倉庫。そのシャッターの前で白い宗教着を来た大柄な男二人が、儀式を妨害せんとする侵入者に目を光らせていたが、物陰から様子を見ている鳴宮やウィンタースには気づいていない。
(ガキの兵隊だって、もうちょっとまともなカモフラージュをするぞ)
だが仕事はやりやすくなる、殺しやすくなる。よく見れば手にはナックルダスターらしきものもあるし明らかに一般人ではない。
「匡、やるぞ」
「はいさ、了解」
歯ブラシに歯磨き粉をつけるほどの当たり前のような動作で、鳴宮はアサルトライフルを構え、物陰から半身を出し射撃する。サイレンサーで不自然にマスクされた音が港湾に二発響く。弾丸は正確に男たちの右太ももに一発づつ命中した。即死に至る急所ではない、が手心は加えていない。第二の心臓と言われるふとももに鉛の塊が入り込めば、出血し、激痛がし、動けなくなる。普段ならさらに頭に一発づつ撃ちこみ殺すのだが、今夜はその手間はない。射撃と同時に走り出したウィンタースが抜刀し、この狂信者の見張り役の首筋を一閃する。返り血が彼女の顔にかかるが気に留めずもう一人にも斬撃を加え、永久に沈黙させた。鳴宮がファルに連絡する。
「リア、見張りが『いた』。当たりだ、これから撮影現場に突入する……あー見張りは始末しておいた」
敵対勢力を殺しておくことが常識でない場合を考慮し忘れ、報告を最後に付け足す。ファルがどういう表情をしていたかは誰も分からないが、仕事に支障はない。
「わかった、倉庫のドアロックをクラックして開錠する、準備して」
刀についた血脂をふき取り終わったウィンタースも頷き、二人は扉の前で待機する。緊張が張り詰める時間だが、二人の思考は非常にフラットだ。なすべきことを成すだけ。
「3、2、1……アンロック」
ファルが告げると、二人は無言で倉庫内に突入する。名乗りや降伏勧告はしない。いたものは撃ち殺すか、斬り殺すか、いずれにせよ殺すからだ。だが二人の武器がこの倉庫の中で命を奪うことはなかった。
「クリア、クリア。倉庫の中には誰もいない。繰り返す無人だ」
場所は間違いではなかった。動画内にも写されていた血で描かれた召喚陣、特徴的な形の窓。だが邪神の信奉者は一人もいない。
「匡、これ」
そういってウィンタースが指したのは、レンタルビデオ店のレジ横で売っているような、低価格帯の音楽プレイヤーだった。プレイヤーとスピーカーをつなぎ、召喚のための呪文をリピート再生している。
「えらく手抜きだ」
「効率に特化した集団だったのかも」
鳴宮の感想にファルが分析を返す。SNSや動画配信サイトの活用、オートメーション化された儀式。脆弱ではあるが厄介な連中だということには変わりない。ウィンタースは二人のやり取りをよそに、プレイヤーを踏みつけ破壊した。
「よし、じゃあ言われてたやつ探すか。手分けするぞクロエ」
そう言って鳴宮が取り出したのはUSBメモリだ。外見は普通のメモリだが、配信危機に使われているパソコンなりスマートフォンなりに差し込めば、一瞬にして楽しい通販番組に映像が差し替わる、ファル謹製のデバイスだ。同じものをウィンタースもファルから渡されている。結論から言えば広い倉庫で先に配信を見つけたのはウィンタースなのだが、鳴宮はその光景を呆然と見ることになった。
「匡! 匡! 穴がたくさんあってどこに差せばいいのか分からん! まずいぞ!」
鳴宮が見たのは、ノートパソコンの前で『HDMI』と書いてある接続部に、USBメモリを差し込もうとして上手くいかないウィンタースの姿だった。
数十秒後、配信動画は『水素水で炊ける炊飯器』のコマーシャルに差し替わった。
購買するための電話やメールが数件あったかもしれないが、邪神に無垢な魂や正気が送り込まれることは、もう、永久になくなった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『海零』
|
POW : 縺薙?譏溘?逕滓擂謌代i縺ョ繧ゅ?縺ァ縺ゅk縲
単純で重い【巨体や、別次元から召喚した大量の水】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : 陦ィ螻、縺ョ蝪オ闃・蜈ア繧√
