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四葩の雫

#UDCアース #カクリヨファンタズム


●今は遠き
 ――べべん、べんべん、べんべべんっ。
 三味線の音がほんのり濡れた空気を震わせる。引き慣れているのだとわかる音色は、けれどふいに途切れた。
「……違う、なあ」
 奏者である女は苛立ち混じりの溜息をこぼし、傍らにあった箱へと無造作に手を突っ込んだ。ガシッと乱暴に掴んだのは、やや大きめのまあるい菓子――のような、何か。
「わあ~~いただかれてしまう~~」
「あらら、もしかしてまるかじり? ひょえ~~」
 緊張感の欠片もない可愛らしい囀りが、ぴーちくぱーちく。けれど女は目もくれず、掴んだ2つを大きく開けた口へと放り込んで、バリバリ、ボリ。暫く口に入れたものを念入りに噛んで――あま、と落とした声には、この味飽きてきたなあという気持ちと疲労がくっきりハッキリ現れていた。
 それでも女は三味線を弾き続ける。遠い記憶を辿り、時折口ずさみ、目を閉じて集中し、中断してはまた小鳥を喰らって口の中を甘みでいっぱいにし続けた。
「違う、こうじゃない。もっと、こう、早く、弾むみたいな……」
 思い出さなきゃ。
 思い出すんだ。
「大丈夫、大丈夫。あたし、ちゃんと思い出すからね、あんたと一緒に作った唄。譜面、全部思い出すよ。ちゃんと、ちゃんと……」
 だって。
 約束。約束したから。
 でも。
「……『あんた』って……誰、だったっけ……」

●四葩の雫
「このままではいずれ、文字通り怪物となってしまうでしょう。その前に、彼女を救って頂けませんか。今ならばまだ、間に合うのです」
 汪・皓湛(花仙・f28072)が視た女妖怪は、大昔にとある人間と共に唄を作ったらしい。その唄を『沢山のひとに伝える』という約束の為、女妖怪は人々が妖怪を認識しなくなり、食事が困難となったUDCアースで、UDC怪物を喰らってでも生きる道を選んだ。
「彼女は今、日本のとある森の中に潜んでおります。三味線の音色を辿れば、迷わず会えましょう。ですがまずは、彼女が放つ妖気……UDC怪物を喰らう為に放つそれに誘われ集った者達の撃破を、お願い致します」
 緑の中をチョコレート色に塗り替えそうなほど多いものの、一般人でも倒せるくらいに弱い。チョコ菓子になりきっている為、騙されたふりをすれば簡単に隙が生まれ、撃破出来るだろう。
 そんな『倒されると本物のチョコレートを落とす』というUDC怪物の群れの先。緑の中に紫陽花が咲き乱れるそこに、理性を失くした女妖怪がいる。三味線を弾きながら、失くしたものを思い出そうと、約束を果たそうと、もがいている。
「倒しさえすれば、彼女は元に戻ります。かの世界に長く留まっている方ですので、勝利するのは簡単ではありませんが……」
 皆様ならば、きっと。
 皓湛は咲い、花のグリモアを咲かせていく。
 花の先に広がるUDCアースの日本は、丁度6月を迎えたばかり。木々の葉や幹は春を過ぎて鮮やかさを増し――そこに不釣り合いな、甘い甘い香りが猟兵達の鼻をくすぐった。


東間
 紫陽花色な妖怪との出会いと、紫陽花咲く場所へご案内。
 東間あずまです。

●受付期間
 タグと個人ページ、X(https://twitter.com/azu_ma_tw)にてお知らせ。
 オーバーロードは受付前送信OKです。

●1章
 妖気に誘われ集まった『チョコっとショコラーズ』戦。
 「何だチョコレートか~」等の騙されたフリをすると隙だらけになりますが、しなくても「ぼくたちおいしいおかしですキラキラ」と勝手に励んでくれます。らくちん&全体的にゆるふわ空気で進行予定です。
 倒せば倒した分だけ美味しいチョコレートが手に入ります。
 味はミルク・ホワイト・ナッツ・イチゴ、ビター。栄養価も高いです。やったぜ!!

●2章
 女妖怪戦。こちらはシリアス予定。
 『約束』を利用したり、その事について語りかけ理性を呼び起こそうという行動には、プレイングボーナスが掛かります。
 ※女妖怪の行動が一時停止する、攻撃・防御力ダウンなど。
 ※無くても不利になる事はありません。

●3章
 女妖怪がカクリヨに渡るための『宴』章=紫陽花でいっぱいの古民家カフェでのんびり出来ます。
 紫陽花が綺麗なお庭の散策も可能。詳細は開始時に、導入場面にて。
 汪・皓湛を始めとする当方のグリモア猟兵へのお声がけはお気軽にどうぞ。

●グループ参加:2人まで、オーバーロードは制限なし
 プレイング冒頭に【グループ名】をお願いします(【】は不要)
 送信タイミングは同日であれば別々で大丈夫です。
 日付を跨ぎそうな場合は翌8:31以降だと失効日が延びてお得。
 グループ内でオーバーロード使用が揃っていない場合、届いたプレイング総数によっては採用が難しい場合があります。ご注意下さい。

 以上です。
 皆様のご参加、お待ちしております。
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第1章 集団戦 『チョコっとショコラーズ』

POW   :    カロリー・イズ・ジャスティス
戦闘中に食べた【チョコレート】の量と質に応じて【身体のツヤと素早さが増し】、戦闘力が増加する。戦闘終了後解除される。
SPD   :    一口チョコの誘惑
レベル×5体の、小型の戦闘用【チョコレート製ロボット】を召喚し戦わせる。程々の強さを持つが、一撃で消滅する。
WIZ   :    チョコレートーテムポール
【大きなトーテムポール】に変化し、超攻撃力と超耐久力を得る。ただし理性を失い、速く動く物を無差別攻撃し続ける。
👑11
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●ころころショコラ
 情熱の赤と淡い想いのピンク色を使ったリボンに、ショコラ色の小箱。
 蓋をぱかりと開ければ――もう開いているものも目立つけれど。ぱかりとしたそこには、チョコレートボールやトリュフチョコが4つ、綺麗に収まっている。一口サイズよりも少しだけ大きく見えるそれは、可愛らしいアニマル風。
「みてしあわせ、たべてしあわせチョコレートだよ~」
「おいしいよ~~おたべになって~~」
 カタカタ。カタリ。
 ころん。ころころ。
 箱の中でそわそわ揺れるチョコ。我慢出来ずに箱の外へ転がり出て跳ねるチョコ。
 狸に猫に小鳥に――。
「いぬちゃんとりゅふちょこはいかが~?」
「こっちはこんこん、きつねちゃんですぞ~~」
 他にも色々、子豚に牛に兎にカエルにワニにハシビロコウ、ライオンやドラゴンもと色んな生き物勢揃い。我こそはとっても美味しいチョコレート、もしくはトリュフチョコなり~と、甘い香りと一緒のアピール大合戦。
「あれれ、そういえばわれわれ、なぜここに?」
「……あら~~? そういえば、そうですねえ~~」
「まあまあ~、いいじゃないですか~。おろかものどもをエイヤッとして、よりみりょくてきになるだけですし~~」

「「「そうだね~~~」」」

 聞こえる声は気の抜けるものばかり。けれど広がる光景は、ひっくり返ったトラック荷台から溢れたドングリのようで、何よりもアレは紛れもないUDC怪物だ。そして。

 ――べべん。

 遠くから聞こえる三味線の元へ行かせない為にも、ここにいるもの全て、綺麗さっぱりまるっと片付けなくては。
 
春霞・遙(サポート)
UDC組織に所属して、UDC関連の一般病院に勤務している小児科医です。
行動の基本方針は困っている人が居るなら助けたい、人に害をなす存在があるなら退けたい。
戦う力はあまりないですけど、自分が傷を負うとしてもみなさんのお手伝いができれば嬉しいです。

基本的に補助に徹します。
「医術」「援護射撃」「情報収集」から、【仕掛け折り紙】【葬送花】での目くらましや演出、【生まれながらの光】【悪霊祓いのまじない】で照明や目印を付けるなども行えるかと思います。
攻撃は拳銃による射撃か杖術が基本で、その他はUCを使用します。
【悔恨の射手】【未来へ捧ぐ無償の愛】は基本的に使用しません。

シリアス以外ならいたずら好きの面も。



「これはまた……随分と集まったものですね」
 驚きと、感心が少々。溜息混じりに第一声をこぼした春霞・遙(子供のお医者さん・f09880)は、漂う香りを吸い込んでみる。
「チョコレートですね」
「そのとおり~~、かわい~かわい~トリュフチョコですよ~~」
 ――もしかして、客寄せされている?
 ぱちりと瞬きした遙に小鳥トリュフは箱の中でウインクパチパチ。ぴょんと箱の外に飛び出した。同じ箱に収まっていた他のチョコレート達、もといUDC怪物達もぴょんぴょんコロコロ。遙の前に並ぶと、今度は縦に重なって――ぼぼんっ。目の前で大きなチョコレートーテムポールに早変わりした。
「ビターチョコがおすきなら~、わたしがおすすめです~」
「おやおや~ミルクチョコのわたくしだって、まけてませんが~?」
「けんかはよしなさい、いちばんおいしいのは、ぼくですし~」
「なにをぅ~~」
(「これは……」)
 一応、言い合いだろうか。それにしたってあまりにも緊迫感がない――が、目の前だけでなく周りにいるもの全てがUDC怪物だ。可愛らしい菓子のようでも、放っておいていい存在ものではない。
「お話はわかりました。少し、じっとしていてもらえますか」
 言いながら符の束へと思い描いた印が竜巻を生む。ごうごうと吹く風に乗った大量の符は、チョコレートーテムポールもその周りのショコラーずも包み、深い深い眠りへといざなっていく。
「あら、らぁ……これは……」
「よいゆめがぁ、みられそう、な~……」
「夢、ですか」
 甘い香りを漂わすUDC怪物が見る夢はどんなものだろう。選ばれたがっていたから、それが叶う夢だろうか? 遙は疑問を胸に拳銃を取り出し――小さな溜息をついた。
「本当に多いですね。でも……」
 自分の周りにいた個体は全て夢の中。後の事は、集った猟兵の手も借りればあっという間に終わるだろう。

成功 🔵​🔵​🔴​

クローネ・マックローネ(サポート)
普段の口調は「クローネちゃん(自分の名前+ちゃん、相手の名前+ちゃん、だね♪、だよ!、だよね★、なのかな?)」
真剣な時は「クローネ(ワタシ、相手の名前+ちゃん、だね、だよ、だよね、なのかな? )」
強調したい時は「★」を、それ以外の時は「♪」を語尾につけるよ♪

基本は一般人の安全を優先で♪
多少の怪我は厭わず積極的に動くね♪
シリアスな場面では状況の解決を優先するよ
コメディ色が強い場合はその場のノリを楽しむ方向で動くね♪
えっち系はばっちこい★状態変化もばっちこい♪
絡みOK、NG無しだよ★

UCは集団召喚系か範囲攻撃系を優先して使うよ♪
状況に応じてMS様が好きなのを使ってね★

後はMS様におまかせするね♪



「こっちの小鳥ちゃんはホワイトチョコだよね? じゃあこっちの赤い……」
「きつねちゃんですぞ~」
「そっかそっか♪ 綺麗な赤色だしイチゴかな?」
「せいか~い!」
「つぎはじぶんをあててほしいです~」
「ずるい~ぼくも~」
 ゆらゆらコロコロ、ぴょんぴょこぴょん。ゆるふわ空気で賑やかに動き回るチョコレート――なUDC怪物『チョコっとチョコラーズ』に、クローネ・マックローネ(快楽至上主義な死霊術士・f05148)はニッコリ笑って。
「はいはい、順番ね♪」
「「「はぁ~い」」」
 ぴったり揃った声にクローネはうんうん頷いた。確かにUDC怪物だというのに、この、とてつもない素直さ。
(「しかも、倒したら美味しいチョコレートを残すんだっけ?」)
 終わった後に手に入るだろう数を軽く計算してみると――プレートをチョコレート菓子でいっぱいにしたティースタンドが3つ出来上がった。ここ以外にも向かえば4つ目だって余裕だろう。
「クローネちゃん嬉しいな♪」
「われわれもうれしいな~、すてきなおじょうさんにたべていただけるなんて~~」
「おおっとぉ、さいしょはこのわたしですからね~~?」
「どうしようかな? ミルクチョコのタヌキちゃんも気になるし、ナッツのネコちゃんも美味しそうだよね♪」
 クローネが両腕を組んでこれみよがしに悩んでみると、いやいやわたしがいいえじぶんこそがとチョコラーズ達が飛び跳ね、アニマルフェイスの可愛らしさやフォルムの綺麗さで競い始めた。
(「耳とか尻尾の違いはあるけど、みんな丸いよね?」)
 しかし彼らなりのこだわりがあるのかもしれない。取り敢えずクローネは暫し彼らの好きにさせてから、「わかった!」と両手をパチッと合わせて笑う。
「ここはビルシャナちゃんに聞いてみようか♪ ビルシャナちゃんはどの子がいいと思う?」
「ナイスバディな美少女こそが至高ッ!」

 えっ、びるしゃなってなに?

 チョコラーズが疑問を抱くより速く光が迸る。
 それはチョコラーズを一瞬で消し炭にし――。

「やったね、チョコレートがたくさん♪」

 大満足のクローネだけを残すのであった。

成功 🔵​🔵​🔴​

フリル・インレアン
ふわぁ、チョコレートがたくさんです。
ふえ?これはUDC怪物って、そんなわけあるわけ無いじゃないですか。
こんなに可愛くて美味しそうなチョコレートが怪物なわけありませんよ、アヒルさん。
ふえ?チョコレートさんたちが突然積み重なってトーテムポールさんに変わってしまいました。
キングとかメタルじゃなくてよかったなって、何を言っているんですか?
こんな美味しそうな……じゃなくて危なそうなトーテムポールさんは没収してしまいましょう。
味見するまでは返しませんよ。



 月日の積み重ねで作られた風景はそれはもう立派だった。栄養を蓄えた土。そこにしっかりとある根。生き生きと伸びる幹。鮮やかな緑の葉っぱ! そして――!
「ふわぁ、チョコレートがたくさんです」
『グワ? グワワ、グワッ』
「ふえ?」
 ひょいっと箱を持ち上げてすぐに来た、アヒルさんからのくちばしツッコミ。フリル・インレアン(大きな帽子の物語👒 🦆 はまだ終わらない・f19557)は目を丸くしたものの、アヒルさんのツッコミをくすくす笑って払う。
「そんなわけあるわけ無いじゃないですか。こんなに可愛くて美味しそうなチョコレートが怪物なわけありませんよ、アヒルさん。ほら」
 箱の中では4種のチョコレート菓子がきちんと収まっている。豆粒のようなお目々はフリルとアヒルさんを可愛らしく見つめ――パッチン。
「ふえ?」
 今、チョコレートの目が瞬い――たんじゃ、ない。
「チョコレートがウインクを……って、ふええ!?」
 しかも次の驚きはすぐにやってきた。驚きのあまり飛び上がったフリルの手から落ちた箱に収まっていたチョコレートも、他のチョコレートも、次々にぽんぽん跳ねては大きくなっていく。
 ちょっぴり贅沢な一口サイズだったチョコレートは、ものの数秒でバランスボールサイズに大変身。そこからぽいんと跳ねて積み重なって、フリルの身長をあっさり越え得意げに見下ろしてきた。
「わはは~、こうなったわれわれはさいきょう~!」
「おいしくてさいきょう、これはもうむてき~!」
「トーテムポールさんに変わってしまいました……『王様とかメタルじゃなくてよかったな』? 何を言っているんですかアヒルさん?」
 4種のフレーバー。ビッグチョコレートのトーテムポール。更に豊かになったチョコの香り。こんな美味しそうな――じゃなかった。
「危なそうなトーテムポールさんは没収してしまいましょう」
 理性も失くしていて危険極まりない。ちょっと動けば、深く考えずにわあわあ集まってきた。
「ほら。やっぱり没収しましょうね、アヒルさん」
 備えていたものであっさり無効化すれば、没収は無事完了。
 あとは――。
「味見するまでは返しませんよ」

大成功 🔵​🔵​🔵​

曲輪・流生
紫陽花のお花が綺麗ですね…。
遠くに聞こえる三味線の音色…あれが例の妖怪さんの…。

(現われたUDCにくすりと笑い)
おや、可愛らしいチョコレートさん達ですね。
それにとっても美味しそう。
僕、甘いものは大好きなので…
僕に食べられてくれたりしませんかね〜
なんて言いつつUCを使用。

チョコレートがたくさん手に入りました。
…大事に食べさせてもらいますね。



「紫陽花のお花が綺麗ですね……」
 根ざした土の性質で異なる色で花を染め上げる彼らは、いつからこの森にいるのだろう。曲輪・流生(芍薬の竜・f30714)は森の中に挿す彩りにふんわり微笑んで――。

 べべん

「……あれが例の妖怪さんの……」
 流生は紫水晶の目をそっと伏せた。三味線の音色の主は――この音は、どれほどの時を経て、今此処にいるのだろう。憂いを帯びた眼差しはけれど、ふいにコロコロと視界に入り込んだものにくすりと綻んだ。
「おや、可愛らしいチョコレートさん達ですね」
「そのとおり~、われわれはかわいいちょこれーとなんですね~」
 箱の中で揺れて、箱を揺らして。コロコロカタカタ、器用に近寄ってきた『チョコっとショコラーズ』達は、流生の素直なコメントにご満悦だ。
「それにとっても美味しそうですね」
「うふふ~ごめいさつ~! とってもとっても、おいしいんです~」
「いちばんはこのわたし、ほわいとちょこのひつじちゃん~」
「ずるい~、いちばんはこのぼく、ぼくですし~?」
 箱の中でくるくる回って、小さく跳ねて。マスコットめいた見た目もあってか、その様はとてもメルヘンだ。我先にと争う理由は、流生が油断したところを襲撃して――という企みも含んでいるのだろうけれど、可愛らしいと思ったそこに嘘はない。それに。
「僕、甘いものは大好きなので……」
「おやおや~、それはきぐうですね~」
「あま~いわたしをたべるのにぴったりでは~?」
「なにおう、いちばんめはゆずりませんぞ~!」
「ふふっ、皆さんやる気もいっぱいなんですね。……それじゃあ、」

 僕に食べられてくれたりしませんかね〜

 ごくごく自然な流れで放った白炎の矢が周囲を明るく照らす。
 おやおやこれはと見上げたショコラーズの、わあ~、という間延びした声は悲鳴だったのやら、何なのやら。それを確かめる前に彼らは綺麗サッパリ祓われて、流生の前にはそれはそれは可愛らしいチョコレートの詰まった箱がずらりと並んでいた。その中の1箱を流生はそっと持ち上げる。
「……大事に食べさせてもらいますね」
 彼らに向けた言葉は、偽りのない、ほんとうのものだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
まぁ、とっても賑やかさん達ね
そんなに慌ててお箱から出さなくても
…鳥さんはホワイトで、狐さんは苺さん?
…パンダさんはいらっしゃるかしら
どんなお味か気になるわ
賑やかで愉快なコ達は
私の故郷やカクリヨのコ達に似ていて親近感が

お食べになってと、
寄って来てくれるのは嬉しいけれど
…本当に頂いて、良いのかしら…
考えている間にも沢山のコ達に囲まれて
折角のご厚意ですもの
此処はありがとうって頂くべきね…!

チョコレートは落して、くださると聞いているから
寄ってくれたコ達を確り受け止める為に
周囲を茨の籠にして
生命力吸収でダメージを重ね
そのまま、おやすみなさいを

頂いたチョコは大切にするね
ふふっ、後でお友達にも差し上げたいわ



「われらおいしいチョコですよ~たんとおたべ~」
「でもさいしょはこのぼくです~、だってかわいいウサちゃんですし~?」
 箱の中でカタカタ揺れて、隣のチョコとこっつんことじゃれ合って――かと思えば、一番目は譲れないと箱からぴょんこと飛び出す彼らに、丸くなっていた花緑青がふんわり綻んだ。
「まぁ、とっても賑やかさん達ね。そんなに慌ててお箱から出さなくても大丈夫よ」
 城野・いばら(白夜の魔女・f20406)がこんにちはとカーテシーをすれば、チョコレート達が「どうもごていねいに~」と右や左へこてんと傾く。彼らなりの挨拶にいばらはまた咲い――ころころまあるい彼らを、じぃっ。
「……鳥さんはホワイトで、狐さんは苺さん?」
「せいか~い!」
「……パンダさんはいらっしゃるかしら」
「いますぞ~。おお~い、パンダどの~」
「はいはぁ~い?」
 声がしてすぐ現れたパンダチョコは、真っ白ミルクチョコにビターなお目々と耳の持ち主だ。オレンジライオンやメロンカエルもやって来れば、故郷や幽世でお馴染みの彼らといるようで、胸に親近感が広がる。お食べになって~と寄って来てくれる事も嬉しい。
 けれど。
 けれどっ。
(「……本当に頂いて、良いのかしら……」)
 ううん、と考えている間にチョコを乗せた箱もチョコ達も増えていくばかり。すっかり囲まれたいばらは、むんっと意を決した。

 折角の厚意、ここは“ありがとう”と頂くべき――!

「やや~、どうしました~?」
「もしや、わたしをたべてくださる~?」
「いやいやさいしょは~」
 アピール合戦再びの気配にしゅるり重なった緑のシルエット。おや~と見上げたチョコ達は視線にぴらぴら揺れて応えた緑――茨にどうもどうも~のアンサンブルだ。茨はそのまま伸びて重なり続け、ショコラーズをすっぽり抱え込む。
「これは~、茨のベッドですね~……ふわぁ」
「ゆら~、ゆら……きもち、よく……」
 眠気の心地良さに身を任せた彼らのお喋りは緩やかに静けさへと蕩け、すっかり静まってすぐにその姿がぽんっと弾けた。けれど箱の中には愛らしいチョコが変わらず在る。いばらは桃色小鳥を摘み上げ――ぱたんと蓋をし、リボンもキュッ。
「賑やかさん達のチョコは大切に……ふふっ、後でお友達にも差し上げたいわ」
 茨の籠の中はチョコ箱の海を抱えたよう。
 友達に、お土産に。甘く美味しい未来も、海のように広がるばかり。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

…うん
何か普通にチョコだな
大分可愛らしい見た目してるけど…
大丈夫か?瑠碧

俺はチョコが食いたい
ので心を鬼にして倒すぜ
いや別に心を鬼にしなくても倒せるけど
おっ犬のチョコ見つけた
グラップルでワンパン
んっミルクのトリュフだ
スタンダードで美味い

瑠碧が可愛い事してる…
でもきつそうだな
後ろ姿か…あとは一番動物っぽさがない奴ならいけそうか?
鳥は…可愛いけど可哀想だもんな
雀とか美味そうだけど
じーっとチョコ達観察しつつ
ぺしっと攻撃しては口に入れてもぐもぐ
ドラゴンはどうだ?
攻撃して出て来たチョコ瑠碧にあーんと差出し
色が濃いな…こいつはビターっぽい?

うーん…甘い
何か飲み物持ってねぇ?
おっやった!
嬉しげに受取り


泉宮・瑠碧
【月風】

不思議な光景ではあります、ね
話して可愛らしいのですが、チョコなのですか
えと、その…ガンバリマス

チョコは好きですが…
はっ
チョコだけの後ろ姿なら、大丈夫かも知れない…
しゃがんでチョコの一つに話し掛けます
あの、あっち向いてほい、で遊びましょう?
私が負けたら
甘んじて叩かれます
でも私が勝ったら
後ろ向きになるようになる様に指を後ろへ向け
ごめんね、とぺちり
食べた方が、あの子の為ですよね…
表面に謝ってから
後ろ姿にして、ぱくっ
…ん、美味しいです

でも心情的に自発では一体が限界
代わりに理玖の様子をほのぼの眺め
差し出されたチョコに、目を瞑ってぱくり
はい、おいひいです

あ、アイスティーならありますよ
水筒を差し出し



 ――森の中で出会ったのは、動いて喋る、可愛いチョコレート達。
 他世界ならともかく、UDCアースでは異常事態そのものだ。泉宮・瑠碧(月白・f04280)と陽向・理玖(夏疾風・f22773)も、目の前に広がる様には目を丸くしてしまう。
「不思議な光景ではあります、ね」
「……うん。何か普通にチョコだな」
「「「いえ~す」」」
 声はマスコットめいた見た目にぴったりだ。殺気の“さ”の字も感じない彼らを、理久は目をぱちぱちさせて見下ろし――頬をかく。何の攻撃もしてこない。それどころか、じぶんがいちばんと順番にアピールまで始めている。ちらりと隣を見れば、瑠碧の目は丸くなったまま。
「大分可愛らしい見た目してるけど……大丈夫か、瑠碧?」
「えと、その……ガンバリマス」
 このチョコレート達を――UDC怪物を、三味線の音色の元へ行かせない為に!
 理久は「よし」と呟き、ぱしりと両手を合わせた。
「俺はチョコが食いたい」
「それはそれは、ないすたみんぐですね~」
「さあわたしをどうぞ~?」
「おう。それじゃ」
 心を鬼にして狐チョコをグーパンチ! した瞬間、狐チョコがぱんっと弾けて――ころんっ。全く同じ見た目のチョコレートが落ちてきた。こういうシステムかと納得していると、周りのチョコレート達がぴょんぴょん跳ね出した。心なしか、その表情にはやる気が現れている。
(「ように見えんだけど、あんまし変化ないな」)
「おっ、やりますか~? いいですとも~」
「そしてわれらがいちばんかわいくておいしいものになるのです~」
 合っていた。しかもよく見れば口がもごもご動いている。
 更に言うと、口元に見える欠片はチョコレートでは?
(「チョコ食うんだ。てか……」)
 見た目に磨きがかかり、更に可愛く更に美味しそうになろうとも――全く問題なかった。心を鬼にしなくても倒せる相手だと既にわかっているし、何よりも。
「俺もチョコ食いてえんだよな」
 言うやいなや数体纏めてスパンッと一撃である。
「おっ、犬のチョコ見つけた」
「あわ~」
「んっ、ミルクのトリュフだ。スタンダードで美味いな」
「ひょえ~」
 理久の拳が決まる度に絶品チョコレートが落ちてくる。それでもあちら側のやる気は薄れないらしく、やんのですかおら~と気の抜ける声で理久の周りへわらわら、わら。
 一方その頃、瑠碧はというと――天啓を得ていた。
(「チョコだけの後ろ姿なら、大丈夫かも知れない……」)
 彼らの可愛さが現れているのは基本的に前面だ。瑠碧は早速近くにいた猫チョコに声を掛ける事にした。
「あの、あっち向いてほい、で遊びましょう?」
「ほほう~?」
「私が負けたら、甘んじて叩かれます。でも私が勝ったら……」
「ぼくがたたかれる~。うんいいよ~」
 瑠碧は手で、猫チョコは声で、グーチョキパー。ドキドキしながらの1回目は――。
「ありゃ~きみのかち~」
「では……」
 猫チョコの眼前へ伸ばした指先を、あっち向いてほい。後ろへ誘うように向ければ、猫じゃらしを追う猫のように、くるりんと後ろを向いた。
「ごめんね」
 一撃はぺちりと軽く、けれどそれだけで猫チョコがぽんと弾け、チョコが転がり落ちてきた。それを両手で受け止めて、瑠碧は悩んでしまう。
「食べた方が、あの子の為ですよね……ごめんなさい。頂きます」
 食べる時も後ろを向いてもらって、ぱくっ。
「……ん、美味しいです」
 ミルクチョコな一口目は甘さの中にほのかなビターが香り、舌触りも滑らかだ。瑠碧は一口ごとにしっかり丁寧に味わって――そこへころころぴょんと他のチョコがやって来る。
「やや、たおされましたか~。だがしかし、あのネコはわれらのなかでもたぶんさいじゃくなので~」
「だいたいおそらくそうですね~」
「……ええ、と?」
「つぎはぼくらとあっちむいてほいしましょ~♪」
(「ど、どうしましょう」)
 後ろを向いてもらう作戦は大成功だったけれど、可愛い彼らをぺちっとし続けるのは1体が限界だった。
(「瑠碧が可愛い事してる……でもきつそうだな」)
 一番動物っぽさがないチョコなら? 鳥は――可愛いけれど可哀想だ。理久は美味しそうな雀チョコに惹かれつつ、観察と同時進行でぺしっとしては食べてを繰り返す。
 そんな姿は、瑠碧にとってはほのぼの心和む癒やしのひととき。彼女が元気になった理由を知らない理久は、手に入れたばかりのチョコを差し出し笑う。
「な、瑠碧。このドラゴンはどうだ? 色が濃いけど……ビターっぽい?」
 同じものを食べてみた理久からの「あーん」に瑠碧は目を瞠って――ぱくり。
「はい、おいひいです」
「よかった! にしても、うーん……甘い。何か飲み物持ってねぇ?」
「あ、アイスティーならありますよ」
「おっ、やった!」
 チョコづくしも悪くない。
 けれどそれ以外もあれば、より美味しい。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

梅雨時に甘いものがあると気も晴れるのはわかる!
サヨ…これはUDC怪物
チョコレートといえど警戒した方が…
可愛い巫女は今日もかわいく無邪気にチョコ怪物を弄んでいる
実に可愛らしいが私はサヨの安全を守りたい

三味線の音はどこか物悲しく聴こえる
サヨはショコラティエだからより気になるのだろうな
無邪気なチョコ達は実に警戒心がない
…ホムラは嬉嬉とチョコをつついている…
きっと油断を誘い…むぐ!

あ、美味しい

サヨに詰め込まれたチョコを堪能し

…悪くない
倒せばチョコが手に入るのか
…サヨがより喜ぶな
喜ぶなら、いいか

桜雷ノ哭華

刻み倒して
巫女を満たすチョコをたくさん手に入れよう

食べたがったいるのだから
今は──しょうがない


誘名・櫻宵
🌸神櫻

梅雨時も甘いものがあれば楽しくなる
ね、カムイ
指先で甘やかな菓子を摘み笑む
私の神様は、警戒しすぎなのよう
…そこがかぁいいところなのだけど
これがUDCの怪物とは

三味線の音を辿る前におやつタイムよ
何せ私はショコラティエなんだから!
倒せばチョコが出てくるなんて、お得よね
果たしてこのチョコちゃんは私を満足させてくれるのかしら?
ころころころりと転がして
いただきます──喰華

蕩けるミルクに香ばしいナッツもたまらない

カムイ、眉間に皺よってるわ
お口にポンとチョコを押し込み
美味しいでしょう?
次の子はイチゴ、ほろ苦いビターも最高ね!

食べて欲しいなら幾らでも
砕いて喰らって
蕩して腹のうち

まだまだ食べ足りないわねぇ



 湿度が増す。雨の日が増える。からりと晴れた日が、貴重になる。
 それが6月。
 それが梅雨。
「でも、梅雨時も甘いものがあれば楽しくなる。ね、カムイ」
 くすりと笑った誘名・櫻宵(咲樂咲麗・f02768)の指先は、手に入れたばかりの『チョコレート』を摘んでいる。それをじぃーっと見る朱赫七・カムイ(禍福ノ禍津・f30062)の顔には、隠しきれないものがあった。
「梅雨時に甘いものがあると気も晴れるのはわかる! けれどサヨ……それはUDC怪物だ。チョコレートといえど警戒した方が……」
 と、思うのに。
「いやはや~、こちらのうるわしいかたは、たいへんおめがたかいですね~」
 雪のように白い小鳥チョコが機嫌よく櫻宵を褒め、さあさあどうぞこのままとニコニコしている。麗しいという点には全くもって同意のカムイだが、愛しい巫女がUDC怪物を摘んだままという所は心配でたまらない。
「私の神様は、警戒しすぎなのよう。……そこがかぁいいところなのだけど」
 カムイの魅力を噛みしめていると、狐チョコがすかさず「なかよしこよし、すてきなふたりですねえ~」とヨイショしてきた。
(「これがUDCの怪物とは」)
 どのチョコからも殺意や敵意が感じられず、向けられるのは、のほほんとした気が抜ける言動ばかり。それでも摘んでいるこれが本当の本当にそうなのだと、感じ取れる。
 取り敢えず小鳥チョコをつつく事にした櫻宵を、カムイは案じながら見つめていた。可愛い巫女は今日も可愛く、そして可愛く無邪気にチョコ怪物を弄んでいる。流石はサヨだと心からの喝采が止まらない。
「実に可愛らしいが私はサヨの安全を守りたい」
「んもう、カムイったら」
「それに、この三味線の音だ。どこか物悲しく聴こえる」
「……そうねえ」
 この音を辿った先に、UDC怪物を喰らう妖怪がいる。櫻宵の視線は目に見えない旋律をなぞるように遠くへと向いて――けれど、とニッコリ笑って戻ってきた。
「まずはおやつタイムよ、カムイ! 何せ私はショコラティエなんだから!」
 倒せばチョコが出てくるとは実にお得だ。この小鳥チョコはミルクフレーバーだろうか? それともバニラ? 櫻宵の指が狐チョコをくるくると回し、目は小鳥チョコへぴたりと注がれている。指先でころころころり、ショコラティエゆえの観察に小鳥チョコはというと――。
「こんなにちゅうもくしていただけるとは~♪ でへへ~」
(「なんと無邪気な……実に警戒心がない」)
 カムイはちらりと櫻宵の足元を見る。他のチョコレート達が「いいな~」と集まり、行儀よく順番待ちしていた。
「果たしてこのチョコちゃんは私を満足させてくれるのかしら?」
「たしかめてごらんなさいですよ~」
「あら♪ それじゃ、お言葉に甘えて――」

 いただきます

 龍眼が咲う。小鳥チョコの心はたちまち春の爛漫を超えて桜獄へ。そのまま心は蕩けていって――ころり。桜花の花びらと共に櫻宵の掌へ転がり落ちた。
 早速齧ればミルクのまろやかな甘味が蕩けていき、お次はあなたと摘み上げた明るいチョコレート色の犬チョコは、香ばしいナッツがたまらない。
「サヨ、サヨ。大丈夫かい? 腹痛になってないかい?」
「大丈夫よ。カムイも食べたら?」
「だが……」
『チュンチュンッ♪』
 とびきり嬉しそうな小鳥の声に、カムイはぴたっと停止した。そちらへと目を向ければ、ホムラ自ら仕留めたのだろうか? 淡い桃色をした兎チョコを嬉々としてつついていた。
「ホムラ、いつの間に倒したんだ……だが、きっと油断を誘い……」
「カムイ、眉間に皺よってるわ」
「むぐ!」
 ふいに口へポンと押し込まれたチョコレートに、カムイは目をぱちくりさせる。その目に映るのは楽しげに微笑む愛しい巫女で――その指先が、自分の唇に触れている。もう一度ぱちりと瞬いた目は、口内に広がりゆく香りと味に、ぱちぱちと数回瞬く事になる。
「あ、美味しい。これは……蜜柑の気配がするね。チョコレートからかな? ……いや、とろりとした何かからも……」
「ピューレかしら?」
 カムイの表情は、櫻宵が押し込んだチョコレートを堪能するにつれ和らいでいく。その変化に櫻宵は咲って、真っ赤な狐チョコから手に入れた1つをぱくり。すると口の中が大人でエレガントなベリーに染まった。
「あら、これも美味しい。次は……うん、ほろ苦いビターも最高ね!」
 食べてと集まるのは、自分なら平気という自信からなのか。何なのか。
 ――何であれ、それを望むのなら幾らでも。龍眼は優しく微笑み、ひとつずつ砕いて喰らって、蕩して。そうして腹のうちへと収めていく。
「ふふ。美味し」
(「倒せばチョコが手に入るのか……悪くない。……サヨがより喜ぶな」)
 喜ぶなら、いいか。
 そう判断した神が招いた春雷が春時雨を呼ぶ。――斬撃をそう感じられたチョコ達は、幸せだったろう。愛しい巫女の為にと刻み倒される時間は、文字通り一瞬だったのだから。
 そして――。

「まだまだ食べ足りないわねぇ」
「しょうがないね。ほら、サヨ。お食べ」

 桜龍が咲い、禍津神が微笑む。
 甘い甘い香りは、もう少し続くようだ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シュリ・ミーティア
遠くで何かの音が聴こえる(耳ぴこ)
不思議な音色。あれが三味線?

音に集中してみようにも目の前には揺れる箱
気になって、無造作にパカリ
…動物のチョコさん達
美味しそう
…お菓子って喋るものだっけ
でも喋るお菓子があっても変じゃないのかな
納得した顔で頷き

赤いのはイチゴ味?じゃあ、白は?
聞きながら、右手に取り出した【狼牙】で攻撃
うん、だって、怪物って聞いていたから
美味しそうでも騙されないよ
喋りながら動きもちゃんと観察しておこう
反撃は左手のダガーで防御

倒したらチョコが出てきた
これは本物、だよね

叔父さんや姉貴分の彼女はどんなチョコが好きだっけ
他の皆はどうかな
今度聞いてみよう、なんて思いながら
残りの敵も片付けていく



 べん。べべんっ。
 その音がする度に、シュリ・ミーティア(銀色流星・f22148)の狼耳がぴこっと揺れる。
(「不思議な音色。あれが三味線?」)
 集中すれば不思議の理由が紐解けそうで、けれど目の前でカタカタ揺れる箱が気になってしまう。どうしようかな、と迷う間も箱はカタカタ、カタタッ。気になるという気持ちのままにパカリと開けてみたならば――。
「いらっしゃいませえ~」
「われら『チョコっとショコラーズ』で~す」
 わぁ~い。
 開けた途端にわあっと咲いた甘い香りと愛らしい声に、シュリの目が数回瞬いた。
「……動物のチョコさん達」
「そうです~」
「……お菓子って喋るものだっけ」
「われらはとってもかわいくておいしいので、しゃべれちゃいますね~」
「そうなの……?」
 シュリは考えた。
 そして頷いた。
 喋るお菓子があっても変じゃないのかな。彼らには、そう納得させるものがあった。それぞれ異なる世界が36あるのだから、そういう菓子がある世界が1つ2つあってもおかしくないだろう。アリスラビリンスとカクリヨファンタズムもそうだそうだと頷いている。
「赤いのは……」
「イチゴですよ~」
「じゃあ白は?」
「バニラがふんわりかおるミルクで~す」
「そうなんだ。じゃあ早速」
 流星のように閃いた白銀色が、苺の狐チョコと真っ白ミルクの小鳥チョコを立て続けに襲う。
「あら~?」
 一瞬の事に他のチョコレート達が目をぱちくりさせる間に、シュリはダガーでトドメを刺した。すぐに次のチョコをむんずと掴み、狼牙とダガーの閃きを贈っていく。
 美味しそうなチョコ。喋るチョコ。
 ――そういう怪物だと聞いていたから、騙されない。
 向こうがチョコをぽりぽり食べ始めた時は、ちょっと目を丸くしたけれど。
 1つずつ、きっちり確実に倒し続けて賑やかさが無くなってきた頃。シュリは喋るチョコ達が収まっていた箱へとポイポイ放り込んでいた1つを摘み上げた。
「これは本物、だよね」
 叔父さんや姉貴分の彼女はどんなチョコが好きだっけ。
 他の皆はどうかな。
 今度聞いて――。
「おやおや、おひとりですか~?」
「わたくしたち、おいしいちょこでして~」
「うん」

 残るチョコレートも、綺麗さっぱりお片付け。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第2章 ボス戦 『鬼火の三味長老』

POW   :    べべべん!
【空気を震わす大音量の三味線の演奏 】を放ち、自身からレベルm半径内の指定した全ての対象を攻撃する。
SPD   :    鬼火大放出
レベル×1個の【鬼火 】の炎を放つ。全て個別に操作でき、複数合体で強化でき、延焼分も含めて任意に消せる。
WIZ   :    終演
【三味線の演奏 】を披露した指定の全対象に【生きる気力を失う】感情を与える。対象の心を強く震わせる程、効果時間は伸びる。
👑11
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔴​

●青色、哭く
 三味線の音が、流れて途切れてを繰り返す。遠かったその音を追って辿り着いたそこは、緑と土の匂いに、チョコレートの香りが濃く重なっていた。けれどチョコレートはどこにも見当たらない。あるのは一箇所に集められ、積み重なった空き箱だけ。
 ここに“居た”という残骸の隣、猟兵に気付いた女妖怪が演奏の手を止めた。
 真っ青な視線が重たげに向けられる。
「……何。悪いけどよそに行ってくれるかい。あたしは忙しいんだ」
 女が口を閉じる。
 青い目は猟兵達に向いたまま。
 纏う衣と同じくらい青いバチも、弦にぴたりと添えられ、離れる気配がない。
 ――何の音も、聞こえない。しない。
 鳥も虫も消えたような静寂を破ったのは、女の方だった。
「……ねえ。何で帰ってくれないのさ」
 虚ろな声と共に鮮やかな炎が次々空中に灯る。
 青と紫が混じった、紫陽花のような炎だった。
「もしかして……あたしの邪魔、しに来たの?」
 女が立ち上がる。
 青い髪の先端、揺れて立ち上がるそこは炎にも蛇にも見えた。
「――させない。させるもんか。全部思い出せちゃいないけど、まだね、覚えてる事だってあるんだよ。そいつを繋いでさぁ、元通りにすりゃあ……そうしたら、そうしたらあたしはまた、あいつとの約束を果たせるんだ!」

 遠い昔。一緒に作った唄がある。
 それをあちこちで唄って、伝えて、伝え続けて――けれど時代の波に押し流されてしまった。
 唄も、妖怪という存在も。
 約束の形である唄だけは、頭の中でバラバラになりながらも辛うじて留まっていたけれど。
 もう。
 もう。

「違う、違う違う違う、あたしはまだ大丈夫、まだ生きていける、まだやれる、狂っちゃいない。あの怪物どもを、もっともっと喰らえば――――…………」
 ぴたりと口が止まった。女はきょとんと周りを見る。
 木。土。葉。花。空っぽの箱と、甘い残り香。
 あんなにいた“食料”が、いない。来ない。増えない。
 それに気付いた真っ青な目が、きょとんとしたまま猟兵達に向く。それは、ひどく虚ろな青だった。

「あんた達がとったの?」

 女の表情が歪む。どうしてだと叫ぶ。
 鬼火が激しく揺れ――ぽたり。大地を叩いた雫は、激情に染まった青から溢れていた。
 
アレクサンドラ・ヒュンディン(サポート)
人狼の力持ち×ミュータントヒーローです
普段の口調は「私、~さん、です、ます、でしょう、でしょうか?」、気にいったら「私、あなた、~さん、ね、よ、なの、なの?」

性格は内気で人と目を合わせるのが苦手ですが、人嫌いなわけではなく事件解決には積極的です
戦闘スタイルは力任せで、ダメージはライフで受けるタイプです

日常や冒険の場合、食べ物があるとやる気が増します

ユーベルコードは指定した物をどれでも使用し、多少の怪我は厭わず積極的に行動します。他の猟兵に迷惑をかける行為はしません。また、例え依頼の成功のためでも、公序良俗に反する行動はしません。
あとはおまかせ。よろしくおねがいします!



 女――『鬼火の三味長老』の傍で激しく震えていた鬼火がふいに放たれた。自分の顔面目指して真っ直ぐ放たれたそれを、アレクサンドラ・ヒュンディン(狗孤鈍狼・f25572)はひらりと躱す。
「私、何もとっていません……」
 妖気で誘い込んでいた大量のUDC怪物が残した美味しいチョコレートなら、猟兵達が責任を持って綺麗に回収しはしたけれど。
(「でも、あれはこの妖怪さん個人の所有物ではありませんし……」)
 所有物だと主張出来るのは、あのチョコレートめいたUDC怪物のみだろう。
 遠慮がちに女妖怪を見たアレクサンドラは、あまりにも鮮やかな青眼に収まりきらない狂気を感じ取った。あの状態では、何を言っても素直に受け止めてはくれなさそうだが――。
「あたしの邪魔を、するんじゃあないよッ!!」
(「やっぱり」)
 金切り声と共に女妖怪の周囲にある鬼火が更に激しく燃え、数も増えていく。予感通りのリアクションにアレクサンドラの表情は動かない。ただし心の方は別だ。
 風もないのに揺れた真っ白なロングヘアがいくつかの束を作る。髪に現れた変化をそのままにアレクサンドラは静かに構え――、
「邪魔するヤツは全部、全部燃えちまえ!!」
 女妖怪が叫んだ瞬間、全ての鬼火が四方へ弾けるように飛んだ。ひとつひとつが全く違う軌跡を描き、自分へと迫る――それを無表情で見つめたまま飛び出したアレクサンドラの髪が、カタチを変えた。
 頭上と四方を捉えて即降り注いできた鬼火や、軌道を変えながら凄まじい勢いで迫った鬼火が、駆けるアレクサンドラの真っ白な髪に両断され散っていく。断ち切れなかった鬼火が肌を灼くが、アレクサンドラの足は止まらない。
「来るんじゃないよ!」
 追加された鬼火はまるで蛇の大群だ。群がる全てに白髪の斬撃が応じる度に、青と紫の燃える破片が無数に舞う。
「どうして!」
 怒りと狂気に溢れた声。同じものに染まった、眼前の顔。
 アレクサンドラは刃となった髪を広げ、静かに告げた。
「あなたを助ける為です」
 その為に自分達猟兵は世界を超え、集うのだ。

成功 🔵​🔵​🔴​

曲輪・流生
大事な唄を忘れてしまったのですね。
それくらい永い時を過ごした。
きっと『約束』が貴女をこの世に留めているのでしょう…けれどもうそれは限界を迎えようとしてる。
唄を忘れてしまっては『約束』は果たせません。
意味を理由をなくした『約束』は何にもなれません…だからどうか心安らかに。

UC「竜ノ願イ」

僕からこの歌を貴女に…



 違う、と女妖怪が繰り返す。自分はまだ大丈夫だ。喰えば取り戻せるんだ。約束を、果たすんだ。繰り返される言葉は虚ろな熱と狂気にまみれ、青い目は形なきものを探すように忙しなくあちこちに向いていた。
「あなたは、大事な唄を忘れてしまったのですね」
「違うッ! 欠片になっちまっただけだ!!」
 一気に跳ね上がった感情のまま吐かれた声は甲高い。手負いの獣にも似た様相に、流生は紫水晶の眼差しを凛としたものに変える。
 この世界で、たったひとり。永い時の中、孤独や飢えを支えるものは約束の唄だけ。それが裡から消えていく感覚は耐え難いものだったろうに。
 約束の唄を繋ぎ止める為、取り戻す為、UDC怪物という妖怪が本来食べる筈のないものを喰らうようになった。残る理性は僅かだろう。何もかもが狂気に染まりきった時、彼女は本物の怪物になってしまう。
「きっと『約束』が貴女をこの世に留めているのでしょう……けれどもうそれは限界を迎えようとしてる」
 ですから、と続けようとした言葉は低く響いた弦の音に遮られた。
「いい加減な事言うんじゃないよ、あたしは平気だって……まだやれるって……そう、言ってるじゃないか!!」
 真っ青なバチが弦を撫で、指先が躍る。心の震えを映してか、響き始めた音は辿々しい。それでもどろりとしたものが心に絡みつくのに気付き、流生は表情を僅かに顰めた。けれど女妖怪に向ける眼差しの真っ直ぐさは欠片も薄れない。
「唄を忘れてしまっては『約束』は果たせません。意味を理由をなくした『約束』は何にもなれません」
 ずっとずっと大切にしていた『約束』が無に成り果てるのは、あまりにも哀しい。
 だから。
(「どうか心安らかに」)
 清らかな声はバチ握る手と女妖怪の心へと静かに優しく染み込んで――ぽたり、と鮮やかな青から雫が落ちた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふええ!?と、と、盗ったって、何のことですか?
私は知りませんよ。
ふえ?アヒルさん何ですか?
そんなに唇にチョコレートを付けててそんな事を言っても説得力はないって、……ふええ、本当です。
とにかく、チョコレートばかり食べてたら、身体に毒です。
カクリヨファンタズムに行っていろいろなものを食べましょう。
ここはお菓子の魔法を使います。
UDC怪物でない普通のお菓子では空腹は癒えないから、興味がない筈です。
ですが、私がお菓子を食べ続けて興味を持ち始めたら説得です。
躍起になってたら、思い出せるものも思い出せません。
お菓子でも食べて、気分転換してみてはどうですか?



 女妖怪が、泣いている。青い目からぱたぱたと雫を流し続けて――その目が急に自分を見たものだからフリルは飛び上がるほど驚いた。しかも思い切り睨まれている。
「あんた達があたしの“食事”を盗らなけりゃ……!」
「ふええ!? と、と、盗ったって、何のことですか?」
 私は知りませんよと慌てて弁明するが、女の目つきは鋭いまま。何とか誤解を解かなくてはと焦った時、アヒルさんからツンツンつつかれる。
「ふえ? アヒルさん何ですか? そんなに唇にチョコレートを付けててそんな事を言っても説得力はないって……」
 翼で示された所を軽く触ってみる。――茶色くなった。
「ふええ、本当です」
「やっぱりあんた達が!」
「とっ、とにかく! チョコレートばかり食べてたら、身体に毒です。カクリヨファンタズムに行っていろいろなものを食べましょう?」
 女の中にもあの世界へ逃げる選択肢はあっただろう。けれどこの世界に残る事を選んだ女の覚悟はきっと壮絶で――だからこそ、まともな食事は出来ていない。
「こ、これは私が作ったお菓子なんですけど……」
 次々出して見せていくそれは勿論UDC怪物ではない。普通の菓子では妖怪である女が抱える空腹は癒えず、興味もない――筈なのだが。
(「す、すごく、見てます……」)
 凝視されながら食べる菓子は、いつも通りの美味しさがわかるような、わからないような。フリルはどれにしようか少し迷ってから、ビスケットを差し出した。
「躍起になってたら、思い出せるものも思い出せません。お菓子でも食べて、気分転換してみてはどうですか?」
 女の手がビスケットを摘む。口が開かれ、ビスケットが一口で頂かれる。フリルはドキドキびくびくしながら待った。ちなみにアヒルさんは遠慮なくお菓子を食べていた。
「ど、どうですか?」
「……味はわかるけど全然腹膨れないよ」
「ふええ……そ、それは……はい……」
 けれど女の手は次の菓子をむんずと掴み、青い目には鋭さではなく不満の色が濃い。
 空腹以外のどこかが僅かでも癒えたのなら――それは、『約束』への足がかりになる。

大成功 🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

欠片だけでも覚えててそれにしがみつくのと
ぜーんぶきれいさっぱり覚えてないの
どっちがいいもんなんだろうな…

心配ない、と握り返し

邪魔しに来た訳じゃねぇ
ひょっとしたらあんたの約束の手伝いが出来るかもしんねぇって思ってさ

俺は唄とかあんま分かんねぇけど
瑠碧は得意だし
とりま聞かせてくんねぇ?三味線

あんたが覚えてなくても
聞いてみたら上手い事繋ぎ合わせられるかもしんないし

完成したらスマホで録音
ネットで流すってのは…沢山の人に聞いて貰う事になるかな?
…反則か?

それが駄目なら
動きが止まればダッシュで間合い詰めグラップル
拳で殴り連続コンボでUC
一撃で決まるように全力で振り抜く
正気に戻って自分で伝えるんだな


泉宮・瑠碧
【月風】

呟く理玖に寄り添って
彼の手を握り、大丈夫、と

覚えている分でも、唄の形にすれば
「あいつ」さんとの合作にはなると思うのです…
一緒に作った人は、何を想ってその唄を作ったのか…
何か伝えたい事が、歌詞になっているのでは

…昔に伝え続けたのなら
世界の何処かに
まだ息づいている気もします

貴女が狂ってしまう程の約束は
「あいつ」の人は願わないでしょうし

…今後は、カクリヨの「ひと」達に伝えていっても
良いのではないでしょうか
少しでも穏やかであれる世界で

両手を組んで静穏帰向
朧な夢で良い
ただ
唄を作った時の気持ちを思い出すような…
そんな夢を、どうか彼女に

こちらに届く分の三味線は音が振動しないように
風の精霊に頼みます



 勢いよく酸素を燃やしていた鬼火は今、女妖怪の傍で浮かぶのに留まっていた。青いバチも、変わらず手にしているものの弦をかき鳴らす様子はない。けれど女妖怪――三味長老の顔を見れば、心は『約束』をきつく抱いたままだと解る。
「欠片だけでも覚えててそれにしがみつくのと、ぜーんぶきれいさっぱり覚えてないの、どっちがいいもんなんだろうな……」
 呟いた理久に瑠碧が寄り添い、手を握る。
 大丈夫、と案じる声に理久が心配ないと握り返した時、女と理久の目がバチッと合った。途端に目つきを鋭くし青いバチを弦に添えたのを見て、理久はサッと両手を上げる。
「邪魔しに来た訳じゃねぇ。ひょっとしたらあんたの約束の手伝いが出来るかもしんねぇって思ってさ」
 その言葉に三味長老が目を瞠る。顔から激情が薄れ――けれど、そう思えたのは僅か。目つきはすぐに鋭さを戻し、鬼火が激しく震えだす。
「聞けって! 俺は唄とかあんま分かんねぇけど、瑠碧は得意だし、とりま聞かせてくんねぇ? 三味線」
 女が向けてきた無言の視線に、瑠碧は静かに頷いた。
「覚えている分でも、唄の形にすれば『あいつ』さんとの合作にはなると思うのです……」
「合作……」
「はい。一緒に作った人は、何を想ってその唄を作ったのか……何か伝えたい事が、歌詞になっているのでは」
「あんたが覚えてなくても、聞いてみたら上手い事繋ぎ合わせられるかもしんないし」
 三味長老と『あいつ』の2人が唄を作った時代に自分達はおらず、2人の唄を知らない。2人の唄の正解を知る術も、ない。けれど、それでも力になれる。出来る事がある。
 真っ直ぐな言葉と視線に三味長老の目つきは徐々に和らいでいった。視線が緩やかに外される。理久と瑠碧から空中へ、空中から――手にした三味線へ。そこへ、ぽたり、ぽたぽたと雫が落ちて三味線を濡らしていく。
「そう、そうだ……あたしは覚えてない、あたしは忘れちまった……! 譜面は欠けてて、『あいつ』が……『あいつ』が誰だったのかも……!」
 言葉はそこで途切れ、けれど涙は止まらず三味線に落ちては跳ねる。ぐしゃぐしゃになっていく顔に、瑠碧は慌てず、静かに優しく言葉をかけ続けた。
「……昔に伝え続けたのなら、世界の何処かにまだ息づいている気もします。貴女が狂ってしまう程の約束は、『あいつ』の人は願わないでしょうし……」
 その言葉に、三味長老がうすらと笑った。短い笑い声を落として、うん、うん、と頷く姿は――まだ、どこか危うい。
「ああ、そうだ……『あいつ』の名前とか、出てこないけどさ。きっと、『あいつ』はそういうやつなんだ。……でも、でもさ。あたし、約束したんだよ?」
 2人で作った唄を、沢山の人に伝える。
 その約束は覚えているのに、虫食い状態になった紙切れのように約束の中身も、記憶も、ボロボロだ。
 そう泣き叫ぶ声と共に青いバチが弦をはじく。べん、と響いた最初の音は勢いを映して力強いが、その後に続いたものは、旋律と呼べるほどしっかり繋がってはいなかった。
「スマホで録音さしてほしいのそっちじゃねぇんだけどな!」
 咄嗟に瑠碧の前に出た理久は、片手に握っていたスマートフォンをポケットに突っ込む。
「大丈夫か瑠碧?」
「はい、大丈夫です。思ったほどの威力ではないですし……」
 自分達の言葉は、確かに届いている。ひとつひとつが繋いだ『今』を感じながら、瑠碧はそっと両手を組んだ。
「妖怪さん……今後は、カクリヨの『ひと』達に伝えていっても良いのではないでしょうか」
 今のこの世界では、妖怪はどうしたって苦しむ事になる。ならばせめて、少しでも穏やかであれる世界でと――彼女の為の祈りが裡で膨らんでいく。
(「朧な夢で良い。ただ、唄を作った時の気持ちを思い出すような……そんな夢を」)
 どうか。彼女に。
 願いを込めた呼びかけに、名も無い小さな精霊達が次々に応えていく。吹き込んだ風が2人を飛び越えて、三味長老の全身をさあっと撫でた。
「あ、」
 見開かれた目からぽたりと雫が落ちた刹那、三味線の音色が淡くなった瞬間を縫うように、理久は一気に間合いを詰める。清らかな空気の中、鮮やかな青に映る自分がよく見えた。
「ちょっと我慢してくれよ」
 一発の拳から始まるそれはある種の景気づけ。必要なだけ打ち込み、最後は――全力で。すべてを振り抜くような拳をひとつ。
「正気に戻って自分で伝えるんだな」

 架け橋が必要なら、自分達猟兵が、いくらでも用意するから。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シュリ・ミーティア
音が止まって残念、と思いながら

邪魔…になるのかな?
貴女のやりたいことを止めるつもりはないんだけど

鳴らしたい音、思い出したい人、守りたいもの
今のままじゃ全部失くなってしまうかもしれないから
私達は、私はそれを止めに来たんだよ

会話を続けて気を引きながら、鬼火達は常に視界に入れておき避けられるように
彼女の言動による兆候も注意しておく

貴女が思い出したい唄は、約束は
何の、誰のためのものだったの?
多分それが、大事なことなんじゃないのかな

隙を見つけたら素早く接近
身軽になるため脱いだ外套は彼女の前に広げて目くらまし代わりにし
回り込んでダガーで攻撃、その後も一撃離脱で

ね、思い出せたらきっと、貴女達の音を聴かせてね



(「音が止まって残念。けど……」)
 悪い事ばかりじゃないかも。
 シュリは三味長老をじいっと見る。始めは今にも爆発しかねない空気だったが、他の猟兵達が向けた言葉とユーベルコードによって、ある程度落ち着いているように見えた。
(「でもまだちょっと危ない感じもする、かな」)
 表情は不安げで、落ち着きなく三味線の弦にバチを添え、べん。控えめに響いた音に「思い出さなきゃ」と重なった虚ろな声。――ふいに、青い目がこちらを見た。
「あんたも、他のやつとおんなじなのかい」
「そう……かな? まあ、貴女のやりたいことを止めるつもりはないんだけど」
 自分のもの含め言葉は届いている。その証に鬼火のサイズはだいぶ可愛らしくなり、燃え方も穏やかだ。シュリは表情も空気も変えず三味長老の顔をじぃと見て、あのねと繋ぐ。
「鳴らしたい音、思い出したい人、守りたいもの。今のままじゃ全部失くなってしまうかもしれないから……私達は、私はそれを止めに来たんだよ」
「……何なのさ、あんた達。急に出てきて、あたしの喰いもんどっかにやって……あれ? それは違……いや、合って、る?」
 どう、だったっけ。会話を思い出そうと視線をゆらゆらさせる女の傍で、鬼火がいっときしぼんで――ぼ、と音を立てて元に戻る。
「そう、そうだ、あたしは全部失くしたくないんだ。思い出して、まだ覚えてるやつと繋ぎ合わせて、取り戻したくて……!」
 ぼ、ぼぼ、ぼ。増えゆく鬼火にシュリは視線を一度だけ向けてすぐ、視界の中心を鬼火から女に戻した。三味長老の全てに注意しながら、自らの言葉で『約束』に触れていく。
「貴女が思い出したい唄は、約束は。何の、誰のためのものだったの?」
「そりゃ、あいつとあたしの――!」
 ふたりの?
 震える唇の向こうに引っ込んだままのそれをシュリは知らない。けれど十分だった。
「多分それが、大事なことなんじゃないのかな」
 地面を蹴る。女が反応するより速く、脱いだ外套を眼前で派手に広げた。それがばさりと散りゆく僅かな間に女の後ろを取る。
「ね、思い出せたらきっと、貴女達の音を聴かせてね」

 やりたいこと、できますように。

 想いと共に閃かせた刃が、四葩の彩を真っ直ぐ貫いた。

大成功 🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

……大切な約束を取り戻せない
そのもどかしさと悔しさは『私』にも覚えがあるから、わからないでもない
正しくは転生前の私であるが──自らを損ねたとしても取り戻したいと願うものだ

…如何なるものを喰らおうとも決して取り戻せない
狂っていくだけだというのに

やるせない気持ちが湧いてくるが、私としても愛しき巫女を害させるわけにはいかない

それはいいね、サヨ
戦いながら唄を奏させようか
記憶になくても身体は覚えている…なんてこともあるやも

炎を薙ぎ、不運の神罰を降し
桜花のオーラで身を守り

送桜ノ厄神──魂に絡む澱みを絶えず斬り祓う


そなたがなくしたものは、他でもなく
そなた自身の中にあるのだよ
見つけられるのはそなただけだ


誘名・櫻宵
🌸神櫻

あなたが三味線を奏でていたのね
ごめんなさいね
あなたのご飯…みぃんな食べちゃった
ご馳走様

アレはあなたには毒になるもの
…約束は縋れば縋るほど遠ざかり歪んで狂っていくもの
カムイの様子に花咲む
あなたは取り戻してくれたもの
そうして、『私』との約束をはたしてくれた

あなたも見つけられることを願うわ
大切な音色なら、身が記憶してるかも!
戦いながら唄を引き出していきましょう

私はあなたにも大切な約束を取り戻してほしいのよ
だって忘れたままなんて!寂しすぎる

カムイに遅れはとれないわ!

朱華
鬼火をとかして桜花にかえる力と共に斬撃を放ち
向けられる激情ごと薙ぎ斬っていく

あなたの奏でる本当の唄
その音色が──聴きたいものね



 三味線の音色が途切れ――べん。べん。べべん。紡がれるのは、穴だらけの譜面を現す音ばかりだ。旋律と呼ぶにはあまりにも程遠い。
 その傍に寄り添うような鬼火が、じじっと空気を焦がして揺れるのをちらりと見てから、櫻宵は三味長老を見つめ、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「あなたが三味線を奏でていたのね。ごめんなさいね、あなたのご飯……みぃんな食べちゃった」
 ご馳走様と紡いだ唇は柔く弧を描いているが、それは相手を嘲笑うものではない。道がわからなくなった童に向けるような優しい笑みに、三味長老の視線がノタノタと向く。青い眼差しに未だあるものに気付いた櫻宵は、困ったように笑った。
「アレはあなたには毒になるもの。……約束は縋れば縋るほど遠ざかり歪んで狂っていくものよ」
「……わかってる。それでも……それでも、あたしには必要だったんだ……」
 毒であろうとも喰らい、生き続けなければならない。
 生き続けて、約束を果たしたい。
 けれど――だからこそ、これ以上はいけないのだとカムイは緩やかに首を振った。
「……大切な約束を取り戻せない。そのもどかしさと悔しさは『私』にも覚えがあるから、わからないでもない。正しくは転生前の私であるが──自らを損ねたとしても取り戻したいと願うものだ」
 そう願う時が、あった。
 カムイの視線は隣の櫻宵へと向き、その様子に櫻宵が花咲む。
「あなたは取り戻してくれたもの。そうして、『私』との約束をはたしてくれた」
 三味長老も、そうしたいのだろう。
 けれど。
(「……如何なるものを喰らおうとも決して取り戻せない。狂っていくだけだというのに」)
 やるせない気持ちが裡に湧いてくる。だがカムイとしても、愛しい巫女を害させるわけにはいかないのだ。例え、相手に事情があろうとも。
 愛しく『かぁいい』神から注がれる眼差し、そこに込められる想いに櫻宵はくすりと咲って、三味長老へと微笑みかけた。
「あなたも見つけられることを願うわ」
「…………けど。願ったとこで、どうなるっての……?」
 間を置いて返った声はとても弱々しく、不安と恐れと、後悔に満ちていた。
「人間にはもうあたしが見えない、あたしの声が聞こえない! 届かない! それに、あたしの中で、『あいつ』との約束はほどけちまった! そいつを集めて……元に戻せなかったらどうすりゃいいのさ!!」
 女の手がバチをぎゅうっと握り、勢いよく弦を弾く。音の波を浴びた鬼火が一斉に揺らぎ膨れ上がった。そこから一気に数を増やした鬼火に櫻宵は「あら」と目を丸くするも、すぐにぱっと明るい笑顔を咲かす。
「大切な音色なら、身が記憶してるかも! 戦いながら唄を引き出していきましょう」
「それはいいね、サヨ。戦いながら唄を奏でさせようか。記憶になくても身体は覚えている……なんてこともあるやも」
 2人の唄を招き、約束が結ばれるよう――いざ。
 わあわあ泣く女の傍から一斉に放たれた鬼火はお手玉のように小さい。それでも己と、何より愛しい者が傷つかないよう、カムイは炎を薙ぐ。大きく舞うような立ち回りと共に降した神罰は、戦場へ飛び込んだ旋風となって女の髪を激しく揺らして視界を塞いだ。
「ああ、いやだ、いやだ、取り戻せなかったらどうしよう!」
「大丈夫だ。私達全員が、そなたについている」
 迫った鬼火がカムイへ触れるより先に桜花の守護に弾かれ、花びらの如き欠片となって散るさなか。朱砂の太刀が、女の魂を染める澱みだけを斬った。深くこびりついていたものが祓われるのを感じ、櫻宵は微笑と共に地を蹴り、抜刀する。
「私はあなたにも大切な約束を取り戻してほしいのよ」
 なんで、どうしてと三味長老が悲しげに顔を歪ませる。

 『なんで』?
 『どうして』?

 ――当たり前じゃない!

「だって忘れたままなんて!」
 寂しすぎるでしょう。
 愛しい神が結んだものを散らしはしない。咲って放った斬撃は激情を薙ぎ斬り、鬼火をとかす。桜花に変わったそれは、鮮やかな斬撃と共に女の視界を彩った。
「あなたの奏でる本当の唄。その音色が──聴きたいものね」
「でも、でも、あたし」
 女の唇が震える。青い目から大粒の涙が零れ続ける。こんなにまでなった自分は、約束に届くだろうか。約束を守れるだろうか。恐れに潤む青い目に、カムイと櫻宵は共に微笑んだ。
「そなたがなくしたものは、他でもなく、そなた自身の中にあるのだよ。見つけられるのはそなただけだ」
「だから、あなたが大切な約束を取り戻せるように手伝うわ」

 ふたりの約束がまた結ばれる、その時まで。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
遠慮なく、頂き過ぎちゃった気はするから
お怒りにはごめんなさい
でもね、でもね、聞いてほしいの
貴女は大丈夫だよって
その為に私は来たのって

堪らなく溢れた想いは
出して仕舞った方がスッキリかしら
大音量を塞ぐのに
ぴゅうと巻く風のオーラ防御を纏うけれど
聞こえる凛としたお花の様に格好良い音色にわぁと
此れが貴女の大切なお唄?

栄養を摂り過ぎるのもお体に悪いし
気分転換も大事
チョコの匂いは吹き飛ばし、
癒しと浄化の魔法を紡いだ風に乗せ拡げ乍ら声を

私も歌うの好きよ
殆ど即興の思ったコトを乗せて
ヘンテコ歌詞って言われる事もあるけど
旦那さんはね想いが真直ぐに伝わってくるって
一緒に歌ってくれるから楽しいの

貴女は如何
正確な音も伝えるのに大事だけれど
届けたい、重ねたい想いは
傍にいらっしゃる?
バチを握り締めているその手を
ね、一度貴女の心音に添えてみるのも良いのかも



 助けに来た。

 手伝う。

 大丈夫。

 『約束』の為に向けられた言葉と想いは、三味長老の心を揺さぶり続けた。強い執着と狂気を纏い、猟兵達に殺気溢れる鋭い眼差しを向けていた顔に今あるのは、不安と恐れと、戸惑いと――幽かに交じる明るさは、安堵か希望か。
 様々な感情がぐちゃぐちゃに入り混じった顔をした女は、バチで弦をはじいては、繋がりきれない旋律を奏でていた。
「……違う、やっぱり、違う。こうじゃ、ない…………腹、減った……」
 青い目から雫をぱたぱた落とした三味長老がこぼした声は弱々しい。いばらはしゅんと肩を落として、そっとそっと、近くに寄る。
「その……チョコレート、ね。遠慮なく、頂き過ぎちゃったと思うわ」
「……大量にいた、あれを? あんた達で全部? 本当に?」
 少々疑っている眼差しに、いばらはこくりと頷く。
「ごめんなさい。でもね、でもね、聞いてほしいの」

 貴女は大丈夫だよ。
 その為に私は来たの。

 いばらが告げたのは、猟兵達が三味長老へと繰り返しかけた言葉と同じ。ひとつひとつ重ねられていったそこに何もかもを出していいのだと許すような笑顔に、青い両目から雫がどんどん溢れていく。
「あたし、あたし、ちゃんと、思い出したいんだよ、唄も――『あいつ』の事も――!」
 爆発した感情は嗚咽になり、バチを握る手にも宿って弦から旋律をはじき出す。べん、とひとつの音から始まったそれは、そのまま続くかと思えば途切れてを繰り返し、穴だらけになった記憶を伝えてくる。
 けれど体の中にまで届く音は強い痛みを生むには至らず、そして、それでも変わらぬものを伝えていた。ぴゅうと軽やかに巻く風の守りを挟んでも色褪せないそれは、凛とした花のような格好良さ。
「わぁ。此れが貴女の大切なお唄?」
 あちこちが欠けた『約束』が本来の姿を取り戻したら、どんな音色だろう。どんな唄だろう。
 彼女が望むそこへ辿り着くには――やっぱり、この先の栄養の摂り過ぎを防いで、ぐるぐる袋小路から抜けられない気分をぱっと換える事が最優先。
 新たにぴゅうっと起こした魔法の風へ癒やしと浄化を一匙ずつ。それから。
「私も歌うの好きよ」
 優しく舞う薔薇の香りと、風に乗った声。
 ふたつは三味線の響きを越え、女の耳に、心に届いていく。
「殆ど即興の思ったコトを乗せて、ヘンテコ歌詞って言われる事もあるけど……旦那さんはね、想いが真直ぐに伝わってくるって。一緒に歌ってくれるから楽しいの」
「いっしょに……」
「ええ! 貴女は如何」
「あたしは……」
 少しの間を置いて、三味長老の頭がこくんと縦に傾いた。
「あたしも、楽しかった。“楽しかった”のを、覚えてるよ」
「正確な音も伝えるのに大事だけれど……届けたい、重ねたい想いは、傍にいらっしゃる?」
 三味長老の頭がぱっと上がる。涙でいっぱい頬を濡らしたその顔はまだ、迷子のように不安げだった。けれどはっと瞠られた青い目に、いばらは確かに光を見た。
「ね、一度貴女の心音に添えてみるのも良いのかも」
 バチをきつく握る手へそっと微笑みかける。
 今は全て思い出せなくても、見付け辛くても――その為の道筋はきっと、ずっと此処に在るのだから。

大成功 🔵​🔵​🔵​




第3章 日常 『紫陽花に彩られて』

POW   :    めいっぱい楽しもう

SPD   :    じっくり楽しもう

WIZ   :    ゆっくり楽しもう

👑5
🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

●四葩の庭
「本ッ当~~~~~~~にありがとう!!! そんで、ごめん!!!」
 まずは感謝を。続いて謝罪も、しっかりと。どちらも腹から響かせた三味長老の顔つきは、若干の疲労が覗くものの、随分としゃっきりしたものになっていた。
「あいつとの約束は……完全に守んのは、難しそう」
 暫く休めば、唄の欠けた部分を思い出すかもしれないけれど。寂しさをにじませた女はすぐからりと笑った。そこに賭けるとしても、それはこの世界ですべきじゃないと教えてもらえたからだ。
「今あるもんをカクリヨに持ってって、新しく纏めようかなって。で~、その……あの……カクリヨに行くにはもうちょい必要なもんがあって、さ」

 ――『宴』ってほど豪華なもんでも、格式高いもんでも、ないんだけど。

 宴の場となった紫陽花に囲まれた古民家カフェの席は、古い造りにとけ込むデザインの木製テーブルと椅子で出来ていた。硝子紫陽花の置物がちょこんとあるテーブルの上、メニュー表を開けば戦闘後の腹と――宴を支えるメニューが並んでいる。
 カフェでお馴染みのピザトーストにピラフにカレー、ハンバーグにナポリタンに、オムライスといった洋風の隣には、鮭とツナマヨとおかかのおにぎりセットという純和風、更には出汁香る和風カルボナーラうどんといった和洋合体メニューも。
 ページを捲った先は、紫陽花に囲まれたこのカフェならではのデザート達。


☔紫陽花パフェ(青、紫、桃の3種類)
 丸く盛られたバニラアイスを覆う紫陽花模したクラッシュゼリーは林檎味。
 それが零れないよう支える葉っぱ形のクッキーは、抹茶ではなくプレーン味。その先、綺麗に敷き詰められている蜜柑の下にある層は、ソフトクリーム、クランチビスケット、チョコレート。

☔紫陽花ズコット
 紫陽花のガク形にカットされたフルーツを表面へふんだんに。中にも同じフルーツがぎゅっと詰め込んであり、フルーツの味わいをさっぱり甘い生クリームが引き立てる。
 苺、蜜柑、メロン、マスカットの4種類。カタツムリクッキーのオマケ付き。

☔紫陽花どら焼き、マリトッツォ風
 ふかっとした生地で丸っとしたアイスを挟んだ1品。
 アイスは紫陽花を思わす色の金平糖で贅沢に飾られて、食べればひんやり甘いそこに、しゃりっとした食感が甘く加わる1品になっている。


「紫陽花どら焼きは、あちらのお庭でも食べられますよ」
 どら焼きは食べ歩き出来ますからと笑ったスタッフの視線は、全面ガラス張りのその先。鮮やかな緑を茂らせて、ふっくら丸く咲かせたそこに各々の色を宿した紫陽花達へ。
 どうぞごゆっくりと笑ったスタッフの背を見送った三味長老は、スッキリした様子で笑う。
「やっぱあたしは見えないか。でもいいや。あんた達が楽しんでくれたら、あたしはそれで十分なんだ」
 ここの料理を楽しんでもらえたら、嬉しい。
 ここに咲く紫陽花を楽しんでくれる事も、カクリヨへ渡る力になる。
 そう言って笑った三味長老の足は紫陽花溢れる庭へ。
 ――さて、どちらで楽しもう?
 
曲輪・流生
三味長老さんも落ち着いたようで一安心です。後は三味長老さんがカクリヨに渡るための宴ですね。思いっきり楽しみましょう。
カフェのメニュー。どれも素敵ですね。
でも…僕がきになるのは紫陽花パフェです。
色が選べるのなら青と桃の合の色の紫を…。
紫は僕の好きな色ですし紫陽花は僕の好きな花なので。だからとっても嬉しいです。
( パフェを美味しくいただいて)

三味長老さん、カクリヨに行ったらまた三味線聞かせて下さいね。



 外の光をたっぷり取り込む硝子の向こう。色とりどりの紫陽花の中、似た色を持った三味長老がのんびり歩く姿が見える。三味長老が紫陽花に向ける目線と足取りに、流生は静かに、柔らかに微笑んだ。
(「三味長老さんも落ち着いたようで一安心です。後は三味長老さんがカクリヨに渡るための宴ですね」)
 三味長老が無事カクリヨへ渡り、『約束』を新たな形へと纏められるように――彼女を最後まで応援するには、自分も思い切り楽しむ事が大切だ。
 流生はメニュー表をぱらりと開く。透き通った紫彩の目は、メニューをひとつ見ていく毎にきらきらと輝きを増していった。
(「わあ、どれも素敵ですね」)
 ピザトーストはぶ厚く、これを食べれば幸せと一緒に満腹感が得られるだろう。旗が刺さっているピラフに、ハンバーグやカレーも心がくすぐられる。
 この古民家カフェだからこそ食べられる、紫陽花メニューも良さそうだ。ズコットは見た目がなかなかお洒落で、大きさは――と、カフェへ入った時に見たケーキのディスプレイを思い出す。
(「結構大きかったですね」)
 けれど流生の視線を長く射止めたのは、きらきらとしたゼリーと葉っぱクッキーで紫陽花を表した紫陽花パフェだった。
(「色が選べるんですね。青、紫、桃の3種類ですか……」)
 流生の思考はすぐにぴたりと定まった。
 スタッフを呼び、メニュー表を指して注文して。待つ間は、カフェの内装や紫陽花庭園をのんびりと目で楽しんで。そうして暫く過ごした後、お待たせ致しましたと銀の盆に乗せられやって来た紫陽花パフェに、流生の微笑がより綻んでいく。煌めく『紫陽花』は青と桃の合いの色――紫に染まっていた。
「頂きます」
 一口目を頬張れば、流生の瞳に煌めきが舞う。
 その煌めきは最後の一口を味わい終えた時も変わらず在った。
 ――それから。

「三味長老さん、カクリヨに行ったらまた三味線聞かせて下さいね」
「ああ、勿論さ!」

 咲き誇る紫陽花の中。
 清々しそうに笑う女を映すその時も、優しさを共に、きらきらと。

大成功 🔵​🔵​🔵​

フリル・インレアン
ふわぁ、美味しそうな料理です。
三味長老さん、見えてないんですね。
そうです、アヒルさんを抱っこして席に座ってみませんか?
アヒルさんのところに運ばれてきた料理を食べるんです。
ふええ、それじゃあアヒルさんが食べる分がなくなるって、
じゃあ私のを取り皿に分けますからね。
ふえ?どうしたんですか?
アヒルさんといった相席にして食事をするのは、いつもしていることですが?
ふええ!?端からみるとそれも変って、たしかにそうです。
もしかして、いつも変な人と見られていたのでしょうか?
ふえ?猟兵の力で違和感がなくなっているのですか。
それはよかったです。



 落ち着いた色調の和紙で作られたメニュー表は、古民家カフェの雰囲気に合っていた。それをぱらりと捲ったフリルの赤い目が、緩やかに瞠られていく。
「ふわぁ、美味しそうな料理です」
「ほんとだ」
「ふえっ」
 庭園からいったん戻ったのだろう。いつの間にかいた三味長老にフリルは驚くも、自分達猟兵以外の人は皆、彼女を全く気にしていない事に気付いた。
「そうです、アヒルさんを抱っこして席に座ってみませんか?」
「あたしが?」
「はい。そして、アヒルさんのところに運ばれてきた料理を食べ――」
『ガアガア!』
「ふええ、“それじゃあアヒルさんが食べる分がなくなる”って……」
 三味長老へと渡された瞬間鳴いたアヒルさんの言い分が、フリルの翻訳を経て三味長老に伝わる。途端に明るく吹き出した女の「じゃあ、3人で食おう」と注文を経て運ばれてきたものは、2人とアヒルさんで分けると丁度いい量だ。
「じゃあ私のを取り皿に分けますからね」
 すると、青い視線がアヒルさんをじっと見て――フリルにも向いた。
「ふえ? どうしたんですか?」
「あんた、いつもこのアヒルと飯食ってんの?」
「そうですね、いつもしていることですが?」
「へえ。端から見たらちょいと変かも。……いや、今の時代はそいつが普通なのか?」
 つい先程まで狂気の中にあった女にとって、目の前で現在進行中のそれはとても斬新だったのだろう。時代は変わったんだねと女は笑うが、フリルは「ふええ!?」と声を上げてしまった。
「た、たしかにそうです。もしかして、いつも変な人と見られていたのでしょうか?」
「あはは、大丈夫だろ! ねえ?」
『グワグワ。……ガア』
 同意を求めた女にアヒルさんが頷き、ほら、と周りを見るように促してくる。
 自分達以外の客は目の前の料理や庭を見ており、カフェのスタッフは店内の様子に気を配っている。自分達に違和感を覚えている人物は、1人もいないのだ。
「よ、よかったです。……で、では」
「ああ」
 いただきますと声を揃え――共に、宴の時を。

大成功 🔵​🔵​🔵​

夏彦・星彩
【ココ彩】

友だちと一緒に宴のお裾分けで
古民家カフェのひと時を楽しむとしよう
硝子紫陽花の置物テーブルも
メニューを捲るだけでもわくわくするなぁ
ご飯もの沢山も美味しそうだが〜
今日の星彩はデザート気分で…!

紫陽花らしいパフェも良いが
ズコットケーキがあるぞぅ
帽子みたいなひんやりケーキでなぁ
並べて見るのも切って食べるのもおいし〜
マスカットが1番気になるのだが
苺か蜜柑も……ココと分けっこしたならば…
ひとりでも食べきれはするのだが
やっぱり美味しいうれしいは
お裾分け楽しみたいところ〜

葉っぱの緑色に花々も並んでるようで
雨降り時期でも明るい華やか感じられるような
別の季節にはご飯食べにくるのも良いかもな〜


ココ・ロロ
【ココ彩】
お友達とカフェでおいしいの~!
えへへ、なんだか落ち着く場所ですね
知らないご飯もありますがー…
ココもデザート気になります…!

帽子みたいなひんやりケーキ…ですか?
ふふ、それではココがイチゴのにしますから
わけっこして食べましょ~
それからもひとつ気になる…あじさいぱふぇというのも…!
青いのが涼やか~のような
サイさん、こっちも一緒に食べましょ~
運ばれてきたおいしい花たちを並べたら
テーブルの上に小さな紫陽花畑ができたみたいで
見てるだけでも楽しくなっちゃいますが…
おすそわけはもっとうれしい楽しいですね

えへへ、そうですね
別の季節も一緒においしいを食べに来たいです
その時はまた、わけっこしましょうね



 三味長老がカクリヨへ渡る為の宴。そのお裾分けに預かろうとココ・ロロ(ひだまり・f40324)と夏彦・星彩(アルベード・f38088)が通った道は、鮮やかな緑と紫陽花の彩に溢れていた。その時に覚えたきらきらとした心地は、古民家カフェへ入った瞬間にふわっと花開く。
 何年もの時代を経てきた表情を持つ壁や床。外の光と庭園の紫陽花を燦々と見せる硝子張りの壁。古民家と合う椅子に腰を下ろした2人は、早速顔を見合わせ笑いあった。
「えへへ、なんだか落ち着く場所ですね」
「硝子紫陽花の置物テーブルも、メニューを捲るだけでもわくわくするなぁ」
「そうですね。知らないご飯もありますがー……」
「うん。ご飯もの沢山も美味しそうだが~」
 ぱら、ぱら、ぱらり。ページを捲る手が止まり、2人の視線が1点へとじぃっと注がれる。
「今日の星彩はデザート気分で……!」
「ココもデザート気になります……!」
 けれど、どれにしよう? ワクワクときらきらをお供にメニュー表のデザートと見つめ合えば、3つに分かれた行き先が提示された気分だ。しかもパフェはそこから更に3つに分かれている。けれど星彩はニコニコしながら1つのデザートを指先でトントンと示した。
「紫陽花らしいパフェも良いが、ズコットケーキがあるぞぅ」
「ずこ、っと?」
「帽子みたいなひんやりケーキでなぁ。並べて見るのも切って食べるのもおいし~」
 帽子みたいな、ひんやりケーキ。星彩の言葉をなぞったココの頭の中で色んな帽子がぽぽぽんと咲く。
「マスカットが1番気になるのだが、苺か蜜柑も……」
 ココと分けっこしたならば――。その呟きに、ずこっととは、と想像を膨らませていたココの表情が明るく綻んだ。
「ふふ、それではココがイチゴのにしますから、わけっこして食べましょ~」
 それからもひとつ。ココの指が、とん、と叩いたのは、硝子の器をきらきらと彩るひんやりデザートだった。
「あじさいぱふぇというのも……!」
「おお、紫陽花パフェ……!」
「はい。青いのが涼やか~のような。サイさん、こっちも一緒に食べましょ~」
 注文して暫く待てば、待ちに待ったひとときがやって来る。銀のお盆からテーブルの上へ、紫陽花ズコットと紫陽花パフェが並べられていくのを見ていたココの目に踊った煌めきは、ほんわり綻ぶ笑顔と一緒に星彩に向いた。
「テーブルの上に小さな紫陽花畑ができたみたいですね」
「そうだな~。しかも、ひんやり美味しい」
「ふふ、そうですね。では!」
「ああ。ではでは~」
 くすりと笑いあい、手にはフォークを。なだらかカーブ描く小さな紫陽花へと沈め、掬い上げた一口分をぱくっと頂いた瞬間、甘く瑞々しい幸せが広がっていく。そこに寄り添う素朴な優しさは、生クリームとスポンジのハーモニーだ。
 美味しいと笑いあった2人は、早速それぞれのズコットを交換こ。透き通った明るい若草色のマスカット紫陽花はココへ、艶々鮮やかな赤色をした苺紫陽花は星彩へ。あーん、と食べた2人の顔には、揃って『美味しい』の笑顔が咲く。
(「ひとりでも食べきれはするのだが」)
 星彩はもぐもぐと味わいながら、やっぱり、と向かいのココを見る。その視線に気付いたココの笑顔が、ふにゃり温かに綻んだ。
「見てるだけでも楽しくなっちゃいますが……おすそわけはもっとうれしい楽しいですね」
「そうだなぁ」
 1人でも芽生えるそれがこうすれば何倍にも膨らんで、もっともっとうれしくて、楽しくなる。今度はパフェをと味わえば、新しい美味しさでそれはまた増えて、スプーンもフォークも止まらない。葉っぱクッキーの緑色に花々も並んでいるような様は、雨降り時期でも明るく華やかな心地を感じられるよう。――ならば、と星彩はひらめいた。
「別の季節にはご飯食べにくるのも良いかもな~」
「えへへ、そうですね。別の季節も一緒においしいを食べに来たいです。その時はまた、わけっこしましょうね」

 夏に秋、冬――それから、春。
 今度テーブルに出来上がる花畑は、どんな色をしてるだろう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

楊・暁
【朱雨】

へぇ、雰囲気良いな
尾を揺らし興味津々控えめにきょろきょろ

うん、藍夜もお疲れ様だしな
色々あって迷っちまうけど
やっぱりここは紫陽花系ので
…青と赤、それに紫は俺達の色だからな(ぼそ

んー…じゃあどら焼きにする
良いな
椅子なきゃ、その時は食べ歩きでも

座って微笑む藍夜に膝叩いて視線でおいでと言われたら断れなくて
いつになっても恥ずかしい
けど菓子も食いてぇし
誰も見てねぇ事確認してからそっと乗り

…俺も
雨なんて、ただ面倒なもんでしかなかったけど…
今は藍夜の一部みてぇに愛おしいし
雨上がりが綺麗なんだって事も
お前と一緒に居て知った

ん?…ん。あーん
んん!ひんやり甘くて美味ぇ…!(耳と尾ご機嫌に揺らし
藍夜も。あーん


御簾森・藍夜
【朱雨】
古民家カフェ、というのも中々落ち着くな
家屋は当然だが、庭にも趣がある
うちとはまた違ういい場所だ

なんやかんやと毎日忙しかったんだ、今日はのんびりしよう心音
さて、どれにする?
どら焼き?あぁ、マリトッツォの

……せっかくだ。庭、見てみないか?

心音と半分にカットして貰ったマリトッツォをテイクアウトし庭の、二人分には少し狭いベンチで膝に心音を乗せて
紫陽花に囲まれながら、静かで小鳥の声が心地よい場所でのんびりと

雨上がりが段々良いものに見えるようになってきたんだ
随分前は、まず雨が降られるのが嫌で嫌で仕方がなかったんだがな

心音、ほら…あー…ん。蒸し暑いからこそ、中にアイスはいいアイデアだ

ん、…ん、美味い



 いらっしゃいませ、と出迎えてくれた声の穏やかさに寄り添う木の香りは静かで、御簾森・藍夜(雨の濫觴・f35359)にくっついて入店した楊・暁(うたかたの花・f36185)の尾が、ぱたりぱたり。尾の揺れは席に着いた後も収まらない。
「へぇ、雰囲気良いな」
 興味津々、けれど控えめに周囲をきょろきょろする様に藍夜は目を細めた。心音に向いていた視線はそこから静かに店内へと移り、造りや照明といった調度品を含め、内観の様を緩やかに撫でていく。
「古民家カフェ、というのも中々落ち着くな。家屋は当然だが、庭にも趣がある。うちとはまた違ういい場所だ」
 そんな場所だからこそ、向かいの席に座る心音へと戻った藍夜の眼差しは、温かで優しいものになる。ひょいと取ったメニューをテーブル中央に置いて開けば、すぐに心音も覗き込んできた。
「なんやかんやと毎日忙しかったんだ、今日はのんびりしよう心音」
「うん、藍夜もお疲れ様だしな」
「さて、どれにする?」
「色々あって迷っちまうけど、やっぱりここは紫陽花系ので。……青と赤、それに紫は俺達の色だからな」
 ぼそ、と付け足したそれが聞かれたかどうか確かめる前に、心音は尾をぱたりぱたりとさせながら紫陽花色でいっぱいのページ――デザートと睨み合う。
「んー……じゃあどら焼きにする」
「どら焼き? あぁ、マリトッツォの」
 心音が指差すそれの傍には『紫陽花庭園でも頂けます』の文字。藍夜の視線は、真っ白クリームに金平糖な紫陽花をふんだんにつけたそれから、硝子の向こうに広がる梅雨の風物詩へと。
 硝子が綺麗に磨かれているおかげで、紫陽花の色も、形も、綺麗に見えている。あの硝子は、カフェ店内でのんびりと腰を落ち着けながら、紫陽花庭園も一緒に楽しめるよう造られたのだろう。――けれど。
「……せっかくだ。庭、見てみないか?」
「良いな。あっちに椅子なきゃ、その時は食べ歩きでも行けるし」
 早速と買ったマリトッツォな紫陽花どらやきは1つ。半分にカットして貰ったそれを手に庭園へ通じるドアを開ければ、空調の聞いた涼しさから、夏手前となった6月特有の蒸し暑さと緑の香りを含んだ空気に包まれた。
 道なりにゆるりと巡れば、色とりどりの紫陽花が2人の目を染めていく。そのさなか、鮮やかな桃色をした紫陽花の向こう、淡い水色から色を深くし、そして紫へと、自分達でグラデーションを作る紫陽花達がいた。そして。
「藍夜、椅子あったぞ! ……2人で座るには、ちょっと狭いけど」
「問題ないだろ?」
 見つけた椅子にぱっと声を明るくした心音が、少しばかりゴニョゴニョして告げた事実に藍夜はきょとりとしてすぐ、そこに腰を下ろした。それから自身の膝を叩いて微笑めば、心音の脳内にだけ響く「おいで」の声。
(「断れるわけねぇだろ……!」)
 婚約し、結婚まで進んでも恥ずかしいものは恥ずかしかった。
(「けど菓子も食いてぇし」)
 ――右よし。左よし。後ろもよし。
 誰も見ていない事を確認してからそっと膝の上に乗った心音の背に、藍夜の片手が添えられる。自分達以外周りに誰もいないそこは静かで、耳に届くのは小鳥の囀りだけ。そんな心地よさの中、藍夜はそっと口を開いた。
「雨上がりが段々良いものに見えるようになってきたんだ。随分前は、まず雨が降られるのが嫌で嫌で仕方がなかったんだがな」
「……俺も。雨なんて、ただ面倒なもんでしかなかったけど……今は藍夜の一部みてぇに愛おしいし、雨上がりが綺麗なんだって事も、お前と一緒に居て知った」
 ひとりでなくなった事で起きた変化。世界に射した新しい彩。それを噛み締める2人が次に刻む彩は、和菓子と洋菓子のマリアージュ、紫陽花どらやきマリトッツォである。
「心音、ほら」
「ん?」
「あー……ん」
「ん。あーん」
 はむっ。食べた途端に心音の狐耳と尾がぴんっと跳ねて揺れだした。
「んん! ひんやり甘くて美味ぇ……!」
「蒸し暑いからこそ、中にアイスはいいアイデアだ」
「だな。藍夜も。あーん」
「ん、……ん、美味い」

 1つの美味しさを2人で分かち合う。
 それもまた、ひとりではなくなったからこその――ふたりの彩。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

陽向・理玖
【月風】

おーすっげぇ雰囲気いいな
腰を下ろし

瑠碧はやっぱ紫陽花パフェ?
ソフトにアイス
そりゃパフェ一択だな
3種類あるけど…味違うんかな…
俺はどうしよう…どら焼きも気になる
…ってどら焼きは庭でも食えるのか
うーんでも瑠碧食べ歩き苦手だよな?
そんじゃ瑠碧がパフェなら俺どら焼きにしよ
こっちもアイスだからちょっと食べればいいぜ

おー来た来た
こっちの紫陽花も鮮やかじゃん
食おうぜ
手を合わせ思い切ってぱくり
んっ…どら焼きふかふかだしアイスの中の金平糖がじゃりっとする…
これ食感が面白いし意外と食べ応えあるな
瑠碧も食ってみろよ
な?面白いよな
パフェを貰えば
確かに爽やかで旨いな

食べ終われば手を取り
折角だし庭も見せて貰おうぜ


泉宮・瑠碧
【月風】

カフェの木製のセットを軽く撫で
何だか、ほっとする感じです

理玖に問われて照れつつ
…はい
パフェはアイスとソフトの、夢の競演…
私は青の紫陽花パフェで
食べ歩き…
苦手ではないですが食べ難くて…
アイスのどら焼きも美味しそうです
では、少しずつ交換ですね

給仕の方に御礼を言い
わ、パフェ綺麗です
どら焼きも可愛らしくて…存在感がありますね
いただきますと手を合わせ
ゼリーとアイスを掬って一口
ん、冷たくて爽やかで…おいひい
理玖は…金平糖?
では、交換こして一口いただきますね
ん、ふんわりに歯応えが…
不思議な食感で美味しいです
パフェの感想には自分がどやぁ

食べ終えて一息ついた頃
手を引かれ
はい、紫陽花達にもご挨拶したいです



 長い年月を経てきたとわかる、壁や床を始めとした木の表情。空調の効いた涼しい店内。庭園を臨む為にこしらえられた、全面硝子張りの壁。古さの中に新しさも交えた古民家カフェで、理玖と瑠碧は揃って店内を緩やかに眺め、かすかに息を吐いた。
「おー、すっげぇ雰囲気いいな」
「何だか、ほっとする感じです」
 腰を下ろした椅子と目の前のテーブルは、月日を感じる深い深い飴色をしている。軽く撫でた瑠碧の表情が綻ぶのを見ながら、理玖は手にしたメニュー表をぱたりと開いた。
「瑠碧はやっぱ紫陽花パフェ?」
 理玖の問いに瑠碧の頬がほんのり染まる。
「……はい。パフェはアイスとソフトの、夢の競演……」
「そりゃパフェ一択だな」
 好きなものが一緒になっているのなら、行かない手はない。
 青の紫陽花パフェに決めた瑠碧に見守られながら、理玖もメニュー表のデザートページと見つめ合う。3種類あるパフェは味も違うのかと思いきや、どうやら紫陽花ゼリーは林檎味で統一されているらしい。けれど他の紫陽花スイーツも魅力的だった。
「俺はどうしよう……どら焼きも気になる。……ってどら焼きは庭でも食えるのか。うーんでも瑠碧食べ歩き苦手だよな?」
「食べ歩き……苦手ではないですが食べ難くて……」
「そんじゃ瑠碧がパフェなら俺どら焼きにしよ」
「アイスのどら焼きも美味しそうです」
「こっちもアイスだからちょっと食べればいいぜ」
「では、少しずつ交換ですね」
 食べられる紫陽花は庭ではなく、一緒に楽しく味わえるカフェの方で。
 これ、と決めたものを注文してから運ばれてくるまでは、それほど時間が掛からなかった。
「お待たせ致しました」
「おー来た来た」
「ありがとうございます」
 逆さになった蕾めいた硝子の器を彩る、魅惑の冷菓――その天辺を彩る青いクラッシュゼリーは、透き通った色彩も相まって宝石のように煌めいていた。『紫陽花』のずっと下を作る層はきちんと整えられていて、紫陽花とはまた違う綺麗さがある。
 やや深いきつね色のどら焼き生地は、掌より少し大きいくらいか。挟まれているバニラアイスは生地に相応しい量で、その白さを金平糖がしっかりと飾りきっている。ちなみに、金平糖は淡い水色や明るい青といった青色だけが使われていた。
「わ、パフェ綺麗です。どら焼きも可愛らしくて……存在感がありますね」
「こっちの紫陽花も鮮やかじゃん。食おうぜ」
「はい」
 いただきますと手を合わせ、瑠碧はスプーンを取り、理玖はどら焼きをそっと掴む。銀のスプーンに掬われた一口は、アイスとゼリーのセット。どら焼きを迎えるべく「あ」と開かれた口は、瑠碧の「あ」より大きい。
「ん、冷たくて爽やかで……おいひい」
「んっ……どら焼きふかふかだしアイスの中の金平糖がじゃりっとする……」
 口に入れた瞬間嬉しそうに目を輝かせた瑠碧の向かいで、思い切ってぱくりといった理玖も満足気だ。食感も味わいながらごくんと呑み込んでからどら焼きを、ほら、と瑠碧の方へ差し出す。
「瑠碧も食ってみろよ」
「では、交換こして一口いただきますね」
 あ、と開けられた小さな口がどら焼きをはむっと食べる。理玖の食レポ通り、ふかふかとした食感の後にアイスがひんやりと、そこに散りばめられた金平糖が甘さと共にやって来た。
「ん、ふんわりに歯応えが……不思議な食感で美味しいです」
「な? 面白いよな」
「はい。理玖もパフェをどうぞ」
「サンキュ」
 アイスとクラッシュゼリー、それからその下にあった蜜柑も一緒になった一口は「あーん」と開けられた理玖の口の中へ。ぱくっと食べた瞬間、「ん!」と青い目が嬉しそうに瞠られた。
「確かに爽やかで旨いな」
「ふふ。でしょう?」
 夢の共演は約束された美味しさをくれる。理玖の感想に瑠碧は『どやぁ』として、恋人の姿に理玖が笑って。そして食べては『美味しい』と共に2人の笑顔は重なって――。
「なあ瑠碧。折角だし庭も見せて貰おうぜ」
「はい、紫陽花達にもご挨拶したいです」
 食べ終えて一息ついた瑠碧の手を理玖が取り、引いていく。

 さあ。
 食べられる紫陽花の次は、硝子の向こうに広がる紫陽花を味わおう。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

シュリ・ミーティア
銀花

元に戻れて良かった
こちらこそ痛くしてごめん

フィーもありがと、大丈夫だよ
労いにくすりと
お言葉に甘えてゆっくりしよう
席に着いて
紫陽花、色とりどりで可愛いね
ご飯も美味しそうだけどやっぱりデザートかな
一緒に食べやすいのは…そうだね、パフェにしよう

わぁ
紫陽花尽くしな見た目も楽しい
フィー用にも取り分けて一緒に一口
うん、美味しい
さっぱりして色んな味で飽きないね

三味長老さんも楽しめてるかな
約束が違う形でも
大切に残り続けると良いなと思う

そういえばフィーには何か大切な約束ってある?
私は覚えがないけれど

…帰る?
瞬いて少し考える
それって、フィーはずっと一緒にいてくれるってことだよね

…ん、わかった
ふわり笑って、約束


フィーリス・ルシエ
銀花

おかえりなさい、シュリ!怪我はない?
帰ってきたシュリに文字通り飛びついて怪我がないかチェック
無事を確認したら改めてお疲れ様と労わってから宴へ

古民家カフェ、風情があるわね
店内を軽く見回してから、メニューとにらめっこ
シュリがメインで食べることになるし、パフェがいいかしら

紫陽花尽くしよね、本当に素敵
取り分けて貰った分を一口ぱくり
甘くて美味しくて、幸せな気分になるわね

約束?約束ねぇ…
私もこれといってないけれど…
じゃあ、今ここで私とシュリで約束しましょ

シュリは色んな所に行きたがるからね
行くのは止めないけれど
何があっても、ちゃんと最後には私のところに帰ってくること

約束をしたら、笑顔で頷いて
ずっと一緒よ



「元に戻れて良かった。こちらこそ痛くしてごめん」
 三味長老の感謝と謝罪が詰まった、大きな声。シュリが目を丸くして驚いていたのはほんのちょっとの時間で、すぐに返した言葉と謝罪へ今度は三味長老が目を丸くする。
「そのおかげであたしは正気に戻れたんだ。感謝してもしきれないよ」
 だからこそ、この宴を好きに過ごしてほしい。
 そう言って笑った三味長老が庭園へ向かうのを見送ったシュリは、後頭部にぽすんっと届いた小さな衝撃に目をぱちりとさせた。
「おかえりなさい、シュリ! 怪我はない?」
 後頭部に飛びついてすぐ、ひらり。シュリの目の前に舞い降りたフィーリス・ルシエ(フェアリーのシンフォニア・f22268)は、シュリの顔を頭を手を体をそれから足もと、ひゅんひゅん飛び回りながらチェックしていく。
「フィーもありがと、大丈夫だよ」
 スピーディーかつ傷ひとつ見逃さない気迫。姉貴分からの労いに、静かだったシュリの顔にくすりと笑みが浮かんだ。それを見たフィーリスが安心したように笑う。
「無事でよかったわ。お疲れ様、シュリ。さ、私達も宴に参加しましょ!」
「うん。お言葉に甘えて、ね」
 宴の場所であるカフェの中、席に着けば硝子の向こうに広がる鮮やかな緑と紫陽花の色彩が眩い。腰を落ち着けて眺めてみれば、風に撫でられた時のかすかな揺れや、それで生まれる色の変化も見る事が出来た。
「紫陽花、色とりどりで可愛いね」
「本当。それにこの古民家カフェ、風情があるわね」
 店内を軽く見渡して目に入るのは、この国ならではの歴史ある造り。フィーリスはにこりと笑ってメニューを開き――うーん、とメニューとのにらめっこに突入した。シュリもじぃっとメニューをチェックしていく。
(「ご飯も美味しそうだけどやっぱりデザートかな。一緒に食べやすいのは……」)
「シュリがメインで食べることになるし、パフェがいいかしら」
「そうだね、パフェにしよう」
 少し待って運ばれてきたパフェはテーブルの真中に置かれ、紫陽花を生けた花瓶が飾られたよう。そんな彩りを添えた紫陽花パフェは、シュリの目を丸くさせていた。
「わぁ」
 きらきら、つやつや、ぷるぷる。そんなクラッシュゼリーと葉っぱクッキーで作られたパフェは、名前だけでなく見た目も紫陽花尽くしだ。
「紫陽花尽くしよね、本当に素敵」
「うん。はい、これフィーの」
「ありがとう。いただきます!」
「いただきます」
 あー、ん。人間用とフェアリー用スプーンでぱくりと食べた一口は、2人の顔に同じ煌めきを生む。
「甘くて美味しくて、幸せな気分になるわね」
「うん、美味しい。さっぱりして色んな味で飽きないね」
「葉っぱクッキーは……こっちは優しい味だわ」
 クッキーにアイスを乗せて、紫陽花なゼリーもちょっぴり足して。そうして2人一緒に味わう紫陽花ゼリーは順調に減っていき――庭園でゆるりと動いた紫陽花色に、シュリの目がすいっと向く。
(「三味長老さんも楽しめてるかな」)
 歩き方。一瞬見えた横顔。――うん。きっと楽しめてる。
 抱え続けた約束が違う形を迎えたけれど、それでも大切に残り続けると良い。
「そういえばフィーには何か大切な約束ってある? 私は覚えがないけれど」
「約束? 約束ねぇ……私もこれといってないけれど……じゃあ、今ここで私とシュリで約束しましょ」
 ぱちり。
 今、ここで? そう語る表情にフィーリスはニッコリとして「そうよ」と明るく言った。
「シュリは色んな所に行きたがるからね。行くのは止めないけれど。何があっても、ちゃんと最後には私のところに帰ってくること」
「……帰る?」
 もう一度、ぱちり。シュリは目を瞬かせ、少し考える。
 それって。
(「フィーはずっと一緒にいてくれるってことだよね」)
 いってきます。いってらっしゃい。
 ただいま。おかえりなさい。
 ――それが、これからも続くという事だ。そう思ったら胸の中で何かが柔く芽吹いた。
「……ん、わかった」
「ずっと一緒よ」

