「先輩方~、寄ってらっしゃい見てらっしゃい。事件のお時間だぜ?」
ヒカル・チャランコフ(巡ル光リ・f41938)が、折り畳まれた紙をツールベルトから取り出しながら、緩い口上で周囲に呼びかける。
紙を綺麗に広げると、まずは自分が一瞥。呼び止めたくせに。
空いた手を顎にあて小首をかしげ、
「どっかで見たことあるよーな?」
顔を紙から離すとにやりと笑い、今度こそ、その紙を皆の方へ掲げて見せる。
そこにあるのは鉛筆描きのモンタージュ。一人の男性の顔が描かれている。
アジア系だろうか?頭髪は少し薄く、太い眉は繋がっているよう、平坦な顔だ。
そうして。
薄く笑みめいたものを浮かべた男の、しかしにこりともしてない黒の眼が、今、アナタの瞳を|捉えた《、、、》。
――それは揺れる紙の見せた錯覚だろうか?
●
「コイツ、今まで《設定》を食ってきたみてーなのよ」
モンタージュを見た者の中には、夢で《この男》に出会える人間がいる。
そういう人間は《この男》が誰で、何の力を持ち、何するものか、見出して与えてしまうのだ。
「クリエイター気質っての?想像力豊か?選んでんだろうね、そういうヤツをさ。で、与えられる設定を喰って《存在感》みたいの、積み上げてきたっぽいのよ」
いまや《この男》がなんなのかって噂や陰謀論やらなんぼでもあらぁな、と再び紙をぺらりぺらり。
それだけ力をつけた、つけさせてしまった、ということだ。
でな?とヒカルは言葉を継いで――。
「遂に、霞めいた《設定》じゃなくて、《血や肉になる食べ物》でも食って体でも作ろうかって気に……、なったんじゃね?」
男の夢を周囲に漏らしていた人間の幾人かが、|とある場所《、、、》へ向かい、帰らない。
これは兆しだ――実体化、顕現の。
これがオレの見た予兆ってやつよ、とヒカルはいい、紙を畳みポケットへ仕舞うと、改めて猟兵たちに向き直る。
「一段階、話が進んでンの。チャンスじゃん?そこで先輩達の出番ってわけ!」
●
最初にしてもらいたいのは、そう、《眠る》こと。
夢は必ず、真夜中の、終りのみえない林の中が舞台となる。
夢であるからして、職や立場、年齢、性別どうとでも。
それでもアナタはアナタであり、そして――《この男》と何かの関係/状況にあることを思い出す、或いは気付く。
「|設定《メシ》を食わせつつ、ヤツと一緒に、いや別々かも。とにかく、辿り付いて?発見して?導かれて?逃げ込んで?聞き出して?そーんな感じで見つけて欲しいわけ――とあるお屋敷、《この男》の|核心《ホーム》をさ」
アナタは自分を忘れない――だから、あんま探索心丸出しで寝ないでよ?とヒカルが笑う。
求められているのは、ホラー映画の哀れな最初の被害者のような、喰いやすい存在なのだ。男をなおざりに《館》を探したい気持ちが先走る、そうなれば相手はアナタを招き入れてはくれないだろう。
無事、夢の中、館の門扉へ到達すれば――。
「みて、これ。実は屋敷の場所はもうわかってんだよ」
探して来い言ってなんですけどぉ、と苦笑いのヒカルが再びポケットから取り出したのは一枚の写真。
そこに写るのは、陰鬱な林の中、壊れかけた門扉の残骸だけが残る更地だ。
「|お招き《チケット》GETした先輩方はオレがここにお送りしますンでー」
ヒカルが空いた手の内、グリモアをくるりと回す。
「その時には在るはずだぜ、ないはずのお屋敷がさぁ?」
夢の中、男と《館》を紡げた者の前にはじめて、その山猫軒は|現れる《、、、》。
「ビビりもここまで来るとね!?めんどくせーわー、コイツ」
垂れ下げた前髪を指で巻きながら、ヒカルは溜息と共に、もう分かってると思うけど、と加える。
「勿論、そこでも『ネットロア警察だ!』してもらっちゃあ、困んのよ」
●
さぁて、事情は分かってくれた?そういうヒカルはポケットへ三度手をやる。
どこまでも。
求められているのは、アナタと《この男》の物語。
|夢にまで見たこの男《、、、、、、、、、、》、その核心へ至るための――。
もう一度、ヒカルはモンタージュの印刷された紙を取り出して、自分が見、そして皆へ向けた。
ビ、と音を立て二つに裂かれる紙の後ろで、ヒカルがにぃと口角をあげる。
「そんじゃ、先輩。いい夢みてね?」
紫践
はじめました。
1章2章では、全てを無視し、アナタの冷静で的確な判断力と行動力で館やボスを見つけることが可能です。
しかし、それをしてしまうと、《裏で糸引いていたい》と書いて《怖がり》と読むタイプのボスは、
優秀なアナタに恐れをなし、|立て看板《ダミー》を置いて、安全な《無意識》に逃げてしまいます。
ゆるりと散策してまいりましょう。
●
1章はホラーと言えば悪夢でお散歩。
2章はホラーと言えばお屋敷探索。
あまり心が弾まないかもしれない《|This man《この男》》との、ホラーめいた夢のひと時、
どうぞご自由にお過ごしください。
関係性を思いつかないという方は、こちらでご用意します。
夢の中のご自身がどのようであるかと、P/S/Wのご指定をくださいませ。
第1章 冒険
『真夜中の冒険』
|
POW : 直感で進んでみる
SPD : 身軽さや器用さで効率良く進める
WIZ : 周囲の様子を注意して観察してみる
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
八重咲・風鈴
ほらーかぁ……ホラー映画は、あんまり好きじゃないなぁ……びっくりするもんなぁとそんなこと微塵も思わせない、相変わらずゆるゆるした顔で周囲を見渡しながら天人飛翔でふわりと舞う。
ゆるゆる呑気な顔で周囲をのんびり眺めながら浮遊する様子は、あまりにも呑気すぎて危機感の欠けらも無い。
ように見せかけてるわけでもなく、素でゆるっゆるに、けれども周囲は細かに見やるなぁ。
どんな夢が見れるのかなぁ
月には群雲、地には林。
雲を運び、木々揺らす風は事前に聞いた夢のイメージとは違い、穏やかに優しく、八重咲・風鈴(旅する羽衣人・f43372)を、林の上へと押し上げた。
天人飛翔――心地よい夜の空散歩は、これで《お父さん》さえ傍にいてくれたのなら、日常のそれと思うほど。そう、|思わせるほど《、、、、、、》軽やかであった。
――果てのない林だって、言っていたなぁ。
それは中々お眼に掛かれないかもしれない、ひとつ見てやろうか、そんな愉快な気分さえして。応える様に風が、八重咲を高く、高く押し上げていく。
月に届けと言わんばかりに舞い上がった――その時だ。
『|人って空を飛べるのだっけ?《、、、、、、、、、、、、、》』
脳裏に浮かぶ急な疑念。
体は勝手に硬直し、がくんと階段を踏み外した時のような衝撃が身を揺らす。
「墜ちる」
八重咲は知っている、分かっている。夢の中でも自分を見失うことはないと言われた通りに。
己は飛べる、間違いようも疑いようもない自分の|能力《ユーベルコード》。
けれど――八重咲は落下に身を委ねた。
夢の入り端の時のまま、ゆるゆると。
気付いていながら、それでも――呑気と評しても良いかもしれない程の|警戒心のなさ《、、、、、、》で、その《干渉》を受け入れる。
それを望むのならば、今は哀れな月夜のイカロスたれ。
が、八重咲の観察眼だけは留まるを知らないもので、雲から再び顔を覗かせようかという月を見納め、次いで、あぁ!話の通り終わりの見えない、地平線と化すまで広がる林を楽しむ。
そうして体は地へと向き直り――、
顔を出した月に照らされた木々は遥か下、黒々と連なって、それはまるで《|鉛筆を引いた跡みたく《、、、、、、、、、、》》に。
現実ならば、今や自分を押す壁のように硬く変質してしまったその風に、表情など浮かべられるかどうか。
それでも、ここは夢の中。八重咲は常と変わらぬ柔和さをその顔に浮かべ、こんばんは、と挨拶する。
「やぁ、逢えたねぇ」
哀れなイカロスが《取り留めのない悪夢》での邂逅を望むならと、それに応えるように。
《男》の顔が、眼下の大地に広がっていた。
――
この唐突。確かに、うん、《夢》だなぁ、これは。
思うだけに留めて、代わりに口に苦笑を浮かべた八重咲は、知らず地に伏していた己が身を起こすと、着物についた土を優しく払った。
薄ら笑いの《男》の口に向け、避けがたく喰われるかの墜ちていったのに――あぁ、それは確かに不愉快な《悪夢》であったと思い返せば、ほんの少し眉根も寄る。……気分を変えよう、確かやるべきことがあったはず。敢えて「さて」と音にして、着物から顔を上げた時――さび付いた軋みで門扉が返事する。
八重咲の前、その口を開け、《屋敷》は建っていた。
■ Episode 01 【月夜のイカロス】
苦戦
🔵🔴🔴
響納・リズ(サポート)
「皆様のお役に立てるよう、頑張りますわね」
移動時には、急ぐ要素があれば、サモン・アーティアを使って移動します。
洞窟など罠が予想される場所では、慎重に進み、万が一、けが人が出た場合は、回復UCにてすぐに癒します。
調査の際は、タロットを使っての失せもの探しや、礼儀作法を使っての交渉。聞き耳等を駆使して、情報を得ようとします。
交渉時は相手の機嫌を損ねないよう気遣いながら、気持ちよく話してくれるように進めます。
共同で進む際は、足手まといにならないよう、相手を補佐する形で参加したいと思います。
アドリブ、絡みは大歓迎で、エッチなのはNGです。
保養所から道なりをコンビニまで――じゃんけんで負けた者の宿命である。
そうして林の中の道をまた保養所へ、それだけの筈ではなかったか?
途切れた道に一度車を止めた。
どこかで間違えたかと、しかし切り返しも叶わぬなかで、ゆるりバック走行で戻って少し。
先程通ってきたそこにも、『ここに道などなかった』と木々は立ち塞がるのである。
深夜の林の中。|二人《、、》は、今や完全に《遭難》の状態にあった。
――
行く道、行く末の分からぬ漠然とした不安がじわり、と沁み広がっていくような。
なるほど、と響納・リズ(オルテンシアの貴婦人・f13175)は思う。
――確かにこれはあまり気分のいい夢ではありませんね。
「障害なのかなぁ」
車外では苛々した様子で、《男》が手の中のスマホを弄っている。
――篠崎、様。
響納は胸の内で彼の名前を反芻する。
彼は篠崎様、いや、今は篠崎さん、が相応しいだろうか。私は彼を|知って《、、、》いる。けれど、全く|知らない《、、、、》その男。
「ネットも電話もダメですね……」
スマホの画面の明かりに照らされた男の困り顔を見ながら、運転席の響納は小さく嘆息した。
こういう時に便利な物が使い物にならないのは、きっと《お約束》なのだろう。
しかし、この夢、意外だった点もある。
状況を把握すると自らは車を降り、響納を運転席へ移らせたのは、篠崎の判断と申し出である。深夜に近い時間、周囲に誰もいない中、男女が揃っているのであるし、彼の対応は充分に紳士だと響納は評価する。
正直にいってどこか少し薄気味悪くさえある風体の――平坦な顔、頭髪は少し薄く、太い眉は繋がっているような。なによりも、輝きのないその瞳――篠崎ではあるが、|彼は親切で善良な同僚だ《、、、、、、、、、、、》。
それを意外だと思ったのは響納自身が今自己評価する状況にいないからだが、彼女を知る人ならば、それは、他者に対して誠実であり、親切な|響納に対応する《、、、、、、、》ようであると見るかもしれない。
「響納さんの、どうですか?キャリア、僕と同じでしたっけ?」
彼への信頼を示す為、窓を全開にしたのは響納だ。そうですわね、と返して、自らのポシェットを開け、取り出す四角い物は――タロットカードの収まる箱。
「え?えぇ?」
思いがけないアイテムの登場に、篠崎が素っ頓狂な声を上げ、ついで二人小さく笑い、少し和やかな空気が場に流れる。
「スマホは……」
「ごめんなさい、置いてきてしまったみたい」
これが夢の唐突さ。
ポシェットの中には他にクロスが1枚。
それでは、と響納は箱の表面を撫で、微笑んだ。抗わず夢の要求に応えることにしたのだ。
「占ってみましょうか」
行く末、この夢の進む先を――。
――
気分転換に、ね?と、笑みかけてから、響納はクロスと箱を手に車外へ出た。
あまり宜しくはないと思いつつ、仕様がないので車のボンネットに広げたクロス。
シャッフルし、天地を定め、小型車の両側それぞれに立ち、向かい合う――対峙する。
そして、《男》は|迷いなく《、、、、》カードを引いた――X XI : The Worldの正位置を。
瞬間、風が通りぬける。篠崎の側から、響納の方へ。
穏やかなそれは周囲のこずえの葉を揺らし、葉擦れや虫の声、この場に相応しい音が急に《世界》に溢れ出す。
今の今までエンジン以外の音が一切なかったことに、漸く気付き――。
そういうことでしたか、と響納は苦笑する。
|祝福《、、》させた、この|世界《おとこ》を無理矢理に。
完遂が近いという、わざわざの《|啓示《エサ》》を夢は響納に求めたのだ。
「あ!ちょっと待ってください、響納さん、後ろ」
篠崎が、スマホのライトを点灯させ、響納の後ろの木立の間の夜を照らす。
「車は無理ですけど……これ、道じゃないかなぁ?」
周囲とは明らかに違う、ひとの使っているに違いない土の踏み固められた細道がそこにあって。
役割は果たした。その先、きっと|保養所《屋敷》はあるだろう。
「いってみますか」
|満足げ《、、、》に微笑む《男》のその顔は穏やかで、しかし、やはりどこか薄気味の悪い――。
「えぇ、そう致しましょうか」
しかし、響納も微笑み返す。人を見た目で区別するような性質でもないし、なにより。
そのようなズルの許されると言うならば。
そのカード、貴方には《完成》を意味するとしても――。
私の側からは《崩壊》を意味するのよ、と小さな炎を密やかに、その瞳に点して。
■ Episode 02 【タロットカード】
成功
🔵🔵🔴
朱島・希咲
ネットロア?ああ、 UDC組織の大人が言ってたあいつらか
めちゃくちゃ臆病とだけは聴いてるよ
事件解決の為には
敵を油断させつつ距離を詰めていくしかなさげか
正直、面倒だが…放置したら後がより面倒だよな
じゃあ、おやすみ
【pow】
※夢&関係性
目が覚めたら
いっけなーい、ちこくちこくー(棒読み)
学生寮を出て、朝食片手に
全力ダッシュ中にぶつかった相手
“男”とは、ただそれだけの関係
真夜中なことも
周りが林であることも
持ってる朝食がケバブであることも
「あ、すんません。急いでて」
男すらも雑にスルー
夢と気付いた素振りを見せずに
そのまま走り続けるぞ
…ほら、餌だぞ
アンタはスルーできるのか?ネットロアさんよ
辿り着いた先は――
――夜の林って話じゃなかったか?
