夏に耐え、秋を楽しみ、冬を越え
●四季の国、踏破中
幻朧桜の花舞う戦が無事に終わってはや数日。
キャンピーくんは今いずこ。取り残されたボスラッシュ。
その一人は、此処に。
「時宮ーっ、ファイト・オー! ファイト・オー!」
トライアスロン・フォーミュラ『時宮・朱鷺子』は、アリスラビリンスを走り続けていた。
「さて、アリスが帰る為の『自分の扉』とやらは……まあ、走っていればいずれ見つかるか!」
おいっちにー。
おいっちにー。
「……ん?」
おや、何か見つけた様子。
「あれは、オウガというやつか?」
朱鷺子の視線の先。何やら花のようなものがうねうねとうねって、住民らしきカエル達を追い回しているではないか。
「あれはいかん。スポーツマンシップに反する。試合は平等の下に行うべきだ!」
ということで。
「そこの小さき者達よ、私が加勢するぞ!」
あれ、この人。実はいい人?
●道程は長く
「フォーミュラであると伺いましたが、朱鷺子様はアリスラビリンスにとって先の戦争での恩人。何とか帰還のお手伝いをしたいのですが……ご協力いただけますでしょうか?」
ポップアップトースターが喋った。
厳密にはトースターの頭を持つ愉快な仲間が一人――グッド・モーニング(f44606)の弁だ。
彼の予知によると。
戦争中に特訓を施した愉快な仲間達からアリスが元居た場所に帰る為の『自分の扉』の話を聞いた『時宮・朱鷺子』は、現地の時計ウサギの力を借りつつ『不思議の国踏破マラソン』を始めているという。
……ぶっちゃけ、放っといても彼女なら自力で帰れるやもしれないが。
「朱鷺子様は『四季の国』にある夏の小国を通過中にオウガと遭遇し、現地の者に助太刀してくれているようなのです。オウガは、アリスラビリンスにおいて無視できない存在。どうか、加勢をお願いしたく」
出現したオウガは、ヒマワリの姿をした夏の化身。奴が暴れることで、四季の国のバランスが崩れてしまう可能性も大いにあるのだという。
朱鷺子はともかく、オウガを放置するのは極めて危険であろう。
「無事に夏の化身を乗り越えれば、程近くにある秋の小国に入れます。今の時期は秋の実りを使ったスイーツが振る舞われているかと。是非とも皆様に味わっていただきたいものです」
英気を養った後、朱鷺子は『自分の扉』を求めて冬の小国へ進んで行くだろう。
其処に何が待ち受けているかはわからない。
最後まで付き合うか否かも猟兵各々の判断に委ねられるが。
「季節は巡りゆくものです。夏、秋、そして冬。……その先に何が待っているか、見届けたくはありませんか?」
異形頭の男が問う。
おそらくは、穏やかな笑顔で。
「では、転移を始めましょう!」
チンと軽い音がして、トースター頭からよく焼けたパンが二枚飛び出した。
藤影有
お世話になっております。藤影有です。戦争お疲れ様でした。
第一章【集団戦】、第二章【日常パート】、第三章【冒険パート】です。
●メタな経緯ざっくり
自力での帰還を目指して『自分の扉』を探しつつ、アリスラビリンスを走り続ける『時宮・朱鷺子』
四季の国・夏の小国を通過中、彼女はオウガに襲われる現地民達と邂逅する。
この状況はスポーツマンシップに反する。
そう判断した朱鷺子は、現地民への助太刀を決意するのだった――。
●つまり?
一章でオウガを片付けて。
二章でお茶して。
三章で朱鷺子が帰るお手伝い。
どれかだけの、もしくは途中参加も歓迎。
●集団戦について
夏の小国での戦闘です。
朱鷺子や現地民(愉快な仲間。見た目は二足歩行のカエル)達と共闘してもしなくてもいいです。
双方、指示を出せば従ってくれます。
●日常パートについて
秋の小国にて、スイーツ天国です。
こちらではモグラの姿をした住民がもてなしてくれます。
●冒険パートについて
冬の小国にて、朱鷺子の『自分の扉』探しを手伝うことになります。
氷に覆われた地を何とかする手段があるといいかもしれません。
●プレイングについて
各章とも断章投下と同時に受付開始します。
以降の受付開始・〆切予定等はMSページやタグをご確認いただけますと幸いです。
それでは、どうぞよろしくお願い致します。
第1章 集団戦
『おどるよさんふらわー』
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POW : へっどばんきんぐ
単純で重い【ヘッドバンキングからの頭突き】の一撃を叩きつける。直撃地点の周辺地形は破壊される。
SPD : ぐるぐるぶーん
【腕のような部位を広げたままの高速回転】によりレベル×100km/hで飛翔し、【回転数】×【ノリ】に比例した激突ダメージを与える。
WIZ : ばらまきだんす
近接範囲内の全員を【花びらまみれ】にする【愉快な踊り】を放ち、命中した敵にダメージと麻痺、味方に隠密効果を与える。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵
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●夏の戦い
青空にお日様燦燦、入道雲もっくもく。
大きな湖のほとりにて。
「また来たケロ!」
「逃げるケロ~」
「こら、立ち向かえ!」
カエルの姿をした住民達と時宮・朱鷺子。
そして。
ぴょいん、ぴょいん、ぴょいん。
植木鉢ごと跳ねて寄ってくる、ヒマワリめいたオウガがてんやわんや。
戦闘力だけならば、おそらく朱鷺子が上。彼女が片付けてしまうこともできるのかもしれないが。
「逃げても何も変わらんぞー!!!」
戦争を経てすっかり板についてしまったのだろうか。
この鬼教官、完全に住民へ意識が向いている。
まさにカオス。
この事態に収拾を付けるには――猟兵達の手でオウガを蹴散らすしかあるまい。
城野・いばら
ああ、時宮コーチー…!
見つかって本当に良かった
不思議の国の危機に駆けつけてくださった貴女が
帰れないと聞いた時は
ココロが締まった心地になったわ
ご不便はないかしら…次は私が力を貸す番
成程、特訓魂に火が点いてしまったのなら
そのままカエルさんへのご指導はお任せします
先ずはカエルさん達から意識を逸らさなきゃ
夢路と小さなうたごえの絵本の皆に飛出てもらい
合唱や視線でヒマワリさんの視線をお誘いし時間稼ぎをお願い
その間に皆も体制を整えてもらいつつ
私も生命力吸収を籠めた魔法の糸を紡ぐわ
威力が自慢の頭も振り回せなきゃ平気
茎を糸で絡めて捕縛
ヒマワリさんを纏めて…動けば動く程絡まるよ
困ったオニさん達にはおやすみなさいを
●
逃げるカエル、追う朱鷺子、跳ねるお花。
謎の状況が繰り広げられる湖のほとりに一番乗りしたのは。
「ああ、時宮コーチー……!」
アリスラビリンスに生まれた一人、城野・いばら(f20406)であった。
朱鷺子の無事を確認し、いばらはほっと一安心。
何しろ、朱鷺子は戦の最中に数多の不思議の国を救ってくれた立役者。
そんな彼女が在るべき場所へ帰れなくなっていると知った時は、気が気ではなかったものだ。
「見つかって本当に良かった……」
「ん、君は……ああ、先日に力を貸してくれた! 今日は一人か?」
「ええ、居ても立っても居られず。何かご不便はないかしら?」
「ある!」
即答。のち、朱鷺子はカエル達を睨め付けたかと思うと。
「おい、カエル達よ! 逃げてばかりでは――」
くどくどくど。
(「成程、特訓魂に火が点いてしまったのね」)
そうこうしている間にも、オウガは距離を詰めて来る。
さて、いばらが為すべきは。
「時宮コーチ、そのままカエルさんへのご指導はお任せします!」
「うむ、任せておけ!」
朱鷺子とカエル達に背を向け、いばらはオウガに向き直る。
先ずは、敵の意識をカエル達から逸らさねばなるまいと。
「みんな、お願いね」
いばらの声に応じるは、蒼の夢先案内蝶と飛び出す絵本から出でた仲間達。
ひらりひらひら、ぽてぽてぽて。
花弁、蝶々、愉快なみんな。
辺りにわあっと広がって、オウガの視線を奪ってゆく。
その間に。
「紡いで、結んで――夢を、未来を、繋ぐ力となれ!」
紡ぐ。
トロイメライで縒り紡いだ、命を啜る魔法の糸。
頭を振りかぶって攻撃の構えを取ったオウガどもを、茎の部分から絡めとる。
ぶんぶん暴れるさんふらわー。
されど、糸は絡まるばかりで次第に動きも弱まってゆく。
生命溢るる夏の化身も、其を吸われてしまえば、あとは。
「困ったオニさん達……もう、おやすみなさい」
しなりと花も、葉も萎れて。もう二度と動かない。
「――結論! 自分の国は自分で守る! いいな?」
「「「ケ、ケロ!」」」
白薔薇の通せんぼに護られて。
どうやら、カエル達の態勢も整ったようだ。
大成功
🔵🔵🔵
白瀬・彩
ポップアップトースター、喋るカエル、謎の鬼教官に動くヒマワリ…
ふむ、七不思議がいっぱいだな
今とってもトーストにバターを塗って食べたい気分だが、まずはこの状況を片付けるのが先か
よし、まずは人員確保だな
怪力でカエルを2人程捕獲するぞ
あとは…時宮さんといったか、カエルを1人連れてこっちへ来てくれ
皆で協力してヒマワリを倒すぞ
ひーふーみ…よし、揃ったな
では、各々これぞと思うキメポーズをよろしくお願いします
いざ!合体せよ!スーパーご当地ロボ!(ポーズ全員バラバラ)
うむ、これぞ多様性の時代
よーし、いっくぞー
がまくんパンチ!かえるくんパンチ!
そして…時宮ビーム!
うん、名前を技名に取り入れると強くなる気がするな
●
お喋りポップアップトースターに目を引かれたのが全てのはじまり。
謎の鬼教官、喋るカエル。そして、止めは動くヒマワリ。
「ふむ、七不思議がいっぱいだな」
いっそどれかを捕まえてしまおうか、なんて。
ふと考えた七不思議使い、白瀬・彩(f43915)のお腹がきゅうと鳴る。
いつも通りにがっつりと肉か? いや、今日はバターを塗ったトーストの気分だ。
だが、腹ごしらえをしている暇は無さそうだ。
「まずはこの状況を片付けるのが先か」
夏の化身、第二陣。
接近を許す前に、ちゃちゃっと迎撃準備を済ませねば。
「あなたと……よし、あなたも来てくれ」
「「ケロッ!?」」
鬼教官の指導の下、整列していたカエル二匹を彩はひょひょいと小脇に抱えて。
「あとは……時宮さんといったか、カエルをあと1人連れてこっちへ来てくれ」
「心得た! が、何をするつもりだ?」
「皆で協力してヒマワリを倒すのだ」
ひーふーみ……。
頭数は揃った。あとは。
「では、各々これぞと思うキメポーズをよろしくお願いします」
「「「「キメポーズ」」」」
皆が顔を見合わせたと同時。
ぴょいんと一段と高く跳ねたオウガの姿を、皆が捉えた。
「さあ、せーので!」
しゃきーん!
肉の焼き加減に貴賎なし! 白瀬・彩!
トライアスロン・フォーミュラ! 時宮・朱鷺子!
油にはちょっと自信あり! カエルA!
歌に自信が無いのが密かな悩み! カエルB!
たぶんオウガより高く飛べるはず! カエルC!
「5人揃って……いざ! 合体せよ! スーパーご当地ロボ!」
ポーズバラバラの5人(2人と3匹)が、スーパーご当地ロボの操縦席へ誘われる!
オウガの放つ花びらも、愉快な踊りもものともせず――。
「がまくんパンチ! かえるくんパンチ!」
左右の腕を射出したロケットパンチを繰り出して。
「そして……時宮ビーム!!」
胸部から放つビームで敵群を薙ぎ払う!
第二陣、早々に殲滅確認!
「うん、名前を技名に取り入れると強くなる気がするな」
「なるほどな。以降の訓練の参考にさせてもらうか……」
彩と朱鷺子。
意外とこの二人、気が合うのかもしれない。
大成功
🔵🔵🔵
神臣・薙人
時宮さんなら本当に
自力で扉を見付けてしまいそうですが
ご恩もあります
微力ながらお手伝いしましょう
カエルさんには後ろに下がってくださるようお願い
集団に襲われてカエルさんも消耗している筈です
体力を回復して頂くのが先決かと
…と言ったら時宮さんも分かって下さるでしょうか
向日葵が射程に入った段階で
白燐桜花合奏使用
カエルさん
時宮さんを回復しつつ
向日葵の体力を削って行きます
向日葵の花びらには注意し
近接範囲には近寄らないようにします
うっかり入ってしまったら
こちらの花吹雪で花びらを切り裂いて対処
麻痺した味方がいれば
演奏を中断し後方へ連れて行きます
余裕があれば白燐蟲も呼び出し目眩ましを
少しはお力になれたでしょうか…
●
先の大戦での朱鷺子の活躍(?)ぶりは、神臣・薙人(f35429)の耳にも届いていて。
なるほど。彼女の様子を聴くに、本当に自力での帰還を為してしまいそうではあるが。
(「桜の……いえ。結果的に遍く世界を守ってくれたご恩がありますからね」)
ふわりと瞳を和らげて、薙人は転移の門を潜った。
微力ながら力添えをと願い――。
そして、辿り着いた先。湖のほとりでは。
「もう駄目ケロー……」
「食われてしまうケロ……」
わらわらわら。
何処から集まってきているのやら、オウガの群れにカエル達が押されている最中であった。
「くっ、流石に数では敵が勝るか」
朱鷺子の指揮を以てしても、拮抗がやっと。
このままではまずい。
瞬時に判断した薙人は、繊細な声を張って告げる。
「カエルさん方、後ろに下がってください」
「!! おお、君も猟兵か!」
頷いて、消耗しているカエル達の体力を回復させるのが先決と。
そう説明すれば朱鷺子も納得して、カエルを率いて後退していく。
だが、無い指を銜えて退却を許してくれるオウガどもではない。
『――ッ!! ッ!!!』
奇妙な声だか音だかを発し、さんふらわーが踊り出す。
くねりくねくね。花が踊れば、辺りに黄色の花弁が舞う。
敵味方を問わず包み込まんとする花弁。
囚われたらどうなるかわからない。
ゆえに。
「そう来るならば、私も」
途切れぬ音色を奏でましょう。
白を桜の合奏を。
広がりゆくは蟲笛の音色。其の音に愛された蟲と花。
白鱗蟲の群れがカエル達や朱鷺子を囲み、少しずつ傷を治してゆき。
桜はオウガの黄を押し返すように舞い、飛び交って。
すぱっと敵の茎を切り裂くことで、でしゃばりな夏に終わりの時を告げた。
(「少しはお力になれたでしょうか……」)
蟲笛を奏で続ける中で、薙人が視線を送った先には。
すっかり元気になってガッツポーズを決めるカエル達と朱鷺子の姿があった。
大成功
🔵🔵🔵
キラティア・アルティガル
協力者殿の帰還の手伝いとな
此度の戦は強者たちの手がなくば
敗北を喫したやも知れぬ
仮に敵とて恩義はあろうよ
それにの
彼の者の心底は我には好もしいものじゃ
悪かも知れぬがあくまで公平にと言う所がの
されば参ろう
「時宮殿か、キラティアと申す猟兵じゃ!助力に参った!」
名乗り大鎌を構えよう
敵の勢いを見てから数が多いゆえと申し
「時宮殿、蛙殿らも、済まぬが我が斬り余したものを頼む」
応諾を貰えたらそのままデモンウィングで飛翔じゃ
「いかでこの地が夏の国であれ、狼藉は迷惑ぞ!」
花弁は我が大鎌の一閃や羽ばたきにて躱そうぞ
出来得る限り植木鉢の上、茎に当たる所を刈り込もう
「日を追う花に似ておるの。そのまま生け花になるが良い!」
●
先の大戦の協力者、時宮・朱鷺子。
其の帰還の手伝いと聴いて、キラティア・アルティガル(f38926)は思考する。
彼女はトライアスロン・フォーミュラ。かつて猟兵と刃(?)を交えた存在だ。
されど先の戦は朱鷺子達、強者の手がなくば敗北を喫したやも知れない。
仮に敵とて、恩義はある。
それに。
(「彼の者の心底は我には好もしいものじゃ」)
猟兵にとっては悪やも知れぬ存在であれ、朱鷺子自身はあくまで公平に物事を見る性分のようだ。
されば。
「参ろう」
転移の門の向こう。整列し、オウガを迎え撃たんとする者達へ。
「キラティアと申す猟兵じゃ! 助力に参った!」
大鎌を構え、堂々と名乗る。
我は此処に在りと、示す。
「おお! 援軍とは心強い!」
サムズアップしてキラティアを迎える朱鷺子。
カエル達もケロケロケロと喜びの声を上げている。
さて、迎え撃つべきオウガの様子は――。
(「ふむ。戦場の痕跡を見るに、相当の数を討ったようだが」)
それでも、生き残っている。
「まだ数が多いな。時宮殿、蛙殿らも、済まぬが我が斬り余したものを頼む」
「了解した!」
「「「ケロ
!!!」」」
背を任せ、キラティアは飛翔する。
デモンの翼を大きく広げて。
空に上がったキラティアを、ぐいんと首を上げて見上げるオウガ。
花の姿をしているが、其の動きは自然とはかけ離れた不気味なものだった。
「いかでこの地が夏の国であれ、狼藉は迷惑ぞ!」
大鎌を振りかぶるキラティア。
知ったことかとばかりに黄の花弁を撒き散らすオウガ。
言葉など届かない。ならば、代わりに刃を送ろう。
「日を追う花に似ておるが――」
一閃。花弁を割って道を開き、瞬時に滑空し、舞い降りて。
「――夜に沈んで、果てるがよいわ!」
大鎌を茎に押し当て、切り裂き、幾体ものオウガを一掃する。
敵の生死? 確かめるまでもない。
振り返らずとも、後に続く朱鷺子の号令とカエル達の声が聴こえてくるゆえだ。
そうだ。先陣切って、飛び続ればいい。
大鎌と翼を以てして、夏に完全な終わりを告げるまで。
* * *
湖のほとりは静かになった。
また新手がやって来ないだろうか。もっともな心配は、朱鷺子によって否定される。
「奴らは途切れることなく、うじゃうじゃ湧いてきていたんだ。それが今は完全に止まっている」
ということは?
「敵には補欠がもういないということだな!」
勝者、猟兵&時宮・朱鷺子&カエルズ!
大成功
🔵🔵🔵
第2章 日常
『スイーツ・ヘヴン』
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POW : 独特な素材の斬新なスイーツ
SPD : フルーツをふんだんに使ったスイーツ
WIZ : 趣向を凝らしたお洒落なスイーツ
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●オータム・スイーツ・ヘヴン
さて、オウガも片付いたことだし。
「よーし、不思議の国踏破マラソン、再開! いざ、『自分の扉』を目指して!」
……うん。朱鷺子ならそう言う。絶対言う。
走り出す直前の朱鷺子を止めたのは他でもない。此度、守られたカエル達であった。
「ちょっとストップケロ!」
「お礼がしたいケロー」
「え、いや、おい。私は先を急……」
数に任せたカエルウェーブに流されていく朱鷺子。
「猟兵の皆様もご招待ケロ! こっちケロ!」
誘われゆく先を見れば、木々が緑から黄、赤へとグラデーションに染まっている――。
* * *
「秋の国にご招待ケロ!」
「ここから先はボク達が案内するモグ!」
やってきました、秋の国。
モグラの姿をした住民に、紅葉に彩られた森の奥へと通されて。
辿り着いた先では、茶会の用意ができていた。
テーブル上にはティーセットが据えてあるが。
「紅茶にコーヒー、緑茶だってあるモグよ!」
「お菓子はどんなのがお好みモグ?」
栗にお芋にかぼちゃ、梨に葡萄に林檎などなど。
季節の実りを主役に据えたものの他、チョコ系統や和菓子まで。
スイーツとあらば何でも提供できるとモグラ達は胸を張る。
「むぅ……しかし、私はマラソンを」
朱鷺子さん。行動食の補給は大事でしょう?
「それもそうか! では、遠慮なくいただいていこうか」
そんなこんなで、朱鷺子もしばらくは大人しくしていてくれそうだ。
心置きなくスイーツ天国を楽しもう。
神臣・薙人
秋の国ですか
紅葉が綺麗ですね
確かに行動食の補給は大切な事です
しっかり頂いて行きましょう
席はなるべく端の方に座らせて頂きます
いえ、端っこの方が落ち着くもので…
飲み物は紅茶を頂きたいです
迷いますがお菓子は
折角なので秋らしくお芋を使ったものを
スイートポテトがあると嬉しいです
ご提供頂いたらお礼を言って
いただきますと手を合わせてから食べましょう
作法は大事ですから
あれ…
秋の国の作法は、これで良いのでしょうか…?
とにかく美味しく頂きます
ほわ…お芋、美味しいです…
ふふ
これは、お菓子が好きな友達に
帰ってから自慢しないといけませんね
紅茶もよく合っています
全部綺麗に頂いたらごちそうさまを
少し休憩したらまた出発ですね
●
薙人の掌の上に、はらりと落ちたもみじの葉。
どうやら植物の美しさは、不思議の国でも変わらぬようで――。
「クエン酸にビタミンも補給したいところだな! どのような菓子がある!?」
「すぐにご用意するモグ!」
……風情という概念が裸足で逃げ出す賑やかさである。
「確かに、行動食の補給は大切な事ですからね」
ちょっと困ったように眉をハの字にしつつも。
「お兄さん、こっちモグ! 好きなだけ楽しんでいってモグ!」
「ええ、しっかり頂いて行きますね」
モグラ達の誘いを受けて、茶会の席に着く薙人であった。
落ち着ける席を探し、端っこに収まった薙人。
飲み物は紅茶を。菓子は何を選ぶか悩みどころだが。
「秋らしく、お芋を使ったものがいいですね。スイートポテトはありますか?」
「勿論モグ!」
注文を請け負ったモグラを見送り、しばしの後。
「おまたせモグ!」
「ありがとうございます。あ、これは……」
香り高い紅茶と共に提供された、一口サイズのスイートポテト
達が。
「ひよこに、うさぎに、はりねずみでしょうか」
胡麻でできたつぶらな瞳で薙人をじっと見つめている。
そう、ここは不思議の国。いつも心にファンシーを。
(「ちょっとだけ、食べてしまうのが勿体ない気もしますが」)
いやいや、お菓子は食べてこそ。
礼儀正しく両手を合わせ、いただきます。
ぱくり。
しっとり、ほくほく。優しい甘さ。
紅茶で喉を潤せば、自然とまた食欲が湧いて。
「ほわ……お芋、美味しいです……。秋の味ですね」
これは帰ってからお菓子が好きな友達に自慢しないと、なんて。
幸せに包まれながら、また一つをぱくり。
全部綺麗に頂いて、心よりの「ごちそうさま」を。
美味しい時間を堪能したら、いざ目指すは冬の小国だ。
大成功
🔵🔵🔵
キラティア・アルティガル
夏の国から秋の国へか
この世界は面白やの
夏に住まう蛙殿らへの礼をし別れたら
秋に住まう土竜殿らに挨拶をの
「甘い良い香りじゃの、遠慮のう馳走になろう」
腰を下ろすと注文を聞きに来てくれやった
「我は余り菓子の種類を知らぬ。ゆえにの」
お主らのお薦め三種をまず食したやと伝え
参れば説明を聞き一品ずつじゃ
「うむ!掛け値なしに旨い!」
世の甘党が相好を崩すのもむべなるかな
他の菓子にも手が伸びるのを止められぬ
折角の心尽くしであるゆえたんと頂くとしようぞ
時宮殿も楽し気で良い雰囲気で良きじゃ
「気は急くかも知れぬが休息は大事であろうよ」
しっかり休み英気を養われよと申し
叶うなら菓子も分け合おう
良い時間だの
お主もであろ?時宮殿
●
「では、達者での」
「お姉さんも。ありがとケロ!」
夏の国に戻ってゆくカエル達の背を見送ってのち、キラティアはぐるり辺りを見回す。
境界は何処なのだろう。
向こうはお日様ぎらぎら夏の国。
振り返れば涼しい風吹く秋の国。
興味深い。す、と目を細めたキラティアに声掛ける者がいた。
「お客様も! 一緒におやつの時間にするモグ!」
秋の国の案内を務めるモグラの一匹だ。
ふわりと漂う菓子の香りに、思わず腹がきゅうと鳴る。
「甘い良い香りじゃの、遠慮のう馳走になろう」
「モグ!!」
通された茶会の席で、さあ何をいただこうか。
興味はあれど、キラティアは菓子の種類に詳しいわけではない。
ゆえに、注文を聴きにやってきたモグラにこう告げた。
「お主らのお薦め三種をまず食したや」
そうして、運ばれてきた品は――。
「お待たせしましたモグ! 一品ずつ説明するモグね!」
まずは、マスカットのタルト。
艶やかな緑の実は、まるで翡翠のようでもある。
続いては、アップルパイ。
冷やしてあるタイプであるらしく、食感を楽しんで欲しいとのこと。
ラストに、サツマイモプリン。
添えられた胡麻で描かれた顔は、モグラ達にそっくりだ。
「最初の品から順番に、紅茶と一緒にどうぞモグ」
「ほう。では、タルトから――」
ぱくり。
「……っ、旨い! うむ、掛け値なしに旨い!」
爽やかなマスカットの香りが鼻を抜けて、甘酸っぱさが舌の上で踊る。
一度、紅茶で喉を潤す。さらば、次に手が伸びるのを止められなくなる。
アップルパイはサクサクで、甘さ控えめのリンゴと生地のハーモニーが素晴らしく。
一方のサツマイモプリンは濃厚な、とろける甘みが身に染みてゆく。
(「なるほど。菓子の順番にも確かな意味があったのじゃな」)
紅茶を啜りつつ、キラティアは堪能した品を順に思い返す。
さっぱりしたものから、濃厚なものへ。
嗚呼、世の甘党が相好を崩すのもむべなるかな。
「良い時間だの。お主もであろ? 時宮殿」
「むぐ?」
見れば、朱鷺子の席には皿が既に幾枚か積み重なっている。
「気は急くかも知れぬが休息は大事、しっかり休み英気を養われよ」
「む!(訳:ああ!)」
「ふふ。良かったら、菓子を分け合わぬか?」
「むむぐっぐ!(訳:喜んで!)」
「……急くなと。返事は飲み込んでからで構わぬぞ」
大成功
🔵🔵🔵
白瀬・彩
バタートースト…いや、ここは秋の国お茶会を満喫しよう
カエルA~Cにお礼を伝えて…と
招待されますけろ
案内お願いしますもぐ
スイーツなら何でも?
ほう…ならば!
底にコーンフレークと梨のコンポートを敷き
生クリームを挟んで南瓜プリン
もう一回生クリームでスイートポテトをぎゅっと詰め
バニラアイスにマロングラッセと林檎と葡萄をトッピングして
キャラメルソースをかけた至高のパフェ
さあ、こんな感じのスイーツを提供して貰おうか!
(メモ帳に「ぼくのかんがえたさいきょうのパフェ」を描いて熱く説明)
紅茶を頂きわくわく待機
完成したら時宮さんに見て貰おう
見てくれこのパフェを!秋はここにあり!!
そうだ。良かったら一緒に食べないか?
●
「一緒に戦えて心強かったぞ、けろ」
「「「ケロ
!!!」」」
カエルABCにお礼を言って、やってきました秋の国。
彩を出迎えるは、モグラ達だけでなく。
「……あ」
ひらり、ひらひら。
ちょうちょが一匹飛んでった。バタートーストの翅を持つちょうちょだ。
思わずきゅうとお腹が鳴った。
「すぐおやつにするモグ? スイーツなら何でもあるモグよ!」
「何でも? ほう……ならば!」
束の間、思案。
そして彩はひとり、頷いて。
「よし、決めた。席まで案内お願いしますもぐ」
「モグ!!」
案内モグラの後に続き、茶会の席に着いたのだった。
メモ帳にぎっしり書き連ねて、給仕モグラに渡した何やらは。
「お待たせしましたモグ!」
「おおおおお!!」
しっかりたっぷり再現されて彩の席までやってきた!
底にコーンフレークと梨のコンポートを敷き、生クリームを挟んで南瓜プリン。
さらにもう一回生クリーム、続いてスイートポテトをぎゅっと詰め。
トッピングにはバニラアイスにマロングラッセと林檎と葡萄。
仕上げにキャラメルソースをかけて――。
「これぞ、至高のパフェだ!」
「作ってるモグも楽しかったモグ。紅茶、おかわり持ってくるモグね」
ででんと据えられたパフェを存分に味わう為には、やはり紅茶の用意を待つべきだろう。
そわそわ、そわそわ。
……食べるのは我慢できても、大人しく待ってなどいられない!
「時宮さん! 時宮さん、見てくれ! このパフェを!」
「む、どうし……おお?」
流石の朱鷺子もボリュームたっぷりのパフェに驚いた様子だ。
「秋はここにあり!!」
「素晴らしいな。糖質のみならず、脂質やビタミンの補給も考えて――」
驚いたポイントが何かズレてるのは気にしてはいけないぞ!
「そうだ。良かったら一緒に食べないか?」
「いいのか?」
「僕と時宮さん、戦場を共にした仲じゃないか」
ちょうど紅茶の用意も出来た。
二人仲良く、いただきます!
大成功
🔵🔵🔵
城野・いばら
秋の国のみんな、ご招待ありがとう
休憩も完走する為には大事なコト
コーチも…うん大丈夫そうね
それじゃあ、私からも差入れをさせてくださいな
梅おむすびさんに干し肉さん
自家製のしょっぱい系の虹色の便り
汗をかく時は塩分補給も確りねって旦那さんが言っていたの
次の国でも食べられるよう、包でお渡しして
果物さんも一緒に詰めていく?とふふっと
賑やかなテーブルにお腹も心も一杯にして
次へ向かいましょうね
私も梨さんや葡萄さんを頂きながら
アスリートアースの近況をお話しできたら
今はハロウィンの準備の季節で
イベントに因んだ競技さんとかあるかしらとお尋したり
帰る場所を考えるのは
…きっと扉へも良いコト
コーチが元気に扉を潜れますよう
●
「秋の国のみんな、ご招待ありがとう」
「「「モグ
!!!」」」
いばらを出迎え、席に案内したモグラ達は無駄のない動きで仕事をこなしてゆく。
きっといつもこのように、迷い込んできたアリスをもてなしているのだろう。
(「コーチも……うん、大丈夫そうね」)
最初こそ気が急いて見えた朱鷺子であったが、今はすっかり茶会の雰囲気に馴染んでいる様子。
そうだ。
「私からも差し入れを。喜んでくださるかしら?」
「コーチ、少しよろしくて?」
「ああ、君か。楽しんでいるか?」
「私は今、注文した品を待っているの。それで、渡したいものがあって」
差し出すは、梅おむすびさんに干し肉さん。
自家製のしょっぱい系の虹色の便り。
次の国でも食べられるよう、包でのお渡しだ。
「汗をかく時は塩分補給も確りねって、そう旦那さんが言っていたの」
「あの時の彼だな。確かにその通りだ、感謝するぞ。旦那様にもよろしくな!」
ふたり、談笑するうちに。
「ご用意できたモグ!」
「あら、ありがとう。こちらまで運んでくださる?」
「モグ!!」
梨さんや葡萄さん、甘いあまい秋の味覚がやってきた。
「そうだわ。果物さんも一緒に詰めていく?」
「そうだな。連れて行こうか! 果物も、冬を見るのは初めてかもしれないしな!」
賑やかなテーブルにお腹も心も一杯になってゆく。
自然、会話もぽぽんと弾む。
たとえば、アスリートアースの近況は――。
「今はハロウィンの準備の季節よね。イベントに因んだ競技さんとかあるかしら」
「そうだな……ぱっと思い付いたのは、南瓜転がしだが」
「南瓜さんを転がすの?」
「作り物の、人の何倍もの大きさのやつをな! 体当りで転がしていって、ゴールを目指すんだ!」
なかなかにファンシーな競技も存在しているらしい。
「あれは慣れるまで、なかなか上手く転がらんのだ。……早く帰って、手本を見せてやらねばな!」
「ええ、そうね」
いばらは優しく微笑んだ。
帰る場所を考えるのは、きっと扉に対しても良いことだ。
不思議の国の一員たる彼女の胸には、迷い人の帰還に対して特別な想いがあった。
「ん、どうした?」
「いいえ。こうしてお話できるのが、とても楽しくて」
胸の内で密かに祈る。
朱鷺子が、元気に扉を潜れますようにと。
どうか彼女が、無事の「ただいま」を聴かせてくれますようにと。
大成功
🔵🔵🔵
第3章 冒険
『カチコチの氷像を溶かそう』
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POW : 気合と根性で温めて氷を溶かす
SPD : 技術や道具を使って氷を溶かす
WIZ : 魔術や科学で氷を溶かす
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スイーツ天国を堪能して後。
「世話になったな!」
「「「モグ
!!!」」」
モグラ達に礼を言い、時宮・朱鷺子は秋の小国を出発する。
いざ、『自分の扉』を目指して。
冬の小国に足を踏み入れたまでは良かったが――。
* * *
●厳冬の試練
「うむ、これは聴いていない!」
爽やかに言い放つ朱鷺子の前には、氷漬けになった数多の『扉』。
中でも最奥の『扉』は、朱鷺子の来訪に呼応するように強い光を放っている。
おそらくは、それこそが彼女の『自分の扉』なのだろうが……。
「参ったな」
珍しく、朱鷺子が困った顔をしている。
「力づくで氷を砕くことなら容易だ。だが、私は力加減ができない!」
つまりは彼女のもののみならず、他の『扉』をも吹き飛ばしてしまうことになりかねないという。
「他の誰かの帰り道を壊してしまうのは不本意だ。……どうしたものか」
朱鷺子ひとりではどうにもならない状況。
これを打破できるのは。
力を貸すことができるのは――。
神臣・薙人
流石は冬の小国
覚悟はしていましたが寒いですね
扉が氷漬けになっているのも納得です
あの光っている扉が
時宮さんの扉なのですね
他の扉は他のアリスさん達の帰り道
確かに壊したくはありません
時宮さん
長期戦になりますが
お手伝いさせて頂いて良いですか?
了解が得られたら時宮さんと自分を範囲に入れて
ガラスのラビリンス使用
出口は時宮さんの扉へ繋ぎます
この迷宮はちょっとやそっとでは壊れません
他の扉の事は気にしなくても大丈夫でしょう
時宮さんの扉の氷は
角灯の火を近付けて少しずつ溶かして行きます
蝶番や取っ手周りを優先的に
氷が緩んだ箇所が出来たら
時宮さんにお願いして氷を剥がして貰います
少しでもお手伝いになっていたら良いのですが
●
頬を撫ぜる風は、まるで切られるような心地。
流石は冬の小国。覚悟していたが寒い寒い。
扉が氷漬けになっているのも納得と、薙人は小さく息を吐く。
白い息すら結晶にでもなりそうだ。
「あの光っている扉が時宮さんの扉なのですね」
「うむ、間違いない。どうしてかはわからないが、自分のものだと感覚でわかるんだ!」
目的地はすぐそこに。しかし、到達を優先して他のアリス達の帰り道は壊したくない。薙人も朱鷺子と意向は同じだ。
さて、どうしたものだろう。
氷はひとつの氷塊なのか、層になっているのだろうか――。
(「いえ、いずれにせよ」)
扉に近付く手段が薙人にはある。
「時宮さん。長期戦になりますが、お手伝いさせて頂いて良いですか?」
「私としては願ったり叶ったりだ!」
了解を得て、薙人が紡ぐユーベルコードは。
「出口はひとつ……時宮さんの扉へ」
ガラスのラビリンス。
透明なガラスで出来た迷宮が、氷をくり抜くように出現した。
ガラスといえども、この迷宮はちょっとやそっとでは壊れない。
「いわば防護壁にもなりますから、これで他の扉の事は気にしなくても大丈夫でしょう」
しばし迷宮を歩き、朱鷺子の扉の前へ出る。
扉までの道を阻む氷を調べると、どうやら不思議な力を帯びていていくつかの層になっているようだ。
「少しづつ溶かしていくしかありませんね」
「だな。私も全力で……はまずいな。微力で何とかするぞ!」
角灯の火を近付けて少しずつ溶かして。
氷が緩んだ箇所を、朱鷺子が力づくで剥がしてゆく。
丁寧に、時に豪快に。
ぱりんと澄んだ音がして、層をひとつ突破した頃合いで。
「――皆さんも、来てくださったのですか」
人の気配に振り返れば、秋の小国で見かけた顔ぶれ。
そう、猟兵仲間が扉の前まで追い付いてきたのだ。
朱鷺子に手を差し伸べたい。
思いは皆、薙人と同じだったのだ。
大成功
🔵🔵🔵
キラティア・アルティガル
思うた通り欲望に従う者ではなかったの
さあれば他を壊さずと悩まぬはずじゃ
「必ず還すゆえ安心されよ」
先ず足下の氷を大鎌の柄で叩き壊す
手を貸そうかという心持も良いの
だが時宮殿の膂力では少々強すぎる
「これは我が受け持とう」
二度三度繰り返さば…砕けた!
「なれば出番じゃ」
此処へ来りて見出したUCをば
来る者らは通り穴が掘れる
「済まぬがあの輝く扉の前まで」
他を壊さず通してくれぬかと願い穴掘りも手伝おう
何もせずでは心苦しかろう
「時宮殿は掘られた土を取り除けられよ」
…よし貫通じゃ!
声援も受け通り時宮殿の扉へ
これの氷を剥がすだけなら造作もない
「またいつか菓子なと相伴しよう」
酒と肴でも良いぞ、我は呑み助での
達者でな!
●
『自分の扉』を前にしても、時宮・朱鷺子は己の帰還のみを優先はしなかった。
何処の誰ともわからぬアリス達を気に掛けたのだ。
思った通りの者だった。ゆえにキラティアは今、朱鷺子の傍に立っている。
「必ず還すゆえ安心されよ」
「ああ、頼りにさせてもらうぞ!」
目の前の氷はあと幾層だろうか。
もっとも、仮にどれだけ分厚くともやることは一つ。
「これは我が受け持とう」
先ずは、足元の氷から。
愛用の大鎌の柄を以て、ぴしりと皹を入れてゆく――。
二度、三度繰り返さば、厚い氷が大きく砕けた。
「なれば出番じゃ。済まぬがあの輝く扉の前まで、他の扉は壊さぬよう頼む」
「「「かしこまり~
!!!」」」
キラティアの号令でひょっこりと姿を現したのは、陽気な小人達。
其は、此の地にて見出したユーベルコード。
呼び出した小人はトンネル堀りに長けた種族。現状を打破するにはうってつけの頼もしい味方だ。
「時宮殿は掘られた土を取り除けられよ」
「任された!」
かりかり、ぺりぺり。
軽い音を立て、少しづつ少しづつ。それでも確実に。
「「「まだまだ行くよ~!」」」
氷を剥がし、光の下へ近づいてゆき。
「……よし、貫通じゃ!」
遂に、扉に触れられる程に氷を削り取ることに成功した!
大成功
🔵🔵🔵
白瀬・彩
ごちそうさまでしたもぐ
モグラ達にお礼を伝えて…次は時宮さんの扉だな
寒い…こんな日はホカホカ肉まんが欲しい
どこかコンビニにつながる扉は…じゃなかった、時宮さんの扉を何とかしなければ
共にパフェをつついた仲だからな
大丈夫だ時宮さん、僕に任せてくれ
こんな扉を開けるなど造作も…造作…も…(両手で扉を押してみる。めっちゃ冷たい)
ちべたい
むう、これはユベコに頼るしかないか
それではお聞きください
七不思議奇譚「きさらぎ駅」
扉の周囲に都市伝説を召喚するぞ
宮島には千年以上燃え続ける火があるという
それだけ長く燃える火ならばこの氷も解かせるかもしれない
時宮さん、短い間だが楽しかった。ありがとう
またどこかで会ったら遊ぼう
城野・いばら
良かった、コーチの扉さん…
アサイラムから召喚された迷子のアリスではないから
…心配だったけれど
他の扉を気遣ってくださる素敵なコーチ
私もその願いに全力で応えたい
氷さんを溶かすなら炎やお湯かしら
得意なのは風や水魔法
猟兵のアリスの中に炎の技を使う方が居たら協力したいけれど
先ずは創造魔法でチャレンジを
創作するのは
そう、バラだって蕩けさせる最強の…温泉さん!
昨年ハネムーンで過ごさせて頂いた、
檜の家族風呂さんおいでませ
魔法は一日で解けてしまうけれど、十分
一緒に創作した大バケツさんで
お湯をバケツリレーよ
コーチのお力も此方に注いで頂けると嬉しいわ
伸ばしたバラ蔓も動かしてお湯を運搬
扉へ掛けて溶かしましょう
皆も疲れたら足湯で休憩なさってね
ゴールまで元気に参りましょう
コーチの無事のただいまを聴くまでが、マラソンなのだから
●
モグラ達にお礼を言って秋の小国を出立したのが、遥か遠い昔のことのようだ。
「……ちべたい」
掘り出した扉を両手で押してみるも、彩の力ではびくともしない。
「まあ、アリス! そのまま触れていては手がかじかんでしまうわ!」
慌てて彩を制するいばら。
扉自体もすっかり凍てついている。
温めて、隙間にまで入り込んだ氷まで溶かさねば開くこともままならぬだろう。
「氷さんを溶かすなら、炎やお湯かしら」
「む? ならば、手はあるぞ」
少し真っ赤になった手を「はい!」とばかりに元気に挙げて。
「それではお聞きください」
彩は密やかに語り出す。
七不思議奇譚「きさらぎ駅」を。
――宮島には千年以上燃え続ける火があってだな……。
すうと背筋が冷える怪異譚。彩の声に呼応して、招来するは語られし千年火。
扉を包むように燃え続け、じっくりと氷解させてゆく。
「時間は掛かるかもだが、これでどうにかならないか?」
「ええ、きっと。ふふ、扉が温まる間に私達もぽかぽかになりましょうか」
「む、ここでか?」
「見ていて。紡いで、結んで――」
Wonder and Imagination!
不思議の国の創造魔法で、いばらが創作したものは。
「バラだって蕩けさせる最強の……温泉さん!」
「こ、これはぜいたくな……!」
昨年のハネムーンで過ごした、檜の家族風呂であった。
思い出の中の温もりが今、癒しと帰還の為の力になる。
「皆様、時宮コーチ。お疲れでしょう。どうぞ足湯で休憩なさってね」
扉まで近付き、氷を砕いては剥がし、扉本体を温めるまでの間に皆、すっかり冷え冷えになっていた。
「ではでは、ばばんばばんばんするぞ。お風呂上りに牛乳も欲しいな」
「これはありがたい。肉体疲労には湯治が効くからな。その後の牛乳もカルシウム補給の上で……」
わいわい、がやがや。
仲間達の冷え切った身体が温まった頃合いで。
「そろそろかしら?」
いばらは扉の具合を確かめる――すっかり氷も解けているようだ!
「アリス、火さんを帰してあげてくださる?」
「む、了解だ! 火さん、火さん。ありがとう」
彩の柏手と礼を受け、何処ぞへと還る千年火。
冷え冷えを通り越して、扉はあつあつになっているが……。
「コーチ、皆様。お力を貸して!」
いばらが創造魔法で生み出したものは、温泉のみならず。
「温泉のお湯をバケツリレーよ。扉の温度をあつあつからぽかぽかにするの!」
大きなバケツを伸ばしたバラ蔓で動かし、率先してお湯を扉にかけてゆくいばら。
「よし。力仕事なら任せろ!」
「時宮さん、せっかくだし競走しないか?」
仲間達も後に続き、今度こそ――。
* * *
時宮・朱鷺子の扉の隙間から、ひと際強い光が漏れる。
この状態ならば、開くことも叶うだろう。
「皆、本当に世話になった。……私だけでは、他の扉を犠牲にしてしまうところだった」
ぴんと背筋を伸ばして礼をする朱鷺子を、猟兵達は思い思いに送り出す。
「少しでもお手伝いできていたら幸いです」
「またいつか菓子なと相伴しよう。いや、酒と肴でも良いぞ、我は呑み助での。達者でな!」
「共にパフェをつついた仲だからな。今度は一緒にほかほか肉まんでもどうだ?」
「良かった。本当に良かった。コーチの無事のただいまを聴くまでが、私のマラソンなのだから」
朱鷺子は笑んで頷き、背を向けて。
「では、また何処かで!」
扉に手を掛け、そっと押せば――ぱあんと破裂音を残して、扉が爆発四散した!
……え?
●いずれ春はやってくる。
目の前で、帰還に繋がるはずの扉が爆発四散したらどうする?
呆然となる。それはそう。
されど、朱鷺子は。
「うーむ……
また駄目だったか」
さほど驚いてはいなかった。
それどころか、この結末を予想していたかのようでもあった。
「実は、扉を見つけるのも帰還の失敗もこれが初めてではなくてな」
朱鷺子曰く。
以前にも、此度と同様に扉を爆発させてしまったらしい。
しかし扉と引き換えに、帰還に繋がると思しきアイテムが彼女の手に残ったのだとか。
「今回も、ほら。見てくれ」
扉の破片から光が収束し、朱鷺子の手に収まってカード状の何かを形成する。
トランプの、スペードのクイーンだ。
「これを集めれば、きっと帰還に繋がる。私の勘がそう告げているんだ!」
からからと笑い、朱鷺子は改めて猟兵達に礼を言ってのち走り出す。
春の小国まで戻り、四季の国一周を達成し。時計ウサギの穴から別の国を目指すらしい。
「まだまだ道半ば! 皆、改めて――また何処かで!」
【スペードのクイーン(♠Q)】
トランプにおけるクイーンは女王の象徴。
スペードはイタリア語の『剣』が語源とされる。高貴さと軍事の象徴であり、貴族を表す。
また、スペードのクイーンのモデルはオリンポス十二神の一柱であり、ギリシャ神話の戦いの女神である『アテナ』であると伝えられる。
アスリートたる朱鷺子がこのカードを引き当てたのは、果たして偶然か必然か。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