アラベリア旅行記〜月夜の氷花〜
ティー・アラベリア
【リクエスト概要】
MSさんがお持ちの国家をティーが旅行するノベルをお願いします。
場所、シチュエーション、登場人物(グリモア猟兵を含む)、何をさせるかは全ておまかせです。
設定の掘り下げ等にご活用ください。
文量についても書きやすい文字数で大丈夫です。
ノベルタグには、国家名の他に「アラベリア旅行記」を付けていただけると嬉しいです。
【キャラ設定】
与えられた目的ごとに人格がコロコロ変わります。
今回は情報収集を兼ねた旅行ですので、基本的には大体以下の要素が含まれた、人格になるかと思いますが、絶対ではありません。
・好奇心旺盛
・暢気で陽気
・適度に善良
・お買い物大好き
富裕層のお上りさんのようにも振る舞えますし、反対にバックパッカーのようにも振る舞えますので、お好きにお使いください。
服装も旅行の仕方相応に変わりますので自由に着せ替えてください。
【適度に善良 #とは】
基本的に旅行先の国家の法律を守ります。
眼の前で差別や暴行等の著しい不正義が行われていた場合、事情は聞きますが、それが適法かつ手続きが適正なものであれば“そういう国なんだな”と理解してスルーします。
ただし、自身の駆体保護のためならばその限りではありません。
「クロムキャバリアで旅行、ですか。なら、いい国が一つ───」
ティー・アラベリアが声を掛けたのは、グリモア猟兵である白霧・希雪だ。
と言うのも、ティーは様々な国へと情報収集を兼ねた旅行へ行くために、様々なグリモア猟兵へと積極的に声をかけ、また、自らその足を運んでいる。
今回もその一環で、たまたまグリモアベースにいた希雪に白羽の矢が立ったのだ。
そして今回は、アタリだったらしい。
「その国は、どのような場所なのでございますか?」
様々な国を渡り歩くティーも、面識のない猟兵に「いい国」と呼ばれ紹介さればテンションも上がるというもの。
今まで、幾つもの素晴らしい国を目にしてきた。今回も、そのような体験ができるかもしれないと期待して。
「氷上国家【グレイシル】──雪と氷に閉ざされた、小国です。」
聞いたことのない名。
雪と氷に閉ざされた───その寒さは相当なものだろう。
尤も、ティーはミレナリィドールなので、凍りつかない限りは支障はないだろうが──
「ここで、紹介するのも良いですが……後は、行ってみてのお楽しみ、ということにしておきましょうか。」
希雪の手から霧型のグリモアが広がっていき、世界の門が開かれる。
その奥に僅かに見えるのは、白と透き通った水色。
「行き先は、クロムキャバリア、氷上国家【グレイシル】。それでは、お楽しみください──」
ティーがグリモアによって飛ばされた場所は、極寒の山だった。
吹雪が荒れ、気温は氷点下。並の生命では生存することもままならぬ、厳しい環境。
「こんなところに国があるなんて、信じられませんが、さてさて──」
キョロキョロと辺りを見回すと、視界を塞ぐ吹雪の先に、薄黒の構造物───城壁が見えた。
「あそこですね。では早速行ってみましょうか。」
城壁の規模からして小国の中では広い方だろう。
一体、どんな文化で、どんな生活を?
走り出したくなるほど高鳴る心を抑えつつ、街への門へ歩みを進めた。
もちろん、門を素通りできるということはなく、門番に軽く止められる。
「止まれ。通行証、若しくは身分を証明できる物を示せ。」
「ボクは猟兵でございます。えぇ、と…白霧様という猟兵の紹介で来たのですが…」
猟兵と話した瞬間。そして、希雪の名前を出した瞬間に、門番の表情が変わる。
厳しい顔つきから、にこやかなものへと。
「あぁ、希雪様の紹介とは、そして、猟兵の方だとは! 中へどうぞ、我等一同、歓迎しますよ!」
いくら猟兵とはいえ、門番がこれで良いのだろうかと少し不安になるが、好意は受け取っておこう、と、笑みを返し、軽く手を振って街へと入る。
そして街を見渡して、感嘆の声を上げる。
おそらく、ここがこの国で一番栄えているところなのだろう。
こんなに寒いというのに、街には活気があるのだ。
様々な店が並び、声が満ち、この世界にはもう残っていないのかとすら思える平和が、そこにあったのだから。
「これは…良い街、良い国でございますね……!」
そして、ひとしきり感嘆した後、気づく。
自分は寒さには強いとはいえ、自分の服装はこの場所に合っていないことを。
猟兵は他者から違和感を持たれないが、しかしそれはティーにとって許せることではなかった。
それに何より…おしゃれな服飾店が目に映ったのだ。
ならば、どうするかは決まっている。
「まずは、あそこで服を買うとしましょう。」
やや足早に、ティーは店に入って行った。
ふむ…利便性、機能性重視で、あまり目ぼしい物は見当たりませんが…
当然である。
こんな極寒の国でそれを捨てれば、訪れるのは凍死だろう。
そしてこれでもない、あれでもないと店内を歩き回った末、遂に一つ、気にいる商品を見つけた。
その商品──もこもことした暖かそうな、それでいて可憐な雰囲気を感じさせるファーコートを手に取り、満足そうな笑みを浮かべながら購入し、そのまま試着室で着替えて店を出た。
「ふふ、これは良い買い物をしました。他には何か…」
手に入れたファーコートは、周囲によく馴染んでいる。
暖かい感触を、感じる気がする。
そう思い、さて次はどこに行こう、と周囲を見回した時、背後から声をかけられる。
「なあ、猟兵の嬢ちゃん。」
…嬢ちゃん、ではないのだが。
外見から、勘違いされるのも無理はないだろう。そして、わざわざそれを直す必要もない。
「はい? あぁ、如何なされましたか?」
振り返り、愛想笑いを浮かべると、目の前に立っていたのはがっしりとした40代くらいの男だった。
その顔には、おそらく慣れてないのだろうと推測できる笑みが浮かんでいた。
「行く場所に迷ってんだろ? 俺に案内させてはくれねぇか?」
藪から棒に、との言葉がピッタリくる程に、突然の提案だった。
面識もないし、こちらから話しかけたわけでもない。普通なら、何やら怪しいことに巻き込まれる可能性もある。
しかしこの国の猟兵へ対する信頼が大きいこと、そして最悪の場合でも一般人に対して遅れをとる訳はないという圧倒的な事実、それに何より彼が放つ、不器用ながらも純粋な好意の感情に、少しくらいなら、と応じることになった。
「それは助かります。お言葉に甘えることにしましょう。」
歩きながら事情を聞くと、彼は猟兵に命を救われたキャバリア操縦者の一人らしい。
オブリビオンマシン──猟兵でなければ識別すら困難な、突発的に発生する殺戮兵器。
操作する人間の思考すら意のままに操り、練度の高い集団行動で破壊を撒き散らす、この世界における敵。
そこから救い出してくれた猟兵に対する恩義もまた、大きい物だろうと推測できる。
尤も、言葉遣いは荒々しい粗暴者のそれなのだが。
「名前は…そうか、ティー・アラベリア…ならティー嬢だな。」
「ティー嬢はここに来たばかりだろ?それならまず、[キャバリアの墓場]に案内しよう。」
「キャバリアの墓場?」
「そうだ。なんでかはしらねぇが、昔からぶっ壊れたキャバリアが流れ着いて、凍土の中で眠り続けてる場所だ。この国は、そこから使えるパーツをかき集めて組み立てて、キャバリアを運用してるんだけどよ──」
歩きながら、少し長い話を聞く。
その話には、興味をそそられるものが多く、また、情報収集の面からしても抑えておきたい場所のように聞こえる。
「ついたぜ、ティー嬢」
「ここが……」
国の北東部、二つの山に挟まれた谷の下。
雪が降り積もり、全体的に白が支配するこの場所だが、転々とキャバリアが持つ様々な色が、見えてくる。
形状、素材、配色、武装、そのどれをとっても同一なものは極めて少なく、世界各地のキャバリアの見物市のように。しかしそのどれをとっても、“死んでいる”。
大破したものもある。塗装が剥がれ落ち、長い間放置されたと思われるものもある。
鉄錆とオイルの匂いは雪に覆われ埋め尽くされて、清らかな山の空気だけが肺に流れ込んでくる。
「こんな場所が…」
言葉も出ない。
クロムキャバリア世界の中で、力を持つ小国が、際限なく作り続けているキャバリアの終着点の、その一つなのだろう。
争いの絶えないこの世界で、こんなに静かな場所があったのか、と、息を呑む。
「凄い風景だろ? 危ないからこれ以上は決まった者しか入れないようになってるんだがよ、俺らぁガキの頃からここを見て育ったんだ。まぁ、他の場所なんかしらねぇがな。」
おそらくは、雪と氷に囲まれたこの地形、そして実際のものとは乖離するかも知れないが、実態の知れないキャバリアの集団。
おそらくは、プラントのキャパシティを武装に割く割合が他よりもずっと、少ないのだろう。
薄い日が、低くなってきた頃。
時の流れなんて忘れて、キャバリアの墓場を眺め、感じ、想いを馳せていたティーに、声が掛かる。
「おっと、そろそろ日が暮れる。お楽しみのところ悪ぃが、次を案内するぜ。」
先ほどの男は、ティーの邪魔をしないようにと、一歩引いた場所で待機していたのだ。
また、不器用な笑顔でティーに説明をしてくれる。
最初に感じた不信感はある程度薄れて、男の案内に従おうと、話を聞く。
「ティー嬢、あんたは運がいい。この時期は湖の氷が解ける。それに、今晩は多分、雪が止むぜ。」
「───キャバリアの墓場をも超える、この国随一の絶景を拝ませてやるよ。」
「それは、素晴らしいですね。一体、どんな──」
「それは、着いてからのお楽しみだ。じゃあ、足早にいくぞ。」
それ以上、男はその場所について言葉を飾ることはなかった。
その代わり、いくつか、この国について教えてくれた。
「この国は元々、今よりもっと土地の小さい国だった。この世界のことについては良く知らねぇが、どこもかしこも争いばかり、ってのは誰だって知ってる常識だろう?
ここは、その戦争から逃げた者が寄り集まってできた国なのさ。
誰も好き好んで近寄らない雪山にひっそりと、小さな村を作った。そこにプラントがあったのは、多分偶然なんだろうな。」
「それでも、ここは危険な土地だ。プラントがあるから食料や生活必需品には困らねぇが、それ以外が困る。武力が無ぇ、技術が無ぇってな。」
男が話すその内容は、おそらく、長く続くクロムキャバリア世界の戦争初期の頃だろう。
しかし自分のことのように、どこか心のこもっているように聞こえるその語り口は、僅かな寂しさすらも感じさせる。
「それでも、生き延びなければいけねぇ。死に物狂いでいろんなことをやってった結果が、今のこの国さ。まともに一からキャバリアも作れやしねぇ。」
「そんな中、キャバリアの墓場から、何体かのキャバリアが一人でに起き上がってきて、破壊と殺戮を始めたんだ。」
オブリビオンマシン。
猟兵以外にとっては、予兆もなく現れる、文字通りの災厄だろう。
やはりこの世界では、明確な、敵対存在。
「だが、その窮地に駆けつけてくれたのが、猟兵だった。一人の猟兵が、その窮地を救ってくれたんだと。」
ティーにはなぜか、白き翼をはためかせ、黒き薙刀を振るう少女の姿が、脳内に浮かび上がった気がした。
「…さて、こんなしみったれた話は終わりだ。そろそろ着くぜ、フリザリィ・レイクにな。」
いつの間にか、歩いていた道は街の石畳を抜け、郊外の砂利道を抜け、整備された土の道へと変わっていた。
吹雪いていた雪はその勢いを弱まらせ、分厚い雲の隙間からは月光が差し込んでいる。
周囲を見渡せば、そこは静かな湖畔だった。
池と呼ぶには大きく、湖と呼ぶには少し小さいこの場所は、静けさを纏う針葉樹林に囲まれて。
湖面にはたった一つの波紋もなく、まるで凍りついているのでは無いかと思える程に美しい。
先程の話で少し揺れ動かされたティーの心に、静寂が刺さる。
これ、は…素晴らしい……
声にならない感嘆のため息をつくのは、何度目だろうか。
「ここは、フリザリィ・レイク。一年の殆どを氷に閉ざされ、極僅かな期間にのみその氷が割れ、溶け出して、まるで鏡のような湖面が現れる。綺麗だろ?」
きれい、というたったの3文字で表現できるような美しさでは無いのではないか、と思うものの、たとえ言葉を尽くして語ったとしても、この美しさを表現し切れるとは思えなかった。
「湖に沿って咲いている花があるだろ? これは月氷華といって、この場所にしか無いとされている花だ。」
その言葉に従い視線を動かすと、ひっそりと月光を浴びる、氷のような花弁を持つ小さな花が目に入る。
花弁についた水滴が、きらきらと月光を反射して、透明感のある淡い水色を際立たせるのだ。
「一つ、摘んでも?」
「あぁ、大量にはダメだが、一本くらいなら良いぜ。」
「ありがとうございます。──では、これを。」
ティーはしゃがみ込み、足元に咲いていた一つを手折る。
「ふふ、これは良い旅の記念を得られました。」
ふわりと微笑むティーは湖に目をやり、そして月を見上げた。
今回の旅行、この氷上国家グレイシルに来て、本当に良かったと、充実感が心に満ちる。
冷たい風が、ティーの金髪を揺らして、何処かへ吹き去っていった。
一夜の思い出は、これからもずっと、ティーの中に残り続けるのだろう。
もし、この場所が無くなって、誰の記憶にも残らなくなったとしても、ずっと。
さて、次は何処へ行きましょうか──
成功
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