夢の中までいっけなーい、遅刻ちこく、といいながら、朱島・希咲(Checkered・f43502)は走る。
寮から学校までの通学路、いつもと変わらない朝を。
いや、何ならいつもの朝より少しイイかも。
なにせ、その口には《ケバブ》をキメている。
料理が得意の朱島とはいえ、現実ではケバブマシンは学生の身にあまりに高いし、寮に置くにはデカすぎる――あぁ夢が叶った。……いや、己の置かれた状況、聞いた話との差異、違和感、分かってはいる、いるのだけれど。ついつい、心はケバブへ向かう。
だって、ケバブ、おいしいから仕方ないよな?――遊ぶ心、これが朱島の癖である。
そんな風であるからして。
「ったぁ!」
「…っ!」
前を来る《男》と盛大にぶつかるような羽目になるのだ。
その衝撃で、思い出す。そうだ、遅刻しそうなのだ。よかった、ケバブほとんど食べ終えていて。
しりもちをつく相手の胸に「すみませーん!」と拾い上げたビジネスバッグを押し付け、返事も待たず、朱島は一目散に走り去る。
さて、どう出る?と眠る前に描いたままの出会いにイタズラめいた笑みを浮かべて。
一方の。
走り去る朱島の背を、しりもちをついたまま見送る《男》は、うっそりと言葉を漏らす。
「また、逢えるなんて……」
――どこだったかは忘れちゃったけど。沢山の人の行きかう中、キミがボクを見出してくれた。|キミとボクの目が合った《、、、、、、、、》あの一瞬をボクは覚えてる。
「これって、ウンメイ、だよね?」
運命の再会、と重ねて零した大仰な言葉に、ひとり顔を赤らめて男は身悶え鞄を抱きしめる。
キミからボクに触れてきた、話し掛けた。これってボクのこと、好きって……ことだよね?と――飛躍する思考、それが|対応《、、》する《この男》の癖である。
そうして。
『新作の鬼ごっこ系のあのゲーム……アレ評判いいし、買うかな』心は他所に飛ばし朱島は駆ける。
『分かってる。追いかけて欲しい、《女の子の夢》だよね』微笑みながら男は立ち上がる。
遊ぶ心と飛躍する思考、その二つの交わる点へ向かって。
――
最初はいつも通る道を塞ぐ《工事中》の看板、
次いで何か事件でも起きたか人だかりが道を塞ぎ、
巻きこまれない程度先で車の積荷が豪快に崩れた辺りで、流石の朱島も『始まったな』と気付いた。
気付いたが、気になどしない、誘導されるがまま、駆けてゆく。
もう少し注意深ければ、看板に描かれたイラストのその顔が《男》のソレであるとか、群衆の中一人だけ朱島をみている《男》であるとか、崩れた荷物に慌てて駆け寄る運転手もまた《男》であることに気付けたかもしれないが。
そうしたら朱島は《夢》を見失ったかもしれない――男を捜すゲームかと。
対する《男》のアピールは段々と過激なものとなっていく。
目的地であったはずの学校の正門は消えやたら|ポスター《、、、、》の貼ってある壁へと代わる、そんな異常事態など可愛いもの。今など、ビルから《男》の降ってきて、目の前、血ダマリをつくっている。
気持ち悪いな、と朱島は思う。
凄く気持ち悪い。この男、何がしたいんだと、ココで始めて、血溜まりに伏せる《男》を|ちらりと見《、、、、、》、そして、軽々|飛び越えた《、、、、、》。
疑問は持てど、邪神の為すをまともに請合うようなこと、UDCエージェントたる朱島がするはずもない――何よりコレ夢だし?
戸惑い立ち止まったなら、《夢》はそこで終わっていただろう。
力みなくそして弱すぎない。彼女の絶妙の|バランス《雑さ》が、チカラ増しつつある男と噛みあった、この夢を続けさせた。
これは、《男女のロマンチックな追いかけっこ》――追う男と、それを時折|振り返り《、、、、》つつ|誘う《、、》女――そんな浮かれた《男の|妄想《ゆめ》》を知らず朱島は叶え続けたのだ。
――
そうやって駆け抜ける最後――後ろにうっそうとした林を抱えた《鳥居》は現れる。
「舐めてるな」思わず漏れた朱島の言葉は少し苦い――知っている、神の、UDCの邪神たちの力は充分に。
でも邪神を神だなんて認めないから。私はそれを|許さない《、、、、》――その為に、《|夢《ここ》》へ来ている。
だから疲れを訴え始めた己の足を叱咤して、敢えて鳥居の中央を駆けた。
枝葉が空を塞ぎ夜のようにも思える暗さを仕立てる木立の中、木影から自分を見つめる不思議と白く目立つ顔、それが何度も繰り返すを無視してまだ駆ける、駆け続ける――いつまで、どこまで?
上がる息、いよいよ足の限界を覚え始めたその時を図ったように――。
「捕まえた」
真後ろから知らぬ声がする。肩を掴まれ、初めて朱島は足を止めた。
振り払って、振り返った先、「楽しかった?」モンタージュそのままの薄ら笑いがここにもあった。
「……追いかけてきたのか?」
荒い息、額に顎にと汗を手で拭い、それを知りつつも惚けて、愛想のカケラもなく言葉を返す。
だって、まぁ、普通に考えてぶつかられた因縁を果たしにきたのだろう。そして自分は――。
「《女の子の夢》って実際、結構体力勝負だったね。若いっていいなぁ……か、可愛かったし!」
息の上がる朱島を前に、途端、顔を赤らめモジモジとバッグを胸に抱えたりして。男のその意外な様子に朱島の心は行動予定から目の前へ引き戻される。
「何の話……」
「あ、うん、やっぱりボクも勇気出さないとダメだよね?肩でなくて……その、《ゴール》できないから」
そういうと数度深呼吸し、覚悟を決めたか「お、おいで」とうっすら腕を広げ、ちらちらと此方を伺う男。
女の子の夢?ゴール、|男の腕の中《そこ》が?ここまで追いかけっこして何でそんな話――追いかけっこ?
状況が脳に染むまでの一拍の沈黙――。
「ないから!冗談は顔だけにしろ!」
それはもう、反射。口から勝手に言葉が飛び出した。
「照れ屋さんでもある――メモメモっと」
口でメモメモいってメモを取るわけではない。なんだ、こいつ。現実だって耐えられるわけない、こんな一から十まで気持ち悪い男。
「付き合ってられない!」
え!大胆だね、でもいきなり結婚は……もう少しこう、段階をさぁ?などと、飛躍する思考で一歩にじり寄る男。その全てを無視して、朱島は踵を返す。
絶対にある、もう一つのゴール――そう、こんな状況にあっても、朱島の心もまた、違う物語を遊ぶから。
元を向き直れば、|先ほどまではなかったそれ《、、、、、、、、、、、、》が今、建っている。朱島の思い描いたそのままに。
飛躍する思考と遊ぶ心の交差する点であるが故、シチュエーションは描いたものとすこし違っていたけれど、そんなことは知らぬ朱島の、だが、向かう先は同じだ――鳥居を見た時から決めていた。きっと|ある《、、》、間抜けにも、うかつにも目の前で逃げ込んでやろう、必ずや邪神の腹の内入り込んでやる、とその覚悟を。
「ここまではウォーミングアップだ!さぁ捕まえてみろよ!」
いまや全て把握した朱島は男の望むように誘い、そして踏み出すのだ。
――邪な神の、その|社殿《屋敷》の中を目指して。
■ Episode 03【女の子の夢】
成功
🔵🔵🔴
ウルザ・ルーナマリア
はー、はじめて来る世界だけどホラー…怖いのだっけ?
眠らなきゃいけないなら眠ってみるか。
ん…森の中、空は星霊建築…じゃない多分ふつーの夜空。
ふわふわした気分で歩いて…店がある。
店主は人間…あんま人と会わねえから見分けイマイチつかないんだよなー。
でも確か獲った魚買ってく中にいたような?
おれが漁師でそのお客、そうだ思い出した。
見世物をやってる、魚屋じゃないんだとか思いつつ流されるまま見せられて。
何かアンデッドが墓場で延々踊ってる…意味わかんねー!
あれ、小屋の中じゃなかったっけ。いつの間にか墓場っぽい所に二人で座ってて…今度はもっと面白いものを見せてくれる?
流され行ってみるかな。
※アドリブ絡み等お任せ
夜風にそよぐ木立の演奏。ウルザ・ルーナマリア(月に泳ぐ白き獣・f39111)は、ふいと見上げる。
枝葉の額縁はその輪郭を可愛く揺らし、その額の中に美しい満天の星空が飾られている。
――これはほんもの。
見上げる12歳の胸を満たすのは、開放感。
本物のソラは、ウルザにとって、自由と同義語であるから。
かつて本物のソラはツヨくてエラい《オトナ》たちのものだった。彼のいた場所はそういう場所だった。
弱いオトナと弱いコドモ――特にそう、後ろ盾のない|流れ者《、、、》のウルザのような。抗争の隙間で辛うじて息をする、そんなコドモに与えられるのは時に手を伸ばせば届いてしまうほど狭く低い、星霊建築の映す|天井《ソラ》だけで。
しかし、そんな日々も、とある《ニンゲン》の出現で一変し。そうやって漂流、変化に次ぐ変化を必死に生きてぬいて、培った力とオトナに劣らず育った体躯を以って。
遂に彼も、戦いに、冒険に、踏み出したのだ。――|本物のソラ《自由》を手に入れた。
夜であってもほのかに白く見える雲の腹。
気ままに行くそれをにこり見送って、ウルザもまた再び歩を進めるのだ、気ままに、自由に。
――
いつの間にだろう?――周りに《ニンゲン》たちの現れて、同じ方向に歩いている。
彼と《ニンゲン》の接点といえば、獲って余った魚を稀に卸しに行く程度、それだってこの数年のことだ。そんな彼であるからして、どれも同じように見える彼ら、せいぜい、大人か子供か程度の区別のつかないのだけれど。
それでも、番いのようであったり、家族のようであったり、ともだち同士かもしれない、と|群れ《グループ》の判別は出来た。
皆、|チラシ《、、、》のようなものを手に、話弾ませ歩いている。その声は聞こえてくるのだけど、不思議と何を話しているのか、ウルザには理解できなかった。
――これがぜーんぶ問題のオトコなのか?
少々ウンザリして、はぁと地面に溜息を吐いたあと、顔を上げ――足を止める。
視線の先で、その《小屋》は、篝火に囲まれている。
足を止めたウルザの両側を人々が追い越し、開けられたその入り口が次から次に人を飲み込んでゆく。
――えっと、抗っちゃダメだ。うん。
夢見る前の、ジェリファンめいた――だけどアレは絶対男だよな?――だれかさんの言葉を思い出して、ウルザも人々の後ろを列に並ぶ。並びながら思う――何かおかしくないか?先に建つ小屋はコレだけの人数を飲みこめるほど大きく見えないのだけど。そう疑問を抱いた瞬間だった。
「ようこそ、ようこそ!|小さく《、、、》て大きなお客サマ!」
カラフルな布の寄せ集めのような服をきた《男》が、薄く口角をあげ、並ぶウルザの|横《、》から彼を見上げて風船を差し出している。
どうだろう、コイツはさっきまでの……と、目を戻し、列の前後の《ニンゲン》たちと比較しようとして――今、小屋の前、《男》と自分しかいない。
「ありがとう」
その紐を慎重に受け取って、皆どこへ行ったと問いたい気持ちを堪え聞いてみる――ココって何の店?と。
あぁあぁ!ご挨拶の遅れました!と、薄笑いのまま、それでも声だけは弾ける様に楽しげに。そうして《男》は腕を前に大仰に、薄くなりかけている頭を垂れてから顔を上げた。
「此方は私めの作品の《展覧会》でして!ええ、芸術の展覧会でございますよ!最初の作品はいかがでしたか?」
――タイトルは『煽動』に御座います。
《せんどう》という語がウルザの中で意味を持つのを妨害して、或いは待ちきれずに、さぁさと畳み掛けて《男》はウルザを手招きする。小屋の中へ誘わんと。
「お見せしたい物はまだまだ御座います、参りましょう!」
――
「かわいい!」
どこから聞こえるとも知れない、軽快な音楽。
それに乗せてお客を楽しませようと踊るアンデットたちは、画一化されたコミカルな体系と顔で、墓場中を所狭しと飛んだり跳ねたり転んだりポカスカしたりと忙しい。
現実にそんな見た目のアンデッドがいたら、もしかしたらリアルなアンデッドより気持ち悪いかもしれないのだが、何せここは夢の中。
その可愛くもおどけた容姿とダンスにウルザも手を叩いて喜ぶ。どれだけ|成獣《オトナ》のようにみえたって、彼はまだ12歳の少年なのだ。
けれどまた一方で。彼は立派な猟兵でもあった。
――ん?墓場?
手招きされる前、確か小屋があって、と|思い出す《、、、、》。が、今、自分は夜の林の中、少しばかり開かれたそこの、朽ちた墓場にいて、アンデッドのダンスを見ている。《男》はどこに行ったと見回すもアンデッドの飛び跳ねるばかり。
そうこうするうち、アンデッドのうちの道化役の動きが鈍くなった事にウルザは気付く。ダンスに体の痛んで、足が今にも千切れそうである。
「あ、あの!」
ダンスを止めようと、ウルザが手を前に出したその時だ。
パチン!指の鳴る音。|横《、》に《男》が立っている。
問題のアンデッドはあれよという間にお縄でくるくる巻き。
近場の木にブラリぶらぶら吊るされる。
その周り回り踊る仲間たち、通るたび決めるのはお上手なアッパー!
どこにも悲壮感のない、まるで椅子取りゲームのように楽しげな様が、逆にとても不穏に思えてウルザは思わず伸ばしていたその手を握りこむ。
「あれ?そろそろ割れるはずなんですが……」
その言葉に弾かれたように横の《男》を見れば、その視線をどう受け取ったのか、《男》もウルザを見上げて、安心してといわんばかりに力強く頷いてみせる。
何か言わなくては――ウルザが口を開けたのと同時。
「自爆して?」
――え?
ポンっ!
可愛い音と軽いスモーク。吊るされたアンデットが弾け飛ぶ。
その内から、キラキラと紙ふぶきやリボン、カワイイ包み紙に包まれた飴やお菓子の飛び散って。
《男》は飛んできた飴を一つ拾うとウルザへ差し出した。
「楽しくって綺麗でしょう?これは『隷属』と申しまして、私の出世作に御座います」
その飴をウルザは受け取れなかった。
受け取らねばと頭の冷えた部分は考えていたけれど、でも、何故だか自分でも不思議なくらい、強い悲しみが全身を貫いて動けなかったのだ。
「お優しいお坊ちゃん!あぁ、心を痛めているのですね?けれども哀しむ必要はありませんよ。まさに私が貴方様にお話したかったのはソレなのです!考えても見てください。何も考えない、考えられない、考えることもしない者たちには《|煽動《導き》》が必要ではありませんか?楽しそうに笑っていたでしょう?先が見えることは安心であるからして。そうして、行きつく先は誰だってそう、《|墓場《ここ》》ですとも。あそこで飛び跳ね踊るものたちは脳の髄まで死んでいます!どこまでもお気楽で、役立たずのスクラップ共!しかしですよ?そこに《|隷属《指示》》を加えてやれば、この様にひとつの芸術となり、坊ちゃんを楽しませることさえ出来るのです!生産性のないものに価値を与える素晴らしい仕事。あぁ|芸術《、、》!様式美、といったものだって、なかなかどうして、莫迦にはできないもので御座いましょう?」
滔々と《男》は語り、それから受け取ってもらえなかった飴の包みを解くと、ひょいと自分の口へ投げ入れた。
ウルザがその様を黙ってみていたのは、先ほどの悲しみのせいでも、返すべき言葉の浮かばなかったからでもない。
――コイツはこのままにしちゃいけない。
だから抗わない。
その反論もない様を、煽動、隷属を以っての《支配》の完成と見たのかもしれない。男は満足したように再び頷く。
「賢明なお坊ちゃん!私は|幼いが故に素直であろう《、、、、、、、、、、、》貴方なら私の芸術を解してくださると、信じていましたとも!」
夢に呼ばれた理由――おれが《コドモ》だから。
けれど、彼はもう|天井《ソラ》の通す光の作る《オトナ》の影に怯えていた幼児ではない。
「じ・つ・は!そんなお坊ちゃんにお見せしたい最新作がございまして!
きっと気に入って頂けると思います。ささ、ワタクシの《|屋敷《アトリエ》》へ参りましょう!」
それは煽動か先導か。男の少し後ろをウルザはついて歩いていく、本命へ至る道を。
顔を上げれば、夢の始まりと同じ。
枝葉の額縁はその輪郭を可愛く揺らし、その額の中に美しい満天の星空が飾られている。
実際、芸術なんてもの、ウルザには何といえばいいか判らなくて、でも――。
星々の前で遊ぶ雲――風に流されていると捉えるか、雲の気ままにゆくものとみるか。
それはもっと《自由》であるべきだと思いながら――。
■ Episode 04 【行雲】
苦戦
🔵🔴🔴
ネッド・アロナックス(サポート)
めずらしい そざいはある?
なければ じょうほうを しいれて かえろうかな!
(※セリフはひらがな+カタカナ+空白で話します)
探し物や調べ物は楽しくて得意だよ
"くらげほうき"や"ゆきソリ"で空を飛んだり泳いだりしてヒトや物も運ぶよ
戦闘はサポートに回ることが多いかな
手強い敵は基本隠れながら隙を作って逃げる!
"クリーピングコイン"で物をひっかけて飛ばしたり
"しろくじら"の歌で余所見をさせたりね
ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し多少の怪我は厭わず積極的に行動します
他の猟兵に迷惑をかける行為はしません
また例え依頼の成功のためでも公序良俗に反する行動はしません
あとはおまかせ
よろしくおねがいします!
白く細い指が、摘み上げる。
「いい そざい」
摘まみ上げたものを手のひらに。
ころり、傘を被ったまん丸どんぐりに、ネッド・アロナックス(ガムゴム人の冒険商人・f41694)はにこりと微笑みかけてから、大事そうに鞄にしまう。
このように。
ネッドは、《素材》を集めるを生業にしている――そう、|集める《、、、、》ことを。
商人であるのだし、もし交渉があったならば、譲ることはやぶさかではないのかもしれないが……。何せ彼の集めてくる《素材》というのが、中々どうして難しいアイテムたちであるからして、今のところ集めるばかりの生業となっている。
例えばそれは何かから欠け落ちた金属片。跳ねるとピカピカと光りだすボール(しかしコレはたまに思い出しては遊ぶうち、光らなくなってしまった)、乾いたインクの内にこびり付いた蓋のないカラーインクの小瓶に、片方しかない木靴、上半身のない石像と台座、塗装の剥げかけたオーナメントetc.
枚挙に暇ないこのような《素材》たちは、彼の|片付いた《、、、、》屋敷の棚に、床に、或いは壁に、ところ狭しと鎮座し、《その時》が来るのを待っているというわけ。
そのような中にあっては、確かに今回のどんぐりは、使い途のありそうなだけ――例えば、棒を差して|玩具《コマ》にする、とか――優秀な《素材》といえるかもしれなかった。
――これも いいもの。
次には気に入った形の小枝を拾って、くるりと回し、夜の森の立てる密やかな音たちを指揮して。
のんびりと散策は続く――木立の抱擁する生の充溢と、それでいて彼に似つかわしい夜の穏やかさの中を。
商人にしてグリモア猟兵たる彼にとって、外の世界に触れるのは初めての事ではないのだが、|ネッド《ガムゴム人》の郷里に生命の兆候のあるものは同族しかいない。それを思えば、ここは確かに彼の為、用意された舞台かもしれなかった。
そして、もうひとりの主役は――。
――
突如、それまでなかった気配を左後方に感じ、続いて左肩に人のぶつかる衝撃。
ネッドは足を止め、左を見た。
「すまない、急患なんだ!」
果たして額に汗を浮かべた《男》がそこにいた。どれ程急いだか、乱れた白衣に聴診器を首に掛け、巨大ながま口のような黒鞄を両手に、その場で駆け足。ネッドに軽く一礼し再び駆けだす――なんと まぁ あわただしい。
釣られて行く先を見れば、|先ほどまでと違い《、、、、、、、、》、カンテラを掲げた棒が不規則に幾本も立つ広場の見えた。
中央には背を向けた《男》からはみ出して見えるほどの大きな切り株があり、先行した《男》は屈みこんでクランケの心音でも確認しているようである。
「あぁ!大丈夫!何も心配要らないよ。先生が必ず|なおして《、、、》やるからな」
《男》は傍らのがま口を開くと、中も見ず手を突っ込み漁り始める。
そこに追いついたネッドは《男》の肩越し、切り株の上を覗き込んで、なるほど、と心の中でだけ頷く。
確か《キャバリア》といっただろうか?あれをうんと小さくしたような、幼児の友達――|玩具《ロボット》が、切り株に寝かされている。
――かんじゃさん オモチャ。
|素材屋《、、、》のネッドは己の鞄をそっと撫でる――なにか たすけを、その淡い想いで。
だが、どうだろう?
|猟兵《、、》たるネッドは、視線を白衣に戻す――高らかに|手術《、、》の開始を宣言している《男》の背に。
彼の宣うに、|玩具《クランケ》は《無機物》という病で《命》が欠乏しており、事態は非常に切迫しているのである。故に、この場での緊急の移植を行う、これは困難な|手術《オペ》となる、とのことである。
――そう、ここは所詮UDCの世界だ。
これから肉を得、外へ至らんとする《男》の為の|荒唐無稽《ゆめ》。
――
それで、《男》が、がま口に突っ込んだ左手を引き上げた時には兎の耳を掴んでおり――吊るされた兎は、キュウともキィとも突かぬ甲高い声をあげ続け、大暴れをしている――メスで耳を切り取り、ひときわ高い鳴き声と鮮血の飛び散る。兎はそのまま再びがま口に落ち戻り、もう声は響かない。
――このようにして用意される《男》の《素材》たち。
それを、都度、|玩具《クランケ》に螺子止めし、テープで貼り付け、尖った部品へカバーかのように刺し込むものだから、周りには血の肉の骨の臓物のと、染み込み、飛び散り、垂れ落ちてまぁ、中央の|玩具《キメラ》のなければ、下手糞が魚でも捌いたかと――実際、左目の為、鮫も登場し、その目は釘打ちされた――切り株の手術台はそんな惨状である。
凄惨と言えば、凄惨。
稚拙と言えば、稚拙。
ネッドの方では、今更、こういった出し物を前に大仰なリアクションをするには、長い年月に多くのものを見すぎた。けれどしっかり臭気までするもので、悪意が空気の形で身の内まで入り込もうとするような、その点は頂けないか。
攻撃性は己に向けられているわけではない、庇うべき誰かも今はいない――引き際を心得ているネッドとしては、かわしてしまいたい|醜悪《ゆめ》。
それでも、《男》の招きはまだ受けとっていないから、踏みとどまる。
心で、裂かれる動物達に詫びながら。
「どうして?何故だ!」
遂に僕に構ってくれ、とでもいうように叫び、《男》が血まみれの手で、その豊かでない髪を掻き毟る。
彼は先ほどから、|玩具《クランケ》の胸のハッチを開き、あらゆる動物のあらゆる部位、およそ入るはずもない量とサイズを押し込んでは心臓マッサージを繰り返すのだが、どうやら、手術の行方の芳しくないようである。
「もし せんせい?」
出番を悟り、ネッドは、ここで始めて《男》に声を掛けた。
飛び上がらんばかりに、いや、実際飛び上がった男はそのまま立って、ネッドへ向き直る。
「今手術中だぞ!誰だ、君は!どうして、ここに……」
先の出会いなどすっかり忘れたらしい《男》は怒鳴り散らかしたかと思うと、今度は値踏みするように、ネッドの頭から足先までをゆっくり眺め始めるから、ネッドは全くいい気分のしない。
――さて どうしよう?
「これ」
鞄から取り出し差し出したのは、先ほど拾った《どんぐり》だ。
「こんなもの!患者に必要なのは、命なんだ!」
失敗続きもあるだろうか。今度は地団太まで踏んで、随分と|慌しく短気な《、、、、、、》|お医者《おとこ》だと呆れかわして、|素材屋《ネッド》は|マイペース《、、、、、》に、その白く透ける指が臙脂に染まるを厭わず――ハッチの中へ《どんぐり》を埋めた。
ぐちゅり、生暖かいそこへ。
「いのちの たね だから」
木の実は、次へ繋げる為の、命の種――これは今思いついたこじつけなのだけど。
けれど、ひとつの《どんぐり》から、次への物語を共に紡げるような、その想像力こそ《男》の主食。
「ほら おきた」
《有機物》にぐちゃぐちゃに犯された《無機物》――《|玩具《クランケ》》が、今や手術のせいで長さの釣りあわなくなってしまった両の腕で、それでもどうにか、半身を起こす。
横の《男》は、と見上げれば、彼はわなわなと体を震わせて。口元を押さえ、それから天を仰いで――どうやら涙を堪えているらしかった。
――ほんとう あわただしい ひと。
「よかった……!」
あれだけの残忍を繰り返した人物と思えぬ感動と安堵の《男》の声。切り株の前に屈み込み、よかったなぁ、と、玩具の肩を摘まみ揺するものだから、兎の耳やら何やら捥げてしまう。その上――。
「あ、口をつけるのを忘れていた!」
――全く、彼は実に有能なお医者である。
あはは、だけど、もう大丈夫だから。耳でも口でも幾らでもつけてあげる、優しくいって、最後に玩具の頭を撫でると立ち上がり、《男》はネッドに向き直った。
「素晴らしい!医療器具とはここまで進歩しているものなのですね!」
血に脂に|滑《ぬめ》る手が、ネッドの手を取り上下にぶんぶんと。《男》はご機嫌に言葉を続ける。
「ここは田舎で、医者は私ひとり。恥ずかしながら新しきを学ぶ前に診療に追われる毎日でして。人工心臓がこれほどまで有用なものとなっているだなんて存じ上げず!」
「それは たいへん ですね」
言葉を返して、ネッドは滑りを頼りに手を引き抜く。《男》の手は、ゼラチンの指の凍るのではと思うほど、|冷たかった《、、、、、》からだ。
「失礼!興奮してしまって!」
非礼を詫び、その……、と今はまだ|命《ねつ》を持たない《男》が切り出す。
「実は、私の診療所がこの先にありましてね、えっと……」
「ネッド」
「あぁ、ネッドさん!こちら私の名刺、といってはなんですが」
《男》が胸ポケットから取り出したのは、紙製の未使用の診察券だ。書かれている文字は不思議と一切読み取れないが、住所や電話番号の書かれているのは|分かる《、、、》。
きた、と《お招き》を前に今度こそネッドも安堵したものの、困ったのは返す名刺など持っていないことだ――仕方ないので、落ちている緑の葉を拾い渡してみる。
「あぁ!あの大手医療機器メーカー!あちらにお勤めで!」
どうやらそれでOK。ネッドの薄々気付いていた通りで、《男》の中で《ガラクタ素材屋》は今、《医療具の営業マン》となっているらしかった。
「折角お越し頂いて。是非このままお話を伺いたいところなのですが、今日はまだ往診が残ってましてね。日を改めて、診療所を訊ねて頂けませんか。パンフレットでもお持ちください。|貴方《、、》のお勧めするものなら前向きに検討させて頂きますよ」
お品物の性能は何せ今回で充分理解できましたから――全身を臙脂に染めた《男》は、その顔に例の笑みを貼り付けている。
――
それが、目覚める直前にネッドのみた、この|B級スプラッシュホラー《こうとうむけい》の終りの光景である。
次いで感じる手の中の感触――血のこびり付き茶色く乾き死んだ|木の葉《めいし》が一枚。
――《男》は確実に|此方《、、》へ近づいてきている。
■ Episode 05 【おみやげ】
成功
🔵🔵🔴
ティモシー・レンツ(サポート)
基本は『ポンコツ占い師』または『本体を偽るヤドリガミ』です。
カミヤドリも魔法のカードも、「Lv依存の枚数」でしか出ません。(基本的に数え間違えて、実際より少なく宣言します)
戦闘についてはそれなりですが、戦闘以外は若干ポンコツ風味です。(本体はLv組で出せない、UCの枚数宣言や集団戦は数え間違える、UCを使わない占いは言わずもがな)
探しものは疑似妖精(UC使用時)か占い(外れる)で頑張りますが、多くの場合は有効活用を思いつけずにマンパワーで探します。
猟兵としての体力は、可もなく不可もなく。
「本体が無事なら再生する」性質を忘れがちのため、普通の人と同じように危険は避けます。
――これが実力!僕の!実力!!
なんて、ね。ガッツポーズを解いて肩をすくめ。
分かっている、ここが《夢》の中であることは。
それでも喉が渇いたと占えば、ぶりっぶりの実がたわわと実る枇杷の木をみつけ、
何か面白いものでもと占えば、たぬきの親子とこんばんわ――あ、持っていた枇杷は分けてあげました。
いつか、遠い記憶のあのひとのよう、まぁ、何を占っても上手くいく。
さてそれでは――胸の内、上機嫌に前置いて、ティモシー・レンツ(ヤドリガミのポンコツ占い師・f15854)は、適当な切り株に腰掛ける。
「次は《お客さん》がどこにいるのか、占」
「あのう、水の夜だけ開く占い屋というのはここでしょうか……?」
……占うまでもなかった。
水晶玉から目を上げた先――、《|お客さん《おとこ》》が此方を見ている。
――
別に水曜の夜といわず、求められればいつだって、途に迷える人に寄り添うべく、占うのだけど。
「えぇ、そうです。今宵は好い夜ですね」
抗ってはいけない、のルールはしっかり覚えていたから、応えるティモシーは堂々としたものである。
「こんばんは、えぇ……あの、いい夜、ですね」
噂の《男》は、身を硬くして立っている。
占いの類をうけるのは初めてか、或いは……一般人の如き佇まいのスーツ姿、今宵の《男》は人けのない夜の木立に怯える気弱な青年の設定?
今も、ほら。木々の枝葉の立てる音に、ぴくり肩を揺らし――いや、違う。
中々結果の伴わぬといえど、ティモシーはきちんと占い師である。
占いは、まず|相談者を見る《、、、、、、》ところから始まるのだ。
彼はせわしなくその目玉だけを動かし、周囲を探っている――《男》は何かを気にしている。
何を?と思うが、今は|考えても《、、、、》分からないだろう。
なんといっても、ここは《男》の夢なのだし、何か《男》側の都合があるのかもしれない。
気には掛かるが、それでも僕ら二人で役者の揃った筈だとティモシーは切り替える。
「では早速。今宵は何を占いましょう。仕事?恋愛?それとも何か失せものでも?」
卓などないので、水晶玉は腿に置き、カードを繰りながら。柔らかく《男》へ声をかけた。
――その《何か》は鳥だとでもいうつもりか。遂には眼球を上に向けていた男は弾かれたようにティモシーへと目線を戻す。そこに、にこりと微笑んでやる。
「あ……、そうですね、仕事、運かな。その、僕、大きなプロジェクトを|任されて《、、、、》いて。結構な期間を掛けたプロジェクトなんです。僕も真面目に取り組んできたつもりだし、自信はある、あるんですけど――」
続けるべき言葉が落ちてはいないだろうかというように、《男》は今度は視線を己の足元へ下げている。
一連の騒動を言っているのだろう。
それは通常誘われる市民の知らない事実の筈だから……。
凄いじゃないですか、とティモシーは彼をリラックスさせるべく言葉を|継い《選ん》だ。
一も二も、中々に気を使わせる《夢》であると思いながら。
「緊張されてます?占いは初めてですか?」
「はい――、あ、いや。|先日《、、》、|プロジェクトの成功祈願《、、、、、、、、、、、》というんでしょうか?そういうものは、したんですけど」
それは占いとは違うかな?――漸く《男》も笑みらしきを浮かべる、あの薄笑いを。
「やることは違いますが、どちらも踏み出す背をそっと押してあげるような、そういうものかもしれません」
ティモシーの返事に感じ入ったよう頷く。それから素早く左右へ視線を動かし、また《何か》を確認してから、《男》は思い切ったように上半身をぐ、と折り、ティモシーへ顔を寄せる。僕、と。
短い沈黙、それから。
「占いっていうのは、《メッセージ》を読み解くものだって」
頷きをひとつ返して、ティモシーはカード束を綺麗な扇型に広げてみせる。
「それじゃあ……お遊び程度に軽く、ね?やってみましょう、まずは」
――
幾度かの試行、そこから受け取るメッセージ。
ティモシーは、軽く混乱している。これを《男》に伝えていいのだろうか?
「どうでしょう?僕の《|仕事運《、、、》》は」
一音一音に力を込めて、ゆっくりと。
聞いてくる《男》の顔は硬く強張り、額に薄く汗まで浮かべている。
これは果たして、結果への不安や期待から来る態度か?
先ほどから、まるで誰かに追われてでもいるかのような態度であることも気に掛かる。
今もそうだ、結果を待ちながらもせわしなく動く眼球は、見てるこちらが酔いそうなほど。
まるで監視カメラの位置を気にする万引き犯――そんな不謹慎な冗談の頭に過り……ストンと落ちた。
「なるほど」
何せ今宵は冴えている。
あのひとのように、綺麗に《筋》が見て取れる。
「ど、どうでしたか?」
《男》の緊張は今やピークに達し、ビジネスバッグを握る手の震えの見えるほど。
「纏めると、《金》という感じでしょうか」
安心して欲しい、と伝えたくて、笑顔で頷くティモシーに、あからさまに《男》は吐息する。
同時に肩の力が抜けた様子の《男》が、それって、と問うてくる。
それきり言葉が止まるから、この口調は緊張関係なしに《男》の癖なのかもしれなかった。
「上手くいくんじゃないですか?プロジェクト。それ自体が儲かるのかもしれないし……。あ!それで貴方が《金一封》がもらえる、とか?」
こういう芝居を見たことがある。
仲睦まじいカップルの片方が店員を呼び止め注文をする――その時、小さな紙片を渡すのだ。
店員がそれを開けてみれば、書かれているのは『たすけて』の四文字。
「もし占いが当たってボーナスが出たら、絶対にまた占いに来て下さいよ?」
リピーターのお客様は大歓迎ですから、と冗談めかして伝えれば、《男》は、ハイと何度も頷いて。
実際の占いの結果と、彼へ伝えた内容は一致してないのだから――結局《夢》でも|占いを外す《、、、、、》ことになるんだなぁ、なんて。それはちょっぴり惜しくはあるのだけれど。
が、占いの外れること、それは彼らの《プロジェクト》が失敗する、という《真》にすべき未来でもあるのだから。
あれ?当たっている?外れている?
くすくすとティモシーは笑う。
何にせよ、だ。今この時は、傍から――自分と彼以外の、《誰かさん》から見れば、自分は彼らの《プロジェクト》やらの背を押したようには|見えた《、、、》だろう。
――
《男》は占いに礼を述べ、代金と共に一枚のチケットを差し出してきた。
「僕の関わっているプロジェクトというのが、その、|映画《、、》でして」
「ほぉ、なるほど。それは時間の掛かるわけですね!」
「ほぼ出来てるんです。それで最終編集の前のフィルムを今度、関係者試写会をする事になっていて。
これ、招待客用のチケットです。先生、もし、お時間あうようでしたら見にこられませんか?」
ありがとうございます、と、チケットを受け取り、書かれているものを読もうとするのだが、読めない。
読めないままに、チケットから顔を上げて、ティモシーは返す。
えぇ、都合のつけば――役者さんやスタッフの皆さんにも紹介してくださいね、と《男》に笑いかけながら。
――その時には教えて欲しい。
貴方を苦しめている、この事件の《黒幕》を。
■ Episode 06 【吉凶は人によりて】
成功
🔵🔵🔴
第2章 冒険
『認識阻害の結界を打破せよ!』
|
POW : ひたすら歩き回って探す
SPD : 違和感や不自然な点を見つける
WIZ : 魔術や魔法で隠された真実を暴く
👑7
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴🔴🔴
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種別『冒険』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
■どなたもどうかお入り下さい、決して御遠慮は要りません。
この場に立つ猟兵達の夢に出、或いは話題とされたネットロアの為の《山猫軒》は、しかし、誰の夢に出たものとも違う姿で、そこに建っている。
事前の写真では陰鬱な林の中の残骸であったそこも、豪奢な洋館の中央に鎮座するならば、木立の中の素敵なゲストハウスといった次第。
全体的には、煉瓦や石材、銅板の作る四角形の組み合わせ。
重厚な四角い外観こそが、かつては社交にでも使われたのだろうかと思わせるような、風格とレトロさを漂わせている。
背は高いものの二階建てと見える屋敷の中央には、お約束の立派な玄関ポーチを備え、二階から見るなら、そこはバルコニーとなる。凝った意匠の柱や柵は、四角い屋敷に変化をつけていて。
変化と言えば、前へせり出した右手側は、その上に小窓の見える緑青の三角屋根を被り、一方の左手側は円筒状と遊びを忘れない造り。塔は3階建てのようだ。
■当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください。
「マ?そんな風なんだ。フォトジェニックじゃん!いいなー」
残ることになるヒカルは興味深げに、先輩達の最初の観察結果を聞いて、|何もないそこ《、、、、、、》へ目をやった。そう、ヒカルには今だここは気の滅入る門扉の残骸の見えるだけ。
「悪ぃすけど、中がどうなってんのか、オレもわかんないっス」
ヒカルがみたのはあくまで、ここに入っていく人たちの姿まで。
しかし、こんな屋敷を見つけたのなら、中を探索、いや見学することに問題ない筈。
《男》を探してみるのもありかもしれない。
誘われた|市民《だれ》もがそうするだろうからだ。
屋敷の中を探して、|暴《あば》いて、彷徨って――《彼》の為の|客席《ホール》へ至るまで。
忘れないで欲しいのは一点だけだ。
――鍵穴から、つねに貴方を伺う《瞳》のあることを。
「まぁ、喰うのはオレらで喰われるのはテメーらってね!ギャハハ!」
努めて明るくヒカルがいう。こういうことは、初めてで、ホントはちょっぴり怖いのだ。
でも、勝つのは絶対先輩たち、そう信じているから。
ガッツポーズをひとつ捧げ、そして猟兵たちの背を見送った。
――
お屋敷内は、旧○○家洋館、のような言葉でイメージされる全てが御座います。
ご自由に探索ください。
貴方の行動はあなたには恩恵がなくても、他の方が進む手助けとなるかもしれません。
恐れず、あちこち歩き回って、触れ回ってくださいませ。
不自然な床の傷と本棚、何故のパズルに、謎の人形群、地下室への入り口etc.
お好きなお屋敷ギミックと解決策回避策をご提示いただいても構いません。
発表ドラゴン、すきすき大好き。
どのような人物として屋敷に招かれたかだけは、お忘れなきようお願い致します。
蒸し暑くなるこれからの季節――アイドルに回ってくるお仕事と言えばそう。
《心霊スポット潜入調査》に決まっている。
確か、そんな夢だった気がする、と先日の夢を回想しながら、音駆螺・鬱詐偽(帰ってきたネガティブアイドル・f25431)は屋敷の入り口に立っていた。
だから《|猟兵《しごと》》ついでに《|アイドル《しごと》》しておこう――つまり、撮影しておこうという気になった。番組のストックになるかもしれない、と。前向きなことだ。
その前向きな仕事ぶりと裏腹、脳裏にはしっかり『お蔵になるかもしれないけどね……』とネガティブな未来予想図が出来上がっているのだけども。
角度はこれでよろしいか、とドローンも浮き上がり、玄関ポーチの下、重厚感ある黒色の大きな木製ドアを背景に、まずはポーズを添えての決め口上。
「世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん、ただいま参上。」
……|入館は一番最後に《、、、、、、、、》、と希望しておいてよかった。
アイドルとは現場や舞台裏を人に見せるべきではないのだから――決して他の猟兵に見られながらはメンタル辛すぎるとかそういうことでは……そういうことである。
番組趣旨を軽く述べまして、悪霊さん、いらっしゃいますー?と覇気のないノック。
それから恐る恐るとドアを引き――。
「お邪魔するわよ?」
ひょこりとドアの隙間から半身差し入れ中を覗けば、よい芳香のお出迎え。ドア幅に合わせて置かれた両脇の台座にそれぞれ花の生けられている。磨き上げられた石タイルの床には、通路の分かるようにだろう。上等そうな絨毯が引かれ、吹き抜けの天井には円筒形の幾つもぶら下がるシャンデリア。壁の絵画に、左右には手すりの彫刻も光沢も見事な階段が見える。
……。
「まぶし、まぶしすぎるわ……こんなお屋敷」
これでは《心霊スポット潜入調査》ではなく、《素敵な御宅訪問》ではないか。
「撮れ高が……撮影やめちゃおうかしら」
煌びやかなエントランスホールを前にして恨み節を全開に、音駆螺は足を踏み入れついで、映像素材に花でも撮っておこうかとドローンを引き連れ脇の台座の花瓶へ近寄ってゆく。
その音駆螺の背でドアの勝手に閉じた瞬間――凄まじい轟音が屋敷中に響き渡った。
続けてオマケにもう一つ――ガチャンと割れる陶器の音。
「ぎゃ!!!わ、わたしじゃない!」
最初の轟音はそう。音駆螺のせいではない。
それは雷鳴であった、音と同時の照明の明滅と窓から入った|雷光《フラッシュ》、それにバケツをひっくり返したような、という形容がぴったりの雨音も伴っての。慌ててドア横の窓に駆け寄る。外は入ってきた鉄門扉も霞むほどの大雨となっているではないか。
入る前まで、蒸し暑いとは言え快晴だったのに?――盛り上がってきた、といえばそうなのだろう。けれど音駆螺は気の重くゆるりと振り返る。
目に入るのは、雷鳴に驚いて押し倒してしまったお高そうな花瓶の破片と、石タイルに広がる水溜まり、溺れる花たち――こちらは音駆螺のせいである。
「うぅ、私ってどうしてこうなのよ?まだ何分も経ってないじゃないの。……ここはプロデューサーにカットしてもらわなきゃ」
が、番組の|視聴者《ファン》は彼女の|不運《これ》をこそ愛しているだろうから、残念だが彼女の望みは叶うまい。
はぁ、と面を下げ溜息をついた時だ――再びの雷鳴と雷光に飛び上がりつつ、|気がついた《、、、、、》。
花々の隙間、雷光に鈍く反射する何か。
陶器の破片と花の茎を避け、塗れたそれを拾い上げる。
――《鍵》だ。
「どこのかしら?」
花瓶の水で塗れたそれをハンカチーフで丁寧に拭きながら音駆螺の考えたことはこうだ――『こういうお金持ち風の家も玄関の鍵のスペアは玄関においておくのかもしれないわ』と。
物は試し、外から鍵の掛かるものかどうかドアを開けようと……開ける……開け……|開かない《、、、、》?
「え?引き戸だったかしら?」
横にスライドさせようとして、動くわけもなく――そも、ほんの数分前だ。確かにこのドアを|引いてはいった《、、、、、、、》。だから外に|押せば開く《、、、、、》筈なのだ、だけど開かない。
開かないどころか――左右のドア板の間に接着剤でも塗られたかと思うほど、僅かにずれることさえしない。
「鍵穴は?」
ドアにつけられた|内《こちら》側の取っ手の金具に、勿論|鍵穴はない《、、、、、》。
対応する解除機構も見当たらぬ。
それでも諦めきれず取っ手の押し引きすること数回。
「……あ。」
そうだった、ここ、UDCの屋敷だったんだわ。
思い出して、その恥ずかしさに取っ手を持つ手にも力が入る――いや、心霊番組にはいいシーンだった、と何とか自分を励まして、改めてエントランスホールへ目を向ける。
あまりに普通のお屋敷で忘れていた。
「ここは、開かないみたい。奥へいってみましょう」
前に回ったドローンに、摘まんだ《鍵》を掲げてみせ。
――この一連の恥ずかしいアレコレ、恨みはらさでおくべきか。
逆恨みだっていいじゃない、UDC打倒の決意を新たにして。
音駆螺は先を行っている仲間たちを追って屋敷の奥へと足を進めるのだった。
■ アット:エントランスホール
音駆螺・鬱詐偽(サポート)
世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん
ただいま参上。
・・・って、どうしてこんな恥ずかしいセリフを言わないといけないのよ。
うう、これも番組の為なのね。
自身の命綱である番組の為、多少の苦難や困難は仕方なく行います。
むしろ持ち前の不運によりおいしい場面を呼び込んでくれるかと思います。
ただし、ネガティブとはいえアイドルですのでマイナスイメージとなる仕事はすべて却下でお願いします。
ユーベルコードや技能はご自由に使わせてください。
どうぞ、当番組のネガティブアイドルをお役立てください。
プロデューサーより
蒸し暑くなるこれからの季節――アイドルに回ってくるお仕事と言えばそう。
《心霊スポット潜入調査》に決まっている。
確か、そんな夢だった気がする、と先日の夢を回想しながら、音駆螺・鬱詐偽(帰ってきたネガティブアイドル・f25431)は屋敷の入り口に立っていた。
だから《|猟兵《しごと》》ついでに《|アイドル《しごと》》しておこう――つまり、撮影しておこうという気になった。番組のストックになるかもしれない、と。前向きなことだ。
その前向きな仕事ぶりと裏腹、脳裏にはしっかり『お蔵になるかもしれないけどね……』とネガティブな未来予想図が出来上がっているのだけども。
角度はこれでよろしいか、とドローンも浮き上がり、玄関ポーチの下、重厚感ある黒色の大きな木製ドアを背景に、まずはポーズを添えての決め口上。
「世界に蔓延る悪を懲らしめるネガティブアイドル鬱詐偽さん、ただいま参上。」
……|入館は一番最後に《、、、、、、、、》、と希望しておいてよかった。
アイドルとは現場や舞台裏を人に見せるべきではないのだから――決して他の猟兵に見られながらはメンタル辛すぎるとかそういうことでは……そういうことである。
番組趣旨を軽く述べまして、悪霊さん、いらっしゃいますー?と覇気のないノック。
それから恐る恐るとドアを引き――。
「お邪魔するわよ?」
ひょこりとドアの隙間から半身差し入れ中を覗けば、よい芳香のお出迎え。ドア幅に合わせて置かれた両脇の台座にそれぞれ花の生けられている。磨き上げられた石タイルの床には、通路の分かるようにだろう。上等そうな絨毯が引かれ、吹き抜けの天井には円筒形の幾つもぶら下がるシャンデリア。壁の絵画に、左右には手すりの彫刻も光沢も見事な階段が見える。
……。
「まぶし、まぶしすぎるわ……こんなお屋敷」
これでは《心霊スポット潜入調査》ではなく、《素敵な御宅訪問》ではないか。
「撮れ高が……撮影やめちゃおうかしら」
煌びやかなエントランスホールを前にして恨み節を全開に、音駆螺は足を踏み入れついで、映像素材に花でも撮っておこうかとドローンを引き連れ脇の台座の花瓶へ近寄ってゆく。
その音駆螺の背でドアの勝手に閉じた瞬間――凄まじい轟音が屋敷中に響き渡った。
続けてオマケにもう一つ――ガチャンと割れる陶器の音。
「ぎゃ!!!わ、わたしじゃない!」
最初の轟音はそう。音駆螺のせいではない。
それは雷鳴であった、音と同時の照明の明滅と窓から入った|雷光《フラッシュ》、それにバケツをひっくり返したような、という形容がぴったりの雨音も伴っての。慌ててドア横の窓に駆け寄る。外は入ってきた鉄門扉も霞むほどの大雨となっているではないか。
入る前まで、蒸し暑いとは言え快晴だったのに?――盛り上がってきた、といえばそうなのだろう。けれど音駆螺は気の重くゆるりと振り返る。
目に入るのは、雷鳴に驚いて押し倒してしまったお高そうな花瓶の破片と、石タイルに広がる水溜まり、溺れる花たち――こちらは音駆螺のせいである。
「うぅ、私ってどうしてこうなのよ?まだ何分も経ってないじゃないの。……ここはプロデューサーにカットしてもらわなきゃ」
が、番組の視聴者ファンは彼女の|不運《これ》をこそ愛しているだろうから、残念だが彼女の望みは叶うまい。
はぁ、と面を下げ溜息をついた時だ――再びの雷鳴と雷光に飛び上がりつつ、|気がついた《、、、、、》。
花々の隙間、雷光に鈍く反射する何か。
陶器の破片と花の茎を避け、塗れたそれを拾い上げる。
――《鍵》だ。
「どこのかしら?」
花瓶の水で塗れたそれをハンカチーフで丁寧に拭きながら音駆螺の考えたことはこうだ――『こういうお金持ち風の家も玄関の鍵のスペアは玄関においておくのかもしれないわ』と。
物は試し、外から鍵の掛かるものかどうかドアを開けようと……開ける……開け……|開かない《、、、、》?
「え?引き戸だったかしら?」
横にスライドさせようとして、動くわけもなく――そも、ほんの数分前だ。確かにこのドアを|引いてはいった《、、、、、、、》。だから外に|押せば開く《、、、、、》筈なのだ、だけど開かない。
開かないどころか――左右のドア板の間に接着剤でも塗られたかと思うほど、僅かにずれることさえしない。
「鍵穴は?」
ドアにつけられた内こちら側の取っ手の金具に、勿論|鍵穴はない《、、、、、》。
対応する解除機構も見当たらぬ。
それでも諦めきれず取っ手の押し引きすること数回。
「……あ」
そうだった、ここ、UDCの屋敷だったんだわ。
思い出して、その恥ずかしさに取っ手を持つ手にも力が入る――いや、心霊番組にはいいシーンだった、と何とか自分を励まして、改めてエントランスホールへ目を向ける。
あまりに普通のお屋敷で忘れていた。
「ここは、開かないみたい。奥へいってみましょう」
前に回ったドローンに、摘まんだ《鍵》を掲げてみせ。
――この一連の恥ずかしいアレコレ、恨みはらさでおくべきか。
逆恨みだっていいじゃない、UDC打倒の決意を新たにして。
音駆螺は先を行っている仲間たちを追って屋敷の奥へと足を進めるのだった。
■ アット:エントランスホール
成功
🔵🔵🔴
ウルザ・ルーナマリア
…あれ、どこいった?
夢心地、いやこれは現実?
とにかく入れと言われた気がするから…えーと御免下さいっていうものだっけ?
入って何となく思い出したのは謎の執事っぽい人間に招かれた子供。
…招かれたってっことはあんまり家探しとかはよくない気が…なーんて。
好奇心に従うのが子供!
こーんな見たこともない建物、大人もいないなら探ってくれって言ってるようなもんだし!
歩き回ってなんか傷とか変な赤黒いシミとか追いかけて壁とかベタベタ触ったり。
…なんか手触りが変だなこの柱?
塗りたて…何か埋まってる?
こういう時はそっと見なかったことに…いや掘り起こす。
…誘導されてる気がするけどまあいいや。せーのっ!
※アドリブ絡み等お任せ
――いっちばんエライオトナだって、こんな豪華な家には住んでいなかったかも。
郷里の継ぎはぎの町を何とはなし思い出しながら、ウルザ・ルーナマリア(月に泳ぐ白き獣・f39111)は、物珍しげに屋敷の中を探検、もとい、探索中だ。夢の中では、アトリエへ招待するという話であったが、ここは何か作っている場所のようには思えない――いくつか部屋を覗いたけれど、ベッドがあってクローゼットがあって、そんなハンコを押したようにそっくりの部屋があるばかりだから。
そんな訳で部屋を覗くのにも飽き、今は廊下をウロウロと彷徨っている。
アトリエでなかったお詫びではあるまいが、壁には時折、額縁も凝った大小の絵画など掛けられ、また、大柄な彼の肩までのサイズもある大きな壷や彫像なども廊下に置かれていたりする。それに導かれるように、屋敷を巡っている最中だ。
一つ一つ立ち止まっては『これってなんだろう?意味があるのかな?』などと、つい考えてしまうのは、多少、先日の|夢見が悪かった《、、、、、、、》からかもしれない。
そこに、先ほどからの急な雷雨――窓からの雷光に照らされた男性の彫像。光の作る強い影が、彫像の表情を薄笑いに歪ませてみせるのもきっと。
ふるり、と頭を振って、いやな|想像《もの》は追い出して。
年頃の冒険心と想像力。それと同時に、猟兵としての力量も備えているのがウルザである。
絵画や彫像に丁寧に向き合い観察していたからこそ、気がついた――汚れ、否、染みというべきか。どうやら拭われたようだが、それでも残る赤黒い……。
今度は想像力でない。僅か十二年の過去、そして今でも。その色が身近であったから、見当がつく。
先に入った一般人もいるという話だった――果たして、ここで襲われたか、自ら絶望したか、或いは?
壁の先を見遣れば、壁に手を当て進んだのか、途切れ途切れ続くソレを確認でき、そのようにして追った先の柱。
壁の出っ張りのような柱は、ここまでずっとパターンとしてあったのだけれど、コレは何か――違和感はまだ気付きに至らず、ウルザはじぃと柱をみる。来た方から見、そのまま、とことこ、柱の反対側まで。
「なんだろ?」
見て分からないなら、触ってみようか、とその大きな手を伸ばしかけ――逡巡する。
《敵はすごく怖がり》と聞いたのを思い出したのだ。
けれど、結局、手を柱の側面へ押し付けた。
猟兵でなくたって、なんだろうと思えば手を伸ばすくらい、するよね?と。
とてとて、の後は、ぺたぺた。その様子だけならなんとも愛らしいこと。
「柔らかい、ここ」
ズレもなく綺麗に壁紙の張られた柱のごく小さい一部――それはポストの投函口程度のサイズだが、ウルズにとっては、ただ小さな長方形――が、まるでその部分だけ壁紙の裏の塗りたてであるかのような、奇妙な柔らかさを肉球に伝えている。手を外しよくよく見れば僅かな撓みというか、うっすら膨らみを感じる。違和感の正体はこれであった。
最早逡巡はない。それでも野蛮ではないので、人差し指の爪を器用に、ふやけた部分に繰り返し差し入れして、切り込みを入れていき。
……少し、覚悟を決めて、最後の一刺し。
内容物に押されて壁紙の破れてべろりと捲れ、予想の通りの|臙脂色《えきたい》が、どぷりどろりと柱を垂れ落ちていく。それがペンキではないことは、鋭敏な鼻を刺激する臭気が教えてくれた。
順路図代わりの壁の|血痕《しみ》は、少し時間の経っていたようであったのに、これはまるで今、人の腹に爪を立てたようで。
「悪趣味っていうんだ、こういうの」
知っているんだぞと、むぅと膨れた瞬間、誰かのフッと笑ったような気がして振り返る。背面には客室の|ドア《、、》のあるだけだ。
再び頭を振って、|それ《、、》を追い出して、ウルザは腰を屈め、|ポスト《、、、》の中を覗きみる。そんなに深くなく、透明の変な袋――UDC世界の住人ならば、冷凍からそのままレンジに放り込めたり、水やお湯につけても大丈夫、というタイプのビニール袋とみるだろう――がそこにあった。
手を汚さぬよう、爪をかけて、まだ濡れるそこからずるりと引き出す。
中には畳まれた紙片がみえ、袋を開いてソレをつまみ出し……袋は先ほどのドア方向にぽいっと投げおいた。彼は誇り高いので、先の失礼を許さないことを表明しておく。居たかも定かでない何かに、心で舌を出してから、改めて手に入れた紙片に向き直る。
書かれているのは、幾つも四角の並ぶ中の一つに打たれた点、そして《英数交じりの6桁》。
困ったな、とウルザはこめかみ辺りを掻く。だって、きっとこの四角はハンコの部屋たちをいっているに違いないのだ。それはこの屋敷に沢山あって。
「これ、どこなんだ?」
あまりに雑な地図はそのうちのどこを指しているのか全く分からないのである。
紙から目を上げれば、そこにぽかりと空いた柱の穴。
肩をすくめ、再びウルザは廊下を彷徨うとする。
さがそう、と決める。|猟兵《なかま》を――今度は一人ぼっちでここに来たわけではないのだ
屋敷を見て回っている|猟兵《なかま》に会えたら、その人に聞いてみよう。今更、部屋を一から見て回るよりきっといいに違いない。それに、飾ってある《|芸術《アート》》のことも、聞いてみようかな?どういう意味と思うって――浮かんだ名案は心強く、笑みも零れる。
そうして、ウルザは再び廊下を歩き始めた。
満たされているその背中を、ぽかりと空いた柱の穴が見つめている――。
■アット ホールウェイ
成功
🔵🔵🔴
岩社・サラ(サポート)
「何があるか分かりませんからね。慎重に進みましょう」
傭兵としての戦闘技術と一族に伝わる土魔法を組み合わせて戦う冷静な性格の女性。
口調はですます調。必要以上に会話はしない。
依頼に関しては負傷を厭わず可能な限り全力を尽くすが、公序良俗に反する行為は行わない。
仲間との連携ができる場面では積極的に連携を行う。
行動
行動時は危険がないかを確認しながらサバイバル知識を生かして進みます。
複数の場所を探索をする場合は岩蜥蜴を呼び出し周囲の偵察。
力仕事が必要ならゴーレム(アイテム)を召喚して対処。
攻撃する必要がある場合はユーベルコードを適時使用。武装は状況に応じたものを使います
書かれていない部分はおまかせします。
――岩蛇達を|使役《つか》えるなら。
もう少し話は早いのですが、と、ついつい効率に思いを致すのは、無駄の許されない戦場を生きる場とする傭兵の|性《さが》だろうか。それでも、此度の探索はただ普通の人物として振舞わねばならない。
岩社・サラ(岩石を操る傭兵・f31741)は、敢えて廊下のカーペットの中央を歩きながら――つまり、すっかり身についてしまっているクリアリングの片鱗など見せぬように――それでも、単なる興味深げを装って、目だけはしっかと邸宅内を探っていく。
見られるばかりではない、此方にだって目はついている。
屋敷正面から言えば左手側、円筒側に向かった彼女は、まずは小さなラウンジへと足を踏み入れることとなる。円筒にあわせ、庭側の壁に背丈より大きな窓が何枚と嵌められたそこ。庭を見ながらお茶を楽しむような習慣とは距離を置く暮らしの岩社ではあるが、丁寧に整えられた庭はこの屋敷へ来た際に好感をもったポイントであった。心通わせるものは、無骨な土くれ岩石といえど、土が、そしてそこに根を張り芽吹くものが大事にされている光景は嫌いではない。そういうものの為に、戦っているのだから。
残念なのは。今現在は急な大雨がその芝生や花壇、庭木の上を跳ね返り|煙《けぶ》って、窓から外の様子はしっかとは伺えないこと?――いや、ここが夢と現の狭間の屋敷であることだろう。
窓から目を離し、岩社は軽く頭を振る。
気分を切り替え、改めてこの円筒を確認すれば二階までは吹き抜けとなり、内壁に沿って螺旋階段が三階へと続いている。
玄関ホールと同タイプの白い筒のシャンデリアから届く柔らかいオレンジの光、それに似合う暖色で整えられた室内を、螺旋階段の黒いアイアンの手すりが引き締めている。
慣れ親しんだ温度。金属の、手すりのその冷たさが、岩社には心地よい。温もりきらぬうちに、先へ。そのようにして、岩社は三階のドアへとたどり着く。特にプレートのようなものはない。雨音が激しく、ドアへ耳をつけねば中の物音は聞こえまいと岩社は判断する。しかし、今そのような行動は避けるべきだろう。普通にノックしてみる。
返る音はない。
ドアノブに手を掛け回す。
回った――ここは開いている。
そこは小さな書斎であった。明り取りの窓の下には、品の良い上等なデスクと椅子が用意してある。
その卓上にはメモ類の散乱し、更に磁気テープ用のデッキと旧型の箱のような形のテレビ――ブラウン管テレビも用意してあり、これまでの屋敷の雰囲気から一転、急に人の気配を――生活感を醸し出している。
この屋敷に生活感?可笑しな話だ。ここが誰のどういう目的の邸宅であるか、岩社は忘れない。卓上の物も気になるが……まずは本棚から。どういう悪戯があるものか、と沈着のままに、まずは棚に並ぶ本たちの背表紙を確認して回る。
――……驚かせる、という観点では相手の勝ちかもしれませんね。
しばし、背表紙たちを見て回り。うちの一冊を実際に手に取って中を改めてみるが、表紙の通り。驚かせる、驚かされる、それよりは、拍子抜け、という方が適切かもしれない。
なんと言うか、先に見た夢である、とか――苦味の残る内容であったのであまり思い出したくはない――文字媒体であれ、グロテスクさといえばいいだろうか。なんだか意味深長にみえる物語であるとか、怪しげな宗教めいた蔵書であるとか。邪神に類するものの館なのだから兎に角、そういった類にうっすら構えていた岩社を誰も責められまい。
しかし予想に反し、並ぶのは映画に関する評論や、製作の技術、心得、ハウツー本、名監督の回顧録、それから多分、映画なのだろう。磁気テープ用のデッキしかないのに、光学メディアの入ったケースたちも綺麗に並んでいる。
そうでない本はというと、|マーケティング《、、、、、、、》や営業に関する本。
一体これからどんなメッセージを見て、屋敷の奥へ至れというのか。
「《あの男》は、映画が趣味なんでしょうか……」
思わず言葉も漏れた。本棚から得る物はないと判断し、机に目をやる。散らばるメモは、どうやら創作メモのようである。……趣味ではなく、実際に映画を作ろうとした?
このネットロアが、《男》が、一体何を為したいものか、冷静な岩社の頭にもクエスチョンの浮かぶばかりだ。
ただ、一点。正直申して、全てのアイディアが……つまらない。
どこかで見たようであったり、聞いたようであったり。それは|製作者《あのおとこ》にも自覚があるのか、横線で消されたものも多い。メモに日付はないが、総合すると、男はどうやら、内容ではなく売り方で勝負しようとシフトチェンジしていったようにも読める。この、勝負を避けた点も実につまらない人物、いや、UDCである、と岩社は結論する。
「……変わった方のようですね」
再び言葉を零した時――外の雨の少しだけ和らぐのが見えた。
明確に根拠などないのに、しかしその天候の変化で、己の一連が監視されていたのだ、と岩社は|理解した《、、、、》。
もし、馬鹿正直に《つまらない》と漏らしていたら?
どうやら、世を驚かせるアイディアを望み、結局それを生み出せなかった様子の男は《変わった》という評を気に入ったようであるからよかったものの。ここが普通の館ではないことは重々心に刻んでいたというのに、簡単に言葉を漏らすなど、と忸怩たる思いで、しかしもう失態は晒せぬとせめてメモを睨む。
ついで、は、と短く息を吐く。
結局のところ、相手が誰であれ見下さない彼女の冷静と善性の気質が言葉を選ばせ、彼女自身を救ったのだから気に病む必要はないのだけれど、今それを彼女に伝えられる存在は周りに居なくて。
だから、気持ちを切り替えるための、小さな儀式を経て。
向き直る。
最後に残った、デッキとテレビだ。
どうやら、カセットは入っている。が、再生を選ぶと、かちりと音のして止まる。
一拍置いて、あぁ最近もこのような話があったと思いながら、《巻き戻し》を選べば、映像の中の《誰か》がコンクリート壁の暗い室内で前を向いたまま後退し――逆回しなので――梯子階段を上がって鍵を弄りカーペットが掛けられ。
――なるほど、|その部屋《、、、、》に《地下室》があるのですね。
そのまま最初まで巻き戻せば、手足しか写らぬ《誰か》は玄関脇の花瓶に何かを置いた――否、ここがスタート地点なのだからそこから《何か》を手に取った、が正しい。
口に慣れた『了解』の言葉は、しかし今度は胸の内に留め。
次に向かうべき場所を把握して、岩社は書斎を後にする。
そうして再び、彼女が階下のラウンジの柔らかいラグを踏んだその時――書斎では、かちゃりと鍵の下りる音がした。
■アット ライブラリ
成功
🔵🔵🔴
レム・ワンダーフォー
紫践マスターにおまかせします。かっこいいレム・ワンダーフォーをお願いします!
レムちゃん、自分でもどういうキャラか把握しきれてないからぶん投げるねー☆
シナリオ的な都合もあるし大失敗判定でも問題なしだZe!
こういうプレイングが迷惑だったらごーめんねー。
多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!
見つけた引き出しやクローゼットなんかはぜーんぶ開けて。
中のものを持ち帰り、みなで交換し、或いは分かち合う――これすなわち|人類遺跡《じもと》の流儀なり。
そんな習性の身についた|レム・ワンダーフォー《ガムゴム人》(レムチャンだZE☆👊🏻 ᷇ᵕ ᷆ )・f41690)にとって、ここまで状態のよい建造物を巡るのは初めての経験である。しかも自由に巡って良いという。家捜しが楽しくて楽しくて堪らない。
ご機嫌に鼻歌を歌い、廊下に置かれた小さな棚、その上のテーブルライトの傘をクルリ回したりして。
「これもイイじゃん☆」
次の棚上、ランプ横に置かれた手のひらサイズの観葉植物の鉢に目を留める。
「お土産おみやげ♪」
しっかと、鉢を手に持って、探索は続く。
果たしてこの《狭間の館》から、物の持ち出せるかわからないのだけれど、ホクホク顔のレムはすっかりそのつもり。肩掛けバッグには、彼女の審美眼に叶った色々が入れられている。
「なんでもあるじゃん!さっすが《先生》の家ー!」
《先生》……そう、夢のこと。レムは夢でもこの調子であった。静寂と死の街と違う、生命に満ちた林に大興奮。さんざとはしゃいで、アレは何、これは何と聞き続け、最終的に折れたのは《男》である。結果、《生物の先生とゆく夜の森林ツアー》のようなことになったのだけれど、勿論、彼女はそれを知る由もなく――。
時折の雷鳴には、これまた急いで近くの窓へ駆け寄り、手をあて外を観察する。
外が派手に光るのはテンションが上がるし、しんしんと積もる雪と違い窓を打つ、雨の音すら面白い。
――世界は彩りと音に満ちていたのだ、こんなにも。
窓に映る自分に、ふと、同族の友人を思い出し、『アイツ……怖い話っていってたの、なんだったんだゼ?』と小首を捻る。が、すぐに次に目に入ったものへの興味でそれを忘れて、|新人猟兵《レム》の探索は続く。
そうして歩いた先。廊下の突き当たりにその扉はあった。これまでより大きめの二枚扉――これは何かが期待出来そうな……!
「やっほ♪ レムちゃんだよー!」
元気な自己紹介と共に扉を開ければ……、勿論、誰も居ないのである。そんなことはお構いなし、中に入れば、これまでと違うコンクリートの床に、水を流せる側溝が中央を通り。天井には立派なフード、壁は金属板が張られ、そこに据え付けられたレールにぶら下がるのは、レードルの類や小鍋のような調理器具。
つまりここは《厨房》であった。
「……おなか空いたかもー!」
こういう部屋に来ると、途端にそんな気分になるもので。これまた立派な調理台の間を抜けて、壁際、業務用の大型冷蔵庫を遠慮なく開ければ……空である。
嘘じゃん!といいながら、その横、同型のものの扉――こちらは漏れ出した冷気からして冷凍庫――を開けても、やはり空。がくりと肩を落とし、つまんなーい!としっかり声に出してから……、|思い出した《、、、、、》。
「レムちゃんも探すかー」
そう、探し物があったのだった――食べ物ではなくて。
途中で出会った|猟兵《おなかま》が言っていた。《鍵》や《ライト》を見つけ行くべきは分かったのだけれど、最後の扉が開かないのだと。
それで皆、家捜しに戻ってきたそうで――ここは|レムちゃん《新兵》もいいトコ見せたい!と、請け負い走り出してからの……一連である。
――正直に。
お土産物色に夢中で、今の今まで忘れていた。それは事実。認めざるを得ない。だが。
『思い出したから、レムちゃん偉いゼ☆』
心の内で自分を褒める――|自己肯定《これ》が出来るのは実際、結構なことで大事だ。
引き出しなど、どんどんと開けていく。そうすれば、場にふさわしい調味料であったり、パスタなどの乾物はあるのだ――こうなるとさっき冷蔵庫が空だったことが少しイラッ☆とする。
いやいや、そうではなくて。
軽く頭を振って《目的物》を思い、手を動かす。
確か、投函口というやつがあったという話で。それが何か、書置きはしても手紙の文化の薄い世界の出身たるレムにはピンとこなかったが、《紙類》を集めて検討するといっていた仲間たちの言葉を|標《しるべ》に《厨房》でソレを捜す。
だって、郷里では建物とそこから見つかるものがいつも紐づいているわけではない――|時の止まった街《いせき》では過去の誰かが物を動かした痕跡など幾らでもあって、だからレムは|厨房で紙を探す違和感《、、、、、、、、、、》など全く感じていないのだ。
そして、砂糖か塩か分からぬが、金属製のポッドの、その中身を調理台にぶちまけてやろうと持ち上げたその時だ。
――カチ、カチカチカチ……。
背後で小さな、何か硬質の物同士の小刻みに打ち付けあうような音がした。振り返れば、コンロに寸胴が掛かっている。
先ほどの音は、鍋と蓋の立てた音であろうということは分かる、分かったが――。
「あったっけ?こんなモン……」
部屋に入ってからの事を思い返してみるが、どうにもコンロ周りのことが|思いだせない《、、、、、、》。
こんな目立つものを見逃すとは。
「むぅ、不覚っ」
蓋の動く音のしたのだから、火がついているのかとコンロを見るがついていないし、鍋から熱気も感じない。そこを、まぁいいや、の軽さで蓋を開けられるのがレムの良さだろう。
「みーつけたっ☆」
鍋を覗き込んだレムの顔に、にぃと得意げな笑みが浮かぶ。
煮込まれていた?煮詰めていた?ともあれ、入れられていたのは、《紙束》。
鍋に、紙束。……繰り返しとなるが、遺跡暮らしの彼女の経験上、そんなことは全然ありうることであって。
「レムちゃん有能!どれどれー?」
疑問のカケラも持たず、一枚を取り出して広げれば、何やら色々と条項なるものが並び、甲だ乙だと、繰り返されている。
「マネジメント契約……?」
――さて、何を以って《世界》は彼女を猟兵と選んだか、彼女のポジティブさだけが理由ではあるまい。資料の類を整理したり、読み解くことは彼女の得意とするところだ。
しかしまぁ、随分と一方的で不平等な。こんな内容にサインをする者がいるだろうか。
そんな風に|正しく《、、、》記載の内容を読み取ってから、残る紙束にも目を通すが、全て同じ内容である。
空欄のサイン欄が、なんだか、やたらと目を奪う。
「……いま分かるのはココまでかなー」
紙から面を引き剥がすようにして、レムは自分に言い聞かせる。
皆の探している紙であるかまでは、流石に判断がつかない。だから――。
見つけた物は、みなで交換し、或いは分かち合う――これすなわち|人類遺跡《じもと》の流儀であるからして。
空欄の不安も仲間と共にあたるなら、きっと大丈夫!
|新人猟兵《レム》は最後のピースを手に、|猟兵《なかま》たちの元へ、今、元気よく駆け出した。
■アット キッチン
苦戦
🔵🔴🔴
第3章 ボス戦
『UDC-Producer』
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POW : ビビっと来た! キミ邪神(アイドル)にならない?
演説や説得を行い、同意した全ての対象(非戦闘員も含む)に、対象の戦闘力を増加する【邪神(アイドル)の力】を与える。
SPD : んー、何かそれは求めてる感じと違うんだよねぇ!
対象のユーベルコードの弱点を指摘し、実際に実証してみせると、【リテイクのカンペ】が出現してそれを180秒封じる。
WIZ : よーし、ファン感謝祭開始ってコトで!
レベル×1体の【邪神の信奉者(アイドルのファン)】を召喚する。[邪神の信奉者(アイドルのファン)]は【推しと同】属性の戦闘能力を持ち、十分な時間があれば城や街を築く。
👑11
🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔵🔴🔴🔴
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種別『ボス戦』のルール
記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。
大成功 | 🔵🔵🔵 |
成功 | 🔵🔵🔴 |
苦戦 | 🔵🔴🔴 |
失敗 | 🔴🔴🔴 |
大失敗 | [評価なし] |
👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。
※このボスの宿敵主は
「💠二四八・タラミ」です。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。
――駄目だ!駄目だ!駄目だ!こんなゴミ!
部屋に篭り続け、今や目を隠すほどに長く伸びた髪。それを掻き毟って。それから、今までペンを走らせていた目の前のメモ帳をぐしゃりと丸め、デスクチェアを跳ねそうな勢いでクルと回すと、苛立ちのままに投げつける――頭髪は少し薄く、太い眉は繋がっているよう、平坦な顔。感情の見えない黒い瞳、薄笑いを浮かべた《男》に、だ。
これまで、色々を試してきた。災害、宗教、呪物、あれこれとベースにして。新人のオレが、|邪神《こさん》どもを出し抜くには、勿論一捻りが必要だ。オレの閃きを加えたそれらは素晴らしい|邪神《さくひん》となって世を驚かせ、蹂躙しておかしくなかったはずだ。
だが現実はどうだ?あの、UDC職員とかいうふざけた奴ら。
――いつもこうなら楽なのに。
――素直なヤツで助かった。
オレの天才的閃きを前に舐めた事ばかり抜かして、作品たちを奪っていく。
しかし、ソレより何より一番むかつくのは。
射殺さんばかりの目線を《男》に遣り、けれど、殺すことはせずに、デスクに向き直ると、どんと激しい音を立てて両肘をつき、再び髪を掻き毟る。
ムカついてその場にいた職員だとかいう|人間《ゴミ》どもを、二、三十人ほどグチャグチャと混ぜ込んだだけなのだ、《この男》は。
何の思想も美学もなくて、オレのアイディアなんて一片も入っていなくて――ただそれだけのゴミの塊。
興味もなくて部屋の隅に捨て置いた。
素材が人のコイツは、恋しさゆえか勝手に人の夢を渡り歩き。
……結果、一番バズりやがったのだ。とんでもなく力をつけた、いつの間にか。
「じゃあ何か!?オレのアイディアなんかいらねぇっていうのかよ!おい!」
叫び問うても、傍らにたつ《この男》は何も応えない。
「くそっ!」
それでも――それでも、この好機は逃せなかった。
古参どものいくつかは、《猟兵》に食われたり、他所の世界の《戦争》だかに出かけて帰ってこなかった。空席が出たのだ、まずはその席を奪うべきだ。それから、ソイツの|領域《シマ》の|人間《ゴミ》を食わせて、……でっぷり肥えるまでね。力をつけたら、次は猟兵、それに邪神ども……。
――《この男》に飲み込ませる、|全て《、、》を、だ。
「そう、オレは|見えてる《、、、、》から」
ふ、ふふ、と思わず笑いが漏れる。導いてやらないと。《|この男《おまえ》》には思想も美学もないからね、と、立ち上がり、その背を優しくポンポンと叩く。
「期待してるよ、お前には」
優しく声を掛けてやっているというのに、《男》の表情に一切の変化はない。
……オイオイ、リラックスしていこうぜ?
「なーに心配するなよ。どれだけつまらない|人間《モブ》共でも、絞れば一滴位、アイディアの種みたいなものにはなるって分かったんだから。そのままじゃゴミだけどね?
このオレの|見る目《、、、》をもってして、選んで組み立ててやれば|一流《、、》にもなるさ」
そうとも、何を気に病む必要がある。オレはプロデューサーの方が向いていたんだ。
直接自分でアイディアを出すなんて、泥臭い下請けみたいな作業、そもそも、このオレには似合ってなかった。
一流敏腕プロデューサー!今や押しも押されもせぬ《この男》を育てたのだから。
その証拠に、ほら。
――机の上に|数枚の紙《、、、、》が突如出現する。
「評判が広がるのは早いねぇー。早速、次のエントリーも届いたぞ。
アメフト部とチアリーダーみたいなヤツばっかりじゃ詰まらないからね。今回はちょっとした課題をクリアした人を雇うことにしたんだ。ホラ、愚図の次は、ちっと賢いヤツが潰されちゃうってさ、|盛り上がる《ぜつぼう》だろぉ~?」
手にした書類に目を落とし、その場面を想像し、うっとりと。
――さぁて、どうやって喰おうか?
――
これが彼らの物語の終幕となるか、プロローグとなるか。
そんなこんなで、ボス《プロデューサー》との戦闘でございます。
一章、二章と有難うございました。
OPの通り《プロデューサー》はまだ騙されているので皆さんを一般人と思っています。
能力を使用せずココまでおつかれさまでした。ババンと名乗り上げて、ガツンとやったってクダサイ。
プロデューサーは能力の通りで、自分からの直接攻撃は致しません。
・POW:プロデューサーの鼓舞、指示にて《男》が行う
・SPD:プロデューサーの援護。
・WIZ:《男の夢》に囚われ既に食われた為に操作可能となった
《男》の信者:一般人(故人)召喚で男の援護 / 攻撃をさせる。
このようにイメージして頂けましたら。
※だいじ※
撃破すべきは《プロデューサー》です。
・《男》を先に撃破は可能です。
・プロデューサーを先に撃破した場合は、源泉を失った《男》も消滅します。
《男》や《信者》の邪魔を掻い潜って、どうにか攻撃を届けてくださいませ。
宜しくお願い致します。
八重咲・風鈴
お父さん、お願いなぁ。と守護龍(お父さん)にお願いして《男》の相手をしてもらい、その間にプロデューサーを攻撃しようかなぁ。
《男》の方はお父さんが引き付けてくれている間は大丈夫だろうしなぁ。
プロデューサーに対してなぎ払いからの2回攻撃。
向こうから攻撃が来る場合は受け流しとオーラ防御で防ぐなぁ。
もう、悪い夢は終わりにしようなぁ
|あの夜《、、、》と変わらぬ|色《こころ》のない目。
八重咲・風鈴(旅する羽衣人・f43372)は、己に向けられた男の視線をただ静かに見つめ返す。
しかし此度向き合うのは、昼のように一帯を照らす強い人工照明の下――高い天井、遠い壁。壁には夜の林を思わせる絵や、豪奢なシャンデリアのエントランスホールの写真等の張られた巨大なボードが幾枚も立てかけられ、その前に小道具大道具と呼べそうなものも寄せられている。
入ってきたはずの扉は、きっともう背後にはないのだろう。
|撮影用スタジオ《、、、、、、、》の中央に、八重咲は、今、立っている。
「選考会お疲れサマっー!」
動くか――ほんの少し|月下ノ白藤《なぎなた》の黒色の柄を握る手に力を込めるのと同時、明るい声色が張り詰めた空気をぶち壊した。見れば《男》の背後から、染めたと思しき金髪を揺らしてひょい、と顔を覗かせる《存在》がいる。
唐突な登場の、軽薄な金髪男は《男》の気配も霞むほどの尋常ならざる|圧《チカラ》を纏い、一瞬にして場を支配する。
そして《|猟兵《やえざき》》は知るのだ――真に倒すべき相手。
「僕がこの|製作委員会《、、、、、》の《プロデューサー》でね、ヨロシクぅ!」
いいねぇ、それ。小道具。気が利くじゃん!――ちらり八重咲の薙刀に目をやり《プロデューサー》はサムズアップ、次いでもう片手で持っていた書類に目を落とす。頁を捲ったり戻したりと忙しい。
「いよいよ、《この男》もワールドワイドに|顕現《てんかい》していくってことでぇ。その前に……|ファン感謝祭《、、、、、、》も兼ねてね!」
《プロデューサー》がいった途端の出来事だ。
八重咲と彼らの間のコンクリートの床がまるで水のように、揺らぎ、沸き立ち、次々と餅でも伸ばすように。そうして持ち上がったグレーが、共通項の見出せぬ、様々の老若男女へと姿をかえてゆく。
――|チカラある言葉《ユーベルコード》。
その|信者《だれ》もが、《男》と同じ薄笑いを顔に浮かべて。
思いがけず相手の数の増えたことに、僅かに身を揺らし、頭の中で即座に対応を練り始める八重咲に対して、発動させたことすら気付いてないのか興味もないか、変わらず書類をばさばさとやりながら、《プロデューサー》の言葉は続く。
「君にはリハ相手として来てもらったわけだけどぉ。いくつかパターンを試してさ。|信者《ファン》の反応も参考にデビューの|方向性《、、、》の最終決定をしたい、と今日はそういう|企画《イベント》なんだよね!」
ここまでを語りきってから漸く、《プロデューサー》が書面から面を上げ、八重咲へと視線を向けた。
薄笑いの群像たちの中にあって、釣りあがるその口角は余りに禍々しく。
反して、くるりと丸め筒となった紙束でポンッと手を打つ、余りに軽いその音。
「それじゃ……《TAKE1》といこうか」
――
TAKE1の言葉と同時、体を置き去りにして《男》の首がぐぅと上に伸び始める。
伸びる首に合わせ肥大化する頭部、そのサイズは風船の例えを越え、見る間にアドバルーンの如くに。
「いいねぇ、アッサリ系!パクッと《|丸呑み《、、、》》!そういう|怪異《パターン》ね!」
はしゃぐ《プロデューサー》は、肥大化した頭部に隠れ、確認できるのは声のみである。
相対するは、ここまで沈黙を貫いた八重咲。
手にした長物を構えることもなく立ちつくす彼に、|二度目《、、、》の丸呑みを狙い、趣味の悪い|男の頭部《フレイル》は、振り下ろされた。
ビュ、と空気を切る頭部の|音《スピード》と、それは対照的な――。
「お父さん、お願いなぁ」
はんなり、温かい八重咲の言の葉。
「何っ!?」
まるで車の衝突音、ドンともガツンともいえぬ鈍い音と共に|頭《かしら》同士をぶつけて。
《男》を打ち遣ったのは――八重咲を守らんと彼を周りを螺旋に構え、今、ゆらり|空《うえ》へ登る彼の守護龍だ。
「はぁ!?なんだ、こりゃ……なん……騙しやがったな!貴様!!」
思いがけぬ守護龍からの一打に高く打ち上げられた《男》の頭。それで見えた。
ここにきて、やっと八重咲が何者かを知り、わなわなと身を震わせる《プロデューサー》。ぐしゃりと筒を握りつぶすと、叫びあげる。
「クソがっ!!貴様、《猟兵》かっ!」
――応えて、りりん、と気高く澄んだ鈴の音が響く。
すらり、右手を滑らせ、下げていた突先を持ち上げる八重咲の、
「あんまりな言い様――勝手に勘違いしておいて」
本心なのか挑発なのか判然としない、のんびりとした口調と隙ない中段の構え。
「ふざけるな!言え!そういうことは!書けよ、エントリーシートにぃ!!」
それにはもう応えずに八重咲が駆け出すと同時、《プロデューサー》は、地団駄踏んで紙筒を振り回し、お前ら、バリケードだ!!と|信者《ファン》に指示を出す。
《男》と同じように、首を伸ばし頭を風船の如く、わらわらと男の前に立ち……、幾人かはバリケードの指示のためか|小道具大道具《もの》を取りにと壁際に向け離脱するのが見える。
さて、敵対する二人がこの一戦で唯一心を同じくした場面。駆ける八重咲の、下がる《プロデューサー》の、二人の目が、《男》と守護龍の動向を確認する一瞬。
《男》は、その長く伸ばした首が仇となった。守護龍と《男》で、縄でも綯うように、また解く様に、戻る戻らせぬと攻防が続く。動く民話か神社の縁起絵巻といった次第で、どちらも己の主へ向かえる状態にない。
父の作った好機――それを認め、八重咲は駆ける、詰める。
《男》と同じチカラを手に入れた《信者》たちの、フレイルと化した頭を、柄となる胴を、藤の絵を沿い滑らすようにその長い柄で受け流し、或いは白紫色の面で打ち据えて。また、時に八重咲も父に似た軽やさをもって、よろめく彼らを足場に跳びかわす。
容赦はしない、一切。それでも……。
ごめんなぁ、とは胸の内に――今はまだ言い訳にすぎないその言葉を。
遅くなった、気付いてあげられぬまま、喰われた彼らへの思いを。
必ず|これ《、、》を打ち倒すという決意に変えて、最後の一人をなぎ払う。
――
自分の脇に飛ばされた《信者》を目の当たりに、《プロデューサー》に取れる行動は他にあったはずだった、けれど彼に実際に出来たのは。
すん、と鼻を鳴らす。
――突先より先に届く、季節はずれのその梅の香に。
それでも一撃目、紙束と思えぬ硬質の筒が薙刀の面を打ち流す、辛うじて。
しかし二撃目、払われたそれすら、振りかぶる為であったとでもいうような、八重咲の流れるような滑らかな薙刀の捌き。
――物打ちが、したたかとその腹を打ち飛ばした。
成功
🔵🔵🔴
岩社・サラ(サポート)
「最優先撃破対象確認。これより戦闘に移ります」
傭兵としての戦闘技術と一族に伝わる土魔法を組み合わせて戦う冷静な性格の女性。
口調はですます調。必要以上に会話はしない。
依頼に関しては負傷を厭わず可能な限り全力を尽くすが、公序良俗に反する行為は行わない。
仲間との連携ができる場面では積極的に連携を行う。
行動
目立たないように隠れながらDMRによる狙撃。ショットガンによる接近戦。装甲目標ならミサイルランチャー。接近戦なら斧。と武器を使い分けて戦います。
敵の攻撃を防御する際はゴーレム(アイテム)を召喚し庇わせることで対処します。
ユーベルコードは選択したものを適時使用します。
書かれていない部分はおまかせします
レム・ワンダーフォー
レムちゃんをスカウトするならもっとまともな契約を準備しておくんだったナ。
とりあえずババー('ω')ーン!!と名乗っとくZE☆
作戦?ないんだな、それが
まぁ、頑張って避けてりゃどっかで殴れるでしょ。
それに逃げるのは練習してるから得意だしナ、上とか。
プレイングふわふわしちゃったし細かくは紫践マスターにおまかせー。
――不味いっ!
「早くこっちにこい、馬鹿!!」
転がり込む土嚢積まれた《バリケード》の裏、《プロデューサー》は叫びあげる。
遠くからは爆発音が不規則に繰り返し聞こえ、周辺の建物の窓という窓は割れ、コンクリートは銃弾に穿たれて、或いは砲弾に崩れ積み重なって、土煙には硝煙の匂いの混じる――どこともしれぬ市街紛争地域の出来上がりだ。
《男》が同じく転がり込むのを見て、《プロデューサー》はひとまず|空間を閉じる《、、、、、、》。
《信者》への指示であった《バリケード》の言葉に、当の本人も影響されている――領域を支配する《プロデューサー》の|力《そうぞう》の発露だ。
「猟兵どもにこんなに早くバレるなんてっ……!」
領域内にまだ異物を感じるものだから、堪らない。
テメーしくじりやがったな、と横の《男》の頭を紙束で叩きながら、この場をどうするか見回し、思考を巡らせ……そういや、最近流行ったもんがあったな、と思い出す。それと同時、見る間に《男》、そして《信者》たちの服装が変化する――|レトロ《、、、》な軍装、と呼べそうなものに。
「不死身の兵隊がいるとかさぁ?」
流行ったよなぁ?
《プロデューサー》だけが、都会の街中ですれ違いそうなその軽薄な姿のまま、それでも将校気取りか得意になって、紙筒で土嚢の外を指し示す。
「ブチかませ!お前たち!特攻だ!!!」
――
ドアを開けたら、そこは《戦場》でした。
閉まりかけのドア、先行した誰かを追い入った先。|戦闘《そういうこと》になるのかな、とは思っていた。でも、《男》と引き続きお屋敷で戦うのかと思っていたレム・ワンダーフォー(レムチャンだZE☆👊🏻 ᷇ᵕ ᷆ )・f41690)は、思い描いていたものと違う、ザ・戦場と呼べそうな瓦礫の街、わらわらと軍人さんの迫ってくる様子に驚いて、その道沿いに棒立ちしてしまう。
「ナニ、これ?」
その腕を引いて物陰へ引き込んだのは――岩社・サラ(岩石を操る傭兵・f31741)だ。
先行者は彼女であった。扉に飛び込んだ岩社は、巨大倉庫のような場所が、《戦場》へと変化する、その周辺環境の変化を目の当たりにし、その内容に、驚きより好機と、それから真に倒すべき|力の根源《プロデューサー》を見たのだけれど。
自分ひとり飛び込んだつもりであったから、レムの登場は想定外――しかし、判断は早かった。
「こんにちは?」
どーなってるの、これ、と話すレムの口元に岩社は己の人差し指を添えて――静かに、と。
迫る足音に手を引いて駆け出す、後退だ。
「あっちだ!」
一斉に撃ちこまれる銃弾より一足早く、倒壊したビルの壁裏に移動して、さてどうしようか。
もう少し地形の情報が欲しいところであるのだけれど、と岩社が銃を手に警戒しながらも、思案したそこに言葉がかかる。
「あの、ありがとっ。ごめんね?レムちゃん……」
岩社を真似、アサルトライフルを慌てて用意し、つき従っていたレムの言葉はそこで止まる。
なんていえば分からなかった、《戦場》にたつのは初めてだ。だけど、それが言い訳になるだろうか?
「何故ですか?」
レムに目線を送るのは一瞬だけ。岩社は続けて更なる移動を|合図《ハンドサイン》する。
移動し、《信者》を撃ち留めて、身を潜め、状況を観察し、射撃し、移動して。
現状、岩社について行くのに精一杯のレムに、そこで再び声が掛かる。
「心強いです」
慰めとか励ましのようなものは、岩社の密やかで硬質な声から一切読み取れない。
それが先ほどの会話の続きであると、一拍おいてレムは気付いた。
「共に勝ちましょう」
そういう岩社の目は周囲の状況確認に忙しく、レムを特段気に掛ける様子はない。
言葉の通りだ。岩社にとってレムは同じ猟兵であり仲間だ。心強い。信頼している。そうして――もしかしたら彼女にも作戦や思うところがあったかもしれないが、ここまで|彼女《レム》は自分に|合わせて《、、、、》くれている。それを岩社は、|彼女《レム》から自分への信頼と受け取っている。
合図はあっても指示ではない、従える従うの関係ではないのだ――我々は対等に共に立つ仲間。
実際、多数を相手にする苦しい状況で、レムの射撃は充分に信頼に値する実力を見せている。岩社の側ではこれが彼女の初戦場だとは思わなかったということもある。
今もそう。
血を流しても止まらぬゾンビのような|兵隊《しんじゃ》たちの、今度は足を狙って見事当て、ひとまず倒れさせながら、レムは岩社に駆けられた言葉を反芻する。
『はじめて』なんて言葉はやっぱり言い訳にしかならない――かっこワル!!いわなくって良かった。
はじめてだったとしても、自分は彼女についていけているではないか。
それってすごくない!?とポジティブが彼女の内にかえってくる。
そして、岩社の気遣いのないクールで短い言葉――誰かに認められて、共に立つという|事実《、、》が、どれほど心を震わすか、レムは知る。
「うん!ガンバロっぜー!」
勿論、声は密やかに。レムの明るさと自信滲むその言葉に答えるのは、岩社のクールな横顔、けれどしかりと頷きが一つ。
――
かくして始まった《二人》の共闘の……戦況は宜しいとはいえなかった。
「きっついナー、これ!」
岩社の弾込めの時間を撃ち稼ぎながら、レムが零す。その弾は確かに《|兵士《しんじゃ》》の頭部を貫通したのだが、やはりそれは倒れない。
レムの苛立ちへの同意の代わりか、岩社はなお強引に迫る血濡れの一団にショットガンをぶち込む。
欠損から地に伏せた兵士はそれでも残る手にナイフを持ってはいずり、迫ろうとするのだ。
「ゾンビ映画?これー!」
二人、もう幾度目かしれない移動を余儀なくされながら、レムのお口も止まらない。
ゾンビ――職業柄、触れる世界の戦史等、必然明るい岩社にも想起するものがある。どこかの世界で聞いた話、幾たびの特攻を、全て成し遂げ生還し不死身といわれた兵士の話だ――もとより圧倒的であった人数差、そこにこの|不死性《しつこさ》が加わって、実数差の何倍もの負担が二人に重く圧し掛かる。
どうしても、バリケード、その奥に隠れる《プロデューサー》に近寄れない。
「どかーんって一発大きいのブチかませない?」
サラちゃん、そーいうの、持ってる?
土煙の為に汚れた顔でけれど笑顔は失わず、ド派手ナやつ~とレムが岩社に問う。
レムちゃんメンドくなってきたゼ、と明るさの影に疲労が滲んでいるのを読み取って、岩社は返す。
「あります」
ただ――。
岩社も考えはしたのだ。ミサイルランチャーを彼女は持っている。使用するなら、距離と火力の両問題を一気に解決できるだろう。けれど、これはその辺、と打ち込むロケットランチャーではない。目標のセッティングというのが必要なのだ。
「どうやって?」
「射出地点から目標地点を観測して自動計算で割り出すことも、|誘導弾《ビーコン》をあちらに刺す形でもどちらにも対応しています」
ふたりの視線の絡む一瞬。
「……危険です」
「二人で勝ーつ!……でしょ?」
こちらの弾数にも限界がある。このままではジリ貧なのだ。打開には必要なのは覚悟。
だから|委ねよう《、、、、》――互いの命運をお互いに。
――
応えよという、岩社の求めに、周辺のアスファルトやコンクリートは岩石へと姿を変えて。
|岩男《グラウンドゴーレム》が召喚され、その目立つ威容に《|信者《へいたい》》が群がっていく。
仮初の命を吹き込まれたゴーレムに、命を惜しまぬ《信者》の一人が自爆で応える。
召喚と爆発。繰り返される中で、出現するゴーレムの位置はその都度、バリケードから遠のいている。猟兵が後退を選ぼうとしている事実が、バリケードの内にいる《プロデューサー》にも見て取れた。
――ついに均衡が崩れたのだ。
「いいぞ!休ませるな、追い回せ!おい、お前もいけ!喰ってこい!!」
ご機嫌にそういい、手元に残していた《男》の背を叩く。この|不死の兵士《チート》たちを前に、ここまで粘った《猟兵》というのは、げに恐ろしい。だが、だからこそ――それを喰えたなら、《男》はどこまで強くなるだろう。
銃を手に突撃していく《男》を見送って、《プロデューサー》は紙筒を広げるとペラペラと捲り、該当のページを見つけたか、そこに赤ペンで丸をつける。
「ソンビって単純だけど、利けるなぁ!」
「そだねー」
「な?死を厭わないってやっぱ安定して強いわぁ」
「確かにー!」
ん?
胡坐かいて呑気してる《プロデューサー》が声の方を、横を、見れば、そこに膝抱えて座るレムがおり、
「やっほ!レムちゃんだよ~☆」
自己紹介は忘れないと共に、短銃を《プロデューサー》へ突きつけた。
――正直に。この|戦場《へや》に入る前は漠然と。戦闘は、|種族の特性《ガムゴム化》でも活かして高い所を陣取って、そこから《男》を撃てばいいかナァ、なんてレムは思っていたのだ。しかしアサルトライフルの方の弾は既に尽きてしまった。
「は!二人!?」
初めてその可能性に思い当たったか、弾かれたように《プロデューサー》は立ち上がり後退する。あわせて立ち上がるレムは銃口を彼に向けたまま。
「せこいぞ、お前ら!一人ずつこいよ!!!」
「だから一人で来てるじゃん?んで、書類もそうだったけどなんでそんな自分に都合いいんダヨー!」
「オレがこの《|領域《セカイ》》の神だからだよっ!!」
漫画の科白じゃん?嗤うレムと、短銃の軽い発砲音。
本来なら充分に命を奪うことの出来るものだが、神を名乗る男、在り得ないことが起こるこの場で、やはりというか、その弾は、《プロデューサー》の持つ|ただの紙束《、、、、、》に弾かれ、貫通することすら叶わない。
強大な敵と己の実力――当初の何もかもすべて甘い見立てであった。けれど、そう思うレムは晴れやかに笑う。だって彼女には仲間がいるのだ。
紙束に弾かれた地に落ちる、その|弾《ビーコン》。確実に届けるべきもの――レムは役割を果たした。
「お前等!!戻れもどれ!!」
今だ一人の自分に対する、続けざまの単調な射撃。紙束で上手いこと撃ち返せないか等とやりながら《プロデューサー》は叫ぶ。それからレムに笑みかけた。
「陽動したってこの程度じゃね?」
最早他に攻撃手段の尽きて|猟兵側《あちら》も特攻してきたか。しかし、この程度なら《男》たちの戻るまで凌げると確信する。……すると、下がっていたもう一人は怪我でもしたか?
「おじょうちゃんの戦法っていうのは、なに。味方を庇って特攻する、みたいな~?」
如何にも身軽そうではあるから、|ガキ《レム》がこちらに来たのだけもしれない。なんであれ、頼みの綱がこの程度では話にならないというのみならず、だ。|お仲間《ガキ》がここにいるのだ、離れた側から此方への攻撃も有り得ない。
「いいねぇ、泣けるねぇ――馬鹿すぎて」
彼我の《後退》の交代を見て取って、一方の岩社はゴーレムの召喚を停止する。
うっし!一網打尽にしちゃおっ☆、と話した|彼女《レム》の明るい声色――彼女は彼女の役割を果たしたのだ。それに「了解」と返した|岩社《じぶん》も己の役割を果たさねばならない。
レムの装備の貧相であることを思えば、急ぐ気持ちはある。しかし冷静な岩社にあってそれは焦りとはならない。慣れた手つきで箱をあけ、擲弾のピンを外し発射機へ取り付ける。肩に担いだランチャーと共に、安定する見通しの良い場所へ。バリケードへ戻る敵の背を見送りながら、グリップを握り、己でも照準器でバリケードへ方向をあわせて、撃鉄を起こす。
《男》がバリケードの内へ入る、それを見届けて。
岩社は逡巡しない。
揺らぎなく動く右手――仲間のいるその場所へ、弾は放たれた。
そして同時に――。
――
揺さぶられる感覚に、レムの意識が覚醒する。
「勝った!?」
ガバリと上半身を起こしたレムのその頭を、覗き込んでいた岩社は華麗にかわしつつも、返事する。
「まだ、みたいです」
ここは本来は林の中の廃墟だという話だが、今だ巨大倉庫の中といった周囲の状況。《プロデューサー》の力はまだ失われてはいない――しかし。
レムは位置の優位をとるためにはガムゴムフォームを使わなかったが、逃げる為には使ったのだ。
腕を伸ばし、一気に縮めて移動する。それから風船と化して、爆風の衝撃に備える。
離脱の為にどの|建造物《ポイント》を使うかべきかは、岩社が定めて伝えておいた。ただ敵を撃つだけでない、そこまでの戦闘での周辺観察に、よく知る己の兵器の威力を加味して割り出した。
持ちうる兵器を、UCを、知識を、身軽さを組み合わせ、互いを互いの|標《しるべ》として――。
彼女たちは、見事敵を欺き、与えうる一番の火力を《プロデューサー》に叩き込んだのだ。だから、彼は|戦場を放棄《、、、、、》せざるを得なかった。これは充分な打撃、充分な戦果の表れだろう。
「ざーんねん!ここからだったのにぃ!」
満身創痍ながらも強気にいうレムのその言葉は一抹の悔しさを滲ませて。そこに岩社が手を差し伸べて、立ち上がった二人は、しばし見つめあう。
やがてレムがぷははと噴出した。二人とも土ぼこりにまみれ、服のすきりれなどもあって。サラちゃんひっどい有様~、とレムが笑えば、お互い様ですと――返す岩社はその顔に今日、初めて微笑みめいたものを浮かべた。
「――あとは仲間を信じましょう」
岩社のその言葉に、うん!と返したレムの顔に浮かぶものも、今日一番の笑顔であった。
成功
🔵🔵🔵🔵🔴🔴
ウルザ・ルーナマリア
やーっと元凶の尻尾が見えたな!
悪夢見せてくれたり悪趣味なとこに招いたり…プロデュースするならパニック映画にでもしとけばいいんじゃね?
被害者はお前達でな!
狙いはプロデューサー。
邪魔してくる奴らは斧槍振り回して牽制しつつUC起動して爪や銛の先端から冷気放射、氷の網で絡め取って動き封じてプロデューサーに突進。
何なら網で絡め取った男怪力で持ち上げぶん投げて隙作ってみたり。
ほらほら、指示出してる役者がどんどん減ってるぞ。
プロデューサー兼役者もいいんじゃね?
周囲の地形確認しつつ少しずつ追い込み、奇襲の銛の投擲から爪からの冷気放射、トドメの斧槍でぶった切る!
怒らせたの忘れちゃいねーぞ!
※アドリブ絡み等お任せ
|罅《ひび》が入る。
ピキ、ピキりと天井に一点を中心に円形に罅が広がっていき、その隙間から漏れでた水の滴りがコンクリートの床に届くかといったタイミングで、どっと太い水柱が天井を割り床に向けて発射された――というように見えた。
数メートル先の、その、突如の変異に――水柱、滝のようなどどどという轟音と激しい水しぶき、追って届く鉄砲水の気配、思わず腕で顔を庇って、跳び下がって距離をとったものの――。
そうして僅か目を逸らした一瞬。
しかし、想定された水の衝撃はなく、腕を解き、周囲を確認すれば、広がるのは、先ほどの大量の水はどうなったかと目を疑う|真逆《、、》の光景である。
囲む山々は緑豊かで広大であり、しかし一面広がるのは乾き罅割れた地面。立ち枯れた木々や切り株が所々と見える。近くでは、まるで道を示すように整然と並ぶ、白く乾いた泥の固着した低い石垣。
殆どの地面が乾き罅割れているというのに、反するようにところどころと水溜りも見えてその近くだけは土が水分を含んで黒く見えている。不思議な場所だ。
不思議、と言えば――何より不思議で、異様なのはこの場所の最奥に聳え立つもの。
辺り全ての距離感、サイズ感を狂わせてしまうほどの威容を放つ、一面の高い高いグレーの壁。
ここは、干上がったダムの底であった。
「焼け死ぬかと思った……」
正面に見えた水溜り。位置的に先ほど水柱の降りてきた辺り。しかし、絶対そんなに深いはずのないそこから、ぷはっと声をあげて顔を覗かせた誰か。
プールから上がるように土に腕を預け、よろよろと乾いた地面へと身を乗り上げごろりと転がる。
汚い金髪は地面へ雫を垂れて黒く染めているというのに、服はまるで乾いている。焼け焦げ、ボロボロに破れ、擦り切れ、その肌の一部を露出させて――けれど血などは滲んでいない誰かさん。
|コミカルな満身創痍《、、、、、、、、、》。
ここまでの一連でウルザ・ルーナマリア(月に泳ぐ白き獣・f39111)にも最早馴染み深いその《異質》さ。
ウルザの知っている《男》とは違う、もっと異質で威圧的な《誰か》に、しかし直感的にこれが全ての元凶だと知り、三叉の銛を構えた。
その動作で、《プロデューサー》の方もやっとウルザに気付いたようで。
「どぅわっ!!!」
ふらふら立ち上がり、大げさにはぁはぁとやっていた《プロデューサー》が、ウルザを認めて。
あげた一声と見事な飛び退き。コントのよどみなさでそれを披露した彼にウルザは冷笑と共に声をかける。
「役者になって良さそうだな、おじさん」
「だぁれがおじさんだ!」
返しもお見事、役者でなければ芸人か。
「まだ居やがるか、《|猟兵《クソ》》どもが!お前等、歓迎会だ!」
役者じゃねぇ、オレがプロデューサーなんだよ!と、苛立ちを伝えるように紙筒をウルザにむけ、突き出して。
「|プロデュース《、、、、、、》してやるよ、森のクマサンの最後ってやつをさぁ!!」
口で勇ましいことをいう割に、《プロデューサー》はそそくさと誰かの後ろへ回り込んだ。
庇うのは猟銃を構えた《男》である。
周囲はいつの間にか、石垣に沿い、ボロボロの木造の平屋の立ち並ぶ、山間の集落へと姿を変え、そこからカマなどを持った生気のない《|信者《むらびと》》がぽつりぽつりと姿を現している。
「しらねーかなぁ。ダム湖に沈んだ村は|ルール無用《、、、、、》なんだよねぇ~」
その声を合図に、一対多数もお構いなしと武器を手に一斉に飛び掛る《村人》たち。
――を一網打尽とする、乾いた湖底への投網。
「オレは、森のクマサンじゃない!シーベアルグだ!」
振り下ろした爪。
空を切ったように見えるそこから飛び出すのは、彼の郷里の冷たい海を思わせる、極寒冷気が編む氷の網だ。
日々の糧を得てきた手段の一つ。本物の網を海に投げる時と変わらぬ見事さで広がる網は、山間にあっては巨大な蜘蛛の巣のように。そうして村人を捕らえた網を、ウルザは引き寄せ、豪快に振り回す。
村人の塊で続いて群がる村人をなぎ倒し、また、伝播する冷気でその場に縫い留めながら、最後には《プロデューサー》の前に庇い立つ《男》へ挨拶代わりと投擲する。
――ダーン、と響く一発の銃声。
銃声は山彦となり、一斉に鳥達の飛び立つ音がそれに続いて。
挨拶に応えて放たれた銃弾。あんな古めかしい猟銃から放たれる一発で、7,8人は纏められた村人団子が落ちるはずもないのに、しかし、それは現に二人の中央あたりで止まりおちた。
「お前凄くつよいだろ?なんでソイツのいうこと聞くんだ!」
返る言葉はなく――弾込めては銃を撃つ、なんだか妙に間の空く《男》のその弾を、幾重にも放出した氷の網、或いは点在する水溜りを銛で突いては即席の|氷の盾《シールドスピア》にしながら、ウルザは距離を詰めていく。
ガキが余計な事を、と内心うろたえたのは《プロデューサー》だ。
《男》は彼の作品である。作品というのはつまり、作者に紐づいてはいても独立した一個なのだ。
それでなくとも――己の服の状態を見ても明らかなこと。維持できない、復元できていない、元の状態を。認めたくはないが、ここまでの戦闘で、己はプロデュース……|その力《コントロール》を失いつつある――。
「お人形にお喋りする年頃か?こいつは空っぽガランドウなんだよ!」
気付かせてはいけない。《プロデューサー》も言葉を掛ける。
「うるさい、今、お前に言ってない!」
あの時、なぜ《隷属》などというものを、《男》はおれに見せたのだろう。
今この場で見せられているものは、なんだろう?
ウルザと《プロデューサー》の狭間で、当の《男》は緩慢と次の弾込めをしている――ウルザを撃つために、だ。
返事は望めない、それでも。
「おれは怒ってるんだぞ!」
馬鹿にされたことも、それから。
胸に巣食う、このもやもやとしたもの。
思考の合間に、再び男の弾が放たれ、ウルザも爪を振り上げ、下し、網を出す――が、これまでより距離が縮まった為か、盾というだけの厚さに至らなかったと見えるそこを弾は貫通する。
やったか!?と弾む《プロデューサー》の声――その早計。
弾を押し返し、氷の網の穴を逆に抜けて、周辺の水蒸気をキラキラと凍らせながら届くのは一条の筋。
網のせいで《プロデューサー》からは見えなかった、ウルザの見せなかったその|投擲《モーション》。
投げられた三叉銛が、銃をもつ《男》のその右腕へと狙い通りに突き刺さる。
それでも、あの薄笑いには何一つ変化なく。《男》から流れるものもなく、槍をもってしても凍らせることさえ叶わない。
……何も変わらず立つ《男》に、込み上げるこれはなんだろう?
「怒ってるんだからな!!次はお前だ!」
《男》を睨み、次いで《プロデューサー》を睨み。叫びあげ、ウルザは武器を斧槍と持ち替え、一気に駆ける。
つよいということは、何をしてもいいということではない。
それでもウルザが強さを求めたのは、抗うためだ――理不尽に。
――この苛立ちは、悔しさに似ている。
「こそこそして!お前は卑怯だ!」
狙いは一心、《プロデューサー》へ。
「やっべ、おい!」
卑怯者と評された《プロデューサー》が慌てた様子で《男》の肩を叩き、前へ押して。
自分は引け腰に距離をとり始め、卑怯の名に恥じぬそのムーブ。
しかして、《男》は動かない。
「はぁ?そんなダメ入ったか?」
言いながらあっさり見捨てて今度こそ本格的に逃走を図る《プロデューサー》の先――踏む地面には、正に彼の出てきた、今は浅い水溜りがあるのであって。
爪を振りかざせば、その水溜りを、届く冷気が氷の|蜘蛛の巣《あみ》へと織り上げる。
「捕まえた!」
問題は立つ《男》。妨害は予想していた。来るならこい、今度は吹き飛ばしてやる、と棒立ちの《男》に距離の迫り、その横を抜け《プロデューサー》を目指そうという一瞬。
槍の刺さる《男》の腕に、|罅の入る《、、、、》のを、ウルザは確かにみた。
亀裂、罅――。
喜ぶ者など、そうは居まいというその現象は、だが確かに、ウルザには届いた。
動かないままの《男》と《プロデューサー》とのその間に、入ったものを理解する。
受け取る思い、胸すくその|解放感《、、、》を、己が斧槍にのせて。
ウルザは、《プロデューサー》へ全身全霊の一撃を振り下す。
――
罅は、ついに全体へ至り、不動と思われたその壁は倒壊する。
今そこは再び山間の川と姿を変えて、濁流は場の全てを押し流した――。
大成功
🔵🔵🔵
アレクシア・アークライト
プロデュースしたものが悉く失敗
なのに、クビにも職場替えにもならないなんて
邪神業界って結構ホワイトなのね
それとも下手の横好きがごっご遊びをしているだけかしら?
そういう傍迷惑な奴にはお灸を据えてあげなきゃいけないわね
|UDC職員《同僚》を随分と好き勝手にしてくれたみたいだし――!
曲がりなりにも世界を侵食できる相手
三層の《領域》と《防壁》で周囲を認識し、干渉を防ぐ
《念珠》を通して、念動力で《男》の動きを阻害しつつ、プロデューサーに電撃
隙を見て《次元》で至近に転移し、UCで強化した《神秘》と《物質》で身体を分解し、《吸収》を用いる
私達を喰わせるとか言っていたけど
自分が喰われることは想定していなかった?
こつ、こつ、とコンクリートを踏む安定したヒールの音。整わぬ様子の男の荒い呼吸音。
そのコントラスト。
「お帰りなさい」
それからはじめまして、と付け加え、UDCエージェントはそのヒールを止めた。
正面の|金髪の男《、、、、》は両の膝に手をおき、俯き、今だ荒げた息は治まらず、面をあげる事をしない。
撮影用のスタジオのようなその場所で――辛うじて保たれる|邪神《UDC》の領域で。
己の影を見つめたまま、《プロデューサー》は、貴様も《猟兵》かとアレクシア・アークライト(UDCエージェント・f11308)に問うた。
「そうとお答えしてもいいけれど……、《この男》は、私が誰か気付いているのじゃない?」
アレクシアはずっと正面を見据えたままだった。前にいたのは、確かに《プロデューサー》一人だけだった。
だが今、《プロデューサー》の前に、UDC職員の標準的な戦闘服に身を包んだ《男》が薄笑いを浮かべ立っている。右肩から先をすぱりと切り取られたように――右腕のない男が。
ここで漸く、《プロデューサー》は体を起こすと、ちらりと自分の前に立つ《男》を見、それから、向かいに立つ赤いコートにぼんやりと目を向ける。
「……なるほど? UDCの|職員《エージェント》か?」
「あなたには、そう名乗りたいわね」
猟兵である前に、私はUDC職員である、と。
前に立つ、片腕の《男》の戦闘服、その所属や階級を示す部分はめまぐるしく切り替わり、ノイズが走り、或いは消え、再び現れて。つまり《男》は誰か一人の無念ではないことをアレクシアへと伝えているから。
「好き勝手やってくれたわね」
許さない――それは|言葉《おと》ではなく、結果で示すべきだ。闘志を新たにするアレクシアに、しかし、《プロデューサー》の方は手元の紙を捲り、ブツブツと何事かを呟いている。
「赤い服の女、かぁ……いいね。あるよね、そういう話さぁ?」
どこそこ駅周辺で、とか、大学で落し物ひろってあげたら、とかぁ。あ、それは違う話だったかな?
疲れ果て、乾いた笑いを漏らしながら、俯き気味の《プロデューサー》が、しかし紙束を再び丸め、それを握る手に力を篭めるのを、アレクシアは見逃さない。
品定めをする為に。面を上げて、アレクシアへついにしっかと目線を向けた《プロデューサー》は、そのまま握り締めた紙筒で《男》の脇を――なにせ、右腕がなくなっているものだから――軽く叩いて笑っていう。
「同僚もいるなら、寂しくないだろ?」
――キミ邪神(アイドル)にならない?
――
《プロデューサー》の力ある言葉に促され、《男》は残る腕を頭部を胴を足を、どこかで見たような怪異、どこかで聞いたような神話、そういうものの劣化版へと変態させながら、アレクシアに迫り振りかざすも――既に準備されていた見えない障壁がそれを弾き返し、アレクシアへの干渉を許さない。
一度、二度、三度。
何かの割れたような音に、《プロデューサー》がそこだと紙筒を振り、諦めと疲れを許されない《男》の四度目。
全てを使い尽くした――もはや他の何も《男》の内には残されていない。だから、目の前の赤いコートを取り込まねばならない。
そう考えているのは、果たして《男》だろうか?
それとも《プロデューサー》?
形状を保てず目まぐるしく輪郭を溶かし、形を変え、赤黒いゲルのようになったその中央に、あの薄笑いだけを浮かべたそれ。
《男》の左手だったかもしれないものが、必死と、喰らうように、救いを求めるように、伸ばされて――アレクシアの眼前で動きを止めた。
8つの念珠が、《男》のなりふり構わぬ動きの間に、正しい配置へと移動を完了したのだ。
耳に聞こえる音は一切ない。念珠の内で硬直した《男》だったものに、もう喉はない。
それでも、硬直する姿が、唸り、叫びをあげる|声《、》を、見るものの脳内に、アレクシアの心に届ける。
少しだけ待っていてと心で返し、アレクシアは《プロデューサー》に向き直る。
「気がつかなかったの? それとも|見えなかった《、、、、、、》?」
念珠は目に入らぬほど小さなものではない。それでも、《プロデューサー》はそれに関して《男》に何の指示も注意も与えなかったのだ。
「うるせぇな!!《|男《そいつ》》なんざ囮だ、オレはなっ――!」
言葉の先は、激しい閃光とあああああああああああという《プロデューサー》自身の激しい絶叫にとって変わられる。
振り上げた紙筒、そこに雷が落ちたのだ。
「悪党に、神罰が下る話ってどうかしら?雷って、よくそういう話に使われるわよね?」
《プロデューサー》が己の創造性と信じる力を、アレクシアは念動力と呼ぶ。
その神秘は、《プロデューサー》だけのものではないのだ。
「……つまらねぇ筋だ」
「あら? 悉くに失敗したあなたがそれをいうの、《プロデューサー》さん」
邪神の界隈って結構ホワイトな職場なのね、首にもならない。
力を受けた|刻印《次元干渉》がそう話すアレクシアを、地に伏せ、もう立ち上がれもしない《プロデューサー》の元へ運んで。
彼女の黒いヒールを睨め付けるが精一杯となった彼はそれでもいう。
「……クソ! クソが! 違う、お前らに負けるんじゃない、オレはオレの運にやられただけだ!
そもそも《|男《あいつ》》がしくじらなきゃ! 最後までクソな|UDC職員《ニンゲン》どもっ」
あと少し運がよければ。こうなったのは自分のせいじゃない。
喚いて、喚いて、喚いて。
「まだ《夢》を見ているのね」
目の前の何も|見ない《、、、》で。
夢に逃げ込んで、輝かしい自分を夢想するだけの――確かにあったのだろう彼の|創造《、、》は今や|想像《、、》に、全てが妄想に成り果てた。
そんな彼に、己の最期が想定できるものか。
違う違うと赤子のように駄々捏ねるだけとなった彼――見下げ果てた臆病な|邪神《UDC》に、何も違わないわ、と返すアレクシアの声はとても静かで。
「結末位はちゃんと見なさいな。
喰らう筈の自分が喰らわれる――あなたの《夢》の、ここが終着点よ」
神秘干渉の刻印が、《プロデューサー》を|解《と》いていく。
ノイズのような線が走り、色を失った部分から、赤や緑や青のつぶつぶとなって、ぱらぱらと音もなく。彼と彼の領域、そして《|男《よすが》》が|解《ほど》けて、そして、歯車の回路がそれを導くのだ。三色を新たに縒りあげて、アレクシアの領域へ。
その膨大な力の流れ込みは、アレクシアの中で幾重にも反射し、ハレーションを起こす。
ホワイトアウトしていくセカイに、さようならを告げて――アレクシアもまた意識を手放した。
――
体を揺すられる感覚、呼びかけられる声に、アレクシアが瞼を開ける。
目に飛び込むのは、心配げに覗き込む|猟兵《なかま》たちの顔、僅かに残る屋敷の面影、囲う木立。
そしてその全てを照らすもの――あぁ、三色が等しく綺麗に縒りあうならば、《光》の束となるだろう。
それは《夢》の終りを告げる朝の光であった。
大成功
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