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イェーガー家が飛ぶ

#カクリヨファンタズム #ノベル

ギリー・オラージュ



エミリィ・ジゼル
【家壊し隊】

■概要・シチュエーション
ギリー・オラージュ (f28187)さん(以下、ギリー)が第二の故郷であるカクリヨでオブリビオンと交戦し、家を失い、旅団に移住するに至った経緯のノベルをお願いします。

大まかな流れとしては

①ギリーの第二の故郷であるカクリヨでオブリビオンが発生
②ギリー、オブリビオン撃退に向かうも劣勢
③そこに他の猟兵が合流して戦闘参加
④無事にオブリビオンは撃破するも、エミリィ(以下、かじできない)の攻撃の余波でギリーの家は全壊
⑤家を壊したお詫びに旅団への移住を勧める

という流れとなります。かじできないは③以降に登場します。

備考として、ノベル時点ですでにギリーは旅団員ではあり、他の旅団員とも知己の関係ではあったものの、当時はカクリヨの家から旅団に顔を出していたことを記しておきます。

■かじできない(キャラ性・口調・行動)
かじできないはどこにでもいる家事のできないメイドです。
ギャグ時空の住人であり、隙があれば分裂してサメを呼びます。

口調は基本「ですます調」ですが、ライブ感で「~っすよ」「~だ!」「~だぜ!」などの口調も用います。
法則性はありません。だいたいノリと勢いです。

カクリヨでの事件発生を知り、いつものようにグリモアで転送され、そのまま戦闘に参加します。
戦闘ではユーベルコード「鮫魔術を操るメイドの術」を使い、鮫属性の巨大竜巻を発生させます。

「オブリビオン死すべし!くらえ、鮫魔術を操るメイドの術!ヒャッハー!」

竜巻で吹き飛ばされ鮫に食われるオブリビオンたち。
その過程で竜巻に巻き込まれる他の猟兵たちに、全壊する家屋。
ノリと勢いで大暴れし、その結果、ギリーさんの家をぶっ壊します。
(ギリーはオブリビオンの襲撃で家を失いましたが、実際に家を壊したのはかじできないです)

「どうですか、この綺麗さっぱり何もなくなった更地。鮫魔術にかかればこの通り、オブリビオン退治など朝飯前です」

「え、家が壊れた? 建ってましたっけそんなの」
「建ってた? そっかぁ……いやぁ、若干申し訳ない」

言動からもわかる通り、かじできないはあまり悪びれません。
悪びれてはいませんが一応反省はしているので、家を更地にしたお詫びに旅団内に余っている居住スペースへの引っ越しを勧める
みたいな流れを漠然と想定しています。

■その他
・細かい流れや詳細、記述外の部分についてはすべてお任せいたします。
・プレイング中のセリフはあくまでもイメージなので使わなくてもいいですし、使う場合も流れに応じてアレンジしてください。
・参加者同士のプレイングでの矛盾点はいい感じに調整していただけると幸いです。

どうぞよろしくお願い申し上げます。


レン・ランフォード



オニバス・ビロウ




「ん、ぐっ、カ~~ッ!」
 心身共に力を出すため、声を上げながらギリー・オラージュ(赤衣のヤブ医者・f28187)は使い古した煎餅布団から起き上がる。随分と長い時間眠っていたようだ、身体はすっかり凝り固まっていて少し動かすだけでゴキゴキと音が鳴ってしまう。
 幽世に来てから餓える事がなくなりギリーの生活は随分とゆったりとしたものとなった。レッドキャップの代名詞とも言える赤い頭髪も僅かな鉄錆色を残すのみとなり、多くの人の血を吸った手斧も箪笥の肥やしとなって久しい。そも餓えないという事は人を襲って恐怖を引き出す必要がないという事であり、必然的に狩りをする事もなくなったため日々の営みが緩慢になっても仕方がないというものだ。
「おーい爺さん起きたかい、ちょいと来てくれねえか」
 凝り固まった身体を解していると、玄関先から扉を叩く音と共にそんな声が聞こえてきた。先程の自分の声が外まで漏れていたのだろう、静かな田舎暮らしは悪いものではないが特段聞き耳を立てずとも生活の音が耳に入ってくるのは少し考えものかもしれない。
「すぐに出るわい、ちょいと待ってな!」
 血染めの白衣を仕事着代わりに身に纏い、古びた鋸を持って玄関へ。客を迎えるには随分と物騒な格好だがギリーのもとへやってくる要件など数少なく、そのどれにせよ使う道具は変わらない、大口を開けてあくびをしながらギリーが扉を開けると近くに住んでいる鬼の若旦那が困った顔をして立っていた。
「おうどうした、女房と喧嘩して腕でも折ったか?」
「喧嘩なら逃げないよう足が先に折られてるよ……そうじゃなくて、向こうでお侍さんが困ってるみたいなんだ。手を貸してくれないかい?」
「……侍だぁ?」
 その言葉にギリーは訝しむように眉を潜める。カクリヨファンタズムは人々から忘れられた妖怪が集う場所、ここで侍と言ったらほぼ確実に落ち武者の類となるはずだが若旦那の物言いには畏怖や敬意の色が感じられた、追い立てられた存在である妖怪同士でその様な感情が出ることは少ない。
 気になる事はあるが、かといって頼みを断るほど深刻なものでもない。若旦那に連れられて家を出たギリーが少しばかり歩いていると狐の鳴く声と共に見知らぬ姿が見えてきた。
 腰に下げた刀と服装は極東出身の特徴を持つそれだが、携えるのは金糸の髪に瑠璃の瞳。見上げなければ顔の見えない巨躯はギリーが元々住んでいた西洋の者の特徴である。であれば格好だけ真似した傾奇者かと思いきや、不思議とその佇まいは堂に入ったものであり若旦那が『お侍さん』と称したのも理解できるというものだ。
「おーい頼りになる人を連れてきたぞー」
「すまない、心遣い痛み入る」
 若旦那の言葉に異邦の侍は澱みない所作で礼を行うと、ギリーの方にも向き直り再び頭を下げる。その際体幹がぶれる事は一切なく、かなり鍛え上げている事は容易に見て取れた。
「んで、どこを悪くしたんだい色男?それとも誰か斬っちまったか?」
「いや、それを決めあぐねていたというべきだろうか……」
 ギリーの言葉にどこか歯切れの悪い返事をした侍は、とにかく見てくれと半身となって自身の背に隠れていたものを見せる。そこにあったのはギリーの膝くらいまでの高さしかない小さな幼木とその枝に絡めとられか細く鳴く白毛の狐、怪我や衰弱している様子はないが突然の事に怯えているようで目に涙を浮かべて小刻みに震えている。
「なんだ木の妖にじゃれつかれてるだけか、さっさと斬っちまえばよかったもんを」
「敵意は感じられなかった、それにこの木もここに暮らす住民だと思うと無暗に斬るわけにもいかなくてな」
「カカカッ、客人は優しいのう。確かにこいつもわしらの隣人には違いないが、ちょいとばかり斬られたくらいで枯れるほど弱いやつじゃねえ」
 侍の言葉を軽快に笑い飛ばしながらギリーは鋸を木の枝に当てると、歯を見せるようににやりと笑みを浮かべた。
「とは言え、あんまりしつこいようなら痛ーい思いはしてもらう事にはなるかもしれんがのう?」
 そう言ってギリーが鋸を動かそうとした瞬間、狐の身体に絡まっていた枝がするすると縮み解放された狐は逃げるようにふわふわと空を飛んで侍の後ろに隠れる、思ったよりも聞き分けの良い結果にギリーはやれやれと肩を竦めると鋸をしまって侍の方を向いた。
「見ての通り、悪戯小僧は多少怖い目見ないとわからんもんよ」
「手助け感謝する。自分はオニバス・ビロウ、この御恩はいつか必ず」
 畏まった態度のオニバス・ビロウ(花冠・f19687)にギリーが再び肩を竦めそうになった瞬間、肌に突き刺さるような悪寒が彼の背中を走る。オニバスも同じものを感じたのか、腰の刀に手をかけ警戒するように周囲に視線を巡らせていた。
「この気配……!」
「今すぐ恩を返してもらうぞ色男、お前さんの力も必要そうだ」
「いや、ここは俺一人で行く。二人はここに残って……」
 オニバスが何か言い終える前に、ギリーは気配のする方へ向かって駆け出す。奇しくもそれは来た道を戻る方角、彼の家がある場所だ。
「その身体能力、貴方も猟兵だったか」
「呼び名は知らんよ、こうした荒事に慣れてるだけじゃ」
 老いてなおレッドキャップの身体能力に衰えが見えないギリーとその足に軽々と追いついてくるオニバス、お互いが常識的な存在でないのは今の様子を見れば簡単に理解できた。そしてこの世界ではそんな生命の埒外の存在でなければ対処できないものが度々出現する。
「……あれか!」
 オニバスが鋭い目付きで見据えた先に居たのは一本の大樹。それが普通と違うのは炭のように黒い幹を持ち、枝に咲く花は血のような真紅、そして根が地上に露出し生き物の触手のように獲物を探して動き回っているという事。
「骸魂に飲まれちまってるな、目くらましできるか」
「心得た」
 ギリーの言葉にオニバスは懐から花冠を取り出すと、手裏剣の如く妖樹に向かって投擲する。妖樹もまた瑞々しさを残す花の生命力を過敏に感じ取ったのか蠢く根を槍のように伸ばし花冠を突き刺そうとした瞬間、激しい光と衝撃と共に花が弾けた。
 植物に目はないが、その代わり細胞の中に熱や動きを感知する細胞を持っている。その機能を瞬間的な熱で潰された妖樹は苦悶の声を上げるようにその身を戦慄かせた。
「ほっ!」
 その隙に根と根の間を潜り抜けて妖樹の懐に潜り込んだギリーはその幹に鋸の刃を喰いつかせ、円を描くように猛烈な勢いで駆け出す。植物型の妖怪はそこを壊せば終わりという明確な弱点はない、故に根から本体を切り離すのが最も効率的な撃退法なのだが。
「ちぃ!」
 鋸の刃が半ばほどめり込んだ所で、回復した根がギリーに向かってその身を振り下ろす。咄嗟に鋸を手放して攻撃を回避するが、その隙に次々と回復していく根が蛇のように鎌首をもたげギリーを取り囲んでいく。
(踏み込み過ぎたか……!)
 いくら足が速くても逃げ道を全て潰されてしまえばそれを発揮することはできない、オニバスが援護のために追加の花冠を投擲するも妖樹が身体を揺らして落とした花弁が壁となり衝撃を防いでしまう。
(ならばこの身で直接!)
 花冠の対策をされたオニバスは刀に手をかけ深く身を沈める、危険な賭けにはなるが何もしないよりは余程マシだろう。深く息を吸い込んだオニバスはギリーを助けるべく勢いよく地面を蹴り出し。
「オブリビオン死すべし!くらえ、鮫魔術を操るメイドの術!ヒャッハー!」
 背後から飛んできた鮫に衝突され身体をくの字に折り曲げながら宙を舞った。
 それと同時に立ち込める暗雲、風は渦を巻き大粒の雨と共に降り注ぐ鮫が妖樹の身体に次々と喰らい付く。この世の地獄のような光景の中転がるように根の包囲網から抜け出したギリーが突風に吹き飛ばされないように身を屈めていると不意にその身体が抱き上げられる。
「ギリーさん!?現地で戦っている住人があなたとは……」
「ああ?お前さんは確か……」
「レンです、レン・ランフォード。改めてお見知りおきを」
 そう自己紹介をしつつギリーを抱えたレン・ランフォード(近接忍術師ニンジャフォーサー・f00762)はそのまま風に乗って飛び上がり、妖樹の側から素早く離脱する。それと入れ替わりに妖樹に飛び込んだ二人のレンが苦無を投擲し妖樹の全身に突き刺すと鮫を巻き込むことも厭わず一斉に爆破した。
「あー、ランフォード様貴重な戦力削らないでくださいよ」
「絶対敵味方識別しないで襲ってくんだろあの鮫……」
 鮫の着ぐるみを着てふよふよと降りてきたエミリィ・ジゼル(かじできないさん・f01678)にレンの人格の一人である錬が訝しむような表情で答えていると、そのすぐ隣にオニバスがぐしゃりと音を立てて落下する。死んだかと錬が冷静にその様子を見ていると、オニバスは刀を杖のようにして身体を支えながらゆっくりと立ち上がった。
「助太刀、感謝する……」
「無理すんなよあんまり……っと!」
 心配そうな目でオニバスを見つめていた錬だったが、自身の足元に落ちた影から攻撃の気配を察知し振り下ろされた木の根を跳躍して躱す。鮫の噛み痕や爆破の衝撃で身体のあちこちが抉られている妖樹だが、その動きにはまだ陰りが見えない。
「凄まじい不死性、ホラーの怪物はこうでありませんと」
「めんどくさい…」
「なら燃やしちまえばいいさ、そんぐらいで中の奴が死ぬこともあるめえ」
「そちらがそういうのであれば、それで行こう」
 簡単な作戦会議を終えた猟兵達はそれぞれの顔を一度見ると、一斉に散開する。
「シッ!」
 最初に動いたのはオニバス。短く息を吐くと同時に三度投擲された花冠に対し妖樹は花弁を散らして身を守ろうとするが、エミリィの生み出した竜巻により花はすぐに散り散りになってしまい壁となるほど密集することができない。身を守る術を失った妖樹は強烈な光を直接その身に浴び、再びその身を苦悶に揺らす。
「二人とも!」
「おう!」
「りょうかい……」
 オニバスが作った隙を突いて三人のレンがありったけのグレネードと手投げ魚雷を投擲する。その中身は粘性を持った燃料を用いて相手に消えない火を付ける焼夷弾、普段は周辺被害の関係からあまり使われる事はないが敵の生命力を考えると出し惜しみはしていられない。
 爆弾が炸裂し、紅蓮の炎が周囲を巻き込みながら瞬く間に妖樹を包み込む。竜巻の風によって想定よりも広い範囲に燃料が散ってしまったようだが降り注ぐ雨のおかげで火の粉が散るような事はない、この辺り一帯はともかくとして遠くまで飛び火をする危険性は無さそうだ。
 膨大な熱量に包まれた妖樹は蓄えた水分が蒸発し弾ける音を悲鳴のように上げるが、身体に喰らい付いてくる鮫によって身動きを封じられ火を消そうと暴れる事すら許されない。火に包まれているのは鮫達も同じなのだが彼らはそんな事も意に介さず獲物に牙を立て続けている。
 唯一できる抵抗としてひたすらその身を揺らす妖樹だったが、その動きも段々と緩慢になっていく。ここが好機とギリーは矢のように駆け出し、木の幹に刺さったままの鋸を引き抜くとそれを鉈のように振り回し燃えて脆くなった木の根を次々と幹から切り離していく。
 先程まではギリーとオニバスの二人しかおらず、またギリーは妖樹を丸ごと攻撃できるような高火力の一撃を持っていない。少しずつ削っていく戦法では追い詰められた敵がなんらかの隠し玉を持っていた時に全滅する恐れがあったため、リスクが高くとも一息で仕留められる幹の切り離ししか勝ち目がなかった。
 だが今は違う、実力のある猟兵が二人増え火力も充分、ならば自分は走り回り相手を削り味方が殺しきれるまで相手を弱らせればそれで良い。
 そうして木の根の半分ほどを幹から切り離したギリーだったが、不意に妖樹がその身体を大きく震わせた。
「……っ!」
 直後、ギリーに向かって燃え盛る花弁が雨のように降り注ぐ。単に火の付いた花というだけならば猟兵にとっては目くらましにしかならないが、暴風に乗って接近する花弁に危機感を感じたギリーが咄嗟に鋸を振るうと刃と接触した花弁から金属のような甲高い音が響き渡った。
 薄さはそのまま金属のように硬質化している、触れれば肉くらいは簡単に斬れるだろう。先程は盾として使っていた花を今度は剣として使う、動きが鈍っていたのは弱っていただけでなくこれが好機と踏み込んできた猟兵を仕留めるための罠でもあったのだろう。頭がないくせに知恵が回るとギリーが内心で毒づいている間にも花の雨は彼を飲み込まんと見る間にその距離を詰めていく。
「身体ぁ持ってくれよ!鮫竜巻三倍だああ!」
 しかし、その赤い刃がギリーに触れる直前気合の入ったエミリィの叫びと共に無数の鮫が彼と花弁の間に割り込むように飛び込む。焦げたアンモニア臭と共に鮫がちょっと良い子にはお見せできない姿に変貌するが、その隙にギリーは木の下から出るように距離を取った。
(またこの展開か、埒が明かないのぅ……)
 近づいて、傷を与えて、反撃されて距離を取る、先程からその繰り返し。燃え盛る枝には再び赤々と華を咲かせている所から見てまだ余裕はあるのだろう。このままでは相手が燃え尽きる前にこちらの体力が尽きる、そんな焦りがギリーの胸中に湧き出てきた時だった。
「人の成果を横から取るようで心苦しいが」
 オニバスの声と共にキンと金属の鳴る涼やかな音が嵐の中ではっきりと響く。緊迫した戦況かつそれを鳴らしたのが味方であるオニバスという事がわかっていた事もあり彼の方を見る者は居なかったが、もし咄嗟に音のした方を向いても見る光景は変わらなかっただろう。
 何故ならその音が鳴った時、彼は既に刀を納めていたのだから。
「時間をかけては滅びへ繋がるゆえ、許してほしい」
 刹那、幹に繋がっていた残り半分の根が鮮やかな切り口で両断される。人知を超えた骸魂と言えどその根幹は大地に根を差す大樹である以上、地面から完全に切り離されては弱体化は免れない。
「こちらの刃では火力が足りん、後は頼んだ!」
 オニバスの言葉に三人のレンがそれぞれ懐から黒い柄を取り出す、それは彼女達が出せる最大火力にして底知れぬ生命力を持つ妖樹を倒しえる不死殺しの一刀。
「今度はどんな小細工もさせねえ、一撃でぶっ飛ばす!」
「りみったーかっと……」
「オーヴァーブースト!」
「「「刎ねろ、『童子切』!!」」」
 三方向から伸びる翡翠の閃光、限界を超えた出力で放たれる光の本流は射線上にいる鮫ごと妖樹を飲み込みその身を塵へ変えていく。莫大な熱量は敵を打ち倒すだけでは収まりきらず、三つの刃の交錯点から生まれた光の柱は暗雲を消し飛ばしカクリヨファンタズムに晴れやかな青空とそこに掛かる虹の橋を作り出した。
「凄まじい火力……いやだがこれはカクリヨでやって大丈夫なやつか?」
 竜巻と爆発の影響で更地となった周囲の景色を見て、オニバスは一人悩むように口元に手を当てる。想像していたよりも遥かに強力な広範囲殲滅攻撃、もしこれを人里でやったらと思うと背筋に冷たいものが走る。
「自分でも言ってたじゃないですか下手にダラダラ引き延ばすとカタストロフ案件だって、だからまあいいんじゃないっすかね」
「それはそうなのだが、うむ……」
エミリィの意見を聞いてもなお、オニバスはどこか悩むように眉間に皺を寄せる。彼女の言っている事は正しく、世界を蝕む災厄を止めるためならば多少の被害は許容して然るべきなのだろう。
 しかし土地と人を守る戦い方を選んだオニバスにとって、目の前に広がる景色は少々考えさせられるものがあった。
「まあ難しい話は後にするとして、陛下に連絡入れて帰りましょう。ビロウ様とオラージュ様はどうします?」
「……いや、俺はもう少しこの世界を見てから戻る、元々花桃の飼い主探しに来ていたのでな」
「花桃の、ですか?」
 オニバスの言葉に蓮は少しだけ目を細めると、眼鏡の位置を調整しながら彼の連れる子狐を見つめる。確かに白い毛並みとふよふよと飛ぶその様子は妖怪らしくはあるが、いくつかの世界を巡った蓮の目にはまた別の何かにも見える。
 とは言え明確に何かを言えるほどの違和感でもない、今の段階では下手な物言いは混乱を生むだけだろうと蓮はそれ以上の言及を避けることにした。カクリヨでの捜索に一区切りついてからでも遅くはないはずだ。
「報告やらが必要ならついていくが、そうじゃねえならわしは帰らせてほしいのぅ」
 自らの疲労を伝えるようにブラブラと手を振りながら、ギリーは鋸を懐にしまう。何かと予定にない出来事の多い一日だった、布団に身体を放り投げてまた明日の昼まで寝ていたいものだ。
「りょ、じゃあランフォード様とわたくしの二人と伝えますね」
 エミリィがグリモア猟兵に任務終了の旨を伝えている間にもうここに居る必要はないだろうとギリーは歩き始めて、目の前に広がるのが草の根一つない荒野であることを改めて認識した。
「……わしの家どこ?」
「家?家がこの辺りにあるのか?」
 ギリーの言葉にオニバスも彼の視線が向く方を見て、地平線まで続く荒野に冷や汗を流す。蓮もまた凍り付く周囲の空気に何かを察したのだろう、電池の切れかけた玩具のようなどこかぎこちない動きでエミリィの方を見ると彼女は珍しく神妙な面持ちをしながらゆっくりと首を縦に振り、元気よく片手を上げた。
「じゃ、お疲れっしたー」
「逃げるなああああ!」
「すいませんアンノットさんテレポート中止お願いします!」
 光の粒子を放ちながらスーッと身体が薄くなっていくエミリィだったが、蓮の素早い通報と同時に透明度が元に戻る。そこを素早く錬が取り押さえ拘束するとオニバスを加えた四人で逃走防止及び緊急会議の為に円陣を組んだ。
「多分、いや確実に私達の戦闘で巻き込みましたよね……」
「もー、ランフォード様が焼夷弾なんか使うからー」
「アンタの竜巻もだいぶ悪いだろ……!」
「双方そこまで、今大切なのは誰がやったではなく家をどうするかだ……」
 四人がああでもないこうでもないと話している間にれんがギリーに場所を教えてもらい家があった場所へと向かう。もしかしたら何らかの原因で見えなくなってるだけで奇跡的に無事とかいう蜘蛛の糸よりも細い可能性に縋っての事だが、案内にされた先にあったのは一匹の鮫が我が物顔で泳ぐ小さな池であった。おそらく土台ごと吹き飛ばされてできた窪みに雨水と鮫が降り注いできたのだろう、これではテントを立てることも難しい。
「いくあてある…?」
「ねえなあ……いや適当な奴に声かけりゃあ泊めてはくれると思うがわしの肩が凝っちまう」
 お世辞にもギリーの生活は勤勉とは言えない、しかし居候の身となってもその生活を続けられるほど自堕落な性格というわけでもない、さりとて大昔のように森や洞窟に潜んで暮らすには随分と文明というやつに慣れてしまった、有体に言って詰みである。
 とりあえず最低限鮫だけでも排除しておこうとれんが忍具を構えている頃、緊急会議組の話し合いは続く。
「そうだ、できないさん時間戻せただろ?それでどうにかできないか?」
「いやあ、実は何回かやってみてるんですけど上手くいかないんですよね」
「一度決まった定めはそう簡単に覆らない、か……」
 エミリィを除く三人が重い溜息を吐いていると一匹の鮫を引きずりながられんとギリーが戻って来た。
「お、どうだった?」
「さめがみちみち……」
「ありゃちょっとした湖だ、一日二日じゃどうにもならねえなぁ……」
 そう言ってれんが指さす方向には鮫がみっちりと満ち、少しでも空間を確保するためか互いに共食いまでしている地獄のような光景が広がっていた。何故こうなってしまったのか、唯一知っていそうなエミリィは笑顔のまま黙して語らない。
「と、なると選択肢は一つしかありませんね……」
 現状を確認した蓮は再度連絡を入れると彼女達三人とエミリィ、そしてオニバスとギリーにも転移が発生する。最初に到着したグリモアベースで家屋破壊の件も含めて今回の依頼結果を報告すると苦虫を嚙み潰したような顔をされたが、過ぎたことを一々言及しても仕方がないので話を次のステップに進めるために全員纏めて再び転移を行う。
「……ここは、芋煮艇か?」
 飛ばされた先の景色を見てまず声を上げたのはオニバスだった。正式名称宇宙船・イモータル級二号艦艇、猟兵達がいつも世話になっている旅団その場所である。
「ええ、幾つか居住区もありまして。私も週三くらいはここを使わせてもらってますね」
「部屋があるのは知っていたが、まだ空きが残っていたのか……」
 空の上の事情にはあまり詳しくないオニバスだが命が生きていくうえで必要なものが何もない場所であるという事は知っている。そこに現時点で一つの村と同じ程度の人間が住んでいて、未だなお移住のできる余裕があるというのはオニバスからすれば驚きが隠せない。
 こちらですと先導するレン達の後を追い他の面子も船の奥へと進む、その途中でふとギリーの目に窓の外に映る景色が映った。
 上だけでなく前にも下にも広がる無限の星空、元居た世界では絶対に見ることはできなかっただろう。美しいものではあるのは確かだが、同時にどこか恐ろしいものも感じてしまう。
「床の下の下にゃあ底の無い落とし穴があると考えると、ちょいと気が気でなくなっちまうなあ」
「あー、わかるなその気持ち……ふとした時に頭を過っちまうんだよなあ」
 ギリーの言葉に錬が同意するように視線を窓の外に向ける。猟兵の身体能力であれば宇宙空間でもしばらく持ちこたえる事は出来るだろうし、自分の場合は宇宙服代わりの絡繰りを呼び出すこともできる、それでも無限の暗闇の中に一人漂流すると考えるとゾっとするものがある。
「不安ならビロウ様から木苺貰っておきます?」
「前々から思っていたのだが、皆は俺の木苺をなんだと思っているんだ……?」
「と、ここですね」
 オニバスの疑問に答えが返ってくる前に蓮が一つの扉の前で静止し、タッチパネルに数桁の数字を入力すると空気の漏れる音と共に扉が開かれる。
 部屋の大きさは六畳ほど、家具はないが壁の中に埋め込まれるような形で寝具は置いてある。厠と風呂場は別の場所にあり基本的には他の船員と共同で使用、食事も船内にある食堂で食べることができる、これらの施設を利用する際に料金は必要なし。
「概要としてはこんなものですが、どうでしょうか?」
 どこか申し訳なさそうな顔をして訪ねてくる蓮に対して、ギリーはどこか考え込むように口元に手を当てる。
(……前の寝床より便利じゃねえ?)
 部屋は素材のよくわからない無機質な素材で出来ているが、そんなものは住んでいれば慣れるだろう。寝具も自分が使っていた煎餅布団よりもずっと柔らかいし家具はそもそも前の家でも大して使用していなかった。
 風呂も食事もタダでいつでも利用して問題ない、というのも魅力的だ。カクリヨも金銭が絡むことは少ない世界であったが他の世界ではそうでもない場所も多いと聞く、猟兵の特権を利用するにしてもその存在を知っている組織を介さないといけない世界もあるとか、そういうゴタゴタと面倒な事に関わらなくて良いというのならこれ以上楽なものはないだろう。
「猟兵が集まる場所故多少騒動が起こる事はあるだろうが少なくとも雨風に晒される事はない、仮住まいには丁度良い場所ではなかろうか」
 オニバスはそういうが雨風以上の騒動なんてカクリヨでもしょっちゅうだ、なんなら妖怪同士の喧嘩で雨風が壁を突き破ってくることなんかもある、大した問題ではない。
(こいつは儲けたかもしれんのぉ……)
 吊り上がる口元を手で隠していたギリーだったが、すっと表情を引き締めると蓮の方に向き直る。
むしろ前のあばら家よりこっちの方が住み心地が良さそうじゃせんきゅー!前の家にも愛着はあったが仕方ねえ、こっち住ませてもらうかの……
「オラージュ様本音と建て前逆っすよ」
 そんなこんなでギリー・オラージュは無事新しい寝床を手に入れる事ができた。この後芋煮艇内で起こる騒動がカクリヨで起こるそれとは方向性が微妙に違う凶悪性であることを知ることになるのだが、それはまた別のお話。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年08月11日


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