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Operation:St.Ives

#UDCアース


●from Yuggoth
 まるで精肉加工場のよう。
 大教室の天井に、たくさんの人間が鈎で吊るされている。
 女学校の生徒さんが半分。残りの半分は、紛争に投入されている兵隊さんたち。
 彼女たち、彼たちは素材なの。
 ひとりの女の子が、解剖され、脳になんらかの外科処置を施される姿が視えた。わたしの目には、UDCアースの脳外科技術では不可能な術式に思えた。
 躯の海から蘇ったそのオブリビオンは、非常に優れた技術力を獲得した世界からの来訪者みたい。彼は捕獲した人間の肉体や脳組織に改造を施すことで、人間を超えた性能を持つ強化人間を作り出しているの。
 目的は十中八九、人間社会を侵略するためでしょう。
 予知で視得た限りの情報では、中規模の一個中隊ほどの戦力が確認できた。
 放っておけば、おいそれと手出しができなくなるほどの戦力になってしまう。
 そうなる前にすみやかに展開し、これを制圧せねばならない。

「そのオブリビオンはどこに?」
「黒海近傍。終わらない紛争で疲弊しきった、とある小国」
 グリモアベースに集った猟兵からの質問に、ニノ・クラコフスキー(猟兵・f14819)は端的に答えると、手にしたタブレットに作戦区域の衛星写真を表示させた。
「この街は地政学上の要衝で、紛争に参戦するあらゆる勢力が争奪戦を繰り広げる最前線なの。けれど市民は逃げることも許されず、戦火に怯えながら日常を過ごしている。オブリビオンが潜伏する女学校は、その市内にある。みんなには市街戦を掻い潜ってこの女学校へ侵入、オブリビオンの眷属と化した強化人間兵を残らず殲滅したのち、目標であるオブリビオンの抹殺をお願いしたいの」
 それからニノは、現地で繰り広げられている紛争の報道記事を抜粋したデータを、タブレット上に表示させた。
『狙撃兵による無差別攻撃による市民の被害』
『市内全域にばら撒かれたトラップ。混迷を極める市民生活』
『昼夜問わず響く砲撃音。○月○日には市民に約二十名の死傷者が』
『××紛争における虐殺部隊の暗躍。その真偽を軍事専門家に尋ねる』
 それらの記事見出しを猟兵に掲示したあと、ニノは「これが現地で予想されるわたしたち猟兵にも関わる危険要素。でも、わたしたちの目標はあくまでオブリビオンとその眷属たる強化人間兵だけ。この紛争に介入する必要はないし、すべきではない。やむを得ない場合を除く交戦は避けて、女学校への潜入を最優先にして欲しい」と告げた。
「制圧対象となるオブリビオンの名前は、UDC組織でも掴んでいないの。だから、本作戦では暫定的に対象を『来訪者』と呼称するね」
 ニノはそう言うと、猟兵たちを戦場に送り届けるために手中にグリモアを浮かべた。作戦上、短時間かつ潜行して目標を制圧する必要があるため、投入できる猟兵の人員は多くて分隊規模に留まるという。
「欠員は随時、わたしが補充する。うしろは任せて。完遂を期待している」


扇谷きいち
 こんにちは、扇谷きいちです。
 リプレイの返却スケジュールを紹介ページでご連絡する場合があります。お手数をおかけしますが、時折ご確認いただければ幸いです。

●補足1
 第一章では、人間の勢力同士の市街戦が繰り広げられる戦場を掻い潜っていただきます。目標は市内にある女学校。
 市内で遭遇する可能性がある危険要素はOP中で示唆しておりますので、それに対してプレイングを掛けてください。
 全ての危険に対する対策を練る必要はありませんが、全くの無対策で臨んだ場合は失敗判定が下される可能性がございます。お気をつけください。

●補足2
 章ごとの参加者様は多くとも10名ほどになる見込みです。
 プレイング先着順ではありませんので、ある程度参加人数がいる場合でもお気軽にプレイングをおかけください。
 また参加者上限がある都合上、ペア参戦などは必ずしも採用できない場合がございます。その点、ご留意くださいませ。

●補足3
 冒険章における「POW」「SPD」「WIZ」の行動は一例です。
 オープニングを踏まえて、自由な発想でプレイングをかけてください。

 以上、皆様の健闘をお祈りしております。
 よろしくお願いいたします。
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第1章 冒険 『戦場を突破せよ』

POW   :    遭遇した兵士を無力化して進む

SPD   :    速やかに移動して発見されるリスクを減らす

WIZ   :    地形を利用して進んだり、交渉して戦闘を避ける

👑11
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●[Z-hour] 01:00 P.M.
 市街地は度重なる戦禍によって荒廃していた。銃痕や砲撃痕のない建物は見当たらず、それはかろうじて市民生活が営まれている市街南部地区でも同様だった。
 崩れかけた街並みの向こう、薄曇りの空に幾筋かの黒煙が昇っているのが見える。憔悴しきった様子の市民の一人が、「最近、また戦闘が激しくなっているんだ。さっきも戦車やらなんやらが走っていったよ」と諦念を滲ませた声音で猟兵たちに教えてくれた。
 猟兵たちが転送された地点から、目標である女学校まで北へおよそ十キロメートルほどの距離がある。平時であれば大した距離ではないが、戦闘状態にある市街地を徒歩で抜けるのは困難を極めるだろう。
 瓦礫の山、崩れかけた建造物、放棄された地下道など――幸か不幸か、荒れ果てた市街地には身を隠すことの出来る場所も多い。どこに紛争当事者の部隊が展開しているかわからない以上、安全な場所は皆無ではあるが、大通りを無対策で踏破するよりはよほどマシなはずだ。
 作戦目標を再度地図で確認する猟兵たちの頭上を、数機のヘリコプターが轟音をたてながら飛んでいく。遠くから砲撃音が聞こえてくる。
 戦場は再び燃え上がりつつあった。
千桜・エリシャ
さながら隠れ鬼ごっこかしら
ふふ、でもどちらが鬼かは――まだわかりませんわよ?

常夜蝶を先行させて偵察してもらいつつ
トラップや人がいない、身を隠せる道を進みましょう
自身でも周囲に注意を向けることを怠らずに
特に砲撃音や銃声などの音には注意かしら

八方塞がりで人を避けられない道に出てしまったら
落ちている瓦礫を遠くに投げて
それが割れた音を囮にしてその隙に進みますわ

そしてこれは奥の手の最終手段
傾世桜花で魅了して、通してもらえるようにお願いしましょう
私の言うこと聴いて下さらない?
いずれも攻撃されてしまったら花時雨を開いて防御しますわ

さあ、先を急ぎましょう
女性が食い物にされているなんて、やはり見過ごせませんもの


コノハ・ライゼ
随分手の込んだ駒作りするこって

ソコに居ても違和感ナイ服を纏っとくネ
少しでも目立たん方がイイ

建物の影を縫うように目的地目指すヨ
故に潜伏している部隊を一番に、次いで狙撃兵を警戒
【黒管】を建物の屋上、窓などへ偵察に放ち存在を確認
目立たぬルートを選択するか迎撃できる場所に目星付け進もうか
進む時は足元のトラップにも留意すんね
遮蔽物の少ない場所或は進む距離を稼げそうな場所では
一時的に銀毛の狐に姿変え
狭い場所を抜けたり一気に走り時間短縮を図ろう

黒管からの情報活かし襲撃に備え
攻撃を受ければ『オーラ防御』で躱し対人は殺さぬよう体術で反撃

オレ真面目だからネ、余計な手出しはしねぇケド
銃向ける相手は間違えねぇこった



●[H+2] 03:00 P.M.
 吹く風に混じる焼け焦げた臭いは、どれだけ時が経っても消えることはなかった。散発的に聞こえる銃声と砲撃音のなか、猟兵たちは崩壊した都市の影に身を隠しながら戦場を往く。
 ――さながら隠れ鬼ごっこかしら。ふふ、でもどちらが鬼かは……まだわかりませんわよ?
 瓦礫が散乱する通りを身を低く保ちながら駆けた千桜・エリシャ(春宵・f02565)は、道端でひっくり返っていた車両の影に身を隠すと、荒れ果てた周囲の光景を見渡して薄く笑みを浮かべた。
「次の交差点に歩兵部隊が陣取っているネ。迂回しないと厄介そうだ」
 エリシャと共に斥候として先行するコノハ・ライゼ(空々・f03130)は、偵察から戻ってきた黒い管狐をねぎらうように指先であやしてやりながら言った。
 行動を開始してからまだ二時間ほどではあったが、すでに二人の全身は砂埃と黒煙で汚れきっている。邪魔にならぬよう束ねたエリシャの髪はすっかり傷んでしまっていたし、何度拭っても汚れるためにコノハは眼鏡の曇りを払うことをすっかり諦めていた。
「二つ先のビル間の路地から、北側に抜けられそうですわ」
「了解。ここいらの部隊は東側への警戒が強いみたいだし、西から迂回するルートがよさそうだ」
 コノハの黒管とは別のルートを偵察させていた常夜蝶から得た情報をエリシャが共有すると、二人は後続の猟兵たちに進路を伝えたのち、先へと進む。
 ――改造兵ネ。随分手の込んだ駒作りするこって。
 建物上方に潜伏する兵士に警戒しつつ、最小の動作で路地裏に転がり込んだコノハは、再び管狐を偵察に放つ。幸い、オブリビオンの改造兵と思しき存在とは遭遇していない。この紛争そのものとは、無関係の存在なのだろうか。
 古くからの歴史がある街なのだろう。石畳の狭い路地は複雑に入り組み、あたかも迷路のようだ。蝶や管狐によるナビゲートがなければ、迷わず先に進むことは困難だったかもしれない。
「ひどいことを」
 路地裏を抜ける途中、建物と建物のわずかな隙間を利用して作られた小さな公園に差し掛かった二人は、遊具のそばに山積みにされた遺体の山に遭遇した。
「だいぶ腐敗が進んでンね……虐殺部隊とやらの仕業? こどもまで手にかけるとは、見境ないな」
 いずれも戦闘服を着ていない。おそらく、殺害された地域住民なのだろう。飛び交うハエのせいで、公園は黒い霞がかっているかのようだ。
 耐え難い臭気に口元を袖で覆ったエリシャは、死体の山の手前に転がる衣服の乱れた少女の遺体に近づいた。オブリビオンが行っているという所業もそうだが、こうして力なき女性が戦争の食い物にされている姿は、やはり心が痛む。せめて、晒されたままの肌だけは隠してやりたかった。しかし彼女は、言葉にならぬ危機感を覚えて足を止める。
「罠だなあ。彼女に近寄った"いいひと"の脚を吹っ飛ばすタメの」
「そのようですわね。よく見れば土を均した形跡があります。地雷かしら」
 後ずさったエリシャは、やるせない表情を浮かべながら視線をそらす。コノハは公園片隅の工事現場に残されていたいた養生シートを剥がすと、それを遠くから少女の遺体に投げかけた。
「ありがとうございます……紳士とご一緒できて幸いでしたわ」
「どーいたしまして。真面目だからネ、オレ」
 笑みこそ浮かべぬまま二人はかすかに目を細めて視線を交わし合うと、先へと進む。戦場の非道に胸を痛めている暇は、今はない。
 路地を抜けた先の大通りは、かつて激戦があったと思わしき区域だった。沿道の建物の多くが半壊か全壊している有様で、舗装がめくれた道路には焼け焦げた乗用車や戦闘車両が転がっている。
 エリシャとコノハが放った常夜蝶と黒管が周辺の状況を探っていく。
 大通り途中の十字路には戦車が展開しており、随伴兵が土嚢の影から周囲ににらみを利かせていた。西側面を回ろうとしても、そこには河川が流れており身を隠す場所がない。東側面は警戒度が高く、気づかれないまま突破するのは困難だ。
「無力化しないと先には進めなさそうだネ。眼の前の戦車と兵士を他の連中に気づかれないうちに仕留めなければ……オレが相手の後ろに回ろう。正面は任せてもイイ?」
「承りましょう。人目を惹くのは得意ですの」
 二人は手短に作戦を練ると、すぐに行動を開始する。
 妖狐のコノハは銀毛の狐の姿に変身すると、迷わず十字路を突っ切っていった。通りの防衛に従事していた兵士らは、見慣れぬ動物を目にして色めき立つ。
 緊張が続く戦場において、ほんの一時の心休まる瞬間だったのだろう。戦闘糧食のチョコバーを取り出して、コノハの気を引こうとする者。スマートフォンを構えて撮影しようとする者。戦車のハッチから顔を出して、可愛らしいキツネの姿を微笑みながらみつめる者。反応は様々だ。
 十字路の向こう側にコノハが駆け抜けたのを見計らったエリシャは、堂々とした足取りで大通りを歩いていく。銀狐に気を取られていた兵士らが彼女の姿に気が付き、一斉に火器構える。
「ごきげんよう。私のペットがこちらに逃げてしまいましたの。兵隊さん、お願い致しますわ。私をこのまま通していただけないかしら……?」
 艶やかにしなを作り、頬に片手を添えておねだりするエリシャの姿に、重機関銃を構えた兵士の表情がだらしなく緩んだ。見れば、甘く香る桜の花弁が周囲に舞っていた。密やかに施された魅了の術に、兵士らが次々と戦意喪失していく。
「銃向ける相手は間違えねぇこった」
 射程外にいた戦車兵だけが異常を察知して機銃の安全装置を外したが、人型に姿を戻したコノハがすでに後方から戦車に取り付いていた。機銃手を当身で昏倒させると、彼はそのまま戦車内部に乗り込んで戦車兵らを尽く叩きのめす。
 その様を見て、魅了にかかっている兵士らはケラケラと他人事のように笑うばかり。彼らを叩きのめす必要はあるまい、と判断したコノハは制圧した戦車の上から後続の猟兵らに「クリア」のハンドサインを出す。
 後続が十字路を突破するのをサポートしてから、エリシャとコノハは後に続いた。
「さあ、先を急ぎましょう」
「ああ。これ以上、余計な手出しが必要ないことを祈ろう」
 戦場の道は長く曲がりくねり、未だ目標地点も視えずにいる。一度の銃撃も受けずに済んでいるのは、幸運に依るところが大きい。
 誰もが、そのことを理解していた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

上野・修介
アドリブOK
・POW
「迷ったら死ぬな」
故に何時もより強く平常心を意識。
呼吸を整え、無駄な力を抜き、目標を見据える。

目標への到達最優先。極力戦闘は避ける。

事前に周辺区域の地図、他の猟兵への連絡手段を用意。

先ずは観【視力+第六感+情報取集】る。
人々の動き、地形、状況・場の気配の変化に常に警戒。
目付は広く、戦場全体を見るように。
こまめに目標へ距離と進捗を確認、得た情報は他の猟兵へ共有。

移動の際は室内か遮蔽物のある場所を。
どうしても戦闘を避けられない場合は、相手を殺さず、戦闘不能に止める。
通信機の類いを持っていた際は破壊する。
例外的に狙撃兵は見つけ次第潰す。
武器は素手格闘【グラップル】
UCは防御強化。


レイ・ハウンド
無線等で仲間と情報共有

平和活動の派遣傭兵と称し
非常食や医療品と引き換えに
地理や現状に詳しそうな街の自警衆から
ゲリラの潜伏してそうな所や
罠の種類や回避方等詳細な情報を訊く

自警の手伝いとして
市内巡回で女学校に近づけるなら同行志願
…実際市民を守れるってのは悪かねぇよ

これ以上巻き込めねぇって所まで来たら
傭兵仲間から救援要請が来た
後はプロに任せろと先を行く

断られても影の追跡者で情報を得る
襲撃者に対しても同様に

野生の勘で危険察知
目立たない様瓦礫に潜みながら忍び足
曲がり角や開けた場所に出る際は手鏡で安全確認
暗視もあるし
移動は闇に紛れる夜間が良いが

狙撃されたら断頭で盾受け
こちとらスナイパー
狙撃の仕返しを見舞う



●[H+3] 04:00 P.M.
 警戒区域を避けながらの行動ゆえに、猟兵らは最短のルートで女学校に向かうことが出来ない。大きく西側に迂回しながら進んでいくと、猟兵らは幾らか情勢の落ち着いた区域に辿り着いた。そこは紛争当事者の一方の支配圏内にあり、かろうじて市民生活が営まれている様子だった。
 上野・修介(元フリーター、今は猟兵・f13887)とレイ・ハウンド(ドグマの狗・f12038)は周囲への警戒を怠らぬまま、市民が行き交う通りを往く。
 地図で現在地と目標地点を改めて確認した修介は、改めて市民の様子を伺った。正規軍と思しき装備の兵士はほとんど見かけず、一般市民と同じ格好をしながら武装している者が目立った。
 路端で日用品を商っていた男からペットボトルの水を購入した修介は、武装した市民のことを男に尋ねた。
「彼らは? 軍人には見えませんが」
「独立派の義勇兵だよ。地域の治安を守るためにああして武装しているんだが、まあ……」
 男は首を振るうと、そのまま黙りこくった。修介は「自警団と言えば聞こえは良いが、必ずしも市民の味方ってわけじゃないようだな……」と独り言ちた。
 往々にして紛争地の地域情勢は複雑だ。様々な利害や思惑が入り乱れ、敵の敵は味方と言い切れるほど単純ではない。
 だが、利用しない手はなかった。テクニカルの荷台で周囲の義勇兵に指示を飛ばしている男を見掛けたレイは、持参した非常食や医療品を手土産に交渉に入る。
「傭兵だって? 上からはなんも聞いてないぞ」
「聞いてない、じゃ困る。こっちだってガキの使いじゃねえんだ。支援物資をあんたらに届けて、周辺警戒任務に当たる。それがクライアントからのオーダーだ。地域北側に案内してくれ。警戒が必要だと聞いている。俺らの戦力は分隊程度だが、先月までアフリカ中央部で戦い抜いてきた精鋭揃いで――」
 有る事無い事まくしたてるレイに、義勇兵の男は彼の言葉を遮るように両手を振った。
「わかった、わかった。こっちも人手が足りないんだ、助けてくれるんなら断る理由もない。途中まで案内してやる。だが二〇八号線には絶対に足を踏み入れるなよ」
 テクニカルに乗り込んだ二人は、義勇兵の案内で地域北部へと向かう。後続の猟兵らにスマートフォンで事の成り行きと地図情報を伝えた修介は、周辺の様子を観察しながら義勇兵に尋ねた。
「先程おっしゃっていた二〇八号線は確か、この街を東西に貫く基幹道路でしたね。何があるんですか」
「何もない。誰も通れないんだ。"デッドマンズ・マルシェ"なんて呼ばれていてね……十歩も歩けば敵の狙撃兵に撃ち殺されちまう」
 皮肉げに口の端を上げて、義勇兵の男は答えた。
 しかし猟兵らは、その二〇八号線を通らねば目標地点に到達することができないのだ。レイと修介はそっと顔を見合わせ、義勇兵らの支配地域北部へと降り立つ。
「後はプロに任せろ。誰もこの区域に立ち入らせねえよ」
 立ち去る義勇兵にそう言ってのけたレイは、修介と共に二〇八号線に繋がる路地を進んでいく。
 二〇八号線の幅員はおおよそ五十メートル。六車線の中央分離帯は緑地帯になっているが、木々は全て伐採されていた。要所要所に対戦車障害物が設けられており、戦闘車両の侵入を阻んでいる。
 道路上には放置されたままの遺体と、焼け焦げた車両が散乱していた。物陰から大通りの様子を伺っていた修介は、直感的に身体を引っ込める。直後、一発の銃声が鳴り響いて、眼の前の地面に穴が開いた。
「迷ったら死ぬな。……一ブロック先にある、半壊したビルが見えますか。おそらく五階から狙撃されました」
「あの黄色い壁の建物か。なかなか腕がいいようだが、一人だけで死体市場は開けまい。他に何人か潜んでいるはずだ」
 手鏡で大通りの様子を伺いながら、レイは影の追跡者を放つ。しばらくして、影はもうひとりの狙撃兵の所在を突き止めた。先の狙撃兵と合わせて、二〇八号線を十字状に射線に収める建物に隠れているようだ。
「今の一射で、黄色い建物の狙撃チームは移動を開始しているはず。俺はそちらを追跡して始末します。レイさんは、もう一方を」
「任せな。こちとらスナイパーでね……きっちり片付けてやるよ」
 二人は役割を分担すると、すぐさま行動に移る。
 レイは影で発見した狙撃兵が潜伏する建物を射程圏内に捉えるべく、中央分離帯付近に転がる焦げた車両の影まで駆けていく。遮蔽物の隙間に身を忍ばせた直後、銃声が再び鳴り響いた。
 その時には、修介もまた移動を開始していた。呼吸を整え、全身の筋肉の強張りを鎮める。意地にも似た意志によって研ぎ澄まされた身体能力を駆使し、彼は半壊した建物の中を素早く突破しながら、黄色い建物の狙撃兵の下へと急ぐ。
 ――距離は四五〇メートルと言ったところか。十分だ。
 黒鋼の火器にスコープを取り付けたレイは、銃を構えるなりわざと身を乗り出して狙撃兵に身を晒した。
 すかさず、敵兵からの狙撃がレイに襲いかかる。だが、影の追跡者でその様子を捉えていたレイは、鉄塊剣の腹で弾丸を防いでみせた。
「お返しだ」
 身を引っ込める間も与えない。レイはすかさずスコープを覗き込むと、今まさに遮蔽物の奥に退避しようとした狙撃兵めがけてカウンタースナイプを見舞う。
 乾いた銃声が響き、頭を撃ち抜かれた敵狙撃兵が倒れ伏した。
 遥か後方で鳴り響いた銃声を放った者が何者なのか、先を急ぐ修介には振り返って確かめる術はない。体勢を低く保ったまま、対戦車障害物の合間を縫って二〇八号線を横断した修介は、例の黄色い建物の中に侵入を果たす。
 ……ひゅう、と修介は短く息を吐くと、一気に加速する。彼の目は、丁度壁を刳り貫いて作った抜け穴から退避する狙撃チームの姿を捉えていた。
 修介の姿に気がついた狙撃兵がとっさに拳銃を発砲するが、身体の前面を守るように構えた彼の腕は強化技法によって極限まで防御を高められており、拳銃弾ごときでは脅威にならない。駆けつけざまに修介が仕掛けた近接格闘で、兵士らはあっという間に息絶える。
「首尾よく終わったようだな」
「そちらこそ」
 双方の狙撃兵を片付けた二人は、合流を果たすと後続の猟兵に安全が確保された旨の連絡を入れる。他の兵士らが異変に気がつくまで、幾らの余裕もないだろう。先を急がねばならない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

