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山村に雪解け囃しわらべ唄

#サムライエンパイア


●籠のなかの小鳥
 春半ばといえど、いまだ雪深き山村。
 あちこちにいまだ残った雪は、まだ季節が変わらないことをあらわしていた。
 この地にはまだ雪解けの季節は遠いようだった。
 そして村人の一団が、輿を掲げて行進していた。
 輿には竹で編んだのだろうか草木で綴られた檻があり、その中に一人の娘がいたのだった。
 雪にも負けぬまっさらな白無垢に身を包み、視線はうつむき何も語らず。
 いっぽう村人たちは互いに口調を合わせて唄を口ずさんでいた。

 あれみやこれみやささっちょる。
 しろいやさんがささっちょる。
 やあれうれしやめでたいな。
 やまのかみさんよんでおる。
 きいたかみえたかたずねっしょ。

 それは童謡。こどもたちが歌うような囃し言葉。
 だが村人は歌いつつも笑みは浮かべず、皆沈痛な表情で脚を動かしていく。
 輿を担いでいない者の手には槍や刀、弓矢。
 時折り辺りを見回しては娘の様子をうかがっていたのだった。
 娘は何も語らず、視線を動かさず。
 朝早くから村を出た一団が、その場所へとたどり着いた時、陽は彼らの頭上高くへと位置を変えていた。
 そこは洞穴だった。
 一行の先頭が松明を掲げ、中へと踏み入っていく。
 その奥には祭壇があり、枯れ木で出来た二本の支え台があった。
 そこへ輿の棒をかけると、村人たちは輿を取り囲む様に円陣を組む。
 持ち上げられた輿のなかの娘は何もせず、ただ祈るように両手をあわせた。
 村人たちが童謡を口ずさむ。
 ある者は涙を流し、又ある者は首を横に振りながら。
 誰かが合図をうった。
 村人たちは檻の中の娘へと武器を次々と突き立てた。
 娘はしばし身悶えたが、やがてこと切れ力尽きる。
 白無垢を朱に染め手を伝い、下の地面を紅に染めようとぽたりぽたりと血が垂れていったのだった。
 村人たちはその光景を眺め、ただじっと立ちつくすのみであった。

●惨劇阻止
「これが、私の見た予知でございます」
 ここはグリモアベース。
 ライラ・カフラマーンは居並ぶ猟兵たちに深々と頭を下げていた。
 その背後に生じている霧には、さきほどの光景が幻となって現れている。
 頭を上げると幻は雲散霧消していき、周りの霧と溶け込んでいった。
「今回、皆さまにお願いするのは悪しき因習である生贄の阻止、そしてそれを要求するオブリビオンの撃破です」
 ライラの説明によれば、あの娘は山の神へと捧げる生贄なのだ。
 冬から春へと変わる雪解けの季節、人が戸を開けると一軒の家の屋根に矢がささっているのだという。
 それは山の神の催促。村人たちはその家の若き娘を捧げ、一年の安寧を願うのだ。
「山間の村々にこの因習があり、毎年娘さんたちが犠牲になっていることがわかりました」
 ライラの杖を持つ手に力が入る。それはつまり殺人が毎年行われているということに他ならない。
「山の神……いいえ、オブリビオンと呼びましょう。オブリビオンを倒すのは我々猟兵の使命です。しかし村人にとっては部外者、協力を申し出ても訝しがられるだけでしょう」
 最悪、山の神に敵対するものとして襲われるかもしれないのだ。
 そこで、とライラが続ける。
「因習に縛られた村人たちから呪縛を解き放つため、まずは潜入といきましょう」
 ライラの話す計画というのはこうだ。
 まず猟兵たちは、雪によって道に迷ってしまった芸妓団として村へと近づく。
 村人が見たこともない芸を見せれば娯楽のない田舎のこと、逗留を認めてもらうことができるだろう。
 そして村へと入ればオブリビオンの痕跡をたどることも、また猟兵の力を見た村人たちの協力をとりつけられることも出来るかもしれない。
「私の転送で村の近くへと送ります。各自どのような芸人になりきるのか色々と用意もあると思います。準備が出来たら声をかけてください」

 ライラが杖の先で地面を軽く叩くと、霧が変化し姿を形どる。
 それはサムライエンパイアの世界。
 うっそうとつもる雪。晴れはしてもいまだ寒さの残る景色。
「この地に真の雪解けをもたらすことができるのは、オブリビオンに対抗できる我々猟兵のみ。どうか生贄の因習を止めさせ、そしてその災いをもたらすオブリビオンを討ち果たし、春の訪れをもたらしてやってください」
 そう言ってライラは、深々とまた頭を下げたのだった。


妄想筆
 こんにちは、妄想筆です。
 季節はすっかり春ですが、雪深い山村でのシナリオです。
 惨劇の予知を見た猟兵たちが、それを防ぐためむかうことになります。
 一章は芸妓団になりすました猟兵たちが村人に芸を見せるシナリオとなっています。
 芸の種別は問いません。村人を楽しませられるならユーベルコードももちろんOKです。
 二章は探索パートになります。個々の家々で宿を借りることができた猟兵たちが付近を捜索することになります。
 オープニングにあるようにこの因習をよく思ってない村人はいます。
 その人たちを説得、または一章で鬼神のごとき力を見せつけられたのなら協力を得られるでしょう。
 予知にて猟兵たちは今年の生贄となる娘の姿を知っています。
 娘さんの名前は「むすび」さんです。歳は13~15くらいの姿形だと思ってください。
 三章はオブリビオンとの戦闘です。
 見事討ち果たし、春を訪れさせましょう。
 私もみなさんをかっこよく描写できるようがんばります。
 参加お待ちしております、よろしくお願いします。
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第1章 冒険 『芸は身を助く』

POW   :    居合い抜きや演舞、怪力などの芸。

SPD   :    手妻(手品)や曲独楽、軽業などの芸。

WIZ   :    話芸や動物使い、神通力などの芸。

👑11
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 転送ゲートを抜けるとそこは雪国だった。
 日差しは晴れ、空は雲一つない快晴であったが、風景は冬を思わせる寒々としたものであった。
 太陽だけが春を物語り、他には暖かみを感じられる物は見当たらない。
 そしてその先に、目的地である村が見えた。
 予知が正しければ、このさき悲劇がおこることであろう。
 白く覆われた場所で、オブリビオンの魔の手が隠されているのだ。
 自分たちはそれを止めるために来たのだ。
 まずは怪しまれないように住人に近づこう。
 猟兵たちは、仕込んであった己の芸を披露し、村人の警戒心を解そうと努力したのであった。
アンディ・リーランス
他の人との絡み、アドリブ推奨、大歓迎♪

 「ノソリン、まずはみんなと仲良くなるのです~よ♪」
 楽しそうにウクレレ(装備武器)を引きながら、ノソリンに乗って村に入る。
 楽器演奏をしながら、矢の刺さった(生贄を出す)家の場所が判らないか聞き耳を立てる。(村人だけでなく近隣の動物にもこそっと聞く。その家の人がそばにいれば泊まりたいとお願いする。)

 リクエストがあれば演奏をする。(ノソリンに乗りながら、ノッてきたらノソリンの背中に立って演奏する♪)
「まだ練習中なので、頑張るのです~♪」


 交渉事などは他の人に任せて、楽しく演奏をしているのです~♪


寧宮・澪
芸は、身を助く、ってやつですねー……んじゃ、いきましょかー……。

【Wiz】
さて皆々様、どうぞお立ち会い。
これより語りまするは天下自在符を幕府より与えられ、津々浦々を駆け回り、怪異も難事も鮮やかに、快刀乱麻、一太刀に。
解決しまする公儀の方々の物語でございまする。

