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Happy Villain's Halloween

#ヒーローズアース #ノベル #猟兵達のハロウィン2024

月待・楪



氷月・望




●Just before Halloween
 ポップでありながらも、どこか不思議で不気味な夜の雰囲気。
 賑やかな街を飾るのは、愉快なおばけ南瓜やモンスターたち、そしてキャンディなどの沢山のお菓子。
 このヒーローズアースでも例外なく、街中が盛り上がる秋のイベントといえば、そう。
「世間はハロウィンムードっぽいね」
 氷月・望(Villain Carminus・f16824)の言うように、ハロウィンである。
 改めてくるりと見回してみれば、ハロウィンを目前に控えた周囲の風景は今年も、すっかりハロウィンカラーに彩られていて。
 街に置かれている等身大ヒーローのフィギュアもコスプレさせられていたり、ポスターなどの広告もハロウィン仕様になっていたり、いつもとは違った様相をみせているものの。
「まぁ、ハロウィンシーズンだからな。どこ行ってもハロウィン、ハロウィンである意味統一感はあるけど」
 特段物珍しくもない様子で、何らいつもと変わらずに。
 そう隣を歩く月待・楪(Villan・Twilight・f16731)へと、望はちらり。
「ゆず、今年の仮装って決めて……ないよねぇ」
 赤の瞳をふと向けつつも訊いてみるのだが。
「……俺が1人で何か選ぶの苦手だってわかってんだろ」
 返ってきた視線と言葉は、だいたい予想していた通りで。
「それは知ってるケド、次の仮装の参考になればなー、みたいなノリで聞いてみた」
「参考にするなら、スマホで調べた方が頼りになんだろ」
 楪はそう続けるも、ふとこれまでのことを思い返してみる。
 ……考えてみたら結構仮装してきたか、と。
 でもだからこそ、次の仮装と言われても、こうも思うのだ。
「しかも揃いっつーか、互いに並べる様にしてたからネタは倍消費してるし、余計に困ることになってるんじゃねェの……?」
「そうそれ! ゆず、本当にそれ! マジで! 海賊やら、吸血鬼と神父。そんでもって、紅狐と藍鴉とか?」
 そしてこくこくと大きく頷く望も、そんな楪の言葉には同意で。
 今まで揃えてきた仮装を、改めて振り返ってみれば。
「一緒に仮装してきたってのは、別に嫌じゃねーし、いい思い出だけどよ」
 望の声を聞きながらも、ちらり。
「それに、なんだ、その……いつもと違う格好のお前も、見れて楽しいし」
 今度は楪が、そう隣の望を見遣れば。
「お互いに色々な仮装を一緒に出来たのは楽しかったし、俺も嬉しいんだけどね。流石にネタが……あっ」
 これまでの仮装を懐かしみつつ、じゃあ今年はどうしようかと首を傾けるも……不意に声を上げてハッとする望。
「いや、待って。ド定番な感じのってやってない気がする」
 そう……気づいたのだ。
 これまで色々してきたが、定番なそれをしていないということを。
 そして天啓のように降ってきた、その『ド定番な感じの』仮装を、望は満を持して口にする。
「ほら、ゆずのキュートな猫耳姿とか?」
 そう――それは、猫耳姿!
 猫のお耳をちょこんと付けた楪を想像すればほら、めっちゃ可愛くてよく似合う!
 というか、何でも楪には似合うと、望はそう思っているのだけれど。
 キラキラと期待の眼差しを隣に向けてみれば。
「定番……? 猫耳……?」
「ゆず、絶対に似合──」
「嫌だが?」
「……デスヨネー」
 ええ、そう言われるかなって、薄々思っていました。
 そして、嫌と言われて、ちょっぴりしゅんと。
 残念そうにするその姿を見遣りつつも、楪は続ける。
「たしかに猫は好きだが、なんで俺が着けなきゃいけねーんだよ。しかも猫耳だけってどういう仮装なんだそれ、仮装なのか?」
 猫好きでも、それはそれ。
 それにただ猫耳を付けるだけで仮装というのも、何だかと思うから。
「つーことで、着けるなら1人で着けてろ……お前の場合は、猫っつーより狼の方が似合うけど」
「いやいや、狼耳着けるコト自体は兎も角、一人でとか寂し過ぎない!?」
 いや、猫でも狼でも、ひとりでケモ耳……は確かに、色々な意味で辛いです!
 それにそもそも望の目的は、自分が仮装することでは全くない。
 楪が仮装した姿を、絶対似合うキュートな猫耳姿を、全力で見たい……!
 というわけで。
「んー……じゃあ、折衷案で猫耳パーカーとか!」
 ダメもとで、必死に提案してみれば。
 本当にひとりで耳を付けさせるというのも何だし。
 猫耳に必死なその熱量はやはりアホかもと思いつつも、そういうところが、望らしいし。
「………百歩譲って、パーカーならいいか。フード被らなけりゃいいし……」
 愛しい恋人にそう言われれば、これまでもハロウィンで仮装をしてきたことだしと譲歩する楪。
 そしてその返事を聞けば、思わず瞳をぱちりと瞬かせた望であるが。
「……え、OK? マジで? いいの!?」
 そうと決まれば善は急げ、張り切ってすちゃりと。
「じゃあ、サクッと衣装候補検索して……」
 取り出したスマートフォンでしゅしゅっと、猫耳パーカーを検索!
 いや、それだけではなくて。
「ってか、俺に仮装させるつもりしかなさそうだが、ひづが着ないと俺も着ないからな?」
「……やっぱり俺も?」
「当たり前だろ。俺が猫耳パーカーなら、お前は狼耳パーカーな」
 楪の言葉に……正直、似合う気はしないケド、とは望は思うも。
「ゆずの猫耳パーカー姿は見たいし? 俺もソレにしよっかな」
 キュートな楪の猫耳パーカー姿は当然ながら愛でたいし、それに、これまでもお揃いで仮装してきたから。
「猫耳パーカーも種類がいっぱいあるけど、ゆずはやっぱり黒猫? でもこの三毛猫も絶対可愛いし、なんならピンクとかハート柄だってゆずに絶対似合う……」
「黒猫でいいだろ。ってか、それ以外着ないからな」
「じゃあオプションで、この大きなリボン付きのもふもふ尻尾とか、絶対にゆずに似合――」
「嫌だが?」
「……デスヨネー」
 仮装の相談をするのも、ハロウィンの楽しみのひとつ……?
 猫耳パーカーと狼耳パーカーも追加で検索しつつ、いい感じのものを見つければ、ぽちっとお揃いで注文して。
 今年のハロウィンの仮装も、無事に決定したから。
「……あ、そうだ。記念写真一枚取る時だけ、一緒にフード被らねえ?」
「ぁー……記念写真1枚くらいなら。その代わり、その写真俺にも寄越せよ?」
「勿論写真データ渡すし、一緒に見るのも面白いよね」
 ふたり、そう記念写真の約束を交わしつつ。
 おばけ南瓜が灯る街を並んで歩きながらあれこれと――他にも楽しい、ハロウィン当日の作戦会議を。

●Happy sweet Halloween night
 アイビーが覆う、古びて煤けた煉瓦の外壁も。
 廃墟のようなその佇まいも、今宵の雰囲気にはお誂え向き。
 日が落ちるとともに、アパルトメントの屋上にかぼちゃランタンたちを灯して。
 ちょっとした料理を用意したら――ふたりのハロウィンプチパーティーのはじまり。
 ハロウィンの魔法にかかった今宵のふたりの姿は勿論相談通りの、黒猫さんと赤茶の狼さん。
 それぞれ猫耳と狼耳、それに尻尾が付いたパーカーを纏えば。
 テーブルの上には、お菓子と飲み物の用意もばっちり。
 ……クッキーとかそーいうのはひづの方が上手いから、と。
 そう任された望が用意したのは、動物をモチーフにした数種類のアイシングクッキー。
 当然、黒猫や赤茶の狼のクッキーも仲良く並んでいて。
(「紅茶のチョイスは、ゆずにお任せ」)
 望からお任せされた楪が選んだのは、スパイスをきかせたミルクティー。
 甘いアイシングクッキーと、まろやかでありながらもピリッとした香りや風味の紅茶は、よく合っていて。
 互いに完全に相手にお任せにしても、やはり選ぶものの相性も、間違いがない。
 そして並ぶのは、アイシングクッキーとスパイシーなミルクティーと――もうひとつ。
 望は狼尻尾をゆらり、見つめる瞳を細めつつも穏やかに思う。
(「アップルパイに関しては、ゆずに勝てないんだよなあ……」)
 そう……楪曰く、まともに作れる数少ない料理のひとつだという、艶やかなアップルパイ。
 やはり黒猫さんになった今宵も、楪のお手製アップルパイは見事な出来で。
 思わずにこにこしてしまう赤茶の狼さんな望の耳元で、ふいに囁かれるのは、こんな魔法の言葉。
 ――Happy Halloween Darling……Trick yet Treat?
 お菓子くれないと悪戯するだなんて、黒猫は言わないし。
 耳を擽る欲張りな甘い声に、狼だって勿論こう答える。
 ――Honey、Happy Halloween?
 そんな返事に、楪は満足げに瞳を細めて。
「言ったな? あとで覚えとけよ」
 向けられる笑みに、はは……っ! と望も笑って返す。
 ……いいよ、ゆずの好きな様にイタズラして? って。
 だって今日はハロウィン、これからはじまるのは魔法がかかった、ふたりだけの特別な夜なのだから。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年12月04日


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