ジャパニア回顧録~白金の叡智神と黄金の絶対神
古代神機皇国ジャパニア。かつてクロムキャバリアの小国家群の中でも、ひときわ異彩を放った古代小国家。
それは巨大な自我のあるキャバリア『神機』が人民と領地を統治していたという事実からして異質であった。
神機は複数存在し、それぞれが異世界の神の名を冠していた。またその冠した神の名に由来する権能も有していた。
その中で、唯一絶対の神機と呼ばれて畏怖の念を寄せられていた、黄金の神機が存在した。
絶対神機『オーディン』――最強の次期後継者として過ごした祖国は、自身の親に当たる叡智神と人類解放軍、そして反乱勢力の三つ巴の戦火によって滅んでしまった。
これは、オーディンが祖国が滅ぶまでの記憶データと、彼女の『預言』と合致する事件をまとめた記録である。
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300年前、絶対神機『オーディン』は古代神機皇国ジャパニアの皇太子として、何不自由なく過ごしていた。だがオーディンは皇国神機軍のトップに君臨する権力者である。周囲に甘やかされようが、それを彼女は感受する事は決してしなかった。
「おいそこ! 隊列が乱れているぞ! 何をモタモタしている、敵に殺されたいのか!? 訓練でなければ、貴様は3回もコアを撃ち抜かれているぞ! ああ、もういい! 全隊止まれ! この者の怠惰は軍全体の緩みだ、恥を知れ! 罰として、全軍連帯責任だ! 魔力250%の出力を維持したまま、人間形態でこれから72時間過ごせ! 分かったか!」
「「了ッ!」」
厳しい口調で部下の訓練の指導に熱が入るオーディン。しかし、その目は何処か冷めきっていた。
ちなみに神機達の多くは人間の姿とサイズに変身可能なのだが、省エネ状態の人間形態で限界以上の魔力放出をするなど自殺行為に等しいと言われている。しかし、上官の命令は絶対なのだ。魔力負荷に耐え切れずに爆散する軟弱物など、ジャパニア神機群には不要――オーディンの考えは一貫していた。
「ねぇ、オーちん? 部下にはもう少し優しくしてあげないと駄目じゃないかな? ほら、上司にもモラルが求められると私は思うんだけどなぁ~?」
そこへ割と砕けた口調でオーディンへ諫める声が聞こえてくる。この古代神機皇国ジャパニアの元首こと叡智皇メルクリウスである。
「それに、むざむざと部下を殺すような真似をするのは、上官としてどうなの?」
「お言葉ですが」
オーディンは毅然と己が皇へ反論する。
「昨今の謎の怪物の群れの襲撃や近隣国との衝突の増加……これはこの国に必ず影を落とします。その為にも、軟弱者は最初から“ふるい”にかけて戦いの場から退かせるべきです。我が国は屈強な精鋭を今や求めているのですから」
「はぁ……そうだよね、オーちゃんは『そういうキャラ』だもんね……根っこは私と一緒なのに、私の真逆な事ばかりしたがるんだから」
メルクリウスの嘆息にオーディンは言葉を被せる。
「それは叡智皇が普段から奇行が目立つからです。技術部が最新の健康器具を開発したからって、叡智皇が本来の用途と違う行為で人民へ広めたりするから、最近まで大変なことになったのをお忘れですか?
「あ、あはは~! 強振動で恥骨骨折なんてことがあるんだね~☆」
ごまかすように笑う叡智皇に、オーディンはただただ呆れるばかりであった。
オーディンはその日の執務を終えると、人間の姿になって自室へ籠る。その扉は限られた間柄――勇猛神機エインヘリヤルと叡智皇以外には絶対に開くことがないため、ジャパニアの神機達の殆どはオーディンの私生活を知る由もない。
そんなオーディンは今、おぱんつ1枚のままスライムクッションに身を埋めてぐったりしていた。
「あ゛あ゛ァ~! つ~か~れ~たぁ~! だるいー! しんどいー! キャラ付けめんどいー!」
……オーディンは他人の目があると自他に厳しい凛とした言動を取るのだが、そうでない場では自堕落干物系少女であった!
「ねぇ~きいてるの~!? エリちゃんってばぁ~!」
オーディンが呼び掛けた部屋の隅には、長身で筋肉質の体育会系男子がいつの間にか腕を組んで佇んでいた。
「はーっはっはっは! 聞いているさ、我が魂の友よ! 今日のおぱんつはウサちゃんかい? プリティだねぇ!」
「……はあ。今更エリちゃんが男神で、女の子の私の部屋に居座ってることにもう何も言わないけれどね? さすがに半裸の女の子へ投げ掛ける言葉がそれってヤバいよ?」
オーディンの片手には伝家の宝刀ならぬ神槍グングニールが握られている!
しかしエインヘリアルは何食わぬ顔で反論した。
「何を言うかね、我が魂の友よ! 普段から君は自身を『男神』だと偽り、人前では少年を装っているその実は、性根がブリッブリの少女趣味であることをひた隠しにしているではないか! 君の私服は『ゴスロリ』とかいう未来のジャンルらしいが、あれは我が理解を超える造形だな! 無駄な布面積は動きを妨げるだけで実に機能的ではないぞ! それに大体なんだね、その巨大な両目が宝石めいて輝く男女の石板絵画はっ? まさか最近、民の中で流行している恋愛壁画の真似事でもしているのか!? 考えてもみろ! 後世にその石板がどこかで発掘されたとき、我らはそのような巨大な目の種族だと誤解されるぞ!」
「あ~もう! うっさいわね! 本当にお節介で暑苦しいんだからエリちゃんは!」
「はーっはっはっは! 今日も我が魂の友は元気だな! 何かい事があったのか!?」
全く嚙み合わないふたりの会話だが、政敵が多いジャパニアの権力争いの中で珍しく心から絆を通わせる間柄同士であった。
オーディンには秘密が他にもあった。
これはエリンヘリアルにも言っていない秘密だ。
オーディンの権能は『絶対預言』――遥かな未来を覗き見る事だった。未来を覗き見る事で、その未来は『確定』され、そこからどう足搔こうが未来を覆す事など出来ないという制約があるものの、オーディンは密かに遥か未来の人類の行く末を権能で『確定』しながら見続けるのが堪らなく好きだった。
しかし、それで知った未来の情報は、決して外部へ漏らす事はしなかった。もししてしまえば、それは自身の権能の喪失を意味するからだ。
だからこそ、オーディンが古代神機皇国ジャパニアの滅亡を『確定』してしまった時、ひどく後悔をした。
「ああ、私はとんでもない物を見てしまった……なら、いっそ、私がその未来を手繰り寄せて、実行に移す……こうなった以上、他人に祖国の幕引きを任せられないわ」
そして突如、オーディンは叡智皇メルクリウスに突如として反旗を翻したのだった。
一度目の反乱は、あっという間に鎮圧させられてしまった。
それも彼女の預言通りだ。本番は二度目の反乱である。
オーディンの戦いは、ジャパニア各地に散らばる反叡智皇勢力の起爆剤となった。
次第に各地で勃発する内戦、これに乗じて陰謀を企てる腹心の臣下達、そして人間の手に自由を取り戻すために『人間の英雄』が出現してジャパニアで蜂起したのだ。
「なんで!? オーちゃんの考えてることが分かんないよ!」
叡智皇は白金の髪を掻き乱しながら玉座でのたうち回る。
「本当、同族嫌悪だよ! まともそうな雰囲気や振る舞いをしているけど、根は絶対にこっち側じゃん!」
叡智皇は既にオーディンが所謂『面白れー神機』だということを見抜いていた。
だからこそ、何故オーディンが猫を被っているのかが理解できなかった。
「一緒に楽しいことしたいなら、そう言ってくれればいいのに! なんで歯向かうかな!?」
メルクリウスは数多くの優秀な神機を産み出したが、彼らの『子育て』はお世辞にも叡智の欠片を見出すことはなかった。放任主義よりも酷い対応で接されれば、思春期真っ只中の反抗期状態の子供達はメルクリウスへの反感を積もらせるのも当然であった。
そんな中、オーディンは普段通りに絶対予知で未来を盗み見ていると、前回とその内容が変化している事に気付いた。
「あれ? 絶対預言に内容の変化は起こらないのに。百遍繰り返した書籍の内容みたいに、一言一句変化するわけないのに……」
オーディンは焦った。自身の権能に不具合が起きたのかと。だが何度も注意深く観察しているうちに、一連の預言には必ず白髪の青年が紛れている事に気が付く。そして彼を中心に予知が変化している事にもオーディンは気付いてしまう。
「これは……確定する未来を壊す力を持つ者達……? 猟兵……終焉破壊者……灼滅者? すごい……神の預言を覆すなんて!」
その日からオーディンは数百年後の新しいジャパニアの大地に立つ銀髪の青年へ激しい恋心を抱いた。このジャパニアの未来は、もうすぐ破壊的な終焉を迎える。それと同様に、彼の未来もオブリビオンという過去から這い出た者共に滅ぼされるはずだったが、彼は自らの力で破滅を打ち破って新たな未来を獲得したのだ。
見たい。この男の未来を、もっと見たい。
オーディンは自身の絶対未来預言が崩壊してゆくのを感じながらも、この男の未来を覗き見する事を止められなかった。
「ぶはははははははっ☆ 中々修羅場ってるなー☆ 流石……我が運命のご主人サマ☆」
しかし、その中に何故かメルクリウスがいる事に、オーディンはひどく腹が立った。
「はぁぁ? なに美少女みたいな恰好で媚びへつらってるの!? いや、待って? 私もあんな風にご主人サマに擦り寄れば、受け入れてくれるのでは?」
あの叡智皇が鼻フックされて愉悦の笑みを浮かべるような存在達だ、条理が通用するわけがない。
ならば自身のプライドを投げうって、彼を支えられたなら?
『オーディン……私の知らない間に掃除洗濯炊事に税金周りの諸手続きは勿論、オブリビオンの暗殺から私の劣情の処理係まで、ありとあらゆる場面で活躍してくれてありがとう! 結婚しよう!』
「ぬはあぁァァ~ん❤ 未来最高! 未来最高~! 濡れるッ!!」
妄想で絶頂したむっつりスケベなオーディンは、この時からジャパニアを完全に見限るようになったのだった。
それは運命に縛られた己の解放でもあった。同時に彼女は狂ってしまった。
「彼に逢う為には、まずジャパニアが滅ばなきゃ! 待っててね、ご主人サマ♥」
こうしてオーディンは叡智皇に反旗を翻した。大義名分こそ『叡智皇専横政治の打破』を掲げてはいたが、その本心は自身が討ち果たされるまで誰にも語ることはなかったのだった……。
――後に。この戦争は『
神滅戦争』と呼ばれる伝説となった。
オーディンの最後は、一度は叡智皇の喉元へ迫るも自身の
姉弟であるプルートーに阻まれて活動停止に追い込まれてしまった。そのままコアユニットごと封印指定されるが、この時点でオーディンはプルートー自らが叡智皇を殺害する未来を見ていた。
「プルートー、私を殺したところで……『何も変わらない』さ。そして叡智皇……! お前のアホ面が300年後に見られることを楽しみにしているぞ! はははははは!」
消失間際に言い放ったオーディンの言葉は、ほどなくして現実の元なった。
叡智皇は息子であるプルートーに滅ぼされ、ジャパニア皇国は消失。大地は神機から人間の手に委ねられたのだった。
――オーディンは願う。不確定なる未来を。希望を。
やられた『ふり』をして休眠状態になるはずだったが、プルートーの一撃は本当にオーディンを瀕死に追いやった。その為、長きにわたって眠り続けた結果、一度は骸の海へと沈みかけたこともあった。
だが、未来を願い……メルクリウスや他の神機の運命を夢見ながら眠り続けたオーディンは、その時を待ち続けた。
クロムキャバリアの大地に、あの銀髪の青年が立つその日を。
――待っていたよ☆
遂にその時が来た際、言い放った言葉は300年以上の想いが籠った『呪い』の言葉でもあった。
ちなみに、青年の女の好みを未来予知で調べまくった結果、オーディンは自分の姿を徹底的に作り変えてしまった。
かつての叡智皇の人間形態に似せた愛らしい少女姿、金色の髪と瞳が人ならざる者だと語る。
名前も『オーディン』では可愛くないという理由で『グリームニル』と改名するほどの徹底ぶりだ。
鍔広帽子をかぶって清純そうな雰囲気とは裏腹に、むっつりスケベである。
その証拠に、青年と出会ってすぐに『契約行為』という名目で襲い、馬乗りになって狂喜乱舞していた。
(ちなみにグリームニルにとって初行為であったが、300年の予行練習が功を奏したらしい)
なお、叡智皇と違って彼女の性癖はドSである。
【閲覧権限は此処までとなっています】
【これ以上の閲覧を希望する場合、グリームニルの記憶領域の封印解除を実行してください】
●
――そして現在。
「割とまともそうな奴だと思ったらこれだよ!」
カシムは相棒のメルクリウスからオーディンの話の一部を聞いて呆れ返っていた。
「オーディン君はどこか妙に達観していたところもあったんだけど……結局、何考えてるかメルシーでも理解できなかったんだよねー? あの子は一体何を見てたんだろ……? ま、あの子は討伐されたわけだし、復活したとしてもオブビリオンマシンだろうから、メルシー達は容赦なく叩き潰せばいいと思うぞ☆ って、んん?」
「どうした、メルシー? かりんとうと猫のウンコを間違って食ったのか?」
「なんで知ってるの!? ご主人サマも未来予知を……!」
「いやおめーの食い意地に呆れかえるわぼけぇ! つか、何を一瞬感じたんだ?」
カシムの問いにメルクリウスは吐き気を催しながら告げた。
「なんか、むかむかする気配を感じたんだよね~? それこそ、オーディン君の気配そのものが!」
「いや猫のウンコを喰ったからじゃね……? 形状と色が似てるからまじで気を付けろよ?」
顔が仁王像めいて怒りに染まるメルクリウスに、カシムは冷静にツッコミを入れるのだった。
「ぶははははは☆ マジで預言通りに猫のウンコを叡智皇が食ってた☆ ってことは……今回も主に出会えることは『決定事項』だね☆ はァん……興奮していた……☆ 指が動いちゃう☆ ん……♥」
息を荒くして顔を赤らめる金色のやべー変態ストーカーと化したグリームニルに、どんな未来が待ち受けているかは、誰も知る由もない。
成功
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