バトルオブフラワーズ⑧〜黒き牙城に写す理想
●理想に酔う者
「あぁ……ここは理想郷かもしれん……」
あたり一面黒で塗りつぶされた戦場ステージ、その中心で恍惚と呟く一人の男がいた。その頭はモニターであり、そこに映るは己の理想。だが、彼は思っていたのだ。いかに自分の理想を映そうとも自分では見れない、と。だが、ここは違う。
「んふふ……妹がいっぱい見える……」
つぅ、と指先がなぞるは黒い壁に写る己の顔……に映っている妹。そう、彼はステージを『闇のような黒色』で塗り固め、その磨き上げたような表面に自分の顔を写していたのだ。別の壁へ視線を向ければ違う妹が……そう写るようモニターを切り替える事で、あたかも無数の妹に囲まれているような感覚を得る。
「この黒色が、オレに無限の可能性を見せてくれる。そうだろう?」
『うん! がんばってね、お兄ちゃん!』
「あぁ……! 妹たちの声援がある限り、オレは……戦えるッ!!」
なお、音声は自分でタイミングよく動画を流す事で出しているようだ。
●グリモアベースにて
「皆さん、『バトルオブフラワーズ』のステージを予知しました。」
ぱたんと聖典のグリモアを閉じ、アルトリンデ・エーデルシュタインが呼びかける。
「場所は『ザ・ペイントステージ』、ここを占拠したオブリビオンが居るようです。」
すでに戦場ステージ全体が『闇のような黒色』で塗りつぶされており、オブリビオン側が優位な状況からの開始となる。
「この場の特殊戦闘ルールは『ヌリツブシバトル』、開始直後の黒一面の状況ではオブリビオンにダメージを与える事はできません。」
代わりに、ユーベルコードや武器で壁や床を攻撃する事により別の色で上塗りする事ができるという。そして一定範囲を塗りつぶすと一度だけユーベルコード本来の威力でオブリビオンを攻撃できる。また、オブリビオンを攻撃せずに、より広範囲を一気に塗りつぶす『スーパー塗りつぶし攻撃』を行う事も可能だ。
「マップの3分の2以上を塗りつぶせれば制限なくユーベルコードなどでの攻撃が可能となるようですので、塗りつぶしを優先するかは皆さんの作戦にお任せします。」
もちろん、塗りつぶすだけではオブリビオンは倒せない。攻撃する者と塗りつぶす者で手分けするのも良いだろうし、一定範囲を塗りつぶして攻撃を繰り返してもいい。
「あと、その……オブリビオンは黒い壁に写った画像で士気を上げているようで……」
直接的な戦闘力などには関わらないが、黒が減ると壁に画像が写らなくなりオブリビオンのテンションが下がるという。別段、意識しなくとも構わないし、利用してみてもいい。
「特殊な嗜好のオブリビオンが相手となりますが、戦争に勝つ為の一手を進めるために。」
皆さんのお力を貸してください。そう括ってアルトリンデは猟兵たちを送るのだった。
こげとら
しばらくぶりです、こげとらです。
再びのペイントステージですが今回はボス戦となります。特殊戦闘ルールも『ヌリツブシバトル』となりますのでご注意ください。
特殊戦闘ルールをもう一度纏めますと。
マップ全体が『闇のような黒色』で塗られた状態から開始。
開始状況では猟兵はダメージを与える事ができない。代わりに、攻撃により壁や床を別の色で塗りつぶせる。
猟兵がボスへダメージを与えるには一定範囲を塗りつぶさないといけない。
一定範囲を塗りつぶした場合、一度だけ本来の威力の攻撃やユーベルコードを使う事ができる。
ボスへのダメージを与える攻撃の代わりに塗りつぶしを行う事で、より広範囲を塗り潰せる『スーパー塗りつぶし攻撃』が行える。
マップの3分の2以上を塗りつぶした場合、猟兵たちは攻撃の制限なく戦える。
と、なります。
ボスとなるオブリビオン『妹が大好きな怪人・マイホゥ』は妹大好きなあまり女の子から兄扱いされると動きが止まるなどの弱点もありますので、あの手この手で動きを止めてるうちに一気に塗り広げても良いかもしれません。
それでは、皆さんのご参加をお待ちしております! 戦争、皆で勝ちましょう!
第1章 ボス戦
『妹が大好きな怪人・マイホゥ』
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POW : 妹の願いを叶えぬ兄などいない!お兄ちゃん頑張るぞ
【妄想の元気系妹の激励 】【妄想の清楚系妹の声援】【妄想のツンデレ系妹の罵倒(?)】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
SPD : 妹の何が良いかだと?これを見れば良さがわかるぞ
レベル×5本の【妹 】属性の【動画を再生するモニター付ドローン】を放つ。
WIZ : どんな妹が好みだい?言わなくてもわかっているさ
【頭部のタブレットPC 】から【対象が考える理想の妹の幻影】を放ち、【実体化した幻の妹とのふれあい】により対象の動きを一時的に封じる。
👑11
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葛乃葉・やすな
この戦争、勢いはわしらにあるな。
この機を逃す手はあるまい。一気に攻めようかのう。
わしの戦略としてはオブリビオンを足止めしつつ塗りつぶしを最優先といったところじゃな。
UC【フォックスファイア】で周囲を黄色に塗りつぶしていこうか。狐火が着弾したら爆発させ【範囲攻撃】を狙うとしよう。
【第六感】でオブリビオンのもとまで行き、オブリビオンに対して【手をつなぐ】【誘惑】【言いくるめ】で【時間稼ぎ】じゃ。
「お兄ちゃん!やすなが塗りつぶすところ見てて!アドバイスとかくれると嬉しいな♪」
「ここは塗り終わったから今度はあっち行こう♪」
といった感じじゃな。
妖狐らしく?化かしてやろうぞ。
※アドリブや絡み歓迎じゃ
ベルベナ・ラウンドディー
あ、大丈夫大丈夫
宇宙船のぼっち生活の孤独に耐え切れず
人派の姿で女装して「ベナお兄ちゃまステキ―!」竜派に戻って「そうかい妹よフフフ」なんて独り芝居をやってた私に比べればマシなほうです
●範囲攻撃・衝撃波・拠点防御
165本の結界を私を中心位置に拡張する展開方式で面積を稼ぎます
障害物は結界で吹き飛ばし、中心に立つ私の姿は見えるはずです
そして見せつけて差し上げるのです
私の過去の過ちを
「ベナお兄たまステキ―!」「そうかい妹よハハハ」(みたいな狂気の自演を結界展開しながら延々と
認知せよ…!貴様はこの手前まで足を踏み入れた同族だと…!
で、殴れたら殴ります
この過去を知られた以上生きて返すわけにはいきませんから
リリスフィア・スターライト
私もたまには別人格に姉のように慕われたいと思うことがあるけれど、
それとこれとは話は別だよね。
他の猟兵達を巻き込まないタイミングで天体破局による洪水で一気に
壁や床を別の色に塗りつぶしつつ怪人も巻き込むつもりだよ。
可能なら洪水に青の絵の具も混入しておくね。
向こうの反撃で妹の幻影とか呼び出されても堪えて攻撃だね。
理想の妹が欲しいなら自分で作ればいいしね。
「今回はまとめて洗い流せばよさそうだね」
「私の理想はこんなものじゃないよ」
見渡す限りの一面の黒、それがこのマップの現状だ。だが、猟兵たちの動き如何でいかようにも塗り返せるだろう。何よりも。
「この戦争、勢いはわしらにあるな。
この機を逃す手はあるまい。一気に攻めようかのう。」
葛乃葉・やすなの言葉の通り、システム・フラワーズ内部への攻略も始まっている。この勢いのまま攻め続ける為にもザ・ステージは抑えておく必要があるだろう。その為にもこのマップに陣取るオブリビオン『妹が大好きな怪人・マイホゥ』は倒さなくては。見やる視線の先で、マイホゥは独りではしゃいでいた。
「なんだい、妹よ。オレが心配なのかい? ……はは、大丈夫だって。お兄ちゃんに任せておけって。」
黒い壁面に独り言をぶつける様子が、イタイ。マイホゥの中では独り言ではなく妹との会話として成立している為、なおの事イタイ雰囲気だ。その様子を見て、リリスフィア・スターライトが言葉を零した。
「私もたまには別人格に姉のように慕われたいと思うことがあるけれど、それとこれとは話は別だよね。」
理想を描くのは良いだろう。だが現実と区別せず、ああいう風に他人に見せるのはよろしくない。さてどう攻めるか、戦場を見渡そうとしたリリスフィアの目にベルベナ・ラウンドディーが映った。その顔は何とも形容しがたい表情をしている。
「あ、大丈夫大丈夫。」
その視線にベルベナは何でもないと返してオブリビオン・マイホゥに視線を戻した。マイホゥの奇行が彼の脳裏に在りし日の記憶を呼び起させる。それは宇宙船でぼっち生活をしていた時。孤独に耐え切れなくなったベルベナは独り芝居をやっていた事があった。
ベナお兄ちゃまステキ―!
そうかい妹よフフフ……
そう、彼は女装した人派の姿で妹になり切り、竜派の姿に戻った自分が兄と呼ばれる芝居をしていたのだ。マイホゥより遥か高みに居たかつての自分。それに比べれば眼前の光景はマシなほうだとベルベナは思っていた。が、そんな事を仲間に悟られる訳にはいかない。
「今回はまとめて洗い流せばよさそうだね。」
「わしはオブリビオンの足止めもしながら塗りつぶしていくのじゃ。」
リリスフィアとやすなはベルベナの内心を知る事無く、方針を確認し合っている。
「それでは始めましょうか。」
3人はそれぞれの行動に移るのだった。
猟兵たちが来ているのはマイホゥも感づいていた。だがそんな事より妹とのひと時だと、猟兵が向かってくるまでは独りできゃっきゃうふふと脳内妹との会話を楽しんでいたのだ。だが、その耳に届いた声がマイホゥに衝撃を与える。
「お兄ちゃん!」
「えっ!?」
モニター越しに何度も聞いた声ではない、可愛らしい少女の声。自分を兄と、いや、お兄ちゃんと呼ぶ声に導かれるまま視線を向けた先には、やすなの笑顔が。これは夢か現か、混乱するマイホゥの手をやすなが取る。再びの衝撃、これがリアルの妹か。
「お兄ちゃん! やすなが塗りつぶすところ見てて!」
「あ……ああ、もちろんさ!」
やすなが【フォックスファイア】を放つ。舞う数多の狐火が着弾して爆発していき、黒の上を黄色で塗り潰していった。黒色はマイホゥを守る砦である。それを上塗りされるのは己が護りを削られるという事に等しい。マイホゥも黄色で塗りつぶされていく様子を眺めているだけではない。
「やすなはすごいなぁ!」
塗りつぶされていく床ではなく、やすなを見ていた。
「アドバイスとかくれると嬉しいな♪」
とびきりの笑顔で振り向くやすなにマイホゥの鼓動が高鳴る。ちょろい。第三者が見ていたらそう思う事だろう。妹に免疫がないマイホゥにとって、やすなの誘惑は到底抗える物ではなかった。
「あ、えっと、うん……そうだね、最初は奇麗に全部塗るより広い範囲にばら撒いたらどうかな?」
どもりながらも答えるマイホゥに、やすなは手ごたえを感じていた。このままマイホゥを引き留め、他の二人の策を進めるのだ。
「ここから始めれば他の猟兵達は巻き込まないかな。」
リリスフィアが立つのはマイホゥから少し離れたところだった。今回の特殊戦闘ルールにより一定範囲を攻撃して塗りつぶさない限りオブリビオンにはダメージがない。だが、悠長に敵の目の前で塗っていては対策を練る時間を与えるようなモノだ。ならば一気に塗り、すべて洗い流せばいい。リリスフィアの意に従い、【天体破局(スフィア・カタストロフィ)】により発生した青い水が迸る。
「まずは壁や床を別の色に、その勢いで一気に怪人まで巻き込んで……」
制御の難しい【天体破局】を望む形に流していく。全てを抑える必要はない。ただ波涛の行く先を示せばいい。波が打ち付けるたび、黒を青が塗り替えていく。まだ、もう少し……操る現象に渦巻く力を高めながらタイミングを計る。青く塗られた床に立ち、リリスフィアは荒ぶる洪水を御しながら黒色を塗り替えていった。
「なんだ!?」
突如現れた水は遠目にも分かるほどだった。それを目にしたマイホゥの脳裏に警鐘が鳴る。しかし。
「ここは塗り終わったから今度はあっち行こう♪」
「うん、そうだな! 向こうはまだ塗ってないもんな!」
見事にやすなに手玉に取られていた。手を引かれるままに駆けだしたマイホゥの視界を今度は光が覆う。何事、と顔を向けたマイホゥが見た物は。
光の柱が邪魔な物を吹き飛ばしながら幾重にも屹立する。黒をも吹き飛ばすように白く広がる【守護結界生成(グレイプニル)】により囲まれたその中心で行われていたのは。
「ベナお兄たまステキ―!」
緑と白の髪をもつ人派のドラゴニアンが黄色い声をあげる。光の柱、その結界の合間から垣間見える人影は長い髪を揺らし誰かに呼びかけているようだ。マイホゥがよろめく。この先は見てはいけない、そう思いながらも視線が離せない。人影がサッと身を翻し、自身の呼びかけに答えるかのように腕を広げた。その姿が竜人、竜派のドラゴニアンの姿に変わる。
「そうかい妹よハハハ……」
それは秘すべき歴史の再演、即ちベルベナの過去の過ちの再現。ベルベナが見せつける狂気の自演にマイホゥの正気が削られていく。なお、他二人の猟兵に知られないようにその方向の結界は数を多くしてある。視線は元より声が届く事もあるまい。
「ベナお兄ちゃまといっしょだから、さびしくないよー!
……そうかい妹よフフフ。」
一人二役で続く狂演をするベルベナの視線が語る。
認知せよ……! 貴様はこの手前まで足を踏み入れた同族だと……!
マイホゥの視界が歪み、足元が崩れ去るような感覚に陥る。あれが、逝き着く先だというのか。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
手を取るやすなの声が意識を掬いあげる。そうだ、オレの妹はここにいるじゃないか。あんな奴の一人芝居とは違うんだ。そう言い聞かせるも、ベルベナの見せた光景がチラつく。
「見ててね! やすな、今度はもっといっぱい塗りつぶしちゃうよ!」
「あ、ああ……」
どこか焦点が合っていない気がするマイホゥの様子に、そろそろ頃合いかと一際広範囲に【フォックスファイア】を放ちながらさりげなく距離を取る。そこへリリスフィアの【天体破局】が雪崩れ込んだ。すでに自分の色は必要分塗り終わっている。そのまま継続させていた洪水がマイホゥもろともに周囲を洗い流していく。
「く、そっ……こんな、オレの妹は……!」
ふと気づけばやすなの姿は近くに無く、水は容赦なく押し寄せてくる。抗するには術者を叩くほかないか、そう判断したマイホゥは洪水を遡るように己が頭部のタブレットPCから幻影を投射した。それはリリスフィアが思い描く理想の妹だったかもしれない。その妹が誘う甘やかな幻想に、しかしリリスフィアは首を振る。
「私の理想はこんなものじゃないよ。」
多重人格者であるリリスフィアは己の内に別の性格を同居させている。それは彼女にとっての姉妹ともいえる存在。故に。
「理想の妹が欲しいなら自分で作ればいいしね。」
幻想に甘えるよりも、そうした方が良い。そう言い聞かせてぐっと堪える。
「バカな……! 理想の妹だぞ!? どうして……」
洪水に呑まれ流されていくマイホゥ、幻想を抱き続ける彼には理解しえぬ想いだろう。ようやく洪水が収まった後には、マップは見事に3分の2以上を塗り返されていた。その中でよろめきながら立ち上がるマイホゥ。
「まだだ……まだ、オレは……!」
だが、今まで囲んでいた妹たちを写す黒は少なく、その言葉も弱い。その前に一人の男が立塞がる。
この過去を知られた以上生きて返すわけにはいかない。
その男、ベルベナの瞳はそう語っていた。渾身の拳がマイホゥの頭部に叩き込まれる。
「べぶ!?」
吹き飛ばされるマイホゥ、その身体が追ったダメージは決して軽くない。決着の時は近づいていた。
大成功
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神楽・鈴音
先の戦いで吹っ飛ばされているマイホゥを『高貴なツンデレ妹キャラ』を演じつつ介抱する
「いつまで寝ていますの、兄様?
「べ、別に、心配などしていませんわ!
そうして油断させた上でヤンデレ妹キャラにチェンジ
賽銭箱ハンマーで『お仕置き』と称して襲い掛かる
「兄様をわたくしだけのモノにするには、これしか方法がありませんわ
戦闘によりこちらが不利になったらUC発動
瀕死の妹キャラを演じつつ
「兄様…鈴音は、もう…最後に…手を握って下さいまし…
こっそり召喚した女神(自堕落で酒好きな姐御系)に後ろから酒瓶スマッシュで攻撃させ、絶望のドン底に落とす
「はぁ~、キモいわねぇ。寝言は寝てからいいなさいよ、このロリコン!(by女神
吹き飛ばされた『妹が大好きな怪人・マイホゥ』は仰向けに倒れていた。体に残るダメージは大きく、すでにマップも過半が塗り返されている。だが、マイホゥはまだ消えてはいない。その身体を突き動かす妹への想いは潰えていないのだ。目を閉じれば、己の愛する妹からの応援が聞こえてくる。
「いつまで寝ていますの、兄様?」
「はぅあ!?」
いつもは頭部のタブレットPCから聞こえるはずの声が、上から聞こえる。思わず跳び起きたマイホゥの目の前には巫女姿の一人の少女、神楽・鈴音が立っていた。はね起きた拍子に痛む傷によろめくマイホゥに鈴音は優しく手を添え、身体を支える。あまりの事に思考が追い付かないマイホゥ、だが心地よい既視感。それは夢に見た、怪我した自分を介抱してくれる妹。振舞の端々から感じられる高貴さが一層現実味を薄れさせ、先ほどまでの戦いを遠くへと追いやっていく。
「え、あ……」
「べ、別に、心配などしていませんわ!」
マイホゥの視線を感じ、ふいと顔を逸らす鈴音。途端、マイホゥの鼓動が高鳴った。
ツンデレか……ッ!
あまりにもストレートに嗜好を貫くその言葉、そのしぐさに頭部のタブレットPCが熱くなる。このままツンデレ妹の介抱に全てを任せてしまおうか、されるがままになったマイホゥを鈴音は優しく地面に横たえる。優しく寝かしつけるようにマイホゥの身体を再び仰向けに倒した鈴音はゆらりと立ち上がった。完全に油断している今が、絶好の機会。後ろ手に取り出した物をしっかりと握り、振りかぶる。
「兄様をわたくしだけのモノにするには、これしか方法がありませんわ。」
見下ろす鈴音の表情は影でよく見えない。その頭上に振り上げた賽銭箱ハンマーが勢いよく振り下ろされた。鈴音の思惑通り、マイホゥの油断を誘った上でハンマーを叩きつけたのだ。油断しきっていたマイホゥの身体に賽銭箱がめり込む。
「がはっ、ヤンデレも……いい!」
肉体はダメージを負ったが、精神的には満ち足りているような声を吐きながらマイホゥが立ち上がる。今までの戦闘に加え先の一撃、すでに肉体は限界だろう。だが、マイホゥは己を応援する妹たちの声を感じていた。
『おにいちゃん』『がんばって!』『さっさと立ちなさいよ!』
鮮明に聞こえる妹たちの声はマイホゥの妄想に過ぎない。だが、その声はマイホゥの力を高めていく。
「戦わないといけないとは、お兄ちゃんは悲しい! だが戦う他に方法はないのなら!!」
拳を固め殴りかかってくるマイホゥを迎え撃つ鈴音。拳撃に打ち付けるように振るったハンマーを握る手が衝撃で強張る。ともすれば押し返されそうになる膂力に鈴音も全身の力を込めて押し返そうとした。体勢を崩せれば、渾身の一撃を叩き込む隙も作れる。そう考えた矢先、賽銭箱ハンマーの重量をいなし、押し込む力を潜るように流してマイホゥが対の手を叩き込むべく肉薄し。
ドン、と重い音を立てて拳が鈴音の身体を吹き飛ばした。
今の一撃はまともに入った。倒れた鈴音は弱弱しく腕を伸ばす事しかできず、もはや重いハンマーを振う事は出来はすまい。勝った、そう確信したマイホゥにか細い声が聞こえてくる。
「兄様……鈴音は、もう……最後に……手を握って下さいまし……」
その様子にマイホゥは思わず駆け寄った。自分のした事だからこそ、瀕死の妹に最後の別れを言わなくては。それがお兄ちゃんとしての彼の矜持……と言えればまだ格好良かったろうが、実際のマイホゥは鈴音の手を取りどこか嬉しそうである。
「すまない、鈴音……! オレにはお前の手を握ってやる事しかできない……!」
「はぁ~、キモいわねぇ。寝言は寝てからいいなさいよ、このロリコン!」
不意に背後からかけられる声と共に襲い掛かる衝撃がマイホゥを叩き伏せた。星が散る視界を巡らせれば、そこには鈴音の【祭神・物理ハ女子力ナ姫の加護】により現れた姉御風の女神が酒瓶片手に立っていた。
「ひっ!?」
妹とは対極と言ってもいい雰囲気の姉御(女神)に思わず後ずさるマイホゥ。女神は容赦なく手にした酒瓶を振り下ろした。マップにえげつない打撃音が響く。後に残ったのは『姉御怖い……姉御怖い……』と絶望に沈みながら骸の海へと還りゆくマイホゥと、役目を終えて帰る姉御、それを見届ける鈴音。そして消え去ったオブリビオン『妹が大好きな怪人・マイホゥ』に、鈴音はしっかと言い放つ。
「金……じゃなかった! 神の怒りを思い知るがいいわ!」
こうして、このペイントステージにおける『ヌリツブシバトル』は猟兵達の勝利で幕を閉じたのであった。
大成功
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