其は燎原の火となるか
その鄙びた漁村では宵闇を払う際、篝火を用いない。陽が落ちれば固く戸を閉ざし、明かりの一切を外に洩らさず息を殺して夜明けを待つのが常であった。
篝火はこの村に時折訪れる災禍の象徴であり、前触れである。
「……ああ、今夜は燈らなさそうだ。少しはゆっくりできるかな」
あばら屋の戸口の前に小さな椅子を置いてそこで漁に使う網の手入れをしていた男は、疲弊の色濃い淀んだ目で岬の遥か向こうからこの村へと続く道を眺めていた。篝火を携えたもの達は、いつもあの先からやって来る。
ヴァンパイア。そう呼ばれる化物とその眷属達がこの世界の支配者となってから、もう随分と歳月が経っていた。彼のもの達は人間のように領地を持ち、圧倒的な力を以って人間からありとあらゆるものを搾取し、虐げ、破壊する。
この村とて例外ではなく、どれほど足掻いても支配者たる闇の住人の暴虐からは逃れられた試しは一度も無かった。村を守ろうと立ち上がったものから無残に殺され、あまつさえその亡骸はヴァンイパイアによって再利用される事すらあるのだ。
理不尽に次ぐ理不尽に疲れ切った人々の心には諦念が深く根差し、次に奪われるのが自分の、家族の命ではありませんようにと祈りながら、要求されるままに貢ぎ物や生贄を差し出すしか選択肢は残されていなかった。
それでも時折気紛れになんの理由も無く殺戮が行われもしたが、皆殺しにされるよりはましだと言い聞かせ、ヴァンパイアに膝を折って先細るばかりの日々を営む。
村に蔓延る重苦しい空気を解さない子供には、母親が、老人が口を酸っぱくして言い含めるのだ。
異端の騎士がやって来たら、声を上げずに隠れなさい。篝火を見たら、それを持つ者の顔を見ないように逃げなさい。言う事を聞かない悪い子は、死んだ方がましな目に遭ってしまうよと。
――ぽつり、と。海を抱く遠景に焔の色が燈った。
「悲劇、と呼んで差し支えのないお話です」
パタンと大きな書物を閉じる音が、グリモアベースに響く。
顔を上げたヤドリガミのグリモア猟兵、イディ・ナシュは己が垣間見た惨状を細い声で伝え始めた。
「お送りする先は、ダークセイヴァーの世界となります。皆様には、圧政を敷くオブリビオンによって滅ぼされようとしている、海沿いの小さな漁村を救って頂きたく」
集まった猟兵たちの顔を一人一人覚えるように首を巡らせながら、彼女は続ける。
「まずは、オブリビオンの情報を収集しなければなりません、が……」
漁村に住む者達なら、彼らがいつどこから訪れるのか、何者であるかを知っている。しかし簡単には聞き出せはしないだろう。村人達はオブリビオンに逆らえば酷い目に遭わされると繰り返し刷り込まれているからだ。
「反抗と見做されない為に村人達は口を噤むでしょう。ですので、手段は問いません、皆様其々の長けた能力でもって情報を集めて下さい」
力強さを見せ付けるパフォーマンスで、オブリビオンを倒してくれるかもしれないと村人に安心感を与えてもいい。村人の心の機微を読み取る聡明さを発揮して、話術や行動で話を引き出してみてもいい。或いは、素早さを生かして村周辺の探索を行い、オブリビオンの痕跡を見つけ出す事も可能だろう。
「事前に得られる情報量が多ければ多いほど、戦闘を有利に導けるでしょう。随分と骨の折れるお仕事になるとは思いますが、どうかこの地に安寧を齎す為のご助力を」
よろしくお願いします、と締めくくり、グリモアを携えた女は深々と頭を下げた。
白日
お目通し下さいまして有難うございます。
初めまして、白日(しらくさ)と申します。
皆様と共に楽しみながら、第六猟兵の世界を作る一助となれましたら幸いです。
どうぞよろしくお願い致します。
第1章 冒険
『支配された村』
|
POW : 強さを見せて村人を信頼させる
SPD : 村周辺の探索を行う、村人達と密かに接触する
WIZ : 会話や行動で信頼を得る、村人たちから情報を引き出す
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴
|
グリモアベース内の移ろいゆく景色が、行くと定めたその場所へと塗り替えられる。
吹き荒ぶ潮風に今にも打ち倒されてしまうのではないかとすら思うほど粗末な、木造のあばら家が立ち並ぶ小さな漁村。まだ昼間だというのに戸外で働く村民の姿は疎らで、その人影すらも辿り着いた猟兵達の姿を見た途端に泡を食って家屋へと逃げ込む始末だ。
窓の代わりに填め込まれた板戸の隙間から様子を窺う目があり、抑えに抑えた声で囁き合う小さなさざめきが潮騒に混じる。
夜闇と共に訪れて村を蹂躙する化物とは違う、村々を渡る芸人一座にも見えない、見馴れぬ来訪者――猟兵達へ最初に向けられたのは警戒と困惑、そして恐怖の目。今まで僅かな希望すらも抱けない状況に置かれていた彼らのその反応は無理からぬ事ではあった。
けれども、この村を救出する意を抱いた猟兵たちの姿に何かを感ずるものも少なくはなかったのだろう。逡巡を含んだ幾らかの時間を置いて、村人達が少しずつ顔を見せ始めたのだった。
リグレース・ロディット
懐かしいような懐かしくないような……こんな場所が故郷というのは嫌だな。嫌だからここを開放しなきゃ。助けなきゃ。守らなきゃ。
準備:猟兵の事とこちらがするであろう事を書いたメモ
【WIZ】暴力的なのは下手だからこまめにやるしかないんだよね。はははっ……。なるべく敵に感づかれないように行動しながら村人達と会話するよ。
「怪しい物じゃあない。味方です。猟兵というのだけど……」
ええっと。猟兵の事は知ってるのかな?知らなかったらあらかじめ猟兵について書いたメモを渡しておくよ。渡したら話を続けるよ
「情報が欲しいんだ。あいつらを倒すための。僕の仲間達も来る。だから命を捨てないで。」
教えてくれたらお礼を言わなきゃね
金の髪を潮風に攫われながら、リグレース・ロディットは村を見渡した。
懐かしいような、懐かしくないような。嘗ては素朴でのどかだったのだろう漁村の景色は、不思議と郷愁めいた思いを抱かせる。だからこそリグレースは、こんな場所は嫌だった。怯えと悲しみに満ちたこの場所が。
助けなきゃ、守らなきゃ。