と、言う感じでー……講談、でも、披露しましょうかー……。
あ、講談は、普通にー……表現、豊かに、しゃべりますよー……。
【楽器演奏】で、太鼓の合いの手、いれます、かねー……。

何でしたら、場面にあわせて【霞草の舞風】で花、舞わせるのもいいですねー……合う場面、あったら、ですがー……。

アドリブ、連携、歓迎ー……お任せ、ですよー……。


花盛・乙女
■POW

年若き乙女が犠牲になるとは気に入らん。
それを受け入れる民も…いや、力なき者は従うは定石か。
…この花盛乙女、神を名乗る外道を斬り伏せてやるとしようか。

さて、芸か。
愚直な剣しか知らぬ私に華やかな芸はない。
だが…そうだな、刀剣使いとして魅せるとしよう。
我が花盛流の剣技、刀身を鞘に納めて舞うように魅せる鬼の吹雪を見せてやる。
それに「怪力」を活かし、巨岩の試し斬りでも魅せれば充分か。

力自慢があればかかってきても構わない。
古今無双の羅刹の怪力、今味わわねば機会はないぞ!

楽しげに声を上げるが、腹の内では不快感が残る。
…他の者の迷惑にもなる。せいぜい顔を出さぬように気をつけよう。

■アドリブ共闘歓迎です


春乃・菊生
[WIZ]
ふうむ。
こういう状況であれば、我は適任の部類かのう?

装うも何もないの。
一介の白拍子として村に入り、まずは舞でも――そうさな、魔を祓う剣の舞(【ダンス】+【破魔】)がよかろうか――見せようかの。

それで我らを芸妓の類と分かって貰えるようなら、ダメ押しじゃ。
さあさあ、お立会い、じゃ。
次は我の秘術をお見せしよう。
一矢で舟をも沈めるこの強弓、とくと目に焼き付けい。
秘術ノ壱で召喚した鎧武者の霊から、適当な岩か何かを目掛け、矢(【鎧砕き】+【串刺し】)を放つ。

後はわざとらしくならぬよう、自慢めかしてこう言おう。
どうじゃ、これでも女の身で旅を続けておるのじゃからの。
多少は腕に覚えもあるのじゃよ。



 山間に軽快な音が響き渡る。
 それはとても楽しげな、浮足立たずにはいられぬ音。
 はてな何ごとと、村人たちが表にでると、村へとやってくる一団がみえた。
 その先頭、四足の獣にまたがった少年が、楽器を弾いているらしかった。
 ノソリンにまたがった、アンディ・リーランスである。
 アンディは警戒心を緩めようと、愛用のウクレレを奏でながら愛嬌のある笑みを浮かべた。
 村の子供たちも、つられて一緒になって微笑んだ。
 何者かと怪しむ村人たち。
 アンディの前より一歩先に立ち、和装の美人が恭しく頭を下げた。
「我は春乃・菊生と申す者。そしてこれなるは芸妓の一座。山中にて道に迷うたが、幸いにも人家を発見するに至ったのじゃ。哀れに思うたのならば、しばし宿をお借りできませんかのう」
 朗々とかたる声を聴き、顔を見合わせる村人達。
 返事をまたず春乃は続けた。
「なに我らは旅の者、礼儀は心得ておる。ただで泊まろうとは思うえおらぬ。ふうむ、まずは神楽。奉納の舞にて挨拶しようかのう」
 春乃が後ろを振り向き合図をした。
 それにあわせてが寧宮・澪が前へと出る。手に持つは太鼓とバチ。
「んじゃ、いきましょかー……」
 寧宮が打ち鳴らす太鼓を音頭に、春乃は優雅に舞い始めた。
 白鞘の太刀の音を立てながら、しゃなりしゃなりとたおやかに。
 それは邪を打ち倒し、魔を祓う白拍子。
 学の無い者にもそれは厳かな祓いの儀式と理解できる、艶やかな舞。
 村人たちはしばし陶然と魅入っていた。
 舞が終わり、鞘に太刀をおさめ寧宮が一礼すると、ひとつの拍手が起こったのだった。
 それは1人の村人だった。
 他の者より幾分身なりが良い男は自分を村長と名乗ると、村人に代わって礼を述べる。
「いやはや、良いものを見させていただきました。宿をお借りしたいとのことですが、それには準備もあります。まあ、このような処ではなんですから、村へとお入りくださいませ」
 そういい、村の中へと一団を誘った。
 猟兵たちは顔を見合わせて頷いた。まずは村へ近づくのは成功した。
 あと少し、様子をうかがうことにしよう。

 村の中央、その中に猟兵たちはいた。
 そしてそれを囲む様に村人たちがいる。
 なにしろ娯楽の少ない田舎のこと。このような出来事は珍しいのであろう。
 物見高く、これから始まることを今か今かと待ち構えていた。
 そんな集団に寧宮が太鼓を叩きながら囃したてる。
 この村に来た時の茫洋さは消え、さっぱりとした顔つきだ。
「さて皆々様、どうぞお立ち会い。これより語りまするは天下自在符を幕府より与えられ、津々浦々を駆け回り、怪異も難事も鮮やかに、快刀乱麻、一太刀に。解決しまする公儀の方々の物語でございまする」
 ドン、ドン、と軽快な太鼓の音が鳴る。
 それに合わせてアンディも楽器を鳴らして盛り上げる。
 そしてアンディは見逃さなかった。
 天下自在符、幕府公儀の単語を口に出した時、顔色が変わった村人がいたことを。
「まずは当座が誇る美丈剣士。屠ったあやかし数知れず。一意専心取り戻せ青春。大和娘御一歩前進。快刀乱麻、花盛・乙女の太刀さばきでございます」
 寧宮の声にあわせ、女剣士が躍り出た。
 どこからともなく飛雪が覆う。それは雪ではなくかすみ草。
 乙女を彩るように、その場に吹いて流れて消えていく。
 またまた美人の登場に、野卑な村人が囃したてる。
 その声を涼やかに受け流し、花盛は太刀を構えた。
 そして剣の舞を演じ始めたのだった。
 先ほどの、春乃の舞を雅とするならば、花盛の舞は凛。
 刃が妖を斬り、陽の気を活性化させていく。
 暖かみをうけて花が咲くように、鮮やかな華を剣士が体現していく。
 しかし、踊る花盛の胸中は穏やかではなかった。
 この様な戯事、できれば止めにして今すぐにでも外道を斬り伏せたい。
 舞いながらそう思う花盛であったが、協力も得られぬうちに勇み足をするは他の皆の迷惑になる。
 やり場のない怒りを抑えながら視線を移すと、手ごろな大きさの大岩があった。
 ちょうど大人二人か三人ぶんくらいの巨岩。
 よし、これにしよう。
 怒りを胸から脚へ、脚から足へと礎に、舞の終わりとばかりに花盛はその巨岩へと駆け跳んだ。
 舞うように跳び、舞うように着地した。
 村人たちには、そう見えた。
 しかし、そうではなかったことが次の瞬間にわかることになる。
 割れた。
 岩が。
 いや、割れたのではない。
 切断面が鋭利過ぎることにより自重によって岩が滑り落ちたのだった。
 ただの力技なら、破砕した岩の破片があちこちに飛び散る結果となっただろう。
 女剣士の離れ業は力の具合を余す処無く剣先にこめ、文字通り巨岩をたたっ斬ってしまったのだ。
 ふう、と一呼吸つき、花盛は指を観客へとむけて叫んだ。
「力自慢があればかかってきても構わない。古今無双の羅刹の怪力、今味わわねば機会はないぞ!」
 その声に目を逸らす者がいたのは、後ろ暗いことがあってだろうか。
 多くの村人はその光景に、拍手でもって感嘆した。
 その万雷を背にうけ、ひとまず花盛は後ろにさがる。
 ぐにぐにと、頬をつままれる感触があった。
「笑顔、ですよー……」
 寧宮・澪がマッサージで解すかのように花盛の頬を撫でている。
 のんびりとした口調は、胸の内を気遣ってのことだろうか。
 自分では不快感を顔に出さないようにしていたつもりであったが、その色がみえていたのかもしれない。
「ああ、すまない。大丈夫だ」
 花盛は美丈剣士の笑顔をみせ、寧宮も満足したように頷いた。
 そして再び音頭を取り、次なる見世物を紹介するのだった。

