バトルオブフラワーズ⑤〜キマイラ戦線防衛中!
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「まさかキマイラフューチャーが真っ二つになるたァ思わなかったよなァ……」
鳴北・誉人(荒寥の刃・f02030)は頭をガシガシ掻いて、『ザ・ゲームワールド』の説明をした。
猟兵たちはゲーム空間に入り込み、実際にゲーム世界のルールに則り、クリアを目指すという、奇妙な空間だ。
「結論から言うと、おめえらには――野戦で敵を殲滅、で、終盤に出てくるオブリビオンも蹴散らしてもらいてえンだ」
誉人は言って、
「サバゲーって知ってるゥ?」
唇をひん曲げる。
「缶詰じゃなくて、サバイバルゲームのことなんだけどォ……」
俺、最初缶詰かと思ってハァ?ってなった――という話は置いておいて。
「ジャンル的にはシューティング、やんなきゃなんねえことはサバゲー……いや、まあ、殺し合いだから厳密にいやサバゲーでもないか……ま、いいか」
どっちでもいいやと、誉人は話を再開させる。
「おめえらは、敵軍――動物をかたどったヘルメットを被ってるからすぐ分かるし、まんまビースト・ヘッドって名前らしいからァ――との戦闘に巻き込まれてっから、とりあえずBH軍を全滅させてきてほしい。
ビースト・ヘッドはオブリビオンじゃねえから、ゲーム世界のルールの中でしかやっつけるしかねえ。
で、そいつらが全滅しかけたところへ、オブリビオンが現れっから、こいつらをけちょんけちょんにやっつけて――ミッションコンプリート、ゲームクリア、呼ぶのはなんでもいいけど、そんな感じだ。
おめえら猟兵は、もれなく同じチームに振り分けられる。
だから、味方の流れ弾にゃ当たらねえし、乱戦中のナイフでも斬られる心配はねえ。
あ、けど、ロケットランチャーとか手榴弾とか、爆破しちゃう系の攻撃にゃ気ィつけとけよ、放ったのが敵味方関係なく爆殺されっから。瞬殺だから。
戦闘不能になった瞬間、そこでゲームオーバー、ココまで強制送還される……つーか、俺が戻す。
あと聞きてえことは?」
「戦場と、使える武器とか防具は?」
「戦場な……昼間の森の中だ、そこそこ明るいとはいえ鬱蒼としてる。身を隠す場所にはことかかねえ。
チームアップはいくらでもしてくれて構わねェけど、ビースト・ヘッドの索敵能力は、ちょっと厄介なぐらい優れてる……そういうステージだと思って諦めてもらうしかねえンだけど、一ヶ所に留まり続けると蜂の巣にされっからァ。
装備は、ゲーム開始時の出発点――ベースキャンプ? つーの?――にトレーラーがあっから、そこで自分にあったもんを選べ。
大抵の銃火器やらナイフ、防弾ベストとかは揃ってっけどォ、世界観無視した魔法やら魔術、甲冑とかはない。
あんのは、ミリタリー系のだけ。
あと、剣やら槍が得意な猟兵もいるだろうけど、刃物系の武器は、銃剣と、ナイフしかなさそうで――これは全部の装備にいえることだけど、カスタマイズはできそうにない。
殲滅戦終盤、ゲームクリア直前に、それを阻止するためにオブリビオンが現れる。
おめえらには敵をどれだけ倒したかっつー、討伐ポイントが与えられンだけど、高得点のヤツほど狙われねえで、ポイントを取れてないヤツを優先的に狙ってきて、自分の討伐ポイントにしようって魂胆らしい。
一番じゃなきゃ気ィすまないんだってよ、このナンバーワンズっていうオブリビオン。
さっきも言ったが、ビースト・ヘッドにはゲームのルール内で攻撃しなきゃダメージ与えらんねェし殲滅できねえンだけど、オブリビオンにはさ、おめえらのユーベルコードは効く――で、恐ろしく弱ェ。
ポイント稼げてねえヤツを狙ってくるとか高尚なこと考えてっけど、ちゃんちゃらオカシイ。
まあ、憂さ晴らしにはちょうどいい弱さと、軍勢で攻め込んでくっから、好きにやってくれよ」
言った誉人は、拳大のグリモアを光らせる。
「じゃ、頼んだぜ」
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その空間のリアリティに、猟兵は舌を巻いた。
土の匂い、草の青臭さ、硝煙の、火薬の、独特の匂いをかき混ぜて、風が時折吹き抜けていく。
小鳥の囀りはさすがに聞こえない。異質な雰囲気に逃げ出したか。
クマ。
ウサギ。
トラ。
オジカ。
ネズミ。
双眼鏡を覗き、目についたものだけでもヘルメットの種類は多い。
それが何を意味するか――
知略と反応の激戦が開幕する。
藤野キワミ
このシナリオは、「戦争シナリオ」です。
1フラグメントで完結し、戦況に影響を及ぼす、特殊なシナリオとなります。
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……知っとるわ!とか言わないで。藤野キワミです。
ヘルメットのデザインで、技能が……とかね。
チーム組んでのご参加は、【呼び方(f〜)】や【チーム名】をプレイング冒頭でお知らせください。
ソロ参加も歓迎!共闘不可の場合、プレイング冒頭に【ソロ】【連携不可】【×】などお知らせください。
存分に暴れてください!
みなさまのプレインングをお待ちしています!
第1章 集団戦
『ナンバーワンズ』
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POW : ナンバーワン怪人・ウェポン
【ナンバーワン兵器】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : トロフィー怪人・ジェノサイド
【トロフィー攻撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ : 金メダル怪人・リフレクション
対象のユーベルコードに対し【金メダル】を放ち、相殺する。事前にそれを見ていれば成功率が上がる。
👑11
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セルマ・エンフィールド
ふむ、ヘルメットの種類によって所持している武器や戦い方が違うのでしょうか。ではまずは情報収集、その後は……いつも通りですね。
武器は使い慣れたもの、と言いたいところですがマスケットは改造なしでは少々不安ですし、狙撃用のライフルと護身用の拳銃を4丁持っていきましょう。
ゲームが始まったら視力、第六感を活かしてビーストヘッド見つかるより先に発見し、動きの速そうな者から一体ずつ狙撃します。
敵が多い場合はある程度仕留めた段階で忍び足で移動を。もし追いつかれそうになった場合拳銃の抜き打ちで迎撃します。
しばらくは来なそうですが、【ペレグリーネ】を上に飛ばしてオブリビオンの警戒は一応しておきましょう。
百鬼・甲一
ゲームとはいえ、中々リアルなものですね…
さて、武器はスコープを着けたアサルトライフルとナイフ…手榴弾とかもあれば貰ってもおきましょう。森林なら動きを阻害するような防弾ベストは不要…ドーランも迷彩柄にぬって、と…こんなものか。
まずは地形の把握…【戦闘知識】で狙撃に有利な地点を何ヵ所か見つけたらそこで【スナイパー】で狙撃、BHが集まる前に他の狙撃地点に移動…を繰り返して数を減らして行きましょうか。移動は【目立たない】【忍び足】で隠密に。遭遇したら【二回攻撃】で処理していきます。
オブリビオンが出てきたなら、背後から接近、ナイフを使ったUCで処理します。
ゲームとはいえ、これ…戦争なので
香神乃・饗
猫耳つけフィールドと同色の身を隠せる服を着用
連射性能に優れた小型銃2丁とグレネード多数隠し持つ
終盤迄最低点になるよう戦闘は最低限
足跡匂いの偽装し殺気を消し地形を利用し逃走続け
敵を誘いこめる場所を探す
もー!追っかけないで欲しいっすー!
終盤に弱く情けないフリでフェイントかけ目立つ様逃げ回り敵の注目を集め見つけた場所に誘いこむ罠を
虎は近接?熊は爆破物?
弾飛来方向や種類から情報分析し敵の居場所に目星つけ
香神占いで地形を利用したり敵を盾にし致命傷を避ける様に逃走
窮鼠猫を噛むって知ってるっすか?俺のほうが猫っすけど
お土産グレネードの雨をプレゼントっす!全弾敵陣に投げ込む
討ちもらしたら死角から近づき銃で暗殺
仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
「スニーキングですか…。まぁ、本職の食材探しとどっちがむずかしいですかね」
【目立たない】ようにするためマフラーを懐にしまい、迷彩柄の服を着用
顔は泥で汚す
【携帯食料】を噛み嗅覚細胞を活性化
【吸血】本能を呼び起こしビーストヘッド達の血の匂いを把握する
「索敵能力に注意か。武器はナイフと誘導用にこの銃あたりかね」
ポイントが少ない猟兵を狙うという事で、【目立たない】ようにビーストヘッド達を誘導し、他の猟兵がポイントを取るように仕向ける
狙われたら【残像】で回避
「気配消して私を狙うか…トラかな」
「気配がないのに耳元で囁いたら…怖いかな」
オブリビオンは右手で一発殴る
「なかなか楽しかったよ」
支倉・新兵
ん、どうも毛色が違う『戦争』だけれども…これなら自分の土俵で戦えそうだ
ただ普通の戦場の感覚でやると拙そうだ…気は抜けない、か
得物は勿論狙撃銃…とは言え、索敵能力が矢鱈高いならいつも通り一ヶ所に陣取って穴熊、って訳にはいかないね…いつもの愛銃より取廻しが容易な物を
とは言えやる事はいつもと同じ狙撃
可能な限り身を隠し索敵(目立たない、迷彩、地形の利用、視力)、
標的がこちらに気付く前に速やかに狙撃で仕留め(先制攻撃、スナイパー)、
頃合を見計らい離脱、再び潜伏・索敵・狙撃に移る(第六感、逃げ足)
可能な範囲で味方に援護射撃
BHにUCは効かないらしいけど…援護や牽制…攪乱目的なら跳弾狙撃の弾道は十分だろうし
緋翠・華乃音
実弾実戦型サバゲー……それって軽い紛争と言うのでは。
まあ、良い。こういうのは俺の得意分野だ。
さて……取り敢えず狙撃銃と拳銃とナイフを装備しよう。
「迷彩」と「目立たない」の技能を生かして潜伏。「スナイパー」として参戦。
敵の行動や攻撃を「見切り」や「第六感」で観察し、優れた「視力」や「聞き耳」も併用。遠距離から確実に仕留めていく。
余裕があるなら「援護射撃」で仲間を援護。
1ヶ所に留まり続けるのが不利になるのなら状況を見て移動。
状況によってはナイフと拳銃で近接戦闘も行う。
その他有利になる技能は適宜使用。
ユーベルコードの使用タイミングは適当に。
●トレーラー内の
じくりと緊迫していた雰囲気が、一瞬緩んだ。
「……あれ、君は確か……」
「っ! 支倉さん」
「こんなことろで会うとは、奇遇ですね」
以前、同じ依頼を受け事件解決まで導いたことのある、支倉・新兵(狙撃猟兵・f14461)と仁科・恭介(観察する人・f14065)は、しばらくぶりに顔を合わせ、軽く挨拶を交わした。
「どうも毛色の違う『戦争』だけれども、」
「……ええ、スニーキング、ですね」
「これなら俺の土俵で戦えそうだ」
小さく会話をしながら、着々と準備をしていく。
(「……本職の食材探しとどっちが難しいですかね」)
恭介は胸中で呟いて、下手に目立たないように愛用の真っ赤なマフラーを畳んで懐へと仕舞った。
そして、新兵も新兵で、あれこれと思考を巡らせる。
(「いつものように一ヶ所に陣取って穴熊……ってわけにはいかないね」)
ビースト・ヘッドどもの索敵能力の高さの説明を受けているのだ。これを無視するわけにもいくまいて。
新兵は愛銃《ハティ》よりも取り回しが容易になるようなもの――アサルトライフルを棚から選び手に取る。
リアルな感触に、新兵のみならず、ナイフの柄を握ってみた恭介も驚く。
「……これは、さすがに」
このリアルな感触が一体何を意味するというのか――とはいえ、やらねばならないことは、変わらないではないか。
誘導用にと、もうひとつ武器を――オートハンドガンを選び、ホルスターへとセットする。
そんな二人の背後では、
「まったく……ゲームとはいえ、中々リアルなものですね」
思わず声が漏れたのは百鬼・甲一(不死傭兵・f16959)だ。
彼の手には手榴弾が一つ握られている。手の中のそれは、ひどく冷たくて堅い。覚えのある感触だ。
狙撃しやすいようにスコープを取り付けたアサルトライフルと、手に馴染むナイフを装備して、
(「防弾ベストは邪魔だな……ドーラン、は……こんなものか」)
鏡を覗き込んでさらりと顔を汚していく――と、鏡の端に香神乃・饗(東風・f00169)の顔が映り込んで、ばちっと目が合った。
「……ほえー、本格的っす」
「ドーランが?」
饗は甲一の仕込むカムフラージュに、こくこく小さく何度も頷いて、感心して声をあげた。
確かに、饗の頭に装備されたものと、甲一のフェイスペイントの本格度では、甲一に軍配が上がるのではないか――これは、言及した方が良いのか。
一瞬の逡巡。
しかし、甲一はなにも言わなかった。
饗の黒髪を押しのけて生えるのは、黒猫を模した耳――ふわふわの毛の猫耳が生えていたのだが。
しかし、ソレ以外は真剣にこのゲームを攻略する気でいる装備だ。
だからこそ、甲一は口をつぐんだ――きっと、少年にも思うところがあるのだろう。
そんな饗もまた、森に溶け込むような迷彩服を着込み、短機関銃を二丁、腰のホルスターに下げ、隠し持て得る限りのハンドグレネードを仕舞い込んでいる。
身支度を終えた四人はトレーラーから出てくる。
踏みつけた土の感触すら本物のようだった。
●彼らよりも
早々に身支度を終えていたのは、緋翠・華乃音(Lost prelude.・f03169)とセルマ・エンフィールド(終わらぬ冬・f06556)だった。
使い勝手の良さそうなスナイパーライフルと、ハンドガン、サバイバルナイフを見繕って、開戦の時を待つ華乃音は手にしたマガジンに弾丸を込めながら、
(「……実弾使っての実戦型サバゲー……もやは紛争っていわないか」)
サバイバルゲームは実弾ではなくペイント弾だし、FPSやTPSは画面越しのシューティングゲームだ――とはいえ、
(「まあ、良い。こういうのは俺の得意分野だ」)
華乃音は弾倉をいっぱいにして、予備のマガジンもポーチにしまい込んだ。
その紫瞳がちらりと、眼前にいる少女を見る。
セルマもまた、このゲーム攻略の糸口を見つけようと考えを巡らせていた。
(「ヘルメットの種類によって、戦い方が違うのでしょうか」)
ふむ……と考え込む。
ビースト・ヘッドどものヘルメット別で所持している武器、得意としている戦い方が違えば、その対策も練らなくてはいけないのだろうか。
しかし、それはなんの情報もない現状で、推測の域を出ない。
セルマは、使い慣れたマスケット銃ではなく、武器庫から狙撃銃を選んで持ってきている。試しに構えてみた。
まるでセルマに合わせて誂えたような、奇妙なフィット感に、なるほどゲームであると認識させる。
他には、数ある短銃の中から目に留まった《デリンジャー》に似た銃を四丁、スカートの中に仕込んである。
これでカスタムさえできれば――という言葉が頭をよぎるが、セルマはすぐに振り払って、続々とトレーラーから出てきた男たちを振り返り見た。
(「……猫耳……? ビースト・ヘッドに対しての、作戦?」)
がっつり戦闘モードの中にあって、どうしても、その耳だけは――饗の猫耳だけは、やっぱり気になった。
しかし、ともにいる男たちは、その耳を受け入れているように見える……饗にしか分からない作戦があるのだろう。
(「……大丈夫。私は、私にできることをしよう」)
●そして開戦の
ファンファーレがどこからともなく鳴り響いた。
『ザ・ゲームワールド』という電脳世界であることは、わかっている。
が、そういう音が鳴るとは思わなった――否、わかりやすくていい。甲一は素早く行動に移す。
フィールドの特徴の把握につとめる。
いままで培ってきた戦闘知識を総動員させ、この森中のどこからビースト・ヘッドどもを狙い撃ってやろうか見極めようとする。
足音を殺して、気配を絶ち、やつらの視界に入らないように木々の陰に隠れた。
ほどなくして、ビースト・ヘッドの動きを読み取れてかつ、身を隠せるほどに茂った低木の陰に沈み込んだ。
やや下り坂になった先に、オジカメットの姿が見えたのだ。その痩躯が担ぎ上げているのは、ロケットランチャーだ。
(「……アレを撃ち込まれるのは、勘弁してほしいですね」)
敵味方の区別なく爆発によるダメージは即ゲームオーバーという説明は受けた。
見つけたオジカメットは幸いにして、こちらに気づいていない――今が絶好のチャンス。
狙い澄ます、一瞬息を止める、スコープを覗き込めば軌道修正をしてくれる――オジカメットが、こちらに背を向けた瞬間、甲一はトリガーを引き絞る。
サイレンサーが発砲音を飲み込んで、鋭く回転しながら撃ち出された弾丸は、わずかに弧を描きながら、オジカメットの首へ着弾――どさりと倒れ伏した。
甲一はそろりと息を吐く――次だ。
セルマは、しばらくは必要ないだろうが、それでも空からの哨戒は有効だと踏んだ。対オブリビオン用に《ペレグリーネ》を起動――力強くスイっと空へと飛び立っていく。
ドローンからの情報は、 逐一セルマに届けられる。自律行動でしばらくは空から目を光らせていてもらおう。
誰が一番厄介か、誰から仕留めなければならないか――それが分かれば御の字だ。
セルマは鬱蒼とした森の中を、警戒を強めながら歩く。が、胸騒ぎがして近くの木の根元に身をひそめる。
息がつまるほどの静寂は、野太い声でかき消された。
「見つけたぞ!!」
「わー見つかったっすー!」
「ちょこまかしてんじゃねええ!」
声が聞こえてくる方へ構えた銃口を向ける。
ビースト・ヘッドが、三人――先頭をネズミメット、ついでトラメット、しんがりをオジカメット――オジカは物騒なロケットランチャーを構えて今にも撃ち出さんとしている。
倒すべきは、しんがり。
追われている方とて、爆殺され強制退場させられるよりマシだろう。
躊躇いなく、セルマはオジカメットの心臓を撃ち抜いた。
次弾は――照準を合わせて、トラメットの心臓へと、トリガーを引き絞り、その一瞬後、セルマの獲物は姿を消した。
猟兵の誰かが撃ったのだろうか。
見た中で一番足が速そうなのは、ネズミメットだった。そちらはすでに駆け抜けてしまった後だ。
次に見つけたときは、逃すまい――セルマは、森の奥へと進んでいった。
(「ああ、なるほど……彼は囮を買って出てるワケか」)
華乃音は、隠密とは程遠い饗の様子を、木の上から眺め納得した。
あの騒ぎ方は、分かっていてやっている節がある。ならば、その策を利用しない手はない。
華乃音は【瑠璃の瞳】にトラメットの心臓を映し、正確無比なショットで、その命を奪い取る。
そうしている間に、ネズミメットに追われた饗はずいぶん遠くまで駆けて行ってしまった。
あの作戦に釣られたビースト・ヘッドは、容易に仕留めることができるだろう。
ならば、他のビースト・ヘッドをかたすのが先決だ。華乃音は目立たずに、森に溶け込み狙撃の体勢に入る。
抜群の視力の前において、その巨躯はどうぞ見つけてくれと言わんばかりの存在感だったのだ。
華乃音は、ショットガンを構えたクマメット見つけ、しばし観察――しかし、それは動かない。
(「そういえば、じっとしていたら蜂の巣だったか……」)
理解の範疇を超える動かないクマに付き合って、弾丸の雨に打たれてやる義理はない。
訝って眉根が寄ったが、彼の鋭く研ぎ澄まされた【瑠璃の瞳】が見つめるのは、クマメットの最期だった。
●可能な限り木々に
溶け込むようにビースト・ヘッドどもとの距離を保ちながら、狙撃に最適なポイントを探す――これは、いつもやっていることだ。体に染みついたオペレーションだ。
そんなことをこともなげにやってのけるのは、甲一とは逆方向へ展開した新兵だった。
(「……気は抜けない、が――やってやれないことはない」)
新兵は銃口を、見えたビースト・ヘッドへと向ける。
彼の黒瞳が捉えたのは、きょろきょろとあたりを見回すウサギメットが二人。肉厚なサバイバルナイフをギラつかせるトラメットが三人。
(「……現状、ウサギが索敵……というところかな」)
この状況で、トラメットを狙うか、ウサギメットを狙うか。
索敵要員らしいウサギを野放しにはできまい。アレを放置するということは、こちらの位置を教え続ける羽目になるのではないか。
戦闘力がありそうなトラメットが相手ならば、それこそ狙撃してやれば事足りるだろう。
だから、新兵はウサギメットに銃口を向けた。
照準を合わせ、あとはトリガーを引くだけ――
「っ!?」
目が合った。ぐるりと突然振り返ったウサギメットの、不気味な目が新兵を見たのだ。
何かの合図を出したのと、新兵が発砲したのは同時だった。
ウサギメットの一人が倒れる。
しかし、残りの四人は一直線に新兵の潜む方向へ向かってくる。
アサルトライフルを構えて、トラメットを撃ち抜く。
次いで、ウサギメットへと銃口を向け、発砲!
が、それは惜しくも外れた――
ウサギメットは、新兵の撃った弾丸を気にした様子も見せず、直進してくる。
タンっ!
渇いた破裂音。ウサギメットのバランスが崩れ、蹴躓く――その瞬間を見逃さずに新兵は、容赦なく弾丸を撃ち込んだ。
●目立たずに
仲間に討伐ポイントを稼がせ、こちらに敵を引きつける心算の恭介は、携帯食料を噛みながら、吸血衝動を呼び起こしていた。
そうして恭介は、聞こえた銃声と動き出したビースト・ヘッドの行く先に、新兵がいるのを見た。
まだ距離はあるが、ウサギメットを狙った銃弾が外れてしまう。心配はいらないかもしれない。だが、
(「当てやすいに越したことはありませんから」)
恭介は、すぐさまオートハンドガンで、ウサギメットの足を撃ち抜く。
バランスを崩し、体が傾いだところへ、無慈悲な弾丸が撃ち抜いていった。
(「お見事」)
恭介は新兵の狙撃の腕に、胸中で賛辞を送った。
獲物を狙っている瞬間、どうしてもそちらに意識がいきがちになる。
とはいえ、恭介は自分に近づいてくる気配を感じ取っていた。
血の匂いが、濃く強く、恭介に迫っていたのだ。
(「気配を消して私を狙うか……トラかな」)
恭介は残像が残るほどの神速で、その場から立ち消える――瞬間、ギラつくナイフの一閃が、恭介のいた場所に奔った。
ヘルメットは、獰猛なトラの顔を象っている。
当たった。
カムフラージュにと白い頬を泥で汚していた恭介だったが、その頬にわずかに笑みを刻んで、またたく間にトラメットの背後をとり、素早くナイフでその首を切り裂く。
「私の気配は消えてなかっただろう、まだ聞こえてるか?」
しかし、彼の言葉に、ビースト・ヘッドは答えることはなく、事切れた。
恭介は新兵の方を振り返ったときには、先刻まで生きていたビースト・ヘッドは、すべて倒れ伏していた。
●情けない声をあげて
わーわー騒いでいるのは、饗だ。
「もー! 追っかけないで欲しいっすー!」
とはいえ、もうそろそろ十分だろう。
饗は【香神占い】で一手先を視て、地形を利用しながら森の中を駆ける。
連続した発砲音、聞き覚えのない野太い悲鳴が多く聞こえ、その目に見えずともかなりのビースト・ヘッドを倒したのではないか。
まるで討伐ポイントを得ていなかった饗へとビースト・ヘッドが集まっている――その目立つような言動も相まって、十分に引きつけることに成功した。
そして、眼前には岩壁――フィールドの端ということだろう――まさに袋のねずみといったところだが。
素早く近寄ってきた、敵随一のスピード自慢のネズミメットの放った銃弾を、木の陰に入ることで躱し、饗はその勢いのまま樹上へと駆け登り、追いかけてきていたビースト・ヘッドどもの背後へと飛び降りる。
鮮やかな形勢逆転に、饗の頬は緩んだ。
「窮鼠猫を噛む――って、知ってるっすか?」
いつもの苦無をハンドグレネードに持ち替えて、指に挟んで扇のように広げ見せびらかした。
「今は、俺の方がネコっすけど」
「その猫耳の意味は、コレのためだったのかよ!?」
ネズミメットの悲壮な叫びに、饗は答えない。
「全弾プレゼントっす!」
冥土の土産だと言わんばかりに放り投げ、着弾の瞬間、饗は踵を返し逃げる。
大地を揺るがすほどの大爆発、眼を焼くほどの閃光、肌を焦がす熱風――すべてがない交ぜとなって荒れ狂う。
一網打尽に爆殺――が、想像以上の爆風に頭につけていた猫耳が落ちた。
●突如として
サイレンが鳴り響く。このシステムは実に便利だ――甲一は苦笑を洩らした。
察するに、フィールドのどこかにオブリビオンが出現、戦況はずいぶんと猟兵たち優位で推移しているのではないか。
かくいう甲一もその狙撃の腕を存分にふるっていたのだ。
「そうか……オブリビオンが現れたってことは……」
「もう隠れる必要はないってことかな」
一か所に隠れ続けることを許さなかったウサギメットの鋭さを目の当たりにしていた華乃音が現れる。
借り物の装備をその場に捨て置き、華乃音がいつも使っているものへと変更する――やはり、こちらの方がしっくりとくる。
刹那。
近くで、惨憺たる銃撃の爆音が上がる。
セルマの《ペレグリーネ》がオブリビオンの出現を察知し、機銃から弾丸の雨の降らせている。
空爆はまさに雨嵐となって、出現したばかりのナンバーワンズの大半を消し炭に変えてしまった。
「ええええええっ!? 待って待って!? ちょっと名乗らせ、」
「そんな時間はありません、ゲームとはいえ、これ……戦争なので」
甲一が足音を忍ばせて、トロフィー頭の怪人を背後から斬り伏せる。その勢いは止まらず、もう一体の同じ頭の怪人へと、疾駆――【シーブズ・ギャンビット】を見舞う!
「だから、ちょっと、自己紹介ぐら、あああああ!?」
【跳弾狙撃】によって、あらぬ方向から飛来する弾丸に撃ち抜かれて消滅していく、ナンバーワンズ。
「もう一度いきます……弾道、入射角――」
スコープを覗き込む新兵は、容赦なく弾道計算を続け、新たなターゲッティングにより導き出された【リコシェスナイプ】を、
「オールグリーン」
撃ち出す!
「「ぬああああっ!?」」
ぞくぞくと姿を消していくナンバーワンズどもは、いよいよ焦り出した。
そこまでして名乗りたいのは、一等になりたいという自己顕示欲の表れなのか。
「いや、アンタら、オニか!? 待ってって! ちょっと!」
「やかましいっす!」
額――メダルの真中を苦無が貫く。暗殺を得意とする饗の容赦ない投擲は、騒ぎ立てていた怪人を斃す。
「やかましいことあるかあああ! アンタら! マジで! なんっ」
「十分うるさい」
《夜蝶牙》の漆黒の軌跡は、トロフィーを割り砕き、たち消える――息つく間もなく火線が引かれる。振り向きざまに、華乃音の《schweigen verrat.》が1の頭を吹き飛ばした。
「え? マジで!? ホンマに!? オレらホンマに名乗れてないし、」
「なんもできてないし、」
「あかーん!! あかーん! 待って、おねえちゃん!?」
「問答無用。さぁ、頼みましたよ」
いまだホバリングを続ける【ペレグリーネ】を操るのは、紅一点セルマ。
白磁器のごとき頬はちらりと笑みを浮かべることもなく、ドローンに搭載されている機銃が起動し始める。
その威力は、先刻の一発で身にしみているはずだ――むろん、手加減してやるつもりは一切ない。
降り注ぐ弾丸の驟雨にほとんどの怪人が消えていく。
ほうほうのていで、猟兵たちから距離を置こうとした最後の一体――頭がメダルの怪人に音もなく近づいていくのは、恭介だ。
「うわ」
「楽しかったよ、存外ね」
絶望した怪人へ、恭介の右拳が突き刺さり、その身は軽く吹っ飛ばされて、動かなくなった。
刹那、眼前がゆらりと歪む。
『ザ・ワールド』の攻略が終了した証拠だ。
そして直接脳内で響く軽快で愉快なファンファーレ。
――Mission completed. Congratulations! ――To be NEXT STEAGE!
大成功
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