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最新最後の悪魔の落とし子

#サイキックハーツ #ノベル #猟兵達の秋祭り2024 #デモノイドヒューマン

多々良・緋輝




 サイキックハーツ世界における2023年5月末以降。
 世にいう「復活ダークネス」、のちにオブリビオンと呼ばれる存在が世に出回り始めた頃。
 闇の支配から解放され、新たなステージに進化したはずの人類は、再び脅威に見舞われていた。

「うっ……ここ……は……?」

 その少年――多々良・緋輝はふと気が付くと、見知らぬ部屋で手術台の上に拘束されていた。
 なぜこんな場所にいるのか、目覚めたばかりの頭で思い出す手がかりを求めて、視線を巡らせると――。

「おや、もう起きたのか」
「っ?!」

 すぐ傍に、ヒトでもケモノでもない異形のモノが立っている。
 緋輝は普通のエスパーの男子学生だ。こんな化け物を見たのは生まれて始めてである。
 だが、話に聞いたことはあった。もしや、これがあの「ダークネス」という怪物なのか?

「お、お前はなんだ?」
「なんだとは失礼な物言いだな。我が名はアモン、ソロモンの悪魔だ」

 果たして緋輝が危惧したとおりの解答を、その怪物は口にした。
 サイキックハーツ大戦にて武蔵坂学園の灼滅者に敗れ、絶滅したダークネス種族『ソロモンの悪魔』。
 かつては秘されていた世界の真実も、それが公開されるに至った経緯も、現代では一般常識だ。
 だが、緋輝の知識と目の前の現実の間には、不可思議な齟齬が幾つもある。

「アモンって、そいつは昔灼滅者に倒されたって……」
「現代では一般人にすら知られているのか。不愉快な話だ」

 思い出したくない過去を刺激されたのか、悪魔アモンの表情がかすかに歪む。
 そう。一般人を素材にした実験を繰り返し、デモノイドという新種族を生み出した「アモン」は、とうに灼滅されたと歴史には記されている。それが目の前にいるのは――もしやこれが最近噂の「復活ダークネス」なのか。

「まあいい。貴様をわざわざ攫ってきたのは、我が第一の実験体にするためだ」

 物理的な拘束と精神的な恐怖で動けない緋輝に、アモンはこれから行う実験の概要を説明する。
 彼の手には儀礼用と思しき一本のナイフが構えられている。それは彼自身が呪力を籠めた逸品であり、一般人に「デモノイド寄生体」を植え付け、魂を汚染するための道具だった。

「全人類がエスパー化したことで、闇堕ちにより新たなダークネスが誕生することはなくなった……だが、この実験が成功すれば、エスパーをデモノイド化することが可能になる」

 それは滅びゆく種族のはずだったダークネスが、エスパーを利用して「繁殖」できるようになるということ。
 通常ダメージを無効化できるとはいえ、エスパーにサイキック攻撃への耐性はない。再びダークネスが勢力を拡大すれば、闇堕ちを促進するために人類を裏から操ってきた「見えざる圧政」が、再び始まるかもしれない。

 だが、そんな世界的な問題よりも緋輝が真っ先に感じたのは、我が身の危機感だった。
 目の前の怪物が、自分をまた別のバケモノにしようとしている。ただの学生である彼にとって、それは悍ましい恐怖だった。

「さあ、ダークネスが再び世界を支配する、最初の礎となれ」
「や、やめ……!」

 いかに拒絶しようとも抵抗の余地はなく、緋輝の腹部にデモノイドエスパー用のナイフが突き刺さる。
 同時に刃から寄生体が投与され、彼の肉体をデモノイドが蝕んでいく――凄まじい苦痛でのたうち回ろうにも、手術台の拘束はびくともしない。

「………!!!」

 自分の体が根本から作り変えられていく感覚。その衝撃はただの人間の人格を消し去るのに十分すぎるものだ。
 だが――いつ終わるとも知れぬ苦しみに苛まれながらも、緋輝はまだ意識を保っていた。

「おお、この反応は……素晴らしい適合率だ!」

 興奮気味にアモンがなにか言っているが、よく聞こえない。
 緋輝の意識は外ではなく内に。自分の体内を蝕む「何か」に向けられていた。

(渡すかよ……これはオレの体だ!)

 なにが起こっているのか理解できないまま、ただ本能的に抵抗する。
 今回のデモノイドエスパー製造実験を行うにあたって、入念に準備を進めてきたアモンの唯一の誤算――それは、ただの凡人だと思っていた実験体が、想像を超えるデモノイドとの適合率を秘めていたことだった。

「う……うおおおおおおっ!」
「な、なんだッ?!」

 その奇跡的な適合率によって、緋輝はデモノイド寄生体の侵蝕を逆にねじ伏せ、自分の体をエスパーでもダークネスでもない存在へと最適化させていく。異常事態にアモンが気付いても、もはやどうすることもできなかった。
 この時代のサイキックハーツではまだ周知されていないが――まさにこの瞬間、彼は「猟兵」に覚醒したのだ。

 それは世界最新最後のデモノイドヒューマンたる灼滅者。
 拘束を引き千切り立ち上がった緋輝の姿は、鮮やかな赤髪を持つ少女に変化していた。

「き、貴様……なんだその姿は?! 貴様は男だったはず……!」
「うるせえ!」

 動揺するアモンを一喝し、拳を突き出す緋輝。するとデモノイド寄生体が腕部を覆い、緋色の回転鋸を形作る。
 デモノイドヒューマンに覚醒すると同時に、彼――いや、彼女は己に目覚めた力の特性を理解していた。闇堕ちせずに全身をデモノイド化し、ヒトとしての自我を保ったまま武器化した肉体を振るう。

「くたばれ!」
「ばッ、馬鹿な……ぐああぁぁぁッ!!!」

 不意を突かれたのもあっただろう。骸の海より復活したアモンは、その一撃にて致命傷を負った。
 絶叫とともに消滅していく悪魔を見届け――人生初の灼滅を果たした緋輝は、ほっと息を吐く。

「あー、服どうするかな……あ、デモノイドが女の服を作ってくれた」

 裸体をデモノイドの衣服で包み、さっさとこの偽装された実験施設から脱出しようと歩きだす。
 すると、廊下の向こうからぱたぱたと数人分の足音が駆けてくるのが聞こえた。

「復活ダークネス! 今度こそ完全に滅ぼし……えっ、あなたは?」
「あー……はじめまして」

 どうやら、武蔵坂からの救援と鉢合わせになったようだ。
 その後、事情を説明した緋輝は武蔵坂学園に転入し、灼滅者として新たな人生を歩むことになるが――それからの彼女に待ち受ける事件は、また別の物語である。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年10月26日


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挿絵イラスト