1
良き旅路を

#カクリヨファンタズム #ノベル #猟兵達の夏休み2024

曲輪・流生




 ぷかぷか。ふよふよ。漂う水泡はカクリヨファンタズムの水辺で佇み、裸足を水に浸す曲輪・流生(芍薬の竜・f30714)の足元へとその水泡から鰭を出し、小さな波を起こした。
「かみさま」
「かみさま、ぼくたちとあそんで」
 遊んで、とせがむ 水泡たちに流生は目線を合わせ微笑む。――カクリヨファンタズムから生まれし水泡。それはきっと小さな命。何れ何者か、何物かに成りゆく前のものを流生は竜神として見守るつもりだった。
「良いですよ」
「やったあ」
 万歳三唱。小さな鰭を挙げ、ぱしゃぱしゃと水面が跳ねる。その飛沫は流生の足元へと伝わっていく。
「何をしましょうか?」
「なにをしようね」
「ねー」
 顔を見合わせる水泡たちの形は丸く。鰭が生えていると言えどもまだ小さい。それに触れたら壊れてしまいそうなまだ生まれたての命はすぐに壊れてしまうだろう。その命を壊れないためには、どうしたらいいのだろう。ならば、己を確固としたものに自覚させればいいのではないだろうかと水泡たちに問い掛けた。
「あなた達は何処から来ましたか?」
「あっち。かくりよのうみ」
「母なるうみ」
「うん、それからあなた達はどんな姿をしていますか?」
「えっとね、ひれある!」
「母さま、もっとながいひれあったかも」
 水に溶けそうな、消えてしまいそうな鰭は水を得、ゆっくりとさらりと水に漂う長い鰭になっていく。
「うん、それから?」
 膝に肘をついて、頬杖をつく流生に水泡たちは彼の足元にすうっと寄り添い、長くなった鰭を寄り添わせる。
「ぼくたち、あかとか、くろとか、しろとかいっぱいのなかまがいる
「おなじもようのやつ、いない」
 ぱしゃり。水泡が水面で弾ける。弾けた水泡から顔を出したのは――金魚。いや、金魚がこんなところにいるわけがない。塩を含まぬ淡水でしか生きられぬその姿に流生は目を丸くさせた。
「まあ」
「初めましてこんにちは。竜神さま、僕達幽世金魚。あなたに姿を教えてもらったから、脆弱な水泡から確固たる姿へと変わりました」
「どうか麗しいあなたのお傍に使えさせてください。とは言いたいところですが、僕らは母なる海へと帰らねばなりません」
「あなた達の行く道が、どうか穏やかなものであるよう、僕は祈っております」
 そうっと幽世金魚の頭に暖かな指先を僅かに触れ、加護を与える。
「戦う事もあるでしょう。困難な事が続く事もあるでしょう。ですがどうか忘れないで。あなた達には良き友人らがいる事を――」
 それではいい旅を。そう言う流生に幽世金魚達は頭を下げて、静かに水の中へと沈み、その姿を消した。
 美しい鰭だった。美しい姿だった。目を閉じて流生は先程の幽世金魚たちの姿を思い浮かばせる。あれはきっと闘魚だろう。長く綺麗な鰭を持つのに、争った際にはいずれかが倒れるまでは死闘を繰り広げなくては気が済まぬ物。
 ああだけれども。恐らくは。舞う様に戦い、泳ぎ、生きて再び見えることを願うばかり。
「どうかお元気で」
 その鰭が、その美しき手足が欠ける事無く、水面のヴェールとして漂うことをただ祈り、願い、その瞳を開いて流生は微笑んだ。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年07月28日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#カクリヨファンタズム
🔒
#ノベル
🔒
#猟兵達の夏休み2024


30




挿絵イラスト