花剣・耀子
嗚呼、厭な場所だわ。
……何度見たって。厭なものは厭なのよ。

ルートを頭に叩き込んで、
大型の砲撃が見えなければ建物内伝いに。
倒壊に巻き込まれるリスクの方がありそうなら外へ。
極力遮蔽を取りつつ迅速に駆け抜けましょう。

多少迂回しても行き会わない方が良い。
交戦よりも退避を優先。
押し通らないといけない時、
迂回できない遮蔽物がある時だけ剣を抜く。
相手がヒトであれば無力化するに留めるわ。

干渉するべきではない。
あたしは、このいくさの行く末には関係がない。
判っているわ。判っているの。
市民にしたって、関わる気なんてないのよ。
命の危機でも目の当たりにしない限りは、……目の当たりにしたら。
――、その時に考えましょう。


鹿忍・由紀
オブリビオンがいなくなれば平和になるってわけでもないのがよくわかる有様だね
まあ、倒さないよりはマシにはなると思って行くしかないか

罠の知識は多少あるからどういうとこにどんな風に仕掛けられるか読みつつ進む
基本は避けて通るつもりだけど邪魔なのがあったら解除を
ここまで周到にやるとはすごいね

流れ弾にも気を付けて
地形を利用して銃の動線に出来るだけ入らないように
銃撃戦が行く道を塞ぐ場合は暁で避けて
避けきれない弾はダガーでいなして
歩むことを止めないように前へ進むよ

目的はオブリビオンだからね
こんなとこで足止めされるわけにもいかないし、さっさと進んでしまおう
ああ、日本って良いところだったんだなぁ



●[H+5] 06:00 P.M.
 二〇八号線を北に抜けた猟兵たちは、目標地点である女学校から西側に大きくそれていたルートを東寄りに修正していく。
「だんだん砲撃の音が近くなってきたね」
「ええ……この地区は周辺より小高い地形になっていて、支配権を争って頻繁に戦闘が発生しているみたい」
 アパートメントの壁際に身を隠しながら通りの様子を伺っていた鹿忍・由紀(余計者・f05760)の言葉に、方角を再確認していた花剣・耀子(Tempest・f12822)が首肯した。頭のなかに叩き込んだ目標地点までのルートと共に、自然と得ることになったこの紛争にまつわる知識だった。
 二人は度重なる砲撃で崩れかけた建物のなかへと進む。表通りを往くよりも、建造物を抜けるほうが幾らか安全だった。
 一本挟んだ向こうの通りから、迫撃砲の着弾音が絶えず響いて来た。そのたびに振動が建物に伝わって、耀子の黒髪に灰白の埃が降り注いでくる。
 ――嗚呼、厭な場所だわ。……何度見たって。厭なものは厭なのよ。
 家屋の床に転がった、血まみれの人形を目に止めた耀子は眉をひそめる。この人形の持ち主がいまどうしているのか、それを思えば心は穏やなままではいられない。
 いくつかの建物を抜けたあと、狭い路地裏に差し掛かった瞬間、由紀は耀子の手を引っ張って地に伏せた。直後、凄まじい爆音が建物ごと二人の身体を激しく揺さぶる。
「……まったく」
 急いで地に伏せたおかげで被害は被らなかったが、路地裏にまで吹き荒れる衝撃波と破片に由紀は悪態をついた。耀子の無事を確認すると、彼は繋いだままの手を引いて少女の身体を起こしてやる。
「ありがとう」
「礼を言われるほどでもない。こんなとこで足止めされるわけにもいかないし、さっさと進んでしまおう」
 もうもうと辺りを覆い隠す煙のなか、立ち上がった二人は路地の反対側の建造物の侵入口を探る。
 しかし、運が悪かった。唐突に銃弾が二人のいる路地裏にまで飛び込んできたのだ。煙のなかで動く影を見られたのかもしれない。ここに人がいるという確信はないようだが、散発的な銃撃が二人に襲いかかる。
「退く暇はない。この壁を断ち切る、それまで、防いで!」
「了解。しかし、顔に似合わず人使いが荒いね」
「それはお互い様でしょ?」
 由紀は咄嗟に路地裏に設置されていた金属製ゴミ収集ボックスを倒して、盾にする。それだけでは銃撃を防ぎきれないから、研ぎ澄ました観察眼と直感を頼りに、遮蔽物をすり抜けてきた銃弾をダガーで弾き落としていく。
 オブリビオンと相対するまで鞘から抜くつもりはなかったが、致し方ない。耀子は逆手で剣を抜くと建物の壁を三度斬りつける。そして、切り崩した壁を建物内部に蹴り倒した。
 二人はすかさず開いた穴から建造物に飛び込んで、銃撃から逃れる。
「これ以上、このルートを使うのは危険ね。一度表に出て、戦闘に巻き込まれない場所まで退避しましょう」
「わかった、ナビゲートは耀子に任せる」
 致命傷こそ受けてはいないが、辺りに散らばった瓦礫やガラス片、それに降り注ぐ破片のせいで二人とも傷だらけだ。倒壊する恐れのある建物を避けて通りに出た二人は、いくつかの通りを横断してルートを改めていく。
 ようやく戦闘からは遠ざかったものの、由紀は奇妙な静けさに違和感を覚えた。今いる場所はそう広い道ではない。大通りと大通りを繋ぐ、いわば抜け道のような場所だ。警戒の目が向けられていないとしても、おかしくはないのだが……。
「IEDか。撤退時や、側面に回り込むために通った歩兵集団を、ここで一網打尽にするつもりだったみたいだね」
「トラップ? ……もしかして、あの気の抜けかけたサッカーボール?」
「おそらく。中に爆弾が仕込まれているんだろう。触れると爆発するか、それとも誰かが監視していて、近づくと遠隔操作で爆発するか……遠くから始末したほうがいいな」
 由紀は地面に伏せてクロスボウを構えると、離れた位置から数発の矢をボールめがけて撃ち込んだ。すると、彼の懸念通り狭い道に激しい爆炎が巻き起こった。
 この爆発は付近の兵隊の注意を引いた恐れが大きかった。激戦区の高台はこの先の坂道を下れば抜けられる。二人は体勢を立て直すと、急いでその場をあとにする。
 幸い追撃されることもなく、二人はホットスポットを抜けて比較的戦闘に巻き込まれ難いと思われる区域に到達した。二人が通ってきたルートは戦闘が激しく、後続には勧められない。展開している部隊の動向を伝えて、改めて安全と思しきルートを共有する。
 夕焼けに赤く染まり始めた街並みのなかを、兵隊の姿を警戒しながら二人は往く。猟兵らが現地に転送されるよりも前に、この地域では激しい戦闘が行われていたようだ。まだ黒煙を立てている車両や崩壊した建築物が散見された。
「……オブリビオンがいなくなれば平和になる、ってわけでもないのがよくわかる有様だね」
「そうね。でも、干渉するべきではない。あたしは……いえ、あたしたちには、このいくさの行く末には関係がないのだから」
 由紀と耀子は、差し掛かった大通りに展開する兵士らの姿を目撃した。彼らの眼前には、捕虜と思しき別の戦闘服を着た十数名の兵士らがひざまずいて並んでいた。止めに入る暇もなかった。将校の合図で、捕虜は一斉に射殺された。
 よく見れば、今しがた処刑された捕虜の向こう側に、戦闘服を着ていない市民の遺体が積まれている。ルートを頭に入れる際に、耀子は虐殺部隊についての報道記事を読んでいた。ただの独立運動が切っ掛けの紛争ではないのだ。千年以上に渡る民族間の対立が、この紛争の根っこにあるのだという。
「ああ、日本って良いところだったんだなぁ……なんて言ったら、怒るかい」
 撤収する部隊に見つからないよう身を潜めながら、由紀は暮れなずむ空を貫く黒煙を見上げながら呟いた。
「いいえ。否定はできない」
 耀子は剣の柄を指先で弄びながら、首を振った。
 次に同じ光景に出会ったら、自分はどうするだろうか。関わる気は毛頭ないが、だからと言って無辜の民の命を見捨てられる鋼のような心を、己は持ち合わせているだろうか。
 答えは、今は出ない。
「――好きにすればいい」
 何かを察した由紀は、ただ一言だけ耀子に告げて立ち上がった。
 立ち去った部隊と入れ替わるように、追いかけてきた猟兵の仲間たちが通りの向こうから駆けてくる。彼らに手を掲げながら由紀は続けた。
「まずはオブリビオンを倒そう。それで少しはマシになると思うしかない。あれも、これも、全部とは行かなくとも」
「そうね」
 耀子も立ち上がり、すっかり乱れてしまった髪に手櫛を入れて微笑む。
「何があっても――、それは、その時に考えましょう」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
紛争である以上、下手な介入は誰にとっても不幸となりえます。猟兵としてオブリビオンを叩かなくては
…やはり現実は御話のように単純ではありませんね…

●防具改造で目立たない外套を羽織り、装備を背負うラックも増設
UCで機械の●怪力で引くコンパウンドボウ(剛弓)とスモーク・スタングレネードを持ちこみます

●礼儀作法で現地住民の方に話を伺い、ここ最近で使われた罠の手口を把握
●破壊工作の知識と照らし合わせ危険察知に役立てます
●スナイパー知識で狙撃されやすいポイントを割り出しそこを避けて移動
接敵時はグレネードの●目潰しか弓の静音狙撃で対処

無力な一般人への虐殺を目撃、思わず騎士として介入し偽善ではなかったのかと苦悩


葦野・詞波
終わらない紛争か
間々あることとはいえ。そう割り切るしかない
この身の無力さは何とも歯痒いな。
この槍が届く範囲でしか救ってはやれないのだから
襲われている市民がいれば助けに動くとしよう

予め地図で女学校へのルートを確認し
どのルートも進めるようにしておく
現地では砲撃音を頼りに激戦区を確認し
激戦区は避けるように進む

途中、建造物などで市民がいないかを確認し
市民がいれば取引を持ちかけ
少量だが食糧や煙草を提供する代わりに
周辺の情報を得よう

罠がありそうな場所
狙撃兵がいそうな場所は知っておきたい
分かってしまえば【揺光】で
潜伏、埋設された場所を吹き飛ばせる

道案内の出来る者がいればいいが
そこまで求めるのは酷だろうな



●[H+6] 07:00 P.M.
 日本に比べてこの国は日の入の時刻が遅いのだろう。夕空の下、猟兵たちは戦場を駆け抜ける。
 各勢力の支配地域が複雑に入り組んだこの区域は大規模な戦闘こそ今は起きていないが、牽制と思しき砲撃や銃撃が散発的に発生していた。
 いま、他の猟兵たちに先行してルートを確保している二人――トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)と葦野・詞波(赤頭巾・f09892)がいる場所は、目標の女学校から直線距離でおおよそ三キロほど離れた地点だ。二人は遠くから聞こえる砲音に注意を払いながら、夕日色に染まる道を往く。
 二十分ほど先に進むと、一般車両や周囲を警戒しながら道を行き交う市民の姿を散見するようになってきた。街並みは相変わらず戦火の痕が痛々しいが、以前通った二〇八号線南部地区のように、ここにはかろうじて人の営みが残されている。
「この辺りは戦闘もなく安全なのか……或いは、逃げたくても逃げられないだけなのか」
「人間の盾、という可能性もありますね。どちらにせよ住み良い場所には思えません」
 詞波とトリテレイアは駐留する兵士に見咎められぬよう、堂々とした振る舞いで通りを進む。道行く人々の表情は疲弊しきっており、所在無げに道端に座り込んだままの者も多い。
 ――猟兵としてすべきことは、オブリビオンを叩くこと。しかし、その仕事を成し遂げたとしても、私たちは彼らを救うことはできない……。
 やるせない思いを懐きながら、トリテレイアは心中で吐息をつく。詞波もまた同じ思いなのだろう。道の先を見詰める銀眼は険しく、割り切ろうとしても割り切れぬ思いが、彼女の歩速を自然と早めていた。
 幸い二人の猟兵を怪しむ者はおらず、この調子でゆけば戦闘に巻き込まれずに目標地点までの距離を稼ぐことが出来そうだ。
 しかし、非戦闘地域の終端にほど近いビル群を抜けるさなかで事件は起きた。一台の装甲車が路上に停まり、兵士らが建物の中に突入していく。銃声こそ聞こえないが、怒号と悲鳴が表にまで聞こえてきた。そのなかには、女性やこどもと思しき声も含まれている。
 トリテレイアと詞波は顔を見合わせた。
 介入すべきではない。ここで騒ぎに首を突っ込めば、オブリビオンを始末するという任務に支障が出る可能性もある。逡巡するなか、数発の銃声が二人の耳に届いてきた。
 弾かれるように。
 考えるよりも先に、二人はどちらからともなく駆け出していた。
「私は槍しか使えん。トリテレイアは」
「スタングレネードとコンパウンドボウを」
「決まりだな」
 作戦を練る時間はない。互いの得物を確認すると、二人は瞬時に役割を決める。
 建物の表で警戒に当たっていた二人の兵士が、駆けつける二人の猟兵の姿を認めるなりアサルトライフルを構えた。
 詞波を背後に庇ったトリテレイアが先行し、放たれた銃撃を全て大型シールドで弾き返す。直後、彼の肩を踏んで空中に跳んだ詞波が槍の柄を振るい、一瞬で警備兵を叩きのめした。
「目と耳を塞いでください!」
 詞波が警備を倒すのとほぼ同時。建物の入口に到達したトリテレイアは、スタングレネードを建物内部に放った。彼の言うとおりに、詞波は目元を腕で覆い、狼耳をぺたりと伏せた。
 目を射抜く閃光と耳を劈く爆音が炸裂する。内部にいた兵士らは突然の出来事に恐慌をきたし、一部の兵士はパニックを起こして狙いも定めず銃を乱射し始めた。
 入り口から建物内部への射線を通したトリテレイアは、銃を乱射する兵士らの肩をコンパウンドボウで狙い撃ち、無力化する。その傍らを詞波が駆け抜けた。屋内に突入した彼女は、スタングレネードの影響で動けずにいる残りの兵士らを槍の殴打で昏倒させていく。
 建物の奥に潜んでいた残りの兵士らの抵抗も、猟兵にかかれば脅威とはなり得ない。全ての兵士らを打ち倒して捕縛したトリテレイアと詞波は、建物のなかにいた民間人らの容態を確かめる。
 全員無傷だ。先の銃声は威嚇か何かだったのだろう。スタングレネードで視力と聴力がやられてしまっているが、それも一時的なものだ。
 建物の奥には白衣を着た男性がいた。ここは診療所で、彼は医師らしい。
「助かったよ、ありがとう。あんたたち、義勇兵か」
「いいや違う。説明が難しいが、まあ……ただのお人好しだ」
「私はトリテレイア・ゼロナインと申します。正体を明かすことは故あって出来ませんが、騎士道に基づき無辜の民を守るために馳せ参じた者です」
「お人好し? 騎士道? はは、よくわからないが……正義のヒーローと言うわけか。とにかくありがとう。ところで、怪我をしている人は?」
 自分たちを含めて全員が無事であることを告げると、医師は胸を撫で下ろした。
 詞波は取り出した煙草を勧めながら「なぜ診療所に兵士たちが乗り込んで来たんだ?」と尋ねる。
 一服つけて気を落ち着かせた医師は、部屋の片隅で縛られている兵士らを苦々しげに見詰めた。
「ゲリラ狩りだよ。私が義勇兵を匿ったり支援しているんじゃないかって疑って来たのさ。そんなわけあるものか。私がここで診療所を続けているのは、彼らの勝手な戦争で傷ついた人々を助けるためだというのに」
「許しがたい話ですね。我々もここに至る途中、数多くの悲惨な光景を目にしてきましたが……こんなことが毎日のように行われているだなんて」
 トリテレイアは、そこで言葉を止める。
 先程は民間人を守るために、考えるより先に飛び出していったが、果たしてこれで良かったのだろうか。兵士らを倒したことで医師や患者たちを救うことは出来たが、これを切っ掛けに更に苛烈な弾圧が彼らの身に降り注がないとも限らない。
 ――偽善、でしょうか。私たちは、本当は下手に介入すべきではなかったのでは?
 医師と同じく煙草をくゆらせていた詞波は、まだ大分残ったままのそれを灰皿に押し付けて、物憂げに紫煙混じりの息を吐いた。
 助けられる者は多くはない。認識できる存在は、その目が届く範囲の者だけだ。救うことができる存在は、もっと少ない。極論すれば、己が手にした槍が届く範囲の者しか、救うことは叶わないのだ。
 ――今は助けることが出来た。だが、次は? 明日は?
 詞波は無言で、薄闇に包まれつつある外の風景を見やる。
 二人の表情から心中を読み解いたのだろう。医師は「感謝しているのは本当だ。なあに、心配するな。今まで生き延びられたんだ、明日からもどうにかなるさ」と安心させるように微笑んだ。
 それから、二人は女学校へ通じる道のりを医師に尋ねた。この先は義勇兵らの遊撃が激しく、仕掛けた路肩爆弾を始めとするトラップだらけだそうだ。それゆえに兵士らもゲリラ狩りに躍起になっているのだという。
 非戦闘地域を抜けた詞波とトリテレイアは、医師のアドバイス通りに危険地域のトラップを破壊しながら先へと進んでいく。向かう先は地下道の入り口だ。
「………やはり現実は御話のように単純ではありませんね」
 誘爆させた爆弾の衝撃波をシールドで防ぎながら、トリテレイアは今来た道を振り返り、嘆息する。詞波は投擲した槍を手元に呼び戻すと、遠くに見える女学校の尖塔を見据えた。
「それでも、割り切らねばならない。歯痒くとも、私たちに課せられた務めだけは……至って単純な話なのだから」

