●ある結末
少年が道端の電信柱の影で倒れていた。歳の頃はまだ十にも満たないだろうか、それでいてその四肢は木の枝程度に細く、ここまで来れたのも偶然が重なったのが原因だろう。
偶然。そう偶然だ。彼は働かぬ自分の脳の中で今際の際に見るであろうこれまでの記憶の幻影を見ていた。
『あ? 何だ文句あんのかこのクソガキ!』
『新しいお父さんになんて目を向けてるの! 反省しなさい!』
新しい父親に殴られ蹴られ、それを止めるどころか囃し立てる母親。
『うわ気持ち悪い……! ここはあなたの来るような場所じゃないから出ていってよ!』
『この皆の使う店を汚すな、クソガキが!』
なんとか親元から逃げ出し、誰でも受け入れるという名目の『食堂』で放たれた拒絶。二の腕には筋肉質の老人に掴まれた痛みの感触が未だ残っている。
「………」
最早言葉はない。言葉すら知らない。ただ空っぽの腹の奥で何かが煮えたぎっている。そしてそれはさらなる偶然により、致命的な結果を生み出す、拒絶された少年が、拒絶された過去を呼び出し、今ここに形を変える。
●
「………。仕事だ」
アルミィ・キングフィッシャー(「ネフライト」・f02059)は酷く不機嫌そうに集まった猟兵達に口を開いた。
「場所はUDCアース。普通の……いや、運の悪さが重なった子供が怪物に成り果てる事件だ」
その、『運の悪さ』の内容が彼女を不機嫌にさせているのだろう。この類の事件はその経緯に沿えば主体となった人物を救える可能性がある。そのためにどのような来歴がその子供にあったのかを問われた彼女は吐き捨てるように言う。
「そいつは幼い男児で女の連れ子。同居人の男と共に虐待を受けていて、なんとか逃げ出した。で、何も食わせてもらえなかったんで、名目上は『誰でも飯が食える食堂』とやらに助けを求めたら、こいつを嫌った女と良い所を見せようとした年寄にそこを追い出された。……どいつもこいつも」
守るべきはずの大人が、全て私欲に走った結果だ。邪神と一体化した子供を誰が咎められるのか。
「ともかく、無関係な奴が死ぬのは避けなきゃならない。変化したと同時に生まれた小型の眷属を倒してくれ……オムライスの形してるんだ、これ。笑っちまうよな」
全く笑みを浮かべずに彼女は言う。グリモア猟兵としての義務感以上のものを抱えてるのかも知れない。
「そいつらを片付けたら、本命の元子供のUDCだ。……助けたいんなら考えて欲しい事がある」
それは単に手段だけの話ではないと、彼女は言う。
「ここまで自分より大きく強い者に裏切られてきた子供が助かったとして、どのような生き方をすると思う?」
既に引き返せない程度に彼は傷つき不信で満たされている。それを社会に戻すのは善か悪か、少なくとも助けてすぐは酷く不快な事を繰り返す人間になるだろう。真に助けられなければいけない弱者は、人が助けたくなるような性質を持っていない。可愛さも儚さも助けることで得られる社会的意義すら無い。
「それでも助けたいってんなら責任は取れ。……こいつはあらゆるものに飢えている。最早暴力以外で飢えを満たせないと思っている。その衝動自体はこの子供の持つものだ。相手の攻撃を力づくで止めつつ、美味いものを食わせてやれ。飢えを満たすのに必要なのは行き過ぎた暴力でないと教えてやれ」
それもまた簡単な事ではない。正当な癇癪を起こす巨大な幼児を相手にすると考えれば。
「上手くいけばなんとか人に戻せる。上手くいかなくても仕方がない。だが助けられたらその責任は取るんだ。UDC組織は何でもしてくれる慈善団体じゃない。……まあアタシも関わった以上顔出しはするけども、直接顔を合わせた奴の方が話は聞いてくれるだろう」
それもこれも終わってからの話だ、と説明を終わろうとした所で彼女は言い忘れていたと続ける。
「……この事件を起こした連中には『ケジメ』が必要だ。とはいっても言葉も通じないスジの通らない連中ばかりだ。死なない程度に痛みで刻みつけてやれ。もう子供を都合の良い道具にしないとでもな。もっともその意味すら理解出来無さそうだが」
この話の『大人』達を全く信頼していない様に彼女は言う。そして恐らくそれは当たっている。
「どこを切り取っても下らない事しか見えないヤマだ、やるんなら見返りは無いと思ってくれ」
そう言って彼女は同意した猟兵をUDCアースに送り込む。得られるものすら不確かな戦いが始まる。
西灰三
いつもお世話になっています。
西灰三です。
今回はUDCアースのシナリオをお送りします。詳しい内容はオープニングの通り。
不快な要素ばかりなので、参加のおすすめはしません。それでも参加したい、という方だけどうぞ。
やること自体はシンプルです。第一章の集団戦は普通にオブリビオンを倒し、第二章のボス戦は元となった人物を助けるならややギミック寄りの戦闘になります。第三章は事件の発端となった人物に『ケジメ』をつけるシーンとなります。
以上です。
それではよろしくお願いします。
第1章 集団戦
『オムライマーズ』
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POW : 熱いうちに召し上がれ
対象を【薄焼き卵】で包む。[薄焼き卵]は装甲と隠密力を増加し、敵を攻撃する【湯気】と、傷を癒やす【パセリ】を生やす。
SPD : 大きなニワトリ
【ブラマ】に変身する。変身の度に自身の【けづめ】の数と身長が2倍になり、負傷が回復する。
WIZ : 食卓に彩りを
【トマト】【ピーマン】【タマネギ】で自身を強化する。攻撃力、防御力、状態異常力のどれを重視するか選べる。
👑11
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尾守・夜野
…ったく、それでも大人かよ
今こんななりしてるけど生前成人済なんで責任取るためにいくぞ
助けるためでもあるが助けられなかった時のことも覚悟済み
俺の家、ダクセだし、村廃村だから俺以外いねぇし
落ち着くにはいいとこなんじゃね?
…連れていけるのか分かんねぇけど
強化には強化を
この後の戦いを見据え重ねていくぞ
アドリブ連携歓迎
●
「……ったく、それでも大人かよ」
現地に降りた瞬間、尾守・夜野(一応生前は成人済な物で。・f05352)の口からそう零れ落ちた。見回せば見慣れたUDCアースの日本の住宅街、変哲もないと言えば聞こえは良いが、平穏さの影にこそ邪神はよく隠れている。或いはその兆しが。
「そこか」
幼い姿に身をやつしながらも、精神自体は――複数人いるが――大人のそれを持つ夜野は事件の本体の発生によって生み出された小型のUDCを認めた。
「オムライス、か」
それは子供が好むような料理の形をしていた、果たして彼の根城にしているダークセイヴァーでこのようなものを与えることができるだろうか? 助けられるか、そして連れていけるかも分からないが、ともかく最初にやらなければならないのは眼の前の敵を討つことだ。
「現と幻想をさまよえるものよ、死と再生の象徴よ。かの神に連なるモノよ。来たりて禍福となせ!焔の如く舞うがいい!」
夜野はいずれにせよ次に繋ぐためのユーベルコードを放つ。その先に得られるものがあるかどうかは分からない。
大成功
🔵🔵🔵
榎木・葵桜
【桜輪】
オムライスって、もしかしたらあの子が一番食べたいって願ったものなのかもだね
私は、あの子を助けたい
確かに運は悪かった
でも、アルミィさんの予知に引っかかって
私達の目に触れる機会を得たってことは
どこかに間に合う要素があるって信じたい
ていうか、そんなに嫌なら別についてこなくてもよかったのに?
(同行者のヤドリガミ(f13299)に悪態つくも、肩竦めて戦いに専念)
>戦闘
UCで霊(田中さん)を召喚
田中さんには炎攻撃を中心に、私は桜舞花の[衝撃波]で対応
敵の攻撃は[見切り、武器受け、第六感]併用して、必要応じて田中さんに[かばって]もらう
受けるダメージは最小限に抑えながら、敵の数を減らしていくね
影見・輪
【桜輪】
(久々に触れる不快な要素に内心吐き気を覚えるも
葵桜(f06218)の言葉にはシニカルな笑みと肩竦め)
一応、これでもUDCエージェントなんでね
組織に所属する側として
胸糞悪い連中にケジメをつける前に子供がどうなるかは見届けておきたい
ただ、それだけだよ
(今回の子供が助けられるか否かはわからない
同行者の綺麗な言葉は果たしてどこまで通用するか)
子供の願望の具現化かどうかはわからないけど
そうであろうとなかろうと
目の前に出されたらしっかりいただくのが礼儀
全力で相手するよ
>戦闘
攻撃中心
UC使用、敵を[捨て身の一撃]で[捕食、生命力吸収]で数を削いでいく
敵の攻撃は[見切り、早業、激痛耐性]でいなす
●
「……私は、あの子を助けたい」
「そうか」
既に何体かの眷属を撃破しその事件の中心に近づく気配が増す中、榎木・葵桜(桜舞・f06218)の意思表明に影見・輪(玻璃鏡・f13299)は端的に呟いた。それは特に彼が冷淡だから、というわけではない。むしろその逆だ、だからこそ鏡写しではない態度を葵桜に返した。
「確かに運は悪かった。……でも、アルミィさんの予知に引っかかって、私達の目に触れる機会を得たってことはどこかに間に合う要素があるって信じたい」
家族に愛されて育った彼女らしい、猟兵でなければ理想論とも表現しうる彼女の言葉に輪は肩を竦め皮肉げに口を歪めた。
「私、何か変な事言った?」
「いいや、別に? 上手くいくと良いな、思っただけだ」
斜に構えた同行者の返事に葵桜は眉を顰めて頬を膨らませる。
「ていうか、そんなに嫌なら別についてこなくてもよかったのに」
「そう見えるか?」
「見える」
肩の下から自身に向けられる視線に対し再度肩を竦めた輪はその理由を口にする。
「一応、これでもUDCエージェントなんでね。組織に所属する側として、胸糞悪い連中にケジメをつける前に子供がどうなるかは見届けておきたい。……ただ、それだけだよ」
そう語る輪の目を葵桜の双眸が真っ直ぐに覗き込む。
「……嘘じゃないみたいね」
「僕はこのかた嘘なんてついた事はないよ。……それより次の皿だ」
右掌に埋め込まれた刻印の封印を解放した輪が、接近してきていたオムライス型の敵の姿を認め、彼女に伝える。
「……オムライスって、もしかしたらあの子が一番食べたいって願ったものなのかもだね」
「子供の願望の具現化かどうかはわからない。そうであろうとなかろうと、目の前に出されたらしっかりいただくのが礼儀。全力で相手するよ」
例えここに至るまでの経緯が吐き気に満ちた人物だらけであっても、それらもすべて飲み込んで彼は刻印に自身の力を送り込む。そして相方の伴の田中さんと共に眷属を祓うのだった。
大成功
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北条・優希斗
連・アド可
…よくある胸糞悪い話だな
とは言え、邪神化した餓鬼を放置する訳には行かないか
先に
予めグリモア猟兵から得た情報を元に情報収集
子供を救えた場合に備えてUDC組織に繋ぎを取り、この子供が虐待されている事実を児相に流して子供を保護できる様根回ししておく
証拠は幾らでも出てきそうだから、予め用意はしておく方が良いだろう
…その巨大さならば躱しながら負傷以上の傷を与えるのが得策か
先制攻撃+UC+早業
高速で肉薄しつつ双刀を居合抜刀
2回攻撃+薙ぎ払い+属性攻撃・焔+範囲攻撃
手数と倍増した火力で焼き払う
防御は見切り+残像で躱しつつカウンター
…これが現れたのは、彼にオムライスに何か思い入れがあるからなのかな
●
(「よくある胸糞悪い話だな」)
状況を確認した北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)の第一印象はそのようなものであった。そして情報を集めれば集めるほどに、この結果が不可避なものであると彼は知る。
「連れ去り、か」
また一つ『胸糞悪い話』が増えた。最早司法すら彼を救うつもりが無かったと言う事だ。UDC組織に彼の事で根回しをした時にも窓口役の職員ともこんなやり取りがあった。
『児童相談所ですか……』
『何か問題でも?』
『ええ。彼らにはあらゆるリソースが不足しています。経済的なものだけでなく法律的なものも。なので余り十全に期待しすぎるのは難しいかと。当然手回しはしますが』
『証拠があっても、か?』
『ええ、捜査権や逮捕権を持つのは警察ですので。……もっとも彼らがもっと早い段階で法に則った仕事をできていたら我々の仕事も減ったのでしょうが』
もし児童相談所に力がもっとあるのならば世の子供の虐待殺人などもっと少ないだろう、と職員は続けた。もし逆に彼らの権限を強めればそれはそれで問題のない家庭への過干渉に繋がる可能性があるからとも。いずれにせよ、必ず誰かが不利益を被るのが福祉という分野だ。
「今、俺にできるのは邪神化した餓鬼を止めることだけ、か」
猟兵は超人だが万能ではない。そしてその力を振るう相手は概ねオブリビオンだ。社会そのものを構成するシステムへの干渉はできるだろうが、それは容易に死を招きより多くのオブリビオンを生み出す結果に繋がりかねない。誰を生かすかという事は誰を殺すかという事の裏返しだ。
「快刀乱麻、とはいかないか」
オムライス型の敵を斬り伏せて彼は被害を減らすために次の敵を探す。
「……何か思い入れがあるからなのかな」
その答えを、『彼』はまだ持っていられているだろうか、それを確かめるべく優希斗は事を急ぐのだった。
大成功
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第2章 ボス戦
『グローヴス』
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POW : 暴食の時間
【体から分離したゲル状の物体】が命中した対象に対し、高威力高命中の【消化液】を放つ。初撃を外すと次も当たらない。
SPD : 暴食形態
自身の肉体を【激しい痛みを与える強毒性】に変え、レベルmまで伸びる強い伸縮性と、任意の速度で戻る弾力性を付与する。
WIZ : 嗜虐磔刑
【敵への柔軟なボディによる拘束】が命中した対象の【体に密着した部位】から棘を生やし、対象がこれまで話した【嫌悪の声と悲鳴】に応じた追加ダメージを与える。
👑11
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北条・優希斗
【風グリ】
連・アド可
…打つべき手は打ったが現状あまり効果は無いか
まあ、彼の真意は確認する必要はあるな
エリスさん、美雪さん外は頼む
UC+先制攻撃+早業
ペルソナを邪神の精神世界に召喚
直接子供の精神に話しかける
狂気は覚悟で耐え抜き
心眼で真意を見切り
オムライスの意味を探しつつ
双刀で2回攻撃+早業+医術
親達から受けた虐待の心の瑕疵を
外科手術的に取り除きつつ問う
「君は此処で果てて満足か?」
「自分に絶望を与えた人達を放置して死んで満足なのか?」
「人に戻れば彼等に歯向かうのに協力出来る」
それも…大人のケジメの付け方だからな
人に戻る気が無ければ止めを刺す
本体はオーラ防御で攻撃を受け止め
2回攻撃を峰打ちで行うよ
エリス・フリーウインド
【風グリ】
…此処で私に協力を要請するのは実に我が主らしいですね
救えなければ優希斗殿はその手を汚す覚悟がございますが
『出来うる限りの最善を尽くした結果』
を求めているのですね、我が主は
優希斗殿本体は無力化する為の攻撃を行い、
一方で内側から施術を行って行く様でございますので
私は攻撃を凌ぎつつ此度の少年を救う為に必要な物を提供しましょう
UC発動して様々な食べ物を作成
念動力でそれを動かして食べて頂く事で飢餓を満たしつつ
私自身はかばう+盾受け+オーラ防御
で彼の想いを受け止め時間を稼ぎつつ
優希斗殿や美雪様をお守り致します
彼を救えてもその先が確定出来ておりませんが
これが今、私達に出来る最善の『ケジメ』ですので
藤崎・美雪
【風グリ】
アドリブ連携大歓迎
ふむ
気になったので足を運んだが
原因が勝手な大人にあるならば少年が救われぬ道理はない
手を貸すよ
少年はオムライスが食べたい、ないしは好物か
カセットコンロと調理器具一式、オムライスの材料は店から持ってきたから
ここでオムライスを作ろう
優希斗さんとエリスさん、他猟兵が時間を稼いでいる間に
子供向けに少し甘めに味付けし、卵ふわふわバターたっぷりのオムライスを手際よく作るぞ
少年が落ち着いたらオムライスを差し出そう
さあ、たくさん食べてくれ
調理の裏で指定UC発動
空振り覚悟で影もふもふを少年の学校に向かわせ
教師の話や指導資料を確認して
学校関係者が少年の現況を把握しているか確かめたい
●
「……打つべき手は打ったが現状あまり効果はないか」
そう呟いた北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)は邪神と化した少年の元へ仲間と共に向かっていた。眼前の彼を取り巻く社会環境が一つでも助けられていたら、この様に猟兵が集まる事も無かったろう。
「ですが私達に協力を要請したのは有利に働くでしょう。実に我が主らしい。『出来うる限りの最善を尽くした結果』を求めているのですね」
自らを主と呼ぶエリス・フリーウインド(夜影の銀騎士・f10650)に優希斗は言葉では返さない。なぜならそれは自明の理だからだ。
「……この状況で敵の前で料理は……流石に無理そうだな」
やはり彼に頼まれて来た藤崎・美雪(癒しの歌を奏でる歌姫・f06504)は呟いた。今回人数を揃えたものの、敵の動きを封じたり攻撃を防ぐ類のユーベルコードを持ち込んだ者は居ない。料理勝負のような事を挑んでくるオブリビオン相手ならともかく、暴力的に空腹を満たそうとする相手ではそのような悠長な事はできないだろう。ましてや明確に時間稼ぎをするための猟兵との事前のやり取りをしていない以上、見通しが甘いと言わざるを得ない。
「ならその材料は私が使いましょう。材料抜きでは料理を作成することはできませんし」
「そうですね……、それじゃあもふもふさん達頼んだよ」
美雪は小動物の影を召喚し、少年の行っているはずの学校へと送り込む。しかしそもそもそれも使える情報が手に入るかどうか。何よりこれからまさしく命を賭けて挑んでくる相手に直接的な効果を持たない方向へ力を割くというのは、いささか楽観的に過ぎる。
「見つけたぞ、始めよう」
町中の角を曲がった所に邪神と化した彼はいた。
「仰せのままに」
「できるだけ時間稼ぎはさせてもらうさ、手は空いたのでな」
猟兵達を見つけた邪神は彼らをも飲み込もうというのか鈍重な見た目にも関わらず思ったよりは機敏に襲いかかってくる。
「では料理を作り始めましょう、お二人はよろしくお願いします」
エリスは少年の飢餓を満たすべく料理を作り始める、しかしそれには10秒という戦闘中としては長い時間が必要だ、料理を完成させる前に放たれるユーベルコードから残る二人が彼女を守りきらねばならない。
「……!」
優希斗も美雪も守るための力を持ってきてはいない、その分激しい傷が彼らの体に刻みつけられていく。
「止まらないか……!」
優希斗が使ったユーベルコードはシャドウペルソナ。相手の精神内に自身の分身精神体を召喚する能力だ。だがそれだけであり、直接相手の動きを止めるような能力ではない。無論、敵の精神を破壊すれば止まるだろうがそれは今回の彼の求むる所ではない。それでもなんとか時間を稼いだ彼は、エリスの料理の完成を成功させる。
「できました!」
「さあ、たくさん食べてくれ」
猟兵達は邪神と料理の間から退避し、彼がそれを貪る姿を見る。
「……原因が勝手な大人にあるならば少年が救われぬ道理はない」
「これが今、私達に出来る最善の『ケジメ』です」
一方その頃、邪神の精神内に潜り込んだ優希斗は四方から響く原始的な気配に包まれていた。
「ここは……いや、まずは虐待の傷を……!」
それは最早瘡蓋の様に積み重なっており、治す為に剥がせば剥がす程に衝撃となって彼にダメージを与える。それでも優希斗が傷を癒やしていると邪神と重なった少年の核らしきものが現れる。自身の存在が薄くなりつつある分体は、それでも彼に問いかけた。
「君は此処で果てて満足か?」
少年は答えない。
「自分に絶望を与えた人達を放置して死んで満足なのか?」
少年は口を開いた。
「人に戻れば彼等に歯向かうのに協力出来る」
少年は手を伸ばして精神体を捕まえた。
「くっ! お前は……!」
優希斗は最初から見誤っていた。そもそも現状の彼は兎に角飢えているのだという事を。それを満たさぬ状態での言葉は届きはしない。それに伝えるものが複雑に過ぎる、未成熟で栄養失調の少年に、論理的問いかけなぞただの声に過ぎない。少年は捕まえた精神体を頭からかじり取り、更に飢えを強くするのだった。
苦戦
🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴
影見・輪
【桜輪】
葵桜が料理提供するらしいから
僕は子供の抑えに回るよ
しかしよくもまぁ…
(やけに背負ってると思ったらこれだったのかと呆れ顔で同行者眺め)
まぁ、それはさておき
UCで複製した僕の本体を動かして子供の物理攻撃の盾にする
必要に応じて僕自身が身体をはって[かばう]ことにする
暴力しかもらってないなら
何を訴えるにもそれ一択なんだろうし
まずは感情爆発させて落ち着かせることからだろうね
あとは葵桜の料理ができたら、料理配膳よろしく複製操作して
子供の口に入るように持っていくようにするよ
最初は暴れて作った料理は無駄になるんだろうけど、まぁ想定内だ
子供の様子には注意しつつ
落ち着くまでとことん付き合うことにするよ
榎木・葵桜
【桜輪】
輪に攻撃抑えるのお願いして、私はあの子にご飯提供するよ!
ありったけの食材と料理道具持ってきたから
UC発動させて、あの子のリアクション見ながら、その場で料理提供するね!
私、いつもはみんなにご飯作ってもらってる側なんだよね
だからこそ食べる幸せも、作る人達からの愛情も人一倍受け取ってるんだ
いつもはもらってるからこそ、今度は私があの子に伝えるんだ!
メニューは、さっき見たオムライス
私が好きだった、ハンバーグ、コロッケ、エビフライ、スパゲティに、カレーライス!
あとは、いろんな具材のふりかけおにぎり!
ケーキにプリン、ホットケーキに、パフェも!
暴れてもいい、お行儀なんて気にしない
だからいっぱい食べて!
●
「というわけで!」
「というわけで?」
「攻撃抑えるのはよろしく!」
榎木・葵桜(桜舞・f06218)から影見・輪(玻璃鏡・f13299)に向けてのいきなりの無茶振りである。
「……もしかして、その大きな荷物って」
「もちろん、ありったけの食材と料理道具だよ!」
「よくもまぁ……」
あっけらかんと返す彼女に輪はなんとも言えない引きつり笑いを浮かべる。しかも彼女は最初から自分を盾に使うつもりだったのだろう。だが頼まれた以上はその責任を全うせざるを得まい。
「どれくらい保たせれば良い?」
「最低10秒! 後はあの子を見ながら決めるよ!」
自身の本体の分身である円形の鏡を大量に生み出す。全て防御に回せばそれくらいの時間は稼げるだろう。邪神から伸びる腕と放たれる液体が、後方で料理に勤しむ彼女に届かないように彼は集中する。
(「暴力しかもらってないのなら、何を訴えるにもそれ一択しか知らないのだろう」)
少年の攻撃で砕ける分身を確かめながら輪は思う。自らに有効だった行動は、簡単に他人にも有効と考えるのが自然だろう。そしてその有効なはずの行動が上手く行かなくて怒りを爆発させるのも、また。
「まずはある程度感情を爆発させて落ち着かせるか」
おもちゃ売り場で駄々をこねる子供を静観して疲れるまで待つアレである。もっとも今回の場合は命懸けの静観になるが。一方、守られている方の葵桜も超常的な速度で料理を作り上げていく。
(「いつもはこうしてみんなに作ってもらってるんだよね」)
葵桜はその時の料理と作り手の笑顔を思い出す。今作っている中でも、これはあの人に作ってもらったなとか思い返しながら。
(「美味しかったし嬉しかったな、みんな私のことを想って作ってくれてたんだって、分かる」)
あの時のお腹いっぱいの幸せを、望んでも得られなかった彼にも分けられるように。
(「いつもはもらってるからこそ、今度は私があの子に伝えるんだ!」)
そうして気合を入れて完成させた料理が皿の上に置かれていく。
「ハンバーグ、コロッケ、エビフライ、スパゲティに、カレーライス!」
いずれも彼女が好きで、そして子供が好きなものだ。
「あとはいろんな具材のふりかけおにぎり! ケーキにプリン、ホットケーキに、パフェも!」
次々と並べられていくのはいずれも彼女の幸せな記憶。そして何より少年にとって大切な一皿を彼女は用意した。
「そしてさっき見たオムライス! ウェイターさんお願い!」
「誰が給仕だって?」
ウェイターと勝手に呼ばれた輪だが、付き合うことを決めた彼は鏡を盆代わりにして料理を乗せて、少年の口元へと運んでいく。
「暴れてもいい、お行儀なんて気にしない。だからいっぱい食べて!」
幸せのお裾分け。これが彼を助ける事になるなら、いくらでも彼女は鍋を振るう。幸せの味を得られないままに終わらせたくないから。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
尾守・夜野
旨いものなぁ
まぁ用意しといて中に入れてはある
だから取り出す様子を見せて中に食べものがあるとまず認識させ、中におびき寄せる
入ろうとするなら普通に入れるし、精神であれば生前の姿取り繕うのも楽だし被害は外にゃでねぇからな
…大人にゃ嫌悪や恐怖の感情持ってそうであるが…暴力が効きそうな見た目してるのもあれだろ
「別に暴れんでも飯はやるさね
いーこだから座って待ってな
どっ…せい!」
暴れるのをいなして正面から抱きあげ席に座らせ飯を取らせる
俺等(人格)は精神だからな
見た目上は影響出ねぇように取り繕えれば暴力が効かん事はわかるだろ
実際は相当ダメージを負おうとだ
実は数名痛みで精神崩壊しかけて入れ替わってるが
それは俺の痛みでありガキの痛みだろ?
腹すかせて泣いてるガキ1人抱えられねぇで何が大人だ
徹底して怪物ではなく、人間のガキとして扱う
手を拭かせたりのマナーはしたけりゃさせるが強要しねぇ
救いてぇが救えなかったとしても抱きしめてやりてぇのさ
●
(「旨いものなぁ」)
飢餓の果に邪神となってしまった少年を前にした尾守・夜野(一応生前は成人済な物で。・f05352)は、涎のように消化液を垂れ流す姿を見てさもありなんと思う。
「目に見える食えそうなものなら何でも食おう、ってツラだな。……っと!」
自身に伸ばされた邪神の腕をするりと回避する夜野。事前情報を聞く限り、色々としでかしてきた事が多ければ多い程厄介そうだ。そしてそれには彼自身割と可能性がある経歴だ。
(「いつまでも避けられる訳でもないし……注目がこっちに向いている内に仕掛けるか」)
そう考えた彼が懐から取り出したのは、行きがけに買ってきたメロンパン。それを邪神に見せびらかすように振った。
「止まったな。欲しいんだろ、こいつが」
彼はそれを狙う邪神の腕から逃しながら頭上に大きな魔法陣を描く。それはある世界への入口。
「欲しけりゃ……取りに行きなっ!」
彼がメロンパンを魔法陣に投げ込むと、少年もまた魔法陣の中へと飛び込んだ。
「………」
邪神はその空間に入り投げ込まれたメロンパンを拾い上げ一口で平らげた。そしてどうしようかと周囲を見回すと、多くの料理の置かれた食卓が目に入り駆け出した。
「気持ちは分かるが少し待て」
席にも座らずに素手で料理に襲いかかろうとした少年の肩を大人姿の夜野が掴んだ。
「!?」
暴れる少年の攻撃を受けながらも夜野は席へと無理矢理に連れて行く。ここは彼の精神世界。ルールは彼が決める。……しかし精神世界であるということは自分以外の何かが暴れればその分のダメージが彼にフィードバックされると言う事でも。しかしそれは最初から織り込み済みだ。既に複数の人格がバケツリレーのように少年を抑えては交代している。
(「だが……これは俺の痛みであり、このガキの痛みだ」)
ようやっと飢えを満たすために得た力を抑え込もうというのだ、少年にとっては命がけの戦いに違いない。
(「腹すかせて泣いてるガキ1人抱えられねぇで何が大人だ
……!」)
少年の周りでは誰もそれをやらなかった、ならば自分が彼を一人のただの子供として扱うだけだ。
「別に暴れんでも飯はやるさね。いーこだから座って待ってな、どっ……せい!」
席に座らせ癇癪を起こす子供に言い聞かせる親の様に彼は言う。観念したのか席から動かずに料理を食べ始める。その様子に何人目かの夜野が目を細めて問いかける。
「旨いか?」
「……うん」
少年の声が響く、すっと邪神の姿は消え、涙を流しながら口の中に食べ物を運ぶ子供の姿に変わる。
「焦って食べるな、喉に詰まらせるぞ。ここにある料理は無くならないから」
これまで満たされることの無かったものを取り返そうとする少年にそう諭す。もう、苦しむ必要は無いのだと言うように。そして。
邪神が居たはずのそこには、もうそのような怪物はいない。そこにいるのは満腹で眠りこける少年と、それを優しく抱きかかえる猟兵だけだった。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 日常
『人間の屑に制裁を』
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POW : 殺さない範囲で、ボコボコに殴って、心を折る
SPD : 証拠を集めて警察に逮捕させるなど、社会的な制裁を受けさせる
WIZ : 事件の被害者と同じ苦痛を味合わせる事で、被害者の痛みを理解させ、再犯を防ぐ
|
榎木・葵桜
【桜輪】
成功可否はさておき、社会的制裁を試みる!
制裁対象は『誰でも飯が食える食堂』の関係者な方々
そもそもこの食堂、ちゃんと機能してるのかな?
実はあの子だけじゃなくて同じ境遇の子供も実は拒否られてたりしないかな?
あの子みたいな子供を今後少しでも減らすためにできる限り動いておきたいな
ひとまず輪の事前情報を踏まえ
厨房ボランティアの口あれば潜入[コミュ力]で裏取り+UCで直に[情報収集]試みる
その上でマスコミやSNSに証拠提出して社会的に叩けるか試みるね
あの子の親御さんへの制裁は他の人にお任せする
あとあの子の行先は夜野さんの温かさに甘えられるならお願いしたいな
厳しそうなら私も色々つてあるから支援するね
影見・輪
【桜輪】
へぇ、一応
その後のことも考えてたんだね
(思いの外、同行者の頭の中はお花畑ではなかったらしい
『食堂』って、嫌な話ビジネスモデルとして考えるなら助成金やらやりやすそうだし
本来の『食堂』の意義から離れた「大人の都合の良い食堂」になってることもあるだろうね
まぁ、制裁の成功可否に関わらず
やるだけやってみるか
UDC組織経由で下記[情報収集]は試みる
・誰でも飯が食える食堂
・子供を「嫌った女」
・良い所を見せようとした年寄
その上で「民生委員」なり称し
正面から食堂へ行って状況ヒアリングと
今後の店のあり方について[言いくるめ]るなどで釘刺しを試みる
だめなら必要応じて葵桜側のマスコミやSNS使用方向で対応だね
●
「さて……、あとは『食堂』の関係者の方々だね」
「へぇ、一応その後のことも考えてたんだね」
助けられた子供のことは任せ、榎木・葵桜(桜舞・f06218)が事後処理たる仕事――とても綺麗事とは言えないそれについて意気を示した事に影見・輪(玻璃鏡・f13299)は意外そうな声をあげた。良くも悪くも善性側の、花畑でも頭の中に広がっているという印象を持っていた彼にとっては軽い不意打ちとなった。
「もちろん。私も大人ですから!」
猟兵となってからもう随分と過ぎた、それだけではなく普通の社会人としても歩み始めたところだ。そういう意味で言うなら彼女も広い意味での関係者となるだろう。
「そもそもこの食堂、ちゃんと機能してるのかな? 実はあの子だけじゃなくて同じ境遇の子供も実は拒否られてたりしないかな?」
「ふむ……ありそうなのは助成金狙いのビジネスモデルかな。それならその監査の時だけ仕事をしている振りだけ見せていれば、それ以外は本来の『食堂』の意義から離れた『大人の都合の良い食堂』になってることもあるだろうね」
善意、という感情を元にした活動は、それ以外の目的に利用されやすいという弱点がある。まずは『善意の活動』というのが『善人として周囲に認知させるためのパフォーマンス』として扱われやすいという事、そしてもう一つは輪の言うような助成金ビジネスだ。
「……嫌な話だね」
「嫌な話だよ」
鏡のヤドリガミとしての彼は、彼女の言葉おもそのまま帰す。彼女はともかくとして人とはそういうものである、という諦観が輪にはある。もちろんそんな者ばかりではないが、そうでないものも少なからず存在するのも理解している。
「まぁ、やるだけやってみるか」
「うん、あの子みたいな子供を少しでも減らすためにできる限り動いておきたい」
「わかった、じゃあまずは情報収集からだね」
かくて二人はUDC組織に接触し情報を収集する。彼らもこの件についてはある程度調べを進めていたようで、大方の情報を得られる。大元は市民団体のようでありカジュアルに『食堂』を開いていたようだ。一般人相手なら潜入したほうが手っ取り早いと葵桜は調理スタッフとして紛れ込み、輪は民生委員としての立場を整え彼女と情報をやり取りする。
「で、実際のところどんな感じ?」
「そうだね……影を飛ばして見たけど、女の子とか女の人しか入れてないみたい。痩せた男の子やホームレスっぽい人が来たんだけど追い出されてた。今も来てるけど……」
「分かった、今すぐ行くよ」
本来ならばそこから福祉につなげるべき活動である、輪はそうだろうなと納得しつつも『食堂』に踏み込んだ。
「こちらでの活動に疑義があると聞き確認に来ました。詳しいことをお伺いしてもよろしいですか?」
UDC特製偽造身分証を見せて輪は踏み込んだ。かくて彼らの活動実態は暴かれ、出ていた助成金も打ち切られる事となる。元々ほぼサロン化していた以上、大きな社会的影響は無いだろう。一通り終えたあと、葵桜はふと思い出したように言う。
「……あの子、今どうしてるかな?」
「とりあえずは『彼』が近くにまだいるはずだけど、お見舞いに行こうか?」
「お菓子とかまだ食べてもらってないものたくさんあるしね」
何を持っていこうかと話を交わしながら二人は少年達のいる所へ向かうのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
北条・優希斗
【SPD】
…彼は他の猟兵達が救ったか
保護の根回しは誰かやるだろうから、他の処理をしておくか
UDC組織経由で子供の通う筈の学校に虐待の事実を告発させる
今回の件児相に報告すれば【連れ去り】だろうが余程の事情が無い限り
子供を保護する案件だ
動かない方が児相の面子に関わるしね
駄目ならUC+UDC組織のコネで警官の立場を仮に用意して貰い、情報収集で聞き込み
暴行罪その他諸々の証拠を取得、逮捕
子供食堂の方は監視カメラとかに、例の場面子供が撮影されていないか漁る
どちらも駄目なら最終手段
関係者を集めてUC:影技・夢幻深傷心+範囲攻撃
殴られ続ける事の精神的瑕疵を植え付ける
良策とは思えないが
此もケジメだと思うんでね
●
北条・優希斗(人間の妖剣士・f02283)は少年の両親の住んでいるアパートの部屋の前に立っていた。少年の身柄は一旦邪神化した故今のところUDC預かりとなっており、彼の近くには自分の力を以て少年を助けようとしていた猟兵がいる。この世界において力という点で見れば彼ら以上の保護装置はないだろう。最早彼の出る幕は無い、ただ残された仕事が一つだけあった。
『この事件を起こした連中には『ケジメ』が必要だ。とはいっても言葉も通じないスジの通らない連中ばかりだ。死なない程度に痛みで刻みつけてやれ。もう子供を都合の良い道具にしないとでもな。もっともその意味すら理解出来無さそうだが』
それはこの事件に送り出したグリモア猟兵の言葉、内心において彼女の言葉に納得せざる所が有ったのは事実である。法的手続きではなく暴力で解決するのは彼の信条に反するからだ。だが根本的に大きな問題がある、『法的措置がもっと早い段階で行われていればこの事件そのものが起きていない』ということだ。そしてそれは扉越しに聞こえてくる男女の大声から聞き取れる。
「おいあいつはどこに行ったんだよ! あいつがいないと養育費が取れねえだろ!」
「はあ!? あんだけ殴っといて何言ってんの!? そんなもの証明しなくてもいいって弁護士が言ってたから大丈夫よ!」
あの青い髪の女は本質的に人の善性や知性をそこまで信じてはいない。だからこそ痛めつけて体に分からせてやれと言ったのだろう。その証左を耳にした彼はため息を付きながら扉を開けてユーベルコードを問答無用で放った。
「:――影技・夢幻深傷心」
有無を言わさず放たれたそれはこの夫婦に痛みと共にトラウマを植え付ける。顛末を見届けずに彼は扉を締め『食堂』の方へと向かい、そこでも醜い言い争いがされていた。
「助成金止められたじゃない! 誰が言ったの!?」
他の猟兵の手回しだろう、しかしそのような処分を受けても『食堂』の職員達には反省の色はない。法に触れることはしてないものの、ただそれだけの存在だ。陰鬱に表情を歪めながらも、やはり同じくユーベルコードを放ち報いをもたらした。
「これも『ケジメ』か」
トラウマを与えるために用いた影を戻し、踵を返す。猟兵の戦いには時折このようなものが、ある。
大成功
🔵🔵🔵
尾守・夜野
(…とりあえず表に戻るか)
ガキが無事なの皆に知らせた後
寝てる間に組織の息がかかった病院に連れていき治療受けさせる
…戸籍等の確認、必要なら証拠の確保、保護の申請
スレイとか一緒に暮らしてる羊とかの迎え仮拠点用意等は別の俺が動いてる
治療が終われば一般人の人払いをした一室に寝かせ
見えはするけど離れた場所で目覚ますまで待機
「…目ぇ覚めたか
ここは病院…あー怪我や病気治してくれる所だ」
ガキがわからない事を気にする事がねぇように可能な限りわかりやすい言葉で今の状況等を説明するぜ
息のかかった公的機関にゃ届け出してるんで時間的余裕は生まれてるだろうし
ガキが理解できるよう、考えられるよう時間はかける
時間はかかってもいい
どうせ独り身だし
「…でてめぇはどうしたいとかあるか?」
何よりもこいつの考えを優先して動くぞ
今考えられねぇってんなら最低限落ち着くまではそばにいる
ガキに現状取れる選択肢を説明した上で、自分で選べるように
選んだ上で助けが必要なら動けるように
飯と寝床と安全を
復讐だって何だってそれはこいつの権利だからな
●
UDCのサイトを兼ねた病院、その一角でUDC-HUMANとなった人間を収容するための病室がある。その厚い壁にもたれて、検査機器に繋がれて寝息を立てる少年の姿を尾守・夜野(一応生前は成人済な物で。・f05352)は静かに見ていた。
彼は少年から目を外し、サイドボードに置かれている彼の数少ない私物の衣類と、組織が残していった調査資料に目を通し、直ぐに仕舞った。単語を拾い集めるだけで碌でもない事しか書かれていないのが分かったからだ。加えて仮の住居の資料もあるが、こちらは事前に話を通しているので確認程度でやはり直ぐに置く。
(「……とりあえず表に出るか」)
少年もしばらくは眠ったままだろう、一旦外の空気を吸いに出ようとした時、不意に衣擦れの音が静かな部屋に響いて聞こえた。
「こ……こは?」
不慣れな場所に気付いたらいた事に不安げな言葉を放ち目を動かす少年。その彼に夜野は声をかけながらゆっくりと近づいた。
「……目ぇ覚めたか。ここは病院……あー怪我や病気治してくれる所だ。……いやそのまま寝てて良い。まだ体は疲れたままだろう」
「うん……」
夜野は体を起こそうとした彼を制しつつ、椅子を寝台の横に置いて腰掛ける。
「とりあえずお前は腹をすかして倒れていたところを見つかってこの病院に運ばれて来た。……分かるか?」
「うん……ぼくのおなかへってないのは……?」
「それは……メシの代わりになる注射みたいなのがある。寝てる間に終わらせた」
「そう、なんだ」
少し喋り疲れたのか少年は一旦黙る。そんな彼に夜野は静かに問いかける。
「……水、飲むか?」
「うん。……ねえ」
「何だ?」
「ここにお母さんと、あたらしいお父さんは、いる?」
当然想定されるだろう質問である。問われた彼は冷静に努めて回答する。
「いや、いない。……会いたいか?」
「………」
夜野からの問いかけに、力はなくともはっきりと少年は首を横に振った。それを認めた夜野から僅かに力が抜けた。それからは休憩を入れながら現状を説明していく。それらを終えてから、夜野は少年の目を見ながら重要な質問を投げかけた。
「……で、てめぇはどうしたいとかあるか?」
不意に孤独に落ちてしまった小さな少年に聞くのは酷な事かも知れない。しかしこの決断はどこかでしなければならない。故にだからこそこのタイミングで問いかけた。
「……お父さんに、会いたい」
「……そうか」
彼の元の父親は離婚以降の足取りは調査中と資料には書かれていた。直ぐには分からないがいずれ時が来たらそれも分かるだろう。
「お前の父親はこっちも今探してる。でも今のお前はまず体力をつけないとな。その為の寝床と飯は用意してやる」
病室の外からバタバタとおせっかいな猟兵が走る音が聞こえてくる、もしかしたら案内役の盗賊も仕事を放り投げるなと笑顔でどやしに来ているのかも知れない。いずれにせよ静かな時間はそろそろ終わりそうだ。
「誰か来たの? 友だち?」
「……仕事仲間だ」
気が抜けて頭をかきながら背を逸らす、そんな彼に少年から気になっていたと思われる疑問が不意に放たれた。
「きみと、ぼく。どこかで会った?」
「……さてな」
皮肉げな笑みを夜野は返す。かくてこの亡者達の話は一先ずの結末を見る。そしてそれはまた新しい物語の始まりでもあるのだった。
失敗
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