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カクテルは勝負のあとに

#サイバーザナドゥ #ノベル #猟兵達の夏休み2024

燮樹・メルト



クロア・ルースフェル




 骸の雨が降りしきるサイバーザナドゥは、ネオンの輝きがいつだって眩しい。娯楽施設の集まった歓楽街では、いっそう派手に視界を彩っていた。
「やふー! 今日はクロアさんと一緒にダーツバーにチャレンジでーす!」
 燮樹・メルトが配信者モードでカメラへと向けて紹介すれば、クロア・ルースフェルが不敵に笑む。
「ふふ、このわたしの美しさに敵うとお思いですか? ビギナーズラックでお相手しましょう」
「って! セクシーポーズ映えすぎー!」
 自分の魅力を知り尽くした青年に口をとがらせるも、ふふん、と少女はどこかどや顔。
「いいもん、その分メルには、古代兵器投擲チャレンジで培った技があるし!」
 謎の配信者アピールによって、自らのハードルを無意識に上げているのに気づいていない。つかみの名乗り対決はおあいこだ。

 カメラが映すのは、二人のファッション。クロアの特注した流麗な白の衣装は、彼の形のよい肩とぽんぽんを見せつける。
「ひぇ……眩しい……!」
 メルトも共演者に負けないように、ちょっぴりオトナなブラックのナイトドレスで決めてみたものの、彼の存在感が煌めいていて、テンションが勝手に爆上がり。
「おや、わたしは美しいものを愛でる美形ですよ。メルトもいつもの白衣とは見違えて、またステキですねぇ」
「そ、そうかな?」
 にへ、と笑みをこぼしてから、メルトはそれじゃあ、とダーツボードを指さす。いよいよ三本勝負が始まった。
「先攻はクロアさんでいいよ」
「自信があるようですね、いいでしょう」
 一投目、一見ごく普通のセットアップに見えるけれど、指先までもうつくしい所作で一気にダーツはリリースされる。
「ビューティー・スロー!」
 掛け声とともに投げられたダーツは、シングル十八点。初めてにしては上出来な得点よりも、周囲の客は彼のうつくしい投げ方に目を惹かれたようだった。
「なにその必殺技! 真面目にやって勝ったらメルがおもんないやつじゃん!」
 メルトも負けじとくるんと一回転すれば、ナイトドレスの裾がひらりと揺れる。
「美しさには毒を――」
 自分でも何を言っているのかよくわかっていない必殺技と共に投げられたそれは、シングル十三点。回転が無駄だったかもしれない、と顔をちいさくしかめた。
 まずは一勝を奪ったクロアが、二投目を飛ばす。ダーツそのものが凄まじい風を伴ったかのように見えた。
「サイクロン・ビューティー!」
 見えただけで、それはごくごく普通の投擲。結果はダブル二十四点。なかなかやる、とライバルのビギナーズラックに怯むことなく、メルトも二投目を投げた。
「棘の先に美しさを捉えて――!」
 タイミングよく軌道が変わったのか、それはトリプル四十二点。ヒロインの登場に、おお、と周囲の客から拍手が沸き起こる。
「素晴らしい、流石ですね」
「これで一対一だね。勝負は次にかかってる……!」
 クロアはふわさ、と横髪を耳にかける。本気だ、とメルトが直感したと同時、彼のきらきらとしたオーラがいっそう溢れた。
「必殺! 投げキッス&ダーツ!」
 カメラへ飛ばされた投げキッスは、きっと視聴者を骨抜きに。投げられたダーツは、まさかのブル。
「え、えぇー!?」
「さぁメルト、わたしに勝てますか?」
 あいつ本当に初心者か? なんて周囲のざわめきだけど、メルトだって最後まであきらめない。
「全世界のメル友達、力を貸して……!」
 祈った彼女の投げたダーツの刺さった先は――。

 激闘を終えた二人は、バーのカウンターに座っていた。
「ふふ、まさかメルトもブルとはね」
「ドレスで転びそうになったのが、逆にうまくいったかも?」
 互いの健闘をたたえながら、メニューを見つめる。ふと思いついたように、クロアが笑む。
「せっかくなら送り合ってみるっていかが?」
「あ、それ楽しそう」
 バーテンダーがしゅっと互いの手元にグラスを流して、あちらのお客様から、と告げる。メルトにはモクテルのピンクローズソーダ、メルトにはピニャコラーダを。
「クロアさん、ホワイト系が似合うかなって! あ、メ、メルはお酒詳しくないし! でも、名前かわいいよね!」
 本当はカクテル言葉も調べてはいるのだけれど。それは黙っておくことにする。
「ホント、名前カワイイ~」
 にこにこと笑む青年も、“淡い思い出”からは逃げ続けている。パインとココナッツは、夏の味を感じさせていて。
「メルはキレイなおぐしが目を引きますケド、おめめがキレイだなーって思っていたのですよね」
 花言葉には言及しないものの、トッピングがローズマリーだと思ったことも一因にある。
「おぐ、髪? 綺麗、かな! どっちも褒めてもらえるとうれしいな……!」
 カクテルの彩と、ローズマリーのトッピングに綺麗に弾ける泡。いつもとは違う場所、そしてこの時間がとても愛おしく思えて。
 花言葉の意味も、どこかふわふわと曖昧に想いながら、少女は青年とのひと時を楽しんだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年09月03日


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