遠藤・修司
●MSへ
遠藤が別人格達に邪魔されたり、それをあしらったりしながら、休日をだらだら過ごすノベルをお願いします。
書く分量はどれだけでも構いません。
キリの良い書きやすい分量でお願いします。
アドリブ歓迎です。
台詞はどんどん作ってください。
細かい部分は掘戸珈琲MSにお任せします。
●あらすじ
久しぶりの休日、折角だから積んでいた本(ミステリ)を読もうとする遠藤。
読書好きが多いので、途端に脳内でわらわら集まってくる別人格達。
大半は大人しく(後ろから覗き込んでいる感覚なので邪魔は邪魔なのだが)読書をしてくれるので良いが、退屈を持て余した人格達が騒ぎ始めた。
果たして遠藤は、別人格を上手くあしらい、読書をすることができるのか?
上手くあしらえれば読書を楽しむことができますが、やる気がなくなれば全てを放り投げてふて寝をします。
結末はお任せします。
●遠藤の家
UDC組織に用意してもらったごく一般的な1DKマンションの一室。
ベッド、机、本棚、机の上のパソコンと物は少なめ。
精神的に調子が良い時はこぎれいに片付けている。
別人格の物品も置かれている(康治のラケットや春近の符、潤也の創作用資料、中学生達が動画を見る用のタブレットなど)
●人格達
基本的に人間のいる世界に、一人ずつ存在する。
呼び方は、“僕”、“
僕”、または“僕”達。
別世界の遠藤で、彼らは全員それを自覚している。
遠藤と感覚を共有しており、常に頭の中で思考しているため、騒がれると脳内が煩い。
意思疎通は口頭。体の使用許可を出さないことで黙らせることもできるが、基本的に自由に喋れる設定にしている
口頭で話せずとも感情や呼びかけは直接脳内に届くため、黙らせても煩い。
●よく出てくる人格
自分から出てきて主張をする人格です。
その他の人格は、引っ込んでいるか大人しく一緒に読書をします。
康治
『いい天気だ! 絶好の運動日和だね』
「熱中症が心配だから涼しくなってからね」
アスリートアースのスポーツドクター。運動と健康に拘りのある男。
別人格の中で最もアクティブでお節介なので、しょっちゅう出てくる。
体を貸すと勝手に運動を始め、あ●けんの女から褒められる食生活をする。
正直うっとうしい。
潤也
『へえ、この表現は興味深いね。さっきのは伏線かな(以下批評とうんちくが続く)』
「これ以上煩くしたら後書きと結末から読むよ」
サクラミラージュの小説家。皮肉屋で若干性格が悪い。
好奇心が強いので、気になる物があると出てきて批評をしたりする。
やっぱりうっとうしい。
春近
『そろそろ符を補充しないと。コンビニに行くぞ』
「プリンター買ってあげるから、後でやろうか」
アヤカシエンパイアの平安貴族の陰陽師。やや高慢だが真面目。
式神の猫と烏を貸してくれる。
康治が烏をサッカーの神と呼んだり球技を教え始めたので困惑している。
最近パソコンで符を大量生産することを覚え、コンビニで印刷しすぎて用紙切れをおこした。
常識が違う事が多いのでたまに困る。
コウタ
『ねえ、ゲームやらせてよ。ボス狩りするんだよ、だって僕って最強だし!』
「はいはい、ゲームの大会やってるみたいだから動画見たら?」
GGOの中学生。ゲームが大好きで子供っぽい。
ラテン語や英語、ドイツ語をちゃんぽんした必殺技が大好きな中二病。
僕の
神魔滅殺星光瞬覇は最強なんだよ!とか言う。
ちょっと恥ずかしい。
俊祐
『面白い心霊スポットがあるんだって。行かない?』
「ネト●リでホラー映画でも見たらいいと思うよ」
サイキックハーツの灼滅者。オカルトとホラーが大好き。
やたらと難読漢字を使いたがる系中二病。
まあまあアクティブなので廃墟巡りとかしたがる。
危険なのでやらないでほしい。
英史
『これだからゲーム脳は……少しは静かにしてられないの?』
「まあまあ……ほら、“
僕”も大人しくタブレット見てくれるって」
シルバーレインの能力者。良識的で遠藤と性格が近い。
実は銀誓館に入学する前の中学生の時に中二病(能力に目覚めた超クールで特別な僕)をやっていて、コウタと俊祐を見ると黒歴史を思い出してうわあ……となる。
特にコウタのことが気に食わないので、何かあるとすぐ突っかかる。
喧嘩さえしなければ頼りになるのに……。
窓からは陽光が差し込み、デスクを明るく照らしている。
乱雑に置かれた資料を整理、必要なものはファイルへ。ついでに部屋全体も軽く掃除しておいた。物は少ないが、意外と埃は溜まっていた。何にしてもこれで没頭できる。
本棚から目当ての本を引き抜く。グラスにパックのアイスコーヒーを注げば、氷がカランと音を立てる。
準備は整った。
「これで、よし……」
大きく伸びをして、ゆっくりと息を吐く。キャスターチェアに座り、遠藤・修司はリラックスしながら背を預けた。
今日は久々の休日。仕事から解放され、優雅な一日を過ごせる。だからといって、どこかに出かけたり人に会ったりはしない。
ただ一人、積んでいた本を読む。買ってから読もう読もうと思ってはいたが、手つかずのまま本棚に眠らせてしまった。
それなりの長編で本も物理的に厚い。世間の評判を聞くに、文量に相応しい濃密な内容に仕上がっているという。
一気読みするなら今日しかない。期待を籠めつつ、本を捲る。
今日は部屋に一人。誰にも邪魔されない、自分だけの時間を——。
『やぁ“僕”! いい天気だね! 絶好の運動日和じゃないか!』
頭の中で、やけにハキハキした自分が話しかけてきた。
「……忘れてた」
出鼻を挫かれ、修司は顔をしかめた。
自分の頭に棲む、異なる世界の自分たち。正確には別世界の自分と思考や感覚を共有しており、言葉が常に流れ込んでくる状態だ。まぁ、それ自体に危険はない。不思議なことに。
問題があるとすれば——とにかく、うるさい。
『運動とまではいかなくても、外に出るのは大切だよ? さぁ、一緒に散歩に行こう!』
「“
僕”……それ、涼しくなってからでいいかな。熱中症が心配だから」
『なるほど、それもそうだ! じゃ、またあとで!』
それきり声は途切れた。アスリートアースでスポーツドクターをしている自分は、やたらこちらを健康にしようとしてくる。うっとうしくて仕方ない。
ため息をついた。頭の奥にまだまだ気配を感じる。
久々の読書となって、人格たちが集まってきたのか?
『そうやって、人を虫みたいに言わないんでほしいんだけどなぁ』
「……“
僕”こそ、勝手に心を読まないでくれる?」
嫌味ったらしく言うのはサクラミラージュの自分。作家らしいが、性格の悪さが職業に由来していないことを願う。
『はいはい。でも、他の“僕”も別世界の書物に興味があるみたいだよ?』
『昨日からその本のことばっかり考えてたし、相当面白いんでしょ? それで、何小説なの? バトル系なら先に読みたい!』
『あの厚さからしてラノベじゃないから“
僕”はやめとけって。で、表紙の雰囲気からして魔術絡みの本と見た!』
「違うよ、“
僕”……でも、それほど遠くもないかな」
立て続けに騒ぎ出した少年二人——ゴッド・ゲーム・オンラインのゲーマーとサイキックハーツの灼滅者をあしらってから、簡単に説明を付け足す。
「この本はミステリ。長年活躍してきた作家の新作なんだ。妖怪の伝承と殺人事件を絡ませて、探偵が真相を解明するシリーズで——」
『今、妖と言ったか?』
しまった、と額に手を当てるがもう遅い。頭の中の気配がもう一つ増えた。
『なら、その本の事件も妖のせいだ。これで事件は解決。符が切れたからコンビニに行くぞ』
「“
僕”、コンビニ行きたさで雑に事件を解決しないで」
アヤカシエンパイアの平安貴族だ。妖という存在が日常的すぎて物語のフックにもなっていない。
『雑とはなんだ。陰陽師の見立てだぞ。その仕事道具が切れたことの方が事件だろう』
「それはプリンターを買ってあげるから」
『コンビニに行くんだね! じゃあいつもより遠回りなコースを選んでみよう!』
「まだ決まってないよ、“
僕”」
人格たちが顔を出した途端にこれだ。優雅な一日はどこにいった。
何とか収拾をつけようとする中で、鋭い声が響いた。
『“僕”たち、その辺にしておこう。結局、本が読めてない』
「“
僕”……ありがとう。とりあえず読み進められそうだ」
『いいよ。僕も内容が気になるからね』
場を制したのはシルバーレインの能力者の自分だ。人格たちの中で一番性格が近い。振り回されていたのを見て出てきたのだろう。
ひとまず、これでようやく本が読める。
「先が思いやられるな……」
展開の話だよ、と人格たちへ誤魔化して、修司はページを捲っていった。
旅先で出会う不気味な住人。村に残されし怪異の言い伝え。
そして起こった、この世のものとは思えない怪事件。
全編、おどろおどろしい表現に包まれている。文字の列が異様な何かの実在を感じさせるほど、情報がこちらに肉薄してくる。
たしかに、これは面白い。普段その類いと対峙する立場からしても、真に迫った描写だといえた。探偵が謎をどう切り崩すかを含めて、目が離せない。
だが、その面白さを真正面から受け止めようとしない捻くれ者もいる。
『へえ、この表現は興味深い。古典文学からの引用、それもマイナーもいいところの。やはり、作者は既存の文学作品に対する知識と敬意に満ちているね』
ときおり、潤也が出てきては批評とうんちくを披露してくる。知識がないので助かる面もあったが、流石に喧しさが勝ってきた。
『さっきのは伏線かな。背景の描写にしては緻密だ。先の描写に人間心理を重ね、構成として密度を高める……単純娯楽以上の美があるよ』
「これ以上うるさくしたら後書きと結末から読むよ」
『おおっと、そうなったら台無しだ。でも、それは“
僕”もだろ?』
くくっと笑う声がした。
返しに困っていると、今度は春近が問いかけてくる。
『なあ、“
僕”……この話は妖が一枚噛んでいるんだろ?』
「うん、そうだけど……最終的にやったのは、人間だと思うよ」
『僕からすると、むしろ人間がこの事件を起こしたというのが信じ難いんだけど。陰陽術が使えたとして、ここまで凄惨な現場は生まれない』
また価値観の差が出た。
「えっと……それは妖怪の仕業にして、罪を逃れるためというか」
『妖がいるなら総出を挙げて退治にかかるべきだ。なぜ住人たちはほとんど落ち着いているんだ?』
「こっちじゃそういうのはいないからね。表向きには」
『妖がいないのにわざわざ妖を存在させるのか。殺伐としているな』
『そうだね! 僕もここまで殺伐とした話は久々に読んだよ!』
平行線の続く会話に、康治も割り込んできた。
『物語の中で人が死ぬなんて……でも、不思議だね。謎が謎になってないのにミステリなんだ』
「そうかな? ミステリとしては本格的だと思うけど……」
『ほら、例えば最初の殺人。物見やぐらの上にいた人が、持ち込めない大きさの槍で貫かれた事件』
「言ってる通りの謎があるじゃないか」
『これって謎かな? 外から投げればいいだけの話だよ? 槍をそんな風に使うなんて残酷すぎるけど』
これも価値観の差だ。主にフィジカル方面の。
しれっと康治の言葉を受け流し、修司は読書に戻った。世界が違えば常識も違ってくる。自分が向こうの本を読めば内容に違和感を覚えるのかもしれない。
なんだかんだ、大人の人格は読書に付き合ってくれている。約束を取り付けたのも大きいだろうが、各自で楽しんでいるようだ。あとは口さえ挟まないでくれればいい。
となれば、残るは——。
『あっ、今の漢字って何? めちゃくちゃ字面カッコいい!』
『“
伽藍堂”、何もないって意味だよ。いいよな……伽藍堂』
『たしかに……次に魔法スキル作るんなら伽藍堂って入れようかな』
『いいなそれ! 伽藍堂って書いて“フィクションルーム”って読もう!』
『うん! そうする!』
完全に読書に飽きている少年二人。
コウタは序盤で振り落とされ、こっちの世界のゲームをやるように騒ぎ始めた。俊祐もホラー好きが幸いしてついてきていたが、少し前からオカルト系の脱線した話を振ってくるようになった。流石は現代っ子。派手な展開がないと追いかけてこない。
その二人が合流し、本に出てくる難読漢字が読めるかを試しては必殺技に組み込む遊びをしている。コウタが俊祐からかなり悪い影響を受けているような気がしてならない。
ただ、これも二人が勝手にやっているだけのこと。可愛げがあるともいえるし、これが何かの火種にさえならなければ——。
『……やめてくれないかな、そういうの』
なった。
英史がコウタと俊祐を睨む、険悪もいいところな情景が頭の中に反映される。
『この際だから言うけど、そういうの恥ずかしいよ。だいたい伽藍堂って珍しい言葉じゃないし』
『おいおい、その言い方はないだろ? 僕も“
僕”もカッコいいと思ったものを貫いてるだけだぞ!』
『ははーん、さては悔しいんだ! 僕がこれ以上強そうな技を覚えて特別になってくのが!』
『特別、か。そんなもの、ないのに』
『はぁ!?』
『そもそも、飽きたなら黙っててよ。それで“
僕”が迷惑するんだよ』
「今回に限っては“
僕”もうるさいんだけど……?」
指摘するが、白熱する言い争いに修司の声は届かない。
とうとう喧嘩が起きた。中二病ネーミングが原因で。こんなの防ぎようがない。
声量は進行形で大きくなり、頭の中を掻き回し続ける。しばらくは耐えて本を読んでいたが、文字が右から左へ抜けていくようになった。
もはや読書どころではない。
「もう……いいや」
本を手放し、椅子から立ち上がる。ベッドに倒れると、掛け布団を被ってそのまま丸くなる。
全力のふて寝を、修司は決行した。
『ねえ? 散歩は?』
『コンビニはどうした?』
「今は寝かせて……お願いだから」
すべてを無視し、目を瞑る。脳内ではまだ言い争いの声が聞こえていた。
修司の貴重な休日は、そうして過ぎていったという。
成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