●ある森の外れ
「出ていきな! お前たちみたいなヒヨッコに話す事なんか、何もありゃあしないよ!」
「なんだと、このババア!」
「ババアをババア呼ばわりするんじゃないよ! あたしの事はベルちゃんって呼びな!」
「そんな事より遺跡の……」
「宝目当ての冒険者に話事なんてないってんだろ!」
老婆が枯れ木のような腕で、手にした杖を振り回す。新米冒険者風の男たちはその剣幕に圧されるように慌てて出ていった。
「まったく……財宝なんてあるわきゃないのにねぇ……」
駆け出しほど勇者の伝説のような大層な話に興味を持つ。だが、あの遺跡は興味本位で立ち入るにはあまりに危険であるし、何より。
「そんな奴らに踏み荒らされたくはないモンさね。」
どこか遠く、かつての思い出の残滓を見つめるように老婆が呟く。その耳に、新たな足音が聞こえてきた。
●グリモアベースにて
「帝竜ヴァルギリオスを知っていますか? もしかしたら、名を聞いた事のある方もいらっしゃるかもしれませんね。」
いまだ所在の分からぬ『群竜大陸』と共に蘇ったというオブリビオン。その帝竜の名をアルトリンデ・エーデルシュタインは口にした。かつて勇者一行により倒されたとされるヴァルギリオスの居る群竜大陸を探すには、まずは勇者一行の痕跡を足掛かりとするしかない。
では今回の予知はその痕跡、『勇者の伝説』に関わるものなのか。そう問う猟兵にアルトリンデは頷いた。
「はい。かつての決戦の折、勇者と共に行動していた妖精が沈みゆく群竜大陸から戻ってきて力尽きた場所、と言われる遺跡があるようです。」
ただし、正確な場所までは伝わっていない。伝承によれば妖精たちがその身の穢れを清める場所であり、勇者と別れた妖精は悲しみを濯ぎきれないまま力尽きたと伝わっている。
「その近く、森の外れに住んでいるお婆さんが妖精と話せるのだとか。何でも『妖精の粉薬』というポーションを作れるそうで、件の妖精ゆかりの遺跡についても何か情報を持っているようです。」
普段から遺跡のお宝目当ての冒険者が訪ねてくるそうで、だいぶ辟易しているのだとか。アルトリンデの予知したところでも、遺跡に宝物はないらしい。加えて並みの冒険者が足を踏み入れるには危険な遺跡なのだという。実力は猟兵ならば問題はない。あとはお婆さんに宝目当てではない事を伝えれば場所を教えてくれるそうだ。
「もっともタダでとはいかないようで、情報を教える代わりにポーション作りを手伝ってほしいそうです。」
結構大量に作るようで、材料である『妖精の灯草』集めやポーションを作る大釜をかき混ぜる手伝いなどをしてほしいのだそうだ。
「お婆さんがなぜ一人で、森の外れに居るのかは分かりません。ですが、お婆さんにとって遺跡が大切な場所なのは確かなようです。」
遺跡の奥に何があるのか。残されている勇者の痕跡とはどのようなものか。それを知る為にもまずはポーション作りの手伝いだ。口は悪いけど良いお婆さんなので、と言い、アルトリンデは猟兵たちを導いた。
こげとら
お久しぶりです、こげとらです。
今回は『群竜大陸』へ渡る為の手掛かりとなる『勇者の伝説』を探るシナリオとなります。
第一章で、まずは遺跡の情報を握っているお婆さんの手伝いをしましょう。
材料となる『妖精の灯草』ですが、この近辺の森には結構生えているそうです。遠目にはぼんやり光っているのが見えるのに、近づくと光は消えてしまう。そんな草です。特徴は教えてもらえるのでその近辺をしらみつぶしに探すもよし、何か手を尽くすもよしです。
他にも取ってきた草を他の材料と一緒に大釜で煮込む作業も手伝えます。でっかい掻き混ぜ棒でグルグル回し続ける単純ながら割と疲れる作業になります。
そのほかにもポーション作りの手伝いで必要そうなことがあればしていただいてかまいません。
なお、お婆さんの事はベルちゃんと呼んでもお婆さんと呼んでも構いません。
では、皆さんのご参加をお待ちしております!
第1章 日常
『ポーションを作ろう!』
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POW : 誰も行ったことの無いであろう場所へ探しに行ってみる。
SPD : 近隣の森を広範囲で探ってみる。
WIZ : 新たな材料を使って新ポーションの作成方法を考えてみる。
👑5
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サンディ・ノックス
煮込み作業を手伝うよ
単純で疲れる作業?構わないよ
その間にお婆さん…いやベルちゃんとお話しできるなら喜んで
……うん、なんだか照れくさいからお婆さんでいいかな
こんな細い腕だけど力はあるから大丈夫
(怪力技能も使って作業)
それよりお婆さんはいつも自分でコレやってたの?
慣れてらっしゃるだろうとはいえすごいなあ
ただ混ぜればいいわけじゃないよね、
沈殿に気をつけなきゃいけないなら常に底から混ぜるとかあると思うんだけど
注意点も教えてほしいなぁ、なんて
妖精の粉薬っていうから、これ最終的に粉状になるの?
あ、キギョウヒミツ…じゃなかった薬師の秘術とかで秘密なことだったら
軽々しく聞いてごめんなさい、だよ
ノエル・スカーレット
群竜大陸と勇者の伝説、すごい興味あります♪
森の外れにいるベルちゃんのお手伝いをしてポーションを作ればいいんですね。了解しました。全力でお手伝いさせていただきます。
ベルちゃんにお手伝いを条件に遺跡の場所を教えてほしいと交渉する。
「私達は勇者様の伝説に興味がありまして、宝物目当てではないのです」
「す~は~、なんだが神聖な雰囲気がする森ですね」
深呼吸をし準備運動してから妖精の灯草の遠目から見える光を探して森を駆け回り薬草を集める。
集め終わったらベルちゃんに渡してポーション作りの手伝いをする。
「ベルちゃんと妖精さん達はどんな関係なんですか?」
アドリブ&他の猟兵との絡み歓迎。
テオ・イェラキ
オリオ(緋鷹の星夜・f00428)と参加
婆さん…いや、ベルちゃんか
一人で暮らすベルちゃんの為にも、多めに薬草をとってきてやらなきゃな
【動物と話す】で動物達と心を通わせることで、教えてもらいながら薬草を探そう
妖精の灯草を探すのはもちろん、ベルちゃんの為にも体に良さそうな薬草は、ポーションの材料以外でも多めに採取していくぞ
オリオ、それは毒があるから触らないようにな
良いとこ出の妻が少し心配だ
あまり離れないように一緒に薬草を探そう
摘んだ花を持つ妻を見ていると、見とれてしまう
もちろん、花よりも妻の方が美しいが
薬草を取ってきたのならば、大釜でポーションづくりだな
力仕事なら任せてくれ、全力で大釜をかき回そう
オリオ・イェラキ
テオ(f00426)と
ご機嫌ようベルお婆さま…ベルちゃんさまの方が良いかしら
わたくし達、遺跡を…勇者の事を知りたくて来ましたの
ええ勿論、ポーション作りお手伝いも喜んで致しますわ
テオ、動物達は何と?…成る程
まぁ。その草は毒がありますの?
流石はわたくしの夫、頼りになりますわ
寄り添って参りましょう
妖精の灯草、あれですわね
近付くと消えるのなら、光る距離からメテオリオの花弁をそっとひとひら
優しく切り落とし入手を。暗がりでも暗視で見極めますわ
後は…綺麗なお花を摘みたいの
女性へは花束ですわ、なんて
後は夫の力強い掻き混ぜを見守りながら
周辺の整理等を手伝いますわ
お婆さまと仲良くなれば、遺跡への想いも伺えるかしら
フィオリナ・ソルレスティア
【ペア/f05803】【POW】(連携・アドリブ可)
「遺跡の守護者兼伝承者みたいな人なのかも」
■作戦
ベルさんに素直に事情を話して『妖精の粉薬』作りを手伝う
自らは『妖精の灯草』採取、弟は煮込み作業の手伝い
■行動
「群竜大陸を探すため『勇者の伝説』について調査しています」
事情を話して『妖精の灯草』採取のため近隣の森へ
森では木の実を拾って【動物と話す】でリスなど小動物に話しかけ
妖精の灯草を見たことがないか聞いて歩く
木の実は動物達にプレゼント
【視力】を頼りに光りが見えないかサーチし
発見したら必要な分量だけ採取して後は残しておく
傷を癒す効果のある野草や香りが良いハーブ類を見かけたら
適量摘んで帰る
フォルセティ・ソルレスティア
【ペア/f00964】【WIZ】(共闘/アドリブ可)
「あのお婆さん、一人でこんな森の外れに住んでいるって不思議だよね」
【行動】()内は技能
「お婆…ベルちゃん、ポーションつくり手伝うよ」
ボクは大釜で煮込む作業にチャレンジするよ
本でみた錬金術師みたいで一度やってみたかったんだよね。
ただグルグル回すだけだと退屈だから、リズムよく歌を歌うよ(歌唱)
「グルグルぐるぐるぐーるぐる♪」
これ結構大変だけど、ベルちゃん毎回一人でやってるの?
フィオ姉ちゃんが戻ってきたら妖精の灯草を入れて仕上げだね
いくつか野草やハーブを混ぜて、香り良いポーションとか作ってみるよ
きっと爆発とかはしないはず。
ゾーク・ディナイアル
「オッケー任せてよベルちゃん、妖精の灯草はボクがサクサクっと採取してくるから!」
こういう任務は大得意さ!
☆森で採取
ベルちゃんに灯草の特徴を聞いたら近くの森に採取に行くよ、素早さを活かして大量に採取するのだ!
「遠くだと光るのに近づくと消えちゃうんだよね?
なら消える前に素早く近づいたらどうだ!」
たとえ光が消えても光った場所を覚えている内に近づいて採取しちゃえば問題ないよね。
「この調子でどんどん行くぞー!」
採取中にモンスターや危険な動物がいたら、妖剣で惨殺してベルちゃんの為に退治しておくよ。
「キャハ、ボクに出会ったのが運の尽きだったねぇぇぇ!」
多少のお愉しみは必要だしねぇ?
※アドリブ歓迎
「遺跡荒らしみたいな連中を追い返すのも、いつまでも続けられないかもねぇ……」
衰えた身体に目をやり老婆がぽつりと呟いた。その耳に何人かの足音が聞こえてくる。懲りずにまったく、と老婆は再び追い返すべく入口へ向かう。
「何度来たって宝物なんてないんだよ!」
戸を開けざまに威勢よく言い放った老婆の目が丸く見開かれる。そこに居た7人の男女は冒険者なのだろうか。だが度々来ていたヒヨッコとは違う雰囲気であり、宝探しといった風ではないようで。思わぬ来訪者に老婆ベルは、ぱちくりと目をしばたいた。
「ご機嫌ようベルお婆さま……ベルちゃんさまの方が良いかしら。
わたくし達、遺跡を……勇者の事を知りたくて来ましたの。」
一歩進み出たオリオ・イェラキが老婆に優しく声をかける。てっきりまた財宝目当てかと思っていた老婆は、オリオの言葉にもう一度彼らの顔を見た。ここはしっかりと目的を話しておいた方が良いか、とフィオリナ・ソルレスティアがノエル・スカーレットと共に前に出る。
「群竜大陸を探すため『勇者の伝説』について調査しています。」
「私達は勇者様の伝説に興味がありまして、宝物目当てではないのです。」
二人の言葉に偽りは無い。ノエルにいたっては『群竜大陸と勇者の伝説、すごい興味あります♪』と言っていたくらいだ。口八丁で丸め込むような相手ならば追い返そうと思っていた老婆は二人の目をのぞき込み、口にニッと笑みを浮かべる。
「どうやら本当に宝目当てじゃないみたいだね。いいだろ、教えてやる……と言いたいところだけど。タダじゃ教えないよ!」
教える条件として提示されたのは『妖精の粉薬』というポーションを作るのを手伝うというもの。主な材料となる『妖精の灯草』は劣化が早いらしく、摘んで一日も経つと効用が消えてしまうのだという。それを人手が多い時に纏めて作ろうというのだ。
「オッケー任せてよベルちゃん、妖精の灯草はボクがサクサクっと採取してくるから!」
威勢よく答えるのはゾーク・ディナイアルである。見通しの悪く広い森の中を歩き回って探すのは老婆には酷だろう。だが、そういう事ならゾークの得意とする所である。ついでに危険な動物とかモンスターも居たら退治しておくよ、と意気込むゾークに、じゃあ行こうかと薬草採取の準備にかかる面々にベルから待ったがかかる。
「全員で草摘み行くんじゃないよ! 摘んでる間に釜の準備もしないといけないからね!」
そういってベルが大釜の準備に指名したのはサンディ・ノックスとフォルセティ・ソルレスティアの二人。なぜ見た目は華奢なこの二人なのか。
「やりたそうな顔してたからね! 男の子だろ、がんばりな!」
なお、この6人の中で一番ガタイが良いのはテオ・イェラキである。テオはまずは妻であるオリオと薬草を摘んで来ようと思っていたのだが、老婆が出して来いと言った大釜を見て思わず口が出た。
「大釜を出すのは俺がやろうか?」
「ありがとう。でも大丈夫、こんな細い腕だけど力はあるから。」
準備は任せて、とサンディがにこやかに答える。危なげなく大釜を運ぶ姿を見てテオは妖精の灯草を取る準備をする事にした。大釜の設置場所を指示している老婆を見て、フォルセティは首を傾げた。
「あのお婆さん、一人でこんな森の外れに住んでいるって不思議だよね。」
たしかに、重い物も持てないような老婆が一人で暮らすには森の外れは不便だろう。なぜこんな所で暮らしているのか疑問にも思おうというものだ。
「遺跡の守護者兼伝承者みたいな人なのかも。」
なるほど、と姉であるフィオリナの言葉に頷く。
「ほら坊主! お前はこっちを運んどくれ!」
何かが詰まった壺を杖で叩きながらベルが声をあげる。はーい、と返事を返したフォルセティは準備を手伝うべく駆けだした。
『妖精の灯草』を採るべく森へ入ったのはノエル、テオ、オリオ、フィオリナの4人。猟兵たちはベルから聞いた薬草の特徴を思い浮かべながら森を探索していた。
「す~は~、なんだが神聖な雰囲気がする森ですね。」
ノエルが胸いっぱいに森の空気を吸い込んで深呼吸した。森には人の手が入った様子はなく、苔むした大木が木漏れ日に彩られている。遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声や風の揺らす梢の音が耳に心地よい。とはいえ下生えも多い森の中で目的の薬草を探すのは骨が折れそうだ。
「婆さん……いや、ベルちゃんか。
一人で暮らすベルちゃんの為にも、多めに薬草をとってきてやらなきゃな。」
それでも老婆の為ならばとテオは気を入れて探し始めた。闇雲に探すより、森の事は森の住人に聞くべきだろうと梢で囀る小鳥、木々を走り回るリスなどの動物たちに心を通わせていく。
「テオ、動物達は何と?」
「向こうでそれらしい草を見た事があると……オリオ、それは毒があるから触らないようにな。」
「まぁ。その草は毒がありますの?」
流石はわたくしの夫、頼りになりますわと微笑むオリオの手を、テオは笑顔で握った。オリオは良い所の出だ。こういった所に連れていくには少し心配であった。だがそれならば自分がサポートすればいい、テオは寄り添うオリオを見て思う。
「あまり離れないように一緒に薬草を探そう。」
「ええ、勿論です。頼りにしていますわ。」
仲睦まじく会話を弾ませながら二人で『妖精の灯草』を探していく。と、その先に仄かに灯る光。
「妖精の灯草、あれですわね。」
ふわり、ひとひらの花弁が舞う。【夜彩と流星花(メテオリオ)】の花弁は灯をともす薬草を優しく切り落とした。近寄り、摘み上げてみればたしかに『妖精の灯草』だ。その後もテオが場所を聞きオリオが切り落とす、この調子なら上手く採取できそうだ。テオは『妖精の灯草』以外にもベルちゃんの為に、と体に良さそうな薬草も採取していく。オリオも花束を作ろうと奇麗な花を摘んでいた。ふと夫を見れば、こちらを見つめている。
「テオ、どうしましたの?」
「つい見とれてしまっていたよ。」
「あら、それは……」
「もちろん、花を持つオリオが美しくて、ね。」
優しく笑い合う二人はそれぞれ、目的の薬草と共に思いやりを摘んでいったのだった。
一方、フィオリナは木の実を拾っていた。近くで準備体操をしていたノエルが不思議そうにそれを見る。
「それ、ただの木の実ですよね?」
「ええ。これはこのコたちに。」
フィオリナが木の実をのせた手を差し出すと、木からリスが降りてきた。さっそく頬袋に木の実を詰め込み始めたリスにフィオリナが問いかける。
「こういう草を見た事はありませんか? ぼんやりと光っている草なのですが。」
「へぇ、動物から情報を集めるのか。」
何しているのかと興味を引かれたゾークも合流し、リスの挙動を観察する。リスはというと思い当たる事でもあるのか先導するように駆けだした。それを追う3人の目の先にはぼんやりとした光が。近づいてみれば光は消えているが『妖精の灯草』があった。もっと欲しいと寄ってくるリスに木の実をプレゼントし、フィオリナは目当ての薬草を摘みとった。
「動物たちに聞きながら、光を目視で探していこうと思いまして。」
「なるほど。でしたら私は動物がよらなそうな所を中心に足で探してきます。」
「ボクも話が聞ける動物がよらなそうな……何かの縄張りとか、そういう所を見てみるよ。」
動物たちに聞きながら探すのは確実性は高いが探せる範囲はその動物の行動範囲が主になる。当然その動物を狩るような獰猛な存在が居るところは避ける事になるだろう。また、遠目に光を頼りに駆け回るのは見落とすリスクはある物の、その分広範囲を手早く探索できる。どの方法も一長一短あるが、違う手段を取るならば探していない場所をカバーできるはずだ。
「じゃあ、私は動物の多そうなこのあたりを中心に。さっきのリスのお友達も居るみたいですし。」
「ボクは向こうかな。何か居るから行きたくないってその子も言ってるんでしょ?」
「それなら私はあっちの方から回ってみますね。」
ゾークはあえて、先ほどのリスが避けた方向を目指す。何かの縄張りなのは確かだろう。踏み込めば相応の歓迎をされるのは想像に難くない。一方ノエルが示した方向にはいくつか光が灯っているのが見えるが、実を付ける木々は少なく小動物が好みそうな餌場ではなさそうだ。その反面、大きな木が多く駆け回るには良さそうか。それぞれ頷き合い、それぞれの得手を活かすべく行動を開始した。
「この辺りは色んな薬草が生えていますね。」
動物たちに聞いた場所、そこは澄んだ泉が湧き出ており周囲に様々な草木が生えていた。フィオリナの持つ知識にある傷薬として使える薬草や良い香りのハーブなどもある。必要とする分だけ摘み取りながら草の間を探してみれば、ちらほらと『妖精の灯草』もあるようだ。草の間から漏れる光を頼りに摘み取っていく。
「このくらいでしょうか。」
ふう、と息をつき採った薬草やハーブを確認する。根こそぎ採ってしまうと次にまた生えて来なくなってしまう。ポーション作りに必要な分と自分が使う為の分、それだけ採ったらあとは残しておこう。
その頃、ゾークは静まり返る一帯に足を踏み入れた。ここへ来るまでは小鳥や小動物の姿も見えたが、それも今は無い。やはり何かが居る。それも、獲物を根こそぎ喰らう何かが。足元の下生えを確認すると植物は食い荒らされた形跡はない。見ればあちこちに『妖精の灯草』と思われる光が見える。相手が襲ってくるまでただ待つ事も無いだろう。そう判断したゾークは周囲の警戒を怠る事無く仄かに灯る光に向かった。
「遠くだと光るのに近づくと消えちゃうんだよね? なら消える前に素早く近づいたらどうだ!」
すぅ、と弱まる光に向かい全速力で接近する。その光が消えきる前にゾークはその手に目的の薬草を摘みとっていた。見た感じだと、別に光が消えたからと言って無くなるわけでもなさそうだ。ならば向かっている最中に光が消えてしまってもその場所を覚えているうちに近づいて採取すれば問題ない。この分なら結構採れそうだ、と薬草を仕舞うゾークの身体が後ろに飛びすさる。
「なるほどね。このヘンに動物が居ないわけだ。」
先ほどまで自分が居た場所に落ちてきたソレから目を離さずにゾークは妖剣《ガディス》を抜き、構えた。視線の先に居るのは1mほどの蜘蛛。グルームスパイダーと呼ばれるそのモンスターは巣をつくらず、縄張りの中の動物を集団で狩り尽くす事で知られる。ゾークを獲物と捉えたか、周囲からも気配が近付いてくるのが揺れる葉の微かな音からも感じられた。突如、草影から飛び掛かってきた一匹をゾークはまるで知っていたかのように軽く避け、妖剣で斬り払った。
「動きがぁ……見えてるんだよぉ!」
実際にゾークには【強化兵戦技《予測回避》】によりその動き、その軌道が見えていたのだ。対人戦ならいざ知らず、本能のまま攻める蜘蛛如きに後れを取るゾークではない。
「キャハ、ボクに出会ったのが運の尽きだったねぇぇぇ!」
襲い来る蜘蛛の群れをまるで舞うように妖剣を振り、次々に屠ってゆく。隙を伺う蜘蛛やあるいは逃げようとする蜘蛛にも持ち前の素早さをもって斬りかかっていった。ここで逃せばまたどこかを縄張りとするだろう。そうすればこの森で暮らすベルに危険があるかもしれない。そんな事はさせない、とゾークの剣が走り、蜘蛛を駆逐していく。やがてあたりに動く気配がなくなると、ゾークは再び『妖精の灯草』を摘みに走るのだった。
「この調子でどんどん行くぞー!」
気合を入れ直し、ゾークは次の光に向かい駆けだした。一方、ノエルも気合を入れていた。
「全力でお手伝いさせていただきます。」
その言葉に偽りは無く、全力で森を駆け回り目にした『妖精の灯草』の光を見つけては摘んでいく。広範囲を巡ってみて分かったが、『妖精の灯草』は群生する草ではないようだ。大体は一本ぽつりとあるか、あっても数本程度。なのに。
「この辺りにはたくさん生えてますね。」
岩壁に埋まるように生える一本の大樹の周りに『妖精の灯草』が群生している。不思議に思いながらも数が揃うなら文句はない。一つ、また一つと摘み取っていく。だが、その場に入り目につく薬草を摘み歩くノエルは、何か違和感を感じていた。何かあるような、なのに何もないような。
「気にはなりますが……」
特に何かある訳でもない。他では見ない『妖精の灯草』の群生を見たから変な違和感を感じたのだろうか? 調べても何もない以上、拘る事も無いだろうと十分に集まった薬草を手に老婆の元へと急ぐのだった。
薬草摘みをしに行っている間、残ったサンディとフォルセティはベルの指示のもとポーション作りの準備をしていた。
「それじゃあ、お婆……ベルちゃん、ポーションつくり手伝うよ。」
お婆……と言いかけたところでベルの視線が鋭くなったのを見て呼び直すフォルセティ。このあたりの対応力は流石、普段から姉に鍛えられている事はあるというべきか。それはさておいて、ベルは棚からいくつか壺のようなものを持ってきた。
「『妖精の灯草』は効力がすぐ落ちちまうからね。採りに行ったのが帰ってくる前に下準備だよ!」
先に進められる作業は進めておこうという事か。聞いたところ、一日ほどは効力は残るとの事だったが効力が抜けていくなら確かに時間は置かない方が良いのだろう。大釜に何かの液体、正体不明の粉末、乾燥した葉、その他いろいろと入れていくと、何ともいえない何かになった。人がすっぽり入れそうな大きさの釜の半分ほどを満たしている混合物からは何ともいえない匂いが立ち上っている。
「さ、火にかけるから掻き混ぜるんだよ。しばらくは延々混ぜるだけだから退屈だろうけどねぇ。」
釜の下に火を灯し、老婆は掻き混ぜ棒を二人に渡した。まずは焦げ付かないように混ぜるらしい。
「単純で疲れる作業? 構わないよ。
その間にお婆さん……いやベルちゃんとお話しできるなら喜んで。」
にこやかに棒を受け取るサンディにベルも気を良くしたようだった。その様子を見ながらサンディは年配の者にちゃん付けするのに少しばかりむず痒いような気持ちになって。
「……うん、なんだか照れくさいからお婆さんでいいかな。」
「えー、それならボクもお婆ちゃんで良くない?」
「あんたはベルちゃんって呼びな!」
「なにそれ!?」
「あはは……」
グルグルと掻き混ぜながら話も弾めば退屈な作業などあろうか。老婆の話しぶりからも楽しんでいる雰囲気が伝わってくる。一人暮らしの老婆に話し相手など、はたして居たのだろうか。そんな事を思いながら混ぜる事しばし。だんだんと釜の中の混合物の粘度が増してきた。
「お婆さんはいつも自分でコレやってたの? 慣れてらっしゃるだろうとはいえすごいなあ。」
細腕の見かけによらず力のあるサンディでも力を入れて掻き混ぜている。これを老婆がやっているのかと思うと感心もしようというものだ。
「ひっひっひっ、コツもあるさね。あっちの坊やもそんなに力は入れていないだろ?」
見れば大釜の対面に居るフォルセティは歌を歌いながらリズムよく混ぜている。
「グルグルぐるぐるぐーるぐる♪」
なるほど、リズムか。ヒントを得たサンディもフォルセティの歌に合わせて混ぜてみる。楽になった、か……? コツをつかむにはまだ経験が足りないという事かもしれない。一方、フォルセティも腕に疲れが出てきていた。
「これ結構大変だけど、ベルちゃん毎回一人でやってるの?」
「そうさね。まあ、大釜使うのはたまにだけども。」
そうなのか、と思いつつも掻き混ぜていくと釜の中の混合物が深い暗青色に変わり、とろみが出てきた。もうそろそろさね、と具合を確かめるベルの様子に二人はほっと一息ついた。と、その時入り口が開かれる。『妖精の灯草』を採りに行った面々が戻ってきたのだ。
「フォルセティ、準備はできていますか?」
「ばっちりだよ、フィオ姉ちゃん!」
大釜の方も後は『妖精の灯草』を入れて仕上げを残すのみ。各々が摘んできた薬草をベルの指示のもと刻んで下処理をし、釜へと投入していく。
「大釜、まだ掻き回すんだろ? 俺も手伝うよ。」
「流石はテオ、頼りになりますわ。」
投入した草によってさらに量の増した大釜を見て、テオが手伝いに入る。それを頼もしく想い見守りながらオリオが使った道具の片づけをしていた。テオも加わり3人で掻き混ぜるぐつぐつと煮立つ大釜の中身を見て、サンディはこれがどうなるのかと不思議に思っていた。
「妖精の粉薬っていうから、これ最終的に粉状になるの?」
もし、キギョウヒミツ……ではなく薬師の秘術とかで秘密なことだったらごめんなさいと思いながらも聞かずにいられない。
「このまま掻き混ぜると『妖精の灯草』の魔力のある部分が分離して浮いてくるのさ。それをすくって、乾かしたのが粉薬、というわけさね。」
べつに秘密でもないよ、と笑いながら答えるベルに、なるほどとサンディは納得した。先ほどまで作っていたのは『妖精の灯草』から必要な成分を分離させる触媒のようなものか。
「あ、ボク、野草とかハーブを混ぜて、香り良いポーションとか作ってみたい!」
きっと爆発とかしないはず、と小声で続けるフォルセティにベルは持ってきた材料を見て「かまわないよ、やってみな!」と許可を出す。やったー、とフォルセティはポーション作りを始めた。後ほど、良い香りの際立つポーションが出来上がりアロマポーションと呼ばれる事になる。
雑談が出来そうな雰囲気に材料を刻んだりして手伝いをしていたノエルとオリオも気になる事をたずねてみた。
「ベルちゃんと妖精さん達はどんな関係なんですか?」
「わたくしも、お婆さまの遺跡への想いを伺いたいですわ。」
気になっていた者も居た質問。自然、老婆へと視線が集まる。ベルは胸に溜めていたモノを吐き出すように息を吐いた。
「大した話でもないよ。元々、あの遺跡は妖精たちにとって大事な物でね。妖精にしか入れないし、そもそも妖精にしか見えない所なのさ。」
グリモア猟兵からの情報にも『妖精がその身の穢れを清める場所』であるとあった。ベルが言うには、妖精は他者の強い感情や思念に影響を受ける事があるらしい。そのままだとその感情に囚われてしまう。なのでそれを清め落とす為の場所だったのだ、と。
「だった……?」
「ああ、それも昔の話さね。一人の妖精が要らんものを持ち込んじまったせいで……」
どこか遠くを見るように、寂しげな口調でベルは続ける。今、あの遺跡は壊れた妖精を引き寄せている。そしてその最奥にある物がその妖精を逆に強い思念で汚染しているというのだ。もはや壊れて死んだ妖精の残滓が飛び回り、思念を運んでいる。そもそも。
「『妖精の灯草』ってのはね、妖精の魂から芽吹くといわれててね……」
だから、大量に妖精の魂が集まらない限り、群生などしない。その魂が灯となり、数百年かけて花をつけ、枯れ落ちるとともに妖精の魂は大地に還るというのだ。だから今も『妖精の灯草』が数多く生えているという事は。
「多くの妖精が死んでいる……?」
「どのみち、妖精も死ぬものさね。ただ、ここに引き寄せられると体は残滓になって死にきれない。それだけさ。」
遺跡には何があるというのか。それは『勇者の伝説』と関わりのある物なのか。各々の内に膨らむ疑問を見て取ったか、老婆は大釜から煌く上澄みを掬い取った。
「実際に見て、確かめてみるとええ。」
「でも、妖精にしか入れないんじゃ……」
「なに、『妖精の粉薬』があれば妖精の領域にも入る事ができる。かつて勇者もそうして入ったのさ。」
初めから対価など求めるつもりはなかったという事か。或いは、老婆は遺跡の奥にある物を誰かに託したかったのかもしれない。それを持ち帰るか、壊すのか、どちらに転ぶとしても。
成功
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第2章 冒険
『遺跡探索』
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POW : モンスターを力でねじ伏せる.罠を破壊する.攻撃から仲間を庇う等
SPD : モンスターを速度で翻弄.罠を解除する.隙をついて味方を援護する等
WIZ : モンスターを魔法で攻撃.罠、宝を探知する.傷ついた仲間の回復等
👑11
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「ほら、ここがさっき話した遺跡、通称『妖精の葬奏場』だよ。」
老婆の案内で連れて来られたのはノエルが違和感を感じていた、あの場所。一見、ただの岩壁とそこに生える大樹だが、そここそ遺跡の入り口なのだという。『妖精の粉薬』を身体に振りかければ、妖精と同じ物が見え、妖精と同じように遺跡に入れるのだ。
「中にはまだ当時のトラップもある。それに中を飛び回っている妖精の残滓も居る。」
入り口近辺の妖精の残滓は衝撃を与えるだけで霧散するほど脆い物だ。妖精の運ぶ思念自体は負の感情だけではなく、いわば思い出のような物という。だが運んでいる思念をぶつけられるとそれに気をとられる事もあるだろう。それがトラップの満ちる遺跡の中であれば危険を増す要因となる。それに、奥へ行くほど妖精の残滓もより強固になっていくという。
「残滓は遺跡に仮の姿を与えられているようなもんでね。元の妖精のかわいらしい姿とは限らないよ。」
気を付けな、と老婆は言う。かつて勇者が挑んだ時は、遺跡にあったトラップは矢が飛んでくる、落とし穴、振り子のように壁から振り下ろされる刃と言った物から、迫る壁、転がる大岩、落ちてくる天井のような大掛かりなものもあったそうだ。物理的なトラップが中心であり、機械的な仕掛け故に注意深く探って回避する事も可能だろう。無論、妖精の残滓に邪魔されなければだが。
意を決し『妖精の粉薬』を振りかけた猟兵たちの目に、大樹と岩肌の間に石造りのアーチが見えてくる。暗く続く石造りの通路から聞こえる風音は、まるで話し声が響いてくるかのだった。
ゾーク・ディナイアル
「罠だらけの遺跡を調査ねぇ…ま、昔よくやらされてたような任務だよ」
☆遺跡踏破
罠の発見と回避で頼れるのはやっぱり強化改造で得た完璧な未来視能力…【野生の勘】と【見切り】にUC【強化兵戦技《予測回避》】だね。
「ボクを罠にハメようってのは無理な相談だね、何せ未来が視えるんだからさぁ!」
どんなトラップも華麗に回避、可能なら妖剣でブッ壊して、後続の皆にボクが役に立てるところもアピールだ。
「想いは残って死んでも誰かと溶け合えるなんてさぁ、ボクはゴメンなんだよねぇぇ!」
妖精の残滓は察知したら容赦なく魔導銃の【クイックドロウ】で撃ち抜いて霧散させて。
「ボクの中に入ってくるなぁぁ!」
※アドリブ歓迎
ノエル・スカーレット
WIZ判定
「もっとロマンチックな所だと思ったら神秘的ではありますがけっこう物騒な遺跡なんですね」
「でもやっぱり遺跡ってワクワクしますね♪」
妖精の残滓もトラップと同じ位に注意が必要なんですね。
なら細心の注意を払いましょう。
遺跡内は吸血鬼の刻印を発動させ地面より30㎝程浮いて移動する。
遺跡のトラップなら床や壁、天井などの色が変わっていたり通路や広間に目に見える変化もあるはず。
進行方向や怪しいエリアはまず周りに落ちてる石や枝を投げて安全を確かめてから進む。
トラップが発動してどうしても避けられそうもない場合はしょうがないので大鎌клювを召喚してトラップを破壊する。
アドリブ&他の猟兵様との絡み歓迎。
石造りの通路が続く遺跡、今は『妖精の葬奏場』とも呼ばれるその通路は一見するとこの世界にはありふれた遺跡に見える。だが通路には照明の類は無いにも関わらず暗くはなかった。先まで見通せるほどではないにせよ遺跡の中は微かに燐光が舞い、暗闇が視界を妨げる事は無い。
「もっとロマンチックな所だと思ったら神秘的ではありますがけっこう物騒な遺跡なんですね。」
吸血鬼の刻印を発動させ床から少し浮かびながら移動するノエル・スカーレットは行く先にトラップがないかを確認しながら進んでいた。妖精の伝承の残る遺跡、と聞いた初めの印象とは趣が違ってきたが、それでもその表情は明るい。
「でもやっぱり遺跡ってワクワクしますね♪」
過ぎし時代の面影を残す遺跡は、近代的な施設や迷宮などとはまた違った独特な魅力がある。伝え聞く事しかない時代に触れ、その由来を紐解いてかつての姿を思い描くのもいいだろう。もっとも、それを魅力と見るか遺された障害と見るかはその人それぞれだ。
「罠だらけの遺跡を調査ねぇ……ま、昔よくやらされてたような任務だよ。」
通路の先を透かし見るように目を細め、ゾーク・ディナイアルは独り言ちた。遺跡で待ち構える障害が物理的な物であれ、霊的な何かであれ、ソークにとっては同じこと。予測し、見切り、破壊する……場所も状況も違うが、やる事はかつてとどれほどの違いがあろうか。最奥を目指す、という目的がはっきりしている分やりやすいともいえよう。
「後続の皆の為にも、通りやすくしておかないとね。」
役に立てるところもアピールだ、と妖剣《ガディス》を手に無造作に足を進める。
「進む前にちゃんと調べましょうよ。」
「へーきへーき、大丈夫だって。」
ノエルは掛からないで済むトラップならば回避するか離れて作動させるかしようと思っていたのだが、ゾークは強化改造で得た未来視能力【強化兵戦技《予測回避》】に自身の勘と技量を加えて突破しようとしていた。踏み出したゾークの足元でカチリと小さな音が鳴る。
「ボクを罠にハメようってのは無理な相談だね、何せ未来が視えるんだからさぁ!」
前方の床から斜めに飛び出してきた槍を妖剣で叩き折った。次いで壁から飛んでくる矢を返す剣閃で弾く。さらに槍の飛び出た隙間からふわりと舞い出た崩れかけた妖精に試作型魔導拳銃《スタイン》の早撃ちを見舞う。撃たれた妖精……いや、『妖精の残滓』は微かに『こんどはさ……』と思念を響かせて霧散した。運んでいた思念は誰かの思い出の欠片ようなものか。
「なんか、めんどくさい配置だなぁ……」
一連のトラップを対処したゾークの感想である。トラップの配置の仕方が連続して作動するようになっており、殺意が高いというか厭らしい。加えて『妖精の残滓』の事も考えると対処はできるが、めんどくさい。
「ほら、避けれるトラップは先に避けた方が良いと思いませんか?」
ノエルとしてもトラップをすべて発見・解除もしくは回避するには時間がかかる。その間に『妖精の残滓』に邪魔されたらなおの事だ。ゾークの突破力はノエルにとっても頼もしいが、逆に作動前に見つけた方が手早く済む事もある。お互いの取ろうとする手段を合せればより効率的に攻略もできるだろう。
「奥の方の壁、色が少し違う所があります。先に作動させますね。」
「おっけー!それじゃ手前のはボクが片付けちゃうよ!」
石を投げ込んだ床が跳ね上がり石を奥へと飛ばすとともに奥の壁から槍ぶすまが突き出てくる。その様子を見ながら踏み込んだゾークは後ろから振り下ろされた鎖付きの鉄球を斬り飛ばした。その途端、ゾークの足元からガコッと音が響き床が抜け、ノエルの後方から大岩が転がってくる。そして開いた床底からは『妖精の残滓』が捩じれ合い、歪な塊となって這い上がってきていた。
『はは、なんだって……』『きっとピーターも
……』『……そうだなぁ……』
脈絡のない思念と共に迫る残滓に向かってゾークは魔導銃を連射する。
「想いは残って死んでも誰かと溶け合えるなんてさぁ、ボクはゴメンなんだよねぇぇ!」
ノエルも勢いを増しながら迫る大岩に向き直った。これを通せばゾークの方へ転がって行ってしまう。
「しょうがないですね。」
その手に喚ぶは大鎌клюв(クリューヴ)。嘴の名を持つその切先を向けるは視線の先。振るった刃は大岩の中心線を縦に奔り、瞬断する。返した鎌の柄の両端で左右に弾かれた大岩が轟音を立てて壁に激突した。
「ボクの中に入ってくるなぁぁ!」
奈落を裂くようにゾークの放つ銃撃が残滓の塊を穿ち霧散させていく。瞬く間に吹き散らすように消えてゆく『妖精の残滓』は残響となって消えていった。床が抜け、落ち行こうとするゾークの腕が引っ張られる。
「落ちそうなのに慌てないんですね?」
「引っ張ってもらえるのは分かってたからさ。」
それは信頼か、単なる照れ隠しか。遺跡の難関を一つ、潜り抜けた二人は笑みを交わして奥へと進むのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
テオ・イェラキ
オリオ(f00428)と参加
妖精の残滓ねぇ
何とも不思議なものだが、触れれば妖精達の思い出でも見られるのだろうか?
あまり妻に危険な思いをさせたくないからな
オリオをお姫様だっこし、【スカイステッパー】で落とし穴や振り子の罠を飛び越えよう
飛んでくる矢くらいなら、キャッチしてみせよう
迫る壁、転がる大岩等力技が必要なものは、俺だけでは力不足かもしれない
妻と夫婦力を合わせて、正面から受け止めよう
妻は意外と、俺よりも力があるからな
妖精の残滓に気を取られれば、危ないかもしれない
互いが気を取られた瞬間は、もう一人がフォローするように気を付けよう
……あぁ、すまない。不思議なものを見ていたようだ
オリオ・イェラキ
テオ【f00426】と供に
これが妖精が見る世界なのかしら
なんだか楽しいですわ
あら。…ふふ
夫に抱えられての遺跡巡りだなんて、なんて贅沢
上機嫌でテオに寄り添いますわ
あぁでも彼の目の代わりもしなくては
暗がりからのトラップも暗視で見極め、夫に伝えますわ
まぁ。壁が此方に?
名残惜しく夫から降り、共に力を合わせて壁を止めますわ
こう見えてもわたくし力ありますの
転がる大岩は大剣にて一閃
護られているばかりの淑女ではありませんわ
妖精の残滓とやらは共に受けないように気をつけないと
夫が受けたなら優しく頬を撫で此方に気を戻しますわ
おかえりなさい、テオ
夫を惑わせたものはメテオリオで散らしましょう
油断はせずに
さぁ、もっと奥へ
「妖精の残滓ねぇ。何とも不思議なものだが、触れれば妖精達の思い出でも見られるのだろうか?」
遺跡の中を軽やかに舞い、テオ・イェラキは想いを飛ばす。この遺跡を飛び交う妖精の残滓は、思念を運んでいるという。それが何処からくるものなのか、誰のものなのかは分からない。そもそも妖精にしか見えない遺跡、その中を進むなどそうある事でもない。
「これが妖精が見る世界なのかしら。なんだか楽しいですわ。」
そのテオの腕の中でオリオ・イェラキも物珍し気に遺跡の中を見渡していた。遺跡の中は暗くは無く、されど明るいという訳でもなく。不思議な居心地のよさすら感じる。もっとも、それに気をとられていては遺跡のトラップの餌食になるだろうが。
「あまり妻に危険な思いをさせたくないからな。」
そう思うテオはオリオをお姫様抱っこで運んでいた。こんな場所を歩かせて何かあってはたまらない。手を引くよりも抱きかかえた方がはぐれる心配もないというものだ。
「あら。……ふふ。夫に抱えられての遺跡巡りだなんて、なんて贅沢。」
腕の中でテオに寄り添うオリオも上機嫌であり、トラップを躱しながら進む夫への信頼もあってか楽しむ余裕すらあった。そんな二人が通路の半ばに差しかかった時、テオの足元が崩れていく。
「むっ。」
「あら。」
崩落は一か所に留まらず、通路全体が落とし穴になるような大掛かりなものだった。だがテオは慌てずに空中を蹴り、跳躍する。【スカイステッパー】を駆使して通路の奥にある部屋まで辿り着き、テオは安堵の息を吐いた。やはりオリオを抱きかかえていて良かった。咄嗟に躱さないといけないようなトラップ、それも複数を巻き込むような物ならばこうしていた方が対処しやすい。それに。
「あちら。影になっていますが、ワイヤーのような物が見えますわ。」
「わかった。触れないように飛び越えよう。」
遺跡の中は暗くないといえども距離が離れれば、まるで明かりが届かないかのように見通しも悪くなる。それに一つのトラップに対処している間は他に気をまわすのは難しい物だ。その隙をオリオの目が埋めている。まさに夫婦二人が一つになって遺跡を攻略していた。ワイヤーを飛び越えたテオの足元でカチリと何かの作動音が鳴る。着地を狙ったトラップが作動し、二人めがけて矢が飛んできた。
「息つく間もなしか。だが、このくらいなら。」
躱す事もできただろうが、着地の体勢から無理に避ければ抱えたオリオに負荷がかかる。そう判断したテオは飛んでくる矢をキャッチして止めていた。だが、この遺跡のトラップはこれで終わりでは無い。
「テオ、壁が迫ってきています。わたくしも一緒に。」
「そうだな、二人で力を合わせよう。」
名残惜し気にオリオはテオの腕から降り、夫の横に並ぶ。テオは、この大掛かりなトラップを止めるには自分の力では足りないかもしれないと思っていた。だがオリオと一緒なら。二人ならどんな困難でも正面から乗り越えられると思えるのだ。さいわいというべきか、迫ってくる壁は片側のみ。ならば二人で押し返すまで。テオとオリオが込める力に壁を押し出している装置のきしむ音が重なる。
「俺とオリオの力を合わせれば何とかなるな。」
「ええ、このまま押し返しますわよ。」
隆々たる筋肉を持つテオは言うまでもなく、オリオも貴婦人然とした佇まいからは想像しにくいが大剣を武器として自在に操れるほど力は強い。その二人に押し返され、壁の向こうで何かが壊れるような音が響いた。そのまま支えが崩れたのか向こう側に壁が傾いでいく。一難去ったかと緊張を解こうとした二人の耳にさらに近付いてくる音が響いた。
「どこか崩れたのでしょうか。あちらから大岩が転がってきているようですわ。」
「それだけじゃないな。別の方からも声がする……『妖精の残滓』が近づいてきてる。」
タイミング的にも片方に対処してからという事も難しい。ならば、どうするか、など決まっている。お互いの考える事は言葉にせずとも分かる仲だ。
「大岩はわたくしが対処いたします。その間……」
「俺は『妖精の残滓』を引き付ける、だな。」
オリオの方へ残滓が行ってしまうと、思念に気をとられ大岩への対処が難しくなる。その為テオは派手に跳びまわり残滓を引き付ける事を選んだ。オリオも夫の加勢に入れるように最短の手で大岩を破壊すべく神経を研ぎ澄ましていく。そして、まず到来したのは『妖精の残滓』だった。それも一つ二つではない。
「これは予想以上に多いな。」
だが、一つたりとも妻の所へは行かせない。決意を胸に、テオは残滓の群れを引き付けるべく【スカイステッパー】で跳び上がった。
「わたくしは、護られているばかりの淑女ではありませんわ。」
一方で、オリオがその手に握るは星空の如き大剣。絢爛たる剣身を大岩を断つべく振り上げた。大岩と接する刹那、一閃で大剣を振り下ろす姿すら貴婦人の舞うが如く。流麗な所作で大岩を断ち斬り、振り返った視線の先には。
「テオ……?」
すり抜けようとした残滓を止めるべく握ったテオの姿があった。その残滓から溢れる思念がテオの意識を包み込んでいく。それはまるで夢の中に落ちていくかのようだった。その目に映るはどこかの草原、空を舞う数多の竜、それに対峙する者たち。
『くっ、ドラゴンの数が多いな!』『負けないもん、皆で帰るんだから!』
その中の少年と妖精の声が聞こえた。この思念は……さらに引き込まれそうになるテオの頬に優しげな温もりが撫でる。それは意識を抄い戻すかのように、テオを現実へと引き戻していた。
「おかえりなさい、テオ。」
オリオがテオの頬を優しく撫で、その瞳を見つめている。残滓に気をとられたなら、もう一人がフォローしよう、そう気を付けていたのだ。
「……あぁ、すまない。不思議なものを見ていたようだ。」
もう大丈夫だ、微笑むテオに頷き返し、オリオは手にした大剣を無数の星の煌き纏う黒薔薇へと変えた。【夜彩と流星花(メテオリオ)】が舞い、『妖精の残滓』を散らしていく。やがて静かになった遺跡の中、寄り添う二人は仲睦まじく脚を進めていった。
油断はせずに。さぁ、もっと奥へ。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
フィオリナ・ソルレスティア
【ペア/f05803】【WIZ】(連携・アドリブ可)
「ベルさんは全てを知っている感じだったけど、
結局は自分たちの目でみて考えなさいってことだと思うわ」
■作戦
自身はトラップ解除中心、フォルセティは妖精の残滓対策と
役割を分担しながら遺跡の奥へと進む
■行動
装着したオートフォーカスで仕掛けがないかサーチしながら進む
特に[罠使い]の視点や遺跡の構造[地形の利用]から罠が仕掛けやすそうな
場所と判断したら立ち止まって重点的に調べる
また怪しい場所では【エレクトロレギオン】を使い、
機械兵器を先行させて罠の破壊、事前発動により回避を狙う
罠に集中するが任せきりにせず、襲い掛かる残滓には
【アイオロスの刃】で対抗する
フォルセティ・ソルレスティア
【ペア/f00964】【POW】(共闘/アドリブ可)
「ベルさんが言っていた『要らんもの』が何か気になるよ」
妖精さんのためにも元の『穢れを清める場所』に戻せないのかな
ベルさんにとっても大切な場所みたいだし
【行動】()内は技能
フィオ姉ちゃんと一緒に遺跡探索だね。ボクは主に妖精の残滓をケアするんだ
箒で振り払ったり(オーラ防御)で防いだりするけど
強固な残滓が直撃する場合はクラロ・デ・ルーナで破壊するよ
あまりにも数が多い時はウィザード・ミサイルで殲滅だね(2回攻撃)
もちろん遺跡の罠にも気を付けるよ
暗がりに不審なものがないか(暗視)、何か不自然が音がしないか(聞き耳)
気になればフィオ姉ちゃんに注意を促すよ
サンディ・ノックス
思念で汚染、か…
遺跡では無闇に黒騎士の力は使わないようにしよう
壊れてしまった妖精に別の思念を渡して更に壊すなんてむごいもの
奥にある物の思念は悪とは限らないけど妖精に悪影響が出ているんだ、
なにかしら対処してお婆さんの気持ちも楽にしてあげたいな
お節介かもしれないけどね
ユーベルコード・絶望の福音を使用しながら移動
罠のトリガーは探すし同業者も探してくれると思っているけど
それでも予期せぬことは起こりうるから保険をかける
不自然な突起物、通常存在する意味がないものなど無いか注意深く【情報収集】
違和感あるものを探す
残渣と思われるものはどんな姿でも動じない
死にきれなかったんだね、楽にしてあげるよと言い淡々と攻撃
「思念で汚染、か……」
サンディ・ノックスは先ほど切り散らした『妖精の残滓』が消えゆくのを目に、呟く。既に遺跡の奥深くまで入ってきており、残滓も入り口で見たような吹けば消えそうな脆いものではなくなってきていた。だが妖精の物ではない、何か別の思念が残滓を浸しているのは変わらない。
「ボクは、ベルさんが言っていた『要らんもの』が何か気になるよ。」
隣で残滓を箒で振り払っていたフォルセティ・ソルレスティアも自分の気になっている所を口にする。もし妖精たちをこのような成れの果てにしている物があるというならば、それはどのような物だろうか。
「ベルさんは全てを知っている感じだったけど、結局は自分たちの目でみて考えなさいってことだと思うわ。」
付近にトラップがあるか調べていたフィオリナ・ソルレスティアが顔を上げる。トラップも遺跡の奥へ行くにつれ、より危険な物へとなってきている。猟兵だからこそ問題なく進めているものの普通の冒険者程度なら命がいくつあっても足りない所だろう。老婆が新米を追い返していたのもむべなるかな。ベルは猟兵たちならば辿り着き、そして託すに足ると思ったのだろうか。
「この近辺にトラップは無いようですし、先へ進みましょう。」
ここに来るまでにトラップの傾向はおおよそ掴んでいる。トラップを連鎖させるような大掛かりな物は今いる場所では設置しにくいだろう。あるとすれば、この先に見える広間のような部屋で、だろうか。その部屋は大きな柱が立ち並び、まるで祭壇にでも続くように広々としたその空間の壁に沿って階段が上がっている。その先はバルコニーのように広がっており、大きな両開きの扉が見える。遺跡の最奥があそこであるならば、この大部屋には侵入者を止めるべく何らかの仕掛けがあるはずだ。
「先に【エレクトロレギオン】を向かわせますね。」
フィオリナが召喚した小型の機械兵器が部屋の中に入っていく。目で見てある程度のあたりはつけているものの、詳しく調べたり解除するならフィオリナ自身が行くしかない。だが入る前に危険を減らしておくのは有用だろう。その間、フォルセティとサンディは『妖精の残滓』が現れないか警戒をしていた。奥まで来ているからか、残滓との遭遇頻度も上がっている。それこそ、足を止めて調べれば必ず出会うほどに。
「また出てきたね。今度のはもう妖精だった面影もないか。」
歪に伸びた手足、ねじくれたような顔つきの残滓はもはや妖精というより妖魔とでもいった方がしっくりくる。通路の影から猛然と突っ込んでくるその残滓にサンディは暗夜の剣を突き立てた。
「死にきれなかったんだね、楽にしてあげるよ。」
たとえ残滓と言えども苦しまぬように、一撃で。
『ああ……遠くまで……』
耳に届く思念は妖精の物ではなく、すでに壊れた殻に満たされている物。そこに別の思念を入れぬよう、サンディは黒騎士の力は使わないようにしていた。別の思念を入れてさらに壊してしまうなんてむごいもの……それはサンディの優しさか、あるいは彼なりの送別だったのかもしれない。
「強い残滓は少ないけど、数は多いなぁ。」
消えかけたような残滓を纏うオーラで弾き、フォルセティはしっかりとした形を残す残滓に狙いを付ける。払うように振った聖箒ソル・アトゥースをくるりと回して突き出し、一言。
「放て。」
瞬きにも満たない間に【クラロ・デ・ルーナ】が放たれる。高エネルギー波が閃光と衝撃を伴い中核をなす『妖精の残滓』を撃ち抜いた。あたりに舞っていた微かな残滓もその一撃の余波で吹き飛んでいく。残滓を片付けた二人が部屋の方を見ると、手前の床を調べていたフィオリナが立ち上がるのが見えた。
「部屋の手前側にはトラップは無いわ。進みましょう。」
これだけ広い部屋となれば全て調べきるには相当な時間がかかってしまう。ならば進みながら安全を確認していった方が良いと判断したフィオリナが二人に声をかけた。ざっとではあるが部屋の怪しい場所はアタリを付けてある。フォルセティもサンディもトラップに対する備えはしているので、もし何かあっても対処できるだろう。
「ほえー……この部屋は広いとは思ってたけど、天井も高いね。」
「それに音も良く響くみたいだ。」
踏み入れて見上げてみれば伽藍のように天井は高く、心なしか自分たちの足音も反響しながら大きく響いていくような気がする。この部屋の造りも妖精の穢れを清めていたという遺跡に必要な物だったのだろうか。
「妖精さんのためにも元の『穢れを清める場所』に戻せないのかな。」
ベルさんにとっても大切な場所みたいだし、と続けフォルセティがぽつりと呟いた。
「俺も奥にある物には、なにかしら対処をしてお婆さんの気持ちも楽にしてあげたいね。」
お節介かもしれないけどね、とサンディも想いを零す。その思念が悪とは限らないが、妖精に悪影響が出ているからには放っておくわけにはいかない。
「それもあの扉の向こうに行けば、分かるかもしれませんね。」
あのような大仰な扉はこの遺跡で初めてだ。ならば何か特別な場所のはず。そこに辿り着くためにも、まずは安全を調べなければ。フィオリナが階段に向けて機械兵器を再度召喚して向かわせる。これだけの部屋、何もないなどという事は無く階段までたどり着いた一体の脚が床を踏み抜いた。片足だけ入る落とし穴、それにトラバサミを組み合わせたもののようだ。さらに柱それぞれを中心に床がゆっくりと回転を始める。ぐしゃり、と回転する床と柱にひき潰されて機械兵器が消滅する。
「壁に穴が空いてるよ!」
見れば、床の回転に合わせて壁も動き始め、あちこちに穴のような隙間が空いていた。その奥から何かが響いてくる。
「この音、『妖精の残滓』の思念ですね。でも、これは……」
部屋の壁のいたる所に空いた間隙から『妖精の残滓』が溢れだすように出始めていた。それぞれのもつ思念が響くと、部屋で反響し混ざり合っていく。
『見て! こんなの
……』『……、痛いじゃ……』『元気だな、ティンカーは……』
『……だろう、けど
……』『……こんな……で、ドラ
……』『……やだ! やだよ……』
喜怒哀楽さまざまな思念が渦巻く。残滓に触れる前からこれでは、まともに食らったらどうなるか。この状況ではゆっくりトラップを調べる時間もない。
「俺が先行するよ。」
意を決し、サンディが駆けだす。トラップを突破するだけならば適任だろう。階段の段から跳ねる刃、壁から突き出るブロックを“まるで10秒先の未来を見てきたかのように”避け、駆け抜けていく。【絶望の福音】のもたらす予想を活かし、サンディは安全な道筋を拓いていく。
「フォルセティ、後ろから来るのは任せるわよ。」
「分かったよ、フィオ姉ちゃん!」
サンディが突破した道をフィオリナがさらにトラップを手早く解除しながら進んでいく。既に発動している物など、機能しなくなるように手を加えるだけで十分だ。その少しの時間をフォルセティが稼ぐ。乱れ撃つ【ウィザード・ミサイル】は『妖精の残滓』を寄せ付けず、逆に大きく数を減らしていた。
やがて三人は大扉の前に辿り着く。だが押せども引けども扉はびくともしない。
「鍵……いえ、何か仕掛けのある扉みたいですね。」
取っ手の周りの細工が動くのを確認し、フィオリナが解除を試みる。耳を当て、内部の音に集中しながら少しづつ仕掛けを動かしていく。その間、大扉周辺を守り通すべくフォルセティとサンディは応戦する。その最中、サンディはなにか引っかかるものを感じていた。押し寄せるといっても過言ではない数の残滓を迎撃しながらフォルセティが叫ぶ。
「フィオ姉ちゃん、まだ開かないの!?」
「もう少し……どこかにもう一つ仕掛けがあるはずなんだけど。」
仕掛けはほとんど解除している手ごたえはある。だが、何か足りない。
「もう! 扉の上に燭台なんかつけるなら、案内板も付けといて欲しいよね!」
迎撃の合間に怪しい所を探すフォルセティが愚痴る。その言葉にサンディは違和感の正体に思い至った。この迷宮に明かりはいらない。ならあの燭台は……。
「きっと、これが……!」
残滓を切り払いながら燭台に駆け寄り思いきり引き倒した。ガコンと何かが外れる音と共に扉がゆっくりと開いていく。安堵したのも束の間、サンディの頭上から一際大きな『妖精の残滓』が落ちてきた。
「切り裂け、風神の刃よ!」
はっと顔を上げるサンディの目に、真空の刃が残滓を切断するのが映った。【アイオロスの刃(フィロ・デ・エオロ)】を放ったフィオリナは扉の開ききる間、油断なく銀翼杖セラファイトを構えていた。
やがて扉が開ききると部屋を満たしていた音の反響が変化する。うねる風に吹かれるが如く、扉の奥から響く音に流されるように、残滓が姿を消してゆく。その様子を見て、三人は大扉を抜け、先へと進むのだった。
『妖精の葬奏場』、その最奥へと。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 集団戦
『崩壊妖精』
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POW : 妖精の叫び
【意味をなさない叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD : 妖精の嘆き
【なぜ痛い思いをさせるのかへの嘆き】【私が悪かったのかへの嘆き】【助けてくれないのかへの嘆き】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ : 妖精の痛み
【哀れみ】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【崩壊妖精】から、高命中力の【体が崩壊するような痛みを感じさせる思念】を飛ばす。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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そこは大きな舞台のようだった。大きな円形の部屋にドーム状の天井、その中心には小さな結晶の嵌められたペンダントのようなものが存在している。
「あれが、もしかしたら『勇者の痕跡』なの……?」
たしかに力を感じる。魔力ではなく、純然たる想いが感じられるというべきか。だが、そこに辿り着くのは容易ではなさそうだった。何故なら、部屋を飛び回っている数多の影があるからだ。
崩壊妖精。
すでに壊れ、この遺跡におびき寄せられたモノ。そして部屋の中心から発せられる強烈な思念に空っぽの身体を満たされたモノ。それは壊れた妖精の成れの果てをすら歪め、近寄るものすべてにその想いを叫び、ぶつけていたのだ。
『ああ、ようやく
……』『……けど、キミは……』
その思念は決して負の想いだけではなく、誰かの大切な思い出かも知れない。だが、妖精を歪める原因を放っておく事などできようか。たとえそのために壊れた妖精たちを倒さなくてはならないとしても。
ゾーク・ディナイアル
「ダメなんだよぉ、心を残しちゃあ…死んだなら大人しく死んでなきゃあ!」
心を残せばそれはいつかオブリビオンに堕ちてしまう、命は未来に向かわなきゃ救われないんだ。
☆戦術
SPD勝負
「想いは残すものじゃない、生きているうちに誰かに託すものなんだよぉ!」
【妖剣解放】で速さを手に入れ、空を『空中戦』で華麗に舞いながら『怪力』で妖剣ガディスを振るって『衝撃波』を放ち斬り捨てていくよ。
「ボクは君達の事なんか知らないもんね、やらなきゃやられる…それだけの関係だろぉぉぉ!」
妖精の嘆きは『野生の勘』で『見切り』躱して聞く耳持たずすぐに『カウンター』で魔導銃を『クイックドロウ』して魔弾をお見舞いするよ。
※アドリブ歓迎
オリオ・イェラキ
テオ【f00426】と供に
あの結晶がそうかしら
でもその前に対応しなくてはならぬものがありますわ
ええ、テオ。彼等に安らかな夜を差し上げましょう
夫が妖精達に観せる舞に合わせ、メテオリオの花を散らせる
夫が力強く繰り出す竜巻に花弁の刃も織り交ぜましょう
嘆き、叫び、痛み…理解はしますわ
でも、哀れみ等不要。受け止める気はありませんわ
願うは唯一つ
より多くの妖精達を、その思念達を飲み込むように大剣でなぎ払う
せめて、夜空と花嵐に包まれて眠りなさい
でも終わりに、ほんの少しだけ
夫を抱き返す腕を強める
ありがとう、テオ。…もう、大丈夫ですわ
さぁあの首飾りを、翼を広げ飛んでこの手に
此処に…勇者の記憶、思念でもあるのかしら
テオ・イェラキ
オリオ(f00428)と参加
崩壊妖精、か……
可愛そうだが、そのまま放置するよりかは、楽にしてやるべきだろうな
この細やかな敵には俺の斧は当てづらいな
ここは【祖霊鎮魂す奉納の舞】を使用しよう
妻の声援を受けながら、我が部族の祖霊へと捧げる鎮魂の舞を披露する
祖霊の加護を受けた俺は妖精には止められまい
蹴りから放つ竜巻により纏めて薙ぎ払うぞ
妖精の嘆きか…
同情はしよう、その感情による痛みも甘んじて受けよう
だが、嘆きの叫びに対しては言わねばなるまい
知・る・かぁあああああ!
俺は万能では無いし、俺の手の届く範囲のものしか守れない
そして、俺の手は大切な人で塞がってしまっている
戦闘後、大切な妻をそっと抱き寄せよう
サンディ・ノックス
俺の黒騎士の力は魂を啜る性質からか、魂や思念に過敏なんだけれど
ここまで強烈と感じることは滅多にないや
……強い想いで俺の未来は切り開かれたから
強い想いが不幸の源になるのは複雑な気分
(手遅れの相手には心が動かない気質、他の者を害する存在なら尚更)
真の姿は悪意の性質を持つ魔力に満ちた竜人
(特徴は真の姿イラスト参照願います)
一瞬だけ悩むけど、開放する
俺の独りよがりで同業者に不利益を与えるのは良くない
攻撃を【見切り】、【フェイント】をかけて躱し
1体ずつユーベルコード、解放・夜陰を撃ちこむ
一撃で壊したい、生き残ったら悪意も入り込んで更に歪めてしまいそうだから
俺ができることはこれくらいだけど、どうか安らかに
フォルセティ・ソルレスティア
【ペア/f00964】【WIZ】(共闘可)
「そんな、これってみんな妖精さんなの?」
なんだかとても悲しいや。
でも悲しみや哀れみに囚われてはダメだからボクは戦うよ!
【行動】()内は技能
銀月琴ルーナ・プラータを手にしてシンフォニック・キュアで
高らかに歌うよ(楽器演奏+歌唱)
捧げるのはボクの故郷に伝わる鎮魂歌。決して暗い曲じゃないよ。
嘆きや痛み叫びといった負の感情を昇華させて安らぎと祈りの力に変えるんだ。
みんなが躊躇いなく崩壊妖精を葬るために!
崩壊妖精の攻撃は(激痛耐性)で我慢するしかないかな。
意識を強くもって最後までずっとずっと歌い奏でるよ(全力魔法)
フィオ姉ちゃんや他の猟兵さんを信じて。
フィオリナ・ソルレスティア
【ペア/f05803】【WIZ】(他猟兵と連携可)
「意識を強く持たないと飲み込まれるわ」
■作戦
一心不乱に歌う弟をガードしながら崩壊妖精を撃ち減らしていく
■行動
弟の前に立って[かばう]体制をとる
「ここは私に任せるのよ」
(弟にカッコいい姿を見せないと、姉としての威厳にも関わるから)
眼前の崩壊妖精に向かって【ウィザード・ミサイル】を放ち
とにかく数を減らしていく[2回攻撃]
自分たちを狙う妖精の嘆きに絞って【アイギスの盾】で相殺
その他は[見切り]で回避しつつで直撃時は[激痛耐性]で凌ぐ
なにより弟の鎮魂歌による癒しの力を背に受けて、崩壊妖精と戦う力に変える
しつこく容赦なく【ウィザード・ミサイル】で殲滅する
ノエル・スカーレット
WIZ判定
「なんだか圧迫感というか息苦しさを感じますね」
戦闘では【残像60】を伴う素早い動きからの大鎌での【なぎ払い30】で攻撃します。
相手の攻撃が叫びや嘆きの精神攻撃系なので残像での回避はおまけ程度に考えて崩壊妖精を絶対に倒し勇者の伝説の謎を解いて群竜大陸の手掛かりを絶対に突き止めるぞという強い意志で精神攻撃に耐えます。
血統大覚醒で金色の髪の容姿が18歳相当の不死のヴァンパイアに変身してスカーレッド・ノヴァを放ちます
妖精撃破後
たぶん悪い思念の原因を取り除けば浄化されて凄い綺麗な遺跡になるはず。
飛び交っている妖精の思念も色とりどりの美しい発光体になったり。
「ベルちゃんよかったね♪」
アドリブ歓迎
妖精たちの穢れを祓う遺跡、その深奥。人の領域には在らざるその大部屋は、どこか幻想じみた雰囲気さえ感じられた。明かり無く、されども暗くなく。その中を妖精たちが舞う光景は、確かに幻想の域と言っても過言では無かろう。たとえ、その妖精がすでに壊れ、その舞は風に弄ばれる木の葉のように強い思念によるものだとしても。
「なんだか圧迫感というか息苦しさを感じますね。」
ノエル・スカーレットの感じ取ったように、今ここに在る者の意志ではない、何かの思念がこの場に満ちている。それこそ自分たちにも吹き付けるように。その思念の溢れ出る中心に、何かの魔力によるものか仄かに光る結晶の嵌めこまれたペンダントがあった。
「あの結晶がそうかしら。」
たおやかな仕草で結晶を見ながらオリオ・イェラキは夫であるテオ・イェラキに寄り添った。
「でもその前に対応しなくてはならぬものがありますわ。」
「崩壊妖精、か……
可愛そうだが、そのまま放置するよりかは、楽にしてやるべきだろうな。」
「ええ、テオ。彼等に安らかな夜を差し上げましょう。」
踏み出した二人に崩壊妖精たちが反応する。殺到する群れが攻撃に攻撃に映ろうとしたその時、青光を携えた銀髪の颶風が吹き荒れた。
「ダメなんだよぉ、心を残しちゃあ……死んだなら大人しく死んでなきゃあ!」
宙を舞うように斬り込んだゾーク・ディナイアルは、手にした禍々しい青い妖気を纏う妖剣《ガディス》で崩壊妖精を斬り払う。無念を残す事、それは過去に囚われるという事。だからこそ、ゾークは思うのだ。心を残せばそれはいつかオブリビオンに堕ちてしまう。
「命は未来に向かわなきゃ救われないんだ。」
過去の思念を虚ろに響かせる崩壊妖精にゾークは妖剣の切先を向けた。それでも妖精たちは顔色一つ変えることなく舞い続ける。己に注がれた思念を撒き溢しながら。
「そんな、これってみんな妖精さんなの?」
その崩壊妖精の姿にフォルセティ・ソルレスティアは他のどの感情にも増して、悲しいと感じた。かつては自分の心のままに飛んでいたであろう妖精、それが何かの理由で壊れ、そしてその後も躰はこうして囚われているようで。
「フォルセティ、意識を強く持たないと飲み込まれるわ。」
弟の様子にフィオリナ・ソルレスティアが声をかける。戦いは気持ちで負けた方が負けるとはよく言うが、ここで気持ちで負ければ文字通り思念に飲み込まれかねない。かばうように前に立つフィオリナの姿にフォルセティは改めて、自分の気持ちを強く意識した。崩壊妖精の舞う姿、それを見るのは悲しい。
「でも悲しみや哀れみに囚われてはダメだからボクは戦うよ!」
この戦いは、すでに亡き妖精への葬送と言えよう。ならば贈るべきは悲哀ではない。そんな二人を前にしても妖精たちは崩れて光へと変わっていく四肢を躍らせるようにただ思念を撒き散らすのみ。
「魂や思念に過敏なんだけれど、ここまで強烈と感じることは滅多にないや。」
その様子を見つめるサンディ・ノックスの表情からは感情は読めない。サンディの黒騎士の力は魂を啜る性質を持つ。それ故に常からそう言ったものに晒されてきている彼をして、強烈と感じる思念。それはかつては信念と呼べるものだったのかもしれない。だからこそ。
「……強い想いで俺の未来は切り開かれたから、強い想いが不幸の源になるのは複雑な気分。」
強い想いは自らを動かす強い力だ。それは時に他者を巻き込むこともあるだろう。だが目指す先無く、ただ多くを巻き込み続けるだけの想いはもはや害でしかない。サンディには無形の思念に抗する手段があった。しかし、それは死体に鞭打つような所業ではないのか? 躊躇いが一瞬、サンディの心を止める。己が力を行使する、其れは即ち己の内を晒すという事だ。それでも。
「俺の独りよがりで同業者に不利益を与えるのは良くない。」
昏き赤が噴き上がる。いや、纏う悪意が錯視させたか。サンディを瞬く間に覆った赤い悪意は広がり飛ばさと成り、地に這い落ちて尾と成った。その手に握るは昏き槍、その身を満たすは悪意の性質持つ魔力。サンディは己の真の姿を開放し、赤き角持つ竜人となった。サンディの魔力に触発されたように、崩壊妖精が叫びをあげる。そこへ風に乗って黒い薔薇の花びらが舞いこんだ。聞こえてくるは軽快なリズム。見ればテオが爪先と踵を軽快に鳴らしながら舞っている。その周囲に渦巻く風が竜巻となって妖精たちを襲った。
「タップタァップタァァァァッップッ!」
飛び回る妖精の群れに自分の斧では当てづらい。そう判断したテオは【祖霊鎮魂す奉納の舞(タップダンス)】を舞い、疾風の如く駆ける。蹴り上げた風は竜巻となって妖精たちを打ちのめした。さらに竜巻に舞い散る黒薔薇の花びらが触れた者を切り裂いていく。
「さぁ……お往きなさい、わたくしの星達。」
オリオの手から舞い上がるは【夜彩と流星花(メテオリオ)】の花びら。それはまるで夜空に無数の星々を煌かせたかのように襲い掛かり、妖精の群れの足並みが崩れた。思念を飛ばすも狙いを定めきれない妖精たちに、好機を逃すまいと三つの影が走る。残像を残すほどの高速で正面から斬り込んだノエルは、妖精がその意識で捉えるより早く大鎌を振り抜いた。崩壊妖精の群れの一角が纏めてなぎ払われ、その密度を大きく散らす。だが、無事な崩壊妖精は次々とノエルに向けて思念を放ってきた。
「思念になんて屈しません。私には、突き止めたい事があるんです。」
高速で動き回るノエルをその多くは捉えきれないがなにせ数が多い。加えて思念という無形の攻撃は回避しきるのは容易ではなかった。打ち付けられ、自らの心に染み入るような思念にノエルは自分の成したい事を意識し、強い意志で以て抗する。その思念を放つために足を止めた妖精に、降りかかるは青い妖気を纏う剣。
「想いは残すものじゃない、生きているうちに誰かに託すものなんだよぉ!」
【妖剣解放】したゾークは宙を舞うように駆け、妖精たちの頭上から斬りかかった。力任せに振るう一閃で斬り伏せ、さらにその剣閃から放たれる衝撃波が妖精たちをなぎ払う。振り下ろした剣の反動を使ってさらに宙を翔けるゾーク。そのまま群れの周囲から削るように衝撃波を放っていった。多方向から攻められる崩壊妖精たちが猟兵を捉えようと巡らせる意識の中に、ふと、漆黒の闇が映り込む。
「残念、これが見えちゃったんだね? 気付かないほうが幸せだったろうに。」
妖精たちの逃げる先を見切り、サンディが【解放・夜陰】を放つ。それは地を闇の帳が奔るように崩壊妖精を撃ち抜いていった。せめて一撃で、悪意が入り込んでこれ以上歪まないように。多数の妖精が意識するより早く、その身体を撃ち砕いていく。崩壊妖精がゾークの剣戟で追い込まれた先にはもう一つの暴威があった。
「嘆き、叫び、痛み……理解はしますわ。」
「妖精の嘆きか……同情はしよう、その感情による痛みも甘んじて受けよう。」
さらに囲い込むべく放たれる竜巻、そこに舞う黒薔薇の花びら。その嵐に負けぬほどの嘆きを放つ崩壊妖精たちにテオとオリオは真っ向から向かっていった。
「でも、哀れみ等不要。受け止める気はありませんわ。」
「ああ、嘆きの叫びに対しては言わねばなるまい。」
知・る・かぁあああああ!
猛るテオの想いは爪先に乗せ、オリオが願うは唯一つ。竜巻に巻かれる崩壊妖精たちをしかと見つめ、オリオは手にした大剣『γ:Bellatrix』を振り抜いた。その一閃は流星の如く妖精たちをなぎ払っていく。
「せめて、夜空と花嵐に包まれて眠りなさい。」
静かに言葉を紡ぐオリオの傍で舞うテオが荒く息をつく。体に負担の大きい舞を続けているのだ、その負荷は徐々に蓄積していっていた。それは全力で妖剣を振うゾークも同じ事。一度、前線を任せ身を休めるべきか……ちらりとそんな思考がよぎったその時。その耳に歌声が聞こえてきた。
それは魂を送る送別の歌、その先に安らぎあれと祈る惜別の旋律。
フォルセティが銀月琴ルーナ・プラータを手に【シンフォニック・キュア】を高らかに歌う。その歌はフォルセティの故郷に伝わる鎮魂歌。悲しみを拭い、魂の安寧を願うその歌は暗く沈むことなく、逆にあたりに満ちる思念さえ浄化していくようだった。他人に向けられる嘆きを、痛みを、叫びを、そして想いすら昇華し安らぎと祈りに変えて歌に乗せる。崩壊妖精が、軋む。いや、その身を蝕む思念が軋んでいるのだ。死した後、安らぎを望まぬ魂があろうか。その想いは猟兵たちにも伝わっている。
みんなが躊躇いなく崩壊妖精を葬るために!
このまま崩壊妖精たちを葬り、安らかに眠らせるために。想いを込めたフォルセティの歌声が満ちていく。
「ははっ……これならまだまだ戦えるよ!」
「崩壊妖精の動きも読めてきましたし、このまま倒しましょう。」
戦闘の負荷を癒されたゾークが再び妖気を纏わせ、ノエルが大鎌を構える。この調子なら、そう思ったフォルセティの方を、強い想いの発生源に引き付けられるように崩壊妖精たちが一斉に向いた。
あ、ハチの巣をつついたみたいだな。思い浮かんだのはそんな光景。自分めがけて崩壊妖精から思念が降り注いだ。
「ここは私に任せるのよ。」
聞こえる言葉はいつも聞く声。フォルセティの目に映ったのは、光り輝く盾を掲げたフィオリナの背だった。
「防げ、【アイギスの盾】よ!」
如何にフィオリナの【アイギスの盾】が堅牢であろうとも、多数の崩壊妖精の思念を受け止める事は出来なかったかもしれない。もし、一人で受けていたならば。背後から聞こえる鎮魂歌が、盾を掲げる腕に力を添える。守りを突き抜ける叫びに崩れそうになる脚を支える。崩壊妖精の思念の一斉発射を防ぎ切ったフィオリナは受けた痛みを悟らせぬよう、盾に代わり銀翼杖セラファイトを掲げ弟に告げる。
「フォルセティは、自分の役目をまっとうなさい。」
弟にカッコいい姿を見せないと、姉としての威厳にも関わるから……そんな内心はおくびにも出さず、細めた目は標的を見定めた。先ほどの攻防で出来た隙に他の猟兵たちが攻め込んでいる。ならば私が狙うべきは……フィオリナが自分たちを狙う崩壊妖精に向け【ウィザード・ミサイル】を放つ。一度、二度と放たれる炎の矢はこちらに向かってくる妖精を焼き払っていった。
なぎ払えるだけの威力の攻撃手段があり、追い込むだけの人数もいる。フィオリナが崩壊妖精を殲滅する一手を詰めるべく【ウィザード・ミサイル】を放った。
「今です!」
フィオリナの攻撃の意図を汲んだゾークが炎から逃れようとする崩壊妖精を斬り伏せる。再び斬り込んできたゾークに向けて崩壊妖精たちが思念を向けてきた。
「ボクは君達の事なんか知らないもんね、やらなきゃやられる……それだけの関係だろぉぉぉ!」
吼えるゾークは思念をすり抜けるように躱す。すでに何度も見てきている。狙いどころを野生の勘で見切る事など、【妖剣解放】しているゾークには造作もない。そのまま相手に反応する隙すら与えず抜き放った魔導銃で魔弾を放ち、さらに妖精たちを追い詰めていく。
「私は、崩壊妖精を絶対に倒し勇者の伝説の謎を解いて。」
反対側から斬り込んでいたノエルの身体が変わっていく。それは変容というよりは成長か。或いは存在そのものを変えているのか。
「群竜大陸の手掛かりを絶対に突き止めるんです。」
その胸に抱くは絶対の意志。ノエルの吸血鬼の力が高まっていく。流れる銀髪がきらめく光を宿すように金色に染まる。【血統大覚醒】によりヴァンパイアとなったノエルは崩壊妖精たちを囲うように力を放った。
「全てを燃やし尽くす我が炎‐スカーレッド・ノヴァ‐」
ノエルから放たれた巨大な緋色の火球は崩壊妖精を檻の如く囲い、さながら燎原の火の如く飲み込んだ。普段ならば消耗を気にする事もあろうが今この時はフォルセティの歌が癒している。何憂う事なく持てる力を振えるのだ。それは他の猟兵も同じ事。
「これで全て終わらせる。俺ができることはこれくらいだけど、どうか安らかに。」
サンディが炎に踊る崩壊妖精を次々と漆黒の水晶で撃ち抜き、壊し倒す。その苦しみを長引かせないように。さらに炎をテオの竜巻が舞いあげ、その中で巻き上げられる妖精をオリオの黒薔薇の花びらが切り裂いていく。ゾークの剣閃と魔弾が、フィオリナの炎の矢が燃え広がる炎に巻かれる妖精を砕き、塵に還していった。そして、ノエルが【スカーレッド・ノヴァ】の炎を消した時には、全ての崩壊妖精は倒されていたのだった。
崩壊妖精が消え、静寂の戻った遺跡の最奥。それまで数多く居た妖精たちの残滓も今は見えない。テオは妻をそっと抱き寄せ、崩壊妖精たちが舞っていた空間を見やる。
「俺は万能では無いし、俺の手の届く範囲のものしか守れない。
そして、俺の手は大切な人で塞がってしまっている。」
その言葉にオリオはほんの少しだけ夫を抱き返す腕を強めた。
「ありがとう、テオ。……もう、大丈夫ですわ。さぁあの首飾りを。」
自分の胸に残る想いを振り切るようにオリオがペンダントに近づく。
「此処に……勇者の記憶、思念でもあるのかしら。」
その呟きに応えるようにペンダントから輝きが漏れる。それは今までと違い誰かにぶつけるような思念ではなく、ただ語られる思い出。
『やだよ! 私も一緒に行く!』
『困ったな……ティンカー・ベル。キミには帰るところがあるだろう?』
『でも、もう会えないかもしれないじゃない!』
『大丈夫。このペンダントに嵌った結晶に今までの思い出はいっぱい詰まってる。』
『だからこれを持っていれば、いつでも会えるよ。』
おぼろげに映るは一人の少年と妖精の姿。その手に在るのは、あのペンダントか。それを最後に、嵌め込まれた結晶から魔力が消える。
「ここに在った思念は、誰かを想って遺されたものだったんだね。」
不幸を呼ぶために残された想いではなく、誰かに寄り添いたいと思う強い想いが残されていたのか。サンディは、ではこのペンダントを託された妖精はどうなったのだろうと想いを馳せる。
「あのペンダント……というより嵌っていた結晶ね。あれに詰まっていた思い出が溢れていた思念の正体かしら。」
「妖精の穢れを清める所に持ってきちゃったから、思い出が流れ出ちゃってたってこと?」
もともと規格外のマジックアイテムだったのかしらね、と推察するフィオリナに、悲しい想いも強すぎると穢れみたいなものなのかなぁ……とフォルセティも唸った。
「まぁ……託された想いを抱えたままじゃ死にきれなかったんじゃない?」
一仕事終えた達成感に浸りながらゾークが括る。やっぱり、死んでまで心を残すのは良くない。彼方から持ち帰った心が残響になり、今まで妖精たちの残骸を引き付けていたのなら尚更だ。その時、ぽつりぽつりとあたりから光の粒が舞い上がり始めた。
「妖精の思念も、あのペンダントの影響から解放されたようですね。」
光の射さなかった遺跡に、どこからともなく明かりが射してくる。籠っていた思念が徐々に祓われていくようだ。それはまるで夢のよう。照らされる光の粒は煌きながら色を変え、咲き乱れる花のように舞い踊る。それは葬送される妖精たちの感謝なのか。ノエルは幻想的な光景を目に、思わず口元がほころんだ。
「ベルちゃんよかったね♪」
きっと、これで良かったのだろう。過去から響いていた残響は消え、きっとこの遺跡も元の清浄な妖精たちの穢れを清める場になるはずだ。猟兵たちがペンダントを拾い上げると、そこに寄り添うように妖精の灯草が一輪、咲いていた。
大成功
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