観賞魚は試験管の中で夢をみる
●喰らう
気泡が水の中を昇ってゆく。
こぽぽ、こぽぽ、と昇って、ぱちんと弾ける。
巨大な試験管のような水槽が深海を思わす昏い空間に幾つも幾つも並ぶ光景は、異様であり、同時に威容にも二人の目には見えた。
若い女の方が、そろりそろりと前を歩く同じ年頃の男の袖を引く。
怯えた様子の女に、男は振り返って笑おうとして、口を引き攣らせる。
――試験管の中と目があったのだ。
血のように赤い『何か』が、水槽の中でぐわりと口と思われる器官を開けた。
ごぼぼ、ごぼぼ。
無数の気泡が水槽を中を白く濁す。直後、水槽が消えた。いや、違う。水槽ではなく、水槽の外郭だけが消えた。
溢れ出した水が床を浸し、男と女の足を濡らす。
驚愕は一瞬。
『お前ノ、可能性――ヨコセ』
元来た道へ戻ろうと踵を返す間もなく、二人はむしゃりと水槽の中に居た『何か』に喰らわれた。
●戯
UDCアースのとある街に、少し風変わりな水族館がある。
全ての水槽は、ビーカーやフラスコ、シャーレやメスシリンダーなどの実験器具を模しており、その中を様々な魚が泳いでいるのだ。
一番人気は、二つの丸底フラスコ型水槽を繋ぐリービッヒ冷却器の空中回廊。ジムロート冷却器を模した細い水路を熱帯魚が泳ぐ水槽だって見逃せない。
超巨大な乳鉢は、水族館の定番ともいえるイルカやアシカのショーが行われるステージだ。
こうくれば、土産物だって全てが実験器具仕様。
クッキーやキャンディを詰めた缶は、ガスクロマトグラフィーに似せた柄が描いてあるし。棒状のチョコレート菓子は試験管立てがセットになっている。
最も売れ筋なのは、ミニチュアのガラス器具の中に魚のチャームを入れたキーホルダーらしく。館内のあちらこちらに、上皿天秤を象った専用のラックが出ている。
「わくわくする?」
ウトラ・ブルーメトレネ(花迷竜・f14228)は虹色の毛先をふるふる揺らし、あのねあのねと楽し気に水族館の様子を物語る。
けれど楽しいばかりでないのは、喋る側も、耳を傾ける側も猟兵な時点でお察しだ。
「でもね、いやなかんじがするの。ぞわぞわぞわぞわ。まるで、のろい?」
だがまずは風変わりな水族館を心の底から楽しめばいいとウトラは言う。
楽しめば楽しんだだけ、『それ』はあちら側から口を開けて手招きする。これはそういう類の『妖しい誘い』。つまり他の一般の来園者より猟兵たちが水族館を満喫すれば、余人を巻き込む心配もないということ。
「だからまずは、おもいっきり! わたしのぶんまで楽しんでね」
送り出す少女の、全てを見透かそうとする銀の瞳には、明らかな羨望の色が浮かんでいた。
七凪臣
お世話になります、七凪です。
今回はUDCアースでのお仕事をお届けに参上しました。
●シナリオ傾向
1章は純粋に楽しく。
2章以降はちょっとぞわぞわを目標。
心情系寄りな気がします。
キーワードは『無限の可能性』。
●シナリオの流れ
【第1章】日常。
ちょっと変わった水族館をご堪能下さい!
メジャー所の魚はだいたいいます。
調査などは以降の章で。
【第2章】冒険。章開始時に導入部を公開致します。
【第3章】集団戦。章開始時に導入部を公開致します。
●お連れ様(二人組まで)とご参加頂く場合
迷子防止の為に「名前+ID」の指定と、できるだけ近い時間帯でのプレイング送信をお願いします。
●その他
当シナリオは1週間~10日で完結を目指します。
参加人数次第ではありますが、プレイングの全採用はお約束できません。
各章最大で10名程度の見込みです。
先着順ではありませんが、プレイング募集期間は比較的短くなると思います。
第1章のプレイングはOP公開された時点より。
第2、3章は導入部を公開した時点よりプレイング受付を開始致します。
詳細はマスターページにも随時公開予定です。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
宜しくお願い申し上げます。
第1章 日常
『たのしい水族館』
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POW : お土産をたくさん買う
SPD : 魚をいっぱい見る
WIZ : イルカやアシカなどのショーを楽しむ
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浮舟・航
【SPD】
風変わりな水族館の様子に、僕は興味と興奮でいっぱいでした
鮮やかな色、華やかな尾ひれを揺らして実験器具の中を泳ぐ魚の姿は
幻想的で、空想的で―― これはいい資料になる。確信。
順路に沿って、スマートフォンを片手に展示された魚を眺めていきます
尾ひれのしなり、肉体の動き
絵を描くには、やっぱり本物を資料にするのが一番いいから
フラスコの底で、小さなオレンジが蠢いていると思ったら
やっぱりクマノミでしたね
オレンジの身体を走る白のライン、黒のアクセント
その鮮やかさにうっとりしてしまう
僕の一番好きな魚は、いるでしょうか
ちょっとレアだし、厳しいかな
海の中、優雅にきらめきながら揺蕩う、リュウグウノツカイは――
●ギフト
ぽたりぽたりと滴下漏斗から注ぎ落される餌に、赤や青、黄で全身を彩る熱帯魚が試薬瓶を模した水槽を上へ上へと泳いで群がる。
――風変わりな水族館の様子に、僕は興味と興奮でいっぱいでした。
浮舟・航(未だ神域に至らず・f04260)は、鮮やかにして華やかな饗宴を収めた動画を一文添えてSNSに公開すると、見馴染みのない水槽へまたスマートフォンを向ける。
レンズを通し画面越しに切り取った風景は、まるで紙芝居。
幻想的で、空想的で――。
(「これはいい資料になる」)
同時に、尾ひれのしなりや肉体の動きは、絵を描く時にも大活躍してくれそうで。航は度々録画ボタンを押しては、薬さじ型の案内表示に従い、水族館を奥へ奥へと進んでゆく。
「……!」
そうして、ふらりと一人歩き。
フラスコ型の水槽の底、小さなオレンジ色の蠢きに心を奪われていた航は、聞こえてきた声に醒めるような青い瞳をレンズの奥で輝かせた。
「リュウグウノツカイが、いるんですか……?」
それはめったに出逢えぬ深海の魚。
生きたまま捕獲されるのは珍しく、また元とは異なる環境で長らえることはほぼない魚。
ざわつく声に更に耳を傾ければ、運よく今日から展示が始まっていたらしい。
「また後で会いに来ますね」
オレンジ色に、白いライン。そこに黒のアクセント――一瞬前までその鮮やかさで魅了してくれていたクマノミへ再訪を誓い、少女は急ぎ足の人波に乗る。
そして航は見た。
銀白色の身体に、鮮やかな紅色をたなびかせる美しい魚を。
極限まで光を抑えられた世界にあって、優雅にきらめきながら揺蕩い泳ぐ姿を。
きっとこれは神様からの贈り物。
稀有なる光景を前に、航は暫し録画ボタンを押すのも忘れていた。
大成功
🔵🔵🔵
影杜・梢
試験官と魚、か。
不思議と惹かれる組み合わせだけど、心なしか妖しい感じが漂うね。
ウトラの分まで楽しむとして……。
さて、クラゲに癒されに行こうかな。(実は:クラゲ大好き)
クラゲの水槽をゆったりと眺めるよ。
しばらく、ここから動く気はないからね?
ボクはクラゲが見られれば、それで良いからさ。
ふわふわしていて突きたくなるよね。
試験官型の水槽だからだろうか。他の水族館で見るよりも幾分か神秘的に感じるよ。
カラージェリーフィッシュとか、特に好みだな。
……家で飼えないかな。
後でお土産コーナーにクラゲグッズがないか、探してみようか。
……あと、近所に熱帯魚専門店があるか探さないと。
●天国に近い場所
試験管と魚。
不思議と惹かれる組み合わせに、影杜・梢(影翅・f13905)は水槽をじぃと見入る。
表面に規則正しく真横に引かれた線は目盛りなのだろう。そこを魚が過っていくたびに、妖しい感じがするのも、感覚的には新しい。
そもそも、病院暮らしが長い梢にとっては、日々の色々が目新しく眩いもの。羨ましがっていた少女の分まで存分に楽しまなくては勿体ない。
けれど、一等見たいものは決まっている。
「さて、と」
仄かに光る案内板でお目当てを確認すると、梢は人の狭間を掻き分け泳ぎ、ひと際大きな試験管型の水槽の前で息を呑んだ。
「……うわぁ」
水底に設置された青いライトを受けて、無数のクラゲがふわふわと水中を漂う。自らが淡い灯となったかのような光景は、数と相俟ってただただ圧巻。
最初に漏らした感嘆を最後に、梢は声もなくクラゲたちに目線も心も奪われる。
珍しい水族館だ。他にも様々な仕掛けや、演出があるだろう――けれど。実は大のクラゲ好きな梢にとって、ここはまさしく天国に一番近い場所。暫く動くつもりはないし、こうしてゆっくりクラゲ達を眺めているだけで時間を忘れてしまう。
それに試験管型の水槽なせいだろうか。クラゲの群舞は他の水族館でも見たことがあるけれど、記憶にあるそれらよりちょっぴり神秘的に感じられてしまうのだ。
膨らみ、しゅっと萎み。足のような触手をすっとなびかせ。
特に好みのカラージェリーフィッシュの動きに合わせ、水槽を指先で突いて、「ふふ」と小さく笑った梢は思案の海へと沈み込む。
「……家で飼えないかな」
土産コーナーにクラゲグッズがないか探すのは当然のこととして。更に家の近所に熱帯魚専門店がないか探さないと、と梢は水槽の彼方に無限の可能性を透かし見る。
大成功
🔵🔵🔵
海月・びいどろ
硝子越しの世界、
実験器具に、…さかな
……なつかしい、きもち
どんな子が、いるのだろう
大群の銀の鱗が、きらきら
青い熱帯魚は、ひらひら
海月は、いない…?
試験管に、フラスコの中を
悠々、泳いでいるのを見れば
まるで、キミたち、ここでうまれたみたいだね
硝子越しの世界は、きれいだけれど
退屈じゃあ、ないかな
すこしだけ、ぼうっとしてしまうけれど
ひかりを透して揺蕩う模様に
ゆびさきを、つ、と翳して
空を游ぐみたいに通り過ぎる魚影を仰ぐ
……みんながいるもの、ね
今は、ただ、賑やかに
さかなたちを楽しむヒトに紛れて
海月のぬいぐるみと、ゆっくりと眺めて回ろう
…おみやげ、って何を買えば良い?
お菓子? ストラップ?
悩みどころだね…
●深海ノスタルジー
「いっぱい、いたね」
抱えた海月のぬいぐるみへ、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)はそろりと語りかける。
クラゲも、いるだろうか?
水族館と聞いた時からそわりとしていたのだけれど、無事の対面を果たせば、不思議な気分。
――実験器具に、さかな。
硝子越しの世界は、びいどろの胸に郷愁めいた細波を起こした。
ざわわ、ざわわ。小さな波がびいどろの内側を泡立てては、すうと引き。引いては、泡立てる。
大群の銀の鱗は、きらきら。
青い熱帯魚は、ひらひら。
どの子も、巨大な実験器具の中を悠々と泳いでいた。
(「キミたち、ここでうまれたみたいだね」)
観客の目を楽しませる光景は、確かに綺麗だけれど――退屈ではないのだろうか?
水族館内で一番大きい超巨大ビーカーを振り仰ぐびいどろの青い瞳が、憂いのプリズムを帯びる。
ジンベエザメやウミガメなどの大きな魚影に交じり、中小様々な魚たちが『定められた』空間を自由に泳ぐそこは、どこまでも澄んだ青の世界。できるだけ光を抑えた館内と比べると、まるで空のよう。
(「……みんながいるもの、ね」)
ゆびさきを、つ、と翳し。眼前を通り過ぎていく魚たちの様子に、びいどろは安堵と羨望と、形容しにくい『何か』を混ぜた息を吐くと、賑やかな人波に紛れた。
考えてしまうことは、沢山ある。
けれど、今は。魚たちのダンスに歓喜の声を上げるヒトの外側から、ただゆっくりと。
「……そういえば」
お土産って、何を買えばよいのだろう?
ふと思い出した現実に、びいどろの内側もゆらゆら漂う。
「お菓子が、いいかな? それとも、ストラップ?」
抱いた海月に尋ねつつ、びいどろは風変わりな水族館をそぞろ歩く。
大成功
🔵🔵🔵
アール・ダファディル
一風変わった水族館、ねえ
Echo、キミも見に行きたいって?
……仕方がないね、全く
実験を尊んだような設えの水槽を覗く
外側など知らぬ魚たちは悠然と
「何も知らず呑気なものだ」
この外の不穏を知ったところで魚は泳ぐのだろう
その何も出来ない不自由さを、
俺は時折とても羨ましく感じる
やたら来たがった≪彼女≫はと言うと、
ご機嫌な様子で調理器具カチカチと
「……Echo、この魚は食べられないよ」
今の≪彼女≫のブームはおままごと
最近一番楽しがっていた遊びは魚釣り
そんな妹が水槽を見……
否、今まさにと狙い定めていた
寸前に抱き上げ担いで事無きを得る
ジタバタ抵抗する妹に魔法の言葉を
「あとでお土産を買ってあげるから」
●魔法の言葉
実験を尊んだような、風変わりな水族館。
行ってみたいと『言い出した』のはEchoだ。
「……仕方がないね、全く」
大きなリボンをぴこんと弾ませたように見えたテディベアに、アール・ダファディル(ヤドリガミの人形遣い・f00052)は肩を竦めたりもしたものだが。
≪彼女≫の願いならば、叶えるのは吝かではない。むしろ、叶えてあげるのが兄というもの。
そうして連れ立ち訪れて――アールはやっぱり重い溜め息を、他に気取られぬようそろりと漏らす。
「何も知らず、呑気なものだ」
シャーレを模した水槽の水深は浅く、周囲に設えられた縁台からは水中の様子がよく見える。泳ぐ魚は、浜辺などでよく見かけるもの。きっと近くの海を再現しているのだろう。
だからこそ、外側のことなど知らぬ風情の魚たちの悠然たる様子に、アールの心に鈍色が射す。
外の不穏を知ったなら、この魚たちも慌てたり、憂いたりするのだろうか?
答えはおそらく――否。
侵される恐れを知ったとしても、魚たちは泳ぎつづける。今日も明日も明後日も。未来永劫、命続く限り。
一見、それはとても不自由であるように思える。しかしどうしてだか、それを時折、ほんの時折。アールはとても羨ましく感じてしまうのだ。
が、アールの耽溺は刹那。
すぐに視線は、来館をせがんだ≪彼女≫へ戻る。
果たしてその様子はと言うと。
「……Echo、この魚は食べられないよ」
調理器具をご機嫌にカチカチ鳴らす仕草を、アールはしっかり者の兄の視点で諭し――思い出す。
昨今の≪彼女≫のブームがおままごとであることに。
そして最近一番楽しがっていた遊びは、魚釣りであったことに。
そんな『妹』が今、熱心に眺めているのは――……。
「っ!」
危ない、とか。それは駄目、とか。口で注意するより早く、アールは≪彼女≫を担ぎ上げる。
まさに一瞬の勝利。あと一歩反応が遅れたら、≪彼女≫は水槽へ華麗なダイヴを決めていた事だろう。
とは言え、せっかくのチャンスを封じられたのだから、≪彼女≫はアールの肩でじたばたと不満を訴える。
だけど、こんな時のとっておきをアールは知っていた。
愚図る妹を、宥める為の魔法の言葉。
「あとでお土産を買ってあげるから」
大成功
🔵🔵🔵
静海・終
素敵な水族館でございますね…!
私、こう言った雰囲気には目がございません
存分に楽しませていただきましょうねえ
クジラやイルカはずっと見ていられますね…
真っ先にそこへ向かうと優雅に泳ぐのを眺めてうっとり
けれどいつもの様に肩に乗せたドラゴンランスの涙が他も見たいと
頬を叩くので次へと向かう
青の世界がこんなに落ち着くのは自分が魚のキマイラだからでしょうか
…あぁ!マナティー!たぷたぷしたい頬!!
ふとお土産コーナーを見ると一番人気とぽえっとしたクラゲのぬいぐるみを抱える
送り出してくれたウトラ嬢に買っていきましょうね
安全になってから遊びに行けると良いですね
もういっそ住み着きたい居心地の良さでございますねえ…
●さかなのきもち
イルカのプールはショーが行われる乳鉢ステージのお隣に。きっとステージや海と繋がっているのだろう。地表から地下二階まで突き抜けているまぁるい水槽に設えられた水路を、イルカが出たり入ったりを繰り返している。
先ほどは地上部分から堪能したイルカたちの優雅な泳ぎぶりを、今度は地下二階のガラス越しに眺めて静海・終(剥れた鱗・f00289)はうっとり。
クジラがいないのは少々残念だったが、イルカたちを眺めているだけで、その残念加減も消えてゆく。
真っ先に目指した甲斐はあったと、終は頬をふくふくと弛める。
(「本当に素敵な水族館でございますね
……!」)
元より、こういう雰囲気に目がないのが終だ。まるで自分も水底にいるような気分になる青の世界は殊更に。
(「私が魚のキマイラだからでしょうか?」)
灯をぎりぎりまで落とした館内を、水の光を頼りに目を瞠るのが心地よくて。終はまた水路から現れたイルカを視線で追い――てち、と頬に触れる滑らかな鱗の感触でようやく意識を現実へ浮上させた。
「ここはもう飽きてしまいましたか?」
尋ねる先は、肩に乗せた小さな海竜。いつまでたっても動かぬ終に痺れを切らしでもしたのだろう、涙という名を持つ海竜は、頭を終の頬にぶつけて不満を訴える。
それならば、とようやく終は重い腰を上げるものの。すぐお隣の水槽で、またもやきゅん。
「涙、涙。ほら、見てください。ああ、マナティー! なんとたぷたぷしたい頬でしょう!」
のっそりと近付いてきた愛敬のある顔に、終は頬を紅潮させ。それを間近に、涙はついにそっぽを向く。
イルカやマナティもいいけれど。もっともっとたくさんの魚や動物たちを見なくては。こんな調子では、数種類も見ないうちに一日が終わってしまいそう――と涙は思ったのかもしれない。
とは言え、今日の最初のオーダーは水族館を心行くまで楽しむこと。
――と、そこで。
「そうでございました」
終は脳裏でリフレインした声に、土産物を扱うブースへ舵をきる。
「さすがの一番人気です。ああ、でもこちらも良いですね。店員さん、こちらおいくらでございましょう?」
ディスプレイされていた、ほえっとしたクラゲのぬいぐるみを指差せば、白衣姿のスタッフはすぐさまにこり。
仕事の事は確かに思い出したが、ここは待つのが肝要。つまりは骨の髄まで楽しむのが吉。
「もういっそ住み着きたい居心地のよさでございますねぇ……」
現在、絶賛仕事中の少女も、安全になったら遊びに来れたら良い。
彼女宛てに幾つか見繕いつつ、終は「隅々まで確認しておきましょう」と水族館の案内地図を、涙にもよく見えるよう広げた。
大成功
🔵🔵🔵
クロト・ラトキエ
猟兵として送り出された後とあると。
此処もまるで巨大な実験場にも思えて、何だかゾッとしませんけど。
ただただ娯楽に興じる…とか、少々珍しい時の過ごし方。
…これは所謂アラフォーの手習い?という事で?
水族館とかお話からして面白そうな気配ですし?
ええ、ええ。ガッツリ堪能致しますとも☆
鯖ー、鯵ー、鰯ー、海老ー…
…いえ、食べられる魚ばかりじゃ無いですよ?
ほらぁ、毒のある魚だって!
いやー、興味深いですネー。
親近感湧いちゃう子とか、お土産に女子ウケしそうなお菓子とか、探してみちゃいますかねっ!
年甲斐も無い、のかもしれませんが…
まぁ、未知との遭遇は、幾つになっても楽しいもの。
何卒、お目溢しあれ♪
(絡み等歓迎です)
●アラフォーの手習い
タカアシガニを見つめるクロト・ラトキエ(TTX・f00472)の視線は熱い。
カニと言えば、やはり美味いのは足。それがあんなに長いなんて、果たして何人が楽しめるだろう。
鯖だって(シメサバの美味は否定しないが)きっと刺身で食べられるに違いない。
鯵だって身はぷりぷりだろうし、鰯だって――。
「あ、海老」
タカアシガニに並ぶ丸底フラスコの水槽の中に、イセエビを発見したクロトの語尾が跳ね上がる。
別に、食べられる魚介類にばかり興味をそそられているわけではない。親しみのあるものに、どうしても目がいってしまうだけだ。
――と自分で自分を納得させ、クロトは風変わりな水族館を右へ左へとふらふら漂う。
巨大な実験場にも思えるこの場所は、猟兵として送り出された以上、ゾッとしないものがあったのだが。
楽しめと言われれば、それを仕事としてこなすのがクロトという男である。
「あっちには鯛もいるのですか!?」
途中から、純粋に楽しみ始めているのも事実だが。
それにしても。ただただ娯楽に興じるというのも些か珍しい時の過ごし方。慣れぬがゆえに、始めは手習いの心地。けれど過ごせば過ごすほど、気分は上向き。水族館という独特の雰囲気に魅了され、クロトの興味は尽きぬ泉のようにコンコンと湧き続ける。
中でも最も目を引いたのは、
「フグさん、コンニチハ!」
猛毒として知られるテトロドトキシンを有す魚。
「コレって親近感です? デス??」
誰に聞かせるでもなくクロトはくふふと口の中で笑い、どうぞいつまでもお元気で、と三角フラスコの水槽で泳ぐフグたちに手を振り、また他所へとひらり泳ぎ始める。
「そういえば。女子ウケしそうといったら、どんなお菓子になるのでしょうか」
自分であればガスクロマトグラフィー一択なのだが、それは少々渋い気がしないでもない。
「うーん、どうしましょうかねぇ――あ、オニオコゼ! 成程、あなたも毒をお持ちなのですネ!」
然してアラフォークロトの珍道中に終いは見えず。
未知との遭遇は、幾つになっても楽しいもの。ちょっとくらい羽目を外したところで、目くじらをたてる者はいないと信じて。
大成功
🔵🔵🔵
ラッカ・ラーク
キララ/f14752と!
オレもそういや来たことないかもな、水族館。
ホンモノが手軽に見に来れるの、やっぱすげえよな!小さいのからオレたちよりデカいのまで揃ってんだな、おもしれえや。
みんな実体のあるイキモノなんだもんな、これがさ。
試験管の中の魚かあ。
なんか、懐かしいな。同じじゃないけどさ。こんなキレイじゃなかったろうし。
おうち、ていうのとはちょっと違うかね。「母親に似てる」って言い方が近いんじゃね、たぶんよ。
おっ、おみやげも見てくか!
お菓子も色々あるみたいだし、コッチも楽しくていいねえ。ウワサのキーホルダーでも買ってくか?
キララの新作、楽しみにしてるぜ。
キララ・キララ
ラッカ/f15266と!
きらら、UDCアースの水族館ってはじめて!
いろんなお魚さんがいっぱい、アーカイブでしか見たことがない子ばっかり!しっかり観察してですね、こんど魚の絵をかきます!
ここのお魚さんたち、ロボットでもホログラフでもないのよね。こんなに小さいのに中身はきらちゃんたちと同じ、
「 いきてるもの 」なのね!
ねえラッカ、すごいねえ!
試験管?っていうのよね、この水槽…ふしぎでかわいい形だけど、ラッカにはなつかしいの? おうちの形に似てる?
あ、おみやげやさん!ねえねえ行こうラッカ!
お菓子もいいけど、きららは残るものがいいな。
それ見てきょうのことを思い出して、また楽しい絵を描くの。ふひひ!
●カラフル・カラフル!
水色の髪も、先っぽが白い耳も、序に足取りも軽く弾ませ、キララ・キララ(リトル・シープ・ウィズ・ビッグビート・f14752)は水槽に張り付いては、わぁと歓声を上げる。
――きらら、UDCアースの水族館ってはじめて!
巨大なチューブを半分に切ったようなゲートを潜った時から、ピンク色の双眸はきらきら。駆け出してしまえば、その小さな背中はあっという間に人波に飲まれてしまいそうで、「そういやオレも水族館は初めてかもな」としみじみしかけていたラッカ・ラーク(ニューロダイバー・f15266)は、見失ってしまわないようトカゲの瞳を忙しなく動かし続ける。
「ねぇねぇ、あっちには大きなのがいたの!」
「こっちのは小さい。でもきれい!」
しっかり観察して、ちゃあんと憶えておかないと。そして今度は、魚の絵を描くのだ。
アーカイブでしか見た事のない色々な『子』に、キララのアーティスト魂はうずうず疼き、同時に不思議な感動が押し寄せる。
「ここのお魚さんたち、ロボットでもホログラフでもないのよね」
キララの謂わんとすることを察して、ラッカも頷く。自分より小さいのから、うんと大きいのまで――。
「こいつら全部『ホンモノ』なんだぜ」
「うん! 中身はきららちゃんたちと同じ『 いきてるもの 』なのね!」
UDCアースでは、これが当たり前なのだろう。だがキマイラである二人にとっては、それはとても驚くべき事で、感動に値する事。
おかげで二人とも、実体のあるイキモノパワーに気圧されて、鳥肌が立ちっぱなしだ。
「ラッカ、すごいねえ!」
巨大な試験管の中を気儘に泳ぐチョウチョウウオに見入るキララの言葉は、ラッカも同じ。けれど、ラッカにはキララにはない想いがもうひとつ。
「試験管の中の魚かあ。なんか懐かしいな」
それは何の気なしの感想で、素直な心の吐露。だがキララにとっては、新しい不思議の始まり。
「ラッカにはなつかしいの? おうちの形に似てる?」
「あー……おうち、ていうのとはちょっと違うかね」
いつしか水槽から自身へ移されたキララの視線に、ラッカは刹那考え、一番しっくり来る分かりやすい言葉を択ぶ。
「たぶん、だけどよ。『母親に似てる』って言い方が近いんじゃね?」
「おかあさん?」
「そ、わかる?」
「おかあさん……」
試験管が母親に似るとはどういうことだろう? 見た目? それとも――。
何やら考え込んでしまったキララの風情に、ラッカは猫の耳をぴくんと欹て、トカゲの尻尾で暗い床をぴたんと叩き。そうしてキララの背を、ラッカはネコの腕でそっとさする。
「おいキララ、おみやげも見てくか!」
ついでにヒバリの翼を広げて先を促すと、キララの目はまたぱっと煌めいた。
「行こう行こう、ラッカ!」
言うが早いか、キララはラッカの手を引いて、土産物を扱うブースへ急ぐ。
「お菓子も色々あるみたいだぞ」
「うーん、お菓子もいいけど。きららは残るものがいいな」
それを見て、今日の事を思い出し。また楽しい絵を描くのだと、「ふひひ!」と笑う少女に、男は成程と得心する。
「なら、ウワサのキーホルダーでも買ってくか? キララの新作、楽しみにしてるぜ」
カラフルな魚に、カラフルなキララの感性。
合わさって出来上がるアートは、きっと人々の度肝を抜くものに仕上がるに違いない!
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
月夜・玲
へー実験器具モチーフの水族館かー
確かにワクワクしちゃうね!
私も工房でメカ弄ったりするし、分野は違うけどこういう専門用具大好き!
リービッヒ冷却器型の空中回廊とかお洒落だなー
考えた人偉い!
機械工具でもこういった風にアトラクションにすれば、お洒落になるのかなー
ジムロート冷却器ってこんなのなんだ!
熱帯魚可愛いなー魅せ方って大事だね
折角だしお土産も買って帰ろう!
試験管立てのチョコ菓子良いなーこれ
食べた後も飾って使えそう
鉛筆立てとかに使ってもいいかも!
あとは売れ筋も抑えとかないとね
知り合いのお土産用に何個か買っていっとこ!
仕事なのにこんなに楽しめるなんて役得役得!
●アドリブ等歓迎
●役得三昧
気ままに、自由に生きる月夜・玲(頂の探究者・f01605)は、スペースノイドのメカニック。
工房でメカ弄りもする女は、とどのつまりが専門用具は大好きだ。
おかげで実験器具をモチーフにした水族館に、さきほどからワクワクが止まらない。
特に目が行くのは、プロフェッショナルらしくより複雑な形状のもの。
「お洒落だなー。これ考えた人、偉い!」
全翼機に似たフォルムのエイが、ひらひら泳ぐリービッヒ冷却器型の空中回廊を見上げ、玲は感嘆と感動に心の中で拍手喝采。
普段使いの機械工具たちも、こんな風にアトラクションにすれば――と、玲の頭の中で可能性がどんどん広がってゆく。
されどおぼろげな夢の輪郭を掴むには、まだまだ不十分。次はどんなのがあるかな? と周囲をぐるりと見渡し、ぱっと目に留まった内側に螺旋を描く管を通した水槽に玲は目も足も吸い寄せられた。
「へぇ……ジムロート冷却器っていうんだ! 熱帯魚も可愛いな♪」
魚の生態を記すプレートに添えられた器具の名前に玲は、ふむ、と頷き。螺旋の管の中を列を成して昇ってゆくネオンテトラに頬を弛める。
熱帯魚的にはかなりメジャーな筈の魚だが。見せ方一つで魅力は随分と変わる。つまりは魅せ方次第で、平凡なものも大化けするということ!
ノズルの長いクリーナーは、滑り台にしたら小さな子供たちが喜ぶだろうか?
ドリルドライバーは回転を利用したら、とんでもない事が出来るかもしれない。
――その、前に。
「やっぱりお土産は買って帰らないとねっ」
入り口で貰ったパンフレットは既にチェック済。気になっているのは、試験管立てがセットになったチョコレート菓子。
これなら菓子を美味しく味わった後、飾って楽しむことも出来るし、工房で鉛筆立てとしても使えそう。
思い浮かぶあれやこれやに、玲の足は自然と弾む。
仕事なのに、こんなに楽しんでしまっていいのだろうか?
あまりの役得ぶりに罪悪感が疼きそうだが、まずは楽しむことがお仕事。
「あ、知り合いに用にも何か買っておかないと。売れ筋は抑えとかないとね」
辿り着いた土産物ブースで玲は、気になるあれこれを鼻歌混じりに買い物かごの中へ放り込む。
大成功
🔵🔵🔵
岡森・椛
私はあんまり科学とか、理系の教科は得意じゃない…というか、はっきり言って苦手
でも実験器具を見てるとワクワクするの
その中を泳ぐお魚さん達…
ますますワクワクする!
きっとこの水族館を作った人は訪れた人をワクワクさせるのが好きな人だよね
そして来館者の気持ちが重なり合って、ワクワクがもっと増えていく
ジムロート冷却器の不思議な形
色鮮やかな熱帯魚達を追いかけていると、アウラと一緒にぐるぐると目が回りそう
でも目を離せない
待ってるウトラちゃんの分まで、いっぱい目に焼き付けておこう
後でこの感激を伝えられるように
勿論、お土産も買って渡すね
手招きされた先には何が待っているのかな
考える始めると、今度は胸がドキドキするよ
●水と魚と花と風と
小さなつむじ風を巻いた少女――風の精霊アウラが、岡森・椛(秋望・f08841)の髪の毛の先をクイと引く。
――見て、見て! すごい!
そう言わんばかりの踊る風に耳元を擽られ、椛も「すごいね」と破顔した。
現役中学生の椛にとっては理科室を彷彿させる水族館。とはいえ、椛は科学などの理系科目は得意ではない――というか、正直に言うと苦手な部類。
けれど実験器具に対する高揚はお勉強の得手不得手とは別物。錬金術をイメージさせる精緻なガラス器具たちは、夢見がちなお年頃の少女の胸をいつだってワクワクと騒がせるもの。
しかもここではその中を、大小さまざま色とりどりの魚たちが悠々自適に泳いでいるのだ。
「ワクワクしかないよねっ!」
入場ゲートを潜ってすぐの巨大ビーカーを振り仰ぎ、まずは何を見ようかと椛は館内マップを広げてアウラと相談。きっと他の来館者も同じ気持ちなのだろう。重なりあう期待感に、駆け出したワクワクのゴールは遥か彼方。
そうして辿り着いたジムロート冷却器の水槽を前に、椛は「うわぁ」と立ち尽くす。
水槽の直径自体は1メートルほどだろうか。内側には渦を巻きながら細いガラス管が走っており、その中をキラキラ光を弾くネオンテトラが泳ぐ光景は、不思議と綺麗と素敵の魔法。
上へ上へと昇ってゆく魚たちを追いアウラもくるくる。
魚と風の共演を目で追いかければ、椛の視界もぐるぐる。気付くと地面まで回っているような感覚に陥ってしまっているけれど、奪われたままの瞳は釘付けのまま。
「いっぱい……目に焼き付けなくちゃ……」
魂だけは意識の風で裡に結び、椛は記憶の頁に水の彩を水泡の輪郭までも鮮やかに刻み付ける。帰った後で、ここに来たがっていた少女へ思い出を、感激を、余さず伝えられるように!
短い時間でありながら、永遠にも似た刹那を眺め続け、椛はアウラが肩に戻ったことで現実への帰還を果たす。
「そうだね、次はどこにしよう」
またも髪を引っ張る精霊に促され、椛は再び案内図を確認。
この先に何が待っているかは分からない。
でも、分からないからこそのドキドキが少女の胸を叩いていた。
大成功
🔵🔵🔵
イア・エエングラ
ゆらゆらと、游ぐように立ち並ぶ試験管の合間を抜けて
ぱちり、まあるいフラスコに映る影に不意に瞬いたなら
厚い硝子向こうを覗きこむ
色鮮やかなおさかなが、尾を曳くのを目が追って
不思議に煌めき揺らめくひかりの紗に夢見る心地
じ、っと動かず水槽を暫く見つめて
こつん、引き返してく子にすこし笑って
そっと指で冷たい境に触れてみるけれど
やあ、ごめんなさいね、驚かせるつもりはなかったのよう
あなたの名前はなんだろね
プレート見たら分かるの、かしら
実験最中のように、立ち上る泡に現忘れる心地で
大きな影が水の中を横切ったら
わあと見上げながら姿を追って
ひかりの色に水の向こうに
惹かれるままにゆきかうの
●ゆめみごこち
ゆら、ゆら、と。
イア・エエングラ(フラクチュア・f01543)は蒼褪めた星が尾を曳く夜の裾を試験管の狭間に揺らして游ぐ。
クリスタリアンである彼にとって、深い水底を思わすガラスの世界は酷く親和性が高くて。今にも意識を海へと攫われてしまいそう。
けれどそうならないのは、魚たちの誘惑があるから。
――ぱちり。
不意の瞬きは、まあるいフラスコの内側から。
何かしら? と厚いガラスの向こうをイアが覗き込むと、目の前を青に縁どられた朱色の尾ひれがひらり。
薄い胸鰭も翅のよう。朱色の身体に、青色が点や線をまだらに描く姿は、愛敬のある顔立ちと相俟って可愛らしくもあり、不思議でもあり。
同時に控えめな照明に謎めく姿に、イアは夢見る心地に耽溺する。
まるで虹色の光の紗の如く。
ひらひら、ひらひら。
名も知らぬ魚は、イアの事など気にかえる素振りもなく水槽の中を泳ぐ。そのつれなさにまた興味をそそられ、イアはちょっとした悪戯をしかけた。
――ぴくり。
イアがガラスにそっと押し当てた指先に、魚が鰭をひるがえし。つんつんとイアが触れた場所を啄んで来る。
餌とでも間違えたのだろうか?
それなら申し訳ないことをした気分。
「やあ、ごめんなさいね?」
眉を下げてイアは笑い、触れられた感触がある気のする指をひく。すると興味を失ったのか、魚はまた気ままに泳ぎ始める。
「ニシキテグリ、というのね」
あなたの名前はなんだろうね? と。フラスコの底にはりつけられたプレートを読み上げ、イアは『ニシキテグリ』と一時の気紛れを共にしたお相手の名前を口の中で繰り返す。
こぽ、こぽぽ。
あちこちで気泡が生まれる音は、自分も水中を漂う気分を味合わせてくれる。
「まるで実験最中みたい」
巨大なガラス器具の海原を揺蕩いながら、イアはひかりの色に、水の向こうに。惹かれるままに流されゆく。
大成功
🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と
前にみたすいぞくかんとぜんぜんちがうね
ふしぎな形
遠目に見たまま指でなぞり
たのしい
わあ、たくさんいる
たこ?
たこ焼き?
わっ、手がくっついた
むにむに
ねえねえアヤカ、みてっ
まるいのとまるいのがつながってる
空中回廊を口ぽっかり空けて見上げ
おなかがみえる
エイの裏側にびっくりして
ね、あれって顔かな
かわいい
あの子わらってるよ、ふふ
にてる?
どこどこ?
ガラスの前に立って並び
楽しいから自然と笑顔
あっちはショーだって
いこいこっ
手を取って足取り軽く
高くジャンプしたイルカに目を丸くして
その顔のままアヤカを見る
すごいすごいっ
拍手して
わあっ
水がかかれば
アヤカも濡れてるよと笑ってハンカチを出し
たのしいね
浮世・綾華
オズ(f01136)と
こっちはこっちで不思議だな
器具の形自体も珍しく興味津々で観察
あ、これたこ?めんだこ?
祭りで見た、たこ焼きの中に入ってるやつだよな
ちょっと可愛い怪獣みたいだ
おー、どれ? かお?
ほんとだ、顔。オズ、似てるぞと揶揄い笑う
どこって――にこにこしてるとことか?
並ぶ姿が面白い
嗚呼やっぱりオズと過ごすのは楽しいと感じる
手を引かれるままイルカショーへ
子供みたいにはしゃぐオズにくすり
お、すげ。イルカとイルカが交差した
水がかかったら
わー、錆びると冗談めかして言いながら
オズも濡れてたら
びしょ濡れーって思いっきり笑ってやろう
ハンカチを受け取ったら相手の髪を拭いて
俺?お前のなんだから後でいいよ
●笑顔×笑顔=
前にみたすいぞくかんとはぜんぜんちがうね、とオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)はキトンブルーの目を丸くして。
こっちはこっちで不思議だな、と浮世・綾華(❂美しき晴天❂・f01194)は周囲の様子を興味津々の眼差しで観察する。
あちこちに並ぶ実験器具を模した水槽は、それだけで『オトコノコ』心を擽るもの。
しかもメンダコとの触れ合いコーナーなんてものに出くわしたものだから、二人のテンションは最初からクライマックス。
よく見かけるフォルムと違い、ぺたんと潰れた姿は愛敬があるような、ないような。ぺろんと引っ張り広げた綾華が「可愛い怪獣みたいだ」と笑う傍らで、ぺたりと腕にはりつかれたオズはおろおろじたばた。
近くにいた家族連れの子供があげた「おにーちゃんたち、すごーい!」という感嘆の声にようやく『オトナ』心を取り戻し、弾ける笑顔へ同じだけの笑顔を返して、二人は水族館周遊へ踏み出す。
全てが目新しくて、いちいち足を止めてはオズは声を華やげる。
「ねえねえアヤカ、みてっ」
なかでもリービッヒ冷却器の空中回廊は特別。
「まるいのとまるいのがつながってる。おなかもみえるよ、すごい!」
下から拝むことは滅多にない魚が泳ぐ姿に、オズは綾華の腕を引き――、
「……ね、あれって顔かな?」
見つけた『面白い』を指差した。
「かお?」
水中に顔? しかも腹に?
何のことだと訝しんだ綾華も、オズの指差す先を振り仰げば瞬く間に破顔。だってそこには、まさしく『顔』があったのだ。
「あれはエイだな。オズ、似てるぞ?」
「え? 本当? どこどこ、どこ??」
茶目っ気たっぷりに揶揄ったつもりの綾華は、真顔でオズに食いつかれて、また笑う。
「どこって――にこにこしてるとことか?」
「そうなの? 待って、待って。ならんでみよう!」
並ぶには少々高すぎる空中回廊。けれどもオズは必死に爪先立つ。その懸命さは、人の心を和ます光。
(「まったく、これだから」)
オズと過ごす時間はあっという間に過ぎていくのだ。
心の底から『楽しい』と感じられる一時の、なんと眩しいことか。
されど水族館での時間はまだ始まったばかり。感慨に耽る暇などありはしない。
「すごい、すごい!」
もうすぐイルカショーの開園時間です、というアナウンスを聞きつけたオズが綾華の手を引き。どんと陣取った乳鉢ステージの最前列。
「アヤカ見た? あんな高いところにある輪をくぐったよ」
「ああ見た――って、オズ。今度は交差するぞ」
「ほんとう!?」
一瞬前まで自分へ笑顔を向けていたのに、すぐにイルカに視線を戻し、ぽかんと口を開けたかと思うと、両手を打ち鳴らし喝采を送るオズの様子に、綾華は密かにクスリと口元だけを和らげる。
でも、綾華が一人でオトナな顔をしているのを、空気の読める気の好いイルカは許さない。
「アヤカ、イルカがこっちに――」
「っ!?」
悪戯な二頭はすいと二人の際まで迫ると、尾鰭で水面を思い切りよく叩いた。無論、ばしゃりと上がった飛沫はオズと綾華の頭上を仲良く襲う。
「あはは、アヤカも濡れてるよ」
「錆びる錆びるっ」
「え、え? そうなの??」
鍵に心宿した男と、作られし人型に心宿した男と。共に雫を滴らせながら顔を見合わすと、どちらともなく吹き出して。
「アヤカ、これ使って」
「俺? お前のなんだから後でいいよ」
オズが差し出したハンカチを受け取った綾華が、黒ではなくプラチナブロンドの方を拭こうとする頃。白衣姿のスタッフが、タオルを抱えて二人の元へ駆けてくる。
笑いの波紋はやがて乳鉢全体へ広がって。
今日一番の歓声が、水族館全体へと響き渡った。
大成功
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第2章 冒険
『未確認生物の噂を追え!』
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POW : 怪しげな場所を片っ端からとにかく探して回る
SPD : 現地の人達などに噂話などの詳細をついて聞いて回る
WIZ : 現地で未確認生物の痕跡などを探し、そこから色々と辿ってみる
👑11
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●招き
――羨マシイ。
はっと。
それまで思い切り風変わりな水族館を楽しんでいた猟兵たちは、聞こえた気がした怨嗟の声に顔を上げた。
ぐるりと周囲を見渡すが、声の主と思しき人影は見当たらない。
幻聴だったのだろうか?
そんな不安はすぐに消し飛ぶ。
――ナゼ、オ前タチハ。
今度ははっきり聞こえた。
それは間違いなく羨望の、怨嗟の――呪いの声。
しかし周囲の人々は変わらず水槽の中に目を輝かせ、ショーに快哉を上げ、可愛らしい土産物に相好を崩している。
きっと彼ら彼女らにはこの声が聞こえていないのだ。
つまり、――猟兵たちは思考を巡らせようとする。だがそれはぷつりと途切れた。
『ようこそ、可能性の人。あなたが選ばれたのです』
いつのまにか猟兵の傍らに、真っ赤な白衣を着た何者かが立っていたのだ。
『あなたをこれから新しいアトラクションへご招待します。何のことはありません、単純な宝探しです』
すぐ近くに居るのに、顔を認識できぬ何者かは言う。
『この水族館内にいる未確認生物をお探し下さい。血のように黒く赤い子です』
『大丈夫。この水族館を存分に楽しまれた方ならば、きっとすぐにみつけられます』
『サァ、アラタナ可能性探シノ始マリデス!』
すりー、つー、わん。
――すたーと。
ぱちん、と。
目の前で指を鳴らされたような、気泡が弾けたような衝撃に、猟兵たちは幾度か目を瞬かせる。
そうして、真っ赤な装いの人物が消え失せているのに気付く。
いや、もしかしたら。それこそ幻。
されど招かれたのは現実。
はてさてどうしたものか。
今度こそ猟兵たちは考える。
可能性の翼を広げて考える。
なぁに、難しく考えることはない。
思うが儘に、気が向く儘に、新たな一歩を踏み出せばいいだけだ。
何故なら『あなた』は既に選ばれている。
あなたが進む先にこそ、昏くて寂しい深淵はぽかりと口を開けているのだ。
それでももし、難しく考えたいのなら。
可能性の全てが潰えた未来でも想像してみればいい――。
クロト・ラトキエ
可能性の、潰えた、未来。
その想像は。僕には少々、難しい。
未確認生物なのに水族館に居るとは、此は如何に?
…なぁんて、言葉遊びじゃ無さそうですし。
ま、選ばれたと、招かれたというのなら。いつか何とかなるでしょう。
取り敢えずは、未だ通っていないエリアを楽しみましょうか。
或いは、もうそんな所が無かろうと。ならば一番心惹かれた場所をなど。
えぇ、楽しく。
それこそ、何処かの誰かさんが、羨まし過ぎて黙っていられない程に!
強気に自信満々に、多少強引に。
持ち前のあれこれに研鑽もプラスして、思うが儘にいきて来た。
故に可能性は、常に開けているもので、疑う筈も無いもの。
それこそ、更に強引に喰われ潰されでもしない限りはね。
海月・びいどろ
……迷子を、探すの?
未確認の、黒くて、赤い子
そこにいるのに、いないの
なんだか、…よくないね
みんながいても、仲間はずれ
失せもの探して海の中
さっき、通ってきた道を辿りながら
大きなビーカーに囲われた空を
ぐるりと見回して、誰かの影を探してみる
抱えたままの海月の子は
ももいろは、どう思う?
問いかけても、返事はないけど
明るいところに影は落ちるよ
歩いて、歩いて、くらがりの方へ
情報収集、していこう
海月のももいろを、ばんざいさせて
色濃く誘う方へ、また一歩
全てが、ほろびたあとにも
ボクは、ここに、いるけれど
…可能性は、未来は、あるのかな
海は、おかあさんの、お腹の中らしい
そっと、耳を欹てて
キミの声を手繰り寄せるよ
岡森・椛
宝探しは大好きなの
アウラと顔を見合わせ笑い合い、任せて!と足を踏み出す
魔法みたいな水族館だもの
アウラと一緒に幻想の中に飛び込むよ
先程夢中になった水槽の辺りで痕跡を調べる
情報収集しながら第六感に導かれ、追跡や失せ物探しを駆使
赤を思わせる僅かな跡形も見逃さない
アウラ、何か見つかった?
でも時々、ふと、追いかける全ての物が幻の様な気がして不安になる
でも大丈夫
招待状は確かに受け取っている
胸の高鳴りも止まらない
だから信じられる
目に見えるものも、そうでないものも、全てが真実で
その向こう側に新しい「物語」が待っているのだと
だから前に進むの
足取りは軽い
例え何が待っていたとしても、やっぱりすごくワクワクするから!
●光と影
可能性の、潰えた、未来――とは。
ただ『現在』を生きるクロトにとって、それは想像することさえ難を要する。
けれど男はへらりと笑み崩れ、足取りも軽やかに実験器具の水底をのらりくらりと歩き回る。
そもそもだ。未確認生物なのに水族館に居るとは、此れ如何に?
「……なぁんて、言葉遊びじゃなさそうですし」
脳内に設えた高座で一つ洒落を披露し、クロトはつと視線を向けた先に見つけた背中に駆け寄った。
「お探し物ですか?」
「――っ!?」
不意に投げかけられた大人の男の声に、椛の肩がぴくんと跳ねる。けれど身を強張らせたのは一瞬。『別』の世界でも見かけたこともある男の姿に、椛はクロトが『仲間』であることを悟った。それに何より、頭の上にいたはずのアウラが、長い髪と戯れようとクロトへなびき始めたのが、彼が悪人ではない証拠。
「私、宝探しって大好きなんです」
余人に訝しがられぬよう言葉を択び、椛は朗らかに返す。その可憐に咲いたスイトピーを思わす笑顔に、アウラもクロトの頭上でくるりと輪を描き、ささやかな旋毛風を巻き起こす。
「ご一緒しても?」
旅は道連れ世はなんとやら、と申しますしとクロトが眼鏡の奥の瞳を細めれば、椛の応えは快諾一択。
「勿論!」
探し物には、視点が多いに越したことはない。
然して、ともすれば親子連れにも見えるクロトと椛(とアウラ)は水族館周遊の旅を、始めからやり直す。
巨大なビーカー水槽を覗き、リービッヒ冷却器の空中回廊を仰ぎ。
「なかなか見当たりませんね」
「そのようですね」
椛が漏らす見当たらぬ目星の『影』への不安に、しかしクロトはやはりけろり。
だって自分たちは既に『招待』されているのだ。ほったらかしはホスト側の怠慢。状況を楽しんでさえいれば、いつかきっと向こう側から扉は開く。
とは言え、受け身でいるのもつまらない。
「――おや?」
水槽が落とす青い光の、すぐ隣。出来た幽々たる暗がりにポツンと佇む影にクロトはわざと首を傾げた。
目的は、水族館特有の幻想に囚われかけの椛を救いあげるため。
「え? あ!」
果たして目論見は大成功。この世界の輪郭があいまいに溶けてしまっているような感覚に陥っていた椛は我に返り、またしても見覚えのある人影に人懐っこく走り寄る。
「こんにちは!」
「……っ」
そして今度は思考の水底に沈んでいたびいどろが肩を跳ねさせる番。
ももいろの海月――びいどろがいつも連れるぬいぐるみのひとつ――をきゅっと抱き締めて、それから二人の人間と一体の精霊の顔を確認し、ふぅと安堵の息を吐く。
「……迷子、さがしているの?」
瞳に物憂げなプリズムを散らす子供の問いに、少女と男は揃って首を縦に振る。だが力強い同胞の登場にもびいどろの表情は晴れない。
未確認の、黒くて、赤い子。
そこにいるのに、いないとされる子。
「なんだか、……よくないかんじ。みんながいても、仲間はずれみたい」
びいどろの不安の形容は的確だった。胸にべとりと張り付いて離れぬ不安。
だが、クロトと椛は揺るがない。
「大丈夫! だって諦めなければ、いつだって向こう側に新しい『物語』は待っていてくれるよ」
事実、椛の胸の高鳴りは止まらぬまま。
埋もれた『真実』に出逢えたなら、次の一歩は必ず踏み出せると椛は信じている。
「そうですよ。だから楽しく行きましょう。それこそ、何処かの誰かさんが羨まし過ぎて黙っていられない程に!」
――と、クロトはびいどろへはっぱをかけたところで、ふと思い至った。
「どうしてより楽しんだ人が招待されるのでしょう?」
「「!!」」
大人らしい迂遠な男の物言いに、けれど敏い子供たちはぱっと暗がりに顔を上げる。
「この水族館で一番楽しそうな場所はどこかな?」
「えぇと……それなら、ショーをやっている、ところ?」
椛が広げた水族館の案内地図を覗き込み、びいどろは乳鉢ステージを指差す。
強い光は、より濃い影を生み出すもの。
つまり『楽しい』の坩堝にこそ、ここの謎を解き明かすものがあってもおかしくない。
「……ここ、入っちゃってもいいのかな?」
――Staff Only。
地下二階。イルカのプールのお隣の、おそらく乳鉢ステージの真下にあたる場所。
関係者外の立ち入りを禁じる文言がはっきり書かれた扉を前に、椛はこくりと喉を鳴らし、アウラもそわそわとした風を吹かす。
「大丈夫――とは言いませんが。まぁ、ここは飛び込んでなんぼだと思いますよ」
いざとなったら僕が責任をとりますので、と大人のようで子供の顔をしたクロトがどんと胸を叩く。
飛んで火に入るなんとやら。
しかし虎穴に入らずんば虎子を得ず。
時に強引さは肝要。可能性は後ろにはなく、前にしかないもの。
「では、次のステージへ進むとしましょう」
ぎぃと開けた重い扉の向こうは、下へ下へと続く階段。
「それじゃ、一番乗りで!」
底の見えない深淵へ、椛とアウラは踊るように飛び込む。
二番手は、クロト。
そして最後に続いたびいどろは、境界をまたいだ瞬間に覚えた冷気に背筋をぞわりと震わせた。
ちがう。
ここは先ほどまでいた場所と、そもそもが違う。
例えて言うなら、電脳世界と現実世界の違いのような。
そんなびいどろの思考を読み取ったのか、ももいろの海月も警鐘を発するようにゆるやかな明滅を始めている。
「だいじょうぶ」
そんなももいろを、ばんざいさせるように抱え直し、びいどろも色濃く誘う闇へ身を任す。
失せもの探して海の中。
海は母の胎内だとも言うらしい。
だとするなら、赤子の声でも聞こえるだろうか?
「キミの声を、きかせて」
誰?
誰?
誰??
羨ましいと言った、キミは誰?
全てが滅びた後にも『残った』子供は、未来と可能性をそのまま形にしたような椛とクロトの後を追う。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
静海・終
おやおやこれは、私達は特別ご招待と言ったところでございましょうか
探しましょう、今のそれはきっと悲劇を呼び込む可能性を秘めたもの
そうであるのなら私はそれを殺して壊すだけ
お仕事モードでございますよ、と涙を撫でて切り替える
その可能性は何処にいるのか探していきましょう
羨ましい、という声を聞いた
それはここを楽しみたかった声なのか
楽しく過ごしている者が妬ましかったのか
そうであるなら、ただこの場が好きな私にはそう思うなら一緒に見よう
なんてお誘いくらいしか思い浮かびませんねえ
飼育員さんなどが居られましたら声をかけ最近の生き物の様子はどうかなど聞いてみる
間隔の鋭い動物達であれば何か感じ取っているかもしれません
浮舟・航
【WIZ】
確かに、声が聞こえたはずでした
それにさっきの白衣を着た、……誰でしたっけ
不可思議なひととき。僕はそう重く考えずに向き合います
僕、宝探しみたいな空想めいたものは好きなもので
水槽周辺を中心に調べてゆきます
ヒントは「血のように、赤黒い子」
そんな子がどこかの水槽に紛れていないか、注意深く観察します
(趣味と実益を兼ねさせるの、得意なんですよね)
僕なら宝を隠すならどこにするでしょう
赤く黒いものならば、岩陰や藻の中に紛れさせるかな
僕のように、何やら調査をしている人を見かけたら
きっと同類とみて、声をかけて情報共有
(ささやかな「コミュ力」の使いどころ)
探し物は、誰かと一緒に探した方が効率的ですよね?
アール・ダファディル
ーー羨望、いい感情じゃないか
ふ、ふふ。まるでヒトのようだ
俺たちは【情報収集】に回るとしよう
不本意だが、好い少年を演じるとするか
Echo、大人しく付き合ってくれよ
飼育員と思しき人らへ事情を聞く
パンフレットを手に
明るく、無邪気な子どもの顔で声掛けて
「水族館ってとっても面白いんだね!」
色んなお魚みたよ、とテディベア片手ににこにこ様子を伺い警戒を解く
話の流れで本題へ踏込む
「でもね、ボク、探している子が何処にいたか見つけられなかったんだ」
冊子開いて困り顔で首傾げ、
少しでも相手の庇護欲を煽りながらお願いを
『血のように黒く赤い未確認生物みたいな生き物』の情報を問おう
複数に聞き込み
情報精査も忘れぬようせねばな
●未知への『ツカイ』
琥珀色の瞳をきゅるりと丸め、アールは滑らかな頬を紅潮させる。
「水族館って、とっても面白いんだね!」
あのね、あのね。色んなお魚を見たんだよ。あっちのは大きくて、こっちのは色が綺麗で――。
テディベアを片手に抱いた品の良さげな少年の歓びぶりに、白衣姿のスタッフの顔は自然と綻ぶ。
「楽しんで貰えて私たちも嬉しいわ」
自分たちが大切に世話をしている魚たちが、誰かを幸せにできているのだ。それを誇りに思わぬ者はいるまい。ましてやそれが、純粋無垢な眼差しをした少年ならばなおさらだ。
「何か知りたいことはある?」
だから若い女性スタッフは、アールと視線を合わせてガラス拭きの手を休めた。
仕事を中断させられた事にも嫌な顔ひとつしない女性は、きっと人も好いのだろう。アールの顔はますます輝かせた――かと思うと、ぺそりと眉を下げて憂いを帯びさせる。
「えとね、ボク。探してる子がいるんだけど……何処にもみつけられなかったんだ」
お姉さん、知ってる?
困り果てた様子で首を傾げる少年の姿は、庇護欲を掻き立てるもの。つられた女性は「どんな子かしら?」と、アールと、アールが広げた館内地図を交互に眺めた。
「何か情報は得られましたでしょうか?」
水族館内の生きものについて尋ねるならば飼育員が一番。己も幾人かの白衣姿のスタッフへ声をかけてまわった終は、一仕事終えたアールへ歩み寄る。
されど少年から返る応えは芳しくない。
「赤くて黒い魚はいるにはいるが、特に変わった様子はないらしい」
(「おや」)
女性スタッフと『歓談』に興じていた時とはまるで違うアールの表情に、終は目を瞠る。先ほどを爛漫の春に例えるならば、今は冬忍び来る秋の終わり。どうやら先ほどの笑顔は演技だったらしい。
しかもアールが抱いたテディベアは、片腕に抱えられるという扱いがご不満だったようで。今にも怒り出しそうな雰囲気を察した終は、涙へ顔を寄せる。
「お相手を」
そっと告げられた求めに、小さな海竜は空をひらりと滑り、くるりくるりとEchoの周りを泳ぐ。すると新しい出会いがお気に召したのか、可愛らしいリボンをつけた≪彼女≫の雰囲気がぱっと華やいだ。
「ありがとう」
アールの謝辞に、終は「いえいえ」と謙遜ではなく首を振る。
「ここは楽しむ為の場所でございましょう。ならば全てを楽しみませんと」
言い乍ら、蘇るのは不思議な声。
羨ましいと、聞こえた。
それはここを楽しみたかった者の声なのか。それとも――。
「楽しく過ごしている者を妬む何者かの声なのでございましょうか……」
廻らせた思考の果て、終の漏らした推測に。アールは「ふ、ふふ」と不敵に笑む。
「――羨望、いい感情じゃないか」
それは感情を持つイキモノの証。まるで『ヒト』であるかのような。
と、そこへ。
「確かに、感情は面白いと思います」
館内を一回りしてきた航が合流する。情報は共有した方が、調査は捗るというもの。SNSとは異なる、リアルのコミュニケーション力を懸命に絞り出した航は、『声』を耳にした直後、似たような反応をしていたアールと終へ声をかけたのだ。
然して、三人と一体と一匹は、水族館の薄暗い片隅で頭を突き合わせる。
「聞こえた声は、色で例えるなら赤に黒を混ぜたようなものだと僕は思いました」
ネットの片隅で注目を集めつつある作家らしい航の感想は、アールと終も納得するもの。同時に赤い白衣の誰かが告げた色とも一致する。
けれど白衣のスタッフたちは、その色を気に留めた様子はない。
「どう致しましょう? 聞こえた声が正しく『羨望』ならば。私には『一緒に見ましょう』とお誘いをかけるくらいしか思い浮かばないのですが」
いっそ全てが幻だったのではないだろうか?
誰であったかさえ釈然としない赤い白衣――そもそも、ここにも矛盾があるのだが――の主の声を半ば強引に脳内で再生させて、航もディスプレイ越しではない現実の幻想と向き合う。
「赤く黒い宝……僕ならどこへ隠すでしょう?」
思い浮かべ、虚空のキャンバスに色を置いてゆく。海底を、岩陰を、ゆれる藻を――。
「あ、」
その時、航の中で鮮やかな銀が閃いたのは偶然であり必然。
「リュウグウノツカイ……そうです。公開されたばかりのリュウグウノツカイなら、皆が詳しくなくても――」
「道理だ」
スタッフたちが『知らない』という結論から導き出せる『解』に、アールも是を唱える。そんなアールの高揚を察したのか、涙とじゃれていたEchoも今にも駆け出しそう。
「急ぎましょう」
男二人を促して、航は足早にリュウグウノツカイがいる水槽を目指す。
そこで何が待つのか、重く考えることはない。行きつく果てが澱であろうと、淀みであろうと。不可思議なひとときは、間違いなく空想めいた楽しさを航へ齎しているから。
そしてアールとEchoを先に行かせ、涙と共に殿を担う終も、未来へ胸を躍らせる。
十中八九、待ち受けるのは悲劇を呼び込む可能性を秘めたもの。
しかしそうであっても問題は微塵もない。
何故なら終は、そんな悲劇こそを殺して壊す衝動に憑かれているのだから。
然してリュウグウノツカイの水槽の元へ辿り着いた三人は。
巨大なメスシリンダーの端。岩場と藻の揺らめきに霞む目盛り線の横に、赤くて黒い何かを視た直後。
歓声を上げて群がる観客の中にありながら、闇色の波にごぶりと飲まれた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
■櫻宵(f02768
何怖がってるんだ
怪異は陰陽師の君の領分だろ
超優秀?それは素敵な可能性だ
逸れない様手を繋ぎ
館内を人気のない場所から探索する
櫻宵の勘任せだけど僕は信じてるから
不器用だもんな…
思うままに進もう
きっとそこにいる
ここは可能性に満ちてるね
僕の鰭が足になるのは可能性がないって言えるけど
水槽を通じて
世界中の海が
そこに住む命が
ひとつに繋がってる
だから何がいても可笑しくない
未確認生物は昏い所に隠れてるのかな
もう僕らの横にいるかも
何か痕跡がないか探そう
水槽を覗く時
水槽の向こう側から見ると
君も大きな水槽に入ってるように見えるんだ
だからもう僕達は水槽の中にいるのかも
誰かのね
でも大丈夫
櫻宵が一緒だから
誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)
ちょっやだ消えたわ
怖いわ
あたしダメ陰陽師!
実は超優秀な陰陽師だって可能性も!
可能性のない事なんてないわ
羨み呪う元気が残ってるならそれは
まだ可能性があるって事
そうなりたいから羨むの
リィの手を握り
第六感に任せ
人の少ない所やあたしが行きたい深海魚の水槽やあちこちへ
視界の端に映るかも
赤を探しましょ
わくわくするわね
リィと一緒ならどんな時も楽しいわ
可能性を考えるのも素敵
諦めればそこで可能性はなくなるから
どんな時も信じているの
未確認生物だってきっと見つかるわ!
ばかね
本当は足も諦めてないくせに
水槽の向こうから観察されてるのはあたし達の方かも
境目なんて曖昧で
気がつけば捕えられている
なんて
●境界線
「ちょっ、やだ。消えたわ」
え? え? どういうことなの、怖いじゃない、怖いじゃない。というか、怖いわ。
そう顔を青褪めさせて縋りついてきた誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)の背をリル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)は宥めるようにそろりと撫でる。
「何怖がってるんだ。怪異は陰陽師の君の領分だろ」
「っは! そうだったわ。あたし陰陽師。でもダメ陰陽師なのよ――ああでも実は超優秀な陰陽師だって可能性もあるわね!?」
混ざりあった陰と陽は、傍らの温もりのおかげで陽側へ傾いたらしい。強がりではない櫻宵の様子にリルはほっと胸を撫で下ろし、けれども再びの慌てふためき防止に木龍の手を取り、すいと青い世界を鰭で泳ぐ。
こぽこぽと、あちこちから音がする。
生命の誕生を感じさせる旋律に、リルはほぅと丸い息を吐いた。
「ここは可能性に満ちてるね――僕の鰭が足になるのは可能性がないって言えるけど」
水中だったなら、真円を描く気泡になったろうリルの言の葉が、パチンと櫻宵の意識を惹き付ける。
「そんなこと言っちゃダメよ! 可能性のない事なんて、この世にはないの。さっき聞こえた声だってそうよ。羨み呪う元気が残ってるなら、それはまだ可能性があるって事。そうなりたいから羨むの」
先ほどまでの怯えぶりは何処へやら。櫻宵の口ぶりは、まさに陰陽師。けれど続いた呟きは、リルだけの櫻としてのもの。
「――ばかね。本当は、足も諦めてないくせに」
「なんだい、櫻宵」
けれど水音に櫻宵の声はかき消されたのか。それとも敢えて濁したのか。判断はつきかねるが、ことりと小首を傾げる仕草に櫻宵は撃ち抜かれ、さあさあ可能性探しの探検へ出かけましょうとリルの手を引く。
特に目当てのない旅路。
なかなかピンと来るものがないらしい櫻宵は、丸底フラスコを覗き、ビーカーを眺め、試験管に張り付き、またふらふら。
「なかなかいないわね、赤い子」
「そうだね。でも、こうしているだけで僕は楽しい」
「んもう! それあたしが今、言おうとしてたのにリィったらっ!!」
二人でいれば、どんな時だって楽しいし、わくわくする。探し物がみつからない焦燥感なぞ、どこ吹く風だ。
――そして。
「ご覧、櫻宵」
リュウグウノツカイが泳ぐメスシリンダーのすぐ近く。稀少な銀色に視線を独占されて、存在を忘れ去られた試験管をリルと櫻宵は『あちら』と『こちら』から覗き込む。
「僕が水槽の中にいるように見えないかな?」
「あら、本当」
複雑な屈折を経て結ぶ像は、ゆらり。だからこそ互いが水中に在るような錯覚を、二人は同時に味わう。
青い青い水の中。いろいろな命が住み、世界を繋ぐ海を思わす水の中。可能性に溢れた水の中。
外界のことなど知りもしないカラフルな魚も、二人の存在に気付いたのか。ガラス越しに『人間』の顔をじぃと見る。
「ふふ、何だかあたし達が観察されてるみたいね」
全ての境目が曖昧になり、世界は一つに溶け合う。
「気がつけば、あたし達の方が捕らえられちゃったりして?」
「そういう可能性も――」
リュウグウノツカイの銀色が写し取った『赤黒』が。不意に、偶然、きらりと二人の世界に忍び寄ったのを櫻宵とリルは気付いたろうか?
然して、「あるかもね」と続くはずだったリルの言葉尻ごと人魚と木龍は、世界の境界を溶かす波に攫われた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と
黒く赤い子…?
ねえ、アヤカも聞こえた?
未確認生物
でも、わたしたちが見て回ったところはぜんぶ名前がついてた
すいそうの中、じゃないところにいるのかな?
たからさがし
いつもならわくわくする響きだけど
なんだか
アヤカの手を握っていたことに気付いて
あれ?とふしぎそうに
顔を合わせたら笑って
不安?の声にそうだったのかもと思う
でもアヤカが笑うから
どこかにふきとんじゃったみたい
うんっ
探しにいこいこっ
めんだこ
逆回りに戻ってみよっか
水槽覗きながら
きみはしってる?
海の底
わたし、海まだ行ったことない
しらないいきものがたくさんいるんだ
未確認生物
ろまん
浮かんだ言葉ふたつ
たのしい方を選んで
行ってみたいねっ
浮世・綾華
オズ(f01136)と
聞こえた
羨ましいって
だな、未確認生物なら
名前のない生き物のはず
不思議そうな顔と目が合えば
どうした?と微笑む
不安?そーじゃない?
何にしろ、一緒だから大丈夫だろ
だってこれ、楽しんだもん勝ちぽっくねえ?
なら最後まで楽しもうぜ
引かれるまま赤黒いものを探す
赤黒い…さっきのたことか?
たこってちょっと未確認生物っぽい気がする
めんだこに聞いてみる?
見っかんないなー
そいや海のずっと底の人間がいけない場所はさ
それこそまだ知らない生き物がいっぱいらしーぜ、浪漫
楽しかったって感情が、赤い白衣の言ってた可能性なら
それだけで俺らもうみっけちゃってるケド
赤黒いもんってそれこそ血くらいしか思いつかねえや
●『鍵』
「ねえ、アヤカも聞こえた?」
紅潮していた頬を瞬く間に白へと戻したオズの視線に、綾華は「聞こえた」と逡巡の隙さえなく首肯する。
――黒く赤い子。
――羨ましい。
唆すような前者に対し、後者は粘度の高い闇が纏わりついてくるような。
そして探し出すべきは『未確認生物』。
けれどオズも綾華も、水族館の水槽内にいた全ての生物には名前が記されていたことをはっきりと憶えている。
つまり。
「すいそうの中、じゃないところにいるのかな?」
「だろうな。名前があっちゃ、未確認にならない」
力強い綾華の同意を受け、オズは幾つかある可能性の取捨選択を始めた。
水槽の中に居ないなら、館内のフロアーの何処かだろうか? 物陰? 関係者だけが立ち入りを許された場所?
いつもならわくわくするはずの『たからさがし』。されど考えれば考える程、底なし沼に沈んでいくような感覚に襲われる。
ちりり、と。表皮が酷く鋭敏になっている気がして、オズは己の腕へ視線を落とし――あれ? と不思議そうに目を瞬かせた。
「え? あ、あれ?」
いつの間にか繋がっていたオズと綾華の手。掴み方からして、オズから手を伸ばしたのは間違いない。
いったいいつの間に? 完全に無意識だった己の所作に、オズは戸惑う。
「どうした?」
しかし見交わす赤に微笑まれれば、腑に落ちてしまう。
「不安?」
覗き込まれる時には、オズはもう笑っていた。多分、不安だったのだろう。でも、でも。
「アヤカが笑うから、どこかにふきとんじゃったみたい」
「なら、良し! ま、何があっても一緒だから大丈夫だろ」
だってこれ、楽しんだもんが勝ちっぽくねえ?
そう続くはずだった綾華の言葉は、ほらほら行こうと先を促すオズのいつもの笑顔がさらっていく。
そうしてまたも水族館を余すことなく楽しんだ二人が、最終的に戻って来たのはメンダコとの触れ合い広場。
「ねえ、きみは何かしってる?」
先ほどわちゃくちゃにされたのを教訓に、オズは水槽の縁から水中をひらひら泳ぐメンダコの形を指でなぞって問いかける。
動物と話すことが出来たなら、彼らからの応えをキャッチできただろうか?
そんな『もしも』が過りはしたが、無いもの強請りに凹むオズと綾華ではない。
「そいや海のずっと底の人間がいけない場所はさ、それこそまだ知らない生き物がいっぱいらしーぜ」
浪漫だろ?
フォルム的に未確認生物を彷彿させるメンダコへ、突く悪戯を仕掛ける綾華の博識に、へぇ、と同じ赤と黒の生き物へ手を伸べながらオズは青い世界を思い描く。
海の底のみならず。海そのものへオズは出かけたことがない。そこはどんな所なのだろう。水族館のような空間が、永遠に続いているのだろうか。そして知らぬ生き物がたくさん、たくさんいるのだろうか。
――未確認生物。
――ろまん。
浮かんだ二つの言葉に、オズの表情がへにゃりと蕩ける。
「赤黒いもんって、何だろうな? それこそ血くらいしか思いつかねえや」
「でも、アヤカとならきっと何だってたのしい」
自分が思案の海へ沈むうち、オズが辿り着いたと思しき可能性に、綾華は目を細めた。
赤い白衣の言っていた可能性が、『楽しかった』という感情なら。それが『鍵』になるというのなら。それはもう、みつけてしまっているし、手にもしている。
ならば、これ以上。何を探せというのだ?
「なあ、オズ。今、楽しいか?」
「うん!」
オズの笑顔が、今日一番に弾けた。その、刹那。
ぶわりと飛んだメンダコが、綾華とオズの視界を覆う――いや、赤と黒の何かが覆う。
どろり。
足元が溶ける感覚は、一瞬。
再び二人の視野が開けた時、そこは元の青い世界ではなかった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
キララ・キララ
ラッカ/f15266と
う。びっくりした〜…そうよね。仕事できたんだものね。じつはちょっとたのしみよ。戦いじゃなくて宝探しですって!
未確認生物?って、どんなのかな。黒くて赤いの?ブラックタールみたいな子かしら?
なかよくできるといいなあ…そしたらUDCアースではじめてのお友達になるわね。
《ブルーバード》!空を泳ぐチョウチョウウオを描きます! いっしょにさがしてくれる?
きらちゃんもお魚さんの気持ちになってみる。『野生の勘』!
ねえねえラッカ、どんな子だとおもう?
…うーん。そっか。そうよね。事件だものね。
きらら、『もしかしたら』って可能性は、いいものを考えたいの。
そのほうが当たったときすてきでしょ?
ラッカ・ラーク
キララ(f14752)と。
この水族館で"羨ましい"か。
あんまり想像したくねえなあ。
お友達、は難しいかもな。相手はオブリビオンだぜ?たぶんな。ここじゃあUDCか。
オレも【野生の勘】と、未確認てことだし【世界知識】で知らないモノ中心に探してみよか。
たぶん、実験器具の水槽の中じゃないかねえ。
んー。どんな子だろなあ。
コレはキララには言わないんだけど。
俺はつくられたもので、"一番最初"はこういう実験器具みたいなのの中のモノで。
可能性の全てが潰えた未来っていうとさ、コレから一生出られないとか、そういうのが思いつくんだ。
だから何ができるとか、何かしてやろうとかいうのがあるわけじゃないけどさ。
●みぃつけた
突然の出来事にキララが驚いたのは一瞬。
この水族館へ仕事で来ていたことを思い出した少女は――カラフルに染まったパーカーのフードをくるりと翻し、くるんと回る。
「ねえ、ラッカ。聞いた? 宝探しですって、宝探しですって!」
両手に持ったカラースプレーで、今にも中空へ絵を描き出さんばかりのキララの歓びように、ラッカは「そうだな」と応えつつも声と肩を落とす。
実験施設のような『此処』で――“羨ましい”だ。招かれる先に待つものは、あまり想像したくない。
とは言え、楽しそうなキララへ水を差すのも気が引ける。
「未確認生物? どんなのかな?? 黒くて赤いの? ブラックタールみたいな子かしら?」
えぇと、えぇとと。水族館の天井付近を眺める眼差しで、キララはありったけの可能性を思い描く。
「きらら、なかよくできるかなあ……? そしたら、UDCアースでのはじめてのお友達になるわね!」
夢を語るキララの笑顔が、きらきらと眩しい。
でも、だからこそ。
「お友達、は。難しいかもな」
ラッカは膨らみ過ぎた期待が、ぱぁんと弾けてしまわぬよう、用心深く『現実』を吹き込む。
「相手はオブリビオンだぜ?」
多分な、とつけたのは。一気に萎ませてしまわぬ為の大人の気遣い。出来るなら、子供の夢は守りたい。しかもキララは願いと希望と情熱を描くアーティストなのだ。
そんなラッカの導きに、
「……うーん、そっか。そうよね、事件だものね」
キララも一応の理解は示す。が、「よし」とカラースプレー缶のボタンに指をかけたキララは、やっぱりめげない。
「けど、きらら。『もしかしたら』って可能性は、いいものを考えたいの」
――そのほうが、当たったときすてきでしょ?
そうしてキララはその場でくるりともう一回転。「探しもの? 描けばいいのよ?」と楽し気に唱えて、黄と黒、それから白を空へと噴出させた。
「ね、いっしょにさがしてくれる?」
色が寄り集まって形を得たのは水族館にお似合いのチョウチョウウオ。仮初めの命を与えられた魚は、キララの求めに応じて、ゆらゆら水底思わす館内を泳ぎ始める。
「きらちゃんもお魚の気持ちになってみる! ラッカも行こう!!」
「わかった、わかった。だから走るなって!」
「ねえねえラッカ、どんな子だとおもう?」
「んー、どんな子だろうなあ」
魚になりきろうとしているのか、鰭のように手を閃かせるキララの様子に、ラッカはトカゲの尾でタンと床を叩いた。
焦燥のような、やるせなさのような感情が、内側に込み上げる。
決して、キララへ聞かせることは出来ないけれど。
(「俺は、つくられたもので。“一番最初”はこういう実験器具みたいなのの中のモノで」)
掘り起こす記憶に、じくじくと何かがざわめく。
(「可能性の全てが潰えた未来っていうとさ。コレから一生出られないとか、そういうのが思い付くんだ」)
幾つも並ぶ試験管型の水槽へ視線を馳せ、ラッカが心に暗闇を寄せた時。
――ジャア、何デ。アナタハソコニ居ルノ?
「え?」
その声は、再び響いた。
――ナンデ、ナンデ。アナタハソコニ? 自由ニ?
ラッカの背筋を、悪寒が走り抜ける。
「おい、キララ!」
咄嗟に少女の名を呼んだ男は、同時にしまったと唇を噛む。
――ズルイ、ズルイ。アナタダケ。一緒ナノニ。可能性イッパイノ子ヲ引キ連レテ。
「なあに、ラッカ。みつけ――」
どこまでも可能性を広げるキララが振り返る。
「ダメだ、来るな――」
そんなキララをラッカは突き飛ばそうと――自分から離れさせようとして。
――ダメ、ダメ。モウ、ミツケタ。私タチニトッテノ、未確認未来。
赤黒い幻の波に、二人そろって飲まれ、連れ去られる。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『棄テラレシ可能性』
|
POW : 未来捕食
戦闘中に食べた【敵対者の血肉】の量と質に応じて【醜怪な姿へと成長を遂げ】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD : 現在汚染
【周辺同位体の寿命】を代償に自身の装備武器の封印を解いて【恐怖と絶望に塗れた腐敗性瘴気】に変化させ、殺傷力を増す。
WIZ : 過去顕現
【悍ましさや痛(悼)ましさ】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【対象の喪った存在の幻影】から、高命中力の【憎悪を感染させる精神波】を飛ばす。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
|
●可能性未満
こぽぽ、こぽぽ。
水族館で見たのとよく似た、巨大な試験管を思わす水槽が幾つも幾つも並んでいる。
けれど猟兵たちは、『此処』が水族館の一部なのだとは思わなかった。
理由は一つ。
色が、違うのだ。
海を模した青ではなく、乾きかけた血のような黒くて赤い世界。
息苦しさを感じる程、空気が重い世界。
何が起きたのか。
或いは、何処へ足を踏み入れたのか。
理解するより先に、猟兵たちは自分たちに向けられた『敵意』に肌を泡立てた。
直後、
「「「ヨウコソ、可能性ニ溢レタモノタチ」」」
一斉に、声が響いた。
ぐわんぐわんと脳味噌を揺さぶるように、幾重にも幾重にも幾重にも。
「何故、オ前達ニハ与エラレタノカ」
「何故、私達ニハ与エラレナカッタノカ」
「ズット夢見テイタノニ」
「夢見テイタノニ」
「望ンデイタノニ」
「可能性ヲ信ジテイタノニ」
絶叫とも怨嗟ともつかぬ声がこだまする。
多くの未来を抱え、心置きなく楽しんだ、可能性に満ち満ちた猟兵たちを詰り、糾弾するように。
そして一際大きく「ごぼり」と水泡が湧き立つ音がしたかと思うと、全ての水槽が消え失せた。
体温に近い熱を孕んだ水が、猟兵たちの足元を浸す。
そこへ、黒くて赤く、名の無い――イキモノに成れなかったナレノハテが降り立った。
「タノシカッタデショウ?」
「タノシンダデショウ?」
「タクサンワラッタデショウ?」
「ナラ、ソレヲチョウダイ」
「ワタシタチニ、ソノ可能性ヲ――」
「「「「「可能性――ヨコセ
」」」」」
此処がUDC組織の実験施設であったのか、はたまた纏わる何かの堪り場になったのかは分からない。
されどオブリビオンと化した異形を前に、猟兵たちがやるべきことはただ一つ。
例え相手が、成長さえ出来ていれば数多の可能性を得られた筈の生命の末路であろうとも。
何より、己の可能性をここで潰えさせてはいけない。
それは即ち、また別の誰かの可能性が終わることを意味するのだから。
月夜・玲
可能性の潰えた者…か
悪くないね
こっちもこっちで役得ではあるね
貴重なUDCのデータ、いただきます
君達の存在は、私の新しい可能性に繋がるから安心してよ
だから安心してお休み、きちんと終わりにしてあげる
●戦闘
《RE》IncarnationとKey of Chaosを抜剣
ガジェットから供給されるエナジーを両剣に纏わせて戦闘開始
なるべく多くの敵を巻き込むように移動、まずは一発これは牽制も兼ねて!
片方の剣に纏わせたエナジーを解放して広域攻撃
更に『2回攻撃』でもう片方の剣に纏わせたエナジーも解放!
後は斬撃でオブリビオンにトドメを刺していこう
君達の怨嗟さえ糧にしてみせるよ
大丈夫、UDCは私の研究対象だからね
●起動・開戦
艶やかな黒髪に、一房。流れる青をなびかせ、玲は温い水を跳ねさせた。
(「可能性の潰えた者……か」)
数え切れない黒と赤の異形を輝く赤い視線で捉え、くすり――と玲は口角を上げる。
「悪くないね」
唐突に放り込まれた淀んだ世界に、玲の探求心は弾んで疼く。
「貴重なUDCのデータ、いただきます」
再誕の為の詩、と、混沌を齎す鍵。剣を成す兵装を左右の手に一振りずつ握り、玲は喜々とオブリビオンの海へと飛び込む。
ヴン、とUDCの力の再現を目指す玲手製のガジェットが起動し、両の剣にエナジーを供給する。それが十分に満たされるタイミングに合わせて、玲はナレノハテ共の密集地へ踏み込んだ。
「こっちもこっちで、役得ではあるね」
まずは、左。駆ける姿勢のままで、鋭く振り抜く。生まれた剣風が黒と赤を薙ぎ払う。
だがこれは牽制。翻弄されて、或いは躱そうとして出来た『溜まり』へ、玲は戦意の照準を定めた。
「エネルギー解放、広域放射!」
今度は態勢を整えてからの、右の一閃。解放されたエナジーは幾筋にも分かたれ、マニューバの如き軌道を描いて、可能性を持たぬモノらを次々と灼き貫く。
「ヤメロ」
「喰ラワセロ」
失われてゆく命を懸命に繋ぎ止めようと、オブリビオンが互いを食み、玲めがけて腕とも触手ともつかぬものを伸ばす。
――が、そこに待ち受けるのは力を残したままの左。
「君達の存在は、私の新しい可能性に繋がるから安心してよ」
――君達の怨嗟さえ糧にしてみせる。
バックステップを踏み、玲は間もなく潰えるモノたちを引き付けるだけ引き付けて。
「だから安心してお休み、きちんと終わりにしてあげる」
――大丈夫、UDCは私の研究対象だからね。
二度目の一閃。
放たれたエナジーは鋭利な刃となり。下から、上へ。払われた剣と同じ挙動で命脈を断つ
大成功
🔵🔵🔵
アール・ダファディル
凝った色に相応しい迄の羨し望み妬み恨み……
身勝手な要望は実にイキモノらしい
同情はしない
代わりにその感情に相応しい言葉を教えてやる
――『ないものねだり』だ
【仮初一座による即興劇】を発動し、
高速移動で攻撃を回避しながら不可視の糸を敵へ巡ら繋ぐ
巫蠱の様相為す戦場であっても変わらない
みな均しく結び張り絡ませ縺れ合わせて、合図する
視えぬ糸引き繰れば縛った凡てがたちまち俺の意思の儘
「Echo、存分に遊んで構わないよ」
楽しみたい。ならば≪彼女≫と身が崩れるまで踊ろうか
夢を見たい。ならば、瞼閉じ覚めぬ夢見て永遠に御休み
「可能性は奪えるモノで無いと知れ」
各々欲した『ないもの』に想い馳せ――笑って自壊するがいい
クロト・ラトキエ
何故?
さぁ。何故でしょうね?
秘した篭手に短矢装填。
グローブより先ずは鋼糸一本。
哀れ憫れと憐れめと?
或いは悼め、傷み痛めと?
そんな言葉遊びくらいならお付き合い致しますが。
戯言の合間も二本三本…放ちては引いて斬り。
一手といわず2回攻撃、矢を撃ちフェイント、早業で糸を張り。
羨むも嫉むも怨むも詰るも、どうぞお好きに。
えぇ。とても楽しめましたとも♪
――それで?
踏み入ったのは僕。だが呼んだのは其方。
過去だろうと、今を生きたかろうと、躊躇いも無く排しましょう。
範囲攻撃の先、技よりの昇華。
これは、げに久しき…
望み絶つ糸。篤とご賞味を。
断截――拾式。
僕は、僕から奪う気の手合に加える手心など、持ち合わせて無いんで
●糸、二繰
「何故?」
繰り返される怨嗟を、クロトは竦めた肩で受け流す。
「さぁ、何故でしょうね?」
問い掛けに返す問いに滲むのは、明らかな揶揄。
――ふん、と。
アールは皮肉を鼻で嗤った。
凝った色に相応しい迄の、羨し望み妬み恨みの数々。
身勝手極まりないそれらは、実に、実に、実に『イキモノ』らしいものではないか!
「その感情に相応しい言葉を教えてやろう」
するつもりの一切ない同情に代えて、ヤドリガミたる少年は尊大に言い放つ。
「それを『ヒト』は――『ないものねだり』と言うんだ」
然して、『今』にのみ立つ男と、大人びた少年は、それぞれの糸を繰る。
「――……さあ、幕開けだ。糸縺れるまで踊り惑え」
昏い世界に琥珀が刹那、煌めいた。それはまことの光ではなく、細い細い、極めて細い繰糸。
それを我が身にまとった途端、アールは呪いの塊が如きオブリビオンの視野からふつりと消えた。
否、消えたのではない。
視認できぬ速度を得たのだ。
事実、足跡の形に点々と飛沫が上がる。ある時は、何かを喰らおうと顎を大きく開けた黒赤の際。またある時は、嘆きの声を発する異形の後方。
予測不能な軌道を気ままに描き、アールは暗く重い水底を自在に泳ぎ、不可視の糸で強欲なモノらを繋ぎ巡る。
無論、超常の力を得るのに代償がないわけではない。一秒、また一秒とアールの命は削られゆく。だが≪彼女≫を待つ時間を呉れてやるほど、アールはナレノハテらと戯れるつもりもない。
「――まぁ、少しくらいなら遊んでやるのも吝かではないが」
巫蠱の様相を呈す戦場を、常となんら変わることなくアールは駆け抜ける。
「ズルイ」
「私タチガ何ヲシタ」
「可能性ヲ望ムノモイケナイノカ」
「はあ、そうですか」
――だから哀れ憫れと憐れめと?
繰り言へ、気の抜けた応えを返しながらクロトは生温い戦場を軽やかに走る。
「ああ、それとも。悼んで、傷み痛めと?」
吐き出され続ける怨嗟へも、言葉遊びくらいでなら付き合う余裕をみせるのが大人の甲斐性。
しかし、それだけだ。
細かな動きを読まれにくい柔らかく翻る袖から、クロトは不穏の糸をつと放ち。すれ違いざま、大きく手を撓らせて――クイと引く。
張り巡らされていた鋼糸に、断末魔を上げる隙さえなくオブリビオンの首がべちゃりと地に沈み、血を滲ます。
その度に、クロトの足元は黒く赤い色に染まっていく。濃く、酷く、呪われてゆく。
けれど形なきモノになど男は怯まず、胡散臭いほどにこやかに、そして坦々と『終わり』を振り撒く。
「羨むも嫉むも怨むも詰るも、どうぞお好きに」
向けられた大口へ、秘した籠手に装填していた短矢を放つ。
「おかげさまで、とても楽しめましたとも♪」
弾けとんだ脳髄を二本の鋼糸ですげなく袖にし、クロトは奔る。ただしアールが操る糸とは絡まらぬよう、そこだけは十分に気をつけて。
「何故、何故」
「ドウシテ、ドウシテ」
「可能性スラ許サレナイノカ」
「――それで?」
憐憫を誘う訴えを、クロトは躊躇いなく一蹴する。
確かに、踏み入ったのは『此方』側だ。されど呼んだのは『其方』側。
過去だろうと、今を生きたいと望んでいようと。排すと決めたモノは、確実に速やかに排す。
「残念ながら」
微塵もそうは思っていない顔で、クロトは張り巡らせた四本の鋼糸を、指の動きだけで一本へと集約させる。
「僕は、僕から奪う気の手合いへ加える手心など、持ち合わせて無いんで」
縒り合わされた糸に釣られて、ナレノハテ達が体勢を崩して雪崩れた。ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ、いつつ、むっつ――数えて、七つ。
(「これは、げに久しき……」)
暗がりへ広げた視野に敵を捕らえて、クロトは四本の指を、それ自体が意思を持つように蠢かせる。
「望み断つ糸。篤とご賞味を」
断截――拾式。
熱なき平らな唱えに、再びばらけた鋼の糸は刃と化して。黒装束の男の一帯を、夥しい血で濡らし尽くす。
「ああ、これはいけない」
どろりと流れ来た朱色から片割れを庇うように抱え直し、アールは数メートルを跳ねた。
そうして足を止めた血に濁らぬ水面で、アールはようやく琥珀の装いを解く。
――が、ここまではあくまで仕込み。
「Echo、存分に遊んで構わないよ」
その一言が、みな均しく結び張り絡ませ縺れ合わせ終えた合図。
腕の中で膨れ上がった歓喜の気配に、アールは楽器を奏でるように無数の糸を繰る。
途端、一体のナレノハテがぴょんとジャンプした。隣では、ころりと寝そべり、斜め後ろの個体はゆらゆらと躍り出す。
「楽しく遊びたかったのだろう?」
ならば存分に、心行くまで。ただし相手はアールではなくEcho。
ぴこんぴこんとリボンを揺らして、きゃっきゃきゃっきゃと≪彼女≫がはしゃぐ。ぽこぽこと振り下ろされた拳に、自由さえも失ったオブリビオンの体がぐずぐずと崩れ落ちた。
「夢も見たかったのだろう?」
とん、とん、とん。躯と化した黒と赤の異形の上を渡り、ぽふんと跳んだ≪彼女≫のふかふかの毛並みに、おぞましく見開いていた瞼が閉じる。そこでみる夢は、永遠に終わりのこないものだけれど。
「可能性は奪えるモノで無いと知れ」
(「各々欲した『ないもの』に想い馳せ――笑って自壊するがいい」)
潰えて逝くモノを、アールは指を繰り動かし続けながら冷たく見遣る。
徐々に輪郭を失う多くの中にあって、楽し気なEchoの姿だけがアールの心に熱を灯すものだった。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
オズ・ケストナー
アヤカ(f01194)と
ずしりとのしかかるような声
いっしょに笑うことが
遊ぶことがもしできたなら
たのしい気持ちは、いくらでも作れたと思うのに
彼らとはそうできないと理解して
向き合うように斧を握り、隣を伺えば
…アヤカ?
険しい顔
憎悪
この、向けられた思いはそれなんだね
だいじょうぶだよ、アヤカ
さっき不安を追いはらってくれたアヤカに笑いかけ
可能性はあげられない
わたしのたいせつなものだから
視線に頷く
アヤカ
たいせつな名前を呼んで駆けだす
斧振り回し【範囲攻撃】
攻撃は【武器受け】
瘴気は刃の面で受け押し返すように
だいじょうぶ
わたしにもう不安はないもの
ごめんね
きみたちのためじゃなくて
ともだちのために
早く決着を、つけるね
浮世・綾華
オズ(f01136)と
何処かで見た姿に眉を顰める
こいつらは進化の過程で滅んでった奴らって感じなのか
や、テレラシ、個人的にいい思い出なくてさ
――彼奴の能力、憎悪で仲間同士戦わせたりすんの
視線をやれば、笑顔にほっとするケド
できるなら、お前を傷つけたくないし
傷を負って優しいお前に悲しそうな顔もさせたくないと
大切なもの
そうだなと視線を投げれば多分伝わる
武器攻撃はなぎ払い、範囲攻撃
複製した黒鍵刀を向かわせる
何本あると思ってんだ?
はい、どっから来てもムダ
オズが思い通りに動けるよう
敵の攻撃を食い止めるように操る
万が一精神波が飛んでくることがあれば
カウンターで跳ね返す用意を
悪いが倒させてもらうぜ
●大切なもの
まるで声が質量を持ったよう。
ずしりと圧し掛かってくる寒気に、オズはきゅっと唇を噛んだ。
もし、一緒に笑うことが。遊ぶことが、出来たなら。
(「『たのしい』気持ちは、きっといくらでもつくれたのに、ね」)
感情を、言葉を解する相手なのだ。今からでも遅くはないかもしれない――とは、喜と楽の感情に長けたオズでも思わない。
――アレはもう通じぬモノ。
――同じ道をゆけぬモノ。
猟兵としての本能か、それとも無機の器に宿った心が発す警鐘か。いずれにせよ、明確な形を持たぬものがオズへと『敵』の危険性を示している。
いつもは笑みを象る口元から、ふぅと重い息を吐いて、オズは身の丈ほどある斧の柄を握り締め――、
「……アヤカ?」
行ける? と確認する為に伺った隣。けれどそこにいつもの飄々さはなかった。
「や、」
名を呼んだきり息を潜めた気配に、綾華は眉宇を顰めたまま言葉を探す。
綾華の『内側』の時間が一瞬にして巻き戻る。
引き摺り出された負の感情。誰かを辛くさせるくらいなら、自身が壊れてしまえばいいとさえ思ったのに。
「アヤカ!」
「――わりぃ。あー……テレラシ? こいつらに個人的にいい思い出なくてさ」
もう一度、強く呼ばれたことで、綾華の意識が『今』へ戻る。
「憎悪で仲間同士を戦わせたりすんのが、彼奴の能力」
そうか。進化の過程で滅んでいった奴らって感じなのかと、見覚えのある姿に綾華は得心するも、指先に残る気がする冷気が暗がりの尾を引く。
しかし。
「憎悪……この、向けられた想いはそれなんだね」
だいじょうぶだよ、アヤカ。
先ほどは不安に囚われたのに。オズは朗らかに笑って綾華の顔を覗き込む。その不思議な力強さに、綾華はようやく詰めていた息をそっと吐いた。
「ケド、出来るなら。お前を傷つけたくないし。傷を負って優しいお前に悲しそうな顔もさせたくな――」
「平気だよ、アヤカ。わたしはなにがあっても負けない。可能性だってあげない。たいせつなものは、ぜんぶまもるよ」
「オズ……」
そこには、オズの形をした光があった。いや、この暗く淀んだ場所に在って、綾華にとってオズは間違いなく光。
陽光を紡いだようなプラチナブロンドが、綾華の目の前を覆う闇を払う。
――大切なもの。
言葉は要らなかった。視線を返し、目を合わせれば、それで十分。
「アヤカ」
たいせつな名前をもう一度、呼び。オズは黒と赤の混沌へ駆け出す。
「後ろは任せろ」
任された背中に、綾華は「――コレをこうして、こうな?」と指先で中空を掻きまわし、黒き鍵刀を複製した。もちろん、向かわせる先はオズへと迫る影。
綾華の放った切っ先に、ずぶりと頭部を穿たれた一体が、ぐずりとその場で溶け堕ちる。
上がった水飛沫をきっかけに、オズは自分を軸に斧を思い切りよく振り回す。
幾つもの命を切り裂く感触が刃、柄と伝わってオズの手を痺れさせた。直接、悲痛な叫びを注ぎ込まれるようだ。それでも、オズは勇ましく斧を跳ね上げる。
急激に押し上げられた重い空気が、圧を唸り。湧き立つ風が、呪いと嘆きさえも跳ね返す。
けれど大きく開いた体めがけ、未来を捕食せんとする怪異が迫る――が。
「何本あると思ってんだ?」
オズが喰らわれるのを見逃す気などない綾華が、意識ひとつで黒鍵刀を操り、邪な思惑を尽く挫く。
「はい、どっから来てもムダ」
――悪いが、倒させてもらうぜ。
背中から聞こえるいつも通りの捉えどころのない――けれど人懐っこさと余裕を醸す綾華の声に、オズは生温い水に浸された床を強く踏みしめた。
(「だいじょうぶ」)
先ほど綾華に投げかけたのと同じ言葉を、今度は自らの裡へ。
(「わたしにもう不安なないもの」)
さぁ、おいで。
昏いばかりの空を仰いで、オズは両手を掲げた。
喚ばれ現れるのは、煌びやかな観覧車の如きガジェット。カラフルな熱帯魚の形をしたゴンドラは、眩い光となってナレノハテたちを包み込む。
――ごめんね。
収束する光と共に消失する『命』にオズは胸裡で短く詫びる。
早く決着をつけよう。
ただしそれは、きみたちのためじゃなくて。
たいせつなともだちのため。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
海月・びいどろ
何にも、なれなかった子
硝子越しだと、みんながいても
分け隔てられて、…可能性には届かない
わからなくも、ない、ような
骸の海からはみ出して
世界の浜辺に流れ着いたキミたちへ
いつも、さよならをいう理由を
探してしまって、いるの
ふわり、海月を喚び出して
いたみの少ない、麻痺の毒を
誰かの未来が、潰える前に
過去の可能性を、削いでいく
……だけでは、なくて
そこまで夢見た、羨望を
手に入れるはずだった可能性を
過去を積み重ねて、未来へ征くよ
喪ったはずの、幻影は
あまりに永い間、遠くにいたから
どんな気持ちで、いれば良いのか
それもまた、わからないけれど
置いていってしまったのは
ほんとうは、どっち、だったのかな
…おやすみ、こどもたち
静海・終
ふらつく様な赤に顔を顰める、好きではない色だ
あまりにも血の匂いがまた香ってきそうなその色は
悲劇を、殺して壊しましょう
他人の可能性を摘み取ろうとするのなら
自分の持った可能性を摘み取られたって仕方ないじゃないですか
涙を槍に変えると目を伏せる
可能性を持ちながらも何故それは成長できなかったのか
見捨てられたのか、力がなかったのか
何であろうと、悲劇を生み出す可能性は、許してはいけない
素早く駆けその可能性を穿ち殺す
フェイント、先制攻撃で軽くとも確実に
協力できる相手がいれば積極的に共闘を
貴方達の可能性は、私の糧として変換させていただきましょう
少しだけでも、それで何が救われるわけではないでしょうけれども、
●さよならの理由
――好きではない色だ。
いつもは、のらりくらりとした笑顔。だが、ふらつく様な『赤』に終は顔を顰め、短く、はっきりと言い捨てた。
濃い、血の匂いが。今にも香ってきそうな色。
まとわりつく生温さにも、肌が泡立つ。
あんなにも好ましい青の世界だったのに。住み着きたいと思う程に、居心地のよい場所だったのに。
暗転、一転、急転。
悲劇しか生まぬ予感の色を前に、終は重い――けれど、固い意志を滲ます息をふぅと吐く。
察した涙が、終の頬へ滑らかな黒曜の額をすりつけ、鮮やかな蒼い瞳をゆっくりと瞬かせる。
「……そうですね」
――悲劇を、殺して壊しましょう。
終の戦う意思に、小さき海竜の輪郭がゆらぐ。そして転じる蒼槍の一条。
馴染む感触を手に、終は一度、瞼を落とす。
「他人の可能性を摘み取ろうとするのなら」
ズルイ、ズルイと。
ナゼ、ナゼと。
染み入ろうとする怨嗟の声を、終は内側から遠退ける。
喩え哀れ誘われようと、憐れを壊れようと。終を突き動かす衝動に変わりはない。
「自分の持った可能性を摘み取られたって仕方ないじゃないですか」
『命』として生まれながら、なぜ『可能性』の芽が成長できなかったのか。
――見捨てられた?
――力がなかった?
全ては想像の域を出ない。いや、奇蹟的に想像を超え真実に辿り着こうとも。
「悲劇を生み出す可能性を、許すわけにはいけませんゆえ」
呼吸さえ儘ならないような赤と黒を、終は再び瞳に捉えてにこりと笑い。足元にまとわりついてくる不快な温度の水を、ぱしゃりと跳ね上げた。
何にも、なれなかった子。
襲い来る醜いナレノハテらを、泳ぐように海月たちとひらひら躱し、びいどろは垣間見た光景を脳裏に再生する。
試験管のような水槽が、『彼ら』の住処であったのか。心象風景であったのかは、定かではない。
けれど――。
(「硝子越しだと、みんながいても」)
分け隔てられたままでは、一は一。広がりゆく可能性には決して届かない。
――わからなくも、ない、ような。
一つの色に留まらない瞳に、複雑な光をチカチカと揺らし、びいどろは大きな顎に捕食されるのをぎりぎりで回避する。
そんなびいどろを守るように海月たちが威嚇の色に身を染めると、いきり立ったオブリビオンはいっそうにびいどろへ群がろうとずるずる蠢く。
おぞましい光景が、びいどろを圧し潰そうとする。
でも、『心』の在り様を模索する電子の子供が『恐怖』に支配される事はなく。懸命に、ひとつの理由を探し続ける。
骸の海からはみ出して、世界の浜辺へ流れ着いてしまったオブリビオン。
びいどろはいつだって探しているのだ。彼ら彼女らへ、「さよなら」を告げる理由を。
「だれかの、未来が。潰える、まえに」
伸べられる黒くて赤い、腕のようで腕ではないようなものの奔流をびいどろは静かに見つめた。
「過去の可能性を、そいでいく――……だけでは、なくて」
そこまで夢見た、羨望を。
手に入れるはずだった、可能性を。
それらごと『過去』を積み重ねて往くのが、未来。ただ待つのではなく、征くべき場所――だから。
「いたくは、しないよ」
びいどろは、黒と赤の波を抱きしめるように両手を広げた。
仕草は受け止めるもの。だがびいどろの内側から溢れる光に呼応するよう、無数の海月たちが中空へと喚ばれ現れる。
――喪ったはずの、幻影は。あまりに永い間、遠くにいたから。
――どんな気持ちでいれば良いか、それもまた、わからないけれど。
(「置いていってしまったのは。ほんとうは、どっち、だったのかな」)
水底より深い場所に眠る答えを探す術は、どれだけ検索してもみつけ出せないから。
だからびいどろは、なるべく優しい終わりを『全ての命』に望む。
「……おやすみ、こどもたち」
せめて、せめて。よい、ゆめを。
びいどろが紡いだ【さよならの言葉】を、海月たちが増幅していく。
ほわり、ほわりと。想いと音色が、泡のように膨らんで。優しく、優しく。憎悪や羨望を穏やかなまどろみへと誘う。
揺籃航路の子守唄。
びいどろが奏でた眠りの歌に、オブリビオン達の動きが鈍る。
その渦中へ、既に幾体もの怨嗟の塊へ終焉を呉れた終が走り込んだ。
跳ねた水が裾を汚している。美しい涙も、帯びた黒と赤の残滓に息苦しそうだ。だが、まだ終わりではないから。
彫像のように動かぬオブリビオンの狭間を縫い、終はびいどろの傍ら、赤と黒の中心地に立ち。海の果てで猫に拾われた魚は、蒼槍を振り被る。
そうして、一投。赤い瞳で見据えた『命』を槍で貫いた。
直後、海竜の咆哮が轟く。大気が震える。その最中を、また終は風のように駆け、次々と眠りの淵に在る命を貫き穿つ。
「貴方達の可能性は、私の糧として変換させていただきましょう」
これで何かが救われるわけでもないと知ってなお終は、「少しだけでも」と『終わる』手応えを五感と記憶に刻む。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リル・ルリ
■櫻宵(f02768
これが未確認生物……
棄てられた、生まれる事ができなかった可能性達
悲痛で哀しくて―嗚呼、けれど
僕らの可能性は君達にはあげられないんだ
彼は僕に、僕だって幸せになれるって可能性を信じさせてくれた
僕にとっての
幸せの可能性だから
ごめんね
あげられない
【歌唱】にありったけの想いを込めて【鼓舞】して歌う君の為の「凱旋の歌」
君の刃が迷わぬように励まし歌で彩って
どんな怨嗟も吹き飛ばす力を君に
君達には「光の歌」を
鎮魂歌のように歌ってあげる
奪わずとも
たくさんの可能性を選べるように
次に生まれてくる時は生き物になれるように
祈るよ
歌うよ
それが君達の
可能性だと思うから
喪った可能性を咲かせる為に
骸へおかえり
誘名・櫻宵
🌸リル(f10762
生き物になれなかった命の欠片
棄てられた可能性のなんと悲しい事
でもね
あたし達の可能性を食べても満たされないわ
だってこれはあたし達のもの
羨んでも奪っても手に入らないのよ
あなた達にはあなた達だけの可能性があるはず
リルを庇いつつ前へ
リィの歌にのせ放つ衝撃波
破魔のせて怨嗟を斬り裂きなぎ払う
第六感で察知し躱したなら咄嗟の一撃を
ごめんね
リィもあたしの可能性もあげられないわ
踏み込み放つは絶華
自由にしてあげる
素敵な可能性ね、リィ
あたしも生まれ変わることができるって可能性
信じるわ
あなた達が可能性を信じられるように
夢見るより奪うより
ちゃんと自分で笑って楽しむ為に
お眠りなさい
楽しい時間をありがと
●『次』の可能性
澱む暗がりに、リルの尾鰭が光を落とす。
生温いぬかるみに、ほわりと朧月が揺れた。どんよりと重苦しい世界にあって、唯一清浄なその灯に心を洗われた櫻宵は、憂いの眼差しを『敵』へと向ける。
「生き物になれなかった命の欠片」
傍らから零れた吐息に、リルも小さく頷く。
――これが、未確認生物。
「棄てられた、生まれる事ができなかった可能性達」
人にも、動物にも、魚にもなれなかった歪な姿が、櫻宵とリルの悲痛を誘う。
膨らむことさえ出来なかった蕾、孵化する事さえ叶わなかった卵。その内側で燻り続けた、熱の残骸。
想像するだけで、胸が苦しくなる。
手を差し伸べたくなる――けれど。
「でもね。あたし達の可能性を食べても、満たされないわ」
花霞の双眸がゆっくりと瞬き、
「だってこれはあたし達のもの」
オブリビオンを強い視線で射抜く。
「どれだけ羨んでも、奪っても。手に入らないわよ。あなた達にはあなた達だけの可能性があるはず」
過去形ではなく現在形で櫻宵が言い切った。魂に、そうであると刻み付けるように。既にそれを持たぬ筈の、可能性の終着点に在る黒くて赤い、生き物にさえなれなかったイキモノへ。
「ナニヲ」
「世迷言ダ」
「寄越セ、寄越セ」
櫻宵の思惑を読めぬオブリビオン達が騒ぎ出し、怒りにとり憑かれてもがき始める。
「ごめん、ね」
浴びせかけられる憎悪に、嗚呼とリルは胸のつかえを吐き出すように短く漏らし、
「僕らの可能性は君達にはあげられない……でも」
櫻宵の手を握った。
リルにとって櫻宵は、自分だって幸せになれるという可能性を信じさせてくれた唯一無二の存在。
リルにとって櫻宵こそが、幸福の可能性。あげられないものは、あげられない。
だから、信じるのだ。
無いと運命づけられたものの『可能性』を。
「――君の勝利を歌おうか」
酸素を求めた金魚が水面へ顔を寄せるように――はくり。呼吸を整え、銀細工にも例えられる繊細さでありながら、魂をも鼓舞させるリルの歌声に櫻宵は一歩を踏み出す。
「希望の鐘を打ち鳴らす絢爛の凱旋を」
迷いを断ち切る歌声を背に、櫻宵は足元の水を派手に跳ねさせ、腰に佩いた太刀へ手をかけた。
「この歌が聴こえたならば この歌が届いたならば さぁ、いっておいで」
「――征くわ!」
胸の裡を溢れんばかりに満たして、抜刀からの一閃。宿された邪を払う一撃に、迫り来ていたオブリビオンは上下真っ二つとなり、ばしゃんと泥濘に沈む。
そうして返す刃でもう一体。
「ごめんね?」
謡い続けるリルへ敵の射線を通さぬよう、戦場全体へ神経を行き渡らせながら、櫻宵は剣に踊る。
右から、左へ。上から、下へ。斜めに斬り上げ、中空で弧を描き、垂直に振り抜く。
手応えは確かだ。
故にひとつひとつと屠る度、無念の怨嗟が櫻宵にまとわりついて、美しき木龍を血に染めた。
徐々に蝕まれるような感覚が、櫻宵を襲う。が、櫻宵は止まらない。
でもそれは血に溺れ、戦いに心酔しきっているわけではない。
「光あれ、光あれ。君の行く末に光明灯し 生命の静寂に 光の賛歌を添えて」
「――ほら、お還り」
光の如く清く荘厳。清雅絢爛なるリルの歌声が、あらゆる澱を雪いでくれる。櫻宵が黒と赤に囚われぬよう、そして閉じた命に新しい風を吹き込むよう。
透明なレクイエムに、可能性を持ち得ぬ命が僅かに鎮まる。そこへ、櫻宵は渾身を放つ。
「リィもあたしの可能性もあげられないわ――代わりに、自由にしてあげる。さぁ、桜のように潔く……散りなさい!」
空間ごと断ち切る斬撃に、花嵐が逆巻く。この世界には決して訪れなかっただろう美しい光景に呑またオブリビオンが、音もなく千々に散って消える。
「奪わずとも、たくさんの可能性を選べるように――次に生まれてくる時は生き物になれるように」
僕は、祈り、歌うよと。
リルは次の可能性を信じた。
「素敵な可能性ね、リィ。あたしも生まれ変わることが出来るって可能性を信じるわ!」
リルと同じ希望を抱え、櫻宵は太刀を薙ぎ続ける。
夢見て奪うのではなく。
ちゃんと自分で笑って楽しむ為に。
今は――お眠りなさい。
「ア、ア、ア?」
断末魔の語尾に疑問を滲ますナレノハテへ、櫻宵は微笑む。
今は分からぬだろう。でもいつか、解る日が来るように。
「楽しい時間をありがと」
そして櫻宵を支えながら、リルも現世の命を見送る。
――喪った可能性を咲かせる為に、骸へおかえり。
次は、きっと。
可能性を信じて。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
岡森・椛
剥き出しの敵意と絶望に満ちた場所
でも怖くはなくて、とても哀しい
アウラを抱きしめじっと彼等を見つめる
この試験管の中で光溢れる夢を見ていたのね
透明な壁の向こう側
どんなに焦がれても決して手の届かない眩しい場所…
胸が張り裂けそう
あなた達は私達を呼び、私達はその想いに導かれた
会いたくてあちこち探したよ
こうして出会える可能性をあなた達がくれた
私には救う事は出来ない
でも今ここで哀しみを終わらせる事は、出来る
【常初花】で季節外れの秋を呼ぶ
アウラの風に乗って舞い散る私の好きな花
せめてもの手向けの花
骸の海へ還っても私は忘れない
覚えてるからね
おやすみなさい…
当たり前の未来を信じ楽しく笑い合える事
なんて幸せなんだろう
浮舟・航
どうしよう、赤黒い世界に飲まれてしまった
手足は震えるし、重すぎる怨嗟に呼吸は止まってしまいそう
絶対に傷つけたくない右手を、庇う様に抱いて
でも、死ぬわけには――可能性を奪われるわけにはいきません
僕の可能性は、僕だけのものじゃない
生き別れた、僕の片割れのものでもあるんだから
僕の道具は戦うためのものじゃないけど……緊急事態ですから
タブレットとペンで軌跡を描いて
なるべく後方から立ち向かいます
迫りくる相手には、【疾走するケダモノ】で応戦
戦いには慣れてないし、慣れたくもない
作家が肉体労働できるわけないじゃないですか
君たちには同情するけど、さよならだ
赤黒い世界には色が足りない
せめて、君たちの色を僕は忘れない
●忘れじの
どうしよう、どうしよう。
飲まれてしまった赤黒い世界に、航の視線は落ち着きなく彷徨う。
強張る足は動くのを拒否してしまっているし、タブレットを握る手は細かく震えている。
ひとつ、息をするたび。重すぎる怨嗟が喉を塞ぐ錯覚に襲われた。激しくなる動悸に、呼吸さえままならない。
せめて、絶対に傷付けたくない右手だけは。
蠢く醜悪なイキモノの視線から庇う様に右手を抱き込むことが、恐慌状態に陥った航に出来る精一杯。
そんな航の柔らかな灰色の毛先を、優しい風が擽った。
「――え?」
この世界由来ではないと直感する清涼さに、航はレンズの奥で二度瞬き。自分の周囲をくるくると飛び回る風の精霊の存在に気付く。
「大丈夫?」
そしてその後を追いかけてきたのだろう。ぱしゃぱしゃと遠慮がちな水音を立てた誰かが、航の顔を覗き込んだ。
「、――」
すぐには拭い去れない恐怖に、航の思考は言葉を択び出せず。けれども閊えた喉が零した短い息に、手元に戻らせた風の精霊――アウラを抱きしめた椛は、安堵を誘うように微笑む。
大丈夫だよ、とは言えない。
それほどにこの場所には剥き出しの敵意と絶望が溢れている。
しかし椛は怖れを感じない。代わりに胸に忍び入るのは、たとえようのない哀しさだ。
「この試験管の中で光溢れる夢を見ていたのね」
他の猟兵らと激突し始めた黒と赤のイキモノの在り様を、航と並ぶ位置に立って椛は具に見つめる。
彼ら――或いは彼女ら――は、どんな想いで透明な壁の向こうを眺めていたのだろう。
求めて伸ばした手は、何にも届かず、何にも成らず。ただ眩しさだけが、心に灼きつく。
「……胸が、張り裂けそう」
ぽつり、と椛が吐露した痛みに、航の裡で何かが目覚める。
恐怖が同情へ変わり、同時に自身の未来が拓けた。
「――でも。死ぬわけには……可能性を奪われるわけにはいきません」
航が、顔を上げる。
「僕の可能性は、僕だけのものじゃない」
生き別れた片割れの為にもと、打ち克つ力が湧き立つ。
負けてはいけない。
飲まれてはいけない。
「そうね」
同じ年頃の、少年に見えて声は自分と同じ少女の航が背筋を伸ばすのに、椛も迷いを捨て去る。
然して二人の少女は、生温い水底を走り出す。
「あなた達のことあちこち探したよ」
心をざわつかせる憎悪を裡なる光で封じ込み、椛は己を喰らわんとする黒と赤のイキモノへ両手を広げた。
「私達を呼んだでしょう? 私達はその想いに導かれたの」
――こうして出会える可能性を、あなた達がくれた。
「可能性?」
「私タチガ?」
「ソンナ、ソンナ――デモ、ソレジャ意味ガ」
「うん、あなた達にとっては意味がないかもしれない」
可能性を寄越せという命の残滓へ、椛は異なる角度からの可能性を示し。だがそれが、持ち得なかったモノたちが欲したものではないのも肯定し。
「私には救う事は出来ない――でも、今ここで哀しみを終わらせる事は、出来る」
もう、悲しまないで? 嘆かないで?
願って祈り、四季の花々へ呼びかける。
中でも最もこの場へ招きたいのは、秋の彩。
季節はずれなのは百も承知。それでも、一番自分が大好きな花たちで。
「アウラ、お願い――」
椛の腕の中。何もなかった筈のそこで、撫子、桔梗、秋桜が咲き誇り。アウラの飛翔に誘われ飛んで、黒と赤だけのイキモノを鮮やかに飾り上げる。
「アア?」
「ンア?」
初めての彩に、オブリビオンが首を傾げた。どことなく喜んでいるようにも見える仕草を、椛は脳裏に刻む。
これは手向けの花だ。
見送る為の花だ。
骸の海へ還す為の花だ。
「あなた達が忘れても、私は憶えてるからね」
――おやすみなさい。
当たり前の未来を信じ、楽しく笑い合えることの幸福を椛は噛み締め。憐れな魂が最期に風と戯れるのを静かに見守った。
(「これは戦うためのものじゃない……けど」)
今は緊急事態だから、と航はタブレットを起動させ、明るい画面にペンを走らせる。
足の硬直は解け、手も描ける程には自由が効く。それでも一切の恐怖が拭えたわけでは――ない。
だからなるべく戦禍の輪から遠い位置。全てを俯瞰できるポジションを確保して、航は迫り来るオブリビオンへペン先を向けた。
「まだだ、傑作じゃない」
途端、タブレットから海魔が迸る。
傑作ではないと航が評するそれは、されど命を持つよう。昏い世界を躍動すると、怨嗟の塊へ爪を立てた。
引き裂かれた命の残滓が、赤黒い血肉を撒き散らす。
「……作家が肉体労働できるわけないじゃないですか」
慣れないし、慣れたくもない光景を前に抑揚なく零しながらも、航は目線だけは逸らさない。
そうして消え逝く命の色を、電子媒体へではなく己の記憶領域へと記憶する。
此処には、色が足りない。
赤と黒だけでは、航の世界は表せない。
「君たちには同情するけど、さよならだ」
別離の言葉に、海魔がオブリビオンの命を飲み干す。
その一部始終を、航は水底から見上げた海面のような色の瞳で見つめ続ける。
せめて、彼ら彼女らの色を忘れないように。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラッカ・ラーク
キララ/f14752と
悪ィな。お前さんらに渡せるモンじゃねえんだ、コレは。自分の胸元を叩いて言おう。
足引っ張りあってもしょうがねえ。自分らが終わったと分かってんなら、諦めな。
キララの様子をみて声かけるよ。
ダメなんてこたねえよ。キララは"キララ"として、色んな可能性から今を選んでる。
キララはダメだって言われたら生きるのやめちまうのか?
アレらは過去だ。現在にケチつける権利なんかねえよ。
おし。んじゃ行こうぜ!
ほらオレはココだぜ?
『挑発』して『おびき寄せ』て『空中戦』を仕掛ける。『野生の勘』『見切り』で攻撃を避けつつ『踏みつけ』『2回攻撃』。
それと【ガチキマイラ】。
喰ったぶんは、覚えててやるよ。
キララ・キララ
ラッカ/f15266と
きららは、たのしい可能性をえらんじゃだめだったの?
今しあわせでいるのは間違いなの?
いきてるのは、だめなこと?
…やだ。やめたくない。
過去の、昔のことが、いまのきららに、だめ!って言ってるの?
…。そうよね。そんなのヘン!
きらら、昔のラッカのことは、ぜんぜんしらない。でもね、
たくさんの「もしも」を越えて。
たくさんの「だめかもしれない」を駆け抜けて―こうしておんなじ世界に到着したラッカのことは、知ってるよ!
《アート》《ライドオンレインボー》!
描くのは青空!いつもふたりで走る場所!
ごめんね。きらら達は、あなたたちと同じにはなれません。
そんなエンディング、ここで塗りつぶしちゃうから!
●青空を君たちへ
――ここにいろ。
キララへ短く言い置き、ラッカは生温い水に浸された床を蹴った。
額に備えたゴーグルを片手で引き下ろし、視界を覆う。持ち運び可能な電脳世界の入り口でもあるそれは、超高速演算でラッカに『敵』の情報を齎す。
すぐさま対処しなければいけない範囲内にいるのは三体。うち二体は、既にラッカを射程内に収めている。
「ズルイ」
同じモノであった筈なのに、違うモノとして生きるラッカの可能性を喰らおうと、手になりそこなったような器官が伸びてきた。
それをヒバリの翼で羽搏き躱したラッカは、足先に仕込んだダガーで切り落とし。そのままひらりと宙返り。サマーソルトキックの要領で、もう一体を巻き込む方向へと蹴り飛ばした。
ばしゃりと派手に水音が上がる。
当然、気付いたオブリビオンはラッカへ群がろうと蠢き始めた。
――ズルイ。
――ズルイ。
――ナゼ、ドウシテ。
――オ前ダケ、ソチラ側ニ。
輪唱のように羨望と怨嗟がラッカへ押し寄せる。しかし器用にバックステップを踏みながら、ラッカは自信ありげに自分の胸元を叩いた。
「悪ィな。お前さんらに渡せるモンじゃねえんだ、コレは」
そこは可能性の炉心。ひけらかし、茶化し、煽って――命として成立したラッカは、なりそこなったモノらへ現実をつきつける。
「足引っ張りあってもしょうがねえ。自分らが終わったと分かってんなら、諦めな」
ラッカが戦っている。
黒と赤い生き物擬きに囲まれて、時に端々を食われながらも、怯まず、諦めず、勇ましく。
だが、ぽつんと佇むキララにそれを『正しく』見守る余裕はない。
「きらら、まちがったの?」
ぐるりぐるり。視界が回る。青い世界で広げた夢は今もキララの胸の裡に。一緒に遊べるだろうか? UDCアースで初めての友達が出来るだろうか?
そんな可能性をあざ笑うかの如く、現実は昏く暗い黒と赤。
「きららは、たのしい可能性をえらんじゃだめだったの?」
「今しあわせでいるのは間違いなの?」
「いきてるのは、だめなこと?」
幼い思考を、否定ばかりが塗りつぶす。
目の前が真っ暗だった。何一つ、色が浮かばない――本当に?
「……やだ」
一切の光が届かない深い深い海の底へ引き摺られかけた少女の脳裏に、何かが煌めいた。
「やめたくない」
混乱する理性とは裏腹に、キララの唇は――心は希望を、可能性を模索する。
「過去の、昔のことがいまのきららに、だめ! って言ってるの?」
「ああ? キララはダメだって言われたら、生きるのやめちまうのか?」
――あ。
「ラッカ!」
気付けば、傍らにラッカが戻っていた。
「ダメなんてこたねえよ。キララは“キララ”として色んな可能性から『今』を選んでる」
あちこち怪我をしてはいるが、ゴーグルはいつも通りに額の上。今を好き勝手に生きるラッカは、尻尾についた肉片をキララに気付かれぬようそっと払い、アイロニカルに笑う。
「アレらは過去だ。現在にケチつける権利なんかねえよ」
「……! そうだよね! そうよね! うん、そんなのヘン!!」
一瞬前まで深みに囚われていた少女の魂が、輝く海面まで一気に浮上する。
「きらら、昔のラッカのことは、ぜんぜんしらない。でもね」
光に、色が目覚めた。
「たくさんの『もしも』を越えて、たくさんの『だめかもしれない』を駆け抜けて――こうしておんなじ世界に到着したラッカのことは、知ってるよ!」
難しい理屈ではなく、子供らしい身近な人に発想を置き換えて、キララは『過去』が伸ばす怨嗟の手から逃れきり、可能性に満ちた未来へ踏み出す。
「その意気だ。んじゃ、行くか?」
「もちろん!」
「おし!」
自分を見上げてくる貌が明るさを取り戻しているのを見止めたラッカは、キララの背中をポンと軽く叩くとオブリビオンの密集地帯へ飛び込んで征く。
「ほら、来いよ? オレはココだぜ?」
喰らいたいんだろう? と腕を一本差し出して挑発すると、すぐに輪郭の溶けた腕が伸びてくる。
天から降ろされた細い細い蜘蛛の糸へ我先にと詰め寄るが如きそれらを、ラッカはひらりと躱す。
「行け、キララ」
「まかせて――《アート》《ライドオンレインボー》!」
ラッカが作った隙を目掛け、キララは両手のカラースプレーを全開で噴き出させる。
選んだ色は、青。
そうして広く、広く、広く青空を描く。そこはいつもラッカと二人で走る場所!
「ごめんね。きらら達は、あなたたたちと同じにはなれません」
ぺこりと頭を下げて、また次へ。跳ねるように、踊るように、キララは昏く淀んだ世界を青へと変える。
「そんなエンディング、ここで塗りつぶしちゃうから!」
――アア。
――アア。
――青ダ。
――空ダ。
根底を塗り替えられた成り損ねたモノたちが、泡のような断末魔を残して消えて逝く。
果たして彼らは焦がれるばかりの夢から目覚めたのだろうか?
骸の海へと戻るのだろうか?
そこから芽吹く何かはあるのだろうか?
真の結末は、猟兵たちではあずかり知らぬ領域。
ならば、と。
「喰らったぶんは、覚えててやるよ」
獅子の顎へ転じた腕に残る、命を喰らった余韻に――可能性の胎動に、ラッカは心を重ねた。
どれだけの時間、その世界にいたかの感覚は曖昧だった。
されどキララのスプレーが底抜けの青空を描き終える頃、猟兵たちは元の静かな青い現実へと戻っていた。
もしかして夢だったのだろうか――とは、誰も思わない。
体に残る戦いの疲労が、黒と赤いイキモノ達の実在を明確に知らしめているから。同時に、黒くて赤いモノが、この地で二度と手招かないことも猟兵たちは悟る。
ぱしゃり、と。
涼やかな水音が実験器具だらけの水族館に響く。
可能性に満ちた笑い声を妬み羨み、夢見るモノは此処にはもういない。
時に、絶望がある。
しかし、足を止めぬ限り可能性は無限大。
今を生きる者の道行きを遮る壁は、どこにもない。
もしもそれがあったとしても、打ち破ってしまえばいいだけのこと。
じっと夢見るだけでは、もったいない。
触れて、感じて、と。数多の世界が猟兵たちを待っているのだから――。
大成功
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