サムライエンパイアのとある地方にその藩はある。
北に山や森を背負い、南には海をのぞむ。
東は宿場や村が点在し、西は現在開拓中である。
その藩の名は……犬神藩と呼ばれていた。
●花咲村のまっしろさま
春――それはサムライエンパイアが桃色に染まる季節。
ここ、犬神藩にある八重川村でも桜の花が見頃を迎えようとしている。
この八重川村は藩内でも有数の桜の名所として知られる場所で、なかでも村の名前にもなっている八重川が桜の花びらで埋め尽くされる光景――花筏はまさに絶景だ。
桜が咲くと八重川沿いでは連日花見を楽しむ人々で賑わいを見せるが、この村には古くからの一つの習わしがある。
――花見の席には甘酒を注いだ杯と、金平糖を乗せた豆皿を用意すること。
これは、いつも村を守ってくれる『まっしろさま』への感謝の品。
花見を楽しんでいると、いつの間にかこの甘酒と金平糖がなくなっているという。
それは、まっしろさまも花見を楽しんでいる証拠だと村人たちは信じていた。
残念ながら、まっしろさまの姿を見た者はいない。だが、八重川村の人々にそんなことは関係ない。
まっしろさまのために宴の席をきちんと用意して花を愛でる。
それが、『花咲村』の異名をもつ、ここ八重川村の春の風物詩なのであった。
●
グリモアベースに集まった猟兵たちの前に姿を現したのはおかっぱ髪の少女であった。
櫛笥・桜と名乗った少女は丁寧に頭を下げるとゆっくりと話を始める。
「皆様、もうお花見には行かれましたでしょうか」
桜は手にした扇をゆるりと開くと困ったような表情を浮かべ、その場へ集う猟兵たちの顔を見回した。
「実は、サムライエンパイアにある犬神藩の八重川村という場所が物の怪の群れによって大災害に見舞われるようなのですわ。ですが……わたくしの力不足ゆえか詳細については把握することがかないませんでしたの」
とはいえ、物の怪はまだ本格的に集結していないことはわかったとのこと。よって、現地にいけば何らかの情報が得られるのではないかと桜は皆に告げた。
そこで、と桜は口元にほんのりと笑みを携えて言葉を紡ぐ。
「八重川村ではちょうど桜が見頃を迎えておりますわ。もしよろしければ、皆様も桜を愛でに行かれてはいかがでしょうか」
八重川村では村のあちこちに桜が植えられており、その桜が今まさに満開を迎えているというのだ。
薄桃色に染まった村の至る所に花見の席が設けられているが、中でも一番人気だというのが八重川沿いの桜並木だという。
川縁の桜の花を風が散らせば、川面が薄桃色に染まる『花筏』と呼ばれるその景色はまさに絶景。
花見の季節限定で川縁には甘味処が出店を出しているのいうので甘味と一緒に桜を楽しむのも良さそうだ。
ここで花見のついでに物の怪に関する情報収集をして欲しいというのが桜からの要請のようだ。
そういえばと桜は思い出したことがあったのか、悪戯めいた笑みと共に猟兵たちに向かって口を開く。
「八重川村で花見を楽しむ際には『まっしろさま』に甘酒と金平糖を振る舞う習わしがあるとか。皆様もご興味がおありでしたらお裾分けをしてさしあげてもよろしいのではないでしょうか」
――まっしろさま?
聞きなれない言葉に顔を見合わせる猟兵たちだったが、桜も詳細は分かりかねるようで首を傾げた。
「わたくしも詳しいことは存じておりませんが、八重川村の守り神として村の人々に愛されている存在だとか。姿を見た者はいないといいますが、村人ならば誰でも知っておりますので花見のついでに聞いてみてもよろしいかと。きっと喜んで知っていることを教えてくれますわ」
それでは皆様、ご準備はよろしいでしょうか。
桜の手の中でグリモアが光輝き転送の準備が始まることを示す。
向かう先はサムライエンパイア。
春に彩られた美しい村を護るために――。
春風わかな
はじめまして、またはこんにちは。春風わかなと申します。
オープニングをご覧いただきありがとうございます。
●シナリオの流れ
第1章ではお花見を楽しみながら物の怪に関する情報を集めてください。
情報収集はせず、お花見を楽しむだけでも問題ありません。
POW/SPD/WIZの行動・判定例は気にしないで大丈夫です。
オープニングに限らず、ご自由に満開の桜を愛でてくださいませ。
●第2章、第3章について
各章開始時に詳細を追加します。
プレイングの受付開始日時等の情報追加がある場合もありますので、プレイングの送付は詳細追加をお待ちくださいますようお願いいたします。
(受付日時の記載がない場合は、詳細追加後すぐにプレイング受付を開始致します)
●八重川村
犬神藩にある桜が美しいと評判の村。
特に村を流れる八重川沿いの桜とその花びらが散った時に出来る花筏が絶景とのこと。
●まっしろさま
八重川村の守り神として人々に愛されている存在。
甘酒と金平糖が対好物。
姿を見た者はいないというが果たして……?
●共同プレイングについて
お友達や旅団仲間との合わせプレイング(共同プレイング)は大歓迎です。
その際は、ご一緒される方のID(3人以上で参加される場合はグループ名も可)と呼び方を記載ください。
共同プレイングは失効日が同じになるように送信していただけると大変助かりますが、無理のない範囲で構いません。
以上、皆さまのご参加を心よりお待ちしております。
第1章 日常
『桜色に染まる春の宴』
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POW : 桜咲く街を散策
SPD : 飲食などの出店を巡る
WIZ : 自ら余興や出し物を行う
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荒・烏鵠
お花見!イイねェ、季節行事は必ず参加する派のオレだぜ!シナトもこーゆーの好きだよなァ?
(肩の子狐がきゅうと鳴く)
ああ、キレイだなァ。まっしろさまとやら、なかなかイイ思いしてンじゃねーか。マ、郷に入っては郷に従え、ローマではローマ人に習え。オレらも甘酒と金平糖を振る舞ったろーじゃねーの。
つーわけで持ち前のコミュ力を生かして、優しそーなじっさまばーさまに声をかけましょーか。
すいまっせーん、まっしろさまオキニな甘酒とか知りません?ついでにいろいろお話聞かせてもらえちゃったりしませんかね?なんなら別嬪さんに変化してお酌とかしますよー?
祭りは楽しまにゃ損だかンな。なー、シナト?
(肩の子狐がきゅうと鳴く)
うららかな春の陽射しが八重川村に降り注ぐ。
普段はのんびりとしたのどかなこの村も、一年の中でこの春の季節だけは多くの人々が行き交い、通りも店もどこか慌ただしい雰囲気を纏っていた。
――だが、この賑わいこそが花見の醍醐味といえよう。
自称『季節行事は必ず参加する派』の荒・烏鵠は肩に乗せた子狐のシナトと共に桜色に包まれた村を楽しそうに歩く。
「お花見! イイねェ、シナトもこーゆーの好きだよなァ?」
烏鵠に話しかけられ『きゅう』と嬉しそうにシナトも答えた。
そんなシナトの首元を優しく撫でる烏鵠だったが、眼前に広がる薄桃色の花を揺らす風に思わず足をとめ、眩しそうに目を細める。
「――ああ、キレイだなァ」
思わず烏鵠の口からポロリと漏れた呟きに、肩の上のシナトもふさふさした尻尾をゆっくりと揺らした。
「まっしろさまとやら、なかなかイイ思いしてンじゃねーか」
『郷に入っては郷に従え、ローマではローマ人に習え』とは昔から言ったものだ。ここは烏鵠もまっしろさまに甘酒と金平糖を振る舞ってやるべきか――。
さっそく、烏鵠はキョロキョロと辺りを見回すと、近くで花見を楽しんでいる老人たち目を付け、にこやかな笑みを浮かべて近づいて行った。
「すいまっせーん、まっしろさまオキニな甘酒とか知りません?」
「おや、お兄さん。見かけぬ顔だが、花見に来たのかね?」
人好きのする笑顔を浮かべて気さくに話かける烏鵠に老人たちは親切にあれやこれやと教えてくれる。
曰く、まっしろさまが一番好きな甘酒は村の中央にある『花善』の甘酒だとか、金平糖は粒が小さい方が好みだとか。
「そういや、なーンか最近気になる話とか、あッたりしません?」
何もなければそれでいいが念のため。
しれっと尋ねる烏鵠に杯を傾けていた老人の一人が「そういえば」と口を開いた。
「うちの曾孫がこの前『まっしろさまを見た!』とか言っておったのぅ」
「それ、うちの孫も言っておったぞ」
口々に「うちも」「うちも」と話す老人たち。
酒も入っているせいか彼らはどうせ夢でも見たのだろうと深く考えずに笑い飛ばすが、烏鵠には何かがひっかかった。
(「この人たちの孫やら曾孫ッてなると……子供だよなァ」)
色々と考えを巡らせている様子は微塵も感じさせず、烏鵠はニコニコと笑みを浮かべて酒の入った徳利を掲げてみせる。
「もう少しお話聞かせてもらえちゃったりしませんかね? なんなら別嬪さんに変化してお酌とかしますよー?」
「おお、お兄さんは面白いのぅ。よいよい、共に呑もうぞ」
――やはり祭は楽しんでこそ。
老人たちと杯を傾けながら桜を見上げる烏鵠の頭の上でシナトが楽しそうに『きゅう!』と鳴いた。
大成功
🔵🔵🔵
月舘・夜彦
村の店や食事場所といった人が集まる所を回り、物の怪の情報を集めましょう
技能の情報収集より最近周囲で異変を感じたり、物音がする等
世間話を交えて些細な事でも構わず聞いてみます
敵は群れで来るとなれば、何処かに潜んでいる可能性もありますからね
それから店で金平糖を買っておきましょう
守り神として崇拝されているまっしろさま、私も知りとうございます
姿は見えなくとも、親しまれている方なのですからね
流石は花咲村との異名を持つだけに桜が美しい村です
情報を集めている間にも見かける満開の桜は見事なものです
この平穏な地を守る為にも、万全に準備をしておかねばなりませんね
――すっかり春の装いに包まれた村は、どこか浮足立っているようだ。
物の怪の情報を集めようと村を歩く月舘・夜彦の目にも可愛らしい薄桃色の花々が飛び込んでくる。立ち止まり桜の木々を見上げる夜彦の頬を優しい春の風が桜の花を纏ってそっと撫でて行った。
どこへ向かおうかと考える夜彦だったが、特に多くの人が集まっている店に気が付き足を向ける。
そこは甘味の店だろうか。看板を見ると『花善』とあった。ちょうど店の入口では甘酒と金平糖が売られていたので夜彦もまっしろさまにと購入する。
大勢の客で賑わう店の脇には長椅子が設えてあり、甘味を手に村の娘たちが満開の桜を愛でつつ他愛もない話に興じていた。ふっと視線を向ければ、そんな彼らの皿の横にも、小さな杯と金平糖が盛られた豆皿がちょこんと置いてある。
(「やはり、まっしろさまは村の皆に親しまれている方なのですね」)
その様子が嬉しくて、無意識のうちに夜彦の口元にも笑みが浮かんだ。
「お楽しみのところ、ちょっとよろしいでしょうか」
娘たちから何か聞けないかと丁寧な口調で話しかける夜彦に彼女たちのテンションが一気にあがる。
「まぁっ! 天下自在符をお持ちなの? 猟兵様ねっ!」
「猟兵様もお花見にいらしたの?」
「立たせたままだなんて失礼だわ! どうぞ座ってくださいな」
夜彦に口を挟む隙を与えぬまま、娘たちは喋り続けた。
「猟兵様、もうこの村の桜はご覧になって?」
「あら、この店に来たということは甘味がお好きなのじゃない?」
「猟兵様、お団子とあんみつ、どちらがよろしいですか? お茶もありますよ」
姦しい娘たちを前に、夜彦は苦笑まじりにお茶を受け取りすっと口元に運ぶ。
その仕草がまた凛々しいと娘たちはキャーキャー騒ぐが、乙女心が理解できない夜彦は心の中で首を傾げるばかりだ。
だが、娘たちが少し静かになった機会を逃さず、夜彦はゆっくりと話を切り出す。
「つかぬことをお伺いしますが、最近、周囲で異変を感じたことはありませんか?」
思いがけない夜彦の言葉にきょとんとして互いに顔を見合わす娘たち。
「例えば……不審な人影を見たとか、妖しい物音を聞いたとか」
暫し考え込む娘たちだったが、一人が遠慮がちに口を開いた。
「私ではなくて、弟なのですが……村外れの無人の屋敷で白い影を見たと……」
「白い影ですか……」
「弟は『まっしろさまがいた!』と言い張っていますが……」
怪しい話に考え込む夜彦そっちのけで、娘たちは再び夢中になって話し出す。
「でも、村外れのお屋敷って、お化け屋敷のことでしょ? あのボロボロの家」
「お隣の千代ちゃんが鳥の鳴き声を聞いたの、あのお化け屋敷じゃなかったかしら」
「ほらー、やっぱりまっしろさまじゃなくて野鳥なんじゃないの?」
「鳥といえば、そういえばね……」
小鳥の囀りのように賑やかに話す娘たちを夜彦は微笑ましそうに見つめた。
彼女たちを、幸せな村の日常を必ず護る――。
心に誓う夜彦を励ますように、柔らかな心地良い風がふわりと桜の木々を揺らしていた。
大成功
🔵🔵🔵
荒谷・つかさ
【ワイルドハント】
桜の名所と言えばサムライエンパイア。
これは、他の世界には譲ってあげられないわね。
(出身世界故の贔屓)
まずは食料調達がてら、出店の人に話を聞いて回ろうかしら。
できるなら、お供えしなかったらどうなるのか的なあれそれを。
お供えの甘酒に金平糖と……あっ、ニコリネのお団子美味しそう。
おじさん、私にもこの三倍頂ける?
(実は:すごく大食い)
集合したらいい感じの所に陣取って、お花見開始よ。
いい景色に、美味しいお団子。
やめられないし、止まらないわ……
甘酒と金平糖も美味しいし。最高ね。
……えっ嘘。甘酒と金平糖、もう無いの?
(無意識にお供えの分まで食い尽くした感)
えっと、どうしよう。ごめんなさい?
白斑・物九郎
【ワイルドハント】
この村が百鬼夜行に蹂躙されるだァ?
にわかにゃ信じられませんわな
出店で甘酒&金平糖のセットを盃と豆皿コミで購入がてら、まっしろさまがどんな来歴のアレなのか訊き込みまさ(情報収集)
折を見て同道面子と合流
花見がてら飲み食い
ニコリネのねーさんの持ち込みを摘まみつつ、お初の顔・帷のねーさんに挨拶
応とも、俺めのコトは猟団長と呼べ
ところで甘酒&金平糖のまっしろさま献上セットが「いつの間にか消える瞬間」があるまいか、それを察知すべくして【野生の勘】フル稼働
……!
消えた?
ガチで居るんスか「まっしろさま」?(振り向く)
って荒谷のねーさん何フツーに喰ってるんですよ!?
調査の為の撒き餌っスよソレ!!
ニコリネ・ユーリカ
【ワイルドハント】
なんて綺麗!
花屋の商魂が疼いちゃうけど、これはこの世界のこの場所で観るからこその美しさ。
花車には思い出をいっぱい積んで帰りましょ。
川縁を散策してお花見を愉しんだら、「花より団子」も外せないわよねぇ。
お店でお団子を買って、お弁当持ってきました食べましょう!
はい、猟団長あーん。
はい、つかささんあー……箸を挟む隙がない。
ええ、この侵略っぷりがワイルドハントなの帳さん。素敵でしょ?
村の守り手、まっしろさま。
村の人は姿が見えなくても感謝を捧げているのね。
見えないものは私も好き。
大切なものは目に見えないって言うものね、ねぇつかささん……
まぁいつの間に! これ、まっしろさま怒らないかしら?
枢囹院・帷
【ワイルドハント】
ほう、これが桜。
ダークセイヴァーではこんな温かな色を見る機会に乏しいから、
私も皆に倣って存分に観桜を愉しもう。
川縁を散策しながら敷物を広げる場所を探すんだな、ニコリネ。
まっしろさま。土着の神の様なものか?
これ程の色彩に包まれているというのに「まっしろ」とは可笑しな。
姿は見えないそうだが、出現する兆が無いか、花見がてら周囲の色の変化を見ていようか。
見て……つかさはよく食べるな。胃にグリモアでも入っているのか。
成る程、その猟団の長が白斑と。無愛想な様で「あーん」で食べるとはな。
好物が無くなったら、扨て、その白いのは怒るかな。
邪悪の群れに襲われるという村を守ってくれるか、愉しみだ。
「まぁ……! なんて綺麗!」
満開の花をつけて重たげに枝を揺らす桜に視線を向け、ニコリネ・ユーリカは嬉しそうに空を仰いだ。青い空に薄桃色の花が映え、眺めているだけでも心が躍る。
そんなニコリネの傍らでは、初めて桜を目にした枢囹院・帷が感嘆の声を漏らした。
「ほう、これが桜」
「桜の名所と言えばサムライエンパイア。これは、他の世界には譲ってあげられないわね」
桜は春の風物詩。荒谷・つかさが嬉しそうにエヘンと大きく胸を張る。生まれ育った世界故の贔屓もあるかもしれないが、つかさにとって一番の桜は、やはりサムライエンパイアの桜なのだ。
「花屋の商魂が疼いちゃうけど、これはこの世界のこの場所で観るからこその美しさよね」
この美しい桜を持って帰って店に並べることが出来たら……なんて思わず浮かんでしまった考えを捨てるべく、ニコリネは自らに言い聞かせるように言葉を口にのせる。
「だから、花車には思い出をいっぱい積んで帰りましょ」
ニコリネの言葉にもちろん帷も異論はない。
「ダークセイヴァーではこんな温かな色を見る機会に乏しいから、今日は私も皆に倣って存分に観桜を愉しもうと思う」
春の彩に包まれたサムライエンパイアでの素晴らしい想い出を持ち帰るために。
――さぁ、何から始めようか?
川縁の桜を楽しみながら、帷たち3人は花見に最適な場所を探す。
「ええと……敷物を広げる場所を探すんだな、ニコリネ」
「そうよ。あの辺りなんてどうかしら。ちょうど場所が空いてるわ」
ニコリネが指差したのは川縁の開けた場所で、他にも花見客がいる中でぽっかりと空いた場所だった。花見を楽しんでいた者がちょうど帰ったところだったのだろうか。ぽかぽかと陽射しもあたり、桜もよく見えて花見には最適だ。
「敷物をひいて、場所をとるための荷物も置いてっと。いい感じの場所がとれたね」
指差し確認をしながらつかさは満足そうに辺りを見回す。
「それじゃ次は食料調達がてら、出店に行ってみよう」
「そうね、お団子を買って、持ってきたお弁当を食べましょう!」
ニコリネが言った『お弁当』という言葉につかさはピクっと反応を示した。一行は嬉しそうなつかさを先頭にしてさっそく先程川縁を歩いていた時に見つけた出店へと向かう。
目にするもの全てが新鮮と言っても過言ではない様子の帷は、出店に並んでいる甘味を物珍しそうに端から端までじっくりと眺め、「やはり」と頷きながら口を開いた。
「お供え用の甘酒や金平糖も売っているんだな」
帷が手にとったのは、まっしろさまに供えるための甘酒と金平糖を併せて少量ずつ売っているもの。花見目当てで他所から来た者もこの村の風習を聞いてお供えをするのだろう。まっしろさま用の杯や豆皿も売っている。
「お供えの甘酒に金平糖くださいな」
つかさは店主に声をかけつつ、ついでを装いまっしろさまについて気になっていたことを尋ねてみた。
「……これ、もしもまっしろさまにお供えしなかったら、どうなるのかご存じですか?」
つかさの質問に店主は意外そうに目を丸くするも、訝しむこともなく素直に答える。
「まっしろさまが来ないだけさ。ただ……その時は村では必ず災いが起きる」
「災い?」
物騒な言葉に気遣わし気な表情を浮かべるつかさに店主は気づかぬ様子で昔の記憶を辿っていた。
「ああ……確か、じいさまの子供の時分にまっしろさまが来なかったことがあったとかで。その時は稀にみる飢饉で大変だったと嘆いてたなぁ」
以来、村人たちはまっしろさまへのお供えを欠かすことはないのだという。
「不思議なもので、まっしろさまにお供えをすれば、この村だけは災害もないし戦にも巻き込まれない。1年間を無事に過ごした感謝の気持ちを込めてまたお供えをするだろう? するとそのお供えを食べにまっしろさまが来てくれるから、俺らはまた1年無事に過ごすことができるのさ」
店主の話を聞き、そんな形でこの風習は続いていたのかとつかさも得心する。
一方、つかさが店主に聞き込みをしている間、ニコリネは四季折々の花の絵が描かれた豆皿をあれこれ手に取り嬉しそうに眺めていた。
「あら、このお皿、桜の模様が描いてあって可愛いわ。こっちは朝顔ね!」
そんなニコリネの様子に帷が首を傾げながら声をかける。
「ニコリネ、団子を買いに来たのではなかったのか?」
「いけない、いろんな花の絵があったから、つい夢中になってしまったわ」
ニコリネはふふっと微笑み、肩をすくめると仲間たちと一緒に食べられるようにと団子を手にとった。
「……あっ、ニコリネのお団子美味しそう」
店主との話を終えたつかさが早速ニコリネの団子に目をつける。
「おじさん、私にもこの三倍……そうね、そこにある分、全部頂ける?」
「……お嬢ちゃん、本気かい?」
つかさの胃袋の大きさを知らない店主はその発言に驚きを隠すこともせず、言われるがままに団子を包むのだった。
時間は少し前へと遡る。
花見客で賑わいを見せる村を歩きながら白斑・物九郎は独り言ちた。
「この村が百鬼夜行に蹂躙されるだァ? にわかにゃ信じられませんわな」
物九郎がそう思うのも無理はない。花見に賑わう村はとても平和で、物の怪の気配などは微塵も感じられないのだ。
「……まずはまっしろさまについて聞いてみまさ」
物九郎は人だかりの出来ている出店へと歩いていき、お供え用の甘酒と金平糖を買う。もちろん、まっしろさまのための杯と豆皿を買うことも忘れない。
「ところで……まっしろさまというのはどういう神様で?」
村の守り神とは聞いているが、来歴とか、そのあたりを尋ねたいと物九郎は店番をしている翁に話かけた。
「まっしろさまは昔っからこの村を守ってくれてたわけじゃのうてな。最初は悪戯ばっかりする困った神様だったそうじゃ」
翁の話を要約すると、当初は悪戯をして村人を困らせていたまっしろさまだったが、ある日、腹が空いて一歩も動けなくなっていたところを親切な村人が哀れに思い甘酒と金平糖をやったところ改心し、以後村の守り神となったという言い伝えがあるとのことだ。
「へぇ、それじゃ腹ペコなまっしろさまは姿が見えるのか」
「そうじゃのぅ、まっしろさまの姿は白くてふわふわしておるとか」
翁が手を広げてみせた大きさは10㎝~15㎝くらいだろうか。まっしろさまは小さい神様のようだ。
――やはり、ここはお供えをしてまっしろさまに会ってみたい。
物九郎は礼を言って店を後にすると、仲間たちと合流すべく川縁に向かって歩き出した。
同道面子がどこで待っているかなんて全く聞いていなかった物九郎だが、野生の勘にだけは自信のある男。桜を愛でつつ川縁を歩けばすぐに仲間たちの姿が目に入る。
「猟団長、こっちよー!」
物九郎に気づいたニコリネが手を振って呼んで合流を果たせば早速4人は花見を始めることにした。
ニコリネが持ってきた弁当と、先程かった団子をつまみながら川面に揺れる桜を眺める。
「はい、猟団長あーん」
ニコリネが物九郎の口元に卵焼きを運べば、物九郎は表情一つ変えることなくパクリと頬張った。
その一部始終を見守っていた帷が静かに口を開く。
「……成る程、その猟団の長が白斑と」
「応とも、俺めのコトは猟団長と呼べ」
帷はふっと表情を和らげると意外そうな声で呟いた。
「無愛想な様で『あーん』で食べるとはな」
そのギャップがなかなかに興味深いと頷く帷の隣では、黙々とつかさがお団子を食べている。
どこを見ても桜が広がっている素晴らしい景色に、美味しいお団子。
やめられないし、止まらない。甘酒と金平糖も美味しいし。
今のつかさの気分を表すには、『最高』以外の言葉が見つからない。
「はい、つかささんあー……」
つかさにも「あーん」しようとおかずを差し出すニコリネだったが、流れるように団子と金平糖を摘まむつかさを相手に、残念ながら箸を挟む隙がない。
「……つかさはよく食べるな。胃にグリモアでも入っているのか」
思わず感嘆の声をあげる帳にニコリネはにっこりと微笑んだ。
「ええ、この侵略っぷりがワイルドハントなの帳さん。素敵でしょ?」
貴女もこの人たちが大好きになってくれたらとても嬉しいわ――。
花見をしながら、つかさと物九郎は先程聞いたまっしろさまに関する話を仲間たちに共有する。
「まっしろさまか。土着の神の様なものか?」
首を傾げる帷に物九郎はまっしろさまへのお供えを準備しながら曖昧に頷いた。
「そういえば、どこから来たのかは言ってなかったっスね」
「これ程の美しい色彩に包まれているというのに『まっしろ』とは可笑しいな」
帷は周りの桜を眺めながら、フッと口元に笑みを浮かべる。
「村の守り手、まっしろさまかぁ。村の人は姿が見えなくても感謝を捧げているのね」
ニコリネもぐるりと周囲に視線を向ければ、そこかしこの花見客たち皆がまっしろさまへのお供えを置いている。
「まっしろさまはみんなに愛されているのね」
ポリポリと金平糖を食べながらつかさもしみじみと頷いた。気が付けば、彼女がお供えようにと買った金平糖の残りはもう僅かだ。
「ところで、白斑……いや、猟団長は何をしているんだ?」
怪訝そうな眼差しを向ける帷が見つめているのはまっしろさま献上セットが『いつの間にか消える瞬間』を見ようと全神経を集中させている物九郎の姿だった。
物九郎は決してお供えの方を見ようとはせず、だが何か気配を察した時にはすぐに動けるように全ての意識をお供えに向けている。
そんな物九郎の様子を見て、帷もまた、まっしろさまの出現する兆しがないか、花見がてら周囲の色の変化を見ようと目を凝らした。
のどかな光景にニコリネは嬉しそうに目を細め、花びらで埋め尽くされた桃色の川面をうっとりと眺めながら何気なく口を開く。
「見えないものは私も好きよ。大切なものは目に見えないって言うものね、ねぇつかささん……」
――ニコリネがつかさに話しかけた、その時だった。
「……!?」
突然、物九郎がバッと振り返ったかと思うと一瞬の隙をついて空になった豆皿を手にして茫然と立ち尽くす。
「消えた? ガチで居るんスか『まっしろさま』!?」
慌ててキョロキョロと周囲を見回す物九郎だったが、つかさを見てへなへなと腰を下ろした。
「……って荒谷のねーさん何フツーに喰ってるんですよ!?」
「えっ……?」
――ポリポリ、ポリポリ。
つかさが金平糖を齧る音だけが辺りに響き渡る。
「調査の為の撒き餌っスよソレ!!」
あー! と頭を掻きむしりたい気持ちを抑え、地団駄を踏む物九郎。
どうやら、つかさが無意識にお供えの分まで食べつくしてしまったようだ。
「まぁいつの間に! ちっとも気づかなかったわ。でも、これ、まっしろさま怒らないかしら?」
心配そうに頬に手を添えて呟くニコリネを見て、事の次第に気づいたつかさも焦りだす。
「嘘!? 甘酒と金平糖、もう無いの?」
どうしようどうしようとおろおろしながらつかさは申し訳なさそうに頭を下げた。
「えっと……ごめんなさい?」
だが、焦るつかさとは対照的に、これは興味深いと帷は呟きを漏らす。
「好物が無くなったら、扨て、その白いのは怒るかな」
まっしろさまは元来悪戯好きだというから、何か悪戯をしでかすかもしれない。
(「邪悪の群れに襲われるという村を守ってくれるか、愉しみだ」)
果たして、まっしろさまはどうするのか――。
まだ見ぬまっしろさまへの期待を募らせ、帷は僅かに口元を緩ませるのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
蔵館・傾籠
桜の見頃とはまた良い…って言っちゃあ不謹慎か。真面目に務めるぜ。
まっしろさま、ってのは白くて甘いもんが好きなのだろうかな?
出店を回って甘酒と金平糖の入手としようか。
あっちから来てくれるのか、誘き寄せるのかは未だ分からんが手数は多い方が良いだろう。
甘いばかりは得意じゃ無くてなあ…、塩気のもんが置いてあるならそれも欲しい所だ。酒もな。
折角なら花見も兼ねて、程よく酔った人間が居たならば観光の振りだか介抱の振りで話し掛けようか。聞かせてくれそうなら、まっしろさまの話を聞いてもみたいな。
酒が足りないってなら注いでやろうさ。甘酒の方は後で使うかも知れないからな、普通の酒の方で勘弁願うぜ。
空を仰げば、雲一つない蒼い空にほんのりと薄桃色の花が静かに揺れる。
「桜の見頃とは、また良い……」
実に運の良い季節に来れたモノだと蔵館・傾籠は思わず本音を漏らすが、不謹慎だったかと慌てて口をつぐんだ。
だが、桜を愛でる人々は未だ異変には気づいていないようで、満開の花に包まれた村を心から楽しんでいるように見える。
「まっしろさま、ってのは白くて甘いもんが好きなのだろうかな?」
『まっしろさま』という名前からして白いんだろうと傾籠は想像を巡らせ、さっそく出店へと向かって歩き出した。
『花善』と看板を下げた甘味の出店で甘酒と金平糖を手に入れた傾籠だったが、他に店は出ていないかとキョロキョロと周囲を見回す。残念ながら甘いものは得意と言い難い傾籠は甘味よりも塩気のもんが欲しいところ。もちろん、酒も忘れない。
そんな傾籠の目についたのは、里芋やこんにゃくを焼いたものに味噌が塗られた串だった。田楽みたいなものだなと傾籠は串を齧りながら独り言ちる。もちろん、酒もあるというので迷うことなくいただく。
無事に酒とツマミが手に入ったら次にやるべきことは、――花見だ。
傾籠は川縁を彩る満開の桜を眺めながら話を聞かせてくれそうな村人たちを探す。
と、花見に興じている男たちが傾籠に声をかけてきた。
「兄ちゃん、いいもの持ってるなぁ。よかったら一緒に一杯どうだい?」
頬を赤く染めた村人に誘われるがままに傾籠も男たちの輪に加わる。
「花見に来たのかい? 今年は例年よりも見頃が早かったからね。いい時期に来たな」
男たちに勧められるままに杯をあける傾籠だったが、その呑みっぷりの良さに男たちも上機嫌。
「そういや、皆もまっしろさまの話は信じているのか?」
男たちと酒を酌み交わしながら、傾籠はまっしろさまの話を振ってみた。すると、男たちは当然だとばかりに一様に頷く。
「そりゃそうさ。俺らの村の守り神だからなぁ。ほら、そこに甘酒と金平糖が置いてあるだろう?」
なるほど、男が指差す先には小さなぐい呑みと豆皿にのった金平糖がある。
だが、男たちは浮かない様子ではぁっと溜息をついた。
どうしたのかと傾籠が尋ねれば、黙り込んでいた男の一人が心配そうにぽつりぽつりと語りだす。
「今年はなぁ……まだ一度もまっしろさまが来てねぇんだ」
「ふぅん? それは珍しいのか?」
「あぁ、今までそんなことは一度も聞いたことはねぇな」
これも一種の村の異変といえようか。
(「――もしかして、まっしろさまが来ない理由は物の怪が原因か?」)
傾籠は胸騒ぎを覚えつつ、何事もない様子で手にした杯の酒をぐっと飲み干した。
「なーに、まっしろさまも今年はちょっとのんびりしてるんだろ」
気にするなと傾籠は落ち込む男たちを励ますように買っておいた甘酒と金平糖もまっしろさまにと供えてやる。
「俺の分も置いておくぜ。たくさんお供えがあれば、まっしろさまもそのうち来てくれるさ」
大成功
🔵🔵🔵
鳳仙寺・夜昂
花見か……
ちゃんとはしたことないけど、せっかくだしな。
出店で甘いもん買い物してから眺めに行くか。
団子と……あと、金平糖一掴み。
ここじゃ『まっしろさま』に金平糖お裾分けするもんなんだろ?
でもなんで『まっしろさま』って呼ばれてるんだろ。白いのか?
物の怪のことと併せて、出店の店番に聞いてみてもいいかもな。
金平糖お供えして、団子は自分で食いつつ川縁へ。
……はー……なるほどな……みんな毎年見たがる訳だ。
木に咲いてるやつ見るのが花見だと思ってたけど、
川いっぱいに流れてるのも乙、ってやつだな、きっと。
綺麗だな、桜。
知らず知らず頬も綻ぶ。
※絡み・アドリブ歓迎です!
真幌・縫
この前は梅の花でお花見をしたんだけど今回は桜の花だね♪
梅もとっても可愛くて綺麗な花だったけど桜もとっても素敵だな〜。
まっしろさまってどんな感じなのかな?
名前はちょっと可愛いと思う。
会えないけれど会ってみたいなぁ。
(金平糖と甘酒を置く)
とりあえず【楽器演奏】で人を集めてみようかな。(ギターのような民族楽器を演奏)
【おびき寄せ】とはちょっと違うけど人が集まってくれると嬉しいな。
人が来てくれたらまっしろさまのことを聞きつつ最近の物の怪のことも聞いてみよう。
あっ、金平糖と甘酒なくなってる!?
アドリブ連携歓迎です♪
メリー・メメリ
まっしろさま!お花見!
かかさまがお肉たくさんもって行きなさいってたくさんくれた!
一緒におはなみをしたらいろんな事を聞けないかなー?
みんな、お花見しよう!
そこの鳥さん、そこのねこねこ!
みーんなでお花見!
だれかいたらおいでおいで!ってするよ
お花見をしながらどうぶつのお友だちにまっしろさまについてききたいなー
まっしろさまって知ってる?
まっしろさまってどんなまっしろ?
お肉は好きかなあ?
お肉はまだまだあるよ!
おともだちもいっぱいおいで!
みんなみんなお花見を楽しもう!
アルノルト・ブルーメ
甘酒と……金平糖を感謝の品として献上するんだったね?
流石に行きずりの者も居るだろうから
手に入れる手段はありそうかな?
花見を楽しむ人に声を掛けて
甘酒と金平糖を売っている出店がないか聞いてみようか
ついでに、最近村で何か異変がないか聞いてみよう
些細なことでも『いつもと違う』と感じることがあれば
話して貰えると良いのだけれどね
無事に甘酒と金平糖を手に入れたら
献上して花見を楽しもう
なるほど、見事な花筏だ……
エンパイアの時代だから、の美しさはある気がするね
この花見団子、もちもちで甘すぎずに美味しかったから
桜も一緒にどうだろう?
素敵な物を見せて貰ったお礼に一つどうかな?
補足
桜に対しては在りし日の娘を重ねる感覚
今日まで生きてきた22年間。鳳仙寺・夜昂にちゃんと花見などした記憶はない。
だが、ここに来たのも何かの縁。
「……せっかくだしな」
出店で甘いもん買い物してから眺めに行くかと夜昂は近くの出店へと足を向けた。
花見の共にと団子を買いつつ、夜昂は金平糖にも手を伸ばす。
この金平糖はまっしろさまへのお供え物だが……。と、ここでふっと夜昂の頭に疑問が浮かんだ。
(「でもなんで『まっしろさま』って呼ばれてるんだろ?」)
『名は体を表す』というから、やはり白いのだろうか。
これもついでだと夜昂は傍にいた店番の男に疑問をぶつけてみると、予想通りの返事が返ってきた。
「白いって言っても、まっしろさまを見た者はいねえんだよな?」
「ま、所謂言い伝えってやつですよ」
深くは考えていない様子で答える店番に、夜昂はふぅんと相槌を打つ。
「守り神ってやつは物の怪とはまた違うんだよな」
どうやって物の怪の話も切り出そうかと考えていたこともあり、何気なく呟いた夜昂の言葉に思いがけず店番が反応した。
「物の怪といえば……村外れに古い大きな屋敷があるんですがね。そこで白い影を見たんですよ」
「何…!? あんたが?」
店番のとんでもない告白に思わず夜昂も身を乗り出す。店番は夜昂が興味を持ってくれたと知り嬉しそうに話し出した。
「動きが素早かったので一瞬でしたがね。ちゃんとこの目で見ましたよ。子供たちはまっしろさまだって言ってるみたいだけど、あれは絶対に物の怪ですよ。いやぁ、捕まえてやりたかったな……」
話が終わる気配のない店番にくるりと背を向け、夜昂は挨拶代わりに片手をあげてさっさと用事の済んだ店を後にするのだった。
「甘酒と……金平糖を感謝の品としてまっしろさまに献上するんだったね?」
アルノルト・ブルーメはどこでお供えの品を手に入れようかと通りを見回してじっと目を凝らす。
村人以外の花見客もまっしろさまにお供えをするというからどこでも手に入りそうだとは思っていたが、むしろ色々な店がありすぎて困ってしまう。
どこで買ってもいいが、折角ならば村人に聞いてみようかとアルノルトは花見を楽しんでいた若い親子連れに声をかけた。
「まっしろさまにお供えするための甘酒と金平糖は、どの店で買えばいいのかな?」
アルノルトを花見客だと思った母親は川縁の出店の場所を教えてくれる。
親切に教えてくれたことに礼を述べつつ、ついでにとアルノルトはもう一つの知りたかったことも尋ねてみることにした。
「そういえば、最近村で何か変わったことがあったりしないかな」
「変わったこと……ですか?」
何かあるかと記憶を辿る母親に、アルノルトは言葉を重ねる。
「些細なことで構わないんだ。何か、『いつもと違う』と感じることがあれば教えて貰えないだろうか」
アルノルトの言葉に母親は心当たりがあるようで、小さな声で呟きを漏らした。
「お化け屋敷……」
「お化け屋敷?」
怪訝そうな顔で問い返すアルノルトに母親がコクリと頷くと話し出す。
「村の外れに子供たちがお化け屋敷と呼んでいる古びた家があるのですが、最近、そこへ遊びに行く子供たちが多いんです」
でも、いくら尋ねても理由を教えてくれなくて――。
溜息をつく母親の背後では、黒髪を2つ結びにした10歳前後の少女がニヤニヤとアルノルトの方を見ている。
「なるほど……ちょっと、失礼」
アルノルトは少女を手招きすると、母親には聞こえないようにそっと耳元で囁いた。
「ねぇ――なんでお化け屋敷に行くんだい?」
「えへへ、秘密だよー。大人には言っちゃいけないの」
わざとツンと顔を逸らして少女は口を尖らせる。アルノルトは根気強く少女に話しかけた。
「もしかして――お化けがいるのかい?」
「違うよ、お化けじゃないよ! たしかに白いけどね」
子供たちの気を惹く白い何かがお化け屋敷にはいる――。
もしや、と思いアルノルトは鎌をかける。
「まっしろさま?」
「え!? なんで知ってるの?」
驚いて目を丸くする少女に「そうか……」アルノルトは無意識のうちに唇を噛んだ。
ざわざわと胸が騒いで落ち着かない。――嫌な予感がする。
(「まっしろさまがいるお化け屋敷……か」)
後でもう少し詳しく調べようと思いながら、アルノルトは2人に手を振って川縁へと歩いていった。
夜昂は団子を食べながら橋の欄干に寄りかかり、薄桃色の水面をじっと眺めていた。
桜の花びらに覆われた川は、そよそよと吹く風に合わせて揺らめきながらゆっくりと流れていく。
夜昂の視線の先で、黒髪の青年――アルノルトもまた美しい水面を見つめて感嘆の声をあげる。
「なるほど、見事な花筏だ……」
自分と同じ団子を持ったアルノルトの傍らには小さな杯と金平糖の皿も置いてあった。
夜昂はアルノルトの隣に立つと、改めて水面に浮かぶ美しい桃色の花筏をじっくりと見つめる。
「……はー……なるほどな……これはみんな毎年見たがる訳だ」
「エンパイアの時代だから、ならではの美しさはある気がするね」
夜昂の呟きにアルノルトも同意を示せば、確かにアルノルトの言い分にも一理あると夜昂も頷いた。
「木に咲いてるやつ見るのが花見だと思ってたけど、川いっぱいに流れてるのも乙、ってやつだな、きっと」
初めて目にする美しい光景に知らず知らず頬を綻ばせる夜昂の隣では、アルノルトが残った団子を丁寧に包んでいる。
「土産か?」
「ああ、この花見団子、もちもちで甘すぎずに美味しかったから。素敵な物を見せて貰ったお礼に後であげようかとね」
ふうんと夜昂は呟くと、ぐっと大きく伸びを一つして、ぐるりと大きく腕を回した。
「さてと、それじゃ次はお化け屋敷探しだな」
「お化け屋敷だって――!?」
夜昂の言葉に、思わずアルノルトも反応を示す。それは、先程聞いた話と関係があるのではないだろうか。
「お化け屋敷って、もしかしてまっしろさまがいるっていう……?」
「ん? ああ、子供たちがそんなこと言ってるらしいな。俺が聞いた話では物の怪だって言ってたけど」
何にせよ、その噂のお化け屋敷に行ってみるべきではないかとアルノルトも考える。
「私もお化け屋敷探しに同行してもいいかな?」
「ああ、2人で探す方が早いだろうしな」
日が暮れる前にお化け屋敷を探すべく、アルノルトと夜昂は急ぎ村外れへと向かうのだった。
夜昂とアルノルトが花筏に目を奪われていたのと、ほぼ同じ頃――。
かかさまが持たせてくれたお肉をいーっぱい持って、メリーは満面の笑みを浮かべて美しく咲き誇る桜を見上げていた。
「みんな、お花見しよう!」
おいでおいでとメリーが手招きして呼んだのは傍にいる動物たち。
近くの桜の木にとまっていた鶯に、のんびりとひなたぼっこを楽しんでいた猫たちも。
みんなで一緒にお花見をしたら絶対に楽しいから。
「ほらほら、お肉あるよ!」
メリーがパカっとお肉が入ったお弁当の蓋を開けると猫たちの目がキラリと光った。
「食べたい? いいよ、いっしょに食べよう!」
『にゃーん!』
すりすりとメリーに顔を擦り付ける猫たちにお肉を振る舞いながら、メリーは頭上で咲綻ぶ桜に視線を向ける。薄桃色の小さな可愛らしい花は、大好きなかかさまにピッタリに思えた。
暫しの間、桜を愛でつつ美味しいお肉に舌鼓をうつメリーだったが、突然ハッともう一つの目的を思い出す。
「まっしろさまについて、ききたいんだった!」
大きな声をあげるメリーに吃驚して猫たちも一瞬肉を食べる手を止めて、キョロっと彼女を見た。驚かせてしまったことを詫びながら、メリーは改めて動物たちに尋ねる。
「ねぇねぇ、まっしろさまって知ってる?」
『にゃぁ~』
まっしろさまってどんなまっしろ? お肉は好きかなあ?
矢継ぎ早に問うメリーに猫や小鳥が知っていることを教えてくれる。
「うんうん……まっしろさまは、ふわふわもふもふのまっしろなんだね。そうか、お肉は好きじゃないんだ……」
お肉はこんなに美味しいのに。
まっしろさまと一緒にお肉が食べたかったメリーはしょぼんと肩を落とした。
『にゃぁおーん』
浮かない表情の少女を慰めるかのように、猫がメリーに何やら話しかけた。
「え? まっしろさまに会わせてくれるの?」
『にゃぁ~』
ついてきてと猫は尻尾をパタパタと揺らすと走り出す。メリーは残っていたお肉をしまうと急いで猫の後を追いかけて行った。
――先日は梅の花で花見を楽しんだが、今回は桜の花。
満開の桜を見上げ、真幌・縫は嬉しそうに顔を綻ばせる。
(「梅もとっても可愛くて綺麗な花だったけど桜もとっても素敵だな〜」)
手を伸ばせば届きそうなくらい傍にある桜の花を見つめる縫の目に、花見を楽しむ人々の傍らにちょこんと置かれた甘酒と金平糖が目に入った。
「まっしろさまってどんな感じなのかな?」
思わず口に出した自分の呟きを耳にした縫は『まっしろさま』という名前がちょっと可愛らしくて思わず笑みを漏らす。
「まっしろさま」
思わずその名前をもう一度呼びながら、縫はまっしろさまに思いを馳せた。
(「会えないけれど会ってみたいなぁ」)
せめて、ぬいのところに来てくれれば――。
そんな願いを込めて、縫は金平糖と甘酒をコトリと置く。そして、お供えの品の傍にちょこんと座るのは、いつも縫と一緒にいてくれる灰色の毛並の翼ねこさんぬいぐるみ。
「サジ太だったら、まっしろさまに会えるかな?」
サジ太の頭をポンポンと撫で、縫はギターのような民族楽器を取り出して、ポロンと弦を弾いた。
珍しい楽器が奏でる美しい音色に惹かれ、村人たちが集まってくる。猫を追いかけていたはずのメリーもその音色に惹かれて思わず足をとめた。
「わぁ、綺麗な音だね! すごく上手!!」
パチパチと拍手をするメリーの横で、2人の少女が同じようにニコニコと笑顔で手を叩いている。年齢はメリーと同じか、少し下位に見える。姉妹だろうか。とても良く似た面立ちの娘だった。
「おねえさん、とっても上手だねー! すごーい!」
もっと弾いて! とせがまれるままに縫が楽器を奏でると、姉妹は音楽に合わせて即興で身体を揺らす。
喜んでもらえるのが嬉しくて演奏を楽しむ縫だったが、ふと視線を動かした時に金平糖を乗せた皿が空になっていることに気づいた。
「あっ、金平糖なくなってる!?」
と、いうことはもしや甘酒も……と縫が視線を向けると、金平糖を食べた犯人とバチリと目が合う。
「あーっ! 猫! 何やってるのー!?」
ダメだよっと頬を膨らませるメリーにバツの悪そうな顔を向ける猫。
まっしろさまじゃなかった……と残念そうな縫に、姉の方が遠慮がちに声を掛けた。
「あのね、おねえさん。今年はまだまっしろさまが一度も来てないの」
「え? まっしろさま、来ないの?」
――そんな話は聞いていない。
驚く縫に妹がコクリと頷く。そして、嬉しそうに胸を張って縫とメリーに言った。
「だからね、姉さまといっしょにまっしろさまに会いにいくの。お供えいっぱいあるから、村に来てくださいっておねがいするんだ」
どちらからともなく縫とメリーは互いに顔を見合わせる。まっしろさまが村に来ないというのも気になるが、会えるのならば是非とも会ってみたい。
「ねぇ、ぬいたちもまっしろさまに会いたいんだけど、一緒にいってもいい?」
縫のお願いに姉妹は素直に頷くと、さっそく「こっちだよ」と歩き出す。
(「本当に、まっしろさまはいるのかな
……?」)
素直に喜ぶことが出来ぬまま、縫とメリーは姉妹についていくのだった。
姉妹が連れてきてくれたのは、村外れにある朽ちた屋敷だった。
「うわー、お化け屋敷みたい」
「うん、村のみんなもお化け屋敷って呼んでるよ」
縫の感想は正しかったようだが、本当にここにまっしろさまがいるのだろうか。
「ねぇねぇ、メリーもまっしろさまに会えるかなー?」
ワクワクと胸を躍らせるメリーに何て答えようかと縫が考えていた時――。
「こんなところにまっしろさまがいるかぁ? ここにいるならやっぱり物の怪だろう」
突然、背後から聞こえてきた聞き覚えのない声に縫は吃驚して振り返る。
そこに立っていたのは鋭い眼光の和装の青年――夜昂だった。
夜昂の隣では、アルノルトが姉妹をここから立ち退かせようと必死に説得をしている。
「きみたち、ここは危ないからもう帰りなさい」
ごねる妹を言い含めようと、アルノルトは持っていた花見団子を渡して何とか帰らせることに成功したようだ。
この屋敷にいるのは、やはり物の怪なのだろうか。
禍々しい雰囲気に包まれたお化け屋敷を見つめ、猟兵たちは無意識のうちにゴクリと唾を飲み込むのだった。
大成功
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第2章 冒険
『怪異の館』
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POW : 怪奇は俺だ!お化けのフリをし、子供たちを驚かせ帰らせる
SPD : もっと良い場所があるぞ!子供たちを説得し帰らせる
WIZ : そこで何をしてる!子供たちを叱って帰らせる
👑11
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村外れのお化け屋敷に行けば、まっしろさまに会える――。
八重川村での花見を楽しんだ猟兵たちがやってきたのは、村外れにある朽ちた屋敷。
子供たちが『お化け屋敷』と呼ぶこの朽ち果てた家は、かつて地主が住んでいた屋敷だった。否、『屋敷だったもの』というのが正しいかもしれない。無人となって久しい屋敷は雨風にさらされてボロボロで、正面の扉はすでに半分取れかかっており、縁側の障子はビリビリに破れて風になびいている。
美しい村の景色とは雲泥の差ともいえるこの屋敷は禍々しい雰囲気に包まれており、村人たちが愛するまっしろさまがいるとは信じられない。
だが、今年は一度も村に姿を見せないまっしろさまを心配してやってくる子供たちが後を絶たないようで、このお化け屋敷にもまだ子供がいるかもしれない。
幸い、周囲にはオブリビオンの気配は感じられないため、今のうちに子供たちを見つけて帰らせることが出来れば危険にさらされることはないはずだ。
外から見たところ、屋敷は1階建ての平屋のようだ。
まっしろさま探しに夢中になっているであろう子供たちを、早く探さなければ……。
鳳仙寺・夜昂
見事にボロボロだな……。
床踏んでも大丈夫かどうか確認しながら、慎重に屋敷の中に入る。
何かの拍子に倒壊でもしたら尚更ヤバいわ。
驚かして帰ってもらうか。
【目立たない】ようにしつつ、
持ってる錫杖(銀鈴)をちりんちりん鳴らしながら歩いて、
子供っぽい気配が近くであれば、近づいてきたのを見計らいながら
ダークネスクロークを投げつける。
お化けっぽい動きしてこい。
……ああ、ごめんごめん、ごめんって。
そこまでビビらせる気はなかったんだって。
でも、懲りたらもう帰んな。こんなボロ屋、何がいるか分かんねえんだから。
お化けよりもっと怖いおっさんがいたらどうすんだ。
※絡み・アドリブ歓迎です!
荒・烏鵠
ありゃま。まァた危険なコトして子供はモー。
だがマ、そーゆーコトが許されるのが子供ってモンさ。たまーにとんでもねーの呼び起こしちゃったりすッけど、そこはご愛敬よ。
【WIZ】
ワンコたちー、子供たちを探し出しな。ついでにチョイとばかし驚かせてやれ。後ろからずっと足音がするとか、近くで犬の荒い息が聞こえるとか、あとはそーさな、ものが浮いて周りを駆け回るとか、ナ?
ケケケ、もちろんオレはオレで探すさァ。シナト、空気の流れをこっちに向けてくれ。音も匂いも、風に乗って流れるモンだかンな。
耳はイイのさ、狐だからな。
さーて帰ろうかチビちゃんたちよ。抵抗したら余計に怖ァい思いをするはめになンぜ?
蔵館・傾籠
老朽化した建物が危ないってのは勿論有るが…心配して探しに来た優しい心を叱ってやりたくは無いな。驚かせるなら俺の得意な領分じゃないか?少し早い肝試しとしようか。
【百年蒐集之演舞】で思念体を生成、子供を見付けたら消えたり現れたりを繰り返して脅かしてやろうさ。
廃墟は床が抜けたりするかもしれん、逃げて落ちたり怪我をしちまう前にいっその事忍び寄って抱えて、庭先なり玄関なりに連れて行くか。
逃げて隠れられるよりは手っ取り早いだろうさな。
さて探し物をする幼子は何処を見て回るものだろうか。小ささを武器に軒下だのに潜り込んで探す子供も居る気がするなあ…
●
「見事にボロボロだな……」
長年雨風にさらされたまま手入れされることもなく、無残な姿となった壁を崩さぬようにそっと撫でて、鳳仙寺・夜昂は溜息をついた。
今にも踏み抜いてしまいそうな床板は、一歩ずつ、踏んでも大丈夫かどうかを確認しながら慎重に進んで行く。
やはり、このおんぼろ屋敷にいるのなら村の守り神であるまっしろさまではなくて、物の怪やお化けの類だろう――。
そう考えていた夜昂だったが、今はこの屋敷のあまりのボロさに早く子供たちを探さねばと焦りだす。子供たちが怪我でもしたら大変だ。
「……何かの拍子に倒壊でもしたら尚更ヤバいわ」
さて、どうやってここから子供たちを誘い出すか――。
夜昂が考えること、暫し。
(「手っ取り早く驚かして帰ってもらうか」)
足音を立てぬように気を配りながら、夜昂は『銀鈴』を鳴らしながらゆっくりと歩く。
――チリン、チリン。
お化け屋敷とは似つかわしくない澄んだ音色を響かせながら、夜昂が辿り着いたのは台所のような場所だった。
大きな竈はもう使われなくなって久しいのだろう。
柱の陰から様子を伺えば、煤を被り蜘蛛の巣が張った竈の中を覗き込む一人の少年の姿が見える。
――チリリン、チリリン。
『銀鈴』の音色に気づいた少年がビクリと肩を大きく振るわせながら、竈からそっと顔を出して周囲の様子を伺っている。
(「今だ――」)
少年の顔に狙いを定め、夜昂は左手に持った『破軍』をばさりと投げつけた。
「お化けっぽい動きしてこい」
主の意思を汲んだ『破軍』はまるで生きているかのように少年の顔に纏わりつき、その視界を奪う。
「う、うわぁぁぁぁ! で、出た――っ!!」
泣きながら台所から飛び出してきた少年を慌てて夜昂が抱き留め、彼の顔にへばりついた『破軍』を取ってやる。
少年はよほど怖かったのか、夜昂に抱きついて大きな声をあげて泣きじゃくった。
そんな子供の姿を見て夜昂の心がズキリと痛む。
「……ああ、ごめんごめん、ごめんって。そこまでビビらせる気はなかったんだって」
少しでも少年を落ち着かせようと夜昂が頭を撫でてやるも、子供は夜昂にしがみついたまま顔をあげようとしない。
「でも、懲りたらもう帰んな。こんなボロ屋、何がいるか分かんねえんだから。お化けよりもっと怖いおっさんがいたらどうすんだ」
夜昂が優しく諭すように声をかけると、ようやく落ち着いてきたのか少年もしゃくり声をあげながら小さく頷いた。どこかでくしゃみが聞こえた気がしたが、それはきっと気のせいに違いない。
「よし、エライぞ。それじゃ一人で帰れるか?」
夜昂が尋ねるも、少年は夜昂の服を掴んだまま首を横に振るばかり。
しょうがねぇなぁと溜息をつくと、夜昂はひょいと少年を抱えて肩に乗せる。
「驚かせた詫びも兼ねて、外まで連れて行ってやるよ」
戻ろうと夜昂がくるりと踵を返した瞬間、バキッと大きな音がして夜昂の足が見事に床板を踏み抜き、はまっていた。
一瞬、驚いて目を丸くする少年だったが、すぐに声をあげて笑いだす。
「……な、危ないだろ? だから、もうここには来んなよ」
夜昂はバツが悪そうに頭をかくと少年が泣き止んだことにほっと胸を撫で下ろし、彼の頭をポンポンと叩くのだった。
●
――はーっくしょん!
(「……どッかで噂でもされてるのかねェ」)
豪快なくしゃみを一つして。荒・烏鵠はムズムズとする鼻を押さえながらどこか楽しそうに辺りをキョロリと見回す。
「まァた危険なコトして全く子供はモー。だがマ、そーゆーコトが許されるのが子供ってモンさ」
うんうんと独り頷く烏鵠はボロボロの屋敷を歩きながら、口元にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「おかげでたまーにとんでもねーの呼び起こしちゃったりすッけど、そこはご愛敬よ」
足を止めた烏鵠は【十三術式:送り犬】を発動させ、忠実なる狗神を喚び出すことにする。
――暝神に帰依し奉る。契約に基づき、我に爪牙を預けよ。
烏鵠に召喚された狗神たちは、嬉しそうに主の足に顔を擦り付けた。そんな可愛らしいワンコたちを眺めながら、さっそく烏鵠は指示を与えた。
「ワンコたちー、子供たちを探し出しな。――ついでにチョイとばかし驚かせてやれ」
舌をペロリと出して悪戯っ子のような笑みを浮かべる烏鵠の命を受け、狗神たちは足音も立てず、軽やかに廊下を走りだす。
そんなワンコたちの背中を見送る烏鵠自身も、子供たちを探すつもりだ。
ケケケと不気味な笑いを響かせながら、烏鵠は肩に乗る子狐の首元を優しく撫でる。
「シナト、空気の流れをこっちに向けてくれ」
子狐は『きゅう』と一鳴きすると主の望むままに風を操り、その流れ行く向きを変えた。
音も匂いも、風に乗って流れてくる。烏鵠が狐の耳を動かせば、期待した通り、風に乗って子供たちの悲鳴が聞こえてきた。
「いやぁ、こっち来ないでー!」
「こわいよぅ、こわいよぅ……ご、ごめんなさいー!」
子供たちの声が聞こえてきた方へと烏鵠が歩いていくと、座敷の中央でガタガタと子供が2人、手を繋いで怯えている。
子供たちの周囲では、狗神がグルグルと回ったり、顔を近づけたりしているのだが、その姿は烏鵠以外には見えていないはずだ。
そこで、烏鵠は無言で手招きをして狗神を1体、呼び寄せると、その背中に足元に落ちていた割れた壺を乗せた。
どれだけ目を凝らしても見えないのに、犬の足音や息遣いが聞こえる上に、ついには壊れた壺が宙を浮いている。
――やっぱり、ここはお化け屋敷なんだ。
手を取り合ってガタガタと震える子供たちは泣きながら大きな声で叫んだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい! もうおうちにかえる……っ!」
その台詞を聞いた烏鵠はサッと狗神を傍に呼び寄せると同時に、何事もなかったかのように物陰からひょいっと姿を現す。
突然現れた烏鵠の姿に一瞬驚いた表情を見せる子供たちだったが、怖い思いをしていた今は頼りになる大人の姿を見て2人同時に駆け寄ると、わぁっと泣き出した。
「この期に及んで抵抗でもしたら余計に怖ァい思いをするはめになンぜ?」
そんなことはないだろうと思いつつも念を押す烏鵠。だが、泣きながら首を横に振る子供たちに抵抗する元気などなさそうだ。
涙で濡れた顔で烏鵠の足にしがみつく子供を心配するように狗神がそっと鼻を寄せるが、それがまた子供たちの恐怖を誘う。
烏鵠は苦笑交じりに狗神を下がらせると子供たちの背中を軽く叩いて歩くように促した。
「さーて帰ろうかチビちゃんたちよ」
「……いっしょに、来てくれる?」
子供たちは烏鵠の顔を見上げ、ぐすぐすと鼻をすすりながら問いかける。
そんな顔で見られてしまってはさすがに断りにくい。
「しょーがねェなァ……」
烏鵠は子供たちと一緒に扉に向かって歩き出した。
●
時間は少し前へと遡る。
今にも倒れそうな屋敷を眺め、蔵館・傾籠は険しい顔つきで立っていた。
この老朽化した建物を前にすると、その危険性については否定することはできない。だが、まっしろさまを心配して探しに来た子供たちの優しい心を叱りたくはない。
どうしたものかと思案する傾籠だったが、すぐに妙案が閃いた。
「驚かせるなら俺の得意な領分じゃないか?」
そうと決まれば話は早い。少し早めの肝試しを開催すべく、傾籠は【百年蒐集之演舞】を発動させる。
――白い女は伸ばした影に触れた敵を、どれも平等に裁き屠った、青い男は世界の音を愛し奏で、聴いたものの傷を癒した、……それは、顔も忘れた昔話。
隣に現れた思念体と共に、傾籠は屋敷の中へと入っていった。
さて、探し物をする幼子は一体何処を見て回るものだろうか。
「その小ささを武器に、軒下だのに潜り込んで探す子供も居る気がするなあ……」
傾籠は座敷を抜けて縁側の方へと歩いていくと、身を屈めて軒下を覗き込む。
すると、視線の先で何やら人の影が動いているのが見えた。目を凝らしてみると、それはやはり子供――少年のようだ。
傾籠は後ろに控えていた思念体に目配せをすると、ふわふわと少年の方へと近づいていく。
「……まっしろさま?」
白い思念体をまっしろさまだと思っただろうか。
少年がじっと見つめる前で、傾籠は思念体を操って、その姿を消したり、現したりと繰り返して見せた。
「ち、ちがう……まっしろさまじゃない……おばけ!?」
ひぃっと悲鳴をあげ、逃げ出そうとして走り出した少年が傾籠の前に飛び出してくる。
思わず反射的に少年を受け止めた傾籠は暴れる子供を押さえながら、これからどうしようかと考える。
ここでうっかり手を離してしまったら、少年は逃げて再び隠れてしまうだろう。それで抜けた床に落ちたりして怪我をしては洒落にならない。
「――仕方ねぇ」
ひょいっと少年を抱えると傾籠は扉に向かって歩きだした。
「わ、わ、はなせよっ、はなせってば!」
じたばたと暴れる少年を落とさないように気を付けつつ、傾籠は彼に向かって話しかける。
「――なぁ、まっしろさまに会えたか?」
「……うぅん、まだ」
なんでまっしろさまのことを知っているんだろう――。
そう言いたげな顔で少年は傾籠を見つめた。傾籠はあえて少年と視線を合わせることはせずに淡々と話しかける。
「まっしろさまに会ったらどうするつもりだったんだ?」
「……何で、村に来てくれないのか、聞きたかった」
そして、村に来てくれるようにお願いしたかったのだと少年は答えた。
その話を聞いた傾籠は、大きく頷くと子供を屋敷の外へと連れて行き、そっと地に降ろす。
「生憎と今はまっしろさまはいねえみたいだ。俺が代わりにまっしろさまに話をつけておいてやろう。だから、今日はもう帰りな」
でも……と渋る子供に傾籠は諭すように言葉をかけた。
「さっきも見ただろう? ここには物の怪がいる。それでも――ここに居てまっしろさまを探すか?」
先程の思念体を思い出したのか、少年はひっと息を呑むと大きく首を横に振る。
その様子に傾籠は内心ほっと胸を撫で下ろしつつ、子供の頭をポンポンと叩いた。
「大丈夫、その優しい気持ちはきっとまっしろさまにも伝わるぜ」
だから、安心して村へ帰りな――。
村へと帰る少年の背中が見えなくなるまで、傾籠は屋敷の入り口の前でずっと見送っていたのだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ニコリネ・ユーリカ
【ワイルドハント】
子供達を探すには【Santuario Segreto】が良いかしら?
帳さんと二人、手を繋いで内部を探索してみましょ。
かくれんぼは得意なのよ、見つけるのも、隠れるのもね!(ひそひそ)
子供達を発見したら、皆にタレ込んで策戦開始!
猟団長が化け猫になって出て来たら『ごっついラジカセ』から音をどーん!
つかささんが妖怪になって出て来る時は、魔法の杖から冷気を出して援護します。
勿論、私達も百鬼夜行に加わらないとね。
私は帳さんと【Santuario Segreto】で現れたり消えたりの化け猫(コスプレ)を演じようっと。
「おまえ達なんかペロリだニャー!」
んふふ、人を怖がらせるのたーのスィーい!
白斑・物九郎
【ワイルドハント】
●POW
ねーさん方の探索に先駆け屋敷全景へザッと【野生の勘】を
ガキ共の居所にアタリを付けまさ
位置が掴めたら行動開始
ガキ共の行き先・死角に潜んで(地形の利用)、集団連携恐怖演出を畳み掛けてやるんですわ
・俺めのターン
まずサーチドローンの「茶斑の三毛」をガキ共の前にちょっと横切らせる
「なんだ猫か」って思わせた所で、でっかい化け猫に化けた俺めがグルルと鳴きながらその鼻面をヌッと出す(恫喝)!
もしもガチで腰抜けて動けねえガキが出たら?
……ま、そんときゃ仕方ありませんしな
首根っこをちょいと咥えて表へスッと出してやるくらいはしてやりますわ
荒谷のねーさんよりかは平和な絵面だと思うんですけども
枢囹院・帷
【ワイルドハント】
この建屋がお化け屋敷と呼ばれているなら、その通りにしてやろう。
子供の夢を叶えてやるのが大人の仕事だからな。
先ずはニコリネと手を繋ぎ、内部を探索する。
姿は見えていない筈だが、気配を感じるとつい足を止めてしまうな。
何? それは「だるまさんが転んだ」が染みついているのだと……?(ひそひそ)
猟団長もつかさも実に良い怪奇だ。
私は化け猫にも妖怪にもなれないが、役者にはなれる。
ニコリネと二人、化け猫の衣装を着て子供達を驚かしてやろう。
「うまそうなやつらニャー! 喰ってやるニャー!」
ふふ、子供を驚かせるのも中々に楽しいものだ。
然し物の怪の群れに見舞われるとは、まさか私達の事じゃないだろうな。
荒谷・つかさ
【ワイルドハント】
ここに出る「まっしろさま」が本物なのかは知らないけれど。
何が起きるかわからないし、子供たちを巻き込まないようにしないと。
基本方針は、子供たちを驚かして追い立てる方向性で。
具体的には【妖術・九十九髪】を発動し、髪の妖怪に成りすまして脅かして回るわ。
「うふふ……美味しそうな子供ねぇ」
と、白いもこもこしたもの(※別口で用意した綿菓子)を齧りながら「にたぁ」ってしたり。
髪を動かして襲い掛かるフリをしたり。
腰抜かして動けなくなった子は、髪で包んで(見た目繭っぽい)保護して外に連れてくわ。
お供えまで食べつくしちゃった分は、きっちり働くわよ。
……子供相手に容赦がない?
性分なのよ、生憎と。
月舘・夜彦
やはり村の方達が話していた屋敷が関係しておりましたか
子供も今の内ならば危険な目に遭わせずに済む
遊びの途中で申し訳ないですが、屋敷から出て貰わねばなりませんね
春暁を呼び出し、視力や聞き耳を使って子供を探します
見つけたのならばコミュ力にて少し話をしてみましょう
子供にとっては些細な事でさえ、冒険のようなものなのですからね
子供の話を聞いた後、本題へ
私は此の屋敷にお化けが出るとの話があり、退治するように頼まれたのです
お化けが居座ればまっしろさまも此処には戻れませんからね
そういえば甘味処で金平糖を買ってきておりました
まっしろさま探しで疲れたでしょう
休める所で食べてきなさい
その間にお化けを退治してみせますよ
●
おどろおどろしい雰囲気に包まれた和屋敷を前にして荒谷・つかさは思わずゴクリと唾を飲み込む。
「ここに出る『まっしろさま』が本物なのかは知らないけれど。何が起きるかわからないし、子供たちは巻き込まないようにしないと――」
「そうね、トラブルが起きる前に子供たちには帰ってもらいましょう」
つかさの言葉に頷くのはニコリネ・ユーリカ。
子供たちを驚かして追い立てるというつかさの案にニコリネも異論はない。
「でも、どうやって……?」
頭を捻るニコリネの隣で、枢囹院・帷が不敵な笑みを浮かべた。
「この建屋がお化け屋敷と呼ばれているなら、その通りにしてやろう」
彼女へと皆の視線が集まる中、顔色を変えることなく帷は言う。
やるべきことは簡単、物の怪に扮してちょっとばかり子供たちを驚かしてやるだけだ。
「――子供の夢を叶えてやるのが大人の仕事だからな」
早速、屋敷の中へと入ろうとするニコリネたちを見た白斑・物九郎は、慌てて彼女たちを制した。
「ねーさん方、ちょいとお待ちを。ガキ共の居所にアタリを付けまさ」
ここでも頼りになるのは物九郎の野生の勘。感覚を研ぎ澄まし、全神経をフル回転させて物九郎は子供たちがいるであろう場所を探る。
「あっちの方に子供がいる気がするっす」
物九郎が屋敷の東側を指差すと、ニコリネは扉に手をかけ、そっと中を覗き込んだ。
「了解、猟団長。――子供達を探すのは私に任せてね。帳さん、行きましょ」
ニコリネは帳に向かって手を差し出す。帳が小さく頷いてその手を握ったのを合図にニコリネは【Santuario Segreto】を発動させる。
「ニコリネさんたちの姿が見えなくなっちゃったわ……!」
吃驚するつかさをニコリネは楽しそうに見遣るが、その姿はつかさだけでなく隣にいる物九郎にも見えていない。
「それじゃ、子供たちを探してくるわね」
ひらひらと手を振って、ニコリネは帳と一緒に屋敷の中へと入って行った。
足音を立てぬように、ニコリネと帳は慎重に一歩ずつ屋敷の中を散策する。
「かくれんぼは得意なのよ、見つけるのも、隠れるのもね!」
ひそひそと小さな声で話しかけるニコリネに、帷は小さく頷いた。
「それは頼もしい。ニコリネがいれば子供たちもきっとすぐに見つかるな」
とはいっても、今回はかくれんぼのように子供たちが隠れているとも限らない。子供たちは自分たちを探す者がいるとは夢にも思っていないだろうから、探すのはもっと簡単だろう。
ひそひそ話をしながら2人は手を繋いだままボロボロの畳を、足音を立てぬように気を付けながらゆっくりと歩く。
「……!?」
突然、足を止めた帷をニコリネが怪訝そうな顔で見つめた。
「帷さん、どうかした?」
「いや……何でもない」
帷はゆっくりと首を横に振ると苦笑交じりに口を開く。
「姿は見えていない筈だが、気配を感じるとつい足を止めてしまうな」
帷の言葉にニコリネは「わかるわ」と懐かしそうに幼い頃を思い出して目を細めた。
「『だるまさんが転んだ』が染みついているのね……」
「何? だるまさん? それが染みついているのだと……?」
『だるまさんが転んだ』とは一体何のことだろうか。
頭上に『?』をたくさん浮かべながら、つおうっかり忘れて普通に喋ってしまいそうなところを慌ててひそひそと声のボリュームを落とす帷に、ニコリネは「しっ」と口元に指をあてて柱の向こうを指差す。
ニコリネの指差した先を見れば、座敷で子供たちが畳をひっくり返したりしながら楽しそうにまっしろさまを探しているようだ。
「――いたな」
帷とニコリネは視線を交わすと小さく頷き合う。
「2人を呼んできましょう。――作戦開始よ!」
ニコリネたちの案内で物九郎とつかさも子供たちがいる座敷の近くへとやってきた。
4人は目配せをして各々準備が出来たことを確認すると、早速、物九郎が動き始める。
子供たちの死角に潜んだ物九郎は、物陰から様子を伺いながら茶斑の三毛猫型ドローンを操り素早く、しかし子供たちの視界に入るようにすっと横切らせた。
「……あれ?」
茶斑の三毛に気づいた一人の子供がゴシゴシと目を擦る。
「いま、何かがいたような気が……」
首を傾げる少年の前をもう一度、シュッと茶斑の三毛が通り過ぎていく。
「……なんだ、ねこか」
――おばけじゃなくて、よかった。
ほっと胸を撫で下ろす少年の前に、【獣撃身・黒】で大きな化け猫へと変化した物九郎が、物陰からその鼻面をヌッと出した。
『グルル……!』
「ひ、ひぃぃぃ!!」
驚いたあまり声の出ない少年に向かって再び化け猫が大きく牙を剥く。と、同時にどこからともなくどーん! と謎の音が響き渡った。
「う、うわぁぁぁぁ!」
驚いて扉の方へと駆けだしていく子供の背を見つめ、ごっついラジカセを抱えたニコリネが必至に笑いを堪えている。
「次はわたしの番ね……!」
続いてつかさは【妖術・九十九髪】を発動させると髪の妖怪に成りすまして子供たちがいる座敷の中へと入って行った。つかさの足元は白くもやがかかっており、彼女が歩くと室内の温度がすぅっと下がっていくのがわかる。
「うふふ……美味しそうな子供ねぇ」
にたぁと不気味に笑うつかさの口元には白いもこもこしたものがくっついている。
「……!? ま、まっしろさま……?」
「どうしよう、ま、まっしろさまが……っ」
涙目でガタガタと震える子供たちは『怖い妖怪がまっしろさまを食べてしまった』と信じているが、つかさが齧っている白いもこもこの正体はただの綿菓子である。よく見ればわかるのだが、怯えている子供たちにそこまで気づく余裕はない。
(「お供えまで食べつくしちゃった分は、きっちり働くわよ」)
子供たちを追いかけ、じりじりと部屋の隅へと追い込むと、つかさは再びにたぁと笑いかけた。
「舞い、散り、広がれ。我が手たる九十九の髪々よ」
髪を操り子供たちへと襲い掛かる振りをするつかさだが、その子供たちはというと本気で妖怪だと信じ込んでいる。
そんな子供たちを物陰から見つめるニコリネの手には今度は魔法の杖が握られていた。つかさの足元を隠していた白いもやはこの杖から出ていた冷気だったのだ。
「猟団長もつかさも実に良い怪奇だ」
ニコリネの隣で様子を伺っていた帷は感心しきり。
「私は化け猫にも妖怪にもなれないが、役者にはなれる」
衣装に着替え、準備を終えた帷にニコリネも笑顔で頷いた。
「――ええ。さぁ、私達も百鬼夜行に加わらないとね」
化け猫のコスチュームに身を包んだ帷とニコリネは2人手を繋いで子供たちの前へと姿を現す。
「うまそうなやつらニャー! 喰ってやるニャー!」
「おまえ達なんかペロリだニャー!」
ニコリネと帷は姿を消したり、現したりとしながら、ガタガタと怯える子供たちを囲むようにグルグルと回った。
「たすけてぇぇー!」
「まってぇぇぇ、おいていかないでぇぇぇ!」
泣きながら走り去る子供たちを見てニコリネと帷は楽しそうに顔を見合わせる。
「んふふ、人を怖がらせるのたーのスィーい!」
「ふふ、子供を驚かせるのも中々に楽しいものだ」
座敷の中にはもう子供たちはいないかと念のためニコリネは室内を確認する。
ニコリネがガラリと襖を開けると……。
「……あ」
そこには物陰で震える子供の姿があった。
「大丈夫? 立てるかしら?」
ニコリネが手を差し出すも、子供は腰が抜けてしまっているのか立ち上がることが出来ない。
「仕方ないわね……」
やれやれとつかさが髪を操って子供の身体をそっと包む。だが、白い繭のようなものに包まれた子供は、恐怖のあまりパニックになって泣き叫んだ。
「いやー!! たべないでっ!! やだやだやだ、まだしにたくないー!」
泣き喚く子供に驚いたつかさは、暴れる子供を仕方なく床に降ろす。
その様子を見た物九郎は、やれやれと溜息をつくとつかさに代わって子供の首根っこをちょこっと咥え、外まで連れて行くことにする。
「…………」
無言でじっと見つめる帷の視線に気づき、つかさはぷぃっと顔を逸らした。
「……子供相手に容赦がない? わかってるわ。性分なのよ、生憎と」
「いや、然し物の怪の群れに見舞われるとは、まさか私達の事じゃないだろうなと思ってな――」
まだ他の部屋にも子供たちはいるかもしれない。
大事に至る前に子供たちをこの屋敷から帰らせねば――。
物九郎の後を追う帷たちの耳に、『ピィーウ……』と鳥の鳴き声が聞こえた気がした。
●
一方その頃、外では月舘・夜彦が今にも倒壊しそうな屋敷を見て人知れず溜息を漏らす。
「……やはり村の方達が話していた屋敷が関係しておりましたか」
今はまだここにオブリビオンの気配は感じられない。
子供たちも今の内ならば危険な目に遭わずに済むだろう。
「遊びの途中で申し訳ないですが、屋敷から出て貰わねばなりませんね――春暁」
夜彦が名前を呼ぶと『ピィーウ』とその声に応えるような鳥の鳴き声が聞こえる。
バサバサと翼を羽ばたかせて夜彦の肩にとまったのは1匹のイヌワシだった。
「春暁、よろしくお願いしますね」
夜彦に首筋を撫でられた春暁は、嬉しそうに喉を鳴らすと羽を広げて屋敷の周りをグルグルと回った後、壊れた窓の隙間から室内へと入っていく。
それを見た夜彦も、屋敷の壁に耳を寄せて内部の音に意識を向けた。
室内から聞こえるのは子供の走る音。
それを聞いた夜彦も春暁に続いて屋敷の中へ入ろうと入口に手をかけた時――。
「うわぁぁーん、ごめんなさいー!!」
涙で顔を濡らした子供たちが、転がり出るように屋敷から飛び出してきた。
子供に付き添うように、春暁も心配そうな顔で一緒に外へと出てくる。
「どうかしたのですか」
落ち着かせようと彼らの背中を優しく撫でてやりながら夜彦は落ち着いた声で問いかけると、子供たちは泣きながら懸命に先程見た恐ろしいものについて訴えた。
「あのね、あのね。おばけが……ばけねこが出たの……」
「おばけがね、まっしろさまをたべちゃった……!」
「まっしろさま、もういないのー!」
お化けが出たとは、物の怪がいたというのか。
しかし、物の怪がまっしろさまを食べるとは思えないが――。
子供たちの話を聞きながら、暫し考えを巡らせる夜彦だったが、すぐに答えに思い至った。
――このお化けは、仲間の仕業だ。
そうと分かれば安心して話を進めることが出来る。
夜彦は膝を落とし、子供たちと目線を合わせるとゆっくりと話し出した。
「私は此の屋敷にお化けが出るとの話があり、退治するように頼まれたのです」
しゃくりあげながら夜彦を見つめる子供たちに夜彦は腰に差していた『夜禱』を見せ、なおも話を続ける。
「まっしろさまは無事ですよ。でも、早くお化けを退治しないとまっしろさまは本当に食べられてしまうかもしれません」
「……まっしろさま、また会える?」
子供たちは、すっかり話を信じ、落ち着いてきたのか徐々に涙も止まってきた様子で夜彦をじっと見つめる。夜彦もまた、子供たちを安心させるために力強く頷いてみせた。
(「――後、もう一押しでしょうか」)
夜彦はすっと袂に手を入れると、先程村で買った金平糖を取り出して見せる。金平糖に気が付いた子供たちの目の色が変わった。
「そういえば甘味処で金平糖を買ってきておりました。まっしろさま探しで疲れたでしょう」
「わぁっ、いいの!? どうもありがとう!」
どうぞと差し出された金平糖を手に大はしゃぎの子供たちの頭の中からは、すっかりお化けのことは抜け落ちてしまっているようだ。そんな様子を見て、夜彦はやれやれと嘆息しつつも、素直に喜ぶ子供たちを微笑ましそうに眺めて目を細める。
「休める所で食べてきなさい。その間にお化けを退治してみせますよ」
「うん、わかった! まっしろさまをたすけてね!」
金平糖を大切そうに抱えて村へと帰って行く子供たちと約束を交わし、夜彦は改めて屋敷に目を向けた。
子供たちに気づかれぬようにそっと屋敷から出てくる百鬼夜行の影に気づいた夜彦は、すっと目を伏せ、仲間たちと目礼を交わす。
後、何人の子供たちが屋敷に入り込んでいるのだろうか。
早く見つけて連れ帰ってやらねば――本物の物の怪がやってくる前に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
真幌・縫
うーん、子供達はお化け屋敷とか大好きだしまっしろ様がいるって思ってるから中に入りたい気持ちは強いだろうなぁ…。
でも…廃屋は危険だし何よりオブリビオンがいるならもってのほかだし…むーん。
そうだ…!
UC【ぬいぐるみさん行進曲】でまっしろさまっぽいぬいぐるみをいっぱい召喚してその子達に【おびき寄せ】と【挑発】で子供達の気を引いてもらおう。できるだけ廃屋より遠い所まで気付かないでくれたらいいんだけど…。
アドリブ連携歓迎です♪
アルノルト・ブルーメ
子供の好奇心は本来悪い事ではないのだけれど……
流石に、この状況下では看過出来ないね
呼び掛けながら探すのは止めた方が良さそうだ
『大人には言ってはいけない』
そう彼女は言っていたから
大人が来ていると知ったら姿を隠してしまうだろう
出来るだけ音を立てずに移動して子供達を探す
探索者としての経験が役に立てばいいのだけれど
あの子の口ぶりだと
子供達は『白いなにか』の正体を知っていて
匿っている感じか……
匿うのに適した場所を重点的に探索
床板の外れた部屋の床下や押し入れの中
屋根裏等も丹念に探索
戦闘の場合は咎力封じを使用して対応
子供達は確実に逃がす
明らかに無害なものなら、『白い何か』も
子供達と一緒に避難して貰おう……
●
おんぼろ屋敷を忍び足で歩きながら、真幌・縫はキョロキョロと辺りを見回して子供たちの姿がないかと探していた。
「うーん、子供達はお化け屋敷とか大好きだしまっしろ様がいるって思ってるから中に入りたい気持ちは強いだろうなぁ……」
子供たちの気持ちを慮り、無意識のうちに縫は溜息をつく。
そんな縫の独り言を聞きとめたアルノルト・ブルーメも、コツコツと壁を軽く叩きながら眉を潜めて小声で呟きを漏らした。
「子供の好奇心は本来悪い事ではないのだけれど……流石に、この状況下では看過出来ないね」
アルノルトが叩いた壁はボロボロと木くずが零れ落ち、力を込めて押せば壁にも穴が開いてしまいそうだ。
縫が歩く床も、足を置く場所を一歩でも間違えれば傷んだ場所を踏んでしまい、そのまま床が抜け落ちてしまいそうである。
子供たちが怪我をする前に、早くここから連れ出さなければ――。
アルノルトと縫は2人手分けをしながら屋敷に忍び込んでいる子供たちの姿を探す。
「おー……」
「ちょっと待って」
近くに誰かいないかと呼びかけようとした縫を慌ててアルノルトが制した。
「呼び掛けながら探すのは止めた方が良さそうだ」
「え? どうして?」
不思議そうな顔でじっと見つめる縫に、アルノルトは周囲の様子を伺いながら静かに告げる。
「『大人には言ってはいけない』と村で出会った女の子は言っていたから、大人が来ていると知ったら逆に姿を隠してしまうかもしれない」
「え、でも……!」
唇に指をあて、声をひそめるアルノルトの言葉に思わず縫はいつものように喋ろうとしてしまい、慌てて両手で自分の口を押さえた。そして、縫は改めて声のボリュームを落として話し出す。
「この廃屋は危険だし何よりオブリビオンがいるならもってのほかだし……むーん」
困ったと頭を抱える縫に、アルノルトは出来るだけ音を立てずに移動して子供たちを探そうと提案した。
「そうだね……! ぬい、失せ物探しは得意なんだよ。任せてね!」
エヘンと胸を張る縫を頼もしそうにアルノルトは見つめ、2人は音を立てぬように気を付けながら屋敷の中を歩く。
「子供たちがいそうな場所に心当たりってあるの?」
さっき出会ったという少女から何か聞いていたりするのかな? と尋ねる縫に、アルノルトは無言で首を横に振った。
そうかーと縫はガッカリした様子だが、アルノルトは五感をフル回転させて子供たちの気配を探りつつも村で出会った少女のことを思い出す。
(「あの子の口ぶりだと子供達は『白いなにか』の正体を知っていて匿っている感じか……」)
と、すると子供たちがいるのは何かを匿うのに適した場所か――。
アルノルトと縫は廊下を通り抜け、畳張りだったと思われる部屋の中へと入っていった。
ここは客間だったのだろうか。板張りだったと思しき床の間の隣には押し入れがある。
「誰かいませんかー……」
小さな声で囁きながらそっと縫は押し入れを開けた。中には誰もいなかったが、縫は頭上から何やらコソコソと話す声が聞こえることに気づいた。
「……あれ? まっしろさま、いないね」
「でも、昨日あげたおそなえものはなくなってるよ」
縫は屋根裏にいる子供たちに気づかれないように細心の注意を払ってアルノルトを呼び寄せる。
アルノルトはじっと目を凝らして押し入れの中を確認すると、ゆっくりと顔をあげた。
「この押し入れから屋根裏に登ることが出来るみたいだ」
彼が指差した場所には、子供たちが出入りしたと思われる足跡が残っており、押し入れの中をよくみると屋根裏へと続く板がはがれている。子供たちはここから登って行ったとみて間違いないだろう。
「問題はどうやって子供たちを降ろすかだね」
下手に大人が来ていることに気づかれて逃げられたり隠れられたりしては大変だ。
どうしたものかと思案するアルノルトに、縫はポンと手を叩いて嬉しそうに口を開いた。
「ぬい、いいこと思いついた!」
自信たっぷりに頷く縫の周りに白くてまるっこい生き物が現れる。縫が【ぬいぐるみさん行進曲】を発動させてぬいぐるみたちを召喚したのだ。
「さぁ、ぬいぐるみさん達! 子供たちを呼んできて! せーの! 行動開始ー!」
縫の掛け声に合わせてぬいぐるみたちは屋根裏へと登っていく。
突如現れた白いぬいぐるみを見て、屋根裏の子供たちは驚きつつも嬉しそうな声をあげた。
「あ、まっしろさまだ……!」
「まっしろさま、いたー!」
バタバタと屋根裏を走る足音に、アルノルトは天井が抜けないかとハラハラしながら子供たちがぬいぐるみと共に降りてくるのを縫と一緒にそっと待つ。
暫くすると、ぬいぐるみたちを先頭に、煤にまみれた2人の少女が屋根裏から降りてきた。子供たちはまっしろさまを捕まえようとぬいぐるみを懸命に追いかけるが、そこは縫の絶妙な操作によってぬいぐるみは捕まえることが出来そうで捕まえられない距離を保っている。
「このまま屋敷の外まで連れていけるかい?」
アルノルトの言葉に縫はこくりと頷いた。
造り物のまっしろさまだと何時気づかれるかとビクビクする縫とは裏腹に、子供たちは嬉しそうにぬいぐるみを追いかけていく。
そして、このまま子供たちを安全な場所まで送り届けるべく、アルノルトと縫もこっそりと子供たちの後ろをつけて屋敷を後にするのだった――。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メリー・メメリ
よーし、ライオン一緒に頑張ろう!
まっしろさまに夢中になってたらそのうちまっしろさまになっちゃうかもしれないもんね!
それにあぶない…!
かかさまがこどもだけであぶない所に行くのはダメ!っていってた…!
ぴゅーって笛を吹いてライオンを召喚!
そしたら一緒にがおーっておどろかせるよ!
ゆうれい……のまねはできるかな…。
ライオンはできる?
なになに?そっかー!赤い服を白い服に変えれば良いんだね!
さっすがー!
さっと白い服に着替えたらおばけだぞー…
早く帰らないとライオンが食べちゃうぞー……
っておどろかせるよ!こうかはあるかな?
●
『なかよしの笛』をぴゅーっと鳴らして相棒のライオンを呼び出したメリー・メメリはその背中を優しく叩く。
「ライオン、いっしょにがんばろうね!」
子供たちがまっしろさまに夢中になってたら、そのうちまっしろさまになっちゃうかもしれない。それにこの屋敷は危険がいっぱいある。
「かかさまが、『こどもだけであぶない所に行くのはダメ!』っていってた……!」
今、この屋敷にやってきている子供たちもきっと、ととさまやかかさまに『お化け屋敷に行ってはいけないよ』と言われているに違いない。そう、メリーは確信していた。
「かかさまが『ダメ!』って言ったことをやったらダメだよね」
ぶぶーっ! と両手でバツを作って口を尖らせるメリーのことをライオンがじっと見つめる。
「だから、みんなにもお家に帰ってもらうためにライオンもてつだってね」
わかった? と背中を叩くメリーに応えるように、ライオンはガオーッと大きく口を開けた。
さて、子供たちに家に帰ってもらうためにはどうすればよいだろうか。
驚かす? どうやって?
ライオンと一緒に考え込むメリーだったが、パッと名案が浮かぶ。
「ゆうれい……のまねはできるかな……。ライオンはできる?」
メリーが話しかけると、ライオンは彼女の耳元に口を寄せて小さく唸り声をあげた。
「なになに……そっかー! 赤い服を白い服に変えれば良いんだね!」
さっすがー! と嬉しそうにメリーは自分の赤い服の裾を摘まんで満面の笑みを浮かべる。
そうと決まれば、後は準備をするだけだ。
早速、白くて裾の長い服に着替えたメリーはライオンの前でくるりと回ってみせた。
「どうー? ゆうれいみたい?」
ガルルと喉を鳴らすライオンにメリーは嬉しそうに頷くと、その背に跨って屋敷の中へと入っていく。
「みんな、どーこーかーなー?」
キョロキョロと周囲を見回しながら屋敷内を探すメリーとライオン。
屋敷の一番奥の部屋の前まで来たメリーたちの耳に、ガタッと何か音が聞こえた。
メリーがそっと部屋の中の様子を伺うと、そこでは一人の少年が壊れた押し入れの扉を開けて中を覗き込んでいる。
「いたー……!」
メリーはライオンと一緒に足音を立てないようにしながらそぉっと少年の傍へと近づいて行った。
そして……。
「早く帰らないとライオンが食べちゃうぞー……!」
ガオォとライオンもメリーの声に合わせてわざと牙を剥く。
突然の背後からの声に驚いた少年はひぃっと小さく悲鳴をあげてメリーたちをじっと見た。
(「おどろいたかな? こうかはあるかな
……?」)
メリーとライオン、そして少年。2人と1匹は誰も言葉を発しないまま時間だけが過ぎていった。
「……びっくりした?」
そっと確認するようにメリーが問いかけると、少年も素直にコクリと頷く。
だが、驚きや恐怖よりもライオンへの興味が勝ったのか、少年は物珍しそうにメリーたちをじっと見つめながら口を開いた。
「ねぇ、それ犬? 大きいから、きっとちがうよね」
「ライオンのこと? ライオンはね、メリーのともだちだよー!」
エヘンと得意気に胸を張るメリーを、少年は羨ましそうに見遣る。
「いいなぁ、カッコイイ! おれも乗ってみたいな」
少年の言葉に暫し迷うメリーだったが、「いいよ!」と快諾すると少年をライオンの背中に引っ張り上げた。
「そのかわり、いっしょに帰ろう? こどもだけであぶない所に行くのはダメ!」
かかさまの台詞を真似るメリーに少年は不満そうに口を尖らせる。
「自分だってこどもなのに……」
「メリーはいいんだよー。 だってライオンもいっしょだから!」
文句を言いたそうな少年だったが、ライオンが歩き出すととたんにニコニコと笑顔を浮かべた。
少年の他に子供たちが残っていないか、ライオンはメリーたちを乗せたまま屋敷の中をぐるりと一周する。だが、もう残っている子供もいないようだ。
みんな無事に帰ったことに安心し、メリーは少年を連れて屋敷の外へと向かうのだった。
子供たちを無事に屋敷から連れ出すことに成功した猟兵たちはほっと安堵の溜息をつく。
しかし、そんな彼らの耳に『ピッピ、ピッピ』と鳥の鳴き声が聞こえてきた。
――この声は。
慌てて鳴き声の主を探す猟兵たちの目に映ったものは……――。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『ぶんちょうさま』
|
POW : 文鳥三種目白押し
【白文鳥】【桜文鳥】【シナモン文鳥】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
SPD : 文鳥の海
【沢山の文鳥】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
WIZ : 魅惑の視線
【つぶらな瞳】を向けた対象に、【嘴】でダメージを与える。命中率が高い。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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【MSより】
・プレイングの受付は、4月13日(土)8時31分より開始いたします。
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●
猟兵たちの前に姿を見せたのは、まるまるっとした姿が愛らしい真っ白な文鳥の群れだった。
『ピッピ、ピッピ』
文鳥たちはぎゅぎゅっと体を寄せ合い、おしくらまんじゅうを楽しんでいる。
だが、この文鳥、普通の文鳥よりは明らかにサイズが大きい。
――そう、これは鳥ではない。
彼らはこの屋敷を根城とするオブリビオン――ぶんちょうさまだ。
そして――これが、子供たちがまっしろさまだと信じていた物の怪の正体だった。
『キュルー?』
つぶらな瞳にちょこんとついた小さな嘴。
ふくふくとした身体は、触るともふもふしてきっと気持ちが良いだろう。
そのふわふわな毛の触り心地を想像してうっとりする者もいるかもしれない。
だが、子供たちはもちろん、八重川村の人々を守るためにも、このままぶんちょうさまを見逃すわけにはいかない。
猟兵たちは、各々覚悟を決め、ぶんちょうさまと対峙する――。
荒・烏鵠
オヤうまそ…かわいいな。ホントうま…かわいい。
ちゃうねん、ホラ狐としてな、小鳥を見たら美味そうだなって思わないといかんじゃろ?ナ?そういうことなんじゃよ。フリってやつだから。
【WIZ】
それはそれとして。
アアッやめて!そんなつぶらな瞳で見ないで!オレサマを見ないでチョーダイ!腹減っちまうイヤ違った良心が痛む!!
クッ、なんたる強敵……長引かせるわけにはいかねェな、こりゃ。
つーワケでぶんちょの後ろからデカい蛇さん(UC)召喚して丸呑みにして貰うっすわ。
フー……危なかったぜ。かつてない(キャラを維持する的な意味で)死闘だったナ。
やったな蛇さん、今日の晩飯は竜田揚げだ。
真幌・縫
まっしろさまじゃなくてぶんちょうさま…!
とっても可愛いしこれは子供達も間違っちゃうよね。ぬいだってオブリビオンをしらなきゃまっしろさまだってきっと信じちゃう。
でも、このこ達はオブリビオンだから…それにこのこ達のせいで本物のまっしろさまが出てこられないのならきちんと戦わないとね。
魔法はお家が燃えちゃいそうだし数も多いからUC【ぬいぐるみさん行進曲】で攻撃。
(大量のぬいぐるみがぶんちょうさまと戦う姿は可愛い…)
討ち漏らしがないように杖でも攻撃。
ぶんちょうさまの思うつぼなんだろうけど…やっぱり可愛いなぁ…。
まっしろさま。帰ってくるといいね♪
アドリブ連携歓迎です♪
鳳仙寺・夜昂
やっと出てきたか物の怪とや……ら……?
……ええ……丸い……でかい……
(想像の数万倍可愛らしいので困惑している様子)
(心の中の衝動に抗えずにぶんちょうに触る)
……。
……あー……こんな感じのクッション欲しいな……。
やわらけ……。
まあ……倒さないといけないんだよな、これ……。
でもいつも通りに殴り飛ばすもな……やりづれえなこれ……。
とりあえず『月影』で捕まえといてからの……
……えいっ。(錫杖で叩く)
……まあ、なんだ……まっしろさま、来てくれたらいいな。
出来ればあんな感じの、やわこくてかわいいやつ。
※絡み・アドリブ歓迎です!
アルノルト・ブルーメ
確かにまっしろだけれど
オブリビオンはオブリビオンだからね……
被害が出てしまう前に骸の海にお還り願おうか
血統覚醒使用
Viperで先制攻撃
手首を返してなぎ払いながら範囲攻撃
目白押しと海に関してはViperで叩き落して
可能な限りダメージ軽減
負傷した場合はその出血でVictoriaを起動
LienhardとVictoriaの二刀で攻撃を受け流しながら応戦
目白押しに関しては
自身以外の同行者を狙った物であった場合も
Viperで叩き落せる限りは叩き落とす
可愛いのに文鳥投げつけて来るのは……
中々どうして、流石はオブリビオン、と言うべきなんだろうか?
まっしろさまの正体は謎のまま……の方が良いのかもしれないね?
荒谷・つかさ
【ワイルドハント】
アレが本当の「まっしろさま」なのか、それとも別で居るのかは知らないけれど。
見た目が愛らしいとはいえ、アレはオブリビオン。
駆除することに躊躇いは無いわ。
白に桜に……シナモン?
文鳥なのかお団子なのかはっきりなさいよ。
でもよく見ると……美味しそう、かも……
よし、串に刺して焼いてみましょうか。
飛んでくる鳥の群れに対して【荒谷流乱闘術奥義・明王乱舞】を発動。
今日この時の為に特別に用意した、串状に加工した大量の「丸太」で軒並み串刺しにしてあげるわ。
さあ出来上がるのは焼き団子か焼き鳥か。
ニコリネ、火はよろしく頼むわね。
にしても、この光景。
子供たちを追い出しておいて良かったわ……
白斑・物九郎
【ワイルドハント】
●POW
(焼き鳥に逸る仲間を見る)
……狩って獲って焼いて喰うまで行く気っスか?
・【獣撃身・黒】発動、巨大四足獣の戦闘機動(ネコパンチ)で鳥を獲りまくる
・でかい体を【怪力&念動力】にて高速で突き動かすと共、ニコリネの操る炎の竜巻を潜り抜けて【属性攻撃(炎)】を自身へ付与、妖怪・火車の如く駆けずり回る
・己に文鳥の着弾が三色目を見ぬよう注意
●ニコリネへ
まっしろさまなァ
見守ってたってゆーか、守り神としての仕事はしたんじゃニャーですか?
まっしろさまが居るかもってんで村外れのココに猟兵が来た
ンでココで鳥の大群と出くわした
つまり――村が戦場になる事態は避けられた
百鬼夜行を水際で叩けた、と
枢囹院・帷
【ワイルドハント】
村の守り手と信じていたのがオブリビオンと知れては子供達が悲しむ。
この屋敷にはお化けが居た、そういう仕儀で終わらせるとしよう。
随分と仲間を増やす敵の様だ。
見た目は愛らしいが、羽搏きが煩くて敵わない。
群る文鳥の嘴攻撃を『Nightmare Wheel』を高速回転させて盾代わりに、自身と、炎の竜巻の生成に集中するニコリネを護る。
鳥の囀りに風雅を覚える性質でもなし、連中がこれ以上増えぬようユーベルコードの封縛を狙おう。
【咎力封じ】で足に枷を、嘴に猿轡を、躯はロープで縛上げる。
一つでも掛かれば占めたものだ。我が友らは手負いの獲物を決して逃さぬ。
扨てつかさ、これも胃袋に入れてしまうのか?
ニコリネ・ユーリカ
【ワイルドハント】
子供達をお家に帰しておいて良かった。
まっしろさまじゃなかったんだもの。
そう、此処に居たのは焼き鳥……スタッフ(猟兵)が美味しく頂くだけのもの。
ということで、料理は自信ないけど、今から焼きに入りまーす!
【エレメンタル・ファンタジア】で炎の竜巻を生成して、文鳥達を焼き鳥にしましょう!
風を制禦されたら上手に飛べないでしょう? 皆まとめて錐揉みしちゃう。
香ばしい匂いがし始めたら、仕上げ(トドメ)は仲間にバトンタッチ!
はい、出来上がりがこちらになりまーす。
ねぇ猟団長。本当のまっしろさまは居たと思う?
オブリビオンを退けた私達の事も、見守ってくれたかしらね。
(甘酒と金平糖をお捧げして帰る)
蔵館・傾籠
…、……はは、鳴くか。
愛い上に鳴くのか君らは。
ふくふくとしてなんつー丸さだ、…後ろめたさが半端じゃねぇぜ。
近付いたら可愛さで揺らぎそうだ、遠距離から討伐を。
【神和裁霊の舞闘】で広範囲を見通しながら白いふくふくに衝撃波を当てつつ。味方側へ近付きそうならば薙ぎ払う事も含め。
悪意の無い様子には可哀想だが、あれらが過去からの物ならば残らず倒してやらないとな。
アドリブ、連携一任
月舘・夜彦
これは何とも……困りましたね
禍々しい物の怪の類いと思っていたもので、まさか彼等がオブリビンとは
随分戦い辛いものですが数が増えてしまえば村の人々が住めなくなるでしょう
何より子供達がまっしろさまだと信じて近寄ってしまったら大変です
……すみません、春暁
もう暫し力を貸してください
春暁にぶんちょうさまを私の方へ追い込んで貰い、向かってきたものから仕掛けます
苦しませる訳にもいきませんので、2回攻撃で素早く斬り伏せていきましょう
彼等を倒した事でまっしろさまも戻ってきてくださるといいのですが
姿かたちは見えなくとも、親しむ気持ちというものは人を穏やかにするものですね
……さて、子供達には何と答えるべきか
メリー・メメリ
?!?!
まっしろさまはぴよぴよ?!
ライオン…!まっしろさまはぴよぴよ…!!
えっと、ぴよぴよしてても戦わないといけないから……
ええい、ライオンやっちゃうぞ!
でもでも、仲良くなりたいからあまり怖くガオーっていったらだめだよ…!
よーし、ライオンいけー!ごーごー!
う、うわーん!つぶらな目でこっちを見てくるよ…!
やだやだ、くちばしで攻撃するのはいたい!
ライオンライオン、それはだめだよって教えよう!!
いたいのはめっ!だめだめ!
●
「やっと出てきたか物の怪とや……ら……?」
鳳仙寺・夜昂は目の前でふわふわもこもこと動く白い鳥の物の怪を見つめたまま言葉を失い、茫然と立ち尽くした。
(「……ええ……丸い……でかい……」)
想像していた以上に丸くて、でかくて、そして想像の数万倍可愛らしい。
困惑した様子の夜昂が手にした『銀鈴』がシャラランと澄んだ音色を響かせると、ぶんちょうさまは一斉に音のした方向へと顔を向ける。
『ピピッ?』
「?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!」
ぶんちょうさまを前にしたメリー・メメリは大混乱をしていた。
まっしろさまはぴよぴよ?!
このぴよぴよは倒さなきゃいけなくて……でもまっしろさま!?
メリーの頭はパンク寸前。ぐるぐると目を回しながら、メリーはライオンの名を呼ぶ。
「ライオン……! まっしろさまはぴよぴよ
……!!」
『ガォゥ』とライオンはメリーに応えるように鳴き声をあげた。
それは、『わかった』という意味なのか、それとも『落ち着いて』と言っているのか。
ぶんちょうさまを見て動揺を隠せないのはメリーだけではない。
「まっしろさまじゃなくてぶんちょうさまだったよ、サジ太……!」
愛くるしいぶんちょうさまの瞳から目を逸らすことが出来ぬまま、真幌・縫も相棒のサジ太に思わず話しかけた。
「うーん、これはとっても可愛いし、子供たちも間違っちゃうよね」
――ぬいだって、オブリビオンをしらなきゃまっしろさまだってきっと信じちゃう。
苦笑いを浮かべる縫に思わずメリーもコクコクと何度も頷いてしまう。
『キュルルル?』
「…………」
甘えるような鳴き声をあげ、じぃっと見つめるぶんちょうさまたちの視線を受け止めていた蔵館・傾籠だったが、ついに耐えきれなくなり、そっと視線を外した。
「……はは、鳴くか。愛い上に鳴くのか君らは」
ぶんちょうさまの愛らしさに負け、傾籠は、もう一度チラリとぶんちょうさまへと視線を向ける。
『ピッピ、ピッピ』
「ふくふくとしてなんつー丸さだ……」
おしくらまんじゅうを楽しんでいるもふもふとした毛に包まれたそのまんまるな体を触ってみたい衝動に傾籠が必死に抗っているともぶんちょうさまは知る由もない。
そんな愛くるしい眼差しを向けるぶんちょうさまを見つめ、月舘・夜彦は考えあぐねていた。
「これは何とも……困りましたね」
物憂げな表情を浮かべ、ふぅっと溜息をつく様子も様になる彼だが、今はそれどころではない。
『朽ち果てたお化け屋敷に住まう謎の白い物体』というから、禍々しい物の怪の類と思っていたが、まさか彼らがこんなに愛らしいオブリビオンとは夢にも思わなかった。
それは、アルノルト・ブルーメにとっても同じこと。
「確かにあれもまっしろだけれど、オブリビオンはオブリビオンだからね……」
アルノルトの言葉に夜彦は神妙な面持ちで頷き返す。
「随分戦い辛いものですが数が増えてしまえば村の人々が住めなくなるでしょう」
何より、子供たちがまっしろさまだと信じて近寄ってしまったら一大事だ。
そうだねと頷くアルノルトの表情にも翳りが見える。
「村に被害が出てしまう前に骸の海にお還り願おうか」
夜彦とアルノルトと顔を見合わせてどちらからともなく頷いた。
そして、夜彦は肩にとまっているイヌワシの春暁に声をかける。
「……すみません、春暁。もう暫し力を貸してください」
ピィピィと可愛らしい鳴き声を響かせるぶんちょうさまへチラリと視線を向け、ニコリネ・ユーリカは大きく溜息をついた。
「――子供達をお家に帰しておいて良かった」
だって、この屋敷にいたのはまっしろさまじゃなかったんだもの。
ニコリネの言葉に枢囹院・帷が真面目な顔で頷き、同意を示す。
「村の守り手と信じていたのがオブリビオンと知れては子供達が悲しむ」
ただ――本当に、村の皆が信じる『まっしろさま』の正体はこのぶんちょうさまなのだろうか。それは荒谷・つかさにもわからないというのが正直なところ。――でも。
「アレが本当の『まっしろさま』なのか、それとも別で居るのかは知らないけれど。見た目が愛らしいとはいえ、アレはオブリビオン。駆除することに躊躇いは無いわ」
迷いのない眼差しをぶんちょうさまに向けるつかさに気づいたのか、『ピピッ?』とぶんちょうさまが可愛らしい声で鳴き声をあげた。
ぼんやりとぶんちょうさまを見つめていた白斑・物九郎は傍らの女性陣へと視線を向ける。
「ねーさん方、どうしまさ?」
問いかける物九郎に帷はフッと口元に笑みを浮かべて平然と言い放つ。
「何、迷うこともない。この屋敷にはお化けが居た――そういう仕儀で終わらせるとしよう」
●
ところで、皆がぶんちょうさまの愛らしさに心流されぬように必死に抗っていた中で、一人だけ違うことを考えている男がいた。――その男の名は荒・烏鵠という。
「オヤうまそ……かわいいな」
傾籠の耳に届いたのは烏鵠の物騒な呟き。
だが、気のせいだろうと聞かなかったことにする傾籠の隣で、烏鵠はペロリと舌を出しながらもう一度呟いた。
「ホントうま……かわいい」
「うま……美味そう?」
飲み込んだはずの言葉を口にする傾籠を見て、烏鵠は「しまった!?」と顔色を変える。
(「――コイツ、この白いふくふくした生き物を食うのか
……!?」)
口には出さずとも傾籠の視線がそんな風に語っているように見えたのか、烏鵠は慌てて顔の前でパタパタと手を横に振って見せる。
「ちゃうねん、ホラ狐としてな、小鳥を見たら美味そうだなって思わないといかんじゃろ?」
……そういうものだろうか。
ジトっと視線を向ける傾籠に、烏鵠は「ナ?」と同意を求め。
「そういうことなんじゃよ。フリってやつだから」
烏鵠がそこまで言うならそういうことにしておいても構わないが、そもそも傾籠は別に何も言っていない。
「ま、それはそれとして」
横に置いておいてと左から右へと手を動かしながら烏鵠は改めてぶんちょうさまをまじまじと見つめた。
『キュルー?』
くりんとしたぶんちょうさまの愛くるしい瞳とばっちり目があってしまった烏鵠は、慌てて手で顔を覆うとばっとぶんちょうさまから視線を逸らす。
「アアッやめて! そんなつぶらな瞳で見ないで! オレサマを見ないでチョーダイ! 腹減っちまうイヤ違った良心が痛む!!」
「やっぱり……」
やれやれと肩をすくめる傾籠の傍でもう一人別の――少女の悲鳴が聞こえた。
「う、うわーん! つぶらな目でこっちを見てくるよ……!」
可愛い、仲良くなりたい。でも……。
様々な想いがメリーの頭の中をぐるぐると回っているなどぶんちょうさまは露知らず。
ツンツンツンツン。
「やだやだ、くちばしで攻撃するのはいたい!」
嫌がるメリーのことなど気に留める様子もなく、ぶんちょうさまは嘴攻撃を繰り出すことをやめない。
「ライオンライオン、それはだめだよって教えよう!!」
同じくぶんちょうさまにツンツンされているライオンに声をかけるメリーを見て、慌てて傾籠は薙刀を振るい、メリーたちからぶんちょうさまを引き離す。
ぶんちょうさまの攻撃から解放されたメリーはふぅっと安堵の溜息をつくと、傾籠に向かってぺこりと頭を下げた後、再びぶんちょうさまへと向き直った。
「いたいのはめっ! だめだめ!」
『ピィ……?』
メリーの言葉が通じたのか、ぶんちょうさまは攻撃をやめるとキュルルと甘えるような声をあげてちょこんと小首を傾げる。
何度見てももふもふとしたその丸い体にちょこんとくっついた小さな嘴、そしてくりくりっとした黒いつぶらな瞳。……この白いふくふくたちを倒さなければいけないだなんて。
「……後ろめたさが半端じゃねぇぜ」
はぁと大きく息を吐いた傾籠はおもむろにぶんちょうさまから離れるように歩き出した。
「ん? どうかしたか?」
おーいと手を振る烏鵠に傾籠は気にするなと手を振って答える。
「近付いたら可愛さで揺らぎそうだ」
――だから、遠距離から討伐を。
「記憶に染みるは光を携えた白金の娘、きみの心を借りよう」
【神和裁霊の舞闘】を発動させた傾籠は重力を感じない白の身体へと姿を変えて辺りを見通しながら、螺旋細工が施された無銘の薙刀を振るった。
『無銘・薙刀』から放たれた衝撃波は無慈悲にもぶんちょうさまを骸の海へと葬り去り、すぅっと音もなくその姿は消えていく。
ぶんちょうさまを見ている限り、悪意は感じられない。
だが、いずれは八重川村に大災害をもたらすオブリビオン。どんなに愛くるしい風貌であっても、あれらが過去からの物ならば残らず倒してやらなければならない。
それが――猟兵たる己のやるべきことだと傾籠は心に刻みこむ。
「えっと、ぴよぴよしてても戦わないといけないから……」
そう、目の前にいる可愛いぴよぴよことぶんちょうさまはオブリビオン。このまま見逃すわけにはいかないから。
メリーはぎゅっと目を瞑ると覚悟を決めた。
「ええい、ライオンやっちゃうぞ!」
メリーの言葉にライオンも『ガルル』とぶんちょうさまに牙を剥く。
やる気満々のライオンを見て、メリーは慌てて「待って!」と手を振って制した。
「でもでも、仲良くなりたいからあまり怖くガオーっていったらだめだよ……!」
メリーに釘を刺され、残念そうにライオンは小さく体を丸める。だが、メリーに背中を優しく叩かれ、再びしゃんと背筋を伸ばした。
「よーし、ライオンいけー! ごーごー!」
メリーを背中に乗せたライオンは、意気揚々とぶんちょうさまの群れへと飛び込んでいく。
一方、時間を置いたおかげで冷静さを取り戻した烏鵠はというと。
「……長引かせるわけにはいかねェな、こりゃ」
傾籠が薙刀を振るい、メリーのライオンがぶんちょうさまを蹴散らしているのを横目に、今回はどんな手を使うべきかと顎に手を当て考え込んでいた。暫しの後、よしと頷いた烏鵠が選んだ手段は――。
「暝神に帰依し奉る。契約に基づき、我が敵を捕らえよ」
――十三術式:括リ蛇。
烏鵠が召喚したのは巨大な蛇神だった。
蛇神はゆっくりとぶんちょうさまの背後へと近づいていくと、そのままくわっと大きく口を開けて、ぱくりとぶんちょうさまに噛みつく。
『ピッ!?』
驚くぶんちょうさまが逃げるよりも先に、蛇神は次々と大きく口を開き、次々とぶんちょうさまを丸呑みにしていった。烏鵠はお疲れさんと労うように蛇神をポンと叩く。
「やったな蛇さん、今日の晩飯は鳥の竜田揚げだ」
●
これはオブリビオンだと知っているけれども、でも。
心の中の衝動に抗うことはできず、夜昂はフラフラとぶんちょうさまへ近づいていった。
「えぇっ!? ど、どうしたの?」
驚く縫には何も答えず、夜昂はそっとぶんちょうさまへ手を伸ばす。もふっとした毛皮が夜昂の手を優しく包み込んだ。
「…………」
『キュル~』
甘えるような鳴き声をあげるぶんちょうさまにぼふっと顔をうずめ、夜昂は幸せそうに小さな声で呟きを漏らす。
「やわらけ……」
――こんな感じのクッション欲しいな……。
ぶんちょうさまをもふもふする夜昂の脳裏を小さな欲望がよぎっていくが、多分、その願いが叶った暁にはダメな人になってしまうであろうことも想像に難くない。
ぶんちょうさまが攻撃してきた時に備え、ぎゅっとサジ太の手を握り締めていた縫だったが、すっかりぶんちょうさまにメロメロになっている夜昂につられ、思わずそろそろっとぶんちょうさまに手を伸ばした。
見た目に違わず、ぶんちょうさまはもふもふでふくふくで温かくて。
その心地良さに縫も静かに目を閉じ、うっとりと幸せな気分に浸る。――でも。
「このこ達はオブリビオンだから……」
慌ててぱっと目を開けると、縫はぶんぶんと首を横に振り自分に言い聞かせるように何度も呟いた。
「でも、このこ達はオブリビオンだから……っ!」
もしも、ぶんちょうさまたちのせいで本物のまっしろさまが出て来られないだとしたら、きちんと戦わなければいけない。
縫は心を鬼にしてぶんちょうさまをキッと見据えた。
「さぁ、ぬいぐるみさん達! ぬいと一緒に戦って!」
縫の呼びかけに応えるように、どこからともなく現れたのはたくさんのぬいぐるみたち。犬、猫、クマ、ウサギ、ペンギン、ひよこ……種類も大きさも様々なぬいぐるみたちがひょこひょこっと縫の前にピシっと整列をする。
「みんな、準備はいい?」
ぐるりとぬいぐるみたちを見回した縫は大きく息を吸い込むとビシッとぶんちょうさまを指差した。
「攻撃開始ー!」
縫の掛け声に合わせ、ぬいぐるみさんたちは一斉にぶんちょうさまへ向かって駆けだしてゆく。愛らしいぬいぐるみさんたちとぶんちょうさま。もみくちゃになりながら戦う様は可愛らしく、見守る縫も気づかぬうちににんまりと笑みが零れてしまう。
「お、おぉ!?」
たくさんのぬいぐるみさんたちにもみくちゃにされてようやく夜昂も現実へと帰ってくることが出来た。名残惜しい気持ちは否定できないが、ぬいぐるみさんたちによる攻撃に巻き込まれないように、慌ててぶんちょうさまと距離をとる。
「やりづれえ……ホントやりづれえなこれ……」
無意識のうちに溜息をつく夜昂も頭の中では考えていた。いつも通りに殴り飛ばす……のは罪悪感が否めない。とりあえず……と彼が選んだ方法は。
「ちょこまか逃げんじゃねえよ……っと」
夜昂の足元の影から漆黒の帯がにゅるりとぶんちょうさまを包み込んだ。夜昂の放った影――【月影】は、ぶんちょうさまの身体を絡めとり、その自由を奪い去る。
「で、こうして捕まえてからの……えいっ」
シャランと美しい音色を響かせ、夜昂は『銀鈴』でぶんちょうさまの頭をぽかりと叩いた。
『ピピピピピーッ!』
「わわっ!? ぶんちょうさまが怒ったー!?」
突然、羽を広げて威嚇するぶんちょうさまを見て、慌てて縫も杖を構えて応戦の体勢をとる。
ぽかっ、ぽかっ、ぽこっ!
子供たちや村人を想うと討ち漏らすことは許されない。
夜昂と縫は感情に流されることなく、ぶんちょうさまを骸の海へと送っていった。
「ぶんちょうさまの思うつぼなんだろうけど……やっぱり可愛いなぁ……」
「それについては、否定出来んな……」
神妙な顔の縫と夜昂は言葉少なに目線を交わす。先程のふわっふわな感触がまだ手に残っている。今はまだ、その余韻に浸ってもバチは当たらないだろう――。
●
『ピッピッピッピッピッピッピッ!!!』
猟兵たちの攻撃の意思を感じとったのか、ぶんちょうさまはぷくぅっとまんまるな体をさらに膨らませて抗議の声をあげる。その鳴き声に呼ばれたのか、どこからともなく3種類のぶんちょうが姿を現した。その種類は、白文鳥、桜文鳥、シナモン文鳥とどれも可愛らしさはよりどりみどりだ。
「文鳥にも様々な種類があるものだな」
ほぅと感心の声をあげる帷の隣では、つかさが小さく口を尖らせる。
「白に桜に……シナモン? 文鳥なのかお団子なのかはっきりなさいよ」
ピィピィと囀る声に苛立つ様子のつかさだったが、帷は至極冷静に鼻で笑い飛ばした。
「鳥の囀りに風雅を覚える性質でもなし。見た目は愛らしいが、羽搏きが煩くて敵わない」
『Nightmare Wheel』を構える帷をつかさは「待って」と制する。
「でもよく見ると……美味しそう、かも……。よし、串に刺して焼いてみましょうか」
ポンと手を叩くつかさに物九郎は思わず「え!?」と声をあげた。
「……狩って獲って焼いて喰うまで行く気っスか?」
焼き鳥に逸るつかさをポカンと見つめていた物九郎は、ハッと我に返ると助けを求めるようにニコリネへ視線を向ける。……だが。
「そう、此処に居たのは守り神でも物の怪でもオブリビオンでもない、ただの焼き鳥……」
芝居がかった口調で喋るノリノリなニコリネを見て、物九郎は思わず額に手を当て溜息をついた。
――ダメだ、こりゃ。
しかし、そんな物九郎に気づいているのかいないのか。ニコリネはつかさと視線を交わしつつ、演技めいた台詞はなおも続く。
「焼き鳥、それはスタッフ(猟兵)が美味しく頂くだけのもの――。ということで……」
ニコリネは愛用の四色ボールペンを杖へと変えると、くるりと器用に回しビシっとぶんちょうさまへと突きつけた。
「料理は自信ないけど、今から焼きに入りまーす!」
――それが、戦いの火蓋を切る合図となった。
『ピィィィィ……ッ!!!』
ぶんちょうさまが呼び出した三種の文鳥たちをつかさに向かって一斉に放つ。
だが、つかさは自身へと迫りくる文鳥を見ても動じる様子は微塵も感じられない。
「今日この時の為に特別に用意した、串状に加工した大量の『丸太』で軒並み串刺しにしてあげるわ」
とってもいい感じとしか形容できない丸太を抱え、つかさは大きく振り被った。
「巻き込まれるのが嫌ならば、近づかないことよ……乱闘術奥義! 明王乱舞、ご覧あれ!」
丸太をはじめとするつかさが持っていたありとあらゆる武器が嵐のごとく暴れまわり、文鳥たちを一網打尽にすべく襲い掛かる。
『ピピッ!? ピピピッピー!』
だが、ぶんちょうさまもやられたらまた呼べばよいとばかりにすぐさま3種の文鳥たちを呼び出し、猟兵たちに襲い掛かるように指示をした。
だが、その文鳥たちも次々と何か――素早く動く黒い生き物にどんどん捕獲されていく。
それは、巨大な化け猫へと姿を変えた物九郎だった。物九郎はその大きな体から繰り出されるネコパンチで文鳥を獲りまくっていたのだ。
「焼き鳥用の鳥まで獲らないでよ」
あまりに物九郎が次々と鳥を捕獲していくため、不安になったのか、つかさが思わず釘をさす。
そんなつかさの言葉に物九郎は思わず手を止めてまじまじと彼女の顔を見つめた。
(「荒谷のねーさん、本気なんスね……」)
――さぁ、出来上がるのは焼き団子か焼き鳥か。
出来上がる料理に思いを馳せ、つかさは嬉しそうにニコリネの名前を呼ぶ。
「ニコリネ、火はよろしく頼むわね」
「任せて、つかささん!」
パチリとウィンクをして答えたニコリネは、文鳥たちを焼き鳥にするべく炎の竜巻を生成した。
風を制禦されたら、文鳥たちも上手に飛べないはず。そこを狙って皆まとめて錐揉みする。
「はい、出来上がりがこちらになりまーす」
ニコリネが示す先にあったものは、湯気の立った出来立ての焼き鳥の姿。
「……にしても、この光景。子供たちを追い出しておいて良かったわ……」
幼心には厳しいトラウマ必須間違いなしの光景にしみじみと呟くつかさに思わず物言いたげな視線を向ける物九郎だったが、結局何も言わないことにする。
「扨てつかさ、これも胃袋に入れてしまうのか?」
楽しそうに問いかける帷に当然と頷いて焼き鳥に手を伸ばすつかさを見て、慌てふためくのはぶんちょうさまだ。
『ピィピィ、ピィピィ』
食べられては堪らないと、ぶんちょうさまはつぶらな瞳でじっとニコリネを見つめた。
罪悪感をくすぐる、可愛らしい鳴き声に耐えきれず、ニコリネが怯んだ隙をついて小さな嘴でツンツンつっついて攻撃する。
「え!? 私だけ
……!?」
慌ててニコリネが傍らの帷に助けを求めるような視線を向けると、帷は無言で『Nightmare Wheel』を掲げた。帷自身の紅い血で旋回する悪魔の車輪が高速で回転し、盾となって帷とニコリネをぶんちょうさまの嘴攻撃から護る。
「ありがとう、帷さん!」
再び、ニコリネが呼び起こした炎の竜巻がぶんちょうさまに襲い掛かった。その竜巻を擦り抜けるようにして動くのは、己の体に炎を纏った物九郎だ。
物九郎はその巨躯に似ぬ機敏な動きで文鳥たちを蹴散らし戦場を所せましと駆けずり回る。その動きは、まるで妖怪・火車の様――。
『ピッピ、ピッピ、ピッピ!』
ぶんちょうさまも負けてはいられぬと大量の文鳥を召喚すると、その矛先を帷へと向けた。だが、帷は冷静に文鳥たちの攻撃を『Nightmare Wheel』で防ぎつつ、ふむと思案の表情を浮かべる。
「焼き鳥ももう十分に用意できただろう。連中がこれ以上増えぬよう捕縛を狙おう」
帷はぶんちょうさまの動きを封じるべく、愛用の拘束具を投げつけた。帷の放った拘束具は、ぶんちょうさまの足を、嘴を、そしてその躰を縛り上げて身動きを封じる。
「そろそろ仕上げの時間かしら?」
辺りを漂う香ばしい匂いに火加減……もとい炎の竜巻の威力を調整するニコリネに頷き、物九郎がにゃぁぁぁっと大きな体でぶんちょうさまへと飛び掛かかった。
ガッと大きく空を薙ぐ鋭い爪の一撃で、ぶんちょうさまの姿は静かに消えていく。
それは、ぶんちょうさまが呼んだ文鳥たちも――すなわちせっかく出来上がった焼き鳥も全て一緒に消えていくという合図に他ならない。
「あぁ、私の焼き鳥……」
慌ててつかさは焼き鳥へと手を伸ばすもその手は届かず、空しく空を切るのだった。
●
アルノルトの緑色の瞳が深紅に変わる――。それが、ぶんちょうさまへの攻撃の合図。
ヴァンパイアへと変身したアルノルトの手には『Viper』が握られている。
アルノルトは毒蛇の異名を持つそのフックの付いた愛用のワイヤーをぶんちょうさまに向かってシュッと投げた。そして、スッと手首を返すと無駄のない動きでワイヤーを操り、ぶんちょうさまへと狙いを定める。
ぶんちょうさまも大人しくやられているばかりではない。白文鳥、桜文鳥、シナモン文鳥と3種の文鳥を呼び出すや否やアルノルトへ向かって次々と投げつけてきた。
アルノルトは飛んでくる文鳥たちを『Viper』で叩き落としながら、思わず苦笑を浮かべる。
「可愛いのに文鳥投げつけて来るのは……中々どうして」
無意識のうちに頭を横に振るアルノルトの脳裏をふっとかすめるのは。
(「――流石はオブリビオン、と言うべきなんだろうか」)
そんなことを考えながらもアルノルトは飛んでくる文鳥たちは器用に叩き落し、ぶんちょうさまへ接敵すると左右の手に構えた『Lienhard』と『Victoria』でぶんちょうさまの攻撃を受け流しながら応戦すれば、次々とぶんちょうさまの数が減っていった。
「春暁、私たちも負けてはいられませんね」
夜彦の指示を受けた春暁は優雅に主の頭上を旋回した後、ぶんちょうさまへと向かって飛んでいく。
『ピピピピッ!』
身の危険を察知したぶんちょうさまの鳴き声を合図に、大量の文鳥たちがまるで波のように夜彦へと押し寄せてきた。それは、まるで文鳥の海とでもいうべきか――数えきれない程の文鳥が夜彦へと迫り来る。
だが、夜彦は大量の文鳥を見ても顔色を変えることなく『夜禱』を構えた。
ザッと曇りのない刃を大きく振るい、夜彦へと襲い掛かろうとしていた文鳥たちを纏めて一気に薙ぎ払う。
『ピピッピ、ピピッピ』
再び、ぶんちょうさまは文鳥の大群を投げつけてきた。数えきれない程の文鳥たちを前に、さすがに夜彦一人では応戦しきれない――そう思った時。
「――ここは、俺が」
加勢を宣言したアルノルトが『Viper』を操り文鳥たちを次々と叩き落としていった。
「――感謝します」
短く礼の言葉を述べ、アルノルトに向かって頭を下げる夜彦の前には、春暁に追い立てられて逃げるようにやってきたぶんちょうさまの姿がある。
(「苦しませるのは本意ではありませんね」)
夜彦は再び『夜禱』に手を添えると、素早い足さばきでぶんちょうさまとの距離を一気煮詰めた。そして、鞘から抜いた愛刀で空を薙ぎ、ぶんちょうさまに切先が触れぬように斬りつけること二回、目にも止まらぬ速さで『夜禱』を振るうと静かに刀を鞘に納めた。
ぶんちょうさまは骸の海へと送り届けられたが、まだまだ健在のものもいる。
「いきますよ、春暁」
ぶんちょうさまを追い立てるべく飛んで行く春暁を、夜彦は頼もしそうに見つめながら独り言ちた。
「彼等を倒すことでまっしろさまも戻ってきてくださるといいのですが……」
まっしろさまが来なかったのは、オブリビオンたちのせいであってほしい。
そう願う夜彦を現実へと呼び戻すかのように、ぶんちょうさまが険しい鳴き声をあげる。
「今はやるべきことをやるまでですね――」
ぶんちょうさまたちを本来の居場所へと還すべく、夜彦は迷うことなく真っ直ぐな眼差しを向けて愛刀を振るい続けるのだった。
●
最後に残ったぶんちょうさまの姿が消えたのを見て、烏鵠は額の汗を拭う。
「フー……危なかったぜ」
やれやれと肩をすくめ、烏鵠は誰に言うでもなく呟きを漏らした。
「かつてない死闘だったナ」
何しろぶんちょうさまは一歩間違えば『烏鵠』という存在が揺らぎかねない、そんな手強い相手だったのだ。
「ぴよぴよ、みーんないなくなっちゃった」
仲良くなりたかったなぁと残念そうに口を尖らせるメリーだったが、すぐに気持ちを切り替えてライオンの首にぎゅっと手を回した。
「でも、こんどこそまっしろさまに会えるかなー」
まっしろさまと仲良くなりたいと嬉しそうにライオンに話すメリーを微笑ましそうに夜彦は見つめる。
姿かたちは見えなくとも、親しむ気持ちというものは人を穏やかにする――。
ヤドリガミである己も、人にとってそのような存在であることができただろうか。
そんなことを考えていた夜彦の脳裏に先程、村へ帰らせた子供たちの顔が浮かぶ。
「……さて、子供達には何と答えるべきか」
困ったと溜息をつく夜彦につられたのか、アルノルトもまた苦笑まじりに口を開いた。
「まっしろさまの正体は謎のまま……の方が良いのかもしれないね?」
まっしろさまは村人の心の中に確実にいるのだから――。
そう告げるアルノルトの言葉に耳を傾けながら、ニコリネは物九郎に話しかける。
「ねぇ猟団長、本当のまっしろさまは居たと思う?」
オブリビオンを退けた私達のことも、見守ってくれたかしらね――。
小首を傾げるニコリネに物九郎はゆっくりと口を開いた。
「見守ってたってゆーか、守り神としての仕事はしたんじゃニャーですか?」
怪訝そうな顔を向ける帷に、物九郎はピッと指を立てて答える。
「まっしろさまが居るかもってんで村外れのココに猟兵が来た。ンでココで鳥の大群と出くわした」
つまり、と言葉を紡ぐ物九郎に仲間たちの視線が集まった。
「――村が戦場になる事態は避けられた。百鬼夜行を水際で叩けた、と」
これも全て、まっしろさまの思し召しではないか。
そう答える物九郎に帷は愉しそうに声をあげる。
「そうか――それがまっしろさまのやり方か」
まっしろさまが、邪悪の群れに襲われるという村をどうやって守るのかと思っていたが、自分たち猟兵を使うとは――。
「私たち、神様のお手伝いをしたのね」
口元に笑みを浮かべる帷にニコリネは柔らかな笑みを受かべて頷くと、仲間たちをぐるりと見回した。
「ふふっ、それじゃ無事に村を守ったまっしろさまに感謝のお供えをしなくちゃね」
甘酒の入った小さな杯と、金平糖を乗せた豆皿をコトリと置いて。ニコリネはそっと両手を合わせる。
「つかさ……」
「わかってるわよ、今度は食べないから」
視線を向ける帷に口を尖らせるつかさだったが、ついついお供えに視線がいってしまうことくらいは許されるだろう。
「まっしろさま。帰ってくるといいね♪」
お供えを嬉しそうに見つめ、縫は嬉しそうに顔を綻ばせた。
縫のその言葉に、夜昂も「ああ」と頷き目を細める。
「出来ればあんな感じの、やわこくてかわいいやつがいいな」
見たことはないが、きっとまっしろさまもふくふくと愛らしい姿をしているに違いない。そんな他愛もないやりとりを微笑ましそうに見ていたアルノルトが「おや」と驚きの声をあげた。
「――お供え、誰も触っていないよね?」
見ればさっきニコリネが供えたはずのお供えがいつの間にか空っぽになっている。
それを見たつかさは慌てて首を横に振った。
「ち、違うわよ。私じゃないわ」
食べてもいないのに疑いをかけられてはたまらない。
「と、いうことは……」
目を丸くする夜昂の隣で縫が嬉しそうに声をあげる。
「まっしろさまだ!!」
――やはり、このお化け屋敷はまっしろさまの住まいだったのだろうか。
そんなことを考える傾籠だったが、はたとあることに気が付いた。
もしかして――。
「村にも、まっしろさまが来てるんじゃないか?」
傾籠の言葉に猟兵たち皆の顔がぱっと華やぐ。まっしろさまが来れば村人たちもさぞかし喜ぶだろう。
「ぬい、もう一度村に帰ってお供えしようかな」
「メリーもまっしろさまに会いたい!」
そわそわした様子の縫とメリーは今すぐ村に戻りたそうだ。
今度こそ、まっしろさまを見たい――。それは、物九郎も同じ気持ちだ。次こそは絶対にお供えを食べる瞬間を見てやると密かに闘志を燃やす物九郎を見てニコリネはくすりと笑みを零す。
「それじゃ、皆で村に戻りましょう! そして、皆でもう一度お花見をしない?」
――まっしろさまへのお供えも添えて、ね。
ニコリネの提案に反論する者はなく。一同はお化け屋敷に別れを告げて、まっしろさまが待つ村へと歩き出すのだった。
大成功
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