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死人と贖罪の鎮魂歌

#ダークセイヴァー



「……っ」
 不意に来た頭痛に北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)が眉を潜める。
 その腰に差された月下美人がまるで、夢の中に吸い込まれてしまいそうな、そんな妖艶な白銀の輝きを発していた。
「これは……惨いな」
 溜息を一つ吐く優希斗の様子を見たのか、何人かの猟兵が集まってきた。
「やあ、皆か。……ダークセイヴァー世界で新しい、オブリビオンが目撃されたのを確認したよ。そのオブリビオンが現れると思われる村の名は、イマジナリィ、と言う」
 一説では此処は、嘗て支配者であるオブリビオン達に対抗するべく興された、ホープと言う名の村だったそうだが……。
「既にとあるオブリビオンによって滅亡させられた。……その筈、何だが……」
 妖艶に輝く月下美人を一撫でしながら行きをつく優希斗。
「……最近になって、旅人達が滅びた筈のこの村の死人達が歩いている姿を見たらしい」
 それは、自らを滅ぼしたオブリビオン達に対する怨嗟の念が凝り固まった亡者達なのか、それとも……。
「いずれにせよ、皆にはこの死人の村、イマジナリィについて、情報収集に当たって欲しい。きっと、そこにはオブリビオンの影もあるだろうから。ただ……」
 そこまで告げて息をつく優希斗。
「……嫌な予感がして仕方ない。どうか皆、くれぐれも気を付けて」
 沈痛な表情の優希斗と月下美人の白銀の輝きに後押しされる様に、猟兵達は優希斗の開いたゲートを潜り、目的地へとテレポートするのだった。


 ……光一つ差す気配のない凍えた土地。
 辿り着いた猟兵達が周囲を見回すが、目的地と思しき場所はない。
 ふと、猟兵の誰かが、近くに村を見つけた。
 現れた喪服だろうか、黒い衣装に身を包んだ男が現れる。
「あんた達、余所者だね、何しに来たんだい? ……何、イマジナリィを探している……?!」
 猟兵の言葉に顔を青ざめさせ、男が軽く頭を振るう。
「悪いことは言わない。あそこに関わるのはよしておきな」
 それでも、と告げる猟兵達に諦めた様に男が息を吐いた。
「探すなら、好きにしな。ただし、中るなら他を当たってくれ。私達は……あそこにはもう、近付きたくないんだ」
 吐き捨てる様に男が呟き、その場を去っていく。
 ……イマジナリィに辿り着くためには、先ずそこの場所を特定する必要があるだろう。
 内心で息をつきつつ、猟兵達は、情報収集を進めるべく、行動を開始した。

 --嫌な予感に、身を震わせながら。


長野聖夜
 --屍の先に在るものは。
 いつも大変お世話になっております。
 長野聖夜です。
 と言うわけで戦闘&心理重視なシナリオをお送りいたします。
 尚、心理重視ではありますが、判定は、やや厳しめです。
 第1章:プレイング募集期間:5月11日午前中迄。
 執筆予定:5月11日夕方~5月12日迄予定。
 プレイングは、この2日間が入るように行いください。
 尚、第2章以降のプレイング及び執筆期間は、その章に入ってからお知らせ致します。

 --それでは、どうか良き旅路を。
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第1章 冒険 『死人の村の噂』

POW   :    実地調査。噂についての情報を足で稼ぐ。

SPD   :    旅人や商人。交渉により外に詳しい者から情報を得る。

WIZ   :    死人の村なら不思議な力を感じ取れるだろう。

👑11
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ウィリアム・バークリー
イマジナリィ――想像上の。オブリビオンに楯突くことはそれほどに厳しいということでしょうか?

宇宙バイクで村々を巡って、イマジナリィで歩く死体を見たという旅人を探して、お話を伺います。
必要でしたら、お食事代くらいは持ちますよ。

聞きたいのは、まず場所ですね。それから、死体が歩いていた時間帯。
それが新しい村人でなく歩く死体だと判断した根拠も含めて。

定住している村人さんにも、お話を聞いてみましょうか。
例えば、この酒場のご主人とか。
イマジナリィの歩く死人のこと、何かご存じありませんか?
これまでに旅人さんたちが話していったりとかありませんでした?

情報が集まったら、一旦集まって入手した情報を突合しましょう。


館野・敬輔
【POW】
アドリブ連携可

村人に正攻法で聞いても拒否されるだけか
それなら、噂話を仕入れて聞き込みの足掛かりにしよう

まず、ホープ、ないしはイマジナリィについて
僕の【世界知識】で知っていることを思い出す

その後、酒場や食堂など人が集まりそうな所へ行き、噂話に耳を傾ける
イマジナリィの話が聞こえてきたら、飲み物を奢って些細な話でもいいから教えてもらおう。(【コミュ力】使用)
場所が聞ければ御の字だが、どんな些細な情報でもいい


待ち受けるオブリビオン
そして優希斗さんの持つ月下美人の輝き

二重の意味で、嫌な予感がしている
この一件が、彼の心を抉ることにならなければいいんだが

…同じグリモア猟兵として、彼のことも心配だ


彩瑠・姫桜
希望が架空に……ね
名前を聞くだけでどうにも複雑な気持ちになっちゃうけど、
ごちゃごちゃ考えるより動くのが大事だし
頑張ってみるわ

情報は、できるだけ足で稼ぎたいわ(POW)
旅人や外に詳しい人からの方が情報は集めやすいかもしれないけど
村の人達が噂をどんな風に認識しているかも知っておきたいのよね

噂は人づての中で変化していくから、
集まる噂で場所情報や村へ抱く感情に
歪みやばらつきがないかも確認しておきたいわ

【情報収集】【コミュ力】【礼儀作法】【第六感】活用
教会や集会所などの日常生活で人々が足を運びやすい場所へ行ってみるわ
教会なら神父、集会所なら長にあたるような管理者の人と、
女性や子供を中心に話をしてみるわね




(「イマジナリィ――想像上の。オブリビオンに楯突くことはそれほどに厳しいということでしょうか?」)
 内心でそんな事を思いながら、ウィリアム・バークリーは余所者への警戒の厳しい村の中を宇宙バイク『ダンシング・スプライト』で駆け巡る。
 ウィリアムがこうしている目的は一つ。
 それは、予知にあったイマジナリィで歩く死体を見たという旅人を探すこと。
 その人物から情報を得られればイマジナリィに関する情報が手に入るかも知れない。
(「此処の村人達は……どうもぼく達余所者に対して警戒心が強い様ですからね」)
 彼等の警戒心を解きほぐすことが出来る手段を用いれば、或いは村人達からもボロが出るかも知れないですけれど。
 そう思いながら、ウィリアムは目的の人物を探す。
 ――そして、その旅人らしき人物は……。
「……何か、僕に用ですか?」
 麻の衣服に身を包み、黒いマントを羽織った青年だった。
 目は警戒心に揺れていたが、その理由は恐らくこの村人達への余所者に対する態度を鑑みれば当然のことだろう。
(「それでも彼を見つけることが出来ただけでも、上出来ですけれどね」)
「初めまして。旅の方ですよね? ぼくはウィリアム・バークリーと申します。あなたと同じで、この辺りを旅している者です」
「……僕はソーティス。ご覧の通り旅人だよ。それで同じ旅人として君は僕を探していたみたいだけれど……どうしてだい?」
 怪訝そうに首を傾げるソーティスと名乗った青年に、いえ、と軽く頷くウィリアム。
「ぼくは、オカルト等に興味を持っておりましてね。それでこの村の近くにあるらしいイマジナリィと言う村で死体が歩いていた、と言う噂話を耳にしまして」
「……!」
 ウィリアムの言葉に、驚いた様に息を呑むソーティス。
(「どうやら、当たりの様ですね」)
 ウィリアムは村にある小さな酒場を指差した。
「必要でしたらお食事代くらいは持ちますから少しお話を聞かせて頂けませんか?」
「まあ、奢って下さると言う事でしたら……構いません」
 曖昧な表情でこそあるが、ウィリアムの言葉を素直に受け入れたソーティスがウィリアムと共に酒場へと向かった。


「悪いな、イマジナリィについては話すつもりは無い」
 渋い顔をしながら答える自分と同い年位の青年。
「そうか。ありがとう」
 会釈をした館野・敬輔の言葉に明らかに安堵した表情を見せて、青年はその場を去って行く。
「やはり、正攻法で聞いても拒否されるだけか」
「……ええ、そうね」
 その男を見送りながら、懐から1枚の紙面を取り出す敬輔を横目にした彩瑠・姫桜が相槌を一つ。
「敬輔さん、それは?」
「ああ、これは僕の記憶だね」
「記憶?」
 敬輔がテレポートされる前に生まれ故郷であるこの世界でホープ及びイマジナリィとはどんな場所だったのかを思い出す為に、書き付けていたメモを横合いから覗きながら、姫桜が軽く首を傾げた。
 姫桜の言葉に、敬輔はうん、と首肯を一つ。
「僕はこの世界の出身だから、この世界を出る前に聞いた事のある話を思い出そうと思ったんだよ」
「それで、何か分かったのかしら?」
 姫桜の問いかけに、いや、と軽く頭を振る敬輔。
「情報はあってない様なものだな。事前調査は予めすませていたんだろう」
「そう……」
 姫桜に敬輔が告げた通り、ホープ及びイマジナリィについての情報はほぼグリモア猟兵と一致していた。
 ただ……。
「強いて気になるところがあるとしたら、ホープはオブリビオン達による世界への侵攻の途中で潰され、オブリビオン側がこの世界を支配する動きの加速の一助を担ったことだね」
「それで……イマジナリィ――Imaginaryって名付けられたと言う事かしらね」
 重苦しいものが漂う姫桜の言葉に敬輔が相槌を打つ。
 その間にも姫桜は一人思考を進めていた。
(「人々の希望として心の拠所となっていたかの場所が滅び、そんな希望は実在しない。そう言うことなのかしらね」)
 その希望が奪われ……所詮希望など架空に過ぎないと嫌と言う程植え付けられたこの周辺の人々の絶望は、どれ程深いのだろうか。
 姫桜が徒然無く思考を続ける間に、敬輔は自分の姿を見て目を合せぬ様にして、ヒソヒソ話をしている人々の会話に聞き耳を立てていた。
(『――次の犠牲者は――』)
(『――ちゃん、かな。それとも――さんか』)
(『でも……最近……』)
「……最近……?」
「どうかしたのかしら、敬輔さん?」
 怪訝そうな敬輔に姫桜が問いかけると、敬輔はいや、と頭を振った。
(「多分僕達が聞いたとしても、この村の人達は今の話に答えてはくれないだろうな」)
 そう結論づけこの場での情報収集を諦めた敬輔が、ウィリアムが見慣れぬ青年と連れ立ち、酒場に入っていくのを見つける。
「あれは……」
「ウィリアムさんね。あの人、この村の人達とは纏っている空気が違うけれど、この村の人かしら?」
「多分死人の村を見た旅人さん、じゃないかな」
 と言う事は、ウィリアムはウィリアムで、何か考えがある様だ。
 敬輔も情報を収集するため姫桜を伴い、酒場へとゆっくりと足を進める。
 と……ふと敬輔の脳裏に過ぎったのは、予知の時の光景。
(「待ち受けるオブリビオン。そして優希斗さんの持つ月下美人の輝き」)
 それは彼がとあるオブリビオンを倒し、その呪詛を帯びたと言われている白銀の妖刀。それが、怪しげに輝いている。
 ――だから。
(「僕にはよく分からないが、二重の意味で、嫌な予感がする。この一件が、彼の心を抉ることにならなければいいのだが」)
 それは、同僚であるグリモア猟兵としてのよしみだろう。
 徒然無くそんな事を考える敬輔に姫桜が問いかけた。
「敬輔さん、どうかしたのかしら?」
「いや……とにかく行ってみようか、姫桜さん」
 敬輔が軽く頭を振り、ウィリアムと旅人……ソーティスの後を追う様に村の酒場へと足を踏み入れた。

 ――黒い帳に覆われた空が、嫌な予感の鐘を絶え間なく鳴らし続けていると思いながら。


 ――酒場は仕事終わりの喧噪などでは無く、静けさに満ちていた。
 正確な時間は分からないが、腹時計や、ウィリアムや姫桜達の時間感覚から察するに……普通であれば仕事が終わり、皆が一息つき、絶望に覆われた中でも何かしらの賑やかさを見せても良い時間帯。
 しかし人々は一様に昏い光を瞳に称え、また新しく現われたウィリアム達余所者に対しても、胡乱げな眼差しを向けてくる。
(「十中八九オブリビオンに怯えているのだろうが。でも、ただ僕達余所者に対して向けられている視線は……」)
「恐怖、不信、嘲笑……そして極々微量な期待と行ったところかしら?」
「そんな感じだな」
 周囲の村人達からの視線に居心地の悪さを感じながらも敬輔の心を読む様に呟く姫桜に頷く敬輔。
「でも……ただ絶望に囚われている人々が抱く期待の光は、希望を見出した者に対して向ける希望と言うよりも……何処か諦念の入り交じった何かの様に見えるわね」
 姫桜の呟きに無言で頷く敬輔。
 そのまま少し離れたテーブル席に着き、周囲に気を配る姫桜。
 ウィリアムが姫桜と敬輔に気がつき軽く頷きを一つ。
 恐らく、此処の村人達は……。
(「何かを隠している様ですが……今はソーティスさんの話を聞くのが先ですね」)
 村人達のヒソヒソ話への対応を姫桜と敬輔に任せたウィリアムは、酒場のカウンターに腰掛けた。
「……ご注文は?」
 冷たい声音の店主からメニューを受け取り、適当に注文を行うウィリアム。
 幾つか品切れしている物もある様だが、それでもソーティスが胃を満たせるだけの十分な量の食事を用意することは出来た。
「どうぞ、ソーティスさん」
「それじゃあ、まあ、ありがたく」
 ジョッキに注がれた麦酒を掲げたソーティスにウィリアムがはいと頷く。
 因みにウィリアムのジョッキに注がれているのはミルクだ。
 未成年である以上、ウィリアムが酒を飲むわけには行かない。
 軽くジョッキを重ね合わせ、麦酒を一口飲み、食事をソーティスがするのを見ながら、ウィリアムが問いかけた。
「先ず教えて下さい。あなたは何処で死体達が歩いているのを見たのですか?」
 ウィリアムの問いかけに、店主が顔を顰める。
 村全体で隠している様な事だから、出来ることであれば止めたいのであろう。
 ただ、関わりたくないと言う感情もはっきりと見て取れ、むっつりとした表情でグラスを拭いていた。
「えっ……と……北東の方、だね」
「……そうですか」
 そこまで告げたところでウィリアムが店主達には聞こえない程度の小声でソーティスに囁きかける。
 あまりこんな話を大声でしていて、敬輔達余所者への悪印象を更に悪化させたくなかったからだ。
 悪化させれば、姫桜達の情報収集にも支障がでそうである。
「時間帯は?」
「……夜明け前、だったかな……ちょっとよく覚えていないな……」
 一息で麦酒を呷ったソーティスにでは、とウィリアムが問いかけた。
「何故、あなたは村人でなく歩く死体だと判断したのですか? そう判断した、と言う事は何らかの根拠がある筈ですが」
「それは……薄らしていたから、だよ」
 ソーティスのたどたどしい説明は、要約するとこういうことになる。
 ――そこにいた村人達は、一部の体が欠損し。
 ――村人達は半透明な姿と化しており。
 ――何か声を掛けようと思ったら、掻き消える様に消えていった。
「その様子を見て、僕は本能的に怖くなって逃げ出したんだ……」
(「これ以上の話をソーティスさんから聞くのは難しいですね」)
 ウィリアムが胸中で一人結論づけ、続けて目前の酒場の主人へと話しかける。
「イマジナリィの歩く死人のこと、何かご存じありませんか? これまでに旅人さんたちが話していったりとかありませんでした?」
「……知らん。俺に聞くな。これ以上聞いたら、店からとっとと追い出すぞ」
 取り付く島もない様子の店主。
 テーブルを叩かないだけマシではあるが、心証はあまり宜しく無さそうだ。
 が、こればかりはやってみなければ分からないことであった以上、仕方有るまい。
 ただ、分かったことは……。
(「この村人達は、イマジナリィのことを知っている。けれども外部の人間に話したくない、と言う事ですね」)
 とは言えそれだけでも十分な収穫だと思い、一先ずソーティスとの食事に興じるウィリアムだった。


 ウィリアムがソーティスから情報を収集する間。
 敬輔と姫桜は周囲の村人達のヒソヒソ話と此方へと向けられる視線を注意深く観察していた。
 ウィリアムがソーティスに話を聞く間も、村人達のポソポソとした呟きが耳に入ってくる。
(『やっぱり今度は――ちゃんが』)
(『いや、もしかしたら……』)
 次に聞こえた言葉に敬輔が思わず姫桜と顔を見合わせた。
(『彼等を差し出せば、良いかも知れない』)
「……それはどう言う意味かしら?」
 村人達から聞こえたヒソヒソ話の中に、聞き捨てならない話を感じ取った姫桜が少々感情的になりながらその話声のしたテーブルへ。
 敬輔も思わぬ情報に面食らいつつも放置しておく訳にはいかず、唖然とする姫桜が飛び込んだ村人達の輪へと話しかけた。
「彼等を差し出せばって言ったけれど、それは僕達の事かな? 詳しく話を聞かせて貰えないかい?」
 問いながら、敬輔がお酒を注文。
 ウィリアム達の話の輪から抜けられて明らかに安堵した表情の店主が自ずから、お酒を村人達分持ってくる。
 目前に置かれた麦酒に男達が恐る恐るながらも手を付けるのを確認しながら、敬輔が話の続きを促す。
 姫桜はその村人達の様子をずっと観察し続けていた。
「な、何のことはねぇよ。ただ……アンタらを差し出せば、お館様も喜ぶんじゃねぇか、と……」
「お館様……」
 初めて出てきた単語に戸惑いながら姫桜が繰り返す。
 村人の一人が漸く少し肩の力を抜いたか、話し続けた。
「お館様はお館様だ。あの方は強い奴等を殺すことが……」
「おっ、おいバカッ! それ以上言うな!」
 堰を切って話し始めたその男を、パカン、と隣の男が殴りつける。
「これ以上、そんな話をしてみろ! 俺達ができるのはあの子達を捧げてその魂をお鎮め頂く事だけだろ! じゃないと……」
「バッ、バカお前達!」
 自分が告げたそれにしまったという表情になる殴りつけた男を別の男が慌てて遮る。
 シン、と静けさが周囲を覆い、気まずい空気がその場を漂い始めた。
 これ以上話を聞くと、却って話が拗れてしまいそうだ。
「悪かったな。変なことを聞いて」
 敬輔がそう呟き息を一つ吐く。
 それまでずっと彼等の様子を見ていた姫桜も又、ごめんなさいね、と小さく呟いた。
(「この人達の感情の動きは大体読めたものね。それと、イマジナリィ……かつてホープと呼ばれた場所が滅ぼされたことによる絶望の深さも」)
 ――お館様。
 そう呼ばれた存在の逆鱗に触れれば彼等は殺される。
 その怒りを鎮めるために彼らは強き者や少女と言った貢物をお館様の所に送り出す。
 その受け取り場所として指定されているのが恐らくイマジナリィなのだろう、と。
 店主もウィリアムとソーティスへ冷たい視線を向けていた。
 どちらにせよ、これ以上の情報を得ることは難しいだろう。
 そう判断した敬輔達は、食事代と酒代を置き、酒場を後にする。

 ――情報は、ある程度手に入った。

 あとはこれを共有し、他にもこの村に来ている猟兵達に任せる。

 ――そう、結論付けながら。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

リーヴァルディ・カーライル
…ん。死者の村ね…。
怨念に導かれて甦ったのか、死霊術師に操られているのか…。

いずれにせよ、このまま捨て置く事はできない。
死者の安息の為に。そして今を生きる人達の為にも…。

“精霊石の宝石飾り”に魔力を溜め、
精霊を誘惑して村の位置を把握できないか試みる

…第六感を頼りに雑多な情報の中から目当ての情報を見切り、
“葬送の耳飾り”にも聞き耳を立てて情報を集めよう。

…闇の精霊、死の精霊。私の声に応えて…。
母なる大地の包容から離れ、死の眠りを妨げられている者達の居場所を教えて…?

…手に入った情報は他の猟兵と共有し、
村のある方角まで【血の疾走】で転移。
可能なら【常夜の鍵】で他の面々も一緒に転移させておく…。


ガーネット・グレイローズ
滅びた村。彷徨う亡者…。この世界では、そう珍しい話でもないか。では調査を始めよう。

【WIZ】
村の周囲を歩き回り、〈第六感〉で霊的な気配を
感じ取ってみよう。刀を抜き、【妖刀の導き】でこの一帯の
〈呪詛〉をかき集めてみるぞ。うまく亡者の霊を実体化
できればいいのだが…。
亡者と会話可能ならば、この村で起きた出来事や
オブリビオンについて情報を収集。もしこちらに危害を
加えてくるのであれば、各種の武装で迎撃だ。

時間が許すならば民家に入り、〈世界知識〉で
当時の村人の暮らしぶりを推理してみよう。

亡霊が力を失い姿を消したら、村の入り口に花を供えるぞ。
「生者の私に出来るのは、今はこれぐらいだ」


荒谷・つかさ
(月下美人の輝きを思い出しつつ)
……また、覚えのない記憶。
さっきの優希斗と似た、辛そうな表情の青年に送り出される記憶。
記憶の『私』は、彼に終ぞ伝える事が出来なかった言葉があった。
『――貴方だけの罪では無いわ。■■先輩』
……いけない、今は目の前の事に集中しないと。

捜索するなら、手数を増やしましょうか。
【百騎野攻・獣神突撃】を発動し、「神威」「疾風」「瑞智」を其々39体ずつ分身させるわ。
「神威」の本体は私の足代わりに、分身達は他の猟兵の足が必要な時自由に使えるよう提供
「疾風」は空に放ち高空偵察による情報収集
「瑞智」は村に潜ませ、村の中に怪しい点があれば見つけ次第案内させる




『――貴方だけの罪では無いわ。■■先輩』
(「……また、覚えのない記憶」)
 優希斗に送り出される直前に妖艶な輝きを発した月下美人の事を思い出しながら、荒谷・つかさは夢現な中でその記憶と対峙する。
 ――それは、青年。
 先ほどテレポートによって送り出してくれたグリモア猟兵である彼によく似た、辛そうな表情の青年に送り出される記憶。
(「あの記憶の中にいる『私』は……彼に終ぞ伝える事が出来なかった言葉があったわ」)
 その言葉は……。


「つかさ、大丈夫か?」
 ガーネット・グレイローズの呼び掛けに、つかさがはっ、とした表情で我に返る。
「……ん。疲れているのなら無理をしなくても」
「ごめんなさいね、リーヴァルディさん、ガーネットさん。何でもないわ」
 ある人物に操られたオラトリオの亡霊達を倒す為に共に戦った、リーヴァルディ・カーライルと、ヒーローズアースでとあるヒーローとヴィラン、そしてそこに介入してきたオブリビオンとの戦いに同道したガーネットの呼び掛けに、軽く頭を振りながらつかさがそう返す。
(「……いけない。今は目の前の事に集中しないと」)
 分からない記憶については、今考えても仕方のない事だから。
 つかさが気を取り直すのをちらりと見ながら、ふぅ、とリーヴァルディが小さく息を吐いた。
「……ん。死者の村、ね……」
 果たしてかの亡者達は、怨念に導かれて甦ったのか、それとも死霊術師に操られているのか……。
「まあ、この世界ではそう珍しい話でもないか。他の仲間達が、どちらの方角にあるらしいのかは教えてくれたからな」
「……ええ、そうね」
 リーヴァルディの言葉の意味を読み取り、同意する様に頷いたガーネットの呟きにつかさも生返事を返し、天空へと両手を掲げその詠唱を諳んじた。
『秘技、百騎野攻……おまえ達、やっておしまい!』
 つかさの命に応じ、彼女の右腕に巻き付いていた白き大蛇『瑞智』、その左肩に乗っていた鷹『疾風』、そして宇宙空間すら疾走する名馬『神威』。
 つかさの使い魔達は、主の命に従い自らの眷属たる模造品を39体ずつ作り出した。
「シャーッ!」
「ピィー! ピィー!」
「ブルヒヒーン!」
 其々の鳴き声は、もはや大轟音にも等しく他の獣達は勿論、村人達でさえ近づくことを躊躇われる程である。
「これは壮観だな……」
「……ん。それで、どうするの?」
 ガーネットとリーヴァルディの呟きにそうねと頷き、呼び出した39頭の馬、神威を指さすつかさ。
「この子達は、あなた達に使って貰えないかしら? 移動も楽よ。後、乗ったままでも其々の探し方に集中できるし、念じれば其方の方に勝手に運んでくれるわ」
「……ん。それは助かる」
「……大蛇と鷹はどうするんだ?」
 ガーネットの問いかけに、そうね、と軽く相槌を返すつかさ。
「瑞智には村を探索させて、疾風には上空から何かないかを確認してもらうわ。でも、私にはこれ以上の事は難しいから、例えば魔力の探索とか……そういうのは、あなた達に任せるわね」
(「元々、この子達を一斉に使うのは慣れていないしね」)
 基本的に力尽くによる突破を好むつかさだ。
 この手法も力尽くではあるが、それを制御するための能力は圧倒的に足りておらず、制御だけで手一杯になってしまう。
「……ん。了解」
「何かあったら、上空を飛ぶ疾風だったか。あの鷹達を通じて連絡を取ることにしよう」
「ええ、頼むわよ」
 そう言って自らと共にある瑞智、神威、疾風を通じて作り出した其々の動物達を制御するべく精神集中に勤めるつかさ。
 集中状態に入ったつかさを置いて、ガーネットがさて、と小さく呟きを一つ。
「情報によれば、確か北東の方だったか」
「……ん。そうね」
 リーヴァルディが小さく頷くのに神威に跨りながら、取り敢えず、と呟くガーネット。
「私はこの村の周囲の亡霊達の気配を感じ取って裏を取ってみよう。リーヴァルディはどうする?」
「……ん。取り敢えず私はこれを使うわ。北東の方、と聞いているし」
 告げながらリーヴァルディは自らの胸を飾る、“精霊石の宝石飾り”をキュっ、と握りしめた。
 虹色の光を放つ精霊石の宝石飾りは、そんなリーヴァルディの想いと意志に答える様に、虹色の淡い輝きを発している。
「分かった。何かあれば、情報を共有しよう」
 ガーネットの呟きにリーヴァルディが静かに頷き、神威に跨り移動を開始しながら意識を集中。
(「……滅びた村。彷徨う亡者……」)
 ふと、リーヴァルディの表情に憂いげな光が宿る。
 この世界で数多くのヴァンパイア……それは過去の亡霊でもあるオブリビオンでもある……を狩り続けてきた。
 それでも絶望に閉ざされたこの世界では、今も尚、無数のオブリビオンやヴァンパイア達が確認され続けている。
 ――狩っても、狩っても……決して終わることのない戦い。
 ……それでも。
(「このまま捨て置く事は、できない」)
それは死者の安息の為であり、同時に……。

 ――今を生きる人達のためにも、必要なことだから。


「……闇の精霊、死の精霊。私の声に応えて……」
 それは、歌う様に囁く様に。
 リーヴァルディが神威を北東に歩ませながら、“精霊石の宝石飾り”を握りしめ、その耳を飾る“葬送の耳飾り”で、周囲に漂う死者達の声に耳を聳てる。
 ガーネットも又村の周囲を神威で走り回りながら自らの第六感を頼りに、周囲に潜むであろう亡霊達の気配を探り。
 ――ふと、強い気配を感じ取った。
(「これは……」)
 自らの直感に身を委ね、その腰から妖刀・朱月を抜き放つガーネット。
 自らの名と同じ宝石と同じ、朱色の妖気を放つ愛刀は、ガーネットの呼び掛けに応じる様に、刀身を朱色に染め上げ輝かせている。
(「……よし」)
『今宵のアカツキは血に飢えているぞ』
 自らの手に軽く傷をつけ、自らの血を鍔を伝って、刃へと注ぎ込むガーネット。
 切っ先から血が大地へと滴り落ち、それが邪気となって周囲へと浸透していく。
 ――少し、して。
『ォォォォォォ』
『我等を呼ぶは、お前か……?』
 現れたのは、中世の騎士を思わせる格好をした数人の男。
 他にも神官服に身を包んだ娘や、弓矢を構えた狩人衣装の青年等もいる。
「お前達は、イマジナリィ……いや、ホープに集った戦士達の亡霊、なのか?」
 ガーネットが問いかけるが、亡霊達は答えない。
 否……答えられないのかもしれない。
『口惜しや、口惜しや……』
『我等の無念、未だ晴れぬ、かの者達に災いあれ!』
『我等はあの者達の希望を担えなかった者……この恨み晴らさずにいられるか』
『許せ、許せない、許さない、奴等は必ず我等の手で……!』
 それは激しい怨嗟と憤怒の念。
 今にもガーネットに襲い掛かってきそうな亡霊達だが、上空から疾風達が見ていることもあってか、ガーネットには襲い掛かってこない。
 ――ただ、叩きつけられる言葉とその念ではっきりと悟れることがある。
 それは、彼ら亡霊達は、一様に最初の情報通り北東のとある一箇所に向けて、彼らが抱えている念を一方的に叩き続けてきている、と言うことだ。
(「……ならば」)
 彼等の呪詛を真正面から受け止めながら、ガーネットが問う。
「私達の目的は、恐らくお前達と同じだ。お前達がそれほどまでに恨み、憎む者達の元へと私達を案内してくれないか?」
『ォォォォォォォ!』
『我等の恨み、憎しみ。晴らす為であれば、我等、汝等の力になること厭わじ』
『許せぬ、許さぬ、殺してやる、殺してやるぞ過去の怨霊ども……!』
 口々に告げる亡霊達に一つ頷き、ガーネットは彼等を引き連れ疾風が飛翔する上空へと視線を移す。
(「生者の私に出来るのは、今はこれぐらいだ」)
 自分を案内するために付いて来てくれることとなった亡霊達を背負い、ガーネットは己が胸にその誓いを新たにした。

 ――この戦いが終わったら、亡霊達の為に、村の入り口に花を供えよう。

 その誓いを。


(「母なる大地の包容から離れ、死の眠りを妨げられている者達の居場所を教えて……?」)
 リーヴァルディの祈りが聞こえたのだろうか。
 風に乗って囁きかける様に、声が走る。
 それは、幼く可憐な……助けを求める悲しい数々の声。
「助けて、助けてお姉ちゃん……」
「死にたくない、殺されたくないよ……」
「嫌よ、嫌……こんな……こんなことって……」
「痛いの……苦しいの……」
 それは間違いのない、悲哀と哀願の綯い交ぜになった声。
(「そう言えば……」)
 村人達から情報を聞き出そうとした班は、気になる情報を引き出していた。
『俺達ができるのは、あの子達を捧げてその魂をお鎮め頂く事だけだろ!』
 つまり、それが意味するところは……。
(「人身御供……ね」)
 恐らくは、そう言う事であろう。
 であるならば、元凶となっているオブリビオンを倒さなければ、死者達が安寧を得ることは決してない。
「……ん。皆、聞こえる?」
 神威の足を止め、上空を舞う疾風を通じてリーヴァルディが呼び掛ける。
 自らの肩に止まっている本物の『疾風』を通じてその疾風と意識を共有していたつかさがリーヴァルディの言葉を掴み取り、ガーネットや他の猟兵達との通信回路を繋いだ。
「ええ、聞こえているわ。思念だけで会話させて貰うけれど、取り敢えず村の中には他の猟兵達が得た以上の情報は無かったわ。ガーネットさんの方は?」
「私の方は、恐らくイ……ホープにいたであろう戦士達の霊と接触した。彼等が道案内してくれることになりそうだ」
 ガーネットがイマジナリィと呼ばず、ホープと呼んだのは、恐らく戦士達の霊への気遣いであろう。
 それを察しながら、リーヴァルディが淡々と言の葉を紡ぐ。
「……私は、声を聴いた。多分……イマジナリィで今も苦しんでいる死人達の声」
「……となると、一度リーヴァルディさんの所に合流したほうが良いかしら」
「ん。そうして貰えると、助かる。もしかしたら……皆纏まって転移できるかも知れない」
 ――死者達の助けを求める声。
 ――自らの村を取り戻したいという亡霊達の激しい怨嗟の念。
 ――そして、村の中で他の猟兵達が得た『北東』と言う情報。

 これだけの情報が集まっていれば、死者達の声を基に座標を特定し、その怨嗟の念によって座標を固定化、そして移動するための『門』を自らのユーベルコード、【常夜の鍵】を使って作り、そこに転移することが出来るだろう。
「……村のすぐ近くまで、だけど」
「それならそこからは私の神威で一走りすれば良いわね」
「では、集まるか」
 リーヴァルディの言葉に、つかさとガーネットが頷き、リーヴァルディのいる村から少し北東に走ったところへと向かう。
 上空から疾風が監視していてくれたため、リーヴァルディを補足することは容易く出来た。
 先程迄情報収集をしていた猟兵達も、何時の間にか集まっている。
「……ん。じゃあ、行くよ」
「頼むわ、リーヴァルディさん」
『ォォォォォォォォ!』
『我らが恨み、憎しみ、等々晴らせし時が来るか……!』
『許せぬ、許さぬ、奴等は我等が一人残らず滅してくれる……!』
「お前達の気持ちは分かっている。だから、力を貸してくれ」
 連れてきた亡者達の念を宥める様にガーネットが溜息を一つ。
 その様子をちらりと横目で見やりながら、リーヴァルディの静かな呪が、辺り一帯に響き渡った。
『……限定解放。駆けぬけろ、血の疾走』
 呟きと共に一瞬だけリーヴァルディの犬歯が伸び、その瞳が深紅に染まる。
 同時に左眼に浮かび上がる魔法陣。
 それは吸血鬼化することによって、流れ出す自らの血の涙を凝固させ、魔法陣へと変形させた転移用の『常世の鍵』
 本来であれば瞬間転移による攻撃を行うユーベルコードではあるが、鋭い頭痛という代償、更に幾つかの条件を満たせばそれ以外の手段にも応用できるユーベルコードは、やはり利便性が高い。
 リーヴァルディの瞳に浮かんだ血色の魔法陣が空中に具現化し、そこに吸い込まれる様にガーネット達が姿を掻き消し、一瞬で村の近くへとワープ。
 更につかさが呼び出した神威に跨り、猟兵達は、イマジナリィの村に辿り着く。

 ――そして、知る。

 誰が誰に対しての『贖罪』を行うのか……その意味を。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『失敗作の少女達』

POW   :    ひとのからだとさようなら
自身が戦闘で瀕死になると【埋め込まれた外なる神の部品】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
SPD   :    かみさまのちから
【埋め込まれた外なる神の部位】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
WIZ   :    ひとのきもち
【人間部分の肉をちぎって投げたもの】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に呪いをばらまき】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

*業務連絡:次回執筆予定は、5月14日(火)夜、5月15日(水)夜、5月16日(木)夜の予定です。それに伴い、プレイング期間は、5月13日(月)8時31分以降~5月14日(火)の18時頃迄です。それ以前にお送り頂きましたプレイングに関しましては、状況によっては再送をお手紙にてお願いする可能性がございます。何卒、ご了承のほどよろしくお願い申し上げます*

 ――イマジナリィ。
『想像上の』或いは、『架空』のと名を変えられたその村には、確かに半透明の村人達がいた。
 ソーティスの言う通り、ある者は部位を欠損しており、更に半透明な姿をした村人達は、成程、確かに『死人』と言うに相応しい。
 その死者達の村の中で、肉体を持った少女達がいた。
『やっと来た』
『やっと来てくれた』
『助けて、お願い私達を助けて』
『殺して、さもなければ殺されて。そうじゃないと私達、永遠に殺され続けるの……』
『死ぬのは嫌……痛いのも、怖いのも嫌……』
 でも、と呟く少女達。
『お館様は私達のことを決して許さない。私達を殺し続ける』
『私達は憎い。私達をこんな目に遭わせたあの村の人達が憎い』
『でも、あの人達は殺せない。殺したら、お館様に私達はまた……』

 ――殺される……ころされる……コロサレル……。

 ……あの村の村人達は、彼女達を犠牲にし続けるという罪を犯し続けた。
 だから、その罪は償わないといけない。

 ――それが、贖罪。
 もし、君達が彼女達を止めなければ、彼女達は未来永劫、お館様のお遊戯に付き合わされ続けるだろう。
 そして、村人達の命を以て、その罪を贖わせる。
 だが……それでも娘達の魂は解放されない。

 ――生者と死者を殺し続け……自らの心を抑制する。

 それが……少女達の言う『お館様』の望みだから。

 ――だから、君達の事は、止める。
 それが猟兵として、自分達ができる最善の手段の筈だから。
 故に、猟兵達は開戦する。

 ――其々の想いを、胸に秘めて。
リーヴァルディ・カーライル
…ん。貴女達の願い、確かに聞き届けた。
安心して…。痛みも苦しみも感じる事無く、終わらせてあげる。

第六感が捉えた殺気や目立たない攻撃の存在感を、
魔力を溜めた両目に残像として可視化(暗視)して見切り、
攻撃の機先を読み、カウンター気味に大鎌をなぎ払い武器で受け流す
呪詛は呪詛耐性で耐え、少女達を傷付けないよう迎撃に徹する

…闇の娘が、精霊達に求め訴える。
私に力を貸して。これ以上、彼女達の魂の尊厳を傷つけない為に…。

吸血鬼化した自身の生命力を吸収してUCを二重発動(2回攻撃)
“闇”属性の“過去を世界の外側に排出する力”を溜め、
怪力の踏み込みで敵陣の中心に接近し“闇の光”を開放する

…眠りなさい、安らかに。


加賀・琴
遅れました。いえ、なんとか間に合いましたか?
ですが、これは……酷い、ですね
贖罪、ですか。果たしてそれで救いはあるのでしょうか

貴女達の恨み辛みを、僅かでも鎮めましょう
大幣と扇を手に【神楽舞・荒魂鎮め】を始めます
巫女としては恥ずかしながら、ユーベルコードとしては一番不慣れで自信が無いのですが、それでも彼女達に破魔の矢を射るよりはいいと思いますので
彼女達以外にも半透明の姿をした村人達も、これで祓い清めて怨みを鎮めて安らかに眠ってくだされば、それが一番なのですが
それでも尚、襲ってくるのなら大幣を影打露峰に持ち替えて、神楽舞の剣舞として迎撃いたします
その場合でも、あくまで神楽舞で鎮めることを目指します


ガーネット・グレイローズ
「……君たち、は」
彼女らが『人身御供』にされた少女たちだと、直感的に悟る。
「私達はその『お館様』に用があって来た。もうこれ以上、苦しむ必要はない」

ひとりでに鞘から抜け出ようとするアカツキを掴み、【妖剣解放】発動。
明らかに彼女らの体は改造を施されている。通常攻撃ならば、無理やりに
再生してしまうだろう。ならば……。
妖気を纏って突撃、<2回攻撃>に<フェイント>を交えて連撃を仕掛ける。
攻撃がヒットしたら、斬撃と同時にアカツキが取り込んだ<呪詛>を
叩き込み、肉体の再生を阻害しつつ追加ダメージを与えよう。
相手の攻撃は<第六感>で見切るか、回避が間に合わなければ
ブレイドウイングによる<カウンター>で迎撃。




「……君たち、は」
 少女達の嘆きを聞き、直感的に最初にそれを感じ取ったのは、ガーネット・グレイローズ。
 ――ォォォォォォ。何と、何という……!
 ――我等が守るべき者を冒涜するか……!
 ――口惜しや、口惜しや……!
 リーヴァルディ・カーライルによる限定解放・血の疾走の転移のための道標となった自らの村を取り戻したいという亡霊達の激しい怨嗟の念達が、その悪魔の所業を見て雄叫びを上げる。
 そしてその亡霊達の激しい怨嗟の念に脈動する様に……。
 ――ドクン。
 ガーネットの妖刀・アカツキが、ひとりでに鞘から抜け出そうとしていた。
(「くっ……待て、朱月……!」)
『助けて、お願い私達を助けて』
「……ん。貴女達の願い、確かに聞き届けた」
 泣き笑いの表情を浮かべている『かみさまのからだ』を埋め込まれ、改造されてしまった少女達を見ながら、あやす様にリーヴァルディが囁きかける。
 リーヴァルディと共に転移してきた他の猟兵達も、其々の想いと共に、既に他の少女達と先端を開いていた。
(「それだけじゃない、わね」)
 恐らく、限定解放・血の疾走による転移によって、グリモア猟兵がイマジナリィの所在地に気がついたのだろう。
 リーヴァルディ達に呼びかけられた少女達の声、そしてガーネットと共にあった怨念達を頼りに、猟兵達の援軍が舞い降りた。
「遅れました。いえ、なんとか間に合いましたか?」
 ふわり、と天女の様に降り立った加賀・琴の姿を見て、リーヴァルディが静かに首肯を一つ。
「……ん。そうね」
「事情は聞き及んでおりますが、本当にこれは……酷い、ですね」
 溜息を吐きながら神楽扇と大幣を両手に構え、フワリ、とそれらをはためかせる琴。
「ああ……だから、早く解放したい」
 ガーネットが妖刀・アカツキ……否、妖刀・朱月を改めて鞘から引き抜く。
 その刀身を覆う、赤黒く輝く怨念達の塊を、自らの体の内に宿して。
 ――ドクン。
 夜魔の外套に施された刺繍とボタンが、それに呼応する様にガーネットの全身を蝕んでいく。
 その姿を見て、少女達は囁き始めた。
『殺さないと、ころさないと、コロサナイト……』
『私達が、殺されちゃう、ころされちゃう、コロサレチャウ……』
『助けて、たすけて、タスケ……』
 泣き笑いの少女達の表情が、まるで、狂ったデッサンの様になっていく。
 ――それは、彼女達がその体に埋め込まれた『かみさま』達に最期まで残されていた自我をも喰われていく様で。
『お、お館様、お館様、お館様』
「私達はその『お館様』に用があって来た。もうこれ以上、苦しむ必要はない」
 少女達の様子に、塞ぎ込まれる様な形容し難い胸の痛みを覚えながらガーネットが静かに呟き、タン、と少女達に向かって駆けだし。
「安心して……。それ以上、痛みも苦しみも感じる事無く、終わらせてあげる」
 祈る様に静かに目を閉ざしてリーヴァルディが祈りを捧げ。
「貴女達の恨み辛みを、僅かでも鎮めましょう」
 フワリと巫女服を翻しながら、琴が静かに神楽舞を踊り始めるのだった。


(「明らかに彼女らの体は改造を施されている。通常攻撃ならば、無理矢理に
再生してしまうだろう。ならば……」)
 全身に朱色の怨念達を纏い戦場を駆け抜け少女達に向かうガーネット。
『殺さなきゃ……ころさなきゃ……コロサナキャ……!』
『い、いや、死にたくない、殺したくない、殺したい、私を殺し、殺さな……猟兵、憎い、にくい、ニクイ……!』
 意味をなさぬ喚きと共に放たれた自らに埋め込まれた『外なる神の部位』だったが……。
「……ん」
 ガーネットに向かって放たれていたその軌道を、磨き抜かれた第六感と両目に溜めた魔力によって可視化させ、大鎌『過去を刻むもの』を振るって受け流すリーヴァルディ。
 その間にガーネットが肉薄し、一刻も早く切らせろとばかりに唸りを上げる妖刀・朱月を袈裟に振るう。
 超高速で振り下ろした朱月の赤く輝く刀身が少女達の体を袈裟に斬り裂いた。
『あっ……アアアッ……!』
「今、楽にしてやる」
 肩口から胸にかけてを斬り裂かれ絶叫する少女の悲鳴に、ぐっ、ときつく唇を噛み締めながら、先の亡霊達の中で朱月が取り込んだ『呪詛』を傷口から流し込むガーネット。
 ――眠れ、眠れ、眠れ!
 ――許せ、許せ、許せ!
 怨嗟の念達が彼女達に向き合うや否や彼等が感じた悔恨の念が、少女達の体と溶け込み合い、爆ぜた。
『アッ……アアアッ……』
 傷みは、恐らく一瞬だったであろう。
 体内に送り込まれた呪詛に耐えきれず内側から崩壊した少女と彼女の体を苗床としていた『かみさま』が四散し、周囲の少女達とぶつかり合っていた。
(「この想いは……彼等の贖罪、なのでしょうか?」)
 ――ヒラリ、ヒラリ。
 荒ぶる神を鎮める神楽舞を舞い、人々の魂を鎮めんと奮闘する琴が、ガーネットによって放たれた呪詛の中のそれに気がつき、微かに顔を顰めていた。
 ――だが……。
(「果たしてそれで救いはあるのでしょうか……?」)
 ……分からない。
 人は、己が罪を贖うため、何らかの償いを行う。
 或いは誰かの命を奪った報いとして、自らの命を代償に捧げよ、と声高に叫ばれそうする……或いはさせられる者もいる。
 そうすることで人々は罪を贖うとされるが、その先に果たして何が待っているというのだろうか?
 ガーネットが圧倒的な攻勢に転じている一方で、リーヴァルディは『グリムリーパー』で人間の肉を受け流して防御に徹し、少女達の泣き声に混じった嘆きの呪詛を聞き、微かに眉を顰めていた。
『ウ……ウァァァァ、りょうへい、猟兵……!』
『許さない、許して、殺してやる、殺したくない……!』
『イダイ、イダイ、イダイよぉ……!』
(「彼女達を、傷つけたくないの。でも……」)
 少女達の意志に関わらず、自らの人間部分の肉を『神様』によって無理矢理投げさせられてしまうのであれば、全く傷つけないと言う事は出来ない。
 その事実は、身体的には傷を負っていないリーヴァルディの心に微かに重い帳を投げかける。
(「……でも」)
 それでも、少女達を傷つけたくない。
 彼女達の魂の尊厳をこれ以上貶めたくないのだ。
 ――だから。
(「……闇の娘が、精霊達に求め訴える」)
 リーヴァルディは祈る。
『神様』によって操られ、泣き叫ぶ少女達を救うために。
(「私に力を貸して。これ以上、彼女達の魂の尊厳を傷つけない為に……」)
 ――バサリ。
 背中から血色の魔力の双翼……それは、自らの吸血鬼としての力を限定解放している証……を広げながら、自らの両目に蓄えた魔力を解放するリーヴァルディ。
 ――それは、“闇”属性の“過去を世界の外側に排出する力”。
『……限定解放。テンカウント。吸血鬼のオドと精霊のマナ。それを今、一つに……!』
 リーヴァルディが蓄えた魔力を維持したまま、ガーネットの刃と琴の舞によって切り開かれていた道を吸血鬼の持つ怪力を使って踏み込み、敵地の中心へ。
『来ないで、こないで、コナイデ……!』
『殺される……?! コロサレチャウノ……?』
「……違うわ」
 呟きながら、敵地の中央で“闇の光”を開放するリーヴァルディ。
 圧倒的なまでの闇が光となって敵を飲み込む様は、まるで、天災の様で。
 吸血鬼状態でなければ暴走する危険性も伴う程に制御を行うのが難しいユーベルコードを解き放ち、その闇の中に少女達の魂が還るのを魔力を宿す双眸で見つめながら、リーヴァルディは小さく呟く。
「……眠りなさい、安らかに」

 ――と。


 リーヴァルディの解き放った闇の光によって多くの少女達が闇に飲まれていく様をその黒い双眸でしっかと焼き付ける様に見つめながら、神楽扇を翻し、大幣を振るい、薄く透き通った天女の羽衣をヒラヒラと風に靡かせ荒ぶる神々をも鎮めるとされる舞を舞う琴。
 何処か憂いと悲しみに満ちたその舞は、ガーネットの持つ妖刀・アカツキで斬り裂かれ更に霊達による呪詛で苦しみながらも消えていった少女達、闇の光によって世界の外に排出された少女達の心を慰めるのに、十全たる効果を発揮していた。
(「恥ずかしながら、ユーベルコードとしては一番不慣れで自信が無く、それでも彼女達に破魔の矢を射るよりはいいと思っていたのですが……まさか、これ程とは」)
 既に改造され、人では無くされてしまっていた少女達のその魂を安らげさせる為に、この舞は大きな意味を成していた。
 苦しみ、喘ぐ少女達の魂が、少しずつ、少しずつ、穏やかになっていく。
(「つまり……彼女達には必要だったのですよね」)
 即ちそれは、『安らぎ』
 それは浄化、撃破という形だけで無く、少女達の魂……尊厳と呼ばれる大事な場所が眠ることの出来る揺篭の事。
 リーヴァルディの闇の光による浄化、ガーネットの妖気による攻撃によって漸く『真の死』と言う一つの収束を得た少女達の魂は、琴の舞う神楽舞によって癒されていく。
「……ん。琴」
「はい。彼女達はリーヴァルディさんとガーネットさんのお陰でその力を失い、私の舞で安らかな眠りにつけた様ですが……半透明の姿をした村人達は、流石にこれだけでは、眠りにつくことが出来ないようです」
「……となると、私達が行くべき所は……」
「……ん。全ての元凶の元、ね」
 ガーネットの呟きに応じる様に。
 つっ……、と寿命を削る代償として、口から滴っていた血を拭ったガーネットの妖刀・朱月の刀身が赤く輝いた。
 その周囲に纏われているのは、赤黒い妖気。
『ォォォォォォォォ!』
『我等が怨念、無念……今一度晴らしてくれる……!』
『口惜しや、口惜しや……! かの者に、奪われずに済むはずであった命でさえ……! この恨み晴らさずにいられじか……!』
 亡者達の声が朱月を通して響き渡るのをガーネットは感じ、リーヴァルディはその左目に刻み込まれた聖痕……魔法陣を起動させ、周囲の気配を感じ取った。
「……ん。多分、村の最奥部に」
(「でも……この場所は……」)
「どうかしましたか、リーヴァルディさん?」
 琴の問いかけに、リーヴァルディは軽く頭を振った。
 精霊石の宝石飾りが虹色の輝きを放ち、何かを囁きかけてきている。
「……ん。でも、行ってみないと分からない」
「……そうですね。確かにこの邪気は気になりますが……」
(「この先に待つのは一体何者、なのでしょうね?」)
「行こう。リーヴァルディ、琴。私達は……決着を着けなきゃ行けない。……『お館様』と」
 ガーネットの呼びかけに応じ、周囲の他の猟兵達の戦いの音を聞きながら、リーヴァルディ、ガーネット、琴の3人はその場を駆け抜ける。

 ――少女達を改造し、自らの玩具となした全ての元凶足るオブリビオンの元へ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ウィリアム・バークリー
死にたくても死ねないのは辛いよね。ぼくらがきちんと、骸の海へ帰してあげるから、そこで眠りについて。

スチームエンジンとトリニティ・エンハンスで、攻撃力向上。
Active Ice Wallを地面に刺すんじゃなく、宙に浮かぶ氷盾として生成。浮遊するそれは、他の猟兵の指示でも動くようにします。自由に使ってください。
その氷塊群の中にIcicle Edgeを潜ませて、少女の中の前にいる個体から氷槍の集中攻撃をかけて討滅していきます。

足下に呪いが広がったなら、地面に手を突き、サムライエンパイアで体感した地脈の力を土の「属性攻撃」で操って、呪われた領域を少女たちのいる方に押し包んでいきます。
岩の拳、出せるか?


館野・敬輔
【SPD】
アドリブ連携可

酷い…
彼女たちが殺しても、彼女たちが殺されても
どちらになっても「お館様」とやらの思い通りじゃないのか

彼女たちを差し出して安寧を図った村人の罪も重い
でも、全ての元凶はオブリビオンの圧政にあるだろう

お館様への怒りをぐっと抑え
彼女たちに真っ直ぐに黒剣を向ける
…ここで止めて、解放してあげるから

攻撃は「範囲攻撃、鎧砕き、生命力吸収」で
数人ごとにまとめて黒剣で真横に薙ぎ払う
少しでも早く終わらたいから、容赦しない

回避は【絶望の福音】頼み
避け損ねても「オーラ防御、激痛耐性、呪詛耐性」でぐっと耐える

彼女たちを斬る未来が見えるたびに、唇を噛みしめる
…彼女たちの未来を断った罪は、僕も被るから


アンナ・フランツウェイ
人身御供にされた少女…。同じ世界に棄てられた者として親近感を感じるけど、いや、だからこそ彼女達を止めたい。世界に棄てられた者として、ただあなた達を地獄の苦しみから救う為に。

少女達が動き出す前に【先制攻撃】。【処刑斧・ロストクロニクル】を振るい、【なぎ払い】【範囲攻撃】で周囲にいる少女達をなぎ払って行くよ。
命中したら【生命力吸収】で、確実にトドメを刺す。

神の部品が召喚されたら【断罪式・彼岸花】を発動、向かってくる神の部品を処刑器具で処断していく。

少なくともこれであなた達が犯した罪は祓われた。後はあなた達を利用したオブリビオンを断罪するだけ。…あなた達の代わりに、棄てられた者の怒りを教えてやる。




「酷い……」
 少女達の惨憺たる様子を見ながら、ゴクリ、と生唾を飲み下しつつ呟いたのは、館野・敬輔。
『助けて、お願い私達を助けて』
「うん……私達が止めるよ。必ず、この手で」
 敬輔がその呟きを聞いて、目を見開く。
 ――10秒先の未来を見る事が出来る……その瞳を。
 その目に映ったのは……一つの光景。
 翡翠色の髪の黒と白の翼の少女が、彼女達の背後に現われ……大上段から処刑斧・ロストクロニクルを振るい、少女達の命を奪う姿。
 振り下ろされた処刑斧を通して、『神様』と無理矢理くっつけられた少女達の肉を斬り裂き骨を断つ感触が、まざまざとアンナ・フランツウェイの腕に伝わってくる。
(「同じ世界に棄てられた者として親近感を感じるけど……」)
 先制攻撃、とばかりに振り下ろされた一手で少女達の態勢を崩し、範囲攻撃の中心にいた何人かの少女達の生命力を吸収して消滅させながら、アンナが声を張り上げんばかりの勢いでいや、と叫んだ。
「だからこそ彼女達を止めたい。世界に棄てられた者として、ただあなた達を地獄の苦しみから救う為に……!」
「アンナさん……そうですね。死にたくても死ねないのは辛いですよね」
 息を一つつき、ルーンソード『スプラッシュ』を抜剣、その先端で青と若葉色の混ざり合った魔法陣を描き出すウィリアム・バークリー。
 既にウィリアムのルーンソード『スプラッシュ』に取り付けられたスチームエンジンは唸りを上げて起動させられ、ウィリアムの周囲を風の精霊達が覆い、その魔力を更に押し上げている。
「くそっ、幾らそれしか方法が無いといっても……でも!」
 ウィリアムの意図に気がつき敬輔が軽く唇を噛み締め怒りに身を震わせた。
 それは彼女達に処刑斧・ラストクロニクルを振り下ろし機先を制したアンナや、今、正しく無数の氷塊による氷の盾を作り出そうとしていたウィリアムに対して向けられたものではない。
 彼女達に埋め込まれた『神様』……それを埋め込み、未来永劫死ねない体にした黒幕のオブリビオン。
 そして……。
(「彼女たちが殺しても、彼女たちが殺されても……」)
 いずれにせよ、彼女達の言う『お館様』の掌の内だと言うことに気がついた自分自身に対しての怒りであった。
 取り分け彼女達の言う『お館様』への怒りは一入だ。
 敬輔の家族を奪ったのは、オブリビオンであったヴァンパイアである。
 当然であろう。
『助けて、たすけて、タスケテ……』
『あの人達が憎い、殺したい、けれども殺してもまた殺される……』
『猟兵……憎い、にくい、ニクイ……!』
「大丈夫。ぼくらがきちんと骸の海へ帰してあげるから、そこで眠りについて」
 優しく、静かに諭す様に。
 呟くウィリアムに同意する様に、アンナが処刑斧・ロストクロニクルを振るって少女達の体を薙ぎ払っていく。
 ――伝わってくる人間の肉の感触と、少女達の嗚咽と痛みを堪えながら。
「敬輔さんも、分かっているんだよね?」
「ああ……分かっている」
 アンナの呼びかけに赤い左目を見開き、10秒先の未来を見ながら頷き黒剣を陣形を乱す少女達へと突きつける敬輔。
「……Active Ice Wall! 敬輔さん、アンナさん!」
 ウィリアムの呼び出した無数の氷塊を盾に敬輔も地を駆け少女達の群れへと肉薄。
「……ここで止めて、解放してあげるから」
 ――自分達の手で殺すことでしか、少女達を止めることは出来ない。
 それがたとえ『お館様』の望み通りである、彼女達の『死』という形であっても。
 だから……。
「行くよ」
 呟きながら敬輔が黒剣を横薙ぎに振るい、アンナの処刑斧・ラストクロニクルによって陣形を崩された少女達の中で……一撃で死ぬことが出来なかった少女達の何体かを纏めて斬り払った。


『ウア、ウァァァァ……!』
『痛い、いたい、イタイ……!』
『アハハッ、私の腕……私の足……何処に行っちゃったの?』
『助けて、死にたい、殺したい、殺されたくない、死にたくない……助けて……タスケテ……!』
 Active Ice Wallの中に潜ませていた百を優に超える氷の槍、Icicle Edgeにより次々にその身を串刺しにされ、或いは人間の腕を貫かれ痛みに喘ぐ少女達の姿に痛々しい思いを抱きながら、処刑斧・ラストクロニクルを振るって彼女達の生命力を奪い殲滅するアンナ。
「あなた達の想い……痛い程に分かるよ」
 ――両親。
 それはアンナにとって家族で有り、同時に初めての他人である恐らく殆どの者達が一番最初に触れるであろう、外の『世界』
 その『外』の世界に……。
「私も、あなた達と同じ様に弾かれたんだから」
「アンナさん……」
 薄れつつあるとは言ってもそこに含まれている声音は敬輔にも近しいものだ。
 ――それ即ち、憎悪。
 『神様』を『お館様』によって埋め込まれた少女達が、村人達に抱いている感情と程度の差こそあれ、根幹を同じくするものである。
「……彼女達を差し出して、安寧を図った村人の罪も重いよ、アンナさん」
「……そうかも知れませんね」
 少女達の肉体に植え付けられていた神様の手の爪が伸びてくるのを、近くの自らの呼び出した氷塊を盾にして躱しながら呟く敬輔に頷くウィリアム。
(「ですが……実在した『神』に人身御供として少女達を捧げ、自分達の安全を図った方達もいます……」)
 以前に関わった事件の概要を、ウィリアムは思い起こす。
 目前の少女達があの時戦った『彼女』達と何処か重ねながら、ひゅっ、とルーンソード『スプラッシュ』を撥ね上げた。
(「正当な憎悪を抱いていた『彼女』達と異なるのは……この少女達は、自らの意志で村人と、オブリビオンに復讐する道を選ばなかったことでしょうか?」)
 ルーンソード『スプラッシュ』の動きに応じる様に、氷塊の下に潜ませていた複数の極めて低温の氷柱の槍を射出するウィリアム。
 アンナと敬輔によってその身をズタズタにされた少女達の死角から放たれたそれらは、少女達に同化させられていた『神様』の体を貫く。
『あ……ァァァァァァ!』
 悲鳴を上げる少女達の10秒先……自らの黒剣によって斬り裂かれる姿を幻視しながら、敬輔が血が滲む程にきつく唇を噛み締めていた。
「……あなた達の未来を断った罪は、僕も被るから」
『う……ウォォァァァァァ!』
 ――ありがとう。
 ――嫌だ。
 ――憎んでやる。
 ――ごめんなさい。
 ――許して下さい。
 そんな死の間際に人々が抱くであろう、何らかの感情を一切感じさせない原始的な叫びと共に、瀕死の少女達の体がビキビキ、と嫌な音を立てて割れていく。
 同時に飛沫の様に飛び出した人間だった頃の体の塊は、肉塊と成り果て敬輔達に襲いかかるが……。
「……Active Ice Wall!」
 空いていた左手でヒュッ、と空を切ったウィリアムの叫びに応じる様に、無数の氷塊達が飛散した人間の肉塊からアンナ達を守る盾となる。
「アンナさん!」
「……姿を現したね。ならば……これで断罪するよ!」
 ウィリアムの呼びかけに応じたアンナがバサリ、と両翼を展開し、更に自らに埋め込まれた血液媒介装置を起動。
 自らの全身を駆け巡る血を様々な拷問具と化させて、今、少女達の肉体の主導権を完全に奪い、さながら蛹から脱皮する蝶の如く姿を現した『神様』の体を襲わせた。
 赤黒い血色色のギロチンや猫の足、鮮血の鋼鉄処女・改、電気椅子……。
 ――ほぼ一撃で神とそれに取り憑かれた少女達の為に選ばれた数々の拷問具。
 それらはその首を刈り取り、神の部位を根こそぎ斬り裂き、或いはその身を拘束させて電撃を浴びせて感電死させる。
 ただ……それらの拷問具の多くが、苦しませること無く楽に死ぬことが出来る物であった事は……或いは、アンナの中に眠る気紛れな怨念達なりの少女達へのせめてもの手向けなのかも知れなかった。
「……手加減は、出来ないよ」
 アンナや自らの黒剣によって少女達に与えられる10秒後の少女達の『死』の光景を
赤い瞳で見て唇を噛み締め続けながら敬輔が呟き、残っていた少女達を滅ぼしていく。
 その敬輔の意志に応じて自らの呼び出した氷塊達が動き、敬輔への少女達の攻撃を妨げるのを確認し、周囲を見やるウィリアム。
 数多の少女達の肉体が肉塊となって周囲に飛び地上へと降り注いだ結果であろう。
 凄まじいまでの呪力が、この周囲を覆い尽くしている。
 アンナも敬輔も、呪詛と激痛に対する態勢を用いて何とか凌いでいる様だが、特に敬輔の方が消耗が激しい。
 そしてそれは……ウィリアムもまた同じ。
(「けれどもこれなら……やれるか?」)
 呪いに耐えながら内心で呟きながら屈み込み、両手を地面へと置くウィリアム。
 ――ドクン、ドクン、ドクン。
(「あの時感じた地脈の力を応用すれば……!」)
 ウィリアムの内心の呟きに答える様に。
 彼の足下と両掌の下に生まれ落ちる黄色の魔法陣。
 ダークセイヴァーの大地と、自らの中に吸収した地脈の力を一体化させ、大地にばらまかれた呪いと拮抗させてそれを中和するウィリアム。
 流石に少女達の方へとこの呪いを押し返すこと、岩の拳を作り出す事は現時点では難しそうだが……それでもこの呪いによる苦痛を和らげることは可能そうだ。
「ウィリアムさん!」
「後一息です。アンナさん、敬輔さん……!」
 ウィリアムの呼びかけに応じる様に、再びアンナが背の双翼を展開。
『地獄の釜は開いた。断罪の時だ!』
「一気に決める……!」
 アンナの叫びに呼応した血液媒介装置がドクン、と脈を打つと同時に、再び無数の拷問具を展開。
 先程と同じく人を嬲る物では無く、殺すための拷問具達が残された少女達から生命力を奪って滅し更に敬輔の黒剣が、ほんの僅かに息をしていた瀕死の少女達に止めを刺した。
「……どうか、お休み」
 敬輔の言葉に答える様に。
 少女達の姿は、跡形も無く消えていった。


 少女達の最期を看取り、全身を駆け巡る怨念達にその身を蝕まれながらアンナが小さく息を吐く。
(「けれども、これで少なくとも……」)
「あなた達が犯した罪は祓われたんだ。後は……」
 疲労の色を滲ませながらもアンナは立ち上がり、前を見据える。

 ――それは、少女の怨念達が強く、強く呼びかけるとある方角。

 他の猟兵達もまた向かっている其方の方を。
「……絶対に許さないぜ、『お館様』」
 胸中に煮えたぎる憎悪の炎を感じながら敬輔が熱の籠もった吐息を漏らしている。
 敬輔にアンナが静かに頷いた。
「そうだね。後は、あの子達を利用したオブリビオンを断罪するだけだね」
「……急ぎましょう、皆さん」
 ――これ以上の悲劇を繰り返さぬ為に。
 手早く少女達への祈りを捧げたウィリアムの言葉に敬輔が頷き、ウィリアムと共に歩き出し、アンナがちらりと背後を一瞥する。
 ――先程まで、少女達と戦っていた戦場を。
 そして……未だに此処に残る少女達の怨念を。
「……あなた達の代わりに、棄てられた者の怒りを教えてくるね」
 その誓いを口に出しながら。
 アンナもまた敬輔達の後に続いて、静かに奥へと進んでいった。

 ――決着を、付けるために。

  
 

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

荒谷・つかさ
……わかった。
今この場で、お前達を解放してあげるわ。
その先どうするかは……お前達の好きになさい。

【怨霊降霊・迷晴往生】発動しつつ、真の姿を解放
案内役の亡霊たち及び周辺の死人の霊に呼びかけ、力を貸してくれる者を取り込み能力を強化

右手に「零式・改三」左手に「禍月」を装備し、属性攻撃の風の刃を纏わせる
敵陣ど真ん中に突っ込み、大剣と大斧のリーチの長さを活かして舞うように暴れ回る(範囲攻撃・なぎ払い・衝撃波)
怪力で武器を自在に振り回し、守りも鎧砕き技能で破砕
敵の攻撃は見切り、残像の出る速度で躱すか、腕に仕込んだ手甲で防御(武器受け・オーラ防御)
そして斃した敵の霊がもし望むなら、そのまま取り込んで自己強化


彩瑠・理恵
惨い、ですね
お館様……ですか、リエがなにやら感ずるものがあるのか高ぶってますね
でも、今は彼女達に終わりを

スレイヤーカードとダークネスカード、左右の手にそれぞれ持って【オルタナティブ・ダブル】で双方を解放します
私は普段のワンピース姿でバベルブレイカーを
ボクは朱雀門高校制服に鮮血槍と鮮血の影業を

ハハッ、お館様ね。そいつのことが知りたいわ、ボクにとって挑むべき上位者だと訴えかけるものがあるのよ
だから、精々そいつが出てくるように派手に散りなさい!

何時も以上にテンション高いですね、リエ
まぁリエが暴れて追い込んでくれるので、私は待ち構えて全力の一撃を放ちましょう
確か、蹂躙のバベルインパクト……でしたっけ?


彩瑠・姫桜
可能な限り前へ
敵の攻撃は【武器受け】で対応
動きを観察し【情報収集】の上で【咎力封じ】使用
拘束して【串刺し】にする
死者でも人だから、心臓の位置を狙うわね
可能な限り一撃で倒すようにしたいわ


何度対峙しても、やっぱり慣れない

一番怖いのはUDCアース
『普通の『ひと』」と戦う事

次に怖いのがこの世界
眼の前の敵のような『ひと』との戦い
死と絶望、恐怖
人間が持つ、色濃く、どこまでも生々しい感情に触れる事

何度戦いの場を経験しても慣れない
手が震え、足が竦んでしまう
やっぱり怖いし、慣れない

けれど、同時に思う

これは、慣れてはいけないのだ、と

怖いままでいいのだ
そうして、眼の前の彼らの想いをちゃんと受け止める
受け止めてみせる




「……惨い、ですね」
「理恵さんあなた、いつも唐突に現われるわね」
 猟兵達によって生み出された3本の竜の顎。
 その顎の最後の一つとなったその一角を担う彩瑠・姫桜の隣に姿を現した彩瑠・理恵の姿に荒谷・つかさが息を一つ。
 つかさは額に生える角を鋭くさせ、普段は身に纏っている巫女服をはだけさせ、さらし姿を剥き出しにしていた。
 更にその両手を赤い鬼の腕が篭手の如く覆い、髪が黒から銀色に染まる。
『助けて、お願い私達を助けて』
『殺して、さもなければ殺されて。そうじゃないと私達、永遠に殺され続けるの……』
(「……分かったわ」)
 少女達の怨念のざわめきを耳にしながら、睥睨する様に少女達を見回し、口元に微かに笑みを閃かせるつかさ。
 それは死者達を骸の海へと送る、殺戮者の笑み。
 それと同時につかさが先程自分達を案内してくれた亡霊達や、半透明の村人……恐らく彼等もお館様に殺された者達であろう……へと呼びかける。
『無念を抱く迷える魂よ、我が元へ集え……お前たちの怒りも悲しみも、全て私が受け止め、晴らして見せよう!』
『ヲヲヲヲヲヲヲ!』
『許せぬ、許せぬ、許せぬ……!』
『我等の恨み、汝等の恨み晴らさずにいられじか……!』
 呼びかけに応じた亡霊達、普通に生きていたかった村人達の怨嗟の念を取り込み、己の力を爆発的に増幅させるつかさ。
(「それにしても、お館様……ですか、リエがなにやら感ずるものがあるのか高ぶってますね」)
 つかさのその様子を見ながら、理恵はふと自らの内に眠るもう一人の人格、リエを思う。
(「ハハハハハッ! リエ! とっととボクにその体を預けてよ!」)
「リエ、気持ちは分かるのですが、今回は彼女達に終わりを齎すべきです」
 告げながら、その左手に自らの姿が描かれたカードを、右手にリエの姿が描かれたカードを構える理恵。
 その間にもschwarzとWeißを構え、更に桜を象った玻璃鏡の嵌め込まれた銀の腕輪、桜鏡を見やる姫桜。
 姫桜の様々な感情の唸りを表す様に、玻璃鏡の表面にまるで水面に映る月の様な波紋が広がっていった。
(「何度対峙しても、やっぱり慣れないわね」)
 思いながら、手枷と猿轡、そして拘束ロープを射出する姫桜。
 少女達の背中に植え付けられた『神様』の右腕が飛び出し、姫桜の放った拷問具を振り落とすその間に大地を駆け、白き竜の波動を纏ったWeißを突き出した。
 最前線に駆け出す勢いで加速して放たれたそれが一刺しに少女を串刺しにして前線に穴を開ける。
 すかさず周囲の亡霊達を率いて右手に零式・改三を、左手にハルバードタイプの大斧禍月を構えて突っ込むつかさ。
『殺してくれる? 殺される? 殺したい? 殺されたい? いや、殺されたくない……?!』
「大丈夫。直ぐに、楽にしてあげるから」
 突然中央に割り込む様に入ってきたつかさに衝撃を受けたか、我武者羅に拳を振るう少女達。
 ――パチン。
 零式・改三を小指と薬指で握りながら、指を鳴らすつかさ。
 鳴らされたそれに応じる様に、つかさの周囲に呼び出される風の精霊達。 
「荒谷流殺法……影分身」
 風の精霊達に自らの加速を補助させて無数の残像を生み出し我武者羅に放たれた攻撃の軸をずらして避けながら、両手の武器を存分に打ち振るうつかさ。
 自らの体内に取り込んだ亡霊達が風の精霊達と混ざり合って、全てを討ち滅ぼす風の刃となり、少女達を残虐に斬り裂いていく。
『ア……アァァァァァ……!』
 耐えきれず絶叫を上げる少女達の群れに、理恵とリエが同時に攻めかかった。
「ハハッ、お館様ね! そいつのことが知りたいわ。ボクにとって挑むべきオブリビオンだと訴えかけるものがあるのよ!」
 10年以上前に廃校になったとされるとある高校の女子制服に身を包み、鮮血槍とその地面に描かれた血溜まり……鮮血の影業と共に姿を現したもう一人の『理恵』
 それが彼女……理恵のもう一人の人格、リエだ。
「いつも以上にテンションが高いですね、リエ」
 鮮血の影業を無数の杭へと変えて、少女達をリエが貫いていくのを見ながら、ワンピースを翻し、バベルブレイカーから巨大な杭を射出する理恵。
「ええっと、蹂躙のバベルインパクトって言うんでしたっけこれ……?」
 射出された杭が神様と少女が繋がるその中心点を貫き止めを刺すのを見ながら、パチクリと目を瞬かせ首を傾げる理恵。
 一方、最初の咎人封じを塞がれた姫桜は拘束ロープをもう一度射出。
 敵陣の中央で縦横無尽に正しく死を齎す鬼神を思わせる笑みを浮かべて暴れ回るつかさの攻撃から辛うじて逃れ、態勢を整え始めた『神様』達を捕らえてschwarzで心臓を串刺しにする。
 胃から苦い物が込み上げてくるのを感じながら、姫桜は自らの想いを振り払う様に叫んだ。
「眠れよ、死人! 今宵は貴女達を串刺しよ!」
 ――本当に、慣れないわね。
 自らの迷いの象徴とも取れる桜鏡の玻璃色の輝きが益々姫桜の表情を曇らせる。
(「一番怖いのは、UDCアース」)
 ――そこで、『普通の『人』』と戦うこと。
 そこには、何も知らぬままに平凡な暮らしをしていた人々がいる。
 その人達の平穏な暮らし、即ち猟兵になる前に自分が当たり前の様に享受していたものを彼等から奪うことは、猟兵に目覚めなかった自分自身を殺すことと同じだと、心の何処かで思っているから。
 そして、二番目に怖いのがこの世界。
 取り分け……。
(「眼前の貴女達の様な、『ひと』との戦い」)
 彼女達の眼前に聳え立つは。
 ――死と絶望、そして……。
『……嫌。死にたく、シニタク……』
「……恐怖、ね」
 ガチガチと歯の根が合わず、涙を流しながら崩れ落ちていく少女達を見下ろし、零式・改三を振り下ろしてその息の根を止めながら、つかさがふぅ、と息を一つ吐く。
(「どうやら、あなた達も本気で憎んでいる様ね」)
 ――オーバーキル。
 亡者達の力を取り込み、真の姿を解放したつかさに振るわれる零式・改三と、禍月による一太刀は、明らかに一撃で少女達の息の根を止めていた。
 それこそ埋め込まれたとされる、神様の部品を召喚する暇も与えぬままに。
「お館様が出てくるように、派手に散りなさい!」
 哄笑を浮かべながら鮮血槍をサイキックエナジーで動かし少女達を薙ぎ払うリエ。
 敵陣の中央からつかさが少女達を切り崩し、逃げだそうとした少女達、或いは神様の欠片達を、リエや姫桜、そして後ろで待ち構えていた理恵が次々に串刺しにして潰していく。
 それが、つかさ達の連携攻撃。
 その様は、正しく蹂躙と呼ぶに相応しいだろう。
 けれども姫桜の表情は決して晴れない。
 schwarzとWeiß越しに感じられる肉と骨を貫き、心臓を突き通すその感触の生々しさに心を蝕まれ、恐怖を覚える。
『アッ……アアッ……』
『シニタク……シネテ……』
『コ……殺す……コロシテ……ころされて……?』
 笑った様な表情を浮かべていた少女達の目から完全に光が消え、そしてグズグズと肉塊となって崩れ落ちていく。
 それは自分の体に痛みを覚える時よりも遙かに『死』への恐怖を実感させてくれた。
 ――膝が笑い、schwarzとWeißを取り落としてしまいそうになる程に手の震えが止まらない。
 それは、死を齎した事による悦びなどでは断じて無く。
 ただただ、自らが齎す『死』という事象への恐怖故に。
(「やっぱり怖いし、慣れないわね……」)
「理恵!」
 リエとつかさに最前線を任せ、自らは逃げてくる敵に対してバベルインパクトを射出して止めを刺すという役割に徹していた理恵に向かって、リエが仕留めきれずまだ息があった少女達から放たれた無数の『神様』の欠片。
 その欠片から最愛の妹を守るべく、恐怖に震える足を叱咤して、姫桜が前へと立ちはだかり、風車の要領で二槍を旋回させてそれらの攻撃を受け止めた。
「あなた達。私に背を向けたら、どうなるのか分からないのかしら?」
 涼やかな声で呟き、背筋が凍りそうな微笑みを口元に浮かべたつかさが零式・改三と禍月をその場で回転。
 纏わせた風の精霊達がそれに応じる様に暴風となり、つかさに背を向け姫桜を狙う少女と、リエが倒しきれず、神様の部品と化した少女達を襲った。
 更につかさが自らの膂力を生かして空気を断ち、真空状態を作り鎌鼬を召喚。
 召喚された鎌鼬が、突如として背後から放たれた暴風によろけた少女達の背後から襲いかかり、少女達を残虐に切り刻んだ。
「姉さん」
「ええ……そうね」
 バベルインパクトから杭を射出、少女達を貫く理恵の言葉に頷き返しながら、姫桜が二槍をつかさによって体勢を崩した少女達に突き立てる。
(「でも……これは……」)
 死んでいる筈の彼女達の生暖かい血を感じ、思わず力を抜きそうになる姫桜だったが、そんな彼女の動揺を読み取る様に桜鏡の表面が玻璃色の揺らめきを示し、思わずハッ、とした表情になった。
 ――慣れてはいけない。けれどもそこから目を逸らしてもいけない。
 怖いままで良いけれど……眼前の彼女達の想いをきちんと受け止めなくては。
 もしこのまま恐怖で力を抜き、彼女達に止めを刺さなければ、それは神様の部分を再び周囲に解き放ち、彼女達を尚、長い時間苦しめる結果になる。
「そんな事をさせるわけにはいかないもの……!」
 吐き出す様な、姫桜の想い。
 それに呼応する様に、桜鏡の表面が玻璃色の澄んだ波紋を広げていく。
 玻璃に宿された己の深淵、そしてそこにある自らへの誓いを思いだし、グリグリと二槍で少女達の傷口を抉る姫桜。
 瀕死一歩手前であった少女達の心臓を貫いた二槍による傷口を抉る攻撃は、つかさの放った鎌鼬によって瀕死になっていた少女達の止めを刺すには十分だった。
 ……その一方で。
「ハハッ! もう終わりだよ、君達は!」
 リエが鮮血槍をグルグルとプロペラの様に旋回させて、周囲に鮮血の影業で作り出した血の蛇達を解き放ち、少女達の『神様』の部分を食らい。
「……もう、貴女達の役目は終わりよ。お休みなさい」
 つかさが呟きと共に自らの宿した怨霊達と共に回転して放った零式・改三と禍月による大旋風切りで少女達を粉微塵に切り刻み、止めを刺したのだった。


 ――ヒュー……ヒュー……。
 静まり返った戦場を、冷たい風が通り抜けていく。
 先程までの戦いのことなど何処へやら。
 シン、と静まり返った戦場が、却って少女達の想いを代弁している様にも感じられて、姫桜の胸に重い澱んだ痼りの様な物が残る。
 既に周囲で展開されていた猟兵達の戦いも、終わりを告げている様だった。
「……終わった、わね」
「そうですね、姉さん」
 ダークネスカードを通して姿を表していたリエが自らの体の中に戻ってきたのを感じながら、理恵が相槌を返すその間に。
 つかさは瞑目し、『その場にいる全ての亡者達』の声に耳を傾け……己の巫女としての力を解放、彼女達に呼びかけていた。
(「聞こえているわね、あなた達」)
 つかさの言葉に応える様に、冷たい風が吹いていく。
 それを全身で感じ取りながら、つかさが自らの体の中に未だいる亡霊達と、たった今滅ぼした少女達の妄念へと意識を向け。
 そして、問うた。
「あなた達の中に、お館様への復讐を望む者はいるかしら? もしいるのだとしたら、私の中に入りなさい。貴女達も、連れて行ってあげるわ」
『ヲヲヲヲヲヲヲ!』
『我等と共に、道を歩む者ありしか?』
『汝等を守れなかった我等と共に……?!』
 つかさの取り込んだ亡霊達の声に応じる様に。
 少女達の妄念の一部が、つかさの元に集う。
『私達は、許さない』
『お館様を、許さない』
『力を貸して。私達を殺した貴女達の力を貸して』
「……良いわ」
 少女達の妄念をも取り込み更なる力を得たつかさは、姫桜・理恵と共に、他の猟兵達も向かっている最奥部へと向かった。

 ――かくて戦いは佳境を迎える……。
 
 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『禍王オメガ・アポレイア』

POW   :    戦神斬
【黒いオーラを纏い、巨大化した刀の居合斬り】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD   :    桜花の刀
敵を【黒い桜の花びらの粒子を出す刀の二刀流】で攻撃する。その強さは、自分や仲間が取得した🔴の総数に比例する。
WIZ   :    戦神弾
レベル×5本の【氷】属性の【超高速かつ大威力の飛ぶ斬撃】を放つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

*業務連絡:次回執筆予定は、5月19日(日)です。プレイングはこの日と、可能であれば5月20日(月)の2日間が入る様にお送り頂けます様お願い申し上げます*

 ――村、最奥部。
 そこにあったのは、小さな城。
 周囲に咲き乱れるは死者達の手向けとされる花々と……既に風化も激しい墓石達。
 嘗ては此処は、村人達の共同墓地だったのだろうか。
 それとも……?
 ただ、分かっていることが一つだけある。
 この場に濃厚に漂う気配と色、それは……。

 ――闘争、そして、その先にある死。

「漸く来たようじゃのう……強者が」
 城から現われたのは、濃厚な死の気配を纏った悠然たる足取りの戦士。
 周囲を漂う黒い桜の花弁が、それまで咲き誇っていた死者達の手向けとされていた花々を次々に枯らしていく。
「どれほど、この時を待ちわびたかのう。貴奴等は餌だったのじゃが……まんまと強者共が釣れた様じゃ」
 まるで、獲物を見定める猫の様に。
 舌舐めずりを一つする眼前のオブリビオンの姿に、猟兵達は思わず息を呑む。
 彼女は猟兵達の様子など何処吹く風と言った様子で、軽く自らの拳を握りしめた。
「妾は、禍王。果て無き闘争を望む者。この場に集いし亡者達よ、妾が元に集いて猛き闘争を愉しまん!」
 禍王と自ら名乗りし、彼女の纏う濃厚な死の気配に怖れを成すように。
 猟兵達が取り込まず、ただ周囲を漂っていた亡者達の魂が禍王の元に集う。
 禍王が愉快そうに笑い声を上げた。
「カハハハハッ! 刮目して視よ! 妾は禍王。叛逆の王であり、魔神なり! さぁ、猟兵達よ。我が戯れを乗り越え、この場に集いし強者達よ! 今こそ心躍る闘争を妾に捧げよ!」
 行先に迷った亡者達を取り込み、それさえも自らの力へと化した強大なオブリビオンに怯むこと無く、猟兵達は戦場を駆ける。

 ――何かのために。誰かのために。
ウィリアム・バークリー
これがお館様、諸悪の根源ですか。
ただ闘うためだけに人々を虐げ、贄の少女たちにあんな真似を!
許すわけにはいきません!

ウィリアム・バークリー。氷の魔法騎士。あなたを灼滅――いえ、討滅する者です。

ぼくの剣技じゃ、相手にならない。魔法中心に援護します。
スチームエンジン、トリニティ・エンハンス起動。
Active Ice Wall展開。Icicle Edge用意。

禍王の斬撃を防ぐために軌道に氷塊の盾を割り込ませて。砕かれた端から再生成。
仲間の血を一滴たりとも、その刀に吸わせたりしない!
遠当てにはIcicle Edgeで対抗を。
く、威力も数も違うか。手近な氷塊で後衛を防護。

今回は押し切れましたか。でも次は?


火土金水・明
「初めてお会いします、『禍王オメガ・アポレイア』さん。ダークセイヴァーの世界の人々のためにも、あなたを倒しにきました。」
【WIZ】で攻撃です。
【先制攻撃】で【高速詠唱】した【属性攻撃】の【全力魔法】の【破魔】属性の【サンダーボルト】で『禍王オメガ・アポレイア』を【フェイント】を掛けつつ【2回攻撃】します。
「行先に迷った亡者達さんを解放するためにも、全力で戦わせてもらいます。」「私は、真正面から心躍る闘争を否定します。」
アドリブや他の方との絡み等は、お任せします。


館野・敬輔
【POW】

お前か…お前なのか!!
彼女たちを、村人を苦しめ、僕らを呼ぶための餌としたのは!!

闘争を求めるなら乗ってやる
だが、この戯れの場がお前の最期の場だ!

これ以上好き勝手させない
彼女たちの、村人たちの痛み、存分に受けやがれ!
(おそらく、庇護を失くしたあの村はしばらく混乱するだろうけど…)

真の姿解放
赤黒く禍々しい全身鎧と黒剣、口元を隠すマスク、瞳は両目とも赤、残酷かつ冷酷な性格に
さらに【黒風鎧装】で強化

「2回攻撃、怪力、生命力吸収、マヒ攻撃、鎧砕き」で
魂ごと喰らいつくす一撃をアポレイアに叩き込む

防御は太刀筋を「見切り」回避
間に合わなければ「オーラ防御、武器受け」で受け「激痛耐性、氷結耐性」で軽減


彩瑠・姫桜
私は強者なんかじゃない

でも、ここには貴女に苦しめられている人達が居る
生者も、死者も虐げられ囚われ続けている
貴女を倒して、そんな彼らの苦しみを終わらせてみせるの

だから闘う
貴女が望む強者なんかじゃないけれど、闘って、貴女を倒してみせる
倒れてなんかやらないわ


真の姿を解放

積極的に前へ出て牽制
敵の攻撃を此方に引きつけるように立ち回るわ

敵からの攻撃は、可能な限り【武器受け】で流し、
仲間へ攻撃及ぶなら【かばう】わね

敵の動きは【第六感】も織り交ぜながら【情報収集】を意識するわね

敵が戦神斬を使う場合は
接近して【双竜演舞・串刺しの技】使用
敵の攻撃の相殺を試みるわ

※真の姿:血統覚醒時に変身するヴァンパイアの姿と同様


彩瑠・理恵
禍王オメガ・アポレイアが視界に入った直後、リエに強制的に身体を奪われ、真の姿の鮮血で出来たドレスを身に纏い瞳が紅く染まります

ハ、ハハッ、アハハハッ!
ハンドレッドナンバー!序列第七十一位っ!
戦神アポリアぁぁ!!

ふんっ、人違い?関係ないわ、多少の差違はあろうとボクにとってお前は戦神アポリアよ!
六六六人集序列番外位が序列第七十一位に挑むっ!その序列を寄越しなさいっ!!
鮮血槍と鮮血の影業だけでなく【黒死鏖殺演舞(ダークネス・ティアーズリッパー)】の殺意の刃も織り交ぜて、高速移動しながら全方位から切り刻み串刺してあげるわ!
墓石を盾や目隠しに使いつつ立ち回って、でもダメージは気にせず攻撃最優先よっ!


ガーネット・グレイローズ
奴か…。小柄な少女のようだが、全身から漂う瘴気…おそらく
相当な者を手に掛けたのだろう。
「この地に満ちる魂よ、私を導いてくれ。共に戦おう」
【念動武闘法】を発動。複製したアカツキを、可視化した亡霊達に執らせる
奴の攻撃力は圧倒的だが…それ故に妖気が全身から駄々洩れだ。
ならば攻撃の軌道自体を見切ることは困難ではないだろう。
<第六感>を以て亡者たちと感覚を共有し、<念動力>を用いて34本の
アカツキを同時に操作。<残像>を生み出しながら攻撃を掻い潜って
間合いに飛び込み、狙うはオールレンジからの同時攻撃+本体による
<吸血>だ!
「アカツキ、この者の血肉を喰らうがいい!」

【真の姿】ヴァンパイアの姿に変わる


アンナ・フランツウェイ
叛逆の王を名乗っているようだけど、アンタがやっている事は少女達を人身御供にした人間達と変わらない。
アンタには…世界に棄てられた者の真の怒り、それを教えてやる!

【断罪式・白詰花】で少女達以外に、禍王に集わなかった亡者達の呪詛を集める。あなた達を利用した者への憎悪があるなら…私に力を貸して!

禍王の放つ攻撃は軌道を【見切り】ながら高速移動で回避しつつ、奴の懐へ潜り込む。回避出来ないなら【武器受け】でガード。

接近後は【断罪剣・エグゼキューター】を胸…心臓目がけて突き立て、【傷口をえぐる】【生命力吸収】の追撃の他、私自身と怨念、亡者達の【呪詛】を流し込む。これが…世界に棄てられた者達の憎悪だ!


荒谷・つかさ
(ノイズ塗れの記憶が一瞬フラッシュバックするが、今は不要と振り払う)
戦、神……いいえ、禍王。
遊びに付き合う気は無いわ。
疾く、躯の海へと還りなさい。

引き続き真の姿を解放
先程の戦いで取り込んだ霊と、居るならこの場で私に応えてくれる霊の力を合わせ【心魂剣】を発動
彼らの想いを受け入れつつ、その代理人、執行者として粛々と禍王を「処理」する

懐には飛び込まず、ギリギリの位置を見切り、必要に応じて剣の形状も伸ばして射程外を維持
突っ込んでくるなら飛行して躱し、三次元機動で死角を突く
可能ならば、奴に取り込まれた亡者を奪い取る事も試みる

……全ては、彼らの無念を晴らすため。
生者と死者、双方の尊厳を汚した報いを受けよ!


加賀・琴
何故でしょうか、縁も所縁もないはずなのに……似てもいないというのに、彼女を見ているとご先祖様を思い浮かべますね
まるで、そう、まるでご先祖様と彼女が同じような末路を遂げたように思えます、そしてそれはあったかもしれない私の末路のようにも
いえ、そんなはずはないですね
ただ反逆の王を名乗る彼女は、確かご先祖様に何処か似てるのかもしれません

破魔の矢は切り払われ、飛ぶ斬撃で弓の弦を切られて影打露峰の柄に手にかけます
これでも羅刹ですから近接戦も出来ますが、相手の土俵に立つことになりますか
相手の居合いを見切り、居合いに合せ私も居合いにて【斬魔一閃】を放ちます。その刃に纏う亡者を、刃諸共禍つを切り裂き祓います!


リーヴァルディ・カーライル
…強者を求める、ね。
それなら何処か別の領主でも相手に殺しあえば良いものを…。

お前が取り込んだ死者達の怨みを。
その身に刻んで思い知らせてあげる。

他の猟兵と連携して、常に挟み撃ちになるように立ち回り敵を誘惑して注意を逸らす
第六感が捉えた殺気や目立たない攻撃の気配の存在感を、
魔力を溜めた両目に残像として暗視して先読みして回避してカウンター主体で行動

…生憎だけど、お前が望むような戦いをする気は無い。

行動の機先を見切り、吸血鬼化した生命力を吸収してUCを発動
怪力の踏み込みから大鎌をなぎ払い、敵が取り込んだ死者達の呪詛を爆発させて傷口を抉る二回攻撃で仕留める

…この一撃を手向けとする。眠りなさい、安らかに。




「お前か…お前なのか!! 彼女たちを、村人を苦しめ、僕らを呼ぶための餌としたのは!!」
 赤黒く禍々しい全身鎧で身を覆い、両の瞳を赤に染めながら、館野・敬輔が全身から激情と憎悪を漆黒の旋風と共に放出する。
 面頬が引き下ろされた敬輔の姿は今までと全く異なっていた。
 アポレイアは愉快そうに笑う。
「そうじゃ、それじゃ! それこそが妾が望んだ戦いの意志!」
「……闘争を求めるなら乗ってやる。だが、この戯れの場がお前の最期の場だ!」
 叫びながら敬輔が黒剣を大上段から振り下ろすのに合わせる様に。
「ただ闘うためだけに人々を虐げ、贄の少女達にあんな真似を! 許すわけにはいきません!」
 ルーンソード『スプラッシュ』の鍔に取り付けたスチームエンジンを起動させ、更に精霊達の力を身に纏い自らの魔力を強化しながらウィリアム・バークリーが叫ぶ。
 彼は先端で青と若葉色の混ざり合った無数の魔法陣を作り上げていた。
「ウィリアム・バークリー。氷の魔法騎士。あなたを灼――いえ、討滅する者。行きます……Active Ice Wall!」
 叫びと共に魔法陣から無数の氷塊を飛ばすウィリアム。
 ――ジッ……ジジッ……。
 まるで、テレビに入るノイズの様に。
 その氷塊の陰に隠れる様にしながら、ノイズに塗れた記憶を一瞬フラッシュバックさせるのは、自らの身を先ほどの戦いで取り込んだ霊達によって自らの力を底上げしてさらしを巻いた姿と化し、3本の角を伸ばし、その腕と足を鬼化させた荒谷・つかさ。
(「戦、神……?」)
「……いいえ、禍王」
 フラッシュバックする記憶を今は不要、と頭を振って取り払いながら、己が体を通して集まった霊達の力を巨大な一本の剣へとつかさが変化させる。
「遊びでやっているんじゃないわ。疾く、骸の海へと還りなさい」
 呟きと共に。
 零式・改三を元に構築された巨大な紫色の剣を、両手持ちして振り下ろすつかさ。
 接近した敬輔の攻撃を周囲の人々の怨霊を取り込み、漆黒のオーラを纏わせた血の様に赤い剣を抜く手も見せずに一閃して弾いてウィリアムの呼び出した氷塊を叩き切ったアポレイアの身を袈裟に斬り裂こうとする。
「ハハハハハッ! 待った甲斐があったというものじゃのう! 猟兵達よ、もっと妾に闘争を捧げよ!」
 素早く腰に佩いた長剣を抜き、つかさを中心に集った怨霊達を喰らわせるべく振るいその攻撃を受け止め、返し気味に双剣を十字に交差させるアポレイア。
 と、その時。
「初めてお会いします、『禍王オメガ・アポレイア』さん。ダークセイヴァーの世界の人々のためにも、あなたを倒しにきました」
 不意に、ウィリアムの隣に現れる魔法陣。
 そこから現れたのは、ハイレグ仕様な黒いウイザードローブと、黒色のウイザードハット、黒色のマントに身を包んだ少女。
 その手に空・炎・森・海・闇・氷・幻の七色の光を纏った杖を、右手に魔法使いの持っている箒を構え、それらを天空へと掲げながら指先をアポレイアに向ける。
 同時に天からの雷光が咄嗟に技を中断しバックステップしたアポレイアに襲来。
「ほぅ……新手が此処で来るとはのう……」
 愉快そうに舌なめずりを一つするアポレイアに向けて、その瞳を真紅に染め、犬歯を伸ばした緋色の髪の女……ガーネット・グレイローズと、彩瑠・姫桜が同時に攻めかかる。
(「小柄な少女の様だが、全身から漂う瘴気……恐らく相当な者を手に掛けたのだろう」)
『神殺しの力の一端をお見せしよう』
 武者震いの止まらぬガーネットが高らかな叫びと共に、30を越える本数の妖刀・朱月を周囲に展開、正面から可視化された亡霊達に握らせる。
「この地に満ちる魂よ、私を導いてくれ」
『ヲヲヲヲヲヲヲヲ!』
『遂に来たか、この時が』
『我らが恨み辛み、その身を以て晴らさせてくれる!』
「ほう……以前に妾が滅ぼした戦士達か。じゃが……妾にお主達が敵うのかのう?」
 愉快そうに笑い抜き放った双刀に猛毒を持つ黒桜の粒子を発させながら、亡霊達を薙ぎ払わんと横一文字にそれを振るうアポレイア。
 ウィリアムの呼び出した氷塊を盾にした亡者達が其々の刀身を深紅に輝かせる朱月を振るってアポレイアに斬りかかる間に、同じくヴァンパイアと化していた姫桜が、右翼からschwarzとWeißを振るって襲い掛かる。
 黒き波動をschwarzが纏い、白き波動をWeißが纏う。
 纏われた二つの波動を叩きつける様に放ちながら、身を震わせつつ姫桜が囁いた。
「私は、強者なんかじゃない」
「ほぅ?」
 ガーネットと共に迫りくる亡者の群れたちを双刀の纏う黒い花弁で振り落とし、更に下段から長剣を撥ね上げ姫桜の刃を受け止めながらアポレイアが興味深げに問いかける。
 漆黒の波動を帯びし巨大な刀による一撃を何時放つか。
 注意深く観察を続けながら。
 二刀による苛烈な斬撃を二槍で受け流しながら続ける姫桜。
「でも、ここには貴女に苦しめられている人達が居る」
 ――それは、聖者も、死者も同じ。
 どちらも虐げられ、禍を齎す王の禍に囚われ続けている。
 突き刺す様な殺気を叩きつけられ、それに身震いする姫桜。
 ――それでも。
 負けるわけにはいかないのだ。
 彼等の苦しみを、終わらせるためにも。
 ……だから。
「貴女が望む強者なんかじゃ無いけれど、闘って、貴女を倒してみせる。倒れてなんかやらないわ!」
「……ん。そうね」
 姫桜の言葉にアポレイアが返すよりも先に。
 アポレイアの左翼から響き渡った涼やかな声。
 それは、アポレイアの放つ殺気の方向を第六感で感じ取り、目立たぬ様陽炎の様に残像を生み出し、その死角を狙っていたリーヴァルディ・カーライル。
 両の瞳に溜めていた魔力を解放し、『過去を刻むもの』を撥ね上げる様に振るう彼女の一撃にアポレイアが直感的に気が付き、己が身に纏う翼を翻して防御をするが、その一撃は確実にアポレイアに傷を負わせている。
(「……強者を求める、ね。それならどこか別の領主でも相手に殺しあえば良いものを……」)
 この世界には、数多くのオブリビオンの領主がいる。
 彼等との戦いであれば、アポレイアも満足できたのではないか。
 それともオブリビオン同士であるが故の同朋意識からその手段に出なかったのか。
(「……ん。まあ、考えても仕方ないか」)
 ともあれ、リーヴァルディが出来ることはただ一つ。
「お前が取り込んだ死者達の怨みを。その身に刻んで思い知らせてあげる」
「ハハハハハハハッ、言ってくれるのう、お主。お主の様なものがいるからこそ、妾も存分に闘争を楽しめるというものじゃ」
 姫桜の二槍と敬輔の黒剣を自らの持つ黒いオーラを纏う巨大な刀で、ガーネットと亡者達による無数の斬撃を黒桜の花弁を結界と化した漆黒の壁で受け止めながらアポレイアがリーヴァルディに向けて嘯き、唐竹割に長剣を振り下ろす。
 ――と、その時。
「叛逆の王を名乗っているようだけど、アンタがやっている事は少女達を人身御供にした人間達と変わらない。禍王に集わなかった皆! あなた達を利用した者への憎悪があるなら……私に力を貸して!」
 黒と白の片翼を持つ少女、アンナ・フランツウェイの想いに答える様に無数の亡者達がアンナへと集い、断罪剣・エグゼキューターを呼び出す糧となった。
 断罪剣・エグゼキューターを突き立てるべく、黒弾の如き勢いでアポレイアの懐に飛び込まんと突進するアンナ。
  それが死者達の憎悪であり、怨念であり……その依り代となるアンナの精神を蝕むのを感じながら。
(「いつか私は私でいられなくなるかもしれない」)
 亡者達の魂を喰らいその憎悪を糧に戦いを続ける彼女の何かが削れていく感触を存分に味わいながら、アンナは思う。
 ――だけど。
 これは自分にしかできないことだ。
 だから……。
「アンタには……世界に捨てられた者の真の怒り、それを教えてやる!」
「妾に教えるというのか、小娘! お主の様な猛き闘争心を抱きし者との戦いを、妾はずっと待ち望んでいたのじゃ!」
 ――パリン。
 アンナの一撃によりガーネットと彼女と共にあった妖刀・朱月を構える亡霊達の攻撃を防いでいた結界が音を立てて割れる。
 その隙を見逃さぬ様に……。
「ハ、ハハ、アハハハッ!」
 高速移動しながら、鮮血の影業による血の杭、そして実体化した殺意の刃を振るいながら、彩瑠・理恵……否、リエが哄笑をあげて鮮血槍で突きかかった。
 その瞳は紅色にそまり、鮮血で生み出されたドレスを身に纏っている。
「ハンドレッドナンバー! 序列第七十一位っ! 戦神アポリアぁぁ!!」
 その言葉に微かな既視感を感じる者もいる。
 最もそれ以外には何の意味も齎さない言葉を叫びながらアポレイアに迫るリエ。
 鮮血の影業は右に左に体を捻って躱し、殺意の刃は自身の殺気を叩きつけて相殺しながらアポレイアが溜息を一つ。
「お主が何を言っておるのかは知らぬ。じゃが……妾の刃を見切ることは出来ぬ!」
 ――ヒュン。
 空を切る音と共に、放たれる黒桜による二閃。
 左の剣による下段からの撥ね上げと、漆黒の気配を纏いし巨大な刀による袈裟切りは、リエの鮮血槍による一撃を軽く跳ね飛ばし、逆に彼女の左脇腹から右肩に掛けて、左肩から右脇腹にかけてを残虐に斬り裂いている。
「! 理恵さん!」
「理恵!」
 ウィリアムが咄嗟に氷塊を動かし地面に叩き付けられようとしたリエを支え、姫桜が思わず気遣いの声を上げた。
 放たれた二刀による一撃は重くリエは喀血しながら何とか立ち上がる。
「ガハッ……!」
「戦神、確かに妾はそう呼ばれしものじゃ。じゃが、そう呼ばれている者は何も妾だけではあるまい。更に言えば……」
 ダン、と地面を蹴るアポレイア。
 リエが命の危険を察して咄嗟にごろりとその場を転がって攻撃を躱し殺意の刃を浴びせかけるが、アポレイアの周囲を覆う黒桜の花弁がそれとぶつかり合い、爆ぜて消えた。
「ただ殺意を撒き散らす様な者の力任せの一撃で倒せる程妾は耄碌しておらぬぞ!」
「くっ……この……っ!」
 リエが呻きながら立つのを見ながら、和弓・蒼月を構えるは、加賀・琴。
 初めて相対する筈の彼女の存在を見ている間に……琴の内心を漣の様に何かが通り抜ける。
(「何故でしょうか、縁も所縁もないはずなのに……似てもいないというのに、彼女を見ているとご先祖様を思い浮かべますね」)
 ――まるで、自らのご先祖様と彼女が同じ様な末路を遂げたのではないかと言う既視感を。
 そして……それは、あったかもしれない自分の末路の様にも。
(「いえ……そんな筈はないですね」)
 つかさが何かを感じていると同程度には琴もそれを感じ取っていた。
 ただ……それでもリエへの対応を見る限り、恐らく彼女は自分が感じたこの存在とは、『以て非なる者』なのだろう。
 最も……。
(「反逆の王を名乗る彼女は、確かにご先祖様に何処か似てるのかもしれませんけれどね」)
 いずれにせよ、まだ戦いは始まったばかり。
 厳しい戦いが自分達の前に待ち受けているのは紛れもなく事実なのだと、この時の琴には思えたのだった。


 ――ヒュン。
「ウィリアムさん、火土金火さん、お願いします!」
「これ以上、皆さんに傷を負わせるわけには行きません。……Icicle Edge!」
「はい。手を貸しますよ」
 琴が蒼弓・和月に構えた破魔の矢を放つのに合せる様に、ウィリアムが素早く両手で用意しておいた魔法陣を起動させ、更に明がその指の先端に雷の弾丸を込める。
 ひゅっ、とウィリアムが両手を振り上げると同時に、氷塊の中に潜んでいた100を越える氷柱の槍が不意打ちの様にアポレイアに降り注ぎ、更に明の呼び出した天空からの雷が上空からアポレイアに向かって襲いかかった。
「まだまだこの程度では楽しめぬぞ、猟兵達よ!」
 ――喝。
 自らを覆う黒桜の花弁を周囲へと吹雪かせるアポレイア。
「ぐっ……!」
 至近距離に接敵していた敬輔達が花弁と共に放たれた風に吹き飛ばされ、更に琴の破魔の矢を長剣で切り落とした後に、ヒュッ、と闇と闘争心が形になった漆黒の波動を纏った刀を横薙ぎに振るう。
 ――剣圧が、大気を振動させ咆哮させた。
 空気さえも断ち切り、放たれた数百を越える衝撃波が、ウィリアムの氷の矢を撃ち落としながら、前衛のつかさ達を狙う。
「くっ……Icicle Edgeを全て叩き落としますか……!」
 咄嗟にActive Ice Wallを維持していた魔法陣に以前に感じた地脈の力を注ぎ込み、氷塊の盾達を強化するウィリアム。
「まずい、ですね……」
 次々に破壊されていく氷塊達の姿を見た、明が思わず呻きを一つ。
 フェイントから即雷弾を解き放った影響か、明は能動防御を行う余裕が無くなっていた。
「明さん!」
 ヒュッ、と割り込む様に明と斬撃の間に割り込み、二槍を十字に構えて受け止める姫桜。
 ――轟。
 凄まじい衝撃に、体にジン、と鋭い痛痒を覚えているその間に漸く空間を斬り裂いた音が辺り一帯に響いた。
「その一撃は、音よりも速いって訳ね」
 氷塊と墓石の間を飛び回り、次手を喰らわせるタイミングを推し量っていたつかさが思わず、と言った様子で溜息を一つ。
「だからと言って、お前の好き勝手にさせるわけにはいかねぇんだよ!」
 アポレイアよりは遙かに薄い、漆黒の結界と黒剣、自らが備えた激痛、及び氷結耐性で辛うじてその攻撃に耐えた敬輔が雄叫びを上げながら、黒剣を両手で構えて刺突を放つ。
 風を切る音と共に放たれたその一撃が、漆黒の旋風により周囲の空気を斬り裂き一時的な真空状態を作り出した。
「うぉぉぉぉぉぉ!」
「妾と正面から打ち合うか! 素晴らしい闘争心じゃのう、お主!」
 鎌鼬に巻き込まれその身を斬り裂かれながらも、素早く納刀された刀を抜くアポレイア。
 ――閃。
 その速度は、恐らく先の刃と同等か……それ以上。
 一撃で命を刈り取らんばかりの尋常ならざるその刃を真正面から受け、全身鎧を斬り裂かれながらも、その身を貫いた黒剣を上段へと撥ね上げる敬輔。
 撥ね上げたそれがアポレイアの肉を断ち、その魂を傷つける斬撃となって、アポレイアを斬り裂き、敬輔自身が倒れるのを防ぐ糧となり。
 更にアポレイアの傷口から、幽鬼の様に白い靄の様な何かが浮き上がった。
(「……ん。成程ね」)
 左目の魔法陣を起動させ、その靄が何であるのかを読み取ったリーヴァルディがちらりと恐らくその正体に気がついているだろうアンナとつかさへとアイコンタクト。
「こっちよ、こっち」
 空中を飛翔して、アポレイアの攻撃を躱しながら、射程外から心魂剣を伸ばして一撃を加えるつかさ。
 それは致命打にはなり得ないが、アポレイアの注意を引くには十分だった。
(「あなた達の想いは、私達『代理人』が受け入れる。だから、私達に力を貸して」)
「今だね、行くよ、皆!」
 つかさの呼びかけに応じる様に、リーヴァルディがその正体を見抜いた白い靄がざわめき出すのを感じ取ったアンナが声を張り上げ、先程の斬撃を防ぐための足がかりとしていた氷塊達の合間を縫って飛び出す。
 アンナの叫びに応じる様に、白い靄がアンナへと一斉に群がっていく。
 最初にアポレイアが吸い込んだ亡霊達の一部を取り込んだアンナが目にも留まらぬ速さで肉薄しながら、鋸刃状の断罪剣・エグゼキューターをアポレイアの心臓に向かって突き立てようとし。
「今度こそ串刺しにしてやるわ!」
 アンナの攻撃に合せる様によろよろしながらもどうにか立ち上がったリエが一足飛びに墓石を跳躍しながら、複数の実体化した殺意の刃を叩き付けた。
「その程度の殺意の刃で妾を止められると思うたか!」
 殺意の刃を自らの殺気を乗せた黒桜の花弁で叩き落とすアポレイア。
 だがそれは、アポレイアに生まれた大きな隙。
 その隙をついて懐に飛び込んだアンナが断罪剣・エグゼキューターを心臓に突き立ててその傷口を背の鋸刃でギリギリと抉っていき更に……。
「お願い、あなた達の力も、私に貸して!」
 アンナの声掛けに応じたアポレイアに吸収された亡者達の念の一部が、まるでアンナの刃を招き入れる様にアポレイアの胸襟を開き、そこから呪詛を流し込む。
「ガッ……ゲボハァ?!」
「これが……世界に棄てられた者達の憎悪だ!」
 流し込まれた呪詛に内側から体内を破壊され、目を見開くアポレイアに吐き捨てる様にアンナが告げた、その直後に。
「……生憎だけど、お前が望む様な戦いをする気は無い」
 アンナと敬輔とつかさを囮に、アポレイアの背後に回っていたリーヴァルディが静かに呟くと同時に、その瞳を真紅に染め上げその瞳の魔法陣、そして血色の魔力の双翼……それは、限定的に彼女が吸血鬼化した時に浮かぶものだ……を羽ばたかせながら、葬送の耳飾りで聞き取った死者達の霊の声、そして犠牲者達の霊魂を過去を刻むもの……グリムリーパーに集結させて振り上げる。
『……限定解放。さぁ、報いを受けなさい、血の葬刃……!』
 踏み込みと同時にアポレイアを薙ぎ払わんことを欲したグリムリーパーがアポレイアの今までの過去の罪業事、残虐にその身を斬り裂いていく。
「ハハハハハッ! やってくれるのう!」
 体は前に向けたまま、アポレイアがリーヴァルディを仕留めるべく肩の上に振り上げた二刀を背後に向かって突きつけるが、その時には既にリーヴァルディは次の攻撃に入っている。
 それは……此処に至るまでに生まれた多くの犠牲者……死者達の呪詛によって編み込まれ、結晶化した魔刃。
「……この一撃を手向けとする。眠りなさい、安らかに」
「ハハハハハハッ! この程度で妾を滅する事は叶わぬぞ、強者共よ!」
 強烈なその一撃にも倒れること無くその場に踏みとどまりながら、右足を軸に、大回転を行うアポレイア。
 双刀による鋭い斬撃が肉薄しているリーヴァルディとアンナを薙ぎ払わんとしたその時。
『慄け、咎人。今宵はお前が串刺しよ!」
 明の天からの雷と、ウィリアムのIcicle Edge、琴の100を越える聖属性の破魔の矢の支援を受けた姫桜が深紅の瞳を煌めかせてアポレイアに一気に接近。
 更に……。
「隙が出来たな。お前の攻撃力は圧倒的だが……故に妖気が全身から駄々漏れだ」
 リーヴァルディ達を襲撃しようとした攻撃を読みながら、第六感で34体の亡霊達と感覚を共有していたガーネットが自らの残像を作り出して周囲の全てを破壊せんとばかりに放たれた黒桜と漆黒の衝撃波の間隙を縫って接近する。
「お主と亡者達では役者不足じゃ! 妾は禍王! 世界に破滅を齎す魔神なるぞ!」
 叫びながら漆黒のオーラを纏い巨大化した刀を居合いの要領で振るうアポレイア。
 ――黒閃。
 そうとしか形容が出来ない凄まじい速度の一閃は、亡者達と感覚を共有し、その軸となっているガーネットを一撃で叩き斬ろうとするが……。
「やらせはしないわ!」
 真の姿を解放しヴァンパイアと化している姫桜がschwarzに黒い波動を、Weißに白い波動を纏わせて同時に突き出す。
 双竜が咆哮を上げ、真正面から戦神斬とぶつかり合い。
 二槍と刀、そして両者が帯びていた波動が重なり合い至近の大地を抉り取り、耳が劈かんばかりの音を立てて爆ぜた。
 あまりの衝撃の重さに思わず、ゼー、ゼーと肩で息をつきながら姫桜が叫ぶ。
「ガーネットさん!」
「アカツキ、この者の血肉を喰らうがいい!」
 34体の妖刀・朱月を構えた亡者達が全方位からアポレイアを斬り捨てんと一斉に躍りかかり、更にガーネットがアンナとリーヴァルディによって開かれた胸の傷口へと本体である刀身を血の様に赤く輝かせた妖刀・朱月を突き立てて一気にその血を吸い上げていく。
「グ……グガァッ……!」
 吸血されて動きを鈍らせたアポレイアの様子を確認し、ウィリアムの100を越えた氷柱の矢と、明の100を越えた氷の矢……全部で300弱になる氷の矢に合せる様に琴が飛び出し、影打露峰の柄に手を掛けた。
(「これでも羅刹ですから接近戦も出来ますが、相手の土俵に立つことになりますか……!」)
 それでも、弱っている今しかチャンスは無い。
 だからこそ……琴は躊躇いもせずにリエ達が戦う戦場へと足を踏み込み、アポレイアの前で膝をつく姫桜の脇を駆け抜け……。
『その刃に纏う亡者を、刃諸共禍つを斬り裂き祓います!』
 ――ヒュッ。
 静かな音と共に影打露峰を抜き、一気に振り上げる琴。
 影打露峰による居合いの斬撃をアポレイアは咄嗟に姫桜とぶつかり合った刀で受け止める。
 ――と、その時。
 ――パキィィィン!
「……っ! 妾としたことが見誤ったようじゃのう……!」
 甲高い音と共に刀の刀身が砕けるのを見つめ、思わず息を呑むアポレイア。
 ――そして。
 刀に取り込まれ、黒いオーラと化していた亡者達が戦場全体へと蜘蛛の子を散らす様に飛び出していく。
 その瞬間を……それまで次の止めの一撃のために狙いを定め、牽制攻撃に攻撃を留めていたつかさは見ていた。
「大丈夫よ。あなた達の力の全て、わたしが受け止める」
 つかさの呟きに応じる様に。
 無数の亡者達をつかさの周りに集った。
 かの者達の魂を吸い上げる様に、真の姿と化していたつかさが取り込んでいく。
「私の身体を、お前達に貸してあげる……!」
 ――紫色の光がつかさを中心に集まっていく。
 己が肉体と零式・改三を魂を霊を集める避雷針とし、自らの意志と亡者達の意志を渾然一体の力へと変え飛翔するつかさ。
「くっ……これは……この光は……!」
 アポレイアがその紫の光に目を奪われる中、つかさが淡々と告げた。
「……全ては、彼らの無念を晴らすため」
 ――我等が心、我等が魂。
 ――刃金と成って、その怨念を断つ。
「わたし達生者と、我等死者……双方の尊厳を汚した報いを受けよ!」
 零式・改三に集った無数の魂達の全てを紫の波動に変えて。
 つかさが口元に艶然とした笑みを閃かせたままに鬼の両腕で握りしめたその剣を振り下ろす。

 ――それはまるで、全にして、1なる剣の如く。

 大上段から振り下ろされた亡者達の想いと意志を乗せた巨大な紫水晶の光線剣はその強大さ故に、自らを守る術を破壊されていたアポレイアを正面から叩き斬った。
「くっ……妾が……禍王たるこの妾が……!」
 身体を真っ二つにされ、既に死亡している筈のアポレイアがそれでも尚叫びまだ辛うじて残されている刃を振ろうとした、その時。
「彼女達の、村人達の痛み、存分に受けやがれ!」
 傷だらけの敬輔がさせじ、と黒剣を袈裟に振るった。
 敬輔の攻撃を既に罅の入っていた長剣で受け止め破壊され、それでも尚撤退しようとするアポレイアの足に、姫桜が何とか動く身体で二槍を突き立てて左足を縫い止め、リエが杭状になっていた鮮血の影業でその右足を縫い止める。
「手数で押し切りますよ!」
「これが、伝説の暗殺者の裁きです」
 ウィリアムのIcicle Edgeがアポレイアの全身を貫き、更に明の天からの雷が果てる寸前であるアポレリアの身体を打ち据え。
「もう、お前に後は無い。アカツキ、そして亡者達よ。此処で全てに決着を付けるぞ」
『ヲヲヲヲヲヲヲ!』
『遂に、遂に……!』
『我等の……我等の無念を晴らす時……!』
 ガーネットの呼びかけに応じて34体の亡者による34本のアカツキによる刺突と、ガーネット自身の持つ妖刀・朱月が残された僅かなアポレイアの血を吸い上げ。
「さあ……断罪の時だよ!」
 つかさが放った刃から霧散した亡者達を取り込んだアンナが断罪剣・エグゼキューターを右胸に突き立てて残された全ての亡者達の力を注ぎ込んで呪詛を体内に打ち込みその身体を内側から崩壊させ。
「……ん。今度こそ、安らかに」
 亡者達の声を葬送の耳飾りで聞き取ったリーヴァルディがアポレイアの身体に、過去を刻むものを突き立てて、もう残り香に過ぎぬ死者達の呪詛に呼びかけて体内からアポレイアを爆発させた。
 ――大轟音。
(「此度は、妾の負けじゃ。じゃが、努々忘れるなかれ。妾は蘇る。闘争のある所であれば何度でも……何処でものう……!」)

 それはまるでテレパシーの様に。
 不吉な予告を伴うそれと共に、アポレイアは灰燼に帰した。


「……今回は、押し切れましたか」
 戦いが終わり、漸く一つ息をつくウィリアム。
「ああ、そうだね」
(「最も、アポレイアの庇護を失くしたあの村は暫く混乱するだろうけれど……」)
 彼等がどの様な道を歩むことに成るのかを憂いながら、敬輔がそっと息を吐く。
 先程までの激情など嘘の様に掻き消え、あの村に想いを馳せる自分は一体どんな存在なんだろうな、と冷静なもう一人の自分が問いかけてくる。
「でも……次は?」
「次……ね。確かに、次もありそうだものね」
 ウィリアムの誰に共無く告げられたそれに亡者達の魂を鎮めたつかさが静かに息を吐く。
(「あのノイズの意味も……今のままじゃ結局分からないままだしね」)
「……ん。何度でも、止めるしか無いわね」
「そうだね」
 リーヴァルディの呟きに、アンナが静かに頷き返す。
(「その頃、私がどうなっているのかは分からない、けれどね」)
 今回も多くの亡者達の魂を自らの中に吸収した。
 その反動がどれ程のものなのか、アンナには分からないから。
「よくやってくれたな、お前達」
 ガーネットが自らと共に歩んだ亡霊達へと呼びかけた。
 仇討ちが出来たことを恐らく喜んでいるのだろう。
 亡者達の姿が薄らと消えかかり、怨嗟の声が嘘の様に静まり返っている。
『我等は、我等の無念を晴らせた』
『故に我等は漸く一時の眠りにつける』
『汝等と共に来奴を倒せたこと、我等は誇りに思おう』
「ああ、私もお前達の事は忘れない」
「あっ……ちょっと待って」
 ガーネットの頷きに穏やかに掻き消えていく怨念達。
 ただ、これからどうするかどうか、それを決めあぐねているのか解放されながらもその場に留まる魂達もおり、それにアンナが呼びかける。
「もし、あなた達が望むなら、私はあなた達と一緒に行っても良い。勿論……あなた達次第だけれど」
 そのアンナの言葉に応える様に。
 幾何かの亡者達がアンナと共に行くことになるのだが、それはまた別の物語だ。
「……終わり、ましたね」
 呟き、ふぅ、と息を吐く琴。
(「ご先祖様に雰囲気が何処かよく似ていましたが……それでも彼女は全く別の存在、の様ですね」)
 それでも彼女を見た時に感じたこの感情。
 その答えは、琴にも全く分からないままだ。
「禍王アポレイア。無事に討滅出来ましたか。ですが……まだ先は長くなりそうですね」
「……はい、そうですね」
 明の問いかけに琴が静かに頷くその間に。
「うっ……うう……姉さん……?」
 それまでリエに身体をずっと奪われ続けていた理恵が既に傷だらけでふらふらの姫桜の腕の中で目を覚ます。
「理恵、目が覚めたのね。……取り敢えず戦いは終わったわよ」
「そうみたい、ですね。リエは何だかとても残念がっていましたが」
 理恵の呟きに姫桜が思わず溜息を一つ吐いた。

 ――いずれにせよ、禍王との戦いは一先ずの終わりを告げた。
 あの村がこれからどうなるのか、そして支配者を失ったこの地がどうなるのか……その物語が紡がれるのは、また、別の時であろう。


 

 
 
 
 

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月19日


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#ダークセイヴァー


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はフレイ・ブラッドセイバーです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト