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荘園の砦、花の葬列

#バハムートキャバリア #3章、断章投稿しました。

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#バハムートキャバリア
#3章、断章投稿しました。


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 バハムートキャバリアに伝わる人の歴史の一幕。
 舞台はキャメロットより東の辺境。
 荒れた土地に毒の沼地と、とうてい人の住めぬ領域を開拓した者がいた。
 侯爵の血筋に遅く生まれ、兄弟たちと比べても武勇や知略に長けているわけでもなく、ただ植物を育てる事に興味を持っていたことを理由に、僅か13歳の頃に荒れ果てた東の砦シュテーブルを任された。
 その名をアルフレッド・リディン。
 着任こそ名もなき領主に過ぎなかったアルフレッドだが、その才気は枯野を潤すかの如く、見る見るうちに開花していったという。
 彼が着任の後、わずか数年で城塞と農耕地を作り上げるのに至った背景には、数多くの出会いが関係しているというが、その最たるものはかの砦のもとに現れたという精霊を模した人造竜騎が大きいだろう。
 自らが乗り手を選び、精霊の信仰にも関わると言われるその存在にアルフレッドが選ばれたことにより、シュテーブルは明確に変わり始めた。
 砦には緑の蔦が這い、枯れた川には清い水が流れ、人と精霊の集うようになった緑の荘園には、魔力を持った草木が生えるようになった。
 そして、アルフレッドが二十歳を迎える頃、彼のもとには珍客が訪れるようになるのであった。
「おや、もうおいででしたか。今日は早いですね」
 草木に覆われた砦の中庭には、足を踏み入れるだけで若草の爽やかな匂いがする。
 その中でも影になるような場所に打ち建てた石造りのガゼボは、アルフレッドが政務の合間に足しげく通っていたのだが、どうやら先客がいるらしい。
 もはや元が白く磨かれた石だったのを忘れてしまう程、草木に覆われたガゼボの先客は、おおよそ人には見えぬ姿をしていたが、巌のような重々しい鱗の隙間から覗く瞳の輝きには確かな理性を感じさせる。
 それが、嘗ての非道を働いた人類への恨みから蘇った百獣族の成れの果てとは。到底思えぬほどに、その男は落ち着き払っていた。
『貴公が遅かったのだ。最近、根を詰め過ぎではないのか? まあ、わからなくはない。事業は成功しそうなのだろう』
「はい。おかげ様で、マジックポーションは無事、生産が可能となりそうです」
『そうなれば、我らは困ることになるな……』
 肩を揺らして笑う岩のようなトカゲのような百獣族からは、本当に困っているような風はない。
 その脇を、アルフレッドの使用人が手早くすり抜けて、あっという間に紅茶とスコーンが用意されてしまう。
 ここ一年でようやくできるようになった贅沢の一つとして、クリームとキイチゴのジャムがたっぷり用意されている。
 それは、二人の好物であった。
 そうして、お互いの好みを知るほどに、二人の奇妙な関係は一年ほど続いていたのだ。
「マジックポーションは、人造竜騎の燃料にもなり得るものですからね。あなた方にはつまらぬ話かもしれませんが、竜騎を増やし運用することができれば……我が砦は、もっと農地を確保できることでしょう」
『貴公らは、獣騎で土を耕すつもりかね。ふ……君は、優れた領主だ。しかし、他がそれを放って置くかな』
 紅茶もそこそこに、ドレイクの百獣族は、立ち上がり背を向ける。
 いつもなら、もう少し長く話していくはずだったが、今日は何やらよそよそしい。
『こうして、穏やかな時間を過ごしていれば、我らの恨みもやがて消え失せるかと思ったのだが、そうもいかぬようだ……我らはこの地を呪わずには、居られぬ』
「そんな……! ……では、キャメロットへ?」
『いいや、貴公だ。君になら、この一念を賭しても、恨みつらみは残るまい』
「わたし、ですか……?」
 そうしてドレイクは鋭い爪を折りたたみ拳を作ると、それをまっすぐアルフレッドへ向ける。
『我ら獣騎ドレイク。信念で以て、汝、人造竜騎ヘリオトロープの主、アルフレッド・リディンに決闘を申し込む也』
「しかと、承りました……ドレイク殿」
『さらば友よ。次は戦場で会おうぞ』
「おさらばです、友よ」
 振り向かずに去っていく地竜の友人を送るように、緑の道には花弁が舞っていた。

「円卓に|百獣族《バルバロイ》。中世のような世界ですが、どうやらロボット同士で戦う世界のようですよ」
 グリモアベースはその一角。矢絣のお仕着せに、黒い鳥のようなお供を連れた疋田菊月が、居並ぶ猟兵たちに紅茶を供する。
 彼女が見た予知の舞台は、このごろ発見されたというバハムートキャバリアの世界。
 その世界では、かつて百獣族と呼ばれる獣やモンスターを祖とするような見た目の種族がキャバリアサイズの獣騎に変身し、覇を競っていた世界であり、人間はその力を持たず永らく蚊帳の外だったのを、とある筋から|人造竜騎《キャバリア》の発明に成功し、百獣族に対抗するどころか、無残にも滅ぼしてしまったため、恨みを買うことになったという。
 人々はかつての行いを反省し、せめて正々堂々と対決することで荒ぶる魂を鎮めようという騎士道を興したのが、現在のバハムートキャバリアに繋がるようだ。
「ふーむ、この世界にも帝都のように幻朧桜でもあれば、少しは変わったんでしょうかね。まあまあ、今回のお話に移りましょうか。
 今回の舞台は辺境です。
 呪われた土地を開拓した、優良な領主さまが、その土地に呪いをかけた百獣族の方と懇意になってしまったようです。が、それでも恨みは消えず、呪いは消えないので、いずれは戦う運命だったようですねー」
 どこか他人事のように軽々しい口ぶりの菊月だが、彼女なりに真剣なのか、うーんと腕組みして何やら考えている。
「まあ、そんなことはともかくとして、何分辺境の小役人みたいな立場なので、アルフレッドさんの兵力は、人造竜騎一機と、伝令のグリフォンキャバリアだけみたいですね。他はほぼ戦力にならないので百獣族の勢力と正面衝突すれば、敗北は必至でしょう。
 もちろんアルフレッドさんも兵力差はお考えでしょうからね。キャメロットに応援を要請するんじゃないでしょうか。我々はそれに乗じる形となりそうです」
 獣騎の勢力は、未だ開拓の進んでいない呪われた毒沼を陣地としている。
 そこへの順路は明らかだが、泥沼そのものが障害であり、まずはそれを乗り越え、敵勢力と接敵というかたちになりそうだ。
「獣騎の皆さんは、代表のドレイク氏をはじめ、サハギンと呼ばれる……いわゆる、半魚人の方々がいらっしゃるようです。
 人造竜騎は飛行機能が標準装備されているそうですが、相手は地上、水上戦闘が得意そうですねー」
 冷静に戦力分析をしつつ、最後になって、そうそう、と忠告のようなことを続けて、菊月は猟兵たちを送り出す準備を始める。
「そうそう、彼らの恨みつらみはどうやら根深そうですが……この世界の騎士道は、きっと無駄ではないはずです。
 正々堂々とした姿を見せつければ、彼等も思うところを見せてくるかもしれませんよ!
 それではみなさん、頑張ってください!」


みろりじ
 どうもこんばんは、流浪の文章書き、みろりじと申します。
 世間ではどうやら騎士物語がトレンドだそうで、ちょっと遅くはないかと言われそうですが、いっちょかみやってみようかと思います。
 相変わらず、余計な事を書いてしまって余白が全くありませんが、まぁ、その、なんだ。悔しいだろうが、仕方ないんだ。
 というわけで、今回はバハムートキャバリアにて、騎士道ロボット大戦となっております。
 泥沼が舞台なので、汚れにはご注意ください。
 さて、バハムートキャバリアでは、クロムキャバリアのプラントのような破格の生産性はどうやらないようですので、キャバリアそのものがなかなか貴重な品のようです。
 何かしらの理由をつけての貸与は可能なようですが、自分の好きなスタイルで戦ってみても全く問題ありません。
 また、百獣族の皆さんは、古の聖なる戦いのルールに則って、やはり正々堂々と戦って来るようです。
 ここからはだいたいテンプレとなってしまいますが……。
 第一章におけるいわゆる断章は投稿せず、以降は状況説明的に繋ぎの文章がいくらか入る予定です。
 が、プレイングは常に受け付けておりますので、お好きなタイミングで送っていただいて構いません。
 それでは、皆さんと一緒に楽しいリプレイを作ってまいりましょう。
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第1章 冒険 『泥中行軍』

POW   :    構わず進め! 泥中に活あり!

SPD   :    飛んでいけば早道だろう。

WIZ   :    わざわざ苦難を選ぶ理由はない。迂回すべし。

👑7
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。

ヴィリー・フランツ
※ヘヴィタイフーンに搭乗
心情:ここがバハムートキャバリアか…さてさて、俺みたいな意地汚い傭兵はどんな扱いやら。
手段:「怨嗟だろうが関係ない、俺は金さえ貰えればそれで満足だ」
領主との挨拶もそこそこに進軍準備をする。宇宙海兵戦闘工兵隊を召喚、道中の泥沼をはじめとした軟弱地盤は工兵隊に仮設浮橋を作ってもらい進軍する。
接地圧も関係するが、俺みたいな重装機は擱座しかねん、そこも踏まえて経路を確保する、後続の猟兵も多少は楽になるだろ。

普通に考えれば、こんな事やってりゃ榴弾が降ってきて、工兵諸共ふっ飛ばされて終わりだが、相手が騎士道を遵守するなら騙し討ちはあるまい、甘いと言うべきなのか。



 むわりと、湿ったような起こり。
 川近くでもないのに、密集する緑の荒れた街道を、荒々しい足取りの一団が進むだけで、植物の生気を感じる。
 シュテーブル近郊の環境の変化は異常と言ってもよかったが、それをより明確に見せるのが、この強い緑の匂いと──、
 近郊から外れていくほどに道が荒れ果て、ごつごつとした岩場が増えていく景色の変化であった。
 キャメロット東の辺境、シュテーブルの領主にして騎士を賜るアルフレッド・リディンの一団は、緩やかな進軍速度で、砦からは外れた沼地へと向かっていた。
 彼一人の兵力ならばこれほど緩やかにはなり得なかったろうが、しかし彼一人で戦うには、此度の戦いは厳しすぎる。
 虫の翅のような翼を生やす華々しい人造竜騎を先頭とした集団の装備は、この砦がいかに争いを避けてきたかが見て取れるかのようだった。
 その全体数も少なければ、構成の多くを占めるのは鎧を着込んだ生身の歩兵。もう少しましなら騎馬に跨る者がちらほらと。遅れて続くは幌を張った馬車が数台といったところか。
 舞台を先導するのが鋼鉄の妖精でなければ、この世界は中世を思わせたかもしれない。
(ここがバハムートキャバリアか……良くも悪くも、目立っちまうなぁ……)
 その一団に混じって、ずしりずしりと重たい足取りで特徴的な轍を残すは、ひときわ大きな歩兵、いや、そのサイズは先導する領主の駆るモノに同じ、即ちキャバリアであった。
 ヴィリー・フランツ(スペースノイドの傭兵・f27848)の乗り付ける量産型キャバリア『HL-T10 ヘヴィタイフーンMk.Ⅹ』は、騎士の世界ではやや異質な気配を放っているものの、キャバリア自体は見慣れているのか、部隊には問題なく迎えられていた。
 まさか、ここまで部隊の装備が原始的とは思わなかったが、なるほど、これなら応援を欲しがるわけだ。
 ざっと見たところ、歩兵や騎馬兵ではキャバリア相手などとても無理なように思えるが、幌馬車に積んである大型のバリスタは一丁前に洗練された金属製で、対抗策が皆無というわけでもなさそうだ。
 この兵団は、それを運搬し警護する役にしかたつまい。いや、そんな命がけの役割のため集う程度に、領主は慕われているのか。
 キャバリア自体はほぼ居ない絶望的な戦力差ながら、疑問や愚痴が聞こえてくる気配がない辺り、この国の人間の戦いに対する意志の固さなのだろうか。
 世界は違えど、宇宙騎士の位を戴くヴィリーは、それでも傭兵として、どちらかと言えば生存性優先で戦ってきた。
 華々しい戦果もあったかもしれないが、その実情は、厳しい戦場で必死に生き抜いてきた結果に過ぎない。
 時に勝利のために敗走を喫し、偽りを駆使してまで勝利をもぎ取ることもあった。
 意地汚く、生き汚く、生き抜いてきた。それは紛れもなく勝利の証であり、おびただしい戦場での経験の、そのほんのいくつか光の当たる部分がピックアップされて、輝かしい戦績として残っている。
 騎士道など、馬鹿馬鹿しくも思えるが、多くを殺し過ぎない約定は必要だろう。
 こんな戦力を以て殺し合いをはじめたら、あっという間に世界は燃え上がる。
 ただし、戦いに対する規律が、戦争の抑制と共に、戦うための大義名分足り得るのも、なんとも皮肉な話だが。
『あ、あー、失礼、通信はこのチャンネルで大丈夫だろうか?』
「ん? ああ、雇い主か。作戦行動中は……いや、いいか。感度良好だ。どうかしたか」
 なんと、驚いたことにオープンチャンネルで通信が飛んできた。
 伏兵や傍受の心配が頭の片隅に過ぎるが、また相手の領分に足を踏み入れても居ないし、聞かれて困るような機密など無し。
『挨拶がまだだったと思いまして。此度の助力、本当に感謝します。外来の騎士殿におかれましては、こちらの怨嗟に付き合わせてしまいますからね』
「怨嗟だろうが関係ない、俺は金さえ貰えればそれで満足だ──?」
 えらく腰の低い領主もいたものだ、などとヴィリーが心中で友好半分、呆れ半分でいると部隊の行軍が滞っている事に気付く共に、アラートも反応していた。
 敵の接近ではない。注意喚起を呼び掛けるのは、主にバランサー周りであった。
 ついに相手の領分、呪われた沼地とやらに足を踏み入れたようだった。
「歩きで行こうとすれば、これは時間がかかるぞ」
『空輸する時間はなさそうですね』
「悪くない考えだがな……まあ、なんとかしてみよう」
 飛行できる領主のキャバリアが、率先して部隊の輸送を行うなど聞いたことも無いが、その発想自体は柔軟であろう。
 仮に人造竜騎でバリスタや歩兵を運んだとて、沼地で展開するのは難しいと思うのだが。
 ヘヴィタイフーンの機体重量では、この沼地を踏破するのは難しくないが、間違いなく機能性は落ちる。
 歩兵や騎馬などひとたまりもあるまい。
 これを想定していなかったわけもないだろうが、それでも随伴しようとしていた連中は、命知らずどころじゃないだろう。
 慕われるというのも困りものかもしれない。などと考えつつ、ヴィリーはユーベルコードを発動。
「工兵隊、行動開始だ」
 呼び出された【宇宙海兵戦闘工兵隊】は、建設・輸送ビークルでもって乗り付けて、立ち往生する舞台に先駆けて、重量をかけても大丈夫な路面を確保しにかかる。
 草木が腐敗して溶けて混ざり合い、ひどい匂いをまき散らしながら粘性を上げる沼地の泥は、ひとたび踏み込めば抜け出せない底なし沼をそこら中に形成しているほか、軟弱地盤はヘヴィタイフーンのような重装機を擱座に追い込みかねない。
 堅固な鉄骨の足場を組む必要はない。沼地の浮力を活かし、中空素材を用いた仮設の浮橋で重量を広く散らせば、戦闘速度でない歩みでも機体が沈み込むことは無い筈だ。
「普通に考えれば、こんな事やってりゃ榴弾が降ってきて、工兵諸共ふっ飛ばされて終わりだが、相手が騎士道を遵守するなら騙し討ちはあるまい。甘いと言うべきなのか……」
『彼らは、一方的な殺戮が目的ではないのでしょう。かつての我々とは違い……』
 認識の違いはいかんともしがたいものがあるが、この世界の獣騎にとっての戦いは神聖な儀式であり、決闘から大きく逸脱した戦術はないのだ。
 そこへ大きく踏み込むことはしないが、戦いへ身を置くヴィリーは、ついつい脳裏のうちに事を有利に運ぶ方へと思考が動いてしまう。
 不自然な事ではない。しかし、思わず遠慮が躊躇を生んでしまうのは、早くも毒されてきたろうか?

大成功 🔵​🔵​🔵​

ユリウス・リウィウス
アルフレッドといったか? まずは騎士崩れが一人、応援に来たぞ。
無事に終わったら、ワインでも酌み交わそうじゃないか。

まずは呪いの読沼が障害だな。
「毒耐性」「呪詛耐性」「環境耐性」「足場習熟」「地形の利用」、これくらいで十分か?
サバイバルゴーグルと黒靴も、しっかり使わせてもらおう。女房もいいものを贈ってくれたもんだ、なあ、おい?

アルフレッド。『騎士道』をどう思う? いくら題目を立てようが、従う奴は従うし、気にしない奴は最初から鼻も引っかけねぇ。
喰っていくには、飯が必要だ。あんたがやってるようなことこそが、世界には必要だと思うんだがな。
ところで、あんたの|領地《ドメーヌ》はワインを作っているか?



 噎せ返るような緑の匂い。それがシュテーブルという東の領土を知る者にとっては得難いものであったのも今は昔。
 それを理解するに容易いほどに、その近郊から離れると、植生は一気に荒れ始める。
 乾いた風、岩場続きに、硬く踏み固められ水をも吸わぬ大地。
 荒れ果てた自然はちぐはぐで、その最たるものがこの毒沼であった。
 荒れ地に唐突に生えてきたかのようなこの沼地を含む湿地は、本来ならば植物が繁茂するべき水場であろう。
 しかし、この地への強い執着、未練、恨みつらみが大地を呪ったおかげで、この沼地は永らく毒沼として知られているそうだ。
 草木は水を求めてこの地に根を下ろすのだが、すぐさま沼地の毒素に当てられて腐り落ち、溶け合ってヘドロのようになり、ひどい匂いと粘性を育て、毒沼の一部とする。
 ここには悪辣な微生物や、悪環境に適応した屈強な、あるいは弱ってなお水棲に活路を見た生物しか生き残れない。
「久しぶりにひどい戦場に放り込まれたもんだが、しかし、ここを故郷とする者もいるわけか……」
 ユリウス・リウィウス(剣の墓標・f00045)にとって、このような悪環境は珍しくはない。
 多くの戦場の中に、冷たい泥中を行軍せざるを得ず、足を取られ、熱を取られ、そうして倒れていく同胞を看取ることもできないまま置いていくしかできなかったこともある。
 当時と比べれば、力も付けたし装備も充実しているから、あの頃ほどひどい事にはならないとは思うものの、それはそれでいい思い出ではない。
 荒れ果てた沼地。そこへ何とも言えないような感慨を浮かべるユリウスのもとへ、ふと無数の花弁が視界に入る。
 見上げると、羽音のようなものと共に花弁を散らす不可思議なキャバリアが空を飛び、こちらを見下ろしていた。
 どうやらこれが、領主のアルフレッド・リディンの駆るヘリオトロープ、人造竜騎というものらしい。
 これまでにユリウスは、クロムキャバリアなどでも金属の巨兵を相手取ることがあったが、あれらとは幾らか様子が違う。
 あれらはどちらかと言えば人の形をした攻城兵器のように見えたが、人造竜騎、とりわけヘリオトロープのシルエットは、巨大な鎧のようにも、妖精を擬人化したようにも取れる。ほぼ、印象というか、気配の感じ方の違いのようなものだが。
『頭上から失礼! 助力感謝いたします、外来の騎士殿。どうか無事に、この戦いを勝ち取れますよう、共に頑張りましょう』
「ああ、アルフレッドといったか? まずは騎士崩れが一人、応援に来たぞ。
 無事に終わったら、ワインでも酌み交わそうじゃないか」
『葡萄酒ですか。私は下戸ですが、その折にはぜひ』
 明るく受け答えする領主アルフレッドの物腰は、得体のしれないであろう猟兵に対しても特に嫌味がない。
 美しく壮麗な工芸品にすら見えるキャバリアに一人搭乗しておきながら、彼を慕い集ったわずかばかりと言わざるを得ない部隊を率い、足場の悪い沼地に難儀する歩兵やその守護する幌馬車の行軍を率先して安全な道を確保して誘導、牽引しているらしかった。
 正直、花弁を振りまくような不思議なロボットでやる事かとも思ったが、そのような姿だからこそ、無謀な戦力差と知りつつ彼のもとに人が集うのだろう。
 この地に恨みつらみを抱きながら、誇りと尊厳は失わず、オブリビオンと成り果ててなお、領主と知己となった気持ちもわからなくはない。
 ただ、別世界を知るユリウスは、一歩引いて考える。
 騎士であり、領主であるアルフレッドは、聞くまでもなく、貴族出身、いわゆる青い血を引いてこの土地を治めていると言っていい。
 それでありながら、その治世は封建的なものとは程遠く、あまつさえ貴重品である人造竜騎の増産を画策するなども、目的を正せばこの地を開拓する目的であるという。
 彼のやり方は、この世界、文明から考えるとやや異端的である。
「馬車の車輪が泥にはまった! みんな手を貸してくれ!」
「やれやれ、無茶をする連中だ」
 悲鳴のような声が上がり、ユリウスは着込んだ甲冑をがちゃがちゃと言わせつつ、急行する。
 安全を最大限確保しながらの行軍とは言え、足場が劣悪であることには変わりなく、対キャバリアを想定した大型の金属製バリスタを搭載した幌馬車などは、あっという間にその重量を沼地の地盤に吸い込んでいく。
 兵員総出でそれの救出に向かうが、ロープで引き揚げようとする傍からその足場が徐々に沈んでいくのが目に見えるのを、ユリウスも手伝ってやる。
 これではミイラ取りがミイラではないのかとも思われるかもしれないが、あの時とは状況も装備も違うのだ。
 サバイバルゴーグルと、黒靴『ブラックハウンド』。こららにはどうやら贈り主の思いが詰まっているのか、それとも気持ちの問題なのか、ユリウスの足取りはこの悪路でも軽かった。
「こっちのほうが足場が丈夫だ。いったん、こっちに上げるぞ! 音頭を取れ!」
 彼らはどうやら、忠誠は高くとも歴戦の兵ではない。こういった経験に慣れのあるユリウスの誘導もあって、なんとか馬車の救出に成功する。
「助かったよ。あんたよっぽど、こういうのに慣れてるんだなぁ」
「なに、女房に色々良くしてもらったお陰だよ。いいもんだぞ。なあ、おい」
「ああ、寒い沼地に来たつもりだったけど、お熱いこって」
 冗談を交わしつつ幌馬車の調子を見に行く兵たちを見送ると、やや遅れてアルフレッドも戻ってきた。
 こちらの騒ぎも聞きつけてはいたろうが、一人で全てを賄えるわけではない。
 上に立つものが、周囲と同じ目線を持つのは難しいものだ。
 担ぎ上げられれば、おのずと目線は高くなってしまうものなのだ。
『助かりました。こちらからもお礼を』
「困った時は、お互い様さ。それより……アルフレッド。『騎士道』をどう思う?」
『どう、とは。我々にとっては、戒律であり、彼らと渡り合うときに必定の儀式でもありますが、それはそれで尊い精神かと』
「そうかな。いくら題目を立てようが、従う奴は従うし、気にしない奴は最初から鼻も引っかけねぇ」
『まるで、そのような方を多く見てきたかのような言い方をなさる』
「見てきたさ。喰っていくには、飯が必要だ。あんたがやってるようなことこそが、世界には必要だと思うんだがな。
 ところで、あんたの|領地《ドメーヌ》はワインを作っているか?」
 声のトーンを落とすユリウスの目の色に輝きが失われていくのを見て取るが、それがこの泥中のような混沌に染まり切るよりも前に話を切り上げたところで、はたと意表を突かれる。
 一瞬、戸惑いから答えに詰まるところだったが、アルフレッドも気持ちを切り替える。
『果樹は難しいですね。この妖精の人造竜騎のお陰で植物の成長は驚くほど速いようですが、狙いのものにはなかなか……。必ずしも、うまい果物が酒に適しているわけではないようで』
「ほほう?」
 その口ぶりからすれば、いくらか試した結果はでているのが伺えた。
 仮に生育技術ではなく、精製技術を提供でもしたら、どんな産業革命が起こるのだろうか。
 悪い騎士の悪い思惑が、悪戯心を苛まずにはいられなかった。
「時に、ポーションの精製工場があるって聞いたが、なら蒸留器はあるのか? 酒を蒸留するとだな……」
『ほう、なんと……』
 泥中の生臭い嫌な臭いの中で、それすらも忘れて、好きなものについて熱を上げるのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェラルディン・ホワイトストーン
アドリブ連携歓迎

長年かけて開拓した土地。呪われたからって易々と捨てる訳にはいかねぇよな。
オーケー、シュテーブル防衛の加勢に参戦するぜ。
よろしくな、領主さま。

『メルセデス』に乗って空中から進軍しよう。飛んでいけば早道だろう?
戦が始まったら泥沼ん中に引き摺りこまれないよう気を付けて戦わねぇとな。
……サハギンにドレイク。どちらも地上や水上での戦闘が得意と来たか。
土や水と、金属は相性がいいんだっけか。
それならUCで刃の林と山を敷き詰めて、こっち側の足場と相手の動きを止めるフェンスを作っておこう。
開戦直後だけでも数の不利を抑えられるだろう。

……それにしても、幻朧桜か。苗木とかあるんなら、輸入してみるか?



 キャメロットはその東、シュテーブルという荒れ野の中に、一機の人造竜騎が見出されたとき、その呪われし地に実りが齎されたと聞く。
 確かに、人が砦を築いた地域を中心として、荒れ野だったシュテーブルには緑が溢れんばかりであった。
 しかしもとよりここは呪われた地。
 精霊を呼び、その地の呪いに抗える願いの外側に一歩でも出れば、たちまち草木は枯れ落ちてしまうのだという。
 乾いた荒野の風を感じていたのも束の間、砂漠にオアシスではないが、その風に湿り気を覚え、ようやく目標の場所に近づいたことを悟ったのだが。
 ジェラルディン・ホワイトストーン(シャドウエルフのタイタニアキャバリア・f44830)は、風の中に感じる噎せ返りそうな腐敗臭に、思わずキャバリアの空調を利かせずにはいられない。
 この地を呪うに至った百獣族の陣地は、呪われた沼地であると聞く。
 水気を求めて沼地に草木が繁茂している想像はしていたものの、この地に降りかかる呪いは、それらの生命をも飲み込んで腐らせてしまっているらしい。
 漆黒の泥沼が、草木や水棲生物を飲み込み、腐敗させ混ぜ合わせ、不快なガスを充満させ、周囲は異質な空気に包まれていた。
「ひどいニオイ……これも命のサイクルっちゃそうなんだろうけど」
 腐敗は発酵というものも、自然の中では一般的に行われているサイクルの一部だ。
 落ち葉や動物のフンや死骸、それらが分解され混じり合って、微生物に分解され、その際に土を育てる栄養素と熱を伴い、森を凍えさせず命を生育させる。
 森の中で感じるような爽やかな匂いも、ある意味で発酵ガスの一種である。
 だがしかし、偏りにもよればこうも醜悪に映る。急速に死に向かっている。
 折角の水場も、栄養豊富な泥も、このまま放置すれば大地を死滅させることだろう。
「まあ、だからつって、長年かけて開拓した土地。呪われたからって易々と捨てる訳にはいかねぇよな。
 オーケー、シュテーブル防衛の加勢に参戦するぜ」
 領主の騎士団とも言えぬような、まばらな手勢を発見すると、先だって歩兵や馬車を頑張って沼地の行軍可能な場所へと誘導する領主の人造竜騎へと、ジェラルディンは近づいていく。
 彼女の駆るも、同じ人造竜騎。タイタニアキャバリア『メルセデス』は、失われし妖精族の神を模して造られたという。
 いわば神像を乗り回しているようなものだが、そのような霊験あらたかな存在であるがゆえに機体そのものが精霊に愛され、操縦者もまた選ばれなくてはならないというが……。領主もまた、精霊に選ばれたのだろう。
 それを、機体越しにジェラルディンは感じ取ると、恐らくは領主ことアルフレッドも同じように感じたのだろう。
『そちらも、精霊を宿された乗機とお見受けします。キャメロットからの応援と判断しても?』
「あー、まあそんな感じだ。よろしくな、領主さま」
 飛行能力をはじめから所有しているこの世界のキャバリアには珍しくないことだが、ガラス細工のような翅が翻るたびに花の花弁をまき散らす様は、緑の精霊の力を感じずにはいられない。
 悪環境に決して屈しない強い心と優しさを兼ねた、馬鹿正直だが、へこたれない人間性でもなければ、きっと選ばれはしなかった。
 一言交わして、その機体を見て、全幅の信頼というほどではないが、確証にも似た人の好さを感じ取り、ジェラルディンはひとまず、背後を憂うことはなさそうだと心中で胸をなでおろす。
 たとえ精霊に選ばれたとて、それが信用に値する人間とは限らない。
「取り合えず、ひとっ飛び、先に戦場を確保しとこうかな」
『よろしくお願いします。こちらも一応は戦力を揃えて追いつきますので』
 ちらと見る歩兵や馬車が、果たして獣騎相手になんの戦力になるんだろうと思ったが、口には出さないでおく。
 アルフレッドには立場があり、そして命を捨てる覚悟で付き従ってくれる部下が少なからず居るのだろう。
 それに、幌馬車の中にちらりと見える金属製のバリスタは、キャバリアサイズの相手にも決して無力ではない……はずだ。
 それでもアルフレッドの人造竜騎一機のほうが少なくとも十倍は戦力になるはずだが。
 ただ彼は領主で、人造竜騎に選ばれた騎士であっても、猟兵ほど破格の戦闘力を持ち合わせてはいまい。
「任せときなって」
 含みを持たせるような力強い言葉と共に、ジェラルディンとメルセデスは匂い立つ沼地を飛び越えん勢いで飛翔する。
 領主の一団が見る見る遠ざかっていくと、辺りはぼこぼことガスを吹き出す真っ黒な湖面が支配する。
 高速で飛翔していると、その深度を一見して図ることが困難である。それほどに、この沼地はその全貌が掴みづらい。
「相手は確か、サハギンとドレイクだっけ? 地上や水上はお手の物ときたもんだ」
 深さのわからない泥中からの奇襲、そして得意な泥沼に引きずり込まれたら、精霊の加護を得る機体とてただでは済むまい。
 地の利は相手の陣地である以上、免れまい。
 無策で突っ込むのは危険である。
「たしか、土や水と、金属ってのは相性がいいんだっけか」
 湿地や沼地、泥炭と呼ばれる草木や微生物の死骸の黒い地層には、金属バクテリアなども豊富である。
 遠い異世界、北欧のヴァイキングと呼ばれる部族は、泥炭の中から金属を錬成したとも言い伝えられている。
 また余談であるが、泥炭を使って燻した蒸留酒は、格別な香りが付くと言われている。
 長く呪われたりと言えど、大地は素材の宝庫。ゆえに、精霊の人造竜騎を駆る魔術使いのユーベルコードは発現する。
「この寒々とした沼に、林と山をつくってやろうじゃねえか」
 湧き上がる精霊力が、メルセデスの髪のような機関を逆立たせ、蝶の翅のような翼から魔力が鱗粉の如く大地に伸びると、働きかけられた沼地の泥が盛り上がり、やがてそれは鋭い金属の刃の峰となって屹立する。
 天地が逆さに、泥中から氷柱の様に突き出る刃の峰が折り重なり、それらが山を築いていく。
 【斬刃林山】。その鋼の山々の上に降り立つと、なるほどそこから泥中に引きずり込むのは難しそうだ。
 メルセデスはその中からさらに刃を作り出して、フェンスのように絡み合わせて容易に泥中に引き込まれないよう戦場を形成していく。
「これなら、開戦直後くらいは、数の不利を抑えられるだろ」
 もう少し先に、と歩みを進めようとしたところで、僅かに圧力を感じる気配が増えるのを感じた。
 ここいらが潮時か。これ以上は、相手のテリトリーに入り過ぎるかもしれない。
「ま、向こうがマナーを守る以上は、ここまでかな?」
 ジェラルディンが決して潔癖というわけではないが、奇襲戦法や騙し討ちを積極的に戦術に組み込まないのは、やはりこの世界の人間だからだろうか。
 そういえば、案内人が言っていた世界には、荒ぶる魂を慰め転生させるという植物が生えていると聞いた。
「……幻朧桜か。苗木とかあるなら、輸入してみるか?」
 先の戦では暴走したとも聞くし、簡単ではないだろうが、もしも百獣族の荒ぶる魂を、影朧と同じように慰め、転生させることができるのだとしたら……。
 自身の生まれ育った環境に思うところがないではないが、それでも人造竜騎の騎士と選ばれたからには、荒ぶる百獣族の悲しい歴史に思いを馳せずにはいられない。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トラスト・レッドライダー
本来彼らの恨みつらみを受け止めるべき者達はこの世に居なく、その罪業を引き継ぐ者達だけがいる、か……。
ならば、その憎しみを受け止める者が増えても良いだろう。

俺も、彼らの一団に加えさせてもらう。
亡国の主を操縦し【怪力】で沼地を踏破。
底が深い時はメガスラスターで脱出。それから、適時刺突ケーブルを沼地に突き立て【エネルギー充填】

行軍する者達が呪いに当てられないとも限らん。対処をしておこう。

周辺を呪う呪詛エネルギーを吸い上げ、【呪詛耐性】呪詛エネルギーを機体内部に吸収し破壊の霊物質に変換。

これは、一時的なものに過ぎない。どうにかするには、やはり根本を祓うしかないのだろうな……。



 噎せ返るような腐敗臭。
 バハムートキャバリアという世界における、猟兵たちの敵とは、過去の歴史を築いてきた百獣族であるという。
 彼らが過去となり、恨みをもって蘇る原因を作ったのは、過去に彼らを滅ぼした人類であるというのだ。
 その恨みはすさまじく、シュテーブルという枯れた地は、彼らによって呪われた事が原因であるとも言われている。
 そんな彼らが、ついに恨みを晴らすべく、正式に戦いを挑んできた。
 ところが、この地を呪うドレイク族の獣騎は、自らが旗頭となってシュテーブル陥落を狙うのではなく、自らの陣地を明かし、いつでもかかってこいと宣言するのみであったという。
「恨みを抱えながら、どうしてそんなことを……と思っていたのだが、なるほどな」
 トラスト・レッドライダー(レプリカントのデスブリンガー・f43307)は、目の前に広がる広大な腐敗した沼地を視界の端にまでとらえようとして目を細める。
 彼らが戦場として指定した、自らの呪いをもっとも強く受けている場所は、広大な沼地、湿地であった。
 枯れた土地に水場は貴重。しかし、その実態は、水を求めて繁茂する植物を、繁殖しようとする生物を捕え、取り込んで腐敗させ、胸の焼けるような腐敗臭で以て何者をも寄せ付けない、だが大地を徐々に死の風にあてがっていくという呪われたものであった。
 なるほど、ここならば、彼らのホームというわけだ。が、別の見方をするのであれば、時間をかけて緑を取り戻した美しい生命力にあふれかえるシュテーブルの砦を襲いたくはなかったとも考えられる。
「かつては大地を愛していた者たちが、それを恨んで仕方なくなるほどの……それほどの怒りか。無念だったろうな」
 かつての人類が、百獣族に強いたものは、どのような凄惨なものだったのか。それを知る者たちはもはや怪物に成り果てた。
 しかしながら、大地を呪うそれらの感情に行き場はない。この大地にもはや、恨まれるべき者たちは生きていないのだ。
「本来彼らの恨みつらみを受け止めるべき者達はこの世に居なく、その罪業を引き継ぐ者達だけがいる、か……」
 戦乱と狂気。トラストもまた、かつてはその渦中にあって、一人では後戻りができない状況に流されるまま、その手を血で汚していった。
 歴史とは、戦い続けた者たちの骸の上に成り立っている。それを語る資格がある者は、いずれも勝利者だ。
 戦いの中に身を投じて消えていった英雄たちに名前はなく、尊い者も、あくどい者も、燃えて消えた。
 さしづめ、猟兵として立つ自分は、その亡霊か、或は燃えカスなのだろうか。
 泥中を歩むは、怪物の名を冠してもおかしくはないような人型からやや離れたユミルの子、あるいはジャイアントキャバリア『亡国の主』。
 皮肉を腐らして脱いでしまったかのような、骨を剥きだしてなお歩み続ける竜のような井出達は、否応なく周囲を威圧してしまうだろう。
『失礼だが、貴方は敵ですか、味方ですか?』
「……誰の敵にも、本当はなりたくないんだが、目的はそちらと同じだ」
 その進軍ルート、泥地を踏み荒らし、力任せにすすむ威容は、領主たちの一団にも容易に目についた。
 恐ろしい怪物に立ち向かうかのように、妖精を模したような華奢なシルエットの人造竜騎が浮かぶ。
 美しい装甲に、翅から常に花弁を捲き散らす不可思議な様相は、なるほど破壊の象徴とは似ても似つかない。
『なるほど、貴方もまた応援の一人であると……それほどの恐ろしい竜騎に乗っていながら、戦いを嫌っているように感じます』
「好き嫌いを待っちゃくれないだろう。誰かが、やらねばならない。戦うことも、憎しみを誰かに変わって受け止める事も」
『それを聞いてしまっては、もはや我々はお味方と言うしかないですね。共に、戦いを終わらせましょう』
「ああ、そう願いたいな」
 機体越しに表情が見えぬことは、トラストにとっては幸運だったかもしれない。
 彼を戦場に留めているのは、贖罪や懊悩……それもあるかもしれないが、それをひと時でも思考の隅に追いやれる場所もまた、戦場にしかなかった。
 だから、戦いを終わらせることに、一抹の未練がなくはないのだ。
 レプリカントであるトラストは、心ある機械として猟兵となった筈だが、それゆえに、自己矛盾は常に心の奥底を苛むのだった。
「──俺が先行しよう。お前たちは歩兵も連れているようだから……沼の深い場所を探る意味でも、ここを歩ける者が必要だ」
『助かります』
 飛行能力が標準装備されている人造竜騎とはルーツを異にする亡国の主は、その超重量を沼地に沈めながら力任せに歩む。
 そこが深ければそれこそ藻掻くような動きになってしまうが、腐敗して粘性の高くなったヘドロのような泥で以ても、その歩みを完璧に静止はできない。
 どこからそんなパワーが出ているのかと言われれば、ジャイアントキャバリアは厳密にはロボットではないとされているためその辺りは不明としか言いようが無いものの、亡国の主の活力とも言うべきエネルギーを賄っているのは、他ならぬこの呪われた沼地そのものであった。
 機体が自重により沼地に沈み込むたび、背部から伸びる刺突ケーブルが沼地から呪いのエネルギーを吸い上げているのだ。
 これは亡国の主のエネルギー補給の意味もあったが、行軍する者たちが呪いに当てられぬようにというささやかな気遣いでもあった。
「だが、これは、一時的なものに過ぎない。どうにかするには、やはり根本を祓うしかないのだろうな……」
 戦いが迫る感覚を、ひしひしと感じる。この先には戦いを避けることはできまい。
 獣騎にとっては、決闘は神聖な儀式。それをわかっていてもなお、罪悪感を覚えずにはいられないトラストではあるものの、湧き上がる高揚感を覚えるのも事実であった。
 ふと、水底に引っ掛かるものを感じ、無理に脚部を持ち上げてみると、立派に根を張った植物をつま先に引っ掛けたらしかった。
 メガスラスターの出力を上げて、無理矢理に引き千切り、機体を脱出させる。
 こんな場所でも、命は根を張り、息づいている。
 戦わねば、この世界を、厄災から守るために。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 集団戦 『獣騎サハギン』

POW   :    魚人獣騎
【巨大怪魚『リバイアサン』】をX体召喚する。[巨大怪魚『リバイアサン』]は高い戦闘力を持つが「レベル÷X」秒後に消え、再召喚にはX時間必要。
SPD   :    サハギントライデント
レベルm半径内の対象全員を、装備した【トライデント】で自動的に攻撃し続ける。装備部位を他の目的に使うと解除。
WIZ   :    サハギンシュトローム
【信仰の力】によって【凄まじい豪雨】を降らせる事で、戦場全体が【水中】と同じ環境に変化する。[水中]に適応した者の行動成功率が上昇する。

イラスト:鉄砲水

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 広大な沼地は、日増しにその勢力を広げ、周囲の枯れた土壌を潤し、同時に飲み込んで、湿地の広まりはもはやその輪郭を曖昧にしてしまっている。
 だが同時に、それは呪いでもあった。
 いかなる水棲生物も、植物をも、飲み込んでは腐敗を及ぼして、ねばついたヘドロのような泥沼に作り替えていく。
 水を求める植物も、動物も、飲み込んで離さない。大地の一部として、そして、飲み込まれた者は腐敗ガスに意識を刈り取られ、呪われた大地そのものになるまで沈み込んでいく。
 だが水場には変わりない。
 それでも、飢えを癒すために動物が、植物が水場を求めてやってくる。
 この地が呪われた沼地に変わり果てたのは、いつの頃からか。
 この場所がドレイク族の血で染まり、サハギン族の死肉で埋め尽くされ、子供の泣く声も死肉を食らう羽虫どもの歓喜の歌声に押し流される地獄の光景を目にしてからか。
 夕日より赤く、血潮より黒く、動植物の憩いの水場は、多くの同胞たちの獣騎、その骸で穢れざるを得なくなった。
 沼地の最奥、岩場で組まれた洞窟のさらに奥に、嘗ての憩いの水場の最後の名残が、清い水を湧かせていた。
 今やそこにも、呪われたヘドロが迫りつつある。
 これらは、自分たちが大地を呪うために増え続けている。
 どうしてこの場所を、故郷を恨むことがあろうか。
 いいや、恨まずに居れようか。
 あの赤を、あの黒を、忘れよというのか。
 穏やかな時間は、あの美しいシュテーブルの緑は、確かにドレイクにいささかの癒しを、そして掛け替えのない友を生んだ。
 あれはいい男だ。この世界に得難い存在であろう。
 だがしかし、この恨みの矛先を、どこへ向ければいい。
 この世界を滅ぼしてもなお、この恨みは消えないのかもしれない。
 恨むべき相手は、もうこの世には居らぬのだ。
 いったいどこへ、この矛先を向ければいい。
「御屋形様……伝令が参りました。間もなく、我らの主戦場へと領主一行、到達するとの見込みです。ご出陣の準備を」
 透き通った水を育み続ける湧き水を前に瞑目していたドレイクのもとへ、サハギン族の者がやって来る。
 四肢を持ち直立する魚類としか言いようのない半魚人の百獣族は、手にした銛のような槍を立て、儀礼的な仕草で直立したままドレイクの返答を待つ。
「うむ、伝令をお返しした後、我らも備えるとしよう。狙うは、領主のみだが、一筋縄ではいくまい」
「やはり、キャメロットから援軍が?」
「……もっと厄介なものが来たかもしれぬな」
「では、我々が露払いと参りましょう。その合間に、御屋形様はご存分に」
「む……すまぬな」
 そうして洞窟を抜けると、そこには敬礼の姿勢のまま不動のサハギンたちが詰めていた。
 大儀そうにそれらの前に立ち、決意のもと一つとなった視線を一身に受け、ドレイクはそれら一つ一つを見やり、一つ嘆息する。
「これより、我らは魔に入る。誇り高きサハギン族と、我らドレイク族の恨みを、神聖なる決闘にて晴らすものである。無用な戦いは好かぬが、この怒りの正当さを疑う者は、よもやこの場には居るまい」
 そうして、その巌のような鱗は徐々に巨大なものに変じていき、キャバリアと呼ばれるロボット兵器の姿に似た獣騎を纏う。
『さあ、いざ征かん。我らが宿敵、ヘリオトロープの主、アルフレッド・リディンを討つのだ!』
『おおっ!!』
 歓声と共に、整然と居並ぶサハギン族も次々と獣騎を纏い、巨大化していく。
 
『すごいな、大地が揺れているようだ』
 朝焼けのような鮮やかな薄紫の装甲を帯びる、花の妖精を思わせるか細いシルエット。
 蜻蛉のような虹の光沢をもつ透き通った翅から花弁を捲き散らしながら、ヘリオトロープとその主、アルフレッドは、遠く相対する獣騎の群が挙げる鬨の声が空気を震わすのを感じる。
『おそらく、ドレイク殿は、私を直接狙ってくることでしょう……。どちらかの将を取れば、少なくともこの戦いは終わるわけですからね』
 数の利、地の利のいずれもが、相手に分がある。仮に領主の一団のみであれば、数に任せて蹂躙も可能だろう。
 しかし、それであっても、ドレイクは単騎で以て、アルフレッドを取りに来る。
 確信をもって考えられるのは、彼らが騎士のように神聖な儀式を信奉しているからだ。
 それに倣い、騎士道を育んできたアルフレッドもまた、同じ考えなのだ。
『皆様方は、どうかサハギン族から、同胞をお守りください。私は、彼の一騎打ちを受けねばならない……!』
 猟兵たちの中には、或は彼を制止するものもいたかもしれないが、それをも振り切って、アルフレッド駆るヘリオトロープは、一輪の花のようなものを手に、その宝石の花弁から光刃を作り、戦場へと身を投じていく。
『どうか御武運を!』
 先んじてドレイクとの一騎打ちに臨むアルフレッド。そして、その手前には、多くのサハギンの獣騎たちの姿があった。
 彼に加勢するつもりなら、まずはこの獣騎サハギンを倒さねばなるまい。
 戦場は彼らに有利な浅い泥沼。
 猟兵たちの手によって、多少は戦いやすく、そして見極めれば足場も確かであろう。
 また、シュテーブルの兵団も、僅かばかりだが獣騎に対抗するバリスタなどの援護が可能である。
 ただ、あまり過信するのは危険かもしれない。
ユリウス・リウィウス
ふん、頭は頭で一騎打ちか。それなら、俺たちは周りの露払いだ。行くぞ!

