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ややこ島にて。

#UDCアース

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#UDCアース


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●幕裏
 猫が、嫌いだった。
 人の領分に我が物顔で踏み入ってくるところが嫌いだ。人の気も知らず、呑気に眠りこける姿が気に喰わない。何より───ただ生きているだけで、人から愛されるその在り様が、酷く癪に障る。
 猫が、嫌いだった。───まるで●●●のようで、嫌いだった。
「‥‥‥ハァ、ハァ、ハァ‥‥‥」
 左手の先でもがく猫に、歪な形をした刃をゆっくりとあてがう。真っ赤に焼けた刃の先が柔らかな腹に触れると、獣毛の焦げる厭な臭いがした。抵抗はいよいよ増すばかり。
「ハァ、ハァ、ハァ───!」
 これで何匹目だろうか。あと何匹捧げれば、この島から解放されるのだろうか。猫の鳴き声が聞こえる。●●●が、どこかで哭いている。酷く、頭蓋が軋む。
 ───嗚呼。一刻たりとも我慢が出来ぬ。

 手にした刃を、一息に突き入れた。

●プロローグ
「猫島って知ってます?」
 木製の簡素な椅子に腰かけて、紅茶を嗜む紳士人形───ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)はそう言って、いつものように胡散臭い笑みを浮かべた。
「いえ、島土固有の名称ではなく、どちらかと言えば分類になりましょうか。文字通り、島民よりも猫の数が多いような、そんな猫たちの住まう楽園のことです。無論、猫好きにとってもそうでしょう。」
 あるいは、猫アレルギー患者であれば地獄ですが、と嘯いて、紳士は紅茶に口をつける。
「そんな所謂猫島で、邪神復活の兆しを予知いたしました。先んじて現地入りしてもらったUDC局員からも、何らかの儀式が進行している可能性が非常に高いという報告が来ております。まぁ早い話、皆さまの出番です。依頼内容と事件の概要は───」
 トントン、とヘンペルが被っているシルクハットを小突くと、何の手品か、人数分のレジュメがてっぺんから吹き出して宙を舞った。いや普通に配りなさいよという視線はどこ吹く風で、ヘンペルは言葉を続ける。
「島民70名程度の小さな離島『ややこ島』にて、連日のように猫の惨殺死体が発見されるようになりました。およそ200匹程生息していた猫の数はこの一週間で激減、いまや僅か50匹程度が島内に残るのみです。もとより猫は、在来生物の中でも高い魔術的親和性を持つ動物。おそらく、殺された猫はすべて生贄でしょう。」
 集った猟兵の内、数名の顔が歪む。それだけの数の生命を奪った異常者が、ややこ島には潜んでいるらしい。
「死骸はどれも黒焦げ、且つ鋭利な刃物による刺突痕が見られるようです。検察に当たったUDC局員曰く、『まるで傷口から発火、炎上したようだ』と。まぁまず尋常な殺傷手段ではありません、何らかの超常存在───おそらくは邪神召喚のための祭具などが関わっているとみてよいでしょう。」
 レジュメを人さし指でなぞりながら、紳士人形はスッと目を細める。
「‥‥‥と、言うより。島内に残る幾つかの痕跡から、この島は高度経済成長期以前に、邪神崇拝者が潜伏していた可能性が示唆されています。深刻な人離れで一度無人島になったくらいですから、現在も団員が残っているかどうかは正直怪しいところですが───」
 残留物が残っている可能性は否定できない、と猟兵の誰かが呟いた。
「ザッツ・ライト。ですので皆さまの動きとしましては、これ以上被害が出ないように島内の猫を保護しつつ痕跡を辿って情報収集、ないし犯人を炙り出して確保をする、というような流れになります。ただ、ここで一つ問題がありまして‥‥‥」
 シルクハットの鍔を下げ、紳士はいくらか声のトーンを落とす。
「‥‥‥すでに殺された生贄───猫の数は相当数にのぼります。おそらく儀式の完遂を止めることはできても、不完全な形での邪神復活が成される確率は非常に高い。危険な任務になることはほぼ必至でしょう。」
 ティーカップを皿に置いて立ち上がる。しかしてヘンペルの不穏な言葉に、踵を返す猟兵は一人もいなかった。いやはや頼もしい限り───そう小さく微笑んで、紳士人形は頬を掻いた。
「現地には協力者として数人のUDCエージェントの他に、この事件の第一発見者である少女、村瀬・トモミさんもいらっしゃいます。有益な話を聴くことが出来るはずです。また、言い方は悪いですが、重要な観光資源でもある猫の大量殺戮に心を痛めている島民の方々も多い様子。事情を話せば喜んで手を貸してくれるでしょう。私からお伝えできる情報は以上になります。」
 転移の準備を始める猟兵たちに頭を下げるヘンペルだったが、数舜遅れてそういえば、と拳で掌をポンと叩いた。
「あぁ、それと。これは村瀬トモミさん本人からの訴えだそうなのですが‥‥‥『お兄ちゃんが帰ってこない』と。詳細は不明ですので、現地で確認していただけると幸いです。」
 それではどうか、お怪我のないように、と。シルクハットの紳士は綺麗にお辞儀をして、猟兵たちを送り出すのであった。


信楽茶釜
 どうも皆様はじめまして、信楽茶釜と申します。陶器製です。
 漸く二本目のシナリオになります。
 以下補足です。

●最終目的
 完全・ないし不完全な復活を遂げた邪神の撃破。

●一章の目的
 島内に生息する猫の保護。犯人の特定・確保等。

●現在開示可能な情報
『ややこ島について』人口約70名程度の小さな離島。かつては深刻な人離れから無人島になったこともあったが、高度経済成長期に漁業を生活の中心とする新しい住民が流入し今にいたる。
 現在の住民がこの島に居住する前から、すでに相当数の猫が生息していたと見られており、近年はマイナーながらも『猫島』として観光業に力を注いでいる。

『島の施設について』もとより居住可能な平地が少ないため、唯一の漁港を中心に広がるような形で住居が点在している。主な施設としては、住民の憩いの場である集会所、在籍数6名の学校、スーパーマーケットとは名ばかりの雑貨屋などがある。
 また、UDC局員の調査により、港町から十数キロ先の森林部にかつて邪神崇拝者が使用していた可能性のある荒れ果てた建造物も確認されている。この地点へ到達するには、一度港町を出て海から島の反対側へ回り込む必要がある。

『猫の生息域について』基本的に住民のおこぼれを食事の主としているため、ほとんどが港町内部を生息域としている。完全に野生化している個体は極めて少ない。

『村瀬トモミについて』今回の事件の第一発見者である13歳の少女。性格は素直で協力的。姿を眩ませた兄の行方を案じている。

『UDCエージェントについて』先んじて数人が現地入りしている。大概のものは用意してくれるが、非戦闘員のためヘンペルと共に波止場で待機。

『島の住民について』年齢層は高め。決して排他的ではなく、むしろ余所者であっても気さくに挨拶をしてくれるような人が多い。情報提供についても協力的な姿勢を見せる。

●予知による断片的な情報
 『猫』『哭き声』『死体』『泥』『孤立』『たすけて』『焔』『稚児』『無数の眼』

 それではどうぞ、よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『にゃんこ救出大作戦』

POW   :    罠や網を持ち、強引に捕獲する。

SPD   :    猫達と遊んで疲れた所を捕獲する。

WIZ   :    猫達を餌や玩具で手懐けて捕獲する。

👑11
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

高野・エドワード
猫ちゃんを惨殺…!?犯人はとんでもないことをするイカレ野郎だね…。
OK、これ以上被害を出さない為にも全力を尽くそう。

僕は港町内部をメインに活動。【第六感・聞き耳・忍び足】で猫ちゃんを探し、【動物と話す・コミュ力・優しさ】で猫ちゃんたちと交流して【情報収集】しつつ保護するよ。

君たちの仲間が最近怖い目にあっているのは知っているよね。僕とその仲間たちは君たちを助けたいんだ。一緒についてきてくれないかい?
できれば他の子たちの居場所も教えて欲しい。こうしている間にも、また酷いことをされている子がいるかもしれないんだ。

エージェントに頼んで餌を準備できたら、猫ちゃんたちをナンパするときに一緒に使いたいな。


三原・凛花
【WIZ】選択でいくね。

まずは港町をぶらついて猫探し。
見つけたら、雑貨屋で買った魚をチラつかせておびき寄せる。

猫が近付いてきたら、魚を上げながらアイテム【しゃれこうべ】を出すよ。
それをボール代わりにして、猫に遊んでもらうの。

「ふふ、猫と遊べて楽しい?」

猫と『あの子』がじゃれ合ってる様子を見ながら、頃合いを見て威力を最小限に抑えた【衝撃波】を猫に向かって放つよ。
そうして気絶させた猫は、島の人達に大切に保護してもらおう。
『この子』の大事なお友達だから……

「それにしてもこの島には『あなた』と同じような子が大勢いるね。お友達になれるかな?」(【しゃれこうべ】を大事そうに抱え、撫でながら)


シャイア・アルカミレーウス
こんな酷いことを平気で行う人も、それを喜ぶ神様も、絶対に許さないんだから!

(wiz)礼儀作法4、物を隠す1、動物と話す1
調べることが多いから、まずはトモミちゃんに会ってお兄さんの写真があったら借りよう。歩き回るから知ってる人や猫がいるかも知れないしね。

そしたら雑貨屋で猫のおやつを買いに行ってから、猫の集会に参加しよう。

警戒してるだろうから武器とか危ないものは隠して、おやつと優しい態度で保護されるように動物会話で説得するよ。

説得できたら、その猫達に他の猫が集まる場所に連れていってもらって、一緒に説得と保護するようにお願いするよ。

こんな感じに動こうと思うから猟兵の皆に相談しておこう。

さあ猫助けだ!



●第一幕 -1-

 潮騒が聴こえる。穏やかに打ち寄せる波の音と、のんびりとしたウミネコの声。快晴の空の下、瞼の裏からでもわかる暖かな日差しが揚々と降り注いでいる。
「うわー!スゴいスゴいスゴーい!今度のお兄さんとお姉さんは、二人ともおっきな翼が生えてるよ!天使?ねぇ凛花お姉さん、この二人とも天使さんなの?」
 UDC局員の運び込んだ機材が設置され、簡易的な拠点となった波止場の一角。そこへ転移した猟兵たちを出迎えたのは、黒スーツにサングラスのエージェント───ではなく、好奇心に目を輝かせた少女の歓声であった。
「うん?さぁ、どうかしら。まずは自己紹介してみると良いんじゃないかな、トモミちゃん。」
 はしゃいだ様子の少女を諭すように微笑むのは、一足先に転移した三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)だった。右手に下げたビニール袋から、アジやらイワシやらの小魚がこれでもかと顔を覗かせている。
「あっ、そ、そうだよね。えっと······はじめまして、天使のお兄さんとお姉さん!村瀬トモミって言います!」
 凛花の言葉を受け、ペコリと頭を下げる少女。報告にあった第一発見者の少女、村瀬トモミである。
「ワオ、元気の良い挨拶だね!僕の名前はエドワード。気軽にエディって呼んでくれて構わないからね。よろしく、トモミちゃん。」
 トモミの挨拶にパチン、とウィンクを返したのは、オラトリオの青年、高野・エドワード(愛のガチ勢・f00193)だった。金髪の上に可愛らしく咲いたブルースターの花が、陽光を浴びて嬉しそうに揺れている。
「て、天使なんてガラじゃないんだけどなぁ······えっと、はじめましてトモミちゃん。僕の名前はシャイア!よろしくねっ」
 相対的に気恥ずかしそうな顔で頬をかくのは、シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)だ。どこか落ち着かなげな両翼は、キマイラとしての特徴である。
 本来であれば、余所者───どころか同じ世界の住人ですらないが、トモミは別段物怖じする様子もなく、屈託のない笑みを二人に返した。
「うんと、エディさんと、シャイアちゃん!どうぞよろしくお願いします。どうか‥‥‥どうか、酷い目にあってる猫さんたちを助けてあげてください!」
 そう言って再び頭を下げたトモミに、二人は強く頷くのだった。



「‥‥‥ふふ、猫と遊べて楽しい?」 
しゃがみ込む凛花は薄く微笑んで、数匹の猫と戯れる白い物体───小さなしゃれこうべに向かって、そう呟いた。
 波止場から、少しばかり離れた住宅街の空き地。持ち前の優しさと美味しいエサ、そして動物会話による説得と情報収集で三人が辿り着いたのは、まさしく『猫の集会所』ともいうべき場所であった。白、黒、三毛に虎縞。十数匹に及ぶ野良猫たちが、思い思いに穏やかな午後を過ごしている。
「こんなに可愛い猫ちゃんたちを惨殺だなんて‥‥‥犯人はとんでもないことをするイカレ野郎だね。きっと愛が足りてないに違いない!」
「ホントだよね!こんな酷いことを平気で行う人も、それを喜ぶ神様も、絶対に許さないんだから!」
 全身猫まみれになりつつ憤慨するエドワードとシャイアではあったが、容赦なく身体を蹂躙するモフモフとした感触に表情は幾分、緩まざるを得ない様子である。
「う、うーん、天国‥‥‥あ、そういえばシャイアちゃん。出発前にトモミちゃんと話し込んでいたけれど、あれは例の『お兄ちゃんの件』だったのかい?」
「ふわぁーあ、極楽‥‥‥うん?そうそう、調べることが多そうだったから、とりあえずトモミちゃんのお兄さん───トモヤくんの写真だけ借りてきたんだ。知ってる人や猫がいるかもしれないしね。」
「ははぁ、なるほど、それは一理あるね。僕も見せてもらって構わないかな?」
「もっちろん!えーと、アレ?確かこっちのポケットに‥‥‥違う、こっちだった!はい、これがトモヤくんの写真。二年くらい前の写真だってさ。」
 猫をかき分けシャイアが手渡した写真には、二十歳前後と思しき青年の姿があった。メガネの下で細められた両の眼と引き結んだ唇が、どこか神経質な印象を与える。日に焼けたクセの強い髪の毛だけが、妹であるトモミと趣を同じくしていた。
「へぇ、意外と歳が離れてるんだね。試しにここの猫ちゃん達にも聞いて───」
 エドワードが写真をくるりと反転させた瞬間、今まで穏やかだった猫達の様相が一変した。全身の毛を逆立てて威嚇する猫。咄嗟に遮蔽物の影へ身を躍らせる猫。飛び上がって脱兎のごとく逃げ出す猫すらいた。
「えっ、ちょっと、何これエディくん───!?」
「わ、わからない!この写真を見た瞬間にみんな様子がおかしくなったよ!?」
「わわ、ていうかマズイ、せっかく集めた猫がみんな逃げちゃ───!」
「落ち着いて、二人とも。」
 パニック寸前の空き地に、静けさを纏った一言が落ちる。二人が振り向くと、両手一杯に猫を抱えた凛花が立っていた。彼女の手元をよく見れば、どの猫も気絶しているようだ。
「まずはその写真を仕舞いましょう。大丈夫、空き地から逃げ出しそうだった子は、最小限の衝撃波で気絶させたから。可哀そうだけれど───『この子』のお友達だもの、大事に保護してもらわないと、ね。」
 気絶した猫たちの上で、小さなしゃれこうべが笑っている。胸を撫で下ろす二人に小さく微笑んで、凛花は踵を返した。
「そろそろ行きましょう。学校のグラウンドみたいな広い場所なら、まとめて保護をしてもらえるスペースもあると思うわ。」
「そ、そうだね。まだまだ沢山、猫を捕まえなきゃいけないし!」
「よーし、猫ちゃんたち、もう怖い思いはさせないから、僕の後に着いてきてくれるかい?」
 猫を引き連れ歩く、午後の港町。その先頭で、凛花は独り呟く。
「‥‥‥それにしてもこの島には『あなた』と同じような子が大勢いるね。お友達になれるかな?」
 大事に抱えたしゃれこうべは、何もないはずの虚空へ眼窩を向けるばかりであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​


●幕裏
 
 島の外に出たかった。父親は頑固で考え方が古く。母親は意志薄弱で父に従うだけ。きっとこの島の中で暮らしていたら、自分は何の価値もない人生を送るのだろう。そんなのは真っ平ごめんだ。さっさとこんな島とはおさらばして、自分だけの人生を謳歌してやる。
 勉強して、勉強して、勉強して。外の学校へ行くためにひたすら勉強して。そして───失敗した。外への道はあっけなく閉ざされた。力も体力もない自分に、こんな島で一体なにができるというのか。
 この間生まれた妹が泣いている。うるさい。煩い。五月蠅い。赤子は嫌いだ。子供は嫌いだ。『ややこ』は嫌いだ。人の領分に我が物顔で踏み入ってくるところが嫌いだ。人の気も知らず、呑気に眠りこける姿が気に喰わない。何より───ただ生きているだけで、人から愛されるその在り様が、酷く癪に障る。
 薄暗い部屋に引き籠って、ただただ無為に時間を過ごす。一日、一日が酷く苦痛だった。そのせいか、最近頻繁におかしな夢を見る。行ったこともない島の反対側。朽ち果てた社の祭壇に突き立てられた、歪な形をした刃。焔が、燻っている。灰の底から無数の眼が、こちらを静かに覗いている。●●●をよこせ、と。●●●を捧げよ、と。

 ───嗚呼、俺はどうやら、頭がおかしくなってしまったらしい。
ミアス・ティンダロス
猫用おやつ・マタタビを餌にし、【レプリカクラフト】で猫を捕獲して保護できるような罠を仕掛けます。
猫たちとしばらく遊んだら、周りに犯人が残した痕跡とかないかと確認します。
もしあるなら、確保した猫たちをUDCの人や他の猟兵に任せて、自ら【忍び足】と【追跡】で犯人らしき人物の痕跡を辿り始めます。ないなら自分で猫たちをきちんと確保します。