村を解放してあげたいと、決意に満ちた少年は手の中に紙片を携え、近付いて来た村人と対峙する。
「……あんたがたは何者かね。何の用があってこの村に来た?見ての通りの粗末な場所だ、大した持て成しもできないし、奪える物も碌に無いが」
継ぎの多い服を着た老爺が、探るような眼差しを向けてリグレースに問いかけた。
「怪しい物じゃあない。味方です。猟兵というのだけど……」
猟兵の事は知っているのかなと聞けば、知らぬと老爺は首を横に振る。暴力的な交渉は下手だからと、リグレースが事前に周到に準備していたメモが役に立った。手渡された紙片に綴られる猟兵が何であるかについての解説。目を通した老人は、にわかには信じがたいと言いたげな顔で再び少年を見ると更に猜疑の声を上げようとした、が。
「情報が欲しいんだ。あいつらを倒すための。僕の仲間達も来る。だから命を捨てないで」
それよりも早く、真っ直ぐな言葉をリグレースが紡ぐ。誰かを守りたいと強く願うその声は、少女めいた容貌を持つ彼を唯の子供と侮れぬ威風を湛えていた。リグレースのそんな姿に、老爺は雷に打たれたように背を伸ばす。救いを求めるのは今しかないと思わせるだけの熱意がそこには在り、その思いを後押しするように次々と猟兵達の姿が現れる。
おい、と老人は家に篭って様子を窺う同胞達に向けて呼び掛けた。応じた村人達が次々と戸を開く音を背に、老人は語り始める。
「珍しい話ではないだろうが。この村もヴァンパイアにいいようにやられてる。直接手を下してくるのは手下の騎士とその子飼いになるんだろうが。……どうか皆の話を聞いてやって欲しい」
「ありがとう、おじいさん!」
礼を告げるリグレースに、いや、と微かに笑って老爺は応じた。
それはこの村を訪れた猟兵達が最初に見た、そして老爺自身の人生においても随分と久し振りの笑顔であった。
希望の灯が小さく、しかし確実に、燈り始めていたのだ。
成功
🔵🔵🔴
小読・灯
なんて酷く気紛れに死を振り撒く方々なのでしょう。特に意味もなく死を振り撒き生け贄まで要求するだなんて!
私の炎で悪い灯火に抗うことができれば良いのだけれど。
まずは聞き込みね。子供達ならば色々なことを話してくれるかもしれない。
安心させるために 目線を合わせて、ゆっくりと「知っていることはない?」と敵の情報を聞いていきましょう。
もし灯に怯えるようなら、マッチを1本擦って、私の炎を見せて勇気づけてあげる(ブレイズフレイム)。ねえ、私の炎とあなた達を縛る嫌な焔、どっちにあなた達は味方したい?
――なんて酷く気紛れに死を振り撒く方々なのでしょう。
聞き込みをするべく村内を歩く小読・灯の胸には、憤懣やるかたない思いが燻っていた。意味の無い殺戮を行うばかりか、あまつさえ生け贄まで要求するだなんて!村を呑み込もうとする悪い灯火に、己の炎で対抗できればと、先ずは情報集めに奔走する。
灯が耳を傾ける相手にと選んだのは、子供達だった。村はずれの海岸に足を運んだ彼女は、岩場の影からこっそりと様子を窺う三つの姿に間もなく気付く。痩せぎすな体、齢十二の灯から見ても小柄な身の丈は、満足に食事も摂れないのだろう困窮振りをまざまざと訴えてきた。
「……おねえちゃん、誰?」
「わるいひと?」
「ぼくたち、つれて行かれるの?」
灯は震える声で口々に不安を零す子供達に歩み寄ると、目線を等しくしようと屈む。そろりと岩陰から顔を出した面々の瞳を覗き込んでゆっくりと口を開いた。
「私たちは悪い灯火をやっつけに来たのよ。何か知っていることはない?」
柔和な問い掛けに、子供同士は互いの顔を見合わせる。半信半疑、そしてそれ以上に村の外からの来訪者というものに良い印象を持てないのだろう。今にも逃げ出しそうに後退りを始めた子供達を見て、灯は勇気付ける為に一計を案じる。
夢幻の灯、そう呼ばれるマッチ箱から一本のマッチを取り出して擦る。そのマッチを触媒として呼び出されたのは、暖かな灯り。常日頃から恐れている篝火の禍々しさとは正反対の、力強く心に染みる明るさは言葉以上に子供達に安心を運んだようだ。
「ねえ、私の炎とあなた達を縛る嫌な焔、どっちにあなた達は味方したい?」
そう聞いた灯に、おねえちゃんがいい!と子供特有の甲高いはしゃぎ声が返った来たのはすぐだった。
「わるい火を持つ人はね、すごく臭いよ!」
「あの灯台の向こうから、夜になるとくるの」
「よろいを着ているやつもいるよ」
「そいつが一番わるいやつ!」
矢次早に訴え掛け始めた子供達の勢いに圧倒されながらも、得た情報を胸に刻んで仲間の元へと戻ろうとした灯の服の裾を、一番背の低い少女が掴む。
「……おとうさん、わるい火を持つひとになっちゃったの。もう戻ってこないって」
灯を見上げる目には、涙が滲んでいた。
「おねえちゃん、たすけて」
舌足らずに願う子供に、猟兵たる少女は頷く。こんな結末は放っておけないと、灯は改めて強く思うのだった。
大成功
🔵🔵🔵
クラウス・ハントハーベン
SPD周辺の探索を行います。
探索RP
「村人も危険を冒してまで何も知らない者に話しなどしてくれないでしょう。まずは自力で調査し、その上で村人達に勝ち目ある事を告げれば説得力も増すでしょう」
探索詳細
恐怖の中危険な場所には行くはずがなく伝えるつもりがなくても行動として現れてしまうと考え、村人を観察し近寄ることを避けている場所を特定し、その周辺を中心に調査します。そして可能なら調査から勝ち目がある事を村人に伝え、信用を得て情報を引き出します。
成功RP
「なるほど村人はこれを恐れていたのですね・・・それではローゼ、村の方に話しを聞きに行きましょうか」と相棒の人形に話しかける
シェミア・アトック
支配者、か…気に入らない…
周辺地形を探索、連中の足跡や遺棄物などを探し、ルートや規模、可能なら種類も探ってみる…
ルートが分かれば罠が仕掛けられるし、待ち伏せも可能…
と、待ち伏せに良さそうな場所の選定もしておこう…村に入られたら負けだから、その手前で止めないとね…
罠は、地上を行くだけなら杭を数本打ち込んだ深めの落とし穴でいいし、空を飛ぶ奴がいるなら、大量の礫を網に包んで、飛ばせる仕掛けでも隠しておくか…?
「村人も危険を冒してまで何も知らない者に話しなどしてくれないでしょう。まずは自力で調査し、その上で村人達に勝ち目ある事を告げれば説得力も増すでしょう」
そう考えて、自ら手掛かりを収集する猟兵達も居た。
クラウス・ハントハーベンは相棒の人形と供に用心深く村人の動向を観察する。敵の所在を漏らす気が彼らに無くとも、恐れるものからは避けるように生活をしている筈だとの目論見は、正鵠を射ていた。
漁村を跨ぐようにして海岸沿いに続く、舗装もされていない一本道が漁村のライフラインとなる最大の交通網である。だというのに、海に向けて岬が突き出している方向へと伸びる道なりに移動する村民がただの一人も居なかったのだ。漁へと出る者は海へ、魚を売りに行く者は岬とは反対方向へ、それぞれ歩みを進めて行く。
シェミア・アトックもまた、岬周辺が怪しいと睨んだ一人であった。明らかに不自然な大量の足跡が、岬から続いている。調べる必要があると感じた場所を同じくした二人は、遠目にも崩れ掛けていると目視できる岬の灯台へと足を運ぶ事となった。
「支配者、か…気に入らない…」
善悪の区別無く、立ち塞がる者を敵としてきたシェミアから見ても、漁村に満ちる絶望と悲嘆は目に余るものだったのかもしれない。その悲劇を齎すもの達への不快感を顕にしながら、調査に勤しむ。
幼いながらも戦闘にまつわる教育を重々に施されてきたシェミアの現地調査は着実に実を結んでいった。漁村へと向かう足跡を入念に調べれば、それは靴と裸足の形、それから僅かな蹄の跡で構成されていると知れる。明らかに尋常な人間が通った痕跡でないと解るそれが敵の残したものであると確信したシェミアは、そこから導き出されるルートや人数の予測に暫し没入した。
その間にクラウスは、灯台を調べて行く。随分と長い間手入れをされていないのだろう、壁には無数の皹が走り、天辺まで続く内階段の縁は欠けた箇所も多い。危うげなく階段を昇り切った先の窓からより遠くまでを確認したクラウスの目は、高く臨む景色の中に丘の上へ建つ洋館を見出したのだった。土地の起伏で漁村からは見えなかったそれは、この貧しい暮らしを送る土地の只中にあって異質な堅牢さと物々しさを伝えてくる。明らかに怪しい建物の発見をシェミアに伝えれば、恐らくは敵の所在地で間違いないだろうと言葉少なに同意が返った。
あの洋館に攻めて行くのは、些か手間も時間も掛かり過ぎるかもしれないと過ぎった懸念はシェミアの言葉で払拭された。
「ここなら、待ち伏せも可能……。村に入られたら負けだから、その手前で止めないとね……」
生憎と罠を仕掛ける道具の材料になりそうなものは見付けられなかったが、クラウスが調べた灯台の中は、複数の人間が潜むに容易いだろう。それから幾許かの情報の摺り合わせを経て、ここで調査できる事は概ね済んだと見做し、クラウスは帰還を提案する。
「それではローゼ、シェミアさん。村の方に話しを聞きに行きましょうか」
充分に敵へと対抗し得る情報を手に、二人と一体は漁村へと戻って行く。村人に、独自に本拠地を見出した事実と、それから猟兵達が掴んだ勝機を伝える為に。それは確実に、猟兵への信頼感を募らせる大きな力となっただろう。
反撃の準備は、着々と進められて行くのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
クローエン・ラブラック
ヴァンパイアの支配……酷いな。
この世界の人々が抵抗できないなら……私たち猟兵が、奴らの罪を裁こう。
まずは彼らの信頼を得ることから。
……言葉よりも、行動で示す方が手っ取り早いか。
狩りや害獣駆除はお手の物。
【POW】
村の周辺の気配に注意し、警備する。
彼らの生活を脅かす生き物がいれば、退治する。
食料になるものなら、彼らに配る。私よりも、彼らに必要なものだから。
ダガーの一撃で手早く倒し、並大抵の相手では苦戦もしないことをアピール。
大丈夫、私たちは見捨てない。騎士として罪人を斬り、貴方たちを守る。
腕に覚えがある猟兵は、最も直裁的な方法で村人らの信頼を得ようとしていた。
「……言葉よりも、行動で示す方が手っ取り早いか」
クローエン・ラブラックもその一人だ。狩りや害獣駆除を得意とする彼女は、村周辺の警邏を買って出る。
小さな漁村と言えども、ぐるりと歩いて回るとなればそれなりの距離がある。時折擦れ違う村人達の表情が目に入る機会は、何度も訪れた。
「ヴァンパイアの支配……酷いな」
老若男女全ての村人に共通する、生気の失せた暗い面持ち。ただ息をして、まだ止まっていないだけの命。力無き人々や領地を正しく護るべき者が居ないこの世界は、騎士たるクローエンの目にどう映ったのか。
この世界の人々が抵抗できないなら……私たち猟兵が、奴らの罪を裁こう。
そう決意を胸にした、その時だった。
「う、うわ、ぅわ。わあああぁぁあ!!」
耳を劈く悲鳴が響き渡った。即座に声が聞こえた方へと駆けたクローエンは、熊によく似た獣の姿と、腰を抜かした漁師の男を発見すると、即座にその間へと割って入った。
手にした得物はダガーの一振り。あまりにも獣に対して脆弱に見えた武器はしかし、クローエンが手首を閃かせた瞬間に太い頚を落とす銀色の牙と化す。一瞬にして動きの止まった獣の頭は、一呼吸を置いてから思い出したかのようにゴトンと地に落ちた。
重たい音を立てて絶命した熊を尻目に、大丈夫かと背に庇った漁師を振り返るクローエンは、返り血の一滴も浴びていない。
その卓越したダガー捌きは、被害者だけではなく悲鳴を聞いて集まった村人達も確と目の当たりにする事となった。呆然と猟兵を遠巻きに囲んで見遣る村人を招いて、食肉に適しているかどうかと尋ねた後に、屠ったばかりの肉を振舞う為に皮を裂く。
「あ、ありがてえ……あの化けもんどもがあんまり人殺すもんだから、血の匂いに釣られてこんなのまで来るようになりやがってたんだ」
「強いんだな、あんた」
切り分けられる肉を受け取る村人達の目には、感謝の念が強く浮かんでいた。そして、猟兵と呼ばれる者達なら、或いは暴虐に喘ぐこの村を救ってくれるのではないかという期待の色も。
「大丈夫」
村人達の意を読み取って、揺るぎない言葉もクローエンは手渡す。
「私たちは見捨てない。騎士として罪人を斬り、貴方たちを守る」
大熊を相手に苦戦すらしなかった彼女の言葉には、この上なく説得力があった。
ごくりと誰かの喉が鳴る。拭いきれぬ支配者への恐怖を抑えて、今しがた獣から救ってもらったばかりの男の、震える唇が開かれた。
「あんたらなら……あいつらを倒せるのか。倒して、くれるのか」
「うちの息子は、あいつらに殺されて、死んでもこき使われてんだ」
救ってくれ、頼む。一人が望みを口にしてしまえば、それが波のように広がるのは無理からぬ事。取り囲む輪を縮め始めた村人をクローエン一人で往なすのは、獣を相手にしている時よりも梃子摺ったのかもしれなかった。
皆は訴えた。異端の騎士は嘗てこの地を護る騎士だった事を。
皆は伝えた。異端の騎士が手遊びに命を奪いに訪れるのは、いつも月の無い晩である事を。
成功
🔵🔵🔴
第2章 集団戦
『篝火を持つ亡者』
|
POW : 篝火からの炎
【篝火から放たれる炎】が命中した対象を燃やす。放たれた【赤々と燃える】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
SPD : 篝火の影
【篝火が造る影に触れた】対象の攻撃を予想し、回避する。
WIZ : 新たなる亡者
戦場で死亡あるいは気絶中の対象を【自分と同じ姿の篝火を持つ亡者】に変えて操る。戦闘力は落ちる。24時間後解除される。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
猟兵達が漁村を訪れたその日の夜は、真闇であった。
点々、ゆらゆら、篝火が岬の向こうから現われて、次第数を増やしてゆく。
その数はゆうに十を越え、引き摺る足音と一つの蹄音を共連れに漁村を目指している。
吹く風は腐臭を運んで生ける者の元へと届いた。
オブリビオンが辿り着く前にと、猟兵達は村を後にする。奇襲を掛けようとする者は灯台を目指すだろう。正面から対峙して、亡者の行進を阻む事もできるだろう。
持てる力を余さず奮い、篝火を持つ亡者の全てを地に還す戦いが始まろうとしていた。
シェミア・アトック
灯台に陣取る…
大鎌を地面に突き刺し固定、ブラスターを接続して罠が仕掛けられた場所を狙ってセットしておく…
敵が罠にかかったなら、そのまま砲撃…
失敗したなら、敵の密集地帯を狙って砲撃を…
と、武器のエネルギーを交換して…
さあ、蹂躙だ…!
亡者の行進は、酷くゆっくりとした速度で向かい来る。篝火に照らされて橙に染まる襤褸のフード。土に足裏を引き摺る鈍い音。時折、あぁ、とも、うぅ、とも聞こえる意味を成さない呻き声が列の其処此処から発せられていた。
シェミア・アトックは灯台の上に陣取って、反撃の狼煙を上げる手筈を整える。床へと突き刺して固定した愛用の大鎌にブラスターを接続して、手早く光線狙撃銃を組み上げると、銃口を通過予測ルートへと向けた。罠を張るのは、物資と時間が許してはくれなかったが、それでも彼女自身が調査段階で弾き出したルートに狂いが無かった事は、やがて灯台の前を通過する形で射程範囲に入ってきた篝火が証明していた。
「最大出力の砲撃…無事では済まさない…!」
射出される強力な巨大レーザーが補足した標的は、長く伸びた列の横腹、数体の亡者が固まって歩いていた位置だ。
――イィィィィン!!!
強烈なエネルギー波がびりびりと空気を震わせ、直撃を食らった亡者はなす術もなく、膝より上を一瞬の間に失った。何者だ、と誰何の声を発したのは恐らくは亡者を統べる異端の騎士。返事をする義理はないと、手早くブラスターのエネルギー交換を終えたシェミアは、新たな敵を求めて灯台より舞い降りる。
「さあ、蹂躙だ…!」
そのレーザーの光と響き渡った耳慣れぬ高音は、固唾を呑んで灯台の辺りを見守っていた漁村の人々にとっては裁きの雷にも見えただろう。やっと、と呟く者が居た。やっと、これまで恣の悪行を繰り返していた支配者に鉄槌が振り下ろされるのだ。村に満ちたどよめきは、決して絶望から生れたものではない。そこには、猟兵達に対する期待が多分に含まれていた。
成功
🔵🔵🔴
リグレース・ロディット
助けるって決めたんだ。守るって決めたんだ。だからやるよ。頑張るよ。敵は全部倒すから。悪い奴ら嫌い……!
【WIZ】闇に溶ける(マント)で夜の色に混じって奇襲しようとしてみるね……なるべく敵が多い所を狙ってユーベルコードの『赤く煌く影が散る』を使うよ。
ううっ、元が普通の人でも仕方ないんだ。もう敵だから仕方ないんだ!住民だったであろう亡者にはなるべく原形が保てるように攻撃……けど誰かが危険にさらされたときは容赦しないよ。死んだ人より今を生きる人を。天秤に乗せたらそうなっちゃう。許さないで良いよ。
気絶中の人は拷問具で厳重に拘束。戦闘の邪魔にならない場所にぶっ飛ばす。……僕が戦闘の邪魔になったらごめんね
クラウス・ハントハーベン
「まさか今日が襲撃の日だったとは、運がいいのか悪いのか・・・ともかくこのまま漁村を襲わせるわけにはいけませんね。」
ユーベルコード「die Zwang」を使用します。
拘束対象は武器であろう篝火で、糸を巻き付け奪い取ります。
「ちょうど水辺ですしこんな危険な者は捨ててしまいましょう」
また、全ては捨てず敵を視認できるだけの光源は残しておきます(月明りもなく、暗闇になることを防ぐため」
武器のなくなった亡者を優先に人形であるローゼを操り無力化を図ります。
小読・灯
「お父さんもわるい火を持つ人になっちゃった」ね。鎧の騎士は死を振り撒くだけでは飽きたらず、死した者まで使役して村の仲間達を殺させているのね。
鎧の騎士、亡者達の本体を倒さない限りこの事件は終わらないのでしょう。
私の今やるべきことは亡者を取り零すことなく足止めして村を守ること、その姿を見せて勇気づけることね。
今日は大盤振る舞いよ。夢幻を見せるマッチ擦って【属性攻撃】で強化した【ブレイズフレイム】で村へ近付く亡者を私の体力の続く限り薙ぎ祓うわ。
もし、周囲に村人がいたら避難誘導も行うわ。物は壊れても直るけど、人は死んじゃったらどうしてあげることもできないもの。
せめて最後は幸福な夢を見て天に還ってね。
「――何者か!」
怒りを含んだ誰何の声はたった一つ。奇襲を受けても尚、泥人形のように佇むばかりの亡者からではなく、馬上でそれを束ねる黒鎧の騎士が発したものだった。この地に住まう民草の抵抗は、ヴァンパイアの配下に付いた者には取るに足りぬものばかりであったのだろう。全く始めての、脅威となり得る力を目の当たりにした異端の騎士は、引き連れた亡者を嗾けて後退する。手駒は幾らでも作れるのだ、今ある亡者を全て失っても己の無事を優先する――恐らくはそんな腹積もりで。
「まさか今日が襲撃の日だったとは、運がいいのか悪いのか……」
初撃が齎された灯台の方へと、ぞろぞろと亡者が向かって行くのを、小読・灯とクラウス・ハントハーベンは闇夜に揺らぐ無数の火影で確認していた。二人が陣取っていたのは、漁村を背に守る道の只中。
「お父さんもわるい火を持つ人になっちゃった、ね」
あの篝火の中に、村で言葉を交わした少女の父親がいるのかもしれない。異端の騎士は、死を齎すばかりか死者が眠る事すら許さないのだと、灯の胸中には騎士に対する憤りが溢れて今にも炎となって吹き零れそうだった。鎧の騎士、亡者達の本体を倒さない限り、この事件は終わらない――暗がりの何処かに潜む騎士を、一刻も早く屠りたいと逸る心。それでも、足並みを乱す愚を犯す気はない。
「私の今やるべきことは亡者を取り零すことなく足止めして村を守ること、その姿を見せて勇気づけることね」
クラウスと認識を同じくする為、何より灯が自分自身に言い聞かせる為、そう口にすれば、クラウスは優雅に笑んで頷いた。赤い瞳には、どう動くのが最善なのかを見失わない少女への賞賛の色がある。
「ええ、このまま漁村を襲わせるわけにはいけませんからね」
同意をし、そして促す。かの亡者達に打って出るのは今をおいて他にはないと。
敵の待つ地へと駆け出したのは、同時だった。
「――失礼」
敵にすら礼儀正しくそう告げて、クラウスは操作糸を亡者へ閃かせる。糸は僅かな狂いもなく亡者へと到達し、土色の指に握り込まれた篝火をもぎ取った。
「ちょうど水辺ですしこんな危険な者は捨ててしまいましょう」
事もなげに言い放つと、振り子のように糸を繰ると篝火を傍近くへある海の方へと投げ遣り亡者達の視界を奪う。燃え盛る炎は寄せ来る白波の間に落ちて次々と消えた。水面に浮かぶ残滓は最早、ただの黒い木片と化してたゆたっていた。
最低限敵を視認できるだけの篝火を残して、猟兵にとって有利な状況が構築されて行く。呪詛が籠められた闇色に溶ける外套を被り、夜色の一部と化し攻撃の機会を窺っていたリグレース・ロディットも戦況の変容を感じ取った。けれども、一歩踏み出した先に群れている亡者の姿に、どうしても怯んでしまうのは避けられない。
「……助けるって決めたんだ。守るって決めたんだ」
竦む足を叱咤するように、胸に刻んだ決意を呼び起こす。命を捨てないでと、村の人々に願ったのは自分自身だから。命を脅かす敵は、この手で葬り去らなければ。
気持ちを奮い立たせると、闇に乗じて一気に亡者の中へと滑り込む。
「やるよ。僕、頑張るよ。敵は全部倒すから……!」
ぱっ!と、リグレースの手にしていた武器の数々は花開いたように無数の花片へと変じた。それは赤と黒、血と影でできた夕顔の花。少年を中心として巻き起こった花の嵐と見紛うその力は、周囲の亡者を次々と切り刻んで濁った血の花の彩を生み出していった。どうと倒れた数体の亡者の、裂けたフードから覗いた顔は、腐り崩れてはいても人間のそれ。ううっ、と呵責に呻くリグレースだったが、村が危険に晒されている以上容赦はしない。
死んだ人より今を生きる人を。それは当然で、けれども残酷な選択。
「許さないで良いよ」
己が手に掛けた、かつては人間だったものへの囁きは、静かに夜に溶けていった。
亡者が集う中心に赤く煌く影が散ったのを確認したクラウスは、相棒の人形と供に追撃に出た。姫騎士ローゼがハルバードを振るう度に、篝火を失った亡者が体の一部を失い、地へと倒れ伏す。強靭な糸を巧みに操って、青薔薇の姫の凛とした強さを生み出すクラウスは宛ら舞台装置のようでもあり、舞台の主役のもう一人でもあった。
攻防は、亡者の反撃を許さぬ怒涛の勢いを携えて猟兵が圧倒していたが、灯台から漁村へと進路を変え始めた亡者も少なくはなかった。
それを阻んだのは、一体たりとも取り零さないと待ち構えていた灯の生み出す、ありとあらゆる焔の熱だ。
「さあ、今日は大盤振る舞いよ」
唇からは、激しく燃える炎の言葉。擦ったマッチから生み出されたのは紅蓮の炎。ごうごうと渦巻く地獄の業火が、亡者も、亡者の篝火から放たれる炎までをも呑み込み燃やし尽くして周囲を紅く染め上げる。
――最後の亡者が倒れても尚、火勢は未だ衰えを見せなかった。
闇夜を煌々と照らし出す炎が、火の粉を巻き上げて空へと送る。灯と、灯と合流したクラウスやリグレースも、暫し無言でその光景を眺めていた。
「……せめて最後は幸福な夢を見て天に還ってね」
祈りは、届くだろうか。届けばいい。
長きに渡って昏い闇へと囚われていた無辜の人々の魂が、猟兵によって解放されたのは確かなのだから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『異端の騎士』
|
POW : ブラッドサッカー
【自らが他者に流させた血液】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【殺戮喰血態】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD : ブラックキャバリア
自身の身長の2倍の【漆黒の軍馬】を召喚し騎乗する。互いの戦闘力を強化し、生命力を共有する。
WIZ : フォーリングローゼス
自身の装備武器を無数の【血の色をした薔薇】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
👑17
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴
|
「……この先の村の者にでも雇われたか?貴様らは、何に楯突いたのか理解しているのだろうな」
地を這うように低く、罅割れた言葉が響く。放つ音の一つ一つに呪いが掛かっているかのような、酷く耳に障る声であった。
あかあかと燃える大地に影が差し、禍つ鎧を着込んだ騎士が猟兵達へゆっくりと歩み寄る。
行軍に使った馬は、火に怯えて役に立たなくなったのだろう。荒れた道を踏み締めるのは騎士自身の足。
長大な剣を鞘より抜くその姿からは、あらん限りの殺意が黒い靄となって吹き零れていた。
「――我らに逆らったその罪、死をもって償え!!」
イヴ・イルシオン
「この世界のメインディッシュに私の力が通用するか試しに来たですよ」
【武器改造】してアサルトウェポンを組み込んだ『義手』から【一斉発射】しながら標的まで【ダッシュ】
敵に攻撃されそうな位置まで走ったら【残像】を残して自分は背後へ走り『黒鈴』で居合いの構えを取るです
そのまま【怪力】【鎧砕き】【二回攻撃】を乗せたユーベルコードの【弧月斬】を放ち敵を横薙ぎに斬るです
「あなたも死んで償ってもいいのですよ? 興味無ぇですがね」
其処此処に蟠る闇よりも、なお黒き鎧を纏ったその騎士と対峙した猟兵達、その中で真っ先に踏み出したのは誰よりも小さな姿だった。
「この世界のメインディッシュに私の力が通用するかなしに来たですよ」
まるで気負う様子もなく無感情に言い放つイヴ・イルシオンの身の丈は、異端の騎士の半分もない。相対したその光景を、例えば見ていたのが村の者であったなら──惨たらしく切り刻まれるのが少女であると目を覆ったのだろう。
されども現実は。
改造に改造を重ねた銃器より吐き出されるのは、正に弾幕と呼ぶに相応しい銃弾の雨霰。鎧に弾痕が刻まれる鋭い金属音が響き渡る頃には、イヴの姿は異端の騎士の眼前にまで迫っている。
「何っ
……?!」
咄嗟に騎士が薙いだ大剣が捉えたかに見えた姿は残像。微かに響いた、イヴの愛刀【黒鈴】の鯉口が切られる音は異端の騎士の背後から。
「あなたも死んで償ってもいいのですよ? 興味無ぇですがね」
抜刀一閃、少女とは思えない膂力での抜き打ちは堅固な鎧をも通し、巨躯を斬る。
「──弧月斬」
闇夜に疾った鋼の月は、二つ。返す刀でのもう一凪ぎは正確に同じ傷を辿っていた。
大成功
🔵🔵🔵
小読・灯
これ以上悲しい理不尽な死を振りまかせるわけにはいかないの。ここで止まってくださいな。
ねえ、騎士さん。あなたはどうして不幸を振りまくの?
あなたはオブリビオン、もう後戻りはできないのかもしれない。けれど、納得して戦いたいの。教えてくれないかしら?
【ウィザードミサイル】で漆黒の軍馬、騎士、その駆けて行く先へと炎の矢を放ち、できる限り行動を制限するように努めるわ。
私自身は炎に紛れて騎士に近づいて、【怪力】で騎士にしがみ付いて【鎧砕き】で嫌がらせをするの。
騎士が私に攻撃をしてもブレイズキャリバーであることを活かして傷を炎で補って戦い続けるわ。
そして傷口から【属性攻撃】
炎と化して相打ち覚悟で抱きしめるの。
コロッサス・ロードス
「罪とは笑止。ただ平穏に生きたいと願う人々の命を奪う鬼畜の所業……例え立場の違いはあっても、理性と知恵を持つ者であれば忌避して然るべき筈。それを成した貴様こそ罪人であろう」
己の『武器受け』『盾受け』『オーラ防御』等の防御技能を活かす為、また仲間を『かばい』少しでも被害を抑える為にも、敵に肉薄して『おびき寄せ』攻撃を誘う
但し闇雲に突出する愚は冒さず、確実な隊列維持に重点を置いた闘いに徹す
攻撃は『鎧砕き』と『2回攻撃』で相手の防御力を奪いつつ、
【ブラッドサッカー】に対しては、武器の形態変化を素早く『見切り』、可能ならば変化完了前に相打つ『覚悟』で敵の懐に飛び込み『捨て身の一撃』【黎明の剣】を放つ
「人間……風情が
……!!」
ぐらり、と斬撃を受けた騎士の姿勢が傾く。然しヴァンパイア直々に力を下賜されたその生命力と技は、衰える気配を未だ見せていなかった。怒りに任せて鎧纏う足を地へと叩き付ければ、ぶわりと闇が滲んで立ち昇る。いでよ、と怒りに震えた声が闇を呼んだ。闇は、嘶きをもって呼び声に応えた。長い首を擡げて闇より顕現したのは、巨大な漆黒の軍馬。鐙を踏んで再び馬上に戻った騎士の背中の傷が瞬く間に癒える。
しかし、その威容に恐れる者は、猟兵の中には誰一人として存在しない。開かれた戦端を更に抉じ開けるべく、小読・灯は躍り出る。
ここで止まってくださいな、と願う灯の声音は柔らかであれど、守るべき村へと行かせぬ決意は固い。彼女が翳す掌の上に、煌々と燃える炎の矢が現われては浮かび、浮かんでは次が現れる。十、二十、三十……数え切れない焔の鏃を従えて、騎士を取り巻く闇の領地を削るべく狙いを定めたが、射掛ける前に騎士へと聞いておきたい事があった。
「……ねえ、騎士さん。あなたはどうして不幸を振りまくの?」
オブリビオンへ変ずる望みは、不可逆の道を往くに等しい。騎士は人の心を取り戻せはしないのだろう。それでも、納得が欲しかったのだ。
騎士の兜のその奥から、灯へと返されたのは喉に篭る低い笑い声、そして。
「日々食らう家畜の幸不幸なぞ、取るに足りぬ事だろう?」
最早人の心なぞ、僅かなりとも残っていない証左の応え。
これ以上の問答は無用、とばかりに異端の騎士は手綱を強く引いて黒馬を竿立たせる。無数の炎を降り注がれる前に、少女を踏み潰そうと振り下ろされる巨大な蹄。
――酷く重く鈍い蹄の音は、少女の身体から生れたものではなかった。
「笑止」
灯を背に庇い立ちはだかった一人の猟兵が居た。人馬一体となった桁外れの一撃を受け止めたのは、桁外れに鍛え上げられた肉体を持つ偉丈夫、コロッサス・ロードスの盾。決して猟兵が作り出す陣容より突出せず、隊列の維持に心を砕いていたからこそ、その援護は的確に仲間の危機を打ち払う。己が身を、そして仲間を守る能力を磨き抜いたその姿こそが、騎士と呼ぶに相応しくあったのかもしれない。
「ただ平穏に生きたいと願う人々の命を奪う鬼畜の所業……例え立場の違いはあっても、理性と知恵を持つ者であれば忌避して然るべき筈。それを成した貴様こそ罪人であろう」
矜持を失い、忌避どころか嬉々として行うのならば所詮は外道。断じるコロッサスの言葉は揺るぎなき信念に満ちていた。馬脚を弾き遠ざけると、攻撃に転じる構えを取る。
「我、神魂気魄の閃撃を以て獣心を断つ!」
敵の懐は、既に捉えている。顕現せしは、紅き神火と払暁の輝きを宿す神剣。振るえば大気すら割いて焦がす、神の速さを乗せた断罪の一撃。
黒馬の四肢は、蝋を切るよりも容易く断たれ、神火に巻かれて消滅する。
「これ以上悲しい理不尽な死を振りまかせるわけにはいかないの」
属性を御する力を何よりも磨いた灯も、庇われてばかりではない。均衡を失い、再び落馬をした騎士へと放った数多の炎の矢は、その姿が見えなくなるかと思うほどの赤い驟雨を黒鎧の上へと撒いた。
「ガアァァァア!!!」
コロッサスの、灯の、熾した炎が大地を一層赤く熱く染め上げ、騎士の体を包み、周囲を眩く照らして止まず。
足止めなどでは終わらない、大きく異端の騎士の身を削いだその力の名は『覚悟』であった。己の身を顧みず、相打ちすら厭わぬ二人の捨て身の覚悟は、猟兵の勝利に向けて戦局を大きく動かして行く。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ミハル・バルジライ
此の身、民の為の叛旗として非道は断ち截らせて貰おう。
戦況の遷移へは常に留意を。
範囲攻撃に備え、敵及び味方との距離は狭め過ぎないよう心懸ける。
敵の視線や体勢の転換は要警戒、攻撃対象や技の選択に目算立てば回避に努めるよう喚起を促す。
遣り取りを愉しむ余裕は無いかもしれないが、叶う限り奮いはしよう。
咎力封じを以て其の手を鎖し、些少の隙を生じさせる。
微かな嘲笑を以て激昂を誘い、一毫の歪を惹き起こす。
猟兵達が貴様を葬る為の一欠片の布石として。
リグレース・ロディット
(真の姿は全身図参照)
……僕らにこんな事させやがって。ああ、けど終わる。もう終わる。
罪なのはどっちだ!死をもって償うのはお前達の方。来いよデカブツ!!
【WIZ】どっちの花が強いか勝負しようか!挑発する言葉を選んで『存在感』をだして皆がしっかり準備できるように『時間稼ぎ』するね。
ユーベルコードの『赤く煌く影が散る』でフォーリングローゼスに対抗する、のは建前。『ドロップシャドウ』で死角から攻撃するのが狙い。敵の注意が僕にきたらなお良しだよ。その間に他の猟兵達が攻撃しやすくなるだろうし。防ぎきれなかった分は『激痛耐性』で何とかするよ。こんなの痛くないよ。ほらどうした。もっと、もっと、もっと!!!
シェミア・アトック
ミーティアに足を掛け、一気に上空へ…
そのままブースターを噴かせたまま反転して、足を離して高速回転…
他の味方に足止めされている処に、必殺の首刈りを仕掛ける…!
この速度と重み、防げるものなら…!
…ああ、着地は問題ない、慣れてるからね…
成否に関わらず受け身と噴射で衝撃を吸収、即座に接近戦に移行する…
死んでないなら…死ぬまで刈り尽くすのみ…!
緋翠・華乃音
……別に雇われた訳じゃないさ。俺は俺の意志で此処に居る。
……まあ、俺はお前に何か恨みがある訳じゃない――が、その生き様、見るに堪えない。
先ずは遠距離からの狙撃で「先制攻撃」させて貰う。「視力」「暗視」「スナイパー」の技能が有れば当てるに十分だろうから。
そのまま遠距離からの狙撃が通用しそうなら続行し、敵との距離が近くなったら近接戦。ナイフ、鋼糸、拳銃等の多彩な武器を使い分け、着実にダメージを与える事に重きを置こう。
敵の攻撃をよく観察して「見切り」を行い、時に「二回攻撃」を使用する。
異端の騎士を追い詰める熱気とは対照的に、この場においても冷静さを失わない猟兵達も居る。
ミハル・バルジライは彼我の距離が常に一定であるよう間合いを測る。手中に収めるは、咎人を断罪する為の道具。咎を背負うべき者は今、これまでの所業の清算をさせられようとしているのだ。
「此の身、民の為の叛旗として非道は断ち截らせて貰おう」
なれば、猟兵達が騎士を葬る為に、己は布石を一つ打つ。
枷をじゃらりと鳴らしながら、好機を伺うその自若は、集団戦に慣れているが故か。
緋翠・華乃音は身を潜めて、遠距離から隙を窺っていた。視力の強化、暗闇を通し見る力、そして培った狙撃の技術で、スコープ越しに遠い光景を間近に臨む。先陣を切った猟兵が切り結ぶ様子、異端の騎士が発する言葉、華乃音にはどれもが手に取るように把握できている。
「……別に雇われた訳じゃないさ。俺は俺の意志で此処に居る」
誰に聞かせるでもなく独りごちると、白い指が小型の狙撃銃、flexibleのトリガーに掛かる。重く鋭い銃声は、先ず一発。
ゆらりと、炎撃の渦中より立ち上がった異端の騎士の肩口で弾けた金属音。騎士はその攻撃が向かい来た方角へと、『意識』を向けた。――その行為が更なる銃弾を呼び込むとも知らず。
「避けられるものなら――」
避けてみろ。
挑発めいた言葉は標的の耳に届かなかったが、虚空より現われた無数の弾丸は正しくその巨躯へと届けられた。鎧に幾多の傷を付け、継ぎ目より肉体までをも穿つ離束銃雨。極めて精度の高い銃弾の雨は、猟兵が猟兵たる力によるもの。
「おのれ
……!!」
一度ならず二度までも、下等生物に膝を突くのが恥以外の何であるのか。兜の中の双眸を憎悪でぎらつかせながら、猟兵達の絶え間ない攻撃の数々を往なそうと、腕の一振りで呼び出した血色の薔薇。それは黒い鎧を取り巻き、猟兵達を巻き込んで激しく舞った。長大な剣から次々と薔薇は咲き、弾け、血色の防壁と化して華乃音の銃弾をも受け止める。
「許さぬ、決して許さぬぞ!一人残さず我等の手駒に変えてくれる!貴様らも、あの村の愚か者共もだ!等しく死と腐敗の虜囚となるがいい!!!」
激昂した騎士の怒声に呼応して、花の嵐は勢いを増し、猟兵全てを飲み込んで切り刻もうとする。
その、直前に。
「罪なのはどっちだ!」
血色の花嵐へと果敢に飛び込んだのは、リグレース・ロディットだった。揺れる髪は藍から黒へ、少女と見紛うかんばせは、怜悧な青年へ。身の丈すらも変化した、すらりと長い腕と脚。
優雅な佇まいと相反した、圧倒的な威圧感。
――真の姿。猟兵もまた、埒外の生き物である。そう語られる理由が今正にここへ在る。
薔薇よりも鮮やかな赤の瞳を細め、手にした武器を夕顔の花弁へと変じさせるその力は、篝火を持つ亡者に振るった時よりも格段に威力を増して夜気を震わせた。
「死をもって償うのはお前達の方。来いよデカブツ!!どっちの花が強いか勝負しようか!」
「邪魔を、するなアァァァア!!!」
リグレースの挑発は実を結んだが、即ちそれは彼の身に異端の騎士の敵意が全て向けられる事を意味する。
薔薇の花弁が肌の上を滑る度に、細く深く傷が刻まれる。
こんなの痛くないよ、と更に注意を己に向けようとする言葉は、半分だけは本物だった。が、激痛に耐え得る能力を身に付けてはいても、全く何も感じなくなる筈もない。積もる苦痛にそれでも耐えるのは、他の猟兵達に攻撃のチャンスを作り出す為だ。
「ほらどうした。もっと、もっと、もっと!!!」
少年の献身には、少女が応える。
一番に屠る相手をリグレースと定めた騎士の目には、シェミア・アトックの姿は映っていない。
プラズマブースターを備えた愛用の鎌、ミーティアに足を掛けて上空への跳躍を果たし、噴かせたブースターの勢いに任せて反転する。そして夜空の高みから地上を目指す文字通りの急転直下。狙うはこの地の悪しき支配者の、その首ひとつ。
「この彗星は、首を刈り取る死神の一閃…!」
ブースターから噴出す光は箒星の尾。輝く軌跡を残し、振り下ろされる必殺の刃。断罪のギロチンの如き斬撃は、騎士の首を半ばまで裂いて、地を噛む前にシェミアの手中に戻る。着地は危うげなく、音もなく。
異端の騎士は最早声を発さなかった。否、発せなかった。ごぼごぼと赤黒い流れを喉元から胸へと滴らせ、ぐらりと傾く。
それでも、首の皮一枚。僅かに残った執念が、己が首を刈ったシェミアへ報復を果たさんと最期の足掻きを見せた。
ギ、ギと歪に回る首、少女へと伸ばされる血塗れの手。
――がしゃん、と。その手首に重い枷が掛かったのを、異端の騎士は兜の隙間から垣間見た。その先で、 咎人殺しの業もて騎士の動きを封じ、嘲笑めいて喉を鳴らし騎士を睥睨する男。
「さあ!」
今だ、とミハルの喚起を促す声に全ての猟兵が応える。
近接戦に移行を済ませたシェミアが。
ありとあらゆる武器を手に、駆け参じた華乃音が。
ドロップシャドウを死角まで潜り込ませていたリグレースが。
そしてこれまでを供に戦い抜いてきた者達が。漁村を、この地を脅かしていた支配者を永遠に退けたのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