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濃藍のレミニセンス

#UDCアース #呪詛型UDC

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●UDC組織から送付された資料

◆UDC No.7997
◆UDC危険度:高
◆収容状況 :低
◆収容プロトコル:UDC_No.7997を完全に収容する手段は確立されていません。ポイントの半径五キロメートルの範囲を、カバーストーリー「地下ガスの噴出」により隔絶することに成功しています。
 現象発生ポイントは、毎月数メートルから十数メートルの速度で拡大しています。この拡大は、現象に感染したヒトの数によって速度を抑えられることが分かっています。
 このため、邪教団「真実の会」によるヒトの投入は、その被害者が政治的または経済的要人である場合を除いて、封じ込め手段として黙認しています。

◆説明:No.7997は、日本の■■県■■■郡に存在する異常空間です。外見上は広大なネモフィラ畑ですが、このネモフィラはいかなる気候においても枯れることがありません。また、いかなる手段を用いても花の破壊は不可能です。
 Np.7997の異常性は、二十二時から二十四時にかけて発現します。この時点でGPS、映像カメラ、ドローンなどは機能しなくなりますが、音声録音は可能です。

 現象は、時間経過によって以下のステージを進行します。

●ステージ①:該当時間に現象発生ポイントにいた者は、即座に異常性に感染し、トラウマを含む過去記憶の幻視を体験をします。感染者は「花の香りが濃厚になった」と訴えますが、機械計測により、ネモフィラの花粉や気温、ガス等の物質的異常はないことが確認されています。
 幻視は非常に精巧で、過去の自分ないし周囲の人物との会話も可能です。ただし、幻視人物と会話をするほど、精神崩壊が進行する危険があります。
 感染者は幻視の内容によって、強烈な絶望感ないし多幸感を得ます。PTSDなどの精神疾患を持つ患者は、この時点で多くが自殺を試みます。
 精神崩壊者ないし死者の数によって、現象発生ポイントの拡大は抑制されます。

 邪教団「真実の会」は、定期的にヒトを数名投入し、この現象で精神を崩壊させた人物を、崇拝する邪神への生贄として持ち帰ります。持ち帰る人員がどのようにして感染を防いでいるのかは不明です。

●ステージ②:二十四時を過ぎると幻覚から解放され、直後に感染者は自身と全く同じ姿の人型存在(No.7997-1)と遭遇します。この時点で、感染者は自分とNo.7997-1以外の存在を感知することができなくなります。また、他者からの物理的干渉を一切受け付けなくなります。(※1)
 No.7997-1は「呪詛」と表現される攻撃的な発言をしながら、自身が最も力を発揮できる方法で感染者の殺害を試みます。No.7997-1の能力は、感染者と全く同じです。また、感染者の言葉に対して興味を示すことは稀であるため、有益な情報を得ることは困難です。
 No.7997-1によって感染者が殺害された場合、現象発生ポイントの拡大は抑制されます。

●ステージ③-Ⅰ:感染者が日の出まで生存すると、No.7997-1は消滅し、現象発生ポイントが拡大します。
 この段階で感染者は精神的に激しく疲弊しており、高度の記憶処理と特殊カウンセリングが必要になります。精神汚染を放置した場合は、十二時間以内に発狂し死亡します。

●ステージ③-Ⅱ:感染者がNo.7997-1を殺害した場合、即座に状況が終了し、現象発生ポイントは著しく狭まることが確認されています。生存者の精神汚染は軽微のため、インタビューを行なった後、低度の記憶処理を施し解放しています。(※2,※3)


※1 ただし、二者が同時に現象に遭遇する事例が二件存在します。この二者は家族あるいは恋人という関係のため、非常に親しい間柄の場合にのみ、共通した幻覚が発現すると考えられています。

※2 ■■年11月■■日、No.7997-1をおびき出し一掃する作戦「焼畑」が行われました。武装した機動部隊を投入しましたが、ほとんどの隊員に現象は発生せず、失敗に終わりました。

※3 No.7997-1を殺害し生還した者のインタビューによれば、共通して「ネモフィラを心から美しいと感じた」者のみが発症しています。即ち、現象に遭遇するためには現場を「楽しむ」必要があります。

※4 ■■年4月■■日、この事件を予知したグリモア猟兵から組織への接触がありました。

※5 ■■年5月■日、組織審議委員会によって、猟兵との共同討伐作戦「追憶」が決行されることが議決されました。



「……ということよ。このネモフィラ畑に出る人型存在ってのが、オブリビオンね」
 UDC組織から預かったという資料を音読した後、チェリカ・ロンド(聖なる光のバーゲンセール・f05395)が目を上げた。
「みんなには、自分の過去と向き合ったり、自分と戦ったりしてもらわなければならないの。それを知ったうえで、ネモフィラ畑を楽しめなんて……無茶な話だと、思うけれど……」
 チェリカは目を伏せた。彼女は予知で、過去と対面し精神が崩壊していく人々を視たのだ。猟兵を転送するということは、その状況に仲間を晒すことになる。
 だが、これは役割だ。理解している猟兵たちは、ただ黙して続きを促した。チェリカが頷く。
「ネモフィラ畑はどんどん広がっているの。人が住む町から離れているからいいけれど、放っておいたら、いつかは……。そうなったら、世界が大変なことになるわ」
 それこそがオブリビオンの目的だ。そこまでいかずとも、邪教団に利用されて罪なき人が犠牲になっている。早急に食い止めなければならない。
 出現する敵を全て討ち倒し、現象発生ポイントを消滅させることが、猟兵たちの任務となる。
「組織の人たちは、現地に誰も来ないように見張っててくれるわ。あと、必要な物資があったら用意するとも言ってたから、何か持っていきたかったら相談してみてね」
 物資の中には、「ネモフィラ畑を楽しむ」ためのツールも含まれる。作戦成功に向けて完全なバックアップを約束してくれているので、頼ってもいいだろう。
「今回は、みんなの心が重要になるわ。辛いこと、たくさんあると思うけれど……気を強く持って、無事に帰ってきてね」
 両手を組んで祈りを捧げる少女の前で、グリモアが輝く。


七篠文
 どうも、七篠文です。長いOPに目を通してくださり、ありがとうございます。

 今回はUDCアースです。
 一章が日常+心情、二章が心情、三章が戦闘となります。
 二章以降は、明記されていない限り一人ずつのリプレイとなります。

 一章は、二十時のネモフィラ畑からです。現象に遭遇する条件のために、楽しまなければなりません。
 その場にいるのは猟兵だけですので、誰かとお話したり、現象発生の時間まで自分と向き合ってみるのもいいと思います。
 お話したい! という方は「お話希望」と書いてください。お相手がいれば連携描写になります。
 話したいことやNGのことは、必ずプレイングにご記入ください。

 二十二時になったら、二章です。
 あなたを構築する過去が幻視として現れます。避けられない過去に、今のあなたの本音で向き合ってください。
 とても仲の良い人に限り、同じ幻視を見ることができます。誰かと一緒に参加される場合は、プレイングに明記してください。

 ここまでの難易度は、非常に易しいです。トラウマに打ちひしがれたとしても、プレイング通りであれば成功となります。

 二十四時を回って、精神を無事に保てたら、戦闘となります。
 敵は自分自身ですので、ソロ推奨です。連携条件は、二章と同じです。
 現れるオブリビオンは、容姿も、声も、記憶も、能力も、全てがあなたと同じです。
 会話は出来ますが、上記の資料にある通り、難易度は非常に高いでしょう。説得を試みる場合も、戦闘方法は明記しておくことをお薦めします。
 とはいえオブリビオンですから、思い切ってボコボコにしましょう。
 戦闘の難易度は、高めです。

 七篠はアドリブをどんどん入れます。
「アドリブ少なく!」とご希望の方は、プレイングにその件を一言書いてください。
 ステータスも参照しますが、見落とす可能性がありますので、どうしてもということは【必ず】プレイングにご記入ください。

 また、成功以上でもダメージ描写をすることがあります。これはただのフレーバーですので、「無傷で戦い抜く!」という場合は、プレイングに書いてください。
「傷を受けてボロボロになっても戦う!」という場合も、同様にお願いします。

 それでは、よい旅を。皆さんの熱いプレイングをお待ちしています!
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第1章 日常 『『瑠璃と濃藍と、満月と――』』

POW   :    藍の世界を逍遥する

SPD   :    ネモフィラを愛でる

WIZ   :    流星に願いを乗せる

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 見渡す限り、藍色が続く。
 星の煌めく夜空も、野に咲き誇るネモフィラも、どこまでも、果てしなく。
 その光景は、猟兵たちが「楽しまなければ」と思う暇もないほどに、輝いていた。
 風が吹く。藍の花が揺れる。ほのかな甘い香りが、藍の空に昇っていく。
 月と星に照らされたその野原は、残酷な程に、美しい。
セルマ・エンフィールド
同じ闇夜でも、違うものですね。
故郷ダークセイヴァーの闇に包まれた空と、月が輝く幻想的な夜空を比較し、ほぅとため息。

そのまま仄かな花の香りを嗅ぎながら空を見上げ、物思いにふけりながら散策。

思いを馳せるのは自分の過去について。自分を構築する過去、というといくつか思い浮かぶが、そのどれもが思い出したいものではなく、克服などできていない。

それでもこの場に来たのは、いつか克服しなければならないと分かっていたため。

と、ここまで考えたあたりで今は楽しもうとその場に仰向けに寝、胸いっぱいにネモフィラの香りを吸いこみ、手でネモフィラの花を弄び、愛でてひと時を過ごす。



「あぁ……」
 そのネモフィラ畑は、思わず感嘆の声が漏れてしまうほど、幻想的だった。セルマ・エンフィールド(終わらぬ冬・f06556)の故郷、ダークセイヴァーとは、まるで違う。
 ネモフィラの香りが夜風に乗って、満天の星が瞬く空へと舞い上がる。夢の中でも見たことのないような光景に、セルマはほぅとため息をつく。
 どこに足を置いても踏みつけてしまうネモフィラは、不可視の力で守られているのか、すぐにその身を伸ばす。それがUDCの影響によるものだとしても、今は愛おしさすら感じてしまう。
「不思議な、ものですね」
 この夜空も、農藍の花畑も、まるで邪悪が存在しないように思えてしまう。だというのに、ここでは幾人もの人が死に、いずれは世界の破滅をも導くというのだ。
 乗り越えてきた過去や、忘れたいトラウマを無理に蘇らせ対面させる。あまりに無慈悲な行ないが、こんなにも美しい空間で繰り広げられるなんて。
「……過去、ですか」
 ふと足を止め、瞬く星たちを見上げた。セルマは夜空の煌めきに目を奪われながら、一人物思いに耽る。
 今の彼女を構築する過去と言われれば、思いつく記憶はいくつかある。あるが、それは積極的に思い出したいことではない。
 ダークセイヴァーという荒廃した世界で生まれ育てば、辛い記憶の方が多くなるのは致し方ないことではある。ましてそれが、犯罪都市という無秩序な街であれば、なおさら。
 頭では理解していても、脳裏に浮かぶ度に反射的に打ち消そうとしてしまうのは、セルマが過去を受け入れられていない証拠だ。
「それは、そうですよ」
 独り言ちる。
 受け入れられるものか。克服など、出来ようはずもない。だから忘れなければならないと、そう思ってきた。
 しかし、それでもセルマは今、ここにいる。封じた記憶を引きずり出されると知りながら、「追憶」作戦に参加している。
 本当は、分かっているのだ。いつか、過去を克服しなければならないと。受け入れなければならないと。
 未来へと、進むために。
「……」
 おもむろに、セルマはネモフィラ畑に仰向けになった。
 胸いっぱいに空気を吸うと、ネモフィラの香りのなんと甘いことか。さわさわと頬を撫でる花弁がくすぐったい。
 顔を横に向けると、可愛らしい藍色の花が揺れていた。花びらを撫で、目を細める。
「……綺麗」
 星明かりの下で、セルマは微笑んだ。それは普段、滅多に彼女が見せない表情であった。
 少しらしくないかもしれないけれど、一人で花を愛でている時くらいは――。
 胸中でそんなことを呟きながら、セルマはネモフィラの甘い香りに包まれていった。

成功 🔵​🔵​🔴​

エーカ・ライスフェルト
花見をしてオブリビオンと戦える依頼、ね
素晴らしいじゃない。前回とは違って食べた分だけ体についてしまうから、炭酸水でも持っていきましょう

「地面の上の花を見る様になるなんてね。猟兵になる前は考えもしなかったわ」
「我ながら、どうして猟兵に……」(無意識に【硝子玉】を弄っているの気づき、慣れた手つきでハンカチを使って拭く)
「あのときの気紛れに、いえ、あの子に感謝すべきなのでしょうね。真正面から感謝されなければ今でも金目当ての犯罪をしていたでしょうし。宇宙船の隅で死体になっていたかも」
「でも、いつまで続けられるかしら。性癖が変わった訳ではないから、いつか猟兵に飽きてしまうことも……」

「アドリブ多く!」




 炭酸水のペットボトルを手に、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は一面に広がるネモフィラを眺める。
「地面の上の花を見るようになるなんて、ね。猟兵になる前は、考えもしなかったわ」
 それは、無理もないことだった。彼女がいたスペースシップワールドは、宇宙に生まれ、宇宙に育ち、宇宙に死ぬ世界なのだから。
 星に降り立って花を見ようなどと、言い出す者すらいない。それが当たり前だった。
「当然が崩れてみれば――悪いことばかりじゃ、ないものよね」
 空を見上げる。都会から離れていると、この世界ではこんなにも満天の星空が見えるものか。月と星に彩られた天蓋に、思わず手を伸ばす。
 その手に、硝子玉が握られていた。エーカは無意識のうちに手に持っていたそれに、苦笑を漏らす。
「あなたとも、長い付き合いね」
 ネモフィラ畑に腰かけて、炭酸水を一口。息をついてから、ハンカチを取り出す。
 慣れた手つきで硝子玉を磨きながら、エーカは自然と、この宝物を渡してくれた子供を思い出していた。
「我ながら、今でも『どうして猟兵に』なんて思うのよ。人助けなんて、らしくないことをしている自覚はあるもの」
 力があるから、と言われればそれまでかもしれない。しかし、悪の本質を心に秘めたまま、世界を守るために戦い続けられている理由には、いつだってその記憶があった。
「あのときの気紛れ――いえ、あの子に、感謝すべきなのでしょうね」
 本当は、常に思っていたことだった。もしかしたら、言葉に出すのはこれが初めてかもしれない。
 そう思うと、我ながらいじらしいところがあるではないか。苦笑を浮かべるエーカの顔が、ガラス玉に映った。
「真正面から感謝されなければ、今でも金目当ての犯罪をしていたでしょうし。宇宙船の隅で死体になっていたかも」
 その独白は、誰に向けられたものでもない。夜空とネモフィラだけが、彼女の想いに耳を傾けていた。
 ふと、硝子玉を磨く手を止める。
「……いつまで、続けられるかしら」
 戦いの中で得た、戦友と呼べる人たち。多くの経験もまた、何物にも代えられない宝だ。
 それでもエーカの根底にあるものは、いわゆる悪であり、自由への渇望だった。
「いつか――猟兵に飽きてしまうことも――」
 そうなったら、どうするのだろう。宇宙の世界に戻って、再び犯罪の日々を過ごすことになるのだろうか。
 戻れるだろうか。猟兵という新たなアイデンティティを失って、自分を保てるだろうか。
 答えは、出せない。
「……」
 見上げた夜空に、流れ星が落ちる。願いを込めることはしなかったが、エーカは小さく笑って、硝子玉を愛でた。
「まぁ、その時に考えるわ。少なくとも今は、飽きる気配はないし」
 水の雫のような宝物を、夜空に掲げて覗く。星と月が、ガラスの中で光を溶け合わせる。
 ガラス越しに夜空を見上げ、遠い、別世界の宇宙へと、エーカは想いを馳せた。
「あなたも、そう思うでしょ?」
 磨き抜かれた硝子玉の向こうで、いつかのあの子が笑った気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーリ・ヴォルフ
アドリブ大歓迎!

あまりに美しい藍色の大地だ
私の色とは真逆なのだな…それでも不思議と心落ち着くものだ
この場でこれからオブリビオンと遭遇するとは想像し難いな

私は竜を天敵とするA&Wの世界で
半人半竜として生を受け、捨てられた
今は人として生き、猟兵としての使命を受け戦っているが
時折暴力的なまでに炎に魅せられる
これも竜の血が為す事なのだろうか
私はまだ、己の暴力性を完全に制御できていないのだろうか…?

屈んでネモフィラの花に触れてみる
可憐で、あまりにもか細い
…その美しさを守りたい。手折りたくない
この感性こそが、私を守護者として在らせてくれるものなのだろう
これが私の本質なのだと…信じたいものだ




 それは、彼とは真逆の色だった。そして、あまりにも美しい。
「……不思議と、心落ち着くものだな」
 見渡す限り藍色の野原に、ユーリ・ヴォルフ(叛逆の炎・f07045)は呟いた。
 月と星の光は思っていた以上に明るく、ネモフィラたちを照らしている。その風景に、目を奪われて立ち尽くす。
 この場が、これから戦場になる。世界を滅ぼすオブリビオンが現れるのだ。
「想像し難いな」
 あるいは、想像したくなかったのか。その問いはネモフィラの香りに溶けて、ユーリ自身にも分からなくなった。
 仲間の猟兵たちが、思い思いに夜の花畑を過ごしている。ユーリもまた、当てもなく農藍の野原を歩くことにした。
「……」
 過去と対峙することになるらしい。そのことを考えれば、自然と自分の生い立ちに意識が向いていく。
 アックス&ウィザーズに生まれた彼は、半人半竜であった。
 その世界では、竜は世界を脅かした天敵だ。彼もまた、生まれた地で忌み子として捨てられた。ある国の領主に拾われ命を繋ぎ、守護者となるべく育てられてきた。
 自身が竜であると気づいたとき、ユーリは翼を封印した。人の側について、ドラゴンと戦う力を磨き、活躍してきた。
 彼はパラディン――守護者である。弱きを守ることこそが、彼の存在意義であった。
 だというのに。ユーリは足元のネモフィラに目を落とし、一人ため息をつく。
「……私は」
 時折、燃え盛る炎に心を奪われることがあった。暴力的なまでに、魅せられてしまう。
 その身に流れる竜の血が、ユーリに過剰な闘争心を植え付けるのかもしれない。そうだとして、血筋のせいだと割り切っていいものではない。
 凶暴な竜の本質を抑えるため、孤独な戦いを続けてきた。それでもなお、己の暴力性を制御できていないのだろうか。
「私は、まだ……」
 深い闇に沈み込みそうになったユーリは、ふと地面に揺れるネモフィラに気づいた。花畑に膝をつき、そっと花弁に触れる。
 可憐で、そしてか細い。儚さすら感じた。
「……」
 その美しさを、守りたいと思う。パラディンとしてという以上に、ユーリ・ヴォルフ、彼自身として。
 この感性があったればこそ、ユーリは守護者でいられるのだ。そう信じてきた。信じ抜いてきた、つもりだった。
 だというのに。
「……信じたい、ものだ」
 夜風に揺らめくネモフィラのように、ユーリの心もまた、揺れていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

シホ・エーデルワイス
アドリブ&味方と連携歓迎


内心
(過去の記憶を探る事ができる依頼
記憶に曖昧な部分がまだ多い私にとっては好都合ね
2つ前のUDC依頼で思い出しかけた写真の人の事も
何か分かるかしら?

とはいえ
人の死が絡んでいる以上
辛い思いをするのは避けられない…
本当に探って良いのかしら…)

いけない
今を楽しまないと


ステキなネモフィラ畑ね(花と星空が好き)
散策したり
摘み取って良ければ押花やハーブティー用に摘み取ったり
して過ごす

可愛くて
綺麗な蒼で
良い香りね

<第六感>で流星に気付き咄嗟に願ったのは

記憶を取り戻せますように

ああ…
辛い目に遭うと分かっても私は追い求めてしまうのね
いえ
思い出せないままの方が辛いからか…

覚悟を秘めた眼差し




 宵の空と花、一面の藍色に抱かれながら、シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は夜風に揺れる銀髪を手で押さえた。
 この依頼について聞いた時、いの一番にグリモア猟兵のもとへ駆け付けたのは、彼女だった。
 シホの記憶は断片的だ。猟兵として戦う中で取り戻した記憶もあるが、未だに不明瞭なものも多い。
 中には、己の選択により大勢の人を死に追いやった記憶もあった。思い出せたからこそ償えるし、誰かを助けたいという想いを強めることもできた。
 ともすれば、蘇った記憶に潰されそうになることもある。それでも、シホは自分の記憶の手掛かりを、常に欲していた。
「……ここで、また思い出せたらいいのだけれど」
 ネモフィラ畑にいながら、シホは心ここにあらずといった様子だった。想起するのは、以前この世界で依頼を終えた後、記憶の彼方に触れた瞬間。
 駄菓子屋の老女。
 懐かしい駄菓子の味。
 黒髪の少女の写真。シホとはあまり似ていなかった、ように思う。
「なぜ、あの時私は――」
 あの写真を見た時、あんなにも心が揺れ動いたのだろう。その答えを、見つけたかった。
 しかしここで起きる異変は、人の心のトラウマを抉ることが多々あるという。
 心が傷つくだろうことは、容易に想像がつく。
「本当に、探っていいのかしら……」
 知らないままでいる方が、幸せなのではないか。
 思考は堂々巡りだった。これ以上考えていたところで、時間だけが過ぎていくだろう。
 ため息をついて、シホは自分の頬を撫でた。夜風に当てられたからか、冷たく感じた。
「いけない、楽しまないと」
 無理矢理に思考の坩堝から脱して、星が瞬く夜空と咲き誇るネモフィラたちを交互に見やる。
「……素敵ね」
 その言葉に、嘘はなかった。彼女は花と星空を愛する。その二つを一緒に味わえるこの夜は、シホにとってまたとない機会だ。
 揺れるネモフィラ畑の中を歩き、その香りを胸いっぱいに味わってみたり、星空に手を伸ばしてみたり。
「可愛くて、綺麗な蒼。……いい香りね」
 押花やハーブティーにとネモフィラを摘み取ろうとしたが、不思議なことにびくともしなかった。花弁の一枚も、取れそうにない。
 諦めるしかないようだ。わずかに残念そうに息をついて、シアは立ち上がった
 天の星と月を見上げる。ざぁとネモフィラたちが風に揺れると、時を同じくして、夜空に一筋の流星が走った。
「あっ――」
 咄嗟に、願いを込める。

 記憶を取り戻せますように。

 流星が消える。シホは、俯いていた。
「あぁ……」
 全ての記憶が戻った時、幸せになれる保証などないのに。むしろ辛い目に遭うだろうことは、分かり切っているのに。
 それでも彼女は、追い求めてしまうのだ。あるいは、思い出せないままの方が辛いと、シホの心の奥底が叫んでいるからか。
「そうね。どんなことがあっても、何を思い出そうと、私は――」
 ゆっくりと息を吸い込んで、甘い香りの空気で胸を満たす。顔を上げたシホの眼差しには、強い覚悟が輝いていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
御伽噺ような光景
ネモフィラの花畑の中で星を仰ぎ、過去を想起する
真っ先に頭をよぎるのは猟兵として活動し始めたころに参加したダークセイヴァーでの任務、「正義の方程式」という名の報告書

その任務の中で出会った一人の男、名は「アベル」
村中から魔女と蔑まれ嬲られた女性を母として生まれ、母を含めた全ての人々から疎まれ、御伽噺を支えに育ち、村から生贄として捨てられオブリビオンとなり、村への復讐を企てた男
最期の瞬間まで世界を呪い、母を案じていた男
……私が引導を渡した男

十中八九、墓を作った彼が出てくるでしょう
この美しい光景を、世界を呪った貴方はどう感じるのでしょうね

星とネモフィラの海の中、静かに記憶の中の彼を待つ




 まるで、御伽噺のような光景だ。トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、農藍の世界に佇みながら、そう思わざるを得なかった。
 幻想の最中にいるような心地になるほど、藍色の空と野原が入り混じるこの空間は、神秘的だった。
「私は――」
 そよ風に揺れるネモフィラ畑と煌めく星空に身を委ね、トリテレイアは過去を想起する。
 破損した記憶データの以前に遡ることは、できない。彼が思い起こすのは、猟兵となってからの出来事だった。
 暗黒に閉ざされた世界、ダークセイヴァー。そこで、アベルという男と出会った。
 魔女と呼ばれ蔑まされた女から、嬲られた末の望まぬ子として生まれた彼に、味方はいなかった。全ての人が、アベルの敵だった。母もまた、彼を虐げた。
 それでも彼は、正しくあろうとした。御伽噺を心の支えに、騎士とならんと思い続けた。
 だが、願いは叶わない。吸血鬼に供され、やがてオブリビオンとして現世に染み出した。己を虐げた村を滅ぼすために。
「アベル、貴方は――」
 今その声を聞けるならば、何を言ってくれるだろうか。月を見上げて考えてみても、トリテレイアには分からない。
 アベルを殺したのは、トリテレイアなのだ。分かろうはずもない。
 死の間際まで世界を呪い続け、己を虐げた母を案じ続けた男。なぜ彼が不幸にならなければいけなかったのか。世界とは、かくも救いがないものなのか。
 あれから一時たりとも、アベルのことを忘れたことはない。忘れられようはずがない。
 世界は強者に支配され、弱者同士ですら殺し合う、あまりにも残酷な構図だ。
 ダークセイヴァーだけではない。他の世界も、ここUDCアースもまた、そうなのだから。
 御伽噺の英雄など、どこにもいない。アベルと戦った時ほど、そう感じたことはなかった。
「私は貴方を、貴方の心を救えなかった……それでも私は、騎士でありたい。許して、くださいますか」
 風が吹いた。ネモフィラ畑が、ざぁと揺れる。夜空に一筋の青白い光が、涙のように流れた。
 過去と対峙する時が来たならば、きっと彼が来るだろう。
「この美しい光景を……世界を呪った貴方は、どう感じるのでしょうね」
 怒るだろうか。沈むだろうか。笑うところは、想像できそうにない。
 だがそれも、もうすぐ分かることだ。ネモフィラの海に漂いながら星を見上げて、トリテレイアは一人静かに、記憶に眠る彼の訪れを待つ。

成功 🔵​🔵​🔴​

マディソン・マクナマス
ちょっと時期は遅いっちゃ遅いが、花見なんてのも悪くはねぇやな。
花畑の上に寝っ転がって、対UDC軽機関銃を枕に月を見上げて月光浴としゃれ込むか。

山ほどの缶ビールを飲みながら、静かにこれから現れる過去に思いを馳せてみっかな。
UDCアースの発展途上国で長年傭兵やってきたが、ひでぇ戦場なんて山ほど見てきたからなぁ。味方とはぐれて前線に取り残された時か、敵の航空ヘリに追い回された時か、初めて少年兵ってもんに関わった時か……いったいなんだろね。

ああ、早速幻視って奴が見えてきたんかね。
なんか見慣れた浮浪者が、ネモフィラを蹴散らしながらブレイクダンスしてんのが見えらぁ。




 積み上げた大量の缶ビール――全て組織の支給品だ――から一本手に取り、音を立ててプルタブを引いた。
 喉をごくりと鳴らして呑み込み、大きく息を吐き出して、マディソン・マクナマス(アイリッシュソルジャー・f05244)は酒焼けした声で言った。
「ちょっと時期は遅いっちゃ遅いが、花見なんてのも悪くはねぇやな」
 愛用の機関銃を枕にして、マディソンはネモフィラ畑に寝転がった。満天の星空にひときわ輝く満月を見上げて、一本目のビールを飲み干す。
「月光浴としゃれ込むかぁ」
 すかさず二本目を開けて、まるで水のように――水にしても速い――飲み干した。のど越しの感触を楽しみつつ、この後に対面するであろう過去へと思いを馳せる。思えば、長く戦ってきたものだ。
 子猫の頃にアルダワ魔法学園からUDCアースに原因不明の転移をし、アイルランドで生きてきた。
 ただの一市民に過ぎなかったマディソンは、いつしか北アイルランド紛争に巻き込まれた。友人たちが次々と武力闘争の中で倒れ、気づけば一人、世捨て人のように発展途上国を渡り歩いてきた。
 傭兵として、あらゆる地獄を見た。その阿鼻叫喚の光景は、今でもはっきりと覚えている。
「んくっ――ふぅ」
 ビールは気づけば、五本目に入っていた。少し飲みすぎだろうかとも思うが、構わず流し込む。
 戦場でも、死の恐怖から精神を守るため、あえて酒で心を麻痺させてきた。そうしなければ、マディソンは発狂していたかもしれない。
 味方とはぐれて前線に取り残された時も、敵の武装ヘリに追い回された時も。
 初めて少年兵と関わり、子供ながらに必死に戦い、死んでいく姿を見た時も。
 平静でいられたのは、自分が強かったからだとは、口が裂けても言えなかった。
「……いったい、なにが来るのかね」
 若造だったあの頃から比べれば、いくらかマシになったとは思う。が、改めて当時の地獄を見せられて、自分は果たして、どう思うだろうか。
 ぼやけてきた月を見ながら、一人笑って、酒を飲む。
「まぁ、なんだっていいさぁ。どんな昔話も、酒の肴にして……うぃ」
 上体を起こし、眠いわけではないが、目を閉じた。体を撫でる夜風が心地いい。
 ぼやける頭で重い瞼を上げると、ネモフィラ畑の真ん中で、小汚い浮浪者が躍っているのが見えた。目をこすりつつ、眉を寄せる。
「例の幻視ってやつか? 時間はまだ早いんだがなぁ」
 ダンスは異様に激しさを増し、次第にそれがブレイクダンスであることに気づく。ますます妙だ。
 訝しんで愛銃に手をかけた直後、浮浪者が言った。
「ワシじゃよマディソン……神様じゃよ……ヒヒ……上機嫌のようじゃの……」
「なんだよ、またお前かよ」
 酒を飲むといつも現れる浮浪者に、マディソンは嫌気が差したように舌打ちをして、また横になった。
 愛銃の上に頭を置いて、ブツブツとやっている浮浪者を無視して、ビール缶を手に取る。空だった。
「うん? 終わりか。んーないならまぁ……仕事だし――」
 そう、これは任務なのだ。酒を飲むのも、浮浪者のダンスを目撃したのも、少し眠くなってしまったのも、全て任務だ。
 夜空を見上げてそう呟きながら、マディソンはネモフィラの香りに誘われて、浅い眠りの中に沈んでいった。

