ベリー・ベリー・パラダイス!
●苺の楽園
春薫る風が草原に咲く花々を揺らす。爽やかな風が運ぶのは甘くて美味しそうな香り。 そこへ、足取り軽く1人の少女が小さな森を抜けてやってきた。
「うわぁぁぁ~!」
空っぽの籠を大切そうに抱えた少女の瞳に映ったのは、辺り一面に広がる真っ赤な果実たち。『ジャック・ベリー』と呼ばれているこの果実、甘みと酸味のバランスが絶妙でいくらでも食べれてしまう程に美味しい。
少女は嬉しそうに近くのジャック・ベリーを1つ摘まむとパクリと口に放り込んだ。
「んー……っ! あまーい!」
パクパクと次々口の中に果実を放り込む少女だったが、その手が突然止まる。
――いけない、今日はこのベリーを食べに来たのではなかった。
「えーっと、おくすりのざいりょうはどれかな……?」
ママにお願いされたのは、『赤い水玉もようのキノコ』と『お花のみつ』……あれ? 何色のお花だっけ?
少女は腕を組んで考えるも「まぁいいや」とあっさり諦めると再び赤い実に手を伸ばす。きっと、見たら思い出せるだろう。
「そうだ! ママにもジャック・ベリーをもってかえってあげようっと♪」
少女はぶちぶちとベリーを摘むと籠の中にポイポイっと放り込む。
赤い果実に夢中になっている少女はまだ知らなかった――この平和な草原に、危険が潜んでいることを。
●グリモアベースにて
「大変! 女の子が草原でオブリビオンに襲われちゃう!!」
焦った様子のユニ・エクスマキナは宙に浮いたディスプレイをわたわたと操作する。ディスプレイに浮かんだのは武器と魔法と竜の世界――次に向かう世界はアックス&ウィザーズのようだ。
「女の子――えっと、ミアちゃんっていう名前なんだけど、1人で薬の材料を採りに出かけるのね。でも、その先にはオブリビオンがいて……このままだと、ミアちゃんが犠牲になっちゃう」
ユニが言うには、ミアは母親に頼まれて薬作りに必要な材料を採りに草原へ来たのだという。
「まずは、ミアちゃんがお薬の材料を探すのを手伝ってあげてほしいのね!」
薬に必要な材料は、『赤い水玉模様のキノコ』と『薄紫色の花の蜜』の2種類。
キノコはジメジメした場所に多く生えており、薄紫色の花は草原の片隅にある花畑でひっそりと咲いているようだが、まぁ探せばそれほど苦労することなく見つかるだろう。
しかし、ミアはちょうど収穫の時期を迎えている『ジャック・ベリー』という果実に夢中になっているのだ。この苺に似た果実は蕩けるような甘さと仄かな酸味で町の人々にも人気だというが――。
「ミアちゃんはママのお手伝いができるって張り切ってるから……なんとか、彼女が無事に材料を手に入れて戻ってこれるように助けてあげてほしいのねー!」
ついでに、美味だと町の皆が言うジャック・べりーを食べてみるのもいいかもしれない。ただし、この果実、食べすぎるとお腹が痛くなってしまうことがあるというので食べすぎにだけは要注意だ。
「それとね、この草原には『キング・ベリー』っていうとーっても美味しくてお薬にもなるスペシャルな果実があったんだって!」
しかし、そんな万能な果実故に採りつくされてしまい、残念ながら今はもう残っていないらしい。もしも、この実を見つけることが出来れば薬の材料にもなるのだが……。
「それじゃ、いってらっしゃい。お手伝い、よろしくなのねー!」
にこやかに手を振ってユニは猟兵たちを苺の楽園へと送り出す準備に入るのだった。
――さぁ、いざ行かん。アックス&ウィザーズへ!
春風わかな
はじめまして、またはこんにちは。春風わかなと申します。
オープニングをご覧いただきありがとうございます。
●プレイング採用について
まことに勝手ながら採用数は各章ごとに8名前後の見込みになっております。
プレイングに一切問題がない場合でも採用されない場合があります。
あらかじめご了承ください。
●シナリオの流れ
第1章:薬草を摘みに(冒険)
第2章
:???(集団戦)
第3章
:???(ボス戦)
●ミア
6歳の女の子。
好奇心旺盛で活発な性格。そそっかしい部分もあるが、根は優しい。
過去にもお薬の材料を採りに来たことはありますが、1人で来たのは初めてです。
●ジャック・ベリー
この草原に自生している野生の果実です。
苺に似た赤い実で、とても良い香りがします。
食べると甘酸っぱくて、美味しいです。
ただし、食べすぎるとお腹が痛くなってしまうことがあるので要注意。
●キング・ベリー
甘くて美味しくて薬の材料にもなるというスペシャルな果実。
やはり苺に似た赤い実で、ジャック・ベリーよりも大きいので見ればわかります。
しかし、その美味しさ故に過去に採りつくされてしまい、今はもう残っていません。
探せばキング・ベリーが生えていた場所等は特定できるでしょう。
●第1章について
薬に必要な材料を集めるミアを手伝ってあげてください。
ミアに気づかれぬようにこっそりと手伝うもよし。
彼女と仲良くなって手伝うもよし。
もちろんジャック・ベリーを食べることもできます。
POW/SPD/WIZの行動・判定例は気にしないで大丈夫です。
オープニングに限らず、ご自由に苺の楽園を満喫してくださいませ。
●第2章、第3章について
各章開始時に詳細を追加します。
プレイングの受付開始日時等の情報追加がある場合もありますので、プレイングの送付は詳細追加をお待ちくださいますようお願いいたします。
(受付日時の記載がない場合は、詳細追加後すぐにプレイング受付を開始致します)
以上、皆さまのご参加を心よりお待ちしております。
第1章 冒険
『薬草を摘みに』
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POW : 真正面から危険に挑む
SPD : 工夫して危険を少なくする
WIZ : 魔法や文明の利器の力で解決する
👑11
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榎・うさみっち
お花を摘みに来た少女を襲うオブリビオン…
まるで童話のオオカミみたいな良くない展開だな!
うさみっち様が一肌脱いでやる!そしてベリーも食う!
やっほーお嬢ちゃん!こんなとこに一人で何しに来たんだー?
さり気なく聞いて本来の目的を思い出させる
ママの手伝いか!えらいぞ!
そんな君にはこのまほみっちゆたんぽをあげよう!
と、新作のゆたんぽをプレゼント
手分けして探せばきっとすぐだぜ!
【かくせいのうさみっちスピリッツ】でうさみっちゆたんぽ増殖
人海戦術でキノコと蜜を探す
それにしてもこのキノコ、毒々しい見た目だな…
俺もベリー大好きなんだぜー!
んーっうまい!いくらでも食えそう!
あと1個…もう1個だけ…(ぽんぺフラグ)
アール・ダファディル
……Echo、果実は探し物の後だ
仕事後の方が美味しく食べられるだろう?
俺たちは『赤い水玉模様のキノコ』を探すとしよう
【錬成カミヤドリ】にて分身を増やし人海戦術を
木陰、岩下、湿原地帯……
生育地と思わしき場を探索し該当のキノコを採る
集まった品々をぬいぐるみらへ持たせ少女の元へ
ほら、Echo。頑張って探したモノを渡してあげるんだ
「お探しのモノはこれですか」……ってね
さて、お待ちかねの果物だ
たわわ生る果実の赤を見たEchoは嬉々と突っ込んでいった
ひとつ摘んで食せば甘酸っぱさが幸せな春が口いっぱいに広がる
やがて顔覗かせた≪彼女≫はご機嫌に汚れて
ああ、もう。口の周りが真っ赤じゃないか
全く、手の掛かる妹だ
荒・烏鵠
あらアラ孝行娘だなァ。こりゃいっちょ手伝ったろーかね。
ユベコを使い、鳥を肩にとまらせ、『赤水玉キノコと薄紫の花、キング・ベリーが生えている場所』という真実を視せてもらう。
そンで、先回りしてそれらを見つけたら、近くの草を編んで作った小さなバスケットにいくらか入れて、二鳥がかりで女の子のトコまで運んで貰うぜ。
お母さん思いのチビ助に、草原の鳥さんが協力してくれたってテイで。オレは隠れてッからヨロシクなァ。
メリー・メメリ
ねえねえ、探し物をしているの?
メリーもお手伝いしてもいいかな?
あのねあのね、メリーはともだち100人できるかなってともだちさがしをしているんだ!
だから一緒に探しておともだちになりたいなーっておもった!
いいかな……?
あ、こっちはともだちだいいちごうのライオン!
やさしいライオンだからだいじょうぶ!
ライオンはねー、おはながきくからねー、たくさん見つけることができるよ!
ライオンライオン、さがしもの見つけれる?
ライオンうーんと、こんな感じで、こんなにおいで……
はっ、メリーももちろんがんばるよ!
ステラ・オレオール
※アドリブ等何でも歓迎です
ミアちゃんには良い思い出を残して欲しいですね。
ミアちゃんがベリーに夢中になっている間に、キノコが多く生える場所へ先回りして色んな種類のキノコを採っておきます。
そして、材料が取れる場所からミアちゃんの居る所まで、キノコを一定間隔で並べます
好奇心旺盛なミアちゃんならきっとキノコの道を辿って行くはず。そうして気がついたらそこは薬の材料が自生している場所
名付けて「きのこロード大作戦」です!
きのこ配置後は【念動力】でミアちゃんの籠を軽くする等ちょっとしたサポートをしながら見守ろうかなと。
基本的に隠れながらですが、もしバレたり失敗しそうなら素直に出てきて道案内しようと思います
御堂・茜
春爛漫!清々しいですね!
花に果実に正義の赤が咲き
美味しいものもまた正義!
正義は食べ物です!!
まずはミア様にお声かけを
可愛らしいお嬢様、ごきげんよう!
貴女様もジャック・ベリー狩りへ?
まあ、お母様のお使いで…!
とても偉いです!
御堂もご一緒してよろしいですか?
ベリーを一口つまめば
瑞々しさについ手が止まらず
は、食べすぎは危険でした!
ジャムにしても美味しそうですわ
お土産の分を摘みながら材料探しを
キノコとお花はユニ様情報を頼れそうですが
キング・ベリーが曲者です…!
しかしッ!
こんな時の【第六感】【野生の勘】
何より【気合い】で捜索ですッ!
ミア様もご一緒に気合い注入です!
必ず手がかりはあります
えい、えい、おー!
泉宮・瑠碧
…やはり
故郷の緑の多い空気は好きだな
馴れもあるだろうが、ほっとする
ミアがベリーに夢中の間に
赤い水玉模様のキノコと薄紫色の花の蜜は
動物に訊いたりしながら先に軽く探しておこう
二種の薬の材料が見付かれば
キング・ベリーの跡も探してみる
…仕方のない話ではあるが
人の欲で採り尽くされてしまったのは、悲しいな
材料やキング・ベリー跡の捜索後
ミアに声を掛けてベリーをストップ
食べ過ぎるとお腹を壊すらしいので、そこまで
名乗った後に
君は此処で何をしているのか
探し物なら手伝おうとも
後、僕もジャック・ベリーを一粒…成程、美味しい
捜索で見付けていればそこへ誘導しよう
花は蜜のみで良いのなら小瓶を用意し
摘むしかない場合は花に謝る
●
爽やかな風に淡いブルーの髪を揺らし、泉宮・瑠碧はフレッシュな新緑と甘いジャック・ベリーの香りに包まれながらそっと目を閉じる。
……やはり、故郷の緑の多い空気は好きだ。
慣れ親しんだものというだけでなく、故郷に帰ってきた気分に瑠碧の心もぽっと温かくなった。
だが、こんな平和な場所にオブリビオンが潜んでいるなんて――。
にわかには信じられない気分の瑠碧だったが、油断は禁物。ジャック・ベリーに舌鼓を打つミアから視線は離さず、周囲の様子を慎重に探る。
(「お花を摘みに来た少女を襲うオブリビオンねぇ……」)
どこかで聞いたことのある話だなと榎・うさみっちは誰に言うでもなく呟いた。
まるで、童話に出てくるオオカミみたいな良くない展開が罪なき少女を待っているのは如何なものか。
よしっと拳を握り締め、うさみっちはドーンと胸を張る。
「うさみっち様が一肌脱いでやる! そしてベリーも食う!」
駄々洩れの本音に気づく素振りもなく、うさみっちは早速ジャック・ベリーへと手を伸ばした。
清々しい空気を大きく胸に吸い込み、御堂・茜はぐるりと草原を見回す。
春爛漫――。澄んだ青い空に映える色鮮やかな赤いベリーの色と瑞々しい緑色の葉のコントラストが美しい。
花に果実に緑色の草原を染めんと咲き乱れるは正義の赤。
艶々と輝く赤いジャック・ベリーをそっと摘まむと茜は上品に一口齧った。
口の中いっぱいに広がる甘酸っぱい果実の味に嬉しくて思わずぎゅっと目を瞑る。
美味しいものもまた正義。すなわち……。
「正義は食べ物です!!」
「ぴぎゃっ!?」
――突然、大声で叫ぶ茜に驚いたうさみっちが思わずジャック・ベリーを放り投げた。
「あぁぁ、俺のベリーがぁぁっ!!」
泣き叫ぶうさみっちの声が平和な草原に響き渡る――。
甘くて美味しい紅い宝石。
うっとりとした表情を浮かべて思わずジャック・ベリーへと手を伸ばすEchoを制するようにアール・ダファディルはその名前を呼んだ。
「……Echo、果実は探し物の後だ。仕事後の方が美味しく食べられるだろう?」
アールの言葉に素直にEchoは頷いて。そう。まずはお仕事を頑張らなくては――。
ジャック・ベリーを幸せそうに頬張る少女を陰からこっそりと見つめる一人の青年――荒・烏鵠は、その姿を見て口元に笑みを浮かべる。
「あらアラ孝行娘だなァ」
まだ幼いのに母親の手伝いだとは、感心、感心。――まぁ、今はジャック・ベリーに夢中のようだが、それもまたご愛敬。
狐の耳を揺らし、烏鵠は誰に言うでもなく独り呟きを漏らした。
「――こりゃいっちょ手伝ったろーかね」
コキコキと首を鳴らし、烏鵠はすぐさま【十三術式:番イ鳥】を発動させると二羽の小鳥を喚び出す。小鳥たちはピィピィと可愛らしい鳴き声をあげると烏鵠の肩にちょこんと留まった。
小鳥たちの出現に慌てて反対側の肩へと避難するシナトを優しく撫でてやりながら、烏鵠は小鳥たちに話しかけた。
「番イ鳥よ、頼んだぜ」
烏鵠とは別の場所からミアの姿を見ていた、ステラ・オレオールは迷いつつもベリーを食べている少女の姿にくすっと笑みを零す。
(「ミアちゃんには良い思い出を残して欲しいですね」)
そのためのお手伝いが必要とあれば、ステラも助力は惜しまないつもりだ。
よしっとステラは気合を入れるとキョロキョロと草原を見回した。
ミアが探しているという『赤い水玉模様のキノコ』はジメジメとした場所に生えているという。そんな条件に適した場所はどこにあるのだろうか――。
ぱくぱく、もぐもぐ。
ニコニコと幸せそうな笑顔を浮かべてジャック・ベリーを頬張るミアを見つけ、うさみっちは気さくに声をかけた。
「やっほーお嬢ちゃん!」
ぶーんぶーん。
目の前を飛び回る桃色の可愛らしい妖精の姿を見付けたミアは、パチパチと瞬きを繰り返す。そして、その姿が消えないことを確認すると、ぱっと顔を輝かせた。
「わぁ! ピンクのようせいさんだぁ! かーわいぃ~!」
捕まえたくて、つい手を伸ばすミアからさりげなく、でも必死に逃げるうさみっち。
そんなうさみっちをすっと背後に匿いながら、茜は少女に話しかける。
「可愛らしいお嬢様、ごきげんよう!」
たおやかな笑みを浮かべ、元気よく話しかける茜に、ミアも警戒心ゼロの笑顔で元気よく答えた。
「こんにちはー!」
ジャック・ベリーを抱えた少女を見て茜は優雅な仕草で首を傾げるとミアに問いかける。
「貴女様もジャック・ベリー狩りへ?」
「うぅん、ちがうよー」
ミアは首を横に振りつつ、手に持っていたジャック・ベリーを口に放り込んだ。もぐもぐ、ゴックン。ジャック・ベリーを飲み込むと、ミアはえへんと胸を張って答える。
「ミアはね、ママにたのまれておくすりのざいりょうをとりにきたの!」
「まあ、お母様のお使いでしたか……! とても偉いです!」
「そうかそうか、ママの手伝いか! えらいぞ!」
茜とうさみっち、2人ともに褒められ、ミアは得意気な表情を浮かべた。だが、そこで改めてミアは自分の本来の目的を思い出す。
「ミア、おくすりのざいりょうをさがさなきゃ!」
慌ててすっくと立ちあがるミアに親し気に話しかける1人の少女がいた。
「ねえねえ、探し物をしているの? メリーもお手伝いしてもいいかな?」
「わぁ~、ミアのおてつだいしてくれるの!?」
メリー・メメリの申し出にミアはぱっと顔を輝かせて嬉しそうに頷く。
「ミアね、『あかいみずたまもようのキノコ』と『お花のみつ』をさがしてるの」
ママのお手伝いをするんだと告げるミアの言葉に頷きながら、メリーも忘れないようにとミアの探し物を復唱した。
「ミア様、御堂もご一緒してよろしいですか?」
「もちろん! おねえさんもいっしょに行こう!」
茜の言葉にミアは元気よく頷いて。そして、うさみっちへと向き直るとちょんと首を傾げて問いかける。
「ようせいさんは、何しに来たの?」
「俺はベリーを食べに……じゃなくて、ママのお手伝いをするイイコのお手伝いに来たのさ!」
ミアの周りをくるりと旋回し、うさみっちが「じゃーん!」と取り出したのは、毎度おなじみのピンク色のうさぎたれ耳が付いたぬいぐるみ型ゆたんぽだ。
「そんなイイコの君にはこのまほみっちゆたんぽをあげよう!」
「まほみっちゆたんぽ?」
なぁに? と首を傾げつつもミアは素直に手を出してうさみっちからゆたんぽを受け取った。三角帽子にローブと杖を装備した魔法使いの姿を模した新作ゆたんぽは、ここアックス&ウィザーズらしいデザインだ。
「あ! メリーもゆたんぽ、もってるよ!」
嬉しそうにメリーが見せたゆたんぽは、以前うさみっちから貰ったものでミアのゆたんぽとは服装が違う。
でも、お揃いのゆたんぽを見てミアは嬉しそうにメリーに言った。
「ミアと同じだ! どっちもかわいい~!」
顔を綻ばせるミアを見て、メリーは決心したように口を開く。
「あのねあのね……」
ちょっと恥ずかしそうにしながら、メリーはミアの耳元にそっと口を寄せて囁いた。
「メリーはともだち100人できるかなってともだちさがしをしているんだ! だから一緒に探しておともだちになりたいなーっておもった! いいかな……?」
「いいよー! わぁーい! ミアのお友だちになってくれるの?」
ピョンピョンと飛び跳ねて喜ぶミアにメリーは嬉しそうに大きく頷く。
「おくすりのざいりょう探すの、メリーも一緒にがんばるね!」
●
ミアがようやく本来の目的を思い出していた頃――。
ぐるりと草原を見渡し、アールはジメジメとしていそうな場所を探していた。
目的は、ジメジメした場所に生えるという、ミアが探している『赤い水玉模様のキノコ』を採るためだ。
森との境目で木が多く生え茂っている木陰や、小さな池の畔の湿地帯。崖下の岩が多く転がっている場所などにミアが探しているキノコはありそうだ。分身によって増えたテディベアたちにも手伝って貰いながら、アールはキノコを採っていく。
アールと同じくステラもまた、先回りをしてキノコを探していた。
「これかな……?」
毒々しい見た目に本当に合っているのだろうかと不安を覚えつつも、ステラは次々とキノコを集めていく。ミアが探している『赤い水玉模様のキノコ』はもちろん、『白い水玉模様のキノコ』や『茶色のキノコ』に『縞々模様のキノコ』……目についたキノコたちをステラは選別することなくどんどん採っていった。
そんなステラと一緒にキノコを探すテディベアたちは、次々とキノコを見つけてはアールの元へと運んでいく。
「キノコならここにもありますよ」
ステラが見つけたキノコをテディベアに渡すと、ベアたちは『ありがとう』と嬉しそうにお辞儀をして籠の中へと入れていった。
そして、ステラは十分なキノコを集め終えると、今度はミアの居る場所へと向けてキノコを並べ始める。
「……?」
ステラの行動を怪訝そうに見つめるアールの視線にも気づかず、ステラは等間隔でキノコをどんどん並べていった。
「名付けて『きのこロード大作戦』です!」
――この並んだキノコたちに気が付いたミアはきっとキノコの道を辿ってくれるに違いない。
楽し気に微笑むステラの作戦を理解したアールは「なるほど」と頷く。
「Echo、ボクたちも手伝おう。さっき、キノコを一緒に集めてくれたお礼をしなければいけないからね」
Echoやテディベアたちも手伝い、ステラは再びキノコを並べ始めるのだった。
「それじゃ、ちょいと真実を視せてもらおうかねェ」
楽しそうにキノコを集めて並べている仲間たちの背中を見つめていた烏鵠の顔がスッと真剣な表情へと変わってゆく。
――煌神に帰依し奉る。契約に基づき、我に真を授けよ。
烏鵠が紡ぐ言葉に合わせ、番イ鳥のつぶらな瞳が捉えた真実が映し出された。
彼の眼にも映るのは、薄紫色の小さな花がいっぱいに咲き乱れる可愛らしい花園。
そして、この草原には不似合いなベリーも花も何もない、ただ枯れた草だけが生えた空き地――。
「ふゥん……お、あった、あった」
眼前に広がる薄紫色の花が咲き誇る花畑は、先程番イ鳥が見せてくれたものと同じもの。烏鵠はゆっくりと花畑へ近づいて行く。
「ここか――」
同じく、瑠碧もまた少女の探し物を先に探すために花園へとやってきていた。
この花園を探すために誰に聞こうかと迷う瑠碧が頼ったのは、この草原に住む可愛らしいウサギたち。瑠碧はそんなウサギたちに『薄紫色の花』が咲く場所を聞いてここへ来たのだ。
花が咲いている場所さえわかれば、薄紫色の花の蜜はすぐに手に入ったも同然。何しろ、花畑は淡い紫色一色で染まり、目的の花がどの花か迷う必要もなかったのだ。
「花の蜜が必要だったな」
瑠碧は用意しておいた小瓶を取り出すと、丁寧に花の蜜を集めていく。ジャック・ベリーに負けないくらい甘い香りが瑠碧の鼻をくすぐった。
「そういえば、どれくらいの量が必要なんだろうなァ」
2人で手分けをして蜜を集めていた烏鵠の呟きに、瑠碧は暫し考え込む。
足りなくなっては困るので、ここは多めに用意しておくべきか――。
「小瓶はまだあるから、出来るだけたくさん集めておくよ」
持参した小瓶全てに花の蜜を詰めようという瑠碧に烏鵠も頷いた。たくさん集めておいて損はないだろう。
瑠碧は花を傷つけぬように注意を払いながら、蜜の採取に励む。
一方、蜜を集めた小瓶をじっと見つめる烏鵠は、どうやってこの花の蜜をミアに届けようかと考えていた。
「……そうだなァ」
せっかくならば、少女が喜びそうな方法がいいだろう。
そう考えた烏鵠は近くに生えていた草を使って即興でバスケットを編むと、その中に先程蜜を詰めた小瓶を入れる。だが、これだけでは何だかよくわからない。
「すまない、1輪だけ貰うよ」
瑠碧はそっと薄紫色の花を摘み取ると、バスケットの中へと入れた。
ミアへの届け物の準備ができると、烏鵠は番イ鳥たちに声をかける。
「あそこでジャック・ベリーに夢中になってるチビ助に届けてやってくれるか?」
ピィピィと快く烏鵠の頼みを引き受けた番イ鳥は、草で編んだバスケットを咥えると『いってきます!』とパタパタと羽を動かした。
「それじゃ、オレは隠れてッからヨロシクなァ」
烏鵠はひらひらと手を振って、二人ならぬ二鳥がかりで花を届ける番イ鳥の背を見送る。
小鳥たちが届ける花を見て、ミアはどんな反応をするだろうか――。
●
「探し物をするならね、メリーのライオンに任せて!」
言うや否や、メリーはすぐさまぴーひょろろと笛の音を響かせライオンを呼び出した。
「こっちはメリーのともだちだいいちごうのライオン!」
「うわぁぁ!? 大きなライオンだぁっ!」
驚いて思わず後ずさりをするミアにメリーは慌てて声をかける。
「やさしいライオンだからだいじょうぶ! ライオンはねー、おはながきくからねー、たくさん見つけることができるよ!」
エヘンと胸を張るメリーの話を聞いたミアは尊敬の眼差しでメリーとライオンの顔を交互に見つめて口を開いた。
「すごいねぇ……!」
ミアの羨望の眼差しを受けとめつつ、メリーはライオンに話しかける。
「ライオンライオン、さがしもの見つけれる?」
探しているのは『赤い水玉模様のキノコ』だったはず。
身振り手振りを交えて伝えるメリーにライオンはガゥと小さく吠えて答えた。
「ライオンさん、よろしくねー!」
ひらひらっと手を振るミアに尻尾をゆらりと揺らし、ライオンはのそのそと草原を歩きだす。
そして、ライオンが見つけたのは先程ステラたちが作ったきのこロード。
ライオンに案内されてやってきたメリーたちはずらりとキレイに並んだキノコに目を丸くせずにはいられない。
「うわぁ!? みてみて! キノコのみちがある!」
吃驚したミアの声はステラが想像していた通りで思わず顔が綻んでしまう。好奇心旺盛なミアはやはりきのこロードに食い付いてきた。
「すごい、ライオンきのこ見つけたー!」
エライエライと褒めるメリーの隣で、ミアはこのキノコの道がどこへ続いているのかが気になって仕方がない。
「――よし、行ってみよう!」
隠れているステラに気づく様子はなく、パタパタと足音を響かせてミアは嬉しそうにきのこロードを駆けてくる。
そして、きのこロードの終点で彼女を待っていたのは――。
集まったキノコをいれた籠を持ったEchoだった。
「ほら、Echo。頑張って探したモノを彼女に渡してあげるんだ」
アールの言葉にこくりと頷くと、Echoはミアにキノコがたくさん入った籠を差し出す。
――お探しのモノはこれですか?
そう言いたげなテディベアにミアはこくこくと何度も頷いて、嬉しそうにキノコの入った籠を受け取った。
「あれ? こーんなにいっぱいキノコが入ってるのに……ぜんぜん! おもく! ない!」
「キノコだからなぁ……量の割には軽いんじゃねぇの?」
うさみっちの言葉に「そうかぁ」と納得するミアだったが、実はステラが念動力を使って籠を持ち上げてくれていたのだ。
ステラの力のお陰で籠は全く重さを感じないのだが、もちろんミアはそんなことには気づいていない。
大はしゃぎでキノコがたくさん入った籠を抱えるミアを物陰から見つめるステラも作戦が成功したことにほっと胸を撫で下ろすのだった――。
『赤い水玉模様のキノコ』は手に入った。次に必要なものは、『花の蜜』だ。
「それにしてもこのキノコ、毒々しい見た目だな……」
キノコを目にしたうさみっちがぼそりと呟きを漏らす。一見して薬には見えないあたりが薬として使えるのだろうか。
「そういえば、『花の蜜』の花って何色の花なんだ?」
「えぇっと……うーんと……」
うさみっちの素朴な疑問に一同は一斉にミアの顔を見るが、少女は困ったように俯いてしまう。
「なーに、わからなくても皆で手分けして探せばきっとすぐだぜ!」
今にも泣き出しそうなミアを慰めるようにうさみっちは言うと、すちゃっとうさみっちゆたんぽを取り出した。
「命が宿ったゆたんぽの本気! しっかりとその目で見ろー!!」
「わ! わ! すごーい
……!!」
ポカンとミアが見つめる目の前で、【かくせいのうさみっちスピリッツ】によってうさみっちのゆたんぽがどんどん増殖していく。そして、ゆたんぽたちはうさみっちの指示のもと、花を探し始めた。
赤い花、青い花、白い花、黄色い花……。うさみっちのゆたんぼたちが花畑の花を持ってくるが、どれもこれもミアにはピンとこない。
「ちがう、気がする……」
「そうかー、ちがうのかー」
申し訳なさそうなミアの言葉にメリーががっかりした様子で溜息をつく。
「仕方がありませんッ! 己の勘が違うと告げるのであれば、それを信じる他ございませんッ!!」
グッと拳を握り茜はミアを励ました。なんだか茜の言葉を聞くと自分は間違っていないと肯定された気がしてくる。ミアもほっとした表情を浮かべて嬉しそうに微笑んだ。
「……ところで、ミア様」
コホンと小さく咳払いを一つして、茜はミアに話しかける。
「そこにいる小鳥たちが何やらミア様にお話したいことがある様に思うのですが」
茜が指差した先にいたのは、烏鵠の番イ鳥たち。小鳥たちに向かってミアが両手を差し出すと、小鳥はミアの手にそっと草で編んだバスケットを降ろした。
『ピピピッ!』
「中を見て、って言ってるみたいだよー」
メリーに促され、ミアが小鳥から受け取ったバスケットの中を覗くと、その中には薄紫入りの花と、小瓶に詰められた花の蜜が入っている。
「あっ!」
この花にミアは見覚えがあった。以前、ママと一緒にこの草原に来た時、確かこの花の蜜を集めていたはず――。
「思い出した!! このお花だ!!」
やったぁ! と得意気にバスケットを掲げるミアの頭上をうさみっちがブーンブーンと飛び回る。
「お、そうか、この花の蜜か! やったな!」
うさみっちの言葉にミアは満面の笑みを浮かべて何度も頷いた。
これでミアが頼まれた材料は全て集めることが出来た。後は――。
「キング・ベリーを見つけることが出来れば本日の任務は完璧! ですねッ!!」
と、茜も言ってみたものの、このキング・ベリーはすでに採りつくされてしまっていて今はもうないという。
だが、本当にどこにも生えていないのか、まだどこかに残っていないか――。
むむっと考え込む茜につられてミアも一緒に考え込む。
しかし、こんな時に役立つのは直感と――何よりも、絶対に見つけるという強い信念。
茜は片膝をついてミアの手をぎゅっと握ると、少女と目線を合わせて優しい声で話しかけた。
「大丈夫です。必ずどこかに手がかりはあります。――さぁ、ミア様も、よろしければ皆様もご一緒に気合い注入ですッ!」
ぐるりと皆の顔を見回してぎゅっと拳を握る茜にならい、ミアも、メリーも、うさみっちも拳を握って準備完了。
「「「「えい、えい、おー
!」」」」
元気よく青空へと拳を突き上げる4人の声が静かな草原に響き渡ったのだった――。
番イ鳥たちが無事にミアへ花の蜜を届けたことを見届けた烏鵠と瑠碧。
「ところで……キング・ベリーという果実を知っているかい?」
尋ねる瑠碧にうさぎたちは『知ってるよ!』と髭を揺らすとキング・ベリーの生息地へと瑠碧と烏鵠を連れて行く。
そこは、先程烏鵠に番イ鳥が見せた空き地だった。
「ここか……」
枯れ果てたキング・ベリーの葉を見つめ、瑠碧は悲し気に目を伏せた。
(「人の欲で採り尽くされてしまったのは、やはり悲しいな……」)
仕方のないことだとはわかっているが、残念だという気持ちにも偽りはない。
そっと溜息をつく瑠碧の耳に明るい少女の声が届く。
「あれ? ここってなんでなにもないんだろう?」
「ミア様、もしやここがキング・ベリーがあった場所なのでは……ッ!?」
――どうやら、ミアたち一行が来たようだ。
「こんにちは。僕は泉宮・瑠碧。はじめまして」
ミアの姿を見つけ優しく話しかける瑠碧に、少女も物怖じすることなく元気よく挨拶をする。
「こんにちは! るりおねえさん、ここでなにしてるの?」
「僕は……キング・ベリーを探していたんだ」
ミアの問いに答えながら瑠碧が傍らに視線を向けると、いつの間にか烏鵠の姿がいなくなっている。どうやらミアに見つからないように隠れてしまったようだ。
「キング・ベリーあった? ミアたちもね、キング・ベリーさがしてるの!」
ミアの言葉に瑠碧が無言で首を横に振ると、ミアだけでなく茜やうさみっちも残念そうに肩を落とした。
「この場所にキング・ベリーが生息していたことはわかったんだけどね……」
瑠碧は枯れたキング・ベリーの葉を優しく摘まむと溜息をつく。
どうすればこのキング・ベリーを復活させることができるか、知っているものがいればいいのだが……。
「今は考えても仕方がないな――。そうだ。ミアはジャック・ベリーを食べたのか? 僕も一つ貰ってみたいと思っていたんだ」
「ええっ!? るりおねえさん、ジャック・ベリー食べたことないの!?」
勿体ないとばかりに叫ぶミアに、茜も小さく手をあげる。
「ミア様、よろしければ、御堂もご相伴に預からせていただけますか?」
「あ! 俺もまだベリー食ってない!!」
「メリーも食べたいなぁ……いいかな?」
実はまだ誰もジャック・ベリーを食べたことがないと知ったミアは勿体ぶって口を開いた。
「しかたがないなぁー。ミアがいっちばんおいしいジャック・ベリーの場所をおしえてあげるよ!」
●
――薬の材料を探すのお仕事を終えた後には、ご褒美のジャック・ベリーが待っている。
たわわに実る赤い果実たちをみつけ、Echoは嬉しそうにアールの手を引っ張っていった。
「Echo、そんなに急いだら転んでしまうよ」
アールの言葉に気を留める素振りもなく、Echoは転がるようにジャック・ベリーの茂みへと駆けて行く。そして、心地良い春風が運ぶ艶々とした赤い実の甘い香りを胸いっぱいに吸い込んだEchoは嬉々としてベリーを口に突っ込んでいった。
その傍でステラもまたジャック・ベリーの実に舌鼓を打っていた。
「ベリーに夢中になっていたミアちゃんの気持ちがわかりますね」
もう一つ、もう一つ、後もう一つだけ……。
ジャック・ベリーへと伸ばす手を止めることが出来ず、ステラは甘い果実を堪能する。
幸せそうにベリーを抱える最愛の妹につられるように、アールも目の前で揺れるジャック・ベリーをそっと一つ摘み上げた。パクリと齧れば、口の中いっぱいに甘酸っぱさが広がると同時に幸せな春が口の中いっぱいに広がる。
(「これは、止まらなくなる気持ちがわからなくもないな――」)
アールは無意識のうちに僅かに口元を綻ばせたが、ふっとEchoへと視線を向けた。
赤いベリーに囲まれ、幸せそうにひょっこりと顔を覗かせたEchoはご機嫌に汚れている。
「ああ、もう。口の周りが真っ赤じゃないか」
やれやれと肩をすくめ、アールはハンカチを取り出すとEchoの口の周りを丁寧に拭いてやる。
――全く、手の掛かる妹だ。
溜息まじりに兄は妹へと声をかける。
「Echo、そんなにいっぱい食べてはお腹が痛くなってしまうよ」
呆れた口調のアールの言葉にステラはハッとして思わずベリーを食べる手を止めた。
――いけない、いけない。
とはいえ、この美味しい果実がここでお預けになってしまうのは残念だ。
「残りはお土産にいたしましょう」
ステラは籠の中にジャック・ベリーを入れていく。この籠がベリーでいっぱいになるまで、時間はかからなかったことは言うまでもない――。
「るりおねえさん、ジャック・ベリー食べてみて?」
ミアが差し出したジャック・ベリーを受け取ると、瑠碧はそっと口へ運ぶ。
ジャック・ベリーを一口摘まめば、その瑞々しさが口の中いっぱいに広がった。
「成程……これは美味しい」
口元を綻ばせる瑠碧を見て、ミアは嬉しそうに胸を張る。
「でっしょー! ジャック・ベリーはね、みーんなおいしいっていうんだよ!」
「うん、これメリーもすき! ライオンもたべる?」
にこにこと幸せそうにジャック・ベリーを頬張るメリーは、ライオンにもその美味しさを知ってもらいたくて、その大きな口の中へポンとジャック・ベリーを放り込んだ。
「俺もベリー大好きなんだぜー!」
うまい! とむしゃむしゃと次々ジャック・ベリーに手を伸ばすうさみっち。
話には聞いていたが、本当にいくらでも食べることが出来そうだ。
美味しくて、美味しくて、ジャック・ベリーへと伸びる手は止まらない。
皆と一緒にぱくぱくとジャック・ベリーを食べるミアを慌てて瑠碧が止めに入る。
「はい、そこまで――そんなにいっぱい食べたらお腹が痛くなってしまうよ」
「は!? 食べすぎは危険でした!」
瑠碧の言葉で我に返った茜が慌ててジャック・ベリーへと伸ばしていた手を引っ込めた。
ミアの体調は大丈夫かと心配し、あれこれ尋ねる瑠碧だったが、ミアは元気いっぱいの様子。そんな少女を見て瑠碧はほっと胸を撫で下ろす。
もう少し食べたいが、でもお腹が痛くなるのは困る――。
そんな様子で逡巡するミアを見て、茜はクスッと笑みを零した。
「これは、お土産の分にいたしましょうか?」
「――うんっ!」
きっとこのジャック・ベリーでジャムを作ったらさぞかし美味しいだろう――。
茜の提案にミアも嬉しそうに籠の中へとお土産用のベリーを入れていく。
「メリーも! ベリーを集めるお手伝いするー」
ぶちぶちと楽しそうにお土産用のジャック・ベリーを摘むメリーの隣では。
「あと1個……もう1個だけ……」
ジャック・ベリーを貪るように食べ続けるうさみっちの手は止まらない。
もう1個、もう1個を繰り返し続けた彼の末路は……。
「うわーん! 腹! 腹が痛いー!!」
お腹を押さえてゴロゴロと悶えることになったのは言うまでもない――。
そよぐ風に乗って運ばれてくる楽しそうな笑い声を聞きながら、烏鵠は満足そうにジャック・ベリーを摘み上げる。
「いいねェ、たまにはこーいうのも悪くないんじゃねェの?」
パクッと嚙り付いた果実の甘さに幸せそうに目を細める烏鵠の耳がピクリと何かに反応した。それは、ジャック・ベリーを楽しむ仲間たちの声ではなく、不穏な輩の声――。
「ハイハイ、おいでなさったか」
手に持っていたジャック・ベリーをポイっと口に放り込むと烏鵠はぷらりと歩き出す。
その不穏な輩の正体をこの目で見るために――。
大成功
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第2章 集団戦
『花と星の妖精』
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POW : 花を操る
自身が装備する【色とりどりの花】をレベル×1個複製し、念力で全てばらばらに操作する。
SPD : 森の恵み
【食べると幻覚が見えるキノコ】【硬く巨大なきのみ】【どっしりと実った果実】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 星詠み
【占い】が命中した対象に対し、高威力高命中の【様々な結果】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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――クスクス、クスクス。
風に乗って誰かの笑い声が聞こえてくる。
「だれ……?」
不安そうな顔できょろきょろと周囲を見回すミアの前に、可愛らしい三角帽子を被った小さな妖精たちが姿を現した。
『ボクたちのベリーをたべるわるいひとはだぁれ?』
『このベリーはわたしたちだけのもの! かってにたべないで!』
ジャック・ベリーの周りをふよふよと飛び回る花と星の妖精を見つめ、ミアはおもむろに口を開く。
「ミア、ジャック・ベリーだいすきなの。だから、ミアにもベリーをわけてくーださい」
『ダーメーよ!』
ミアのお願いを妖精たちは間髪入れずに拒否をした。
『ボクたちのキング・ベリーをぜんぶたべちゃったくせに!』
『わたしたちのジャック・ベリーもぜんぶたべちゃうんでしょ!』
そして、妖精たちは声を合わせて猟兵たちに向かって言う。
『アンタたちなんかに、だいじなジャック・ベリーはあげないんだから!!』
メリー・メメリ
けちんぼ…!!!いじわる…!!!
いじわるはしたらダメ!
みんなで仲良くわけっこしなきゃダメなんだよ!
かかさまも言ってた!
よーし、おこった!!
いじわるさんはメリーがこらー!ってするからね!
ライオンといっしょにこらーってするよ!
えいえいっ!
でもでも、いじわるさんをこらしめるメリーもいじわるさんにならないかな……
うーん……おいしいお肉をあげるからわけてーって話し合いできないかな……
ともだちが困ってたら助けるのがともだち!
でもでもケンカはダメってかかさまも言ってたから
お話ができそうなら話し合ってみたいな…!
荒・烏鵠
ウーン……妖精側の言いたいコトもわからんでもねーのよなァ。あの枯れ果てた姿を見ちまうと。
そうさな、新芽を出したりは出来ねェが、枯れた分ダケならなんとかなるかもしれねェ。
【WIZ】
おいでませ、癒しの火龍。キング・ベリーの枯れ野を泳ぎ、茎を葉を根を花を癒やせ。地中に潜り、踏み荒らされたこの地を癒やせ。今すぐには無理だとしても、いつかまた新しい芽が出るように。
妖精サンよ、どうだいっちょ協力しちゃくれねェか?アンタらの占いで、この荒れ地の未来を占ってくれよ。そンで、その結果がもし良かったら。コチラのお嬢ちゃんにジャック・ベリーを少しでいい、分けちゃくれんかね。
榎・うさみっち
お前らのものだぁ~?証拠はあるのか~?
所有権を証明する権利書を見せてみろやー!
ただの悪ガキならゲンコツして皆仲良く!で済むんだけど
こいつらオブリビオンだからそうもいかないんだよなぁ
俺も三角帽子の妖精で対抗だ!
【かくせいのうさみっちスピリッツ】で「まほみっちゆたんぽ」増殖
ミアにもプレゼントしたこのまほみっちゆたんぽ、
可愛いだけじゃなくて強いのだ!とドヤ顔で説明
杖から炎や氷の【属性攻撃】で攻撃したり
飛んでくるキノコや果実は燃やして炭にしちゃうぜ
きのみは杖をバットのようにしてカーン!と打ち返す
むしろこのきのみをお前らに当ててやるぜ!
トドメは必殺!杖で直接殴る!
まほみっちは物理攻撃にも長けているのだ!
御堂・茜
悪…!?
食糧を占有しようとする輩こそ
まさしく悪ではないですかッ!!
ベリーは貴方のものでもございませんわ
『美味しい』は皆のものですッ!
とはいえ良い子のミア様の前で
みだりな殺生はよろしくありません!
ここはUC【控えよ、姫の御前である】で
平和的にひれ伏していただきます!
世界が違えど【気合い】さえあれば!
いざ轟け、将軍様の威光ッ!!
キング・ベリーを狩り尽くしたのは
わたくし達ではございません!
一体過去に何が?
刀を用いての【武器受け】や勘で攻撃を凌ぎ
ミア様と集めた材料をお守りする事を優先しつつ
お相手の事情も可能な限りお聞き致します
討つべきは眼前の敵に非ず
キング・ベリーが消えた理由
そこに真の悪があるならば!
泉宮・瑠碧
…先程の枯れた空き地を見れば
そう思うのも、無理はないな
妖精達にも訊いてみよう
君達はキング・ベリーの元気が戻る方法は知らないか
もし動物が居れば避難を促してから
僕は主に消去水矢と援護射撃
集団地点には射った水の矢を分散して範囲攻撃
攻守に第六感を用い
周囲にも被害が出ない様に気を付けよう
相手の攻撃は射落とす様に努める
特に占いは
言い終える前に射掛けて完成させない様に
自身への攻撃は見切りやオーラ防御
終えれば
妖精達へ祈った後
動物達を探して訊いてみたい
キング・ベリーの元気が戻る方法はないか
…人の勝手で荒らしておいて、すまないが…
優緑治癒や植物の精霊でも無理だろうか
枯れたあの姿が悲しいから…何か出来ると良いのだが
アール・ダファディル
――ふふ、この妖精とやらは随分と我儘なようだ
だが、話も聞かずこどもを困らせるのは戴けないな
ミア、キミは隠れているといい
高慢なモノらに少し灸を据えてやろう
木々植物を傷つけぬよう注意して四方八方へ琥珀の糸を張り巡らす
俺は囮として≪彼女≫が遊び易くなるように敵の注意を惹こう
「そうそう、コイツは大変美味しく戴いたよ」
土産へと持っていたジャック・ベリーを敵に見せては口へ運ぶ
折角だからも少し摘んでいこう、と嘯いては様子を伺おう
【先視の繰糸】示すまま敵の攻撃を躱しつつ、
迫りくる妖精らからご機嫌な≪彼女≫の遊び相手を見定める
「ほら、Echo。彼らと存分に遊んでおいで」
おやつの後のおにごっこはさぞ楽しいだろう
オルハ・オランシュ
えっと、
出遅れてきた私はジャック・ベリーの味すら知らないんだけど……?
そんなに美味しいなら食べてみたいなぁ
ジャムにも向いてそうだしね
独占は良くないんじゃない?
穏便にいこうよ、穏便にっ
なんて言っても聞く耳を持ってはくれなさそう
……やるしかないか!
『わるいひと』?どっちもどっちじゃない……!
投げつけてくるのはただの実じゃないみたい
【見切り】を狙って極力当たらないように注意するよ
間に合いそうになかったら【武器受け】で凌いで
そのまま【カウンター】で【範囲攻撃】
一体でも多くの妖精を巻き込んで、
効率よくダメージを与えていこう
槍の射程圏外にいる妖精が
実を投げてくる様子を見せたら、ダガーを投げて阻止しなきゃ
ステラ・オレオール
※アドリブ等何でも歓迎です
ええっ!?そういう事は食べる前に言ってくださいよっ…
うーん…いつもなら炎を纏って敵に飛び込む所ですが、今そんな激しい事をすればミアちゃんに良い思い出どころか恐怖を与えてしまいそうです。
炎の攻撃は控え、出来るだけ守りに徹しながら戦います。ミアちゃんは私達猟兵が傷つく事も望まないはずですから。
UC【ギャラクシー・ブロッサム】を展開。光の花を操り敵の飛び道具を相殺しつつ各個撃破を狙います。
狙われた相手以外にはただキラキラした星が舞っているようにしか見えないので、ミアちゃんに恐怖を与える事もないはず。
「私の仲間には指一本触れさせませんよ!」
●
『ボクらのジャック・ベリーにかってにさわらないで!』
『このジャック・ベリーはぜーんぶわたしたちのものよ!』
ジャック・ベリーには触れさせまいと、ベリーを囲うように飛び回る花と星の妖精たちを見て、ステラ・オレオールは困ったように呟きを漏らす。
「ええっ!? そういう事は食べる前に言ってくださいよっ……」
すでに美味しくジャック・ベリーを頂いてしまった以上、今更返せるものでもなし。
妖精たちに何と言おうか。暫し考えるステラの迷いを断ち切るかのように、榎・うさみっちは小さな体をぐぐっと伸ばし、声を張り上げた。
「そんなの知ったこっちゃねぇよ! お前らのものだぁ~? 証拠はあるのか~? ほらほら! 所有権を証明する権利書を見せてみろやー!」
早く見せろとばかりに手を出して迫るうさみっちに妖精たちはツンとそっぽを向いて口を尖らせた。
『そんなのしーらない。ずっとずーっとまえからボクたちのものだもん!』
『もうっ! ウルサイなぁ! あっちいってよ!!』
ジャック・ベリーの茂みから引き離そうとする妖精たちにオルハ・オランシュは言いにくそうに口を開く。
「えっと、出遅れてきた私はジャック・ベリーの味すら知らないんだけど……?」
妖精たちが独占しようとするのだから、さぞかし美味しいに違いない。
どんな味なんだろうかとジャック・ベリーへとちらりと視線を向けて、オルハはポツリと呟いた。
「いいな、そんなに美味しいなら食べてみたいなぁ」
ジャック・ベリー……きっと、ジャムにも向いているに違いない。
赤いキラキラとしたジャムが店に並んだらどんなに素敵だろうかとうっとりするオルハの夢はあっさりと妖精たちによって崩される。
『やーだ! あげないったら、あげないもん!!』
「けちんぼ
……!!! いじわる
……!!! いじわるはしたらダメ!」
メリー・メメリはぷくぅっと頬を膨らませて妖精を睨み付けた。だが、妖精たちはメリーのことなどお構いなし。メリーと張り合うように膨れっ面で猟兵たちを睨み付ける。
「うーん……独占は良くないんじゃない? でも、ここは穏便にいこうよ、穏便にっ」
まぁまぁと妖精たちを宥めようとオルハが優しく声をかけると、そうだそうだと言わんばかりにメリーも口を開いた。
「みんなで仲良くわけっこしなきゃダメなんだよ!」
大好きなかかさまから教えられたことを妖精たちに説こうとするメリーだったが、当の妖精たちはぷぃっと顔を背け、両手で耳を塞ぐ。
『わるいひとたちのいうことなんて、きこえないもーん』
「悪…!?」
『わるい』という言葉に御堂・茜の眉がぴくりと動いた。正義を愛する姫君には聞き捨てならない言葉――それは、『悪』。
カッと目を見開き、茜は妖精たちに向かってビシッと指を突きつける。
「食糧を占有しようとする輩こそまさしく悪ではないですかッ!!」
先程までの茜の雰囲気とは打って変わった迫力に、思わず仲間たちの背筋もシャンと真っ直ぐに伸びた。
「ベリーは貴方のものでもございませんわ。『美味しい』は皆のものですッ!」
だが、大声を張り上げる茜を前にしても妖精たちは特に気にした様子もなく。
『キング・ベリーをひとりじめしたのはそっちだろ』
『ジャック・ベリーもひとりじめするって、しってるんだから!』
フンっと鼻を鳴らして聞く耳をもたない妖精たちに、オルハは溜息をついた。
「やっぱり、聞いてくれないかぁ……」
残念そうに呟くオルハを横目に、アール・ダファディルは口元に小さく笑み浮かべる。
「――ふふ、この妖精とやらは随分と我儘なようだ」
だが、話も聞かず、こどもを困らせるのは戴けない。
「お仕置きが必要だな――」
妖精たちへと冷たい視線を向けるアールをEchoが心配そうに見つめた。
「ただの悪ガキならゲンコツして『皆仲良く!』で済むんだけど、こいつらオブリビオンだからそうもいかないんだよなぁ」
やれやれと肩をすくめるうさみっちにオルハがその通りだと何度も頷いて同意を示す。
「そうなったら……」
――やるしかないか!
――そうだな!
オルハとうさみっちは無言で視線を交わし、コクリと頷き合った。
そんな2人を横目にアールはミアの傍へと行くと安全な場所を指差して話しかける。
「ミア、キミは隠れているといい」
『こっちに来て』とEchoに手を引かれながら、ミアは心配そうにアールの顔へ視線を向けた。
「けんか? いたいのはダメだよ……!」
不安そうなミアの言葉にアールは曖昧に微笑みを返して告げる。
「なに、高慢なモノらに少し灸を据えてやるだけさ」
●
少し離れた場所から仲間たちを見ていた荒・烏鵠は困ったと唸り腕を組んだ。
(「ウーン……妖精側の言いたいコトもわからんでもねーのよなァ」)
烏鵠の脳裏に浮かぶのは、先程見た枯れ果ててしまったキング・ベリーの茂み。
ニンゲンに採りつくされた末路があの枯れた姿だと思うと、妖精たちを責める気分にはなれない。
それはまた、泉宮・瑠碧も同じ気持ちだった。
「……先程の枯れた空き地を見れば、妖精たちがそう思うのも、無理はないな」
しかし――。
瑠璃はチラリと枯れた空き地へと視線を向ける。
キング・ベリーを蘇らせるためには、一体どうすればいいのだろうか――。
●
『もーう! わからずや! はやくここからいなくなれよ!』
『あっちいってくれないなら、わたしたちだってほんきでおこっちゃうんだから!』
目の前でぷんすか怒っている妖精たちと物陰に隠れたミアを交互に見つめ、ステラは考えていた。
「うーん……」
いつもならば炎を纏って敵の懐に飛び込んでいくところだが、今、そんなことをすればミアを怖がらせてしまうかもしれない。彼女に良い想い出を作ってもらいたいと思っているのに、恐怖を与えては逆効果だ。
(「きっと、ミアちゃんは私達猟兵が傷つくことも望まないはずですから――」)
仕方がない。炎の攻撃は控え、出来るだけ守りに徹しながら戦おうとステラは決めた。
――【ギャラクシー・ブロッサム】。
ステラが操る光の花が妖精たちを包み込む。光で出来た綺麗な薄青色の星型の花がくるくると妖精たちの周囲を回転する様は、まるでキラキラと輝く星が舞っているかのようで。
『むむむっ、じゃまするなー!』
固く巨大な木の実を投げようとしていた妖精たちは、光が造る瑠璃唐綿の花に阻まれておろおろおたおたとしながら口を尖らせた。
だが、離れた場所で見ているミアにはきれいな蒼い星がくるくると舞いながら、妖精たちに降り注いでいるようにしか見えない。
「うわぁ……キレイ……っ!」
キラキラと瞳を輝かせてじっと光の蒼星を見つめるミアにステラはほっと胸を撫で下ろす。
ステラ同様、ミアのことを気にかけていたのは茜だ。
妖精たちに怒り心頭の茜だったが、『ジャスティスミドウセイバー』を構えようとしたその手を突然おろす。
「……とはいえ良い子のミア様の前でみだりな殺生はよろしくありません!」
ここは平和的な手段で解決を図るべきだ――。
そう考えた茜がごそごそと引っ張り出したもの、それは……。
「この紋所が目に入らぬかぁー! でございます!!」
茜が掲げたもの、それは天下自在符――世界は違えど、気合いさえあれば全ては何とかなる。そう、心から信じる茜に恐れるものなど何もない。
「いざ轟け、将軍様の威光ッ!!」
それは他の猟兵たちが持っているものと同じ、何も変わらないはずのものなのに、なぜだか眩しく輝いていて直視することができない。気合――これが気合というものがなせる技なのか。
『ピカーってしてて、なにもみえない……!』
堪え切れずに平伏する妖精たち。
茜は妖精をまっすぐに見つめると優しく語り掛ける。
「いいですか、キング・ベリーを狩り尽くしたのは、わたくし達ではございません!」
だが、相変わらず妖精は茜の話を聞く気がないようで……。
『うるさーい! オマエたちもニンゲンのナカマだろう!?』
怒りが収まらない妖精があやつる色鮮やかな花々が茜に襲い掛かった。
「はっ!?」
視界を遮る花の檻から抜け出すために、慌てて茜は刀を抜くと上下左右に素早く振るい道を切り開く。
「一体過去に何が?」
ミアに妖精の攻撃がいかぬように気を配りながら漏らす茜の呟きに答えてくれるものは誰もいなかった。
戦いは避けられない――。
覚悟を決めた瑠碧だったが、慌てた様子でキョロキョロと周囲を見回した。
(「いない……大丈夫か」)
先程、一緒にいたウサギが居たら危ないと焦ったが、どうやらすでに安全な場所へ逃げていたようだ。
ほっと息をつく瑠碧に妖精がぴらっとめくったカードを読み上げる。
『きょうのてんきは……はれ、ときどき……ゆき! ところにより、にわかあめ、じゃなくて、こおりがふるでしょう!』
妖精が【星詠み】をするや否や、瑠碧の頭上に現れた白い雲からばらばらと氷の礫を降らす。
氷の雨を振り払い、瑠碧は意識を集中して水の精霊が姿を変えた愛用の杖を握り締めた。
「……其れは木の葉、其れは流れる一点、其れは一矢にて散り得る」
瑠碧の紡ぐ言葉に合わせ、【消去水矢】が発動する。
魔法によって生み出された水の矢は再び星詠みをしようとカードをめくった妖精へと向かって飛んでいった。
『わるいこには……わわっ!?』
射られた透き通った薄青の矢が妖精を貫くと同時にぱぁっと水が小さな矢へと姿を変えて弾け飛び、周囲の妖精たちへと降り注ぐ。
瑠碧が放った水の矢によって星詠みを遮られた妖精は、不満そうに口を尖らせた。
『もう! きらいきらいきらいっ!』
再びカードをめくり、瑠碧を狙う妖精に気づいたのは、ステラ。
「私の仲間には指一本触れさせませんよ!」
ステラの操る光の花がさぁっと一斉に妖精たちへと襲い掛かる。
だが、それは傍から見れば可愛らしい小さな星たちが妖精を包み込んでいるようにしか見えず。
『うぐ、ぐ……っ!』
青い星型の花に攻撃を阻まれ、妖精は悔しそうに唇を噛んだ。
一方、その頃――。
アールは素早く周囲を見回すと、木々や植物を傷つけぬように気を付けながら素早く四方八方へ糸を張り巡らせる。
≪彼女≫が楽しく遊ぶための囮として振る舞うことを決めたアールは妖精たちの注意を惹くためにわざと大きな声で話しかけた。
「そうそう、コイツは大変美味しく戴いたよ」
『あーっ! アイツ、ジャック・ベリーもってる!!』
ふふんと妖精たちを挑発するアールが掲げて見せたのは、土産用にと採ったジャック・ベリーだった。
籠の中からジャック・ベリーを一粒摘み上げると、アールはわざと妖精たちにベリーが見えるように見せびらかしながらパクっとベリーを口の中に放り込む。
『あぁぁー!! ジャック・ベリーたべた!』
『みた!? アイツ、ボクたちのだいじなジャック・ベリーをパクってたべちゃったよ!』
それを見た妖精たちは大憤慨。辺りは蜂の巣を突いたような大騒ぎとなった。
だが、アールはそんな喧騒も気にする素振りもなく、平然とした様子で妖精たちに言う。
「折角だから、も少し摘まんでいこう……」
アールがチラリと妖精たちへ視線を向けると案の定、妖精はキノコやら果実やら木の実を抱えて臨戦態勢に入っている。
『ダメ―! ジャック・ベリーはぜったいにあげないんだからー!!』
息つく暇もなくひゅんひゅんと飛んでくる妖精の攻撃も、アールにかかれば全てお見通し。周囲に張り巡らせた琥珀色の操糸から伝わる振動で、例え死角であってもアールには全ての攻撃を読むことが出来た。
「――操るはモノだけで無いと知れ」
【先視の繰糸】が示すままに妖精たちの攻撃をかわしつつも、アールはその中からご機嫌な≪彼女≫の遊び相手にふさわしいモノを見定める。
「ほら、Echo。彼らと存分に遊んでおいで」
アールに促され、Echoは『わーい』と大きなリボンを揺らして妖精たちの元へと駆け寄って行く。
――わたしが鬼。あなたたちは逃げられるかしら。
Echoと妖精たちの鬼ごっこを見つめ、アールはくすりと小さく笑みを零す。
「おやつの後のおにごっこはさぞ楽しいだろう――」
仲間たちの奮戦を見て、うさみっちも腕まくりをしてやる気をみなぎらせていた。
「よーし! 俺も三角帽子の妖精で対抗だ!」
言うや否や、うさみっちの周りにずらりと並ぶ『まほみっちゆたんぽ』たち。
「わぁ……! ゆたんぽがいっぱい!!」
気が付けば隠れていたはずのミアがひょっこりと顔を覗かせている。
「ミア、危ないから隠れていた方がいい」
眉をひそめるアールの言葉にミアは『しまった』と肩をすくめるが、好奇心には勝てなかったらしい。
結局、ミアの隣でEchoが見守ることで納得した渋い顔のアールとは対照的に、これから何が起きるのだろうかと目を瞬かせるミアにうさみっちは嬉しそうに話しかけた。
「ミアにもさっきプレゼントしたこのまほみっちゆたんぽ、可愛いだけじゃなくてとーっても強いのだ!」
ドヤ顔で説明するうさみっちにミアは嬉しそうに先程貰った『まほみっちゆたんぽ』の頭を撫でる。
「そうかぁー、ゆたんぽ、つよいのかぁー」
すごいねぇと感心するミアに妖精はフンと鼻で笑った。
『なによ! そんなのぜんぜんつよそうじゃないわ!』
妖精はえいっとうさみっちに向かってキノコを投げる。
だが、うさみっちは『まほみっちゆたんぽ』たちを操り、ゆたんぽが持つ杖をビシっと妖精たちに突き付けた。
「いいか、ミア。よーく見てろよ……」
うさみっちは落ち着いた様子で飛んでくるキノコの軌道を読むと、ゆたんぽたちの杖から炎を出す。
シュボッ!
『あーっ!』
キノコはうさみっちに命中することなく炎に焼かれて炭となり、風に乗って静かに消えていった。
『く、くやしい……!』
ギリギリと悔しそうに唇を噛む妖精だったが、すぐに気を取り直し、次はうさみっちに向かって果実を投げようと構える。
しかし、その妖精たちの攻撃に備え、瑠碧は相手の一挙手一投足を見逃すまいとじっと見守っていた。
(「攻撃はさせない……」)
『せーのぉ!』
妖精がどっしりと重たい果実をブンッ! と投げた瞬間。
狙いすましたかのように瑠碧が放った水の矢が果実を貫き、パカっと真っ二つに割る。
『もーう! またじゃまされたー!!』
悔しそうにジタバタと手足をばたつかせる妖精にうさみっちは得意気に胸を張った。
「ふふん、おまえたちの攻撃はこんなもんか! 大したことないな!!」
ドヤ顔で挑発するうさみっちに、妖精はギリギリと悔しそうに歯ぎしりをする。
『うぐぐ……!』
こうなったら、最後はかたい巨大な木の実しかない。
『えーい! これでもくらえー!!』
ビューンと勢いよくうさみっちめがけて飛んでくる木の実。
――あぶないっ!
思わずミアはぎゅっと目を閉じた。だが、うさみっちは余裕の笑みを浮かべてじっと木の実を見つめている。
「――もらったぁぁぁ!!」
カキーン!
全身全霊を込めてスイングしたまほみっちゆたんぽの杖が見事に木の実の芯を捉えた。
心地良い音を響かせ、打ち返された木の実は妖精めがけて飛んでいく。
『きゃーっ!!』
慌てて逃げる妖精にまほみっちゆたんぽのトドメの一撃が炸裂!
「必殺! 杖で! 直接殴る!」
『いたい、いたーい! いやーん、ごめんなさいー!!』
ポカポカと杖で妖精を殴る『まほみっちゆたんぽ』たち。
無事に妖精たちへのお仕置きを果たし、うさみっちはふぅと額に浮かんだ汗を拭う。
――このように、『まほみっちゆたんぽ』は物理攻撃にも長けているのだ。
やり遂げたという達成感に溢れたうさみっちは極上の笑みをミアに向けた。
「な、まほみっちゆたんぽは強かっただろ?」
「うん! ゆたんぽ、ホントにすごいねぇ」
パチパチとミアから惜しみない拍手を受け、大満足な表情を浮かべるうさみっちだった――。
猟兵たちの活躍により、妖精たちは確実にその数を減らしていく。
『わるいひとになんて、ぜーったいにまけないんだから!』
「『わるいひと』?」
妖精たちの言葉にオルハはムッとした様子で口を尖らせた。
「どっちもどっちじゃない……!」
キッと妖精を睨み付けるオルハの隣で、メリーもぷんすか怒っている。
「よーし、おこった!! いじわるさんはメリーが『こらー!』ってするからね!」
ぴーひょろろろ。メリーの笛の音が響き渡ると待ってましたとばかりに相棒のライオンが姿を見せる。
ライオンの姿を見た妖精たちは一斉にざわつきながらメリーたちを睨み付けた。
『ライオンだ……! ずるい、ライオンだよ』
「ずるくないよ! ライオンはメリーのともだちなんだから!」
そして、メリーはライオンの首を優しくポンと叩くと、妖精たちを指差して言う。
「ライオンライオン、いじわるさんにいっしょに『こらー!』ってするよ!」
ガルルルと低い唸り声をあげ、メリーを乗せたライオンが妖精へと襲い掛かった。
『きゃー! こないで!!』
えい、えい、えいっ!
負けじと妖精も食べると幻覚が見えるキノコや固く巨大な木の実を投げて応戦する。
「……おっと!」
飛んできたキノコをひょいっと避け、『ウェイカトリアイナ』で木の実を叩き落とした。その木の実の手応えに、オルハは目を丸くして思わず呟く。
「……投げつけてくるのはただの実じゃないみたい」
『オマエもライオンのなかまだなー!』
オルハをメリーの仲間と認識した妖精は、ターゲットを拡大して今度は実の詰まった重たい果実を投げつけた。
「もう……っ! 危ないなぁ」
愛用の槍を構えたオルハは頭上めがけて落ちてくる果実に狙いを定めて三叉槍を突き上げる。果実を貫いた槍を大きく振るって刃から抜くと、オルハは目にもとまらぬ速さで大きく三叉槍を振るった。
「見切れるなんて、思わないでくれる?」
槍の刃は妖精たちを捉え、纏めて一気に薙ぎ払う。オルハに助太刀せんとメリーとライオンも鋭い爪で妖精たちに斬りかかった。
『こっちくるなー!』
妖精は標的をオルハからメリーに変えると構えていたキノコを投げる。
「あ……っ!」
だが、妖精がキノコを投げたその瞬間を逃さず、オルハは素早くダガーを投げた。
ひゅっとダガーが風を切る音が響く。
小さな弧を描きながら空を飛ぶオルハのダガーは、妖精が持っていたキノコを切り落とした。
『やーん! これじゃなげられないー!』
ぴーっと泣く妖精だったが、その目に涙はない。――ウソ泣きだ。
「やれやれ……」
肩を落とすオルハは手にしたダガーを無意識のうちに弄ぶ。
「わるいひと、かぁ……」
あまり連呼されるとこちらが悪人の気分になってくる――しかし。
「ダメ! ライオン、やっぱりやめて!!」
突然、妖精への攻撃をやめるようにライオンに指示したメリーに驚き、オルハも慌ててダガーをしまった。
「メリー?」
気遣うように優しく見つめるオルハに、メリーは震える声で呟く。
「いじわるさんをこらしめるメリーもいじわるさんにならないかな……。おいしいお肉をあげるからわけてーって話し合いできないかな……」
そんなメリーの様子が気になったのか、慌ててミアも駆け寄ってきた。
「メリー、どうしたの?」
心配そうにメリーを見つめるミアの手をメリーはぎゅっと握り締める。
「ともだちが困ってたら助けるのがともだち! でもでもケンカはダメってかかさまも言ってたからお話ができそうなら話し合ってみたいな……!」
「メリー様……! なんと……なんと立派な心掛けでしょうかッ!!」
メリーの言葉に感銘を受けた様子の茜が一歩前へと進み出ると、妖精たちに向かって話しかけた。
「――討つべきは眼前の敵に非ず」
凛とした佇まいで厳かに告げる茜の言葉に妖精たちはざわつきだす。
「キング・ベリーが消えた理由……そこに真の悪があるならば!」
すぅっと大きく息を吸うと、茜は高らかに言い放った。
「そのモノこそ、我らが協力して討つべきモノに他なりませんッッ!!」
妖精たちも茜からの予想外の提案に驚いた様子で片隅に集まると緊急会議を開いている。
『どうする? どうする?』
『ボクたちのおねがい、きいてくれるかなぁ……?』
――おねがい?
ひそひそと話す妖精たちの声を聞いた烏鵠の耳がぴくりと揺れた。
「なァ、お願いってなんだ? よかったら話してみてくれねェか?」
もしかしたら、協力できるかもしれねェしな――。
烏鵠をじっと見つめ、妖精たちは迷っている様子。それを見た瑠碧も杖をおろして妖精に話しかける。
「君達はキング・ベリーの元気が戻る方法は知らないか?」
『……キング・ベリーがほしいの? またいっぱいとるの?』
警戒しながら問いかける妖精に、瑠碧はゆっくりと首を横に振った。
「枯れたあの姿が悲しいから……僕たちに何か出来ることがあるなら、助けたい」
元はと言えば、人の勝手で荒らした結果が今の姿なので、今更こんなことを言うのかと思われるかもしれない。だが、瑠碧は正直な気持ちを妖精たちに伝える。
妖精たちは再び顔をつきあわせ、ひそひそと話をすると、くるりと瑠碧の方へ向き直った。
『キング・ベリーがどうすればげんきになるのかは、ボクたちもしらない……』
哀しそうに告げる妖精は、意を決して口を開く。
『おねがい、キング・ベリーをまたげんきにしてあげて……!』
●
妖精たちの願いを聞いた烏鵠は「ふーむ」と顎に手を添えて1人暫し考え込んでいた。
「……そうさな。新芽を出したりは出来ねェが、枯れた分ダケならなんとかなるかもしれねェ」
『え?!』
烏鵠の言葉に妖精たちはざわざわしながら彼の周りへと集まってくる。
「まァ、見てなって」
烏鵠は妖精たちに少し離れるように指示をすると、龍の姿を模した癒しの神を呼び出した。
「おいでませ、癒しの火龍」
烏鵠は【十三術式:踊リ龍】で喚び出した龍に命を下す。
「キング・ベリーの枯れ野を泳ぎ、茎を葉を根を花を癒やせ。地中に潜り、踏み荒らされたこの地を癒やせ」
烏鵠の言葉に頷くように長い髭を揺らすと、火龍はキングベリーの茂みがあった空き地に向かって癒しの炎を放った。
――今すぐには無理だとしても、いつかまた新しい芽が出るように。
「あ! あっ! みてみてっ!!」
興奮した様子でミアが炎で焼かれた土地を指差す。
「め! めがでてるよーっ!!」
ミアが指差した先には、可愛らしい緑色の小さな葉っぱがチョコンと土の上に顔を覗かせていた。
『ホントだ!』
『キング・ベリーのめがでた!』
きゃー! と嬉しそうにはしゃぐ妖精たちを見て、烏鵠もホッとした様子で胸を撫でおろす。
「妖精サンよ、どうだいっちょ協力しちゃくれねェか?」
烏鵠の言葉に妖精たちは一斉に視線を向けた。烏鵠は妖精が持っている星詠みのためのカードを指差す。
「アンタらの占いで、この荒れ地の未来を占ってくれよ。そンで、その結果がもし良かったら。コチラのお嬢ちゃんにジャック・ベリーを少しでいい、分けちゃくれんかね」
烏鵠からのお願いに妖精たちは再度顔を寄せ合いひそひそと話し合いを始めた。
『どうする?』
『キング・ベリーをげんきにしてくれたし……』
今回は、議論はすぐに結論を出すことが出来たらしい。時間をかけずに会議を終えると、妖精の代表者が烏鵠の前に進み出る。
『いいよ! キング・ベリーをげんきにしてくれたおれい!』
妖精は慣れた手付きでカードをシャッフルするとピッとカードを一枚ひいた。
――出てきたのは、太陽のカード。
『……やったぁ! キング・ベリーがげんきにそだつって!』
嬉しそうに喜ぶ妖精たちを見て、烏鵠も良かったと心から頷く。
「そンじゃ、約束まもってくれるな?」
いいよと答える妖精たちに、ミアの顔がぱぁっと明るく輝いた。
「ジャック・ベリーもらっていいの? やったー! ようせいさん、どうもありがとう!」
ぺこっと元気よく頭を下げるミアに妖精たちがお土産のジャック・ベリーを渡す。
嬉しそうにベリーを見つめていたミアだったが「はっ!」と気づいた様子で慌てて烏鵠の服の裾をそっと引っ張った。
「お嬢ちゃん、どうした?」
「おにいさんにも、ミアのジャック・ベリーはんぶんあげる! だって、このベリーをもらえたの、おにいさんのおかげだもん!」
ありがとうと微笑むミアから戸惑いつつもジャック・ベリーを受け取る烏鵠の前で、突然、妖精たちの姿が消えていく。
『たいへん! ドラゴンがくる!』
『キング・ベリーがげんきになったから、ドラゴンがくるよ!』
――ドラゴン?
不穏な単語に烏鵠とミアは思わず顔を見合わせた。
『ドラゴンはキング・ベリーがだいすきなの。まえにもいーっぱいたべちゃったんだ』
「なんだよー、人間だけのせいじゃないじゃん」
「それ、私も同じこと思っちゃった」
やれやれと肩をすくめるうさみっちに、同意見だとオルハも小さく手をあげてこっそり告白する。
「ドラゴン、ベリーたべるんだ……お肉もたべるかなぁ」
意外そうに呟くメリーにステラは困ったように溜息をついた。
「体も大きそうですし、確かにベリーを食べつくしてしまいそうです」
何気ないステラの呟きにぴくりと茜が反応を示す。
「なんと……ッ! では、そのドラゴンが真の悪というわけなのですねッ!」
討つべき敵はわかった――。茜は妖精たちに向かって力強く頷いた。
「承知いたしました。この御堂が必ずや! 悪を成敗してみせましょうッッ!!」
妖精たちに誓う茜の背後で、アールは≪彼女≫の名前を呼ぶ。
「Echo、もう一つお仕事が出来たよ。――頑張れるかい?」
アールの問いにEchoは『任せて!』と言いたげにポンと胸を叩いてみせた。
仲間たちから少し離れた場所で妖精たちへの祈り捧げていた瑠碧も、真っ直ぐな瞳を向けてはっきりと告げる。
「せっかく芽吹いたキング・ベリーだ。今ここで絶やすことはさせない」
瑠碧の決意はこの場に集う猟兵たちの総意に他ならない。
烏鵠はぐるりと仲間たちの顔を見回すと、ミアの頭をポンと叩いて口を開いた。
「――そンじゃ、もういっちょ頑張るとするかねェ」
成功
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第3章 ボス戦
『息吹の竜『グラスアボラス』』
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POW : フラワリングブレス
【吐き出された息吹 】が命中した対象に対し、高威力高命中の【咲き乱れるフラワーカッター】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : ガーデン・オブ・ゲンティアナ
自身の装備武器を無数の【竜胆 】の花びらに変え、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : フラワーフィールド
【吐き出された息吹 】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を花畑で埋め】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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【MSより】
・ただいまよりプレイングの受付を開始いたします。
・期限内に書ききれずプレイングが流れてしまった場合の再送は大歓迎です。
お気持ちにおかわりなければ内容はそのままで再度プレイングを送っていただけますと幸いです。
・お手数をおかけし申し訳ございませんが、よろしくお願いいたします。
================
●
――どこからともなく、一匹の竜が姿を現す。
新緑を思わせる緑色の巨躯をゆっくりと揺らしながら、竜はのっしのっしと草原を歩いていた。
突然、動きを止めた竜は首を持ち上げ、何かを探すように辺りを見回す。
そして、ふぅっと大きく息を吐くと嬉しそうに再び歩き出した。
竜の吐いた息が触れた草原では蕾は花を咲かせ、花は実を結ぶ――。
花畑を進む竜も己に力がみなぎるのを感じ、喜ぶように力強く大地を踏みしめる。
息吹の竜『グラスアボラス』――人々がそう呼ぶこの竜が求めているものは、大好物のキング・ベリー。
――見つけたからには全てを喰らいつくさずにはいられない。
榎・うさみっち
ぴゃっ!?息しただけで花が咲いたぞ!
うまいことあいつの息でキング・ベリーを早く咲かせて死守したら
あとですぐにキング・ベリーを採ることが出来ないかなぁ
人間もオブリビオンも虜にするキング・ベリー…
いったいどんな味なんだろな!(じゅるり)
俺は主に陽動としてサポートするぜ!
【しんそくのうさみっちエスケープ】発動!
強化した【ダッシュ】【残像】を活かして
敵の周りを大量の残像発生させながら素早くブンブン飛び回るぜ!
敵の注意を引きつけてベリー畑に行かせないようにしたり
味方が攻撃する隙を作ったりする
敵の攻撃には強化した【逃げ足】【見切り】と
更にはこのちっちゃい身体も活かして素早く逃げ回る!
俺も食べてみるか~?
荒・烏鵠
@WIZ
オイオイ、せーッかく大団円で終われそうだったンだ。邪魔しねーでくれよドラゴンサンよ。
しっかし、フーン? 辺りを植物で覆うタイプの攻撃すンのナ。それならうちにも最適が居らァ。
おいでませ咲キ駆、我が駿馬。こいつは周囲に植物が多いほど強くなる。更に、こいつにケガさせたヤツは体ン中から肉を裂いて花が咲くのサ。モチロンその花でも強化されンぜ?
馬の後ろ足蹴りや踏みつけ、体当たりッてェのは案外シャレにならねェ攻撃力だぜ。強化されてるとあらば然もありなん、だ。
シナトやオレ、他猟兵サン方も居るしな。
自分自身が花畑にゃなりたくねえだろう。諦めて帰っちゃくれねェかな。
メリー・メメリ
ドラゴン!ドラゴンだー!
ベリーのドラゴン!お肉食べるかなあ……?
でもこのお肉はメリーのだからちょっとまってね。
よーし、お肉をたべたから元気いっぱいだよ!ガオー!
ライオンみたいに走ってとびついてガオーって爪で攻撃!
ライオンからライオンのたたかいかたを教えてもらったんだー
すごいでしょー!
ドラゴンの攻撃はしっかりみて……よける…!!
ひえー、ドラゴン強いねえ……!
でもでもひとりじめは良くない!
ようせいも、ミアもこまってるもん!
お友だちをこまらせたらダメだよ!
ひとりじめするわるいドラゴンたからせいばい、せいばい!
みんなでベリーを楽しむのが一番!
御堂・茜
出ましたね食いしん坊ドラゴン!
芽吹いた若葉
妖精達の為にも皆で守り抜きましょう!
畑を踏み荒さぬよう留意しつつ
息吹を受けても怯まぬ【覚悟】と【勇気】で
皆様を【鼓舞】し敵に立ち向かいます
多少の傷は承知で花の嵐を駆け抜け
【捨て身の一撃】にて狙うはその首一本ですッ!
両の手に渾身の力を籠め
UC【完全懲悪】!
悪しき過去を断ちます!!
これにて一件落着…とは参りません
未来の為にもう一仕事!
可能でしたら近くに立て札を作り
キング・ベリー取りすぎ注意を呼びかけます
何と書くかは…ミア様!
お願いしていいですか?
ミア様のお願いが一番効くと思うのです
この景色と親子の絆が
永遠であるよう願いをこめ
ミア様のお言葉を一筆したためます
アール・ダファディル
ひとり占めは良くないな
如何に美味しいであればこそ分け合って食べる方が美味しかろうに
――……と、そんな事を大人しく聞く輩ではないか
【仮初一座による即興劇】を発動し、
高速移動で攻撃を回避しながら不可視の糸を敵へ巡らす
その際に足元に咲き乱れる花畑も散らしてやろう
めくらましに通常の琥珀糸も混ぜればより絡ませ欺き易くもなろう
……罪悪感が無いわけではないがね。致し方ない
舞う花弁にひとり言い訳を零しつつ、
思惑を結び張り絡ませ縺れ合わせ、開演の合図を
糸引き繰れば縛った凡てが俺の意思の儘
さて、今日のお芝居は愉快な≪彼女≫の竜退治
身動きが制御された竜は退治されたか、それとも
結末は――他のキャストに任せよう
ステラ・オレオール
※何でも歓迎です
炎が使いにくいこの状況でドラゴンと戦うのは少し厳しいですね…
正面から戦うことは避け、隠れながらUC【グラビテーショナル・スター】を発動。引力操作の念動力を巧みに操り、ドラゴンを足止めします。
具体的には「ドラゴンが足を動かすタイミングを狙って、後ろ足だけ凄く重たくする」「足が着地する場所の土を掘り下げて、即席の落とし穴に嵌める」「前からぐぐぐっと押して、ドラゴンが逆らおうと力を入れた瞬間に押すのをやめる」など。
ドラゴンが大きくバランスを崩したら、尻尾を思い切り持ち上げてひっくり返します!
成功するとドラゴンが派手にすっ転びますが、笑うと力が弱まるので必死に堪えます…
泉宮・瑠碧
…グラスアボラス
僕は、彼らは好きなのだがな…
多少ならともかく、食い尽くすのは避けたいが
一応
一気に全部食べずに少しずつ
他の生き物とも分け合う様に
キング・ベリーを見守っては貰えないか伝えてみる
それと彼らの吐息は植物の生育を促すそうだが…
キング・ベリーにも良いのだろうか
食べた分をまた咲かせる事が出来れば、とも思うが
戦闘状態中ならミアは少し離れていて貰おう
僕は主に精霊祈眼と援護射撃で
なるべく被害を減らす様に相手の攻撃を防ぐ
息吹や竜胆の花びらは風の精霊に願い
逆風にして散らして貰う様に
竜を倒す事になるのなら
大好物というキング・ベリーを少しだけでもあげたい
そして祈る
ベリーが此処に在る事は秘密の方が良さそうか
●
猟兵たちの前に姿を現した息吹の竜『グラスアボラス』は、力強く大地を踏みしめながら草原をゆっくりと歩く。
「ドラゴン! ドラゴンだー!」
「出ましたね食いしん坊ドラゴン!」
大きな声をあげて二人同時にびしりと竜を指差すメリー・メメリと御堂・茜。
「ひとりじめするわるいドラゴンたからせいばい、せいばい! みんなでベリーを楽しむのが一番!」
「その通りですッ! 真なる悪は成敗するべしッッ!!」
拳を突き上げて口を尖らせるメリーの言う通りだと茜は何度も頷いた。
だが、竜はゆっくりと瞬きをして2人をじっと見つめるも、すぐにふいっと顔を背けて再び歩き出す。竜が求めているものは、ただ一つ――キング・ベリーのみ。
「オイオイ、せーッかく大団円で終われそうだったンだ。邪魔しねーでくれよドラゴンサンよ」
チッと小さく舌を打ち鳴らす荒・烏鵠の傍らでアール・ダファディルは眉を顰めた。
「ひとり占めは良くないな。如何に美味しいであればこそ分け合って食べる方が美味しかろうに」
そこまで言ってアールはふっと皮肉めいた笑みを浮かべる。
「――……と、そんな事を大人しく聞く輩ではないか」
そんなアールの言葉が聞こえたのか、竜は足を止めると喉の奥から低い唸り声をあげて猟兵たちを睨み付ける。
「怒ったのでしょうか……?」
竜の様子に思わずステラ・オレオールは「きゃっ」と小さく肩を震わせ、そっと視線を向けた。
だが、そんなステラに竜は気づいた様子はなく、『やれやれ』とばかりにふぅっと大きく息を吐く。すると、緑の葉に覆われていたはずの草原にポンポンポンッと次々と色とりどりの花が咲いた。
「おい、今の見たか!?」
ぴゃっ!? と驚きの声をあげた榎・うさみっちが目を丸くして息吹の竜を見つめる。
「あいつが息しただけで花が咲いたぞ!」
目を白黒させるうさみっちに泉宮・瑠碧も「なるほど」と頷いた。
「彼らの吐息は植物の生育を促すそうだが……」
これは、キング・ベリーにも効くのだろうか。
(「食べた分をまた咲かせる事が出来れば……」)
この息吹をうまく利用する術を考える瑠碧に同じく、うさみっちの脳裏をオイシイ話が高速で駆け抜けて行った
(「うまいことあいつの息でキング・ベリーを早く咲かせて死守したらあとですぐにキング・ベリーを採ることが出来ないかなぁ」)
人間もオブリビオンも虜にするキング・ベリーとはいったいどんな味なんだろうか。
想像するだけでもよだれが出てきてしまう――。
慌てて口元を拭ううさみっちの眼が怪しく光る。
「キング・ベリー……絶対におまえを食ってやるぜッ!!」
……なんてことを、うさみっちが考えていることなど露知らず。
茜は『ジャスティスミドウセイバー』をスッと抜き、仲間たちへ向かって大きく声を張り上げた。
「図らずとも芽吹いた若葉、妖精達の為にも皆で守り抜きましょう!」
――いざ、尋常に。勝負!!
●
息吹の竜へと戦いを挑む気満々の仲間たちを横目に、瑠碧は改めて眼前に佇む花を纏った緑の竜へと視線を向ける。
(「……グラスアボラス、僕は、彼らは好きなのだがな……」)
いくらキング・ベリーが大好物だとはいえ、多少ならともかく、食い尽くされてしまうのは避けたい。
「グラスアボラスよ」
瑠碧は竜へと向かって想いを伝えるために語り掛けた。
「キング・ベリーが好きだということは知っている。だが、一気に全部食べずに少しずつ、他の生き物とも分け合う様にキング・ベリーを見守っては貰えないだろうか」
『…………』
思い掛けない申し出に、竜はきょとんとした顔で瑠碧を見つめる。
しかし、すぐにグルルと威嚇するように低い唸り声をあげるとミアに向かってブレスを吐いた。
「きゃぁっ!?」
「危ないっ! 風の精霊よ――頼む!」
恐怖で足がすくんで動けないミアを間一髪のところで瑠碧が召喚した風の精霊が巻き起こした逆風によって竜の息吹は散らされる。息吹が当たった場所には先程同様に花々が咲き誇った。
「ミア、ここは危ないから離れて」
急いで安全な場所へとミアを連れて行く瑠碧を横目に、烏鵠はニヤリと不敵な笑みを浮かべて竜を見遣る。
「しっかし、フーン? 辺りを植物で覆うタイプの攻撃すンのナ」
なるほど、なるほど。
烏鵠は感心した様子で顎に手を添えてコクコクと頷いた。
「だがなァ、それならうちにも最適が居らァ」
言うや否や、烏鵠は【十三術式:咲キ駆】を発動させる。
「煌神に帰依し奉る。駆けて彩れ、我が駿馬」
烏鵠が紡ぐ言葉に喚ばれて現れたのは全身を植物で構成した馬――咲キ駆だ。
咲キ駆の横腹を優しく撫でてやりながら、烏鵠は竜に向かって口を開いた。
「こいつ――咲キ駆は周囲に植物が多いほど強くなる。更に、こいつにケガさせたヤツは体ン中から肉を裂いて花が咲くのサ」
――モチロンその花でも強化されンぜ?
烏鵠は当たり前だろと楽しそうに声をあげる。
「馬の後ろ足蹴りや踏みつけ、体当たりッてェのは案外シャレにならねェ攻撃力だぜ」
しかも、その攻撃力が強化されているとあれば、その威力については言うまでもない。
「シナトやオレ、他猟兵サン方も居るしな」
竜に向かって淡々と語りかける烏鵠の肩ではシナトが小さく唸り声をあげて竜をじっと睨みつけた。シナトもいつでも戦う気満々のようだ。
「ドラゴンサンも自分自身が花畑にゃなりたくねえだろう? ――だからここは諦めて帰っちゃくれねェかな」
キング・ベリーを守るためにも、ミアに手荒なことをしている姿を見せないためにも。
烏鵠は竜に向かって真摯に語り掛ける。
だが、竜はカパっと口を開くと烏鵠に向かってブレスを吹き付けた。
――それが竜の答えか。
残念そうに首を一つ横に振ると烏鵠は咲キ駆と共に竜が吐く息をひらりとかわす。
すると、先程まで烏鵠たちが立っていた場所に竜のブレスが当たると同時に美しい花畑へと姿を変えた。
「うわぁー、お花でいっぱい! きれい!」
花畑に変わった様を見て無邪気に喜ぶメリーはねぇねぇと竜に向かって親し気に話しかける。
「ベリーのドラゴン! お肉食べるかなあ……?」
メリーは持参したかかさま特製のスペシャル弁当の蓋をかぱっと開けると嬉しそうに竜に見せた。中には美味しいお肉がいーっぱい入っている。
「いいでしょ! かかさまの手作りだよー。あ! でもこのお肉はメリーのだからちょっとまってね」
いただきまーす!
メリーは両手を合わせると、モグモグと美味しそうにお弁当を食べ始めた。
「お嬢ちゃん、アンタ自由だねェ……」
笑い声を必死に噛み殺しながら思わず呟く烏鵠の傍で、ステラは真剣な面持ちで考え込んでいる。
「炎が使いにくいこの状況でドラゴンと戦うのは少し厳しいですね……」
炎と聞いて烏鵠の顔から笑みが消えた。――なにしろ、炎は咲キ駆の大敵だ。
しかし、今回もステラは炎の技を使うつもりはないとわかり、密かに烏鵠は胸を撫で下ろした。
一方、和やかに見える猟兵たちを前に息吹の竜は苛立った様子を見せている。
――せっかく、何年かぶりにキング・ベリーを食べることが出来るというのに。
邪魔をするこの小さき者たちを排除せねば――。
『ウガァァァァ!』
竜はメリーを標的に定めると、ガパッと口を開けて美しい花の息吹を吹き付けた。
「むむっ!」
メリーはお弁当箱を抱え、慌てて立ち上がると間一髪のところで花の嵐を避ける。お肉を食べていなかったら、この攻撃を避けることは出来なかったかもしれない。
「ひえー、ドラゴン強いねえ……!」
危ないところだったと一息つくメリーを狙い、竜は一歩踏み出した。
再び攻撃が来る――。
いつでも避けられるように竜の動きをしっかりと見定めるメリーだったが、いつまでたっても竜は近づいてこない。
「……あれ?」
首を傾げるメリーがよーく見ると、竜の足が動かなくなっていた。
「なんでー!?」
思わず驚きの声をあげるメリーだったが、その犯人は――ステラだ。
竜の意識がメリーへと向いている隙をついて死角へと走り込んだステラが【グラビテーショナル・スター】を発動させていたのだ。
ステラが引力操作の念動力を操り、竜が足を動かすタイミングに合わせて後ろ足だけ凄く重たくしたことで、その動きを封じている。
ステラが稼いでくれた時間に感謝をしながら、メリーは残っていたお弁当を一気にたいらげた。
「よーし、お肉をたべたから元気いっぱいだよ!」
ごちそうさま! と手を合わせ。メリーは全身の細胞をフル活性させてダッと俊敏な動きで一気に竜へと近づく。
動かない相手など、どれだけその体が大きくても怖くない。
「ひとりじめは良くない! ようせいも、ミアもこまってるもん! お友だちをこまらせたらダメだよ!」
メリーは力強く足で大地を蹴ると身動きの封じられた竜の体に飛びつき、鋭い爪で緑色の皮膚を斬り裂いた。――その動きは、まるで相棒のライオンの攻撃の様。
くるっと身軽に身体を翻して着地をしたメリーは赤いフードを揺らして嬉しそうにVサインを見せる。
「ライオンからライオンのたたかいかたを教えてもらったんだー。すごいでしょー!」
得意気なメリーとは裏腹に、足は動かないし、体は爪で斬り裂かれるしと怒り心頭の竜は大きく咆哮をあげた。
『グルァァァァァッ!!』
その大きな声にビリビリと鼓膜が震え、思わずステラも念動力を操る力が弱まってしまう。その隙を逃すことなく、竜は後ろ足を大きく振り上げて束縛から逃れることに成功した。
ようやく自由に動けるようになった竜の眼にとまったのは、植物で覆われた馬の姿。
『きゅっ!』
咲キ駆が狙われていると慌てて主に教えるシナトだったが、烏鵠は至って冷静だった。
「あんがとな、シナト――。咲キ駆なら大丈夫だ」
烏鵠の言う通り、咲キ駆は竜の息吹を交わしながら草原を右へ左へと縦横無尽に駆け回っている。竜の息吹で咲キ駆が傷つくたびに、花が咲く草原を駆けるたびに、竜だけでなく咲キ駆もまた力が増していく。
素早さを増していく咲キ駆に苛立った様子の竜が思わず走り出そうとした瞬間を狙い、ステラは再び【グラビテーショナル・スター】を発動させた。
「闇を照らし、人を導く。――私が恒星と呼ばれる所以です」
引力を操るステラの技により、正面から見えない力で押さえつけられた竜は突然前に進めなくなってしまい、この状況ヲ受けとめることが出来ない。竜は前に進もうとグイグイと闇雲に見えない壁を押す。
竜の力と、ステラの力。二つの力がぶつかり合っていたところで――不意にステラが力を使うことを止めた。
均衡がとれていた力のバランスが崩れたところで、つんのめるような形で竜の巨体が大きくバランスを崩してぐらりと前に傾く。
(「今です――!」)
ステラはぐっと力を振り絞って竜の尻尾を思い切り持ち上げた。
『!?!?』
見えない力で尻尾を持ち上げられた竜はそのままぐるりとひっくり返る。
「おー、お見事お見事!」
派手にスッ転んだ竜を見て、烏鵠は思わずケラケラと笑いながら手を叩いた。
そんな烏鵠につられてステラも笑いそうになったが、笑うと力が弱まってしまうので必死に耐えるしかない。
ぷるぷると肩を震わせているステラを面白そうに眺めながら、烏鵠は再び竜に向かって話し掛ける。
「どうだい、ドラゴンサン。――諦めて帰る気になったかい?」
●
一方、その頃――。
「なぁなぁ、ちょっと」
ブーンブーンと瑠碧の顔の前を飛びながら、うさみっちが声を掛けた。
「僕に何か用か?」
「ちょっと相談があるんだけどさ――」
うさみっちは瑠碧に先程思いついた仮説を簡単に説明した。要するに、キング・ベリーの新芽に竜の息吹を当てることでベリーの成長を促すことが出来るのではないかという案だ。
「成程。確かに出来るような気はするが……」
うさみっちの話を聞いた瑠碧はチラリと花咲く草原を見つめて考え込む。
気になるのはキング・ベリーの新芽に竜のブレスが当たった時に、芽が傷つくようなことがないかという点だ。瑠碧としては大切なキング・ベリーの若芽というだけでなく、植物を傷つけるような作戦には賛成しかねる。
しかし、仲間たちと戦う竜が吐く息吹を見ていると、草原には花が咲いたり、その成長が加速することは見えども傷つくようには見えなかった。
万が一、芽にダメージがあるようであればすぐに作戦を中止するということであれば、うさみっちの作戦を試してみる価値はありそうだ。
「――わかった。協力しよう」
頷く瑠碧にうさみっちは嬉しそうにパチリと指を鳴らす。
「サンキュッ! それじゃ作戦な――」
ごにょごにょごにょ。うさみっちは瑠碧の耳元へと飛んでいくと作戦を伝えた。
「おいおい、見ろよ! あいつ思いっきりスッ転んでるぜ!」
ステラの念動力でステーンとひっくり返った竜を見て、うさみっちはゲラゲラと腹を抱えて笑っている。
起き上がった竜はゆるりと首を動かすと、笑い転げている小さな桃色の生き物に目をとめた。
『ガァッ!』
先程までのゆっくりとした動きからは想像もつかないスピードで、竜は一気にうさみっちとの距離を詰めた。そして、ブンッと大きく尻尾を振る。尻尾から生じた真空刃に乗って無数の竜胆の花びらがうさみっちたちに襲い掛かかった。
「大きい的には攻撃は当てやすいけど、俺の小さな身体を捉えることはできるかな!?」
へへーんと軽口を叩きつつも、うさみっちは花びらの動きを逃さぬようにじっと見つめる。
(「――見切った!」)
キラーンとうさみっちの眼が光ったと思った瞬間。サッ、サッ、とうさみっちの小さな身体が花びらの隙間を擦り抜けるようにして舞うように攻撃をかわした。
「ま、ざっとこんなもんだな!」
得意気に胸を張るうさみっちへ竜は再び紫の花びらを放つ。次なる攻撃に慌てて逃げつつも、うさみっちは目的を忘れてはいなかった。
囮としてうさみっちは竜をキング・ベリーの若芽の傍へと誘き出す。
キング・ベリーの傍で竜を待っていたのは、瑠碧。
瑠碧は迫り来る竜の姿を捉えると、傍にいる精霊たちへと祈りを捧げた。
(「精霊たちよ。どうか、力を貸して……この願いを聞き届けて」)
瑠碧は強い意思を込めた眼差しを息吹の竜へと向ける。
竜に攻撃をするのは本意ではないが……あくまで目的は竜の気を惹き、このキング・ベリーの芽にそのブレスを当てること。
瑠碧の願いを聞いた精霊たちが一斉に竜へと纏わりつくようにしてその気を惹き付けた。
『ガァァァッ!』
姿の見えぬ精霊たちの攻撃に竜は怒りを込めてブレスを吐く。精霊たちは竜の吐く息吹がキング・ベリーの小さな芽へと当たるようにわざと新芽の傍へと導いた。竜のブレスを受けた幼い芽はあっという間に成長し、美しい白い花を咲かせる。
「やったぁ!」
嬉しそうにうさみっちは手を叩くと、瑠碧に向かって声をかけた。
「もう一発、ブレスが当たれば次は実がなるんじゃねぇの? ――任せた! よろしく!」
スチャッと手をあげるうさみっちに、瑠碧は小さく頷くと再び精霊たちへと心中で願う。
森の巫女の意思を汲んだ精霊たちの攻撃を受け、再び竜は息吹を吐いて反撃に出た。竜が狙う瑠碧とうさみっちが立っているのはキング・ベリーの花の傍。
「当たれーっ!!」
ひょいひょいっとブレスを避けるうさみっちと同様、瑠碧も難なく竜の攻撃をかわす。
2人にかわされた息吹は見事作戦通りキング・ベリーの花へと命中した。
――すると、白い花は次々と立派な赤い果実をつけていく。艶々とした大きな紅い実――これがキング・ベリー。
「よっしゃぁっ!!」
キング・ベリーを見たうさみっちは嬉しそうに声をあげた。
「後はコイツを守るだけだな! よしっ、俺に任せとけ!」
ドンと力強く胸を叩くうさみっち。早速ブーンと竜の前へと飛んでいく。
――シュッ、シュッ!
【しんそくのうさみっちエスケープ】を発動させたうさみっちは目にも止まらぬ速さで竜の顔の前を飛び回った。その動きは速すぎて竜の周りには残像がいくつも浮かんでおり、まるでうさみっちが分身しているかのように見える。
「俺も食べてみるか~?」
うさみっちはべぇっと舌を出して挑発すれば、竜はじぃっとその動きを目で追いかけ、のそのそと動き出した。
そして、うさみっちに誘われるままにキング・ベリーから離れてゆく――。
「これは――良い匂いだ」
風に乗って運ばれてくる甘い果実の匂いにアールは小さく呟きを漏らした。
先程までのジャック・ベリーよりもさらに強く芳醇な香りに傍らのEchoは嬉しそうにアールの手をひく。
「ダメだ、Echo。さっきも言っただろう? 仕事が先だ」
仲間が竜を連れてこちらへと向かってくる姿に気づいたアールは首を横に振った。
そして、しょんぼりと肩を落とす≪彼女≫の頭をポンと叩くと、アールはパチリと指を鳴らす。その音を合図にアールの身体を琥珀の繰糸が包み込んでいった。
と、そこへ竜に追われながら必死の形相で逃げるうさみっちが飛び込んでくる。
「自ら囮となる覚悟、敵の攻撃を受けても怯まぬ勇気――お見事でございますッ!」
茜の鼓舞を受け、うさみっちは最後の力を振り絞ってアールたちの前へと息吹の竜を連れてきた。
「後は、任せたッ!」
ゼエゼエと肩で息をするうさみっちに代わり、茜とアールがずいっと一歩前に出る。
「後は我々にお任せをッ!」
「――……さあ、幕開けだ。糸縺れるまで踊り惑え」
新たな敵の姿を捉えたドラゴンは、標的をうさみっちからアールへと変えて竜胆の花びらを放った。
素早い動きで花びらをかわしながら、アールは不可視の操糸を竜の体へと巡らしていく。
足元に咲き乱れる花を糸で散らしながら、アールは独り言い訳めいた言葉を零した。
「……罪悪感が無いわけではないがね。致し方ない」
見えぬ繰糸に目くらまし用の琥珀色の繰糸も混ぜれば、より敵に繰糸を絡ませ、欺き易くなるであろう――。
アールの狙い通り、竜は知らぬ間に繰糸を巨躯に絡ませ、気づかぬままアールへ向かって竜胆の花びらを飛ばし続ける。
紫色に染まった風がアールの頬を撫でると、微かな痛みと共にうっすらと血が滲んだ。
だが、アールはそんな傷など意にも介さぬ様子で竜へと糸を巡らせる。
「さぁ――時間だ」
アールの思惑を結び張り絡ませもつれ合わせた不可視の糸を纏った息吹の竜を見遣り、アールは静かに開園を告げるベルを鳴らした。
アールが張り巡らせた糸を引いて操れば、凡てがアールの思うがまま。
「さて、今日のお芝居は愉快な≪彼女≫の竜退治」
アールの口上に合わせ、Echoがトコトコと歩み出てペコっと頭を下げる。
体中に見えぬ糸を張り巡らせた竜は思うように動きが取れず――初めて己の体を縛るモノに気が付いた。
「身動きが制御された竜は退治されたか、それとも……」
アールが操る糸から逃れようと、竜はもがきながらも必死の形相でブレスを吐く。
竜の息吹は美しい花々へと姿を変えて、茜に向かって襲い掛かった。
だが、茜は息吹を避ける素振りは微塵もみせず。彼女の桃色の瞳はただまっすぐに竜の姿を映している。
ベリーの畑を踏み荒らさぬように気を配りながら、茜は無数の花が咲き乱れる嵐の中を一息に駆け抜けた。
刃となった花が茜に襲い掛かるが、茜は竜から目を逸らさない。駆ける速さは変わらず瞬く間に茜と竜の距離を縮まっていく。
花の嵐を駆け抜けた際、フラワーカッターで受けた傷になど目もくれず、茜は手にした『ジャスティスミドウセイバー』を思い切り振り被った。
サムライブレイドを握る両の手にグッと混信の力を籠めて、茜は息吹の竜に向かって捨て身の一撃を放つ。――狙うは、ただ一つ。竜の首、その一本のみ。
「悪は滅びる!!! 正義は勝つ
!!!!!」
茜はぐるりと仲間たちを見回して口を開いた。
「さぁ皆様ご唱和くださいませッ、『完・全・懲・悪』ッッッ
!!!!!!!!!!」
竜の首に狙いを定め、茜はサムライブレイドを振り下ろした。
不可視の糸に動きを封じられた竜は、茜の渾身の一撃をかわそうと必死に身をよじる。だが、試みも空しく、繰糸の主の人形と化した竜の願いは叶わず――。
「いざ! 悪しき過去を! 断ちます!!」
気合と共に、茜のサムライブレイドによる熱い正義の制裁が息吹の竜へと下された。
「これにて、一件落着!」
パチンと刀を鞘に納め、茜は地に倒れ伏す緑色の巨躯へと視線を向ける。
――それが、花を纏う息吹の竜『グラスアボラス』への最後の一撃となった。
●
息吹の竜が骸の海へと去った後、瑠碧は静かに祈りを捧げる。
(「せめて、このキング・ベリーを少しだけでもあげたかったが――」)
竜の墓前に捧げるように、瑠碧はキング・ベリーを1つ摘むとそっと天にかざした。
それを合図に、猟兵たちもキング・ベリーに手を伸ばす。各々1粒だけ頂いた赤い実を摘み上げると、そっと齧った。じんわりと濃厚な甘みが口の中いっぱいに広がっていくと同時に芳しい香りが鼻を抜けていく。
――これが、人はもちろん、オブリビオンをも虜にする魅惑の果実の味。
「ベリーがここにあることは秘密にしておきたいが……」
瑠碧の言葉に烏鵠は無駄だと首を横に振った。
「こーんな美味い果実、誰も気づかないなんてありえねェな」
烏鵠の肩ではシナトが美味しそうにキング・ベリーに嚙り付いている。幸せそうなシナトの首筋を優しく撫でる烏鵠に返す言葉はなく、瑠碧は残念そうに溜息をついた。
「では――未来のためにもう一仕事いたしましょうッ!」
にこやかに茜が皆に告げた一仕事とは、キング・ベリーの傍に立て札を作って『キング・ベリー取りすぎ注意』を呼びかけるというもの。
「何と書くかは……ミア様! お願いしていいでしょうか?」
「えぇっ!? ミアがきめるの?」
思い掛けない指名にミアはビックリした様子で自分を指差す。だが、茜は当然とばかりに大きく頷いた。
「はい。ミア様のお願いが一番効くと思うのです」
「うーん、うーん……そうだなぁ……」
ミアは唸りながら暫し考え込むと、ポンと手を叩く。
「『キング・ベリーはみんなのもの! だいじになかよくたべましょう!』……とか、どうかな?」
これでいいのかなぁと不安そうなミアにステラが笑顔で頷いた。
「良いと思いますよ。ミアちゃんらしさが感じられます」
「メリーもいいと思う! ひとりじめはダメだもんね!」
ステラとメリーの言葉にほっとした表情を浮かべるミアの前で、茜が注意書きをしたためる。――願わくば、この景色と親子の絆が永遠であるように。
「わぁ……きれいな字!」
願いを込めて丁寧に茜が記した注意書きの札を立てるため、ステラとメリーも手伝っていた頃。
アールはEchoと共にジャック・ベリーの前に来ていた。
キング・ベリーもとても美味しかったが、ジャック・ベリーもまた十分に美味しい。
ひょい、ぱく、ひょい、ぱく。
口の周りを赤く染め、幸せそうにジャック・ベリーを頬張る≪彼女≫の口の周りを拭いてやりながら、アールは呆れた声で告げる。
「まったく――そんなにいっぱい食べてはお腹が痛くなってしまうよ」
「し、しまった……忘れてた」
溜息をつくアールの耳元に後悔の混じるか細い声が聞こえてきた。
口の周りをジャック・ベリーで赤く染めたうさみっちは、手に持っていたベリーをポトリと落とし、お腹を押さえてゴロゴロと悶える。
「ぴぎゃぁぁ! 腹! 腹が痛いー!!」
どこかで見た光景にアールはやれやれと大きく肩をすくめるのだった――。
「またねー!」
ミアはバイバイと手を振って、キング・ベリーに別れを告げる。
妖精たちに分けて貰ったジャック・ベリーをお土産に、ミアをママの元へと送り届けるために猟兵たちもまた、町へと向かって歩き出した。
偶然にも蘇ったこの赤いダイヤモンドのような果実を今度こそ絶やすことのないよう戒めを胸に、大切に分け合いながら自然の恵みに舌鼓を打つとしよう。
そうすれば、きっとこの場所で、ずっとずっといつまでも至高の味に出会うことが出来るから。
幸せいっぱいの甘い香りを乗せた爽やかな風と共に、赤い宝石が猟兵たちを見送っていた。
――またいつか、この甘い、あまーいベリーが待つ楽園で逢いましょう。
大成功
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