「さてはて見事な剣の冴え。しかし冴えるは剣だけあらず。飛ぶ鳥落とし蝶が舞う。舞うて踊るは白拍子。一矢報いて神招く。招いて来たらば福来たる。春乃・菊生の鬼神が妙技でございます」
 またも花吹雪が吹く。そして姿を現したのは春乃であった。
「さあさあ、お立会い、じゃ。次は我の秘術をお見せしよう」
 得意げに聴衆を見渡す春乃。
「一矢で舟をも沈めるこの強弓、とくと目に焼き付けい」
 そうやって大きく両腕を広げる春乃。彼女の手には何もない。
 いったいどうするつもりであろうか。
 パァンと柏手を打つかのように春乃が手を打った。
 するとどうだろう。
 うっすらと白く覆われた地面を突き破るように、ぼこりぼこりと何者かが這い出てくる。
 土筆などという可愛い物ではなく、それは重厚な鎧に身を包んだ武者たちの姿であった。
「ひぃっ、怨霊じゃあ……」
「アヤカシじゃあ……!」
 恐れおののく村人達。その姿を春乃が静止する。
「案ずるでない、田舎では見慣れぬが都ではよくあること。これが我の秘術よな」
 その言葉に怪しみながらも安堵する村人、見れば武者の手には弓がある。
 あれを披露しようということなのだろう。
「一の矢、つがえ!」
 春乃の合図に、一人の武者が構える。
 狙う先は先ほど花盛が斬った岩。鏡面のような切り口を的にしようとするつもりだった。
 きりきりと弓を引き絞り、放たれたそれは見事刺さる。
「二の矢、つがえ!」
 また合図、次は別の武者が弓を構える。
 再び放たれた矢は、刺さっていた矢尻を真っ二つに裂いて、寸分たがわぬ場所へと突き刺さった。
 喝采をあげる村人達。
「三の矢、つがえ!」
 またまた別の武者。
 三度放たれた矢は、今度も唐竹割に裂いて、同じ場所へと命中する。
 するとぴしりぴしりと、三本一矢を中心に蜘蛛の巣のように亀裂が奔り、村人が歓声をあげるより速く、巨岩は四散したのだった。
 歓声。そして万雷。
 片手をあげて春乃はそれにこたえた。
 「どうじゃ、これでも女の身で旅を続けておるのじゃからの。多少は腕に覚えもあるのじゃよ」
 拍手を背に受けて、春乃もまたさがるのであった。

「剣が舞う弓が舞う。悪を倒せと星霊が鳴く。なだめすかすは乙女の竪琴。いや、男娘の楽器。もう、男でいいや。アンディ・リーランスの爪弾きでございます」
 なあ~んという間延びした声とともにノソリンと、一緒になってアンディが現れた。
「ノソリン、みんなと仲良くなるのです~よ♪」
 アンディが鳴らす曲に沿い首をゆらゆらと振りながら、ノソリンは愉快に身体を揺すり、上下する。
 その愛嬌ある姿に、村の子供たちがはしゃぐ。
 注目されたところでアンディは曲調を変えた。
 子供たちが喜びそうな、そんな軽快な曲。
 ノソリンはその曲にあわせてさらに楽しそうに、子供たちの輪にへと入っていく。
 子供たちとノソリンの輪舞曲。
 アンディも輪に加わり、調子を速めていく。
 興が乗ったのか、子供たちが囃しながら歌いだしたのだった。

 あれみやこれみやささっちょる
 しろいやさんがささっちょる
 やあれうれしやめでたいな
 やまのかみさんよんでおる
 きいたかみえたかたずねっしょ

 たずねやいこうかよめまいり
 このこのちぎりのおいわいに
 やあれうれしやめでたいな
 やまのむすめよわらってな
 おせよおすおすほうりましょ

「おい、止めろ!」
 鶴の一声。
 アンディと子供たちは何事かと立ち止まり、その声の主に視線を移す。
 それは1人の男だった。
 視線が集中するとバツが悪そうにそうはにかみ、そして言い訳する。
「あ……いや、皆さん長旅でお疲れのようですし……そろそろお開きにして、休まれたほうがよろしいかな、と……」
 その提案に、沈黙していた他の村人からも、そうだそうだと声があがる。
 うやむやのうちに演目は解散され、猟兵たちもそれぞれの宿へ案内される。
 アンディも向かおうとしたが袖を引っ張られ、後ろを振りむいた。
 みるとそこにいたのは先ほどの子供の1人であった。
 目があうと、その子はきらきらと輝かせながら問うたのだ。
「お兄ちゃん、明日も弾いてくれる?」
 その尋ねにアンディはにっこりとほほ笑んで答えた。
「もちろんですよ♪ まだ練習中の身ですけど、頑張るのです~♪」
 バイバイと手を振って、アンディはまた前をむいた。
 ふと見ると、家の前には飼い犬がいた。
 アンディは頭を撫でながら、その犬に何事かを問う。
 犬はわんと鳴き、その返事にアンディは悲しそうな顔を浮かべた。
「矢は刺さっていた……ですか」
 アンディは動物と多少の会話が出来る。尋ねたのは生贄の家についてだ。
 犬には生贄のことはよくわからなかった。
 だが、屋根に矢が刺さっていた家はあったのだという。
 しかし今見まわしていても、そのような家はどこにもない。
 きっと、候補が選ばれたら抜かれてしまったのだろう。
「まあ、皆で探せばいいのです~」
 持ち前の明るさを取り戻し、アンディはこれからの調査をどうしようかと考えるのだった。

「あんた……、なあ、あんた」
 寧宮もまた、別の村人に呼び止められていた。
 歳は十代後半と言ったところか、若い青年が寧宮に声をかけたのだった。
「なあ、座長さん」
「座長……ああ、はいはい……なん、ですかー」
 おそらく進行を務めていた自分を座長と勘違いしているのだろう。
 訂正するのも面倒くさく、寧宮は話を合わせ相槌をうつ。
 しきりに周りを気にする青年は、意を決して尋ねてくる。
「天下自在符……その、あんた、偉い人か? 本当なのか?」
「ええ、もちろんですよー……この紋符が目に……はいらぬかー」
 懐から自在符を取り出し、突きつける寧宮。
 青年は自分を仙次郎と名乗った。
「お仲間さんは偉い技をお持ちだが、みんなああなのか?」
「難事を……解決する、のに……不可欠ですよー……」
「そうか……それを見込んであんたらに話たいことがある。なるべくなら他の村人がいない所で……大事な、大事な話をしたい」
 それだけ言うと、仙次郎はそそくさと去っていった。
 罠か、それとも……?
 このことは他の仲間にも報告しよう。
 寧宮はそう思いながら、民家へとむかったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『人身御供』

POW   :    村や現場を見張る

SPD   :    村人に聞き込み、罠などを仕掛ける

WIZ   :    生贄のフリをしてわざと捕まる

👑11
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 民家というものは意外と狭いものだ。
 それが田舎ならばなおさら、猟兵たちはひとつの所にまとめられず、ばらばらに泊まることになった。
 だがこれは、個々に行動をとってもそれほど怪しまれはしないということだ。
 村長以下村人に、自分たちは芸妓の一座と思わせることには成功した。
 何日か逗留しても良いとの許可も貰っている。
 だが猟兵の目的が露見してしまえば、面白くないことになってしまうだろう。
 なるべくはやく、オブリビオンへの手がかりを見つけなければ。
 そして猟兵たちは、それぞれの行動に出たのであった。
アンディ・リーランス
 村の中にいる動物に「矢の刺さった家」の場所を聞いて回りながら、広場(芸をした場所)に行き、ノソリンを呼んで子供達と遊ぶ。

 普段はどうゆう遊びをしているか聞きながら、昨日歌っていた唄について聞く。
 後、『子供だけだと危ないです~よね?』『でも、大人は忙しいのです~ね?』と聞きながら、世話をしてくれるお姉さんのことを聞き出して、結びさんの事を聞き出す。

 むすびさんの話を聞けたら、彼女に接触して詳しい話を聞いて、代わりに贄になる。(ノソリンは送還して不在w)
 何も知らない様に白無垢は喜んで着るw (女装は無問題w)
『きれいなのです~♪』


他の人との絡み、アドリブ推奨(大歓迎)


寧宮・澪
罠か、生贄止めたいか……まあ飛び込んで、みましょかー……

申し出に応じることを他の猟兵にも共有ー……それから、民家の方に、村見てくると告げてー……仙次郎さんの、とこ向かいましょー……

彼に従って話聞いて、【情報収集】ー……
助けてほしい、なら協力します、よー……
力見せて、と言われたら、分身ー……と言って【Call:Alternate】、聞いてたむすびさんの姿で呼びましょー……
こう、分身できますし、生贄、替わりますよー……
山の神、倒しますが……いいんですよねー……?

逆に、捕らえて生贄にする、と言うなら、好都合ー……おとなしく捕まります……後でユベコで入れ替わり……狙いましょー……

アドリブ、連携、歓迎ー


春乃・菊生
[WIZ]
兵は拙速を尊ぶ、じゃったかの。
時間をかけては怪しまれよう。皆も承知の通り、早急に動くべきなのは間違いあるまい。

さて、居場所が分からぬなら、知っておる当人に案内させれば良かろうの。
我々のうちのひとりが生贄として捕まり、残りの者でそれを追えば確実じゃ。
他に生贄役が居るならよし、居らなければ我がその役、買って出よう。

他の者が生贄役の場合、連れ去られるところを秘術ノ肆で召喚した鷹の霊で追跡じゃ。
我が生贄役の場合は、逆に鷹に我を追跡させ、それを皆に追わせようかの。

あどりぶ、連携、ともに歓迎じゃ。


花盛・乙女
■POW

顔に出るようではまだ未熟だな。
精々情報集めで汚名を雪ぐとしよう。
前段階として、逗留中は努めて村人と交流を持つようにしておくか。

気にかかるのはやはり芸を披露した時に顔を下げた連中だな。
ライラ殿も話していたが、皆が良しとしていないのは明白だ。
さて、どうやって話を聞きだすか。

考えることは苦手だ。
だから私は刀の稽古を村人につける。
老若男女問わず募り、後ろめたく思っていそうな者には私から声をかけよう。
心身共に鍛えれば、後ろめたい感情はより重く感じ、膿のように吐き出したくなるものだ。

弱い事は悪ではない。
弱い事を理由に、誰かを犠牲にする事を見過ごす事が悪なのだ。
だから、強くなれ。

■アドリブ共闘歓迎



 滞在中、花盛は努めて村人たちと交流をはかろうとしていた。
「そうだ、なかなか筋がいいぞ」
 鋤や鍬を木刀に替えた村人たちが素振りをおこなっている。
 その動作の良し悪しを花盛は注意していった。
 彼女には詐術というものはわからぬ。
 剣に生き、剣にそって生きてきた。
 この村によからぬ陰謀があるということは理解できているものの、どうすればよいか今だ導き出せずにいた。
 ならばせめて、村人たちと近づきになろう。
 そう考えて、花盛は希望する者に稽古をつけることにしたのである。
 もっとも、何人かは彼女の方から声をかけたのだが。
 剣は嘘をつかない。
 半信半疑で剣を振るっていた村人たちは、肩で息をし汗をかくうちに、顔から険がとれいく。
 最初村に来た時よりも、幾分打ち解けてきたような気がした。
 稽古を終え休憩するかたわら、花盛はそれとなく聞いてみる。
「どうだ、気分は」
「畑耕す時とは違った、いい気分ですよ」
 握り飯を頬張りながら、村人は笑った。
 しかし、昏さはまだどことなく残っている。
 少なくとも花盛にはそう感じたのだった。
「なにか悩みがあるようなだな」
「え?」
「剣先に迷いが見える、私でよければ悩みは聞くぞ。ここでは余所者だ、角が立つ事でも、居なくなるしな」
 うつむく村人。それとなく水をむけたのだが、まだ口は硬いようだ。
 だがこうやって稽古につき合ってくれているのは、それなりに気持ちをむけてくれる証であろう。
「すまなかったな、話辛いことなら仕方ない」
 立ち上がり、稽古を再開しようとする花盛。
「まあ、話たくなったら話してくれると嬉しい。こうやっているのも多生の縁だからな」
 構えをとる花盛。それに遅れて村人たちも構える。
 まだギクシャクとはしているが、それなりの信頼はかち得たようだった。
「弱い事は悪ではない。弱い事を理由に、誰かを犠牲にする事を見過ごす事が悪なのだ。だから、強くなれ」
 稽古を見ながら、花盛はそう村人たちに説くのだった。

 村の広場では、アンディが子供たちと一緒になって遊んでいた。
 楽曲のリクエストにもこたえてやり、すぐに子供たちと仲良くなることができた。
 村を回ってはみたが、やはり矢の刺さった家は見つからなかった。
 そこでアンディは、子供たちにいろいろと尋ねることにしたのだった。
 普段どんなことをしているのか。
 友達と何をしているのか。
 子供たちとの他愛のない会話から、アンディは情報を引き出そうとする。
「そういえば、あの時歌っていたのはなんだったです?」
 曲のレパートリーに加えたい。
 そういうと子供たちは、喜んで続きを歌ってくれた。

 あれみやこれみやささっちょる
 しろいやさんがささっちょる
 やあれうれしやめでたいな
 やまのかみさんよんでおる
 きいたかみえたかたずねっしょ

 たずねやいこうかよめまいり
 このこのちぎりのおいわいに
 やあれうれしやめでたいな
 やまのむすめよわらってな
 おせよおすおすほうりましょ

 しらはつきたてさしましょか
 やいばゆみやのひかりもの
 やあれうれしやめでたいな
 やまのかみさんささげもの
 こうはくまんじゅうべっとりよ

 あれみやこれみやささっちょる
 しろいやいばがささっちょる
 やあれうれしやめでたいな
 やまのかみさんごまんぞく
 きいたかみえたかたずねっしょ

 アンディは、子供たちのまえで表情を取り繕っていた。
 それは残酷で無邪気な、わらべ唄であった。
 おそらく子供たちは何も知らぬのに違いない。
 歌詞の意味を知らぬからこそ、こうやって自分に教え聞かせてくれるているのだ。
 惨劇は唄では終わらず、続いている。
 来年はこの中にいる子もいずれやがて。
 そのような未来の想像をアンディは首を振って打ち払った。
 自分達はそれを止めるためにきたのだから。
「子供だけだと危ないです~よね?」
 話題を変えようと口にするアンディ。
「村の外には出ないから大丈夫だよ!」
「でもでも大人たちはいないのです~? 大人は忙しいのです~ね?」
 大丈夫、と子供たちは答える。
 お守りをしてくれる人がいるから大丈夫だと。
「へえ、いい人なのです~。どんな人なのです?」
 一人とは限らず、すこし年上の子が代わる代わるお守りをしてくれているようだった。
 そしてそのなかの一人に、むすびという名が聞けた。
 むすび。
 ここに来る前に聞いた名だ。当然興味はある。
「へえ~、その人どこに住んでいるのです?」
 その質問に、子供たちはなんら疑念を抱くことなく、一軒の家を指差した。
 別段ほかの家と変わった様子は無い。
 だがその何の変哲もない家の娘さんが、生贄の役を押し付けられようとしている。
 行って、確かめねば。
 アンディは子供たちのことがおわってから、その家にむかうことにしようと思ったのだった。

「うまくやっている……ようですねー……」
 寧宮の言葉に春乃は頷く。
 二人は仙次郎の家にいた。
 花盛とアンディのおかげで外は騒々しい。
 注目を集めてくれたおかげで自分たちはあまり目立たないでいるはずだ。
 仙次郎の誘いに罠かと疑いはしたが、虎穴に入らずんば。
 誘いにのりこうやって対面はしたが、その疑いはなさそうだった。
 いちおう一人では危ういと思い二人できたが、仙次郎はおかまいなくぽつぽつと身の上を話してくれる。
 曰く、この村は魔物に支配されていると。
 もちろん、自分たちはそのためにやってきたのだが、猟兵たちは知らないふりをして仙次郎の話に耳を傾けていたのだった。
「どこから話したものか――」
 白羽の矢。
 村人たちはそう呼んでいる。
 冬が過ぎ、雪もゆるみ村人たちが外へ出ようとする季節、一軒の家の屋根に矢が刺さっているのだという。
 それはつららがささったような、白く冷たい氷の矢。
 それは山からの招きで、その家の者はそれに応じなければならない。
 その家の若き者は婚礼衣装と共に山へと送られ、捧げものとなる。
 村の者は毎年この行事を繰り返してきた。
 行いを止めた年もあった。
 するとその年はどうしてか、獲物は一匹も取れず作物は枯れ果て、村人たちは窮するしかなかったのである。
「こうするしか……こうするしかないと教えられてきた……でも」
 今年。
 一軒の矢は当然の如く刺さっていた。
 それはむすびの家。
 仙次郎の幼馴染が住んでいる家であった。
 仙次郎は悩んだ。そして決心した。
 村から離れよう、と。
 しかし、むすびは悲しげに微笑んで言ったのだ。
「おらが逃げたらお父とおっかあが、村のみんなさ困るべな」
 心の優しいむすびは、己の運命を受け入れていたのだった。
「俺は、俺は……むすびを助けたい。でもどうすればいいかわからねえ」
「仙次郎とやら。貴様、その魔物の居場所はわからんのか?」
 春乃の問いかけに、仙次郎は首を振る。
「わからねえ。その場所は村の偉い衆しかわからないと思う。俺だって、毎年の儀式は知ってても、どこに行くかは知らないしな」
 ふむ、と腕組みをする春乃。
「では当人に案内させるしかないか」
 どういうことか、仙次郎と寧宮の視線を受けながら、春乃は続ける。
「簡単なことじゃ。場所を知っている輩に案内させるのよ。おそらく我らがいる間は生贄を捧げようとは動くまい。とうぜん止めようとするからのう。じゃからわざとこの村から離れるのじゃ。ネズミ共はかならず尻尾を出そうぞ」
「むすびは、むすびはどうなるんだ?」
「その点は、お気になさらずー……」
 寧宮が立ち上がり、緩やかにポーズを決めながら呟く。
「分身ー」
 すると視界が歪み、その場に居る者とは別の者。
 女性の姿がゆらゆらと現れ出す。
 仙次郎は驚愕した。
 なぜならその人物とは今言ったむすび本人に他ならなかったからだ。
 仙次郎は目を見開いてむすびを見た。
 むすびは優しく微笑んで幼馴染に声をかける。
「山の神、倒しますが……いいんですよねー……」
 彼女なら言わぬ言葉に、仙次郎はまた驚いた。
 その滑稽な様子に春乃は、くっと笑った。
「身代わり役は我が演じようと思うておったが、すでに適役がおりそうじゃのう。さて、どうする仙次郎? 好機は何度もあると思うなよ。兵は拙速を尊ぶ、じゃったかの?」
 しばしの沈黙。
 仙次郎は二人をまえに、真剣な眼差しで頼みこんだのだった。
「わかった、あんたらに協力する。むすびを助けてやって欲しい」
 寧宮と春乃も、もちろんと了承するのであった。
 仙次郎が先導し、むすびの家へと案内される。
「ここだ」
 戸を開けると、そこにはすでに着付けをされた人物がいた。
 白無垢の姿に身を包み、可愛らしく少女。
 そしてその姿を優しげに見つめるむすび。
 そう、むすびである。
 では、その白無垢は何者か。
 「きれいなのです~♪」
 そう、その少女は裾を引きずり、ニコニコと笑うアンディの姿だったのだ。
「これは……可愛いむすびさんですねー」
「貴様の目は節穴か!」
 背後でボケとツッコミの声を聴きながら、仙次郎は三度目を見開いたのであった。

 寧宮たちが丁寧に礼を述べ、村を去ってから数日後。
 村人たちが動き出す。
 輿にむすびを乗せ、山の方へと。
 その村人たちの頭上たかく、鷹が雲ひとつない空を舞っていた。
「動いたのう」
 村から離れた場所で、春乃が不敵に微笑んだ。
 傍には他の猟兵もいる。
 こちらの読みどおり、異分子が居なくなったところで村人たちは動き出した。
 おそらく、このまま運べば予知通りの光景が広がるだろう。
 だが村人たちは知らない。
 輿に乗った生贄はむすびではないということを。
 それは替え玉。とうの本人は自分たちが去ると同じに村を出ている。
 危害が加えられることはないだろう。
「さて皆の衆、魔を祓うと致すかのう」
 たとえ感知されていようと、その前に自分たちが倒す。
 猟兵たちは、気取られぬように村人の一団を追跡しはじめたのだった。
 予知で見た通りの洞穴にたどり着いたのは、だいぶ日が高くなってからだ。
 おそらく、この先に元凶が潜んでいるのであろう。
 対峙する時に村人がいてはまずい。
 武装はしているが、猟兵たちのまえでは無力。
 ここで気絶させてしまおう。
 そう考えていた矢先に、先んじる者達がいた。
 それは村人。
 生贄を運ぶ者達とはまた違った一団だった。
 花盛は驚いた。
 その中に自分が稽古をつけた者がいたからだ。
 おそらく仙次郎も知らないのだろう。
 彼の話にはこのような計画はなかったからだ。
 それにあの生贄は偽物だ。
 だとすれば、彼らが自発的にでた行動なのだろう。
「村長! もうやめましょう!」
「そうだ、こんなことはいけねえ!」
 懇願する村人たちと、それを憎々しげに見つめる村長たち。
「こうもせねば村は守れぬのだ!」
 刀を抜き、今にも襲いかからんとしている。
 このままでは村人同士の争いがおこるであろう。
 猟兵たちは潜んでいた場所から駆け出し、躍り出るのであった。

 ひと騒動は終わった。
 足元には気絶した村長以下、生贄を運ぼうとした者たちがいる。
 それを止めようとした村人たちは、猟兵たちが加勢したおかげで怪我ひとつない。
 とはいえ、ここから先は危うい。
 この先は猟兵たちの領分だ。村へ帰るようにと伝える。
「がんばってくだせえ!」
「こんな言いかたしかできやせんが、お気をつけて」
 村人たちの声援を背に受けて、奥へと進む一行。
 花盛の頬は緩んでいた。
「これから敵地だというのに、余裕じゃのう」
「ああ、笑わずにはいられない」
 春乃へ返す花盛。
 誰かを犠牲にする事を見過ごす事が悪。
 だから強くなれ。
 彼らはそれを実践しようとしていたからだ。
 これから悪を討とうとする花盛にとって、その行為は何物にも勝る応援に他ならなかったからだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『雪熟女』

POW   :    妖艶なる氷の吐息
【口】から【『はふぅ』と悩ましげな、絶対零度の吐息】を放ち、【魅了と氷結】により対象の動きを一時的に封じる。
SPD   :    心惑わす魅惑の吹雪
【おみ足を魅せる等して肌から冷気を集める事】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【髪を色っぽく乱す程の猛吹雪】で攻撃する。
WIZ   :    遭難者様ご案内
小さな【吹雪の中に現れる雪の宿】に触れた抵抗しない対象を吸い込む。中はユーベルコード製の【対象が望む幸せな世界の幻】で、いつでも外に出られる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

 奥へ奥へと進むうちに、だんだんと肌寒くなっていく。
 洞穴の壁面は、水滴からつららへと変わっていき、寒さが嘘ではない事を語っていた。
 つきあたり、予知でみた祭壇があった。
 枯れ木で出来た二本の支え台。
 そしてそれをとりかこむ篝台。
 そして、予知ではおぼろげだったが、いまここで現場に踏み入った時分でわかるものがあった。
 骨だ。
 小さい物から大きい物、中にはこぶし大ほどしかない大きさの頭蓋骨。
 肋骨、手首、足首、大腿骨、それがそこら中にある。
 ある、ある、ある。
 それらうず高くつみあげられ、地に縛り付けられるような呪縛を思わせるようにぶ厚い氷の山となっていた。
 おそらく、生贄とされた者の末路か。
 眉をひそめる猟兵たち。
 洞穴にながれる風は強くなり、寒さと風音が増していく。
 そして、その風音を伝って、何者かの声が聞こえてくる。

 ダレダ……ナニモノダ……

 びょうびょうと響く風音とおなじ、冷たい声。
 敵の接近に、猟兵たちは身構えた。

 ヤマノモノニアラズ……ナニモノ……ナニモノ……

 洞穴に一陣の風が起こった。
 その風は、氷の塚山に一人の女を運び、一層とあたりを寒く震わせる。
 白い衣服に白い肌。
 雪が人の形をとるとこのように美しい姿となるのであろうか。
 しかし女は、氷のように冷徹に、猟兵たちを冷ややかに見下ろし、口の橋をつりあげて言い放った。
「山の掟を汚せし異邦人……魂さえも凍らし、我への捧げものとしよう」
 ふふ、と妖艶な吐息はたちまち氷の霧となり、幻想的な妖しさを醸し出す。
 だが、彼女から放たれる凶気は、人間ではないと猟兵たちは理解する。

 山の神の現身、雪熟女が猟兵たちに襲いかかってきた。
春乃・菊生
アドリブ、連携歓迎。
[WIZ]
山の神の正体は雪女じゃったか。
血も涙もない所業じゃとは思うたが、なるほど、血潮の一つも通わぬではの。

さて、化生よ。
人に仇為すは其方らの生まれついての定め故に致し方あるまいが、如何せん我ら人とは相容れぬ。
故に、此処で退治てくれよう。


秘術で鎧武者の霊を呼び出し、それぞれの手にする弓や薙刀で攻撃させる。
【破魔】+【なぎ払い】、【援護射撃】
他の猟兵との連携や防御を重視しようかの。
また雪女が氷雪で身を守ろうとするなら、その守りごとに打ち砕こうぞ。
【鎧砕き】、【串刺し】

夢幻なぞ、眠れば見ることができるからの。
間に合うとる。ほれ、熨斗もつけてやる。とっとと持って帰るがよいわ。


花盛・乙女
山の掟だと?
貴様の手前勝手を山の掟と言っているのか?
片腹痛いぞ、外道め。
ここにある骸の数の剣戟を貴様に叩き込んでやる!覚悟しろ!

【黒椿】と【乙女】のふた振りを構える。
厄介そうなのはあの吐息か。
『怪力』にて振り抜く剣風で吐息は散らそう。

洞穴内のつららか。あれは使えそうだ。
『ジャンプ』を持って雪熟女の頭上に舞い、頭上のつららを切り払い、つららを落として攻撃と敵の動きを封じようか。

生贄という風習は私は好かん。
だが弱き者が己の寄る辺を他に求めるのもまた事実。
だからこそ、強さは必要なのだ。

あの村は、強くなる。
貴様の恐怖に、見返りなき因習に打ち勝つ勇気を得たからな。

故に貴様は、この鬼の拳にて果てるがいい!


アンディ・リーランス
他の人との絡み、アドリブ推奨(大歓迎)

 前衛で戦う人のサポートをする。【生まれながらの光】で回復に専念する。

「傷はボクが治すので、頑張ってなのです~!」


 雪熟女の色っぽい攻撃に対しては、
「そんな恰好をして、寒くはないのです~?」
と、、無菌培養な(別の意味で女性の裸に慣れている?)反応をする。

【遭難者様ご案内】で、雪熟女が宿の中に逃げ込もうとしたら先回りして妨害を試みる。(小さい宿に抵抗の意志を持って接触して破壊する。可能ならノソリンを呼んで待機してもらって、小さい宿が出たら破壊してもらう。)

 無事に倒せたら、
「勝ったのです~♪」
と叫んで、散乱している骨を集めて供養する。


寧宮・澪
おやー……寒い、ですねー……まあ、頑張りましょー……。

ユーベルコード、【謳函】、【歌唱】、しましょー……。
村を救う、生贄を弔う、氷熟女を倒す。
この想い、込めて【鼓舞】を……謳い、ましょー……。
支援はお任せをー……。

この場の寒さや、冷気……氷、は【氷結耐性】で、耐えてー……。
できれば、当たらないように、【見切り】ー……。
幸せな世界に、呼ばれても……もう存在しないそれは、幻ですからー……。
あの村、思い出して、抵抗しましょー……。
はいりませーん……入っても、すぐ出ますー……。

山のもの、って言いましたが、貴方も……山のもの、じゃないでしょー……。

こういう生贄とか圧政って、大嫌い。

アドリブ、連携、歓迎。



「山の掟だと!?」
 洞穴に響き渡らんばかりの声で叫び、花盛が激昂する。
 怒りで身体を震わせながら、二つの手で刀を抜き放つ。
「貴様の手前勝手を山の掟と言っているのか? 片腹痛いぞ、外道め。ここにある骸の数の剣戟を貴様に叩き込んでやる!覚悟しろ!」
 そう言い放つが速いか、悪を斬らんと疾走する花盛。
 そんな彼女を雪熟女は冷ややかに見つめ、動じる気配もない。
 脚を拡げ、両腕を伸ばす。広がった着物の裾から、白い肌が露わになる。
 色仕掛けかとさらに怒りを増す花盛。
 だが、雪熟女の狙いはそれではなかった。
 着物がはためき、風が起こる。
 雪熟女を中心にして猛吹雪が発生し、視界が白に染まっていく。
 風と雪が洞穴で反響し、猟兵たちの行動を阻もうと広がっていった。
「山の神の正体は雪女じゃったか」
 春乃が顔の前を腕で防ぎながら漏らす。
 この視界では敵を捕らえることは困難だ。
 まずこの吹雪をなんとかせねばなるまい。
 しかし、花盛は違った。
「舐めるな外道!」
 二振りの刀を振り回し、雪を振り払って単身突っ込んでいく。
 他の猟兵からはよく見えなかったが、それは確実に雪熟女へと近づいていった。

 氷山を駆け上がり、雪熟女を視界にとらえる。
「覚悟しろ!」
 左右からの斬撃。だがそんな動作より早く雪熟女の躰が動いた。
 見かけによらない所作に、花盛は反応が遅れてしまった。
 まるで恋人と抱擁するかのように抱きつき、口づけをかわすかのように身をすり合わせる雪熟女。
 左右から振り下ろした斬撃は虚しく、その交差した腕は、はからずもあやかしを抱きしめ返すかのような形を彩る。
 にぃ。
 雪の魔物が妖しく微笑んだ。
 その背後に雪で覆われた民家が現れ、勝手に戸口が開く。
 どこにそんな力がと訝しがる花盛をあざ笑うように、雪熟女は抱きしめた剣士ともども民家へと後ろ向きに飛び込んだ。
 ぱたん。
 再び戸口が勝手にしまる。
 その出来事を、ホワイトアウトに包まれていた猟兵は感知できずにいた。
「おやー……寒い、ですねー……まあ、頑張りましょー……」
 寧宮がただ、のんびりとした口調で眺めていたのである。

「……ここは?」
 花盛は困惑していた。
 気がつけば雪熟女の姿は見えず、一人花畑の中へと取り残されていたのだった。
 陽が己を優しく照らし、どこからか子供たちのはしゃぎ声が聞こえる。
 修行に明け暮れていた自分には味わうことが出来なかった、のどかな光景。
 この柔らかい日差しの中、安らいでいたい。
 そんな淡い望みが胸の中をよぎるが、すぐに打ち消された。
 鋭い殺気を刀で受け止め、放つ主を睨み返す。
 そこには、雪熟女の姿があった。
「そのまま、幻想に包まれていれば良かったものを」
 酷薄な笑みを浮かべ、凍氷の刃を突き立ててくる。
 花盛はそれを鍔迫りで受け止めたのだった。
 背に暖かい陽光を感じる。
 だが手足は震え、刀を握る指先がかじかむ。
 その感覚が、これは幻なのだと理解させる。
 ここからどう切り返すか?
 そう考えあぐねる花盛の耳に、聞きなれた声が届いた。
「はいはいー……失礼、しますよー……」
 そこにいたのは寧宮であった。
 あいもかわらずのんびりと、気の抜けた挨拶。
 そのちぐはぐな態度にさしものオブリビオンも面食らったのか、寧宮と同じように呆けた顔を浮かべてしまっている。
「隙、ありー……」
 その機に乗じ、二人を引きはがす寧宮。
 花盛を抱えたまま、自分にも言い聞かせるように呟いている。
「幻……幻……、これは幻、ですよー……」
 手を繋ぎながら花畑を、あてもなく走り続ける。
 視界がまぶしく、白くなっていく。
 するといつのまにか洞穴へと、花盛と寧宮はもと居た場所へと戻ってくることができたのだった。
「感謝する」
 どうやら自分は敵の幻術へと引きずりこまれてしまっていたようだった。
 顔にあたる吹雪の冷たさと手足の痛みが、ここが現実の世界なのだということを理解させてくれた。
「花盛さん、大丈夫なのです~?」
 アンディが駆け寄ってくる。どうも思ったより重症に見えたようだ。
 不安そうに花盛の手を優しく両手でやさしく撫でてくれる。
 柔らかい光が花盛の身体を照らし、包み込んだ。
 仮初めの陽光とは違うまことの光。
 それは慈しみの温かさを感じさせてくれ、凍傷をたちまち癒してくれた。
 感謝の言葉を口にする前に、アンディがにっこりとほほ笑んだ。
「傷はボクが治すので、頑張ってなのです~!」
「ですが……吹雪……なんとか、ですねー」
 頬に激しく雪がたたきつけながらも、その表情は崩れることがない。
 懐からオルゴールを取り出すと、両手で差し出した。
 それは金細工のオルゴール。箱の表面に大小さまざまな歯車が施されていた。
 そしてそれは勝手に動き出し、ひとりでに箱が開きだす。
 オルゴールが奏でる小さな音は、不可思議なこと豪雪音にもかき消されることなく、洞穴全体に鈴音が響き渡るがごとく、優しく、静かに染み入っていく。
 その優しさに同調するかのように、寧宮は歌いだしたのだった。

 silent snow 静かに優しく
 silence snow 雪が降るの
 白く 無邪気に 何も知らないで
 ただ静かに この地を 白く染めてゆくの
 それはただ 罪を贖いたいから?
 それはただ 過ちを隠したいから?
 sacrifice to ice Just only for that...
 貴方はなにも語らずに そっと舞い降りるのね
  falling flakes funeral song
 わたしが 貴方を 優しく抱き上げたら
 光のしるべで 祝福してくれるのね
 この白いキャンバスに 足跡をつけるから
 わたしが間違っていたら そっと消して欲しいな
 silent snow 静かに優しく
 silence snow 雪が降るの
 白く 無邪気に 何も知らないで
 ただ静かに この地を 白く染めてゆくの

 それは鎮魂歌であった。
 この地で犠牲になった者の弔いと哀悼の意を込めた。
 その凄惨なことが無くなるようにと、雪の地への思いを込めて。
 歌を聞いた猟兵たちに、それぞれの思いが去来する。
 不思議と、もう寒さは感じなかった。
 それどころか吹雪の先に、魔の気配をはっきりと感知できるような気もしてくる。
 猟兵たちは寧宮の歌に、勇気づけられたのであった。
「ありがたい、我がどうするべきか……改めて思い起こされたのう」
 春乃が印を結ぶと、雪氷を砕くかのように鎧武者たちが現れる。
 そして彼らは弓を引き絞り、矢をつがえた。
 それは吹雪を物ともせずに、さきほど出現した民家へと真っ直ぐ飛んで行く。
 破砕音ととも家屋が吹き飛び、脱兎のように雪熟女が飛び出してくる。
 痛手を負わせることは出来なかったようだが、いぶり出す事には成功した様だった。
「さて、化生よ。人に仇為すは其方らの生まれついての定め故に致し方あるまいが、如何せん我ら人とは相容れぬ。故に、此処で退治てくれよう」
 春乃が手を振ると、二人の武者が矢を構えて傍に控え、残りは花盛と一緒に雪熟女のほうへと向かっていくのだった。
 こちらへとやってくる花盛と鎧武者たち。
「木偶が」
 両手を顔のまえで合わせると、雪熟女の掌に氷の渦が巻き起こっていく。
 はふぅ。
 息を吹きかけると、それは氷刃と化して花盛たちを襲った。
 花盛は足止めされた程度であったが、鎧武者たちは氷刃が纏わりつき、たちまち氷の彫像と化す。
「砕けるがいい!」
 再び吹雪を起こすと彫像は衝撃に耐えきれず、砕け散ってしまう。
「ほっ、やるのう」
 再び印を結び春乃は召喚しようとした。それをアンディが押しとどめる。
「まかせるのです~♪」
 アンディの身体から光が放たれ、砕け散った欠片へと降り注がれる。
 それは奇跡となって鎧武者を復活せしめ、ふたたび刀を構えて敵へと向かっていった。
 ふう、とアンディは肩で大きく息をした、この技は疲労をともなう。
 多少の代償は払ったようだが、味方の優劣を押さえることは出来たようだ。
 満足げな疲労感に包まれるアンディのもとへ、暴雪風にあおられて敵がやってくる。
 どうやら今の行動はお気に召さなかったようだった。
 むかってくる雪熟女の着物が、風にあおられてばたばたとめくれている。
「そんな恰好をして、寒くはないのです~?」
 疑問に敵は答えない。
 ともあれ、標的にされたことは間違いないようだ。
 アンディはノソリンを召喚し、その背に跨った。
 距離を離そうと星霊に合図する。
 間一髪。
 少年を狙う熟女の魔の手から逃げることに成功し、オブリビオンの周囲につららが降り注いだ。
「どこを見ている。私たちが相手だ」
 刃をむけ、花盛と鎧武者たちが迫る。
 彼女たちにもはや吹雪はいささかの害も与えてはいない。
 洞穴に響き渡る寧宮の歌が、猟兵たちを励まし奮い立たせているからだ。
 愚か者を死へと誘う雪の結界は、逆に雪熟女へ劣勢を伝えたかったのかもしれない。
 だが、不届き者たちを前にして、逃げるという選択肢を頭に浮かべる余裕はオブリビオンにはなかった。
 そしてその逡巡が、身体に弓矢を突き立たせる結果を生んでしまう。
「どこを見ておる! 我らもおるぞ!」
 春乃の側に控えていた武者たちの双射撃。
 見事命中させ、春乃の顔に会心の笑みが浮かんでいた。
 そして、雪熟女の顔に怒りと焦りの表情が浮かぶ。
 多くの者を屠ってきた。
 雪の下へと。氷の下へと
 氷雪の領域は、自分の天下であった。だが、今は違う。

 ダレダ……ナニモノダ……

 こいつらは自分を恐れず、そして刃向ってくる。
 今まで村人相手に暴虐の限りをつくしてきたオブリビオンにとって、それは理解しがたい存在であった。

 ヤマノモノニアラズ……ナニモノ……ナニモノ……

 村人たちが山の神にたいして抱いていた感情を、雪熟女は猟兵たちに持ち始めていた。
 恐怖という感情。
 それがどういうものか彼女にはわからなかったが、胸に渦巻く思いにつきうごかさえるまま、雪熟女は行動した。
 両手をかざし、吹雪を起こす。
 効果がないことはわかっている。これは目くらまし。
 オブリビオンは背をむけ、一目散に洞穴の入口へと駆けだしたのだ。
 そして悲しいかな。
 そのような浅知恵も、猟兵たちには通用はしなかったのだ。

 ノソリンが雪熟女を追い抜いて行く。
 そして跳びあがって着地し、先を塞ぐ花盛。
 その後ろにはアンディとノソリン。
 雪熟女は後ろを振り返った。
 寧宮と春乃が鎧武者を従えてこちらへやってくる。
「逃げるのか」
 花盛が冷ややかに言い放つ。
「あの村人たちは逃げなかったぞ。最後に勇気を振り絞り、立ち向かおうとした」
 貴様は村人以下だ、と刀を構え対峙する。
 雪熟女も構え、なにかを為そうとする。
 しかし背後より飛来した矢の数々が、オブリビオンを串刺しにした。
「我らを忘るるでないぞ?」
 敵の口からなにごとか、呪詛の言葉が漏れ出した。
 しかしそれを聞こうとする者は無く、花盛がとどめとばかり剣を振り払った。
 
 ザンッ

 雪玉のごとく首が飛んだ。
 その威力は、鞘に刀を納めてもまだ空に高くあったほどだ。
 怒りが冷めやらぬか、花盛は落ちてきた首にむかって裏拳を放つ。
 四散し、首を無くした骸がゆっくりと崩れ落ちる。
 洞穴の吹雪はいつしか止んでいた。
 ぴちゃりぴちゃりと壁面の氷が解け出し、涙が伝うように下へと落ちていく。
「勝ったのです~♪」
 アンディが叫んだ。
「いや、まだじゃのう」
 その声にアンディはきょとんとしたが、春乃が踵を返すのをみて意を解し、一緒に奥へと戻る。
 花盛と寧宮も同じように続いた。
 塚山の氷は解けだしており、犠牲となった骸の骨が露わになろうとしていた。
 誰ともなくそれを片づけ弔う。
 猟兵たちは、墳墓をきずこうとするのだった。
 まだ小さいと思われる頭蓋を手に取り、寧宮は呟く。
「こういう生贄とか圧政って、大嫌い」
 相貌はあいかわらずの無表情。
 しかしその声には、嫌悪感がはっきりと感じ取られるのだった。


●それから~

 些細ではあるが饗応を受け、猟兵たちは村を後にした。
 首魁を倒して生贄の風習は終わりを告げた。
 だが渦中にあった村人達の間ではしこりが残るであろう。
 それも仕方なし。
 だが、これから上手くやってくれるだろうと猟兵たちは思う。
 なぜなら、彼らには勇気が芽吹いているのだから。
 街道へと続く山道を下りる猟兵たち。
 その顔には笑みが浮かんでいた。
「それにしても、あの両人が好いた仲だったとはな」
「別段不思議でもなかろう。男女ではよくあることじゃ」
 花盛に春乃が相槌をうつ。
 両人とは仙次郎とむすびのことだ。
 村のごたごたが終わったら祝言を挙げるそうだ。
 猟兵たちは別の春を村にもたらしたようだ。
「白無垢、着るのです?」
 アンディが尋ね、二人はああそうだなと返事をする。
 一方の寧宮は会話に加わらず、目を瞑り馬車の上で寝息をたてていた。
 おそらく今回の依頼で疲れたのであろう。他の猟兵たちはそっとしておいてやるのだった。
「ふむ、しばし滞在すればよかったかのう。祝いの神楽なら喜んで。村に来た時より凄いのを見せてやったものじゃ」
「僕も、僕もいろんな曲を弾けたのです」
 愉しげな声に、花盛は目を細める。
 多芸、か。
 剣の道に生きてきた自分には無いもの。
 他人を祝福できる何かを持っているのは少し羨ましくもある。
 自分もなにか見つけるべきだろうか?
 そんな沈黙する花盛に、話が途切れた春乃が別の話題を切り出した。
「ときに花盛よ、貴様は好いた男はおらんのか?」
「は、男……は? え?」
 思いがけない質問に、花盛の顔色が変わる。
 どうもこの問いかけは鬼門だったようだ。
 しかし鬼を祓うは白拍子の役目。
 ぐいぐいと、攻勢を強めるのであった。
「なんじゃその歳で浮いた話もありはせんのか。そんなことあるまいて」
「恋バナ。恋バナなのです」
 意味を良くわかってはいないだろうアンディが、囃したてる。
 剣士の表情は、オブリビオンを倒したときとは違い明らかに狼狽えていた。
「なにやら……面白い、話……です、ねー……?」
 いつの間にか起きていた寧宮が、ぬうと顔をつきだして話に加わる。
 三位一体の連携に、これはたまらぬと花盛は駆けだした。
「あっ、逃げたのです!」
「村人は勇気を振り絞り立ち向かおうとした、じゃったかのう?」
「だと、すると……村人以下……です、よ……」
 仲間の声を尻目に、下山する足を速める花盛。
 その足元には、ぬかるんだ雪から土筆の芽が顔を出している。
 春は、すぐそこへ来ようとしていたのであった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月22日


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#サムライエンパイア


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠ポーラリア・ベルです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト