背中合わせの挿話~地風に託す想い
●託
――かの人は、儚く美しく、気高く強い方だ。
いつであろうと前を見る瞳は、幾度も磨き、精緻な細工を施した宝石のよう。いや、それ以上だ。
決して折れず、揺るがず、曇らぬ人。私はそんなあなたに、恋をした。無骨な私の手では、触れることさえ出来ないと知りながら。
しかし、想いを託すくらいは許されるだろうか?
翼よ、舟よ。私の心を運んでおくれ。
私は未来永劫、かの人の元へ風吹くこの地の守りとなる――。
●『トラヴィント』
未だ所在掴めぬ「群竜大陸」は、帝竜ヴァルギリオスと共に蘇ったという。
もしも帝竜ヴァルギリオスがオブリビオン・フォーミュラならば、猟兵たちにとって群竜大陸の発見は重要な任務となる――が。
「あのねあのね、お山のなかに街があるの」
かつて群竜大陸に渡ったという「勇者の一行」の痕跡を探すうちに出逢った『素敵』にウトラ・ブルーメトレネ(花迷竜・f14228)は目を輝かせ、赤い竜翼をぱたぱたと羽搏かせる。
お山の街こと、岩山を貫く川が形成した洞窟を礎としたその街の名はトラヴィント。このトラヴィントに一人のドワーフの勇者の物語が伝わるらしい。
しかしウトラの興味はすっかり街そのものに奪われている。
「水のめいろみたいな街なの。おひさまはとどかないけど、きれいなランプがいっぱい!」
迷路のように複雑に洞窟が入り組む街は、流れる水と見事に共存を果たした。移動手段が、小型のゴンドラなのだ。それを照らすのは、本物の鉱石を用いて造ったランプ。
「あとね、お祭もやってるよ」
風が洞窟内にも春を連れてくる頃、催される祭では小型の鉱石ランプを真ん中に据えた木彫りの小舟を作り、水路へ流す。祭の期間中は全ての水門が開けられるので、ゴンドラで街の隅々まで行けるのも楽しみの一つ。
「つくるお舟には、かならず翼をつけるんだって。かわいいよね」
行ってみたい?
皆を案内したくてたまらないウトラは、既にうずうず。
だってとっても素敵な街とお祭なのだ。
「お祭はみんなに『ゆうしゃ様のこいぶみ』っていわれてたよ。こいぶみって、らぶれたー?」
どうしてそんな名前になったか知らぬウトラはことりと首を傾げ、やっぱりかわいい、と竜尾をふるふる揺らす。
『勇者』を冠する祭りだ。由来を紐解けば、勇者の伝説にまつわる話を聞くことが出来るかもしれない。或いは、街に残された勇者の足跡に出逢うこともあるかもしれない。
「お舟をつくる人はけがしないよう気をつけてね。いろんな石がたくさんあるから、きっととびきりステキなのができるよ。ちょこっとだけ水にうかべたら、もちかえってもいいんだって」
勿論、ただ祭を、街を楽しむのだって良いだろう。そうすれば自然と勇者の気持ちになれるかもしれないから。
――物語の頁は、トラヴィントの街で君に捲られるのを待っている。
七凪臣
お世話になります、七凪です。
今回は『勇者』にまつわるお仕事をお届けします。
●ご案内
当シナリオは五月町MS運営の『背中合わせの挿話~七彩に鎖す誓い』と物語がリンクしております。
展開は個々に進んでいきますが、両シナリオに同時参加されますと(特に二章以降)PCさんが二重存在することになりますので、どちらかを選んでのご参加を推奨しております。
シナリオ運営中、五月町MSと重複参加の確認や、シナリオ間連携プレイングの相互確認等は行いません。
2シナリオ間で連携プレイングをかけられても、リプレイへの反映は致しません。
●シナリオ傾向
わくわく、人によってはしっとり冒険系。
シナリオ展開に関係しそうな心情をお預け頂くのも大歓迎。
●シナリオの流れ
【第1章】日常。
トラヴィントの街のお祭りや探検をお楽しみ下さい!
ゴンドラランプを作りたい方は、舟や翼の形、使う鉱石の色など指定が可能です。
勇者にまつわる伝承の情報収集は行わなくても大丈夫です。
日常章ですが、お声がけ頂いてもウトラは登場しません。
【第2章】冒険。章開始時に導入部を公開致します。
【第3章】集団戦。章開始時に導入部を公開致します。
●複数名でご参加頂く場合
迷子防止の為に「名前+ID」の指定と、できるだけ近い時間帯でのプレイング送信をお願いします。
グループ参加の場合はグループ名でOKですが、グループ人数は三名以下を推奨です。
●その他
第一章のプレイングは『3/24(日)8:30』から受け付け開始させて頂きたく思います。
以降のシナリオ進行状況、プレイングの受付締切等の連絡は『マスターページ』にて随時行います。
ご確認の上、プレイングをお送り頂けますと幸いです。
『勇者』の物語であり、『恋』の物語でもあります。
皆様のご参加、心よりお待ちしております。
宜しくお願い申し上げます。
第1章 日常
『ゴンドラに揺られて』
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POW : ゴンドラを漕いでみる。
SPD : ゴンドラに乗ってみる。
WIZ : 街の観光や景色を楽しむ。
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グァーネッツォ・リトゥルスムィス
ドワーフの勇者で恋をしていたって!?
これは同じドワーフとして、故郷であるA&Wを愛する者として、
探求せずにはいられないぜ!
ゴンドラランプ作りではオレに似た黄色の鉱石で、
どんな暗礁でもビクともしない様な頑丈な形の舟や翼の形にしていくぜ
「何千回でも、何十年でも使える思い出の品にしていきたいぜ!」
ランプを作りながら、あるいは作り終わって町を練り歩いてる途中で町の住人達に
・勇者は恋文のランプをどこに届けようとしたのか
・恋の告白だとどうやって相手に伝えようとしたのか(恋の告白以外の内容と誤解されない様に)
この2点を尋ねてみるぜ
「昔話であっても、ハッピーエンドでめでたく結ばれてほしいものだぜ」
シャルロット・リシュフォー
はわわ、素敵な雰囲気の街ですね!
鉱石の恵みをふんだんに利用しているのも個人的には落ち着くです。です。
せっかくのお祭りなのですから、私もゴンドラランプを作ってみたいですね!
木彫りは初挑戦ですけど、街の人に教えてもらってなんとかやってみるです!
鳥のような翼をつけて、鉱石は……オレンジ色のものが良いですね!
灯りに照らされて揺らめくと、本物の炎みたいで綺麗なんですぅ!
「他のゴンドラランプも、みんな素敵な仕上がりですのね!」
木彫りを教えてもらう時に、雑談をしながら祭りの由来について教えて貰うです
「勇者様の恋文って、とてもロマンチックな名前のお祭りですの。なにか由来があるです?」
●
日の光が届く入り口は既に遥か彼方。ただの洞窟なら、閉塞感に息苦しさを覚え始めるところだろうが、『トラヴィント』はその真逆。
進めば進むほど空間は広くなり、壁のあちこちに住居の扉や窓がまぁるく口を開けている。その一つ一つを、赤や緑、紫、黄といった色だけでなく形も様々な鉱石ランプが飾っていた。
星々の耀きを散りばめたような地底の町の彩は、さながらフェアリーの翅色のよう。
そんな乙女心を疼かせるトラヴィントで、グァーネッツォ・リトゥルスムィス(超極の肉弾戦竜・f05124)は使命感に燃えていた。
――ドワーフの勇者で恋をしていたって!?
同じドワーフとして、アックス&ウィザーズを故郷に持つものとして。この謎に挑まずにおれようか。
意欲に溢れる瞳は金色。そしてグァーネッツォの手元にあるのも、グァーネッツォの存在感を写し取ったかの如き力強い黄色の鉱石。
「ねーちゃん、なかなか趣味がいいな」
「そうだろ?」
「ああ、舟は頑丈なのが一番だ」
「じーさん、話が分かるじゃないか! 何千回でも、何十年でも使える思い出の品にしていきたいぜ!」
彫刻刀を豪快に操り、どんな暗礁でもびくともしない頑丈で厳つい舟を彫り上げるグァーネッツォは、指南役のドワーフの老人とすっかり意気投合。翼の形は鷲がいいだろうか、いやワイバーンだ等とで大盛り上がり。
対して、近くの作業机を確保したシャルロット・リシュフォー(歌声アステリズム・f00609)は静かに――しかし好奇心旺盛に木片と語り合う。
クリスタリアンなシャルロットにとって、鉱石の恵みをふんだんに活用しているこの町は居心地がすこぶる良い。あと、町の雰囲気そのものにも心惹かれる。
「鳥のような翼をつけたいと思うんです」
「ステキね。それならこっちの木で細めの舟を彫って、この枝をこうして……」
「なるほどなのです!」
年のころは少し上だと思われる女細工師の手解きを受けて、シャルロットも丁寧に初めての木彫りに挑戦。
「で、どんな鉱石を使う?」
「そうですね……オレンジ色のものが良いですね!」
水に浮かべたら、揺らめく光はきっと本物の炎のようだろう。夢見るオレンジ色の眼差しに、そういうことなら、と指南役は鉱石の山を漁りに走る。
祭というだけあって、町は賑わい、臨時の木工所は大盛況。多くの人が訪れ、思い思いの舟を造り上げては「勇者様の片思いに」と唱えて去っていく。
「勇者様の恋文って、とてもロマンチックな名前のお祭りですの。なにか由来があるです?」
だからシャルロットは尋ねてみた。
するとあちこちから、嬉しそうな声が。
「意気地なしの勇者様が昔いたんだって話だよ」
「そうそう。好きなのに、好きっていえなかったってやつだっけ」
「だからこうしてあたし達が勇者様の代わりに、ね?」
――散々な言われような気がしないでないが、語る町の人の顔には親しみと敬愛が滲んでいる。
(「勇者様は自分で届けられなかったってことか?」)
どうにももどかしい話らしい、とグァーネッツォは無骨な岩の天井を見上げた。
願わくば、昔話であってもハッピーエンドでめでたく結ばれていてほしいものである。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
フィリア・セイアッド
水の迷路ですって とっても素敵
それに ランプを掲げて巡るなんて面白そう
瞳を輝かせて周りを見渡す
折角だからランプを作ってみたい
街の人と話をしながらランプ作り
丸い鳥籠のような形に 花や葉、星の透かし彫り
青や緑の石を嵌める
妖精の羽のような薄い羽をつけて
「勇者様の恋文」…なんだかロマンチック
何か勇者様のお話はないんですか?
わくわくとした目を街のひとへ向け
歌とか昔話があれば教えてもらう
「SPD」を選択
作ったランプを飾り ゴンドラに乗る
輝く水面や街の様子に歓声
ふふ 水の妖精になった気分
行き交う人へ満面の笑みで手を振って
こんな素敵なお祭りの由来になった勇者様を想う
どんな人だったのかしら?
海月・びいどろ
おひさまが届かないなら
ランプの明かりが、よく映えるね
水面に煌いて、きっと、まばゆい
…鉱石って、たくさんあるもの
どの子を連れて行こうかな
青や白、…春なら桜色?
どれも、きれいだけれど…
ひかりを通す、透明にしよう
翼は白い、海鳥の
上手に作れるか分からないから
データの中にある、一般的な形を作るよ
揺らぐ船に水を掻く音、風の匂いを吸い込んで
洞窟の街、水の迷路をゆっくりと辿ってゆく
かつての勇者が見たかもしれない
いつかの光景を、時間の中に描いて
行き着く先で、このお祭りを知るヒトがいれば
由来とか、お勧めの場所、訊いてみようかな
海月の子も、いっしょに行くよ
吹き抜けていく風の向こう
届けたい想いは、どんなもの?
●
まぁ、と。
感動に広げかけた背の天使翼をフィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)はふわりと畳み、代わりに穏やかな表情に笑みの花を咲かせた。
町のそこかしこが、虹色に輝いている。
地底の筈なのに、夜空にでも迷い込んだ気分だ。
水路には、温かい想いを運ぶ小舟たちが浮いている。その一つ一つに魅せられては、心をときめかせ。せっかくだから、とフィリアも小さなゴンドラランプを作ってみることにする。
舟の形は、まぁるい鳥籠に似せたもの。
花や葉、星を象る透かし彫りは少し難しく。手こずるうちに現れたのは、気の良い町の女性職人。
「やっぱり女の子は可愛いものが好きよねぇ」
にこにこ微笑まれながら彼女の教えと手を借りて、完成したのは青や緑の鉱石ランプを抱く空の小舟。生やした翼は、硝子の薄い翅。
「じゃあ、祭を楽しんでちょうだいね」
「ありがとうございます」
送り出す言葉にきちんとお礼を告げて、乗り込むゴンドラの舳先へ出来たてのランプを吊るしてもらい、フィリアは水の迷路をゆらゆら進む。
時折、ゴンドラ同士がすれ違う。
「勇者様の片思いに」
「勇者様の片思いに」
その度に交わされる挨拶の言葉が可愛らしくて、フィリアも青と緑、左右で色の異なる目を細めては手を振り返し、同じセリフを唇に乗せてみる。
――勇者様の恋文。
響きだけでもロマンチックなお祭なのに。こんな挨拶まであるなんて。この町に伝わる勇者様とはどんな人だったのだろう?
「何か逸話とかあるのですか?」
想いを寄せ、春の陽だまりのように物静かなゴンドリエに尋ねると、いたずらっ子のような笑顔が「しずかに」の合図を指で示す。
りっぱなりっぱな勇者様。
おつよいおつよい勇者様。
けれど彼は恋を語る言葉を知らない。
想いは宝石のようにきらめいているのに。
差し出す勇気はお持ちでない。
かわいらしい勇者様。
りっぱでおつよい、けれどかわいらしい勇者様。
「りっぱで、おつよい。けど、かわいい、なの?」
いつも周囲に漂わせる電子の海月の子らへ、海月・びいどろ(ほしづくよ・f11200)は「んん?」と眉間を寄せて問いを投げかけた。
聞こえてきた歌は、勇者様のことを讃えたもの――な、はずなのに。わらべ歌にも似る調べは、幼い子供を寝かしつける時にもよさそうな響き。
「勇者様は、小さい子? あぁ、でも。りっぱでおつよい……」
考えれば考える程、こんがらがってしまいそうで。一先ず平静を取り戻そうと、びいどろはゴンドラの上で目を閉じてそっと深呼吸。
するとオールが水を掻く音が聴覚を刺激し、仄かに甘さを含む風が嗅覚を擽ってゆく。
コレは、かつての勇者も聞き、嗅いだものだろうか?
胸に灯った『熱』の理由を、びいどろは知らないけれど。山積するデータから照らし合わせて導き出す答は、郷愁。
きっと勇者様はこの町のことが大好きだったのだ。そして町の皆も、同じくらい勇者様のことが大好きだったに違いない。
「勇者様」
青や白、春の桜色。たくさんの鉱石の中からびいどろが選んだのは、ひかりを通す無色透明。添えた翼は、白い海鳥。
みゃあみゃあ、今にも鳴きだしそうなゴンドラランプを舟の舳先に、びいどろはトラヴィンとの町を揺蕩う。
「届けたい想いは、どんなもの?」
お日様が届かない分、ランプの灯がよく映える水面は、まるで虹の道。
吹き抜けてゆく風の向こうは、まだ見えない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ヴァーリャ・スネシュコヴァ
綾華(f01194)と!
俺は雪みたいに、綺麗な石の粒を船に散りばめてみる
ランプ…確かに、こんなにたくさんあっては迷うな…
む!雪っぽくて綺麗な石があった!これにする!
ふわあ…!綾華のも凄いぞ!
とっても綺麗…ふふふ、ずっと見つめていられるな?
うむ…こんなに綺麗だから、持って帰らないと損だな!
そうだ!ゴンドラランプ、交換こしないか?
一緒にこの祭りを楽しんだ、ていう証だな
…綾華のが綺麗だから欲しいって、そういうわけじゃないぞ!(あわわ)
ゴンドラ、初めて乗ったけど気持ちいい!
き、キザだな綾華?(顔真っ赤)
でも…人を愛すって
当たり前のようでいてとても貴重なことだと思う
だから、勇者に愛された人は幸せ者だな?
浮世・綾華
ヴァーリャちゃん(一片氷心・f01757)と
翼は小さめ船には花模様の彫刻を
使う鉱石の色は迷う…が
俺は赤が好きだから選ぶのは緋色
ほんとだ、雪みたいで透きとおっててきれー
そのランプ、ヴァーリャちゃんらしくてすっごいかわい
いいネ。仲良しみたいで嬉しい
ふっ…いや分かってるよ、でも
俺はそれ、綺麗だから欲しいケド?
ありがとな、大切する
俺もハジメテ
景色も綺麗だし贅沢だな
そいやこの祭『勇者様の恋文』って言われてんだっけ
予知の話からすれば宝石のランプたちを指して
『君の瞳はこの景色よりも美しい』
なんて言ってみせたりしたんかネ
真っ赤な顔にはあははと笑み可愛い、と
うん、そーかも
――幸せだったらいーよな
●
「あ、あっ。綾華のが綺麗だから欲しいって、そういうわけじゃないぞ!」
ゴンドラランプの交換を言い出したヴァーリャ・スネシュコヴァ(一片氷心・f01757)があわあわと慌てふためく様に、浮世・綾華(❂美しき晴天❂・f01194)はくくと喉を鳴らして片頬を上げる。
「俺はそれ、綺麗だから欲しいケド?」
一緒にこの祭を楽しんだ証だと、ヴァーリャは最初に言った。
そこに他意がないのは、綾華もよく知るところ。
――そのランプ、ヴァーリャちゃんらしくてすっごいかわい。
綺麗な石の粒たちを散りばめたヴァーリャの小舟が抱くランプは、雪の六花を彷彿させる澄んだ美しい鉱石に彩られている。
これが実物大のゴンドラならば、雪原を駆けてもおかしくない。そしてその傍らを、スケート靴を履いたヴァーリャが颯爽と滑るのだ。
「そっか。それならよかった。いや、綾華のも凄いからな!」
誤解されなかったのに安堵したのか、ヴァーリャは顔を弛めて八重歯を覗かす。その手へ綾華は自身が作り上げたゴンドラランプを託す。
翼はひな鳥のように小さく、全面に注意深く花模様を刻んだ舟へは、赤を好む綾華らしい緋色の鉱石ランプを据えたもの。
「うん、やっぱり綺麗……ふふふ、ずっと見つめていられるな?」
言葉尻は疑問を呈すのに、ヴァーリャの行動は既に確定。もらったばかりのゴンドラランプを視線の高さへ掲げ、右から左から、上から下から見惚れるのに余念がない。余念がなさすぎて、自分のランプを渡すのを忘れかけて、またあわわわ。
「交換成立だな!」
「仲良しみたいで嬉しいよ。ありがとな、大切にする」
しかし持ち帰る前に、少し水路へ浮かべなければ。良い場所はないかと町の人へ尋ねれば、風の泉がいいよと勧められた。
風の泉とやらは、町の中央。案内するよと乗せてもらったゴンドラは、ヴァーリャも綾華も『ハジメマシテ』の乗り心地。
日の光は一切届かないけれど、灯る無数の鉱石ランプが地底の川を天の河へと変えるようで。綾華も余裕を失わず、水上をゆくのを愉しめる。だから――、
「そういやこの祭『勇者様の恋文』って言われてんだっけ」
不意の呟きは、戯れの始まり。
「なら、勇者様は」
予知の話を思い出し、向かい合って座るヴァーリャとのちょうど真ん中。二つのゴンドラランプを指差し、僅かに前のめり。
「『君の瞳はこの景色よりも美しい』――なんて言ってみせたりしたんかネ」
「……!! き、キザだな綾華?」
上目遣いの視線に添えられた男の口説き文句に、少女の頬がぽぽぽと一気に茹で上がる。
「あはは、ヴァーリャちゃん可愛い」
再び身を起した綾華は、既にからりと笑い顔。おかげで唇を尖らせかけたヴァーリャも、跳ねかけた肩をすっと降ろし――ぽつり、呟いた。
「でも……人を愛すって。当たり前のようでいて、とても貴重なことだと思う」
果たしてこの地の勇者が誰を愛したのかは知らないけれど。でも、それでも。ヴァーリャは稀有なる愛を胸に思い描き、心を温める。
「だから、勇者に愛された人は幸せ者だな?」
それはきっと、天真爛漫な少女らからこそ至れる答え。
されど否定する必要などない『願い』に、綾華も目元を和らげる。
「うん、そーかも」
――幸せだったらいーよな。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ロー・オーヴェル
何ともロマンチックな祭りの名だが
こいぶみ……恋ねぇ
「勇者という言葉と同じか……もしくはそれ以上に俺には縁遠い言葉だな」
●観光
俺は町の観光としゃれこむか
そして勇者伝説の一端でも聞き込むとする
人の集まる酒場や
観光客向けの店で話を聞く
いい煙草入れがあれば買うかも
街に来たのも初めてだから
勇者の事もよく知らないというスタンスを崩さず
居合わせた人に軽く奢ったり
店員を嫌味にならない程度に褒め倒したり
コミュ力・情報収集・言いくるめと活用可能な物は活用
あと素朴な疑問として「なぜランプに翼をつけるんだ?」
これは聞く
にしても翼付きのゴンドラランプか
もしこれが水を走るのではなく空を飛べば
遠目から見たらまるで妖精かもな
クロト・ラトキエ
恋とはどんなものかしら
――なんてのもあるそうですが。
恋物語というのは得てして愛され伝えられるもの。
ならば、例えば祭に繰り出す商人、例えば水路を渡る漕ぎ手…
街を歩き彩を見て人と語り、彼らの中に息衝く恋文の話に触れたなら。
伝わる勇者の有り様や…名など、触れることも出来るでしょうか?
どんな形であれ、幸せな終わりであれば良い。
…というか僕、ハッピーエンド至上主義なんで!
水は彼方へと流れ行き、
風は何処へも上り行く。
生まれた場所は違えども…互いが互いに届かないない、なんて決して誰にも言い切れない。
等と浪漫っぽいのはそこそこに?
さぁて、折角の祭。
まずは転送を頑張っていたあの子へ、過日の礼でも探しに行きますか
●
ドーム状に繰り抜かれた天井は、岩や土がそのままの顔を見せてる。
――うちは素朴なことが売りなんでね!
そう店主は笑っていたが、そこかしこに掲げられた鉱石ランプに施された彫り模様は精緻で洒脱。木目が美しい板床に落とす影の一つにまでこだわったかのような造りに、ロー・オーヴェル(スモーキークォーツ・f04638)は「へぇ」と感嘆を口にした。
目の前に鎮座するブイヤベースに似た料理が盛られた大皿も、縁には肉合い彫りの魚が泳いでいる。
味の方も、文句なし。最初にガツンとニンニクの風味が来て、後から魚介の旨味が追いかけてくるスープは、香草でも使っているのだろう。最後は独特の苦みと爽やかな香りが鼻から抜けていく。
「これ、美味いな」
「気に入って貰えて良かったよ。うち特製のヒカリゴケ入りスープさ」
「ヒカリゴケ?」
「あぁ、町の外れにある竜穴に生えてるんだよ。乾燥させたやつを使った煙草とかもあるから、興味があるなら後で店を巡ってみればいい」
煙草、と聞いてローの目が輝く。成程、地底の町らしい特産品だ。きっと似合いのシガレットケースも売っているだろう。
そこで、もう一口。今度は虹色の鱗をもった魚に齧り付くと、すぐ近くのテーブルから声が飛ぶ。
「おや、こんなところに横顔が。これはもしかして『勇者様』ですか?」
此方はワイバーン肉のステーキを平らげたクロト・ラトキエ(TTX・f00472)。添えられたパンに肉汁を吸わせて食し終えた男が、空になった皿を指差し問えば、少しばかり腹の出たドワーフ店主がカウンター内でニカリと笑う。
「ご明察。それが我が町トラヴィンの勇者様だ」
――勇者様。
町を行き交う人々へ、ローもクロトもそれとなく訊ねてみたが。一人として勇者様の『名前』を口にするものはいない。おそらく、長い年月を経て名前は風化し、『勇者様』という尊称だけが残ったのだろう。
それはかの勇者様が、町の人に愛され続けているという証に他ならず。
「恋とはどんなものかしら――なんてのもあるそうですが」
髭を蓄えた厳つい横顔にクロトが悪戯めかして言うと、店主ががははと豪快に腹を揺らす。
「そこまで初心なお人じゃないさ。ただちぃとばかし一途過ぎたんだ」
「たんに意気地が足らなかったんだよ、きっとね!」
割り込んだのは、他のテーブルで食事していた町の女だ。
「片思いをずーっと抱えたまんま逝っちまったってんで、代わりに町を総出で勇者様の恋文を風に託しているのさ」
「だからランプに翼をつけるのか?」
ローが重ねると、新たな水を挿しに来た給仕の娘が頬を赤らめ「えぇ」と笑む。
「鉱石ランプは勇者様の想い。それを風に乗せる為に舟に翼をつけるんですって。ロマンチックでしょう?」
確かにそれはロマンチックだ。勇者という言葉と同じか、もしくはそれ以上に『恋』という言葉に縁遠いローにしてみれば、背中がむず痒くなってしまいそうではあるが。
だが、翼付きのゴンドラランプは間違いなく美しい。
「これが空を飛べば、遠目から見たらまるで妖精かもな」
「まぁ、素敵!」
「勇者様の想い人って、フェアリー族だったのかも!」
ローの喩えに、そこかしこから女たちの黄色い歓声があがった。
「勇者様も告白してみればよかったのに」
「ねぇ? そしたらハッピーエンドだったかもしれなわ」
恋の話題は大好物の女たちの囀りに、クロトは席をたちながら「いえいえ」と異論を翳す。
「水は彼方へと流れ行き、風は何処へも上り行く。届かなかった、なんて決して誰にも言い切れないのではないでしょうか?」
それはハッピーエンド主義者の、希望的観測だ。けれど町の住人もそうであって欲しいと願っているに違いない。
だからこそ、名さえ忘れられた勇者の為の祭が、今日まで連綿と受け継がれている。
「ああ、夢があっていいですね」
ご馳走様でした、と勘定を済ませたクロトは、水路の町へ繰り出す。
折角の祭だ。他にも稀有なる出逢いはあるだろう。今頃せっせと勤めに精を出している少女へ贈る、過日の礼品がみつかると良いのだが。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
泉宮・瑠碧
日は届かなくとも、鉱石ランプの光が優しいな
水路の街並みも好きだ
木彫りなら僕も作る事自体は出来るが…
腕力、足りなくて…異常に時間が掛かるから
今回は見て回るに留めよう
ゴンドラに乗せて貰い
街の中を巡る中で船頭や街の人に訊いてみよう
祭りは勇者様の恋文と呼ぶらしいが…
あの木彫りの小舟が恋文なのだろうか
ドワーフは手先が器用だし鉱石の取り扱いも上手だろう
可愛い上に調和もあって、素晴らしいな
自身の恋に興味は無いが…
一途に誰かを想う気持ちは尊いと思う
…かつてと呼ばれる程に前の想いが
今も祭りとなって続いている位だからな
この街の勇者の恋文は
想う相手へとその心ごと今も届いているのだろう
…この街こそが恋文かもしれないが
ファルネーゼ・アトラス
まあ、『ゆうしゃ様のこいぶみ』
とても素敵な響きですね!
ふふ、伝説の勇者様も何方かに恋をされていたのでしょうか
ファルも乙女ですのでこういった話には興味津々です
エチカ、ファル達も参加していきませんか?
だ、大丈夫です!
調査の事だって忘れておりませんから
さあどんなお舟さんを作りましょうか
ふふ、翼の形はもう決めているんですよ?
エチカと同じ、白いふわふわの翼です!
ランプの鉱石には星の色をした物を使用
そういえば…ふと浮かんだ疑問なのですが
何故、小舟さんには翼が付いているのでしょう
勇者様に由来する何かなのでしょうか?
完成したら揺蕩う小舟に目を輝かせ見守ります
鉱石ランプが水路を流れ往く様子も大層美しい事でしょう
●
「ねぇ、エチカ。とても素敵な響きだと思いません?」
ファルネーゼ・アトラス(星謡・f06256)の問いに、しかしふわもこのドラゴン――星の聖獣エチカは、ファルネーゼの手元の方が気が気でないらしく、円らな瞳を彫刻刀を握るファルネーゼの手元へ注いだままじっと動かない。
「エチカ、そんなに心配してくれなくても大丈夫です。ほら、ちゃんと形になって来たでしょう?」
ね? とファルネーゼが小さく肩を竦めると、彼女が被るヴェールの裾が細波のように揺れて。その衣擦れにようやく星獣は顔をあげた。
勇者様の恋文だなんて、なんて素敵な響きでしょう。伝説の勇者様も何方かに恋をしていたのかしら? なんて思うと、年頃の娘の胸は自然と浮き立つもので。
祭専用の木工所で、ファルネーゼはゴンドラランプの作成に勤しむ。
七割ほど彫り進んだ小舟は、どことなく三日月を思わせる。そこへつける翼は、エチカと揃いのふわふわの白と最初から決めていた。
そしてランプの鉱石には、星の色。
と、そこで。
「何故、小舟さんには翼が付いているのでしょう?」
ふと思い至った疑問をファルネーゼが口にすると、聞きつけた指南役の職人が「ああ」と笑う。
「勇者様の片想いを風に乗せて運ぶためだよ」
「そうなのですね、素敵です!」
謎も、調査の事だって忘れていませんよとエチカへ念押しした約束も果たせて、ファルネーゼの表情が明るさを増す。
ゴンドラランプが完成した暁には、そっと水路へ揺蕩えてみよう。
鉱石ランプが照らす水路をゆく光の小舟は、きっと星の海を渡るようだから。
それほどに、日の届かない地底の町は温かな光に満ちている。
水路の街並みと調和のとれた風景は、泉宮・瑠碧(月白・f04280)の目にも好ましく映っていた。
「ところであの木彫りの小舟が恋文なのだろうか?」
木彫りなら作れないわけではないが、要する時間を考えた瑠碧はりゴンドラに揺られる方を優先し、幾層ものゴンドラランプと行き違う水面を指で撫でながらゴンドリエーレへ問いかける。
「そうだよ。ほら、小さな鉱石ランプが乗ってるだろう? あれが勇者様の片想いの心なんだよ」
客人を運ぶ事も多いのだろうゴンドリエーレは、器用にオールを繰りつつ笑顔で瑠碧の疑問へ応え。そう聞くと小さな光の温かさが増す心地に、瑠碧の表情も自然と和らぐ。
自身の恋には興味のない瑠碧ではあるが。一途に誰かを想う気持ちの尊さは、理解できる。
そしてそれを伝えていく町の人々が『勇者様』へ向ける敬愛も。
だって、既に『かつて』と称される遠い昔なのにも関わらず、勇者様の想いは祭となってこの町に根付き残っているのだ。
「自慢の勇者様なのだな」
「女たちは意気地がないとか笑うけどね。やっぱり可愛いじゃないですか、伝えられなかった想いをずっと抱えてる男なんて」
まるで我が事のように照れて髪を弄るゴンドリエーレに、「そうだな」と瑠碧も頷く。
『彼』の想いは、確かに生前は伝わらなかったかもしれない。
しかし今ならば。想う相手へ、その心ごと届いているのではないだろうか。
「……この町そのものが恋文なのかもしれないな」
そうでなければ、恋文たるゴンドラランプがこれほどまでに可愛らしく、町に調和したものであるはずがない。
恋を知らず、恋を望まぬ少女が、そう想う程に。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
清川・シャル
f08018
恋人のカイムと
ゴンドラのランプ!素敵~っ
張り切りますっ
鉱石は手に入る限りでいいのですけど…
ガーネット、ピンクサファイアとピンクトリマリン、ローズクォーツ…
赤からピンクのグラデーションにしたい
シュッとスマートなゴンドラに
鉱石の削りっぱなしを活かしたような尖った羽
恋にまつわるお話…
勇者様も恋をしたのかな?
どんな気持ちでしたか?
楽しい?幸せ?
それとも、苦しい?辛い?
両方かな?
シャルは、両方です
100%わかり合う事なんて無理
だけど、少しずつでいいから伝えようとは、頑張ってます
勇者様の気持ちも、伝わってると…いいな
…シャルの気持ちも
カイムと目が合ったら…なんでもなーいって笑いますね
カイム・クローバー
恋人のシャル(f01440)と行動。
勇者の恋文…ね。時代錯誤って訳でもねぇな、この世界じゃ。どーにもUDCに慣れ過ぎたか…あっちじゃ、携帯で終わりだからな。
【P】
シャルを乗せてゴンドラを漕ぐ。何処に向かえば良いのか分からないが、アテもなくふらついてみるのも悪くねぇ。勇者様の気持ちってモンになれるかもしれないらしいしよ。世界を救うなんざ、大それた事は言えねーが、猟兵やってりゃ、そういう日も来るかもな…。
とりあえず、世界よりは守らなきゃいけねぇ存在が居る(チラリとシャルに視線)
俺の発言で怒らせる事も多いんだが…想いは変わらない。
笑う彼女に俺も釣られて笑って、こんな風に共に居られりゃ良いな
●
勇者の恋文とは、またえらく古風なものだとカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)は思う。
UDCなら携帯電話一本で片が付く話――肝心の勇者様に、ぴぽぱとやる甲斐性があったか否かはさておいて――だ。かの世界に慣れた男にとって、どうにもまどろっこしいというか、時代錯誤感が否めない。
されどそれもこのアックス&ウィザーズならではなのだろう。それに恋人である清川・シャル(バイオレットフィズ・f01440)が「ゴンドラのランプ、素敵!」とはしゃぎ、張り切って作る様子を目にできたのだから、こういう文化もなかなかの良いものだ。
そのシャルはと言えば――。
「勇者様も恋をしたのかな?」
カイムが漕ぐゴンドラの舳先に据えた造りたてのゴンドラランプの灯を見つめながら、心をゆらゆら揺らしている。
「どんな気持ちでしたか? 楽しい? 幸せ?」
ガーネットや、ピンクサファイア。ピンクトルマリンにローズクォーツ。それらによく似た――或いは、同じ物かもしれない――鉱石たちが被いとなった光は、赤からピンクへと徐々に色合いを変えている。
さながら恋に戸惑う少女の心だろうか。スマートなシルエットの小舟に、削りっぱなしの鉱石の鋭角を活かした尖った羽とは真逆のようで、似合いでもあり、
「それとも、苦しい? 辛い? 両方かな? シャルは、両方です」
シャルの呟きが落とされる水面へ、複雑な光を投げかける。
「100%わかり合う事なんて、無理」
幼い胸に刻みつけられたばかりの恋情は、未だにシャルを大いに悩ませ、苦しませている。
伝わる勇者様も、こんな気持ちを抱えていたのだろうか?
ずっとずっと、伝えることなく秘めたまま。
「……シャルは、少しずつでもいいから。伝えようとは、頑張っています」
後方でオールを操るカイムの耳へも届かぬ呟きは、心の発露であり、祈り。
「勇者様の気持ちも、伝わってると……いいな」
シャルの気持ちもそうあればいいと、そこで少女はようやくカイムを振り返った。
「どうしたよ?」
「……なんでもなーい」
パチリと絡んだ青と紫の視線に、男は尋ね、少女は笑って、また前を向く。その背中をカイムは釣られ笑いで包み、胸中で願う。
こんな風にいつまでも共に居られれば良い、と。
何かと己の失言でシャルを怒らせることが多いけれど、彼女を掴まえたカイムの心に変わりはない。
勇者様、なんて語り継がれる大それたもののように、世界を救うなんて偉業が果たせるかは分かりはしないが。世界より守らねばならないたった一つが、カイムにはある。
「シャル」
「……なんですか?」
名を呼んで、もう一度振り向かせて。
「いや、呼んだだけ」
「なんですか、それ!」
少しだけ、むくれさせて。
カイムは当て所なくゴンドラを漕ぐ。
行きつく先は――幸福な恋の果てへと繋がっているのかもしれない。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ユーゴ・アッシュフィールド
【リリヤ(f10892)と】
ああ、すごいな。
これはなんとも珍しい街だ。
流石に、岩山の中に築かれた街は初めて見た。
リリヤとともに物珍しげに街を見回してしまう。
良い祭りだとは思うのだが……
『ゆうしゃのこいぶみ』が祭りの名なのか?
一体どういう経緯があって催される祭りなのか気になるな。
ランプ作りか、やりたいならやってみたらいい。
ん、俺も一緒にか。分かった。
アンケート?
好きな色か、そうだな緑色が好きだ。
綺麗な翠色、リリヤの瞳の色のような。
それで、リリヤが好きな色は何色なんだ?
俺はお前の好きな色の鉱石を使おうと思う。
後で作ったランプを交換でもするか?
はは、悪い悪い。
それじゃ、張り切って作るか。
リリヤ・ベル
ユーゴさま(f10891)と
ユーゴさま、ユーゴさま。
すごいです。ふしぎです。
空がふさがれているのに、きらきらしています。
物珍しげに街を見回し、奥へ行きたがってそわそわ。
こいぶみを、届けるお舟なのでしょうか。
わ。わ。ユーゴさま。
お舟のランプです。つくりたいです。つくりましょう。
あの、えと、……ええと。
あんけーと。あんけーとです。
ユーゴさまのおすきないろは、なにいろですか。
……もーっ。もーっ!
なんでユーゴさまは、先に仰ってしまうのです。
照れるやら先回りされてずるいやら。
ほっぺたをぷくぷくさせて、じいっと目を見つめ。
わたくしは、あおいろが。
きっとすてきにつくりますから、楽しみにしてくださいましね。
●
「そこのお父さん! 可愛らしい娘さんにおひとつどうだい?」
木彫り細工を商う店の女将の呼び込みに、リリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)は水路の脇を渡す木製の通路の上でくるりと反転。
「ちがいます。ユーゴさまはユーゴさまで――」
「いいよ、リリヤ」
しかしユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)にぽふりと頭を撫でられ、リリヤの顔は膨れっ面の一歩手前で笑顔に戻り、
「それにしても、すごいです。ふしぎです。空がふさがれているのに、きらきらしています」
背の高いユーゴなら台に乗って、うーんと手を伸ばしたら届きそうな天井のあちこちに飾られた鉱石ランプが放つ虹光に照らされ、瞳をきらきら輝かせる。
その隙に気の好い女将へ片手で別れを告げたユーゴは、今にも奥へ奥へ走り出しそうな幼い少女に歩みを並べて、「ああ」と得心を頷く。
四十近くを生きたユーゴを以てしても、岩山の中に築かれた町は初体験。
リリヤと一緒になって、つい物珍し気にそこかしこを見回してしまう。そこで目に留まったのが、特設木工所への案内を示す貼紙に記された文言。
「勇者の恋文、が祭の名なのか?」
ここへ送り出してくれた少女も言っていた言葉をユーゴは呟いて、はて、と斜め上を仰ぐ。
いったいどういう経緯があって催されることになった祭なのか。
「ああ、そうだよ! 勇者様が出せなかった恋文を、町のみんなが代わりに送ってるんだ」
気になる起源を教える声は、下方から。視線を移すと、恋人たちと思しき男女を運ぶゴンドリエーレがニカリと笑っていた。
「と、いうことは。ちいさなお舟は、こいぶみを届けるお舟なのでしょうか?」
「その通り! 賢い娘さんだな」
「ですから、ユーゴさまは――」
「リリヤ、お舟のランプを作ってみるか?」
またも呼び込んでしまった勘違いへの反論は、リリヤのそわそわした眼差しの先を読んだユーゴが制した。
「よろしいのですか? つくりたいです、つくりましょう!」
気付くと「一緒に」作ることになってしまったようだが、それはそれでと男は「なら、こっちだ」とゴンドラランプ造りを体験できるという木工所へ足の舵をきる。
けれど、どうしたことか。
すぐさま跳ねるようについて来ると思ったリリヤは、立ち止まって何やらもじもじ。振り返って「ん?」と水を向けると、翠の眸は戸惑うように幾度か瞬き、それからユーゴへ焦点を定めた。
「あの、えと、……ええと。あんけーと、そうこれはあんけーとです」
「アンケート?」
「……ユーゴさまのおすきないろは、なにいろですか」
決して他意はありません。えぇ、ありませんとも。そう全身で訴えるリリヤの尋ねに、然してユーゴはけろり。
「好きな色か、そうだな緑色が好きだ。綺麗な翠色、リリヤの瞳の色のような」
ユーゴの応えに、リリヤの顔色がぱっと輝く。例えばそれは、明るい黄色の鉱石ランプの光のように。
「それで、リリヤが好きな色は何色なんだ? 俺はお前の好きな色の鉱石を使おうと思う」
だがその光は、目も眩む白へとなって、
「後で作ったランプを交換でもするか?」
最後は見事な赤へ染まる。
「……もーっ。もーっ! なんでユーゴさまは、先に仰ってしまうのです」
照れなのか、はたまた先回りされてずるいと思うのか。その両方か。いずれにせよ、頬をぷくぷくさせた少女にじぃっと見つめられれば、ユーゴは降参するより他になく。
「はは、悪い悪い」
軽くホールドアップをしながらの詫びは、謝罪というより、リリヤの可愛らしさに敗北しただけだろう。されどちょっぴり留飲を下げた少女は、弾けるような笑顔に戻って、ぱたぱたとユーゴとの距離を詰める。
「わたくしは、あおいろが」
どうやらそれはユーゴの問いへの答らしい。歩き出したリリヤを誘うよう、顔だけはリリヤへ対したまま、ユーゴも再び歩みを進める。
「きっとすてきにつくりますから、楽しみにしてくださいましね」
「ああ。それじゃ俺も張り切って作るか」
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
マリアドール・シュシュ
【泡沫】
「勇者様の恋文…とっても素敵。そうは思わない?霞架(腕を引っ張りつつ祭楽しむ)
あなたと一緒に行きたかったのよ!
そうだわ!折角ですもの。ゴンドラランプを一緒に作りましょう!」
舟の形、翼お任せ
白の茉莉花と同じ名のマリアオーラの鉱石使用
「マリアと霞架がいっぱい詰まったランプの完成なのだわ!
これは霞架へ。受け取って頂戴。マリアには華水晶があるから。
このランプを持ってゴンドラに乗りたいのよ!」
ゴンドラの縁に腕を乗せ手の上に顎を乗せる
緩やかな速度と風翼に想いを寄せる
川に指先を浸し漕ぐ霞架を艶やかな眸で見上げ微笑
自然と恋に関する歌の葉が紡がれる
竪琴の楽器演奏に合わせケルト風の優しい音色を奏でて歌唱
斬崎・霞架
【泡沫】
「ええ、そうですね。
ですが、あんまり燥ぐと転んでしまいますよ?(腕を引かれつつ)
ふふ、それは光栄ですね。僕もマリアさんと来れて嬉しいですよ。
ランプ…ですか。いいですね、やってみましょう」
十字架と菖蒲のモチーフをあしらう
「ふふ、中々の出来ですね。
まぁ僕とマリアさんの合作ならば当然……おや、僕にですか?
これは、思いがけず素晴らしい物を頂いてしまいました。
ええ、いいですよ。お返しに、と言っては何ですが、
是非ともエスコートさせて下さい。素敵なレディ」
マリアの手を取りゴンドラへ
その笑みに返す様に微笑みかける
歌と演奏に耳を傾けつつ、
少しでもこの時間を楽しめるよう、ゆっくりとゴンドラを漕ぐ
●
ころりと鈴を転がす音色でマリアドール・シュシュ(蜜華の晶・f03102)は笑い、斬崎・霞架(ブラックウィドー・f08226)の腕を引いては先を促す。
「勇者様の恋文……とっても素敵。そうは思わない? 霞架」
「ええ、そうですね。ですがあまりはしゃぐと転んでしまいますよ?」
と、注意を促す傍からマリアドールの華奢な足先が、水路の脇に設えられた木製の通路の継ぎ目に囚われる。
バランスを崩しかけた体を、霞架がひょいと掬い上げた。すると見上げてくる金の瞳が、鉱石ランプよりも眩しい光を放つ。
「だって、あなたと一緒に行きたかったのよ!」
『楽しい』『嬉しい』がめいっぱい詰まった視線に、華やぐ声。それらを一身に浴びられる幸いに、霞架の口元も「ふふ」と小さく漏らす。
「それは光栄ですね。僕もマリアさんと来られて嬉しいですよ」
しかしそう霞架が応える頃には、マリアドールの気持ちは次へ。
「そうだわ! 折角ですもの、ゴンドラランプを一緒に作りましょう!」
足元を流れていった花色の小舟に心も足取りも踊らされ、マリアドールはまたぐいぐいと霞架を引っ張り――。
「お手をどうぞ、素敵なレディ」
祭専用の木工所から一番近いゴンドラ乗り場までは十数メートル。借り受けた漆黒に金模様があしらわれたゴンドラへ、霞架はマリアドールを誘う。
ゴンドラの中央には、一艘の小舟が鎮座する。
十字架と菖蒲の模様は、霞架が刻み。内側から淡く虹色を放つ澄んだ水晶は、マリアドールが選んだもの。
『マリアと霞架がいっぱい詰まったランプの完成なのだわ! これは霞架が受け取って頂戴?』
そう言って、マリアドールは二人で造ったゴンドラランプを霞架へと手渡した。自分には、華水晶があるから、と。
思わぬ贈り物に霞架は恭しく頭を垂れ、『でもその前に、このランプを持ってゴンドラに乗りたいのよ!』という宝石姫の仰せを叶えるべく、その手にオールを取った。
さすればゆらり、水上の二人旅。
誰に気兼ねする必要のない一時に、マリアドールはゴンドラの縁に腕をかけると、顎をちょこんと乗せて、洞窟内へ春を齎す風翼に想いを寄せる。
そうして、ちらり。
指先は水に遊ばせ、仄かに艶を含んだ眸で今日限りの水先案内人を見上げ、唇で柔らかなカーヴを描き。同じように返された微笑に、色付く溜め息をほろりと零すと、恋の歌を紡ぎ出す。
おや、と霞架が耳を傾けたなら。マリアドールはゆっくりと身を起こし、黄昏色に眩くハープも爪弾き始める。
異国の響きでありながら、郷愁を感じさせる旋律は、優しく甘く。乗せる歌声を、無数の鉱石ランプが光り輝く地底の町へ染み渡らせてゆく。
終わりが来るのが惜しい一時。
ならば少しでも長く楽しめるよう、霞架はことさらゆっくりとゴンドラを漕いだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)
まぁ賑やかなお祭りね、リィ!
ゴンドラ、あたし初めて乗るのよ
あなたも初めて?嬉しいわ
漕いだげるから掴まってるのよ
ランプに使う鉱石は桜色
翼はリルの鰭の様な形に
ねぇ
あたし達らしいじゃない
上手に出来たわね
リィ、泳いだ方が速くても
今はあたしの傍にいてね
落ちても、リィが助けてくれるでしょ?
あたしの愛しい王子様
美しい街の風景を満喫し
その度に歓声をあげ笑う愛しい人魚に微笑む
なんて可愛いのかしらなんてあいた手で撫でれば
あらもっと可愛くなったわ?
笑顔が咲けばほらもっと
あっ気をつけるわ!
勇者だって人間だもの
どんな恋文かしら
恋ね
わかる?リィ
悪い男に捕まったものね
……もう
リィ!照れて沈んじゃうわ
リル・ルリ
■櫻宵(f02768)
「ゴンドラ、僕もね。初めてだ」
僕は舟に乗らなくても大丈夫だから
水路なのに泳がなくていいなんて不思議な気分
僕らのランプ
それだけで嬉しい
君の桜色と僕の鰭翼
ねぇ僕の櫻
君とならどこへでもいけそうだ
君は游げないんだから
気をつけて
勿論だよお姫様?
くるくる変わる風景に
鳥が飛んで風が吹いて、花が舞い
隣には笑う櫻宵がいて
嗚呼なんて楽しいんだろう!
「櫻宵、あれは何?あれは?これは?」
好奇心がとまらない
髪を撫でる優しい手に櫻の笑顔に
頬を染め双眸を細め
君と同じ風景を観られているからだ
ほら前向いて漕いで
…照れ隠し
勇者も恋をするんだ
恋?わかるよ
僕の櫻
君が教えてくれたから
悪い男というより
僕の勇者だけど
●
低い天井にも星が瞬き、同じ輝きがまた水路にも。
色とりどりの光の祭典は、訪れた人々の賑わいを抜きにしても、目もあやで心を躍らせる。
誘名・櫻宵(誘七屠桜・f02768)もリル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)も、ゴンドラは初めて。
つまり水を住処とする人魚の『水』に纏わる初めてを共有できただけで、櫻宵は幸せで。
「漕いだげるからしっかり掴まってるのよ」
「大丈夫だよ、僕の櫻。君となら、どこまでも行けるから」
オール捌きもついつい力が入ってしまうが、リルにとっては幸せの波を受けるよう。
唯一、右に左に揺れるのは。舳先に据えたゴンドラランプ。二人で造ったそれは、半月を成す尾鰭のような翼を持つ、桜色の鉱石ランプを抱く小舟。
まさにリルと櫻宵を象徴するランプは櫻宵の一掻きで、光の帯を地底の中空へゆらりと描きながら、『勇者様の小道』と呼ばれる水路へ差し掛かる。
他の水路と異なり流れが少しばかり早いそこは、ほんのりスリリング。
「リィ、泳いだ方が早くても。今はあたしの傍にいてね?」
そう請う櫻宵に、泳がなくて良い水路に不思議な心地を味わっていたリルは、背中の漕ぎ手を振り仰ぐ。
「君は泳げないんだから気を付けて?」
「あら、でも。あたしが落ちたらリィが助けてくれるんでしょ?」
――あたしの愛しい王子様。
誘い文句にハートを一刺しされて、リルの笑顔がはじける。
「勿論だよ、お姫様」
然して二人は、勇者様の小道を流れ行く。
「櫻宵、あれは何?」
鉱石ランプが照らす暗い壁に描かれた文様に最初に気付いたのは、乗り手のリルだった。
「何かモンスターかしら? 鳥のようにも見えるわね」
「じゃあ、あれは?」
「可憐な妖精さんかしら?」
「ならこっちは?」
「これはきっとドラゴンね」
勇者様の小道と称されるだけあって、ここの壁は一面に勇者様の冒険譚を記してあるのかもしれない。しかしそちらの観察よりも、止まらぬ好奇心に目を輝かせるリルの方が櫻宵にとっては大事で愛おしい。
空いた手を櫻宵はリルの髪へと伸ばし、丁寧に撫でた。その優しさに、櫻の笑顔にリルの頬はほわりと色付き、薄花桜色の双眸が猫のように細くなる。
「あら、もっと可愛くなったわ?」
可憐に咲いたリルの笑顔に櫻宵が目を瞬かせれば、
「君と同じ風景を観られているからだ……ほら、前を向いて漕いで」
照れた人魚はぷいと視線を逸らして櫻のゴンドリエーレに先を促し――そう言えば、と勇者に想いを馳せた。
「勇者も、恋をするんだ」
「そりゃそうよ。勇者だって人間だもの」
感傷めいたリルの溜め息を、櫻宵がさらりと吹き飛ばす。
「恋、ね。わかる? リィ」
「恋? わかるよ。僕の櫻」
この町に託された恋文の内容は分からないけれど、リルは恋を知っている。だって――。
「他でもない、君が教えてくれたから」
衒いなく、迷いなく、再び振り仰がれた視線に射抜かれて、今度は櫻宵が笑み崩れる番。
「まったく。悪い男に捕まったものね」
「そう? 君は悪い男というより、僕の勇者だけど」
もう、もう、もう!
そんな風にさらりと言われてしまい、得も言われぬ気恥ずかしさに櫻宵は全身を戦慄かせる。
ああ、なんだかもう。照れて水路にぶくぶくと沈んでしまいたい気分!
でも櫻宵が沈んでしまったら、きっとリルがあっという間に掬い上げてしまう。
――君を地底の泡になんかさせないよ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
火狸・さつま
コノf03130と
え!やて、みたい!
めちゃ真剣に説明聞き
ゴンドラランプ作り
う?
うん…うん
??????
???
何度も首傾げ
眉間に皺寄せつつ
何やら鯨っぽい形の舟に鳥さんの翼
光に透かせば橙色に煌めく紫の鉱石を取り付けたランプに仕上げる
コノ!でけた。
見て見てと嬉しそうに
浮かべに行こう?と目を輝かせる
ゴンドラ…!
乗りたい、行く?やった…!
と目輝かせ尻尾ふりたくり
行こう行こうと跳ねる様に駆けて
ゴンドラでの街観光へ
あ!あれ、何だろ?
ねぇ、あっち、あっちは?
向こう、何、あるん?
尻尾ふりたくり時々身を乗り出して
ふぁ?!尻尾…、ダメ…
わぃわぃと色々興味津々
わぁあ!ここ、景色、綺麗…気持ち、良い!
楽し、ね。と笑いかけ
コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と
洞窟の街、かあ
あ、あれ見て鉱石のランプだって、と指差し勧め、作る様子を隣で眺める
あっちこっち傾く首に反ししっかりと彫られていく船を見て
器用なモンだねぇ、と感心しながら
祭の由来について街のヒトに聞いてみようか
恋文……ってこの船が想いを運んでくれるって事?
だとしたら随分ロマンチックだコト
出来たと上がる声に素敵な船ね、と笑い
じゃあ水に浮かべたらそれ持ってゴンドラに乗りましょ
仔犬の如く跳ね行きはしゃぐ様子には適当返事の聞き流し
幻想的だねぇ、こんなお店の内装もイイかなあ
なんてゆらゆら宙を見上げながらも
デカい子供が身を乗り出せばついと尻尾を引っ張る
ホラ、水遊びにはまだ早いデショ
●
『え! やて、みたい!』
鉱石ランプを作れるんだって、とのコノハ・ライゼ(空々・f03130)の勧めに、齢の割に随分とたどたどしい返事をした戦闘以外はエコ仕様の火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)は、存外に細やかな仕事が得意なようで。
『う?』
『うん……』
『うん
?????』
――等と、眉間にぎゅっと皺をよせ、幾度も首をこてーんこてんと傾げつつも、鯨の舟を彫り上げ、鳥の翼まで生やしてみせた。
けれど『器用なモンだねぇ』と感心はしてみせるものの、コノハは気持ちを一処に定めることなく、眼鏡越しの冴えた青を適当に泳がせては、指南役の町の細工師へ祭の由来を尋ねてみたりする。
果たして応えはコノハの予想通り。
『この小舟が、勇者様の恋心を運ぶのよ』
年若いドワーフの女が頬を染めて告げた台詞に、コノハはそっと肩を竦めた。
まったく、なんというロマンチックぶり。この町に伝わる勇者様とやらは、果たしてそんな伝わり方を良しとしたのだろうか?
同じ男として少しの憐れをコノハは感じもしたが、その思考も『コノ! でけた』というさつまの嬉し気な声に、あっという間に押し流された。
「見て、見て!」
頭に生えた凛々しい耳も、ふさふさの尻尾も確かに狐のものなはずなのに。焼けた肌とこげ茶に近い色味のせいか、さつまにはどうしてもタヌキの印象が付きまとう。
(「――いや、仔犬か?」)
それにしては図体は随分と育ったものだが。けれどさつまの歓びようも、確かに分かる。それくらい、光に透かせば不思議と橙色に煌めく紫色鉱石を用いた空飛ぶ鯨は、良い出来栄えで。
「素敵な船ね」
コノハが笑顔でそう褒めるから、さつまのテンションはますます上昇。出来立てのゴンドラランプを水に浮かべる為にゴンドラへ乗りに行こうとのコノハの誘いに、「行こう行こう」と尻尾ぶんぶん、目きらきらで瞬く間に駆け出して行き――思い出したように戻ってきて、ぐいぐいとコノハの手を引く始末。
温度差が微妙な二人は、然して正しく友人の間柄。コノハの方は「懐かれている」と思っているし、さつまの方は友の頭に「悪」が付いたりはしているけれど。
「あ! あれ、何だろ?」
「そーネー、鳥じゃない?」
「ねぇ、あっと、あっちは?」
「んー、ドラゴン?」
「向こう、何、あるん?」
「んー……」
斯くして繰り出したゴンドラ観光。一押しスポットだという勇者様の小道で遭遇する様々な壁画にさつまがいちいち上げる歓声へは、適当な合槌を放り投げつつ、コノハは幻想的な地底の町に酔い痴れる。
漆黒の闇を無数の鉱石ランプが照らし、その光を受けて水面がまた輝く。
(「こんなお店の内装もイイかなあ」)
なんてゆらゆら宙を見上げていたら、視界の端に思い切り身を乗り出した巨大なタヌキ――もとい、さつまが映ったもので、
「たぬちゃんホラ、水遊びにはまだ早いデショ」
むんずと尻尾を掴んで引っ張ると、「ふぁ?!」と驚嘆を発したさつまは、そのまま船底へへにゃへにゃと沈み込む。
「尻尾……、ダメ……」
「アレぇ? そうだったっけ?」
嘯くコノハの声音に、心配の色は一切ない。どうせまたすぐにさつまは物珍しい風景に魅せられて「わぃわぃ」と声を上げ、「楽し、ね」とコノハに笑いかけてくるに決まっているのだ。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
アンシェ・ローム
【CSF】で参加 観光
わぁとっても綺麗な街〜!
でもさっきまでテンちゃんとランプを作ってたから時間が無いですわ。急がなくちゃ
ルルエリさんと3人でゴンドラに乗って街を観光する約束でした
ゆっくり観光ガイドさんに街の案内をしてもらいましょう。勇者の伝説のお話も知ってるかも!
街の水路が星空みたい…。あっそういえばランプ!慌てて作ったからちょっと不格好なんですけど、浮いてくれるかしら?
「これで恋人がいたら……欲しいなあ〜」
勇者の恋文に良縁祈願!でも友達とこうして過ごすのはとても楽しいから、叶うなら効果は半分くらいでお願いしますわ
■ランプ
白鳥の翼がついたサンゴ色の鉱石ランプの小舟
ルルエリ・エールディール
チーム【CSF】にてテンくん、アンシェさんと一緒に参加。絡み、アドリブ大歓迎。
周りがこうキラッキラのリア充オーラで満ち溢れて、ここでひとりで待つのは、ちょっと、つらい。二人とも早く…
ランプを流すっていうから、ぼくは3人の小さな人形つくってきたよ。これも一緒にのっけて流そ、悪いものを載せて流れていって、ってさ。
恋人はいないけど、こうして皆と過ごせて今本当に楽しいんだ。だから少しでも、長く続けばいいなって思って。
後はゴンドラに揺られて、観光巡り。ガイドさん。すごく綺麗な隠しスポットみたいなのありませんか?
ってチップと一緒に(前の依頼のお賃金だよ)渡してお互い気持ちよくご案内してもらおうかな。
テン・オクトー
【CSF】アンシェさん、ルルエリさんと参加(呼び方:アンシェ姉さん、ルル兄さん)
神秘的な街だね。ウットリ街を眺めつつアンシェ姉さんと小舟作り。は!ゴンドラ乗るんだった!待たせてるルル兄さんの所に急ぐよ。あれ?ルル兄さんが微妙な顔してる。どうしたの〜?
ゴンドラに乗って小舟を流すよ。わ!?アンシェ姉さんが大人なお願い事してる!(赤面する)興味本意で作ったけど、この小舟はお願い事するものだったんだね。この風習はどうして始まったのかな?ゴンドラ漕ぎ手の人に聞いてみよう。勇者と関係ある?ない?
ボクの願いは…また3人で冒険出来ますように!
ランプ外観
他の人より更に小さめ
青い鉱石
小さい天使羽
アドリブ歓迎です
●
「可愛らしいですね」
ルルエリ・エールディール(自由を手にしたニャリオネット・f13370)の肉球の手が抱える三つの小さな人形に目を留め、小柄なドワーフ女性のゴンドリエーラが笑みを零す。
「わたしと友達二人の分。ゴンドラランプに悪いものを載せて連れていってもらおうと思いまして」
それは神官の跡取り息子らしい発想。けれど「それは、」とゴンドリエーラの表情が曇る。
「ごめんなさい。ゴンドラランプが運ぶのは、勇者様の大切な恋心なのです……」
つまりがその人形は――と遠慮がちな訴えに、ルルエリは即座にピンと来て、ではこれはまた別の機会だね、と人形を鞄へ仕舞い、代わりにゴンドリエーラの手に幾枚かのコインをそっと乗せた。
「これは?」
「チップです。だからわたしの友達を、とびきり素敵な隠しスポットに案内してくれませんか?」
前のお仕事で得たお給金を用いての、大人な作戦。ニコリと微笑むケットシーに、ドワーフもニコリ。
「とっておきにご案内しますね」
これにて交渉成立!
しかし、
「……お友達、遅いですね?」
「……そう、ですね」
待ち人であるアンシェ・ローム(うららかレディ・f06211)とテン・オクトー(ケットシーのシャーマン・f03824)は、今頃ゴンドラランプ作成の真っ最中。つまり、相応の時間を要すわけで。
「ゆっくり待ちましょうね」
「……そう、します」
煌びやかな祭の気配に若干飲まれつつ、ルルエリは眼差し遠く洞窟の町を見渡す。
そうしてかれこれ――たぶん、ぎりぎり三時間には届かないくらいの時間を経て。
「あれ? ルル兄さんが微妙な顔してる」
「ごめんなさい、これでも急いで来たのですわ」
乗り場に駆けて来た二人のケットシーも乗せ、ゴンドラは地底の町の遊覧にいざ出発!
「ここは勇者様の寝床と呼ばれている場所です」
迷路のように入り組んだ水路をすいすい滑り、辿り着いた『とっておき』は壁面の全てが漆黒のタイルで覆われていた。おかげで、岩盤が剥き出しな他と比べ、鉱石ランプの光が水面によく映える。
――世界を救った勇者様。けれども恋の方はからっきし。恋する人の背中をみつめ、風に想いを託し眠りについた。
「一途で可愛らしい方だったんです、きっと」
ゴンドリエ―ラが語る伝承にテンもルルエリも、そして乙女なアンシェも熱心に耳を傾け、こくこくと頷き合う。
日の光が届かない町の中は、鉱石ランプの灯が星のようで綺麗だった。中でもここは、不思議と胸がツンとする。せめて夢でと勇者様が思っていたからかもしれない。
生涯を、独りで過ごした勇者様。そんな勇者様を町の人々はとても大好きだった。
「これで恋人がいたら文句なしですわね。ああ、わたくしも恋人が欲しいですわ~」
交差した光と光の影が、妖精の翅のように見えたのに、アンシェが憂いため息を吐く。
勇者様の恋文に、良縁を祈願したい気分であった。
そんなアンシェの呟きに、テンのお顔は一瞬で赤くなる。
「アンシェ姉さんったら、大人……!」
十にも満たないテンには、恋の話はまだ早い。両手をあわあわさせて、お耳も尻尾もぴくぴく。されど――。
「恋人はいないけど、ぼくもこうして皆と過ごせて、今本当に楽しいんだ」
天を、水面を余すことなくみつめたルルエリの言葉に、三人の間に穏やかな静寂が生まれた。
「だから少しでも、こんな時間が長く続けばいいなって思うよ」
「そうですわね」
「うん! また三人で冒険できますように!」
願掛けするよう、アンシェとテンは自分たちのゴンドラランプを水面へそっと乗せる。
「急いで作ったから、ちょっと不格好ですけれど」
アンシェの方は、白鳥の翼がついたサンゴ色の光を運ぶ舟。
「そんなことないよ。とってもきれい!」
テンの方は可愛らしい天使羽が目を引く、青い光を載せた少し小さめの舟。
幾重もの波紋を描いた二艘は地底の町をゆっくりと進み、三人の思い出を光の軌跡で描き出してゆく。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
サン・ダイヤモンド
【森】ブラッドと探検!
『こいぶみ』って、なぁに?
(以前の依頼で彼に書いた手紙を思い出し)じゃあ、僕がブラッドにあげた手紙もラブレターだね!
あれ?でも『勇者様の恋文』ってお祭りなのに、今度は誰もお手紙、書かないのかな?
街の人に話を聞いたり、残された勇者の足跡を探して
名前の由来を調べてみよう
耳をパタパタ尻尾をパタパタ
猛禽類の足でぴょこぴょこ跳ねて懐っこく
初めて見る街や物、全部に全部興味深々!
ふふふ、でもとっても綺麗なお祭りだね
水も風も気持ち良い
(ブラッドも、ねえ、楽しんでる?
どんな綺麗なものよりも僕はあなたが愛おしい)
(僕がいるよ)微笑み彼の手を取って
もっと探検!笑顔!
あなたがいるから、僕は幸せ。
ブラッド・ブラック
【森】(洞窟に頭を打たぬよう気を付け)サンと探索
恋文は…ふむ
ラブレター、好きな人に想いを伝える手紙の事だ
んん、ラブレターと言えばラブレターかもしれないが…
(嬉しそうなのでそのままにしておく)
綺麗な街だ
仕事でなければ、一人では、こんな街に来ることはなかっただろう
世界の加護を受けた今ではこの外見(KC・武器無)でも目立たぬが
(以前はジョブの力を制御できず)
いくら命を貪ろうとも満たされず
ただの怪物同然だったこの俺が、見付けた光、サン
お前は太陽よりも金剛石よりも美しい
こんな俺に無邪気に笑いかけてくれたお前が
少なくとも、俺にはそう見えた
今でもそれは変わらない
楽しいか
お前が楽しいのなら、俺も嬉しい
転ぶなよ
●
『そうなの?』
『わぁ、すごい』
『とっても素敵』
サン・ダイヤモンド(甘い夢・f01974)は聞き上手。気持ちよくころころと変わる表情につられ、トラヴィンとの町の人々は我先にと『勇者様』の伝承を語って聞かせる。
町の名前の由来は、夢の風。
務めを果たした勇者様は、とびっきりの片想いを胸に抱えて町へ戻った。
けれど勇者様は、来る日も来る日も風が向かう先――空の彼方を見上げるばかり。決して想い人へ恋心を告げることはなかった。
立派でお強い勇者様。
けれど勇者様は一途な想いと共に悠久の眠りについた。
恋を告げる事のなかった勇者様。だから勇者様に代わって、町の人々が勇者様の恋を、彼が見上げた先へと送り届ける。
『勇者様の想いを運ぶゴンドラランプは、つまり『恋文』ってことなのよ!』
「……『こいぶみ』って、なぁに?」
若干前のめりに気味になった年頃の娘の力説を音でなぞりったサンにそう問われ、厳めしい漆黒の男――ブラッド・ブラック(VULTURE・f01805)は至極真面目に応えを返す。
「恋文……ふむ。ラブレターとも言うな。つまり、好きな人に想いを伝える手紙のことだ」
――手紙!
過日、解決に導いたお仕事で触れたばかりのものに、サンの顔がぱぁと綻ぶ。
「じゃあ、僕がブラッドにあげた手紙もラブレターだね!」
ブラッド、一瞬「んん」と沈黙。確かに、アレもラブレターと言えば、ラブレターなのかもしれなが。
(「いや」)
ラブレター、ラブレター♪ と鼻歌に混ぜて繰り返すサンが嬉しそうなので、ブラッドは敢えて指摘しない方向へ舵を切り。そうして水路の脇に設えられた木製の足場をゆくサンの後姿を眼に映す。
サンのご機嫌ぶりを表すように、耳と尻尾はパタパタ弾み。春告の風に白い髪がふわりと踊る。そして何より、鋭い猛禽類の足が不規則に刻むステップの軽やかなこと。
一つとして同じ色のない鉱石ランプが照らす洞窟を夜空に例えるならば、そこをゆくサンは一際まばゆい一等星。
「とっても綺麗なお祭だね」
水も風も気持ちよい、とくるくる回るサンに、ブラッドは黒い体躯の内の唯一の色――花色の双眸を細める。
確かに美しい町だ。仕事でなければ、ブラッド一人では足を運ぶことさえなかっただろう。
ヒトと形を異にするブラッドは、外見のみならず依然は怪物同然だった。
そのブラッドが見つけた光こそ、サン。
――お前は太陽よりも、金剛石よりも美しい。
「ブラッド!」
立ち尽くし、動かぬブラッドの元へサンがぱたぱたと走り寄り、男の黒い手を風のように掬い取る。
(「ブラッドも、ねえ、楽しんでる?」)
――どんな綺麗なものよりも、僕はあなたが愛おしい。
(「僕がいるよ」)
「もっと探検! 笑顔!」
――あなたがいるから、僕は幸せ。
光が、ブラッドを導く。行こう行こうと誘うサンの手に、ブラッドは身を委ねる。
「楽しいか」
「うん!」
「そうか。お前が楽しいのなら、俺も嬉しい」
惜しみないサンの無邪気な笑顔は、おそらくブラッドだけが享受を許されたもの。その尊さに、ブラッドは変わらず光を視る。
「はやく、はやく!」
「転ぶなよ」
はたから見れば奇妙な二人連れを、トラヴィンとの人々は温かく見守る。
その眼差しは、どうしてだか『勇者様』を語る時と同じ色をしていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
リュカ・エンキアンサス
ルーナお姉さん(f01357)と
ゴンドラか…あんまりなじみがないから少し、楽しみだ
ん…。ゴンドラランプ作る?
ああ。そうだね。お姉さんだと工具もてないか……。じゃあ、どんなのがいい?色はどんなのにする?かわりに俺が作るよ。手先は器用なんだ
天使の羽?やっぱり女の子が考えることは可愛いな
うん、いい感じだ
出来上がったらのんびりゴンドラにも乗ろうか
漕ぎ手は任せろ
こちらへどうぞ、お嬢様
っていってもいつもの肩なんだけれどね
こういう街にはあまり行かないから、のんびり眺めて町を観光したい
一息ついて、のんびり町並みやすれ違うゴンドラを見たりして
お姉さんのクッキーも勿論貰う
どれでも…じゃあ全部
…ん、甘い
美味しいね
ルーナ・リェナ
リュカ(f02586)と同行
ねえねえ、リュカ
ゴンドラランプ作りたい!
うー……でも工具が大きいんだよなぁ
え、作ってくれるの?
じゃあね、こっちのサファイアっぽい石で、天使の羽みたいな翼がいいな
できたらランプを持ってゴンドラへ
肩、乗ってもいい?
いつものだけど特別な場所だよ
ふふ、こんなふうにのんびり進むのもいいね
ランプに照らされたリュカの横顔、どこか違って見える
そうそう、これ
落ち着いたところで持ってきたクッキーをバスケットごと差し出す
チョコとかココアとか何種類かあるから、好きなのを食べてね
そう言ってもらえると嬉しい
作ってきたかいがあったよ
●
「リュカ、どうしたの?」
シャッシャッと小気味良く響いていた木を彫る音が不意に止まったことに、ルーナ・リェナ(アルコイーリス・f01357)が両手で頬を支えた顔をことりと傾けると、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は右へ左へと視線を遊ばせ、ぽつり。
「お姉さん……そこは、危ない」
ルーナが座っていたのは、臨時木工所の作業台の上。こっちこっち、とリュカに利き手側の端を案内されて、ルーナは「そっか!」と虹色の翅で宙を舞う。
ゴンドラランプを作りたい、と言い出したのはルーナの方。だがフェアリーであるルーナに扱える工具は残念ながら準備がなく、ならばと手先の器用さには自信のあるリュカがルーナのリクエストを請け負うことにしたわけ、だが。
――じゃあね、こっちのサファイアっぽい石で!
――あとあと天使の羽みたいな翼がいいな。
女の子らしい可愛い求めにリュカは忠実に応え、やがて作業が進むうちに見守るルーナも夢中になって。結果、彫刻刀の進行方向に要注意案内が出されたのだ。
そうしてまた暫し。
「うん、いい感じだ」
今度は全ての仕事を終えて、リュカの手が止まる。もちろん、ルーナの瞳は鉱石ランプよりもキラキラ。今にも抱えて飛び立ちそうな勢いに、リュカは「俺が持つよ」と立ち上がる。
『こちらへどうぞ、お嬢様』
なんて恭しく言っても、ルーナが乗るのはいつもと同じリュカの肩の上。けれど、どれだけ「いつも」であっても、ルーナにとっては特別な場所。
そして今日は、場所もとびきり特別。
お日様の届かない洞窟内は真っ暗なはずなのに、人々が暮らす窓先などに飾られた鉱石ランプが地底世界を星の河に変えている。
その星の中には、リュカが作ったルーナの小舟も。櫂の持ち手の天辺から吊るされたそれは、リュカが水面を漕ぐたびにゆらりゆらりと中空へ青い波を起こす。
硬質でいて柔らかい光に照らされるリュカの横顔は、ルーナの目にはいつもと違って見える。
「こんなふうにのんびり進むのもいいね」
「そうだね。こういう街には、あまり来ないから」
二人が乗るゴンドラは、ゆっくりとトラヴィントの町をゆく。ときおり水路端から投げられる陽気な挨拶へはルーナが手を振り返し、すれ違うゴンドラへはリュカが小さく挨拶をしながら。
辿り着いたのは『風の泉』と呼ばれる、プラネタリウムを彷彿させる大きな空洞。流れが穏やかな水面には、幾つものゴンドラランプが漂っている。
「そうそう、これ」
他のゴンドラとぶつかる心配のない状況に、ルーナはリュカの肩からひらりと降りると、積んできたバスケットをずいっとリュカの目の前へ差し出す。
「チョコとかココアとか、何種類かあるから。好きなのを食べてね」
お疲れさまと、ありがとうを兼ねて送るのは、ルーナの髪色と同じくらいに綺麗に焼けたクッキーたち。
「どれでも、いいの?」
「えぇ、どれでも」
「……じゃあ、全部」
選ぶなんて出来ないリュカは思い切り欲張って、一枚食んでは、次を食み。またもう一枚摘まんで、ふっと幸せに満ちた息を吐く。
「……ん、甘い。どれも、美味しいね」
「そう言ってもらえると嬉しい。作ってきたかいがあったよ」
最高の賛辞に、ルーナは幻想的な光に薄い翅を煌めかせた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
朽守・カスカ
オズ君(f01136)と
実はゴンドラに乗るのは初めてなんだ
でもゆらゆら、揺れるのは楽しいね
訪れる薄暗い洞窟の中
水面と共に揺れる鉱石ランプの光は
私のランタンとも趣が異なる光だけど
とても綺麗だ
そんな水路の旅を楽しんだら
勿論、お祭りも楽しもう
翼のついた舟
あまり聞いたことがなかったから
どうすればと迷ってしまう
けれど、オズ君の作る舟を見て
(面と向かって言われると少し照れるけれど)
イメージは固まったよ
幼い水鳥のように
可愛らしいシルエットの舟と羽
澄んだ青の鉱石を乗せよう
ふふ、君の瞳のように綺麗な色を選んだから
この舟の旅路は
きっと楽しくて素敵なものになるはず、さ
(その朗らかさのように)
さあ、浮かべてみようか
オズ・ケストナー
カスカ(f00170)と
カスカの灯台をたよりにきてた船とは違うけど
カスカがすきかなあと思って
はじめてだったの?
わたしもはじめて、おそろいだ
鉱石のランプがきらきら
ランプが照らす水面も
きれいだねえ
ね、お祭りも行こっ
カスカはどんな舟がいい?
石も翼も
どんなのにしようか迷っちゃうね
カスカを見て
うん、とひとつ頷いて作っていく
白く塗ったちいさくてまるい翼に
白く透き通った光を放つ鉱石
カスカは白のイメージだもの
翼があるから、きっと遠くまで迷わずいけるね
カスカの灯台みたいに
だれかを安心させるひかりならいいな
カスカは?
どんなのにした?
わあ、きれいな青
わたしの瞳のようと言われたらうれしくて
ふふ、そうだね
浮かべてみよっ
●
朽守・カスカ(灯台守・f00170)は灯台守のお人形。既に役目を終えた光なれど、カスカの胸には父と呼んだ男から継ぐ誇りがある。
地底の水路を往く舟は、カスカの灯台を頼りにしていた船とは違うけれど。この風景をカスカは好むだろうと誘いをかけたオズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は、少女の応えに仔猫色の瞳をパチリと見開いた。
「ゴンドラ、はじめてだったの?」
「うん、実は」
洞窟の入り口から、町の深部を目指すゆるりとした暫しの船旅。穏やかな揺れは心地よく心を浮き立たせ、暗がりが濃くなる程に増えていく鉱石ランプの煌めきがオズとカスカの目を楽しませる。
「きれいだねえ」
「とても綺麗だ」
同じ灯りといっても、カスカのランタンとは趣を異にする光が、頭上で、写し取った水面で、歌う星の囁きに酔い痴れていれば、あっという間のゴンドラの旅路。
辿り着いた祭専用の木工所に一番近い船着き場で、気の好いゴンドリエーレに二人は『いってらっしゃい! 勇者様の片思いに』と二人は送り出される。
然して木工所の中は大賑わい。ちょうど空いた作業机をオズとカスカは対面で陣取って、あぁでもない、こうでもないと頭を捻る。だって翼のついた舟など、あまり聞いたことがない。
だが、天啓は突然舞い降りるもの。
「……!」
ぼんやりと彫り進めていた舟からカスカへ視線を上げたオズは、ぴんと来た閃きに「うん」とひとつ頷くと、手の動きから迷いを消し去る。
ちいさくてまるい翼を白く塗り、ランプカバーにするは白く透き通った光を放つ鉱石。
それは眼前の少女を象徴する色。
「オズ君?」
「だってカスカは白のイメージだもの」
突然の加速にカスカが首を傾げると、年上には見えぬ笑顔がにぱり。
「翼があるから、きっと遠くまで迷わずいけるね。カスカの灯台みたいに、だれかを安心させるひかりならいいな」
続いた「カスカは? どんなのにする?」との問いに、面と向かって言われた台詞に少々の気恥ずかしさを覚えた少女も、うん、と首を縦に振って席を一時たつと、一目で吸い寄せられた鉱石を手にオズの元へ舞い戻る。
シルエットは、幼い水鳥のように可愛らしく。抱く光は――、
「わあ、きれいな青!」
オズが上げた快活な歓声に、カスカの口元も綻ぶ。
「君の瞳のように綺麗な色を選んだから、この舟の旅路はきっと楽しくて素敵なものになるはず、さ」
昏き水面を行こうとも、オズのようにたくさんの耀きを内に秘めて。どこまでも、どこまでも。
「完成したら、浮かべに行こう」
仕上げを急ぎ始めたカスカに、オズも「うん!」と声を弾ませ作業に戻る。
カスカに瞳の色を舟に乗せてもらえて、オズはとても嬉しい。
それはカスカも同じ。
互いを想い合った舟が形を成して、思い出としても心に残り続けていくのは、幸せなこと。
浮かべる水路はどこがいいだろうか?
町の人へ尋ねたならば、きっととっておきの場所を教えてくれるに違いない。
ほんの少しだけ先の未来の光景をオズとカスカは脳裏に描き、それぞれの舟を造り上げる。
カスカの舟と、オズの舟。
水面に浮かべたなら、優しく寄り添い星の海に漂うだろう。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
紅庭・一茶
☆WIZ☆
おやおや、此は此は!
何と素敵な御祭りなのでしょうか!
水路を游ぐ灯を横目に眺めれば、
祭り歩く爪先も跳ねるよな心地で
然して眺めて居るだけでは物足りず、
願わくば灯一つ 紅庭も作りたい所存っ!
ふふふ。『物』の紅庭が『物作り』と云うのも、
何だか可笑しな御話なのでしょうけれど…
だからこそ、宛ら我が娘の様に大切に丁重に!
選ぶ船はまあるい形で、羽は小さな蝙蝠のように
煌めく灯の鉱石は 甘い甘い 蜂蜜色を
舟とは想いを乗せるもの
もしや勇者さんもこうして恋文を舟に乗せて、
誰かに御届けしたりしたのでしょうか…?
水路に流せど紅庭の想いは届きませんが、
きっと何時か愛し君へと願って
一度浮かべた娘は胸へと抱きましょう
静海・終
ゴンドラ、何かとても心惹かれてしまいますね
何かペンギンのようなものが居ないか探してしまいそうになる
私はゴンドラを作りましょう
ゴンドラの色も決めていいのでしょうか?
白い三日月の形に小さなドラゴンの翼を一対
ランプの鉱石は深い青色のものを使いましょう
ドラゴンランスの涙を傍に置きながらゴリゴリっと削り出し
涙には気に入った鉱石を持ってきてもらいましょうか
作る途中で休憩をしつつ街の方にゴンドラのアドバイスをもらいつつ
伝承についてなども詳しく聞いてみましょう
完成したらゴンドラに乗り小舟を水に浮かべて行く末を
ゆっくりと追いかけましょう
作ったランプは涙が気に入れば持って帰りましょうか
●
――おやおや、此は此は!
紅庭・一茶(いばらゆめ・f01456)はトラヴィントの街並みに声を躍らせ、水路を游ぐ灯に心の爪先を跳ねさせる。
本当は、今にも駆け出してしまいたいけれど。それでは背に負うリュックに仕舞った自分の本体であるティーポットがやや危うい。
だから瞳だけは忙しなく動かし――いや、やっぱりそれだけでは物足りない!
「願わくば灯一つ 紅庭も作りたい所存っ!」
そう高らかにゴンドラランプ作成の為の木工所の扉を潜り、少女めいた華やかさをもつヤドリガミの少年は、飾り気のない工具を手にとった。
しかし、本来『物』である一茶自身が、『物作り』に励むとは、不思議で可笑しな話な気がしないでない。
「否、故にこそ。この舟は宛ら紅庭の娘も同然」
ふふ、と楽し気な吐息を時に挟みつつ、一茶は頗る丁寧な手つきでまあるい形の舟を彫り進める。
翼は小さな蝙蝠のようにしよう。
灯を煌めかせる鉱石は、やはり甘い甘い蜂蜜の色が良い。
旅から戻った勇者様は誰かに恋をしていたらしい。
無骨な口は何も語りはしなかったが、「おかえりなさい」と彼を迎えた人々には一目瞭然。
だのに勇者様は終生、想いを告げることなく。高みへ吹く風を見送り続け、悠久の眠りについた。
「一途で可愛らしいお方だったのよ。だからね、勇者様の死後に当時の町の人たちが、勇者様にかわって勇者様の恋心を風に託そうと始めたことが、今のお祭になったの」
「なるほど、『勇者様』の片想いがお祭の起源なのですね」
ゴリゴリと木片を舟の形へ削りながら、静海・終(剥れた鱗・f00289)は町の女細工師が語ってくれた伝承に、なるほどと頷きを繰り返す。
不思議と心惹かれてしまうゴンドラの町。丸いフォルムのペンギンあたりがシンボルとして似合いな気もしたが、残念ながらここは地底の町。ペンギンの代わりに鉱石ランプが町を華やげ、人々の目を楽しませていた。
だから終もついつい、ゴンドラランプを作りたくなり。祭専用の木工所へ足を運び、指南役の細工師などにアドバイスを貰いつつ、一休みがてら『勇者様』の物語を紐解いた。
と、そうするうちに。
「おや、涙。佳い石がありましたか?」
黒曜の鱗にベニトアイトによく似た深青の鉱石を抱いた小さき海竜が、蒼い瞳をじぃと終へ向けていた。
どうやら主の求め通りに、気に入るものを選んできたらしい。
ことりと作業台へ転がされたそれを終は拾い上げ、光に翳し、これはこれはと運ばれてきた出逢いに目を細める。
小さなドラゴンの翼を持つ白い三日月が、水面に落ち着いた青の光を反射させながらゆっくりと進んでゆく。
仕上がったばかりのゴンドラランプを、終はゴンドラに乗り追いかける。
戦場に立てば槍と為る海竜も、首をもたげては終手製の小舟の行方を気にするよう。
「涙、気に入りましたか?」
想いを運ぶ小舟を持ち帰るか、それとも祭へ捧ぐか。その選択権を終は涙へ託す。
そう、舟とは想いを乗せるもの。
「もしや勇者さんもこうして恋文を舟に乗せて、誰かに届けたかったりしたんでしょうか……?」
生涯、想いを告げなかった勇者様も。ひょっとしたら、こんな風にしたかったのかもしれないと、一茶は水上の蜂蜜色を水路端から目で追う。
「もし、そうなら」
(「水路に流せど紅庭の想いは届きませんが、」)
――きっと何時か愛し君へ。
そう一茶は静かに願い、娘たるゴンドラランプを胸に抱きあげた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
都槻・綾
【三艘】
嗚呼、「恋文」
美しい響きですねぇ
石の煌き一つ一つに恋心が燈るのだと思うと
吹き込む風の爽やかさに擽ったい心地も覚える
小舟の作り方を街人に教わりつつ
伝承や由来を尋ねてみよう
彫り込む舟も翼も、木の葉の形
船頭は瑠璃の石
五行に沿う春の青
恋を――春を告げる東風に乗り
やがて勇者殿の想い人の元へ、との祈りを籠めて
造りは簡素乍らも丁寧に
問いには
「内緒です」と風にそよぐ葉の如くさやさや
有るも無しも何方とも取れぬ悪戯めいた笑みで返す
ユルグさんと詞波さんの
飾らなさも真っ直ぐで潔く、微笑ましい
二人の灯す彩りへ
似合いですねぇ、と打った拍手は
無事の船旅祈願の祝詞代わりに、凛と響く
えぇ
いざ船出の時、と洒落込みましょう
ユルグ・オルド
【三艘】並べて
勇者様だって恋はしたいさ、きっとね
とはいえ色恋沙汰には疎いもんで
ははあ。情緒の解説は綾に任せた
模る舟は率直に翼にはアリョールを
かた……どる気持ちはあったんだ
不格好なそれに黒い石を嵌め込んで
詞波の問いに肩竦めて
書くくらいなら言うわ
文にするなら余程募るもんなんだろな
二人の作る舟に同じく其々らしい答えに笑って
あれ絶対ェしれっと書いたことあるやつだぜ
茶化しながらも組み上げる
個性って出るもんだねと
覗いてともに並べたんならそれなりで
花弁と供の春の旅、想いも運ぶだろうと
沈んでくれるな、気儘にゆくまま
鳴る音に景気よく笑ったんなら
そんじゃ俺らも旅といこうか
当て所なく追ってみるのも楽しいんじゃない
葦野・詞波
【三艘】で漕ぎ出す
勇者に因んだ祭りか。
何故勇者の恋文などと言われているのかは謎だが。
舟大工にでも聞いてみるとしよう。
おすすめスポットと一緒にな。
しかし、恋文を綴るとは
さぞ情熱的な勇者だったのだろうな。
ユルグ、綾、恋文を綴ったことはあるか?
何、あるなら勇者の気持ちが
多少分かるかと思ってな。私は無い。
舟作りは複雑な物は難しそうだ。
シンプルに作る。翼や舟の形に拘りはないが
鉱石の色は――そうだな、赤が良い。頭巾と揃いだ。
時折二人の出来栄えはどうだ、と覗き込む
完成したなら漕ぎ出しだ。
舟旅は情緒があって良い。
桜を思い出す。
折角だ、街の隅々まで
漕いでみるのも良いだろうと
旅景収める写真機を構えたなら、いざ
●
「はぁ? 恋文を綴るどころか、告白の一つも出来なかっただって? とんだ――」
「――ってえっ」
ヘタレだな、と続くはずだったろう葦野・詞波(赤頭巾・f09892)の言葉尻は、手元を誤り彫刻刀で指先を浅く抉ったユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)の声にかき消された。
正しくは、抉った素振りのユルグに、かもしれないが。
「それにしても、恋文とは。美しい響きですねぇ。石の煌めき一つ一つに恋心が燈るのだと思うと、爽やかな春告の風に頬を擽られている心地になります」
そして都槻・綾(夜宵の森・f01786)がすかさず挟み込んだ美しい合の手に、祭専用木工所につめるドワーフの女細工師がけらりと笑う。
「いいのよ、そんなに気を遣ってくれなくったって。実際、甲斐性なしって思うわ。けど、そういうところがまた可愛いのよ」
――どうやら詞波の言葉の先を読んでいたらしい。或いは、全く同様の感想を抱いているか。
詞波、ユルグ、綾の三人で囲んだ一つの作業台。ゴンドラランプの作り方を習う序に、勇者様の伝承をと求めると、女細工師は手解く合間にさらりと語った。
務めを果たし町へ戻った勇者様は、片恋を抱えておいでなさった。
誰かに改まって喋ってきかせることはなかったけれど、それは彼を慕う者らにとっては明らかだったというのに。一途な勇者様は、尊い想いを胸に抱えたまま生涯を終えてしまった。
哀れに思った町の皆は、勇者様が届けることが出来なかった想いを、翼の舟に乗せて風に託すことにした。
いつかきっと、勇者様の想い人へと届くように。
「いや、まぁ。そういうのも悪くはないが」
恋文を綴るなんて、どんなに情熱的な勇者だったのだろう――などと思いを馳せていた分だけ予想外の展開に、詞波の舟を削り出す作業も少しばかり荒れる。元よりシンプルに作るつもりでいたので、形に影響が出ることはないが。
然して三人組の紅一点は天井を仰ぎ、
「ユルグ、綾。恋文を綴ったことはあるか? 生憎、私には経験がない。よって、勇者の気持ちは二人に任せた」
えぇいと男たちへ話をぶん投げた。
しかし任された男たちの反応はと言うと。
「書くくらいなら言うわ」
肩を竦めたユルグは、きぱりと一刀両断。綾に至っては「内緒です」と風にそよぐ柳がごとく、掴み処のない笑みをさやさや揺らすばかり。
「なんだ。これでは勇者様のお気持ちとやらがさっぱりじゃないか」
お手上げだなと、被る頭巾と同じ赤の鉱石をむんずと掴み寄せた詞波に、どことなくアリョールに見えない気もしない翼を彫り終えたユルグがそっと耳打ちする。
「あんなこと言ってるが、綾は絶対ェしれっと書いたことがあるクチだぜ。ま、文にするってくらいだから、かの勇者様は余程想いを募らせてたんだろ」
「申し、そこのお二方。前半もちゃあんと聞こえていますよ?」
ニコリ、綾の笑顔に凄みと艶が増し――そこで三人、顔を見合わせ一斉に吹き出す。
「じゃれあっている場合ではないな」
「早く作り終えないと、空いてるゴンドラなくなっちまう……って、綾は早いな!?」
「そう仰るユルグさんこそ」
見遣るとユルグの小舟には既に黒い石が鎮座しており。綾に至っては、木の葉の形を模した小舟が丁寧に彫り上がり、幾つかの鉱石の中から一等やらかい色味の瑠璃色を選別中。
「ほらほら、詞波さん。お急ぎにならなくては」
恋文の話に時間を割いただけ、僅かに後れをとった詞波を綾はわざとらしく茶化して煽る。それにすぐさま「任せろ」と返す詞波の潔さ、「手伝うか?」と手を差し伸べるユルグの真っ直ぐさは、微笑ましくも好ましい。
そして一途な『勇者様』の恋も、また。五行に沿うた春の青、運ぶ一片を東風へと乗せて、想い人の元へ届けと祈るほどに。
詞波とユルグが抱えた灯を「似合いですねぇ」と讃え、仕事を終えた木工所から最寄りのゴンドラ乗り場で祝詞代わりに手を叩く。
「では、ゆるり船旅と洒落込みましょうか」
折角だ、町の隅々まで回ってみようと言い出したのは詞波だった。
「頼む、沈んでくれるなよ?」
足元をぐらつかせて乗り込んだゴンドラで、多少の不格好には目を瞑って仕上げたランプを水へと浮かべて、ユルグは念を送る。
さすれば二人も続いて、計三艘。
つい先日、船上より桜を愛でた三人は、かくしてまた新たな船出の時を迎える。
「船頭殿……いや、ここではゴンドリエーレというのだったか。これを頼む」
詞波に託された不思議な小箱を、若いゴンドリエーレは気前よく引き受け、教えられたままにパチリと――詞波、ユルグ、綾の三人三様の笑顔をトラヴィントの街並に収めるシャッターを切った。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
ラティナ・ドラッケンリット
【POW】
人々の抱えた困難に代わりに立ち向かうこともだが
未踏の眺めに辿り着く為に挑むのも冒険者の性だ
今回はウトラの導きに応じよう
しかし洞窟内の水路の街とは風雅だな
ランプがまるで星のようだ
荒くれた冒険者の身でも胸に染みるものがある
ゴンドラを借りて街の散策を愉しもう
川や海とは勝手が違うが小舟を操舵する心得はある
冒険者の嗜みというやつだ
それにしても『ゆうしゃ様のこいぶみ』の由来も気になるな
浮かれて酒盛りをしている街人を見付け杯を交わしながら聞いてみよう
酒が気に入れば私の経営する冒険者酒場への土産に地酒を購入するか
仕入れともいうかもしれないな
ああ、それにしても祭とはいつでもどこでも良いものだな
フィオリーナ・フォルトナータ
ゴンドラランプ
見本を見るだけでも心がときめきますね
わたくし、こういった物にどことなく懐かしさを覚えてしまって
舟の形はおすすめを伺って、翼は白いものを
鉱石はセレスタイト…なければ淡い水色の
この都市からは見えない空の色を
古の勇者様も、これよりもっと大きな船に乗って旅をしたのかしら
鉱石乗せた小舟はそのまま流そうかとも思いましたが
少しだけ水に浮かべて、持ち帰ります
折角作ったんですもの、すぐにお別れは…何だか寂しいですから
ゴンドラに揺られて、街を巡るのも素敵でしょうね
勇者様の恋文と仰られていたくらいですもの
もしかして、件のドワーフの勇者様は郵便屋さんだったのかしら
ふふ、想像するだけでもとても楽しいですね
●
水路をゆく小舟は、まるでゴンドラランプの見本市。
一つとして同じ形も色もないそれらに、フィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)は作り手それぞれの顔と想いを思い浮かべ、ふっと空色の双眸を細める。
心をときめかせる光景だ。けれど同時にフィオリーナの胸には得も言われぬ懐かしさがこみ上げる。
(「主様はどのようなお気持ちでいらしたのでしょう――?」)
「お嬢さん、どうかしたかい?」
「――、いいえ。少し、考え事を」
「ん? ひょっとして想い人でもいるのかい?」
追憶に沈んだのはほんの一時。しかしそれまで規則正しく動いていた手が止まったのを案じたドワーフの細工師は、フィオリーナの反応に、何やらとてもしたり顔。だが好奇心に満ちた視線にフィオリーナはゆるく「残念ながら」と慎ましやかに笑み返し、ゴンドラランプの作成を再開する。
白い翼をつけたいのだとのフィオリーナの希望に、細工師が進めてくれたのは風を切るスマートな流線型の舟だった。そこへ灯る光を彩る色にフィオリーナが選んだのは、セレスタイトに似た薄い青――この町からは望めぬ空の色。
(「古の勇者様も、これよりもっと大きな船に乗って旅をしたのかしら?」)
白い雲が湧き立つ空の下、大海原を進んだのだろうか。嵐に遭遇することもあったかもしれない。
懐かしさと、高揚と。時を遡ることは同じでも、心を染める色は違い。二つの色の狭間を揺蕩いながら、フィオリーナはゴンドラランプを仕上げにかかる。
人々に代わり、彼ら彼女らが抱える困難を解決してくことも大事な仕事ではあるが。未踏の眺めを前に、チャレンジ精神を燃え上がらせるのもまた、冒険者の性。
然してラティナ・ドラッケンリット(ビキニアーマー道の冒険者・f04425)はこの日、地底の町へ興味で尽きぬ眼差しを巡らせていた。
日差しの届かぬ町を浸す暗がりを無数の鉱石ランプが照らす風景は、星の海へでも迷い込んだような心地をラティナに味合わせる。
しかも借り受けた小型のゴンドラを自分で繰れば、道行きも全て自由自在。細道に紛れ込んだり、急な流れの水路に心躍らせてみたり。
窓から顔を出した住人達とのコミュニケーションだって、愉しいものだ。
「勇者様の片想いに!」
そう子供から投げかけられた祭特有のものらしい挨拶には、倣って返し――ラティナはそこでまじまじと考える。
「なぜ『勇者様の恋文』というのだろうか?」
率直な問いの投げ先は、水路端で酒盛りをしていたドワーフの男たち。
「あぁ、それな」
「勇者様は、自分では想いを届けることができなかったんだとさ」
「一途な男心だよなぁ……俺ァ、分かるぜ」
「母ちゃんの尻に敷かれてるお前の台詞かよ! いや、それはともかくとして。勇者様が天に召されちまった後、わしらの御先祖さまが『せめて想いを届けたい』ってこの祭を始めたんだよ」
つまりは、水路に漂うゴンドラランプこそが勇者様の恋心そのもので。それを春告の風に放つからこそ、祭の名は『勇者様の恋文』になったらしい。
――と、おおよそをラティナが把握する頃。彼女の手には、琥珀色の酒がたぷたぷと波打つジョッキが握られていた。
気儘な遣り取りも、祭の醍醐味の一つ。
美味い酒との出会いも同じく。
ごくりと喉を鳴らして琥珀色をラティナは味わい、自らが営む冒険者酒場への土産として、トラヴィント産の酒を仕入れて帰ろうと心に誓う。
町のそこかしこから聞こえる快哉を、フィオリーナは船上で聞く。
彼女の手には、船底が濡れた白翼のゴンドラランプ。
「祭そのものが、恋文なのですね」
祭の礼の則り終えた舟をそっと撫で、フィオリーナは町の隅々まで想像の翼を広げる。
恋を届けられなかった勇者様。
でも、もし。その勇者様が。文の運び役を担っていたとしたら?
「ふふ」
空に隔てがないように、心にも隔てはない。無限の可能性に、オールドローズの人形は頬を薔薇色に染める。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と
洞窟内をこのようなゴンドラで移動するとは面白いの。
鉱石ランプで照らして、不思議な雰囲気じゃ。
さて、折角じゃから小舟なぞ作っていくか。
翼を付けるらしいぞ。どのようなものにしよか。
やはり強そうなのがよい。あとかっこいいの。
鉱石は赤にしよ。おやせーちゃんは速そうな…あとで勝負じゃな!
そいえば、『勇者様の恋文』というらしいなこの祭は。
この小舟に恋文でものせたんじゃろか。
そいえばせーちゃんは硯箱よな。とゆことは、恋文書く手伝いも多々したりしたんかの?(によによ)
わし? 書いたこと、あるぞ。まぁこっぱずかしくて燃やしてしもたけど!
あんなんもう書かんぞ!
ええー、若気の至りじゃて…
筧・清史郎
らんらん(f05366)と
ゴンドラに乗るのは初めてだが
迷路の如き洞窟をこうやって進むのは、なかなか心踊る
ランプの燈火が水面に映るさまも、趣きがあって良いな
小舟作りか、面白そうだ
らんらんは強そうなものにするのか
では俺は、速く進みそうな尖鋭な翼にしよう(器用に作成
鉱石は青を
勝負も受けて立とう(微笑み
『勇者様の恋文』か
勇者も、想いを乗せた小舟をこうやって流したのかもしれんな
由来など詳しそうな人がいれば話を聞いてみようか
恋文か。そうだな、そういう書簡を目にすることは多かったかもしれない
そう言うらんらんは、恋文をしたためたことはあるのか?
ほう…あるとは、興味深い
その話、詳しく聞かせてもらおう(雅な微笑み
●
「のぅ、時にせーちゃんや」
トラヴィントの祭は大賑わい。
――不思議な雰囲気じゃのう。
――ランプの燈火が水面に映るさまも、趣があってよいな。
洞窟の入り口から、町の中心部までのゴンドラ旅。色も形も様々な鉱石ランプが天と地の両方へ光落とす風景をゆらり堪能した結果、
「どうした、りんりん」
「ちと狭いと思うんじゃけど」
終夜・嵐吾(灰青・f05366)と筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)は、二十歳を過ぎた長身の男二人で囲むには少々物足りないサイズの作業台を割り当てられてしまった。
しかし、置かれた状況に首を傾げるのは嵐吾だけ。清史郎の方はあくまでも目元涼やかに「そうか?」と返し、しゃっしゃっとリズミカルに彫刻刀を滑らせ続ける。
となれば、他人を甘やかす事を覚え、生き甲斐ともする嵐吾にだって否やはない。
「まぁ、せーちゃんがいいんなら構わないんじゃが」
と、ゴンドラランプ造りを再開すると、木彫りの方へ心を注ぐ。
果たしてどんな小舟に仕上げよう?
「やはり強そうなのがよい。あとかっこいいの」
ぼろぼろ嵐吾の口から零れて来る未来図に、清史郎はふむと一つ頷き。
「では俺は、速く進みそうな先鋭な翼にしよう」
思い描く姿に声で形を与えた途端、琥珀の瞳と赤い瞳が視線を交わせ――ぱちりと火花が散った。
「ほほう。せーちゃんは速そうなのか……となれば、あとで勝負じゃな!」
作業台の脇に据えた籠から、幾本もの剣が束になったような燃える赤を嵐吾は選んで、口元をニヤリと吊り上げ、
「勝負か、受けて立とう」
清史郎は一本槍を思わす青を手に、ふふと微笑む。
近い距離が二人をそうしたのか、それとも男とはかくあるものなのか。双方そこそこに大人なはずが、物作りに耽るせいもあってか春の青さが幅をきかせてゆく。
しかも今日は恋の祭日。『生涯、告白さえしなかった勇者様の恋心を、町の人たちが翼をもつ舟に乗せて想い人へ届けようとしたことが祭の始まりなんじゃ』と、ドワーフの彫刻師に語られてしまえば、後の展開は知れたもの。
「そういえば、せーちゃんは硯箱よな?」
ヤドリガミたる友の本体を思い出してしまった嵐吾の目が、きらり。
「とゆうことは、恋文書く手伝いも多々したりしたんかの?」
によによ、と。隠しきれない好奇心が嵐吾の顔を輝かせる。だって、恋文だ。恋を綴った文だ。これを突かずして、何を突くというのだ!
甘い文面があったろうか? それとも酸っぱい? 主に取られ、したためる時の清史郎は如何な心地であったのか。想像するだけで楽し――ではなく、興味深過ぎる。
黙っていれば十分イケメンな筈の嵐吾の顔は、最早台無し。されどこの時の嵐吾は、大事なことを失念していた。それは、眼前の男は立ち振る舞いこそ雅なものの、裡にはしっかり旺盛な好奇心を飼っているということ。
「恋文か。そうだな、そういう書簡を目にすることは多かったかもしれない――ところで、そういうらんらんは、恋文をしたためたことはあるのか?」
「わし? 書いたこと、あるぞ」
うっかり答えてしまったのが運の尽き。特大のブーメランが華麗な弧を描き、嵐吾を襲う。
「ほう……あるとは、興味深い」
す、と。花舞う袖のたわみを正す素振りで、口元に三日月のような弧を描いた清史郎は僅かに嵐吾へ顔を寄せる。
「その話、詳しく聞かせてもらおう」
「え。え。いや、こっぱずかしくて燃やしてしもうたけど! あんなんもう書かんぞ!」
「あんなん、ということは。内容は憶えていると――」
「あーあーあー! あんなのは、若気の至りじゃて……っ」
童心に返った男たちの一日は――長い。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
メーリ・フルメヴァーラ
ユニ(f04544)と
わあああ…!!
洞窟って多分初めて入った
中に街がある!すごい!
感激いっぱい浪漫もいっぱい
きれいだねって笑顔ほどける
水晶の鉱石ランプを小舟に乗せて
お見送りしようってユニに笑う
こいぶみ、
私書いたことないから勇者様の気持ちは
わからないなあって思うんだけど…
でもそうやって思いを伝えたいくらい
大事な人がいるって素敵だよね
街中に勇者様の名残りがないかなって眺めるも
すぐ隣のユニに視線が戻る
探すなら一緒がいいな!
だから小舟もユニのと一緒に水面へ
いつか大事な人が出来たら
一番に私に教えてねって
内緒話みたいに耳打ちする
翼があるならどこまでもいけるね
きっと私たちもそうだよ
手を繋いで小舟を見送ろう
ユニ・エクスマキナ
メーリちゃん(f01264)と
え?え?洞窟の中に街!?ホントだ!
不思議!でも素敵!綺麗!
ランプを乗せた小舟も綺麗でうっとり
流れる様もきっと綺麗なのね
うーん…ユニもまだよくわかんないな
勇者様の大事な想い
ちゃんと伝わったのならすごく幸せなことなのね
いつかユニも真似っこしちゃおう!
もちろん、一緒に探そう!
2人で探せばきっと発見も2倍になるのね!
何があるかな?
メーリちゃんの内緒話にちょっとしょんぼり
ユニ全然そんな予定ない…!
でも約束
メーリちゃんもユニに教えてね
全力で応援とお祝いする準備はバッチリなのね!
バイバイって手を振って小舟見送って
いってらっしゃいかな?
ねぇ、ユニたちは次はどこへ一緒に行こう?
●
「わあああ……!」
すごい、すごい、すごい!
初めての洞窟探検に、口癖でもある感嘆を繰り返すメーリ・フルメヴァーラ(人間のガジェッティア・f01264)から遅れることワンテンポ。
「不思議! でも素敵! 綺麗!」
旧式の電子回路をフル回転させるユニ・エクスマキナ(ハローワールド・f04544)もイチゴ色の瞳に鉱石ランプの光を映す。
入り口は、岩山にぽかんと口を開けただけに思える洞窟だった。
しかし水先案内人のゴンドラに一度乗ると、瞬く間に印象は変わる。沈み行く暗がりは人の営みに溢れる街並となり、太陽代わりの無数のランプがそれを鮮やかに浮かび上がらせていて。「きれいだね」と見交わされる少女たちの顔は自然と綻ぶ。
水路端に設えられた木製の小道をゆるゆる歩けば、優しい灯を放つゴンドラランプが幾艘も目に留まる。
人を運ぶゴンドラの合間を縫って流れる小舟たちは、水面に落とす光までをも宝石のように小刻みに煌めかせ、メーリとユニの感動をまた誘う。
だから、この光の中に。自分たちで作ったゴンドラランプをご一緒させたくなるのは、砂糖菓子のような年頃の少女たちにとって当然のこと。
――でも、その前に。
「ねぇ、ユニは『こいぶみ』って書いたことある?」
やはり思いを馳せたくなるのは、勇者様の恋心。
ランプ造りを習った細工師お勧めの『風の泉』を目指しつつ、メーリはやや斜め上へ視線を放って考え込む。
「私、書いたことないから勇者様の気持ちはわからないなあって思うんだけど……」
「うーん……ユニもまだよくわかんないな」
メーリの脳内に並ぶ疑問符は、ユニの思考回路に溢れるものと同じ。
しかし、死後に町の人々が風に乗せて運んであげたいと思ってしまうほど、生涯告げることがなかったとされる勇者様の恋心は、とても尊いものな気が――するから。
「大事な人がいるって素敵だよね」
「そうだね。想いが通じ合うのは幸せなことだもん。いつかユニも書いてみようかな!」
達した結論に、メーリとユニは並ぶ笑顔を蕩けさせ。そこでふと、メーリが気付く。
ユニは、「いつか」と言った。
それはつまり、そういう未来を全く想像していないわけではないということ。
「ね、いつか大事な人が出来たら」
辿り着いた風の泉の畔。膝を折りながら、浮かぶ沢山の小舟やゴンドラからメーリはユニへ視線を移す。
「一番に私に教えてね?」
「っ! ユ、ユニ全然そんな予定ない……!」
内緒話をするみたいなメーリの耳打ちに、ユニは反射で立ち上がりかけ。直ぐに思い直して、視線の高さをメーリと同じにする。
「予定は、ないけど。でも約束。一番に、メーリちゃんに教えるね。だからメーリちゃんも、ユニに教えてね」
全力で応援とお祝いする準備はバッチリなの、とユニは両の手をきゅっと握って気合を示し、また笑う。
そうやって二人一緒に、メーリは二人の小舟を水際へそっと放つ。
「いってらっしゃいかな?」
音もなく地底の波に導かれていく小舟を、ユニは立ち上がって「バイバイ」と手を振り見送る。
「翼があるならどこまでもいけるね」
メーリは、希望を呟き。自身の髪と同じ色彩の鉱石に想いを託す翼の舟が描く軌跡を、すっくと起って見つめ――ユニの手を握った。
「きっと私たちもそうだよ」
例え翼はなくとも、駆ける足でどこへでも。
次は一緒にどこへ行こう。一先ずはかの勇者様の痕跡探しだろうか? いや、それだけでなくて構わない。
だって二人で探せば、発見も二倍。
世界は両手を広げてメーリとユニのことを待っている。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第2章 冒険
『竜の喉元』
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POW : 気合で進む
SPD : 手早く進む
WIZ : 賢く進む
👑11
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●奇跡の風
――一途と言えば聞こえはいいけどね。勇者様は、最期の最期まで意気地のない男だったよ。
だってそうだろう?
惚れた女がいたんだ。想いの一つくらい、告げりゃあ良かったんだよ。
だのに勇者様はそうしなかった。
幾ら聞いても、だんまりを決め込んでさ。
風の吹く方向を、遥か高みを見上げるその背中が、ぜぇんぶ語っちまってるってのに。
好きな人がいるんだって。
空に近い場所に、いるんだって。
そのお方を堪らなく好いているんだって。
まだるっこしいったらないよ。理解できないったらありゃしない。
けどさ。あたし達はそんな勇者様が大好きだった。爺になってもずっと一人の女を想い続けたんだよ。生涯、誰とも契りを交わすことなくさ。可愛いだろう?。
だからね、あたし達は永久の眠りについた勇者様に悪戯をしかけたのさ。
町の奥の奥、天へと昇る竜がごとき縦穴――竜穴。
ここならきっと、勇者様の心を虹の想い人のところまで届けてくれるだろうってね。
その為にあたし達は風を吹かすんだ。だって風はどこまでも吹いてゆく。そしたらいつか、必ず届けてくれるんだ――奇跡の風だよ。
勇者様は慌てるだろうねぇ。
ああ、苛め過ぎるのも良くないね。それなら、せめて――……。
●天への竜穴
――勇者様の事が気になるなら、ゴンドラランプを追えばいい。
『勇者様の寝床』と呼ばれる水路に長く佇み、壁面に遠慮がちに残された誰かの言葉を読みふけっていた老婆が、猟兵たちへそう教えてくれた。
斯くて猟兵たちは水に揺蕩う鉱石ランプの光を追い、開放された水門を幾つも潜り。
そうして普段は町の住人以外は立ち入れぬ町の最深部――『勇者様の恋文』たるゴンドラランプが集う地底湖へとやってきた。
ただの地底湖ではない。天井がないのだ。ずっとずっと上まで、穴が続いている。
巨大な穴の壁面には、びっしりとヒカリゴケが生えていた。トラヴィントの特産品の一つでもあるそれのおかげで、視界は仄かな明るさを保っている。
が、無数のゴンドラランプとヒカリゴケの両方分の光が合わさっても、大穴の果ては見通せない。
かつて誰かが上を目指したのだろう。壁にはぐるりと螺旋を描く階段があった。登り続ければ、いずれ『果て』に辿り着くことは出来るだろう。
ところどころに横穴らしき影もある。そこを調べれば勇者にまつわる何かに出逢えるかもしれない。
きっと自然が作った大穴を、勇者を慕った者たちが、想いを届ける為の地として選んだのに違いない。
されど此処には風がない。
祭で耳にした、目にした、想いの翼を運ぶ風がない。
春を告げる風は町中に吹いていたのに、ここにだけ風がない。
最も風を欲しているはずの場所なのに。
もしこの大穴を、上へ上へと飛んだなら。その風に出逢うことが出来るだろうか?
螺旋の階段を辿っていったなら、風を吹かすことが出来るのだろうか?
答えは知れぬ。
ならばゆく道は一つ。やれることをやればいい。そうやってかつての勇者たちも未来を切り開いたのだろうから。
――『竜穴』と言うらしい。
大穴の名を、二人の猟兵が知っていた。
なるほど、天へと昇る竜が如き大穴だ。
空へと伸びる竜穴は、ただ探検するだけでも楽しいだろう。
螺旋を描く階段は、人間の大人二人が並んで歩ける程度。途中の洞は幾つもあるが、全部を眺めて回ってはキリがなさそうだから、『心』に任せ踏み入るのがいいだろう。もしかしたら、その心に沿う出逢いがあるかもしれない。
だが、ご用心?
階段には柵がない。
転がり落ちたら、ゴンドラランプが漂う地底湖まで真っ逆さま!
クロト・ラトキエ
【再】
風は何処へも上り行く――
なのに今は、風が無い。
昇る竜も鳴りを潜め、ただ天への口を開けるだけ…と。
夢とロマンに満ちた行く先に、往く道が無いでは味気ない。
…なぁんて、消沈ぶってるだけじゃ芸まで無い!
こちとら猟兵、飛び込んでナンボ。
先があるならそれを目指すし、手が伸ばせるならそれを掴む。
それが、僕ですから♪
手を壁に沿い、もう片手にはゴンドラランプ一つ。
足元とバランスには気を付けつつ、万が一へのワイヤーも用意しつつの、
風に代わって上へ、上へ。
横道よりも今心惹かれるのは、誰かの見た『果て』。
風の行く先。
竜の目覚めか、或いは――
そこに待つものに、笑み向けてみたいのですよ。
あなたに会いに来ました、とね
誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)
【再】
竜穴、ね
勇者様は竜にでも恋をしたのかしら?
それとも、逆?
親近感、ねぇ……それ以上にリィと絶対離れたくない気持ちの方が強いわねぇ……
ちょっ
リィ!離さないで!湖に落ちちゃうわあたし!
…空中戦、で飛べはするけど
あたし、自分の翼はあまり好きじゃないのよね
風にのせて想いを届けていたのなら、風をまた吹かせてあげたいわね
愛が届かないのは、とてももどかしいわ?
優しいリィの言葉に微笑んで、撫でたいけど手は離せない
登っていけばわかるなら登りましょ
そうね
リィと一緒なら怖くないわ!
あたしの可愛い王子様だものね!
得意げな人魚に微笑む
なんて可愛い人魚なの
だからあたし、おちちゃったのね
あなたに
コノハ・ライゼ
たぬちゃん(f03797)と
時々湖覗きこんでは綺麗ねぇ、と零しつつ階段上り
登り疲れた辺りの横穴を見てみようか
あれこれ聞かれても適当返事で流しつつ
語り継がれる痕跡を、目を凝らして耳を聳てて探す
随分シャイな勇者サマだったようだし
ここは想いの隠し場所だったり?
で、たぬちゃんはそんな恋バナない訳
……って、うそぉ、もしかして傷抉っちゃった系?
と顔を覗くも合わせぬ目線に溜息零し
ゴメンゴメン、勇者サマみたいなお話じゃナイって事か
でもいつか、それさえも笑って話せる日が来るといい
傷なんてのは、大事に抱え込んでたってイイこと無いンだから
もし風が吹かぬ原因が見付かれば、取り除けるといいね
不意に話し逸らして
リル・ルリ
■櫻宵(f02768)
【再】
「櫻宵、大きい穴だ。竜の穴だなんて。櫻宵、君も竜だろ?親近感とか何か、わく?」
僕は穹を游ぐし湖に落ちても全然大丈夫なのだけど
彼は違うようで
さっきから僕にぴったりがっしりくっついてくる
…別に嬉しいからいいんだけど
游ぎにくい
離さないよと苦笑して
僕の櫻の手をしっかり繋ぐ
「そう?僕は君の翼
綺麗で、大好きだけど」
はらりと舞う桜。嗚呼、風があればもっと綺麗なのに
「想いが届けられないのは
寂しくて嫌だな」
だからまた風を呼ぼう
僕の歌でも呼べるけど、それはきっと違うから
……愛が届くことは
こんなにも幸せだもの
上へ上へ
君の手を握って
ふふ、わくわくするね、櫻宵!
そうさ
僕が守るからこわくないよ
火狸・さつま
【再】
コノf03130と
お空、見えない、ね
ぼんやりと見上げ
仄かな光も湖も
何処か幻想的な光景
落ちないように気を付け階段上る
適当なところで気になった横穴へ
何があるのかな、と。わくわくキョロキョロ
ねーねー、コノー、あれ、あれなぁに?
触っちゃ、ダメそ…?
あ、奥にも、何か…見えたような?
大切な、想い出の、数々、の、記録…かな…
風の通り道、何かで塞がっちゃったの、かな
この無数の横穴から縦穴へ向けて吹き込んで
上空へ流す構図かと思ってたんだ、けど
なにか、ない、かな、原因
何とか、出来ると、良い、な
Σ?!
突然の話題にビクッと
あー…う、うん…?
わ、わすれ、た、かな
なんて嘯いて視線ふらりふら
コ、コノちゃんの初恋、は?
オズ・ケストナー
【再】
カスカ(f00170)と
壁がひかってる
ふしぎ
ね、カスカが気になる横穴があったら入ってみよう
そっちをよく見ていてね
と壁側を歩いて貰って
たくさんのゴンドラランプ
トラヴィントの人たちが作ったものとはちがう?
どれも翼が似た形をしている気がする
ランプの色も?
とびたつ?
あっ
舟に翼をつけたのってもしかして
やっぱり伝えたかったのかな
勇者の気持ちは
風に乗って翼をはためかせて
空に近い場所に飛んでいくんだね
この先に勇者の好きな人がいたらいいね
そうしてのぼりきった先に
青い空と虹があったらもっとすてきだなあ
想いが届いて慌てた勇者が、最後にはみんなに笑顔を見せる
そんな物語だったらいいな
勇者の好きな人も
みんなが笑顔で
終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と
はー、上へと向かっとるの!
こういうところを辿るのはなかなかどうして、楽しそうじゃ
なぁ、心躍るの!
二人で並んで歩くはぎりぎりか、落ちんようにせんとな…
……脅かしたり、押し合いは無しぞ?
気の赴くままに、横穴を覗き込んだり入って見たり
明るいのはありがたいの
しかし上へ上へ。終わりがみえんからのー、いつまで登るのか
もしや地上にまででてしもたり?
さてさてどこへ導かれるのか、楽しみじゃ
ん? なんじゃー? ふおあっ!?
せせせせ、せーちゃん!まんと!おちる!
咄嗟に手を掴んで、せーちゃんなら堪えられる!
もー、気をつけとくれよ
わしも尻尾でそいってせんように気を付けるからの!
筧・清史郎
らんらん(f05366)と
竜穴か、まさに竜が出入りしていそうな大穴だな
そして見上げれば、やはり疼く好奇心
風に出逢いに、果てまで
いざ上へ上へ
共に参ろう、らんらん(楽し気
二人並ぶとギリギリか
慎重に進まねば
勿論だ、地底湖まで転がり落ちるのは御免だからな(雅な微笑み)
横穴か、少し覗いてみよう
ふむ、これは…
「らんらん。これを…」
ふと振り向き声を掛ければ…ん? らんらん?
…!?
手を掴まれバランスを崩すも、何とか持ち直す
危うく、真っ逆さまに落ちるところだったな
事なきを得てよかった(微笑み
そして横穴で見つけたものに笑む
さぁ、もうすぐ果てだ
そこに想いを乗せる風は吹いているのか
果たして何が待っているか、だな
サン・ダイヤモンド
【再】【森】
街の名の由来を呟いて両手を広げ
「風が止んだね」
これじゃあお手紙、届かない?
誰かのゴンドラランプを一つ掬って
風を探しに行ってみよう
基本は上へ上へ
もし心惹かれる横穴があればブラッドを誘ってそちらにも
好きなのに、一緒にいられないのは寂しいね
会いに行かなかったのかな
どうして「好き」って言わなかったのかな
ブラッドが落ちないように、どこかに行ってしまわないように【手を繋ぐ】
「好き」って、言えれば良かったのにね
(お手紙を――あなた(勇者)の気持ちを空へ届けたら
あなたは喜ぶ?それとも怒る?
皆皆、あなたのことが大好きだって言ってたよ
ねえ、今はどこにいる?
皆の気持ち届いてる?
好きな人にはもう逢えた?)
ブラッド・ブラック
【再】【森】
可能なら寝床壁面の言葉を調べ、地底湖へ
この穴が空へ繋がっているのなら風が吹いてもおかしくはない
通じていないのか
風があっても水路に浮かぶこの舟が穴を昇る事はできないだろう
事情を知る者がおれば訊き、自らの足でも確かめる
サンを壁側に、時折気遣い、階段をゆく
……怖かったのかもしれないな
相手を困らせてしまう事が
拒絶されるかもしれない事が
自分では釣り合わないと
(拒絶、否定、喪失、俺は諦めていた
なのに、お前に出逢い、救われた)
それとも何か別の理由があったのか
そうしたら、変わっていたかもしれないな
(お前には傷付いてほしくないと
幸せになってほしいと思う、だが
綺麗な綺麗な俺のサン、俺はお前を放さない)
ユニ・エクスマキナ
【再】
メーリちゃん(f01264)と
天空まで伸びるような竜穴を見上げ、唖然
すごいのね…
風なんてないのに、吸い込まれてしまいそうで
思わずメーリちゃんの手をぎゅっと握り締め
行ってみよう!
ランプ片手に階段を登り
落ちたら大変だから、しっかり手を繋いで
最初は恐々ビクビクしながら歩き出すけど
すぐに楽しくなって足取りも軽く
ねぇ、この洞穴なにかな?
気になるのね
ちょっと寄り道してもいい?
ランプで照らして覗き込んで
あれ?もしかして勇者様…!?
風が全くないのも変な感じ
上まで行ったら風も吹くのかな?
優しく吹く奇跡の風は、きっと勇者様の想いを乗せて届けてくれるはず
そんな風にユニも会ってみたいのねー!
リリヤ・ベル
【再】
ユーゴさま(f10891)と
ユーゴさま、ユーゴさま!
すごいです。たかいです。どこまで続いているのでしょう。
はい、のぼってみたいです。のぼりましょう。
のぼりましょう。
の・ぼ・り・ま・しょ・う!
ぐいぐいと袖を引いて、螺旋階段へ。
彼の心境を察することもなく、楽しげに跳ねる足取りは軽く。
たいへん元気。
ずっと、ずーっとです。
だって風が吹かないのです。
ふさいでいるものがあるのかもしれません。
こころをお届けしなくては。
……むむ。仕方がありません。
勇者さまも、こうして休憩されたのでしょうか。
洞を覗き込んで、何か無いかきょろきょろと。
降りるときは、降りるときに考えましょう。
もうひとがんばり、えいえいおー。
グァーネッツォ・リトゥルスムィス
【再】
惚れてるのに告白しないとは……恋って摩訶不思議だ
勇者本人が決めた事に首突っ込むのは十分失礼だが、
それでも天空の想い人に勇者の想いを伝えたいぜ!
という訳で地底湖に流れ着いたゴンドラランプを幾つか拝借し、
オレの背中に括り付けたバッグの中に入れていざ竜穴を登るぜ
ただ登るだけじゃさすがのオレでも体力切れするだろうから
『朽ちぬ闘魂』で身体能力を増大させる為に逆立ちで螺旋階段を登るぞ
途中で階段が崩れてたら片手で壁を掴んで登り、
急な強風が吹かないか野生の勘を随時働かせておくぞ
横穴も気になるが、天空の想い人へゴンドラランプを一番乗りで届けたいから寄り道せず直行だ!
勇者の、トラヴィントの人々の想いよ届け!
ルーナ・リェナ
【再】
リュカ(f02586)と同行
わあ……星の中にいるみたい
恋ってどんなものなんだろ
誰にも伝えないでそっとしまっておくと
なくさないでいられるって聞いたことがあるからそうしたかったのかな
綺麗なまま、そのままにね
うん、登ろっか
リュカの横を飛びながら、気になるところがあったら服を引っ張る
ねえ、リュカ
ここ行ってみたい!
えっとね、もふもふがいっぱいいそうだったり
おいしそうなものがいーっぱいだったりしそう
リュカは?
前にそんなこと言ってたよね
じゃあそこも行く!
寄り道いっぱいって楽しそう
行けるところは行ってみたいよ
他にはどんなものに出会えるかなぁ
フィオリーナ・フォルトナータ
とても素敵だと思いますよ
ただ一人を想い続ける…叶わなくとも、その想いは、とても美しいものですから
それにしても、ここから登るというのはまた骨が折れそうですね
ですが、きっと勇者様も辿った道…
そうでなくとも、冒険とは心が踊るものです
高みにゆくための覚悟を胸に、気合いで階段を登りましょう
お知り合いの方がいらっしゃったら、頑張りましょう
途中の洞で適度に休憩をはさみつつ
誰かが残したメッセージなどはありませんでしょうか
それこそ愛の誓いですとか…何らかの幸せの形が残っていれば、嬉しいです
どなたかいらしたらお水やクッキーなどもありますから、召し上がって下さいね
休憩を終えたら、皆で
風を、吹かせに行きましょう
紅庭・一茶
☆情報収集
――でも、どうして勇者さんは
本当に御届けする事はしなかったのでしょう?
紅庭は物故に愛し君に届けられずでしたが、
勇者さんは 御届け出来た筈なのに…
地底湖に浮かぶ無数の灯は、
勇者さんが生涯抱いた侭で居た想いの様
胸抱く娘の灯でも照らしつ洞を覗いて、
知りたいと云う心の侭に探索を
少々恐々な足取りも、
皆さんを眺めれば何時しか勇気を伴って
本当に理由は意気地の無さだけ?
想い人を誰かにと語る事もせずに
高みへ吹く風の先に、
何故 想い馳せるだけであったのか
其処に他に理由があったのなら、
紅庭は其れを 知りたいのです
――其れを知れたのなら、
きっと どんなものであっても
人は愛しきもの 何て想うのでしょう
ユーゴ・アッシュフィールド
【再】
【リリヤ(f10892)】と
……まさかとは思うが、登りたいのか?
そうか、俺はここで待つ。
ダメか?そうか……
分かった、登ろう。
随分とロマンチックな場所だが、並び歩く相手がお子様ではなんとも
気分が盛り上がらない。
などと言うと、多分拗ねるだろう。
言わずに心に秘めておこう。
なぁ、リリヤ。
どこまで登るつもりなんだ?
果てまで行く気か?行く気なんだな。
適当な所で休憩しよう、そこの洞辺りでどうだ。
そうそう、勇者様も多分休憩したと思うぞ。
そういえば、降りるときはどうするんだ。
周りを見渡しても、螺旋階段と洞しかない。
……登ったのは失敗だったな。
朽守・カスカ
【再】
オズ君(f01136)と
仄かに光る壁
…不思議な景色に惹かれるように
階段を上がろうか
壁側を歩かせてくれる
オズ君の優しさに礼を述べつつ
少し、無粋かと思ったけど
灯を絞ったランタンで
足元を照らし登ろう
横穴に、どんなものがあるのだろうか
高いところにあるもの一つ
覗いて確かめよう
気になるものも
幾つかあるけれど
それよりも横穴から
沢山のゴンドラランプが揺れている様子が綺麗だ
こんなに沢山抱えた想い
それでも伝えることのなかった想い
どうしてなのだろうと考えるけれど
答えは見つからない
優しい想いがそうさせたのだといいね
ああ、気をつけてオズ君
もしかしたら風に乗って
ゴンドラランプに込めた思いが
飛びたつかもしれないから
メーリ・フルメヴァーラ
【再】
ユニ(f04544)と
すごい!
ぽかんと口を開けて見上げてたら
埃が口の中に入っちゃいそう
でも本当にすごいの!
ユニの華奢な手をぎゅっと掴んで
…うん、大丈夫!
ユニと一緒に竜穴を登っていこう
ランプが照らすヒカリゴケがきらきら綺麗で
つい目を向けちゃうけど危ないから
繋いだ手に力を籠めて慎重に進むんだ
でもね
ユニと一緒だしわくわくするしで
すぐに足取りも軽くなるの
わ、気になるね!
寄り道しようしようと大賛成
勇者様の面影を辿ってみたい
空に近い場所に好きなひとがいるんだ
じゃあ向かいたくなるよね
もっと上に行けば風も吹くかも
そしたら思いも届くかも!
メーリも会いたい!
ユニと一緒に会いに行こう
だからふたり一緒に
前へ上へ
フィリア・セイアッド
●プレイング
【再】
「勇者様」ですもの きっと困った人を沢山助けた立派な方だったのね
それなのに 大好きな人に好きだと言えなくて…
だけどずっとずっと その人のことを想っていた
ふふ 本当に「つよくてかわいい」勇者様だわ
だけどそれなら、想いを届ける軌跡の風が吹くはずなのに…
「WIZ」を選択
どこかに 風を吹かせる秘密があるのかもしれない
探してみましょう
勇者様の気持ちを届けられますよう 小さく祈る
教わった歌を口ずさみながら 階段を上る
第六感も使い 音の反響や空気の流れ、匂いで何か違うと思う洞があればのぞく
ネズミ等小さな生き物がいれば 話しかける
どうして風が吹かないのかしら
何か知っていたら教えて?
泉宮・瑠碧
【再】
…相手が素敵であればある程
勇者は、相応しい自信が持て無かったのかもな
風は常に吹かせている訳では無いのだろうか
今は祭りだから
吹かせていてもおかしくはない筈
水と風なら得意ではあるが…
今だけ吹かせても元を直さねば意味がないな
光が全く届かないのは
風の通り道が塞がれているのか…?
周りの横穴も気にはなるが
僕は風鳥飛行で上へ飛んでみる
…君も風だから
此処を共に舞い上がる事が出来たら心地良いかもしれないな
そう風の鳥をそっと撫でる
空の光は遠過ぎるだけだろうか
近付けば光は見えるのか…
到達出来れば風が吹かない理由を探してみよう
封鎖ならば何で塞がれているかも
途中
もし落ちそうな者が居れば
階段へと戻せる様にはしておく
テン・オクトー
【CSF】アンシェさん、ルルエリさんと参加(呼び方:アンシェ姉さん、ルル兄さん)
勇者様の寝床の壁面に言葉があったの?ゴンドラで連れて行ってもらったけどボク見れてたかな?
POW
ゴンドラランプとヒカリゴケの光だけなんていい雰囲気!冒険だね!アンシェ姉さんにつられて駆け出してわーい!いくばか登ってランプが遠くになった頃…
あわわ!姉さん危ない!
落ちそうになった姉さんをUCで助けようと…。
ご先祖様と竜巻の風でふわりと姉さんを持ち上げて…
届いてよかった!どきどき!
手持ちのランタン掲げて慎重に登る事に。あ、よく見たら横穴があるね?入ってみようよ。何か見つかるといいな。
アドリブ歓迎
詠唱唱えても唱えなくても
アンシェ・ローム
【CSF】の二人と
ここに風が吹いてないと、勇者様の気持ちが想い人へ全然届かないのですわ。街の人たちの想いもここに留まっちゃってるのは寂しい……。
うん、わたくしも勇者様の恋をお手伝いしますわ!どうにかして風を吹かせる方法を見つけたいですわね。
「二人とも、上まで競争ですわ!」
そうとなれば、絶対上が怪しい!きっと何か大きなものが穴を塞いじゃってるのですわ!あっ暗くてちょっと足元が見えな……
「あ〜ビックリした!ありがとうテンちゃん」
上まで登るのは諦めて洞の方へ。
「光るちょうちょ」を離して、中を調べてみますわ。
寝床に近い場所ですから、勇者様が何かを残していないかしら?〈聞き耳〉〈暗視〉
シャルロット・リシュフォー
【再送です】
……はわー?はわわ?
この穴を……登るです?
「け、結構大変そうですの……」
でも進まないことには先に行けませんものね
横穴を見て回りながら、観光のつもりで歩くです!です!
「全部はとても回りきれない数があるって言ってました……程々に抑えて、先に進まないといけないですぅ」
「これは……なにかのレリーフです?です?」
あっちこっち目移りしつつも、先へ先へと進んでいきますぅ
「この穴の上にあるものが、勇者様の伝説にまつわる物なのか……せっかくここまで来たのですから、確かめないとですね!」(ふんす)
【アドリブ等大歓迎】
ロー・オーヴェル
【再】
そりゃあ理解不能は当り前
好きだの恋だのは心の動き
「心の動きを頭の働きでどうにかしようなんて、頭がどうにかなっちまう」
●
基本的に階段利用
同時に壁がハーケンを打てる強度か確認
打てるなら自分が邪魔な際に壁に打ち
そこにロープを結び付け退避場所に
状況次第で壁をハーケン&ロープ活用し登攀
途中の洞で適宜休憩しつつ登る
もし落ちたら?
死ななきゃ肉体を登らせて
死ねば魂だけを昇らせるさ
気合も早さも賢さもない登り方だ
でも人はやれることしかやれないのさ
●
想いは風に乗せて……とはロマンチックだが
もしかしたら風は『届けない』ということを選ぶかもしれない
「人の秘め事を勝手に届けるような風は、風上にも置けない……ってね」
静海・終
ふふ、丸いペンギンは居ませんでしたが
優しくお節介な町人のいるとてもいい場所でございますね
そしてランプのたどり着いた場所はこの大穴
しかし思いを届ける風は何処へ行ってしまったのでしょうか
探しに行きましょう
気に入ったらしいランプを抱えた涙を抱えながら上へと
涙の抱えたランプの明かりを頼りに横穴も覗き込む
にぃーっと鳴く涙を撫でながら物語に思いを馳せて
何が隠されているのでございましょうか
恥ずかしがり屋な勇者さまの思い出か思い人の手がかりか
翼を持つランプはここに集まり翼を使い思いを飛ばしてくれたのか
勇者さまの気持ちと町人のたくさんの優しい気持ちはその人に届いたのか
気になりますね、とても優しい物語
ユルグ・オルド
【再】三艘
はァ、こりゃまたどうやったもんかね
掘ったんだか穿ったんだか
見晴かし凝らして尚、遠い
ああ、止まる時は墜ちる時だ
やっぱやめたは無しだぜ
……そりゃア、落ちませんとも
手くらい取るさと笑いながらの
とんとんと足音軽く
光る螺旋を一段飛ばしで
上へ棚引く紫煙の先まで
綾の物言いに笑いながら
そうね、勇者様ご一行もどっかの場所を
並んで考えて冒険したかね
そしたらもちろん、詞波もだって
踵反して振り返り眼下を見下ろせば
ここに風があんなら飛び込みたいね
きっと羽根がなくても飛べる、
だからそう、微かでも風の気配を感じるなら
惹かれるまま望むまま、躍る心の向くままに
ね、追い掛けてみたくはならない?
リュカ・エンキアンサス
ルーナお姉さん(f01357)と
…また綺麗なところに出たな
本当だ、星みたい
恋とか愛とかはよくわからないけれど、この場所の綺麗さは本物だから
きっと、その思いも綺麗なものだったんだろうね
…って、わけで、登りますか。
地道に階段を登りながらも、時々横穴にも飛び込んでみる
心に沿う出会いって、なんだろうね
ルーナお姉さんには、何か出会いたいものがある?
俺は……。そうだな。あるにはあるけど
巨大生物とか。かっこいいの。乗れるとなおいい
もふもふ?美味しい出会い?あはは、お姉さんらしいね
そうだね。全部探そう
寄り道は好きだから、ルーナお姉さんに引っ張られるままに右へ、左へ
いらんところまで首を突っ込んで、遊び倒す
清川・シャル
【再】f08018
恋人のカイムと
ゴンドラランプにヒカリゴケ…
幻想的で、綺麗…
逆に…勇者様へ宛てた想い、なんて…
あったりするんでしょうか?
きっと慕われたんだろうし、あってもいいと思うんです
そう信じたいな?
第六感、野生の勘…視力、失せ物探し
竜穴をアタリをつけて探してみます
地形の利用、で軽やかに登って行きましょう
カイム、早く来ないと置いて行っちゃうよ?
笑いかけながら振り返って
落ちないように風魔法でガードを
どんな形で残ってるかは分からないけど…
暗号だったり?
ストレートな言葉?
もしかしたら花で、花言葉だとか…
一緒にこの景色を見れて、同じ空間に居て…
隣に在れる。
…とても、贅沢な時間だなぁって、思うの
カイム・クローバー
【再】恋人のシャル(f01440)と行動。
街の人に好かれてたんだな、勇者サマ。どういう男か一度会ってみてぇな。 竜穴とやらにはもしかすると、その勇者サマの想い人に当てた想いか何かがあるかもしれねぇ。勇者サマが赤面するような想いももしかすると…?ハッ、俄然興味が湧いてきたぜ!!
【P】
時間ねぇし、片端から探すって訳にはいかねーんだろ?【情報収集】【追跡】で勇者サマの想いが探せりゃ良いが、なんせ時間が立ち過ぎてんだよなぁ…。やるだけやったら後は勘だ。シャルがどうしても見たいらしいし、俺としちゃ叶えてやりたいトコだが。
見付けりゃ、興味津々で俺も見るぜ。言葉か、もしくは品物?
なぁ、シャル、どう思うよ?
都槻・綾
【再】三艘
魅入れば足元も時も攫われてしまいそうに
見上げる穴は昏く深く
涯てなき遠い宙のよう
さぁ
脚を翼代わりに
天頂を目指しましょう
空翔ける羽は持たねども
水航る智慧も
地を渉る足も
我々は持っている
例え脱落しても
這い上がってみせますとも
壁沿いに指を添えて行けば
暗がりでは見え難い部屋の存在にも気付けるだろうか
虹の袂には宝が眠るというから
光苔の輝きが他と違う物も注意しておく
嘗ては風が吹き込んだ場所なら
地質、芽吹きや植生にも変化が視られるだろう
――いいえ、見られなくても良いのです
未知に出逢う事は、未知に遊ぶ事は
とても楽しくて
笑みを浮かべ
疲れ知らずに先へ先へと上り行く
えぇ
追い掛けて
羽搏いてみたいですねぇ
高みまで
葦野・詞波
【再】三艘
昔話の、空に至るための塔の様だな。
何処で果つるのやら、見当もつかない。
だが、二人と共ならば
空の果てまで届きそうな気はするな。
途中で脱落はしてくれるな、と。
時折一服しながら煙を空へと燻らせ歩み
合間合間の談笑に疲れも忘れ
無論耳を澄ませて音の気配には敏感に
足音一つや話し声が響き渡って行く
方角があれば知らせる
ユルグと綾の話を聞けば
第二の勇者は綾かユルグかもしれないな、と
冗談気味に――しかし、全くの戯言でも
無い様な気がして
歩む先が未知であろうと
風に導かれるままに進もうと
嗚、間違いなく心躍る一時だ。
ルルエリ・エールディール
【再】【CSF】テンくん、アンシェさんと参加。アドリブ、絡み大歓迎。
想いの終点はこんな風になってたんだね、人形、無粋な真似しちゃったなあ…危ない危ない。
これだけ皆が積み上げてきた綺麗な想いに、変なもの紛れ込ませるわけにはいかないもの。
って競争!? ちょ、ちょっとしんみりしてんだから待ってよー!
と、トランク…は、うん、船頭さんこれ大事なものだから見ててください! 待ってってばー!
二人を追いかけてってたら、アンシェさん落ちかけて!? 咄嗟に人形で支え…あ、下においてありますね、ハイ。
二人に合流、横穴はさて何が見つかるかな?
多分悪いものじゃないよね、これだけ綺麗な想いの積もる場所なんだもの。
●にゃんにゃん探検隊、いざ参る!
どうして風が吹いていないのかしら?
「町の人たちの想いもここに留まっちゃってるのは寂しい……」
しゅん、と瞳と同じ色のリボンを飾った耳を垂れさせて、アンシェ・ローム(うららかレディ・f06211)は地底湖の水面に揺れるゴンドラランプを見つめる。
ここ――竜穴に風が吹いてくれないと、勇者様の気持ちが想い人へは届かない。
きっと町の人たちもがっかりしてしまうだろう。
考えれば考える程、ピンと立っていた耳は寝始め、ふさふさの尻尾も萎れた――かと、思いきや。
女は切り替えの早い生き物。
「わたくしも勇者様の恋をお手伝いしますわ!」
風が吹かないのであれば、吹かせる方法を見つければいいのだと気付いて、見る間に元気回復。
つまりは冒険の気配。
「ボクもいくー!」
ゴンドラランプとヒカリゴケの光だけなんて、物語で読んだ冒険そのものみたい。そうテンションを上げたテン・オクトー(ケットシーのシャーマン・f03824)も、駆け出したアンシェを追い掛け螺旋階段を登り始める。
「待って、アンシェ姉さーん!」
「ふふ、二人とも上まで競争ですわ!」
怪しいのは絶対に上の方。当たりをつけたアンシェは一直線。ついでに、お転婆魂も発揮して、猫の身軽さで、てって、とっとと先をゆく。
――で、だ。
「え? え? 競争!?」
ちょっとしんみり祭の余韻に浸っていたルルエリ・エールディール(自由を手にしたニャリオネット・f13370)は、すっかり出遅れ――というより、ぽつんと取り残された状態。
あれこれ、さっきゴンドラ乗り場で二人を待ってた時と似た状況な気がする。でも今度は、待つ番ではなく、追いかける番!
「待って、待ってってばー!」
途中まで案内してくれたゴンドリエ―ラのお姉さんに、「これは大事なものだから」とトランクを預けておいて良かったと心底思いつつ、無限の一歩を階段へと刻む。
ずんずん駆け上がると、どんどん遠くなっていく湖面。徐々にゴンドラランプの恩恵は弱々しくなり、足元には闇がまとわりつき始める。
それでも人間の大人が二人、並ぶことの出来る階段幅だ。ケットシーな三人にとっては、十分な余裕がある――のは、理性が正しく仕事をしていた場合。
夢中になれば注意力は散漫になるし、上ばかり見ていれば足元は疎かになる。
と、なれば。
「あわわ! アンシェ姉さん危ない!」
「ッ!?」
右足、左足、右足、左足。アンシェはテンの悲鳴に、順々に出していた左の次の右が、地面を捉え損ねたことをようやく悟った。
「――っきゃ」
ぐらり、アンシェの体が傾ぐ。
中空へ放り出される様は、まるでスローモーション。
丸一周分遅れていたルルエリは慌ててからくり人形を操ろうとぷにぷにの両手を広げ、その指先に糸がないのを思い出す。
「あ、預けたんでしたね。ハイ」
聞こえた冷静なセルフツッコミに、テンは半泣きだった。
「ルル兄さん……とか言ってる場合じゃない。ご先祖様力をお借りします!」
『ひー』が幾つつくか分からないくらいの御先祖さまの御霊を召喚し、アンシェの元へ走らせる。
――御爺ちゃん、お願いしますっ。
果たして、テンによく似た姿のケットシーは、アンシェをふわりと救いあげ、そっと螺旋階段へと戻した。
「届いてよかった!」
ドキドキしたんだからとテンに駆けよられ、アンシェも驚愕から解き放たれる。
「あ〜ビックリした! ありがとうテンちゃん」
「ぼくも驚いたよ。気を付けて?」
そこへルルエリが追いつくと、ようやくの三人勢揃い。
どうやら急いで上を目指すのは、三人には似合わないようだ。それなら側面の洞を覗いてまわるのだって面白そう。
「ゆっくりいこう」
腰から下げていたランタンで、テンは自分たちの足元を照らし、
「勇者様の気持ちにふれる何かがあるかしら?」
競争を取りやめにしたアンシェは、光るちょうちょをぱぁと放って先の視界を確保する。
「これだけ綺麗な想いの積もる場所なんだもの。きっと素敵なものが見つかるよ」
さぁ、行こう。
今度はルルエリが二人を促し、歩き出す。
そんな三人が勇者様の最初の素敵に出逢うまで、階段にしてあと六百段ほど。
●史の洞
「すごい……!」
竜穴のあまりの大きさに、メーリ・フルメヴァーラ(人間のガジェッティア・f01264)の口は無防備にぽかん。
「メーリちゃん、お口、お口。埃がはいっちゃうよ」
「あ」
ユニ・エクスマキナ(ハローワールド・f04544)の慌てた声に、メーリは我に返って、きゅっと唇を引き結んで――ぷっと吹き出す。
「これは、登り甲斐があるね」
広がる未知の領域に、驚嘆に勝った好奇心がすぐに顔を出してしまう。
腕まくりでも始めそうなメーリの勢いに、ユニも釣られて笑顔になる。本当は、少しだけ。圧倒的な景観に、ユニの心は萎縮していたのだ。
けれど思わず握り締めたメーリの手に、ぎゅっと力強く返されたら、不安も何もかもが消し飛んだ。
「行ってみよう!」
ユニが先に一歩を踏み出し、「うん!」とメーリもすぐに横へ並ぶ。
掲げたランプの光を受け、ヒカリゴケがちらちらと瞬く様に目も心も奪われてしまいそうだけど、その度にメーリとユニは互いを注意し合う。
落ちたら危険な螺旋階段の旅路。
用心を重ねる事に越したことはない。
されど仲良し二人の息はぴったり。初めは慎重だった一歩一歩も、そのうちリズミカルになり、手を繋いだ少女たちは弾むようにとんとんとんっと階段を駆け上がっていく。
「ねぇ、この洞穴は何かな?」
ピンと来たのはユニの方。
他と比べ、とても暗いと感じたのだ。
「ちょっと寄り道してもいい?」
気になるのね、と持ちかけられれば、メーリに否やはない。むしろ、率先して、寄り道したくて堪らなかったのだ。
「うん、しようしよう♪」
そうして踏み入った空間は、比較的広くて、とても長い洞。その壁面を、ランプで照らした途端、ユニの瞳はまんまるになり、メーリの口からは「すごい、すごい!」が溢れ出す。
成程、他と比べて暗いはずだ。洞の壁一面には、どうしてだかヒカリゴケが全く生えていないのだ。代わりに、様々な絵が描かれている。
最初は赤子。それから子供、少年と経て。青年となった男は、剣を手にしていた。
そこから先はめくるめく冒険譚。
「もしかして勇者様
……!?」
「きっとそうだよ!」
鼓動を躍らせ、二人は物語を追い奥へ奥へ走る。町の中に残された壁画より、ずっと詳しく描かれたそれらは、今にも動き出しそう。
――けれど。
町へ戻り剣を置いた後は。空を見上げては、何かを作るような絵ばかりが続いていた。そんな男を慰めるよう、彼の傍らには常に風が吹いている。
「空に近い場所に好きなひとがいるんだ……」
感じ取ったままをメーリがぽつり。
うん、とユニも頷き。またメーリの腕を引いた。
「メーリちゃん、行こう!」
この絵には、こんなにたくさんの風が吹いている。だのに竜穴には今、風がない。これは絶対に「おかしい」。
上へ、上へ。天辺まで辿り着いたら、風は吹いてくれるかもしれない。
勇者様の想いを乗せた、優しい奇跡の風が。
「ユニ、そんな風に会ってみたいのねー!」
「メーリも会いたい!」
然して二人の少女は、再び螺旋の階段を駆け始める。
手はしっかりと繋いだまま。
だって新たな出逢いは、二人一緒がいいもの。
●螺旋の二人【壱】
竜穴だと聞いた。
竜だ。ドラゴニアンな誘名・櫻宵(誘七屠桜・f02768)とっては、縁ある名だと言えなくもない――が。
「櫻宵、親近感とか何か、わく?」
「……それ以上にリィと絶対離れたくない気持ちの方が強いわねぇ……ちょっ、リィってば。離さないで頂戴っ!」
湖面にゆらゆら揺れるゴンドラランプの光は、もうずいぶん遠い。ちらと視線を向けるだけで、ぞぞぞと背筋を駆け抜けていく怖気に、櫻宵は宙をひらひら游ぐリル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)にしがみつく。
どうやら、名に縁があっても、得手とは限らぬものらしい。
距離が近付く喜びを隠しきれぬ笑顔に、微妙な游ぎにくさの苦さを忍ばせ、リルは櫻宵と繋ぐ手に力を込めなおす。
「離すはずない」
に、してもだ。
「櫻宵、君には翼があるじゃないか?」
万一の時は、それで飛ぶことが出来るのではという至極真っ当なリルの尋ねに、力強い手にようやくの人心地を得た木龍は、ふぅと憂いの息を吐く。
「あたし、自分の翼はあまり好きじゃないのよね」
紡ぐ自己の否定に、桜色の瞳が翳りを帯びる。そこへ、チカリ。か細いヒカリゴケの光が差し込み、花色が闇に滲む。
桜の花弁が散りゆくが如き儚さに、リルは敢えて朗らかに笑み返す。
「そう? 僕は君の翼、綺麗で大好きだけど」
角に桜を咲かせ、翼に桜を枝垂れさせる男。風があればもっと綺麗に違いない。
そして、ふと。
「想いが、届けられないのは。寂しくて、嫌だな」
勇者様の片想いを胸に過らせ、リルの表情が沈む。
想いを通わす幸せを知ったばかりのリルだから、勇者様の想いが届かず、地底でわだかまることの切なさに胸を痛めるのだ。
それは櫻宵も、同じこと。
「風に乗せて想いを届けていたのなら、風をまた吹かせてあげたいわね」
間近で揺れる青に、櫻宵は微笑む。本当は蒼穹に移ろう秘色の髪を撫でたいシーンではあるのだけど、その為には手を離さなければならないから、今はぐっと我慢して。
「その答えを探す為にも、頑張って登りましょ?」
「――そうだね」
急かす櫻に、リルも再び笑顔を取り戻す。
風ならば、自身の歌で呼び込むことは不可能ではない。だがそれは、『ここ』に求められている風ではないだろう。
故に、リルは櫻宵と竜穴の終わりを目指す。
「さぁ、行こうか櫻宵。なんだかわくわくしてきたよ」
「あら偶然、あたしもよ?」
「ふふ、さっきまであんなに怖がっていたのに?」
「だってリィと一緒だもの。手を繋いでもらっていれば、ちっとも怖くないわ!」
仄かな明かりにも櫻宵の貌がぱぁと輝く。それを咲かせたのが自分であるのに、リィは得意げに胸を反らし、櫻宵の手を引き先へ先へと游ぎ始める。
「そうさ。僕が守るから、こわくないよ」
きゅんっと心を疼かせて、櫻宵はリルの後を追う。
嗚呼、なんて可愛らしい人魚なのだろう。
だから櫻宵は、リルへと落ちたのだ。
――地底湖へ落ちるのは、真っ平御免だが。こんな恋に落ちるのは、大歓迎。
「風が止んだね」
己の髪が僅かも弾まなくなったのに、サン・ダイヤモンド(甘い夢・f01974)が呟いた。
「これじゃあお手紙、届かない?」
壁側を歩きつつ僅かに首を傾げて見上げてくるサンに、ブラッド・ブラック(VULTURE・f01805)は変化に乏しい表情の内で思案を複雑に巡らせる。
町に残された伝承は、ただ翼を風に預けるというものだけ。何が起きるか具体的に記したものはなかった。
示された地が竜穴ならば、ここが天を目指す場所であるのは疑いようがない。
しかし、だ。
ゆらりゆらりと地底湖を漂うゴンドラランプ達には、相応の質量がある。多少の風が吹いたところで、鉱石ランプを乗せた小舟が宙へと舞い上がるのは難しいだろう。
――魔法でもない限り。
「ねぇ、ブラッド」
可能性の取捨選択に暮れるブラッドを、優しい灯に包まれた世界へサンが引き戻す。
「好きなのに、一緒にいられないのは寂しいね」
ブラッドと繋いだサンの手に、きゅっと力がこもる。
「会いに行かなかったのかな」
「どうして『好き』って、言わなかったのかな?」
ひとつ、またひとつ。
たどたどしく疑問を紡ぐたび、きゅ、きゅ、きゅとサンの手は小さく波打ち、その度に少しずつ力強さが増していく。
そこに含まれる意味は、ふたつ。
――ブラッドが、地底湖に落ちませんように。
――ブラッドが、僕をおいてどこかに行ってしまいませんように。
「『好き』って、言えれば良かったのにね」
好きと言えたら離れずに済んだのだろうか? ずっと一緒にいられたのだろうか。自分だけを見てと求められたのだろうか。
塒の暗い森を出て間もないサンは、謂わば雛鳥。
親鳥に餌を強請って囀るように、たくさんの「if」を繰り返す。そんな風に思ってしまう理由の輪郭は、ヒカリゴケの光のようにかそけきものかもしれないけれど。
「……怖かったのかもしれないな」
されどブラッドは違う。
「こわい?」
「そうだ。相手を困らせてしまう事が、拒絶されるかもしれない事が、自分では釣り合わないと――」
――拒絶、否定、喪失。
(「俺は、諦めていた」)
想像に過ぎないはずの勇者の胸の裡。しかしブラッドの言葉には、魂が宿る。
(「なのに、お前に出逢い、救われた」)
沈黙を貫いた勇者に、どうしたって重ねてしまう。
「他の理由があったのかもしれない。けれど、想いを告げていたら、何かが変わっていたかもしれないな」
真っ直ぐに自分を射抜いてくる金の視線は、いとけなくて美しい。
(「お前には、傷付いてほしくないと。幸せになって欲しいと思う――だが」)
――綺麗な綺麗な俺のサン。
――オレはお前を離さない。
同じだけ、いやそれ以上の力でサンの手をブラッドは握り返す。
するとふわりとサンの笑みが甘く溶けた。
「勇者さまの物語、これから変わるといいね?」
――ねぇ、勇者さま。
あなたの気持ちを空へ届けたら、あなたは喜ぶ? それとも怒る?
(「みんな、みんな。あなたのことが大好きって言ってたよ」)
ねぇ、今はどこにいるの?
皆の気持ちは届いてる?
――好きな人にはもう逢えた?
「僕は、ね――」
●夢の洞
薄い水の膜を突き抜けたような感覚は、あった気がした。
けれど一転した世界に、リュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)は青い三白眼を瞠り、リュカの肩の上でルーナ・リェナ(アルコイーリス・f01357)は前のめり気味に立ち上がる。
『わあ……星の中にいるみたい』
一瞬前まで、ルーナがそう例える暗い世界にいたのだ。
螺旋階段を登った分だけゴンドラランプの光は遠退き、壁一面をヒカリゴケが覆う巨大洞窟の中に。
「ねぇ、リュカ」
「……なんだい、お姉さん」
「わたし、夢を見てるのかしら?」
こしゅこしゅとルーナが目を擦る気配に、リュカは「う、ん?」と心ここにあらずで応え、こくんと喉を鳴らした。
そこは、風吹く大草原だったのだ。
空は輝く青。天を貫かんばかりの大樹が聳え、切り立った岩山がそれらへ爪を伸ばす。
――そして。
「リュカ、リュカ! 大変、大変よ!」
視界が陰ったかと思った直後、舞い降りて来た真っ白いドラゴンにルーナが歓声を上げる。
「すごい、ふわふわでもふもふなの」
地面を覆う草を平伏させ、地に降り立ったドラゴンが燃えるオレンジの眼差しを二人へ向けると、雲を纏ったかの如き毛並にルーナはもう夢中。
「っ、お姉さん。急に近付いたら……わぁっ」
ふわりと自分の肩口から飛び立ったフェアリーへ注意を促しかけたリュカも、ぐるりと伸びて来た長い首に身体を攫われ――全身を感嘆に戦慄かせた。
だって、白いドラゴンが。ふわもこのドラゴンが。二人を背に乗せ、空へ飛びあがったのだ!
リュカとルーナを運び、ドラゴンは風になる。どこからともなく香る良い匂いは、肉でも焼いているのだろうか。
「お姉さん、これは夢?」
何が待っているか分からない竜穴に臨む洞。かっこいい巨大生物に乗れたらいいな、なんて思っていたリュカは、帽子を風に攫われないよう押さえながら、先程のルーナの弁を繰り返す。
果たして、本当に夢だろうか? 否、これはおそらく魔法。古の勇者様に、夢をみさせる為の魔法。
せめて夢で、想い人へ逢えますようにと。彼を慕った人々の願いの結晶。
「夢でも、夢じゃなくても。どっちでもいいんじゃないかしら?」
ラズベリーの瞳をお日様に煌めかせ、ルーナは幻の大気を全身で受け止める。
先ほどまでの世界が静の美なら、今は躍動の美。綺麗だと、楽しいと、二人が感じているのは事実。
「ねぇ、リュカ! これは勇者様の恋心の欠片なのかもしれないね」
風に負けぬようルーナは声を張った。
恋、とは何か。ルーナには未だ分からないけれど。誰にも伝えず、そっとしまっておくと、なくさないでいられると聞いたことがあるのを、虹の少女は思い出す。
秘された恋は、色褪せず、美しいまま永遠に――。
「お姉さん、難しいこと知ってるねっ」
負けじと声を張り返し、リュカは突然の青空を堪能する。
夢の世界が終わりを告げる間際。
すれ違った岩山の天辺に、大振りの剣を担いだドワーフと針のようなレイピアを携えたフェアリーの二人連れを、ルーナとリュカは見た気がした。
●剣の洞
にぃーと、小さく海竜――涙が、静海・終(剥れた鱗・f00289)の腕の中で鳴いた。
気に入ったと思しき青い鉱石ランプを抱いた涙の瞳は、何をか訴えるように終を見上げている。
「気になるのですか?」
「行ってみましょう!」
終の尋ねに首を縦に振る涙に、シャルロット・リシュフォー(歌声アステリズム・f00609)の目に好奇心が爛々燈った。
「せっかくここまで来たのですから、確かめないとですね!」
言うが早いか、あっという間に洞に飛び込んでいったシャルロットの背をフィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)は微笑ましく見送り、何やら物思いに耽る紅庭・一茶(いばらゆめ・f01456)の背をそろりと撫でる。
「大丈夫ですわ」
――何が大丈夫、なのか。
告げるフィオリーナも、聞く一茶も分からない。
しかしどうしてだか涙が惹かれたものに心を呼ばれた気がして、「ひとりでは危ないですよ?」とシャルロットを追う終に続き、二人も竜穴に面した洞の一つを訪ねる。
「はわー……はわわ!」
水晶の花が咲いていた。無論、本物の花ではない。彫って作った花だ。
壁を覆うヒカリゴケと涙のランプだけの乏しい光にも、それらは眩しく咲き誇りシャルロットから二の句を奪う。
だが洞の中に在ったのは水晶の花のみにあらず。花が飾る祭壇に、剣が一振り鎮座している。
ひざ丈ほどの祭壇は、虹色に輝く水晶で出来ていた。腰を屈め、華やかな祭壇に飾られるには少々無骨な剣をよくよく観察し、終は首を捻る。
「勇者様の剣――でございましょうか?」
祭壇の周囲には、そう推察されるに十分なレリーフが施されていた。だのに終が確信を抱けなかったのは、剣が美し過ぎたからだ。
勇者様の物語は、今や伝承。だのに花に囲まれた剣は、つい最近まで振るわれていたかのように、柄も、鞘も、何もかもが磨き上げられている。
「この花たちに、何か仕掛けがしてあるのかもしれませんね」
ここはアックス&ウィザーズ。そういう魔法の一つや二つあっても不思議はあるまいとフィオリーナは結論付けて、剣へと手を伸ばす。
触れる事に躊躇いがなかったわけではない。
だが、また。呼ばれた気がしたのだ。
「失礼致します」
そうして携える自分の剣と比べると、かなり重量のある一振りをフィオリーナは祭壇から借り受け、文様ひとつ刻まれぬ鞘から抜き放ち――、
「……まぁ!」
「なんですか、なにですか――きゃあ!」
フィオリーナの頬が高揚に色付いたのに、堪らず覗き込んだシャルロットも黄色い歓声を上げた。
――あなただけを愛す。
鋼の刃の、柄に程近い個所。ひっそりと彫りこまれた短い言葉は、愛の誓い。
乙女たちが色めき立つのも道理の言葉であった。が、一茶の唇から零れたのは、重い溜め息。
「――勇者さんは、本当に気持ちを御届けする事はしなかったのでしょうか?」
触れた『勇者様の心』に一茶の心が溢れ出す。
「紅庭は物故に愛し君に届けられずでしたが、勇者さんは 御届け出来た筈なのに……」
ヤドリガミたる少年ゆえの、疑問。
「本当に、理由は意気地の無さだけなのでしょうか?」
想い人の事を、誰に語ることもなく。
ただ高みへ吹く風の先を見つめ、想いを馳せるだけに留めたのか。
其処に他の理由はなかったのか?
「紅庭は其れを、知りたいのです」
「――きっと、優しい方だったのでございますよ」
作りたてのゴンドラランプを愛娘のように胸に抱き、金の髪を振り乱す幼い子供の頭を、ぽふりと終が撫でた。
本当の事は解らない。ただ、触れたばかりのトラヴィントの町の人々の優しさが、古の勇者様の為人を終に思い描かせた。
町の気風は、時を経ても大きく変わるものではない。
ならばきっと古の人々も、現代と変わらず優しくあっただろう。そのような町の人らに、勇者様は愛されたのだ。
「優しいと、告げられない想いもあるのですか?」
拭い去りきれない一茶の疑問へ、剣を再び元の位置へ戻したフィオリーナがやんわりと微笑む。
「人の心は、簡単には紐解けない部分があるのでしょう」
作られし器に魂を宿したという意味でなら、ミレナリィドールのフィオリーナも在り様は一茶に同じ。けれどもフィオリーナは勇者様の黙を、疑問ではなく「美しいもの」と捉える。
「素敵だと思いませんか? 例え叶わなくとも、ただ一人を想い続けるということは」
愛されたいと、望まないのだ。
見返りを、求めないのだ。
きっとそれほどに、勇者様は誰かを愛した。尊すぎて、手さえ伸ばせないほど。
「……そういうものなのでしょうか?」
未だ釈然としない様子の一茶へ、「少し休憩を致しましょう」とフィオリーナがクッキーの包みを差し出す。
さすればティーポットたる一茶の顔に、僅かに耀きが戻る。
「良いですね。一茶が紅茶をお淹れしましょう」
「ティータイムですの?」
漂い始めた甘い香りと、紅茶の匂いに、シャルロットも喜色を浮かべる。
上へ上へと続く旅路の果ては見えない。ならば適度に休憩を挟むのも、探検を諦めないコツ。
「では、私もご相伴に与りましょう」
いつの間にか出来た車座の輪に終も加わり、一茶から湯気立ち昇る紅茶を受け取りながら「大丈夫でございますよ」と、この洞に入る際にフィオリーナが告げた言葉を繰り返す。
真実を完全な形で知ることは不可能だろう。それでも、この『物語』の優しさだけは、揺らがない。
「安心して、風の行方を追いましょう」
恥ずかしがり屋な勇者様の、彼を思う町の人々の思いを運ぶ風は、はてさて何処へいってしまったやら。
「涙はどう思う?」
クッキーを分け与えた海竜は、もう意外なきっかけをくれそうにはなく。ならばここから先は自分たちの足でと、終は剣の洞の外――竜穴の果てへと思いを馳せた。
●螺旋の二人【弐】
無邪気ということは、時に罪だとユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)は思う。
『ユーゴさま、ユーゴさま! すごいです、たかいです!!』
――どこまで続いているのでしょう?
地底湖の畔から、手をかざして高みを仰ぐリリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)の緑の双眸は、ファルセットカットを施されたエメラルドのように輝いていた。
『……まさかとは思うが、登りたいのか?』
『はい、のぼってみたいです』
恐る恐る尋ねには、前のめり気味の是が返る。
むしろ、
『のぼりましょう、のぼりましょう。の・ぼ・り・ま・しょ・う!』
『……分かった、登ろう』
そうかおれはここでまつ。だめか? そうか――と否やを唱える隙さえ与えられず、ぐいぐいと引っ張られる袖に釣られて、アラフォー男は果てなき階段へ踏み出さざるをえない状況へと陥る。
竜穴の風景は、一言で評すると『ロマンチック』だ。
妙齢の女性と連れ立ってゆくのであれば、少しは心も晴れただろう。されど今のユーゴと並び歩く相手は、町を歩けば子供と間違われるくらいの超お子様。つまり、気持ちはロマンチックに染まれない。
同じ強行軍に挑むのであれば、絵本に描かれるカラフルな街並だったなら――とは、大人なユーゴは心に思うに留める。過った事の片りんでも言おうものなら、盛大に拗ねるリリヤが想像に難くないからだ。
「なぁ、リリヤ。どこまで登るつもりなんだ?」
そんなユーゴの思いは露とも知らず、百段登っても、二百段登っても、三百段登っても、リリヤの楽し気に跳ねる足取りは、とても軽く、そしてとーっても元気そのもの。
「ずっと、ずーっとですよ。ユーゴさま!」
「そうか……果てまでか?」
「もちろんですとも! だって風が吹いていないのです。ふさいでいるものがあるかもしれません」
こころをちゃあんとお届けしなくては!
溌剌とした少女が燃やす使命感は、純粋であることこの上なくて。はぁ、と零れそうになった重い溜め息を、ユーゴはぐっと喉の奥で殺す。
――とは言え。
「そろそろ休憩しよう、そこの洞辺りでどうだ?」
いつまで続くか分からない螺旋階段を、休みなく登り続けるのだけの無限の体力と若さはユーゴにはない。
「……むむ、」
「勇者様も多分、休憩したと思うぞ」
「なるほど! それなら仕方ありませんね」
渋るリリヤを口先三寸で言い包め、ユーゴはようやくの人心地。その隙にも、リリヤは洞の探検へ出かけてしまったが。
「ユーゴさま、ユーゴさま、すごいです。キラキラがたくさんです!」
「それはすごいなー」
間延びした応えを洞の奥へ投げつつ、ユーゴはふと気づく。
百歩譲って、登り切るのは良いとしよう。しかし、降りる時はどうする? 見渡せど、見渡せど、竜穴にあるのは洞と螺旋階段だけ。
「……登ったのは失敗だったな」
呟きは、風にさえ攫われるほど微か。けれど今、ここにはその風さえなくて。
「降りるときは、降りるときに考えましょう。もうひとがんばり、えいえいおー」
妙に敏いリリヤが発したエールは、幾重にもエコーがかかり。波となって押し寄せる若さに、ユーゴはがっくりと肩を落とした。
「はー、上に向かっとるの!」
延々と伸びる螺旋階段を仰ぎ、終夜・嵐吾(灰青・f05366)は琥珀の瞳に星屑を散りばめ。
「ああ、まさに竜が出入りしていそうな大穴だな」
筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)も赤い眼差しに涼やかな青を煌めかせ、好奇心を顕わにする。
終わりの見えない旅路は、とかく虞が先立ちがちだ。しかし気の合う友と肩を並べれば、話は変わる。
「なぁ、心躍るの!」
「風に出逢いに、果てまでいざ上へ上へ。共に参ろう、らんらん」
『楽しさ』に胸を膨らませ、嵐吾と清史郎は軽快な足取りで階段を登ってゆく――とはいえ。双方ともに、青年男性。足並み合わせてゆくと、階段幅はなかなかにみっちり状態。
進めば進むほど遠くなる地底湖に、ときおり壁側と崖っぷち側を交代しても、すぅと背筋は冷えてしまう。
「……脅かしたり、押し合いは無しぞ?」
ちらりと顔を覗き込んで念押ししてくる嵐吾へ、清史郎はくふりと口元を和らげる。
「勿論だ、地底湖まで転がり落ちるのは御免だからな」
力強い台詞とは裏腹に、見馴染んでいるはずの嵐吾でさえ、満開の桜を幻視してしまいそうなほど、清史郎の微笑は典雅。
「せーちゃんをずぶ濡れにしてしまっては、末代まで祟られそうじゃ」
「私もらんらんの自慢の尻尾を、しっとり濡れ鼠にはしたくない」
嵐吾の口から滑り出た率直な意見に、清史郎もさらりと返すと、二人の間に笑いの細波が起きる。
「慎重にゆくか」
「慎重に進むとしよう」
意見は華麗な一致をみるが、そこは気楽な男二人旅。しかも戻ってしまった童心は、なかなか顔を引っ込めてくれはしない。
「しかしこの階段は何処まで続くのかの? もしや地上にまで出てしもたり?」
ほどほどの明るさが保たれていることもあり、嵐吾の足も思考も弾んだまま。
無論、それは清史郎にも当てはまる。
「さてさてどこへ導かれるか楽しみじゃ。のう、せーちゃんもそう思わんか――」
「らんらん、これを……」
後に、この瞬間の出来事を「あれは走馬燈が見えたの」と嵐吾は語った。
いったい何が嵐吾の身に起きたのか、と言うと。
まずは、ふわりと視界が塞がれた。次いで、ぶっふと呼吸の自由を奪われた。それから、上半身を煽られた。
「ん? らんら……」
「せせせせ、せーちゃん! まんと! まんと!」
犯人は、通りがかりの洞に素敵をみつけ、思い切り身を捩った清史郎――が羽織るマント。金彩をヒカリゴケに煌めかせながら翻り、嵐吾に襲い掛かったのだ。
浮いた足、傾ぐ体は地底湖に吸い寄せられる。
「おちる、おちる!」
異変を察した清史郎の手を、嵐吾はとっさに掴む。
死なばもろとも……ではなくて。
「っ」
「せーちゃん、こんな時でもお顔は雅! いや、だいじょうぶ。せーちゃんなら耐えられる、踏ん張れる」
「任されよう」
階段にヒカリゴケが生えていなかったのを二人は何かに感謝した。
「事なきを得て良かった」
何事もなかったように(雅に)微笑む清史郎に、嵐吾はちょっとばかりむくれる。
「もー、気をつけとくれよ。わしも尻尾でそいっとせんように気を付けるからの!」
「それよりらんらん。あの洞に水晶の葛籠のようなものが見えたんだが」
「ほんとか、せーちゃん。でかした!」
果たして風は吹くのか否か。待つのは何か。
竜穴の果てを目指す二人旅は、暫し続く。
●光の洞
ぐるりぐるりと螺旋を描く階段。
なかなか近付いてこない天辺に、火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)はふかふかの尻尾をぺしょりと萎ませ「お空、見えない、ね」を繰り返し。かと思うと、遠ざかる地底湖を見下ろし、「きれい、だね」とほわり呟く。
確かに無数の光が漂う水面は綺麗なものだと、コノハ・ライゼ(空々・f03130)も思う。
しかしいちいち同意を返さないのは、ただの気紛れ。
さつまが「コノ、ここ!」と気になる洞に引っ張り込んでいくのに抗わなかったのも、そろそろ休みたいとか考えていたからだし。
だから、「あれはなに?」「これは何?」「あ、こっちは触っちゃ、ダメ?」と逐一訊ねてきても、「うーん、そうだネー」とか「わかんないかナー」とか、「ダメと思ったらダメなんじゃない?」と至極適当なものばかり。
いい加減、さつまも怒りそうなものだが。のんびり省エネ無気力気味な狸っぽい妖狐な青年は、気にした風でもなく。
洞の内に並べられた水晶のケースに釘付けだ。
そう、さつまが選んだ洞の中には複数の水晶の箱が収められていた。透けた中身は、工具であったり、食器であったりといった日用品の数々。
多分、勇者様が愛用したものなのだろう。
時を止める魔法にでもかかったかの如き品々に、さつまがいちいち目に輝かせるのに対し、コノハは意識を研ぎ澄ましてゆく。
日常とは、時に特別の隠れ場所。
(「随分シャイな勇者サマだったようだし、こういうのの中にとっておきを紛らせているんじゃ――」)
「……たぬちゃん、あった」
「え? コノ、なに? なに、みつけた、の?」
名を呼ばれたさつまは、コノハの元へまっしぐら。されどそこに並んでいた飾り気のない鉱石ランプたちに、ことりと首を傾げる。
「コノ、これ。なぁに?」
「たぬちゃん、鈍感。よく見て、この鉱石ランプ。ドワーフが持つには随分ちっちゃいでショ? ちょうどいいといったらフェアリーくらい。お誂え向きにフェアリーの翅みたいな翼もついてる。しかも数は、いちにのさんしで、合計ななつ」
自分のサイズに不釣り合いな品を、幾つも買い込んだとは考えにくい。ならばこれは、勇者様が作ったもの。告げぬ想いの代わり、恋心を表したもの――そう推察するのはコノハだけではあるまい。
「つまり、勇者サマの想い人は。フェアリーだったってコト」
いつかまた出逢う事があるならば、とびきり彼女に似合いの品を贈りたい。決して、自分の想いは伝わらぬように。
察しがついてしまった勇者様の一途さに、コノハはヒカリゴケの仄かな光に眼鏡のフレームをキラリと決めて、しかしピンと来ないらしいさつまを茶化しにかかる。
「もー、たぬちゃんったらしっかりしてー? たぬちゃんにはそんな恋バナない訳?」
――そう、ただの茶化しのつもりだった。
しかしさつまの反応は、予想に反して顕著。肩をびくりと跳ねさせたかと思うと、しっぽがぶわりと膨らみ。挙句に、萎れた耳を隠すように、さつまはフードを目深に被ってしまう。
「……って、うそぉ。もしかして傷抉っちゃった系?」
「あー……う、うん……? わ、わすれ、た、かな」
泳ぐさつまの視線は何をか言わんをや。粗方を察したコノハはゴメンゴメンと心ある謝罪を口にし、いつかそれさえも笑って話せる日が来るといい――なんて祈り、
「無理はなしネ? 傷なんてのは、大事に抱え込んでたってイイこと無いンだから……」
「コ、コノちゃんの初恋、は?」
極大のブーメランに襲われる。ガラにもないことをしたからだろうか? それとも、日頃のさつまへの態度の報いか。
されど食えぬ男は、さらりとひらり。
「なんで風、吹かないんだろね。原因、見つけられるとイイんだけど」
「そ、なの。俺、風の通り道、何かで塞がっちゃったの、かなって思うんだ」
躱された事にも気付かず、さつまは鋭い眼光に理知の光を灯す。
勇者様の為に、町の人の為に。何とか風を吹かせたい。強くそう思うさつまの鼻先を、水辺には似合わぬ炎の気配が掠めていった。
●螺旋三艘旅
「はァ、こりゃまたどうしたもんかね」
んん? んん? んんん?
手をかざしてみても、背伸びをしてみても、ついでに仰け反ってみても。どんなに見晴かそうとも、目を凝らそうとも。
見えない果てに、ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)は鉤型に曲げた指で頬を掻く。
「昔話の、空に至るための塔の様だな」
赤い頭巾を背へ流し、葦野・詞波(赤頭巾・f09892)も銀の視線を彼方へ放る。
意識をさらう、上の上。だがそうなると不思議なもので、足元の感覚までもが危うくなる。
「まるで涯てなき遠い宙のようですね」
無限の昏さと無数のか細い光たちに、都槻・綾(夜宵の森・f01786)は空を超えた宙を重ね、「如何します?」ところりと笑う。
「訊くまでもない、という風情だな」
問いの形をとってはいても、それにそぐわぬ表情に、詞波もくくと喉を震わす。
登るか、否か。
三人足並みを揃えた時点で、答えなど決まっている。
「途中で脱落はしてくれるな?」
にやりと口の端を吊り上げた詞波に、ユルグがふふんと鼻を鳴らす。
「ああ、止まる時は墜ちる時だ。やっぱやめたは無しだぜ――いやァ、落ちませんとも。落とさせませんとも。いざって時は、」
――手くらい取るさ!
歌うように調子をつけて、洒落っ気を装い。軽やかに笑ったユルグは、そのままの足取りで螺旋階段へ一歩を踏み出す。
さぁ、漕ぎ出さん。
終わりの見えぬ、竜穴の旅路。三艘揃えば、凪も荒波も恐れるに足らず。
空翔ける羽は持たねども、水航る智慧も、地を渉る足も、猟兵たちは持っている。
「さぁ、脚を翼代わりに天頂きを目指しましょう。例え脱落しても、這い上がってみせますとも」
優美に振る舞いながらも、どこか少年が重なる綾の横顔に、詞波も「あぁ」と頷き。三段跳びでもしそうなユルグを追いかけ始める。
追い掛け、追い越し。
登り甲斐だけは事欠かない螺旋階段を、三人は程よく休憩を挟みながら進んでいき。かれこれ幾度目かの羽休みにて、綾が首を傾げた。
「どうかしたか?」
詞波の言葉に、いえ、と綾はヒカリゴケの一部をそっと払う。
「お二方とも、ご覧ください」
長い長い洞窟なのだ。途中に変化もあるだろうと、様々に注意を払っていた綾は、竜穴を成す岩盤の変化に気付いた。
地底湖が輪郭を失い、ぼんやりとした灯だけになって久しい頃。虹色が、挿し始めたのだ。
「へぇ……綺麗だな」
仄かな光にもきらきらと煌めく虹色に、ユルグが感嘆を零す。
その量は決して多くはない。しかし、永遠を思わす暗がりにあっては、確かな変化だ。
「そういえば、心なし乾いてきたような?」
ぷかりと紫煙を吹かしていた詞波が、自身の尻尾を眺めて言う。水気を多分に含んだ空間だ、さきほどまではしょんぼりしていた狐尾が、いささかふっくらして来たような気がしないでない。
「此れは此れは」
兆しはあるだろうと思ってはいた。が、なくても構わないとも思っていた綾の口元が、いっそうのにこやかさに丸みを帯びる。
未知に出逢うことは。
未知に遊ぶことは。
ただそれだけで、楽しいこと。
だのに、こんな発見まであるなんて!
飛び切りのご褒美の予感に、鼓動は早鐘を打ち出す。
「勇者様ご一行も、こんな風にどっかの場所を、並んであれこれ冒険したかね」
うずうずと、既に走り出したいユルグの素振りに、詞波は肺を満たした紫煙を一気に吐き出し、火の始末をして年下の男二人の顔を見比べる。
「もしかすると、第二の勇者は綾かユルグかもしれないな」
冗談めかし肩を竦めはするものの、全くの戯言ではない予感が詞波にはあった。
されど、勇者は一人ではない。
このアックス&ウィザーズに伝わる勇者は、それこを無数。
「そしたらもちろん、詞波もだって」
熱は現れにくい貌は常のままユルグは声を弾ませ、断崖に身をのり出す。
水底は、遥か下。だがここに風があったなら――。
「きっと飛び込みたくなるね。きっと羽根なんかなくても飛べる」
だから行こうぜと言うが早いか、とととっとリズミカルな足音で休憩に終わりを告げたユルグを、ふくよかな花の香りを連れた綾が即座に追う。
「羽搏いてみたいですねぇ。そして高みまで風を追い掛けるのです」
持たぬ羽を背中に感じる足取りは、勢いを増す。
まるで吹かぬ風に煽られているようだった。
「嗚、間違いなく心躍る一時だ」
歩む先が未知であろうと構わない。詞波も男二人を追い越す勢いで、竜穴を貫く風と成る。
●翼の洞
ちょうど肩の高さ分くらい背の高い人が、自分を断崖から守ってくれていることを朽守・カスカ(灯台守・f00170)は気付いている。
それとなく勧められた壁側の螺旋旅路。
「ありがとう」
そろりと礼を告げると、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)は髪を掻き混ぜながらくしゃりと笑う。
「そっちをよく見ていてね」
任される役割に、『守られている』という受動の心地が軽くなる。
決してひけらかさず、照れるばかりの姿にカスカは更に感謝を深め。ヒカリゴケの淡い光に幾ばくかの心苦しさを覚えつつ、明かりを絞った父の形見のランタンでオズの足元を照らす。
同じころ、清川・シャル(バイオレットフィズ・f01440)とカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)も竜穴の螺旋階段を登っていた。
足を滑らせる危険が高い側を、男が担うのは此方も同じ。しかしカイム越しな眼下の灯と、すぐ近くのか細い光に心奪われるシャルは、男の気遣いに気付かない。
いや、むしろそれこそカイムの本望。
惚れた女を、如何な状況であろうと自然体でいさせられるのだ。まさに男冥利に尽きるというもの。
しかしカイムの口は災いの元。
「勇者サマの想い人に宛てた想いか何かあるかもしれねぇ。勇者サマが赤面するような想いももしかすると……ッハ、俄然興味が湧いて来たぜ!」
「もう、カイムは情緒がないんだからっ」
むくれた少女は頬を膨らませ、ぷいとそっぽを向いてしまう。
「悪い悪い、じゃあシャルはどんなものが見たいんだ?」
カイムの軽口にシャルが気分を害すのは、もはや定番。心得た男の方向転換に、少女の心に飼う憂いをほろりと唇に乗せる。
「私は……逆に。勇者様へ宛てた想い、なんて……あったらいいな……って」
祭として残るほど、町の人々から愛され慕われた勇者様。ならばそんな想いの結晶が残されていても不思議ではない――というより、そうシャルは信じたい。
ならば叶えてやるのが、男というもの。
カイムはありったけの力を総動員して、竜穴に注意の網を張り巡らせる。
オズとカスカ。カイムとシャル。
異なる在り様の二組、けれど惹かれた洞は同じ。
「わぁ……」
「すごい」
台座に据えられたたった一つの鉱石ランプの周りに、無数の鉱石ランプが配された風景は圧巻だ。
様々な色を瞬かせるそれらに、オズとカスカは感動に包まれ、
「……すごい」
紡ぐ感嘆は同じでも、シャルは感傷にも似た想いに胸を浸す。
精緻さからして、台座の一つがかなりの腕利きの作だと一目で知れた。残りのものは、それを模倣したのだろうということも。
勇者様の想いが残された竜穴だ。となれば答は一つ。台座に鎮座するのが、勇者様が手ずから作ったもので。周囲の光は、彼を慕う人々そのもの。
「大事にされていたのね……」
言葉として残されたものではない。されど確かに伝わる想いに、シャルの青い瞳が潤む。
良かった、良かった。
生涯、一つの恋を貫き通した勇者様だけれど。彼は決して一人ではなかったのだ。こんなにも愛されていたのだ。
「安心したか?」
静かなカイムの尋ねに、シャルは男を振り仰ぎ、輝くように微笑む。
「うん」
一緒にこの景色を見られて、同じ空間に居て、隣に在れる。それは何と――。
「……とても、贅沢な時間だなぁって、思ってる」
丸底の灯に、鉱石の傘をかぶせただけの一見シンプルな鉱石ランプ達だった。
しかしオズは、全てに小さな翼がつけられている事に気付く。
よくよく見れば、丸い底は船底のようにも見えないだろうか?
「ゴンドラランプの原型、なのかな――あ」
思い付いたのは、素直な感想。だが自分の言葉にオズは、はっと気付かされる。
台座の一つが勇者様が作ったものならば、勇者様自身が想いを風に乗せたかったということ。
「やっぱり、伝えたかったのかな」
勇者様のランプは、虹色に輝く水晶でできていた。どの角度から眺めても、内に抱えた温かな光を美しく魅せるよう計算され尽くしている。
形は全く違うのに、愛しい人の横顔を思わせるランプ。
綺麗で、綺麗で、悲しいくらいに綺麗な『想い』。
「こんなに大事に抱えていた想いなのにな」
同じ光の預かり手として、カスカも吐息を切なく震わせた。
誰の目にも尊く見えるほどなのに、なぜ伝えずに終わらせてしまったのだろう?
答えを知るのは時の彼方へ埋もれた勇者様だけが知っている。でも、願わくば。
「優しい想いがそうさせたのだといいね」
カスカの希求に、オズも「そうだね」と頷く。
竜穴を登り始めて随分経ってから出逢った洞。高みに近いだけ、届けたかったという想いが込められているみたいに感じられた。それは勇者様本人ではなく、見守り続けた町の人々の願いであったのかもしれないが。
「この先に勇者の好きな人がいたらいいね」
眩い光景から拾い上げた恋心の成就を、オズは祈る。
見上げ続けた先に、青い空と虹があったらとてもすてきだな、と思い浮かべて。だってランプが虹色なのだ。勇者様の想い人は、虹の麓にいたのかもしれない。
――と、その時。
「見て、オズ君」
地底の湖ではなく、洞を埋め尽くす光に見入っていたカスカは、勇者様のランプの異変に気付き指差す。
「え? 瞬いて、る?」
先ほどまではぼんやりと灯っていただけだったのに、確かにランプは鼓動を刻むように微かな明暗を繰り返し始めていた。
それはやがて周囲のランプへも広がり、洞そのものが光の心臓になったよう。
「もしかしたら、風に乗ってゴンドラランプに込めた想いが飛び立つかもしれないよ」
カスカの期待に、オズの心臓もドキドキと走り出す。
届け、届け、届け!
祈らずにいられない、願わずにいられない。
想いが届いてしまって慌てた勇者が、最後にみんなへ笑顔をみせる。そんなハッピーエンドがこの先に待っていてもいいじゃないか!
●風よ吹け
風は何処へも上り行く――というのに、竜穴に風は吹かぬまま。
「昇る竜も鳴りを潜め、ただ天への口を開けるだけ。夢とロマンに満ちた行く先に、往く道がないなんて味気ない――なぁんて、僕が言うとでも思いますか?」
眼鏡のブリッジをくいっと人差し指で押し上げ、クロト・ラトキエ(TTX・f00472)は意気消沈しているグァーネッツォ・リトゥルスムィス(超極の肉弾戦竜・f05124)と泉宮・瑠碧(月白・f04280)へ、ニパリと明るく笑ってみせる。
「とはいってもなぁ」
ただただ一直線に、体力頼みで螺旋階段を踏破したグァーネッツォは竜穴頂上へ二番乗り。
ユーベルコードで作り出した風の鳥にまたがり一番乗りした瑠碧とくまなく周囲を探索したが、発見できたのは現在進行形で座り込んでいる窪みに等しい小さな洞くらい。
とは言え、此処が終着点であることに間違いないのをグァーネッツォは確信していた。
――惚れているのに告白しないとは、恋とは摩訶不思議なもの。
勇者本人が決めた事に首を突っ込むのは失礼にあたるかもしれぬと思いつつ、何としても天空の想い人へ恋心を伝えたい!
そう思い拝借してきた地底湖に浮いていたゴンドラランプの放つ灯が、まるで鼓動を刻むように緩やかな明滅を繰り返しているのだ。
「水と風の術ならば、得意ではあるのだが……」
解明しきれない謎に、瑠碧の眉間には縦皺が寄っている。
洞窟の町であるトラヴィントに、常に風が吹いているとは考えにくい。即ち、同じことが竜穴にも言えるだろう。
されど今は祭の期間。
吹いていているのが、当然のはず。だからといって、猟兵が人為的に吹かせてみても意味はない――と、瑠碧は思う。もし仮に、瑠碧が起こした風が呼び水となり竜穴へ翼はためかせる風が吹いたとしても、来年以降はどうなる?
「風の通り道が塞がれているのか……?」
「あーもー、ですから。そんなに難しい顔をしていては駄目ですよ。僕らは猟兵です、困難には飛び込んでナンボ。誰もここが『終わり』と決めたわけではないでしょう?」
少なくとも、僕は燃えますよ! とクロトにはっぱをかけられ、少女たちの顔にもようやく希望が灯る。
「確かにここには何かがあるはずなんだ」
最初の瑠碧から遅れること二時間以上。その分だけ時間をかけて螺旋階段を登り切ったロー・オーヴェル(スモーキークォーツ・f04638)は竜穴そのものの変化に気付いていた。
万一に備えたのと、調査を兼ねて、時折壁面に打ち込んだハーケン。その感触が、ある時点から変わったのだ。
ヒカリゴケを払い除け、確認した岩肌には虹色の鉱石が混ざり始めていた。同時に、ヒカリゴケに『焦げた』部分が見受けられるようにもなった。
更にもう一つ。
今いる洞の少し手前の壁面の感触が、明らかにおかしかった。見た目は岩盤であるはずなのに、まるで柔らかな土のようだったのだ。
「くっそ、ヒントが一つでもあれば……!」
好きだの恋だの心の動きを、頭の働きでどうにかしようなんてのは端から無理な話。しかしこれは、おそらく種も仕掛けもあるマジックだ。一部に想定外の事態が起きている可能性はあるが、解き明かせないはずがない。
一先ず気分を落ち着けようと、ローは買ったばかりのヒカリゴケの煙草に火を灯す。
燻る、というより、涼風が肺を満たしていく感覚は新しい。ふぅと吐き出した煙も、どことなく光を帯びているような気がする。
「こんな時に、この町の勇者様ならどうしたんでしょうね?」
どれだけクロトが和らげても消えない閉塞感に、フィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)がぽつりと零す。
勇者様と呼ばれているのだ、困った人を沢山助けた立派な人だったに違いない。
それなのに、大好きな人に「好き」を伝えられず、だけれどずっとずっと相手の事を想い続けていた人。
「……本当に、『つよくてかわいい』勇者様だわ」
思い描いただけで、ぽっと胸の辺りが温かくなった気がして、フィリアはふふと口元を綻ばせた。
そして――、
りっぱなりっぱな勇者様。
おつよいおつよい勇者様。
けれど彼は恋を語る言葉を知らない。
想いは宝石のようにきらめいているのに。
差し出す勇気はお持ちでない。
かわいらしい勇者様。
りっぱでおつよい、けれどかわいらしい勇者様。
――チチッ。
町で聞いたものをなぞった歌声に引き寄せられでもしたのだろうか、聞こえた鳴き声にフィリアは首を巡らせる。
洞の奥、影の影。そこにはここらを塒にしているのだろうネズミが二匹いた。
「ネズミさん、あなた達は何か知ってる?」
彼らにも分かるようフィリアが語りかけると、髭を絡ませ合った二匹は顔を見合わせてから、フィリアを見上げる。
『てんじょう』
『あかいの、ひどい』
突然の来訪者に身を縮こまらせていたと思しき二匹は、しかし優しく語りかけられたのに心を許したらしく、フィリアへ言葉を返した。
「天井? 赤いの?」
「おい、誰か!」
フィリアのおうむ返しに、ローは螺旋階段へ戻ると天井へ視線を放る。
人には出来ることと出来ないことがある。この瞬間に出番がないことを悟った男の意図に、いの一番に反応したのはクロトだった。
得物にもなるワイヤーの先端に備わるフックを、対岸の壁の高みへ投じて打ち込んだクロトは、ワイヤーを手繰って中空へ躍り出る。
途中でもう三本を投げて簡易の足場を作り上げた男は、間近で天井を観察し。
「ここだけ水晶になっています。なぜか煤がこびりついていますが」
言いながら煤を拭うと、グァーネッツォと同じく拝借していたゴンドラランプが、真昼の太陽のように輝いた。
「風よ、暫しの時、力を貸して……其の身は風と等しく、自由に空を翔けるものなり……」
察した瑠碧が、風の鳥に乗って駆け付ける。フィリアも背の天使翼で飛んだ。
三人がかりの仕事で顕わになったのは、虹色に輝く水晶の丸い板だった。
「やったぜ、大発見だ――」
ようやく得た手掛かりに快哉を叫ぼうとしたグァーネッツォの声が、不自然に途切れる。
「え、え? これ、なんだ」
何が起きているか、分からなかった。
だってグァーネッツォの手の中で、ゴンドラランプ達が『光』に変わったのだ。
比喩ではない。形も質量も失った翼の舟たちは、グァーネッツォの手を離れ、虹色の水晶へと吸い込まれていく。それはクロトが携えていたものも同じ。
翼の光を吸収し、虹色の鉱石が耀き始める。
いや、それだけではなかった。
「見ろ――」
ローの言葉と瞳に導かれ、猟兵たちは視線を下方へ向ける。そこにはまっすぐ立ち昇ってくる光の柱があった。
「逃げましょう」
クロトの判断に、瑠碧がフィリアを横合いに掻き攫う。
直後、虹色の水晶板に光柱が到達し――竜穴に風が吹いた。
時を同じくして、感触がおかしかった壁面が大きな口を開け、風を飲み込み始める。
「目くらましの魔法か?」
「おそらくそうでしょうね」
風の奔流から逃れた瑠碧とフィリアは一変した風景に息を飲み、そこではっと思い出したフィリアは自身のゴンドラランプの様子を確認すべく鞄をあけた。
収まったままのゴンドラランプは光を明滅こそさせているが、光に溶ける気配はない。おそらく『持ち主』の手にあるものは現に留まり続けるのだろう。
「勇者の、トラヴィントの想いよ届け!」
グァーネッツォは拳を突き上げ、光の風を鼓舞して吼える。
光と風に溢れる竜穴は、そうするのに相応しい光景だった。
同刻、竜穴のあちこちで猟兵たちは奇跡の風に吹かれていた。
古の人々が、勇者様の事を思って仕掛けた魔法。
地底湖に揺蕩う光が一定量に達した時、発動する奇跡。
『勇者様』の名が忘れ去られたように、今のトラヴィントからは失われた技術。
されど想いは受け継がれ、高みを目指し羽ばたき続ける。
圧倒的な光の見物客が猟兵だけなのは、かわいらしい勇者様を慮っての事だろうか?
(「皆、あなたに会いに来ましたよ」)
ワイヤーを手繰り、洞へ戻ったクロトもうっそりと微笑む。心が洗われるような気分に、年甲斐もなくはしゃいでしまいそうだった。
竜穴に歓喜が満ちる。
勇者様、勇者様、勇者様。町の人々の声までも、聞こえる気がした。
(「……相手が素敵であればある程、勇者は相応しい自信が持て無かったのかもな」)
送られていく想いの奔流に、瑠碧は目を細める。
「はてさて、勇者様はどっちが良かったんだろうね?」
暴くのに一役買っておきながら、ローは斜に構えて嘯く。
想いは風に乗せて、とは。確かにロマンチックだが、秘め続けた勇者様的にはいかがなものだろうか。ひょっとしたら、赤面して地底の深くに埋まってしまいたい衝動に駆られているかもしれない。
死してなお、魂は受け継がれ。
風となって昇り続ける。
「人の秘め事を勝手に届けるような風は、風上にも置けない、ってね――!?」
我ながら上手い事を言ったと片付けようとして、ローは再び目を瞠った。
「おい、何かが燃えてるぞ!」
何かが焦げるような匂いに気付いたのだ。
そういえば、ネズミの一匹が言っていたではないか――『あかいの、ひどい』と。
焦げる匂い、に、赤。連想される炎がこの地にあるというのなら、随所に見受けられた煤にも納得がいく。
そしてこんな奥まった地に燃えているというならば、ただの炎ではあるまい。
そう。
オブリビオンが近くにいるのだ。
おそらくそれは、風が吹き込んでいる、その先。
大成功
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第3章 集団戦
『炎の精霊』
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POW : 炎の身体
【燃え盛る身体】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【に炎の傷跡が刻まれ】、その上に立つ自身の戦闘力を高める。
SPD : 空駆け
空中をレベル回まで蹴ってジャンプできる。
WIZ : 火喰い
予め【炎や高熱を吸収する】事で、その時間に応じて戦闘力を増強する。ただし動きが見破られやすくなる為当てにくい。
👑11
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●慕いを運ぶもの
――どこまでも、虹の麓までも吹こうと思ったのです。
私は、多くの優しさによって此処へ呼ばれました。
そしてとてもとても綺麗で美しくて、けれど泣きたくなるくらい切ない心を託されました。
抱き締めた瞬間、私は震えました。
人とは、こんなにも尊い輝きを内に秘められるのかと。
何としても届けたいと思いました。
けれど私に壁を打ち破る力はありませんでした。
あと少し、あと少しだと、分かっているのに!
私は人に呼ばれたもの。その理からは外れられぬもの。人の力が及ばぬところまでは、吹けません。
だから私は、繰り返し、繰り返し、運ぶのです。
優しい心を、届けるべき心の元へ。
やがて優しさでいっぱいになった心が、ほろりときらめきを外へ零れ落とす日が来るのを夢見て。
春告の同胞が町を訪れる頃。
優しい心が、私を呼び覚まします。
私はたくさんの優しい心を抱えて、虹色の心の元まで運ぶのです。
いつか、いつか。
「その日」が来ることを信じて。
おかわいらしい勇者様。
そろそろ、降参しても宜しいのではないですか?
託すばかりではなく、憧れるばかりでなく、尊ぶばかりでなく。
使命も、何もかも忘れて。ただの人として、ただの人であるかの方へ、想いをお告げになっても宜しいのではないですか?
●脈搏つ想い
語り掛けてくるような風と共に猟兵たちは、炎の気配がする洞へ飛び込んだ。
その洞は、これまでの洞とは一線を画していた。
広々と開けている――だけでなく。虹色の水晶柱が天井や壁から無数に生えていたのだ。
天然のシャンデリアともいうべきそれらは、竜穴を貫く光にまばゆく輝いている。
ちらちら、と。歌うような光の粒たちは、反射を重ね、やがて洞の最深部へと降り注ぐ。
そこには、ドワーフの成人男性ほどもあるだろう巨大な虹色の水晶柱があった。
――あぁ、これが。
風に託そうとした勇者様の想いを、古の町の人々が遥か高みまで届けようとした結晶なのだと、猟兵たちは瞬間的に理解する。
なぜなら、地底湖から吹き上がってきた風が、全て巨大な水晶柱へ吸い込まれてゆくのだ。
呼応するよう、水晶柱は内側から発光していた。どくり、どくりと。ゆるやかに脈打ちながら。
美しい光景だった。
しかし虹色の輝きに見惚れている暇はない。
無数の炎が、勇者様の想いを文字通り蝕んでいるのだ!
獣の形を成した紅蓮は、その輝きを奪わんと、水晶柱へ牙を、爪を、水晶柱へ突き立てる。
炎はオブリビオン。竜穴は自然の洞窟だ。人の把握しきれぬ隙から入り込み、人々の稀有な心の結晶に惹かれ、巣食ったのだろう。
そして今までにない光に猛り、喰らい尽くさんとしている。
このままでは、勇者様の心が、灯った光が潰えてしまう。長い年月をかけ、町の人々が送り続けた心が、灰燼に帰す。
許されざる所業に、猟兵たちは得物を構えた。
――我が身を削られながら、虹色は風に吹かれて輝き続ける。
最後の壁を、自ら砕こうとするように。
メーリ・フルメヴァーラ
【再】
ユニ(f04544)と
勇者様の好きなひと
虹色に輝く水晶みたいな妖精さんへ
風となって昇り続ける
きらきらした想い
邪魔はさせない
ね、ユニ!
他の猟兵との隙間や死角を
埋めるように構えて踏み込む
うん、ユニそんな感じ!
虹色の水晶柱を庇える立ち位置確保し
抜け目なく戦場に視線を流す
流れ星は空駆けより上から来るよ
氷の魔法弾を籠めた詠唱銃で
天翔ける綺羅星の在処を連射する
心優しくて戦いに不慣れなユニも守る!
攻撃がユニに向かわないよう零距離射撃でも応対し
出来るだけ多数の炎の出鼻を挫くよう試み
ユニの攻撃を促そう
ユニ、今だよ!
風よ舞い上がれ
もう
何処にでも向かっていいんだよ
大切な人に逢いに行こうよって
天まで届けばいいね
火狸・さつま
【再】
コノf03130と
それは大切な想いの光
お前が触れて良いもんじゃ、ない
相方へゆるり微笑んで返せば
雷火で先制攻撃
その想いの熱さは煌めきは
きっとお前が望むモノじゃない
とても、あたたかな、光だ
さぁ、こっちの炎を喰らうが良い
炎比べと行こう
『ちょいと遊ぼうか』
トンッと足踏み鳴らせば
足元より出でて飛び掛かる炎の獣
【燐火】をけしかける
燃やし尽くすは敵本体と其の炎の傷跡
敵周辺へ行動範囲を狭めるべく
もしくは目眩ましになるよう
燐火と雷火の範囲攻撃
攻撃は見切りで躱し
オーラ防御にて防ぎ
火炎耐性と激痛耐性にて凌ぐ
周囲をなるべく傷つけぬよう留意
見切りにて敵味方の動き把握し連携
味方が避けれぬと判断すればかばう
コノハ・ライゼ
【再】
たぬちゃん(f03797)と
こういうの無粋って言うンだよネェ
コレでも中々、勇者サマのお話気に入ってるンだから
ね、と一度だけ相方へ目配せ
先制狙う相方に合わせ『高速詠唱』で素早く【月焔】を呼ぶ
他へ延焼させず敵だけを狙い
先ずは最大数に分散させた焔を四方より撃って目眩ましに
次いで『2回攻撃』でひとつに合わせた高威力の焔を撃ち込むヨ
光でも、炎でも、たっぷりご馳走してあげようじゃナイ
ソレは、テメェらには贅沢過ぎンでしょう
反撃は『オーラ防御』と『激痛耐性』で凌ぐケド
その大きな動きじゃ台無しネ
躱しつコチラも獣の如く身を低くし飛び込んで
『傷口をえぐる』ように直接焔を叩き込む
芯から、凍えて灼かれるといい
ルーナ・リェナ
リュカ(f02586)と同行
叶うか、叶わないかはわからないよ
でもまずその想い、届けないと駄目なんだ
虹色に輝く水晶柱は他人には思えない
行こう、リュカ。ソルはお留守番だよ
返事を待たずに水晶柱のもとへ
リュカならきっと一緒に行ってくれるって思ってるから
行き交う攻撃を避けながら、まっすぐに飛ぶ
大事な想い、誰にも壊させないんだから!
マレーアから水を呼び出して
イエロ、頼んだよ!
左腕で炎を噛み殺す
勇者さまの想い、届いたら叶う
相手の人もきっと勇者さまに同じ想い抱えてて
ふたりそろって片恋抱えててさ
……どうしてだろうね、そんな気がするんだよ
グァーネッツォ・リトゥルスムィス
【再】
ふざけやがってこのやろ!
人の恋路を食い物にする怪物はオレ達が蹴散らしてやる!
ドラゴニック・エンドの確実な発動の為に焦る気持ちを抑えて
わざと斧を大振りし敵達に隙があるようにフェイントさせて、
襲ってきたところを本命の槍でカウンターしてみるぞ
槍が命中できたら召喚するのは癒しを司る竜
敵達に攻撃しながらも敵が刻んだ炎の傷跡を地形を癒しながら消して貰ったり、
出来る事なら敵達が食らっている水晶柱も治して貰うぜ
「もう少しの辛抱だ、だから踏ん張ってくれ!」
竜だけに任せずオレも勇者とトラヴィントの想いが込められた柱を鼓舞しながら
竜召喚を維持する為に槍で敵を引き裂き、貫いていくぜ
目指せハッピーエンドだ!
ユーゴ・アッシュフィールド
【再】
【リリヤ(f10892)】と
ここに来てからは、俺も驚きっぱなしだ。
まるで小さい頃に読んだ物語のようだ。
ああ、そうだな。
この思い出はハッピーエンドにしておきたい。
俺達の力で、物語の最後を守ろうか。
ここでなら、トリニティ・エンハンスで風の力を使えるな。
勇者よ、お前の想いを乗せた風を少し借り受けるぞ。
剣に風を纏い、鋭い斬撃で炎の獣を吹き消していこう。
こちらに注意を払っていない敵から全力で斬撃を撃ち込んでいこう。
あくまで目的は水晶から引き剥がす事だが、数が減らせたなら僥倖だ。
ほら、こっちを見ろ。
俺達の相手をせねば、お前たちは掻き消えてしまうぞ。
リリヤ・ベル
【再】
【ユーゴさま(f10891)】と
ここには、ふしぎなものばかりがあります。
勇者様のおはなしも。想いの風も。かがやく虹も。
まるで、ほんとうにものがたりのよう。
……でも、まだめでたしめでたしでは、ないのです。
ユーゴさま。
わたくしたちのちからで、お守りいたしましょう。
炎の獣を、こちらへと惹き付けるよう。
虹色の水晶を不用意に傷付けないよう気をつけて、
ひかりを招きましょう。
想いを食べる邪魔をするわたくしたちは、こちらですよ。
炎の動きをよく見て、避けつつ水晶から引き剥がすように。
誘導できたら、後戻りさせないよう位置取りを。
こころが伝わらないのは、かなしいのです。
あとすこしだけ、後押しをいたしましょう。
フィオリーナ・フォルトナータ
――風よ、どうか彼方にこの虹色の光を、想いを、届けてください
そのための道は、わたくし達が守り、拓きます
虹の水晶柱から魔物達を引き離します
トリニティ・エンハンスで炎を消す水の魔力を多めに纏い
精霊達と水晶の間に回り込んだ後、纏めて薙ぎ払って後方に吹き飛ばします
飛び込んでくるのならば盾で受け、傷深い方がいらっしゃれば庇うことを念頭に
共にいらっしゃる皆様と連携を心がけながら、一体一体迅速に倒していきましょう
光は、想いは、決して消させはしません
わたくしも、ひとの心をいただいてそれほど時を経たわけではありませんが
…届けるお手伝いが出来たでしょうか
たくさんの想いを抱いて流れる、あの小さな方舟達のように
クロト・ラトキエ
【再】
僕、風流には疎くて?
この状況でも、如何な古の技かと気になってたりします…が。
あの『炎』が、数多の想い願いに爪立てる野暮天である事は、僕にだって分かります。
故に。
炎の気が逸れたらその隙に、水晶柱を背に、以後傷を与えられぬ様位置を取り。
見切りが柱に類を及ぼすならフックを盾代わりに敢えて受け。
返す鋼糸を早業にて脚に、或いは首に掛け、
UC起動、水の魔力を攻撃力に極振り。
…普段は巫山戯たなどと評されがちの、実に僕らしい笑みを手向けに。
引き、そして断つ2回攻撃。
再三言ってきましたね。
『風は何処へも上り行く』
…邪魔、してんじゃないですよ。
折角出逢った恋物語。
ハッピーエンドまで見届けなくては嘘でしょう?
紅庭・一茶
☆WIZ☆
紅庭はどうしても届けたかった
だから、勇者さんの心は未だ解らなくて
――故にこそ、告げられなかった貴方の想い
御節介でも必ず御届けしたいのですッ!
敵を睨めば手を掲げて、
『とっておき☆レシピ』で武器を複製
彼方此方から武器を敵へと放ったり、
⦅一斉発射⦆で炎の身を千切る行動阻害と共に
⦅おびき寄せ⦆で誘導する等の援護をば
敵の攻撃は⦅見切り⦆で回避を試みて、
必要有れば皆さんへの警告も
阻害の末、隙を突けたなら
虹の麓 きらめく虹水晶を見上げ、
その光に後押しされる様にして指先伸ばし
『ジャッジメント・クルセイド』で光での攻撃を
…それは君には余りに不相応なものです
皆さんの想い、絶対に壊させませんから!
サン・ダイヤモンド
【再】【森】
街の人の顔、話す言葉
精霊の声を聞いた
「だめ……!やめて!」
想いを壊さないで!
咄嗟の攻撃は思い浮かばず
炎からほぼ無意識に水晶柱をかばう
庇ってくれたブラッドの背に焦り
猟兵としての役割に焦り
でも、
やりたい事、やらなければいけない事
迷う心にブラッドの声を聞く
僕は、
意識を集中して、想いを歌に
風へ、水晶柱へ、勇者へ、【祈りの歌】を
風の精霊へ力を注ぐ
精霊の声を聞く
風よ吹け、もっともっと、強く吹け
炎など掻き消し
風よ、どうか
皆の心を、願いを
想いを運んで
空の彼方へ、あなたまで
一緒にいられないなんて嫌だよ
泣きそうなほど熱く込み上げる
行って――!
どうか、想いを遂げて
最後の壁を砕いて、虹の空へ
(連携技歓迎)
ブラッド・ブラック
【再】【森】
腕を変形させ巨大な拷問具(殺戮捕食態)を形成
武器受けで飛び込んでいったサンを抜かりなく庇う
動揺するサンへ
「問題無い。お前が想うままをやれ」
俺はそんなお前が好きなのだから
足りないものは俺が補えばいいだけの事
敵が何処から来ようともサンを庇い護り抜く
届かなければ腕を伸ばすまで
【UC】で敵を纏めてなぎ払い・大食い
炎を宿し空を駆ける
本当に魔法だったとはな。大した仕掛けだ
なあ、勇者よ
お前が想いを伝えたところで
どうするかは相手次第だ
相手の気持ちはお前が決めるものではない
それに案外あちらさんも
お前が想いを伝えてくるのを待っていたのかもしれないぞ
もしかすると今も
さあ、お前が愛した人はすぐそこだ
朽守・カスカ
【再】オズ君(f01136)と
人々の想いを優しさを
届ける手伝いをしよう
【ガジェットショータイム】
呼び出すのは氷の杭を打ち出すガジェット
縦横無尽に駆け回る獣だからこそ
狙って当てる為ではなく
囲い、追い込む為に打ち出そう
オズ君に息を合わせ、逃すつもりはない
君も綺麗な想いに惹かれてきたのか?
でも、此処は君の住処ではないよ
水晶柱には敵わないけれど
この氷だって中々に綺麗なものさ
燃え盛る炎の獣よ、これで満足して骸の海へお帰り
そうして倒せば
煤に汚れたこの場を拭い、清めておこう
このままにしてはいけない気がしたんだ
だから、手伝ってくれてありがとう
ああ、そうだね
勇者の優しさも
人々の優しさも
込めた想いが届いたはず、さ
ラティナ・ドラッケンリット
【再】
「祭の酒宴に付き合っていたら遅れてしまった。すまないな。この炎の精霊から水晶柱を守ればいいのだろう? 承知した」
断山戦斧『しゅとれん』を両手で持ち
炎の精霊達の攻撃と動きを【見切り】って踏み込む
水晶柱を傷つけない様に気を付けながら
戦斧を扇の様な斬り上げと【なぎ払い】で吹き散らす様に攻撃する
水晶柱が少ない空間に集団を追い込めたら
跳躍から穿竜槍『たると』を地面に向かって投擲しながら
グラウンドクラッシャーを繰り出す
突き立つ穂先からできるだけ地形に対する破壊を抑える様にする
貫通力重視というやつだ
戦場に対して配慮しながらもっと巧く戦闘が行える様になることも今後の課題だな
リル・ルリ
■櫻宵(f02768)
嗚呼
なんて綺麗!
虹はきっと重ねた想いなんだ
「心焼く恋の炎ならば歓迎だけど
この炎は無粋だね」
愛しい僕の櫻が焼かれないように
重ねられた想いが焼かれないように
妬ましいのかな
その想いもわからなくはないけれど
歌をより響かせ届けるために歌う「愛の歌」
僕の櫻
君が刃となるならば
君は僕が守るから
淡墨撫でて微笑んで
攻撃は【野生の勘】で察し【空中戦】で躱して
水晶柱に攻撃が当たらないよう気をつけて
炎消すため歌うのは「氷楔の歌」
熱も炎も凍らせてしまおう
櫻宵が綺麗に斬れるように
ほら、風に乗せて
光に乗せて
歌に乗せて
飛んでいけ
勇者の愛よ、恋よ
世界が虹色に染まるように
ねぇ
僕の想いも櫻宵にちゃんと届いてる?
誘名・櫻宵
🌸リル(f10762)
綺麗な光……
旅立つ時なのね
応援しなきゃ
想いが届くように
リィに手出しはさせないわ
庇うよう前へ
『愛華』唱えば重なる歌
髪なでる人魚に照れる
そこは
あたしがあなたを撫でるとこじゃない?
炎は好きじゃないの
燃える元から綺麗に斬って消しましょ
刀に宿す水属性
炎近づけないよう衝撃波込めてなぎ払い
傷口を抉るように2回攻撃
見切りや残像で躱して
夢幻の様に消してあげる
灰になるのはあなたよ
踏み込み放つ、絶華
リィの姿に微笑んで
光を風を見送るわ!
想いが通じる事は
受け入れて貰えることは
美しくて幸福なんだから
教えてくれた人魚に感謝するわ
一緒に飛んでかないよう抱きしめなきゃね
ええもう
クリティカルに届いてるわ!
終夜・嵐吾
せーちゃん(f00502)と
おお……虹色が、きらきらですごいの。
これが人の想いの果てというのなら……決して奪われてはならんものじゃて
あの炎の精霊をはよ払ってしまお
わしの背中は任せたぞ、せーちゃんよ!
なれらが食うには過ぎたものよ
わしらが遊んでやろう、それから離れよ
人の心は、勇者の心は簡単に砕いて良いものではないんじゃ
それはもう勇者の心だけでなくひとびとの心も抱いているんじゃから
その熱の上げるか
けれどな、人々の想いはそれ以上じゃ
わしらの気持ちもな
右眼の洞の主よ。その力を貸しとくれ
炎の中を斬り裂いて、精霊を穿とうか
それに、しても――目の前の敵よりもっと先の向こう側
…舌上が疼いとるわ
筧・清史郎
らんらん(f05366)と
風の行先は、この水晶の煌めきであったか
美しい虹の彩だな
しかし…そうも眺めてはいられぬようだ
ああ、俺の背中もらんらんに任せよう
いざ、共に参ろうか
勇者の想いを蝕む炎など【空華乱墜】の桜花弁で次々と吹き飛ばしてやろう
声掛け合い、桜花弁や刀の斬撃でらんらんの攻撃の援護も
たとえ火喰いで戦闘力を増そうとも、攻撃が当たらぬのならば意味はない
そのような大振りな動きが見切れぬとでも思ったか?
身の程を知れ。お前たちが喰うには、この彩や想いは美しすぎる
在るべき場所へ、俺たちが纏めて送ってやろう
水晶の美しい虹彩も、その輝きに導かれし風も、勇者や人々の想いも
無粋な炎には、決して喰わせない
オズ・ケストナー
【再】カスカ(f00170)と
炎が
早く水晶柱を開放しなきゃ
カスカの氷に誘い込まれた精霊に向けるのは
シュネー、手伝ってっ
炎に触れる前に引き戻す
これはフェイント
叩きつけるのは斧
相手の攻撃を武器受けして
カスカっ
空中を飛ぶ先に氷の杭を撃ってもらったら
わたしも【ガジェットショータイム】
カスカに影響を受けて
先が水晶に似たウォーハンマー
当たるといたいよっ
攻撃は全部武器受け
後ろには通さない
これ以上はなにもあげないよ
戦闘後に煤を拭うカスカを手伝って
壁を砕いた虹色を見る
わあ…っ
ねえ、とどいた?
とどいたよねカスカ
風が光が、こんなにやさしい
勇者の想いだけじゃなくて
応援して見守ってきたみんなのこころが、今とどいたんだね
泉宮・瑠碧
【再】
炎の精霊か…
本来、別に悪い者では無いのだがな
文明の発達や衛生、浄化も炎は担う
…ほんの少しの火の粉でも
森や植物が焼かれる事を知るから
僕には怖くて苦手なだけで…
僕は主に精霊祈眼の属性攻撃と援護射撃
水の精霊に願う
皆を、そして人々の想いを、どうか守って
水晶柱を守る様に水の幕を展開しつつ
水の力で炎を抑えていく
杖を手に高速詠唱も用いて
水で包んだり
範囲攻撃で矢の様な雨を降らせる
全力魔法で炎の気配ごと鎮火させる様に
僕の…
私の想いを聴いてくれる精霊達…
君達も同胞や近しい者達が報われたのは、嬉しい?
恋は想像でしか理解出来なくても…
報われた事は、私は嬉しい
勇者達も、関わった全ても
喜びと祝福に溢れていますように
テン・オクトー
【再】【CSF】アンシェさん、ルルエリさんと参加
オブリビオン炎の精霊がここに居着いてしまったのもわかる気がするよ。それくらいここには想いがいっぱいあって不思議な場所だもの。勇者様の想い、みんなの勇者様を思う想いを大事にしたい。炎の精霊さんにはおいとましてもらうよ。
WIZ
UCの【竜巻】効果で炎をかいくぐり(武器フレイル)や(丸盾)を持って懐に飛び込むね。【見切り、衝撃波、盾受け】で攻撃や防御するよ。小さいボクだけどやる時はやるよ!それに今日はアンシェ姉さん、ルル兄さんと一緒だから心強いんだから!いつもより頑張れる気がする!
連携アドリブ歓迎です
アンシェ・ローム
【CSF】の二人と
みんなに【勇気】を!負けない力を!えいえいおーっ!
攻撃は最大の防御ですわ!わたくしが守ってさしあげますっ
(光るちょうちょで敵を【おびき寄せ】+前に出て仲間を【かばう】)
【カケルカケルカ】でぴよメイスを増やして増やして、みーんなまとめてせーので【気絶攻撃】を当てて行きますわ!たとえ高くジャンプした相手でも念力で【追跡】します。
それと、まだ習いたてですけど、メイスから水【属性攻撃】の【全力魔法】を当てて、オブリビオンの炎の攻撃も打ち消してみせましょう。
必死ですわ!だってたくさんの想いが詰まったあの水晶を、オブリビオンに奪われる訳にはいきませんもの!
静海・終
ずっと続いた優しい思いの結晶
とても綺麗素晴らしい光景
それはとてもとても優しく、きっと美味しいのでございましょう
しかしくれてやる訳にはいきませんねえ
それはお前のものではないのですから
人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られるものなのですよ
槍に姿を変えた涙を撫でる
なるべく早くあれを穿ちましょう
大暴れすると傷つけてしまいますでしょうか
傷つけぬよう気を付けつつまずはそこから引き離せるように誘導する
思いが届くと良いですね
きっとそうすれば幸せに、幸せに笑ってくれるでしょう
このような優しい思いの届く場所
ずっと大事にしてほしいですね
ユルグ・オルド
【再】三艘
届かぬ想いなら燃しちまえって?
そらちょいと荒療治すぎるよなァ
……次は焦がさねェどきたいとこ
ああ、任せろと慣れた返事で
希うには遠かれど勇者様には気恥ずかしいが
綾は掬い上げてくれるだろうし詞波の切っ先もわかるから
迷わず地を蹴って飛び込もう
ふとのぼる笑みと窺いもせずに三方より
跳ぶんなら追って、上へ上へ、もっと高くと壁蹴って
暴れちゃダメよと咎力封じで一時阻めば
畳み込むように懐まで飛び込んで振り抜こう
掠める炎に情熱的なんて囃しつつ
降る花散らして穿った痕のその先
抱えた熱は誰のだった
灼け付く眸の奥の光のまま
ここまで来たんだからこの先だって
届かないとはいわねェでしょ
そろそろ渡したって、いいだろう
フィリア・セイアッド
【再】
想いが形に …なんて綺麗
虹色の輝きにほうっと息を吐いた後 気持ちを切り替える
勇者様の心も 町の人たちの想いも 消させたりしない
「WIZ」を選択
菫のライアを弾き 仲間を鼓舞する歌を歌う
奇跡を起こす風を絶やさぬように
わたし達自身が 想いを届ける翼であるようにと祈りをこめて
敵の攻撃をよく見て 第六感も使いながら回避
仲間が後ろにいれば オーラ防御で盾に
優しい想いは 伝わるもの
愛しい願いは 叶うもの
勇者様の真心が 想い人に伝わりますようー
わたしも そのお手伝いがしたいの
怪我をした仲間がいれば 「春女神への賛歌」で回復
炎が消えれば 心の結晶が無事か確認を
風よ どうか空へ…
リュカ・エンキアンサス
ルーナお姉さん(f01357)と
そうだね。いこう
…まあ、叶わないことも多いんだけどね。世の中(夢がない)
まっすぐにルーナお姉さんを追いかける
必要とあればかばい、お姉さんを援護するように銃撃
ギリギリまでお姉さんがやりたいことをやれるように立ち回るよ
さすがに、危険なところまで来たら、守るから下がって、ってするけど
そこまでならなければいいな、とは思う
世の中、届かないもの。叶わないこと。そんなものが多すぎるから
せめて、できる範囲だけでいいから、手伝うことが出来たらいいな
…ん。けれどもお姉さんがそういうなら、
きっと、お姉さんの言うとおり、叶うものもあるのかもしれないね
俺も、そうであればいいと思うよ
ロー・オーヴェル
【再】
こんな仕掛けまであるなんてな
もう感心するしかない
でもよくある話だ
互いに想い合うのに口に出せない二人と
二人を結び付けようとする周囲の面々
「やれやれ、俺もそんな周囲の一員ってわけか」
●
仲間等の攻撃で傷ついた敵を優先攻撃
一体ずつ確実に倒す事を基本
敵個体の負傷度合及び
攻撃対象を視界に収め即判別可能な様自身の立ち位置に留意し戦闘
●
戦闘後は煙草で一服
殻の中から生まれ出た雛のように
長い間ずっと温められ続けた想いなんだ
「優しく受け止めてやれよ、お相手さん。そうしなきゃ壊れちまう」
想いが届き恋が実るとしても
恋は実って花が咲いてからが始まり
「竜退治より難しいかもしれないが……手の中の花を枯らすなよ、勇者様」
清川・シャル
f08018カイムと第六感連携
うわぁん、熱い…熱いの、やだぁ!
前衛はカイムにぜーんぶ!任せますっ
炎には氷!
ひんやりすればきっと大丈夫…
勇者様の想いの方が熱いはずだし!
ぐーちゃんΩに氷魔法の弾を込めておきます
(一斉発射、援護射撃、零距離射撃、破壊工作、吹き飛ばし、範囲攻撃、マヒ攻撃、目潰し、毒使い、早業、属性攻撃、傷口をえぐる、衝撃波、クイックドロウ)
とにかく撃ちます!
UCで足止めします
氷の林檎でも食べててくださいっ
桜花乱舞(属性攻撃、全力魔法、傷口をえぐる、恐怖を与える)
で、直接殴る…じゃなくて、無数の氷柱をぶっ飛ばします
氷と風魔法を融合させてアイストルネードとか
自分とカイムの防御に氷の盾を
カイム・クローバー
【再】恋人のシャル(f01440)と【第六感】で連携して行動。
二人の間にお邪魔虫、発見ってトコか。全く何もない、なんてのは多少肩透かし食らっちまうからな。二人の恋愛成就のお手伝い、させて貰おうか! 【S】
俺は前衛。空中を駆けるのが十八番らしいな?なら、こっちは銃弾で逃げた猫を追いかけて叩き伏せる。
【属性攻撃】【二回攻撃】【なぎ払い】【早業】でUC。数も居るし、獲物にゃ困らねぇ。片端から撃ち抜いてく。 猫ちゃんの攻撃には【見切り】で対処。折角だ。【カウンター】で多めの銃弾をご馳走してやるよ。 シャルが暑さで参っちまうからな…後衛には通さない【挑発】交えて、猫ちゃんと灼熱のダンスでも楽しむか。
シャルロット・リシュフォー
【再送信です】
思いが物理的に結晶になるです?です?
個人的には興味深い現象なんですけど、のんびり観察してるわけにも行きませんね
「オブリビオンは無条件で殲滅ということで!参ります!」
【ハーモニックワールド】で果敢に斬りかかるです
とにかく相手のターゲットをこちらに移さないとダメですっ、ですっ
炎の獣なら、有効なのは水属性!
双剣に水魔法をエンチャントして、歌いながら突撃します
「今ふさわしいのは、遠くの誰かに思いを届ける歌だと思うですの!」
もし討伐後に、水晶柱に変化が起こるなら
それを見届けて帰りたいですぅ
「想いは歌に、祈りは空に。そして記憶は地に残る。これはそういうお話ですのね」
【アドリブ歓迎】
都槻・綾
【再】三艘
身に、胸裡に感じる熱は
紅蓮の獣のものか
いざ戦わんと双眸を耀かせた御二人のものか
或いは
勇者殿の想いが私の心にも燈ったからか
恋心とは
何と無垢で純粋な煌きだろう
香炉に仕舞い込む事は叶わぬ、いと美しき灯
此の胸を温かさを
消さぬよう
忘れぬよう
一瞬だけ瞳を閉じる
其の刹那を得られるのも
頼もしき二人が居てこそ故に
援護はお任せを、の言葉代わり
艶めき笑んで
第六感で見切り回避
自他オーラ防御
先制攻撃、高速詠唱、範囲攻撃、二回攻撃を駆使し
一詠目、馨遙
芽吹く草木花の香りに包んで誘眠
二詠目、花筐
謡い紡ぐ春への寿ぎ
雨滴によって水晶の如く透き通る山荷葉の花弁を餞に贈ろう
勇者殿の想いが届きますよう
虹の橋が掛かりますように
葦野・詞波
【再】三艘
想いの水晶か。見事なものだ。
ここまで積み上げたものを
灯った光をむざむざ消させはしない。
恋路を邪魔する奴は何とやらだ。
一暴れの時間だ、行くぞ、綾、ユルグ。
先手を取って槍撃を見舞った後
ユルグと綾とカバーしあいながら
多方向からの連携した攻撃を見舞う
この連携も慣れたものだ
勇者一行にも劣らないだろう
空を駆けるならば手にした槍を
敵の胴を狙って投げ撃ち墜とす
炎の傷跡刻まれた地には【揺光】で
その傷跡さえもかき消す一撃を
爪牙の動きは見切ってみせる
――嗚、もうすぐだ、きっと届くとも
想い届く様を見せてくれ
ユニ・エクスマキナ
メーリちゃん(f01264)と
これが勇者様の想いなのね…
とってもキレイ
キラキラ輝く虹色の想いを
傷つけるなんて絶対にダメなのね!
メーリちゃん、ユニたちで守らなきゃ!
ん?死角ってこの辺かな…?
メーリちゃんを真似つつ
水晶と炎の精霊を交互に見遣り
敵の攻撃を見逃さないように気を配る
周りのように機敏に動けず
使い方がわからないUCはマニュアルを広げて確認
お願い、ユニ今頑張ってるから邪魔しないでほしいのねー!
今ね、わかったのねー!
メーリちゃんに目だけで合図して
【Record & Play】でコピーして真似っこ
大丈夫、怖いことなんてないのね
だって皆がついているから
だから安心して大切な人に逢いに行ってほしいのね
ルルエリ・エールディール
【再】【CSF】 テンくん、アンシェさんと参加。アドリブ、絡み大歓迎。
人形を持ってこなかったのはぼくの判断だけど、やっちゃったなあ…
積み上げてきた想いを踏みにじるような奴、直接ぼくがぶん殴ってやりたかったのに。
テンくん! アンシェさん! あいつら倒すよ! ぼくと手繋いで! 【ユニオンハンズ】を発動させる!
人形が無い人形遣いは、直接戦えないから、ぼくの力二人に貸すよ。
みんなの想いを守ってあげて、糸が繋がれば悔しいけどぼくは下がる。
力を使う反動は二人分をぼくが引き受ける。
糸の扱いには、調整には慣れてるだろルルエリ。戦ってるのは二人なんだ、どんなに苦しくても、膝をつくことはぼくが許さん。
●風、迸る
眼前で繰り広げられる奇跡的な光景にロー・オーヴェル(スモーキークォーツ・f04638)は肩を竦めた。
「こんな仕掛けまであるなんてな」
あーもー、なんだかなぁ。
思わずため息を吐いてしまいたくなるくらい、たった一人の恋心の為だけにしては御大層な企みではなかろうか。
もう両手を上げて降参し、感心するより他にない。
豊かな漆黒の髪に咲く白い茉莉花が風に散らされぬようフィリア・セイアッド(白花の翼・f05316)は髪を宥め、青と緑の瞳に虹色を映した。
「……なんて、綺麗」
形に成った想いは、フィリアの唇からも感嘆を引き出す。
だが、耽る暇はない。
「勇者様の心も、町の人たちの想いも」
荒ぶる紅蓮をフィリアはねめつける。
「消させたりはしない」
天使翼を羽搏かせ、フィリアが地を蹴った。途端、道行きを阻もうと無数の赤が群がってくる。
ただの炎ならば、悪ではない。むしろ、文明の発達や衛生や、浄化も担う尊いもの。とは言え、ほんの少しの火の粉でも、森や植物を焼くことがある。
「私……いや、僕は」
知る熱に足を怯ませかけた泉宮・瑠碧(月白・f04280)は、瞬き一つで怖れを胸裡深くて封じると、きっと視線を上げた。
多少の苦手など、稀有なる光の前では些末事。
心を萎縮より解き放ち、瑠碧は水の精霊へと呼び掛ける。
「皆を、そして人々の想いを――どうか守って」
捧げた祈りに、水の色の宝玉を戴く精霊杖がほのかに耀き、涼やかな気配をとろりと溢れさせた。
意思を持ったかの如き流れは、炎の合間をするりと泳ぎ、虹色の巨大水晶柱を守る薄い水の膜となる。
唐突に行く手を阻んだそれに、炎の精霊たちが色めきたった――その、瞬間。
「残念ながら、僕は風流に疎い性質でして?」
赤々と燃える炎の、僅かに浮いた足元を、
「この状況でも、如何な古の技かと『魔法』の方が気になったりしています、……が」
闇色の疾風が――クロト・ラトキエ(TTX・f00472)が走り抜けた。
瑠碧の水を追ったからとはいえ、全ての熱が冷まされているはずもない。途中でじりと背が焦げ、一つに束ねた長い髪からは、歓迎できない香しさが漂う。にも関わらず、クロトは虹色に瞬く洞を駆け、光脈打つ水晶柱を背に庇った。
「あなた方が、数多の想いや願いに爪を立てる野暮天で在る事は、さすがの僕だって分かりますので」
お巫山戯などとも評される笑みをクロトは満面にくふりと浮かべ、指先から伸びる四本の鋼糸をクイと引く。
――ぶつり。
極限まで研ぎ澄まされた糸が、水気を帯びて炎を断つ。本体から切り離された炎の首が、脚が、しゅっと小さく鳴って四散した。
さりとて、炎はオブリビオン。弱まりこそすれ、まだまだ燃える。
「ふざけやがってこのやろ!」
同時に、猟兵も独りに非ず。
クロトが削いだ火勢を味方につけ、グァーネッツォ・リトゥルスムィス(超極の肉弾戦竜・f05124)が風と共に疾駆した。
「人の恋路を食い物にする怪物はオレ達が蹴散らしてやる!」
金色の眼に怒りを爛々と燃やし、グァーネッツォは日差しと風雨が奇跡的に形を整えた――ただしあくまで、最低限。つまり、とても無骨――元はただの竜の骨な巨大斧で炎の群れへ追撃をかける。
ユニ・エクスマキナ(ハローワールド・f04544)とメーリ・フルメヴァーラ(人間のガジェッティア・f01264)が、辿り着いた虹色の洞に見惚れられたのは刹那。
「メーリちゃん!」
――これが、勇者様の想い。とってもキレイ。
「うん、ユニ」
――勇者様の好きなひと。虹色に輝く水晶みたいな妖精さんへ風となって昇り続ける、きらきらした想い。
互いの名を呼び合い、視線を交わし。それだけで心を通じさせたユニとメーリは、繋ぎ続けた手を解くと、それぞれの得物を構える。
「邪魔はさせない。ね、ユニ!」
「ユニたちで守ろう、メーリちゃん!」
メーリが先に炎の海へ飛び込み、わずかに遅れてユニが、なびく水晶の色彩を追う。
美しくて、眩しい、虹色の想い。
傷付けるなんて、絶対にダメ!
状況を察してしまえば、長い長い螺旋階段に蓄積させられた疲労も、今だけは眠りにつく。
「――風よ、どうか彼方にこの虹色の光を、想いを、届けてください」
薄いレースの裾をひるがえし、幾輪もの薔薇を躍らせ。華奢なヒールでフィオリーナ・フォルトナータ(ローズマリー・f11550)はオブリビオンの狭間を掻い潜った。
「わたくしは、剣を振ることしか出来ない人形ですから」
風には成れぬ、想いは運べぬ。
しかし風の道を、守り、拓くことは出来る。
一人では困難なことであろうと、ここに集った大勢と共にであるのなら。
麗しく、されど凛然と咲くフィオリーナは、今度は精緻な装飾が施されたロングソードを鞘から抜き放つ。
澄んだ刃が、フィオリーナの目とよく似た色の魔力を宿す。だがそれは空の色ではなく、水の色。
「――いざ、」
虹色の巨大な水晶柱を背に、フィオリーナは渾身の力で剣を薙ぐ。生まれた衝撃波に飲まれ、半円状の一帯にいた炎の精霊たちが洞の入り口付近まで吹き飛ばされる。
「オブリビオンは無条件で殲滅ということで!」
参ります、と薙ぎ払われた炎へシャルロット・リシュフォー(歌声アステリズム・f00609)は力ある歌声を響かせた。
ころりころりとよく変わるシャルロットの表情は、尽きぬ疑問に彩られている。
想いが物質的に結晶になったのか、それとも結晶に宿されたのか。
(「個人的には、興味深い対象なんですけど」)
クリスタリアンの少女にとって、実に趣深い命題。でも、今は。のんびり観察しているわけには行かないのだ。
「人々の想いを、優しさを」
届ける手伝いをしよう、と続く筈だった朽守・カスカ(灯台守・f00170)の言葉尻を、オズ・ケストナー(Ein Kinderspiel・f01136)の笑顔が攫う。
「行こう!」
言わずとも伝わるカスカの心に、オズは躊躇なく炎へ立ち向かうことを選ぶ。
そしてそれは、紅庭・一茶(いばらゆめ・f01456)も同じ。
(「紅庭はどうしても届けたかった」)
だのに勇者は『想い』を届けようとしなかった。その心の在り様は、一茶にとって未だ理解できぬもの――だからこそ。
(「告げられなかった貴方の想い」)
「御節介でも、必ず御届けしたいのですッ!」
どこか困ったような、照れたような、それでいて嬉しそうな男の横顔を思い描き、一茶も想いのまま、心のまま、自分を偽ることなく高らかに歌う。
あっという間に戦いに身を投じる仲間たちを、ローは目尻を下げて眺めた。
トラヴィントの町の人々だけでなく、ここに集った猟兵たちも。『勇者様』の恋を応援したくて堪らないらしい。
互いに想い合うのに、口に出せない二人と。二人を結び付けようとする周囲の面々。
古今東西よくある話だとローは様々な物語を思い浮かべて肩を竦める。
「やれやれ、俺もそんな周囲の一員ってわけか」
●風の衛士
――寄越せ、寄越せ。
――その、光を寄越せ。
――喰らわせろ!
払っても払っても虹色の水晶を求め地を蹴る炎の獣の牙と爪を、フィオリーナは盾で弾き。クロトは鋼糸の先端に備わるフックで凌ぐ。
「そちら、お任せしても宜しいでしょうか?」
一人では担いきれない範囲も、分かち合えば無理がなくなる。フィオリーナの咄嗟の判断を、クロトは快諾する。
「勿論ですとも、薔薇のお嬢さん」
「……まぁ」
戦いは熾烈なのに、クロトから放られた言葉の軽妙さにフィオリーナは花咲くように貌を綻ばせたかと思うと、さらりとオブリビオンを斬り捨てた。
「光は、想いは、決して消させはしません」
「そうですとも――何せ、風は何処へも上り行くのですから」
再三、言ってきましたよねと、クロトはオブリビオンへ言い、わざとらしく小首を傾げておどける。するとその動作に釣られたのか、迫る二体の軌道が僅かに横へ流れた。そこをクロトは鋼糸で絡めとる。
「……邪魔、してんじゃないですよ」
茶化す声音のままに、剣呑さが滲む。何でもない事のように操られた鋼糸に、二体の獣が爆散した。
――優しい想いは、伝わるもの。
――愛しい願いは、叶うもの。
「降りしきれ春の陽射しよ 清らに咲ける花のため なお踏み耐える根のために」
一節、一節、真心を込めてフィリアは春女神を讃える歌を、携えた小型のライアを爪弾きながら歌い上げる。
(「どうか、どうか」)
奇跡を起こす風が、絶えぬよう。自分自身が想いを届ける翼になろうと、フィリアは背の白き一対を大きく広げる。
羽搏きに、炎が吸い寄せられようと構いはしない。むしろそれで勇者様の水晶柱が守られるなら、望むところ。
(「勇者様の真心が、想い人に伝わりますよう――」)
歌に、音色にフィリアは希望を託す。その手伝いがしたいのだと、魂で訴える。
フィリアの歌は多くの共鳴を呼び、心を重ねることで猟兵たちが負った傷を癒す。
「――っふ」
焼かれたはずの肌から火傷の痛みが消えたのに、グァーネッツォはにかりと笑った。本当は、今すぐにでも『ぶちかまして』しまいたい。
けれど周囲の猟兵の奮戦が、献身が、戦いに昂るバーバリアンにして竜騎士の少女に理性を灯す。
「これでも、くらえぇ!」
全身のバネを活かした跳躍から、大振りの斧を炎の獣の頭へ叩きつける。されど分かりやすい軌道に、紅蓮はひらりと躱し、グァーネッツォへ牙を剥いた――かに、見えた。
「残念だったな! こっちが本命だ」
炎の獣はいつ槍で貫かれたか分からなかったろう。確かに牙はグァーネッツォを捕らえたのだ。でも、そここそグァーネッツォの狙い目。決して躱せぬゼロ距離。
隙を晒し、間合いへ誘い。限りなく存在感の薄い槍を、グァーネッツォは獣の腹へ見舞ったのだ。
そしてグァーネッツォは槍を介して竜を喚ぶ。
「頼んだぜ!」
招かれたドラゴンは、グァーネッツォの意思のままに中空を踊り、炎を喰らい、水晶柱の守護者たらんと振る舞う。
「もう少しの辛抱だ、だから踏ん張ってくれ!」
ドラゴンの召喚が途切れぬよう、新たな獲物へ槍を差し向けながらグァーネッツォは虹色の水晶柱へ鼓舞を吼えた。
悲恋など、世界を救った勇者様には相応しくない。
「目指せ、ハッピーエンドだ!」
中身が旧式のままのユニの挙動は、他と比べて遅い――というか、生じるタイムラグの分だけ鈍い。
「えぇと、えぇと」
使い勝手の分からぬユーベルコードの仕様確認に、アナログなマニュアルを開く。ぺらり、ぺらり。捲ったページに小さな文字で記された文字を追うのも、一苦労。リソースを解析に割かれるだけ、周囲への注意は疎かになる。
無防備なユニ目掛け、牙を剥いた獣が走る。別の獣も、炎吹かす爪を伸ばす。
「お願い、ユニ今頑張ってるから邪魔しないでほしいのねー!」
――だが。
「ユニは気にしなくていいよ! まずはそっちに集中してて」
風景を、発見を、全てを並んで記憶に刻んだメーリが、ユニが傷付くのを黙って見ているはずがない。
あれと、これと、それ。
抜け目なく馳せた視線に敵を捕らえ、ユニと守るべき水晶柱の位置を考慮に入れて、メーリは斜めに走った。
右に抜けつつ一体、次に左を。元の場所に戻って、更にもう一体。
「あなたにお星さまをあげる。ぜんぶ、もらってね!」
流れ星は、空駆けより上から降るもの。突然のメーリの動きに多段ジャンプで中空へと舞った獣を、メーリは詠唱銃から放つ氷の弾丸で撃って討つ。
そして。
――ユニ、今だよ!
――今ね、わかったのねー!
再び、肩を並べ。ぱちりと瞳を見合わせれば、それで十分。
「ばっちり見ました! もう1回再生しちゃうのねー!」
メーリが稼ぎ出してくれた時間で、放つべき技を理解し、敵の挙動も取り込んだポンコツ系バーチャル女子は、氷の弾丸に射抜かれたオブリビオンたちの頭上へ無数のディスプレイを展開し、精霊とは相容れぬ電子の炎を降り注がせる。
小さな手を胸の前で合わせ、夢見る眼差しでリリヤ・ベル(祝福の鐘・f10892)はほわりと息を吐く。
「ここには、ふしぎなものばかりがあります」
まぁるい頬は、桜色に色付いて。翠の双眸は目覚めたての日差しを受けたように輝いている。
「勇者様のおはなしも。想いの風も。かがやく虹も――まるで、ほんとうにものがたりのよう」
庇護する少女の感嘆に、ユーゴ・アッシュフィールド(灰の腕・f10891)も素直に「そうだな」と頷く。
水路の町で出逢った色々、そして竜穴での出来事。いずれもユーゴへ新鮮な驚きをくれた。まるで小さい頃に読んだ物語のようだと感じた――それならば。
「リリヤ、この思い出はやはりハッピーエンドにしておきたい」
「わたくしも、そう思っておりました」
二人の眼差しは、暴れ狂う炎に固定されたまま。
「ユーゴさま、わたくしたちのちからで、お守りいたしましょう」
「俺達の力で、物語の最後をまもろうか」
ぴたりと重なったのは決意だけでなく、声まで。お陰で互いが何を言ったのかはっきりと聞き取れはしなかったけれど。二人は同時に、虹の洞の奥へ奥へと走り出す。
「想いを食べる邪魔をするわたくしたちは、こちらですよ」
先を転げるように行くリリヤは、わざと無防備を装い炎の獣を我が身へ寄せる。
ぐわり。自ら発す炎を喰らい、赤々さを強めた一体がリリヤへ跳ぶ。それが二人の思惑通りと気付きもせず。
晒された燃える背中との間合いを、ユーゴは一気に詰める。
「勇者よ、お前の想いを乗せた風を少し借り受けるぞ」
灰殻、と。銘持つ剣をユーゴは薙いだ。ただし切っ先は獣に届く寸前。すわ、仕損じたのかと色めきたつ必要はない。剣は風を帯びていた。自然の刃は、鋭く早く。蝋燭の火を吹き消すように炎の獣を消滅させ、返す刃で後方から迫っていた一体へも同様の終わりを呉れる。
「さあ、こちらでございますよ」
出来た空間の真ん中で、リリヤが指先に光を灯す。
自分を餌に、引き付けて、引き付けて。虹色の巨大な水晶柱から、出来るだけ遠く遠くへ誘って。
そうしてまた、ぱたたと走ったリリヤは溜めた光で炎の獣をついと指す。
「勇者様へはちかづけさせません」
虹色の天井から、虹色ではない光が降る。真白きそれは、裁きの光。リリヤが導き、オブリビオンを骸の海へと還す耀き。
リリヤが消し去った炎の残滓を剣で払い、ユーゴは少女と肩を――実際には身長差があるけれど――並べる。
「僥倖、僥倖」
最大の目的は、巨大な水晶柱から炎を引き剥がすこと。されど得た戦果はそれ以上。
「ユーゴさま。わたくしは心が伝わらないのは、かなしいのです」
「――ああ」
相変わらず疲れた素振りを全くみせないリリヤは、『かなしい』をかなぐり捨てて晴れやかに笑う。
「ですから、あとすこしだけ。わたくしたちで、後押しいたしましょう」
物語を締める言葉は「めでたしめでたし」でないと!
そうして二人はまた炎の群れへ舞い戻る。
「ほら、こっちを見ろ。俺達の相手をせねば、お前達は掻き消えてしまうぞ」
相手をしても掻き消すが。
不敵な笑みを口元に浮かべ、今ばかりは疲労を忘れたユーゴは風を孕んだ剣を閃かす。
早く、早く。
炎の魔の手から、勇者様の水晶柱を守らなければ。
「シュネー、手伝って」
言うが早いかオズは桜色の瞳のからくり人形を戦場に放つ。風に踊るような繊細な動きは、まるで人形そのものが生きているよう。オズの指先に繋がる糸さえなければ、きっと誰もがそう思っただろう。
布陣から突出した人形に、獣は即座に群がる。ふわり、雪を紡いだかの如き髪が熱風に煽られた。
が、人形の肌に獣の爪が触れる直前――、
「カスカ!」
呼ばれた名に、カスカは鳥籠を思わす丸いフォルムのガジェットを召喚する。
「君も綺麗な想いに惹かれてきたのか? でも、此処は君の住処ではないよ」
――水晶柱には敵わないけれど、この氷だって中々に綺麗なものさ。
カスカの囁きに呼応して、ガジェットが無数の氷の杭を打ち出す。それは獣を直に狙うものではなく、囲い込むためのもの。
「燃え盛る炎の獣よ、これで満足して骸の海へお帰り?」
「そういうこと! こっちは当たるといたいよっ!」
シュネーが囮となって集めた炎を、カスカが檻の中に閉じ込め。仕上げは、特大ガジェットウォーハンマー。
先が水晶に似たそれを、オズは炎の中心地へ叩き込む。
「これ以上はなにもあげないよ」
得物でもある人形を下に預けてきたのは失敗だったと、ルルエリ・エールディール(自由を手にしたニャリオネット・f13370)は激しく悔いる。
「やっちゃったなぁ……」
吹く想いの風が、どうしようもなさが滲むルルエリの溜め息を攫う。
積み上げてきた想いを踏みにじるようなオブリビオンは、自分自身でぶん殴ってやりたかった。
けれど。
一度は踏破を諦めた竜穴を、光の柱に導かれ登り切っただけでも、その心意気は十分に尊い。
「テンくん! アンシェさん! あいつらを倒すよ!!」
叶わぬ事にいつまでもしがみつくことなく、ルルエリは気持ちを入れ替えると、共にここまで至ったテン・オクトー(ケットシーのシャーマン・f03824)とアンシェ・ローム(うららかレディ・f06211)の手を強く握る。
「ぼくの力、二人に貸すよ」
「お預かりしますわ!」
「任せて、ルル兄さん!」
託す、と念じた思いはルルエリの命を紡いだ糸となり、アンシェとテンの猟兵としての力を一時的に強める効果をもたらす。
「さぁ、勇気を! 負けない力を! えいえいおーっ! ですわ」
「行こう、アンシェ姉さん」
みなぎる気力に背を押され、テンとアンシェは自分たちよりはるかに大きい炎の獣へ毅然と立ち向かう。
「攻撃は最大の防御ですわ!」
わたくしが守ってさしあげますっ、と息巻きながらアンシェはおびき寄せに光るちょうちょを獣の鼻先へと放った。
攻撃してくる気配はないがチラチラとまとわりつく華奢な翅を振り払おうと、オブリビオンが宙へと躍る。長い尾が引く炎に、光翅が焼かれて落ちた。だが、そここそ最大の狙い目。
トントントン、とアンシェがリズミカルに叩いたメイスは、幾つにも存在を分かち。空をいく獣を更なる頭上から襲う。
小鳥を模した先端に、ごんごんごんっと立て続けに小突かれ、炎の獣が目を回す――そこへ。
「ご先祖様力をお借りします!」
竜洞でアンシェを救う時にも喚んだケットシーの霊を、テンが招く。
(「小さいボクだけど、やる時はやるよ!」)
それに今日は、アンシェ姉さんやルル兄さんと一緒。繋がる糸だけでなく、存在そのものが頼もしい二人から与えられた勇気は、テンによく似たケットシーにも強さを与える。
ひょいっと猫のしなやかさで気を失ったオブリビオンの元へ飛んだご先祖様は、そこでぐるりと輪を軌跡の描き。込められた熱量で、敵を屠る竜巻を起こした。
温かな風にも逆らう嵐にテンは刹那、目を細める。
オブリビオンと化した炎の精霊が、ここに居ついてしまった理由が分かる気がしたのだ。
それほどに虹の洞には、沢山の『想い』が詰まっている。
「みんなの勇者様を思う想いを、大事にしたいんだ。だから、おいとましてもらうよ」
「そうですわ! だってあの水晶を奪われる訳にはいきませんもの!」
一際高く立ち昇った竜巻が、一体の炎の獣を仕留めたのを見止め、ますます奮起したアンシェはひらりとフリルたっぷりのスカートで風をきった。
「さぁ、まだまだ行きますわよ!」
余裕があるわけではない。むしろ、必死だった。そうしてまでも、美しい水晶柱をオブリビオンから守りたいと思った。
「まだまだ習いたてですけれど――」
走る心に任せ、アンシェは水の魔法を放つ。
テンとアンシェが頑張れば頑張る程、ルルエリが引き受ける負担も大きくなる。
でも、ルルエリは決して膝をつかない。時に炎に焙られる二人をじぃっと見つめ、力を送り続ける。
(「糸の扱いには……調整には慣れてるだろう、ルルエリ」)
ひたすら己を叱咤し、人形なき人形遣いもまた、テンとアンシェと共に戦い続けていた。
叶うか、叶わないかは分からない。
でも、告げなくては何も始まらない。
「その想い、届けないと駄目なんだ」
水晶柱の輝きに、己の翅の色を重ねるルーナ・リェナ(アルコイーリス・f01357)はリュカ・エンキアンサス(蒼炎の・f02586)の肩で立ち上がる。
「行こう、リュカ」
そうしてひらり、宙へと踊った。
返事は待たなかった。リュカなら一緒に来てくれると、信じているのだ。
くる、くるりと身をひるがえし、七色の翅を煌めかせ。フェアリーの少女は巨大な虹色を目指して飛び。信じられた通りに、リュカも光の軌跡を追う。
「……まぁ、叶わない事も多いんだけどね。世の中」
リュカがぼそりと漏らした夢のない呟きは、きっとルーナの耳まで届かない。というか、リュカに届けるつもりがない。
世界には、儘ならない事が溢れている。
届かないもの、叶わないもの、報われないもの。
だから、せめて。出来る範囲で、手が届く範囲で、ほんの少しでも助けとなることが出来るなら――。
「 」
お姉さん、とは呼ばず。リュカは無言でアサルトライフルの照準を、ルーナへ迫る炎へ定めた。
もしもルーナの命に危険が及ぶなら、自分の背中に守ろうとは思うけれど。そうでないのなら、どこまでも思うように翔けて欲しい。望むことを、望んだだけ。
すぅと息を短く吸って、リュカはトリガーを引く。構えてから撃つまで、僅か数秒。無造作な扱いにもよく働く銃は、狙い通りに炎を一つ爆ぜさせた。
じゅっと音を立て、膨らんだ炎が命の終わりに終息する。すぐ近くで起こった熱量の変化に、ルーナが振り返った――のでは、なく。
「大事な想い、誰にも壊させないんだから!」
左足を軸にして、ルーナは踊るように一回転。すると右足に刻まれた波打つ水を思わす文様から、仮初めの水が溢れ出す。
「お疲れ様、マレーア」
中空に湧き立った波は壁となり、一体の炎の獣の動きを封じ。そこへルーナは、
「次はイエロ、頼んだよ!」
――そいつを喰らいつくして!
凍てつく竜の頭へ転じさせた左腕で、炎をがぶり。
「さすがお姉さん」
牙には牙を。ふしゅりと気の抜けた音を残し、炎を水蒸気として消え逝かせた竜の顎に、リュカが肩を聳やかす。
「リュカが先に面倒なのを片付けてくれたおかげ」
ありがと、と。自由に羽搏かせてくれるリュカへルーナは笑いかけ、巨大な虹色の水晶柱に手を振れた。
繰り返される明暗は、拍動のよう。
とくり、とくりと刻まれる度、孵化間際の何かが身じろいでいる気がする。
「勇者さまの想い、届いたら叶う」
励ますみたいに虹色をぽんっと軽く叩き、ルーナは燃え盛る赤に視線を戻す。
「相手の人も、きっと勇者さまに同じ想いを抱えてる。ふたりそろって、片恋を抱えてる」
……どうしてだろうね、そんな気がするんだよ。
希望の呟きをリュカの傍らに残し、ルーナは翔ぶ。
「……ん、お姉さんがそういうなら」
水晶柱の護衛を託されたリュカは、虹色の行先を見定め、ゆっくりとアサルトライフルを構える。
願いは願いのまま、叶わぬものが多いのが現実だけれど。
――叶うものも、あるのかもしれない。
「俺も、そうであればいいと思うよ」
そうある為にも、リュカとルーナは其々の遣り方で勇者様の心を守り続ける。
●炎の狩人
――舞い吹雪け、乱れ桜。
筧・清史郎(ヤドリガミの剣豪・f00502)の謳う調べに、一瞬前まで彼が振るっていた白刃が形を失う。
ほろり、最初に零れたのは小さな一片。
はらり、はらり。続いた薄紅は、やがて花嵐と化し無粋な炎を無尽に切り裂く。
「さすがせーちゃん。攻撃まで雅よなぁ」
預けた背中をちらりと振り返り、終夜・嵐吾(灰青・f05366)は愉し気に喉を鳴らす。
辿り着いた風の行く先。
美しい虹の彩に、嵐吾と清史郎は魅せられた。
人の想いの果てたる結晶は、純度の高さの分だけ眩く煌めく。
オブリビオンなどに奪わせてはならないものだと、嵐吾は思った。
穢れ一つ帯びさせてはならないと、清史郎も思った。
そうして男二人は、熱の戦場を涼やかに舞う。
「らんらん、今ので五だ」
「はぁ? わしも負けとらんし! これで、五だしっ」
投じた銀のフォークで炎の獣の喉笛を貫き、嵐吾は清史郎の背に己が背をとんっとぶつける。
屠る敵の数を競うのは、男の性。しかし興じれるのも、互いが互いを信用し、死角を任せられるからこそ。
そうとは知らぬ炎は、小突き合う二人に好機を見出したのか、一斉にわっと襲い掛かる。
まずは一体、清史郎は右へと躱し、嵐吾は左へ躱す。次いだもう一体は清史郎が斬り捨て、残った炎の飛沫は嵐吾の尾がふぁさりふぁさりと綺麗さっぱり掻き消した。
「そのような大振りな動きが見切れぬとでも思ったか?」
実力はどちらが上か。獣の本能とやらで悟ったのか、自らの炎を自らで喰らい力を溜めるオブリビオンを、清史郎は言葉でもばっさりと薙ぎ払う。
「熱を上げる事は悪くない、が。残念じゃったの、人々の想いはそれ以上じゃ」
――もちろん、わしらの気持ちもな。
また清史郎が刃を構える気配に、嵐吾は右眼へ意識を集中する。
その力を貸しとくれ、と訴える先は虚の主。嵐吾の右目の洞にて眠りを貪る怠惰なモノ。
「舞えるか、らんらん」
「無論じゃ、せーちゃん」
ほんの一瞬、無防備となった嵐吾を守った清史郎は、またしても刃を花に変える。
花風が吹く。だが今度は一陣に留まらず。
「――頽れよ」
嵐吾の囁きに、彼の手元の得物も花弁に移ろう。それは嘗て慈しんだ、季節の花々。赤に、黄、白に紫。清史郎の薄紅を追い掛け包み、更に膨れ上がる。
ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつと炎が花に巻かれて消えて逝く。
されど嵐が収まれば、また異なる炎が赤々と燃え盛る。とはいえ、踏破した螺旋階段に比べれば、炎の数は無限に遠く及ばず。
「身の程を知れ。お前たちが喰うには、この彩や想いは美しすぎる」
虹彩も、導かれし風も、勇者や人々の想いも。一片たりとて喰わせはしまいと、清史郎は指先までをも想いに浸し、雅に剣と舞い。
「なれらが食うには過ぎたものよ」
わしらが遊んでやるからと、嵐吾は跳ねる。
炎よ、離れよ。
その虹色は既に勇者の心だけでなく、多くの人々の心も抱くもの。
我欲のままに、砕いてよいものではない。
熱いのは嫌。
「前衛はカイムにぜーんぶ、任せます!!」
「へいへい、望むところだ」
珠の肌を焙る熱に、清川・シャル(ピュアアイビー・f01440)はあわあわとカイム・クローバー(UDCの便利屋・f08018)の背へ逃げ込んだ。
これは、¥戦略的撤退。決して炎に怯んだわけではない――と、シャルは自負を裡で唱え、桜色のグレネードランチャーを肩に担ぐ。
「炎にはとにかく氷!」
全部の中に自分も含めたシャルが放つのは、氷魔法の結晶。しかもありったけを、がむしゃらにぶっぱすると、シャルを中心とした一帯は小爆発の波に飲まれる。
「まったく。二人の間にお邪魔虫を発見ってトコか」
爆風の煽りは、シャルを背に守るカイムも当然、喰らう。されどここはまさしく『男』の魅せ場。
「二人の恋愛成就の簡単なお手伝い、させて貰おうか!」
悠然と背筋を伸ばした男は、シャルを背中にしっかと守り、更には多段ジャンプで跳ぶオブリビオンへ銃口をふたつ向ける。
「さぁさぁ猫ちゃん。どこまで逃げられるかな?」
――It's Show Time! ド派手に行こうぜ!
どうせ戦うなら、派手がいいに決まってる。
双頭の魔犬の名を冠す二丁の魔銃をクイと煽り、炎の獣を挑発したカイムは、そのままたてつづけに銃弾を撃ち放つ。
要する時間はコンマゼロ3秒。視認能わぬ刹那の早業に、文字通りの風穴を開けられた炎は、勢いを弱める。
「さっさと済ませちまおうぜ、シャルが暑さで参っちまうからな!」
「……カイムっ」
恋人の見事な男ぶりに、少女の胸がきゅんと高鳴った。
しかしシャルはいつか母と同じ『鬼嫁』になると心に誓う者。か弱く守られるだけの姫君ではない。
「ひんやりすればきっと全部大丈夫……血まで凍る林檎、味わってみますか?」
無造作な連射はひとまずおあずけにし、ひょこりとカイムの背からシャルは顔を出すと、そろりと唱えた。が、効果は劇的。
何もなかったはずの場所に突然現れた氷塊は、絶対零度。貫かれた敵は、瞬く間に霧散し、残る獣もじりと後退る。
「これ、いけますね」
にこり笑むと、シャルは氷をカイムと自分の盾とし、
「じゃあ俺は遠慮なく猫ちゃんと灼熱のダンスでも楽しむか!」
さぁ、来いよとカイムは炎を氷の世界へ誘う。
「大地と星と祈りの名において! 世界よ、私に共鳴して!」
朗々と響き渡らせた歌で炎の精霊たちの動きを止めたシャルロットは、金色と銀色――二振りの直剣に水を纏わせ熱源へと飛び込む。
焼き尽くされなければ、それでいい。旅を始めた頃から愛用している灰色のポンチョが、煤に汚れたって構わない。
最も大事なのはオブリビオンの意識を『此方側』へ向ける事と――。
「遠くの誰かに思いを届ける歌を、歌い続ける事だと思うですの!」
果敢に剣を振るいつつも、シャルロットは歌うのをやめず。その歌声に鼓舞されたように、一茶は炎をねめつけた。
「……それは君には余りに不相応なものです」
沸々と、怒りが湧く。
物語は過去に在る。だからといって、過去より蘇りし災いが勝手を働いてよいものではない。届けたい誰かの元へ届くことなく、消し去ってよいものではない。
心に逆巻く嵐に身を任せ、一茶は掲げた両手を振り下ろす。途端、複製された甘い名前のメイスが炎の獣たちの頭上から降り注ぐ。
直撃を受けた数体が、頭をへしゃげさせて虹の洞の床に転げた。
されど元は炎。形は取り戻されてしまう。ならば、そうなる前に。
「皆さんの想い、絶対に壊させませんから!」
一茶は指先で鋭く天井をついた。実際に突いたのではなく、何処かを指し示すように。
そこに輝くのは、勇者様の水晶柱と同じ虹色。
ここではない、もっともっと空に近い場所に架かる虹と同じ色。
「一茶たちが、きっと届けてみせるのです!」
カッ、と。輝いた爪先を、一茶は獣たちへ向けてゆく。その度、放たれた白い光に灼かれ、赤い炎は二度と立ち上がる力を失い。
「水よ、力を貸して……この願いを、聞き届けて」
そこへ両の手の指を組み合わせ瑠碧が捧げた祈りが結実する。雲もないのに、矢の如き雨が虹の天井から降り、息も絶え絶えな炎たちへ永遠の終わりを呉れたのだ。
少しずつ、少しずつ。けれど確かに炎は鎮まり始める。
「手堅く、堅実に――ってね」
ぶすぶすと燻っていた熾火を、投げたナイフが起こす風に吹き消させ、ローは油断なく虹の洞全体へ視線を馳せた。
減り始めているとはいえ、オブリビオンは未だ多数。けれど猟兵たちも健在。
「勝ったな」
呟きは確信。
嗚呼、――と。誘名・櫻宵(屠櫻・f02768)と溢れたリル・ルリ(瑠璃迷宮・f10762)が零した感嘆がハーモニーとなり光に溶ける。
綺麗な光だと、二人は虹の洞を仰ぐ。そして、虹は色が重なるもの。
「きっと重ねた想いなんだ」
光を掴むよう中空へ手を伸ばし、形なきものを撫で心地を味わい、リルは蔓延る紅蓮を一瞥した。
「心焼く恋の炎ならば歓迎だけど。この炎は無粋だね」
ひらりと尾鰭をひらめかせ、リルはくるりと宙を游ぎ、櫻宵の両の肩それぞれへ右と左の手を添える。
「妬ましいのかな?」
愛おしい櫻へ注ぐ想いの尊さを知るが故、輝きを喰らおうとする炎の『想い』も想像できなくはない――が。
「人魚姫の愛のうた、病める時も健やかなる時も――甘やかな倖せに恋を灯し 泡沫揺蕩う風に蕩かすは愛の言の葉―愛しき櫻、守るうたと成る」
「病める時も、健やかなる時も ――あなたを守る、刃となりましょう」
愛の歌、と、愛華。
追いかけるよう唱えを重ねられ、リルは薄墨色の櫻宵の髪をやんわりと撫でると、耳元で囁いた。
「僕の櫻。君が刃となるならば、君は僕が守るから」
「ん、もう」
すぐ傍らで咲いた微笑みと誓いの言葉に、櫻宵は頬を赤らめ、照れを誤魔化す為に唇を尖らせる。
「そこは、あたしがあなたを撫でるとこじゃない?」
二人で落ちた恋の海。リルばかりが上手に游ぐようで、手を引かれがちな櫻宵は面目躍如を狙い、炎の坩堝へ走り出す。
「炎は好きじゃないの」
ましてや、旅立ちの時を迎えた想いを穢そうとする輩なら、斬って捨てる理由は十分。
「リィにも手出しさせないわ!」
駆けながら抜いた血桜の太刀へ水の属性を付与し、不意の静止から一息に刃を薙ぎ払う。生まれた衝撃の波に、数体のオブリビオンの四肢が、尾が千切れ飛んだ。
そこへ――。
「凍てつく吐息に君を重ねて 氷の指先で爪弾いて 踊れ 躍れ 氷華絢爛――君の熱 全て喰らい尽くすまで」
櫻宵の頭上から玲瓏たる歌声が響き、氷華の月下美人が咲き乱れる。
「リィ?」
「ほら、もっと綺麗に斬ってみせてよ」
すいすい、くるり、と。虹色のプリズムの空を器用に游いだリルは、歌で炎から熱を奪って凍てつかせてみせたのだ。
「もうリィってば。尽くし上手なんだから」
上げ膳据え膳とはこのことかしら? 整えられた戦場に、ならばと櫻宵は全力で応える。
「さぁ、桜のように潔く……散りなさい!」
一度、刃を鞘へと納め。強く踏み込み――けれどリルが咲かせた花は散らさぬように――、抜刀からの目にも留まらぬ一閃。空間さえ断つ斬撃に、ぼろりと凍った炎が崩れ落ちる。
ひとつ、ふたつ、みっつ。リルと櫻宵は二人で一つと化して、炎の獣を屠ってゆく。
――風に、光に、歌に乗って飛んでいけ。
拍動を続ける虹色へ、リルが歌う。
――勇者の愛よ、恋よ、世界が虹色に染まるように。
「僕の想いも櫻宵にちゃんと届いてる?」
光の粒をまとう人魚を見上げ、櫻宵は微笑む。
「ええもう、クリティカルに届いてるわ!」
想いが通じる事を、受け入れて貰える幸せを、櫻宵はリルによって教えられた。
――大丈夫、大丈夫よ。
思い切って飛んでおいきなさい。待つのはきっと、美しい幸福。
(「でも、一緒に飛ばされてしまわないよう、リルのことは抱き締めておかなくちゃね」)
刹那、目を伏せ。虹色の洞を吹き渡る風を全身で浴びた静海・終(剥れた鱗・f00289)は、寄り添う水底の海竜の名前をそっと呼ぶ。
途端、それは瞳の色と同じ蒼い槍へと姿を転じた。
「涙、参りましょうか」
――悲劇は殺して、壊す。
掲げる信条を心情に、終は涙を労わるように撫でる。
ずっと続いた優しい想いの結晶は、とても綺麗で素晴らしく、決して壊してはならぬもの。
食めばさぞかし美味なのだろう。
「しかしくれてやる訳にはいきませんねえ」
口元に刷いた笑顔はそのままに、終は得物と成った涙を携える。
「ご存知ないです? 人の恋路を邪魔するものは、馬に蹴られるものなのですよ。今回は、竜ですけれど」
のらりくらりと喰えない笑顔に、さらにもひとつ言葉遊びを交えた男は、たんっと軽やかに洞の地面を蹴った。
まずは炎と炎の狭間を駆け抜ける。そうして気を惹き、くるりと反転。圧し掛かってこようとする大火を、一条でまとめて貫く。
「こうすれば、早いし安全でしょう?」
炎の獣の終焉に膨れ上がった爆風は、終と涙を呑む。されど虹色の水晶柱へは一切の余波も及ばない。
ぎりぎりまで計算し尽くした男の計略。守るべきものから敵を引き剥がし、可及的速やかに悲劇のみを滅する為の策。
「さぁ、涙。まだまだ行きますよ」
一所へは長く留まらず、優しい想いの届く風景の中、終はまた走り始める。
(「想いが届くと良いですね」)
きっとそうすれば幸せに、幸せに。誰もが笑ってくれるだろう。
重ねた時の分。いやそれ以上に、ずっと大事にしたと思える虹の洞。なるべく傷付けたくないと考えるのはラティナ・ドラッケンリット(ビキニアーマー道の冒険者・f04425)も同じ。
酒宴に興じた人の好い男たちの分まで、生粋の女戦士は山さえ断つとされる戦斧を豪快に薙ぎ払う。
唸りを上げた余波が、炎たちを一か所へと追いやる。そこは上にも虹色が少なく、巨大な水晶柱からも距離を置いた場所。
(「ここならば――」)
様々に配慮しつつ、かつ素早く敵を殲滅するには、相応の労が伴う。もっと上手い遣り方はないか――ラティナは常に模索を続け、今の己の最善を戦場に引き出す。
「征くぞ!」
力強く地面を蹴った女は、代々家に伝わる穿竜槍『たると』――銘が可愛らしいのは、実は菓子好きなラティナがつけたからだ――を中空から炎の獣の群れへ一気に叩きつける。
ずぅん、と。地鳴りのような衝撃が虹の洞に走った。
三体の獣を串刺した一撃は、大地をも砕いたのだ。されど払われた細心の注意のおかげで、洞自体の損傷はないに等しい。
「次は……そうだな」
洞の状況と獲物の配置を見定めて、竜殺しの異名をとる一族に連なる女は、戦斧を再び構える。
火狸・さつま(タヌキツネ・f03797)の尾に、文様が広がった。
それの付け根にひっそりと隠れる刻印は、極小。されど発動した力は黒き雷となって迸る。
「その想いの熱さは、煌めきは――きっとお前が望むモノじゃない」
盛る紅蓮が寄り集まる場所へ、さつまは敢えて走り入る。
「とても、あたたかな、光だ」
バチリと局所的な雷鳴を轟かせ、さつまは黒に赤を巻き込む。
痺れたように、数体の炎の獣が足を鈍らせた――そこへ、コノハ・ライゼ(空々・f03130)が新たに月白の炎を招き寄せる。
「暖めてあげようか」
旋律は、柔らかい。けれどコノハが操る炎は、炎にして熱もたぬもの。芯まで凍えさせる冷たき月白に焙られ、オブリビオンの勢いはますます衰える。
――こういうの無粋って言うんだよネェ。
――それは大切な想いの光。
軽妙なコノハの嘯きに、さつまは真顔で頷いた。
――コレでも中々、勇者サマのお話は気に入ってるンだから。
――お前が触れて良いもんじゃ、ない。
同じものを瞳に映しているにも関わらず、コノハとさつまの会話はどこかずれたまま。けれど、たった一度。
ね、とコノハが放った視線に、さつまはゆるり微笑み返した。
交わした意思の疎通はそれだけなのに、さつまの動きにコノハはぴたりと合わせ、黒雷に月白を重ねてみせた。
まるで一分の隙もなく噛み合う歯車のように、二人は銘々勝手に振る舞いながら、呼吸を揃えていけ好かぬ炎たちを蹂躙し始める。
「ちょいと遊ぼうか」
さつまが足をトンッと踏み鳴らす。するとその音に導かれたかの如く、すうっと狐火が現れた。
「さぁ、炎比べと行こう」
普段の茫とした風情は何処へやら。さつまは勇ましく狐火を炎の獣へけしかける。それは幼さを残す愛らしい狐火も同じこと。青く燃えた仔狐は、とんとんとんっと中空を蹴って赤を自分色に染めてゆき。
「光でも、炎でも、たっぷりご馳走してあげようじゃナイ」
ほろり零れちて来た紅蓮をコノハはオーラで弾き、今度は四方へ分散させた月白を、すいすいと宙に泳がせ――視線を奪われた獣目掛けて一気に集約する。
熱量の差が、爆風を生む。その風に紛れてコノハは赤い熱へ肉薄し、折角だから存分に味わって? と捻じ込んだ拳から、直に冷たい炎を根付かせた。
「コノ、早過ぎ」
「なぁに、たぬちゃんがのんびりしてるだけじゃなァい?」
獲物を先取りされたさつまの視線が険を増す。でもそれが向かうのは、コノハではなくオブリビオン。
「――負けない」
コノハにも、敵にも。
漲る戦意の儘に、またしても炎の坩堝へさつまは身を投じる。バリ、と先触れとなったのは黒い方。続いた青に、赤が霞む。
それら全ての彩を、天井の虹色は具に見つめ、光の粒子として勇者様の水晶柱へ運んでゆく。
まるでさつまが主役の冒険活劇の一幕を、光が勇者様へ読み聞かせているようだ。
思い付いた想像に、コノハはまた新たな月白を吹き荒ばせる。
――芯から、凍えて灼かれるといい。
「この虹色はテメェらには贅沢過ぎンでしょう?」
黒い毛先を風に遊ばせ、葦野・詞波(赤頭巾・f09892)は洞の奥に暫し見入った。
「想いの水晶か」
見事なものだと、文句なしに思う。故にこそ、灯った光を目の前で消させたりはしないと士気は上がる。
「恋路を邪魔する奴は何とやらだ」
「届かぬ想いなら燃しちまえって? そらちょいと荒療治すぎるよなァ」
奥から手前へ、虹色から紅蓮へ移った詞波の視線に、ユルグ・オルド(シャシュカ・f09129)も口元を皮肉に吊り上げカラリと笑う。
「……次は焦がさねェどきたいとこ?」
ユルグの語尾が戯れに跳ねる間にも、熱は猟兵たちへ迫る。
その『熱』の源は、紅蓮の獣が発するものか、はたまた今にも駆け出さんとするユルグと詞波から漏れ出たものか。
(「――或いは、勇者殿の想いが私の心に燈ったからか」)
人としてではなく、魂依である青磁の香炉のとして、都槻・綾(夜宵の森・f01786)は『心』について思案する。
答えは何れでもあり、何れでもないかもしれない。
されど目にしたばかりの『恋心』の結晶の、なんと美しい事だろう。無垢で純粋な煌めきは、花と鳥を透かす綾自身――香炉に仕舞いこむ事の叶わぬ灯。
ほんの一瞬、風が睫毛を揺らすほどの刹那。無機に宿った心を温めたものを、消さぬよう、忘れぬよう綾は瞳を閉じた。が、その隙を得られるのも頼もしき仲間――ユルグと詞波がいてこそ。
「一暴れの時間だ。征くぞ、綾、ユルグ」
「ああ、任せろ」
振り返ることなく炎の海へ飛び込んでいく二人の背へ、綾は援護を請け負う是の応え代わりに、艶やかな微笑を放る。
無論、前を向く二人にはそれは見えない。だが自然と通じるものはある。
(「どうせ綾のことだ」)
希うには遠いし、未だ想いを温め続ける勇者様の御許とあらば気恥ずかしさもあるけれど。
信じたユルグは、ただまっすぐに炎を突っ切った。脇目は振らない。いや、その必要がない。
ほんの三歩分。ユルグが身を低くしたのは、識っていたから。その間にユルグの真横から襲い来たオブリビオンは、ユルグの頭上を掠めて閃いた詞波の槍が薙ぎ払う。
(「ほらね」)
勝手知ったる、とはまさにこのこと。
更にどこからともなく漂ってきた馨しさも織り込み済み。
迫るユルグ目掛け跳ねた獣の動きが僅かに鈍った――綾が放った香りが自由を絡めとったせい――のをユルグは見止め、直線の軌道を変えて壁を蹴る。
敵が上を取ろうとするのなら、その上をゆくまで。生える水晶柱を足場代わりに洞の天井付近へ至ったユルグは、そのまま獣目掛けて降り落ちる。
「暴れちゃダメよ」
嘯き、まずは身を戒める縄を。次いで、枷を。終いに、轡を。器用に姿勢を保ち、獣に罠を仕掛けたユルグは、反撃を封じた相手の懐へ飛び入り――シャシュカを一閃。
「情熱的だコト」
散ってなお足掻く火花をユルグは囃し、虹の洞を幾重にも反射する光へ手を伸ばす。
当然、手応えはない。けれど目を瞠るほど鮮やかな虹色に、ユルグの裡を何かが廻る。されどそれは灼け付く眸の奥の光のまま。抱えた熱の在処さえ、確かにせずに。
しかし耽溺することなく、ユルグは地に舞い戻るや否や身を左へ傾けた。
――そこは詞波の槍の軌道。
「慣れたものだ。これなら勇者一行にも劣らぬだろうよ」
最早、言葉を交わす必要もない阿吽の呼吸に、詞波は迷わず槍を担ぎ構える。
「刺し闢け」
空でわだかまる異なる熱源へ投じる槍は、亡骸の山より聖別されしもの。分かりやすく、けれど圧倒的な威力を有する一撃に、貫かれたオブリビオンは陽炎さえ残さず散り消えた。
が、殺しきれぬ槍の勢いが洞の天井をも脅かす。直撃すれば、崩落の危険を招くおそれもある。
それでも詞波が気にする素振り一つ見せぬのは――。
「いつか見た――未だ見ぬ花景の柩に眠れ、」
綾が、彩の風を吹かすと解っていたから。装具を変えた春夏秋冬、巡る四季ごとの花弁は炎を包み、詞波の槍まで艶やかなる内へ抱き留めた。
やがて一陣収まれば、一時の静けさに虹のプリズムが三人へ注ぐ。
「勇者殿の想いは届きますでしょうか」
虹の橋が無事に架かりますようにと祈る綾の問いに、ユルグは肩を聳やかす。
「そろそろ渡したって、いいだろう」
ここまで来たんだ。この先だって届かないとはいわねェでしょ、と未来を囁く相手は未だ虹色の殻の中。
だが、綾やユルグを信じるのと同じに、詞波は古の勇者の男気を信じている。
「――嗚、もうすぐだ、きっと届くとも」
想い届く様を、見せてくれ。
『だめ……! やめて……!』
トラヴィンの町の人々の顔、嬉しそうに勇者様のことを語る声、運ぶ風の声。
脳裏を過った様々に、サン・ダイヤモンド(甘い夢・f01974)の身体は反射的に動いていた。
――想いを、壊さないで!
虹色に群がろうとする炎を掻き分け、サンは巨大な水晶柱に縋りつく。失われる恐怖に、羽根の如き白い髪がぶわりと膨れ上がる。
『落ち着け、サン』
『ブラッ……ド?』
がら空きになった背中は当然、炎の餌食になった。されど熱の爪がサンを切り裂く直前、ブラッド・ブラック(VULTURE・f01805)が腕を変形させた厳つい拷問具が、凶行を阻む。
『え、あ……』
自分のせいでブラッドが傷付いてしまう。振り仰いだ黒い背に、サンは焦りを覚える。ブラッドを、危険な目に遭わせたくない。でも、猟兵として務めなくてはならない。想いの結晶も、守りたい。
希えば希う程、外の多くを知らぬサンは惑う。
――でも。
『問題無い。お前が想うままをやれ』
サンの迷う心に、ブラッドの声が届く。
『――、僕は』
ごくり、と喉にわだかまった何かを嚥下して、サンは風と光に身を浸す。
何がしたい? どうすればいい?
『僕は、』
すぅと息を大きく吸い込む気配に、ブラッドは『それでいい』と胸裡で頷く。
ブラッドにとっては何より尊く美しいものはサンだ。白き輝きは至高であり、誰にも奪わせたくないと強く思うもの。だが、サンが何かを望むなら。その望みの儘に羽搏くサンこそが、ブラッドは愛おしい。そんなサンに足りないものがあるというのなら、そこを埋める役割は誰にも譲らないし、譲る気もない。
「届いて、どうか――」
風の精霊へサンは祈りの歌で力を注ぎ、嵐を逆巻かせて炎を消し去る。
「さあ、来い。全て喰らってやる」
すり抜けた獣は、ブラッドが尽く喰らい尽くし、己が振るう炎へ変えた。
(「本当に魔法だったとはな。大した仕掛けだ」)
闇色の貌に幽かな賛辞の色を浮かべ、異形の男はサンへと向かうオブリビオンの命をまた啜り、代償として呪縛を被りながら黒き炎を我が身に灯す。
「風よ吹け、もっともっと、強く吹け」
サンの祈りに、炎の獣がひとつ消え。
(「なあ、勇者よ」)
サンを守った分だけ、ブラッドは異質な炎と呪いに巻かれゆく。
されどもうサンは躊躇わないし、ブラッドも止めない――むしろブラッドは、サンの為に負う何かならば本望に違いない。
「炎なんか、消してしまって。そして、風よ。みんなの心を、願いを、想いを。お空の向こう側まで、大好きな人のところまで運んで……っ」
サンは『声』で、
(「お前が想いを伝えたところで、どうするかは相手次第だ。相手の気持ちはお前が決めるものではない」)
ブラッドは胸の裡で勇者へ語り掛ける。
募る胸の熱に、サンはもう泣き出してしまいそうだった。
「一緒にいられないなんて嫌だよ」
(「案外、あちらさんもお前が想いを伝えてくれるのを待っていたのかもしれないぞ――もしかすると、今も」)
「行って――!」
(「さあ、お前が愛した人はすぐそこだ」)
サンの歌が、ブラッドの炎が、光と化す。
竜穴を立ち昇る光と比べれば、頼りないものかもしれない。だがサンとブラッドの力に溢れたそれは、波のように広がり、やがて穏やかな静寂を齎す。
猟兵たちの奮戦による、遂に全ての炎が消えた。
「虹色の水晶は――!?」
勇者様の心を、町の人々の優しさの輝きを、フィリアは振り返る。
「……よかった」
二色の視線の先には、猟兵たちに守られた水晶柱が風を受けていた。
ああ、風よ。
風よ、もっと吹いて。
吹いて、吹き渡って、どうか空まで――。
●虹の目覚め
「大丈夫だったかい?」
弾んでいた息が整う頃、カスカはそっと巨大な虹色の水晶柱へ触れた。
所々が欠け落ちてしまってはいるが、古の勇者様としてはきっとかすり傷程度だろう。むしろ、そこかしこに残る煤の方が気にかかる。
煤は、光の大敵。
灯台もしっかり磨いておかねば、船を導けない。
「オズ君、」
「お任せだよ」
どうしよう、と尋ねるカスカの視線に、オズはポケットからハンカチを取り出し、手渡す。
「ありがとう」
このままにしてはいけない気がしたんだ、と呟き、煤を清め始めた少女に、オズも「だよね」と頷き、袖で倣う。
決して水晶を傷付けないよう優しく丁寧に、二人は巨大な虹色を磨き上げてゆく。
そうして殆どの煤が取り除かれたのと、フィオリーナが驚きの声を上げたのは同じタイミング。
「ゴンドラランプをお持ちの方がいらしたら、確認してくださいませ」
礼儀正しく、柔らかい笑みを湛え続けるフィオリーナにしては珍しい、動揺が隠せぬ様子に、手製のゴンドラランプを携えた者たちは、その様子を確認し――フィオリーナ同様に少し慌てた。
虹の洞の光の美しさに霞んでいたが、猟兵たちの手元の想い運ぶ翼の放つ灯も増していたのだ。まるで、躊躇う誰かを励ますように。
「大丈夫、怖いことなんてないのね!」
色とりどりの灯を受けてますます光の拍動を強める水晶へ、ユニがエールを送る。
「だって皆がついているから、だから安心して大切な人に逢いに行ってほしいのね」
高揚に頬を染めたユニの言葉に、メーリも虹色の水晶柱へ――勇者様の恋心の背中を押す。
「そうだよ! もう、何処にでも向かっていいんだよ。大切な人に、会いに行っていいんだよ!」
――風よ、舞い上がれ!
猟兵たちの声が、虹の洞にこだまし始めた。
ただ聞いているだけで、胸が熱くなる。
(「僕の……私の想いを聴いてくれる精霊たち……」)
君たちは、この声援をどう聞いているのだろう――と、瑠碧は風の声に耳を傾けた。
ずっと町の人々の優しさを勇者様の元へ届けてきた『彼女』は、今、どんな想いでここに吹いているのか。
――勇者たちも、関わった全ても。喜びと祝福に溢れていますように。
瑠碧が祈るように、多くの祈りが重なっていく。
そして――。
「……オズ君、見て」
「――わぁ!」
ぼろり、と。虹色の水晶の表層が、剥げ落ちた。いや、そうではない。雛が卵から孵化する瞬間のように、内側から無数の亀裂が走ったのだ。
始めは小さな隙間から洩れるだけ。やがて勢いを増した純白の光は、ついに『殻』を打ち破る。
「カスカ、届くよ」
「ああ、そうだね。勇者の優しさも、人々の優しさも、込めた想い全てが……」
風を巻き込みながら強さを増し、ついには目を開けられていられなくなったのに。どこまでも優しい光に、オズとカスカは確信する。
行け、行け、行け!
もっと強く、もっと強く。
心隔て続けた壁さえ、砕くくらいに!
「はてさて、どうなるのでしょう?」
手を翳し、薄目を開き。
ハッピーエンド至上主義のクロトは、第二の産声を上げた恋心の行方をわくわくと見守る。
折角出逢った恋物語だ、結末までを見届けぬ手はない。
だと言うのに。
「らんらん?」
光が洞の最奥を目指し迸る瞬間、くるりと背を向けた嵐吾に清史郎は首を傾げる。
「せーちゃん、すまぬ」
どうしてそうしようと思ったのか。理由の輪郭は朧げながら、疼く舌先――聖痕に嵐吾は眉を顰めた。
自身と居る時に見せるには珍しい友の顔に、清史郎は何食わぬ素振りで金色の花弁舞う衣をはらりと雅に翻す。
「見届けないのもまた一興。次は下まで競争だぞ、らんらん」
はわ、はわ、はわわ。
両手を口元へ宛て、シャルロットは溢れ出しそうな興奮をぐっと飲み込む。
だって騒いでしまえば、かわいらしい勇者様が臍を曲げてしまいそうで。
「想いは歌に、祈りは空に。そして記憶は地に残る。これはそういうお話ですのね」
だからとっておきの笑顔で、優しく、穏やかに。
指向性を得たおかげで、送る位置からならば眺めることもできるようになった光を、猟兵たちは見守る。
「……届けるお手伝いが出来たでしょうか?」
光の尾へ、応えを期待せぬ問いをフィオリーナはそろりと呟く。
ひとの心をいただき、さほど長い年月を過ごしたわけではないけれど。その心の尊さを知る少女は、様々な光が漂っていた町の光景を思い出す。
果たして自分も、あの小さな箱舟たちのようになれたのだろうか?
仕事終わりの紫煙を燻らせ、ローは砕けゆく岩盤の向こうを思い描く。
「優しく受け止めてやれよ、お相手さん」
含み笑いを込めた眼差しに宿るのは、労いのような、茶化しのような、慈しみのような、複雑な心。
「そうしなきゃ、この勇者様は壊れちまうかもしれないぜ?」
男とは存外に繊細な生き物なのだ。
それに、想いが届き恋が実るとしても。恋は実って、花が咲いてからが真の始まり。
「竜退治より難しいかもしれないが……手の中の花を枯らすなよ、勇者様」
●背中合わせの挿話~地風に咲く想い
これだけ煽られて、背中を押されて、それでも動かない男が世界の何処にいるだろう?
それが『勇者』と語り継がれるに相応しい男なら、なおのこと。
遂に虹色の殻から零れた――いや、繭から飛び立った光は熱となり、力となり、洞最奥の壁を幾度も幾度も穿った。
その先に待つ誰かへ必死に手を伸ばすかのように。
ガラガラと崩れ始めた壁は、やがて『向こう側』からの衝撃も伝えてきていた。
そこに誰かがいるのだろうか?
勘の良い者ならば、気付いただろう。
強く願った者ならば、奇蹟を信じただろう。
果たしてそれらは『正しい』。
二つの虹色がこの地で交わろうとしているのが、ただの偶然なのか、それとも必然なのかは分からない。
ただ言えるのは、死してなお二人は背中合わせであったということ。
そして今、ただ託すだけだった想いは開花の時を迎えている。
光の中に猟兵たちが視た、ほろ苦さと照れ臭さを綯い交ぜにした無骨な横顔は幻だろうか?
キィン、と。鋼の刃同士を打ち鳴らすのに似た甲高い音がした。
直後、小さく小さく開いた『扉』へ光と風が轟々と、滔々と流れ込んでゆく。
薄い翅のような虹色と、仄かな灯が醸す虹色と。
二つの虹がどこかで繋がった気がした。
大成功
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