バトルオブフラワーズ⑦〜終わらない舞踏会
●
それは優しい音楽だった。
一音。一音。思い出を確かめるように、軽やかな金属音が鳴る。
いつかどこかで聞いたことのある音楽だった。子供の頃、父母に手を引かれて来た遊園地で。若い頃、初恋の人と語らったイルミネーションの下で。或いはどこでもない、安らかな夢の中で。
オルゴールの曲を奏でるのは、舞台上で踊り続ける怪人『ギヴ』。
夢色に光る衣装と優美な手足は、くるくると回り続け。頭のメリーゴーラウンドも、愉快に巡り続け。刻まれた音色が、終わりを知らず流れ続け。
一言も発することは無いが、その振る舞いが何よりも雄弁に語りかけてくる。
ずっとずっと、楽しい思い出の中で安らいでいましょう? 幸せな夢の中に浸っていましょう?
私はいつまでも、与え続けてあげるから。
怪人の奏でる優しい曲が、それでも何故か寂しいのは、彼女が独りだからか。
それとも終わりを否定すればする程、むしろその訪れを意識させるせいだろうか?
猟兵が舞台を訪れるまで、ギヴはいつまでも踊り続ける……。
●
「現在、キマイラフューチャーの中枢である『システム・フラワーズ』はオブリビオン・フォーミュラに占領されています。
私たちが『システム・フラワーズ』に辿りつくためには、まず周囲を守る6つの『ザ・ステージ』をオブリビオンから取り戻す必要があります。 今回、皆さんにお願いしたいのは、ザ・サウンドステージでのオブリビオン撃破です」
グリモアベースの一角。作戦について説明するのは眞清水・湧(分界簸却式超人類祖型・f02949)だ。
「私は皆さんを、サウンドステージの一角で踊り続けるオブリビオン、ギヴの下へ転移させます」
注意してほしいのは、この一角では『パッショネイトソング』という特殊なルールが課せられることだ。
『パッショネイトソング』のルール下では、戦闘中は『自分自身を奮い立たせる歌』を歌い続けなければならない。歌わずに攻撃を行った場合、攻撃は効果を発揮しなくなる。
秘密のカミングアウトや恋人への告白など、歌に乗せる思いが強いと攻撃の威力も増すだろう。
「重要なのは思いであって、歌の巧拙やジャンルは一切問われません。
また、自分でこれが自分なりの歌なんだという強い思いを持っていれば、何らかの理由で歌声が出せなくても歌であると認定されます。
今回の敵である怪人ギヴも、口が無いので声は出せませんが、オルゴール曲が歌だと認められているようです。
それでは、キマイラフューチャーの未来のために、ご協力をお願いします」
湧はぺこりと頭を下げた。
魚通河
歌ったり戦ったりするシナリオです。
歌の描写が必要な場合、こんな雰囲気の歌を歌う、こういうノリで歌う、という説明がプレイングにあると広がりやすいです。重要なのは雰囲気です。(音楽のことは)ぜんぜんわからない。雰囲気でシナリオをやっている。
勿論、別にそういうプレイングでなくても成功・大成功はできるしクリアもできます。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
第1章 ボス戦
『ギヴ』
|
POW : あそんであげる
小さな【メリーゴーランド】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【遊園地】で、いつでも外に出られる。
SPD : しあわせになあれ
いま戦っている対象に有効な【すてきなプレゼント】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
WIZ : ……わすれちゃったの?
自身が戦闘で瀕死になると【楽しかった思い出】が召喚される。それは高い戦闘力を持ち、自身と同じ攻撃手段で戦う。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴
|
アカシック・コード
【行動】
歌:
残念ながら、自分には言語回路が故障で声を上げることが難しいので歌えません。
しかし、この獣奏器を発生回路に接続したことで発せれるようになった機械音でメロディーを『うたう』ことはできます。
「Lululalalala…Lulalalalala、Pipipopo…」
選択した曲は『戦場の兵士が故郷の恋人への思いを歌った』ものです。
恋人はいませんが、自分を修復してくれた友人がいます。
彼への友情を胸に奏でましょう。
戦闘:
従来の武装を全て失った私に今できる戦法は唯一つ。
『私は宙を駆け続ける』で宙へ飛び上がり、両足に換装しているこの妖刀?で『踏みつけ』て『串刺し』することだけです。
アドリブ:OK
●
「Lululalalala……」
アカシック・コード(ウォーマシンのビーストマスター・f08593)の獣奏器から、メロディーが流れだす。
かつて大戦で受けた剣が、彼の言語回路を貫いた。その時からずっと、彼の『声』は失われたままだ。だが獣奏器を自身に接続することで、電子音のメロディーを奏でることはできる。そうして彼は『歌』をうたう。
「Lulalalalala、Pipipopo……」
選んだのは兵士の歌だった。戦場の兵士が、故郷の恋人への思いを歌うもの。
重い装備を背負った泥濘の行軍で、傷ついた自分や仲間を省みる暇もない戦場で、死の淵が傍に迫る恐怖の夜に。兵士の胸に浮かぶのは、郷愁と愛する人の思い出。
目前に待ち受ける運命が残酷だからこそ、兵士はどこまでも優しい口調と懐かしい言葉で、思い出の人に向かって語り続ける。それだけが兵士を支え、歩かせる。
「Lulululu、Lalalala……」
ゆるやかに流れる電子音が、兵士の姿を描き出す。その姿とアカシックが重なる。彼もまた戦闘用歩兵機、大戦で外装は大破し、失われたパーツをジャンク品で補った姿だ。それでも彼は、自分を修復してくれた友人への想いを胸に進む。
『歌』の穏やかさとは裏腹に。両脚代わりに取り付けた鋭い刀はステージに痕を刻み、関節は駆動音と共に疾駆する。
勢いに乗って跳躍。【『私は宙を駆け続ける』(タービュランス・ワルツ)】を発動し、空中でもう一段、もう一段と高くステップを踏む。両脚の刃が、ギヴに狙いをつける。
地上からアカシックを見上げるギヴは、オルゴールの曲を彼の『歌』と同じに変えた。美しい思い出を歌う曲が気に入ったのかも知れない。
そして【しあわせになあれ】で彼を迎える。現れる素敵なプレゼント。美しい装甲板に、高性能のカメラやマイク。失われた筈のパーツたち。それらをアカシックの『歌』の呼吸にあわせて投擲する。
「Lulu、Lulu、Lalala……」
アカシックは投擲されるパーツたちを、躊躇なく蹴り裂いて落ちていく。胸に友情を奏でながら。それがあれば多少不格好でも、進んでいくには十分だ。
『歌』も終わりが近づいた。電子音の兵士は恋人の名を呼び続けている。リフレインの螺旋の中を、アカシックは降りてゆく。
「Pipi……popo……pi……pi……」
『歌』の終わり間際に、アカシックは地上に戻りついた。脚の刃がギヴの右肩を貫く。余韻に包まれて、斬り落とされた怪人の右腕は光の粒子に還っていった。
大成功
🔵🔵🔵
竹城・落葉
【SPDで判定】
キマイラフューチャーが危機に陥っているようだな。ならば、我も駆けつけるとしよう!
我は『森の賢者』を発動。詠唱をしながら大量のゴリラを召喚するぞ。そして、ドラミングをしながら、ジャングルの叡知を熱情的に歌うぞ。そうした後、名物竹城を手にしてゴリラと共に、相手をボコボコにしよう。
ん、荒唐無稽だと?何を言うか。キマイラフューチャーが真っ二つになる方が荒唐無稽ではないか?
*アドリブ・共闘、歓迎です。
●
「キマイラフューチャーが危機に陥っていると聞いてな。我も駆けつけた次第だ! 熱情の調べを披露しよう!」
竹城・落葉(一般的な剣客……の筈だった・f00809)が宣言する。その言動からして、今は別人格のようだ。
「ウホ、ウホホホ、ウホオオオォォーーッ!!」
落葉の詠唱により、【森の賢者】が発動する。現れるのは黒い毛皮に穏やかな眼差しの森の賢者……平たく言えばゴリラたち。
「ウホッ! ウホッ! ウホッ!」
ぽふぽふぽふぽふ。落葉が勇壮に雄叫びをあげ、リズムに乗ってドラミングを始めると、ゴリラたちもそれに続く。
「ウホホッ!」
ぱちぱち。
「ウホッウホッ!」
ぱちぱちぱちぱち。
誰かが休めば誰かが入り、時に重なり、時に追いかけ。ヒトとゴリラが『歌』で通じ合う瞬間。心は、芸術は、ヒトだけのものではないのだ。これがジャングルの叡智。
そんなこんなで、落葉は歌いながら名物竹城(バールのようなもの)を構え、ゴリラと共に駆ける。
迎え撃つギヴは【しあわせになあれ】を発動。素敵なプレゼント、大量のバナナを投擲した。
ゴリラを放つユーベルコードに、バナナで返せるユーベルコード。僅かの間だが、森の賢者たちの意識がバナナに逸れる。その隙を突き、ギヴは踊るような体捌きで数頭のゴリラを躱した。
全ゴリ命中は避けられたが、それでもゴリラの拳が怪人の身体を打ち、そして。
「ウホォ……(しめやかに)」
落葉が名物竹城を振り抜くと、刀の如き切れ味で、ギヴの左腕が宙を舞った。
成功
🔵🔵🔴
春霞・遙
子守唄でもいいのかな?
幸い相手の謳うのも優しい音楽のようですし、それに合わせるように適当に歌詞をつけて歌いましょうか。
眠れ眠れよ愛し吾子
夜闇が目を塞いで母が見えなくとも
あなたを包む優しさは
あなたを愛する人の御手
子供が生まれた過去も現実で、子供が棄てられる今も現実で、子供が死ぬかもしれない未来も現実。
だから、大切な人たちが一緒に居続けられるような未来を掴み取るために、私たちは楽しいだけの思い出(過去)に逃げていてはいけないんです。
悲しい過去があろうとオブリビオンは倒さなければならないので、そういうおもいで、手加減はせず拳銃等でギヴを破壊しようと思います。
竜石堂・はつら
何だか懐かしくって微睡気分になる優しい音楽ですねっ
でもそこで見る夢は一人で見るモノになってしまいそうです、どうせなら皆で夢に向かいたいですねっ
寂しいオルゴールは、はつらさん達が止めてしまいましょう!
さぁ、とりあえずギヴさんのUCの遊園地の中に入って歌いましょう!
「いつもの夢の中 一人待ち続ける
身体を揺らして 一人きりの中で
明日はこの夢が覚めますよう
きっかけが夢の中に落ちてこないか
何時までも 体を揺らし続けてる」
折角の静かなステージ、想いを一太刀だけに乗せて送りましょうっ
優しい夢をありがとうございましたっ
でもそろそろ起きる時間がやって来ちゃったみたいですっ
だから代わりにおやすみなさいですっ
●
竜石堂・はつら(どこかのはつらさん・f01374)は止むことのないギヴの歌に耳を澄ませていた。
どこか懐かしく、心地よい微睡に誘うような音楽。でもその中で見る夢は、1人で見るものになってしまうだろう。
「はつらさんは、どうせなら皆で夢に向かいたいですねっ」
永遠の微睡の中では、それは叶わない。寂しいオルゴールを止めてしまおう。
たったったっ。はつらは怪人に駆け寄ると、両腕を差し伸ばして、頭部のメリーゴーラウンドに触れさせた。
ギヴのメリーゴーラウンドに触れた抵抗しない対象は、ユーベルコードが生み出した遊園地に吸い込まれる。
はつらは暖かい午後の遊園地に立っていた。季節は春だろう。風船とシャボン玉が飛び交い、子供たちの笑い声が響く。
ギヴの中の世界で、自らも人ならざる存在のはつらには何となく、この怪人の由来が感じられた。楽しい思い出が凝り固まって生まれた怪人。思い出を歌うのが生来の在り方なのだ。
はつらは陽だまりのベンチに腰掛けた。両足を揺らし、肩をゆすって拍子をとりながら歌いだす。
「いつもの夢の中、一人待ち続ける。
身体を揺らして、一人きりの中で」
周囲の人々はただの幻影かと思われたが、女の子が1人やって来て、はつらの前で立ち止まった。
「明日はこの夢が、どうか覚めますよう。
きっかけが夢に、落ちてこないかと。
何時までも身体を、揺らし続けてる」
女の子の顔はどう目を凝らしても見えない。はつらに合わせて肩を揺らし、歌を聞いている。2人の少女は歌声と一緒に揺れる。
歌の中の人物は、結局だれにも会わずに終わった。
はつらが歌い終えると、女の子は手を叩いて喜んだ。歌詞の意味が解るのか解らないのか、もっと歌ってという身振り。多分、この子に付き合えば、永遠にこの世界にいることになるだろう。
はつらは空を見上げた。遊園地の青空には、外の様子が映し出されている。
現実世界。はつらが吸い込まれた後、進み出たのは春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)だった。
ギヴが流すオルゴールの曲に、彼女は歌詞をつけて歌い始める。
「眠れ眠れよ、愛し吾子。夜闇が目を塞いで、母が見えなくとも」
即興の子守歌だ。幼子を寝つかせるための声音で、記憶の中の子供たちに向けて、遙は歌う。
「あなたを包む優しさは、あなたを愛する人の御手」
怪人がゆっくりと歩み寄る遙を警戒しなかったのは、彼女の歌に過去への愛惜を感じたからだろう。遙の声には既に失われた、これから失われるかも知れない、小さな命への慈愛が滲んでいた。
歓迎するように足だけで踊るギヴの傍で、遙は白衣の裏から拳銃を取り出した。
唇は母の手の優しさを紡ぎながら、歌の調べとは全く無関係に、両手は拳銃を構え、正確にギヴの心臓部に狙いをつける。その手つきには決然たる意志が込められている。
どうして? と言いたげに、両腕を失った怪人は頭を傾げた。
ギヴには解らないだろう。遙は知っている。子供が棄てられている今。子供が死ぬかも知れない未来。思い出に浸り続けて、それらの現実を忘れることが、彼女には出来ない。
大切な人たちが一緒に居続けられる、そんな未来を掴み取るために、過去に逃げてはいられない。
オブリビオンは倒さなければならない。このギヴも、放っておけば人々を過去に囚える怪人なのだ。
「夜闇が目を塞いで、母が見えなくとも。あなたを包む優しさは、あなたを愛する人の御手」
幼子を寝つかせるための声音で、遙は歌う。
ギヴの中の遊園地。外では遙が銃を構えているのを、はつらは見上げる。
もう潮時だろう。はつらは女の子に告げる。
「優しい夢をありがとうございましたっ。でも、そろそろ起きる時間がやって来ちゃったみたいですっ。だから、代わりにおやすみなさいですっ」
全て言い終わるより先に、女の子はどこかへ消えていた。はつらが外へ出たいと念じると、すぐに現実世界へ戻される。
『パッショネイトソング』のルール下では、攻撃時は歌わないといけない。はつらは小さく、あの歌を口ずさむ。刀に手をかけた。拍子は一瞬。身体を揺らすこともない。
想いを一太刀に乗せて、【剣刃一閃】がギヴのメリーゴーラウンドを両断した。
はつらの一閃と同時に、遙も銃弾でギヴの心臓部を破壊する。
苦痛を感じる間もなかっただろう。怪人の身体は淡い光になって崩れ、骸の海へ還っていった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