1
Have an awesome summer!!

#アスリートアース #ノベル #猟兵達の夏休み2024

朧・紅



ノネ・ェメ




「海ですー!」
  エメラルドグリーンとオフホワイトのコントラストを、目映い陽射しが照りつける──キラキラと輝く夏の海に、揚々と響き渡るのは朧・紅の弾んだ声。
 ギンガムチェックのフリルを揺らしながら、紅は勢いのまま白波の弾ける波打ち際へ。広がる白波にそろりと足を浸せば、寄せては引いてを繰り返す波が紅の足の裏をくすぐってゆく。
 とっても綺麗──今すぐにでも飛び込みたい!
 輝く海をひと目見ただけでも、紅の胸には逸る気持ちが溢れ出す。けれど、この海に訪れたのは飛び込む為ではなくて楽しむ為。紅はドキドキ胸を打つ鼓動を、浮き輪で抱きしめストップをかける。そうして砂浜を踏みしめ近づく足音に、その場でくるんと振り返った。

「まずはっ」
「準備体操ですょね」
「そうなのです、ノネさんっ!」
 紅の言葉に微笑みを向けるのはノネ・ェメ。バスケットを片手に携えながら、コバルトブルーの髪をポニーテールに束ねるノネもまた、海を楽しむ気持ちの準備は万全だ。

「おぃっちにーっ」
「さんっしーっ」
 紅とノネは仲良く並んでしっかり念入りに準備体操。陽射しの中でうんと伸ばして温まった体は、もうすっかり火照っている。波の冷たさはきっと、とびっきりの心地良さだろう。

「それでは、何して遊びましょう?」
 夏の日差しの下で気持ちはすっかり膨らみきって、もう待ちきれない!
 けれどそんな紅に、ノネは指先をピンと立てるとチッチッチ、と左右に揺らす。チラリと視線を動かして見つめるのは、紅が抱きしめているおNEWの大きな浮き輪。ウキウキリボンの浮き輪とピカピカの水着で夏の海を紅がとびっきり楽しむためにも──ここは毎年浮き輪を極めし先輩ノネの出番である。

「まずゎ…先パィのわたしが、浮き輪のチュートリアルをレクチャーしたげます」
「ほわ、浮き輪レクチャ?うけますうけます!」
 頼もしい先輩ノネの言葉に紅の表情はとたんに華やいで。けれどすぐさまハッと我に返ると、キリッと表情を引き締め浮き輪を両手で持ち直す。そんな紅につられてノネもコホンと一つ咳払い。

「胴に浮き輪を通すでしょ」
「はいっ浮き輪を胴に!」
 ノネは慣れた動作で足を通して胴まで持ち上げる。紅も頷きながら、ノネに倣って慎重に足を通して胴体へ。そうしてノネはニヤリと笑うと、紅の手を引いて走り出す。目的地はもちろん、海の中!

「海に入って全てを委ねるでしょ!」
「わーっ!ばしゃばしゃ!」
 慌てて走って飛び込んで、紅は波の冷たさに驚いて。ノネは微笑み振り向くと、紅の両手を引いて。ノネと紅は波間をゆらりゆらりと揺れるまま。

「ほらね!」
「ほわぁ、海月にでもなった気分…」
 そっと瞼を閉じれば、遠いとも近いとも知れぬ潮騒。つかの間、波が煩いほどの静寂が心地良く二人を包み込む。

「まったりよき浮き輪道なのですぅ」
「でしょでしょ」
「バッチリですっ」
「そしたら次ゎ……ステップアップといきますか?」
「ほわ?」
 素敵な夏のスタートダッシュを堪能すれば、次なるは大きなステップアップ。いたずらっぽく微笑むノネの視線の先にあるのは、波に向かい行くサーフボード。驚きにパチパチ目を瞬かせる紅にノネはウィンクひとつ。

「だぃじょーぶ、わたしもこっちゎ経験ないですし」
 紅は驚いて目を見開くも、それもほんの一瞬のこと。常夏に気持ちの逸る二人にフツフツ湧き上がるチャレンジ精神は、もはや歯止めのきかぬもの。

「望むところのやつですよーっ!」
 たとえステップアップの一歩が大きくとも、紅の胸にはやる気がキラリと輝く。瞳に炎を燃え上がらせると二人は早速海を上がって、浮き輪の乙女から初心者サーファーに。
 海の家でレンタルボードを品定め──ひとまず最初は、二人でサーフボードに乗ってみるところから!
 選んだサーフボードを一緒に抱えて海を見つめれば、ゴクリと唾を飲んで頷きあう。一人では困難の道もあろう…けれど、頼もしい友がいる。気持ちを一つに重ねたら、二人は大きなボードと共に再び海へと舞い戻る。

「さ、支えててくださいですね?」
「おけ、ちゃんと支えてますょ」
「行くですよぅ!」
「ゴーゴーゴーゴーゴー……」
 波に押し流されそうになったって、ノネと紅の二人なら大丈夫。波にふらつきながらもタイミングを見極めて、沖へ進むと上手にバランスを取って。いよいよ立ち上がれば紅の視界にあるのは視界いっぱいに広がる海。

「乗れたですー!」
「上手上手〜」
 嬉しくなって振り向きそうな紅の背中を支えながら、ノネも慎重に立ち上がって二人乗り。ぐらつきながらも中腰でバランスを取れば、二人を乗せたボードは颯爽と白波をかき分ける──!
 …かと思ったら盛大に放り出されて、ばっしゃん!
 あっと声を上げる間もなく、二人は再び海の中。ボードにしがみ付いて浮き上がれば、向かい合った二人の口から零れ落ちるのは大きな笑い声。

「あ~っちょっとしか乗れませんでした!」
「なかなか難しーね」
「でも…楽しいです!」
「ぅんぅんっ!楽しーね」
 何度失敗したって、笑い合える友達のチャレンジは何度だって楽しいもの。波に翻弄されて流れるままに。ぎこちなかった二人乗りは数をこなせばすっかり息も合ってきて。真っ直ぐ前を見て飛び乗ったら、ボードは波に乗ってぐんぐん進む。
 そうして浅瀬に着くのは、あっという間。浅瀬に跳ねるボードを飛び降りて、二人は胸の高鳴りを抑えきれぬままハイタッチ。

「ばっちりですー!」
「ぃえーい!」
 波間に響く乾いた音に、胸に湧きあがるのは大きな自信。もはや二人に恐れるものなどない──となれば、紅の気持ちは次なる夏のチャレンジにまた一歩進むもの。

「ノネさん!サーフィンといえば…波の中に入る奴だと思うのです!」
「波の中に入るヤツ??」
 高揚に頬を染めながら、紅が指すのは意気揚々と波を乗りこなすサーファーの姿。サーファーを追いかけるように巻き込む波のトンネルなど意にも介さず、サーフボードは波の中を華麗に走っていく。それは、サーフィンと聞けば誰もが思い描くチューブライディング。

「ぐぐっと難易度上がった感があるかも……ですょね?」
 ノネは唇に指をあてて紅に問いかける。それでもやっぱり、燃え上がった気持ちは止められない。紅の決意を受け止めて、ノネは大きく頷く。そうして新たにもう一つサーフボードをレンタルすると燃える心のままに海の中。
 経験浅くも夢は──高らかに!
 挑戦者は波へと挑み、そして──華麗に波の中へと飲み込まれた。

「うびゃーーーん!」
「ぁ、飲まれた」
 波巻く海は壁高く…紅の姿は波間に颯爽と飲み込まれていく。放り出されたサーフボードに捕まりながら波に飲まれもまれると、紅はほうほうの体で浜辺に流され舞い戻る。

「ノネさん…僕にチューブライディングはまだ無理でした…!」
 慌ててノネが紅の前へ戻ってくると、紅はそう言ってがっくり肩を落とし膝をつく。初心者の抱く高き夢に、波もまた高く、遠く。しかしノネは紅の肩に手を置くと、晴れやかな笑顔を浮かべる。

「ぁは、会得までの道が今切り拓かれたわけですょね。伸びしろしかないやーつ」
「ノネさん…!」
 始めは誰しも初心者。紅に待ち受ける波は今は高くとも…諦めなければ必ず乗り越え、波を乗りこなせるだろう。ノネの激励に紅の気持ちは再び燃え上がり、勇ましく立ち上がると再びボードを手に取り海へ走り出す。なんてったって、今日はチャレンジの夏なのだから!

「うびゃーーーん!」
「ぉっ、飲まれた」
 そして、再び華麗に飲み込まれるのはお約束。ノネは堪らず吹き出すけれど、眺めてばかりはいられない。二人で乗った感覚を思い出しながら、ノネも一人でボードの上へ。機敏さに多少の自信もあるともなれば、バランスを取るのはお手の物。一度感覚を掴んだ後ともなれば案外様になるもので、勢いのままに波のトンネルへ向かいゆき──そうしてやっぱり、ノネも波に飲み込まれる。

「ぁはは、難しー」
 やって始めて見えるその難しさと、チャレンジする事の楽しさ。失敗だって楽しくて、自然に笑みが零れ落ちる。

「紅さんかっくぃー!」
「ノネさんもかっくいー!」
 チューブライディングはまだ遠くとも──二人はすっかりボードを乗りこなし、華麗に波間を滑ってゆく。


 波に飲まれてもまれてひとしきり。海の家で休憩がてら、焼きそばと焼きとうもろこしを食べていた二人が、ふと目に入ったのは沖に向かう人影だ。

「うや?あの人、足にヒレが…」
「ぉゃ……まってヒレとれてない?」
 水と共にぱしゃっと跳ねるのは明るい黄色のヒレがふたつ。かと思えばヒレはすっ飛んで、人影は慌ててヒレを追いかける。思わぬトラブルにノネは驚くも、紅はあっと声を上げる。

「シュノーケリングやっているです!」
 よくよく見れば、それはシュノーケリングの装備一式。透き通った綺麗な海だからこそ楽しめる海のアクティビティだ。色とりどりの魚達に珊瑚礁…そんな景色がパッと胸に思い浮かべば、湧き上がる気持ちは止められない。だって今日は、チャレンジの夏なのだから!

「こちらも挑戦、してみちゃいます?」
「そですね、お魚とも戯れそーなら……」
 二人はそう言って微笑みあって、さっそく装備を整えると、もう何度目かの海の中へ!
 着けた直後こそ慣れない気がした足ヒレでも意外とうまく泳げるもので、二人はヒレを優雅に揺らして珊瑚礁の眠るスポットへ。透き通った海は潜る前からもう、魚達のパラダイス。

「わぁノネさんの周りお魚だらけ!」
「お魚だらけマ?」
 あふれ出てくる色とりどりの魚達は、二人の周りを行ったり来たり。思い切って顔をつければ、ゆらゆら揺れる光を浴びて泳ぐ姿は歓迎のダンスのよう!
 そっと手を伸ばせば魚達はパッと珊瑚礁に隠れてしまい、紅は思わず尾鰭を追いかける。ざぷんと潜ってしまえば、当然チューブに海水は入り込むもので。大きく咽込んだ紅は慌てて顔をあげる。

「ゴホゴホッ!ちょっと飲んじゃいました〜…」
「ぁは。こーゅーときは、こっちに来てもらぃましょ」
 ノネが餌を一摘み手のひらに乗せれば、ワッと魚達が集まって食べ尽くし、あっという間に手の平は空っぽに。今度は紅もノネを真似て餌を一摘み。今度もあっと言う間に食べられて、魚達は空っぽになった二人の指先をくすぐってゆく。
 少し仲良くなれたかな?指を伸ばせば、好奇心旺盛なベラが口先でツンツン突いて、誘うように泳ぎ出す。
 可愛い案内を追いかければ、砂底で輝く宝石のようなソラスズメダイの群れに、少し進んで見つけたイソギンチャクはカクレクマノミのマンション。フワフワ流れて訪れるクラゲは綺麗なだけでは済まないので、ちょっぴりだけご用心。進む度に色を増していく魚達に餌をあげたら仲良くなって、取り巻く群れはよりいっそう鮮やかに、華やかに。
 そうして賑やかな魚達の姿に、のっそり誘われてきたのはウミガメだ。二人の間を器用にくるりと泳いで、コツンと小突くのは──すっかり忘れていた水中カメラ。二人は顔を見合わせると、大慌てで顔をあげた。

「海の子たちとノネさんとボクで、お写真っ」
「フラッシュとか大丈夫そ?記念に一枚くらいなら……?」
 カメラを持ってあわあわ、わたわた。この間に魚達が逃げ出したら、どうしよう!そんな気持ちもあったけれど、一緒に泳いで仲良くなった魚達は、逃げ出さずに二人の様子を伺ってくれていた。

「チャンスですよっノネさんっ」
「ぉけ!ぁ、マスクも外して撮っちゃぇ」
「僕も外しちゃいます!」
 せっかくなら、とびっきり可愛い集合写真を撮りたいもの!
 二人はシュノーケルマスクをぱっと外してざぷんと海中へ潜り込む。餌を摘んで魚達にあげながら、ドキドキ胸を打つ鼓動。魚達はうまくフレームに入ってくれるだろうか。ノネは魚達にも伝わりそうな物欲しげな視線を向けて、紅は自撮り棒に取り付けたカメラを構えて、3、2、1──。


「ふぁ!楽しかったです!」
 砂浜のビーチベッドに飛び込んで、紅はうんっと伸びをする。ノネも隣のベッドに腰かけると、エブリィニティタイムのバスケットから取り出すのはキンと冷えたココナッツジュースを二人分。

「ぉ疲れさま~ですょ」
「わぁ、ありがとうございます」
 紅はベッドに座り直すと丸いヤシの実を受け取って一口、仄かな甘さにふうっと息を吐く。

「ぃっぱい遊びましたょね。もぅ夕方ですょ」
「ホントに!あっという間でしたね」
 夏空に照り付けていた太陽はもうすっかり傾いて、沈みかけた夕日が影を濃くしていた。淡い赤紫の夕焼けを並んで浴びながら、二人がつい口にするのはやっぱり今日の体験の数々だ。
 ゆったり穏やかな浮き輪の楽しみ方に、初めてのチューブライディングは難しくて、楽しくて。それから何と言っても、素敵な出会いに大興奮したシュノーケリング!

「綺麗なお写真が撮れて良かったです!」
「ばっちりでしたょね。こう見るとわたし達、人魚みたぃかも?」
「わぁ!だからきっと、海の子たちが仲良くなってくれたんですねっ」
 花のように鮮やかな魚達にウミガメ、ふわっと髪が波に揺れる笑顔の二人の向こうには、通りすがりのマンタまで!
 カメラが捉えたのはほんの一瞬のワンシーンでも、刻まれた思い出は流れるように溢れ出す。
 そうしてついつい盛り上がって火照った体を冷やすべく、次いでノネが取り出したのはマンゴーたっぷりの大きなかき氷。ぱくりと一口頬張れば、夏いっぱいの甘さと冷たさが、火照った体をすぐさま冷やしてくれる。二人でかき氷をしゃくしゃく頬張りながら、ノネは夕焼けを見つめてふと手を止める。

「最近ずっと『でぶしょー』だったから、誘い出してくれて嬉しかったです」
 どこか気恥ずかしそうにも見える微笑みで、ぽつりと零したのは最近のノネ事情。それは出不精とも、デブ症とも。どちらだって解消したい気持ちはれど、沼に嵌ってしまえば一人ではなかなか脱出するのは難しいものだった。だから、とノネは紅へにっこり笑顔を向ける。

「紅さんにでぶしょーの危機が迫ったら、わたしにもSOSして。嬉々として連れ出しに行くので!」
「っふふ。それはきっと、たーのしーですねっ」
「そう!とっても、たーのしーですょ」
 次は何にチャレンジしよう?今度は楽しい相談に花を咲かせる二人の前で、ばしゃんと大きく波が跳ねた。夕焼けに大きく飛び上がったのは、大きなイルカのシルエット──二人はほんの少しだけ言葉を失って、それから笑顔でお互いの顔を見合わせる。

「夏はまだ長いのですっ」
 長い夏で巡り合うのは新しい楽しみと、思いも寄らない出会いがまた、きっと。紅とノネの夏を彩りながら、夕日はゆっくりと沈んでいく。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年09月30日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#アスリートアース
🔒
#ノベル
🔒
#猟兵達の夏休み2024


30




挿絵イラスト