●その約束は呪いにも
麓の里から迷い込んだ人間を助けたのは気まぐれだった。
妖術で出してやった食い物を美味い美味いと頬張る青年。彼から向けられた感謝の念は、これまでに得てきたどんな恐れよりも暖かく己を満たした。
だからだろうか。日が朱く染まる中で、山を下る青年につい尋ねてしまったのは。
「……のう坊よ、また山に来ぬか。儂が許す。また飯をくれてやるぞ」
飛び上がるほど喜び、また明日来ると言った青年。その顔に浮かんでいたのは純粋な再会への期待だと、その事実が何だか気恥ずかしくて。
「おお、そうかそうか! うむ。また明日、じゃ」
顔が赤かったことに気付かれなければいいと、夕日の中でそう思った。
――次の日、人間は来なかった。
「何か用事があったのかものう」
――その次の日も、人間は来なかった。
「周りに止められたのかもしれぬ。だがずっとではなかろう」
――さらに次の日も、次の月も、次の年になっても人間は来なかった。
「……」
日を数えるのを止めて、どれだけ経ったかも分からなくなった頃。
目隠しをするようになった。沈む夕日を見ずに済むから。今日も来なかったと落胆せずに済むから。
「坊よ、儂はここにおるぞ。早う来ておくれ」
あれから一度も人の恐れを得ていない、けれど問題はなかった。いつの間にか傍に現れるようになった男達、その煙草の匂いを嗅げば不思議と餓えは満たされた。
ただ、時折発される言葉のようなものには耳を塞ぎたかったが。
『ときは はやく すぎる』
「うるさい」
『ひかる ほしは きえる』
「坊は来てくれる」
『たとえ だれもが のぞんでも』
「また明日と言ったのじゃ」
やがて人里が広がり、山の大半が飲み込まれても。草木豊かだった地面がアスファルトに覆われてからも。
その坂で、彼女はずっと待ち続けている。
●UDCアースの妖怪
かつてUDCアースには妖怪がいた。
時代の変化に追いやられて殆どがカクリヨファンタズムへと移り住んだが、ごく一部の妖怪はまだ地球に残っていることが分かっている。
グリモア猟兵のイデア・ファンタジア(空想の描き手・f04404)が予知したのもその一体だ。
「何百年も前にした約束を今でも守ろうとしているのよ。……相手はとっくに死んじゃってるのにね」
この件に猟兵が関わるのは、叶わない約束に縛られ続ける姿が痛々しいというのもあるが、周囲が危険だからというのも大きい。
現在のUDCアースでは妖怪は一般人には見えない存在と化している。すると当然、恐れや感謝といった人間の感情も手に入らず、妖怪は餓え続けることになる。
「どうもUDC怪物の力を取り込むことで飢えを凌いできたらしいんだけど、そのせいで正気を失いかけているの」
カクリヨでいう所の『骸魂に飲み込まれた』――全く別の存在へと変化しかけている状態だ。堕ちきってしまえばオブリビオンと化して周囲を破壊し尽くすだろう。守りたかった約束も忘れて。
「そうなる前に力づくで止めてきてちょうだい。カクリヨと同じで、一度倒せば元に戻せるはずだから」
それで少なくとも当面の危機は凌げるはず、そう言ってイデアは猟兵達を送り出したのだった。
渡来あん
初めまして、あるいはお久しぶりです、渡来あんです。
今回はUDCアースとカクリヨの合わせ技となります。
●第一章
まずは周囲のUDC怪物を一掃しましょう。
一見人間のようなグレースーツ集団ですが、まともな意思の疎通は不可能なようです。
●第二章
UDC怪物の力に呑まれた妖怪が変化した姿です。
長い年月を過ごした分極めて強力ですが、僅かに正気が残っているようです。
それでは、ご参加をお待ちしております。
第1章 集団戦
『灰色の軍勢』
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POW : ときは はやく すぎる
【腕時計】を向けた対象に、【時間の奪取による急激な疲労】でダメージを与える。命中率が高い。
SPD : ひかる ほしは きえる
【触れたものを塵に変える手のひら】による超高速かつ大威力の一撃を放つ。ただし、自身から30cm以内の対象にしか使えない。
WIZ : たとえ だれもが のぞんでも
【奪った時間を煙草に変えて吸うこと】により、レベルの二乗mまでの視認している対象を、【老化・劣化をもたらす煙】で攻撃する。
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儀水・芽亜
約束を信じ続けて数百年ですか。妖怪の尺度は普通の人間とは違いますね。
最早果たされることのない約束、叶わない夢から現実へと、その妖怪を連れ戻して差し上げましょう。
召喚したナイトメアに「騎乗」して、ナイトメアライド。
アリスランスを振るって、「騎乗突撃」「ランスチャージ」を仕掛けましょう。UDC怪物を一気に「蹂躙」して、群の中を「切り込み」突破します。
ただの歩兵相手には、騎兵突撃が最も有効ですからね。
槍を大きく振るって、「衝撃波」の「範囲攻撃」で接近してくる個体を「なぎ払い」吹き飛ばし。
あなた方に関わっている暇はありません。速やかに道を空けてもらいましょう。ご心配なく。私が駆け抜けた後が道ですから。
「約束を信じ続けて数百年ですか。妖怪の尺度は普通の人間とは違いますね」
数百年、人間なら何世代も経っている期間だ。子、孫、ひ孫……その後は何だったか。そこまで考えて儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『夢可有郷』・f35644)は首を振った。
もはや果たされない約束だ、これ以上は詮ないこと。確かに別れは悲しいものだが、いつまでも囚われ続けるのは健全ではない。
「叶わない夢から現実へと連れ戻して差し上げましょう」
敵と対峙した芽亜が感じたのは、思ったより数が多いということだった。整然と立ち並ぶ灰色の姿は、まるで小さな軍勢のよう。
それなら、歩兵には騎兵突撃が効果的だ。純白のナイトメアを召喚して騎乗した芽亜はアリスランスを構える。
「あなた方に関わっている暇はありません。速やかに道を空けてもらいましょう」
『Goodbye』
返答は攻撃だった。万物を塵に還す無数の手のひらが、ただ一人の騎兵へと殺到する。
迫る物量を前に芽亜は微笑む。
「ご心配なく、私が駆け抜けた後が道ですから。はあっ!」
主人の合図と共に、白馬が嘶いて軽快に駆け出す。それはすぐに最高速度へと達して敵陣の中へ切り込んでいく。
芽亜が構えたアリスランス、『ディヴァイン・ユニコーン』。鴇色のそれは名前の通り、一角獣の角のごとき役割を果たす。
乗騎の蹄が敵を蹴散らし、一糸乱れなかった隊列に綻びを生み出す。槍の穂先が切り裂いた空気の壁が、衝撃波となって空隙を広げる。
駆け抜けた道に鴇色の光が尾を引いた。それはまるで戦場に現れた一筋の流星だ。
星を握りつぶす魔の手でも、流れ星は掴めない。
「さあ、次に《悪夢》の蹄にかかりたいのは誰かしら?」
敵群を突き抜けた先で、白馬の騎士は次のチャージを行うべく旋回するのだった。
大成功
🔵🔵🔵
メル・メドレイサ(サポート)
時計ウサギのマジックナイト×パーラーメイド、15歳の女です。
普段の口調は「女性的(私、あなた、~さん、なの、よ、なのね、なのよね?)」、演技時は「無口(わたし、あなた、呼び捨て、ね、わ、~よ、~の?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
戦闘スタイルは多種の属性を扱う魔法使い
武器に魔法をかけ戦うこともできます
依頼にちなんだ品を給仕することを好み、味方には有効なもの、敵には嫌がらせ用のものを渡します
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
仲佐・衣吹(サポート)
キレイなもの、カワイイもの、ぶち壊そうなんて許さないんだから
バトルだって芸術よ。美しく戦いなさい!
お相手するはアタシことネイル
美術好きな女性人格よ
口調はいわゆる女言葉かしら
身のこなしが一番軽いみたいで
接近戦より距離をとってダガーで戦うのが好きよ
よく使う手は
外套を投げつけて囮や目暗ましからの一撃
ルーンソードで戦ってる途中で手放して虚を突き、袖口から隠し武器としてダガー
光属性を付けたルーンカルテを落としといて、タイミングを見て目潰しフラッシュ
こんなところかしらね
アイテムやユーベルコードはお好きに選んでくれていいわ
使えるものは全部使って、華麗に美しく戦いましょ!
夕日が坂道を照らしている。普段は人通りが少ないこの場所が、今は大勢の男たちで賑わっている。
『ときは はやく すぎる』
『ひかる ほしは きえる』
灰色の軍勢が吐き出す煙が空気を濁らせ、辺りにはむせるようなヤニの臭いが染み付いている。現代の日本ではすでに見られなくなったはずの光景は、そこにあるものが過去の残滓であることを示していた。
「これは大変ですね。お掃除もお洗濯も、このメルにお任せくださいませ」
愛嬌を振りまきながらも、メル・メドレイサ(蕩けるウサメイド・f25476)はメイドとしての自負に従う。指を銃のように向けてユーベルコードを発動したのだ。
「魔技、メルスナイプ!」
「アナタたち怪物の好きになんてさせないんだから」
仲佐・衣吹(多重人格者のマジックナイト・f02831)、その別人格であるネイルもこの状況を放ってはおけなかった。
儚い美しさというものも理解はできる。しかしだからといって、わざわざ作り出す必要はないだろう。
憤りを胸に、様子見のダガーを投げるネイル。
だが、二人の攻撃は通じなかった。
『Missing tomorrow...』
「なにを言ってるのか全然分からないです。ご奉仕はお嫌いでしょうか?」
「ああっ、アタシのダガーが!?」
メルの放った魔法、水属性と芳香属性を合わせた香水魔法は、相手にかかる直前で一瞬で蒸発した。確かに香水は次第に蒸発するものだが、それにしても早すぎる。
ネイルのダガーは単純に刃が通らなかったようだ。弾かれて地面に転がったそれを観察すると、まるで長年放置されたかのように錆びているではないか。当たり前だが、ネイルは武器の手入れを怠ったことはない。
あの煙が原因に違いない。そう当たりを付けて戦い続けた結果、分かったことがあった。
「目が見えてないとあの力は使えないみたいね」
「上からの不意打ちも効きましたよ」
ネイルがルーンカルテのフラッシュで目潰しをした際は、投げつけたダガーに劣化現象が起きなかった。メルが大量の香水を上空へ放出した時は、降り注ぐ全てが消えたわけではなかったように見えた。
敵が効果を及ぼせるのは視界内のものだけ。それが二人の結論だ。
「さっきのどばーってやつ、もう一度できる? アタシの力で隠してあげる」
「おまかせください。あなたのメイド、メルでございます」
「影踏みの必勝法――なんてね」
ネイルの靴が影を踏みつけていた。自分の影ではなく仲間の影だ。踏みつけ、固定し、本体から引き剥がした影。
では本体はどうなったのか。その答えはネイルの視界に映っていた――いや、より正確に表現すれば『映っていなかった』。メルは透明になっているのだ。
形あるものには必ず影もある。逆説的に、影がないのなら形もない。
影も形も――師の技を模倣した技術だ。
「時を重ねた美しさは自然と磨かれるものよ。アナタたちはお呼びじゃないわ」
「お世話しますよー、そーれどっぴゅん」
香水とは通常、数滴のみを体につけるものだ。さながら一輪の花のように仄かに香る程度が上品とされ、花畑のような強烈さは良くないとされる。それを頭から浴びてしまえばどうなるか、言うまでもない。
メルの両手から放たれた噴水のように噴き出た液体はシャワーのように、敵の群れを端から飲み込んでいった。上質なウールのスーツを台無しにして、混ざりに混ざった匂いはもはや元がなんだったのか分からなくなるほど。
無表情だった男たちも心なしか困惑しているように見えたのは、果たして気のせいだっただろうか。彼らはまるで地面に染み込むかのように足元から消えていき、最後には帽子だけがその場に残ったのだった。
成功
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シホ・エーデルワイス(サポート)
助太刀します!
人柄
普段は物静かで儚げな雰囲気ですが
戦闘時は仲間が活躍しやすい様
積極的に支援します
心情
仲間と力を合わせる事で
どんな困難にも乗り越えられると信じています
基本行動
味方や救助対象が危険に晒されたら身の危険を顧みず庇い
疲労を気にせず治療します
一見自殺行為に見える事もあるかもしれませんが
誰も悲しませたくないと思っており
UCや技能を駆使して生き残ろうとします
またUC【贖罪】により楽には死ねません
ですが
心配させない様
苦しくても明るく振る舞います
戦闘
味方がいれば回復と支援に専念します
攻撃は主に聖銃二丁を使用
戦後
オブリビオンに憎悪等は感じず
悪逆非道な敵でも倒したら
命を頂いた事に弔いの祈りを捧げます
真月・よる
*アドリブ、連携OK*
ああ、気分わる。
せっかくいい感じのブローチ見つけて買いに行こうと思ったのに、
任務入るとか……
でも、もっと最悪なのはさ──
(手刀で周囲を複数回薙いでUC発動)
何が目的か知らないけど、コイツらみたいなのが
小さくても仄かでも、抱いた「想い」を利用しようとすることなんだよねぇ!
(周囲に男たちが十分集まって来たのを確認してから月光刃を射出)
(足りなければ囲まれないよう距離を置きつつUCで薙ぎ払う)
ま、ヒトの寿命ってのを考えると確かにもう……だけどさ。
それでも継がれるものも、残るものもあると思うよあたし。
だからこのまま彼女を
残骸なんかにはさせたくないな。
「ああ、気分わる。せっかくいい感じのブローチ見つけて買いに行こうと思ったのに、任務入るとか……」
髪の一房を整えながら、真月・よる(無住の月・f43404)はそう愚痴った。
時刻は既に夕方だ、予定していた買い物は次の休みに延期せざるを得ない。当主と学生、二足のわらじに忙殺されるよるにはつらいことだ。
「でも、もっと最悪なのはさ──」
髪に触れていた手を下ろして横に払うよる。不意に繰り出された手刀の軌跡が淡く光る。それは一足早い月の光。光の刃はそのまま、よるに襲いかかろうとしていた男たちを逆に切り裂いた。
「コイツらみたいなのが、小さくても仄かでも、抱いた『想い』を利用しようとすることなんだよねぇ!」
「何百年もの孤独、とてもつらかったでしょう。このまま終わってしまうのは悲しいことです」
シホ・エーデルワイス(捧げるもの・f03442)は知っている。仲間の頼もしさを、力を合わせればどんな困難も乗り越えられることを。
だからこそ、孤独に苛まれている妖怪を強く想う。これ以上悲しませたくない、わずかでも救われてほしい、そう感じたからシホはここに立っている。知ったからには手を伸ばす。敵に慈愛を、仲間に助けを、それがシホの信条だ。
構えるは聖銃二丁、冠するは草花の名。故人を偲ぶ集まりに煙草の匂いは似合わない。
「どうか安らぎを……助太刀します!」
戦場に白い羽根が舞い、美しい銃声が響き始めた。
「いい加減うっとうしいなぁ……!」
猟兵の奮戦により敵は数を減らしたが、相手の攻撃が散発的になったことで逆に一網打尽の機会を逃すことにもなっていた。
もっと引きつけられれば――よるはそう思うものの、万が一を考えれば囲まれたくはない。そんな状況を変えたのはシホの言葉だった。
「一度下がってください、彼らを纏めます」
今までも響き続けていた発砲音、その密度が上がった。タタタタタという擬音すら生ぬるい、さながら銃声の
超絶技巧曲。この惚れ惚れする演奏がたった二音で出来ているなんて、その場にいてもにわかには信じがたいだろう。
けれど演奏の高度さに反して銃弾は敵に当たっていない――当てるつもりがない。弾幕に徹することで相手の動きを制限しているのだ。
男たちの肩と肩がぶつかり合う。演奏が終わった時には彼らは一塊だった。
「はは、最高だったよ」
喝采代わりの手刀をよるは振るう。最高の演奏には最高の喝采を、己が体術を十全に発揮させて幾度も振るわれたそれら。その軌跡は一つの大きな三日月となって、灰色の群衆を一気に薙ぎ払ったのだった。
被害なく猟兵達は完勝した。良いことだ。
もしも味方が危機に陥れば、シホは自分を犠牲にしてでも庇うつもりでいた。その場合、死ぬことはないだろうが、見た目は酷いことになっただろう。
シホを蝕む贖罪の呪いは彼女から出血や痛みを奪い、傷跡もやがて消し去る。しかし心の傷までは関与しない。それが仲間のものであるなら、なおさら。
「……良いこと、なのでしょうね」
首を振ってシホは気持ちを切り替える。そうだ、これで障害はなくなったのだ。UDC怪物を自分なりに弔いながら、この先に待つ相手をシホは想う。
「どうか私たちがあなたの悲しみを埋められますよう……」
仲間の言葉に対してよるはこう考える。悲観するのはまだ早いのではないか、と。
「ま、ヒトの寿命ってのを考えると確かにもう……だけどさ。それでも継がれるものも、残るものもあると思うよあたし」
手のひらから零れ落ちたものは戻らない。過去に何があったのか、全てを知ることは叶わない。それでも、一かけらの何かが残っていると信じたいではないか。そしてそれは決して残骸なんかではないはずだ。
目を閉じたままではそれにも気付けない。決意を胸に坂の上を見上げるよる。
視線の先では一人の妖怪がじっと佇んでいた。
成功
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第2章 ボス戦
『野干の媛』
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POW : 舞いて散り落ちて、見えぬ間に
自身が【視覚を封印して】いる間、レベルm半径内の対象全てに【吹き荒れる赤き蕾の嵐】によるダメージか【足元に生じた赤き蕾の香気】による治癒を与え続ける。
SPD : 無垢なる悪意
【無邪気なお強請りの言葉】が命中した生命体・無機物・自然現象は、レベル秒間、無意識に友好的な行動を行う(抵抗は可能)。
WIZ : 侵略蔵書「悪縁結び」
【侵略蔵書「悪縁結び」】を解放し、戦場の敵全員の【他者に向けられたあらゆる感情】を奪って不幸を与え、自身に「奪った総量に応じた幸運」を付与する。
👑11
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●昨日の約束
「きゃははっ、『儂』を助けに来たのか!? 残念だったなぁ!」
目隠しをした和服の少女が笑う。嘲う。その様子は、グリモア猟兵が見たかつての姿とはまったく異なっていた。老獪な口調は鳴りを潜め、童女というには邪気に塗れた声音が夕暮れに響く。
姿という類似点から存在そのものを侵略した骸魂が、かつて猟書家と呼ばれていた者がそこにいた。
「この身体は今日からあたしの物だ! あたしを見ろぉ!」
けたけたと敵意をまき散らす骸魂だったが、なぜかその場から一歩も動こうとはしなかった。きっとそれが、飲み込まれた妖怪の最後の正気なのだろう。
妖怪を救い出すためにはこの強大な骸魂を倒さなければならない。もし妖怪の正気に訴えかけることが出来れば、多少は楽になるだろうが――。
夕日が沈もうとしている。
儀水・芽亜
『あなた』は余程人から顧みられなかったのですね。でも安心してください。私は今『あなた』を見ています。
「全力魔法」「歌唱」で生命賛歌を歌います。
運を奪おうと、周囲への環状を奪おうと、すぐに豪運に戻してしまいますよ。
聞こえていますか、妖怪さん? 人は儚いもの、されど強いものです。あなたの待ち人はもう来られなくても、私たちがあなたを迎えに来ました。
もうしばらくそこで待っていてください。
さて、『あなた』は『猟書家』――第三の猟兵なのでしたね。妖怪に取り憑かないと存在を維持出来ないほどに弱った。
ならば、拷問具『鎖蛇』で打ちすえ「捕縛」して、締め上げましょう。
他人の不幸につけ込む輩は、屑同然です。
試作機・庚(サポート)
はーい呼ばれてなくても参上する庚さんデスよ
サポート参加ってやつデスね
…サポート参加って何書けばいいんデスかね?
とりあえず口調はこれでわかると思うんデスけど…
まぁ私はその時々で色々変わるデスから気にしない気にしない
私が出来ることなら大体の事はするデス
あーけど、基本私はハピエン厨デスからあまりにも酷いことはしないデス
私がされる分には基本何されても別に問題ないデスけど…
私以外の奴…例え敵でもあまりにも可愛そうだと感じたら手を差し伸べる場合があるデス
まぁ必要があればやることやるんデスけどね
仕事デスし
なんでそこの判断は任せるデース
こんなもんでいいデスかね…?
あっ忘れてた『UCの詠唱は自由にどうぞ』デスよ
妖怪を飲み込んで顕現した骸魂、『野干の媛』。その名前を、その姿を、その正体を儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『夢可有郷』・f35644)は知っていた。
「『あなた』は猟書家――第三の猟兵なのでしたね。妖怪に取り憑かないと存在を維持出来ないほどに弱った気分はどうですか?」
「何とでも言え、すぐに完全復活してやるからさ」
「そうはさせません。彼女にはきちんと目を覚まして、あるべき場所へ行ってもらうのですから」
「あたしを見ろって言ったろぉ? よそ見なんてさせないから!」
そう言って骸魂が懐から取り出した一冊の書物、それこそは彼女が猟書家たる所以。書架から持ち出した侵略蔵書、題名を『悪縁結び』という。
本が独りでに宙に浮き開かれる。パラパラとページがめくられると、猟兵たちは熱を吸われるような感覚を覚えたではないか。
飲み込まれた妖怪に向けて言いたかったこと、伝えたかったこと。それらが記憶ではなく記録になり下がっていく。心のこもらない言葉という無価値なものに貶められていく。
けれど、この程度で猟兵が止まるわけがない。
『この地上に満ちる生命の輝き 光り放つ生命の鼓動』
芽亜は歌う、とある歌を。時を超え世界を超え、形を変えて紡がれる賛歌を。かつてどこかで大勢を勇気づけた力、その一端が猟兵たちに心を取り戻させる。
「聞こえていますか、妖怪さん?」
間奏の合間に語りかける芽亜。
「人は儚いもの、されど強いものです。あなたの待ち人はもう来られなくても――」
もう少しだけ待っていてほしい。そんな思いを込めて、芽亜は歌い続けた。
『いかなる苦難の壁も乗り越えて 生命の灯火を――』
「何が言いたいかっていうとデスね。グランド・フィナーレにはまだ早いってことデス」
独り言のように、あるいは語りかけるように、試作機・庚(盾いらず・f30104)もまた言葉を紡ぐ。
「人生何があるか分からんのデスよ、いやほんと。見切りをつけちゃうのはもったいないデス」
思えば、庚がここにいることだって数奇にもほどがある経緯ではないか。地球を巡る戦いが終わったと思ったら、よく似た世界へのゲートが開き、しかもそこでは思いがけない者が味方にいるなんて。
何やってるの総司令官――なんて笑い話、数年前の庚には絶対に思いもつかなかった。
まあ、つまり。人生に到達点はないのだ。
「そっちの人も似たような立場らしいじゃないデスか。二度あることは三度あるデスよ、きっと」
シルバーレイン。ケルベロスブレイド。めでたしめでたしのその先を生きる彼女たちだからこそ、終わらせてなるものかと強く思うのだ。
「ごちゃごちゃうるさいなぁ! いくら拒絶したって一度結んだ縁は消えないんだよ。あんたたちの幸運、全部あたしが引き寄せてやる!」
猟書家の言葉は乱暴だが正しい部分もあった。生命賛歌は回復に特化した力、奪われた感情や幸運を補いはしても、敵を強化する豪運にまでは影響を与えない。
「お断りデス。たくさんの侵略者を倒してきた、ユーベルコードとは似て非なる理を喰らうがいいデスよ!」
だから、攻撃は庚が行う。それは神殺しの力、魂を引き寄せる、とある宇宙の中心たる力。その名は――。
「『
魂惹かれし異界の理』!」
重力という偉大な力によって、侵略蔵書が地面へと叩きつけられる。そして猟書家が拾い上げる間もなく、棘の生えた鎖が蛇のように絡みついて縛り上げる。
「他人の不幸につけ込む輩は屑同然です」
鎖を操る芽亜は本を手元に引き寄せて、敵が使えないようにはるか遠くへと投げ飛ばしたのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
真月・よる
*アドリブ・連携OK*
ん、
家んとこに話が来た時には、
もう乗っ取ったアンタの話は“終わってた”んだけど。
そもそも野干ってことは狐じゃなくて本来はジャッカルでしょ?
あと、そのUCは半分効いてないよ。
あたしが好感を抱くのはその乗っ取ってる狐さんの方だからね。
なんで「友好的」な行動としてこうする。(UC発動)
玉兎には精神回復を命令。
なんせ何百年も再会を待ってた魂だ。
こんな
残骸、正気を取り戻してしまえばなんとも無いんじゃないかと思うよ? あたしはね。
「今度は待つんじゃなくて探しに行ってみてもいいんだよ。本人じゃなくてもさ、どっかに想いが残ってるかもしれないしね。その方が建設的」
夜城・さくら(サポート)
キャバリアでの戦闘をメインに。
『オーバーフレーム換装』では、装甲を犠牲に攻撃力か射程を上げて仲間を援護するように攻撃します。【スナイパー】技能使用。
手数が必要な時は『無限射撃地獄』です。敵がビット攻撃してきた際には相殺するように展開することも。
キャバリア以外では、『ギタギタ血まみれの外科手術』で仲間の治癒と戦闘力増強に励みます。
「ちょっと痛いですよ? でも大丈夫。すぐに元気すぎるくらいになりますからね」
笑顔でノコギリを振るいます。大丈夫怖くない怖くない。
夜城・さくら(不思議ちゃんの量産型キャバリア・f30006)の乗る機体が空を翔ける。緑色に塗装されたそれの正体は量産型キャバリアAZ。クロムキャバリア産の兵器であるそれは、本来はキャバリア同士のような対大型戦闘を想定したものだ。
しかし猟兵であるさくらはその扱いに非常に長けた、超一流のキャバリア乗り。周辺の住宅地に影響を与えずに対人戦闘を難なく行えるのだ。
「見る限り、その場から動けないんでしょうか。だったらただの的ですね」
地上の目標へ目がけて、さくらのキャバリアはライフルを撃つ。放たれたエネルギー弾は寸分たがわず敵を穿つ、かと思われたが。
「ひどいことしないでよぉ」
舌足らずの、蕩けるような、粘つくような声。童女のおねだりは力ある言葉となって、直撃コースの弾道をねじ曲げた。
「外した? いえ、ユーベルコードですか」
上空から見ていたさくらも何が起きたかすぐに分かった。なるほど、いまだ動けないながらも敵に余裕があったのはこれが理由か。先ほど見せた侵略蔵書といい、随分と他力本願だとさくらは思った。
「言葉で周囲を操るなら、言葉が追い付かないくらいの手数で圧倒してあげます」
さくらのキャバリアには戦闘ドローン、ダズルビットが何基も搭載されている。思考制御によって操るそれらで全方位から攻撃をしかける『
無限射撃地獄』は、さくらの得意技だ。
それでも、敵を見上げるオブリビオンは余裕の表情で口を開きかける。
「ねえ――」
とぷん。
瞬時に景色が入れ替わる。夕焼けに染まるアスファルトから、夏日が照りつける緑の大地へ。助け出すべき妖怪の精神世界に入り込んだことを、真月・よる(無住の月・f43404)は確信した。
一瞬の隙をつき、よるは式神をこの世界へと潜らせたのだ。彼女は今、式神たる玉兎を通じてここにいる。
さて、急がなければ。ここは現実よりも時間の流れが遅いが、もたもたしていると味方がピンチになりかねない。地面に倒れていた妖怪に近づくよるだったが、そこに姿のない声が響く。
「何でここに猟兵がいるの? さっさと出ていって」
骸魂だ。よるはその声を聞き流す。
「ここは言葉じゃなくて意識でやりとりする世界。アンタの力は効かないよ、黙ってな」
邪魔をするなら玉兎をけしかける。そう示唆すると舌打ちとともにオブリビオンの気配は遠のいていった。
「さて、起きなよ」
「ん……おお、済まんな。声は聞こえとったんじゃが、あ奴に邪魔されての」
体を起こした妖怪に対し、よるは苦笑する。何百年も生きた大妖怪がそう簡単に不覚を取るだろうか。心が弱っていたから付け込まれただけで、正気を取り戻せば何てことはないのではないか。そう思ったからだ。
「今度は待つんじゃなくて探しに行ってみてもいいんだよ。本人じゃなくてもさ、どっかに想いが残ってるかもしれないしね。その方が建設的」
よるの励ましの言葉に対し、しかし狐耳の妖怪は首を横に振った。
「いや……潮時ということじゃろう」
もはや妖怪の居場所はUDCアースにはない。強引に残ろうとすれば今回の二の舞になる。多くの妖怪たちがそうしたように、この世界に別れを告げる時が来たのだ。
「狐さん……」
痛ましげな顔をするよるに向かって妖怪は笑う。
「お主の言葉もしかと届いたとも。そうさな、事情があっただけで坊は決して忘れなかった。どうせ真相は分からぬのだ、そう信じた方が気分が良い」
ではゆこうか。狐の妖怪はそう言って――。
そして舞台は現実へと戻り。
「ねえ、あたしのために死『させぬよ。儂の体でこれ以上の勝手は許さぬ』――このっ、死にぞこないがぁ!」
骸魂の悪意は封じられ、幾条もの光線が降り注ぐのだった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
アイクル・エフジェイコペン(サポート)
猫っぽい舌足らず口調にゃ。こんにゃ感じで、可能なら末尾だけじゃにゃくて途中にも入れてほしいにゃ。めんどいならいいけど。
ちなみに機嫌悪い時は「に゛ゃ」って濁点入る感じにゃ。
正直状況とかよくわかってにゃいけどなんとなく気に入らない顔してるからぶっ殺すに゛ゃ。
パワーイズジャスティス。真正面から行っておもいっきり攻撃するのみにゃ。ユーベルコードは何使ってもいいにゃ。
基本はむちゃくちゃ猫かぶってかわいい子演じてるものだから、なるべくスマートに『せーとーはなれでぃー』的な感じで戦おうとするけど、むちゃくちゃ怒ったら地が出てむちゃくちゃ口が悪くなる。
「ぶっ殺おおおおおおす!●ぁぁぁぁぁぁっく!!」
ヘンリエッタ・ネクサス(サポート)
「状況:能動的脅威を検知/脅威度=グレードⅣ――任務遂行を最優先」
◆口調
・一人称はボク、二人称はあなた
・誰でも丁寧な口調。語彙は硬く、形式的
◆特技・性質
・全身を機械的に強化されており、常人以上の身体能力と反応速度を有する
・USBで充電可能
◆行動傾向
・とあるヴィランの組織の尖兵として造られた宿命に抗うべく、猟兵として活動しています
・体内に武器やセンサー等を格納しており、状況に応じて展開します
・強化頭脳は動作のムダを省きます
・私情や一般的道徳に囚われることなく、合理的な行動に徹します(中庸/中立)
・感情表現を学習途中なので無機質な印象を与えがちですが、実は人情を重んじ、真顔でジョークを言います
「あたし、は……まだ……!」
侵略蔵書を失い言葉も絶え絶えになりながらも、骸魂はまだ諦めてはいなかった。和服の袖からこぼれ落ちた赤い蕾が嵐のように吹き荒れ、煙草の残り香に花の香気が入り混じる。
「おーじょーぎわの悪いやつにゃ。さっさとぶっ殺すにゃ」
アイクル・エフジェイコペン(クロスオーバー三代目・f36327)は正直今の状況をよく分かっていなかったが、とりあえずぶっ殺せばいいんだろうと結論づけた。
「対象の脅威度を修正、達成条件に変更なし。任務続行」
そしてそれは間違っていない。どんな形であれ骸魂を倒せば取り込まれた妖怪は救出できる。仲間の言葉に首肯するヘンリエッタ・ネクサス(棄てられた少女兵器・f35114)。
「まっすぐ行ってぶっとば――あだだだだ!?」
拳を握りしめて真正面から突撃したアイクルの全身を蕾が礫のように打ちつける。予想よりもかなり激しい痛みにアイクルは思わず引き返してしまった。
どうやら敵は攻撃範囲を絞ることで密度を高めているようだ。自分の身を守ることだけを考えた姑息な手だ。
「●ぁっく!」
正統派なレディとはとても言えない罵倒が飛び出す。なお、いつものことである。
「敵行動は不自然。猟兵の撃退ではない他の目的があると推察される」
ヘンリエッタは敵の行いに違和感を覚えた。追い詰められた状態で起死回生の一手ではなく守りの手を打つ、この不自然さの理由を解明しなければなにか良くないことが起こると彼女の強化頭脳は警鐘を鳴らしていた。
「各種感覚器および周辺デバイスの情報から対象の脅威要因を解析──ボクの眼は、伏せた手札も裏返す……!」
そこで彼女が選んだのは
返裏眼という切り札だった。灰色の瞳が敵対者の情報を瞬時に暴いていく。
「敵残存体力、およそ三割。肉体の制御権も三割……徐々に増加中?」
妖怪が正気を取り戻したことで減ったはずの制御権。それが回復してきているという事実、そして先ほどの『死にぞこない』という表現から、ヘンリエッタは真実を見透かした。
「敵目的:時間稼ぎ。予測タイムリミット――日没」
「いそがにゃいとまずいにゃ!? だったら今すぐ――」
「待って。計算上、弱点を突く必要がある。解析を続行中」
切羽詰まっているからこそ冷静に対応をするべき。合理的な行動を重んじるヘンリエッタは分析に徹する。
「類感呪術――容姿の類似点を起点とした呪い――最も特徴的なのは――」
そして、答えが出た。
「――解析完了。あの目隠しが全ての起点、破壊すれば骸魂を完全に引き剥がして滅ぼせるはず」
「それならこいつでぶった切ってやるにゃ! パワー・イズ・ジャスティス! に゛ゃ!」
フラストレーションを解消するかのように叫んだあと、アイクルは再び敵へと突撃した。その手に握るのは巨大な斧、ルーンアックス。
「にゃにゃにゃにゃにゃあー!!」
大上段から振り下ろされた刃が花の嵐と激突する。拮抗したように見えたのも一瞬、斧に込められた破壊のルーンが輝いて敵の強化を破却する。
赤き蕾も、花の香気も、煙草の残り香さえもまとめて断ち切り、剛力の一閃。ドガッとアスファルトに食い込んだ大斧、けれども相手につけた傷はほんの布一枚。
はらり、斬られた目隠しが落ちた。骸魂の断末魔がかすかに響いたが、耳を傾けた者は誰もいない。ただ固唾を飲んで、その場に立ちつくす少女に注目する。そして。
「――ああ、夕日が綺麗じゃのう……」
彼女は目を細め、一筋の涙を流すのだった。
成功
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第3章 日常
『夕暮れの散歩道』
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POW : キッチンカーに立ち寄り買い食いする
SPD : 散歩もほどほどに先を急ぐ
WIZ : 茜の色景色を楽しみつつ散策
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●今日この日
「世話をかけたの。潮時じゃ、儂もカクリヨとやらに移るとするよ」
骸魂から解放されて元の姿に戻った妖怪が話しかける。カクリヨファンタズム――妖怪が生き続けられる狭間の世界の話は当時から耳に挟んでいたらしい。
ただ、すぐには決断できず――そうしているうちに坊と会ったのだと彼女は語った。
「少し付き合ってくれんか? なあに、日が沈むまでじゃ」
カクリヨに渡るための手順は様々だが、今回は特別なことは不要なようだ。時間が来るまでその辺を散策する、それだけだという。
夕日に照らされて坂道に影が伸びる。その下には人間の街が広がり、坂の一部は完全に飲み込まれている。UDC怪物が放っていた煙草の匂いは完全に消えており、人間の生活臭とでもいうものが鼻をくすぐる。
くぅ、と誰かの腹の虫が鳴いた。その場にいた者たちは笑い合いながら一緒に歩き出す――。
儀水・芽亜
ふぅ、お疲れ様でした。儀水芽亜と申します。お名前伺っても?
さて、最後の想い出作りですか。お付き合いしましょう。
まずは人里まで下りますか。どうです? あなたの知っている世界とは何もかも違うでしょう?
これが人の世。歩を遂げることなく、前へ進み続ける。手のひらから零れたものはそのままに。
一曲歌いましょう。「郷愁を誘う」声音の「歌唱」。カクリヨに渡っても覚えていてくださいね。
ああ、あそこ道路から直接おにぎりを買えるようですよ。人数分買いましょう。お腹が膨れれば幸せになるものです。UDC怪物はもう食べないでくださいね。
そろそろ界渡りの時間でしょうか。
無事お見送り出来ることを喜ばせてください。では、また。
真月・よる
*アドリブOK*
<行動:WIZ>
ブローチはダメだったけど
この風景でチャラにしておこうか
いい感じだよね、この茜色の空と街の雰囲気。
狐さんはカクリヨに行くんだね。
あそこだったら周囲に同族もいるだろうしいい選択だ。
その子の後についちゃ、軽く調べさせておこうかな。
あたしが気になってるし。
狐さんに伝えるかは……
調査結果次第ということで。
後、狐さんともぼつぼつ話すよ。
旅先の風景とか、自分の家族や学校の友人のこととか。
猟兵との縁もできたことだしさ、
また何か話したいんなら手紙でも出してよ。
少なくとも何処の世界にも遍在してるあたしにはその手紙は届くからね。
それでは、またご縁が合えば逢いましょう。
●
明日の消失に
決別を
茜色の空に歌が響く。
儀水・芽亜(共に見る希望の夢/『夢可有郷』・f35644)の歌声が木霊する街並みを、真月・よる(無住の月・f43404)は坂の上から見下ろしながら頷いた。
「ブローチはダメだったけどこの風景でチャラにしておこうか。いい感じだよね、この雰囲気」
郷愁を誘う曲調と夕景色。今この瞬間だけ味わえる体験は何物にも劣らない宝物と言えるだろう。やがて歌が終わるとよるは惜しみなく拍手する。そしてそれは狐の妖怪も同じだった。
「良い歌じゃの。知らん曲じゃが、どこか懐かしいわい」
「ふぅ、ありがとうございます。儀水芽亜と申します。お名前伺っても?」
「
地古、そう名乗っておるよ」
そうやって彼女たちは歩んでいく――。
「地古さんはカクリヨに行くんだね。あそこだったら同族もいるし友人も出来るよ。あたしも学校でさ――」
家族や友人、旅先の風景など。今の世についてよるたちは存分に語った。地古が目を塞ぎ続けた数百年、その欠落を少しでも埋めることで、こちらでのいい思い出となるように。
「どうです、あなたの知っている世界とは何もかも違うでしょう? ……おや」
坂を下りながら談笑する中で、芽亜はふと、道端にキッチンカーが止まっていることに気付く。小腹を満たせればと思った芽亜は財布を取りだして近づいた。
「おにぎりにしましょうか、具は何がいいですか。……どうしました?」
メニューを見ながら聞いたが返事が返ってこない。不思議に思った芽亜が後ろを振り返ると、地古は呆然としながら口を開いた。
「…………坊?」
「顔に面影がある……それにその飯は儂が出したものと同じ……お、おおお……!」
突如として感極まった地古。彼女が落ち着くまでの間、芽亜たちはキッチンカーの店主から事情を聞くことにした。妖怪を見ることのできない店主は半信半疑ながらも話に応じる。
代々この辺りで店を出していること。とあるメニューは残し続ける決まりであること。誰宛てか分からない言伝が残っていること。この店主こそが約束した相手の子孫であると、そう確信できる内容だった。
「『ごめんなさい。せめて飯の礼だけでも』だそうです。匂いだけでも届けば、と」
「アイツら、これが目的だったんだね。煙草で真実を覆い隠す……ホント、最悪」
二人の言葉を聞きながらすすり泣く地古。もしも彼女が目を閉ざさなければ、灰色の男たちを追い払っていれば、こうはならなかっただろうか。仮定に意味はなく後悔は消えず、けれど最悪は避けられた。
「叶わない夢、ではありませんでしたね」
これが人の世。歩を止めることなく、前へ進み続ける。手のひらから零れたものはそのままに――それでも、大切なものを引き継いで。
「ほら、だから残ってるって言ったでしょ」
地古の肩に手を添えながら、よるは口角をわずかに上げた――。
「では……さらばじゃ」
目を腫らした地古が足元から消えていく。カクリヨへと渡る刻限が来たのだ。
「無事お見送り出来ることを喜ばせてください。では、また」
芽亜の挨拶にきょとんとする地古。ひょっとして今生の別れだと思っていたのだろうか。それは違うと、よるも言葉をかける。
「あたしたちなら会いにいけるし、何なら手紙でも出してよ。少なくともあたしには届くからさ。だから、また逢いましょう」
人と人との縁はそう簡単に途切れない。数百年を経てもかすかに残っていたのだ、何を悲観することがあるだろう。新たな出会いに期待し再会を望む、だから明日というものは待ち遠しいのだ。
それを理解した地古はいつかのようにこう返す。
――うむ。また、じゃ。
店主がふと坂を見つめる。誰もいないはずのその場所で、誰かが笑っていた気がした。
大成功
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