成功 🔵​🔵​🔴​

露木・鬼燈
ふーん、過去ねー。
ほら、僕ってこんな感じだし?
トラウマとか逃れたい過去って思い当たらないっぽい?
今も楽しんでるしね。
強敵との死闘も力不足を感じることも…
強くなるには必要なことだしね。
すべてが楽しく、愛おしい!
満足満足って、これではダメっぽい?
うーん、自分と向き合えば何かが見えてくるかも?
精神修練も修行の内ってね。
絵でも描きながら自分を見つめようか。
ネモフィラ畑、これを描く過程で何かが見えるかもね。
修行漬けで変化のなかった里での日々。
猟兵として闘いの日々。
過去があるから今がある。
戦いを楽しめるのは修行の日々があったから。
やっぱり問題はないよね。
ただし、これは今の自分が感じていること。
過去の僕は…




 件のUDC――組織はネモフィラ畑全体をそう定義づけているらしい――では、過去の記憶と直面させられるという。そうして人を発狂させるとのことだ。
「過去ねー」
 いまいちピンとこない様子で、露木・鬼燈(竜喰・f01316)はネモフィラ畑に目をやった。
 この任務を受けるに当たって、自分の過去について考えてみた。しかし、トラウマであったり逃れたい過去というものは、どうにも思い当たらない。
「今も、楽しんでるしね」
 猟兵となってからは、いつだって死線を潜っている。死にかけたことだって何度もある。
 だがそれは、鬼燈にとって至上の楽しみであり、強くなるために必要な過程に過ぎなかった。思い起こす時はその経験を活かす時で、苦痛ではない。
 生きる中で関わる全てが楽しく、また愛おしい。鬼燈は、人生に割と満足していた。
「……でも、これではダメっぽい?」
 自分の過去と向き合わせられる以上、何もなしというわけにはいかない。暇つぶしにと組織に頼んだキャンバスと絵の具を用意した。
 ネモフィラ畑を写生する中で、見えてくるものがあるかもしれない。芸術は時に、心を磨き高める道となるのだ。
「精神修練も修行の内ってね」
 月と星の光があるおかげで、見えなくて絵が描けないことはなかった。サラサラと、目の前にある光景をそのまま、己の余計な感情を挟まず描いていく。
 揺れるネモフィラ、光る星々。一心不乱に描写していく中で、鬼燈の心は純粋に研ぎ澄まされていく。
 筆を動かしていると、不思議と過去の経験が甦ってきた。
 竜殺しの武を磨く一族に生まれ、修行漬けだった里での日々。退屈だった。
 変化を求めて旅立ち、好きに飲んで、好きに遊んで、戦った。猟兵となってからも、それは変わらない。
 過去があるから今を楽しめていると、鬼燈は常々思っていた。戦いを心行くまで堪能できるのだって、退屈だった修行の毎日があったからこそだ。
「でもこれは、今の僕が感じていること。過去の僕は――」
 そこまで考えて、手を止めた。夜空とネモフィラを繊細に描き出したキャンバスと、その先に広がる実際の景色を見比べつつ、一人呟く。
「それは、昔の僕に聞いてみるです。考えたって、分かるわけないもんね」
 過去の己が抱く不満が、今の鬼燈との隔離だとすれば、それは成長の証と取れないこともないだろう。
 だとすれば、それもまた、楽しいではないか。
 描いていた絵に最後の仕上げを終えて、筆を置く。
「うん。いいね」
 キャンパスに描かれた幻想的な月夜とネモフィラ畑に、鬼燈は満足げに頷いた。

成功 🔵​🔵​🔴​

臥待・夏報
【お話希望】
夏報さんは、楽しむのが難しいとは思わないなあ。
オカルト話を知っていたところで、実際、一面に花が咲いているんだぞ。
綺麗だなって思わない方が難しくないか?

…なーんてね。
うちの組織が持ち込んだ話だから、体裁を保つために派遣されてきただけなんだけどさ。
でもまぁ、適量以上のアルコールさえあれば、楽しめない場所なんてそんなにないよね。
缶チューハイが経費で落ちる。こんなに嬉しいことはない。
君らも飲む?
あっ、未成年にはあげないぞ。めっ、だ。

【WIZ】
あ、流れ星だ。
実物かな? 酒の飲みすぎじゃないよな。
無邪気に願い事って歳でもないけど、思い出すなぁ、天文学部…
あ…、
思い出しちゃいけないやつだっけ…?


フランチェスカ・ヴァレンタイン
トラウマの再現……余所での戦争でもありましたけれども
今回は自然現象めいたナニカ、ですか

わたしの場合はまあ、内容はまたアレでしょうねえ……
取り立てて他に思い当たるものもありませんし、ええ

多少アンニュイな雰囲気を垂れ流しながらも、他の方もお誘いしてネモフィラ畑の散策を(※お話希望

ご一緒した方が同性なら割と砕けた雰囲気であれこれお話を
異性の方なら――表面上はややセメント気味ながら、割と無自覚で無節操な誘い受け気質のせいで時折何だかアヤしい雰囲気になったりしつつ?

――こうして観るだけならとてもステキな景色なんですけど、ねえ?
(少々死後の世界めいて見えなくもないですけれども、という感想は胸に仕舞いつつ)




 なんでも、組織の機動部隊員はこのネモフィラ畑を楽しむ気になれなかったようで、異常が発生しないという情けない失敗に終わっているらしい。
 月明かりで資料を再読しながら、臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は頭を掻いた。
「夏報さんは、楽しむのが難しいとは思わないなぁ」
 ネモフィラ畑に腰を下ろし、組織から支給されたリュックから缶チューハイを取り出しつつ、彼女は独り言ちる。
「オカルト話を知っていたところで、実際、一面に花が咲いているんだぞ。綺麗だなって思わない方が難しくないか?」
 おもむろに顔を上げた先で、天使と見紛う白い翼の女が、僅かに驚いた様子で振り向いた。
「わたしに言ってらっしゃいます?」
「他に誰もいないと思うけど」
「……それもそうですわね」
 誘いと受けたのか、フランチェスカ・ヴァレンタイン(九天華めき舞い穿つもの・f04189)は夏報の隣に上品に座った。
 揺れる金のウェーブヘアを手櫛で整えながら、夏報の問いに答える。
「あなたの言うことは分かりますわよ、夏報さん。いくら任務とはいえ、この星空と花の姿に心を奪われないなんて」
「……ま、言っといてあれなんだけどさ。うちの組織が持ち込んだ話だから、『共同作戦』って体裁を保つために派遣されて来ただけなんだよね。だからま、本当は夏報さんにNo.7997の異常性が現れなくても、組織的には問題はないってワケだ」
 人知れずUDCと戦い続ける組織に身を置く夏報は、猟兵であるがために、その能力と立場を組織に利用されることがしばしばあった。今回もその例に漏れない。
「大変ですのね。組織に属するということは」
「猟兵とは、だいぶ質が違うしね。今回みたいな無茶ぶりもされるし。……でもまぁ」
 リュックから新しい缶を取り出し、フランチェスカに渡す。受け取り、タブを開けたのを確認するや、夏報は缶をわずかに掲げた。
「適量以上のアルコールさえあれば、楽しめない場所なんてそんなにないよね」
「ふふ、確かに。ご相伴に預かりますわ」
 上品に乾杯に応えて、フランチェスカは甘い果実味の酒を口に含んだ。ゆっくりと飲み下すその様には、妙に色気が漂っていた。
 一方、こちらは飲みなれた様子で喉を鳴らして一本を飲み干し、「あぁー」と声を上げる夏報である。
「缶チューハイが経費で落ちる。こんなに嬉しいことはない!」
「あらあら」
 すぐに二本目を開ける夏報を見て、フランチェスカは穏やかに微笑んだ。普段よりも心が柔らかなのは、なぜだろう。
 それも、この場の異常性がさせていることなのだろうか。考えても詮無いことではあるが、気にはなる。
「トラウマの再現……余所での戦争でもありましたけれど、今回は自然現象めいた何か、ですか」
「予知に見られたってことは、ここに出るUDCも過去に存在した奴なんだろうね。自分と同じ形を取るUDCなんて腐るほどいるから、特定は難しいみたいだけど」
 すでに二本目の半分を胃袋に収めた夏報が、袖で口を拭いつつ答えた。反射的にハンカチを手渡しつつ、フランチェスカも頷く。
「この手の幻覚も、オブリビオンによく使われる手ですわ。思い出すトラウマも――わたしの場合は、またアレでしょうけれど」
 取り立てて、他に思い当たるものがない。淫祠邪教の連中に弄ばれた記憶は、到底思い出して愉快になるものではないが、だからこそ否が応でも見当がついてしまう。
 トラウマという言葉に、夏報はあまり反応を示さなかった。そうした記憶があまりないのか、それとも心の奥底に隠して誰にも見せないのか。フランチェスカには分かりかねた。
 と、突然夏報が空を指さした。
「あ、流れ星だ」
 釣られて指の方向を見るが、フランチェスカが夜空を見上げた時には、満天の星空以外、何もなかった。
「残念。見逃してしまいましたわ」
「あらら。んーでも、実物だったのかな? 夏報さんが飲みすぎてるわけじゃないよな。んー」
 酒を入れるペースが早かったのか、夏報は腕を下ろすやふらついて、フランチェスカに寄りかかってきた。
 優しく抱き留められた腕の中で、夏報が呟く。
「無邪気に願い事って歳でもないけど……思い出すなぁ、天文学部……あれ、思い出しちゃいけないやつだっけ……?」
「さぁ、どうでしょう。思い出したいと感じたのなら、そうすればいいと思いますわ」
「んん、そっかぁ……じゃあ、うん……」
 膝を枕に、夏報は眠ってしまった。苦笑しつつ、フランチェスカは時間を確かめる。まだ余裕があるので、少し休ませてやってもいいだろう。
 蒼く愛らしいネモフィラたちに、目を向ける。
「――こうして観るだけなら、とても素敵な景色なんですけど、ねぇ」
 夜空と花畑の境目も分からないほどの農藍の世界は、死後の世界めいて見えなくもない。
 ふと過ぎったその感想を、フランチェスカは胸の奥底に仕舞った。
 夜の柔らかな風が、二人を包む。
 寝息を立てる夏報の灰色の髪に触れつつ、フランチェスカは一人、夜空に踊る星と満月を見上げた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

天星・零
暁音と連携

『ふふ、依頼の内容がなければこの幻想的な風景も素直に楽しめたのかもしれませんね‥。』

花畑で暁音に

『暁音、僕達はなにがあっても君のそばにいるよ。例え、闇が空を覆うようにお互いが見えなくなってしまっても‥夜空に輝く星と月のように僕達は側にいるから。』

『ちゃんと側にいるって約束‥‥だから、僕も負けないよ。』

血の繋がりがなくても家族は家族、感染しても暁音が不安にならないようにそっと視線を合わせて、真剣に‥最後は笑って以前交わした二人の約束を言って

『二人でなら乗り越えられる』

その後は、感染するまで暁音と話をします

暁音とそれ以外と話すときでは口調が違います
周りに人がいれば独り言は丁寧になります


天星・暁音
零と連携

『そうだね。見た目だけならとても素敵なんだけど…まあ、こんな光景みたら楽しまなくちゃ損だよね』
と楽しげに笑いながら

『俺もいつでも零の側にいるよ。誰にも何にも…邪魔なんかさせない』
『…いつだって姿は見えなくても俺の心は零の側にいるし零は側にいてくれる…その言葉が何よりも力をくれるから』
真剣に見詰め返して覚悟を今一度決決める

『大丈夫だよ。俺は零を信じるし俺自身も負けない』
『うん、二人でなら絶対大丈夫』
柔らかく微笑んで安心させるように




 例の刻限まで、一時間を切った。どこか自分の心に緊張があることを感じて、天星・零(多重人格の霊園の管理人・f02413)は苦笑する。
「ふふ。依頼の内容がなければ、この幻想的な風景も素直に楽しめたのかもしれないね」
「そうだね。見た目だけならとても素敵なんだけど……」
 首肯したのは、零の隣をぴったりと歩く、天星・暁音(貫く想い・f02508)。彼は兄の言葉に同意しながらも、一面の藍色に頬を緩ませる。
「こんな光景を見たら、楽しまなくちゃ、損だよね」
 これから異常な現象が起こる場とは思えないほど、ネモフィラは何も変わらず風に揺れている。この景色を美しいと思ってはいけない理由は、ない。
 暁音の言葉に、零はしみじみと頷いた。
「確かに。今だけは、思いっきり楽しみたい」
「うん」
 星空とネモフィラたちがそうさせているのだろうか、花畑を散策する二人は、いつもより言葉少なだった。しかし、決して居心地の悪いものではない。むしろ心休まる、温かな時間だ。
 零と暁音は、兄弟である。血の繋がりはないが、同じ孤児院で育ち、互いを心許せる大切な存在と認め合っている。その関係は、家族と呼ぶになんの遜色もない。
 いつもそばにいるのが当たり前だ。そう思って生きてきた。これからもそうだと、確信している。
 それでも、なぜだろう。今日ばかりは、それを言葉にして伝えたい。暁音と零は、同時にそう思っていた。
 二人足を止め、何とはなしに夜空を見上げる。眩しいほどに満天の星に目を細め、初めに口を開いたのは、零だった。
「暁音、僕達はなにがあっても、君のそばにいるよ。例え闇が空を覆うように、お互いが見えなくなってしまっても――」
 金色とワイン色の瞳を夜空に向けたまま、零は真剣だった。暁音がその横顔を見上げていることに、彼は気づいているのだろうか。
「夜空に輝く星と月のように、僕達は側にいるから」
「……」
 嘘偽りのない言葉なのだろうことは、兄の声から分かる。とても嬉しいと感じつつ、それでも暁音は妙にくすぐったくて、こっそり顔を伏せ、赤く火照る顔を振った。
 笑ってごまかすような無粋なことは、したくない。零が振り返った時には顔を上げて、はっきりと頷く。
「うん。俺もいつでも零の側にいるよ。誰にも何にも……邪魔なんか、させない」
 どれほど強大な敵であろうと、暁音の決意に例外はない。強い覚悟を秘めた眼差しを零に向けて、彼は続けた。
「いつだって――姿は見えなくても、俺の心は零の側にいるし、俺も零を近くに感じているよ。零の言葉が、何よりも力をくれるから」
 それは、これまでも何度となくしてきた約束。これからも破られることのない、そして、何度も何度でも交わす、誓いだった。
 これから見ることになる過去が、対峙するだろう己自身が、いかに目を背けたくなるようなものだとしても――。
「俺は零を信じるし、俺自身も負けない」
 兄弟を安心させようと、暁音が柔らかく微笑む。零もまた、肉親のようによく似た笑みを浮かべた。
「うん。側にいるって約束がある限り、僕も、負けない」
 大人びた、しかし年相応の幼さのある弟と、零は膝に手を当てて視線を合わせた。
 夜空の満月にも似た瞳を見つめて、かつて交わした約束を、そっと風に乗せる。
「二人でなら、乗り越えられる」
「……うん。二人でなら、絶対大丈夫」
 何があっても、この絆さえあれば。これまでも、そうやって乗り越えてきたのだ。今度も絶対、大丈夫。
 互いに笑い合って顔を上げ、二人は揃って腰を下ろした。ネモフィラの香りに抱かれながら、星空を眺める。
 他愛のない会話が続く。これまでのこと。そして、これからのこと。話は時間をあちらこちらに飛んでいるのに、暁音も零も、心のうちは同じだった。
 いつまでもこの時が、続けばいいのに、今という時が永遠ならいいのに、と。
 兄も弟も、同じ想いであることは、互いに気づいている。それでも叶わぬことだと分かっているから、言葉に出さなかった。
 しかしそれは、諦めではない。
 永遠の時間が手に入らなくとも、二人の絆が永久に――例え死しても決して消えないことを、否定するものではない。
 だからこそ、今この瞬間の過ぎ行く時を、二人は笑顔でいられるのだ。
「あ、零! 流れ星だ!」
「本当だ……。綺麗だね」
 ――大切な人との明日のために、天星兄弟は、今を生きていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

胡堂・充
ネモフィラ、か……バレンタインのお返しに贈ったことを思い出すな。
あの時は、あんなイベントの当事者になるなんて思ってもみなかったから、少し戸惑ったっけ……?
そもそも、今年のバレンタイン以外でチョコを貰ったのは確か16年ぶり……あの時は姉さんからだっただろうか?

……思えば、遠くに来たものだ。
家族を喪い、医師を目指し、そして猟兵となって、僕は今ここに居る。
色んな世界を見た。苦痛に満ちた世界、皆が笑顔で過ごす世界、そして苦難に立ち向かい勝利した世界。
……これから僕は、どうすればいいのだろう?

ネモフィラの花言葉……前に調べたな。『どこでも成功』、だったはずだ。

(アドリブ歓迎)



「ネモフィラ、か……」
 どこまでも濃藍の只中で、胡堂・充(電脳ドクター・f10681)は風に消えるような声で呟いた。
 思い出すのは、バレンタインのお返しに送った、この花のことだ。その時のことを想起し、苦笑する。
「あの時は、あんなイベントの当事者になるなんて思ってもみなかったから、少し戸惑ったっけ」
 思いがけずチョコレートをいただいたが、困惑するのも当然といえば当然かもしれない。充がそうしたイベントの当事者になったのは、実に十六年ぶりのことなのだから。
「十六年前……あの時は、姉さんからだっただろうか」
 記憶の彼方に浮かぶ、幼き日の姉の笑顔。彼女は何と言いながら、チョコレートをくれたのだろう。思い出すことは、できない。
 むしろ鮮明に覚えているのは、彼女の死の間際だった。邪教団によって両親と姉の命を奪われ、組織に拾われた、あの日。
 無意識に俯いていた顔を上げ、無理矢理に満月を見る。その眩しさに、目を細めた。
「思えば――遠くに来たものだ」
 呟いた声は、やはりネモフィラの揺れる音に消える。
 家族を喪い、治癒能力に頼るを良しとせず医師を目指した。多くの人を救う道を模索する中で、猟兵となった。
 様々な世界を見た。生きることすら苦痛になってしまう世界。巨悪に立ち向かい、戦い抜いて勝利を手にした世界。
 皆が笑顔で生きる世界も、涙ながらに死にゆく世界もある。それを知った時、一人の力ではどうにもならない次元があることを叩きつけられた。
 己の無力さを感じながらも、この力で一人でも救われたらと、命を懸けて必死に戦った。
「……これから僕は、どうしたらいいのだろう」
 その問いに答えてくれる者はいない。充自身が見つけ出さなければならないことは、分かっている。
 仲間がいる。尊敬する相手も、共にいるだけで笑い合える者も、大切だと思える人もいる。
 守りたい世界が、ここにある。それこそが彼の戦う理由であり、癒す意味であり、未だ見えない答えでもあった。
 目を閉じて夜風に抱かれ、充は心を鎮めた。あるいはこれから始まる異変が、ヒントになるかもしれない。
「……ネモフィラの花言葉、前に調べたな」
 気を紛らわすように言って、しゃがみ込んだ。小さな藍色の花が、健気に揺れている。
「確か、『どこでも成功』……だったはずだ」
 バレンタインのお返しにと渡したあの人に、この意味を伝えただろうか。歩きながら星空を見上げ、充は一人、赤面して俯く内気な女性の顔を思い浮かべる。
「ささやかなお返しだったけど……自信、持ってもらえただろうか」 
 その自信を欲しているのが自分であることに、彼はまだ、気づかずにいる。

成功 🔵​🔵​🔴​

緋翠・華乃音
放っておけばネモフィラが世界を侵食し尽くす、と?
……まあ、個人的にはそれもそれで悪くは無さそうだが――今の俺は猟兵としてこの作戦に参加している。故にここで終わらせて貰おうか。

天と、地と、花。この世界を構成する瑠璃は俺の瞳と同じだな。
そして君たちも――
(指先が虚空を辿り、その軌跡を追随するかのように淡い光が瑠璃の蝶を形作る。無数の蝶はまるで幽閉から解き放たれたかの様に、藍の世界を羽搏き続け――)
……さて、後は時が過ぎるのを待つだけだな。




 見上げれば煌めく星空。見渡せば一面のネモフィラ。その境界を曖昧にするほど藍色に染まった野原に、緋翠・華乃音(walk alone.・f03169)は立っていた。
 異変を放置すれば、花畑が拡大していくらしい。あるいはこの花たちも、初めは一輪の儚いネモフィラだったのかもしれない。
 小さな花が、やがて世界を埋め尽くす。その光景を想像し、華乃音は鼻で笑った。
「それもそれで、悪くはなさそうだが――」
 今の彼は、猟兵としてUDC殲滅作戦「追憶」に参加している。異変をこの日で終わりにするのが、華乃音たちの役割だった。
「いいさ。徹しよう」
 濃藍のステージで、与えられた役を演じるのもまた一興。ネモフィラの絨毯をゆっくり歩みながら、華乃音は淡々と、しかしどこか楽しげに言った。
「天と、地と、花。この世界を構成する瑠璃は俺の瞳と同じだな」
 手を掲げ、人差し指を虚空に滑らせる。
「そして、君たちも――」
 指の軌跡を追いかけるように輝き、淡い光が蝶を象る。
 瑠璃色の蝶は群れとなり、ネモフィラの上を自由に飛び、月夜に溶け込むかのように舞い上がる。
 蝶たちの楽しげな演舞を見守ってから、華乃音は甘い空気を吸い込んだ。
 まだ、匂いは濃くない。それだけを確認し、独り言つ。
「……さて、後は時が過ぎるのを待つだけだな」
 近づく異変――己の過去が現れるのを、彼は恐れていない。
 その口元に浮かべた笑みは、むしろ、楽しそうですらあった。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルナ・ステラ
「お話希望」

危なそうな依頼ですが、これ以上の犠牲を増やさないようにしないとですね!

ネモフィラ畑、月に星、とても幻想的ですね。
月や星が綺麗だと、昔助けてもらったあの人を思い出しそうになりますね...

〔お話できる場合]
難しそうな気もしますが、とりあえず楽しめば良いのですね。
どんなお話をしたらよいか迷いますが...
好きなものを話したり楽しかった思い出を話したりでしょうか?

〔お話が難しい場合→自分と向き合う]
昔助けてもらって、魔法を教えてくれてもらったときのことを少し思い出します。
あの時よりは、学園に入って勉強したりいろんな世界を冒険したりして成長したかな?と考えます。

アドリブ&絡み等歓迎です!


雛菊・璃奈
ん…なんだか、某異常存在を収容してる財団みたいな報告書な感じが…。
まぁ、異常存在なのは間違いないけど…。

それにしても…綺麗な場所だね…。
花も星も綺麗だし…異常さえなければ良い場所なんだけど…。

とりあえず、時間までは花畑の中心で星を眺めつつ、どうなるか不明なので花畑の範囲外に置いて来たメイド人形の子達と通信機で会話したり、他の猟兵の人達と会話しながら花畑を楽しもう、かな…。

ん、ラン達は大丈夫…?
『こっちはへいき!』『ごしゅじんふぁいと!』『がんばれ!』(メイドと通信機で会話中)
こっちもまだ大丈夫…必ず帰るから…。

後は…幻視する過去とどう向き合うか…。
過去のどの場面が出て来るかわからないけど…




 自慢の箒ファイアボルトを握りしめ、ルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)は力強く言った。
「危なそうな依頼ですが、これ以上の犠牲を増やさないようにしないとですね!」
 やる気満々のルナだが、目の前に広がる星空とネモフィラの共演に、次第に頬が緩んでいく。
「きれい……とても、幻想的ですね」
 一瞬にして凛々しい魔法少女から星と花を愛でる少女に転向したルナは、スキップ気味に花畑を歩き始めた。
 軽やかな足取りをそのままに、甘い香りにうっとりしながら、夜空を見上げる。
「月や星がきれいだと、昔助けてもらったあの人を思い出しそうになりますね……」
 それは、彼女に魔法を教えてくれた人でもあった。ルナに魔法の才能を見出した彼の言葉を辿るように、アルダワ魔法学園に入学したのだ。
 懐かしい思い出だ。忘れたことはないけれど、ぼんやりとした記憶になりつつある。
 学園に入学してからは、勉強したり様々な世界を冒険したりして、自分でも成長したと実感できるところもある。
 今の自分を、あの人に見てもらいたいな。そんなことを、考えた。
「……あら?」
 物思いに耽っていたルナは、ネモフィラの中に一人で座っている少女を見つけた。狐の耳と大きな尻尾から、彼女が妖狐であることが分かった。
 驚かさないように近づいて、ルナは狐の少女に声をかける。
「こんばんは、璃奈さん」
「……やぁ」
 振り向いた妖狐の少女――雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)は、いくらか無感情に答えた。
 とはいえ、彼女は表情を表に出すのが苦手なだけで、決して不愛想なわけではない。銀の瞳に璃奈の感情を見たルナは、躊躇いなくその隣に腰かけた。
 互いに何も言わない時間が、数十秒過ぎた。話さなければいけないというわけではないし、ルナも璃奈も、夜風の音に耳を傾けていた。
 ふと、囁くような声音で、璃奈が言った。
「……それにしても……綺麗な場所だね……」
「そうですね。ほら、お星さまも!」
「……うん。花も星も綺麗……異常さえなければ、いい場所なんだけど……」
 表情こそ変わらないが、璃奈の狐耳は少々垂れていて、残念がっている様子が見受けられた。
 ルナも同意して頷き、しょんぼりと眉を垂れる。
「はい……。私も、もっと心から、この景色を楽しみたかったな」
「何もなければ、ラン達も一緒に来れたんだけど……ね」
「ラン、さんですか? お友達?」
 首を傾げるルナに、璃奈は少しだけ考えてから、「ちょっと違う……かな」と呟いた。
「ラン達は、わたしのメイド人形……。いろいろ、手伝いをしてくれる……。今日は何が起こるか分からないから、花畑の範囲外に置いてきた……」
「わぁ、お人形さんなんですか! すごい、会ってみたいなぁ!」
「……任務が終わったら、ね……」
 狐の尻尾を揺らして答えた璃奈の顔は、月明かりに照らされているからだろうか、まんざらでもないように見えた。
 奴隷として酷使されてきた体験から、璃奈は心の表現が不得手だ。それでも、人と話したくないわけではないし、こうして声をかけられて、嬉しいと思う。
 それをうまく伝えられないのが悔しいけれど、それでも精一杯の想いを込めて、一生懸命に言葉を選ぶ。
「ランたちも、喜ぶ……」
「うん! きっといいお友達になれます。璃奈さんとも、ですよ!」
「……ん」
 こくんと頷く。ルナの幼い優しさが、心に染み込んでくるようだった。
 例の刻限まで、もう少しだ。緊張を紛らわすように、ルナはアルダワ魔法学園での出来事を話した。口数の少ない璃奈は、相槌を打って熱心に聞いている。
 ずっとこの時間を楽しんでいられたらと思うが、そうもいかないだろう。話すルナも聞く璃奈も、互いに徐々に異変が現れていることを感じていた。
 ネモフィラの甘い香りが、濃厚になっていく。思わずむせ返り、時には眩暈がするほどに。
 いい加減、認めなければならないだろう。ルナが話を止め、璃奈と目を合わせて頷き、立ち上がった。
 直後に、互いの体が透けていく。否、お互いを認識できなくなりつつあるのだ。
 周囲の風の音も消え、遠い過去に聞き覚えのある音が、二人の世界を満たしていく。
「璃奈さん!」
 消えゆくルナが叫ぶ。
「また、後でねっ!」
「……うん。後で」
 軽い約束のようだが、それは互いの生存を願う、大切な約束だ。
 ルナの姿が完全に見えなくなり、璃奈は通信機を取り出した。
「ん……異変が始まった。ランたちは大丈夫……?」
『こっちはへいき!』
『ごしゅじん、ふぁいと!』
『がんばれー!』 
 メイドたちの声に、小さいながらもはっきりと、応える。
「……がんばるよ」
 通信機を仕舞い、璃奈は一人、立ち尽くす。
 まもなく幻視する過去と、どう向き合うか。どの過去が選ばれるかは分からない。愉快なものではないかもしれない。
 それでも、生きて帰るのだ。腰の妖刀に手をかけて、璃奈は胸中で何度も、そう呟いた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第2章 冒険 『異常現象【初】』

POW   :    異常現象そのものに触れ、実際に体験する。

SPD   :    異常現象の現場を調査し、痕跡を探す。

WIZ   :    目撃者から話を聞き、原因を予想する。

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。



 二十二時。
 ネモフィラの芳香が、野原に充満する。
 周りにいたはずの仲間は、いつしか消えていた。彼らの認識の外に、あなたはいる。
 眼前が歪み、あなたの記憶を象る。

 あるいは景色であり、
 あるいはモノであり、
 あるいはヒトである。

 見たくないものか。見たかったものか。
 戻りたい過去か。忘れたい過去か。
 懐かしい記憶か。忌むべき記憶か。

 それはあなたにしか分からない。
 ただ一つ言えることは、現れた如何なる過去も、誰かに作られたものではないということ。

 蓋をしても、目を背けても、その過去は、あなたそのもの。

 あなたは今、骸の海に溶けていたあなたの真実と、対面する。


※表示されている行動は、どれを選んでも構いません。マスターコメントを参照し、プレイングをお書きください。
エーカ・ライスフェルト
私に見えるのは硝子玉を貰う前の私ね
若くて、人が良さそうで、躊躇いのない悪党よ

場所は何度も入れ替わると思う。高級ホテルのロビーだったり古い宇宙船の船長室だったりね
話している相手は見えないけれど、何を言っているかもこの後被害者をどんな目にあわせたも鮮明に思い出してしまうわ
「よくもそこまでのことを、楽しみながら……」
「私は、こんなことまで忘れたふりをして」
最近は少しだけ良心もあるから強いストレスを感じると思う

猟兵になった後に、被害者に対して【ハッキング】で送り主不明の送金をしているかもしれないけど、償いになっていない自覚があるわ
「っ、私は自業自得。でも、オブリビオン相手に負ける自由なんて持っていない




 男の声が聞こえる。「話が違う」とか「裏切った」とか、高級そうな扉の向こうで叫んでいた。
 あぁこの男は死ぬのだなと、見ずとも分かった。そして、彼を殺すのは私であろうことも。
 宇宙に浮かぶ高級ホテル船のスイートルーム続くドアを。私はただ見つめていた。
 この時のことは、覚えている。でも、こんなにも鮮明に思い出したことはなかった。
 声の主は、恐らく腰を抜かしている。私はこの男を護衛する代わりに海賊行為の隠れ蓑になってくれるよう契約し、そして、自分の仕事が終わった後に、彼を売ったのだ。
 この頃はまだ、十代――子供と呼んでもいいような年だったと思う。
「裏切り? あなたが勝手に仲間だと思っていただけでしょう」
 過去の私が、ドアの向こうで言った。ほくそ笑んでいるのがはっきりと分かる声だった。
「貴様をっ……助けてやったのを忘れたのか!?」
「あら。勝手に手を出してきたくせに、助けたつもりになってたの? 気持ち悪い」
 ドアを通り抜けて部屋に入ると同時に、過去の私が小規模な火炎の矢を放った。
 男の顔面が燃え上がるのを、私は当時とは違う想いで見つめていた。これはだの映像に過ぎないと分かっていても、なぜだろう。不快だ。
 悲鳴を上げた男に、その後私が何をするか。それを見届けるまでもなく、目の前が歪んでいく。

 次に現れたのは、宇宙船の船長室。今でこそ型落ちだが、当時は最新鋭の高性能艦だった輸送船で、禁止物資の密輸もしていた。
 その禁止物資を横流ししていた私は、自分の利益を上げたいがために、船長を脅している。これから起こることを思うと、自分がすることなのに、眩暈がした。
 ライダースーツに身を包んでブラスターガンを誰かに突きつけている私は、人のよさそうな顔をしていながら、躊躇なく淡々と言った。
「それで、私の要求は呑んでもらえるのよね?」
 かつての私が言うと、この船の船長――部屋の入り口から死角にいるので、姿は見えない――が、机か何かを叩いた。
「調子に乗るなよ、エーカ・ライスフェルト。例のブツを運ぶだけなら、貴様でなくても構わんのだぞ」
「他に誰がいるっていうの? 赤いフォースのジョン? 黒い恒星兄弟? 他にもいたかしらね。ま、あなたがあてにしている連中は、みんな死んだわよ」
「……なに?」
 邪魔な同業者を始末したからこそ、私は強気なのだ。この頃は、これほどまでに人殺しを躊躇しなかったのか。
「よくもそこまでのことを、楽しみながら……」
 思わず呟いた言葉は、過去の私には届いていないようだった。声をかけようという意志がない限り、会話はできないらしい。そうするつもりは、なかった。
 その後も私は相手を見下しながら「交渉」を続け、要求が飲まれないと見るや、ブラスターガンの引き金を引いた。
 血液が壁に飛び散る音と、当時の私が冷笑する声を、私は俯いて聞いていた。

 見せられた幻視が自分の本質であるかもしれないことを思うと、胸が妙に痛い。
 猟兵となって、世界を守るという目的のために戦ううちに芽生えた良心が、そうさせているのだろうか。
「私は――こんなことまで、忘れたふりをして――」
 正義の味方が心地よかったのか、これまでの悪逆非道の私を捨てたかったのか。
 命までは取らなかった被害者に、送り主不明で送金をしていることも、私の自己満足に過ぎない。この過去をはっきりと見てしまえば、償いになどならないことは、嫌でも分かる。
 気づけば不快感を紛らわすように、硝子球を握りしめていた。あの子と出会ってから、私は昔の私を否定してきたのかもしれない。
 でも、例え目を離したとしても、見ないふりをしていたとしても――私の罪が消えることは、ないのだ。
「っ……」
 詰まる胸を押さえて、私は頭を振った。過去に呑まれそうになる自分を叱咤する。
「これは私の、自業自得ね。あらゆる自由を手にした代償と思えば、安いものよ。……でも、オブリビオンを相手に負けてやる自由なんて、持ち合わせていないわ」
 自分に言い聞かせるように呟きながら、私は硝子球を握る。この輝きが、今私の中にある。私は、今の私を生きている。
 世界が歪む。新たな過去が現れる。暴虐の蛮族であった私が、現れる。
 例え何を見せられても、目を背けないと決めた。どんな過去も受け入れてみせる。
 そう思った時、私の心に「償い」の願望があることに気づき、胸がまた、ちくりと痛んだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーリ・ヴォルフ
気付けば視点が低く、自身の手が幼くなっている
自分の身体はこれ程不便だっただろうか?
と違和感を覚えていると、突然頭を殴られる

見上げると
怒りや恐怖といった視線を人々から向けられていた
そうだ(猟兵になる前の)俺は人間の天敵なんだ
狩られる前に逃げなければ

半竜でも子供ならこれ程弱いのかと攻撃され
命からがら逃げだしては石を投げられる
解り合おうともしてくれない一方的な虐げ
死にたくない。負けたくない
コイツラを焼き尽くせるような力があればー!

夢から覚めると、目の前にココルがいた
竜であるにもかかわらず
瀕死の俺を救い匿ってくれた少女
ココルが居るから、俺は人として生きていける
誓おう
俺…私は、ココルと領主様を守るのだと




 ネモフィラ畑が歪んで、濃厚な花の香りが吹き飛ぶ。そして気が付けば、視点が低くなっていた。
 何が起きたのだろうかと、自分の手を見た。張りがあり柔らかな、子供の手になっている。
 力もいまいち入らない。記憶の幻視の影響で子供に戻ったということだろうが、“俺”の体はここまで不便なものだっただろうか。
 手を握ったり開いたりしながら具合を確認していると、突然背後から頭を殴られた。
 なすすべもなく地面に転がった俺は、激痛に後頭部を抑えながら、見上げた。農作業用の鍬やら鎌やらを持った大人たちが、俺を取り囲んでいる。
「竜だ――」
「殺さなければ――」
「殺せ――!」
 口々に叫ぶ連中の目には、怒りや恐怖が入り混じって見えた。その敵意がすべて、幼い俺に向けられている。
 そうだ。この頃の俺は、人間の天敵だったのだ。
「殺せッ――!」
 命の危険を感じた俺は、その場から逃げだした。走って転がって、泥まみれになって、とにかく必死に逃げ続けた。
 竜に半身を置いていながら、子供の俺は弱かった。そのことに気づいた大人たちは、喜んで俺を攻撃した。
 見つかっては石を投げられ、敵意はないことを示そうとしても、理不尽で一方的な暴力が襲った。
 死にたくない。負けたくない!
 俺はいつしか、連中に強烈な嫌悪感を抱くようになっていた。殴られ蹴られて、血に塗れながら、何度も心の奥底で叫んだ。
 コイツラを――焼き尽くせるような力があれば――!

 目を開ける。夢を見ていたようだ。額の汗を拭う俺の手は、まだ幼さを残している。
 どこまでが異変の見せている幻覚なのか、分からない。夢の境が認識できず、俺は眩暈に似た感覚に吐き気を覚えた。
 胸を押さえて身を起こすと、目の前にココルがいた。優しい眼差しで心配そうに、俺を見ている。
「大丈夫? 具合が悪そうだけど……」
「……」
 幻覚だ。これは幻なのだ。分かっていても、行方が分からなくなってから今日まで、記憶の中でしか会えなかったココルが、目の前にいる。
 その事実が、俺の認識を曇らせていく。危険だと知りながら、幻のココルに、俺は頷いていた。
「あぁ。大丈夫」
「よかった! あのね、さっきね――」
 ココルは楽しそうに話をしている。彼女の顔をぼんやり見ながら、俺はこの日のことを思い出した。悪いものでも食べたのか、寝込んだ俺をつきっきりで看病してくれていたのだ。
 竜であることを知りながら、瀕死の俺を救い、匿ってくれたココル。いつも俺を気にかけてくれた。
 彼女がいるから、俺は人として――竜の殺戮衝動を抑えて生きていこうと思えた。身に秘めた恐ろしい力を、ココルと領主様のために使おうと決めた。
「ココル」
 ふと名前を呼ぶと、ココルは微笑んで首を傾げた。
 まるで現実じゃないか。これが幻だなんて。もうすぐ消えてしまうなんて……。
 いや――。
 もしかしたら、「幻だと思っている俺」の方が幻で、これまで猟兵として戦ってきた時こそが夢で、本当は今、目が覚めているのではないか。
 目の前にいるココルこそが現実で、彼女が行方不明になったというのは、全部悪い夢だったのではないか。
 だとすれば、これからこの街で、ココルと生きることこそが、本当の俺の幸せなんだ。きっとそれが、正しい選択に違いない。
 世界を守る戦いなんて、そんな夢はもう忘れて、ココルと一緒に、ずっと――。

「ユーリ!」

「ッ!?」
 呼ばれた一瞬で、背中に汗が噴き出す。誰の呼び声だったのだろう。ココルか、それとも、別の誰かか。とても遠くから聞こえた気がした。
 今自分で考えていたことに、ぞっとする。
 ココルが消えてしまったことは、夢などではない。これまでずっと、彼女の痕跡を探し続けてきたではないか。
 現実の彼女は今、どこかで泣いているかもしれない。傷ついているかもしれない。
 俺が、見つけてやらなければならないのだ。
「ココル」
 眼前で不安そうにしているココルの名前を、もう一度呼んだ。
 彼女は幻だ。もう迷わない。迷わないからこそ、俺は彼女に、はっきりと言った。
「俺が、守るから。絶対に、ココルを見つけ出して見せるから」
「……? うん、ありがとう……」
 困惑しながらも礼を述べるココルを、じっと見つめた。
 見失いかけたものを、はっきりと掴んだ。この手で守るべき人は、幻などではない。
 どこかで待ってくれているココルを見つけだし、拾ってくれた領主様と一緒に、今度こそ守り抜く。
 その想いを貫くために、“私”は何度でも、守護騎士としての誓いを立てる。

成功 🔵​🔵​🔴​

臥待・夏報
【POW】
(37人、あるいは2人の天文学部の始まりの日)

田舎町の退屈な高校には、全員ひとつは部活動に入れという悪習があった。
活動実態のない天文学部を選んだ生徒達は、自己紹介を終えたら二度と集まることもない仲だった。
あいうえお順の一番に、暁月・眠春は澄んだ瞳で言った。

『みんなで一緒に、宇宙との交信を成功させましょう!』

どう考えても、あんな変な女に関わるべきじゃなかった。
ただ、このまま無言でいれば、周囲の嘲笑と数の暴力に参加しているのと同じだと思った。僕は、また、耐えられなかった。

『わかった。具体案を聞かせてくれ』

幻と会話をしてはいけないことは覚えていたのに、結局あの日と同じ言葉で彼女の前に進む。




 ほとんど名前だけの部室に、今日だけは人がたくさん集まっている。
 僕が通っていた高校は、特別優れているわけでもない普通の学校だった。その上周りが田舎町とくれば、その平凡に退屈まで加わってしまう。
 とはいえ、特徴がないわけではない。それは、「生徒は必ず部活動に所属すること」という、悪習としか言えないような校則だ。
 やりたいことがある人は、まだいい。だが、当然ながら放課後の時間を自由に使いたい人たちもいるものだ。
 天文学部は、そうした生徒の受け皿だった。今日の自己紹介を終えたら、二度と集まることもない。互いの名前も知らないまま卒業していく、実質的な帰宅部。
 丸く置かれた人数分の椅子には、三十七人の生徒が座っている。皆思い思いにケータイをいじったり、あくびをしたりしている。
「この日か……」
 過去の自分に人格投影されたらしい僕は、呟いた。忘れられない日だ。

 ――それは、三十七人、あるいは二人の天文学部の、始まりの日――

 この日だけが出番と言っても過言ではない部長が、気だるげに言った。
「あーじゃあ自己紹介しようか。あいうえお順でいいよね。名簿名簿……はいじゃあ、暁月さん」
 その名前に、僕は肩を跳ねさせた。この光景が幻だから、それとも彼らのやる気がないからか、誰にも気づかれることはなかった。
 呼ばれた少女――暁月・眠春は、飛ぶように立ち上がった。その勢いに、皆が目を丸くする。
 しかし、本当に驚くのはここからだった。誰もが絶句し、呆れ、そして不快そうな顔をする一言を、彼女はこれから発するのだ。
 いつまでも脳の記憶中枢に引っ掛かり、いつも頭の中に蘇る、その言葉を。

「みんなで一緒に、宇宙との交信を成功させましょう!」

 ……今思えば、どう考えてもあんな変な女に関わるべきではなかったのだ。
 だが、見渡してみれば他の生徒が嘲笑し、眉を寄せ顔をしかめている。誰かが「やらねぇよ」と呟くと、皆が一斉に同調して、眠春を小声で嘲笑し始めた。
 醜いと思った。このまま黙っていては、彼らが振るう数の暴力の一部になる。だからあの時、僕は。
 だけれど、これは幻だ。オブリビオンが見せている幻覚に過ぎない。UDC組織に属する僕が、奴らの術中に嵌るわけにはいかないのに――。
 僕はまた、耐えられなかった。

「分かった。具体案を聞かせてくれ」

 そうして結局、僕はあの日と同じ言葉で、彼女の前に進み出す。
 “春ちゃん”の笑顔が、眩しい。場面が転換し、周りの生徒は消えていく。
 そう。この日から、二人だけの天文学部が始まったのだ。
 景色が二転三転していく。それは、春ちゃんと過ごした日々の風景だった。
 春ちゃんのバカみたいな話にしぶしぶ付き合いながら、それでも「現実だったら」なんて想像をして。
 それを叶えようと必死な春ちゃんと、怪しい噂話を追いかけたりなんかして。
 天文学部なのにオカルト研究部みたいなことまでしたりして。
 くだらないながらも楽しくて仕方のない日々が、ずっと続いていくんだ。
 ずっとずっと、永遠に終わらない。
 永遠に――。

「……違う」

 景色の移り変わりが止まった。どれだけの時間が経ったのか、分からない。
 誰もいない教室。外は暗い。夜だ。
 春ちゃんがいる。
 灯油の臭いがする。
 声が、聞こえる。

 二〇一二〇八一九

 あの夜だ。間違いない。
 なのにどうして、ここにあるのは記憶の断片ばかりなんだ?
 僕は全部覚えている。春ちゃんとの会話を。
 火星の川。アルファケンタウリの文明。
 時間の外側。揺蕩う時の残骸。
 月の裏側。
 神様。
 ――これは、春ちゃんの話だっただろうか。
 誰の言葉だったっけ? 
 頭痛がする。
「どうしたの?」
 こちらの顔を覗き込んでくる春ちゃんに、僕は首を横に振った。

 二一■■時――

 あの夜、君はそんな顔をしなかったじゃないか。
 いや、どうだろう。たぶん、そうだったと思う。
「春ちゃん、終わらないんじゃない。僕たちの夏休みは――終わ“れ”ないんだ」
 目の前の人物と会話すべきではないと、僕の理性が告げている。
 この幻視現象は、危険なUDCインシデントなのだ。幻視への干渉で、No.7997は新たな異常を引き起こしている。
 現に今も、記憶の認識が怪しい。異常現象に飲み込まれかけているじゃないか。
 僕に出来ることといえば、この幻が過ぎ去るのを待つことだけだ。これ以上の干渉は、あまりにも危険すぎる。
 分かっているのに、言葉が止まらない。
「でも――いつかは終わらせなければ、いけないんだよ。そうだろ?」
 春ちゃんは、笑わなかった。

成功 🔵​🔵​🔴​

セルマ・エンフィールド
……やはり、ここに来ますか。

5年ほど前の光景。
薄暗くも格調高い領主の館のひと際豪勢な領主の部屋に影が二つ。
1つは領主、一見すると清楚な令嬢にしか見えない吸血鬼。
1つは私、憔悴し、両手足を縛られた状態で領主の前に転がされている。

私は銃と猟兵としての力で生き延びようとし、氷の弾丸を使う人間に興味を抱いた領主の命令で、領主の飼う「犬」によって狩られた。

領主は首輪を片手に死か服従かを私に迫り……命惜しさに私もまた「犬」になった。

……この選択が誤りだったか正しかったか、今でも解りません。
しかし、私はもう、この選択はしない。そう決めています。

今は何もないことを確かめるかのように片手は自身の首を撫でつつ。




 この景色を、私は知っている。
「……やはり、ここに来ますか」
 呟いた声が、薄暗い空間に溶ける。
 その部屋は、とても格調高い雰囲気を醸し出していた。
 高そうな壁紙、ふかふかの真っ赤な絨毯。大きくて豪奢なベッド。
 そこに、二人の人影があった。
 一人は、麗しも清楚な令嬢にしか見えない、吸血鬼。
 そしてもう一人は、私。手足を縛られ冷たい床に転がされ、酷く憔悴している。
 過去の私の首にはめられた黒い輪が目に入り、私はこみ上げる吐き気をこらえた。

 ダークセイヴァー――私が生まれた世界は、あまりにも理不尽で、残酷だった。
 吸血鬼を初めとした怪物たちが跋扈し、人はいつでも狩られる側、虐げられる側。そして、飼育される側だった。
 人々は抗った。それでも未来をと、強い意志を持って戦った。時には、化け物どもと戦うために特殊な力を身に着けるものもいた。
 私も、その一人だった。氷の弾丸を放つことができる私は、今猟兵として使っているこの能力で、抗い、生き延びようとした。
 そんな私の能力を、面白いとみた奴がいた。それが、この女吸血鬼だ。
 私を執拗に狙い、そして――私はこの女吸血鬼が飼う「犬」によって、狩られた。
 敗北した私に、吸血鬼は首輪を見せつけて言った。
「死ぬか、私の犬となるか」
 選べ、と。
 そして、私は屈した。今目の前で転がっている私は、彼女の「犬」だ。

 苦しげに身をよじる私を、吸血鬼は容赦なく足蹴にした。あの時の屈辱が、蘇る。
 命が惜しかった。死にたくない一心で、吸血鬼に服従した。
 その選択は、正しかったのだろうか。過去を目の前で見せられた今でさえ、分からない。
 ただ言えるのは、もしまた同じ目にあったとしても、私はもう、同じ選択はしないということだ。絶対に。
 そう決意することができたのも、この時に生きる選択をしたからに他ならない。
「生きるための選択だった。そう、私は生きるために――」
 ……気づけば、私は何度もそう呟いていた。吸血鬼に虐げられながらも、死んだ瞳で虚空を見つめる私を見つめながら。
 私を蹴り上げながら、吸血鬼が哄笑する。その耳障りな笑い声が、たまらなく不快だった。
 忌むべき敵に命乞いをした過去の私の、動かない表情の目元から、一筋の涙が流れ落ちる。
 それを見て、私は思い知った。
「そう、だったんだ。あの時私は……」
 吸血鬼を相手に屈したのではない。それはただ、形の上でのこと。
 私は、私の弱い心に、屈したのだ。
 
 拳を握る。今ここで銃を構えて、氷の弾丸を女吸血鬼の顔面に叩きこめたら、どれだけいいか。
 でも、しない。これは過去の残像だ。
 私は、今を生きている。心のままに、使命を果たすべく戦えている。
 もう私を縛るものは、何もない。私はもう、大丈夫。
 それを確かめるかのように、私の右手は、無意識に首筋を撫でていた。
 何もないはずの首は、まるで黒い鉄の首輪をつけているかのように、重い気がした。

成功 🔵​🔵​🔴​

マディソン・マクナマス
【POW】

ある国の暫定政府軍に雇われてた時の話だ。
前線の山岳地帯に設営された軍事キャンプ。クソ寒い夜。夜闇を赤く染める業火と、怒号と、銃声。
敵の襲撃じゃない。同士討ちだ。
キャンプ全体が、味方同士で撃ち合ってやがる。

原因は些細だった。パトロール部隊が連続で敵の奇襲にあった、確かそんなトコだった。
誰かが言い出した。キャンプ内に内通者がいるってな。
仲間を失った怒りと、互いへの不信。そいつはあっという間にキャンプ全体に燃え広がり、爆発した。
味方に銃を向けられ、昨日戦場で背中を預けた仲間さえ撃った。
だが、最も最悪だったのは……俺自身が、内通者がいると信じて疑わず、騒ぎをデカくしたバカの一人だった事だ。




 山岳地帯に設営された軍事キャンプのど真ん中で、俺は立ち尽くしていた。
 クソ寒い夜だ。この空気の感触は、今でもはっきり覚えている。
 宵闇が、テントやらトラックやらを派手に燃やす炎によって、赤く染められている。
 業火と、怒号と、銃声。
 これが敵の襲撃だったら、恐らくUDCはこの記憶を呼び起こすことはなかっただろう。
 敵じゃあない。同士討ちだ。
 キャンプのどこを見回しても、同じ軍服を着た暫定政府軍の連中が、味方同士で撃ち合ってやがる。
 仲間で殺し合いながら壊滅の道を突き進んだこの事件の原因は、些細なことだった。
 パトロール部隊が連続で敵の奇襲にあったとか、確かそんなトコだった。巡回ルートを的確に潰されて、見回りの連中は何人も死んだ。
 飯時だったか。酒も入っていたかもしれない。ともかく、誰かが言ったんだ。「キャンプの中に内通者がいる」ってな。
 死線を共に潜り抜けた仲間を殺されて、どいつもこいつも気が立っていた。そんな時にこの話だ。あっという間にキャンプ全体へ、互いへの不信感が広がっていった。
 そして、爆発した。あとは簡単だ。味方に銃を突きつけられれば、無実を証明する方法はない。撃つしか生き残る方法はない。
「てめぇ! 早朝巡回の時間に便所へ行ったろ! 銃を持って! てめぇが殺ったんだな!?」
「ざけんな! このクソ前線にちけぇ場所で銃を放すか! お前はどうなんだ、昨日は寝れないとかなんとか言って、ヤニ吸いに行ったよなぁ? ライフル持ってよぉ!」
 若い兵士が罵り合いながら、同時にぶっ放す。二人とも穴だらけになって死んだ。どこも似たような光景が広がっている。
 クソッタレな状況だ。昨日まで戦場で背中を預けた仲間さえ撃つ。ここは、地獄だ。
 だが、最も最悪だったのは――。
「内通者は見つけ次第殺せ! 逃がすんじゃねぇぞ、一人もだ!」
 自分でいい声をしていると思ったことなんざないが、今ほど、俺の声を聞いて吐き気を覚えたことはない。
 そう、最悪なのは、内通者がいると信じて疑わず、騒ぎをデカくしたバカの一人が、俺自身だったってことだ。
 今俺を殺したら、この事態はどうなるだろうか。腰のホルスターに手が行くが、やめた。ふざけた幻に踊らされてやれるほど、俺は若くない。
「……あぁクソ」
 それでも、毒づかずにはいられない。「若さ故の」なんて言葉で片付けられるわけがない。俺は、俺の仲間を殺したんだから。
 最低の気分だ。背後で軍事用トラックが爆発する音を聞きながら、俺は乾いた土を蹴り飛ばした。
「もっと飲んでおけばよかったぜ」
 そうすれば、ジョークの一つでも飛ばせただろうに。なんてくだらないことを考えたが、たぶん無理だ。
 いくら強い酒を呷ったところで、仲間たちが殺し合うのを笑ってみることなんて、できるわけがない。

成功 🔵​🔵​🔴​

露木・鬼燈
ふむ、僕の過去なんだろうけど…
覚えないんだよなー。
子供っていうより幼児?
物心つく前っぽい。
ほほう!この時から花を愛でているとは風流だね。
今の僕に繋がる部分が見えるね。
でも、別に問題ない光景だよねー。
って、あれ?なんかめっちゃ嫌がってるっぽい?
これは里では普通の訓練の光景だよね?
あ、あれ?
僕だったたら嬉々として参加して、殴り殴られ…
ギャン泣きして嫌がってるんだけど。
傷つくのも傷つけるのも恐れてる?
マジで?
僕だったらどっちも平気だよね?
これは…僕が目を逸らしているってこと?
直視していないから平気で戦える?
そーゆーことなのか?
信じ難いけど…認めないとダメだよね。
武芸者なら自分を完全に支配しないとね!




 僕は幼少の頃をあまり覚えていない。だから、目の前に広がるこの光景にも、ピンとこなかった。
 目の前で、男の子が一人、しゃがみこんでいる。赤い髪に短い一本の角。紫の瞳。僕だ。
 子供というより、幼児と言ったほうがしっくりくる年齢だ。いわゆる、物心つく前。
 どうやら幼い僕は、こちらを認識できていないみたいだ。手元を覗いてみると、にこにこしながら花を眺めている。
「ほほう、いいね!」
 この時から花を愛でているとは、我ながら風流な幼少期じゃないか。悪い気はしない。今の自分に通ずる部分も見える。
 しかし、これが僕の「思い出させられる」ほどの記憶だろうか。あまり問題のない光景に思えた。
 その時、幼い僕を呼ぶ声がした。
「鬼燈! こんなところにいたか――」
 この声は確か、里長だ。どうやら武術の稽古らしい。
 いいじゃないか。幼い日の僕がどんな訓練をしていたのか。じっくり見させて――。
「あ、あれ?」
 目を疑った。どうして小さな僕は、泣いていやいやをしているのだろう。幼い体で一生懸命里長から逃げようとしている。
 無理やりに連れていかれて、訓練が始まった。いわゆる組手だ。里の修行では子供でも容赦なく叩き伏せるが、それは珍しい光景じゃない。
 僕だったら、嬉々として参加しているはずだと思った。殴り殴られ強くなる。こんなに楽しいことはない。
 だというのに、幼い僕は声を上げて泣いている。殴られることはおろか、攻撃せよと言われても嫌だ嫌だと拒んでいるじゃないか。
 傷つくのも、傷つけるのも、恐れている。
「……マジで?」
 彼は僕じゃないのか? 別人としか思えない。僕だったら、どちらも平気、どころか望むところのはずだ。
 この異変は過去を見せる。つまり、僕が見ている幼い僕は、過去に起こった真実だ。
 だとしたら、考えられることは限られてくる。
「……僕が、目を逸らしているってことっぽい?」
 僕は好戦的なのではなくて、戦いを恐れる本当の心を直視していないから、平気で戦えているだけ?
 混乱する。戦いは好きだ。嘘じゃない。でもそれは、僕の本心とは真逆なわけで。
「いや――」
 本心なんて言ったって、これは幼いころの記憶だ。今は違う。そう断言できる。
 じゃあこの時の僕の思いは、どこにいった? 「忘れてしまった」で片付けていいのだろうか。
「……認めないと、ダメだよね」
 信じ難いが、この事実から目を逸らしていては、僕は僕の本質を見失うことになりかねない。
 僕、露木鬼燈は武芸者だ。それだけは間違いないし、誰にも否定させない。
 武芸者ならば、自分を完全に支配しなければいけない。自己を否定していては、遠くない未来に限界が来る。
 今も泣きながら殴られている幼年の僕を、じっと見つめる。彼を他人事のように思っている間は、きっとダメなんだと思うから。
 この子と今の僕が、しっかりとリンクするまで、時間の許す限り、見守ろう。
 幻視の中で泣き喚く幼い僕は、きっとまだ、僕の心の奥底にいる。

成功 🔵​🔵​🔴​

シホ・エーデルワイス
世界観に沿ったアドリブ希望


セーラー服を着た写真の少女がいた
黒髪黒瞳おかっぱは私と違う
それ以外は私とほぼ同じ容姿


彼女は虐められていた
切欠はSNSでの失言
悪気は無く謝罪もしたけど大炎上

心身を病み崖から投身自殺

オロチのジャミング装置で最初に見た記憶と同じ

私はやっぱり一度死んだ?

彼女の亡骸を抱き起し
顔を見つめる


記憶が蘇る


彼女は私の異世界同位体
世界と骸の海の境界で私達は出会った

私は世界に救われオラトリオの猟兵に覚醒したが
彼女達はオブリビオンと化しつつあった

自分だけ助かる罪悪感に戸惑うと
彼女達は私に記憶を託し
自分達の凶行を止めて助けて欲しいと願った

でも死亡直後の記憶で混乱しないよう
世界は私の思い出を封じた




 むせ返るようなネモフィラの香りが消え、足元には木目の床が見える。
 いくつもの机と椅子。同じ柄のセーラー服を着た少女たち。ここは、UDCアースの学校だろう。
 教室の隅にで、自分の机を見つめる少女がいた。彼女の姿を見て、私は息を呑む。
 黒い瞳と、おかっぱの黒髪。私とは違う人間だという証明なのに、彼女の顔つきは、私そのものだった。
「これは――」
 スペースシップワールドの戦いにおいて、オロチのジャミング装置で見た記憶が蘇る。
 思慮に欠けた発言をしてしまったことで、あの子はいじめられた。悪気はなかったし、何度も謝ったけれど、それは火に油を注ぐ結果にしかならなかった。
 座ったまま動かないその子の机には、すさまじい数の落書きがされていた。
「ウザブス」
「登校拒否希望(笑)」
「空気が腐るww」
「死ね」
 心無い言葉の数々。私は黒髪の“私”が深く傷ついていることを知っていた。でも、言葉はかけられない。
 これは幻。私の過去。
 私の――私の?
 私は彼女を、『私』と認識している?

 世界が歪み、場面が変わる。
 波音が聞こえる。見れば、目の前に海が広がっていた。
 崖の上だ。その先端に、黒髪の“私”がいた。風におかっぱを揺らして、崖下をぼんやりと見ている。
 これも、ジャミングで見た劇と同じ。あの子はこれから、これから――!
「だめ――」
 思わず言葉が出かけた瞬間、“私”が飛んだ。
 ……気づけば私は、“私”の横に立っていた。崖際の岩に落下して死んだ“私”を抱き上げ、その顔を見る。
 安らかな死に顔だった。彼女が苦しまないで済んだのは幸福だったのかもしれない。
 強烈な既視感に、頭が重くなる。この子の死に顔を、私は知っている。
 私は一度、死んだのだろうか? UDCアースで? 
 目の前にいる死んだ“私”は、私なのだろうか。だって、あの時、私は“私”が死ぬところを、他にも――。

 いくつもの記憶の断片が、脳裏を過ぎる。
 己の過ちで多くの人を死に追いやり、罰として磔にされて死んだ“私”。
 失言によって虐げられる的となり、心身を病んで崖から飛んだ“私”。
 チームのためにとしたことが一人よがりと受け止められ、招いてしまった不信感で和を乱してしまった“私”。
 “私”。“私”。“私”。

 すべて、私なんだ。
 他の世界にいた、“私”なんだ。

 足元が消える。床も天井も壁もない、真っ黒な世界。そこに、エーデルワイスの花びらだけが、鮮明に舞っている。
 私はここを、知っている。“私”たちは、ここに来たことがある。
 どこか遠く、見えない次元――それは躯の海と世界との境界だったのかもしれない――で、“私”たちは出会っていたのだ。
 世界によって選ばれ救われた私は、オラトリオの猟兵として覚醒した。
 一方で、他の世界で死んだ“私”たちは、躯の海に沈み、死の間際に抱えてしまった負の念から、オブリビオンになろうとしていた。
 また私だけが生き残る、そのことに戸惑った。私も“私”たちと一緒に。そう思った。
 でも、“私”が言うのだ。「世界を滅ぼす私を止めて」と。「私たちを助けてほしい」と。
 なぜ彼女たちがオブリビオンになるかもしれないことを知ったのか、それはわからない。でも私は、“私”の願いに頷いた。
 “私”たちは、私に記憶を託し、躯の海に消えた。
 そして私は、息を吹き返したのだ。世界を守る、猟兵として。
「でも――」
 忘れていた。私の心を守るために、世界が記憶を封じたのだと思う。
 理由はなんだって構わない。大切なのは、私は“私”たちを、忘れてしまっていたということだ。

 あぁ、だけれど。
 私は今、思い出した。

 私が翼を持った理由を。
 たくさんの“私”たちとの約束を。

 私と“私”たちの、すべてを。

成功 🔵​🔵​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
「よう、騎士様。まだこのクソ溜めの世界を救おうと足掻いてるのかよ」
凄まじい怨嗟の炎を感じ取り振り返る
黒い鎧を纏い、先天的異常による歪んだ顔の「彼」がそこに

「ええ、私は『私』である為に、クソ溜めの世界で足掻いていますよ」

「そうかい、俺や母さんを救えなかった騎士様が。滑稽なことだな」

これは過去、どんな言葉もアベルには届かない。救えない。救うことを彼は望まない。ですが、心残りが一つだけ
彼を通り過ぎて背後に言葉を掛ける

「お母様は、私と縁のある村の教会で保護されています。保護の対価として寄付を送る際に様子を見ています。彼女はもう、大丈夫です」

僅かな彼の反応
鎧が地に落ちる音が後ろから
振り返れば「私」がいる




 ネモフィラ畑はそのままに、空が暗雲に包まれるのを、私はただ見上げていた。
「よう、騎士様」
 声と共に噴き上がった怨嗟の炎が、私の体を包む。ダメージはないが、なぜだろう。酷く苦しい。
 振り返った先に、黒い鎧を纏った「彼」がいた。先天性の異常によって歪んだ顔を、さらに憎悪に歪めている。
「まだこのクソ溜めの世界を救おうと足掻いてるのかよ」
 彼――私が殺したアベルは、侮蔑を込めた視線を向けた。怒りは感じない。むしろ、不思議な親しみすらも覚える。
 私は、アベルという男の感情について、負の面しか知らないからだ。
「……えぇ。私は『私』であるために、クソ溜めの世界で足掻いていますよ」
「そうかい。殊勝なことで」
 くつくつと笑って、アベルは私に一歩近づいた。そして、睨みつける。
「俺や母さんを救えなかった騎士様が、世界を救うだってよ。滑稽だなぁおい」
「……」
 見せられる過去の映像ではなく、死した彼が私に接触してきたのは、私がそうあってほしいと強く望んでいたからだろうか。
 なんにせよ、彼は過去だ。母を想う黒騎士アベルは、もういない。
 私がどれだけ想いを言葉にして連ねようとも、彼には決して届かないのだ。
 アベルを救うことはできない。彼もまた、救いを望んでいない。アベルを殺したあの瞬間のように、私は己の無力を痛感した。
 ただ一つだけ、心残りがあった。どうしても、彼に伝えておきたいことだ。
 彼の横を通り過ぎ、背後のアベルへと言葉を掛ける。
「お母様は、私と縁のある村の教会で保護されています。保護の対価として寄付を送る際に、様子を見ています」
 思わぬ言葉だったのだろうか。アベルが背後で反応を示した。
 攻撃ではない。それは明らかに、動揺だった。
 アベルを救うつもりはない。ただ事実を報告している、それだけだ。だから淡々と、私は続けた。
「彼女はもう、大丈夫です」
 しばし、間があった。ほどなくして、背後からガラガラと激しい金属音が聞こえた。
 鎧が剥がれおちた音だと、なぜか分かった。このまま立ち去るべきかとも思ったが、まだ、時間はあるようだ。
 振り返る。そこに、アベルはいなかった。
「……」
 いたのは、私だった。見慣れない装丁の本――記憶データを辿れば、それは私が憧れた騎士物語の表紙だった――を、一心不乱に読みふけっている。
 足元には、黒騎士の鎧の破片が落ちていた。黒い甲冑からもう一人の私が現れたということか。
 そう、アベルは私そのものだった。騎士に憧れ、騎士たらんとして務め、騎士に届かぬことを知った。
 まがい物の騎士。それがトリテレイア・ゼロナインであり、アベルなのだ。

 つまり。
 そう。
 私は、私を殺したのだ。

「私を……」
 殺した。仕方がなかった。アベルはオブリビオンであり、私は猟兵だ。私は彼の存在を否定した。そうしなければ失われる命があったから。
 だが、私がアベルであるならば、アベルを否定した私は、私に否定されているのだろうか。
 騎士道物語を開く私。恐らく記憶データにアクセスしている私を表現しているのだろう。私は、この私を否定している?

「――――――」

 UDCとの過剰接触により異常をきたした思考プログラムをシャットダウン、再起動させる。その一瞬に見出した正常な私を、引きずり出す。
「私は、アベルを否定してはいません」
 力を込めて、私は眼前の私に告げた。
 この空間に満ちる、過去への妄執を引き起こす害意を、私の中から締め出すように。
「彼を私自身だと思えたからこそ、私は今も剣を取っているのです」
 己を偽りの騎士と知りつつ、己の行いに迷いながらも、彼を殺したこの手で、私が戦い続ける理由。
 その中に、間違いなくアベルがいる。そのことを、私は戦いの中で証明し続けなければならないのだ。
 他でもない、私自身に対して。

成功 🔵​🔵​🔴​

フランチェスカ・ヴァレンタイン
既に割り切ったコトとはいえ、やはりこうして穿り返されると…

目の前に広がるのは篝火が照らす邪なる儀式の祭壇
異形に抱え上げられた女は正気を奪われて数多の汚辱に塗れた過去の自分

『人のために私を討った貴女が人の悪意に因ってこうも貶められる。…お可哀想に』

そこに顕れた神々しい姿の女は、かつて邂逅した神を名乗るモノ
願望器を餌に己の箱庭へ人を集め、人形劇と嘯いて玩んでいたナニカ

『私のお人形でいれば、綺麗なままだったのに』

それ、邪神への贄と何が違うんです…?

まあ、確かに気分のいいモノではありませんが……もはやこの過去に思うところはありません
わたしはもう、そこから先へと進みましたので

などと艶やかに微笑むのみです




 酔ってしまうのではと思うほど濃かったネモフィラの香りは、今や吐き気を催す体液の臭いに入れ替わっている。
 儀式の祭壇が、篝火に照らされている。漂っている邪なる気配は、過去の幻視であっても変わらない。
「やはり、これですか」
 想像していた通りの結果に、わたしはため息をついた。既に割り切ったこととはいえ、こうして穿り返されると、重い嘆息を禁じ得ない。
 おぞましい体躯の異形に抱え上げられた女は、裸体にも関わらず恥じる様子がない。正気を奪われているのだから当然かもしれないなどと、他人事のように考える。
 あれは、わたしだ。数多の汚辱に塗れた、過去の自分。
 邪教徒に囚われ、「神に相応しき聖女」となるための儀式と称して薬漬けにされ、わたしは正気を失った。
 あらゆる生物――化け物どもとの交わりを強いられ、愛する人に捧げるはずの純潔も失った。
 そう、まさしく絶望だと思う。儀式が完成する間際に救出されてなお、悪夢の残滓はわたしを蝕み続けたのだから。

「人のために私を討った貴女が、人の悪意に因ってこうも貶められる。……お可哀想に」
 声と共に顕れた、神々しさすら感じる衣服を纏った女。彼女はかつて、神を名乗っていたモノ。
 願望器を餌にして自慢の『箱庭』へ人を集め、人形劇と嘯いて玩んでいた、ナニカ。
 神様気取りのアレは、穢れきってなお異形に弄ばれているわたしの顎を持ち上げ、勝ち誇ったように言った。
「私のお人形でいれば、綺麗なままだったのに」
 思わず、笑ってしまった。神を気取るモノは、自分で言っておきながら、気づいていないのだろうか。
「それ、邪神への贄と何が違うというんです……?」
 苦笑交じりに言った言葉に、反応する者はいない。幻視に声をかけられるという話だったが、わたしにそういうつもりがないからだろう。
 当然だ。トラウマとすら呼べないような過去の残りかすに、今更どんな言葉をかけてやれるというのだろうか。
 確かに、気分のいいモノではない。ボロ雑巾のように汚され尽くした自分を見て、愉快になろうはずもない。
 だがこれは、所詮は昔の話。今さら思い出させられたからといって、心を痛めてやる義理はない。
 現在に染み出したところで、とっくに通り過ぎた時間の映像に、今のわたしを貶められるわけがないのだ。
「どんな反応を期待していたのか知りませんが、これではわたし、あなたの期待に応えられませんわよ」
 ネモフィラ畑に潜んでいるであろうオブリビオン――邪神だか何だか知らないが――に、わたしは冷笑を以て告げた。
 もはやこの過去に、思うところなどない。神を気取るナニカがなにを話してどう笑おうが、そこにわたしは、いないのだから。
「わたしはもう、そこから先へと進みましたので」
 過去を辱めて悦に浸る連中へと、いつものように艶やかに、微笑んでみせた。

成功 🔵​🔵​🔴​

胡堂・充
これは……16年前のあの日の光景……?
姉さんと、僕と……『あの男』がいる。夢で何度も反芻した光景……これを今さら?

……待て、あの時僕はどうして助かったんだ? そして、治癒能力はいつ会得したんだ?
そして……この光景を俯瞰して見ているのは『誰』なんだ!?

まさか……いや、辻褄は合う。あの事件の結末は『邪神降臨の儀式に失敗した』んじゃない。
邪神は既に『降臨していた』。ただ、『一つになれなかった』……僕と、姉さんと、『あの男』に分かれたんだ!

姉さんがオブリビオンとして甦ったという噂も、これで説明が付く。僕が能力を使うことで、活性化したんだ……!

――同じ力……同じ『邪神の力』……!?




 ネモフィラ畑が消失し、代わって現れた光景に、僕は眉を寄せた。
 姉さんと、僕と……『あの男』がいる。
 十六年前の、あの日だ。確かにトラウマと呼べるかもしれないが、夢で何度も反芻し、もはや慣れすらある。
 オロチのジャミング装置でも、同じ過去を見た。その時ですら、「こんなものか」と思ったのに。
 違うことと言えば、死にゆく姉を抱える僕を、俯瞰して見ていることくらいか。
「……くだらない」
 今更、何を思えと言うのだろう。この後姉さんが死んで、邪神降臨の儀式は失敗した。それで終わりだ。
「……?」
 激しい出血に脱力する姉さんへと、僕が何かを叫んでいる。その様子に、妙な違和感を覚えた。
 何度も見てきたはずだ。それこそ毎晩のように、この悪夢を、繰り返し繰り返し――。
 でも、なぜだ?
 僕は知らない。

 この時僕は、どうして助かったんだ?
 使うたびに体を苛む癒しの力は、いつ会得した? その力の源を、僕は一度でも知覚したことがあったか?
 
 いや、違う。
 思い出せないのではない。
 僕は、“知らない”のだ。
 
 そもそも、今僕が見ている、この視線は――。
 かつての僕と姉さん、「あの男」を舐めまわすように俯瞰しているのは、『誰』なんだ――?

 まさか、まさか。
 思考が赤熱する。脳裏を過ぎる可能性を、僕は否定することができない。
 辻褄は合う。でも、そんなことがあるのか。頭の中が混乱していく。
 過去の僕が、倒れる。瞬間、僕が見ていた『誰か』の視線が、消えた。

 独り残された暗闇の中で、僕は確信してしまった。もはや、これ以外に考えられない。
 あの事件の結末は、「邪神降臨儀式の失敗」などではなかったのだ。

 奴は、「降臨していた」のだ。
 一つの体にではなく、僕と姉さんと、「あの男」に分かれて――!

「だから、姉さんは、オブリビオンに」
 呟いた言葉に、思わず口を押える。噂程度に聞き流していたが、これで説明がつく。姉さんは、過去から現世へと顕れている。
 僕が、能力を使ったからだ。この力を振るうことで、姉さんはオブリビオンとして活性化したのだ。
 つまり、僕と姉さん、そして「あの男」の力の源は、同じ。
 僕が使う、痛みと引き換えに人を癒す力。幾人もの人を救ってきた力。
「この力も、邪神の――!?」
 これまで僕が力を使って治療した人々の顔が、脳裏に浮かぶ。彼らは皆、邪神の力に当てられたということか。
 そんなわけがあるものか。何度もそう呟いて、考えすぎだと思い込もうとする。
 でも、できない。右手から溢れ出した、暗闇の中にあってもはっきりと見える漆黒の霧が、そこから漂う圧倒的な邪悪の気配が、僕の思考を全て否定する。
「やメロ……! 僕は、僕ハッ……」
 膝をつく。頭を抱えて、うずくまる。
 自覚してしまった力の根源が、僕の中で、哄笑する。

成功 🔵​🔵​🔴​

雛菊・璃奈
ここ、は…?
あの花畑じゃない…。でも…見た事がある…いや、よく知ってる…。
ここは…わたしが、昔囚われてた…。
身体が、震える…怖い…やだ…

あれは…昔のわたし…?
あ…やだ…やめて…酷いこと、しないで…。
(首輪や手枷を付けられ、隷属、暴行、凌辱等を受けた過去を思い出し、自分の身体を抱く様にして震える)

みんないなくなって…捕まって…まいにちひどいめにあって…

(破魔の鈴が鳴り、ハッと我を取り戻し、メイド達や直前のルナさんとの約束を思い出す)
…そうだった…わたしは、戦うと決めたんだ…。
そして、わたしはもう一人じゃない…新しい家族や仲間がいるから…。
だから…過去に押し潰されたりは、しない…

※アドリブ等歓迎




 とても濃い香りが漂ったと思えば、綺麗だったネモフィラ畑は、消えてしまった。
 そして最初に気づいたのは、顔をしかめてしまうようなカビの臭い。
「ここ、は……?」
 わたしは、この場所を見たことがある。いや、よく知っている。
 ここは、わたしが、昔囚われていた――。
「怖い……やだ……」
 足が震える。忘れたかった記憶が、わたしの中に流れ込んでくる。
 暗い、薄汚れた独房のような一室の隅で、ボロボロの布を一枚巻きつけ、首輪や手かせをつけられた女の子がうずくまっている。
 あれは、昔のわたしだ。
 いやだ、思い出したくない! 目を閉じて耳を塞いでいるのに、見えてしまう、聞こえてしまう。
 部屋の中に、幾人もの男が入ってきた。あれは、オブリビオンだ。わたしの家族を殺し、わたしの故郷を滅ぼした奴ら。
 わたしが、奴らに気づいた。泣きながら、酷く怯えている。その光景を見ているわたし自身も、きっと同じような顔をしていると思う。
 奴らの手が伸びる。埃まみれのわたしが、悲鳴を上げる。
「あ……やだ……。やめて……酷いこと、しないで……!」
 思わず声に出てしまったが、わたしは一歩も動けなかった。昔のわたしが暴行を受け、凌辱されていく様を前に、何もできない。
 ここにいたくない。わたしは目を逸らす。でもすぐに、目の前に同じ光景が現れる。
 過去からは、逃げられない。これがわたしの、真実。
「やだぁ……」
 崩れ落ちて、わたしは自分の体を抱きしめた。酷く震えていて、零れる涙を拭うこともできない。
 布きれすらも破り取られて、汚らしい男のオブリビオンに覆いかぶさられたわたしが、諦めたように脱力する。
 奴らは代わる代わる、わたしを殴り、蹴り、そして――穢していく。

 そう。あの日、わたしはすべてを失くした。
 みんないなくなって……捕まって……。
 まいにちひどいめにあって……。

「ぁ……」
 やつらがでていく。あの頃のわたしが、よごされて、たおれている。
 ないている。みんなをよんでいる。だれもこないって、わかってるのに。

 こころが、こわれていく。昔のわたしといっしょに、わたしが、くだけていく。
 たったひとりで、がまんして、いつかきっとって。
 もうだいじょうぶって、ぜんぶわすれたって、おもっていたのに。
 わたしはもう、もどれないんだ。
 こころもからだも、けがれたまま。昔のわたしには、もどれない――。

――リン。

 それは、小さな音だった。いつも身に着けている破魔の鈴飾りが、涼やかに鳴る。
 涙に濡れる目を開いて、わたしは鈴飾りを手に取り、見つめた。頭の中に、メイドたちやルナさんとの約束が蘇る。
 そうだ。「また、後で」会おうって、約束したんだ。
 戦うと、決めたんだ。
「ねぇ、聞こえる……?」
 わたしは、ぐったりして動かない昔のわたしに歩み寄った。
 暴力に晒され、凌辱によって尊厳を奪われたわたしを、抱き起す。
「わたしは……もう一人じゃない……。新しい家族や仲間ができたんだよ……」
 この頃には考えられなかったほど、幸せになれたんだ。
 うまく言葉にできなかったり、表情に出せなかったりするけれど。
 大切な人たちが、いつもそばにいてくれるから。
「だから……過去に押しつぶされたりは……しない」
 みんなと一緒に、過去のわたしも一緒に、生きていく。それがわたしの戦いであり、幸せなんだと思うから。
 もう、なかったことになんてしない。
 精一杯の力で、昔のわたしを、抱きしめた。

成功 🔵​🔵​🔴​

ルナ・ステラ
璃奈さんご無事で...


昔住んでた都?
殆ど記憶がないけど楽しかった...

けど、都が襲われて!
(あの時から魔法がちゃんと使えていれば)
都の人と離れ離れになってしまって、そんな時あの人が助けてくれて...

それから、魔法の使い方を教えてもらったり、狼さんたちと出会ったりして...

無理矢理忘れてたんだ。
過去と向き合うことから逃げて...

今、都の人たちは?
何であの人はいなくなったの?
寂しかった...

けど、今は友達もできた!(違う世界でも)
だから寂しくない!
使える魔法も増えて、助けることもできるようになった!

今のわたしがあるのは、確かに経験した過去があるから!
だから過去は無かったことにしちゃいけないんだ!



「璃奈さん、ご無事で……」
 友達になったばかりの子の名前を呼ぶと同時に、濃藍のネモフィラ畑が見えなくなった。
 代わりに目に飛び込んできたのは、わたしが昔住んでいた都だと、思う。ほとんど記憶がないから、ちょっと自信がない。
 でも、一つだけはっきりしていることがあった。あの頃は……楽しかった……。
 都の中を、歩き回る。景色はもちろん、音も匂いも、わたしの微かな記憶をくすぐる。
 露店には美味しそうなものもあったりしたけれど、資料には幻覚に関わったら危ないって書いてあったから、やめておく。
 それにしても、この都は居心地がいい。オブリビオン退治の途中であることを、忘れてしまいそうだ。
 そういえば、思い出させられる記憶は悪いことだけじゃなくて、いいことも含まれるというようなことが、資料にあったような気がする。
 もしかしたらわたしはいい方を引いたのかも、と思ったけれど、そうはいかなかったみたいだ。
 しばらくすると、遠くから大きな音が聞こえた。振り向けば、都を象徴する時計塔が、崩れていた。
「あぁっ!」
 思わず声が漏れた。そうだ。この日は――都が襲われた日なんだ。
 すぐに警備の兵隊さんがやってきて、人々を避難させようと誘導している。
「あれは……」
 慌てる大人たちの中に、押しつぶされそうになりながら逃げるわたしがいた。不安そうにきょろきょろしながら、みんなについていっている。
 まだ魔法を使えなかった時のわたしだ。もしこの時、魔法が使えていたら、都を守ることができたのかも……なんて考える。
 ――今のわたしなら、もしかしたら、みんなを守れるだろうか?
「……ダメ」
 スカートの裾を強く握って、わたしは唇を噛んだ。それは、過去を変えようとしてしまう行為。きっと、よくないことが起こると思った。
 そこからは、目まぐるしく景色が変わっていった。
 崩壊する都。逃げ延びた人々とはぐれてしまって、野原で一人、泣いているわたし。
 そんなわたしを助けてくれた、あの人。魔法を教えてもらって、狼さんたちと出会って――。

 だんだんと、わたしの思い出が、組み立てられていく。

 どれも大切な記憶のはずなのに、わたしは覚えていなかった。
「ううん、違う」
 仲良くなった狼さんとお話しする昔のわたしを見ながら、思う。
 わたしはきっと、無理矢理忘れていたんだ。都が襲われてから、辛いことがたくさんあったから。いっつも過去と向き合うことから逃げて――。
 今、都の人たちは?
 なんであの人は、わたしの前からいなくなったの?
 ずっと考えることを拒んできた。本当は寂しかったのに、自分に嘘をついて、誤魔化して。
 そうしないと、自分が壊れてしまいそうで。
「けど、今は違う……!」
 友達ができた。猟兵になって、いろんな世界を見るようになって、違う世界の人たちとも仲良くなれた。さっきだって、新しい友達が増えたばかりだ。
 だからもう、寂しくない。わたしは一人じゃないって、自信を持って言える。
 使える魔法も増えて、人を助けることもできるようになった。
 その全部が昔のわたしと繋がっていることを、わたしは知っている。もう絶対に、忘れたりしない。
 たくさん辛いことがあったけれど、忘れてしまいたくなることもあるけれど、それも全部、今のわたしを支えてくれているんだ。
 痛かったこと、悔しかったこと。
 暗闇に怯えていたことも、独りで泣いていたことも。
 UDCが映し出す、一人で不安そうにアルダワ魔法学園の門を見上げるわたしも、全部。
 今のわたしがあるのは、確かに経験した過去があるから。
「だから過去は――なかったことにしちゃ、いけないんだ!」
 そう声に出した時、わたしは初めて、頬を伝う涙に気がついた。

成功 🔵​🔵​🔴​

天星・暁音
零と参加
か単独
「ああ。やっぱりここか…俺だけしかいない、この部屋…」
「生みの親ではあってもあの人達は俺の家族じゃない…まあ、こうしてここに居られる事だけは感謝してるけど…」
「逃げ出した。こんな所でも懐かしくは感じるものなんだね…」

三歳頃から役三年、力を利用する以外は閉じ込められてた部屋を見ます。
両親は出すなら嫌いなのは見ているのに見てない目です。とはいえ過去の事は乗り越えてしまっているのでどらかといえば感傷的な気分になり、両親に対しても特別な感情はなく皮肉込みで礼の1つもします


アイテム共苦の力で常に自分ではどうにも出来ない他者や世界の痛みや苦しみ悲しみを感じているために強い耐性もあり


天星・零
暁音と連携、別々の描写

・最初にいる場所
以前暮らしてた血の繋がった家族とのアパートの手前(表札には元々の名字である『日生(ひなせ)』と書かれてる

(僕が人を信じられなくなった原点‥。やっぱりここにくるか。)

元々の姿である真の姿(ステシ参照)に変わって家の中へ

『ただいま』

そこにはかつて虐待をされた父、母、そして兄

過去の記憶通り殴られます(家族の口調などお任せ)
以前はごめんなさいとひたすら謝り続けながら殴られたが今は無表情


『ほんと、殺してもまだ懲りないんだね。』

冷ややかな目で、潜ませていたØで家族を刺す


『僕には守らなきゃいけないものがある。だから過去には負けない。あんた達にはわからないだろうけどね。』



●耐え抜いた弟の記憶
 とても濃いネモフィラの香りと零の声が、遠くなる。
 少しの間目を閉じて、もう一度開いたときに、俺は目の前に現れた景色にため息をついた。
「あぁ。やっぱり……ここか」
 そこは、俺だけしかいない部屋。三歳の頃から三年ほど、閉じ込められていた一室。
 もうずっと昔のことだと思っていたけど、俺はこの部屋のことを、はっきりと覚えていた。
 それはそうだと思う。俺の力を利用する時以外は、ずっとこの部屋にいたんだから。壁のシミまで、はっきりと思い出せる。
 部屋の外から、両親――生みの親の声がする。何を話しているかは分からないけど、大方、俺の能力で何かをしようと話し合っているのだろう。
 酷い目にあった。毎日痛い思いをした。全て、彼らがやったことだ。
 だから、彼らは俺にとって、家族じゃない。血のつながりは否定できないし、生んでくれたおかげで、こうしてここに居られることには、感謝しているけれど。
 それとこれとは、別の話だ。
 窓際の壁に歩いて、俺はしゃがみ込んだ。鉛筆で何かを書かれているが、今より字も知らなかったから、読めなかった。
 たぶん、「助けて」とか、そんなことだったろうと思う。
「……逃げ出した、こんな所でも、懐かしくは感じるものなんだね……」
 否が応でも思い出す、両親の視線。彼らはいつも、俺を見ているけど、見ていなかった。
 自分たちにとって都合のいい、俺の力だけを見ていた。息子として扱ってくれたことなんて、ありはしない。
 ……俺も望んでいなかったけど。気持ち悪いだけだ、そんなの。
 もしも両親が幻覚に現れたなら、皮肉の一つでもと思っていたけれど、二人は玄関から出て、どこかに出かけたようだ。
 当然のように、まるでいないかのように、俺を置き去りにして。
「今更、なんとも思わないけど」
 そう、今更なのだ。確かに楽しい記憶じゃないけれど、これはもう、とうに乗り越えたこと。
 俺には、俺の大切な家族がいる。今が幸せなんだから、過去に縛られていたって、損なだけじゃないか。
 きっと零も、そう思っているはず。
 そう、思って――
「っ!」
 なにか、俺の心に強い痛みを感じた。俺の力――他者や世界の苦しみを感じ取る力が、何かを伝えている。
 何か? 何かだって!?
 間違えるわけないじゃないか。これは、これは。
「零ッ!」
 小さな部屋で、叫んだ。胸に感じた痛みは、零のものだ。今、零は苦しんでいる。
 きっと幻が邪魔して見えないだけで、すぐ近くにいるんだ。
 助けなきゃ。俺の家族を、助けないと。この幻を超えて、零のところへ行かないと!
「零ッ! 今行くから! だから、しっかり気を持っていて!」
 声が枯れても喉から血の味がしても、俺は零の名前を呼ぶ。
 届け。届け! 
 そう念じながら、何度も、何度も。


●血に塗れた兄の記憶
 アパートが見える。ここは、僕がかつて住んでいた家だ。幻覚は、その空気感までも精巧に、当時の記憶を思い起こさせる。
「……やっぱり、ここにくるか」
 それは、僕が人を信じられなくなった原点。心を閉ざした場所。
 僕が憎み、僕を憎む人たちが住むところ。
 アパートの脇に、車が止まっていた。バックミラーで自分を見てみると、白に近い銀髪に、シルバーとワインレッドの瞳。
 これが、僕の本当の姿だ。
「……いいさ。偽らずにいくよ」
 一歩一歩、重い足を引きずって、僕はアパートに踏み入った。
 記憶をたどり、懐かしの「我が家」の前に立つ。表札には、「日生」と書かれていた。
 昔使っていた名字に、忌々しさすら感じる。僕は自然と、眉を寄せていた。
 もしかしたら、アパートの外で待っているだけで、幻を見る時間は過ぎていくのかもしれない。
 でも、なぜだろう。僕は日生家のドアノブを握り、その扉を開いていた。
「ただいま」
 小さく言った瞬間、奥の方からどたどたと喧しい音が聞こえてきた。昼間から酒をあびて真っ赤な顔をした男――父が、何かを言うより早く僕の頬を殴った。
 玄関に倒れ込む僕を、父の後ろで母が冷ややかに見ている。あぁ、よく見たら笑っているじゃないか。
「てめぇ! どこ行ってやがった!?」
「……散歩」
 答えると、即座に蹴りが飛んでくる。腹を蹴られて胃袋がひっくり返り、口から食べた覚えのないものが溢れる。
 自分で招いた結果のくせに、父は怒号をさらに強めた。
「きたねぇな! 何考えてんだこのガキッ!」
「……」
 こんな時、僕はどうしていたっけな。確か、泣いて謝っていたと思う。ごめんなさいと言ってやったところで、この人は止めやしないのに。
 過去の記憶とはいえ、本当にうんざりしてくる。
「父さん、そのくらいにしたら? 父さんの服まで汚れるよ」
 リビングからやってきた兄が言った。にやにやと、明らかに僕を嘲笑っている。
 父が舌打ちをして、僕の頭を踏みつけてから去っていった。床に叩きつけられたせいで、額から血が流れているのが分かる。
「お前さぁ」
 代わりに近づいてきた兄が、頭上から言った。何か、蓋を取るような音が聞こえる。
 そして、彼は蔑みの目を僕に投げる。
「くせぇよ」
 頭からかけられたのは、感覚がなくなるほどに冷えた水だった。
 跳ねた水に吐瀉物が混じって、僕の服を、顔を汚す。とてつもなく冷たい水だというのに、その温度を感じられないほど、僕の心も、冷え切っていた。
「あぁ、まったく」
 呟いて、立ち上がった。痛みはもう、感じていない。
「まったく――」
 訝しむ兄が、目を見開く。その腹部に、深々と刃が突き刺さっていた。
「えっ……? かあ、さん……」
 虚空から顕れた刃に、血が伝う。引き抜くと、兄は出血しながら、リビングへふらふらと歩き出した。
 背後にぴったりついていくと、息子の異常事態を悟った母が、悲鳴を上げた。
「きゃあああッ! あなた、あなた!」
「おい、どうした! ……零ぃッ! てめぇがっ――」
 うるさい声は、喉を斬り裂くことで止めた。これでもう、汚い濁声を聞くこともない。
 父が倒れ、兄もまた、床に伏せた。母が包丁を手に取って、僕に向けようとする。
 だから僕は、母の手を刺した。
「いッ!?」
「ほんと、あんたたちはどうしようもないね」
 引き抜いた刃を、母の心臓に突き刺す。夥しい血液が、僕へと降りかかる。実に気持ち悪い。
「殺してもまだ、懲りないなんてさ」
 倒れた母を蹴りどかし、手拭きタオルで顔を拭った。
 父と母、兄から流れる血が、黒く変色していく。漆黒の血液は、肉の焼けるような音を立てて床に染み込んでいく。
 彼らの顔が、動く。僕を見上げる。僕は見下ろす。
「……僕には守らなきゃいけないものがある。だから過去には負けない」
 血を流し内臓を溢れさせる彼らが、僕の足を掴む。僕はその手を斬り落とす。
「あんた達には、分からないだろうけどね」
 目を閉じ、頭を振る。これで終わりだ。記憶の続きはもうない。あとは時間が経てば、また、暁音と――。

「……え?」

 目を開いた僕は、一瞬理解ができなかった。
 どうして、僕が殺した奴らの顔が、変わってるんだ? 確かに僕は、両親と兄を殺したはずなのに。
 なぜ、黒い血を流しながら僕を見る死体は、暁音の顔をしているんだ?
「なん、で」
 違う。彼と会ったのは、ここじゃない。ここのはずがない。
 違う! 僕は、違う。そんなバカなことがあってたまるか。これは過去の幻視だって話じゃないか。
 なんで僕が、大切な弟を、殺さなければならないんだ!?
「違う――!」
「零は」
 三人の暁音の死体が、一斉に口を開いた。立ち尽くす僕を、真っすぐ見つめたまま。
「家族を殺したんだよ」
「……そう、だ」
「家族が憎いんだろ?」
「……それは」
 眼球を回して、暁音たちがケタケタと笑う。

「俺も、家族なんだろ? 俺は、いつ殺すんだ?」

 何を言っているんだ。理解できなかった。僕が、暁音を殺すだって?
 そんなことするわけない。彼は僕の、大切な家族なんだ。あいつらとは違う、家族。
 ――違う? 本当に違うのか?
 僕がどう思おうが、両親も兄も、家族だった。暁音も家族だ。
 その「家族」という構成単位が同じなら、僕はいつか、暁音を殺す可能性があるということか?
 何を考えているんだ、僕は。そんなこと、あるわけがないじゃないか!
 頭が痛い。吐き気がする。暁音の笑い声が、僕の脳をぐちゃぐちゃに掻き回す。
 暁音が、僕の名前を呼ぶ。笑い声の中で、何度も、何度も。
「やめてくれ――僕は、僕はっ――」

●これからの二人の記憶
 僕は、暁音の膝で目を覚ました。
 アパートの外だ。暁音は、とても悲しそうな、でも安心したような顔をしていた。
 血は、流れていない。
「零」
「……うん」
 起き上がった僕に、彼は気を遣うように、小さな声で言った。
「干渉しすぎだよ。……幻覚に手を出したら、危ないよ」
「……そうだね。ごめん」
 暁音は何を見たのだろう。あの部屋から僕を助けてくれたのだとしたら、もしかしたら。
 聞くことはできない。恐らく彼も、聞かれないように言葉を選んでいるのだろう。
「まだ、少し時間がある。休もう」
 そう言ってくれた暁音へ、僕は頷くことしかできなかった。
 現象への干渉が精神崩壊を招くことは、配られた資料に書いてあった。
 過去を変えるつもりなどなかったが、心が従ってくれなかったとしか言いようがない。あまりにも、関わりすぎた。
 弟の血――あれは、狂気に触れてしまった幻の一つだ。僕の過去じゃない。
 僕たちの絆は、変わらないはずだ。
 分かっていても、聞かずにはいられなかった。
「暁音、僕は、君の……なんだろう」
「?」
 きょとんとした顔で首を傾げた暁音は、夕暮れの逆光でもはっきりと分かるほど、微笑んで見せた。
「決まってるでしょ。家族だよ」
「……そうだよね。ごめん、変なこと聞いて」
「いいよ。別に変なことじゃない」
 夕日を見上げる僕に倣って、暁音も太陽へと振り返る。
 眩しい夕焼けの空を見上げて、彼ははっきりと言った。
「変なもんか。俺たちは、家族だ」
「あぁ。そうだね。僕たちは――」
 家族だ。
 心が繋がった人。明日を一緒に過ごしたいと思える、大切な人。
 例え過去と向き合わなければいけない時でも、未来に立ち向かわなければならない時でも、僕たちは、これからもずっと、一緒なんだ。
 もう怖くない。冷たい心に支配されることも、きっとない。
 僕は――僕たちは、もう、独りではないのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 集団戦 『『都市伝説』ドッペルゲンガー』

POW   :    自己像幻視
【自身の外見】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【全身を、対象と同じ装備、能力、UC、外見】に変化させ、殺傷力を増す。
SPD   :    シェイプシフター
対象の攻撃を軽減する【対象と同じ外見】に変身しつつ、【対象と同じ装備、能力、UC】で攻撃する。ただし、解除するまで毎秒寿命を削る。
WIZ   :    影患い
全身を【対象と同じ外見(装備、能力、UCも同じ)】で覆い、自身が敵から受けた【ダメージ】に比例した戦闘力増強と、生命力吸収能力を得る。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


●UDCエージェントから本部への報告ログより抜粋

 ■■年5月■日 23時55分
 音声通信により、作戦参加中の全猟兵がNo.7997インシデント・ステージ①から脱出したことを確認しました。これだけの人数が同時にステージ①を突破した事例は初のことです。
 猟兵に装着したバイタルチェックマシーンによれば、全猟兵の健康状態は極めて良好です。

 ■■年5月■日 24時00分
 音声通信により、全猟兵がNo.7997-1に接触したことを確認。事象はステージ②へと移行しました。
 現在のところ、多くの猟兵は互いを認識できておらず、また物理的干渉も不可能です。この事象は、想定範囲内です。音声通信は、影響範囲外で待機中の通信班とのみ可能です。
 これより戦闘が開始されると予想されるため、No.7997近辺に待機中の全エージェントに対して、退避命令を発動しました。また、UDCインシデントの感染を防ぐため、特殊感染対策を施した二名以外の通信班は、音声通信を即座に切断します。
 組織の作戦再合流は、全猟兵からの戦闘事象終了報告後となります。 以上。

 ■■■■・■■博士による、猟兵への通信記録(■■/05/■/2401)
 即座に通信を切るだと? 彼らはへっぴり腰のお前たちの代わりに命を懸けてるんだぞ。「幸運を祈る」くらいのことも言えんのか?
 ……あー、失礼。私はUDC組織の■■博士という。応答はいらない、聞くだけ聞いてほしい。
 今君たちが対峙しているNo.7997-1は、君とまったく同じ能力を以て挑んでくる。装備も技も、全て同じだ。
 君たちの言うところの「真の姿」となれば、敵も同じ姿と力で戦ってくるだろう。
 また敵は、君たちが幻覚で見た過去や今の君を、否定してくる。あぁそうだ、連中は死ぬほど口が悪い。
 口論してもいいし、力で押し切っても構わない。ともかく、心を折られるな。
 自分自身を乗り越えるために、死力を尽くせ。もし親しい者と一緒に戦えるなら、それも力になるはずだ。
 周囲に気を配る必要はない。思い切り戦ってくれて問題ない。
 私たちには、君たちの勝利を信じることしかできない。すまない。
 頼んだぞ、猟兵。……幸運を祈る。以上。
セルマ・エンフィールド
※ボロボロ希望

領主のための「食料」を街で狩るのが、私の仕事だった。直接殺した人数は多くないけれど、"そう"なることを分かって領主の館に連れて行った以上、私が殺したも同じ。

確かに今でも私は自分が生きるためなら他人を犠牲にするでしょう。
しかし改めてあの光景を見て気づきました。私がしたのは、し続けていたのは、生かされるための選択であり、生きるための選択ではなかったと。

生きるために私は戦う、そこに迷いはありません。

こちらがフィンブルヴェトに装填できる【ヴェンデッタ】の弾は29発、これはここまでの私と仲間の戦いによるもの。UCを真似ようとしたところで、そちらに撃てる弾丸は一発たりともありません。




 再び甘い香りが広がったと同時に、セルマ・エンフィールド(終わらぬ冬・f06556)はネモフィラ畑に帰還した。
 あるいは最初からずっとここにいたのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。愛銃「フィンブルヴェト」に素早く装填しつつ、正面を見据える。
 蠢いた闇の影が、人の形を取る。白い肌、青い瞳、銀の髪――。
 それは、見紛うはずもなく、セルマ自身だった。目の前の“セルマ”は、現れるや、微細な傷まで同じ銃に弾丸を籠める。
 その動きが指先まで全く違わないことに気づきながら、セルマは銃口を眼前の己へと向けた。
『覚えていますか。私がしていた仕事を』
 自分に聞かれて、セルマは頷いた。忘れるわけもないし、否定しようもなかったからだ。
「主のための『食料』を街で狩るのが、私の仕事だった」
『そう。あなたが殺しました』
 瞬間、もう一人の“セルマ”が銃剣を突きつけた。咄嗟に身を逸らして回避、服を掠めた刃が布を裂く。
 体を捻って回転、その勢いで銃に取り付けられた刃を振るい、距離を取る。
「……確かに、"そう"なることを分かって領主の館に連れて行った以上、私が殺したも同じです」
『どれほどの命を奪ったか、覚えていますか?』
 瞬間的に横に飛び、直後に放たれた弾丸が頬の横を通り抜ける。カウンターで発砲するも、無理な体勢から撃たれたセルマの弾はスカートを裂くに終わった。
 互いに姿勢を整え、同時に次弾を装填、銃口を向け合う。
『“私”の矮小な命のために、どれほど多くの生命を犠牲にしたのでしょうね。人の血の上に築かれた人生は、幸福ですか?』
「さぁ。私は幸不幸の二元論で人生を語るつもりはありません」
 どちらが先にトリガーを引くか。緊張の中、セルマは続ける。
「今でも私は、自分が生きるためなら他人を犠牲にするでしょう。でもそれは、あの時とは違う」
 先に撃ったのは、偽の“セルマ”だった。避ける間もなく左腿を撃たれ、激痛に膝をつくより早く、反撃の一射を放つ。
 もう一人の自分が、下腹部を抑えてよろめく。セルマは愛銃に装填する弾丸を変更した。
 それは、仲間たちの想いの結晶。過去を超え今を生きる者たちの、命の証。
 弾数は、二十九発。彼女がすべてを終わらせられるに、十分すぎる数だった。
「改めてあの光景を見て、気づきました。私がしたのは……し続けていたのは、生かされるための選択であり、生きるための選択ではなかったと」
 敵が通常の弾を銃に籠め終わるより早く、銃口を向け、躊躇わずにトリガーを引く。
 強烈な冷気を纏った銃弾「ヴェンデッタ」が、影たる“セルマ”の左腕に突き刺さる。直後に冷気が爆ぜ、左の手は完全に凍りついた。
「この弾は、これはここまでの私と仲間の戦いによって得た力。私が一人でない証です。あなたに撃てる弾丸は――もう、一発たりともありません」
 凍てつき動きを止めた敵へと、セルマは気丈に言い放つ。
「生きるために私は戦う。そこに迷いは、ありません」
『生きるためならば、他者の血をいくら流してもいいと?』
 弾丸を籠められないと見るや、“セルマ”は右手一本で銃剣を振るい、襲い掛かってくる。
 体術の能力も、セルマと全く同等だ。片腕を封じているからとて、油断はできない。
 打ち合うこと数合、逆袈裟に振り上げたセルマの刃が敵の胸を裂き、同時に突き出された銃剣に右肩を貫かれる。
「ぅッ――!」
 互いに、後方へ倒れる。力が入らなくなっていく右肩を左手で抑えつつ、セルマは気合いでフィンブルヴェトを握り締める。
 左腿に受けた銃創から、激しく出血している。長くは持たないだろうが、それは敵も同じだ。震える足で立ち上がり、 銃弾を装填。胸部から血を流すもう一人の自分へと向ける。
「私の選択で命が失われることもある。でも、私が選ぶことで救われる命もあります。そのことを知ることができたから、私は生き続けよう思える」
『傲慢ですね。セルマ、あなたに命を取捨選択する権限があるとでも?』
 真っ赤に染まった体で立ち上がる“セルマ”の言葉は、ともすれば脳裏に過ぎる、己の悩み、そのものだった。
 これまでは、答えを出そうともしなかった。でも今ならば、はっきりと断言できる。
「あなたは昔のままですね、もう一人の私」
 血が流れ落ちる腕でヴェンデッタを装填、銃口を自分自身に向ける。
 己を殺すのではない。この分身を倒して初めて、セルマは過去を受け入れ、明日へと歩き出すことができるのだ。
「私もまた、時巡る世界の一部に過ぎない。だからこそ――命ある限り、私は生きる道を選ぶ」
 銃口を向ける。敵たる“セルマ”は、セルマの心を見透かすように、真っ直ぐこちらの瞳を覗き込んでいた。
 以前なら、心を覗かれることを恐れて、目を逸らしていたかもしれない。
 しかし、もう、セルマは恐れない。心のままに、愛銃のトリガーに指をかける。
「……終わらせましょう、“セルマ”。……さようなら」
 月が沈み星が瞬く空に、銃声が響く。
 心臓を撃ち抜かれた“セルマ”が目を見開き、こちらに向かって何かを言った。口が動いただけで、声は聞こえなかった。
 もう一人の自分がネモフィラの花びらになって、夜空へと舞い上がる。その様子を見上げながら、セルマは一人、呟く。
「あなたの言うこと――間違っているとは思いません。でも、私は決めました」
 生きる、と。
 いかなる否定をされようとも、セルマの意志は、もう決して揺るがない。

成功 🔵​🔵​🔴​

エーカ・ライスフェルト
過去を受け入れた上で上回らなければ、負けて死ぬわね
技術が同程度なら、容赦と倫理のない当時の私の方が強いもの

昔の私「貴方、存在自体が冗談ね」
今の私「昔から冗談みたいな人生よ。気付かなかったの?」

ところで、私が猟兵になる以前に使っていた火炎の矢って【念動力】の応用なのよ
不意を打つために多用して最終的にウィザードになった訳だけど…
当時の私ならまず念動力で喉潰し、UCも使えるなら間髪入れず【ウィザード・ミサイル】を撃ってくるはず

だから私は【念動力】で喉を守って【ウィザード・ミサイル】を使うわ
「チキンレースと洒落込みましょう。美容、健康、装備。全てを捨てる理由が昔の私にあるかしら」
硝子玉は…いえ、未練ね




 現れた自分自身と対峙して、すぐに分かった。能力こそ今の己と全く同じだという話だが、目の前にいるこれは、「かつての私」であると。
 それに気づいて、エーカ・ライスフェルト(電脳ウィザード・f06511)は思わず苦笑した。
「まぁ、今の私を見て一番否定したがるのは、昔の私よね。分かるわ」
『そうして昔の私を否定することで、精神の安定を保とうとする――。弱くなったものね、私も』
 嫌味な笑みを浮かべるもう一人の“エーカ”。きっと自分も同じような顔をしているのだろうと思いつつ、エーカは炎の矢を召喚した。
 直後に敵も炎を呼び、互いに放つ。真紅の矢が衝突し、爆ぜた。
 爆炎の中を突っ切って現れた自分自身が手を伸ばすのを見て、エーカは咄嗟に横へ飛んだ。不可視の力で投げ飛ばされた木片が、駆け抜ける。
「……懐かしいことをするわね」
 念動力だ。かつて炎の矢にも応用していた力。容赦なく相手の喉を潰せる、まさに野蛮な技だった。
 敵には美学がない。倫理観など、求める方が愚かというものだ。
「技術が同程度なら、容赦と倫理のない私の方が強いってことね」
『力でもぎ取る世界で生きてきた私が、力を捨てるなんて。私は思ったよりも馬鹿だったみたいね』
「そうね、異論ないわ。ただ戦うことを放棄するだけなら、本当に目も当てられない馬鹿よ。でもね」
 不可視の力により投じられた石が、エーカの喉に迫る。淡々と、しかし的確に殺しに来ている一撃だった。
 それをエーカは、同じ不可視の力で防いだ。足元から跳ね上がった小石が、飛来した石を弾く。
 二つの石がネモフィラ畑に落下するより早く、迫っていた火炎の矢を同じ魔法で相殺する。
 火炎の残滓が頬を撫でる中で、エーカは鼻を鳴らした。
「あなた、勘違いしてるわよ。私がいつ、この力を捨てたっていうの」
『念動力に頼らなくなったのは、殺人に対して躊躇するようになったから。あの子にもらった良心とやらで、あなたは弱くなったのよ』
 見下すように言う自分に、エーカは冷笑を浮かべる。口が達者なのは、本物も偽物も同じだ。
「ふぅん、そう。なら証明してみなさい。能力が同じなら、情けも容赦もない私である“エーカ”、あなたの方が強いはずでしょう?」
 言い放ちながら、エーカは持ち歩いているものをその辺りにばらまいた。
 美容と健康のためにと、普段から用意しているもの。戦闘で役立つ様々な装備。それらは今、全て『弾』となる。
「チキンレースといきましょう。残虐な私とやらがどの程度の覚悟を持っているか、見てみたくなったわ」
『減らず口ね。あなたには決して捨てられない物があるというのに』
 口紅やらファンデーションやら、サプリメントが浮かび上がる。魔法の力を増幅してくれる宝石も、今はただの野蛮な武器だ。
 冗談のように物が乱れ飛ぶ。小道具ばかりとはいえ、“エーカ”が狙うのは、こちらの喉一点だ。当たれば死は免れない。
 同じく道具を念動力で操りながら、迫りくる様々な『弾』にぶつけて防ぐ。念動力では決着がつかないと見るや、二人は同時に火炎の矢を戦いに入り混ぜた。
 衝突する火炎の爆風を受けて、念動力で宙を舞う物が、次第に力の範囲外へと散らばっていく。
 エーカが想像していた以上に、もう一人の自分は所有物に対する躊躇がない。愛用のロッドさえも、壊れてしまうことを恐れない。
 必ず殺すという意志がはっきりと見える念動力による投擲が、徐々にエーカを追い詰める。放っていた火炎の矢も、次第に少なくなっていく。
「そうそう昔の私はこんな感じだったわ!」
 苛立ちも交えて舌打ちし、化粧品が詰まっていたポーチを念力で放る。布製ながら凄まじい威力を持ったポーチは、赤い宝石に弾かれた。
 追うように放った火炎の矢も、ばらまかれたハッキングツールと衝突して勢いを殺され、敵には届かない。
 もう、花畑に落ちている物はほとんどない。遠くに飛ばされてしまい、今は回収できるはずもない。
 気づけば、こちらを見つめて蔑むように笑う“エーカ”が、手の中で丸い物体を弄んでいた。
 硝子玉だ。エーカの、分岐点。
『これが、あなたの捨てられないもの。今のエーカ・ライスフェルトを弱くするもの』
「……」
 硝子玉が浮かび上がる。念動力で持ち上げられた透明の球体は、エーカに明らかな殺意を向けていた。
 しかしエーカは、念動力を使わない。足元に落ちている硝子玉から目線を外し、静かに、影たる己を見据える。
『記憶にこびりつくあなたの汚点が、これからあなたを殺すのよ。素敵だと思わない?』
「我ながらくだらない軽口ね。つまらないことほざいてないで、さっさとやりなさい」
『……いい覚悟ね』
 不可視の力で操られた硝子玉が、殺人的な速度で放たれる。狙いはやはり、喉。
 しかしエーカは、避けないどころか、前に進み出た。己の命を奪わんと迫る思い出の雫を、左手で掴み取る。
「くッ――!」
 激痛をかみ殺す。手の骨が砕けたかもしれない。それでもエーカは、止まらない。
 念動力を放った姿勢のままの“エーカ”が、目を見開いている。大きく踏み込んで、その顔面に右掌を突きつけた。
「チェックメイトよ、私さん」
 ゼロ距離で放たれた極大の炎の矢が、もう一人の“エーカ”の顔面を吹き飛ばす。血が流れるまでもなく、エーカの幻影はネモフィラの花弁となって消えた。
 砕けた手で受け止めたもう一つの硝子玉も、溶けるように花びらへと変わった。
 風に乗って飛ぶ濃藍を、夜空の星が照らす。大きく息を吐き出しながら、エーカは左手の痛みに微笑する。
「確かに、硝子玉――あの子は、私の“未練”ね。でも、あなたは一つだけ、間違えていたわ」
 足元に落ちた硝子玉を拾い上げ、スカートの裾で丁寧に拭いて、視線の高さまで持ち上げる。
「“未練”を“汚点”とするか“基点”とするか。それは私が決められるのよ。いつでもね――」
 どこまでも透明な輝きがいつかの少女の笑顔のようで、エーカは一人、目を細めた。

成功 🔵​🔵​🔴​

露木・鬼燈
恐れる心を取り戻した僕は弱くなった?
いや違う!
不完全なものより弱いわけがない!
戦えばわかる。
ほんの僅かだけど踏み込みが甘い。
危険への反応が遅れている。
きっとそれは目を逸らしていたが故。
今ならわかる。
恐れさえも支配すれば…もっと踏み込める!
迫る危機を鋭く感じる!
イケルイケル!
これだ、この感じだ!
強くなるのは楽しい!
僕はこれだけで戦える。
正義も大義も要らない。
悲しみも恐れも受け止められる。
好きに飲んで、遊んで、戦って、命尽きる瞬間まで生を楽しむ。
それが羅刹の武芸者、露木鬼燈だっ!
だからお前はもういらない…消えろっ!

ボロボロになっていても、戦えを終えたら笑って言うのです。
今日も楽しかったっぽーいっ!




 濃藍の世界に、漆黒の鎧が二つ。
 露木・鬼燈(竜喰・f01316)は、幻の自分を前にして、静かに魔剣を構えた。対面する己もまた、同じ構えを取る。
 わずかな間の後、幻影の“鬼燈”が言った。
『僕は本当は弱かったという現実を突きつけられて、どんな気分です?』
 兜の奥では笑っているだろうことが分かる声音だった。
 なるほど確かに、幼少期の鬼燈は弱かった。羅刹としてあるまじき姿にも見えた。
 しかし。
「別に?」
 鬼燈は、至極あっさりと答えた。
「まぁ確かに、弱虫な僕を見るのはちょっと堪えたっぽい。でも、恐れる心を取り戻すことが弱くなることだと、僕は思ってない」
 途端、幻影が踏み込んだ。袈裟切り。合わせて剣を振るい、弾く。
 重い手応えだった。これが自分の剣なのだと思うと心が躍る。そこにはやはり戦いが好きな鬼燈がいるし、どう考えても胸の高鳴りは偽りではない。
 反撃は横薙ぎ。一閃を振るった自身の剣筋に、鬼燈は踏み込みの甘さを見た。
「!」
 これまで気づかなった些細なものだ。だからこそ、眼前の自分に受け止められる。
 つば競り合いとなりながら、兜越しにもう一人の“鬼燈”が言った。
『気づいたっぽい? それがお前の弱さです』
 同じ力だというのに、鬼燈は押し負けた。魔剣を跳ね上げられた直後に、横っ腹に重い衝撃。
 漆黒の戦鎚が、小柄な体を捉えていた。肋骨が砕け、血を吐きながら吹き飛んで、鬼燈は地面に転がった。
 よろめいて立ち上がった瞬間、連結剣が頭上から迫る。横に飛んで避けるも、残された左手が打ち据えられる。
「ぐっ……!」
 痛みを殺して次の一撃を警戒し、後退する。鎧がなければ、腕を切断されていたかもしれない。
 反応が遅れているのだ。原因は、先ほど見ていた過去の自分にあるだろう。
 躊躇いのない自分は、今の自分より速い。“鬼燈”の速さに追いつくには、弱かった己を受け入れ、恐怖を支配しなければならない。
 そしてあと一歩、今の自分の全てを超えなければ、幻影を撃破することはできないだろう。
 紫電にも似た眼光の軌跡が、宵闇に荒れ狂う。魔剣が衝突するたびに、轟音と衝撃波がネモフィラ畑を激しく揺るがす。
 激しく打ち合いながら、鬼燈は考える。
 危険への反応が遅れるのは、恐怖から目を逸らしていたからか。かつての鬼燈が恐れていたものは、自分の痛みか。
 否。真に恐れているのは、危険の先にある、加害だ。傷つけることを恐れるが故に、防御すらも遅れている。
『過去を受け入れたつもりになるのは勝手だけど、目を背けていた時間だけ、お前は力から遠ざかったです』
 大剣の刃を鎚で弾いた幻影が、淡々と、事実だけを並べているかのごとく言う。
『鬼燈。お前はもう、弱者のままっぽい』
「ごめん、気が散るからちょっと黙ってて」
 今はいいところなのだ。武芸者としてさらなる高みに達せられるかの瀬戸際にいる鬼燈は、影の戯言に付き合っていられない。
 敵の鎚が刃に代わり、迫る魔剣に身を逸らす。通り抜ける黒い塊を凝視して、鬼燈は思考を加速させる。
 防御の時、回避の時、何を考えているだろうか。命の安全、次の一手、敵の動き。
 ふと、思う。
「……考える必要、ある?」
 コンマ一秒にも満たない思考の時間だが、迷いが挟まるタイミングはそこにある。
 例えば、何気なく体を動かしているあの感覚を、戦いに持ち込むことができたら。
 幼少の鬼燈が、「きれいだな」と感じた花を無意識に愛でた、あの感覚を先頭に向けられたなら。
 鬼燈は唇を舐めた。気づいたなら、あとはやってみるだけだ。
 分裂する敵の連結剣を見る。次の一手を考え――ない。
 見たままがすべてだ。川の流れに身を任せるが如く、捉えた世界に体を合わせる。
 叩きつけられた連結剣の先に、鬼燈はいない。敵の懐に、飛び込んでいる。握っている魔剣は、戦鎚に変形していた。
 振るおうと思うより早く、鎚が動いていた。幻影の“鬼燈”が、派手に吹き飛ぶ。
「これだ……この感じっ!」
 嬉々とした顔で、鬼燈は脳ではなく心で体を動かす感動に酔う。
 こんなにも速いのか。恐れを前提とした思考を飲み込み己のものとした時、こうも素晴らしい戦いの世界が開かれるのか。
 感動を教えてくれた幼少の自分と目の前の自分を、抱きしめてやりたいくらいだ。
 これこそが、鬼燈の戦う理由だった。
 強くなるのが楽しい。正義も大義もあったものではないが、この楽しみだけで、悲しみも恐れも受け入れられる。
 高みを目指す快感を知っているからこそ、鬼燈は戦えるのだ。
 模倣した瞬間の力をコピーした“鬼燈”は、もはや相手にならなかった。岩肌を伝う流水の如き動きで、魔剣が紛い物の体を切り裂く。
 極端に速度が上がったせいで、負った傷が酷く痛む。折れた肋骨の影響だろうか、口に広がる血の味が濃くなっていく。
 だが、止まらない。止まれるものか。こんなにも、愉快なのだから。
 好きに飲んで、遊んで、戦って、恐れさえも糧として、命尽きる瞬間まで生を楽しむ。
 羅刹の武芸者、露木鬼燈。彼は今、自分が確立したことを確信した。
 振り抜いた大剣が、雪を斬るかのように幻の右腕を斬り捨てる。吹き出す鮮血の中、敵の魔剣が地に落ちた。
 鬼燈は目の前の敵に感謝していた。この戦いが、自分を完成させる最後の仕上げとなったのだ。
「だけど、もういらない。お前はもう、僕の『過去』になったです」
 滑るように突き出された拳は、漆黒の鎧を貫いて“鬼燈”の心臓に達した。そのまま掴み、握りつぶす。
 柔らかなものが弾ける感触が、手に伝わる。腕を引き抜くと、幻影はゆっくりと後ろに倒れた。
 地に倒れる前に、“鬼燈”はネモフィラの花びらになって散った。手にこびりついた血もまた、黒い煙となって消えていく。
 鬼燈はその場に座り込んだ。無心で戦っているうちに負った傷が、思い出したように痛みを伝えてくる。 
 全身ボロボロだ。肋骨は砕かれ、酷使した腕も足も、全身が悲鳴を上げている。まだ何本か折れているかもしれない。
 それでも――いや、だからこそ。
 鬼燈は、空を見上げて笑った。
「はぁー。今日も楽しかったっぽーいっ!」
 その声がまるで童子のような朗らかさであったことを、知る者はいない。

成功 🔵​🔵​🔴​

ユーリ・ヴォルフ
ココルの叫びが…私を呼ぶ声がした
お陰で今の自分を取り戻すことが出来たと感謝をし
敵ー我が内に眠る暴竜と向き合う

目の前の自分は不適に笑うと
炎竜ー真の姿に豹変し
【皇竜炎陣】にて暴力を振り降ろす

蹂躙された日々を思い出せ
ココルは既に死んでいるのでは?
本当は絶望しきっているのだろう?強がるな!

『盾受け』で凌ぎ続けるがその力は強大で
遂には吹っ飛ばされる
追い詰められようとも、私はそのUCは使わない

『怪力』『属性攻撃』炎で思い切り殴りつけ
『属性攻撃』風も乗せ、炎の渦に包む
力に呑まれて溜まるか。自分の意思で信念を貫く!

上空へ飛び
『吹き飛ばし』で炎・風・持ちうる力を叩きつける
私は破壊者ではない
守護者であり、猟兵だ!



「ココル……」
 再びネモフィラ畑に立ったユーリ・ヴォルフ(叛逆の炎・f07045)は、藍色の空に煌めく星たちを見上げる。
 彼女の叫びが、救ってくれた。自分を取り戻したユーリは、今なお姿の見つからない少女の名前を反芻する。
 必ず見つけ出す。その誓いを確かめるように。
『まるで、一片の憎しみもないような顔をしているな』
 声に合わせて、正面で闇が揺らめく。やがて人の形を取ったそれは、わずかな差も見つけられないほどに、ユーリと同じだった。
 ポケットに手を突っ込んで斜に構えた姿は、守護者たらんとするユーリの心を否定するかのようだ。
『忘れたのか? 蹂躙された日のことを。俺を痛めつけた奴らの、あの目を』
「思い出したさ。それでも――いや、だからこそ、私は進むと決めた」
『……いいさ。他でもない俺が、貴様を否定してやる』
 幻影の“ユーリ”が、炎に包まれる。爆発的に発生した強大なエネルギーが、ネモフィラ畑に暴風を巻き起こす。
 炎の暴竜の闘気纏い、“ユーリ”が牙を剥いて笑った。
『これが俺の本性。どう足掻いても、竜であるという事実からは、逃れられない』
「……」
『分からないというのなら、痛みで教えてやるッ!』
 一歩踏み込んだかと思うと、敵は一瞬で間合いをゼロにまで詰めた。かすんだ腕が、ユーリの腹に突き刺さる。
「くぁッ――!」
 内臓がひっくり返りそうな衝撃に、意識が飛ぶ。それでも倒れずいられたのは、ココルの声の残滓が、今も脳裏に聞こえるからだろうか。
 膝をついて立ち上がり、顔面の前で両腕を交差させる。直後、炎竜と化した敵の拳が襲う。
 受け止め、衝撃波が飛び散る。腕が砕けるような威力に歯を食いしばるも、直後に吹き飛ばされた。ネモフィラの上を転がり、即座に起き上がるも、腕に力が入らない。
 人と竜との差は、圧倒的だ。同じ真の姿となれば、対等に戦うこともできるだろう。
 しかしユーリは、その力を振るおうとしなかった。
「否定……させない……」
 ココルと領主。ユーリを救った人たちへの誓いが、彼の心を燃やし続ける。
 竜の力。それは生まれながらの破壊の力。一切の生命を否定する、忌むべき力。
『貴様の中にある力を! 受け入れられずに死ぬか!? ユーリ・ヴォルフッ!』
 神速の回し蹴りが、ユーリの右頬を捉えた。ただの人の身であれば即死していただろう威力に、もんどりうってネモフィラの上に倒れ、それでも立ち上がる。
 追撃の叩きつけを背中に受けてまたも血に伏し、口から激しく血を吐き出す。
 背中を踏みつけながら、暴竜“ユーリ”が哄笑する。
『素直になれ、ユーリ! ココルが生きてる保証がどこにある。もう死んでるかもしれないと、貴様も思っているのだろう!?』
「……!」
 目を見開く。体が強張ったのが伝わったのか、幻影が畳み掛けるように叫ぶ。
『本当は絶望しきっているのだろう? この残酷な世界に!』
「……れ」
『強がるな! 貴様の本性――破壊の力を解き放てッ!』
「だまれッ!」
 体の奥底から、力が噴き上がってくる。倒れたユーリが、炎に包まれる。
 竜の炎ではない、圧倒的と言えるほどの輝きを持つ炎に、もう一人の“ユーリ”が飛び退る。
 この衝動は、破壊衝動に呑まれた時に似ていた。しかし、ユーリの心は驚くほどに穏やかだった。
「ココルは生きている……。私はまだ、希望を捨ててはいない!」
 拳を振り上げる。敵も同じく右の拳を振るう。
 火炎の拳が衝突し、爆ぜる。爆炎と巨大な力の衝撃波で、ネモフィラの濃藍がかすむほどの光が飛び散った。
 怒れる竜の炎を纏った幻影の“ユーリ”が、嬉々として叫ぶ。
『そうだ! それが俺たちの本能、破壊こそが俺たちの本質! 思い出したろう、ユーリ!』
「違う! 私はこの力を、ココルたちのために使うと決めた! あの日の誓いは嘘じゃなかったッ! そうだろう、“ユーリ”!』
 激しく言い合いながら、爆風を伴う拳の応酬が続く。殴り殴られ、飛散する血液は瞬時に蒸発していく。
 どちらの言葉も、嘘ではない。敵は心を抉るための言葉を選ぶが、それらはすべて、真実だ。
 ユーリの中には、今も竜としての本能が眠っている。その事実から目を逸らして、「人」を模索してきた己がいることも、否定できない。
 だが、それでも。
「それでも、私はッ!」
 拳を振るう衝撃波はやがて渦巻く風となり、噴き出す火炎は柱となって、二人を包む。
 天へと立ち上る炎の中で、ユーリは空へ飛んだ。目の前には、幻影がいる。
「私は破壊者ではないッ!」
『真実からは逃げられない! お前は破壊の具現だッ!』
 違う。誰かが叫んだ。それは自身の声か、それとも。
 心の奥底から燃え上がる想いが、ユーリの拳に炎となって顕れる。それは竜の炎であり、それ以上に、人の想いの強さであった。
「私は――!」
 ユーリは今、破壊衝動という障壁を、信念によって穿ち貫いた。
「守護者であり、猟兵だッ!」
 突き出された敵の拳を掴み、引き寄せる。
『なにッ……』
 振り上げた炎の拳が、幻の“ユーリ”の顎を捉える。大きくのけぞった幻影の胸に、縦の回転で勢いをつけたかかとを打ち込む。
 持ち得る一切の力が込められた一撃は、“ユーリ”から破壊の力を引きはがしながら、その体をネモフィラ畑に叩きつける。 
 地面に打ち付けられた暴竜の化身が、内なる炎を爆散させる。
 幻影の肉体を破壊し尽くして飛び散った炎は、全てがネモフィラの花弁となって風に踊って消えた。
 ゆっくりと着地したユーリは、竜の炎を拳に宿しながらも破壊の衝動が湧き上がらないことを、当然のように受け止めていた。
 迫害されたことは、今でも思い出せば辛い。しかし、竜の力なければ、ココルに出会うこともなかったのだ。
 この力から救ってくれたココルを、今度はこの力によって救ってみせる。ユーリは炎の拳を握りしめて、星空を見上げた。
「ココル……待っていてくれ」
 いつかどこかで再開するその日まで、彼は戦い続ける。
 竜の力をその身に宿す、守護者として。

大成功 🔵​🔵​🔵​

マディソン・マクナマス
切り替えろマディソン。
あれが人生最後の失敗でも、人生最悪の過ちだった訳でもねぇだろ。

まずはUCで煙幕を張る。
10mmサブマシンガンでスモーク越しに撃ち合いながら、ここに来るのに乗ってきたバイクを探す。正確には、その荷台に積んだパイプ椅子タレットだ。
再度UCで煙幕を張ってタレットを隠し、徐々に押されるフリをしてタレットの射程まで敵を【おびき寄せ】て……遠隔操作でタレットを起動して仕留めてやる。
側面を警戒してくれる味方のいねぇ俺なんざ、この程度さ。

このパイプ椅子な、友達からの贈りもんなんだよ。
わかるだろ。俺はいつだって誰かに助けられてて、お前は一人だった。
俺がお前に勝った理由なんて、それだけだ。



「チャールズ・パーネルの魂よ、守り給え」
 独り言のように祈りながら、マディソン・マクナマス(アイリッシュソルジャー・f05244)はフラッシュバンを放り投げた。
 拳よりわずかに小さなパイナップルが爆ぜ、激しい閃光が辺りを包む。連続していた銃撃が止まり、その瞬間にスモークグレネードを投擲。
 ネモフィラの藍を覆うような白煙が、もうもうと立ち込める。お互いに視界は死んだが、構わずマディソンは10mmサブマシンガンをぶっ放す。
 激しい銃声の中に、自分のものではない自分の罵声が混ざって聞こえた。
『おいおいおいおいビビってんのかマディソンさんよ! 内通者に怯えてた頃と変わらねぇな!』
「……うるせぇ野郎だ」
 毒づいて、舌打ちする。心が乱れている。このままでは、相手の思うつぼだ。
「切り替えろマディソン。あれが人生最後の失敗でも、人生最悪の過ちだった訳でもねぇだろ」
 新兵に言って聞かせるように呟きながら、空になったマガジンを交換しつつ走る。
 UDCの特性もあり広大となったネモフィラ畑だが、マディソンは長年の戦争経験によって、方角を見失うことなく駆け抜けることができた。
 確か、この辺りだ。ビールを浴びるほど飲んで、あの貧相な浮浪者のブレイクダンスを眺めた場所。
 そこに――。
「よし」
 見つけたのは、ネモフィラ畑に乗り入れた彼のバイクだ。幻覚の影響などまるで受けずに、そこに佇んでいる。
 駆け寄ろうとして、マディソンは転倒した。後から炎のように湧いてくる右足首の激痛に、激しく罵る。
「あぁクソッ! いてぇ! やりやがったなあの俺野郎ッ!」
『一発もらったくらいで鳴き喚くなよ、チキンキャット。お花畑で駆けっこなんざガラじゃねぇだろ』
 げらげらと下品に笑いながら、“マディソン”が歩み寄る。銃口がこちらに向けられるより早く、むしり取るようにして取り出したスモークグレネードを目の前に放る。
 バイクとマディソンを、白煙が包み込む。適当に銃弾をばらまいて牽制しつつ、マディソンは痛みに毒づきながらバイクの荷台に積まれていたパイプ椅子と飲みかけのジンロをを担いだ。
「悪いな兄弟。ちと付き合ってくれ」
 冷たい金属パイプを撫でて、マディソンは慣れた手つきで素早くパイプ椅子を設置した。
 これだけ開けた場所だ。位置にはこだわらない。マディソン自身の立ち回りで、どうとでもなる。
 白煙が消える前に、瓶に残ったジンロを右足首に雑にぶちまける。電流のような痛みが脳髄まで駆け上り、歯を食いしばる。
「いッ――てぇなチクショウ! 口から飲ませろってんだ!」
 瓶を放り捨てて、足を引きずるようにしてその場から離れる。風に吹かれて煙幕が消え、直後に激しい銃撃が襲う。
 ネモフィラ畑を転がるようにしながら、マシンガンをぶっ放す。当たれば御の字だが、やはりそうはいかない。
 が、それは相手も同じことだ。光源は星の明かりだけの、暗い夜の花畑だ。互いの弾は、すぐそばのネモフィラを揺らすに留まっている。
『マーディソーン。怖がらなくても大丈夫だぞぉ? あっという間にハチの巣にしてやるからよ。てめぇがぶっ殺した仲間みてぇになぁ!』
「……オブリビオンさんよ、俺はあんなに下品じゃねぇぞ。もっと紳士的だろ、なぁおい」 
 揺れるネモフィラに冗談めかして話しかけながら、射線が見えるように弾をばらまきつつ、狙ったポイントへ移動する。
 敵はこちらの意図に気づいていない。負傷したのはまずったと思ったが、油断を誘ってくれたなら好都合だ。
 残り数メートルで、例の場所に着く。無様に思えるほど狙いもつけずにトリガーを引き、マディソンは幻影に叫ぶ。
「オラオラ当たってねぇぞ下手くそ! 俺を名乗るならもっとしっかり当て――」
 マディソンは膝から崩れ落ちた。運悪く、としか言いようがない。
 右の膝下を、サブマシンガンの一発が貫通した。絶叫し、地面を転がる。
「あぁぁぁッ! クソったれの偽物野郎ッ! マジで当ててんじゃねぇよ!」
『俺はお前だ、マディソン。当てろと言われた瞬間に当てる、まさしく以心伝心じゃねぇか、えぇ?』
「うるせぇ! くぅ……いてぇ……!」
 這いつくばって逃げようとするマディソンに、もう一人の“マディソン”が哄笑する。
『いいザマだなぁ子猫ちゃん! どこまで逃げられるか、見ててやるよ!』
 背中に下卑た笑い声を受けながら、地べたを這いずる。彼の通った後のネモフィラが、血の色に染まっていく。
 数メートル進んで、マディソンは仰向けにひっくり返った。息を荒げる姿に、幻影の“マディソン”がほくそ笑む。
『……終わりか? そこがゴールでいいのか?』
「あぁ、腹が立ってしょうがねぇが……そうだ」
 痛みに震える声で言うと、幻影はつまらなそうに眉を寄せ、銃口をマディソンに向けた。
『マジかよ、残念だ。俺は俺と、もっと楽しめると思ったのにな。……終わりにしようぜ、マディソン』
 トリガーに、指がかかる。その様子をはっきりと見ながら、マディソンは、笑った。
「あぁ……そうだな」
 終わりにしよう。そう呟いて、隠し持っていたスイッチを、押す。
 瞬間、パイプ椅子に仕掛けられたタレットが火を噴いた。
 耳を劈く銃声と共に無数の弾丸に撃ち抜かれた“マディソン”の体が、激しく痙攣した。全身から血を噴き出し、サブマシンガンを取り落して倒れる。
 銃声はすぐに止んだ。スイッチを手に、マディソンは力なく笑う。
「はは、は……やったぜ兄弟! さすがだよ、お前は」
 痛みを堪えて上体を起こし、右足を手早く止血してから、ポケットから組織に頼んだ紙煙草を取り出して、火をつける。
 煙を吐いて、あまり趣味じゃない味に辟易しながら、わずかに痙攣する自身の幻影に言った。
「……このパイプ椅子な、友達からの贈りもんなんだよ」
 最近では名前もろくに口にしなくなった、しかし忘れたことのない男。いつでもマディソンと共に戦ってくれている。
「わかるだろ。俺はいつだって誰かに助けられてて――お前は、一人だった」
 返事は、ない。幻影の“マディソン”が、ネモフィラの花弁となって飛んでいく。
 マディソンはもう一口、まずい煙を吸い込んで、濃藍の花びらに混ぜるように、ゆっくりと吐き出した。
「俺がお前に勝った理由なんて、それだけだ」

苦戦 🔵​🔴​🔴​

胡堂・充
……頭が、割れそうな程に痛い。もしかしたら、この力の秘密を知らない方が良かったかもしれない。

だけど、僕は猟兵であり医者だ! 例え邪神や悪魔の力を持っていようとも……人の命を、未来を守る!!

【真の姿解放、右手が黒い霧状に変化する】

僕と同じ能力、か……皮肉なものだ。さっきまでの幻覚と似ている。
ならば、こいつを倒せなければ今後姉さんや『あの男』と渡り合えないッ!
医者としては不本意な【生命力吸収】の能力だが……【覚悟】を決めなければッ!

「おい、聞いてるのか? 16年もだんまり決め込んで……お前も俺の一部なら、人を守るために闘ってみろッ!!」

消耗戦は承知の上……足りない分は、【勇気】で補うッ!!




 脳を直接刃物で抉られているようだ。胡堂・充(電脳ドクター・f10681)は激しい頭痛に苦しみながら、顔を上げた。
 辺りはネモフィラ畑に戻っていた。右手からは、今も絶え間なく黒い煙が溢れ出している。
『それが俺たちの、本当の力だ』
 声に振り返ると、そこには“充”がいた。衣服も、髪形も、目の色も、何もかもが同じ。
 ただその目に宿る憎悪と邪心だけが、彼とは決定的に違っていた。
「……お前は、僕か」
『そうだ。俺はお前だ、胡堂充」
 充は後悔していた。人のためにと身を犠牲にして使ってきたこの力が、邪神に由来するものだなんて。
 もう、これまでと同じ想いでは、力を使うことができないのではないか。医療だけでは救えない者を、救う力がありながら、見殺しにしてしまうのではないか。
 その不安を見透かすかのように、幻影の“充”が笑う。
『いいじゃないか。その力を使っても』
「なに……?」
『俺は、いや――お前は、持つべくして持ったんだよ。その力を。邪神の、悪魔の力をな』
 充は目を見開く。
 あの日、あの時。選ばれたのは、三人だった。邪神ほどの強大な存在が、「一つになれないから」別れるようなことがあるだろうか。
 過去の幻の中で、邪神は降臨していると悟った。儀式は失敗ではなかったと。
 もし――力が三つに別れたのが、「一つになる必要がなかった」のであれば――。
『お前は、邪神に選ばれたんだよ』
 幻影の言葉に、充は体が震えていることに気がついた。真実は分からない。が、否定もできない。
 もしそうだとしたら、憎むべき邪神と一心同体となり、その力を自分のものとして使ってきた充は――。
「……いや」
 そう思えたのは、彼が「救う」側の存在だったから。充は顔を上げ、幻影を睨み付けた。
「例え邪神の力であろうとも……僕は医者であり、猟兵だ」
『……』
「人の命を、未来を守る。それが僕、胡堂充だッ!」
 叫ぶと同時に、右腕が霞み、暗闇の霧と化す。
 それはまさしく、邪神の顕現。邪悪なる力の発露に、幻影が声を上げて笑う。
『言ってることとやってることが違うぞ、充! お前が解放した力は!』
「分かっているさ! この力、お前も使えるということもな!」
 命を食らう力が、右腕から全身へと伝播していく。漆黒の霧は充と“充”を包み込み、周囲一帯の生命を否定し始める。
 その最中にいながら、充は己の中にいる暗闇の根源へと、叫んだ。
「おい……聞こえるか! 十六年もだんまり決め込んで……お前も俺の一部なら、人を守るために闘ってみせろッ!」
『邪神を手懐けるつもりかよ! お前も教団の連中と同じだな!』
「違う。この化け物を手懐けるなんてできるはずがない。ただ……」
 どうせ追い出そうとしても無駄ならば、怯えてやるのも無意味なことだ。
 おぞましい力に包まれながら、充はその眼光に強い意志を宿す。
「対価を払わせるだけだ。俺の一部として俺に力を貸すという、対価を!」
『過去を受け入れられなかったお前に、できるわけがない!』
「だったら証明してみせるだけさ。行くぞ、“充”ッ!」
 闇が、衝突する。
 邪神の力で強化された二人は、激しい肉弾戦に突入した。拳と蹴りが、互いの体に突き刺さる。
 重い衝撃に内臓が悲鳴を上げ、蹴りや拳を受ければ体が軋む。それでもなお、充は膨れ上がる闘志のままに乱打を止めない。
 眼前の己自身を乗り越えなければ、いつか邂逅するだろう姉や「あの男」を倒すことなど、叶わない。
 医者として、生命を奪いつくす邪神の力など、不本意極まりない。使わないで済むならばと、今でも思う。
 しかし、それでも。充は叫ぶ。
「それでも、俺の覚悟は――ッ!」
『覚悟で世界は変えられない! お前の家族が殺された時のようになァ!』
「それでもッ! それでもだッ!」
 例えこの身、この心が、闇に飲み込まれようと。充は暗黒の霧に包まれた拳を振るい続ける。命を喰らう闇は、一撃を受け一撃を見舞うたびに、魂にまで染み込んでくる。
 目の前が暗くなってきた。敵である自分自身が罵る声さえも、遠くなる。
 それでも、こいつを倒さなければ、先に進めないのだ。邪神の力を制御しなければ、前に、行けない。
 こいつを――“充”を――。
「コろしテヤるッ!!」
 渾身の叫びは、充の奥底から湧き上がってきた。あるいは、邪神の叫びだったのかもしれない。
 その瞬間に膨れ上がった巨大な力が、幻影の“充”を一気に押していく。
『馬鹿な……お前は、俺のはず……!』
「そうだ、俺はお前だ。だが俺の中には――!」
 黒い霧がより濃くなり、充は強烈な殺戮衝動をそのままに、命を刈り取る鎌の如き神速の蹴りを放つ。
 骨が砕ける嫌な音と共に、“充”の首が捻じ曲がる。その光景がスローで見えたと思うや、幻影はもんどり打って吹っ飛び、ネモフィラ畑に倒れた。
 殺した。その感触に、充はぞっとしながらも、固めた覚悟で恐怖を飲み下す。
 もう一人の“充”から、黒い霧が消えていく。口から血の泡を吹きながら、幻影が言った。
『……邪神の力に溺れて、どんな、気持ち、だ……?』
 否定できない自分がいた。充は今、振るった強大な力に感動すら覚えている。邪神に魅入られた者たちの一人となりつつあった。
 しかし、彼は猟兵であり、そして医道を貫く男だ。だからこそ、必ず。
「この力を掌握して、人を救えるようになってみせる。それが僕の、覚悟だ」
『……そのキレイゴトを、いつまで、言えるか、な――」
 にやりと笑って、幻影の“充”は事切れた。その肉体は、ネモフィラの花びらとなって、夜の空へと消えていく。
 受け入れ切れたわけではない。邪神の力に飲み込まれそうな自分もいる。成さねばならないことは、あまりにも多い。
 充は歩き出す。医者として、戦士として。
 長い戦いの道のりは、ここから始まるのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

天星・零
暁音と連携
二人だけなら真の姿



自分の活性化してるUCはご自由にお使いください
設定は秘密の設定参照

戦闘

万が一に備え【第六感】
【追跡】で敵達を把握し見失わぬよう

何かあれば指定UCに自分の姿で囮にし【忍び足、暗殺、騙し討ち】の技能で敵に近づき攻撃

武器はØ、グレイヴ・ロウ

呪詛系の武器や攻撃は【呪詛耐性】で受ける

暁音戦況不利なら【オーラ防御】又は身を呈す
倒れそうな攻撃を受けても家族との約束を胸に何度でも向かう覚悟

『否定したければすればいい。けど、それは無意味だ。それでも、僕は暁音と共に生きる‥この先が暗い道だとしても。だから、邪魔しないで』

別人格夕夜の絡みはお任せ(使用武器は説明に夕夜という単語があり


天星・暁音
零と連携

UCやスキルは自由に使ってください。

二人で戦うなら支援的な立ち回りを基本一対一なら全力で攻撃し相手の攻撃を相殺、または防ぎ零や他者の邪魔にならないように気をつけます。

零が危ないならかばいます。
相手が自分と同じ能力なら自分に負けたくないというのはいつも思ってるので越える為に何度でも立ちます。

「悪いけどどんな言葉も無駄だよ。君が俺の写し身だというならそんなの態々言わなくても分かってるでしょ?俺は自分にも共苦が齎す痛みと悲しみにも負けたくないんだ…俺にだって意地ってものはあるんだよ。」

共苦についてはアイテム参照



●鏡像はかく語る
『結局、自分にとって都合のいい人間を家族と呼んでいるだけだ。そうだろう、暁音?』
『そうだね。奴らにとっては、所詮俺も零も、お互いに依存しやすい相手なだけさ』
 現れた幻影が放った言葉に、天星・零(多重人格の霊園の管理人・f02413)と天星・暁音(貫く想い・f02508)は、並んで口を閉ざす。
 これから戦うのは、自分自身だ。幻影とはいえ、相応の覚悟がいるだろう。
 零は暁音を見た。目が合い、頷く。二人はそれぞれ、虚空から導き出された片手剣Øと、星杖シュテルシアを握った。
「いくよ」
 零が動く。狙いは、もう一人の“零”。討ち倒すべき己自身だ。
 そう思ったのに、前に立ちふさがったのは、姿は全く同じ、“暁音”だった。
「ッ!?」
『星の光よッ!』
 咄嗟に身を引いた零へと、“暁音”が杖の尖端を突きつける。魔方陣が展開、星の光の奔流が、溢れ出す。
 この距離では避けられない。零は咄嗟に地面に手をついた。二人の間を阻むように、巨大な十字架の墓石が現れ、光を防ぐ。
「零!」
 思わぬ奇襲を受けた兄へと駆け寄ろうとした暁音だが、しかし。
『おおっと、僕を無視しないでくれよ!』
 立ち塞がった、家族と同じ姿の幻影。杖を向けるも、詠唱が、出てこない。
「……!」
『呆けてたら危ないよ、暁音ッ!』
「暁音、後ろだ!」
 どちらが本物の兄の声かを考える暇もなく、半ば反射的に振り返る。暁音は今度こそ、杖に魔力を灯した。
 そこにいたのは、ピエロの亡霊だった。零が使役しているはずの、オブリビオンだ。突如現れた敵に対して、慌てて魔法を詠唱する。
「星の光よ――!」
「オッソォォォォィッ!」
 いつの間にか持っていた爆弾を、ピエロが地面に叩きつける。直後に大爆発を引き起こし、暁音は爆風に呑まれて吹き飛んだ。
「暁音ッ!?」
『俺はこっちにもいるよ、お兄ちゃん?』
 皮肉気に言って、“暁音”が足下に魔方陣を展開、星の杖で叩く。直後に膨れ上がる、莫大な浄化の光。
『殺人鬼は浄化だぁ! あはははは!』
「くぁ――!」
 至近距離で高威力の魔法を受け、零は放物線を描いて宙を飛び、地面に倒れた。暁音の近くまで飛ばされたことは、幸運と呼ぶべきか。
「あ……暁音……! 大丈夫……?」
「な、んとか、生きてる……。今、回復するから……」
 二人を中心に魔方陣が展開、暁音が放つ神聖なる光が、天星兄弟の体を急速に癒していく。
 立ち上がれるようになるや、零は弟の体を抱えてその場から後退した。直後に突き刺さる、槍めいた巨合いな骨。
 見れば、幻影の“零”は銀髪にシルバーとマリンブルーの瞳を湛えている。零は目を疑った。
「まさか……夕夜にもなれるっていうのか」
『よぉー。俺はお前だからな、当然だ。……ははっ、お前と戦える日が来るなんてなぁ』
「僕は、望んでいない」
 言いながらも、応戦しないわけにはいかない。零はØを構え、覚悟を決める。
『……いいねぇ』
 幻影の“夕夜”もまた、Øを召喚した。彼のそれは、身の丈ほどもある大剣だ。
「零、幻の方の俺は、こっちで抑えるから」
 暁音が言った。任せるしかない。小さく頷き、「分かった」とだけ答えた。
 瞬間、もう一人の人格の幻影が、眼前に迫る。自分の体と同じでありながら凄まじい速さに、オブリビオンを召喚する暇も与えられない。
 Øを振るって刃を受け止め、打ち合いになる。もう、暁音に意識を向ける余裕はなくなった。

●光の弟はかく語る
 兄と兄が激突する姿も気になるが、暁音は自分自身と対峙しなければならなかった。光の奔流を打ち合い、互いに相殺し、油断なく杖を向ける。
『本当は甘えたいくせにさぁ。いつもいつも大人ぶって、そんなのいつまでも持つわけないじゃん』
 妙に生意気な口調で言う自分の幻影に、暁音は眉を寄せた。不快だ。
 魔方陣を展開、杖に魔力を込める。
「星の光よ、集えッ!」
『我が意を持ちて流星と成し、悪しきを散せぇ!』
 暁音と“暁音”、互いの杖の尖端が、眩しく輝く。
 遠慮はいらない。自分自身であるならば、そこに躊躇など、ない。
「シャイニング――」
『エストレアァァァッ!』
 宵闇を吹き払わんとするような星の光が、二人の暁音の間で衝突、爆砕する。衝撃波になびく金髪を抑えて、次に備える。
『そうやって必死にやるのは、誰のためだ? 暁音!』
「悪いけど、惑わそうとしてるなら無駄だよ。君が俺の鏡像だというなら、そんなのわざわざ言わなくても分かってるでしょ?」
『そうやって言葉を濁して、また自分から逃げるつもり?』
 暁音は悲しくなった。なぜこの幻は、こうまで心を直視しないのだろう。
 それでも暁音は、このオブリビオンに教えてやるべく、杖に魔力を注ぎながら続ける。
「俺は、自分にも、共苦がもたらす痛みや悲しみにも、負けたくないんだ。俺にだって……意地ってものがあるんだよ。俺が必死に戦うのは、俺に打ち勝つためさ」
『……昔からだ。お前はそうやって。意地ばかり張って、誰にも本音を話さないで。だからそんなに――そんなにさぁッ!』
 二人の狭間で、光が爆ぜる。威力は互角。ユーベルコードはまだ、互いの体を傷つけていない。
 しかし、暁音は杖を握りしめ、膝をついた。全力で魔法を放ち続け、息が上がっている。傷はないが、このままでは――。
『いつもそうだ。誰かのためとかうそぶいて、勝手にダメになる。お前はそうやって、他人のために戦っている自分に酔っているんだ』
 幻影の“暁音”が冷たく言い放つ。それを否定するかのように、立ち上がる。
 体力が尽きかけてもなお不屈の闘志を見せる暁音に、作られた幻が叫ぶ。
『お前は、他人を怖がっているじゃないか! 自分にとって都合のいい人間だけを、大切だなんて言ってさ! 他人から伝わる痛みに辟易してるくせに!』
「痛いよ。苦しいし、悲しいとも思う。だけど、それでも」
 最後の一撃だ。これに懸けるしかない。暁音は命を代価にしているとも言えるほどの魔力を、練り上げる。
「それでも――!」
 笑ってくれる人がいる。一緒に生きようと言ってくれた人がいる。
 生きる理由が、隣にいてくれる。
 それだけで、暁音が耐える理由には、十分だ。
「俺と零の生きる道を、否定させはしないッ!」
 巨大な、あまりにも巨大な魔方陣が、暁音の頭上に浮かぶ。放たれた炎氷風地雷光闇の光線が、雨のように“暁音”の上に降り注ぐ。
『何が生きる道だ、こんなものッ……!』
 咄嗟に星の光で相殺しようとするが、命懸けの一撃は、その光すらも呑み込んでいく。
『なんで! なんであんな目に遭ったのに、まだ人を信じるなんてことが――』
「そう思わせてくれる人に出会ったんだ。俺だけの力じゃない」
 虹色の光に呑まれて消える自分の幻影へと、暁音は告げた。
 甲高い絶叫と共に、“暁音”がネモフィラの花弁となって飛び散る。眩い色とりどりの光が消えた時には、もうどこにも、自分と同じ姿の影はいなくなっていた。
 暁音は、倒れた。もう力が入らない。全てを出し切ってしまったのだ。
「零……ごめん、助けに、いけない……ごめんね……」

●霊祭る兄はかく語る
「体借りるぜ、零ッ!」
 人格を無理矢理に交代して表に現れた夕夜は、その姿を己のものに変えてから、得物のØをも大剣に変えて、幻影と衝突した。
 虚空の刃が激しくぶつかり合う中で、夕夜は眼前の自分自身を睨みつける。
「よう俺。初めましてだな」
『ははっ! 会えて嬉しいぜ、夕夜。その甘ちゃんの中身は、居心地がいいかよッ!』
 振り払われた勢いのままに、後方に跳躍。着地と同時に剣を振り上げ、袈裟斬りに迫る敵のØを受け止める。そして、笑った。
「まぁな。住めば都だ」
『無理すんなよ。いつでも逃げちまえ』
「いや、いい。こいつ以上に、行きたいところなんかないんでね」
『はっ、そうかよ。じゃあ【零】に聞いてみるとするか』
 眼前で、“夕夜”が“零”に変わる。白と見紛う銀髪に、赤と銀の瞳。真の姿だ。
 後退した夕夜は、Øを油断なく構えながら、それでも気丈に笑ってみせた。
「なんだ“零”。ずいぶんとご機嫌だな、にやにやしやがって」
 彼の言葉通り、敵もまた笑っていた。それも不敵に、不気味に。
 背後で、暁音の放った星の光が爆ぜる。爆風に服と髪を靡かせながら、二人は微動だにしない。
『夕夜。これは僕と“暁音”の戦いだ。君が出る必要はないだろう?』
「意地が悪いな。俺とお前の仲じゃないか、仲間外れはごめんだぜ」
『……まぁいいさ。どのみち君も“零”の中にいるんだ。なら、僕が否定してあげるよ』
 幻影の腕が動いたと同時に、その服に仕込まれた鉤爪「マフェットスレッド」が、一直線に夕夜へと迫る。
 剣で弾きながらも、警戒する。あの爪には猛毒が塗られている。もし斬られれば、非常にまずい。
 攻撃をいなしながら距離を詰めようとすると、夕夜の脳裏に声が響いた。零だ。
「変われって? ……まぁいいさ。決着つけろよ!」
 瞬時に姿が変わり、再び体の主導権を取り戻した零は、敵と同じく真の姿を形どる。駆け抜ける勢いはそのままに、右手を掲げて叫んだ。
「魂よ集え! 奈落の底に沈む、嘆きを解き放て!!」
 召喚に応えて背後に立ち上がる、巨大な十字架。そこに張り付けられた女の怪物が、目を見開く。
 宙に浮かび上がった魔方陣から、赤紫のレーザーが放たれる。“零”の鉤爪を落とし、その身を貫かんと迫る。
『チッ……!』
「“零”あんたは今、僕を否定するといった。そうしたいならすればいい。けど、それは無意味だ」
 片手剣のØを手に、レーザーの中を疾駆する。幻影も余裕をなくし、剣で応戦してきた。
 呼んだオブリビオンの援護を受けつつ追い詰めながら、零は語気を強める。
「僕は暁音と共に生きる……例えこの先が、暗い道だとしても」
『そうやって、互いに依存しあっていれば、いつかはお互いを潰すことになるとしても?』
「そうはならないさ。僕らは、家族だから」
 それは、願望ではない。信念に満ちた一言だった。決意が輝く瞳に幻影が魅入られ、足を止める。
 一瞬の虚を、死した嘆きの魔女は見逃さない。放たれた赤紫の光が、“零”の体を貫いた。
『っぁ……!』
 よろめく幻影の胸へと、零は虚空の刃を突き刺した。あまりにもあっさりと、心臓を貫く。
「だから――邪魔しないで」
 血を吐いて、敵たるもう一人の己はこちらを恨めしそうに見上げた。
『後悔……すんなよ』
「しないよ。絶対に」
 引き抜いた刃の血が、蒸発していく。膝をついた“零”が、ネモフィラの花びらとなって消滅した。
 自分が死んだ姿に、零は振り返らない。
 一心に駆ける。弟のもとへ。

●そして二人はかく語る
 力を出し切った暁音は、零の膝の上で目を覚ました。
「ぁ……零……」
「今度は逆だね。暁音」
 過去の幻視でのことを言っているのだろう。暁音は、弱々しく笑った。
 二人とも、それぞれ戦いの中で学んだことがある。
 躊躇なく相手を殺そうとした時の、自分の力の恐ろしさ。それと同等の力を振るわれた時に必要な覚悟。
 そして、やはり家族はいいものだということ。
 見上げれば、まだ夜空に星が輝いている。二人の戦いは終わった。ネモフィラ畑に来てから、長い夜だったように思う。
「……零?」
「ん?」
「その……さ。これからも、よろしくね」
「ん――うん、もちろん。よろしく、暁音」
 天星兄弟は目を合わせ、微笑み合う。互いの絆が、より強く深まったことを感じながら。
 そう、これからも。きっと様々なことが起こるだろう。
 嬉しいこと、辛いこと、悲しいこと。乗り越えなければならないたくさんのことが。
 それでも、二人なら大丈夫。零も暁音も、心からそう信じていた。
 誰が立ちふさがろうとも、二人は永遠に、家族なのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

トリテレイア・ゼロナイン
※ボロボロ
「お前は『騎士』ではない。お前の求める『騎士』などこの世にありはしない」
否定の言葉と攻撃
剣、盾、格納銃器、ワイヤー制御隠し腕、だまし討ち
あらゆる装備と戦法が相殺しあい、最後は素手での殴り合い
損傷危険域突破し、懐から落ちた本から騎士の幻影が出現
0と1の思考を超えた直感で幻影の正体(秘密の設定参照)を悟る

そうだ。私が、アベルが、人々が、願った幻想を護る為に私は戦うのだ

理想を否定するアレは幻影を模倣しきれない。無様な動きで、幻影の背を追うように戦い、「私」の胴体の動力炉を破壊

己をハッキング、幻影の記憶を消去ではなく永久封印
私の力としては勘定に入りませんし、大切なモノは既に刻まれていますから




 自分と同じ姿の者が、本を閉じる。
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は、幻影の“トリテレイア”が顔を上げる様を見ていた。
 互いを認識、剣を抜く。
『騎士物語など、つまらないものに囚われたものです』
「……」
『幻想にすがるが故に、冷静に事象を分析把握することができる己の利点を潰してしまうなんて』
 幻が口走る言葉に、トリテレイアは首を横に振った。
「御託は結構。そのような問答、これまで私の中で幾度も繰り返してきたこと」
『ならば否定して見せたらどうですか。答えも出ているのでしょう?』
 切っ先を、互いに相手へと向ける。殺気が弾ける刹那、トリテレイアは呟くように返す。
「貴方がそう思う以上に、機械の心は冷血になりきれないものです」
 金属音。剣が衝突し、深夜のネモフィラ畑に火花が散る。
 同じプログラミングをされているからだろうか、繰り出す攻撃も、その一切が同じタイミングだ。
 全ての一撃が相殺され、同時に距離を取り、格納機銃を展開。発砲。ネモフィラ畑をスラスターで走り抜けながら撃ち合い、弾が切れると見るや機銃をパージする。
 スラスター出力を全開にするのも同時。急加速から一気に接近し、互いの剣が、ぶつかり合う。
 刃が砕けた。左手の大盾を鈍器として振るう。激突、鋼鉄がひしゃげる音が宵闇に響く。
 数度打ち合い、大盾を破棄。騎士の象徴と言える得物を失うと、もう一人の“トリテレイア”が感情的に言った。
『お前は【騎士】ではない。お前の求める【騎士】など、この世にありはしない』
「まるで全ての世界を見たように言いますね」
『くだらない物語に心奪われ、その夢心地を守るために、お前は誰を殺した?』
「……」
 真っ先に浮かぶのは、アベルの顔だった。僅かな心の揺らぎを、トリテレイアは黙殺する。
 互いに隠し腕を展開、ワイヤー制御のそれは、二人の意のままに操っているはずなのに、衝突しては破壊されいく。
 拳を握り固める。敵もそうした。
 最後のワイヤー隠し腕がもげた瞬間、トリテレイアと“トリテレイア”は、右腕を振るった。
 両者とも顔面に鋼鉄の拳を受け、二人揃って大きく仰け反る。
 左足のパイルを地面に打ち込み体を固定。互いを見据えて、殴り合う。
 両腕のみでの殴り合いは、人であっても泥臭いものに見えただろう。
 金属が衝突し合う音をやかましく鳴らしながら、ヘッドが、ボディが、アームが歪んでも、殴り続ける。
 あぁ、この戦いのどこに騎士らしさがあろうか。美しい騎士道は何処に。
 何度もしてきたはずの問答が、癖のようにブレインを横切る。
 偽の自分を論破することもできず、プログラミングの動きから脱することも叶わず――。
 一瞬だった。トリテレイアの左腕が、崩壊した。
「ッ!?」
『思考への逃避。それがお前の決定的な弱点となる』
 繰り出される左の拳を右手で受け止め、ブラフだと気づく。プログラムが追いついていない。左腕の損傷エラーが正常な判断を阻害する。
 敵の右拳が、腹部に突き刺さる。動力が低下する。地面に打ち込んだパイルを抜き、撤退を図る。
 しかし、“トリテレイア”は逃してくれない。頭を掴み、引きずり倒す。大質量の足が、頭を踏みつける。
 レッドアラート。踏み砕かれれば、お終いだ。
「あぁ……」
『お前は機械だ。それ以上にはなれないし、そうあるべきだった』
 幻影が言う。その通りだ。トリテレイアは静かに思う。
 自分が出せる最適解を無視して、夢を追いかけてばかりいた。その結果がこれだ。己自身に打ち勝つことも出来ない。
 目の前に、本が落ちている。騎士物語の本だ。夜風でページが、めくられる。
 あぁせめて、せめて――。
 騎士物語のあの一節、もう一度だけ――。

「情けない姿だな、トリテレイア君」

 低いながらに凛としたその声は、トリテレイアのものではなかった。
 直後、幻影が後退する。
『これは……幻影?』
「そうとも。心を映す邪神の手の者よ、何を驚く? 君もまた、幻だろうに」
 よろめく体で起き上がり、その男を見る。
 白髪混じりの髪、老いが見えるも精悍な顔つき。鎖帷子に騎士装束を纏い、右手には白銀の剣、左手には人々を守る大盾。
「貴方は……貴方様は……」
 間違いない。間違えるものか。
 物語の騎士が、そこにいた。一度でいいから会いたいと、何度思ったことか。
「呆けている場合かね。構えたまえ。まだ戦いは終わっていないのだから」
 幻の騎士は、剣をひと振りするや、驚くべきスピードで“トリテレイア”へと接近、剣を突き出した。
 パーツの接合部を的確に狙った一撃に、幻影がスラスターで滑るように回避する。
 追撃も素早い。間髪入れずに肉薄し、プログラミング外の事態にある影の“トリテレイア”が押されていく。
 美しいと思った。流れるような剣技、踊るが如きステップ。これが、騎士の戦いか。
 しかしなぜ、彼は顕れたのか。このネモフィラたちの力なのか。
「――いえ」
 トリテレイアは気づいた。0と1の遥か彼方より飛来した直感が、告げる。
 これまで出会った人々の、願い、祈りの結晶。それがあの騎士なのだ。
 トリテレイアが、アベルが、人々が、願った幻想。
 何人たりとも、それを否定できない。
 否定させはしない。
「う――オォォォッ!」
 自壊を覚悟で、リミッターを解除。アラートを鳴らす腹部のレッドセンサーを自ら破壊し、スラスターを全開、騎士の背を追う。
 “トリテレイア”と激戦を繰り広げる騎士が、わずかに振り返る。
「来たかね」
「はい!」
「では、終わらせよう。この悪夢を」
「はいッ!」
 圧倒的にトリテレイアの方が大きいというのに、なんと広い背中か。
 美しい騎士の剣戟に、トリテレイアは無様でも食いすがる。
 煌めく剣閃が、幻影の右腕を斬り飛ばす。迫る左腕を優雅に躱し、騎士が柔らかくも力強く言った。
「トリテレイア君。君が決めたまえ。彼は君なのだから」
「承知ッ!」
 右手を突き出し、不格好でも全ての力を振り絞った体当たりを敢行する。
 それは、敵の読めないプログラミング外の行動だった。リミッターを解除したから取れた行動が、あるいは、トリテレイアの心が動かしたのか。
 右手が、もう一人の“トリテレイア”の胸に突き刺さった。その奥にある動力炉をも、打ち砕く。
「……よくぞ成し遂げた。見事だ」
 騎士の声が、背後から聞こえる。
 激しいスパークを発しながら、幻影が爆砕した。その破片や火炎は、すぐにネモフィラの花びらとなる。
 濃藍の風に吹かれながら、トリテレイアは振り返った。騎士はもう、いなかった。
 満足に動かない体で、騎士道物語の本を手に取る。
「ありがとう、ございました」
 自身をハッキング、幻影の騎士の記憶を、封じる。彼から受け継いだ大切なものだけを、その魂に宿して。
 己の力で乗り越えたのではないかもしれない。だが、それでもいいと思えた。
 トリテレイアはいつだって、一人ではないのだから。
 多くの人の想いが、彼の剣に、盾に、体に宿っている。
「……アベル」
 骸の海の彼方に眠るその名を呼んで、トリテレイアは一人、星空に鎮魂の祈りを捧げた。

成功 🔵​🔵​🔴​

フランチェスカ・ヴァレンタイン
超高速機動のドッグファイトで斬り結びながら、お望みでしたら舌戦と参りましょうか
…まあ、先程の流れからだと品のない話題が多そうですけれども

弱みに付け込まれたのを錯覚してる? ええ、そうでしょうね。それが何か?
淫売? 尻軽? 股が緩い? クソビッチ? …あれだけ汚された女に何をいまさら
などなど、罵りに受け流しで応酬を

2回攻撃・ファランクスシフトのUCを某サーカスめいた機動で躱し、こちらの反撃はホーミングシフト39基の2連装を一斉発射で

「…上っ面を似せただけならこの程度ですかねー?」

ふと思い返してみれば――
あの一連の出来事よりも、立ち直ってから今に至るまでの方がよっぽどアレな経験してますよねえわたし




 夜空に煌めく星の中、ぶつかり合う純白の翼。
 幻影の槍を受け止めながら、フランチェスカ・ヴァレンタイン(九天華めき舞い穿つもの・f04189)は己の幻影を見据える。
 眉を寄せて眉間にシワを寄せ、激情のままに斧槍を振り回している。ずいぶんと品のない顔をしていると思った。
『過去を乗り越えた? いいえ、あなたは愉しんでいたのよ。奴らに弄ばれて』
「……まぁ薬漬けでしたから。混濁する意識でそうした想いになっていたかもしれませんわ」
 白い軌跡を空に引きながら、二人は罵り合いながら剣戟を繰り広げる。
『あの時の快楽を忘れられずに、淫らな服で色目を振りまいて。まるで売女ね』
「あら、今更清楚を気取るつもりなのかしら? あれだけ汚されていながら?」
 突き出した穂先を受け流され、直後に斧の刃が眼前に迫る。
 優雅に身を逸し、豊かな胸元を斧が駆け抜ける。
 結局、この身である限り、男どもの視線を避けることなど出来ない。それを悟っているからこそ、幻影の言葉に笑う気すら起きない。
「どんな呪詛が来るかと思えば、子供の口喧嘩じゃあるまいし」
『その緩い口、股と一緒に閉じてなさいな』
「下品ね。どっちがビッチか分かりませんわ」
 妖艶に微笑んで見せながら、しなやかな蹴りを叩き込む。幻影の“フランチェスカ”は空中でよろめきながらも強く羽ばたき、すぐに肉薄してきた。
『わたしはあなた。わたしを淫売だと思うなら、それは自分で尻軽と認めていることになりますわ』
「そうですか」
 心を乱そうとする言葉を受け流しつつ、武器を叩きつけてくる敵を観察する。
 槍と斧と戦槌、三位一体の長柄武器は、扱いが難しい。しかし使いこなせれば、多彩な攻撃を可能とする得物だ。
 自分と戦うことで、その有用性が見えてくる。我ながら厄介なものだと、フランチェスカは苦笑した。
『あなたが得たと思っている愛情は、ただの錯覚。弱みに漬け込まれているだけですわ』
 まだなにか言っていたらしい幻影に、振り下ろされた斧を柄で受け止め、首を傾げる。
「……? えぇ、それがなにか?」
 気づいていないとでも思っているのだろうか。だとしたら、あまりにも拍子抜けだ。くだらないとすら思う。
 心の闇を突付けば傷つくと決めつけるなど、愚の極みだ。
 フランチェスカの心を崩せないと見るや、幻影は戦闘による打倒へ乗り出した。
『ブレイズランサー、イグニッション――』
 羽ばたく翼が黄金に輝く。幻影の周りに、八十にも近い光球が浮く。
 斧槍を振るうと同時に、光の槍――ミサイルにも見える――が放たれる。上下左右に放物線を描いて飛来する光が、夜空の星明りを埋め尽くす。
 攻防一体の弾幕、ファランクスシフト。敵を見失うほどの光の槍を見上げて、フランチェスカはなおも微笑む。
「敵にはこのように見えていましたのね」
 降り注ぐ光の雨を曲芸めいて避けながら、幻影の“フランチェスカ”を見据える。光焔をばらまきながら、上空の優位を保っていた。
「我ながら、面倒な相手ですこと」
 言いながら、自分もまた斧槍を回転させ、その穂先を敵へと向ける。
「ブレイズランサー、イグニッション――ホーミングシフト!」
 フランチェスカの左右に、巨大な光が現れる。直後に撃ち出されるは、降り注ぐ光の槍と同じ光焔。
 ガトリング砲のような連射力で放たれたそれは、今もファランクスシフトを展開する“フランチェスカ”を追尾する。
 急な反撃に敵が対応しきれず、弾幕が乱れる。その瞬間、フランチェスカは光の嵐に飛び込んだ。
 豊満な肉体を貫かんと縦横無尽に襲い来る光焔を潜り抜けながら、彼女もまた、光の槍を激しく撃ち続ける。
 激しい光の応酬が、ネモフィラ畑を白昼の如く照らし出す。空だけ見れば、戦時下の夜と見紛う激闘だ。
 しかし、フランチェスカは不満だった。
「……上っ面を似せただけなら、この程度ですかね」
 舌戦にしても戦闘にしても、多少なり期待していた。しかし、物足りなさすら感じてしまう。普段ならば脅威に感じるだろう己の弾幕も、容易に対応できてしまえるのは、なぜか。
 簡単な理由だった。あまりにも的を外れた敵の罵倒が、逆に彼女の冷静さを呼び起こしてしまったのだ。
 とはいえ、遠距離戦での火力は互角。双方ともに被弾もないままだ。このまま戦いを長引かせるのは、面白くない。
 降り注ぐ光を斧槍で振り払ってから、フランチェスカは翼を一際眩く発光させた。
「少し、荒っぽくいきますわよ」
 二つの光球を正面で重ね、追跡する光の槍が、その密度を上げる。注ぎ込む力も、全力。
「十全に舞い、灼き穿ちませ――ッ!」
 あたかも一本の巨大な光槍となったブレイズランサーが、弾幕を貫く。突破された光が霧散し、その奥にいる“フランチェスカ”を捉えた。
 驚いたような、慌てたような、怯えたような。複雑な顔をしていた。
「幻影の分際で、そんな顔もするのですわね」
 感動もなく呟いて、一切の手加減をせずに、光焔の巨槍を幻影に叩きこむ。
 勝負は一瞬で決まった。悲鳴を上げる暇もなく、もう一人の“フランチェスカ”は、光に呑まれて消えた。
 怒涛の光焔が空の彼方へ消えた時、フランチェスカは上空を見上げた。小さな傷まで擬態した幻想の斧槍が、落下しながら農藍の花びらとなって、飛んでいく。
「言い忘れてましたけれど――」
 跡形もなく消滅した幻影へと、妖しく微笑む。
「思い返せば、あの一連の出来事よりも立ち直ってから今に至るまでの方が、よっぽどアレな経験してますのよ、わたし」
 女として生きる身なればこそ、どこまでも美しく、果てしないほどに妖艶に。穢れた過去すら、彼女にとってはもはや、かつて踊った舞台に過ぎない。
「それはそれは、とっても素敵な経験でしたわ」
 純白の翼の羽ばたきが、星空に舞う彼女の魅力を、より際立たせていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

雛菊・璃奈
わたしは「今」を生きる…過去も受け入れ、みんなと一緒に…。
わたしにはみんながいる。偽者になんて負けはしない…!

【九尾化・魔剣の媛神】を発動。全身に呪詛のオーラを纏い、九尾へ変化。
無限に顕現する終焉の魔剣を放ちつつ、【九尾化】による神速で接近。
凶太刀と神太刀の二刀による【呪詛、早業】の神速の連撃やバルムンクの【呪詛と衝撃波、鎧砕き】を纏った剛剣の一撃、アンサラーによる【呪詛、カウンター、武器受け】の攻撃反射等、各魔剣を駆使して圧倒するよ…。

能力が同じでも、この剣達はわたしが一番知ってる…。貴女じゃ勝てない…


戦闘後はルナさんを探し、無事を確認して喜ぶよ…。
約束、守れたね…(口元を僅かに綻ばせ)


ルナ・ステラ
わたしがもう一人?

『―過去なんていらない』
そんなことはないです!
確かにいい思い出ばかりではありませんが、過去も含めてわたしなんです!

狼さんたちを召喚して戦います。
(相手も狼を召喚してくるが、道具のように扱ってくる)

狼さんたちは道具じゃないです!
魔法で援護したり、鼓舞の獣奏器で狼さんたちの能力を上げたりします!
わたしは戦わせるんじゃなくて、一緒に戦います!

―この戦いに勝って大切な約束を果たすんだ!


もし、狼さんたちが傷ついた場合は、夜空の下で一緒に親しんだ曲を演奏して回復します。
(過去を否定しまうと、この曲が思い出の曲となることもなかったのでしょう。)
狼さんたち。いつまでも仲良しでいましょうね!



●星と月の少女
 ネモフィラ畑が、一面に広がる。また綺麗な景色が見れたというのに、ルナ・ステラ(星と月の魔女っ子・f05304)の心は重い。
 眼前に立つ、もう一人の少女。白い透き通った髪も、青い瞳も、ルナとそっくりだ。
「わたしが、もう一人? ……ううん、違う」
 お互いに同じ服を着て、同じ箒を持っている。それでもこの幻影が自分とは違うことを、確信していた。
『過去があるから今のわたしがあるだなんて、都合のいいことを言うんだね。これまで捨てて来たんだから、そんな過去、いらないんじゃないですか?』
 幻影の“ルナ”は、笑っていた。それも、人を見下すような、とても嫌な笑みだ。こんな顔は、絶対にしたくないと思った。
 きゅっと箒を握りしめ、ルナは強張る体から、しっかりとした声で言い返す。
「そんなことはないです!」
 力の籠った断言を、幻影は受け流すかのように鼻で笑った。
『そうなんですか? 力がないせいで守れなかった都のこと、忘れていたくせに』
「……確かに、いい思い出ばかりじゃありません。それから逃げてたっていうのも、本当です。だけど、それでも――」
 ルナの左右に、白と銀の光が現れる。それはすぐに、二頭の狼となった。
 足元に寄り添う友達に触れながら、ルナは杖の尖端を、幻影に向ける。
「辛い過去も、狼さんたちに出会った過去も……全部含めて、わたしなんです!」
『なら、今も昔も否定します。わたしはそれを、認めない』
 幻影の“ルナ”もまた、狼を召喚する。その姿までもが同じで、ルナはわずかに驚いた。
 四頭になった狼が、一斉に互いを攻撃し始める。あまりにも激しい食い合いに、思わず目を逸らしてしまいそうになる。
 しかし、幻影の眼差し。まるで白狼と銀狼を稼働する機械のように見ている。あんな目は、友達に向ける瞳じゃない。
「……! そんなの、ダメ!」
 自身と狼たちとの絆を証明すべく、ルナは獣奏器を奏でた。ネモフィラ畑に吹く風に、淡く優しい音色が響く。
 強化されたルナの狼たちが、幻影の狼を圧倒していく。噛みつき、組み伏せ、力の差を見せつける。
 しかし。
『シューティングスターッ!』
 叫びと共に放たれたいくつもの流星が、幻影とルナ、双方の狼をまとめて薙ぎ払う。突然の奇襲に対応できるはずもなく、四頭の狼が弧を描いて飛び、農藍の野原に倒れた。
 思わず楽器を奏でる手を止め、ルナは叫んだ。
「狼さんっ! ひどい……!」
『思ったより使えないんですね。伝説に聞く狼、期待していたんですけど』
「……なんでそんなことができるの? 狼さんは、友達だったはずでしょ!?」
 珍しく怒りを露わにするルナへと、幻影の“ルナ”が嘲笑する。
『友達? アレは召喚ですよ。確かによく懐いていますけど……所詮、道具と同じじゃないですか』
 嘲笑う幻影に、ルナは反射的に星の魔法を放っていた。撃ち出された星は、幻影が振るった箒に掻き消される。
 攻撃は防がれても、怒りは収まらなかった。
「違う……違う! 狼さんたちは、道具じゃないです! わたしたちは――友達だもん!」
『だったら、そのお友達に喰い殺されちゃえばいいんですよ』
 不敵な幻影の笑みに、ルナは背後を振り返る。直後、二匹の狼が飛び掛かり、押し倒された。
 銀と白の狼が、目を爛々と輝かせて牙を剥き、ルナを食おうと迫る。幻影だと分かっていても、咄嗟に叫んでいた。
「狼さん――狼さん! やめてください、わたしだよ、ルナだよ! 狼さん!」
『あはははっ! お友達が食べたがってるんだから、食べさせてあげたらどうですか?』
「なんで、こんな……こんなの、嫌だよ!」
 いつもそばにいてくれた、二頭の狼。彼らはルナの、心の支えだった。例え幻影であったとしても、こんな血に飢えた姿は、見たくない。
 眼前に迫る牙が、ルナの額に触れた。冷たくおぞましい、嫌な気配がした。
 それでも、彼女の心は折れなかった。
「……お願い、誇り高き銀色の狼さん、美しき月白の狼さん! わたしの声を、聴いてぇッ!」
 渾身の叫びに乗った星の魔力が、二頭の狼を、遠ざける。それは吹き飛んだのでもなければ、怯えて逃げたのでもなかった。
 まるで主の声を聞く忠犬のように――否、親しい者の声に頷く友の如く。ルナの上から、離れる。
『!?』
 影たる“ルナ”が、目を見開く。その様を睨んで立ち上がり、ルナは再び獣奏器を手に取った。
「幻影さん。あなたは間違っていたの。わたしは狼さんを戦わせているんじゃない。わたしは――一緒に戦っているんですッ!」
 再び、懐かしくも優しいメロディーが宵闇に流れる。それは、いつか夜空の下で、狼たちと一緒に奏でた曲。
 四頭の狼が、遠吠えをする。力が漲り、箒を構える幻影へと、走り出す。
「この戦いに勝って――わたしは大切な約束を、果たします!」
 脳裏に浮かぶ、友達になったばかりの子との、再会の約束。必ず、守らなければいけないから。
「だから、狼さんたち、お願い……もう一度、力を貸して」
『こ、来ないで! 命令を聞きなさい! わたしは“ルナ・ステラ”なんですよ!』
「命令なんて、必要ない! わたしは、お願いしているんだからッ!」
 力を増した伝説の狼に四肢を抑えつけられ、もう一人の“ルナ”が悲鳴を上げる。
 その様子はあまりにも可哀相だったけれど、それでもルナは、このオブリビオンを許すことは、できなかった。
「わたしの友達を想う心は、絶対に変わりません! それが分からないあなたは――ルナ・ステラなんかじゃない!」
『そんな――』
 それが、幻影の最期の声だった。
 四頭の狼に抑え込まれた幻の“ルナ”は、突如としてネモフィラの花びらとなり、夜空に舞っていった。
 体よりも先に敵の心を見事に打ち砕いたルナは、息を荒げながらも、戻ってきた二匹の狼を抱きしめる。
「狼さん、狼さん! 本当にありがとう! ……いつまでも、仲良しでいましょうね」
 頬を舐める二頭に笑いながら、ふと気づく。偽の“ルナ”が召喚した二頭が、こちらを見ていた。
 じっと見つめ返すと、二頭はゆっくりと顔を天に向け、高く高く、遠吠えをした。そして、果てなく響く鳴き声が消えるより早く、農藍の花弁となっていく。
「……ありがとう」
 敵が作り出した幻でも、また友達になれた。消えゆく狼たちとも心が通じ合ったことを、ルナはとても温かく感じていた。

●魔剣の少女
 夜空の星が、わずかな光で雛菊・璃奈(魔剣の巫女・f04218)の銀髪を煌めかせる。それが二人分となれば、なおのこと輝かしい。
 だが、喜べることではない。璃奈は全身に呪詛のオーラを纏い、真の姿である九尾へと変化した。こちらを見据えているもう一人の“璃奈”もまた、同じ形を取る。
『苦しい昔を思い出した……? 忘れられるわけ、ないよね……』
「……確かに、辛かった……。でも、それはもういいの。わたしは、『今』を生きるから……!」
 九尾となった二人は、神の域に達した速度で、互いの魔剣を衝突させる。一瞬の唾競り合いの直後、二人は同時に口走った。
「封印……」
『解放……!』
 同時に、周囲に無数の剣が顕れる。禍々しい凶太刀と超常の存在をも斬り裂く神太刀による音速の斬撃が、衝撃波となって周囲に吹き荒れる。
 互いの剣技は互角。速度もまた。一進一退の攻防となる。
 璃奈の凶太刀と幻影の神太刀がぶつかり合い、二人は同時に吹き飛んだ。着地と同時に得物を投擲、ネモフィラの上を転がってよけ、次の剣を取る。
 双子のような動きになるのは、当たり前だった。それが、璃奈の知る戦いの最適解なのだから。
「だけど……」
 璃奈には勝算があった。確かに幻影の“璃奈”は、こちらの技を全て模倣している。だが、最初の言葉のやり取り、そこにヒントがあった。
 敵は、璃奈の心を否定せんがために、その心までコピーすることはできていない。チャンスは、そこにある。
 掴んだ魔剣バルムンクを、ネモフィラ畑に叩きつける。舞い上がる土煙と荒れ狂う衝撃波が、幻影を襲う。
 対して“璃奈”は、呪槍「黒桜」を横薙ぎに振るい、放出された呪力によって衝撃波を相殺した。
 今も立ち込める土煙の中から、璃奈が茶色い粉塵を引っ提げて飛び出した。手にはまだ、竜殺しの魔剣を握りしめている。
 魔竜を屠ったと言われる剣の威力は、黒桜の呪力をも吹き飛ばす。振り下ろした一撃を受け止めきれず、幻影の“璃奈”が槍を手放した。あともう少し遅ければ、折れていたかもしれない。
 地を転がった幻影が立ち上がり際に手にしたのは、璃奈と同じ魔剣バルムンク。絶大な威力に惹かれたか、あるいは本体の真似事か。
 鈍く空気を斬り裂く音と共に、影たる“璃奈”が振るった横薙ぎが迫る。
「……!」
 璃奈は、バルムンクを、手放した。次の瞬間には、左手に別の剣が握られている。
 魔剣アンサラー。報復の剣。
 地を割り竜を殺す一撃を受け止めた璃奈は、手に凄まじい痺れを覚えた。思わず顔をしかめる。
「くぅっ……!」
『これで終わり……!』
 一瞬、幻影の“璃奈”が嗜虐に酔った笑みを見せた。自分がこういう顔をすることに心の隅で驚きながらも、璃奈は勝利を、確信する。
 アンサラーが持つ幅広の刃が、鈍く輝く。瞬間、籠められた魔力が溢れ出した。
 刀身に受け止めた魔竜を屠る斬撃を、そのまま、反射する。
『えっ――!』
 かまいたちのように空気が切り裂かれ、避けようのない不可視の斬撃が、幻影の“璃奈”を斬り裂く。
 眼前で悲鳴を上げる自分自身に、璃奈は泣きそうになる自分を叱咤した。
 約束のためだ。勝たなければならない。
「わたしには……みんながいる……! みんなと一緒に……生きるために、負けはしない……!」
 報復の魔力が過ぎ去って、幻影が倒れる。力なく伏して痙攣するその姿に、璃奈は努めて冷静に言った。
「……能力が同じでも、この剣達はわたしが一番知ってる……。ただの便利で強い武器としか見ていない、貴女じゃ……わたしには勝てない……」
『……いや……だよ……』
 小さな呟きを残して、もう一人の“璃奈”はネモフィラの花片となって消えた。
 飛んでいく農藍の花に釣られて見上げれば、そこには満天の星空が待っていた。変わらず美しい宇宙の光に、思わず目を細める。
「わたし……強く、なれたかな……」
 誰へでもなく発した言葉に、璃奈はまだ、答えを出せずにいる。
 これからだ。自分と一緒に生きてくれている人たちと、これから答えを探せばいい。
 それはとても楽しみなことだと、そう、心から思えた。

●やくそく
 農藍の花畑できょろきょろとあたりを見回している璃奈を見つけ、ルナは大声でその名を呼びつつ手を振った。
「璃奈さん! 璃奈さんっ!」
「ルナさん……」
 駆け寄って、璃奈の手を取る。されるがままにブンブンと手を縦に振られる璃奈は、少々あっけにとられているようだった。
「無事でよかったです! 本当に、ご無事で……!」
「うん……。約束、守れたね……」
 わずかに口元を綻ばせる璃奈。彼女は今、世界で一番喜んでいる自信があった。
 友達との約束を守れたことが、こんなにも嬉しいなんて。
 ルナもまた、もう沈んでしまった満月を思い起こさせる明るい笑顔で頷いた。
「はいっ! また後でって、ずっと覚えてたから!」
「わたしも……」
 受け入れた過去も乗り越えた自分自身も、まったく別のものだ。しかし、二人を支えていた約束は、同じ。そのことを共有できただけでも、心が明るく、軽くなる。
 この任務が終われば、璃奈とルナはまた、別の道を歩くことになるかもしれない。お互いに違う世界で戦うことも、たくさんあるだろう。
 それでも、二人はもう、暗い過去に心を挫くことはない。孤独に苦しむことも、きっとない。
 再会の約束は、これからもずっと、消えることはないのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

シホ・エーデルワイス
アドリブ歓迎


ごめんなさい
思い出すのが遅くなって
必ず約束は果たします


私は味方の支援と防御能力に長け
聖銃一発当たりの威力は低め

つまり

お互いに肉薄して弾道と手の内を読み合い
銃口を手で払い除け捌き躱し
足払い等で体勢を崩させ

零距離で撃つ


敵は私の性格が反転した感じ

あんたの行いはただのエゴで自己満足
忘れていたのも自分の心を守る為


かもしれない
本当に私は皆の力となり
助けられたのか疑問を感じる時もあります

でも

私の行いがエゴかなんて関係ない!
大事なのは助けた相手がどう思ったか
無関係な人が口を挟む事ではありません!

依頼
〜響け!心の賛頌歌
の一節を<歌唱>しながらUC

信じよう♪
自分が誰だろうと
助けたい気持ちは本物だから!




 意識が急速に現実へと引き戻される。
 これまで忘れていたこと。それはシホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)の記憶にいた少女たちが、彼女と魂を分かつ異世界同位体の存在だったということだ。
 今更、何を言っても許されるものではないと思う。己の意思で忘れていたわけではないということも、言い訳にしかならない。
 それでも。シホは眼前に立つもう一人の“シホ”へと、呟いた。
「ごめんなさい」
『あら。謝って許されるとでも? 私の半身とも呼べる子たちを忘れて、見殺しにして』
「思い出すのが遅くなったことは、本当に……返す言葉もありません」
 顔を上げる。闇から顕れた幻影は、シホと同じ顔で、シホがまず浮かべない冷たい笑みを口元に湛えていた。
『なにそれ? 悲劇のヒロインのつもり? 私は可哀相な存在ですって、あんたそう言いたいワケ?』
「違います。忘れていたけれど、思い出すことができたから。私は、今度こそ!」
『手遅れよ』
 幻の“シホ”がナイフのような鋭さで言って、右手に握った銃を持ち上げる。
 反射的に、体が動く。シホも聖銃「トリップ」の銃口を幻影に向けた。発砲音。互いに弾道を読み、避ける。
 同時に悟る。シホは支援と防御に優れている。聖銃のみで敵を討ち倒すことは、難しい。
 ならば、至近距離から叩きこむまで。一歩踏み込むと、敵も同じ考えでいたらしく、間合いを詰めてきた。
 一瞬で拳が届く距離となり、互いに銃口をブラフにした接近戦へと移行する。
 下腹に突きつけたもう一丁の聖銃「ピア」の銃口を手で払われ、その動きを読んで蹴りを繰り出す。振り上げた足に銃を向けられ、シホは咄嗟に身を捻る。
 駆け抜ける銃声を耳に、無理な体勢から身を低くして回転、足払い。“シホ”が跳躍で回避し、飛び退りながら銀の弾丸を乱射する。
 弾道は、誰よりもシホがよく知っている。敵の射線を掻い潜り、懐に滑り込む。
 同時に眉間へ銃口を向け合い、同時に弾く。他者から見れば、踊っているかのような動きだった。
 激しい接近戦の応酬の中で、幻影が淡々と言う。
『あんたのしてきたことは、ただのエゴで自己満足。結局、自分のことしか考えていないの』
「それが、人を助けてはいけない理由にはなりませんっ!」
『だからチームに馴染めなかった【シホ】は、孤独になったのよ』
 にやりと笑って、“シホ”が関節を決めんと腕を掴む。即座に振り払って高く蹴りを出す。
 サイドステップで回避して、幻影が銃を構える。放たれた銀の弾丸が、シホの頬をかすめた。
 飛び散る鮮血に構わず、弾丸をばらまいて牽制、猛攻を仕掛ける。
「……かもしれない。あの世界のシホだけじゃない、わたしだって、本当にみんなの力となれているのか、不安になることもあります」
『そうして過ちを犯して磔にされた。あれだけのことされたのに、まだ同じことを繰り返すの?』
 突き合わせた銃が衝突し、鈍い金属音を鳴らす。発砲音は一瞬遅れて、それぞれ二人の髪をかすめ、吹き飛ばす。
「あの時は――そうだった。取り返しのつかない失敗だったかもしれない。でもその記憶は、今私に引き継がれている! 私がまた、やり直す!」
『死者は生き返らない。そういう不用意な発言をするから、黒髪のあなたは崖から飛ぶことになったのよ』
 殺意が込められた瞳に気圧され、一歩後退する。直後に距離を詰めてきた幻影の“シホ”が、畳みかけるように攻めてくる。
 拳や蹴り、そこに交えて放たれる銀弾を躱して反撃の機を窺う中で、幻が叫ぶ。
『そうやって世界をまたにかけて、自分だけ特別な存在気取りになってるけどねぇ! あんたがしていることは、他人の人生を背負っているようで実際! 自分も背負いきれてない甘ちゃんなのよ!』
「……!」
『人を助けて悦に入って! 誰があんたに助けを求めた! 自分から錘を背負いこんでさァ!』
 槍の如き蹴りを、シホは正面から受け止めた。そのまま足に拳を落とし、悲鳴を上げて飛び退った敵へと発砲する。
 銀弾が肩口に突き刺さり舌打ちする幻影へと、シホは首を大きく横に振り、断言する。
「私の行いがエゴかどうかなんて――関係ない! 大事なのは、助けた相手がどう思ったかです!」
『……そういうところよ。私が一番嫌いなところは、そういう!』
「あなたが――“私”がなんと言うと! 約束を果たすために! 私の信じた道を進みますっ!」
 弾道を読み切り、シホが至近距離で二丁の拳銃を敵の顎に突きつける。
 咄嗟に空中へ飛び上がった幻影へと、銃口が追いかける。
「私の約束のため、私は、私を――!」
 聖銃「トリップ」と「ピア」がマシンピストル機能を展開、引き金を引くと同時に、銀の弾丸が流れるように連続して放たれる。
 そのリズムは、まるで楽器を奏でるが如く。反撃に転じようと銃を撃つ幻影の“シホ”の弾は、真夜中の空に流れる銀の川に呑まれて消える。

 どんなに絶望的でも――

 この身を捧げて――

 銀の弾丸が、着地を許されない“シホ”を追い詰めていく。
『こんなこと……なんで……!』

 この身が咎人であろうと――

 信じよう、自分が誰であろうと――

 明らかに動揺した幻影が、その身に銀の弾丸を受け、翼をもがれていく。
『どうして、あんたに……!』

 助けたい――その想いは真実だから――

『あんたたちは、なんで……』
 落下する“シホ”には、見えているのだ。
 美しく儚く歌いながら、銀の旋律を奏でるシホの背後に、数人の少女がいるのを。
 彼女たちが、シホと共に歌っているのを。

 銀の弾丸が止む。もはや飛ぶ力の残されていない“シホ”は、シホの銃がこちらを向いているのを見て、目を閉じた。

 ――あなたの魂に、救いあれ――

 放たれた弾丸が、幻影の胸に突き刺さる。
 純白の羽根が舞い散って、それらがネモフィラの花びらとなり、夜の風に消えていく。
 シホの幻影は、農藍の野に堕ちることなく、花弁となって消えた。
「さようなら、私……いえ」
 藍色に輝く花吹雪に包まれ、シホは一人、首を振る。
 最後の最後に、自分の覚悟を定めさせてくれた。消えた幻影もまた、数多の世界に存在するシホなれば。
 彼女のことも受け入れたい。心の底から、そう思った。
「……ありがとう、シホ」
 夜空を見上げる。
 満天の星空の中、ひときわ輝く純白の星が、シホを見下ろしていた。

成功 🔵​🔵​🔴​

臥待・夏報
会話も対話も必要ないな。
あいつが僕と同じなら、過去形で【後悔】を語るばかりの抜け殻の女って事だ。【2012/8/19】、この炎で焼き尽くしてやる。
どちらが先に燃え尽きるかの勝負なら――いっそ口の悪さで上回ってやるさ。

(真の姿を現す。セーラー服に黒縁眼鏡の、冴えない少女の姿だ)

言いたい事はごまんとあるんだから。

気付いてるだろ? 「夏報さん」よ。何もかも忘れたフリしてさあ!
そのままじゃあお前、一生誰にも何もしてあげられないまま、価値のない命を有機溶媒に溶かして、いつか空き缶みたいに死ぬんだよ!

僕は忘れてない。
本当は何も忘れちゃいない。
たとえ今夜の夢が醒めたら、元のつまらない自分に戻るのだとしても!



『やぁ夏報さん。いい夜を過ごしたみたいだね。どうだい、懐かしい思い出を見た気分は。春ちゃんとの日々は、いいものだっただろ?』
 神妙な顔で夜空を見上げていた臥待・夏報(終われない夏休み・f15753)は、UDC.no7997-1――もう一人の“夏報”が発した言葉に、ため息をついた。
「……過去形で【後悔】を語るばかりの、抜け殻の女。あぁ、キミは確かに――僕と同じらしいね」
 夏報の体が、不可思議な現象に包まれる。それはモザイクのようであり、蜃気楼のようでもあり、また炎に見えなくもない。ともすれば花吹雪、あるいは豪雨の向こう側。
 揺らいだ視界が戻った時、夏報はセーラー服に身を包み、目元には黒縁の眼鏡をかけていた。
 言うなれば、冴えない少女だ。そしてこれが、彼女の真の姿。
「2012/8/19。すべて、あの夜のままだ」
『僕と春ちゃんの、終われない夏休み。キミは今でも、抜け出せないでいるんだね』
 二人の足元に一冊ずつ、アルバムが開かれる。同じページ、同じ写真。アルバムの中で笑う少女を、夏報と“夏報”は見ようともしない。
 色褪せたアルバムから、炎が噴き上がる。深い夜空を焦がす灼熱が、二人を包み込む。
 熱風に髪をかき上げられながら、夏報は正面でこちらを見つめる幻影を、睨み付けた。
「いいさ。どちらが先に燃え尽きるかの勝負なら――いっそ全部吐き出してやる」
 アルバムは、二人の後悔に反応してその熱を強める。夏報が“夏報”の胸倉を掴んだ瞬間、火炎は勢いを強烈に増した。
「言いたいことは、ごまんとあるんだよ――!」
『……言いなよ。それが、僕の言葉でもあるんだから』
 幻影の“夏報”は、思わせぶりな視線をしていた。夏報が何かを口走れば、それはそのまま本人に返る。すべて、幻影たるUDCの思うつぼということだ。
 構うものか。なんなら焼き死んだっていい。灼熱の空気を胸いっぱいに吸い込んで、夏報は半ば叫ぶように言った。
「気づいてるだろ? 『夏報さん』よ! 何もかも忘れたフリしてさぁ!」
 炎に晒されている腕も足も顔も、火傷をしているのだろう、痛みを伝えてくる。だというのに、あの日のセーラー服は、まるで燃える気配を見せない。
 涼しい表情の幻影を力任せに引き寄せて、額をぶつけながら、夏報は感情のままに声を荒げる。
「そのままじゃあお前、一生誰にも何もしてあげれないまま! 価値のない命を有機溶媒に溶かして! いつか空き缶みたいに死ぬんだよっ! 分かってるのかよ、なぁ!」
『……』
 全部なかったことになんて、何度思ったか知れない。その度に、無理な話だと頭を振って。
 本当に思い出せないのだったら、記憶があいまいで時系列さえぐちゃぐちゃだったなら。
「だってそうだろ。思い出がなければ、後悔なんて、してないんだからさ――」
『……そうだね』
 幻影の声は、なぜだか妙に優しかった。このUDCは、本体に「呪詛」にも似た言葉をかけてくるはずなのに。おかしな話だと思った。
「僕は、忘れてない」
『うん』
「本当は、何も忘れちゃいない」
『うん』
「たとえ今夜の夢が醒めたら、元のつまらない自分に戻るのだとしても!」
『忘れたくないんだよね。夏報』
 夏報は目を見開いた。どこまでも対象と同じ存在であるというこのUDCは、自分を映す鏡だ。
 例え呪いのような言葉を告げてこようと、それは己の真実でもある。今、幻の“夏報”が微笑んでいるのは、彼女が吐くべき呪詛を、全て夏報が「代弁」しているからか。
 気づけば幻影は、いつもの姿を形どっていた。夏報を襲う熱波は薄れ、頬に涙が伝う。
「あれ……」
 炎の熱が蒸発させていて、気づかなかった。なぜ、泣いているのだろう。
 真の姿を解いた幻影は、急速に力を失っていく。夏報に掴まれたまま、燃え上がる。
「ちょっと、待ってよ……待てよ! お前は僕の敵なんだろ! 僕に呪詛を吐く化物なんだろ!? なんで何も言わないんだよ! 言い返してみろよ、ほら!」
 激しい炎に包まれて死にゆく“夏報”へ、叫ぶ。
 足の先からネモフィラの花弁へと姿を変えていきながら、幻想の“夏報”は言う。
『必要、なくなったからね。“夏報さん”がそうしようと思う以上に、君は自分を呪っている』
「なんだよ……それ……」
『全部、君が言った通り。代弁なんていらないだろう? だから、僕の役割は、おしまい』
 胸まで炭化し藍色の花と化していく幻。自分の一部が失われる気がするのは、なぜだろう。
 止まらない涙に霞む、もう一人の“夏報”が、笑った。
『夏休み、終わるといいね』
 それが、彼女の最期の言葉だった。
 灰色の柔らかな髪が炎に包まれ、夏報の目の前でネモフィラとなって、夜空に舞う。
 炎が、消えた。一人残された夏報は、なぜか癒えている火傷を忘れて、涙を拭う。
 いつもの服装。いつもの自分。つまらない自分。
 心が急速に冷えていく。
「……ほらみろ。醒めてしまえばこんなもんだ」
 何もなかったかのような日々が、また来る。その中では見つからないものの方が、ずっと多いというのに。
 あの夜の夏報にしか知らないものがきっとあると、気づいているのに。
 頬を流れた涙と一緒に、忘れたことにしようとしていて。
「あぁ……本当に、もう」
 2012/8/19。終われない夏休み。
 きっとまだ、これからも――。



 農藍の花吹雪が、明け方の空と猟兵たちを包み込む。
 一斉に風に舞い上げられたネモフィラたちは、まるで朝の訪れを祝福するかのように天へと昇り――。
 そして、消えていった。
 猟兵たちが乗り越えた過去の残滓を、骸の海に連れて。


●UDC No.7997 資料への追記

※6 ■■年5月■■日、UDC No.7997共同討伐作戦「追憶」が結構されました。結果、ステージ②において猟兵に対し発生した全てのNo.7997-1事象は、対象UDCの全滅という結末を迎え、参加した猟兵全員がステージ③-Ⅱに到達しました。
 これにより、No.7997はその力を失い、当該地域における幻覚現象は完全に消滅したことを確認しました。以降、この案件はUDC事案から削除されることが審議委員会にて検討されています。当該地域は、今後も組織の管理下に置かれます。
 なお、作戦中に録音した音声データの破棄が■■■■・■■博士から提案されています。

※7 ■■■■・■■博士の提案が審議委員会において可決され、猟兵が参加中に残した音声のデータは、5月■■日、全て削除されました。

fin

成功 🔵​🔵​🔴​



最終結果:成功

完成日:2019年05月15日


挿絵イラスト