誰が為にヒトガタは嗤う
鬱蒼として青々とした木々たちが天を突き、日の差し込まぬ暗がりに、ひっそり佇む洋館があった。
壁には蔦が歪に絡みつき、外壁の剥がれた茶色に混ざり混沌とした様相を呈している。
窓は締め切られ、鈍色のカーテンが一切を遮断し、中の様子は伺えない。
重たい鉄の門扉は常に開け放たれ、正面玄関へ続く道は雑然とした周りの様子に比べ手入れされ、赤々とした妖しい花が糾うように彩っていた。
「こんにちわ。仕事の時間よ」
一ノ瀬・かなめ(ESPJK・f18244)が気だるげに、グリモアベースに集まった猟兵達に声をかける。
「今回の予知はダークセイヴァー。あたしここ嫌いなのよね」
とある村が誘拐被害に困っているという。
ダークセイヴァーではありふれたことだ。今更取り上げる事もないだろう。
「だけど、予知したとおりオブリビオンが原因みたいなの」
少々の家畜と、荒野同然の土地に拓かれた麦の畑が主たる寂れた農村。圧政に怯えつつも慎ましく静かに暮らしていた彼らの、子供たちが誘拐されているのだという。
齢にして十から十四。それくらいの子供たちがこつ然と姿を消していく。天の祝福を受け身ごもった母親どもも、これより十つになる子供らも、その事におびえて暮らしていた。
子を失った父親などは見るに絶えず、日々やつれ一日を呆けて過ごすものも増えている。
その村の外れ、領民たちも近づかない森の中に、大きな洋館があった。
元は美術品や骨董品などを展示していた博物館であったそれは、今はオブリビオンの住処として機能しているという。
「今回のお仕事はこの館を捜査、侵入、そしてオブリビオンの発見と討伐。そんなとこかな」
詳細な内容などは把握できておらず、直接領民に尋ねるなり自身で調べるなりせねばならないようだ。
「まぁオブリビオンの拠点だし、トラップくらいは警戒したほうがいいかもね」
あ、そうそう、と思い出したようにグリモア猟兵は付け加える。
「誘拐された子供たちだけど、きっともう生きてはいないわ。希望は持たないことね」
なんとも救われない話だ。だがこれ以上被害を出さないためにも、奮わねばならない。
「それじゃ、がんばってね」
櫟井庵
どうも、はじめまして。櫟井庵と申します。
このシナリオは、オブリビオンの拠点の洋館とその近隣の村の調査という冒険パート。
内部での集団戦。オブリビオンとの決着をつけるボス戦という流れで進行いたします。
初めてのシナリオですが、できる限りをもって良いモノを皆様と創り上げていけるよう努力してまいります。
何卒、皆様よろしくお願いいたします。
第一章では、基本的に個々でのシナリオにしていこうと考えていますが、共同プレイングなどを希望される場合は希望に沿って書こうと思っています。その場合は誰と共同かなどを一言記載いただけると幸いです。
第1章 冒険
『悪趣味な博物館』
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POW : 正面から堂々と入る、窓を割って入る
SPD : 窓や裏口から侵入、関係者を装って潜入
WIZ : 関係者から屋敷の情報を得る、屋敷の図面を入手
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イグナーツ・シュテークマン
相変わらず、ダークセイヴァーは陰惨な事件が多くて鬱屈した気分になるな
無辜の子供たちの命を守るためにも、オブリビオンの好きにさせるわけにはいかん……!
レプリカクラフトで洋館の鍵を複製、鍵を開けて侵入を試みる
「この程度の鍵であれば、多少時間をかければ複製できるさ」
侵入後はなるべく物音を立てぬように行動し、トラップの存在にも警戒
レプリカクラフトで手鏡を複製し、曲がり角の先のチェックも行う
「それにしても、十から十四……その頃合いの子供だけを攫って、オブリビオンは何を考えている?」
屋敷の使用人を締め上げて聞き出すことも、考えないといけないか……
アドリブ・連携歓迎
風のざわめきも届かぬ館の前に、一人の男がやってきた。名を💠イグナーツ・シュテークマン(炸裂する指弾・f00843)という。猟兵だ。
一つ指のなる音がして、その手に現れた真鍮の鍵をそっと差し込む。
「この程度の鍵であれば、多少時間をかければ複製できるさ」
僅かな抵抗の後がちゃりと解錠される音が鳴り、開いたドアに体を滑り込ませる。
一切光源が無く、足元すら覚束ないエントランス。パチリと小さく指を鳴らし浮かび上がらせた魔法陣の光を頼りに歩を進める。
数歩進んだところで独りでにドアが閉まり、周囲を照らすのは昏く蒼く光る六芒星だけとなってしまう。自身の吐息がやけに大きく聞こえるほど、音をも失った世界にもう一歩踏みこんだ時、音もなくさざなみのように広がる蝋燭の光。
橙に浮かび上がった調度品は埃を被り、栄華の名残だけがそこにはあった。静かに調査を続けるイグナーツ・シュテークマン。床に敷かれた真紅の絨毯も見る影はなく、自身の足跡のみが残されている。
エントランスから伸びる大きな通路の入り口で、レプリカクラフトによって作り出した手鏡を使い先を伺う。定間隔で壁に備え付けられた燭台がその下にある芸術品を照らしていた。廊下の先に誰もいないことを確認したイグナーツ・シュテークマンは、影の中周囲を警戒しながら進んでいく。
ちらりと目に入った額縁には、貴婦人と子供たちが描かれた絵画が収められており、見るものを安心させるような雰囲気を醸し出していた。他にも優しく子供を抱く女神像などが埃を堆積させ、長らく手入れがされていない様子だった。