心境
僕は、UDC達との共存を望んでいます。だからこそ、その力を悪用することをほっとけません。

猫に対して
単純な『好き』というより、野性の血のせいか、何気なく同類意識を覚えています。
猫と遊んだ時は不器用な犬みたいかもしれません。


ユコ・イコーリア
にゃんこと戯れられると聞いて(猫じゃらしを片手に)
…あっいや、真面目な調査だから
まずは1匹でも多く確保しなきゃねー

【WIZ】で猫じゃらしや玩具を用意
猫を見つけたら玩具を振り振りして
興味を持ってくれるまで辛抱強く慎重に近付く
玩具に夢中になってくれたら死角から掬いあげるように確保
持ち運びのケージに入れて安全なところに移そう

同時に島の人に被害に遭った猫を見つけた場所を聞き込み
自分のタブレット端末に島の地図情報を出して
生きている猫を確保した地点も含めて記録していこう
何か分かることがあるかも

…ところで、島の名前…
ややこ=稚児ってことよね
予知情報でなーんか嫌な想像をしてしまうんだけど…思い過ごしだといいな



●第一幕 -2-

「う、う~!」
 フーッ!
「むむむむむ‥‥‥!」
 フシャーッ!
「‥‥‥ねぇねぇミアス、そのへんにしておけばー?」
「えっ?で、でも‥‥‥!」
 ネコジャラシを片手に三毛猫と戯れているユコ・イコーリア(積み木ゲーム・f09553)の言葉に、ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)は泣き出しそうな顔で振り向いた。
「だってそのドラ猫、どう見ても敵対心丸出しじゃないの。あなたもあなたで気圧されちゃってるから、なおさら話が進まないし‥‥‥」
「ち、ちがうんです!僕は仲良くしたいんです!したいんです、けど‥‥‥その、なんていうか‥‥‥」
 ミアスの頭の上で、人狼特有の耳がペタン、と萎れる。レプリカクラフトで作り出した罠に猫がかかったは良いものの、妙な同類意識が働いてしまい中々距離をつめられないミアスなのである。その姿は、一見すると不器用な仔犬にも見えた。
「できることなら一緒に遊びたいくらいなんですよ‥‥‥」
 思う存分に三毛猫と戯れるユコを羨ましげに見つめ、人狼の少年はため息をつく。常のことながら、野生の血が恨めしい。
「なによ、捕まえること自体は成功してるんだから良いじゃない。猫殺しの犯人も見つけなくっちゃいけないわけだし───よいしょっと」
 死角から三毛猫をヒョイと掬い上げて、そのまま持ち運びのケージに収容するユコ。素人目にもわかる鮮やかな手並みであった。
「と言うか、ユコの集めた情報と、あなたの辿ってきた痕跡から割り出した地点がこの場所なのだけれど‥‥‥本当にこの辺りにいるのかな、猫殺しの犯人は。」
 ユコの取り出したタブレット端末の画面に、港町周辺の詳細な地図が現れる。地図上に表示された無数のピンマークは、ここ一週間における猫の殺害現場や怪しい人物の目撃証言のあった場所、生きている猫を確保できた場所を示していた。
「‥‥‥うん、村瀬トモミさんが猫の死体をはじめて見つけた場所と、一番新しい事件のあった場所には同じ匂いが残ってた。だからきっと、この匂いが犯人の匂いで間違いない‥‥‥と、思う。」
 気弱ながらもどこか自信をもってそう答えるミアスに、ユコは少しばかり目を丸くした。
「ねぇミアス、あなたは何でもない事のように言ってるけど、一週間前の匂いを嗅ぎ分けて犯人を割り出すとか普通できないわよ?もっと胸を張りなさいな」
「えぇ!?いや、そんな‥‥‥僕は自分の出来ることをしているだけで‥‥‥」
「またそんな謙遜しちゃって。‥‥‥自信持ってた方が、男の子は格好良いと思うな。」
「う‥‥‥あ、ありがとう‥‥‥」
「ふん、別に、あなたのためなんかじゃ───」
「───居た。」
 ユコの言葉を短く遮って、ミアスが即座にフードをかぶる。追跡用のまじないが込められたショートマントの効力で、ミアスの存在感が見る間に薄れてゆく。
「この匂いだ、間違いない。200メートル先の路地裏に居る。‥‥‥ユコさん、捕獲したその子をお願いしてもいいでしょうか。僕は追跡に回ります。」
「えぇ!?あ、うん、わかった。必ず安全なところまで連れていく。だから───気を付けて、いってらっしゃい。」
「うん、ありがとう。行ってくる」
 先ほどまでの気弱な少年はどこへやら。眼光鋭く猟犬は、目標を追って静かに疾走り始めるのだった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​


●幕裏
 
 ありえない。ありえない。ありえないありえないありえない‥‥‥!確かに、確かにこの手で沈めた筈なのだ。その訴えがあまりにも純粋で。その言葉があまりにも無垢で。その在り様があまりにも清廉だったから。その潔白さに耐え切れなかった俺は、ついに悪魔に耳を貸した。
 だというのに。なぜだ。なぜ。なぜ。何故あいつは生きている。ついに俺は、狂ってしまったのだろうか。久しぶりに吸う外の空気は新鮮で、それが何より毒だった。‥‥‥だからだろう。再び目の前で起きたその異常に、俺はあっさりと全てを理解してしまった。理解して、絶望した。すべてはもう、致命的に終わってしまっていて。自分はもう、どうしようもなく───独りぼっちになってしまった。

 ───嗚呼、だれか。だれか俺を、ここから出してくれ。出してくれるのなら、このさい神でも悪魔でも構わない。だれか。だれか、たすけてくれ。
●第一幕 -3-

「全員、配置は大丈夫かしら‥‥‥。」
 陽もだいぶ傾き始めた、午後のグラウンド。古びた木造校舎を背にして、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は緊張した面持ちで呟いた。右手に携えたネコジャラシが、金砂の髪と一緒に揺れる。
「‥‥‥わたしは、いつでもいけます。」
 携帯端末の画面をじっと見ていたせいか、数拍遅れてからメタ・フレン(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f03345)がそんな言葉を返す。画面に表示されたマップ上には、無数の赤い点と、それに付随する形で青い点が表示されていた。
「準備万端さ!追いかけっこの準備はできてるよーっ」
 転じて上空から応答したのは、オラトリオのスカイダンサー、セリエルフィナ・メルフォワーゼ(天翔ける一輪の君影草・f08589)だ。まるで踊るようにドレスを翻して、セリエルフィナは地上へ向かって両手を振る。
「みんなー、応援よろしくー!」
 校庭の一角から大きな歓声が上がった。今回の事件をうけて、協力してくれることになった地元の住民たちである。
「猫の世話は任せてくんろー!」
「俺たちも手伝えることあったら手伝うかんなー!」
「アツアツのつみれ汁、出来てるからねー!」
 これまで猟兵たちの捕まえてきた猫は、すべてこの校庭に設置された急造の柵の中に保護されていた。早い話、協力してくれる住民たちは猫が逃げないように見張る係なのだが、いつのまにやら炊き出しなんかも始まっており、ちょっとした町内行事の態を成している。‥‥‥実際、島民の三分の二が今、この場所に集まっている計算であった。
「‥‥‥只、待つのみ。」
 そんなお祭り騒ぎをもろともせず、空雷・闘真(人間のバーバリアン・f06727)は校庭の中心で身じろぎもせず立っていた。両手には、島の住民から借り受けた大ぶりの手網が二本。眼光鋭いこの男が手にすると、単なる手網ですら必殺の武器たる様相を帯びる。
「おじさーん!トモミの手網、壊しちゃダメだからねーっ!」
「‥‥‥うむ。」
 背中に飛んできた少女の言葉に小さく頷いて、闘真は静かに刻を待つ。まもなく夕暮れを迎える離島の校庭で、最大規模(島民比)の作戦が始まろうとしていた。
 刻々と流れていく時間。しかして古びた校舎の時計が数字の4を指したとき、下校のチャイムと共に、戦いの火蓋が切って落とされた‥‥‥!
「‥‥‥作戦、開始します。全機械兵、移動開始。一匹残さずこの場所へ導いて───わたしの、エレクトロレギオン‥‥‥!」
 メタの音声支持と共に、画面上の青点が学校のある地点へと一斉に移動を開始する。その青点を追従するようにして、赤い点もまた一斉に移動を始めていた。
「第一陣、距離100メートル。あと10秒弱で正門に到達します!」
「了解、さぁ来なさい子猫たち、これを機にめいっぱいもふって遊───ぶわけじゃないわよ!?保護するだけなんだからねっ!」
「委細承知、ただ捕獲するのみ‥‥‥!」
 誰にともなく言い訳をして、正門へと走り出す姫桜と闘真の二人。しかして正門から雪崩れ込んできたのは、ネズミ型だったりネコジャラシ型だったり光る玩具型をした奇妙な機械の軍団と、それらを追って走る野良猫の群れであった。
「いくわよ!私のネコジャラシ捌きに酔いしれなさい!」
 よほど猫と戯れたかったのだろうか。常ならぬテンションで猫の群れへと突貫した姫桜は、華麗なステップと共にネコジャラシを振るう。オーバーなまでに緩急をつけたそのネコジャラシ捌きはある種、悪魔的なまでの誘惑を以て猫達を翻弄した。彼女の右手にて踊るネコジャラシの動きは猫達の心を釘付けにして放さず、それを振るう姫桜はさながら舞台上の指揮者の如し。彼女の奏でる猫玉狂騒曲は、野生の獣たる猫達に致命的な隙をもたらした───!
「───他愛なし。一匹残らず捕獲してくれよう!」
 好機。群れの中心めがけ、歴戦の求道者は嵐の如き網捌きを以て次々と猫を捕獲してゆく。残像が空を裂き、舞い上がる砂埃が宙を舞う。右の一振りを以て二匹の猫を捕まえ、返す左の一振りもまた二匹の猫を網の内へと収めて見せる。その絶技、正しく神業。傍目から見ると、闘真が腕を振るった瞬間に空間が丸ごとゴッソリ削られるような───そんな目を疑うような光景が、校庭に顕現していた。
「‥‥‥第二陣、正門に到達します!」
「えっ、ちょ、ちょっと、早くないかしらっ!?」
「おのれ‥‥‥っ!」
 メタの声が響くや否や、新たに数十匹の猫が正門から雪崩れ込む。変わらず好調な二人ではあったが、さすがに数が多すぎる。何匹かが第一防衛ラインを突破し、校庭へと侵入を果たしていた。
「やーっとボクの出番だね!いっくよーっ!」
 銀光が奔った。上空で待機していたセリエルフィナは、網の目を逃れた猫に向かって急降下を開始する。たかが猫とはいえ、相手は野生の獣。正面から捕まえにいこうとも、それではあまりに勝機は薄い。───であれば答えは明白、相手が疲れ果てるまで追走し、後ろから捕獲するのみ‥‥‥!
 校庭を走る猫に追従して、地面スレスレを飛行する。追われていることに漸く気づいた猫は、追い縋るセリエルフィナを振り切らんとペースをあげて校庭を走る。夕暮れの潮風を切り裂いて、ドレスの天使は両の掌を広げた。
「絶対に捕まえるんだ!逃がすもんか───!」
 靴先が地面を擦る。土煙が上がった刹那、勝敗は決していた。
「‥‥‥捕った!」
 土煙を両翼で吹き飛ばしてそこに立っていたのは、満面の笑みで暴れる猫を抱えたセリエルフィナであった。町内会から拍手が巻き起こる。
「よーし、この調子でドンドン捕まえるよーっ」
 セリエルフィナの鼓舞に、鬨の声が上がる。決着は、すぐそこであった‥‥‥!



「‥‥‥作戦成功。おつかれさまでした、みなさん。」
 メタの一言に、誰もがホッと一息ついた。柵の中には新たに捕獲された数十匹の猫。あれだけの激闘(?)だったにも関わらず、大きな怪我をした猫は皆無であった。おおよそ作戦は大成功だったと言っても過言ではないだろう。
「はー疲れた‥‥‥張り切りすぎちゃったせいでもうヘトヘト‥‥‥」
「‥‥‥この程度で音を上げることはないが。網の方が先に音を上げなくて僥倖だった。」
 第一線で身体を張った姫桜と闘真も、どこか肩の荷が下りたような様子である。
「‥‥‥うん、良い結果が出てなにより!これも、力を貸してくださったこの島の皆さんのおかげかな。───決めたよ、お礼も兼ねてこのセリエルフィナ・メルフォワーゼ、一曲披露させてもらうとしよう!」
 再び空を蹴って、ドレスの天使は宙を舞う。島民たちが校庭から見守る中、響き渡る力強い歌声と華麗なダンス。舞い踊るスズランの花弁が茜の空を彩って、それはさながら勝利の凱歌の如き荘厳さを秘めていた。
「すごいなー、セリエルフィナさん。私もあれくらい元気でいないと───え?」
 ブルーシートのうえで独り言ちていた姫桜の唇から、あっけにとられたような声が転がり落ちる。彼女の眺める先、セリエルフィナのパフォーマンスに歓声を上げる島民の男性。その顔が一瞬、『ぐじゅり』、と。溶け墜ちたように見えた。
「‥‥‥なに、今の───」
「───む。来客のようだな」
 呆然とする姫桜の隣で、闘真が正門の方へと鋭い視線を向けた。この島に転移してから、闘真がまず初めに放った斥候───即ち彼のシャドウサーヴァントが、何者かの到来を告げている。
 正門に現れたのは、酷くやつれた青年であった。全身細かい傷だらけで、相当無茶な抜け道を使ってここまでやって来たことが一目でわかる。それもそうだろう、つい今しがたまで、この青年は追跡者たる一人の猟兵に追われ続けていたのだから。
「クソッ‥‥‥クソクソクソクソッ!!なんなんだよお前ら‥‥‥なんで俺の邪魔をするんだよォ!!!」
 荒い息を吐いて、青年は半ば絶叫するように吠える。壊れかけた眼鏡の下、落ち窪んだ眼窩に収まった鋭い瞳が、凄まじいまでの憎悪と恐怖で満ちているのが見て取れた。
「~♪───うん?」
 校庭に響き渡る青年の声に、セリエルフィナも思わず歌うのを中断していた。夕暮れの校庭に、つかの間の静けさが落ちる。
「‥‥‥お前が、猫殺しの犯人か。」
 闘真の言葉にどよめきが走る。しかして青年は酷く疲れたような、ある種泣く寸前のような壊れかけの笑みを浮かべた。
「‥‥‥そうさ、あぁそうだとも!俺だよ、俺が猫殺しの犯人だよ!だからどうしたってんだよ!!」
「ど───どうしたもこうしたもないでしょう!邪神復活だか何だかは知らないけど、あんなに可愛い子達を手にかけるとか信じられない!人としてどうかって話よ!」
「‥‥‥弱い者が、より弱い者をいたぶり殺す。何ともみっともなく見苦しい光景だ。だからこそ救いようもなく、愚劣な弱者のままであり続けるのだろうが‥‥‥!」
 開き直る猫殺しの犯人に、姫桜と闘真が激昂する。しかし青年は怯むどころか、益々イライラとした様子で己が頭を掻きむしった。もはや尋常の精神状態ではない。
「あー、あー!あー!!あー!!!馬鹿なのかよお前らは!?人としてどうだとか強いだとか弱いだとか命がどうこうとか、もうそんなこと言ってる場合じゃねーんだよぉ!!!わっかんねーのかお前らは!?このまんまだとみんな───」

「───おにいちゃん?」

 ビクリと、青年の肩が震えた。島民をかき分けておずおずと前に出てきたのは、この事件の第一発見者である少女、村瀬トモミであった。一方、猫殺しの青年───村瀬トモヤは、両の眼を飛び出さんばかりに見開いて、打って変わって酷くおびえた様相を見せた。
「ひっ‥‥‥お、オマエは───」
「おにいちゃん、トモミだよ?もしかして‥‥‥忘れちゃったの?」
「う───うるさいうるさい黙れ黙れェ!オマエがトモミなわけがない!トモミはあの日、し、し、死んだはずだっ!俺がオマエを沼に突き落として殺した!確かに殺した!!なのに───なのになのになのになのにっ!!家に帰った俺が目にしたのは、いつも通り夕食をたべるオマエだった!!」
「お、おにいちゃん、いったい何を言って───」
「ち、近寄るなバケモノオオオオオオオ!!!」
「あぶない、トモミちゃんっ」
 近寄ろうとするトモミを前に絶叫して、トモヤは腰から引き抜いた歪な形の短剣を滅茶苦茶に振り回した。赤く焼けた刀身が空を焼いて、歪な軌跡が宙を奔る。トモミとトモヤの間に割って入るようにして、セリエルフィナが翼を広げた。
「もうやめろ村瀬トモヤ!キミはもうお終いだ!」
「そ、そうだよおにいちゃん、もう悪いことはやめてよ!!」
「なんで、なんで、なんでなんだよ!?なんでお前らバケモノの味方してやがんだよ!このままじゃお終いなのは世界の方だって、そう言ってんだろうが!!」
「おにいちゃ───」
「うるせェ───!?」
 唐突に、村瀬トモヤの身体が宙に浮いた。と、同時、凄まじい勢いでその身体が校門へと叩きつけられる。骨のひしゃげる、嫌な音がした。
「───え?」
 そんな一言を漏らしたのは、どの猟兵だったか。村瀬トモミは屈託のない笑みを張り付けたまま、右手をトモヤに向かって翳していた。
「‥‥‥悪イことハ、ダメでスよ」
 ぐじゅり、と。顔が溶けた。ドス黒い粘液状のおぞましい液体を眼窩から垂れ流して、村瀬トモミ───だったものはぐぱりと口を開く。真っ黒な口腔からドス黒い血を垂れ流す少女の姿は、出来の悪いホラー映画のワンシーンでも見せられているかのようであった。予想だにしなかった光景に、誰もが息をのむ。
「う‥‥‥ぐ、ハ、ハハ、ハハハハハハ!!!もうここまで来ちまったらよぉ、神だろうが悪魔だろうが邪神だろうが、縋るしかねぇだろうが。もうとっくの昔に『全員成り代わられてんだよ』‥‥‥!!この島でもうマトモな人間は、俺以外にだれも残っちゃいねえんだからさぁ!!」
 狂ったように笑うトモヤの独白が、夕暮れ空に響き渡ると同時。

 島民全員が、ごぽりと黒い血を吐いた。
彩瑠・姫桜
邪神復活か何かは知らないけど、こんなに可愛い子達手にかけるとか信じられない
猫達のためにも住民の皆さんのためにも頑張らなくてはね

SPDで猫達と遊んで、疲れたところを捕獲するわ
…って、この機会に猫達をめいっぱいもふって遊びたいだなんて思ってないんだからっ

遊ぶのは猫じゃらしを使うわ
猫達がめいっぱい遊びたいって思えるように
オーバーに速度にリズムつけてみたりするつもり

猫との遊びや捕獲の間に、猫達の周辺の人達をさり気なく観察してみるわ
住民とも会話してみたいわね
島民の中で印象に残る人とか、あるいはその逆に当てはまる人がいないかを考えてみたいわ
犯人の特定まではできなくてもある程度のあたりをつけられたらいいわね


メタ・フレン
【WIZ】判定でいきます。

【エレクトロレギオン】で機械兵器95体を召喚します。
と言っても攻撃用の機械兵器ではなく(何か矛盾した言葉になってしまいましたが)、猫が遊べるような玩具の形をした兵器です。
ボール型だったり、猫じゃらし型だったり、爪研ぎも出来たり、光る玩具だったり、鳥の形状で空を飛んだり、ネズミ型のラジコンだったり、……
それら猫の玩具型機械兵器95体を島中に放って、猫を手懐け捕獲します。

こうして生贄の為の猫がいなくなれば、痺れを切らして犯人も尻尾を出す筈……


セリエルフィナ・メルフォワーゼ
【SPD】判定で行くよ!