【額や掌】から【強烈なサイキックエナジー】を放ち、【心身の両方への衝撃】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 窶晏卸荳匁峅縺上?∵オキ髮カ窶
【念力や別次元から生じさせた津波】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を海に変え】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
|
種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠フォルティナ・シエロ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
港湾地区の、更にその外れにある誰も取りつかない海岸。巨大な白い手が海中より現れ、岩場を掴んでその体を起こす。その神はもとより海を支配する神だった。幾何学の都市ほどではないが、かつては広大なテリトリーをもった神の一柱であった。信奉者もおり、彼らを動かし地を歩く『足』を手に入れ、更に版図を広げられるはずだった。なのに、なのに、自身の力は強まらない。地を支配する足がない。自身の支配に反旗を翻す者の仕業に違いない。であればなすべきは一つ。かの者たちを喰らい、再度完全な姿になるまで。白き邪神は月夜に向けて大きく咆えたのだった。
ロバート・ブレイズ
「不完全風情が。既知の中でも滑稽な『完全』にも到達し難い滑稽な存在よ。俺が貴様の悉くを冒涜し、忌々しい骸の海へと葬って魅せよう」
塵で塗るものを使用
一歩一歩踏みしめて、対象の『時』を加速(捕食)させる
信仰とは時が経つにつれ失われるものだ
伝える存在が居ない状態で、加速したならば如何になる
単純な話、存在が薄れていくのだ
「否定こそが毒薬だと理解せよ」
対象が『脚』から逃れた場合、地形を塵に変え、海を塗り潰す
鉄塊剣を構えて突撃し、地獄の炎を叩き付ける
苦戦する際は情報を収集し、対象の弱点を猟兵達に伝えて逃走
不可能な場合は嘲笑するのみ
「貴様の言葉は理解不可能だが、貴様自身、俺の言葉を理解可能なのか。神よ」
海は荒れ狂い、海中からは白く巨大な邪神が上半身を起こし、猟兵たちを見下ろしていた。のっぺりとした口のない顔からは怒りに満ち満ちた、けれど判別不能な言葉が発せられている。常人であればその光景を見ただけで、埒外の狂気にその場で発狂し、叫びだすことは間違いないだろう。だが猟兵たちは動じない。特にこの男、ロバート・ブレイズ(Floating Horror・f00135)にはそのような事象は無縁だった。
「不完全風情が。既知の中でも滑稽な『完全』にも到達し難い滑稽な存在よ。俺が貴様の悉くを冒涜し、忌々しい骸の海へと葬って魅せよう」
不完全に復活した荒ぶる海の神が、巨大な腕を雷のように振り下ろす。邪神の背後からは殺人的な夜の海が一つの塊となって、津波となりブレイズに襲い掛かる……が、水はブレイズの足元十数センチを濡らしただけで、ブレイズにはダメージを与えない。何かがおかしい、そうとでも言うように、白い人型の邪神は自分の振り下ろした腕を見る。そこには白い邪神の腕に、小さく黒い足型がついていた。――塵で塗るもの(クァチル・ウタウス)、時を喰らい、全てを灰燼に帰する神の名を持つ権能。それが邪神に襲いかかり、邪神の『存在そのもの』にダメージを負わせていた。
元来、神と呼ばれる存在は民草の信仰あって初めて形を保てる存在だ。であればその民草が神を信仰することをやめたら、忘れるくらいに時間がたってしまったら……。
「否定こそが毒薬だと理解せよ」
苦しみもがく邪神を冷徹に観察しながらブレイズは嘲笑する。これが狂気だとでも言うのか、脆弱極まりない電子の網で存在を補強し、派手に刀剣を振るうわけでもない自分にさえ翻弄されるこの愚弄な存在が、と。白い人型の邪神は苦しみながら叫ぶ。文字に起こすことすら困難なその言葉の内容は誰にも図ることは出来ない。
