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飴月のラプソディア

#アルダワ魔法学園


●童話『うさぎのおうじさま』
 甘いキャンディを愛するおとぎの国がありました。おとぎの国には、兎の王子様がいました。
 ある時、おとぎの国に迷宮『キャンディ・ムーン』があらわれて、災魔が国を滅ぼそうとしました。
「レイピアを手に、勇気をこころに。おやつにキャンディを忍ばせて。騎士たちよボクについてくるがいい」
 兎の王子さまは、赤いマントを翻し、おみみをぴょこぴょこ揺らしながら、白銀の鎧騎士をつれて迷宮に挑みました。
 迷宮で休憩中に騎士たちと楽しんだのは、彩り楽しいキャンディの数々。酸っぱく爽やかなワイルドベリー味、深い煌きのブラックベリー味、甘くときめくラズベリー味、ラムネを閉じ込めたフルーツキャンディ、お花の形のフラワーキャンディ。キラッキラの宝石のように淡く耀くロックキャンディ。
 甘いキャンディに元気をもらい、王子さまと騎士たちは、数々の苦難と神の試練を乗り越えてたくさんの宝ものを手に入れました。

●依頼
「という、物語があるのだそうです」
 グリモアベースの窓際でルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)がふわふわ尻尾を振っていた。窓から差し込む光は麗らかだ。

「実は、その童話の王子様が災魔となってしまったのです。童話の王子様『うさぎのおうじさま』は迷宮キャンディ・ムーンの主として君臨しています。
 ですから、迷宮を攻略して『うさぎのおうじさま』を退治してほしいのです」

「迷宮キャンディ・ムーンについて調べてみました。
 1層は、女神像に愛を捧げるフロアです。フロアはとても寒いのですが、壁際に美しい白亜の女神像が壁に押し倒されたような姿勢……いわゆる壁ドンされた体勢で固まっています。
 その像に向かって愛を囁くとフロアが温まっていき、次のフロアへの道がひらけるという仕組みです」

「2層は、カラフルエッグ・フロアです。カラフルな卵がぴょこぴょこしているフロアです。
 卵をぽこっと叩くと孵化して、ひよこさんやうさぎさん、キャンディやチョコレート、時には危険な災魔が出てきます。
 卵を一定数処理すると次のフロアへの道がひらけるという仕組みです」

「3層には『うさぎのおうじさま』が待ち構えています。
 3層まで到達し、『うさぎのおうじさま』を骸の海に還して頂けますでしょうか」

 蝙蝠のグリモアが淡く耀けば、アルダワへの道がひらく。
「人々が愛する童話のキャラクターが、人を傷つけてしまうのは哀しいことだと思います。
 どうか、彼を骸の海へと戻してあげてくださいませ」
 ルベルはもう一度頭を下げ、猟兵を戦場へ導くのだった。

●迷宮『キャンディ・ムーン』
 カラフルな床のタイルはやわらかい魔法の鉱石で出来ていた。壁は不思議な艶をもつピンクと白の縞模様。ところどころに立つ柱は、宝石のように煌めいている。
 魔法の力で明るく照らし出されたフロアの中、天井付近を蒸気を吹かせた魔導船の玩具がぷかぷかとマイペースに飛んでいる。
 所々、パキリとヒビ割れた縞模様の下から見えるのは黄金の輝きをもつ歯車。たくさんの歯車が噛み合い、細かく静かに蠢いてこのフロアが活きているのだ。


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
 今回はアルダワ魔法学園での冒険です。

 1章は女神像に愛を捧げるフロアでの冒険。壁ドンで愛を囁いてください。

 2章はカラフルエッグ・フロアでの冒険。卵からどんなものが出るかは書いて頂いてもよいですし、お任せでもよいです。

 3章は『うさぎのおうじさま』との戦いです。

 キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
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第1章 冒険 『女神像に愛を捧げよ』

POW   :    情熱的に愛をささやく

SPD   :    甘く優しく愛をささやく

WIZ   :    クールに愛をささやく

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●『千年の恋と四月の嘘』
 迷宮『キャンディ・ムーン』の1層に気まぐれな女神さまがいました。女神さまは、先へ進もうとする兎の王子さま一行を邪魔しました。

 兎の王子さまはちょっと困ったように眉を寄せ、迷宮フロアの壁に女神さまを壁ドンしました。
「麗しい女神さま、あなたとずっとお話していたいのだが、ボクには王子としての使命が、責任がある。
 ただし、災魔を滅ぼしたのちにボクはあなたのもとに戻り、千年の愛を誓おう」

  女神さまはその迷宮で千年、王子さまを待ちました。
 ……けれど、王子さまは戻ってこなかったのだといいます。
 王子さまが愛を囁いた日は、4月1日、その日はエイプリルフールだったのです。
ショコ・ライラ
へえ、素敵な童話だなぁ
甘いお菓子に力を貰い、苦難・冒険を乗り越える…
ふふ、いいね。私好みのお話だ

…だからこそ、この災魔は見過ごせないね

さて(像に壁ドン)
…綺麗な女神様。ここに立って、甘い物語を守っているのかな
大丈夫、守りたい心は私も一緒

女神様。私は、貴女の凍った心を溶かしに来ました

(ポーチからキューブ型のチョコをひとつ取り出し)

このチョコレートは、私の心を込めて作ったもの
これが口の中で溶けたなら
貴女の心も溶けてくれるかな?

(チョコを自身の唇に咥え)
(唇同士が触れ合わないぎりぎりで、像の唇にチョコを渡す)

…なんてね

(※お供え(?)されたチョコは後でスタッフが美味しく頂きました)



●そこにちょこんと、ショコライラ
 誰もいない迷宮の空気は澄んで冷たい。
 白の女神は清廉にして凍えるような硬質な肌を無人の空間に晒していた。

 カツン、

 ふいに靴音が響いた。

「へえ、素敵な童話だなぁ。甘いお菓子に力を貰い、苦難・冒険を乗り越える……ふふ、いいね。私好みのお話だ」
 声は、女性のものだった。
 迷宮『キャンディ・ムーン』の1層、カラフルなタイルを歩む軽やかな靴音が響く。チョコレート色のブーツがリズミカルに音を刻み、明るく、少し寒いフロアに現れたのは――ショコ・ライラ(そこにちょこんとショコライラ・f17060)。
 すらりとした長身が颯爽とフロアを進んでいく。足取りに迷いはなかった。涼やかな目元は、真っ直ぐに目的を視ている。
「……だからこそ、この災魔は見過ごせないね」
 呟く声には確かな意思が篭る。

「さて」
 ダン――! という大きな音と一緒に壁がビリリと振動する。女神の体がびくりと跳ね上がった。
 琥珀色の髪が柔らかに頬にかかる。近くで見る肌は初めて降ったばかりの白雪のように清らかできめ細かく、透き通る。儚さすら感じさせる美しき女性。ライラが顔を寄せ。甘く目元を和ませ、蜜のように囁いた。
「……綺麗な女神様。ここに立って、甘い物語を守っているのかな。
 大丈夫、守りたい心は私も一緒」
 花のような瞳が柔らかに女神を見つめている。
 その瞳は、春の温度を宿してあたたかい。

 女神の耳のすぐ傍にライラの手がある。壁に体重を預け、ふたりの距離が詰められている。
 もう、息も届いてしまう。
 心臓の音すらも共有できてしまいそうな、そんな距離。
 凍った心さえも蕩けさせてしまうような甘やかな声がひときわ優しく囁かれる。

「女神様。私は、貴女の凍った心を溶かしに来ました」

 平素は朧な気配を纏う声が、今は凛として清涼に。
 その言葉は、永き冬を溶かす春のように凍えたフロアに染み渡る。春の色めきを想起させる声は、春霞の中を揺蕩うようでいて霞の外へと誘うようでもあった。
 ライラはポーチに手を伸ばした。「Choco Lailah」と刺繍されたウェストポーチは魔法の揺り籠。彼女が愛する魔法のお菓子、チョコレートが眠っている。
 眠りから優しく起こしたチョコレートは迷宮の不思議な照明の中で気品高く、薫り高く落ち着いた色を見せている。
 花の瞳がチョコレートを愛し気に見つめる。
 彼女は、チョコレートを愛している。チョコレートには魔法が宿っていると、そう信じて。ライラは愛を紡ぐ。

「このチョコレートは、私の心を込めて作ったもの……」
 言葉には誇りが滲む。愛しさが滲む。
 繊細な指がチョコレートをそっと口元に運び、可憐な口唇に触れるか触れないかで留めてライラは嫣然と微笑んだ。

「これが口の中で溶けたなら、貴女の心も溶けてくれるかな?」
 瞳は悪戯な色が揺蕩う。
 そして、かぷり、とライラ自身の唇にチョコレートが柔らかに咥えられた。

 元より近かった距離が、また近くなる。
 ライラの長い睫が女神に触れそうなほど接近し、微かにフロアの温度を伝える吐息が優しく女神の肌を擽る。唇同士が、ようやく触れるか――というぎりぎり。
 ぎりぎりで、ライラは女神の唇にチョコレートを渡した。

 そっと、身が引かれ。
 急に失った温度に戸惑うような女神に向かって、ライラはどこか儚く憂い気を帯びた微笑みを魅せた。

「……なんてね」

 その、鮮やかな瞳。

 見る者全てが目を奪われずにはいられない鮮麗な瞳が、儚い笑みの中で印象的に煌めいていた。
 女神の唇には甘やかな魔法のチョコレートが今も残されて、けれど体温は離れてしまった。その切なさを自分も知っているのだと言わんばかりにライラはあえかに目を伏せる。

――トクン、

 居合わせた者は皆、無いはずの女神の鼓動が高鳴るような気配を感じた。そして、フロアの温度がふわりと温かく上昇したのだった。

 しばらく余韻を味わったのち、お供えされたチョコレートは後でスタッフが回収し、ライラに許可を得てから美味しく頂いた。

「迷宮にスタッフ、いたんだ」

 回収に来たスタッフに軽く目礼し、ライラがチョコレートを頬張りながら目を瞬かせた。
「おかわりもあるよ」
 ふわり、と笑んだライラはふと後続に気付く。新たな迷宮攻略者が現れていた。
「そっか、これからチョコレートを食べに他の人が来るんだね」
 ライラはそう言うといそいそとチョコレートパーティの支度を始めた。

「順番待ちの人と終わって次に進むまで待機する人が、ここでのんびりできたらいいな」
 その瞳は春の青空のように澄んでいた。

 甘いお菓子には、魔法がある。
 さあ、みんなで魔法を紡ごう。

――そこにちょこんと、ショコライラ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

明智・珠稀
愛らしい物語ですね、ふふ。
その物語の主人公さんが敵となるのは悲しいことですが…
物語の中で愛されし主人公として語り継がれますよう、
そっと倒してみせましょう、ふふ!

■愛
あぁっ…!なんと美しき女神でしょう…!(恍惚とした表情で歩み寄り)
造形物とは思えない、生気を感じさせる瑞々しい美しさ…!
あぁ、その瞳に私を、私だけを映していただきたい…!
(優美な物腰で壁ドンし)
ふふ、近くで見れば見る程、私、貴女の虜になってしまいそうです…!
(熱っぽい眼差しで)
あぁ、このまま貴女の身体の全てに私の掌の熱を伝えたい。
そしてその首筋に、私の唇と牙で
愛の証を刻み込みたいのです…!
愛しております…!(恍惚)

※アドリブ大歓迎♡



●甘く燈る愛を、今宵貴女だけに
 『キャンディ・ムーン』の壁は甘やかなピンク色と白の縞模様だ。ところどころひび割れて黄金が覗くその風景を、青藍の妖姿が通り過ぎた。夜空を広げたようなマントを揺らめかせ、現れたのは麗しのダンピール。

「愛らしい物語ですね、ふふ。
 その物語の主人公さんが敵となるのは悲しいことですが……物語の中で愛されし主人公として語り継がれますよう、そっと倒してみせましょう、ふふ!」
 明智・珠稀(和吸血鬼、妖刀添え・f00992)が撓やかに女神に歩み寄る。

 邂逅。

 刹那、
 弾けるような声があがった。

「あぁっ……! なんと美しき女神でしょう……!」

 珠稀の白磁の肌が仄かな薔薇色に染まる。整った顔立ちは恍惚として色香が何倍にも増して薫る。笑みの華が咲き。
 菫を帯びる瞳が昂る感情に潤みを含み、艶やかに煌めいた。惹き寄せられるように歩み寄る足取りは覚束なく、夢幻を惑うよう。
「造形物とは思えない、生気を感じさせる瑞々しい美しさ……」
 濡れた花唇が甘く熱く音を綴る。紡がれるは蜜にも似た甘やかな熱情。欲情。惑うが如く揺れる瞳が眼差しを熱く寄せれば、誰もが甘い熱を燈さずにはいられない、それはそんな類の熱だった。

「あぁ、……」
 吐息が耳朶を擽るように漏れる。
 蕩けるように、蜜のように、それは甘い。

 視れば、瞳には何処か退廃的な気配が揺蕩う。夜空の星々をも呑み込んでしまうように欲望の色がちらついて、けれど堪えるように一瞬耐え、けれど――決壊した。

――ダン――!!
 烈しい音と共に女神が震える。

「その瞳に私を、私だけを映していただきたい……!」

 吐き出された言葉は、激情の奔流であった。抑えきれぬ熱が止めどなく紡がれていく。ふ、と口元から零れた吐息は冷たく身を固める女神の頬を妖しく撫でるようだ。

「ふふ、」
 近くに迫る貌は余りに端麗で、妖艶だ。
 甘噛みのように囁く声は蕩けるように甘やかに鼓膜を甘く刺激する。
 体温を分かつよう身を寄せればふわり、と星藍のマントがふたりを包むが如くに揺らめいて、女神の視界をラプソディ・ブルーが優雅に支配する。そう、それは支配だった。
 優艶な青年の佳声が紡ぐ言葉は――直情。

「近くで見れば見る程、私、貴女の虜になってしまいそうです……!」

 飾らぬ言葉、熱に浮かされたような瞳は青年の本気を伝える。嘘ではない、遊びではないのだ、と。訴えるような全身でぶつけるような感情は痛いほどに真剣だ。
 涼やかな眦が今はこんなに熱い。
 開かれた口腔にチラリと視えるは真珠の如き濡れた牙。胸焦がす炎の色纏う舌が熱情を切々と訴える。

「あぁ、このまま……貴女の身体の全てに私の掌の熱を伝えたい」

 頬を辿った指先が、甘い熱に燃えている。
 震える様に、哀願する様に指が、掌が冷たい肌を這い、撫で、落ちていく。もどかしい衝動に追われるような、熱情に急かされるような掌はせがむように妖しく愛を伝える。熱い掌全体で昂りを知らせながらさらりと白きうなじを滑り降り、鎖骨をつつと辿り。
 欲を溢れさせるように、誘うように指が踊る。耳朶を擽るのは融かすような吐息。
 焦れる気持ちを伝えるように肩に滑れば、掌がするりと感触を確かめるように蠢き、いっそ乱暴なほどに激しく肩を掴むや否やダンピールの牙が堪らぬとばかりに煌めいた。

「その首筋に、私の唇と牙で愛の証を刻み込みたいのです……!」

 本能を迸らせたような言はフロア中に熱く響き渡る。
 焦れるような牙が女神の白き首元に迫り――、紛れもない情熱を湛えた吐息が肌を擽る。だが、牙が突き立てられることはない。
 陶然とした瞳が長く繊細な睫に一度覆われ、再び開いた時には星々が瞬くが如き星芒宿し、微睡みを誘うように艶やかに優しい笑みを浮かべ、牙は隠してしまっていた。
 ふと首元から吐息が離れ、正面から見つめられる。整った美しい貌が切なく震えるように愛を囁いた。言葉は、やはりどこまでも真っ直ぐに。

「愛しております……!」
 
 薄氷の湖面にときめきの波紋が広がるように女神の心がさざめいた。その気配が、フロア中に伝わる。ふわり、と空気が温かくなる。

「あぁ、離れがたい……ですが」
 先に進まなければならない、と珠稀は甘噛みするように呟いた。

「後が詰まってるからさ」
 後ろからはそんな声がするのだ――。
「くぅ、……譲らねばなりません」
 珠稀は女神に別れを告げ、1層攻略済の待機用チョコレートパーティ席に加わるのであった。
「おつかれさまー、ゆっくり後続を観戦しよう」
 先に攻略を済ませた仲間がチョコレートを差し出してくれる。
「チョコレートですか、愛らしいこの迷宮フロアで頂くと甘さも一層増すようですね……ふふ!」

――和吸血鬼、妖刀添え。

大成功 🔵​🔵​🔵​

仁科・恭介
※アドリブ歓迎
SPD
女神像を前にしばし考える
愛をささやく…か
アイツ相手ならいくらでも言えそうなのだが…

想い人の言葉を信じて待つ女神か
一途過ぎるから部屋がこんなに寒くなっているのかな

女神の冷たい眼差しを優しく見つめる囁く
申し訳ない
ここを通してくれないか

救いたい方が居てね
千年も待っているその方をどうしてもほっとけなくて…
想い人の言葉を信じてただひたすら待つ
それが私と重なっている感じがしてね

重い想いは心を沈ませ
積もる想いはのしかかる
便り無き想いは刻々と冷めていき
信じる想いを凍らせる

だからこの先で倒れていたら…せめて遺品だけでも持ってこようかと
それでその方の心が一区切りつくのなら…
心が軽くなるのなら…



●夜明けの瞳、観察者の誓い
 迷宮の時間は穏やかに過ぎていく。
 天井付近では蒸気を吹かせた魔導船が悠々と漂い、壁際の動かぬ女神を見下ろしている。やがて、床に敷き詰められた魔法の鉱石タイルが軽やかな音をたてた。

 カツン、カツン……、
 口元までを赤のマフラーで隠した男が帽子を目深にかぶり、何事かに思いを馳せながら歩みを進める。
 女神が待つ迷宮に新たに駆けつけたのは、仁科・恭介(観察する人・f14065)だった。

「愛をささやく……か。アイツ相手ならいくらでも言えそうなのだが……」
 恭介が想うのは、同じ親方の元で修行した子のことだった。七回告白し、七回振られた。相手の視線の先には、別の者がいる。それを恭介は知っていた。視てきた。

 だが、傍にいたかった。諦めきれないのだ。

 それは、ただの吸血欲求からくるものか、はたまた己が帰るべき居場所を欲しているのか――それは、恭介本人にもわからないのだった。
 わかるのは、好きだということ。
 想いを何度でも伝えたい。そんな感情を己が有していること。胸奥に燻ぶらせ続けていることだ。

「想い人の言葉を信じて待つ女神か。一途過ぎるから部屋がこんなに寒くなっているのかな」
 頑なな心を伝えるような室温に軽く爪を噛むようにして、息を吐く。ふっと息を吐き、気を落ち着かせると恭介はいつものように礼儀正しく柔和に挨拶をした。

「どうも、女神様。仁科です。……」
 たっぷりと間を取り、まるで返答を待つようにその瞳は瞑られた。返答はない。当たり前だ。相手は、像ではないか、恭介は軽く首を振る。だが、瞳が再び開かれた時、そこには心ある者に対する時の温度がやはり宿っていた。
 瞳は静謐に白の像に注がれ、声は夜廻りの月よりもひそやかで優しい。爽涼たる声が穏やかに言葉を紡ぐ。

「申し訳ない。ここを通してくれないか」

 それは、愛を囀るのとは異なるようで飾らず――否、飾らずに愛を語ろうとしている。手は、微風の如く壁に付く。冷えやかな感覚が掌を通して伝われば恭介は一層瞳を和らげた。その色が、まるで春の大地のように温もりを伝える。

 恭介はそっと囁く。視線は、少しだけ宙を彷徨い。幻想を追いかけるように、物語の糸を今へと手繰り寄せるように、優しく低く、ゆっくりと言葉は紡がれた。
「救いたい方が居てね。千年も待っているその方をどうしてもほっとけなくて……」
 そっと像の頬を撫でれば、なんと冷たいことだろう。滑らかで、清廉で、孤独。
 は、と吐く息は仄かに白く煙るようだ。掠れて消えて、空気へと染むように溶けるように消えていく。それは儚い熱だった。
 夢のような時間は瞬く間に過ぎていく。掬い上げた掌から、指の隙間から零れていく。伝えたい想いも言葉も、夢の儘に燻ぶり浮上する機会を得られずに只、持て余し、それでもいつかと焦がれ、縋り。待っている。

 冷たく固く、頑なな姿には傷の深さを感じさせる。

 恭介はそっと言葉を捧げた。この像に捧げるのに、歯の浮くような言葉ではなく、偽の一筋な愛でなく、相応しい言葉を自分は持っているのだ。それを、伝えたい。恭介は微笑んだ。
「想い人の言葉を信じてただひたすら待つ……それが私と重なっている感じがしてね」
 やはり冷たい指先を静かに退くと、微笑みを湛えた儘で少しだけ哀しい瞳が像を見る。流麗な所作で一礼をし、距離を詰め切らぬ儘に恭介は一歩、引いた。

 ほんの、一歩。

「――重い想いは心を沈ませ、」
 声は、応えを期待して発せられたものでは、ない。
 謳うように。奉納するように。それは、どこか神聖な一幕として。

 重い想いは心を沈ませ
 積もる想いはのしかかる
 便り無き想いは刻々と冷めていき
 信じる想いを凍らせる……、

 頭上高く、迷宮の天に幻想の船が飛んでいる。魔導船は男の語り一部始終を聞き届け、悠々と時を刻むように漂っていた。
 いつからそうであるのか知る者はいない。
 外の世界で太陽が地平から顔を覗かせて自然の空高くへと昇り、やがて沈み、かわりに月が昇って沈み、そんなルーティーンの間を幾年も幾年も、何も思うことなく船は飛んでいるのだろう。そして像は、過ぎていく時に思いを馳せる者も無き無機の迷宮に孤独に凍えていた。

「だから」
 声は続く。
 それは、愛であった。
「だからこの先で倒れていたら……せめて遺品だけでも持ってこようかと」

 一歩。
 詰め切らぬ一歩の距離で、真摯な瞳が真っ直ぐに女神を射抜く。その瞳はなによりも真情を語る。だが、男は全身全霊でその意思を、心を伝えようと言葉を紡いでいた。

「それでその方の心が一区切りつくのなら……心が軽くなるのなら……」
 女神の想いが成就することはないのだと彼は知っていた。
 待ち人が女神のもとに来ることは、無いのだ。

 自身はどうだろうか?
 己が女神の立場であったなら。
 一区切りつくだろうか、心は軽くなるだろうか。

「……」
 胸に痛みが走る。

「貴女は、此処から動けない。代わりに」
 それが哀しい結果であろうとも。
 それは、ひとつの約束であった。
「誓うよ」
 それは、神聖な――決して破ってはいけない種類の約束であった。

 想いは伝わったのだろうか、女神が応えるような優しく哀しい気配を放ったように攻略者たちには思えた。フロアがふわりと、春の気を帯びたように温まる。

 恭介はチョコレートパーティ席へと着く。
「たまにはこういう時間も必要だね」
 呟く声は、穏やかに。

――夜明けの瞳、観察者の誓い。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トリテレイア・ゼロナイン
童話や御伽噺のキャラクターは愛されるべき存在
それが災魔となってしまうのは忍びないですね……
騎士の御伽噺を規範とするものとして絶対に止めなくては

でも童話の兎の王子様、ちょっと酷いですよ。嘘を言って女性を待たせた挙句に凍えさせているじゃないですか

私もオブビリオンや悪党相手なら悪辣な嘘をいくらでも吐けますが、愛を囁く際に嘘を使うなど……
困りましたね、口説きの経験も無い上に嘘もつけないとは(頭を抱える)

(屈んで壁を壊さないよう優しく壁ドンしつつ)

お美しい女神様、このお部屋はとてもお寒いでしょう。私とお話して交友を深め、心の触れ合いを通じて温めあいましょう

(●防具改造で付けていたマントを羽織らせる)


ジャック・スペード
迷宮キャンディ・ムーンか……
キラキラしたカワイイ雰囲気で、正直落ち着かないが
童話というものは嫌いじゃない、その内馴染むだろうさ

今回のオーダーは壁ドン……壁ドン?
ああ、つまり愛を囁けば良いのか
了解した、壁を壊さないよう気を付けよう
……然しヒトは、俺みたいな機械に口説かれて嬉しいのか?

多少の演技は必要だろうな、俗に言う俺様系で行こう
壁に両手をついて、女神を閉じ込めるような形で壁ドン
……からの、女神の顎を片手でくいと掴み上げ、至近距離で見つめ合う

──おい、余所見するなよ
アンタはオレだけ見ていろ
好きだ、他の誰にも渡さないぜ

……何か、コアのあたりがムズムズするな
コレが恥ずかしいと言う感情か、そうか



●白と黒のイミテーション・ゲーム
 広いフロアをウォーマシンが2体、進んでいた。白と黒の機体は共に女神像を目指しながら機械音声の言葉を交わしている。

「迷宮キャンディ・ムーンか……キラキラしたカワイイ雰囲気で、正直落ち着かないが童話というものは嫌いじゃない、その内馴染むだろうさ」
 黒のジャック・スペード(J♠・f16475)がそう言えば、白のトリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が頷いた。
「童話や御伽噺のキャラクターは愛されるべき存在。それが災魔となってしまうのは忍びないですね……騎士の御伽噺を規範とするものとして絶対に止めなくては」
 しかし、と緑のセンサーが不満を訴える。
「でも童話の兎の王子様、ちょっと酷いですよ。嘘を言って女性を待たせた挙句に凍えさせているじゃないですか」
「……童話は人の造った話だろう?」
「そうなのですが」
 トリテレイアは御伽噺を愛する『騎士』であった。
 彼が愛する御伽噺では、子供たちに夢を一杯与えるような完全無欠な騎士が活躍する。彼らは女性に真摯で、決して嘘をついたりはしない。
 女性を傷つけたりは、しないのだ。
 白きウォーマシンが騎士の話をする。語りには憧憬の響きが濃く滲んだ。
「それが行動指針なのか」
 ジャックは興味深そうに呟いた。
「貴方は、トランプにまつわるワードを称号となさっているようですが童話と関連する製造データがあるのでしょうか」
 トリテレイアが逆に関心を寄せると、ジャックは漆黒のボディに黄金のセンサーをぱちりと瞬かせた。
「童話? いや」
 そして、笑う気配を纏わせた。
「トランプで童話を連想するとは、本当に物語が好きなのだな」
 スペードのジャックは、元は銀河帝国の衛兵として製造されたウォーマシンだった。一度は欠陥品の烙印を押されて銀河の海へと処分されたはずが、何の因果か英雄たちの集う世界へと流されたのだ。
 それを語ればトリテレイアは嬉しそうな気配を纏わせた。
「実は私は遥か昔に放棄された銀河帝国所属の宇宙船で最初に目覚めたのです」
「ほう、そうなのか」
「戦争の遺物目当ての違法ジャンク回収業者に発見されて分解されそうになったので、逆に制圧してそれを元手に武力を提供する傭兵業を初めて銀河帝国との戦いに身を投じました……」
 身の上話をしながら迷宮を進む2機。

「しかし、童話というものはですね。もっと優しい世界でなくては……」
 一周巡って元の話に戻り、傍らの機体が不満の熱を滲ませている。そんな白き機体をちらりと見つめ、漆黒のジャックが先を往く。そのボディパーツにはスペードの意匠が刻まれていた。
「童話というのはよく読めばそんなに優しい世界ばかりではない」
「それは、そうなのですが」
 トリテレイアが後に続いた。白きボディには、花の意匠が刻まれている。

「これが女神像か」
 進路に女神像と何処か和やかな猟兵たちのチョコレートパーティ席を確認し、トリテレイアはぼそりと呟いた。
「和んでいますね……」
 チョコレートパーティ席では先に来た攻略者たちが寛いでいた。軽く一礼すれば手が振られる。
「今回のオーダーは壁ドン……壁ドン?」
 ジャックがオーダーを再度確認した。馴染みのない単語に一瞬不思議そうに語尾が滲む。情報端末を取り出し、鋼鉄の指が情報の海からオーダーに関連するワードを収集していく。
「スラングか。壁をドンと殴る行為だと記載されているな」
「そこから派生して男性が女性に詰め寄る手法として広まったようです」
 二機は揃って情報端末を覗きこむ。
「ああ、つまり愛を囁けば良いのか」
「見本の映像がありますね」
 映像では男性が女性を壁際に追い詰め、迫っている。
「脅しているようにも見えますね、女性は怯えているのでは」
「これが女には『ウケる』のだそうだ。人間の男女の心の機微は奥が深い」
 ウォーマシン2機が人類文化についてしみじみと語り合う。

 やがて2機はどちらからともなく女神像へと視線を移した。

「私もオブビリオンや悪党相手なら悪辣な嘘をいくらでも吐けますが、愛を囁く際に嘘を使うなど……困りましたね、口説きの経験も無い上に嘘もつけないとは」
 トリテレイアは頭を抱えているのをジャックは不思議そうに見た。
「迷宮の仕掛け像相手に必要な台詞を言うだけだ。何故悩む?」
 密やかに負けず嫌いなハートを燃やすジャックはずいと前に出た。
「俺が口説いてやろう」
「我々のパワーですと像や壁を破壊しかねません。お気を付けください」
 近寄る黒い機体へと白の機体がそっと注意喚起する。初めて気づいた様子でジャックは頷いた。己が手と像を見比べれば、なるほど確かに容易に砕いてしまえるだろう。
「了解した、壁を壊さないよう気を付けよう……然しヒトは、俺みたいな機械に口説かれて嬉しいのか?」
 純粋な疑問を口にすれば、沈黙が返ってきた。
 その疑問への回答をトリテレイアは持ち合わせていなかったのである。

「おい?」
 ジャックが沈黙に視線をやれば、緑のセンサーは自信なさげに揺れていた。
「口説かれれば、基本的にヒトは喜ぶ、でしょうか」
「曖昧な物言いをするんだな」
「正直、この回答に自信がありません」
 試してみなければわからない。ジャックは割り切って任務を遂行することにした。

(多少の演技は必要だろうな、俗に言う俺様系で行こう)
 先ほど調べた情報の中から『俺様系』を実践する事に決めたジャックは勢いよく――壁を破砕せぬよう加減はしながら――壁に両手を突いた。

――ダンッ!!

 加減しながらも壁は大きな音を立て、衝撃が壁を伝い女神像が震える。女神を閉じ込めるような形で壁ドンスタイルを実現したジャックは像を無感動に見下ろした。

「流石です、映像で視たのと同じ形になっていますよ」
 背後ではトリテレイアが称賛の声をあげている。

 視線の先には物言わぬ像がある。それは、生き物ではない。無機物だ。だが、自分たちもまたそうだった。そして、自分たちにも、『こころ』がある。
(歓ばせてやる)
 ジャックは女神の顎を片手でくいと掴み上げるように触れてみせた。一見乱暴な手付きは、だが壊さぬようにと慎重に加減されている。至近距離でウォーマシンのセンサー光が女神を金色に見つめている。

「これは! 顎クイですね? なんという再現度」
 背後ではトリテレイアがそんなことを言っている。正直気が散る。ジャックは舌打ちするような音声を放ち、女神へとフェイスを近づけて荒々しく言葉を紡いだ。

「──おい、余所見するなよ。アンタはオレだけ見ていろ」
 続く声は低く、囁くように。
「好きだ、他の誰にも渡さないぜ」

 背後からは拍手が聞こえてくる。
 ジャックは速やかに身を引いた。
「俺の番は終わりだな」

「だが……何か、コアのあたりがムズムズするな。コレが恥ずかしいと言う感情か、そうか」
 呟く言葉は何処か新鮮な響きを伴っていた。
「感情というものは不思議なものですね」
 トリテレイアが羞恥が伝播したかのようにセンサーを瞬かせ、ジャックに代わって前に出た。

「では、失礼します」
 丁寧に礼儀正しく一礼をして、トリテレイアは屈んで壁を壊さないよう優しく壁ドンをする。

――トン、

 まるで小鳥が気まぐれに梢をつついてみたが如き軽い音がほんの幽かに空気を震わせる。

「ドン、じゃなくてもいいものなのか」
 ジャックが興味深く鑑賞していた。チョコレートパーティ席からも視線が寄せられている。
(これは独特の恥ずかしさがありますね……)
 一瞬遠くへとセンサー光を閃かせ、しかし直ぐに現実に還ってきたトリテレイアは女神への愛の言葉を朴訥と語る。

「お美しい女神様、このお部屋はとてもお寒いでしょう」
 女神が返答を返すことはない。白き像は沈黙を貫いている。当たり前だ、それは只の像――けれど、童話に関連して迷宮の仕掛けの一部となっているこの像は、愛の言葉に反応を返すのだ。王子を待っているのだという。
 己に心があるように、彼女にも心がある。繊細なウォーマシンはそう感じた。そして、言葉を捧げる。

 形は人を模している。口説く体勢もまた、人を倣ったものであった。
 言葉は、己が考えた。

「私とお話して交友を深め、心の触れ合いを通じて温めあいましょう」
 温めたいと思った――その想いは声に宿り、穏やかに優しい音声を発していた。鋼鉄の指は躊躇い勝ちに女神へと伸びる。
 しかし、触れることはなかった。

(温め合う、か)
 背後のジャックはそんなウォーマシンの姿を無言で見つめる。
 自分たちには、体温がない。
 だが、自分たちは、こころの温かさを知っている。
 言葉をかけあい、温もりをヒトに与えることもできるのだ。

 視線の先でトリテレイアは自身が付けていたマントをふわりと女神へ羽織らせていた。そして、そっと身を引いた。

「いいんじゃないか」
 ジャックはそう声をかけた。
 そして、攻略仲間である白きウォーマシンへと拍手してあげるのだった。

 そんなウォーマシン2機の見守る先で女神が嬉しそうに微笑むような気配がした。不思議なことだが、表情も変わらず声も発しない像が微笑む気配が彼らにはわかったのだった。
「喜んでいるぞ」
「喜んでいただけたようですね」
 2機は視線を交差させ、笑った。

「ヒトを口説くというのも悪くないな」
「得難い体験をしましたね」
 談笑しながら彼らは先に来ていた攻略仲間たちの待つチョコレートパーティ席に着くのだった。

「おつかれさまー」
「素敵でしたよ!」
 仲間たちが拍手で迎えてくれる。
 フロアは、段々と温まっていた。

――白と黒のイミテーション・ゲーム。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

白波・柾
……ええと、壁ドン? は女性たちの間で流行りとなっている愛を囁く手法なんだったか
人間たちの文化は奥が深いな……

ものは試しということで、やってみよう
他の人たちの見よう見まねで壁ドンの体勢になって
「このフロアはとても寒いが、きみの美しさはさながら春のように周囲を温かくさせる力がある
そのように眠ってなどいないで、このフロアを温めるために目を開けておくれ」
「王子を待ち焦がれていたのに、思い叶わずこの冬のようなフロアにいるとはおいたわしい。
きっと王子も、きみの美しさに惚れてしまい素直に対面することが恥ずかしかったんだろうな」

……こんなくらいか?
ちなみに台詞は少女漫画に詳しい知り合いから覚えさせられた……



●その正義
「さて、俺の番か」
 待機用のパーティ席から立ちあがり、宝石のように耀く柱の間を歩く人影。スラリとした長身、長い手脚。その身ひとつが刀のような男、白波・柾(スターブレイカー・f05809)。それもそのはず、彼は大太刀を本体とするヤドリガミなのだ。

「……ええと、壁ドン? は女性たちの間で流行りとなっている愛を囁く手法なんだったか。人間たちの文化は奥が深いな……」
 生真面目に呟く声は清冽な水の波紋にも似て迷宮に反響する。
 考え込むよりは動いてみるほうがよい、と柾は壁際で彼を待つ女神像を見つめる。純白の女神は冷たく固まっている。
(ものは試しということで、やってみよう)
 丁度、他の攻略者たちが今まで見本を見せてくれていた。見よう見るまねで柾は女神像に壁ドンをしてみた。

――ドン、

 壁に手を突けば、他の攻略者たちの時と似た音が出た。
(うん、こんな感じだったな)
 順調だ、と冷静に考えながら柾は女神像に貌を寄せる。愛を囁かなくてはならない。咄嗟に思い出したのは知り合いに覚えさせられた少女漫画の台詞だ。好い台詞なのだと言っていた。ならば、使えるだろうか。

「このフロアはとても寒いが、きみの美しさはさながら春のように周囲を温かくさせる力がある。そのように眠ってなどいないで、このフロアを温めるために目を開けておくれ」
 すらすらと出てきた台詞は、至近距離で女神に捧げられる。

「王子を待ち焦がれていたのに、思い叶わずこの冬のようなフロアにいるとはおいたわしい。きっと王子も、きみの美しさに惚れてしまい素直に対面することが恥ずかしかったんだろうな」
(……こんなくらいか?)
 思案の色を浮かべる瞳。特に周囲に変化は感じらないように思えて、瞳は一度瞬かれた。女神を見つめて台詞を紡ぐうちに思い浮かんだのは、知り合いの顔だった。少女漫画には、少女の夢が詰まっているらしい。台詞がときめくのだと言っていた。好きなのだと語る目はキラキラと輝いていた。あの目は『夢』を知っているのだ。
 女神の表情は、変わらない。返じる声もない。それもそうだ、女神は像なのだ。だが、それを言うなら。
(俺も、元は)
 彼は、ヤドリガミだった。
 彼は、大太刀を本体とするのだ。
 彼は、理解していた。現実を動かし人々を救い、希望を齎し、伸ばされた手があれば掴み、願われた想いがあれば応じる。そのために必要なことは、行動することだった。そして、今の彼にはそれができるのだ。

 自分の手で、叶える。
(俺は、そういう猟兵でありたい)
 彼はそう思っているのだ。
 ゆえに、
「こういうのは、あまり得意じゃないんだが、」
 端正な外貌はもう一度台詞を繰り返す。

「――このフロアは、とても寒いな」
 言葉は淡々と事実を述べるようだ。低い体温が寄り添うように近くに寄る。さらり、と流れる髪は銀細工のように繊麗だ。覗き込む瞳は、明るい色をしている。常に明るい世界を覗き込むかのように、澄んでいる。
 その瞳の先には今、凍える女神がいる。

「きみの美しさは」
 流れるように音を紡ぐ男は、生真面目な貌をしていた。台本を読むかのような口調は、しかし真剣だ。
「さながら春のように周囲を温かくさせる力がある」
 身動きひとつすることなく、まるで彫像のように男が覗き込んでくる。台詞を変えることもない。熱を籠めることもない。だが、瞳は真剣なのだ。それは只管に純真な色を宿していた。真っ直ぐに伸びた刀のような存在感。媚びることなく、只己が正義を見つめている。

 凛とした声は台詞を続けていた。
「きっと王子も、きみの美しさに惚れてしまい素直に対面することが恥ずかしかったんだろうな」
 台詞を締めくくると男は軽く息をつき、もはや用は済んだとばかりに離れようとする。そして、ふと動きを止めた。

「……世界には残酷なことも多いな」
 声は、独り言のようだった。先刻までと違う色を湛えていた。

「ただで帰るつもりはない」

「この手にできることがある限り」

 声はぽつり、ぽつりと空間に反響する。
 男は――柾は、黒手袋を填めた手を視た。そして、もう一度女神へと視線を戻した。
(声にならずとも祈りがあるのなら、正義の命ずる限りに応えよう)
 その言葉は口には出さず、この先の行動で示されることになるだろう。だが、今この場においても声に出さずとも伝わる気配はあった。
 それが、柾がその生き様により澄明に纏う気配だ。

(スマートさには自信がないが、な)
 だが、実がある。それは見守っている全員に伝わるのだった。

――ふわり。

 ふと、周囲の空気が温かくなった気がした。
「ああ、さすが少女漫画の台詞。通用するとは」
 台詞が通用したのだと思い、柾は目を瞬かせる。台詞を覚えてみるものだ、と聊かズレた感想を呟きながらヤドリガミは女神に背を向けるのであった。

――その正義。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ギド・スプートニク
まい(f00465)と

片手に剣、おやつにキャンディとは
彼の王子と存外気が合うのではないか?

最初の仕掛けがこれとは
女神も多くの冒険者に騙され続け気の毒なように思うが、まぁ「そういう仕掛け」であるからには仕方のない事か

壁に静かに肘を預け
反対の手は女神の顎に添え

女神よ
願わくば我々をこの先へと通してはくれまいか
私は生憎
きみに愛を誓う事はできない

このような場所にひとり、千年
ただ愛を囁かれては裏切られ、待ち続ける毎日
辛かっただろう

約束する
私はきみを裏切らない
このような迷宮の奥に独りではなく
陽だまりの下
我が家の庭で良ければきっとお招きしよう

だからあと数刻だけ待っていて欲しい
道行く先で
王子とやらを滅するまでは


花咲・まい
ギドさん(f00088)と!

なんと、私の王子様を見つけてしまいましたです?
なーんて、災魔の王子様なんて御免被りますですよ!

此処はとても寒いですが、そういう仕掛けなんですね。
ええと、かべどん……こう、刀を壁にドスッと……これは違いますです?
見知らぬ文化ですから、皆さんのやり方を見様見真似でやっていきましょう。
此処がこんなに寒いのは、女神様の心が冷えてしまっているからかもしれませんですから。私も頑張って温めてさしあげたいです。

私の愛でよければ、女神様に捧げますです。
女神様には及ばない小さな体ですが、あなたの心が温まるまでお傍にいますからね。
そして温まったなら、今度は一緒にお外で遊びましょうです!



●『約束』
 甘い香り漂うパーティ席では、モノクルをした黒蝙蝠の執事が攻略者たちに紅茶を振舞っていた。
「ご苦労、セバス」
 気高い主が労いの言葉を掛ければ蝙蝠は恭しく礼をする。

 テーブルクロスに皺を寄せ、まるまるほこほことしたウリ坊が遊んでいる。テーブルには攻略仲間が持ち寄った甘菓子と、まいの日替わりおやつが並んでいた。精緻な装飾のティーカップには美しい色をした紅茶が薫り高く揺れている。白い湯気が温かく揺れながら迷宮の冷えた空気の中に溶けるように消えていく。
「チョコレートパーティ、癒されますです!」
 春花が人の形を為したかのような可憐な美少女が桜吹雪の振り袖を翻して立ち上がる。王子様も物語の中でこんなひとときを過ごしたのだろうか、と思いながら花咲・まい(紅いちご・f00465)が女神像へと視線を向けた。
「物語の再現といきますですよ!」

 宵闇の外套が春花に続く。主の動く気配に蝙蝠が畏まる。
「片手に剣、おやつにキャンディとは彼の王子と存外気が合うのではないか?」
 ノーブルレッド、ギド・スプートニク(意志無き者の王・f00088)が微かな吐息で笑みを零す。ふ、と。
 夜に濡れたような睫に彩られる瞳はともすれば怜悧に過ぎて冷たい印象を与えるが、笑みの吐息が零れれば空気はふと和らいだ。
 和らぐ気配を、傍らの少女の陽気が一層加速させる。
「なんと、私の王子様を見つけてしまいましたです? なーんて、災魔の王子様なんて御免被りますですよ!」
 明るい声が迷宮に反響すれば薄桃と白の織り成す縞模様の壁がよりビビッドに耀くように思えた。

「此処はとても寒いですが、そういう仕掛けなんですね」
 女神像に近寄る少女の足取りには迷いがない。
(此処がこんなに寒いのは、女神様の心が冷えてしまっているからかもしれませんですから。私も頑張って温めてさしあげたいです)
 瞳には優しい気持ちが溢れていた。
 
「ええと、かべどん……こう、刀を壁にドスッと……これは違いますです?」
 すらりと抜いた大刀を壁に突き立てる少女。加々知丸の名を冠する刀は縞模様のコーティングを易々と破り、その下の黄金を暴き出した。
「!!」
 黄金は小さな歯車の集合だった。
 ひとつひとつが噛み合って蠢く歯車は、きっとどれ一つとっても無駄なものはない。全てが噛み合い、活きている。
 それがとても美しいものに思えて、まいはしばし黄金に見惚れた。

 その背に向かってよく通る声が響く。
「壁ドンは手をついて体と体の距離を近づけるものだ」
 ギドが冷静に助言をしてくれたのだ。
 まいはハッと現実に意識を戻した。そして、縞模様の亀裂を体でさりげなく隠した。
「ははーん、なるほどですね!」
 深く頷く。

「見知らぬ文化! ですが! 皆さんのやり方を見様見真似でやっていきましょう!」
 冷えた空気を吹き飛ばし、自身の熱で温めてしまうほどの元気な声が迷宮に反響する。そのひとことだけでチョコレートパーティ席からは拍手が湧いた。場を盛り上げ、温めるパワーが彼女にはあった。それは、ある種の才能ともいえるだろう。
「やり方はずっと見ていましたです!」
 まいは春花が咲き零れるような笑顔を浮かべた。
 甘いお菓子と紅茶に囲まれ、和やかな空気の中で先行の壁ドンが展開される様子をずっと見て来たのだ。
「手でドンッとするより刀のほうがドキドキ効果が高いと思ったのですけど」
 まいは、先行した攻略者たちを見ていて「ドンッとすることでドキッとするのが肝なのだろう」と思ったのだった。
「その考えは、おそらく外れていないとは思う」
 ギドがそっと言葉を添えた。
「ただ、刀だと過激に過ぎて甘やかな感情が生まれにくいやもしれんな」
「な、なるほどです!?」
 ひとりが知らないことでも、別の者が知っていれば知識を補い合うことができる。ひとりではできないことでも、力を合わせれば、できる。知恵を寄せ合い、力を合わせ。猟兵たちはそうやって日々迷宮を攻略していた。
 まいは仲間を頼る事を知っていた。仲間を信頼する事を知っていた。

「ありがとうございますです!」

 理屈を納得したからには、もう迷いはない。
 まいは刀を引いて代わりに手をついた。足元ではウリ坊がころころと転がって遊んでいる。ふわり、と袖が揺れて柄模様の花の色彩が夢のように広がった。
「どっどどーん!」
 戯れるような声は無邪気で稚い。対して、壁を突く手は優しかった。

 トン、と。

 優しい音がして小さな体が女神像に密着する。壁ドンするにはまいの体は少し頼りない。柔らかな体温が布を隔てて像に触れ。夜空をぎゅっと集めて形を整えたような角が像にこつりと着いた。宝石のような瞳が瞬けば星のように神秘的で。萌ゆる生命の色を帯びた眼はフロアに満ちた光を照り返すようにして煌いている。

(この後は、愛を囁いてときめきを提供しますですね)
 まいは愛らしく首をかしげ、台詞を考える。

 ギドはその背を静かに見守っていた。少女が言葉を捧げようとしている相手は、王子に捨てられた女神だ。ずっとこんな攻略風景が繰り返されてきたのだろうか? ふとそんな思いが胸を突く。
「――……」
 何かの衝動に駆られた気がしてギドは己が手をちらりと視た。

「女神様!」
 やがて、まいが愛を囀る。
 小鳥の囀りにも似た声が発せられれば、それだけで聴く者のこころが微笑ましく綻ぶ。

「私の愛でよければ、女神様に捧げますです。女神様には及ばない小さな体ですが、あなたの心が温まるまでお傍にいますからね」
 小さな体は言葉の通りに優しく女神に寄り添っていた。

 少女、まいは真っ直ぐに言葉を紡ぎ、瞳を向ける。信頼を得るということがとても難しいことだとまいは知っていた。出会って数分、言葉でどれだけのことが伝わるだろう。千年の凍えた心にどれだけ響くだろう。
 けれど、と、少女は楽しい気持ちを全身から滲ませて華やかに微笑み、言葉を紡ぐ。金糸の髪は蜂蜜のように甘やかに女神に優しくかかり、和の衣装が像を抱くようにすれば春の花畑が控えめに包むように甘やかだ。
 華奢な少女は、しかし元気に笑う。
「――小さくても、頼りなくても、温かくなりますです! とにかく温かくできると思いますです!!」
 理屈も道理も全て捻じ伏せるくらいの鮮明な声が発せられれば、女神ではなく少女自身によって周囲があたたかに染められるようであった。

 少女は高らかに言葉を捧げる。
「そして温まったなら、今度は一緒にお外で遊びましょうです!」

 にこりと微笑む愛らしい少女の姿にギドは涼やかな目元を甘く緩ませた。励ますように女神の手を一度握り、少女は身を離して背後を振り向く。
 振り向いた先には、宵闇の貴族が端然と佇んでいる。

「ギドさん!」

 交代を告げる少女へと頷き、ギドは鷹揚に頷いた。入れ替わるように前に進み出れば、壁際に打ち捨てられたような女神像が目に映る。迷宮に満ちる不思議な力が整えているのだろうか、年月を感じさせない像の表面は清絶に白い。

(女神も多くの冒険者に騙され続け気の毒なように思うが、まぁ「そういう仕掛け」であるからには仕方のない事か)
 湛然と叡智を湛える瞳が見つめる先、佇む像は塵すら寄せ付けずに潔癖で孤独な千年を背負っていた。
 静かに壁に手を着けば、壁はひやりと冷たかった。見下ろす視線の先、壁に少女が裂いた傷がある。蠢く黄金からそっと目を逸らし、ギドは緩く息を吐き出した。
「女神よ、願わくば我々をこの先へと通してはくれまいか」
 こんな瞬間が何度あったことだろう。
 何れも仕掛けを動かして通り過ぎたのちはそれきりだったに違いない。熱が寄せられ、希望を持たせ、そして帰らぬ。
 永く裏切られ続けた像が眼前にある。

「私は生憎きみに愛を誓う事はできない」
 宵闇が囁く。
 それは、事実を淡々と告げるにも似て冷たくも感じられる言葉だった。だが、瞳を視れば意外なほど温かな色を浮かべているのだ。

「このような場所にひとり、千年。ただ愛を囁かれては裏切られ、待ち続ける毎日。辛かっただろう」

 思い返すのは、別の世界。
 過ぎ去りし時。

 森のはずれだった。
 差し伸べられた手があった。

――危ないから、僕から離れて。

 告げた声に、温もりは逃げずに近寄ってきた。
 それは彼の『特別』だった。

(私は、彼女のように誰かの救いとなることができるのだろうか)
 想いは声に滲む。全身から優しく滲むは高貴なる篤志。義気。

「約束する。私はきみを裏切らない。このような迷宮の奥に独りではなく、陽だまりの下――我が家の庭で良ければきっとお招きしよう」
 人工の光が冷たく照らし、時折仕掛けを動かすためだけの言葉が掛けられる迷宮ではなく、自然の陽光のあたたかさの下で、穏やかな日々を。
 それは、形ばかりの愛を囁く言葉よりも女神にとって優しくあたたかな未来に思えた。

「だから、あと数刻だけ待っていて欲しい」
 道行く先で王子とやらを滅するまでは、と胸中で付け足し、ギドは女神へと目礼する。誠実な気配は冷えた空気を介して静かに伝わる。その毅然とした英姿を背後で見守り、まいはニコニコと笑顔を浮かべていた。

「なるほどです! それでは、女神様をギドさんのお庭にお迎えるために頑張りますですよ!」
 先刻までよりも優しくあたたかな空気に充たされたフロアに嬉しそうに目を細め、少女は笑った。
「あっ、おやつも忘れずに持ってきてますですから!」
 ギドはそんな少女へとふ、と笑む声を返した。
「私も菓子を持ってくるべきだったか」
 まいはふるふると首を振り、チョコレートパーティ席を示した。そこでは、ギドの執事が迷宮攻略者たちに紅茶を振舞っている。
「紅茶はとても美味しかったですよ!」
 ごちそうさまです、と無邪気に言い、ぺこりと元気に頭を下げる少女は存在自体があたたかさを振り撒くようであった。
「それはなによりだ」
 主の声に同調するようにパーティ席のテーブルの上で蝙蝠執事が優雅に礼をしていた。

 紅茶とお菓子の香りが漂い、和やかな席。
 新たに駆けつける者、他の攻略者を応援しながら待機する者。いずれも、纏う空気は優しかった。そんな彼らに凍える心を溶かされるようにして女神が少しずつフロアの寒さを和らげている。広いフロアを揺蕩う空気は冬を越えて春を迎えようとするが如く穏やかな気配を漂わせ、少しずつ暖かくなっていた。

「もう少しで、次のフロアに挑戦できそうですね」
 まいは王子様の童話へと思いを巡らせる。
(片手に剣、おやつにキャンディ……愛を囁いて、誓って。けれど、戻ってこなかった、王子様……)
 迷宮の仕掛けのための愛。
 このフロアに集まっている攻略者たちがそうしているように、王子もまた仕掛けを動かしただけだったのだろうか。だから、戻ってこなかったのだろうか。

「ふうむー、お話の中の出来事。ですけれど」
 まいは、こてんと首をかしげた。
 さらさらと金の髪が流れる。足元ではウリ坊がほこほこと戯れていた。

「夢があったらいいなと、思いますです」
 未熟な瞳は夢を見るように呟いた。

 ね、と視線を移せば安らぎを齎す夜のようにギドが佇んでいる。ニッコリと笑顔を向ければ、老成した瞳が優しい笑みを返してくれるのだった。
 思うのはひとつであった。

――これから、果たすのだ。『約束』を。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

ロゼ・ムカイ
都亨(f01391)と行くぜ

今日は仕事をサボって依頼に参加するぜ。
都亨とはネットで知り合い、今日初めて会うわけだが…
イメージと完全に一致してやがる…!なんて奴だ…。

よう。俺も同じくらいの年齢だと思っていたが年下だったとはな。
ははっ、元気の良いやつだ。頑張ローゼ。

最初は都亨に壁ドンを任せて様子見だな。
っておいおい、初対面でいきなり結婚を申し込んだら大抵の場合ドン引きされちまうぜ。
ここは俺に任せろ!

女神像の顎を指でなぞり
よう、お嬢さん。ちょっと俺と遊びに行かないかい。

どうよ。文句ないっしょ。


叶・都亨
ロゼくん(f01535)と

今日はネットの友達であるロゼくんとの初のオフ会である
待ち合わせは迷宮の入り口
目印は相棒のハルカ

ロゼくんとはSNSで飯の話で盛り上がってから頻繁にやり取りをしている
大丈夫
今日が初対面でも俺たちはうまく話せる筈だ

……カツアゲされそう!!!

い、いや、イケメンだな
どうも!こんにちは!えっ結構年上…同じくらいかなって
ま、まぁいいや

初オフが猟兵の仕事現場って楽しそうじゃない?ってノリできちゃったけど
とりあえずがんばろーぜ!!ロゼくんだけに!

ふんふん
この女神像に壁ドンすればいいんだな

(ドンッ)(爆速)

結婚しよう(きりっ)

…どうどう??今のいい感じじゃない??



●オフ会が始まった
 迷宮の入り口で鼻歌を歌うものがいた。
「フンッフフンッフフーン♪」
 ご機嫌な森色狼叶・都亨(空翔・f01391)の肩には相棒である鷹のハルカが留まっており、これまたご機嫌に毛繕いをしているのだった。

「ふんっ! ふふんふー! ふん! アレッ今何時―! いや、まだハヤカッタ!」
 時間を確認して独り言をハイテンションに垂れ流す都亨。

 実はこの迷宮で今日、オフ会が開かれていたのだった。
 都亨が覗き込むのはスマートフォン。
「い、ま、迷宮の……入り口に、」
 知らせを入力していく指の動きは滑らかだ。オフ会はSNSがきっかけだった。参加人数は、2名。

 『大変だ! 今日はカレーの日らしい! らしい! らしい!(セルフエコー)』
 『なんだって! もうオムライス食ってるんだが』
 『うおおおおならカレーオムライスだ! それしかないよ! いそげえええ!』
 『このオムライスに今からカレーぶっかけるのかよ』

 脳裏に蘇るのはネットを介してのやりとりの数々だった。

 『新装オープンの麺一心! 海苔が増量しててすげー!』
 『ばっか! ばっか! 目立つ海苔に惑わされるなあああ! 真に増量したのはシナチクよおおお!! シナチクなのよおおお!』
 『ナンダッテ』
 『海苔が3増量だとするとシナチクは7増量してるんだ! それなのに海苔に騙されちゃって! もう! もう! お母さん知らないっ!』
 『マ、マジカー!!』

 電子の海を介して頻繁にやり取りを交わしている2人は、何を隠そう今日が初めてのオフである。
「大丈夫、今日が初対面でも俺たちはうまく話せる筈だ」
 都亨が確信を持ってスマートフォンを見つめ、
「もしかしたらネットではこんな人だけどリアルは美少女だったり」
 そんな呟きと共に妄想を展開し始めた、そんな頃。

「んっ? 職場から」
 ロゼ・ムカイ(社会人2年目・f01535)が職場からの連絡メールにちらりと視線を走らせた。ほんの一瞬だけ読み、すぐに画面をSNSに戻す。
 顔を視たことのない相手は明るいメッセージを送ってきた。

 『いえぇ~~~い俺メリーさん! いやメリーさんじゃないけどね! いま迷宮の入り口よ! いつ来る? 今来る? はやく!!』

 何を隠そうこの男、仕事をサボってオフに来ている。
 職場という楔から解放され青の瞳が迷宮の入り口に向けられる。そこには、目印である鷹を連れた少年が待っていたのだった。この少年が果たしてハイテンションな相手なのだろうか。ロゼは気さくに声をかけた。
「よう。俺も同じくらいの年齢だと思っていたが年下だったとはな」
 
「は゛っ!!」
 少年、都亨が物凄い勢いで顔をあげた。
 そのリアクションは芸人のようなキレがあった。
(あ、本人っぽい)
 ロゼはその瞬間そう思った。

「ああああああ!!」
 かけられた声に弾かれたように顔をあげた都亨の眼には、大人の男が立っている。白いシャツにネクタイが緩く揺れていた。スーツ姿の上に着物を緩く着流し、腰には刀を佩いている。明るい色の髪にちらりと覗く耳には派手な色をしたピアスが視えた。ニカッと笑う表情からは遊び慣れた空気が伝わる。

「ああああ!! ……カツアゲされそう!!!」
 思わずそんな声が出た。
「あ゛?」
 素っ頓狂な声をあげた都亨をロゼはまじまじと見つめた。上から見下ろす視線は遊び慣れた雰囲気の大人のものだ。
 カツアゲされそう! 都亨は口を押さえ、内心でもう一度思った。だが。

(おおおお落ち着け俺ー! 大丈夫、カツアゲされそうなのは見た目だけ! なハズだあああ!!)
 ネットでの絆を思い出し、都亨はぶんぶんと頭を振り笑顔を浮かべた。
「い、いや、イケメンだな!! ってそう言った! たぶん俺そう言いたかった! どうも! こんにちは! えっ結構年上……同じくらいかなって、ま、まぁいいやぁー!」
 一息に捲し立てる少年。その動きはキレッキレであった。
 ロゼはSNSでの相手を連想する。イメージは、一致した。

(イメージと完全に一致してやがる……! なんて奴だ……)

 内心で驚愕しながらもロゼは余裕たっぷりにウインクをしてみせた。
「ははっ、元気の良いやつだ。頑張ローゼ」
「おう! 初オフが猟兵の仕事現場って楽しそうじゃない? ってノリできちゃったけどとりあえずがんばろーぜ!! ロゼくんだけに!」
 都亨が跳ねるように元気よく片手をあげた。ぱしん、とハイタッチを交わしてふたりは迷宮フロアを進んでいく。

 天井付近で漂う魔導船を鷹のハルカがつんつんと突き、やがて嘴に加えて持ってきた。戦利品を差し出すかのように差し出された船を都亨はおおはしゃぎで両手に抱えた。
「うおぉ! 蒸気魔導船の模型!」
「おっ、いいじゃねーか。俺の分も頼むぜ」
 ハルカは楽し気に飛翔し、お土産をもうひとつ獲ってきた。

「オフ土産ができたな……おっ、女神像だ」
 揃いの蒸気魔導船を手に歩むふたりの視界に女神像が見えた。
「都亨、先に口説いていいぜ」
「よーし!」
 ロゼが見守る中、都亨が意気揚々と女神像に近づいていく。

「ふんふん~♪ この女神像に壁ドンすればいいんだな」
 暢気に呟き、しかし次の瞬間には爆速で少年の手が壁に突かれた。

――ドンッ!

 深い色の瞳がきりっと女神を見つめ。
「結婚しよう」
 声がきりりっと放たれた。

 叶・都亨(15歳)全身全霊の超真面目モード、プロポーズ――、

 しかし、真面目モードは一瞬で終わった。
「……どうどう??今のいい感じじゃない??」
 普段通りのテンションに戻り、ふにゃりと背後を振り返ればロゼが呆れた様子で笑っている。
「おいおい、初対面でいきなり結婚を申し込んだら大抵の場合ドン引きされちまうぜ」
「むっ! いやいや! 初対面のインパクト大事だからー!!」
 口を尖らせる都亨へとジェスチャーで交代を告げ、ロゼがずずいと前に出る。
「うーし。見本見せてやる。ここは俺に任せろ!」
 声は自信に溢れていた。

「おおーし!? 大人の口説きテク見せてみろよおおお!!」
 都亨が挑戦的に指を突きつける。
「んで! どっちがイケてるか勝負なー!」

 指されたロゼはにやりと笑い、女神へと身を寄せる。壁に手を突き、さりげなく女神との距離を縮めて体を壁に閉じ込めるようにすれば都亨が後ろで息を呑んだ。
「うおおおおお!? 遊び人っぽい」
 都亨がスマートフォンで動画を撮っている。
「いや、撮るなよ」
 思わずツッコミを入れてしまい、ロゼは咳払いをして仕切り直した。

 青年の指がつるりと女神の顎をなぞる。
「手付きがえっどい!」
 背後からはそんな声が聞こえてくるが、ロゼはスルーした。

 目の前に口説くべき女(像)がいるのだ。
「よう、お嬢さん。ちょっと俺と遊びに行かないかい」
 場慣れした空気を全身から滲ませて誘うように囁けば、ぐっと女神の周囲が暖かくなった気がする。
「どうよ。文句ないっしょ」
 都亨へと声をかければ、やはり動画を撮っていた。ロゼは肩を竦めてスマートフォンに手を伸ばす。
「動画は削除な」
「あああああーーー!!」
 迷宮フロアに森色狼の叫びが反響した。
「というわけで、俺の勝ちだな」
 ロゼが勝利宣言をすれば都亨はぶんぶんと首を振った。
「勝負!? な゛んのこと? 俺わ゛か゛んない!」
「お前が言ったんだろ!」
 ぎゃあぎゃあと騒ぐふたりの頭上では、ハルカが悠々とフロアを飛び廻り遊んでいるのだった。

「あっ、思い付いた! 俺思い付いた!」
 ふいに都亨がきらりと目を輝かせた。快活な笑顔を浮かべ、少年は手荷物からマフラーを取り出した。
「寒いって聞いてたから持ってきてたんだった! わすれてたー!」
「それ忘れるようなものか……?」
 呆れるロゼには構わず、都亨はマフラーを自分の首に巻くのではなく女神の首へと柔らかに巻いてあげた。
「ほー」
「どうよ!! 俺イケメン!」
 誇る瞳は純真な色を浮かべ、きらきらと輝いている。
「それなら俺はこうだ!」
 ロゼは紅の長羽織をふわりと女神に羽織らせた。
「あっ、それやっちゃう? やっちゃう? じゃあ俺最終手段使っちゃうもんね」
 都亨がハルカを呼び、女神の肩へと留まらせた。ふわふわとした春の羽毛のハルカが女神の頬へと嘴を寄せる。それはまるでキスをしているかのようだ。
「どうよこれ! 俺のハルカによる特別サーービス! 最強!」
「もふもふはずるいだろ! そんなん効くに決まってるし! じゃあ俺ネクタイいっちゃうからな!」
 ロゼはしゅるりとネクタイを解いて女神の首にかけた。
「お嬢さんに首ったけだぜ」
 囁くのも忘れない。
「はああーーー!? なにそれー!」
「これが大人の口説きだ」
「俺も女神様に首ったけだし! 先に結婚申し込んだの俺だし!」
 取り合うように口論するふたりの周囲で女神像が空気をぐんぐんと暖めていた。

「「あ、あのう」」
「「んっ?」
 ふいに声がかけられ、ロゼと都亨はフロアに他の猟兵(とスタッフ)がいる事に気付くのだった。

「おっ、休憩所!」
「オフらしくなってきたじゃねーか」
 ふたりは女神像に捧げた供物一式を回収して攻略を終え、チョコレートパーティ席に着いた。甘い菓子と紅茶に舌鼓を打ち、改めて蒸気魔導船を視れば船はとても精巧に造られていた。

「これ、ネットオークションで売ったらいくらになるだろうな」
 思わずそう呟いてしまうロゼ。
「えええー!! 売っちゃうの? こういうのって記念にとっとかない!?」
 都亨がチョコレートを頬張りながら目を丸くする。
「いや、ちょっと思っただけだって。ちゃんととっておくぜ」

――こんな風にしてオフ会は、始まったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

草野・千秋
か、壁ドンですか、壁ドン
21年も生きててそんなことやったことないです、けど

SPD

(意を決しドン)

女神様、僕なんかどうですか?
僕は駄菓子屋の店主……言ってみれば
駄菓子の国の王子様かもしれません
子供よりもどちらかというと
大人の猟兵の客が多い店ですが
(うまい棒や梅ジャムを取り出し)
これは生産終了したはずのあの梅ジャム
これ(最後の在庫)をあなたに捧げよう
きっとあなたの舌を満足させるはずでしょう

まだ夏には遠いですけど
うちではかき氷もやっていますよ
フワフワ氷のかき氷
でもここちょっと寒いですから
暖かいブタメンの方がいいかもしれませんね?
優しく歌も歌いつつ口説く

アドリブ絡み等歓迎



●駄菓子の国の王子様
 耳に心地よい声が迷宮フロアの空気を震わせた。
「か、壁ドンですか、壁ドン」
 声は、戸惑いを伝えた。薄茶色の短髪の下、銀縁眼鏡の奥でペリドットの瞳が不安そうに揺れている。
「21年も生きててそんなことやったことないです、けど」
 草野・千秋(f01504)が女神へと視線を向けている。

(これも仕事、これも仕事……!)
 弱きを助け、悪を挫くヒーローを目指す義の猟兵、千秋は意を決して壁に手を突く。
(それに……)
 間近で見る女神は恋する相手をずっと待っているのだという。それが、千秋の優しい心を駆り立てた。
(……頑張ってみよう)
 瞳には優しい色を浮かべ、真面目なヒーローの顔が慣れない愛の言葉を不器用にぎこちなく、少し恥ずかしそうにしながら紡いでいく。

「女神様、僕なんかどうですか?」
 ゆっくりと紡がれる言葉。声は、とても温かな音を伴っていた。歌い手でもある彼は、声がとても綺麗で温かいと有名であった。

(……どんな事を言えばいいんだろう……!!)
 繊細な睫が戸惑うように揺れている。柳眉が顰められ、本人の意図せぬ憂愁の色香が漂った。整った顔立ちの千秋は真っ直ぐで純粋な気質をしていた。本人にはそのつもりがなく、けれど仕草からは甘く立ち上るような艶が感じられる。
 若干天然の青年は、それがゆえに隙がある。その隙がまたそそり立つような色気を密やかに放つのであった。

「僕は駄菓子屋の店主……言ってみれば駄菓子の国の王子様かもしれません」
 生真面目に言葉は紡がれ、切なげに瞳が揺れる。
 まるで恋に焦がれるがゆえの切なき色は、けれどその実、「何を言ってるんだ僕は!?」という内心の葛藤によるものだった。もちろん、本人以外は知る由もない。

「子供よりもどちらかというと大人の猟兵の客が多い店ですが」
 千秋は懐から駄菓子を取り出した。
 棒タイプの懐かしのスナック菓子。安価の菓子はフレーバーも多岐にわたり、幅広い人気を誇る。
「テ、テリヤキバーガー味ですっ!!」
 熱く名を呼び、次いで取り出したのは梅ジャムだ。鮮やかな赤色が小さなビニールの中でぷにぷにとしている。
「このお菓子は、紙芝居を見るお子様向けに造られて……」
 語り出す千秋。
「あたしの味は真似できない、というその誇りを胸に! 惜しまれつつ、廃業となったわけでして」
 それはとても貴重な在庫であった。
「最後の在庫を、あなたに捧げます。きっとあなたの舌を満足させるはずでしょう」
 千秋にとって、それは身を切るような台詞であった。単なる駄菓子ではない。二度と生産されることのない、至宝の一品なのだ。

「それに。それに」
 千秋は懸命に女神へと身を寄せ、切なげに言葉を紡ぎ続ける。整った鼻梁が触れそうなほど近い。女神の眼を覗き込むように、切々と美声が息を吐く。
「まだ夏には遠いですけど、うちではかき氷もやっていますよ」
 千秋の店では、ふわふわの氷にたっぷりのシロップをかけていた。暑い夏、冷たい氷はしゃっきりと甘やかに季節ならではの思い出を提供してくれるのだ。

「お祭りの時、かき氷を提供したりもするんです。とても好評で……今年も頼むと言われています」
 壁に手を着き、至近に身を寄せながら切なげに憂い顔で語る青年は、とても真摯に言葉を考えていた。ハッとした様子で言葉を付け足す顔は、若干慌てた様子だった。アセアセと目を瞑り、軽く顔を横に振り。
「でも、ここちょっと寒いですから、暖かいブタメンの方がいいかもしれませんね?」
 顔は、真っ赤だった。
 この青年はとても、一生懸命なのだ。
 善意が全身から溢れ、滲み出るようだった。言葉は天然味に溢れて不器用な気配を感じさせ、どこか微笑ましい。
 そしてなにより、駄菓子屋の王子様らしさに満ちたあたたかなスピーチとなっていた。

「ええっと」
 気弱な様子で眉が下がる。王子様然とした繊細な青年は、少し困ったようにしながら頬を桜色に染め、ふわりと微笑んだ。
「あと、歌を……捧げても。いいでしょうか」
 ネットの彼、「radu」のファンが女神の立ち位置にいれば涙を流して狂喜したことだろう。そんな優しく甘やかな囁きをひとつ残して、千秋は―「radu」は、歌を口ずさむ。

 伴奏は、ない。
 歌唱は最初、静かな迷宮の空気をおそるおそるノックするように始まった。

 そして、徐々に伸びやかに、その才能を知らせる。
 美しいビブラート、透明感のある歌声がやわらかなに歌詞を発音する。大切に丁寧に歌詞が紡がれれば、彼が単なる「歌の上手い青年」ではなく「真心を込めて優しく聞き手に訴える類の歌い手」であることがわかるだろう。
 語尾を優しく伸ばし、スッと音を切り。余韻を楽しむように長い睫が伏せられる。

 彼は今、抜群の歌唱力で知られる歌い手「radu」の顔を魅せていた。

 歌が優しく空気を震わし、大切に歌詞を紡ぐ。
 その姿はきらきらと輝いているようでもあり、魅力に溢れ――一彼が繊細で優しい人柄だというのがなによりも伝わってくるのであった。

 曲を歌い終えた時、迷宮フロアはふんわりと温かくなっていた。
「……ありがとうございます!」
 嬉しそうに笑い、折り目正しくお辞儀をする千秋。その姿はまさに、

――王子様。

大成功 🔵​🔵​🔵​

斬崎・霞架
【泡沫】

女神像を口説く、とは変わった仕掛けですね。
マリアさん、少々預かって貰っても宜しいですか?
(着ていた上着をマリアに羽織わせるように預ける)

【SPD】

(女神像に寄り添うように壁ドン)
「透き通る髪も、白磁のような肌も、宝石の如く輝く瞳も。
そして何より、それらに優る心の美しさも。
全てが魅力的で、とても愛おしく思います。
どうか貴女が、いつまでも貴女でありますように。」
(髪、肌と触れ、最後に額に口づけ)

こんな感じでしょうか。
効果があれば良いのですが。
そうでなければ、マリアさんだと思って口説いた甲斐がありません。
…これ、女神様にはナイショですよ?
(唇に指を当て、マリアに対し悪戯っぽい笑みを向ける)


マリアドール・シュシュ
【泡沫】
アドリブ◎
マリアが口説くかお任せ

迷宮内の内装に気分高揚
星芒の眸に景色を閉じ込め
床の鉱石や宝石柱に手を触れ歯車の音に耳傾ける

霞架とまたこうして物語を紡げて嬉しいわ(一回転しドレスが花弁の様に広がり
マリアは口説きについてよく分からないからまずは霞架、お願い出来ないかしら?(首傾げ
どう告げるのか楽しみなのよ(微笑

上着を羽織り興味津々の様子で見守る

まぁ!まぁ!(興奮気味に口押え
情熱的でとっても素敵だったのよ!霞架(拍手
マリアだったらきっとドキドキして…え、

目を丸くし驚く
蜜華が一層甘く煌く

もう
霞架ったら(狡いひと
女神様には言えないのよ(目逸らし
秘密、ね?ええ(霞架と同様、唇に人差し指あて上目遣い



●秘密の花迷宮に、黄金は煌めいて
「素敵……!」
 ふわり、ひらり、と。

 幻想的な迷宮に夜空色の花弁が舞っている。星の瞬きをこさえた優しさで包まれたドレスが夢のように広がり、ディーヴァの銀髪が美しく揺れる。
「素敵な内装……!」
 可憐な声が高揚を伝える。マリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)が神秘的な星芒の眸に景色を閉じ込め、そおっと瞼を閉じた。耳を澄ますようにしながら繊手は床の鉱石に優しく触れている。

 斬崎・霞架(ブラックウィドー・f08226)は可憐な少女へとにっこりと微笑み、隣にしゃがみこんだ。
「ふふ。美しい鉱石の下で歯車が動いていますね」
「霞架にも、音が聞こえて?」
 瞳を開いたマリアドールは間近に霞架の顔があることに気付き、一瞬驚いた様子で目を丸くした。
「失礼。驚かせてしまいましたね」
 そんなマリアドールに優しく言いながら霞架は近くの柱を指した。
「あの柱も、内側で仕掛けが動いているようですよ」
「まあ。ただ天井を支えるだけの柱ではないのね?」
 純粋な心根を表す声は鈴が鳴るにも似て可憐だ。愛らしい少女が柱へとぺたりと耳をつけ、じっと音を聴いている。可憐な姫君は、楽しくて仕方ないといった様子で笑みを浮かべて頬を桜色に染めている。
「ふふ、何か聞こえますか」
「時計のような音が聞こえるわ」
 少女は、不思議そうな目を向けた。
「霞架は聞きませんの?」
 一緒に不思議な体験をした思い出を共有したい、と呟けば、霞架は楽しそうな顔をした。そして、優美な所作で柱へと耳をつけてみせるのだった。
「霞架、あなたにも聞こえて?」
 わくわくと問いかけるマリアドール。ニコリと微笑み頷いてみせれば、それだけで少女はとても嬉しそうにはしゃぐのだ。
「楽しいわ!」
 マリアドールは妖精のように微笑んだ。そして、柱から離れるとくるりと一回転をして見せる。
「迷宮がお気に召したようで」
 霞架は微笑ましさに優しい声を捧げる。この少女が嬉しそうにしている姿は、彼の心をふわりと温かくするのだ。広いフロアは薄い桃色と白を基調としており、マリアドールの愛らしさを一層引き立てていた。その光景を観られただけでも、来た甲斐があるものだ、と眦を柔らかにしている霞架へ、少女は真っ直ぐな視線を向けた。
「霞架とまたこうして一緒に過ごせるのが、嬉しいのよ」
 宝石の瞳からは純粋な感情が溢れている。嬉しくて堪らない、楽しくて、嬉しいのだ、と何よりも雄弁に語る瞳に霞架は言葉を返さずにいられないのだ。
「僕も、マリアさんと共に過ごせるのがとても楽しいですよ」
「まあ! 嬉しい!」
 言葉をひとこと返すだけで、宝石の瞳が一層嬉しそうに耀く。この少女は取るに足らない言葉ひとつでこんなにも喜んでくれるのだ。それが好ましく、微笑ましい。霞架は瞳を一層優しく和ませた。

「夢のよう……、御伽噺の中にいるみたい!」
 ドレスが花弁のように広がる。はしゃぐ気持ちを隠さずにまっすぐ伝える少女は、まるで御伽噺に出て来る姫君のようだ。霞架は微笑ましく頬を緩めた。そして、おもむろに手を差し伸べた。
「おっと」
「キャッ」
 床のタイルが一部欠けていた。足を取られたマリアドールを霞架は優しく抱き留め、支えた。
「ふふ、あんまり燥ぐと転んでしまいますよ」
 控えめな体温が心地よい。けれど、その身は柔らかに離された。手を離れ、姫君は愛らしくドレスの端をつまんで礼をした。
「ありがとう、気を付けるわ」
 純粋無垢な瞳がぱちりと瞬き、明るく笑む。

「もっとも、僕が傍にいる限りはそんなことにはなりませんがね」
 優しく声が言い、白い手が恭しく差し伸べられる。
「エスコートさせて下さい。素敵なレディ」
 ぱちりとウインクするように片目が閉じられれば、マリアドールは可憐に微笑んだ。
「あなたと一緒なら、どこにいても安心ね!」
 声には素直な喜色が籠っている。その響きにダンピールは快く両目を伏せるのだった。
「どうでしょう?」
 甘さを噛むような声に、少女はやはり真っ直ぐに応える。
「安心だわ!」
 真っ直ぐな信頼。それが、心地よいのだった。
「……光栄ですよ」
 微笑みに乗せた声は、春花を愛でる微風に似て柔らかい。

 周囲の景色を楽しみながら進むふたりの前に、やがて女神像が視えた。純白の女神像は、人を寄せ付けない空気を纏っているように思えた。

(なんだか、寂しそうだわ)
 星芒の雫の瞳は美しく楽しく、夢に満ちた世界を見つめていた。その中で一滴、哀しい感情が混入するものがあれば純真な心は敏感にそれを感じ取る。そして、救いたいと思うのだった。
 マリアドールは穢れなく無邪気で、優しい少女だった。それは空から降りてきたばかりの新雪のようであり、芽吹いたばかりの春花のようであり、どちらにしても容易く世の穢れに染まり手折られてしまいそうで、守ってあげたくなる空気を醸し出していた。
 霞架は眼鏡の奥の瞳に微笑ましい色を浮かべた。

「女神像を口説く、とは変わった仕掛けですね」
 声は、冷静に仕掛けについて考えを巡らせている様子であった。
「先ほど見た歯車。あれは迷宮中に巡っています。女神像の足元かどこかに仕掛けがあり、迷宮を暖める仕掛けを作動させるスイッチのようになっているのでしょうか」
 思考に浸る霞架をつと見上げ、マリアドールは小鳥のように可憐に首をかしげた。
「マリアは口説きについてよく分からないから、まずは霞架、お願い出来ないかしら?」
 言えば、男の瞳は思考の海から浮上したようであった。
「マリアさん、少々預かって貰っても宜しいですか?」
 霞架は着ていた上着を華奢なマリアドールにふわりと羽織わせる。ぶかぶかと大きな上着にあたたかくくるまり、裾を嬉しそうに持ち上げたマリアドールはコクリと頷いた。
「どう告げるのか楽しみなのよ」
 無垢な微笑を浮かべれば、理知的な瞳は一瞬思案するようだった。そして、ふと何かを思い付いた様子で楽しげな色を浮かべて背を向けた。

 見守る中、霞架が女神に近寄り壁を突く。手袋を着けた右手が壁に着く。

――ドン。

 音は、思ったよりも大きく響いた。マリアドールは大きな上着に包まれながら興味深々で見守る。

 静かに身を寄せる男は、目を細めた。何か悪戯を思い付いたように瞳は煌いていた。口は優しげに弧を描く。

 優艶なテノールが謳うように言葉を捧げる。至上の造形美を讃える芸術家のように。姫君に愛を囁く王子のように。
「透き通る髪も、白磁のような肌も、宝石の如く輝く瞳も。そして何より、それらに優る心の美しさも」

 浮かべる笑みは、蕩けるように甘い。透徹な声は世界中に知らしめんばかりに高らかに愛を語る。
「全てが魅力的で、とても愛おしく思います」

「どうか貴女が、いつまでも貴女でありますように」
 願うように言い、優美な仕草で額に口づけがされた。
 そっと、触れるか触れないかの一瞬の口づけ。
 それは、まるで一枚の完成された絵画のような光景だった。

「……まぁ! まぁ!」 
 マリアドールは頬を薔薇に染め、興奮気味に口元を押さえて小さな声を漏らす。
「こんな感じでしょうか。効果があれば良いのですが」
 色白の肌には、照れる様子は微塵もない。温厚な笑みは来た時と変わらずマリアドールへと向けられた。

「情熱的でとっても素敵だったのよ! 霞架!」
 無邪気に拍手するマリアドールは心からの賛辞を贈る。
「マリアだったらきっとドキドキして……」
「そうでなければ、マリアさんだと思って口説いた甲斐がありません」
 さらりと言われた言葉に少女は目を丸くして驚いた。
「……え、」
 鼓動が高鳴る。

 視線の先では悪びれない男が悪戯に微笑んでいる。薄い唇に指が当てられ。
「……これ、女神様にはナイショですよ?」
 声が密やかに囁かれれば、蜜華が一層甘く煌く。

「もう、霞架ったら」
 狡いひと、と小さく花の唇が呟いた。頬が熱い。少女の表情には咲き始めの花の清潔な色香がある。初々しく潔い色香はふとした瞬間、ぞくりとするほどの艶を感じさせる。
「女神様には言えないのよ」
 さらり、銀の髪が流れる。顔ごと目を逸らすようにしている少女の声は、蜂蜜のように甘く耳朶を擽る。
「秘密、ね? ええ」
 華水晶は真似をするように花唇に人差し指をあてて上目遣いをした。その頭へと優しく手を乗せ、霞架はそっと頷いた。

「……あら」
 ふと、マリアドールが何かに気づいた様子で声をあげた。
「どうしました?」
 一瞬のうちに纏う空気を無邪気に変えてしまった姫君へ、霞架は可笑しそうに口元へ手をあてて問いかけた。この姫君と共にいると、退屈しないのだ。

「霞架! 霞架!」
「はい」
 花綻ぶ様な笑顔でマリアドールは迷宮の一角を指す。壊れやすい花水晶の如き少女はしかし、天真爛漫に男を引っ張り、振り回すのだった。
「チョコレートパーティをしているのだそうよ! 甘いお菓子で休憩していくのも良いと思わなくて?」
 迷宮の空気が温かく変わっているのを感じながら、霞架は「勿論、」と頷いた。心の中では、成功を当然だと思いながら安堵する気持ちがあった。
 迷宮の仕掛けに、他の攻略者に、負けたくない――彼は、無意識にそう思っていたのかもしれなかった。己が心をほんの僅かに顧みて、霞架は幽かに吐息を漏らす。

「そうですね、甘いものは好きですよ」
 穏やかに霞架が頷けば、マリアドールは明るく声を放つ。
「知っているわ!」
 声は誇らしげだ。それがまた、愛らしい。

――秘密の花迷宮に、黄金は煌めいて

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『イースターバニー♪』

POW   :    てやてや! 退治しちゃえー!

SPD   :    つかまえた! 確保完了!

WIZ   :    どこから出てるの? 出元を探るよ!

👑11
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●『オルゴール』
 迷宮『キャンディ・ムーン』の2層には、不思議な空と大地が広がっていました。そして、カラフルなエッグたちがぴょんぴょんと元気に跳びはねていました。

「このエッグたちを退治していけば、次のフロアへ進めるだろう」
 エッグたちは、攻撃をしてくることもなく只跳びはねていました。
「愛らしいエッグよ、許して欲しい。次のフロアに進むためなのだ」
 兎の王子さまはちょっぴり罪悪感を抱きながらもエッグたちをぽこぽこと割り、次のフロアへと進んでいきます。

 エッグは、割ると色々な宝物を生み出しました。
 次のフロアへと進む王子さまの手には、小さなオルゴールがあったといいます。オルゴールが奏でるのは、穏やかで優しい愛の歌でした。

「戦いが終わったら、このオルゴールを女神さまに捧げよう」
 王子さまはそう呟き、オルゴールに心を和ませるのでした。

●カラフルエッグ・フロア
 やがて、フロアはあたたかな春の気に充たされた。そして次のフロアへと繋がる扉が静かに開かれた。
 迷宮攻略者たちは、そおっと2層フロアへと足を踏み入れた。

「わあ……?」
 迷宮の2層は一面の星景色であった。
 足元は、月面にも似てところどころにクレーターがある。頭上には不思議なことにどこまでも広がるような夜空。月は、なかった。代わりに見えるのは青色の美しい惑星――そう、ここは月面によく似たフロアだった。

 そのフロアを、ぴょこぴょこと不思議な卵たちが跳び回っている。
 カラフルな卵をぽこりと軽くたたけば中から色々なものが出て来るのだ。甘いお菓子、ふわふわの動物たち、伝説の武器、幻獣、時には敵も。
 攻略者たちはそんな卵をひとつひとつ叩き、次のフロアへの扉を開けなければならないのだった。
ショコ・ライラ
思いつきで始めたチョコパーティだったけど、いっぱい来てくれたなぁ(満足げ)

さて、…おお。お月様の卯……じゃなくて卵か
綺麗で幻想的な景色だねぇ、アルダワは飽きないなぁ
ヒーローズアース出身の私は興味津々だよ

ふむ。敢えて敵を探して倒さなくてもいいのなら、わざわざ危ない目に遭うことはないな
私は別に戦うの好きじゃないしね

《FoP》…卵の纏う僅かな香りを確かめて
よし、これっ。ノックノック

うん、チョコレート。大正解
流石にチョコの匂いは間違えませんとも
……んっ。んふふふ、美味しいじゃない

一通り食べたら軽く危なくないのを叩いて回ってみようか
伝説の武器ってどんなんだろ?
わ、卵から卯が出てきた
飽きないなー、ほんとに


明智・珠稀
ふふ、愛を囁け、甘ぁいチョコもいただけて幸せですね…!

…おや、これは月の世界でしょうか…!
私も兎になったような気持ちです、ふふ!(うっとり)

さて、この卵を割れば良いのですか。
果たして何が出てきましょうか…!
(UC【サウンド・オブ・パワー】でご機嫌に歌いながら
 踊るようにレイピア【薔薇奏風】でツンツン突きつつ割っていく)
ふふ、新しい衣服や下着とか…
後は、何かお土産に出来そうなものが出てきたら嬉しいですが…!

※卵の中身は完全お任せ希望ですっ!
 ネタでもシリアスでも大歓迎です♡

敵が出てきたら「ふふ、この場には無粋ですよ♡」とレイピアで撃破
甘い物は食べたり周りに分けたり

※アドリブ&絡み&ネタ大歓迎♡


仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
「約束は破ってはいけない。特に女性との約束は…ね」
春の気をもらった意味を考えろ
託された意味を考えろ
これに応えない男は馬鹿だ

SPD
エッグを探しながら、物語にでてくるオルゴールの意味を【学習力】で考える
恋の歌、罪悪感
エッグを割ればいろんなものが出てくるなら、王子の気持ちもでてこないか?
効率よくエッグを探すため【影】達を呼び出し、【失せ物探し】も使用して特別なエッグがないか探す
特別な奴がなくても最後は割ればいい
影達も心中を察したのか困惑しているようだ
大丈夫だとつぶやき【影】達を放つ

「そっか。戻るつもりがないのではなく、戻れないと悟ってたのか…」
「それを女神も分かって邪魔したのか」


草野・千秋
かわいいエッグ、たまごを割るのですね
昔UDCアースで売られてきたたまごの形をした
チョコレートがあるのを思い出しました
中におもちゃとかのおまけ付きなんですよね
今回のたまごのおまけは
穏やかとはいかないようですが
一個一個着実に叩いていきますよ

POW
たまごを叩いてかわいいものやお菓子が
出てきたらほんわりと笑み
伝説の武器が出てきたら誇らしく掲げてみる
ってそれどころではない!
災魔が出てきたら戦闘に入りますよ
UCで攻撃力アップ
己が認め信じた者
それは共に戦う仲間だ
2回攻撃、範囲攻撃、怪力などを使って攻撃
武器改造による炎の属性攻撃も付与
仲間が攻撃されそうなら
盾受け、かばうでカバーリング


白波・柾
カラフルエッグ、可愛らしいな
これらをぽこんと叩けばいいのか?
刀の鞘でぽこぽこと叩きつつ、出てきたものを確認していこう

甘いお菓子も出てくると聞いたが、これは持って帰れるのだろうか……
住処のみんなに配ったら喜ばれそうなものばかりだな

ふわふわの動物も可愛いな
手触りが綿雪のようで最高だ
伝説の武器……? 刀剣類なら興味はあるが、出てくるといいな
刀だったらくいついてしまいそうだが、ここはアルダワだからそれはないかな

敵が現れたら
「誘導弾」「オーラ防御」「カウンター」「なぎ払い」を使用して
『正剣一閃』で攻撃していこう
できるだけフロアと他にはダメージを与えずに撃破していきたい


バレーナ・クレールドリュンヌ
●アドリブ&おまかせたまご

【SPD】

【心情】
色とりどりのカラフルなイースターエッグに、一面の星に浮かぶ青い星。
どうしようもなく、ときめく心がふわふわの羽毛にくすぐられるような、そんな心が躍る光景に、思わず少女のような一面を。

【たまご探し】
いろんな色のたまごに、もうすっかりときめいて。
気分はまるで不思議の国のお姫様、軽やかなステップで飛び跳ねるたまごを一生懸命つかまえて、やさしくコンコンと中に誰がいるのか尋ねてあげて。

「こんにちは、中にいるのはどなた?」

平和な相手なら、きらきら瞳を輝やかせて、ちょっと驚くような相手なら、小さく驚きの声をあげて。

わたわたとたまごたちと戯れながら、穏やかな時を。


トリテレイア・ゼロナイン
卵を叩けば道が開く……なんとも不思議な部屋ですね
出てくるものはランダムなようなので、念の為盾を構えて叩いていきましょう

何が出てくるのでしょうか?
……手のひらサイズの鍵穴がついた箱が出てくるとは。それにしても美しい兎の意匠ですね。
そして周りの卵達を叩いてみれば大量の鍵が出てきました

これはもしや正しい鍵を見つけろということなのでは?卵を割ってゆくついでに鍵を探してみましょう
(様々な意匠の鍵を見つけては鍵穴に入れることを繰り返す)

まるで宝探しですね
(苦笑しつつ正解の鍵を見つけて箱を開けてみると光を放ち、部屋の壁に影絵として兎の王子の童話のストーリーが映し出される)

……良い物を見ることが出来ました……


ジャック・スペード
――此の光景は少し懐かしいな
もっとも俺の知ってる宇宙には、こんな卵いなかったが

然し、この卵たちはまるで小動物のようだ
愛らしい雰囲気で気が引けるが……せめて優しく捕まえよう
後ろからそっと近づき抱き上げれば、細やかな力で表面をノック

普通の卵は割れると黄身が出て来るが、お前たちは宝を生むのか
果たして何が出てくるんだろうな
武器……は、ガジェットがあるので俺には不要か
普段あまり口にしない菓子なども有りだが

――ああ、そうだ
彩り鮮やかな花がたくさん出て来ると良い
宇宙には花なんて咲かないが、だからこそ
豊かな彩で溢れる月面が見れたら愉快だと、そう思った
我ながら似合わない上に夢のような話だが……童話らしいだろう



●それは、月に似て
 空気が澄んでいた。
 視界一杯広がる景色は不思議な星の河、少し冷たい漆黒の宙。足元には草ひとつ生えない大地が広がっていた。

 横に引かれたギザギザのライン、大きさもまちまちの泡のような水玉模様、ドットが集まりラインを退いて、星が元気に散っている。
 草ひとつ生えない地表ではカラフル・ハッピーなエッグたちがまるで生き物のようにぴょこぴょこと跳ねまわっている。

 ふしぎな光景だが、ここは迷宮だ。無限に広がるように見える宙もイミテーション。攻略者たちはそんなフロアにいるのだった。

●バレーナ・クレールドリュンヌは月に泳ぎて
 色とりどりのカラフルなイースターエッグに、一面の星に浮かぶ青い星。
 どうしようもなく、ときめく心がふわふわの羽毛にくすぐられるような、そんな心が躍る光景。
 白き繊手を伸ばしてみれば、優しい青に手が届く気がして、人魚姫は微笑んだ。青き宝石のような惑星はあたたかな水と生命を湛えている。眼前のそれは、きっと偽物だろう。だが、それがなんだというのだろう。

 バレーナ・クレールドリュンヌ(甘い揺蕩い・f06626)は少女のように目を輝かせ、月面を優雅に泳いだ。真珠色の尾鰭がゆうらり、揺れれば星空に泡沫が浮かび消えていく。
 カラフル・エッグたちが跳ねる中を月面を泳ぐように舞えば、まるで一緒にダンスをしているようで、気分は不思議の国のお姫様。
 海色の翠を湛えた瞳はきらきらと輝いた。その耳には、迷宮攻略者の仲間たちの声が聞こえていた。

(他の攻略者の方々ね……)
 バレーナは双眸を瞬かせた。そして、不思議に浮遊する宇宙鉱石の影へと身を隠すのだった。攻略者の中には、見知った顔もちらほらといる。それを知ってバレーナは瞳を和らげた。

●攻略者たちは集う
 白月の人魚姫が見守る中、攻略者たちが賑やかに月面を歩んでいる。

「ふふ、愛を囁け、甘ぁいチョコもいただけて幸せですね……!」
 ご機嫌に目を細めたのは明智・珠稀(和吸血鬼、妖刀添え・f00992)。
(思いつきで始めたチョコパーティだったけど、いっぱい来てくれたなぁ)
 ショコ・ライラ(そこにちょこんとショコライラ・f17060)も満足気に微笑む。

 珠稀は周囲を跳びまわるエッグたちにワクワクとした目を向けた。
「ここは月の世界でしょうか……! 私も兎になったような気持ちです、ふふ!」

「さて、……おお。お月様の卯………じゃなくて卵か。綺麗で幻想的な景色だねぇ、アルダワは飽きないなぁ」
 ヒーローズアース出身のライラは興味津々で景色を楽しんでいた。
 スペースシップワールド出身のジャック・スペード(J?・f16475)もぐるりと周囲に視線を巡らせ、呟く。
「――此の光景は少し懐かしいな。もっとも俺の知ってる宇宙には、こんな卵いなかったが」
 大きな漆黒のボディの足元をぴょこぴょことカラーエッグが跳ねている。それは不思議に心和む光景だった。

「カラフルエッグ、可愛らしいな。これらをぽこんと叩けばいいのか?」
 白波・柾(スターブレイカー・f05809)が妖刀・星砕丸の鞘でエッグをぽこっと叩いてみた。
 パカリ、エッグが割れて眩い光が一瞬放たれる。仲間たちが見守る中、現れたのはふわふわのシマエナガだ。
「生き物が出て来たぞ」
 仲間たちが見つめる中、シマエナガは不思議そうに攻略者たちを見上げて首をかしげた。その、つぶらな瞳。
「可愛いな、手触りが綿雪のようで最高だ」
 柾は驚いたように目を丸くしてそっとシマエナガを指で撫でる。ふわふわのシマエナガはとても嬉しそうに羽を震わせ、ちいさく鳴いた。その体温が、あたたかい。
「うちに来るか?」
 柾は優しく微笑んだ。

「かわいいエッグからかわいい生き物が……、よ、よーし。たまごを割ればいいのですね」
 草野・千秋(断罪戦士ダムナーティオー・f01504)が月面を跳ねるエッグに目を瞬かせ、呟いた。
「昔UDCアースで売られてきたたまごの形をしたチョコレートがあるのを思い出しました。中におもちゃとかのおまけ付きなんですよね」
 千秋は跳び回るエッグにおそるおそる手を伸ばす。するり、と手をすり抜けてエッグは逃げていく。けれど、両手で包み込むようにキャッチすれば容易く捕まえることができた。
「何が出て来るかわからないんですよね?」
 確認するように周囲を見上げれば、仲間の攻略者たちが頷いた。
「危険なものが出てきた時に対応できるよう、警戒していきましょう」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が盾を構える。
「卵を叩けば道が開く……なんとも不思議な部屋ですね」
(ふむ。敢えて敵を探して倒さなくてもいいのなら、わざわざ危ない目に遭うことはないな)
 ライラはぼんやりと考えを巡らせ、仲間たちへと意思を伝えた。
「私は安全そうなエッグを……チョコレートを探すよ」
 猟兵ショコ・ライラがぼんやりとしているようで仲間との協調作戦においては信頼のおける実力者であることは、知る者も多い。
「チョコレートの入ったエッグを。確かに、ライラ様ならできそうですね」
「うん、私は別に戦うの好きじゃないしね」
 頷き、ライラはエッグの選別に移る。彼女のユーベルコードを使えば容易い仕事であった。

「名前は、なににしようかな」
 柾がシマエナガを頭に乗せて考えこむ。
「エサは何をやれば……」
「調べてやろうか」
 ジャックが情報端末でシマエナガのデータを調べ始めた。

 思い思いに散らばって攻略者たちはエッグを叩き始めている。

「今回のたまごのおまけは穏やかとはいかないようですが、一個一個着実に叩いていきますよ」
 千秋が慎重にエッグを叩く。
「さて、この卵を割れば良いのですか。果たして何が出てきましょうか……!」
 珠稀はご機嫌に歌を歌う。

「うさぎの王子様 エッグを追って♪
 童話の騎士たちが 重い鎧を身に纏い♪
 ああエッグたちが 逃げていく
 そんなノロマじゃだめだよと ぴょんぴょん跳ねて逃げていく……♪」

 ユーベルコード『サウンド・オブ・パワー』に気持ちが乗り、楽しい気持ちが全員に伝われば、力が湧いてくる。

「他人事とは思えない歌詞ですね……」
 トリテレイアが呟いた。

「約束は破ってはいけない。特に女性との約束は……ね」
 そんな中、仁科・恭介(観察する人・f14065)は真剣な目をしていた。
(春の気をもらった意味を考えろ。託された意味を考えろ。これに応えない男は馬鹿だ)
 恭介は迷宮『キャンディ・ムーン』の1層にいた女神のことを考える。女神に対して、この先の攻略を通して何かできないかと。
「女性との約束……王子様は破ってしまったのですよね」
 恭介の声を聞き、トリテレイアが若干の不満を燻ぶらせていた。
「恭介様は、あの女神様をなんらかの形で救済したいとお考えなのでしょうか?」
「ああ、王子の情報を探して持ち帰ることができれば、と」
「それであれば、共に情報を探しましょう。私も千年放置された女神様のお話には納得をしていないのです」

 恭介は物語に考えを巡らせる。
「オルゴール、恋の歌、罪悪感」

 近くでトリテレイアがエッグを割っている。
「これは……?」
 出てきたのは、手のひらサイズの鍵穴がついた箱だった。
「美しい兎の意匠ですね」
「箱? 中には、何が入っているんだ?」
 恭介が顔を寄せる。
「お菓子がいっぱい入っている箱とかよくありますね。あとは、宝石とか……」
 千秋がワクワクと覗き込む。
「チョコレートの匂いはしないみたいだよ」
 ライラが残念そうに首を振る。
 トリテレイアは箱を開けようとし、すぐに首を振る。
「開きませんね。鍵がかかっているようです……」

「鍵? これだろうか」
 シマエナガを頭に乗せた柾が鷹の意匠の鍵を差し出した。
「柾様、この鍵は?」
「そこのエッグから出て来たんだ」

「鍵なら、こっちもありますよっ!」
 珠稀がいつの間にか頭にウサミミカチューシャをつけていた。差し出したのは薔薇の意匠の鍵だ。
「珠稀様、その鍵とウサミミは」
「もちろん、エッグ産ですよ、ふふ!」
 にこにこと笑う珠稀の動きにあわせてウサミミがぴょこりと揺れる。

 恭介は影を呼ぶ。
「エッグを割ればいろんなものが出てくるなら、王子の気持ちがわかるようなものが何か出てこないだろうか? と、考えていたところなんだが」

「童話のキャラクターの気持ちがわかるもの、ですか。うーん……箱を開けてみたら何かわかるでしょうか?」
 千秋が首をかしげる。

「失せ物探しは得意なんだけどね、気持ちを探すとなると難易度が高いだろうか」
 呼び出した影たちも月面をうぞりと蠢き戸惑う様子だ。だが、恭介は呟いた。
「大丈夫だ。いざとなったらこの月面全てひっくり返してでも見つけてやるさ」
 その言葉は冗談めかしていたが、瞳は痛いほどに真剣であった。

 真剣な気持ちは仲間たちに伝わる。
「そういうことなら」
 仲間たちは、頷いた。

「しかし、鍵は合わないようですね」
 攻略者たちが鍵を見つけるたびにトリテレイアのもとへと持っていく。
 トリテレイアは集まった鍵を試しに鍵穴に差そうとするが、なかなか合う鍵は見つからなかった。
「これはもしや正しい鍵を見つけろということなのでは?」

「何かに挑戦なさるなら皆で挑みましょう! そのために仲間がいるのです」
 変態と名高い珠稀だが、その協調性は非常に高かった。迷宮攻略に参加しているメンバーの中には依頼経験豊富な者も多い。
「はい! 僕も、全面的に協力しますよ」
 千秋がおっとりと微笑む。
「もちろんだよ。みんなでがんばろうね」
 ライラがふわりと笑う。

 彼ら猟兵は互いに互いを知っていた。深くは知らずとも、別の依頼で、あるいは旅団や猟兵たちの情報を扱った情報誌で、活動的な猟兵は自然と顔が知られ名前が知られていくものだ。居合わせたメンバーは、互いに顔を見知っている者が多かった。

「皆で攻略しましょう」
 声には、信頼が宿る。

(わたしも、お手伝いできるかしら?)

「待って、待って」
 バレーナは夢中でたまごを追いかける。
 ぴょこり、ぴょこり、軽やかなステップで飛び跳ねるたまごたち。
「つかまえたわ」
 ふわり、抱きしめるようにつかまえて、やさしくコンコンと殻をたたいて尋ねてみる。
「こんにちは、中にいるのはどなた?」
 王子様の気持ち、見つかるかしら。ドキドキしながらノックすれば、中からは愛らしいお姫様の意匠の鍵が出てきた。

「鍵、出てきたわ……」
 人魚姫はパアっと顔を明るくした。

「こんにちは……! わたしも、気持ちを探すのにお手伝いしたいわ」
 バレーナはニッコリと微笑み、攻略者たちのもとへと泳いでいく。鍵は箱に合わなかったが、また探して持ってくると言えば『仲間』はとても喜んでくれた。

「たくさん持ってくるわ……!」
 人魚姫が月面を泳ぐ。
 星々が優しく見守り、幻想的な水の惑星が煌めき、同じ気持ちで動く仲間たちの温度が傍にある。
 フロアに揺蕩う空気は1層と違って暖かくなることは、ない。
 それなのに――、

「さっきより、あたたかくなったみたい」
 バレーナはそっと呟いた。

●月面に花畑を
 エッグからはビックリするようなものが出て来ることもあった。それは例えば、バチバチと火花を散らす小さな線香花火だったりだ。
「きゃっ」
 ちょっと驚きの声をあげてバレーナが眼を丸くしていると、黒いウォーマシンのジャックが何事かと寄ってきた。
「敵では、ないようだな」
「あ、心配をおかけしてごめんなさい。花火だったの」
 花火はすぐに火種を落として沈黙してしまう。ジャックはそれを見てぼそりと呟いた。
「まるで人の一生のようだ、とよく言われる花火だな」
「そうね」
 消えてしまった花火は、少し寂しそうに思えた。バレーナはそっと花火の残骸を手で掬う。

 ジャックはそんな人魚へと視線を移し、怪我のない様子を確認して安心した。
「先に転移されていた攻略者か」
 軽く挨拶をするように手をあげ。挨拶をした後はさっさとエッグへ向かっていく。
 白皙の人魚は黒い鋼鉄の背に柔らかに礼を告げた。
「心配してきてくれたのよね? ありがとう」

 鋼鉄は振り向くことなく淡々と声を発して応じた。
「敵が出たら倒す。安心してエッグを割るといい」

 そんなジャックの見つめる視線の先ではぴょこりぴょこりとエッグたちが跳びはねている。
「然し、この卵たちはまるで小動物のようだ」
 愛らしい雰囲気に気が引ける。だが、これも先に進むためだ。ジャックはどことなく童話の王子様と同調するような意識を持ちながら、ミッションを遂行することにした。
(せめて優しく捕まえよう)
 少し叩いただけでくしゃりと割れてしまうエッグ。なんとなく壊しにくいと思いながら、ジャックはそっと近づき抱き上げた。

(優しいのね)
 バレーナはその様子を見ながらゆらゆらと尾鰭を揺らした。見つめる先で、黒きウォーマシンはバレーナの視線を全く気にせずにエッグを視ている。それが、何故か大切な儀式のように感じられてバレーナはじっと見守り続けた。

「普通の卵は割れると黄身が出て来るが、お前たちは宝を生むのか」
 漆黒のウォーマシンは、語りかけるようにしながら細やかな力で表面をノックする。その手付きは限りなく優しい。

(果たして何が出てくるんだろうな)
 黒のジャックは機械の身の内で想像の翼を羽搏かせていた。
(武器……は、ガジェットがあるので俺には不要か。普段あまり口にしない菓子などもいいが)
「――ああ、そうだ。彩り鮮やかな花がたくさん出て来ると良い」
 ぽつり、と機械音声が呟いた。
 その手にあるエッグがやわらかに光を放つ。

「宇宙には花なんて咲かないが、だからこそ」
 そして、言葉に誘われたかのようにエッグからは白い花が生まれた。

「お花が出たわ……」
 バレーナが声を零すと、ジャックがその存在を初めて思い出したかのように振り向いた。
「このエッグは、花も生むらしい」
 返す声は事実を淡々と告げるようであった。ウォーマシンの表情は窺えない。だが、バレーナにはその大きな黒い姿が嬉しそうに見えた。だから、そっと微笑んだ。
「きっと、ジャックさんの気持ちにこたえてくれたのね」
「豊かな彩で溢れる月面が見れたら愉快だと、そう思った。我ながら似合わない上に夢のような話だが……童話らしいだろう」
 ふたりは優しく優しくエッグを叩いていく。エッグからは、甘いお菓子が出ることもあり、鍵が出ることもあり、花が出ることもあった。
「花は植えれば根付くだろうか?」
「ここは迷宮だし、根付くかわからないわね」
 わからないなら、試してみてもよいだろう。ジャックは黙々と月面を掘り、花を植えていった。
「わたし、もっと花を集めて来るわ」
 バレーナはふわりと微笑み、月面を泳いでいく。
「ああ、頼むぞ」
 ジャックは柔らかな音声で応えた。

 鍵が出てくればトリテレイアのもとへと持っていき、花が出てくればジャックのもとに集めていると、やがて仲間たちは花が集まる様子に気付いた。
「わ、どうしたのですか? 花がいっぱい」
 千秋が眼鏡の奥の瞳をあたたかに笑み、自分がエッグから出したチューリップを差し出した。
「このチューリップも、植えましょうか?」
 そして、ジャックの隣にしゃがみこんでチューリップを植えた。
「タンポポ、あるよ」
 ライラがふんわりと笑い、タンポポを植える。
「スズランがありますよ!」
 珠稀が両手一杯に白花を抱えてやってきた。

「花か……」
 恭介がふと眦を和らげる。
「真っ直ぐ道を往くだけが攻略ではない、ね」
 足元では影たちがポピーを捧げ持つようにして侍っていた。
「花が出たら、植えるようにするよ」
 いつの間にか月面に漂う幾つもの花の香り。それに気付いて恭介は柔らかに微笑んだ。
「花を植えるのか?」
 柾は頭の上から垂れてくるブルーベルをくいと引いた。ブルーベルをくわえて遊んでいたシマエナガが不服そうに身を震わせる。
「放したがらない、困ったな」
 困った様子で呟けば、仲間たちは一斉に笑み声をあげた。
「では、私からもこの花を」
 トリテレイアもブリジェシーを大切そうに月面に捧げた。

 皆が鍵を集め、花を集める。
 気付けば、月面に花畑ができていた。

「花畑みたい! みて、わたしたち、宇宙に花畑を創ってしまったわ」
 バレーナの白皙の頬が桜色に染まる。

「ああ……、こんな光景は、見たことがない」
 宇宙空間に広がる一面の花絨毯を見てジャックが声を放つ。その声は、先ほどまでよりずっと感情豊かにバレーナには聞こえる――あたたかい、と。
「俺たちがこの景色をつくったんだな」
 声は、そう言って笑うのだった。

●攻略者たちのファッションショー
「さあ! この調子で乱獲ですよ、ふふ!」
 月面の狩猟者と化したダンピール、珠稀の薔薇の装飾の入ったレイピア『薔薇奏風』が華麗に風を切り、ツンツンと卵を突いて割っていく。頭ではウサミミがひょこりと楽しそうに揺れていた。

「これは……白衣……」
 白衣が出てくれば身に纏い、

「こっちは軍服」
 軍服が出てくれば着替え、

「シルクハット……」
 シルクハットをひっくり返せば、
「シルクハットからウサギが!」
 なんとウサギが出てきたのだった。そっと撫でれば驚くほどやわらかい毛が指を擽る。肌は、ぬくぬくと生命を伝える。
「ふわふわですね、ふふ……♪」
 珠稀はにこにこと微笑んだ。

「わ、服がいっぱい」
 ライラがびっくりしたように目を瞬かせる。気づけば珠稀のまわりには衣装の山が出来ていたのだ。

「おや、これはメンズ用セクシーランジェリー」
「いっぱい出してるねえ」
「女性用の衣装もありますから、もしよかったらどうぞ!」
 珠稀がご機嫌で差し出した衣装を数点つまみ、ライラが好みのものを選んでいると他の仲間たちも寄ってきた。

「ファッションショーいかがですか?」
 珠稀が誘うように笑いかける。
 恭介が考えるようにしながら問いかけた。
「着替える場所がないんじゃないか」
 千秋があたふたと廻りを見る。
「異性がいますからね……珠稀さんはどうやって着替えたんですか?」
「ふふ、こうするのです!」
 珠稀はユーベルコードで青薔薇を散らし、薔薇に隠れて早着替えをした。
「うっ……、魔法少女の変身シーンみたいです。それは珠稀さんにしかできないかも」

「今度はファッションショーか? 賑やかだな」
 柾が楽しそうに目を細ませた。
「着替えるのじゃなくて羽織るだけなら、更衣室も必要ないな」
 手には和装コートや陣羽織やマントがある。なんと着ぐるみまであった。

「私は実は着ぐるみは得意なのですよ」
 トリテレイアが白クマの着ぐるみを着用しながら言えば、対抗するようにジャックが黒クマの着ぐるみを手に取り、見つめた。
「着ぐるみか……これを着る必要性が理解できないんだが」
 真剣に悩むような響きには、仲間たちが楽しそうに笑うのであった。

●イースター・スイーティア
「さて、そろそろチョコレートハンティングだよ」
 ライラがユーベルコードを発動させていた。『FoP』――フレグランス・オブ・ピットフォールにより、ほんの僅かな香りの違いを瞬時に嗅ぎ分けられるようになったライラは卵の纏う僅かな香りを確かめていく。

 ふわり、微かに漂う芳醇なカカオの香り。
「よし、これっ」
 ライラはコンコン、と優しく卵をノックする。

 卵から出てきたのはパステルカラーのアーモンドドラジェと愛らしいキスチョコ・ストロベリー。

「うん、チョコレート。大正解」
「すごい! 正解じゃないですか」
 正しくチョコレートのエッグを言い当てたライラを見て千秋がにこにこと拍手する。
「チョコレートの匂いは間違えないよ」
 えっへん、と胸を張り、試しにとひとつ摘まんで味わってみれば、蕩けるようでいて、少し甘酸っぱい。
「……んっ。んふふふ、美味しいじゃない」
 ライラは甘いチョコレートにニッコリと笑った。