背中の翼と【ジャンプ】【ダッシュ】【スライディング】技能で、猫と追いかけっこするよ!
正面からだと中々捕まらないから、とにかく疲れさせてから捕まえるよ。
時々【スカイステッパー】で空を飛んで、上空から怪しい奴がいないか確認するね。

捕まえた猫達は、島の人達やエージェントさんに預かってもらうよ。
お礼に、後でみんなに【歌唱】とダンス【パフォーマンス】を披露しようかな。
【鈴蘭の嵐】で花びらを舞い散らせれば、華やかになるかも(ただ鈴蘭には毒があるから、皆には離れたところから見てもらうけどね)。

それにしてもこんな可愛い猫達を殺すなんて……
絶対に許せない!
何としても犯人を捕まえてやる!


空雷・闘真
島民から網を借り、【2回攻撃】技能で、瞬く間に猫を2匹ずつ捕まえる。

猫を捕まえながら、【コミュ力】を使って島民達に話を聞いて回る。最近怪しい人影を見なかったか、猫惨殺以外に何か変わったことはなかったか等。

そして【影の追跡者の召喚】で召喚した影に、島中をくまなく探させておく。

「弱い者が、より弱い者をいたぶり殺す。何ともみっともなく見苦しい光景だ。だからこそ救いようもなく、愚劣な弱者のままであり続けるのだろうが」



●第一幕 -3-

「全員、配置は大丈夫かしら‥‥‥。」
 陽もだいぶ傾き始めた、午後のグラウンド。古びた木造校舎を背にして、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は緊張した面持ちで呟いた。右手に携えたネコジャラシが、金砂の髪と一緒に揺れる。
「‥‥‥わたしは、いつでもいけます。」
 携帯端末の画面をじっと見ていたせいか、数拍遅れてからメタ・フレン(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f03345)がそんな言葉を返す。画面に表示されたマップ上には、無数の赤い点と、それに付随する形で青い点が表示されていた。
「準備万端さ!追いかけっこの準備はできてるよーっ」
 転じて上空から応答したのは、オラトリオのスカイダンサー、セリエルフィナ・メルフォワーゼ(天翔ける一輪の君影草・f08589)だ。まるで踊るようにドレスを翻して、セリエルフィナは地上へ向かって両手を振る。
「みんなー、応援よろしくー!」
 校庭の一角から大きな歓声が上がった。今回の事件をうけて、協力してくれることになった地元の住民たちである。
「猫の世話は任せてくんろー!」
「俺たちも手伝えることあったら手伝うかんなー!」
「アツアツのつみれ汁、出来てるからねー!」
 これまで猟兵たちの捕まえてきた猫は、すべてこの校庭に設置された急造の柵の中に保護されていた。早い話、協力してくれる住民たちは猫が逃げないように見張る係なのだが、いつのまにやら炊き出しなんかも始まっており、ちょっとした町内行事の態を成している。‥‥‥実際、島民の三分の二が今、この場所に集まっている計算であった。
「‥‥‥只、待つのみ。」
 そんなお祭り騒ぎをもろともせず、空雷・闘真(人間のバーバリアン・f06727)は校庭の中心で身じろぎもせず立っていた。両手には、島の住民から借り受けた大ぶりの手網が二本。眼光鋭いこの男が手にすると、単なる手網ですら必殺の武器たる様相を帯びる。
「おじさーん!トモミの手網、壊しちゃダメだからねーっ!」
「‥‥‥うむ。」
 背中に飛んできた少女の言葉に小さく頷いて、闘真は静かに刻を待つ。まもなく夕暮れを迎える離島の校庭で、最大規模(島民比)の作戦が始まろうとしていた。
 刻々と流れていく時間。しかして古びた校舎の時計が数字の4を指したとき、下校のチャイムと共に、戦いの火蓋が切って落とされた‥‥‥!
「‥‥‥作戦、開始します。全機械兵、移動開始。一匹残さずこの場所へ導いて───わたしの、エレクトロレギオン‥‥‥!」
 メタの音声支持と共に、画面上の青点が学校のある地点へと一斉に移動を開始する。その青点を追従するようにして、赤い点もまた一斉に移動を始めていた。
「第一陣、距離100メートル。あと10秒弱で正門に到達します!」
「了解、さぁ来なさい子猫たち、これを機にめいっぱいもふって遊───ぶわけじゃないわよ!?保護するだけなんだからねっ!」
「委細承知、ただ捕獲するのみ‥‥‥!」
 誰にともなく言い訳をして、正門へと走り出す姫桜と闘真の二人。しかして正門から雪崩れ込んできたのは、ネズミ型だったりネコジャラシ型だったり光る玩具型をした奇妙な機械の軍団と、それらを追って走る野良猫の群れであった。
「いくわよ!私のネコジャラシ捌きに酔いしれなさい!」
 よほど猫と戯れたかったのだろうか。常ならぬテンションで猫の群れへと突貫した姫桜は、華麗なステップと共にネコジャラシを振るう。オーバーなまでに緩急をつけたそのネコジャラシ捌きはある種、悪魔的なまでの誘惑を以て猫達を翻弄した。彼女の右手にて踊るネコジャラシの動きは猫達の心を釘付けにして放さず、それを振るう姫桜はさながら舞台上の指揮者の如し。彼女の奏でる猫玉狂騒曲は、野生の獣たる猫達に致命的な隙をもたらした───!
「───他愛なし。一匹残らず捕獲してくれよう!」
 好機。群れの中心めがけ、歴戦の求道者は嵐の如き網捌きを以て次々と猫を捕獲してゆく。残像が空を裂き、舞い上がる砂埃が宙を舞う。右の一振りを以て二匹の猫を捕まえ、返す左の一振りもまた二匹の猫を網の内へと収めて見せる。その絶技、正しく神業。傍目から見ると、闘真が腕を振るった瞬間に空間が丸ごとゴッソリ削られるような───そんな目を疑うような光景が、校庭に顕現していた。
「‥‥‥第二陣、正門に到達します!」
「えっ、ちょ、ちょっと、早くないかしらっ!?」
「おのれ‥‥‥っ!」
 メタの声が響くや否や、新たに数十匹の猫が正門から雪崩れ込む。変わらず好調な二人ではあったが、さすがに数が多すぎる。何匹かが第一防衛ラインを突破し、校庭へと侵入を果たしていた。
「やーっとボクの出番だね!いっくよーっ!」
 銀光が奔った。上空で待機していたセリエルフィナは、網の目を逃れた猫に向かって急降下を開始する。たかが猫とはいえ、相手は野生の獣。正面から捕まえにいこうとも、それではあまりに勝機は薄い。───であれば答えは明白、相手が疲れ果てるまで追走し、後ろから捕獲するのみ‥‥‥!
 校庭を走る猫に追従して、地面スレスレを飛行する。追われていることに漸く気づいた猫は、追い縋るセリエルフィナを振り切らんとペースをあげて校庭を走る。夕暮れの潮風を切り裂いて、ドレスの天使は両の掌を広げた。
「絶対に捕まえるんだ!逃がすもんか───!」
 靴先が地面を擦る。土煙が上がった刹那、勝敗は決していた。
「‥‥‥捕った!」
 土煙を両翼で吹き飛ばしてそこに立っていたのは、満面の笑みで暴れる猫を抱えたセリエルフィナであった。町内会から拍手が巻き起こる。
「よーし、この調子でドンドン捕まえるよーっ」
 セリエルフィナの鼓舞に、鬨の声が上がる。決着は、すぐそこであった‥‥‥!



「‥‥‥作戦成功。おつかれさまでした、みなさん。」
 メタの一言に、誰もがホッと一息ついた。柵の中には新たに捕獲された数十匹の猫。あれだけの激闘(?)だったにも関わらず、大きな怪我をした猫は皆無であった。おおよそ作戦は大成功だったと言っても過言ではないだろう。
「はー疲れた‥‥‥張り切りすぎちゃったせいでもうヘトヘト‥‥‥」
「‥‥‥この程度で音を上げることはないが。網の方が先に音を上げなくて僥倖だった。」
 第一線で身体を張った姫桜と闘真も、どこか肩の荷が下りたような様子である。
「‥‥‥うん、良い結果が出てなにより!これも、力を貸してくださったこの島の皆さんのおかげかな。───決めたよ、お礼も兼ねてこのセリエルフィナ・メルフォワーゼ、一曲披露させてもらうとしよう!」
 再び空を蹴って、ドレスの天使は宙を舞う。島民たちが校庭から見守る中、響き渡る力強い歌声と華麗なダンス。舞い踊るスズランの花弁が茜の空を彩って、それはさながら勝利の凱歌の如き荘厳さを秘めていた。
「すごいなー、セリエルフィナさん。私もあれくらい元気でいないと───え?」
 ブルーシートのうえで独り言ちていた姫桜の唇から、あっけにとられたような声が転がり落ちる。彼女の眺める先、セリエルフィナのパフォーマンスに歓声を上げる島民の男性。その顔が一瞬、『ぐじゅり』、と。溶け墜ちたように見えた。
「‥‥‥なに、今の───」
「───む。来客のようだな」
 呆然とする姫桜の隣で、闘真が正門の方へと鋭い視線を向けた。この島に転移してから、闘真がまず初めに放った斥候───即ち彼のシャドウサーヴァントが、何者かの到来を告げている。
 正門に現れたのは、酷くやつれた青年であった。全身細かい傷だらけで、相当無茶な抜け道を使ってここまでやって来たことが一目でわかる。それもそうだろう、つい今しがたまで、この青年は追跡者たる一人の猟兵に追われ続けていたのだから。
「クソッ‥‥‥クソクソクソクソッ!!なんなんだよお前ら‥‥‥なんで俺の邪魔をするんだよォ!!!」
 荒い息を吐いて、青年は半ば絶叫するように吠える。壊れかけた眼鏡の下、落ち窪んだ眼窩に収まった鋭い瞳が、凄まじいまでの憎悪と恐怖で満ちているのが見て取れた。
「~♪───うん?」
 校庭に響き渡る青年の声に、セリエルフィナも思わず歌うのを中断していた。夕暮れの校庭に、つかの間の静けさが落ちる。
「‥‥‥お前が、猫殺しの犯人か。」
 闘真の言葉にどよめきが走る。しかして青年は酷く疲れたような、ある種泣く寸前のような壊れかけの笑みを浮かべた。
「‥‥‥そうさ、あぁそうだとも!俺だよ、俺が猫殺しの犯人だよ!だからどうしたってんだよ!!」
「ど───どうしたもこうしたもないでしょう!邪神復活だか何だかは知らないけど、あんなに可愛い子達を手にかけるとか信じられない!人としてどうかって話よ!」
「‥‥‥弱い者が、より弱い者をいたぶり殺す。何ともみっともなく見苦しい光景だ。だからこそ救いようもなく、愚劣な弱者のままであり続けるのだろうが‥‥‥!」
 開き直る猫殺しの犯人に、姫桜と闘真が激昂する。しかし青年は怯むどころか、益々イライラとした様子で己が頭を掻きむしった。もはや尋常の精神状態ではない。
「あー、あー!あー!!あー!!!馬鹿なのかよお前らは!?人としてどうだとか強いだとか弱いだとか命がどうこうとか、もうそんなこと言ってる場合じゃねーんだよぉ!!!わっかんねーのかお前らは!?このまんまだとみんな───」

「───おにいちゃん?」

 ビクリと、青年の肩が震えた。島民をかき分けておずおずと前に出てきたのは、この事件の第一発見者である少女、村瀬トモミであった。一方、猫殺しの青年───村瀬トモヤは、両の眼を飛び出さんばかりに見開いて、打って変わって酷くおびえた様相を見せた。
「ひっ‥‥‥お、オマエは───」
「おにいちゃん、トモミだよ?もしかして‥‥‥忘れちゃったの?」
「う───うるさいうるさい黙れ黙れェ!オマエがトモミなわけがない!トモミはあの日、し、し、死んだはずだっ!俺がオマエを沼に突き落として殺した!確かに殺した!!なのに───なのになのになのになのにっ!!家に帰った俺が目にしたのは、いつも通り夕食をたべるオマエだった!!」
「お、おにいちゃん、いったい何を言って───」
「ち、近寄るなバケモノオオオオオオオ!!!」
「あぶない、トモミちゃんっ」
 近寄ろうとするトモミを前に絶叫して、トモヤは腰から引き抜いた歪な形の短剣を滅茶苦茶に振り回した。赤く焼けた刀身が空を焼いて、歪な軌跡が宙を奔る。トモミとトモヤの間に割って入るようにして、セリエルフィナが翼を広げた。
「もうやめろ村瀬トモヤ!キミはもうお終いだ!」
「そ、そうだよおにいちゃん、もう悪いことはやめてよ!!」
「なんで、なんで、なんでなんだよ!?なんでお前らバケモノの味方してやがんだよ!このままじゃお終いなのは世界の方だって、そう言ってんだろうが!!」
「おにいちゃ───」
「うるせェ───!?」
 唐突に、村瀬トモヤの身体が宙に浮いた。と、同時、凄まじい勢いでその身体が校門へと叩きつけられる。骨のひしゃげる、嫌な音がした。
「───え?」
 そんな一言を漏らしたのは、どの猟兵だったか。村瀬トモミは屈託のない笑みを張り付けたまま、右手をトモヤに向かって翳していた。
「‥‥‥悪イことハ、ダメでスよ」
 ぐじゅり、と。顔が溶けた。ドス黒い粘液状のおぞましい液体を眼窩から垂れ流して、村瀬トモミ───だったものはぐぱりと口を開く。真っ黒な口腔からドス黒い血を垂れ流す少女の姿は、出来の悪いホラー映画のワンシーンでも見せられているかのようであった。予想だにしなかった光景に、誰もが息をのむ。
「う‥‥‥ぐ、ハ、ハハ、ハハハハハハ!!!もうここまで来ちまったらよぉ、神だろうが悪魔だろうが邪神だろうが、縋るしかねぇだろうが。もうとっくの昔に『全員成り代わられてんだよ』‥‥‥!!この島でもうマトモな人間は、俺以外にだれも残っちゃいねえんだからさぁ!!」
 狂ったように笑うトモヤの独白が、夕暮れ空に響き渡ると同時。

 島民全員が、ごぽりと黒い血を吐いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『泥人』

POW   :    痛いのはやめてくださいぃ…………
見えない【透明な体組織 】を放ち、遠距離の対象を攻撃する。遠隔地の物を掴んで動かしたり、精密に操作する事も可能。
SPD   :    悪いことはダメです!!
【空回る正義感 】【空回る責任感】【悪人の嘘を真に受けた純粋さ】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
WIZ   :    誰か助けて!!
戦闘用の、自身と同じ強さの【お友達 】と【ご近所さん】を召喚する。ただし自身は戦えず、自身が傷を受けると解除。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●UDCから開示された情報

【泥人】
 すでに絶滅が確認されているUDC。元々は次元を漂流してきたブラックタールの変種であり、人間と過ごすうちに色彩をもつ姿へとなる術を得たとされている。人格は一般人と変わらない上にお人好しが多く、臆病で騙されやすい。稀に自身がUDCであることすら忘れて生活する個体も存在していたようである。特筆すべき点として『非常に生贄に適した種族』という特徴がある。これは諸説あるが、ありとあらゆる人間を模すことができる故に、ありとあらゆる種類の生贄として代用できたから、という説がある。
※マスターより お詫びと第二章の補足

 間違えて第一幕 -3-を二重投稿してしまいました。大変読みづらいかと思います、申し訳ありません。

 皆様、第一章お疲れさまでした。第二章は校庭で泥人たちとの集団戦となります。島民は一人も漏れなく泥人に成り代わられている上に、戦闘中は際限なく仲間を呼び続けます。
また、泥人たちは自分がオブリビオンだと自覚していません。自身の防衛機能が働くままに異能を行使し、自分自身が異能を行使しても認識することのできない狂気の中にいます。
 彼らはあくまで『島民』として、貴方たちの前に立ち塞がるでしょう。猟兵としての覚悟と、人としての葛藤が、なによりの焦点となります。厳しい戦いになりますが、何卒ご容赦ください。では、ご健闘を祈っております。
ミアス・ティンダロス
この光景を見るとミアスは気づいたのでしょう、自身が夢見た『UDCとの共存』はどんなに困難であることに。
それでも……いや、だからこそ頑張らなくちゃダメなんです。
自分がやらなければ、他にそうする人がいないかもしれないからです。
「よし」と自分に気合を入れるように小さく呟いて、戦闘に集中します。
とりあえず、泥人さんたちをほっとけるわけがありません。普通の人間に危害を加える可能性はもちろん、儀式の生贄にされるのもかなり濃厚です。
「少し乱暴なのかもしれませんが――」
蝙蝠のような羽をもつ馬と昆虫の交雑体に見える【星間の駿馬】を召喚し、泥人さんたちの戦闘能力を奪うように攻撃を行います。


榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)と

姫ちゃんは、大好きな、友人なの
猟兵になりたてで迷ってばかりだけど
人をいたわる事のできる優しい子なの
そんな友人を苦しめるあなた達を、私は許さない

トモヤさんがまだ生きてるなら、姫ちゃん、庇ってね
私は前に出て、泥人形達と戦うよ

WIZ使用
【巫覡載霊の舞】で【なぎ払い】と【衝撃波】を織り交ぜて攻撃
躊躇いなんてない
ドンドン攻撃しちゃう

人殺し?…確かにね、あなた達はどんな風に見てもひとに見える
そうやって暮らしてきたんたんだし、実際、偽物が本物になっちゃってるんだから
ここではあなた達が人で、私達が殺戮者
わかってる、この島という世界を踏みつけるのは私達
覚悟なさい、存分に踏みつけてあげる


彩瑠・姫桜
あお(f06218)と

さっきまで、一緒に猫達を捕獲して、笑ってた島民の人達、なのよ?
それなのに、敵?オブリビオン…?

