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サンタクロースにおねがい!~ニンジャは摩天楼にて~

#ヒーローズアース #ノベル #猟兵達のクリスマス2024

レイチェル・ノースロップ



ティーゲル・ホルテンマイヤー



アシュレイ・カーチスライト




 ヒーローズアースにも、誰もが笑顔を咲かせるホリデーがやってきた。
 街全体がクリスマス一色に染まれば、それを皮切りに様々なスーパーヒーロー達による慈善活動も盛んになる。ある者は孤児院でクリスマス会を開き、ある者は老人ホームで食事会を楽しんでもらう。刑務所で美しい聖歌を披露する者も居れば、いつものようにゴミ拾いに勤しむ者も居るだろう。
 勿論、それはニンジャヒーロー『スワローテイル』も同じこと。今年も応援してくれるこども達の枕元に、そっとプレゼントを置いていく。
 ――けれども、今年はちょっぴり違う。
 今宵はふたりのニンジャが、聖夜の摩天楼を飛んでいく。

 十二月二十四日、二十三時をすこし過ぎた頃。粉雪が降りしきるなか、ワゴン車を見送るレイチェル・ノースロップはヒーロースーツに身を包み、車内にあった山のように積まれたプレゼントを思い出す。
「ふふ、今年も盛り沢山デシタネ。応援してくれる彼らの愛を感じマス♪」
 届けてくれた応援の分、それ以上の感謝をこども達に。スワローテイルが微笑む隣、緊張した様子のアシュレイ・カーチスライトがこくこくと頷く。
「ど、どきどきしてきたにゃぁ……ししょー達はいっつもあんなに沢山のプレゼントをひと晩で配り終えてるにょ?」
「当然デス、サンタクロースとはそういうもの。アシュレイ、今日はユーの実力をワタシに見せてもらいマスヨ」
「わ、わかってるにゃ!」
 そう、今年は愛弟子であるニュービーサイドキッカー、アシュレイの修行を兼ねたニンジャ試験。様々な家々に忍び込み、プレゼントを無事に届けたのち、痕跡を残さず戻ってこられるかを試されている。
 ふたりの会話を通信越しに黙って聞きながら、ティーゲル・ホルテンマイヤーは一般車両に偽装されたワゴン車を運転する。
 長い期間サンタニンジャ活動を続けているお嬢様のことは心配していないが、アシュレイに関しては話が違う。厳しく優しく、実の娘のように見守っている彼女のデビュー戦がどうなるか、心のなかでは過剰なほどに気に掛けていた。
 そんな執事の心配も当然理解しているからこそ、スワローテイルは二人に呼びかける。
「さぁ、いよいよ時間デス。二人とも、ミッションスタート!」
「かしこまりました、お嬢様」
「わ、わかったにゃん!」

 長いリストを頭とモバイルに叩き込み、いまだに煌々と明るいビルの合間を、ふたりのニンジャが飛ぶ。一人目のターゲットはちょっぴり不安症な男の子、エド。二人目のターゲットの双子、ジャスティンとダニエルは正反対の性格。三人目はおませな女の子のマリーナ。マンションの最上階、込み入った集合住宅、孤児院の大部屋など、こども達の数だけ家庭環境も様々。
 そんな家々に颯爽と忍び込み、プレゼントとクリスマスカードを置いて音もなく立ち去るスワローテイルは、まさにニンジャヒーローの名にふさわしい。あっという間にミッションをこなす師匠の姿に感激しつつ、アシュレイはまもなく訪れる試験の時を待っていた。
「いよいよデス、アシュレイ。次のおうちはユーに任せマス」
 三人家族の一人娘、ミッシェル。素直な性格で大人しく、両親の言うことをよくきく少女だという。
「どこかのお嬢様とは大違いのお子さんですね。二階の一人部屋で、ぐっすりと眠っておいででしょう。サンタクロースのために窓の鍵を開けていたようですが、安全のためご両親が鍵を掛け直しました」
 プレゼントの山とは別に積まれた、レーダーや集音器といったあらゆる機械は、ヒーロー達をサポートするために存在している。事前に情報収集を済ませたうえで、ティーゲルはなおもモニタリングを欠かすことはない。
「ティーゲル、余計な一言デスヨ!」
 むむ、と口を尖らせたスワローテイルに、失礼しました、とそこまで気にもかけない様子で執事が言葉をかえす。とはいえ、そんなお小言もニンジャ修行中のアシュレイには貴重な情報源。
「大人しい女の子、窓は鍵が閉まってる……」
 ぽつぽつ、ティーゲルの言葉を繰り返しつつ、ピュアリィは師匠へと頷く。合図を受け取って、スワローテイルは愛弟子と共に少女の家のすぐ傍に建つビルの屋上に飛び降りる。
「ワタシは此処でユーを見守ってマス。アシュレイ、しっかり決めてきてクダサーイ♪」
「にゃ、にゃん!」
 きゅっと気合を入れて頷き、アシュレイはひとり少女の家へと跳ぶ。屋根へと無事に着地――とはいかなかった。
 雪の積もった屋根はすぐに凍ったようで、つるんと足を滑らせる。けれど悲鳴をあげることなく、なんとか屋根のふちで急ブレーキ。わずかに積もった雪が庭に落ちた。
「せ、セーフにゃぁ……」
 ぎりぎりアウトデス。と、言うべきところかもしれないが、そこはまぁ見て見ぬふり。師匠は引き続き弟子を見守る態勢を崩さない。
 窓からぴょこんと部屋を覗けば、リストの写真と同じ少女がすやすやと眠りに就いている。
 ふにふにの肉球は器用に鋼糸を通し、慎重に窓のロックに糸を引っ掛ける。かちゃん、とわずかな音は想像よりも大きく響いたものの、少女が起きる様子はない。
 そうっと自身の身体が通れるぎりぎりの隙間を開けて、今度は無事に潜入成功。愛らしいユニコーンのぬいぐるみや、分厚い物語の本が並ぶ棚を見れば、少女の趣味がなんとなくわかる。
 そんなふんわりとした世界観の部屋に貼られたスワローテイルのポスターは、一見するとどこかちぐはぐにも見えるものの、額装までして飾られた師匠の姿に、アシュレイは誇らしいものがあった。
「……にゃ、いけにゃいいけにゃい。今は試験にゃにょ」
 背負ったバッグのなかに固定しておいたプレゼントの箱をそっと置いて、最後にクリスマスカードを……あれ?
「にゃ、にゃい? え、ええと、ちゃんとここにしまったはずにゃにょに……」
 おろおろとしている小声が聴こえて、思わず頭を抱えるティーゲル。無線越しにいいからもう戻ってきなさい、と言いかけたところで、スワローテイルが口を挟む。
「アシュレイ、落ち着いて。必ずしも同じカードが必要というわけではありませんヨ。だってこのプレゼントは、ユーがミッシェルに届けたのですカラ」
 ぴこん! 師匠の言葉に閃いて、ささっとメイドは一仕事。これでよし、と窓の隙間から飛び出たのち、すぐさま師匠の元へと跳んで帰っていく。

 ほんの一瞬、空いていた窓の冷たさが頬に触れたのか、少女は目を開ける。
「……あれ?」
 今、誰かいた気がするけれど。そんな風に思ったのもつかの間、その表情は驚きと喜びに変わる。
「……サンタさん! サンタさんだ! あれ、でも、違う……?」
 即席で作られたメッセージカードは、メイドが日頃使っている燕柄のメモ帳。そこにぽふんと押された肉球スタンプ。
「スワローテイル! スワローテイルが猫ちゃんと一緒に来てくれたんだ!」
 大喜びではしゃぐ少女の声を聞き、ティーゲルはおおきく息を吐く。
「ししょー、あちし、うまくできたかにゃ?」
「百点中六十五点と言ったところデスネ」
「ご、五十点以上取れてるにゃ!?」
「気を抜かない! さ、次のおうちに向かいマスヨ!」
 わぁっと同じくはしゃいだ様子のアシュレイとそれをたしなめるお嬢様の声を聞き、執事はなんともいえない表情をしてしまう。
 とはいえ、再び黙ってワゴンを運転する彼が追うのは、夜が明けるまで摩天楼を飛んでいくふたりのサンタクロースだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2025年02月18日


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