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全滅勇者の英雄譚

#アックス&ウィザーズ #群竜大陸 #勇者 #勇者の伝説探索


●勇者にまつわるエピソードから
 夜気を切り裂くような咆哮。竜が牙を剥く。口奥に赤黒い焔が蜷局を巻く。
「ブレスが来るッ!」
「――先に行くにゃ」
 全身を血に染めたケットシーの戦士が地を蹴った。猫の眼が爛々と輝く。弾丸めいて飛び出した戦士は大剣を振り上げ、跳んだ。
「弱い竜ほどよーく吠える、にゃ。震えあがってオクチがぷるぷるしているにゃ。あははは!」
 竜は怒りに瞳を燃え上がらせ、戦士へとブレスを放つ。
「女神よ、邪悪に挑む勇者に加護をお与えください……」
 祈りの言葉が響く。小さなフェアリーの聖女が後方で祈りを捧げているのだ。戦士の前方に薄っすらと清らかな光の盾がひろがり、ブレスを軽減し――消えた。勢いが削がれつつ、ブレスは戦士の全身を灼く。けれどケットシーの瞳が戦意を失うことは、なかった。
「これが最後! 力を貸すにゃ!」
 言いながら剣を振り下ろせば剣は紫色の光を纏い、竜の鱗を深々と貫いていく。竜は悲鳴をあげ、爪を振る。ケットシーの全身がズタズタに切り裂かれ。けれど、戦士は剣を止めなかった。ごとり、と重い音が鳴り、ついに竜の首は地へと落とされたのだった。

「許さない……」

 そんな声が首から漏れた。竜の双眼が勇者たちをギラギラと睨む。
「……呪われよ」
 竜の首から呪いが放たれた。聖女は仲間の前に身を躍らせた。呪いに対抗しようとし――力が及ばないことを知る。

●グリモアベースでの依頼
「……と、こんな風な勇者の英雄譚があるらしいのです」
 グリモアベースの一角でルベル・ノウフィル(星守の杖・f05873)が英雄譚の一節を語り終え、改めて頭を下げる。
 机の上にはアックス&ウィザーズの地図が広げられていた。

「本日、皆様に依頼したいのはアックス&ウィザーズでかつて群竜大陸に渡り、『帝竜ヴァルギリオス』と戦った勇者一行についての調査です」

 ルベルは情報を整理するようにしながら話をする。
「帝竜ヴァルギリオスと共に蘇ったという、未だ所在の掴めない群竜大陸。帝竜がもしアックス&ウィザーズ世界のオブリビオン・フォーミュラだとするなら、大陸の発見は必須です。僕たちは各地に散らばる勇者の伝説をひとつひとつ解き明かすことで、大陸の発見に近づくことができるでしょう」
 そして、勇者の伝説がひとつ。
「帝竜ヴァルギリオスとの決戦に参加した冒険者の多くは、沈みゆく群竜大陸と運命を共にしたと伝えられています。
 この戦いで命を落とした全ての冒険者が、勇者として称えられている為、勇者の数は数千人を超えており、真偽は別として、多くの伝説が残されています。
 戦士トマス、聖女ナツィア。彼らもまた、勇者とされています。
 皆様には、勇者トマスと聖女ナツィアの名前を頼りに2人にまつわる情報を集めて頂きたいのです」

 ルベルは地図にある一箇所を示した。
「転移する場所は、海岸沿いにある冒険者の町、クルケガ。
 冒険者ギルドに沢山の冒険者たちがたむろしています。彼らは勇者の話に詳しいようです。皆様、どうぞ冒険者の方々と会話をして、情報を集めてくださいませ。
 それと、実は僕は冒険者ギルドがモンスターの襲撃に遭う予知も得ています。モンスターの群れは、3日後にやってくるのですが、どうも暴走した崩壊妖精たちのようなのです」

 ルベルは崩壊妖精について語る。
「彼らは、人に囚われ様々な実験に使われ壊れてしまった妖精のオブリビオンです。崩壊妖精は周囲に憎悪と災厄をばらまくのですが、暴走が始まれば自然と身体の崩壊も始まるので害は少ないと言われています。
 嘆き悲しむ崩壊妖精は、何故自分がこんな目にあっているのか、と悲鳴のように問い続け、問いへの答えを得られなかった妖精は死後も苦しみ続けると言われています。あまり、後味の良い敵ではありませんね。しかし、放置するわけにもいかないのです……、現地の人々を守るため。そして、哀れな妖精たちを骸の海に還すため。戦って頂ければと思うのです」

 そして、ふと困った様子で首を傾けた。
「現地の冒険者たちは少々荒れている様子。どうも、血の気の多い方々のようで、喧嘩をしているようなのです。まずは、その喧嘩を治めて頂かないと情報収集をすることも、敵襲に備えることも、できないかもしれません」
 最後にルベルは静かに頭を下げ、改めて協力を希うのであった。
「現地の人々のため、悲しい妖精たちのため、そして世界情勢のために、というのもあるのですが、僕は勇者伝説や竜たちにも純粋に興味があるのです。知られざる冒険の話、間違って伝わっている事実とは異なる英雄譚……、世の中にはそんなものが沢山、ございます。埋もれている真実をひとつ、掘り起こしてみたい。そんな気持ちもございます。
 もしよければ、お力を貸してくださいませ」

 グリモアが光れば冒険への導きとなる。
 世界を越え、人々を救い、強敵と戦う猟兵もまた勇者の称号に相応しい存在であった。ゆえに人狼は呟く。
「これからを生きる人々の未来のため。過去を生きた人々の、隠された真実を解き明かすため、お力を貸してくださいませ、勇者様」

●クルケガの冒険ギルド
「いいぞ! やっちまえ」
 荒くれ者が声を挙げる。
 木造のギルドの壁に取っ組み合いの大漢2人が衝突し、壁に掛けられていた依頼手配書が何枚か床に落ちる。
「負けるな! のしちまえ!」
「お前の勝ちに賭けるぜ!」
 周囲で煽り、焚きつけるように喝采を送っていた男たちも酒をぐいと呷り隣の男を殴り始める。
「てめえ、なにしやがる!」
「見る目のない奴め、おれが強い奴の見極め方を教えてやらあ!」
 血の気の多い連中がどんどんと殴り合いに加わり、それぞれの仲間が手を叩いて焚きつける。冒険者ギルドは大騒ぎとなっていた。


remo
 おはようございます。remoです。
 初めましての方も、そうでない方もどうぞよろしくお願いいたします。
 このシナリオは、アックス&ウィザーズで勇者の情報を収集するシナリオです。

 1章は冒険者ギルドで冒険者たちが喧嘩している現場に行って頂きます。

 2章は冒険です。

 3章は集団戦となります。

 キャラクター様の個性を発揮する機会になれば、幸いでございます。
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第1章 日常 『冒険者の喧嘩を何とかしろ』

POW   :    とりあえず殴って黙らせる

SPD   :    捕縛や束縛で動きを封じる

WIZ   :    双方の主張を聞いて対話を試みる

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虚・楓
ふむ、流石に刃を持ち出しての乱闘は避けたいところ。で、あれば・・・音でその頭を揺さぶろう。POW主体で琵琶を演奏して注意をひきつけ、そのまま話を聞きやすい状態に持っていくぞ。(パフォーマンス使用)仮にうるさいと拳が飛ぶなら見切って避けつつ、歌詞に載せて言葉を返そうかのう。血の気の多さ実に結構。しかし何よりぎるどの迷惑になるじゃろう。まぁ、それでも騒ぎが止まぬのであれば、こちらも拳を振るうかのう。振るうに越したことはないんじゃが。
(アドリブ歓迎)


ニトロ・トリニィ
【WIZ】を選択

【心境】
盛り上がっているね〜。
元気なのは良い事なんだけど… 元気過ぎるのも考えものだね。

【行動】
最初に〈情報収集〉を発動して、どこが一番酷い殴り合いになっているのかを確認して、これ以上の怪我人が出ないように、《念動力》を使って、殴り合いになっている人を引き離す感じで発動しようかな。
その後は〈優しさ/礼儀作法〉を使って対話を試みつつ、〈医術〉を使って怪我人の治療に当たろうかな。
こっちが殴られるかも知れないし、〈激痛耐性〉を使った方が良いかも?

アドリブ・協力歓迎です!


月凪・ハルマ
うわぁ、こりゃ酷い

いやこれ冒険者っていうより、山賊とか
そっちに近くない?てか話通じる?

◆SPD

あれ、聞こえてました?それは失礼
まぁ訂正するつもりはないですけど

なんて感じで煽れば、怒りの矛先はこっちに向くだろう
放って置くとギルドの中がえらい事になりそうだし

襲ってくる相手は【見切り】【残像】で躱し
【ガジェットショータイム】で召喚したネットランチャーで
相手を捕縛していく
こういう時、便利なんだよなコレ

拘束を解け?無茶を言う
いきなり襲ってくる相手を簡単に解放するほど
お人よしじゃないですよ俺

まぁ、これ以上暴れないのと、何か面白い……
例えば勇者の話でも聞かせてくれる事を約束してくれるなら
考えなくもないですが


宮落・ライア
え、血の気が多いどころの騒ぎじゃないんだけどな!
少々どころじゃなく荒れてるんだけどな!?
これいつもどおりなのかな!?

え?えー?
よし!とりあえず殴って静かにさせよう。
考えるのはそれからだな!
うおりゃー!聞きたいことがあるから静かにしやがれー!

という訳で文字通りギルドに殴りこむ。
【怪力】【見切り】【薙ぎ払い】【カウンター】【グラップル】
で素手で突っ込む。

それで聞きたいことはー。
戦士トマスと聖女ナツィア
または、竜に呪われた勇者のこと。
呪われた妖精の聖女のことでもいいよ。


ビスマス・テルマール
●POW
取り敢えず、事前に『料理』した、鎮静効果のあるネギ、七味、三つ葉等を薬味にして、八丁味噌やトマト味噌で作ったマグロのなめろうやマグロのさんが焼き(鎮静効果重視、味噌も鮪も鎮静効果が高い)を

攻撃を『武器受け』と『オーラ防御』と『残像』でいなしつつ、一撃入れて、その後『早業』で力ずくで喧嘩してる人の口に『怪力』と『鎧無視攻撃』で突っ込んで食べさせ落ち着かせます、咀嚼もしっかり『怪力』で押さえてモグモグさせて

この流れを早業駆使し多くの人に

お腹が空いていたら、余計にイライラするでしょうし、イライラを鎮める、マグロのなめろうや、さんが焼きでも食べて落ち着いて下さいっ!



※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


トリテレイア・ゼロナイン
勇者トマスと聖女ナツィア……その娘の聖女テラの伝説を追う依頼に参加しましたがまだまだ謎が多いですね。
あの壺の中で私が見たものが何だったのかも含めて埋もれた伝説の真実を解き明かしたくなりました。

……で、調査の前に喧嘩の仲裁ですか……。
「礼儀作法」で止めに入っても止まらないのでしょうね。ギルドマスターに許可をもらって「怪力」で「優しく」冒険者達を子猫のように襟首を摘まみ上げ、一旦ギルドの外に放り出しましょう

どうせ暴れるのであればギルド主催でレスリング大会を開いて、そこで白黒つけるのはいかがでしょう。審判は私が勤めますのでギルドは優勝賞品を用意してください

ギルド側にはトトカルチョ…賭博を提案


ネメシス・アレクトー
勇者とドラゴンと言えば、王道!
私も騎士として、是非、一頭は仕留めてみたものです。
あわよくば聖騎士勇者なんて素敵ですロボ!

やはり、その手の伝説の情報収集の基本といえば、冒険者ギルド!
勇者がいないならなればいいのですロボ。
ところで新人冒険者の可愛がりは拝めないでしょうか…?
其処を颯爽と助けに入るのが勇者への登竜門に違いありませんロボ!

あれー?イメージと違う?
リテイクを要求するロボ!
砲門を開き、最大火力で冒険者ギルド諸共、暴徒たちを鎮圧!
えっ、火気厳禁ですロボか?

仕方がありませんロボ!
この槍(ライトニングスピア)を鈍器代わりに、殴って黙らせるロボ。
あっ…まだ少し、放電したままでしたロボ。


明智・珠稀
トマスさんにナツィアさん。
ケットシーとフェアリーの物語…
先日の村の話と繋がりを感じられてワクワクいたしますね、ふふ!
クルケガの村も楽しみです…!

■行動
「おやおや、騒がしいのも嫌いではありませんが…!」
落ち着いていただきましょう、と
UC【どちらがお好みですか?】で女性明智を召喚
『お黙りなさいっ!!』
と女明智が【存在感】発揮し、黒革の鞭を叩き注目を集める。
そんな中で男明智は
「冒険ギルドは暴力で力を誇示する場所ではありません。成果で力を誇示なさってください、ふふ!」
暴力的な輩には【ロープワーク】で捕縛を
「私達は勇者の伝説を知りたいだけです。お話いただけますか?」
微笑みと共に

※アドリブ&絡み大歓迎!


キアラン・カーター
何やら大変な騒ぎになっているね。その活力はギルドのお仕事に向けた方がいいと思うけど。

いくら暴力反対と唱えても喧嘩の真っ最中の彼らの耳には入らないだろうね。まずは注目を集めなくちゃ。
UC【シンフォニック・キュア】を使った歌でみんなの注目を集めるよ。僕の歌声はよく通るって評判なんだ。この喧騒の中でも酒場中に響くと思う。
喧嘩で傷ついた人もいると思うけど、その傷も僕の歌声に耳を傾けてくれたら癒せるはずだよ。勇者の話を聞くにしても万全な状態じゃなきゃ……口の中が腫れてると喋りにくいでしょ?

皆が落ち着いたらやっと話が聞けるね。
さあ、どんな話が聞けるのかな?


サラ・カトレット
【WIZ】
急いで喧嘩をしている間に割って入って仲裁します
『何してるんですか!喧嘩は止めて下さい!

殴られている方、怪我をした方が居れば庇う様に前に立ち、【癒しの祝福】で治療を
『私は部外者ですがこんなの見過ごす方がおかしいでしょう?
どうして誰も止めないのですか?

威圧されて脅されても屈せずに立ち向かいます
『少し頭を冷やしては如何ですか?一体何故このような喧嘩になったのか
お互いに言い分があるのなら言葉で解決すべきです
暴力に訴えるのはいけません

それでも駄目なら挑発してみます
『そんなに暴力がお好きなら…私を気のすむまで殴って下さい
さあ、女の子に暴力を振るう最ッ低な方になりたければいくらでもどうぞ?



●冒険の始まり

「トマスさんにナツィアさん。
 ケットシーとフェアリーの物語……ワクワクいたしますね、ふふ!」
 明智・珠稀(和吸血鬼、妖刀添え・f00992)がワクワクと呟いた。

「勇者とドラゴンと言えば、王道!
 私も騎士として、是非、一頭は仕留めてみたものです。
 あわよくば聖騎士勇者なんて素敵ですロボ!」
 ネメシス・アレクトー(エリーニュス三美姫・f06227)が言うと周囲の猟兵たちは「ん?」という顔をした。
「今なんて?」
「……何か変なことを言いましたロボ?」
 ネメシスは特徴的な語尾をもつちょっと不思議な美姫だった。
「やはり、その手の伝説の情報収集の基本といえば、冒険者ギルド!
 勇者がいないなら、なればいいのですロボ。ところで新人冒険者の可愛がりは拝めないでしょうか……?
 其処を颯爽と助けに入るのが勇者への登竜門に違いありませんロボ!」
 意気揚々とギルドの門をくぐり中を覗き込むネメシス。
 猟兵たちが到着した現場は、乱闘騒ぎの真っただ中にあった。
「あれー? イメージと違う? リテイクを要求するロボ!」
 ネメシスはリテイクを要求しながら砲門を開き。
「待ってください! それ全部ぶっ放すのはちょっと過激すぎませんか」
 ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)が慌てた様子で止めに入った。
「えっ、火気厳禁ですロボか? 仕方がありませんロボ! この槍を鈍器代わりに、殴って黙らせるロボ」
 味方に素直に従い、ライトニングスピアを手にしたネメシスはギルドの乱闘に突っ込んでいく。今度はビスマスが止める隙がなかった。
「あっ……大丈夫でしょうか」
 猟兵たちが見守る中、ネメシスは手近にいた禿頭のおやじをガツンとスピアで殴った。その瞬間、ビリビリと雷がおやじの全身を走り抜けておやじが床に倒れた。
「あっ……まだ少し、放電したままでしたロボ」
 うっかりミスにネメシスがぺこりと頭を下げる。冒険者たちは乱入者に怒号を放つ。中には下心を滲ませた下卑た視線を寄越す者もいた。

「おやおや、騒がしいのも嫌いではありませんが……!」
 落ち着いていただきましょう、と微笑み、珠稀は自身の分身を召喚した。分身は――女性の姿をしていた。
 涼やかな目元の女明智が黒革の鞭を叩いて注目を集める。冒険者の男性陣がゴクリと唾を飲む。
「うひょう、上玉だぜ」
「気が強そうだな、お前なんぞがホイホイ近寄ったら金玉噛みつかれるぞ」
「なんだと、このハゲ」
 美女を巡って新たな戦いが始まろうとしていた。
「お黙りなさいっ!!」
 女明智が一喝するとMッ気のある男どもはピタリと手を止めて従った。
「何だい、ちょっと美人だからってデレデレしやがって。これだから男は」
 パーティメンバーを骨抜きにされた勝気な女戦士が白い眼をしていたが、男明智が嫣然と微笑み流し目を送るとウブな乙女のように頬を染めて黙り込んだ。
「ありゃあ、お忍びの王子様か何かかい? 嘘みたいにキレイな男だね。どうしよう、目が合っちまったよ」
 女戦士はどうしよう、どうしようと繰り返しながらオロオロもじもじとテーブルの陰に身を隠して恥じらった。
「私達は勇者の伝説を知りたいだけです。お話いただけますか?」
 テーブルの陰に移動し、女戦士の前に膝をついて視線をあわせた男明智が微笑めば女戦士はイチコロだった。蕩けそうな顔をしながら知っていることを全て話してくれる。
 その後ろでは女明智が男どもをロープで縛り上げていた。男どもは嬉しそうな悲鳴をあげていた。

 ギルド内では至るところで喧嘩が起きていたため、まだまだ全員を落ち着かせることはできていない。
 殴り合っているおっさん2人のもとへ、サラ・カトレット(夢見る乙女・f06458)が割って入った。
「何してるんですか! 喧嘩は止めて下さい!」
 おっさんたちは突然現れた可憐な少女に吃驚していた。少女は、どこにでもいるいたいけな少女に見える。
「お嬢ちゃん、危ないからどいてな」
「冒険の依頼に来たどっかのお嬢さんか?」
 サラは凛然として声をあげる。
「私は部外者ですがこんなの見過ごす方がおかしいでしょう?
 どうして誰も止めないのですか?」
 言いながらユーベルコードを発動させれば、色彩豊かな花の精霊がふわりと舞い、やさしく周囲の怪我人を癒していく。
「こ、この力は……癒し手だったのか」
 冒険者たちの見る目が変わった。
「少し頭を冷やしては如何ですか? 一体何故このような喧嘩になったのかお互いに言い分があるのなら言葉で解決すべきです。暴力に訴えるのはいけません」
 なおも戦意を失わない者へとサラは強気に挑発をした。
「そんなに暴力がお好きなら…私を気のすむまで殴って下さい。
 さあ、女の子に暴力を振るう最ッ低な方になりたければいくらでもどうぞ?」
 サラが周囲の冒険者たちに視線を巡らせれば、目の合った者は皆、戦意を失った様子であった。

「すみません、私達は遠くからやってきた冒険者集団なのですが」
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)はギルド職員に話しかけて何事かを交渉し始めた。

 猟兵たちの冒険は、そんな風に始まった。

 ~♪

 未だ殴り合っている者の多いギルドに、音が響いた。
 琵琶の腹板は広く素朴な色をしている。上から一弦ずつゆっくりとかきならせば、おっとりとした風情の音が空気を震わせ、ひと呼吸。
 喧騒の中にあってなお人々の耳に確かな存在感を示す。そんな琵琶の音だった。
「血の気の多さ実に結構。しかし何よりぎるどの迷惑になるじゃろう」
 ジジ臭い言葉を穏やかに口にするのは、年若い少年だった。口調は祖父のものが移ったものだった。
 演奏しているのは虚・楓(霊魂料理人・f14143)だった。色黒の手が慣れた様子で撥を操る。奏でる音色は奏者の性格が滲んでか、おっとりと優しい。
「何やら大変な騒ぎになっているね。その活力はギルドのお仕事に向けた方がいいと思うけど」
 キアラン・カーター(麗らかなる賛歌・f15716)が理知的な響きの篭った声で呟いた。聖衣の裾がやわらかに揺れれば、眼にした者は容姿端麗な聖職者といった風情の少年に戸惑いの視線を投げる。静謐なる教会の奥で祈りを捧げているのが相応しい立ち姿は、荒くれ者の乱闘場にはあまりに場違いに思えて心配する者まで出る始末。
「吟遊詩人に聖職者か? ここはあぶねえぞ、ひっこんでろ」
 言いながら楓とキアランを庇うように立つのは熊のような大男の冒険者だ。
「いい音色だな、そいつ」
 楓は軽く笑み、音を深めていく。ゆっくりと低く奏でれば人々の心に染み込むような旋律が室内に響き、緩急付けて音符を躍らせるように曲調を早めれば暴れていた冒険者の数人が興味を惹かれた様子でソワソワと戸口を窺う。
「なんだ、有名な吟遊詩人でも来たのかい」
 好奇心を瞳に溢れさせたエルフの弓手が寄ってきた。
「いやいや、俺は料理人じゃよ」
 楓がにっこりと答えると、エルフは物珍し気に問いかける。
「あんた、若い人間に見えるけど年寄りみたいな喋り方するのね」
「祖父の口調が移っての」
 周囲にはいつの間にか冒険者の囲いができていた。ギルドではいまだに暴れている者がいるが、楓の演奏のファンになった冒険者たちが周囲を固め、演奏の邪魔をさせまいと目を光らせている。

「どうじゃ、一緒に」
 楓は傍らのキアランを誘うような旋律を奏でた。キアランは穏やかな笑みを浮かべ、頷く。
「あなたの旋律は心地よいね」
 キアランが楓の旋律に寄り添うように歌を口ずさむ。最初は小さく、様子を見るように。
(うん、やっぱり歌いやすい)
「雅な歌声じゃの」
 楓が興が乗った様子で琵琶をかきならす手を楽し気に早めた。早めく音に誘われるようにキアランが調子を上げ、清らかな歌声をのびのびと響かせる。高く澄んだ声が響く。それは余りに美しく繊細な音だった。殴り合っていた者たちが手を止めて顔を見合わせ、耳を澄ませて黙り込むほどだ。

「次はもっとロマンチックな曲を聴かせておくれよ」
 冒険者がリクエストをする。
 楓は鷹揚に頷き、周囲に寄ってきた冒険者たちのリクエストに応えて曲を奏で始めた。ちらりと視線を向けて微笑めば、キアランも頷いて歌を合わせる。

 リクエストに応えて次々と奏でられる琵琶、一部鎮静化しつつも、まだまだ暴れ続ける冒険者たちは多い。踏み込んだメンバーたちは仲間の演奏に拍手しながら、ギルドの騒動に呆れた様子であった。

「うわぁ、こりゃ酷い」
 月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)が入り口から中の混乱ぶりを目の当たりにして呟いた。
「いやこれ冒険者っていうより、山賊とかそっちに近くない? てか話通じる?」
 呟きを耳にした中年の戦士がジロリとハルマに目をやった。
「小僧、なんだって」
「おい、生意気な坊主が来たぞ。歓迎してやれ」
 冒険者たちが囃し立てる。戦士はニヤリと笑ってハルマに殴り掛かった。
「あれ、聞こえてました? それは失礼。まぁ訂正するつもりはないですけど」
 ハルマは煽りながら回避する。歴戦の猟兵にとって、戦士の一撃はあまりに遅かった。戦士が少年の悲鳴を期待して叩き込んだ拳は虚しく虚空を通り過ぎ、逆にハルマはガジェットショータイムで召喚したネットランチャーを放つ。瞬時に飛び出した白い網が瞬きする間に戦士と周囲の数人を絡めとった。
「な、なんだこりゃ!」
 蜘蛛の巣に絡めとれらた獲物のようにもがく戦士たちを見下ろしながらハルマは呟いた。
「こういう時、便利なんだよなコレ」
「オレたちを解放しろ!」
 戦士たちは網の中で団子のようになりながら吠える。
「拘束を解け? 無茶を言う。
 いきなり襲ってくる相手を簡単に解放するほどお人よしじゃないですよ俺」
 ハルマは網の前にしゃがみこみ、戦士の眼をじっと見つめた。
「まぁ、これ以上暴れないのと、何か面白い……例えば勇者の話でも聞かせてくれる事を約束してくれるなら考えなくもないですが」
 戦士たちは渋々頷いた。

「盛り上がっているね~。
 元気なのは良い事なんだけど…… 元気過ぎるのも考えものだね」
 ニトロ・トリニィ(楽観的な自称旅人・f07375)が呟くと宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)が戸惑いの声を返した。
「え、血の気が多いどころの騒ぎじゃないんだけどな! 少々どころじゃなく荒れてるんだけどな!? これいつもどおりなのかな!?」

「ガキの来るところじゃねーぞ!」
 戸口で固まっていた猟兵のもとに人間が投げ飛ばされてきた。

「え? えー? よし! とりあえず殴って静かにさせよう。考えるのはそれからだな!」
 ライアは青リボンをひらひらとなびかせて喧嘩の輪の中へと乱入していく。
「うおりゃー! 聞きたいことがあるから静かにしやがれー!」
 乱入しながら手前で殴り合っている2人を殴る。怪力で人が飛んだ。
「うおっ!? なんだこの娘バケモンかよ」
「小娘に投げられてやんの」
 男たちが次々と面白がってライアに向かっていき、纏めてカウンターをくらって床に沈んだ。

 ニトロは隅々まで視線を巡らせて状況を確認していた。最も烈しい殴り合いとなっている場所を見極めるためだ。
 視界の隅で男たちを床に沈めているライアが目に入る。
「あっちはほっといても大丈夫そうだな……」
 瞳は反対側に巡り。
「一番酷いのは……あの人達かな」
 青の瞳が捉えたのは傷だらけの肢体を大胆にさらけ出したバーバリアンの女とメイスを振り回しているドワーフの男だ。
「姐御! 岩ジジイをひん剥いてやんな!」
「爺さん、女相手に遅れを取るなよ!」
 周囲の冒険者たちが自らも隣の冒険者と殴り合いながら女とドワーフを応援している。

 ニトロは念動力を使って姐御と爺さんを引き離した。
「んっ?」
「な、なんだい!?」

 宙に浮いた2人の襟首を長身のトリテレイアが摘まみあげ、ギルドの外へと優しく放り出した。
「先にギルドマスターには許可をもらいました。後でレスリング大会を開きましょう」
 そんなことを言いながらトリテレイアはギルドの外へとひとりひとり放り出していく。放り出された冒険者たちがプンプンしながら中へ戻ってくると、発見しだいに丁寧に再び外へと放り出していく。

「怪我人は応急手当をするよ、こっちに連れてきて」
 ニトロが声をかける。
「おい、なんか医者が来てるぞ」
「頭打って動かなくなってる奴がいるんだが診てくれるか」
 ニトロの前に次々と怪我人が運ばれて列になっていた。

 列に並んでいた人々の鼻腔を美味しそうな香りが刺激する。
「な、なんだか美味そうな匂いがするぞ」
 未だに暴れていた冒険者たちも動物のようにヒクヒクと匂いを嗅いだ。
「はい、召し上がれですっ!」
 ビスマスが事前に用意しておいた料理を振舞っていたのだ。
 鎮静効果のあるネギ、七味、三つ葉等を薬味にし、八丁味噌やトマト味噌で作ったマグロのなめろうやマグロのさんが焼き。
「鎮静効果が高いんですよ」
 そう言いながらなんとビスマスは喧嘩している男たちの口に無理やり料理を突っ込んで食べさせていた。
「むぐっ!?」
「んんっ!?」
 突然料理を突っ込まれて目をシロクロさせている男たち。そんな男たちのアゴをぐいと掴み、ビスマスは怪力で無理やり咀嚼させる。
「はい、ごっくんですよ」
 機敏な動きで有無を言わさず呑み込ませていく恐るべき手腕に人々は呆気にとられた。
「な、なんて奴だ」
「だが、料理は美味いぞ……」
「普通に食わせてくれ」」
 男たちはそんなことを言っていた。

「お腹が空いていたら、余計にイライラするでしょうし、イライラを鎮める、マグロのなめろうや、さんが焼きでも食べて落ち着いて下さいっ!」
「食べる! 食べるから普通に食わせてくれっ!?」
 ギルドの乱闘騒ぎは終息しつつあった。

「恐ろしく腕の立つ冒険者集団だ。全員只者じゃないぞ。一体どこのギルドから来たんだ?」
「バケモノみたいに怪力で、素早い。変な技も使う。料理も美味いし琵琶は巧みで聖なる歌い手までいる。現実離れした連中が揃ってやがる」
 冒険者たちはそんなことを言いながら猟兵たちに畏敬の念の篭った視線を送るのであった。

●勇者伝説

「やっと話が聞けるね。さあ、どんな話が聞けるのかな?」
 キアランが歌を止めて微笑むと、歌に魅了されていた冒険者たちはひどく残念そうな顔をした。楓が静かなメロディをゆっくりとなぞるように琵琶をかきながせば、より一層寂寥感が湧いてくる。

「まだ暴れたりない方もご安心ください」
 トリテレイアがガタゴトとテーブルを壁際に寄せて部屋の中央を広く開けた。ギルドの職員が椅子を広く開けた空間を囲うように配置している。
「レスリング大会をしてはいかがでしょうか」
「なんだって?」
 冒険者と猟兵の両方から疑問の声があがった。トリテレイアは真面目だった。
「レスリング大会をしてはいかがでしょうか」
 繰り返し言う。
「つまり、やりたいんだな」
 ライアが察した様子で笑った。そして中央に歩み出て準備運動をしながら挑発する。
「元気が有り余ってる人、かかってこーい! ボクがぽいっちょしてやろう!」
 こうして何故かレスリング大会が始まったのだった。ライアは数人を吹っ飛ばして「手ごたえがなくて飽きた」と言って観客席に下がり、大会は冒険者どうしのレスリング大会へと移行していく。
「それで聞きたいことはー。戦士トマスと聖女ナツィア。または、竜に呪われた勇者のこと。呪われた妖精の聖女のことでもいいよ」
 こうして、レスリング大会と並行して情報収集が進められた。

「皆さん、お料理はたくさんありますからね」
 ビスマスがなめろう料理を振舞っていた。サラも料理を趣味にしていたため、ビスマスと共に料理を作って配っている。冒険者たちの評判はよかった。
「なんだか、故郷に帰りたくなるな」
 いかにも新米と言った風情の少年冒険者が呟いた。
「お前の故郷はどこだっけ」
 先輩冒険者が尋ねると、少年はスプーンをくわえたままで喋る。
「南の森を越えた先の小さな村、テランテですよ」

 そんな彼らの耳にトリテレイアの声が届く。
「賭博をしましょう。勝者を賭けるんです」
 ネメシスは乱れ飛ぶ賭け札を不思議そうに見つめて呟いた。
「喧嘩の仲裁に来たと思ったらいつの間にかレスリング大会と賭博が始まって……どうしてロボ?」
 手にはバーバリアンの姐御の賭け札があった。
「どうしてロボ……? レスリングなのに弓を使わない弓手に負けちゃったロボ……」
 視線の先で姐御がエルフのアーチャーに負けていた。
「うおおお! 姐御ぉー!」
「ふんっ! エルフなんぞに負けよって!」
 ドワーフの男がメイスを仲間に預けて前に出た。
「あら、ドワーフがアタシの動きについてこられるかしら。恥をかく前に引っ込んだ方がよくってよ」
 エルフが挑発し、パーティメンバーが応援の声をあげる。

「さっきとそんなに変わらないような……」
 キアランが思わず呟いた。隣には純朴そうなクレリックの青年がいる。
「勇者一行、戦士トマスと聖女ナツィアですか。
 そうですね、戦士トマスはケットシーのバーバリアン、聖女ナツィアは敬虔なクレリックで、フェアリーだったと言われています。もう1人仲間がいて、人間のシーフ、名前はザインと言いました」
 青年は懸命に知っていることを語ってくれていた。

「なんじゃ、勇者の話ならわしも詳しいぞい」
 ドワーフの男が試合を終えて観客席へとやってきた。試合は引き分けだったようだ。エルフのアーチャーがドワーフに対抗するように語り出す。
「勇者の話なら私のほうが詳しくてよ。戦士トマスは満身創痍で竜の首を落として、宿敵の竜を倒すと同時に自身も息絶えたの。竜は死に際に勇者一行へと呪いを放ち、その場にいた全員を襲うはずだった呪いを聖女がひとりで受け止めた、と言われているわ」
 エルフは果実酒を上品に口元に運んだ。

「その後はどうなったのかしら?」
 女明智が男どもを侍らせながら問いかけると、男どもは先を争うようにして情報を提供する。
「竜の呪いにより怨霊が次々と闇から出現して、聖女の魂を喰らおうと追ってきたらしい。
 聖女と盗賊は群竜大陸から脱出しようとし、途中ではぐれたと言われている。聖女は怨霊に魂を喰らわれてしまったと言われていて、生還したのは盗賊のみ。盗賊は、聖女の妖精の壺と戦士の剣を形見として持ち出し、命からがらこの大陸に逃れたんだってよ」

 ワッと拍手と歓声が起きた。視線をやると試合が終わり、熊のような大男が拳を高く掲げて勝利の雄叫びをあげていた。

「盗賊さんですか。盗賊さんは、その後どうなさったのでしょうか、気になりますね……ふふ!」
 男明智が妖しげに微笑むと女戦士が顔を真っ赤にしながら一生懸命情報を話す。なぜか周囲には男の取り巻きまで出来ており、男たちもまた口々に情報を話すのであった。

「あの人達はすっかり魅了されて……」
 キアランが目を瞬かせていると楓が琵琶をかきならす手を止めて軽く笑い声を立てた。
「魔性の魅力というやつじゃな」
 そんな彼らの周囲にも彼らのファンとなった冒険者たちが集まっているのであった。

「怪我をした方はこれで全員処置済かな?」
 ニトロがケットシーのウィザードの腕に丁寧に包帯を巻き、一息ついた。
「ありがとうございます。うちのクレリックときたら喧嘩するのに夢中で怪我なんて治してくれないもんだから」
 ウィザードが愚痴るとニトロは苦笑した。
「喧嘩するのに夢中になってしまって怪我を治してくれないクレリックさん……? それは大変だね」
「やっぱり冒険者じゃなくて山賊とかなんじゃない?」
 ハルマが冷静に突っ込んだ。もはや反論する者はいない。
「そういう坊主どもは何者なんだ。常人じゃないだろう」
 年嵩の戦士が問いかければ、ハルマはやんわりと首を振る。
「冒険者だよ」
 アックス&ウィザーズでは猟兵は冒険者として人々に認識され、彼らもまた冒険者として動いていた。
「その年で、どうやってそんな熟達の技術を身に付けた。伝説の勇者の血統とかそういうのか?」
「いや……」
 ハルマは首を振り、そしてふと呟いた。
「伝説の勇者の血統ってのは、やっぱりこういう世界だと特別扱いされるのか?」
 戦士は頷いた。
「そりゃあ、そうさ。だからこの辺りには偽物の勇者の末裔がゴロゴロいるんだぜ、あいつとか」
 示された先にはフェアリーの精霊使いがいた。
「あいつはトマスって名前なんだが、初めてギルドに来た時には自分が勇者トマスの一族の末裔で勇者にあやかって名前を貰ったんだって自慢してたんだぜ。
 勇者トマスがケットシーで、ケットシーの妻子がいて子孫も由緒正しいケットシーの純血だって教えてやったら真っ青になってやがった。ハハハ!」
「なるほど」
 ハルマは目を瞬かせた。

 ワッと歓声があがった。
「優勝は『大熊』だ!」
 見ると、レスリング大会の優勝者が決まったようだった。

「それで、盗賊ザインはどうなったんじゃ?」
 拍手をしながら楓が盗賊の話の続きを促す。情緒たっぷりに琵琶を一節鳴らし、吟じる。
「今宵我らが紐解くは過去に埋もれし勇者の伝承、真実を知る者は名乗りをあげよ。
 我らが語り合うは勇者の一行。
 竜狩りの戦士はケットシーの勇敢なるトマス。竜の首とその身を共に大陸に沈めて帰らず。
 トマスを支えし聖女は敬虔なるフェアリーのナツィア。仲間を庇いて呪われ、怨霊に追われて魂を喰らわれる。
 盗賊ザインは……」
 ちらりと周囲に視線をやれば、冒険者たちは先を競うようにして盗賊についての伝承を語ってくれる。

「盗賊は戦士の故郷に向かい戦士の妻子に形見の剣を渡したらしい。勇者の子孫、由緒正しき純血のケットシーの血脈は今も続いているらしい。
 そして、盗賊は聖女の形見を渡すべく妖精の村を訪れたらしいのだが、そこは滅びていたという。そのため盗賊は妖精の壺を抱えて自分の故郷に帰ろうとしたのだが、その途中でモンスターに襲われている村を助けようとして致命傷を負い、村も救えなかったのだという。盗賊は故郷に帰れなかったのだとさ」

 ひと段落ついて猟兵はギルドの職員と冒険者たちにモンスター襲撃について話した。
「この冒険者ギルドに3日後、崩壊妖精の群れが襲来するんだ」
 キアランが言う。その姿はまるで神からの神託を告げるかのように人々には思えた。また、喧嘩の仲裁での活躍によりギルドにいる者たちは彼らを『恐ろしく腕の立つ冒険者集団』と認識していた。そのため、その場に居合わせた全員が3日後の襲撃を真実の予告として受け止めたのであった。

「この町には元々よくモンスターが入り込んでくるんだが、崩壊妖精の群れとは厄介そうだな」
 ギルド職員たちも顔を見合わせ、ベテラン職員が1人奥へと走っていった。
「3日後だと?」
 バーバリアンの姐御が斧を手に立ち上がる。
「今すぐ来い!」
「そうだそうだ! うちのパーティは明日ダンジョン攻略に出発する予定なんだぞ! 予定変更といけなしないといけないじゃないか」
 冒険者たちは迎え撃つ気満々で戦支度を始めた。
「やる気満々ですね」
 ビスマスが追加の料理を運びながら目を丸くしている。

 奥からはギルド長に指示を受けたベテラン職員が戻ってくる。
「3日後の襲撃に備えてギルドから依頼を出します。防衛参加者にはギルドから報酬が出ます」
 歓声が沸いた。
「敵はどこから来るんだ! 迎え撃つぞ!」
「それが、どこから来るのかはわかりません」
 トリテレイアが言いながら床に散らばった依頼手配書を壁に貼り直していた。
「手伝うよ」
 ニトロが念動力で手伝う。と、壁にかかっていたタペストリーがぺらりと剥がれて床に落ちた。
「おや」
「あ」
 数人の猟兵が壁に目を留めた。タペストリーで隠れていた壁には黒い魔法陣があったのだ。魔法陣は、とても古い。
「先ほど、モンスターがよく入り込んでくると言いましたが……」
 数人が壁に集まり、魔法陣を調べ始める。
「この魔法陣には、モンスターを引き付ける効果があります。もしかしてそれが原因だったりしませんか」
「なんだって。誰がこんなもん作ったんだ。こんな魔法陣壊してしまおう」
 戸惑いながら提案する冒険者たち。

「そういえば、崩壊妖精についてですが」
 そんな冒険者たちを尻目に、冒険者パーティのウィザードが言う。
「この近くに草原があるのですが、先日通りかかった時、前にはなかった妖精の村が出来ていたんです」
 ウィザードが猟兵たちに提案した。
「敵襲までに、まだ時間があります。崩壊妖精も妖精なことですし、妖精の村に行けば何か情報が得られないでしょうか?」
 ウィザードは地図を見せた。

(※確認しなくても進行に支障はないけれどイメージの手助け程度にはなるかもしれない地図画像 https://static.wixstatic.com/media/1f13be_90eb5cc5c79447eeaa663611049ef005~mv2.png )

「海岸近くのここが、今いるクルケガです。南西側に森が、北側に海が広がっていますね。クルケガの南、森の手前の草原地域。ここです。ここに妖精の村が出来ていたんですよ」
 ウィザードは猟兵に依頼する。
「私たちはここで戦闘の準備を整えますから、村まで行ってきてくれませんか」
 
 ウィザードの依頼は必ず受けないといけないものではない。冒険者ギルドに残り、魔法陣を破壊したり防衛準備を手伝って過ごすこともできる。
 1人の猟兵が行えるのは「妖精の村に行き、村で行動する」か「ギルドに残り、ギルドで行動する」かのどちらかとなる。両方を行うことはできない。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第2章 冒険 『ここは○○の村だよ』

POW   :    ジェスチャーで村人と会話を試みる

SPD   :    村の中や周辺を調べる

WIZ   :    アイテムやユーベルコードを上手く活用

👑11
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●猟兵の行動

 1人の猟兵が行えるのは「妖精の村に行き、村で行動する」か「ギルドに残り、ギルドで行動する」かのどちらかとなる。両方を行うことはできない。

●ギルドで行動する場合
 目的は「クルケガの防衛準備を手伝うこと」となる。
 ギルドでは防衛戦の準備が進められている。

「まずは、この魔法陣をどうするかなんだが、あんたらの意見をきかせてくれないか」
 ギルドに残った猟兵は魔法陣を破壊するか破壊しないかを決めることができる。

「すみません、宿屋にいる冒険者パーティに緊急事態なので協力してほしい、と声をかけてほしいんです。人手が足りなくて」
 ギルド職員はギルドに残った猟兵に対し、冒険者パーティへの声掛けを依頼した。

●妖精の村で行動する場合
 目的は「不思議な妖精の村と崩壊妖精について調査すること」となる。

 妖精の村には金色に輝く羽をもつ妖精と紫色の羽をもつ妖精がいた。
 2種類の妖精たちは妖精は仲が悪いようだった。彼らは一箇所に集まり、何かを討論している。
「*********」
「@@@@」
 彼らは気付いた。
 猟兵たちは、妖精の話す言葉が何故かさっぱり理解できないのだった。
 妖精たちは猟兵を全く気にした様子なく、熱く討論している。
「*****!」
「@@@@!」

「な、何を言っているかわからない」
 戸惑う猟兵たち。そんな猟兵たちに金色の羽を持つ妖精の少女が話しかけてきた。
「****?」
 少女は、小さな妖精の壺を手にしていた。少女が壺に向かって何事かを話しかけると、壺からは小さな妖精の男の子が渋々といった様子で顔を覗かせた。男の子の羽根は、紫色だった。
「この子たち、何か言っているようですが」
 猟兵たちはますます戸惑うのであった。
ニトロ・トリニィ
【WIZ】を選択

【心境】
この町の冒険者は本当に元気だね〜。
何だか生き生きしてるし、ちょっと羨ましいかな。

【行動】
僕はギルドで防衛準備を担当しようかな。 高い所の作業や大きい物、重い物を扱う作業なら任せて!
《念動力》を発動して、効率よく作業を進めるよ!
一緒に作業をする人達とは〈礼儀作法〉を使って接しつつ、〈鼓舞〉で元気付けてあげれば作業も捗る…かな?

それよりも気になるのは、あの魔法陣だね… 魔物を呼び寄せる効果があるんだし、壊した方が良いんだろうけど…
もし、無闇に壊して何かあったら怖いし… よし!ここは多数決だね!
もし魔法陣を破壊する事になったら、僕がやっても良いよ。

アドリブ・協力歓迎です!


月凪・ハルマ
※ギルドに残る

魔法陣は壊した方が良いと思うけど、今すぐにではなく
崩壊妖精をなんとかしてからにしたいかな

今は確実に3日後に襲撃がある事が分かっているけど、
この魔法陣を破壊するとその動きが読めなくなるから

そんな感じで考えを話した後、宿屋へ
まぁここは直接冒険者パーティーに会いに行くより、
事情を話して宿屋の店主に取り次いでもらった方が早いだろ
必要なら俺も分かっている範囲で説明はする

後は……そうだな
できれば町の人達にも、3日後の襲撃と
それに伴う対処に関して理解を得たいところだな

とりあえず、この町のお偉いさんのとこに行って事情を説明
崩壊妖精をとの戦闘中は、町民を安全な場所に
避難させて欲しい旨を伝えてみよう


ネメシス・アレクトー
◆ギルドで行動する

魔方陣の破壊は止めておきますロボ。
聞けば、テランテにも似たものがあったと聞きましたし、魔方陣自体が古いものですからモンスターの分散とか、元々、何か意味があった可能性が高いかもですロボ。

それに現状引き付ける意味でも折角モンスターがやってくるのに稼がない手はないですロボ!
レイド戦は、冒険者の華! いざ、ノコノコ向かってくる敵を虐殺です! ロボ!!

そうと決まったら、宿にいる他の冒険者にも声掛けですロボ!
報酬は、いつもの倍額!!早い者勝ちロボ!!

防衛戦は、如何に有利に戦えるか重要ロボ、私も拠点防御の準備をしておきますロボ。



◆クルケガの昼
 戦意を持て余したのだろうか、1人の妖精が歌を歌っていた。

「戦士と盗賊が仰ぎ見るのは魔導師の惑乱の塔。
 冒険の導き手は小さな夜。
 夜に導かれ、2人は階段をのぼる」

 勇者が村を訪れ、村に起きていた問題を解決して去っていく。そんなありふれた英雄譚だ。
 だが、そんな英雄譚に冒険者たちは目を輝かせて聞き入る。そして、自らもそんな英雄たらんと高揚するのであった。
「この町の冒険者は本当に元気だね~。
 何だか生き生きしてるし、ちょっと羨ましいかな」

 日は高く、人々は忙しなく働いている。
 ギルドには3人の猟兵が残っていた。ニトロ・トリニィ(楽観的な自称旅人・f07375)、月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)、ネメシス・アレクトー(エリーニュス三美姫・f06227)だ。
 3人の前には黒の魔法陣と、数人の冒険者がいた。
「魔物を呼び寄せる効果があるんだし、壊した方が良いんだろうけど……もし、無闇に壊して何かあったら怖いし……」
 ニトロが呟く。ハルマも頷いた。
「魔法陣は壊した方が良いと思うけど、今すぐにではなく崩壊妖精をなんとかしてからにしたいかな」
 3人の近くのテーブルには地図が広がっている。南には森があった。森の近くにはテランテがある。テランテの近くには洞窟がある。
「聞けば、テランテにも似たものがあったと聞きましたし、魔方陣自体が古いものですからモンスターの分散とか、元々、何か意味があった可能性が高いかもですロボ」
 ネメシスが地図を見ながら意見を述べれば、3人も頷いた。
「今は確実に3日後に襲撃がある事が分かっているけど、この魔法陣を破壊するとその動きが読めなくなる」
 ハルマが懸念を口にする。
 破壊をした場合、戦場が別の場所になる可能性があった。まずは猟兵戦力が集まっているこの場所で崩壊妖精を迎え撃つ。ハルマはそう考えたのだった。
「森を挟んでこっちとあっち、2か所に同じ魔法陣がある……」
 森の向こう側にある洞窟には、同じ魔法陣があるのだ。

「それに現状引き付ける意味でも折角モンスターがやってくるのに稼がない手はないですロボ! レイド戦は、冒険者の華! いざ、ノコノコ向かってくる敵を虐殺です! ロボ!!」
 ネメシスが熱く演説をすると冒険者たちも目をギラギラと輝かせて声をあげた。
「あんたらがそう言うなら」
「迎え撃つぞー!」
 すでにこのギルド内で猟兵たちの発言力は大きい。
 クルケガの魔法陣は破壊することなく、彼らは防衛戦の準備を始めた。魔法陣は、反対する者が居なければ戦いが終わった後で破壊することになる。

●町長との話
 町長の目の前には年若い冒険者――ハルマがいた。
「……というわけで、崩壊妖精との戦闘中は、町民を安全な場所に避難させて欲しいんだ」
 ハルマが言うと、町長は町の見取り図を開きながら考える。
「この町の周辺は、元々モンスターがよく来るんだ。モンスター絡みの依頼が多いってんで冒険者が集まるようになって、それで今の冒険者ギルドが出来た経緯もある。最近は特にモンスターも日に日に強いのが出るようになってきたようでなあ」
 考え込む町長の腕には大きな爪によるものと思われる傷跡があった。
「町民もみなモンスターに慣れてる。知らせればスムーズに避難はできるだろう。戦える者は武器を手に自分の家くらい守る気概を見せるだろうさ」
 町長は自分も戦い出しそうな気配をしていた。そして、ハルマへと好奇心に満ちた目を向けた。
「しかし、ギルド長からも話は聞いていたがあんたたちはどこから来たんだい。帝竜と勇者の話を集めていたというが、まさか伝説を再現でもするのかね」
 その言葉はあながち的外れでもないのだろう、と思っている声の響きだった。
「まあ、そんなところかも」
 ハルマが薄っすらと笑う。彼らは実際に、情報を集めることにより群竜大陸の発見を目指している作戦に参加しているのだ。それがどんな情報で、どんな些細な勇者伝説であったとしても収集された情報は予知の精度を高めることに貢献している。作戦が進めば大陸が見つかる。猟兵達はそう考えていた。

●クルケガの夜
 淡い灯が店内を薄っすらと照らしていた。
 宿屋の1階は酒場になっていた。何組かの冒険者と旅人が酒を飲み語らっている。奥には階段があった。
「それでさ、俺は森の中でモンスターに出くわしたんだがモンスターは俺には目もくれずに洞窟のほうに行っちまったんだ」
 頬に傷のある男が酒を飲みながら語っている。キイ、と蝶番の軋む音がして扉が開いた。

 扉の向こうに弓張り月が見えた。月明かりに照らされて少年が一人立っていた。少年は帽子をかぶっている。店内に足を踏み入れる様子は隙が無い。足音は静かだ。隠密に慣れている、そんな滲み出る気配。只者ではあるまい、と冒険者の盗賊が目を眇めた。

「冒険者パーティはこの宿屋に何組いるかな? ギルドから緊急の依頼が出てるんだ」
 少年――ハルマが店主に事情を話す声が響く。酒を飲んでいた冒険者たちは耳をそばだてた。

「モンスターが襲来する。ギルドは防衛戦参加者に報酬を出すと言っている。人手が足りていない」
 そんな説明が耳に入ると冒険者たちは顔を見合わせる。宿屋の店主は給仕をしていた中年の女性に事情を話し、2階に宿泊している冒険者パーティに声掛けをさせた。

 と、そこへもう1人が駆けこんで来た。
「うお……」
 店内に現れた姿を見て男衆が息を呑む。きめ細やかな肌が仄かな明かりに照らされていた。肌は白い。長い髪がさらりと背に流れている。
 美しい。
 誰もがそう思った。

「仕事ロボ! 防衛戦ロボ!」
 美姫――ネメシスが言葉を発すると居合わせた者は戸惑いをあらわにした。周囲には構わず、ネメシスは言葉を続ける。
「報酬は、いつもの倍額!! 早い者勝ちロボ!!」
 語尾は変だったが、言葉の内容には魅力があった。1階の酒場に居合わせた1組の冒険者パーティが扉を開けてギルドへ向かう。

「クルケガはモンスターがよく出現するとききましたが、本当なんですねえ」
 旅人がそんなことを言っていた。
「テランテの近くにある洞窟にはここ数日で悪い魔導師が棲みついて森に住む動物が攫われている事件も起きているって聞くし。本当に物騒だね。帝竜が復活したって噂は本当なのかもしれないな」

 町の周囲に巡らされた外壁の上にある無数の松明に明かりが燈されていく。遠く対面する外壁にも同様の明かりが順に燈っていくのが見えた。
「高い所の作業や大きい物、重い物を扱う作業なら任せて!」
 ニトロが念動力を発動させ、防衛準備を手伝っている。

 松明の光と魔法の光が夜をやわらかに照らしていた。見張り台にのぼればふわりと風が吹き抜けてニトロが纏う黒衣の裾を揺らした。この衣装はニトロの微かに残った記憶の中に出て来る人物を模したものだった。
 心配そうな顔をしながら荷を運んでいた男が目に入る。ニトロは男を手伝ってやり、笑顔を向けた。
「さっき、宿屋さんでお風呂に入ったんだけど良いお湯だったよ。温泉に行きたくなったな。温泉ってこの付近にあるかい」
 ニトロがそんなことを言いながら穏やかに笑うと、楽観的でマイペースな気配に男は気持ちを上向きにしたようだった。周囲の人々がなんとなく安心してしまうような独特の空気を纏った猟兵、それがニトロだった。

「防衛戦は、如何に有利に戦えるか重要ロボ」
 ネメシスが冒険者たちに指示を出している。町の地図を見ながらパーティごとの待機位置を決め、敵の出現場所ごとに動き方を決めていく。
 その姿はまるで戦乙女のように美しく、ただし語尾だけは不思議だった。美しい玉にほんの一箇所、特徴的な傷があるようで、人はそれにより一層の親しみを覚え、ネメシスに魅力を感じるのであった。
(この「ロボ」というのはどこかの方言なのだろうか)
 人々はそう思い、美女の経歴に様々な想像を巡らせるのであった。

「そういえば、聖女の故郷はどうして滅びたんだ?」
 ハルマが冒険者に問いかければ、冒険者は答えた。
「聖女の故郷は、元々が2種類の気質の妖精――光の妖精と闇の妖精が派閥として分かれていて争いごとが絶えなかったのだそうです。
 勇者一行がある時、村を訪れて聖女を仲間として出発したのち、徐々に派閥争いは深刻化し――最後は、村が2つに分かれて戦って、自滅してしまったと言われています」

◆染み出た過去
 世界を生きる人々は時間を消費して生きている。時間を消費することで時が未来へと進む。消費された過去は世界の外へと排出される。それが『骸の海』だ。『骸の海』は排出された過去の集積体であった。

 骸の海に捨てられた筈の過去が、何らかの異常で元の世界に染み出す事がある。それが受肉すると、『オブリビオン』と呼ばれる怪物に変異する。オブリビオンは失われた過去の化身であり、かつてその世界に存在した者の姿を持ち、必ず、世界を滅亡に導く――すなわち、染み出した過去で世界を埋め尽くす――ように活動する。
 例えばとあるモンスターの過ぎ去りし1日の姿が染み出たとする。
 モンスターはある日、全身をふわふわの毛に覆われていた。
 同モンスターはある日、脱皮して硬い岩のような姿になった。
 同モンスターはある日、冒険者により片目に傷を負った。

 染み出た姿は、全身ふわふわの時のモンスターだったかもしれない。
 脱皮して硬い岩のような姿だったかもしれない。
 片目に傷を負った姿だったかもしれない。
 同時にそれら3体が染み出ることもあるかもしれない。

 いずれにせよ、過去が染み出てくるとソレは染み出た過去で世界を埋め尽くすように活動する。ソレ自体が意図して滅ぼそうとすることもあれば、存在するだけで連鎖的に周囲に過去を染み出させ、異常を広げていくこともあった。
 オブリビオンは排除しなければならない。猟兵たちはそれを知っていた。

「惑乱の塔は破壊され、向かうは竜の巣、強大な敵の待つ地。
 冒険の導き手は小さな朝。
 朝に導かれ、英雄は海を渡る」
 妖精が、歌を歌っていた。

 頭上には星空が広がっていた。月が明るい。
 同じ空を、別の地にいる仲間たちも見ていることだろう。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​

ビスマス・テルマール
●妖精の村で行動
◎POW
基本的にはジェスチャーで村人である妖精達とコミュニケーションを計り、崩壊妖精の事や妖精同士での議論の内容を『情報収集』を試みます

とは言え、警戒は解いた方が
良いと思うので、お近づきの印と危害を加えるつもりは無いのを示す為に、事前に『料理』して来た『マグロのさんが焼き(白味噌、蜂蜜味噌、トマト味噌等)』を差しだしご馳走を

妖精の身振り手振りや表情の関連性を然り気無く観察し『学習力』でどう言う意味を読み取り、ジェスチャーでの会話に活かせる様に試みます 

言葉が通じなくても……やれる限りの事はしてみませんと

後、打ち解ける為に『手を繋いで』みたりして


※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


虚・楓
妖精の村へ向かうぞ。しかしどこも論争が絶えないのう。しからば、まずは・・・腹ごしらえじゃな。ぎるどの近くの酒場で作らせてもらった「べりーぱい」を網籠から取り出して振る舞おう。難しいことを考える前に、まずは甘いものでも食べて落ち着くんじゃ。・・・そこの子達も困っておるじゃろう?
ある程度落ち着いたなら、身ぶり手振りでじぇすちゃーをはじめて、でもそれで伝わりにくいようなら・・・琵琶を演奏して音楽で伝えようかのう。

言葉は通じずとも心は伝わる、そう思いたいのう。
(料理、パフォーマンス、楽器演奏)
(アドリブ、絡み歓迎)


宮落・ライア
妖精の村に行く!

POW

言葉が通じない? 
関係ないね! 言葉だけが言語じゃないのだよ!

という訳でフィーリングと直感に頼ったボディーランゲージとジェスチャーで意思疎通を図るよ!
え?つまり? 考えるな!感じろ!だよ。
勢いと感覚と感でどうにかするのだ!

相手が何を言ってるのかも大体、感で解釈!


サラ・カトレット
※妖精の村へ調査

【WIZ】
お互いにノートに絵を描いてそこから意味を汲み取る事を試してみましょ

『貴方達と仲良くなりたいわ、お話を聞かせてくれる?
壺の中の男の子に微笑みかけて手を振ったり
楽し気に歌ったりして二人に敵意が無い事を示しましょう【友愛の歌】(歌唱・優しさ)

『貴方達は羽根の色が違うのに仲良しなの?
本当は皆で仲良くしたい?

『あの人達は何を揉めているの?
新しく村が出来た事を考えると…領地争いとか?
人間の事には無関心なのかしら

ノートに2人の妖精が仲良くする様子や
妖精達が喧嘩している様子を絵に描いて色々聞いてみます

2人の反応や、何か言いたげなら其方を優先

『焦らないで大丈夫よ、ゆっくりお話ししましょ


トリテレイア・ゼロナイン
●妖精の村で行動する

魔法陣は似た物を見たことがあるので気にはなりますが、妖精の村が気になります。以前の任務で壺の中で見たもの、その答えを私は求めてしまうのです

今回も話しかけてきた妖精少女の壺に触れてみます


とはいえ言葉が通じない妖精達へのコミュニケーション、どうするべきか?
UCの妖精ロボ達を「操縦」、「世界知識」で学んだ妖精の基本的な知識に照らし合わせて「礼儀作法」に則って挨拶、「優しく」「手をつないで」握手したりダンスしたりと此方に敵意が無いことを伝えましょう。

崩壊妖精の絵を描いた紙を攻撃する行動を取ることで自分達の目的を伝えます。その時の妖精達の反応を「見切り」感情を判断できればよいのですが


キアラン・カーター
じゃあ僕は妖精の村に向かおうかな。役に立てるかは分からないけど。

言葉が通じないのは厄介だね。世界の加護のおかげで通常の言語なら理解できると思ってたけど...。
とにかく崩壊妖精のことを何とかして伝えてみよう。身振り手振りや地面に絵を描いてみたり。
心を通じさせるだけなら歌ってみるのも手だけど、お互いの意思を伝えるのは厳しいかな。まあ色々やってみよう。

どうしても会話が成立しないなら仕方ないけど村をあちこち調査してみるしかないね。

そもそも妖精たちは何を話し合ってたのか。それが一番気になるなあ。


明智・珠稀
【妖精の村へ】
村もギルドも興味を惹かれましたが…
妖精の壺を拝見しテランテの村のものと同じかどうか
確かめたいですね、ふふ!

■行動
「愛らしい妖精さん達…!仲裁になるかはわかりかねますが…
 少し落ち着いていただけませんか?」と
微笑みと共にサウンドウェポン【三味線】で
柔らかな音色を奏で注意を引けるか試みる
また、接触できた妖精にイラストで交流を図ってみる

妖精の村近郊の地図を紙に描き、
「私達は来るクルクガから来ました。貴方達はどこからきましたか?」
テランテの村の壺を描き
「この壺は貴方達のものですか?」
仲良くする妖精の絵を描き
「なぜ言い争っているのか?」を絵で質問できないか試す

※アドリブ、絡み大歓迎です!



●妖精の村の昼
 草原に紅葉の木が並んでいた。そこだけまるで秋のような風景――だが、今の季節は早春だ。木の幹や枝には小さな家があった。妖精の家だ。
 妖精の村。
 彼らはそこにいた。

◆ひとつの壺
 金色の羽の少女にサラ・カトレット(夢見る乙女・f06458)が笑顔を向けると、少女は嬉しそうな表情をした。
「貴方達と仲良くなりたいわ、お話を聞かせてくれる?」
 言葉は通じなくても優し気な雰囲気は伝わる。少女はウンウンと頷きサラの髪を飾る桃の花の近くをふわふわと舞う。
 壺の中の男の子へとサラは微笑み手を振るが、男の子はさっと飛び立ち、木陰へ隠れてしまった。少女が男の子の非礼を詫びるようにサラへと頭を下げる。

「あの壺は、見たことがあるデザインです」
 明智・珠稀(和吸血鬼、妖刀添え・f00992)が少女の持つ妖精の壺を不思議そうに見つめた。
 トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)が静かに頷いた。

●音楽と料理と
「しかしどこも論争が絶えないのう」
 呟く声は頭上で輝く日差しのようにうららかだった。

「愛らしい妖精さん達……! 仲裁になるかはわかりかねますが……
 少し落ち着いていただけませんか?」
 珠稀が三味線を弾く。
 討論している妖精たちに柔らかな音色が届いた。また、食べ物の匂いも。柔らかな音は心地よく妖精の耳に届き、妖精たちは音をもっと聴こうと口を閉ざして討論を中断した。
 匂いに食欲を刺激された妖精たちはキョロキョロと周囲を見渡した。そして、料理を見つけた。
 木の下で料理を広げて彼らにニコニコと手を振っているのは、ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)。ビスマス結晶のクリスタリアンの姿は宝石のように透き通り、妖精たちを惹きつけた。
 ビスマスは笑顔で妖精たちを手招きする。1体また1体と妖精たちは料理に寄っていく。緑色の大葉が艶やかだ。妖精の1体が窺うような視線を向ければビスマスはにっこりと頷いて皿に1つを盛り、妖精が食べやすいようにと小さく切り分けた。
 妖精たちは手を伸ばして料理に手を伸ばす。
「マグロのさんが焼きです」
 ビスマスが料理について説明する。周囲にいた猟兵たちも皆手を伸ばし、妖精と共に味わった。

(言葉が通じなくても……やれる限りの事はしてみませんと)
 にこやかな表情の下でビスマスは真剣であった。その視線は仲間たちと交流している妖精に向けられ、身振り手振りや表情から何か読み取れないかと学習している。

「やはり、腹ごしらえは大事じゃな」
 虚・楓(霊魂料理人・f14143)がベリーパイを網籠から取り出して振る舞っている。妖精たちは大喜びだ。もちろん、他の猟兵たちも一緒になって食べている。
「んっま! これ作ったの!」
 宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)が妖精と一緒になって喜んでいる。
「ぎるどの近くの酒場で作らせてもらったんじゃ」
 楓が目を細める。肩には妖精が乗っていた。
「難しいことを考える前に、まずは甘いものでも食べて落ち着くんじゃ」
 ライアは料理を妖精と分かち合い、笑った。
「言葉が通じない? 関係ないね! 言葉だけが言語じゃないのだよ!」

 妖精たちが食べ物を味わい、「そういえばこの旅人たちは何者なんだろうか」と思い始めた頃、トリテレイアが礼儀正しく挨拶をした。右腕を旨の前に置き丁寧に頭を下げる白い騎士。洗練された所作は妖精たちに高い教養と信頼に値する人柄を伝えた。
 しかし、妖精を模したロボを操縦してみせると妖精たちは若干警戒の色を強めたようだった。

「言葉が通じないのは厄介だね。世界の加護のおかげで通常の言語なら理解できると思ってたけど……」
 キアラン・カーター(麗らかなる賛歌・f15716)が疑問を口にする。猟兵たちは世界の加護によりどこでも言葉には不自由しないはずなのだ。
(2種類の妖精たちが何を話し合ってたのか。それが一番気になるなあ)
 キアランは妖精たちを見つめた。そして、不思議な紅葉に視線を移した。ひらり、と一葉が舞い、足元にぱさりと落ちた。ゆっくりと拾い上げたそれは紛れもなく自然の紅葉。秋の色だ。

「おかしいですね、どうも」
 トリテレイアも自分から離れていった妖精たちを見ながら呟いた。距離を取った妖精たちは何事かを問いかけている。敵意がないことを示そうとして猟兵たちは身振り手振りをした。

「なんとか意思疎通を図りたいけど」
 キアランが地面に絵を描くと、他の者も絵で交流を図り始めた。

●お絵かき交流
 珠稀は周辺の地図を紙に描き、クルケガを示しながら優しい声色で語りかける。
「私達は来るクルクガから来ました。貴方達はどこからきましたか?」
 妖精たちは自分たちの居場所を示した。そこは、まぎれもなく現在地だ。
「この村は新しく出来たのではないの?」
 サラが不思議そうに尋ねた。尋ねながら絵を描く。何もない草原を描き、新しく出来た村を描いた。妖精たちは首を振る。村はずっとここにある、と妖精たちは伝えてきた。

 珠稀は仲良く手をつないでいる妖精の絵を描いた。「なぜ言い争っているのか?」と聞きたいのだ。
「この質問は難しいですね……!?」
 通じるのか、と絵の表現に頭を悩ます珠稀。サラが一緒になって絵を描いた。
「仲良くしている絵と、喧嘩している絵を並べてみるとか」
 サラが喧嘩している妖精たちを描く。2つを順に示せば、妖精たちには伝わったようだった。
「お互いにノートに絵を描いてそこから意味を汲み取る事を試してみましょ」
 サラは妖精たちにも絵を描いてくれるようにと頼む。妖精たちは数人がかりでペンを持ち、絵を描いた。
「塔?」
 それは、黒色の塔だった。塔のまわりには妖精の村を描いた。村の中には、妖精たちを数体描いた。そして、村の外に大きな人間を描いた。
 妖精たちは塔の一番上に魔法使いの絵を描く。そして、檻に入った妖精たちを描いた。塔から黒い色の電波のような線を描き、妖精の村にいる妖精たちと人間の間に線を描いた。そして、線と線の間にバツ印を描いた。

「……?」
 猟兵たちは顔を見合わせた。妖精たちはもどかしそうな顔をする。サラが優しく声をかけた。
「焦らないで大丈夫よ、ゆっくりお話ししましょ」

 紫の羽の妖精が頷き、手に持っている小さな剣を塔の絵に向けて斬る仕草をする。
 金の羽の妖精はそれを見て文句を言うようだった。

「なるほど?」
 トリテレイアが崩壊妖精の絵を描いた紙を見せる。すると、妖精たちは自身が描いた檻に入った妖精と崩壊妖精を結びつけるような動きを見せた。
「囚われた妖精が、崩壊妖精になったと。そういうことですね?」
 トリテレイアが確認するように言うと妖精は頷いた。そして、崩壊妖精の絵を攻撃するような仕草を見せる。
 紫の羽の妖精はそれを支持するような顔をし、金の羽の妖精はそれに反発するような顔をした。

「討論の内容が判った気がする」
 猟兵たちはそう思った。だが。
「でも、塔なんてどこにもないじゃないですか」
 見渡しても周囲には、塔はない。

●妖精の村の夜
 楓が琵琶を、珠稀が三味線を奏でていた。琵琶と三味線が同じ曲を奏でれば、雅な音の流れが風情のあるひとときを彼らに齎した。
 弓張り月が空から彼らを見守っている。風のない夜。
 地上では焚火を囲んで猟兵と妖精たちが楽し気な空気を醸し出していた。あたたかな焚火の炎は紅葉をやわらかに照らし出し、夜闇を和らげていた。
 ビスマスは料理を振舞っている。妖精たちは争いを忘れた様子で彼らを囲んでいる。小さな少女もまた楽しそうに笑っていた。
「だいたいわかるようになってきました」
 ビスマスは半日かけて妖精たちの気持ちを理解した。彼らは今を秋だと思っている。そして、新しくこの地に出現したのではなく、昔からずっとこの地にいるのだと信じている。

「金の羽の子は光の魔法が得意で、紫の羽の子は闇の魔法が得意なのね」
 サラが妖精たちに囲まれて優しい歌を歌っていた。琵琶の音色に乗り広がる歌は素朴で暖かい旋律だ。それは、友愛の歌。聴くもの全ての心を安らがせる。
「貴方達は羽根の色が違うのに仲良しなの? 本当は皆で仲良くしたい?」
 サラが優しく問いかける。意思は伝わるようだった。
 妖精たちは、ノートに絵を描いてくれる。絵で伝えるのにも、もう慣れた様子だった。描かれた絵は、金の羽の妖精のお母さんとお父さん。そして、子供の妖精が2人。羽は、金と紫。同じように紫の羽の夫婦が描かれ、同様に子供も描かれた。
「貴方達が伝えたいのは……親の羽の色が両方金でも、子どもの羽は親と同じとは限らない、ということかしら」
 首肯する妖精の中に金の羽の少女がいた。少女は自分の絵と紫の羽の男の子の絵を描く。そして、男の子の周りに花をいっぱい描いてあげるのだった。
「弟さんなのね?」
 そっと確認すれば、少女は嬉しそうに頷いた。
「大好きな弟さんなのね」
 もう一度言えば、少女は伝わったのが嬉しくてたまらないといった様子でサラの周囲を飛び廻る。

 珠稀が少女へと問いかける。手には壺の絵があった。
「この壺は貴女の壺ととてもよく似ていますね?」
 少女は絵を見て同意するようだった。とてもよく似ている、と。
「あの男の子は、よく貴女の壺に入っているのですか?」
 男の子が壺に入る様子を絵にすれば、少女は頷いた。ライアとビスマスは少女の言いたいことを感じ取った。
「ええと、弟さんは、人見知りさんなのですか」
 ビスマスが尋ねると少女は少し心配そうな顔で認める。
「他人と関わるのが嫌で壺に引き籠っちゃう系少年か!」
 ライアが勘で解釈すると少女は少し迷った様子で首肯した。

 キアランはそんな妖精たちや仲間たちと離れ、付近を調査していた。そして、光の届かない暗闇の中で花のつぼみに腰かけた1体の妖精に気付く。紫の羽をもつ男の子だ。
 男の子は楽しそうな妖精たちや猟兵たちから身を隠すようにしていた。キアランがそっと近くに腰を下ろすと、視線を向けないように意識する様子で身を固くしている。警戒心の強い小動物が近くにいるような独特の緊張感があった。

「仲間たちの中にいるのが苦痛かい」
 そっと問いかける。男の子はしばらく植物のように微動だにしない様子であった。
「人と話すのは怖いかな」
 呟く。返事はない。
 キアランは男の子の姉を見た。遠くで猟兵たちと楽しそうにしている姉を。
「嫌いなんだね」
 呟きに男の子の肩が大きく揺れた。瞳が揺れていた。

「嫌いだと思ってしまう自分が、嫌いなんだね」
 キアランはそっと歌を口ずさんだ。とても小さな声で、囁くように歌うそれは心を揺さぶり、奇跡すら起こす歌だった。
 歌を止め、言葉は伝わらないだろうな、と思いながら呟く言葉はひとりごとのようだった。
「父も母も僕の歌が嫌いだった。神父様が説く愛は真実ではなかった」
 だが、男の子には何かが伝わったようで、歌か言葉か、何かしらにより心が動いたようだった。

 『塔があっちにある』

 声なき意思が伝わった。
 紫の羽がふわりと空へ舞い、キアランの周囲をくるりとまわる。そして、暗闇に誘うように飛んでいく。
 キアランは少し迷い、仲間を振り返る。

「紫の羽の子が……塔があると」
 言えば、仲間たちは視線をサッと交差させた。塔を巡り、紫の羽と金の羽は対立している。それは揉め事の種だった。

「ボクが一緒に行こう」
 ライアが大剣を手に立ち上がる。
「同行しますよ、ふふ!」
 珠稀も妖刀を手についていく。

「他の妖精の気を引いておこう」
 楓が琵琶で楽し気な旋律をかき鳴らす。サラも妖精たちに囲まれながら優しい歌声で彼らを楽しませた。
「料理をどうぞ」
 ビスマスは次々と料理を並べた。そして、妖精たちの手に指先で触れて優しく料理へ導いた。
「触れてもよいですか?」
 トリテレイアは少女の妖精の壺に触れていた。そして、少女のフェアリーランドに入った。

◆フェアリーランド
 フェアリーランドは弟が普段過ごしている空間だった。人間が読むような大きなサイズの魔導書と研究中の魔術式を書き散らした小さな小さな紙が散乱していた。
「これは、日記……でしょうか」
 ひとつに目を留めてトリテレイアはパラパラとめくる。妖精の日記は巨漢のウォーマシンからすればとても小さかったがウォーマシンのセンサーは文字を読み取りブレインが情報を巧みに処理した。読み取った情報は以下の通りである。

 学び、文字を覚えた。文字により記録を残そうと思った。
 妖精の村の近くに魔導師が棲みついた。
 魔導師は魔法で建てた塔に住んでいた。塔はそこにあるだけで周囲に悪影響を与え、周囲の妖精たちは、人間と言葉を交わすことができなくなった。
 魔導師は妖精たちを攫い、様々な実験をした。囚われて実験素材にされた妖精たちは崩壊妖精となり、村を襲うようになった。
 『僕』は魔導師の塔に何度か入り込み、魔導書を何冊か盗み出して魔術の技を身につけている……、
 魔導師は生命を変質させてキメラを造ったり、死霊を操ったり、魂を別の器に入れ替えるような邪悪な魔術を研究している。
 『僕』は身に付けた魔導師の魔術で魔導師を滅ぼそうと思っている。

 日記はそこで途切れている。

●魔導師の塔
 仲間の奏でる琵琶と歌が遠くなる。

 キアラン、ライア、珠稀が仰ぎ見るのは闇に溶けるような黒の塔だ。
「結界があるようですね。この一線から向こう側にいると塔が見えませんが、一歩踏み入れると塔が見える、と」
 珠稀が呟いた。

 冒険の導き手は紫の羽根を持つ小さな妖精だ。仄かな紫光に導かれ、3人は塔の階段をのぼる。

「何もない……」
 塔には、家具も人も何もなかった。囚われの妖精もいない。もちろん、魔導師もいない。まるで外側だけを再現したハリボテのようだ。導く紫の羽の男の子も戸惑っている。
 男の子は「敵がいるはずだった」「仲間が囚われているはずだった」と猟兵に訴え、周囲をキョロキョロと不安げに見ていた。

「男の子の話だと魔導師と囚われた妖精たちがいるはずだけど、全く姿がない。どうなっているんだろう?」
 疑念を口にしながら彼らは塔を探索した。頂上までたどり着くと、塔の主の部屋と思しき一室はやはり無人であった。家具すらない。だが、部屋の中央には魔導師が持つような邪悪な気配を纏った杖が一本立っていた。

 顔を見合わせる猟兵たち。
「邪悪な気配を感じるね」
 キアランが眉を顰め。
「壊しちゃおう」
 ライアはためらわずに大剣を振りかざした。
「それしかないでしょうか」
 珠稀も妖刀を振る。

 杖を破壊すると、周囲が眩く光り。
「あ……」
 気付けばそこは草原だった。

「え?」
 遠くに猟兵仲間たちが見えた。広々とした草原のただなかに彼らはいる。黒い塔も、紅葉の木々も、妖精の家も、妖精たちもどこにもない。

 妖精の村が消えていた。

●草原
「一体、何があったんですか」
 仲間たちは合流して情報交換をした。そして、朝を待ってからクルケガに戻ることにしたのであった。

 頭上には星空が広がっていた。月が明るい。
 同じ空を、別の地にいる仲間たちも見ていることだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​




第3章 集団戦 『崩壊妖精』

POW   :    妖精の叫び
【意味をなさない叫び】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    妖精の嘆き
【なぜ痛い思いをさせるのかへの嘆き】【私が悪かったのかへの嘆き】【助けてくれないのかへの嘆き】を対象に放ち、命中した対象の攻撃力を減らす。全て命中するとユーベルコードを封じる。
WIZ   :    妖精の痛み
【哀れみ】の感情を与える事に成功した対象に、召喚した【崩壊妖精】から、高命中力の【体が崩壊するような痛みを感じさせる思念】を飛ばす。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●崩壊妖精
 妖精の村に出かけていた仲間たちがクルケガに戻り、彼らは情報を共有して敵襲に備えた。そして、崩壊妖精の群れは予知通りにやってきた。

 集まった冒険者パーティたちは町の至る処に配置されている。士気は高い。戦いは彼らとの共闘となる。

「勇敢な戦士たちよ、友の背を見よ。誇り高き剣を見よ。
 背後の友と町を見よ。その魂を、己が剣を掲げよ」
 声があがる。
 集まった勇士たちは皆、各々の武器を高く掲げ、鬨の声を上げた。

 時は、朝だった。
 地平線を青い塊が覆い尽くしていた。犇めき蠢くその塊は、1体1体がとても小さな妖精だ。近寄るにつれ声が耳を襲う。その悲痛な声、問いかけが。

 青色の肌は、ひび割れていた。両脚は途中で切断され、肉の代わりに光が迸り。腕の先には魔法結晶が生えている。胸元からも結晶が生え、瞳も、脳も結晶化しているようだ。闇と光が混ざったような体は、もはや妖精と呼ぶにはあまりにも不自然であった。

 アアァア……アアアアアアアアァ……
 キィィ――ィィアアア――アアア……

 言葉としての形をなさない音。それはあまりに悲痛な響きを伴っていた。
 『壊れている』。
 それは、壊れてしまっているのだ。

 音が空気を震わせ、心に訴えかける。

 なぜ痛い。
 自分がなにか悪いことをしたのか。
 助けてくれないのか。

 痛い。
 痛い。
 痛い。
 カナシイ、
 イタイ――、

 妖精は東西南北から囲い込むようにクルケガを襲う。羽を持つ妖精は高き空から舞い降りる者もいれば地表すれすれを滑るように飛ぶ者もいる。
 猟兵たちは、町を防衛するために行動を開始した。
 隣には、頼もしい戦友がいる。
虚・楓
一体何があって、彼等がどういう存在なのか。幾らでも想像はできるし、それが正解に掠っているかもしれんが。……だが今は、霊魂料理人としてその「角」、取らせてもらう。

まず先陣を切らせてもらおう。相手は範囲攻撃を持っているとのことじゃな。であればこちらも「参の型」でそれを迎撃。空間ごと叫びを断ち切り、崩壊妖精にも斬撃を通す。ただ迎撃しても打ち負ける可能性はあるので、その叫びの隙になりそうな部分を【見切り】。そこにUCを撃ちこんでいくぞ。ある程度のぐるぅぷを倒したらまたダッシュして同じように戦い、二回攻撃を駆使して一気に畳んでいく。味方が危うくなるようなら、そちらにダッシュで【手を繋いで】引っ張るぞ。


ニトロ・トリニィ
あれが崩壊妖精なのかな?
助けれるのならそうしたいけど… 自分の事で精一杯だし… 可哀想って思ったら、君達の思う壺なんだよね?
…骸の海で眠る事が君達の救いになる事を願っているよ。

【行動】
あの妖精達は、精神攻撃や声による攻撃が得意なようだね。
声による攻撃は、《念動力》で空気を振動させないように操れば防げる… かな?
精神攻撃は、〈鼓舞/オーラ防御/激痛耐性〉で何とか耐えるしか無いかな。
攻撃は軽機関銃【rosé】で〈援護射撃/クイックドロウ〉を合わせたもので、攻撃や支援を行うよ!

アドリブ・協力歓迎です!


ビスマス・テルマール
魔術師に拉致られ改造されて、オブリビオンになって未だに苦しんでいる

救う方法も無く
わたしに出来る事は骸の海に還すだけ、せめて成るべく苦しめずにっ!

●POW
トリニティ・チルドナメロウを
防御力重視で発動
冷やし孫茶バリアを『オーラ防御と範囲攻撃』で範囲を広げ
『属性攻撃(真空)』を加え防音効果を付与し展開

『盾受け・激痛耐性・地形の利用』で攻撃に備えつつ

ディメイション・なめろうブレイカーの弾に『属性攻撃(聖)・誘導弾・鎧無視攻撃』を込めた誘導浄化弾を生成し『一斉発射・2回攻撃・スナイパー』を『早業・クイックドロウ』で速射し仲間を支援、連携しつつ崩壊妖精へ攻撃を

近接には零距離射撃

※アドリブ絡み掛け合い大歓迎


宮落・ライア
……………。不思議なこともあるし分からないこともある。
けれど、ボクはヒーローだから殺させるわけには行かないんだ。
命を守るためにも。その死が安寧に至った時に、罪業がキミ達の眠りを妨げさせない為にも。
キミ達を倒すよ。

演出真の姿。透き通る大剣
【力溜め・怪力・薙ぎ払い・衝撃波・覚悟・森羅万象断】で一気に横薙ぎに薙ぎ払う。
大剣から星の光が溢れ、星の光の奔流が妖精を飲み込む


存分に憎め、存分に恨め。お前らが痛いのも苦しいのもヒーローが、ボクが居なかったからだ。だから存分ににボクを呪え。
受け止めてあげるから。


過去から滲み出したもの…。その滲み出した物がいつの物なのかは分からないし、同時に現れることもある…か。


月凪・ハルマ
思ったより数が多い?

事前に準備できてなければ
大分危なかったかもな

◆SPD
まず準備期間中にUCを発動してゴーレム達を召喚して
【メカニック】【武器改造】で砲撃戦仕様に改造しておく

戦闘では合体させずに運用
こちらの攻撃が届かない高度にいる敵を
優先的に狙わせる

感情を利用した攻撃してくる相手なら
淡々と役目を果たすだけのゴーレムは
今回の戦闘にはうってつけだろう

自身は真の姿を開放
(※髪が白の長髪に、瞳の色が黒から金へ変化)

【見切り】【残像】で攻撃を躱し
手裏剣の【早業】【投擲】とトンファーの打撃で
敵の数を確実に減らしていく

そっちの境遇に何も思わないわけじゃない……が、
それで無関係な人達を襲うのは、やっぱ違うだろ


トリテレイア・ゼロナイン
あの村は滲み出た【過去】だったのでしょうか
当時の彼らも美味しい料理に舌鼓を打ち、美しい音楽を愛でたのでしょうか

(悼むように数秒センサーの光を消して)

…哀れな崩壊妖精達にクルケガを襲わせるわけには参りません

機械馬に●騎乗、馬の●踏みつけ、槍を●怪力で●なぎ払い●鎧砕きで妖精を砕きながら突撃、常に先頭に立つことで冒険者達を●かばいつつ後に続いて戦ってもらいます

●武器受け、●盾受けで防御しつつ、妖精の嘆き、悲しみを受け止め、彼らの為に、声の限りに叫びましょう

「貴方達に咎は無し。苦しむ時間はもう終わっているのです」

決着後、妖精の村の跡地へ

季節は廻り今は春、ですが一時秋に想いを馳せます
妖精達のあの秋に


サラ・カトレット
あの村は塔が見せた幻だったの?
でも皆楽しそうに笑っていたわ
家族の事が大好きって、嬉しそうに女の子が…

【WIZ】
皆が戦いやすい様サポートを
後方から状況を確認しつつ【友愛の歌】で傷の治療を【歌唱・鼓舞・優しさ】
『どうか無茶はしないで下さいね?

治療の必要が無ければ苦戦してそうな方への援護
その方を庇いつつ杖に【属性攻撃】で雷の魔力を宿し
更に【気絶攻撃】と【マヒ攻撃】で敵を打ち据えます

『悲痛な声…まさか、村の妖精は過去に実験台にされた人達?
私達の声はもう届かないの?

攻撃は【見切り】つつ【オーラ防御】でガード
憐憫の情に囚われぬ様気を強く持ちます

せめてこれ以上苦しみに囚われない様
どうか、安らかに…【祈り】


キアラン・カーター
崩壊妖精の姿を見ると、どうしてもあの村の妖精たちが重なって見えてしまう。
ああ、主よ、どうか我らをお導きください。

シンフォニアらしく歌でみんなをサポートするよ。
UC【勇気の賛歌】を歌ってこの場にいる全員の力を最大限に引き出せるように…そして崩壊妖精たちに立ち向かえる強い心を授けよう。
でも、一番勇気が必要なのは僕かもしれない。僕には崩壊妖精たちをこの手に掛けることは、きっとできない。
だからみんなの背に隠れて、他人任せで…卑怯って思われるかな。
本当に強い人は、勇者はこんな時どうするのかな。

僕は歌い続けるんだ。仲間のために。自分のために。


明智・珠稀
…来ましたか…
妖精の村での一件もあり、哀しみを感じます
出来る事ならば、元凶となった魔術師に制裁を加えたいです。

この村を守るため、しかしそれ以上に
妖精の皆様を痛みから解放するため――
斬らせて、いただきます(妖刀を抜き)

■戦闘
妖刀を手に【ダッシュ】【先制攻撃】で
痛みが一瞬で終わるよう、出来るだけ一撃で倒す

敵UCにはオーラシールドでの【盾受け】【オーラ防御】
また【痛み耐性】を
(これが、貴方達の痛み…!)
実感しつつ
「今の私に出来ることは、安らかな眠りについていただくだけです…!」
UC【青薔薇吐息】で【カウンター】を

(消えた妖精の村、塔。勇者の伝承…知りたいことだらけです…!)

※アドリブ、絡み大歓迎!


ネメシス・アレクトー
それにしても皆さんが行かれた妖精の村は、果たして現在のものだったのでしょうかロボ?
突然出来た事を思えば、杖の力で在りし日の妖精村の姿を再現していただけなのかもしれませんねロボ
もしかしたら、皆さんが知り合った妖精がいるかもしれませんロボ
元は普通に暮らしていただけの妖精かもしれませんが、オブリビオンとなったなら骸は骸に返してあげるのが弔いですロボ!

籠城の様な防衛側は、本来外に味方がいること前提で戦うのが定石ですがそれが見込めない以上、こちらの決定打が出るまでは、戦力が極端に減るのは危ないロボ!

ここは【スチームレギオン】を展開し、味方の危ない箇所への盾替わりや一時的な維持の為の穴埋めを行いますロボ



●まつろわぬもの
 朝。

 妖精が叫んでいる。

 村から出て来たばかりの駆けだし冒険者の少年が1人、気圧された様子で膝をついた。立ち上がろうとしても脚が震え、身体が言うことを聞いてくれない。耳朶を打つのは心を揺らがす悲痛な叫びだ。
 怖い。
 冒険者はそう思った。

 その耳に、透徹な声が届く。
「一体何があって、彼等がどういう存在なのか。幾らでも想像はできるし、それが正解に掠っているかもしれんが。
 ……だが今は、霊魂料理人としてその『角』、取らせてもらう」
 虚・楓(霊魂料理人・f14143)が先陣を切る。手には夕凪があった。陽光を反射し輝く鋼線。鮮やかな軌跡。
 「まつろわぬもの」達の「角」を取り、元のカタチに戻す――それを「料理」と捉えて旅を続けているのが楓であった。

(範囲攻撃は厄介じゃな)
 楓の金の瞳が強い意思を湛えて煌めく。一刀の間合いから鋭く放つは『参の型・空開き』。
 流れるように振るわれる剣が鮮烈な軌跡を描く。それが幾つも翻る。空間を断つ無数の斬撃は叫びを断ち切り、蒼影を地に叩き落していった。

「壊れているというだけあって隙だらけじゃのう?」
 叫んでいる妖精の動きを完全に読み切り、楓が一群を薙ぎ倒す。身を翻して風のように2撃を叩きこめば付近の群れが悉く斬り落とされる。

 冒険者は現実離れした絶技に目を見開いていた。羨望の色が濃く瞳に浮かぶ。そして、付近の群れを一掃した楓が振り返ると後ろめたく俯いた。勇気がなく震えあがり座り込んだ自分がひどく情けなく、楓に落胆の眼差しで見られてしまうのではないか、と思ったのだ。

「怪我はないかの」
 うっすらと滲むような朝焼けの空の下、色黒の手が差し伸べられた。

 冒険者は目を瞬かせ、顔をあげた。
 昇る朝日を背負い楓が微笑んでいる。双眸には、冒険者が思っていたような落胆の色は微塵もない。瞳はただ、穏やかで優しい。
 冒険者は手を取った。震えは、もうない。

「恥ずべきことではない」
 おっとりとした声が笑む。
「さ、町を守るために共に駆けようぞ」
 手が離れた。
 くるりと背を向けて走り出す楓の後ろに何人もの冒険者がついていく。

 駆ければ風は冷たく頬を撫でる。
 ここは、町の中だ。
 楓は壁を見る。小さな子供のらくがきがある。ひとの暮らした形跡がある。ひとびとが日々を生き、沢山の思い出と共に人生を過ごす場だ。

「ああ、良き町じゃの」
 楓は刀を振る。
 刃は冴え渡る。閃くは鋼線。線が切り取るのは敵の命だ。

「ああ! 良い町なんだよ!」
 応える声があった。
 見るとギルドで見かけた女戦士が並走し、共に剣を揮ってくれる。
「だから、守りたいんだ!」
「ああ、守ろう」
 楓はニコリと微笑んだ。

●蒼の戦乙女
「あいつらは倒さなきゃいけないの! 躊躇っちゃだめよ!」
 エルフの射手が仲間たちに声をかけて矢を放っている。

「それにしても皆さんが行かれた妖精の村は、果たして現在のものだったのでしょうかロボ?
 突然出来た事を思えば、杖の力で在りし日の妖精村の姿を再現していただけなのかもしれませんねロボ」
 ネメシス・アレクトー(エリーニュス三美姫・f06227)が仲間たちに呟いた。そして妖精たちへと視線を向けた。

「もしかしたら、皆さんが知り合った妖精がいるかもしれませんロボ。
 元は普通に暮らしていただけの妖精かもしれませんが、オブリビオンとなったなら骸は骸に返してあげるのが弔いですロボ!」
 語尾は特徴的であったが、仲間たちは語尾に先入観を抱いて見逃してしまいがちなネメシスの本質に気付きつつあった。
 彼女は分析力と洞察力に優れており、判断力も優れていた。そしてなにより他者へ対しての礼儀を知り、その心は善良であった。

「ロボ! ロボ!」
 気合を入れるようにネメシスが叫ぶ。
「それで気合が入……いえ」
 つっこむ声も引っ込んでしまう。彼女は真剣なのだ。それが周囲にはわかっていた。
「ロボッ! ロボッ!」
 彼女は真剣なのだ。ゆえに。
「ろ、ろぼー!」
「ろぼだー!」
 周囲の冒険者たちも調子を合わせて叫び出した。声をあわせると士気は高まっていった。

「籠城の様な防衛側は、本来外に味方がいること前提で戦うのが定石ですがそれが見込めない以上、こちらの決定打が出るまでは、戦力が極端に減るのは危ないロボ!」
 発言に仲間たちは頷くしかない。
 このミレナリィドールがどんな経歴を持ち、なぜこのような設計をされたのかは不明であったが、面白い語尾とは裏腹に内容は実に真っ当で有能なのだった。

 ネメシスはユーベルコードを展開する。
「ドローン展開! ロボ」
 『スチームレギオン』が発動し、小型の戦闘用蒸気機械兵器が90体ずらりと召喚されて並んだ。
「小型で、耐久性に難があるロボ」
 ネメシスはドローンたちの特性を仲間に説明する。
「一撃を防ぐ盾にはなれるロボ」
 紅い瞳が微笑めば、笑顔は整った容貌ゆえに満開の花が咲いたような印象を齎した。
 ライトニングスピアを構えて戦場に立ち、味方を援護する姿は戦乙女にも似て周囲の戦友たちの心をなにより鼓舞する。

「俺たちには戦乙女がついてるぜ! ……ロボだ!」
 中年の戦士が高らかに吠え、突撃していった。戦士たちは次々とその後に続く。
「おう! ロボだぜ!」
「いくぜロボ!」
 彼らの語尾はしばらく治らなかったという。

●銃声、歓声
「ふううむ! 哀しい声じゃああ!」
「爺さん、あんた意外とヘタレだね!」
 ドワーフが胸を掻きむしるようにしながら涙を流して苦しんでいた。バーバリアンの女が自身も苦しそうにしながらドワーフを足蹴にする。
「しっかりしなよ!」

 アアアァァア!!

 キィイイイイ……

 妖精が叫んでいる。意味を為さない叫びが衝撃の波となり物理的に人々を襲う。その悲痛な響きを聴く者は心を揺らさずにいられない。冒険者たちは衝撃波に吹き飛ばされ、苦戦していた。
 だが。

「あれが崩壊妖精なのかな?」
 マイペースな声がした。ニトロ・トリニィ(楽観的な自称旅人・f07375)の声を聞き、周囲の冒険者が安心したような顔をする。彼らは防衛準備を共にし、ニトロの人となりを知っていたのだ。
 傷を負っていた者も心をいためていた者も一様に、泰然と佇むニトロの姿により鼓舞され立ち上がった。

「あんたが来てくれたか、頼もしい」
「どっかの爺さんとは違ってね」
 冒険者たちに余裕が出ていた。それを知りニトロは軽く笑む。そして、その笑みが更に冒険者たちを安堵させるのであった。

「あの妖精達は、精神攻撃や声による攻撃が得意なようだね」
 青い瞳は敵を見つめていた。助けられるなら助けたい。そんな気持ちはあった。だが、それは叶わないと分かっていた。

(声による攻撃に精神攻撃か。周囲の人含めて防ぐのはちょっと厳しそうだな)
 ニトロは周囲を気遣い表情は崩さず――だが内心で眉を顰め――念動力を操る。空気の振動を抑えるようにと揮われた力は。
(ちょっと範囲が広すぎるかな?)
 空気の振動を巡る常人には知り得ぬ静かな攻防。勝利したのはニトロだった。叫びが抑えられて冒険者たちが調子付く。

「今だ! 恐れるな!」
 前線を押していく防衛チーム。ニトロもまた軽機関銃【rose】を素早く放ち、仲間たちを援護した。不思議な力を有する機関銃は決して弾切れすることはない。
 鋭い銃声が朝の町に響く。戦場の空気を跳ね返すような音は、念動力が途切れて再び叫びを放とうとしていた妖精たちに雨の如く降り注いだ。衝撃は重い。悲鳴をあげて敵が地に斃れていく。
 味方からは歓声が沸く。

「いいぞ! 押せ、倒せるぞ!」
 冒険者たちが意気揚々と駆けていく。バーバリアンとドワーフが同時に斧を揮い、バサバサと敵を狩っていく。

 ゆっくりと歩むニトロの足元に妖精の死骸があった。

「助けれるのならそうしたいけど……自分の事で精一杯だし……可哀想って思ったら、君達の思う壺なんだよね?
 ……骸の海で眠る事が君達の救いになる事を願っているよ」

 静かな言葉は風に攫われ、町の上空を漂う白雲に吸い込まれて行くようだった。

●美味なるバリア
 クレリックの青年が必死の形相で仲間たちに癒しの力を送っている。
「なのに、この叫びは広すぎて、……痛すぎて」
 哀しみと苦痛が混ざる声。

 アアアアアアア……

 ァァアアアァ……

 ビスマス・テルマール(通りすがりのなめろう猟兵・f02021)は戦場にいた。風がふわりと吹き抜け、朝の冷たい空気に人々は身を震わせた。
 否。
 身を震わせるのは、冷たさがゆえではない。

 見守る視界の中、敵は崩れた。誰も何もしていないのに、その身体が崩れて落ちる。動かなくなる。
 ビスマスの静謐な湖のような瞳が敵を見る。手には、武器がある。

 思い出すのはひとつの言葉だろうか。

 『崩壊妖精は、何故自分がこんな目にあっているのか、と悲鳴のように問い続け、問いへの答えを得られなかった妖精は死後も苦しみ続けると言われています』

 耳を劈く悲鳴に向かってビスマスは駆けた。鎧装にカードを挿入。能力は防御を重視し。
(魔導師に拉致られ改造されて、オブリビオンになって未だに苦しんでいる)

 間合いに妖精がいる。痛い、悲しいと啼いている。
 救う方法は無い。

「魔導師が、貴方たちを拉致して改造しました」
 ビスマスは答えを捧げた。
「貴方たちは、過去。わたしに出来る事は骸の海に還すだけ。
 ……せめて成るべく苦しめずにっ!」
 バリアが広げられた。真空属性が付与されたそれは、防音効果のある柔らかな防護膜となり味方を護る。

 ビスマスの全身鎧に装備されたマゼンタのディメイション・なめろうブレイカーが誘導弾を放つ。
 視界の先で一斉に火花が閃く。それは、浄化の力を持っていた。

「すごい、妖精がどんどん浄化されていくぞ」 
 駆ける勇姿に冒険者たちがついていく。クレリックもまた聖印を握り、ビスマスについていく。その瞳には強い尊敬の念が宿り。

「ん?」
 1人が何かに気付いたようだった。
「どうした」
「このバリア、美味いぞ」
「……なんだって」
 彼らを護っているバリアは孫茶だった。

「なめろうの力です」
 ビスマスが叫ぶ。青魚の三枚おろしを捌き、上に味付けとして味噌や酒、ネギ、シソ、ショウガ、ミョウガなどを乗せ、まな板の上などで包丁を使い粘り気が出るまで細かく叩いたもの。それが、彼らを守っていた。

「そ、それが……戦う力になるのか」
 冒険者たちは、脳筋だった。彼らは力こそパワーを合言葉に剣や斧を振り、武の高みを目指していた。そんな彼らにとってビスマスの戦い方はまさに天地がひっくり返るようなインパクトをもたらした。

「なめろうって、すごい」
 彼らはこの戦いをきっかけとして、なめろう信者となったのだった。
「終わったら普通に食わせてくれ!」
 信者からはそんな声が出る。
「もちろんですっ!」
 ビスマスが請け負えば、士気がぐんとあがった。

「うおおお! なめろうのために!」
「勝つぞ!」
 なめろうは強かった。

●祈り
(あの村は塔が見せた幻だったの?
 でも皆楽しそうに笑っていたわ。
 家族の事が大好きって、嬉しそうに女の子が……)
 サラ・カトレット(夢見る乙女・f06458)が戦場を見つめながら思いを巡らせていた。茶色の髪が風に揺れる。近くにいた冒険者パーティが視線を見合わせて護衛をするかのように周囲に陣取った。

 冒険者たちは短い間ではあったが、サラの善良な気質に触れて庇護欲をそそられていた。聞けば、住んでいた村の発展のためにお金を稼ぐべく『冒険者』になったというではないか。

「守ってやらなきゃな」
 そんなことを呟くのは年嵩の冒険者だ。

 純粋に見た目が可憐で、若く、年長者たちの庇護欲をそそるというのもあったが、いかにも善良な人々に囲まれて育ったという風情の少女は真っ白な雪のようだった。
 踏み荒らされてはいけない、そのままでいてほしい、そんな気持ちを大人たちに覚えさせるのだ。

 妖精の群れが彼らに痛々しい姿をさらけ出す。数人がその姿に哀れみを抱き、崩壊妖精から放たれた強烈な痛みの思念を受けて悲鳴をあげた。
 サラは憐憫の情に囚われぬ様に気を引き締め、息を吸う。身を襲う哀れみ、痛みを振り切るように喉をふるわせ、歌うのは友愛の歌だ。

 少女の透き通る高音が朝の空に染み入るように伸びた。そよ風が吹くがごとく、戦場に歌が響く。妖精の痛みに心を動かされていた者たちが、あたたかな春の日差しを浴びたかのようにホッと息をつく。心が安らぐ歌声は、満ちる潮のように、あるいは引く潮のように旋律の波を広げていく。
「ああ、……あったかい」
 痛みから解放された者が呟くのは、そんな言葉であった。

 サラはただ守られるだけの可憐な少女ではなかった。敵と戦う覚悟があり、味方を護る意思を持ち、自身の心を制する強さをもつ、実力のある『猟兵』なのだ。
「どうか無茶はしないで下さいね?」
 やわらかな声を耳にし、冒険者たちは気付いた。

 自分たちは守っているのではない。
 少女に守ってもらっているのだ。

 視線の先でサラは膝をついている男の前に身を躍らせて杖を揮う。杖の先が放電していた。魔力が籠められているのだ。
「大丈夫。私がついています」
 サラの杖が妖精を打ち落としていく。微笑みは春の到来を告げる妖精のようでもあり、人々を勝利に導く女神のようでもあった。

 やがて周囲が落ち着くと、サラは周辺の妖精たちへと祈りを捧げた
「せめてこれ以上苦しみに囚われない様、どうか、安らかに……」
 祈りに応じるかのように風はふわりと舞い、その髪を揺らした。

 その光景がまるで神話の中の出来事であるかのように神聖に思え、人々もまた胸の前で手を組んで祈りを捧げるのであった。

●痛み
「……来ましたか……」
 明智・珠稀(和吸血鬼、妖刀添え・f00992)が妖精の群れを前に妖刀に手を伸ばす。

 無数の小さな亀裂が全身に走っている妖精の姿は、妖精の村で共に絵を描いた妖精の姿とどうしようもなく重なる。

 声にならない叫びと嘆きをあげながら妖精が壊れている。壊れていく。事前に与えられた情報を思い出す。
 『暴走が始まれば自然と身体の崩壊も始まるので害は少ないと言われています』
 放置していても、彼らは死ぬのだ。

 端麗な容貌が苦痛に揺れた。
「――ッ……ア……」

 哀れみの感情を介して妖精の痛みがその身を苛む。体が崩壊するような激しい痛みが。

 痛い。

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。

(これが、貴方達の痛み……!)
 苦痛に耐えながら紫水晶の瞳は強い意思の色を宿し、『敵』を睨んだ。鯉口を切り。

 ――アアアアアアア!!

 妖精は叫びをあげながら突進していくる。
「斬らせて、いただきます」
 視線は真っ直ぐに、珠稀は告げた。
 頬を伝う汗が雫となり地面を濡らす。胸の鼓動は早鐘を撃ち続けている。体が崩壊するような激しい痛み。
 けれど、手は動いた。妖刀は振り抜かれた。

 ――この町を守るため

 しかしそれ以上に

 妖精の皆様を痛みから解放するため――

 剣刃は一切を蹂躙する暴風となり『敵』を襲う。斬った感触は手に残る。悲鳴が耳を劈く。倒れた死骸が踏み込む足に触れ。
 思いに押されるように速度をあげ、冴えを増す刀が旋風がごとく敵を斬り刻んでいく。
 
「今の私に出来ることは、安らかな眠りについていただくだけです……!」
 痛みが一瞬で終わるように。
 心がけるのは一撃必殺。

 ユーベルコードを発動させれば無数の青い薔薇が乱れ舞う。武器が姿を変じた華麗な薔薇の花弁が敵に触れると一瞬で敵は息絶えていく。

(出来る事ならば、元凶となった魔術師に制裁を加えたい)
 思うのはそんなことだった。
 けれど、クルケガに残っていた仲間と情報を照らし合わせればそれは過去に滅ぼされた存在である可能性が高かった。その存在が『今』に染み出ているのかどうかもわからない。
 少なくとも見える範囲には、いない。
 それが、悔しい。

「犠牲者だけが死んでいき、元凶に刃が届かない戦いなど」
 呻くような言葉は風に攫われて消えていく。

●透き通る大剣
 遠くから風に乗り、味方の歌が聴こえる。

「サラさんの歌だ」
 それは、とても温かく。勇気を湧き起こしてくれる。

 透明な空気はきりりと冷たい。空の向こう、遠く彼方には竜の犇めく大陸があるのだろう。彼らの戦いはまだ始まったばかりであった。否――始まってもいないのかもしれない。

 宮落・ライア(英雄こそが守り手!(志望)・f05053)はそこにいた。その姿は真の姿へと変貌している。初雪のような穢れのない透き通る肌。白いマントがふわりと風を孕んで広がった。背ではさらりと解いた白絹の髪も揺らめいている。
 透き通る大剣が抜かれる。真っ直ぐに少女が構えると、陽光が宝石のように乱反射した。

 妖精たちの放つ叫びにより衝撃を受けていた冒険者を庇うように立ち、ライアは敵の群れと対峙する。剣を構える美しき少女の姿は現実離れした幻想的な光景で、人々は目を奪われた。

「……………」
 妖精の群れに向かい、ライアは口を開く。
「不思議なこともあるし分からないこともある。
 けれど、ボクはヒーローだから殺させるわけには行かないんだ」

 赤の瞳は血のように鮮やかで、けれど優しい印象を与える。
「命を守るためにも。その死が安寧に至った時に、罪業がキミ達の眠りを妨げさせない為にも。キミ達を倒すよ」
 凛として澄み渡る少女の声は人々の耳に響き渡る。

 風が鳴った。

 少女は、すでに動いていた。淀むことのない清流を思わせる剣の軌跡は覚悟を伴い、全力で振るわれていた。小柄な体が螺旋を描き、動きにあわせて髪が舞う。

 それは極撃への序曲。

 大剣から星の光が溢れ、星の光の奔流が妖精を飲み込む。名を、『森羅万象断』。裂帛の気と共に放たれた横薙ぎが戦場を支配した。

 現すは流星。
 体現せしは一切を蹂躙する純粋な力。

 全ての者が目を奪われた。

「存分に憎め、存分に恨め。お前らが痛いのも苦しいのもヒーローが、ボクが居なかったからだ」

 ライアは答えを捧げた。
 捧げながら、斬った。

「だから存分ににボクを呪え。受け止めてあげるから」

 妖精たちはくしゃりと潰れ、物言わぬ塊となる。地に斃れ伏し――叫びが止まる。痛みも苦しみも、何もかもがその瞬間に終わったのだ。

「過去から滲み出したもの……。その滲み出した物がいつの物なのかは分からないし、同時に現れることもある……か」
 ライアは考える。
 この妖精たちは、いつのものだったのか。

 仲間と共有した情報を思い出す。
「ボクが登った塔は、かつて勇者が登った塔だったんだろうか」
 町で歌われていた英雄伝では、勇者は夜に導かれて塔を登り、塔を破壊した。そして聖女を仲間にした。

「魔導師を倒したのは本当に勇者だったんだろうか。
 聖女の壺に入り、あの子もまた勇者たちと一緒に群竜大陸に渡ったんだろうか」

 かつてあの塔の頂上で勇者は魔導師は戦ったのだろうか?

 伝説は人が語るものであった。
 人が語るものは、必ずしも真実ではない。
 ライアはそれを知っていた。

●勇気
 キアラン・カーター(麗らかなる賛歌・f15716)は冒険者パーティの援護をすべく戦場で歌を歌っていた。

 襲い掛かろうと飛んできた妖精の全身が自壊して目の前で地に落ちる。もがくように身を震わせ、1体、また1体と。
 その姿には村の妖精が重なって見えてしまう。

 昼下がり、太陽の下で共に絵を描き、
 夜、つぼみに腰かけて憂いていた。
 ちいさな生命。

 胸が詰まる。
 キアランは深く息を吸う。香るのは血の匂いだ。朝のひんやりとした空気の中を人々は戦い、傷つき。敵は死んでいく。

 ――ああ、主よ、どうか我らをお導きください。

 仰ぎ見る空は無慈悲なまでに冷たく、遠い。だが、幼少より神の子と呼ばれた青年の声には奇跡が宿った。その歌声に世界は従い、時には天変地異をも発生させる――神秘の歌い手、シンフォニアの清浄なる歌唱が戦場に響き渡る。

 周囲の冒険者たち、そして猟兵たちが歌の加護を受けて奮い立つ。『勇気の賛歌』は玲瓏と紡がれて聴く者全てに立ち向かう勇気を贈った。

 視界の果てまで、人々が勇猛に戦っている光景が続いている。

(でも、一番勇気が必要なのは僕かもしれない。僕には崩壊妖精たちをこの手に掛けることは、きっとできない)

 思うのはそんなことだった。

(だからみんなの背に隠れて、他人任せで……卑怯って思われるかな。
 本当に強い人は、勇者はこんな時どうするのかな)
 キアランのやわらかな髪が風に揺れる。妖精たちが啼いている。心が伝わる。痛みが伝わる。

「っ……う」
 歌が一瞬途切れ、身を掻き抱くようにして青年は刹那震えた。感情と共に襲ったそれは、

 ――身が崩壊するが如き激痛。

 痛い。

 痛い。
 痛い。

 哀しく、痛い。

 膝を付き、喘ぐ。目に入るのは地に倒れた妖精の残骸。幾つも、幾つも。

 ハッとした様子で冒険者たちがキアランを守ろうと壁となる。
「大丈夫……」
 息を整えぬままに一節ひねりだせば、歌はすんなりと空に伸びた。息を吸い、また一節を歌う。謳う。
 ゆっくりと立ち上がる。

 歌が伸びやかに空に昇る。
 運ぶのは戦場を吹き抜ける風だ。

(僕は歌い続けるんだ。仲間のために。自分のために)
 キアランは歌い続けた。心を研ぎ澄まし、懸命に歌えば奇跡が奮われる。戦場の果ての果てまで届けんと、歌は高く低く空気を震わせるのだった。

●守るための戦い
 なぜ痛い思いをさせるのか
 私が悪かったのか
 助けてくれないのか

 嘆きが波のように押し寄せていた。そして、波の向こう側から風は仲間の歌を届けてくれている。歌は戦場の隅々に勇気を届けていた。

 月凪・ハルマ(天津甕星・f05346)は全てを見切り、押し寄せる波を躱した。残像を波が通り過ぎていく。姿は真の姿に変貌していた。
 真白の長い髪が虚空に流れる。瞳は金色に色彩を変えている。避けながら鋭く放つのは忍者手裏剣だ。五方手裏剣が風を切り高い空へ飛べば冒険者たちを頭上から狙っていた妖精が地に落ちた。

 トンファー型のガジェット、魔導蒸気式旋棍を両手に構え、順に繰り出す。鋭い打線が走った。長い柄の先が妖精に衝撃を与える。青い肌が砕かれ、肌の身の内に根を張っていた結晶が砕けて妖精が地に落ちる。ハルマは手首を返してくるりと棍を回転しする。狂ったように突進してきた妖精を上段受けし、流れるように打ち落とす姿に周囲の冒険者たちが言葉すら忘れたように釘付けになっている。

「そっちの境遇に何も思わないわけじゃない……が、それで無関係な人達を襲うのは、やっぱ違うだろ」
 金の瞳が眇められる。

「皆、出番だ」
 声をかければ魔導機械式のゴーレムが一斉に砲撃を開始する。事前に召喚しておいた『魔導機兵連隊』は28体。全てが砲撃戦仕様に改造されていた。
 ハルマは高度にいる敵を狙うように指示を出す。ゴーレムたちは妖精たちがどんなに感情を揺らがす叫びや嘆きを放っても全く動じることなく淡々と役目を果たしていた。それを見越しての運用である。

 砲撃の音が轟く。

 風に旗が揺れていた。クルケガの民が掲げた旗だ。

「砲撃に続け!」
 冒険者たちが喊声を発して突撃する。
「俺たちの町を守るんだ!」

 そんな冒険者たちの戦う姿は、ハルマがただの武器だった頃に戦っていた使い手を思い出させる。

 使い手は、誰かを守ろうと戦っていた。
 敵の攻撃が主を傷つけ、主はハルマの身を支えにして辛うじて立ち上がり――再び地に倒れ。

 ――俺は戦える! この人と一緒に!

 その時、ただの武器である彼は動くことができなかった。主の手から零れ落ち、ハルマは地面へと転がった。そして、主が敵に蹂躙されるのをただ、見ていたのだった。

 意識は現実へと引き戻される。1人の冒険者の背に妖精が迫っていた。ハルマは無造作に三方手裏剣を投げる。妖精が地に落ちた。
「ありがとう、助かったぜ!」
 冒険者が笑顔で礼を言う。隙だらけの背に別の妖精が迫る。ハルマは無言で駆け寄り棍で妖精を打ち落とした。
「ああ、すまねえ。もっと気を付けねえとな」
 冒険者は決まり悪そうに言って戦いに集中するように気を引き締めた。

 ゴーレムたちの砲撃が続いていた。冒険者たちが戦っている。
「まあ、背中は護ってやるよ」
 ハルマは呟いた。

 足は地を蹴り、駆けることができる。
 手は伸ばすことができる。
 声をかけることができる。
 共に戦う力がある。

「ああ、頼りにしてるぜ」
 冒険者が背を向けて走る。背を守るようにしながらハルマは冒険者と共に走り、戦った。

●殲滅
(あの村は滲み出た過去だったのでしょうか。
 当時の彼らも美味しい料理に舌鼓を打ち、美しい音楽を愛でたのでしょうか)
 空が少しずつ明るさを増していく中、トリテレイア・ゼロナイン(紛い物の機械騎士・f04141)は戦場にいた。悼むように額当と面頬の間に常は輝く緑のセンサー光を消して闇に閉ざし、騎士は沈黙していた。

「……哀れな崩壊妖精達にクルケガを襲わせるわけには参りません」
 再び光が宿り、発せられた声には決意があった。

 跨るのは巨大な白馬だ。名は騎士物語の主人公が乗る馬の名に似て。
「ロシナンテⅡ」
 声をかけても応えはない。それは、機械の馬だからだ。

 眼前の妖精たちは元は妖精なのだという。だが、その姿はもはや余りに歪。改造され、合成され、全身隈なく手を加えられ――それらは、過去から染み出た者たち。過去に実在した者たち。妖精の同胞たちを襲い、死んでいったであろう者たち――、
「ああ、」
 だから、警戒されたのだろうか、と振り返る。彼らには『改造され変わり果てた同胞』と『同胞を模して造られた機械』が似た種類のモノに思えたのかも知れない。

 騎士には妖精がつきものだと思った。
 騎士には白い馬がつきものだと思った。
 ウォーマシンは、騎士たらんと振舞っていた。彼が目指しているのは御伽噺に出て来るような『騎士』であった。そして、己が『本物』とは違うのだという意識をこんな時に浮上させるのであった。

 ォォォオオオオオオオオオオ……
 妖精たちは啼いている。
 造り物の馬は、跳んだ。
「あああああああああッ!!」
 啼き声に応えるかのように、槍は振るわれた。

 圧倒するように鋼の胴が敵を轢き、数体巻き込んで着地すれば地面にぐしゃりと何かが潰れる音がした。狂乱し飛び廻る小さな影へと只管に槍を揮えば軽い感触と共に敵は落ちていく。それは、小さな羽虫を払うがごとく。

 突進。
「う、うう……」
 呻き声を漏らして膝を付く姿が目に入る。
 見覚えのある顔だった。テランテ出身の冒険者だ。

「――顔をあげよ! 剣を掲げよ! 駆けよ! 駆けよ! 女神テランテよ、照覧あれ!」
 トリテレイアは冒険者の前に立ち塞がり、襲い来る妖精を薙ぎ払う。妖精の嘆きに応え、答え。声を捧げる。
「貴方達に咎は無し。苦しむ時間はもう終わっているのです」

 その姿はテランテ出身の冒険者にとって、幼い頃から聞いてきた伝説の勇者の再来のように映った。そして、冒険者へと勇気を齎した。冒険者は故郷の村の名のもとにもなっている女神の名を唱え、己を奮い立たせるように吠えながら敵へと向かっていく。トリテレイアはその勇気を護るようにしながら共闘するのであった。

●春
 日が傾きかけた頃、防衛戦は終わった。
 町には妖精の死骸が溢れ――不思議なことに、それらはゆっくりと消えていった。
「ああ、魔法素材が」
 ケットシーのウィザードがそんなことを呟いて惜しがっていた。
「まあ、報酬が出るから」
 パーティメンバーがそんなことを言って宥めていた。

「このたびはありがとうございました。
 これだけの数、我々だけでは……ましてや防衛の備えがなければ、どうなっていたことか」
 町長が深々と頭を下げる。

 猟兵たちは戦後処理を手伝い、冒険者たちと互いの健闘を称え合い、冒険者ギルドの黒き魔法陣を破壊して町を離れた。
「俺、あんたらみたいに強くなるよ!」
 駆けだし冒険者がそう言って大きく手を振り、猟兵たちの背をいつまでもいつまでも見送っていた。

 歩きながら彼らは冒険の話を共有する。
「この仕事の前に集めた情報と合わせて情報を整理してみようか」
 ハルマが言い、ネメシスが頷いた。
「報告書は把握しているロボ」
 ネメシスは淡々と情報を纏めあげた。

「時系列ごとに情報を並べるロボ。
 まず、妖精の村に妖精の壺を持つ聖女ナツィアと弟がいたロボ」

 太陽の光は燦燦と彼らの行く道を照らしていた。

「妖精の村は魔導師の塔の災厄に見舞われ、困っていた。それで、村を訪れた戦士トマスと盗賊ザインがナツィアの弟に導かれて魔導師討伐に行ったんだと思う」
 ハルマが歌を思い出しながら言葉を引き継ぐ。

「魔導師を倒して塔が壊れ、聖女は勇者一行に加わったのですね。おそらくは、壺に入った弟も。そして、一行は群竜大陸に渡り……敵竜と刺し違えて戦士が死に、聖女が呪われ」
 トリテレイアが呟いた。

「呪いにより怨霊が次々と出現して聖女の魂を喰らった、と言われているんだったね?」
 キアランが情報を思い出した。そして、首をかしげた。
「盗賊と聖女はその時はぐれていたと言われているけれど、なぜか大陸から逃れた盗賊は聖女の持ち物である『妖精の壺』を持っていた……」

「その部分は、あまり信用できないと思うんだ。だって盗賊が勇者に関して嘘をついていることが少なくてもひとつ、わかってるから」
 ハルマが首を振り、自身の知る情報を語る。
「森の向こうにあるテランテの村。そこに盗賊が辿り着いた。盗賊は赤子を抱き、瀕死だったという。そして、赤子が戦士トマスと聖女ナツィアの娘だと告げて死んだ。娘は人間だった」

 ライアが首をかしげた。
「それはおかしいよ? 戦士トマスはケットシーで、ケットシーの妻子がいたんだよ。それに聖女ナツィアはフェアリーだもんね」

 珠稀が頷いた。そして、自身の知る情報を付け足した。
「そうです、ですから盗賊は2人の子どもではない赤子を2人の子どもだと偽った可能性が高いと言えましょう。それと、気になることがあります。
 盗賊は赤子に『妖精の壺』を形見に遺しました。そして、……成長した娘には妖精が常に近くにいて、幼い娘に冒険に出るための修行をさせていたようなのですよ」

 ビスマスが不思議そうな顔をした。
「わたしたちの知らない情報ですね。……、妖精の壺と、妖精ですか。その娘さんはどうなったんですか?」

 珠稀が肩を竦めた。
「最期は花になったとか、そういう噂があるようなのですが……」

 サラが目を瞬かせた。それは、神秘的で夢のような。架空の伝説といった話であった。
「花に? とても幻想的なお話……、素敵ですね」

「森の中に花があるという噂があるんだ。そして、
 クルケガのギルドにあったのと同じ『敵を引き寄せる魔法陣』が森を挟んで、クルケガとテランテ近くの洞窟の2か所にあった」

「クルケガの魔法陣は防衛戦が終わったあと壊したから、それだと」
 ニトロが少し戸惑ったように首をかしげた。
「どうなるのかな?」
 壊さないほうがよかったのか、と問えばネメシスが首を振る。
「私たちがいなかったらあの町は今回滅んでいたと思うロボ。魔法陣を放置して今後モンスターの大軍が来た時、私たちがいるとは限らないロボ」

 トリテレイアはそっと呟いた。
「私は、テランテの近くの洞窟にあった『妖精の壺』に触れ、ナツィアの花を探している、という死霊に会いました。
 死霊は今も洞窟にいるはずです」

 ライアが目を瞬かせる。

 それはオブリビオンではないのか。
 それがいるから、この周辺の異変が加速し続けるのではないか。

 疑問への確たる答えを持つものはいない。

 だが、キアランはその時、天啓を受けたかのように、夜のつぼみに腰かけていた男の子を思い出したのであった。

 楓が琵琶をかき鳴らす。
「町は護れた。調査はひと段落。気を張ってばかりいては疲れてしまうじゃろう。今は、次の戦いに備えて気を休めることじゃ」

 彼らの前には草原が広がっていた。
 ほんの少し前まで、そこには紅葉の村があった。

 今、そこには、もはや何もない。
 季節は廻り、今は春。

 トリテレイアは秋に想いを馳せた。

 ――妖精たちのあの秋に。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2019年03月25日


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#アックス&ウィザーズ
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#群竜大陸
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#勇者
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#勇者の伝説探索


30




種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
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 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト