新たな世界が開き、グリモアベースに開いた世界からの旅人や、品物が行き来する。そんな状況でも、ルフトフェール・ルミナ(空を駆ける風・f08308)は依然魔法使いの外套にロッドという格好だ。
そして、猟兵達を前に口を開くと、その内容もやはり剣と魔法の世界の冒険についてだった。
「昔、群竜大陸から帰還した英雄が建国した王国があってね、一時隆盛を極めたけど、英雄王の死後、国は衰退に向かって、今は滅んでしまってるんだ」
英雄王の強力なカリスマを継ぐ後継者がいなかったのだと言ってから、更に説明を続けようとしかけて、ルフトフェールは口を噤んだ。
「……亡国の歴史云々より、冒険の話しなくちゃね。実は、亡んだ後も『英雄王の霊廟』という場所に英雄王の至宝が眠っている、って伝説が残ってて、長らく学者や冒険者や、色んな人が探索をしてたんだ。で、この度めでたく発見と相成ってさ」
そこで、ルフトフェールは、英雄王の霊廟の付近地図を猟兵達に見せた。荒野と岩山が目立つ、およそ農業に向かない土地のようだ。霊廟は岩山の洞窟内にあったのだという。
「英雄王の霊廟に収められた品から、勇者伝説を探るというわけなんだけど、英雄王ゆかりの品は、発掘者たちに回収されててねえ。けど、どうも、過去の勇者達の意思が宿ってるのは別の品みたいだ。なので、霊廟跡に行って、収蔵品を探ってもらいたいのだけど」
そこで、ルフトフェールは一枚の紙を取り出した。大きい字ではっきり書かれたそれは、いわゆる求人のチラシだった。
「これ見て。まだ発掘は続いてて、人手が要るみたいなんだよ。報酬は見つけたお宝、ただし英雄王ゆかりの品を除く、っていうわけだね。これに乗っかって、霊廟跡のお宝を探してみるといいんじゃないかな」
それにしても、大盤振る舞いの報酬だな、と誰かが言い、やっぱり怪しいと思うよねえ、とルフトフェールは相槌を打った。
「発掘を陣頭指揮してるのはトルステン氏、この地方一の大商人なのだけどね、実は彼はスポンサーで、発掘者はアベリア嬢、英雄王の末裔という話で……多分、双方に何らかの利益があるんだろうね」
この地域、ずっと色んな勢力が小競り合いを続けてて、収まる気配がないみたいだし……と呟いてから、ルフトフェールは、ごめん、それは関係なかったね、と猟兵に笑って見せた。
「みんなは、自分のやり方で英雄王の霊廟に残された品を探してみて。そこから昔の勇者達の手がかりを掴むんだ。よろしくね」
譲葉慧
譲葉慧です。オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。
運営はゆっくりの予定で、完結もいつになるかわかりませんが、ご都合のよい時に参加いただけましたら幸いです。
リプレイ作成状況など、当シナリオ運営に関する連絡は、私の自己紹介ページに掲載いたします。
このシナリオは、
●第一章 財宝を探してみよう!(日常)
●第二章 英雄王の遺産、護衛者求む(冒険)
●第三章 ???戦(集団戦)
のフラグメントで構成されております。
かつて群竜大陸に渡った英雄王の霊廟、まずは猟兵の皆さまの思い思いに探索していただければと思います。
それでは、よろしくお願いいたします。
第1章 日常
『魅惑の宝物庫』
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POW : 大きな財宝を選ぶ
SPD : 煌めく財宝を選ぶ
WIZ : 魔力を感じる財宝を選ぶ
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セツナ・クラルス
手がかりか…
どういう品を選べばいいのか見当もつかないよ
こういうときはアレだね、第六感
目を瞑り祈りを捧げ精神を安定
極限まで高めた集中力で勇者の気配を手繰ろう
…
これは…なんということだ…
徐ろに目を開け
ははは、さっぱりわからない
こういうときはアレだよ
おいでゼロ、共に悩もう
分からないなりにある程度の方針は決めた方がいいだろうね
如何にもな品は既に回収済だろうから
幾ら何でもこれはないだろうという意外な品に
勇者の意思が宿っているのかもしれないね
…ふむ、例えば
無造作に触れたものを掴んでみる
手にしたのは錆びて使い物にならなさそうな剣
…ううむ、何か力を秘めているような気がしないでもないが…
ゼロ、きみはどう思う?
痩せた木々がまばらに立つ荒れ山に、英雄王の霊廟の入口はあった。入口の周りには掘り返した跡があり、どうやら入口は長い間、土に埋もれていたらしかった。
土埃に晒された入口は、装飾も簡素で、あらかじめ聞いていなければ英雄王の霊廟だとは誰も思わなかっただろう。
入口付近では、生気に乏しい土色の景色とは裏腹に、ぎらつく熱気を帯びた人々が慌ただしく動いている。彼らは自分の準備が整い次第、急き立てられるように霊廟の入口へと入ってゆく。
彼らの大半は他人になど構い無しだったが、気のよさそうな男が、霊廟入口の構えを眺めていたセツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)に声を掛けた。
「あんたもお宝探しに来たんだろ? ぼやぼやしてるといい所取られちまうぞ。急いだ方がいいぜ」
ありがとう、と曖昧な笑顔で返し、セツナも霊廟の中へ入った。確かに探し物はあったが、それは欲が動機の人間に今に至っても見つけられていない。しかも、それが何なのかという具体的な情報もない。
セツナが廟に入ると、ふっと空気の流れが止まった。同時に時も停まったような錯覚すら覚えながら、あてもなく奥へと足を進めるうちに、いつしか人の足跡と発掘の物音から逃れていた。
王の霊廟といっても、所々の壁に浮彫があるくらいだ。その浮彫でかたち取られているのは、遊牧を営む人々だったり、畑で作物の世話をする人々だったり、あるいは街で商う人々であった。
「これが手がかりなのだろうか……どういう品を選べばいいのか見当もつかないよ」
セツナは目を閉じ、視界を封じる。音すらも外へ伝わらなさそうな、静かに止まったこの場所ならば、遠い意思の余韻を感じ取れるかもしれない。闇黒の底からの祈りで心を平らかに保った心に、勇者達の念が触れて波立つのを待った。
流れた時は、長いようでいて、しばし、といって差し支えない程であったろう。セツナは夢見るようにかるく閉じた瞼をゆっくりと開いた。
「……」
何ということだろう。英雄王や勇者の意思どころか、人の念など全然感じ取れない!
無理だったかと含み笑いを浮かべ、セツナは自分だけで探索するのを早々に諦めた。
「おいでゼロ、共に悩もう」
セツナの招きによって、彼の別人格、ゼロが彼に添った。にこやかに笑ってみせるセツナを見たゼロは開口一番、こう言ったものだ。
「相変わらずノープランなのな……」
「私に出来る事はやったつもりだけどね。それが当たらなければ、分からないなりにある程度の方針は決めた方がいいだろうと思ってね」
「……方針、ねえ」
聞くだけ聞いてやるといった風情で、ゼロはセツナの言葉を促した。セツナは更に奥へと進みはじめ、ゼロが後に続く。
「如何にもな品は既に回収済だろうから、幾ら何でもこれはないだろうという意外な品に勇者の意思が宿っているのかもしれないね」
「それはそうかもだけど、どう探すんだよ?」
ゼロの問い返しに、ふむと頷き、セツナは歩みを止めた。危うくぶつかりかけたゼロの抗議に構い付けず、無造作に側へと手を伸ばした。固い感触があり、それを掴み取る。
「無意識が、勇者の意思を引き寄せる……というのはどうかな?」
「それを世間様ではノープランって言うんだよ」
そう言いつつも、ゼロはセツナの掴んだ品を見ようと覗き込んだ。
「古い剣だね。ひどく錆びてしまっていて、もう剣としては使えないだろうけど……何か力を秘めているような気もする。ゼロはどう思う?」
セツナの見つけた剣は、装飾の無い質素なものだった。年月を経て、刀身だけではなく、鞘の革も破れたりひび割れたりと劣化している。
「見たまんまだと、普通の兵士とかが持ってる剣っぽいよな。けど、ここに収められたってことは、それだけの理由が剣とその持ち主にあったっていうことじゃね?」
「英雄王と共に戦った人の持ち物、なのかな。ならば、持ち主の想いや願いが宿っていても不思議はないよね」
セツナは錆びた刀身に、そっと丁重に触れた。掌に微かな熱が伝わると共に、はるか遠くの古戦場の喧騒がセツナとゼロを包みこみ、そして過去の彼方へと再び去っていった。
成功
🔵🔵🔴
ラルマ・ドゥルーヴ
【SPD】
依頼人たちの目論見はどうあれ、伝説の場所に立ち入らせてくれると言うならありがたい限りだ
しかしどうも新しい場所となると、探し物よりも霊廟を見る方に気が入ってしまう
考古学に明るくはないから、ただ過去に思いを馳せるだけにはなるが
勇者とは何を為してそう呼ばれたのだろう
暢気にしている間に、槍竜のシェリューが宝は探してくれるさ
道中で目的を教えておこう
探したいのは金品よりも歴史を読み解くヒントになる物
手元に残らなくとも記憶して帰ることは出来るしな
とは言え珍しい物の好きな奴だ、見た目に派手な物を見つければ勝手に飛んで行く
私の願いを聞いてくれるかは分からないが
肩から竜が飛び立てばその後を追おう
荒れ山の中に造られた英雄王の霊廟は、入口の大きさからは思いもよらぬ程広いようだ。ラルマ・ドゥルーヴ(砂礫・f19535)が廟内に入ってしばらく経つが、我勝ちにと発掘に向かっていった人達の騒がしさが遠ざかって行ったあと、すっかり聞こえなくなっていた。
ラルマが今いるのは、英雄王自身が祀られた広間であった。真っ先に発掘作業が行われ、収蔵品は既に運び出されている。時折雇われの戦士らしい人が巡回するのみで、他に立ち寄る人はいなかった。
静かな場所だ。ラルマ自身の足音すら、地面や周囲に吸い込まれているように、くぐもってしまう。その静けさは、ラルマにはどこか不思議なものに感じられた。彼女の肩で、槍竜のシェリューも、どこか落ち着かない様子で身じろぎしている。
ここの壁には浮彫が刻まれている。ラルマは壁に寄り、順繰りに見て回った。最初は、牧畜を営む人々の図。その中に一人だけ強調されて描かれた人がいる。
「英雄王の出自は牧畜を営む民なのか」
次いで、魔物の襲撃が描かれる。多くの人や家畜が襲われ、命を落としてゆく。押し寄せる魔物達の先に視線を走らせると、禍々しい巨竜の姿があった。これが帝竜ヴァルギリオスなのだろう。
そして、まさに滅ぼされんとするその時に、抗う人々は力を得る。先頭に立つ英雄王の外にも、それぞれの得物を掲げ、光に照らされた人々が絶望の中にあって希望を謳う姿が刻まれていた。
「帝竜ヴァルギリオスとオブリビオンに抗する人々が、猟兵の力を得たのだろうな」
続くは、帝竜ヴァルギリオスとの決戦だ。人が勝利し、英雄王が竜を踏みつけにしている。しかし、周りには斃れた人達の身体も積み重なっている。竜の巨体よりも厚い厚い層となって……。
斃れた人達の姿は、一人一人、英雄王その人と遜色ないくらいに丁寧に彫られている。ラルマが見る限り、一人として同じ人はいないようだった。良く見ると顔や体格だけでなく、その装束も様々なようだ。
「英雄王は牧畜の民だったが、戦友には様々な地の民がいたのだな……生死を問わず、戦った者すべてが勇者だったのだ」
広間の最奥には、戦いを終え群竜大陸から帰還し、王として立つ英雄王と、それを喜び称える各地の人々の図が彫られている。牧畜の民、農業の民、遊牧の民……生業を異にする民を束ね、王国を建国したところで、浮彫は締めくくられていた。
「だが王国はすぐに衰退して、この民たちは再びばらばらに分かれていったとか。永遠に続くものは何もないとは言うが……」
そして今に至るも各勢力による小競り合いが絶えないとの話だった。ラルマは、先程見かけた発掘作業の志願者たちの武装を思い出した。遺跡発掘という事業にしては、彼らの武装は物々しい。この辺りはそれだけ物騒な場所であるのだろう。
最奥の浮彫の前で佇むラルマの肩から、不意にシェリューが飛び立った。今までは一緒に浮彫を見ていたのだが、他に気になるものが見つかったのだろうか。シェリューは広間を出て、支道の一つへと入ってゆく。その鱗の銀色の照り返しを追い、ラルマも支道へと踏み込んだ。
登りになっている道をしばらく行くと、片側に大きな窓が連なる一角に出た。シェリューは窓際にとまり、その先を見ている。ラルマも倣い、窓から先を見た。
見えたのは、先程居た広間だった。この場所は広間の最奥部の真上に位置するようだ。窓からは広間の天井近くが見えるようになっている。広間からは薄暗くて良く見えなかったが、天井には太陽と月と星が描かれ、天を模しているようだった。そして、そのすぐ下の壁を埋め尽くすように、びっしりと字が刻まれている。
「まさかこれは……」
ラルマは字を目で追った。旧い文字なのだろうが、何となく意味はわかった。
「全て、人の名前なのか……?」
連なる名は、この霊廟に祀られた、すべての人々のものなのだろう。英雄王の戦友たち……この霊廟は、帝竜ヴァルギリオスと戦った者、皆の魂のために造られた場所だったのだ。
そうだったのか、と得心し、ラルマは刻まれた全ての名前を一つ一つ、心の中で読み上げていった。
成功
🔵🔵🔴
イネス・オルティス
群竜大陸から帰還した英雄ね、それほどの勇者なら国を興すのも納得ね
「で、霊廟の発掘の手伝い……まあやれというならやるけれど」
【薄衣甲冑覚醒】で何か感じるものは無いか探ってみましょう
「私の”野生の勘”にティンとくるものは」
見つかったのは『後宮を護る女性衛士用ビキニアーマー』
豪華かつ際どいデザインでスタイルに自信が無ければ着るのは厳しそう
一応戦闘用としてもきちんと作られている
「防具として効率を追求したビキニアーマーを後宮の護りに採用するなんて、さすがは英雄王ね」
(ビキニアーマー愛用者の意見)
英雄王の霊廟の未発掘区域へ、イネス・オルティス(隠れ里の女戦士・f06902)は向かっていた。その途中の壁には、英雄王縁の場所らしく戦の勲の浮彫があり、さもありなん、とイネスは内心で納得した。群竜大陸で帝竜ヴァルギリオスと戦った勇者は、ほとんどが還れなかったそうだ。そんな中生還した勇者ならば、国を興すほどの力もあろうというものだ。
しかし時は移ろい、今となっては亡んだ国として名を残すのみだ。人の営みの中、消えゆきつつあるその名が、英雄王の霊廟の発見で今一度人の口に上ったのだ。
「で、霊廟の発掘の手伝い……まあやれというならやるけれど」
そうごちて、イネスは未発掘区域への奥へと進む。そこここで、ここぞと思う場所を探索する人達に出会う。この辺りは保存状態が悪く、崩落も多かったため探索が後回しにされていたのだが、やっと探索可能となり、求人に応じて人が多く集まって来ている。
この人数に先んじて、勇者にまつわる宝物を見つけるとなると、周りと同じことをしていても埒が明かない。イネスは内なる声で、精霊たちに呼ばわった。子々孫々を守護し見守る者、伝来の薄衣甲冑に宿る者、そしてそれを纏い、戦い抜いてきた勇者達。里の一族が連綿と受け継いできた大いなる者達だ。
それはイネスの信頼であり、信仰であり、畏敬の心であった。大いなる者達へのそれらイネスの想いが、彼女もまた纏っている伝来の甲冑に進化の力を与える。胸部と腰回りを極々わずかな面積で覆うのみながら、優れた物理、属性軽減能力を持つ奇跡の甲冑、それはビキニアーマーと称される。
英雄王の宝物と並ぶまでに進化したビキニアーマーならば、宝物への導き手になってくれるであろう。
「私の”野生の勘”にティンとくるものは」
分岐点でも一切の迷いなく、イネスは上下する通路を進んでゆく。分岐と階段の昇り降りで廟内のどの辺りに居るのかも分からなくなりつつも、何故か、その道が正しい道なのだという確信があった。そしてついに彼女は見つけたのだ。
幾枚も重ねられた鋼の薄板で、ふっくらとまろやかな膨らみ二つを受け止めようと象られたもの。そして、小さい三角形の鋼板と、ほぼほぼ鋼の紐との組み合わせられたもの。
それはまぎれもなくビキニアーマーであった。ビキニアーマーに導かれて発見した宝物はビキニアーマー。それは当然の帰結であったのだ。
胸甲の薄板が支えていたのは、人の片手では余る程のたわわな重みだったようだ。それがこぼれるかこぼれないかの絶妙な面積……いや、胸甲だけではない。腰甲もまた、激しい動きでずれることを勘案したとしても、見えそで見えない極限の面積を見切っており、そこには一分の妥協も許さぬ職人魂が感じられた。
だが、恐るべきは着用者の方でもあった。胸甲の膨らみの大きさに比して、胸甲全体は狭い。腰甲もそうだ。胴のベルトから釣る形になっているが、その胴が実に細い。出るところが出て、引っ込む所は引っ込む、相当なスタイルの持ち主だったらしい。
「後宮を護る女性衛士用ビキニアーマー……かしらね」
イネスは、ビキニアーマーを手に取り、その細部を観察した。肌の露出が多いが、急所となる部分は補強が施されており、戦闘に耐える品であることは直ぐに分かった。表面全体には、針金で描いたような細く緻密な装飾が彫りこまれている。執拗なまでに精細な装飾にも、職人の執念が感じられる。
外見の際どさと鎧としての護りだけではなく、着用感にも配慮されているようだ。鎧の角部分はまるく削られているが、これは肌に食い込んで玉の肌に傷をつけないためだろう。
「防具として効率を追求したビキニアーマーを後宮の護りに採用するなんて、さすがは英雄王ね」
古のビキニアーマーに籠められた製作者の執念もさることながら、そもそもその一品を作らせたのは英雄王なのだ。そのビキニアーマーへのこだわりが、後世の『話が分かる』人物に伝わるのが、英雄王の霊廟に秘められた想い……なのかも、しれなかった。
成功
🔵🔵🔴
多々良・雅
POWを選択
●心情
これこれ、こーいうの待ってたんだよ・・・!
いっぱい持って帰るぞー!うっしっし。
・・・まあ、ちょっときな臭いけど。
約束守ってくれるならこっちもちゃんとやるともさ。
●行動
大きなリアカー持っていくか、現地でそれっぽいものを借りる。
英雄王の品に引っかからないようにアベリア嬢なり知識ある人にチェックをしてもらった上で、大きめの財宝をリアカーなりに積んでいく。
一応は、英雄王の品を真面目に探してるけど「中々見つからなくて困ったなー!あ、この財宝邪魔なんであっち運んどきます!」くらいの勤勉さはアピール。
これだ!っとなんかピーンとくる宝箱とかあれば【鍵開け】を使ってみる。
霊廟入口が、俄かに賑やかになった。中で宝物を得た人達が帰って来たのだ。ずっしりと宝が詰まった袋を担いで、彼らは意気揚々と発掘の責任者である商人のもとへ向かっていった。
入口付近には、これから中に入ろうとする人達もいたが、宝の袋を目にした彼らは、一様に目の色を変えて、ばたばたと準備を済ませて飛び込むように霊廟の中へと入ってゆく。
そんな人の流れに乗って、多々良・雅(サイボーグの戦場傭兵・f17638)も霊廟内部へと入った。
「宝物殿が見つかったらしいぞ!」
「あの袋の中は昔の金貨だって話だぜ。まだざっくざく残ってるってよ」
「ちくしょー、もっと大きい袋持って来ればよかったぜ!」
熱気を帯びた遣り取りを聞き、雅は満面の笑みを浮かべた。
(「これこれ、こーいうのを待っていたんだよ
……!」)
ざっくざくの金貨。キラキラ光る大きな宝石。これでもかという位にふんだんに金銀と宝石を使ってこしらえた装飾品。英雄王の至宝はともかく、『お宝』は、こうでなくては。
こういうこともあろうかと、雅はリアカーを持ってきていた。大の男でも音を上げそうな位大きなリアカーを軽々と曳き、宝物殿を目指す人達の先頭に立って先へ先へと進む。
宝物殿は、崩落した部分を掘り進んだ先にあったようで、地面はぼこぼこ、上からはぱらぱらと土が落ちてくるが、雅はそんな事気にせず、ぴかぴかと光る部屋の中に突貫した。
「お宝だー!」
雅は、さっそくリヤカーにごっそりとお宝を積み始めた。後からついて来た人達も大喜びでお宝を『回収』し始める。何しろ、ここにいる人数で均等割りしたとしても、持ち切れない程、財宝の山はうず高い。
急かなくても分け前充分とわかると、金貨風呂を楽しむ人やら、全身に装飾品を飾り付けてポーズを取る人やら、トレジャーハンター垂涎の一時が繰り広げられる。
「えーと、英雄王の遺品はっと……」
発掘事業スポンサーの商人お抱えの戦士が、宝物殿へと入って来たのを見て、雅は一応のポーズを取っておく。それにしても、この戦士は、この量のお宝を前にしても動じた風もなく、雅達が『回収』するのをただ見守っている。
(「分け前でもめ事が起きたり、英雄王の至宝を隠されたりしないように来たんだね。けど、ただの雇われの戦士なら、このお宝を目の前に、金貨を少しポケットに入れようとか考えても良さそうなものだけど」)
この発掘事業自体に、何らかの利害関係が絡んでいるらしい、とグリモアベースで聞いていた。この地域は勢力関係が不安定だとも。英雄王の残したお宝の大盤振る舞い、お宝に一切欲を見せない戦士。どうにもきな臭い匂いがまとわりついている。だが、お宝の約束さえ守られれば、それでいい。雅も、おそらくは、この場で回収にいそしむ人達も。
「あのー、この中に、英雄王の至宝はありますか?」
雅は殊勝そうな様子で、戦士に、リヤカーの宝の山を見せた。
「無いようだな。至宝には牡山羊の紋章がある。英雄王の紋章だ」
「牡山羊の紋章ですね! これだけ宝があるのに、中々見つからなくて困ったなー! 積もり過ぎててこのお宝邪魔なんで運んどきますね!」
紋章など全くないお宝ばかりをガンガン積み込みながらも、雅は『私働いてますから!』アピールを忘れない。まずはリヤカーが一杯にならないと始まらない。英雄王の至宝を探すのはそれからだ。
そして、しばらくの後、どの角度から見ても立派な過積載のリヤカーが鎮座していた。それを雅はやり遂げた清々しい笑顔で見てから、牡山羊の紋章探しに取り掛かることにした。そして……。
「宝箱だね」
牡山羊の紋章の描かれた、如何にも財宝が詰まっていそうな黄金の宝箱が、財宝の山から顔を出した。鍵がかかっているようだが、雅が鍵穴にピックを差し込み、ちょちょいと中の仕掛けを押したり回したりすると、かちりと音を立て、開く。
先程まで宝に無関心だった戦士が、雅の方に駆け寄って共に開いた宝箱を覗き込んだ。宝箱の中には、表面が艶やかに磨き抜かれた丸く黒っぽい金属が収められている。
「これは、砂の民から英雄王に捧げられたという、月影の鏡……」
どうやら、これが英雄王縁の宝物の一つらしい。月影の鏡を手に取り、感動さえしている戦士に、雅は太陽のように朗らかな笑顔を向けた。
「英雄王の宝物、見つかって良かったですね! 私、頑張りましたよね! 宝箱を開けるのも大変でしたし……」
アピールはしっかり欠かさない雅であった。
成功
🔵🔵🔴
玖篠・迅
群竜大陸から帰還した英雄かあ…
探すものとは違うけど、英雄王ゆかりの品からどんな人だったのか知れるなら見てみたいな
不思議な気配のする品物がないか、霊廟内を探検してみるな
「第六感」とかで気になる物とか場所とかあったら、注意して調べてみる
そういえば偉い人のお墓って侵入者避けの罠とか、隠し部屋とかありそうだけど…他の人も大丈夫かな
過去の勇者の品に、群竜大陸から戻れなかった人の遺品もあるなら、個人の思い出深そうなちょっとした品に何か残ってたりしないかな
賑やかな声と足音とともに、財宝探しの人達が奥へと向かってゆく。彼らの興奮気味の声は、土砂崩れを掘り進んだ先に宝物殿が見つかったことを、玖篠・迅(白龍爪花・f03758)に教えてくれた。
彼らの後に続けば、大発見をその目で見られるだろう。けれど、迅はそれを躊躇った。
「財宝の山か……けど」
けど、そこで英雄王の人となりはわかるだろうか。声はしじまに消え、続きは心の中での小さな呟きへと引きつがれた。英雄は、多くの命が散りゆく群竜大陸でなにを思い、国を興したのか。その心はどこに行けば見つかるのだろう。
宝物殿方面の他に、探索が進んでいない場所はあったろうか。迅は道の整って居ない方、荒れた方を選んで進んでゆく。そして進んだ先に、標識があった。
『危険 この先罠あり』
この辺りであまり人に会わない理由がわかった。得体の知れない古代の罠を掻い潜るのは、誰だって御免被りたい。しかし、それでも迅は先へと進んだ。罠に守られた先にあるものは、きっと英雄王自身に触れるきっかけになる、そんな気がしてならなかったのだ。
「! 危ない」
鎌のような刃が迅の目前すれすれをかすめた。振り子のように揺れる刃は、気づいてしまえば対処はまだ簡単だ。振り子の根元を切り飛ばすと錆びの浮いた刃がどすんと落ちる。
「ここって、本当に用がある人達はどうやって入ってたんだろうな」
罠解除の仕掛けがないかと、迅は周りの壁や天井、床を注視し、触れながら進む。丁度腰下、ふと手をつくには下すぎる辺りの壁に、不自然な隙間を見つけ、触ってみるとその部分が壁に沈み込んだ。すると、先の壁内からごとり、と重い何かが外れる音がして、その壁がゆっくりと横にずれて秘密の通路が開けた。
霊廟にはいってこっち、空気の流れが古い時代のまま止まったような感触が付いて回っていたが、秘密の通路は一転して、ひやりと冷たい空気が流れている。迅は、空気の流れる方へ足を踏み入れた。
風の流れる道は、罠避けの通路のようで、分かれ道も無く真っ直ぐだ。道の先は行き止まりだったが、壁に手を触れると意外な軽さで横へとずれた。そうして出た先へと空気が流れてゆく。どこから流れているかもわからない空気が、進むべき道を示しているようだった。
先へと進む迅の足元で、埃がふわりと上がり、歩いた後には彼の足跡だけが残っている。ここから先は、迅が最初の探索者だ。
「この辺りは、何のための場所なんだろう」
空気の流れを追った先には、扉があった。時に侵されず残った扉には鍵や罠などはなく、滑らかに開いて、今代の客人を迎え入れた。その先は広い部屋となっていて、中では冷たい空気がゆるく渦巻いている。
「書物庫、かな」
幾つかの棚に、書物や巻物が納められている。保存は良さそうに見えたが、それでも書物を手に取ると、一部が崩れ、迅はそっと書棚に戻した。背表紙の文字を追ってみると、様々な地域に亘る、紀行ものや伝承についての書物が多いようだ。
「こっちは楽器か」
弦を弾く楽器や笛、太鼓のような打楽器など、種類豊富な楽器が棚に並んでいる。壊してしまいそうで怖かったが、音色を聴いてみたくて、迅は弦を一本弾いてみた。少し甲高い音が、細く震えながら響く。
音色の余韻が流れる空気に融けいって消えた時、迅の脳裏に、楽器を弾く人々、聴き入る人々の姿が流れ込んできた。夜に奏で歌う彼らは陽気で、しかしその双眸には悲愴なまでの決意が宿っている。
「これは、決戦前夜の一時なんだろうか……?」
突然視えた光景に戸惑いながら、迅は楽器たちに問いかけた。応えを期待してはおらず、その通りに応えはなかったが、楽器棚の側に、巻物が何本も丁重に仕舞われているのを見つけた。これも崩れそうで怖かったが、それでも彼は巻物を開いた。自分でも良く分からないが、その時はそうしたいと何故か思ったのだ。
巻物には、大量の不思議な記号が描かれている。暗号とは少し趣が違う。どちらかというと雰囲気は図面といった方が近い。巻物の記号に視線を走らせ何往復かさせて、迅は合点がいった。
「きっと楽譜だよな、これ」
各地の紀行ものや伝承、楽器たち、そして楽譜。英雄王の育ちは分からないが、他の地の文化に興味か憧れを持つ人だったのだろう。そして、王が幾つもの土地をまとめ上げられたのも、他の土地の文化を大切にできたからなのだろうか。
それら何もかもが予測に過ぎないが、当たらずと遠からじ、迅はそんな手応えを感じていた。
成功
🔵🔵🔴
イーファ・リャナンシー
手掛かり…うーん
過去の勇者の意思が宿ったものね
愛用の武器?そういうものって既に回収されちゃってそうだし
私だったらどんなものに意思を宿すかなって思うと、やっぱり古そうなものになってくるかしら
古めかしいアクセサリ、名剣とは程遠い見た目の武器…探しどころはそのあたりかしら
発掘者に見向きもされなかったような見た目、性能って辺りと、それでもこの収蔵庫に収められたって事実を鑑みれば…
候補を出来るだけ総当りして魔力を感じられるかどうかを試してみるわ
【チェンジ・リング】で何人かに妖精を随行させて、気になるものが収蔵庫にないかを広範囲で調べるの
【全力魔法456】に共鳴させてどんなに小さな魔力の残滓も見逃さないわ
戦士達が描かれた壁の浮彫が、一部崩れて損なわれている。崩れた土は流れ落ちて、床を覆い、所々は土の小山となっている。この辺りは英雄王の霊廟の中心をなす広間にほど近いのだが、残念なことに、保存状態については近いといえなかった。
床を覆う土は、イーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)と、彼女の供回りである影の妖精たちの足音を呑み込み、彼女達の歩みを密やかなものとしている。
しかし、それはそれでよかったのだ。なぜなら、イーファの歩みは、耳を澄ませ、遠い昔から今へと繋がれた、か細い魔力の響きを聴き取る道行であったからだ。
(「勇者の意思が宿ったもの。それは……」)
英雄王愛用の武器、定石で言えばそんな感じだ。けれど、その手の品は真っ先に、それこそ中心の広間で回収されているはずだ。その他に勇者の意思が宿ったものといえば何だろう。
(「私が意思を残すなら、きっと古くて遠い品だわ。古めかしいアクセサリ、名剣とは程遠い見た目の武器……そんなところかしら」)
手にした灯火から伸びた長い影を伝い、影の妖精たちがイーファに先立って通路の奥へと進み、往く手の影へと融けるように姿を消した。しかしかれらの見聞きしたものは、繋がれた絆を伝ってイーファの目と耳へと届く。
目と耳、そして己が魔力を研ぎ澄まして、イーファは身体を現に置きながら、心を遠い夢の中に半ば浸しながら、一歩一歩、亡き魂たちの残した一欠けの想いへと近づいてゆく。
闇の中、緩やかな歩みを続けていた、そんな感覚が、突然目に飛び込んできた光で霧散した。それは、他ならぬイーファ自身の持っていた灯火の光だった。それと気づき、身も心も現へと戻ったと同時に、辿り着いた、という確信めいた感覚があった。
「ここは、武器庫かしら」
気付けばイーファが立っていた広い部屋には、大量の武器防具が保管されていた。先に部屋に入り、品物を見て回っている影の妖精たちからは、色々な武器防具の映像が流れ込んで来る。
ありとあらゆる種類の武器防具があるようだった。剣一つとってみても、良く見かける両刃の片手剣から、幅広の刃を持つ、反身の片刃剣、刺突のために針のように尖った剣、と多様だ。
共通点があるとすれば、それら全ては誰かが使用していた品らしく、数打ちと一品ものの両方が入り混じる中で、鍛えられたたばかりの新品は一つもなかった。
イーファも武器の一つを手に取ってみた。それは、折れた剣だった。柄と鍔、刃はイーファの指の長さ程しか残っていない。
「丁重に保管されているのね」
折れた剣は、柔らかい布張りのクッションの上に置いてあった。まるでそれは、戦いを終えた者が憩うために設えたような……その思いつきに、イーファははっと顔を上げて、この武器庫に保管されている品物達を見まわした。
壁に架けられた金具は、布で覆われており、その上から武具を架けるようになっている。肩部分が大きく剥がれた革鎧が納められている櫃も布張りだ。サークレット、ネックレスと、魔力の籠ったアクセサリたちも、柔らかい布の上に、互いが絡まないように離して安置してある。
「武器庫ではないわね。ここは、戦い逝った人達の、形見が眠るための寝所なのだわ」
寝所を覆う眠りを妨げぬよう、イーファはそれきり口を閉ざした。代わりに自身の魔力で眠れる形見たちを覆い、それらが繰り返し見ている夢を一時、共にした。
映像や音、途切れ途切れの断片が飛び込んで来る。それらは誰のものとも知れなかったが、記憶のはじまりは、皆とても似ていた。
(「あなた達は帝竜の軍勢により、縁を亡くした者。そして戦に身を投じ、散った……そうなのね?」)
イーファの声なき問いに、千もの声が『そうだ』と応えた。還る場所を失った者の形見が、王の栄光と共に眠る場所、それがこの形見の寝所だったのだ。
あなた達の想いは継がれるわ。だから安らかに眠って。再び夢の中へと遠ざかってゆく声たちに向けて、イーファは手向けの言葉をおくった。
成功
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第2章 冒険
『用心棒を買わないかい?』
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POW : 実力を見せつけて納得させる。
SPD : 召し使いなど別の役職として雇われる。
WIZ : 話術を駆使して契約に持ち込む。
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英雄王の霊廟の周辺には、発掘のためにキャンプ地が作られている。場所は荒れ地の只中、最も近くの街からも数日、街道からも外れた場所に集まった大人数をまかなうために、規模はかなり大きい。目敏いことで、お宝を見つけた人目当ての買い取り・換金屋までおり、そこで懐が潤った人には、ほんの少しだけ高級な酒や食べ物を売りつける商人が待ち受けているという算段だ。
上機嫌でキャンプで休む人達に、発掘の陣頭指揮をしている商人、トルステンからの知らせが二つ届いた。
一つは、一通りの探索を終えたため、発掘作業はあと数日で一旦終わらせるとの知らせ。もう一つ、英雄王縁の宝を運び出すに当たって、護衛を募るとの知らせだった。何もない荒野を行くだけの帰り道も、稼ぎの種に出来るというわけだ。
「帰り道も無駄にならんとか、至れり尽くせりだな」
「おまえ能天気だな。お宝の噂は流れてんだ。一人では盗賊団の餌食になりかねんぞ……トルステンの旦那にくっついてった方が安全かもしれん」
「いや、英雄王のお宝とか持ってるんだから、ついていったら確実に襲われるだろ、どっちもどっちだ」
知らせを聞いた人達は、お互いの様子を探り合った。少人数で盗賊に見つからない幸運に頼るか、盗賊に狙われるのは覚悟で、戦力を持つ大人数についてゆくか。
宝を得た幸運の次は、宝を得るか失うかの賭け。得たものが大きかったゆえの躊躇いが、彼らの決断を鈍らせている。
そこに、痩せて背の高い初老の男と二十になるかならないかの少女が通りかかった。男は、知らせを触れ回った戦士に様子を尋ね、それには芳しくない返事があったはずだが、感想は表に出さず、たむろする人達の中に分け入った。
「もう少しの間、私トルステンと、アベリア嬢に手を貸してはもらえないか。日給も、三割増しにしよう。我々は必ず帰らなければならない。それは君達も同じはずだ」
報酬に後押しされ、居並ぶ人達の空気が少し変わった。後ろで見ていた少女が、トルステンの横に立つ。質素で地味な衣を着た、目元に凛々しさが滲む少女だ。
「私からもお願いします、どうか、共に来てください」
彼女は皆をしっかりと見つめ、形と同じ簡素な言葉を綴る。
「共に来てくれるならば、私の所を訪ねてくれ。護衛なので、腕前を見せてもらいたいのだ。武芸に自信がなくとも、他に特技があるならば、その手際を見せてほしい。それでは、お待ちしている」
トルステンとアベリアによって、英雄王の宝は、霊廟から運ばれようとしている。今のところは彼らに同行し、英雄王の宝の近くに居る方が、過去の勇者達の遺したものに触れられる可能性は高そうだ。
どうやら、トルステンとアベリアの二人とも、随行希望者と会うつもりらしい。
武芸に自信があるならば、護衛として、自信がなかったとしても、別の役割で彼らに同行することができるだろう。大所帯の旅だから、色んな技術が役に立つはずだ。
あなたなら、どうする?
イーファ・リャナンシー
wiz
小さいからって用心棒が勤まらないなんて道理はないわ
自分が使える力を見て貰いつつ、能力を売り込んで契約に漕ぎ着けるつもりよ
まずは【フェアリーズ・プリマヴェーラ】を使うところを見せるわ
そう、私なら一気に240人の戦闘用妖精を呼び出せるの
小さいからって舐めたら痛い目に遭うんだから
これなら全方位警戒だって、お手のものよ
もちろんそのまま戦闘だって出来るの
それでも小っちゃな私だと不安かしら…?
大丈夫、私だって伊達や酔狂で来てる訳じゃないわ
百聞は一見にしかずとか言いながら、何か壊しても当たり障りのないものを【全力魔法492】で攻撃するところを見せるの
その上で、小さな体を活かした戦闘の有利さを売り込むわ
キャンプ地のほぼ中心部に、商人トルステンの天幕はあった。隣合った天幕には発見した宝が保管されているらしく、私兵と思しき戦士達がこの界隈を油断なく警備している。
天幕前は広場になっており、夜は大きな火が焚かれているのだが、今は護衛希望者の力試しのため、組まれた薪は除けられていた。力自慢、技量自慢の者が集まりつつあり、それを見物しにきた物見高い者も次第に数を増やしていた。
トルステンとアベリアが現れ、力試しが始まった。強面で筋肉質な身体の、いかにも戦士然とした男が、これまた似合いの大斧を振るって見せる。風を切る音が響き、見物人からも、おお、という声が上がる。
次に現れたのは、平凡な両刃の片手剣を持った、中肉中背の男だったが、鞘走る剣の速さは尋常のものとは思えず、圧倒された周囲は、しんと静まり返った。
いずれ劣らぬ技量を見せつけられ、次に出る者が途切れた。ここで進み出たならば、間違いなく前の二人と比べられる。並の腕ならば見劣りしてしまうのは明らかだった。
そこでイーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)が進み出たのだが、その時周囲に安堵の空気が広がった。小さなお人形のようなフェアリーの少女に何ができると、皆、高を括っているのだ。
そんな周りの反応は、イーファにとっては、まあ予想していたとおりだった。ただ、トルステンはそんな気振りを見せず、イーファを静かに見つめている。
「君が何を得意としているのか、見せてくれないか」
促されるままに、イーファは呼ばわった。土埃の舞う、かさついた茶色が一面に広がる中に、ふわりと一枚の花弁が舞った。それを皮切りに、一挙にとりどりの花弁が辺り一帯を舞い散る。
花弁の輪郭がぼやけ、妖精へと姿を変えた。イーファの周りを飛ぶ妖精たちの人数は、この場の見物人よりも多いようだ。あまりの光景に圧倒された見物人たちからは、感嘆にせよ野次にせよ、言葉は一切発せられなかった。
「240人いるの」
イーファのその声を合図としていたように、飛び回っていた妖精たちは、ざっ、と彼女を守るように隊列を整えた。各々の小さな手には、細く華奢ながら、鋭くきらめく武器を携えられている。
「この人数いれば、全方位警戒だってお手のものよ。持ってる武器だって飾りじゃない。戦うことだって出来るの」
尋常ではない召喚術を目の当たりにしたトルステンは、満足げに頷いた。傍らのアベリアは無数の妖精たちの姿に驚き、魅了されたように、その動きを見ている。
「偵察も戦も出来る戦士達というわけか。その人数ならば、輸送隊の周囲をまんべんなく警戒できるだろう。君は召喚術師なのか」
言外に、戦いは召喚した存在任せなのかと問われているような気がして、イーファは周囲の空気や地脈から魔力を集め、片手に収束させた。極限まで圧縮された魔力は、実は大地に大穴を穿つだけの力を持っている。魔術の心得か素養が少しでもあれば、その片鱗は感じ取れるはずだった。
「私だって伊達や酔狂でこんな危険な土地に来てるわけじゃない。戦えるに決まってるわ。身体は小さいけれど、誰よりも小回りがきくし、物陰に隠れて不意打ちだって出来るの」
トルステンは、少しばつの悪さを滲ませて笑った。
「すまないね。切った張ったが苦手なら、周りを固める戦士が必要かと思ったのさ。だが、その必要はないというわけだね。少々失礼をしたが、我々と共に来てくれるかね?」
これで商談成立だ。一連のイーファの業に、周りの護衛志願者からは先程の安堵の空気は消し飛んでいる。何しろ、更に超えるべき壁が高くなったのだから。
「……いや、あれだけ派手にやった後なら、誰が何を見せても凄みはなくなるから、かえって良かった、のかもな……」
誰かが苦い笑い混じりにそんな事を言いだし、追従して、似たような笑いが幾つも起こった。
成功
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セツナ・クラルス
私は剣も弁も立つ方ではない
只のしがない救い主だからね
何を以ってアピールしようか
ふむ、悩むところだねえ…
…ああそうだ
多少目がいいということでもアピールしようかな
どなたでもいい
紙に何か書いてくれないかい
ああ、書いたものは私に見せてはいけないよ
私の「千里眼」で当ててみせよう
そんなことを話しながら
こっそり観測者を召喚
形はそうだね、虫型にでもしようか
目立たぬように彼らの背面に配置させ
書かれたことを読み上げる
…どうかな、当たっているかな
ふふ、私の目から逃れることはできないのだよ
私の能力はきっとあなた方のお役に立てると思いますが?
少し芝居掛かった様子でにっこりと笑い
人垣から、歓声が上がっている。それを聞きつけた人達が人垣に加わり、更に人垣が大きくなってゆく。護衛募集に応じようとやって来た、セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は器用に人垣を縫って、ひょっこりと最前列から顔を出した。
折しも、武芸者達が対戦中だった。ちょっとした賭けまで始まっている。賭けに誘われ、セツナは笑ってやんわりと断り、人垣の中から抜け出した。
(「私は何を以ってアピールすればいいのかな」)
確か、トルステンとアベリアの前で、技を披露すればよかったはずだったのに、荒れ地のど真ん中の娯楽の無さを甘く見ていた。対戦といったって、あの武芸者と戦う自分のイメージが全然わいてこない。ましてや、口だけで切り抜ける姿などもっと想像できたものではない。
「ふむ……」
人垣の後ろをのんびりと行き来しながら、セツナは自分のアピールポイントについてしばし沈思黙考した。
(「私は只のしがない救い主だからね」)
どこかから『しがない、ってさ、救い主にくっつけて使う言葉なのかよ?』という声が聞こえたような気がしたが、それは気のせいだろう。セツナは何食わぬ顔でそう結論付け、護衛の募集担当の私兵の元へと向かう。やはり救い主なら、神秘の力を垣間見せるのが一番わかりやすい。
「千里眼?」
怪訝そうな顔で私兵に聞き返され、セツナは柔らかく笑いながら繰り返し、紙とペンの用意を頼んだ。そして、通されるままに人垣の真ん中へと足を踏み入れた。武芸者の対戦は一休みに入ったようで、今いるのはセツナ一人だ。
たった一人、得物も持たず、無防備に立つセツナに、見物人からは好奇の目が向けられる。騒がしさが引いてゆき、残ったのは時折ひそひそと話す声だけだ。
「私は、目に見えないものを見通すことができるんだ。例えば……そう、その紙に何か書いてくれないかい。私には見えないようにね」
ゆっくりと話しながら、セツナはこっそり観測者を召喚した。今回は小さな羽虫の形がいい。召喚が成功した証に、視界がぐん、と揺れる。観測者と感覚を共有するという感触は、召喚に慣れても違和感は付いて回る。それは、自分が自分である証なのだけれど、それにしても、羽虫の姿をして頼りなく飛んでいるから、視界は揺れに揺れて酔いそうだ。
それでも涼しい顔を保ちながら、観測者をトルステンとアベリアの背後へと差し向けた。セツナから隠しながら、トルステンが何かを紙に記してゆく。観測者の目を通じ、それをセツナは読み取った。
(「アデニウム……花開く。きっとアデニウムとは、英雄王に関わりのある花の名前なのだね」)
トルステンは書いたものをアベリアに見せ、見たアベリアの目が驚いたようにかるく見開かれた。トルステンは口元に笑いを含め、紙を畳んでセツナの方へ向けた。
「さあ、千里眼の君、この紙にはなにが書かれているのかな?」
見物人達は、固唾を飲んで成り行きを見守っている。セツナは表情を全く崩さず、淡々と答える。
「アデニウム、花開く……どうかな、当たっているかな」
一文字たりとも違いのない答えに、さすがのトルステンも絶句した。彼が気を取り直し、紙を開いて周囲に見せると、次いで周りからも驚きの声が上がる。
セツナはふふ、と笑い、右腕を胸に添え、片足を引いて貴人のするようなお辞儀をしてみせた。
「私の能力は、きっとあなた方のお役に立てると思いますが?」
「ああ、異論はないな。その『目』が、私達の歩く道を見通してくれるのを願っているよ」
契約が成立し、試しの場を後にするセツナを、見物人達は畏怖の目で見ている。表向き武芸と縁がなさそうに見えたとしても、セツナが護衛に立つことに異論を唱える者はいないだろう。
成功
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イネス・オルティス
今一つよくわからない依頼人よね、もしかして英雄王の子孫とか? まあいいわ
そうね、護衛として雇ってもらうのが常道でしょうね
「まあ、それ以外選択肢無いわね私」
雇ってもらうため腕前をみせる”パフォーマンス”する
”なぎ払い”や”串刺し”で”ダンス”の様な演武を見せる
最後に【巨獣撃】で〆
「こんな感じでどう? 不足?」
アドリブ・絡み・可
発掘キャンプ地の一角に、簡素な食事処が作られている。元は発掘の現場指揮者で大商人でもあるトルステンが、財宝探しの人向けに保存食料を売っていたが、今はここの盛況ぶりに惹かれてやって来た商人も出入りしており、キャンプの食糧事情は大分ましになっていた。
首尾よく財宝を手に入れた人達は、街中よりも値が嵩増しされた酒で、ささやかな祝杯を上げている。そんな中にトルステンの私兵が現れ、護衛募集の触れを出した。
たまたまそこに居合わせたイネス・オルティス(隠れ里の女戦士・f06902)も、触れを聞いた。トルステンと、彼と共に居るアベリアという少女の前で、技量を見せて満足させられれば契約成立、という流れのようだ。
「今一つよくわからない依頼人よね」
乾いた土埃に晒され、かさついた喉を潤しながら、イネスは周りの様子を見た。手に入れた宝を無事持ち帰るために、護衛に雇われるべきか、自分達だけで帰るべきか……色々な事柄を秤にかけて、どちらに賭けるか考えているようだ。
「腕に自信があるなら、雇われるのもいいかもしれない」
近くにいた青年が、そんな事を言いだした。彼の傍の少年が、なんでかと問い返す。青年は、これは予想なんだけどな、と前置きしている。その後に続く言葉を、周りの他の人達も、さりげなさを装い、耳をそばだてて聞いていた。
「そのまま傭兵として戦、って線がありそうなんだよ」
「戦ですって?」
聞き返したイネスを、青年はぎょっとして振り返った。詰めの甘いことで、自分の言葉が聞かれているとは思っていなかったようだ。
「ああ……あのアベリアって子、英雄王の末裔なんだそうで、最近、隠れ住んでた里から出てきて、アデニウム復興を目指してるとか」
ふうん、と気のなさげな相槌を打ちながら、イネスはキャンプで見かけたアベリアの姿を思い出した。簡素な服を着た彼女は、王国復興の先導をつとめる女傑とは思えない、普通の少女に見えた。
(「まあ、思惑は色々よね」)
「英雄王の遺品を探したのも、英雄王の正当血統を掲げて、この辺りを統一しやすくするためだろう。でも大人しく従う者だけじゃないから」
「それで、戦なのね」
青年に礼を言い、イネスはカップの残りを飲み干し席を立った。霊廟発掘の事情は分かったが、過去の勇者達の意思を辿るのが目的であって、霊廟の宝の護衛はまだ良いとして、流石に戦までは付き合い切れない。
イネスが護衛希望者の試しの場へ着いたのは、トルステンの触れがキャンプ中にやっと行きわたったところ、といった頃だった。集まった武芸者の順番に、試しは始まった。そこそこの腕の戦士達に次いで、フェアリーの少女が妖精の大群を召喚し、見物人の度肝を抜いていた。
(「あの子、多分猟兵よね」)
イネスは巨獣槍の穂先から覆いを取り除き、握りの感触を確かめた。乾燥した空気の中、しっとりと手に馴染むいつもの感触に内心で頷いて、試しの場へと進みでる。
「君は、槍使いか。珍しい素材で出来た槍だね。獣の爪か牙か……君自身が狩ったものかな。その槍に劣らぬ腕前を、見せてくれないか」
トルステンの言葉を笑みだけで返し、イネスは槍を大きく払った。土埃まみれの空気が両断され、次いで空を切る音が続く。ぴたりと止めた穂先はそのままに、今度はイネス自身がゆったりと歩む。最初はすり足で、徐々に歩みを早めてゆき、縺れるような足捌きで、試しの場を一巡し、トルステンとアベリアの正面に立った。
払いの型のまま、下げていた穂先を跳ね上げ、風車のように槍を回転させる。回転する槍を右手、左手と持ち替えながら、上へ下へと位置を変えながら、片足を軸にしてゆっくりと身体を回転させ、徐々に足を曲げ、螺旋を描く様に姿勢を低く保った。
利き手に槍を移動させ、足先に力を込める。勢いはそのままに、気合の声と共に地を蹴り、正面の空間へと一足で跳んだ。槍全体を揺らめく巨獣の蜃気楼が包み、その巨体の一撃を地面へと叩きつける。イネスを中心に衝撃波が走り、一帯が揺れた。
舞いと思わせて、攻めに転じたイネスの槍捌きに、見物人達は気を呑まれ絶句した。トルステンとアベリアも例外ではない。これでも、キャンプ地を壊滅させないように加減した一撃だったのだが。
「こんな感じでどう? 不足?」
流れるような所作で巨獣槍の穂先を覆い、イネスは槍の石突きで地面をしゃんと打った。
「今日は不思議と一流の戦士ばかりに出会う……」
契約が成立し、試しの場を後にするイネスに、トルステンの独り言が聞こえた。
成功
🔵🔵🔴
ラルマ・ドゥルーヴ
【POW】
事前の話通り、雇い主たちはこの発掘に賭けているようだな
少々彼らの事情も気になって来た
どうせ当てもない旅だ、是非とも同行させて貰うとしよう
好都合な相手も多くてちょうど良い
力試しの場に出た後、誰か打ち込まれてくれないかと戦士たちに声を掛けよう
相手が見つかったら竜の変じた槍を構え
最初は受けやすく打ち込み、徐々に速度と強度を上げて本気を引き出そう
相手が隙を見せたら【烽火連天】
直撃させる気はない
首や胸、当たれば致命となる場所をわざと掠めて
軌跡を焼く焔は見目にも派手で、実力を誇示するのに良いだろう
自身は【火炎耐性】で余裕を見せ、雇い主に笑っていよう
この通りの腕なのだが
同行には不足だろうか?
霊廟で発見された、英雄王の宝が安置されている辺りは、キャンプ地の中でも最も警備が厳重な場所であった。そこにいる戦士達は、みな唇を引き結んだ厳めしい顔をして、整然と警備と巡回にあたっている。堅牢な城塞内ならいざしらず、財宝に沸くキャンプ地の中で、彼らの所作は目を引いた。
ラルマ・ドゥルーヴ(砂礫・f19535)もまた、戦士達の姿に目を引かれた一人だった。彼らの着ている衣装が、ラルマの故郷の衣装と少し似ていたのだ。
(「彼らは、皆同郷なのか」)
彼らは、英雄王に因縁のある一族なのかもしれない。彼らとその雇い主達は、過去の栄光を持ち出して、今の世で何をしようとしているのか。財宝のばらまきと言っても過言でもない発掘の進め方は、大胆にも、性急にもラルマには感じられた。そんな手段を敢えて取ってまで、彼らは何を望むのか。
「どうせ当てもない旅だ」
しばし、彼らの歩む道を共に行こう。戦士達を一瞥し、ラルマは英雄王の宝の護衛を募っているという、キャンプ地の中心へと向かった。
ラルマがキャンプ地の中心に着いた時には、護衛希望者の力試しは始まっており、その技に大勢の見物人が沸いているところだった。人垣の先を覗いてみると、武芸者同士が手合わせをしている。
「やっぱり、見てる分にゃ、こういうのが良いよな!」
「おおよ、賭けのネタにもなるからな」
傍らでほろ酔いの男達がそんなことを言っている。確か、トルステンとアベリアの前で、一人一人技を披露するはずだったはずだが、いつの間にか手合わせとなったらしい。ラルマは口元だけで微かに笑った。それならば、私はおあつらえ向きだ。
手合わせを待つ武芸者達の元へ行き、手合わせを前に、身体を整える彼らの一挙一動を見とった。
(「演武には、技量の釣り合いが一番大事なのだからな」)
ラルマの視線が、一人の男のもとで止まった。彼は、体格こそ平凡ではあったが、しなやかな筋肉を持っていた。きっと、彼はその身体で戦場を縦横無尽に駆けてきたのだ。彼ならばラルマの武技に付き合えるだろう。彼はラルマが手合わせを申し出ると、淡々と応じた。
いざ、手合わせの場に出ると、見物人からは無遠慮な値踏みの目が注がれる。一人の武人として、ラルマと相対している目の前の男とは対照的だった。ラルマは銀竜シェリューが変じた竜槍を構え、切っ先を男へと向け、隙を伺った。
……が、男は中々隙を見せない。彼の得物は片手剣で、間合いはラルマよりも狭い。その差を埋めるために懐に飛び込んで来ると思ったが、ラルマの間合いに踏み込んだと思うと、直ぐ退く。その後を追い、ラルマが男の間合いへ踏み込むと、剣が打ちこまれる。
敢えて軽い一撃で、ラルマは男の癖を見定めようと、その身体の各所に槍を打ちこんだ。男もまた、ラルマに同じことをしてくる。牽制の中、どちらが先に隙となる癖を見つけるかが勝利の分かれ目だろう。
ラルマは隙を誘うため、槍を振るう速さを上げた。男はそつなく受けながすが、更にラルマが力を込めて打ちこんだとき、受け流しに僅かなぶれが生じる。受け流しの途中で力を逃がしそこね、無理矢理膂力で弾き返したためだ。
(「剣を持つ手と反対側、腰より下への攻撃の受け流しが苦手か」)
そこが勝機だ。ラルマがそれを見出したと同時に、男もまた、隙を悟られたことを知った。ここで決めなければ――二人とも、攻めへと転じる。
「シェリュー、飛べ、一直線に」
竜槍は唸りを上げ、男へと伸びる。しかし鋭い穂先は男の傍をかすめ、その軌跡を焔が追う。軌跡からこぼれた焔は、地面へと拡がり、ラルマと男、二人の武人へと迫った。
焔の陣に囚われた二人だが、ラルマは揺らめく熱気の中、微笑をたたえ、静かに立っていた。この焔こそは竜の吐息、竜騎士にとっては魂に近しい灼熱なのだ。
焔の先から、『それまで!』という声が飛び、ラルマは竜炎をきれいに鎮めてから、トルステンとアベリアへと向き合った。
「この通りの腕なのだが、同行には不足だろうか?」
その実力に否やというものはなく、ラルマと男、二人共々護衛として契約を交わすこととなったのだった。
成功
🔵🔵🔴
セツナ・クラルス
ふむ、御一行が動き出すのにはもう少しかかりそうかな
では、この時間を利用しよう
賭け事に興じていた集団に声をかける
どなたか、私とゲームをしないかい
少し小遣い稼ぎをしたくてね
簡単に結果が分かるカードゲームなんて如何かな
適当に会話を続け注意を反らし
ギャラリー背後に人型の観測者を配置
観測者の性質上、多少大胆に設置しても気付かれないだろう
羽虫だと酔うからとかではないよ
勝負は相手がやや有利気味に調整
人は気分が良くなれば
気が大きくなるからね
ところで
我等が雇い主殿について教えてくれないかい
金に目が眩んで契約してしまったが
どんな人となりか全く知らなくてね…
愚鈍な笑みで警戒心を解き
任務のヒントや情報を引き出そうか
千里眼の持ち主として、英雄王の財宝の護衛として雇われることとなったものの、出立前の今はとりたててすべきこともなく、セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)は、キャンプ内で手持ち無沙汰にしていた。千里眼とは言っても、実のところはユーベルコードを使ったトリックだったから、通る道の危険を見通してくれ、などと言われても面倒ではあった。
大勢の戦士が雇われていった中、まだ護衛希望の受付は続いていて、試しの場の辺りは賑わっている。特に武芸者の対戦形式となると盛り上がりはかなりなものだ。目敏い者がいち早く賭けなど始め、賭け好きの者が乗ったものだから、対戦中の人の一挙一動に歓声が上がっている。
その喧騒からすこし退いた場所で様子を見ていたセツナは、ふむ、と考え込んだ。
(「あれだけの報酬に、この人数。随分と掛かりが多いと思うけれど、どういう訳を抱えているのだろうね」)
ある程度事情通で、口が軽い相手。そんな都合のよい相手がいないかと試しの場へ目を向けると、ちょうど対戦が終わり、賭け金の配当が分配されている所だった。賭けに興じていた男達は、大声を出して涸れた喉を潤すために、食事処へ向かってゆく。
男達は、酒と干し肉のみで賭けの話をしている。あの武人の技は凄かった、とか、そんな話だ。香草でほんのり味付けをされた水を楽しみながら、セツナはしばらく彼らの話を聞いた。尋常ではない技を使っていたという女戦士達は、多分目的を同じとする猟兵だろうと当たりをつけ、彼らの話が一段落つくのを待つ。
賭けた戦士達について、一通り論評らしきものを終えて、男達の間に沈黙が下りた。それを破ったのがセツナの言葉だ。
「どなたか、私とゲームをしないかい。少し小遣い稼ぎをしたくてね……あなた達は、あの賭けだけでは物足りなくはないかな」
いつの間にか傍に来ていたセツナを見た男達の目に、驚きの色が浮かんでいるのを見、セツナは幼子を安心させる時のような笑顔を向けた。
「簡単に結果が分かるカードゲームなんて如何かな。急に出立、となっても切り上げやすいだろうしね」
だが、男の一人が胡乱気な眼をセツナに向ける。
「あんた……確か、千里眼、とかいう話だよな。カードを見通せるんなら、あんたの一人勝ちになるだろ」
「そんなことはしないよ。それでは、賭けにならないからね。何より、私が楽しくない。疑うなら、お試しで私と一回対戦してみるかい」
金銭が発生しないと聞き、男が一人、名乗り出た。にやりと笑う彼は、相当にカード勝負に自信があるようだ。周りの男達は、見物を決め込むつもりらしい。その男達の中に、セツナは観測者を紛れ込ませた。今度は中肉中背、どこからどこまでも平凡過ぎる男の姿を取らせた。今度は彼の目が、対戦相手の手札をセツナに伝えてくれる役になる。
人型の観測者と共有する視界は、ぶれずに安定している。別に先程と同じ羽虫でも良かったが、怪しまれにくいとはいえ、賭けに身が入った男の周りを飛び回って、鬱陶しがられて手でぴしゃり、となってしまうのも難だ。決して羽虫だと酔うからとか、そんな理由ではない。臨機応変、適材適所、それこそが『並走する観測者』の真髄なのだ。セツナは今そう決めた。
セツナはカードを切って配る。その素人そのものの手つきは、周りを安心させたようで、実際イカサマなどしていない。接戦の後、男の方が勝利となったのを見て、周りの男達も参戦を決めたようだ。これで、本来の目的、情報収集を始めることができる。まずは、相手がどの辺りから来たのか尋ねてみる。
ある男は「荒野を越えた先の街で用心棒稼業さ」と言い、また、ある男は「冒険者稼業で、たまたま流れてきただけだな」と言った。彼らの話を総合すると、隊商などの護衛をして生計を立てている者が多く、冒険者はあまりいない。この辺りは冒険者が稼げるような場所があまりないらしい。
「山賊や盗賊が多くてね、そいつらの中には、街の領主から秘かに援助を受けているやつもいるから、厄介さ」
セツナがゲームの場を、対戦者側にやや勝たせるように調整しているので、上機嫌な彼らは、この地方の抱える事情を何の気なしに話し出す。それが依頼主トルステンとアベリアにどう繋がるのか、セツナは思考を巡らせていた。
「領主から援助?」
「ここいらは、それぞれの街が独立してる、って位ばらばらで、お互い足を引っ張ってるのさ。他の街行きの隊商を襲ったり、街に入る、橋を渡るのに税をかける……旅する者にとってはやり辛いよな」
そこで、セツナは少し神妙な顔をしてみせた後、何もわかっていない風の愚鈍で素直な笑みを浮かべ、男達を見た。
「何だか怖くなってきたよ。金に目が眩んで契約してしまったが、雇い主殿は、どんな人となりか全く知らなくてね……知ってる人はいないかい?」
「千里眼で世間を色々と見通してきて、賭けの胴元までこなすのに、そんなあんたの笑顔も中々怖いが……まぁ、トルステンはこの辺り一帯で手広く商売をしている商人だ。その財産は、下手な街の領主より多いとも言われてるぞ。そこまでの商売人が、善人とは言い切れないが、商売自体は真っ当な方だという噂だな」
別の男も口を添える。
「だがね、最近は辺境の街だったヤルテニンが、小さい里や村を滅ぼして、周辺の国や街と小競り合いを始めて以来、隊商が辿り着くのもやっとという状況でな、彼も奴らに煮え湯を飲まされているんだろうさ」
「それで英雄王の至宝? それにアベリア嬢はどうか関わってくるのかな?」
中々に荒れて物騒な地であることがわかり、セツナは笑みを消した。かつてこの地を統一した英雄王の威光を掲げてやることといえば、彼の行いをなぞることなのだろうが……。
「彼女、英雄王の末裔だったか? 住む里が、ヤルテニンに攻め入られたという話はちらっと聞いた」
セツナが色々話をした中で、聞けたのはそれだけだった。旅の傭兵や冒険者達に分かる範囲は、そんな所なのだろう。ひとしきり対戦を楽しんだ後、少しだけ財布が重くなった男達に見送られ、セツナは食事処を後にする。
(「英雄王の宝を狙うのは、オブリビオンなのではなく、同じ現世に生きる人間なのだろうか……」)
キャンプの端に立つセツナの目には、ただひたすらに広がる荒野に、乾いた風が土埃を舞わせ吹き渡る様だけだった。
成功
🔵🔵🔴
玖篠・迅
護衛の人も集まってるみたいだし、ちょっとした自衛もできる薬師みたいな感じで申し込んでみようかな
ある村で薬の作り方・扱い方を教えてもらってから一式は持ち歩いてるし、薬じゃ間に合わない時は月白で治せると思うんだよな
もし怪我とか体調不良で動けない人がいたら、ちょっと月白使わせてもらうな
自衛に関しては「マヒ攻撃」の「呪詛」で金縛りとか、式符・朱鳥使って見せるな
あとは英雄王縁の品で、運ぶのに困ってるものとかあったりするかな
残ってる想いが強すぎたり、呪いみたいなのがあったりで
もしそんなのがあるなら、護符で街に着くまで運び手の人に害がないようにできるかもって事で、少し見せてもらえたりしないかなあ
戦士達が技を披露し、護衛へと雇われていく。雇用主のトルステンは、護衛が何人必要かは明らかにしていなかったが、明らかに戦い慣れしていない者は別として、そこそこに武器を使える者は、どんどんと雇われてゆく。
最初は試しの場の様子を見ていた者も、自分も行けるかもと挑戦しはじめ、まだまだ辺りは賑やかだ。彼らには恐らく、これだけの大勢についてゆけば、無事に自分もお宝を運んで帰れるという計算もはたらいているのだろう。
そんな人の流れを、玖篠・迅(白龍爪花・f03758)は眺めていた。迅自身もあの中に混じったとして、武術の腕だけでも護衛に認められるだろうとは思えた。
(「護衛の人も集まってるみたいだし、薬師みたいな感じで申し込んでみようかな」)
やはり、行くならば自分の本分で。迅はそう決め、薬の調合一式を取り出した。調合技術を旅先で得て以来、旅を共にしてきた品だ。薬は大概の病や怪我に効くが、容体が急を要する時は、月白の力を借りればいい。白い鳥の姿をした月白が、翼を羽ばたかせると、辺り一帯に癒しの波動が降り注ぎ、傷つき病める者に生命の力を芽吹かせる。
迅がトルステンとアベリアの前に立ち、旅の薬師だと名乗ると、トルステンが僅かに笑みを浮かべた。
「ああ、不躾ですまないね。実は、考えていたより大人数になりそうだったから、皆が健やかでいられるように手立てが必要だと思い始めていたのだが、ちょうど君が名乗りを上げてくれたので、天の配剤かと思ったのさ」
笑みを消し、真面目な顔をしたトルステンは、薬について迅に尋ねる。熱さましの処方だとか、腹の中を整える薬だとか、あるいは、血止めの薬効を持つ薬草についてだとか……彼自身も薬を商うらしい。とは言え、いずれも薬師ならば大抵扱っている薬の話で、迅も難なく問いに答えた。
「簡単な質問だったと思うが、これだけの薬があるだけでも、人の生き死にに大きく関わってくるんだ。よろしく頼むよ……そうだ、君は戦働きは得意かな?」
「自分の身を守るくらいなら大丈夫」
迅が霊符を取り出し、自分の目前に浮かせると、トルステンはもういい、と止めた。そんな不思議な術を使いこなす者ならば戦えるだろうと言われ、迅は、燐光を放つ霊符を仕舞った。
「あと出来るのは……破魔の術、かな」
迅の言葉に反応したのは、意外にもアベリアだった。彼女は試しの場に同席してはいたものの、ほとんど言葉を挟むことなく、じっと座っていたからだ。彼女の側を固める厳めしい顔の警備の戦士は、眉を上げていた。彼にとっても意外だったようだ。
「破魔……というと、どんな術なのですか?」
地味な身なりの少女の声は、賑わっているこの場にあっても、良く通る凛とした声だった。
「古くから残る強い想いが、長い時を経るうちに縒り合さって、あるいは濃く淀んで、いつの間にか元の想いから遠く離れ、人に害をなすことがあるんだ。それを解きほぐし、想いを受け止めて、宥め納得してもらう……そんな術だよ」
「……」
迅は黙ったアベリアが口を開くのを待った。そんな彼女をトルステンは横目で見ている。冷静そのものの彼の眼差しに、何かを探るような色があるのを、迅は見逃さなかった。
「もし、心当たりの品があれば、運び手の人に害が無いようにできるかもしれないよ」
意を決したように、アベリアが口を開いた。
「見ていただきたい品があります」
「アベリア殿、止しておきましょう。英雄王の至宝はおいそれと人に見せるものではない」
トルステンが被せるように言い募る。遮られたアベリアは、険しさ混じりの目で見返した。傍の戦士が彼女を守るように一歩進み出る。
「あれが至宝ですって……?」
「試しの場は、これにて終了する! 皆は解散してくれ!」
剣呑な遣り取りが始まりかけ、トルステンは無理矢理場を解散させる。その場にいた者達は、『訳あり』な様子に興味津々ながらも、トルステンの私兵に追い払われるように散ってゆく。
(「きっと発掘された英雄王の宝の中に、災禍をもたらす品があるんだ」)
迅は試しの場を後にし、発掘品の保管されている辺りへと向かう。宝そのものに触れられなくとも、宝のある辺り一帯に破魔の札を忍ばせられれば、人への害を減らせるだろう。
成功
🔵🔵🔴
第3章 集団戦
『兵士』
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POW : ハードスラッシュ
【剣による攻撃】が命中した対象を切断する。
SPD : ペネトレイト
【槍】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ : 無慈悲の乱雨
【10秒間の集中】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【雨の如く降り注ぐ矢】で攻撃する。
👑11
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英雄王の霊廟の財宝を巡る狂騒は、発掘の指揮者である商人トルステンと英雄王の末裔と言われる少女アベリアが発掘した宝と共に発つことで、一旦終わりを告げた。
だが、霊廟自体が過去の遺産であるのに加え、未だその全てが発掘されてはいない。トルステンの私兵達が後に残り、集まった諸々の人は三々五々霊廟を後にしてゆく。トルステン達と共に行く者、逆に、盗賊の横行する地を秘かに抜けようとする者。帰還行もまた賭けであった。
猟兵は、トルステンの一行に護衛の一人として随行している。英雄王の宝の近くに居る事で、過去の勇者の意思に触れる事が出来るかもしれない。それが必ずしも人の五感で感じ取れるものであるかどうかは知れないが、そうとしても、帝竜へ至る礎の一石となるに違いない。
英雄王の宝を擁し、随行人数を多数抱えた一行の歩みは、どうしても遅いものとなる。隊列も長く伸びがちだ。それでも平地を行く間は中心の宝とアベリアを厚く取り囲む形で進んでいるが、やはり地形が入り組んだ途端に隊列は伸びざるを得なく、守りが薄くなってしまう。
実際、そういった場所では盗賊の襲撃があった。宝の噂は悪漢どもにも伝わっているらしかった。しかし、大量の護衛に反撃されると、実にあっさりと盗賊たちは退いていった。
宝の噂と共に、一行の武装についても伝わっていたのか、せいぜいが陽動の間に宝をかすめ取ろう、という程度の動きで、命がけで事を構えるつもりはないようだった。
そんな襲撃が散発的にあり、全てを撃退して一行は順調に進んでいるように思えた。ところが、トルステンから全員に一時停止の触れが回り、一行は一度歩みを止めることとなる。
「この先は、谷底の細い道だ。隊列は長く伸び、狭い道は逃げるにも不向き、一方で谷の上からは下を狙い放題だ。知っている者もいるだろうが、ここは盗賊団『砂塵の剣』の縄張りだ。奴らの数は、領主が擁する兵に匹敵すると言われている。まず間違いなく襲撃があるだろう。皆、心して進んでくれ」
トルステンは、一行全員に向けてそう言い、盾を持つ者は荷馬の側で、谷へ向けて掲げ進むようにと指示した。そして再び隊列は動き出し、峻険な谷間へと分け入ってゆく。
しばらくは、不気味な位に静かだった。風すらない中、一行は進み続ける。そして、隊列の全てが谷へと入り、しばらくした後……。
矢の斉射が隊列を襲う。防げなかった矢が馬に刺さったのだろう、悲痛な嘶きが所々で聞こえる。すぐに来るだろう第二斉射の前にと、弓手と魔法使い達が谷に向けて反撃を行った。ろくに狙い無しの面制圧射撃だったが、それでも幾らかの盗賊を落とすことはできたようだ。予測はされていたから、護衛達に大きな混乱はない。
そして盗賊の第二斉射が放たれ、それに乗じて伏せていた盗賊たちが、隊列の側面を強襲する。矢が降る中、白兵戦が展開される。
そういった戦況にあっても、猟兵が後れを取ることはない。試しの場で見せた、只人とは思えぬその戦技で、圧倒的に数で勝る盗賊たちを凌駕する。その様は、周りの護衛達を鼓舞し、盗賊たちは敢え無く倒れてゆく。しかし……。
しかし、幾ら何でも、あれだけ居た盗賊たちの攻撃がこうも早く収まってゆくものだろうか……? いつしか谷からの矢の援護もなくなっている。
「お頭あ!」
盗賊から恐怖の叫びが上がった。丈高い凶相の男が、一刀の元に斃されたのだ。だが、恐怖の正体は、主を倒された故のものではなかった。両断した剣の持ち主は……。
「ぼ、亡霊だあ!」
青白い光をまとう鎧姿の兵士達が、まるで空気から生まれたかのごとく、戦場にいつの間にか現れていた。剣、槍、弓で武装したかれらは、盗賊も、護衛も、目につく人全てを等しく攻撃している。
「斬っても手応えが無い……!」
「魔法もまるで効いていない! どうすれば……」
正体不明の兵士たちは、隊列の中心、宝とアベリアの方へ向かっているようだった。しかし、常人の放ついかなる攻撃も効かないかれらの前から人が退いてゆく。退くなと叫ぶトルステンの声がむなしく響く中、とうとうかれ等は目指すものの元に辿り着く――いや、辿り着くはずだった。
かれらの目前に人が立っている。人……いや違う。形は人だが、人の枠を超えた存在、過去から目覚めたかれらを唯一滅ぼし得る者だ。
「王よ、そこに居られたのか。今こそ、共に還りましょう……我らの戦働き、お見せしましょうぞ!」
亡霊の兵士たちは、整然とした動きで猟兵へと挑む。その先に居る、或いは在る、かれらの『王』と共に往くために。
イーファ・リャナンシー
うーん…この兵士たち自体は盗賊とかそういうものじゃなさそうだけど…行く手を阻むっていうのなら排除するしかなさそうね
小さな体を活かした死角からの攻撃で視認されないよう対処するわ
隙あらば【全力魔法528】もガンガン使っていくようなつもりで
敵の数が多くて捌き切れないようなら、進攻を止めつつ分断するために【フェアリー・ランド】で敵を記憶の迷宮に閉じ込めるわ
敵はこっちを視認できないから矢で私を攻撃することも出来ないはずだし、壁を壊すことも出来ないはずよ
それぞれが入口を抜け出てきたら入口付近でこっそり待ち伏せして、姿を見られる前に攻撃してやっつけるの
姑息?関係ないわ
だって最優先は依頼を成功させることだもの
『王』を見つけた亡霊の兵士たちは、その数を徐々に増しているようだった。どこから現れるのかは全く知れないが、この場に引き寄せられるように、その足取りの目指す先は迷いない。
護衛たちから放たれる矢や魔法も命中はしているものの、兵士たちにとってそれらは幻のようなものなのか、痛みも衝撃も感じていないようだ。現世の人にとっては、かれら兵士たちの方こそ妖しい幻であったが、彼らのふるう得物がもたらす傷痕は紛れもなく現実のものだった。
当初襲撃をかけてきた盗賊たちは、周囲から集まって来た兵士たちによって盗賊頭共々壊滅させられ、護衛と白兵戦中であった盗賊も倒されるか、戦場の混乱に乗じて逃げるかしてしまっている。
(「この兵士たち自体は盗賊とかそういうものじゃなさそうだけど……」)
イーファ・リャナンシー(忘都の妖精・f18649)は、盗賊の襲撃と兵士の襲撃は別のものだろうと見立て、すっと荷車の影へと隠れ、隙間から兵士たちの動きを窺った。魔法を使うにも、最も効果的な場所と時がある。そこを狙いすまし、形勢を一挙に逆転するのだ。
護衛たちは、攻撃が兵士たちに効かないと分かってからは腰が引けている。まだ踏みとどまっている者はいるが、この状況が続けば戦線は時を待たず崩れてしまう。
数を増やした兵士たちは、一つ所……アベリアと宝の所に集結しつつあった。その中でも特に兵士たちが密集しているところに、イーファは魔法の一撃を放った。凝縮に凝縮を重ねた魔力を、放出過程で削げないよう、かつ人を巻き込まないように距離と軌道を観測した上で解放したのだ。
その光景を見た者は、何が起こったか俄かにはわからなかったろう。突如兵士たちが謎の力で突如へし折られ、引きちぎられたのだから。残りの兵士たちはその力の使い手を探すが、その間に別方向から力が放たれ、また、兵士たちが千々切りになって儚く空に消えた。
この敵は倒せる――イーファの魔法を目にした護衛たちの士気が上がり、崩れかけた前線が回復しはじめた。それを見届けたイーファは、荷車や荷物の影を縫うように動き、兵士たちの背後、谷の片側の出口へと回る。
(「まだまだ兵士の数が多いわ。これ以上増えてもらっては困るの」)
兵士たちの末尾では、新たな兵士が実体化し増えていた。この調子で増え続けられてはきりがない。このままでは、折角前線の士気を回復したというのが台無しだ。
「しばらく遊んできなさいよ」
イーファの囁きと共に、空間が歪み始め、楼閣を作り出した。重なる記憶の断片で築き上げられた楼閣は、ありとあらゆる力から隔たれその接触を拒む。数多の記憶が一切の理をもたず渦を巻く楼閣は、一度入り込めば、その記憶が己の者か他者の者かの境界を失い、迷いつづける。それはオブリビオンだとしても逃れ得ない。まして、この兵士たちは、英雄王と亡国の栄光の記憶に惹かれた想いの末だ。かれらは囮の餌に食らいつく様に、列をなし、迷宮へと歩み入ってゆく。
従順とすら思えるその様を、イーファはただ観た。そういえば、彼女自身は今の今まで兵士たちに認識されることはなかった。
「姑息、かしらね。でも関係ないわ」
最優先は依頼を成功させることだもの――もう一端の谷の出口へと向かうイーファの声は、その身が潜む影の中へと吸い込まれるように消えた。
大成功
🔵🔵🔵
セツナ・クラルス
…ふむ、ゼロ
兵士たちの目的はなんだろうね
少々混乱してきたよ
整理してみようか
王が何を表わすのかは俄かには分かりかねるが
確かにそこに在る
そして、兵士たちは王以外を無差別に攻撃している、と
彼らの狭まった視界を広げてみよう
私の手持ちのカードはたったふたつ
「ヤルテニン」「アデニウム」
この言葉で、彼らの瞳が我々を捉え、
我々の言葉を聞くようになればいいのだが
聞く姿勢があれば声をかけ続けよう
我々は王を弑する為にここにいるのではない
あなた方の願いを、思いを、我々に聞かせてくれないかい
攻撃を止めることがなければ仕方がない
此方も反撃するしかあるまい
行こうか、ゼロ
属性魔法と破魔の能力で
聖なる炎を生み出し兵士たちを攻撃
迫りくる亡霊の兵士たちの足を止めるため、護衛たちが放った矢の大半は命中していた。だが、兵士たちの身体が矢の勢いで多少ぶれた程度で、その前進が止まることはなかった。
次いで放たれた矢もそれを覆すことは出来ず、兵士たちから射返された矢が護衛たちへと降り注ぐ。その一本が、セツナ・クラルス(つみとるもの・f07060)の頬をかすめ、荷車に突き刺さった。
「あっぶね!」
黙して戦線を見つめるセツナに代わって、彼の別人格であるゼロが声を上げた。実体化したゼロは、戦闘態勢を取っていないセツナの前に立ち、また飛んできた流れ矢を叩き落とす。
「……ふむ、ゼロ」
「戦わなくていいのかよ? オブリビオンだろ、あれ」
「私達は、勇者である英雄王の伝説を探しているからね、ただ倒すのではいけないと思ってね」
護衛たちの攻撃は、兵士たちに効いていない。それを知った者から戦線に恐怖が伝播しつつあった。士気を失った護衛たちがてんでに退いてゆくが、彼らを兵士たちは追うことはせず、前へ進むのみだった。
「ゼロ、兵士たちの目的はなんだろうね。少々混乱してきたよ、整理してみようか」
阻む者がなくなった兵士たちがセツナとゼロへ迫りつつある。兵士たちの目は、二人を通り越して、アベリアと英雄王の宝の方へと向いていた。数多いオブリビオンとはいえ、セツナとゼロ二人がそうそう遅れを取る相手ではない。このまま待ち構えて戦うのが一番手っ取り早い解決手段ではあるが、セツナは他の方法を探っていた。
「あの兵士たち、『王」とか言ってたじゃん? 真っ直ぐに王の所に行こうとしてるんじゃね?」
防戦やむなしと、ゼロは兵士たちを目前に獲物を構える。
「そう。『王』は確かにここに在る。兵士たちにとっては、王以外は敵みたいだね」
「じゃあ、王に一言言ってもらえば? もう眠れ、とかさ」
セツナはもう一度ふむ、と考え込んだ。
「兵士たちが『王』しか見られないなら、その狭まった視界を広げてみれば、あるいは我々の声も聞こえるかもしれない。とは言え、私の手持ちカードはたったふたつだけれど」
「『ヤルテニン』、『アデニウム』だっけ。ヤルテニンは今勢力を伸ばしてる国、アデニウムは英雄王の興した国の名前だとか誰か噂してたような」
「私は『千里眼』だからね。二枚のカードで勝負を仕掛けようか」
そう言うなり、セツナはすたすたと兵士たちの前へと出た。背後からは、出たとこ勝負か……とかいう、呆れたようでいて、納得している声が聞こえる。
「勇敢なるアデニウムの兵士殿よ、時を越え、あなた方に会えて光栄だよ」
槍を構えた兵士たちがセツナに迫る。槍衾で至近よりの貫通攻撃を仕掛けようというのだ。どこか遠くの一点を見つめる彼らに向けて、セツナは両手を拡げてがら空きの胴体を晒し、続けた。
「ほら、この通り。我々はあなた方の王を弑する為にここにいるのではない。あなた方は、今日この日、この場所へ、王と共に在ろうとして辿りついたのだろう? あなた方の願いを、思いを、我々に聞かせてくれないかい」
セツナは兵士たちをゆっくりと見まわした。彼の視線は、何対もの瞳が『王』を求め投げかけている視線を絡みつかせ、彼の元へと手繰り寄せる。冷え冷えと光る槍の穂先が、彼に触れるか触れないかのところで、ぴたりと止まる。
「我らは」「私たちは」
百とも千ともつかぬ声がさざめいた。
「王と誓った」「共に」「何時までも共に」「我らは王の盾」「我らは王の剣」「共に戦い」「共に生き」「戦って命尽きようと」「共に」「王が眠る時」「共に眠る」
「……あなた方は王を迎えに来たのだね。けれど、少しばかり早すぎた。王の戦いはもう少し続きそうなんだ。ヤルテニンが攻め入って来たんだよ」
王をもう少しだけ待ってくれないかい、とセツナは兵士たちを諭した。兵士たちは依然槍をセツナに向けたまま、語るのを止め沈黙した。不思議な静けさが戦場を覆う。かれらはセツナの言葉の意味を確めているようだった。そして、しばしの後、得心がいったのか、ざっ、と槍が退いた。
先程まで実体を持っていた兵士たちの身体が、透けてゆき、とうとう、影も形もなく消えた。もうかれらの声も聞こえない。セツナは去りゆくかれらを見とどけてから、息を吐いた。
ゼロはセツナよりも長く息を吐いた。見ようによってはため息にも見える。だが、安堵の色が混じっているのは、彼なりにセツナを心配してはいたかららしい。
「……まるで聖者みたいだ」
「それはそうだよ。だって私はしがない救い主、だからね」
まだあちらこちらから戦いの音が聞こえている。この場の兵士は去ったが、王を求める兵士たちは未だ戦場に残っている。他の兵士たちに会うためにセツナとゼロは兵士たちの目が追っていた所……アベリアと英雄王の宝の元へと急いだ。
大成功
🔵🔵🔵
ラルマ・ドゥルーヴ
まず真っ先に依頼人たちの近くへ
護衛の手厚さを確認するのに加え、訊きたいこともある
『王』に『還る』、心当たりは?
何を狙っているのかはっきりさせれば亡霊の動きに見当もつくからな
答えはどうあれ務めは果たすとも
護衛が十分なことを確かめられたら戦場へ
狭い道だ、【虎嘯風生】でユゼを喚び、優勢な戦場は飛び越える
追加の戦力が要り様な味方を見つけたら合流
もしくはフリーの敵を狙って槍で【串刺し】に
同じ得物を扱うんだ、余計な小細工は無しで行こう
ユゼには弓兵の牽制を任せて白兵たちを纏めて相手取ろう
腕比べだ
国土と人民あっての王だ
お前たちはヒトでなくなったのだから
今の世に、王を戴く資格はない
玖篠・迅
兵士たちが出たのはこの場所も関係あるのかな…?
式符・朱鳥で鳥たちよんで、逃げ遅れたり怪我で動けない人や馬達を守るのと
特に矢に注意して、放たれた時は燃やして撃ち落としたりするの頼んどく
俺はその間に、アベリアさんとこ行ってみる
もしかしたらこの状況に心当たりがあるかもだし、そうなら無茶をしてなきゃいいんだけども
兵士たちは王に会いに来たらしいし、英雄王縁の品の中に彼らを呼び寄せてそうなのがないか探させてもらう
トルステンさんに渋られたら、ここで撃退できてもまた彼らが出てくると大変だろうし、なんとかできれば安心じゃないかなとか言ってみよっか
探す時は「第六感」で何か感じるものがあったらそれを優先して見るな
イネス・オルティス
それにしても宝とアベリアさん、どちらにひかれて出てきているのかしらねこの亡霊たち
”戦闘知識”から彼らの狙いがわかったりしないかしら?
【薄衣甲冑覚醒 弐】使用
ただ斬っても手応えが無くてもビキニアーマー”属性攻撃”の衝撃波ならどう?
衝撃波を出しながら”なぎ払い””串刺し”で攻撃
敵の攻撃は”オーラ防御”や”武器受け”で防ぐ
当たっても”激痛耐性”で耐えればいい
”呪詛耐性”もあるし亡霊相手でも問題ないわ
アドリブ・絡み・可 ””内技能
あちらから悲鳴が、そちらからは怒号が聞こえる。矢が空を切る音が通り過ぎ、途端に聞こえて来た甲高い金属音は剣戟の音だろう。それらの音は遠くで聞こえたかと思うと、近くでわき起こる。
戦場は混迷を極めていた。谷間の街道で囲まれ、逃げ道を失った上に、亡霊の兵士たちにはあらゆる攻撃が通じない。逃げようとする人、それでも戦おうとする人、護衛たちの動きはばらばらで、その一方で兵士たちは整然と一方向を目指している。かれらの進軍は、無秩序な人々の塊に、逃走という秩序を与えた。
がら空きになった所を進もうとする兵士たちを阻める者はもう居ないかに思えた。しかし、かれらに向かって真っ向から駆けて来る者がいた。彼女は、人とは思えない俊足で、荷車を駆け上がり、宙へと身を躍らせた。空中で身を捻るビキニアーマー姿は、陽炎のような、しかしもっと烈しく燃え立つ光をまとっている。
彼女……イネス・オルティス(隠れ里の女戦士・f06902)は巨獣槍を構え、兵士たちのど真ん中に降り立った。いや、降り立ったというのは穏当すぎたか。着地した彼女を中心に生じた衝撃波は、周りの兵士たちを根こそぎなぎ倒したのだから。
まだ残っていた兵士たちを槍の二、三振りで片づけ、イネスの周りに兵士たちはいなくなった。亡骸も残さず、煙の様に呆気なく消え去ってゆくかれらを他所眼に、イネスは先を見た。いまだ戦いの音は聞こえて来る。とりあえず今ここに居た兵士は何とかしたが、ここはアベリアと英雄王の宝の目前だ。いずれまた兵士たちがやって来るだろう。
「今はとにかく、数を倒すしかないわね」
前進したイネスは、兵士たちを見つけ次第に片端から槍で貫き、払った。槍の一挙一動に伴う衝撃波が、偶々標的の傍にいただけの兵士まで巻き込み、屠る。ほぼ一方的、蹂躙とも言ってよい戦いであったが、数に頼む兵士たちは、てんでにイネスへ反撃を試みる。いかに猟兵相手とて、何十もの槍が向けられれば、そのうち数本くらいは守りを抜いてくる。
切れの悪い穂先が、イネスの肌に、痛みばかりが煩わしい小傷をこしらえる。煩わしさを払うように力任せに払った槍は、兵士をその槍ごと両断した。圧倒的な力量差の前に、草の様に呆気なく刈り取られながらも、それでも兵士たちには恐れはない。
「そうまでして、あなたたちが目指す『王』って、アベリアさんと宝、どちらなのかしら」
かれらはひたすら一つの方角を目指しているようだ。しかし実際に戦ってみても、槍や剣捌きからは一体何を求めているのかは判じられる手掛かりはなさそうだった。
ふと見ると、護衛側優勢のこの戦場に、逃げて来た護衛が集まって来つつあった。兵士たちの後衛から、彼らの背目がけて次々と矢が射かけられる。イネスは空に向かって槍を振るい、衝撃波を放つが、斉射ならともかく、個々に放たれる全ての矢を落とすには至らない。
護衛の一人に迫る矢が、不意に空中で燃え上がった。戦場の上を飛ぶ赤い羽の鳥たちの羽ばたきが、炎を導いたのだ。先程まで見かけなかったから、この鳥達もまた、逃げて来た護衛に附いて来たとみえる。
鳥達は、護衛たちをその身で護るように動き、飛来する矢を燃やしている。鳥は護衛の誰かが呼び出した存在だろう。その誰かは恐らく、猟兵だ。
矢を防ぎながらの戦闘は暫く続いたが、次第に兵士たちの後衛が騒がしくなるとともに矢はまばらとなり、遂に矢が止んだ。イネスの他にも兵士たちを蹂躙する者がいるらしい。ひとしきりの騒ぎのあと、巨大な黄虎が戦場を飛び越え、イネスの側に着地した。黄虎には赤い髪と灰色の瞳の女性が騎乗している。彼女もまた槍を携えていた。
「助かったわ。あの赤い鳥もあなたが?」
イネスの問いに、赤髪の女性、ラルマ・ドゥルーヴ(砂礫・f19535)は否と答えた。
「あの鳥は、別の者の手のものだな。それにしても、ここはあなた一人で保たせていたのか。加勢……の必要はなさそうだな」
ラルマは虎から降りると、その毛並みを撫でた。
「ユゼ、行け。弓兵どもに迫り、只中で咆哮せよ。然る後喰い千切れ」
黄虎のユゼは宙を跳ね、戦場へと踊りこんだ。その毛皮の黄が、剣と槍の林立の中に見え隠れし、兵士たちを屠ってゆく。矢が止み、脅威度が減った戦場を護衛たちは通り抜け離脱してゆく。
「あなたは何処へ行くつもり?」
「依頼人の元へ。護衛が充分か確認する。それに兵士たちは、『王』と共に『還る』と言っている。依頼人なら意味が分かるかもしれない」
イネスにそう応えると、ラルマはアベリアの方へと足を向けた。
「あなたも共に来るか?」
「そうね……いえ、いいわ。私はここに留まるわ。あなたが依頼人と話す時間くらいは稼げそうよ」
謙遜に過ぎるな、と内心思いながら、微笑を返し、ラルマは前線を離れた。衝撃波が兵士たちを吹き飛ばす派手な音が聴こえ続けている。依頼人と話す時間は『充分』に得られるはずだ。
イネスの猛攻により前線が押し上げられていたため、ラルマがアベリアの元に着くまでの道すがら、兵士たちの姿はなかった。嵐の中心にぽっかりと生じた無風地帯に似たこの場所には、離脱した護衛たちが身を寄せている。疲弊した彼らを守るように、荷車の上に先程見た赤い鳥たちが止まり、周りに睨みをきかせていた。
赤い鳥の一羽が、怪我人の中に立ち混じる黒髪の少年の肩に止まった。少年は頷いただけだったが、それだけで両者に通じるものがあるらしく、赤い鳥は戦場の方へと真っ直ぐ飛び立っていった。
ラルマがここまで戦場を突っ切って来る間、頻々に見かけた赤い鳥は、彼の命で動いているようだ。今まで見てきた所、その命は、戦う力を持たぬ人を護ること、なのだろう。
赤鳥の主の少年は、ここでの仕事が落ち着いたのか、この場所を離れてゆく。迷いなく進むその先は、ラルマと全く同じ方向だ。ラルマは彼を追ってその傍らへと寄った。
「俺に何か?」
怪訝そうにラルマを見る彼の表情に理解の色が広がった。お互い、英雄王の伝説を追う者同志というわけだ。簡単に名乗りを済ませ、共に先を急ぐ。
「あなたも依頼人に会いに行くのか」
黒髪の少年、玖篠・迅(白龍爪花・f03758)はじっと行く手を見つめた。
「もしかしたら、アベリアさんなら、この襲撃に心当たりがあるんじゃないかって思って」
そこで迅は言葉を止める。主戦場からも離れ、足早に歩く二人の足音だけが聞こえる中、ラルマは次の言葉を待った。それと知り、迅は言葉を継いだ。
「そうなら、無茶してなきゃいいんだけど」
「彼女自身が、兵士たちの求める『王』なのかもしれないからな、懸念はもっともだ」
二人の行く手に兵士たちはまったく現れなかった。だが、それは偶然や、まして奇跡の産物でないことはわかっていた。この隘路に集った猟兵は他にもいて、彼らの動きの結果そうなった、必然の状況だったのだ。
じきに周りよりやや豪華な馬車が見えて来る。そこにはラルマがキャンプ地で見たアベリアの護衛たちが油断なく警戒していた。亡霊の兵士の襲撃を経ても、彼らの士気が衰えている様子はない。オブリビオンと相対しても、彼らならアベリアを護るだろう。それを確認し、ラルマは一先ず安堵した。後は、自分たち猟兵が為すべきことを為せばよい。
「アベリアさん、無事?」
迅の呼びかけに、アベリアの護衛たちは、馬車の中に向けて、危ないから外に出ないようにと諭したが、馬車の扉は構わず開き、アベリアその人が地面に下りた。その手には布に包まれた棒状のものが抱えられている。その正体は隠されて分からなかったが、そこに宿る、時に醸された念の濃く淀んだ気配は、迅の心胆をじんわりと冷たく握りしめた。
「あなた方は、試しの場にいた方々ですね……」
ああ、とだけ答え、アベリアの話の接ぎ穂を断って、ラルマは切り出した。いまだ、戦場に在る者達がいる。これは彼らがその得物で勝ち取った時間なのだ。
「襲撃してきた亡霊の兵士たちから『王』に『還る』、そんな言葉を聞いた。心当たりは?」
「『王』とは、この剣のことなのだと思います」
アベリアが布を取り去ると、飾り気のない武骨な片手半剣が姿を見せた。それを掲げて英雄王の末裔を名乗るには、いささか華が無さすぎる品だ。
「この剣は、王となる前の開祖様が群竜大陸へ渡った時に携えていたもの……開祖様の御心が宿っていても不思議はありません。そして、あの霊廟は開祖様が戦友の魂と共に眠るために造られた場所でした」
「兵士たちは、現世に引っ張り出された英雄王の思念に惹かれてやってきた、のか」
ラルマは、短く息を吐いた。兵士たちの狙いはわかった。しかし、この剣がある限り、亡国の無念の魂たちが引き寄せられ続けるとは……。
「なまじ盗賊との戦いがあったばかりに、戦場で再び英雄王と共に戦えると思って、引き寄せられたんだ」
迅は、谷底のこの場所自体にも、原因があるのではないかと思っていたのだが、ある意味それは正しかった。盗賊が獲物を狙う絶好の立地で、実際に襲撃があったことが、この事態が起きる最後の一押しになったのだった。
「アベリアさん、剣を貸してくれないかな。前に言った破魔の術で、『王』の想いに触れてみたいんだ」
迅の申し出に、アベリアは深く頷き、剣を差し出した。
「あの試しの場で、強引にでも、お願いしておくべきでした……」
呪いと化した剣の力を鎮める手立てが見えたところで、ラルマは踵を返した。
「各々が自分の出来る事を為すべきだな。この剣のことは、迅、あなたに任せよう。私は戦場に戻る。それが私の為すべきことだろう」
去るラルマの背を一瞥し、迅は、受け取った剣に宿る思念に触れた。廟に安置され、まどろんでいた間に繰り返し見た夢は、戦い、勝利、栄光に彩られていたが、その根元には犠牲、悔恨、孤独がずっと横たわっていた。甘く苦い夢の重みが、乱れ糸が絡みつくように念を捩らせ、その縒りは時と共にこじれていったのだ。
「長い間独りで見た夢か……大変だったなあ。でも、もう昔の夢を見るのは止そう。見えるかい、子孫が一生懸命生きてるだろ? もう国は亡いけど、命は現在に繋がれてるんだ」
迅は、剣がアベリアの姿を良く見ることができるように、彼女の前に掲げてみせた。
「現在の命が健やかに生きられるように、行く手を祝福してくれないかな」
依然として剣には念がこもったままであったが、迅はその質が少し変わったのを感じ取った。先程までの、心を握りつぶす冷たさが退いてゆく。完全に念を鎮めるには、今少しの時間をかける必要がありそうだ。だが、今はもう亡霊の兵士たちを呼び寄せてはいないだろう。
「俺の願いを、少し聞いてくれたみたいだ。取り敢えずもう大丈夫だけど……」
迅から剣を受け取ったアベリアは、剣を布で覆うと、大事そうに押し抱いた。
「今までと剣の気配が違います。開祖様もきっとお悩みが解けたのでしょう。迅さん、ありがとうございました」
アベリアの前から辞した迅の元に、赤い鳥が飛来した。彼の放った式符・朱鳥の一羽だ。朱鳥は、亡霊の兵士たちが新たに出現しなくなったことを迅に伝え、また戦場へと舞い戻ってゆく。
「ここから最後の仕上げだな」
赤い羽ばたきの行く先を追い、迅は駆けた。
イネスの巨獣槍が、兵士たちの何体かを一度に串刺しにした。一挙に引き抜かれた槍に悲鳴を上げながら、兵士たちが消えてゆく。ラルマが戦線に復帰したのは、まさにその時だった。
「大事な話は終ったのかしら?」
気軽な様子でラルマに聞きながら、イネスは衝撃波で兵士たちの胴体を両断し、上下半身を泣き別れにする。
「ああ、充分に。時間は沢山あったからな。後はなんとかなりそうだ」
負けじとラルマも槍を振るい、綺麗に揃って突き出された槍衾を薙ぎ払い、全ての穂先を斬り飛ばして、槍を台無しにする。
「随分ふんわりした言い方だわね。でもまあ、あなたがなんとかなるって言うのなら、なんとかなるんでしょう」
槍使いが二人揃ったのを機に、彼女らは更に更に前進する。その途上に居た兵士たちにとっては、二本の槍が振るわれる風音は、厄災の音そのものであった。何しろ、聞こえた頃にはもう滅ぼされているのだから。
「だいぶ前から、増援の勢いは減っていたけれど、もしかして、もう増援は来ていない?」
イネスの言う通り、いつの間にか、兵士の増援は無くなっていた。迅の破魔の術が効いたのだと、ラルマは口元で笑う。それ以前の増援減は、きっと他の猟兵の仕事だろう。
「そのようだな。さて、亡国の兵士たちよ……」
ラルマは居並ぶ兵士たちを睥睨した。
「国土と人民あっての王だ。お前たちはもうヒトではなくなったのだから、今の世に、王を戴く資格はない」
妄執の槍先と、現に生きる者のそれは、どちらが深くを貫くか、比べてみようではないか。ラルマは槍を構え、かれらの中心へと突撃した。
猟兵達の働きで、亡霊の兵士たちは谷から姿を消した。襲撃の痛手から何とか立ち直り、大幅に旅を長引かせながらも、一行は目的の街へと辿りついた。猟兵の任務はここまでだ。任務を終えた猟兵たちは、帰るべき場所へ各々帰ってゆく。
もし、彼らがこの地を再訪したならば、噂を聞くことができたかもしれない。野心に溢れ、街々を侵略していた国が返り討ちにあう形で亡び、その国を討った者達が新たな国を興したことを。国を興した女王は、自ら戦うことはなかったが、常に質素な剣を携えていたのだと。
勇者の意思は、長い眠りの時を経て、現代へ、そして未来へと継がれてゆく。
大成功
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