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隙間からの呼び声

#昭和レトロスチィムパンク怪奇PBW『ヤケアト』


●ご挨拶
 ――コ、ヂワ?
 コン”ヂァ?コンヂワァ”、ゴンンヂワ”、コンニ?コンチワ、コンニチワァア――……。
 コン、ンチワァアァァァァァアア、コン、チワァアアアァアア、コン、ニ、チワァアア?――……。
 コんにチワァア?コんにちわ、わ?コンにチは、コンニチハ、コンニチは、こんいちわ、こんにちは――……。

 ――こんにちは。
 こんにちは。こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは――……。
 こんばんは。こんにちは、こんばんは、おはようございます、おやすみなさい、ごきげんよう――……。
 いただきます、ごちそうさま、さようなら、さようなら、さようなら、さようなら――……。

 ――こんにちは!
「はい、こんにち――」
 いただきます!さようなら!
「え?ぁ、――」
 ごちそうさまでしたァ”アア”ア”ァ”!

●隙間からの呼び声
「それは隙間から呼びかけてくるらしいのじゃ」
 瞳は閉じられたまま、しかしてまるで視えているかのように。ひらり舞う黒い蝶と戯れながら、羽咲・壱妃(禍夢孕む巫女姫・f42837)は一言そう告げた。
「挨拶はされたら返すのが礼儀というものじゃろう?令和なる世は稀に異なるようじゃが、ヤケアトの世界は令和より前じゃらからのう。皆、挨拶されたら返してしまうのじゃよ」
 蝶は白い指先ですこぅし翅休め。はためく翅はほのり電灯の灯りを受けて黒曜の如く、きらり煌き。
「目撃者は皆、こう言うておった。行方不明になったツレは、隙間からの呼び声に応えてすぐ、目の前から消えてしまった、と。地面には引きずられたかのような足跡、というのかのう?そういう痕跡が残っていたそうじゃ」
 しかし、と。
「それだけじゃ。手がかりは、それだけ。アナグラでは今、知らぬ声には不用意に応えぬように、と第弐帝都対策部からきつく言われておるようじゃ。しかして、なあ。誰も彼もがそれに従う訳もなかろうて。そこでじゃ」
 ぴしり、と蝶がとまった指先が、フクロウたちを指し示す。
「おぬしたちに根本解決してほしい、との依頼じゃ。恐らく犯人はウロだろう、とか、隙間さえあればどこにでも出てくるが家屋と家屋の隙間が多い、とか、いくつか情報はあるのじゃが詳細調査までは第弐帝都対策部あやつらは手が足りぬのじゃよ。行方不明者の捜索もできればお願い、ということじゃ」
 蝶はひらりひらり、列車への乗り口へと羽ばたいて導く。
「頼まれてくれんかのう?――だけど、まあ、そうじゃな。これはあくまで、妾の予想なのじゃが――」
 閉じられた瞳が薄く開かれる。暗い昏い暗闇をぐるりないまぜた混沌色の瞳が、咲み。
「喰らわれておるよ。応えた者たちは、ぱくり、じゃ。主らも、気を付けるのじゃぞ」


なるーん
 こんにちは、こんにちは、こんにちは、こんにちは。
 ――隙間からの声に応えてはいけないよ。

 お久しぶりです、なるーんです!
 今回からPC変えまして以降は壱妃が担当します。

 やれること。
 ・市街地での事件調査(家屋が並んだ富裕層の住むエリアでも、テントや段ボールハウスが並んだ貧困層が住むエリアでもお好きなところをどうぞ!行方不明者の捜索もOKですが絶望的じゃないかな!)
 ・調査で判明したウロを撃退!

