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運び屋との取引

#UDCアース #ノベル

リア・ファル




●与太話の続きについて
「それで、どうなったんだって?」
「そこで俺はこう言ったのさ……『お前は今マサズミ・エクスプレスに搭乗しちまったんだ』ってな」
「はは、終点はどこだい? 『恐怖』かな」
「大変惜しいがちょっと違うな、『後悔』だよ」
 時は昼過ぎ。場所はUDCアース、北イタリア・リグリア州のポルトヴェーネレ。海に突き出た半島に位置する小さな港町である。
 中心街から少し外れた一角、港にほど近い場所に、『Trattoria Giapponese Tomaso』という名前の日本料理屋が存在する。
 二人の猟兵が仕事終わりに立ち寄ったそこで、とある話に花が咲いていた。
 彼らの名は、リア・ファル( 三界の魔術師トライオーシャン・ナビゲーター・f04685)と納・正純(Insight・f01867)という。
 かたや運び屋、かたやスナイパーである彼らだが、共通事項は少なくない。
 その中でも特筆すべきは――どちらも『取引』を重んじる、ということだろう。
 彼らがこなしてきた取引は世界を股にかけ、その数は両手の指でも足りることはない。
 これは二人の止めどない話。取引相手に対しての敬意と尊重を持った二人の、仕事終わりの与太話。いや――。
 与太話のさらにその次、その続きとでも言おうか。

●与太話(チーズとワインを仕入れ)について
「悪かったな、随分と時間を貰っちまってよ」
「お互いさまさ。ボクも忙しかったし、お互い気にせずという所で」
「そう言ってくれるならありがたい。忙しいってのは……」
「正純さんの言葉を借りるなら、『堅物ワイン協会の爺様の件』さ。ようやく進展してきたは良いけど、まとまりかけてきた取り分と手数料の件をひっくり返されちゃって」
「ボルドーの老獪協会長サマの案件か、それは穏やかじゃねえなァ。具体的に言うとどこまでひっくり返った?」
「契約の前提条件部分」
「お…………ッとォ」
「何となく不満そうだな、と感じる時はあったんだけどね。そこのカバーが不十分だったかなぁ。『誰の足元からチーズとワインを奪っていくつもりだ』とお冠でさ」
「いいや、リアに非はねえさ。あの爺さん、怒った振りもかなり上手いからよ。いつでもそういう噛み付けそうな切っ掛けに飢えてんだ。俺も昔に噛み付かれてるよ」
「ああ~~、取り付く島もなかった時のこと?」
「そうそう。話してなかったが、実はあの後爺さんからお手紙を頂戴してよ」
「おっと、それは初耳。どういう内容?」
「今でも覚えてる、強烈でな……『全ての非礼を承知の上でお願いいたします、二度と儂の前に一晩放置したチーズスナックみたいな顔を見せないで頂けますでしょうか』……とさ」
「…………それはそれは」
「強烈だよなァ!? しかも封蝋までしてあってそれだぜ」
「というか出禁を随分と畏まった言い方にするだけでここまでの破壊力になるとはだね……正純さんでそれなら、う~ん、今はまだマシなのかも」
「同意見だ。本当に白紙に戻したいわけじゃなく、きっと今後の取引を続けていくうえで、優位を保持しておきたいだけだろうよ。あの狸爺さんのやりそうなことだぜ」
「ふむ。そうなると、ボクの今後の手札としては……会長さんの言い分を通したうえで、別の条件で取引の公正さを担保する。もしくは」
「似たような事例があったことを示して、契約の前提条件の順守を図るか、ってなトコか。俺がもらった手紙が欲しけりゃ貸そうか、封蝋付きでよ」
「はは、ありがとう。でも、個人的には正論を通すだけじゃない取引の形を提示したいな」
「その心は?」
「簡単さ。取引する以上、どちらにも得がないとね」
「真理だねェ。一回限りの協力ならまだしも、継続的な関係なら尚の事ってな。同意するぜ」
「それに、思うんだ。会長さんがそう言ってる理由について――もう少しほかの事情があるんじゃないかって」
「ほォ! 新説だな。というと」
「正純さんも少し話していたことがあったと思うんだけど……ほら、あれさ。協会の運営費の件」
「ああ、ワイン協会の運営費が他の団体に比べて膨らんでいる……ってやつか。とはいえ、そこまで法外な額だったようにも思えないが」
「あの件、実はボクへの契約前提に関する話が出る前にまた膨らんでいるようでさ。個人的には、その辺りの困りごとを特定できれば……」
「爺さんへの解決策って名前の手助けを兼ねた、契約成立への特急券を手にできるってなわけだ。良いねえ。俺が絡めることはあるかい」
「今のところは大丈夫。もうボクのほうで帳簿周りを洗い出そうとは思ってるから……正純さんにお願いすることがあるとしたら、荒事絡みの時かな」
「違いねえ、出金食らった猟兵がうろついてちゃ爺さんの気持ちとしても穏やかじゃねえはずだしな。ヤバそうなら早めに連絡しろよ、信頼はしてるが」
「もちろん。その時はよろしくね」
「運営費の件、具体的に言うとどの辺が臭いと睨んでる? アテはあるのか」
「多分、というものはあるよ」
「聞いても?」
「うん。あの協会、予算決定に関わる役職の人は……まあ、複数いるんだけど。膨らみ始めたのは、会長さんの息子さんが運営予算の決定に関わり始めてから、なんだよね……」
「決まりのように思えるが……リアがそこまで言うなら、単純な話じゃねえんだろうな。聞こうか」
「……ううん、まだ確定じゃないから何とも。今の時点で言えることとしては、その息子さん、すごい人格者らしいんだよね」
「分かんねえぜ。人間、使える金が目の前にあるなら使っちまうかもしれん。欲望は人を変えるからな。とはいえ……」
「とはいえ? じゃあ、今度は正純さんの推理を聞く番だ」
「使い込みを行う人間が運営に関わり出して、すぐ運営費が膨らむ……ってのは、タイミングが丁度すぎやしないか? とは思う」
「なるほど、息子さんに使い込みの罪を擦り付ける――もしくは、その容疑者に見せかけるのが目的の誰かがいるかも、ってことだね」
「あくまで人間の善性を信じていないヤツの意見だ、聞き流してほしいという気持ちはあるがね。俺が使い込みの犯人ならそうするぜ」
「いやいや、助かるよ。ありがたい意見だ。どっちにせよ……」
「ああ、リアの言いたいことは分かる。使い込みがあるだろう、という憶測が事実だとして」
「「それについて会長はどの立場なのか」」
「そういうこと!」
「使い込みを隠そうとする立場なら、こちらとしてもやりようはあるよな」
「正純さんの言う通りだと、ボクも思う。それを盾にすることもできるけど……個人的には」
「その事実を知らないか、犯人を捜しているという方面であってほしいと?」
「うん。そうでないと、会長さんとの取引継続についても判断が必要になるからね」
「確かにそうだな。それじゃあ、リアの思惑としては使い込みの事実を取引の材料として、会長と、あわよくば息子に恩を売る形で進めたい、と?」
「大枠はその認識で合ってるよ。ただ、得た情報を利用して脅迫めいたことをするつもりはないかな」
「では、どうしようと?」
「使い込みの情報を手に入れることが出来たら、その情報を複数の人がキャッチできるような形で開示しようと思ってる。協会の出方を見たいし、パワーハンドラーが誰なのかという判断をしたいんだ」
「ハハ、欲がないねえ。俺ならもう少し自分のために欲張っちまうところだ」
「そういう性格でね。その結果を見て、より多くの人にとっていい結果がもたらせられるなら……とは、やっぱり思うかな」
「人のための欲張り、ってな感じか。まあ、リアの良いところではあるよな。そのおかげで良い取引相手としてやらせてもらってるしよ。長いことありがとな」
「こちらこそさ。正純さんの欲深さは味方にいると心強いよ」

●与太話(梶本村との取引)について
「取引として長く続けられた件について、少し良いか?」
「もちろんいいよ。少しだけでなくとも」
「思うに、俺が猟兵として最初に担当した事件あったろ。SSWの」
「ああ、懐かしいね。もう6年以上前なのか」
「そう、それだ。思い返せば、あれからの付き合いだろ。あの件がなかったら、今この縁もなかったかもしれねえ」
「どうだろうね、結局何かで取引し始めるようになった気はするけど」
「ともあれさ。俺もそう思う、というのは脇に置いておくが、あのタイミングで解決を手伝ってもらったのが嬉しくてな。過去の話ではあるが、あれも感謝してるんだぜ」
「そう言ってくれるなら、ありがたく受け取っておこうかな。でも、こちらこそ色んな場所で取引相手の縁を作るきっかけを貰えてうれしいよ」
「ああ、梶本村の……」
「そう、それさ。あの村については、特によくやってくれたなと思ってるぜ」
「褒めすぎだよ、ボクはただ提案をしただけさ。あの人たちが製鉄を再開し始めたのは村にその下地があったからで、ボクの手柄じゃない」
「それでも、リアがああいう提案をしてくれたことが彼らの背中を押す一助になった。それなら、あの一件はお前の手柄だろ。今でも取引付き合いはあるのか?」
「うん、あるよ。作刀依頼はかなり窓口を細くしてるけど、包丁とか……そういう刃物についてはかなり件数も多く出てるね。需要も高いし、何よりモノがいいのも大きなポイントかな」
「モノが良い、ってのは実際俺も感じるぜ。俺もいまだに砥ぎの依頼を出したりして継続で使ってるが、とにかく切れ味が良い、そして手になじむ。遺された業で打たれた、良い包丁だよ。コイツは」
「そうでしょう。自信があるものじゃないと、ボクも卸さないからね。それ以外にも、サバイバルナイフとか……砥ぎ粉とか、料理道具や道具の整備に使う品物含め、梶本の皆さんとはかなり手広くやらせてもらってるよ」
「そいつは良い! 繁盛してるのは一番だ。……最近、UDCアースで梶本に近しい技術を持つ組織が台頭し始めたの、知ってるか?」
「え、何だろう。……刀、って訳じゃないよね。製鉄関係?」
「御明察の通り。知らなくても無理ないぜ、本当に最近有名になり始めたばかりの話だからな。KAJIMOTOレーシング、っていうのさ」
「――レーシング! 車作ってるんだ!」
「元々の母体は梶本製鐡という会社なんだが、そこが最近重金属加工や自動車の製造にも手を伸ばしてきていてな。F1への進出も考えているらしく、俺もそれで知ったんだ」
「へえ……そうなんだ。……何だか嬉しいね。別の世界というのは分かっているけど、近しい何かがあったのかな?」
「ハッハ! さあて、どうだろうな。サムライエンパイアとUDCアースの文化が多少近しい名残のようなものがあるとはいえ、別世界だからなァ」
「それでも、ロマンはあるよね。刀や刃物で生計を立てていた村が、別の技術が発展した世界では車まで活躍の場を伸ばしてる……しかもF1だ。感慨のようなものは感じるね」
「それについては否定しないぜ。サムライエンパイアでの製鐵における最先端技術の結晶が日本刀だとすれば、UDCアースにおける製鐵の最先端はレーシングカーだろうからな」
「まさにそう思うんだ。ボクらが守ったあの村の価値を、他の世界でも垣間見れたような気がして……それが嬉しいんだと思う」
「……ああ。俺もそう思うぜ。UDCアースの日本発の会社がF1という世界でどこまでやれるのか、これからも気にしてみたいところだな」
「ドライバーのアテはあるのかな。それからマシンの完成度も気になるね。エンジンは外注?」
「ああ、確かエンジンは外注のはずだ。ただ、そこも日本メーカーから買ってるらしいんで、実質日本での完全作成マシンにはなる。ドライバーのアテだが……そこはどうだろうなァ」
「そもそもが狭き門だし、強い人にとっては引く手数多の世界だからね。青田買いになるのか、自分たちでの育成機関を作っていくのか……」
「ま、不安要素があるとはいえだ。今のところ経営難や上位陣のトラブルも聞かないし、そういう意味では安心だな。いち猟兵の立場として、UDCアースに拠点を構える身として、楽しみに観戦させてもらうさ。コンセプトカーのデザイン、見るか?」
「見たい! どれどれ……へえ! これは……」
「だよな?」
「うん、そう思う」
「「カッコいい!」」
「だよなァ!? 切れ味よさそうな流線型の車体も良いし、何より空力製御に特化してるんだろうなってのが一発で分かる。それを叶える製造技術の妙も素晴らしい」
「コーポレートカラー、赤と黒なんだね。それも良いなあ……御見事だ、これは素晴らしい商品だよ。人の夢と期待の重さに耐えうる見た目と形をしてる」
「頑張ってほしいよなァ。別世界のこととはいえ、こうやって世に出たのも何かの縁だと感じてしまうからよ」

●与太話(シヴィルズタワーとの取引)について
「シヴィルズタワーの方はどうなってる? いや、今は Boneyardボーンヤードってのか」
「少し前に殺人事件……かと思われた人死にが出ちゃったね。ボクもキャッチするのが遅かった。悔やまれるよ」
「……あァ、流行り病の件か。それだけは俺もこないだ聞いた。痛ましいことだ。人に感染することをよしとせず、一人荒野の真ん中で死を選んだそうだな」
「うん。やっぱりあの世界には……必要なものが多いね。ボクもある程度は与えたり、取引を手伝うことはあるけど――」
「それだけでは自立に程遠い……か。立ち上がる意志が強いというのが、あの世界に住む人々の長所ではあるが……現実的には?」
「……困難は、多いね」
「まあ、そりゃそうか。具体的には?」
「第一に、基本的な物資が足りない。そしてそれがかなりの大問題だ」
「アポカリプスヘルの永遠の課題ではあるわな」
「第二に、薬を生み出すための技術の土壌である、研究を行うための場所がない。これも問題なんだ。あの嵐のせいで、あの世界の人たちは拠点を変えざるを得ない」
「技術が育つ土壌に乏しい……そういうことか。動かせるとはいえ、定住できない施設ではかなり限られるだろうからな……」
「そして、第一と第二の理由が混ざることで、薬もいつまでも絶対数が足りないという状況に陥ってる、というのが現状だね。僕も可能な限りは協力するけど」
「……厳しいな。良い点があるとすれば、彼らのやる気と生存意欲が高いところか」
「とはいえ、良いことならもう一つある。最近、シヴィルズタワー出身のキャラバンが、別の街に辿り着いたらしいんだ」
「ほう! それはいいこった。活動拠点が増えれば増えるほど、出来ることだって増えるだろうからな。イコールで生存のための方策も増えるはずだ。場所の名前は?」
「クレイドル。洒落た名前だよね」
「ほう……揺りかご、か。リアにとっても他人事とは思えないような街の名前じゃねえか。良い名前だな」
「うん、僕もそう思う。活動範囲が広がっていけば、もしかするともっと定住しやすい場所があるかもしれない。それに」
「それに?」
「そういう場所が増えていって、技術に対して関わる人が増えるほど、ブレイクスルーは起こりやすくなる。今でこそ道路は壊れたらまた作り直そう、という思想だけどさ」
「UDCアースにある技術のように、強い風に晒されたとしても耐える構造の橋や――壊されるのが前提となっている何かが生まれる可能性もあるだろう、と?」
「ボクはそう思ってる。――人の欲望は、何よりも強い力であり、熱だからね。いつまでも現状のままだろうというつまらない予想を覆す何かが、誰かが、いつかはと願ってしまうのさ」
「クク、気が合うね。いいじゃねえか、お前のその考えに俺も乗った。あの世界で何かが生まれるなら、興味も出るしな。他にはどうだい」
「……う~~ん……あ、そうだった。アポカリプスヘル世界で、ボクが商売の基本を教えたキャラバンなんだけど、圧倒的に売れる商品があるそうで」
「そう言われると何かと気になるな。なんだ?」
「お酒だよ。アルコール。ほら、覚えてるかな。シヴィルズタワーの地下施設で栽培されている麦畑」
「――ホップか! ああ、覚えてる。そうか、あいつらの酒がねえ。そりゃいいこった、酒は命の水だからよ」
「それに、水の衛生状態が良くない場所においては、時にお酒こそが水分補給を助けてくれる存在だったりもするからね」
「ああ、覚えがあるよ。……そうか、少しでも……と願ってしまうもんだな」
「たんぽぽコーヒーとかも作り始めているらしいけど、水の摂取に役立つ知識なんかは積極的には流行ってほしいとボクも思う。それ以外だと――やっぱり、娯楽かな」
「やはり、か」
「やはり、だね。命を守るための食べ物と飲み水については安定しているそうだけど、それ以外のものが致命的に足りていない、というのが事実としてある。そして、そっちの方がともすれば問題だ」
「シヴィルズタワーが抱えた問題は、世界を通しても同じ、か。……改善の糸口は?」
「一つだけ、あるにはあるかな」
「ないよりも何倍もマシだ。というと?」
「クレイドルには、特色があるんだ。他の場所では見ることのできない、あるものが」
「もったいぶらずに教えてくれ。何なんだ、そいつは」
「――花さ。クレイドルでは、花が咲くんだよ。ボクもまだ実物は見てないけど、キャラバンの人たちからそう聞いた」
「……そうか。花があるなら、葬儀が出来るな」
「うん。シヴィルズタワーをさ、墓標にするのはどうかって話が出てるらしいんだ」
「あそこを? まあ、確かに大きさも形も良いかもしれねえが……」
「もうあそこに定住する人はいなくなったから……オビリビオンストームで壊れてしまう前の弔いに、ってさ。ボクも良い理由だと思う」
「一区切りがつくかどうかは、かなり大事だからな。そうか、それなら良いのかもしれん」
「彼らにとっての何かが、人を悼む、弔う、そういうことで昇華されるなら、それも一つの精神的なストレスの解消にはつながるはずさ」
「それに、花があるなら子供も大人も喜ぶだろうしな。新しい植物が生える土があるって意味でも、クレイドルに辿り着くことでより良い何かを手に入れるための仕組みに近付けたなら良いさ」

●与太話(ヴァイオレットシティとの取引)について
「そういえば、リア。薬の取り扱いがあると聞いたが」
「うん、それがどうかしたの?」
「いやァ、どこから調達してるモンかとな。リアのことだからクリーンなルートとは分かっていても、アポカリプスヘルを助けるとなると量も膨大だろう」
「UDCアースの病院やUDC組織との取引で、って場合もあるけど……実は、ここも正純さんの縁が助かっててね。サイバーザナドゥの……と言えば、分かってくれるんじゃないかな」
「――ヴァイオレットシティか?! マジかよ、ッハハ! そりゃいい、あそこはたしかに医療のなにもかもが揃ってるはずだしな。 『真夜中の子供たち』ミッドナイトチルドレンとのやり取りか?」
「ご名答。ブラッドさんとのやり取りが一番多いね。白昼製薬で医術を学んでるらしいけど、最近じゃ物資補給についてもかなりの割合で絡んでるらしくてさ」
「出世したもんだな、あのストリートギャングの子供がねェ。しかし、それは嬉しいこった。代わりにリアは何を卸してんだ?」
「最新の医療器具とか、あとは建築関係の知り合いの紹介とかかな。内部的な運営・設備を改善しようと頑張ってるみたいでさ。この間も経営陣を説得したいから弱みを見付けてくれないか、って頼まれちゃった」
「ックク……! 手段を択ばないのは好ましいとこだが、なんとも裏技が過ぎるなァ。受けたのか?」
「いいや、受けなかった。ボクとしても同じ気持ちだし、ブラッドさんも冗談交じりだったからね。とはいえ、何か役に立てないかと思って手は探してる、って感じかな」
「医術を一から学び始めたストリートギャングの子供への手助けねえ。……知識、知識か。サイバーザナドゥだと、義体系の医療知識の方が豊富だよな」
「……そうか、他世界の医療書。確かにいいかもしれないね。今後ブラッドさんが白昼製薬を真っ当な場所に作り変えていくに当たって、そういう知識はいくらあっても困らないはずだし」
「そういうこった。特にUDCアースやクロムキャバリアなんかの知識はあって良いんじゃねえか? 人を救いたいと望まれてできたものが医術だろ。根っこの部分が変わらなけりゃ、枝葉がどれだけあっても良いはずだぜ」
「了解、ボクの方でも当たってみようかな。良い商材になりそうだし、そういう知識の部分は違う世界においてはやっぱり強いね。需要に事欠かないから」
「それに加えて、世界を渡り歩ける俺たち猟兵だからこそできる商いでもあるしな」
「同感。いろんな世界の良い部分は共有できれば……とも思うけど、僕らが与えるだけじゃいけないからね。土台となるのは、どこまでいっても知識か」
「……なあ、興味深い文献があったら教えてくれねえか? これは個人的な頼みというよりも、取引として受領してもらって良い話なんだが」
「おや、というと? どういうものをお探しかな」
「指定して良いなら、『俺が知らない知識が記されている本』が好ましい。各世界固有の知識や技術、生物や環境についての読み物あたりが一番うれしいね」
「欲張りな注文だ、正純さんらしいや。いいとも、請け負ったよ。ピザなら1分だけど、そういうことなら少し悩んでも良いかな」
「無論だ、どうぞごゆっくり。なんなら、ブラッドに持っていく本のついででも構わない。好きなんだよ、そういう……自分の知的好奇心が満たされるような何かがな」
「正純さんの動機はいつでもそれだもんね。さすがにボクも分かってきたよ」
「おう、付き合いが長いリアになら安心して任せられる。すまんが、よろしくな。今度また少しデカいヤマに絡むんで、俺自身は中々そういう方面に動けなくなりそうでよ」
「ふうん? 荒事かい」
「いいや、荒事って訳でもねえ。困った時には声かけるが、今回のはどうかな」
「まあ、そういうことならまた今度聞かせてよ。仕事終わりでもいいし、たまには話すためだけに集まっても良い」
「ハハ、違いねえ。嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。俺としてもよ、リアとの取引は長く続けさせてもらえれば幸いと思ってる。包丁の砥ぎについて梶本への渡りも毎回付けてもらってるしな」
「ま、その辺はサービス料に含まれてる対応だからね。「Dag's@Cauldron」ダグザット・コルドロンを今後ともごひいきに! ってやつさ」
「言われなくてもそうさせてもらうよ、ダイニングレストランの食材の仕入れについても、お前のおかげで仕入先も増えたしな……」
「美味しいご飯が食べられる店が増えるのは僕にとってもありがたいことさ。取引に使える雰囲気の良いお店が増えるのも助かる限りだしね」
「ヘッ、口がお上手でいらっしゃる。どこで学んだんだい、そういうのは」
「それこそお互いさまだと思うけどなあ。企業秘密、っていうことで」
「そうかい、そいつはまったく残念だ。それじゃせめて乾杯でもしておくか」
「良いけど、何に?」
「企業秘密に、ってのはどうだ」
「折角ならもっとめでたいものが良いな。企業秘密と、今後の取引に、っていうのは?」
「最高だよ、焼き立てのチーズグリッツみたいにな。――企業秘密と」
「――今後の取引に」

●それから
 そうして、グラスがぶつかる音が響いた。
 ただ、与太話を二人の猟兵は長いこと話し続けていたのだ。
 互いにとって良い取引相手がいるという幸福を祝うための乾杯は鳴りやむことがなく、彼らの話はまだ終わらず、その日は長いこと続いていたという――。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2025年03月17日


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