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

喜羽・紗羅
POW

『替われ』
え、いきなり何で……
『町場の戦は経験がある』

こういう鉄火場は滅多に経験出来ねえ
それに俺は町民を巻き込む戦って奴が大嫌いでね
お江戸じゃあねえがまあ、何とかやってやるさ

放棄された地下道って奴を使おう
場所は組織や市民に聞いたり街の地図を貰って確認だ
ついでにコンパスや明かりも借りれたら借りるぜ
協力出来る仲間がいるなら一緒に行こう

地下を進む際は納刀した太刀を杖代わりに
足元を払い障害物に気を付ける
真っ新な地面や物陰には罠があるかもしれん
待ち伏せに気を付け明かりは慎重に使う

地下道だけで目標に着かないなら
出た先で物陰になる場所を確認し
現在地を把握して隠れながら進む

万一交戦時は峰打ちで無力化する


ザハール・ルゥナー
ああ、地獄だな。
だが進めと何かが囁く。これ以上の地獄を作らぬために。

瓦礫や廃墟に身を潜めながら進む。
カミヤドリでナイフを複製し、刃を鏡とする。
曲がり角など視認が難しいところの確認、トラップの見極めに使用。
ワイヤーなど刃物で解除できるものならば斬って進み、爆発物の気配ならば回避。
敵との接触をどうしても避けられない場合は声をあげられぬように喉を狙い、相手の生死は問わず前進を優先。

刃が光って目立つような状況ならば、それをデコイに遠方への砲撃を誘う。
二十ほどでは心許ないが、仕方がない。

覚悟はできている。
足が千切れようが、腕が吹き飛ぼうが、本体が無事ならば私は存える。
有事には、他の猟兵のために使おう。



●[H+8] 09:00 P.M.
「コイツが地下道とやらの入口か……アンタ、どう思う」
 眼下に広がる闇の向こうを見下ろしながら、喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)は十五歳の娘とは思えない荒っぽい口調で傍らの青年に尋ねた。
「いずれかの勢力が支配しているはずだ。警戒は怠らぬようにすべきだろう」
 周辺警戒をするザハール・ルゥナー(赫月・f14896)は、視線を彼女に向けぬまま答えた。周辺に敵性勢力の姿はないが、夜を迎えても戦闘が終わる気配はない。
 二人がいるのは、地下道の入り口だ。分厚いコンクリートの土台に、頑丈な円形鉄扉が取り付けられたそれは、どこか核シェルターの入り口を思わせた。
 視線を紗羅に戻したザハールは、「降りるのは貴殿が先に」と促す。
 意図を掴みかねていた紗羅は、セーラー服姿の自分の格好を見下ろすと「ああ」と得心したようにうなずいた。いまの彼女の意識を司る者は、もう一つの人格である"無頼漢のご先祖"である。いささか、乙女心を察するまでに時を要する。
 地下道はその入口から想像していたよりも、広く空間を取られていた。カビと埃の臭いが鼻をつくが、湿度はそこまででもない。
「下水道ではなかったのは幸いか。灯りは点けないほうが良さそうだな」
 息を潜め、ザハールは慎重に暗闇の地下道を進んでいく。彼は地下に降りるなり、錬成したナイフを周囲の空間に展開した。それは闇の向こうに潜む者に対するセンサーであり、ワイヤートラップなどを断つための仕掛けでもある。
 右側の壁際沿いにザハールが進み、左側で紗羅が並進する。
 紗羅は事前に地図とコンパスを確認してきたため、闇の中でも進むべき方角の判断がついていた。彼女は太刀を杖代わりに障害物の有無を確かめて進んでいく。
 しばらくすると、壁に触れていたザハールの右手が空を切った。曲がり角だ。浮遊するナイフで紗羅の肩を叩いて合図を送り、二人は身を寄せ合って小声で相談する。
「直進路もあるな。二手に別れたいところだが、オブリビオンの勢力圏が近いことを思えば危険すぎるか」
「ここまでの歩数から計算すると、北北東におよそ二四十メートルほどの距離を直進したことになる。地図では上に何があった?」
 ザハールの問いに、紗羅は頭に入れた地図情報を引っ張りだす。
「ただの住宅街のはずだ。右に曲がると、地下鉄の路線にぶつかる。女学校からは遠ざかるし、鉄道網は軍隊に抑えられているだろうよ」
「リスクが高いな……ならば直進か」
 二人はお互いの顔も見えぬ闇のなかで頷き交わし、先へと進む。
 地下空間の空気は冷えてはいたが、足音を立てぬよう姿勢を低くして移動すれば疲労はたまる。汗がじっとりと肌を濡らし始めたころ、二人の鼻を異臭がくすぐった。戦を知る猟兵ならば誰もが知る、その臭い。
「死臭だ……近い」
 紗羅が息を呑む。一歩ごとに死臭は濃くなり、そして闇の向こうから「ずるり、ずるり」と何か重いものが引きずられる音が聞こえてくる。
 ザハールのナイフが、再び分岐路を捉えた。今度は十字路だ。先と違うのは、右側の通路に向けられたナイフが幽かな光を映したということ。
 二人は右側の壁に身を寄せると、ナイフと太刀の刃を通して角の向こうを覗き込む。
「女……の子?」
 ザハールが眉を寄せる。
 ほんのわずかな光で映し出された像では確かなことは言えないが、ザハールと紗羅の目には、それは少女の姿に見えた。そして、その少女が引きずるものは、生死不明の兵士の身体だ。
「敵のオブリビオンは、女学生と兵士を素材に作られた改造兵という話だったな。つまり、この先に俺たちの目標地点があるってわけか」
 紗羅はニヤリと口の端を上げた。幸い、敵はこちらに気がついていないようだ。二人は相手に気取られないよう距離を置きながら、地下道の終点まで進んでいく。

 地上に登れば、そこは目標地点である女学校と通りを挟んで隣接する教会公園だった。辺りには何者の気配もない。表に出たザハールは、しかし、教会を囲むように築かれた公園に散らばる数多の死体に気がついた。
「ああ……まるで、地獄だな」
 すさまじい腐敗臭だった。なにか、脳髄の奥底に眠る古の記憶を揺さぶるような臭気だった。ザハールは口元を抑えながら、公園に林立する聖人の石像の影に身を隠す。
「ったく、俺が替わっておいて良かったぜ。"アイツ"じゃたまらずゲロってただろうよ」
 次いで地上に出た紗羅は、分厚い花壇の隙間に身を隠す。近くに転がる幾つかの死体を確認するが、元の形状を留めている者は一人としていない。
 ザハールは、周囲を見渡しながら眉をひそめる。
「人間同士の戦いではないな……通常兵器だけではこの状況は生まれない」
「ああ。オブリビオンどもと、紛争に関わっている軍隊は、すでに交戦経験があるってわけだ……これは再び火遊びが起きる可能性があるぞ。面倒だな」
 死体のなかに民間人の姿も見かけた紗羅は、「ちっ」と舌打ちをする。元より鉄火場を好む性質ではあるが、力なき町民が巻き込まれるような戦を"彼"は厭う。それが人の道を外れたものであれば、尚の事だ。
 ザハールと紗羅、それぞれの胸に言葉にし難い思いが去来するなか、それは唐突に起きた。
 二人が女学校に向けて移動を開始した直後、空の彼方より砲撃が襲いかかってきたのだ。いかに猟兵と言えど、知覚外の遠方から降り注ぐ火砲から逃れるのは至難の業だ。
「……!!」
「く、……ッ!」
 爆炎が教会ごと公園を呑み込んでいく。いや、火砲の照準は女学校につけられていた。女学校の周囲ごと焦土と化すのが砲撃の意図らしい。
「っ、脚をやられたか……構わない、私のことは置いていけ」
「ザハール!! ばかやろう、そんなことできるわけねえだろうが!」
 咄嗟に紗羅に覆いかぶさり、彼女のことを庇ったザハールの右下腿部が、爆発に巻き込まれて吹き飛んでいた。紗羅はすぐに立ち上がると、自分より頭二つ分近く大柄な青年の身体を背負い、女学校目掛けて駆け出す。
 背後から、無限軌道が石畳を踏みしめる重々しい音が鳴り響いてきた。振り向けば、夜闇に紛れて戦闘態勢に入る数多の兵士らと戦闘車両の姿が目に入る。
 そして二人の猟兵を挟んで、女学校と展開部隊の間を流星群のように銃砲弾が飛び交い始めた。
「あと七十メートルだ。敵の懐に匿われるようで胸糞悪いが、女学校に逃げ込めば死にやしねえ。気張れよ、ザハール!」
「……っ、わかった。手足の一本や二本、覚悟はできている。私のナイフをデコイにし、敵の砲撃目標をそらす。命運は貴殿に任せよう。その隙に、頼む……!」
 失血に意識を朦朧とさせながら、ザハールは二十二の短刀を展開すると、それを進行方向とは逆に向けていく。砲撃によって燃え盛る教会公園のなかで、その刃の煌めきはあまりにも美しく、人と、そしてオブリビオンの目を惹いた。
 駆ける二人の後方で激しい爆発と銃撃が発生し、公園を抜けて道路に出ていた二人の身体を吹き飛ばすほどの爆風が襲いかかってきた。
「邪魔だ!!」
 地面に叩きつけられて血まみれになりながらも、紗羅はすかさず立ち上がって太刀を抜く。佩刀・奇一文字改が閃き、女学校を囲う城壁めいた塀を豆腐のように切り裂いた。
「止まるわけには、いかない……!」
 女学校の敷地内に駆け込む直前、今再びの脅威が空より降り注いできた。
 多連装ロケットだ。飛来する十二の破壊の雨に目掛けて、ザハールは二十二のナイフで迎撃する。
 目を射るような閃光が夜の空を切り裂いた。衝撃波が二人の身体を痛めつけるが、なんとか意識を喪うことだけは堪える。疲労と負傷で朦朧とする意識のなか、紗羅とザハールは目についた女学校校舎の非常口に転がり込む。
 鉄製の扉を締めると、外部から聞こえてくる激しい戦闘の音がわずかに遠ざかった。
「……ったく、碌でもねえ仕事だ」
「そうだな……、しかし、これ以上の地獄を作らぬために、進まねばならぬ……」
 息を切らしながら冷たい床に座り込む二人の猟兵は、互いの顔を見合わせて微かな笑みを浮かべる。
 作戦の第一段階は、かろうじてクリアできた。
 しかし、猟兵たちの本当の戦場は、ここからが本番なのだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 集団戦 『武装少女』

POW   :    攻撃を開始します
【ショットガンによる銃撃】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD   :    機銃掃射を開始します
【召喚した機関銃から一斉に銃撃】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ   :    援軍を要請します
【近代的な装備の兵隊】の霊を召喚する。これは【銃剣】や【ナイフ】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

●подтвердил цель
『……敵性勢力からの地対地砲撃、未だ止まず。D3区およびE7区より各二個装甲中隊の侵攻を確認』
『……チーム・アンナ、敵MBT七台を撃破。チーム・バリス、武装ヘリコプター二機を撃墜。継続して地上および低空域より侵攻する敵性勢力排除にあたる』
『……B1区からの榴弾、迫撃砲弾、ロケット弾、その他火砲に対する対空防御率はアベレージ七十pt以上を維持。飽和攻撃の脅威は認められず』
『……緊急事態発生。C2区より未確認の敵性勢力の侵入を確認。敵性勢力の人員はおよそ十名、分隊規模の歩兵部隊と推定』
『……未確認敵性勢力からユーベルコードの反応を検出。対象を"猟兵"と判断する』
『……HQより各チームへ。C2区から侵攻する未確認歩兵部隊の排除を第一目標に変更。繰り返す。C2区から侵攻する未確認歩兵部隊の排除を第一目標に変更』
『……未確認歩兵部隊は"猟兵"である。チーム・ヴァシリ、チームグリゴリ、チーム・ドミトリィは対人戦闘を中断し、侵攻する"猟兵"の排除に当たれ』
『チーム・アンナ、チーム・バリスは対人戦闘を継続しつつ、"猟兵"と接敵次第これを排除せよ』
『敵は"猟兵"である。目標を確認次第、すみやかにこれを排除せよ』

 戦場を駆け抜けた猟兵たちは、オブリビオン『来訪者』が巣食う女学校への道を切り開いた。
 そこは施設こそ女学校であるが、今は来訪者が生みだしたオブリビオンの眷属たる改造兵士が跋扈する要塞となっている。
 女学校内に、トラップは仕掛けられてはいないようだ。
 その必要がないのだろう。
 砲火飛び交う戦場を抜けるさなか、猟兵たちは見た。
 この女学校に巣食う"人ならざる者"が、交戦する人間の軍隊を圧倒する様を。
 改造兵士が手にした装備は周辺に展開する軍隊の鹵獲品に過ぎないが、ユーベルコードの力を得た今は、ただの拳銃でも恐るべき威力を秘める兵器と化している。小賢しい戦術など、彼女たちは講じる必要が無いのだ。
 彼方より轟く砲撃と震動は止むことを知らず。時折女学校に着弾する砲撃は必ずしも猟兵の味方になるとは限らないだろう。人の軍勢からすれば、オブリビオンも猟兵も等しく人外の敵なのだ。
 今一度、猟兵たちは作戦の第二段階目標を確認し合う。

 成すべきことは、オブリビオン『来訪者』によって眷属化された、改造兵の殲滅である。
 それは少女の姿をしている。捕獲された女学生と、紛争に従事する兵士ら器官の組み合わせて作られた、改造人間兵である。
 いかなる手段を用いても、人としての精神と思考を取り戻すことは叶わず、死を以ってでしか彼女らを制圧することは出来ない。
 作戦第二段階では、オブリビオン『来訪者』の居場所を突き止める必要はない。
 あくまで、改造兵の索敵および殲滅に注力すべきだろう。チームを組んで猟兵の排除にあたる彼女たちに対して、意識を別のことに注ぎながら相対するのは危険過ぎる。
 猟兵たちは認識をすり合わせたのち、それぞれが得意とする戦術を以って、迫り来る改造兵団との戦いに備える。
 ……目標を確認次第、殲滅せよ。
 それは猟兵、オブリビオン、双方変わらぬたった一つの目標である。
ジル・クラレット
憐憫や慈悲を掛けられる程
甘い相手じゃない
なら、苦しまずに逝けるよう
一瞬で

四方から攻撃を受けぬよう
中庭や教室は避け極力廊下で戦闘
単騎特攻は避け、極力仲間と共闘

敵が数で勝るなら
こちらは機敏性を活かして各個撃破

攻撃は【シーブズ・ギャンビット】
敵多数なら【花嵐】
【薔薇籠】で足止めし仲間援護
半死半生時は【シンフォニック・キュア】

【早業】【先制攻撃】【2回攻撃】で先手取る
【透硝子】で奇襲できればベスト
人体の急所を狙い極力一撃で仕留めるor致命傷を与えるわ

…"まだ"、人としての急所が有効なのね

挟撃で遠距離から攻撃されたら
横(教室や窓の外)へ回避して同士討ちを狙う

血飛沫は甘んじて受けるわ
彼女達が生きた証だもの


ザハール・ルゥナー
哀れ――いや、どちらかといえば羨ましい。
心を持たぬ兵隊、その姿が乙女であれば、善良なる者達は恐怖するだろう。

少々傷を負ったゆえ、最初から全力で挑もう。
降魔化身法で強化。不足は何かが補うはずだ。
銃撃を見切りながら接近し、ナイフを翻す。

しかしこちらの本命は銃。
威力を考え、かなり接近しておきたい。
狙うのは心臓。額や首筋は相手の隙をつけたならば。
足りぬなら追撃、刃で首か大腿部を狙う。

最悪の場合。
先を繋ぐため、換えの効く私が引きつけ砲撃に誘おう。

これは戦争。ならば覚悟して戦うべきだ。
おそらく身内に叱られるが、死ぬわけではない。
ゆえに笑って告げよう。
――悪いが、掃除は得意だ。

※どのような描写でも




 鳴り響く砲撃音のなか、ジル・クラレット(遠影・f07897)は傷ついた者の魂を慰撫する独唱を高らかに歌う。それは目の前で大怪我を負った男の心身に、鎮痛剤を投与したかのような安らぎを与えていく。
「……感謝する。出血さえ止まれば、行動に支障はない」
 止血に使っていた手当布を解いたザハール・ルゥナー(赫月・f14896)は、療術の歌を施してくれたジルの手を借りて立ち上がると、己の身体に悪鬼の業を降ろしていく。悪鬼はザハールの魂の欠片を代償に、肉体の欠損を影の下肢で補った。
「最低限の治癒だから、また怪我をしたら言って頂戴。支えるわ」
「承知した。だが、貴殿の手をこれ以上煩わせないよう心掛ける」
 二人は電気の通っていない暗い学舎内を慎重に進んでいく。西洋と東洋の狭間に位置するこの国らしく、ビザンティン様式で築かれた荘厳な校舎は、学校と言うよりも巨大な修道院のそれを思わせた。
 しばらく校舎内一階で索敵を進めていくと、ドーム状の天蓋を擁する聖堂風の十字路にぶつかった。十字路の奥を窺うと、改造兵団が周辺警戒をしながら近づいてくる姿が見えた。
 二人は目配せをしあい、聖堂正面に対してザハールが九時方向、ジルが六時方向の壁柱に身を隠す。敵兵団の数は約二十名。彼我戦力差は十対一。最初の奇襲でどれだけ数を減らせるかが、勝負を決めるだろう。
 ――憐憫や慈悲を掛けられるほど甘い相手じゃない。苦しまずに逝けるよう、一瞬で……そうしなければ、此方が危険ね。
 ジルが力を行使すると、二人の身体が透明化していく。あとは改造兵がサーマル・イメージャーを装備していないことを祈るだけだ。
 聖堂内部のクリアリングを手早く済ませた改造兵団が、十字路を直進していく。十分に引きつけたあと、まずジルが先頭集団を横手から襲撃した。
 学生服を着た、若い少女の姿。ともすれば、それはサバイバルゲームにでも興じているかのよう。ジルは銀の短剣で一人目の少女の心臓を貫き、引き抜きざまにその後ろにいる少女の眼窩越しに脳を貫いた。
 ――……"まだ"、人としての急所が有効なのね。
 その様にジルは安堵と共にやるせなさを覚えることを禁じ得ない。
 奇襲に、改造兵団の間に動揺が走る。すぐに状況を把握することはオブリビオンの眷属と言えど不可能らしい。動きの止まった改造兵団の戦列中央に、ザハールが迫った。
 翻した投擲用のナイフが、狙い違わず一人の少女の心臓を射抜く。その個体が地に倒れる前に、すでにザハールは続くナイフを三本、狼狽えるばかりの改造兵らに差し向けていた。
 ――哀れ……いや、どちらかといえば羨ましい。心を持たぬ兵隊、その姿が乙女であれば、善良なる者達は恐怖するだろう。
 それを彼女らが望んだとは思えないが、戦場に産み落とされたザハールにとって、彼女らの存在に対して抱く感情は単純な憐憫だけには留まらない。
 開戦から七秒。奇襲で倒した人数は合わせて八名。事態を呑み込んだ改造兵らは、倒れた仲間を一顧だにせず銃を構え、反撃に移行する。
「厄介ね」
 柱の影に身を隠したジルは思わず唸った。一斉に発砲されるショットガンとライフルの威力は凄まじく、柱の角が見る見るうちに砕けて形を変えていく。
 透明化はもはや意味がない。術を解除したジルは、敵の攻撃の隙を作るべく薔薇の茨を放った。それは彼女を狙う改造兵ではなく、ザハールを狙って機銃掃射を繰り返す一群に向けられていた。
 わずかな時間、銃撃の嵐が止んだ。降魔の下肢に力を込めて跳躍したザハールは、一足で機関銃手の改造兵に肉薄する。茨に拘束された彼女の額に目掛けて拳銃弾を二度撃ち込むと、ショットガンを構えた傍らの改造兵の首をナイフで切り裂く。
 死に際の発砲で散弾がザハールの身体にあたったが、致命傷ではない。機関銃手の死体を盾に構えた彼は、ジルが潜む柱とは反対側の柱に後退しつつ、さらに二名の改造兵目掛けて発砲した。
 残りは八名。改造兵団はジルとザハールが陣取る六時方向の廊下に対して〇時、三時の廊下に隠れ、牽制射撃を繰り返してくる。
 膠着状態……とは、お世辞にも言えない。通信機器を背負った改造兵が無線を通じて何かを要請すると、影の狭間から新たな兵士が現れた。
 少女ではない。この紛争で命を落とした兵士らの亡霊のようだ。
「援軍か。このままでは磨り潰されてしまう。先程は、これ以上貴殿の手を煩わせないと約束したが、もう少しだけ頼めるか」
「ええ、喜んで……と言いたいところだけれど。無茶はしないでね」
「善処する。なに、換えの効く身だ。死にやしない」
 ――悪いが、掃除は得意だ。
 かすかな笑みを浮かべたザハールは、銃撃の隙をついて柱の陰から飛び出した。降魔の下肢で高く跳躍し、敵の頭上より拳銃とナイフを放っていく。
 改造兵と亡霊兵の銃口が一斉にザハールに向けられた。擲弾が、手榴弾が、散弾が、機関銃弾が炸裂して、聖堂の壁ごとザハールの肉体を砕いていく。
 得られた猶予はあまりにも短い。ジルは爆炎のなか身を低くして十字路に突入していく。全ての改造兵を、一度に巻き込まねば意味がない。
 ジルの行動に気がついた改造兵の一部が、彼女目掛けて銃撃を行う。だが、もう手遅れだとジルは告げる。改造兵団の中央に飛び込んだ彼女は、片手を上げて花の嵐を巻き起こした。
 吹き荒れる赤い花弁全てが地に降り注いだ時には、銃声は全て途絶えていた。残されたものは、花のなかで息絶えた少女たちの亡骸だけ。
 決死の陽動で半身を失って倒れるザハールの側に、ジルは膝をついた。
「……身内に、叱られるだろうな……」
 戦争なのだ。覚悟は出来ていた。すべき務めを果たせたのなら、それでいい。
「その前に、私が叱るわ……ばか」
 困ったように微笑みかけながら、苦しみを取り除くためにジルは歌をうたう。
 ザハールは深く息をつくと、安らかな顔のまま意識を失った。ヤドリガミの身だ。肉体の損壊は致命的だが、死を迎えることはない。
 念のため、人目につかない教室の物陰にザハールを寝かせたジルは、その場を後にした。
 身体は血にまみれていたが、拭わない。それはかつて少女だった者たちが、確かに生きていたことの証だったから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

コノハ・ライゼ
ナルホド、揺さぶるのには効果的カモね

多数相手ならお任せを
相対する一団に合わせた数、握った手の内から【黒影】呼び出し
不規則な動きで向かわせ攪乱するヨ
すぐさま『高速詠唱』からの『2回攻撃』で次は足元から地に影奔らせ
一撃目とは違う方向より追撃
様々な角度より攻めて連携崩すようにすンね

援軍の霊呼ばれても基本は本体狙うケド
剣やナイフの攻撃は「柘榴」で往なし
近付く敵へは柘榴で応戦と見せかけ『だまし討ち』
至近から『傷口をえぐる』よう黒影の牙を喰らい付かせるヨ

避け切れぬ攻撃は『オーラ防御』で凌ぎ
反撃ついで『生命力吸収』で体力維持しとくネ
理不尽に刈られ終わりさえ奪われた、その生をオレにチョウダイ
恨むならいくらでも


トリテレイア・ゼロナイン
年端も行かぬ子供を改造し、銃を持たせる……惨い光景です
これ以上の犠牲を出さぬために早急に元凶を叩かねばなりません
……救うことが出来ないのが口惜しいですね

接敵したらUCの電磁バリアを防御を重視して壁状に構築し、仲間を●かばうための陣地を構築
バリア越しに敵の配置を●見切り、●防具改造で取り付けていた強力な投光器で●目潰し
その隙をついてバリアを解除し●盾受けで防御しつつ突入、●怪力で振るう剣の●なぎ払いと●シールドバッシュで制圧します

(先程の紛争地域での光景と●世界知識からオブリビオンと関係なく生まれる「少年兵」という存在を想起し)やり口は違えど悪意の発露の形は人も「過去」も同じなのかもしれません…


上野・修介
※絡み・アドリブOK
敵陣の只中、数的不利、おまけに連携も取れている。
時間をかければ危うい。
故に積極的に攻める。

――呼吸を整え、力を抜き、専心する

先ずトラップ・感知器類に警戒しながら身を隠し敵の出方・規模と位置・装備を観【視力+第六感+情報取集】る。
情報は逐次味方に共有。

武器は素手格闘【グラップル】
UCは防御強化

目付を広く、遮蔽物を利用【地形の利用】し【フェイント】をかけつつ常に動き回る。
相手の懐に【ダッシュ】で肉薄し一体ずつ確実に始末する。
深追いはせず囲まれそうになれば迷わず退き【逃げ足】仕切り直す。

武器はこの身一つ。
撃たれることは元より【覚悟】完了済み。
恐れず【勇気+激痛耐性】推して参る。




 校舎内を進んでいくと、中庭を囲む回廊に出た。回廊と中庭はずらりと並んだ太い円柱で区切られており、中庭にはすっかり荒れ放題になった花壇と灌木、そして崩れかけた噴水が設えられている。
 回廊の物陰を探っていた上野・修介(元フリーター、今は猟兵・f13887)は、近辺にトラップやセンサーの類が設置されていないことを確かめると、仲間の猟兵たちの下へ戻る。
「搦手が得意な相手ではないようですね。そちらはどうでした?」
「マルチセンサーに多数の熱源反応を確認しました。私たちが居る中庭西南の回廊角から、ちょうど対角線上の北東部の回廊奥です。あと十二秒で中庭に到達します」
 センサーによる索敵を行っていたトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が情報を共有する。
「数が多いネ。正面からぶつかり合うのは得策じゃないか」
 早速黒い管狐による偵察を行ったコノハ・ライゼ(空々・f03130)が、改造兵団の動向を把握する。およそ三十名。言うまでもなくいずれも少女の姿をしている。
 兵団は中庭に到達すると、回廊の左右に分かれて進む二チームと、角に留まり中庭内部を警戒する一チームの三手に分かれた。安全が確保された後に合流するのだろう。
 三人の猟兵は短い時間のなかで戦術を定めると、西側回廊の柱および回廊に隣接する中庭の茂みに身を潜める。北側から回り込んでくる一群が角を曲がり、目の前を通過する。
 コノハが動いた。彼は索敵に出していた黒管狐を呼び戻すなり、新たな命令を下す。
「くーちゃん、やっちゃって」
 指先大だった黒管狐は見る間に人の腕ほどの大きさに成長すると、枝分かれるようにその数を増やしていく。影に紛れる管狐たちは音もなく夜を走り、改造兵団に襲いかかった。
 清廉な夜の風のなかに、生臭い血の匂いが一斉に広がる。痛みを感じないのか、改造兵は悲鳴すらあげない。しかし混乱と動揺は確かに広がっていた。狙いを定めずに発砲する者、喰らいつく管狐を振りほどこうと暴れる者、こちらの姿を求めて周囲に忙しなく視線を向ける者。連携は確かに崩れていた。
 ――年端も行かぬ子供を改造し、銃を持たせる……惨い光景です。
 倒すべき敵を目の前にし、トリテレイアの鋼の胸の奥にやるせない思いが滲む。だが、躊躇するわけにはいかなかった。これ以上の犠牲を出さぬため、すみやかに目の前の改造兵らを倒し、元凶を撃破せねばならないのだ。
 直接打撃を受けなかった数名の改造兵らが、すでに牽制射撃を周囲に行っていた。このままでは接敵ができない。
 トリテレイアはバリアジェネレーターランチャーを起動させた。射出された数本の発振杭が改造兵団を囲むように地面に突き立つと、ぱちりと電流が弾ける音と共に、電磁バリアが発生する。
「今のうちに!」
 改造兵の弾丸は尽く電磁バリアに阻まれて、空中で砕け散っていく。その隙に前に出たトリテレイアが、投光器を改造兵らに向けて照射した。闇に目が慣れていた改造兵らは、その強烈な光にたまらず目元を覆う。
 肺腑一杯に息を吸い込んだ修介はそこで呼吸を止め、地を蹴った。一瞬の気の緩みが生死を分ける戦場なれど、身体に緊張の強張りは感じられない。悪くないコンディションだと、彼は思う。
 すでに解除されているため、電磁バリアは修介の行く手を阻まない。固く拳を握りしめた彼は、間合いに捉えた改造兵の左脇下胸郭に突きを見舞う。
 まるで薄い硝子を破るように少女の肋骨を全て粉砕し、その奥に隠れていた心臓を衝撃で破壊する。
 拳を振り抜いた修介は、その勢いを利用して体を半回転させて、後ろ回し蹴りを傍らの改造兵に打ち放つ。中に鉄板を仕込んだその蹴撃は、鉄槌のそれよりも重い。ヘルメットもつけていない改造兵の頭蓋は粉々に砕かれ、彼女は何が起きたのかもわからぬまま絶命した。
 北側から回り込んできたチームは約十名。被害を受けぬまま、三人の猟兵は彼女らを全滅に追い込んだ。
「ナルホド、揺さぶるのには効果的カモね」
 地べたに散乱する改造兵の死体を見下ろしたコノハが、小さくかぶりを振った。良い光景ではない。相対するときも、相対したあとも、なにか小さな棘が心に刺さったままのような……そんな居心地の悪さを覚える。
 けれど、立ち止まる暇はない。コノハの青瞳は中庭を経由してこちらに迫る、合流した残りの改造兵団の姿を捉えていた。
「オレが分断と撹乱を担うヨ。遮蔽物も少ないし、固まっていたら爆弾のイイ的だ。散って遊撃すンのが一番だろう」
「承知いたしました。私が盾となり囮となりましょう。その隙に――」
「俺が再び切り込みます。危険だが、元より覚悟は完了済み。征きましょう」
 中庭越しに吹き荒れる銃弾のなか、手短に相談を済ませた三人はその場から散開する。
 円柱の陰に身を潜めたコノハは、再び黒い管狐たちを走らせる。茂みや花壇を巧みにかき分けて地を這うそれに気がつく改造兵は、ただの一人もいない。
 改造兵が徐々に猟兵たちに対する包囲の輪を狭めてくるなか、コノハの黒影が一斉に襲いかかる。全てを同時に攻撃することは叶わないが、敵の攻め手を途絶えさせるには十分だ。
 ――多数相手ならお任せを。
 喰らいつく黒影を別の改造兵に撃ち落とされても、コノハは新たな影を奔らせて撹乱を継続させていく。
 敵の猛攻が緩んだ間断を突いたトリテレイアが、コノハへの射線を塞ぐように重シールドを構えて、改造兵団への突撃を開始した。
 シールドを斜に構えて銃撃を受け流すものの、ユーベルコードの銃弾や擲弾の衝撃は重く、さしものトリテレイアの進撃の足も鈍る。
 だが、止まらない。猛攻のなかをあたかも重戦車がごとく駆け抜けて、トリテレイアは間合いに捉えた改造兵の一群目掛けてシールドバッシュを叩き込む。
 ――救うことが出来ない……それが、こんなにも口惜しいことだとは。
 隊列を乱す改造兵たち。トリテレイアの振るった長剣を受けた改造兵たちが、次々と斬り伏せられていく。彼の白い装甲が、彼女たちの血で赤く染め上げられていく。
 茂みの合間を身を伏せながら突き進んだ修介は、展開する改造兵団の南側面を抑えることに成功していた。敵の注意がトリテレイアとコノハに向けられている間に、どれだけの改造兵を打ち倒すことが出来るか。
「武器はこの身一つ……確実に始末する」
 呼吸を整えた修介は、鋼鉄の意志を抱いて吶喊する。接敵に気づかれぬまま、二人の改造兵をグローブに包まれた拳で殴殺した。やや後方に位置取った改造兵が、彼のことを指差し何かしらの指示を飛ばす。
 半数の改造兵が修介に銃口を向けたが、その間にも彼は三名の改造兵を地に沈めていた。電動ノコギリのような轟音を立てて、無数の機関銃が一斉に修介に牙をむく。飛び退り、回廊東側の円柱に身を隠す間に、彼はいくらかの銃弾を受けてしまったが、これで終わるつもりは更々無い。
 痛みを意識の外に追いやり、すかさず物陰から飛び出した修介は、手近な改造兵の懐に飛び込んで命を奪い取る。
 北側に回り込んだコノハは、己の身を以てして勝負を仕掛ける。召喚された援軍の亡霊兵の合間を縫い、時にナイフを払っていなしていく。その瞳が捉える先は、あくまで改造兵本体だ。
「恨むならいくらでも」
 散弾銃を構えた通信兵の手首を、コノハのナイフが切り落とした。刀身が血で赤く染まるころ、彼の背後に控えていた黒影が一斉に広がり、今まさに襲いかからんとしていた改造兵らを背後から食らっていく。
 ――その生をオレにチョウダイ。
 理不尽に刈り取られ、これからの人生も、人らしい結末さえ奪われた、哀れな娘たち。その生命の欠片をコノハは受け止めていく。
 三方面から猛然と迫る猟兵らに、改造兵団は最後まで翻弄され続けたままだった。有効な反撃の機会を与えぬまま、三人はついに部隊の殲滅を完了させる。
 きつい血と硝煙の臭気を体感センサーで受容しながら、トリテレイアは悲惨としか言いようのない光景を見渡す。
 ――いつの世も、やり口は違えど悪意の発露の形は人も「過去」も同じなのかもしれません……。
 この世界の歴史を収めたアーカイブと先の戦場で見た光景を脳裏に浮かべたトリテレイアは、言葉にならぬ思いを懐きながら小さく頭を振るう。
 簡単な怪我の手当を終えた修介は、周囲に他の敵がいないことを確かめたあと、仲間たちの背に声をかけた。
「行きましょう。こんな戦いは、早く終わらせねばなりません」
 修介は足元で息絶えていた少女の瞼を静かに閉ざしてやると、戦場を後にした。遠くから響く砲撃の音は、まだ続いている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

レイ・ハウンド
慣れって怖ぇーな
見た目少女でも人らしさが無いせいか
弟子を斬るより楽だと思う俺がいる
いや、敵を侮ってる訳じゃねぇが…

仲間と情報共有
学校のMAPを頭に叩き込み虱潰し
対人チームは後回しだ
敵も味方もねぇ
潰しあって貰う方が都合いい

接敵までは灯を消し暗視を頼る
遮蔽に隠れ目立たない様忍び足
影の追跡者を先行させ情報を得る

真っ先に狙うは無線兵
援軍は呼ばせねぇ
極力気づかれぬ前に
三業封殺で頭と心臓と通信機を撃ち抜く
基本2回攻撃で早急且つ確実な狙撃
数がいれば黒鋼の掃射による範囲攻撃で面制圧
機銃掃射時は断頭で盾受けしながら仲間を庇い
剣を盾に特攻し道を開く

吊るされた『素材』も…撃ち殺すしかねぇよな
全く人も敵もねぇ
…南無三


千桜・エリシャ
また……また女性がこうして望まぬ戦いを強いられているのですね
私の本質がたとえ修羅であろうと、せめて弱い女性の味方でありたい
そう、思っているのに……
――儘ならない、ものですね

常夜蝶に先行偵察を任せて奇襲に備えつつ索敵を
なるべく先手を取れるよう、そして本格的に戦うならば広い場所へ誘いましょう

そちらが援軍を喚ぶなら、こちらも同じ手を
さあ、哀れな愛子よ
存分に蹂躙なさい
兵隊は大鬼に任せて、私は見切りで回避しながら少女へ肉薄
苦しむ暇さえ与えずに、速やかにその首を落としてしまいましょう

ねぇ、
強い兵士を作りたいのであれば、兵士だけを使えばいいでしょう
わざわざ女性を使うなんて、悪趣味以外の何ものでもありませんわ




 レイ・ハウンド(ドグマの狗・f12038)と千桜・エリシャ(春宵・f02565)は、窓外の遠くから届く砲炎と閃光だけを頼りに暗い学舎内を進んでいく。
「捉えましたわ。この廊下の曲がり角から、改造兵たちが参ります」
「この廊下か……不味いな。身を隠す場所がほとんどねぇ。一旦引き返して、図書館へ向かおう。あんなかに引き込めば、幾らかやり易い」
「承知いたしました。では兵団の偵察と誘導はこのまま常夜蝶に任せましょう」
 二人は頷き合うと、元来た道を戻ってゆく。あらかじめ構内案内図を確認していたレイの誘導で、程なくして図書館に辿り着いた。
 そこは日本の学校で見かける図書室とは、規模も趣も全く異なる設備だった。敷地は大ホール並の面積を誇り、宗教画が描かれたアーチ状の天井は優に三階分ほどの高さにある。
 図書館中央は年代物の長机と椅子が並び、そこを挟んで背の高い書架が林立している。壁に沿うように二階部分に巡らされた回廊の奥にも、書架や閲覧室があるようだ。
「二階の回廊に身を隠しましょう。まずは先手を取らねば……それと、常夜蝶に兵団が食いつきましたわ。間もなく此方に辿り着くかと」
「了解。俺が狙撃と掃射で援護する。敵が減ったらあとはいつも通り、お前が乗り込んで切り伏せてくれ」
「あら、信頼して下さっているのですね。承りました。私も、レイさんの射撃の腕を信頼しておりますわ」
 共に戦場に立つのも三度目だ。互いの手の内はレイもエリシャもよく知っている。二人は二階回廊の左右に分かれて潜伏すると、改造兵団を迎え撃つ。
 音も立てずに侵入してきた改造兵団を、二階回廊の柱の陰から見下ろしながら、レイは夜目を利かせて敵の通信兵の姿を求める。人数はおそらく部隊内に三名。
 ――慣れって怖ぇーな……。
 見た目はレイの弟子の年頃と変わりない。だが、すでに人間としての感情というものを失っているらしい彼女らの醸し出す雰囲気は、あたかも動く人形のようだ。弟子の分身を斬るよりも余程気が楽に思えることに、レイは複雑な面持ちを浮かべる。
 反対側の回廊に潜伏するエリシャの姿を一度だけ確認したあと、レイは狙い定めた通信兵目掛けて黒鋼の火器の引き金を引く。真っ暗な図書館内に、眩い発火炎が瞬いた。
 広い図書館に響く十数発の銃声。二名の通信兵を仕留めたが、三人目を倒し切る前に反撃を食らってしまった。腕と腹と耳を銃弾がかすめ、レイの顔を血が濡らした。
「ちっ……!」
 倒しきらねば狙撃手の名折れだ。多少無茶は承知の上で遮蔽物から身を乗り出すと、レイは最後の通信兵を銃弾の雨のなかできっちり始末する。
 最後の通信兵が死の間際に呼び出した亡霊の兵士たちの数はそう多くない。兵団の構成人数は討ち取った通信兵を除けば十七名。亡霊兵士を合わせても二十五名ほどだ。
 エリシャは手のひらの上に浮かべた胡蝶にそっと息を吹きかけると、銃火行き交う戦場に蝶の群れを放つ。
「さあ、哀れな愛し子よ。存分に蹂躙なさい」
 蝶は瞬く間に無数に分かれ、睦み合うように飛び交ったあと、一体の大鬼の姿を成す。突然現れた巨大な鬼の姿に対して、改造兵たちは散開しながら銃撃を加えていく。大鬼は身を削られながらも腕を振るい、亡霊兵たちを次々と叩き潰していった。
 大鬼が暴れるなか、エリシャは鞘から墨染の太刀を抜くなり、二階回廊から書架の上へと飛び降りる。敵の銃撃が階上のレイと大鬼に集中している今が、好機だった。
「……っし。ちょいと手こずったが、まだ流れはこっちにある」
 一階に降り立ったエリシャとアイコンタクトを取ると、レイは回廊の柱と柱の合間を駆け抜けて、図書館の奥へと移動していく。
 レイの姿を追って、改造兵が数手に分かれていく。書架の合間を縫って移動するグループ、二階回廊に向かうグループ、そして大鬼の対処に当たるグループだ。
 二階回廊から入れる閲覧室から分厚い机を引っ張り出してきたレイは、それを回廊に倒してバリケードを築く。
 そして、黒鋼の火器をバリケードの上に据えると、二階回廊に上がってきたグループに向けて機銃掃射を叩き込んだ。
 荘厳な天井画が、飛び交う銃弾の光に照らされて浮かび上がる。敵を狙撃手だと思いこんでいた改造兵の先頭グループは、掃射の前に次々と撃ち倒されていく。
 階上の出来事を一瞬だけ見上げたエリシャは、レイを追って書架の合間を駆け足で抜ける別の改造兵たちに押し迫る。
 エリシャと、きっと同い年の女の子たち。こうして望まぬ戦いを強いられてきた女性たちの姿を、エリシャは何度も見てきた。その度に己の心に誓ったものだ。
 例え己の本質が血と戦を求める修羅であるとも、せめてか弱き女性たちの味方であり続けようと―――。
「……儘ならない、ものですね」
 狭い書架と書架の合間を風を纏いて駆ける。上段に構えた太刀を薙ぎ払えば、ちょうど書架の横を走り抜けようとした改造兵数名の首を、瞬時に刎ね飛ばした。
 立ち止まらず、エリシャは書架の合間を抜けて通路に出た。突然の出来事に咄嗟の判断がつかずに居る改造兵らを、エリシャは真正面から斬り崩していく。
 黒髪が宙に翻り、黒刃が血を呑み下すたび、エリシャの瞳が妖しく濡れる。
 ――嗚呼。
 吐息が漏れた。嘆きと、憐憫と、悦楽を綯い交ぜにして。
 次の瞬間だった。エリシャの身体が衝撃に揺らぎ、血が噴き出す。数発の銃弾が彼女の身体を貫いていた。
「後ろだ!!」
「……!」
 二階から飛び降りたレイは、無骨な断頭の剣を前面に構えてエリシャを庇う。見れば、ボロボロに傷ついた数名の改造兵が書架の向こうで機関銃を構えていた。
 大鬼を倒した生き残りの改造兵が、迫ってきていたのだ。
 断頭を盾に銃撃を受け流しながら、レイは生き残りの改造兵に突撃する。凄まじい威力の弾丸に刃は赤々と灼熱し、とうとう穴が開いた。レイは銃撃を受けながらも敵に反撃の一射を見舞い、改造兵の一人を仕留める。
 もう一人の改造兵にエリシャが迫った。駆け上った書架から勢いよく飛び降りた彼女の刃は、散弾銃を構える隙も与えず改造兵の細い身体を一刀両断していた。
 べちゃりと湿った音をたてて、改造兵の亡骸が床の上に崩れ落ちる。
「やれやれ、厄介な相手だった。これじゃ、『素材』とやらも……もし改造済みだったなら、撃ち殺すしかねぇかもな。全く、人も敵もねぇ」
「そう……ですわね」
 傷口を押さえながらレイがぼやくと、エリシャも浮かぬ顔のまま答えた。
「強い兵士を作りたいのであれば、兵士だけを使えばいいでしょう。わざわざ女性を使うなんて、悪趣味以外の何ものでもありませんわ」
「ああ、同感だよ。なんの目的があるんだか知らねえが……いや、知りたくもねぇ」
 二人は怪我の手当を簡単に済ますと、次の戦場へと向かう。
 レイは立ち去り際に、「南無三」と小さな呟きを少女たちに残していった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

鹿忍・由紀
改造兵士かぁ
厄介そうではあるけど、逃げ回るだけよりやりやすいね
今度は此方から手を出しても良いんだし

相手が改造兵士なら元々の被害者という躊躇いも感傷も一切なく
どうせ助けられないんだからね

窓際には出来るだけ立たないようにして潜入
人の軍勢に邪魔されたらたまらないからね
逆に敵を見晴らしの良い窓際に誘導してやればついでに狙ってもらえるかな

音と気配で敵の動きを確認
銃の射程範囲に入り込まないように気を付ける
可能なら敵を窓際まで引きつけて物陰へと身を隠す
無理そうなら物陰から出ずに攻撃タイミングを見計らおう
銃に警戒して身を隠せる陰から影雨を撃ち込む
正々堂々と撃ち合う必要はないからね
殺し合いに卑怯も何もないでしょ


葦野・詞波
何処の世界でも下衆の考える事は
似たり寄ったりか。

何時だったか、死でしか救いを
与えられないのなら、とは言ったのは。
こうも重なるともっと早くに
手が届いていれば――とも
僅かにだが、思わなくもないな

いや――迷っていれば蜂の巣だ
死を理解する間もないままに
送ってやるとしよう
起こってしまった事は変える事は出来ないが
これからは防ぐことも出来る

【先制攻撃】を生かし
銃撃を【見切り】で避けるか
【武器受け】で防ぎながら敵に迫り
乱戦に持ち込む
強力な銃といえど乱戦では扱い難いだろう
銃剣やナイフで槍に挑むなら止めはしないが

乱戦に持ち込んだなら
頭巾を脱いだ状態の【貪狼】の
一撃で一人ずつ屠る
銃弾よりも捷いぞ、今の私はな




「改造兵士かぁ」
「何処の世界でも下衆の考える事は、似たり寄ったりか」
 廊下の影に身を隠しながら索敵を進めていた鹿忍・由紀(余計者・f05760)と葦野・詞波(赤頭巾・f09892)は、視界に捉えた敵の姿に各々の感想を抱く。
 厄介な相手だと由紀は思う。だが、うかつに手出しすることも叶わず、ただひたすら逃げ回るだけの戦場より、己の手で切り開くことの出来る戦場のほうがよほどやりやすい。
 改造兵を観察する詞波の表情は険しい。いつかの戦場で、死を以ってしか救いを与えられない存在と出会った。今再び同じような敵と相見えたことに、彼女はほぞを噛む。もっと早くこの槍を振るう機を与えられていたならば、なにかが変わっただろうか。
 槍を構えた詞波は、由紀に援護を託すと、廊下の影から飛び出した。
 膝が地に触れなんばかりに体勢を低く保ち、構えた槍の穂先で空を切り裂きながら駆ける様は、獲物に襲いかかる狼そのものだ。
 疾駆する赤い影に改造兵らが気がついた。機関銃が火を吹き、詞波に襲いかかる。
 しかし、敵の視線と銃口の向きを見極めていた詞波は、攻撃を予知していたかのように射線から外れてみせる。床のモザイクタイルが銃弾で吹き飛ばされていくなか、跳躍した彼女の槍が次々と改造兵の胸を、首筋を貫いていく。
 廊下の奥にはまだ改造兵が残っていた。詞波の得物が槍のみと見抜いた改造兵らは堂々と身を晒したまま、一斉射撃を放ってきた。
 ――思うところはある。だが、迷わない。躊躇すれば蜂の巣だ。
 地を転がりながら斉射をかわした詞波は、槍を投げつける。それは膝射の兵の首筋を断ち切り、その後ろで立射する兵の腹に突き立った。
 怯んだ改造兵らの合間に突っ込み槍を回収した詞波は、身を捻って槍を払い、残りの兵らを切り伏せる。周囲に残る敵は、ただ一人もいない。
「すごいね。援護する暇もなかった」
 血溜まりのなかで倒れた改造兵らを、何の感傷も抱いていないターコイズブルーの瞳で見やる由紀。彼の言葉に、「止まれば殺されていた……必死だっただけだ」と息も切らした様子もなく詞波は答えた。
 いまの騒ぎを聞きつけて、他の改造兵が近づいてくる気配があった。遠くから砲撃の音が響き始める。人の軍勢との戦闘も再開されたようだ。
 詞波と由紀が通り抜けた廊下の先は、ドーム屋根と塔が立ち並ぶ区画だ。この区画で改造兵らは対外戦闘を繰り広げているらしい。
 建物の間を繋ぐ渡り廊下の手前に身を隠した由紀は、敵が接近してくるのを待つ。
「暗殺するだけじゃ倒しきれない。かと言って正々堂々と撃ち合う必要もないからね」
 現在地は学校施設の外周に位置し、渡り廊下の大きな窓は外部からも丸見えだ。そのまま通れば人影はすぐに見つかり、狙撃や砲撃の格好の餌食となる。
 ――そうだろう。そのまま身も隠さず素通りするとは、思ってないよ。
 渡り廊下を身を伏せて渡ってくる改造兵団の姿を確認した由紀は、己の影に手をつけて魔力を注ぎ込む。すると、影の中から無数のナイフが生み出された。
 ナイフの刃は外から差し込む月明かりや閃光をよく照らし――夜闇の向こうまでその存在を知ら示す。
「さよなら」
 由紀はそう呟くと、ナイフの群れを渡り廊下と奥の塔のなかで翻した。
 光が瞬く。それに気がついた改造兵らの目が見開かれた。退避しようと反転するが、もう遅い。
 凄まじい轟音と共に、砲撃に晒された渡り廊下と塔が改造兵ら諸共一瞬で吹き飛ばされた。巻き起こる爆風と震動は、後方に避難していた由紀と詞波の身体をも揺さぶる。
 舞い上がる灰塵を頭巾の裾で口元を覆って防いだ詞波は、崩落した渡り廊下の下を覗き込んだ。瓦礫に紛れて、改造兵らの亡骸が散らばっているのが見える。
「まったく、やることがえげつない」
「卑怯と言われたらそれまでだけど、殺し合いだからね」
 悪びれもせず言ってのける由紀。
 直後、渡り廊下の向こう、ドーム屋根の建物から強烈な火砲が地上目掛けて放たれたのが見えた。
 報復なのだろう。それは街灯一つ灯っていない闇に包まれた市街地を切り裂いて、遥か遠くで幾つもの爆炎を立ち昇らせる。
「まだ、対人チームが残っているようだな。彼女たちも残らず倒さねばなるまい」
「向こうに別の渡り廊下が見える。そこから侵入しよう」
 二人はその場を離れ、ドーム屋根の建物へと向かう。
 元は礼拝堂と思しきそこは、今は半ば要塞化された防衛施設だった。長い螺旋階段を登り、最上階に到達すると、対人戦を担う十名ほどの改造兵らと遭遇した。
「一気に片をつけて、送ってやるとしよう……死を理解する間もないままに」
 詞波は槍を構え、縮地が如く勢いでドーム内に雪崩込む。
 改造兵らが襲撃者の姿に気がついた時には、最初の一人を詞波は仕留めていた。
 このチームの改造兵らの装備は対物ライフルやロケットランチャーなど、とても近接戦に向いたものではない。取り回しに難がある隙を突いて、由紀は再び影より生みだした刃の雨を巻き起こす。
「貫け」
 それは由紀の命令通り、今まさに散弾銃や短機関銃に持ち直した改造兵らの急所を躊躇なく射抜いていく。
 改造兵らの頸動脈から吹き上がる赤い血潮と共に、詞波の赤い頭巾が宙に翻った。戒めを解いた彼女の俊敏は、改造を施された強化兵の反応速度を遥かに凌駕する。
 怪力頼みで重機関銃を構えた改造兵の懐に、詞波は踏み込んでいた。一度も引き金を引かせぬまま改造兵を倒すと、振り抜いた穂先で、迫り来る別の銃弾を目視した上で弾き落とす。吹き荒れる血飛沫が床を濡らすよりも先に、彼女の槍は改造兵たちの命を刈り取っていた。
 最後に残された改造兵が、ロケットランチャーを構えた。死なば諸共と言うのか、その銃口は部屋の隅に置かれていた爆薬類のケースに向けられる。
「……」
 由紀は咄嗟に駆け出していた。逆手に構えたナイフを切り上げて、改造兵の指を丸ごと削ぎ落とす。驚愕する彼女の瞳を見つめ返しながら、由紀は腕を振り下ろしてこめかみ深くに刃を潜り込ませた。
 重い音をたてて、改造兵とロケットランチャーが床に転がる。
 戦いが終結したことを確かめた詞波が、槍の構えを解いて息を吐く。辺り一面、血の海だ。
「ひどいもんだ。けれど、どうせ助けられなかった。飲み込むしかない」
 刃の曇りを払った由紀がそう呟くと、詞波もまた槍の血糊を拭いながら答える。
「ああ……起こってしまった事を変える事は出来ない。だが……これから起きることは、防ぐことも出来る」
 それを求めることは、決して甘い考えなどではないはずだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

喜羽・紗羅
アドリブ可

(何なのアレ――女の子の、軍隊?)
みてぇだな。重武装で学校という名の要塞に籠城戦たあ趣味が悪い
(助けられないのかな……。)
話聞いてたか? もうアイツらは人じゃねえ
だったらせめて一思いにやってやるべきだ
(…………)
チッ

あれ……。どうして、出てくるの?
『刀ぁ寄越せ。テメェはそこから鉄砲撃ってろ』

二手に分かれて
私は偽装バッグから援護射撃
200mくらい離れて地形を使い隠れながらね
こっちに意識を向けさせて――やっぱり怖い!
危なくなったら榴弾で機関銃を狙うよ!

俺は奴らにこっそり近付いて斬るぜ
援護に気を取られてる隙に飛び掛かる
一つ目で銃を落とし
二つ目で首を撥ねてやらぁ
勇気があれば何でも出来るってな


花剣・耀子
小細工がないなら良いわ。
あたしの仕事は、道を開けること。
――ええ。
まずは、オブリビオンを斃しにゆきましょう。

なるべく崩落した壁や教室なんかで遮蔽を取るけれど、
そうも言っていられない位置関係なら、構わず打って出るとするわ。
今更傷のひとつやふたつ、増えたところで大差ない。
致命傷にならなければ捨て置きましょう。
それよりは、目の前の“敵”を優先。

狙いがあたしに絞られるなら、それごと斬り払う。
瓦礫と、銃弾と、女学生と。
征く道を阻むすべてを斬り果たしましょう。

……ねえ。もう言葉も、忘れてしまったかしら。
ヒトとして終わらせてあげたかったけれど。
そうできなかったのだから、もう仕方が無い。
先にいってらっしゃい。




 女学校内に侵攻した猟兵達は、ほぼ全ての改造兵を撃破していた。残されたチームはただ一つ。校舎外より迫る人の軍勢との戦闘を担っていた兵団である。
 そこは猟兵たちの侵入口から最も奥まった場所、学舎本館のエントランスホールに展開していた。対人戦ではなく、索敵でもなく、猟兵に対する迎撃態勢を整えている。奇をてらった戦術は通用しそうにない。
「あ、あれ……どうして、出てくるの?」
 喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)は、もうひとりの人格が突然分身体に分かれて、肉体の主導権を返されたことに戸惑いの声をあげた。
「刀ぁ寄越せ。テメェはそこから鉄砲撃ってろ。俺と耀子だけじゃ骨が折れる仕事になりそうだからな」
「ここから遮蔽物まで、剣士だけで突破するのは難しいからね……見て、紗羅ちゃん」
 花剣・耀子(Tempest・f12822)は、潜伏している廊下の奥を指差す。エントランスホール二階の踊り場では数名の改造兵が警備にあたっている。だが耀子が指し示しているのはその先、僅かに見えるホール一階の光景だ。
 紗羅と耀子と同い年ほどの女学生が、武装して周辺警戒にあたっている。小火器だけではなく、明らかに装甲車やヘリコプターを相手にするような機関砲までもが、建物内部に向けて配置されていた。
「女の子の、軍隊? ……助けてあげることは――」
「言っとくが、助けられねえ。もうアイツらは人じゃねえ」
 分身の鬼婆娑羅が紗羅の言葉を遮ると、耀子もまた、神妙な面持ちで頷いた。
「相手はオブリビオン。斃すしかない、斃さねばならない相手よ。覚悟をきめましょう。ここで座って相談している暇はないわ」
「そういうこった。もう一度言う。鉄砲持って、後ろから撃て。出来るな?」
 身を低くしたまま立ち上がった耀子が剣の柄に手をかけると、鬼婆娑羅は紗羅の手に偽装バッグを押し付けて言い含める。紗羅は、顔を強張らせて二人の顔を見比べたあと、小さく頷きを返した。