 迷宮攻略者たちは鍵を集め、花畑をつくり、衣装を楽しみ、そしてお菓子を沢山獲得していた。

 ぽこり、と軽い音とともに出てきたのは恋色ハートのローリーポップ。
「わ、可愛いなあ」
 千秋は大切そうにローリーポップを抱え、ほんわりと笑みを浮かべた。

 ラルムフレーバーのムースグミが出てくれば、バレーナは目をきらきらさせて指先でグミをつついた。夜空を彩るようなグラデーションの2色がつつくたびに混ざりあうように煌めくグミは幻想的で、愛らしい。
「とっても綺麗でふしぎ……」

「このキャンディも、とても美味しいですよ!」
 珠稀がしゅわしゅわ酸っぱく爽やかなベリー・ベリーキャンディを仲間たちに配っている。
「幸せのおすそわけです、ふふ!」

「それにしても、箱を開ける鍵はなかなか見つからないね」
 恭介がトリテレイアが箱に鍵を試す様子を視ながら肩を竦めた。その足元では、影たちがバニラココナッツの芳香甘やかなカムディやコットンキャンディのレインボー・ミニブーケを捧げて控えている。

 ラズベリーとリコリスのスティックキャンディと仲間たちから分けてもらったお菓子の数々を抱え、柾が呟いた。
「土産がたくさんできたな」
 その瞳がふと親しきものが歓ぶ光景を想像してあたたかに微笑む。
「住処のみんなに配ったら喜ばれそうなものばかりだな」

「土産、か。ならばこれも持っていくといい」
 ジャックが菓子の籠を差し出した。カシスとブラックベリーのネオングミに優しくフラワータブレットが寄り添って、ジンジャーマンクッキーの隙間を埋めるようにしてスターラムネが顔を覗かせている。

「お菓子とお花に囲まれて、楽しい月面旅行ね」
 バレーナはお菓子にきらきら瞳を耀かせ。わたわたとたまごたちと戯れながら、笑っている。

●武器と敵
(伝説の武器も出て来るんだっけ? どんなんだろ?)
 ライラがふと好奇心を覚えつつ、エッグを叩いた。
 エッグからはウサギがぴょこりと出てきた。
「わ、卵からウサギが出てきた。飽きないなー、ほんとに」
 ウサギは元気に跳ねて花畑へと入っていく。そして、
「あ、さっき出したウサギが」
 珠稀が声をあげた。
 珠稀が出したウサギとライラが出したウサギが鼻先をふんふんとつけて挨拶し、やがて2匹で仲良く戯れる。
「仲良しになったみたい」
 ライラは微笑ましく目を細めた。その耳に、仲間の声が届く。

「伝説の武器……?」
 視れば、柾の手元に一振りの刀が出現していた。感触を確かめるようにして見つめる瞳は興味津々に輝いている。

「こっちも、武器が出てきましたよ」
 付近からは同様の声があがる。

「こ、これは、伝説の武器……でしょうか?」
 いかにも聖剣といった風情で神秘的に透き通る刀身を持つ剣を千秋は誇らしく掲げてみた。
「なんだか、剣を手にしただけで自分が強くなったような気がしちゃいます」
 剣を見つめる瞳は少年のようにきらきらと煌いた。

「きゃっ、サメが……」
 バレーナが小さく悲鳴をあげた。
 卵から狂暴なサメの災魔が出現したのだ。

「て、敵ですね!」
 仲間へと襲いかかる影に気付き、千秋は慌ててユーベルコードを発動させる。『Judgement you only』――それは、正義の誓い。己が認め信じた者、それは共に戦う仲間だ。仲間のために決して挫けない正義の心が燃え上がり、美麗な剣が心に応えるかのように輝いた。
「僕の手の届く範囲で、他の人に怪我をさせたくないんですよ!」
 千秋は仲間を庇い、敵の一撃を確りと受け止めた。普段はぽやーっとしている青年は誰かのために戦う時、驚くほど献身的で熱い心を魅せるのだ。

「ふふ、この場には無粋ですよ?」
 軽く窘めるように珠稀が薔薇奏風を舞わせてサメを貫く。
「せっかく皆でつくった花畑を荒らされても困るしな」
 柾はオーラを巡らせて敵の攻撃を凌ぎ、鋭く妖刀を薙ぎ払う。
 正剣一閃。鮮やかな刀の軌跡が白月のように閃いて災魔を黄泉へと導いた。

●鍵
「本当に何が出て来るかわからなくて、まるで宝探しですね」
 たくさんの鍵に囲まれて笑うトリテレイア。その手には、また新たな鍵があった。鍵は時計の意匠が凝らされている。
 すっかり慣れた様子で鍵を試してみれば、
 かちゃり。
 呆気なく鍵が開いた。

「あ……、開きましたよ」
 声に仲間たちがハッとする。

 蓋を開けてみれば、目映い光が周囲に迸る。

――……、

 星空へと幻影が映し出される。
 花畑の中、仲間たちは其の幻影を観た。

●幻影
 夜を凝縮したような幻影が動いている。

 それは、ローブに身を包んだ白い髭の老人だった。老人は膝に乗せた老猫を撫で、嬉しそうに語りかける。
「孫がもうすぐ生まれるんだ」
 時計の針がちくたくと時を刻む。
 手には、万年筆があった。
 机には不思議な色のインク瓶と神秘的な光沢の紙がある。
 時計が時を刻む中、老人がたまに咳をしながら紙に文字を綴っていく。

◆童話『うさぎのおうじさま』
 おとぎの国がありました。おとぎの国には、兎の王子様がいました。
 ある時、おとぎの国に迷宮『キャンディ・ムーン』があらわれて、災魔が国を滅ぼそうとしました。

「レイピアを手に、勇気をこころに。おやつにキャンディを忍ばせて。騎士たちよボクについてくるがいい」
 兎の王子さまは、赤いマントを翻し、おみみをぴょこぴょこ揺らしながら、白銀の鎧騎士をつれて迷宮に挑みました。

 迷宮『キャンディ・ムーン』の1層には、気まぐれな女神さまがいました。女神さまは、先へ進もうとする兎の王子さま一行を邪魔しました。しかし、王子さま一行は先へと進んでいきました。
 1層をクリアすると、2層にはカラフルなエッグたちがぴょんぴょんと元気に跳びはねていました。エッグたちを割り、王子さま一行次のフロアへと進んでいきます。

――……、

 老人が咳き込んだ。
 手元にはたくさんの紙があった。紙には読みやすいようにと丁寧に綴られた文字が並んでいる。

 コン、コン。

 扉を叩く音がする。
 老人は扉へと向かった。

◆兎の王子様
「女神さま、ボクはあなたのもとに戻ると約束しよう」
 兎の王子様がよく通る声でしっかりと言葉を紡ぐ。
「そんなことは、ありえないわ。だって物語は災魔を倒せば終わってしまうのだから。この世界はそれまでのものでしか、ないのよ」
 女神が諭すように告げる。だが、王子様は確かな意思篭る瞳で言い切った。
「ボクは誓おう」
 その瞳は、どこまでも真っ直ぐに女神の心を見つめるのだった。

「生まれたか、そうか」
 老人が手紙を読んでにこにこと笑顔を浮かべている。
「にゃあー」
 老猫がするりと顔を擦りつけ、老人に甘える仕草を見せた。
「おお、おお。お前も見るか? わしの孫が生まれたんじゃ。わしの孫じゃぞ。もうすぐ会える……」

――♪

 迷宮世界に麗しい音楽が響いていた。
「ああ、なんて美しい音色」
 エッグから出てきたオルゴールの音が切なく音を紡いでいる。
「戦いが終わったら、このオルゴールを女神さまに捧げよう」
 兎の王子様は、そう呟いた。
「ボクが戻ったら、あの方はどんな顔をするかな?」
 その瞳にはあたたかな感情を浮かべていた。

 幻影が蠢き、不思議な声がする。
 攻略者たちはそれをじっと見守った。

 幻影はやがて3層に進んだ。
 王子様は災魔と勇ましく戦い、勝利した。
 そして、世界が終焉を迎える。

「できた。これを生まれた孫へと捧げようぞ。手紙と一緒に贈ってやろう」
 老人が猫を撫でながら、

「待って、待ってくれ。
 ボクはまだ、終わりたくないんだ」
 崩壊世界の真ん中で、王子様が叫ぶ。

 共に攻略の道を歩んだ騎士たちが溶けるように消えていく。迷宮の壁が崩れ、床が崩れ、そらが見えればそれも歪んで消えていく。

「誓ったんだ。約束をしたんだ。
 ボクの声がきこえるか? なあ、きいてくれ」
 声を伝えるための空気が消えていく。
 パクパクと口を動かし、けれど声はもう、出ない。

 瞳が見つめる世界に老人の手が視えた。
 手が動き、文字が綴られる。

 『Happy 』

 王子は消えた。
 世界に残されたのはたったワンフレーズ。

 『Happy End』。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

マリアドール・シュシュ
【泡沫】
アドリブ◎
己の髪と同じ一面の夜空と星に甘蜜色の眸が綻ぶ
卵にも興味津々

…霞架はああやって他の人にも口説いているのかしら(先程の事思い出し単純な好奇心…に近い独り言
むぅ(言い返せず面白くない
霞架ったら
本当に狡いのよ

色んな卵を軽く叩く
チョコや甘いお菓子が零れ
ミニパーティー楽しむ

霞架もいかが?(チョコクッキー差し出し
食べても大丈夫なのよ!ほら(試しに食べてみせ

…、
藁色に紅が引かれた卵を割るとオカリナが
(憶えてないが死んだ育て親の片割れの獣人がよく吹いてた楽器
途端、一筋の涙が流れ

ぁ…あら?どうしたのかしら
…ごめんなさい霞架
何故かオカリナを見ていたら、少し…哀しくなってしまったの(過去の朧げな記憶


斬崎・霞架
【泡沫】

童話、と言うのは何かの暗示である事も多いのですが、
この話も何か裏があるのでしょうか…?
(マリアの独り言が聞こえ)
おや、魅力的な人に「あなたは魅力的ですよ」と伝えるのは、悪い事ではないでしょう?

【WIZ】

鍵となるのは、特定の物か、卵を叩くと言う行動か。
出て来る物は完全にランダムなのでしょうか?
それとも、叩いた人間に起因するモノ…?
…マリアさん。美味しそうなのはわかりますが、不用意に出て来たモノを食べてはダメですよ。

(周囲を調べていたが、マリアの様子に気が付き)
どうかしたのですか?!
攻撃を受けた訳ではないようですが…。
…少し、休憩にしましょうか。
(マリアの頭に手を置き、あやすように撫で)



●一滴の歪
 広い空間。ひらかれた場所。
 フロアは、どこまでも広がるかに視えた。生き物のない大地が静かに広がり、天が近い。

(童話、と言うのは何かの暗示である事も多いのですが、この話も何か裏があるのでしょうか…?)
 斬崎・霞架(ブラックウィドー・f08226)が童話へと思いを馳せる。足元ではカラフル・エッグたちがぴょこぴょこと跳んでいた。
 童話とは行動と結果が明確につくられるものだった。

「このフロアはとても美しいわね」
 華水晶が灯ったランプを片手にマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)がそらを見上げている。己の髪と同じ一面の夜空と星に甘蜜色の眸が綻ぶ。佳景を共有しているのが嬉しくて隣をちらりと視れば、隣に佇む男はなにやら考え事をしている。

「霞架、何か考え事かしら?」

 声に、霞架はハッとした。
 見れば、星芒の雫の瞳がおずおずと自分を見上げている。軽く首をかしげれば月の光を集めて紡いだような銀糸の髪が幻想的に流れ、目を奪う。
「おっと、すみません。実は、童話のことを考えていたのですよ」
「童話のことを?」
 不思議そうに星芒が瞬く。背景に広がる月無しの天鵞絨の中、その姿は月の化身のように煌いて見えた。
「そして、貴女のことを」
 冗談めかして言えば、白花めいた姫君の頬が薔薇に染まる。
「またそんなことを言って。狡いのよ」
 揺れる星芒の雫がそわそわと逸らされるのが愛らしい。こんな反応を視れるなら、何度でも言ってみたい。そんな気持ちを胸に霞架は笑った。

 エッグがぴょこりと跳ねてマリアドールの繊細なドレスの裾を揺らす。熱を持つ眼を下に下げ、マリアドールは跳ねるエッグを鑑賞した。
「……霞架はああやって他の人にも口説いているのかしら」
 単純な好奇心からそう呟く。それは独り言であったが、男は眉をあげて言葉を返した。 
「おや、魅力的な人に「あなたは魅力的ですよ」と伝えるのは、悪い事ではないでしょう?」
「むぅ」
 マリアドールは頬を膨らませた。言葉を言い返すことができないのは、少しだけ面白くない。
「霞架ったら本当に狡いのよ」
 拗ねたように呟いてもう一度見上げれば、霞架は楽しそうにニコニコと笑顔を湛えていた。
「もう!」
 ぽこ、と苛立ち紛れにマリアドールがエッグを叩けば、中からはバニラココナッツ・フレーバーのキャンディが現れた。
「霞架! 霞架! キャンディが出てきたわ」
 パッと顔を明るくする少女がキャンディを差し出した。
「ほら! 甘い香りがするのよ」
 キャンディからは仄かなバニラココナッツの香りが漂い、鼻腔を刺激する。差し出されるままにキャンディを受け取れば、少女は次のエッグを楽しそうにノックしている。
 パステルカラーで模様が描かれた愛らしいエッグをおそるおそるノックする少女の姿は可憐で微笑ましい。危険なものが出てきたらすぐ対応しようと思いながら、霞架は保護者のように見守った。

「こっちは、パレットに色が置いてあるように飾られたチョコレートなのよ」
 少女は、戦利品を誇るかのようにチョコレートを次々と紹介してくれる。
「このチョコレートは、お花のかたち。このラムネは、キティね」
 宝物の一粒一粒を頬を紅潮させながら紹介してくれる姫君へと、霞架は優しく頷いてみせた。
「出て来る物は完全にランダムなのでしょうか? それとも、叩いた人間に起因するモノでしょうか。マリアさんを視ていると後者のように思えますね」
 ならば、自分は叩くのを控えておこうか。霞架はエッグを割るのを少女に任せ、出てきた宝物を預かることに徹した。いわゆる荷物持ちである。
「沢山集めましたね、マリアさんはお菓子の国のお姫様かな」
「ふふふ! ミニパーティーよ!」

 楽しくて仕方ない、といった顔で星雫の姫君がくるくると月面を舞う。ドレスがふわりと広がり、エッグたちが愛らしく足元を飾る。甘い香りに満ちて、霞架は歎美する。目の前の光景は余りに幻想的で、傍らの少女は月面世界のお姫様そのものだった。
 真っ直ぐな瞳がキラキラと霞架を見上げ、パーティーに誘ってくれる。

「霞架も、いかが?」
 手には真っ白なマシュマロがあった。
「……マリアさん。美味しそうなのはわかりますが、不用意に出て来たモノを食べてはダメですよ」
 霞架が懸念を口にするが、宝石のような瞳があたたかに煌めいた。
「食べても大丈夫なのよ! ほら」
 マシュマロをにっこりと食べてみせ、ひとつぶを口元に近寄せてくれる。
「あーん、なのよ?」
 ぱくりと食べてみせれば、とても嬉しそうな顔をする。
(餌付けされている気分だな)
「ね、大丈夫でしょう?」
 姫君が背伸びするようにしながら一生懸命に感想を求める。
「そうですね、美味しいですよ」
 霞架は頬を緩め、優しく目線を合わせた。
 感想をきいて一層嬉しそうに微笑む少女は、次々とお菓子を差し出して『餌付け』をした。
「霞架、このチョコレートの食べ方を知っていて?」
 星雫の姫君が小さなチョコレートを手に悪戯に微笑む。
「こうやって、食べるのよ。はい」
「はい、はい」
 チョコレートにキスをするように啄む仕草を見せる少女は、只管に天真爛漫で楽しそうにしている。ひとつひとつを共に味わえば、そのたびに楽しさが胸に溢れた。

「あら? あのエッグは少し気になる感じがするわ」
 ふとマリアドールは藁色に紅が引かれたエッグに目を留めた。視界の端をゆっくりと転がるエッグにそろりと近寄り、割ってみると何処となく温かな印象を感じさせるオカリナが出てきた。

「……あ」
 オカリナを見ると、マリアドールのこころが一瞬、さざめく。それがどんな感情であるのかを正確に掴み切れないまま、ただ感情が動いて、揺れた。
 星が瞬くように、それはほんの一瞬。
 けれど、とても強い感情だった。


 頬を、涙が伝う。

 

「マリアさん!?」
 霞架が驚いたように声をあげる。マリアドールは一瞬で我に返った。
「どうかしたのですか?! 攻撃を受けた訳ではないようですが……」
 霞架が心配そうに顔を覗き込んでいる。その瞳があまりに真剣で、マリアドールは吃驚した。声も、心から案じる気配を宿している。
(どうして、そんなに――)
 思い、ふと頬が濡れていることに気が付いた。マリアドールは戸惑いに目を瞬かせる。
「ぁ……あら? どうしたのかしら……ごめんなさい霞架」
 慌てて涙を拭い、マリアドールは言葉を返した。心配させてしまった、と慌てる心。安心させなくては、と焦る気持ち。一方で、自分の不思議を持て余す戸惑いもあった。
「何故かオカリナを見ていたら、少し……哀しくなってしまったの」

 そおっとオカリナを見つめる。心は先ほどより烈しく波立つことは、もうなかった。けれど、燻ぶり続けるなにかがある。なにかがあると感じて――けれど、そのなにかがどんどんわからなくなっていく。

――こんなことが、たまにある。

 例えば、料理であった。いつも、誰かのを見ていた、そんな気がしたことがあった。
 それは、過去の朧げな記憶。
 マリアドール本人は忘れてしまった記憶だった。

 ふわふわの毛が風に揺れ、あたたかなオカリナの音が空気を震わせ。
 オカリナを吹いているのは、育て親の獣人だった。

 けれど、少女は忘れてしまうのだ。
 それは、歪。
 美しい世界を見つめて生きる少女のほんの僅かな、歪。 

「……少し、休憩にしましょうか」
 掴みどころのない感情を持て余し、何かを探すように俯くマリアドールの頭に手を置き、霞架はあやすように優しく撫でた。

――月面を静かに時間が過ぎていく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​

叶・都亨
ロゼくん(f01535)と

うおおおーーー!すっげぇ!!
まるで月面宇宙旅行気分!(そのまんま!)

でもってこのエッグちゃん達をぽこぽこすればいいんだな!

よし

しょーーーーーーーぅぶだロゼくん!
どっちがより良いお宝をゲット出来るか勝負だぜ!
負けた方は一週間奴隷ね!
スッタートゥ!!(猛烈ダッシュ)

へっへっへ
こういうのは速さがモノを言うんだぜ!
セイヤッ!

チョコ、クッキー、ミニタルト、チョコ、チョコ、チョコが多い!
あ、コレラーメン… 食べ物多いな!

セイヤッ!

ってギャアアァァーーーー!!なんか火を噴く小竜が…
たぁーーすけてロゼくーーーーん!!


ロゼ・ムカイ
都亨(f01391)と

ははっ、なかなか良いじゃねえか!
こいつは仕事サボった甲斐があったぜ!

卵割り勝負か。
負けたら奴隷ってその言葉、忘れるんじゃあねぇぞ!
狙いは伝説の武器!

ひよこ、ヒツジ、猫……なんか動物が多いな。

悪いな都亨、奴隷が掛かっている以上手助けはできねぇ。
と、思ったけどなんか強そうな武器出たわ。

小竜なんぞ、このエクスカリバー(仮)でぶった切ってやるぜ!!
うおおーー!!



●オフの二次会場はアンギャーめえめえエクスカリバー(仮)風味
 オフ会の二次会場は月面世界だった。

「うおおおーーー! すっげぇ!! まるで月面宇宙旅行気分!」
 叶・都亨(空翔・f01391)が眼をキラキラさせて歓声をあげた。
「月だーーーーーー!! うおおおおお!」
 足元で跳ねるエッグたちと一緒になって跳びはね、都亨ははしゃいでいる。

「ははっ、なかなか良いじゃねえか! こいつは仕事サボった甲斐があったぜ!」
 ロゼ・ムカイ(社会人2年目・f01535)が陽気な声をあげた。仕事をしていれば決して観ることのできなかった景色が今、眼前に広がっている。ロゼはご機嫌にカラフルエッグに視線を巡らせた。
「でもってこのエッグちゃん達をぽこぽこすればいいんだな!」

「よし」
 都亨は挑戦的に瞳を煌めかせた。
「しょーーーーーーーぅぶだロゼくん!」
 言いながらエッグをひとつ手に取り、高く掲げる。

「どっちがより良いお宝をゲット出来るか勝負だぜ! 負けた方は一週間奴隷ね! スッタートゥ!!」
 捲し立てるように一息で言い、猛烈ダッシュする都亨。カウントすらない高速スタートにロゼはニカッと笑った。変に勿体ぶるより余程気持ちいい、と。
「卵割り勝負か。負けたら奴隷ってその言葉、忘れるんじゃあねぇぞ!」
 言葉を向ける先で少年は元気よくエッグを割っている。

「へっへっへ! こういうのは速さがモノを言うんだぜ! セイヤッ!」
 探すまでもなくエッグは周りに溢れかえっていた。割り放題だ。都亨は躊躇うことなく目に付く端からエッグを割っていく。
「チョコ、クッキー、ミニタルト、チョコ、チョコ、チョコが多い! あ、コレラーメン…… 食べ物多いな!」

(狙いは伝説の武器!)
 ロゼはエッグを次々と割っていく。その耳にはラーメンを啜る音が聞こえた。
「食ってんじゃねーか!」
「伸びちゃうから! 勿体ないし!」
 視線をやれば、なんと都亨はラーメンを啜りながら片手でエッグを割っている!
「くっ、なんて器用な奴なんだ……! いいなラーメン俺も食いてえし」
 いけない、このままでは一番良いお宝がラーメンに決まってしまう。ロゼは負けじとエッグを叩いた。

「ひよこ、ヒツジ、猫……なんか動物が多いな」
 ふわふわもこもこした生き物たちがロゼの足元にまとわりつき、猫とひよこにいたっては服をよじ登ってきた。
「いやいや、今勝負中だから! あとであとで!」
 ひよこを頭に乗せ、肩には猫を乗せ、ロゼはエッグを割り続けた。

「えっ、なに? なんでモフモフハーレムしてんの!?」
 ラーメンを食べ終わった都亨がロゼに吃驚している。カシャリと撮影の音がした。
「おい、写真撮ったろ」
「あとで見せてあげるね!!」
「アップロードは禁止だからな」

 プライバシー保護のために念のためにと言えば、ひよこが頭からずり落ちてきた。
「あぶねえ! ちゃんと乗ってろ」
 ひよこを頭に乗せ直すロゼに都亨の声が届く。
「めえめえ」
「はっ!? ヒツジこっち来たんだけど!」
「ヒツジは都亨がいいってよ、好きにしていいぞ」
「俺ヒツジに好かれるフェロモン出てるのかな? 愛されちゃってるんだけど!」
 見ればヒツジが足元に纏わりつき微妙に動きを邪魔しているようにも見える。
「都亨、前言撤回。そのヒツジ俺の味方だわ。妨害してくれてる動きだぜ」
「えええええ!!」

「こんなに可愛いのに! 妨害なの!? いやいや俺は信じないぞ。これは俺に構ってほしくて甘えてるんだもんね」
 都亨はポジティブに笑顔を浮かべ、足元のヒツジを気遣いながらエッグを割る。
「セイヤッ!」

「アンギャアア」
「めえめえ」

「ってギャアアァァーーーー!! なんか火を噴く小竜が……たぁーーすけてロゼくーーーーん!!」
「はあ!?」
 ロゼが視線を向ければ、なんとめらめらと火を噴く小竜が都亨とヒツジを追いかけていた。
(な、なにをやってるんだ)

「悪いな都亨、奴隷が掛かっている以上手助けはできねぇ」
 呆れた様子で肩を竦め、ロゼはクールに言い放つ。勝負の世界は甘くない。猟兵だからほっといても死なないだろう。
 そう思いながらエッグを叩けば、なんとエッグからはいかにも伝説の武器ですといった感じのエクスカリバー(仮)が出てきたではないか。

「と、思ったけどなんか強そうな武器出たわ」
 ぐっと握れば驚くほど手に馴染む。
「これはいいもん見つけたぜ、試し切りを兼ねて都亨を助けてやるか」
「たぁーーすけてええええーーーー!?」

 ロゼは好戦的な笑顔を浮かべ、竜のもとへと駆ける。
「小竜なんぞ、このエクスカリバー(仮)でぶった切ってやるぜ!! うおおーー!!」

 髪の先を焦がしながら逃げている都亨の両腕に抱えられるようにして、ヒツジがぷるぷると震えていた。
「――あっ!」
 都亨が月面の凹凸に足をとられ、転ぶ。

 捕まえた、と爛々と目を輝かせて敵竜が炎を放つ。
 スローモーションのように炎が迫り……、

「――めえ! めえ!」
 転がるようにふわふわのヒツジが都亨の前へ立ち塞がる。炎の前へと身を躍らせて、懸命に立っている。

「お、おまえ!」
 ヒツジは、都亨を守ろうとしてくれているのだ。
「ばか、逃げるんだ」
 都亨は慌ててヒツジに手を伸ばし――、

「はは、なにやってるんだか」
 ロゼはダンスを踊るかのように軽いステップで月面を走る。ふわり、と赤い羽織が空に舞う。一瞬で都亨とヒツジの前へと躍り出て、炎に向かって地球の青空のような瞳を向けた。

 新たな獲物へと敵竜が獰猛に牙を剥く。炎は圧倒的な熱量を湛えて迫りくる。
 ゴウ、と唸り寄る炎の渦を――しかし、ロゼは避けることはない。

「その程度の炎なんて効かねえな!」
 笑顔には余裕があった。
 渾身を籠めた鮮烈な一撃が迸る。手にした剣が壮絶に冴え、烈風を巻き起こす。唸る風は敵の凶炎を嘲笑うかのように蹴散らし、消滅させ、――それだけでは、治まらない!

「ガアアアッ!?」
 竜が悲鳴をあげた。鮮血が月面に噴出する。

「はは――、いいじゃん!!」
 絶命する竜を見下ろし、尋常ならざる切れ味の剣に機嫌よく目を細めてロゼは笑った。頭の上ではひよこが何故か得意げにふんぞり返り、肩では猫が興奮した様子で爪をたてていた。

「お前、守ってくれてありがとな!!」
「めえめえ」
 都亨はヒツジをぎゅっと抱きしめ。
「俺にも感謝しろよ」
 ロゼが楽しそうに笑って伸びをした。

「あーーー、仕事サボってよかったーーー」
 それは、魂からの叫びであった。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​




第3章 ボス戦 『『うさぎの王子さま』』

POW   :    伝説に刻まれし天災、稲妻を孕む暴風を受けるがいい
「属性」と「自然現象」を合成した現象を発動する。氷の津波、炎の竜巻など。制御が難しく暴走しやすい。
SPD   :    口伝に語られし絶技、レイピアの冴えをお見せしよう
【口伝で語られる剣技をなぞり、流麗な連撃】を発動する。超高速連続攻撃が可能だが、回避されても中止できない。
WIZ   :    神話に紡がれし祝福、呪いと紙一重の人外の愛を知れ
【幾柱もの神や精霊】【人ならざるもの】【からの、呪いのような祝福】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●文字綴られる世界
「次のフロアへの道が出来たようですね、ふふ」
 攻略仲間が歓声をあげる。

 迷宮『キャンディ・ムーン』の仕掛けが動き、月面世界に階段が生まれた。透き通る光の階段は、青き惑星へと続いていた。惑星に近づけば、やがて景色は変わり――、

「ここは……」
 気付けば、攻略者たちはフワフワの綿菓子のような白雲の上にいた。弾力性のある雲は、足場としては若干頼りない。青い空が周囲に巡らされ、時折赤や黄色、青色、カラフルな風船が下から飛んできている。

「足元の雲に、文字が浮かんだり消えたりしているよ。見て」
 攻略仲間が呼びかけた。
 見れば、広い雲のあちこちで文字が浮かんだり消えたりしている。文字は、童話のストーリーを綴るようだった。

「迷宮攻略者たちよ」
 ふいに少年の声がした。

「あ……」
 視線の先には、レイピアを手にした少年がひとり立っている。
 赤いマントはワインにも似て暖かみのある色だ。衣装に凝らされた意匠、ふんだんに使われるフリル、装飾、頭に頂いた王冠。全てが彼の高貴さを物語る。
 白絹の髪の上にぴょこりと揺れるのは、うさぎの耳だ。
 雪白の肌の中、瞳は木苺のように輝いていた。

 『うさぎのおうじさま』が静かに語る。
「迷宮攻略者たち――猟兵たちよ。ボクは上のフロアに昇っていき、最終的にはアルダワ魔法学園を侵略しようと思う」
 それは、淡々と事実を語るようだった。
「邪魔をすることはできない」
 瞳には憎悪が宿る。

「ボクを、邪魔することはできない」
 瞳は別のフロアを夢見るようだった。

「身勝手な人間よ、ボクは復讐しよう。そのためにボクは、造り物の世界から――実体を得たように思う。そうだ、ボクは」

 それは、オブリビオン。

「ボクは全ての人間を殺そう」
 オブリビオンは、復讐に燃える瞳で笑った。
「未来を為すすべなく一方的に摘み取られる悲しみを、全ての人間に教えてやろう」
ショコ・ライラ
――
あなたには、この世界がすべてだったんだね
そうか
そっか……

涙が溢れそうになるのを堪えるように、目を閉じて
《エコー……》
私の中に広がる、想いの残響
心を澄まして、感じ取って――研ぎ澄ました五感で、何をすべきかを、見据え直す

ああダメだ それでも涙止まんないや ごめんね、泣いたって何にもならないのにね
でも私は、ヒーローだから
あなたのその行為を許せないから――戦う!!

レイピアの連撃も、憎悪のような天災すらも【見切って】みせる
あなたの攻撃をしっかりと見て。私の強がりを【カウンター】で放つ
余裕の笑みも格好付けもない、本気の私で戦おう

あなたの望む未来を…あなたが夢見た未来を
こんな形で出会わずに、聞きたかった


仁科・恭介
※アドリブ、連携歓迎
【携帯食料】を噛みつつ王子と周囲を【学習力】で観察
オブリビオンになった理由も把握した
そして私には誓いがある
「依頼は3層まで到着し王子を骸の海に返すだったな…」

【礼儀作法】で王子に提案する
「貴方の侵略は全力で阻止する。ただし戦闘は1層でお願いしたい」

WIZ
提案したのは背水の陣
突破されたら一気に崩れる
王子と女神を会わせられる方法はこれしかないと判断
承諾されたら…覚悟を決める
共鳴対象を王子に設定し、憎悪や人外の愛に呼応するかのように細胞を強化
【吸血】本能まで呼び覚まし更に細胞を活性化
【ダッシュ】の勢いそのままに【鎧無視攻撃】を乗せた攻撃を試みる
「せめてお前の想い人の隣で!」


草野・千秋
僕も小さな頃は童話や絵本が好きでした
憧れの童話のキャラクターが災魔化……だなんて
楽しく読んでいた人、特に子どもにとっては
とてもとても悲しいことでしょうね
(眉根を顰め自分も悲しそうに)
全てを殺すだなんて、そんな事を言うだなんて
しかし僕達は猟兵だ、やるべき為すべきことがある
お話は綺麗なままで、どうかあなたは骸の海へ
勝負です、うさぎの王子様

戦闘は2回攻撃、衝撃波、怪力で攻撃
武器改造による炎属性の属性攻撃も剣に付与を忘れずに
正々堂々戦いましょう王子様
僕は駄菓子の国からやってきた王子さ……ヒーローだ!
仲間が攻撃されそうなら
盾受け、かばうを使って
必死にお守りします

全てが終わったら目を伏せて黙祷


バレーナ・クレールドリュンヌ
●アドリブ&絡みOK

【WIZ】

【心】
どうして……?
胸が張り裂けてしまいそうなくらい哀しくて、どうしようもなく愛おしい。

わたしはバレーナ、うさぎのおうじさま、哀しい色に染まる瞳の貴方の心にわたしの白が耀になりますように。

【歌】
怖いわよね、消えてしまうこと、誓いを失うこと……。
さぁ、歌いましょう……貴方が誓った愛のオルゴールの旋律を。
『ローレライ・トロイメライ』
貴方の苦しみ、絶望、怒り、その小さな体にどれほど内包していたのかしら?慟哭を欲する程のこの感情……わたしは引き受けるわ、そして、貴方が本当にそれを伝えたかった人の許まで届くように声量を高めましょう。

「貴方の願い、たった一つだけ叶えてあげる」


トリテレイア・ゼロナイン
※UC詠唱文は無視

そのような荒ぶる瞳と心で「上」に行かせるわけには参りません、王子
私は貴方のお供の騎士ではありません
その怨嗟を捨てろとも申しません
人々を護る騎士として、阻ませて頂きます

(……なんという皮肉)

剣筋をセンサーで●見切った●武器受けで凌ぎ、●怪力での●盾受けで大きな攻撃を防ぎ仲間を●かばう様に立ち回り
稲妻を孕む暴風、その最大出力の瞬間にUC展開
制御不能の稲妻をその身に受けて頂く

荒ぶる瞳と心で行かせはしないと言ったはずです

最期に女神に伝言は無いかと尋ね、もしオルゴールを回収出来たら、女神像に捧げます
女神様、彼は嘘吐きでは無かったのです。最後まで約束を守ろうとした立派な王子だったのです…


ジャック・スペード
ああ、お前は知らないのか
ハッピーエンドの其の先も、物語は続くってことを

召喚するガジェットは蒸気仕掛けの大剣
其の剣身に宿した熱で炎属性の斬撃攻撃を
剣筋は劣るかもしれないが、火力勝負なら勝機も有るだろう

近くに仲間が居れば連携も意識
リボルバーで援護射撃を行うほか
大剣を振り回し衝撃波で王子の牽制を
不意打ちを喰らいそうな仲間が居たら庇おう

『うさぎの王子さま』は、ヒトの子を喜ばせる為に作られた物語だろう
ならば其の手が汚れることを、老人も孫も、望まない筈だ
不似合な復讐は止めさせて貰う

――それに、王子と女神の未来は奪われたわけでは無い
頁上から子供の「こころ」へと舞台を移しただけだ
……其の違いが、伝わると良いが


ギド・スプートニク
まい(f00465)と

はしゃぐまいの姿を眺め
やがて王子に気付く

元の童話に詳しくもない故、推測に過ぎぬが
非業の運命を押し付けられたキャラクターの、造物主への反乱――と云ったところか?
なるほど、災魔にしては珍しく理に適った考えやも知れぬな

だが、それがどうした

貴様に貴様の正義があろうと知ったことではない
そうだな。貴様がせめて生者であったなら、言い分くらいは聞いてやろう
だが貴様は亡霊。世界に仇をなす者

故に私は、此方に生きる者のひとりとして――貴様を討つ

未来を摘み取られる悲しみを見るのは、とうに飽きてしまってな
身勝手な人間で済まないが、我らの物語は我らが紡ぐ
幸せな結末以外、決して認めはしない


花咲・まい
ギドさん(f00088)と!

わあ、ふわもこですよ!
これは食べれますでしょうか。見てるとお腹が減りますです。

……あちらの方が話に聞く王子様でしょうか。
何やら印象が違いますですね。お話の彼なら、もっと、うーむ。オブリビオンとはそういうものなのでしょうか?
何にせよ、戦わなければならない事には変わりありませんね。行きましょう、ギドさん!

戦闘では悪鬼礼賛を使用します。
王子様の天災は野生の勘で見切りを付けますですが…
何やら暴走しやすいみたいです?
範囲の見極めにはよく気を付けますです。

彼がどんな存在であれ、斬ってみればぜーんぶ分かりますですよ。
大丈夫です、加々知丸くんに斬れないものなんてありませんですから!


斬崎・霞架
【泡沫】

童話の主のお出ましですね。
残念ですが、今の貴方に王子さま役は無理でしょう。

【POW】

指を鳴らし手甲を解放、前に出ます。
相手を【見切り】、【呪詛】を籠めた【カウンター】攻撃を。
マリアさんには近づけさせません。
同時に、敗ける気もしませんね。僕には、マリアさんの歌と奏でる音色が聴こえていますから。

災魔だから、と言う理由だけで否定はしません。
僕も呪い、死霊を使う身。忌み嫌われる側ですから。
ですが、今の貴方は見るに堪えない。

【ジャック】を呼び出し【早業】で無数の拳を叩き込みます。

何故、そうまでして生きているのですか。
何を、そこまで願っていたのですか。
…誰も望まぬ悲劇なら、ここで終わらせましょう。


マリアドール・シュシュ
【泡沫】
アドリブ◎

災魔を倒す王子様が災魔に成り果てた結末は…悲しくも一つだけ

本来の記憶を憶えているのかしら(ズキ、心が悼む
復讐からは何も生まれないと、本当は分かっているのでしょう
マリアはあなたの悲しみに寄添う事は出来るわ
でも彼の者達の未来を踏み躙る事は許さない
絶対に
止めるわ
わたしにも通したい道理があるのよ(ハープで楽器演奏

後衛
戦況が見渡せる位置に
危うい時は声掛ける
【サウンド・オブ・パワー】使用
創世の言ノ葉(こえ)で歌唱
哀悼携えほろ苦くも甘いケルト風
霞架への絶対の信頼と微かにスパイスを(ムーンストーンの輝きに近い
敵の攻撃は誘導弾でカウンター

華水晶は謳う
倖せな結末を求めてどこまでも願う
涙より笑顔を


明智・珠稀
嗚呼。
できることなら、書き変えて差し上げたいです、おうじさまのエンディングを…。
貴方には骸にお戻り願います。
が、せめて貴方の物語は幸福なものに…!

■戦闘
レイピア【薔薇奏風】を手に(ウサ耳姿)
「私も、貴方を護る騎士になりたかったですね、ふふ!」
【2回攻撃】で手数を増やし、敵攻撃は【武器受け】を

また風の魔術を込めた【属性攻撃】や
UC【愛しのご主人様♡】の赤い糸で動きを捉え
仲間の攻撃を当てやすくする

■戦闘後
…あの童話を書いたご老人は存命でしょうか?
もしくは、お孫様は…
可能であらば、書き添えていただきたいのです。
「おうじさまはオルゴールと共に、女神の元へ戻ってきました」
と…!

※アドリブ&絡み大歓迎♡




「わあ、ふわもこですよ! これは食べれますでしょうか。見てるとお腹が減りますです」
 ふわり、と明るい声がフロアに響く。
 花咲・まいが華やかな衣装を翻し、ふわふわの綿雲にそっと手を伸ばす。
 その後ろからはギド・スプートニクがまいの姿を穏やかな瞳で眺めていた。

 ふ、と。

 視線が移される。
 そこにいるのは、実体を得たキャラクター。

 傍らの気配に釣られるように顔をあげ、まいが王子に気付く。手には、ふわふわの綿菓子がある。ぺろり、と舐めてみれば、口の中で甘く蕩け――ほんものの綿菓子だ。
「……あちらの方が話に聞く王子様でしょうか。何やら印象が違いますですね。お話の彼なら、もっと、うーむ」
 まいは不思議そうに王子を見つめた。
 お話に出てきたキャラクターは、子供たちに愛されるようなキャラクターだったはず。なのに、目の前にいるキャラクターは創り物のキャラクターから外れた生々しい負の感情を見せている。
「オブリビオンとはそういうものなのでしょうか?」
 疑問がフロアへと響く。

 ふわ、ふわ、ふわり。
 風船が飛んでいる。

「元の童話に詳しくもない故、推測に過ぎぬが、非業の運命を押し付けられたキャラクターの、造物主への反乱――と云ったところか?
 なるほど、災魔にしては珍しく理に適った考えやも知れぬな」
 フロア中に染み込むように言葉は続いていた。

 風船を気にした様子もなく、ギドは言葉を紡ぐ。
 まいはそっと風船を手に取った。赤い風船がゆらゆら揺れる。
 兎の王子がギドを見つめる。
 敵意交じりの瞳に浮かぶのは、ほんの僅かの満足のように思えた。

「だが、それがどうした」
 声ははっきりと響く。

 まいはそっと綿菓子を口に含んだ。
 一瞬でふわりと蕩ける綿菓子は、純粋に甘い。
 手に持った風船は、ゆらりゆらりと揺れ。大空に自由を求めるかのように見えて、まいはふと手を放した。閉じていた指をほんの少し、離すだけ。その、僅かな動作で、風船が開放されて飛んでいく。天へと。

「貴様に貴様の正義があろうと知ったことではない。
 そうだな。貴様がせめて生者であったなら、言い分くらいは聞いてやろう。
 だが貴様は亡霊。世界に仇をなす者」
 声が続いている。
 風船は天へと飛んでいく。
 まいはそれをじっと見つめた。

「故に私は、此方に生きる者のひとりとして――貴様を討つ」
 視線を傍らへと向ければ、『敵』へと宣戦布告の言葉を放った男の横顔が視える。毅然とした瞳。
「未来を摘み取られる悲しみを見るのは、とうに飽きてしまってな。身勝手な人間で済まないが、我らの物語は我らが紡ぐ。幸せな結末以外、決して認めはしない」
 その人が優しい心根を持っていることを、まいは知っている。
 あたたかな温度を持っていることを、知っていた。
 だから、まいはニッコリと笑った。
「何にせよ、戦わなければならない事には変わりありませんね。行きましょう、ギドさん!」
 加々知丸を構えれば、雑音はもう聞こえない。
「彼がどんな存在であれ、斬ってみればぜーんぶ分かりますですよ。大丈夫です、加々知丸くんに斬れないものなんてありませんですから!」

「災魔を倒す王子様が災魔に成り果てた結末は…悲しくも一つだけ」
 小さな声で呟くのはマリアドール・シュシュ。光り輝く瞳には憂いと歪みが潜む。
「本来の記憶を憶えているのかしら」
 そんな自分の呟きには、なぜか自分の心がズキリと悼む。

 彼女は、憶えていない者だった。

 けれど、それさえも認識の霧の中。はっきりとしない悼みから意識を逸らしてマリアドールは敵へと言葉をかける。
「復讐からは何も生まれないと、本当は分かっているのでしょう。マリアはあなたの悲しみに寄添う事は出来るわ。でも彼の者達の未来を踏み躙る事は許さない」
「絶対に止めるわ。わたしにも通したい道理があるのよ」
 手に構えるは黄金律の竪琴エルドラド・ハルモニア。黄昏色に眩くハープの音が切なく高く鳴り響けば、姫君を守るように斬崎・霞架が前に出る。
「童話の主のお出ましですね。残念ですが、今の貴方に王子さま役は無理でしょう」
 鳴り響く音色の哀しさと傍らの少女の心を悼める様子に波立つ心がある。そんな表情をさせたくはないのだ。
 仕切り直しとばかりに指を鳴らせば、一瞬ハープの音が重なって和音めいて響く。そんな些細なことに意識を取られて可笑しむ心と共に。
 黒触『エンクローチ』を解放し、敵を見る。
(これ以上、彼女のこころを)
 少しでも心乱したくない、と。
 眼鏡の奥の瞳が戦意に昂る。

(さて、どうしたものか)
 干し肉を噛みつつ仁科・恭介は周囲に視線を巡らせる。
 猟兵たちは様々な思いを胸に王子を撃破せんと戦意を高めている。自身も当然、撃破するつもりではあるのだが、彼は王子を女神に会わせたいと思っていた。
 それは、叶わぬ想いを胸に抱き続ける彼だからこその望み。
 言葉でいかに説明しようともなかなか伝わるものではない。
 ゆえに、恭介は周囲の動きを見ていた。周囲の攻略者たちの言葉、顔色、心。それを読まずして不用意に全体を導くことは、できない。

「……」
 ふと悲しみに揺れる気配が揺蕩う。
 ショコ・ライラだ。
 ぼんやりと野に咲く控えめな花のような彼女が、悲しみに目を伏せている。
「あなたには、この世界がすべてだったんだね。そうかそっか……」
 涙が溢れそうになるのを堪えるように、ショコは眼を閉じている。哀しみに惑わされぬようにとユーベルコードを静かに発動させている。

 《エコー……》

 感覚が冴え渡す。研ぎ澄まされる。
 ショコの中に広がる、想いの残響
 心を澄まして、感じ取って――研ぎ澄ました五感で、何をすべきかを、見据え直し、

(ヒーローだから。感情に埋もれちゃ、だめだから)
 そう言い聞かせながら心を澄まし――、

 けれど。止まらない。
「ああダメだ。それでも涙止まんないや」
 琥珀の髪が緩やかにゆれ、宝石めいた瞳が濡れて、透明な涙を溢れさせる。つつと頬を伝う雫が、一筋。
「ごめんね、泣いたって何にもならないのにね。でも私は、ヒーローだから。あなたのその行為を許せないから――戦う!!」

 哀しみが伝播して草野・千秋が息を吐く。
「僕も小さな頃は童話や絵本が好きでした」
 思い出すのは、在りし日の自分。そして、家族。
 それは、あたたかな思い出。もう戻れない過去。大切な時間。
 自分だけではない。多くの者が、童話や絵本の思い出を持っている。その思い出は、あたたかなもののはずだ。千秋はそう重い、眉根を顰める。
 瞳は切なく揺れ、けれど控えめに呟く。
「憧れの童話のキャラクターが災魔化……だなんて、楽しく読んでいた人、特に子どもにとってはとてもとても悲しいことでしょうね」
 ヒーローである千秋は、キャラクターの言動により人々がショックを受けるのだということを意識せざるを得ない。キャラクターには、夢がある。それは壊してはいけないのだ。
「全てを殺すだなんて、そんな事を言うだなんて」
 間違っても、そんな『王子様』を人々に見せてはいけないのだ。

(夢を見せるための存在は、決して夢を壊してはいけないんです)
「僕達は猟兵だ、やるべき為すべきことがある。お話は綺麗なままで、どうかあなたは骸の海へ。勝負です、うさぎの王子様」
 それは、ヒーローだからこその熱意。決意。
(僕は、綺麗なあなたを守ってみせる)
 凛然とした瞳が語りかけるように王子を見る。倒すことが人々の愛する『童話の王子』を守ることにつながるのだ。

 戦いの気配が強まっていた。
 バレーナ・クレールドリュンヌは全身でそれを感知する。
 そして、切なく尾鰭を揺らした。
 揺れる尾鰭を掠めて空色の風船が飛んでいく。

(どうして……?
 胸が張り裂けてしまいそうなくらい哀しくて、どうしようもなく愛おしい)
 目の前の王子は、敵であった。
 童話のキャラクターが染み出て実体を得た、単なる敵。
 しかし、敵は哀しい色を滲ませ、世界への敵意を迸らせていた。

 救う方法はなかった。
 猟兵たちが戦意を昂らせている。彼は、狩られる。
 嘗て物語が幕を下ろした時と同様に、彼は海へと還される。

――色を付けない金魚には、価値がないのだと。
 遠い日、人魚は天をみた。
 消えゆく泡沫をみていた。
 断ち切れない思いを胸に、けれど媚びることはなく、
 消えゆく泡沫をみていた。

 だから、人魚姫は優しく囁く。
「わたしはバレーナ、うさぎのおうじさま、哀しい色に染まる瞳の貴方の心にわたしの白が耀になりますように」

 王子は、攻略者たちに順に視線を巡らせた。
 そして、2層へと続く階段を視た。

「そのような荒ぶる瞳と心で「上」に行かせるわけには参りません、王子」
 トリテレイア・ゼロナインが斬りかかる。

 戦端が開かれた。

「口伝に語られし絶技、レイピアの冴えをお見せしよう」
 王子が双眸を眇めてレイピアを繰り出す。流麗な連撃はしかし、確りと受け止められた。受け止めたのは――ジャック・スペード。その脇を潜るようにしてトリテレイアが長剣で王子を斬る。鮮やかな血花が咲いた。

「ああ、お前は知らないのか。ハッピーエンドの其の先も、物語は続くってことを」
 ジャックの蒸気仕掛けの大剣に炎熱が揺らめいている。軽い世間話でもするようななんでもない口調はしかし、真摯は響きを伴っている。
「見事な剣筋。主役とはそうでなくてはな」
 言いながら力で刃を押し返し、風を唸らせながら剣を振れば王子は兎のように大きく跳ねて後退した。

(始まってしまった)
 恭介は息を呑む。
 けれど、と瞳は強い色を浮かべた。
(私は、諦めは悪いんだ)

 高貴なる茉莉花の意思が迷宮に響く。
 マリアドールの耳元で歌環が拡声効果を発動させていた。

 夜空色の花弁が迷宮に咲き綻ぶ。
 創世の言ノ葉が空気を震わせ、迷宮中へと広がっていく。
 哀悼携えほろ苦くも甘い音階は独特のリズムに乗り、不思議な懐かしさを感じさせる。輝きを透明の中に閉じ込めて仄めかすような神聖で清純な甘やかさと安らぎがほんの少し混じっている。
 銀星の姫君はその身自体が音を奏でる器であるかのように美しく歌を紡いでいた。この純真な少女が身を護るということを一切考えず、只管に綺麗な歌を奏でれば、その旋律が届かないものがいようか。
 それは、絶対の信頼。
 それが伝わるからこそ、霞架は少女の守護者として手甲を揮う。
「マリアさんには近づけさせません」
 迫りくるレイピアを鮮やかに弾き、カウンターに腰に佩いていた漆黒の小太刀を引き抜いて呪詛を紡ぐように宵の軌道を描けば、見慣れた血の朱が視界に飛沫く。逆手を振り血潮を弾くようにすれば、左手首の咲守が揺れている。
 血すら通さぬ守護の意思。
「敗ける気もしませんね。僕には、マリアさんの歌と奏でる音色が聴こえていますから」
 負けず嫌いの男の背を押し心を燃やす歌が清らかに紡がれている。甘く可憐な歌声に霞架はそっと息を吐く。
「災魔だから、と言う理由だけで否定はしません。僕も呪い、死霊を使う身。忌み嫌われる側ですから」

(忌み嫌われる、なんて)
 背で声を聞くマリアドールはそっと瞳を伏せ、声に一層の感情を籠めた。その言葉がとても寂しく、哀しく思えたから。ほかならぬ霞架がそんな発言をするのが切なくて、歌はいっそう温かく紡がれる。

「ですが、今の貴方は見るに堪えない」
 少女の心中に気付かず、霞架は王子へとユーベルコードを発動させていた。

 傷だらけの男の霊がずるりと姿を見せれば、王子が警戒を露わに耳を揺らす。
「ジャックは怒りと悲しみを抱えています。怒り、悲しみ、ふふ。そう珍しいものでは、ありませんね」
 それを知っているのだと、男は嗤った。
 そして、無数の拳が叩き込まれる。

――……♪

 歌は切なげに紡がれた。
 銀色に輝くような音階はそらへと昇り、地を這い、聞くもののこころに寄り添い。
「何故、そうまでして生きているのですか。
 何を、そこまで願っていたのですか。
 ……誰も望まぬ悲劇なら、ここで終わらせましょう」
 霞架がそう呟く。その声が哀しくて、マリアドールはそっと心を揺らすのだった。

「……クッ」
 王子は大きく綿雲の上を転がり、傷を押さえて飛び上がった。着地する時には大きく離れた地点へと距離をあけている。
「たいした跳躍力だ。さすがは兎と言ったところでしょうか?」
 感心したように呟く声は、いつもの調子を取り戻していた。

(嗚呼。できることなら、書き変えて差し上げたいです、おうじさまのエンディングを……)
 明智・珠稀が着地した王子へと薔薇奏風を繰り出していた。頭にはウサミミがぴょこりと揺れている。
「貴方には骸にお戻り願います。が、せめて貴方の物語は幸福なものに……!」
 マントを浅く斬りつけ、珠稀は優しく微笑んだ。
「私も、貴方を護る騎士になりたかったですね、ふふ!」
 妖艶な瞳に捉えられた瞬間、王子の身体が爆風に吹き飛ばされる。起き上がった王子にはするりと赤い糸が巻き付いていた。
「これは、なんだ」
 戸惑い逃れようとする王子へと珠稀が笑いかける。笑みの形にひらいた口からは真珠のような牙が覗いていた。
――この男は、兎の皮を被った肉食獣か。
 王子はぞくりと背筋を震わせる。
 王子の視線は上を見る。厄介な攻略者たちを振り切り、上層へと向かおうと。

「荒ぶる瞳と心で行かせはしないと言ったはずです」
 白き鋼鉄の騎士が大盾を手に立ち塞がる。
「私は貴方のお供の騎士ではありません。その怨嗟を捨てろとも申しません。人々を護る騎士として、阻ませて頂きます」


 綿菓子の雲はふわふわと弾む。慣れないうちはひどく心もとない足元だ。
 時折浮かぶ文字は不思議に物語を綴り、消えていく。

「神話に紡がれし祝福」
 王子が肩で息をしながらぱちりと目を瞬かせ、レイピアを振る。
「ここに、愛を知れ」
 愛されし存在に祝福が降りる。それは彼にとって呪いでもあった。王子は鮮烈な闘気を纏い、代わりに呪縛を受ける。
 息が整っていた。強化されている。攻略者たちにはそれがわかった。

「ボクが受けた呪縛は、ユーベルコードの封印。愛は二度と知ることができないだろう」
 王子は攻略者へとそう告げた。そして、ショコを狙いレイピアを烈風の如く閃かせる。
「元気な王子様ですね、ふふ」
 珠稀が赤糸を手繰れば、刹那王子の動きが糸により制限される。
「ッ!」
「うん、当たらないよ」
 ショコは一歩だけ横へとステップを踏む。ただそれだけで十分だった。軌道は完全に読めてしまったのだ。頬の横をレイピアが通り過ぎ、王子が驚きに目を瞠る。
「あなたの攻撃は、外れたことがなかったんだよね? とてもつよい王子様」
 チョコレート色のコートがふわりと舞う。威嚇用の爆弾を放ちながら後ろへと跳べば、迷宮に派手な音が響き渡る。
 常は軽快な鼻歌と共に取り廻すリボルバー型のビームキャノンをカウンターに捧げる。余裕の笑みも格好つけもない。強がる心は痛いほど真剣で、誠実だ。

「本気だから」
 だから、手を抜かない。
 手加減なしの全力が閃けば、王子の悲鳴が耳朶を打つ。けれど、手を休めることは、ない。
 と、その時。足元が捻じれた。
「――!?」

「――伝説に刻まれし天災よ」
 ふいに声が反響する。王子だ。

 王子の声に応えるかのように雲が急激に捻じれる。上に乗っていた攻略者たちは一斉に階段へと駆けあがる。

「きゃ……」
 小さな声があがる。
 バレーナが綿雲の隙間から空へ吸い込まれるように落ちようとしていた。

「バレーナさん!」
 千秋が飛び出して手を掴んだ。
 王子がその背を深々と斬り、血塗れにする。そのまま王子は千秋を蹴落とそうと足をあげ。
「めっ、ですよ!」
 珠稀が赤糸で動きを縛る。
「はい! めっ、なのですよ!」
 まいが加々知丸を手にその背を守りに走っていた。刃の打ち合う甲高い音が蒼穹に響いた。
 王子の眼を驚かせたのは、驚くほど柔らかな色を持つ少女の瞳。花咲・まいが高らかに声をあげ、王子を睨んでいる。
「させませんです!!」
 少女の愛らしい声が千秋の背に頼もしく響く。
 小さな体だった。やわらかに花のように、けれど加々知丸を揮い味方の背を守る姿は戦乙女に似て勇ましい。

「け、怪我を」
 腕を伝い、血が垂れていた。自分を掴む青年の負傷を知り、バレーナが顔を青ざめさせる。
「大丈夫! です。僕、頼りないとよく言われるんですけど」
 千秋は顔を顰めながら、けれど笑顔を作った。ぎこちない笑顔は無理をしていると誰にもわかって、けれど瞳は強い色を宿している。それは、人を護ると言う意思だ。
「強くなれます。味方がいると、無限に強くなれるから。だから、大丈夫です」
 冗談めかして言う千秋の顔には汗が滲む。けれど、声は強い音で発せられた。言葉には真意が籠められている。

「おい、しっかりしろ。引き上げるぞ」
 ジャックが駆け寄り、千秋と共にバレーナを引き上げる。
 その背ではまいが王子と激しく斬り結び、時間を稼いでいた。

「童話の王子様は、そんなことをしませんです。しては、いけませんです……、だって、子供たちが夢見てるんです」
 鮮やかな一撃を閃かせながらまいが大きな声で語る。
「オブリビオンになって歪んでしまったなら、夢に戻してあげますです!」
 その瞳は真っ直ぐ、きらきらと輝いている。太刀には一切の迷いがない。曇りがない。

「――天災を受けるがいい」
 王子が忌々し気に赤糸を千切り捨て、ユーベルコードを発動させる。
 居合わせた攻略者たちの背筋にぞくりと悪寒が走る。フロア中に広がる雲が巻き上がり、蜷局を巻き稲妻を帯びている。ぱちぱちと放電するように雷光が風の中を躍り、攻略者たちを呑み込もうと迫りくる。
 浮遊していた風船がどんどんと吸い込まれ、割れていく。風船の欠片が散り散りになりながら花弁のように舞っている。
 雲に浮かんでいた文字がぐるぐると宙を回転する。まわる文字は高速に物語を紡ぐ。始まりから終わりまでが何度も何度も再生され、消えていく。『Happy End』『Happy End』『Happy End』。

「階段を上ってください!!」
 トリテレイアが叫びながら前に出る。背後ではバレーナとジャックが負傷した千秋を支えて階段を上っていく。その後ろを守るようにしながら、他の攻略者たちものぼっていった。

「まい様も! しんがりは私が務めましょう」
 トリテレイアが味方がのぼっていく階段を守るように大盾を構えて立ち塞がる。
 暴風がその身を喰らわんと迫り、足元に残っていた綿雲さえも巻き上げようと牙を剥く。その瞬間にトリテレイアは階段に飛び乗り、ユーベルコードを展開させた。アンチ・ユーベルコードの特殊フィールドが周囲へと展開され、敵の暴風の制御が不安定になる。

「この技は……」
 王子が動揺した様子で耳を揺らした。

 暴風が制御を失い、王子へと襲い掛かる。轟音の中、兎の悲鳴がフロアへと反響し、

「此方は我が領域」
 ひどく静かな声がした。
 ただ一声。それが場を鎮める。捻じれる雲が沈黙し、静まった。

 高貴なる瞳で迷宮を支配するのは黒き王。
 ギドだ。
 金の魔眼が冴え冴えと見渡す世界は今、彼に屈していた。

「く……」
 満身創痍の王子が高く跳躍する。それを見やり、ギドがつと視線を向けたのは――恭介だ。

「兎だけあってよく跳ぶな」
 静かな声は問うようであった。
 恭介は無言で頷いた。そして、階段の先を見る。

「王子が2層に跳んだわ」
 バレーナが階段をのぼりながら上を見る。
「みんな、聞いて欲しい……」
 階段をのぼりながら恭介が声をあげる。

「依頼は3層まで到着し王子を骸の海に返すだったな……」


 全身を血に染めた王子は、花畑に眼を奪われていた。
 後ろからは攻略者たちが追ってきている。

「王子」
 声をかけられ、王子はぴくりと肩を震わせた。
 この攻略者たちは手練れ揃いだった。数も多い。ユーベルコードは悉く防がれる。敵の攻撃を防ぎ切ることができていない。傷は深かった。
 王子には勝機が視えなかった。彼の胸には、嘗て味わったのと同じ消える絶望があった。

 王子は、ゆるゆると振り向いた。
 対する男は、不思議な瞳をしていた。

 男は、恭しく礼をした。
 そして、言った。
「女神に、お会いしませんか」

 王子は息を呑んだ。
「女神さまに」
 会いたい。想いは瞳から溢れた。彼はそれを望んでいたのだ。
「会いたい」
 王子は言った。

 恭介は静かに頷いた。
「私には、想い人がいます。想いは叶いませんが、いつも、会いたいと思うのです。想いを告げたいと思うのです」
 そっと声が紡がれる。

「そうか」
 王子が応える。
 彼らは間違いなく敵対する生命だった。互いに、それを知っていた。魂の底から相容れない、それを感じていた。理解していた。
 だが、この瞬間彼らはひとつの想いを理解し合う同志であった。

「ボクは、人間を殺したい。その衝動がボクにあるんだ」
 王子が囁いた。囁き、ごぼりと血を吐いた。足元には血溜まりができている。
「もう、永くはないだろう。人間を殺す時間があるかな」
 王子は笑った。

「1層はもうすぐ、そこですよ」
 示される方角には、1層につながる扉がある。

 ふらふらと歩む王子の後ろには点々と血痕が遺される。
 攻略者たちはその後をゆっくりとついていった。

(怖いわよね、消えてしまうこと、誓いを失うこと……)
「さぁ、歌いましょう……貴方が誓った愛のオルゴールの旋律を」
 宝石めいた瞳は、切なく震えた。
「貴方の願い、たった一つだけ叶えてあげる」
 バレーナが控えめに歌を歌い始める。
 それは、王子が誓った愛のオルゴールの旋律。泡沫の夢幻郷で歌うセイレーンの歌声が優しくあたたかく世界を包む。
 甘く――すこしだけ、切なく。

(貴方の苦しみ、絶望、怒り、その小さな体にどれほど内包していたのかしら?)
 歌う人魚姫の視線の先で小さな王子が赤いマントを引きずるようにしてゆっくりと歩いていく。後ろに血の跡を残し、血濡れたマントを引きずるようにして、王子は死に向かう。ほんの僅かな猶予に希望を見出して、縋るように道を進んでいるのだ。
 その瞳を揺らした激情、迸る熱情をバレーナは思い出す。

(慟哭を欲する程のこの感情……わたしは引き受けるわ、そして、貴方が本当にそれを伝えたかった人の許まで届くように声量を高めましょう)
 高らかに歌が響く。その背を押すように。

 ふいに、もうひとつの声が加わった。マリアドールだ。
 華水晶が願い、謳っている。

 マリアドールを守るように寄り添い歩いていた霞架が軽く首を振る。耳元の飾りが軽やかに揺れ。

――涙より笑顔を。
 少女の願いが胸に痛いほどに伝わる。あまりにも純粋で、優しい。
 それが、哀しいのだ。

「攻略者の癖に」
 王子がふと笑った。
「ボクは災魔なんだぞ。愚かだな。お前たちを欺き、学園へ真っ直ぐにのぼっていくかもしれないぞ」

「貴方の侵略は全力で阻止する」
 返された声は簡潔だった。
「ああ、そうするといいよ」
 王子はまた一歩を踏み出した。ぽたり、ぽたり、血の雫を滴らせ。
「『うさぎの王子さま』は、ヒトの子を喜ばせる為に作られた物語だろう。
 ならば其の手が汚れることを、老人も孫も、望まない筈だ。不似合な復讐は止めさせて貰う」
 ジャックが低く穏やかに声を紡ぐ。
(未来を紡ぐ、か)
 ギドが歩む王子を見つめながら自身を思う。愛しき妻を。彼もまた、叶わぬ望みを知っている。
「あなたの物語を、愛する人がいます。子供たちが、勇気を貰って、心の中でわくわくして、一緒に冒険をしているんです。たくさん、たくさんです」
 千秋がそっと言葉を重ねた。
 トリテレイアが触発されたように語り出す。
「人間は、世代交代します。たくさんの子供たちが育っていって、自分たちの子供にまた同じように物語を伝えるんですよ」

 扉を開ければ――そこはもう、1層だ。

「ああ、あたたかいな」
 王子は、呟いた。
 攻略者たちによってあたためられたフロアの中、女神像が佇んでいる。
 王子はゆっくりと女神像へと歩み寄り、血に塗れた手を伸ばした。白い像へと伸びた手は、触れることなく。

――触れれば、汚してしまう。

「ボクは、約束を守ったよ」
 王子は微笑んだ。

「そのための時間を、ようやく許された……」
 ずるり、とその身体が倒れ込む。女神像の足元へと。
 カツン、と音がして懐から小さなオルゴールが転がり落ちた。

「ああ、いけないな。あなたを汚してしまうじゃないか」
 自身の身体から流れ出る血がじわりじわりと女神像の足元へ寄るのを見て、王子は笑った。笑い、息を引き取った。

――待って、待ってくれ。

 耳に蘇るのは幻影の声だった。
(消える直前に、ひと目だけ会う時間があれば。ひとこと話す時間があれば。それさえあればよかった。そうだろう。その一瞬だけがあれば、どれだけ違ったことか)
 恭介が吐息を漏らすように骸へと囁いた。
「せめて、お前の想い人の隣で」

 トリテレイアは転がっていたオルゴールを優しく拾い上げた。ネジを巻けば、甘く切ない歌が奏でられる。それはきっと、王子が女神へ捧げたかった愛の歌だ。トリテレイアは音を奏でるオルゴールを女神像へとそっと捧げた。
「女神様、彼は嘘吐きでは無かったのです。最後まで約束を守ろうとした立派な王子だったのです……」
 オルゴールの音が鳴れば、ショコが眼を閉じて感情をかみ殺すように震えている。バレーナが切なげに吐息を漏らす。
 哀し気に瞳を揺らすマリアドールの頭を霞架が優しく撫でている。
「――それに、王子と女神の未来は奪われたわけでは無い。頁上から子供の「こころ」へと舞台を移しただけだ」
 ジャックが静かに目礼をした。
「ええ、そうですとも」
 千秋が静かに睫を伏せ、死者へと祈りを捧げる。

(哀しい空気。お腹が空いてしまいますです)
 まいはふわりと眉を下げる。

「あなたの望む未来を……あなたが夢見た未来を。こんな形で出会わずに、聞きたかった」
 ショコがぽつりと呟いた。


 依頼は達成し、攻略者たちは元の世界へと戻っていく。
「さて、こちらも約束があったな」
 ギドが女神像へと静謐な瞳を向ける。捧げられたオルゴールをまいが優しい手つきで掲げ上げた。
「ギドさん、このオルゴールも一緒にお庭に招くとよいと思いますです!」
 にこりと微笑む少女の瞳は明るい。ギドはつられたように眦を和らげ、頷いた。

(お別れだな)
 恭介は女神像にそっと目礼をした。

 珠稀は名案を思い付いたというように目を輝かせていた。
「あの童話を書いたご老人、もしくはお孫様を探して、童話の続きを綴りましょう。「おうじさまはオルゴールと共に、女神の元へ戻ってきました」と……!」
「ええ?」
 哀しみに浸っていたショコが眼を見開く。ジャックが興味深そうに笑み声を湛えた。
「ほら、な。大きな子供がここにもいる」
 元の世界へと戻っていこうとしていた仲間たちが、ひとりまたひとりと集めってきた。
「なにをするの?」
「え、そんなことをするんですか?」

 声は、楽しそうに。
「今日は、子供の日じゃないですか」

――だから、物語を紡ごう、皆で。

●END

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年05月05日


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#アルダワ魔法学園


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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
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 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
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👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠シェーラ・ミレディです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト