3o'clock
●
細く月明かりが差し込むだけのフロアは暗く、それゆえに隠れ家として最適だった。
秘密のお茶会と称して、限られた人だけが集う午前三時。
生い茂る草木を分け、フリルのスカートを翻した女生徒は駆けていく。遅刻、遅刻、と口にして、薔薇の咲く小道を走っていった。
辿り着く先にあるのは、蔦に覆われた螺旋階段。上へ上へと延びるそれは、学園のどこかに繋がっているらしい。その先を知るのは一部のみ。
階段の一段目に足をかけたところで、女生徒は奇妙な音を耳にした。思わず足を止めて振り返る。
「大きな……薔薇?」
女生徒は訝し気に声にする。素知らぬふりをして階段を登っていけばよかったものを、好奇心からか、正義感からか、蠢く薔薇に近付いた。
「――やあね、あなた、わたくしの足を踏んでいましてよ?」
お世辞にも綺麗とは言えない声がこだまする。瞠目した女生徒が何事かを叫ぶ前に、大輪の薔薇は彼女を呑みこんだ。
●
「やあ、どうも」
それは突然現れた。闇夜に紛れ、気儘に漆黒の尾を揺らしたイェロ・メク(夢の屍櫃・f00993)はご丁寧に腰を折る。
午前三時、十分前。
日中より静まり返ったグリモアベースに夜風が通る。照明が落とされた室内に、ぼんやり浮かび上がったのは小さな灯りだ。ちろちろと火花が零れ落ちるように光を落とし、不安定でいびつな形を描く。
それがグリモアだと気が付けば、猟兵達の目の色が変わった。
「良いね。では説明しよう」
事件が起こったと語るまでもない。イェロは笑みを浮かべ、眼前の猟兵達を見渡した。
「此度の舞台はアルダワ魔法学園だ」
未踏破の地下迷宮が根深く地下にわだかまる、アルダワ魔法学園。
奥底からオブリビオンの脅威が迫るそこで、イェロはとある予知を得た。踊り狂うページを掻い潜った先、薔薇の香りが鼻腔を刺す。濃くなる香りに導かれ、開けたフロアに出れば女王が笑う。傍らにはフリルのついた何かしらの切れ端が落ちている。
断片的に閃く予知を、パズルピースの様に組み立てていくのがイェロの仕事だ。
そこへ自身の持つ知識を組み合わせ、起こる筈だった事件を白日のもとへ晒す。
「とある『温室』のフロアに災魔が現れた」
アルダワ魔法学園生徒のとある界隈にて、通称『温室』と呼ばれているフロアがある。猟兵にしか退治できない災魔が増えつつある中、このフロアはつい最近まで学生達のみで対処できていた。
そう、つい最近まではだ。
徐々に勢力を増してきた災魔によって学生達は近付かなくなっていった。しかし、大勢が近付かなくなったことにより、この場所はいわゆる隠れ家として一部の間でひそかに使われるようになる。
秘密のお茶会。
午後三時ではなく、午前三時のお茶会だ。
体に悪いとか太るとか、そういうのは一旦おいといて。秘密というのはどうにも甘い響きがあるらしい。いわゆる、密会場だ。
ほんの少し早めに眠り、ほんの少し早めに起きて、気心の知れた仲間と一緒にティータイム。常に危険が迫る中で、ほんの少し得られる休息の時間。
――先生には内緒よ?
秘密のお茶会を初めて開いた学生がそうと言えば、皆々容易に頷いた。悪いことは、総じて胸をドキドキさせる非日常を含んでいる。
「今回はこのお茶会に訪れようとした学生が襲われるみたいでね。少し早めに赴いて対処してもらいたい」
薔薇の小道を通り、階段を駆け上り、隠れ家の庭園へと足を運ぶ。滞在する時間が短い故に、訪れる学生達は身軽な格好であったりお洒落に着飾ったりと戦う準備が不十分だ。
予知によれば、襲われた瞬間でなくとも介入が可能である。
辿り着く頃合いには丁度女生徒が温室に足を踏み入れたところに遭遇できるだろう。一言、災いがいると説明すれば、アルダワ魔法学園生には伝わるはずだ。女生徒の名はアリスといった。
さて、襲い来る災魔はといえば。
「薔薇に擬態して息を潜めているようだ。一輪、とても赤く大きいものだからすぐに見つかると思う」
警戒心の強い災魔なのだろう。
そして、この温室を縄張りとした災魔は多方面からの来客を嫌った。従来ならば使えた通路を蔦で塞いでしまい、自身の城としたのだ。残る通路は書物の魔物が蔓延る図書館のような通路と、学園から安全に降りてこられる通路だけ。
時折温室に紛れ込んで来る書物を餌にしているようだが、学園通路が空いていることから人間の獲物も欲しているように思える。お茶会の事を知ってか知らずか――災魔にとっては非常に都合のいい場所であった。予知に引っかからなければ、の話だが。
猟兵達が向かう際は、意思を持った書物が荒れ狂う通路を通らなければならない。女生徒と同じ時間に同じ通路から入ると予知から外れ、災魔は姿を眩ましてしまう。
「本命の前に少々邪魔が入るが……君達にはウォーミングアップみたいなものだろう?」
書物の魔物はさして強くもないが、油断はならない。前哨戦にはいい緊張感で挑めるだろう。
宙に浮かべたいびつな箱を手のひらで包んだイェロは、まるでペンを執るかのように指を曲げる。隙間にはグリモアと同様の光が灯り、はらはらと光の粉を零す羽根ペンへと成り代わった。
「そうそう、午後三時にまた訪れると良い」
今日だけは特別に秘密の花園へ招待して貰えるのだ。普通のお茶会のように楽しんで貰えれば充分だが、魔女帽子を目深に被った女生徒がちょっとしたお礼をしたいのだそう。
温室を抜けた先に広がるのは、まるで不思議の国のような庭園だ。
薔薇のゲートをくぐった先には、とりどりの薔薇が咲き誇る庭へと出る。白いテーブルとイスが景観を損なわぬ程度に並べられ、簡易なキッチンが端の方に用意されていた。
午後三時から幾許か。普段は自分の分を用意するだけの生徒達が、猟兵達の為に給仕に入る。こだわりの紅茶とか、老舗のお菓子とか、とにかく生徒それぞれ自慢の一品を提供するらしい。
「自分で持ち寄ってみても良いようだよ。ともかく、楽しい日になれば幸い」
光のペンで宙に文字を描いたイェロが微笑んだ。
アルダワ魔法学園。
ペン先がその名を刻んだ瞬間、猟兵達の見る視界が大きく歪んだ。
「それでは、いってらっしゃい」
驟雨
はじめまして、驟雨(シュウウ)と申します。
第六猟兵開幕、おめでとうございます。皆様の世界をより鮮やかにするお手伝いが出来ればと思います。
●
世界 :アルダワ魔法学園。
分類 :純戦/日常。
難易度:NORMAL(よほどのことが無い限り失敗しません)
上記のものは驟雨のシナリオにおける分類です。参加の目安にどうぞ。
他MSさまに当てはまるものではありません。
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日常パートではお茶会に参加する事が出来ます。
喫茶店にあるようなものであれば大体出てきます。ふゎふゎパンケーキみたいなものもきっとあるでしょう。
なんと無償です。ティーバッグや菓子類のお持ち帰りも出来ます。(お持ち帰りアイテムは自動発行されません)
禁則事項は特にありません。公序良俗に反するもの、周囲に迷惑をかけるものでなければ大体大丈夫です。
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同行者がいる場合には、お相手さまの名前とIDをご記載ください。名前は呼び名でも大丈夫です。
相互の意思確認の為にもご協力いただけますと幸いです。
第1章 集団戦
『書物の魔物』
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POW : 魔書の記述
予め【状況に適したページを開き魔力を蓄える】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
SPD : ページカッター
レベル分の1秒で【刃に変えた自分のページ】を発射できる。
WIZ : ビブリオマジック
レベル×5本の【毒】属性の【インク魔法弾】を放つ。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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パラララ、とページが捲れる音がする。それも一冊や二冊の話ではない。
テレポートで運ばれた猟兵達の前に立ちはだかったのは、狭い通路を満たす数々の魔導書だ。無理やりにでも駆け抜ければ通れなくもないだろうが、負う傷は多いだろう。
本命まではまだ遠い。
幸い、図書館のような通路は一本道だ。迷うことなく最奥へと辿り着けることだろう。近付くにつれ、薔薇の濃い匂いが届くはず。
飛び出す本はいかほどか。午前三時の惨劇を防ぐため、猟兵達は駆けだした。
セリエルフィナ・メルフォワーゼ
【SPD】対応で行くよ!
「早撃ち対決だね! 負けないんだから!」
書物の魔物が【ページカッター】を飛ばしてきたら、その都度【ブラスター】を使った【クイックドロウ】で撃ち落とすよ。
ボクは16分の1秒で熱線を発射出来るけど、書物の魔物はどの位の速さで発射出来るかな?
早撃ちで打ち勝てそうなら、そのまま【ブラスター】連射で燃やし尽くしてやるけど……
どうにも勝てそうになければ、ギリギリのところまできた【ページカッター】を【零距離射撃】で撃ち落とすか、【ジャンプ】や【スライディング】で何とか躱すよ。
あ、後事前に【オーラ防御】で防御力を上げておくね。
●
フリルをあしらったドレスを翻し、セリエルフィナ・メルフォワーゼ(オラトリオのスカイダンサー・f08589)は本棚の間を駆け抜けていく。眼前に飛び交うページの刃を軽やかな足取りで躱していけば、ガチリと熱線銃のトリガーを叩いた。
右へ、左へ、視線をやれば床を蹴る。
ふわり膨らんだドレスの裾を弾丸に焼かれながら、セリエルフィナは銃を構えた。
「早撃ち対決だね! 負けないんだから!」
今にも刃を閃かせて襲い掛かってこようとしている書物を前にして、セリエルフィナはコンマ以下の戦いを挑む。息を呑む一瞬ですら、隙になりかねない。
16分の1秒。
撃ち出されたブラスターが本を貫き、焼き、後方の本棚を穿つ方が早かった。本が繰り出した刃は連続するブラスターの熱で焼かれ、ただのページとなっては解けていく。熱線を掻い潜って届いた刃はセリエルフィナの肌に赤い痕を刻むが、致命傷にはなり得ない。
空には遠いこの場所で、セリエルフィナは自由に翔る。
本棚を蹴り、時には背表紙を読み取れるほど間近まで滑り込み、憧れに近付くように奥へ奥へと進んでいった。
成功
🔵🔵🔴
ベガ・メッザノッテ
今でも温室のお茶会が存在するのネ!学園にいた頃はアタシもよく参加したワ〜。秘密の甘いひと時を邪魔されたくない気持ちはよォ〜く分かるかラ、パパっと倒しておやつの時間にしたいよネ!
魔書の記述を【見切り】、『血統覚醒』で午前三時に紅い満月(瞳)でも披露しテ、緋椿(装備品)で書物をバッサバッサと【薙ぎ払い】していくヨ〜!お菓子のレシピ本とかなら切り刻まないんだけどナ〜。舞い散る魔書のページが温室の白薔薇みたいで、今夜にはピッタリだと思うノ!
●口調はプレイングに合わせて下さい(語尾カタカナ)。他キャラとの絡み、アドリブ等お任せします。
レイブル・クライツァ
美容の時間は確か22時から2時までだから、3時に間に合わせるには大事な睡眠時間に微妙に引っかかってるって思ったら野暮かしら?
アリスさんの秘密の楽しみが死に繋がらない様に……行くわ
書物達、お手柔らかにね?
でも、貴方達と戯れるには、あまり時間がないみたいなのよ。
ちょっと強行突破過ぎるけれども、巫覡載霊の舞で消耗を抑えつつ確実に当てて撃破する方向で挑むわ。
時間を確認しながら、花の香りが濃くなる方へと向かうけど
近づくにつれて他の方と共闘出来そうな事があれば、速攻で畳みかけれたら尚良い感じよね(絡み等歓迎)
薔薇の香りは優雅で、気品がなくてはいけないわ。
ハプニングは遅刻しそう!って要素で充分だと思うのよ
●
図書館のような通路に降り立ったベガ・メッザノッテ(残夢紅華・f00439)は、こんな道もあったなアと郷愁に駆られる。
今回の話を聞いた時、すぐにあのお茶会の事だと思い当たった。かつての自分もよく参加していたのだから。
「秘密の甘いひと時を邪魔されたくない気持ちはよォ~く分かるワ!」
うんうンと件の生徒に共感するベガの前、浮遊する魔書が行く先へと割り込んでくる。そう簡単に通してくれそうにない。
「もウ、邪魔しないでくれル?」
ふて腐れたように口を尖らせれば、ベガは一瞬目を閉じる。次に開いたその時、瞼の奥の光が増強した。元より赤い瞳が、真っ赤な果実のように真紅に染まる。
大きな変化こそ見受けられないが、確かに違いは存在した。
魔力を溜め切った魔書がベガへと向けて光弾を放つ。周囲の書物すらも抉って、威力の増した赤い弾丸は確かにベガを狙い穿った。
――かのように、見えた。
戦闘能力が爆発的に増大した、いまやヴァンパイアたるベガの前に愚鈍な攻撃は通用しない。
致命傷を負わない範囲。最短ルート。効果的な負傷位置。
真紅の瞳を通して戦場を見渡すベガにとって、今回の敵はあまりにもチープだった。振りかぶった鎌は易々と大技を放った後の書物を捉え、真っ二つに伏す。
「パパっと倒しておやつの時間にしたいよネ!」
うーんと伸びをしたベガの背後、迫る本は何の因果かレシピ本だ。はっと気配を感知して振り返ったベガの瞳が表紙を捉えると、一瞬見るからに動きが鈍った。なんともおいしそうなお菓子がプリントされ、思わずごくりと唾を飲む。
撃ち出されたインク弾を身に浴びながら、我に返ったベガは再び深紅の色を双眸に燈した。強化された肉体は軽々と鎌を振るわせる、――が。
「油断は禁物ですよ」
ベガの鎌が書物を捉える手前、レイブル・クライツァ(白と黒の螺旋・f04529)のなぎなたがお菓子のレシピ本を斬り払った。返す刃で追手を捌くと一息吐く。
「やダ、ありがトー!」
持前の笑顔でベガがお礼を言えば、レイブルは軽く頷いた。一人で突破するよりも、人が多い方が危険は少ない。
金色の瞳が時計を見やる。時間は止まる筈もなく、刻一刻と処刑の時が近付いていた。茨の胃に飛び込むアリスがいてはいけない。
前方を見据えれば、薔薇の匂いは濃くなっているものの、まだまだ妨害する本は多いように見える。
「貴方達と戯れるには、あまり時間がないみたいなのよ」
レイブルが静かにそう言い放つが、書物が聞く耳を持つはずもない。パラララと軽快な音を立ててページが捲れ上がり、描かれた文字が宙へと飛び出した。
文字の形をとったインクがぐにゃりと曲がる。銃弾のような精密な形をとるでもなく、いびつな形のままレイブルへと放たれた。
しかし、そこにもうレイブルはいない。
「どいて」
白紙のページを晒す書物を間近に、なぎなたを振るったレイブルの一撃は的確に本の背表紙を切り裂いた。千々になったページを踏み、レイブルはただ前方を見る。
また、薔薇の香りが濃くなっていた。
「行きましょうか」
この香りは、こんな醜悪な物語に使われるべきものではない。もっと優雅で、気品があるべきだ。
「ハプニングは遅刻しそう! って要素で充分だと思うのよ」
「うんうン、アタシもそう思うワ!」
背を任せられる仲間を得て、二人は薔薇の香りに誘われていく。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ヘンペル・トリックボックス
正しい時間に嗜んでこそ、紅茶の味も映えると言うものですが
───若い方々のお気持ちも理解は出来ますねぇ、えぇ。確かに深夜に食べるラーメンは格別の味だ······
数には数を、と言うことで式神の群れを片っ端から本の魔物にぶつけて対抗します。
私?私は式神と魔物が争っている内に【目立たない】ように通路を抜けますとも。何しろ一張羅にインクの攻撃は堪えますからねぇ······
「囲め囲め、いついつ出遣る――」
群れる本を前にして、ヘンペル・トリックボックス(仰天紳士・f00441)は陰に隠れて呪文を唱える。
集いて唸れや獣の式。気儘に奔る四足獣は本棚を蹴散らし、目についた書物を牙で抉る。地を駆ける脚は強靭で、ただただじゃれあう猛獣が居ても巻き添えになって地に落ちた。
散れや羽ばたけ禽の式。本を啄むは数々の禽。鋭い爪はページを刻み、情け容赦なく紐をバラす。二対が出会えば、互いに爪を掛け引っ張り合った。
式神のオンパレードに書物は踊らされ、あれよあれよという間に朽ちていく。
その隙を狙い、ヘンペルは目立たぬように進んでいった。決して時間をかけられないが、邪魔建てが入らぬように静かに足を運ぶ。
しかしそこで、式神達の供給を怠らぬよう配慮しながら進むヘンペルに思いもよらぬ出来事が起きた。
本棚が軋む音に紛れて、ぐうとヘンペルのお腹が鳴ったのだ。そう、脳裏に浮かんでいたのは、艶やかな麺にたっぷりの具、肉厚のチャーシューにコクのあるツユ――そう、ラーメンである。
深夜に食べるラーメンの味は格別だ。これはヘンペルにも理解できる。
「正しい時間に嗜んでこそ、紅茶の味も映えると言うものですが……」
紅茶を味わう上では作法になっていないのかもしれない。しかし、全否定する事は出来なかった。
――だって、きっと、彼女たちにとってはとても魅力的な禁断の味なのだから。
女生徒の小さな幸せを守る為、ヘンペルは先へと進んでいく。
大成功
🔵🔵🔵
ローズウェル・フィリンシア
秘密のお茶会……言葉の響きだけで神秘的ですね。
三時のお茶会に間に合う様に、急がなければ!
動く書物なんて、なんて不思議なのでしょう!
私にとってはこの空間だけでも不思議な世界です。
っと、のんびりしている場合ではありませんね。今は戦士として戦わねば!
私は【サイコキネシス】で攻撃してみましょう。
【2回攻撃】で相手の攻撃を相殺しつつ書物本体に攻撃、です!
本棚があるのなら、そこにある書物をサイコキネシスで動かし、
敵の背後にぶつけて不意打ち攻撃!なんて事も試してみましょうか。
魔力を蓄えている間に攻撃が出来れば、書物だってビックリするはずです!
●
神秘的な言葉の響きにつられ、ローズウェル・フィリンシア(太陽と月の神子・f09072)は秘密のお茶会への入り口へ足を踏み入れた。
入り口はお茶会とは程遠い空間だが、これはこれで目を輝かせる。空飛ぶ本だなんて、おとぎ話の世界なのだ。
「なんて不思議なのでしょう!」
それが敵であるとは知っているが、感動せずにはいられない。無意識のうちにぐっと拳を作っていた手を、はっと我に返ったローズウェルは力を緩めて正面へ向けた。
今はのんびりと不可思議な世界に浸っている場合ではない。今にも少女が災魔に呑まれようとしているのだから。
「ん~……こうしましょう」
ローズウェルのエネルギーを感知したか、蠢く本の群れから一冊分厚い装丁の図鑑が飛び出し、バラバラと音を立ててページが捲られる。魔力を溜めている間、ローズウェルもまた本棚を見渡し作戦を練った。
「不意打ち攻撃! ……なんて、どうでしょう?」
言葉と同時、魔力を溜める本の後ろから一冊の本が飛翔する。それは魔書とは別の、この通路に保管されているただの本だ。
ゴン、と鈍い音がした。本の角で殴られた事があれば想像に容易いが、相当重い一撃だ。
折角貯めた魔力の弾丸はローズウェルとは見当違いの方向へと放たれ、魔書を殴った本の棲み処を抉った。
「ふふっ、完璧! ですね!」
大成功
🔵🔵🔵
シラ・クロア
秘密の花園だなんて、確かに心惹かれるわね。
書物を無碍に扱うのは気が咎めるのだけど……仕方ないわ、魔物だというなら。
花園に相応しい力で対応しようかしら。
「いざや邪なるを封じ浄めん、花の嵐」
【嵐花】で書物の魔物だけを対象に攻撃を。
インク弾が飛んでくる可能性? そうね、飛びながら嵐花の乱れ吹雪く桜花弁で書物から身を隠し、書架の陰に入ったりもして、できるだけ避けたいわ。相手も対象が捕捉できなければなかなか当てられないのじゃないかしら。第六感のような直感で避けることもできるかも。インク弾が当たったとして、毒耐性で多少はなんとか……。
同行する皆とも協力して、上手く対処できるといいのだけど。
二之舞・椿切
「秘密のお茶会か。異国の小説のようで素敵だね」
ここで力を使い切るのは得策じゃ無い。無理に押し通ることはやめた方がいいだろう。
「紙に刃……なんて、安直すぎるかな」
【錬成カミヤドリ】で自身の刀を複製して攻撃するよ。
敵の攻撃は刀を構えてできる限り防げるといいね。切り払う事も出来れば最良かな。
防ぎきれないときは回避に徹するよ。敵の方向を見極めて屈むなり跳び躱すなりしてみよう。
辺りが散らかって進むには危険そうなら、倒した紙や本たちをまとめて掃除しておこうかな。
「足下には気をつけてね」
●
ふわふわりと図書通路を舞うシラ・クロア(夜を纏う黒羽のフェアリー・f05958)は、本棚に並ぶ背表紙を眺めながら、薔薇の香りに導かれ進む。
この通路に並ぶ本もまた興味をくすぐるものではあるが、それ以上に気になるものがあった。
「秘密の花園だなんて、確かに心惹かれるわね」
「それに、秘密のお茶会か。異国の小説のようで素敵だね」
同意を示した二之舞・椿切(ヤドリガミの咎人殺し・f10161)も後に続く。
切り捨てられた本の痕跡は所々に見受けられるが、どうにも並ぶ本棚から新しい魔書が生まれているようだった。戦わずに進むことは難しいだろう。
だが、ここで力を使い切るのは得策ではない。グリモア猟兵の説明にあった通り、今は前哨戦だ。
無理に押し通ることはせず、かつ、力は抑えて。
「紙に刃……なんて、安直すぎるかな」
椿切は手にした己が本体を錬成にて複製し構える。猟兵の姿を捕捉した書物がふわり、自身のページを引き抜いて刃と変えていた。
複製の本体と、ページの刃。しかしそのどちらもが鋭い切れ先を持ち、触れ合った瞬間に独特な高音を鳴らした。力の流れに逆らわず、しかし自らを傷つける事無く椿切は紙の刃を往なす。
「いざや邪なるを封じ浄めん、花の嵐」
その後ろ、シラの言葉に呼応して、嵐花がはらりと桜の涙を零した。一枚、また一枚と桜色の花弁へと解けていけば、視界を覆い遮るほどの桜吹雪が空間を占める。
書物を無碍に扱うのは気が咎めるのだけれど、とシラは溜息を吐く。しかし、眼前に広がる景色を見ては肩を竦めるしかなかった。
そこにあるのは、手に取って読めるような代物ではない。
「予行練習に丁度良いわね。散って」
秘密の花園に相応しい、花の得物で力の行き場を失った本を切り捨てる。
無数の花びらは刃にも盾にもなり得た。
飛び交うインク弾を螺旋を描くようにして弾き振り払う。桜の幕の向こう、白紙となった本へ椿切が接近し切り伏せるのが見えた。低い体勢で刀を鞘へ納め、一息ついて立ち上がる。
「足元には気を付けてね。……大丈夫だろうけれど」
「ええ、ありがとう」
立ち上がりざま、椿切が斬り捨てたページを端へと寄せれば、服の裾を摘まみシラが礼を述べた。ふわふわと浮くシラは、人当たりの良さそうな椿切にくすくすと笑いかける。 後に続く猟兵の事を考えれば不要な事ではない。まさか、倒した本で足を滑らせてたんこぶが出来たなんていう猟兵がいたら恰好がつかないだろう。
本の弾幕は薄くなっていく。本棚には茨の先端が絡みついている様が見受けられるようになっていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニコ・トレンタ
もう!本は苦手なのよ。
全員まとめて燃やしたい所よ。
【SPD】
まずはそっちの本から!
先に進みたいの。早く燃えてくれない?
手始めにガジェットショータイム!
変な形のガジェットだけど少なくとも君達より優秀よ。
2回攻撃に属性攻撃で敵の弱点を突いて行くわ。
サイボーグの足は疲れを知らないの。
確実に攻撃を撃ち込んで先に進む
本を盾にでも出来れば良いけど、我儘は言ってられないわね。
一本道なのが幸いよ。
進めば進むほど薔薇の香りが鼻につくわ…
●
「もう! 本は苦手なのよ」
バサバサと耳に届く紙が擦れる音にニコ・トレンタ(ニゴサンレイ・f05888)は眉をひそめた。
もういっそ、纏めて全部燃やしたいところである。が、本は本でもただの本ではない。空を閃き、ページを飛ばす異端の書物だ。
「まずはそっちの本から!」
無鉄砲に火を放ったところで躱されるのがオチである。ニコは適当な本に狙いをつけ、ガジェットを無から召喚する。ガシャン! と音を立てて設置されたそれは煙を吐いて、既に稼働準備完了状態であった。
「変な形のガジェットだけど、少なくとも君達より優秀よ?」
機械を操る能力に長けたニコにとって、どんな形のガジェットでも構わない。そう、欲しい機能がきちんと搭載されているのなら。
華奢にも見える身体で易々とガジェットを持ちあげたニコは、不敵に口の端を釣り上げた。
サイボーグの足は疲れを知らない。どれだけ撃って、焼いて、貫いて、廃棄処分にしたところでまだまだ余力はあった。
ぱちりと火が爆ぜる本を背に置き去りにして、ニコはヒールを鳴らし進んでいく。
「薔薇の香りが鼻につくわ……」
火薬のような焦げたにおいに混ざり、薔薇の匂いが漂ってくる。ふたつのにおいがまぜこぜになって何とも言えない香りになっていた。
一本道をニコは往く。迷いなく進むその足で塵と化した灰を踏み、薔薇の園を目指して。
成功
🔵🔵🔴
クレム・クラウベル
秘密の場所……ね。年頃にはさぞよく響く言葉だろう
それにしても、危うい場所は程々にしてほしいものだが
向こうが数で来るなら
攻撃が波になる前に手早くその数を減らすまで
【ジャッジメント・クルセイド】で的確に一体ずつ撃ち抜こう
書物も洋墨も乱雑に扱うのは趣味ではないが
そのものが暴れているのなら致し方ない
手荒なのはお互い様。勘弁願おうか
洋墨の海に溺れるのは物語の中だけで十分だ
あらかた打払ったなら先を急ごう
何事もないなら書物の道をのんびり楽しむも一興だろうが
本命はこの先
猟兵が遅刻とはいかないからな
●
「秘密の場所……ね」
その響きは甘く蕩けるチョコレートのように少女たちを魅了した。年頃にはさぞよく響く言葉だろうことはクレム・クラウベル(ヴェスペラ・f03413)にも分かる。
――分かる、が。ヤンチャも程ほどにすべきだという意見になるのは、自身にはあまり感化されない単語だからだろうか。
「さて」
飛び交う本の数は多い。多勢に無勢だ、波状攻撃となって不利に追い込まれる前に手早く処置すべきだろう。
緑の双眸で見据えた先、指先を真っ直ぐに伸ばし狙いを付ける。照準たる指先の前を過ぎる本は一瞬だ。秒にも満たないスピードだが、クレムには関係ない。
「手荒なのはお互い様。勘弁願おうか」
予測。捕捉。施行。
微動だにせぬクレムの前で、インクの弾の軌道が捻じ曲がる。
「洋墨の海に溺れるのは物語の中だけで十分だ」
閃くのは刹那。瞬刻の光が数々の敵を貫いた。
軽く塵を払い、クレムは歩を進める。目に入る背表紙には興味深いものもあるが、今はそうも言ってられない。
薫る薔薇の匂い。本棚に伸びる茨の蔦。
迷いアリスを狙った邪道の薔薇が待ち受けている。
「猟兵が遅刻とはいかないからな」
靴底を鳴らし、クレムは本の道を駆けていく。邪魔建てする書物は光に刑し、ただ愚直に前を目指した。出口はもう目前にある。
大成功
🔵🔵🔵
笹鳴・硝子
古月さん(f03237)と
お茶会も隠れ家も浪漫があって好きですよ
まあ、今回のは少々危なっかしい場所のようですが
秘密、って少女の頃には必要不可欠だと思うんですよね
【WIZ】
「――散れ」
踊り狂うページには、乱れ散る花でお相手しよう
こちらの方が『温室』らしいと思わないか?
露払いならぬ毒払いだ――ああ、鈴蘭も毒だったっけ。まあ気にしないで下さい
※毒耐性もあり、あまりインクを浴びることに頓着しません。真顔で淡々と。
深山路・古月
硝子さん(f01239)と一緒に
薔薇の園でお茶会ですか
風雅な事で良いと思いますよ
薔薇の木の下には秘密が眠ると申しますし、ね
【WIZ】
さて、猟兵としての初陣です
相手が書物の災魔なのならば、炎が有効でしょう
【フォックスファイア】に【破魔】のチカラを上乗せして、ページを焼き払いましょう
今はまだ十ほどしか飛ばせない狐火ですが、いくらか有効だといいのですが
インクというのが嫌らしいですね
僕の毛並みが汚れてしまうじゃないですか
この代償は高くつきますからね……?
●
「お茶会も隠れ家も、浪漫があって好きですよ」
古月さんはどうですか、と尋ねるのは笹鳴・硝子(帰り花・f01239)だ。底の見えない黒い眸は前に向けたまま、周囲を警戒して進む。
「薔薇の園でお茶会、ですか。風雅な事で良いと思いますよ」
その前に、と二人の目の前に立ちふさがるのは図鑑の様に分厚い書物だ。そうやすやすとお茶会への切符を手に持たせてはくれなさそうである。
「さて、――邪魔だな」
吐き捨てた古月は敵を見据える。本という事を前提として言えば、相性は良い方だろう。燃やせぬ紙はまず存在しない。
宙に揺れる狐火を複数生み出し、更に効果を付随させて発展させる。その隙を狙った書物は文字を浮かせて弾とした。
往なしきれぬインク弾が頬を、髪を、尾を、黒く醜く染め上げる。じわりと毒がしみ込んで、古月は眉を顰めた。
艶やかでいて甘い色の毛並みが穢れ、古月は次の弾を繰り出すべくページを捲る本をねめつける。
「この代償は高くつきますからね……?」
敵に対し、遠慮など必要ない。暗がりの通路にぼやりと浮かぶ狐火が、次なるインク弾を掻い潜って書物を焼き払った。火はそうやすやすと消えずに燃え広がっていく。
「――散れ」
その隣、インク弾をその身に浴びながらも、硝子は微動だにしない。毒耐性を持つ硝子にとっては、多少痛い程度のものでしかないのだ。
入れ違いに飛ばした鈴蘭の花びらは、その可憐さとは裏腹に本を切りつけ無数の屑へと姿を変えさせた。いびつな多角形と化した紙はじわりじわりと黒ずんでいく。
「露払いならぬ毒払いだ。――ああ、鈴蘭も毒だったっけ」
豪華な装丁をした魔導書が、今や日焼けしたボロボロの古書へと変わり果てる。毒に蝕まれもはや動かぬ雑紙と成った。
硝子はそれに目もくれず、既に次を見据えている。コンバットブーツの底で本を潰し、次へ進む踏み台とした。
「秘密、って。少女の頃には必要不可欠だと思うんですよね」
「薔薇の木の下には秘密が眠ると申しますし、ね」
もしかしたら、お茶会を開いた少女も、遅刻ながらも目指した少女も、そんな真実かも分からない言い伝えを信じているのかもしれない。
――それが嘘でも、構わないのだ。
誰かと秘密を共有して、ひそやかに語り合うその瞬間が少女たちの輝かしい思い出になる。そんな未来を守るために、二人は今ここにいる。
本の吹雪を抜けた先、二人は薔薇の薫るフロアへの入り口を見つけた。ここから先は、薔薇の女王が支配する空間となる。
「初陣、ですが……」
「大丈夫」
硝子は言い切る。
「大丈夫ですよ」
黒の双眸を古月へ向けては静かに頷き、足を踏み入れた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『迷宮温室の女王』
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POW : 百裂蔓撃
【髪のように見える無数の蔓】で対象を攻撃する。攻撃力、命中率、攻撃回数のどれを重視するか選べる。
SPD : 捕縛液噴射
【腹部の食人植物】から【刺激臭のする液体】を放ち、【空気に触れると凝固する性質】により対象の動きを一時的に封じる。
WIZ : 女王の花蜜
レベル×5体の、小型の戦闘用【昆虫型モンスター】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
👑17
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●
図書館のような通路を踏破した猟兵達を待ち受けていたのは、『温室』と呼ばれるフロアだった。
午前三時、数秒前。
リミット目前にして、猟兵達は軽やかに駆けおりてくる足音を耳にした。話に聞いていた女学生だろう。フリルのついた空色のスカートをふわり翻し、少女は慌てた様子で学園からの入り口をくぐる。
遅刻、遅刻、と。それはどこかの童話では白ウサギの言葉だっただろうか。シチュエーションは違えど、どことなく交錯した世界が広がっている。
いびつな物語は、このままではきっと茨の女王によって終焉を迎えることになるだろう。
うっそうと茂る植物の隙間を縫い、あるいは焼き払い、あるいは元々は通路であっただろう道に沿い、猟兵達は駆けだした。
シラ・クロア
少し待ってね、空色のアリス。
お茶会に飾るにはそぐわない――災いの花を見つけたから。
耳許で囁いて、少女を茨の女王から遠ざけたら、さあ始めましょう。
先刻、書物の魔物の相手をした【嵐花】をもう一度。花には花を……って言わないかしら。次々飛んでくる昆虫らしき魔物は全部、桜吹雪で叩き落としてあげるわ。あら、あなた達、簡単に消えてしまうのね。
女王から飛んでくる蔓やツンとする液体も、桜花弁を盾にして皆を守れたらいい。ただ、逆に皆の視界を遮ってしまわないように、全体の動きを見て調節するわ。突発的な事態には、第六感で対応。
あ……もし、さっき一緒に戦った二之舞さんがいたら、協力できたらいいのだけど。
ヘンペル・トリックボックス
ルイス・キャロルに倣うなら、さしずめ私の配役は帽子屋といったところでしょうか。とはいえ狂ったお茶会に少女を引き留める道理もなし、本日のお茶会は中止ですとでも【言いくるめ】て、アリスさんにはお帰り願うとしましょう。
戦闘では【目立たない】ように視界の隅を縫って接近、【だまし討ち】気味に杖で打ち掛かるふりをして、杖先から白いバラの花束を女王の目の前で咲かせて見せましょう。驚いていただけたようなら、UCの出番です。扱い的には実質散弾銃みたいなものなので、相手の巨躯に全弾命中するような位置でブラックボックスを開放します。
「───驚きましたね?」
二之舞・椿切
植物か……燃やすことが出来れば良いんだけど、あいにく僕にはそんな力ないからね。それは他の人にまかせよう。よろしくね。
腹部からの噴射には距離を取って行動することで回避しやすくなると良いね。斜め後方へ跳ぶような感じで回避するよ。
【錬成カミヤドリ】複製した処刑刀で敵を囲んで隙のある場所から切り払っていくね。腕や髪、昆虫たちも切り落とせたら敵の動きを鈍らせることが出来るかな。
アドリブ・絡み歓迎。ご自由に。
●
――少し待ってね、空色のアリス。
ふわりと舞ったシラは駆ける少女の傍へと降りる。神秘の歌声にも似た軽やかな音で囁けば、アリスの足が止まった。はっと振り返るアリスの視界、黒の妖精が恭しく微笑む。
「災いの、花……」
少女が呟き温室を見渡す。今までは綺麗な所だという認識だったそこが、今や忌々しい災魔の温床に見えた。
シラに倣ってスカートの裾を摘まみ、ぎこちなくお辞儀をしたアリスは踵を返す。しかし、足は途中で止まって不安そうに振り返った。
「ご心配なく。本日のお茶会は中止ですよ」
シラに続いて姿を見せたヘンペルがアリスに声をかける。ぱっと少女が明るい表情を見せたのは、きっとお茶会仲間を心配してのことだったからだろう。
ころころと表情を変えるアリスは最後、どうにも落ち込んだ様子に落ち着いた。毎日続いていたお茶会を、自分のせいでと責めているのだ。
「後ほど、私たちも招待されているの」
そんな少女の姿を見たシラが、親が子に言うかのように優しい口調で付け加える。
だから安心して、と言の葉に込めて声をかければ、ヘンペルもまた同意するように頷いた。
少女を見送り、シラとヘンペルの二人は予知の場所へと赴く。アリスが辿る筈だった薔薇の小道を進めば、それらしい螺旋階段が目についた。
「丁度良い所に。こちらだよ」
シラの姿を見つけた椿切が軽く手をあげる。予知の位置から多少のズレはあるが、恐らく猟兵達の気配を察知して擬態しようとしているのだろう。
だが、既に遅い。猟犬は放たれた後だ。
「さあ、始めましょう」
花には花を。似た響きの言葉があったような。
『ああ、ああ、やだやだ。活きが良すぎる餌は嫌いよ』
敵意を察知した茨の女王はもはや逃げられまいと悟ったか、その全貌を猟兵達の前へ晒した。
高さはフロアの天井にも届きそうな程だろうか。何の対策もなしに蔦に打たれれば相当なダメージになるだろう事は簡単に予測できるほど、その図体は巨大だった。人の言語を話すのは、書物を仮餌としていたからだろうか。
シラの放った桜の花弁は容易く女王を捉えたが、意に介した風ではない。小蠅を払うように緑の腕を振れば、フロア一体に翅が擦れる耳障りな音が響き渡った。ヴヴヴヴヴ、と
まるで猛獣の唸り声にも似ている。
あまり手応えを感じられぬまま手元へと嵐花を戻したシラは、召喚された昆虫型モンスターに狙いを変えた。
「あら、あなた達、簡単に消えてしまうのね」
次々と昆虫を打ち落とすシラは冷静だった。その視界にシルクハットの紳士を映したが故に、派手に立ち回っていたのだ。
蔦に覆われた床を駆け、ヘンペルは女王の膝下へと辿り着く。懐に入られて漸く、女王はその存在に気が付いた。
振りかぶられる杖を防ぐべく蔦の髪を手繰り寄せる女王を前に差し出されたのは――。
「どうぞ、こちらを」
白い薔薇。
赤く咲き誇る薔薇の多い温室において、異質にも捉えられる白は目立った。そしてなにより、こんなシーンで出された薔薇に、女王は怯む。
「――驚きましたね?」
それが、狙いだ。
ヘンペルは口の端を釣り上げ、ぱちりと指を鳴らす。召喚されたブラックボックスは異様な存在感を持っていた。
「パーティには、些か早いですが」
スリー。ツー。ワン。
早いカウントダウンが終われば、その大きさからは想像もつかない量の物理破壊力を持ったパーティグッズが放たれた。女王は蔦で顔を庇うが、鋭いナイフが胴を抉り、高い運動量を持った鉄球が手を押し潰す。
ポンと溢れた手品用の造花を片手に、ヘンペルは柔和な表情で微笑んだ。あくまでも、紳士的に。
だが、ただやられているだけの女王ではない。地響きにも似た轟音をあげ、反撃の狼煙をあげる。
ボコボコと奇怪な音が鳴る。女王の胴が激しく脈動し、口からゴポリと液体が零れた。鼻を刺すような臭いに椿切は眉間に皺を寄せる。
「下がった方が良い」
端的に警鐘を鳴らせば、二人は素直に従う。ヘンペルが跳ねた直後、食人花が液体を放った。
刺激臭が薔薇の香りに混じる。
弾丸のように放たれる液体の塊の隙間を縫って椿切が駆け出した。くの字に曲がりフェイントを駆け、時に重心を後ろにかけてバックステップへと切り替えて、自棄になっている女王を翻弄する。
異臭を放つ液体から距離を取るべく跳んだ椿切の眼前を桜の花びらが横切った。一枚、二枚、――そうして薄桃のカーテンが出来上がる。シラの嵐花だ。
好機。
シラのフォローを無駄にする理由はない。蹴った力を逆方向へと転換し、椿切は刀を操る。こちらもまた一本どころではない。錬成度の高まりにより操作可能数が増えた刀は二対十二本の凶器と化した。
床を蹴る。同時に念力により刀を繰り、女王の四方を囲むように円を描いた。
椿切のフォローに入った事により、無防備を晒したシラを狙う昆虫を斬り伏せる。他の猟兵へと放たれた蔦の髪を真っ二つに切断する。果てには、背を逸らした瞬間を狙って中心の食人花を切りつけた。
『ア"ア"アァアァアア
!!!!』
茨の女王が雄叫びをあげる。
『よくも、ヨクもよくモよくもオ!!!』
血走った眼が椿切を捉え、禍々しい赤の食人花がぶくりと不気味に膨らんだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リーゼ・レイトフレーズ
お茶会に誘われた少女アリス、か
まるで不思議の世界に迷い込んだみたいだ
とても惹かれる組み合わせだが放置はできまい
楽しみを邪魔して悪いがアリスにはお引き取り願おう
ここは君の望む世界ではないからね
アリスの避難が済んだならば女王の相手と行こうか
愛銃のSTARRY SKYを構えて火の精霊の力を注ぎ込む
2回攻撃、スナイパー、全力魔法技能で攻撃に最大限の補正を
相手が植物だというなら火の精霊の力を注いだ精霊弾は堪えるはずだ
まあ、爆炎による被害は考えないでおこう、うん
「終わりを告げる鐘の音の代わりだ。君にお茶会は上等過ぎるからな」
アドリブ、他参加者との絡みOK
レイブル・クライツァ
慌てないと、って此方まで釣られそうだけれども
アリスさんは敵の攻撃範囲に入らないよう、安全な所に誘導するわ。
突然でごめんなさい。大人数で驚かせてしまったかもしれないけれども、厄介な虫がいるみたいなのよ……とびきり危ないのがね。
だから此処から離れて欲しいのよ
戦闘の際はフォロー側の立ち回りで、敵の動作を注視。
敵の技に数を補う戦法が有るって事で、ダメージが気になるのよ。
あまり見た目に真似したい類では無いのだけれども、ミレナリオ・リフレクションで被害を抑えるべく相殺を図るわ。
度が過ぎれば駆除されるって事、教えてあげる。
匂いは強過ぎれば不快にしかならないものだから。
ふわりと判る位が嗜みってものよ。
●
気にかけていた少女が薔薇の園から遠ざかっていくのを見届け、レイブルは茨の女王へと向き直る。
すでに戦いは始まっており、激高する女王を前に猟兵達が縦横無尽に駆け回っていた。
「お茶会に誘われた少女アリス、か」
後方、リーゼ・レイトフレーズ(Existenz・f00755)が愛銃を手に臨む。
「秘密という言葉の響きは、少女には蜜よ」
アリスの身を案じた二人は彼女の胸中を労い、眼前の敵へと切り替える。危険がもうないのであれば、後は根っこを取り除くだけだ。
「度が過ぎれば駆除されるって事、教えてあげる」
金の双眸で女王のユーベルコードを見据えたレイブルは、蔦の動きに倣って腕を撓らせる。敵味方入り混じり響く羽音は不快の極みだが、我儘を言っている場合ではない。
減少よりも増加が勝っていた昆虫型モンスターをコピーし放つ。数十にも及ぶ羽虫は女王の召喚虫とぶつかり合って共食いした。
こちらの手数とレイブルの扱う虫。駆除に追われていた猟兵達のフォローに入れば、反撃に出る人数も増える。
徐々に均衡は崩れつつあった。ダメージが嵩むにつれて、女王の再召喚はおざなりになっていったのだ。対してレイブルは淡々とユーベルコードを放つ。
軍配が猟兵側にあがるのも、そう遠くない。
逐一虫を撃墜していたレイブルはやや範囲を広げ、味方の猟兵のフォローに入る。メインの攻撃手を任せる事で、より広い視野を持つことが出来た。
「おっと、助かる」
リーゼの狙いを塞ぐように群れたモンスターを、レイブルは似た虫を向かわせ相殺する事で塵と化した。一撃で砕け散る複製の対処は衝突させるだけで済むのだから容易い。
レイブルの補佐を得て、リーゼは後方を陣取る。遮る物はもう存在しなかった。
「終わりを告げる鐘の音の代わりだ。君にお茶会は上等過ぎるからな」
愛銃たる『STARRY SKY』の照準を合わせ、植物種と相性の良い火の精霊の力を注ぎ込む。身長をゆうに超える銃は精霊弾を込める為の特注だ。
赤熱したかのような銃弾には焔の種が籠っている。ひとたび着弾すれば、業炎が解き放たれる事だろう。
「それでは、幕引きといこうか」
鈍器で殴ったような音が響く。白煙を引いて秒速1000mにも近い速度で女王へと火の弾丸が到達した。
『ガッ、』
それは短い悲鳴。
続く雄叫びは膨張した炎に呑まれて消えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニコ・トレンタ
【SPD】
醜い顔。それに、薔薇の香りが濃すぎる。
さっさと片付けてしまいましょう。
美味しい物にも目がないの。
脳にインプットされた連続攻撃プログラムドジェノサイドを起動
更に2回攻撃を使って素早い攻撃を仕掛けるわ
その醜い目は私を捉える事が出来る?
女王様、こっちよ!
なんてね。本当はこっち!
隙を突いた騙し討ちで女王様を騙してやるわ
防御をする術はまだ身につけていないから女王様から目を離さない。
獲物は絶対に逃がさない。
隙の出来た味方がいれば注意も促しましょう。
そっち!気をつけて!
セリエルフィナ・メルフォワーゼ
【SPD】で対応するよ!
【クイックドロウ】で、とにかく【ブラスター】を連射連射連射!
熱線で火を起こして、女王を燃やし尽くすよ!
無粋なやり方なのは百も承知だけど、生憎ボクは西洋の古典ファンタジーより現代の少年漫画の方が好きなんでね!
あ、【捕縛液噴射】に関しては常に予備動作を見逃さないよう注意して、少しでも兆候が見られたらすかさず【ダッシュ】や【ジャンプ】、【スライディング】で躱してみせるよ!
●
炎が温室を満たす。たらりと汗を垂らす猟兵もいる中で、ニコは涼しい顔で女王を見据えていた。
『きサマ、貴様らア……!』
呻く女王を前に、ニコは溜息を吐く。火薬のにおいに焼けるにおい。それに交えて未だ存在を主張する薔薇の香りに胸やけしそうだ。
「醜い顔。それに、薔薇の香りが濃すぎる」
発生源はあの女王だろう。にしたって、賤しすぎる。早急に片付けて、後の楽しみを迎えたいものだ。
「女王様、こっちよ」
ニコは囁く。耳なんて見えないが音は捉えられるだろう。ぎょるんと白目が音の方へ向けられる。
が、ニコは既に駆け出していた。
巨体が故に、逆方向へと移動する事は難しい。しかし、ニコの脚力があれば容易く成し遂げられる。
そう、越えてしまうのだ。
軽々と女王の頭上を越え、フロアの天井に着地すれば重力加速度を載せて逆方向へと急下降する。足が軋む音を立てたが問題ない。
「――なんてね」
隙だらけの女王へ向けて、脳にインプットされた連続攻撃の初撃を放つ。躱されればそれは、自身の無防備を晒すだけの諸刃の剣だ。
成功率の低い賭けはしない。十全に対策したうえで、ニコは最適なガジェットを突き刺した。
プログラム、実行。エラーはない。
一撃、もう一撃、繰り返される攻撃は女王を打ち、着実にダメージを与えていた。切り裂いた蔦から異色の液体が吹き出で、切断された指先がボトリと地面に落ちて動きを止める。
「その醜い目は私を捉える事が出来る?」
超高速の連続攻撃が終了したところでニコは止まらない。使い捨てのガジェットを、深く深く女王へ突き立てた。
『アアアアアア
!!!!』
もはや女王はがむしゃらだ。手負いの獣ほど危ういというが、まさに現状がそうである。
「そっち! 気をつけて!」
ニコの警鐘を耳にして、セリエルフィナは地を這う蔦を蹴り上げる。即席の盾はセリエルフィナを狙った液体を防ぎ、異臭を放ったまま硬化した。
続く捕縛液の連打をセリエルフィナはダッシュで躱す。走りづらい足元でも、スカイダンサーたるセリエルフィナには関係ない。
高く跳ね、カーヴを描き、着地してはまた跳ねる。まるで踊るような動きは茨の女王を翻弄し捉えさせない。
くるりと回したブラスター手に、セリエルフィナは舞い踊りながら攻撃へ移る。ブレる照準を微調整して、女王の攻撃が止んだ瞬間を狙って減速する。
速度ゼロになった直後、ピタリと熱線銃の銃口が女王に向けられた。
「BANG!」
精度の増したブラスターが発射される。一発、なんて生ぬるい量じゃない。目を焼くレヴェルの熱線が輝き、空間を占めた。
女王の出方を待つなんていう事はしない。とにかく撃って撃って撃ちまくって熱線で全てを焼き尽くす勢いだ。
「無粋? ――生憎ボクは、西洋ファンタジーより少年漫画の方が好きなんでね!」
ど派手な技に、縦横無尽に駆け回るキャラクター。一撃必殺! なんていう響きに心惹かれる。まさに今、自身がその登場人物となって活躍する冒険譚を、その身で綴る。
焦げ臭いにおいを含んだ煙が晴れていき、未だ聳え立つ女王を見上げてセリエルフィナは苦笑した。まだまだ、出番は尽きないようだ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
クレム・クラウベル
白い薔薇を赤く塗って、……なんて話も、あの童話の中にはあったか
生憎この花はそんなものではなさそうだが
捕縛されるのも厄介だが、……それ以上に、あまり浴びたくない臭いだな
茶会に汚れた服で邪魔するのも無粋というもの
【絶望の福音】で見極め躱してしまおうか
当たりさえしなければ恐れるようなものではない
軌道見極め、その隙に十分集中時間を取れるなら【千里眼射ち】
なさそうなら【ジャッジメント・クルセイド】で命中を重視
手数を重ねて次へと繋げよう
咲いた場所が悪かったな
猟兵の目に止まったのがお前の運の尽きだろう
何より、物語は「めでたしめでたし」で終わるのが定石だ
その顛末、塗り替えさせてもらおうか
●
間違えて植えた白い薔薇。
白い薔薇を赤く塗って。
女王様好みの赤に、赤に。
「……生憎、この花に縁はなさそうだが」
脳裏をかすめたある童話の行く末をクレムは思い出していた。
今、トランプ兵の存在しない薔薇の園に迷い込んだアリスは、問答無用に女王の餌食になるだろう。染める色はアリスの血。
――なんて結末は、あってはならない。
白目を剥く女王はもはや、決死の力でそこにあった。せめて、せめて、群がる餌の一匹でも捕食できればと獲物を探す。
どろどろと粘質の液体を零す双眸が向けられた先、クレムはゾッと悪寒を得た。
来る。
弾丸のように放たれた液体を避けた後、刺激臭が辺りに漂う。続く連弾を待ってやるほど優しくはない。
駆け出した。着弾点を見極め、ルートを確定しクレムは進む。徐々に距離を詰めては攻撃の隙を伺った。焦る必要はない。既にダメージは嵩んでいる。
10秒先を読み続けるクレムは、弾けるような予感を得て急ブレーキをかけた。
今まで猟兵達の攻防を見て来た。女王の挙動は凡そ変わらず、予想するには容易い。そう、容易いのだ。
ここから、10秒。
弾幕が途切れる僅かな秒数の合間だが、それだけあればクレムには充分だった。指先を女王へと向け集中する。
十、九、八、……。
カウントダウンが進むにつれ、周りがスローに見えていく。吼える女王を見据えたクレムのカウントだけは正常に進み、ゼロを刻んだ。
「終焉への布陣だ。大人しくしてもらおうか」
放たれた一条の矢が、惑うことなく女王の腹を貫いた。
大成功
🔵🔵🔵
笹鳴・硝子
【引き続いて古月さん(f03237)と】
いよいよ女王様と謁見ですね
……お茶会にそぐわないですし、何より危ないので退去願いましょう
秘密のお茶会の為ですしょうがない
【SPD】
古月さんが女王を引き付けていてくれている間に【腹部の食人植物】から放たれる【刺激臭のする液体】の死角に回り込む
技能目立たない2、迷彩2の見せどころですね
気付かれる前に銃の射撃で食人植物部分を攻撃しつつ、高速詠唱1でサモニング・ガイスト
召喚した戦士に根に相当する部分を狙わせる
…あっ刺激臭のする液体が古月さんにかかってしまった
毛並みが痛んでしまうじゃないですか…ウェットティッシュありますけど使います?
深山路・古月
引き続き硝子さん(f01239)と
【SPD】
【妖剣解放】を行います
非常に体力を消耗しますが、出し惜しみもしていられません
大丈夫、妖狐の寿命は長いんです
妖刀の怨念を纏って殺気を放ち、女王の気をこちらへ少しでも向けます
高速移動ができるので易々と当たりはしないでしょうが、僕の役目はあくまで囮
素早い動きで翻弄しながら敵の隙を生む切っ掛けを作ります
頼みましたよ、硝子さん!
もちろん逃げ回るばかりでは格好悪いので、衝撃波と妖刀による攻撃で少しでもダメージを与えます
それにしても先程のインクと言いこの液体と言い
お茶会もいいですがお風呂に入りたくなりますね
うう、硝子さんウェットティッシュありがとうございます……
●
光の矢が女王を縫い付ける。
「女王様との謁見、ですが……」
残る蔦の髪を振り乱し、指の欠けた緑の手を駄々をこねるように振り下ろす女王を前に、硝子は僅か首を傾げる。
そこにあるのはもう、女王などとは形容しがたい何かだった。
硝子と古月は目を合わせる。見上げた硝子と見下ろす古月の間に言葉はない。互いに頷き合い、得物を構えた。
深呼吸。妖刀を構えた古月はゆるりと息を吐いて気持ちを落ち着かせる。怨念の残響は古月を内側から蝕むが、出し惜しみなどしていられない。
次の一撃で、決める。
そのサポートとなるべく、古月は妖刀の刀身をなぞり意識を寄せた。身体を許した瞬間、背筋を奔るのは言の葉の呪いだ。脳を揺さぶるような怨む言葉に顔を顰め、再び息を吐く。
「来い」
放たれた殺気は衝撃波の如く肌を撫で、古月の意図通りに女王の意識を捉えた。もはや満身創痍の女王がずろりと粘液の跡を残しながら身体を捻る。
『はア、アア、養分、ヨうぶンにしテ……』
先の切れた蔦が蠢き、女王の食人花が古月へと向けられた。人間を捕捉し喰らい、ダメージを回復するつもりなのだろう。
気を引けたのだと確信した古月は硝子へ目配せする。硝子もまた、攻撃態勢に入った。
妖刀を構えた古月は一歩を踏み出す。ト、と足が付いた途端、急加速して空へと跳ねた。
視界の端、硝子が走る。古月は硝子とは逆方向に走り、死角を作る手伝いとした。
「(頼みましたよ、硝子さん!)」
声には出さず、女王を見上げる。圧倒的な存在感に押し潰されてしまいそうだが、古月には任せられる相方がいた。その存在は、古月の背を押す。
緩急をつけ、時にフェイントをかけ、女王の意識を常に引きつける。慣れというのは余裕を生む。余裕というのは視野の広がりを生む。
囮というのは、難しいものだ。
本命がバレてしまっては無意味である。しかし、認識の内に本命がある限り、ふとした瞬間に考えてしまうのだ。
彼女は大丈夫だろうか、と。
息を呑み、その瞬間を待ち望む。蔦の攻撃を避けた先、何かを視覚で感知する前に臭いに気付いた。
咄嗟に腕で庇うが避けられない。刺激臭が鼻をつき、古月は素早く液体を払った。再び駆け出そうとするが、残った液体が徐々に凝固し動きを鈍らせる。
は、と見上げた先、――古月は勝利を確信した。
「さようなら」
淡々と述べた硝子が女王の花を貫いた。
ビクリと身体を跳ねさせた女王は仰け反りかえり、悲鳴をあげる。ややに浮いた根の部分をサモンされた戦士が炎で焼き切る。
段々に訪れる、急所を狙った銃弾と炎の弾幕に、ただただ女王は身体をうねらせ声にならない声をあげた。
尽きる。温室に広げた根はとうに焼かれ、刻まれ、養分を吸い上げるには使い物にならない。
果てる。咲いていた薔薇は急速に枯れ、あるいは燃え盛り、元の形を維持できない。
部屋を満たすほどに漂っていた薔薇の香りは今、徐々に薄まっていった。ボロボロと女王の身体が崩壊し土へ還る。
――否、骸の海へ還る。
後には、音を立てて爆ぜる炎と火薬のにおいだけが残った。災いは、もう存在しない。
「ウェットティッシュありますけど、使います?」
「うう、硝子さんありがとうございます……」
後処理をさっと済ませた猟兵達に紛れ、二人はそんなやりとりをしたのだとか。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 日常
『秘密のお茶会』
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POW : クッキーを貪る眠りネズミを演じる
SPD : お茶を振る舞う三月兎を演じる
WIZ : たおやかな振る舞いでアリスを演じる
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●
コンコン、と音を鳴らして猟兵達は螺旋階段を登っていく。
午前三時、十五分。
時間よりも前に訪れていた生徒達は皆避難していたが、一人、魔女帽子を目深に被った女生徒がスカートの裾を摘まみ出迎えた。
「感謝いたしますわ、皆様」
優雅にお辞儀をした女生徒は微笑みかける。
「このまま、楽しんでいかれますか?」
約束では午後三時の筈だったが、女学生は猟兵達を招き入れた。耳に届く微かな音はオルゴールの舞踏曲。
午前三時には少々時間は過ぎてしまったが、準備は既に出来ているようだった。伊達に毎日お茶会をしてはいないということか。
「午前三時、三十分。お眠りになられないようであれば、普段のお茶会にご招待いたします」
事が終息したのであれば、秘密のお茶会に訪れていた生徒達も再び訪れる事が出来る。
勿論、事を終えた直後ではろくな恰好にもなれないだろうことを考慮して、午後のお茶会も問題なく行われる。
どうやら、今日だけは秘密のお茶会を二度開いてくれるそう。
眠気があるのであれば、午後に備えて身支度を。
まだまだ余力があるのであれば、午前のお茶会を楽しんで。
「どちらも、歓迎いたしますわ。秘密の防人様」
微笑んだ女生徒は再び恭しくお辞儀した。どなた様でも歓迎しますと言い添えて。
ヘンペル・トリックボックス
衣服に汚れや乱れはありませんとも、えぇ。紳士ですから。しかしながら時刻はとうに深夜帯、規則正しい生活こそ紳士の基盤ですので、はい。おやすみなさいませ、明日の午後三時、本気のアフタヌーンティーをご覧にいれます。
と、いう訳で翌日、自前のティーセット一式をシルクハットから取り出して、皆様に振舞うとしましょう。内容はシンプルにアールグレイとスコーンで。言うことを聴かない影法師がちょっかいを出してくるとは思いますが、涼しい顔で無視。あとでシメると考えつつ無視。
基本的に堅苦しさは抜きで、若者と触れ合うおじいちゃんくらいの感覚でお茶会を楽しもうと思います。
シラ・クロア
せっかくご用意いただいたようだし、このまま午前三時三十分のお茶会にお邪魔しようかしら。
オルゴールに合わせてフルートを奏でたら――もしかしたら隠れている動物達が出て来て踊り出すかもしれないけれど。ふふ。
お茶もお菓子も少しずついただくわ。妖精サイズ分だけね。
さっきまでの喧噪が嘘のようだけれど、皆で戦っていたのは事実だし、それぞれ傷を負ったりもしているでしょうから、お茶会の片隅でそっと【ノクターン】を。まだ夜明け前、この時刻に似合いの穏やかな歌。
この場でご一緒できた皆と楽しい時間を過ごせたらいいわ。
夜はやがて明ける。懐中時計は動き出す。
またどこかで逢いましょう。――ごきげんよう。
笹鳴・硝子
【POW】午後のお茶会に古月さん(f03237)と
毒やらなにやら浴びたので、せっかくですしちょっと身綺麗に…
古月さんがジャケット着るそうなので、黒パンツにちょっとキレイめのトップス着ていきますねTPOですね
バラの形の角砂糖を持ち込み
私は眠りネズミ
そうつまりクッキーは私の物です
クッキー以外も美味しそうなのでご馳走になりますが
甘いお菓子もお茶も良い香りがして、なんだかとてもリラックスします
古月さんとこうしてお茶をいただくのはいつぶりでしょう
…リラックスすると眠くなりません?
大丈夫寝ませんよ?
寝ませんからティーポットに閉じ込めないで下さいね
深山路・古月
引き続き硝子さん(f01239)と
お言葉に甘えて午後にお邪魔します
戦闘で色々と汚れてしまったので、少し身支度を整える時間が欲しいので
【SPD】
僕は三月兎を演じましょう
ゴールデンルールでお茶を淹れて差し上げますよ
楽しいお茶会にしましょうね
ジャケットスタイルでお茶会へ
ドレスコードがあるかはわかりませんけど、それなりにキチンとした格好の方がいいでしょうから
尻尾もしっかりブラッシング済みです
手土産にバラを象った練りきりを持参しましたので召し上がってくださいな
硝子さんの砂糖菓子も美味しそうですね
そういえば、こうして硝子さんとのお茶は何年ぶりですかね
眠りネズミですし、うたたねしても良いですよ? なんてね
ベガ・メッザノッテ
アタシは午前のお茶会に参加させてもらうワ!
【SPD】
温室のお茶会なんて本当に懐かしいネ、学生の頃を思い出すワ〜!ここは先輩としテ、実践付きで美味しいお茶の入れ方やお茶と相性のいいお菓子を伝授するノ!差し入れのマドレーヌも食べてネ!
花言葉みたいにケーキやお菓子にも意味を持つものがあってネ、お茶会で教えてもらった時は恋バナも盛り上がったヨ〜!
午前のお茶会の片付けは任せテ!午後組のためにケーキスタンドのサプライズを仕掛けるヨ〜!夜更かしは美容にも良くないシ、ちゃんと歯磨きしてから午後に備えてオヤスミ!
●口調プレイングに合わせて下さい。他キャラとの絡み、アドリブ歓迎です。
セリエルフィナ・メルフォワーゼ
【WIZ】判定で行くね。
これでも一応上流階級の出だからね。
こういう場での礼儀作法は一通り弁えてるつもりだよ。
一通り挨拶が終わったら、開けた場所で【歌唱】しながらダンス【パフォーマンス】でも披露しようかな。
そのとき【鈴蘭の嵐】を使って、花びらを舞い散らせるよ。
あ、ただ鈴蘭には毒があるから、みんなボクから離れるようにしてね。
ボクも極力自分の近くだけに花びらを出すようにするから。
クレム・クラウベル
【SPD】
夜更かしは慣れている。このまま午前の茶会に参加を
報酬のための猟兵仕事と言うわけでもないが
用意されたものを断るも無粋。頂いていこう
普段飲むのは珈琲が多いが、偶には紅茶も良いものだな
茶葉や茶菓子には疎いので詳しいものの意見や勧めを参考に
鼻腔を擽る茶の香り、引き立てる菓子の甘み
月明かりが照らす魔法じみた景色に
溶け込むような女生徒や他の猟兵の姿もまた映える様で
心地よいオルゴールの音色も重なれば
さながら御伽噺の中、か
……守れた景色をこうして眺められるのも悪くないな
飲んだ紅茶と同じ茶葉と果物系の茶菓子があれば少し持ち帰らせて貰おう
……あれが食べるかは分からないが
余ったらその分、自分で楽しむだけだ
二之舞・椿切
そのままお茶会に参加させて貰おうかな。真っ黒な服で申し訳ないね。
お菓子はどんなものがあるんだろう?僕は和菓子が好きだけど、今日は異国のお菓子も食べられるのかな。楽しみだね。
踊りも出来るなら楽しみたいな。神楽舞は得意なんだけど他の踊りは踊ったことが無いから、もし良かったら教えて欲しいな。
災魔が多くて大変だろうけれど、この秘密のお茶会がずっと続いていくと良いね。戦いの中でもひとときの休息は大事だから。
アドリブ自由・絡み歓迎。一緒に戦った方たちと楽しめたら嬉しいです。
レイブル・クライツァ
装いを乱してしまっているから、仕切り直しで午後3時のお茶会の方を
宵さん(f05409)を誘って参加するわ
私はそうね、もしあるならマカロンかしら?
丸いフォルムで、色彩豊富に並べてあったりするのが目でも楽しめるの。
(座ってて、に)えっ、と
迷子は確かに、困るわね……
(ゆっくりと首を動かして、左右を確認)私、浮いていないかしら?
待つだけだと本当にお人形さんだわ。
宵さんが戻ってきたらホッとして、手伝いお疲れ様ねとありがとうをこめて。
庭を見渡す姿に、此処を守れて良かったと安堵しながら相槌を。
宵さんも、動いてる方が落ち着くタイプだったわね。ぎこちない笑顔にならないように、私のお菓子を勧めてみようかと思うわ。
ローズウェル・フィリンシア
まぁまぁ、素敵です!
三時には間に合いませんでしたが、折角準備してくださったのです。
私はこのまま参加させて頂きましょう。
目も耳も鼻も舌も、全てお茶会に支配されてしまいそうです。
人間の姿になれた事、改めて感謝しないとですね。
ここのおすすめは何でしょうか?
……いえ、この質問は愚問でしたね。全部美味しいに決まっているのですから!
お茶もクッキーも、気になるもの全部頂きます!
はっ、それでもお上品に、お上品に……!
全部を頂くには時間が足りないかもしれません。……ちょっと悲しいのです。
また機会があったら、お邪魔してもいいですか?
その時は、私もとっておきの紅茶を用意致します!
弦月・宵
レイブルおねーさん(f04529)と一緒に、昼間のお茶会にお呼ばれ。
慣れない所作は気づかれない程度に皆を真似る。
おねーさんは、お菓子どれにする?マカロンだね、覚えた。
オレは…ベリーの香りのビスケット。
生徒さんに全部してもらったら申し訳ないから、運ぶのは手伝ってくるよ。
おねーさんはお仕事して、この場所を守ったんだから遠慮なく座ってて。
じゃなきゃオレが迷子になるからね?
生徒さんにお菓子に合う紅茶を淹れてもらって感謝を伝えたら、おねーさんと一緒に楽しも。
席から庭を眺めて、お伽噺の中みたいだと話すよ。
オレ、場違いなんじゃ…なんてね。おねーさんてば、戦場じゃあんなに凛々しいのに。
大丈夫、ほら笑顔(にっ)
ツギハギ・ボックス
午前3時の茶会。魅力的な誘いやね、こっそりと参加させてもらお~
茶会から参加させてもらうからな、手土産の一つでも持って行くよ
そこらの店で見つけた骨型のクッキー
…人間の食えるやつやから、安心して!
こんな時間に食うっていうのがまた楽しいな~
本来の薔薇の香りはええもんやね
そいえば、アリスに兎に、ネズミ…あぁ、彼女が帽子屋か
素敵なお茶会ありがとな
楽しい楽しい茶会、バレないようにこれからも気を付けて開催してな!
学校かあ、おれも行けてたらそういう服着てたんかな
なんてちょっと学生に憧れたりして
他の奴ともてきとーに喋るのもええなぁ(アドリブ、他との絡み可)
●
午前三時、三十分。
庭に至るまでの道に置かれたベンチで休息の一時を過ごしていた猟兵達に、魔女帽子を深く被った女が近付いた。
「お待たせいたしましたわ。秘密のお茶会へ、ようこそ」
相も変わらず優雅にお辞儀をすれば、薔薇のアーチへと導いた。
●
「うふふ、お久し振りです。先輩」
魔女帽子を目深に被った女学生がたおやかにお辞儀する。その素顔をベガも見た事はないが、特徴的な姿には覚えがあった。
「私は初めまして、ですね!」
フリルのエプロンをつけた学生が声を聞きつけてベガの傍へと駆け寄った。スカートの裾を摘まみ、膝を曲げてお辞儀する。
その後も幾人かの学生に囲まれ、ベガは一人ひとり声をかけた。
「なんだか学生の頃を思い出すワ~!」
きゃっきゃと学園の話に花を咲かせる生徒達に囲まれ、ベガは昔へと思いを馳せる。確か、自分も学生の頃はこうだったっけ。
生徒達が持ち寄った自慢の品を見ては、実はね、とベガは語り掛ける。
桜は、優美な女性。赤い薔薇は、愛情。向日葵は、憧れ。
花は何かしらの意味を持つ。それは、ケーキやお菓子も同じなのだ。
実際にお茶を淹れ、それぞれに相性のいいお菓子を伝授しながら、ベガは余談も欠かさない。
「そうそウ、片付けはアタシに任せテ!」
にんまり悪戯っ子のように笑うベガに、学生達はきょとりと瞬く。午後にもあるお茶会に備えての準備もあるし、と断りを入れる学生の耳元へ口を寄せれば、企て事を共有した。
「まあ! すばらしいですわ!」
「夜更かしは美容にも良くないシ、後はドーンと先輩にお任せヨ!」
ぱちんとウインクをしてみれば、学生達は頬を赤らめて興奮した面持ちで頷いた。流石、頼りになる先輩である。
終わった暁には、午後組へ向けてとびきりのサプライズを仕掛けるのだ。
整った薔薇の園に、白いテーブルとイス。どれもがおとぎ話の登場人物のように、雰囲気を形作るのに一役買っていた。ポンポンと聞こえてくる軽快な音が、気付けば複数重なりアンサンブルとなった。
「まぁまぁ、素敵です!」
慎まやかに薫る薔薇の香りは先ほどの女王と打って変わって上品だ。
ここのおすすめは――そこまで言って、はっとローズウェルは口を指先で隠す。秘密のお茶会に相応しい品をと集めたものなのだから、全部が全部美味しいに決まってる。
ううーと唸った末、ローズウェルは決断した。
「お茶もクッキーも、気になるもの全部頂きます!」
給仕の学生は一瞬きょとんとしたが、次の瞬間には瞳を輝かせて任せてくださいと張り切った。
その結果が、これである。
アールグレイやダージリンといったメジャーどころから、この日のために用意したオリジナルブレンドも揃い踏み。ティーカップも勿論、自慢の一品だ。
区切りのついた広い皿には、それぞれに合うクッキーが載せられていた。即席で作ったのであろう、トランプ模様のカードが紅茶とクッキーでペアになるように置いてある。
五感全てで感じて、ローズウェルは想う。物のままでは分からない事。人になって初めて知った事。こうして知見が広がる度、人間の姿になれた事を嬉しく思うのだ。
一度きりの秘密のお茶会。
そんな響きも素敵だけれど、もう一度と願ってしまう事は悪だろうか? そわそわと落ち着きなく様子を窺うローズウェルの手前、魔女帽子の女学生がふうわり笑う。
「また、お待ちしていますわ。とびきりの、紅茶と共に」
「――はい! 私も、とっておきの紅茶を用意いたします!」
「――その時は、おれも呼んでくれるやろか?」
「わあっ!」
ひょこりと顔を見せたツギハギ・ボックス(薄氷輪・f09743)にローズウェルは驚きの声を出した。ご一緒にいいやろか、とツギハギが声をかければローズウェルは快諾する。
午前三時の秘密のお茶会。
魅力的な響きに誘われ着いたのは薔薇の園。
お疲れさまの意を込めて、骨型のクッキーを持ち寄れば給仕の学生に手渡していた。タイミング良く、フリルのエプロンをした学生がどうぞと二人に運んでくる。
「人間の食えるやつやから、安心して!」
ツギハギは揶揄うように笑いかけ、一口先に頬張った。毒見――と言いつつ、自分もまた食べたかっただけなのは内緒の話。
それでは、とお辞儀をした魔女帽子の学生を見送り、ツギハギは妙に得心した。
翻る空色のスカートはアリス。テーブルやイスの意匠、給仕のエプロンには白ウサギ。訪れる学生や猟兵達はさながらクッキーを齧る眠りネズミか。そして、彼女が帽子屋。
ふんふん、と紅茶を楽しみながらお茶会の景色を楽しんで。
「学校、かあ……」
ぽつりと呟いたのは、簡易キッチンの傍で楽し気に話す給仕の学生の姿が見えたから。似たような恰好をしてるのはきっと制服なのだろう。
憧憬の色が出てしまうのも仕方のないこと。こくりと紅茶と共に呑みこんで、ぷは、と息を吐いた。
今この場にいる時だけは、学園の生徒みたいにいられるやろか。
給仕の学生へと声をかけながら、ひそりとツギハギはそうあれることを願った。
明るすぎず、暗すぎず。差し込む月明りは斜めに傾き、陽の明るさが滲み出てくる頃合いだ。
ご注文は。
勧めのものを。
そんな短いやりとりの後、クレムの前にはスカーレットの紅茶が届けられた。この色味が特徴的なんですよ、と得意げに給仕の学生が語る。その口調はなんだか、自慢のおもちゃを見せて誇らしげにする子供のようで微笑ましい。
陶器のソーサーには兎とアリスの装飾がなされ、ポットには時計とお茶会の風景が描かれていた。
光の在処を明らかにしない薔薇の園に、違和感なく溶け込む女学生や猟兵達の姿。上品なオルゴールの音が癒しの空間を作り上げる。
さながら、おとぎ話の世界に迷い込んだようだ。
一口サイズのスコーンを口に放り、蕩けるマーマレードの味に舌鼓を打つ。紅茶を含めば、また少し違う味が広がった。喧嘩することなく、互いを引き立て合う。
自らの手で守った、幸せの景色。秘密の味。
視界の端を見た覚えのある空色のスカートがよぎっていく。災いに呑まれる筈だったアリスは、今も友の隣で笑っていた。
「悪くないな」
バッドエンドは笑顔の傍に似合わない。胸糞悪い結末なんぞより、誰もが幸せに満ちた未来を迎える方が良い。
手土産に調達した茶菓子を指先で転がし、仄かに甘い紅茶の香りを楽しむ。土産を受け取るか否かは気紛れだろうが構わない。残ったその時は、再び茶会を開けばいい。
耳に届く静かなオルゴールの音を聞きながら、その中に咲く楽し気な笑い声を聞きながら、穏やかな夜明けを過ごす。
薔薇の苑を満たすオルゴールの音が一周。
そうしてまたもう一周、ピンが櫛歯を弾いた瞬間、軽やかで伸びやかなフルートの音が添えられた。
入りの音は静かに。オルゴールの拍子に合わせてリズムを取り、互いに邪魔せぬまま絡みあって二重奏となる。
一度聞いたオルゴールが奏でる曲に、シラはそうっと彩を足す。機械仕掛けの琴にシラの抑揚のあるフルートの響きが交じり合ってより豊かなメロディラインを描いた。
息継ぎに口を離せば、シラは顔を見せた茶色の子に気が付いた。ふうわりと高度を下げて、爪先を地面へと触れさせる。
音に招かれた動物たちと舞い奏でながら、シラは仄かに明るいお茶会を楽しんで。
駆ける図書室、薔薇薫る温室で共に歩んだ姿を見かければ、ご一緒にとお誘いを。
椿切は招待に与り一歩を踏み出す。篠笛の代わりにフルートを。装束の代わりに洋装を。神楽舞は踊れども、舞踏となるとまた別だ。ぎこちない動きになるのはご愛敬。
「難しいなあ」
「ふふ、上出来よ?」
慣れない踊りに翻弄される椿切の姿を見守って、シラはくすくす笑いかけた。こうするのよ、とお手本を示すようにくるりと舞う。
足元ではどこからか訪れた動物たちが楽し気に音を奏で、あるいはリズムを刻み、小さなダンスパーティを開いていた。
シラはフェアリーに合わせたサイズのティーカップとケーキを傍らに、時折ダンスを踊ってみせる。お菓子を欲しがった子供にはダメよ、と優しく注意して、代わりにシラは癒しの歌声を届けた。
踊りを止めた椿切もまた腰を掛け、林檎のマフィンを口にしてはシラの歌声に耳を傾ける。広がる林檎の風味は絶品で、和菓子を好んで食べる椿切でも容易に完食してしまえる。
異国のお菓子と紅茶をたっぷり味わって、椿切はほうと溜息を吐いた。溜まっていた疲労が少しずつ抜けていくようだ。
暖かな紅茶に甘く蕩けるお茶菓子。秘密を囁く女学生達の楽し気な声が時折届く。
「この秘密のお茶会が、ずっと続いていくと良いね」
「ええ、私もそう思うわ」
月明りが照らす、穏やかな夜。深々と降る雪を窓の外に見やり、暖炉の前で明日を想う。
もうじき夜明けがやってくる。シラの綴るノクターンに相応しく、穏やかな朝が訪れる。
チクタク急かす時計の音は止まらない。永久に続く午前三時のお茶会は訪れない。
「――ごきげんよう」
また、どこかで。
一期一会の言葉も良いけれど、いつかまた、同じ道標の袂で出会える事を願って。
●
チクタク、チクタク。
午後二時、五十分。
普段は静かな庭園に、オルゴールの音がぽんと響いた。それは少しずつ勢いを増して重奏となる。
ぱたぱたと懐中時計を片手に薔薇のアーチをくぐった女学生が顔をあげれば。
「わあ……!」
サプライズにとベガが仕掛けたケーキスタンドが各席に用意されていた。
●
紳士たるもの、規則正しい生活は当然のこと。衣服に汚れや乱れはなくとも、万全を期することこそ最良であり、午後三時に訪れることに迷いはなかった。
足を踏み入れた花園は午前に見た時よりも各テーブルが華やかになっている。これはこれは、と驚くヘンペルは感心した様子だ。
ワン、ツー、スリー、でシルクハットをくるりと回せば自前のティーセットがあれよあれよという間にテーブルの上に並ぶ。
ゴールデンルールに従いティーセットを温めるヘンペルの後ろ、月明りが作る薄い影から影法師が現れ腰を折る。姿形はヘンペルそっくりだ。突然の来客――と言っていいのかは定かではないが、影法師にヘンペルの手元を見ていた学生達は驚愕に目を瞠る。
「おや、これは失敬」
ヘンペルは笑顔で対応するが、その目はどこか厳しいような。あれは気にせず、と言いながらも口の端が僅か痙攣しているようにも見えた。
「いかがかな。私のお勧めの品でしてね」
「とてもおいしいです!」
給仕、もとい普段は自分で紅茶とお菓子を用意する学生達は、やれどこで買ったやら、やれ手順を教えてほしいやら、ヘンペルは途端に人気者だ。
「私も淹れてみます!」
「では、お手並み拝見といきましょう」
ふんふんと張り切る学生を目を細めて眺める様は、どこか先生と生徒のような、おじいちゃんと孫ような姿を彷彿とさせた。
ほんの少し高さを持て余しふらふらと足を揺らす弦月・宵(マヨイゴ・f05409)は隣の席を盗み見る。お茶会に相応しい所作の知識に乏しいからには、少しでも真似てそれっぽく。正面に座るレイブルもまた、なんとなく落ち着きがないように見えた。
「おねーさんは、お菓子どれにする?」
「私はそうね、もしあるならマカロンかしら?」
言葉を交わす事で緊張の糸も緩んだか、尋ねに来た学生に欲しいものを伝えた宵はあっと声を出した。
運ぶのを手伝ってくるよ、と宵が席を立つとレイブルもややに腰を浮かす。それを制したのは宵だ。迷子になるからねと冗談めかして言われて言い淀んでいる間にさっさと宵は学生の後を追う。
「迷子は確かに、困るわね……」
ぽつりと呟くが、返ってくる応えはない。宵は今しがた席を立った直後である。
ゆっくりと首を動かし、レイブルは隣の様子を窺ってみる。二人組がちらほら見受けられ、そわそわとまた落ち着きがなくなってくる。
「待つだけだと、本当にお人形さんだわ」
「そうかな?」
声に驚いてレイブルが振り返れば、宵の人懐こい顔が見えて胸を撫でおろした。人見知りだと宵は言うが、レイブルの前ではただの少女に見える。
再び背の高い椅子に腰を下ろした宵は、スカートの裾を摘まんでお辞儀し去っていく学生を見送って早速ティーカップを手に取った。
「おとぎ話の中みたいだ」
オルゴールが奏でる慎まやかな音を聞きながら、薔薇の香りと紅茶の香りを楽しんで午後を過ごす。
お茶会、なんてしようと思わないと経験出来ないものだろう。
同じ金色の瞳に薔薇や女学生の楽し気な姿を映す宵を前に、レイブルはようやく安堵した。失われる筈だったこの場所での一時を護れたのだと実感できた。
「宵さん」
これ、と差し出すのは水色のマカロンだ。宵が運んできたマカロンはパステルカラー出様々種類が揃っており、中にはハート形のものも存在した。
その中から、とっておきのひとつを宵へと選ぶ。アラザンの花が咲くマカロンだ。
「ありがと。――ほら、笑顔!」
にっとお手本を見せるように笑う宵を前に、レイブルはやや硬い笑顔を返す。それを見た宵がもうちょっととイマイチな点数を付けて笑えば、ふっとレイブルも自然と笑みを零した。
秘密の花園に咲いた花をそのまま零したような、薔薇の形の角砂糖に練りきり。
持ち寄った薔薇の二品も彩に添えて、硝子と古月はウサギ意匠の席に着く。ふわりと揺れた古月の尾はもうすっかり綺麗になっていた。
他の猟兵へと給仕が向かっている間は手持無沙汰だが、午後はケーキスタンドに予めとりどりのお茶菓子が用意されていた。
戦場を駆けたミリタリー風のジャケットは、一転、お茶会の雰囲気に合わせたトップスに変わっている。硝子は給仕を待つ間、スタンドのスコーンを袂に寄せ独り占め。
そんな硝子の様子をくすくすと見守りながら、古月は駆け寄る給仕に紅茶の種類を訪ねる。色々ありますよ、と提示された紅茶の中からひとつを選び、紅茶セットを頼んだ。
今日の古月は三月兎。スタンドのスイーツに目移りしている眠りネズミの硝子へお茶を振る舞う。
整えられた格好で作法に則る古月を見ていれば、英国へと迷い込んだかと思わせる雰囲気があった。薔薇の花咲く庭園で、お嬢様が執事を伴いアフタヌーンティーに興じている――そんな感じだ。
しかし、主役は一人ではない。
「どうぞ」
おいしいですよと硝子がクッキーを差し出せば、蒸らす準備を終えた古月が瞬いた。
「ふふ、ありがとうございます」
垂れる髪を手で掬い、クッキーを食む。
しっかりと蒸らせた紅茶と華やかな多種のお菓子をお供に、二人は話に花を咲かせる。
「古月さんとこうしてお茶をいただくのはいつぶりでしょう」
話の区切りにふと思った硝子はぽそりと呟いた。二人だけの空間なれば、その声は古月にも届く。
「そういえば、こうして硝子さんとのお茶は何年ぶりですかね」
昔を懐かしむには充分すぎる時間だ。紅茶の香りに包まれ、静かな時が過ぎていく。
ふあ、と硝子が欠伸を零した。
「……リラックスすると、眠くなりません?」
それを見つけた古月に気が付けば、言い訳のように言い募って。
「眠りネズミですし、うたたねしても良いですよ?」
なんて、と古月が冗談めいて揶揄えば。
「大丈夫寝ませんよ?」
少し眠たげに落ちた瞼を、ほんの僅か閉じてみせ。
「……寝ませんから、ティーポットに閉じ込めないでくださいね」
そんな冗談の応酬もあったとか。
魔女帽子の女学生がそっとオルゴールのシリンダーを指で止めた。傍に置いてあった箱に丁寧に入れ、壊れてしまう前に指を離す。ぽんぽんと奏でる音は、箱の中に閉じ込められた。
無音が空間を占める。
突然訪れた無音に、何事かと学生や猟兵達がざわつく前に、セリエルフィナは肺いっぱいに息を吸った。
「――……There's nothing.」
入りは静かな曲を選ぶ。オルゴールからの変化で驚かせないように、それでも、今から変わるのだと訴えるように。
アカペラを披露し、短い節が終わる頃、セリエルフィナは水を掬うように揃えた手のひらを前へ掲げた。勿論、中には何も入っていない。
歌詞を綴り終わったセリエルフィナはそこへふうと息を吹きかけ、空へと送り出した。
――瞬間、花びらが舞う。
宙から白い花弁が舞い降り、その数は徐々に増え、鈴蘭の嵐がセリエルフィナの周りに吹き荒ぶ。一面真っ白に染まり、セリエルフィナの姿が見えなくなる頃、ぱっと一部が散らされた。
鈴蘭のカーテンを裂いて出たセリエルフィナはアップテンポの曲を歌う。それに合わせてタップを踏み、持ち味の軽快さで踏み込めば空高く跳ねた。
一連のパフォーマンスに来客は釘付けだ。全てが終わる頃、拍手の海が薔薇の園を満たす事だろう。
チクタク、チクタク、時計は進む。
明日も、明後日も、変わらぬ時を刻み、少女達は秘密を共有して成長していくのだろう。
大成功
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