2
Restart

#ゴッドゲームオンライン #ノベル

東・御星





 ゴッドゲームオンライン。
 現実世界と見間違うほどに精巧な仮想現実のフィールドを、二人の少女が歩いている。片方は東・御星で、もう片方はこの世界に存在する「アリサ」というプレイヤーキャラクターだ。
「本当はプレイヤーの美結本人を呼べたらもっとよかったんだけどね。ゲーム世界に美結を呼ぶのが無理でも、アリサの外見を美結そっくりの顔にしちゃうとかで」
「す、すみません」
「謝る必要ないわよ。まだ私に素顔を見せるのが恥ずかしいって話だったよね? 現実世界で逢えた時のお楽しみって事にしておくわ」
「でも、せっかく私なんかが御星さんの役に立てる機会なのに、そんな理由で拒むなんて……や、やっぱり申し訳ないです」
「もう」
 御星は美結と呼んだ少女の額を軽く指で小突く。本当に軽いじゃれ合いのつもりだったのだが、殴られると思ったのか美結はびくりと身体を強張らせていた。
 日常的に虐待を受けている証拠だろう。御星としても早く彼女を助けたいところだが、こればかりは御星の力だけでどうにかなるものではない。今はこの仮想現実でも出来る「助け」を積み重ねていくしかないのだと御星は改めて認識した。
「前にも云ったけど、私“なんか”は禁止よ」
「……はい。云いつけ守れなくて、ごめんなさい」
「云いつけじゃなくて、これはお願い。美結は私の大切な人だから」
 しょんぼりした美結の顔を覗き込むように視線を合わせ、心を込めて説き伏せた。
「私の大切な人を、誰にもないがしろにされたくないの。もちろんあなた自身にも」
「ごめんなさい」
「謝る事じゃないわ。だからこういう時はごめんじゃなくて、ありがとうって云ってくれたらもっと嬉しいかも」
「……はい。ありがとう、ございます」
 控えめに、けれどしっかり笑顔になる美結に、御星もとびきりの笑みを返した。


 時は少し遡る。
 御星が全ての自信を失い、自暴自棄に陥っていた頃、GGOで「アリサ」という名のプレイヤーキャラクターに出逢った。交流を重ねていくうち彼女は美結という名の統制機構コントロールに住む少女であり、ゲーム内での明るい振る舞いとは裏腹に現実世界では鬱屈した生活を送っている事を知った。
 彼女は御星に助けを求めたが、いかに縁を司る御星であっても「猟兵」と「統制機構」という未だ繋がっていない縁を結び付ける事は叶わない。それに当時の御星は誰かを助けられるほどの精神的余裕もなく、共に自暴自棄に溺れていく事しかできなかったのだが――。

(「いつまでも立ち止まっているわけにはいかないよね」)
 やがて御星は心の傷を徐々に克服し、立ち上がっていく。
 少しずつ周りの事に目が向くようになって、御星は気づいた。挫折のうちに取り返しのつかなくなってしまったものもあったが、変わらず傍にいてくれた人たちもいたのだと。そのうちの一人が美結だった。
 彼女を“手懐ける”ために多少卑怯な手を使った自覚はあったが、それでも彼女が御星に向けてくれる愛情も、御星自身が彼女に向ける思いもほんものだった。
 だから御星は美結に逢いにいった。そうして全てを説明した。自分が猟兵という存在で、美結のように統制機構からゲームにログインしているのではなく、世界を渡る力でゲームに直接入り込んでいるのだということ。
 しかしGGO世界には入れるが統制機構へと渡る手段がなく、それゆえに現実世界の「美結」に出逢う事はできないのだということ。
「だから以前あなたからのSOSに応えられなかったの。でも私、あなたを助けたいって思ってる。それは本当よ。いつか――いつか猟兵が統制機構に渡る事ができるって、私は信じてる。その時には美結、あなたに絶対逢いに行くわ。その時までにあなたを助けられる力を手に入れて、必ずあなたを迎えに行く。それまで待っていてくれる?」
 美結は頷いてくれた。そして彼女からも申し出てくれた。
「……私も、御星さんを助ける事はできますか?」
 助けを待っているだけではなく、御星のためになにかしたいと云ってくれた。
 役立たずの烙印を家族や世界から押されていた少女の、それは途方もなく勇気が必要なことだっただろう。だから御星もその想いを受け止め、ユーベルコードの開発に協力してもらうことにしたのだ。


「これはね、単に技の開発を手伝ってもらうというだけじゃなくて、もっと大きな意味で私を助けて貰えるんだと思うの」
「……どういう、事ですか?」
「私ね、ずっと“東の一族”を継ぐ者としてこうあらねばという理想像に捕らわれていたの」
 先祖と同じ失敗をしてはならない。汚名を返上し、この力を正しく使い未来を担う存在でなければならない。
「でも、無理だった。それでね、私って多分極端なところがあるの。物事をはっきりさせたがるっていうか……ゼロヒャク思考っていうのかな。だからその時も、完全な理想像になれなかった自分には全く価値がないって思い込んじゃったのよね」
 その資質は一族の代表という立場以外の場所でも御星を苦しめてきた。奔放な女性を疎ましく思う反面どこか羨ましくも感じてしまう自己矛盾をどうしても認められなかったり、他者に注いだ愛情に見返りを求めてしまいそれが思ったように得られない事が耐えられなかったり。
「そんな事……御星さんに価値がないなんて、そんな事ないです!」
「そうね。ありがとう。同じようなこと、私も美結に云ってるんだから、私も美結に云って貰えたことをちゃんと受け止めなきゃね」
 自分の価値を認めてくれる他者の言葉を受け容れられるようになっているのを御星は感じた。心に入った無数の罅にどろどろと沁み込んでいた醜い感情が、少しずつ洗われていくようだった。
「だからね、これからは東の理想という偶像としてじゃなくて、あくまで一猟兵として、胸を張って生きられるような自信を持っていきたいなって」
「……だから、私なんですか? 偶像を演じられなくなってから出逢った私の力を技にできたら、“新しい力を得た猟兵の御星”さんとして再スタートを切る自信に繋がりそうって事ですよね?」
「それもあるわ」
「それ“も”?」
「いちばんの理由は、私が美結を好きだからかな」
 ぼっと美結が耳まで赤くなった。
「かっ……からかわないでください」
「本気よ。美結は違うの?」
 残念ねえ、なんて眉尻を下げると美結が慌てて否定した。
「そんな事ないです! 私だって御星さんのこと、す、」
「す?」
「す……」
 がさっと草陰が大きく揺れた。
「……もう、空気読みなさいよね」
 ツーサイドロックバレルを構える御星。美結もまた、御星から受け取った武装を構えた。
現れたのは中級エネミーだ。「アリサ」のレベルではまだ難しいが、彼女はいま御星の武装を手にしている。
「シミュレーションはばっちり。あとは実践で美結がちゃんと技を使えるようになればOKね」
「はい。頑張ります!」


 御星と美結が協力して生み出したユーベルコードは大きく5つだ。

【1:自分と同装備を装備、同一技能を有した美結を召喚し協力して戦闘や同行活動を行う】
「これは既にクリアね。GGO以外でも出来るかは試してみないとわからないけど、少なくとも現時点ではオッケー」
「はい」
「じゃあ次ね」

【2:美結にツーサイドロッドバレルに搭載されている別動力で稼働するあらゆる防御・無敵系UC・防御機構を力技で突破するための考えうる限りの戦略吸最大火力を求めた武装系UCの承認権限を与える】
「確かあいつ、ちょうど防御力に優れていたわよね」
 エネミーのステータスを開示覗き見しながら御星が呟く。
「アリサのレベルの通常攻撃は通らないはずよ。でもこの技ならうまくいくはず」
「なんとか、やってみます……!」
 ツーサイドロッドバレルの複製を構えて美結が念じる。美結は御星がいずれそうなるようにツーサイドロッドバレルの全形態を使いこなす事は出来ないが、代わりにひとつ強力な技を使えるのだ。
 複製が光り輝いて、輝く槍へと変化する。
 それは「アリスナイト・イマジネイション」を元にした力だ。
“無敵の【輝く槍】を想像から創造し、戦闘に利用できる。強力だが、能力に疑念を感じると大幅に弱体化する”
 美結の身体能力は低く、アリサというプレイヤーキャラクターもけして強くはない。しかし「愛する御星から授かった力」を彼女は無心で信じることができる。それゆえにこの力は、あらゆる防御を突破する文字通り無敵の槍なのだ。
「ええいっ……!」
 拙いながら一生懸命に突き出した槍が、格上である中級エネミーにすら甚大なダメージを与えた。


「やった、美結、うまいじゃない!」
 御星が褒めたたえる。攻撃を喰らったエネミーが腹立たしそうに唸り、無数の光弾を飛ばしてきた。
「さあ、どんどんいきましょ」

【3:美結と協力して、戦場に無数のナノビットを散布し、無数の対象をマルチロックオンし各種自然現象を起こしての対象の無力化、沈黙を行う。この際マルチロックオンを行う役割は美結にある。ただしこのUCはあくまで対象の放った攻撃の迎撃に使うため自発的な攻撃には使用不可】
「ナノビットを一度に全部制御しようとしないで。何度か練習して、少しずつ動かせる数を増やしていけばいいから」
「は、はい……!」
 懸命にナノビットを放ち、光弾を打ち消していく。撃ち漏らしたものは御星が迎撃していった。現段階では強力な敵相手には通用しないかもしれないが、今後も美結に協力してもらい、場数を踏んでいけば十分に実用可能なレベルになるだろう。

【4:美結と協力して空間の環境をナノビットによる電脳干渉で操作し、何かしら2人にとって有利な電脳攻撃を実行する】
「これはグラフィティスプラッシュの応用でいけるかしら。【ナノビットによる電脳攻撃】が命中した対象にダメージを与えるが、外れても地形【を覆う電脳干渉が自身と仲間を強化】、その上に立つ自身の戦闘力を高める――ってとこね」
 美結が再びナノビットに干渉する。今度は御星と協力して行うという事もあってか、先程よりも効率よく行えた。エネミーが電脳攻撃を受けて苦しみながら、再び光弾を放ってきた。
「とどめを刺す前に最後の技を練習するわよ」
「はい!」

【5:2人でナノビットを展開し戦略級UCすら防ぎきる強力な多重防御フィールドを形成し、攻撃を無力化する】
「つまりまとめるとこうなるかしら。これは“オブリビオン・ヴォイド”の応用。“自身の【武装及び美結の持つ武装】から【無数のナノビットを展開、強力な多重防御フィールド】を放出し、戦場内全ての【あらゆる攻撃】を無力化する。ただし1日にレベル秒以上使用すると死ぬ”」
「えっ、死……!」
「死なないわよ。死なせない。死なない為の決死の防御ってやつね。秒数のカウントはちゃんとしてるから」
 二人の形成した多重防御は全ての光弾を受け止めきった。そして箒と槍、ふたつのツーサイドロックバレルが、エネミーを打ち倒したのだった。


「ありがとう、美結」
「……なんだかすごく疲れちゃいました。私、お役に立てましたか?」
「ええ。とっても」
 御星が笑うと、美結も目を輝かせて微笑んでくれた。アリサという溌溂とした仮面とはまた違う、美結という内気な少女の心からの笑顔だっただろう。
(「美結のこんな顔、もっと見れたらいいな」)
 自己肯定感のとても低い彼女が、自分が御星のためになっているのだと、気づいてくれたら。それは美結の自信にもなるし、他ならぬ御星の自信にもつながっていく。私でもまだ誰かを助けられるんだ、と。
(「こんなかけがえのない笑顔を守るためなら、私、まだ戦えるかも」)
 一族の重圧に打ちひしがれていた少女の再起。それはこんなにもささやかで、けれど大切なものだったのかもしれない。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年07月21日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#ゴッドゲームオンライン
🔒
#ノベル


30




挿絵イラスト