●魔王城の地下に待つものは……
ダークセイヴァー第四層にある昏く広大な森の奥深くに、荘厳な魔王城が建っていた。
広大な城には地下室もあり、地下に続く薄暗くひんやりと冷たい空気が漂う石造りの螺旋階段を、城主であるクリストフ・フロイデンベルク(辺境の魔王・f16927)と、手を繋ぐ恋人のユスミ・アルカネン(Trollkvinna av Suomi・f19249)の二人が下へ下へと階段を降りていく。
誰もいない静寂に満ちた地下に、二人の足音がコツコツと鳴り響く。だがそこに不可思議な怪現象が襲い掛かる――!
「ひゃっ!」
突然暗闇からバサバサとこれ見よがしに音を立ててコウモリが飛び交い、ビクッとユスミが驚いて身をすくめる。だがそれだけでは終わらない。
「ひぅっ!!」
次は死霊がふわりと突然現れ、怖ろし気な歪んだ表情を見せつけると、すっと消えていく。怯えたユスミが思わずクリストフの腕に抱き付いた。
「グリュの奴に呼ばれて来たがこれは何だ?」
クリストフが眉をひそめ、悪趣味な歓迎にどういう趣向だと疑う。
「……ねえ、グリュックはなんて言ったの?」
「いや、ただ二人で来て欲しいと言われただけだ」
怖がるユスミの疑問にクリストフは首を横に振った。使い魔の黒猫グリュックから詳しい話は聞いていなかった。
(……死霊使いの仕業か? それに柱の陰に潜んでいるのは近衛兵共だな?)
周囲の気配を探るクリストフはこの悪戯を仕掛けている者の目星をつける。だが何かしらの悪意は感じられず、ただの悪戯と判断して腕にしがみつくユスミの方に意識を向けて歩を進めた……。
深い深い闇の飲み込まれるように階段を降りると、柱から血塗れの甲冑が突然現れた!
「ひゃああっ!!」
続けて反対側からは糸で釣られた何かがぺとりとユスミの首に触れた。
「ひっ!? いま、なにか首に触ったよぉ……」
驚いたユスミが涙目になってクリストフの体に抱き着く。
「やあっ……、怖いよぉ………」
(何やらユスミに悪戯を仕掛けているが……蒟蒻? この血糊はケチャップ?)
抱き着かれその頭を撫でながら、クリストフは血や蒟蒻といった悪戯に使われた小道具を見下ろしていた。
(ふむ、害意は無さそうだ)
そんなものよりも今は身体に感じるユスミの温もりの方が大事だとクリストフは優しく抱き返した。
「安心するといい、私が傍に居る」
「ぐす……うん」
ユスミを宥めクリストフはもう少しで目的地だと階段を降りていく。その道程でもやはり驚かす悪戯があり、そのたびにユスミがぐすぐすと怖がり、とうとうクリストフにしがみついたままぎゅっと目を閉じてしまった。
「ユスミ、目を閉じていては危ないぞ」
「や、クリストフさんが引っ張って」
もう怖いのを見たくないと目を閉じたまま首をふるふると横に振り、子供のようにイヤイヤする。
「ふぅ、仕方ないな」
「きゃっ」
ならばとクリストフはユスミをお姫様抱っこして歩き出した。
「これならどこよりも安全だ」
「……ん」
ユスミは安心しきった様子でクリストフを抱きしめた。
すると周囲がざわざわとしてまるで二人のラブラブの邪魔をしないように悪戯が止まった。そのまま何事もなく階段を降り、通路を進むと扉が見える。
「ユスミ、扉だ。開けるぞ」
クリストフが名残惜しそうにユスミを降ろすと、恐る恐るユスミは目を開けてゴールとなる扉を見た。
「と、扉を開けたら、またなにかあるんじゃ……」
「ふ、ユスミ、怖がる事はない」
不安そうなユスミにクリストフが笑みを見せ、扉をギギギ……と開けた。
「「ハッピー・ハロウィン♪」」
パンパンッとクラッカーの音が響き、仮装した臣下達が笑顔で二人を出迎える。室内は爛々と明かりが照らされ、テーブルにはご馳走が並んでいる。
そう、今までの悪戯は全てハロウィンのサプライズイベントだったのだ。
「成程、こういう事だったか。まぁ良い……怯えるユスミも実に愛らしかったのでな?」
納得したクリストフが悪戯を大目に見て許しを与えた。
「そういえば……」
目を丸くしてびっくりするユスミも遅れて理解し、悪戯して来たのが見慣れた城の住民達だったと気付き、恥ずかしがりながら笑みを浮かべた。
「トリック・オア・トリート? ……お菓子の準備してないよ……」
「くくく、ではユスミ?
トリック・オア・トリート?」
「……じゃあ、どうすればいい? クリストフさんがボクに、イタズラするんだよね?」
困り顔のユスミに悪戯っぽくクリストフが笑いかけ、マントでバサッと二人を覆う。そして皆の視線を遮るとその唇を奪った。
「――悪戯成功だ」
顔を真っ赤にするユスミの耳元にクリストフは甘く囁いた……。
成功
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