オブリビオンの拠点であるというのにおよそ似つかわしくない芸術品たちと、世界から切り離されてしまったかのように静かな館内。まるで歓迎でもされたかのように灯った蝋燭や、勝手に閉まったドアなど不審な点も多い。
「……それにしても、十から十四……その頃合いの子供だけを攫って、オブリビオンは何を考えている?」
真意の見えないオブリビオンに、より一層警戒心を強めるイグナーツ・シュテークマン。その一端でも掴めるのであれば、使用人への実力行使も辞さない覚悟で華美に飾られたドアをそっと開けた。
隙間から差し込んだ手鏡に映った少女の姿に息を飲む。アンティーク調の椅子に腰掛け、テーブルに置かれたティーカップにも手を付けず俯いている少女。遠目でよくわからないが、身にまとうのが豪奢な家具には相応しくない煤けた衣装で、見栄えより実用性を優先したそれは貴族より農民が着るそれに近かった。
そっと近づき、様子を探る。少女の瞳は虚ろに開かれたまま、瞬きもせず焦点の合わない様子で宙を見つめていた。血の気の失せた蝋人形のように白い肌はやけに精巧で、それまでの芸術品とは明らかに違う。まるで本当に生きていたかのように。
周囲を見渡すとマホガニーの食器棚や淡いベージュで塗られた本棚と、先程の少女と同じような子供の人形が飾られていた。勝ち気な表情を浮かべた少年の瞳にも光はなく、微動だにしていない。空の食器や開かれた絵本などを前に佇むそれらに一つの共通点を見つけ、確信に至る。
人形その全てが十から十四の年頃の少年少女。まさに誘拐された子供たちの特徴と一致していたのだ。
大成功
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彼岸花・司狼
血腥そうな館か
村の外れに在って一般人の利用無し、
トラップの可能性あり、
で…生存者無し、と。
なら…ちまちまやんのもめんどくせぇ。
狩った直後でもなければバレても死人は増えん、力業で行こう。
POW:窓を割って侵入
UC封印と解放で武装の【封印を解き】、【動物と話す】で【範囲攻撃】である狼の群れに
静かに館内を巡回するように指示を出す。
館内を人海戦術で罠の漢探知、自身は【目立たない】よう気配を消す。
他の猟兵を見つけたときは敵と勘違いさせないため、近づきすぎないよう注意。
罠は刀と【念動力】で【見切り+早業+カウンター】による破壊を試みる。
また、適度にオブリビオンがいないか自身と狼の【聞き耳】で探りを入れる。
館を囲む鬱蒼とした針葉樹林の中、木に紛れるようにその男は佇んでいた。
「……ちまちまやんのもめんどくせぇ」
先程グリモア猟兵に与えられた情報からしても、多少の騒ぎを起こしたところでこれ以上被害が増えることはないだろうと判断した彼岸花・司狼(無音と残響・f02815)は数多ある刀の内一振りを取り出し、言霊を紡ぐ。
『狩りは終わらない、ヒトが『ワレラ』を必要とする限り』
ユーベルコードの発動と共に刀は無数の闇へとその姿を変え、主人たる彼岸花・司狼の言葉を待つ。
「館を巡れ。静かに、隈なくだ」
その他にいくつか言付けを受けた狼達は、高く伸びた草の海に黒のノイズを走らせながら館へ殺到する。
手近な窓へ飛びつき、体当たりによって作りの脆いその窓枠を打ち破り侵入を果たす狼達。統率の取れた動きでいくつかの群れに別れ、音もなく駆けていく。無人の廊下を疾走し、階段を駆け上がり、扉の前で聞き耳を立てる。
自慢の嗅覚と聴覚を利用し、その先におぞましいモノがいないか確かめた狼は、器用にドアノブへ飛びつきその飾り気のないドアを開け足を踏み入れた。
刹那廊下の奥の暗がりから幾百もの矢が殺到し、不幸にも数匹が巻き込まれ息絶えてしまう。しかし気にする様子もなく、返すように漆黒の矢となり駆け抜けた狼達が仕掛けの大本へたどり着き破壊する。
狼がゆらりと揺らしたカーテンの影から現れる彼岸花・司狼。彼は気配を消し何者にも悟られることなくここまで来ていた。闖入者の排除に動き始めた時計じかけの騎士鎧が、その手に持つ大型のバトルアックスを振り上げたその時。闇に紛れる黒衣を揺らすように紙一重で避けるのと同時に、騎士鎧は無残にも真っ二つに割れ地に伏せた。
続いて動き出すフルプレートアーマーがまるで出来の悪いマリオネットのようにその関節を四方へ曲げ、役割を果たすことなく機能を停止する。
正面から尽く罠を打ち破り進む彼は次の瞬間には気配を消し、またもや疾駆する狼が未知に包み隠された館を暴きだす。
主人の目となり鼻となり駆ける狼の上に鈍く光る断頭台。絨毯に馴染むよう塗られたピアノ線が踏みつけられ、何かを弾く音とともに重力に引かれ落下した刃は狼まで届くことはなく。
鎖をたわませながら中空で止まるそれにひょいと乗った黒衣の忍が一刀の元に繋ぐ鉄鎖を切り離す。全ての狼が駆け抜けた後、再度落下を始めたギロチンは床に突き立ち、その先に何も付けない鎖のみが巻き取られていった。
そして一階、二階とおおよその部分を調べ終えた狼達が主人のもとへと帰っていく。オブリビオンの姿や気配すらつかめず戻ってきたそれらの情報を整理していくと、およそこの屋敷の構造が外観と一致しないことに気がついた。エントランスホールと抱き合わせになるようにあるはずの裏側への通路が存在しなかったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
吉野・六花
わたしと、同じくらいのこどもたち……。こわかったでしょう。つらかったでしょう。
いじわるをする相手は、ちゃんとやっつけるから安心して、ください。
でも、まずはお屋敷に入らないと。
昔、博物館だったなら、構造を知ってるひとがいるかもしれません。
……近くの村のかたに、おはなしを聞いてみましょう。
裏口とか、抜け道とかあればいいのですが。
それ以外でも、面白いおはなしがあれば、聞ければうれしい、ですね。
……なんで、博物館、やめちゃったんでしょう……。
中に入れたら、狐火を出して、明かりにします。
怖いひとがいるかもしれませんから、慎重に探索します、ね。
何かおかしなものがないか、見落とさないようにしないと、です。
分厚い雲が空を覆い、日中だというのに暗い村落。俯いて木箱に腰を掛け、暗さによりをかけるような村人に、声をかける少女がいた。
澱んだ空気の中にあってなお輝く銀の瞳で見据え、優しく柔らかな声で、呼びかける。
「こんにちは。少しおはなし、いいですか……?」
少女に声をかけられた男はハッと見上げ、白磁のような肌と透き通る白の髪を見て、少し落胆した様子で答える。
「! あ、あぁ、構わねえけど」
そう返す村人に、柔和な笑みを浮かべた少女は自己紹介をする。
「はじめまして、吉野・六花(妖狐の陰陽師・f18419)といいます」
「ああ、丁寧にありがとな、嬢ちゃん。俺はカールってもんだ。よろしくな」
そして本題を切り出した吉野・六花に、カールは苦い顔をする。
「……悪いことは言わねえ。どこから来たのか知らねえが、早いとこここから離れたほうがいい」
そうは言っていられない。年の近い子供たちが、ひどい目にあっているのだ。
静かに、しかし煌々と正義の炎を燃やす少女の瞳に、カールは折れる。
「言っても聞かねえか。俺の娘も聞かん坊でな……嬢ちゃんみたいな目をしてる時は、何言っても駄目だったんだ」
攫われた娘を思い出し涙ぐむ彼に胸を痛める吉野・六花は、彼の助言にしたがい村の長の家へと向かうことにした。
●
他の家と比べれば幾分大きく、作りもしっかりしたその家のドアをノックする。
枯れた声で返事があり、少ししてドアが開けられる。
「お嬢さんは……」
「はじめまして」
先程と同じように自己紹介をして、家の中へ招かれ出された葡萄の香りの付いた飲水を飲みながら話を聞く。年の頃は四十だろうか、やつれていて確かなことはわからないが、薄くなった髪を撫で付けながら村長は喋りだす。
「あの博物館、今は化物の住処となって久しいですが、あれは私の曽祖父が長を務めていた頃このあたりをお治めになっていた領主様の趣味だったそうで」
ヴァンパイアがこの世に復活し、領主が処刑されてからというもの、誰も手入れになど行けず、いつの間にか化物が住み着いていたという。
「その化物を見たのですか……?」
「えぇ、この村に住むものなら、度々見かけたことでしょう」
月夜に浮かぶ大きな黒翼。それを見た次の日には、どこかの子供がさらわれているのだという。
間違いなくそれが今回のオブリビオンだと確信した吉野・六花は続きを促す。
「村の若いのがあの館から出てくるところを見たというのですが、私らには化物と戦う力なんてありはしません」
無力さを悔やむ村長に戦うのはわたしたちに任せてくださいと言うと、村長はその顔を悲痛に歪めながらも謝辞を述べる。
「曽祖父の残した物の中に、あの館の設計図がありました。何かの役に立つかもしれません、持っていってください」
「ありがとうございます……!」
手渡された上質な羊皮紙に描かれた設計図。四苦八苦しながらも、屋敷の構造を把握していた吉野・六花に村長が声をかける。
「曽祖父の手記に記載がありました。鍵は聖母像にある、とのことです」
それ以上館についての情報は無く、頂いた葡萄ジュースへのお礼をした少女は、館へと赴いた。
●
「こほっ」
館のドアを開けると埃が舞い上がり、吸い込んでしまう。一つ咳き込みながら、慎重に内部を進み村長が言っていた聖母像と思わしきものを見つけ、狐火で照らしながら詳しく調べ始める。
ひょこひょこと狐耳を動かしながら上から下まで隈なく調べた吉野・六花は不審な隙間を見つける。そっと指を差し込むと、何かに触れ、がちりと音がした後に、エントランスから重い物を引きずるような音が聞こえてきた。
恐る恐るエントランスへ戻ると、先程まで壁だった場所が大きく口を開け、地下へつながる階段が伸びていた。
大成功
🔵🔵🔵
ヴィリヤ・カヤラ
子供の誘拐……ここを拠点にしてるオブリビオンは子供にご執心なのかな。
生きてはいないって事は吸血か、それ以外の何かに使ったか両方かな。
ダンピールは存在を知ってる村人だと
警戒させちゃうから館に直に行こうかな。
誰かの侵入跡が見つけられれば、そこから侵入。
見つからなければ【澄明】で姿を隠して窓から、
二階以上の窓が開いてそうなら【跳飛】で跳んで侵入かな。
誰かに見つかっても大変だから『第六感』も頼りながら、
【澄明】で隠れてエントランスまで行くね。
誰かの気配があったら『目立たない』ようにして、
見つからないように情報収集しても良いかな。
何もなければエントランスに急ぐよ。
アドリブ歓迎。
雲間からさした日が黄色く館を色づける頃。
締め切られた窓の中の一つ、窓枠ごと落ちているそこからひらりと舞い込む白銀と群青。
肩にかけたオーバーコートを翻し、見るものに華やかな印象をもたせる横髪をかきあげヴィリヤ・カヤラ(甘味日和・f02681)はぽつりと呟く。
「子供の誘拐……ここを拠点にしてるオブリビオンは子供にご執心なのかな」
散乱した窓枠と、埃を被った美術品をみやりながら周囲を警戒する。
『光と闇にこの身を溶かせ』
虚空に凛と声を響かせると美術品が霞むような吸血鬼譲りの美貌が闇に溶けてなくなる。