振るう剣の一太刀ごとに虚空斬の効果を乗せて、とにかく獣騎の当てやすいところを断ち切ってやる。やはり主に脚か?
敵が喚び出す巨大怪魚は、そのまま足場にしよう。「足場習熟」で次から次へ飛び移り、獣騎を間合いに捉える。
魚が消えてくれるなら好都合。一気に踏み込んで脚や下腹部を両断しよう。
邪魔な魚は斬り捨てるか。後ろの荘園領民を襲わせるわけにはいかん。

最初の魚の猛攻さえ凌ぎきれば何とかなりそうだな、なあ、おい。
さあ、獣騎どもも数が減ってきた。その|弩砲《バリスタ》も飾りじゃないんだろう? 一つ叩き込んでやってくれないか?


ヴィリー・フランツ
※【熟練操縦士】にて性能を底上げしたヘヴィタイフーンに搭乗
心情:来やがったな化物が、多少不利だが何時も通りだ、問題ない。
手段:連携・アドリブご自由に
「だぁ~、ノブレス・オブリージュだが知らんが、領主ならもう少し利己的になりやがれ、早死にしても知らんぞ!」
問題は奴等が使役する怪魚だ、アウル複合索敵システムの生体センサーに反応次第、持ってきたバラクーダガンの魚雷による遠距離、ファイアクラッカーによら爆雷代わり近距離戦に対応する、卑怯とは言うなよ?お前等が余計な物をけしかけなきゃダイナマイト漁なんぞ使わんのだがな。

奴等が正々堂々タイマンを張るなら、俺も今回はマチェーテとシールドを構えて対応する。



 鬨の声。
 そして、凶報を告げるがごとく、甲高い排出音と花弁を散らしながら領主の人造竜騎が光跡を引いて、巨人たちの人垣を飛び越えていく。
 それは、近代的な戦場を知る者にとっては、悪夢のように突飛な出来事であった。
 だってそれはそうだろう。指揮官が率先して先陣を切るところか、飛び越えていったのだから。
「だぁ~、ノブレス・オブリージュだが知らんが、領主ならもう少し利己的になりやがれ、早死にしても知らんぞ!」
 武運長久だけを残して、敵将のドレイクと切り結びに行ってしまった領主アルフレッドの行動は、ヴィリー・フランツにとってはとても褒められたものではない。
 だっておまえ、指揮官負けたら、こっちは撤退せざるを得ないんだぞ。一人で行くなよって話である。
 物腰の柔らかい、近代的な感性の持ち主かと思いきや、この世界のキャバリア乗りは、軒並み騎士の戦い方を叩き込まれるらしい。
 実際問題、物量戦に持ち込まれるより、大将同士で決着がつくなら日の目がある。
 ただしそれは、アルフレッドが猟兵ほどの使い手であればの話である。
 相手はオブリビオンと化した怪物である。
 獣騎に対抗して作り上げられた人造竜騎が強力とはいえ、彼がどこまでやるかどうかは未知数である。むしろ、不利であるという目算すら立てている。
 コクピットの中のヴィリーも、冷や汗で背中を濡らすほどの狼狽を滲ませるが、不測の事態は今に始まったことではない。
 幸いなことに、この世界において戦場に立つ者たちの精神性は、彼の知るものほど荒廃してはいなかった。
 誰も彼もが、突出するアルフレッド、ヘリオトロープの軌跡を目では追うものの、攻撃したり引き留めたりはしない。
 これが、騎士道バカどもの戦場というものか。
「ふん、頭は頭で一騎打ちか。それなら、俺たちは周りの露払いだ。行くぞ!」
 この場の戦場、その機の移りをつぶさに観測し、そして自然に対応した猟兵の一人、ユリウス・リウィウスは、領主の騎士道っぷりに呆れはしたものの、やりかねんとは思っていたのか、むしろこの状況に意気軒高と戦意を高める兵団と共に目の前の状況へと立ち向かう意志を見せる。
 おそらくそれが正しい。
 どう転んだところで、オブリビオンである獣騎を一機も逃すわけにはいかない。
 敷かれた鉄の道を、泥にまみれた即席橋脚の上を、陣取る兵団が展開するのを助けるように、甲冑姿のユリウスが泥沼に駆け出す。
 生身の彼にとって、この場所は膝辺りまで冷たい泥水が浸かるほどだが、それより深くは沈まない。おそらく、装備のお陰だろう。
「むっ! 下に何か居るのか!?」
 ずしん、ずしんと足音と小波を上げるサハギンたちの戦列にばかり目が行きがちだったが、繊細に足場を選んでいたユリウスだからこそ、最初に戦場に潜む別の動きをいち早く察知する。
 それらは、すぐさま泥沼の中を大きなうねりと共に揺るがし、水深の不安定な沼地の泥や水面など無関係に波を作り出し、ひときわ大きなうねりの中から反り出すかのようにその身を露にする。
『さあ、いざ征かん。我らが陣地よ、我らが同胞と共に! |大怪魚《リバイアサン》の加護ぞある!』
 獣騎サハギンらによって呼び出される巨大な怪魚の群れは、まさにこの沼地を独壇場として暴れまわる。
 生コンのようにまとわりつく粘性のヘドロのような沼地が、まるで生きているかのように波打ち、その中をもんどりうつ怪魚の影響で、常人ならばこの場所で立っているのもままなるまい。
「チィッ、あれの対応をしながら、魚人を倒すっていうのか。こっちのほうが重荷じゃあないか? なあ、おい」
 機を見て怪魚の背を足場にしてでもサハギンたちを取りに行こうと目するユリウスだが、まさしく水を得た魚の如き怪魚の動きは、この場の誰よりも速く感じる。
 やれやれ、手間がかかると思ったその時、
「来やがったな、とんだ化物だぜ。だが、こんなのはしょっちゅうよ。問題ない」
 ヴィリーのヘヴィタイフーンは、こんな状況にこそ生き生きとし始める。
 騎士同士の戦いとあっては、近代兵装の塊である重装キャバリアなんて場違いなんじゃないか。なんて思っていたが、【熟練操縦士】たるその経験と勘は冷静に戦場をキャバリアを通して捉える。
 肩部の『アウル複合索敵システム』に依るところ、戦場を引っ掻き回すのは大怪魚。なら、騎士の習いはいらんよな。
 とばかりに、無誘導魚雷発射機『バラクーダガン』を水中へ向かって放ち、続けざまに対キャバリア用時限式手りゅう弾『ファイアクラッカー』を放っていく。
 沼地に派手な水柱がいくつも上がり、のたうつ怪魚が目を回し、その巨体を水面に晒す。
「卑怯とは言うなよ? こんなもんけしかけなきゃ、ダイナマイト漁なんぞ思いついてもやらんのだぜ」
『ぬう! 我らがリバイアサンが!?』
「足場ができた! |弩砲《バリスタ》を頼む。援護してくれ!」
「──心得ました!!」
 耳をつんざく爆発音。戦場が思わず張り裂けそうな緊張と耳鳴りが麻痺させてしまうが、ユリウスの大声が兵団たちの耳朶を打つ。
 牛数頭をくし刺しにできそうなほどの巨大な矢をつがえたバリスタが、戦場に弧線を描く。
 それに混じり、ユリウスが駆ける。
 足場と称したのは、今しがた水面に浮かぶ板金鎧めいた鱗を持つ怪魚の胴である。
「相手が大物であろうと、動きは騎士のそれだ……斬れぬ道理はない──!」
 駆けながら抜き放つ、二刀一対の黒剣、『|生命喰らい《ライフイーター》』『|魂魄吸い《ソウルサッカー》』から振るわれる剣圧、呪われた剣による禍々しい剣気が、体格差をものともせず、獣騎の装甲を斬る。
 【虚空斬】。その鋭い斬撃に足を取られ、膝をついたところを、瞬く間に二の太刀で斬り裂かれ、取られる。
『見事なり! 我らもサハギンの誉れとなろう!』
「どいつもこいつも、暑苦しい連中だ……」
 称賛しつつも嬌声を上げて銛を振るうサハギンの戦士たち。
 複数の利をとりながらも、ユリウスの背後から斬りかかるような真似はしない。
 そのクソ真面目っぷりに感化されたわけではない。
 訳ではないが、ヘヴィタイフーンは撃ち尽くした魚雷発射機を投げ捨て、シールドとマチェーテを取り出し構える。
 高周波振動を利用し加熱溶断を可能とする山刀型近接武器だが、重火器に比べると、どちらかと言えば補助的な装備と言わざるを得ない。
「付き合ってやるぜ。俺だって、チャンバラができない訳じゃないってところを、たまには見せてやらんとな」
 泥中に突っ込んでいく鉄騎が、唸りを上げる。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

結城・有栖
どうも、援軍に来ましたよ。
…呪いの沼地とは、少し厄介です?

「まあ、飛べば沼地も大丈夫ダヨ。
この世界なら、トラウムも自由に飛べるしネ」

そうですね。では、行くとしましょうか。

今回はトラウムに搭乗して出撃。
沼地に注意して【操縦】し、シュトルムで飛んでいきます。

まずはシュトルムを使った烈風一閃の【斬撃波】を放って【先制攻撃】です。
敵の攻撃は【野生の勘で見切り】、展開したレイニィブルーの【オーラ防御】や、軌跡に残った竜巻を盾にして対処。

更に【追撃】で竜巻を飛ばし、敵を巻き込んだ【範囲攻撃】を行い、足止め。
竜巻で敵の攻撃が止まった隙に、レイニィブルーの雷の【属性攻撃】を付与した砲撃で攻撃です。



 どうやらこの沼地の呪いは、根が深い。
 おそらくはこの水場を住処としていた百獣族が、この地を呪わざるを得ないほどに、凄惨な出来事があったのだ。
 以来、この沼地は周囲を飲み込み、草木を腐らせ、動物を咥え込み、おびただしい腐敗ガスが死を呼んだ。
 腐敗と発酵は、人体にとって有用かそうでないかの違いでしかない。
 動植物の腐敗し、還元された泥炭は、火のつく泥とも言われ、乾燥させれば燃料にもなるし、古くは鉄を抽出したとも言われているほど素材の宝庫でもあるのだが、その過程は必ずしも安全ではない。
 今のこの沼地、現在に至ってもなお、周囲を飲み込み湿地を広げ続けているこの沼地は、人体にとって有毒なガスを吐き出し続け、やがてはシュテーブルにも至るやもしれない。
『うおおおっ、今ぞ、我ら積年の恨みを晴らす時! この怒りを、拳の振り下ろす時である! 覚悟ォッ!!』
 今や沼地は主戦場。
 この地に呪いを振りまく張本人たちが、恨みを晴らすべき人類を招き入れ、向けどころを失った怒りをぶつける時。
 その怒りは正当。しかしながら、彼らに残虐を働いた人間たちは、はるか昔の人類に過ぎない。
 道理を介する百獣族とて、それを理解していない訳でもない。
 親の恨みが子に報いとはいうが、己の一族に降りかかった不幸を、大地を、呪わずに居られぬ気持ちは、この空気を震わす戦士たちの鬨の声が知らせていた。
「だがしかし、我々も、今やこの大地に生きる也! お怒りご尤も、なれど、死してはやれぬ!」
 怒号と共に領主の兵団が、一斉に矢を射る。
 体格の違う獣騎に直接斬りかかるほどの技量も装備も無い兵団の主兵装は、弓や弩、そして対キャバリア用のバリスタであった。
 無論、そんなものがオブリビオンと化した獣騎には、ほとんど有効打を与えることはなく、狂奔する5メートルの巨人たちの進行は止まらない。
 肉薄され、その手に持つ銛を一薙ぎでもすれば、兵団の戦列は簡単に崩壊するだろう。
 ──だが、そこへ、一陣の暴風が、淀む腐臭を吹き飛ばし、緑の薫りを連れてくる。
「どうも、援軍に来ましたよ」
 事も無げに、風の起こりほど厳めしくもなく、凪いだような口ぶりと共に、魔女のようなシルエットを持つ人造竜騎──いや、キャバリアが風と共にやって来る。
 結城・有栖(狼の旅人・f34711)の駆るトラウムは、その浮遊システムを兼ねる風の魔力『シュトゥルムシステム』による風を纏い、凛然と兵団の前に立ちはだかる。
 槍のように長大な傘を模したキャノン砲を下げる仕草はいっそ優雅ですらあったが、
「……呪いの沼地とは、少し厄介です?」
『まあ、飛べば沼地も大丈夫ダヨ。
 この世界なら、トラウムも自由に飛べるしネ』
「そうですね。では、行くとしましょう、オオカミさん」
 オウガブラッドである有栖の脳裏には、常に狂暴なオウガが住まう。
 ただ、彼女の内側に生きているその性分はいくらか穏やかであり、嫋やかな薫風を思わせるその言葉は常に有栖を導き、助言をくれる。
 もしかしたら宿主を危機から逃れさせるための方便かもしれない。
 たとえそうだとしても、有栖は心の中に吹き抜けるその息吹を、嫌ったことはない。
『ぬうう……援軍か。風の魔女とは、厄介であるぞ……! しかし、最早止まれはせん。我らが進む道は決まっている』
 突然来訪したトラウムの姿に警戒の色を見せるサハギンの獣騎たち。しかしながら、その姿を観察する目線はやはり長年、決闘を介していくつもの種族と戦いを交わしてきた者たちのそれであった。
 魔法を使わば、その影響が及ぶ前に、自陣へ引き込み優位を取るのみ。
 ここは魚人の領域。その優位性は高い。
 そんなものは、有栖とてわかっている。
 ぎり、と魚人の戦士たちが銛を握るのを見据え、まだ間合いの外である内に、トラウムは加速する。
 内なるオウガ、オオカミさんの秘めたる獣性。荒れ狂う暴風のような激しい気性が、シュトゥルムシステムの纏う風の密度を高度に押し上げていく。
 【魔獣戦技・烈風一閃】暴風を纏い、一陣の烈風へと化すトラウムの機体速度は音速の領域へ達するのに一秒とかからない。
 そして、烈風を纏う機体は、その機動力そのものが武器である。
『むおっ!?』
 鋭角に切り込むトラウムの描いた軌跡が、そのまま斬撃波となってサハギンの一体を斬り裂く。
『しまった、速いぞ! 投擲にて動きを封じよ!』
「ブレーキを」
『あいヨー!』
 突撃から角度を変えて飛び上がるトラウムを辛うじてとらえたサハギンが、手にした銛を擲ってくるが、空中制動を兼ねたエアブレーキの様に後方へ掲げた傘のようなキャノン『レイニィブルー』の砲身が展開。
 そもそも傘としてのデザインから外れない防御膜にも風のオーラを纏い、正確に投げつけられる銛の狙いを逸らし、回避する。
 その間にも吹き抜けた刃の如き烈風は戦場にいくつもの竜巻を生じ、戦場の抉り取られた風の合間を埋めるかのように、浮き上がったトラウムを追いかけるように竜巻たちが寄ってくる。
 泥を捲き上げる黒く濁った竜巻が、予想外にサハギンたちの視界を奪う。
『くうっ、風がまとわりつく!? どこへ行った!?』
「レイニィブルー、アクティブ」
 想像魔術の銃弾を使うキャノン砲、その本来の役割として用いるべく、くびれた銃把を握れば、砲口から迸るのは雷の魔力を込めた銃弾であった。
 真水の導電性は意外なほど低いが、しかしながら、この地の泥はあいにくと不純物が多い。
 ほとんどは大地に逃れるだろうが、竜巻の渦中にあるサハギンたちは、その雷撃の導線の上にいるのに違いなく、水気を帯びた泥竜巻は大気摩擦と水気がむしろ電流を呼び込むに都合がよかった。
『ぐおおっ!?』
 乱気流に、竜を幻視するかのように、激しい輝きが帯の様に周囲を照らした。
 後に残ったのは、吹き抜ける焦げ臭い風と、崩れ落ちた鉄巨人たち。そして、空に佇むままの魔女の面影であった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トラスト・レッドライダー
向こう見ずな領主だな。その直向きさは、好ましいが。
……貴方達を見縊る気はないが、彼を死なす訳にはいかない。
いくぞ。

【肉体改造】『海征の神化』亡国の主と融合し海神に変身。
泥水を手鰭と【怪力】で掻き、泥水流を放ち獣騎サハギンの機動を抑え、
【推力移動】自身も泥水流に乗って接近、水棲特攻の三叉槍を振るい獣騎サハギンを【切断】

怖気づく者は、居ないか。それでいい。
その怒り、思いを、俺にぶつけてこい。

【神罰念動力】泥水流を支配し、地の利は覆した。
獣騎サハギン達を【戦闘知識】と怪力、三叉槍で【なぎ払い】
【早業】で巨大怪魚の隙を突いて三叉槍を突き立て、
向かってくる者達一騎残さず、正面から討ち倒して進もう。



 波濤のような音が聞こえる。
 それが、黒く濁る沼地を戦場とした獣騎サハギン達の進軍の足音であった。
 おぞましい者たちが来る。
 水底からやって来る得体の知れなさが、人々の恐怖を想起させる。
 恐怖と暴力。それが、音を伴ってやってくる。
 されど、領主の兵団は、恐れども退くことはできないし、できるなら前のめりに倒れるべく迎え撃つ陣形を取る。
 何故ならば、彼等の見送る空には、花弁を散らしながら光跡を引いて飛ぶ領主の、そしてシュテーブルの荘園を象徴する人造竜騎の勇姿があったからだ。
 あれを目にして、彼を慕う者たちが退けるはずがなかった。
 先陣を切る指揮官。それに鼓舞されぬ騎士はもぐりであろう。
「向こう見ずな領主だな。その直向きさは、好ましいが。
 ……貴方達を見縊る気はないが、彼を死なす訳にはいかない。
 いくぞ」
 トラスト・レッドライダーもまた、アルフレッドの行動に苦言を投げつつも、彼の勇気と決断には晴れやかなものを感じた。
 この少数の兵団では、サハギンの戦士たちとドレイクを正面方相手取ることは不可能であろう。
 命を捨てる覚悟でついてきた忠臣たちの生きる道を模索するべく、アルフレッドは最も被害の出ないであろう決断をしたのだ。
 勝ち筋の薄い戦いの中で、己の能力、勢力を過信してもなお足りぬ状況で、なおも前に進む道を。
 馬鹿馬鹿しい程のひたむきさ。思わず、手を差し伸べてしまいたくなる。
 精霊があの領主に魅せられて人造竜騎の操縦者に選んだ理由も、その辺りなのだろうか。
 わからぬ話ではない。が、今は、ドレイクとの一騎打ちに臨んだアルフレッドに追いつくべく、波濤の如き魚人の獣騎をどうにかせねばなるまい。
「征こう、亡国の主よ。この地に相応しい姿で以て──変身」
 ユミルの子、ジャイアントキャバリアとの融合係数を上昇、トラストは巨人との一体化を果たす。
 国を治めるは王なれば、手の伸ばして征服するもまた王なり。
 望むままに手を足を延ばして、山も海も抱きかかえる様は、神に迫る横暴である。
 【海征の神化】により、骨竜のような亡国の主は、この泥沼に適応した海を統べる神のような、鰭を有し三又槍を持つ姿に変身する。
 その姿になったトラストは、淀んだ泥沼の流れをも操る。
 うねる水流、剣呑な切っ先を持つ槍の放つ威容、その恐るべき姿は、水棲の百獣族にとって恐ろしい気配を感じずにはいられない。
 しかしながら、彼らの怒り、恨み、そして誇り高き決闘への意志が、サハギンたちの足を止めることを許さない。
『恐ろしい姿よ、異界の騎士よ。なれど、我らは止まることが出来ぬ……!』
『ああ、恐ろしい。なればこそ、我らが退くことなどできぬ。命を賭して戦わぬことは、死より恐ろしい』
 それがサハギンの戦士たちにとって致命的な威力を持つことを、見て悟り。それを解りながらも、彼らは大怪魚『リバイアサン』の使役により、流れに乗って、その甲冑のような堅固な鱗を持つ怪魚にすら跨って、トラストへと立ち向かう。
「怖気づく者は、居ないか。それでいい。
 その怒り、思いを、俺にぶつけてこい」
 水棲の獣たちは、恐れを知らぬ。
 過酷な環境に適応し、食らいあうのが日常だからだ。
 いや、たとえ恐れを覚えたところで、そこにあるのは身一つ。前に進む以外に道はない。
 もはやどこが足場だか、それすらもわからない。大海原を思わせるほど、大地は、黒く染まるヘドロの沼地は大きく波打ち、自由自在に潜航し進行する巨大怪魚と──、そして海神と化したトラストは渦を巻くように、磁力でもあるかのように引き寄せられていく。
『だが、感謝もしているのだ。よくぞ、素晴らしき強敵を寄越してくれた!』
 正面に壁でもできたかのような、大波が立ち、次の瞬間にはそれが逆に大きな溝と化し、次第にうねりは大きく、水流は沼地の中にすり鉢のような大渦を作り出し、水底に向かうような螺旋に乗る巨人たちが、歓喜と嬌声を上げていた。
「──ッ!!」
 波濤がぶつかり合い、飛沫が白く弾ける時、波の音が幾重にも重なった暴力の音色に、鉄騎の交錯する硬質な何かがひしゃげるような音が波間に引きずり込まれ、二度と上がってこなくなる。
 水流を制した海神、トラストの手にする三又槍がサハギンを薙ぎ払い、怪魚の眉間を貫いた。
『ヌウッ……見事……こんな、戦いを、待っていた……ッ!!』
 突き刺した怪魚をいなすかのように振り払い、その巨体が宙に放られる姿を見送りながら、両断され目の光を失いつつ泡を吹くサハギンの戦士は、
 ひどく満足そうに渦の中へと消えていくのだった。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェラルディン・ホワイトストーン
アドリブ連携歓迎

来たな。
オーライ、アルフレッドさん。アンタの武運を祈るよ。
なに、相手の手勢を倒したらすぐに駆け付けるさ。
猟兵たちが加勢するんだ。油断は禁物だが……やれるとも!

行くぜ、サハギン!
ジェラルディン・ホワイトストーン、出る!
竜騎のフライトデバイスで飛行状態を維持して、先んじて用意していた斬刃林山の刃を利用した戦法を打たせてもらう。
すなわち……クライシスゾーン!
兵団の足場になっていない、敵側の無機物を超次元の竜巻に変換して、攻撃手段に転用する。
奴等が凄まじい豪雨を降らせるってんなら、こっちは激しい嵐で吹き飛ばす!
竜巻の中でいくつか刃の状態に戻せば、切削能力もある訳だ。
ガンガンやろうぜ!



『御屋形様の戦いを邪魔する無粋はすまい……』
 ざわざわと波音を立てて歩む獣騎サハギンの戦士たち。
 その目上を飛行して飛び越えていく領主アルフレッドの人造竜騎を迎撃するでもなく見送りつつ、己らは柔らかく沈み込むはずの泥沼の足場に銛の石突をついて打ち鳴らす。
 何かの儀式なのだろうか。
 飛沫を生むざぶざぶという音と、大地を打つ鼓動のような音が規則的で、数が揃うと何かを呼んでいるかのようにも感じた。
 不穏に思いながらも、残された猟兵たちは彼らを倒さぬことには、ドレイクとアルフレッドの戦いに介入することはできない。
 無茶をする領主ではあるが、一人先駆けるその行動力はあまりにも勇猛果敢な騎士そのものだろう。
「来たな。
 オーライ、アルフレッドさん。アンタの武運を祈るよ。
 なに、相手の手勢を倒したらすぐに駆け付けるさ。
 猟兵たちが加勢するんだ。油断は禁物だが……やれるとも!」
 数の揃った獣騎たち。その規模は、さしもの猟兵とて気圧されるものがある。
 異様な儀式めいた謎の動きも得体が知れない。
 若き魔術使いの胸中には、未知に対する不安も湧き上がる。
 だが、味方も、他の猟兵たちも見事な戦いぶりを見せた。
 負けやしない。
『おお、ゆくぞ! 我らが眷属の思いのままに! 戦いを! 戦いを!』
 戦いに対する儀式なのか、意気を高める声をそろえる様は、意志の統一が目的なのか。それとも……。
「行くぜ、サハギン!
 ジェラルディン・ホワイトストーン、出る!」
 新緑を思わせる妖精を模した人造竜騎が蝶の翅のようなフライトデバイスを展開、鱗粉のような魔力光を散らしながら飛び上がると、すぐさま銛を打ち鳴らすサハギンの一団を眼下に捉える。
 飛行能力が一般的に備えられている人造竜騎からすれば、水棲の獣を恐れる事はない。
 多くの戦況に際し、上方を制したものが優位に立つのだ。
 上を取るものの奇襲は、防ぐ手立てが少ない筈。
 そう思って飛び上がったジェラルディンだが、胸中に渦巻く不安はなんだろう。
 そんな折、ふと飛翔する人造竜騎メルセデスの装甲を、こつこつと打つ音が聞こえる。
 攻撃ではない。攻撃ではないが、それらは、次第に数を増やし、ざらざらと無数に耳朶を打つ。
「雨音……雨乞いか!」
 自分の声すらわずかに届きにくく感じる程の、それは即座に激しい雨となって、飛び上がったメルセデスはおろか、戦場に降り注いだ。
 先ほどからサハギンたちが行っていたのは、雨を呼ぶ儀式。この豪雨を呼び寄せるためのものであった。
 しかし、それで何を、と疑問に思ったのも束の間、こちらを見たサハギンの獣騎がゆらりと雨の尾を引いたかと思えば、雨粒の中を這うかのように空を泳ぎ、あっという間にメルセデスのいる空中にまで肉薄したではないか。
「くっ!?」
 振るわれた銛を辛うじてアイスレイピアでいなすものの、空中制動は思うように働かない。
 フライトデバイスの出力が落ちたか? いや、この激しい豪雨の中で、飛行の為の揚力を生む魔力がうまく作用していない。
 この雨自体が、彼らの魔力であり、空域に干渉する力が強いのだろう。
 現に、空を飛ばぬ筈のサハギンは空を泳ぎ、こちらに組み付かんとしているのだ。
 上方の優位を取ったつもりが、まるで水中でおぼれているかのような錯覚を覚える。
『今やこの空域は、我らが領土。空の優位は役に立たぬと思うがいい!』
「なるほどな。この空に至るまで、おたくらのホームってわけだ! けど、こっちも攻める側さ。用意はしてんだよ!」
 空中での斬り合いだというのに、機体が何か抵抗のあるものの中を通っているかのように重く鈍く感じる。
 だが、仕掛けをしていたのは本拠地の彼等だけではない。
 ちらと地表を見る。
 この豪雨の中で、領主の兵団は、猟兵たちが敷いた仮組の足場などを用いて奮戦している。
 その中には、ジェラルディンの【斬刃林山】で作り上げた鋼鉄の刃でできた陸地もあった。
 剣の峰ならば斬れぬとばかりに、頑丈な足場として利用されているほか、槍衾の様に展開する物騒な部分は使われていない。
 それこそが、彼女の用意した策の一つ。
「お前らが豪雨を呼んだって言うなら、こっちは嵐を呼んで吹っ飛ばす! 【クライシスゾーン】!」
 滝のように降りしきる豪雨に打ちのめされるかのように落下する、と見せかけてユーベルコードを発現。
 刃の様に切り立った出来損ないのパインコーンの如き刃の丘を、超次元の竜巻に変換する。
 一つ一つは小さな雨粒。だからこそ、広範囲に及ぶ竜巻が、慣性を作り出し、円運動から周囲に散らしていく。
 大規模な気圧の変化の中で目を回しそうになるが、それでも風の流れを感じ取れるようになると、暴風の最中にメルセデスは制動を取り戻す。
『ぬうっ、我らが領土を、引き剥がすか! だが、それに手いっぱいであれば!』
「この嵐が何で出来てるか、もう忘れたかい!?」
『うおおっ!?』
 空中に投げ出されたサハギンは、尚も諦めず、嵐を呼び寄せたジェラルディンを見定め飛び込んでくるが、次元竜巻は、天然自然の現象を呼び寄せたものではなく、無機物を変換して作り出したもの。
 その術を解いた時、暴風と化していた風は無数の刃に戻る。
 雨粒を吹き飛ばし、高速で待っていた風は、その勢いのままに無数の刃となって迫りくるサハギンに襲い掛かった。
 すかさず、トドメの一撃を加えてやると、ぼろぼろに傷ついた獣騎の身体から力が抜けるのを感じ取る。
「さあ、ガンガン行こうぜ!」
 追い風に乗ったメルセデスの背を、雲の切れ間から差し込む陽光が照らす。
 文字通り、風向きが変わったのを見た。
 そうして、程なくして、サハギンの戦士たちは、領主の兵団と、多くは猟兵たちの手によって一人残らず討ち果たされていった。
 無念のままに倒れた筈のサハギンの亡骸。
 沼地に沈みゆくその面持ちは、どういうわけか満足そうであったという。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 ボス戦 『獣騎ドレイク』

POW   :    竜爪猛襲脚
【強靭な脚力を活かした目にも止まらぬ爪撃】で装甲を破り、【鞭のような靭やかさを持つ竜の尻尾】でダウンさせ、【急所を狙い澄ました突き刺し】でとどめを刺す連続攻撃を行う。
SPD   :    変竜裂破
回避力5倍の【獣の如き俊敏なる地竜】形態か、攻撃対象数5倍の【拳士】形態に変形し、レベル×100km/hで飛翔する。
WIZ   :    翼刃閃
【退化した竜翼を象った肘の翼刃】で虚空を薙いだ地点から、任意のタイミングで、切断力を持ち敵に向かって飛ぶ【真空波】を射出できる。

イラスト:純志

👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主は💠サブリナ・カッツェンです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


 沼地を見る前は晴れていた空が、一度は曇り、雨が降り。
 そして、再び雲の切れ間から陽光が差す。
 その頃には、もはや波濤にも似たサハギン達の足音は、もうどこにも聞こえなくなっていた。
 しかしながら、そんなことなどお構いなしに、剣戟のような激しいぶつかり合いが、沼地奥の岩場を支配していた。
 一人の獣騎と、一騎の人造竜騎とが、刃を交え、時すら忘れて競り合っていた。
 乾いた土、或は象牙を切り出して磨き上げたかのような、この世界では伝説とされている竜に似ているという地竜、ドレイク。
 その堅固な鱗と、空を飛ばぬようになって久しく、重たく退化してしまった肘の刃翼。鋭い尾。長く尖った爪など、ありとあらゆる部位が戦いのための武器であった。
 対する人造の竜騎、妖精を模したかのような薄紫と、虹の光沢をもつガラスのような蜻蛉の翅。
 太陽を向くという言葉をルーツに持つヘリオトロープの名を冠した巨大なる騎士は、光り輝く光刃を発する剣を片手に、素早く堅固なドレイクの甲冑を斬らんとするのだが。
 しかしながら、超高熱の刃で以てしても、岩塊のような鎧を貫くことはできない。
 いなし方がうまいのか、それともただ単に守りが固いのか。
 いずれにせよ、長い戦いの歴史を持つ獣騎の戦い方は巧みであり、若く騎士としても領主としても未熟さを見せるアルフレッドの技は、彼の者に届かぬようだ。
 いや、それでも善戦していると言えよう。
 アルフレッドは雑念を捨てて、自身が学んだ技を頼りに、ひたすらに食らいつくしかなかった。
 空を飛んでの急襲、かく乱など、人の身では到底できない芸当は使わない。
 それらに移行した瞬間、技の繋ぎに生じた隙を突かれて、あっという間に畳み込まれる未来しか見えなかった。
 故に、武装に頼らず、鎧に頼らず、己が学んだ技を中心に、片手に持つ剣のみでぶつかるのが最善手としたのである。
『どうした。得意の空中戦で翻弄して見せよ』
「私にはどうやら、これくらいしか対抗する術がないのです。それに、飛べぬわけではないのでしょう?」
『試してみればどうだ。この身が、精霊の愛でる乗機に追いつけぬかどうか。このままでは埒が明くまい』
「確かに……私一人ならば!」
『ほう!』
 がぁん、と激しい衝突音と共に、迸る光刃の飛沫のような光の粒子と、ドレイクの鋭い爪とが火花を上げ、距離が空く。
 激しくぶつかり合う時節はいったん通り過ぎ、一足飛びの間合いの中で、今度はにらみ合いが始まる。
 びりびりと、空気が張り詰め、物理的に質量でも持ったかのような重みすら感じる。
『なあ、アルフレッド。我らは、今こそ充足しているのだ。命を燃やすに相応しい、このひと時に。貴公と軒先で語らうひと時も、それはそれで穏やかなものだったが……やはり、こうでなくては!』
「私は……! できることならば、あのひと時に戻りたく思います」
 張り詰めた空気の中、ふとドレイクの気配が緩んだように見えた。
 絶好の機会。と思いはしたが、腑抜けているのは自分も同じと悟った時、危うく剣を握りなおすと、対峙するドレイクは首を振っていた。
『それが出来ぬことは、よくわかっておろう。騎士の誓いを結んだ以上、それを果たさぬとは申さぬだろうよ。そうだな?』
「……私が、甘くございました。キイチゴのジャムの様に」
『ふ……君に会えて、とても光栄だった』
 穏やかな時間は、二度とは戻らぬ。
 それを示すかのように、露になる凄絶な決意と勝負に臨む者の鬼気迫る気配が、好々爺然とした面影を覆いつくす。
 歴戦の戦士。それを感じさせる凄味。よもや、成り行きで騎士となった若者にはとうてい立ち行かぬ威圧感であった。
 しかしながら、アルフレッドには立ち向かわねばならぬ理由がある。
 領主として、騎士として、友として。
 心優しさに、今だけは蓋をして、気弱に鞭を打ち、ヘリオトロープは剣を構える。
 その背には陽光と、そして──、
 自らを慕ってくれる兵団が応援に駆け付ける声援。
 それから、この地に馳せ参じてくれた猟兵たちの姿があった。
 風に花弁が舞う。
 わずかに鼻腔を擽るその薫りを、彼の者の手向けとせよ。
ユリウス・リウィウス
全く、不器用な連中だよなあ、なあ、おい。
それを言えば俺もか。屍術師としての術を使えば有利に立ち回れるのに、わざわざ騎士として戦場に乗り込もうってんだからなあ。

ドレイクの得手は速さだ。故に下手に突っ込めん。
俺を狙う機を「気配感知」して「勝負勘」で「見切り」、「カウンター」での双剣撃狙い。「生命力吸収」と「精神攻撃」で対抗できるか?
手脚や尻尾の一本でも切り落とせれば上等だろうな。
まあ、打撃を喰らっても「通常攻撃無効」でどうにかするわけだが。

はは、お互い決めて無しじゃないか? この戦いの中の闘争心こそ最上。もっとだ、もっとやり合おうぜ、ドレイクの旦那。
ああ、主役は領主様だったな。存分に暴れるといい。



 残すところ、敵の数は一。
 この沼地を住処とするオブリビオン、いや、獣騎は、もはやドレイクただ一人となった。
 足場の悪い沼地の最奥には、あちこちと突き出た岩場も目立ち始めた。
 草木が生えても、すぐに沼地に呑まれて腐って溶けていく暗鬱とした空気はそのままだが、壮烈たる戦いの空気が、その場の腐った空気など押し流してしまうかのようだった。
 領主の人造竜騎と、そしてドレイクの獣騎は間合いを取ってにらみ合う。
 いや、今までよりも強く激しい気配がややアルフレッドを気迫で押しているようにも感じる。
 もはや若造の出る幕ではないとでも言っているのか。
 それでもなお、アルフレッドは騎士であるがゆえに立ち向かい、引き下がる様子はない。
 戦場では、引き際を見誤れば死ぬ。
 このままでは、哀れ領主はその意地によって首を取られてしまうだろう。
 だが、引き下がれぬ気持ちも……、ユリウス・リウィウスには解ってしまう。
「全く、不器用な連中だよなあ、なあ、おい」
 淀んだ水面に緩やかな波紋が浮かんでは、泥の粘度に吸われて不格好な音を立てて、人一人分の足音が、神妙不可侵たる騎士の戦いに介入せんと横槍を立てる。
 相手は確かに強敵。しかしただの一人。
 黒騎士であるとともに死霊術士でもあるユリウスには、物量作戦という手もある。
 事を有利に運ぶために、合理的な戦術をもたらす思考が首をもたげるが、それを振り払うように無精ひげに影を落とすような疲れた装いの首が横に振れる。
 不器用なのは、自分も同じだ。
 そんなものを、無粋と感じて一考だにしないなど、生き抜くために戦ってきたこれまでの苦難の道が嘘のようだ。
 いや、馬鹿馬鹿しい程の騎士道を目の当たりにしたからこそ、敢えて歩んだ騎士崩れの苦難が報われるような気がしたのかもしれない。
 結局のところ、汚れ仕事を請け負っていた騎士時代を疎んじながら捨てられずに名乗るなど、答えを言っているようなもの。
『乱入してくるとは、とんでもない奴だ』
「礼儀知らずの騎士崩れなもんでな。本物の騎士はそこに居るやつで十分じゃないのか? なあ、ドレイクの旦那よ」
『なんの、獣騎を前に剣を抜いて戦おうというのだ。貴公もまた、騎士なのだろう。違いはせぬ』
 一笑に付し、改めて両腰の黒剣を抜くユリウスの肩は、妙に軽い。
 真正面から向き合う地竜の如き者から、その背を貫通するかのように見据えられ、騎士と呼ばれる。
 それは存外に、ユリウスにとって悪い気分ではなかった。
 体格差に加え、ドレイクの全身を覆う装甲は岩石を磨き上げて鋼でも露出したかのような、奇妙だがきわめて頑丈そうな堅殻。
 徒手とも、長剣とも取れるような長く鋭い爪はもとより、肘から伸びる退化した翼も刃のように鋭く、長い尾に至るまで鋭い刃が備えている。
 重厚そうでありながら、そのフットワークは軽く、下手に踏み込めば出所が無数に見えるほどの俊敏さで迎えられるだろう。
 接近戦など、挑むべきではない。
 だというのに、高揚する気持ちを抑えきれない。
『逸るな。隙になろうぞ』
「むっ──!?」
 ドレイクの足元の泥濘が爆ぜた。と思った瞬間には、その巨体が滑るように肉薄していた。
 真っ向、ほぼ真上から地竜の鋭い爪が窄められ、馬上槍の如く打ち下ろされてくるのが見えた。
 体重の乗ったそれを剣で受けるなど不可能だ。
 しかし下がれば、続けざまに連撃をもらう羽目になる。
 かといって受け流していなそうにも、肘の刃翼をもろに受けてしまうことになる。
 恐れてはならない。相手は巨大で、その質量のくせに獣の俊敏性を持っている。
 だが、獣とて必殺の飛び込みは仕留めにかかるため、前傾にならざるを得ない。
「前だ!」
『なんと』
 身を引くく、敢えて相手の足元に潜り込むようにして真正面から回り込む。
 体格差があるからこその、僅かばかりの隙。
 泥まみれにはなったが、ユリウスはドレイクの突撃をやり過ごし背後に回──、
 るとともに、耳に泥の音とは別に風を切る音を聞き逃さず、振るわれた刃尾を今度こそ黒剣で受け流した。
 そして今度こそ、攻撃後の隙とやらを完璧に返す。
「二刀一対は伊達じゃない。二にして一──、喰らってもらうぞ」
 魂を食らい、血を啜る双剣による【双剣撃】。二刀一閃、その残光がドレイクの装甲へ喰らい付いた手ごたえは確かにあり、その生命を喰らう感触も返ってきた。
 だが、直後にユリウスは身体をくの字に曲げて吹き飛ばされていた。
「ふ、くっ……くくく、ぶはっ!」
『ふふふ、仕留めきれなんだとは……完全に入ったと思ったが、何か仕掛けがあるようだ』
 泥の中から何事も無かったかのように起き上がるユリウスへ向かい、ドレイクは嬉しげに笑う。
 ユリウスもまた、完璧にカウンターを叩き込んだと思ったら、その打ち終わりをさらにカウンターで蹴飛ばされるとは思わなかったらしく、体中が泥まみれになっても構うことなく肩を揺らして口に入った泥を吐き出しながら笑う。
 相手のユーベルコード由来の技でなければ、ある程度無効化する術をあらかじめ備えていたとはいえ、キャバリアサイズの相手に蹴飛ばされて、そのまま立っているのはいくらなんでも無理があった。
 とはいえ、蹴飛ばされた程度では何ともないらしい。
 対して、ドレイクの片腕、肘の付け根と長い爪のいくつかを持っていき、損傷を与える事には成功した。
 いや、これは損傷と言えるのか?
「はは、お互い決めて無しじゃないか? この戦いの中の闘争心こそ最上。もっとだ、もっとやり合おうぜ、ドレイクの旦那」
『ユリウス殿。ただの御仁ではないとはいえ、無茶が過ぎます!』
「ああ、あんたもいたな、領主様。存分に暴れるといい」
『言われなくとも!』
 三半規管がおかしくなりそうなアトラクションに乗ったような気分だが、そんなものは、この戦いの中で血の沸騰を促進させる一要素に過ぎない。
 華やかなる領主の人造竜騎も、もはやその壮麗さを見失いかねないほど泥まみれだ。
 冷たい泥の記憶は、きっといつまでも忘れぬことだろう。
 しかし、この血の沸騰もまた、忘れがたき戦場だ。

大成功 🔵​🔵​🔵​

結城・有栖
一騎打ちの所悪いですが、加勢しますよ。

「騎士ではなく、魔女の加勢だけどネ」

なら、魔女らしく、正々堂々行きますよ。

今回はトラウムに搭乗して出撃。
沼地に注意して【操縦】し、シュトゥルムで飛んでいきます。

まずは相手の攻撃を【野生の勘で見切り】、ファントムの【残像や、空中機動】を駆使して回避しつつ、飛び回って撹乱です。
避けきれない攻撃はレイニィブルーの【オーラ防御】で防御。

撹乱しつつ、シュトゥルムの風で敵の周りに竜巻を起こして足止め。
その間に、炎の魔鳥さんを呼び、合体させて竜巻に突っ込ませ、【追撃】です。
装甲が厚くても、熱は防げないでしょう。更に風で炎を煽って火力を上げます。



 雨雲も晴れ、厚く集っていた雲の切れ間から陽光がカーテンのように差してくる。
 爽やかな天気の移り変わりの中で、沼地の空気は相変わらず腐り落ちた何もかものお陰で腐臭を立ちこめている。
 しかしながら、対峙する騎士と獣騎の作り出す空気は、どこか厳かなものであった。
 若き領主はどうやら劣勢。
 思えばこの戦い、最初から数の面で圧倒され、猟兵たちの助けもあって今や数の優位ですら勝っているにもかかわらず、その存在感は相変わらず劣勢を強いるものだった。
 真っ当に立ち合えている状況が稀有であったのかもしれない。
 なにしろ、この世界には騎士道がある。
 野性の、生物の生存競争に、本来美学と言うものは存在しない。
 この世界の成り立ち、生存競争としての神聖なる儀式である戦いに関しては、その歴史が閉ざされている以上、深く知ることはかなわないが、古式に則り真正面から戦うというある種の美学が、趨勢を解らなくしていた。
 だがそれも、“解らぬ話”ではない。
「一騎打ちの所悪いですが、加勢しますよ」
『騎士ではなく、魔女の加勢だけどネ』
「なら、魔女らしく、正々堂々行きますよ」
 若き領主アルフレッドの人造竜騎と、ドレイクとの合間に割って入る人影は、そのサイズ感に相応しい。
 魔女のシルエットを持つキャバリア『トラウム』の姿は、甲冑を纏った騎士をモデルとしたものの多いこの世界ではやや異色に見えるかもしれないが、その文化は理解できる。
 結城有栖とそのオウガ、オオカミさんとが参戦すると、にわかに空間の緊張がわずかにほぐれた気配があった。
 圧倒的存在感のドレイクに対し、家名以上の歴史を持たぬアルフレッドは、気迫のみで老骨の獣騎の威容に喰らい付いていた部分が大きい。
『魔導士が正々堂々とは、面白い……ならば、貴公らにこの爪牙が受けられるものか』
 ゆらりと構えを取るドレイクから感じるのは、獣臭。
 岩を切り詰めて彫像と為したかのような地の竜を思わせる姿だが、その研ぎ澄まされた爪や鱗、いや甲殻だろうか。岩のように見えて、しかししなやかさを感じる。
 あれは岩に擬態したトカゲなどではなく、地に伏したる竜……どちらかと言えばヴェロキラプトルに近いものだ。
『たぶん、速いヨ』
「そう、感じます」
 恐ろしい話だ。血に飢えたる獣が、礼儀正しく騎士道に倣い、その図体はキャバリアと同等にして、俊敏そのものときたものだ。
 冷や汗が、白い喉を這うような気配があった。
 ばくん、と粘性の高い泥沼が爆発したように弾けた。
 その瞬間に、トラウムのシュトゥルムシステムは最大限に稼働し、飛び上がりたくなる退路を敢えて横っ飛びに滑る。
 同時に、ファントムシステム、幻影を作り出しトラウムの残像、実像にきわめて近い幻が上下左右に飛んで幻惑する。
 空をアドバンテージに考えた時、最も安易に避けるなら、上だろう。
 相手は最も上を警戒する。ならば、有栖もまた上を警戒していた。
 ざくっ、と空を裂くドレイクの爪。その通り過ぎる軌跡の中で寸断されてしまうトラウム、の幻影。
 それを見止めながらトラウムは尚も動きを止めず、滑るように残像を残していく。
 直線的な動きだけではすぐに追いつかれる。
 幻影で獣の目は誤魔化せても、その嗅覚は、感覚は、いずれ動き回る実像に追いつき、先回りするほど鋭い筈。
 傘型のキャノン砲、レイニィブルーの風の帆がエアブレーキのように、急停止をかけ、動きに変化をつける。
『風を弄ぶか。魔女の異名に偽りはないらしい。ならば、その風をも裂いて見せよう』
 追いつかれぬよう、動きで翻弄しつつさらに竜巻を引き起こして足取りを消しつつ、ドレイクを足止めする。
 風の渦に巻かれるドレイクの、その退化した肘の刃翼が空気の渦をも鋭く斬り裂いた。
「斬られた……?」
『すごい切れ味だネ! きっともっと、危ないのが来るヨ』
「……ッ、はい!」
 相手の動きを封じつつ甲殻を斬り裂く筈の竜巻が切り裂かれた。
 虚空をも切り裂くその一撃は、やや遅れて高密度の風の刃を作り出し、それらがトラウムの幻影を、やがて本体をも付け狙う。
 慌ててレイニィブルーの防御膜でそれを受けるが、風のオーラが風穴を開けるのを目の当たりにして、間がもたない事を思い知ると、機体をねじりながらトラウムはさらに竜巻を練り上げて三つ同時に絡み合わせてドレイクを捉える。
『むう、いくら重ねたとて、再び切り裂けば同じこと──なんだ!?』
 密度を上げて、視界を塞ぐほどの暴風がまとわりつく中で、ドレイクはその身を這う風が煌と輝くのを見る。
 燃えている。それは、意思を持つかのように燃え広がる風、いや、それは翼を広げて鋭い鉤爪を突き立てる魔鳥であった。
「炎の魔鳥さん、風をどんどん送ります」
 【想像具現・炎の魔鳥】は、有栖の想像魔法から生まれたものだが、風を受けてその炎が煽られて熱量と大きさを増していく。
「装甲が厚くても、熱は防げますか?」
『なんの、炎の鳥とて我が刃で空を断てば、生きてはおれまい……く、動かん!?』
 魔鳥を振り払おうと刃翼を再び振るわんとするその腕には、ぎくしゃくと挟まるものがあった。
 暴風に捲き上げられた泥は、高熱にさらされて、一瞬にして固く乾燥し、その動きを阻害する。
 その間にも、炎は燃え広がり、やがてその図体すらも包み込むまでになる。
 勝敗は決したか。と思いきや、その炎の中から再び真空の刃が飛んでくる。
「うっ、あの状態で、まだ戦うというんですか」
『根競べになりそうだネ。簡単に諦めそうにないヨ』
「それは、こちらも同じです」

大成功 🔵​🔵​🔵​

ヴィリー・フランツ
※熟練操縦士にて性能を底上げしたヘヴィタイフーンに搭乗※アドリブ・連携ご自由に
心情:間に合ったか!少々力不足かもしれんが、今度は俺が相手だ。
手段:「下がってろ、ここで雇い主のアンタが倒れたらこっちは大赤字だ」
マチェーテとスパイクシールドを構える、こっちの遠距離武器は撃ち尽くした、俺にしては小細工無しだぜ?
奴の攻撃はシールドで受け流す、オマケにバリアのフォートレスアーマー、増加装甲もある、この3重の防御、お前に破れるか?

攻撃はマチェーテによる斬撃、スパイクシールドの打突と機体重量による体当たりだ、最初は相手の出方を見ながらコンパクトに振り、隙を見てシールド打突も織り交ぜて攻撃する。



 ざわざわと、まるで稲穂が揺れるような雑音を聞いたような気がした。
 おかしな話である。
 この沼地に草木はほとんど育たぬ。
 栄養豊富な泥炭を底に沈めた筈の黒い湿地、沼地には、それは豊富な植生を持つが、大きく育つ前に沼地の毒気にあてられ全て腐っては溶けて養分になってしまうのだ。
 それではさざ波か? ほとんどが露出した粘性のヘドロとはいえ、水たまりが無いではない。
 風にねばつく水面がさざ波を立てるだろうか。
 否である。
 これは、恐らく警笛。
 目の前に残った最後のオブリビオン、いやキャバリア、いや獣騎と呼ばれる巨大な怪物であるドレイクの脅威度を、ヴィリー・フランツは戦場に立つ者の経験則からつぶさに感じ取る。
 そこへ飛び込むことは、恐らく砲火の飛び交う平野に放り出されるに近い。
 だが、そんな危険の坩堝に、雇い主である領主は単身乗り込んで、戦線を維持していたというなら、飛び込まぬわけにはいかない。
 よかった、まだ機体はピンピンしているじゃないか。
「祭りにゃ間に合ったか、若大将」
『ふ、お陰様で、長居し過ぎて足元がふらふらですよ。よくぞ、あのサハギン族を抑えてくださった』
 疲労の色は感じ取れるが、アルフレッドも無事のようだ。
「下がってろ、ここで雇い主のアンタが倒れたらこっちは大赤字だ」
『しかし……いや、これ以上は、私が足手まといになってしまいますか……お頼みします』
「ああ……」
 領主の重圧が、機体越しにのしかかるような錯覚が、若干の後悔をもたらすのだが、本来は先鋒に立つのが傭兵のつらいところ。そしてお仕事だ。
 しかしながら、ヘヴィタイフーンの得意とするところの中遠距離の戦いができるほどの距離感でもなければ、よもや頼みの弾薬もサハギンの戦士たちと彼らの呼び出した大怪魚を相手取るために粗方撃ち付くしてしまった。
 狙撃や待ち伏せの心配はなかったものの、タフネスと士気の高さには驚くべきものがあった。
「なるほどな、そりゃあ後ろにこんなもんが控えてりゃ、恐ろしく手ごわい訳だぜ」
『ほう、異なる鎧。騎士とやらではないようだな』
「ああ? よく見ろ。剣に盾、どう見てもそっちのスタイルだろうがよ」
 軽口をたたきながら、ヴィリーはバイザー越しの視線だけは真剣に、そして冷静に相手の武装を伺う。
 乾燥地帯を思わせるデザートカモのようなカーキ色の装甲が、いかにも巌を切り出したかのような鈍重を思わせるのだが、足場の悪い沼地でなおしなやかさを失わない佇まいは、むしろ俊敏性のある陸上の獣のようでもある。
 要は地竜。『ドレイク』というのは間違いなどではなく、T-レックスサイズのヴェロキラプトルのような化け物なのだろう。
 対するヴィリーのヘヴィタイフーンはといえば、残された武装は大鉈のような高周波ブレード『バーンマチェーテ』と腕部装着式のスパイクシールドくらいで、あとはバリア発生装置によるフォートレスアーマーと、通常エディションより盛ってある増加装甲という最後の砦である。
『やはり、貴公のそれは、鎧というより攻城兵器、或は城塞の如きもの。生物の躍動を感じぬ。だが、面白い』
「は、そうかよ! 光栄だね! 俺にしては、小細工無しだぜ?」
 泥濘が撓んだかのように見えたほど、ドレイクの強靭な足腰が為せる踏み込みは、ブーストチャージにも匹敵する突進力であった。
 負けじとヘヴィタイフーンも推力で以て応じると、ばきゃりと金属同士の爆ぜるような衝突音とともに機体が大きく揺れる。
 突進そのものは軸を逸らし、バリアとシールドとで可能な限り衝撃を散らしたが、キャバリアサイズの相手の質量を受け止めるとなると、衝撃は大きい。
 鋭い爪が、スパイクシールドの分厚い合板を真っ向から突き崩さんと不気味な音を立てているが、どうやら受けられている。
 その間にも周囲をバリアが、何かを防いでいる。いや、それは、刃のような尻尾の鞭のような連撃。
 だから近接などやりたくはなかったのだが、纏われた以上はこちらもメソッドがある。
 盾越しに押し戻すかのように圧を掛けながらマチェーテを突き入れる。
 軍隊格闘とキャバリア運用は若干異なるものの、基本は通ずるところがある。
 古式はヴァイキングの船上戦術からも言われるが、接触面から相手を崩し、注意が逸れた部分を目掛けて、基本的には突いていく。
 もちろんそれが決定打になることは少ない。
 軍隊格闘、近接教練において、ナイフは肩幅より外側に構えない。シールドがあるなら、なおさらその範囲からはみ出すことがあってはならない。
 それは基本的に屋内戦を想定しているからというのもあるが、体幹を自ら外す構えは命取りになりやすい。
 一撃が命取りになりやすい事に注意を削がれがちだが、近接格闘は少しずつ削り取り焦らぬことが肝要である。
『ぬぅ、厄介であるな。まこと、要塞であったか。剣盾を構える要塞とは、異なる鎧である』
「全身が刃物じみたやつだって、そうそう居ないぜ。どっちの武器が先にイカれるかな……ッ!」
 全身が堅固な甲殻にして刃のような鋭さを帯びているドレイク。その肘の刃翼や爪、脚部や尾に至るまで、それらがヘヴィタイフーンの装甲を撫でつけるだけで単分子のあさりがついたチェーンソーでも打ち付けられたかのような嫌な音が聞こえてくる。
 これは、装甲の張替えに加え、全身の関節の摩耗度合いもチェックしなきゃならんだろう。
 格闘戦なんて、物好きがやることだ。
 弾薬を消費しないだって、誰が言ったんだ。減るよ、色々と。
 そんな些細な損得勘定を脳裏に追いやるところで、爪の引っ掛かるシールドが無理矢理に引き剥がされた。
 なんて馬鹿力。というのはフェイントで、がら空きに見せかけたところに追撃の尾が伸びてくるのを、先んじて感じ取っていたヴィリーは、スパイクシールドを地面に打ち付ける要領で抑え込む。
 鋲を穿たれたシールドは、単純なシールドバッシュの他に、下部のスパイクピックを地面に打ち付けることで立てて運用することも可能だ。
 つまりは、それを攻撃に転用する事も。
『ぬうっ!』
「尻尾はこれで使えまい!」
 これまでのコンパクトな攻撃は前振りと言わんばかり、尻尾を縫い留められてフットワークを失ったドレイクへ、渾身のマチェーテを振りかぶる。
 高周波振動による分子振動が超高温を作り出し、装甲を焼き切る。
 その手応えと共に、振り抜いた山刀が、ぶうんと不吉な振動音を響かせる。
 兵器とは本来デリケートなものだ。
 本来はグリップのあたりで中和されるべき振動の余剰が周囲に異音を鳴らすのは、もうそろそろ壊れるぞというサインでもあった。
 だから言ったろう。色々と減るって。

大成功 🔵​🔵​🔵​

ジェラルディン・ホワイトストーン
アドリブ連携歓迎

UCを発動して、と。
間に合ったようだな、アルフレッドさん!
ジェラルディン・ホワイトストーン、加勢に参戦するぜ!
憂いの残らないよう、決着をつけよう!

ヘリオトロープを支援するように、頭上から援護をするぜ。
強靭な脚力で跳び回ったり俊敏な地竜形態で飛翔したり、そうしたドレイクの動きをメルセデスのフライトデバイスで先んじて割り込み、魔法光線などの通常魔術攻撃で牽制する動きをする。
鬱陶しい立ち回りで翼刃閃の発動を誘うのさ。

そうして俺を狙って真空波を飛ばして来たなら、永遠物質化したアイスレイピアに魔力的オーラを纏わせて凌いでみせるさ!
こっちに意識が向いた、今が攻めの好機だぜアルフレッドッ!



 怪物のねぐらを統べる者は、やはり怪物であり、その威容からして強さを放つもの。
 自ら輝きを放つかのように、自ら風を放つかのように、その地竜は、気迫で以て負傷を補っているかのようだった。
 沼地の最奥、岩場も目立つような黒い浅沼にて、ドレイクと領主アルフレッドの人造竜騎ヘリオトロープとが切り結ぶ。
 乾いた岩の様にも見えるいかにも鈍重そうな甲殻は、しかし実際は驚くほど軽く、そして全身を刃物のように鋭く研ぎ澄まされている。
 それはまさに細かく稼働する甲殻。いや、鱗が分厚く鋭く進化したものか。
 対する妖精を模したかのようなヘリオトロープは、光の刃を灯した一輪の花にも見える剣を手にしている以外は、得意の空中戦はおろか、あらかじめ身に着けている剣術以外の一切を封じているようだった。
 いいや、敢えてそれに注力するのは、手加減などではなく、ドレイクの技量がそれだけ高く、他の技術に手を伸ばそうものなら、その瞬間に疎かになった剣術の隙を突かれる事を理解しているからだ。
 極限まで一意専心してようやく、アルフレッドはドレイクの技についていけている状況だ。
 しかしながらそれこそが敵の術中。
『疲れが見えるぞ。机仕事が長すぎたな、領主よ』
『ぐうっ……まだまだ!』
 まるで吸い寄せられるかのように、ヘリオトロープの光剣はドレイクの爪とかち合い、その体重が乗る前に、反対にドレイクの体格に押されて数歩迫られるままに後退せざるを得ない。
 技量差で圧倒されている。が、決して遊ばれているわけではなく、それは何かを見極めるかのように、試しているかのようにも見える。
 しかし、これは命を懸けた決闘。どちらかの命を削り切らぬ限りは、決着はつくまい。
 ならば──、
「その勝負、待った!」
『ヌッ!?』
 強烈なダウンバースト。
 いや、上空から急襲する若草色の残像が、青白い光跡を引いて二人の間に割って入る。
 すぐさまそれを聞けんと察知したドレイクが飛び退くと、その空間がみしみしと風を凍らせる。
 鋭い刃が残す光跡が、青白くけぶる。
「間に合ったようだな、アルフレッドさん!」
『ジェラルディンどの……! かたじけない』
 靄のように立ち籠める霜が降りたような煙を纏う、緑の鮮やかな装甲を持つ、妖精型の人造竜騎。
 メルセデスの手にする細剣は、タクトの様に繊細に柔らかく握られていながら、その切っ先を狂暴な冷気で覆っていた。
 【永遠細剣】の名のもとに、それは真価を発揮すると、永遠に溶けず砕けない物質と化す。
「すまないなあ、邪魔をしたかい? 生憎と、そのつもりだったから、許してくださいとは言えないんだけどな!」
『然もありなん。我らは、貴公らと決闘しているのだ。然らば、名乗るがいい。然もなくば、闖入者と呼ぶことになろう、騎士よ』
「然らば! ジェラルディン・ホワイトストーン、加勢に参戦するぜ!
憂いの残らないよう、決着をつけよう!」
 強大に膨れ上がるドレイクの気配を竜騎越しに感じつつ、それでもなおアルフレッドの意気が萎えていないことを感じつつ、ジェラルディンは相手の動きを先読みする。
 ドレイクの立場に立ってみれば、得意なフィールドでの戦いに持ち込みたいはずだ。
 ならば真っ先に飛ぶことを封じてくる公算が高い。
 先に優位に立ちたければ、あの強靭な足腰で飛ぶように素早く頭を抑え込むようにして飛び掛かってくる。
 それよりも早く出足を封じるには、レイピアの切っ先はあまりにも遠く。
 しかしジェラルディンは格好よく乱入したが、本業は魔術使い。
 近接の間合いに無くとも、撃てる手は、その魔術を牽制に用いることでいくらでも打てる。
『むっ!?』
 踏み込まんとするドレイクの足元を、氷瀑が爆ぜその勢いを消す。
 最大スピードが出せないなら、その隙をつき、メルセデスは空中へ飛び上がって、更に魔法攻撃を叩き込む。
 フライトデバイスの出力が上昇するとともに鱗粉のような魔力の残滓が散る。
 だがその残滓を負うのを、続けざまの魔法攻撃が許さない。
『ぬううっ、剣術のみにあらずか……! やはり、一筋縄ではいかぬ!』
 魔法攻撃のみかと思いきや、踏み込みの出足を封じた瞬間を見計らい、素早く近づいてレイピアを掠めていく攻撃も織り交ぜていく。
 その度に、はじける光や、足元からそそり立つ氷柱など、牽制の魔法を幾重にも織り交ぜ、巧みにドレイクの注意を奪っていく。
 速度を優先している魔法攻撃であるがゆえに、それら一つ一つは大した威力を持たないが、視界や意識の隙をつく厄介さが、いちいちドレイクの挙動の一手先を潰していた。
 精霊に愛されるとは、そのような暴力的な魔法の追撃の激しさをも実現する。
 だが、決定打とならないなら、ドレイクにも開き直る覚悟を持たせるに十分だった。
『ならば、これはどうだ! その翼、引き裂いてくれる!』
 あえて飛び掛かることをやめたドレイクは、小さな負傷などお構いなしに肘の刃翼を渾身の力で振るう。
 空気を切り裂く真空の刃が、数多の魔法攻撃を飲み込み切り裂きながら弾ける。
「ちっ、やっぱり飛び道具も持ってたか! だが!」
 舌打ちを漏らすジェラルディン。しかし、それこそを待っていた。
 こちらの攻撃が相手の射程を上回り続ける。それこそ、魔法で完封、なんていう手段をあのドレイクが想定していない訳がない。
 持っていると踏んでいたのだ。それに対抗する術を。
 それを使わざるを得ない状況を、今この瞬間を、ジェラルディンは作りたかった。
 手持ちの簡易発動可能な術式は、あっという間に真空の刃に吹き飛ばされた。
 メルセデスもその翼ごと両断しかねない。
 だが、自分にだけ向かって放たれた技を、受け止めることに意味があり、そのために、この永遠という名に閉ざされた刃は存在する。
 空気に霜を生やす程に、永遠に砕けず、溶けることもないアイスレイピアを立てるようにして構え、それはさながらに、剣礼をするかのように。
 果たして、その剣は竜の剣閃を受けきった。
「いまだ、アルフレッドォ!!」
『おおっ、ドレイク、覚悟──!』
『ヌウウッ!?』
 猛然と立ちこめる霜の煙の中を切り裂く、薄紫の光刃。
 それが、正面から、ドレイクの甲殻を、その背まで貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

トラスト・レッドライダー
【肉体改造】亡国の主操縦|真の姿化《融合化》状態で加勢する。
卑怯とは、言うまいな。
領主へ向けられた爪撃をアンガーブレードで【武器受け】
【怪力】で押し返し、領主アルフレッドと共闘しよう。

散って逝ったサハギン族達そして、領主とその民、ドレイク、貴方達のその決意に、その魂の灯に、俺も心を燃やそう…!!

それが、一騎打ちに割り込む俺にできる誠意の証だ。
『レッドライダー・オーバーハート』
己が【情熱】、炉心を最大駆動【限界突破】
赤いプラズマの刃を展開、比類無き超戦闘力を発揮し【切り込み】、獣騎ドレイクへ【切断攻撃】ダメージを蓄積。

心を、意志を、燃やし尽くせ!!!

【戦闘知識】と【功夫】【早業】を併用、必殺の突き刺しを【受け流し】肘を打ち込みカウンター
【気功法】炉心から全身に力を一気に滾らせ【エンジン重撃】怪力と技術を併せ、獣騎ドレイクを空へ投げ飛ばし【体勢を崩す】
いけるか!領主アルフレッド!!



 陽が落ち始める。
 傾いた陽光が、青空を徐々に燃やし始める。
 黄昏が近づいている。
 それは、ただの一人残った獣騎にも同じことが言えた。
 巌の如き鱗が分厚く積層した甲殻には幾重にも切り傷が奔り、全身を刃のように鋭くした爪や刃翼、尾に至るまで、おびただしい損傷が、その戦闘の激しさを物語っていた。
 恐るべし領主の援軍。キャメロット……いや、いずこからやってきた猟兵なる騎士ともやや毛色の違う異なる戦士たち。
 その脅威に、その縁もゆかりもなかろうとも奮い立つ戦いぶりに、地竜の末裔、ドレイク族の獣騎は感動すら覚えていた。
『これほどの戦ぶり、久しく忘れていた……少々、まどろみが長すぎたのかもしれぬ……』
『永遠に、戦いを捨てる事は、残念ながら我々人類には難しいのかもしれません。しかしながら、私はまどろみの時間を少しでも長らえさせたいと思っております』
 泥汚れと負傷。壮麗なる薄紫を色褪せて、なお光剣を油断なく構える領主アルフレッドの乗り付けるヘリオトロープは、そこまで追いつめてもなお、攻めあぐねる。
 戦いの年季の違い。多くの猛者たちと最強を争っていた聖なる儀式というルールにおいて、ドレイクは熟練者である。
 対してアルフレッドは有能な領主ではあるかもしれないが、決して戦巧者ではなく、その身にあるのは、あくまでも騎士としての教えと毛の生えた程度の剣術、そして、時を越えて交わされた友情に応えんとする意志くらいしかない。
『そうさな。戦い、勝ち取るのみが安寧の道ならず。されど、時に争わねばならぬ。いかに無害を装おうとも、貴公とて剣を取らねばならぬ。脅威から守らねばならぬからな。領民を、家族を!』
『そして、友を!』
『言うな!』
 まっすぐなままのアルフレッドの言葉を覆い隠すかのように、ドレイクの爪が猛然と迫る。
 キャバリアの装甲をも引き裂く鋭い爪の一撃を、真正面から受け止める。
 それは、ヘリオトロープの光刃ではなく──、
「横合いから失礼する」
『むう……! できるな』
 受け止めた実体剣、それが周囲に発する高周波振動で、ドレイクの爪を寸前で激しい衝突を無数に繰り返し火花を灯す。
 赤熱しながらもお構いなしに重圧をかけてくる豪気を、トラスト・レッドライダー、その男の駆る骨竜を思わせる亡国の主も戦意で以て押し戻す。
 恨みの感情。現世にオブリビオンとして甦った百獣族が持つ正当な人類への憎しみは、傷だらけの機体を通してその無数の傷口から怨嗟の如く漏れ出している筈なのに、刃を交わすその火花越しに感じるものの何と清廉な事だろうか。
 おそらくはもう、恨みや憎しみも枯渇し始めている。
 ドレイクの虚ろを支えているのは、儀式へ命を賭す者の感情のみなのだろうか。
 ならば、自滅を待つ方がいいのだろうか。
 合理性が、レプリカントの機械の身体を労わる回答を提案する。
 いいや、それでもトラストの胸の内を燃やす感情は、応えよと熱く滾る。
 血潮の如くあふれ出るものが、接続しているユミルの子──亡国の主をも燃やし始める。
 毛細血管にプラズマ化した血流でも流し込んだかのように、その骨の如き機体が変質、トラストの姿と似通った火の巨人を思わせる灼熱を纏ったものへと変わっていく。
 それと共に、攻撃を受け止めているアンガーブレードにもプラズマの輝きが灯っていく。
 世界を焼く炎の剣の如く。
「卑怯とは、言うまいな」
『常道、非道も、究めれば晴天の如く清しいもの。貴公の魂の熾り、見えておるわ』
「ならば、応えなきゃな……散って逝ったサハギン族達そして、領主とその民、ドレイク、貴方達のその決意に、その魂の灯に、俺も心を燃やそう……!!」
 レプリカントであるトラストに、おそらく魂のありかを観測する術はない。
 心ある機械の命題としてこれほどのロマンはないだろう。
 しかしながら、いくつもの戦い、とくに無情の戦い、彼の蹂躙してきた戦いの中で失われるものは、物理的にだけではないものが自身を構築する形を持たない何か、心に相当するものをごっそりそぎ落としてしまったという自覚だけはあった。
 アルフレッドという男も、彼を含めた人類すべてを憎まずにはいられなかったサハギンの戦士たちも、今目の前に相対するドレイクも、光学器官に写し込むだけで物理的には観測できない輝きを感じる程に、熱く質量的な存在感を持っていた。
 観測不可能な輝き。それこそがきっと、生物という器の中で育まれる魂というものなのだろう。
 羨む心は捨てきれない。それが魂なのだろうという気持ちは、そのまま渇望であり、永遠に手に入れる事の無いものなのかもしれぬ。
 だからこそ貴く、そんな己に持ちえぬものに対抗するならば、せめてそれに準ずるものを同等に薪の如くくべるしかない。
 【レッドライダー・オーバーハート】。故に、
 魂の代わりに、熱き血潮の代わりに、心を燃やす。
 亡国の主ではなく、レプリカントであるトラストの炉心が燃える。感情を吸い上げて、それを何倍にもふいごの様に焚き付けて火のような感情を全身に滾らせていく。
『熱い男だ。騎士道などと、甘い事をのたまう男の、その何倍も』
「俺の中に炎を見たか! その男も背負っているぞ! だからこそ!」
『燃え尽きるがいい! そうして貴様らは、原野すら残さぬのだ』
 猛然と斬りかかるドレイクの爪。
 両腕を駆使した連続攻撃を、剣のみでは受けきれぬと、トラストは片腕を盾の様にしつつ、その上肢の捩じりで辛うじて爪先を逸らす。
 単にロボットの追従性では実現不可能なそれは、人体に精通した格闘武術に近い挙動である。
 だがその技術思想はドレイクにも通じるものがあり、爪の力点が外されるや、即座にその先の肘、退化した刃翼が繰り出される。
 ならばとばかり、受け流しきれぬと即断し片腕をくれてやる覚悟でむしろ肘に合わせて身体ごと押し込み、プラズマの刃を燃やすアンガーソードを突き入れる。
 完全に入った──と思いきや、ドレイクはそれを、自身が焼け溶けるのも構わず抱え込んで封じにかかる。
『これで、どちらも片手落ち。さあ、どう出る?』
「俺が決め切る必要なんて無い……」
『なんと!?』
「うおおっ、心を、意志を、燃やし尽くせ!!!」
 ばくんばくんと脈打つ炉心が、瞬間的な馬力を絞り出し、自身をも爆発四散しかねない熱気を膂力へ注ぎ込む。
 |心臓《エンジン》が焼け付いたっていい。出力を上げろ。
 剣を抱えこむドレイクを、渾身の力をこめ、円盤投げの様に上空へと放り投げた。
 その時点でトラストの出力は目に見えて落ち始めていた。もはや追撃は間に合うまい。
 だが、味方は自分一人ではない。
「行けぇ、領主。飛べ、アルフレッド!」
『かたじけない!』
 ひび割れた装甲、傷だらけの蜻蛉が、その魔力の残滓を花弁のように散らしながら、ヘリオトロープの輝く刃が、宙に放り上げられたドレイクを、今度こそ捉えた。
 全ての光が、まるで色を失ったかのように消え失せていく。
 渾身の飛翔を見せたヘリオトロープも、そのビームの光刃を失い、虹の光を含む硝子のような翅を失い、そしてドレイクの生命力を示すかのような瞳の輝きも。
 それを抱きかかえるようにして自由落下する二機を、トラストは失われていく余力を絞り出して受け止めると、それらはようやく質量を思い出したかのように周囲の泥を盛大に捲き上げるのだった。
『ひどい所だろう。誰が好き好んで、己が故郷を呪う事が出来よう……。しかし、それもこれまで』
『もっとたくさん、貴方のお話を聞きたかった……』
『女々しい事を言うな。十分だろう。……君は力を示した。十分に、この場所を託すことができる』
 安堵したかのようなドレイクの言葉と共に、その存在感が薄れていくのを感じ、ヘリオトロープの挙動にすら出るほどに、アルフレッドは言葉に詰まる。
 引き留める言葉が口をついて出そうになり、飲み込んだ。
『皆散っていった。だが、あやつらも今こそ満足であろうよ。惜しむ言葉は、非礼と知れ……さあ、あやつらのもとへ往かねば』
 脅威でしかなかった長い爪を持ち上げ、何かを求める様子が、今は枯れた老爺の様にしか見えない。
 今ばかりは、人造竜騎のコクピットが、その表情を、頬を濡らす様を誰にも見せぬことを幸運と思わねばなるまい。
『さらばだ、友よ』
『ええ、おさらばです。どうか、同胞の皆様と、お達者で』
 かくあって、大地を呪った地竜、獣騎ドレイクは、母なる大地へと還っていった。
 そこに言葉は不要とばかり、猟兵たちは、各々の経緯の示し方の差こそあれ、静かにその場を去っていく。
 大地に祈りを捧げるかの如く、沼地に膝をつく妖精と、降りしきる花の葬列を、恐らくは忘れる事はあるまい。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年12月13日


挿絵イラスト