●藪に呑まれた人々
それはいわば、見渡す限りの緑の闇とでも称したものか。
木が生え、草が生え、岩場には苔も生え、どこに目を向けようとも何かしらの緑でもって視界が遮られるような、鬱蒼たる密林である。
日の光はあるはずなのに、目が利かぬ。そんな中にあって。
「……ケテ……タス……タスケ、テ……」
か細い声が流れて耳に届く。
「御大将!」
「慌てるな。備えよ」
白髭の指揮官が言うと、坂東武者たちは整然と弓矢や槍を構えた。
そして、声のあった方を向いた指揮官が鋭く大太刀を一閃させ、藪の一角を斬り払う――と、藪の向こうにいたのは巨大な芋虫型の妖であった。
「またか」
指揮官が舌打ちするのと同時、坂東武者たちが妖へ向けて一斉攻撃を仕掛けた。白刃が次々に体に叩き付けられた妖は、奇声を上げつつ激しく身を震わせ、倒れ伏した。
「くそっ、妖ばかりではないか! 民たちはどこなのだ?」
「急くな……と言いたいところだが、この様子ではな。急いだ方が良いやもしれぬ」
老練なる指揮官は、白髭の奥の歯をグッとかみしめた。
●悪夢の白き炎
アヤカシエンパイアに、安倍晴明が現れた。
悪辣にして抜群の術者であるかの魔将は、白炎換界陣という奇天烈な秘術を用いて、平安結界の内にブレイズゲート――無限に妖が湧き出る迷宮空間を生み出しているという。
「今回の依頼は、そのブレイズゲートの一つをぶっ潰してもらいたい、ってモンだよ。シンプルっしょ?」
微笑を浮かべつつ、大宝寺・風蘭(狂拳猫・f19776)は言う――が、その笑みが常よりも固く見えるのは、気のせいではないかもしれない。
「で、今回のターゲットになるブレイズゲートなんだけど、まあ何つーかジャングル! って感じの深い森だよ。木やら草やらが密集してる上にやたら広いし、さらに迷いやすくなる術も施されてるっぽいし、斬ったり燃やしたりにもちょっとした耐性があるっていう、至れり尽くせりなクソ仕様みたいだね」
この森は、元々は二百人前後が暮らす農村があった場所に、住民ごと呑み込む形で突如として出現した。不幸中の幸いとして、その村には現代でいうところの駐在所に当たる施設があり、詰めていた十数人の坂東武者らが住民を救うべく奔走しているのだという。
ただ、この迷いの森を闊歩する集団オブリビオンがまた面倒臭い。頭部に人間を模した疑似餌的な器官を持ち、人の声に似た音を発して人間を誘引して捕食するという性質を持つ、巨大な芋虫型の妖なのだという。藪に視界を奪われた空間など、彼らのためにあつらえられたようなものである。
「……ブレイズゲート内部の集団オブリビオンは、いわゆる無限湧きってヤツでさ。全滅させるのは不可能なんだ。だから、そいつらは押さえる程度にあしらいつつ、一息にブレイズゲートの破壊を狙ってもらわにゃいかん――ってワケ」
ブレイズゲートを破壊するには、森の中心、一際緑が深くなっている地点へ到達し、迷宮化の核となっているボスオブリビオンを撃滅するより他に手段がない。
ただし、その個体は晴明の秘術により膨大なパワーを与えられた妖であり、当然ながら並大抵の敵ではない。それ相応の覚悟と、確かな戦術を要求されることになるだろう。
「まあまあ、強いったって無敵でもなけりゃ不死身でもない。フツーに戦えば、皆が手も足も出ないなんてことはないハズだよ。油断はしない、でも堅くなりすぎないってカンジで、よろしくお願いするよ♪」
言って、風蘭はパチンとウィンクした。
大神登良
オープニングをご覧いただき、ありがとうございます。大神登良です。
第一章は、ブレイズゲート化した空間の攻略です。元々は農村があったはずの地域一帯が、出口のない迷いの森に覆われた状態になっています。中には多くの住民と、駐在していた坂東武者の一団が閉じ込められています。まずは彼らと合流し、住民の安全を確保しましょう。
なお、オープニングにある『斬撃や燃焼に耐性がある』というのは、「迷宮攻略にあたって全体を更地にしてしまう等というは、猟兵といえど無理がある」といったニュアンスのものであって、全く破壊が不可能なほど頑丈なわけではありません。
第二章は、集団オブリビオンとの戦いです。異変の核たる迷いの森の中心部に、妖が無限に湧いて出てくる地点があります。殲滅はどうやら不可能ですが、坂東武者たちと協力して血路を開き、中心地点まで到達しましょう。
第三章は、森の中心地点にいるボスオブリビオンとの戦いです。安倍晴明によって、周辺地域のブレイズゲート化の根源たる術式、妖力が植え付けられた個体です。これを倒すことでブレイズゲートは消滅しますが、極めて強大な力の持ち主ですので、しっかり戦術を練って挑む必要があるでしょう。
それでは、皆様のご参加を心よりお待ちしております。
第1章 冒険
『八幡の藪知らず』
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POW : 真っ直ぐ突き進む。
SPD : 目印をつけながら進む。
WIZ : 魔術的な痕跡を辿り進む。
👑7
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弓落・高寿
◾️アドリブ連携歓迎
話を聞いた限り、地形に相手にと随分まどろっこしい依頼なもんだが、まぁ文句を言っても仕方ねえ。
まず合流しない事にはどうにもならぬ故
従僕を【偵察】と【情報収集】に行かせて状況を把握しよう。
『僕たち頑張るモコ!』うるせえ早く偵察行ってこい。
さて、民らの位置が掴めたら─まぁ掴めなくとも、敵は声を発するんだろ?声のする方向へ向かえば坂東武者らもいる、あるいは敵に鉢合わせたとしても戦闘の音で味方が来たと気付くかもしれん。
まぁ問題は合流よりもかような状況下、妖に間違えられて同士討ちにならぬ様にすることか…?……その時はその時。力で
理解せる。
●声ある所
現場に降りたって取り敢えず周囲を一望した途端、弓落・高寿(平安京異邦人・f44072)は無意識のうちに嘆息した。
グリモアベースで話に聞いてはいたものの、緑にまみれて視界の悪い密林という地形。この中に、人が紛れ、人のふりをする妖が紛れ、人を守らんとするもののふどもが紛れている。何とも面倒で、まどろっこしい状況であった。
「……まぁ、文句を言っても、な」
軽くぼやいて、高寿は束帯の袖をバサリとはためかせた。
同時、たっぷりした袖の隙間から小玉スイカほどの大きさの毛玉がいくつも転がり出てきた。ケサランパサラン、あるいは毛羽毛現といった単語が連想されるそれらは、高寿の忠実なる耳目たる『貴族のお供妖精たち』である。
「ここら一帯の様子を探ってこい」
高寿が言うと、毛玉の群れはゴム毬よろしくびょいんびょいんと跳びはねた。
『頑張るモコ!』
「うるせえ。早く行け」
高寿はしっしっと手を振って、毛玉の群れを散開させた。
まずは合流――対象は、味方の坂東武者でも、救助対象の住民らでも、敵である妖でも、何でも良い。それが高寿の第一の方針だった。
当たり前の人間であればもっと慎重な、それこそ妖に見つからないような立ち回りが求められるところだろうが、高寿は違う。降りかかる火の粉を払うだけの力があり、そもそもが怪異をねじ伏せるべくここに足を踏み入れた、猟兵という立場でもある。
ゆえに、密やかに動いてもしかたがない。敢えて何かしらにぶち当たるように動くのが肝要。そう、彼女は考えたのである。
「……少なくとも、妖は声を発してくる。坂東武者と妖が戦ってりゃ、剣戟の音も鳴ってるはず。となりゃ……」
目のみならず、耳も研ぎ澄ませつつ、高寿はゆるゆると緑の中を歩いていく。
すると、数メートルほど手前の藪がガサリと揺れた。
気のせいではない。また、風が吹いたわけでもない。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……まあ、どっちだって構わんぜ」
油断なく全身に力をみなぎらせ、藪へと近寄る。
そして、ゆっくりした動きから一気に素早く藪を手で払いのける――と。
「――ヒっ!」
「……おっと」
それは、恐らく兄と妹だろうか。十歳前後の子供の二人組だった。ブレイズゲートに呑まれた住民らで、間違いない。
「……安心しろ。助けに来た」
精一杯に敵意なさげな笑みを作りつつ、高寿は二人に呼び掛けた。
大成功
🔵🔵🔵
諏訪野・啓太郎(サポート)
『唯のろくでなしの旅烏ですよ。』
スペースノイドのスターライダー×電脳魔術士、33歳の男です。
普段の口調は「男性的(俺、呼び捨て、だ、だぜ、だな、だよな?)」、負傷した仲間には「元気に(俺、~くん、~さん、だね、だよ、~かい?)」です。
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
●猛進、邁進、驀進
ブレイズゲートであるこの密林には、何やら幻惑効果のある魔術的トラップが張り巡らされているのか、迷いやすいという特性を持っているらしい。
そこで諏訪野・啓太郎(さすらいのライダー・f20403)は、まず己の方向感覚は狂わされているという前提に立って、それを一切アテにせずとにかく真っ直ぐに進んでみるという手を選んだ。
幸い、彼の相棒は宇宙バイク。仮に啓太郎が幻覚に惑ったとしても、操作の段階で「真っ直ぐ進め」と設定している限り、啓太郎自身の感覚に関わらず真っ直ぐに進んでくれるはずだ。
しかし、だ。
「……厄介な地形だな」
思わず渋面で独りごちてしまうのも、むべなるかな。
本来はそれなりに整備されていたはずの農村は、見る影もないほど鬱蒼とした森と化している。真っ直ぐな道など望むべくもなく、そもそも地面の隆起やら岩やらで、地面の平坦さが確保されている場所さえほぼ存在しない。また、少し進めば巨木の幹だの根だの、あるいは藪だの、障害物に満ちている。
これで迂回も何もせず進むというのは、難儀だった。
「いっそ全部吹き飛ばして……ん?」
ふと、啓太郎の耳に何かの音が聞こえる。
まず人の声のような。それだけでなく、金属片が鋭く叩かれるような、甲高い音も。
「――!」
啓太郎はすぐさまハンドルを切り、音のする方へ疾駆する。
二秒弱で、その光景が見える。坂東武者の三人組が、刀槍を構えて巨大な芋虫型の妖と戦っているところだった。
「ふっ!」
バイクの上から【森羅牙道砲】を放つ。戦車砲弾並の見えざる衝撃波が超速で飛び、妖の横っ面に炸裂する。
「!?」
横倒しになって吹っ飛んだ妖に、一瞬だけ驚いた表情になった坂東武者たち――だったが、すぐさまに気を取り直す。
「今だ!」
一気に殺到した斬撃の嵐にさらされ、妖は一呼吸の間に寸刻みとなり、次の一呼吸には骸の海へ還って消える。
そして三人が振り返った先に、バイクにまたがった啓太郎の姿がある。
「助勢、感謝する」
坂東武者の一人が、啓太郎へ声を掛けてきた。彼らからすれば降って湧いたような謎の男だろうが、行動からして少なくとも妖の類でないのは理解されてはいるだろう。
「しかし……貴殿、何者か?」
「通りすがりの、ろくでなしの旅烏――ああ、いや」
つい、いつものように名乗ってしまいそうになって、改める。
「猟兵です」
成功
🔵🔵🔴
クロエ・ボーヴォワール(サポート)
「カネならありますわよ~!」
◆口調
・一人称はわたくし、二人称はあなた様。典型的なお嬢様風
◆性質・特技
・好奇心旺盛にして仕事熱心
・実はゲテモノ料理好き
◆行動傾向
・ボーヴォワール社の持て余した圧倒的カネの力にモノを言わせ、万事解決を目指す
・法すらカネで買い取る自由奔放すぎる性格であるが、ノブレスオブリージュの精神に則り他者の為ならば才と財を惜しまない(混沌/善)
・猟兵としての活動は異世界を股にかけたボーヴォワール社の販路開拓と考えており隙あらば自社製品を宣伝し、「実演販売」に抜かりはない
・教養として体得したシンフォニアとしての技術をビジネス話術にも応用する
・細かい仕事は老執事セバスチャンに一任
鹿村・トーゴ
相変わらず弄ぶとか冒涜とかお好みのよーで
セイメイとは何度やり合えばおさらば出来るのかねェ
今は村人もなんとか無事らしーけど閉じ込められたままじゃ体も気分も擦り切れちまう
早いとこ見つけなきゃな
『そうね』と相棒の鸚鵡ユキエは飛び、オレは【軽業】で枝葉を渡り進む
【聞き耳、暗視で情報収集】
ってゆーてもオレ相手の身なりや声知らんしなー
武者はともかく村人は気配や足音を消したりしない
足跡や気配を探り【野生の勘】で民人を【追跡】
あと【念動力】とUCの蜂を使い酷い藪を裂かせたり大石や太い枝を少し退かせたり目印を刻む
反応あれば
『おーい』
村の衆か?怪我はない?と声掛け
村人なら合流
妖なら即クナイを打ち牽制
アドリブ可
●後顧の憂い
元の地形など跡形もなくなった、元農村の現密林。
どこもかしこも何かしらの木やら藪の葉やらで覆われた空間ではあるが、頑張って探したところ、やや拓けた区画が見つかった。まあ、よそに比べたら若干マシという程度の広さでしかないものの、それでもまとまった人数――救出された村人たちを一旦集めておこうと思えば、ここ以上に格好の場所はないというのが現状である。
そして、猟兵や坂東武者たちの尽力によって、村人たちは次々に保護され、この場へと集められている。
「はいはい、皆様方、皆様方~!」
パンパンと手を打ち鳴らし、クロエ・ボーヴォワール(ボーヴォワール財閥総裁令嬢・f35113)が声を張り上げる。
「お怪我なさっている方がいたらこちらへ! 体の動く方はバリケードの設置を手伝ってくださいまし~! あ、バリケードというのはですね……」
避難してきた者たちの拠点とするからには、妖への備えは必須である――ユーベルコードの前には障子紙も同然なのかもしれないが、気休めにはなる。
土砂や岩、材木、とにかく手近なところから手に入る諸々の物を積み上げていく。体力のある村人と、合流できた坂東武者たちの手があるため、不格好ではあるがそれなりの規模の障壁になりつつある。
(……これで全員を収容できれば、あとは反撃するだけなのですが)
衰弱した村人に水を飲ませてやりつつ、クロエはふと遠くへと視線を向けた。
「相変わらず、弄ぶとか冒涜とかお好みのよーで……」
鹿村・トーゴ(鄙の伏鳥・f14519)は、仏頂面でつぶやいた。
その言葉は淡く風に紛れて消えるが、それが向けられた相手は明らかに変事の元凶たる魔将・安倍晴明である。
どれほどの期間、どれほどの回数、彼は猟兵と戦ったのか。数えるのも馬鹿馬鹿しくなるほどで、因縁というより腐れ縁に近い何かに成り果てつつある。トーゴ自身も、歴戦と呼んでいい猟兵としての経験の中で、晴明と戦ったのは一度や二度ではない。
いい加減、決着を付けてしまいたい――そんな思いは、トーゴのみならず猟兵の多くが抱くところだろう。
「でも、まだその時じゃない」
そう、今は戦うより先に為すべき事がある。
グリモアベースでの話を聞く限り、ブレイズゲートに囚われた村人たちは、今のところは無事らしい。しかし、体力にも気力にも限りはあるし、妖に見付からずにいるという幸運もまた、永続するものではない。
「ユキエ、頼んだ」
トーゴの言葉に応ずるように首肯し、鸚鵡のユキエが空へと飛び立つ。
そしてトーゴ自身もまた、するすると木を登って高みより目を凝らした。
広く迷いやすい迷宮の森ではあるが、天井が設定されているわけではない。ゆえに、その気になれば高所から地形を俯瞰することも可能となる。といって、どこもかしこも茂った葉に覆われているという環境は、普通であれば高所を取ったところで視野が保てる道理はない。が、そこはそれ、優れた目を持つ忍者ともなれば、さほど致命的な枷にもならない。
ついで、耳。トーゴはもちろん、村人たちそれぞれの声色など知っているはずもないが、単純に戦闘慣れしていない者らの発する足音、話し声を捉えるのは不可能ではない。
そんなトーゴの耳目が、ふと、鬱蒼たる緑のヴェールの向こうで動く、人影らしきものを捕捉した。
「ん? おーい、村の衆か?」
「!?」
「何者か!」
予想外に鋭い声が返ってきて、トーゴは一瞬面食らった。
がさり、とトーゴが枝葉をかき分けて顔を出してみると、かの人影は複数――それも、農民らしい格好をした数名のみならず、その周囲を囲むように鎧姿の集団があったことが知れた。
「あっと、怪しい者じゃないよ」
両手を広げて見せつけつつ、トーゴは言った。
「猟兵だ……って言って通じるかな。あんらを助けに来たんだ」
「――猟兵? 確かに、妖ではなさそうだが……」
恐らく指揮官であろう、一際豪奢な兜をかぶった白髭の坂東武者が言いつつ、トーゴにじっと鋭い視線を送ってくる。
「ホントだって、この先に、ちょっとボロっちくはあるけど、オレの仲間とあんたらの仲間で拠点をこさえててさ。村人は一旦、全員そこに避難させてるんだ」
「ほう」
指揮官の眉が跳ねる。ひとまず何を差し置いても、村人たちと坂東武者たちで合流を果たさねばならぬという意識は、彼らも持っていたに違いない。
「案内するよ。オレについてきてくれ」
「まあ、これで全員揃いましたの?」
知らせを聞いたクロエが目を丸くした。
点呼を取ったところ、農村にいた人々が欠けなく揃ったのがわかった――ということは、妖による犠牲者がなかったということである。猟兵や坂東武者たちの迅速ぶりが実を結んだといえるだろう。
「本当に良かった……これで、心置きなく反撃に転じることができそうですわね」
これからやるべきは、集結した戦力をもって妖の発生源に突撃し、ブレイズゲート化の根源たるボスオブリビオンを撃滅すること。村人たちの安全を確保するために、何割かの坂東武者にはここに留まってもらわなければならないが。
余裕はさほどないのは変わりないものの、それでも状況が大きく一歩進んだのは間違いなかった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
第2章 集団戦
『贋哭妖蜀』
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POW : 超力捕食
噛み付きが命中した部位を捕食し、【怪力と再生能力 】を得る。
SPD : 縛殺絹糸
【粘着質の絹糸 】を最大でレベルmまで伸ばして対象1体を捕縛し、【生命力を蝕む妖気】による汚染を与え続ける。
WIZ : 誘哀哭
【頭部の人間型の器官 】から大音量を放ち、聞こえる範囲の敵全員を【継続的に精神的ダメージを負う】状態にする。敵や反響物が多い程、威力が上昇する。
イラスト:もりさわともひろ
👑11
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仰木・弥鶴(サポート)
日常などで一般人に接する場合は
穏やかな言動で情報収集や避難を呼びかけ
興味を惹かれることがあれば面白がって真剣に取り組みます
冒険や戦闘において
足場が悪い場所ではディバインデバイスの空中浮遊を
目印や破壊が目的ならカラーボールを使って対処できます
集団敵やボス敵に対する戦闘行為については
ハンドガンやピンマイク、ナイフなど状況にあった武器を使用して
設定されたユーべルコードが有効に使えるように全力を尽くします
ニコリネ・ユーリカ(サポート)
あらあら、盛り上がってるわねぇ
お忙しい所、お邪魔しまーす!
新しい販路を求めてやってきた花屋です
宜しくお願いしまーす(ぺこりんこ)
どんな事態も「そっかぁ」くらいで受け入れる、ユルくて胆力のある女性
商魂たくましく、がめつい
【参考科白】
んンッ、あなたって手強いのねぇ
えっあっヤダヤダ圧し潰……ギャー!
私も気合入れて働くわよー!
ほほほ、悪い子にはお仕置きしないとねぇ
さぁお尻出しなさい!
相棒の移動販売車を運転・操縦して戦う他、
(助手席への同乗や、後部積載物などご自由に)
近接戦ではシャッター棒をブンブンして戦います
使用するアイテムやユーベルコードにNG無し
場面に合わせてお好きなように動かして下さい
●強硬な強行! 進めサヴォイアの様に!
「キャー! ヒャー! ダァー!」
悲鳴。あるいは気勢の声かもしれないが。
そんなような騒音に耳を刺されつつ、仰木・弥鶴(人間の白燐蟲使い・f35356)は助手席の窓からハンドガンを撃ちまくった。
元来は、藪かどこかに潜みつつ人に似た声を発し、人間が近寄ってきたところを襲うという贋哭妖蜀。しかし今、その芋虫型の妖は大いに姿を見せびらかしつつ群れを成し、津波のごとくに攻め寄せてきている。
それ系の絵が苦手な人からすれば地獄絵図に等しいそれが、ニコリネ・ユーリカ(花屋・f02123)の運転する移動販売車という一点を狙い澄ましているのである。
「無限増殖するって話だったから覚悟してはいたけど、本当にキリがないね」
弥鶴がぼやく。
当然といおうか、移動販売車には超常の装甲が追加され、出力もまた超常の仕様となっている。スペックでいえば、並や大抵の戦車をも凌駕しているといっていい。これをもってすれば、贋哭妖蜀をはね飛ばしつつ突き進むことも可能だろう、という目算があったのだが、敵の物量と圧力は思っていたよりも凄まじい。
「ヤダヤダ! お、圧し潰され――!?」
「そこを何とか気張ってくれ。こっちもあんまり余裕はないんだけど」
ニコリネが金切り声を上げる横で、弥鶴は前輪にへばりつこうとしていた贋哭妖蜀の頭を吹っ飛ばした。
ニコリネとてただ真っ直ぐに突撃しているのではなく、巧みなハンドルさばきとアクセルワークをもって、贋哭妖蜀の包囲の薄いところを的確に破りにいっているのである。
しかし、それでもなお肉の要塞を突破するのは困難だった。芋虫めいた外見の通り外皮はさほどの硬さでもないのだが、肉の密度、重量は凄まじい。そして、動きの鈍重さは人海戦術ならぬ『虫』海戦術でカバーしている。これは、呪わしきはブレイズ・ゲートの集団オブリビオン無限湧き仕様ということになろう。
「……もし足が止まっちゃったら、こっちは包囲殲滅されて一巻の終わりだよね、多分」
「そうねぇ、そうかも……って、変なプレッシャー掛けないでちょうだい!」
弥鶴の不吉なつぶやきに、ニコリネは口を尖らせた。
と、そんな弥鶴とニコリネの視界が、不意に暗くなる。
何かに遮られた? そう思って両者が同時に視線を上に向かせると、フロントガラスの向こうに贋哭妖蜀の放った粘糸が投網を形成しており、今にも移動販売車に覆い被さろうとしていた。
「これは……!」
「――っ!」
弥鶴の頬を冷たい汗が流れるのと同時、ニコリネが鋭くハンドルを切る。
急角度で左折した先には数体の贋哭妖蜀があったが、移動販売車はそれを物ともせずにはね飛ばし、蹴散らし、踏み越える――と、いうつもりであったのだが、巨体と重量に阻まれて足が鈍る。
次の刹那、粘糸の網はバサリと移動販売車にかぶさり、へばりついた。同じ刹那に、粘糸の先にある贋哭妖蜀の集団分の負荷が、一気に移動販売車へと掛かる。
ぎゃがっ! ぎぎぎぎゃぎゃぎゃ!
「まずいってば!」
タイヤが地面を滑る音と、ニコリネの悲鳴がユニゾンする。
止まれば一巻の終わり。弥鶴の予言を肯定するかのように、粘糸を伝って贋哭妖蜀が這い寄ってくる。押し包み、圧殺するつもりであるのは明白だ。
「だぁー!」
ニコリネは荷台になっている後部席からシャッター棒を引っ張りだし、運転席に侵入しようとしていた贋哭妖蜀を殴り飛ばした。
一時的には凌げても、車内に籠城したところでジリ貧は目に見えている――が、弥鶴は歯を軋らせつつ叫んだ。
「何とかする! アクセル踏んでて!」
「何とかって、ホントに!?」
疑念の声を上げつつも、ニコリネはとうにアクセルベタ踏みである。
弥鶴はハンドガンに新しいマガジンを素早く装填すると、間髪入れずに粘糸の網を狙って撃ちまくった。
ド! ド! ド! ゴォォッ!
着弾と同時、白燐蟲の力のこめられた弾丸から青白い炎めいた何かが噴出し、一弾指の間に粘糸を焼き払った。
同時、くびきから解き放たれた移動販売車がロケットめいた速度で飛び出し、死の押しくら饅頭を仕掛けていた贋哭妖蜀の包囲網から抜けた。
「やった!」
「よし、前に向かって逃げるわよ!」
さらなる加速で、贋哭妖蜀の群れを完全に置き去りにする。
ひとまず窮地は脱した――といって迷宮最奥までの道のりは長く、おかわりはまだいくらでもありそうではあったが。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
弓落・高寿
さて、数が揃ったところでさっさと親玉をぶっ飛ばしに行きたいが、場所が分からんことにはどうしようもねえ。森の中心にいるたって現在の場所もよく分からんし、だがのろのろしてるとどうにも雑魚が鬱陶しい。我はともかく武者らの消耗はなるたけ抑えたい…。
……なんかまどろっこしさに段々腹が立ってきたな。おい、そこの妖、大人しく憂さ晴らしさせろ!!
ボッコボコに雑魚を太刀で斬ってるうちに漏れ出る
殺意と闘争心。それに怯えて雑魚が逃げるかはともかく、密林の中で敵のオーラを感知し、発生源が分かるかもしれない。
だが坂東武者、お前らはこんなことで
怯むるタマじゃねえよな?全員着いてきてるよな?な?
●進路
村人の残らずを保護でき、坂東武者を集結させることもできた。
ここまでは順調そのもの。後はボスオブリビオンのところへ乗り込み、倒し、ブレイズゲートを消滅させるのみ――なのだが。
「問題は、それがどこなのかだ。我らがいるのが森のどこなのかもハッキリしねえし……」
弓落・高寿(平安京異邦人・f44072)は、頭をガリガリとかいた。
「まどろっこしい!」
「焦れても始まらぬ」
白髭の坂東武者が、懐から地図を取り出す――が、ふと首を傾げると、再びそれを懐にしまい直した。恐らくは周辺の地図だったのだろうが、今や地形は原形を留めておらず、役に立つまいと断じたのだろう。
「……森の中心に妖の源泉があるのだったな」
「ああ。その近くに敵の親玉もいる」
「では単純に考えれば、妖が多い方へ進んでいけば自ずと至るはず……」
言って、今度は周囲の坂東武者たちに視線を送る。
「各々、あの芋虫と遭遇した数は覚えているか?」
「我々は、三でした」
「きちんと数えていませんが……五よりは多かったはず」
坂東武者たちは散り散りになっていたので、彼らの話を総合していけば、妖の数が多かったのがどの辺なのか割り出せる。迷いの術が施されているのを考えると過信もしにくいが、それでも指針にはなる。
白髭の坂東武者が地べたにポンポンと小石を置いていき、一緒になってそれを眺めた高寿は、神妙にうなった。
「……北か」
その進路が『当たり』であったらしいのは、数分の後に知れた。
ぽつぽつと贋哭妖蜀に遭遇すると思えていたのも束の間。五と遭い、十と遭い、さらに進むうちに視界が埋まるほどの集団にぶち当たった。
「お前ら脱落してねえよな? な!?」
高寿は怒鳴るように叫びつつ、太刀を横薙ぎに払った。贋哭妖蜀は膂力は凄まじいながら外皮も柔らかく、斬れば斬れないでもない。
「大事ないと言いたいところだが、そろそろ手が回りきるか怪しくなってきた!」
白髭の坂東武者が悲鳴めいた声を上げるが、その手は休みなく大太刀を振るっている。周囲の坂東武者たちも同様で、各々の得物を大いに繰り出して贋哭妖蜀を退けている。
「なら良い知らせだ! この先、まだ妖の数は増えるぞ!」
「何と!?」
高寿は【天上天下唯我独尊(ゴウイトミナス)】により、オブリビオンの気配は察知できていた。ゆえに、より多くの贋哭妖蜀が密集している方――つまり、発生源に近いであろう方向も把握できる。
本命のボスオブリビオンの気配までは未だに知れないものの、確実に異変の中心部に近付いているという手応えはあった。
大成功
🔵🔵🔵
鹿村・トーゴ
敵遭遇まで武者達とある程度得意の戦闘方を話して共有
オレだと身軽さと投擲、種族由来の剛力か
少し手の内明かし一時的でも信用して欲しーかな、とね
戦いで物理的に庇えない分
敵の動きなりを【野生の勘】で感じたら即【情報伝達でかばう】
【軽業やスライディング】で攻撃躱し【念動力】で直撃に繋がる手を【受け流し】
敵を攪乱し【おびき寄せ】武者への負担も少し減らそう
敵の噛み付きにはクナイや念動で投げ付けた倒木や岩でも対処するけど
それも限度有りだよなー
一網打尽…いや1~数体倒せると判断した時点で【捨て身の一撃】に出る
噛み付きへタイミングあわせ喰らう直前の【カウンター】でUC空嘴決行
亀裂から【傷口を抉り、暗殺】
アドリブ可
●背負った役割
贋哭妖蜀の頭部には、人間を誘引するために見た目だけ人型になっている器官が備わっている。必然、贋哭妖蜀が噛み付きを仕掛けてくる際、人型器官が不気味に眼前に迫ってくることになるわけで、それはそれは心臓に優しくない光景だ。
「うぉっ!」
鹿村・トーゴ(鄙の伏鳥・f14519)が慌てた声を上げた時には、人型器官の太ももに相当するところが縦に割れ、ギザギザとした顎を見せていた。
だがその一瞬後、トーゴの手から大振りのクナイが放たれ、贋哭妖蜀の口の中へと飛び込む。
「――!?」
贋哭妖蜀が黄褐色の血を噴出させつつ、人語にあらざる悲鳴を上げる。致命傷でこそなかったが、怯ませるには充分だった。
トーゴはその脇を駆け抜けつつ、さらに集結しつつある贋哭妖蜀の群れの方へと敢えて足を向ける。
視線――といって、贋哭妖蜀らの目がどれなのかは判然としなかったが――が己に向くのを感じる。トーゴの危険度は増すのに比例し、坂東武者らの負担が減る、というのが狙いだった。
(一気に――いや、無理か?)
数はあれ、動きの鈍重な贋哭妖蜀にはそう簡単に捉えられないという自負は、トーゴにはある。だが、逆にトーゴが仕掛ける側として、重量も体格も恵まれた集団を一網打尽にできるほどの攻撃は難しい。
(なら、確実に一体ずつ!)
トーゴの右手が、その周辺の空気を集めてギシリと軋む。見えざる気塊が鋭利に練り上がり、猛禽の嘴のごとき形を成す。一瞬の後、駆け抜けざまにしなやかに振るわれた【空嘴】は柔らかな贋哭妖蜀一体の脇腹を刺し貫き、引き裂いた。
「よし……っと!?」
先回りした――のではなく、たまたまそこにいただけだろうが、トーゴの進行方向に立ちふさがった別の贋哭妖蜀が、トーゴにのしかかるように襲い掛かってくる。
しかし次の刹那、横殴りの突風めいて、贋哭妖蜀の群れを矢の嵐が打ち据えた。
薙ぎ倒される贋哭妖蜀から視線を横にずらせば、強弓を構えて整列する坂東武者らの姿がある。
「手を抜かれても困るが、無茶はなさるな」
「うぇ?」
坂東武者に声を掛けられ、トーゴはきょとんと目を丸くした。
「猟兵には、敵の首魁を討ってもらわねばならんのだ。だが、捨て身の戦い方ではそこまで保つまい?」
「あー……ごもっとも」
トーゴは苦笑した。いえば、坂東武者らの信用を得たいという目論見もあっての行動だったのだが、そうまで気張らずともすでにある程度信用はされていたらしい。
「じゃー、怪我に気を付けて行きますかね」
つぶやき、トーゴは再び贋哭妖蜀の群れに向き直った。
大成功
🔵🔵🔵
神城・星羅
【星月の絆】で参加
ぜいぜい。遅参失礼しました。色々たてこんでいて。もう妖は攻め込まれてるようですね。追撃、お任せください。朔兎様、前を任せる分援護はばっちりしますね。
坂東武者の皆さんが苦戦してますね。護りの狼を【護衛】につけます。
リーチが長いので、【オーラ防御】【幻影使い】【残像】で安全対策。
朔兎様の負担が大きいので、【高速詠唱】で音律の波を発動。更に調和の弓で矢を【一斉発射】。確実に敵を射抜きます。
さて、問題は黒幕の居場所ですか・・・【式神使い】で金鵄と八咫烏を飛ばして【情報収集】させますか。あ、朔兎様、体当たりで探索は無しですよ?(冷静に式神を飛ばす朔兎に微笑む}
源・朔兎
【星月の絆】と参加
あ、急いで走ってきたので星羅が息切らしてる。ごめん、遅参すぎるので先走った。先行は引き受けた。援護頼むな、星羅。
まあ、皇族の体は妖には美味だろうがな。黙って捕食は断固として拒否する!!【残像】【幻影使い】【迷彩】【心眼】を使って利き腕は回避、足は片足だけ許容する。痛いんだよ!!【回復力】【根性】で耐え、【限界突破】の双月の奥義を【カウンター】気味に打ち、接近がしつこいなら【グラップル】で蹴っ飛ばす!!
黒幕が見つかってないんだな。まあ、前に痛い目にあったので体当たりはやめるぜ。武人は冷静さも必要だ。【式神使い】で式神二体を操作し、金鵄と八咫烏を補助させる。
●到達
剣戟の音が聞こえる。まず間違いなく、坂東武者と妖の群れとが戦っている音だろう。
「ぜい、ぜい、ぜい……」
音へ向かって走る神城・星羅(黎明の希望・f42858)は息が上がっていた。超常の体力を誇る猟兵ではあれ、拠点で何やかんやと奔走してから間髪入れずに戦場に駆けつけるとなると、疲労はそれなりではある。
ただし、数秒前まで横を走っていた源・朔兎(既望の彩光・f43270)は、すでに背中が小さく見えるほどに先行していた。行動を同じくしていたはずなのだが、体力においては朔兎の方が一段上であるらしい。
「遅参した!」
朔兎が叫びつつ、双剣を振るう。
同時に生み出された【双月の奥義】の斬撃波が三日月状の弧を描き、今まさに坂東武者にのし掛かろうとしていた贋哭妖蜀に炸裂する。
「――!?」
「ぬっ!」
黄褐色の血をまき散らしつつ贋哭妖蜀が仰け反ったところ、隙を逃さず坂東武者が薙刀を振るって、頭を斬り飛ばす。
「かたじけない、助かった!」
「どうってことはない。遅れた分は取り戻させてもらう。星羅、援護頼む――」
朔兎が振り返り――その時に初めて、己が星羅を置き去りにして突っ走っていたことに気付いた。
「あ、ご、ごめん!」
「ぜい、だ、だいじょう、ぶ、ぜい、です、朔兎様……」
荒っぽい息に交えて、星羅はどうにか言葉を絞り出した。
「援護は、ばっちり引き受けます。その分、前衛は、お任せしますので」
「お、おお。頼んだ」
半瞬だけ不安を覚えつつも、まあ星羅が卓越した術者であり猟兵であることは承知しているので、朔兎は前の敵へと集中することにした。
人間二人か三人分ほどもあるだろう、贋哭妖蜀の巨体。それが、十できかず二十できかず、眼前に密集した状態である。緑色の肉の城壁と呼んでもいいかもしれない。
「突き崩すぞ!」
「おお!」
坂東武者らが気勢を上げ、太刀や薙刀を閃かせて突撃する。
それに合わせて朔兎も斬り込んでいく。贋哭妖蜀は巨体を揺するようにしつつ頭部の顎をカッと開いて覆い被さってくるが、速度はさほどでもない。
「でぁっ!」
後の先を取って斬撃波をまとった双剣を振るい、十字の傷を刻んで斬り貫いた。斬撃波は勢いそのまま後ろに控える贋哭妖蜀にも至り、同様の裂傷をもって四断する。
が、別の贋哭妖蜀が横合いからのし掛かってくるのには、剣の切り返しが間に合いそうにない――といって、朔兎は焦る必要なしと断じていた。
「行きます!」
凛とした怒鳴り声と同時、見えざる衝撃波が贋哭妖蜀を叩いた。
吹き飛ばし力に優れた【音律の波】は、重量のある贋哭妖蜀の巨体でさえも容易に押し退ける。さらに間を置かずして、星羅が放った弓矢がよろめいた贋哭妖蜀の頭に突き立った。
「やっぱりな。頼りになる」
「ええ、お任せを!」
さらに星羅は素早く手印を結び、白狼型の式神を数体召喚した。
威圧的なほどに輝く体毛をなびかせ、狼は坂東武者や朔兎の横に寄り添うようにして身構えつつ、贋哭妖蜀らに向かって「ヴヴヴ……!」と獰猛げな唸り声を上げる。その声、あるいは気配それ自体に怯んだのか、贋哭妖蜀らはわずかに後退した。
一息入れる暇を得た朔兎は、横に立つ坂東武者へ声を掛ける。
「ところで、元凶の居場所はまだ割れてないのか?」
「委細までは。しかし、敵の集結ぶりからして近いのは間違いない」
「なるほど」
朔兎はざっと視線を周囲に走らせた。
グリモアベースでの説明によれば、妖が無限に湧き出る地点は迷宮化した森の中心にあり、同じ場所にブレイズゲートの根源たる一際強大な個体があるという。これほどの数の妖がいるということは、目的とすべき中心部は、なるほど近いはずである。
思考を巡らす朔兎に、星羅がふと視線を送る。
「――朔兎様、まさかとは思いますが、力任せに突撃して探索しようと考えてませんよね?」
「まさか。そこまで冷静さを失っちゃいないさ」
そういった勢い任せのアクションはいかにも朔兎の好みではあったが、今はそれが有効に働く状況ではないのは、知れる。
「ここは、式神を飛ばして探ってみれば――」
「待て」
横にいた坂東武者が、強張った声で朔兎を制する。
「どうやら、その必要はなくなったらしい」
「……! そうみたいだな」
空気の変化を感じられ、唾を飲む。それとほぼ同時、贋哭妖蜀の群れによる緑の壁の向こうに、それらとは色味の異なる大きな影が、見えた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵
第3章 ボス戦
『嵌合体凶禍蟲『三屍蠱』』
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POW : 蜈牙
【あらゆるものを切断する蜈蚣の牙】が命中した箇所を破壊する。敵が体勢を崩していれば、より致命的な箇所に命中する。
SPD : 蠆尾
【毒針】が命中した部位に【命と魂を枯らす毒】を流し込み、部位を爆破、もしくはレベル秒間操作する(抵抗は可能)。
WIZ : 蜘糸
対象のどこかに【強靭な蜘蛛糸】を貼る。剥がされるまで、対象に【強力な伸縮性のある糸】の引き寄せと【神経毒と消化液注入】の威力2倍攻撃が使える。
イラスト:もりさわともひろ
👑11
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●藪中の首魁
現れた異形は、百足のごとき頭、蜘蛛のごとき体、蠍のごとき尾を備えた姿をしていた。
ただし、虫と見なすには巨大に過ぎた。また、そうでなくとも明らかに纏った気配が尋常のものではない――周囲に従えた無尽の群れを成す妖らとは別格の存在であるのが、嫌でも知れる。
「あれが蟲の首魁……ふむ。我らの役割、見えたな」
坂東武者たちを指揮する白髭の老将が、大太刀を大上段に掲げつつ、言う。
「木っ端妖怪どもを押し退け、血路を開くぞ! 猟兵が首魁を討つまで、押し留めるのだ!」
「おお!」
鯨波と同時、坂東武者たちが突撃する。
彼らのおかげで、猟兵たちは蟲の首魁――嵌合体凶禍蟲『三屍蠱』との戦いに集中できそうだ。それでもなお、容易な敵ではあるまいが。
ニコリネ・ユーリカ(サポート)
あらあら、盛り上がってるわねぇ
お忙しい所、お邪魔しまーす!
新しい販路を求めてやってきた花屋です
宜しくお願いしまーす(ぺこりんこ)
どんな事態も「そっかぁ」くらいで受け入れる、ユルくて胆力のある女性
商魂たくましく、がめつい
【参考科白】
んンッ、あなたって手強いのねぇ
えっあっヤダヤダ圧し潰……ギャー!
私も気合入れて働くわよー!
ほほほ、悪い子にはお仕置きしないとねぇ
さぁお尻出しなさい!
相棒の移動販売車を運転・操縦して戦う他、
(助手席への同乗や、後部積載物などご自由に)
近接戦ではシャッター棒をブンブンして戦います
使用するアイテムやユーベルコードにNG無し
場面に合わせてお好きなように動かして下さい
●速戦速攻
そこは相変わらず密林の一角であって、木や草が茂り放題の緑色の闇は健在である。
それでも、そこは視界が広く晴れたように見えたし、実際に周囲に比べれば拓けているといえる。なぜなら、坂東武者たちが体を張って、壁を成していた妖の群れを押し退けているのだから。
永くは保たないだろう。だが、十二分な時間は、ある。
「気合い入れて、行くわよ!」
ニコリネ・ユーリカ(花屋・f02123)がアクセルを踏み込み、移動販売車がロケットスタートする。
フルカスタムしたFloral Fallal――頑強極まる装甲を施し、比例して増加した重量を物ともせぬ馬力を絞り出すエンジンを備えた、超絶超常の車両。全開にされたアクセルによる超速度の体当たりは、並のオブリビオンでは回避などできないし、防ぐこともできない。
どごっ! がぎっ!!
正面から三屍蠱に衝突するや、その外殻が軋み、明らかに亀裂の入った音がした。
そのまま押し潰され、踏み潰され、タイヤに巻き込まれて粉砕される――となってもおかしくないところ、三屍蠱は威容を保って足を踏ん張っていた。
「……流石に、一撃で仕留めるなんてのは無理か」
ニコリネがつぶやくのに一弾指遅れて、三屍蠱のサソリめいた尾がうねる。
「っ!」
それに気付いたニコリネはハンドルを急旋回させ、片輪走行状態で右へと曲がる。
刹那、【蠆尾】の一撃が一瞬前まで移動販売車のあった空間を貫き、地面に炸裂して毒の爆発を生む。
――と思った次の瞬間には、すぐさまに尾が跳ね上がり、横に薙ぐようにして移動販売車へと迫った。
「え――速っ!?」
ニコリネがさらにハンドルを切り返すも一歩遅く、左の後輪に毒針が掠め、ぼっ! と小規模な爆発を起こして吹っ飛んだ。
それでも走行不能にならぬよう、ニコリネはサイドウィリーを駆使しつつ間合いの外へと脱する。
「何であんなに動けるの……ダメージはあるはずよね?」
それは間違いあるまい。見れば、ムカデのような頭部、その頷下から首に掛けて、大きな亀裂が入っているのがわかる。何なら、並のオブリビオンであれば、死なないまでも行動不能に陥っていてもおかしくないはずだ。
安倍晴明の手が入っているからか、あるいは元から痛覚が鈍いのか。何であれ、一筋縄ではいかない相手だというのが、改めて証明されたといえるだろう。
成功
🔵🔵🔴
神城・星羅
【星月の絆】で参加
遅参しました。強い激突でも平気そうにしている・・・この妖、絶対人里に出してはいけませんね。配下をお任せしてすみません、坂東武者の方々。この危険な妖、私と朔兎様が引き受けました。
白虎の進撃発動!!投擲武器90個、幻影体54個!!爆弾は味方を巻き込むのでなしにしますね。更に【残像】【オーラ防御】を使いますね。たとえ毒を流し込まれても【回復力】で耐えます!!まず毒針を両腕両足に同時に喰らわないことですね。片手と片足は残したい。
片手と片足使えなくなる可能性あるので、弓は使えませんね。【高速詠唱】で【衝撃波】で攻撃します!!
退きません!!人の命を守るために!!
源・朔兎
【星月の絆】と参加
うわ、暗い!!探し当てるのに苦労したぞ!!ごめん、坂東武者の皆さん、配下の足止めありがとう。え、そうとう激突衝撃くらっても平気そうだ?うん、こんな妖人里出しちゃいけないな。食い止めよう、星羅!!
悪いが愛しの星羅に手は出させないぞ!!黎明の進撃発動!!【残像】【幻影使い】【迷彩】【オーラ防御】で致命傷を避ける!!痛い!!【根性】【回復力】で耐える!!
剣直接当てる余裕ないな
・・・。【限界突破】で【電撃】を落っことす!!でもどいてくれないなら、【グラップル】で蹴っ飛ばす!!
ふう、こういう危険な妖はこれ以上進ませない!!通行止めだ!!
●凶牙、狂爪、翻弄す
「あれだけの激突……かなりの衝撃を受けたはずなのに、平気そうだなんて」
源・朔兎(既望の彩光・f43270)の背中に、冷たい汗が広がる。
強敵であることは説明を受けていたし、覚悟もしていた。それでも、改めてその規格外ぶりを目の前にすると、皮膚がひりつくような緊張感を覚えるのはこらえようがない。
そんな朔兎の横に、朔兎と同じように緊迫したような表情を浮かべた神城・星羅(黎明の希望・f42858)の姿がある。じっと嵌合体凶禍蟲『三屍蠱』を睨み据えつつ、声を朔兎に向けて投げる。
「あんな危険な妖、絶対に人里に出すわけにはいきませんね、朔兎様」
「……ああ。必ず食い止めよう、星羅!」
うなずいた朔兎は、双剣を握りしめた両手に一際強く力をこめる。
三屍蠱が強敵であるのは間違いないとはいえ、動作や気配を見るに、その性質はそこまで突拍子もないものではない。頑丈で、タフで、速く、鋭い。しかし、純粋で単純な攻撃力が通用しないわけではないのだ。
ならば、と朔兎が選んだ戦術は、【黎明の進撃】による猛攻であった。朔兎の全身を月光に似た白いオーラが包み、頭から指先に至るまで、触れれば弾けるようなエネルギーが駆け巡る。
「とにかく――全力だ!」
ずわっ!
駆けだした瞬間、凄まじい加速が朔兎の体に掛かる。雷光にさえ迫る速度を得た朔兎は、小刻みにステップして幾重もの残像を見せつけつつ、三屍蠱へと迫る。
どれほどの動体視力を持つ達人だろうが、狙いなど定まりようがない――が、三屍蠱は一瞬だけ鎌首を揺らしたかと思ったら、次の一瞬で正確に朔兎の方へと噛み付き攻撃を仕掛けてくる。
「っ!?」
電光石火のムカデの牙撃を、朔兎はとっさに双剣を八の字に構えて受け止めた。
途端、手負いの敵によるものとは思えぬほどの重い衝撃が、朔兎の両腕に掛かる。踏ん張って体勢を崩さぬようにすることはできたものの、身動きはできぬほどの圧を加えられる。
まずい、朔兎が思うのと同時。
「一撃で蹴散らせ、白虎!」
星羅が怒鳴りつつ、手にしていた弓を三屍蠱目がけて投げ付ける。
さらに同時、弓が一瞬にして白毛の虎へと姿を変じた。体毛の間をバチバチとスパークさせた、人間三、四人分はあろうかという体積を持つ、巨躯の猛虎である。
電撃を纏った虎の爪が、鋭く三屍蠱の横っ面を叩く。
どぎゃっ! と派手な音が響く。三屍蠱の頭部、ムカデの足が何本かが爪撃によって斬り払われ、さらに勢いそのままに吹っ飛ばされる――かに見えたが、大きくよろけはしたもののその足は地に着いたままだった。
次の瞬間、鎌のように湾曲した【蠆尾】が横薙ぎに振り回され、その先端の針が虎の脇腹に突き刺さる。
「――あっ!?」
くの字に胴を曲げた虎が、その姿勢のままギシリと固まる。強烈な一撃ではあるが、超常存在である星羅の虎が反撃の体勢さえ許されないのは、針から注がれた毒ゆえだ。三屍蠱の毒は、冒された者を意のままに操るか、抵抗された場合は爆破する。
「――……」
星羅の法力により操られる虎の主導権を奪うのは容易でない、と三屍蠱は断じたのだろう。一拍の間を置いて、毒はどす黒く膨張して爆発を起こし、虎の胴の境に前後真っ二つに引きちぎった。
そして妖光をたたえる三屍蠱の眼差しが、ちらりと星羅の方に向けられる――が。
「星羅に手は出させないぞ!」
虎の一撃に乗じて圧から逃れていた朔兎が跳躍し、三屍蠱の頷下にローリングソバットめいた蹴りを叩き込んだ。
雷撃の魔力がこめられた蹴りは、爆発的な轟音を伴って三屍蠱の頭を真上に揺らした。
さらに、素早く両手を突き出した星羅が法力の衝撃波を放ち、三屍蠱の尾を叩き、押し退ける。
「――!?」
続けざまにダメージを重ねられ、さしもの頑強さとタフネスを誇る三屍蠱といえどもついにはこらえきれず、ガグンと脚をくずおれさせて横転する。
その間に、朔兎は星羅をかばうような位置へと回り込み、改めて双剣を構えた。
「ここから先は通行止めだ! 勝手はさせない!」
威圧的に怒鳴る。と。
「人々を守るため、私たちは退きません!」
音律の指揮棒を振り上げて法力を練りつつ、星羅もまた咆吼を上げた。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
弓落・高寿
ここまで苦労させやがって一体どんな妖が首魁かと思えば、ただの馬鹿でけえ虫とは…まぁ小さいのが群れで来るよりはより楽でいい。
さっさとこいつ倒して無事帰還しようぜ。
神器で遠距離から攻撃…はこの地では分が悪い。とくれば近接と太刀で挑みつつ、ふと「虫にいい思い出がない」と思い出す。毒を持っていたり刺されたり、そもそも生理的になんか嫌だったり…思い出したら許せなくなってきた。虫の癖にこの野郎、人間を舐めるな。
そんな無意識下の恨みを込めて、牙か爪か針か…いかにもな箇所をまずは叩き割って力を削ぎ、はっ倒してくれようか。
鹿村・トーゴ
おっかない毒虫の合体かー見目も心臓に悪りぃなァ
武者殿達も無茶召さるなよ
こーゆー戦は生還しなきゃ意味がねーもんな
さてオレも化身忍
悪鬼依代の代償の殺戮呪詛はそのまま戦意に🔴真の姿も使おう
UCで全強化し【野生の勘】で毒針を躱し【軽業】で図体を足場にして素早く動きクナイ、手裏剣を見ずとも【念動力で投擲】、針の先を弾き軌道を逸らし翻弄
槍化した猫目雲霧を敵の身や尾へ【串刺し】少しの間でも地に縫い付け動きを止める
黒曜石の鉤爪化した右腕を振り上げ剛力で裂き返す拳で撃ち潰す
鉤爪に敵UCの毒が回り爆破されそうなら胴体を蹴りつけ離脱図るが
操作なぞされてやらねーぞ
それぐらいなら爆破諸共敵の身をぶち抜くまで
アドリブ可
●断魔の剛刃
「おっかない毒虫の合体かー……見目も心臓に悪いなァ」
「そうか? ただの馬鹿でけえ虫ってだけだろ」
気持ちげんなりしたような鹿村・トーゴ(鄙の伏鳥・f14519)のつぶやきに、弓落・高寿(平安京異邦人・f44072)は淡泊に返した。
まあ、どちらの言い分も、もっともではある。
いかなる呪詛によるものか、頑強な牙を備えたムカデの頭、超常の毒を備えた針を持つサソリの尾、強靱な粘糸を操る能力を備えたクモの体が融合した、三屍蠱。虫の世界から害毒と凶悪さを抽出して混ぜ込んで形にしたような、造形からしても本能的な忌避感をかき立てる怪物である。
しかし同時に、虫は虫であるともいえる。常識外の存在たる妖――オブリビオンであり、さらに安倍晴明によって桁外れの力を与えられているとはいえ、その性質は虫のそれから大きく外れていない。極論、叩けば潰れるし、火で炙れば死ぬし、何なら殺虫剤だって効くはずだ――それがユーベルコードでさえあれば、という条件はあるが。
要は、対処する手はいくらでもある。
「遠距離から攻撃……は、分が悪いか」
周囲を一瞥し、高寿はつぶやく。木、藪、でこぼこの地面に岩など障害物には事欠かず、よほど腕利きの射手でもなければ狙撃は難しいだろう。
「だね。ついでに流れ弾も怖い」
トーゴの視線は、さらに広く遠く、坂東武者たちの姿を捉えていた。無限増殖する妖の群れを食い止め、猟兵が三屍蠱との決戦に集中できるよう計らってくれている。当然ながら、こちらの戦況に気を配ってどうこうという余裕などなく、うっかり流れ弾が向いてしまったとしたら対処しようもあるまい。
「と、なりゃ――近接だな」
「同感」
どどっ!
と、高寿とトーゴがほぼ同時に地面を蹴り、烈風のごとくに駆ける。
高寿は地を這うような低い姿勢から、白鞘の太刀を抜き打ちにする。白銀の剣閃が弧を描き、三屍蠱の蜘蛛脚の先に叩き込まれるや、甲高い金属音めいた音が響いて亀裂が入る。
「かってぇ……!」
その一閃で脚を斬り落とすつもりだった高寿は眉をしかめたが、しかし、どうにもならないほどの堅牢さではないのは知れた。
一方、高寿と同時に駆けていたトーゴは宙へと跳んでいた。彼の右腕はいつの間にか黒曜石めいた堅皮に覆われ、また獰猛げな五爪を備えた形状になっている。
一瞬の間に三屍蠱の頭の高さに至ったトーゴは、爪を立てつつ右腕を振り下ろす。
ぞん! と五爪が三屍蠱の左目を斬り裂いた。青緑色の血を噴出させ、三屍蠱はつんのめるようにして大きく体勢を崩す――が、よろめきつつ大きく身を捻ったかと思ったら、宙にあるトーゴ目がけて毒の尾を振り回してきた。
「――お!?」
反応は半瞬。
トーゴは右腕を手刀の形にして切り返し、尾の先端を叩く。刹那、火花散る拮抗――毒針はトーゴの顔面、目鼻の先まで迫りつつも、腹を手刀で押さえられた形で押し留められる。
ただ、膂力は拮抗できても重量はそうはいかず、宙にあっては踏ん張りも利かない。尾の圧力によって振り回されたトーゴは、一八〇度向こうのアカガシの巨木に背中から叩きつけられた。
「い――ってー、なァ!」
肺と背骨が軋み、一瞬視界がパチパチと弾けるような感覚さえありながら、しかしトーゴは停滞せず動く。左手に握っていた手ぬぐいを念動力をもって布槍と成し、三屍蠱の尾の節目を精密に貫いてアカガシに縫い止める。
「――!?」
がくん、と三屍蠱が大きくバランスを崩し、動きを止める。あるいは、激戦を経た体でなければ一瞬で槍を引き抜けたかもしれないが、今の三屍蠱にそれだけの体力はなかったらしい。
がたついた三屍蠱の背中に、すかさずして高寿が駆け上がった。
「この野郎、虫の癖に人間を舐めるな!」
目一杯に体を捻転させてからの、荒々しく勢いの乗った太刀の一閃。【純粋な暴(ヤツアタリ)】の怒気を乗せて超常の破壊力を得た剛撃は、ちょうどクモの体とムカデの首の境目に叩きつけられた。
ざばん! という破裂音とともに黄緑の血が多量にまき散らされ、同時に首の八割方を断ち斬られたムカデの頭が傾ぐ。そしてさらに同時。
「――――――――!!!」
鉄塊がねじり切られるような激しい異音が、その場にいた全員の耳をつんざく。
それ即ち、三屍蠱の断末魔であった。
煙がそよ風に吹かれて散るように、鬱蒼たる森の景色が消え去る。
森の代わりに現れた景色もまた、まあまあ緑の多いものではあったが、明らかに人の手でもって整頓された緑――つまりは、畑のど真ん中であった。
「……無事に帰還できた、か?」
高寿がつぶやくと、少し離れたところにいた白髭の坂東武者が、大太刀を杖代わりに地面に刺しつつ、言う。
「見たところ、我らが元いた村に相違ない」
「おー、そりゃよかった」
痛む背中をさすりつつ、トーゴは立ち上がる。
「で、武者殿はみんな無事かい? こーゆー戦は、生還しなきゃ意味ねーもんよ」
「うむ。この場にある者に欠けはない」
周囲をチラと見回して、白髭の坂東武者は言った。
「だが、無事をと言うなら、待たせている村の衆を迎えに行かねばならん」
「あ、そうだった」
「まあ、最激戦区でも首尾良く片付いたくらいだ。あっちだって大丈夫だろ」
高寿が肩をすくめる。
かくして大戦を勝利を飾った武士たちは、一人の犠牲もなく帰還の途に就いた。
大成功
🔵🔵🔵🔵🔵🔵