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光と闇と色眼鏡

#サイキックハーツ #ノベル

ギュスターヴ・ベルトラン





 男は言った。
「どう思う? この絵面」

 女は言った。
「正直、カタギに見えませんね」


 退魔の力が迸り、光条が闇を灼いた。
 降り注ぐ夏の日差しより赫い光、ジャッジメントレイ。悪しきものに滅びを、善なるものに救いを齎す裁きの光。
 無辜の民を脅かし、害し、苦しめる怪物は正しく悪と呼ぶべきものであり、故に輝きはエクソシストの期待通りに猛威を振るう。
「今ので最後か」
 敵勢力の全滅を見届けて、ギュスターヴ・ベルトランは喜びもそこそこにそっと目元を押さえた。
 ――目がチリチリする。
 ほんの些細な、だが有り得べからざる不調。
 学生時代から今日に至るまで十年以上ジャッジメントレイを使い続けてきたが、こんな事は初めてだ。今まで一度も、極限の戦いだったサイキックハーツ大戦の時ですら何一つ問題は起きなかった。
 起きる筈がないのだ。対象に応じて効果が変質するこのサイキックならば、例え民間人を誤射したとしても不幸な事故に繋がりはしない。そういう能力だ。まして使い手自身の目を灼くなどと。

 ――今になって何故?
 思索を巡らせる。
 真っ先に思い付くのは数ヶ月前、不調と同時期に出現した復活ダークネスだが、直接的に何かされた憶えはない。自覚する限り、このサイキック以外に自らの身体に変化もない。
 ――“闇”の残滓の影響か?
 ポテンシャル及び殲術道具由来のサイキックは正常に機能している。怒り狂うが如く猛っているのはエクソシストの力、即ち己の魂に眠るノーライフキングから引き出した力のみ。なら、その屍王が憤怒の激情を抱いているとすれば、どうか。
 今までギュスターヴは己の中の闇に身体を明け渡した事はなかったが、ブレイズゲート内を含めればその力に触れた経験がないでもない。故に彼は、自らがそうなった時の姿は把握している。
 屍王の基本形質たる白骨と水晶に加えて、それ以上に印象的な無数の翼、瞳、そして車輪。かつて彼が教わった神学において座天使と呼ばれた存在によく似た姿。
 天上の位階、上位三隊“父”の階層の第三位。神の戦車を運ぶ天使。神の公正さと正義を体現するもの。
 知っているのは姿だけだが。
 ――もし、内面も座天使のそれに近いものだとすれば?

 その公正さと正義を以て否定せねばならない宿敵が現れたなら、天使は激しく怒りをぶつけようとするのではないか。
 闇堕ちにより完全に肉体を明け渡さずとも、灼滅者はダークネスの力だけをある程度引き出せる。ならば逆に意識だけが部分的に表出する可能性も皆無とは言い切れまい。それが灼滅者の意思とは独立して力に干渉する可能性も。
 そう考えれば彼の中で筋は通る。
 ヒトの子とは天使にとって神の正義の名の下に庇護すべきもの。正義を司る天使が罪なき者の身をどうこうする必然性はない。同族たる他のダークネスに手を出す理由もないなら、過去の大戦において静観を決め込むのも道理。
「……結論ありきで考え過ぎだな」
 彼の勘は根拠と呼べる程のものではない。現時点ではいっそ妄想と呼んでも良い。それに全てが彼の思い付きの通りだとしても、この復活ダークネスのみを強く敵視する理由が全く分からない。ギュスターヴはそこで思索を打ち切り。
 ただ。
 ――とりあえず、このまま力を振るう訳にはいかない。
 現時点でもそれだけはハッキリしている。己の意思で力を振るうからこそ自分は自分なのだ。闇の残滓の傀儡に成り下がるならそれはもうギュスターヴ・ベルトランではない。
 個の喪失は望むところではない。鍛えた力は一度スレイヤーカードへと封印しよう。万全を期すなら補助用の殲術道具なども採用すべきか。
「こうなると、古巣に頼った方が話が早いな」


 かくして彼は久方ぶりに武蔵坂学園へと帰り。

 そして今、鏡を前に渋い顔をしていた。その目にはサングラスが掛けられている。
「何故この形に?」
 ギュスターヴは問うた。カソック+サングラスのスタイルが何ともコメントし難いものだったが故に。
「人間の知覚は視覚が八割ですから、敵の姿さえ誤魔化せばどうにかなるかと」
「正気か?」
「勿論」
 んなわけねーだろ。とオブラートに包み切れない内心を吐き出すと、学園の御同輩は平然と頷いた。
「まあ、それだけではないですが」
「と言うと?」
「何より、作るのが楽です」
 魔力を込めた眼鏡には灼滅者の力を制御する機能がある。ベースの時点でこの性質を備えるアクセサリは眼鏡とコンタクトレンズの二種だけで、そして長期的な運用を考えると前者の方が使い勝手が良い。
 そう言われるとギュスターヴは納得する他なく。

 あるいはこれが失敗作であれば文句の一つも言えたのかもしれないが、後日試したところ彼の予想に反してサングラスは完全に機能した。
 ――自分の中の闇は、もしかしたら意外と阿呆なのだろうか。
 そんな疑念が少しばかり首を擡げたが、ともあれ。それ以来、彼はサングラスを掛けている。

成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​🔴​🔴​🔴​



最終結果:成功

完成日:2024年07月09日


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