 ――仲間が倒した兵員から逆算して、敵の数はおおよそ三十名。小細工がないのが幸いだけれど、道を切り開くのは難儀をしそうだわ。
 けれど、それがあたしの仕事。
 耀子は深く緩やかに息をついて、その瞬間を待つ。
 最初に動いたのは紗羅だった。スクールバッグに偽装されたアサルトウェポンを構えると、二階踊り場を警備している機関銃手を擲弾で吹き飛ばす。それを合図に、三人は一気にエントランスホールに突入した。
 二階踊り場には、他に四名の改造兵が銃を持って待ち構えていた。鬼婆娑羅はさらに加速して距離を詰めていくと、手近にいた改造兵の一人を瞬時に切り伏せる。
 半円形のエントランスホールは、二階の踊り場から左右の壁面に沿うように下り階段が設えられていた。階段を下ってから正面玄関までは、ちょっとしたパーティが開けるほどの広間があり、そこに掩体や機関砲が設置されている。
 鬼婆娑羅とは逆の階段前にいる二人の改造兵を耀子は相手取る。向けられた銃口から咄嗟に横飛びして銃撃から逃れれば、そのあまりの速度に改造兵の網膜に耀子の残像が焼き付いたようだ。
 改造兵の狙いに迷いが生じた。そこを、耀子は切り込む。一刀で一殺し、無傷のまま二階を制圧する。
 悠長に階段を降りていれば、いい的だ。耀子と鬼婆娑羅は視線を交わすなり、手摺を乗り越えて直接ホール一階に降り立った。
 直後、二人が飛び降りた石造りの手摺が機関砲によって粉々に砕け散る。
 二階に位置取って牽制射撃に当たる紗羅の顔から血の気が引いた。
 ――やっぱり、怖い……!!
 しかし、今さら引っ込むわけにはいかない。紗羅は偽装バッグのライフルから援護射撃を試みる。
 機関砲手が土嚢の影に隠れて、射撃から身を防いだのを確かめた鬼婆娑羅は、柱の陰から飛び出して反撃に打って出た。
 前方には機関砲の他に、数名の改造兵が遮蔽物に身を隠して展開している。そこから叩き込まれる機関銃掃射をフェイントを混ぜた体捌きで避けると、鬼婆娑羅は改造兵に肉薄した。
 ――助けられないなら、せめて一思いにやってやるべきだ。
 そう決意していた彼は、改造兵の機関銃を叩き落とすと、迷わず首を刎ね飛ばす。吹き上がる血飛沫のなか、鬼婆娑羅は返す刀で機関砲手を叩き切った。
 その傍らを耀子は駆け抜けていた。改造兵はまだ半数以上が残っている。一度立ち止まれば、もう二度と遮蔽物から身を乗り出すことはできなくなるだろう。
 視覚内から放たれる散弾銃や機関銃程度なら、耀子は避けるまでもない。構えた剣が纏う力は、何より頼もしい盾となる。白刃を払えば衝撃波が巻き起こり、土嚢の影に隠れた敵ごと襲いかかる銃弾を叩き落していく。
 一人斬り、二人斬り、三人目は心の臓を貫いた。耀子は目の前に立ち塞がるあらゆるものを斬り伏せ、斬り崩し、征く道を刃一つで斬り開いていく。
 耳を劈く炸裂音が響き、エントランスホールの向こうから二発のロケット弾が飛来した。「っは」と、耀子は笑った。少し、賭けになりそうだ。
 耀子の花嵐は見えざる刃となりて、宙を疾走った。
 空中でロケット弾が爆発する。咄嗟に地面に転がり、柱の影に身を寄せて爆風を逃れた耀子だが、破片の全てから逃れることは叶わなかった。
「……構わない、これしき……今さら傷のひとつやふたつ、増えたところで大差ない……!」
 幸い、四肢ごと吹き飛ばされずに済んだ。失ったのは末端だけだ。耀子はすかさず立ち上がり、鬼婆娑羅と共に進撃していく。
 二階から下りてきた紗羅は、残された機関砲に取り付いた。扱い慣れない武器だが、躊躇している場合ではない。
 キッと表情を引き締めた紗羅は、最奥でロケットランチャーを構える改造兵目掛け、トリガーを引く。
 落雷もかくやという轟音と共に、目の前の強固なバリケードが木っ端微塵に吹き飛ぶ。その様を見た鬼婆娑羅は、ここにきて初めて後ろを振り返った。そして、口の端をニヤリと上げてみせる。
 ――勇気があれば何でも出来るってな。アイツも、わかってきたじゃねえか。
 残りの敵は、わずかだ。標準装備の機関銃と散弾銃しか持たない相手は、もはや耀子にとっても鬼婆娑羅にとっても敵ではなかった。
 投降も命乞いもして来ないのは、いっそ幸いだったと言えようか。改造兵は、ただただ目の前の猟兵を殺す以外の選択肢を持たないようだ。
 最後まで抵抗を続けていた改造兵の心臓を突いた耀子は、仰向けに倒れた少女に静かに言葉をかける。
「……ねえ。もう言葉も、忘れてしまったかしら」
 少女は口から血を吐きながら、耀子のことを見上げた。
 そして、「忘れていたら、作戦命令を理解できないだろう」という一言だけを残して息絶えた。
「本当に、もう人間じゃなかったのかな……?」
 遅れてやって来た紗羅が恐る恐る尋ねると、耀子は少女の瞼を閉ざしてやりながら小さくかぶりを振った。
「ええ、もう人間じゃなかった。せめてヒトとして終わらせてあげたかったけれど。そうすることが出来なかったくらい。確かに彼女たちは、もう……人間ではなかった」
「……」
 押し黙る紗羅から目をそらした鬼婆娑羅は、自分だけに聞こえる細やかな音で、舌打ちをする。それは一体、何に向けられた舌打ちだったのか。激戦を乗り越えた今、彼自身にも判断がつかなかった。
 エントランスホールの二階踊り場に、他の部隊との戦いを終えた猟兵たちが集まってきていた。
 ――先にいってらっしゃい。
 最後の改造兵の一人に、耀子は心のなかで告げると、踵を返した。
 三人は仲間と合流すべく、駆け抜けた戦場を戻っていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『ユゴスよりの来訪者』

POW   :    素晴ラシイ性能だァ
全身を【人間の『加工品』】で覆い、自身が敵から受けた【自身の知的好奇心】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
SPD   :    ZAP!ZAP!ZAP!
【光線銃】が命中した対象を燃やす。放たれた【プラズマ】炎は、延焼分も含め自身が任意に消去可能。
WIZ   :    解剖カいシィぃ!!
【メス】が命中した対象を切断する。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​


 エントランスホールの一階正面から大回廊を抜けると、教室棟に辿り着いた。改造兵団はすべて猟兵たちの手によって殲滅され、辺りは先までの激しい戦いが嘘のように静まり返っている。外に展開していた人間の軍隊は、攻撃を中断して撤退したらしい。
 静寂が夜の校舎を支配する。だが、その静謐な空気は校舎の奥に進むほど、錆びた鉄のような匂いで穢されていく。
 猟兵たちは廊下の両脇に並ぶ教室群のなかに、数多の悍ましき光景を見た。
 ある者はその光景を人間屠殺場と呼ぶだろうし、ある者は人体実験場と呼ぶだろう。或いは、神聖な供物を捧げる儀式場と呼ぶ者もいるかもしれない。
 共通することは、皆頭蓋を取り除かれて脳を摘出されているか、なんらかの外科処置を施されているという点だ。中には人間にはない奇怪な器官を接合されている者もいる。驚くべきことに、彼女たち、或いは彼らは皆、そんな状態にも関わらず未だに生命活動を維持しているのだ。

『……チーム・バリスからの応答無し。全部隊の全滅と判断する』
『……猟兵部隊の接近を確認。距離二〇メートル。戦闘は不可避』
『……HQはこれより活動を停止し、"彼"の元で迎撃態勢に移行する』
『……』

 猟兵たちが辿り着いたのは、予知で語られた通りに数多の人間が天井から吊るされた大教室だった。
 教室の奥には、得体の知れない生体装置に繋がれた円筒状の缶が並べられており、その前には、くすんだ色彩の外骨格を持つ異形の者が佇んでいた。
 何者なのか、尋ねるまでもない。この異形こそがオブリビオンだ。
 女学校を学生ごと征服し、紛争に携わる兵士らを拉致し、狂気の改造実験を繰り返してきた存在。
 "来訪者"と呼称されるそのオブリビオンは、ばくりと開いた胸郭の内側に、手にした缶を呑み込んでいく。缶に備え付けられた複数のジョイントに体内の管が挿入されると、外骨格の胸郭が閉ざされた。
 まるで目覚めの背筋伸ばしのように身体を捻った"来訪者"は、首筋を手でさすって喉の調子を確かめながら口を開いた。
『素晴らしい戦いぶりだ。まさか、たった十人程度の戦力で此処までたどり着けるとは思っていなかった。実に興味深い』
 発せられた言葉は、その見た目とは裏腹に年若い娘の声をしていた。
 剣呑な牙を剥いて笑った来訪者は、生体装置の中からおもむろに何らかの部品を取り出して、それを顔面と胴体に装着していく。
 それが来訪者の身体にフィットするよう、歪に変形させられた人体の加工品だと気がつくまでに、猟兵たちはしばしの時間を要した。
 ヒトの面影を身に着けながら、しかし決してヒト足り得ない異形を持つ来訪者は、有機的な形状をした銃器を手にして、今再び猟兵たちを睥睨する。
『君たちの脳を改造すれば、もっと優秀な兵士が生み出せるに違いない……ああ、楽しみじゃないか』
 来訪者はそう言って、猟兵たちに銃口を向けた。

==========================

・道中、及び教室内に吊るされた素材の人々を助けることは出来ません。
 プレイングで指定がない限り、素材が戦闘に支障をきたすことはありません。

・改造兵や人間の軍隊の襲撃はありません。
 この章で敵対するのはボスのオブリビオンのみとなります。

・第三章のプレイング受付開始は、5月9日(木)午前9時以降とさせて頂きます。
 以上、なにとぞよろしくお願い申し上げます。
喜羽・紗羅
アドリブ可

(何……。何なの、あれ)
戻っといて良かったな。もういい、寝てろ
(良くないよ――どうしてこんな事!)
時々いるんだ、自分がこの世で一番偉いって勘違いする阿呆がな
そういうやつを成敗してやんのが俺らの勤めって奴さね

――さてそこの薄ら禿、テメェだよ
クソ下らねえ戦争ごっこに医者の真似事か
このド阿呆め、仕置きが必要だ
覚悟しろコノヤロウ

勇気を奮い神霊体の鎧を全身に装着
身体能力の全てを使い対抗
太刀を変形させなぎなたの衝撃波で牽制し
射程外から敵の戦法を情報収集する
狙いはメスを水平に突いてくる時
癖を覚えたらフェイントで誘発して
突いてきた所でメスを叩き落とし
二段目の攻撃で厚い皮膚の隙間に切っ先を入れて斬る!


ザハール・ルゥナー
まだ動けるならば、真の姿(ほぼ元のまま欠損部分だけ刃のような手足)で向かう。

彼女たちを憐れみ戦うのは傲慢だろうか。
このような姿でも生きたいのではないか。
……ゆえに淡々と命を摘む。

今の私は四肢含めての武器。
腕を失うならば口で武器を取り。
獣のごとく、戦う手段を失うまで駆けよう。

既に死に体だが、更なる窮地とあらば亡霊を呼ぶ。
覚えはないが妙に彼らの動きが理解できる。連携し、攻める。

最後に誰かが勝てば構わぬ。
皆が確信へ撃ち込むため、露払いを引き受けよう。

私は魂の顕現にすぎない。
逆に……生きたまま改造され、兵器とされる心情は理解できぬ。
だが、不自然に歪められたものは還そう。

少しでも多く。その皮を、剥ごう。


花剣・耀子
未だヒトのかたちをしているものからは意識を外して、敵を見るように。
あそこのヒトたちに、いま、あたしができることはない。
剣は取り落とさないよう、包帯で手と括り付けておきましょう。
あたしができることは。目の前のアレを斬ることだけよ。

興味深い。楽しみ。
そう、……おまえ、ここから先があるとでも思っているの。

傷口よりも胸の裡が熱い。
怒りは刃に。
斬り果たすわ。

ヒトを鎧うなら、その部品を切り離していきましょう。
おまえが身に付けて良いものじゃない。
それがヒトなら、ヒトの理で斬れるわ。
生命力を吸われる量よりも、速く多く斬れば良いのよ。
斃れる前に殺しきる。

その声も借り物かしら。
ねえ、首を落としたら止まってくれる?


ジル・クラレット
…悪趣味ね
反吐が出るわ
こういう相手に作法は不要
とっとと倒すまでよ

皆が心置きなく闘えるよう
闘いに支障が出ている仲間へ【シンフォニック・キュア】
皆不要なら【血戦狂詩曲】
仲間の動きをよく見て最適なタイミングで発動

継ぎ接ぎだらけの敵には到底真似できやしない
連携と共鳴をみせてあげる

敵の動きは注視し、攻撃は【第六感】も併用して極力躱すか受け流す
敵の攻撃が激しければ【薔薇籠】で足止めを

誰かのパーツを取り込んで喜んでいる
まるで愚かな一人芝居ね
それももう見飽きたから、そろそろ幕引きにしましょう?

戦闘後、可能なら被害者の亡骸を弔いたい
捧ぐのは黙祷と鎮魂歌
そうね、これは気休め
だからこそ今は、私の気の済むまで歌わせて




 人体の中身が発するあらゆる臭気に満ちた教室のなか、口元を袖で抑えた喜羽・紗羅(伐折羅の鬼・f17665)は、慟哭する。
 ――何……。何なの、あれ。
「もういい、寝てろ」
 肉体の支配権を握った鬼婆娑羅が元の人格である紗羅を嗜める。だが、紗羅はなおも食って掛かった。
 ――良くないよ――どうしてこんな事!
「時々いるんだ、自分がこの世で一番偉いって勘違いする阿呆がな。いいから、お前は寝ていろ、あとは俺たちがなんとかする」
 鬼婆娑羅である紗羅はそう言って元人格を封じ込めると、太刀を鞘走らせる。ゆっくりとした足取りで迫り来るオブリビオン……この存在を成敗するのが己が務めと紗羅は確信する。
 彼我の間合いが徐々に狭まっていく。
 濃度を増していく緊迫感のなか、真っ先に動いたのは、ザハール・ルゥナー(赫月・f14896)だ。数多の戦闘の果てに酷い大怪我を負った彼は、欠けた肉体を刃の四肢で繕い、秘めたる力を解放することで再び戦場に舞い戻った。
 今さら恐れることなど何もない。仲間が敵を葬る一手を叩き込んでくれるならばそれでいい。ザハールはナイフを片手に突き進み、危険な露払いの役目を担う。
 放たれた光線をすんでのところでかわすと、血と脂で汚れた教室を駆け抜けて、一息で来訪者に肉薄する。
 一言もかける言葉はない。白刃を薄闇に閃かせて、ザハールは来訪者の硬い外骨格を切り裂いた。
 花剣・耀子(Tempest・f12822)はその視線を努めて来訪者だけに向けていた。
 いま、居並ぶ犠牲者たちにしてやれることは何一つとしてない。ならば目の前の敵に意識を集中させることが一番だろう。
 ザハールとは反対側から来訪者に迫る耀子は、手にした剣を強く握りしめた。激戦が予想された。汗や血で得物を取り落とさぬよう、彼女は包帯でしっかりと柄を手に括り付けている。
 ――あたしができることは。目の前のアレを斬ることだけよ。
 来訪者の意識がこちらに向く前に、耀子は間合いの内に敵を捉えていた。特別なことをする必要はない。ただ、研鑽を積んできた剣技を振るうだけでいい。それだけで、来訪者の肉体に裂傷を負わせるに至る。
『ハハハハ、強いな君たちは』
 接近戦を挑む猟兵たちから間合いを取りながら、来訪者は笑った。接近した猟兵らは、そこで気がついた。どうやら来訪者は外装だけではなく、肉体のあちこちを人体を加工した器官で改造しているらしい。女性の声をしているのも、それが原因なのだろう。
「……悪趣味ね」
 ただただ、反吐が出る。ジル・クラレット(遠影・f07897)は柳眉を寄せて来訪者を睨みつけた。
 礼節や矜持を持つ相手であれば、相応の態度を以って相対するところだ。しかし、命を弄ぶことに何ら罪の意識を覚えぬ相手であればそれも不要だろう。
 とっとと倒すまでだ。ジルは戦意を掻き立てる勇壮な歌を紡いでいく。それは戦場の隅々にまで響き渡り、戦に臨む猟兵たち全ての心身を奮い立たせていく。
 さらに動きの俊敏性を増した猟兵たちの猛攻に、余裕ぶった来訪者の表情がかすかに強張る。
 これこそが人の強み。猟兵の強み。
 ――継ぎ接ぎだらけのあなたには、到底真似できやしない。
 ジルの歌の力によって湧き立つ勇気が、紗羅に変化をもたらす。舞うように軽やかに床を跳んでみせれば、その身を堅牢な甲冑が覆っていく。
「さてそこの薄ら禿、テメェだよ……クソ下らねえ戦争ごっこに医者の真似事か」
 険しい視線で相手を睨みつけながら、紗羅は来訪者を挑発するように悪態をつく。ともすれば怒りに燃えているかのように見えるが、その実、彼女は冷静に敵の出方を伺っていた。
 不愉快げに放たれた来訪者の光線を衝撃波で相殺した紗羅は、敵の攻撃パターンを一つ一つ仲間たちの目の前に曝け出させていく。
 思うように攻撃が通らない苛立ちが、来訪者の姿から見え始めた。同時に、こちらの攻撃もまた決定的な痛打となっていないことをザハールの目は見抜いていた。
 ――蛮勇は無用。しかし勇猛なくして突破口は開けないか……。
 ザハールは、ちらりと"素材"を見遣った。彼女らがこんな姿になっても生きたいと願っていたとしたら……来訪者を滅ぼすことは、罪と言えようか。いや、そう躊躇することこそが、力ある者の傲慢だろうか。
 答えは出ない。ならば、と。ザハールは来訪者の懐に飛び込んでいく。今はただ、淡々と命を摘んでいく。すべきことは、それだけだ。
 外骨格ごと、歪んだ人体パーツの一部が来訪者の肉体から切り落とされた。
 痛覚を共有しているらしく、来訪者の細い呻きが木霊する。敵の腕から直接生えた鋭利なメスが滅茶苦茶に振り回されて、接近戦を挑んでいた猟兵たちの身を切り刻んでいく。
 辺りに飛び散る鮮血を目にしたジルは、次の手立てを僅かな時間で選択することを迫られる。来訪者の攻撃は近づくほど威力を増し、そして仲間の多くは接近戦を得意とする者たちだ。
 ――いま攻撃の流れを崩すわけには、いかないわね。
 ジルは白魚の指を流して、薔薇の蔦を来訪者目掛けて放っていく。仲間の怪我は決して浅くはないが、一度守りに入れば敵のペースに巻き込まれてしまいそうだ。
 似合わない仮装をして一人芝居を打つ愚か者。ジルの目には、来訪者の姿がそう映る。幾つかの蔦は切り落とされたが、想定内だ。薔薇は確実に来訪者の"芝居"を鈍らせていた。
「興味深い、楽しみ――そう、言っていたわね」
 負った裂傷から溢れる血で身体を赤く染めながら、耀子が凍える声音で囁きかけると、拘束された来訪者の瞳が彼女を睨みつけた。
『ああ、言った。そしてますますそれは強まった』
 同等に険しい視線で応えた耀子の剣が大気ごと来訪者の外骨格を切り裂く。
 溢れる血の色が赤いのは、果たして元からの血色なのか、それとも血液までも少女らのものと入れ替えたのか。耀子の胸の裡に息苦しいほどの熱が籠もる。怒りの、熱が。
「……おまえ、ここから先があるとでも思っているの」
 拘束を逃れた来訪者の一手を剣で防いだ耀子の問いに、敵はただ不敵に笑うだけだ。
 彼の者の面を覆った人の頭部を、はやく剥がさねばなるまい。ザハールはそう断ずる。再び開いた傷口に応急措置を施した男は、生身の手を床につけて、閉ざした瞼の裏側に古い記憶を映していく。
 現れたものは、誰にも見覚えの無き兵士らだ。彼らはザハールの行動に合わせて即座に展開すると、追撃に移らんとしていた来訪者に牽制射撃を叩き込む。
「……ゆこう。不自然に歪められたもの達を還そう。あれが纏ったものも含めて」
 上手く使えぬ腕の代わりに口にナイフを咥えたザハールは、機兵らの援護のなかを駆けていく。
 人として産まれ、兵器として改造された者の心をザハールは理解できない。その資格があるのかどうか、きっと答えを見つけ出すまでに長い時がかかるだろう。
 けれど、今はただシンプルな一つの答えが目の前にある。
 刃の義肢が、射撃に狼狽えた来訪者の外殻を貫いた。ザハールがそのまま首を振るえば、咥えたナイフの刃が敵の片眼を切り裂いてみせた。
『……ッ!!』
 痛手に後ずさる来訪者。牽制射撃を巧みに利用して来訪者に肉薄していた紗羅が、薙刀へと変形した太刀を大きく振りかぶった。
「このド阿呆め、仕置きが必要だ……覚悟しろコノヤロウ」
 白いリボンの映える黒髪を翻し、紗羅は愛らしい顔には似合わないセリフを言い放つ。だが、そんな彼女の動きを来訪者は爛々と光る片眼で捉えていた。
 見た目以上に伸びる来訪者の前腕が、紗羅の腹部を裂かんと迫る。口端が醜く釣り上がった。上手く隙を見せて引っ掛けてやった――そう、思ったのだろう。
「甘ぇんだよ」
 金属同士がぶつかりあう重く甲高い音が響く。
 敵の騙し討ちなど、よく行動を観察していた紗羅には手に取るようにわかっていた。攻撃を防いだ柄を回して来訪者の腕を打ち払うと、紗羅は裂帛の気合と共に上段より穂先を振り下ろす。
 刃は来訪者の外装ごと外骨格を剥ぎ取り、湿った音と共に床に弾き飛ばした。
 ぬめった床の上を勢いよく滑っていくパーツを横目で追ったジルの表情は、猟兵が攻勢に入っている今でも決して明るくはない。
 まだ幕引きまでには遠い。この陰惨な光景から目を背けることができるのは、まだ先なのだから。
 直後、狙いも定めず牽制のために放たれた来訪者の光線銃が、教室を炎上させた。猟兵たちの何人かが炎に巻かれ、そして、吊るされた"素材"も炎で焼かれていく。
「……!」
 ジルは胸の奥から呻き声を漏らした。生物が焼かれる異臭が立ち込める。彼女は放とうとしていた手立てを中断し、咄嗟に清廉な救いを齎す歌声を響かせた。
 戦いが終われば、犠牲となった者たちの亡骸を弔いたいと願っていた。例えそれが死者にとって唯の気休めに過ぎなくとも。
 けれど、今はその歌は歌えない。求められるものは、この地獄から這い出るための慰撫の歌のみ。
 ――必ず、あなたたちのことは私が見送る。だから今は、どうか――。
 炎が弾ける音に混じり、響く歌声。
 焼け爛れた身体が癒えていく様を認めた耀子は、床を踏みしめて立ち上がる。
 耀子は見た。生体装置の触腕が伸びて、来訪者に新たな人体パーツを装着させる様を。少女らの肉体を戯れに歪めて作られた、畸形じみた肉人形の姿を。
 奥歯を噛み締めた耀子は一直線に来訪者へと迫ると、下段に構えた剣を切り上げた。
「それは……おまえが身に付けて良いものじゃない」
『ならば代わりに君の身体をくれ』
 一太刀の代わりに、一太刀を喰らう。血と共に生命を吸われる確かな感覚があった。耀子は痛苦に脂汗を浮かべながらも、構わず剣を振り抜いて装備を剥がし、果敢に踏み込んで刃を翻した。
 ――それがヒトなら、ヒトの理で斬れるわ。何も与えない。奪えば奪い返してやる。
「斃れる前に、殺し斬る……っ」
 互いの血で互いを汚しあいながら、耀子の剣の切っ先が来訪者の喉笛を裂く。
 ひゅうひゅうと空気が漏れる音をこぼしながら、来訪者は後退った。
 その減らず口は、さあ、さて、止まるだろうか。
 耀子は鋭く剣を突きつけながら、青い瞳で敵を睨みつける。
「必ず、斬り果たしてみせるわ」

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

鹿忍・由紀
平和なイメージがある場所での死体は生々しく見えるもんだね
声帯が移植出来るのはどういう仕組みなんだろ
なんて、大して興味があるわけでもなさそうに淡々と

まずは敵の観察
こちらに注意が向いてないタイミングを見計らう
あの銃、撃った後の炎が邪魔だな
出来るだけ撃たせないようにしたいとこ
絶影での高速移動と見切りで敵の攻撃を回避しながら肉薄
フェイントかけて光線銃を武器落とし
その隙に早業と二回攻撃で傷口をえぐってやる
その趣味の悪い加工品を削り落としてあげるよ

危険は第六感、逃げ足で回避
戦いやすい距離感を保つ

そんなに知的好奇心があるならたまには解剖される気持ちも味わってみると良い
どう、普段とは違う立場は新鮮?


トリテレイア・ゼロナイン
この紛争地域は十分以上に地獄です
貴方の実験で生まれる犠牲は必要ありません。火事場泥棒のような研究は即刻終了して頂きます

光線銃を脚部スラスターを点火しての●スライディングで躱しながら、接近戦
加工品を纏っている状態の敵の攻撃は激しいでしょうね。防御と回避を重視し、●盾受けと●武器受けを駆使して生命力が吸収されないよう立ち回り
近接攻撃しかないと印象づけ相手が油断した隙を●見切り腕部格納銃器のUCでの●だまし討ち
加工品は有機物、良く燃えるでしょう。そのままワイヤーアンカーで捕縛、●ロープワークと●怪力で天井に吊るし格納銃器で追撃

犠牲者の遺体は家族の元に帰ることなく隠蔽処理されるのが口惜しいですね…


葦野・詞波
人間を弄ぶ輩はどの世界でもいるが。
共通しているのは悪趣味だな。

憤りよりも、及ばなかった無力さよりも
人としての尊厳を踏み躙られている
今の状態を、許容出来ない。
――玩具のように扱われて良いものか。
生きているか死んでいるかも分からない儘で良いものか。

生者なら生者として歩み続けて。
死者なら死者として、終わるべきだろう
助ける事が叶わないのなら
せめて綺麗な形で弔えるよう
素材とされた人々が戦いの支障となろうとも
"来訪者"以外を傷つけない事を意識
【天梁】の試煉を己に課し来訪者の戦闘力増強に抗う

銃撃やメスは【見切り】で対処
加工品での戦闘力増強を図ろうとするなら
槍の一投げでその動きを牽制


セリオス・アリス
アドリブ歓迎
身を焼き尽くしそうな怒りの中
助けられるか自問して答えを出す
脳を戻す技術は自分にはない
きっと、この世界の人間にもないだろう
それなら…全部終わらせて眠らせてやる

【青星の盟約】を歌い攻撃力をあげる
靴に風の魔力を送って『先制攻撃』
炎の『属性』を纏わせた剣で胸部めがけて『2回攻撃』
奪っただろうその声で
これ以上喋るんじゃねぇ

攻撃は『見切り』なるべく避けるが
避けきれねえ分はむしろその腕を掴んで逃げられないようにしながら意地で耐える
奪われる前にこっちが奪ってやるよ
『全力』の炎をのせた斬撃で腕をその継ぎ目から落とすように剣を振るう

すべて終わっても
助からないヤツらが生きてるなら…この手で終わらせてやる




 天井から下る"素材"たちは確かに生きているようだ。時おり何らかの反射を示し、半透明のビニールに包まれた人型がぴくりと痙攣をしていた。
 ――平和なイメージがある場所での死体は、生々しく見えるもんだね。
 眼前の来訪者との距離を慎重に詰めながら、鹿忍・由紀(余計者・f05760)は取り立てて関心を示している様子もない視線で血臭纏う"素材"たちを見やる。
 直後、来訪者が動いた。光線銃を構えて、接近を目論む猟兵たちを狙い撃ちしていく。
 出来る限り撃たせたくはない手立てだが、妨害するには些か距離がある。横に跳ぶことで直撃を避けた由紀は制動を掛けると、直角状に進行方向を転ずる。最短距離で来訪者の横手につけた彼は、ごく低い位置からナイフを突き上げて、外骨格の隙間に刃を突き立てた。
 由紀が横手から迫るのとほぼ同時に、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)もまた来訪者に迫っていた。
 放たれた光線を地を滑ることで回避したトリテレイアは、脚部に備え付けられたスラスターを点火する。爆音とともに加速した鋼鉄の巨体は、来訪者の虚をよく突いた。反撃も回避もさせぬまま接敵した彼は、立ち上がりざまに長剣を振るって、深い切り傷を来訪者の甲殻に刻みつける。
 ――この紛争地域は十分以上に地獄です。
 元は人間同士の戦争が原因だとわかっているが、長引く戦乱の一端を目の前の敵が担っている可能性を思えば、トリテレイアの心中は複雑だ。
 反撃の刃を盾で防いだトリテレイアは、続く仲間の攻撃を支えるためにあえて退かずに接敵を継続する。
 そこへ、槍を片手に携えた葦野・詞波(赤頭巾・f09892)が連なった。彼女の美貌に浮かぶ表情は酷く険しく、そこには一切の憐憫も慈悲も見られない。
 憤りはある。無力さもある。それらは詞波個人の感情に過ぎない。だが、いま視界いっぱいに広がる人の尊前を踏み躙る光景は――彼女個人の感傷など無関係に、只々許されざるものだった。
 だから詞波は己が槍に誓いを立てる。いまこれより、唯の一人の尊厳を貶めさせはしないと。それは余りにか細い修羅の道であったけれど。
 攻める詞波の槍がまっすぐに突き出され、来訪者の甲殻ごと血肉をえぐった。
 溢れ出る赤い血を見て、詞波は目を細める。人を弄ぶ輩はどの世界にも居るが、血が赤いことまでもが共通だとは。
 怒りに打ち震えるものは、そして、ここにも居た。
 セリオス・アリス(黒歌鳥・f09573)は、腹の奥底から込み上げる怒りの炎に心身を焼き尽くされていく思いを味わっていた。
 この地に足を踏み入れてから、ずっと思っていたことがある。犠牲となった改造兵たち、それに素材として弄ばれている人々。彼女らを助ける道がどこかにあるのではないかと……セリオスはずっと考え続けていたのだ。
「……無理、なんだろう。俺にも、誰にも、きっとこの世界の誰にだって」
 ――それなら……全部終わらせて眠らせてやる。
 セリオスは青い星への盟約を高らかに歌いあげる。結末がどのような形を迎えるにせよ、この抑えきれない感情を打ち払うためには、答えを出さねばならない。
 そしてそれは、きっと、目の前の敵を倒すこと。
 力を奮い立たせたセリオスの青の瞳が、夜明けの空よりもなお深き蒼を宿し、一筋の光を照らす。
 至近距離で来訪者と相対していたトリテレイアの大盾が、その時、爆炎の火柱と共にひしゃげた。
 ――闇雲に前線に立ち続けているだけでは、騎士としての役は全うできない……というわけですね。
 光線銃の直撃を受けて装甲が融解した大型シールドをパージしたトリテレイアは、長剣のみを頼りに来訪者と相対する。
 先に仕掛けたのは来訪者だった。しなるような敵の腕の動きは変則的だが、トリテレイアの視認と反応が上回った。長剣の腹を用いて爪撃の威力を削った騎士は、回避動作で背中から床へ倒れ込みながら、腕を来訪者の胴体に押し当てる。
 次の瞬間、光線銃もかくやという爆炎が来訪者を包み込む。トリテレイアの腕部に仕込まれていた化学弾頭による燃焼だ。
 天井をも一瞬で焼き焦がす火柱の熱から、由紀は顔を腕で庇って堪える。仲間の炎はすぐに鎮火するのが幸いだが、問題はやはり来訪者が手にする光線銃だ。
 ――あの銃、撃った後の炎が邪魔だな。
 避けづらいのもそうだが、なにより周りを巻き込む威力が厄介だ。
 由紀はその場で数度軽く跳躍すると、眼前の高さで構えたダガーに意識を集中する。経絡を通じて、魔が全身の細胞に行き渡る冷たい感覚が走った。
 夜明け色の瞳を細めた由紀は風より速く戦地を駆けると、斬り払う来訪者の腕の下を紙一重でくぐり抜け、目指す光線銃に狙いを定める。
 右手に持っていたダガーを左手に投げ渡した由紀は、光線銃を持つ来訪者の手首の腱を斬ると、行き掛けの駄賃とばかりに開いた傷口を切っ先でえぐってやる。
 そして光線銃が、来訪者の腕から落ちた。
 彼の銃が巻き起こす炎の災禍から"素材"の人々を守り続けていた詞波は、槍を持つ手に力を込めた。
 生者なら生者として歩み続け、死者なら死者として終わるべきだ。それが詞波の死生観であり、信ずる道だった。非道の戯れに弄ばれて良い生命などなく、ましてや自分たちを含む戦の荒波に曝して良い道理もない。
 叶える。叶えてみせる。せめて、人の姿のままで弔えるように。
「――例えこの身を断たれようとも」
 詞波は頭巾を翻し、槍を掲げた。
 地を蹴った来訪者が取り落とした光線銃に飛びつこうとしていた。
 させるわけにはいかなかった。詞波は槍を投擲し、伸ばされた来訪者の肘の関節を射抜く。腕の先が槍にて断たれ、勢いで光線銃が床の上を滑って来訪者の側から離れていく。
『ッぐ!!』
 だが仮にも街を統べるオブリビオンと言うべきか。すでに側まで迫っていたセリオスの姿を認めると、血飛沫を上げながらも、来訪者はすぐに態勢を立て直して猟兵の追撃に備えてみせる。
「だから、どうした。避ける暇なんて与えない」
 盟約によって常ならぬ力を備えていたセリオスの足は疾く、来訪者に防御行動を取らせる暇も与えない。彼が携える燐光帯びる雪色の刃が焔立つ。魔炎を帯びた剣は、彼我の間にわだかまる薄闇を焼き切るように青白い軌跡を残し、胴体を庇おうとした来訪者の腕の合間を縫った。
「喉を裂かれていたのは良かった。これ以上、お前のお喋りは聞きたくなかったんでな」
 そう告げたセリオスの刃は来訪者の胸郭を切り上げていた。一度ではない。二度、三度と、扉を破るように。
 戦の始まりに何らかの部品を格納した、来訪者の胸郭が強くひしゃげる。敵は連撃を避けるように腕を薙ぎ払って、猟兵たちに斬撃を見舞った。新たな血が前線を赤く染め、新たな呻きが戦場を震わせる。
「貴方の実験で生まれる犠牲は必要ありません。火事場泥棒のような研究は即刻終了して頂きます」
 なおも戦意を失わない来訪者が新たなメスを腕部から生やして迫ってくると、トリテレイアは最後通牒のように強く言葉を叩きつける。無論、それで止まるなどとは彼も思っていない。
 剣呑な刃を煌めかせて迫る来訪者に、トリテレイアは真正面からぶつかっていく。
 ――彼女達の亡骸は、きっと家族の下へ帰ることなく隠蔽処理されてしまうのでしょう。それは、私にとって余りにも……。
 続く言葉は思考回路から弾く。残された武装は少ない。スライディングで来訪者の傍らを抜けたトリテレイアは、片腕に残されたワイヤーアンカーを射出して敵の身体を捕縛すると、持ち前の質量と出力を以って、空いた鈎を介して来訪者を釣り上げる。
『……!』
 さすがのトリテレイアも、拘束を維持するのは困難だ。保って四秒。だが、十分な時間だ。内蔵機銃を解放した彼は、全弾を撃ち尽くす勢いで一斉射撃を叩き込む。
 ワイヤーごと肉体を削り落とされ、床に叩きつけられた来訪者に、新たな生体部品が取り付けられる。しかし、先とは違ってフルアーマーとはいかないようだ。負った怪我も癒えたわけではない。敵は確実に手負いになりつつある。
『まったく、君たちは』
「へえ、また喋れるようになったんだ。どういう仕組なんだろ」
 さして興味がある風でもなく由紀は呟くと、ごく軽い足取りのまま敵との距離を詰めていく。ナイフを持った右腕の肘を鳩尾にひたりとつけて、身体は半身に。軽く背面に流した左腕はバランサーであり、センサーだ。
 先程叩き落とした光線銃に、来訪者は咄嗟に手を伸ばしていた。由紀はそれを見抜いていた。蛇が瞬時に獲物を捕らえるように、長い腕が体ごとしなやかに伸びる。
「そんなに知的好奇心があるならさ」
 来訪者の肩関節の隙間を由紀の刃が刺し抜いていた。腕を封じたのち、彼の刃は素早く翻って来訪者の生体パーツを裂く。
「たまには解剖される気持ちも味わってみると良い」
 ……どう、普段とは違う立場は新鮮?
 なんて、淡々とした口調で囁やけば、来訪者はただただ甲高い絶叫をあげるばかりだ。
『あああッ、まったく、君たちは! 認めようじゃないか。恐ろしい敵だ。ははは、さすがに此処まで辿り着いただけはある』
 潰された声帯も呼吸器も交換されたのか。先とは違う少女の声で来訪者は叫んだ。しかし、ガワだけだ。負った怪我の蓄積は決して部品交換だけでは治癒しきれないのだろう。
 セリオスの目はそのことを見抜いていた。耳障りな"娘"の声に苛立ちは腹の底にたまるが、その怒りすらも今は戦に臨む己が心身の、炎の、燃料と化す。
 ――すべて終わっても、助からないヤツらが生きている。終わらせる。それは、目の前のコイツじゃあない。俺たちが最後まで担うべき……仕事なんだろ。
 右手の指は柄に、左手の指はポメルに。炎揺らめく剣を携えた黒鳥は勇ましく、来訪者との戦いを挑んでいく。
 リーチも剣圧も敵が上だ。全ての攻撃を避けきれるわけもないし、そんな希望的観測をセリオスはしない。浅い一手ならば、むしろ受けるほうが効率的だ。
「……はっ、どうだ。俺からも奪ってみるか?」
『いいねェ』
 敵の間合いに入った後で放たれた斬撃を、セリオスは受け止める。来訪者の腕より生えるメスが彼の肉体をえぐり、血肉を介して生命を啜られるが、構いはしない。
 ――奪われる前にこっちが奪ってやるよ。
 セリオスは焔纏う魔剣を勢いよく切り上げた。それは確かに、彼の肉体を蝕む来訪者の腕を根本から断ち切ってみせた。
 槍を携えた詞波は頭巾を放り捨てると、落した腰より更に腕を下げて槍を構える。数多の攻勢から"素材"を守り抜いた詞波の身体はぼろぼろで、滴る血は止めどない。
 ――それでも。
 今の状態を、詞波は許容できずにいた。人が玩具のように扱われることも、人としての生死も定かではない状態に留めることも。
 誓いは虚しいものだ。守った命は、あと数時間の内に自らの手で、あるいは誰かの手で葬られることだろう。
「それでも、そうだとしても」
 詞波は駆ける。床を擦った穂先から火花が散った。試練を課した彼女の槍は、換装したての来訪者の腕の合間をくぐり抜け、掃射でひしゃげていた胸部外骨格を貫いた。
 来訪者が体内に据え付けた、得体の知れない部品。それがどのような器官か、詞波も誰も知る由もない。
 しかし、確かに……それは打ち砕かれたのだ。
 脳漿を胸元から垂れ流しながら、来訪者が狼狽する。
 見れば、来訪者の表情から笑みが消え失せていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

レイ・ハウンド
こっちこそてめぇの頭カチ割って
どんな脳神経してんのか覗いてみてぇよ

黒幕相手だ
遠慮はしねぇ※真の姿
バラッバラにしてやる!!

スナイパーの眼でもって
遮蔽から加工品の継目を縫う様に
着弾箇所を執拗に繰り返し2回攻撃で狙撃
特に胸郭部には絶え間なく弾丸の雨を注ぎ込み
内側の缶の破壊を狙う
周囲の缶も掃射で範囲攻撃し破壊
動けぬ仲間は庇う
光線銃もメスも断頭を盾に
今回ばかりは酷使したな
保ってくれよ…!

加工品を剥ぎ取れたら特攻し
熱々の穴空き包丁で叩き斬ってやる!!
前言撤回
てめぇの頭の中身なんざ興味ねぇ
カニ味噌ぶち撒けてやりてぇだけだ

吊るされた者達は
頭と心臓を撃ち介錯
これが俺に出来る最善と弔いだ
建物ごと荼毘に付してやろう


上野・修介
※アドリブ、連携歓迎

別に正義感から猟兵になったわけではないが、この惨状を見て何も感じないほど薄情ではない。
「気に食わねぇな」
この胸に渦巻くコレは紛れもなく『怒り』だろう。
だが怒りは頭を鈍らせる。故にそれを丹念に四肢に込め、一瞬でも速く目の前の敵を倒すことに専心。

まずは観【視力+第六感+情報収集】る。
呼吸を整え無駄な力を抜きながら、敵の特性と弱点を探る

UCで攻撃力を強化。
防御は最小限。ダメージを恐れず【勇気+激痛耐性】、【捨て身】の【覚悟】を決め【ダッシュ】で懐に飛び込み素手格闘【グラップル】で攻める。
『加工品』に対しては、接合部を狙って裏当ての要領【戦闘知識+鎧無視攻撃】で内部攻撃。


千桜・エリシャ
……
その声で、喋るな
虫酸が走る

血の香りに酔いそうになるのを必死で堪えて
真の姿解放――髪も角も桜色に染まった鬼神の姿で刃を抜いて

その不似合いな喉も
その身に余る柔肌も
残さず全て返してもらいますわ
散華繚乱に2回攻撃で剣閃の雨降らせ
跡形もなく借り物の肉を削ぎ落として差し上げましょう
ねぇ、ご自分が解剖される気分は如何かしら?

メスは見切りで避けるか、刃で受け止めカウンター
そうして肉薄したならば
首を一閃、紅い花を咲かせて
きっとあなたには赤い血なんて流れていないのでしょうけれど
私が執刀すれば、ほらこの通り

あなたに手向けの花なんて必要ありませんけれど
これは犠牲になった少女たちへ贈る花ですから
――どうか、安らかに


コノハ・ライゼ
知ってる?
そーゆーの死亡フラグってンだってサ

空気読みもせず軽口と共に距離詰める
「柘榴」の刃で肌を切り『高速詠唱』での【紅牙】展開
掠ればOKの大雑把な攻撃からの、『傷口をえぐる』狙った『2回攻撃』

狩ろうってんだから逆も覚悟の上デショ?
紛い物じゃなくテメェの鳴き声聞かせてヨ、ねえ

敵攻撃には構わず近距離で派手な動き繰り返し
取られた生命力は噛み付き砕かんばかりの牙で取り返す
『捨て身の一撃』に飛び込んだと見せかけ
攻撃に『カウンター』かまして『だまし討ち』ナンて如何

成しても世が変わるワケじゃねぇだろうケドも
せめて残さず喰らってやるヨ
奪ったモノでのハリボテなんざ
不味くて仕方ないでしょうケド

(アドリブ等歓迎)




「鬼が出るか蛇が出るか……と言ったところか」
 上野・修介(元フリーター、今は猟兵・f13887)はぽつりと呟くと、胸部に据え付けた器官を破壊された来訪者の出方を窺う。特別な大打撃を与えた様子はないな、というのが修介の観察眼がもたらした印象だった。
 しかし、それが来訪者にとって何かしら重要な器官だったことは、修介にも理解できた。
 ――何だっていい。眼の前の敵の不利益ならば、全てを破壊するのみ。
 なにも修介は正義感から猟兵になったわけではない。しかし、この惨状を見て何も感じないほど、薄情でもなかった。
 胸に灯るものの正体はきっと、"怒り"だ。
 突如、咆哮をあげて飛び掛かってきた来訪者の挙動は獣じみていた。予想外の動きだが、修介は動揺することなく相手の動きを見極め、放たれた豪腕を最小限の動きでかわしてみせる。
「……っ、どうやら出たのは"鬼"のようだな」
 あの装置は、リミッターのようなものだったのかも知れない。紛いなりにも知的生命体として振る舞っていた来訪者の上辺が、剥がれたようにも見える。
「知ってる? そーゆーの死亡フラグってンだってサ」
 来訪者の豹変を見たコノハ・ライゼ(空々・f03130)は、軽口を叩きながら敵の死角を突いて踏み込んでいく。
 すでに、血が流れていた。赤く染まった"柘榴"の刃で己が肌を傷つけていたコノハは、滴る血に魔の力を混ぜていく。それは瞬く間に形を変えて、敵対する者を喰らい尽くす禍々しきものの姿を顕にする。
 腕を振るったのは、コノハも来訪者も同時。互いの刃が互いの肉を削るが、次の一手はコノハのほうが先だった。
 返す刀で来訪者の傷口に切っ先を潜り込ませると、コノハは刃を力任せに捻った。
 来訪者は雄叫びにも似た悲鳴を上げる。
 猛々しき咆哮だが、それは変わらず少女の声音のままだ。人らしい言葉こそ発さないが、それがかえって奇異を強める。
「……その声で、喋るな。虫酸が走る」
 千桜・エリシャ(春宵・f02565)は怒気を含ませた声音で告げると、強く息を吐き出す。それは太刀を振るうための練気であり、長く鼻腔から抜けない血の香りを遠ざけるためでもあった。
 艷やかな髪も角も、夜色を忘れた鮮やかな桜色に染まれど、エリシャの身が宿す感情と力は、もはや人としての其れではない。悪鬼羅刹をも調伏する鬼神が如き膂力で太刀を抜けば、斬撃は一切の憐憫なく来訪者の肉体深くにまで到達する。
 生臭い、体液の匂いが香る。
 良かった。眼の前のバケモノの血の匂いは好みではなかった。エリシャは知らぬうちに淡い桃色の唇を釣り上げた。
 もはや音声という認識もできぬ咆哮をあげながら、来訪者はメスを生やした腕を乱れ打つ。
 追い詰めているはずだ。しかし、厄介なことには変わりない。レイ・ハウンド(ドグマの狗・f12038)は舌打ちをすると、黒鋼の火器のストックを肩に押し当てる。
 ――脳みそ蒐集だ? こっちこそてめぇの頭カチ割って、どんな脳神経してんのか覗いてみてぇよ。
 心中で毒づきながら、レイはCQB用の照門に来訪者の姿を捉えた。真の力を解放した今、大仰なスコープなどもはや必要はない。
 銃声が教室に轟き閃光が薄闇を払う様は、あたかも落雷が起こされたかのよう。昂ぶる神経とは裏腹にレイの思考と集中力は冷静そのもので、二発ずつに抑えた射撃は確実に来訪者の装甲と外骨格、そして内部組織を磨り潰していく。
 弾丸と共に飛び散る来訪者の血肉。握りしめた拳に加わる力は余りにも強く、修介は軽い痛みを覚えるほどだった。
 さりとて、怒りを律する術は心得ている。不用意に込められた力を抜き、吸い込んだ大気を熱とともに丹田に流すイメージを修介は思い描く。
 周りの光景がひどくスローモーションに見えた。仲間の振るう刃も、バラ撒かれる薬莢も、己に向けて振るわれる来訪者の刃すらはっきり見えた。
「……気に食わねぇな」
 頭上をかすめていく来訪者の攻撃。懐に潜り込んだ修介は、そんな言葉と共に、再び握り固めた鋼鉄が如き拳を来訪者の腹部に捻り込んだ。
 修介よりも倍近くある来訪者の巨体が、彼の強烈な拳撃一つで浮き上がった。構わず力を込めれば、硬い外骨格が……メキり、と音を立てて砕けていく。
 仲間の攻撃によって生まれた千載一遇の好機を、コノハは決して見逃さなかった。荒れ狂う来訪者の猛攻でその身に受けた怪我は浅くはないが、そんなものに構う時間はない。
「狩ろうってんだから、逆も覚悟の上デショ?」
 薄く浮かんだ笑みはついぞ潰えず。コノハはまるでこの闘争を愉しんでいるかのように言葉を紡ぐ。「紛い物じゃなくテメェの鳴き声聞かせてヨ、ねえ」なんて囁く仕草はまるで睦言だ。しかし、それが決して愉悦から来るものではないのは、彼の凍えた冥い青の眼差しが何より雄弁に物語っていた。
 後ろから、コノハは迫った。彼の捕食の"牙"があぎとを開けて、外骨格ごと来訪者の肉体に喰らいつく。奪われた力は、その場で奪い返す。それがコノハのやり方で、そして報復でもあった。
 猛攻を掛ける猟兵たちを強引に振りほどいた来訪者は、飛び退るなり再びその身に装甲を纏っていく。おそらくこれが最後のストックなのだろう。重ねられていく人体パーツに埋もれて、来訪者は元の姿が判じ難いほどの変異を遂げていく。
 ――残さず全て返してもらいますわ。
 その不似合いな喉も、その身に余る柔肌も。その全てを。
 エリシャは決して許すつもりはなかった。少女たちの命と肉体を汚し尽くした、その行いを。彼女がその血と魂の裏側にひた隠しにする昏きものを刃に忍ばせて、雨を降らせる。
 元より漆黒の墨染の太刀に、なお深き黒が滲んだ。生命を刈り取る斬撃の驟雨はあまりに残酷で、そして快かった。まるで豆腐に包丁を入れるように、来訪者が身に付けた人体素材を面白いように削ぎ落としてゆくのだから。
「ねぇ、ご自分が解剖される気分は如何かしら?」
 たまらず、エリシャの口から愉悦を含んだ言葉が漏れた。きっと後で自己嫌悪に陥るだろう。桜の乙女の理性がそう嘆くが、今はそれでいい。
 それでいいのだと、きっと誰かが赦してくれるはずだから。
 直後、来訪者の反撃が始まった。だいぶ外部装甲を剥ぎ取った後だが、まだ敵の戦闘力を完全に無効化するには至っていない。
 改造兵との戦闘でスクラップ寸前まで追い込まれた鉄塊の断頭剣を取り出したレイは、敵の激しい反撃に備える。
 追い込まれた敵の死に物狂いの攻撃ほど恐ろしいものはない。数多の戦場で、レイはそのことを学んでいた。
 ――今回ばかりは酷使したな。保ってくれよ……!
 断頭を盾のように構えたレイは、仲間に飛び掛かった来訪者の前に立ち塞がった。療術の使い手は限られている。動けぬほどの怪我を負いかねない者は、この身を挺してでも守り抜くつもりだった。
 甘い考えだろうか。いや、そうではないはずだ。それこそが改造兵とも来訪者とも違う、人としての証明に他ならない。
 鼓膜を通り抜けて、頭蓋をも振動させる衝突音が響き渡った。
 決死の反撃を正面から防がれた来訪者に、大きな隙が出来ていた。
 すでに修介は地を蹴って駆け出しており、来訪者をその拳の間合いに収めていた。
 恐れはない。猟兵たちが攻勢に出ているからではない。修介は、己の肉体に怪我を負うことをはなから恐れていないのだ。それは、この国に降り立ったときから、何一つ変わりはしない。
 ともすれば不器用とも言える、愚直にすぎる修介の戦術。懐に飛び込み、拳を叩き込む。研鑽した格闘技術を差し引いても、原始的で単純なその戦い方は、しかし、策を弄する来訪者の守りを何よりも鋭く貫き通す。
「爆ぜろ」
 足先から腰へ、肩から肘へ、腕から拳へ。流れる所作で生じた回転力を余すことなく拳の一点に伝えたその打撃は、インパクトの瞬間に軽やかな音をたてた。
 発せられた気は波紋の如く来訪者の外殻を通り抜け、肉体の奥深くで波濤と化す。
 ただの殴打ではない。弾けた気は、来訪者の体内奥深くを打ち崩す。
 もんどり打った来訪者の身体のほうぼうから、大量の血液が噴き出した。
 武術の真髄を目の当たりにしたコノハは、「へェ」と思わず感嘆する。
 負けじと……というつもりは更々ないが、コノハもまた仲間たちの猛攻に連なっていく。
 ――成しても世が変わるワケじゃねぇだろうケドも。せめて残さず喰らってやるヨ。
 倒したところで何も変わらないことは、コノハ自身にもわかっている。それでも目の前の敵を屠りたいと願うのは、なぜだろう。猟兵としての義務感? 常の通りの気紛れゆえ? さあ、どうだろう。
「やっぱり、ネ。さっき言った通り、聞きたいんだヨ」
 鳴き声が。
 捨て身ともとれる攻勢だった。少女の声で吠える来訪者の迎撃を紙一重でかわしたコノハは、お返しとばかりにカウンターの血染めの"牙"を剥く。
 少女の声は、もう十分だ。醜いテメェの声を響かせてみろ。
 それが叶うなら、残さず喰らってやるヨ。
「不味くて仕方ない、ハリボテの姿でもネ」
 ばくり、と――。"牙"は食らった。少女たちの成れの果てと共に、来訪者の片腕と半身を。
 噴き上がる来訪者の体液が、吊られた"素材"ごと天井を汚していく。
 やはり戦いの初期に見られた赤い血は、少女らから奪い取ったものだったのだろう。いま来訪者が垂れ流すものは、粘ついた黄土色の生臭い体液だけだった。
 良かった、とエリシャは思う。
 これ以上、助けることの出来なかった娘らを辱めずに済んだことに。己の理性を狂わせる匂いを得ずに済むことに。
 ならば、私はきっと誇り高き剣士のままで居られる。人の身のまま、少女たちを見送ることが出来る――そのはずだから。
「犠牲になった少女たちへ贈る花の代わりには、到底なりませんが」
 エリシャは、斬る。
 繰り出された来訪者の斬撃を太刀で払い除け、ただ無造作に首筋へと刃を入れる。来訪者が少女らの身体にそうしたように、なんの感慨もなく執刀していく。
「ほら、この通り」
 どこか場違いにも思える、可愛らしい声でエリシャは言った。汚れきった悪の花が乱れ咲く。その、悍ましい光景。
 どうか、安らかに。その言葉を、エリシャはまだ口にしない。その言葉は、まだ取っておくべきに思えたから。
 すでに来訪者の外部装甲のほとんどが失われていた。
 欠けた肉体を修復する手立てもなく、来訪者の敗北はもはや決定的だった。
 だが、まだ抗おうと言うのか。来訪者の肉体が変形し、身体の一部から管のようなものが形成される。
 それが、例の光線銃と同じ形状をしていることに、レイは瞬時に気がついた。
「いいだろう、来いよ。てめえごと俺らを道連れにするか? それとも腹いせに娘らを焼き殺すか?」
 断頭の大剣を構えたレイは、そう問いかけながら真正面から突き進んでいく。
 どんな手段を相手が用いてくるか、もはや興味はない。来訪者の頭の中がどうなっているのか、そんなこともどうでもいい。
 ――てめぇの頭蓋の中に詰まった、汚えカニ味噌をぶち撒けてやりてぇだけだ。
 レイが激しい咆哮をあげると同時に、来訪者の内蔵光線銃が閃光を放った。
 その熱線を受け止めた大剣が、瞬時に白熱する。持ち手が真っ赤に焼けただれ、レイの両手が焼け焦げた。融解した鉄が身体に降りかかる。
 しかし。
「バラッバラにしてやる!!」
 もはや剣の形をなしていない、融けかけた鉄の塊をかざしたレイは、激痛に混濁する意識のなかで叫んだ。そして、来訪者を剣が届く範囲に収めると同時に、力任せに振り下ろした。
 重く、鈍い音が教室に響き渡る。
 自分がきちんと獲物を両断したのか、もはやレイには視認する余力もない。
 だが……鼻につくイヤな臭気が全てを物語っていた。バケモノが内側から焼け焦げる、反吐が出そうなその悪臭。
「悪くねえ」
 レイはニヤリと笑うと、その場に崩れ落ちる。
 男のすぐ側には、半分に断たれ、焼け焦げた来訪者の死骸が転がっていた。

●[Mission Completed] 02:00 A.M.
 改造兵を殲滅し、来訪者を撃破した猟兵たちは、すみやかに現場を後にする。
 出来れば、この手で犠牲になった者たちに安らかな最期を迎えさせてやりたかった。出来れば、人としての弔いを施してやりたかった。
 けれど、犠牲となった者は余りにも多すぎた。
 いかに猟兵と言えど、傷ついたその身では肉体的にも時間的にも、それを成し遂げることは不可能だったのだ。
 人間同士の戦闘が硬直した間隙をついて、UDC組織の輸送ヘリコプター数機が女学校上空まで侵入してきた。作戦を完遂した猟兵たちはその機体に乗って、すみやかに戦場を後にする。
 胸焼けのする血の匂いが晴れたあと、代わりに猟兵たちの肺腑を満たしたものは、焦げた戦場の匂いだった。
 闇に沈む街を空から見下ろしても、人の営みらしい灯りはほとんど見えない。
 未だ消えずにいる戦火の灯りだけが、夜の闇の底で瞬いていた。

 ――2019年7月某日。
 紛争に明け暮れる黒海にほど近いある小国で、停戦合意がなされた。
 しかし、束の間の平和はわずか21日で崩れ去ったという。
 市内にある女学校で起きたとされる大量虐殺……それがどの陣営によって行われたものなのか、真相究明が成されぬまま和平交渉は平行線を辿り、その国は再び戦火が吹き荒れることとなった。
 ある人権監視団体のレポートによれば、○○市の女学校で犠牲になった女学生の数は173名にのぼるという。
 ただし、そのレポートは秘匿箇所が余りに多く、信憑性は低いと見られている。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月14日
宿敵 『ユゴスよりの来訪者』 を撃破!


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#UDCアース


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は吾唐木・貫二です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト