●オースティンのついてない一日
28歳男性、オースティンはしがないビジネスマンだ。彼はヒーローのようにスーパーパワーを持ってはいない。しかし10年近く今の会社でキャリアを重ね、気が付けば愛する妻も子供もできた。特別な力を持たずとも、家族にとって彼は確かにヒーローなのだ。
そんな彼には日課がある。朝の通勤時に利用している地下鉄駅のトイレの個室に篭り、本来の目的を達しながら精神統一をすること。こうすることで、その日一日すこぶる調子がよくなるのだ。もはや彼のルーティーンと言ってもいいだろう。
彼がいつもこのトイレを利用するのは、公共のトイレとしては広く、個室の数が多いからだ。加えて、掃除や物品の補充が行き届いているのもお気に入りのポイントだった。
しかしこの日、オースティンはとんでもない違和感に気がつくことになる。用を足して手を伸ばした先に、当然あるべきものがない。
「……紙が、ない……?」
空回りする芯に絶望しながらも、焦る気持ちを落ち着かせる。大丈夫、何も恐れることはない、個室には予備があると相場が決まっているのだから。そう自分に言い聞かせながら、オースティンはゆっくりと後ろを振り返る。
その時、彼が見たものは――。
●やはり紙はありませんでした
「みんな、事件よ事件。ヒーローズアースの一大事よ」
グリモア猟兵のベルリリー・ベルベットが、ぱんぱんと手を叩いて猟兵たちを集める。
「ヒーローズアースでは、ヒーローたちが街の平和を守っている……っていうのは知ってるわね? 実は、ある街でそのヒーローたちが相次いで闇討ちされる事件が起こっているの」
犯人について懸命な捜査が行われているものの、その正体は依然として不明らしい。何よりも問題なのは、この事件によって街が一時的にヒーロー不在の状態になっていること。既にヒーローの邪魔が入らないのをいいことに、ヴィランたちによる犯罪が激化し始めているという。このままでは、いずれこの街は「悪徳の街(ヴィラン・シティ)」と化してしまうだろう。
「そこで、みんなにはヒーローの代わりにヴィラン犯罪を阻止してもらいたいのよ」
そうやって治安活動を続けていれば、そのうち猟兵たちを闇討ちすべく、犯人の方から姿を現わすだろうとベルリリーは言う。
「まぁ、要は囮になってってことね」
ついでに、とてもいい笑顔でとんでもないことを言った。
「いいじゃない、人助けもできるんだから。猟兵としては一石二鳥だわ」
何やら上手く誤魔化されたような気もするが、ヒーローズアースの人々を救うためなら仕方がない。
「ヴィランによる事件が起こるのは2ヶ所、地下鉄駅の男性トイレと、高層ビルの上層階ね」
時系列的には地下鉄駅の事件が先に起こるようだ。まずはそちらへ向かうのがいいだろう。
「なんだか個室にいる人たちが大変なことになってるみたいよ、色々と。 ヴィランを捕まえたら、そっちの方も助けてあげて」
それはもう由々しき事態になっているらしい、色々と。
「そうそう、ヴィランは殺しちゃダメだからね。 ちゃんと生きたまま捕まえるのよ」
ヴィランはヒーローになる可能性があるため、そうするように依頼されているという。条件を了承した猟兵たちを、ベルリリーは行ってらっしゃいと手を振りながら見送ったのだった。
茶バシラ
こんにちは、茶バシラです。
今回の舞台はヒーローズアース。比較的ゆるめのノリでお送りしたいと思います。
事件の起こる場所が場所ですが、下品な描写はしません。お上品に参りましょう。
いつもの如く、プレイングはなるべく好意的に判定したいと思っていますので、気軽に楽しんでいただけると嬉しいです。(ただし、公序良俗に反するプレイングは不採用となります)
●おおまかな流れ
第1章:『冒険』
とある地下鉄駅の男性トイレに、ヴィランが罠を仕掛けるようです。紙がないので一大事。なんとか解決しましょう。
ヴィランは殺さずに捕まえてください。
第2章:『冒険』
1章とは別のヴィランによって事件が起きるようです。なんの因果か風の強い日、現場は高層ビルです。髪がないので一大事。頑張って解決しましょう。
1章同様、ヴィランは殺さずに捕まえてください。
第3章:『ボス戦』
ヒーロー闇討ち事件の犯人であるオブリビオンとのバトルです。いい感じにカッコよく倒しましょう。
それでは、どうぞよろしくお願いします。
第1章 冒険
『安らぎの聖域を守れ』
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POW : 堂々と勝負を挑み阻止する
SPD : 見つからないよう後をつけ阻止する
WIZ : 次に狙われる場所へ先回りし阻止する
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●紙との戦い
件の地下鉄トイレへ猟兵たちは急行する。
「ハーッハハハ! 泣け、喚け、虫ケラども! お前らの大切な物は、このノーティ・ボーイ様がいただいた!」
そこには大量のトイレットペーパーが詰め込まれたナップサックを担ぎ、絵に描いたような高笑いを決める男がいる。どうやらこの男が今回のおぞましい事件を起こしたヴィランのようだ。この日のために急いで用意したのか、ところどころ糸のほつれた真っ黒な全身スーツを身にまとっている。
なんということか、男性トイレ内にある5つの個室からは助けを求める人々の声が聞こえてくるではないか。
手段は問わない。急ぎノーティ・ボーイをこらしめ、個室内の彼らへ例の物を届けたまえ。
アイン・セラフィナイト
えーと……被害に遭った人はご愁傷様……ってそんな場合じゃない!
ナップサック、ってことは素材は簡単に裂けやすいよね。
【双翼の聲】で喚び出した不可視のカラスたちに足の爪でナップサックを裂いてもらおうかな。糸がほつれた全身スーツ、ってことは、ノーティ・ボーイにもカラスたちの足の爪が引っかかるよね?
追撃は魔法の座標点になるカラスたちから放たれる『高速詠唱』『属性攻撃』の魔法の光弾だよ。流石にトイレットペーパーまで消し飛ばすわけにはいかないから威力は弱めにしておくね。
……なんかこう、独創的かつ独特なヴィランだね。悪事の方向性が違いすぎてどう対処していいのか分かんないよ。
(アドリブ、共闘歓迎です)
ネクタリニア・グラティア
紙を独り占めしてどうするのだろうねぇ
まったく、仕様のない子だ
ともあれ、カミを待つ者がいるのなら往かねばね
なんだいプルケリマ?
男子トイレ?それがどうかしたかい?
ああ。レディ達の花園へ手を出すなら、仕様ないではすまぬだろうよ
▼WIZ
先ずは情報収集
地下鉄内の構内図をスマホで撮影しトイレや階段、非常口の場所を把握
人通りの多い場所だからね
動物使い・話すで鼠達にも協力を仰ぎ捜索しよう
発見したらUCや繁茂する茨の蔓で拘束か、時間稼ぎ
他の者と情報を共有し早い解決に努めようね
▼被害現場遭遇時
紙は女子側から拝借できようか
恥しさ耐性持つ私は特に気にしないが…NG要素ならば仕方ない
念動力で届けよう
アドリブ・共闘等歓迎
渦雷・ユキテル
なに面白そうなことしてんですかー?
いやー、ひどいなー。血も涙も紙もありませんね。
好奇心刺激されちゃったんで、あたしも捕まえるのに協力します。
【目立たない】ように気を付けながらヴィランの後をつけて、
上手く接近できたらサイキックブラストで痺れてもらいます。
ちょこまか逃げ回るようなら【範囲攻撃】でビリッといきましょー。
「どうして紙を盗んだんですか?」
どうして? ぐぐーっと顔を近づけて聞きます。困っちゃうかな?
それなら困った顔を見て満足することにしておきまーす。
そうだ、トイレ。
例の物を持ってってあげましょう。
「持って来ましたよー。社会的に死なずに済んでよかったですね!」
※絡み・アドリブ歓迎です
ニトロ・トリニィ
くっ!… なんておぞましい!
トイレに入った時に紙が無いなんて!
こんな事をする人には… オシオキが必要だね。
【行動】
とにかく優先するべきは、奪われたトイレットペーパーを取り戻す事だね!
仲間と協力しながら、〈地形の利用/情報収集〉を発動して先回りしつつ、〈目立たない/忍び足〉を使って捕まえるタイミングを窺うよ。あの… えーっと、ノーなんとかを捕らえる時は、《バウンドボディ》を使って転ばせるなり、ぐるぐる巻きにするなりして、どうにか捕まえるよ!
捕まえる事が出来なくても、せめてトイレットペーパーだけでも取り戻したいよね。
アドリブ・協力歓迎です!
● 紙との戦い:Episode1
第一の決戦の地、安らぎの聖域前に集う猟兵たち――いや、街の平和のためにヴィランとの戦いに臨む彼らを、今日のところはヒーローと呼ばせてもらおう。ともかく、ヒーローたちの調査が正しければこのトイレに奴は来る。
「くっ! ……なんておぞましい! トイレに入った時に紙が無いなんて!」
一人目のヒーロー、ニトロ・トリニィ(楽観的な自称旅人・f07375)は被害者たちの悲劇を嘆いた。このまま紙を取り戻せなければ彼らがどうなるか、想像するだに恐ろしく、とても詳細をこの場に書くことはできない。
「えーと……被害に遭った人はご愁傷様……」
二人目のヒーロー、アイン・セラフィナイト(精霊の愛し子・f15171)が悲哀に満ちた言葉を零す。ご愁傷様で済むか否か、被害者たちの命運はヒーローたちの手に委ねられているだろう。
「いやー、ひどいなー。 血も涙も紙もありませんね」
どこか楽しげに言ったのは三人目のヒーロー、渦雷・ユキテル(Jupiter・f16385)だ。
「好奇心刺激されちゃったんで、あたしも捕まえるのに協力します」
ゆるゆると笑う姿は、彼の女性的な顔立ちや服装と相まって、まるで可憐な少女のようにも映るだろう。
「紙を独り占めしてどうするのだろうねぇ」
まったく仕様のない子だと、四人目のヒーロー、ネクタリニア・グラティア(蜜喰・f16417)がまるで悪戯好きの子供を見るように言う。
「ともあれ、カミを待つ者がいるのなら往かねばね」
そう、彼女は神だった。神、カミ、かみ。この戦いにはピッタリな人材と言っていいのかもしれない。
遡ること十数分前。件のノーティ・ボーイはまた別のトイレを襲うべく地下鉄駅内を移動しているらしく、地下鉄駅に到着したヒーローたちは、次の襲撃先を特定するために調査を開始した。
まずネクタリニアが見つけた地下鉄駅内の構内図を各々スマホで撮影し、それを元にトイレや階段、非常口の場所を把握。その後は手分けして情報収集や調査を行い、お互い情報を共有しあうことにした。その甲斐あって、次にヴィランが狙うであろうトイレにいくつか当たりを付けることができた。比較的スムーズに進んだ調査には、ネクタリニアが声をかけた鼠たちの手助けがあったことも、もちろん忘れてはならない。
そして先回りして不意をつこうというニトロの提案により、今こうやって身を隠してヴィランを待ち伏せているのだった。潜伏場所には、隠れながらもなるべくトイレの入り口を見張ることのできる場所を選んだ。
ところで、ノーティ・ボーイの狙う現場は『男性』トイレであるわけだが。
「なんだいプルケリマ?」
ネクタリニアに仕える白いガチョウが、何か言いたげについついとクチバシで服の端を引く。ガチョウとはいえ彼女も雌。本来であれば女人禁制の場に入ることに抵抗があるのかもしれない。しかし当のネクタリニアはどこ吹く風。むしろレディ達の花園へ手を出すなら仕様ないではすまぬだろうと、彼女はガチョウの美しい羽を撫でてやった。
男性トイレへ入ることに抵抗がないのは、心と魂と脳は女性だと自負するユキテルもまた同様のようだった。
「! ……待って、誰か来た」
アインの視線の先には、無人の男性トイレへ入っていく男の姿。清潔感のあるビジネススーツを着こなしており、一見無害な市民に見えるが。
「なるほど、ナップサックか」
今度はニトロが呟く。男はお堅い服装に不釣り合いな袋を背負っていた。これは怪しいと慎重に後をつけるヒーローたち。相手の動向を窺うべく、トイレの中をそっと覗き込む。するとそこには、
「ハーッハッハー! ノーティ・ボーイ様、参上!」
ビジネススーツの男の姿は既に無く、代わりに黒い衣装のヴィランがそこにいた。人目を盗んだ犯行前であるためか、高笑いしている割に声量は控えめだ。
「都会ってのは便利なもんだぜ。 少し変装してやれば簡単に人混みに紛れこめるんだからよ」
どうやらノーティ・ボーイは目立たないようにビジネススーツを着て移動し、無人のトイレ内で急いで着替えた上で犯行に及んでいたらしい。やたらと手間がかかっているが、専用の衣装に着替えるのはやはりヴィランとして外せないのだろうか。
「さぁて、ここもすぐに悲鳴で染めてやるぜ」
舌なめずりをして、ノーティ・ボーイは両手を前に突き出し念を込める。すると、たちまち両手に黒い渦のようなものが浮かんだ。どうやらこのヴィランは物を自由に動かすことができるらしい。トイレの個室からパチンコ玉のように次々トイレットペーパーが飛び出してきた。
この能力をもう少し有意義なことに使えなかったのかと思わなくもない。ともあれ、今なら奴が隙だらけであることは事実。ユキテルがすかさず気配を殺して接近し、両手からサイキックブラストを放った。
「いってぇ!」
不意打ちの高圧電流を受け、動きを止めたノーティ・ボーイ。堪らず両手の構えを解けば、宙に浮かんだトイレットペーパーたちがボトボトと床に落ちる。トイレットペーパーの雨なんて滅多にお目にかかれないだろうが、見られたところでそれほど嬉しくない。
動きの止まった隙にネクタリニアの繁茂する茨の蔓と、ニトロのバウンドボディが伸びれば、胴体と腕が一纏めに拘束された。
なんだお前らと吠えるノーティ・ボーイに、ユキテルは顔を近づける。
「どうして紙を盗んだんですか?」
目と鼻の先に顔が迫れば、ヴィランもどこか狼狽えた様子で。
「どうしてって、俺様はヴィランだ。 ヴィランってのは人の困ることをするもんだ!」
当然のように言って噛み付こうとすれば、ユキテルは満足げに後ろへ跳び退いた。同じく後ろに退いて距離をとったノーティ・ボーイをニトロが指差し。
「あの……えーっと、ノーなんとか! トイレットペーパーは返してもらうよ」
思い出そうとして出てきたのはなんと二文字だった。ノーティ・ボーイだと思わずツッコミを入れるヴィラン。もしかすると、出会う場所が違えば案外いい友達になれたのかもしれない。
「……なんかこう、独創的かつ独特なヴィランだね」
他の仲間が敵とあれこれ言い合う中、アインは戸惑いを隠しきれなかった。正直、悪事の方向性が違いすぎてどう対処していいのか分からない。
「へっ、お前ら俺様を追い詰めたと思ってやがるな」
手の平さえ塞がってなければ能力は使えるんだぜと、縛られた両手に再び渦が巻く。次の瞬間、手洗い場の蛇口から勢いよく水が噴き出し、更に床に落ちたトイレットペーパーや、掃除用具入れの中身が一斉にヒーローたち目がけて飛来する。飛来物への対処のため咄嗟に拘束を解いたその時、ノーティ・ボーイは彼らの間を縫って勢いよく出口へと飛び込んでいった。ユキテルが再度電流をお見舞いしてやろうと構えるも、寸前で思い直す。こうも水浸しになっては味方まで巻き込みかねないだろう。
「そっちに行った!」
ニトロの声に反応し、アインが動く。目的の一つであるトイレットペーパーだけでも取り返さなければ。
「万象馳せる自在の翼、魔を震わす声を以て羽撃け!」
詠唱を合図に現れた不可視の鴉。彼らはナップサック目指して一直線に飛ぶと、その鋭い爪で柔い布を引き裂いた。無残に空いた穴から零れ落ちる紙には目もくれず、そのままノーティ・ボーイは逃走した。おまけにクチバシでつつかれたのか、短い悲鳴が何度か聞こえたような気がする。
濡れた床に紙が落ちてしまう前に、ネクタリニアとニトロがそれを受け止めていた。紙の無事を確認すれば、ほっと胸を撫で下ろす。これだけあれば、ひとまず被害者たちを呪縛から解放することができるだろう。逃走こそ許したものの、彼らは見事ヴィランに一矢報いてやることに成功したのだ。
「社会的に死なずに済みそうでよかったですね!」
全くもってその通り。ユキテルの言葉に面々は頷き合う。事件発生から時間が経過しているため、被害者たちも恐らく既にいろいろと限界が近付いていることだろう。
その後は被害者たちへ紙を届ける者、荒れ果てたトイレ内の対処に当たる者、すぐに逃げたヴィランの追跡を開始する者など様々であったろう。
あとはノーティ・ボーイを捕まえるのみ。第一の事件の解決は目前だ。安らぎの聖域の明日は君たちにかかっている。
成功
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王・笑鷹
エルザ(f17139)と
かみさま捕獲、それは大迷惑だネ!
お手洗いはヒトの尊厳そのモノ。聖域なんだヨ?
ん、ここは男子トイレって?
仕事だからいいんだヨ。
現場を捉えたら、ヴィランの周囲をぐるーっと狐火で囲むネ。
気をつけるけど、ちょびっと焦げちゃったらゴメンネ!
動くと危ないヨー動かなくても危ないケド。
エルザってかっちりしてるよネ。
隙を見て、そこなかみさま、おひとつ頂戴。
手癖の悪さは筋金入り。盗むのはお手の物ヨ。
コンコン、そこなお困りのお客サン。
ここに上質な二枚重ねのロールがあるんですケド、ひと巻500円で如何デス?
なんてね、冗談ですヨ!
お客様は神サマ。一回100円に負けときますネ☆
※冗談です
エルザ・ヴェンジェンス
笑鷹様(f17130)と
かみさまの捕獲、ですか
備品を切らせるなどあってはいけないこと。
ご主人様方のためにも、頑張りましょう
男子トイレ? それが何か?
かみさまを奪われたご主人様方に選択の余地などございますか?
現場を確認したら仕事と参りましょう
ノーティー様を感電させます
笑鷹様は盗まれる、と。
では私の得意の電気で参りましょう
えぇ、メイドですから電気の扱いにも長けているのです
では、跪いていただきましょう
動きを止めた隙にナップサックからトイレットペーパーを頂きます
お待たせいたしたしたご主人様方
では、シングルとダブルどちらがよろしいですか?
シングルでしたら、どうぞ、懇願……、いえ、ご指示を
アレンジ歓迎
エスパルダ・メア
男性トイレの地獄絵図を美少女が予知ってのも地獄絵図じゃね?
とか考えてたら出遅れた――って思ったらなんか逃げてったぞおい……。
諦めの悪い奴だな、待ちやがれ安らぎ泥棒!
逃げたヴィランを追いかけて捕まえるとするか
どうもすばしっこい奴だし、縄になりそうなモン調達して、とりあえず脅しがてら斧ぶん回しとくかね
観念しろよノーティ・ボーイ
誰ってどうみても正義の味方だろ?
一発思いっきり拳で殴っとくぜ
悪いな、殴るのが一番得意なもんで
最後は縄で縛って捕まえとく
・アドリブ、連携歓迎
● 紙との戦い:Episode2
4人がトイレットペーパーの奪還に成功した頃、別の場所で息を潜める者たちがいた。全員でヴィランの襲撃先に当たりを付けた際、いくつかのトイレがその候補に挙がっていた。そのうちの1か所を彼らが担当することになったため、こうして身を隠して待ち伏せているのだった。
待てども待てども犯人は現れず、エスパルダ・メア(ラピエル・f16282)は退屈そうに大あくびをする。
「……おいおい、奴さんはまだかよ?」
今にも犯人を探して飛び出して行きそうな口振りだ。喧嘩っ早い彼が痺れを切らすのも時間の問題かもしれない。
そんなエスパルダの様子に、王・笑鷹(きんぎつね・f17130)は人差し指を唇の前で立てて。
「焦りは禁物ヨ。麻雀も商売も張り込みも『待ち』が肝心ネ」
コンコン、と戯れに片手で狐の形を作っていれば、傍らのメイドも同意するように頷いた。
「左様にございます」
クラシカルなメイドドレスに身を包み、使用人然とした態度のエルザ・ヴェンジェンス(ライカンスロープ・f17139)は、行動を共にする笑鷹とはどこか対照的だ。その冷静な口振りにエスパルダは反論の言葉を失う。何となく逆らってはいけないような、そんな直感があった。
「くそっ……わーったよ! 待ちゃあいいんだろ」
がしがしと頭を掻きながらも、脚を開いてその場に大人しくしゃがみこむ。
「ソレにしてもかみさま捕獲、大迷惑だネ! お手洗いはヒトの尊厳そのモノ。聖域なんだヨ?」
笑鷹の言葉に、エスパルダからそういうもんかと感想が返る。ヤドリガミである彼にはあまりピンと来ない話なのかもしれない。
「ええ、それに備品を切らせるなどあってはいけないこと」
一方のエルザは違った視点で事件を見ていた。恐らくメイドとして許せないことなのだろう。
「相変わらずだネ。エルザが一緒ならトイレ掃除も安心ヨ」
『掃除』と聞けばにこりと笑顔を浮かべ、恭しく礼をするエルザ。その笑顔の意味するところが彼女から語られることは、恐らくないだろう。
そんな話をしながら、エスパルダが二度目のあくびを噛み殺していた時だった。
「アイヤ、向こうが騒がしいネ」
通路の向こうから、ざわめきや悲鳴に似た声が聞こえてくる。只事ではない雰囲気を感じ取った瞬間、既に3人全員が身構えていた。
「おい、邪魔だどけ!」
一際目立つダミ声が聞こえてきたかと思えば、曲がり角で女性が突き飛ばされたのが見える。男はそのまま角を曲がると、こちらへ向かって全力で通路を走って来た。
「なんか逃げてきたぞおい……」
エスパルダに『なんか』と言われてしまうのも仕方がない。その男は浮かれた仮装のように真っ黒な全身スーツと覆面姿で、更に背負ったナップサックから時々トイレットペーパーを零しているのだから。少なくとも善良なコスプレイヤーではないだろう。
そう、この男こそがノーティ・ボーイ。ヒーローたちの待ち伏せにあうも運良く逃走に成功した彼だったが、追跡を警戒するせいで変装する余裕がなかったのだろう。ヴィランのコスチュームを着たまま、通行人の注目の中をひたすら逃げる羽目になってしまった。
3人が待機していた場所は、偶然にも襲撃されたトイレと地上への出口の間に位置していたようだ。
「待ちやがれ安らぎ泥棒!」
待ってましたと弾丸のように飛び出していったエスパルダが立ち塞がり、斧を豪快に振り回す。
ヤバい奴がいると思ったらしい。ノーティ・ボーイは慌てて急ブレーキをかけた。
「ちっ……今日はやけに邪魔が入りやがるぜ」
そのまま踵を返そうとするが、そう易々と逃してもらえる筈もなく。
「はいはい、ココは通せんぼヨ」
逃走経路を塞ぐように、笑鷹の狐火が周囲をぐるりと取り囲んだ。勢い余って炎に突入しかけ、あちっと跳び上がるヴィラン。
「動くと危ないヨー動かなくても危ないケド」
悪戯好きの子供のように笑う笑鷹を、ヴィランは悔しそうに睨みつけて。
「お前ら誰なんだよ! どうして何度も俺様の邪魔をしやが……ぶへっ!」
地団駄を踏みながら喚くヴィランの身体がいきなり吹き飛び、地面を滑っていく。
「どうみても正義の味方だろ?」
言葉よりも拳が先に出たらしい。エスパルダは覆面越しの頬に挨拶がわりの右ストレートをくれてやった。
どこがだ! と全力で抗議しながら跳ね起きるノーティ・ボーイ。そこへ容赦なくエルザのサイキックブラストが放たれる。高圧電流には真新しいトラウマがあるのか、ヴィランは全身を使って必死に避けた。
「避けましたか」
エルザが残念そうに零す。しかし立て続けに起きた戦闘と全力疾走により、もはやヴィランの体力も限界が近いようだ。
「なぁ、このまま見逃してくれよ! 盗ったもんは全部返してやるからさ! な?」
どうやら交渉のつもりらしい。穴開きのナップサックをこれ見よがしにちらつかせている。ハァ? と思わず呆れるエスパルダ。笑鷹は面白そうにニヤついて。
「そこなかみさま、おひとつ頂戴」
素早くヴィランに近付いていったかと思えば、すれ違った時、既にナップサックは笑鷹の手に。呆気にとられるヴィランへ、盗むのはお手の物ヨとウィンクを送って。
「笑鷹様は盗まれる、と」
それなら自分も得意なもので。エルザの両掌にバチバチと電流が走る。何故電気が得意か尋ねられれば、メイドですからと彼女は答えるだろう。エルザってかっちりしてるよネとは笑鷹の弁。
「では、跪いていただきましょう」
至近距離から容赦なく電流を浴びせられると、ノーティ・ボーイは悲鳴をあげる間も無く地に伏した。
ヴィランの犯した罪は、トイレットペーパーのように簡単に水に流すことはできないのだ。
「おら、これで逃げられねぇだろ!」
所々ぷすぷすと焦げ付いたヴィランをエスパルダが縄で雁字搦めにする間、笑鷹とエルザはナップサックの中身を改める。いくつか詰め込まれた紙を見れば、両者とも何か思いついた顔で。
「コレはひと巻500円で売れるヨ」
「シングルでしたらご主人様方に懇願……いえ、ご指示を頂きましょう」
ちょうど犯人を縛り終えたエスパルダが、耳をぴくりと動かして。
「おい、そこのお二人さん! 妙なこと考えてねぇだろうな」
「イヤね、冗談ですヨ!」
言いながら、床に落ちた分の紙もナップサックへ仕舞っていくのだった。
その後、残りのトイレットペーパーも無償で返され、ノーティ・ボーイの身柄は然るべき相手に引き渡された。
ヒーローたちの活躍により、安らぎの聖域はこれからも都会のオアシスであり続けるだろう。
だが、ヴィランとの戦いはこれで終わりではない。次なる『かみ』に立ち向かうため、摩天楼へ向かえ! ヒーローたちよ!
大成功
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第2章 冒険
『摩天楼に消えた影』
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POW : ダイナミックに行動
SPD : スタイリッシュに行動
WIZ : ミステリアスに行動
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●髪との戦い
街の中心部にそびえ立つランドマーク、ファンタスティックビル。この日、地上約300メートルまで伸びた60階建てのツインタワーでは、とあるパーティーが催されていた。それは境遇や思想を同じくする者たちの「秘密」の会合。
嗚呼、華やかな会場こそ惨劇の舞台に相応しい。そう、燃え盛る炎で彩られた惨劇の――
ファンタスティックビルが、たった今ヴィランの襲撃にあった。燃えるような赤毛を逆立てた男、その名はヒート・ベック。ベックは西タワーの最上階のパーティ会場を襲撃し、自らの能力でフロアを一瞬で火の海に変えた。パーティの参加者は唯一の逃げ道である屋上に避難したものの、火の手が屋上まで伸びるのも時間の問題だ。しかもこの日は生憎の強風。炎に呑まれるのが先か、風に吹き飛ばされるのが先か。人々が死を覚悟したその時だった。
事件を聞きつけ、ビル屋上に現れた猟兵たちに歓声が上がる。しかし拍手は起こらない。屋上に避難した人々は何故か全員が両手で頭を押さえ、何故か全員が必死の表情を浮かべていた。
そう、パーティ客は何というかつまり頭上までドレスアップしている人ばかりだった。開催されていたパーティというのは、どうやら同じ悩みを抱えた人たちの集まりだったようだ。要するに強風によってパーティのドレスコードを解かれてしまってはまずい。非常にまずい。もちろん炎に巻き込まれてしまうのもまずいのだが。
犯人のヒート・ベックは人々が炎に呑まれていく様を眺めて楽しむつもりらしい。西タワーのパーティ会場に火をつけた後、奴は東タワーの屋上へ移動したようだ。
駆け付けた猟兵の諸君には、ベックを追って西タワーから東タワーへ飛び移って貰いたい。西タワーと東タワー間は約40メートルの距離がある。もちろん屋上に避難している人たちを連れて行くことも忘れてはいけない。猟兵1人につき1人か2人連れて行くことができれば、全員を救出することができるだろう。
また、東タワーへ移る際の手段は問わない。持ち前の技能を使うも、何か道具を用意するも自由だ。が、パーティ客の大事なドレスが強風によって飛ばされてしまうことのないよう、くれぐれも注意すること。さもなくば彼らはドレスだけでなく名誉やら尊厳やらその他諸々を一本残らずむしり取られることになるだろう。
彼らを救えるのは君たちしかいない。この危機一髪の状況を切り抜け、見事ヒート・ベックを捕まえて欲しい。健闘を祈る。
アイン・セラフィナイト
ドレス……ドレスね……(パーティ客の頭を見ながら)
いや、うん……別に深い事は言わないけどさ。
違う意味で疲れてきたなぁ……この人達、火災に怖がってるわけじゃないよね?
……まあいいや。そうだなぁ、【生ぜよ、塵の嵐】で砂の橋を架けようかな。脆いから、1人か2人渡らせることぐらいしかできなさそうだけどね。
ボクは『黒翼・神羅の鴉羽』でビル間を移動する。(『空中戦』)
『神封の書』で砂の周囲の空間を歪ませて風対策はばっちりに。(『オーラ防御』)
ヒート・ベックには砂を吸着させて行動を阻害させるね。
ヒーローたちの苦労、垣間見た気がするよ。大変だね……正義の味方って。
(アドリブ、共闘歓迎)
王・笑鷹
エルザ(f17139)と
そう、不憫ネ……
毛生エールってお酒、売れるかナ?
結局、臑毛が生えるダケって理由で返品されまくった悲しいお酒ヨ。
嘘はついてないのにネ?
それでは今日のためのとっておきの必殺技・変成髪宿り!
万が一ぽろりしても大丈夫、大船にのったつもりで任せるネ。
だいたい二十名様は安心安心。
こういうセレブは太い客になるカラ、ワタシも真面目ヨ?
空飛ぶエルザ見てるとメイドとは何か、ちょっと悩むネ。
寝坊して遅刻したご主人様にはうってつけ?
移動はエルザに任せて、ワタシはコントロールに集中するヨ。
エルザに運ばれながら、ヒートさんの視界に鬘おひとつプレゼント!
ふふ、あとでオヒネリよろしくネ!
アレンジ歓迎
エルザ・ヴェンジェンス
笑鷹様(f17130)と
笑鷹様のお酒は売れそうかと
えぇ。二十歳を過ぎれば皆、一度は気にされると
若い頃はあれ程痛めつけるというのに。不思議なことです
しかし、ご主人様方の尊厳を守るためであれば
私、メイドとして粉骨砕身の働きをお見せいたしましょう
メイドたるもの、口は硬いものです
ご主人様方がどのような姿を晒そうとも、えぇ
お運びするのはお任せください
私、メイド心に火をつけますので
crownclownを使用。抱き上げます
デンジャラスでもスマートに
笑鷹様のサポートもあるので安心です
移動もお任せください。さぁ、飛びますよ
見ていらしたのでしょう、ヒート様
私、今や空飛ぶメイドですので
逃しはしません
アレンジ歓迎
● 髪との戦い:Episode1
ファンタスティックビルの西タワー屋上に駆け付けたヒーローたちは、その場で何とも言いがたい光景を目撃することとなる。
十人十色の髪をなびかせた男女が、皆一様に頭を押さえている場面はどこか異様だ。やはりと言うべきか、年齢層は中高年が多いようだ。
イタズラな風が吹くたびに大事な秘密がチラチラ見え隠れしている小太りの中年男性から、アインはそっと目を逸らした。
「ドレス……ドレスね……」
オブラートに包むにしてもさすがに無理がある。しかし、アインは喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。想定とは違った意味での疲労感が容赦なくアインを襲う。
「そう、不憫ネ……」
一方で、笑鷹は人々に哀れみの視線を向けていた。彼らは皆運悪く被害者となってしまったのだ、色々な意味で。
しかし彼女は猟兵であると同時に商売人でもあるということを忘れてはいけない。
「毛生エールってお酒、売れるかナ?」
言えば、ちらりと隣のメイドに視線を送る。
「ええ、売れそうかと。二十歳を過ぎれば皆、一度は気にされると言いますから」
若い頃はあれ程痛めつけるというのに、不思議なことです。そう言いながらも、エルザはメイドとして主人に優劣をつけるつもりは毛頭なかった。例えそこに持つ者と持たざる者がいるのだとしても。
「あのー……その毛生エールっていうのは?」
商品名からして露骨に怪しい。おずおずとアインが尋ねてみる。
「よくゾ聞いてくれまシタ! 結局、臑毛が生えるダケって理由で返品されまくった悲しいお酒ヨ」
嘘はついてないのにネ? と大げさに肩をすくめる笑鷹に、エルザも頷きを返す。
「すね毛と髪の毛の違いは大問題だと思うよ
……!?」
アインは思わずツッコミを入れた。もう少し上で生えてくれていればと思うと、実に惜しい。
「ホラホラ、今は何より人助けヨ」
そうだった。ふと気が付けば、パーティ客たちが必死の形相でヒーローたちを見ている。まずは彼らを安全な場所まで運び、この不毛な戦いを一刻も早く終わらせなければならない。
「ご主人様方の尊厳を守るためであれば、私、メイドとして粉骨砕身の働きをお見せいたしましょう」
危機的な状況にも動じることなく、一歩前へ歩み出たエルザはとても頼もしい。
「メイドたるもの、口は硬いものです。ご主人様方がどのような姿を晒そうとも、えぇ」
本当に頼もしい。あちこちから歓喜の声があがった。
「それでは今日のためのとっておきの必殺技・変成髪宿り! お客サンの尊厳を守るヨ!」
笑鷹が高らかに告げると、まるで奇術のようにカツラたちが現れた。ふよふよと宙を漂うカツラはシュールとしか言いようがないが、ともかくこれで20人ほどは急なポロリからも守ることができるだろう。
こういうセレブは太い客になる。それを知るからこそ、彼女も真面目になるというものだ。
パーティ客の尊厳を守るのが笑鷹の役目であれば、運ぶのはエルザの役目。
「お任せください。私、メイド心に火をつけますので」
丁寧に一礼した次の瞬間、エルザの身体が淡く輝き始める。crownclown――ご主人様方を守るという意志の力が、並外れた戦闘力と飛翔能力を彼女に与える。
「デンジャラスでもスマートに。さぁ、飛びますよ」
守るべきご主人様であるパーティ客を抱き上げると、そのまま彼女は飛んだ。それは跳躍ではなく、まごうことなき飛翔だ。
「メイドとは何か、ちょっと悩むネ」
軽々と向かい側のタワーまで飛ぶエルザを見て笑鷹が零した。もしかすると、寝坊してしまったご主人様には有難い存在なのかもしれない。巧みなコントロールでカツラを操りながらも、ぼんやりとそんなことを考える。
同じ頃、アインも行動を開始していた。
「それじゃあ、砂の橋を架けようか」
言うが早いか、25m半径内の無機物がみるみる姿を変えていく。対象に吸着する超重量超高密度の増殖する砂だ。
無機物を砂へ変換しきった頃には、東タワーまで届くのに十分な量が集まっていた。アインの意のままに砂が移動していけば、タワー間に砂の橋が架かる。
「さぁ、この橋を渡って」
赤いドレスの女性と紫ドレスの老女を指名し、そう伝える。砂で出来た橋は脆く、渡るのは2人が限度だろう。そのため、この場にいる人々が我先にと橋を渡り始める状況は避けなければならなかった。日頃街の平和を守るヒーローたちの苦労や有難みを、アインは改めて実感する。
あとは神封の書を開き、砂の周囲の空間を歪ませてやれば風対策も万全だ。女性2人が橋を渡り始めたのを確認すれば、自身に魔力を集中させるアイン。すると彼の背に黒翼が現れた。これは彼の肩に乗る漆黒の鴉、『神羅』の羽根でできた翼だ。
屋上のコンクリートを蹴ると、アインは鳥のように翼を広げて飛び立った。
「ああ、やはり私の炎は美しい。炎の前では全て等しく灰に還るのだ」
燃え盛るビルを、安全圏から恍惚の表情で見守る男。この男こそがヒート・ベックだ。
「しかし、私の芸術を邪魔する愚か者がいる」
憎らしげに奥歯を噛み締めると、背後から飛来した物体を火球で迎撃した。
エルザに抱えられた笑鷹がカツラの一つを見舞ったのだ。惜しいと残念がる笑鷹に気を取られた隙に、今度はアインの砂が飛ぶ。砂はベックのマントに吸着すると、その飛行能力を奪った。これで空へ逃げられる心配はないだろう。
ヒーローとヴィランは対峙する。今ここに、摩天楼の決戦が始まろうとしていた。
大成功
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ニトロ・トリニィ
POWを選択
良かった! 怪我は… していないようだね。
あれ?… やっぱり、この人達の髪は…
… 大丈夫! 僕があなた達の命と尊厳その他諸々守るから! 安心して!
【行動】
サイコキャノンで強化した《念動力》を使用して、救助者を移動させるよ!
強風が吹いても、体全体をサイキックエナジーで覆っているから飛ばされる心配はないはず!
救助の方はこれでどうにかなるけど… 問題はあの放火魔か…
まぁ… 僕はブレイズキャリバーだし、〈火炎耐性/激痛耐性〉も持っているから、どうにか耐える事は出来る…かな?
あまり抵抗しない方が身の為だよ。
えーっと、ヒー… 放火魔!
アドリブ・協力歓迎です!
エスパルダ・メア
今度はそっちのカミかよ、仕方ねえ奴さんだな
着いたらまず【氷雪嵐霜】で氷の津波を壁にして逃げ道以外の屋上の周りを氷で囲う
長くは保たねえだろうが、風よけと気休めくらいにはなるだろ
あと飛べねえ奴の足場用に氷の橋でも作っておくか
けど気をつけて渡ってくれよ、あくまで保険な
肩に引っかけてた上着を客に頭から被せて俵担ぎで東タワーへ
あんたがそれが大事だってんなら守ってやるから安心しな
しっかり押さえとけよ
必要なら往復で運ぶが
犯人の姿が見えたら火炎耐性で火に飛び込んで
はいそこ動きなさんな、放火魔野郎!
もう一度氷雪嵐霜で氷柱を釘打ち
ついでに辺りの消火もできるかね
足りなきゃまずは確保優先
その足凍りつけてやる
● 髪との戦い:Episode2
ニトロとエスパルダの2人もまた、緊迫した摩天楼に駆けつけていた。手分けして避難に当たった甲斐あって、屋上に取り残されたパーティ客も確実に減っている。
「良かった! 怪我は……していないようだね」
危機的な状況にありながら、幸いにもその場にいる人々に目立った怪我は無いようだ。ニトロはほっと安堵する。
「うっし! んじゃあ、残りも避難させちまうか」
左右の拳を突き合わせて気合いを入れるエスパルダに、ニトロも頷きを返す。西タワーに残る客は5人。その内の3人をニトロが、2人をエスパルダが担当することになった。
そうと決まれば、まずは下準備だ。エスパルダが足元に拳を撃ち込めば、そこから衝撃波と共に氷の津波が発生する。津波がビルの外縁で固まれば、立派な風除けが完成した。
避難を開始しようとパーティ客に近寄ったニトロが改めて感じる違和感。具体的には頭の辺りに。瞬時に何かを悟ってしまったが、ニトロがそれに対して悪感情を抱く様子は毛ほどもない。
「……大丈夫! 僕があなた達の命と尊厳その他諸々守るから! 安心して!」
真っ直ぐな瞳と言葉に押されつつも、パーティ客は安心感を覚えたことだろう。自分たちの命運をニトロに預ける覚悟ができたようだ。
腕のサイコキャノンで増幅した念動力ならば、3人を東タワーまで運ぶことができる。ニトロが念じると、彼らの体がふわりと宙に浮いた。更に体全体をサイキックエナジーで覆ってやれば、強風に煽られる心配もないだろう。
一方のエスパルダは、ちょうど橋を架け終えたところだった。アイスレイピアを本体とする彼がこさえた氷の橋は、どこか氷の彫刻にも似た美しさがある。
「ほらよ、溶けちまう前に渡るぞ」
肩に掛けていた上着を1人の頭に被せ、もう1人の頭には本人のスーツの上着を被せて保護した。そのまま2人を担ぎ上げて。
「あんたらがそれが大事だってんなら守ってやるから安心しな」
しっかり押さえとけよと合図を送ると、エスパルダは氷の橋目がけて一直線に突進していった。
飛行能力を封じられたヒート・ベックは、バランスを崩して膝をつく。
「忌々しいヒーローどもめ……」
対峙する相手をギロリと睨みつければ、周囲の空気がみるみる熱を帯びて。
「私の炎で灰になるがいい!」
指先から生まれた火球が真っ直ぐに飛ぶ。炎が全てを焼き尽くさんと唸り、吼え、獲物に食らいつく。直撃を確信しベックがほくそ笑んだ、その時だった。
「危ないところだったね」
パーティ客の避難を終えたニトロとエスパルダが立ち塞がる。火炎への耐性を持つ2人が構えた盾によって、ベックの炎は呆気なくかき消えた。前髪の端が焼け焦げたらしく、エスパルダがあちっと髪を叩く。まさに危機一髪だった。
「あまり抵抗しない方が身の為だよ。えーっと、ヒー……放火魔!」
「そうだぜ。そこ動きなさんな、放火魔野郎!」
ベックを指差したニトロに合わせ、エスパルダも畳み掛ける。しかし2人とも敵の名前を覚えていなかったらしい。攻撃を防がれたことに加え、なんたる屈辱。ベックのこめかみに青筋が浮かぶ。
「許さん……許さんぞ貴様ら!」
全身から炎を噴き出せば、無差別に攻撃を始めた。2人は咄嗟に跳んで炎をかわす。
「こいつは下手に近寄れねぇな」
思わずぼやくエスパルダ。
「そうだね、なら近寄らなければいいんだよ」
怒りに我を忘れた敵は厄介だが、隙だらけでもある。ニトロが念動力を行使すれば、数秒ほど体の動きを拘束するのは容易だった。
ニトロの作り出した数秒でエスパルダが動く。再度氷の津波を起こせば、ベックの両足ごと足場が凍りついた。駄目押しに放った氷柱でマントを足元に縫い付けると、暫しの無力化に成功する。
そうなれば後は簡単だ。その場にいる全員で協力し、氷が溶けきる前にヒート・ベックを縛り上げた。
かくして第二の事件も幕を閉じる。ヒーローたちの活躍により、パーティ客は全員毛がなく……もとい怪我なく救助された。街の平和を守る者として、彼らの命だけでなく大事なものも守り通すことができたのだ。
しかし、この時まだヒーローたちは気付いていない。彼らを狙うオブリビオンの影が、すぐそこまで迫っていることに。
大成功
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第3章 ボス戦
『ライジン・ガール』
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POW : 落雷
【落雷】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【が雷を帯び】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 放電
レベル分の1秒で【電撃】を発射できる。
WIZ : 迸る雷鳴
【超高圧の電流】を放ち、自身からレベルm半径内の全員を高威力で無差別攻撃する。
👑11
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●かみ(なり)との戦い
ヴィランによる2つの事件を解決したヒーローたち。人々のために奔走し喝采を浴びる君たちは、今まさに名実共にヒーローとなったのだ。
しかし思い出して欲しい。本来の目的は別にあるということを。
そう、それはヒーロー闇討ち事件の犯人であるオブリビオンを誘き寄せ、討伐すること。そして目論見はどうやら成功したようだ。
東タワーから無事に地上へ下り、パーティ客の避難を完了したヒーローたち。彼らは紛れもなく邪魔者。少なくとも「彼女」にとっては――
立ちこめる暗雲。先ほどまでの快晴が嘘のように、辺りの空一面が覆われていく。
雷鳴と共に降り立った、彼女の名はライジン・ガール。ヒーロー闇討ち事件の犯人にしてオブリビオン。過去にヒーローズアースに存在した雷の権化だ。
雷、かみなり、かみ……これはさすがに苦しい気もするが、そのような些細なことを気にしている場合ではない。
これが正真正銘の最終決戦だ。正義を示し、ヒーローズアースに平和を取り戻してほしい。
アイン・セラフィナイト
【WIZ】
まるで雷そのものが目の前に存在してるみたいに眩しいね……電撃に撃たれたら間違いなくやばい……!
ライジン・ガールに気付かれないようにあらかじめ『光杖・四精の万年筆』で空間にルーンを刻んでおく。
雷には避雷針……アース線が必要だよね?
【大地精の剛震】でノームを召喚、地面に無数に走るエネルギーの束を活性化させて、ライジン・ガールの体力と雷の力を吸い取るよ。雷はノームの反射防壁で防御する。
後は予め刻んでおいたルーンから放たれる巨大な魔法弾で追い打ちだ!(『属性攻撃』『全力魔法』)
こう見えても、属性魔法は得意中の得意なんだ。だからこそ、相手の弱点を見極めるのもね……!
(アドリブ・共闘歓迎です)
ニトロ・トリニィ
うわぁ… すごいな〜
彼女が、闇討ち事件の黒幕みたいだね。
名前は… えーっと、雷少女だったかな?
体を雷で覆っているのか、それとも全て雷で出来ているのかな?
どうなっているんだろう?
【行動】
今回は、みんなを守る盾役に回ろうかな。
《第七感》で、誰が狙われているのかを予測し、魔導書【怨念】と〈盾受け/オーラ防御/激痛耐性〉を合わせた〈かばう〉で味方の被害を減らすよ!
魔導書【怨念】から出る黄金の骨の一本を地面に刺して、アースの様に使えば、もしかしたら攻撃の威力を減らしたり、無力化出来るかも?
みんなは大技を決めちゃって!… 頼んだよ!
アドリブ・協力歓迎です!
王・笑鷹
エルザ(f17139)と
なるほど、かみなりサマ、ネ。
でもビリビリならうちのエルザも負けてないヨ!
雷は怖いよネ、でもご安心あれ。
手品でダガーを複製して飛ばして避雷針にするネ。
遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ、ただしお代は先にくださいナ!
あれ、大きく広げたら雷が網状に……?
大丈夫、猟兵なら避けられるネ!ヒーローは派手に戦うものだからネ。
雷避けはワタシが引き受けるカラ、後はエルザに任せたヨ。
流石は今世紀最大メイド、引けを取らないネ。
エルザや他の猟兵に注意がいっているタイミングで、ダガーを仕掛けるヨ。
ワタシ、ずっと避雷針にしてるって言ってないヨ?
商人たるモノ商機は常に狙ってるからネ☆
エルザ・ヴェンジェンス
笑鷹様(f17130)と
なるほど、ライジングとは。
えぇ、私もビリビリメイドとしては負けられません。
お任せください。笑鷹様。
今世紀最大のビリビリメイド、してみましょう
暗雲とはよくありませんね
洗濯物も乾きませんし、メイド的にマイナスポイントですので
えぇ、快晴を取り戻させていただきましょう
なるほど、避雷針とは。
ご依頼お受け致しました、笑鷹様
それではライジン・ガール様、ご主人様方を恐怖に陥れた責任
きっちり払っていただきましょう
高速戦闘モードから一気に近接にて仕掛けましょう
雷の属性を乗せ、サイキッエナジーを乗せた拳で攻撃を
えぇ、昨今のメイドは拳も嗜むものです
笑鷹様の奇襲に合わせ速度を上げ、仕掛けましょう
エスパルダ・メア
アドリブ・連携歓迎
やっと『かみ』との決着ってな。
闇討ち……
あ。あー、あったな、いや忘れてねえってホントホント。
まあ仮に誰が忘れてたところで、自分からビリビリ出て来てくれたんだ
なあ、カミサマ?
武器にするのは身の丈ほどの盾
前面にガーディア、内側に預かった悪友の本体
預かった身だ、今回は立派に盾になってやるかね
前線、他の奴らの盾になる
しっかり耐えて、他の奴の攻撃に合わせて【グラウンドクラッシャー】で足元を崩す
隙があれば突っ込んで、盾で押し潰すように動きを止める
多少の傷やらは顧みない
いいんだよ傷なんか
どうせ身体くらいすぐ戻る
盾で一撃叩き込んだら、氷の属性を乗せて。
そのイカズチ、凍らせてやるよ。
●かみとの戦い:Episode final
走る稲妻、轟く雷鳴。雷雲が空を黒く塗り潰していく様を5人は見つめていた。まるで雷を使役するかのように、かつてライジン・ガールと呼ばれた少女は立っている。その目に確かな殺意を宿して。
雷そのものが目の前に存在してるみたいに眩しいと、金の目を細めてアインは思った。万が一あの電撃を身に受けたなら、ただでは済まないのは明白だろう。
悟ったのは他の4人も同じ。しかし、彼らはそれでも止まらない。止まるわけにはいかない。覚悟はとうに決まっているのだから。
5人のヒーローは目と目を合わせて頷き合った。
今まさにこの街の、ヒーローズアースの平和をかけた戦いが始まろうとしている。
「やっと『かみ』との決着ってな」
初めに動いたのはエスパルダ。これから殴り合いの喧嘩でも始めようと言うように、拳を鳴らして一歩前へ進み出る。
そういえば闇討ち事件なんてものもあったと、失念しかけていたのも何処吹く風。こうして相手の方からのこのこ出てきてくれたのだから問題はない。
なあ、カミサマ? と不敵に笑ってやれば、ライジン・ガールの体へ針のように鋭い電気が集まっていくのが分かる。どうやら敵も戦闘態勢に入ったようだ。
「! ……気を付けて、敵の無差別攻撃が来る。それも10秒以内に!」
ニトロは第七感により察知した未来を仲間達に伝えると、怨念を纏った魔導書を手に飛び出して行く。皆を守る盾役になろうと、ニトロは決めていた。ニトロが守りのオーラを展開すれば、それは仲間を守る大きな盾になる。
しかし、この場にいる守り手は1人ではない。エスパルダもまた、攻撃に備えて身の丈ほどの大きな盾を構えた。預かった悪友の本体を覆う盾の盾『ガーディア』が蒼銀に輝く。
「ッ……!」
声にならない声をあげ、それは放たれた。全身に蓄積されたエネルギーを一気に解放するように、超高圧の電流が迸る。生き物のようにうねり、5人の獲物へ襲い掛かろうとした電流を、ニトロとエスパルダの盾が受け止めた。
後ろへ押されれば、その分だけ前に押し返す。2人がかりで何とか食い止められてはいるものの、このままではいずれ限界が訪れるだろう。
助太刀に入ろうと反射的に動いたエルザを、笑鷹が制した。
「なるほど、かみなりサマ、ネ」
笑鷹は呟く。高圧電流すら自在に操るスケールの大きさは、まさに雷神の如し。
しかし人間も馬鹿ではない。自然の脅威に立ち向かうための知恵を、先人はしっかりと残してくれているのだ。
狐の奇術で取り出したるはダガー。それも1本ではなく、同じものを20本以上も複製すると、それらを曲芸のように次々投げていく。
「遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ、ただしお代は先にくださいナ!」
ばらばらに地面に突き刺さったダガーは避雷針の役目を担い、雷を呼び寄せ攻撃を逸らしていく。
そしてアインもまた雷に対抗する策を用意していた。手にした万年筆で空間に何かを書いていたかと思えば、それをしまって。
「万物を創りし堅牢なる護り手よ、悪辣なる者を諌めよ!」
詠唱と共に喚び出したのは巨大な亀に似た大地精、ノーム。アインが語りかけると、大地精は彼に力を貸してくれた。ノームが持つ反射防御の力はあらゆる攻撃を反射する。それはもちろん雷撃であっても。
アインを狙って飛んだ雷はノームによって反射され、進路を変える。上手く地に向けて反射してやれば、雷はそのまま笑鷹の避雷針に吸い寄せられて消えていった。
雷神と戦う準備が整えば、前に出て攻撃を防いでいた2人の負担も軽減されたようだ。いくらか余裕の生まれた隙をついて、ニトロが手にした魔道書の頁を開く。飛び出た黄金の骨のうち1本を引き抜くと、避雷針代わりにそれを地面へ突き刺した。
これで無差別の電流攻撃はそのほとんどを無力化することに成功した。
「ビリビリならうちのエルザも負けてないヨ!」
自信満々に胸を張り、笑鷹が言う。どうやらエルザも満更ではない様子で。
「えぇ、私もビリビリメイドとしては負けられません」
寧ろ張り切っている。静かに笑みを湛えれば、お任せくださいと一礼した。今世紀最大のビリビリメイドを見せるため、そして快晴を取り戻すためにエルザは戦う。何しろ暗雲が陽の光を遮ってしまえば、彼女のご主人様たちの洗濯物も乾かないのだから。それはメイドにとって由々しきマイナスポイントだろう。
「雷避けはワタシが引き受けるカラ、後はエルザに任せたヨ。存分に暴れておいデ」
ヒーローは派手に戦うものだからネと、頼もしいメイドにウィンクを送れば契約は完了した。
「ご依頼お受け致しました、笑鷹様」
凛とオブリビオンを見据えると、ふわり笑んで指を鳴らす。次の瞬間、エルザは黒のメイドドレスを靡かせながら駆け出していた。寿命を代償に得たスピードと反応速度を頼りに敵へ肉薄する。
近付いてくる彼女へ、ライジン・ガールは瞬時に電撃を発射する。しかしその一撃は、第七感によって攻撃を先読みしていたニトロの盾に阻まれた。
すかさずエスパルダが地面へ盾を叩きつけると、ライジン・ガールの足元は脆い木の板のように簡単に割れた。
「ノーム、お願い……!」
そしてバランスを崩した敵へ、アインの呼びかけに応じるようにしてノームが琥珀色のエネルギーの束を伸ばす。地を走るエネルギーの束はライジン・ガールの足を捉え、体力と雷の力を吸い取っていくとその動きを一時的に封じた。
「さぁ、大技を決めちゃって! ……頼んだよ!」
振り返ってニトロが言った。仲間たちに見送られ、エルザは駆ける。
エルザが拳を腰まで引くと、そこへ雷とサイキックエナジーが収束されていく。二つの力が混ざり合い、大きくなると、それを拳ごと相手の腹に撃ち込んだ。
今だ――好機を告げる声が響く。
「ッらァ!」
エルザが一旦距離を取ったのを見れば、たたらを踏んだ雷神へエスパルダが突進した。大きな盾で押し潰すように、物理的に動きを止めさせる。
衝撃で弾けた電撃が盾を伝って体に走り、皮膚の一部を焼く。しかし、それをエスパルダが顧みることはない。
ヤドリガミの身であれば、例え肉体が破損してもすぐ戻る。それを利用してやるつもりだった。
「そのイカズチ、凍らせてやるよ」
じろりと鋭く睨み付けたと同時、エスパルダの纏う冷気が増幅する。荒々しく大盾を叩きつければ、撃ち付けた部位が忽ち氷漬けになった。
続けて動いたのはアイン。ライジン・ガールに悟られぬよう、予め『光杖・四精の万年筆』で空間にルーンを刻んでおいた彼は好機を待っていた。万年筆によって刻まれたルーンは、遅効性の魔法を発動するためのトリガーとなる。
そしてアインの策は成った。トリガーを引くのはまさに今。彼が手を掲げれば、巨大な魔法弾が凍て付いた体を撃ち抜く。
「こう見えても、属性魔法は得意中の得意なんだ。だからこそ、相手の弱点を見極めるのもね……!」
限界が近いのだろう。よろめきながらも残された力で放たれた電撃は、やはりニトロが防いだ。
「悪いけど、攻撃は通さないよ」
ボロボロになって尚足掻きを見せる雷神を、ニトロは真っ直ぐに見る。覚えていた名前は今回も曖昧だったけれど、それは秘密にしておいた。
刹那、ライジン・ガールの体に突き刺さるものがある。それは笑鷹のダガーだった。ダガーは1本、また1本と敵を縫い止めていく。
確か彼女は雷避けを引き受けると言っていたが。
「ワタシ、ずっと避雷針にしてるって言ってないヨ? 商人たるモノ商機は常に狙ってるからネ☆」
ダガーをジャグリングのように弄んで、蜂蜜色の悪戯狐は楽しげに笑う。
「ささ、今世紀最大メイド。やっちゃっテ!」
言うより早く、エルザはライジン・ガールの背後に回りこんでいた。仲間たちの連携攻撃の甲斐あって、後はほとんど止めの一撃を残すのみ。
「えぇ、昨今のメイドは拳も嗜むものです」
ならば最後もこの拳で。
固く握った拳が、オブリビオンを野望ごと打ち砕いたのだった。
●Epilogue
この世に悪の栄えた試しなし。
しかしその陰にはいつだってヒーローたちの活躍があることを忘れてはならない。
闇討ち事件の解決により、この街にも再びヒーローの姿が戻ることだろう。
彼らがいれば猟兵たちは必要ないのだろうか?
――それは違う。まだこの世界には君たちの助けを待つ人々が数多くいる。
ならば助けに向かうべきだろう。
今日この街のために奔走した君たちは、紛れもなくヒーローだったのだから。
大成功
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