地球到達不能極ーPoint Nemoー
●Point Nemo
其処には何も無い 生命は存在しえない
虚無だった筈のそれは 意味の無いそれは
決して到達しえない
誰も居ない場所
●UDC組織日本第12支部
≪緊急事態――緊急事態――各職員は行動基準に則り――……≫
「Cブロック通信断絶!直ちに封鎖しろ!」
「セキュリティーチームは脱走したUDC怪物の鎮圧を急げ!研究チームは施設外への退避を……」
「出口なんて何処にもないぞ!どうなってるんだ!?」
第12UDC支部は謎のオブリビオン『カットスローターズ』の襲撃により壊滅状態へと陥っていた。施設を脱出不能の閉鎖空間へと変容させ、施設に封印・収容していた邪神を解き放ち、UDC怪物の闊歩する地獄へと変貌させた。施設内の職員の殆どは喰い散らかされ、邪神の影響でとある海域と融合した施設には海水が流れ込みその機能は殆ど喪失させられ、生き残った職員達も必死の抵抗を試みるが逃げ場の無いこの閉鎖空間に於いてはもはやその運命の末路は明白だった。
「案外しぶといねえ。縫村、闇堕ちゲームの方はどうなってる?」
『少々こちらにとっても想定外の事が起きているようですが、概ね順調に邪神達は殺し合っているようですね。あと少しですが……切宮君。まだ油断はできませんよ』
「分かってる。ヘマなんかしない――さ」
阿鼻叫喚の地獄絵図と化した施設内を悠々と闊歩する少年――『カットスローターズ』はその蛮行を阻止すべく彼の前に立ち塞がったUDC支部セキュリティーチーム隊員を一切気に留める事も無く無数のカッターナイフで切り刻み、ただ一瞬で物言わぬ細切れの肉片へと変え床を満たす血の海の一部にさせた。そんな彼の視線の端にとある部屋に逃げ込んでいく職員の姿が映った。
「後はあそこの連中を片付ければ大体終いかな。それじゃ、行くとするか」
一方、通信室に立て籠った職員達は救援要請を試みながら、どうにかしてこの事態を打開する策を練っていた。心ではもう何全てが無駄だと理解していても、彼らはそうせざるを得なかったのだ。
「脱出通路の状況は?」
「全て駄目です。上層は消失、下層は水没した影響で完全に機能を喪失しています」
「施設内に流入した液体の解析結果が出ました。これは……ポイント・ネモの海域と一致……?」
「一体なにがどうなってるんだ……もしもアレが外に解き放たれたら世界が……」
轟音を響かせ職員達の懸命の抵抗を嘲笑うかのようにバリケードがいとも簡単に破壊される。喧噪に包まれていた室内はその一瞬で寒気がする程の静寂に包まれる。全職員達の視線が自然と集まるのは先ほどまでバリケードが設置されていた筈の扉。そこからは異形の怪物の夥しい数の目玉がぬらりとした薄気味悪い光沢を抱いたまま職員達を覗いていた。
●グリモアベース
「緊急招集に応じてくれてありがとう。——コホン。では今回の緊急任務の概要を説明します」
星凪・ルイナ(空想図書館司書補佐・f40157)は集まった猟兵達を見廻すと、UDC施設の図面を机上に広げ少し緊張した様子で事件の説明を始めた。ルイナがまず猟兵達に伝えたのはUDC組織の支部が謎のオブリビオン『カットスローターズ』によって襲撃される事だった。そのオブリビオンは支部をユーベルコードによって誰も立ち入れない閉鎖空間に変えた上、職員を生贄に支部内に収容されたUDC怪物を解放し、更に蟲毒としてその邪神らを殺し合い、共食いをさせてその結果生まれた最強の邪神を持ち帰ろうとしているらしい。それに加えて、支部の壊滅を許せば該当区域のUDC怪物への対応が困難となってしまう為、支部の防衛は絶対条件と言って差し支えない状態だ。
「施設はオブリビオンによって封鎖されてるけど猟兵の全力攻撃なら一瞬だけ封鎖を抉じ開ける事が出来る筈。その間に突入してUDC怪物の鎮圧及び『カットスローターズ』の撃破。そして可能な限り施設内の職員を救出して貰う事が今回の目的になるね」
施設内には強力な邪神以外にも大量の低級UDC怪物が闊歩しており、支部の防衛班。セキュリティーチームが必死の抵抗を続けている。まずはその乱戦に突入して非戦闘要員である研究チームを含めた彼らを救出する事になる。その後、脱出する為には『カットスローターズ』を相手取る必要性があるが、施設内では他の邪神同士が激しい殺し合いを繰り広げている為、その戦闘の余波を潜り抜けながら戦う必要があるだろう。
「それとーー」
そこで言葉を区切ったルイナは手元の資料を一瞥すると、真剣な眼差しを猟兵達に向けた。
「この施設には世界終焉シナリオを齎す可能性のあるKeterクラスの邪神が収容されてるのですけど、現状その観測が不能となっているようです。万が一この邪神が解き放たれていたとしたら······職員達と強力してなんとしてもその脱走を阻止して下さい」
ルイナは携帯端末に転送された通信ログに視線を時折向けながら、改めて猟兵達に向き直す。
「時間の猶予は少ないけど最後に1つ。施設は現在邪神の影響で地球到達不能極ポイント・ネモ――
人工衛星の墓場と呼ばれる海域と混ざり合って浸水が進んでいるらしいね。誰も居ない場所――どうして其処と繋がったのか理由は――ともあれ、浸水してるのであれば内部で行動する際は気を付けた方がいいと思う」
一通りの説明を終えるとルイナはすぐに転移の準備へと取り掛かる。
「それじゃ支部付近への転移を開始します。今となっては陸の到達不能極と化した第12支部……何が待ち構えているのか想像もできないけれど――今はただキミ達に幸運がある事を祈っているよ」
――現時刻を以て、
人類は到達不能極へと到達する
鏡花
地球到達不能極ーーそんな名称に果てないロマンを感じてる鏡花です。今回は第六猟兵の世界の謎が次々と解き明かされて行く中で発生したUDC組織支部襲撃シナリオとなります。
●シナリオ概要
封鎖された支部施設へと突入した状態でのシナリオ開始となり、下級UDC怪物を掃討し職員を救助し、『カットスローターズ』を撃破し支部から脱出するのが目的です。
●第12支部
幾つかの地下階層で構築された施設で、現在はポイント・ネモとの融合により下層は完全水没。多少の海水の流入はあるものの水没は免れている第一層〜第三層までが舞台となります。
●1章(集団戦)
低級UDC怪物との戦闘です
施設の各地で防衛班が交戦しており彼らとの共闘も可能です。また、非戦闘員である研究者も取り残されており、彼らを救助する事により邪神の情報を得る事が出来ます。
【UDC職員の救助】及び【防衛班との連携】に関わる行動にプレイングボーナスが発生します。
●2章(ボス戦)
『カットスローターズ』との戦闘です。施設内では解き放たれた邪神同士が壮絶な殺し合いをしている為、その余波から逃れながら戦う必要があります。
【戦いの余波への対処】に関わる行動にプレイングボーナスが発生します。
●3章
(???)
極めて強力な邪神との邂逅が予想されますが現時点で詳細は不明です。緊急時には職員との協力の上で邪神の撃破。もしくは一時的な封印を施して施設から離脱して下さい。
【緊急事態に対応する】行動にプレイングボーナスが発生します。
1章〜3章共通で施設内に流入する【ポイント・ネモの海域の水への対処】に関わる行動にプレイングボーナスが発生します。
崩壊していく施設内での緊迫する戦闘を是非ともお楽しみ頂ければ幸いです。皆さんのプレイングをお待ちしております。
第1章 集団戦
『変幻似在』
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POW : 幻纏
【変幻自在】に変身する。隠密力・速度・【変化した内容に合う得物】の攻撃力が上昇し、自身を目撃した全員に【恐怖】の感情を与える。
SPD : 偽纏
【変幻似在】を脱ぎ、【変幻自在】に変身する。武器「【変化した内容に合う得物】」と戦闘力増加を得るが、解除するまで毎秒理性を喪失する。
WIZ : 虚纏
【変幻自在】に変身する。変身後の強さは自身の持つ【変化した内容に合う得物】に比例し、[変化した内容に合う得物]が損なわれると急速に弱体化する。
イラスト:成千佳
👑11
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まるで打ち捨てられたかのように静かに佇む建築物。何処か次元の座標がズレているかのように存在が歪んだそれを抉じ開けるようにして内部へと突入すれば外の静寂からは想像しえぬ狂乱がその空間を支配していた。
「Dブロック隔離完了!全力で残りの区画を死守しろ!」
「通信の回復を急げ!なんとしてもアレの脱走だけは許すな!」
銃声。怒号。この世のものとは到底考えられない咆哮。施設職員とUDC怪物が死闘を繰り広げ喧騒に包まれる施設の奥底からは微かに幼子の泣き声に似た得体の知れない音が聴こえるように感じられる。
「食堂はもうダメだ!閉鎖しろ!」
そんな叫び声にふと視線を動かせば封鎖された扉から地上の筈なのにまるで扉の向こう側が海の底でもあるかのように溢れ出した水が施設の床を濡し下層に向かって流れていた。施設内は水位の差が著しく場所によっては行動に支障をきたす事も予想された。
猟兵達が施設内の状態を概ね確認すると同時に降下していた防火シャッターが喰い破られ其処からウネウネとまるで流体のような無貌の怪物の群れが現れる。それは万物が雑多に入交り、自由自在にその姿を変容させていく。
現世から隔離され地獄と化した到達不能極。この窮地を脱さねば人類の未来は危ういだろう。
遠藤・修司
(現在無職なので仕事をする代わりに組織に生活費を貰っている)
組織にはお世話になってるし……
ここで放置するのは寝覚めが悪いな
正直、人が死ぬのを見るのはあまりいい気分じゃないけど……
ま、やるだけやらないと
まずは生存者の救助かな
“僕”に【UC使用】してもらい、式神の猫と烏と視覚共有
手分けしてして生存者やそれに繋がる情報を探すよ
水位が高い場所は烏に、低い場所は猫に任せよう
僕はまあ、臨機応変に……
道すがら怪物がいれば炎の魔弾で適宜処理
生存者を見つけたら、敵が少なそうな場所に避難してもらうよ
その際、怪物の収容場所や性質などを聞いておこう
救出の目処が立てば、式神は彼らの護衛に回し、僕は単独で怪物を掃討するよ
まるで悲鳴のように響き続ける警報。多数の声が入り混じる喧騒。施設に突入した遠藤・修司 (ヒヤデスの窓・f42930)が目の当たりにした光景はまさに戦場だった。断続的に銃声が響き渡る中、我が物顔で施設内を闊歩する異形の怪物の様子を伺っていれば、その足下を何故か流れる水流には夥しい墨黒の鮮血が混じりまるで血の川を思わせる。
「さて……どうしたものかな。これは想像以上の状況だ」
現在、修司はとある事情からUDC組織に仕事の斡旋を受け生活費を賄っている。実質的に世話になっている組織がこのように蹂躙される様は見るに堪えないもので、もしもそんな彼らを見捨てるような事があれば熾烈なまでの目覚めの悪さを体験する事になるであろう事は想像に容易かった。ふと、通路奥の壁際に視線を動かせばまるでトマトを叩き付けたかのように壁一面を真っ赤に染めた血液とその下で元々人間であっただろう物体が転がっているのが見えてしまった。修司は体の奥底から湧き上がってくる冷たく悍ましい感覚に思わず目を背けた。――それは死。この施設を包み込んでいる死の気配だ。
「……正直、人が死ぬのを見るのはあまりいい気分じゃないけど――ま、やるだけやらないと」
猶予は無い。そう判断した修司はすぐに行動を開始した。
「まずは生存者の救助だ。――頼んだよ“僕”」
『ああ、やろう。こんな光景いつまでも見てられないからね』
――
紅炎陰陽符。とある人格の力を借りて修司は己が使役する猫を模した思業式神『黒猫』と八咫烏を模した思業式神『大烏』に太陽の紅蓮の力を以てして属性を与え、更にそれらと視覚を共有させる。この混沌とした状況下でも式神による探索であれば順調に進める事ができるだろう。修司は施設内が浸水している事を考慮し、烏を水位の高い区域へ、猫を水位の低い区域へとそれぞれ向かわせる。
「それじゃ僕の方は……まぁ、臨機応変に行くとしよう」
暫く探索を進めればすぐにその成果を得る事は出来た。まず、烏が向かった水位の高い区域は既に避難したのであろうか人の姿を確認出来なかった。ともすれば猫の向かった水位の低い区域。生存者はどうやらこちらの区域へと避難しているであろう事が分かった。その情報を元に損傷の激しい施設内を進んでいき床一面が水浸しになった区域に差し掛かる頃、修司は生存者と思われる声を聞いた。
「――生存者か!今、助けに行く!」
声が聴こえたのは著しく損壊した防火シャッターの向こう側。その瓦礫を乗り越えようと修司が駆け出した瞬間に瓦礫を粉微塵にしてその怪物――『変幻似在』の群れが文字通りに溢れ出して来た。腐り溶け崩れたかのようなそれはその中に幾つもの姿を包容し、其処から抜け出し1つの形となったまるで人間と化け物を継ぎ接ぎにしたかのような体のその手に握られた拳銃は修司へと向けられていた。その事に気が付いた修司は飛び退くようにして距離を取り即座に応戦する。
「術式構築、展開完了――起動!」
術式を編み込んだ炎の魔弾。修司が放ったそれは『変幻似在』に着弾すると小規模な爆炎を咲かせその身体を燃え上がらせた。耳を劈くような咆哮――修司は燃え上がりのたうち周る怪物の脇を駆け抜け、更に他の怪物へ炎の魔弾を浴びせ掛けて行く。初心者でも扱いやすい故に取り回しが良いその術を駆使し、修司は『変幻似在』の蔓延る通路を抜け、ついにその先に区域へと到達した。
「誰だ!?」
その先にいたのは心許無いバリケートの内側に籠る武器を持った職員2名に研究職と思われる職員3名だった。彼らは修司の姿を見ると驚いたように目を見開いたが修司がすぐに救助しに来た事を伝えると彼らは心から安堵したように息をついた。
「僕の
斥候によると浸水の激しい西側の方がまだ安全らしいから、この事態が落ち着くまで一旦そこに避難しておいて欲しいかな」
「あ……ああ、分かった!俺達は研究チームをそこに避難させておこう!」
「それと……怪物達の収容場所と対応策を教えといて貰えると助かるよ」
修司がそう職員達に問えば避難しようとする研究チームの1人が僅かに口ごもりながらもその質問に答えた。
「――今この階層を浸食している『変幻似在』は万物に変質する事が出来るというだけで不死性も無く耐久も一般火器で対抗できるので特筆すべき点はありません。問題はclass:keterの怪物……通称『赤の王』です。収容されていた場所は階下層で今は完全に水没してしまった影響でその行方が分かっていません。……奴は全ての可能性を享受する者。その力を抑えるには可能性を否定する事が不可欠なのですが――」
「……それは厄介そうだ。その件に関しては後で詳しく話を聞かせて貰うよ。情報ありがとう」
研究者は軽く会釈をすると他の職員達と共に避難の為に移動を開始した。式神達の探索により既にその避難経路の安全は確保されている。更に念の為として式神を護衛に付けた為、彼らの安全は保障されているだろう。そして、生存者を嗅ぎつけたかのように壁を食い破り再び現れた『変幻似在』の群れ。その一体を修司の炎の魔弾が間髪入れずに撃ち抜いた。
「状況がどうであれまずは怪物を掃討しなければならない事に変わりはないな。――もう一仕事させて貰うよ」
防護壁を、扉を、床を破壊しながら迫り来る怪物。それらを修司の炎の魔弾が撃ち抜いていく。
大成功
🔵🔵🔵
黒江・式子
◯◎
お疲れ様です、応援に参りました
まずは食い破られたシャッターを影の茨に覆わせて補強を
突破しようと触れたものの影に茨が絡み付き、
活力を奪い希釈、動きを制限
攻撃による衝撃自体も吸収できるので時間稼ぎにはなるでしょう
同じように壁や扉などを茨で覆い
安全な区画を確保
私自身はその区画で待機、施設内へ茨を延ばして探索します
放送機器が生きていれば『黒い茨は敵ではない』と通達してもらいましょう
敵の一部と誤認されてはややこしいですから
最優先は生き残っている職員の誘導、救助
次点で武装や再封印の為の機材の回収
浸水しているとの事でしたし、潜水器具などが見つかれば言う事なしですね
封鎖された支部施設への突入。黒江・式子 (眠れる茨棘いばらの魔法使い/それでも誰が為に・f35024)はまず防火シャッターを食い破って来た怪物――『変幻似在』の熱烈な歓迎を受けた。様々な生物が溶け合ったような身体の出来損ないの四肢を蠢かせるその異様な怪物の来襲に防火シャッター付近に居た職員の悲鳴が上がる。セキュリティーチームが即座に応戦しようとするも到底間に合うものでは無かった。
「お疲れ様です、応援に参りました」
突然にそんな淡々とした言葉が聞こえたかと思えば影の茨が忽ちのうちに防火シャッターへと絡みその残骸を取り込み新たな防護壁へと作り替えた。式子の
袋小路の轍――延ばされ、シャッターと絡み合うそれはこちらに流れ込んで来ようとする『変幻似在』の身体にも絡みつきその
活力を奪っていく。
「これで時間稼ぎにはなるでしょう。皆さん、状況の方は?」
「救援感謝します。現在施設の第4層以下は水没。収容されていたUDC怪物のほぼ全ての脱走を許し、第1層から第3層にかけて各所でセキュリティーチームが鎮圧にあたっています。――ですが、襲撃の主犯の局地的攻撃により施設内は分断させられ此処を含めた全ての箇所で苦戦を強いられています」
「なるほど、安全な場所はほぼ無いという事ですか。――でしたら」
式子は今この場所にいる数名の職員達を見廻すと今度は施設の壁や扉に視線を向けた。そんな式子の様子に職員達は思わず目を奪われる。式子の虚ろげな瞳が陽炎のように揺れ、彼女の足元から再び陰の茨が延びたかと思うとそれは彼女らの周囲の壁や扉を覆った。それは言わば茨のシェルター。それはなおも壁を喰い破ろうとする怪物の攻撃を吸収し防ぎ、その区画を一時的ながらも
安全な区画にする事に成功した。
「これで暫くは時間を稼げる筈です。私はこれからこの茨を使って施設内の探索……他の職員の救助を行います。お手数ですが施設内への通信手段はありますか?」
「ああ、外部への通信はイカれちまったが無線はまだ生きてる。――どうしたらいい?」
茨の障壁を喰い破ろうとする怪物にライフル銃の弾丸を浴びせていたセキュリティチームの1人が胸元の無線機を式子に示す。式子はその職員に「感謝します」と短く礼を述べると各所に『黒い茨は敵では無い』という事を通達して貰う。
「それではこれより探索を開始します。どうか援護を」
「了解。周囲のUDC怪物を遊撃する」
「ああ、こっちは任せておけ。他の連中を頼んだぜ」
式子は
安全な区画の維持を職員達に任せると生き残っている他の職員の誘導、救助の為に影の茨を展開する。式子の居る区画を軸に施設内のあらゆる方角へ伸びていく影――他の職員達は思いのほか早く発見する事が出来た。崩落し、浸水が進む施設の中で心許無い即席のバリケードを盾に怪物達の進撃を阻もうと必死に応戦する職員。怪物達がそんな彼らを慈悲無く引き裂くその直前に職員と怪物を隔てるように影の茨が壁を作った。突然の事に職員達は騒然とするが、それが先ほど無線で伝えられた式子の援護であると分かるとその意思を察した職員達は即座にその場を離れ後退を開始した。
「こちらセキュリティーチームβ。隊員4名と研究チーム3名を引き連れUDC怪物から逃れる事に成功した。救援感謝する」
「了解。そのまま
安全な区画まで誘導する。その黒い茨を辿って来てくれ――これでいいんだろう?」
職員の救出成功を告げる無線を聴き、式子は影の茨に集中しながら静かに頷いた。そのまま式子は更に他の場所で孤立した職員達を可能な限り救出し、この安全区画まで辿り着けるように誘導を行った。その途中、殆ど崩落した備品庫を発見し職員の探索を兼ねて瓦礫の隙間から茨を潜り込ませるとその中に対UDC用の武装と邪神封印に使用される機材を発見する事ができた。その大半は破壊され使い物にならなくなっていたがそれでも十分な装備を茨に回収させる事に成功する。その中には式子が気に留めていた施設内の浸水に対処できそうな簡易ではあるが水中探査が可能な潜水器具も紛れ込んでいた。
「よし……これで……」
この騒乱の中、長い間気を張っていた影響で式子は僅かに疲労を覚える。その瞬間、安全な区画外の怪物への対応を行っていた職員達が声を上げた。
「防壁に攻撃を仕掛ける付近のUDC怪物の掃討に成功!周囲の脅威レベル低下!」
式子の
袋小路の轍が怪物達の侵攻を防ぐ間に職員達が怪物を掃討する事に成功したと同時に、式子が救出し誘導していた他の職員達も次々と
安全な区画へと到達する事に成功した。最初は数人の職員しか残っていなかったこの場所には今は大勢の職員達が終結している。その光景を前に漸く式子は安堵の息を零していた。
大成功
🔵🔵🔵
天羽々斬・布都乃
◎苦戦歓迎
「UDC支部が襲われたのですか!?
早く救援に行かないと!」
『うむ、布都乃に陰陽師の仕事を斡旋してくれる者たちがいなくなってしまうのは、我が家の家計に大打撃じゃ』
違う意味でやる気を出しているいなりを連れ、第12支部に突入します。
まずは低級な怪異たちを天羽々斬剣と布都御魂剣で斬り裂きながら、
支部の人たちの救助を目指しましょう。
「いました!
ご無事ですか、職員の方!
ひとまず、私についてきて下さい」
『待つのじゃ、布都乃!
その職員――UDCが化けた姿じゃ!』
「なっ!?」
背後の職員が構えた刃物――
それを避けられず攻撃を受けてしまい。
なんとか撃破しますが……
「くっ、低級怪異相手に――油断しました」
「UDC支部が襲われたのですか!?早く救援に行かないと!」
『うむ、布都乃に陰陽師の仕事を斡旋してくれる者たちがいなくなってしまうのは、我が家の家計に大打撃じゃ』
UDC組織第12支部襲撃の報を受け、俄かに動揺した天羽々斬・布都乃 (未来視の力を持つ陰陽師・f40613)は迅速に救助に向かう準備を整えた。そして、布都乃とはまた別の危機感を募らせ支部救出に意欲を燃やす式神のいなりを連れ、飛び出すようにして第12支部への突入を敢行した。外観上は一見変哲もない建物――然し、歪な一種の結界の類の気配を感じさせるそれに対し全身全力を込めた一撃を叩き込み布都乃達は転がり込むようにして封鎖された施設内部へと突入した。
「くっ……これは想像以上に酷い状況です……!」
『うむ……気分の良いものではないな。布都乃よ、嫌な予感がする。警戒を怠るなよ』
「もちろんです」
施設内へと突入した布都乃の目の前に飛び込んできた光景はまさに戦場だった。断続的に響き渡る銃声と咆哮。其れ等を呑み込むようなけたたましい警報。流動しまるで万華鏡のように姿を移ろわせる怪物が闊歩する通路の壁際には悪趣味な装飾のような血飛沫がこびりついて赤黒く変色している。
『まずはこの低級な怪物どもの群れを抜けなくてはならんな』
「ええ、早く職員の方々の元に向かわないと……行きます!」
布都乃は天羽々斬剣と布都御魂剣を構え、怪物の群れを目掛けて駆け出した。床を浸す水が飛沫となり布都乃の足を濡らす。怪物は布都乃をも喰らおうとその姿を人間、獣……重火器、牙。あらゆる凶器に変えて待ち受ける。
「未来を見通す瞳よ、運命を改変し、絶望の未来をもたらせ」
――それは
未来改変せし運命の瞳。黄金色に満たされた魔眼。それは怪物達の運命を破滅の未来へと変質させる。振るわれる布都乃の斬撃は銀色の弧を描き容易く怪物の身体を両断する。1体、2体……加速するままに振り上げられる剣先。勢いのままに回転させた軸から繰り出される薙ぎ払い。次々と怪物を屠り快進撃を続ければ遂に布都乃は怪物の蔓延る通路を突破する事に成功した。
「いました!ご無事ですか、職員の方!ひとまず私についてきて下さい」
血に塗れた部屋の中で怯えたように物陰に潜んでいた職員を見つけると布都乃はすかさず駆け寄りその安否を確認した。よほど気が動転しているのかその職員は言葉も無くただ頷き布都乃の背後に移動すると布都乃はまずは職員の安全を確保しようと周囲を警戒しながら移動を開始する。その瞬間、布都乃の耳元に生暖かい空気が触れ、男性とも女性とも、そもそも生物のものであるかすら形容し難い声のような何かが聴こえた。
ありが……あり、ありがとうううああ……ありりりり……
『待つのじゃ、布都乃!その職員――UDCが化けた姿じゃ!』
「なっ
……!?」
叫ぶようないなりの警告。その内容を把握するよりも早く衝撃が布都乃を襲った。布都乃は前方に突き飛ばされるようによろめき、まるで燃えるような背中の痛みに表情を歪めて背後を振り向いた。そこには、先程の職員が鮮血に浸った刃物をその手に持ったまま口をまるで半月のように曲げ、歪な笑みを浮かべていた。背中の激痛。滑り落ちる生暖かい感触。滴る鮮血。その全てが怪物の扮する職員によって背を切り裂かれた事を物語る。
『まずい……!応戦するのじゃ布都乃!』
「ぐっ……」
激痛に歯を食い縛りながら神剣を振るう布都乃。然し、その凶行で乱れた剣捌きは怪物に届く事なく、それどころか更に追い討ちと言わんばかりに布都乃は怪物の凶刃に腕を切り裂かれてしまう。弾かれたように宙を舞う葡萄酒のような鮮血。その痛みに思わず神剣を手放しそうになるが布都乃はそれを必死に堪え剣を振るい、ついに怪物の頸を刎ね飛ばす事に成功した。溶けるようにして形を失っていく怪物。それを前に大量の血を流した布都乃が水浸しの床に膝を着く。
『布都乃!?無事か!?』
「くっ……低級怪異相手に――油断しました」
『まったくじゃ。ここはもはや敵地の真っ只中じゃ、気を引き締めい――ともあれこの辺りの脅威は去ったようじゃ。まずは傷を癒せ布都乃』
「はい……少し休んだらすぐに職員の方々の救助に向かわないと……」
施設への突入後、強行突破でここまで辿り着いた布都乃の体力は既に限界が近く、職員に化けていた怪物との戦闘で大きな傷を負った。それでも彼女の決死の強行突破は施設通路に陣取っていた怪物の多数を討ち取る事に成功し、一部区画の安全を確保する事に成功しただろう。だが、ふとすればまだ施設内には怪物の気配で満ちている事が肌に感じる事ができる。布都乃は第12支部救援に向けて、一度態勢を整える事にした。
大成功
🔵🔵🔵
都嘴・梓
【DE】
封鎖は一番正しい選択
でも、ひつよーなのは正しい手順で開けられっかどーか
…つーまーり、救援が出来るか否か
下らねぇ真似するクソガキ来てんじゃん
俺らが日頃どんだけがんばってっと思ってんですかねぇ!ったく!
はぁいヒヨムラサン、お仕事としましょう(髪をかき上げ
一発めは全力で?
いいですね、丁度ストレスが溜まっていたんですよ!!【残虐ファイトでぶち破る
突入次第UC
無数の警察犬を放ち職員の捜索・救護・邪神の囮役に当たらせる
邪神は見つけ次第併用UC:悪食歎美で千切り食らう
恐怖―ねぇ?
あは
それごと喰おう
腹に入れれば、みぃんな仲良く蕩けて忘れて俺になる
喜べ
祝え
そうでしょう、ねぇヒヨムラサン
そう、思いません?アハ
―てぇわけなんで、後ろ頼みます
俺、前出るんで
淡々と近付いて押さえて【影縛り
引き千切って【残虐ファイト
自身の口で食らう【魔食の繰り返し
やぁ、お前たちの恐怖が来たよ
引き千切って嬲り食いながら
絶えず犬を放ち若葉へ現状と保護すべき職員の位置を共有
ただ自身は派手に戦い続け、引きつけるように振る舞う
鵯村・若葉
【DE】
ガキの遊びにしては悪質すぎる
社会人をナメてるのか、仕事を増やしやがって……
――失礼、少々苛立ってしまいました
参りましょう都嘴さん、これ以上の犠牲を払わされる前に
結界は全力の『暴力』で叩き割る
嗚呼、ストレス発散に丁度良い!
研究員を先に保護したいところですが戦線を維持しなければ撤退時に困るでしょう
研究員の捜索と保護は都嘴様の警察犬に任せましょう
邪神を見つけ次第、血を使い酔わせましょう(UC)
相手は変幻自在、ですか
戦闘力増加?恐怖の感情?それがどうした
――自分は、人間の悪意の方がより恐ろしい
……ええ、そうですね
腹が減っては戦は出来ぬ。存分に喰らってください
――あなたの力が増すのであれば頼もしいです
承知いたしました、援護はお任せください
後方に下がり、併用UC【星銀神光】で援護攻撃&都嘴様の回復をし支援
ある程度敵を散らしたら残敵を都嘴様に任せ職員保護へ
撤退時に極力浸水箇所から遠いルートを選べるよう状況を確認しつつ情報共有された職員の位置へ向かう
……どうか無理はなさらず
後程必ず合流しましょう
施設を封鎖し孤立させた敵の判断は正しいものであっただろう。そして問題となるのは果たして正しい手順で封鎖を解く事が出来るかどうか。都嘴・梓 (
嘯笑罪・f42753)は薄気味悪い程に静まり返った第12支部施設の出入り口が存在しない建築物を妖しさを仄かに宿した瞳を細めて見つめていた。
「……つーまーり、救助が出来るか否かって訳ですが――下らねえ真似するクソガキ来てんじゃん。俺らが日頃どんだけがんばってっと思ってんですかねぇ!ったく!」
常日頃、仕事に勤しむ梓達を嘲笑うかのように今回のような凶行に及んだ『カットスローターズ』。梓はそんな悪童に悪態をつきながら若葉へと視線を向けた。梓と同じく支部施設の様子を伺っていた鵯村・若葉 (無価値の肖像・f42715)はいつものように落ち着き払っているように見えたが、その胸中には憎悪にも似た感情が行き先を失ったかのように渦巻いていた。
「ーーええ、ガキの遊びにしては悪質過ぎる。社会人をナメてるのか、仕事を増やしやがって……」
「ヒヨムラサン」
梓が飄々とした微笑を口元に湛えたまま、そう一言発すれば若葉は静かにその視線を梓の視線と交じらせ息を1つ零した。
「――失礼、少々苛立ってしまいました。……参りましょう都嘴さん、これ以上の犠牲を払わされる前に」
その言葉を聞いた梓はにやりと口角を上げ、艷やかな黒髪を掻き上げた。はらりと流れた髪の間に間から妖しい淡桃の灯が望む。
「はぁいヒヨムラサン、お仕事としましょう。――1発めは全力で?」
「ええ、ただ力任せに壊してしまいましょう」
「いいですね、丁度ストレスが溜まっていたんですよ!」
梓と若葉が施設を歪ませた結界に攻撃を叩き込んだのはほぼ同時だった。余計な思慮など必要ない。只々目の前のそれをぶち壊す為だけの圧倒的な暴力。――嗚呼、ストレス発散に丁度いい!1種の悦びにも似た感情でその口角が自然と上がる。
2人の一撃は結界を――歪んだ空間を粉砕した。世界に亀裂が奔り、瞬く間に視界いっぱいに広がるとガラスが割れる如く劈くような音と共に砕け散る。それこそ封鎖された支部内部に繋がる唯一の入口だ。2人が中に飛び込むと噎せ返るような血の臭いが出迎えてくれた。鳴り響く警報に紛れて聞こえてくる銃声と咆哮が施設内の異常を証明している。
「――これは急ぐ必要がありそうだ。……都嘴さん」
「はぁいはぁーい。分かってますよヒヨムラサン!」
若葉が梓に目配せすると梓は嬉々とした笑みを浮かべ両の手を打ち鳴らしてみせた。それを合図にそれは
影より来る。呼び出された影の警察犬が次々に施設の奥へと飛び込んで行く。職員の探索、救護を目的として先遣隊として放たれた警察犬らはすぐに職員達を発見するに至る。防壁を張り、怪物に対抗するも徐々に追い詰められ死を覚悟した職員達の前に飛び出した警察犬達は怪物の群れに吠えたて飛びついていく。そして梓の目論見通りにその怪物らの注目をその警察犬らに集める事に成功した。
一方、梓と共に警察犬の後を追うように半壊し壁から水が滴る施設を進んでいた若葉は思考を巡らせる。施設内に収容されていた数多のUDC怪物、邪神が解き放たれてる今、其れ等への対応策に秀でた研究員を優先的に保護すべきか。然し、ギリギリで耐えているこの戦線を維持できなければその退路すら確保するのが危ぶまれる。だとすれば今自分達が優先すべきは施設内に蔓延るUDC怪物――邪神への対応だ。研究員の保護は梓の放った警察犬に任せ、若葉と梓はUDC怪物に対応すべく先を目指していく。通路を抜け、ひしゃげた扉を蹴破れば数多の目玉がぎょろりと一斉に向けられる。それは無貌の怪物――怪物であり獣であり人でもある。何者でもあり、何者でもないそれは『変幻似在』。その形容しがたい姿が何者であろうと変容し異様さだけではなく戦闘能力まで底上げする姿は抗い難い恐怖を無尽蔵に撒き散らす。溶け落ちた肉塊のような身体を波打たせ、人や獣の形を取ろうとしながら2人を目掛けて襲い掛かって来る。
「戦闘力増加?恐怖の感情?それがどうした――自分は、人間の悪意の方がより恐ろしい」
若葉がその怪物を見る目は冷めていた。何故ならばそれは紛い物――恐怖には到底値しないものだったからだ。若葉は本当の恐怖を識っていた。端枝の怪物など到底足下に及ばないこの世の摂理すら覆す程の邪神(狂気)を視た若葉にとってはこんなものは恐怖と形容するに相応しくなかった。若葉は迫り来る無貌の怪物を前に一切の動揺を見せず冷静のままに一帯を葡萄酒のような甘美な血で満たした。――
怪異酩酊。怪物達の動きが明白に鈍化する。その最中、梓が前へ一歩踏み出した。
「はぁい、暴れない暴れない。
痛くはないよう“
善処”はしますよ」
銃器を構えた職員の姿へと成りかけていた怪物のその腕を梓が掴む。不気味な程に無表情な顔を見せた怪物に向けて梓は飄々と口笛を吹き鳴らすと、囁くように何か呪文を呟いた。それと同時に怪物の身体はまるで金縛りのように重くなったかと思うと、途端にその体面が泡立ち崩れて行く。正確にはその変化が梓によって解かれたのだ。そんな怪物を梓の瞳が覗き込む。
「恐怖――ねぇ?……あは」
嗤った――かと思うと梓は怪物に文字通りに喰らい付いた。その身体を乱暴に蹴り飛ばすとその一部をそのままに引き千切り、咀嚼し、飲み込んだ。
悪食歎美――怪物を喰らい蕩かして一体と化す。
「なら、それごと喰おう。腹に入れば、みぃんな蕩けて忘れて俺になる。――喜べ。――祝え。……そうでしょう、ねぇヒヨムラサン。そう思いません?――あは」
「……ええ、そうですね。腹が減っては戦は出来ぬ。存分に喰らってください。――あなたの力が増すのであれば頼もしいです」
「任せちゃってくださいよヒヨムラサン――てぇわけなんで、後ろ頼みます。俺、前でるんで」
「承知いたしました。援護はお任せ下さい」
そういうと梓は、ひらひらとお道化たように手を振りながらカツカツと靴底を鳴らしながら迫る怪物達に向かって前進する。その背中を見送りながら若葉は静かに頷くと乱戦に巻き込まれぬように後退し距離を取る。そして、淡々と前進を続けていた梓が怪物の群れと接敵する。怪物の群れが一斉に梓に飛び掛かるがそんな事を気にも留めないように梓は近くに居た怪物に手を伸ばすとその影を以て縛り上げ、力任せに引き寄せるとその怪物を迫り来る他の怪物に叩き付けた。短い悲鳴と共に身体が潰れ、何かが砕ける音と共に体液が飛び散る。その手に掴んだまま、まだピクピクと微かに動くひしゃげた怪物に視線を遣ると梓はそれを喰らい引き千切る。
「――やぁ、お前たちの恐怖が来たよ」
梓は怪物の大群の脅威に晒されながらも、動じる素振りなど見せずにただ迫り来る怪物だけを見つめていた。数にものを言わせた怪物の物量攻撃に傷を受けながらも梓は怪物を食い千切り、その力を増幅させ迫り来る怪物をその圧倒的な残虐とも言える暴力を以て組み伏せて行く。その光景を前に、若葉は祈るように瞳を閉じる。
「その罪、穢れ、そして命――頂戴します」
次に若葉の瞳が開かれた時、周囲を夜空に浮かぶ銀砂の星の如き光が瞬き照らす。それは
星銀神光――歪んだ祈りの光の残照が怪物達を呑み込んでいく。梓を取り囲んでいた怪物達が光に灼かれて怯めばそれを好機と梓が喰らって千切って行く。梓が敵陣を切り崩し、若葉がそれを後押しするように援護と回復を繰り返せば怪物は瞬く間にその数を減らしていく。
「ヒヨムラサン」
「ええ……どうか無理はなさらず。後程必ず合流しましょう」
乱戦の最中、梓と若葉の視線が交差する。梓の瞳が語らんとする事を察した若葉は静かに頷くと怪物が減ったその隙に駆け出し包囲網を突破する。目標は職員達の保護。先行する梓の警察犬を伴い、共有される職員の位置を目指して浸水が進行し、水底の紋様が壁に映し出され揺れる通路を疾走する。梓が怪物を惹き付ける為に派手に暴れている影響で周辺の怪物は全て梓の下へと集結している。そのお陰で若葉は順調にその先で孤立していた職員達と合流する事に成功した。
「救援か
……!?」
「ええ、状況は?」
「この先の制圧された区画の封鎖には成功した。だが、それもいつまで保つかどうか……」
「分かりました。まずは後退を」
職員達と合流した若葉は彼らを戦線から離脱させる為に撤退を選択した。道中、施設の浸水状況を観察していた事が功を奏し、職員達の避難は滞りなく終える事に成功する。その同時刻、怪物を一身に惹きつけていた梓も一帯の怪物の撃破に成功していた。
「――ごちそうさまでした。さぁて、そろそろヒヨムラサンと合流しないとなぁ」
到達不能極――人類未踏の領域に睡る狂気に向かって見果てぬ刻は流動する。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
佐藤・和鏡子
◯◎
戦闘は他の方に任せてUDC職員の救助に回ります。
私は看護用モデルのミレナリィドール。
人を救うのが使命ですから。
負傷者は医術の技能と看護のユーベルコードを併用してより早く、多くを治療できるようにします。
人間に化けた敵は医術と情報収集を併用して人間との違い(身体の組成や細かな生体反応の違い)を読み取って見分けます。
他の方はごまかせても医学に通じてる私なら見抜けます。
もし、向かってくる敵がいたら救急箱内臓の荷電粒子砲(レーザー射撃・制圧射撃)で対抗します。
この状況で自分までやられたらおしまいですから。
到達不能極――狂気の箱庭に潜入した佐藤・和鏡子 (リトルナース・f12005)は施設を満たす異質な光景にその瞳を揺らしていた。蔓延る悍ましき死の気配――響く警報が不協和音となって和鏡子の思考を埋め尽くす。看護用のミレナリィドールとして生まれ、人の為に尽くしてきた彼女にとってこの惨状はきっと筆舌に尽くし難いものであっただろう。目を背けたいものであっただろう。それでも和鏡子は目を背けなかった。目を背けてしまったらきっと救えない命があったから。
「――どうか耐えて下さい。きっと助けに行きますから」
和鏡子は駆け出していた。さも、当然のように悍ましい狂気の中に飛び込んでいた。姿移ろう怪物が蠢く中、ただ職員達を助ける為だけに危険極まりない施設の奥部へと突き進んで行った。それは自分と同じく施設へと突入した猟兵達を信じていたから。和鏡子はその性分からして戦闘向きとは言い難い。ならば戦闘は他に任せて自分は人を救う使命に専念すべきだと考え職員達の救出を最優先にしたのだ。
「思った通り、皆さんのお陰でUDC怪物は他の所に惹き付けられているようですね。これなら処置の猶予も……!」
和鏡子の狙い通りに他の猟兵達の活躍もあり、行く手を阻む怪物の数も少なく、損傷した防壁も補強されておりある程度の安全が確保されている状況であれば首尾良く職員達の捜索を進める事が出来た。探索の末、和鏡子は他の猟兵の誘導、若しくは猟兵達が怪物を惹き付けている隙に移動してきたであろう職員達の一時的避難所に辿り着いた。お世辞にも衛生環境の良いとは言えない損傷の激しい一室に軽傷者から既に意識があるかどうかも危うい重症者が乱雑に急拵えの布を敷き詰めただけの固い床に並べられている。職員が床に横たわる患者の上を飛び越えながら救護に追われる様はさながら野戦病院を思わせる。
「お手伝いに来ました。皆さん大丈夫ですか?」
「救援ですか……!?助かります!」
和鏡子が負傷者の人数や容態の確認をする間にも新たな負傷者が担ぎ込まれ現場は騒然とする。その雰囲気に和鏡子は気圧されそうになる――が、それでも和鏡子は拳を握り締め。意を決してその場の全員を鼓舞するように声をあげた。
「私がきっと助けます……!だから皆さんもどうか頑張ってください!」
或いは、自分自身に言い聞かせる為だったのかもしれない。ともかくとして、その後の和鏡子の働きは誰の目から見ても見事なものだった。彼女の使命とする
看護。重症と思われる負傷者の下へと駆け寄るとすぐさまその容体を確認し適切な処置を開始する。掲げた救急箱を展開し、まず圧迫止血から素早く切創を縫合すると、その他衝撃で折れたと思われる骨が他部へ突き刺さらぬように添え木を以て固定する。応急手当――と形容するには本格的な医術で次々と負傷者を治療していくだけでは無く、その医療知識を以て他の職員達に的確な指示で軽度の負傷者の治療もカバーする。その小さな体のどこにそんな体力があるのだろうかと不思議に思えるほど和鏡子は負傷者の為に動き続け、彼女自身相当な疲労が溜まっているであろうにも関わらずペースを落とすどころか更に手際良く負傷者達を治療していった。
「ふぅ……ここにいる人達は一通り治療できましたね……」
負傷者の治療を終え一息つく和鏡子。その視線の先に動く影を捉える。それはこの一時的な避難所から外に伸びる通路……その奥からボロボロになった職員が助けを求める様にして駆けてくる姿だった。
「生存者か……!おい!無理するな!今迎えに行く!」
そう言ってこちらに走ってくる職員を迎えに行こうとした職員の前に立ち塞がるようにして和鏡子がそれを制止する。和鏡子だけはその違和感に気づいていた。医術に長けた彼女だからこそ、その細やかな情報からその正体に辿り着けたのだ。
「――下がっていて下さい。あれは人なんかじゃありません。……人はあの出血であの速度で走る事はできません。あの速度で走って平常な呼吸を保つ事なんてできません。そもそもあの身体の作りは人のそれとは程遠いものです」
真剣な眼差しでソレを見つめる和鏡子。彼女の言うその意味を理解した職員はゴクリと息を呑み、彼女の言う通りに静かに後ろに後退する。その擬態を見事に和鏡子に看破された怪物――『変幻似在』はならばと言わんばかりにその正体を現す。かろうして保っていた人の形が膨れ上がり融け出した肉塊のようなそれは和鏡子に向かって一直線に突っ込んでいく。
「荒療治になりますが、止めさせて貰います!」
そんな怪物を前に和鏡子は先ほどまで治療に使っていた救急箱を掲げた。和鏡子の為に作られたそれは救急箱型のガジェット――それに内臓された荷電粒子方が青白い電荷を帯びたかと思うとその光が収束し閃光と共に射出される。非常電源の乏しい光源だけが照らす薄暗い施設内を眩い光が包んだかと思うとその後には、亜高速の粒子に撃ち抜かれた怪物の亡骸が再び薄暗くなった水浸しの廊下にただ転がっているばかりであった。
「申し訳ありませんが、この状況で私までやられたらおしまいですから」
戦う為では無い、人を救う事を是非とする心優しき少女は狂気の中に身を置いて、消える筈だった数多くの命を救う事に成功した。
大成功
🔵🔵🔵
第2章 ボス戦
『カットスローターズ』
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POW : 断裁ディバイダー
【カッターナイフ】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : 疾風ダンスマカブル
【高速ステップ】で敵の間合いに踏み込み、【斬撃力を備えた衝撃波】を放ちながら4回攻撃する。全て命中すると敵は死ぬ。
WIZ : 九死カットスロート
自身の【瞳】が輝く間、【カッターナイフ】の攻撃回数が9倍になる。ただし、味方を1回も攻撃しないと寿命が減る。
イラスト:みやこなぎ
👑11
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猟兵達による第12支部突入作戦は見事に成功した。施設内にはまだ脱走したODC怪物――邪神が跋扈し、施設機能もまだその殆どを喪失した状態ではあったが猟兵達の活躍によりUDC組織はその戦力を集結させ、仮本部の設立によりUDC怪物への対策に乗り出した。そんな矢先、猟兵達の前に奇妙な虹彩を持つ少年――『カットスローターズ』が姿を現した。
「いやいやいや、何しちゃってくれてんのアンタら。こちとら取り込み中なんだからお帰り願えるかな」
『切宮君。楽しむつもり満々な所申し訳ありませんが、ゲームの終わりまで失敗は許されませんよ。油断しないで下さい』
「分かってるよ縫村。さぁ、ゲームエンドまであと少しだ。アンタらも奴らの餌にしてやるよ」
『こちらも引き下がる訳にはいかないのです!行きますよ六番目の猟兵……!』
血に塗れたカッターを振りかざす『カットスローターズ』。その背後の防壁をぶち抜いて首の無い巨人が姿を現したかと思えば、体表を蠢く四肢が覆いつくす巨大な鯨の如き邪神がそれを壁ごと噛み砕く。邪神同士の殺し合い――それはその余波だけでも施設を遠慮なく破壊し、余波と呼ぶには余りにも強烈過ぎる衝撃波を猟兵達の身体に叩き付けた。この邪神同士の殺し合いの最中での『カットスローターズ』と戦いは周囲の邪神達の動向にも気を向けねば勝機を得る事は厳しいものへとなるだろう。
「派手にやってくれるなぁ。それじゃ、こっちもおっぱじめるとするか。少しは楽しませてくれよ猟兵」
挑発するように細められる少年の瞳。この事件の元凶である『カットスローターズ』との戦いが今、幕を上げる。
天羽々斬・布都乃
◎苦戦歓迎
「くっ……」
『布都乃、まだ傷が塞がっておらぬ。無理するでない』
いなりの警告が聞こえますが、第12支部をこのようにした元凶を前に引き下がるわけにはいきません!
天羽々斬剣と布都御魂剣を構え、未来視を発動し――
『布都乃、気を付けよ!』
「――えっ!?」
未来視で把握するよりも速い踏み込みで間合いを詰めてきた敵。
衝撃波をまとった斬撃によって両腕を傷つけられて剣を取り落とし――
右足を斬られて回避できなくされ……
4回目の斬撃が私の心臓を貫く未来が視えて――
『布都乃!』
「いなりっ!?」
私の代わりに斬られたいなりから鮮血がっ!
「いなりっ、いったん下がって治療しますからね!」
なんとかその場から撤退します。
「随分とボロボロじゃないか。そんなんで楽しませて貰えるのかねぇ」
『手負いとはいえ、六番目の猟兵。気を抜けば足元を掬われかねませんよ切宮くん』
「分かってるよ。二度と邪魔ができないようバラバラにしてやるよ」
先の戦いで決して軽度とは言えぬ傷を負った天羽々斬・布都乃 (未来視の力を持つ陰陽師・f40613)。大量の血を流し微かに霞む視界の中。並ならぬ雰囲気を纏う少年――この悍ましき事件の首謀者である『カットスローターズ』を前にボロボロの体を引きずるようにまだ光消えぬ瞳で少年を真っすぐに見据えていた。
「くっ……」
『布都乃、まだ傷が塞がっておらぬ。無理をするでない』
「分かっています。ですか――」
いなりの警告は文字通り痛い程に理解している。それでも布都乃は、この第12支部に惨劇を齎した元凶を目の前に引き下がる訳にはいかなかった。必ずこの敵を打ち倒さねばと布都乃の心臓が早鐘を鳴らし、深く息を吸い込み熱を持っていた肺に酸素を送り込むと乱れた呼吸を整え、天羽々斬剣と布都御魂剣を構えると静かに『カットスローターズ』へと立ち合った。
未来見通す金色の瞳の輝きが布都乃の右目を満たす。強敵であろうと、未来視を以てすれば十分に渡り合う事は可能な筈。布都乃が行動に移そうとしたその矢先、立っているのも困難な程の大きな地響きが施設全体を襲った。邪神同士の殺し合いの余波。それを合図かのように布都乃よりも『カットスローターズ』は動いていた。
『布都乃、気を付けよ!』
「――えっ!?」
未来視――それすら間に合わない恐るべき速さ。少年は床を砕く強烈な踏み込みから身を屈めると爆発的な勢いで瞬く間に布都乃との間合いを詰め、気が付いた時にはカッターの鈍い銀色の光が目の前で弧を描いていた。
「やる気十分な所悪いけど、こっちもまだやる事残ってるんでね。さっさと死んでもらうよ」
「なんて速度……!くっ!」
少年のその絶技に理解が及ぶよりも早く繰り出される致死の斬撃。それでも布都乃はその動きに喰らい付こうと殆ど反射的に――肉体が軋む程強引に身体を動かし身を引いた。然し、それでも尚少年の絶技―― 疾風ダンスマカブルの斬撃を伴った衝撃波はまず布都乃の右腕を、次に左腕を深々と切り裂いた。焼けるような痛みが布都乃を襲う。視界に飛散する真っ赤な鮮血――重厚な衝撃に思わず叫びそうになるが布都乃はそれをギリギリの所で堪える。だが、無慈悲にもそんな布都乃の意思とは裏腹に両手に握られていた筈の二振りの神剣はその手から取り零され、甲高い金属音を響かせながら床に転がった。
「しまった……!」
『いかん!奴の攻撃を避ける事に集中するのじゃ布都乃!』
いなりの悲痛な叫び声。その声に取り零してしまった剣に向けられていた注意を無理やりに引き戻される。だが、次に布都乃が見たものは身を翻した少年がその回転の勢いを保ったままにその凶刃を叩きつけるようにしてこちらに振り落とそうとする光景だった。反応ができない――焼けるような痛み。気が付けば布都乃は崩れ落ちる様にして床に片膝をついていた。凶刃の一撃に切り裂かれた右脚からはドクドクと赤黒い血液が絶え間なく床を濡らしていた。動かなければ――このままではあのカッターの連撃に晒されてしまう。そう頭で理解していても、立ち上がろうとすれば襲う激痛がそうさせてはくれなかった。せめて、その攻撃の軌道から少しでも身体をずらさなければ。そう少年の姿を再び捉えた時。布都乃の右目――未来見通す金色の瞳に視えてしまった。少年の刃がその心臓を貫く光景を。
「これで4度目――刃は4に至り死に至る。終わりだよ」
「あ……ああ……」
『布都乃!』
刃が布都乃の心臓目掛けて放たれるその瞬間。式神いなりの小さな身体が布都乃の目の前へと飛び出した。飛び散る鮮血、凶刃から布都乃を守ったいなりの身体が真っ赤に染まる。
「いなりっ!?」
時の流れが恐ろしく遅く感じられた。真っ赤な血の雫が宙を漂い、いなりの小さな身体が崩れ落ちて行く。――瞬間、世界は元のスピードを取り戻し、気が付けば布都乃は床に転がっていた神剣を掴むと『カットスローターズ』に向かってその刃を振るっていた。そのボロボロの身体から放たれたとは到底思えないその一撃は趣旨返しと言わんばかりに少年の身体に傷を付ける。
「おっと、やってくれるね。まだ動けるのか」
布都乃の一撃を喰らった少年は予想外といった様子で苦々しく顔を顰めた。その隙に布都乃は血に塗れたいなりを抱き抱えるようにしてその場から走りだした。
「いなりっ、いったん下がって治療しますからね!」
傷を負った大事な家族。そのいなりが庇ってくれなかったら命を落としていたという事実。迸る寒気と痛みを懸命に耐えながら、布都乃は『カットスローターズ』に一撃を与え戦線から離脱する事に成功した。
成功
🔵🔵🔴
黒江・式子
それは、此方の台詞です
えらい好き勝手暴れてくれ
よってからに
事の責任はキチンと取って頂きますよ
(方言を取り繕う余裕が薄れてくる)
仮本部の部屋全体に茨を這わせて防壁の代わりに
更に延ばした茨が、部屋に近づいた邪神の影を捉えます
最低でも〝彼ら〟をどうにかするまでの時間を稼ぎましょう
……
あがらもや
茨の防壁で衝撃波を吸収しつつ、『スピンドル弾』を装填した拳銃を少年に発砲
針先を掠める程度の傷でも十分な呪詛を与える弾丸ですが、今は当たらずとも構いません
いくら飛んだり跳ねたりした所で影は必ず落ちる
床や壁を覆うように茨を拡げれば、捕捉するのは時間の問題です
……あんま大人を舐めん方がええよ
施設内を賑やかしていた警報も途絶え、今は
邪神の遊戯が齎す地鳴りだけが響いていた。地獄のような惨劇を生き延びた者達が、か細い希望の糸を手繰り寄せ、この状況を打破すべく立ち上げた仮本部を前に、命を弄ぶように現れた『カットスローターズ』の少年と黒江・式子 (眠れる茨棘いばらの魔法使い/それでも誰が為に・f35024)は対峙していた。
「それは、此方の台詞です。――えらい好き勝手に暴れてくれ
よってからに」
淡々と紡がれる式子の言葉には確かに怒気が含まれていた。この惨劇を引き起こした張本人を前にして、秘めていた筈の本当の顔が覗いでいた。それでも冷静を損なっては任務に支障をきたすだろうと溢れ出そうとする怒りを押し殺す。
「――事の責任はキチンと取って頂きますよ」
「ハッ――このゲームを止められたら考えてやるよ」
少年が式子を挑発するように口角を上げたかと思えば、その両手からまるで早撃ちのようにカッターが放たれる。それとほぼ同時に構えられた式子の拳銃が断続的な銃声と共に火を噴けば、飛来するカッターを火花を咲かせ撃ち落とす。
「もっと他に注意を向けた方がいいんじゃない?」
少年がそう口走ると同時に立っているのがやっとな程の大きな揺れが施設全体を襲う。その揺れの意味を――少年の言葉の意味を瞬時に理解した式子は己の影。その茨を仮本部全体を覆うように伸ばしていく。――
諦観の泥濘。防壁代わりに伸ばされた茨は仮本部を取り囲み、暴れ狂う邪神の影を捉える。邪神同士の殺し合い――その余波を仮本部を覆う茨の防壁が受け止め衝撃を吸収する。もし、式子が即座に茨の防壁を展開していなかったら仮本部は壊滅的な打撃を受けていただろう。これで暫くは時間を稼げる。そう安堵した式子の肌をカッターの鈍色の刃が掠め一筋の赤い線を刻む。
「へぇ、やるねぇ。でも、ちゃんとこっちの相手もしてくれよ」
「……もちらん、
あがらもや」
『切宮くん!』
「――おっと」
式子の昏い瞳が『カットスローターズ』を真っ直ぐに見据える。間髪入れずに響く銃声。カランカランと床を跳ね転がる薬莢。微かな傷ですら強力な呪詛を与える特製弾頭――通称.357スピンドル弾が少年を目掛けて宙を割き、水飛沫吹き出す施設の壁へとめり込んだ。
「――ちょこまかと厄介ですね」
「なーんか妙な事を考えてる?ま、当たらなきゃ関係ないけどね」
「その減らず口、叩けんようしたる」
少年は式子の銃撃を避けるべく、曲芸師のような身のこなしで縦横無尽に駆け回り、対する式子も少年を視界に捉えたまま攻撃の手を休める事なく射撃を繰り返す。少年の妖しく輝く虹彩が光の線を描き、ただ逃げるだけでは無く定期的に反撃に転じ、投擲されるカッターはまるで吸い込まれるように式子に向かって直進する――だが、式子も負けじとそれを飛び退いて避けると後続のカッターをその射撃で次々に撃ち落とし対抗する。仮本部外で勃発する邪神同士の殺し合い、その余波の衝撃が施設を揺らす中、式子と少年の攻防戦は一層の激しさを増していく。
「奴らも派手にやってるねぇ。さっさと当てないとそろそろ此処も不味いんじゃない?」
相変わらず不遜な態度を取り続ける少年。煽るような言葉を受けてもなお式子は表情を崩さない――が、俄かにその口角が上がる。
「ちょう、足下がお留守なんやない?」
少年が式子のその態度に気づいた時にはもう遅い。気が付けば、少年の身体はまるで地面に縫い付けられたかのように動かなかった。その少年の足元に伸びるのは――影の茨。式子は防壁代わりに展開した
諦観の泥濘――その茨を少年との戦闘の最中、床や壁、あらゆる場所に延ばしていた。知らぬ間に狭められていた包囲網、それはついに少年の影を捕らえたのだ。
「ちっ……!やってくれたな……!力が入らない……!」
『不味い……!このままでは狙い撃ちされてしまいます……!』
少年、『カットスローターズ』を縛る影はその活力を奪い取りその場に釘付けにする。そこで初めて焦燥の色を見せた少年に式子は静かに銃口を向ける。
「……あんま大人を舐めん方がええよ」
響く銃声。カラカラと茨の城で回り続ける糸車に乾いた音を響かせる薬莢。その弾丸は少年の身体に大輪の紅い華を咲かせた。
大成功
🔵🔵🔵
オズワルド・ダンタリオン
久しいな、六六六人衆。
またブレイズゲートから出られて随分嬉しそうじゃないか。
けど、笑ってられるのはそこまでだ。
……
ぼくらの世界の外でまで好き勝手しようっていうなら、私が許さないよ。
とはいえ、戦況は荒れているね。
元の世界でも見たことのない化け物だらけだ。私もまだユーベルコード戦闘に長じていない。苦戦は免れないだろう。
怪物を避けるので徐々に余裕を失う私を奴は嘲笑い、とどめを刺しにくるはずだ。
だから、その瞬間に私は闇堕ちし、
ダークネスを引き出す。
悪魔化した身体でカットスローターを捕まえて、魔力が尽きるまで至近距離から力任せに攻性魔力弾を叩き込んでやる。
『愛と正義と君の味方』――そんな事を標榜する仮面の男。オズワルド・ダンタリオン (夜を往く者・f43848)は外套を優雅に靡かせ『カットスローターズ』の少年と対峙する。
「久しいな六六六人衆。
またブレイズゲートから出られて嬉しそうじゃないか」
「はぁ?――アンタも邪魔をする気って訳?次から次へとどうしてこーなるかね」
『切宮くん。恐らく彼は――』
「分かってるよ縫村。ただ、奴がなんだろうと殺す事に変わりはない以上、どうでも良い事だろ?」
その仮面で表情こそ分かりづらいが、オズワルドは苦笑を浮かべていた。オズワルドはこの少年の事を――六六六人衆の事を知っていた。正確に言えばかつて対峙したダークネス種族としての彼らを知っていた。だからこそ、こうしてオブリビオンとして再び対峙する事になった事に並々ならぬ想いがあった。
「笑ってられるのはそこまでだ。……
ぼくらの世界の外でまで好き勝手しようっていうなら、私が許さないよ」
「別にアンタに許されなくたって俺は構わないがね。そこまで言うのならどうぞ俺を止めてみな。――止められるものならね」
「ああ、止めてやるさ」
何か、得体の知れない悍ましき怪物の咆哮が大気を震わし、巨大な物体と衝突したような衝撃と稲妻のような爆音と共に施設の壁や床がいとも簡単に裂けていく。それを合図として戦いの幕が上がる。水浸しの床を飛沫を散らしながら正面から衝突する両者。少年の鈍色の刃がオズワルドの喉元を狙い、それをオズワルドは前進する勢いのまま重心を落とし身を屈めるとその刃がオズワルドの灰色の髪先を掠める様に頭上を通り過ぎて行く。そのまま攻勢に転じようとしたその瞬間、鋼鉄の壁を食い破り怪物が姿を現した。歪な牙で飾り立てた大きな口を持つその怪物はダラダラと涎を滴らせながらオズワルドを餌と視認したのかまるで猛牛のように突進を繰り出す。第三者の奇襲を受ける形となったオズワルドだが咄嗟に身を翻し飛び退く事によりなんとか窮地を脱する事に成功した。
「やるねぇ。尤も、そのまま喰われてた方が楽に死ねたかもしれないけどな」
「――死なないさ。助けを求める声がある限りね」
邪神同士の殺し合いの場と化している支部施設。その邪神同士の争いの余波を受けながらもオズワルドは『カットスローターズ』に対して善戦を繰り広げた。だが、オズワルドにとって未知の怪物である邪神への対応。なによりユーベルコードを利用した戦闘にはまだ完全には適応しきれていない事もあり徐々に劣勢に追い込まれていった。ふと、腕に視線を落とせば生暖かい赤い液体が流れている。この激戦の中、気が付かぬ間にカッターナイフによる連撃に決して軽度ではない傷を受けていたのだ。
「なんだ、口ほどにもないな。とんだ期待外れだね。飽きてきちゃったしそろそろ終わりにしようか。――ああ、命乞いすればもしかしたら見逃してやるかもしれないよ。もちろん、嘘だけどさ」
『切宮くん。早くとどめを――何をしてくるか不明な以上、早急に憂いを絶つべきです』
「あんま急かすなよ縫村。今、殺る所だ」
『カットスローターズ』は当初の攻勢を失ったオズワルドに対して綽々と最後の攻撃を繰り出した。オズワルドの心の臓を目掛けて宙を滑る鈍色の刃――それがオズワルドの肉を切り裂き、鼓動する心臓を抉る――事は無かった。
「――は?」
少年の腕は血に塗れたオズワルドの腕に掴まれていた。不思議とピクリとも動かせない。予想外の事に唖然とする少年の顔を覗き込むオズワルドの仮面の口元が僅かに笑っていた。
「――この時を待ってたよ」
全てはこの時の為。この一瞬の隙を作り出す為にオズワルドは数多の傷を受けてまで虎視眈々と耐え忍んで来たのだ。オズワルドのとっておきの秘策――闇堕ち。その瞬間にダークネスの力を引き出しオズワルドは悪魔と化す。その力も雰囲気も先ほどとは一線を越えていた。飄々とした態度も鳴りを潜め、あるのはただ只管の殺意と暴力だけだった。
「こいつ――!」
『闇堕ち――切宮くん!今すぐ離れてください!』
「いいや――もう逃がさないよ」
オズワルドは『カットスローターズ』をダークネスの力で取り押さえたまま、その極至近距離から容赦無く攻勢魔力弾を叩き込んでいく。『カットスローターズ』は少しでもその威力を殺そうと身を固めるがそんな事お構いなしにオズワルドはその全魔力を以て容赦なく攻撃を浴びせ続ける。敢えて自ら死地へと飛び込み好機を作り出す作戦は見事『カットスローターズ』に大打撃を与える事に成功した。
成功
🔵🔵🔴
佐藤・和鏡子
◯◎私がこれからユーベルコードで敵の動きを止めるので、それに続いてください。
停止のユーベルコードで敵の動きを止めて時間を稼ぎます。
けが人の脱出にせよ敵への攻撃・封印にせよ、糸口を作る必要がありますから。
具体的にはフル加速させた救急車(超加速した武器)で敵めがけて突っ込んで撥ね飛ばします。
(運転で狙いを付け、重量攻撃+蹂躙+吹き飛ばしでさらに威力を高めます)
私の運転技術なら敵の攻撃を避け、避けようとする相手を追尾して確実に命中させられますから。
敵の首魁、『カットスローターズ』。その少年と仮本部を隔てる位置を陣取り、佐藤・和鏡子 (リトルナース・f12005)は少年を睨みつけていた。背後の仮本部には惨劇を逃れた生存者――和鏡子が看護した職員達が居る。だからこそ退く選択肢など無かった。
「ちんまりした看護師が1人。それで俺達を止められるとでも?今なら後ろの連中を差し出せば穏便に済ましてやるけど?」
『切宮くん。相手は六番目の猟兵です。そんな要求が通るなんてありえません』
「そんなの知ってるさ」
『カットスローターズ』の行く手を阻み立ち塞がる和鏡子に少年は嘲るように笑うが和鏡子の瞳に宿った決意は揺るがない。
「当然、此処を通す訳にはいきません。皆さんに手を出すおつもりでしたら私が相手になります」
「――ほらな?なら、強行突破だ!行くぞ縫村!」
脳を揺らすような揺れ、劈くような音と共に壁を破壊し邪神が姿を現すのと『カットスローターズ』が動いたのはほぼ同時だった。
「私が敵の動きを止めます!その隙に避難を!」
和鏡子が叫ぶように職員達に促す。浮き足立つ職員達を逃すまいと軽やかな動きでその距離を詰める少年の視界に映ったのは退避の準備を行う職員達を守るように立つ和鏡子と赤と白のツートンカラーが特徴的なアメリカ式の重量感溢れる救急車両――見間違えではない、確かに和鏡子の傍らには年季の入った救急車があった。
「はぁ……?なんの冗談だよこれ」
「冗談などではありません――さぁ、行きます」
煌びやな銀糸のような髪を靡かせ和鏡子は颯爽と救急車に乗り込んだ。それこそが彼女のUC――
停止。V8エンジン特有の力強い音がけたたましく響き渡り、ゴムが擦れる特有の臭いを周囲に散らしながら、その巨躯の車両からは想像しえぬ超加速を以て少年目掛けて疾走する。
『切宮くん!アレはただの車両ではありません!避けてください!』
「ああ、分かってる。だけど――先にぶっ壊してしまえば関係ない!」
少年の放ったカッターナイフは車両の運転席目掛けて真っすぐに飛翔する。然し、和鏡子の運転技術はそれすらも凌駕し巧みなハンドル捌きで決して小回りが効くとは言えない救急車を以てして強烈なゴムの摩擦音を響かせ車体を滑らすようにして回避する。断続的に次々と投擲されるカッター全てを躱す事は出来ず、その一部が車両に傷を負わせたが、アメリカ製特有のその頑丈を誇る車体は止まる気配を一切見せなかった。
「ちっ、しぶとい奴だな――予定変更だ」
目前に迫る、和鏡子の駆る救急車――少年の瞳はその後方で退避を行っている職員達に向けられる。この施設内に於いて車両の行動は大幅に制限される筈、ならばわざわざ相手をせず搦手で攻めれば良い。救急車を迂回し職員を人質にしようと少年は壁を蹴り付け、曲芸のように救急車の頭上を飛び越え反対側に着地する。実質的に車両を無力化した――そう少年が確信した瞬間だった。
「――させません!」
なんと、和鏡子は救急車を横滑りさせ施設通路幅ギリギリ――僅かに壁と接触した車両から火花を散らしながら回転させ、通常であれば不可能であった通路での方向転換を成し遂げた。その光景に思わずあっけにとられた少年――『カットスローターズ』に向かって救急車は再び急加速し、その鉄の塊の身体を思いっきり叩き付けた。その衝撃の凄まじさは車両を運転する和鏡子も激しく揺さぶった。救急車の突進をもろにその身に受けた少年はあっけなく吹き飛ばされ壁に叩き付けられ地面に転がった。和鏡子が抉じ開けた隙――その間に退避していく職員達を視線の端に捉えながら和鏡子は救急車から降り、口から滴る血液を拭いながらゆっくりと立ち上がる少年に視線を向けた。
「だから言ったでしょう。あの人達に手は出させませんって」
「――ああ、痛すぎるほどよーく身に沁みたよ」
和鏡子のその一撃は『カットスローターズ』に強烈な打撃を与えた。それに加え、彼女の活躍を以て職員達の安全を確保する事に成功した為、以降の戦闘の懸念は1つ解消される事だろう。
成功
🔵🔵🔴
遠藤・修司
これは、大変なことになったね
あんなのが解き放たれたら止めようがない
あまり時間をかけない方が良さそうだけど
衝撃波を避けながら相手するのは難しい……というか無理
『…………』
……え、うん、なんとかできるならしてくれる?
【UC使用】で邪神とこちら側の間に障壁を張る
“僕”のおかげで時間は稼げたね
壁が壊れる前に少しでもダメージを与えておこう
迷路の中に鋼糸を張り巡らせる
敵の動きを鈍らせるのと、どの糸が切れたかで敵の位置を把握するよ
向こうも糸を辿ってくるだろうから
鋼糸を張りながら敵を誘導していくよ
ある程度糸を張り終わったら、姿を見せて敵を誘い込む
糸に絡めて動きが止まったところに、炎の魔弾を撃ち込むよ
施設内の低級怪物を掃討し、仮本部を立ち上げ職員達の安全を確保し安堵したのも束の間。遠藤・修司 (ヒヤデスの窓・f42930)はため息を吐かざるを得ない光景をまじまじと目撃するはめになった。敵の首魁である『カットスローターズ』が自ら出向いてきた事も勿論だが、彼らが企てた邪神同士の殺し合い――その思惑通りに解き放たれた異形の怪物――其れ等が暴れ狂うまるで世界終焉を思わせる光景だ。
「これは、大変なことになったね。あんなのが解き放たれたら止めようがない」
その姿を形容する事すら不可能に思われる異形の怪物。鋼鉄の障壁を水飴のように溶かし、紙のように裂き、陶磁器のように打ち砕くこの世の理の範疇を遥かに超えた神々の行進。このまま邪神らの殺し合いが続けば施設が完全に崩壊する事が時間の問題である事は火を見るよりも明らかであった。そんな状況に於いても『カットスローターズ』の少年は気にする素振りも無くただこちらに純粋な殺意だけを向けていた。
「面倒を起こしやがって。一々対応しなきゃいけないこっちの身にもなってくれよ。あー……身体中痛ってぇなぁ……」
「それはこっちの台詞だけども……なら、ここでお引き取り願う事は?」
『こちらの計画自体は順調に推移しています。切宮くんの消耗は少々気がかりですが――切宮くんならまだまだやれる筈です』
「――ああ、それは残念だね」
修司は『カットスローターズ』のその挙動、発言の1つ1つに気を張り巡らせる。どう見積もっても手に余りかねる強敵――それをこの邪神同士の殺し合いに曝されながら対応しなければならない。修司は何度も思考を巡らせるが、出される結論はただ一つ。対処など到底不可能だという事だけだった。
「打つ手なしか……」
二進も三進も行かぬ状況に苦しむ修司に小さな囁きにも似た声が聴こえる。その正体は分かっている。それは他ならぬ修司の別人格の声だ。然し、その声はいつもの騒がしい“僕ら”とは違う、か細く弱々しい声だった。
『…………』
「……え、うん、なんとかできそう?」
微かに聞こえたそれはこの絶望的状況を打破する提案。その声は心許無いものであったが憂慮している余裕などある筈も無い。修司はその声に身を委ねる――その瞬間、世界の音が遠退いて行く。視界が霞がかるように白んで行く。――否、それは全てを拒絶する白い壁だった。
「新手の障壁か――また面倒な事をしてくれたな……!」
寒々しさすら感じさせる拒絶の白い壁が複雑に入り組んだ迷宮――アサイラムの障壁の中で『カットスローターズ』は苦々しく言葉を零した。
「なるほど……これなら暫くは時間が稼げそうだ。助かったよ“僕”」
遠く、壁の向こう側から音が聴こえる。それはきっと迷宮の外で繰り広げられている邪神同士の戦闘音だろう。高い耐久性を誇る迷宮はその余波の影響を今の所はほぼ感じさせていない。『カットスローターズ』との戦闘に専念するべく修司はまず迷路内を移動しながら汎ゆる場所に鉄糸を張り巡らせて行った。主な理由は2つ。移動の阻害と位置の把握が目的だ。修司のその目論見はすぐに果たされる。
「――此処にも糸か。邪魔くさくて仕方ないな」
『移動の阻害――だけが目的ではありませんね。恐らく彼はこれを利用して私達の位置を探っているかと思います』
「それでコソコソ逃げ隠れしようって訳か。なら、お望み通りに追い詰めてやるよ」
修司がこの鉄糸を仕掛けているのであればこれを辿れば追いつける。そう考えた『カットスローターズ』は迷宮内に伸びた糸を辿って行く。迷う事なく迷宮を進んでいけばすぐに修司の姿を視界に捉える事ができた。
「見つけた。散々悪あがきをしてくれたみたいだけど――もう策は尽きたようだな?」
「……そうだね。これで終わりだ。――待っていたよ」
『切宮くん……!これは罠です!』
出会い頭に修司を斬りつけようとした少年の身体を鉄糸が締め上げた。蜘蛛の巣のように張り巡らされた鉄糸――全て修司の思惑通りだった。彼らを糸で導いたのも、彼らの前に姿を現したのも全てこの鉄糸の袋小路に誘い込む為。雁字搦めになった少年と修司の視線が宙で切り結ぶ。少年の怒気を孕んだ視線を受けながら修司は仕掛けの仕上げとして文字通り幕を引いた糸を手放すとゆっくりと少年の正面に立ち、その指先を向けた。
「一時はどうなる事かと思ったよ。今回は“僕”に感謝しないとね」
「してやられたって訳か……っ!だけど、これぐらいで俺を倒す事なんて――」
「ああ、思ってないよ。少しでもダメージを与えられたらそれで十分さ」
修司が言葉にならぬ程小さく何かを唱えれば、その指先に小さな五芒星が鬼灯のように浮かび上がる。絶え間なく撃ち掛けられた炎の魔弾が『カットスローターズ』の身体を撃ち抜いた。
大成功
🔵🔵🔵
都嘴・梓
【DE】◎
んー
質は悪ぃけどぉ、ソコソコだったよぉ
そ、我々が“あなた方”を排除する
…つかマジでムカつく
なぁんか、タイギありまーす体でやってることがカス
ガキの悪戯じゃすまさねぇからなオイ
初手UCで鵯村と自身へカットスローターズや邪神共と間合い稼ぎと不意打ち対策
犬の【影縛りや狛猫(シーとエリ)の【猫妖術で阻止しつつ至近戦には【残虐ファイトと【激痛耐性
ラスト4発目は何としても躱す
いつまでもテメェらが食う側だと思わないでください
―皿に乗れ(併用UC 悪食歎美
鵯村と声かけ連携
畳み掛けてゆく
危ない時は【影縛りで攻撃を躱わさせて、鵯村と交代
緊急時は素の口調に戻り気味
ヒヨムラサンあぶねぇっての!まだ終わってないんで、お好きなジコギセーは、やめていただけません?
影犬は減れば絶えず増やし【正体を隠すで紛れながら【無防備を装い、
カットスローターズへ併用UCで喰らいつく
邪神共も犬と犬の影技で足止めしつつ邪魔なら喰らう【魔喰【呪詛耐性【邪心耐性
メシが鳴くなよウルセェな
決定的な一撃を捩じ込む際は【早業で【急所を見抜く
鵯村・若葉
【DE】◎
都嘴様、お疲れ様です
腹拵えは済みましたか?
それは何より
さてあなた……“あなた方”が犯人ですか――仕事を増やすな、クソガキ共
都嘴様、こういうガキには武力のが伝わります
都嘴様の影犬や狛猫の力を借り不意討ちに備えつつ敵を観察
都嘴様が4回攻撃を喰らわぬように『暗殺』の要領で近づき一撃を喰らうことで致命傷を防ぎ、ナイフで反撃(『捨て身の一撃』)
四度目を当てられず残念でしたね?
お忘れですか、今あなた方は二人相手しているのです
意識して『呪詛』を込め、相手を『挑発』しながら『精神汚染』を試みます
攻撃の的が自分になるなら好都合
殺し合いと参りましょう(『殺気、暴力』)
……自己犠牲?それを言うなら先程のあなたの行動だって――いえ、後にしましょう
ならばもう少しだけ安全な手を
『幻影使い』で自分を殺せたと思わせましょう
ふふ、偽りの勝利に喜ぶなどまだ子供ですね
『闇に紛れ』て『暗殺』の要領でUCを叩き込む
邪神共には『贄血』をくれてやります
多めに持ってきておいて正解でした
影犬と併せれば足止めが容易になるはずです
一先ずの戦闘を終え、都嘴・梓 (
嘯笑罪・f42753)と鵯村・若葉 (無価値の肖像・f42715)は約束通りに合流を果たす。その際に若葉は梓の口元に血液が付着しているのを発見する。彼があの程度の怪物相手に下手を打つなんてありえない事だ。若葉はその血が梓のものではない事を確信し、それを指摘すれば梓は「おっとぉ?これは失礼しましたぁ」と悪戯気な笑みを浮かべて口元の血をペロリと舌で舐め取った。
「都嘴様、お疲れ様です。腹ごしらえは済みましたか?」
「んー……質は悪ぃけどぉ、ソコソコだったよぉ」
「――それは何より」
そんな会話がふと途切れ、二人の視線が向けられたのは血濡れのカッターを構える少年『カットスローターズ』。第12支部襲撃事件の首謀者である少年に向けられた二人の瞳には底冷えの鋭い冷たさが宿っていた。
「さて――あなた、“あなた方”が犯人ですか――仕事を増やすなクソガキ共」
苛烈さは無い。されど慈悲も無い冷たき言葉の刃を向けられた『カットスローターズ』はわざとらしく肩を竦めた。
「おお、怖い怖い。俺達だって仕事の為に仕方なーくこんな事やってんだよ?――いや、それはそれとして邪魔され過ぎてなんか腹立ってきたな。縫村、もう後の事なんか知るか。全力であいつらを叩き切ってやるぞ」
『はい、計画成就まであと少しなんです。絶対に負ける訳にはいきません!全力でいきますよ!』
――話にならない。若葉は静かに目を伏せた。
「この通り。もう何も語る事はありません。――都嘴様、こういうガキには武力のが伝わります」
そんな若葉の横に並び立つと梓はそっと若葉の肩に手を置いた。
「そ、我々が“あなた方”を排除する。――つかマジでムカつく。なぁんか、タイギありまーすって体でやってることがカス。ガキの悪戯じゃすまさねぇからなオイ」
梓が先ほどまで浮かべていた悪戯っぽい笑みは既に跡形も無く消え去り、射抜くような眼光が妖しく灯ればその足元の影が瞬く間に広がり影の警察犬が生まれ出る。世界が軋む程の大きな揺れを合図に犬達と『カットスローターズ』が同時に飛び出せば間もなく正面から接敵する。断裂し火花を散らす配電。まるで沈み征く船のように壁から溢れ出る水流。それに加え、邪神達の死の遊戯が繰り広げる渾沌の中で犬達は果敢に邪神や『カットスローターズ』に飛び掛かり、花の名を冠する、すらりとしたエリカとふくよかなシザンサスの対照的な狛猫は戦場を撹乱する。
「よぉしヒヨムラサン。ショーネンバって奴ですよぉ。キアイ入れて行きましょ」
「ええ、都嘴様もどうかご無事で」
乱戦状態の中で若葉は影犬や狛猫の支援の受けながら暴れ狂う邪神の奇襲を最大限に警戒しながら戦況の分析を試みる。――影犬の攻勢により戦線は均衡を保っている。邪神達も殺し合いと影犬の牽制に惹きつけられている。
「――ですが、懸念が少しでもあるのであれば徹底的に潰しておくべきですね。――多めに持ってきていて正解でした」
この決戦に懸念は存在するべきではない。邪神の一部が戦線を抜けるその可能性まで視野に入れ若葉は小瓶を取り出した。吸い込まれそうな程に紅く艷やかな液体が硝子の向こうで無邪気に跳ねている。贄血――怪物を魅了する若葉の血液の入った小瓶を彼方の邪神に向けて投擲すればそれは半月のように鮮やかな弧を描き、床に叩き付けられ砕け散る。硝子の欠片が、空に踊る紅が光を乱反射させ星のように瞬けば、邪神達の気が一斉にそれに向けられた。刹那――梓が若葉の視線の端を駆け抜ける。
抉じ開けられた戦線。梓と『カットスローターズ』が接敵し目まぐるしい攻防戦を繰り広げる。音すら切り裂く無音のカッターナイフ。飛び散る赤。薄皮を犠牲に繰り出された梓の一撃が鈍色のカッターを打ち砕き、『カットスローターズ』も即座に反応し、その切り結びが激しく火花を散らした。その反抗は想像を絶する程に苛烈を極めたが梓は傷を負いながらも
悪食歎美で喰らい付く。
「ホントにしぶといなぁ……さっさとやられれば苦しまなくて済むのにさ」
「生憎、テメェらの好きなよーにさせる気はサラサラねぇてわけなんでさ。つーわけでさっさとくたばりやがれってんです」
「ああ、そうかよ。だったらお望み通りに殺してやるよ!」
疾風ダンスマカブル――4度の連撃で対象を必ず死に至らしめるという『カットスローターズ』の絶技。その連撃の4度目は確実に避けねばならないと梓は常に警戒をし立ち回ってきた。然し、依然その動きを加速していく『カットスローターズ』の猛攻の前に梓は着実に傷を受け、ついにその4度目の凶刃が梓に肉薄する。4度目の凶刃が梓の身体を断つ――かと思われたそれは若葉の身体に突き刺さっていた。
「――あ?」
「おいおいおい!?ヒヨムラサン!なにしてんですか!」
2人分の驚きの声が同時に上がる。音はおろか、気配すらも完全に殺して『カットスローターズ』をその間合いに捉えていた若葉は、その厄介な絶技の
4度目の連撃――その異能を無力化すべくわざとその身を晒し自らの身体を以てして受け止めた。
「なに――目の前で刃物を振り回すガキが少々目障りだったものでつい」
『――切宮くん!その人の狙いは最初からそれです!早く距離を――!』
自ら凶刃に身を晒した一種の狂気とも呼べる若葉の行動に危機を察した『カットスローターズ』は咄嗟に飛び退こうとする。だが、若葉の執念の捨て身の攻撃はそれを決して逃さなかった。ふらりと飛び掛かるように振るわれた若葉の穢剣は『カットスローターズ』の身体を深々と切り裂いた。
「四度目を当てられず残念でしたね?お忘れですか、今あなた方は――二人相手にしているのです」
「ヒヨムラサン!」
梓の声と同時に若葉が飛び退くと、入れ替わるように後方から梓が間髪入れずに飛び出し、嘗て喰らった邪神の歪腕を以て攻撃を叩き付ける。
「ヒヨムラサンあぶねぇっての!まだ終わってないんでお好きなジコギセーは、やめていただけません?」
「……自己犠牲?それを言うなら先程のあなたの行動だって――いえ、後にしましょう」
「そりゃごモットモ。このクソガキ共をさっさとダマらせちまいましょ」
そんなやり取りを交わしながら梓と若葉は最低限の声掛けだけで、阿吽の呼吸と称するに相応しい連携で『カットスローターズ』を追い詰めて行く。
「ちょこまかとうざったいなぁ……もうこうなった以上この場所を救うなんて無理なんだからサッサと諦めろよ」
「諦める?さて、確かにクソガキ共の相手は億劫ですが――子供の後始末は大人の努め。諦める以前の問題です」
「――ほっんとムカつく」
表情すら変えずに淡々とそう述べる若葉の態度に『カットスローターズ』は徐々に苛立ちを募らせていく。――若葉のその言葉は呪詛そのものだ。知らず知らずに『カットスローターズ』の精神は蝕まれていた。幾ら斬り伏せても次から次へと迫りくる影犬。戦況の天秤は明らかに傾き始めていた。それでも『カットスローターズ』はオブリビオン――世界に仇なす強敵だ。追い詰めれながらもその執念の刃は牙を向く。僅かな隙間を潜り抜け、影を抜けた刃が若葉の喉元を断ち切った。
「追い詰められるなんて慣れてるんでね。子供だと侮ったのが運の尽き――残念だったね」
『切宮くん、嬉しいのは分かりますがまだ1人残っています。まだ油断は――待って!?』
「侮ってはいませんよ。最初から全力で叩き潰すつもりでした。――ふふ、偽りの勝利に喜ぶなどやはりまだ子供ですね」
呼吸すら忘れる殺気。思考を支配されたかのように思わず振り返れば其処には影の闇に紛れていた若葉が立っていた。
「ご理解いただけましたか。ええ、あなた方が殺したのはもちろん幻影です。先程、都嘴様に注意されましたので趣向を少々変えさせて頂きました」
気がつけば若葉の呪言に満ちた拳が『カットスローターズ』に触れていた。瞬間、注ぎ込まれる呪い――それに耐え切れなくなった身体が遍く爆散する。
「グッ……!?クソっ!一度態勢を――」
形勢不利を悟り、身を引こうとした『カットスローターズ』に迸る殺気。思わず足を止めてしまうほどの殺気の正体は影犬と邪神の乱戦に紛れながら虎視眈々とその喉元を狙っていた梓だった。
「――メシが鳴くなよウルセェな」
立ち塞がる邪神。全てを呑み込まんと荒れ狂う狂気の濁流――その中を進みながらも梓は其れ等に蝕まれる事なく邪魔する全てを喰い千切り進み続ける。
「おまえ……っ!?いつの間に!」
「いつまでもテメェらが食う側だと思わないでください――皿に乗れ」
一陣の影が飛び出した。疾風のように駆ける梓。飛沫を噴き上げ、激しく明滅する道を抜け、喰らった邪神の全ての力を叩きつけるように振るわれた魔腕の一撃は完璧に『カットスローターズ』を捉え斬り裂いた。その勢いのままに吹き飛ばされた『カットスローターズ』はもはや受け身を取る事すら出来ず全身を激しく叩き付けられ転がりもはやピクリとも動かなくなった。その最後の力を振り絞るように『カットスローターズ』は梓と若葉に視線を向ける。
「――少しは反省しました?クソガキ」
「ちっ……ここまでか……」
『無念です……』
「……ハッ。構わないよ。どうせもう奴らは終わりだ――」
そう最後の言葉を残し、事切れる『カットスローターズ』。その、意味深な言葉に梓と若葉が静かに視線を交したその瞬間。施設にまるで赤子のような鳴き声が轟いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『赤の王』
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POW : 新生
いま戦っている対象に有効な【性質を持った新しい形状の人類】(形状は毎回変わる)が召喚される。使い方を理解できれば強い。
SPD : 創生
対象のユーベルコードを防御すると、それを【使用できる新しい形状の人類を召喚し】、1度だけ借用できる。戦闘終了後解除される。
WIZ : 可能性
【レベル×2の値の任意の技能をひとつ取得】【レベル×2の値の任意の技能をひとつ取得】【レベル×2の値の任意の技能をひとつ取得】を宿し超強化する。強力だが、自身は呪縛、流血、毒のいずれかの代償を受ける。
イラスト:すずしろめざと
👑11
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第12支部襲撃事件の首謀者は倒れた。気が付けば先ほどまでの喧噪はすっかり鳴りを潜め浸水の進む施設内はまるで深海のような不気味な静けさに包まれている。――終わったのだろうか?施設職員達の脳裏にそんな楽観的な考えが浮上したその瞬間、一人の職員が叫びにも近い声を上げた。
「モニター電源復旧!!――全フロアUDC怪物消失……CLASS:Keter『赤の王』が水没したフロア、仮称「ネモ・エリア」より浮上……!」
その報告に、仮本部の職員全員がざわついた。その中に一時立ち尽くしていた研究チーム職員は猟兵達の姿を見つけると殆ど縋るようにして駆け寄った。
「危惧されていた事態が発生しました……!第12支部最高危険度の邪神『赤の王』の脱走が確認されました。恐らく他の邪神達は全て『赤の王』に捕食されたと思われます。このままでは我々の脱出はおろか、外の世界自体の存亡の危機になりかねません。――奴はもはや生物という枠組みには存在せず。『可能性』という概念そのものと呼ぶべき存在です。ましてや、ポイント・ネモと融合したこの施設内に於いて奴は文字通りにありとあらゆる可能性、無尽蔵の力を得ていると見て間違いないでしょう。奴に対抗する手段はただ1つ――奴の『可能性を否定』する事です。……それでも倒せるかは不明ですが、時間さえ稼いで頂ければ我々の方で必ず再封印を施します……!どうか今一度ご助力を……!」
全職員の視線が猟兵達に集まったその時。まるで観衆が騒ぎ立てるような声が仮本部と外部を隔てる壁越しに聞こえた来た。
『もし?どうかワタクシのお願いを叶えて頂けませんか?』
『オギャァァァ!オギャァァァ!』
『クソ人間共!ブチ殺されたく無かったらさっさと餌になりやがれ!』
『警告。既に諸君らは完全に包囲されている。投降せよ。繰り返す。投降せよ』
青ざめる研究チーム職員。それでも彼はなけなしの希望を全て猟兵達に託すように真っすぐ視線を外す事はしなかった。
「我々は皆さまの指揮に従い動きます……!どうか、あの『赤の王』を!」
仮本部に設置されたモニターに完全浸水した下層から施設メインホールに浮上する『赤の王』が映る。図らずも、モニター越しに『赤の王』と猟兵達の視線が交差した。
※3章のクリア条件は『赤の王』の撃破、もしくは封印を達成した上で職員達を無事支部から救出する事となります。職員達は『赤の王』との戦闘に於いては戦力になりませんが、指示で自由な行動を取らせる事が可能です。
『赤の王の可能性を否定』する事に関わる行動にプレイングボーナスが与えられます。言葉による否定、行動による否定、解釈はご自由にして頂いて問題ありません。
佐藤・和鏡子
向こうのいう可能性、すなわち新しい形状の人類に真っ向から勝負を仕掛けます。
力でねじ伏せるのも否定の一つの形だと思いますから。
具体的には惨殺のユーベルコードを起動、最大出力にして動く物(新しい人類赤い王)に無差別で斬りかかります。。
隔壁があるから味方を巻き込む心配がなくて良かったです。
職員達には赤の王に打撃を与えて撃破なり封印までの足がかりを付けるので、それまでに負傷者を脱出させるように伝えます。
『(アイコンの表情で)死は不可避です。抵抗は無意味です。諦めてください』
『カットスローターズ』の消滅により封鎖が解かれた第12支部。其れは
ポイント・ネモから現れた。天使と呼ぶには禍々しい形状の翼を持つ、まるで胎児の如き姿の『赤の王』は産声を上げながら水没した下層から浮上した。ぎょろりと上下左右へ忙しなく動かされていたその大きな赤い目玉が佐藤・和鏡子 (リトルナース・f12005)を捉える。
「あ、赤の王……!もうここまで
……!?」
「大丈夫です、落ち着いて下さい。――可能性の否定でしたよね」
「ええ……でなければ、奴は文字通り際限の無い進化を……」
先の勝利も束の間。狼狽え、絶望する職員達の様子を和鏡子は一瞥し、そして思考を巡らせるように瞳を閉じた。刹那、すぐにその瞳は再び開かれ、和鏡子は『赤の王』へ歩み寄るように一歩前へ踏み出した。――そうだ。彼らを守る為に自分は此処に存在する。
「私がアレの相手をして時間を稼ぎます。皆さんはその間にまずは負傷者の方々の退避をお願いします」
和鏡子のその言葉に職員は不安そうな表情を浮かべながら頷くと和鏡子の指示に従うべく戻って行った。その背中を見送り、『赤の王』へと再び視線を戻せば、そこには先ほどの胎児の姿は無く、代わりに赤眼の少年が立っていた。
『やぁ、おはようございます』
凛としたそんな声が響いたかと思えば、その少年の姿形はまるで泥人形が内側から膨れ上がるように肥大化すると、すぐさま収縮し今度は青年の姿を形どった。
『新たな世界へようこそ旧人類。――そして、さようなら』
瞬間。水飛沫が飛び散り『赤の王』は腕そのものを刃物へと変化させ和鏡子へ肉薄するとその喉元に刃を突き付ける――が、それは和鏡子が振るった真紅の斧の一撃に弾かれた。趣旨返しと言わんばかりに和鏡子のアメジストのような瞳が『赤の王』を覗き込んだ。
「排除サブルーチン起動。危険です。退避してください」
脅威緊急排除モード。則ち、
惨殺へと移行した和鏡子はその穏やかな表情を保ったままにその雰囲気を一変させた。そこにあるのは脅威を排除せんとする殺意。その小さな身体からは想像できぬ攻撃性を以て一気呵成に『赤の王』を斬り裂いて行く。自身を以て制御不能――敵味方の識別すら顧みないその攻勢は前もって職員達を隔壁の向こう側へと避難を促していなければ凄惨な未来さえあったかもしれない。然し、全ての憂いを絶った今。和鏡子はその全力を以て戦う事が出来ていた。
和鏡子の風すら裂く一閃に『赤の王』の刃状の腕が一文字に斬り飛ばされ燃えるような真っ赤な断面から飛沫が吹き出る。苛烈極まる和鏡子の攻撃。それに曝されてもなお『赤の王』は新たな可能性を芽吹かせ、その腕にさらなる進化を齎せる――だが、それは和鏡子の一撃のもとに再び切り潰される。
『――いてぇな、おい』
『あくまで抗うというのですか』
『我こそが王。可能性の袋小路の人類に勝ち目など無い』
「ご勝手にどうぞ。それでも私は貴方を否定します」
和鏡子はあえて『赤の王』へと真っ向勝負を仕掛けていた。可能性とやらを力でねじ伏せ否定する為、断続的に加速し激しくなる戦闘になお喰らい付き、そしてついに冷たく煌めく斧の切先が深々と――通常の人間であれば心の臓まで達する程に深々と『赤の王』の身体に突き立てられた。
『――なんだこれは』
「――死は不可避です。抵抗は無意味です。諦めてください」
さらさらと銀雪の如く髪が風に流れる。アメジストの瞳を閉じ込めた和鏡子の屈託の無い朗らかな笑みがニッコリとして『赤の王』の顔を覗き込んでみせた。そのまま斧を振り抜けば『赤の王』の身体は見事に両断される――にも関わらず相変わらず蠢き1つに戻るその姿を見ながら和鏡子は静かに息を零す。職員達の退避する時間は十分に稼ぐ事が出来ただろう。これからが正念場だ――和鏡子は改めてそのアメジストのような瞳を再生する『赤の王』へと向けた。
大成功
🔵🔵🔵
遠藤・修司
邪神を食い尽くす程の存在、か
僕が知らなかった世界の裏には、あんなのがいたのか
できることなら知らずに終わりたかったな……
時間さえ稼げば……
正直、キツいからあまりやりたくなかったけど
この状況ならそうはいかないか……
あれは僕が抑えておくから、なるべく早く封印を頼むよ
布で包んでポケットにしまっていた五芒星石を取り出す
呪文を唱え、僕の生命を代償に石の力を解放【UC使用】
邪神の可能性を否定し、動きを封じる
可能性なんて要らない
受け入れる余裕はないから、新しいものは入れられない
持て余すだけだから、拡がらなくていい
だから大人しく何もしないでいてくれ
ちょっと無理、しすぎたか……
何でこんなことになったんだろうな……
遠藤・修司 (ヒヤデスの窓・f42930)は深いため息を零した。先ほどまでの激戦の余韻をそのまま塗り潰してしまう程の理不尽。関ってはいけない――考えてはいけない。全身がそう警鐘を鳴らす程の埒外の狂気。だからと言って逃げ出そうとは思わなかった――いや、もはや逃げ出す気にすらなれなかったのかは分からない。ともかく、修司は否が応でも『赤の王』と対峙する事となった。
「手の施しようが無かったあの邪神達でさえ喰らい尽くす程の存在、か」
胎児から成人へ、成人から老人へ、老人からまた胎児へとまるで生と死のサイクルのように変化を繰り返す『赤の王』を前に修司はただその一言だけ呟いた。自分の知らない世界の裏にこのような理解し難い怪物が存在した事――知らずにいられればどれほど幸せな事だっただろう。一抹の後悔にも似た念を胸に抱いたままに修司は静かに視線を周囲へ流した。仮本部の負傷者の退避は完了しているが、残りの職員達はこの絶望下に於いても『赤の王』の再封印を試みようと必死に奔走していた。
「時間さえ稼げれば……」
彼らの準備が整うまでまだ時間を稼ぐ必要がある。当然その役目を担う事が出来るのは修司であり、修司にも策はあった。手の甲にじんわりと汗が滲み、修司は無意識下に喉を鳴らした。その視線がふとポケットへと落とされる。
「正直、キツイからあまりやりたくなかったけど――この状況ならそうはいかないか……」
ある種の諦観が籠もった視線の先には胎児のような肉塊から再びヒトの形を得た『赤の王』。それを視界に捉えながら修司は固唾を飲んでその動向を見守っていた職員に殆ど独白のように言葉を投げた。
「アレは僕が抑えておくから、なるべく早く封印を頼むよ」
「……よろしくお願いします。ご武運を」
支部施設自体既に限界が近づいているらしく、亀裂から海水が豪雨のように降り注ぐ中、修司は『赤の王』と対峙した。
『ガ……アア……ギィ?』
『旧人類よ。新しき人類として私がお相手しよう』
『ネ……アソ……アソボ?』
「気は乗らないけど――旧人類として僕が暫くお相手させて貰うよ」
ポケットから取り出した包布を開けば緑灰色の星形の石が顔を覗かせる。修司はそれを摘むと『赤の王』に向け一息に呪文を呟いた。
「そは力を持つものなり。なべてに抗しうる力こそ、旧きムナアルの五芒星のうちに秘められたり」
ムナールの五芒星石――オリジナルの欠片を利用し作られた複製品。燃料は則ち術者の命――修司は文字通りに命を削り旧き神の力の一端を引き摺り出す。
『俺ハ、私は新たなヒトの頂きである。ギ……己以外に意味はナシ』
『赤の王』はその縛りの秘術に曝されながら呪術耐性を爆発的に成長させ汎ゆる攻撃への備えへと無限の可能性へと手を伸ばす。ああ、キツイな……皮肉混じりにそう零しながら修司はそれを全力で抑え込む。
「それでも僕はお前を否定するよ」
可能性なんていらない。受け入れる余裕はないから、新しいものは入れらない。
「頼むから、これ以上面倒事を増やさないでくれよ」
それは懇願であった。まるで祈りのようだった。どうせ持て余してしまうから、これ以上広がらないでいてくれないか。
「――だから大人しく何もしないでいてくれ」
頭が割れそうだ。脈は早まり耳鳴りが反響する。修司の朧げな瞳がゆっくりと再生を繰り返しながらその場に縫い留められた『赤の王』に向けられた。
「――暫くはこれで時間は稼げるか」
安堵と共に波のように疲労感が押し寄せてきた。これは謂わば命を対価にした王との呪い合い――この状況に修司の口からは自然と憂いを帯びたため息が零れた。
「ちょっと無理、しすぎたか……何でこんなことになったんだろうな……」
それは時間稼ぎとしては十分な時間であった。然し、それでも猶予は限られているだろう。だが、修司にとってその時間は不思議と永遠に続くかのように感じられた。
大成功
🔵🔵🔵
黒江・式子
◯◎
私のUCには攻撃能力がありません
撃破するか再封印するかは他の猟兵の皆さんの判断にお任せします
いずれにせよ最大限サポートさせて頂きます
いかなる可能性も自ら動いて掴み取らねば無意味です
その行動の為の活力を奪いましょう
喰った活力は、そのまま敵を拘束し続ける為の
茨の力として消費
もし無尽蔵としても、可能な限り食い尽くしてみせましょう
殺し切る事が難しい場合、向こう百年の
封印をもって時間を稼ぎましょう
今までもそのようにしてきました
……今回の様なイレギュラーへの対策は今後の課題ですね
茨をトンネル状に延ばし脱出経路を補強
浸水区画を通る必要があるなら発見した潜水器具が使えるでしょうか
その怪物――『赤の王』を形容するに相応しい言葉は存在しえない。然し、その状況を言葉にするならまさに最終決戦という言葉が適切であったに違いない。猟兵、職員、それぞれが己の出来る限りの力を以て究極の可能性――謂わば、最悪の未来そのものに抗っていた。当然、その中には黒江・式子 (眠れる茨棘いばらの魔法使い/それでも誰が為に・f35024)の姿もあった。
「可能性……ですか。耳触りは良いですが、いかなる可能性も自ら掴み取らねば無意味です」
『ナニがイイたい?』
『戯言を。平伏せよ旧きヒトよ』
「――ほいたら、その気力を奪ったる」
現状、『赤の王』を封印するにしろ、討伐するにしろその目処は立っていない。ならば、どっちに転んでもいいようにと式子は友軍を最大限サポートできるように立ち回ろうと考えた。式子の足元を起点に『赤の王』を囲い込むように展開される茨の影。それは他の猟兵の働きにより動きの鈍っていた『赤の王』を案外容易く拘束せしめ、まるで眠れる荊棘の城の如き牢へと閉じ込めた。
『小癪小癪コシャク小癪無価値無意味……ギ……ギギィ……』
影の茨に縛られた『赤の王』はその状態でもその肉体を進化さて、耐性、強度と捕縛へ抗う術という術を進化させ続け抵抗する。対する式子は『赤の王』から喰らい奪った活力を影の茨のエネルギーとして転換し、例え無尽蔵のエネルギーであろうと喰らい尽くしてみせようと長期戦の構えをとる。だが、それでも『赤の王』は僅かながらも着実に進化を遂げ状況に適応しようとしている事に式子は感づいていた。
「抑えられてはいるようですが……現状、殺し切るにはまだ少し及ばないかもしれませんね。――やはりここは
封印を以て一先ず時間を稼ぐ方が確実でしょうか」
式子はこの手応えから『赤の王』の討伐よりも封印する方が成功率が高いと読んだ。これまでのUDC怪物に於ける封印処理の試行回数からしても圧倒的にそちらの方が手慣れているのも事実だ。尤も、今回に於けるイレギュラーな状況ではそれでも不安は払拭しきれないのもまた事実ではあるが――このような事例への対策が今後の課題になるとため息を零しながら式子は昏く揺れたその瞳を影の茨で縛られた『赤の王』へ向けた。あの怪物に関しては精一杯の処置を行った、然し、まだまだやるべき事はたくさんある。
「これより脱出経路の確保を行います。――少々、お力添えをよろしくお願いします」
「了解。Aチームは再封印の準備、Bチームは『赤の王』の監視を続けろ。残りは脱出経路の確保に向かうぞ」
負傷者は比較的安全な区画へと避難させたとはいえ、施設から脱出する為には損傷の激しい施設内から比較的安全なルートを確保する事が必要不可欠だ。『赤の王』の行動が抑えられている今を見計らい式子は一部の職員達と共に脱出経路の確保へと動き出した。出口までの通路を職員の案内で進むが先の邪神達の激しい殺し合いの影響により損傷が激しく、建物の構造自体が激しく変化し思った通りに進む事は手慣れた職員を以てしても苦戦しいられた。それでもなんとか式子は影の茨で通路を補強しつつ比較的安全なルートを通り出口を目指していく。
「ここまで来れば出口はもうすぐそこの筈だが……」
「完全に通路が水没していますね」
「この先の配管室まで辿り着ければある程度の排水が出来るっていうのにこれじゃあ……」
「……私が先行して道を開きます」
式子は戸惑う職員達を一瞥すると小さく頷き潜水器具を背負うと水の中に飛び込み視界の悪い浸水区画をライトを頼りに進んでいく。瓦礫から直視し難い物体――浮遊するそれらを掻き分けながら進めば程なくして配管室に辿り着き、緊急用の排水装置を起動させる事に成功した。すぐさま職員達と合流した式子は彼らと共に迅速に脱出経路の整備を進めていく。
「脱出の手筈は整ったが……」
「はい、分かっています。あの怪物を――『赤の王』を止めなくては」
世界の存亡を賭け、式子を始めとしたこの施設に存在する全ての者が己にできる全力を以て『赤の王』へ挑んでいく。負傷者の収容、脱出経路の確保――時1秒でも多くの時間を稼ぎ、新人類を自称する『赤の王』に対する旧人類達の反撃の刻は着実に近づいていた。
大成功
🔵🔵🔵
都嘴・梓
【DE】◎
鵯村の指示に礼を言い、即座に戦闘態勢UC
犬は職員のサポートに回しつつ赤の王の不意打ち対処に警戒させる
若葉の否定に小さく笑いながらも、溜息大きくバトンタッチ
―そ、お前は矛盾だらけの大ウソつき
まず、可能性を持ってるって思い込みがスゲーわ
はぁ~~~~~~~あー…もうさ、スタート二番煎じなワケ
分かる?あとラストのUDC食ったの俺だから。お・れ
まぁせめて?慈悲深い俺からオレーくらい言ってやるよ
感謝いたします、
王様騙りと
つか
オギャアなどと人間の赤ん坊の真似事をして誕生したつもりはやめていただきたい
“命”のフリなど、できるはずもないのですから
生まれるハズの無いお前がこの先再び生まれる可能性は皆無
…―あぁ、もっと丁寧に言いましょうか
祝福されないお前は生まれていない
まして望まれていないお前の存在を俺が許さない
お前が乗れるのは俺の皿の上
お前が沈むのは俺の腹の裡 併用UC悪食歎美
ねぇそうだって言って、ワカバサン
―アリガト。では、
パーティを始めましょう
鵯村・若葉
【DE】◎
支部の皆様には残った資料を持ち、生存者を連れて逃げるよう指示
生きていれば再建も不可能ではありませんし、情報は別支部へ連携も出来るはず
何より我々、“少々口が悪い”のでどうか聞かずに
『呪詛』を強め否定を重ねる
さて、一つ宜しいでしょうか(小さく挙手)
殺されたくなければ餌になれと仰っていましたが、それ結局死にますよね?
秒で矛盾するその発言――果たしてあなたは本当に王たり得るのでしょうか?(『挑発』)
大体、真に可能性がある生命は一握り
殆どが可能性などなく、無意味に終わっていく
それでもあると?
この血に抗ってからほざけ(UC)
本当に無限の可能性なら血に酔わない可能性もあったはず
新しい人類とやらが血を拒めてもあなたは拒めない
どうやら勝利の可能性すらなかったようですね?
ふふ、そうですね、都嘴様
その通りです
相手にも言い聞かせておきましょうね
【併用UC:呪言】
赤の王が乗れるのは都嘴様の皿の上
赤の王が沈むのは都嘴様の腹の裡
――おまえは『都嘴梓の獲物となる』
良かったですね
食材としては可能性がありそうで
終焉の刻は近い。施設内の亀裂という亀裂から水が流れ込み、第12支部は着実に崩壊へと進んでいく。
「――そろそろですかね。幸いにも避難経路も確保出来たとの報告がありましたので、できる限り重要な資料を確保して一刻も早く脱出を」
鵯村・若葉 (無価値の肖像・f42715)は『赤の王』と対峙し、それをしっかり視界に捉えたまま職員達に施設からの脱出を促した。当然、できる事ならば今すぐにでも逃げ出したいという気持ちが無かった訳ではないが『赤の王』へ対する責任感との葛藤の中にいた職員達は困惑の表情を浮かべた。
「し、然しもし『赤の王』が解き放たれてしまったら――」
「仕事熱心な事ですねえ、感心感心――でもま、後は俺達でドーにかしますよ」
妖しく桃色を宿す瞳を細め、都嘴・梓 (
嘯笑罪・f42753)の口角がニィと上がる。
「ええ、その通りです。この支部と共に終わってしまえばそれまでですが生きてさえいれば再建も不可能ではありません。他の支部へと情報を伝えられれば連携する事も出来ます。それにこういった化け物の相手は
我々の仕事ですからね」
言い聞かせるように落ち着いた鈴鳴りのような声が凛と鳴り、若葉はまるで射殺すような鋭い視線を『赤の王』に向けた。
「――何より、我々少々口が悪いので聞かせる訳にはいきません」
説得を聞き入れたのかそれとも2人の雰囲気に呑まれたのかは分からないが職員達はその指示を素直に承諾すると慌ただしく最低限の荷物を抱えながら支部からの脱出を目指し駆けて行った。
「ありがとヒヨムラサン。これで心置きなくあのヤローをぶっ飛ばせるってもんですよ」
職員らが駆けて行ったと同時に梓は戦闘態勢へと移行する。影から生まれ出る警察犬の群れが一部を除いて職員達をサポートする為に飛び出していった。その場に残った影の犬達はというと『赤の王』の動向――視界外からの攻撃を警戒して哨戒する。
『ギ……アソボ……ハヤ、ク アソボ……』
『茶番は終わりか?なかなかに退屈だったな』
『ぶっ殺す』
戦闘態勢を取る2人をまるで気に留めないかのような振る舞いで寛いでいるかのようにすら感じられるそれは外見こそ既に人間としての形を成してはいるが、体表にコポコポと気泡立つように次々と生まれ言葉を発して消えていく数多の口がそれが人間である事を否定する。
『では、僭越ながら殺害させて頂きます』
「――さて、1つよろしいでしょうか」
『赤の王』を制止するように何食わぬ表情で若葉が小さく挙手をし、質問を投げ掛ける。その視線と『赤の王』の紅い双眸の視線が宙で斬り結び、それを無言の了とし若葉は言葉を続けた。
「殺されたくなければ餌になれ――と仰っていましたがそれ、結局死にますよね?さて、秒で矛盾するその発言――果たしてあなたは本当に王たり得るのでしょうか?」
『――何が言いたい』
それは『赤の王』の存在そのものを否定する言葉。殊更に『赤の王』に向けられた若葉の零下の如き冷たい視線に『赤の王』は生まれて初めて苛立ちという感情を覚えた。――実に興味深い。ある種の好奇心からか『赤の王』は敢えて若葉の言葉を遮らなかった。
「大体、真に可能性がある生命は一握り。殆どが可能性などなく、無意味に終わっていく。――それでも、可能性は絶対だと?」
否定。否定。否定。呪いの言の葉は積み重ねられ『赤の王』を否定する。そんな若葉に梓は小さく笑い、深い溜息を零して若葉と入れ替わるようにして後に言葉を続ける。
「――そ、お前は矛盾だらけの大ウソつき。まず、可能性を持ってるって思い込みがスゲーわ」
『ヤメロ……ヤメロ……ヤメテ……』
『戯言を、旧きヒトが幾らほざけど我は止められぬ』
それは無から染み出した。それはいつからか感情を識った。肥大化した感情は汎ゆる可能性を求めた。世界を害するそれを若葉と梓は否定する。
「はぁ~〜〜あー……もうさ、スタート二番煎じなワケ。分かる?あとラストのUDCを食ったの俺だから。お・れ」
梓は嗤う。決して友好的なものではない。氷の如き冷たさを孕んだ突き放す笑み。人間、本来の攻撃性の笑顔で『赤の王』を否定する。所詮、模倣であると。その本質はただヒトに成り代わろうとする怪物であると。『赤の王』は本能的にそれ以上、2人に言葉を続けさせてはならないと思った。その言葉は己にとっての破滅に思えた。
『ふざけやがって……ガ……グガァ゙ァ゙……』
『もう良い。遊戯はここまでだ』
『赤の王』はただ感慨も無くその腕を振るおうとした。人間の考えうる領域を遥かに凌駕する無限にも等しい力を以てすればそれだけで全て終わる筈だった。然し、それよりも早く若葉の言葉がそれを塗り潰す。
「――この血に抗ってからほざけ」
緋色の鮮血が蝶のように宙を舞う。ギラギラと妖星のように明滅を繰り返す。ヒュウと梓が口笛を鳴らせば、『赤の王』の視界が二重にも三重にも歪んで、気が付けば腕を振るうどころかよろけて一歩二歩と後退させられていた。なんてことはない。王は酔っていた。甘美な血の味にただ酔っていたのだ。
『何をした……』
「――本当に無限の可能性というのであれば血に酔わない可能性もあった筈。ならば当然、あなたはその可能性を選んだ筈。でもそうはならなかった。――いえ、出来なかったのです。新しい人類とやらが血を拒めても、あなたは拒めなかった。全て、あなたの空想でしかなかった。あなたは新しい人類に足りえなかったのです。――どうやら、勝利の可能性すらなかったようですね?」
若葉は整然とし『赤の王』に言い放った。呪いの言葉――否定の言葉に『赤の王』は生まれて初めて焦燥を覚えた。
進化を阻害されてもなお進化し続けた王の肉体は既に人間のそれと何一つ違わないものであったが、これまでの戦いで積み重ねられてきた否定は確かに王を蝕んでいた。
「まぁ、せめて?慈悲深い俺からオレーくらい言ってやるよ。感謝いたします、
王様騙りってね。――ああ、そうそう。つか、オギャアなどと人間の赤ん坊の真似事をして誕生したつもりはやめていただきたい。“命”のフリなど、できるはずもないのですから」
コツコツと靴底を響かせ、梓は一歩二歩と『赤の王』に向かって進んでいく。
「生まれるハズの無いお前がこの先再び生まれる可能性は皆無……――ああ、もっと丁寧に良いましょうか」
桃色の瞳が細められ。微笑を湛えて王と対峙する。
「祝福されないお前は生まれていない。まして望まれていないお前の存在を俺が許さない」
『私は……俺は――僕は――わたくしは――』
絶え間なく紡がれる否定の言葉は偽りの王を呪う。気が付けば、梓の隣には若葉が立っていた。梓は若葉へと視線を向ける訳でもなく、ただ一言。落ち着いた口調でその一言を送った。
「ねぇそうだって言って、ワカバサン」
「ふふ、そうですね、都嘴様。――その通りです。相手にもしっかり言い聞かせておきましょうね」
次の言葉が紡がれたのは同時だった。二人の言の葉は響き合い、どこまでも透き通った。
「「
お前が乗れるのは
俺の皿の上。
お前が沈むのは
俺の腹の裡」」
「――アリガト。では、
パーティーを始めましょう」
――刹那。梓は『赤の王』へと肉薄した。『赤の王』は梓のその攻撃速度に反応しきれず――正確には若葉の言葉に縛られ、その身体の一部を梓によって喰いちぎられた。自分の中で瞬く間に可能性が収縮し力を失っていくのを『赤の王』はまじまじと感じ取っていた。そんな『赤の王』に躊躇なく梓は追撃を行う。
『グ……ガァァァァ!!!』
『赤の王』は無理やりに身体を飛び退かせ辛うじてその一撃を回避する。ブチブチと筋肉の繊維が千切れる音が響く。『赤の王』が壁に激突すればその衝撃で隔離壁が吹き飛び洪水のように海水が施設内に再び流れ込んでくる。
「あんまり暴れネーでくれます?今すぐに裸の王様をその空虚な玉座から引きずり降ろしてやるんで」
流入する海水を物ともせずに再び距離を詰める梓。だが、それでも『赤の王』は沈黙しない。まだ、可能性は潰えていない。欠片でも可能性があるのであれば負ける筈はない。『赤の王』は追い詰められてもなお、肉体を再生させるどころか更にその力を増幅させていく。これからが反撃の時だ。『赤の王』がゆらりと立ち上がった瞬間、どこからか放たれた弾丸が『赤の王』の身体に大きな風穴を穿った。それは職員達が再起動を試みていた再封印用自動装置の対強化UDC弾の一撃だった。今までの時間稼ぎが功を成し、ついに間に合ったのだ。
「――これで全ての可能性が途絶えましたね。いや……そうでもないですか。良かったですね、食材としては可能性がありそうで。――都嘴様。終わりにしましょう」
「はぁい、そうしましょ。――サヨナラ、偽物の王様」
可能性とは未来であって現在では無い。未来である以上、現在に存在しえぬ不確かなものだ。そうであるのならば、可能性そのものである『赤の王』は最初から全てただの虚影であり、今を生きる彼らを上回る事など決して不可能だったのかもしれない。この現在を歪な未来から護る為、梓の最後の一撃が『赤の王』に振り降ろされる。
――蝉が忙しく鳴いている。燦々と降り注ぐ陽の下で人々がいつも通りの日常を送っている。あれから数刻後、第12支部は完全に崩落し、それと共に『赤の王』の反応は完全に消滅した。猟兵達の活躍により、あれだけの大惨事にも関わらず多くの職員達は生還する事に成功し、第12支部としての機能もそのまま他の支部に移転される事が決定した。
「はぁ、イー天気ですねぇヒヨムラサン。ちょっとばかし暑過ぎじゃねって気もしますけど」
「ええ、ずっと屋内にいましたから陽の光が気持ちいいですね。――暫くゆっくりさせて頂きますか」
支部から脱出し、早々に一服に興じる梓。そんな梓の煙草からたなびく風に揺らる白い煙を眺めながら若葉は静かに微笑んだ。今回の事件により第12支部施設は廃棄され、その存在自体を秘匿される事となった。海水に沈み、人もUDC怪物も居なくなったその場所はその事件を知る者からは通称『
Point Nemo』と呼ばれている。当事者以外に者達には決して記憶されない事件だが――この夏は君達の隠された活躍を知っている。
大成功
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