テレビウム・ロック!~狙われた歌姫~
開演の鐘の音が鳴る。
満席のホールの照明がゆっくりと落ち、舞台の幕が開く。真っ暗な中、オーボエが静寂を奏ではじめる。書き割りの森の中、ステージの中心に青みがかったスポットライトが当たる。
照らし出されたのは本日のプリマドンナーーテレビウムの少女アマンダは、夜色のドレスに包まれて歌いはじめた。夜に咲く花を想って自分に重ねあわせる、静かなアリア。その歌声は突如として途切れた。
「ちょっと……何なのこれは」
アマンダの顔である画面に、突然『アンティーク調の鍵』のようなイメージが浮かび上がったのだ。うろたえるアマンダを更なる悲劇が襲う。
「イタぞ」
「アイツだ」
ホール後方の入口が派手に開くと、アルパカの顔を持つ筋肉質の男たちが次々に乱入してきたのだ。舞台袖、上手と下手からも次々とアルパカたちは現れる。更にはステージの上から縄を伝って降りてくる者もいる始末だ。
しかし、観客たちは誰一人として動かない。誰もが『そういうストーリー』だと思っているようだ。
「なんなのですか、あなたたちは! 誰かお願い、助けて!! 警察に通報して!」
筋肉質のアルパカに胴上げされながら、鍵の映像を顔に浮かび上がらせたままアマンダは叫ぶ。
ホールのスタッフが止めに入ったところでようやく観客は異常事態に気づいた。混乱した観客たちは次々に席を立ち、我先にとホールの出入り口へと駆け出しはじめた。
●
「こうして、アマンダは堂々と連れ去られちまいました、ってわけだ」
ジロー・フォルスター(現実主義者の聖者・f02140)はヤレヤレ、と肩をすくめる。
「場所はキマイラフューチャーのとあるコンサートホール。アマンダは若手の中でも実力のあるソプラノ歌手らしいな。今日の公演もチケットは完売だそうだ。その最中に予知で見た事件が起こる」
観客の数はおよそ1000人。桟敷席に囲まれた、歴史ある内装が魅力の大ホールだ。観客席は足元灯だけ残して真っ暗で、ステージの上のみが明るく照らされている。
「コンサートホールのスタッフや他の役者には俺が話をつけておく。皆は、公演が続いているように見せかけながらアマンダを守ってほしい。アマンダは事情を知らないから、どうにか工夫して状況を伝えてやるといいかもしれねえな」
異常事態に気づいて1000人の観客たちが出入り口に殺到するようなことになれば、将棋倒しなどの群衆事故が起こる可能性が高い。そうならないよう、どれだけさりげなく襲撃者を撃退できるかが今回のポイントだ。
「ああ、そうだ。劇場にある衣装は好きに借りていいそうだぜ。 雰囲気を変えてひと仕事なんてのも悪くないだろ?」
クク、と笑ってジローは集まった猟兵の肩を押す。
「さて、そろそろ幕開けだ。頼んだぜ!」
氷水 晶
キマイラフューチャーから期間限定シナリオをお届けします。
まずは観客たちに違和感を与えないように、歌姫アマンダをマッチョアルパカから守り抜きましょう。マッチョアルパカたちは、倒すと同時に塵へと還って消えていきます。
今回の救出対象はソプラノ歌手のアマンダ。今は顔の画面が鍵から変わらずに取り乱していますが、元々プロ根性のある少女です。
劇場のスタッフや他の演者、オーケストラの楽団員は全員猟兵たちの行動をアマンダを救うためと連絡を受け了承しています。
●貸衣装やってます。
また今シナリオだけの特別な設定として、劇場から好きな舞台衣装を借りることができます。2章以降も同じ服で参加されるようでしたら、プレイングの冒頭に『=』とお書き添えください。
第1章 集団戦
『量産怪人アルパカマッスルブラザーズ』
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POW : ポージング
自身の【逞しい肉体の誇示】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
SPD : ポージング
自身の【躍動する肉体の誇示】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
WIZ : ポージング
自身の【洗練された肉体の誇示】の為に敢えて不利な行動をすると、身体能力が増大する。
👑7
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開演の鐘の音が鳴る。
アカネ・リアーブル
同じ舞台人として、この暴挙は見過ごせません。
アマンダ様もその舞台も、アカネがお守りいたします!
舞台の雰囲気に合った、妖精の騎士みたいな衣裳に身を包みます
アマンダ様の歌を引き立てるように、バックで【ダンス】いたします。
アルパカが襲って来ましたら、舞台の上まで引き付けてから茜花乱舞で攻撃いたします
お客様を傷つける訳には参りませんから
その間にアマンダ様を後ろに庇います
「姫の歌を奪いに来た悪者め!」
「姫の守護者である我が退治してくれる!」
舞薙刀で攻撃です
2回攻撃と範囲攻撃も併用。花を撒きながら派手に演出いたしましょう
他の方とも連携して、アマンダ様をお守りいたします。
シリカ・シリウス
テレビウムたちに異常が発生してる?・・・でも一部だけってなんかおかしいわ。
あの鍵マークの手がかりを探りたい所だけど、早く元の状態に戻してあげないと。
行動:WIZ
舞台の雰囲気を損なわない様に『黒スーツにサングラスの護衛SP』に仮装するわ。
とりあえずアルパカは【エレクトロレギオン】で攻撃よ。
【迷彩】で突然機械兵器が現れるようにして、スパイ映画みたいな演出すれば盛り上がる事間違いなしね!!
暗い舞台でも【暗視】があるから少しは戦いやすくなるかも。
レイチェル・ケイトリン
「夜に咲く花にふれるのはだれ?」
そういって舞台にあがるね。
胸には小道具として用意してもらった大きな南京錠をもって。
観客席でたたかったらお客さんたちがあぶないよ。
そしたら、怪人たちを舞台にあがらせるしかないの。
だからアマンダさんのまえに立っていうの。
(あわてないで。猟兵があなたをテロからまもります)って。
白いエプロンをつけた小間使いの女の子のような感じの衣装で、
「ならず者たちにその資格があるはずもなく」
そして南京錠をロックして、
「それはただひとり。麗しき姫に鍵を託されし若君のみ」
そういって念動力技能で守り抜く心をつかうね。
もうこれからわたしはまもることしかできない。
でも、それだけはやりとげるよ。
鈴乃音・司
つーにゃんは魔女の衣装を借りて、舞台に上がるにゃん。
今までの流れを壊さない曲調の【つーにゃんの子守唄】でアルパカさんたちの動きを止めて、急いでアマンダちゃんの元へ向かうにゃん。
そして、いい魔女さんになりきって、こう歌うにゃん!
「ああ、可哀想なアマンダ。あなたは呪われてしまった。
悪い魔女があなたの美しい歌声に嫉妬して、即死の呪いをかけようとしたの。
私は呪いに対抗した魔法をかけて即死は阻止できたけど上手くいかなくて――呪いがさまざまな形に変わってあなたを襲うわ。頭の鍵もあのアルパカもその呪いの一種なの」
そのあと、つーにゃんはアマンダちゃんを抱えて、アルパカさんから逃げようと思うにゃん!
オーボエに続いて、アマンダは歌いはじめた。彼女の美しいソプラノの響きが最高潮に達しようという時、それは起こる。
「ちょっと……何なのこれは」
テレビウムであるアマンダの顔の画面に、アンティーク調の鍵が映しだされたのだ。
アマンダの戸惑いに答えるように歌が聞こえた。
『ああ、可哀想な夜の姫君。
あなたに呪いをかけたものがいるの。
悪い魔女があなたの美しい声に嫉妬して、死の呪いをかけようとしたのです』
スポットライトが声の主を探してさまよい、後方正面の扉でピタリと止まる。
裾の長い真っ白なローブがライトに映える。襟や袖には、金糸で刺繍された月がきらめいている。揃いのとんがり帽子のつばには穴があけられ、そこから同じ色の猫耳が飛び出していた。
『良い魔女』に扮した鈴乃音・司(バーチャル猫耳アイドル・f14615)はゆっくりとステージに向かって歩きながら歌う。
司の歩みに合わせて弦楽器のピッツィカートが奏でられた。
『姫の身が危ないと、私は呪いにあらがったわ。
魔法であなたは死をまぬがれた。
でも魔女の嫉妬は強すぎて、すべては防げなかったの。
これから呪いはさまざまな形にかわり、あなたを襲うことでしょう』
司はパフォーマンスや歌唱、楽器演奏に高い技術を持っている。彼女の歌と身のこなしは、観客を魅了しはじめていた。
「(今までの流れを壊さない曲調、うまくいったみたいにゃん
……!)」
あとは彼女がうまく合わせてくれれば……司の祈るような表情を、アマンダは鍵の画像を浮かび上がらせたままじっと見つめる。
ステージの上に立ち尽くした歌姫は、自身を落ち着かせるように深呼吸すると歌いはじめた。
『それではわたしのこの顔も。
悪い魔女の呪いのせいなの?』
震えるような歌声は、観客の心を揺さぶるように響く。当然だろう。今のアマンダの心の響きそのものなのだから。
司は通路の中央で、観客全員に見えるように大きく両手をひらいた。
『ええ、そのとおり。
そしてこの、不届きものたちもね』
司が言い終わると同時に、ホールの扉が荒々しく開かれる。
「イタぞ」
「アイツだ」
アルパカの顔を持つ筋肉質の男たち。ボディビル会場と間違えたかのような出で立ちで、その肌は黒くテカっている。
場違いの男たちの足音に、司はゆっくり後ろを振り向いた。白き魔女に遮られるようにアルパカたちは足を止める。
「おい、そこをドケ。用があるのはあの女ダ」
答える代わりに、司は大きく息を吸って歌う。
『おやすみなさい。明日はもっといい日だよ♪』
途端に、意識を失ってアルパカたちは崩れ落ちた。司の歌によって一瞬で眠りの世界にいざなわれたのだ。
司はアマンダに振り向くと、ローブの裾を広げて一礼する。観客たちはその『演出』に目を奪われた。
そんな中、舞台近くの扉からもアルパカたちは乱入してきていた。
「アイツだ、ステージの上だ。つかマエロ!」
暴挙を止めたのは、涼やかな歌だった。
『夜に咲く花にふれるのはだれ?』
暗がりからすっと立ち上がり、軽やかな足取りでステージに上がるのはレイチェル・ケイトリン(心の力・f09500)。
ホワイトブリムをつけ、黒いロング丈のワンピースに白いエプロンの姿は、皆が想像するであろう『小間使い』。よく見れば、エプロンにはフリルがたっぷりととられ、スカートはふんわり広がるように縫製されている。質素な身なりの小間使いとはいえ舞台の上でも映えるように可愛らしく作られているようだ。
レイチェルはその手に巨大な南京錠をもっていた。
「(怪人たちを舞台に上がらせるよ)」
レイチェルは観客を巻き込まないよう、怪人たちをステージに引き上げようとしていた。ステージの上は明るく広い。他の猟兵が大立ち回りを演じることもできるだろう。
アマンダも次第に落ち着きはじめていた。
何かが起こっている。なんの心当たりもないが、自分を狙う変質者がいるようだ。そして、自分と観客、この舞台を守ろうと協力してくれている者がいる。止めに入らないスタッフや他の仲間たちの行動を通して、アマンダも猟兵たちの行動に合わせようと動き始めていた。
レイチェルの前へ歩み寄ると、アマンダは歌いながら尋ねる。
フルートのフィルが2人の会話に彩りを添える。
『あなたはどなた?
なぜ守ってくださるの?』
『わたしたちは……』
客席に背を向けてアマンダの前に立ったレイチェルは、マイクすら拾わない小声で伝える。
「あわてないで。猟兵があなたをテロからまもります」
テロという言葉にアマンダは衝撃を受けたようだった。
レイチェルは会話を遮られた様子でステージに上がりこんできた怪人をキッとにらみつける。
『ならず者たちに、姫にふれる資格があるはずもなく』
観客席に見せるように、南京錠の掛け金をはめる。
『姫にふれるはただひとり。
麗しき姫に鍵をたくされし若君のみ』
レイチェルは高い念動力を発揮して、アマンダと自分の周りを『まもりぬく心』のオーラで包んだ。
「な、なんだコレハ。見えない壁ガアル」
「我が筋肉でも押し返されてイル」
アルパカたちは全筋肉に力を込めたタックルをしかけて跳ね返され、階段を転がり落ち――。
『姫の歌をうばいに来た悪者め!』
凛とした声が響いた。
ブーツが床を蹴り、深緋のマントがひるがえる。藍鉄色のサーコートの下で銀の鎧がスポットライトを反射する。鎧とはいっても、舞台用に軽く動きやすく作られた、『本物以上に本物らしい鎧』だ。
「(同じ舞台人として、この暴挙は見過ごせません。アマンダ様も舞台も、アカネがお守りいたします!)」
衣装も心の持ちようも、妖精の騎士に扮したアカネ・リアーブル(とびはねうさぎ・f05355)はステージの上からアルパカたちに舞薙刀の刃を突きつけた。
『姫の守護者である私が退治してくれる!』
セリフひとつとっても、まるで歌うように聞こえるのはアカネの歌唱力がなせる技だ。
戦闘の気配を察して、ホルンが吠えた。オーケストラが機転をきかせ、3幕の騒乱のテーマを演奏しはじめる。
「邪魔するならお前カラダ!」
逆の階段からステージにあがり、両腕を振り回しながら襲ってきたアルパカ怪人を、アカネはすれ違いざまに斬った。
「ぐぶワッ!?」
斬られた相手は、数歩進んでから塵となって消える。
リアルな戦闘に観客席がざわつく。『すごいCG』という単語が聞こえてくるあたり、都合よく勘違いしてくれているのだろう。
アカネはステージの中央に立ち、周りのアルパカを勇ましく見回した。
『姫に触れんとする者は私が相手だ!』
そんなアカネの背後から忍び寄る影がある。
仲間が次々に斬られる中、1体のアルパカが死角からタックルを仕掛けようとしていた。
「隙ありッッ! ウボォォッ!?」
アルパカは勢いよく駆け出し、アカネの首に手を伸ばしたところで塵となって消えた。スポットライトに見慣れぬ機械が照らし出される。
書き割りの森の中で影が立ちあがる。
黒いスーツに黒シャツ、黒ネクタイ。明るく輝く紫の瞳をサングラスに隠して、シリカ・シリウス(バーチャルキャラクターの電脳魔術士・f01222)は姿を現した。
衣装は護衛SPをイメージしたものだ。黒い服に、オレンジ色のポニーテールがよく映えている。
シリカはこちらを見るアマンダと他の猟兵に気付くと、胸に手を当て会釈する。
「(テレビウムたちに異常が発生してる? ……でも一部だけってなんかおかしいわ)」
こうしてステージから見ると、観客の中にもテレビウムは大勢いる。しかし、鍵を映している者は誰もいない。今、この会場で異変が起きているのはアマンダだけなのだ。
手掛かりを探したい所だが、まずは目の前のアルパカを撃退すべく、シリカはユーベルコード『エレクトロレギオン』の制御に集中した。
客席は真っ暗で歩くにも足元灯の助けがいる。だが、暗視をもつシリカにとっては自分のフィールドのようなものだ。
暗闇の中ステージに向かうアルパカを発見しては、迷彩で隠した機械兵器をスポットライトの中へ投じてアルパカを狙い撃つ。いつかシリカが見たことのあるスパイ映画のように。
ティンパニの連打がシリカの攻撃に合わせて緊迫感と高揚感を与える。
ファンタジーと現代の意外な組み合わせは、ストーリーのスパイスとなっていた。
ステージ上に集った4人の猟兵は、それぞれの技をもってアルパカを殲滅してゆく。
ステージの中央でアルパカたちを斬りながらアカネは舞う。オーケストラを従えるようなステップは、戦闘中とはいえ何かの舞踊を見ているようだった。アマンダはメロディラインに添えるように歌詞のない歌をうたった。
薙ぎ払われた刃の後に深緋のマントが躍る。舞台映えする美しい意匠の舞薙刀も、今は勇壮な騎士が使う槍のように見えてくる。
「ここは一気に押しツブスゾ」
「ああ、それしかナイ」
アカネの周りにアルパカたちが集結しボディビルのポーズを決める。……なぜかは知らない。彼らは一斉に両脚に力をこめ小さな騎士を押しつぶさんと飛びかかった。
『茜花乱舞』
アカネの手の中で、舞薙刀がほどけた。
そのかけらは彼女の名前と同じ『茜』の小さな花に変わる。アルパカたちは落ちてくる僅かな時間に黒い塵となって、アカネの周りに降り積もった。
『あかねさす 日の暮れゆけば すべをなみ 千たび嘆きて 恋ひつつぞ居る』
コンサートホールの扉を押し開けて乱入する者は、もう誰もいなかった。
●
夜の姫君が歌う。
『私の世界は夜とこの森だけ。
魔女の狙いがわたしなら、もうここにはいられません』
騎士は膝を付き、夜の姫君の手を礼儀正しくとった。
『私がおともいたしましょう』
白い魔女はもう片方の姫の手を取る。
『慣れぬ道に足が痛むなら、私が肩を貸しましょう』
黒服のSPは言葉の代わりに、サングラスをあげて力強く頷く。
小間使いが片手を大きく開いて行く先を示した。
『若君の元へ。わたしがみちびきましょう、夜の姫』
『それが運命と言うのなら。参りましょう、森の外へ』
スポットライトが消え、ステージが暗くなる。
割れんばかりの盛大な拍手の中、幕が降りた。
●
オーケストラが幕間の間奏曲を演奏し始める。
アマンダと共に猟兵たちも舞台袖に下がってきた。
「テロですって? なぜ私を狙うの? とにかく、あの変質者たちに狙われているのは私なのね?」
アマンダは矢継ぎ早に猟兵たちに質問する。公演中に襲われたのだ。無理もないだろう。
「それにこの鍵はいったい……あっ!?」
アマンダが映し続けていた『鍵の画面』にノイズが走った。
揺れる鐘。鐘楼。パイプオルガン。薔薇のステンドグラス。
石造りの壮麗な建築物の上に、さっきのアンティーク調の鍵が浮かぶ。
「今度は何?」
「こいつは町の教会だな、歴史地区にある。急にどうしたんだ、アマンダ」
「わたしにも分からない、顔が勝手に……」
顔を押さえてうろたえるアマンダの肩に手が置かれた。
「つまり、そこに行けって事だろ? ストーリーの展開的にはさ」
従者らしき衣装をつけたキマイラの青年は、こともなげに言い放つ。
「行ってこい、アマンダ。こっちは俺たちがなんとかやっとく」
「この前もアンタのアドリブに救われたんだ。このくらいなんてことないよ」
恰幅の良い御者が、さばさばとした町娘がアマンダに笑いかける。
「みなさん……ありがとう、本当にありがとう」
瞳を潤ませるアマンダの手を引いて、猟兵たちは劇場の外へ急いだ。
大成功
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第2章 集団戦
『邪悪な仮面』
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POW : 怪光線
レベル×5本の【闇】属性の【光線】を放つ。
SPD : 闇影の鎖
【自身の影】が命中した対象にルールを宣告し、破ったらダメージを与える。簡単に守れるルールほど威力が高い。
WIZ : 暗黒の力
予め【邪悪なオーラを纏う】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
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劇場の外では、鐘の音が遠く鳴り響いていた。
「あの音のほうに教会があるの。少し行けば鐘楼が見えてくるはず。でも変ね、こんな時間に鐘が鳴り続けてるなんて」
教会のある歴史地区は、昔ながらのレンガ積みの家が多く残されている。石畳の道が蜘蛛の巣状に広がり、教会はその中心にある。
アマンダの説明を受け出発しようとした一行の前で、足をとめた者がいた。
「おや、アマンダ。今は新作の公演の最中じゃ……ガぼォッッ!!」
通行人の男の顔に、突然どこからか飛来した仮面がはりついていた。
「止マレェェ……」
仮面をひきはがそうともがいていた男の手が力を失う。ゆらりと手をアマンダに伸ばし、ひたすら同じ言葉を繰り返しながら歩いてくる。おびえたように後ずさった歌姫は、はっとして周囲を見回した。
「止マレェェ、止マレェェ……」
同じ仮面をつけた子供が、主婦が、老人が、アマンダを捕まえようと迫ってくる。
猟兵たちとテレビウムの歌姫アマンダは、無事教会へとたどり着けるだろうか?
レイチェル・ケイトリン
突破が必要だし、たたかうのはしたくないな。
だからわたしはアマンダさんとじぶんにユーベルコードのつつみこむ心をつかうよ。
サイキックエナジーでつつむことで摩擦を極限までへらす……摩擦がなければわたしたちを止めるのはむずかしくできる。
でも、わたしの念動力は外力じゃなくて、物を直接うごかす力だから摩擦がなくてもうごかせて……どんどん加速できるの。
もちろんアマンダさんがこわくないように、しっかりとささえてあげるしね。
できればほかのひとたちもたすけてあげたいけど……まず、このさわぎがなんでおきちゃってるかをしらべないとたすけてあげることもむずかしいものね。
まずはまえにすすまないとね。
通行人の男は歌姫の腕をつかもうと手を伸ばす。事態がまだよく飲み込めていないアマンダは、反応できずにその場に立ち尽くしていた。
「もうなにも、その動きをさまたげられません」
切迫した状況に対して、それは祈るようなかすかな声だった。
仮面をかぶらされた男はアマンダの腕をつかんで強引に引き寄せる――引き寄せたはずだった。男の手の中で、細い腕はするりと指先まで滑って離れていく。
レイチェルのユーベルコード、『つつみこむ心』によって、アマンダの摩擦力が極限まで減らされたのだ。
レイチェルはよろめくアマンダを支えて駆けだした。
支えられながら長いドレスの裾を持ってアマンダも走り出した。ふと自分たちが想像以上のスピードで走っているのに気づいたアマンダは、驚いた様子で周囲の景色を見回した。
「だいじょうぶ。これはわたしの力。こわくないよ」
摩擦力を減らしたことで、靴底で地面を捉えて蹴りだす力は自然と弱くなる。今、2人の体を前へと運んでいるのはレイチェルの念動力だった。
念動力の源となるのは心の力。2人の少女はまるで氷上を滑るように加速し、石畳の道を町の教会に向かって進む。
『止マレェェ……』
その場に止まれ。
追いつけないと思ったか、影を伸ばして仮面はルールを宣告する。
「レイチェルさん
……!?」
2人の体がぐらつき、アマンダが短く叫ぶ。その声にレイチェルは小さく笑って応えた。体へのダメージに、ほんの一瞬だけ念動力の制御が乱れた。が、すぐに持ち直して再び集中を始める。レイチェルの持つ念動力は、それほどまでに強力なのだ。
隣の少女の無事にほっとしたアマンダは、レイチェルにささやきかける。
「あの仮面は、人の心を支配しているの?」
「まだわからないの。このさわぎが、なんでおこっているのかも」
「まずは原因を……悪い魔女を探さないといけないのね」
猟兵たちとの歌を思い出して、アマンダはそう比喩した。それがあながち間違っていなかったのに気づくのは少し先の事だ。
解決方法が見つからないのなら、まずはこの仮面の群れをかわして逃げることに専念したほうがいい。レイチェルは影すら捉えさせないように体を加速させる。
「このひとたちをたすけるためにも、まずはまえにすすまないとね」
「ええ。私の歌を聞いてくれる人たちをこんな目にあわせるなんて、ゆるせないもの」
銀色の髪の少女と夜色のドレスのアマンダは、手を取り合って仮面をつけたひとびとの間を走りぬけた。
大成功
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アカネ・リアーブル
大変です! 皆様のお顔に仮面が!
早く仮面を剥がさなければ!
アマンダ様を庇いながら仮面のみを攻撃いたします
まずは近寄ってくる方の仮面を剥がせるか試してみます
踊りながら攻撃をかいくぐり仮面に手をかけ剥がします
剥がせましたら速攻UCで倒します
もし無理でしたら一旦距離を取って【退魔封縛の舞】の鎖で仮面のみを狙い撃ちいたします
仮面をかするように、仮面のみに攻撃が行くように
最大限精密な攻撃をいたします
気を確かに持ってくださいませ!
アマンダ様の歌を、もう一度聞きたいのでしょう!
ですが、もしどうしようもないのでしたら苦しまないように倒します
恨み言はどうぞアカネに
力が及ばなかったアカネの責任なのですから
市街地を抜けると、レンガの町並みの向こうに教会の鐘楼が見えてくる。
先を急ぐアマンダと猟兵たちの前に、小さな通りを使って先回りした仮面の男が立ちふさがった。服装からして、さっき声をかけてきた通行人の男だ。
アカネはアマンダをかばうように前に走り出た。
「気を確かに持ってくださいませ! アマンダ様の歌を、もう一度聞きたいのでしょう!」
その声は届いたのか、届いていても反応できないのか。仮面に覆われていない目は閉じられたままだ。
アカネは唇を噛んだ。
もし、本当にどうしようもなくなったなら倒すしかない。できるだけ、仮面に操られた者が苦しまないように。
「(その時は、恨み言はどうぞアカネに。力が及ばなかったアカネの責任なのですから)」
強い決意のもと、アカネは今できることをするべく男に真正面から向かっていく。
仮面から吹き出す黒いオーラに包まれた男の動きは見切りやすかった。つかみかかろうとする男の腕を舞い踊るような動きでかいくぐり、アカネは仮面に手をかける。男の顔に吸いついたかのように貼りついた仮面を引きはがそうと、手に力をこめる。
手ごたえが不意に消失した。
たまらず自ら男の体から離れるように、仮面が宙に飛び上がったのだ。
「そこです!」
その瞬間を待っていたアカネの手に舞扇が現れる。あおぐように軽く手首を返せば、舞扇の先から放たれた鎖が男の上に浮かぶ仮面を打ち据えた。
ぱりん。
厚みのある陶器のような手応えを鎖に伝えて仮面が砕けた。降り注ぐ破片は、石畳に落ちる直前に塵に変わって風に溶けていく。
体の力を失って倒れかけた男の背をアカネの手が支える。
「大丈夫ですか、アカネさん! そのかたも!」
2人の身を案じてアマンダが走り寄ってくる。アカネに支えられて建物の壁に寄りかかるように座り込んだ男は、うめきながらかすかに目を開く。
「うう、いったい何が……」
アカネとアマンダはほっとしたように息をついた。通行人に男の介抱を任せて、すぐに2人は走り出す。
再び路地をふさぐようにバラバラと走り出てきた仮面たちに、アカネがひるむ理由はもう無い。一度砕いた仮面は強度までよくわかっている。
姫巫女の姿に転じたアカネの扇から、鎖がそれぞれの顔に向かって放たれる。顔を傷つけないような角度で飛んだ鎖は、ひとびとがかぶせられた仮面を次々に打ち砕いていった。
大成功
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鈴乃音・司
つーにゃんは仮面を被った人たちの足止めをするにゃん。
【黒き協力者たち】でカラスさんたちに協力してもらうにゃ。
嘴や爪で仮面だけを上手く壊せないか頼んでみるにゃん。
無理だったら、カラスさんたちには足止めに専念するようにお願いするにゃん。
つーにゃん自身はスライディングやジャンプで攻撃を避けつつ、
タンバリンや歌声で仮面を被った人たちに催眠術をかけたり、カラスさんたちや仲間を鼓舞するにゃん!
鎖に狙われた残りの仮面たちはたまらず空高く飛びあがり、次の宿主を探すように道を見回す。
その仮面を、更に上空からぱしっと爪でとらえるものがいる。『黒き協力者たち』……カラスだ。
「カラスさんたち、お願いしますにゃ!」
司の声に、50羽近いカラスの群れが爪とクチバシで攻撃を仕掛ける。カラスたちの連続した攻撃に仮面の頬にヒビが入り、ひとつ、またひとつと砕け散っていく。
無事に主の元に帰ってきたカラスたちを従えて、司は他の猟兵たちに続いて走り出した。
仮面はどうやら、アマンダを捕まえようとはしていても命を奪おうとまではしていないらしい。
「それなら希望はあるにゃ!」
司はオレンジ色のタンバリンを取り出した。軽やかな鈴の音とリズム、歌声が路地に響く。アイドルは周りに希望を与える存在だ。明るく前向きな司に励まされて一行は走り続けた。
通りの影から不意に手が伸ばされる。この期に及んでは奇襲しかないと判断したのか、仮面をかぶった男がアマンダの脚を狙って飛び込んできたのだ。
その男の脚を司はスライディングで払った。滑りこみながらアマンダの体を腕ですくうと、次の仮面の主婦をジャンプして避ける。
ドレスの裾を持ち上げてここまっで走り続けてきたアマンダを、司はそのまま肩の上に乗せる。
「頑張るにゃ、アマンダ。教会はもう目の前にゃ!」
「ええ……!」
2人の後ろではカラスが、仮面をつけさせられた者が立ち上がるのを妨害し、仮面を剥ぎ取り、砕いていく。猟兵たちが破壊し続けたおかげで、残る仮面はさほど多くはないだろう。
ようやくたどりついた教会の両開きの扉を、アマンダと猟兵たちは押し開いた。
成功
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第3章 ボス戦
『アンマリス・リアルハート』
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POW : 歌は自信があるぞ、聞いていけ!
【わりと壊滅的な歌声】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
SPD : ダンスは教養、出来て当然だ!
【躍りながら振り回す剣】が命中した対象を切断する。
WIZ : 私はちゃんとできてる!間違ってるのはそっちだ!
【現実をみないだだっ子モード】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
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教会の中には誰もいなかった。
石柱の間に長椅子が整然と並べられ、ステンドグラスを通り抜けた午後の光がやわらかくふりそそいでいる。
猟兵とアマンダは、周囲を警戒しながら歩みを進める。
祭壇の机の上には本が広げられていた。五線譜が段になって並んでいる。猟兵の肩を借りてのぞきこんだアマンダは息をのんだ。
「これ、今回のスコアよ。夜の花へのアリア……どうしてこんな所に……きゃああっ!」
全てのパートの楽譜がひとつになった本。
それを手にしたアマンダの体が悲鳴とともに光り輝きはじめた。その光は、まっすぐ彼女を見られないほどのまぶしさだ。
ずっと鳴り響いていた鐘の音が止まる。
おそらく自動演奏機能がついているのだろう。演奏台に誰もいないパイプオルガンがおごそかにメロディを奏ではじめた。
『そうです。わたしが夜の娘。
森で出会ったひとびとには、夜の姫君などと呼ばれています』
たった今アマンダと猟兵たちがくぐってきた教会の扉があけ放たれる。
それはアマンダがステージの上で歌っていたアリア。
歌詞こそ同じだが、音程が壊滅的に狂いオルガンの伴奏と合わせて不協和音となっている。テンポは安定せず、高音部は出せていない。声量は十分あるだけに、その破壊力はすさまじい。
「よく来たわね、アマンダ。あなたは私なんて、覚えてないでしょうけど」
アマンダとよく似た、しかし赤黒い色調のドレスを纏い、少女はレイピアを抜いた。祭壇の上で動けないアマンダに向かって微笑むと、ゆっくりと歩きはじめる。
床に捨てられたレイピアの鞘は、黒い塵に変わって消えた。
「夜の姫君は私の役だった。オーディションでは今までで一番うまく歌えたわ。でもなんであなたがステージに立ってるの?」
どうして私じゃなくてあなたが。
あなただけが恵まれているの?
演奏が終わるまで、約15分。
猟兵たちは歌姫を守る抜くことができるだろうか?
レイチェル・ケイトリン
「今までで一番うまく歌えた」なんて、そりゃステージでは歌えないとおもうよ。
お客さんたちには「いままで」なんてかんけいないもの。
「オーディションを受けた人のなかで一番うまく歌えた」、そして「お客さんによろこんでもらえるように歌えた」、こうじゃなきゃね。
念動力と吹き飛ばしの技能で刹那の想いをつかって敵を攻撃してふっとばすね。
敵がいやな歌をうたおうとしたら空気をうごかして音をつたえない真空で敵をくるんでふせぐよ。
敵が剣をふりまわしたら武器落としの技能もつかって剣をふっとばしておとさせるね。
敵があばれだしたら小石とかを顔にぶつけてから、わたしたちよりもはやくうごかして敵の攻撃をそっちにひきつけてるね。
アカネ・リアーブル
連携歓迎
あなたが本当にオーディションで一番うまく歌えたのか、アカネには分かりません
ですが、そのことで逆恨みしてアマンダ様を武力で襲うなど言語道断です
あなたも伎芸に生きる身ならば、己の芸でアマンダ様にお勝ちくださいませ!
現実を見ないだだっ子モードになっているアンマリスから少し離れた場所に茜花乱舞を放ちます
範囲を絞り一筋の光線のようになるように放った茜の花を動かして、アンマリスを誘導いたしましょう
鬼さんこちら♪
時間稼ぎしながら、他の方の攻撃が最も効果的に当たる場所に追いやります
同時に攻撃をアンマリスの方へ急転換させ、胴を薙ぐように攻撃いたします
まずはボイストレーニングから、やり直してくださいませね
鈴乃音・司
アマンダちゃんが急に光り出したかと思ったら、誰か来たにゃん!?
しかも、凄い声量……じゃなくて、つーにゃんはアマンダちゃんを守るにゃ!
【ライオンライド】でライオンくんを召喚して騎乗するにゃ。
ライオンくんの爪や牙で敵さんと戦うにゃん。
アマンダちゃんにはその隙に何処かへ隠れるようにお願いするにゃ。
ライオンくんはつーにゃんの身長の二倍の大きさにゃん。
だから、視界もかなり塞がれるし、ライオンくんは戦いながら何かを探せるほどの余裕が出来る相手じゃないにゃ!
主役はとても大変な役回りにゃ!
ちゃんと真剣に慎重に選んでいるものにゃん!
アマンダちゃんが選ばれたのはアマンダちゃんの努力の賜物にゃ!
ラウル・シトロン
司(f14615)にフォローを頼まれたので。
すみません。
出来れば一緒に行動お願いします。
動けないアマンダを僕が気合いで抱えて避難させようと思うけど、避難できそうにないなら、僕はアマンダの前に立ってオブリビオンの攻撃からかばったりして守ろう。
【サラマンダーズ・アシスト】で蜥蜴の炎でオブリビオンを攻撃しよう。
黒いドレスの背に揺れる色素の薄い髪が、ステンドグラスの光を受けて七色に染まる。
よくよく見れば目鼻立ちの整った美しい少女だった。その顔の中心で、ばら色の瞳が周囲の光を吸い込むように虚ろに沈んでいる。
「もう一度教えてあげる。私はアンマリス。夜の姫君の役は私がもらうわ」
アンマリスと名乗った少女は抜き身のレイピアを手に、祭壇の上で光を発するアマンダに向かって歩みを進める。
「自分が選ばれなかったから、アマンダ様を襲って役を奪うというのですか!」
長椅子の間から舞薙刀を構えるアカネの問いに、アンマリスはにっこりと笑いかえした。
「そういうことだね。ぜんぶ知っちゃったあなたもアマンダの後で消えてもらうね」
それが当たり前だとでもいうように言い放つ。迷う様子も演じるそぶりもない。
思いだしたようにアンマリスはつけ加えた。
「そうそう、私の臣下……アマンダを迎えに行った私のファンを倒したのもあなたたちでしょう? あの子たちの仇も私が取ってあげないとね」
レイチェルは目をすがめる。
ここにたどりつくまでにアマンダを拉致しようと襲ってきた者たちと戦ってきた。
どんな言葉も真実もアンマリスにはゆがんで届いてしまう。自分にとって都合の良いことだけを信じようとする、現実を見ようともしない目。
だからこそ彼女はオブリビオンなのだ。
戦いの気配を察して、レイチェルは念動力で長椅子を壁際に寄せた。礼拝堂の中央に、石の柱と長椅子に囲まれた楕円形の空間が生まれる。
アマンダの発する光を背負い、金色に輝くライオンが長椅子を飛び越えてアンマリスの前に降り立った。その背中には司の姿がある。
「アマンダちゃんを頼むにゃ!」
司の声に協力者のラウル・シトロン(人狼のひよっこ探索者・f07543)が動いた。アマンダを包む光を腕でさえぎって近付こうとする。しかし、瞳に焼きつくような強い光にはばまれて思うようにいかない。ラウルは祭壇の上の机を動かしてアマンダを後ろに隠した。
「そこをどきなさい」
踊りながらアンマリスは司とライオンに向かってレイピアを突き出す。
「ライオンくん!」
司の指示に従ってライオンは飛び退って剣を避けた。司とライオンを追って、畳みかけるように突剣を繰り出すアンマリスの前に、炎の蜥蜴が割って入る。アンマリスはレイピアを引き戻すと、蜥蜴を斬りはらう。
アマンダを隠し終え、机をかばうようにして祭壇の上に立つラウルが炎の蜥蜴の群れを従えていた。彼がユーベルコードで呼び出した火の精霊、サラマンダーだ。
「その机と一緒に刺し貫いてあげる……!」
剣を振り回してライオンを牽制しながら、邪魔となる長椅子を真っ二つに割る。
自分に向かってくる炎の蜥蜴を斬って更に進もうとするアンマリスの視界を花弁がさえぎった。アカネが操る茜の花だ。
敵の動きが仲間にはばまれている間に、レイチェルは集中を高めていた。次第に花弁の動きがゆるやかになり、振るわれる剣が速度を減じる。現実に時間の流れが変わったわけではない。レイチェルの思考速度が速くなった分だけ、外界が遅く感じられているのだ。今の状態であれば、より精密な念動力の操作ができる。
集中を極限まで高めたレイチェルの念動力が、アンマリスの体を吹き飛ばして石の柱にたたきつけた。
『どうして私がこんな目に?
いままででいちばんうまく歌えたのに。
私の心を傷つけたのはだれ?』
「お客さんたちに、いままでなんてかんけいないもの」
急き込みながらうたわれた歌に、レイチェルは静かに首を振った。石の柱を支えによろめきながら立ち上がろうとするアンマリスのばら色の瞳を見る。
「オーディションを受けた人の中でいちばんうまく歌えた、お客さんによろこんでもらえるように歌えた……そうじゃなきゃ、ステージの上でなんて歌えないとおもうよ」
「私が一番だったに決まってるでしょ!!」
その叫び声はまるで幼い子供のようだった。
「あなたが本当に一番うまく歌えたのか、その場にいなかったアカネにはわかりません」
花弁を舞薙刀に戻したアカネが、長椅子の間を通ってアンマリスの近くへ移動する。
「ですが、それで逆恨みしてアマンダ様を襲うなど言語道断です!」
ライオンの背で、司も猫耳を揺らして頷いた。
「主役は大変な役回りにゃ。ちゃんと真剣に、慎重に選ばれているものにゃん! アマンダちゃんが選ばれたのは、アマンダちゃんの努力の賜物にゃ!」
パイプオルガンが曲の終わりに向けてきらびやかに鳴り響く。
猟兵たちの言葉にうつむいたアンマリスは、わなわなと震えてレイピアを構えた。
『許せない。ユルセナイ。
ああ、あなたさえいなければ……!
私があそこで輝いていられたのに――!』
アンマリスは剣を振り上げた。悲鳴とも歌ともつかない何かを口にしながら、手近な相手にレイピアをめちゃくちゃに振るいだす。その動きに先ほどのダンスの名残はほとんどない。自分の倍以上あるライオンの爪を正面からはじき返し、花弁と炎を気にせずに突っ込む。耐久力が高められているのか、ドレスは破れても白い肌には傷ひとつついていない。
でたらめに振りぬかれた剣が長椅子のひじ掛けを斬り飛ばす。木片となったそれは、ラウルをかすめて机の横板を砕いた。あおりを食って吹き飛んだスコアがバラバラになって礼拝堂の中に舞う。
舞い踊る楽譜をアンマリスは憎しみをこめて突剣で貫いた。レイチェルが紙片を操って素早く動かせば、剣はそれを追いはじめる。
「(もう彼女には現実が見えていないのでしょう)」
自分の剣が人以外のものを斬っていることにすら気づいていないのだろう。アカネは他の3人の猟兵に目線で意志を伝えた。
レイチェルの操る紙片とアカネの操る花弁が、礼拝堂の角へとアンマリスを導いていく。レイピアの先端で壁を突いて振り向いた時、彼女は自分が逃げ場を失っているのにようやく気づいた。
角に追い詰めるように展開されたラウルのサラマンダーが一点に収束するように集まってアンマリスを焼く。燃えた楽譜が炎の雨のように降りそそぎ、ドレスの裾がくすぶりはじめた。
細く悲鳴が響く。
アンマリスの背は礼拝堂の角。正面には太い石の柱。
右手からは黄金のライオンが、左手からは花弁を手元に引き戻したアカネの薙刀が迫っていた。
なす術もなく薙刀の刃に胴を払われ、血の代わりに黒い塵が飛び散る。司のライオンの牙の一撃が、その傷口を引き裂いた。
●
体を半分引き千切られながら、アンマリスはレイピアを手に祭壇を駆けあがった。
とっさに司がアマンダをかばい、その前にラウルが手を大きく広げて立ちはだかる。レイピアの先端はラウルの胸に吸い込まれる数センチ前で止まった。
あと一歩。踏み込もうとした白い足がぼろぼろと崩れていく。
届かなかった剣先を見つめ、刺突の構えのままアンマリスの体は傷口からひび割れ、さらさらと黒い粒子に還りはじめていた。
『……あの、きれいな――こえ』
ラウルは琥珀色の瞳を見張った。
パイプオルガンの音色が最後の一小節を奏でて消えていく中、耳にかすかに届いた声。
『わたしがあの子だったらよかったのに』
石の上に黒く積もった塵を、七色の光の影が包んでいた。
「……終わった、の……?」
司の腕の中で、光の余韻を残してアマンダが立ち上がった。顔の画面には、猟兵たちが初めて見る彼女自身の顔が映っている。
猟兵たちが彼女と交わした言葉は聞こえていたのだろう。黒く積もった塵をじっと見つめる。口を開きかけたアマンダをさえぎるように、屋根の上から声が響いた。
「システム・フラワーズより緊急救援要請」
猟兵たちは教会の外へと走り出る。
その声はまるで、教会の周りの建物から響いてくるように感じられた。
「全自動物資供給機構『システム・フラワーズ』に、侵入者あり」
「テレビウム・ロックの解除数が多ければ多いほど、開放されるメンテナンスルートは増加する。至急の救援を請う」
●
ステージの幕があがる。
4幕の青空の背景の前で、真っ白な衣装に包まれてアマンダは歌いはじめる。
『夜があるから昼はかがやき。
影があるから光はまばゆい。
だからあなたも時々は、夜の娘だったわたしを思いだして』
猟兵たちの戦いぶりと走力、脚本家のストーリーの辻褄合わせ、仲間のアドリブ満載の演技に綱渡りのオーケストラの演奏、そして25分間の休憩時間が、彼女をこのフィナーレへ間に合わせたのだ。
余談だが、多少おかしなところがあったとはいえ、今日の舞台は臨場感が普段とは違ったと観客からはおおむね良い評価を得たという。
システム・フラワーズ。全自動物資供給機構。メンテナンスルート。
気になる言葉はたくさんあった。これからその真実は少しずつ解き明かされていくのだろう。幾多の世界を渡る猟兵たちの手によって。
だが今……次の戦いがはじまる前のこのひとときは。
舞台袖の特等席から、しばし歌姫の声に聞きほれるのも悪くはないだろう。
成功
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最終結果:成功
完成日:2019年04月30日
宿敵
『アンマリス・リアルハート』
を撃破!
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