 複数体いるかもしれないので調査進捗とか撃退数とかあまり気にせず、やりたいことをどうぞ!
 1グループ(最大4名)で調査&撃退でもOKです。

 よろしくお願いいたします!
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第1章 日常 『プレイング』

POW   :    肉体や気合で挑戦できる行動

SPD   :    速さや技量で挑戦できる行動

WIZ   :    魔力や賢さで挑戦できる行動

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​
江田島・榛名
アドリブ、共闘️⭕️

隙間、ねぇ。
ぷらぷらと貧困層を歩きながら、壁と壁の間、あるいは積み上げられたダンボールの間を注意深く見ながら歩く。

返事をしたら連れていかれる。まあ、食われているんだろう。
とはいえ、向こうから出てきてくれないとと思いつつ、貧困層の人達に話を聞いていくでありますかね。
手ぶらじゃなんなんで、タバコか酒、あるいは金を握らせて

挨拶の声が聞こえたら、バレットタイムを発動させてから、あえて返してみるでありますかね。

さて、どうなる事やら……



●隙間からのびてる
 こんにちは、こんにちは。挨拶はとても大切だ。
 円滑な人間関係を築くにも、人の裏をかくために見せかけの信用を会得するにも。
 とにもかくにも一番最初は、にっこり笑顔でご挨拶。
 とは言え、今時分だけ知らぬ声からの挨拶が、アナグラ最大のご法度だ。
 命惜しけりゃ声をかけるな。声を返すな。食われるぞ。なぁんて。
 だから、江田島・榛名(強化人間のガンスリンガー・f43668)は――
「やぁ、ちょっといいでありますか?」
 おはよう、こんにちは、ご機嫌いかが――そんな言葉をかけなきゃいい。
 積み上げられた段ボールを解体してバラして、広げて、端を重ねて、くっつけて。
 隙間をなくすような住処を作っていた浮浪者の肩をちょちょいと突き、笑顔ひとつと賄賂をひとつ。
 握らされた札一枚に瞳にギラギラ光を灯した浮浪者は、なんの用だ、とぎこちなくも笑顔を返す。
 江田島は段ボールの断面、中芯を指さして、此処も隙間でありますね、と呟いて。
「隙間から聞こえる声ってぇのを調査してるであります。聞き込みにご協力いただけるでありますか?」
 
