とあるイベント会場。
そこでは、とあるソーシャルゲームのイベントが行われていた。
アイドル☆フロンティアでまことしやかに語られる、伝説的なアイドルを題材とした育成ミュージック体感ゲーム。
そのサービス終了を飾るイベントであった。
惜しまれながらも、その最後を明るく迎えようと、スタッフ含め、参加する主に大きなお友達の皆さんも、一様に寂しげながら明るい雰囲気を保っていた。
会場内には様々なコーナー、ブースが設けてあり、マスコットキャラクターのバルーンやキャラクターの等身大パネル、イベント限定販売グッズなどに加え、ゲーム内に登場したグルメなどを再現、イメージしたコンセプトカフェなども併設され、なかなかの規模を誇っているらしい。
ゲームプロデューサーやキャラクターの中の人を交えたトークショーも人気を博し、イベントは大盛況のまま終わりの時間を迎えようとしていた。
時間は夕刻に迫り、客層も若い男女から、社会人の疲れた雰囲気を持つお兄さんたちに移り変わろうという頃、
「うっ、く、苦しい……終わっちまう。俺の心の癒しが、数少ない拠り所が……」
寂しさ、絶望を耐え切れなくなった一人のサラリマンが、会場の中で胸を押さえて屈みこむ。
この世界の人間は、誰しもが心の中に骸の海を抱え、時のそれがあふれ出してしまうという。
たかがゲーム、されどゲーム。
強めの熱量で肩入れしていたゲームのサービス終了。
円満な形、むしろ開発陣の皆さんには、よくぞ走り切ってくれたと無限の賛辞を贈りたい。
なのに、この胸を支配する空虚はなんだろうか。
苦しい。もう、みんなに会えなくなってしまうのが。
心に燃える火。その拠り所を失った熱情が、行き場を失い、やりきれない寂しさが、彼の心を黒く染め上げる。
「ああ、いやだ……俺の癒しがなくなった世界なんて……!」
続く一言が紡がれるよりも前に、サラリマンの口と言わず、ありとあらゆる穴から、骸の海が噴き出し、周囲は凶行、奇行の坩堝と化してしまう。
人々はもう、忘れてしまったのだろうか。
星に希うことで現れる、あの輝かしいステージの存在を。
「ふむ……ソーシャルゲーム……そして、アイドル……ともに理解しがたいものがありますが、しかし、それが作法という世界もあるのですね」
グリモアベースはその一角、予知の内容を示す密書を提示しつつ、桜柄の着物におびただしい火傷の肌を晒す羅刹の猟兵、刹羅沢サクラは、難しそうに思案する。
一切の油断を見せず、常に刀の柄に手を置くその佇まいには、周囲をひりつかせるほどの緊張感が漂うが、話している内容は、ソシャゲのイベント中に気がくるってしまったおじさんのお話である。
「先日新たに発見された世界『アイドル☆フロンティア』については、皆さんもご存じの通りと思います。また、そちらの世界に猟兵として新たなる力を身に着けた方も、或はこの話をお聞きかもしれませんね」
むしろ、アイドルと呼ばれる者にこそ、この仕事は適任であろう。
厄介なことに、かの世界では、オブリビオンは認知されておらず、その存在をまず具現化するためには、専用のステージが必要であるという。
「アイドルステージ。心の中に抱える骸の海があふれ出し、不幸になる者を、どうにか救いたいと願った者に、外宇宙から何者かがアイドルという力を下賜し、専用の舞台を発現することで、それでようやくオブリビオンと対峙できるという運びのようです。実に厄介な敵と言わざるを得ませんね」
真面目に何言ってんだこいつ。という空気を感じなくもないが、本来、物理的に戦う機会しか持たぬ戦場忍者の見解としては、物理的に殴れる舞台を作り上げるというハードルの方に重きを置いているらしい。
それはともかくとして、今回の舞台はとあるソシャゲイベントの会場であるという。
「グッズの販売や、いわゆるコンセプトカフェ、それから、これまでに人気を博したゲームコーナー、コスプレなどを含めたパフォーマンスを披露できるスペースもあるそうです。
これらの会場の案内をするのは、その会場内で……そうですね、オブリビオンの発症する対象を見つけることが可能だからです」
骸の海を溢れさせようとするサラリマンが誰なのかは、まだ特定できていない。
しかしながら、会場に顔色の悪そうな疲れた顔のサラリマンはごまんといる。
まずは、その中からもういい加減ダメそうな一人を発見し、被害を最小限に抑えなくてはならない。
「会場で衆目を集める価値はあるでしょう。故に、皆さんがその能力で以て、会場を楽しむ行動にも、ちゃんと意味はあるというわけです」
無論、対象が見つかり、いざ戦うとなったなら、それどころではないだろうが。
しかしながら、いざ戦うという場面が問題と言えば問題か。
神妙な面持ちのまま、サクラは目を細める。
「──仮に、この場において誰も、アイドルが居なかった場合は、誰かが呼び寄せなくてはなりません。アイドルステージを。
つまり……皆さんのいずれかに、担ってもらうことになるでしょう。そう、アイドルという役割を」
まるで、どこかへ討入りする時の覚悟を問うかのような凄味を利かせるが、はたして、このタイミングなのだろうか。
ともかく、大方の説明をし終えると、サクラはアイドル候補生──もとい、猟兵たちを送り出す準備を始めるのだった。
※難しく考えなくて、大丈夫です。
みろりじ
どうもこんばんは、流浪の文章書き、みろりじと申します。
新しい世界。取り合えず、一つはやってみようという感じで、何も知らんうちから飛び込んでみるシリーズでございます。
よりによって、ノリの悪そうな案内人でお送りいたしますが、結構場の空気を読んでくれるんじゃないでしょうか。たぶん。
この物語は、日常→集団戦→ボス戦という流れとなっております。
第一章で、もぅまι”無理……となった、心に限界を背負った者を見つけるついでに、とあるソシャゲのラストフェス会場でなにやらお楽しみできます。
第二章では、あふれ出た骸の海に当てられた者たちとの集団戦。アイドルステージ上では、骸の海の影響を受けた者たちがオブリビオンとして出現します。
第三章では、その発症元が敵として登場します。普通に戦うと激つよらしいですが、アイドルとしてのパフォーマンスなどにより癒したり心を掴んだりラジバンダリすると、有効らしいですよ。
また、アイドルステージには、多くの人間の無意識や、かつてアイドルと遭遇し、フアンになった者たちの意識が宿る観客席もあるそうで、熱烈アピールが功を奏して力となるという場面もあるようです。
平たく言うと、アイドルが一番強い世界です。
その職分を持たぬ者であっても、我ぞアイドル! とするならば、星はきっと応えてくれるはずです。たぶん。
このシナリオでは、プレイング募集締め切りなどは設けず、オープニング公開から常にプレイングは募集しております。
お好きなタイミングでどうぞ。
それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
第1章 日常
『わいわい☆パーティタイム』
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POW : 料理を食べる
SPD : ゲームに参加する
WIZ : パフォーマンスを披露する
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吉岡・紅葉
ほうほう、ここが「アイドル☆フロンティア」の世界ですか。随分濃ゆいお客さんが沢山いらっしゃるようで!
いやいや、私も皆さんのお気持ちはわかりますよ。以前推しの劇団スタアが引退したときなんか、ハンカチがぐしょぐしょになるまで泣きましたもの!
さて、まずは件のゲームがどういうものか、会場を散策して雰囲気を味わってみましょう。うわー、グッズが沢山!コスプレイヤーさんも一杯いますね!
会場を隈なく歩き回り、トークショーを見学したり、グルメも楽しんでみますか。その時に《聞き耳》を立てたり、《偵察》を行ってオブリビオン化しそうなターゲットを探してみますよ。怪しい人物は《瞬間記憶》して、特徴を押さえておきます。
きらきらと星をちりばめたかのような、そんな印象のイメージビデオを映すディスプレイが並ぶ会場は、そう、静かに賑わっていた。
伝説とされている、アイドルという存在を題材としたソシャゲのフェス会場には、会場側の催しに大変気を使ったファンたちの静かな喧騒が、なんともそわそわとした気持ちを運んでくる。
期待、歓喜、そして悲嘆。
これはまるで、卒業式のような寂しさを感じさせるものだった。
夕刻に差し掛かる会場は、若い男女の姿よりもスーツ姿の言ってしまえばいい大人が、キラキラとした美少女たちのパネルを前に眩しげな視線を送るさまは、さながらイマジナリー愛娘を見送るのにも似ていた。
ちなみに、サービス終了を告げられた作品で、今後のアップデートは行われないとはいえ、来年3月末までは誰でもダウンロード可能なので、本当のサービス終了はけっこう先である。
「ほうほう、ふむふむ!」
そんなフェス会場内を、大股でキョロキョロと見て回る改造学ランのような制服で風を切る人影ひとつ。
自信と興味溢れる微笑を浮かべる中性的な顔立ちは、一見すると美青年めいた凛々しさがあるが、軽やかに翻る裾の流麗さは、プリーツの折り目特有のスカートによるものだ。
吉岡・紅葉(ハイカラさんが通り過ぎた後・f22838)は、新たに発見された「アイドル☆ファンタジア」の世界を広く見極めるかの如く高い視線を配る。
無遠慮なようでもあるが、堂々としているからこそそれは様になっていた。
その一挙手一投足に、まるで紅葉が散るかのような幻視をするほどに独特な雰囲気を持つハイカラさんは、しかし自信満々な笑みの奥に、客層の濃さにちょっと驚いていたりもした。
架空の偶像。アイドルなる者に、かくも心を傾けられるものだろうか。
いやいや、考えてもみれば、一度“推し”というものを心の片隅に作ってしまうと、これはなかなか厄介なものなのだ。
人気キャラクター選挙で、どうやら広く人気を博したキャラクターのプロモーションが行われているコーナーの一角で、食い入るようにモニターを凝視して涙ぐむスーツのおじさんたちに、紅葉は似ても似つかないのだが、自分自身を見るかのような気分に陥った。
あのおじさんは、いつかの自分だ。
「ええ、私も皆さんのお気持ちはわかりますよ。以前推しの劇団スタアが引退したときなんか、ハンカチがぐしょぐしょになるまで泣きましたもの!」
最後の晴れの舞台、花束と共に、舞台越しに表情が震えながらも笑みを保って精一杯手を振るあの姿は、瞼の裏に焼き付いている。
それこそ、感極まって背中から後光がはみ出てしまって、下手したら主役より目立っていたかもしれない。
あの時の、胸をぐちゃぐちゃにかき回されるかのような気持ちを、なんと表現したらいいのか……。
まあ、それーはー、それーとーして。
ほろりと目じりに涙を滲ませ、ぐぐーっとこぶしを握り締めたり、傍から見てちょっぴり大げさなリアクションで思い出し感極まりなどしつつ、いざ調査に回るとなると、すんっとすました笑みを取り戻し、紅葉はフェス会場を見て回る。
華やかな声優さんと、どこか色褪せたような製作スタッフ、広報担当を交えたトークショー。
粛々と物販を買い漁る、コンプ勢と推し一点買いとの譲り合い精神と、そして言葉には出さぬまでも目線のみで交錯する熾烈なマウント合戦。
ちょっと歩き疲れたところに、ちょうどいいコンセプトカフェコーナー。
ゲームキャラクターのイメージに即したメニューやドリンクが充実している、ちょっぴり割高だがファンならニヤリとくる空気感に浸れる数々……らしい。
がっつりした丼ものから、甘く味付けされたホットの麦茶まで、それはもうピンキリである。
「ほほう、麦茶。麦茶……?」
小首を傾げるところだが、紹介パネルでは、冬場の夜中に天体観測をしながら白い息と湯気とで幻想的に彩られた美少女キャラクターが水筒片手に微笑むエモいスチルが添えられている。
舞台で見せる弾けるような笑みとは違う、柔らかな表情に心打たれたファンも多かったらしい。
それにしたって、麦茶? これで250円は、高いのか安いのか。
キャラクターの専用コースターつきのそれを、あちあちと啜ってみると、なるほど、確かに、じんわり甘さが染みてくるような、ほっとするような……。
でもこれ、麦茶だよなぁ。と思いながらも、立ち飲み、イートインスペースでぼんやりするのを装いつつ、紅葉は周囲に聞き耳を立てることも忘れない。
「淡雪ちゃん……ついに、専用スチル実装されなかったか……いや、俺だけが知っていればいい……」
「シナリオ完結ってことは、もう、あの子たちのエピソードは、もう新しく収録されることはないんだよなぁ……サミシイ、サミシイ……」
「英子とベニーはできてる。これは間違いない。明確な描写は最後までなかったけど、公式が言ってないだけで……」
脈絡もない……が、いずれも、終わりを惜しむ声ばかりなのには違いなく、どこかしんみりしたものが多いようだ。
なんだかこちらまでしんみりしてしまう。
追加の焼き鳥、ネギマしか入ってない焼き鳥セットを注文しつつ、おしゃれなコンカフェに香ばしい匂いをさせながら、ひときわ顔色の悪そうなサラリマンに目をつける。
「わぁ……あぁ……」
咽び泣いている。
子供のように喚くのではなく、さめざめと、しかし周りの迷惑にならぬよう、音もなく肩を震わせる様は、いっそのこと痛ましい。
彼の事は、見ておいた方がいいかもしれない。
それにしても、コンカフェにしては、本格的に焼き色の香ばしいネギマである。
大成功
🔵🔵🔵

シャルロッテ・ヴェイロン
まあね、またわけのわからない世界が見つかったものですね。確かに文明レベルはアース系世界と同じようですが…(【世界知識・戦闘知識】)。
確かにゲーム自体は面白そうですが、なんでまたサ終とか決めたんでしょうか?(と、スタッフを捕まえて【情報収集】したり)
(ここでやけ食いしてるサラリマンを見つけ)
まあ、気持ちはわかりますよ?メーカーさんも、できれば終了させたくないと思ってたんでしょうね…(とか話してる間にこっそりネットに【ハッキング】し、サ終の真の理由とか調べてたり)――ああ、メモリアルアプリとかあるようですし、よかったらダウンロードしてみます?(ぇ)
※アドリブ・連携歓迎
人の気配はいっぱいあるのに、それらがある種の規律を維持している空間というのは、それはそれで独特の存在感というか、圧力を覚えるものである。
誰かの息遣い、視線、もしくは足音が聞こえぬまでも歩いている、ただそれだけであっても、何とはなしに視界に入ればその存在を意識せずにはいられない。
それが多いな、と感じる時点で、群衆にまず耳が反応すべきなのだ。
多くの反応が身体に感じられるのに、居心地の悪い程の騒がしさを覚えないというのは、それはそれで特殊な空間なのだと、それは自覚をもって肌身に感じるものであった。
しかしながら、そんなちょっと騒がしくて、それが別に不快でもない、件のソシャゲ会場の空気は、シャルロッテ・ヴェイロン(お嬢様ゲーマーAliceCV・f22917)にとっても悪いそわそわではなかった。
ちょっぴり子供っぽい見た目をしているらしい自分の姿は、ちょっとばかしスーツ姿のおじさまの視線を買いやすいみたいだが、そういった雑多な視線を浴びることなど珍しくもない。
慣れてなきゃ、気合の入ったツインテで大手を振って歩けやしないのである。
それにしても、猟兵として数多ある世界に首を突っ込んできたとはいえ、この「アイドル☆フロンティア」は、殊更に変わっている。
オブリビオンを退治するのに、直接的な暴力が必要ないという話ではないか。
もっとも、シャルロッテの場合は、得意のゲーム知識とプレイングで、まさしくゲームのように相手を打ちのめすメソッドを備えているため、肉体労働は、はなっからそれほど想定してはいないようだが。
さて、とてとてと足の赴くままにフェス会場を巡りつつ、手元の端末でこちらの世界のネットワークに適当にアクセスしたりして、必要な知識を蓄える。
無論、事前知識はある程度用意してはいたのだが、現地で生の情報を得るのが一番信憑性があるというものだ。
その表情は、どこか安堵したような、ちょっぴり肩透かしを食らったようなものであった。
「まあね、またわけのわからない世界が見つかったものですね。確かに文明レベルはアース系世界と同じようですが……」
この世界の文明について、ある程度同じならば、色々話の整合性を取る必要が無さそうなのがやりやすいか。
ホッとしたのは筆者だけではない筈だ。
とはいえ、今回の依頼の話で言えば、もっと身近な情報が欲しいところだ。
物販やコンセプトカフェのあるちょっと賑やかなコーナーに差し掛かったところで、現場スタッフの腕章をつけている人物に目をつけて、シャルロッテはふたたびとてとてと足を向ける。
データばかり漁るのもよくない。
記録に残るものは、いつだって情報の足跡であり、記されたその瞬間から鮮度は落ちていくものだ。
こっそり目立たぬよう咳払いをすると、声のトーンを上げて、舌を引っ込めがちに「あのォ」と声をかけると、スタッフらしき男はすぐに気づいてくれた。
「どうかなさいましたか?」
背の低いシャルロッテに対し、視線を合わせるように膝に手を置いて身をかがめて、人当たりのよさそうな笑みを浮かべる。
たぶん、子ども扱いをしてくれていて、不安にさせないよう心掛けてくれている。
悪くない対応だ。
と、上目遣いをしながらシャルロッテは、すっとぼけた様に手近なディスプレイを指差す。
「確かにゲーム自体は面白そうですが、なんでまたサ終とか決めたんでしょうか?」
「ありがとうございます。あ、いえ、終了が決まっても、興味を持ってくれるお客様がいてくれるなんて……うーん、サービスの終了には、いろんな理由がありますが……そうですねぇ、しいて言うなら、アイドルの皆は、一つのステップを終えて旅立っていったんですよ」
なんだか、はぐらかされたような雰囲気だ。
ただ、前向きな終わり方をしたらしいことは伺える。
子ども扱いが裏目に出たか、表現を随分マイルドにされてしまったのか……。
それとも、よほど言いにくい理由でもあったのか……。
仮にそうだったとしても、一スタッフがそれを簡単に教えてくれるとも思えないが。
聞くところによると、3年計画でその任期を満了した形で完結。という話らしい。
3年も続けば、大したものでは? という気持ちも浮かぶ。
むしろ、当たり前に終わったからこそ、楽しんでいたファンは惜しむのだろうか?
「う~ん……いまいちピンときませんね」
足を使った聞き込みはこれまで、とばかり、適当に話を切り上げてコンセプトカフェのコーナーに辿り着き、シャルロッテの体格からすればちょっと高めの椅子に着く。
糖分の補給をと、キラキラとしたメニューを覗き込んでいると、なんだかお隣の席が騒がしい。
カフェメニューとしては色々ジャンルに富んだ料理の数々を平らげて、食べ残しなく綺麗に食べ終えた皿を並べて、なお悲しげに背を丸め、最後の砦らしい海鮮丼に隕石のようなでかいコロッケが乗った謎のどんぶりをがっつくサラリマンが、そこにはいた。
やけ食いだろうか。
「お身体に悪いですよ」
「……いいんだ。これが最後のフェスだから。メニュー制覇、しとかないとさ……これが、恩返しみたいなもんさ……うっぷ」
ネクタイを緩め、上着も脱いだサラリマンの顔には脂汗が浮かび、頬張ったコロッケの油分がパンパンの胃袋と満腹中枢をぶん殴っているのは間違いない。
傍らのなんかピンク色のドリンクで流し込むが、その匂いはどうもスイカっぽい感じだ。
揚げ物とスイカは、食べ合わせが悪いと聞くが……。
これでは、話を聞く前にダウンしてしまわないだろうか。
「まあ、気持ちはわかりますよ? メーカーさんも、できれば終了させたくないと思ってたんでしょうね……」
「まだ、いくらだって続けようと思えば、続けられたはずさ……。でも、かえってキリも良かったろうな。今なら、そう思えるけど……寂しいよ。もぐもぐ……うまいよ、まーぴー」
まーぴー……誰よその女。
しんみりしたかと思えば、またコロッケ入り海鮮丼を掻っ込み始めるサラリマンの悲壮にこれ以上の介入を諦めたシャルロッテは、自分も何か甘い飲み物を注文しつつ、軽く調べてみる。
ふむふむ、まーぴーちゃんは、どうやらゲームに登場するアイドルの一人らしい。
美星悠麻という、モスグリーンのキモ可愛いマスコットを推す宇宙系アイドルの愛称がまーぴーなのだとか。
UMAだの、マーズピープルだの、珍妙なコンセプトながら、ちゃんと可愛らしいデザインなのが、なんともあざとい。
いや、そうではなく……サ終の真相を、ネットサーフィンのついでに軽く当たってみる。
ネット掲示板などの情報から推察するに、3年計画とは別の推論の一つとして、ファンの間でまことしやかに語られていた噂があったことを突き止めた。
どうやら、メインストーリーのシナリオを担当していた者が、物語の根幹に差し掛かる、いわゆるいい所で急病により降板したというのだ。
【Hacker's Sense】で、その辺りの内情を、ハッキングで裏取りしてみると、それはどうやら事実で、内部の誰かがリークした内容も含んでいるようで、信憑性が高かったのもうなづける。
シナリオ自体は想定された期間内に完結を見たが、シナリオライターの交代は思いのほか周囲に禍根を残すこととなったのも事実だった。
しかしながら、開発の納得のいくものが、必ずしもユーザーの納得につながるかと言われると、それはどうだろう。
逆もまた然りである。
ファンとの間柄が親密であるほどに、作り手の満足が受け手の満足になりやすいのか?
本当にそうか? どうだろうか。
「――ああ、メモリアルアプリとかあるようですし、よかったらダウンロードしてみます?」
ひとまず、真っ白になりながらも全メニューを間食したサラリマンの、ひとまずの寂しさを補うためにも、シャルロッテは笑みを浮かべて、手を差し伸べるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼静
成る程…アイドルか
件のソシャゲ、未プレイなんだがな…(周囲を観察)
グリモア猟兵も無茶を言うものだ
敵の強さも気になるし今からでも入れるべきか?
様々なキャラがいるようだが…(適当に着席)
存外、依頼を円滑に進める鍵もこの中にあるのかもしれない
だが、それはそれ。これはこれだ
▽今日のソロ飯
会場で一人スイーツ
▼動
会場では男性キャラのコスで移動し美味そうな店へ。
よし、これで違和感はない筈だ
この華やかな風味…同盟諸国を思い出すようだな
豆は帰りに土産として買っておこう。
ティラミスもこの珈琲と相性がいいな
ゲーム内の飯という話だが…中々どうして悪くない
…何、一緒に写真?
別に構わないが…郷に入っては郷に従え、か。
とにかく情報が不足していた。
などと、食事にこだわりを持つ感じの語り出しで現場に足を踏み入れてみたが、奇しくもそれは間違いではない。
ソシャゲの終了を発表してからの、実質最後のフェス。
それはいいのだが、件のソシャゲとやらの事を、何一つ知らされていないのである。
もっといえば、初めて足を踏み入れるような新世界のことだ。右も左もわからない。
聞いた話と、それから実際に足を踏み入れてみた雑感で言えば、なるほど確かに危険は無さそうではあるが、しかしどこに居たとしても、猟兵が関わるような仕事には、世界の破滅という結末に至るオブリビオンという敵が存在する。
アネット・レインフォール(剣の異邦人・f01254)の佇まいに隙はない。
武人としての歩み、常在戦場たる心構え。いや、それ以上に、環境に適応するという柔軟さである。
即ち──、事前に仕入れられる限りの情報をもとに用意した衣装が、それを物語る。
コスプレ衣装。とただ言ってのけるのは、浅い。
件のソシャゲのあまり多くはない情報をもとに、ひとまず自分の体格に見合うキャラクターを参考に、精一杯機能性を維持させた拘りの品である。
無論、本格的な戦闘ともなれば、正式採用の装備と換装という事になるだろうが。
ちなみに、体格が近いキャラクターとして該当したのは5名ほど。
男性アイドルがほとんどだが、中には180センチちかい長身の女性アイドルもいたようだ。
正直、病んでいるサラリマンを探すための手段の一つとして、選択肢が無かったわけではないが……。
彼女の舞台衣装をトレースするとなると、大きなリボンのついたフリルミニスカートを穿く事になっていただろう。
生憎と、アネットの体格を厳密に考えれば、少女の肉付きと張りを兼ねた魅惑の脚線美を再現するのは難しいところだったと思う。
30を迎えた武人の鍛え上げた足元など、あらぬ意味で衆目を集めかねない。
難しいものだ。
「成る程……アイドルか」
なかなか奥が深い。が、果たして、研究する必要があるものか。
いや、物事を否定から入るのはよくない。
幸いにして、フェス会場は盛り上がりを見せているものの、派手な騒ぎというほどでもない穏やかなもののようで、コスプレで完全に溶け込んでいるアネットを見咎める者もどうやらいない。
「件のソシャゲ、未プレイなんだがな……。
グリモア猟兵も無茶を言うものだ」
和やかな雰囲気なものだから、ついつい気が緩みそうになってしまうが、グリモア猟兵の雰囲気は、真剣そのものだった。
あれが特殊なだけかもしれないが、物事に常に真剣に臨むスタンスは見習うべきだろう。
とはいえ、やはり現地の情報が少なすぎるのは、問題だ。
新たに見つかった世界だけに、調査が行き届いていないというのもあるのかもしれない。
ならば、現地で情報収集するしかない。
「敵の強さも気になるし今からでも入れるべきか?」
ちょうどいい具合に、コンセプトカフェのコーナーを見つけると、適当な席について、件のソシャゲを自分の端末にインストールし始める。
ご丁寧にも、サービス終了が発表されている事、今後のアップデートが不具合修正以外されない事。
それから、来年の三月末以降はダウンロードもできなくなりますよ。今までご愛顧いただき誠にありがとうございました──のような注釈が入る。
その間に、アネットはカフェのメニューを流し見して、素早くそのラインナップを把握する。
なるほど、実に多彩なメニューがある。このゲームのキャラクターの層の厚さを物語っているかのようだ。
きらきらとラメの散りばめたようなラミネート加工のメニューは目に痛いほど凝ったデザインだったが、そんな中であえてシックな色使いの個所に目が留まる。
「ほう、コーヒーがあるのか。これだけキャラコンセプトに沿うメニューの中で、コーヒーとスイーツ一本とは……」
飾らないが、飾らないところに拘るというのは、まるで果し合いのような潔さを感じる。
ティラミスとコーヒーのセット。
地味に見えるが埋もれない存在感を放つそれを注文すると、ちょうどゲームのインストールも完了していた。
食べ物が到着するまでに、手早く内容を把握するべく、それらをプレイしていく。
「様々なキャラがいるようだが……。
存外、依頼を円滑に進める鍵もこの中にあるのかもしれない」
苦難に立ち向かう者たち、あるいは絶望の淵に立たされる者たち。そんなときに現れる、愛と希望を呼び覚まし、暗闇を払うというアイドルなる存在。
これは、普通の、普遍的な悩みや葛藤を抱えるどこにでもいるような、けれど一人しか居ない誰かが、誰かの特別になる物語であった。
ひたすら前向きな思想で、運動して嫌な事を忘れさせる勢いで、或は特別な能力や趣味で、色々な生き方を力強く示すことで、暗闇の縁に立つ者たちを励まし輝きを振りまいていく少年少女たち。
その裏側には、彼女や彼らにも同じだけの悩みや葛藤があることを知る。
彼らもまた、普通の人間だった。
例えば、コーヒーが好きな少女が居た。
その造詣は深く、それ一つで全てが解決できるとすら思っていたが……世間は彼女ほどそれを愛してはいない事に、ある日気づく。
どうせ自分以外にはわからない。いや、それは、誰かに知ってほしい気持ちの裏返しだ。
しかし、誰かに味わえと知らしめる事は、この香りや味を真に楽しむ境地には至れないだろう。
物事を楽しむには、それなりの気概が必要。どのような趣味嗜好にも、ある程度の高尚さはあるのだ。
だから、理解には遠くとも、同じような境地に至ってほしいという孤独を常に抱えていた少女は、ある時、自分と同じだけの愛をスイーツに向ける者と運命的な出会いを果たす。
ぶっちゃけていってしまえば、自分の好きなコーヒーと最高に合うスイーツを作れる友達と意気投合して、この感動を分かち合うべくアイドルとなったという、それだけのエピソードだったのだが。
そこへ至る物語の運び方、少年少女のもどかしい情念を、グラフィックとサウンド、それから小気味いい難易度のリズムゲーという演出が、うまいことはまったのだろう。
ティラミスとコーヒーのモデルとなったキャラクターエピソードを読み終える頃には、アネットも胸に熱いものを感じていた。
「おっと、コーヒーが冷めてしまう。いかんな」
自分としたことが、ちょっとばかし現実を忘れるなど、油断が過ぎたろうか。
「うん……この華やかな風味……同盟諸国を思い出すようだな……」
白く解けるような湯気の粒子が見えるような、カップに注がれた黒い水面からは、薪を焚いたような香ばしさとやや甘く重みを感じさせるような南国の花を思わせる複雑な芳香がする。
刺すような鮮烈さでもあり、かと思えば、幾重にも重なるそれらが鼻を抜けてするっと消えてしまうかのような切れの良さをも感じる。
この爽やかさは、なるほど、マスカルポーネチーズとチョコレートの重たいティラミスと相性抜群だろう。
口元にほんのり笑みを浮かべつつ、コンカフェなれど侮りがたしと舌鼓を打つ。
ゲームのエピソードも相成って、なかなかのスパイスだったのではないだろうか。
思わず堪能してしまったが、そういえば手がかりとなるような人物の観察はしていなかったことを思い出したが、
「なあ、ちょっといいかい?」
「うん? 俺か?」
ふと呼び止められて表情には出さぬまま警戒するアネットだったが、どうやら声をかけてきた男の手にするカメラから、なにやら別の気配を感じる。
「……何、一緒に写真? 別に構わないが……」
「いやね、このゲームって、男性のコスプレあんまり見かけなくってさ」
男と一緒に肩を寄せ合って写真撮影というのも、ずいぶん懐かしい思い出になる。
もっとも、こんな穏やかな状況ではなかったが、どこか疲れたような印象は、不思議と符合する。
彼はこれから、死地にでも赴くつもりなのだろうか。
「なあ、兄さん。終わっちまうのは、やっぱ寂しいよな。コスプレイヤーっていったら、色々推しは多いんだろうけどさ」
「いや、俺は……いや、そうだな。時間の流れは、ずっと続いてほしいと思えば思うほど、早く感じる。時間は不可逆だからな。始まったものは、いつか終わるものだろう」
「ああ、残るのは、いつだって思い出だけさ……」
アネットの旅も、いつかは終わるのだろうか。
そのための旅路といえばそうなのだが。
それにしても、こんな穏やかな世界にも、今にも崩れ落ちそうなほど疲れた目をする人間がいるのだな、と。
心配になったそのサラリマンの存在を、アネットは意識のうちに留めておくのだった。
大成功
🔵🔵🔵
池神・聖愛
(服は普段着モード)
私、聖愛!猟兵って、いろんな世界にいるんですね!初めて知りました!
そして…予知はありがたいものです。
サ終のイベント…最後に、その世界に浸れるようにように、との気遣いですね。
でも、寂しさもわかります…。
さて、コンカフェに来ました。私は食べないと始まらないんです…!
割高であろうと、このメニューはその世界に沿ったものになりますからね。
そして、こういうところで言葉を漏らす人が多いと思いました。
イートインスペース、すなわち座れて食べる場所がありますので!食べたらホッとする面もあります。ふとした言葉は、そういう時に出るもの。
ちょっと行儀悪いですが、聞き耳立てましょう。
(丼もの食べる人)
フラムベル・ラーヴィ
ふわぁ、あっちもこっちもきらきらで楽しそうー。
そしゃげ?ってのはよくわかんないけど、楽しい時間はいつまでも続いて欲しいモノだよね。
寂しい気持ち、しっかり癒してあげないと。
会場を見て回りながら、限界っぽい感じの人を探していくよ。
その合間に、ゲームにも挑戦してみようかな。
…でもこれ結構難しいね!
ボクだと体が小さいせいで操作しにくくて…!
お兄さん・お姉さん達、一緒にやってくれないかなっ?
(順番待ちの人に提案して一緒に遊んで仲良くなる狙い)
折角だからゲームの話も…ってみんな早口だね!?
でも頑張って聞くよ!
そんなお話の中で、問題のサラリマンさんっぽい人を見たか聞いてみるよ。
限界っぽい人見たかった?って。
(キャッチーなイントロ)
私、聖愛! 紅茶やコーヒーが大好きな女の子。ついでに言うと、ケーキも大好き!
今日もお店で、みんなにハッピーを届けるぞっ! あれっ、あの人……骸の海が!?
お願い、流れ星! みんなに希望を思い出してもらうため、“あたし”に力を貸してっ!
歌って踊って、美味しいスイーツを作って振る舞う、キラキラ☆アイドル!
デリシャス☆マリア、みんなーっ、よろしくねっ!!
(キャッチーなイントロ終わり)
池神・聖愛(デリシャス☆マリア・f45161)は、アイドルである。
この世界、アイドル☆フロンティアに於いて、それは特別な意味があるのだが、その姿はどうやらステージに立つときにのみ名乗るものらしい。
輝けるステージ衣装は、今この場所には相応しくはない。
このソシャゲのフェス会場にやってきたのは、ただの明るい女の子、聖愛に過ぎないのだ。
猟兵という存在や、他の世界で戦う人たちの事については、知らない事ばかりだったが、アイドル☆フロンティアという自分の住んでいる世界の中で、どうしようもない絶望の果てに骸の海を溢れさせてしまう人の事を、あらかじめ予見できるというのだから、その価値は高いのだろう。
グリモアを手にしていたというあの猟兵は、ちょっと怖い雰囲気だったけど、世界の破滅を未然に防ぐという目的に於いては同じ思いに違いない筈だ。
さて、肝心の会場の様子は、なんというか、こう、人が集まる場所なので当たり前なのだが、騒がしさもありつつ、羽目を外した感じはほとんどないというか。
見かける人、見かける人のそのいずれもが、なんだかしんみりしている。
「そっか、もう終わりが発表されたソシャゲだったんでしたね。
サ終のイベント……最後に、その世界に浸れるようにように、との気遣いですね。
でも、寂しさもわかります……」
時刻も手伝って、なんだか海辺の夕陽を眺めているような、そんな寂しさも感じる。
でも、予知の中にあったような、ひどく寂しがる人よりも、どこか納得している人の方が多いような気もする。
円満に終わったという事だろうか。
はてはて、考えこもうと足を止めたところで、ぐうぅ~っとお腹の虫が可愛い悲鳴をあげた。
恥ずかしくなって思わず周囲を見回すが、周囲の大きなお友達などは、聖愛の可愛らしいツインテールに振り向きこそすれ、彼女の腹の虫の訴えを聞いた訳ではなさそうだ。
「やはり、私は、食べないと始まらないんです……!」
食べるの大好き、歌って踊れるアイドル。その心は──、カロリーの代謝が凄まじいのかもしれない。
目ざとい、いや鼻ざとい聖愛の鼻腔を擽るままにその足取りはコンセプトカフェに伸びていく。
いや、別に、ゴハン狙いで来たわけではなくてですね。これも戦略なんですよ。本当ですよ。
何かを食べている時というのは、ふと言葉が洩れてしまうはず。
そう考えると、聖愛は、メニューの中でも一番重そうな海鮮隕石丼を注文して、それにありつきながら周囲の話を聞き取る作戦に出る。
食べ物を食べている最中によそに気を回すなんて、ちょっと行儀が悪いかもしれないが、いやいや、これは仕事ですから。
「わあ、すごい!」
大きなどんぶりに、新鮮な海鮮。そして、その上にでんっと鎮座する球形のでかいコロッケ。
隕石のようなコロッケが乗っかる激重メニューは、ソシャゲの本編でも登場したらしい。
醤油をかけるべきか、ソースをかけるべきか。それが問題だ。
強大な敵を前に、目を細めて戦略を練っている聖愛の耳に、すぐ近くの席からわあっと声が上がる。
「おや、なんでしょうか?」
その様子を探るには、ちょっとだけ時を巻き戻す必要があった。
ところ変わって、コンカフェからちょっとだけ離れた場所には、いわゆるメモリアルブースが展開されていた。
このソシャゲの歩んできた道のりを示すかのように、メインシナリオやサイドストーリー、人気の高かったシーンや、プレイヤーにとってはもう見飽きたよというような定期イベントのスチルなどがプレビューされているコーナーが並んでおり、思い出に浸るファンもそこかしこで足を止めていた。
「ふわぁ、あっちもこっちもきらきらで楽しそうー」
フラムベル・ラーヴィ(繋がる物語を宿して・f43910)も、その人だかりを遠目に見ながら、その目にきらきらを反射していた。
ソシャゲというのはよくわからないけど、何かが終わるとき、その寂しい気持ちは理解できなくもない。
子供は水浴びを喜ぶ。いつまでさせてやりたい。しかし季節は巡るのだ。
フラムベルは見た目に小さな少女。実は少年なのだが、いいんだよ可愛ければァ。
いつまでも楽しいものが続いてほしい気持ちも、終わってしまう事もわかっている。
だからこそ、その気持ちを癒してあげたい。ヒーリング☆アイドルとして!
しかし、限界っぽいサラリマンといっても、ちょっと人が多い。
小さなフラムベルの体格で、どれだけ背伸びをしてみても、見えないところは見えない。
うーん、どうしようかなぁ。
ここは、そうだ。どうせだからゲームへの理解も深めよう。
どうやらスマホ対応。そして、サービス終了とはいえ、ダウンロード自体はけっこう先までできるようだ。
小さな手でぽちぽちしていると、
「あのぉ、お客様。通行の妨げになってしまいますので……」
「あ、ごめんなさい~」
「座って遊べる場所もございますので、ご案内いたしましょうか」
「ありがとー!」
とまぁ、そんなこんなで、フラムベルは会場スタッフの案内で、座れる場所の多いコンカフェ近くのシートにつくことになった。
なんだか近くで、おいしそうな匂いがするけれど、今は情報を仕入れる時!
「ん、くっ、おーっ!? ……結構、難しいね!」
スマホサイズのゲームとはいえ、ゲーム本編のメインコンテンツとされている音楽リズムゲーは、最初っから結構な難易度らしい。
幼い少年の手では、どうしても届かないところがあって、もどかしく唸る。腕がもう一本あれば!
ていうかこれ、ちょっと音とタイミングがうまく合わない気がする。
「ちょ、ちょっといいかな、少年」
「へ? お兄さん、お姉さん、手伝ってくれるの?」
四苦八苦しているフラムベルの様子を、何人かのベガ立ち勢が、見るに見かねて声をかけてくる。
これは、いいタイミングなのでは。
お手伝いをしてもらいつつ、フラムベルは【優しい世界】を発現。
友好的に振る舞ってくれるオタクのお兄さんお姉さんは、きっとフラムベルを助けてくれるに違いない。
「まずは、自分のペースに設定を合わせてみよう。ここでリズムを調整できるんだよ。自分もこれで色々手こずったことがあって、初期はこの機能なかったんだけど、やっぱいろいろ言われたみたいで、すぐ実装されたんだよね。まあ、これのお陰でこのゲームのアクティブ結構増えたらしくて、そりゃもう先輩面してたら、みんなにあっという間に追い抜かれ……あ、ごめん、つい喋り過ぎちゃったな。どうだい、さっきよりずっと遊びやすくなったろう」
「う、うん、思い出がいっぱい詰まってるんだね!」
途端に早口になるオタクのお兄さんお姉さんに若干気圧されつつ、頑張って話を聞く。
「ええと、何の話だったかな。あー、グェホッゲホッ! しまった。普段、話慣れてないから、ちくしょうっ!」
「はい、どうぞ、麦茶ですよ!」
「あ、どうもありがとう……あっま! 天体観測の奴や!」
「いえいえ、お気になさらず、もっといっぱい喋りましょう!」
気が付けば、でっかいコロッケの乗った海鮮丼を片手に持った聖愛が、オタクのお兄さんお姉さんたちを捌き始めていた。
あわあわしかけていたフラムベルと目が合うと、聖愛はパッチーンと可愛らしくウインクをキメる。
仕掛けるなら、今だ!
「あのあの、お兄さんお姉さん、みんな楽しそうに思い出を喋ってくれるけど……寂しそうにしてる人も居たよね?」
「そりゃあ、そうだよ。これを楽しみに……それこそ、心のオアシスみたいに大切にしてたファンの人にとっちゃ、ペットロスみたいなもんじゃないかなぁ……けっこう、有名なプレイヤーさんがいたんだよ。社会人の人でさ」
「サラリマン?」
「サラリマン? ああ、会社員の人だったかな」
「どんな人か、知ってる?」
「何度かオフであった事あるよー。ええとね……」
周囲を見回すオタクのお姉さんが、あの人だよと指さす方向を辿って、二人の視線がその先を見ると、
なにやら劇的なポーズで膝を追って、床を涙で濡らす程、静かに泣くサラリマンのスーツ姿が目に入った。
それは、ちょっと異常なほどの悲しみ方であるように見えた。
大成功
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第2章 集団戦
『レサージーサラリーマン』
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POW : 働くのめんどくせぇ
自身の失敗時に自動発動。レベルm半径内の味方に【無気力感】を付与し「失敗の致命度」に比例し行動成功率上昇。
SPD : 動くのめんどくせぇ
自身の失敗時に自動発動。レベルm半径内の味方に【無気力感】を付与し「失敗の致命度」に比例し行動成功率上昇。
WIZ : 生きるのもめんどくせ
自身の失敗時に自動発動。レベルm半径内の味方に【無気力感】を付与し「失敗の致命度」に比例し行動成功率上昇。
👑11
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男がひざを折る。
なんという事か。予知の通りに、一人のサラリマンが、絶望の淵に立ち、嘆き、咽び泣く。
イベントの邪魔にはならぬよう、しかし、もう立ってもいられない。
静かな嗚咽が、さめざめと、零れ落ちるそれが、波のように、押し寄せるそれが、サラリマンの中身が丸ごとめくれ上がるかのようにあふれ出し、止まらなくなる。
それは、銀色のようにも、灰色のようにも、何かが流れ出て、すべてが過ぎ去ったかのように、色素が抜けたようで、何かが溶け込み過ぎて混沌と化したかのような。
骸の海。
あふれ出るそれらは、瞬く間に周囲を巻き込み、呆気に取られている者たちを同じようにまた飲み込み、会社員風の男たちもまた、その影響下に呑まれてしまう。
いかなる過酷な労働にも耐え得るその身を包み込む戦闘服たるビジネススーツはその裾をびりびりと内側から破り、鱗を帯びた人ならぬ怪物の四肢と化したものがむき出しになり、絶望の伝播するままに生きていく糧を失ったその顔は、無気力に表情を失っていく。
「ああ……めんどうくせぇ……何もかも、終わっちまう……何やっても、もう……」
蛇のような、トカゲのような雄々しい尻尾が力強くフェス会場の床板を打つのとは裏腹に、その身体は今にもくずおれそうに危うげだ。
何をしでかすかわからない、その姿は、どう見ても無気力だが、ひどく危うげで不安にさせる。
彼らを救うには、やはり、必要なのだろう。
アイドルの輝き、それこそが。
この場にアイドルステージを呼び寄せるほどの祈りを持つ者が現れれば、戦いは有利に運べるかもしれないが……。
むしろ、そうであれば、戦わなくてもいいまである。
この状況を予見できていた今であれば、そのチャンスは十分にある筈だ。
吉岡・紅葉
あ、会社員さんがオブリビオンに変身しちゃいました!
普通に生きていた人が急にオブリビオン化するなんて…他の世界とはかなり勝手が違うようですね。
人々を救うには、アイドルの力が必要なのですか。…前々から思ってましたが、私って結構かわいいし、アイドルに向いてるんじゃないですかね?帝都からやってきた愛国系アイドル…いいコンセプトだと思いません?あ、髪はもっと伸ばした方がいいかも。
そこのあなた!今から私のオーディションに付き合ってくれませんか?めんどくさいなんて言わせませんよ!
もし私にアイドルの資質があるのなら、この【愛国進軍曲】がきっと彼らの心に刺さるはずです。歌唱力はまあ…そのうち進歩するでしょう!
池神・聖愛
(海鮮隕石丼、きっちり食べ終わってごちそうさま、した後)
お願い、流れ星!あの人をオブリビオンから救うためにも、ここにアイドルステージを!
アイドル変身!(ここで全身図のふんわり☆フローラルドレス姿へ)
デリシャス☆マリア、ここに登場!
クルクル☆スカイステッパーを利用して、空中を2回ジャンプしながらのアイドルダンス☆
あたしは、アイドルだから。パフォーマンスで盛り上げて…必要なら、この甘々☆投げスイーツも投げての攻撃を!
あまーいスイーツで、希望を取り戻して!
アイドルたるあたしは、知っているから。そうなるまで、このゲームを愛したということを、感じたから!
絶望、不安、無気力。
ただでさえ、寂しげな雰囲気の漂うフェス会場の中、突如としてあふれ出てしまった絶望の坩堝。
暗闇のような、それとも色を失ったかのような混沌の海が溢れ出ては周囲の景色すら色褪せていくような。
灰色の靄のようなものが立ち込める中で、すべての生きる気力を失った、ただ生きているだけの企業戦士が、亡者のようにうろうろし始める。
この濃厚な死の気配。世界の死んでいく音色が、煌く世界を燃やし尽くし、枯らしていく。
しまった。もうそんな時間!
押し寄せる大きなお友達のお世話……もとい、給仕のように彼らを捌くことが楽しくなってしまっていた池上聖愛は、骸の海の不穏な気配をひしひしと感じとる。
そういえば、ご飯も食べ損ねていた。
「あーんもう、タイミングが悪いよ! でも、ご飯を粗末にはできないわっ!」
小顔の可愛らしい少女の、その小顔がすっぽり収まりそうなでっかいどんぶりには、たっぷりのご飯に海の幸をわんさと盛ったお刺身、そしてその頂にめり込むかのような巨大コロッケが隕石の如く乗っかっていた。
海鮮隕石丼を食べあぐねていたのは全くの計算外だったが、デリシャス☆アイドルにとって、この程度の物量は物の数には入らない。
ぐああっと大きく開いたお箸を一閃、二閃とさせれば、コロッケは瞬く間に切り開かれ、中身のお芋と挽き肉とミックスベジタブルがほわっと湯気を上げる。
すかさずソースを回しかけ、がっつく。一口、二口……ええい、まだるっこしい。丼に口をつけて掻っ込め!
お芋のほっくり、野菜のシャキシャキ、衣はサクサクで、海鮮お刺身も新鮮でこりこりしている。
デリシャス。とってもデリシャス!
胃袋にデリシャス☆アイドルパワーが蓄積されていくのがわかる。が、こんなんで間に合うのか!?
焦りを覚える聖愛の視界の端に、ふと秋のような風景を幻視する。
「会社員さんがオブリビオンに……ここまでは、予知の通りという事ですか。
普通に生きていた人が急にオブリビオン化するなんて……他の世界とはかなり勝手が違うようですね」
どことなくバンカラな雰囲気。それもそのはず、吉岡紅葉はサクラミラージュのハイカラさん。
長い大正の時代、その文化を受け継ぐ桜學府の制服は、オーダーメイドとはいえモダンのままハイセンスを描く。
奇抜にしていながら、流儀には沿う。
ただ力押しで彼らと戦うだけでは、彼らを救えはすまい。
なればこそ、必要であろう。アイドル
力が。
ハイカラさんは恐れない。何事にも、挑戦する事から、逃れることなどできない。
根拠のない自信が、彼女を衝動のままに突き動かす。
今こそ、自分がなるしかないのだ。アイドルに。
ところで、この期に及んで使いすぎではないだろうか。倒置法。
「前々から思ってましたが、私って結構かわいいし、アイドルに向いてるんじゃないですかね? 帝都からやってきた愛国系アイドル……いいコンセプトだと思いません? あ、髪はもっと伸ばした方がいいかも」
ニッ、と親しみのある微笑を浮かべる紅葉だが、その自己評価が他者からどう見えているかは、この際どうでもいい。
確かに、帯刀して凛々しく姿勢よく、涼やかに笑う姿は、誰もが振り向くほどの美貌を誇っていると言ってもいいだろう。
そんな彼女の姿を可愛いと評する男性が、果たしてどれほどいるかどうかというのは、ひとまず置いておいて、頬を桜色に染める男女は多かろう。
しかしそれは、可憐というよりかは、美丈夫という評価になるかもしれないが。
「そこのあなた!」
「え、俺!?」
「今から私のオーディションに付き合ってくれませんか? めんどくさいなんて言わせませんよ!」
「え、いや、待って! なんか、会社員の人変身しちゃって、それどことじゃ」
骸の海に呑まれていない一般フェス参加者をとっつかまえた紅葉の行動力は、有無を言わせぬものであった。
「では、吉岡紅葉、歌います! ああ~、らんらら~」
「えぇ……」
【愛国進軍曲】。その、ちょっと調子っぱずれな歌声は、しかし、彼女の背から輝く後光も合わさり、ちょっと奇抜ではあるし、現代UDCに近い文化圏からすると、ちょっとばかし封建的ではあるものの、不思議と目が離せないものがあった。
なんだろう、その、なんていうか……ヘタウマ?
すごく一生懸命なのが伝わってくるし、情熱を込めているのもわかる。何よりも、歌う人物、歌唱に挑むその心意気……ぶっちゃけて、かっこいい麗人が、何でもできそうな雰囲気なのに、ちょっと外しているのが、なんともこそばゆくて、言っては失礼なのだが……可愛らしく見えるのだ。
「むふむふ……こ、この歌は! ん、ぐ、ぷはっ! ごちそうさまでしたーッ!!」
アイドル力を胃袋に溜め込んでいた聖愛は、食事に注力する最中に、その歌声を耳にする。
そして、ものの数分で海鮮隕石丼を平らげて勢いよく手を合わせると、席を立つ。
今や、誰もが、紅葉から目を離せない。
スゴイ。あんな、出鱈目なアイドル力を、誰もご存じ……ないのですか……!?
この場にこそ、きっと相応しい。なのに、誰も応えないの?
いや、祈りが足りないのなら、自分も願え!
羨望と対抗心。べしゃべしゃになった口元をナプキンで拭う聖愛の目には、輝きが増している。
(お願い、流れ星!)
胸の内に、そして遥かな空の果てに、願いを込めれば、頭の奥で何かがスパークしていく。
ぎゅうぎゅうに詰め込んだ星を、袋から解き放ったかのように、星空を何倍にも凝縮したようなキラキラが骸の海のあふれ出るあちらこちらを包み込んで新たな段階へと押し上げる。
アイドル変身! その叫び声がかき消されるかのような、星々の光が、いたいけな大食い少女を、光り輝く姿へとドレスアップしていく。
ウェイトレスのような機能性重視の制服姿に、ふんわりとしたリボンやフリルが、光がはじけるようにしてトッピングされ、スカートにはパニエのように過剰なフレアが盛り上がり、ツインテールの髪は飴細工のような光沢と共にくるくるとロールが生まれ、弾ける笑みを浮かべるその頭にヘッドドレスと可愛らしい意匠の施されたインカムが装着される。
「デリシャス☆マリア! ここに、登場っ!」
光り輝く特殊効果の中でなお、ポーズを決める聖愛……いや、デリシャス☆マリアの姿は、まさしくアイドルステージに立つべき者の風格であった。
その輝き、ハイカラさんの後光に勝るとも劣らぬ也。
「あれが、あれこそが……本当のアイドル! 凄まじい、力を感じますねっ!」
圧倒されるような存在感を覚えながらも、紅葉はわくわくとした微笑を絶やせない。
アイドルを前に、頬を緩めぬモノなど居ないとばかりに、この高揚はなんだろう。
「歌って!」
「いいですとも!」
気が付けば、周囲は舞台と化していた。
いや、これこそが、アイドルの戦いの舞台。アイドルステージなのだ。
眩いライトが荒れ狂い、観客席によく姿の見えない聴衆。
だというのに、温かい声援と熱い視線とが無数に送られ、なんだか無限に力が湧いてくるかのようだ。
【クルクル☆スカイステッパー】でくるりくるりと空中を飛び跳ねる聖愛の姿は、さながらにお菓子の妖精のようであり、彼女の要請に応じる紅葉は、すらりと長い、若々しい楓の木のようでもあった。
それは、即席の演出であった。
激しく、しかし軽やかに空中を飛び回るデリシャス☆マリアのアイドルダンス。
その渦巻くような光跡の中央には、綺麗に立つ紅葉の姿があり、最終的にはそこへと視線が誘導されるかのようだった。
現実離れした光景に、無気力だったサラリマンたちも、目が離せなくなる。
「お、おお……まるで、あの頃を思い出すみたいだ……こんなふうに、俺たちは、あの子たちを見ていた。ずっと、見ていたかったんだ」
そんなサラリマンたちのもとへと、ふわっと甘々☆投げスイーツ。今回はマカロンが投げ込まれる。
「これは……?」
「あまーいスイーツで、希望を取り戻して!
アイドルたるあたしは、知っているから。そうなるまで、このゲームを愛したということを、感じたから!」
星が散るようなウインクと共に、促されるようにして思わずマカロンを口に運ぶ。
じわりと染みるような甘味が、乾いた心に広がっていく。
重くのしかかるような、自分自身の感情。ここまで歩んできた気持ちが、いかに育まれてきたものなのか。
そうだ。わすれちゃいけない。
物語は終わってしまうけれど、すべてが嘘のように消えてしまうわけじゃない。
あの気持ちも、この気持ちも、抱えたまま、前に進もう。
この歌のように。
男たちの身体に生じていた異変が、徐々に剥がれ落ちていく。
それと共に、虚ろだった顔には、輝かんものが宿っていた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵

シャルロッテ・ヴェイロン
まあね、気持ちはわかりますよ。でもね、メーカーだって商売でやってるわけですし、どこかで【見切り】つけなきゃって思いもありますよ?(【世界知識】)
それはさておき始まりましたか。まずはアイドルステージとやらを――ちょっと設備借りますよ?で、自身のPCを直結して【ハッキング】し、場を盛り上げてやりますか!(【パフォーマンス・楽器演奏・注目を集める】)
あとは【破邪】属性ので攻撃していきましょうか((【属性攻撃・一斉発射・誘導弾・制圧射撃】)(元が一般人ということでダメージは【気絶攻撃】程度にとどめる))。
※アドリブ・連携歓迎
どろりどろりと、虚空のような、何かのなれ果てのような骸の海が溢れ出る。
この場が一体何だったのかも判別できなくなるほどに、それは世界を破壊しうるものだった。
フェス会場の静かな騒がしさはどこへ行ったのか。
いや、それすらも忘れてしまったら、いよいよ戻って来れなくなってしまうのではないだろうか。
これが、一人の人間が持ち合わせていい絶望なのだろうか。
それがこの世界の在り様、と言ってしまえばそれまでだが。
やばいな。そう思いながらも、シャルロッテ・ヴェイロンは、心の底で気が逸るのを感じる。
このピンチの情景は、体感型ゲームとしても高揚を持ってくるかのように思えてならないのだ。
しかしながら、彼らオブリビオンと化してしまった一般人の方々は、普通の方法ではなかなか討伐できないのだという。
いや、一般人を討伐しちゃまずいのは、そうなのだが。
シャルロッテが動き出すよりも早く、この場には星の光が降り注ぎ、この世の光景とは思えぬ謎のスペクタクルでアイドルステージが出現したのだが……。
「いよいよ始まりましたか。なーるほど、これがアイドルステージ……いやいや、全然足りないですな!」
エンタテイメント企業の社長令嬢でもあるシャルロッテ。そして、生粋のゲーマーでもあるからこそ、この舞台演出は、まだまだ人を呼べるものに彩ることが可能だ!
そう、自分ならね!
手近なフェス会場のものと思われる設備を拝借。少女のような体つきからすればごっつい電脳ゴーグルを装着し、手っ取り早くハッキングをこなすと、照明やスピーカーなどを弄り始める。
ゲームデータ、ゲーム映像、それに合わせた照明パターンや連動プログラムを探し出し、あるいは構築しなおして、舞台を盛り上げるべくリアルタイムに適応し始める。
アイドル達の歌声やパフォーマンス。それも効果的かもしれないが、彼らならばいち早く反応できるものが、この場所にはいっぱい詰まっている。
「こ、この音楽は……まさか!」
無気力だったサラリマンのようなオブリビオンが、ぴくりと反応する。
「さあて、盛り上げますか!」
召喚されたアイドルステージに展示されるゲームプレイ映像と、その華やかな音楽の数々は、彼らにこそ耳馴染みのあるものの数々だった。
より臨場感をだすために、実際のプレイ画面を演出するために、なんとシャルロッテは片手間にゲームをプレイしつつその映像を投影する。
凄まじいタップ音。
投影された画面に、花のように散るノーツの数々。
その光景を、もう見飽きたよというような光景を、オブリビオンたちはぼんやりと立ち尽くして、見つめる事しかできない。
「まあね、気持ちはわかりますよ。でもね、メーカーだって商売でやってるわけですし、どこかで【見切り】つけなきゃって思いもありますよ?」
キレイに完結したんだから、その気持ちでもって、いつまでもいい思い出にしとけばいい。
そんな簡単に割り切れたりはしないのだろう。思いの大きさがあるほどに。
でもそれはそれ。これはこれ。
【ATTACK COMMAND】。電脳世界にアクセスした攻撃プログラムを速やかに起動。
オブリビオンの発生は、防がなきゃいけませんよね。
てなわけで、相手が一般人ということで攻撃性能は最弱に設定、しかし一撃で昏倒せしめる気絶攻撃、ホーミング、一斉攻撃の属性を乗せておく。
虚空にいきなり現れる、漫画チックな手刀が、サラリマンの首後ろを一斉に打ち付けていく。
「当身」
「ぐはっ!?」
どさどさどさっと、一斉に糸が切れた様に倒れていく姿を横目に、派手派手に演出されたアイドルステージを、シャルロッテはゴーグルを外しながら、満足げに眺めるのだった。
大成功
🔵🔵🔵
フラムベル・ラーヴィ
見つけた、あの人だね!
って周りの人達も凄い無気力になって…!元気づけてあげなきゃ!
お願い流れ星!ボクもアイドルになりたいの!みんなに希望を与えるアイドルに!
ステージ展開と一緒に変身、アイドルっぽいドレス姿になるよ!
え、ボクは男の子?気にしないの!
みんな、これは終わりじゃないよ!終わりだけど終わりじゃないの!
これまで過ごした時間と思い出はずっと残るの!終わったからって全部なくなるワケじゃないんだから!
それに、新しい出会いだってまだまだあるの!今までと同じくらい素敵な思い出は、もっともっと作れるんだよ!
そんな希望を、みんなに届けるよ!
(とか言いつつUC発動、そんな気持ちを直接撃ち込みます)
どんよりとした空気が、その場の全てを支配してしまう。
泥のようなくすんだなにかが、海のように溢れ返り、灰の霧のようなものが周囲を染め上げていく。
何もかもが色あせて、そう、すべてが過去になっていくような。
人々は、現代を過去に投げ捨てていき、それを続けることで未来へ進んでいる。
ならば、この光景は、まるで世界がそのまま、過去に落ちていくような、そんな底知れぬ何かに転落していく錯覚すら感じる。
それほどまでに、うなだれるサラリマンの絶望は強く、停滞して、過去を顧み続ける後ろ向きの願いに、まるで世界が応えるかのようだった。
皿にのせた砂がテーブルの傾きと共に零れ落ちていく。
溢れ出る何かに押し出されるような光景の中で、何故か、それを見ている者たちは、引きずり込まれるかのような錯覚を見る。
このままでは、すべてが落ちていく。
「見つけた! あの人だね」
色を失っていく世界の中、フラムベル・ラーヴィは、その渦中、渦の中の中心に強い絶望の起点を見る。
もはや、どれだけはやく走ったところで、器用に空を飛んだとて、そこに追いつけそうにない程に、すぐそこにうなだれるサラリマンのもとへたどり着くことができないような気がする。
これは彼の心象だろうか。
いや、考えている余裕は無い。
今や、彼の振りまく骸の海は、周囲の一般人をも飲み込んで、その影響でオブリビオンと化してしまっている。
「って周りの人達も凄い無気力になって……! 元気づけてあげなきゃ!」
生きる気力を失って、石膏像のような無機質な表情になっていくサラリマンたちを見渡すと、渦中の起点である彼よりもまずはそれらを救わねばと奮い立つ。
しかしながら、彼女の──もとい、彼の手足は幼く、靄のようにまとわりつく灰色の無機質な骸の海はその歩みを阻むであろう。
文字通り手も足も出ない。
だが、しかし、気持ちだけは誰にも負けない自信があった。
この世界では、祈りが色濃く、強く反映される。
そう、アイドルたる強い願いに、この場にはない星々が応え、絶望にも勝る輝きを齎してくれるのだ。
(お願い流れ星! ボクもアイドルになりたいの! みんなに希望を与えるアイドルに!)
声ならぬ声、その願いのみが、暗闇に落ちていく世界のなかに、誰にも目につかない筈なのに強く輝く。
誰かのために輝く、無償の愛。その献身に、宇宙が、心の中の大宇宙が応じて、溢れかえる。
今ここに、絶望の暗黒の中に星が生まれた。
輝きに包まれる中で、まとわりつく靄を、力を込めて引き千切り、その拍子に彼の腕や体に、まるで花が咲くようにアイドル衣装が生まれていく。
可憐な少年には似つかわしくない、どう見ても女の子のアイドル衣装だが……いや、可憐な少年だからこそ、少女のような衣装がこの上なく映える。
──性別とか、──年齢とか、──どうでもいいじゃあないか。
「みんなーっ!!」
腹の底からの叫び。声変わりの訪れていない、高いトーンの声は、この混沌の中でもよく通る。
いや、それに呼応するかのように、舞台が、アイドルに相応しいステージがせり上がる。
輝く平らかな舞台と、色めく照明、そして満員の観客席に星の如く煌くペンライトの輝き。
「これは終わりじゃないよ!終わりだけど終わりじゃないの!
これまで過ごした時間と思い出はずっと残るの! 終わったからって全部なくなるワケじゃないんだから!」
誰かに届けと言わんばかりの、その呼びかけに、無気力だったサラリマンたちの表情がゆらぐ。
人のようだったものに、人の頃の情緒が、懐かしき光景が、思い浮かぶ。
全て終わってしまった。けれども、何も残らなかったわけじゃない。
大切なものは、ずっと残っているではないか。
「それに、新しい出会いだってまだまだあるの! 今までと同じくらい素敵な思い出は、もっともっと作れるんだよ!
そんな希望を、みんなに届けるよっ!」
それは少年の心の表れか。
フラムベルの手で作り出すハートマークに触発されたかのように、空間に本当にふわふわハートが浮かび上がる。
それが舞台演出なのだとしても、空中にふわふわと浮かぶそれを目に入れると、湧き上がって来るものがあった。
【振りまく愛】。それに込められたフラムベルのいっぱいいっぱいの愛情は、目にするだけで撃ち抜かれたような、熱い想いが流れ込んでくる。
なんだろう。この気持ち……いや、だって、彼は男の子……。いや、しかし……。
戸惑う気持ち、揺らめく気持ち。そんなものを、無償の愛が攫ってしまう。
いいじゃあないかぁ。
存分に撃ち込んで来たまえ。
失ったものを求めるかのように、サラリマンたちの無気力は、その大好きの温かい感情に飢えるままに、流れ込むそれにされるがままなのを、むしろ好とするかのように、諸手を上げて熱狂するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼静
さて、この世界での初戦闘だ。
情報では観客の応援を受けると良いと聞く
だが一方で普通に倒す事も可能、とも聞いている。
応援の有無がどれぐらい影響を及ぼすのか…
今回は検証の機会としよう
▼動
先ずステージと観客を確認。
他の猟兵達がバズってそうならスマホで写メでも
試しに霽刀を手にUCで一閃を。
並の敵なら一撃の筈だが、応援無しだと動きが阻害される…のか?
状況を冷静に分析しておく
次は先のソシャゲで見た男性キャラの
簡易な振り付けやキメポーズを取り入れながら戦闘。
葬剣を無数の鋼糸状に展開し、それを足場に空中戦を行い
早業による居合を振るい、違いを確認。
必要なら峰打ちも検討を。
逆に威力が高くなりすぎるのも問題だが…
男は一人、静の中に居た。
一時は、一人のサラリマンの絶望があふれ出し、この場は虚無に呑まれるかのようだったが、それは猟兵たちの、或はアイドルの輝きによって、希望の舞台に書き換えられつつある。
気分を高揚させるようなパフォーマンス、希望のメロディ。
実に素晴らしい事なのだろう。
しかしながら、尚も男は──、アネット・レインフォールは静の中に居た。
卓越した剣豪の精神統一の前には、すべての音は、俗世における色と同じ。
一にして全を理解するには、すべての色と合一できるほどの寛容さ、心の静寂さが肝要であろう。
その奥義の頂に到達しているかどうかは、ひとまず置いておいて、彼にはある懸念があった。
このアイドル☆ファンタジアにとって、剣を振るうことは、解決に向かう直接的な答えとなり得るか。
アイドルとして、希望をもたらすことによって、オブリビオンと化した者たちを癒していく。
猟兵ならば、観客の応援を得ることで、その力を何倍にも増幅することができるという。
話には聞くが、それが実際どれほどか、アネットはまだ知らない。
「む……!」
静の中にあったアネットが反応を示す。
アイドルのパフォーマンスを前に、オブリビオンのいくつかはその戦闘力を祓われてしまったが、まだ元気なものが居るらしい。
その何体かが、前に出る気配を感じたのだ。
こんな時のために、荒事の出来るものが一人は居たほうがいいというものだ。
「──【弐式】流水戟」
愛用の刀、霽刀を一閃、ユーベルコードによる影すら残さぬほど流れるような一撃が、複数の敵を一薙ぎにする。
踏み込み、抜き打ち、切り払うその動作の一切に無駄はなく、いつもと変わらぬ調子で放たれたそれは、違和感だけを手元に返してきた。
斬れていない。いや、手ごたえがない。
「並の相手なら一撃の筈だが……応援の一つもなしでは、動きが阻害される、のか?」
いや、準備は万全であった。ただ、切れた感触だけが無かった。
これ自体が、まるでパフォーマンスであるかのように。
だがしかし、その動作自体は本物で、オブリビオンと化したサラリマンたちは、その歩みを止める。傷一つもなく。
「ふ、そうか。虚実、相合わせるというわけか。ならば、こう宣言するまで。
アイドルへの、お触りはおやめください、だ!」
あくまでも冷静に状況を観察、そしてアイドルステージで行われる事が全て事実を模したものに成り代わり、より観客にとって好感触なパフォーマンスになることで、強い効果を発揮する事の意味を理解する。
ならば、次なる一手は、先ほどちょっとだけ予習したソシャゲでの男性キャラクターを借りる事。
コスプレと、そのテーマソング、振り付けなどは、予習済み。
ぶっつけ本番で完璧ではないが、その振り付けは簡素に、このアイドルステージに、いや、自分なりにできるパフォーマンスで最大限に演出してやろう。
様々に変化する黒剣、葬剣を微細な鋼糸へと解し、ステージの上空へと即座に張り巡らすと、アネットはその不可視に近い梁の上を踊る。舞う。
剣舞の様に華やかに、時にキャラクターに則したポーズも取りながら。
「おお、あれは……いや、でも、パートナーがいないじゃないか!」
「まて、よく見ろ。見える、見えるぞ。もう一人と、ちゃんと踊っているじゃないか!」
「お前には何が見えているんだ……?」
アネットの空中舞踊に、サラリマンたちは、何かを幻視するほどに見入っていた。
それほどまでに、かつて目にした何かによく似ている。
呆気に取られているかのように無防備。その瞬間を、武人たるアネットは見逃さない。
鋼糸の張力を利用し、目にも留まらぬ踏み込み、飛び込み、そして、すれ違いざまに、居に合う。
「抜刀、流水……」
唸る様に呟く頃には、その軌跡のみを残し、既に刃は鞘内に収まっていた。
やや遅れて、
「ぐはぁっ!?」
なにやら、必要以上に派手な断末魔を上げて、ばたばたとサラリマンたちが倒れていく。
はて、峰打ちに処した筈だが……。いや、これも、舞台の効果という事なのか。
ともあれ、影響を受けた者たちは全て叩き伏せた筈だ。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『ブチギレサラリーマン』
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POW : ブチギレブラッドレイジ
自身に【無数のサラリーマンの怒り】を憑依させ、戦闘力と近接攻撃射程を3倍にする。ただし毎秒血液を消費し、枯渇すると死ぬ。
SPD : 怒りの超連続パンチ
【真っ赤に染まった己の肉体】を最大駆動させ、【超連打拳】で対象の【顔面】を攻撃する。既にダメージを受けている対象には威力2倍。
WIZ : 憤怒の化身
全身を【ドス黒いオーラ】で覆い、自身の【敵への怒り】に比例した戦闘力増強と、最大でレベル×100km/hに達する飛翔能力を得る。
👑11
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かくして、アイドルはこの混沌に舞い降りた。
そして、不幸なる者のもとへと、希望をもたらすために、アイドルステージは輝きを放ち、その観客席には万に及ぶサイリウムのきらめきが躍った。
猟兵たちは舞い踊り、華麗なるパフォーマンスは観客席の熱狂を誘い、凍り付いたオブリビオン、その骸の海を払いのけて見せた。
しかしながら、最初の一人は、まだ残っていた。
『うおお、く、くそう! 終わっちまう、いやだ……これから先、何もないんだ。何も……』
苦悩するサラリマンのなれ果ては、その肌を赤熱するまでに、怒りに震える。
『そりゃさ、綺麗に終わったよ。シナリオも、イベントも、何もかも! だけど、俺が、俺が許せないのは……』
全て、出し尽くした。
だから、ファンはそれを最大限に受け止めて、それをいつまでも抱きしめていればいい。
それできっと救われる。
果たしてそうだろうか。
『俺が許せないのは、きっと、きっと……俺はこれからの人生、この思い出を、薄れさせちまうってことだ。これからも、似たようなものはいっぱい出てくるし、新しいものに目移りして、きっと嵌っていくんだろうさ。
その度に、新しいものを積み重ねていくたびに、俺はきっと、この思い出たちを薄れさせていく!』
それでいいのか?
今まさに、男は、未来を恐れた。
今以上が訪れる可能性を、受け入れられずにいた。
ならば、ならば、なんとする。
『それを味わうくらいなら……未来なんて、いらねぇっ!! こんな世界なんて、いらねぇっ!!』
魂の嘆き。
本気で愛したものが失われないために、すべてを消し去ろうという決意。
なんと後ろ向きで、悲しい決意か。
だがしかし、巻き込まれる者はたまったものではない。
猟兵たちは、かのサラリマンに希望を取り戻させることができるだろうか?

シャルロッテ・ヴェイロン
まあね、気持ちはわかりますよ。私だって、やってたゲームのサ終のお知らせを見るたびにショックを受けたものですよ(【世界知識・戦闘知識】)。
でもね、思い出はこんな風に、形となって残るってこともあるのですよ(と、会場内で手に入れたメモリアルグッズを手に)。
それでもやるっていうならニューロンを強制的に【ハッキング】して、そう簡単に忘れることのないように思い出を焼き付けてやりましょうか?(【精神攻撃・データ攻撃・精神汚染】(やはり元は一般人ということで、ダメージは【気絶攻撃】程度にとどめておく))
あと、目が覚めたら改めて、ブース内を見て回りましょうか。
※アドリブ・連携歓迎
物事を否定から入るのはよくない。とは言っても、時にはその否定する意志が、自分自身を支えている時がある。
己にこそ怒りを感じて震えるブチギレサラリーマンは、元来、きっと穏やかで優しい人物だったに違いない。
全てに満足した上で、彼の男は満ち足りたからこそ不安と情けなさに身を焼いているのだ。
なんにせよ、終わりがやって来るのは寂しいのである。
その気持ちは、シャルロッテ・ヴェイロンにもよくわかる事だった。
「まあね、気持ちはわかりますよ。私だって、やってたゲームのサ終のお知らせを見るたびに、ショックを受けたものですよ」
ソシャゲなんて、データに過ぎない。キャラデータなんて、ほんのいくらかの数字の羅列に過ぎない。
そんな数字の羅列に過ぎないものにいくらもつぎ込んでおきながら、彼らはそれでも一喜一憂し、その性能を、そのビジュアルを、その役割を演じた声優さんを、その背景に描かれた物語を、愛した記憶と共に憎まれ口をたたくのである。
初心者お断りの難易度? サービス初期から、初心者しかいないような時からそんなこと言われるゲームなんて終わってる。
ガチャのテーブルが固定? さすがに問題にならざるを得ないし、速攻でそんなサービスは終わってしまったが、それでも、バカみたいにゲラゲラ笑いながら、ひどいゲームだと遊んでいたひと時は、魂が震えた。
ひょっとして、安くない開発費用でこさえられたこのバカみたいなゲームをやっているのは、自分だけなんじゃないのか。
そんな空虚と優越感を味わっている奇妙な充足感は、何物にも代えがたい思い出だ。
でも、それもすべて思い出。いまはもう、欠片も残っちゃいない。
本当にそうだろうか?
「ぼくが狩ってきたような、どうしようもないのと違って、このゲームは本当に愛されてるんですよ」
見識を広めるため、名作と同じくらい、頭にクソと名付けられたものも狩ってきた。
こんなキラキラしたアイドルステージの影には、無数のクソゲーが山となって積み重なっている。
成功だけが煌びやかに光を浴びて、影はいつだって見えなくなるのだ。
だが、名作は影こそを大切にする。
強い光の、力強さを描くために、その輪郭に影を色濃く与えるのだ。
そう、数多のジャンルのゲームに触れてきたシャルロッテは、だからこそ、このゲームの舞台の、空気の旨さを実感できるのだ。
じゃらり、と、しっかりパッキングされたそれらは、アクリルスタンドにプリントされたグッズの数々。
編みぐるみ、キャラクターイメージの小物など、フェス会場で手に入るメモリアルグッズであった。
「思い出はこんな風に、形となって残るってこともあるのですよ」
『うぐ、それは……おれも、購入した。でも、普段使いしてるタンブラーのプリントが落ちていくたび、おれは、喪失感があるんだ……』
「贅沢なお悩みです。いいですか! 世の中、こんなグッズすらも作ってもらえないソシャゲがごまんとあるんですよ」
『うぐぐっ!』
「それでもやるというなら……」
【BRAIN HACKING:BOOSTED】。電脳ゴーグルを被りなおし、やや危険なアプリケーションを起動。
実体化した電子データをその身に纏い、可能になることは、相手の生体脳への直接ハッキング。
電子プログラムと脳の仕組みは、そもそも違うのでは?
そんなの関係ねぇ! いいから、脳見せなさいよ! とばかりに、シャルロッテは、苦悩して身をかがめるサラリマンの脳にアクセス、その記憶野に収められた膨大な思い出の数々を、電子データにロックをかけるように不動のものへと焼き付けていく。
『グ、グアーッ!! の、脳がいてぇー!!』
※脳に痛覚はないので、問題ありません。ちょっとあるかも。
「さあ、これでなかなか忘れられない思い出ですよ。このアイドルステージも存分に堪能して、関連付けられた記憶として、一生忘れないような思い出にしてあげましょうねぇっ!」
『う、うおおっ、みんな、す、好きだーっ!! 何があっても、忘れない……忘れな……』
ちょっと悪質な脳ハックの影響もあり、頭から蒸気でも溢れ出さん勢いで、頭を赤熱させるサラリマン。
きっと、正気に戻った頃には、もう大丈夫……ほんとうに、大丈夫だろうか。
気絶する程度に痛覚設定は抑えているはずだが、生憎とシャルロッテは医療にまではそれほど精通しているわけではない。
そういうゲームなら、結構トンチキなものも触れてきたのだが。
ま、いいか!
騒ぎが収まったら、またフェス会場のブースを渡り歩いてみよう。
一仕事終えて嘆息する少女の横顔は、実に満足げであった。
大成功
🔵🔵🔵
吉岡・紅葉
ステージに映える《メイク》を施して、華麗に参上です!
ほ~~、これがアイドルステージというやつですか!なんと輝かしい!
「成る程、あなたは不安なのですね。今日の思い出が、時が経つと共に薄れていくのが……」
「でも、同じ気持ちを感じているのは、あなただけではありません!ここに集った皆さん、誰もがそうでしょう!」
スタンドから送られる無数の声援が、私に力を貸してくれます。鬼の手による打撃を《武器受け》《勝負勘》でガードして、【強制改心刀】で反撃!体を傷つけることなく、彼の荒んだ心のみを断ち切りますよ。
「一緒にカーテンコールを見届けにいきましょう!言うじゃないですか、ショウ・マスト・ゴーオンって」
草木の萌えるような波打つ音。
暗く明るい幻想的な光景は、音は、それこそ夢の様に彩られたステージの光沢であった。
観客席には無数のペンライト……サイリウムが、さながらに色とりどりの蛍が仮に存在するならば、波打つ夜陰に輝く幻想的な光景はそれであった。
そして、吉岡紅葉をはじめとする猟兵、そしてそしてアイドルとしてステージに立つ者たちは、さらなる光を放っているようだった。
このステージはまるで宝石。
いや、それそのものが宝石であるのではなく──、
「ほ~~、これがアイドルステージというやつですか! なんと輝かしい!」
誰に命じられるまでもなく、ハイカラさんである紅葉は個性的な後光を背負う。
しかしながら、この宝石のような舞台の上に立つのであれば、生半可な状態であってはならない。
音響も、何ら舞台装置も無い時代、多くの目に触れるために、せめて顔の演技を見ただけでわかるよう、舞台役者は顔を白く塗り、表情の演技をより顕著にするよう、目元に赤く隈取を添えた。
鬼神の如く在り、暴れて見得を切る。
そこまで過剰でなくとも、舞台に臨む化粧とは、戦いに臨む武装と等しかった。
なればこそ、晴れの舞台に、紅葉はその涼しい風を帯びたような輪郭を際立たせるメイクをやや厚めに盛って、すらりとした背丈を強調するように背筋を伸ばし、退魔刀「竜田姫」を手に堂々と再登場する。
愛らしい少女を目指した時もあったが、どうやら背の高い今の自分にとっての長所とは、そこからずれているらしい。
いいや、この姿を可愛らしいと言ってくれる人も居る。
究極に前向きな思考だからこそ、紅葉は秋風の様に爽やかに笑うことができる。
「成る程、あなたは不安なのですね。今日の思い出が、時が経つと共に薄れていくのが……」
『そうだ。俺は、俺が許せない。この先の全てを、否定しない事には……』
苦悩に歪む赤い男。
今が過去になって、すべて忘れられる事。最高の時間を、きっと最高のまま覚えていられぬという予感。
満ち足りたからこそ、いつしか別の満足で上書きされてしまうのではないかという不安。
ならば、この熱が残っているうちにすべて消えてしまえば、それ以上満足することはないのではないか。
「でも、同じ気持ちを感じているのは、あなただけではありません! ここに集った皆さん、誰もがそうでしょう!」
『!』
現実とは隔絶されてしまったようなアイドルステージ。
しかし、あらゆる楽曲、音圧をかき分けて押し寄せるのは、観客席やその外側からやってくる共感と、歓声。
歪んでしまった願い、強すぎる重いから絶望した男に対し、立ち向かい、声をかけてくれる者たちは、こんなにもいるのだ。
自分は愚かなファンの一人かもしれないが、その為に向き合ってくれるのが、この場所なのだ。
「泣いていい。笑っていい。怒っていい! 全力で、全開で、貴方の悲しみに応えてくれる人たちがいます。そして、全力の記憶と言うものは、そうそう簡単に忘れたりしないものです」
『……みんな、そうか……! 受け止めてくれるんだな。この俺自身に対する、怒りを! 情けなさを!』
さあ、と胸襟を開くかのように体幹を晒す紅葉に、ブチギレサラリーマンは、赤熱したような赤らんだ顔をさらに赤く神経を浮きだたせて、隆起したその腕を振りかぶる。
凄まじい気勢。戦いに関して素人同然と言わざるを得ない構えから繰り出される拳は、本能的な闘争心で戦いを制す鬼のようなそれに似ている。
それを真正面から、鞘ごと手にした退魔刀の柄を握り、鞘内からわずかに覗かせた刀身で、正確に受ける。
『うおおっ!!』
「ぬううっ!!」
ドライアイスのようなステージ上の煙が、ぶつかり合う気迫で散っていく。
だが、渾身の鬼の拳は完全に勢いを止めた。
その瞬間、力が緩む刹那を見切り、紅葉は抜刀、均衡が崩れるとともに切り抜けた。
涼やかな青白い剣閃が、肩口から反対側の脇腹に至るまでを通り抜けたように見えたが。
しかし、隆々と猛るサラリマンの身体が両断されたようには見えない。
【強制改心刀】は、霊力を込めた一撃により、邪心のみを切り裂くものだ。
『ぐうっ、俺の怒りが、ささくれ立ったものが……抜けていく……』
「一緒にカーテンコールを見届けにいきましょう! 言うじゃないですか、ショウ・マスト・ゴーオンって」
戦意そのものであった黒い感情が急速に失われていく中で、膝をつくサラリマンを振り返り、紅葉は手を差し伸べる。
敵も味方も、舞台に立ったのならば、最後は仲良く観客へと連れ立って挨拶をせねば。
さあ、と微笑みかける紅葉の笑みは、そんなアイドルの在り様も見せてくれた。
大成功
🔵🔵🔵
フラムベル・ラーヴィ
そっか、それだけこのゲームが好きだったんだね。
その気持ちが薄れちゃうのが嫌で、未来を否定する…わからなくはないけど、それは止めなきゃいけないの。
大丈夫。思い出は――そのゲームへの愛は、それだけ強ければ決して薄れることはないの。
同じくらい愛するものが生まれたなら、それと一緒に全部愛しちゃえばいいの。
大好きって気持ちに、限界は無いんだから!
ね、応援してくれるみんな!
ボクはみんなのことが大好き!この世界の――ううん、36の世界全部の人達を、ボクはみんな、みんな愛してるのっ!
そう、愛の力は無限大なんだから!
時の流れなんかに負けることなんて無いの!
だから――お兄さんも、ね?
(UCで戦意を削らんとしつつ)
深い絶望は、時に激しい怒りを伴う。
極端に後ろ向きになる人間は、たまーにいるのだ。
愛してくれ。さもなくば、一緒に死のう。
自分以外の全ての愛情を、存在を否定するかのような、ここにはこれしかないのだという究極の独り善がり。
自己完結極まったものほど、そんなものほど厄介なものはない。
なにしろ、巻き込まれるのは世界なのだ。
傍から見れば、なんとも迷惑な話であるが、フラムベル・ラーヴィは、それを怒るでもなく呆れるでもなく、優しげに微笑む。
冷たい闇でなく、燃え滾るような赤に染まるブチギレサラリーマンのエネルギーに、彼は希望を見た。
「そっか、それだけこのゲームが好きだったんだね」
『これ以上も、これ以下も必要ない。こんなに綺麗に終わったものを、他のもので上書きするのが、おれは、怖い……』
「その気持ちが薄れちゃうのが嫌で、未来を否定する……わからなくはないけど、それは止めなきゃいけないの」
かつては人を偽っていたシャドウ。
しかし、自分以外の他者が自由に交流する世界に触れて、少年は愛に隔たりがない事を知った。
小さな少年の手は、もどかしくて、でも、だからこそいつも誰かが寄り添って助けてくれる。
優しさに触れた少年は、フラムベル少年は、その時に感じた温もりを、信じてみようと思い続けたのだ。
全ての生きようとするものが、手を取り合って、滅びの未来を切り開いたあの世界を。
「大丈夫。思い出は――そのゲームへの愛は、それだけ強ければ決して薄れることはないの。
同じくらい愛するものが生まれたなら、それと一緒に全部愛しちゃえばいいの」
『なん、だって……?』
己のどうしようもなさ、絶え間ない怒りにうなだれるサラリーマンに、フラムベルは励ましの声をかける。
少年の可愛らしい装いと、その柔らかな癒しの笑み。
しかしながら、
「大好きって気持ちに、限界は無いんだから!」
激励するその言葉は、サラリマンを責めるものではない。
そっと背中を押しながら、問うている。
度量を見せろ。
世界を疎んじるほど深い愛だというなら、他の何を置いても忘れやしない。
度量を見せろ。
全てを愛した上で、特別な愛を見出して見せよ。
『おれは、試されているのか……?』
「ね、応援してくれるみんな!
ボクはみんなのことが大好き! この世界の――ううん、36の世界全部の人達を、ボクはみんな、みんな愛してるのっ!」
周囲に振りまく宣言。きっとそこに偽りはない。
目に触れられないほどの眩い無邪気さが、割れんばかりの観衆の中で一層光り輝く。
その愛に偽りはない。
どこかで聞いたことがある。愛は与えるもの。恋は求めるもの。
ああ、だからこそ、こうも愛しく、そして触れ得ざる輝きを放っているのだ。
『すべてが尊く、すべてが特別……俺の特別も、その一つに過ぎないのか……?』
「そう、愛の力は無限大なんだから!
時の流れなんかに負けることなんて無いの!
だから――お兄さんも、ね?」
『また、別の特別を、見つけてもいいのかな……忘れられないのかな』
【諌める一声】に誘われるがままに、サラリマンの煮え立つ心が、急速に平穏を取り戻していく。
赤熱し蒸気すら噴き出さんとしていた肌に色味が戻ってきて、悪魔の様に変容していた顔つきも穏やかなものに変わっていく。
これって一種の洗脳じゃないの。と思わなくもないが、心変わりなんていうのは、いつだって唐突なもので、この体験はきっと、彼にとって忘れざるものになるだろう。
サラリマンが少年に目覚めるかもしれないって?
そこまでは、面倒見きれない。
大成功
🔵🔵🔵
アネット・レインフォール
▼静
先の戦闘でここの摂理とコツは概ね理解した
良くも悪くも世論(観客)を味方につける行為は力といった所か
…まるでダイウルゴス会議のような世界だな。
まあ此方の方が花があっていいのだが。
兎も角、今は最高のフィナーレの一つを演出するとしようか
▼動
先ず男キャラのコスのまま、サイリウムをヲタ芸の如くブン回し観客を誘導。
場を盛り上げつつ他の猟兵の支援も兼ねる
同盟の武人ならばダンスくらい余裕だ。
接敵時は人差し指を立てて頭上に掲げ、既視感を覚えるリズムを
フェイントに使いUCを放ち敵の未練を断ち切る
…サ終の夜はフィーバーしなければな
機があれば敵に同人活動や企業買収はどうだと助言でも
何かを始めるのに遅い事など無いさ
天地を揺るがす程の怒り。
世界の終わりを呼び寄せるオブリビオンの力が奮い立つその瞬間というのは、歴戦の武人にとって心奮えるものがあった。
しかし、アネット・レインフォールは、その沸き立つような心の機微をどこか他人事のように感じ、そして諌める。
相手は一般人。ちょっとばかし、趣味に傾倒し過ぎて、うっかり世界を呪ってしまう程の変貌を遂げてしまったが、武の達人というわけではない。
正直な話、彼を打倒する術はいくらでも思いつくが……、それが有効に働くという場所では、どうやらない。
「良くも悪くも世論(観客)を味方につける行為は力といった所か」
……ダイウルゴス会議のような世界だな。
アイドルステージの出現した場での、この世界の摂理の一端を見たアネットは、相手を物理的に打倒する手段を早々に捨てる。
力だけが全てではない。
彼は武人ではあっても、それに全てを捧げているつもりもない。
敵を打倒するための術を用いるよりも、どちらかといえば、風土とそれに見合った食事に興じている時の方が好きだった。
あんなにも、強さを求めていたはずなのに。
そこは相反しないし、きっと側面の一つに過ぎないのだろう。
流れ流され、対応するままに、アネットは常に自分なりの答えを出すことを躊躇わなかった。
時にそれが容易でないことも知っている。
険しい岩も、下流に下る頃には、丸石になっているように。尖り続けて生きるのは大変だ。
「まあ此方の方が華があっていいのだが。
兎も角、今は最高のフィナーレの一つを演出するとしようか」
血を見ずに済むならば、それも一興。
ついてこい! とばかりに、コスプレ衣装のまま、その袖口からいつ仕込んだのかサイリウムを両手に出現させる。
「はあっ──!」
スタイリッシュなポーズから、想像もつかないくらい上半身を激しく振り回し、サイリウムの光跡で模様を描くかのようなそれは、ヲタ芸!
かっこいい掛け声が台無しだよ!
とはいえ、長年を武に捧げた男のそれは、しっかりとした体幹から全くのブレが無く、コスプレ衣装さながらにきまっていた。
同盟の武人ならば、異なる文化を交えたダンスも余裕でこなす。
同盟、このままでは冒険を重ねるごとに、とんでもない設定が増設されやしないだろうか。
『その動き、そのダンス……あんた、素人じゃないね! うおおっ、そんなもので、俺を、どうするつもりだ
……!!』
迸る汗。その煌きすらも、アイドルステージは宝石の様に彩る。
色めきだつ観客席。
激しい動きにもついてくるサイリウム。
憤怒の余り我を忘れて襲い掛かって来るサラリマンの猛攻すらも、演目の一つとばかり、
「──【天式】剣神換装」
忍ばせていた数多の武装が、暴走するサラリマンを貫くことはなく、ステージ上空からまるでドローン撮影の様に鳥瞰するかのような【俯瞰ノ眼】がその動きを予測し、回避するとともにアネットはポーズをとる。
天を衝き綺羅星を指差すかのような、どこかで見たポーズ。
躱しざまの引き足につんのめり、サラリマンはくるりと宙を舞う。
フィーバー、フィーバーしてしまうのか。
「……サ終の夜は、フィーバーしなければな」
『うおおっ!?』
どぉん、と背中からおっこちたサラリマンから急速に戦意が失われていくのがわかる。
それは、ポーズを決めるアネットを見上げる形となった。
「今は、卒業アルバムを抱き、眠るだけだが……」
すっと天を衝いていた指先がサラリマンを向く。
「ときに、同人活動や企業買収はどうだ?」
『な、なんだってぇ!? TOB!?』
「なに、何かを始めるのに遅すぎるということはないさ」
大成功
🔵🔵🔵
池神・聖愛
ハマっていたゲームほど、サ終のお知らせは悲しいもの。わかります…普段の私にも、ありましたから。
でも、それでも。前を向いて行くしかないんです!
デリシャス☆マリア、特別公演☆
左手の指先をあのサラリマンへ向けての…【君だけの☆アイドル】!
ねえ、教えてほしいな。推しは、誰でしたか?いくらでも言ってください!
その推しの名前と、ストーリー内でやってきたことを…即興の歌にしていきます!情報収集、伝達からの…希望の光にして!
アイドルは、アドリブも組み合わせるもの!
踊って、希望の光を込めた投げスイーツを右手で投擲!
あたしだけを見て、聞いて。今だけは、あなたを救うためのデリシャス☆マリアだから!
光と闇。
皮肉なことに、誰かの絶望が骸の海を溢れ返らせる時にこそ、アイドルステージは星の呼びかけに答えて現れる。
どちらが先なのか。
それはわからないが、きらめきがひときわ輝いて見えるのは、いつだって暗闇の中でこそ。
人は喜び続けることも、怒り続けることもできないとはいえ、それまるで、世界の均衡を維持する舞台装置のようでもあった。
いや、そんな、難しい事を考えている時ではない。
どこかに世界を憎んでしまう程の絶望を抱えたならば、我が身を顧みずに引っ張り上げるほどの純真な者が居る。
美しく高潔な精神の持ち主だからこそ、星々はその願いに正しく応じるのかもしれない。
今ここに、また一人、地上の星が絶望の淵に手を差し伸べる。
「ハマっていたゲームほど、サ終のお知らせは悲しいもの。わかります……普段の私にも、ありましたから。
でも、それでも。前を向いて行くしかないんです!」
未来の全て、前に進むことで記憶や価値観が更新されていくことを否定したブチギレサラリーマンは、我が身をもっとも恨み、怒り、世界の終焉を願った。
なんという独り善がりだろう。
なんという孤独だろう。
この華やかなアイドルステージの中で、きっと彼は一人だった。
美しい終わりを迎えたとしても、納得のいく円満な形でサ終を迎えたとしても、その思いが満ち足りていたとしても、サラリマンは、そこから先へ足を踏み出すことを恐れた。
容易に、簡単に、忘れると思っているのだ。
あれほど愛したものが。生活に食い込んできたほどの愛したものが、きっと喪失した虚無をさまよううちに出会うであろう、似たような何かに、容易く、思い出の類似性を求めるあさましい精神と共に、きっと摩耗して、失われていく。
情熱。
魂を滾らせていた、あの時代は、
焉に終わりを迎える。
ならば、ならば、世界に存在する理由は不要。
『おれは、おれの不甲斐なさを、怒り、ここに世界と共に、消え失せたっていい』
燃え尽きるほどの怒り。情熱の全てが消沈していくのを惜しむかのような。
しかし、サラリマンは、声を上げる、手を差し伸べる、その声にふと顔を上げる。
「やっとこっちを向いた!」
くるくると巻いた、輝かんばかりのツインテールが重力を失ったかのように跳ねて、花が咲いたように、池神聖愛──デリシャス☆マリアは、ただ一人の為に微笑を向ける。
地上を泳ぐような優雅な足取りと、何もない空間に柔らかさを見るかのような流れる手つきが弧を描き、その指先が、誰あろうサラリマンを指差す。
「あたし、デリシャス☆マリア! 今だけは、【君だけの☆アイドル】!」
『うっ
……!?』
星の散るようなウインク。それに、思わず呻く。
心臓を撃ち抜かれたかのような衝撃は、しかし胸の内と脳髄にだけ強かに打ち付ける。
それは、心に訴えかける衝動となって、サラリマンの身体中を駆け巡る。
ときめきであった。
「ねえ、教えてほしいな。推しは、誰でしたか? いくらでも言ってください!
その推しの名前と、ストーリー内でやってきたことを……即興の歌にしていきます!」
『いいのか? だって、長くなるよ?』
「どんとお任せです。好きな事を、いっぱい話したくなる気持ち、わかりますから!」
『ならば、俺が、俺たちが、一緒に歩んできた道のりを、語って聞かせよう。彼女たち、彼らの物語を!』
舞台に立ったからには、自らも演者と言わんばかりに、サラリマンは堰を切ったように早口でまくし立てた。
途中からもうちんぷんかんぷんであったが、真剣に一生懸命に聞き、反芻する。
二人だけの、それ以外に何も見えていないひと時。
デリシャス☆マリアのファン垂涎のひと時は、十数分にも達した。
『ダメだ……どれだけ語ったって、足りないよ……みんな』
「どんどん聞かせてください! 覚えている限り、どんどん、歌にして、踊りにして、語り紡いでいきましょう!」
彼らの物語、彼女たちの物語を、歌に踊りに表現し、手を取り、一つ一つの思い出を刻みつけていくかのように紡いでいく。
それは、光であった。
サラリマンにとっての、希望の光。
やがて楽曲は、最終的には、とあるソシャゲのメインテーマへと収束していく。
もはや、その頃には、サラリマンはデリシャス☆マリアから視線を外せなくなっていた。
男は光を見た。それはやがて、デリシャス☆マリアの胸元に重ねた手の内に甘々☆投げスイーツとなって、投げ渡される。
「あたしだけを見て、聞いて。今だけは、あなたを救うためのデリシャス☆マリアだから!」
『うまい……。そうか。こんなふうに、誰かと語り合うことすらも、忘れていたんだ……』
赤熱化するようなサラリマンの悪魔の形相はすっかり消え失せて、その目の前には光が広がっていた。
骸の海の死の気配が急速に払われていく。
それと共に、アイドルステージも輝きを失い、景色もいつの間にかソシャゲのフェス会場に戻っていく。
あの空間はなんだったのかというほどに、今しがた世界を憎んだ事すら、夢だったのではないかとすら思えてしまう。
ぼんやりと、サラリマンは手に食べかけのクイニーアマンを持ったまま、ただただ、目の前に現実として居残っていたデリシャス☆マリアを見つめていた。
「もう大丈夫みたいですねっ☆ その素敵な思い出と、その気持ち、忘れないでください! それじゃあ!」
弾けるような可愛らしいポーズと共に、アイドルはどこかへと去っていく。
かくして、猟兵たちと、そしてアイドルは、絶望の終幕を回避し、いずこかへと去っていく。
実はフェスを楽しむために居残っていたりもするが、それはともかくとして……。
絶望に呑まれかけた者たちは、しかし、忘れまい。
時代の波に一つの終幕を下ろしたソシャゲの歴史と──、
輝かんばかりのアイドルが居た事を。
大成功
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