2

ケルベロス・ウォー⑨〜『感染』する原罪蛇メデューサ

作者：七転 十五起

---

　禍禍禍　どうだ　私の愛し子達は強いだろう？

「お前の不死性さえも破られかねない状況で随分と余裕だな、メデューサ」

　愉愉愉　たしかに　愛し子達に知恵を与えて愛したのは　いずれ私が喰らうため。
　転転転　ただし私の末裔に違いはないのだから。
　明明明　私か子供達　どちらかが残れば全滅にはならない。

「成程。お前もまた確かに、種の存続を第一とするデウスエクスだったという訳か。
　いずれを『持ち帰る』べきか、実に悩ましい所だ」

　咒咒咒　さあ主よ　お前にも「おそれ」を貸してやろう。
　臨臨臨　ダイウルゴスを構えよ　ケルベロスが来るぞ。
　禍禍禍　禍禍禍　禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍禍！

　――グリモアベース。予兆を見た蛇塚・レモン（白鱗蛇神憑きのシャーマンクイーン・f05152）は、裏人格である白亜の蛇神オロチヒメと人格を後退させて憤っていた。
「忌々しい邪神め！　彼奴は決戦都市に残った一般人らをその権能で『蛇人間』に変えおった！」
　なんと十二剣神『原罪蛇メデューサ』は人類の「おそれ」を触媒とすることで人々を『我が子』に変えて猟兵達へ襲撃を仕掛けてくるのだという。
「蛇人間は髪が蛇化したデウスエクスだが、れっきとした人間である。そのまま撃退すれば元になった人間もろとも死滅するぞ」
　都合よく人間とデウスエクスが分離したしてくれないようだ。ではどうすればいいのか？
　オロチヒメは断言した。
「本体を殺すしか他なかろう。だが、メデューサ自身も人間と融合しており、見分けは困難を極めるであろう。唯一、他のヘビ人間と違って『頭に生える蛇の数が多い』ようだが……帽子を被るなどの対策もしているであろう。そもそもどれだけ多いのかまでは予知出来んかった。ウカツに攻撃せず、まずは攻撃に耐えつつ本物を見極めるのだ、良いな？」
　オロチヒメの忠告を受けた猟兵達は、早速ケルベロスディバイドの戦場へ急行するのだった。

第1章 ボス戦 『十二剣神『原罪蛇メデューサ』』

POW   :    蛇蛇獄魔獄狡兎殺 【全身から染み出す「超次元の蛇」】で近接攻撃し、与えたダメージに比例して対象の防御力と状態異常耐性も削減する。 SPD   :    朧朧蛇蝎奇霊夜行 自身が対象にとって未知の存在である限り、通常の行動に追加して「【広域感染型の金縛り】」「【鎮火できず永遠に追尾する鬼火】」の心霊現象を与える。 WIZ   :    歓歓禍禍大虞呪咒 【底知れぬ恐怖をもたらす笑い声】を放ちダメージを与える。命中すると【「おそれ」】を獲得し、自身が触れた対象の治癒or洗脳に使用できる。 イラスト：カス 👑11 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　戦場は決戦都市内のショッピングモール。突如として一般人達はその肉体を十二剣神『原罪蛇メデューサ』によって乗っ取られ、頭に無数の蛇を生やした『へビ人間』に変わり果ててしまった。
「性格悪い手だな！　だが！　相手が悪かったなメデューサ！　このブレイザインは無敵のヒーローなんだよ！」
　空桐・清導（ブレイザイン・f28542）は真紅の機械鎧を纏って光焔を滾らせる。
「オレは誰かを助けるヒーローだ！　それはキミ達も例外じゃない！！　だから待ってな。今、解放してやる！！」
　空桐の『救いたい』という強い願いが込められた、黄金に輝く光焔が周囲のヘビ人間達を次々と飲み込んで焼き払う。だがその焔は決して苛烈な制裁の焔ではなかった。
「“無敵”のヒーローセイヴァーズ・フレイム！　この光焔は敵の邪悪さだけを焼き払うぜ！　つまり、『おそれ』だけを焼き尽くす！」
　メデューサを憑依させる原因である『おそれ』を焼き払われたヘビ人間達が呪縛から解放されてゆく。中の人間を傷つけることは一切無かった。
「相手にいかに強かろうと関係ない。オレは全員助けると誓ったのだからな！」

　一方、偶然にもその場に合わせた七那原・望（比翼の果実・f04836）は、目が見えることで怒りが倍増することもあると自覚してしまう。
「チッ……ふざけんな下衆が……」
　可愛らしい顔付きからは想像できない憎悪の感情が言葉として漏れ出る。
　とにかく今は猫の手も借りたい。鈴の付いた白いタクト『共達・アマービレ』で猫達を大量召喚すると、望は猫達へメデューサ人間達を捕取り囲むように指示した。
「ねこさんの檻でメデューサ人間さん達を閉じ込めてほしいですー」
　召喚された猫はただの猫ではなく、魔力を帯びているようだ。その猫達がヘビ人間達の胸元へ飛び込むと、あまりの可愛さに彼らは足を止めて猫達を愛で始めてしまう。
「これがねこさん結界ですー。猫を愛でてる人達にはバリアが張られるのですー」
　こうすることで攻撃の余波から保護してもらいつつ、ヘビ人間達を無力化するのだ。数には数である。
　更にすぐさまユーベルコード『果実変性トランス・ウィッシーズオブザーバー』を望が発動させると、背中に煌めくオラトリオの翼を広げて飛翔した。空中から眼下のヘビ人間達の無数の死を見詰める望は、その中にどうしても死を見ることが出来ない存在を発見した。
「デウスエクスは死なない。そして明らかに頭のヘビさんが多い……お前ですか」
　望が遂に十二剣神『原罪蛇メデューサ』を発見したのと同じ時、空桐も１体だけ人間に戻らないヘビ人間を発見していた。
「おそれを焼き払っても人間に戻らない存在、そしてその頭のヘビの量……お前か！」
「禍禍禍！　バレてしまったか。だが無駄なことだ」
　メデューサは全身から染み出す「超次元の蛇」を振り乱し、近くにあるものを次々となぎ倒してゆく。空桐は焦る。
「野郎！　もとに戻った人間達も殴り潰す気かよ！？」
「任せて」
　咄嗟に望が猫達を呼び寄せ、巨腕に殴られる人々をねこさんバリアでガード。
「これで大丈夫……メデューサは至近距離しか殴れないから、空からの砲撃が有効……！」
　そのまま望は上空から複雑な軌道で高速飛行する7丁のセプテットで攻撃を仕掛ける。高下駅が当たるたびに更にコンボが繋がってゆくため、実質無限に連続攻撃を仕掛ける望。苛烈な手数の多さの前にメデューサも動きが鈍る。
「足止めサンキュー！　あとは任せろ！」
　空桐は拳に光焔を一極集中させると、メデューサが憑依している人間の肉体を燃え盛る拳で殴り抜いた。
「すまない！　だがこれでメデューサ、お前は隠れ蓑がなくなるぜ！　喰らえ！」
　殴り抜かれたのはメデューサ本体だ。人間の肉体はズルリとホログラムめいて拳が貫通し、その背中からおぞましい姿の蛇女がはるか彼方へ吹き飛ばされてゆくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　ふっ飛ばされたメデューサは慌てて別の人間の肉体を乗っ取って逃走を図る。その現場を目撃したのは数宮・多喜（撃走サイキックライダー・f03004）であった。
「あの野郎！？　……まあレモンちゃんやオロチヒメさんはブチ切れるよなぁ。ライムちゃんに予知が降ってなくて本当に良かったよ。妹さんの小耳にでも入る前に、さっさと制しちまうか！」
　すかさずメデューサが乗っ取ったヘビ人間を追う多喜。だが周囲には似たようなヘビ人間達が群がっており、それらが多喜へ敵意を見せているのだ。
「くそ！　この状況で頭のヘビの数なんて数えられるかよ！」
「むぅ、また髪の毛の話している？　んんっ、違った。髪の毛じゃなくて蛇の話だった」
　唐突に現れるリリエッタ・スノウ（ちっちゃい暗殺者・f40953）がヘビ人間達を見て頬を膨らました。多喜は気配を感じさせずに側へ現れたリリエッタに驚きながらも、メデューサ特定のため絵に共闘を申し出る。
「手分けをして奴を探してくれないかい？　流石に単独はキビしい！」
「んっ、人質で偽物がいっぱいだけど蛇がふさふさなのが本体らしいね。一番ふさふさなのを探すため、攻撃を避けながらペイント弾で識別していくよ」
　リリエッタ用にカスタマイズされた拳銃と連射性に優れたもう一挺の拳銃を用いて、赤と青のペイント弾で選別を行うのだという。
「対象はランダム選定２人１組ニコイチで行うよ。んっ、そっちのフサフサは蒼、スカスカな残念さんは赤だね」
　バシュバシュッと青と赤が瞬く間に戦場を塗りつぶしだす。赤いペイント弾が付着したヘビ人間はも二度と打つことはせず、ひたすら無選別と青いペイントがされた個体を選り分けてみせる。
「なるほどな！　青い塗料が多い奴がメデューサ本体に近いのか！　それでも大群の中からただ一人を、しかも誰も殺さずに見つけ出せってのは中々にキツイけど……やるしかないだろ」
　多喜はサイキックエナジーを最小限の出力で放出。赤いペイントが施された個体をふっ飛ばした後に、蒼く塗りたくられた個体へ少林寺拳法めいたワンインチパンチや関節技を決めてゆく。
「動きを封じて直接触る！　そして卑怯とは言うまいね。アンタの過去、浚わせてもらうよ！」
　ユーベルコード『過去に抗う腕カウンターパストを用いて深層心理もしくは存在の本質を捉える思念波・過去の記憶や経験を探査する思念波・対象の精神や思考回路に干渉する思念波を放つ。これによって人間であればユーベルコードを封印されることで姿が人間に戻るのだ。
　一方、リリエッタもまた選別が終わりつつあった。
「んっ、これで比較完了。あの真っ青なヤツが本体だね。リリが真っ青にしちゃったから、これで水洗いしてあげるよ！」
　すかさず巨大な水鉄砲型バスターライフルから超高圧の水流を発射！
「薙ぎ払え！　水の弾丸――ウォーター・バレット！」
　真っ青になったヘビ人間が水飛沫を上げて吹っ飛んでゆく。すると周囲に鬼火が発生し、リリエッタは金縛りになってしまう。メデューサのユーベルコードだ。
「アタシに任せな！　サイキック全開！　金縛りの耐性を上げて突っ込む！　オラァ！」
　低い体勢からサイキック電撃を纏った多喜がメデューサに飛び掛かった。そのままメデューサが乗り移ったヘビ人間の首を締め上げてゆく。更に３種の思念波を同時に放つことで、メデューサのユーベルコードを一時的に無効化することに成功する。メデューサ本体が人間の肉体から剥離された。
「うぅ、ひどい目にあったよ」
　金縛りが解除されたリリエッタは、怒りのままに至近距離から拳銃でメデューサ本体を乱射！
「その性根を直してやるよ！　これでも喰らいな！」
　多喜も一般人達を巻き込むメデューサのやり口に激怒、バチバチとスパークするサイキックパンチを醜悪なヘビ人間の顎へ叩き込んだ。鉄拳制裁！！

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

　スイート・シュガーボックス（おかしなミミック・f41114）が運転するキッチンカーが、ショッピングモールの通路の看板やゴミ箱を薙ぎ払いながら豪快エントリー！
「汚い相手に手段は選んでられないね。ディオちゃんよろしくッ！」
「おけまるッ！　『豊穣葡萄』全域展開からの〜…『幻惑が紡ぐ、呑めや歌えやどんちゃん騒ぎイリュージョン・オブ・ドンチャンパーティー』！」
　パステルブルーの髪色が映えるショートカットの女子高生風の少女（？）がユーベルコードを放つ。するとショッピングモールはたちまち『大宴会世界』に塗り替えられてゆく。スイートはキッチンカーで『極上食材』を使い、次々に宴会用の激美味料理を作っていく。
「さあヘビ人間のみんな！　今日はお菓子じゃなくて宴会だねっ！」
「更にウチの豊穣葡萄でお酒を沢山振る舞っていくし。パーリナーイッ☆」
　ヘビ人間達は刷り込まれた猟兵達への憎悪よりも『宴会を楽しみたい』という欲望に負けて飲み食いを始めてしまう。
「楽しい宴会で響くは、恐怖をもたらす笑い声じゃなくて賑やかな宴会を喜ぶ笑い声になるって寸法さ。更に古今東西、蛇の怪物はお酒で酔い潰すのがセオリー、つまり効果覿面だッ！」
　どこからともなく聞こえるメデューサ本体の笑い声は、こうして楽しい宴会の盛り上がりの中へかき消されてゆく。そして気がつけば、周囲のヘビ人間達は酔いつぶれて寝てしまった。
「さあ皆が酔い潰れたら頭の蛇の数をチェックだ！」
「スイート君！　こいつ、なんか頭のヘビがアフロっぺーんだけど！？」
　ディオニュソスがモサモサのヘビ頭の女が仰向けで寝っ転がっているのを発見。
「ナイスだよディオちゃん！　さてと、メデューサに目星をつけたら……」
「神機形態に変身からの〜？　神機パーンチッ！！」
　ディオニュソスは黄金に輝く神機――体高５ｍのロボ形態に変身すると、聖なるお酒パワーで人間とメデューサを分離させた後にぶん殴った。こうして醜い蛇女は今日３度目の『空中散歩』を味わう羽目になったのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

　髪の毛が蛇に変わったヘビ人間達が一般人を襲う。混乱する決戦都市の中で、箒星・仄々（ケットシーのシンフォニア・f07689）は怒りを通り越して感心すらしていた。
「さすがメデュさん。いやらしい作戦ですね〜。けれど必ず倒しますよ」
　箒星はまず、竪琴で元気一杯の楽曲を演奏しはじめた。曲目は『天国と地獄』。運動会の徒競走でよく流れる楽曲だ。追われる一般人達は、無意識に足に力がみなぎって素早く逃走していく。
「音楽は人間の潜在能力を引き出します。そう、今は絶望には程遠い状況です。なぜなら私たちは必ず勝利するのですから」
　竪琴を激しい高速アルペジオ奏法で爪弾けば、広がるメロディが光の五線譜になってヘビ人間達を吹き飛ばす。
「手加減はしてありまうよ。真の『敵』はメデュさんの周りから染み出す超次元のヘビさんと、そして周囲のヘビ人間さんが被る帽子等の被り物です。恐らくメデュさんはその毛量ならぬヘビ量を帽子で抑えて隠しているに違いません。ですので、一斉に帽子を吹き飛ばせば、すぐにメデュさんが誰かわかるはずです」
　そんな推理で大丈夫か？と突っ込みたくなるが、実際ここまでメデューサは猟兵達に何度も退けられていた。そのため、なんと浅はかにも帽子を被って箒星へ接近しようとしていたのだ！
　なんてウカツ！！
「見つけましたよ！　きれいなお姉さんに憑依して油断させようとしても、その頭のヘビ量はごまかせません！」
「愚愚愚愚愚……！　ばれてしまったのならば仕方がない……！　蛇蛇獄魔獄狡兎殺！」
　メデューサは強引に箒星へ駆け寄り、体中から超次元のヘビを染み出して咬み付こうとする。
「させませんよ！」
　箒星は楽曲を情熱的なフラメンコへと切り替える。光の五線譜が真っ赤に燃えだすと、近付くメデューサを爆炎とともに吹き飛ばす
「ギャァァァァーーー！？」
「その焔の旋律には、呪詛を焼き払う破魔の力を宿しています。今まで吹き飛ばした一般人の方々にも焔は伝播して、メデュさんの呪いを弱めてゆきます。こうすることで『おそれ』は焼き払われ、更に鼓舞のメロディで皆さんを勇気付けて新たな『おそれ』を生み出すことを阻止します。完全にとはいきませんが、ヘビ人間さんの動きが鈍くなるでしょう」
「怨怨怨怨怨怨……！　おのれ猫風情が！　グワーッ！？」
　どうにか肉薄しようと箒星に迫るメデューサであったが、光焔の五線譜が建物よりも大きい巨体を上空へと打ち上げてみせた。
「空中では避けられないでしょう。今です、ランさん！」
　箒星は空中に浮き上がったメデューサの巨大な影から、体長５ｍのメスの空飛ぶメカジキことランさん召喚、上空へ向けて槍の如く発射させた。
「串刺し、に出来ればよいですが。それが無理でも、その隙にこれまでの演奏で練り上げた炎水風の魔力を放って倒します！」
　ランさんの鋭い口吻が音速の衝撃波を伴ってメデューサの腹を貫くと、焔の五線譜に水と風の魔力も加わり、七色に輝き出す。
「さあ、行きましょう！　これが喝采のファンファーレです！」
　ランさんによって穿たれた小さな孔へ、大量の七色の五線譜弾幕が注ぎ込まれる。
「膨膨膨……！？　まずい、これ以上、膨らんだら……ぬおおおおおぉぉぉー！？」
　メデューサは内部で破壊される自分の身体の感触を味わいなら、醜い風船のごとく全身を膨張させて遂に弾け飛んでしまった。
「ギャァァァァーーー！！！」
　盛大な破裂音とともに、増幅した七色の五線譜が空でキラキラと舞い踊る。
「うーん、皮肉ですが悪者を倒したときの五線譜の輝きがとてもキレイですね」
　戦闘後も暫くは演奏を続ける箒星は、決戦都市の上空で煌めく七色の魔力の花火を見上げていた。
「ヘビ人間から回復された方々へ、労いの旋律を。皆さん、お疲れ様でした！　よく耐えて下さいました。皆さんのお力添えでメデュさんを倒せましたよ！」
　正気に戻った都市の住民達は、巨悪の滅亡に心からの歓声を箒星へ送ったのだった。

＜了＞

大成功 🔵​🔵​🔵​

最終結果：成功 完成日:2025年05月28日