「隙間、ねぇ」 
 ふらりふらり江田島はふらり、がやがや賑わう段ボールの雑居群からほんのり外れつつも。
 それでもまだ、ちらほらまばらに人の気配がある寂れた方向へと進み行く。
 捕まえた浮浪者は目撃者の一人だった。ツテを伝って他数人にも話を聞けた。
 情報は富んだ――財布はすっかり薄くなったが。
 彼らは皆こう言った。
 知らぬ声なぞとんでもない。あの声はいなくなった奴ら・・の声だ。こたえた奴らは隙間に引きずられていった。
 引きずられていったことは江田島には既知のもの。新たな情報は多重の声、と。
 彼らの一人が言った、ぺらっぺらの薄い手が伸びてきた、というものだ。
(今の我輩の財布とどっちが薄いでありますかね?)
 この依頼料はそれなりにふんだくってやろうか、なぞと思いつつ、江田島の足は犯行現場へぐんぐん進む。
 さて――件の犯行現場、件の隙間は、貧民層の周辺では共通しているようだった。
 人気が少なくかつ無人ではないところ。明るくないくらがり。
 今ではすっかり恐れられ、全く人気がなくなったところ。
 誰も近付きやしないのか、その隙間の周りはすっからかんだった。
「……食われている……頭からがぶりを想像していたでありますが、これは……」
 江田島は人目が届かぬよう、明らか人手で雑に詰まれた木箱の山の裏側にくるりとまわる。
 そこにあったのは僅かの隙間。ばっつり刻まれた石壁の亀裂だ。
 縦に長くはあるが、横は小さい。とても人など通るものか。
 江田島の手首あたりまでが精々だろう。そんな割れ目。そんな隙間だ。
 人を連れ込むにも、引き込むにも、無理がある。
 その周辺にのこる黒色は血痕か、詰まれた木箱の裏側にも同じく黒色の血痕がある。
 ようよう見遣れば、そこに頭を打ったのだろうか。腐食してはいるが、抉れた肉片と人髪もついていた。
「はぁ、なるほど……」
 くらがりではよく目を凝らさねばわからないが、散々たる血痕の惨状からこのあたりは私刑場らしいことが伺えた。
 なるほど、私刑・処刑は時に見世物。乾いた民草の娯楽と成り得る。
 開催不定期の処刑劇グランギニョルを今か今かと待つ悪趣味な観客が、このあたりにたむろしてたのか。
 中には追い剥ぎ目的の観客もいたのだろうが、今はそんなことはどうでもいい。
 地面に刻まれた痕跡は、岩壁の割れ目に、隙間に向かっていた。
 ――隙間に義肢の指先を突っ込んでもいいが、メンテナンスにかかる資金は、安くない。多少の破損ならまだしも、捥がれて持ってかれて紛失したら、ゼロから作り直しである。
「よし、暫く待つでありますか」
 結論、無謀無策は愚か者。まずは無難が一番だ。
 ――が、結局、江田島が痺れを切らし、囮捜査という名目で浮浪者たちを幾人か引き連れて戻ってくることになった。
 目撃者が必ずいることから、単独では現れないのでは?なんて考えに至ったからだ。
 それは大いに大正解。浮浪者たちと適当にたむろして、雑談してればすぐのこと。それは聞こえてきた。
「こんにちは、こんばんは」
 老若男女幾人の声が様々に重なる朗らかなで場違いなご挨拶が、岩壁の隙間から、亀裂から。
 浮浪者たちはヒッと喉から出そうになる悲鳴を堪えて後退り、江田島に促されてなるべく静かに逃げていく。
(あの館とどっちが厄介でありますかね……)
 静かにライフルを構えて、引き金に指をかけて、そうして江田島は――
「こんばんは、でありますよ――っ!?」
 途端にぬるり這い出て伸びてきたぺっらぺらの黒い手が、実に数多。
 ぐわっと瞬くに視界が闇が包まれんところを、咄嗟の鉛玉で退ける。
 岩壁に跳弾、箱が撃ち崩れる。数発が隙間に入り込み、手は慌てて引っ込んだ。
 なるほど一般人では感知することすらろくにできまい。黒い手を見たなど余程、運がいいか偶然か、だ。
 感知する時間の流れを緩やかにしても、尚、これだ。
 ――そして、隙間には。
「いたいよ、みたよ、おぼえたよ、おまえ、おぼえたよ」
 亀裂には、その闇の向こうには、大きな目玉がひとぉつあった。
 ――ニィ。闇は笑う。

大成功 🔵​🔵​🔵​

建依・莉々
「ふふ、隊長の出番ね♪ たけいりり探検隊、出動♪」

先頭はカメラさん!(イマジナリィ) 下町の隙間を探検です。細道へ細道へ、私道の行き止まりから塀をに開いた穴を家々の間をすり抜け、溝を跨ぎ用水路を飛び越え、物置と家屋の隙間、土管と土管の隙間、塀の隙間を覗き込み、まっすぐ進みます! 最短走破こそが通学の醍醐味です!(通学してないけど)

ご挨拶いただいたら・・・

「・・・こんにち・・・は?」

 小さく返事して、力一杯引きずり返してあげます♪ あとは捕まえた蛙の如く、振り回し、叩きつけ、引きずって、そしてまた振り回し・・・。あ、やりすぎた? 食べれるかな? ねぇ壱妃ちゃん、捨てたほうがいいかな?



●隙間から出された
 出された。
 隙間はなにが起こったかわからなかった。理解できなかった。
 気付いたら隙間から出されていたのだ。掴まれて、ずるっと。
 空なき地下に陽はないが、白日のもとに晒される、とはまさにこのことか。
 人の形を歪に象った闇は、その身に誂えた巨大な一つ目で、隙間を隙間から引きずり出した正体を見る。
「つーかまーえた♪」
 ――少女が、笑った。

 カッチコッチカッチコッチ、時間を少し遡る。

「ふふ、隊長の出番ね♪ たけいりり探検隊、出動♪」
 ランドセルを背負った少女がひとり、鼻歌まじりにてくてく歩く。
 段ボールハウスが立ち並ぶ貧民街――を越えて、それより少しまともな家屋が立ち並ぶ、所謂、下町をるんるん歩く。
 少女がひとり歩くには少々、治安が悪い。だけれども、彼女なら――建依・莉々
(ブラックタールのどろんバケラー・f42718)なら問題ない。全然、全く問題ない。
 いっそ隙間から呼ぶ声が彼女なのではないかと、僅かな時間で噂されるに至る。
 何故ならば、彼女はブラックタールだから!
 例えば。
 「先頭はカメラさんね!」
 なんて見えないお友達とごっこ遊びの最中。下心満載の男がひとり、おじょうちゃん、って声をかけようとすれば。
 瞬くに、するん、とその姿は消えてしまうのだ。次に彼女の声が聞こえたのは、家屋と家屋の隙間から。
 男はひええ、と一目散。そんなことが繰り返されているからだ。
 なんてことはない、建依隊長はただ姿をタールに変えて、隙間に潜入調査しているだけなのだけれども。
 一般人には不思議な力は認知できない。いつの間にか彼女が目の前から消えて、隙間に居るということになる。
 まあ、この場合、声をかける方が悪い。そして、間も悪い。
 だが、かえって隊長の身の安全が守られて、調査の邪魔者を退けているのだから何も問題はない。
 そんなこんなで建依隊長は、人すら入れぬような細道に潜り込み、家々の間をぬるんとすり抜け。
 また、時に私道の行き止まりに突き当たったならば、塀に開いた穴をこれまた見事、すり抜けてみたり。
 溝を跨いで、用水路をぴょんと飛び越えて。
 家屋と物置の隙間に、タール状の手を伸ばしてがさごそさぐってみたりして。
「これは……いい感じの木の棒、というやつね!いいものみーつけた♪」
 木の棒をるんるん振り回しながら、土管と土管の隙間に、塀の隙間に、これまたタール状にした顔を突っ込んで、中を念入りに覗いて探ってみたり。
 子ども心は危険を知らず、ただ好奇心と冒険心で満ちていた!
 きっと調査中のBGMは、某有名なお散歩曲に違いない。歩こう、歩こう。どんどんぐんぐん行こう。
「最短走破こそが通学の醍醐味です!」
 尚、建依隊長はランドセルを背負っていますが通学していないそうです。通学していなかったんだね……?

 そんなこんなで、まるで隙間から呼ぶ声の隙間を暴いていくような所業に、実は隙間から呼ぶ声は戦慄していた。

 隙間は考えていた。あの女の子をどう喰ってやろうか、と。
 先程は、白い腕章をした眼帯男に鉛玉を喰らって痛い目をみた。
 白い腕章をした人間は、自分たちを消しにきた敵なのだとわかった。だからなにより真っ先に喰ってやろうと決めた。
 そして次に来た白い腕章をしてやってきたのは、弱そうな女の子。すぐに喰えると思った。
 けど女の子は、ぬるんぬるんと、まるで自分たちのように姿をかえて・・・・・・・・・・・・・、隙間に入ってくるのだ。
 驚いた。そして少しだけ怖かった。
 なるほど今まで喰ってきた餌たちの感情がわかった。これが恐怖か。
 隙間から声をかけようとしても、先に隙間に女の子が入っている。
 危うく接敵しそうになって、隙間は何度か逃げていた。しかし、このままでは喰えない。
 だから、隙間は考えた。待ち伏せしよう。女の子の進行方向は真っ直ぐだ。
 隙間は、隙間は、隙間は――

「こんにちは、おじょうさん」
 それは家屋と家屋のほっそい隙間から聞こえた。
 うっかりどちらかが傾いてしまえばくっついてしまいそうな、そんな僅かな隙間から。
「こんにちは、こんにちは、おじょうさん」
 声が聞こえた。だから隊長はふふっと微笑んで。
「……こんにち、は?」
 小さく小さく返してあげた。
 途端に襲い来る闇色の手を、どろんと化けた黒色タールで飲み込んで。吞み込んで。
 黒と闇がぐにゃり混ざる。闇色は逃げるように隙間に戻ろうとするが、それは黒色が許さない。
 ずるり、ずるり、黒色が隙間から闇を引きずり出して。
 みっともなく隙間にしがみつく闇色の手が、べりと剥がれた。
 ――冒頭。
 笑う少女はこう言った。
「悪いことするお化けは退治しないといけないんだって♪」

 壱妃はただ待っていた。
 黒色の蝶と戯れて、駅の中。地上に戻る駅の中で、喧噪を楽しみながら待っていた。
 そして、それは聞こえた。
「壱妃ちゃーん!」
 愛らしい声と共に聞こえた。
 ――ずぅるり、ずるり。
 重たいナニカを引きずる音。
「莉々殿かのう?妾は此方じゃ――それは、なんじゃ?」
「あ、これ?ウロ!」
 ――ずぅるり、ずるり。引きずる音はひとりぶんではない・・・・・・・・・
 あっけらかんと応えた莉々に、そして視えたそれに、壱妃はふふと笑う。
「お手柄じゃのう、莉々殿」
「そう?やりすぎたかなって心配しちゃった!ねえ、これ、食べれるかなぁ?捨てたほうが、いいかな?」
「そうじゃのう。もう少しびったんびったんしてみたらどうじゃろうか?喰らわれたものたちを吐き出すかもしれん。たくさんたぁくさん吐き出させて、最後に残ったものが喰えそうなら……喰ろうてしまってもよいかもしれんのう」
「そっかー!じゃあ、もっといっぱいびったんびったんするね!」
「うむ、ごうごう、じゃ!」
 きゃらきゃら笑う少女二人の歓談から始まる暴虐の限り。
 引きずられた隙間は振り回され、叩きつけられ、引きずり戻され、また叩きつけられ――やがて繰り返されるその度に、隙間からはごぼりごぼりと肉片が出る。肉塊が出る。ごろり転がる眼球が、通りがかりの足元にまで転がって、悲鳴があがった。飛び散る肉片が、駅を赤く飾る。黒く飾る。
 長くてとても一度では吐き出しきれないモツの破片を、壱妃がしっかりと握り、まぁるで綱引きのようにして引きずり出して。そうしてモツで、肉で、眼球で、脳で、髪で、歯で、耳で、指で、あらゆる行方不明者たちの破片・・・・・・・・・・で駅が散らかり尽くしたころ。
 最後に残った破片は、隙間は、ウロは、手のひらサイズの煤毛玉。莉々に鷲掴まれたまま、震えている。
「美味しそうじゃないね」
「地上に居る対策部に差し出して、褒美に菓子でも貰った方が喰い出がありそうじゃのう」
「そうだね。じゃあ、そうするね♪ばいばーい!」
「うむ、莉々殿、おつかれじゃ♪」
 手を振りあって、また今度。楽しかったのう、と壱妃はまた駅の椅子にちょこんと座る。
 ――後にこの凄惨たる状況を怒られはしたのだが。
 手柄ひとつに遺品たくさん。隊長にはご褒美のお菓子がたくさん贈られた。

 だけど、まだ。
「こんばんは」
 隙間からの声はやまない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

御梅乃・藍斗
挨拶はされたら返す…されなくてもするのが礼儀とは思いますが
それだけで怪異の餌食とは、理不尽な話です

路地裏や密集した住宅街を中心に調べましょう
特に古い家並みは寄り添って建つからこそ小さな間隙が多いもの
指定UCを使って建物や地面に触れながら歩きます
「かれら」から手がかりを得るため、それから自分が巻き込まれないようにするための自衛もかねて
引き摺るということはどこかに連れ去ってから…ということですよね
声に質量はありませんから、「手」のような引き込むためのものがあると思うので

運のよい…いや悪いことに物騒な怪異とは何度かお近づきになってしまったので、そのあたりの「縁」から誘き出せたりはしないでしょうか



●隙間からみている
 こんばんは、こんばんは。
 挨拶はされたら返すが当然だ。そして、されなくても自らするのが礼儀当然だ。
 礼儀を重んじるは育ちの良さか。
「それだけで怪異の餌食とは理不尽な話です」
 まさに理不尽極まろう。かけられた声に応えただけで喰らわれる。
 しかして、怪異に応えぬのもまた、怪異から身を守るために当然のこと。
 否、此度は隙間がずる賢いだけとも言えようか。なんせ一声叫びの法則を無視しているのだから。
 怪異は、本来、同じ言葉を繰り返さない。
 もしもし、に、もし、しか返さぬならば電話口の相手は人ならざる者だ。
 しかし、隙間は、数多の声と命を取り込むことで、ひとつの声と命でなくなることで、それを無視しているのだ。
 ひとりが、もし、と言えば、もうひとりがまた、もし、と言えばいい。
 ――だから、隙間は喰らうのだ。もっともっと、たくさん喰うために。

 さて、御梅乃・藍斗(虚ノ扉・f39274)は下町から整然とした街並みの方へと歩いていく。
 古い家屋が寄り添い建つ街並み。道端で項垂れる存在も少なく、稀に居ても酒に溺れた住人ぐらいか。
 まだ下町と称される地域ではあろうが、貧困街により近い周辺よりは治安は少し良さそうだと見てとれた。
 しかし、それでもアナグラだ。
 一歩、路地裏にでも入ろうものなら育ちの悪そうな――まあ、所謂、半グレのような――輩がちらほらと。
 常ならば御梅乃のような者が迷い込めば、瞬くに身ぐるみ剥され盗るもの盗られて、さようなら。
 だが、今時分だけは様子が少し異なった。
 家屋と家屋の隙間、御梅乃が裏路地を覗き込んだでも、彼を一瞥しただけで去っていく。
 御梅乃から何もしていないにも関わらず、まるで人を避けるように去っていく。
(声掛けを、恐れている?)
 人と人とが接すれば、どんな声掛けにせよほぼ必ず発生するものがある。
 するが礼儀、返すも礼儀――そう、つまりはご挨拶・・・だ。
「あんま使いたくないんだよなぁ、コレ……」
 何か知っている、と察するまでに然程、時間はかからなかった。
 藍染宿痾リリト・ヂィアを使う覚悟をするまでが、とてもとても長かった。
 出来ればあまり使いたくない。が、それは己の問題だ。
 他者の命の危機があるなら、そうは言ってもいられない。力あるものは人を助けねば――それが御梅乃の在り方だ。
 それでも――目前に危険があれば即断即決するもの――それなりに葛藤するのだから、年相応の在り方だ。
 御梅乃はぼんやり紺碧の念を纏う掌を――
「あの、」
 追いかけて声かけた少年の肩にぽんっと軽く宛がった。

 御梅乃は敢えてくらがりを歩きながら、少年から聞いた話をまとめていた。
(つい先刻目撃された隙間から呼ぶ声は、隙間から黒い人型・・・・で出てきて何気なく会話に混ざってきた。くらがりの多いアナグラ、すぐには気付かず返事した人は連れ去られて戻らない。だから人との接触を断っていた……)
 引き摺られた痕跡がのこっていたという情報から、手のようなものが隙間から出てくるだろうところまでは予測していたが――
「先刻、ということですから……変化した?」
 紺碧纏う手が触れていた壁から、その推測を肯定するような思念が微かに流れ込んだ。
 流れ込む思念は恐らく、隙間を呼ぶ声のもの。
 隙間から人間たちをよぉく観察して、声をかけて、引き込んで、そして――そこで一旦、途切れ。
 次の視点からは動的だった。
 同じように隙間から人間たちをよぉく観察して、隙間からぬるり出ててくてく歩き、くがらりにたむろす少年たちの会話に混ざるよう、声をかけて、応えた少年を――。
 隙間の体内に取り込まれた少年は、隙間の体内で、ばきりぼきり、ぐちゃりみちゃり、足先から骨を砕かれ、噛みつかれ、貪り喰われ。ぶつり、ああ、足が、捥がれた。腹が、片腹が嚙みちぎられ、穴から桃色の臓器が零れる。
 少年を喰らう口はひとつではない。いくつもの、いくつもの、人の口が、少年を喰らう。
 悲鳴は、外には届かない。痛いよね、痛いよね、痛いよね、痛いよね、痛いよね、わたしたちも同じように食べられちゃったの。あなたもひとつのいのちになろうね、いただきます、いただきます、いただきます、いただきます――
「うっ」
 問答無用で流れ込む思念に思わず口を抑えて、その場に蹲る御梅乃。
 嘔吐くえづく御梅乃を物陰から、隙間から、こそり顔を覗かせて見遣る人影がひとつ。
 おろおろとした様子で、御梅乃に駆け寄って。
「こんばんは、こんばんは、大丈夫?」
 そっと背中に手を置いてさすり、声をかけてきた人影は。  
「あ、ありがとうございます。大丈夫……っ!?」
 先ほど隙間に喰われていた少年の形をしていた。
 ――望むも望まざるも、合縁奇縁。
 そういったものと縁深い御梅乃は、咄嗟に三翼刀を抜いて、振り払う。
 ざくり切られた人影は、少年の形をした隙間は、ニィとひとつめと大きな口をゆがめて。
「こんばんは、こんばんは、ああ、ざんねん、ざんねん、さみしそうで、おいしそうだったのにぃ」
 吸い込まれるように、くらがりの中へ消える。
 こぉろり、こぉろり、まぁるいものがひとつ、ころがった。
 それは少年の目玉色した置き土産。
 こぉろり、こぉろり、其れは、ただ、くらがりから、みていた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

樂文・スイ
ごあいさつ、ごあいさつっと
獲物が向こうから声かけてくれるならこんな楽なこともないねぇ
ほらほら、オニーサンはいつでも歓迎だぜ?
わざと怪しげな隙間の多い場所に入ってこっちからもコンニチハ!ってな
同じ捕食者としてどんくらいの格のヤツなのか見てやろうじゃん
取り込もうとするような妖の力はUCで受け流して反撃
殺気や害意で身構えちまうようじゃ殺人鬼としちゃ三流だ、なあ?
本体を叩けるたあ思っちゃいないが、末端でも切られりゃ痛いだろう
そういう残滓から多少の推理はできると見たね
呪いのたぐいなら心得もあるしな



●隙間は喰らわれた
「ごあいさつ、ごあいさつっと」
 そう、ご挨拶はとても大切だ。怪しまれないためにも、とてもとても大切だ。
 悪人は悪人の顔をしていない。殺人鬼は殺人鬼の顔をしていない。
 本物の悪人は、殺人鬼は、至って普通の顔をしているものだ。なんなら善人の顔すら装っている。
 樂文・スイ(欺瞞と忘却・f39286)だって、勿論、そうだ。
 日頃から人あたりがよいと思われるよう雰囲気づくりを心掛けている。
 獲物にだって笑顔で近付く。令和の今のご時世、警戒されたら獲物を狩ることなぞままならないからだ。
 ――だから、樂文はご機嫌だった。
「獲物が向こうから声かけてくれるなら、こんな楽なこともないねぇ」
 声をかけなくていい。心がけなくてもいい。はやる心すら我慢しなくていい。なんて楽な狩りだ。
 下町よりのぼり、規則正しく整頓された街並みを樂文は足取り軽やかに歩く。
 道端の掃除は行き届いていて、商業施設のようなものすらある。
 駅が近いのか、列車の電鈴の音が狐耳に届いた――が、それは人々が言葉を交わさないからだ。
 此れだけの街並み、日頃はそれなりに賑わっていよう。しかし、行き交う人々のご挨拶は会釈が精々だ。
「寂しいねぇ――んじゃあそろそろ、お迎えといこっか」
 耳すら痛くなりそうな静寂。
 これでは獲物の声が響いてしまう。声を隠すには声の中、雑踏、雑音、それらが狩りには重要だ。
 さて、件の隙間がどんな声を聞かせてくれるのか。
 存分に散歩を楽しんだ樂文は大通りからくるりと踵を返し、ひょいひょい隙間通りへ潜っていく――。

「ほらほら、オニーサンはいつでも歓迎だぜ?」
 樂文が辿るは、呪詛の気配。辿れるだけの、呪詛の残滓が確かに香る。
 喰らわれた人の未練か怨念か、はてさて隙間そのものが呪詛の塊なのか。
 とにかく其れは足跡のように、辿れるだけの痕跡があった。臭いと感じるほどに、色濃くあった。
 時にわざとコンニチハ!など声かけてやりながら、樂文は其れを辿り、隙間を確かに追い詰めていく。
 視界の端に慌てたように隙間に隠れる隙間が過り、いっそ笑いすら込み上げてきた。
 ――其れは獲物を追い詰める、捕食者の笑みだ。
 そして弱者に対してでしか強者でいられない隙間への冷笑だ。
「ハッ、随分と臆病なんじゃねぇの?」
 同じ捕食者から逃げるようじゃあ、殺意や害意で怯えるようじゃあ、殺人鬼としては三流だ。
 樂文の挑発に隙間はのる素振もなく、ひたすらひたすら樂文から逃げる。逃げる。逃げまくる。
 逃げ足だけは上等の様子。接敵すれども捕えるには一歩届かず、といった具合だ。
「楽だと思ったんだがねぇ、これじゃあ埒が明かねぇな。仕方ない」
 樂文はひょいと肩をすくめて、一芝居うつことにした。
 正体隠すは殺人鬼の十八番、化かすは狐の得意技、だ。

 隙間は隙間からひょっこり顔を出した。ようやく追跡者がいなくなったからだ。
 隙間にとっては怖かった。威圧感が恐ろしかった。隙間が喰らいたいのはもっともっと普通の命だ。
 声をかけて挨拶を返してくれる善良な、普通の命だ。
 隙間はほっと息を吐く素振りをして、挨拶をしにうろうろと彷徨う。
 帽子をかぶった男がいた。寒さをしのぐコートを着ていた。
 肩をしょんぼり落として、溜め息を吐いていた。
 隙間は、これなら隙だらけだから、声をかけたらうっかり返事をしてくれるだろうと思った。
 今やすっかり警戒されて、挨拶すれば命たちは逃げてしまうのだ。だから、気がそぞろな命がいい。
「コンニチハ!」
 隙間は声をかけた。先程のしつこい追跡者がしたような挨拶をした。
「はいはい――コンニチハァ」
 隙間は歓喜して取り込むための手を伸ばした。
 
 手は――

 手は脱力した樂文に吸い込まれた。
 手ごと隙間の身体にまとった陰は、どんどん吸い込まれた。隙間はどんどん小さくなった。
 吸い込まれ尽くした手は、陰は、ぽしゅんと狐耳からそよ風のように排出される。
「おっと」
 樂文は足元の煤毛玉を素早くひょいっと摘まむ。
 煤毛玉は何が起こったのか理解できていない様子で、きょろきょろと周囲を見渡している。
「随分、手こずらせてくれたな?」
 煤毛玉、聞き覚えある声にぴぇっと毛を逆立出せる。樂文は小動物のようなその挙動にくくっと笑い。
「やぁーっと、捕まえた」
 くしゃり、握り潰した。
 固形物を握り潰した感触はない。豆腐よりも脆い。本当に毛玉のような感触に、そっと手を開く。
 ――其処にあったのは、黒い炭のような跡だけだった。
 樂文は周囲を見渡して、のらりくらりと散歩を再開しながら、深く深く息を吸い込んだ。
 ――静寂の街並みに、隙間に、残滓は、もう残っていなかった。

 隙間からの声は、もう、聞こえない。


●捕り物1匹、捕虜曰く
 さて、少女に捕獲された煤毛玉はしっかりちゃっかり取り調べを受けたらしい。
 煤毛玉は、きぃきぃぴぃぴぃ鳴くだけだったが、対策部の人間はウロのトラブルに手慣れたものだ。
 なんとかかんとか、どうにかこうにか翻訳したところ。
 曰く、人になりたかった、人に近付きたかった。
 そして、命を喰えば人になれるととても強いウロに言われた、という。

 ――捕えるべき黒幕は、見えた。

 さて、じゃあ、次に行こうか。人手の足りぬ対策部に休みなどないのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年12月23日


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#昭和レトロスチィムパンク怪奇PBW『ヤケアト』


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種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト