ご城下美食珍騒動~中華そばの頂点
●――極上の馳走を求めて
「蕎麦じゃな」
「殿、その遣り取りは先日やったでは御座いませぬか」
湯呑みを傾けながら呟いた城主、佐合篤胤に苦笑いを向けながら筆頭家老、石渡実継が口を開く。
「我が藩に幾度か立ち寄って頂いた猟兵の方々のご活躍で妖は退治され、人を化かしていた狸も心を入れ替え今では庶民の間で密かに人気を博しているあの蕎麦屋。丁度先週にお忍びと称して舌鼓を打ったばかり」
「ふっ、甘いな実継」
佐合はその口の端を吊り上げてニヤリと笑う。
何処か悪戯っこを思わせるこの笑い方、ははぁまた何か面白い事を思い付いたご様子と石渡は思考を巡らす。
そばにしてそばに非ず。
何処か哲学めいた問いでは有るが斯様な事をこの時間帯に殿が考える筈も無い。
そう思いつつ石渡は横目でちらりと部屋の外を見遣る。
広縁の先には傾きかけた陽と青い空が広がっている。
もう数刻もすれば夜の帳が下りてくる。
まぁ、早い話がおやつ時と言う奴だ。
となればこれはやはり何かしらの食べ物、今回で言えばそばに関わる事。
「…………これは然り、中華そばですな?」
熟考の末に出した答えに、佐合は益々笑みを深くして答えた。
「然様、やるではないか実継! 中華そばが良いのだ!」
「しかし殿、今から作らせると言うのも時間が中途半端に」
「ええい、俺もそれくらい学習しておるわ! 食べるのは今日ではない!」
その言葉にこれまでとは違う流れを感じてずずいと身を乗り出す石渡。
なんやかんだ言いつつも、彼も確りとこの藩の住人らしく食い物に纏わる話には敏感なのである。
「今日ではない、と申しますと?」
「ほれ、次回の旨いもの市だ。中華そばは最近色々な店が出来てあちらで本家だこちらで元祖だと、今や天下に広まりつつあろう?」
「確かに他藩でも暖簾を出す店が増えておりますな。とは言え玉石混交だとか」
「中には温めたつゆに麺と鳴門を浮かべただけで中華そばを名乗る店も有ると聞いた。が、これは我が藩からすると許し難い悪行だ! 紛い物で目先の金を追って何とする! 我等は旨いものを研究し作り上げ次代へとその素晴らしさを伝えていかねばならん!」
「まぁまぁ、殿。その様に茹ってしまっては出汁も濁ると言うもの」
「む、そうか」
熱くなった佐合を落ち着かせる石渡だが、気持ちは解らなくも無い。
次代となる息子や孫、その下の子達が食べるものはどうせなら美味しいものの方が良い。
それに本当に旨いものを出す店が潰れ、紛い物を売る店が繁盛する様な世の中は余り気持ちの良いものではない。
「して、次回の旨いもの市の題目は中華そばですか」
「うむ。我が藩でもちらほらと店が出ている様だが、いっそ此処等で大きく打ち出し全体の味を引き上げる方が良かろう。他藩からも色々と見聞を広めにやって来ている者も多い事だしな」
「ほほぅ、それは良いお考えですな。しかし突然の変更ともなると準備が忙しくなりますが」
「それよ」
「それ、と申しますと?」
佐合は湯呑みに残った茶をくいと飲み干し、お絞りで口許を拭って言う。
「最近は火事も地震も無い平和な日々だが、その分大工の仕事は減って来ている。そして旨いもの市で稼いだ金が集まり過ぎていて物の流通も多少硬化し始めているではないか。となれば豪勢に金を吐き出す機会を作らねば藩の経済はゆっくりと沈み始める。……まぁ、余り金を溜め込むなと他藩にせっつかれたと言うのも有るがな。何より、先日の豪雨で下川の地域に少なくない被害が有ったと言うではないか。となれば祭りに託けて地域の復興も進めてしまえば一石二鳥、それ以上を狙う事も出来る」
「確かに此処最近、金の流れが緩やかになったと耳にしましたが……四方や復興まで構想に取り入れてしまうとは。いやはや、殿。いつの間に調べておられたのです?」
「ふっふっふ、俺とて腹を空かしてばかりのお飾りでは無いわ。序に中華そばの完成度を押し上げて不埒な模倣店を一網打尽にしてくれる!」
顔を見合わせ、謀を企てる悪童の様に笑い合う二人。
内容は悪巧み所か為政者の鑑みたいなものなので、邪な事を考えている者以外に実害は無さそうだった。
●――奇妙な予知とその行方
「えー、毎度お馴染みあの藩の予知でしたー」
わーぱちぱち、と自分で盛り上げて締める巫女、望月・鼎。
数度目の『とある藩』に関わる事件の予知。
毎度毎度、此処から如何やってオブリビオンが暴れる展開になるのか不思議ではある。
とは言え毎回何となくコテコテな流れになっていくので、何人かの猟兵はまた何処かで解り易いのが出て来るんだろうなと薄々感じてはいそうだが。
「そんな感じで、一先ず皆さんにやって頂くのは地域の復興ですかね。地図を用意しましたので見ながら説明しますね」
そう言ってホワイトボードをからからと押してくる鼎。
今回は謎キャラが居ない分、割と纏まって見える。
中央に大きく書かれているのは藩の南部にある下川と呼ばれている地域の地図だ。
湾曲する川の周囲が赤く塗られている。
此処が恐らく豪雨の影響による被害を受けた地域だろう。
「混乱は収まっているのでやる事は土砂や瓦礫の撤去、住居の建設、怪我人の治療辺りですかね? 幸い、死亡者や行方不明者は出ていない様子ですのでそこまで住民の方々も落ち込んではいません。とは言え住み慣れた場所が無くなってしまった人も多いので幾許かの不安は有るでしょう。その辺りのケアもお願いしますねー♪」
その言葉に猟兵は頷きを返す。
「何処でオブリビオンが関わってくるかは謎ですが、どうか宜しくお願いします!」
一ノ瀬崇
中華そばって聞くとラーメンよりもあっさりしたイメージが湧きません?
こんばんは、一ノ瀬崇です。
今回は復興から始まる中華そばなお話です。
宜しければご参加ください。
※このシナリオはノリや流れを引き継いだ緩い連続ものとなっております。
勿論今回が初めてのご参加の方でも楽しみ頂けますが、シリーズ「ご城下美食珍騒動~」をチラ見して頂くとニヤリと出来るかもしれません。
第1章 冒険
『地域の復興』
|
POW : 瓦礫をどかしたり、救援物資を運んだりする
SPD : 建物や仕事道具の修繕などを行なったりする
WIZ : 必要な物資の計算したり、意気消沈する民を励ましたり、怪我人の治療をしたりする
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
神宮寺・絵里香
オーキッドと同行
≪心情≫
・復興ねぇ。まあ水関係のことなら専門だ。それなりにやってみせよう。
・状況やらデータ分析にはうってつけの奴もいるしな。
・おい、「爛」じゃなくてオーキッドか…ややこしい。
考えが纏まるのに必要な情報をちゃっちゃと知らせろ。
≪復興支援≫
・UCを使い、瓦礫を一時的に雲に変えて移動させたり、資材を必要な所に移したりする。
・水に関する知識はあるからな、原因の分析を含めて色々な指示だしを
しながらさっさと終わるように行動する。
・水源が泥で濁っているならば、水神権限を使い水を浄水して使用可能
にする。
・水や祭事に関するプロフェッショナルとして、そこの部分を中心にして
関わりを持つ。
オーキッド・シュライン
絵里香叔母様と同行ですわ
≪心情≫
・遠慮がないというか、本当に人使い荒いですわね。
まあ。借りがあるから仕方ないんですけど…。どれくらいで返済が
終わるんでしょうか。
・しかし絵里香叔母様と一緒にこうしたお仕事に出るようになるとは…
思いもよりませんでしたわね。
・ああ、叔母様。本名は止めてくださいまし!わたくしはオーキッドですわ!
≪復興≫
・力には自信があるんですけど、大工仕事なんてしたことありませんわね。
・叔母様の支援に徹しましょう。UCを使って住民の困りごとや、優先順位を強化された世界知識と情報収集能力で割り出しますわ
・もう!ピーンと来るのには時間がかかるから焦らさないで下さいまし!
とある藩の領地の一角、雄大に流れ行く川の下流に位置する下川と呼ばれている地域。
普段は自然に囲まれた長閑な村でのんびりとした生活を送っている住民達だが、先日降り注いだ記録的な豪雨の所為で川が氾濫。
突如濁流が村を襲った。
幸いにも事前の避難が功を奏し、死亡者行方不明者は出ていない。
が、ぬかるんだ足場による避難時の骨折や雨に打たれた事による風邪等、被害ゼロとは行かなかった。
その上大半の家屋は濁流で崩され、辺り一面は土砂と瓦礫の山ばかり。
幾つかの民家と商家、丘の上にある神社は無事だったのでなんとか凌ぐ事は出来ているが、このままでは破綻が見えている。
復興作業は急務であった。
そしてそんな村へと降り立った救世主が、何を隠そう猟兵達である。
「おぉ……予想以上に凄いですわね」
「人の歴史は治水の歴史、何て言葉も有るくらいだ。自然を御すのは容易い事じゃない」
土砂と瓦礫が折り重なる景色を見て息を呑むオーキッド・シュラインに対して、神宮寺・絵里香に気負った所は無い。
水に関してはプロフェッショナルと言って良い程に知識も経験も有る。
周囲の土地を管轄している神社にも話を通しているので権能も問題無く使える。
「先ずは邪魔なものを退けなきゃ始まらないか。おい、爛」
呼び掛ける絵里香に、オーキッドは少し慌てた様子で声を被せた。
「ああ、叔母様。本名は止めてくださいまし! わたくしはオーキッドですわ!」
「オーキッドか……ややこしい」
「呼び名に対しての感想にしてはセメント過ぎません?」
普段の自信に満ち溢れた姿とは違って今回のオーキッドは多少しおらしいと言うか、いつもよりも素の自分の部分が前面に出ている。
叔母と姪、と言う関係性も有るからだろうか。
一番の理由は絵里香の人使いが荒い、と言うものかもしれないが。
「……まあ。借りがあるから仕方ないんですけど……。どれくらいで返済が終わるんでしょうか」
「ぶつぶつ言ってないで、考えが纏まるのに必要な情報をちゃっちゃと知らせろ」
「もう! ピーンと来るのには時間がかかるから焦らさないで下さいまし!」
頭を悩ませながらオーキッドは自身の持つ情報を整理する。
此処に来るまでに避難所で集まった人に話を聴き、物資の手配を担当していた役人にも声を掛けた。
そうして集めた情報を纏め、やるべき事や懸案事項を割り出すのが役目だ。
力には自信が有れども大工仕事は全くやった事が無い。
なので今回は絵里香を補佐しつつ、頭脳担当として働く事にした。
何でも力技で解決しようとする絵里香のストッパー役と言えなくも無い。
そんな中、漸く考えが纏まる。
「ハッ! おーほっほっほ! 閃きましたわー!! ピーンと来ましたのよ!」
「うるせえ」
ユーベルコード【お嬢様の閃き】により情報の精査を終えて高らかに笑い声を上げるが、絵里香にはバッサリ斬り捨てられた。
その対応に口を尖らせながら、オーキッドは纏まった思考を口にする。
「瓦礫等は向こうの坂の奥に窪地が有るのでそちらに。家財なんかはぼろぼろでしょうし、形見の品と言った貴重品は残っていないそうなので全部纏めて放り込んで大丈夫だそうですわ」
「なら始めるか。大いなる水を司る白蛇の神の名の元に、万象よ雨雲となれ!」
絵里香が瓦礫の山へ向かってユーベルコード【水神強権】を発動する。
途端に瓦礫の山が灰色の雨雲へと変わり、宙にぷかぷかと浮かび始める。
それを散らさない様に運びながら足を進めていく。
勿論の事、足元は多量の水分を含んでおり泥濘が広がっている。
余計な水は【水神権限】で絡め取り浄化しつつ、近くの井戸に放り込む。
当然井戸の回りも片付け、中も浄化しておく。
「……存外、こう言う場での対応力で右に出る人は居ないのかもしれませんわね」
すっかり歩き易くなった土を踏み締めながら後を付いて行くオーキッド。
撤去作業の効率はどんな重機でも裸足で逃げ出す程だ。
「良し、此処だな」
雨雲を瓦礫に戻して窪地へと捨てる。
地滑りか何かで大きく抉れた地形だったが、瓦礫を詰め込んだ為これ以上崩れる事も無いだろう。
二人の故郷と違いコンクリートや鉄筋が使われていないので瓦礫はその殆どが土に還る。
現代社会ではこうは行かないだろう。
「で、次は如何する」
「資材運びや住民の方のケアは他の皆さんが手伝ってくれるでしょうし、わたくし達ならではの仕事を片付けるとしましょう」
「……護岸工事か。人手は足りるのか?」
「まぁ応急処置に近いものかもしれませんが、そこまで本格的なものでも無いので大丈夫でしょう」
「そうか、じゃあさっさと終わらせるぞ」
「あっ、叔母様! 待ってくださいまし!」
言い終えるが早いかスタスタと歩き始める絵里香の後を追う。
せっかちと言うか何と言うか。
行動力の有り余っている絵里香に忍び笑いを漏らす。
そうしてやって来たのは川の上流。
手が入っていないが故にくねくねとうねり、細かったり広がっていたりと自然そのままの姿をした川だ。
「そこの袋になっている箇所に増水した川がぶつかり土手を越えてくるのが今回の被害の原因ですわね。恐らく今までにもこうした水難は合った筈ですわ」
「難有れど肥沃な土が運ばれてくるから土地を離れる事は無かったか。とは言え放っておいては何れ死人が出るな」
「となれば先ずはあの袋を如何にかしたいですわね」
二人の視線の先には、大きく湾曲した川が見える。
丁度上空から見れば人間の胃の様に膨らんでおり、増水した際には流れるよりも早く岸にぶつかる為非常に氾濫し易い。
「ま、手っ取り早いのはこれを分流にして手前に本流を作る事だな」
「いえ、簡単に仰いますけど」
絵里香が提案したのは言うは易し行うは難し、を地で行く発想。
袋に大量の水が流れ込まない様にすると言う単純では有るが効果的な方法。
勿論、そこに掛かる手間は勘案されていない。
「水はオレが調整しとくから水路は任せた。良かったな、労働の機会が出来たぞ」
「えぇ……」
困惑を滲ませるオーキッドの肩にぽんと手を置く絵里香。
そのまま【水神権限】で本流を作る場所の水分を集め、散らし、萃めていく。
繰り返していく度に地中に生まれた空洞は広がって行き、やがて下流と合流する一本の水路が出来上がった。
だが、これでは脆く水の流れで砕けてしまう。
「地獄の炎で焼き固めていけ。少なくとも鉄で作ったパイプよりも頑丈に出来上がる筈だ」
一度流れる水を集め、頭上を迂回させて下流へと流していく。
見上げると水の膜から燦燦と輝く太陽が透けて見える。
「わぁ綺麗」
現実逃避していると、早くしろと背中をせっつかれる。
溜息を一つ吐いてオーキッドは左腕の呪符を解き、地獄の炎を吹き上がらせる。
そのまま水底だった土を焼き固めていく。
「ぬぎぎ……予想以上に大仕事ですわよコレ!?」
「オラ、もっと気合入れろ。火力足んねぇぞ」
「スパルタですわーっ!」
焼きが甘いと指導されるので常に集中を要求される。
気合注入の結果、背中に紅葉が浮き出て居そうな疼きを覚えつつ如何にか工事を終える。
圧倒的に早く終わった代償でオーキッドは川辺にへたり込んでいる。
その横で水路に水を流し不備が無いかを点検し、満足げに頷いている絵里香。
「万全って訳じゃ無いが一先ずはこれで良いだろう。休んでないで次の仕事やるぞ」
「人使いが荒いのですわーっ!」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
緋神・美麗
アドリブ・他の猟兵との絡み歓迎
今回は地域復興かぁ。困ってる人達を助けるものやぶさかじゃないし、ここでお腹を減らせておけば美味しいご飯ももっと美味しくなるわよね。それじゃぁ頑張って復興していきましょうか。
サイコキネシスを駆使して大型の瓦礫をどかしたり救助物資を運びこんだり、建物修繕の支えを手伝ったりと現場を動き回って出来る限りのお手伝いをする
「さて、こんなものかしらね。そろそろご飯時かしら?」
時雨・零士
POW
この藩にはちょくちょく美味いモノ食わせて貰ってるからな。
ここは人肌脱ぐのも悪くねぇ!
とりあえず、力仕事は俺に任せろ!
土砂や瓦礫の撤去とかなら【怪力】とかが役立つだろうしな。
カオス・アクセラレイター使えば木材や物資の輸送(空輸)とかもできるしな!
邪魔な瓦礫の破壊とか必要に応じて「変身」して「カオス・インパクト」等で破壊したり、各種【フォームチェンジ】使ったりするぜ(ブレイズフェニックスの飛行能力使っての移動や空輸等)
後はまた豪雨の時に同じような事にならない様に、堤とか築いておきたいところだな。
その辺の対策とかどうなってるんだ?
ユース・アルビトラートル
あのグルメ藩(勝手に呼んでる)でまた……!?
とりあえず復興だね。まずは死霊たちに、損害状況と必要な物資や費用について調査させるよ。総指揮は任せたよ、ジャスティーナ。それが仕上がったら纏めた紙をお奉行様あたりに持ってこう。官民連携は復興の鍵だと思うんだ。ちなみに内容は「水害対策工事までの」支援請求だよ。
それで、オブリビオンに繋がる……え、これが? そういうことなら死霊たちにこっそり追加指示も出しておくよ。
たとえば氾濫によらない破壊跡や不審者が居ないか【情報収集】。あるいは突発的に何かが発生する可能性もあるから、兎に角対策を指示しよう。
ボク、これが終わったら中華そば食べるんだ……!
「今回は地域復興かぁ」
「この藩にはちょくちょく美味いモノ食わせて貰ってるからな。ここは人肌脱ぐのも悪くねぇ!」
「困ってる人達を助けるものやぶさかじゃないし、ここでお腹を減らせておけば美味しいご飯ももっと美味しくなるわよね。それじゃぁ頑張って復興していきましょうか」
気合を入れる緋神・美麗と時雨・零士の後ろで、少しばかりの困惑を滲ませながらふよふよと浮いているのはユース・アルビトラートル。
「グルメ藩でまた
……!?」
大小併せて何かと珍騒動の起きる藩に戦慄を禁じえない様子。
ちなみにグルメ藩とは彼が勝手に付けた呼称である。
「しかし夏前だったからまだ取り返せるな」
「えぇ、これが刈り入れ前だったらと思うと怖ろしいわ」
土砂に埋もれた下には、植えたばかりの稲が有る。
手早く掘り起こせばまだ幾つかは元気に成長するかもしれない。
駄目だったとしても再度植え直せばまだ間に合うだろう。
多少実りは悪くなるかもしれないが、全てがゼロで終わるよりは余程良い。
「それじゃ、早速始めようか。ボクは力仕事には向いて無いから、代わりに被害状況や追加で必要になる物資の目録、それに係る費用の算出と支援請求を取り纏めておくね」
「お願いね。その辺は私じゃ如何手を着けたものか怪しかったし」
「よし、取り敢えず力仕事は俺に任せろ!」
ユーベルコード【書記官】で死霊騎士と死霊を呼び出し、次々と指示を与えていくユース。
元が裁判官とあって後々必要になってくるデータの纏め方が非常に上手い。
序に周辺に不審なものが無いかを調べる様にこっそりと指示するのも忘れない。
予知に出たと言う事は何処かでオブリビオンが関わってくると言う事でもあるので、今から何かが起こる若しくは何かが起きている可能性も無くは無い。
警戒しておいて損は無いだろう。
美麗は【サイコキネシス】を使い、水田に溜まった土砂を押し退けていく。
イメージは除雪用のブルドーザーだ。
「さっさっさーっと」
少し進むだけで大量の土砂が積み上がって行く。
一区画だけでちょっとした山が出来上がった。
「んで、これをギューっと」
今度はその土砂へ全方向から圧力を掛けていく。
ぎゅうぎゅうに圧し固められた土砂が二階建て住居くらいの大きさにまで小さくなった辺りで力を解放。
柔な地面であればそのままズブズブと沈み込んで行きそうな質量だ。
「此処からは俺の出番だな。よっと」
怪力で土砂の塊を軽々と持ち上げる零士。
しっかりと固められているので持ち上げたくらいで崩れはしない。
「おー、流石。固めた土砂は後で使うから、一先ずあっちの方に纏めて置いといて」
「おうよ!」
ユースの指示した場所に土砂を持って行く零士。
後で使うと言っていたが、果たして何をするのやら。
「よーし、次々固めていくわよー!」
「運ぶのは任せろー!」
常人が見れば顎を落としかねない速さで土砂を撤去していく二人。
見る間に土砂は姿を消し、不恰好な稲が頭を出し始めた。
「んー、此処からは農家の人を呼んで作業した方が良さそうね」
「下手に弄ってもアレだからな。こっちは一先ず良いとして次は何をやる?」
「二人共お疲れ様。次は川をちょっと弄ろうか」
何やら書類に纏めつつふわふわと飛んでくるユース。
差し出されたタオルを受け取りながら、零士は首を傾げた。
「川を弄る、か。堤とか築いておきたいところだけど、資材とかは如何する?」
「その辺は二人の力が有れば大丈夫」
「私達の?」
キョトンとする美麗と零士に、ユースは大きく頷いてみせる。
「あの土砂を再利用するんだよ。緋神さんのサイコキネシスで四角く切り出して、変身した時雨さんの火力で焼き固める。即席レンガだけど、土や石が剥き出しのままの今よりはずっと頑丈になると思うよ。序に堤防にも幾らか盛っておこう」
「成程、そりゃ良いな。普通に作るよりも丈夫なのが出来そうだ」
「そう言えば護岸工事も良いけど、建物の修繕や建築は如何するの?」
あ、と男二人の声が重なる。
土砂の撤去や護岸工事もそうだが、目下最大の問題点とは住む家が無くなったり壊れたりしている事だった。
「そうだったそうだった。でもそっちの資材は如何する? 流石に今有る分だけじゃ足りないだろ」
「……ん、大丈夫そう。丁度資材を積んだ荷車と大工さん達が到着したって」
「あら、ナイスなタイミングね」
ささっと寄って来た死霊が藩からの人員と物資が届いた事を知らせに来てくれた。
見に行ってみると、大量の建材が運び込まれている。
早速手分けして建材を運び、新しい家を建てていく。
「はぇー、猟兵さまってのはえらい力持ちだんなぁ」
「力仕事はどんどんやるから、大工さん達は指示や専門的な事を頼むぜ!」
「あやー、こんなめんこい子も凄い力を持っとるだなー」
「私が柱を支えておくから、安心して木槌を振ってねー!」
大工達と力を合わせて作業を進めていく。
美麗はサイコキネシスを使い支柱を押さえたり高所へと建材を運んだり。
零士は怪力と持ち前の器用さで足場を組み上げ縄を結び、切り出された建材を持っていく。
二人共大忙しだ。
そんな肉体労働に勤しむ彼等から少し離れた所で、ユースは役人と情報の遣り取りを進める。
「今の所の被害状況はこんな所ですね。この分なら復興も間に合い旨いもの市を開催するのは問題無いと思いますけど、開催して終わりでは復興も意味が無い。此処を新たな魅力有る町へとするには、お祭りの後も継続した支援が必要になるでしょう。何せ今回の水害で水田に大きな被害が出ました。最悪収穫が見込めないと言う事も考えられます。その場合は年貢徴収に対する寛大なお心遣いと住民へ対する食料含めた物資の提供も必要になってくるかと。暖を取る為の薪も流されてしまった様ですし」
普段の暢気さを滲ませた彼とは違う、凛々しく怜悧さを秘めた様子だ。
言わば法廷モード。
その真剣さを感じ取り、役人もまた己の職務を忠実に果たす。
「ええ、私もこの目で見て深く感じ入りました。命ずる立場に無いので確約は出来ませんが、継続的な支援を上役に強く具申致しましょう」
「それは何よりです。こちら、情報を取り纏めた書類です。ご査収ください」
分厚い紙の束を役人に手渡す。
本来はそれ程では無い筈だが篭められた想いの所為か、ずっしりと圧し掛かってくる感覚を役人は味わっていた。
町へと戻って行く姿を見送ったユースは何処か晴れ晴れとした顔をする。
「あの様子なら大丈夫だね。後は藩の人達にお任せしようかな」
ぐっと伸びると凝り固まっていた肩や腰が小気味良い音を立てる。
「ボク、これが終わったら中華そば食べるんだ……!」
積極的にフラグを建てていくスタイル。
果たして結末や如何に。
そんな風に彼等が汗を流して動き回る様子を、離れた高台からこっそりと窺っている人影が一つ。
上物の小紋を来た中年の男である。
その顔は意地汚い笑みを湛えており、胡散臭さがぷんぷんと漂ってくる様だ。
「復興がてらの催しねぇ……まぁ地元の出店が無いってのは良い情報だ。色々と打てる手も増えるってもんよ」
ウッシッシ、と余り上品ではない笑い方をしながら建築の様子を見ている男。
如何見ても怪しげなこの姿はバッチリと巡回の死霊に目撃されていた。
今の所実害は無い上一般人と言う事も有って監視に留まっている。
「ウシシ……旨いもの市が楽しみだぜ」
普段は余り感情を面に出さない死霊も、この小物臭溢れるテンプレな不審人物には困惑を隠せない様子だったとか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アマータ・プリムス
地域の復興ですか
それはお手伝いせねばいけませんね
まずは携帯秘書装置で被害状況の【情報収集】
そこから必要な物資を計算いたしましょう
「木材が少々足りませんか。それは手配するとして……問題は」
復興も大事ですがまずは被害にあった方のメンタルケア
物資の手配を終えたらアルジェントムとイーリスを持ち出して復興ライブといきましょう
「さぁ皆様辛いことがあった時ほど笑いましょう。気分転換には音楽が一番です」
【楽器演奏】と共に皆様を勇気づける応援歌を【歌唱】してUCを発動
怪我も一緒に治してしまいましょう
辛いことがあってもまだ人生という名の先は長いのです
転んでもまた立ち上がりましょう
聞いたことのない歌は滾るでしょう?
イリスロッテ・クラインヘルト
中華そば…初めての響きなのです
イリスはとっても気になるのです
でもまずは、復興なのです!
◆WIZ:怪我人の治療と心のケア
聖者のパワーの見せどころ、というやつなのです!
「イリスにお任せください、なのです!」
【虹の聖女】の力でキラキラと治すのです
眩しくなっちゃわないように気を付けるのです。
…でもこれ、使いすぎるとちょっと疲れちゃうのです
疲れを見せると気を使わせてしまうので、
適度に休憩してお話ししたりするのです
「みんなが新しいおうち、作ってくれるのです」
「他にも足りないものや欲しいものがあったら、教えてほしいのです」
完全には無理でも、一緒に考えたりは出来るのです。
イリスは全力でお手伝いをするのです!
所変わって此方は丘の上の神社。
広い境内には多くの住人が避難しており、中には怪我をした者も居る。
幸いにも大怪我ではないが、それでも痛みは強い。
足の骨を折ったご隠居も先程までは額に脂汗を浮かべていたが、今その顔に浮かんでいるのは満面の笑みだった。
「はい、これでもう大丈夫なのです。骨はくっ付きましたけど、余り激しい運動はしないようにしてくださいね?」
「ありがたやありがたや……」
「わわ、拝まれてしまったのですー」
虹色の光で患部を包み込み治療しているのはイリスロッテ・クラインヘルトだ。
ユーベルコード【虹の聖女】を使い怪我人を治療していくが、自身も疲れるので乱発はしていない。
治療を行っているのに自分が疲れた顔を見せては皆が気を遣ってしまうから、と言うのが理由だ。
急を要する怪我人もこのご隠居で最後なので、後は休憩やカウンセリングを兼ねたお話を挟みながら続けていく。
とは言え猟兵に、それもイリスロッテの様に親身になって話を聴いてくれると言うのは庶民から見れば随分と畏れ多く文字通り『有難い』事だった。
朗らかさと深い慈愛も合わさり、この場でのイリスロッテの評価は鰻上りである。
「そう言えば次のお祭りでは中華そばがお題目だそうですね。中華そば……初めての響きなのです。イリスはとっても気になるのです!」
「えぇ、えぇ。私らにはまだ馴染みは無いですが、町の方では人気だとかで……偶に里帰りしてくる息子夫婦が土産話に話してくれましたのぅ」
「そうなのですね。旨いもの市では中華そばで催しもするみたいですし、楽しみなのです! その為にも、まずは復興なのです!」
両手の拳を握ってふんすと鼻を鳴らすイリスロッテに、ご隠居は皺の入った目元に更に皺を寄せて笑う。
「村の子供達も楽しみにしとるようで……猟兵様方も、どうぞ旨いもの市を楽しんでいってください。今はまだ、何も無い村ですがのぅ」
「おや、そんな事は無さそうなのですよ?」
悪戯っこめいた笑みを浮かべてイリスロッテはご隠居の手を取る。
立ち上がる際に痛みは残っていないか、変な感覚はしないかと問い掛けながら様子を見る。
すっかり治った様で再度頭を下げるご隠居を押し留めつつ、ゆっくりと手を引いて歩き出す。
ちょっとずつ歩いてみて足が大丈夫かを確認するが、如何やら心配は要らないらしい。
そうしてゆっくりと歩いて境内の端の方まで行くと、丁度村が有った場所を見下ろせる。
来た当初は土砂が覆い家屋も殆ど残っていなかった村だが、いつの間にやら土砂や瓦礫は取り除かれており、代わりに建設途中の家屋の様子があちらこちらに見て取れた。
「わ、すごいのです。もう形になりつつありますね」
「おぉ、これは……」
目を見開くご隠居に、今度は満面の笑みを向ける。
「みんなが新しいおうち、作ってくれるのです。他にも足りないものや欲しいものがあったら、教えてほしいのです」
「……もう、何とお礼を申し上げて良いのやら……」
感極まった様子で眼下の村へと、作業している大工や他の猟兵達へと頭を下げるご隠居。
その姿を見て、イリスロッテは何とも言えぬ充足感に満たされていた。
「さぁ皆様辛いことがあった時ほど笑いましょう。気分転換には音楽が一番です…………――――♪」
一方、外縁に腰を下ろして弾き語りをしているのはアマータ・プリムスだ。
トランク型ガジェット『アルジェントム・エクス・アールカ』をアンプにして、蒸気機関式ギター型マイク『イーリス・カントゥス』を手に復興ライブを行っている。
ユーベルコード【Ars longa, vīta brevis】を発動し、集めた軽傷の怪我人や子供達を集めて治療兼慰撫をしていた。
体の傷は治ったのだが、心にはまだまだ不安と言う病魔が巣食っている。
ならばそれを癒すのも自分に出来る仕事だ、とアマータはアンコールに応え続けていた。
いつの間にか演奏を聴きに境内に居るほぼ全員が集まって来ており、皆目を輝かせて、時折体を左右に振ったりしながら楽しんでいる。
「――――♪」
今歌っているのはそれまでのものとは一風変わった曲だ。
最初は明るい気持ちになる曲やストレートな応援歌をチョイスしていたが聞き入る皆のテンションも上がってきたので、音楽と言う娯楽を提供する為にとっておきの曲を披露する事にした。
題材は病に倒れた幼馴染を助ける為に少年が秘薬の元となる花を求めて険しき山へと挑む、と言うもの。
何方かと言えば吟遊詩人が好んで歌いそうなものだが、こうしたジャンルの歌は馴染みが無いらしく皆真剣な顔で聴き入っている。
その様子に、アマータは内心でしてやったりと笑ってみせる。
(如何です? 聞いたことのない歌は滾るでしょう?)
歌詞の進みに合わせ、皆は表情をころころと変える。
花を得る為に急がなければならないが困っているのを見捨てては置けないと川辺に打ち上げられた鯉を助ける場面では少年のお人好しな性格と優しさに笑みを浮かべ、切り立った崖を登る際に足を踏み外しあわや転落と言う場面では顔を強張らせながら固唾を飲み、目的の花を手に入れた場面では大きな歓声と共に顔を綻ばせ、帰り道で再び切り立った崖を前にした少年の元へ助けた鯉が龍となり村へと戻る手助けをする場面では驚きつつもやはり人助けはするものだと大きく頷き。
「――――♪」
そして今、医者に作ってもらった薬を飲ませた幼馴染が目を覚まし少年に礼を述べる場面で。
見事成し遂げた少年への賛辞と助かった幼馴染への安堵を篭めて、万雷の拍手が響き渡った。
「……ふぅ。ご清聴有難う御座いました」
ペコリと頭を下げるアマータへ惜しみない拍手が贈られる。
歌を聴き、その内容に元気付けられた青年が口を開く。
「いやぁ、素晴らしい歌だったなぁ! 聴いていてこっちまで勇気が出て来るよ!」
「だな、お陰様で傷も治った事だし……良し!村を直すの手伝いに行こうぜ!」
そこからはまるで瀑布が流れ落ちる様に。
俺も、私も、と競い合うように手を上げる住民達。
その様子に何処か喜色を滲ませながら、アマータはすっと立ち上がる。
皆の視線が集まったのを感じてゆっくりと言葉を紡ぎ出す。
「辛いことがあってもまだ人生という名の先は長いのです。転んでもまた立ち上がりましょう」
言葉を受け、一人の童子が右手を振り上げる。
それに、皆が続いた。
「頑張ろう!」
「「「「「おぉー
!!」」」」」
まるでかけっこをしているかの様に走り出す子供達と若い衆、それをゆっくりと追いながら村へと歩いて行く老人達。
境内を掃除しながらその様子を見送るアマータに、イリスロッテは微笑み掛ける。
「皆さん、元気になったみたいなのです!」
「ええ、当機も皆様のお力になれた様で一安心です」
「まだまだ大変な事は有りますけど、ああして皆さんに笑顔が戻ったのならきっと大丈夫なのです」
眼下では、更に賑やかさと活気を増した村の様子が見える。
この様子なら復興も旨いもの市の開催も、きっと上手くいくだろう。
確証は無いが、二人共そんな思いを抱いたのであった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
戸辺・鈴海
さてさて、麺類の為であればなんでも出来る系フェアリーのお通りですよ。
今回は中華そばときましたか、蕎麦と違って様々な工夫を行える素晴らしい麺類ですね。
美味しく頂くのであれば、しっかりとお勤めを果たさなければなりません。
復興支援といえば炊き出し、フードファイターの基本です。
家や食料が流されているならば、食事にも影響が出てしまうでしょう。
だからこそ美味しい料理を振る舞って、心を充実させてあげたいのです。
肝心のメニューですが、山菜蕎麦辺りに目星を付けておきますか。
採れる野菜や川魚次第では、天ぷらも宜しいですね。
狸さんたちを応援に呼びたいところです、イメージアップとスキルアップにもってこいの機会ですし。
村の復興作業も問題なく進み、早いものでもう何棟かは完成間近と言う所まで来ている。
藩からの支援が手早く人員も十分だったのも有るが、やはり猟兵達の働きが大きい。
時刻は昼をやや過ぎた頃。
この分なら夕方までには住居の確保は問題なく終わるだろう。
数日も有れば旨いもの市の為の貸し店舗やら何やらの施設も順当に完成する筈だ。
しかし、それ程までの頑張りを見せればお腹が空くのも、また道理である。
「流石に腹減ってきたなぁ」
「これだけ動けばなぁ。お役人様が手配してくれたものに米は有るが、無事に残ってる炊事場を全部使っても人数分となると時間が掛かりそうだしな」
精力的に資材を運んでいた村の青年達が額の汗を拭いながら話し合う。
彼等の言葉はその場の全員が少なからず思っていた様で、何処からか腹の虫が無く音が聴こえて来る。
「ははぁ、今のは太郎吉の腹の虫でねぇか?」
「いや、おらのはもっとこう、勇ましい音がするだ」
「腹の虫に勇ましいも痛ましいも無いわ」
「はっはっは」
だが余り悲壮感は無い。
自らの手で作業を手伝い復興が見る間に進んでいくのを直に見ているからだろう。
とは言え、腹が減っては戦は出来ぬ。
このまま続けても作業効率は落ちるだろうし、何処かで休憩を挟みたい所。
そんな彼等の元へ現れる、一人の猟兵。
「さてさて、麺類の為であればなんでも出来る系フェアリーのお通りですよ」
満を持して姿を見せたのは戸辺・鈴海。
彼女の背後では目の下に濃い隈を浮かべた十数人の男達が荷車を押して付き従っている。
荷車には炊き出しに使う大鍋と椀に割り箸、水に昆布に鰹節、麺の生地、近くの山川で獲ってきたばかりの新鮮な山菜や川魚が乗せられている。
「おや、もう復興作業もだいぶ進んでいるのですね」
活き活きと働く村人達と建て直しつつある家屋の様子に目を見開く鈴海。
「とと、見れば皆さんもお腹を空かせているご様子。此処はちゃっちゃと準備してしまいましょう! 皆さん、お願いしますよ」
「「へいっ!」」
彼女の声に応え、男達は手際良く邪魔にならない場所に天幕を組み上げていく。
椅子やテーブルも並べつつ持ってきたレンガと薪を組んで、大鍋を設置。
その様子を見てちらほらと人が集まり始める。
「おぉ、なんだべな?」
「私にも解らん」
何を始めるのかと興味と期待を滲ませながら見守る村人達に、鈴海は胸を張って答えた。
「出張たぬきそばや、開店ですよ!」
そう、鈴海が手配したのは以前この藩で起きた騒動で知り合った狸達が経営する蕎麦屋『たぬきそばや』だ。
近隣では評判になりつつあるがオブリビオンと関わりが有ったと言う事で余り宜しくない噂もちらほらと散見されている。
その悪いイメージを払拭するのと、彼等の技術向上、序に炊き出しで復興の手伝いも兼ねた一挙両得な一手である。
「間も無く出来上がりますので、一人ずつ列を作って並んでくださーい!」
「おい、蕎麦だってよ」
「ありがてぇ、俺なんかもう腹空き過ぎて骨と皮になっちまうぜ」
「お前は普段が太りすぎだから丁度良いだろ!」
わいのわいのと盛り上がりながら、子供と老人を優先させて並ばせる村人達。
大行列が出来上がった辺りで、遂に蕎麦が出来上がる。
醤油をベースに昆布と鰹の出汁で割った温かいつゆに特製手打ち麺と湯掻いた山菜、川魚の天麩羅を乗せたボリュームたっぷりの蕎麦だ。
麺に並々ならぬ拘りと愛着を持つ鈴海の監修だけあって、全ての味が素晴らしく高いレベルで纏まっている。
間違い無く名店と湛えられる味だ。
「わ、美味しい!」
「てんぷらさくさくー」
子供達の楽しそうな声と漂ってくるつゆの香りに、思わず何人かが唾を飲み込む。
山菜は青臭さが抜けて豊潤な生命の香りと飾らない旨味が口いっぱいに広がり、天麩羅はサクサクとした歯応えとつゆが染み込んでホロホロになった部分とが実に素晴らしく、魚自体の美味しさもバツグンだ。
蕎麦はつるりと喉を滑り鼻へと抜ける香りも申し分なく、鰹と昆布の出汁と醤油の深い味わいが調和するつゆはこれら全ての味を一つに纏め上げている。
「おらぁ、こんな美味い蕎麦は初めてだぁ」
「川が氾濫した時は如何なるかと思っただども、悪い事ばかりじゃねぇもんだなぁ」
「禍福は糾える縄の如しと言うからのぅ」
村人達の評価も上々の様だ。
全員に行き渡った様なので猟兵達と男達も蕎麦を食べる。
鈴海も早速一口。
「うん、良い出来です」
美味しさについ顔が綻ぶ。
その様子に男達も嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「麺の茹で具合もつゆの配合も申し分無し、この調子で精進してください」
「姐さん、有難う御座います!」
お褒めの言葉に頭を下げる男達。
すっかり舎弟みたくなってしまっている。
その内鈴海の麺屋連合でも結成出来そうだ。
「よし、腹も膨れた事だし」
「作業の続きだ!」
「「「おぉー!」」」
気合を入れ直して作業に戻って行く人達。
その活気に満ちた姿を見て、鈴海は満足そうにつゆを啜るのであった。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 冒険
『大江戸ラーメン勝負』
|
POW : 麺はしっかり練らないと美味くならねえ、この練り棒を見てくれ、こいつをどう思う?
SPD : サムライエンパイアならではの食材を、調達して参りましょう。
WIZ : あの渡来人と拉麺の素性を調べれば、攻略法が分かるかもしれません。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
急ピッチで進められた村の復興。
遂に最後の一棟も建て終わり、愈々旨いもの市に向けての準備が進められていく。
その中で、折角だからこの村からも一杯の中華そばを出してみようと言う話になった。
村の新しい目玉になれば御の字、と言う事で早速取り掛かってみる事に。
とは言え中華そばは未知の領域。
何を如何すれば中華そばになって、何を如何すれば美味しくなるのかが解らない。
首を捻る村人達に、これも何かの縁と猟兵達は力を貸すのであった。
「……妙な事になっちゃあいるが、たかが素人の集まり。ちょいと仕掛けてやれば美味い中華そばなんて出来るものかよ。失敗した所に手を差し伸べてやれば馬鹿な村人は警戒する事も無く、俺に従う筈だ。後はゆっくり利益を搾り取ってやろうってもんよ」
ウッシッシ、と品の無い笑いを漏らしながら暗躍する謎の人物の影が暗躍する中、果たして美味い中華そばは出来上がるのだろうか。
緋神・美麗
この村から中華そばの出品かぁ。中華そばといえば麺とスープと具材よね。具材やスープはこの村だと野菜か魚介かしらね。それじゃ美味しい中華そばを作ってみるとしましょうか。
猫型フルカスタムPDFを使用し世界知識で一般的な中華そばの美味しい作り方とこの村周辺で採れる具材になりそうなものを調べ、近くの海や川で魚を釣ってきて、スープや具材にして試作品を作ってみる。
「魚介醤油系も美味しいわよね」
一番美味しくできたものをレシピにして調理役の村人にしっかり伝える。
「これで旨いもの市でもいい線いけるかしらね」
アマータ・プリムス
中華そば……じつはそこまでちゃんと作ったことはないんですよね
調べながら作るとしましょうか
【世界知識】を使い携帯秘書装置で中華そばについて【情報収集】
とりあえずは基本的な作り方を抑えておきましょう
「なるほど……基本はコンソメに近いですね」
材料をメモしたらUCを使用してアリウスにおつかいを頼みましょう
できればご当地の食材も使いたいので地鶏などがあれば最高ですね
村人風に【変装】してもらったアリウスにメモを渡してその間に当機は準備開始です
材料を買って来て貰ったら【料理】開始です
麺は買ってもいいですができれば打った方がいればいただきたいですね
テーマは家庭の味
難しいことはせずに誰でも作れるようにしましょう
神宮寺・絵里香
≪心情≫
・中華そばねぇ…。オレはあんまり料理しねぇんだよな。
・材料取ってくるくらいならはするが…。
煮干しと…鶏ガラと…ネギに大蒜に…。(レシピ見ながら)
面倒癖え…。取りあえず殴れそうな奴の調査にいくか。
んじゃいくぞ、オーキッド。
≪調査≫【WIZ】
・世界知識と第六感を使い情報収集。復興のためにここに支援に来た
人の中で居ない奴とか、動きが怪しい奴が居ないか調べる。
・調べた情報を基に、オーキッドのUCで精査をさせる。
・何かしらの妨害が考えられるからな。
・まあ怪しい奴片っ端からぶっ飛ばせばいいか。面倒癖い
・ついでに何か捕ってこいっつーなら、熊か猪くらいなら適当に
狩ってくるぞ。居るならな
オーキッド・シュライン
≪心情≫
・あ、あの叔母様が料理のレシピを見て…料理するつもり…って飽きるの
早っ!叔母様、叔母様。もうちょっと頑張りましょう。
ね、わたくしも協力しますし。最近お料理ちょっと覚えたんですのよ。
って違いますわ。怪しい人の調査じゃなくて…あーもう!
どんどん行かないで下さいまし!叔母様!!
≪調査≫
・巫女の直感に任せて怪しい奴ぼっこぼこはダメですって。
叔母様無駄に迫力があるんですから、ガン飛ばされただけで震え上がって
しまいますって。
・閃かないとどんどん被害者が出る…って止めて下さいまし
もう、変なプレッシャーをかけないで下さいまし
・UCで強化された情報収集能力と世界知識で怪しい人を割り出します
「中華そばねぇ……。オレはあんまり料理しねぇんだよな」
完成した店舗予定の空き家の中で持ち込んだレシピ本を開いて流し読みしながら、神宮寺・絵里香はその端正な顔を面倒くさそうに顰めている。
料理は出来ない訳では無いが、心血を注ぐ程の情熱も拘りも無いタイプなのでイマイチ気分がノって来ない様子だ。
「材料取ってくるくらいならはするが……。煮干しと……鶏ガラと……ネギに大蒜に……」
ぱらぱらとページを捲るがその度に眉間の皺が深くなって行く。
そんな彼女の隣で驚愕に顔を染めているのはオーキッド・シュラインだ。
「あ、あの叔母様が料理のレシピを見て……料理するつもり……」
色々と篭もってそうな声色を搾り出すがそんなオーキッドの想いも空しく、絵里香はポイっとレシピ本を棚の上に放り投げてしまった。
「取りあえず殴れそうな奴の調査にいくか」
「って飽きるの早っ! 叔母様、叔母様。もうちょっと頑張りましょう。ね、わたくしも協力しますし。最近お料理ちょっと覚えたんですのよ」
健気にも宥めに掛かるオーキッド。
これが普通の人ならば彼女に絆されてもう少し頑張ろうだとか一先ずは腰を落ち着けてみようかとする所だが、目の前に居るのは天衣無縫の雨冠。
全く気にせず立ち上がり、肩をぐるぐると回して歩いて行く。
「んじゃいくぞ、オーキッド」
「って違いますわ。怪しい人の調査じゃなくて……あーもう! どんどん行かないで下さいまし! 叔母様!!」
ひーん、と半泣き状態で後を追い掛けるオーキッド。
普段しっかりもので気品と自信に満ち溢れたスタイルの彼女も、絵里香に掛かってはまだまだ小娘同然と言う事なのかもしれない。
貧乏くじとも言うかもしれないが。
「取り敢えずその辺練り歩いて、怪しい奴が居たら片っ端からぶっ飛ばせばいいか」
怪しいと判断する材料は基本的に巫女の勘である。
割とぽんぽん当たるので面倒くさいと感じた時には勘に従って行動するのが絵里香スタイルだ。
「巫女の直感に任せて怪しい奴ぼっこぼこはダメですって。叔母様無駄に迫力があるんですから、ガン飛ばされただけで震え上がってしまいますって」
「じゃあお前も早い所怪しい奴を割り出して見付けるんだな。のんびりしてるとオレが先に見付けちまうからな」
「閃かないとどんどん被害者が出る……って止めて下さいまし。もう、変なプレッシャーをかけないで下さいまし」
初っ端から妙な焦りに苛まされつつも、オーキッドはユーベルコード【お嬢様の閃き】でブレーキの壊れたロードローラーこと絵里香を止めるべく必死に頭を巡らせる。
が、聞こえて来そうなのは閃いた時のピコーンではなくカラカラカラ……と言う空回りの音ばかり。
それがまた新たな焦りを呼ぶ悪循環に陥っているのだが気付いた所で打つ手は無い。
「あーもー! 何かもー! 全くもー!!」
両手で頭を抱えて左右にぶんぶんと縦ロールを揺らして嘆く彼女を横目で見ながら、絵里香はずんずんと通りを歩いて行く。
若い衆は集会所と貸した店舗予定の空き家であーでもないこーでもないと喧々諤々丁々発止、どんな中華そばにするのか議論を交わしているので見掛けるのは専ら日向ぼっこ中の老人達や遊んでいる子供達、それに味音痴だったり食にそこまで興味も知識も無い少数の若者達と言った所。
「足元の整理と言うか工事も割と早く終わったもんだな」
いつの間にか踏み均されて歩くのに不自由しないしっかりとした道が出来上がっており、新築の多い景観と相俟って少し贅沢な気分さえ感じさせる。
そんな中で、絵里香は一人目の怪しい人物を見付ける。
「…………おー」
物陰から窺っている心算なのだろう、小さな女の子が体を半分以上覗かせながら此方を見ていた。
此方の動きに合わせてチョロチョロと先回りしているのがまた可愛らしい。
「怪しいが流石にアレはねぇわな」
「叔母様、まさかあんな年頃の子に手出しは……」
「する訳ねぇだろアホか」
「あだだだっ」
軽く握った拳をオーキッドの背中にぐりぐりと押し付けて、絵里香は建物の影に隠れている心算の女の子と正面から視線を合わせてみた。
軽く体をびくっと跳ねさせる。
威圧の類はしていないので本当に隠れられていると思っていたらしい。
「あー……お前の出番だ」
「え、わったった!?」
面倒くさそうな顔を隠そうともせずに絵里香はオーキッドを前に出す。
突然背中を押されて蹈鞴を踏みつつ、少し呆れた様な目を向けた。
「そう言えば叔母様、小さい子とか苦手でしたね」
「何考えてるかわかんねぇからな」
普通に話をするだけなのに、と小さな溜息と共に笑いを浮かべつつ改めて女の子に向き直る。
「こんにちは」
「こんにちは!」
建物の影から出て来て元気良くお辞儀をする女の子。
少し警戒と言うか落ち着かなさを感じている様子だが、しっかりと挨拶が出来る辺り躾の行き届いた娘さんだ。
「どうかなさいまして?」
「あ、あの、りょーへーさまに、お……おつ、たえ? したいのです!」
つっかえながらも答える女の子に、オーキッドは優しく笑い掛ける。
「喋り難かったら、お友達と話すようにして頂いて構いませんわよ。それで、お伝えしたい事とは何でしょう?」
穏やかな雰囲気の彼女に、女の子は安心した様に笑みを浮かべる。
「えっと、何かあやしい人がいたの!」
「怪しい人?」
「うん、あっち!」
「あぁ、そんなに引っ張らなくとも」
女の子に手を引かれて歩き出すオーキッド。
その後ろを付いて行く絵里香。
はて、怪しい人と言うからにはこの村の住人では無さそうな気もするが。
そんな事を考える二人が連れられてやってきたのは井戸の有る場所。
見れば井戸の傍で背負子から何やら小さな壷の様なものを取り出して混ぜ合わせている、上物の小紋を着た男が一人。
「ウッシッシ……麺は水が命。となれば肝心の水が不味けりゃ麺も不味くなるって寸法よな」
不穏な事を口にしながら壷の中身を擂鉢に入れて念入りに練っている。
「アレか」
「アレですわね」
最早推理も勘も必要無いレベルで不審者である。
「ウッシッシ……ん?」
ふと手元に影が差したのを不思議に思い、男が振り返る。
そこには妙な威圧感を滲ませた笑顔のオーキッドと、腕を組み威圧感しか放っていない無表情の絵里香と、何故か少し後ろで絵里香と同じポーズを取る女の子の姿が。
「ちょっとお話宜しいですか?」
「おう、面貸せや」
「かせやー!」
こうして事件は未然に防がれたのであった。
尋問もとい取調べの結果、男は旨いもの市に中華そばの出店を開き自身の店を大きくしようと目論んでいた事が解った。
手っ取り早く評判を上げる為に村の井戸に少し水を不味くする漢方を投入し、その水を使った店舗全体の味を悪くしようと言う企みだ。
自分は水を用意しておき万全の態勢で中華そばを作る心算で、仮に他店舗が井戸水を使わないとしても持ち込んだ水を高く売り付ける事で荒稼ぎが出来るだろうと考えたらしい。
勿論、そんな企みが成功する訳も無く。
男は役人に引き渡され、牢に繋がれる事となったのだった。
「……向こうは賑やかねー」
「こっちもこっちで大騒ぎでしたけどね」
空き家の土間ではアマータ・プリムスと緋神・美麗が大鍋を前に試行錯誤を繰り返していた。
先程までは大人数がやいのやいのと激論を交わしていたが、不意に誰かが気付いた事でその議論は一気に収束したのであった。
つまり『誰も中華そば食べた事無いからそもそもの基本が解らんのじゃね?』と。
色々とずっこけそうになる結論だが真実には変わりないので、一先ず今手に入る材料を使って二人が試作品を出してみる事にした。
「やっぱり変に凝らず、簡単ながらしっかり美味しい素朴系が良いわよね?」
「ええ、テーマは家庭の味と言った所でしょうか」
「ならやっぱり珍しいものじゃなく有り触れた食材の方が良いわね。この辺りの特産品とかでも地域色が出るし、何よりコストが安く仕上がるもの」
会話を交わしながら手際良く野菜の皮を剥いてネットに詰め、スープの素に沈めていく。
中に入っているのは玉葱や韮等、お馴染みのものが多い。
が、その多くは海を越えてやってきた外国生まれの野菜である。
存在が無くなっていてもおかしくは無さそうな物も有るが、まぁその辺は深く考えても仕方がない。
有ると言うなら有難く使わせてもらうだけだ。
醤油も味噌も有ることだし。
「そう考えると色々素敵な世界よね、此処」
「オブリビオンの脅威は有りますがそれを引けば平和で牧歌的と言えますかね」
まったりとしつつ、美麗は砂抜きを済ませた蛤を茹でて出汁を取っていく。
超小型携帯情報端末『猫型フルカスタムPDF』で調べた所、丁度産卵を目前に控えたこの時期の蛤は身がぷりぷりと詰まっていて味わいも濃厚。
おまけに近くの湾から取り寄せられると有って安く大量に仕入れる事が可能だ。
吸い物、佃煮、炊き込みご飯とオールラウンダーに活躍するこの蛤は庶民にも馴染み深い為旨いもの市の中華そばに使うにはもってこいだろう。
他にも出汁はお馴染みの昆布に今が旬の鯒のアラを使う。
上品ながら決して淡白ではない腰の入った旨味が出るので汁物との相性は抜群だ。
「ふふーん♪」
鼻歌を歌って上機嫌に調理していく美麗の横で、アマータは麺を打って行く。
幸運にも、蕎麦や饂飩に使う挽いた粉を保存しておく倉庫は今回の水害を免れたので麺は潤沢に用意出来る。
用意する上でネックになるのは所謂『かん水』の存在だ。
しかしそこは抜かりの無いアマータ。
タブレットのような『携帯秘書装置』を使い得た情報を元に見事かん水を再現。
有名な塩田から取り寄せられる塩とこの村の井戸水、それと塩に漬けて乾燥させた海草の表面を薄く削ったものを少量混ぜて出来上がった。
厳密なものとは違うかもしれないが、十分にかん水の働きは果たしてくれる。
混ぜ合わせる比率もしっかりとメモしてあるので、料理の心得が有る者ならば誰でも作れる筈だ。
「と、アリウスおかえりなさい」
そこへ村人風に変装させて買出しに向かわせていた『アリウス・プーパ』が手に大きな袋を提げて帰ってきた。
袋に入っていたのは何と地鶏だ。
これには美麗も思わず声を上げる。
「わっ、鶏じゃない!? コレで鶏がらスープが出来るわ!」
ひゃっほいとテンション高く両手を挙げて喜ぶ美麗だったが、ふと動きを止めて首を傾げる。
「あ、でも鶏をメインに使うならやっぱり醤油よね。蛤の方は塩ベースになっちゃうし」
「でしたら、二種類で出してみるのは如何です?」
「二種類?」
「ええ。美味しいものが減るのは皆さん悲しみますが、増える分には喜ばれる筈です」
「成程確かに! それじゃ鶏がら醤油と魚介出汁塩の二枚看板でやってみましょう!」
その後はスープを仕上げて載せる具の選定に移る。
スープや麺との相性も然る事ながら、やはり単体でも噛んだ時に美味しいと思えるもので無いと駄目だ。
メインはそれぞれ直ぐに決まった。
醤油は地鶏の肉団子、塩は鯒のつみれ。
何方も旨味がしっかりと詰まっているのでスープに負けない美味しさがある。
その上それ自体から出汁が出るので文句無し。
ネギは最早外せない不動のレギュラーだとして、そこからが悩み所だった。
果たしてどの野菜を載せるべきか。
「醤油にはほうれん草が捨てがたいわね。コーンも良いけど流石にコストが掛かっちゃうし、かと言って海苔とネギとほうれん草じゃ彩が少し寂しい気もするし……んー」
「塩には茹でた蛤の剥き身を追加しましょう。相性は間違いありません。しかし野菜……とろみを付けるのなら白菜や人参も選択肢に入りますが、そのままとなると……ううむ」
美女と美少女が互いに悩ましげな声を漏らして向き合っているのを、色々な意味で固唾を飲んで見守っている若い衆。
彼等に出来るのは試作品が出来上がったら我先にと試食をする事くらいなので、こうやってまんじりともせず眺めているが傍から見ると不審者の群れである。
如何したものかと首を捻る二人。
欲しいのはとうもろこしと片栗粉。
何方も手に入れようとすれば手に入れられるのだが、この村との縁が今まで無かった。
その為使おうとした場合、輸送費やら買い付けの商談やらで色々な手間と費用が掛かってしまう。
先に挙げた通り、手に入り易いもので材料は揃えたいと言うのが共通認識。
今回の旨いもの市だけでなく、継続してこの村の名物としていくにはやはりコストは掛からない方が良い。
一先ずは今有る物で試作品の中華そばを作り上げてみる。
集まっていた若い衆には十分美味いと評判では有ったが更に上を目指せる事が解っている二人の表情は余り晴れていない。
「解っちゃいるけどー」
「欲しくなりますね」
意外と凝り性な所の有る二人。
果たして彼女らの悩みは解決するのか……!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユース・アルビトラートル
不審者の報告が1件。言動の意味は合理的に推測できない。でもクロとは断定出来ないし。警戒のため、人相書きだけ役人様や猟兵等の関係者に周知させたいな。
それで、なになに? 試作かい?
そういうことならボクも知識でお手伝い。中華そばと言っても多種多様だけど、中華麺、スープ、具という構成は大方共通しているよね。それを基に、村人たちが「どんなものにしたいのか」を纏めていこう。特産品から地域の気候まで視野に入れて考えるといいかもしれないね。
しかし、警戒に試作にと色々考えないといけなくて、かなり頭を使うよ。これはもっと本腰入れて頑張らないと。んん、なんだかスイッチ(ユーベルコード)が入って……
時雨・零士
中華そばの構成要素としては、麺とスープ…つゆって言った方が良いか?それと具だな。
中華そばとなると、スープの種類や配分、麺でも麺の種類や太さ、ゆで加減等、こだわればキリがねぇが…。
村の目玉になればって事なら、村で作ってる食材やその周辺で獲れる食材をメインに使って揃えてみるのが良いんじゃねぇかな…。
醤油とか作ってるトコあればスープのベースになるし、地鶏とかいれば良い出汁も取れる。
山に猪とか豚がいればそれで豚骨スープや叉焼作るのもアリか?
海が近ければ魚介もスープや練り物でいけるしな!
麺打ちや食材の調達みたいな力仕事は任せな!
あっという間に用意してやるぜ!(【アクセルフォーム】を準備)
「何やら苦戦してんなー」
「完成までもう一工夫って所みたいだねぇ」
中華そばの試作を行っている店舗予定の空き家の向かいに新しく建てられた御茶屋の店先でのんびりとお茶を啜っているのは時雨・零士とユース・アルビトラートルのコンビだ。
二人もそれなりに中華そばへの知識は有れど、実際に作るとなると流石に手が出ない。
なので今は動向を見守りつつちょっとばかりの休憩中だ。
「そう言えば死霊が見付けた不審者も捕まったんだっけか」
「あっさりとね。お役人さんに引渡しも終わったし、似た様な事を考える輩が出ないとも限らないから数人こっちに常駐出来る人を探して赴任させてくれるってさ」
「そりゃ良いな。どっちにしろ旨いもの市で人が大勢来るんだし、追加で作った番所を有効活用してくれれば言う事無しだ」
「忘れそうだけど予知に出たからにはオブリビオンも出て来るだろうしね。どのタイミングで出るんだか謎だけど」
「まぁ警戒しておいて、出たらぶっ飛ばすか」
「そうだねぇ」
ずずずーっとお茶を啜る二人。
そんな二人の下へ小さい男の子を連れた壮年の男性がやって来る。
「猟兵様、宜しいでしょうか」
「ん、どうした?」
零士が首を捻って顔を向ける。
男性の顔に焦りは滲んでいないので、急報と言う訳では無さそうだ。
「はい、中華そばの材料で行き詰まりまして。使いたい具材が足りないと言う事でしたので、お二人にもお知恵を拝借したいと」
「お、ボクらの出番かな?」
男の子とハイタッチをしていたユースが興味深げに笑いながらふわりと浮かび上がる。
そちらにも頭を下げて、男性は口を開いた。
「はい、何でも『片栗粉』と『玉蜀黍』と言うものが必要だそうです」
「とうもろこしは解るが、片栗粉? ラーメン……中華そばに片栗粉なんて使うっけか」
「とろみを付けて餡にするんじゃない? 熱々餡かけ野菜タップリ、なんてのも美味しいよねぇ」
「あー、成程。とは言えとうもろこしは兎も角片栗粉は自生してないだろ、如何するよ」
「ふっふっふ、そこら辺は抜かり無し!」
キラリと目を輝かせるユース。
ユーベルコード【心証形成】の効果で知識や思考にブーストを掛けた彼は、この問題に対する解答を導き出す。
彼曰く、スイッチが入った状態だ。
「元々片栗粉はカタクリの根茎から精製されるものだったんだ。まぁ出来る量が少ないのと乱獲の所為でカタクリ自体が少なくなっちゃって一時は手に入らない寸前まで行ったんだけどね。その内ジャガイモの澱粉から作り出す技術が出来上がって、片栗粉は簡単に手に入るようになったんだ。中身は変わっちゃったけど名称はそのまま引き継がれているよ」
「……てーと、つまりだ。とうもろこしとジャガイモを見付ければ良いんだな」
「ザッツライト!」
握った拳から両手の人差し指だけを伸ばして相手に向けるポーズを決めるユース。
隣で男の子も真似をしている。
「ざっつらいと!」
「もうちょっと角度を、そう」
「ざっつらいと!」
「良く出来ました!」
いえーい、とハイタッチを決めるユースと男の子を横目に見ながら零士は腕を組む。
「肝心のとうもろこしとジャガイモだが、手に入るのか? 向こうでそれらが足りないってなったからおじさんは俺らにも聞いてきたんだし。村の目玉になればって事なら、村で作ってる食材やその周辺で獲れる食材をメインに使って揃えてみるのが良いんじゃねぇかな」
「ふっふっふ、心配ご無用!」
そう言ってユースは懐から一枚の地図を取り出した。
大まかにこの村の周辺の様子が書かれている。
「気候的にこの地域でとうもろこしとジャガイモが生育する条件はバッチリ揃っているんだ。他の地域でも食べられてるんだから自生しているのは間違い無し、後は実際にその場所を探し当てるだけ! 確証は無いけど、探してみる価値は有ると思わない?」
「面白いかもな。お茶で腹がたぷたぷだったし、良い運動になりそうだ。と言う訳でおじさん、ちょっくら行ってくるぜ」
「吉報をお待ちしております」
「行ってらっしゃい!」
丁寧に腰を折る男性と元気一杯に両手を振る男の子に見送られ、二人は出発する。
零士がユーベルコード【フォームチェンジ】で真紅の不死鳥を模した形態へと変身し、ユースを抱えて空を往く。
背中は排気熱で危ないので、前に抱える格好だ。
自分で飛ぶよりも速く高く飛べるのでユースも異論は無い。
折り畳んだ地図と地形を交互に見ながらナビゲートしつつ進むと、程近い丘の上に拓けた場所が見えた。
日当たりも良く近くには沢が流れ、盆地になっているので気温も高くなる地形だ。
「お、あそこ何かイイ感じじゃない?」
「どれどれ」
降り立ってみると背の高い雑草の合間にちらほらと幹の様な物が生えている。
その節の部分には、大きく稔る細長いものが。
「おぉっ、ビンゴじゃね!?」
零士が駆け寄ってみると青々とした草の匂いに紛れて微かに甘い香りが漂ってくる。
周囲に人の手が入った様子の無い、天然物のとうもろこしだ。
「粒も大きくて色鮮やか。しかもこんなに多く生えてるなんてな」
「村からもそんなに離れてないし、道を切り開いたら管理しやすいかもね」
「もしかして見えてる範囲のあれ、全部とうもろこしか!」
「祭りの時だけじゃなく、普段でも十分過ぎるくらいの量は採れそうだねぇ」
叶う事なら此処に鍋を用意して茹で立てをガブっと行きたい。
そんな思いにせっつかれつつ、零士はユースに向き直る。
「とうもろこしは見付け易かったけどよ、じゃがいもは如何する? 背も低いし本体と言うか芋の部分は地面の中だしで探し辛いんじゃないか?」
パキっと一番下に生っていたとうもろこしを収穫していたユースは葉の間から顔を覗かせる。
「ジャガイモはとうもろこしと近い場所で栽培されていたって歴史が有るから、この近くに有ってもおかしくは無いんだけどね。えーと、確かジャガイモの葉っぱは……」
メモ帳のページにさらさらとジャガイモの葉っぱや花を描いて行く。
それを破って零士に手渡すと、彼は興味深げに絵を覗き込んでいた。
「へー、上手いもんだな」
「あはは、ありがと。それを参考に探し回るしかないかな。割と根気が要る作業になっちゃうけど」
「なら俺の出番だな。あっという間に探し出してやるぜ!」
言うが早いか、零士はユーベルコード【チェンジ・アクセルフォーム】を発動した。
本来は超加速での攻撃を行うものだが、その速度を使って周囲一帯に生えている草木の中からジャガイモを探し出すのに応用させたのだ。
文字通り風となって駆け抜ける零士の残像を見送りながら、ユースは手にしたとうもろこしを一粒ぱくり。
「あ、生でも結構甘くて美味しい」
「ズルイぞ!」
ドップラー効果で音程がへにょへにょになっている抗議の声を上げる零士。
程無くして、遂にジャガイモの葉を見付けだした。
日頃花を目にする事は無い為、却って目立っていたのが幸いした。
「おぉ、もう見付けたの!」
「こっちに大量に生えてるぞ。これも一面ジャガイモなんだな」
「さてー、肝心のお芋ですが」
「掘ってみるか……おぉおお!?」
素早く手で掘り起こした零士が感嘆の声を上げる。
隣からユースが覗き込んでみると、土の中から大ぶりのジャガイモがごろごろと姿を見せていた。
「大きいし形も良い。こりゃお宝の山だね」
「とうもろこしの場所からも近いし、纏めて畑にするには丁度良いな!」
早速幾つか収穫してホクホク顔で村に戻る二人。
茶屋の前に降り立つと、行きを見送ってくれた男性と男の子が期待を滲ませて出迎えてくれた。
「如何でしたか?」
抱えている物が見えているのだが、それでも言葉が欲しくて問い掛ける男性。
その隣では男の子が握った拳から両手の人差し指を伸ばしたポーズをしながら、少し興奮した様子で待っている。
そんな彼等に、零士とユースは笑顔で答えるのだった。
「「ザッツライト!」」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
戸辺・鈴海
村からも中華そばを出品したいと、その心意気実にグッドです。
ならば私もお手伝いさせて頂くしかありませんね。
狸さんたちにも新たな技術伝授になりますし、正に一石二鳥でしょう。
麺とスープの基礎が蕎麦と違いますから、先に座学的な解説を致しましょうか。
一発モノにしない限りは、材料は安定供給出来る必要がありますね。
此方からも採れる作物や魚介類の傾向を質問しながら進める想定です。
特にスープ作りに対して、今回は念入りにやっておきたいです。
ベースとなる出汁に対して、味の要になる部分とのバランスを一定にする必要がありますから。
納得出来るまで練習あるのみです、試食なら私が幾らでも受けて立ちますので安心してくださいな。
材料も内容も決まり、後は実際に村人達が作り上げるだけとなった中華そば。
試作で目指すべき味も決まった所で意気揚々と挑んでいくが、生憎とこの村にはそば打ち職人はおらず右も左も解らぬひよっこ料理人ばかり。
物は試しと作ってみたは良いが茹でている途中で麺は千切れ、つゆは濁り、味も何かイマイチ。
余りの出来栄えに皆が頭を抱える中へ、戸辺・鈴海が立ち上がる。
「此処は狸さん達に付きっ切りで指導してもらいながらやるしか有りませんね。特訓です!」
その言葉に希望を見出しおぉと声を上げる村人達。
と言う訳で早速指導が始まった。
先ずは先程自分達で打った麺の出来栄えの感想と、何が悪かったのかを一つずつ実演を交えての解説を狸達が担当。
捏ね方、水の量、伸ばす回数等等、一つ一つを丁寧に取り上げていく事で麺に対する基礎を固めていく。
生地は寝かせる時間も必要になるので、その間はつゆの講義だ。
此方は鈴海が担当する。
「先ず出汁を取る時の注意ですが、火加減が肝心です。温度が低いと出汁が出ませんが、沸騰させてしまうと出汁が煮えてしまい風味が損なわれてしまいます。泡が出ず、凪いだ水面から湯気が静かに立ち上るくらいが丁度です」
実際に蛤と昆布を使い出汁を取りながら解説していく。
「料理の基本はさしすせそと言う様に砂糖から順に加えて味を調えていきます。塩を最後に入れると具材から水分を抜いてしまうので全体の味が変わってしまうんですね」
「ふむふむ」
「当然茹でた麺に絡むお湯も幾らかは紛れてしまうので、ほんの少し濃いかなくらいにするのも良いでしょう。湯切りを上手くこなせるのであれば、最初から提供したい濃さで大丈夫です」
「へむへむ」
「上に具材を乗せる時はしっかりと区分けして乗せると見栄えが大変宜しい。特にとうもろこしは一番鮮やかに映えますから、刻み葱を敷いた上にふんわり乗せると良いですね」
「ほむほむ」
頷きながら流れるような動作を見守る村人達に、鈴海が作った一杯を出す。
一口啜ると、全員が目を見開いて驚いた。
「おら達のとは比べ物になんねぇ!」
「おったまげた、こんなに違うんか」
「幸い旨いもの市まではまだ時間が有りますからね。最低でもこの美味しさは出せる様になってもらいますよ」
にっこりと微笑む鈴海。
麺ガチ勢の彼女が付いている限り、スキルアップは約束されたようなものである。
当然、それ相応の努力も求められるが。
「しかし教える側となると、今まで気付かなかった事も見えるようになりますね」
「流石は姐さん、なんたる慧眼」
手拭で汗を拭く狸達も村人達に教える傍ら、自身の技術や知識を見詰め直す機会を得ていた。
「技法は違えど幾つかの技術は蕎麦にも応用出来ます。驕る事無く日々是精進ですよ」
「はい!」
「では続きをやって行きましょう。今度は醤油のつゆの作り方ですね。基本は同じですが醤油は先にタレを作って置きましょう」
「タレですか?」
「此方は片栗粉で餡かけにしますから、より麺に絡めて味わう機会が多いのです。となれば、肝心のつゆに毎回味のばらつきが出る様ではいけません。塩は分量が計り易い上に少々の差異は誤魔化せますが、味の強い醤油となると難しい。それに塩は長い間置いといても草々味は変化しませんが、醤油は空気に曝す時間によってどんどん変わって行きますからね」
余り詳しく言うと化学の授業になってしまうので要点を掻い摘んで話していく。
重要なのは味を一定に保つ事。
味の変化を十全に楽しめる合わせ味噌のラーメンでも無い限り、隣の人とつゆの味が違うのは出来る限り避けたい。
「と言う訳でタレです。醤油単体では味の変化が気になりますが、他のものと和えてしまう事で安定させる訳ですね。こうしたタレは『かえし』と呼ばれます」
そこまで聴いて、狸達があっと顔を上げる。
彼等も妙な既視感が有ったらしい。
「このかえしですが、これが醤油味中華そばの全てを決めると言っても過言では有りません。かえしで有れば保存も利きますから、此処をしっかりと作っていきましょう。さて、作り方ですが……」
解説に時折冗談や豆知識を交えながら作り上げていく。
出来上がったものを先程の出汁で割って軽く混ぜると、お馴染みの黄金スープが出来上がる。
それを口にした村人達は大いに驚きを見せるが、まだまだ序の口。
今度は割る時に片栗粉も入れてとろみを付け、丁度こなれてきた生地を使って麺を茹でてつゆに投入。
具材も乗せて完成させた中華そばに、一同美味い美味いの大合唱。
「とろみの付いたつゆに麺が絡み合って、実に美味しいでしょう?」
「こりゃあ凄いですぜ!」
「毎日これでも良いなぁ」
「この味を皆さんが出せるまで練習あるのみです、試食なら私が幾らでも受けて立ちますので安心してくださいな」
頼もしい鈴海に村人達が尊敬の眼差しを送る。
奮起した彼等が見る間に腕を上げて中華そばを作っていく様子を見て、誰かが『らあめん道場 鈴海』と名付けたとか何とか。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『用心棒』
|
POW : 剛なる居合い
【居合い 】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
SPD : 飛刃縮地の構え
自身に【修羅の気 】をまとい、高速移動と【斬撃による衝撃波】の放射を可能とする。ただし、戦闘終了まで毎秒寿命を削る。
WIZ : 死者の誘い
【用心棒が殺した死者 】の霊を召喚する。これは【悲痛な叫び声】や【生前持っていた武器になりそうな物】で攻撃する能力を持つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
旨いもの市の開催に向けて活気付いて行く村。
そんな様子を山中から静かに眺めていた、刀を佩いた男が一人、忌々しげに口を歪める。
「あの腐れ商人め……中華そばを貶めてやる等と大言壮語を抜かしながら、やる事はみみっちい上に失敗するとは。やはり人任せでは行かんか」
妖気を漂わせながら鯉口を切る男。
その瞳には深く鈍く光る濁った炎が揺らめいていた。
「……あんなものが蕎麦を名乗って良い訳が無い
……!!」
最早憤怒を隠そうともせず周囲へと覇気を撒き散らしていく。
堪らず、周りの木々から野鳥が飛び出していった。
俄に騒がしくなった山中を進みながら、男は呪詛の様に言葉を吐き出していく。
「蕎麦とは! 濃厚な漆黒のつゆと十割の蕎麦で作り上げる芸術品だ! あのような紛い物が軽々しく名乗って良いようなものでは無いわ……ッッ
!!!!」
蕎麦原理主義者となったオブリビオンが、村へと襲い掛かろうとしていた。
緋神・美麗
アドリブ・他の猟兵との絡み歓迎
どんなオブリビオンが出てくるのかと思ってたら蕎麦原理主義者のならず者とか、また予想外な方向のが出てきたわね。まぁ、さっさと片付けて旨いもの市を楽しむとしましょうか。
確かに蕎麦も美味しいし好きだけど、だからって中華そばの料理人を襲うなんて許すわけないじゃない。暴力に訴える輩は暴力に潰されると知りなさい。
問答無用で遠距離から力を溜めて気合とともに出力可変式極光砲を攻撃回数重視で使用し弾幕を張る。誘導弾と衝撃波も付与して間を詰めさせる前に倒しきる。
オブリビオンを撃破したら心置きなく旨いもの市を楽しむ。
中華そばメインの中、変わり種を見かけたら興味を惹かれて突撃する。
オーキッド・シュライン
絵里香叔母様と一緒
≪心情≫
・中華そばと蕎麦は全く別物ですわよ。そもそも中華そばの麺に
蕎麦粉使ってませんしね
・全く、どうでもいい勘違いで人に迷惑をかけないでほしいですわね。
・さて、今回散々だったわたくしの憂さ晴らしをさせてもらいますわよ
覚悟なさいまし。お馬鹿さん!
≪戦闘≫
・UCを発動。悪魔の力を解放して空中戦ですわ
・空中からブラスターを連射しながら爆破と炎の属性攻撃
・敵の攻撃を見切りながら、残像を纏ったダッシュをしつつ、
極小の爆発する蘭を敵にの周囲にばら撒きます
・極小の蘭を燃やしての爆破加速等をしながら速度でかき乱す
・最後はばら撒いた蘭の花弁を操作して敵に纏わせて叔母様の雷で
起爆ですわ
ユース・アルビトラートル
なんだか雰囲気が変わったね。必要なら避難指示とかもしておこう。
【戦闘知識】や【情報収集】を駆使していくよ。まずユーベルコードの性質から、安全なところまで誘導する形でご同行願おう。そして相手がどうやって戦うかという点を学びながら、適切な対処を組み立てる。
そしてボク自身の風貌から、違和感こそ感じずとも格闘などはできないという先入観は働くと考えられる。例えば、近寄らず木や岩に法典の角をぶつけて相手に飛ばすとか、相手からしたら考えにくい筈。
それにしても……ここで言う「そば」は麺類であることの表現に過ぎないし、一般的な用法でしょうに。何れにせよ、襲撃を正当化する理由にはならないと断じるよ。
神宮寺・絵里香
≪心情≫
・はぁ‥どうでもいいわ。食べ物の主義主張ほど不毛なものはないわ。
嫌なら食わなきゃいいだろうに。
ま、そこまで執着できるのはある意味羨ましいがな。
オレにはそう言うの特にないからな。
・まあいいか。取りあえずぶっ飛ばすだけだしな。
≪戦闘≫
・叢雲に雷属性を纏い戦闘
・敵の攻撃は第六感と戦闘知識で見切り、薙刀で武器受けしてから
電流を流して麻痺攻撃のカウンターを狙う
・死霊については破魔の力を纏った武器と高速詠唱したUCによる
範囲攻撃で一気に対処する。
・用心棒に纏わりついた蘭の炎はUCの雷で爆破する
「…はぁ、馬鹿は爆破するに限る。じゃあな、二度と復活すんなよ」
・終わったら適当に酒でも飲むか。
アマータ・プリムス
新しい物を受け入れられないとは頭の固い……
美味しければいいじゃないですか
中華そばを作るのも楽しいですしサクッと終わらせていただきましょう
サムライ相手に近づくのは愚の骨頂
遠距離から【武器改造】したアルジェントムから伸びる銃口で狙い撃ちさせていただきましょう
時折【属性攻撃:爆破】のミサイルを飛ばすのも御愛嬌
遠距離から引き打ちしていれば相手も苛立ち構えをとって来るでしょう
それこそが今回の狙い
放たれる斬撃の衝撃波をこの身に受けUCを発動
そのまま指を振るいお返しししましょう
「蕎麦がお好きという割には粋ではないですね」
戦闘が終わったら今回使った材料を少しいただいて
帰っても作ってみたいですね、中華そば
戸辺・鈴海
新たな文化を受け入れられぬ気持ちを拗らせた訳ですか。
蕎麦を愛しているならば、中華そばを食せば違いも分かりますのに。
その凝り固まった固い頭を、麺類への愛情で塗り潰してあげましょう。
右手に中華そばが入ったお椀を片手にお相手致しますね。
大丈夫です、村の人や狸さんが作った中華そばを頂いた私ですよ。
食べながら相手するなら、対等な大きさになっておくのが宜しいでしょうか。
一件落着後には旨いもの市に注力していきましょう。
私なら出されている中華そばを全て平らげる事は余裕です。
村で出す中華そばについては、石渡さんの耳に入れて差し上げましょう。
美味しいモノの情報はしっかりと共有しておくべきですからね。
「妖だ!妖が出たぞぉー!」
「えらいこっちゃえらいこっちゃ」
「猟兵様、どうかお願いします!」
突如山中を掻き分けてやってきたオブリビオンに村人達は慌てふためきながらも避難を開始していく。
避難の誘導を行っているのはユース・アルビトラートルだ。
「はーい、皆慌てないで川辺の新築宿屋まで退避ー。そこなら安全だから、一先ず家族やご近所さんが逸れないかだけしっかり見ててねー」
彼の誘導のお陰か騒ぎの割にはすいすいと避難が進んでいく。
オブリビオンが村の端に到着した頃には全員、川辺に建てられた大きな宿屋へと辿り着いていた。
「よし、これで村人達を気にせず戦えるね」
先に対峙していた四人の下へと駆け寄るとオブリビオンはその濁った目を順繰りに動かしていった。
見た目は大太刀を佩いた浪人風の男。
全身から滲み出る殺気と威圧感は、それこそ時代劇に出て来る用心棒と言った然だ。
「悪鬼の手先めが
……!!」
声に隠し切れぬ嫌悪と憤怒を乗せて、用心棒は睨み付ける。
その言に身に覚えの無い猟兵達は首を傾げながらも、油断無く構えを取る。
「中華そばなる紛い物で蕎麦の名を騙ろう等とは不届き千万! 蕎麦とは! 濃厚な漆黒のつゆと十割の蕎麦で作り上げる芸術品だ! あのような紛い物が軽々しく名乗って良いようなものでは無いわ……ッッ
!!!!」
魂を震わせた咆哮を受け、困惑や呆れを顔に浮かべる猟兵達。
「どんなオブリビオンが出てくるのかと思ってたら蕎麦原理主義者のならず者とか、また予想外な方向のが出てきたわね」
「新しい物を受け入れられないとは頭の固い……美味しければいいじゃないですか」
緋神・美麗とアマータ・プリムスはその発言に若干の呆れと驚きを。
「中華そばと蕎麦は全く別物ですわよ。そもそも中華そばの麺に蕎麦粉使ってませんしね」
「ここで言う『そば』は麺類であることの表現に過ぎないし、一般的な用法でしょうに」
オーキッド・シュラインとユースは理を説きながらオブリビオンの行動原理に疑問を抱き。
「新たな文化を受け入れられぬ気持ちを拗らせた訳ですか。蕎麦を愛しているならば、中華そばを食せば違いも分かりますのに。その凝り固まった固い頭を、麺類への愛情で塗り潰してあげましょう」
戸辺・鈴海は麺類への愛情を抱く者として正しく導かねばならぬと義憤に身を震わせ。
「はぁ……どうでもいいわ。食べ物の主義主張ほど不毛なものはないわ。嫌なら食わなきゃいいだろうに」
神宮寺・絵里香は心底如何でも良さそうに大きな溜息を吐き出した。
元よりオブリビオンに大層な主義思想を求めていた訳では無いが、あんまりと言えばあんまりな主張に気勢が削がれる。
そんな微妙な空気を察したのか、用心棒は大声で喚き立てた。
「ええい、黙れ黙れぇ! 幾ら言を弄そうともこの俺を惑わす事、叶わぬと知れぇ!」
言うが早いか周囲に死者の霊を召喚し始める用心棒。
霊だけあってその様子や表情に生気は無く、何れも胴体から下がぷっつりと途絶えた姿で統一されている。
手には刀や弓、果ては農具に十手まで多種多様な武器を提げている。
「先ずは小手調べって訳ね。戦い方がこすいんだから」
「数を相手にするのならば当機の武装が役立ちましょう」
武器改造でその身を長身のライフルへと変化させた『アルジェントム・エクス・アールカ』を構えるアマータと、指輪型の増幅変換器『超小型極光砲増幅器』でサイキックエナジーを強大な雷エネルギーへと変換させた美麗が、一歩前へと出る。
「亡霊如き、蹴散らしてあげるわ!」
先に動いたのは美麗。
展開させた雷から無数の電球を生み出し、勢い良くばら撒いて行く。
点や線では無く面制圧を可能とする物量による弾幕が死者の霊へと殺到した。
『ギィヤァァァ、ァ』
死者の霊は聴いた者の精神を削る悲鳴を上げるが、電球の衝撃に阻まれその声を遮られる。
仰け反り動きを止めた所へ、今度はアマータの攻撃が届く。
「サクッとご退場願いましょう」
如何なる手品か、ライフルの銃口から真っ直ぐに飛び出したのは弾丸では無く小型のミサイルだった。
火の尾を引きながら集団の中央に着弾したミサイルは周囲へと爆炎を撒き散らす。
外からは電球が、内からは爆炎が死者の霊に襲い掛かる。
『アァァァア……!』
掠れる声を残して次々に消滅していく霊。
あっさりと撃退されたそれらに用心棒は舌打ちを一つ。
「やはりこやつ等では時間稼ぎにもならんか。ならば俺が引導を渡してくれる!」
そう言って鯉口を切る用心棒。
しかし一瞬此方の背後へと抜けた視線を見咎め、絵里香が背後へとユーベルコード【因達羅乃矢】を放った。
「甘いっ!」
振り返り様に左手の薙刀『叢雲』を振るう。
その切っ先が、背後から奇襲を仕掛けようとしていた死者の霊を両断した。
直ぐ隣には天からの青白い稲妻に打たれて消え行く霊の姿も有る。
「随分とせせこましい手を使いやがる」
馬鹿にしたように口の端を吊り上げて挑発しながら、絵里香は用心棒へ向けて薙刀を構え直した。
その一連の動作に、用心棒の顔から一切の驕りが消える。
「…………成程、力に任せた猪武者ばかりでも無さそうだ」
「脳内にめんつゆが詰まってそうなお前の演技くらい見抜けないで如何する」
「サラっと流しましたけど叔母様の反応速度も大概ですわね……」
武人らしさを滲ませ始めた二人の様子を見つつ、オーキッドが小声を漏らす。
自身も背後に召喚された霊には気付いたが、その時には既に絵里香が薙刀を振り切っていた。
実は空から降ってきた戦闘民族なのでは、等と密かに空想しつつユーベルコード【紅蘭の悪魔ファレノプシス】を発動する。
「封印解放! 豪火絢爛に燃え上がりなさい! わたくしの中の魔の獄炎よ!」
漆黒の瞳が真紅に燃え上がり背中には揚羽蝶の羽が生まれ、その身に魔人の力が渦巻き始める。
そのまま空中へと飛び上がり、愛銃『インフェルノブラスター・デンドロビウム』を構える。
「さて、今回散々だったわたくしの憂さ晴らしをさせてもらいますわよ。覚悟なさいまし。お馬鹿さん!」
「では私も力を解放しますか。私が食してきた麺の評価を、この身を以って証明致しましょう」
続いて鈴海も空へと舞い上がる。
使うユーベルコードは【Enorme Buongustaio】だ。
その姿は徐々に大きさを増し、他の猟兵達と大差無いサイズまで巨大化する。
右手に中華そばが入ったお椀を、左手にマイ菜箸『Margherita』を持って臨戦態勢。
「さて」
「攻撃開始ですわよ!」
鈴海は宙に浮かばせた箸の雨を、オーキッドはブラスターの熱線と爆発する微小な蘭の花弁を降り注がせる。
そこへ美麗とアマータの攻撃も加わり、用心棒を多種多様な弾幕が取り囲んだ。
「面妖な術を!」
対する用心棒は【飛刃縮地の構え】で迎える。
修羅の気を纏った体で弾幕の隙間を潜り抜け、抜き放った斬撃による衝撃波で軌道を逸らしながら絶えず移動を続ける。
その合間を縫って絵里香が鋭い突きや雷撃を放つが、用心棒は致命的な攻撃を避けつつ反撃のチャンスを窺っていた。
全身に掠り傷や火傷を負いながらも爛々とその目をぎらつかせている用心棒。
此処で彼は打って出た。
衝撃波の直ぐ後ろに付けながら何時でも居合いを放てる様に構えながらの突進。
「ちっ」
捨て身の攻撃を迎え撃つのは少々厄介だ。
数歩分の距離を飛び退いて躱す絵里香だが、向かってくるかと思った用心棒は急加速をして反転する。
その先に居るのはライフルを構えたアマータだ。
「させないわよ!」
美麗が電球を放ち用心棒の動きを止めに掛かる。
幾つかの電球を弾き飛ばして衝撃波は消し飛ばしたが突進を止めるには至らない。
「避けて!」
「いえ、お陰様で助かりました」
その言葉に疑問を抱くよりも早く用心棒の居合いが放たれる。
太陽光を受けて一瞬光を反射した刃がアマータへと伸び――文字通り、その斬撃が吸い込まれた。
「舞台の流れは決まっているのです。それを変えることはできません。―――マナーのなっていない行動はそっくりそのままお返しします」
ユーベルコード【Nunc aut numquam】の発動。
引き金から話した人差し指を振って、身に受けた斬撃を排出する。
「小癪な!」
振り切った右腕を折り畳むように曲げ、くるりと体躯を回す用心棒。
背中の前に置いた大太刀が自身の居合いを防いだ。
「油断大敵よ! これが私の全力だーっ!」
動きの止まった所へ美麗がユーベルコード【出力可変式極光砲】を放つ。
直ぐ傍に目標が居るので狙いは大雑把でも当たる。
となれば重視するのは一撃の威力。
「吹っ飛びなさい!」
「ぬぅっ!」
特大の電球をぶつけられ、全身を走り抜ける流痛と共に吹き飛ばされる用心棒。
そこへ絵里香が再び距離を詰めて薙刀を振るう。
大太刀で防がれるが先程よりも手に返る強さは無い。
如何やら一連の攻撃は彼から握力を相当奪った様だ。
そんな彼に隙を生み出させたのは予想だにしない一撃。
「どっせーい!」
何処か気の抜ける掛け声と共に突如放たれた攻撃。
それを察知して絵里香は素早く飛び退いた。
何事かと警戒しながら振り向いた用心棒の視界を埋めるのは端から端まで広がるささくれ立った茶色。
薪にする予定で一先ず積んであった巨大な丸太一本がそのまま横向きに吹き飛んできていたのだ。
「ぬぉぉぉ!?」
これには流石の用心棒も面食らったようで、焦りを含んだ声と共に下から切り上げて丸太を両断する。
左右に分かたれた丸太の向こうには、更なる幹の姿が。
「はっはっはー、丸太ラッシュを食らえーい!」
「ええい、子供騙しを!」
上機嫌に丸太を法典の角で小突いて吹き飛ばずユースの声。
丸太を斬り捨てながら勢い良くその声の方向へと駆けて行く用心棒の行く手を、絵里香の薙刀が遮る。
「おっと、行かせねぇよ」
流石に絵里香を無視しての行動は出来ず、足を止めて向き直る用心棒。
その隙を逃す理由は無い。
「ナイス足止めよ!」
「この機に乗じましょう」
美麗が透かさず電球を放ち移動を阻害しつつ、極小サイズに押し固めた電球で間接を狙う。
激しい明滅に隠れて辿り着いた電球は用心棒の間接を衝撃で無理矢理曲げ、姿勢を崩す。
ユーベルコードと使った大げさな膝カックンのようなものだ。
堪らず腰を滑らせた用心棒へと、アマータの銃撃が迫る。
今度は何を如何やったのか、ライフルからフルオートで小型ミサイルが放たれていく。
特撮映画でも中々見ない量の爆発が巻き起こるのを、中華そばを啜って力を補給しながら鈴海が見詰める。
「えらい爆発ですけど神宮寺さん大丈夫ですかね?」
「まぁ叔母様ですし平気でしょう」
あの程度で如何にかなるならどれ程楽だったか。
これまでに振り回された記憶を心奥深くに沈め直しながら嘆息するオーキッド。
期待通りと言うべきか、絵里香は既に離脱してその右手人差し指に霊力を溜めていた。
「馬鹿言ってないで合わせろ!」
「は、はいぃ!」
突如掛けられた声に思わず全身をびくりと震わせながら、オーキッドは慌てて蘭の花弁を爆炎の中心へと送り込む。
鈴海は箸で掻き混ぜる様に周囲の空気を乱し、簡易的な旋風を生み出す。
爆炎を閉じ込め逃げ出そうとしたなら箸の先端がぶすっと刺さる、特製の檻だ。
「ナウマク・サマンダ・ボダナン・インダラヤ・ソワカ! 神々の王の裁きよここに! 魔を滅ぼせ因達羅の矢よ!!」
その渦の中心へと落ちた稲妻が蘭の花弁と反応してこれまでで一番の爆発を巻き起こす。
周囲へと広がる爆炎は高速で巡る箸に遮られている為、逃げ場を失った熱と衝撃が空高く聳える火柱を形成した。
余りの威力にびりびりと空気が震えているのが解る。
火柱が収まると、黒煙の中から着流しを襤褸襤褸にした用心棒が鞘を杖代わりに寄りかかっている姿が見えた。
全身煤で汚れ、見えている肌は火傷で赤く爛れている。
それでも猶戦意に漲っているのは流石と言うべきか。
「ぐぅ……っ!」
とは言え流石に受けたダメージは大きいらしく呻き声を上げている。
血走った目でギラギラと油断無く此方を見据える姿は手負いの獣そのもの。
「隙有りだ!」
そんな彼の背後から攻撃を仕掛ける小さな影。
法典を振り下ろしながら飛び向かうのはユースだ。
「舐めるな小僧!」
裂帛の気合と共に身を捻った用心棒が【剛なる居合い】で迎え撃つ。
先程丸太を飛ばして来たのには驚いたがこの体躯では質量の差を覆せない。
真に警戒すべきはあの薙刀を持つ女だ。
両断した隙を突いて一気呵成に攻め込んでくる心算だろうが、返す刀で叩き切ってくれる。
そんな事を考えていた用心棒。
結果として、先を読んで力を余していた事が彼の命運を定めた。
「ぐがっ!?」
完全に捉えた筈の剣閃を抜けて来た法典が用心棒の胸元を殴り飛ばし、一瞬の浮遊を経て背中が地面にぶつかる。
傷口に土埃が纏わり付く痛みに苛まれながら振るった右腕を見て、用心棒の目が驚愕に染まる。
鍛え上げられた大太刀が中程からぽっきりと折られていた。
それを認めるのと同時、直ぐ傍へと切っ先が降って来た。
「…………む、無念……っ!」
口惜しそうに声を吐き出した用心棒へ、止めの攻撃が放たれた。
逃がさぬ様に鈴海の端が手足を地面に繋ぎ止め、美麗の電球が筋肉の自由を奪い、アマータの銃弾が心臓を貫き、オーキッドの蘭が内臓を焼き、絵里香の薙刀が首を刎ね。
最後にユースが、転がってきた頭を法典で叩き潰して用心棒を骸の海へと還す。
光の粒子となって消えて行ったのを見送ってから、ぽんぽんと法典に付いた土汚れを払い皆へと笑顔を向ける。
「……ふぅ。ボクにとって最も手に馴染む鈍器、やっぱりこれだね!」
「一番エグイ攻撃してるわね」
「ノーコメントでお願いします」
「同じフェアリーとは思えない威力」
「ま、まぁ、頼もしいのではないでしょうか」
「なんでさー!?」
乾いた笑いを向けられるユース。
わいわいがやがやと俄に騒がしくなるのを横目に、絵里香はやれやれと息を吐くのであった。
そして暫くの時間が流れ。
オブリビオンを撃退した猟兵一行は村で開催された旨いもの市を楽しんでいた。
無事開催となった旨いもの市では目玉となる中華そばの他にも蕎麦や饂飩に素麺と言った『麺食べ比べ展』や、自分でつゆや具材を選んでオリジナルラーメンを作る『我流中華そば』と言ったイベントも目白押しだ。
中には代表的な醤油・塩・味噌以外の調味料で作った中華そばを出す店もある。
当然そんな面白いものを放って置く訳も無く、美麗とユースは突撃していた。
「魚醤? 醤油とは違うのよね?」
「魚を塩漬けにして発酵させたときに出た液体だね。独特の香りがするけど熱を加えたら飛ぶから鍋なんかに使われる事が多いね」
「へぇ、流石物知り。……ん、美味しいわね」
「割としょっぱいから血圧には注意かなぁ」
「流石に高血圧にはなりたくないわねぇ」
そんな事を言いながらごくごくとスープを飲み干していく二人。
若さに任せて堪能している様だ。
傍の中年やご隠居達からは若干の羨ましさを乗せた視線を向けられている。
「ぷはーっ。ごちそうさま!」
「さて、次は何を攻めてみようかな」
「お、あっちに『餡子入り中華そば丼』なんてのが有るわよ! 突撃しましょ!」
「見てそれと解る地雷感
……!?」
戦慄するユースを連れてずんずんと妖気漂う看板の店へと向かっていく美麗。
味は想像にお任せします。
「……ふむ。やはり書や伝聞で得る知識には限界が有りますね」
「まさか豚骨ならぬ猪骨ラーメンもとい中華そばが食べられるとは思いませんでした! しかも普通以上に美味しい!」
アマータと鈴海は美味しそうな店を巡っての研究と情報集め。
旨いもの市には藩の上役も参加しているだろうが、更なる口添えと顔繋ぎも兼ねて情報の共有はしておきたい。
言うなれば万全のアフターケア、である。
「帰ってから材料を頂いて作ってみたいですね、中華そば」
「良いですねぇ。味見はお任せくださいな!」
満面の笑みで中華そばを啜っていく鈴海。
その横に山と積まれている空きどんぶりを眺めながら、アマータは材料をどれくらい購入するかの試算を始めるのだった。
会場の中央に張られている天幕の中では、絵里香とオーキッドがのんびりとお酒を楽しんでいた。
中華そばに使う水が良いものなら、その水を使って作られた酒もまた良いものである。
つまみも中華そばの具材を色々と取り揃えてみたのでバリエーション豊富だ。
醤油漬けメンマ、焼き蛤、鶏つくね、炙りささみ、餡かけ野菜等々。
この村のものも他の地方のものも一緒に乗せた大皿と清酒を前に、絵里香は何時に無く上機嫌である。
「ご機嫌ですわね、叔母様」
「食うもの呑むものが美味い、それだけで人間機嫌は良くなるもんだ。あの馬鹿みたいに変な拘りを持つ様じゃ駄目だな」
そう嘯きながら徳利を手にするが、流れ出るのは数滴。
他の徳利もゆすってみるが、どれもこれも空だ。
「オーキッド、酒」
「亭主関白そのものみたいな台詞はお止めくださいな。はい、どうぞ」
「ん」
返事も御座なりにお猪口へ注いできゅっと飲み干す絵里香。
そんな様子に苦笑を漏らしながら自分も杯を傾ける。
「飲み過ぎ注意ですわよ?」
「飲み過ぎる前に財布が空になるから大丈夫だ」
「それは大丈夫とは言いませんわっ!?」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