バトルオブフラワーズ⑦〜イエイエ☆ハンティングナイト
●世界は恋に堕とされる
「そーれ! みーんなわたしのモノになっちゃえー!」
響き渡る愛らしい歌声と共に放たれるのは桃色の矢の雨。それが電気街を模した街並みに突き刺されば、そこからおびただしいハート模様が広がっていく。
「きゃはは! セカイがわたしに恋をする! セカイはわたしに一目惚れ!」
マシュマロのように甘い声はビターチョコのように苦い悪意を内包して嗤う。
彼女の名前は『天竺牡丹』。『ドン・フリーダム』の配下としてこの世界を手に入れるために、電子音と歌声、そして恋の弓矢を使って『サウンドステージ』を侵略していた。
「ほらほら! もっとわたしを見て! もっとわたしを聴いて!」
時計の使い魔が彼女を讃えるように周囲をくるくると回る。
埒外の力によって創り出されたステージがまばゆいピンクの光を散らす。
そして、サウンドステージを覆うハートは徐々にその数を増していく。
「あつくとろけて! わたしに恋して!」
――そうして、世界は恋に堕とされる。
●
「ねね! アイドルに興味ない?」
きらきらとした笑顔で三千院・操(ヨルムンガンド・f12510)は猟兵達に声をかけた。
頭上に?のマークを浮かべる彼らを前に、にっこりと微笑んで操は続ける。
「『システム・フラワーズ』に繋がるメンテナンスルート、そのうちの一つ『ザ・サウンドステージ』でオブリビオンの侵略が行われてるんだ! きみたちにはそれを阻止してもらいたいんだけどぉ……」
操が手元のグリモアを操作すれば、猟兵達の目の前には電気街を模した戦場が映し出された。そこには中央にまばゆく輝くパッションピンクのステージが存在しており、そこでは背中に一対の羽を生やした天使のような少女型オブリビオンが歌って踊って矢を乱射している。
彼女が射った矢が建物に当たれば、そこから絵の具が吹き出るようにハートのテクスチャが広がっていく。いずれそれがこの街すべてを埋め尽くすことは想像にたやすいだろう。
「……『ザ・ステージ』にはそれぞれ特殊な法則が存在する。それはこの『ザ・サウンドステージ』だって例外じゃない」
猟兵達ひとりひとりの顔を見渡しながら、操は真面目に言い聞かせる。
「ここではね、常に『自分自身を奮い立たせる歌』を歌って戦わないと不思議な力で戦場から弾き出されちゃうんだよ! しかもしかも! 歌を歌ってないと、あらゆる攻撃は無効化されちゃうわけ!」
まさに音楽の舞台。歌を絡めなければ満足に戦闘さえできないという事実を彼は告げる。
「敵の名前は『天竺牡丹』! 甘い声と可愛い仕草、そして特殊な弓矢で自分に強い恋慕を植え付ける激ヤバアイドルだよ!」
パッションピンクのステージの上のオブリビオンが拡大される。
まるでキューピットのような容姿の彼女こそが、今回打ち倒すべき敵だと示される。
「目には目を、歯には歯を、歌には歌をってね! 思いが強ければ強いほど、みんなの力は強くなるはず! だからがんばって!」
ぐっ、と親指を立てて操は猟兵達を応援した。
そうすればグリモアから紫色の光が溢れ出す。光が猟兵達の視界を奪ったと同時、一瞬の浮遊感と共に場所が移り変わる。
そこは二つに割れたキマイラフューチャーの内部。
『システム・フラワーズ』を守護する六つの防衛機構『ザ・ステージ』が一、歌と想いを司る『ザ・サウンドステージ』だ。
ヒガキ ミョウリ
こにゃにゃちわ~~~ヒガキミョウリです。
アイドルっていうかディスコっていうかなんていうか、そういうアレです。
強い想いをぶつけてキューピットちゃんを撃ち落としましょう。
以下は特殊ルールになります。ご確認のうえプレイングをお送りください。
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●パッショネイトソング
このシナリオフレームでは、『パッショネイトソング』という特殊戦闘ルールが適用されます。
この戦場では、戦闘中、常に『自分自身を奮い立たせる歌』を歌い続けなければなりません。
歌を歌わずに行った攻撃は、効果を発揮しません。
『秘密にしている事をカミングアウト』したり『恋人への告白を歌にして捧げる』など、強い思いを歌に乗せる事ができれば、より強力な攻撃を行う事が出来るでしょう。
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皆さんのアツいプレイング、楽しみにお待ちしております。
著作権のやつに触れるプレイングはだめだめよ。
第1章 ボス戦
『天竺牡丹』
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POW : わたしのモノになっちゃえ!
【天竺牡丹に恋する矢】が命中した対象に対し、高威力高命中の【恋慕の情】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 大活躍の予感!
予め【使い魔の時計版がぐるぐる回る】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
WIZ : 一緒にがんばろ?
【異性を魅了する声と仕草】を聞いて共感した対象全ての戦闘力を増強する。
👑11
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キックル・ロックロック
アドリブ等◎
やあやあ『天竺牡丹』!キミってばとってもカワイイね!ボクも恋しちゃいそうさ。
なーんてね、セカイを壊す敵なんかに恋してやるもんか!
絶対に負けたくないって思いをユーベルコードに込めて歌うよ。
【FROGS☆SONG】!
ボクの歌はみーんなを《鼓舞》する歌さ。
歌いながら『天竺牡丹』に《全力魔法》!
スキとかキライとかウマいとかヘタとか、そんな感想はどーでもいーよ。ボクのポップでロックなサウンドを理解してくれなくたっていーよ。
キマイラフューチャーのピンチなんだ、勝たなきゃいけないだろ。オブリビオンに負けてなんかいられないだろ。この思いをのっけた歌声に、歌詞に、共感してくれたまえよ!
●Frog King Rock.
恋慕の声音に蕩かされようとしている舞台に、蛙の少女が一人。
煌めく髪はライムグリーン、輝く虹色の瞳の中に世界を映して、可愛らしく飾られた魔法の杖をマイクのように握りしめ、自慢の洋服に身を包んだ彼女の名は――キックル・ロックロック(フロッグロック・f17994)。
「やあやあ『天竺牡丹』!キミってばとってもカワイイね!ボクも恋しちゃいそうさ」
「きゃはは! そのまま落ちちゃってもいいんだよっ!」
鈴の音のような天竺牡丹の声と、飴玉のようなキックルの声が交じる。
「なーんてね、セカイを壊す敵なんかに恋してやるもんか! 」
「むむっ! 生意気ー! でもいいよ、ゼッタイわたしのものにするんだから!」
「残念だけど、ボクは誰かのものにはならないよ! だってボクは神様なんだ! 誰か一人のものになっちゃったら――つまらないだろ!」
すぅっ、とキックルは息を吸い込む。
同時に魔法の杖がキックルの意思に反応し、明るく躍るような演奏がどこからともなく流れ始める。それは彼女の『歌』の始まる合図。
「さぁ聞ききたまえ! 『FROGS☆SONG(キックル・ロックロック
)』!!」
「うぇっ?!」
そうして始まるのはポップでロックなキックルの想いを載せた詩。
まさか猟兵側も自分と同じようなことをしてくると思っていなかったのか、天竺牡丹は露骨な驚きを表情に出すが、すぐに負けじとマイクを握りしめる。
「――!!」
天竺牡丹の歌が周囲の人々や世界さえもを魅了するものであることに対し、キックルの歌は周囲の人々を鼓舞し、そうして自分の意思を気付かせる歌だった。
(「スキとかキライとかウマいとかヘタとか、そんな感想はどーでもいーよ。ボクのポップでロックなサウンドを理解してくれなくたっていーよ」)
だけど。それでも。
(「キマイラフューチャーのピンチなんだ、勝たなきゃいけないだろ。オブリビオンに負けてなんかいられないだろ!」)
セカイは壊させないし奪わせない。
その純粋なる想いを込めてキックルは声を張り上げる。
「くぅぅっ! なによ、これぇっ!」
そうして、それは何よりも強い魔法となる。
キックルの歌によって虚空から出現した色とりどりの水の刃が、天竺牡丹の肉体を切り裂いた。
「なにかって、わからないかい? ――これは、ボクの歌だ!!」
蛙の少女は鳴動する。これこそが、己の存在証明だと言わんばかりに。
大成功
🔵🔵🔵
ブリッツ・エレクトロダンス
アイドル、アイドルねぇ。
アイドルにも色々いるが、俺は歌唱派のアイドルの方が比較的好感持てはするが…
…曲は…この間ピアノ弾いて作ったけど結局お蔵入りしたアレにするか。
(亡きピアニストの友人から最後に貰った曲に対する返しの曲。普段使わないピアノで弾いて収録したレクイエム。)
…ごめんな。俺はお前の事をずっと忘れていたよ。
(普段から遊び人気味なブリッツだが、この友人に対しては真剣に恋愛感情に似たようなのを抱いていた。吐き出せなかったそれを告白する様に歌詞に乗せる。そして気持ちを整理し自分を奮い立たせて)
悪いけどな、俺はここで終わるつもりはないんだ。
あいつのためにもな!
ULT発動!ボコボコにしてやる!
●Kyrie eleison.
――恋をしていた。この身が捩れ、心が軋み、それまで構築してきたブリッツ・エレクトロダンス(DJ.Blitz・f01017)という己が崩れてしまいそうな、そんな恋を。
しかし、ついぞそれを伝えられることができぬまま、彼は逝ってしまった。
自死だった。望まぬ行為の果てに、ピアニストであった彼は己の死を選んだ。
死の原因たる男は倒した。然しそれで己の心が綺麗に片付けられたかと言われたら、そんな都合のいい現実はどこにも存在しなかった。
「……ごめんな。俺はお前の事をずっと忘れていたよ」
天竺牡丹の歌声は、どうやら『恋』を想起させる力もあったようだった。
この戦場に来てからというもの、己の内側で彼に対しての忘却していた想いが溢れて止まらない。それは濁流のように暴れ狂い、今度こそ己を崩そうとしていた。
だからこそ。
「遅くなっちまったけど……お前への答え、返さないとな」
ブリッツ・エレクトロダンスという男は唄う。伝えられなかった想いを。
曲はかつて普段使わないピアノを弾いて演奏した鎮魂歌(レクイエム)。
『彼』から最後に貰った曲に対する返しの曲。自死を選んだ友の魂が、安らかであらんことを祈る救憐の言葉だ。
『ブリッツ』
不意に、懐かしい彼の声が聞こえる。
(「あぁ、だけど」)
『ブリッツ、君は』
(「お前は、もういないんだ」)
その瞳に、その声に、その指先に、その心に惹かれた。
誰よりも側にいたいと願った。何よりも共に在りたいと祈った。
お前と歩く日々が、ずっと続くと思っていた。それなのに。
「好きだったよ。■■■」
失った悲しみ、恋していた辛さ、奪われた怒りその全てを取り戻した一人の男の歌が響く。
過去を飲み下し一つの区切りをつけるために、ブリッツは声を張り上げて唄う。
己はここで終わるつもりはない。未来のために、自分のために、そして何よりあいつのためにも。
「ULT発動! ボコボコにしてやる!」
刹那、幾多の想いが込められた乱打が天竺牡丹へと殺到した。
――恋をしていた。この身が捻じれ、心が軋み、それまで構築してきた己が崩れてしまいそうな恋を。
しかしその恋は、ついぞ実ることはなかった。
故に主よ、あわれみたまえ。
大成功
🔵🔵🔵
ジェラルド・マドック
意志に関わらず恋慕を抱かせるなんてお転婆だね
でも俺は音楽を愛する人間だから
君の魅力と俺の音楽への情熱、どちらが勝つか勝負しようよ
サウンドウェポンをピアノに展開してUCで攻撃
音の刃と衝撃波で矢対策
曲調はステシ参照参考
(以下歌詞)
心の底から愛しい大事な君へ
一緒にいるのが当然すぎて言い忘れる前に君へラブソングを捧げよう
嬉しい時心が舞い上がった時
君が傍に居たんだ
悲しい時まいってしまった時
君に支えられたんだ
確かにあの時の俺は若かったけど
それまで抱えていたものを手放しても君といたいって思ったし
今でもそしてきっと歳をいくら重ねても後悔しないよ
健やかなる時も病める時も
富める時も貧しき時も
命ある限り音楽を愛そう
●No Music,No Life.
――叶わなかった恋慕の唄に続くのは、尽きぬ情熱の唄。
音楽の無い生は生にあらず。
この想いはいつまでも一途。生涯、この心を捧げる相手は決めている。
「おやおや、意志に関わらず恋慕を抱かせるなんてお転婆だね」
涼しい微笑を浮かべ、ジェラルド・マドック(f01674)は天竺牡丹に語りかけた。
「っは……! ありがと! あなたもわたしに恋してみる?」
先程の黒豹の猟兵の連続攻撃を受け、わずかに体勢を崩した彼女はキッとジェラルドを睨みつつ、それでも笑みを浮かべて答える。
弓矢を携える手から力は失われておらず、電気街に張り付いたハートのテクスチャも、猟兵達の攻撃によって薄れたとはいえ未だ健在。
それは即ち、天竺牡丹を倒すにはまだ足りないということに他ならなかった。
「生憎だけど、俺は音楽を愛する人間だからね。どうせなら――」
携帯したサウンドウェポンが形取るのは純黒のピアノだ。それこそがジェラルドの武器。音楽家である彼の意思を示す幾つかの朋の一つ。
ジェラルドは静かに鍵盤に指を置くと、天竺牡丹に向けて鋭い声を投げかけた。
「君の魅力と俺の音楽への情熱、どちらが勝つか勝負しようよ」
ニィ、と天竺牡丹の顔が歪む。それは高慢? 或いは慢心? 否、それは絶対の自信。己の魅力こそが何よりも勝るという自尊の顕現だ。
「きゃはは! おっけー! そっちが負けたら……分かってるよね!」
「あぁ、もちろん。だけど負ける気は毛頭ない。……さぁ、行くよ」
「ふーん……。猟兵って………やっぱりナマイキ!!」
刹那、響き渡るのは世界を放蕩へと導く極楽浄土の歌声。それは薄れていたハートのテクスチャを増殖させ、ジェラルドの体をも蝕もうと襲来する。
「――心の底から愛しい大事な君へ。一緒にいるのが当然すぎて言い忘れる前に君へラブソングを捧げよう」
空気が爆ぜる。
ジェラルドの歌声と演奏によって発生した音の刃が天竺牡丹の歌声を切り裂けば、飛来したハートが霧散していく。
しかしそれでもと忌々しげに眉間にシワを寄せながら彼女は唄う。なぜなら己が負けるはずはない。だって、わたしはこんなにも可愛いのだから。
「――嬉しい時心が舞い上がった時、君が傍に居たんだ」
「――悲しい時まいってしまった時、君に支えられたんだ」
なのに、どうして。この男は恋に落ちない? どうしてこんなにも、楽しそうに歌を歌っている?
歌なんて、音楽なんて、自分を引き立てるための道具に過ぎないのに!
ジェラルドの刃は衝撃波を伴い、天竺牡丹の放つ恋慕の情を撃ち落としていく。
「――確かにあの時の俺は若かったけど、それまで抱えていたものを手放しても君といたいって思ったし、今でもそしてきっと歳をいくら重ねても後悔しないよ」
故に、天竺牡丹は気付かない。
眼の前にいるジェラルド・マドックという男の音楽に、自分が敵わないことに。
「――健やかなる時も病める時も、富める時も貧しき時も」
弾む鍵盤に、明るい歌声。
その曲調は決して激しいものではない。気分を高揚させるような力強さとは正反対のもの。
それでも、確かな『力』があった。
「命ある限り音楽を愛そう!」
そう、恋は愛の前には無力になるのだ。
無数の音の刃と衝撃波が天竺牡丹の歌声を圧倒し、此処にジェラルド・マドックの勝利を示した。
大成功
🔵🔵🔵
黒川・郁斗
【一応WIZ行動】
ほぅ、歌いながら戦えば良いんだな?
なら、本領発揮と行こうじゃねぇか
俺にしか歌えない”音楽”を奏でるとするか!
ユーベルコード【サウンド・オブ・パワー】発動!
『俺の隣にくるアイツ
にっこり微笑むその笑顔
なぜだか胸を締め付ける
こんな気持ち初めてで
ちくちく痛んでつらいんだ
俺の恋路を邪魔するやつは
誰だろうとぶっ飛ばす!
俺の暴走は止められない!』
ギター型サウンドウェポンでパフォーマンスしながら歌っていくぜ!
相手を感動させられたりすりゃいいんだが……
そのあとは【崩月・砕牙爆迅衝】…要は拳でぶん殴る!(戦闘描写はMSさんのお任せで)
さぁ!俺の歌を聴きやがれぇぇぇぇッ!!!
【アドリブ歓迎!】
●Romanyic lovesong.
己にしか奏でられない『音楽』を奏でる。
その為に、黒川・郁斗(ハンコツセイシン・f13718)はハートのテクスチャに覆われようとしている電気街に降り立った。
手にしたサウンドウェポンをギターの形状に変形させれば、人狼としての肺活量のままに彼は叫ぶ。
己を奮い立たせろ。ここは歌の戦場だ。であれば本領発揮、負ける道理はどこにもない。
「さぁ! 俺の歌を聴きやがれぇぇぇぇッ!!!」
灰狼が吠える。その声は戦場全域に行き届き、ステージの上の天竺牡丹の意識を向けさせた。
「うわっ! 今度は狼?! むぅぅぅっ! ぜったい、負けないんだから!!」
敗北を重ねるに三度。
これ以上負けるのは、彼女のプライドが許さなかった。己は愛されるべき存在だ。恋されるべき存在だ。誰しもが自分の声や仕草や容姿に見とれ、そうして恋い焦がれる高嶺の花。
こんな風に、刃に切り裂かれ拳を叩きつけられ、衣装をボロボロにしながら歌を唄うなんて断じてありえない!!
「わたしは天竺牡丹! みんなが恋する女の子っ!」
きらりとピース、ふわりと笑顔。とろける声で語りかければ、誰もがみんなわたしの虜になる。
「………」
だからそう、あの狼もすぐにメロメロになる。
「――……俺の隣にくるアイツ。にっこり微笑むその笑顔、なぜだか胸を締め付ける」
「うそ、なんで
……?!」
少なくとも、そう天竺牡丹は思っていた。
しかし、それはあっさりと裏切られることになる。
「――こんな気持ち初めてで、ちくちく痛んでつらいんだ」
かき鳴らすギターは一心不乱。張り上げる声は一意専心。
天竺牡丹の声も仕草も聞こえないほどに、黒川・郁斗は己の音楽に熱中していた。
故に魅了などされるはずもない。なぜなら彼は今、既に『音楽』に魅了されているのだから。
「――俺の恋路を邪魔するやつは誰だろうとぶっ飛ばす! 俺の暴走は止められない!」
カッ! と郁斗の橙色の瞳が見開かれる。
奮起は充分。想起は万全。人の恋路を邪魔するやつは、馬に蹴られるて然るべき。
(「ま、俺は狼だけどなァッ!」)
体が軽い。意識が明瞭だ。今ならばいつもの自分よりも遥かに強い力が出せる。
これが歌の力なのだろう。郁斗は己の拳を握りしめ、そのまま天竺牡丹へと疾走する。
「ウォォォォッ!! 喰らえ! 『崩月・砕牙爆迅衝』ッ!!」
そうして、月をも崩す狼の一撃が、恋唄う少女へと打ち込まれた。
大成功
🔵🔵🔵
ヘンリエッタ・モリアーティ
……うるさい声だな。君の歌声で心酔される奴らが哀れだ
私も歌えば君を黙らせられるのか
ふむ……やってみよう
暴露する秘密は多いよ、私を暴ききるなど100年では程遠い
では、共感を得そうな愛する番についてでも
食べてしまいたいほど愛おしいが食べてしまうのは惜しい
君たちにもこういう気持ちはない?
支配したいのに支配しては面白くない
首輪をつけるのは簡単だけれど、つけてしまったあとを考えるのは「ぞくぞくする」
世界と番なら、君たちはどっちをとる?
私は――両方、私のものにする
愛をナメるなよ、私の方が「深い愛」だ
壊すだけじゃ、楽しくない
うん、歌詞がマニアックなので曲調はポップで
え?電波ソング?なんだいそれ
Meow.
●Agape.
少女の奏でる甘い甘い砂糖菓子のような声音は、"マダム"・ヘンリエッタ・モリアーティ(f07026)にとって耳障りな雑音にでしかなかった。
このような雑音で心を奪われる聴衆はなんと憐れなことか。もう少しマシな歌声だってあったろうに。
しかしどうやらこの戦場では歌こそが力に繋がるらしい。これまで己の想いを歌にして奏でていた猟兵達を見て、彼女はそれを確信する。
彼らは皆随分と軽やかな動きで、随分と凶暴に天竺牡丹の歌を圧倒していた。ならば。
「私も歌えば君を黙らせられるのか。ふむ……やってみよう」
「はぁ?! や、やれるもんならやってみなさいよ!」
うるさいノイズだ。疾く黙らせてしまおう。
どうやら秘めた想いはより強い動力源になるらしい。
あぁ、ならばこの場はなんと己に適した場だろうか。
「暴露する秘密は多いよ、私を暴ききるなど100年では程遠い」
反転した瞳に映った桃色の天使の顔が僅かな恐怖に染まる。
得体の知れない莫大な意思に、弓矢を握る指が震える。既に幾人もの猟兵に攻撃を受けたこの身は、確実に限界へと近づいていた。
漆黒の女の唇が開く。
「食べてしまいたいほど愛おしいが食べてしまうのは惜しい。君たちにもこういう気持ちはない?」
女は詠う。愛する番について。恋とは似て非なる愛について。
「支配したいのに支配しては面白くない。首輪をつけるのは簡単だけれど、つけてしまったあとを考えるのは『ぞくぞくする』」
女は詠う。背後に流れるのはポップな曲調の電子音。
「世界と番なら、君たちはどっちをとる?」
指先を向けて、訊く。
世界を取るか番を取るか。それは究極の二択だ。どちらも愛しているのならば、どちらをこの手に収める?
「!! そんなの
……!!」
決められるわけない。そんな天竺牡丹の言葉を予測しているかのように、ヘンリエッタは言葉を紡ぐ。
「私は――両方、私のものにする」
当然だ。この身は果てしなく傲慢であり怠惰。
どちらも愛しているのならば、どちらかを選ぶ必要がどこにあるだろうか? 否、そんなものはどこにもない。
故に、どちらも手にすればいい。簡単なことだ。
「愛をナメるなよ、私の方が『深い愛』だ」
壊すだけじゃあ楽しくない。蕩かすだけじゃあつまらない。
夢見がちな恋を唱えるならば、真実の愛を教えてやろう。
「ひっ……!」
その気迫に、思わず天竺牡丹は歌い上げる声を止める。目前に在るものはなんだ? 猟兵。そう、猟兵だ。殺すべき敵、倒すべき敵。それなのに、あぁどうして。
どうしてこんなにも――恐ろしいのか。
Meow.
猫の鳴き声が静寂を渡れば、最後の審判が訪れる。
大成功
🔵🔵🔵
パウル・ブラフマン
【SPD】
Glanzでステージに乗りつけ参上!
ちわーっす!エイリアンツアーズでっす☆
オーバーキルになっちゃう?
御冗談!恋とRapはノンストップでいかなきゃでしょ、牡丹ちゃん♪
Herz握り締めUC発動!今日もキメるぜ、Bring the beat!!
YeahYeah☆HUNTING-NIGHRT
キルマーク並べてBETするLOVE GAME?
weirdo-weirdo☆HUNGING NECK
撃墜知らずが涙目boo&boo
オレも恋したことねぇし…小細工ナシなら似た者同士?
Sike!That's bullshit―Dibs on 牡丹!
(コルナサインの小指を畳んでBANG!)
※絡み&アドリブ大歓迎!
●Da Capo.
天竺牡丹の歌声が静止する。
それまで世界を蝕み、恋の名のもとに蕩かそうとしていた毒が、止まる。
電気街に張り付いたハートのテクスチャは、気づけばそのほとんどが薄れて消えかけている。
さて、ここまで続いた歌劇も終わりの時がやってきた。
彼方より轟き近付くのは低い重低音。小刻みに連続していたそれは瞬く内に爆音へと変わり天竺牡丹の意識を貫いた。
「ちわーっす! エイリアンツアーズでっす☆」
その爆音の発生源は一人の男だった。眼帯を着け、人の良さそうな笑みを浮かべたパウル・ブラフマン(f04694)だ。
彼はこれまで幾度となく戦場を共に駆けた愛車と共に天竺牡丹の躍るステージへと乗り込んだ。
突然の乱入者に天竺牡丹は目を見開き、周囲の使い魔の動きが止まる。
「これ以上はオーバーキルになっちゃう? 御冗談!恋とRapはノンストップでいかなきゃでしょ、牡丹ちゃん♪」
バチリと決められたウィンクに、天竺牡丹はハッと気づく。
そうだ。わたしは誰もが恋するおんなのこ。こいつらは強くて怖くてとんでもない。だけどどれほど叩かれて潰されても、わたしはみんなを恋させる。
それが、それこそが――わたしが『天竺牡丹』である意味。
「う、るさいなっ! わかってるもんそんなこと! もうラストナンバーになっちゃったけど、わたしはあんたを恋させるんだから!」
「ハハ! いいじゃんその気持ち! だったらオレも応えないとね! 今日もキメるぜ、Bring the beat!!」
恋の歌とぶつかるのは嵐のような怒涛のリリック。
「――YeahYeah☆HUNTING-NIGHRT キルマーク並べてBETするLOVE GAME?」
「――蕩けてわたしにメルティング★ナイト! 他のものなんて目に入らないでしょ?」
超絶技巧の言葉の羅列が、恋に恋する甘言を押し留める。
「――weirdo-weirdo☆HUNGING NECK 撃墜知らずが涙目boo&boo」
「――弾けてこのままメルティング★ダウン! 他のことなんてわからないでしょ?」
これまで蓄積されたダメージもあってか、天竺牡丹が幾ら声を張り上げて歌おうとも、パウルの歌には敵わない。
最初は拮抗していた歌唱の力も、パウルが勝利しつつあった。
「――オレも恋したことねぇし…小細工ナシなら似た者同士? Sike!That's bullshit―Dibs on 牡丹」
「――甘くて蕩ける恋愛模様! 知らないのなら教えてあげる!!」
歌声と歌詞がぶつかりあい弾け飛ぶ。
天竺牡丹の歌声は恋慕の矢となり飛来し、パウルの歌は激しい音波の弾丸となって矢を覆う。
パウルの歌はやがて天竺牡丹を完全に押し通し、そして。
「BANG!!」
コルナサインの小指を畳めば何よりも強大な音が穿たれ、恋の墜ちる音がした。
●
斯くして恋へと導く天竺牡丹の脅威は打倒された。
世界を恋へ落とそうとした少女は、世界に選ばれた者達によって屠られたのだった。
大成功
🔵🔵🔵