あおの声掛けに応じる
トモヤさんの息があるなら、トドメを刺されないようできるだけ傍にいる
保護する他の仲間がいるなら任せて戦うわ

戦闘は【咎力封じ】使用
【手枷】【猿轡】【拘束ロープ】で動きを封じて【串刺し】にするわ

ごめんなさい
できるだけ一撃で
苦しみを与えないようにするから
それが、今の私にできる事

猟兵は世界を救う者だと聞いてた
でも、ここでは違うのね
あおの言う通り…私達は殺戮者、なのね

聞こえるのは「島民」達の断末魔
耳に残る「ひとごろし」の声
身体が、武器を持つ手が震える
手に残るのは、殺しの罪


三原・凛花
可哀そうだけど、こうなったらもうやるしかないね。
【おびき寄せ】【誘惑】で、島民をなるべくわたしの方へ集めるよ。

そこで【水子召喚】を使って、『わたしの子供達とそのお友達』を呼び出すよ。
子供達とそのお友達の望みは二つ、『生きること』と『友達が増えること』。
前者は無理だけど、後者なら可能……生者を死者にして自分達の中に取り込んでしまうことでね。

島民さん達、色々親切にしてくれてありがとう。
人間なんかより、あなた達の方がよっぽど暖かったよ。
せめて、わたしの子供達の遊び相手になってあげて。
この子達は、見た目で誰かを差別なんかしないから。
子供達に取り込まれた後も幸せになれるよう、【祈り】を捧げておくよ。


バルディート・ラーガ
なんとも…イヤーな空気ですねえ。もちろん先発隊の様子を見つつですが、苦戦するようならゲートから出て助太刀しやしょう。一般人の姿の敵サンってえのには辟易しやすが、あっしにゃ交流がない分葛藤も比較的薄いんじゃねえかってな算段です。足が止まっている仲間がもし居るようでしたら鼓舞していきやすぜ。

とにかく数が多いンで、尻尾や腕の【なぎ払い】を中心に広く浅くダメージを与える方針を。お仲間さんを呼んでも傷を与えりゃ消える、てとこに付け込んで【UC:咎めの一手】で対処できりゃあ御の字。少しずつでも数を減らしていきたいですねエ。

(アドリブ等歓迎です)


空雷・闘真
「昨日まで味方だった者が、今日になって突然敵へと豹変する。戦場では良くあることだ」

表情一つ変えることなく、闘真は静かに拳を握る。

「とは言え……非戦闘員だった者を殺すのは、流石にこれが初めてだがな。弱者に拳を向けるなど、俺のプライドが許さんのだが」

そのまま足を開いて腰を落とし、両腕を眼前に構える。
しかし、武器は持たない。
せめて謝意や敬意を持って戦わねばならぬ相手だと判断したとき、彼はいつも武器を捨てる。
それが空雷流継承者たる彼の、美意識なのだ。

「俺は赦しなど乞わん。俺が憎いのなら、好きなだけ化けて出てくるがいい。いつでも受けて立ってやろう」

闘真は全くの非武装で、島民達の只中へと突撃していった。


高野・エドワード
なっ…泥人…!?邪神復活の為猫ちゃんを生贄にしていたのがトモヤ。でもそれ以外の島の人たちもすでにオブリビオンになっていて…!?
あぁぁもう!!こういう…救いのない展開…本当勘弁して欲しいな…!!

彼らに自覚があるにせよないにせよ、襲われるなら容赦はしないよ!僕は僕の大切なものの為、ここで死ぬわけにはいかないからね…!

翼で飛び【空中戦・オーラ防御・第六感】で敵の攻撃を防ぎ、避けつつ【全力魔法・高速詠唱】で絶えず『瑠璃花弁の嵐』を発動するよ!
可能なら猫ちゃんたちに被害が及ばないよう、守りながら戦いたい…。

それに他の猟兵たちとも積極的に連携を取っていくよ!僕にできることならなんでも手を貸すさ。


シャイア・アルカミレーウス
何も起こらないで、会った時みたいにずっと優しく生きていれたなら仲良くしていれた。けど、それでも僕らは世界と仲間を守っていくんだ!

(POW)
相手はブラックタールの変種なら剣より魔法の方が効きがよさそうだね。勇者の心得で魔法攻撃力を強化。ワンド・オブ・レッサーマジックミサイルを使って、「一斉発射2」「全力魔法6」でチャージした魔弾を斉射して吹き飛ばすよ。
できれば他の人と協力して、一纏めにしたところを一網打尽にしよう。

「勇者の心得その2!すたこら逃げても現実から逃げない!ガンガンいこう!」

(楽しい冒険を夢見ていたキャラなので、初めは攻撃できず仲間が傷ついて初めて割り切って反撃します)


セリエルフィナ・メルフォワーゼ
そんな……島民が皆オブリビオンだったなんて……
あんな優しくて親切だった人達が……

でも……ちょっと待ってよ!

この人達はただ狂気に囚われてるだけなんでしょ?
だったら正気に戻せば、元の優しい人達に戻るんじゃないの?
実は泥人だったとか人間じゃないとか、そんなのどうだっていい。
ただオブリビオンだからって理由だけで、殺していいわけがないよ!

……ボクの【シンフォニック・キュア】で、島民の皆を正気に戻せないか試してみるよ。
ダメだったら……そのときは、ボクも覚悟を決めるよ。


メタ・フレン
わたしは楽しいことと、やりがいのあることが好きなんです。
その二つを満たせるから、わたしは猟兵になったんです。

でも、今わたしが直面しているこの事態は、全然面白くないし、やりがいだって全くありません。
何より……わたしは今、どうすればいいか全く分からないんです。

だから……

【迷彩】【ものを隠す】技能を使って、校庭のどこか適当なところに隠れます。
そしてわたしは何もせず、他の猟兵達に島民達のことを、全部丸投げします……

ええ、分かってますよ。
こんなの、ただの戦闘放棄だって。
こんな情けないわたしは、猟兵失格だって。

でも、わたしにはどうすればいいか全くわからないから……
何も……することが出来ないんです……



●第二幕 -1-

「なっ‥‥泥人‥‥!?」
 眼前に広がる悪夢じみた光景に、高野・エドワード(愛のガチ勢・f00193)は目を見開いて、その忌名を口にした。
 泥人。それはとっくの昔に絶滅したはずの、言わば『過去』に属する種族の名であった。
「‥‥邪神復活の為猫ちゃんを生贄にしていたのがトモヤ。でもそれ以外の島の人たちもすでにオブリビオンになっていて‥‥あぁぁもう!!こういう‥‥救いのない展開‥‥、本当勘弁して欲しいな‥‥っ!!」
「‥‥じょ、冗談でしょ?さっきまで、一緒に猫達を捕獲して、笑ってた島民の人達、なのよ?それなのに、敵?オブリビオン‥‥?」
 信じられない、否、信じたくないという顔で、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)が声を震わせる。帳を上げた現実は、暴力的なまでの真実を以て猟兵たちの心を揺さぶっていた。
「───昨日まで味方だった者が、今日になって突然敵へと豹変する。戦場では良くあることだ」 その混迷の内にありながら、空雷・闘真(伝説の古武術、空雷流の継承者・f06727)は表情一つ変えることなく、静かに拳を握っていた。
「とは言え‥‥非戦闘員だった者を殺すのは、流石にこれが初めてだがな。弱者に拳を向けるなど、俺のプライドが許さんのだが。」
 歴戦の武人はそのまま足を開いて腰を落とし、両腕を眼前に構える。完全なる臨戦態勢、即ち───彼の覚悟は既に決まっていた。「可哀そうだけど、こうなったらもうやるしかないね。」
 気焔を上げる闘真の隣で、三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)が静かに目を伏せる。両手に抱えるは、彼女の媒介道具たる小さなしゃれこうべ。その内部へと渦巻くようにして、凄まじい呪力が集ってゆく。彼女もまた、覚悟は決まっているようであった。
「‥‥ちょ、ちょっと待ってよ!」
 居並ぶ島民たちに対して早くも戦闘態勢をとる仲間に、セリエルフィナ・メルフォワーゼ(天翔ける一輪の君影草・f08589)が悲痛な声をあげる。
「あ───あんなに、優しくて親切な人たちだったじゃないか!この人達はただ狂気に囚われてるだけなんでしょ?だったら正気に戻せば、元の優しい人達に戻るんじゃないの?」
「そ、そうだよ!戦う以外にも何か方法があるハズだ!だって、だって、こんなの───」
 ───僕が夢見ていた冒険じゃない。歯を食い縛るようにして、シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)がセリエルフィナに賛同する。『勇者』としてどうすべきなのか、凄まじいまでの葛藤が、少女の内で荒れ狂っていた。
「‥‥‥わたしは、どうすれば───」
 同様にメタ・フレン(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f03345)もまた、唐突に牙を剥いた現実を前に、竦んで動けずにいた。今、自分はこの局面において、どうすべきか───。この世界に生れ落ちて一年と経っていない幼い少女の思考は、懊悩の内に停止を始める。
「───あぁ、そっか」
 猟兵たちの一歩後ろでそう呟いたのは、人狼の少年ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)だった。一人残らず醜悪な怪物と化した島民と、それを前に混迷を極める仲間たち。その光景に、少年は自らの夢───即ちUDCとの共存が、どれだけ困難な夢であるかを改めて理解する。この状況は縮図だ。現在のUDCアースにおける、人類とUDCとの対立関係、或いは相互理解の不一致、或いは超えることのできない性質の壁。それらすべてを内包した空間で、少年は自らの挑む夢の険しさに、竦まざるをえなかった。

「がはっ‥‥‥けほっ‥‥理解できたかよ。この島はな、とっくの昔に終わってんのさ。だからもう一切合切、灼いて、燃やして、灰にしてもらう以外、ないんだよぉ‥‥‥!」
 血の混じった咳を吐いて、村瀬トモヤが泣きそうな顔で嘲笑う。諦めるように。縋るように。まるで───ややこが哭くように。
 夕闇が押し寄せる。長く伸びた校舎の影が猟兵たちを呑み込んで、血のような斜陽が空を焼く。未だ猟兵たちの心は一つに非ず。しかして時は止まることを知らず。まるで開戦を告げるように、ヒビ割れたチャイムの音が校庭に響き渡った。

●第二幕 -1.5-
 
「───うへぇ、こりゃなんとも‥‥イヤーな空気ですねえ。」
 悲鳴、苦鳴、狂笑───。地面が抉れ、おぞましい粘液が宙に飛び散る。
 状況急変の報せを受け、遅れて転移したバルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)は、惨憺極まる戦場と化した校庭を前に、そんな呟きを漏らした。
「姫ちゃんからの救援を受けて駆け付けてみれば‥‥ボサッとしてる場合じゃないですよ、バルディートさん!今この瞬間にも、姫ちゃんが苦しんでるかもしれない‥‥!」
 一方、やや浮足立った様子で薙刀を構えるのは榎木・葵桜(桜舞・f06218)。親友の危機に穏やかならぬ心の内の表れか、薙刀の鈴がチリリと細く音を立てる。
「へぃへぃ、助太刀に来た以上、キチンと仕事はこなしますよ。そいじゃあ、あっしは戦力の薄いところに回りますんで、嬢ちゃんはさっさとお友達のところに行ってやってくだせぇな。───きっと待ってますぜ、嬢ちゃんのこと。」
「‥‥‥えぇ、ありがとう、バルディートさん。あなたが親切なドラゴンでよかった!」
「ハハッ、あっしはどこにでもいる、しがない蛇ですよぅ。ご武運を、お嬢ちゃん!」
「あなたも、お気をつけて!」
 小さく笑って、戦場へ散る二人。斯くして役者は出揃った。舞台の幕を下ろすのは、希望か、或いは絶望か───。

●第二幕 -2-

 おぞましい粘液を滴らせた泥人たちが、まるで零れた砂糖に集う蟻のように、校庭の中央部に群がっている。その中心で抵抗を続けるのは───闘真と凛花の二人であった。
「ア、アンタ、なして俺たちにこんな───」
「ふん‥‥ッ!」
 黒い粘液を垂れ流す口が言葉を紡ぎ終わるよりも早く、強烈な踏み込みと共に打ち出された闘真の右拳が島民の顎を捉える。揚突き気味に放たれた拳は踏み込み時の勁力を余すことなく伝達し、一撃で頭部を粉砕して見せた。
「ひっ‥‥ひぃぃぃぃ!来るなあああああああ!!!」
 惨憺たる光景に悲鳴を上げる島民。しかし言葉とは裏腹に、彼らは両手に不可視の体組織を纏い攻勢に転じる。不可視が故に、酷く間合いの読みづらい攻撃であった。
「───『遊んでもらいなさい、私の子供たち』。」
 濡羽の髪を翻し、凛花が囁くように言葉を紡ぐ。両手に抱えたしゃれこうべの眼窩に、昏い焔が燈った。振りかぶった島民の腕が、悉く宙にて制止する。
「なっ‥‥なんだこりゃあ!?」
「は、離れろ、離れろおおおおおお!!!」
 よく見れば、彼らの腕に無数の半霊体───それも殆どが赤子の霊である───が纏わりついていた。それらは小さな手で不可視の体組織を圧削し、歯も生えぬ口腔で食んでは千切り捨てる。島民たちが恐怖で腕を振り回すたび、半霊体の赤子たちは嬉しそうにキャッキャとはしゃいで声を上げた。
 【水子召喚】───彼女の『子供たち』と『その友達たち』を呼び出し使役する、凛花の繰る死霊術が一。
「空雷さん」
「うむ」
 動きを阻害された島民の頭部めがけ、闘真の右脚が跳ね上がる。一人目の頭部が黒い粘液となって飛び散った直後、真横の島民向けて間髪入れずに左脚が疾走った。とある流派では連環腿と呼ばれる連続回し蹴り。本来一対一で使用するこの技を、この達人は集団戦において範囲攻撃として運用したのである。
「───まだ来るか」
 脛骨を砕かれ倒れ伏す島民を乗り越え、絶叫する島民が殺到する。斃しても斃しても攻撃の手を緩めぬその様は、地獄の亡者もかくやという姿であった。
「‥‥‥すこしばかり、挑発しすぎたかしらね」
 自嘲気味に凛花が嗤う。凛花の女性としての色香は、確かな効果を以て泥人たちを誘蛾灯のように引き付けていた。
「‥‥‥それでも、まぁ。『この子達』に『お友達』が増えるのなら、何てことないのだけれど。」
 スッと目を細めて、凛花はどこか愛おしそうな、それでいて寂しそうな表情でしゃれこうべを掲げる。しゃれこうべに集う呪力を受けて、縦横無尽に宙を舞っていた赤子の霊たちが確かな指向性を持ち始める。それは巨大な渦となり、殺到する島民たちを取り囲んだ。 
「‥‥‥島民さん達、色々親切にしてくれてありがとう。人間なんかより、あなた達の方がよっぽど暖かったよ。だから───せめて、わたしの子供達の遊び相手になってあげて。この子達は、見た目で誰かを差別なんかしないから。」
 呪力が咆える。群霊が嗤う。呪われし霊気の渦は新たな『友達』を呑み込むと、嬉しそうな声を上げて四散した。
「‥‥さすがに疲労してきたか」
 額をぬぐう凛花に、闘真が言葉少なに問う。
「いいえ、まだ大丈夫。‥‥むしろ、空雷さんこそ大丈夫?そろそろ素手縛りのツケが回ってきてるんじゃない?」
 背中合わせに立つ凛花の問いに、しかし闘真は短く「心配無用」と答えた。
「せめて謝意や敬意を持って戦わねばならぬ相手だと判断したとき、俺はいつでも武器を捨てる。それが空雷流継承者たる俺の責務だ。」
 それは、数多の戦場を超えた彼の内に敷かれた絶対の規範であり、美意識の発露であった。その鋼の如き矜持に、凛花は敬意を込めて微笑みを返す。
「‥‥それじゃあ、次に行きましょうか、武人さん。」
「委細承知。俺は赦しなど乞わん。俺が憎いのなら、好きなだけ化けて出てくるがいい。いつでも受けて立ってやろう‥‥!」  再び拳を構えなおし、闘真は全くの非武装で、島民達の只中へと突撃していった。