「貴様の言葉は理解不可能だが、貴様自身、俺の言葉を理解可能なのか。神よ」
ブレイズがどのような感情、表情で荒れ狂う狂気を見ていたかは、誰にも分からなかった。
成功
🔵🔵🔴
アト・タウィル
なるほど、海の神だったのですね
漁師や海運の方々にあがめられる程度で満足していれば、このようなことにならずに済んだものを……
名を売る事を急ぐ邪神には、きついお仕置きをすることにしましょう
『創世から海零だと呼ばれている』と
ふふ、名乗りをありがとうございます
では、私も返しましょう
遘√?縺溘□隕ウ蟇溘☆繧九?∬ヲウ蟇溯?(私はただ観察する、観察者)
菫。縺壹k縺ォ蛟、縺帙★(信ずるに値せず)
海には死があふれているものです
狂気の操り人形で、それを呼び起こしましょう
パペットと化したモノたちで、かの邪神の動きを封じていきましょう
ふふ、津波を起こす程度の力はあるようですが、それだけで倒せると思わない事です
「なるほど、海の神だったのですね」
アト・タウィル(廃墟に響く音・f00114)は邪神を見上げながらそうコメントするが、そこからは驚愕や感嘆というよりは、ああそうだったのか、と内容の分かる脚本を確認し直す程度の感情の方が雰囲気が近いかもしれない。
「漁師や海運の方々にあがめられる程度で満足していれば、このようなことにならずに済んだものを……」
しかし現れたのであれば見逃すわけにはいかない。復活した姿が完全なものでなくても、それは打倒すべき対象となる。それが猟兵である彼女たちの役目であった。タウィルの足元を津波による海水が覆っていたが、再度引いていく。もう一度大津波が襲ってくる。邪神は高らかに咆える、まるで自分がこの地球の、世界の、宇宙の支配者とでも言わんばかりの、名状しがたい不気味な咆え声だった。タウィルも返礼としてわずかに口元をゆがめ、唱える。
『遘√?縺溘□隕ウ蟇溘☆繧九?∬ヲウ蟇溯?』
その場にいた誰もが聞き取れない音調、それはしかと海の奥深くに没した者たちへと響き届く。白き海神の動きが徐々に鈍くなっていく。海の奥底から命を失ったものたちの躯が、見るに耐えがたい触手に操られ、海神の体をよじのぼり動きを阻害し始める。月に咆える海神とそれを覆い尽くさんとする亡者の群れという光景は、狂気に囚われた絵描きが映し出す風景画のようだった。しかし邪神も亡者たちに打倒されるほど脆弱ではない。その力で生み出した津波を自身の体に当て亡者を吹き飛ばす。次はお前だ、と言わんばかりにタウィルに空虚な目を向けるが、タウィルの地の奥から聞こえてくるような詠唱は続いたままだった。
『菫。縺壹k縺ォ蛟、縺帙★』
再度海の底から亡者たちが這い出し、邪神がその腕をタウィルに振り下ろすことを阻止する。
「海には死があふれているものです、津波を起こす程度の力はあるようですが、それだけで倒せると思わない事です」
タウィルは邪神に対し言い放つ。小規模な津波が来襲するが、猟兵たちが体勢を崩すほどではない。タウィルは今宵、狂気を狂気で抑え込むことに成功したのだった。
苦戦
🔵🔴🔴
九尾・へとろ
ひょひょ、何を言うておるのか全くわからんのー。
言葉が通じぬのなら獣と同じじゃな。
トンタンタン、と拍を刻み武舞を舞おう。
UC以外の攻撃を繰り出してくるならひらひらと舞いかわす。
意識して足刀を中心とした打撃を浴びせようかの。
足、足かえ。足が欲しかったのじゃな、お前様は。
ひょひょひょ、ウチのような美しい足かえ。
お前様には過ぎたるものよ、諦めるが良い。
さりとて彼奴めのサイキックエナジーとやらは強力じゃ。
見えんというのが意地が悪い。
意地が悪い故、封じさせてもらおう。
トントンと足元軽く跳ね舞い描きたる異能の彩色。
へとろ舞…【混色優美】じゃ。
お前様へせめてもの手向けと思うてくれて構わんぞ。
■アドリブ共闘歓迎
猟兵たちの活躍により白い人型邪神は徐々に行動を制限をされていった。しかし、その身はまだ陸上進出をあきらめておらず、叫びに似た雄叫びを上げながら腕二つで懸命に陸上へ、より内陸へ這い出そうとしていた。
「ひょひょ、何を言うておるのか全くわからんのー」
九尾・へとろ(武舞の姫・f14870)は海岸のテトラポットの上から、その様をまるで見世物でも見るように眺めていた。事実、猟兵たちの攻撃により翻弄され、意味が通じぬ声を上げるさまは『神』というよりは『獣』と形容したほうが近しいだろう。
「さて、ウチも舞台に上がらせてもらおうかの」
ひらりとテトラポットから降りた九尾の姿を認めたのか、邪神は両腕を力強く地面に叩き続けながら迫りくる。あわや跳ね飛ばされる寸前、九尾は跳躍する。月明かりに照らされた彼女のシルエットは衣装もあいまって、まるで夜に飛ぶ蝶のようだった。九尾は空中で回転し、振り下ろされた邪神の右腕に着地する。邪神も九尾を振り払おうと腕を大きく振るうが、九尾は舞を踊るように腕から肩、頭、反対の肩、そして左腕へと飛び跳ね移動し、邪神の猛攻を翻弄していた。
「ははあ、さてはお前様足か。足が欲しかったんじゃな。ひょひょひょ、ウチのような美しい足がお望みだったかえ?」
九尾は執拗な邪神を見てそう直感する。陸上を闊歩する足、他者を踏みつける足、魚の類が手に入れたくとも太古に諦めた足。かの邪神の執念は相当なものだ。その執念が渦巻き、増幅し、かの邪神の頭部付近で空気が揺らぎ始める。
(彼奴め、やらかすつもりじゃな)
サイキックエナジー。邪神であれば多くの者が行使できるであろう能力の潮流を九尾は感じ取る。一般人はもちろんのこと、目に見えないこの攻撃が襲い掛かれば猟兵であろうとも無傷では済まないだろう。意地の悪い一手は封じるに限る。九尾は両袖で顔を隠したかと思うと、すっと両袖で隙間を作り、その美しい目だけを見せる。
「へとろ舞…【混色優美】、とくとご照覧あれ」
再度彼女は邪神の体の上で華麗に舞う。不気味な夜に美しい光がめぐり、九尾の四肢が、尾が邪神の体に触れる度に空気の揺らぎは薄くなっていく。最後のあがきと掌からサイキックエナジーを繰り出そうとするが、虚しく九尾の右足が触れ不発となる。
「打倒されるお前様へせめてもの手向けと思うてくれて構わんぞ」
九尾はその幼い外見とは対照に妖しく笑ったのだった。
成功
🔵🔵🔴
真木・蘇芳
やっとお出ましか
やっと俺の領分で仕事が出来る
にしても邪神にしては見た目がゆるキャラだな
ジュゴンやマナフィの方がかわいいが
信者どもを助けるとかいるなら時間を稼ぐか、面倒くさい
水を操るのは面倒な能力だな、こっちは直接この拳を当てなきゃならないが
破壊力はそれなりだぜ?
地形的にコンテナとかがれきを消波ブロックとかにできないか、周りをサポートできればいい
殴れれば、まあ曲がりなりにも神に不意打ちとか出来るなら一発お見舞いするぜ
あとは指導者がこれを崇め始めた理由、きっかけを見つけないとな
またこんな宗教が生まれるのはまあ事後処理がなぁ
タバコも湿気っちまった…
【協力行動、アドリブ歓迎】
技術と趣向をこらす戦闘は相手を翻弄するにはもってこいだろう。だが、相手を『ねじ伏せる』のであれば真木・蘇芳(フェアレーター・f04899)の戦い方が最も適していた。
「やっとお出ましか、俺の領分で仕事ができる」
真木は拳を打ち鳴らしながら、さほど急ぎもせず邪神に一歩づつ近づく。邪神は数多くのトリッキーな攻撃に翻弄され、かなり力を削がれていた。傷を負った邪神の姿を見て真木はせせら笑う。
「に、しても邪神にしては見た目がゆるいな」
真木を攻撃しようとしていた邪神の動きが止まる。そう、バカにされている。言葉は相互に理解できないかもしれない。だが邪神にもその者がもつ雰囲気を感じ取ることはできた。
「いっそのこと、この辺の街のゆるキャラにしてもらえよ。いやダメだな。ジュゴンとかマナフィのほうが可愛い、無理だわ」
『gR0000oooogAAAA!!!!』
邪神はこの夜で一番の大きさで咆えた。あまりの声の大きさに付近の建物の窓ガラスが割れ砕ける。侮辱をされた、しかもよりによって自身の従僕である連中を引き合いに出して。人間に例えれば王様に対し『あなたは召使の宮廷道化師に似ていますね』というようなものだ。激怒するのも無理は無い。だが挑発としては最高の効果を上げていた。邪神が真木めがけ拳を幾度となく振り下ろす。真木は海岸を疾走しながらテトラポットや付近のコンテナを盾に攻撃をかわしていく。辺りは当たらなかった攻撃により砂が巻き上げられ、極端に視界が悪くなっていた。望みは薄かったが、真木の行動は上手くいった。
「パンツァーシュレック……バーステン!!」
砂ぼこりの中からそのユーベルコードの名が表わすように、対戦車ロケットのようなスピードで真木は飛び出し、真っ赤な瞳をぎらつかせながら右こぶしを邪神の顔面左側に叩きこむ。邪神の白い顔面は大きく歪み、その衝撃が砂ぼこりを一瞬で吹き飛ばし、邪神はのけぞり大きく体勢を崩した。
「やってやったぞ、この野郎!」
砂浜に着地した真木は、苦しみの声を上げる邪神に向かって高らかに勝ち誇る。勝利にはまだ早いが、邪神に見せつけるため煙草を咥え火をつけようとするが……。
「……湿気っちまってる」
彼女の煙草は邪神の攻撃から発生した水しぶきで、全部だめになっていた。
成功
🔵🔵🔴
クロエ・ウィンタース
【イ・ラプセル】
見たくもないものを見せられたのだ。相応の報いをくれてやる。
言ったろう。三千世界を渡っても斬るとな。
>行動
【SPD】
UC【黒】を使用。
多少精神的なダメージがあるのか
頭に血が上って気が急いているかもしれない
とはいえ斬ると決めたからには相手が誰であろうと斬る。
掌と額から出る攻撃が厄介だ。腕を落とそう。
再生するやもしれんが何度でも落とす。
【フェイント】を織り交ぜた【2回攻撃】で腕を斬るぞ。
視線や掌の向きを【見切り】【カウンター】
海水の攻撃は【ダッシュ】【ジャンプ】で避ける
とどめは匡とリアがしてくれるだろう。
俺は前に出て相手の気を引くことに徹する
これを呼んだ残党がいるのなら斬っておくぞ
リア・ファル
【イ・ラプセル】
いと深きモノ、仄暗き使徒どのには疾くお帰り願おうか
先行した二人の状態は把握済み
イルダーナで後から現場に飛び込む
まずは「援護射撃」で割って入って、クロエさんを止める
クロエさん、そっと深呼吸だ
ボクの顔が分かるかい? オーケー、ならお呪い、だ
コードライブラリ・デッキから
「破魔」「呪術」の能力を刀に付与
これで斬りやすくなると思うよ
チャンスが来たら
UC【封絶の三重錨】で捕縛!
神様にはなかなか辛いでしょ
ちなみに最初に放った弾丸は
命中対象の周辺環境を「ハッキング」し、
ボクの「全力魔法」で、対象への攻撃の
重力加速度を追加する特別製
匡さんの撃った弾丸が、止めを刺すだろう
「…匡さん、どうかした?」
鳴宮・匡
【イ・ラプセル】
◆アドリブOK
言っておくが、死は平等だぜ
人にも獣にも、……喩え神であってもな
クロエのフォローはしない
どうせリアがするだろうから
距離を取って対峙、真の姿を解放
UC【千篇万禍】で狙撃
こちらは額をメインに狙撃していく
被弾の瞬間、或いは回避直後など動きを止めるタイミングや
攻撃動作の機先を制する形でダメージを重ねる
今は相応に眼もいいんでな、外さないぜ
リアの問いには緩く首を振る
俺の命が無意味、なんて
何も知らない誰かに断じられる謂れはない
ただそれだけのことだ
わざわざ、言葉に出しもしない
◆真の姿
知覚の鋭敏化/広域化
並列演算能力・神経伝達速度の強化
外見変化は皆無
瞳の奥に揺らめくような青が覗くのみ
リア・ファル(三界の魔術師/トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)が現場に到着したときには、先行していた二人の猟兵が巨大な邪神相手に戦闘を繰り広げていた。というより、正確に言えば猟兵の内一人が猛攻をしかけている、という方が状況的には正しい状態だった。クロエ・ウィンタース(刃狼・f15418)が邪神の前に躍り出て、刀を振り続けている。弱ってはいても邪神は邪神、巨躯が振るう暴力と対峙し続けるのはあまりにも危険だ。だが、邪神が見せた幻影に対する怒りが、ウィンタースの殺意と暴力と剣閃をひたすら鋭くしていた。
「なんで止めないのさ」
「俺が何か言って止まると思うか?」
鳴宮・匡(凪の海・f01612)はファルの問いかけに対し顔を見ずに答える。鳴宮も仕事をしていないわけではなく、会話中もずっと邪神に対し射撃をし続けていた。自分にできることは人殺し、ないしそれに近い荒事で、怒りに満ち溢れた女性を優しく諭すことではない。やったところで自分が後々痛い目を見る、と自分の領分を弁えつつウィンタースが怪我をしない程度に仕事をこなしていた。もちろんそこにはファルが自分の代わりにウィンタースを止めるだろう、という打算もあるが。
「分かったよ、僕が話しかけるから。匡さんは自分の仕事をしてて」
「よろしく頼んだ」
ため息がまじっていそうな声でファルは鳴宮に告げ、ウィンタースのほうを見る。ウィンタースは敵の猛攻をかいくぐり、隙あらば一閃を入れるが、傷が浅い。ウィンタース自身の持ち味や強さを出し切れていないように感じられる。
「クロエさん、クロエさん。僕だよ」
「むっ」
耳に届く声にウィンタースが気付く、その脳裏にはまだ邪神が見せた禍々しい幻覚の名残がちらついていた。自身よりも大切な者を冒涜的に侮辱された。であれば相応の報いがなければ。三千世界を巡っても斬るに足る理由だ。
「まずはそっと深呼吸して、まずは匡さんと協力して敵を倒そう?」
「むぅ……分かった」
ウィンタースはひとまず冷静さを取り戻し、一歩邪神から遠ざかる。邪神はじっくりとクロエを見下ろす。
「勘違いするな、お前は斬り殺す。そういったはずだ」
ウィンタースは邪神に宣告し、刀を顔の横に構える。その刹那、刀が重みと鋭さを増した。ファルによる援護の賜物だ。ウィンタースのもつ刀身にはファルの支援により、対邪神用の能力が付与されつつあった。
「行くぞ『黒』」
邪神がウィンタースを叩き潰そうとその腕を振り下ろす。だが、ウィンタースは臆せず斬り上げ、邪神の腕を切断する。巨大な腕が海面に落下し、大きな水しぶきを立てた。ファルの支援と、ウィンタース自身の文字通り命を削るユーベルコードが合わさったゆえの威力だった。すかさず失われた腕を邪神は再生し、再度振り下ろされるが結果は同じだ、ウィンタースは邪神の攻撃の対象を先程よりもしっかりと釘付けにしていた。ウィンタースが作った好機にファルが追い込みをかける。
「三界の錨鎖にて縛し、キミを封ず!」
ファルのユーベルコードによって放たれた錨鎖が邪神の体を捉える。邪神の存在や周辺そのものに介入し、滝のように流れ込むソースコードが邪神にかかる重力を増大させていく。
「匡さん! 今だよ!」
「了解」
短いやりとりと状況を見て、鳴宮はファルの意図を理解する。鳴宮の目の奥の、更に奥に冷たい青が差す。ライフルの赤いドットサイトとその瞳と、そして邪神の額が重なった時、鳴宮のライフルが3回火を噴いた。放たれたライフル弾は邪神の額を捉え、めり込む。その弾丸を押し込むように2発目、3発目の弾丸が命中する。ファルのユーベルコードにより重力を増されたそれはまるで人体を食い荒らす寄生虫のように、邪神の頭部の奥へ奥へと進んでいった。無論それで終わるわけではない、続けざまにバースト射撃を繰り返し、邪神の急所を確実に切り裂き、抉りとっていった。
『BuRooooo……』
ライフルのマガジンの中の弾丸を使い切る頃、邪神は鯨のような断末魔を上げ海中に没した。オブリビオンゆえ再度地上へ進行するだろう。だがそれは今夜ではなかった。鳴宮は海中に没していく白い巨躯を見ながらひとり思案にふける。
「…匡さん、どうかした?」
ファルが怪訝そうに鳴宮の顔を覗き込む。
「ああ、冷蔵庫の卵使い切ってたなって思い出して」
「匡、射的は上手いのにそういうところは抜けているな」
仲間からからかわれるが口に出すことじゃない。邪神に配信越しに告げられた言葉を反芻しながら想う。
(俺の命が無意味なんて、あんたに言われる謂れはないさ)
月明かりは少しだけ静かになったUDCアースの海岸をただ照らしていた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