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そこに絵画があった

#サイキックハーツ #ノベル #猟兵達のハロウィン2024

アズロ・ヴォルティチェ




 ――そこに、絵画があった。
 美しい紺碧の絵画だった。額縁の中に飾られた静謐は、まるで奇怪な跡のようで、この世界はこの絵画が存在しているにはうるさく、醜すぎる。
「彼の思想は、彼はとても尊い――……あれこそ真実の愛にて救済、それはまさに奇怪な跡のような……」
 ぽつりぽつりと男はそう言うと、意識を失う。
「駄目ですね、寝ても覚めてもこれです」
 医者の卵であるぼくは、肩をすくめながらそう言った。先輩は茶化すものではないヨ、と叱って軽く蹴ってくる。アイテテ。
「しかしこれ、『広がっている』風なんだよね。俺達も気をつけないと」
「まーたオカルトですかぁ?」
「仕方ないだろう、実際にそういうケースがあるんだから。俺からすると、『感染』、としかいいようがない。まるで病気のようだ」
「……病気、ねぇ」
 ぼくは目線を患者にやる。栄養失調で倒れていたから運び込まれた者。――どこまで先輩の言うそれを信じてよいのやら分からないまま、すうと目を細めてそれを見る。観る。視る。診る。
 ――伝染る絵画? そんなものがあってたまるか。

 ●
 
 件の患者がいよいよ昏睡状態に陥り、その報告を上げに歩く。
「……先輩?」
「彼の思想は、彼はとても尊い――……あれこそ真実の愛にて救済、それはまさに奇怪な跡のような……」
 机にへばりつきながらそうボソボソと言う先輩に、ぼくは背筋をぞっとさせながら声をかけ、揺さぶる。その目はどこも見ちゃいない。その目はぼくすら映しちゃいない!
「なにが起きて――」
 ぼくはそして、見た。
 絵を見た。
 青い色の絵だった。額縁に飾られている。
 ――これは――もっとも尊い――違う、これはまぼろしだ――違う! これこそ本物の『絵画』である、尊い思想から生まれ、しんじつのあいときゅうさいをもつ――ちがう――これは――。
「――は」
 息が漏れた。頭の中は絵画のことでいっぱいだった、なけなしの理性が広げてはならぬとだけ警鐘を鳴らし、その警鐘もすぐに失せた。これをいろんなひとに知らしめねば! ……頭の中はそれでいっぱいで、ぼくは夢想の中の絵画に浸る。頭の中の美術館は心地よく、なんとも居やすいところであった。ああ、なんて美しい紺碧の絵画だ……皆にも見せよう、きっとそうしたらいいことがあるに違いない。微笑みがおもわずこぼれた。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年12月12日


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