●第二幕 -3-

「なんで‥‥っ!」
 戦場にて斃れゆく泥人たちの姿を目にして、ミアスは小さく苦鳴を漏らした。なぜ、誰も共生を望まないのか。なぜ人間とUDCは争わなければならないのか。
 ‥‥決まっている。大半のUDCは人を襲うからだ。そのうえ、彼らの大元たる邪神たちは、どれ一つとっても世界を滅ぼしかねない悪意と力を秘めている。であれば、この地上で最も繁栄している種───人類がその脅威に対立しない理由はない。黙って食われるわけにはいかないのだから。
「‥‥‥けどっ」
 かといって人類がUDCを完全に駆逐してしまえば、それは単なる解の反転だ。結局のところ、どちらかのどちらかによる、どちらかの虐殺に終始してしまう。
「シャオ‥‥‥」
 失踪した師の名を呟く。彼女もまた、これほどまでに難しい問題に直面していたのだろうか。
「僕は───。」
 漸く、分かってきた。少なくとも、この図式を変えるためには、どこかで誰かが立たなければダメなのだ。人とUDCが手をつなぐ未来のために、今、ここで頑張る人間がいなければダメなのだ。
「‥‥‥そうだ。他の誰かがやるかも、なんて考えじゃダメなんだ。それじゃ何時まで経っても『僕の夢』は叶わない」
 気弱な少年の瞳に強い焔が宿るのを、彼の携えた魔導書だけが見ていた。
「───僕が、やるんだ。今はまだ届かなくても、いつかその未来に手が届くように。」
 怖くはあった。けれど、ここで立たなければ何も変わらないという確信が、少年の足を戦場へと運ばせる。怖気を吹き飛ばすように「よしっ」と呟いて、ミアスは天高く右手を掲げた。
『漆黒(くろ)く、素早く、力強く――舞い降りなさい、翼の貴婦人さん!』
 大気を切り裂く音と共に、爆風が校庭の一角を消し飛ばす。凄まじい砂埃が宙を舞うも次の瞬間、耳鳴りがするほどの羽ばたきと共に、ミアスの『友人』がその姿を現した。
 蝙蝠のような羽をもつ馬と昆虫の交雑体───この地球上において、どの生命の系統樹にも属さない奇妙な生物。【星間の駿馬】とも呼ばれる、ミアスの友人であった。
「少し乱暴なのかもしれませんが――─泥人さんたちの戦闘力を削ぐように戦いましょう。ここで彼らが全滅する運命であっても‥‥‥まずは一歩踏み出すって、決めたんだ。行こう、ビヤーキー!」
 その背に飛び乗る少年の眼は、確かな覚悟を秘めていた。

●第二幕 -4-

 酸鼻極まる校庭の一角。数人の泥人に囲まれ、ジワジワと追い詰められていく、一人の猟兵の姿があった。
「近寄らないで!‥‥お願いだから‥‥‥!」
 姫桜であった。おぞましい粘液を滴らせて詰め寄る島民たちに、突き付けるドラゴンランスの先が震えている。
「なんでぇ嬢ちゃん、そんな危ねぇもん振り回しちゃ駄目だぁ」
「ワシらぁ何も悪いことはせんよぉ‥‥」
「むしろ悪いのは全部ソイツだろうに」
 ぐずぐずに溶けた人差し指で島民が指すのは、姫桜の背後で尻餅をつく一人の青年。村瀬トモヤである。戦闘開始直後、負傷して殆ど動けなくなっていた彼を、姫桜はここまでずっと守ってきたのだ。
「なんでそんなヤツの味方なんかすんだぁ?」
「もしかして嬢ちゃんも、ソイツの仲間なんか‥‥?」
「そらいけねぇよ。『悪いことは、ダメだぁ』‥‥!」
 更なる異形化の進行と共に、七穴からごぽりと黒い血が溢れ出る。超強化された三体の泥人を目の前に、さしもの姫桜も死を覚悟した───その時であった。
「───お待たせ、姫ちゃん」
 泥人が、三体纏めて爆散した。飛び散る黒い飛沫ごと薙ぎ払い、葵桜が親友の元へと舞降りる。この場所を見つけるまで、文字通り血路を切り開いてきたのだろう。葵桜の和服は、泥人たちの体液でドス黒く染まっていた。
「ぁ‥‥あおぉ‥‥‥!」
 絶体絶命の窮地を超えた直後に、親友の顔を見たからだろうか。まるで泣き笑いのような、恐怖と安堵がない交ぜになったような───実に形容しづらい表情で、姫桜は葵桜に抱き着いた。
「だ、大丈夫?姫ちゃん」
「‥‥‥大丈夫、じゃ、ない。島のひとたち、みんな良い人だったのに‥‥‥みんな、みんな、オブリビオン、で、私、もう、どうしていいか‥‥‥」
「うん、うん‥‥‥」
「‥‥彼、守るために戦ってたら‥‥何人か刺して‥‥‥『この人殺し』って‥‥!耳から、離れ、なくっ、て‥‥‥!」
「うん、うん‥‥‥」
 ズズ、と鼻を啜る音。無理もない、つい最近まで彼女は、現代日本のごくごく平凡な一般家庭で暮らしていたのだから。彼女の受けた衝撃が、戸惑いが、恐怖が如何ほどのものだったのか、それは想像を絶するに余りあった。
「‥‥大変だったね。」
 鼻を、啜る音。
「‥‥辛かったよね。」
 コクリと、姫桜が頷く。
「‥‥‥でもね、姫ちゃん。」
 猟兵として戦っていく以上、いつかは直面する問題を、葵桜は親友に投げかける。
「残酷なことを言うかもしれないけれど───ここでは、私たちが殺戮者。それは、ホントのこと。」
「‥‥‥え?」
 まなじりを赤くして、姫桜が顔を上げる。
「偽物が本物に成り代わってしまっている以上、この島という世界では私たちが人殺し。それは、どうあがいても覆せない事実だよ。」
「そ、そんな───」
 親友の悲壮な表情に内心酷く心を痛めつつも、葵桜は残酷な現実の一端を語り続ける。
「これからもね、こんな事件に関わることがきっとあると思うの。どうしようもなく覆せない終わりとか、あまりに救いのない結末とか───そういう壁にぶつかったとき、姫ちゃんはどうするのかな。」
「‥‥、‥‥‥、」
 姫桜は口を開いては閉じ、開いては閉じ、答えが見つからない様子であった。背後に接近する敵の気配に呼応して、葵桜はくるりと身を反転させる。
「ここまでトモヤさんを守ってきたんだもん、姫ちゃん、庇ってね。私は前に出て、泥人形達と戦うよ。」
「あお‥‥‥っ!!」
 姫桜の制止を振り切って、葵桜は泥人の群れへと突貫する。その身に宿すは神霊の権能。即ち寿命と引き換えに、絶対的な戦闘力を手にする戦巫女の絶技‥‥‥!
「───姫ちゃんは、大好きな、友人なの。」
 大気が震えんばかりの神威を纏い、戦巫女は地を駆ける。
「猟兵になりたてで迷ってばかりだけど。人をいたわる事のできる優しい子なの。そんな友人を苦しめるあなた達を、私は許さない‥‥‥!」
 目に見えない体組織による打撃をもろともせず、葵桜は薙刀を振りかぶる。
「人殺し?‥‥確かにね、あなた達はどんな風に見てもひとに見える。わかってる、この島という世界を踏みつけるのは私達。覚悟なさい、存分に踏みつけてあげる!」
 躊躇いなく振るう薙刀は嵐の如く。だれより親友思いの戦巫女は、瞬く間に悲鳴を上げる島民たちを蹴散らしていった。

「‥‥‥っ!」
 姫桜は思わず胸を押さえて、ギュッと目をつむった。島民たちの悲鳴に、心の臓が酷く痛む。どうしたら良いのだろう。猟兵は世界を救う者だと聞いてた。だからここまでやってこれた。けれど───こんな局面で自分は、一体なにを導に戦えば良いのだろう‥‥?最高の結末を目指して走るべきなのか。最悪の結末を回避するために奔走すべきなのか。
 悲鳴が聞こえる。目をつむる。戦うのが怖かった。人殺しと罵る声が、断末魔の悲痛な叫びが、怖かった。悲鳴が聞こえる。随分と近くからだ。この悲鳴は、この声は───
「‥‥‥む、村瀬トモヤ!?」
「き、来てる!一人こっちに抜けてきやがった‥‥‥!」
 慌てて彼の指さす先を見れば、手負いの泥人が一体、近づいてくる。
「お嬢ちゃん、ソイツの味方かぁ?」
「ヒッ‥‥‥!」
 声にならない悲鳴を上げ、トモヤは不自由な体制のまま後ずさり、また無様に転げた。足元で、村瀬トモヤが震えている。その事実が姫桜の脳髄を奔った瞬間───姫桜の身体は、自分でも驚くほど滑らかに動いていた。
「動くなっ!」
 咄嗟に放った拘束具が、手負いの泥人の動きを完全に止める。
 ───嗚呼、そうか。なんだか酷く納得してしまった。結局自分は、小市民のままで。自分が導にすべきものなんて結局のところ、最高でも最悪でもなくて───
「最良目指して、頑張るだけじゃない‥‥‥!」
 愛用のドラゴンランスを構える。胸の奥の疼きをむりくり押し込めて、姫桜は言葉を絞り出す。
「ごめんなさい、できるだけ一撃で、苦しみを与えないようにするから。それが、今の私にできる事‥‥!あおの言う通り、私は人殺しになるけれど───」
 この罪を、私は背負って生きて逝く。そう宣言して、姫桜は槍を突き入れた。

●第二幕 -5-

 どうしていいか、わからなかった。
 楽しいことが好きだった。やりがいのあることが好きだった。だから猟兵になったのに。
 自身に迷彩を施して、メタは校庭の端の草むらに身を隠してじっとしていた。
 わかっていた。こんなの、単なる戦闘放棄だってこと。わかっていた。今の自分は、この戦場において何の役にも立てていないことを。
 けれど、自分がどうすればいいのか、本当にわからないのだ。竜と相対したことがあった。宇宙船で戦ったりもした。自分の持てる力を余すことなく発揮して、誰かのために戦うのは心地が良かった。でも、この戦場は違う。これは、いわば終わってしまったセカイの跡片付けだ。放っておけば世界を滅ぼす『かもしれない』爆弾の撤去作業だ。
 猟兵とは、何なんだろう。ただ衝動のままに世界を救うのが、猟兵だと思っていたのに。なのに、なのにどうして───こんなにも、心が痛いのだろうか。

●第二幕 -6-

「や───やめてよみんな!こんなの絶対おかしいよ!」
 セリエルフィナの悲痛な叫びが、戦場に響き渡る。今や泥人と化した島民は島中から集まり、そこらかしこで猟兵たちと鎬を削り合っている。悲鳴、咆哮、破壊音───。思わず耳を塞いで蹲りたくなる惨状の中、セリエルフィナとシャイアの二人は未だ動くことが出来ずにいた。
「クッ‥‥自覚があるにせよないにせよ、襲われるなら容赦はしないよ!僕は僕の大切なものの為、ここで死ぬわけにはいかないからね‥‥!」
 歯を食い縛りつつ、エドワードは【瑠璃花弁の嵐】を高速連続発動しながら何とか泥人の群れを凌いでいた。セリエルフィナ、シャイア、そして捕獲した猫たちの居る柵を都合、一人で防衛し続けていた彼の術式操作技術は凄まじいの一言に尽きる。しかしその瑠璃花弁の鉄壁も、長時間の連続使用となるとさすがに堪えるようであった。
「‥‥流石に‥‥ヘビィ、かな‥‥‥っ!」
「呼びましたかねぇ、やたらとオトコマエの旦那ァ!」
 地上からの声に驚いて見下ろすと、迫る泥人を薙ぎ払い、エドワードたちの元へと駆け寄るドラゴニアンの姿があった。バルディートだ。
「助っ人登場!‥‥とまぁ、一番苦戦してそうな場所にとりあえず来てみたんですが、まさか猟兵が三人もいらっしゃるとは‥‥どうかしましたんで?」
 バルディートが、セリエルフィナとシャイアの顔を交互に見る。昏い顔で目を伏せる少女二人の様子に、さしものバルディートもある程度の事情は察したようであった。
「‥‥ははぁ、なるほど。あっしは交流がないぶん葛藤も少ないですが、お嬢ちゃん二人はそうでもないご様子。でもねぇ、お嬢ちゃん方。相手は泥人ですぜ?この島本来の住人は既に───」
「‥‥‥実は泥人だったとか人間じゃないとか、そんなのどうだっていい。ただオブリビオンだからって理由だけで、殺していいわけがないよ‥‥!違う!?」
 思いつめたような表情で訴えるセリエルフィナに、バルディートは咎めるように目を細めた。
「‥‥『オブリビオンだから』ですよ、歌姫のお嬢ちゃん。大前提を忘れちゃあいけない。奴さんたちゃ、現在ではなく過去の存在だ。『必ず世界を滅ぼすように行動する』。例外はない。この島を放っておけば、結果としてこの世界自体が存亡の危機に晒されるってぇ話でさぁ。」
「でも!でも‥‥‥!」
 そんなこと、分かっていた。猟兵として、彼らを倒さなければいけないことくらい、分かっていたのだ。けれど、けれど───自分の歌を、彼らは喜んでくれた。自分のダンスに、心からの拍手を送ってくれた。だからきっと、或いは───と。そう思ってしまったのだ。
「‥‥‥やっぱり納得いかないよ。僕の歌声で、みんなの狂気を拭い去ってみせる!」
 銀の天使は飛翔する。どんなに低い確率であろうとも、起こりうる奇跡を信じて。
「じょ、嬢ちゃん!」
「待ってくれ、ミスター!」
 バルディートに制止の声をかけたのは、悲痛な面持ちをしたエドワードであった。
「‥‥‥彼女が、納得のいくようにさせてあげよう」
「‥‥‥け、けどそりゃ、一番残酷な───」
「うん。けれど、こればっかりは自分が納得しないとどうしようもないと思うんだ。」
「‥‥‥何かあったときゃ頼みますよぉ、旦那。」
「うん、勿論さ。」

 飛翔する。眼下には、随分と数のまばらになった人影。死んでいった島民たちのことを思って、酷く胸が痛む。
「‥‥きっと、ボクの歌で救って見せるから‥‥‥!」
 大きく息を吸い込む。宵闇に呑まれつつある大地に向けて、セリエルフィナは叫んだ。
「みんなー!ボクはここにいるよー!どうか、ボクの歌を聴いて!狂気なんかに負けないで!それじゃ、いっくよーっ」
 村瀬トモヤの乱入で途切れていたメロディが、再び校庭に響き渡る。戦っていた猟兵たちも島民たちも、暫し手を止め空を見上げていた。
(どうか、どうか、届いて‥‥‥っ!)
 祈るように歌う。地上に目を落とせば、何人かの島民と目が合った。そのうち一人が、ゆっくりと右手を掲げる。つられるようにして周囲の数人も次々と賛同するように右手を掲げ始めた。
(届いた────っ!?)
 ───瞬間。衝撃。反転。落下。
 翼が殴りつけられたかのように痛む。嗚呼、攻撃されたんだ───そう理解するまで、数秒かかった。
「セリエルフィナちゃん───!!」
 間一髪。地上に叩きつけられる寸前で滑り込んだエドワードに、セリエルフィナの身体は抱き留められていた。土埃にまみれ、エドワードの頭上に咲いたブルースターの花が悲し気に揺れている。
「大丈夫!?怪我は!?」
「エドワード、さん‥‥っ」
 一瞬の間をおいて、金色の瞳から、大粒の涙がポロポロと溢れ出した。
「ボクの歌、届かなかった‥‥!みんな、誰も、ボクの歌に共感してくれなかった‥‥‥!」
「‥‥‥!ちがう!それはちがうよセリエルフィナちゃん!」
 励ますように頭を振って、エドワードは力強く語りかける。
「君の思いは届いた。この場に居る誰しもが、君がこの島の人たちをどれだけ大切に思っていたか、痛いほどに伝わったんだ‥‥‥!君の思いは、届いたんだよ!」
「‥‥‥でも、この島の人たちは、もう───」
「‥‥‥うん、そうだね。彼らはもう、どうしようもなく過去の怪物なんだ。成り代わられる前の人々も、成り代わったあとの彼らも含めて、もう過去は覆せない。けどね、セリエルフィナちゃん。未来はまだ覆せる。そして、君の歌のおかげで、僕らの心はいま限りなく一つだ」
 いつになく真剣な表情で、エドワードは右の拳を握る。
「───こんな悪夢、さっさと終わらせてしまおう。」

●第二幕 -7-

「‥‥‥なにやってんだよ、僕は‥‥‥!」
 憤りのままに『見習い勇者の剣』を地面に突き刺して、シャイアはそう呟いた。
 間一髪で助かったセリエルフィナに心の底からホッとすると同時に、仲間が倒れるまでまるで動けなかった自分自身に、はらわたが煮えくり返る思いだったのだ。
「クソッ‥‥‥!」
 現実に抗うことと甘い夢に飛びつくことは、まったく別のことだと痛感する。突き刺さった剣の刀身に、『まだまだ未熟』という文字が浮かび上がっていた。
「どしたい、キマイラの嬢ちゃん。まるで今、目ェ覚ましたって顔してるぜ?」
 バルディートが揶揄うように笑う。シャイアは気恥ずかしそうに頬をかいて、それから突き刺さった剣を抜いた。
「───よーし!こんな悪夢、さっさと終わりにしちゃおう!頼み‥‥というか、作戦があるんだけどいいかな、バルディートさん」
「へへぇ、どんなモノかお伺いしても?」



「‥‥承知。そろそろ弱者の相手も飽いたのでな」
「私の子供たちも飽きちゃったみたい。その程度の役回りなら喜んで。」
 バルディートの言葉に闘真と凛花は頷くと、全速力で校庭の中央に向かって走り始めた。



「えぇ!?そんな大役、僕に任せちゃっても良いの!?」
「ぼっちゃんだけなんですよぉ、ソレが出来るのは!いいから頼みますって!」
「う、う~ん‥‥分かった。やってみる‥‥!」
 どこか不安げな表情ながらも力強く頷いて、ミアスは駿馬の背にまたがった。



「えっ‥‥それって結構、危うくないかしら……?」
「なにビビってんのよ姫ちゃんたらー。大丈夫、私が付いててあげるから!ほら、いこう!」
「え、ちょ、待ってたら!あお!」
 走り出した葵桜に釣られるようにして、姫桜も走り出す。向かう先はやはり───校庭の真ん中であった。



「あれぇ、見つかりませんねェ‥‥どこへ行ったのやら?」
 何かが確実に動き始めたのを、幼い少女は草むらの影から覗いていた。



「えっ、じゃあ、僕と彼女はそれぞれ───」
「一人ずつ抱えるで良いってこと?」
「まーそーいうことになりやすかねぇ。合図はあっしが出しますんで、それまでは出来るだけ低空飛行でお願いしやす。出来るだけ軽い人ぉ選んだ方が良いかと!」
「了解したよ。それじゃ、合図待ってるから!」



「準備整いましたぜー、キマイラの嬢ちゃん」
 校庭の端の一角。猫の入った柵を背に、シャイアは静かに集中力を高めていた。
「‥‥‥ありがとう、バルディートさん。あちこち駆けまわらせちゃってゴメンねっ」
「なーに、嬢ちゃんが動けないなら仕方がないでさぁ。泥人はすっかり校庭の中心に釣られてますぜ」
「‥‥わかった。あと、30秒、くらい‥‥っ」
 もしも泥人たちが後ろを振り向いたならば、即座に気が付いただろう。宵闇にあって輝きを増す、シャイアの手元に集う光に。正確には、彼女の構えた魔弾の杖───ワンド・オブ・レッサーマジックミサイルに充填されていく魔力光であった。
「───勇者の心得その2!すたこら逃げても現実から逃げない!ガンガンいこう!」
 刻み込むように、勇者の心得を口にする。膨張する魔力。ブレイブリー・デフォルトによる魔力強化が、全身へと行きわたる。全力魔法×一斉掃射。魔力の重点に時間はかかるものの、発動できれば敵の数がどれだけいようと関係なく消し飛ばせる威力。即ち、シャイア以外の猟兵が任された任務は、おとり兼集敵約であった。一撃必殺ではあるが発動の難しい魔法を、一人ではなくみんなの手で放つという───何も難しいことはない、常であれば問題なくこなせる、簡単なチームプレイであった。
「‥‥ま、それを放つまでスンゴイ時間がかかっちまったってわけですけどねぇ」
「‥‥‥結果的にここまで辿り着いたんだから問題ナシ!準備して!あと10秒!」
 カウントダウンが迫る。9、8、7、6、5、4───
「おぉっと、そんじゃあこの辺で!」
 バルディートの両腕にて燃え盛る地獄の焔が、これでもかとばかりに天を焦がす。即ち、『離脱せよ』の合図。空を飛べるものは飛べないものを抱え、それでも足りない分はミアスのバイアクヘーに乗り空へと離脱する。
「離脱完了!ブチかませ、お嬢ちゃん!!」
「───ゼロ!いっけええええええええええええええええええええええ!!!!!」
 その輝きは、沈んだはずの太陽に匹敵した。極限まで圧縮された膨大な魔力が、杖先から放出される。余波だけで校庭の地面が大きく抉れ、進行方向上に存在した泥人たちが瞬時に蒸発する。発射された魔力光が校庭の中心に着弾するや否や行き場をなくしたエネルギーは天を向き、ある種神々しさを感じる光の柱が、離島の空を割って聳え立った。



 吹き飛ばされないように草むらにしがみついて、メタはその光景をただただ眺めていた。天に昇る黄金の輝きと、降り注ぐ魔力の飛沫。
「す、すごい‥‥‥!」
 もしも希望というものに形があるのなら、いま眼前のこの光景こそがそれなのではないか。そんな感想が、胸の中に芽生える。生まれた感情の名前も知らぬまま、ただただ、メタはその光景を目に焼き付けようと、蒼い瞳を見開くのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『『灰霞の剣』ヴォル・ヴァ・ドーズ』

POW   :    焔を焚く者
真の姿を更に強化する。真の姿が、🔴の取得数に比例した大きさの【灰色の焔 】で覆われる。
SPD   :    灰霞の剣
【灰霞の剣 】が命中した対象を燃やす。放たれた【霧とも霞とも見える灰塵の】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    焔・灰・剣(BLAZE ASH BLADE)
【焔か灰か剣】が命中した対象を切断する。
👑17
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●UDC局員により発見された高度経済成長期以前のややこ島に関する文書

 ───我らが神に捧げる贄は、人でありながら獣でなければならぬ。であれば、そう。我らが神にはややここそが必要である‥‥(最初の一文以降、大半が風化している)

(ここまでは風化して読めない)‥‥島に棲息していた万能の生贄は純朴で素直、且つ大変に愚かで、我々の言葉を疑いもせず実行し、果ては自ら焔の刃にその身を捧げる始末であった。万能の生贄たるが故に、ややこの姿へと変じた彼らを我らが神は大変お悦びになり、我々に賜された恩寵もまた天上楽土もかくやというものであった。正しく我らは黄金期を迎えていた‥‥(以降このノートは風化若しくは頁の遺失により解読不能)

(残留していた最も新しいと思われるノート最後の頁)‥‥我々は消費しすぎた。万能の贄は絶滅し、嘗ての栄華は失われた。代替案として『ややこの声で哭く獣』の繁殖を行ってはいるものの、最早是を引き継ぐ後継がおらぬ。この島も寄る時代の波に逆らうことは出来なかったようだ。我々は間も無く海を渡る。我らが軌跡を凡て置き去りにしていくのは心残りではあるが───万にひとつ、我らが神と繋がる者があらば、これは大いなる助けとなろう。

 我らが神に喝采を。『灰霞の剣』に喝采を───!

●幕間

 黄金の輝きが目を灼く。かつて少なからず関わりがあったはずの人々───の似姿が跡形もなく蒸発していく様を、異形の駿馬の背に乗って、村瀬トモヤは見ていた。
「‥‥ハハ、ハハハハハ!ざまぁ見やがれバケモノどもぉ!お前らなんか、お前らなんか‥‥‥っ!」
 漸く。漸く、この身を苛んでいた孤独と恐怖から解放された。俺は、自由だ。正真正銘、自由だ。自由の、ハズなのに───。
「‥‥っ、‥‥っ!」
 何故こんなにも、胸の内が晴れないのだろう。何故こんなにも、胸が痛むのだろう。何故、なぜ俺は───哭いてなど、いるのだろうか。
 光の柱が、ゆっくりと消えてゆく。その輝きが去る最後の瞬間、校庭の隅に残った僅かな『ソレ』を、トモヤは見てしまった。
「お───おろせ!頼む、おろしてくれ!!」
 トモヤの指さす方向へと、異形の駿馬が高度を下げる。転げるように校庭に降り立ってみれば、そこに残っていたのは身体の大半を失い、今まさに死に逝く妹の似姿が───あの日、自分が情動のままに手にかけてしまった、村瀬トモミの似姿が、そこにあった。
「ト、トモミ‥‥‥!」
「おにい‥‥ちゃ‥‥‥?」
 崩壊してゆく黒い体組織の中で、トモミは微かに視線を上げた。今にも溶け崩れそうな左手を伸ばして、死に逝く過去の怪物は最後の言葉を紡ぐ。
「おにい‥‥ちゃん、ごめん、ね・・・・?」
「トモミ、俺、おれ───!」
「‥‥『トモミちゃん』ね、あなたのこと、大好きだった、よ‥‥‥。」
 そう告げて───べしゃり、と。怪物は泥濘に沈んで逝った。
「う───うわああああああああああああああああああああああああ!!!」
 後悔の念が、懺悔の念が、親愛の念が一気に延焼して、トモヤの胸で爆発した。黒い泥に塗れ、村瀬トモヤは泣き崩れる。慟哭の内に願うのは───『消えて無くなってしまいたい』という、小さな小さな願い。
 しかしてこれは運命か───。黒い泥の上に這いつくばって慟哭するトモヤの腰元から、異形の短剣がずるりと落ちる。灼けた刃は黒い泥の上に突き刺さり───直後、ドクン、と。島が鳴動した。
 何事かと猟兵たちが身構える。何か、何か途轍もなく巨大な災厄が、『願いを叶えにやってくる』。そんな予感と共に、ドクン、と。島が再び鳴動する。見れば、突き刺さった異形の刃が、黒い泥を啜るかのように不吉な明滅を始めていた。
 島の鼓動が早くなる。じわり、と。刃の突き刺さった校庭が、凄まじい熱量を伴って赤黒く染まる。
「あぶない───っ!」
 機転を利かせた猟兵が、泣き崩れる村瀬トモヤを抱えて走り出した瞬間───大地を轢き裂いて、地獄の業火を思わせる巨大な赤黒い火柱が、天高く噴き上がった。撒き散らされる膨大な熱量に、大地が悲鳴を上げて罅割れてゆく。
 しかして住民の消失した離島にて、顕現を果たした邪神はその威容を顕わにした。噴き上がる爆炎の中から、幾千の赤子の哭き声を束ねたかの如きおぞましい咆哮が島中に響き渡る。

「灰霞の剣‥‥‥」

 トモヤの呟く声が、やけに大きく響いた気がした。


※マスターより、第三章の補足
 皆様、第二章おつかれさまでした。第三章は所謂ボス戦となります。
『灰霞の剣』は、基本的に召喚者の願いを叶える───つまり、村瀬トモヤを殺すという行動原理の元に活動します。ぶっちゃけると彼の生死はシナリオの成功/失敗には関わりませんので、彼を庇いながら戦うか否かは皆様次第です
 それでは、ご健闘をお祈りしております。
彩瑠・姫桜
あお(f06218)と

トモヤさんを護るわ
絶対に殺させやしない
基本的には身体を張って、敵の攻撃から庇うわ
万一私が倒れそうになったら
【血統覚醒】で、戦闘力を上げて迎撃するわ

トモヤさん
私は、絶対にあなたを死なせはしない
猫達を殺したことも、妹さんを手に掛けたことも……すべてあなたの罪よ
今更、その罪を全部なかったことにして消えてなくなりたいなんて、勝手よ

憎しみも甘えも様々な感情も全部ひっくるめて
あなたは、この島を、皆を愛してたんでしょう?

ねぇ、忘れないでよ
トモミさんと、島の人達、皆を

消えてなくなりたいって思うなら
その想いも全部ひっくるめて生きなさいよ

彼らの分まで生きて、生きてーー生き抜いてみせなさいよ!


榎木・葵桜
姫ちゃん(f04489)と

姫ちゃんてば、トモヤさんに甘いね?
でも、私、そーゆーの嫌いじゃないし
そういう姫ちゃんに救われたこともあるからね
だから今回もとことん付き合っちゃう!

【サモニング・ガイスト】使用
田中さん(霊)、姫ちゃんとトモヤさんの事、庇って!
必要なら【炎】で攻撃して!

私は、敵の動きを観察
攻撃傾向と弱点を探っていくね
情報得られたら皆に声掛けて共有するよ

攻撃時は他の仲間との連携も意識するね

私、トモヤさんはね、馬鹿だと思うよ
今更哭いても、何も返ってこないっての
それでも、今、あなたは生きてるんだよ
ならさ、生き抜いて、未来を見て欲しいよ
あなたは、この島の皆に、未来を託されたわけでもあるんだからさ


高野・エドワード
灰霞の剣?あれがこの事件の元凶、ってことかい…?
……OK!ここが正念場だね。感傷に浸るのは後だ。僕たちはプロなんだから…今は成すべきことを成さないと、もっと大勢の人たちが犠牲になってしまう。引き続き僕は空から攻撃を行うよ!

まずは回避に専念しつつ、動きを観察して邪神の狙いや行動パターンを見つけたい【見切り・空中戦・オーラ防御・世界知識・情報収集】
気付けたことがあれば、それを仲間に伝えるよ。

後は【WIZ】勝負といこうか。あの焔・灰・剣は命中した対象を切断するんだろう?なら、僕の『瑠璃花弁の嵐』をぶつけて相殺を試みるよ!【全力魔法・高速詠唱】

今回も前回同様、仲間たちと連携して事を運びたいな。


ミアス・ティンダロス
「そうですか、トモヤさん、キミも……」
余りにも酷い光景だが、ミアスは本当に僅かしかない希望を見つかった
例え互いに相容れなくても、大切な思い出さえ共に作れば、心が通じ合えるかもしれん
「しっかりしてください!トモヤさん!」
一歩前へ、ミアスは背中越しに、少年に話しかける
「死ぬのはダメです!キミまでこの世にいなくなったら、他に誰かが『彼女』のことを覚えているのですか」
「だから生きてください……生きろ!人間でも泥人でもなく、キミの心の中の『トモミさん』と共に」

真の姿になる
姿は特に変わらないが、胸元の黒曜石に白き炎が灯され、それを囲むように歪んだ五芒星が浮かび出す
トモヤを守るように前へ出て、UCで敵と対抗


シャイア・アルカミレーウス
トモヤ君はこれからトモミちゃん達の分まで生きていけないんだ。どれだけ望まれたって、キミみたいな奴はお呼びじゃないよ!

(pow)
やることは泥人の時とだいたい同じ、全力全霊をぶつけるよ!
真の姿を開放!「勇者の心得」で魔法攻撃力を強化!そこに「全力魔法と一斉発射、破魔」をのせて解き放つ!
「勇者の心得その50!冒険は最低でもハッピーエンドで!」

違うのは名前を付けること。なんとなくで打っていた魔弾に、「キミがいなければ!って八つ当たり2」と「絶対通さない!って決意を3」、「絶望なんて許さない!って想いを5」のせてユーベルコードに仕上げるよ。
キミの絶望なんて僕たちが壊してやる!

全部終わったらお墓を作ろうね


セリエルフィナ・メルフォワーゼ
皆には、つくづく情けないところを見せちゃったね。
結局ボクは、ただ逃げてただけだ。
汚れる覚悟がなかっただけなんだ。

そんな、何にも出来なかったボクだから、せめて歌を歌うよ。
【シンフォニック・キュア】で、皆が傷付いても立ちどころに癒してみせるよ!
【歌唱】と【パフォーマンス】技能で、歌のクオリティをボクの限界まで高めてね。

ところで、歌は皆が共感できるような歌詞のものがいいよね。
なら、このUDCアースに来たときに覚えた歌……
『ユーベルコード』って歌はどうかな?
ボク達猟兵に、凄く合ってる歌だと思うんだ。


メタ・フレン
戦いを放棄したわたしが、どの面下げて皆の元に戻れるんでしょうね。
今更ノコノコと戦いの場に舞い戻るなんて、みっともない真似はしませんよ。
先程と同様、【迷彩】と【ものを隠す】技能で、適当に隠れてます。

けど、今度はただ隠れるだけじゃない。
【グッドナイス・ブレイヴァー】を出して、戦う皆の姿を生配信します。
わたしも【ゲームデバイス】で、視聴者に混じって応援コメントを打ちますよ。
というか、今のわたしなんて、ただの視聴者と変わりありませんから。


まあ、戦わないのならせめて応援位はしませんとね。
と言うより…

残しておきたいんです。
どんな困難にも立ち向かっていける彼らの姿を。
わたしなんかとは違う、真の猟兵の勇姿を。


三原・凛花
この島の大勢の霊の正体は、生贄にされた泥人達だったわけか。

ややこを好んで喰らい続ける化物、ね。
ある意味…わたしの子供達と同類だね。
オブリビオンだからという理由で、わたしは泥人達を殺したけど…
わたし達の方が、彼らよりよっぽど化物なのかもね。

さて、それじゃあ化物同士、喰らい合ってみましょうか。
【水子召喚】で呼んだ子供達に【呪詛】と【衝撃波】を乗せて、邪神の魂に直接届かせるよ。
そこで【生命力吸収】を仕掛け、邪神の魂を子供達に取り込ませる。

逆に子供達が邪神に取り込まれる危険もあるけど…

生憎、わたしのややこ達は泥人とは違う。
そう簡単に生贄にはならないよ。
逆にあなたをややこ達の「お友達」にしてあげる。


空雷・闘真
「阿呆が。お前も男なら、自分のやったことを貫き通せ。後悔なぞ…
それこそ弱者のすることだ」

泣き崩れるトモヤを叱咤し、同時に邪神の攻撃から【かばい】続ける闘真。

「ここで死ぬなど許さん。お前には聞きたいことがある。何故お前だけが泥人に成り代わらなかったのかをな」

邪神に打たれながらも闘真は倒れず、やがてその隣に霧が現れる。

「人であり獣…それが邪神の好物か。なら泥人より余程打って付けの奴がいるぜ」

霧は人の形をとり、【戦場の亡霊】となる。

「こいつと…この俺だ」

闘真と亡霊は、同時に邪神へと突撃する。

「ただ、俺達は活きが良すぎるんでな。食中りには注意しろよ。それどころか下手すると…お前の方が喰われちまうぜ」


バルディート・ラーガ
やっこさんが今回の本丸、邪神ってえヤツですかい…!
あっしにゃターゲットの坊ちゃんを守る義理もなし。奴がソッチに向かうってんなら、テイのいい囮として利用することも考えやしょう。
…もちろん、あっしとてアレを捉えて殴り倒すような力は到底ありゃしません。刃の実体を縛りにかかるなり、降りかかる炎をこの炎で払うなり。皆サンが動きやすいように気を払っていきやしょ。
持ちつ持たれつ、適材適所があっしの座右の銘ですよう。今そう決めやした。



●第三幕 -0-

 ───我を、喚んだな───
 蒼い夜空を斬り裂くように、煉獄の焔が屹立する。其は『焔を焚く者』。『炎にして灰にして剣なるもの』。
 ───我に、願うか───
 其は嘗て、人を愛したるもの。獣と人とを取り違え、悔恨と快楽の内に狂気に墜ちた旧き神。
 ───であれば叶えよう、我が愛する人の仔よ───
 眼を開く。眼を開く。開く。開く、開く開く開く開く開く開く開く開く───。身を捩る様にして燃え盛る焔の内に、無数の黝い眼球が次々と目蓋を開ける。ギョロギョロと狂ったように、焦点の合わぬ視線が校庭中を走り回る。
 ───嗚呼、そこに居たか───
 斯くして眼は視界の端に、己を喚びたる声の主をついに捉えた。見るも無様に膝をつき、己を見上げる人の仔を。
 ───汝の願いを叶えよう───
 無数の視線が一斉に、ギロリと集いて弧を描く。
 ───我が愛に依りて、肉の一片まで灰燼となれ───
 爆炎が、校庭を奔った。

●第三幕 -1-

 一瞬の出来事であった。鼓膜を裂くような爆音と、眼を灼かんばかりの閃光。そして肌を炙るような凄まじい熱気が、猟兵たちを襲う。顕現直後の一瞬の間に放たれた無慈悲な一撃は、半端な回避行動すらも赦さぬまま彼らに直撃した。粉塵が濛々と宙を舞う。
「‥‥‥冗談じゃないですぜ」
 粉塵を切り裂いて、地獄の炎が姿を現す。額に浮かべた冷や汗を拭いもせず呟いたのは、欠損した両腕を地獄で補ったドラゴニアン、バルディート・ラーガ(影を這いずる蛇・f06338)であった。最大出力の地獄の炎で、辛うじて邪神の一撃から仲間を守り切った彼の両腕は、風前の灯火もかくやかという程に弱っていた。
「とんでもねぇ威力───やっこさんが今回の本丸、邪神ってえヤツですかい‥‥‥!」
「どうやら、そうみたいだね。灰霞の剣‥‥あれがこの事件の元凶、ってことか‥‥‥!」
 バルディートの隣で、仲間をかばう様に翼を広げているのは高野・エドワード(愛のガチ勢・f00193)。燻る羽先に顔を顰め、彼もまたその脅威を前に生唾を呑み込んだ。
「───不覚。よもやこれほど易々と、敵に奇襲を赦すとは‥‥っ!」
 不動たる受けの構えに転じた空雷・闘真(伝説の古武術、空雷流の継承者・f06727)が、歯噛みするように拳を握る。歴戦の武人である彼ですら、此度の敵は易くないと判じているようであった。
「───なるほどね。この島に残留していた大勢の霊の正体は、あの邪神のために生贄にされた過去の泥人達だったわけか。」
 一方、どこか静けさの滲む声でそう呟いたのは、永きを生きる降霊術師にして死霊術師、
三原・凛花(『聖霊』に憑かれた少女・f10247)である。この世ならざる幽世を映す双眸は、邪神の焔に渦巻く呪怨を確かに見通していた。
「‥‥‥一筋縄ではいかなそうね。」
「そりゃあそうでしょうよ、相手は曲りなりにも邪神サマだ。んでもってやっこさん、本気でそこの坊ちゃんを殺しにかかってるときてる」
 凛花の言葉に、バルディートが胡乱げな瞳を後方へと向ける。彼の視線の先には、膝をついて頭を抱える一人の青年───邪神復活の引き金にしてこの島最後の生き残り、村瀬トモヤの姿があった。
「‥‥‥ねぇ、そこなお嬢ちゃん方。本気でそこの坊ちゃんを庇いながら、あの邪神を相手取るつもりで?」
「───護るわ。絶対に殺させやしない」
 バルディートの問いに、彩瑠・姫桜(冬桜・f04489)は決意を込めてそう返した。先の泥人たちの侵攻からトモヤを守り続けてきたのは、他の誰でもない彼女である。
「‥‥‥ふぅん。姫ちゃんてば、トモヤさんに甘いね?」
 そう笑って姫桜の隣に並び立つのは、姫桜の無類の親友たる戦巫女、榎木・葵桜(桜舞・f06218)だ。揶揄うようなその言葉尻に、覚悟を決めた親友に対する誇らしげな響きが見え隠れしていた。
「でも、私、そーゆーの嫌いじゃないし。そういう姫ちゃんに救われたこともあるからね!だから、今回もとことん付き合っちゃうよ!」
「‥‥‥ありがとう、あお。」
「いーのいーの!」
 元気に笑う葵桜。その一歩後ろで、同じく決意を固めた少年がいた。UDCとの共存を夢見る人狼の少年、ミアス・ティンダロス(夢を見る仔犬・f00675)であった。
「僕は───僕は、正直言ってこの人が好きにはなれません。相容れるとも思えない。けれど‥‥‥」
 汚泥に塗れて慟哭したこの青年に、たった一片だけ、僅かではあったが、ミアスは小さな希望を見出していた。即ち、UDCとの共存を叶えうる、小さな小さな希望の種を。
「僕には、この人を見捨てることができません。ともに大切な思い出を作れるなら、きっといつか分かり合える日が来るかもしれないから。だから───護ります。」
 日頃気弱な少年は、強大な敵を前に力強く宣言する。それはこの戦いで彼が手にした、自身の夢に対する覚悟そのものを現していた。
「───すごいなぁ、ミアスくん。なんだかちょっぴり悔しいや」
 覚悟を決めた同い年の少年を前に、はにかんだ様な顔でセリエルフィナ・メルフォワーゼ(天翔ける一輪の君影草・f08589)が笑う。胸の前でギュッと握りしめた右手が、彼女の心中を示すようであった。
「‥‥‥でも、勇気をもらえた気がするよ。皆には、つくづく情けないところを見せちゃったけれど───大丈夫。ボクはもう、迷わない。もう誰も、傷つかせてなんてやらない‥‥‥っ!」
 凛とした声で、銀翼の歌姫は告げる。立ちはだかる強敵を前に、少女は一歩も引かぬ気構えで翼を広げた。機を同じくして、シャイア・アルカミレーウス(501番目の勇者?・f00501)もまた、決意と共に見習い勇者の剣を抜く。
「情けないって言うなら、それは僕も同じことだよ、セリエルフィナ。僕も勇者としてまだまだ未熟だけれど‥‥‥ここで悲劇を止めなきゃ、なにが猟兵だって話さ!どんなに現実が残酷でも───それでも僕らは、世界と仲間を守っていくんだ!」
 決意と覚悟を固めた少年少女たち。その力強い姿勢に、前線で翼を広げるエドワードがどこか嬉しそうに微笑んだ。ブルースターの花も、心なしか色鮮やかに見える。「‥‥‥フフ、OK!ここが正念場だね。感傷に浸るのは後だ。今は成すべきことを成さないと、もっと大勢の人が犠牲になってしまう。‥‥‥それはそれとて、目の前の命も見逃せない───そう思うんだけど、どうかな、バルディートさん」
 パチン、と隣に向かってウィンクするエドワードに、バルディートはボロボロの両手を挙げた。
「‥‥‥へいへい、あっしの負けでさぁ!あっしにゃターゲットの坊ちゃんを守る義理もなし、さりとて見捨てる道理もなし。刃の実体を縛りにかかるなり、降りかかる炎をこの炎で払うなり。皆サンが動きやすいように気を払っていきやしょ。持ちつ持たれつ、適材適所があっしの座右の銘です。」
「ほぅ、殊勝なことを言うな、竜人。」
「あっしはただの蛇ですよぅ‥‥‥えぇ、まぁ。今そう決めやしたので?」
「別にどちらでも構わんが。面白い男だな、お前は。」
 惚けた様に嘯くバルディートに、闘真が珍しく笑った。隣でしゃれこうべがカラリと笑う。凛花の携えた、媒介道具であった。
「‥‥‥次の攻撃が来るわ。構えて、みんな。」
 凛花の言葉を掻き消すように、再びの爆炎が校庭を奔った‥‥‥!

●第三幕 -1.5-

 焔が上がる。強大極まりない敵と対峙して尚、逃げずに戦う仲間たちの姿に、つい腰が浮く───が。頭の隅で鳴り響く自分自身の声に、奮起しかけた心が瞬く間に萎れていくのを、彼女は苦しそうな表情で耐えていた。

 ───戦いを放棄した自分が、どの面下げて皆の元に戻れるのだろうか。

 校庭の隅。変わらず草むらの影に隠れ、メタ・フレン(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f03345)は息を殺して彼らの戦う姿を見ていた。
 今更ノコノコと戦いの場に舞い戻るなんて、みっともない真似はできない。ひとり、また一人と覚悟を決めて戦いに赴く彼らと、傍観者であり続ける自分自身。こんな自分に、いったい何が出来るというのだろうか。
 どろりと重い心を引きずって、草むらに蹲る。目をつむってみれば、蘇るのは怪物と化した島民。容赦なく牙を剥く現実。そして───最後に目にした、眩いあの輝き。
「‥‥‥‥っ」
 思い出すだけで身が竦む厭な記憶。それをまるで掻き消すかのように、宵闇を切り裂いたあの眩い輝きが、目蓋の裏に鮮明に焼き付いて離れない。
「わたしは────。」
 わたしは、なにができるだろう?
 無意識のうちに携帯端末を強く握りしめていることに、メタ自身が未だ気が付いてはいないようであった。

 ●第三幕 -2-

「───『田中さん』、姫ちゃんとトモヤさんのこと、よろしく頼むね!」
 召喚した田中さん(古代戦士の霊)に防衛は任せ、葵桜は邪神の元へと走り出す。親友と離れ離れになる心配はなかった。田中さん(古代戦士の霊)であれば、何があろうとを身を挺して親友を庇うだろう。であれば、今の自分に出来ることは───
「‥‥少しでも相手の情報を引き出して、味方の有利に繋げるっ!そうだよね、エディさん!」
 降り注ぐ火の粉を掻い潜り、葵桜は猛然と大地を駆ける。
「あぁその通り、まずは何事も情報収集が基本さ!気が合うね、葵桜ちゃん!」
 対して空をゆくエドワードは、爆炎を避けつつ飛翔する。二人が選択した一手は、牽制による敵の行動パターンの把握と弱点の掌握であった。
「間も無く接敵するよ!僕は空から、葵桜ちゃんは足下───足下?まぁいい、頼んだ!」
 凄まじい熱気と共に、邪神がおぞましい哭き声を放つ。黒煙を上げる焔の身体の一部がニョキリと飛び出たのも束の間、焔はたちまち巨大な刀身と化して、葵桜の頭上へと振り下ろされた。
「────ッ!!」」
 間一髪。横合いへと体変し、葵桜は邪神の一撃を回避する。焔の刃が直撃した地面は爆発炎上し、霧とも霞とも見える灰塵の炎が消えることなく燃え盛っているのが確認できた。
「あの剣、掠りでもすれば炎上する───想像以上に厄介みたい‥‥っ」
 振り向きざま、愛用の薙刀を振り抜く。しかし葵桜の薙刀は、ビル大に聳える赤黒い焔の身体の一部を、僅かに揺らすだけであった。
「うそ、加えて身体は物理無効‥‥‥!?ちょっと本気で手ごわいかも‥‥‥!!」
 再び振り下ろされる灰霞の剣を回避して、葵桜は額を拭った。

 腕の如き赤黒い焔が、夜空を掻きむしる様に振るわれる。直撃すれば炎上、ないし切断を余儀なくされる致死の抱擁。その恐ろしさを理解して尚、エドワードは悠然と空を駆けていた。
「おぉっと、お熱いなぁ!でもその程度じゃ、僕は捕まえられないよ」
 横薙ぎに振るわれる焔の腕を潜り抜け、次いで振るわれる灰霞の剣を宙空にて華麗に躱す。こと空中での立ち回りにおいては、オラトリオたるエドワードの方が一枚も二枚も上手であった。
「全長25メートル、ってところかな。絶えず炎上してるから、正確な大きさは計りにくいけど───」
 ギョロリ、と。村瀬トモヤの居る方向を視ていた眼球の幾つかが、唐突にエドワードへと向きを変えた。次の瞬間───先の倍以上の数に膨れ上がった焔の腕が、エドワードへと殺到した。
「なっ、マズ───ッ!?」
 咄嗟にオーラ防御を身に纏うも、焼け石に水とはこのことか。目前に迫る莫大な熱量は、確実に死を与えるに足るだけのエネルギーを伴っていた。万事休すか、とエドワードが歯を食い縛った、その時であった。
『その小さな祈祷(ささやき)に耳を傾けてください、最も気高い翼をもつ者よ――今こそ、嵐(おもい)が吹き荒れるのです!』
 宙に魔法陣が浮かぶ。急激な気温の低下を伴い、非実体であるはずの焔の腕が、エドワードを焼き尽くす寸でのところで凍り付いていた。
「───大丈夫ですか、エドワードさん!」
 ミアスであった。バイアクヘーの背に乗り、右腕を天へと掲げている。その額には、ビッシリと汗が浮かんでいた。
「た───助かった!今のはちょっと、本気でヤバかった!」
「無事で何よりです───と、言いたいところなんですが‥‥限界です、離れてください!」
「‥‥‥っ!?」
 ホッと息をついたのも束の間、ビシリという不吉な音と共に、氷を内側から食い破る様にして赤黒い焔が復活する。怨嗟の哭き声と共に更なる増殖を果たす焔の腕を前に、空中のエドワードとミアスのみならず、地上の葵桜までもが撤退を余儀なくされていた。
「なるほど、これは流石に───」
「手ごわいですね‥‥‥!」

●第三幕 -3-

「はああああああああああああああ!!!」
 裂帛の気合と共に、何度目かの爆炎を姫桜はドラゴンランスで打ち払っていた。
「フンッ!」
 タイミングを合わせ、闘真もまた爆炎へと巨大な戦斧を振り抜く。間断なき爆炎の嵐に晒されて尚、この二人はトモヤへの攻撃を身を挺して庇い続けていた。双方、身体のいたるところに『消えない焔』が延焼し、爆炎の余波による火傷に至っては最早数える気にもならない程であった。
「あ、づ‥‥‥っ!!」
「ぐっ‥‥大丈夫か、彩瑠‥‥‥!」
「だい‥‥じょうぶ、なんかじゃ‥‥ない!けどっ!」
 倒れそうになる身体をどうにか支え、姫桜はなんとか踏みとどまってみせる。
「ここで倒れたら‥‥‥、誰がコイツを護るのよ‥‥‥!!」
 姫桜の血が覚醒する。満身創痍でズタボロでも、彼女はまだ護り続ける気でいるのだ。一方、彼女の後ろでへたり込んでいた村瀬トモヤは、いよいよ耐え切れないとばかりに絶叫した。
「‥‥‥なんで、なんでだよ!なんでそこまでして、俺のこと‥‥‥っ!俺はトモミを殺した!たくさん猫を殺した!どこからどう見たって、救う価値なんてないクソ野郎じゃねぇか!!なのに、なんで、なんで‥‥‥っ!!」
「うるさいバカ!アンタのことなんか大っ嫌いよ!!」
 トモヤの絶叫に、姫桜もまた絶叫で答える。
「あなたのしたことを、私は絶対に許さない。絶対よ!だからね、村瀬トモヤ。私は───絶対にあなたを死なせはしない。猫達を殺したことも、妹さんを手に掛けたことも、すべてあなたの罪よ。今更、その罪を全部なかったことにして消えてなくなりたいなんて、勝手もいいところよ!!」
 また一つ、爆炎を打ち払って、姫桜は吼える。
「憎しみも甘えも、色んな感情全部ひっくるめて、あなたはこの島を───皆を愛してたんでしょう!?忘れないでよ‥‥‥トモミさんを、島の人達を、皆を‥‥‥!消えてなくなりたいって思うなら、その想いも全部ひっくるめて生きなさいよ!彼らの分まで生きて、生きて───生き抜いてみせなさいよ!村瀬トモヤッ!!」
 全身を火傷に晒して、彩瑠姫桜が叫ぶ。偽りのない、彼女の魂の叫びであった。
「‥‥‥っ!本ッ当、なん、なんだよ、お前ら‥‥‥!くそォ‥‥畜生‥‥‥ッ!!」
 目が、覚めたようであった。自分の人生の内で、自分にこれだけ向き合ってくれた人間が、どれだけ居たろうか。こんな人間失格を守り抜いたところで、何の得もありはしないのに。瞳から溢れ出す涙を、トモヤは止めることが出来ずにいた。
「───阿呆が。お前も男なら、自分のやったことを貫き通せ。後悔なぞ‥‥‥それこそ弱者のすることだ。」
 無骨に語り掛ける背中が、涙で歪む。その余りにも大きな背中は、今は亡き、大嫌いだった父親の背中を想起させた。
「ここで死ぬなぞ許さんぞ。きちんと最後まで生き抜いて見せろ、大馬鹿者。」
 闘真の言葉に、トモヤは辛うじて嗚咽を呑み込んだ。自分なんかのために、ここまで身体を張っている彼らに、いったい自分は何が出来るのだろうか。
 自分は、彼らに、なにをしてあげられるだろうか。
 奇しくも彼が心に抱いた感情は、戦場を傍観するとある猟兵と、志を同じくするものであった。
「ふん、人であり獣‥‥‥それが邪神の好物か。なら泥人より余程打って付けの奴がいるぜ」 
 傷だらけの闘真の隣に、ぼんやりと現れる霧があった。霧は瞬く間に人の形をとり、【戦場の亡霊】となる。
「こいつと‥‥‥この俺だ───!」 
 大地を踏み砕くようにして、闘真と亡霊は邪神へと突撃する。
「───ただ、俺達は活きが良すぎるんでな。食中りには注意しろよ。それどころか下手すると‥‥‥お前の方が喰われちまうぜ」

●第三幕 -4-

「流石に、キッツイなぁ‥‥!」
 満身創痍で楯を構え、シャイアが歯噛みする。
「あっしも、そろそろ限界でさぁ‥‥!」
 邪神の胴体部へと攻撃を続けていたバルディートも、際限なく再生する焔の身体に音を上げ始めていた。
「‥‥‥やっぱり、一筋縄じゃいかないのね。」
 しゃれこうべを抱え、凛花が小さく息を吐く。
 いわばこの戦いは、長引けば長引くほどに不利になることが決定づけられている戦いであった。敵は殆どの攻撃を受け付けない上に、無限に等しい再生能力まで持っている。一方、こちらは延々と攻撃を受け続ける上に、延焼によるダメージの蓄積が時間の経過と共に深刻化していくのだから始末に負えない。戦況は悪化していく一方だ。
 戦場を覆う絶望の影が、俄かに濃くなり始めた時だった。

『───息を絶つ誰かが 遥か空に手を伸ばす───』

 透き通るような、歌声。まるで触れれば溶けてしまうような儚さ。しかしてその歌声は、戦場に降り積もるようにして彼らの耳朶を震わせていた。
『───嗚呼 流れる血の色も鼓動の音も 生きてるあなたを彩る 命を紡いで───』
 徐々に力強さを増してゆく歌声に、邪神すら攻撃の手を止め天を仰ぐ。半分になった月を背に、歌を紡ぐ銀翼の歌姫───セリエルフィナの姿があった。
『───m'aider───』
 それは、彼女がこのUDCアースに訪れてから覚えた歌。その名を、『ユーベルコード』。奇しくもその言の葉は、このどうしようもなく終わってしまったセカイに挑む彼らに対し、これ以上ないほどの共感を呼び起こした。
「き、傷が‥‥‥!」
「治っていく‥‥‥!」
 絶望とともに猟兵たちの体力を削り続けてきた火傷が、セリエルフィナの歌声を受け、たちどころに癒えてゆく。同時に、彼らにはこれ以上ないほどに彼女の思いが届いていた。
(───みんな、頑張って。どんなに傷ついても、ボクが全力で癒すから。この声が枯れたって構わない、ボクも全身全霊で歌う(たたかう)。だから、どうか、どうか───)
 絶望に負けないで。歌声に乗せて、セリエルフィナは全力のエールを彼らへと送る。きっと、自分の歌が誰かの力になると信じて。きっと自分の歌が、誰かにとっての希望になりますようにと、願いを込めて。
 斯くしてセリエルフィナの歌声は、敗北へと傾きかけていた猟兵たちの心を、見事なまでに立て直して見せた‥‥‥!

●第三幕 -5-

「つまり、ミアス坊ちゃんのユーベルコードは、確かに効果があったんですねぇ!?」
 爆炎を地獄の炎で振り払い、バルディートが声を張り上げる。
「あぁ、非実体の焔が凍り付くところを、確かに目の前で見た!というか、あれがなければ死んでいた‥‥!」
 返すエドワードもまた、襲い来る炎灰剣を瑠璃花弁の嵐(ブルースター・テンペスト)で相殺する。
 セリエルフィナの歌声を受け、戦場に散っていた猟兵たちは再びトモヤの元へと集合していた。
「じゃあ、凍らせて実体化したところを攻撃すれば───!」
 わずかに見えた希望の芽に、姫桜がドラゴンランスを構えなおす。
「で、でも、焔の勢いが強すぎて10秒と持ちませんでした!僕にもっと、力があれば‥‥!」
 ミアスが悔しそうに歯噛みする。
「何らかの方法で、敵の力を削ぐほかあるまい‥‥‥」
 闘真が、眉間に皺を寄せてそう呟く。
「うーん、そういわれてもなぁ‥‥‥」
 姫桜の隣で薙刀を構える葵桜は思案顔。断続的に続く攻撃に対処しつつ、猟兵たちは思考を巡らせる。
「‥‥‥私が、できないこともないわ。」
 思わぬ凛花の言葉に、全員が顔を上げた。
「で、できるんですかい、しゃれこうべの姐さん‥‥‥!?」
「危険な賭けよ。あの邪神相手に成功するかは五分がいいところだけれど───」
 そう言って凛花が見上げる夜空には、未だ喉を酷使して歌い続ける少女の姿。
「出し惜しみなんて、してる場合じゃないから。邪神の力を削ぐのは私にまかせて。」
 そう静かに言ってのける凛花に、誰もが首を縦に振った。この規格外の死霊術師であれば、あるいは不可能ではないだろう、と。そう思わせるだけの実力を、彼女は持っていた。
「それなら次は───ミアスくんの出番、だよね。」
「‥‥‥はい。必ず、必ず成功させます‥‥‥!」
 エドワードの言葉に、緊張した表情でミアスが頷く。この作戦の要は、他の誰でもなくこの少年であった。
「あとは首尾よく凍らせたとして───再生の隙すら与えずに、一撃であの邪神を吹き飛ばせるような火力が必要だよね」
 その言葉に、全員の目線が向かったのは───シャイアであった。先の戦いで泥人の群れを跡形もなく消し飛ばしたあの一撃は、邪神にも間違いなく届くだろう。
「───わかったよ。みんな、もう一度だけ、僕に一撃を託してくれるかな?」
 全員が、満場一致で頷いた。

●第三幕 -6-

 灼けた空気が渦を巻いている。幾千もの赤子の哭き声を束ねたかのような、おぞましい咆哮を前に、凛花は呪力を限界まで纏って対抗する。
「───ややこを好んで喰らい続ける化物、ね。ある意味‥‥‥わたしの子供達と同類だね。オブリビオンだからという理由で、わたしは泥人達を殺したけど‥‥‥わたし達の方が、彼らよりよっぽど化物なのかもね。」
 自嘲気味に嗤って、しゃれこうべに呪力を注ぎ込む。無邪気な笑い声と共に現世へと滲み出した無数の水子が、凛花を中心に渦を成す。轟、と呪力が唸りを上げた。凛花の繰る呪力の糸が、臍の緒の如く繋がった無数の赤子たちを束ね、累ね、彼女が最も大切にしている媒介───即ちしゃれこうべを核として、巨大な怨念の集合体たる、髑髏の姿を編み上げる。
「さて、それじゃあ化物同士、喰らい合ってみましょうか‥‥‥!」
 母たる凛花が腕を振るうと同時、巨大な髑髏が赤黒い火柱へと突貫する。紅蓮の腕が『凛花の子供たち』を捉えるより先に、巨大な髑髏は呪怨渦巻く邪神のその身体へと食らいついていた。火柱が咆える。髑髏が哄笑する。二つの怪物の壮絶な貪り合いは、さながら天災に似て───決着は唐突に訪れた。
 邪神の身体を構成していた『ややこの怨念』を貪るだけ貪った『凛花の子供たち』は、沢山増えた『お友達』に満足するや否や、文字通り糸が切れた様に崩れ落ち、四散していく。時を同じくして凛花もまた、精神力を使い切ってへたり込んだ。
「‥‥‥また沢山、お友達が増えたねぇ。さて、と。あとは任せたよ、みんな。」

●第三幕 -7-

 ほんの、数十分前の会話を、ミアスは目を閉じ思い出していた。
『しっかりしてください!トモヤさん!』
 失意の内に崩れ落ちた青年に、ミアスはこんな言葉をかけた。
『───キミまでこの世からいなくなったら、他に誰が『彼女』のことを覚えているんですか!だから、生きてください‥‥‥いや、生きろ!人間でも泥人でもなく、キミの心の中の『トモミさん』といっしょに、最後まで生きるんです!』
 あの言葉は、心からの本心ではあったけれど。半分は、自分に向けての言葉だったんじゃないかって、そんな事を思うのだ。居なくなったあの人の夢を引き継いで、僕は今、ここに立っている。まだまだ弱虫は抜けないけれど、確かに一歩ずつ、前進している。
「‥‥‥シャオ。僕は、あなたの夢をしっかり覚えてるよ。きっといつか、叶えて見せる」
 だから───と。少年は瞼を開く。眼前には幾分存在濃度の薄くなった邪神が、それでも咆え猛る様に燃え盛っていた。
「ちょっとだけ───勇気を貸して‥‥‥!」
 真の姿を解放する。胸元の黒曜石に白き炎が灯され、それを囲むように歪んだ五芒星が浮かび出す。内側で増大する力を感じながら、熱に浮かされた様にミアスは両手を掲げた。
『ミアス・ティンダロスの名のもとに再び斯い願う!その小さな祈祷(ささやき)に耳を傾けてください、最も気高い翼をもつ者よ――今こそ、嵐(おもい)が吹き荒れるのです!』
 先の戦いとは比べ物にならない程の、巨大な魔法陣が灰霞の剣の頭上に展開される。一瞬の静けさを破り、顕現するは激凍極嵐たるイタクァの息吹。地上の熱を悉く食い散らかして、その一撃は焔そのもであるはずの邪神を、ものの見事に氷漬けにして見せたのだった。

●第三幕 -8-

「───トモヤ君は、これからトモミちゃん達の分まで生きていかなきゃいけないんだ。どれだけ望まれたって、キミみたいな奴はお呼びじゃない‥‥!」
 シャイアの構えた杖先へと、膨大な魔力が集う。原理としては、先に泥人へと放った一撃と大差ない。溜めに溜めた魔力を、相手に向けて全力で放出する。準備は整った。眼前には力を削がれた上に氷漬けにされ、完全に身動きの取れなくなった邪神。物質化した邪神は、この一撃を以て消滅へと至るはずだ。
「これで、終わりだ───ッ!」
 杖先へと充填された魔力が、指向性を得て迸る。加速力、魔力強度、破壊力、どれをとっても泥人たちを吹き飛ばした一撃の上をいく。仲間たちと共に作り出した、千歳一隅の好機。シャイアの放った魔力の奔流は、ついに悲劇の根幹たる焔の邪神を消し飛ば───すことなく、中途半端に氷へとヒビを入れ、消滅した。
「なっ‥‥‥!?」
「嘘でしょう‥‥‥!?」
 ビシリ、と嫌な音が響く。氷の内に封じられたはずの赤黒い焔が、亀裂から次々と噴き出すのが見て取れた。
「そ、そんな‥‥‥!!」
 威力不足───そんな考えが頭を巡るより先に、視界が爆炎につつまれた。

●第三幕 -8.5-

「‥‥‥っ!!」
 草むらの影に隠れて、メタ・フレンは作戦の失敗を視ていた。心臓が早鐘のように打っている。きっと、彼らならやり遂げる気がしていた。自分が何もしなくとも、何もできなくとも、猟兵としてあるがままに、彼らは世界を救うものだとばかり思っていた。
 痛いほどに唇を噛む。目を瞑り、耳を塞いで、容赦なく牙を剥く現実を切り捨てて逃避してしまいたくなる───が。
「負けないで‥‥‥」
 自分の唇から漏れた小さな言葉に、他でもないメタ自身がハッと顔を上げた。意識すらしていなかった、幼い少女の胸に生まれた小さな小さな願い。自分がかつて誰かのために戦っていた時、顔も知らない誰かから投げかけられた、小さな小さな言葉。
「ぁ────。」
 なんだ、あるじゃないか。こんな自分にでもできることが。あるじゃないか。傍観者だからこそ出来ることが。
「‥‥‥傍観者なら、目を逸らすな‥‥‥!」
 自分自身に向けて呟く。同時に、彼女の左掌に、バーチャルチックなエフェクトが現れる。それはゆっくりと収束し、キマイラフューチャーで言うドローンの形をとった。
「行って。私たちの声を届けて、グッドナイス・ブレイヴァ───ッ!」



 村瀬トモヤは祈っていた。この絶望的な状況を覆してくれ、と。どうか、こんな人間失格を全力で救ってくれた彼らに、絶望なんてくれてやるなと。がんばれ。勝て。どうか、負けないでくれ。頑張れ。アンタたちは、俺を救ってくれたヒーローだ。あんなバケモノになんて負けるな。勝て、勝て!勝ってくれ‥‥‥!



 セリエルフィナ・メルフォワーゼは歌って(たたかって)いた。今の自分ができる最良は、全身全霊で歌うことだけだ。きっと、彼らはやり遂げてくれる。だから自分も戦える。
『───この身が壊れど歌う 哭かないあなたの代わりに───』
 より一層の熱量を込めて歌う。頑張れ、負けるな、勝て、と。



 世界のどこかで、誰かはそれをみていた。世界の命運を左右する戦いを。絶望を前に、今にも潰えそうな希望を。
 世界のどこかで誰かが叫ぶ。『頑張れ!』と。
 世界のどこかで誰かが叫ぶ。『負けるな!』と。
 世界のどこかで誰かが叫ぶ。『勝て!』と。
 世界中で、誰もが彼らを視ていた。彼ら英雄が辿り着く先を。祈りを込めて。

●第三幕 -9-

「───ッ!まだだ!まだ終わってない!!」
 爆炎をボロボロの楯でいなし、シャイア・アルカミレーウスは吼える。氷に入った亀裂は大きいものの、まだ邪神の本体がすり抜けられるほどの広さには達していない。
「あったりまえよ!ここで諦めてたまるもんですかっ!」
 放たれた爆炎へと、姫桜が突貫する。一秒でも長く、シャイアが魔力を充填する時間を稼ぐために。
「あぁ、何としてでも護るんだ、この世界を!!」
 両手を広げたエドワードの周囲に、最大出力で展開された瑠璃花弁の嵐が渦を巻く。次々と放たれる炎灰剣を悉く相殺し、エドワードが叫ぶ。
「バルディートさん!左翼前方を!」
「ハハッ、まったく、蛇使いの荒いことで‥‥‥!!」
 不敵に嗤うバルディートが、出し惜しみなしで放出された右腕の炎を校庭に叩きつけ、巨大な障壁を展開して見せる。
「出番だよっ、『田中さん』!!」
 葵桜が召喚した『田中さん』(古代戦士の霊)は全身に炎を纏うや否や、氷の隙間から抜け出そうとする邪神へと突貫する。
「ほぅ、その大役、亡霊だけには任せておけんな‥‥‥!!」
『田中さん』を追い、闘真が全速力で邪神の元へと疾走る。
「───勇者の心得その50!冒険は最低でもハッピーエンドで!」
 杖先へと集う膨大な魔力に歯を食い縛りながら、シャイアが願う様に宣誓する。暴走する魔力。腕の皮膚が耐え切れぬとばかりに裂け、鮮血が迸る。
「ぅぅぅぅぅうううううううああああああああああああああ!!!!!」
 咆える。これ以上は身体が魔力に耐えられず自壊する───それを理解して尚、シャイアは魔力の充填を止めようとはしない。
「限界‥‥なんて、いくらでも超えてやる‥‥‥っ!だから!少し付き合え、僕の身体───ッ!!」
 スッ、と。一瞬の空白があった。
「え───?」
 裂けたはずの両腕が、鋭い鱗で覆われていた。いつもよりクリアな視界に、何度か目を瞬かせる。
 真の姿の開放。見習い勇者は土壇場で、ソレをやってのけたのだった。
「ハハッ、上等だよ!いくよ、みんな───!!」
 更なる魔力が杖先に集う。最早集う魔力は嵐の如し。凄まじい輝きと共に、最大規模の魔弾が装填される。
「いままで、何となくで撃っていた魔弾だけれど───」
 思いを込めて、名をつけよう。「キミがいなければ!って八つ当たり2」「絶対通さない!って決意を3」、「絶望なんて許さない!って想いを5」‥‥‥これを以て、新たなユーベルコードと成す。其の名は───
「───ウィザードリィ」
 黄金の目を見開いて、シャイア・アルカミレーウスは咆え猛る。
「ブラストマギアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
 暴走寸前まで圧縮された膨大な魔力の奔流が、夜の闇を切り裂いて奔る。太陽にも引けを取らぬ強烈な輝きは、氷の牢獄に閉じ込められた邪神を直撃し───今度こそ、完膚なきまでに是を消滅させたのであった。

●終幕

 殆ど更地となった校庭に、盛り土と木の枝で作った簡素な墓がポツン、と建てられていた。猟兵たちと村瀬トモヤは手を合わせ、静かに黙祷する。
 潮風が夜を舞った。まるで、さよならをするかのように。
「‥‥‥俺さ、生きるよ。」
 静けさの中でぽつりと、ややこ島最後の生き残りは言った。
「生きて、償うよ。生きて、生きて、生きて、生きて‥‥‥!!いつかアイツに頭を下げられるように、頑張るよ。いつか、アンタらみたいになれるように、生き抜くよ。」
 ありがとう。そんな言葉もまた、潮風にさらわれて。
 猫の鳴き声が聞こえる。猫の鳴き声、だけ。

 こうして小さな猫島は、ある日突然、地図上から姿を消した。
 その先を知る者は、誰もいない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年01月07日


挿絵イラスト