割れて音を立てた窓ガラスの破片だけが、彼女がここから離れたことを告げていた。
石壁でも動かしたかのような重く響く音を聞き足を速めるヴィリヤ・カヤラは、突如濃くなり始めた血と腐った肉の匂いに気が付き、それがエントランスに開いている階段から漂うものだと理解した。
姿を消したまま削り出されたままの石が織りなす階段を降りていく。軍靴が反響し、闇へと吸い込まれる。肌にまとわりつく湿った空気が、第六感に訴え続けていた。この先は危険だと。
鼻につく腐臭がとうとうこらえきれぬものになる頃、大きな広間にたどり着く。広さにして三十メートル四方だろうか、天井も五メートルほどあり広々とした空間は、それまで続いていた階段と同じように剥き出しの岩壁で囲まれていた。
闇に溶けたままより黒い宵闇を鞘から抜き、がなりたてる第六感に従い構え備える。ヴィリヤ・カヤラの纏う剣気に当てられたのか、闇の中で何かが動き出す音がした。
ようやく暗闇に慣れた視界に入ってきたのは、服の端々に血痕をにじませた、年端もいかない少女だった。
ゆらり、ゆらりと幽鬼のような足取りで、何かつぶやきながら近づいてくる少女。グリモア猟兵が言っていた。希望は持つなと。
一歩踏み出そうとしたヴィリヤ・カヤラの耳に届く少女の声。
「……ソ……ボ…………アソ……ボ……」
虚ろな瞳が漆黒の中でかがやき、見えていないはずの彼女へ迷いなく歩いて来る少女。
「ア、タタ……カイ……オネ……エ、チャン……」
既に蛇腹剣へと変えれば届く距離。しかし確かに友好的な笑みを浮かべ、両手を広げて歩いて来る少女に、踏み切れずにいた。
しかしその逡巡が、時として致命的な一瞬となる時がある。
「……ッ!?」
正面から歩いて来る少女に気を取られ、警戒がそちらを向いたその瞬間に、周囲に浮かび上がる小柄な影達。それらは同じように服の端々に赤々とした染みをつけ、光に集まる蟲共のように、ゆらり、ゆらりと彼我の距離を詰めていた。
一度冷静さを取り戻したヴィリヤ・カヤラは急くあまり無謀に踏み込んだことを反省すると、それを飲み込み来た道を駆け戻る。
数段飛ばしに飛ぶように登っていくヴィリヤ・カヤラの後ろを見た目からは想像できないほどの速度で追いかけてくる子供達。それらがもう人の子では無いことを如実に証明していた。
「ア、ソ、ボオオオオオオオオオオオオオオオオオ?」
狂気すら感じるほどの、無垢な笑みを浮かべ追い立てるソレはヴィリヤ・カヤラに続きエントランスへ飛び出し、勢い余って転げ衝撃に腕が落ちる。
ギクシャクと人形のように立ち上がったソレは己の 両手 で落ちた腕を掴むと、背中へ回し取り付ける。両肩から生やした二本の腕をもう二本の腕で大事そうに絡めながら、ソレは嗤う。
「ネ、エ、ミン、ナ……アソボ?」
大成功
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第2章 集団戦
『失敗作の少女達』
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POW : ひとのからだとさようなら
自身が戦闘で瀕死になると【埋め込まれた外なる神の部品】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD : かみさまのちから
【埋め込まれた外なる神の部位】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ : ひとのきもち
【人間部分の肉をちぎって投げたもの】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に呪いをばらまき】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
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●幕間
プレイングをかいてくださった皆様、誠にありがとうございました。そして採用できなかった方、大変申し訳ございません。先に頂いていたプレイングで二章へ進む文を書いていたので今回は非採用となってしまいました。もしお気分を害されていなければ、二章でまたプレイングをいただけたらぜひ採用させていただきます。
さて、物語は第二章へと進みます。
その前に少し状況を説明させていただきたく、でしゃばった次第でございます。
猟兵の皆様達はエントランスの騒音に気づき、集まったものとします。これまでそれぞれが認識していた情報を共有し、そこへ現れた『失敗作の少女達』との戦闘が始まります。
エントランスはとても広く、机や調度品なども壁際に集まり開けた空間でございます。蝋燭の灯もあり光量も問題なく、環境が戦闘に及ぼす影響はございません。
『失敗作の少女達』は狭い階段を登ってくるため、次第に数を増やしていくでしょう。
以上で補足を終わりにいたします。
それでは皆様のプレイングを心待ちにしております。
第二章からの飛び入り参加も大歓迎ですので、こぞってご参加ください。
彼岸花・司狼
まぁ、当然こういうのが相手になるよな。
コレはただの死体、もう終わっただけの肉の塊だ。
だから、きっとコレは感傷、自己満足でしかない
判定:POW
UC絶望と反抗を使用、「材料にされた人体の破壊を極限まで回避」を目標に戦闘を行う。
目的のために初手から【目立たない】ように気配を消し、
そのまま【野生の勘】で神の部位に対し刃を向け、【暗殺+捨て身の一撃+衝撃波】で【傷口をえぐり】、【怪力+念動力】で引きずり出しを狙い。
【早業+2回攻撃】により【恐怖を与える】。
敵の攻撃は【見切り+残像】でギリギリの回避を狙い
本当に当たっても【激痛耐性】任せにそのまま【生命力吸収+鎧砕き】を乗せて【カウンター】を狙う。
飛び出してきた少女達を眺め、その異質さを認め、司狼はため息をこぼした。
「まぁ、当然こういうのが相手になるよな。
コレはただの死体、もう終わっただけの肉の塊だ」
誰でもなく自分に言い聞かせる黒衣の忍は、合わせ刀の一つを逆手に構え。
(だから、きっとコレは感傷、自己満足でしかない)
他人からすれば愚かな選択と嘲笑われようが、己の道を突き進む。
猟兵達に向かって四本の腕を翼のように大きく広げ、無邪気な笑みをうかべる少女達。その背後、音もなく踏み込んだ司狼は神速の一閃を見舞う。放たれた斬撃が素体である少女の頭髪一本すら掠めず見事に異形の腕のみを斬り飛ばし、太刀風が残る一本も斬り落とす。
「アアアアアアアアッ!?」
つんざくような悲鳴をあげ数度痙攣をした後、倒れ伏す。仕留めたのか。否、終わってなどいない。斬り落とされた腕の切断面から細い触手が伸びていき、もう一方の手を投げ飛ばした。鋭利な刃物となって飛来するそれが司狼へと突き立つ。
誰かが息を飲む。しかし彼を捉えた筈の薄白い爪は宙に舞い、バラバラに斬り分けられていた。一息の内に回避し、斬り上げ、すかさず順手に持ち替え斬り下ろす。磨き抜かれた技の冴えに、無残に散っていく神の欠片。
投げた触手がもう一度少女へ伸びるのを念動力で掴み阻止し、手元に引き寄せ握りつぶす。仮面に隠された瞳には何が宿っていたのだろう。怒りか、嘆きか、憐れみか。
司狼はその手を見つめ、もう一度握りしめると再び黒き疾風となり、残す少女と神とを斬り離し続けた。
大成功
🔵🔵🔵
吉野・六花
間に合わなくて、たくさん悲しい、思いをさせました。
こんなにたくさんのこどもたちが、犠牲になったの、ですね……。
だめです、沈んでる場合じゃない、です。
強化はちょっと怖いですけど、フォックスファイアで攻撃します。
……わたしの力でどのくらいのダメージを与えられるかはわかりませんが、狐火をひとつにして、できるだけ強化します、ね。
他のかたがいたら、当たらないように注意します。
あとは、なるべく一体ずつ、戦えるように、位置取りに気を付けないと……。
破魔とか、ちょっとでも効けばいいんですけど。
あなたたちの、仲間になるわけには、いかないのです。ごめんなさい。
イグナーツ・シュテークマン
これは、なんとも惨たらしい……!
連れ去られた子供たちは、このような形で利用されていたというのか。
……えぇい、逡巡は後だ、撃退する!
トリニティ・エンハンスで攻撃力を強化
「一撃の下に、斬り捨てる……赦せ!」
ただ少女の首を断っても意味は薄いだろう、狙うは人ならぬものの腕の付け根
【属性攻撃】で炎属性を剣に纏わせて、斬りつける
外なる神の部品が召喚されてもやることは変わらない、とはいえ油断は禁物
防御力を強化する方針にフィンガースナップ一発で切り替える
「神だろうと何だろうと、過去は過去だ……骸の海に還すのみ!」
アドリブ・連携歓迎
戦端が開かれ、それがオトモダチではなく滅するべき敵であると認識した異形の腕共は、猟兵達へ向かって攻撃を開始する。反撃する猟兵達に斬りつけられ、殴打され、吹き飛び転げてなお嗤い続ける少女達。
「これは、なんとも惨たらしい……!」
およそ真っ当な精神では見ていられない光景が目の前に広がっていた。子供達の生命を冒涜し、玩具のごとく弄ぶ邪悪な存在に、おぞましさを感じる。
「……えぇい、逡巡は後だ、撃退する!」
イグナーツに向かって振り下ろされる異形の腕をその手にもったルーンソードで弾き、顔の左に持ち上げた指を鳴らす。同時に上から下へ振り払い剣に炎を纏わせ、体勢を崩した少女の後ろに回り込み、
「一撃の下に、斬り捨てる……赦せ!」
魔力によって強化された斬撃を見舞う。寸分違わず神の腕を斬り落とし、燃え盛るその腕から伸びる触手も斬り払う。
「イグナーツさん……!」
自在に魔法を操り戦う剣士の背後から迫る五本の爪。イグナーツが呼びかけに振り向き、その爪を剣で受け衝撃に後ずさる。続けて腕を突き出す少女に、大きく燃え盛る狐火が炸裂する。
「アアアアアア!? ア、ツイ……! イタイ、ヨォ……!」
幼き妖狐の操る炎は邪な存在にはより一層火勢をます。激しく炎を上げる神の腕はやはり邪なるモノの一つだったようだ。
「あなたたちの、仲間になるわけには、いかないのです。ごめんなさい。」
少女の痛哭に自身も焼かれるような痛みを覚えながら、それでも意思を強く持つ六花。
その炎は葬送として、囚われた少女を天へと返す優しき炎だった。
「こんなにたくさんのこどもたちが、犠牲になったの、ですね……」
もう一度戦場を見渡し、あどけない顔に影を落とす六花。優しすぎるその少女に改めて援護の礼をしたイグナーツは、猟兵としての覚悟を促す。たとえそれがどんな姿形をしていようと、世界に仇なす存在は許すことは出来ないと。
「神だろうと何だろうと、過去は過去だ……骸の海に還すのみ! 援護は任せるぞ、六花嬢!」
「はい……! イグナーツさん!」
眉間の前で指を鳴らしたイグナーツが斬り込み、狐火を操って六花が援護する。
二対の炎が悲しみを焼き払い、狂気に満ちた呪縛から解き放っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴィリヤ・カヤラ
この子達が誘拐された子かな?
痛いのは我慢して貰わないといけないけど最期に遊んであげる、
これで遊んでるって思ってくれるかは分からないけどね。
敵の動きはよく見て攻撃は出来るだけ『見切り』で避けるか、
武器で防ぐように動くね。
多人数を巻き込めるなら【燐火】を着弾時に爆発させて、
行動阻害も狙って攻撃してみるけど、
連携の邪魔になりそうなら爆発はさせずに使うね。
あとは宵闇を蛇腹剣にしつつ
ダメージの大きそうな敵から倒していくね。
動きが速そうだから当てにくそうなら
【ジャッジメント・クルセイド】も使っていくよ。
もし、誰かが攻撃されそうだったり危なかったら、
割り込んでフォローに入るね。
アドリブ・連携歓迎
次から次へと姿を表し諸手を広げて嗤う少女たちと、まるで鬼ごっこでもするかのようにひらりひらりとその身を躱すヴィリヤは、少女の抱擁を宵闇で受け流し斬り返す。
「痛いのは我慢して貰わないといけないけど最期に遊んであげる、これで遊んでるって思ってくれるかは分からないけどね」
戦場を舞うように移動しながら、苦しみに顔を歪める子達を楽にする。これが彼女なりの手向けだった。
伸縮自在の宵闇が一度に幾本もの腕を斬り落とし、黒より暗き慈悲の刃を逃れた少女に降り注ぐ清浄な光の柱。ヴィリヤが細くしなやかな指を向け、迷える子羊を天へと誘う。
光と闇が交互に入れ替わり、鮮烈なコントラストをもって一つ、二つと怨嗟の帳から無垢なる魂を解放してく。
エントランスでの戦闘が一応の落ち着きを見せる頃、ヴィリヤは階段を駆け登ってくる少女へ向け、ユーベルコードを放つ。
『炎よ熱き刃となって射抜け』
灼熱の炎が次々に撃ち出され、一振りの刃となって少女へと殺到する。後続を巻き込み、転げ落ち、次の子供達を蒼く照らす。
「おやすみなさい」
無数に突き刺さった青い炎が次々と爆炎を上げ、連鎖して轟音となり館を震わせる。業火を受けた石壁が弾け壊れ崩れ落ち。悲鳴も嗤いも全てを飲み込み少女たちを永劫の眠りにつかせ。
漆黒へと続く階段がその役目を終えた。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『籠の世界の堕天使『アネモネ・ブランシュ』』
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POW : 死か愛か
【黒き羽根】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
SPD : 不浄の疾駆
自身の身長の2倍の【漆黒のバイコーン】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ : 籠の世界の童話
戦闘用の、自身と同じ強さの【清らかな白き守護騎士】と【英知に満ちた魔法使い】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
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吹き抜けのエントランスに差し込む月明かり。いつの間にか開け放たれた窓に腰掛ける一人の女性。
「あなたたち、だぁれ?」
色艶のある容姿に似つかわしくない、幼児性をはらんだ声。
「なんでおともだちをいじめるの?」
既に動かなくなった少女達を見て悲しげに目を伏せる。
「どうしてわたしにひどいことするの?」
大きな翼をはためかせ降りてくる。舞い散る羽根が月夜を彩りながら。
「ねぇ、こたえてよ
!!!!」
美しさと愛らしさを同居させた堕天使はその顔を悲痛に歪め、猟兵達へと襲いかかった。
吉野・六花
おともだち、だったのですね。
……ごめんなさい、でも、あのこたちには、帰る家が有って、未来があったんです。
これからもあなたが、新しいおともだちを拐う、のならば。
わたしは、あなたと、戦います、ね。
いつも通り、フォックスファイアで攻撃します。
相手が籠の世界の童話を使ったら、狐火を操って、なるべく早めに傷を負わせますね。
他に仲間がいるようなら積極的に攻撃はせず、敵の攻撃を迎撃できないか、ためしてみます。
なんだか寂しそうで、かわいそうですけど……。ごめんなさい、わたしは、わたしの生きる世界が大切、です。
彼岸花・司狼
人を殺したオブリビオンである。たったそれだけ。
それだけで始末するには十分だ。
判定:SPD
UC:無明と終焉で強化した技能で、
【目立たない】よう【迷彩】を纏って【忍び足】で【追跡】し、
死角から【鎧無視攻撃】で【暗殺】を狙う。
善悪倫理より種族の問題、と言うのも酷い話だがね。
ヴィリヤ・カヤラ
ひどいこと?
貴女がいると悲しむ人が出てしまうから。
きっと言っても理解はしてくれないと思うけど。
敵の動きには注意して、
誰かが攻撃を受けそうな時は割り込んでフォローに入るね。
近付けそうなら宵闇、
近付けない場合は【燐火】で攻撃してみるね。
ルールを宣告されても攻撃出来るタイミングがあったら
破ってでも攻撃しにいくね。
敵の召喚には【燐火】か【四精儀】の雷の突風で
行動阻害を狙ってみようかな。
自他問わずダメージの大きそうな人がいたら
【輝光】で回復するね。
回復時は敵から狙われないように気を付けるね。
アドリブ・連携歓迎
およそ人では理解し得ない慟哭を前にして、世界の守り手たる猟兵達はそれぞれの想いを胸に、武器を取る。
「きっと言っても理解はしてくれないと思うけど」
ヴィリヤは堕天使を見据え、その手に宵闇を携え。軍靴を鳴らし。
「貴女がいると悲しむ人が出てしまうから」
死滅をもって以外、赦罪することは出来ない。それが猟兵の役割。
「……ごめんなさい、でも、あのこたちには、帰る家が有って、未来があったんです」
心優しき妖狐は真摯に想う。歪な天使のことを、攫われた子と家族のことを。
「これからもあなたが、新しいおともだちを拐う、のならば」
暖かな光を放つ狐火を侍らせて。
「わたしは、あなたと、戦います、ね」
混ざり合うことのない悪意なき悪と掲げる正義。ぶつかり合うのは必然だった。
「意味わかんない……! みんな嫌い……! なんでいつもわたしだけがいじめられるの
……!?」
しかし彼女らの声はアネモネ・ブランシュには届かず。悲痛に歪んだその顔が、ふと力をなくす。
「そっか。いつもどおりお人形さんにしちゃえばいいだけだよね。だから、死んで?」
答えを見つけたアネモネは、黒翼で空気を震わせ、六花に飛びかかる。
「……っ!」
薙刀の修練は積んでいたとしても、巫術師としての側面が強い六花は狐火での迎撃を試みる。一直線にアネモネへと飛翔していく炎塊。着弾し、炸裂する、その刹那。
艷やかな黒翼と同じ黒の、双角獣が爆炎を突き破り飛び出す。事もなげに着地し加速するバイコーンに跨った漆黒の騎手は六花を双眸に捉え続けていた。
「あなたはきっと綺麗なお人形さんになるね」
口角を釣り上げ、必殺を確信したアネモネに、立ちふさがるは白銀と群青。突き出される二本の漆黒をより深い黒で受け流しヴィリヤは不敵に笑う。
「私を忘れちゃ駄目だよ?」
弾けるように軌道を変えたアネモネが走り抜け、もう一度突進するため向き直る。
「……邪魔、しないでッ!」
怒りを露わに再度駆け始める。着地からの短い助走ではなく、十分な距離からの加速により、先程とは比べ物にならない速度に達していた。
『この地を構成するモノよ、その力の一端を示せ』
ヴィリヤの呼びかけに応じ迸る疾風と化した雷がアネモネを襲う。
「きゃあああッ!?」
広範に渡って吹き荒れる雷風が黒馬を捉え、伝播し騎手たるアネモネの自由まで奪い去る。
「痛い……! ひどい、ひどいよッ!」
フラフラと飛び上がり、目尻に涙をうかべながらも眉を吊り上げ二人を見据えるアネモネ。大きく翼を広げ猟兵達へ向かって黒羽根を散弾のように撃ち出す。狐火を分散させいくつかは撃ち落とすことに成功したものの、そのうち一本がヴィリヤの肩に突き立つ。
「あなたは喋っちゃ駄目!」
ユーベルコードの使用を制限しようとしたのだろう、そう宣告するアネモネに、ヴィリヤは不敵な笑みを湛えたまま。
「『炎よ熱き刃となって射抜け』ッ!」
構う事無く蒼炎を刃に変えて反撃する。宵闇も届く距離ではあるが、敢えて痛みを伴う選択をする。何事も思った通りになどいかないと示すように。
肩が何者かに斬り裂かれたように血を吹く。それでも笑みを浮かべたままのヴィリヤに、恐怖と驚愕とを浮かべるアネモネの翼を穿つ刃。青白い爆炎が次々と咲き誇り、翼としての機能を失い落下する。
「ヴィリヤさん……!」
「……っ。これくらい、なんてことないよ」
汗をにじませながらも六花に微笑み返し、取り出した宝石を傷口にかざす。淡い光が放たれみるみるうちに塞がる傷口。しかし六花の目から見ても、とても無事には見えなかった。
「痛い……痛いよ……助けてよ……王子様、お姫様……!」
うずくまり破れた翼で身を包むアネモネを、守るように剣を構える白翼の守護騎士と、痛々しいその羽根に手を這わす藍翼の魔法使いが現れる。
一度ふわりと浮き上がり、騎士剣を突き出したまま突貫する守護騎士と、かろうじて傷の処置を終えたヴィリヤが斬り結ぶ。
「つ……!」
速度も体躯もアネモネに変わらぬその騎士は、純白に輝く騎士鎧の重さを乗せて斬りかかる。全てを掛けた攻撃に、受けるヴィリヤが眉根を寄せる。
「今、止めます、から!」
守られてばかりではいられないと、六花は狐火を操りアネモネへと矛先を向ける。複雑な軌道を描き多角的に殺到する無数の狐火は、アネモネへと降りかかるその直前で、打ち消される。
「どうして
……!?」
その問に答えるように杖を振り、逆巻く風を解き放つ魔法使い。疾風は衝撃波となり六花を襲い、華奢な体を吹き飛ばす。
「きゃあっ!」
一度、二度と転げながらも立ち上がる六花。これでは届かない。どうすればいい。一度で駄目なら、何度でも!
立て続けに狐火を召喚し、魔法使いとアネモネを同時に攻撃する。掻き消され、火の粉が舞い上がり、微かに藍の羽根を焼く。届くかもしれない。もう一度!
一度ヴィリヤから距離を取る白騎士は、狙いを六花に切り替えて飛翔する。
「させないよっ!」
宵闇を解放し剣の茨で絡め取る。純白に漆黒の螺旋が描かれ、力任せに引きずり下ろす。落下する守護騎士を襲うのは青き焔。歪に鎧を歪めながら、幾百もの華炎にその身を彩られ、主と同じく無残に羽根を散らし沈黙する。
対なるものの危機に制御を失う風の魔法。尽くを吹き払い、主を守護していた魔法使いは、炎に包まれ苦しみ悶える。
「嘘……みんないなくなっちゃう……やだ、やだよ……」
大好きだった童話の結末とは全く違う現実に、愕然とするアネモネ。
手を伸ばし、消えゆく二人の燐光をその胸に抱こうと歩き出す。
「……あれ?」
軽い衝撃と共に、進まなくなった両足。異変に気づき、見下ろしたその先に、血にまみれた刃が見えた。
「何故、と言っていたな」
浮かび上がるように闇から姿をあらわす司狼。声に顔を向けるアネモネは、口角からこぽりと血を溢し、答えを待つ。
司狼は刀を引き抜きその眼を見据え、答えを告げる。
「人を殺したオブリビオンである。たったそれだけ。
それだけで始末するには十分だ」
その身の役割を。狩猟者としての矜持をもって遂行した。ただそれだけ。
ユーベルコードで強化をし、知覚しうる全てを欺き、確実にその刃が届きうるタイミングを計っていたのだ。そして一撃の元に全てを終わらせる。
この世の悪とは、正義とは。交わらぬその線を斬って捨てる。隔たれた立場が生み出す永遠の悲劇に、終止符を打つために。
「善悪倫理より種族の問題、と言うのも酷い話だがね」
纏わりつく血を振り払い、崩れる堕天使に背を向けて。鞘鳴り静かに納刀し、一瞥くれて歩き出す。
「……さようなら、だ。次はまともに生きられるといいがな」
「くらいよ……さむいよ……」
床に伏し、光を失った眼で虚空を見つめ、体から流れていく真紅に濡れていた。
ついに受容してもらうことのなかった孤独。その終わりもまた、孤独なのだろうか。悲しみもぼやけ消えゆく頃、溢れて零れる涙を拭うものがあった。
「そっか……君がまだ、いたんだね……」
主に寄り添い跪く漆黒のバイコーンに腕をかけ、抱きつくように騎乗する。
「君はあったかいね……うん、最後まで、一緒だよ……」
死力を尽くし立ち上がる黒馬。主と共に、命の灯火を輝かせ、疾駆した。
大成功
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彼岸花・司狼
最期まで、か…良い友居るじゃないか。
だが、暗いのも、寒いのも、浚われた子供にも押しつけただろ?
今、お迎えの順番が来ただけさ。
UC原初の言葉・制限を使用して技能レベルを上昇させ、真っ向から刀で迎え討ちに行く。
【見切り+激痛耐性+催眠術】で激突の痛みを抑えつつ
【破魔+呪詛+生命力吸収】を乗せ、【鼓舞+捨て身の一撃】で【鎧砕き+カウンター】
撃破した場合は【催眠術+鼓舞】で、せめて最期は、幸せな夢を。
祝いもまた呪いの一つ。
正しくなくて良い、強くなくて良い
ただ次は、誰も殺さず、平和ボケした世界で
イキモノとして生まれることを、ただ願う。
敵として生まれなければ、殺さなくて良いんだから。
床を蹴る蹄の音に、足を止める黒衣の忍。確かに急所を突いた。一人では二度と立ち上がることなど出来ないはずだった。それでも、彼女を支えるものがいた。
「最期まで、か…良い友居るじゃないか」
ゆるりと振り向き正面から相対する彼岸花・司狼。
「だが、暗いのも、寒いのも、浚われた子供にも押しつけただろ?」
流れるような動作で抜刀し、ユーベルコードを発動する。
「今、お迎えの順番が来ただけさ」
優しく諭すよう言葉を紡ぎ、音もなく跳躍。その先は黒馬の進む道。
彼の言葉は届いただろうか。もう片腕も動かすことすらできなくなったアネモネは、虚ろな表情を浮かべたまま、最後にようやく見つけた大切なおともだちに揺られていた。
その加速は見る影もなく、足取りは不確かで。それでも主人の敵を見定めて、響く蹄鉄高らかに。司狼の肉を裂いて血を散らし、漆黒の双角を真紅に染めて、なおも突進を続ける。
「ぐ……ッ!」
急所は外した。己に催眠をかけ、痛覚を遮断する。手は動く。ならば問題ない。
「……正しくなくて良い、強くなくて良い
ただ次は、誰も殺さず、平和ボケした世界で
イキモノとして生まれることを、ただ願う」
それは呪いか、それとも。少女の背にあてがった切っ先を、まっすぐ落とす。バイコーンまで一直線に貫通し、騎手共々一度大きく震え、体勢を崩して倒れていった。
弾き飛ばされるように角から外れた司狼は、寄り添うように眠る少女達に、祈りを捧げる。
(敵として生まれなければ、殺さなくて良いんだから)
霞む視界のその先で、少女は優しく微笑んで、永遠の安らぎに身を委ねていた。
大成功
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