 同じ気持ちを抱えて、同じようにふわりと笑って。
 そうして交わした約束は、きっとずっと何度でも咲いて、未来を結ぶ。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

朱赫七・カムイ
⛩神櫻

そうだね…完全でなくても約束が果たせるといいな
今なら見えるものだってあるだろう
紫陽花の宴とはこの季節に相応しいね

古民家かふぇに紫陽花はとても風情があって美しいな
サヨもご機嫌で私も嬉しい
どの菓子も美味しそうだ
私もサヨと同じのにする
一緒に食べ歩きをしたい

庭を見渡せば丸い紫陽花がたくさんだ
どら焼きも美味しい
丸く可愛らしい花もまた美味しそうにみえてくる
……ホムラ、先程から羽を膨らませて何を?

……それでも願う事は決して無駄な事じゃないよ
誰かを強く想うこと
願うことで次の行動につながるものだよ
寄り添うことは難しいね…傷ついたり傷つけたりする
私も共に学ぼう

え?!
カッコつけたはずだったのに…恥ずかしいな…


誘名・櫻宵
🌸神櫻

一先ず、よかったわね三味長老!
約束はきっと彼女を待っていてくれるはずよ
無事にカクリヨに行けるように紫陽花万華鏡な宴を楽しみましょ

カムイと一緒にかぁいらしい古民家カフェを見渡してメニューとにらめっこ
私は紫陽花のまりとっつぉ、にするわ!

とりどりの紫陽花を楽しみながら味わいましょう
紫陽花も色んな種類があるのねぇ
まぁるくてかぁいらしいわ!
ホムラの丸いアピールがすごくて微笑ましい

…あのね、カムイ
私ね彼女とのやりとりで、思ったことがあったの
願う、だけじゃ…駄目なんだって
どうすればいいか、は──ふふ
まだまだ学ぶことは多いわ

ありがとう、カムイ
私の神様は優しくてかぁいいわねぇ
お口にクリームついてるわよ!



 陽光を浴びた紫陽花が見せる鮮やかな色彩の間を、三味長老が穏やかな足取りで巡っている。硝子の向こう、外は空調が効いた店内とは違って湿度の2文字が常に寄り添うものだけれど――三味長老の顔には確かに笑顔があった。
「一先ず、よかったわね三味長老! 約束はきっと彼女を待っていてくれるはずよ」
「そうだね……完全でなくても約束が果たせるといいな。今なら見えるものだってあるだろう」
 三味長老の中に残っているもの。正気を取り戻したからこそ、見えるようになったもの。それらを合わせて彼女が新しい『約束』を結ぶ為の旅路――無事、カクリヨへ行けるように。櫻宵とカムイは微笑を交わす。
「私達も紫陽花万華鏡な宴を楽しみましょ」
「噫。紫陽花の宴とはこの季節に相応しいね」
 入口を過ぎれば、陽射しと湿度が遮られて心地いい。庭園に面した壁のほとんどを硝子にしたのだろうか、硝子張りの向こうで燦々と咲き誇る紫陽花にカムイは目を細めた。
(「古民家かふぇに紫陽花はとても風情があって美しいな」)
 テーブルの上に鎮座している硝子紫陽花も、その色と煌めきを木の面に降らせている。
(「それに……」)
「かぁいらしいカフェね。メニューも素敵だわ」
 ボリュームのあるピザトーストやハンバーグ。このカフェにぴったりの純和風や、紫陽花なスイーツ達。どれがいいかしらと、櫻宵の眼差しは楽しげに移っていく。愛しい巫女のご機嫌な様が嬉しくて、カムイも微笑みながらメニューを覗き込んだ。
「どの菓子も美味しそうだ。サヨはどれにするんだい?」
「私は紫陽花のまりとっつぉ、にするわ!」
「私もサヨと同じのにする」
「他のメニューはいいの?」
「サヨと一緒に食べ歩きをしたい」
「……あら」
 かぁいい。
 神の願いに巫女は瞳に喜色を浮かべ、くすりと咲う。
 少しだけ待って提供された紫陽花のマリトッツォを手に庭園へ出れば、ふわふわふかふか、丸く集うように咲く紫陽花の色彩が、より鮮やかに見える。沢山の紫陽花を見るカムイの目には興味と楽しさの両方が宿り、櫻宵の目にも同じものがきらきらと浮かんでいた。
「紫陽花も色んな種類があるのねぇ。まぁるくてかぁいらしいわ!」
「そうだね。同じ桃色でも鮮やかなものや、淡いものもあって……」
 ぱくり。金平糖でめかしこんだアイスをどら焼きで挟んだ紫陽花マリトッツォは、ひんやりとして甘く、噛めば金平糖がしゃりっと音を立てながら甘みを加えていく。
 食べられる紫陽花スイーツを味わっている影響か、丸く可愛らしい花もまた何やら美味しそうに見えてきて――、
『ピッ』
「……ホムラ、先程から羽を膨らませて何を?」
 こちらを見ている。けれど、どら焼きちょうだいのアピールではなさそうだ。首を傾げたカムイにホムラはまた鳴いて――もっふん。また羽を膨らませたのを見て、櫻宵はピンと来た。
「ホムラの丸いアピールね!」
「えっ」
『チュン!』
 気付いてくれた櫻宵へとホムラが嬉しそうに鳴く。満足そうなホムラに2人は咲い、どら焼きを味わいながら紫陽花も愛で――鮮やかな水色紫陽花に、櫻宵は静かに目を伏せた。
「……あのね、カムイ。私ね彼女とのやりとりで、思ったことがあったの。願う、だけじゃ……駄目なんだって」
 約束を果たしたい。強く激しく願い続けた結果、狂気に染まった。妖怪でなかったとしても、願うだけで届くものなどそう無いだろう。もし届くのなら、神が祀られる事もない。
「……それでも願う事は決して無駄な事じゃないよ。誰かを強く想うこと、願うことで次の行動につながるものだよ」
 人々が神に何かしらを願う姿を多く見た。そしてその後に、願いを掴もうと努める姿も見た。
 優しさと愛情に満ちた眼差しに、櫻宵の顔にふわりと明るさが戻っていく。
「次の行動……そうね。どうすればいいか、は──ふふ。まだまだ学ぶことは多いわ」
「寄り添うことは難しいね……傷ついたり傷つけたりする。私も共に学ぼう」
「ありがとう、カムイ。私の神様は優しくてかぁいいわねぇ」
 ――ん?
 かぁいい、と言ったサヨの目に何やら気になるものが宿ったような?
「カムイ、お口にアイスクリームついてるわよ!」
「え?! カッコつけたはずだったのに……恥ずかしいな……」
「うふふ、本当にかぁいいんだから!」
『ぴっ!』

 弾む声。白い頬を染める桜色。紫陽花に囲まれ咲いた笑顔は今日という日を彩って、次の日も、その先も――此処から続く未来へと繋がっていく。

大成功 🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​🔵​

城野・いばら
わぁ、かわいい紫陽花さん達がいっぱい
沢山テーブルに咲けば
鮮やかで、賑やかなお宴になるでしょう

お庭でも頂けるどら焼きさんと、
どら焼きさんにお勧めのドリンクを2つ頼み
寛ぐ紫陽花さん達に、お邪魔するねとご挨拶したら
今日の宴の主役さんの所へ

ごきげんよう、改めてご挨拶させてね
私はお花の魔女のいばらよ
お隣に失礼したら
はいっと、どら焼きさんとドリンクを渡し
私ももう一つのドリンクを楽しむわ
ううーん!火照った体に涼しくて爽やかさん

そうだ少しの間、お手を拝借してもよろしい?
元気になる魔法、想いが
あなたを善き旅路に導いてくれますよう
良かったらチョコ箱さんも…二人で頂いて?
丁度、見かけた皓湛に手を振ってお声を掛け
渡る時に持込めるかな
その時は皓湛にお願いしても?
私もお土産に桃色小鳥さんとパンダさんの1箱を頂いて

カクリヨにもね、美味しいモノが沢山よ
お勧めは…ふふっ、皓湛に聞けば間違いないの
私もふくふくを沢山教えてもらっているから
あなたのお唄、
カクリヨでも聴けるの、楽しみにしてるね



 レジカウンターで見せてもらったメニューに咲くのは、カフェまで真っ直ぐ伸びる道で出会った彼らにも負けない彩。いばらの目に煌めきが舞う。
(「わぁ、かわいい紫陽花さん達がいっぱい」)
 硝子紫陽花と一緒に、食べられる紫陽花達もテーブルに沢山咲いたら――?

 ――それはもう鮮やかで?
 ――それはもう賑やかな?

(「お宴になるわ!」)
 けれど咲かせたい場所はテーブルではなくて、わくわく宿る視線は一度、硝子の向こうへと。
 声を弾ませ注文したものを両手に、いばらは紫陽花庭園に出る。少し前までいた空気に「おかえり」と包まれ、紫陽花達のお喋りも聞こえてくる。お邪魔するねとご挨拶からのちょっと訪ねれば、新緑色の葉がぴらりと目的地を教えてくれた。いばらの『目的地さん』は紫陽花と同じ鮮やか色の――、
「ごきげんよう」
「ああ、あんたもこっち来たのかい?」
 長椅子に腰掛け寛いでいた三味長老の空気も表情も明るい。いばらはニッコリ笑って頷いた。
「改めてご挨拶させてね。私はお花の魔女のいばらよ。お隣、お邪魔しても?」
「いいとも」
「ありがとう。それと、はいっ」
 隣に座ってから渡したどら焼き1つとドリンク1杯。いいのかい、と驚きと嬉しさ混じった表情にいばらはまた笑顔でこくこく頷いてから、表面に雫をきらきら纏ったカップに口をつけた。
「ううーん! 火照った体に涼しくて爽やかさん……!」
「おっ、ホントだ。いいねこれ、凄いスッキリしたよ!」
 からりと笑った女の手がどら焼きに伸びる。随分洒落たどら焼きだねとしげしげ眺めている間に、ちょっとばかりとろけ始めたそこへ慌てて齧りついた。
「んん、こっちもこの時期にゃいい菓子だね」
「でしょう? そうだ。少しの間、お手を拝借してもよろしい?」
「? いいよ」
 すっと差し出された手を両手で包み込む。三味長老は不思議そうに見つめていて、そこには戦闘中に見た虚ろや狂気といったものは無い。――だからこそ。
「元気になる魔法、想いが、あなたを善き旅路に導いてくれますよう」
 込めた想いは優しく温かに三味長老の裡へと染み渡り、言葉と共に贈られたものを感じ取った女の表情が、くすぐったそうに綻んだ。それを見ていばらも咲い、他にもあるのと囁く。
「良かったらチョコ箱さんも……2人で頂いて?」
「チョコ箱?」
「ええ。はおじゃーん!」
 丁度いい所で紫陽花の向こうに見えた汪・皓湛(花仙・f28072)へと手を振れば、青空色の幽世蝶を連れたグリモア猟兵はすぐに気付き、2人が並んでいるのを見て嬉しそうに咲った。
「ねえ皓湛、このチョコ箱さん、渡る時に持込めるかな」
「ええ。この大きさでしたら問題ありませんよ」
「よかった! その時は皓湛にお願いしても?」
「心得ました。この汪・皓版。必ずや運び届けましょう」
 胸元に手を当て少しだけ仰々しくしてみせた皓湛の目が、いばらの傍にある1箱に気付いた。三味長老も気付いたそれはいばらのお土産用――桃色小鳥やパンダチョコが眠る一箱だ。
「私はね、こっちのチョコ箱さんを頂くわ」
「よかった、あんたの分はちゃんとあるんだね。……あたしもチョコは随分と喰ったけどさ。あんたらのお陰で、美味くて、ちゃんと満腹になるチョコが食えるよ」
「カクリヨにもね、美味しいモノが沢山よ」
 たくさん、と聞いた三味長老の目がぱちっと丸くなった。隠されない期待と好奇心にいばらは皓湛と共に咲い――それからお勧めは、と皓湛を見てくすくす笑む。
「ふふっ、皓湛に聞けば間違いないの。私もふくふくを沢山教えてもらっているから」
「ふくふく?」
「ええ。お腹も心もいっぱいの、ふくふく! ……ね。あなたのお唄、カクリヨでも聴けるの、楽しみにしてるね」

 遠く過去になった日から続く約束が、新しい形を得て芽吹く日。
 その時に見る四葩の色はきっと――今見る笑顔に負けない、鮮やかさ。

大成功 🔵​🔵​🔵​



最終結果:成功

完成日:2024年07月09日


タグの編集

 現在は作者のみ編集可能です。
 🔒公式タグは編集できません。

🔒
#UDCアース
🔒
#カクリヨファンタズム


30




種別『集団戦』のルール
 記載された敵が「沢山」出現します(厳密に何体いるかは、書く場合も書かない場合もあります)。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『ボス戦』のルール
 記載された敵が「1体」出現します。多くの場合、敵は、あなたが行動に使用したのと「同じ能力値」の戦闘方法で反撃してきます。
 それらを踏まえつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※このボスの宿敵主はピオネルスカヤ・リャザノフです。ボスは殺してもシナリオ終了後に蘇る可能性がありますが、宿敵主がボス戦に参加したかつシナリオが成功すると、とどめを刺す事ができます。
※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


種別『日常』のルール
「POW・SPD・WIZ」の能力値別に書かれた「この章でできる行動の例」を参考にしつつ、300文字以内の「プレイング」を作成してください。料金は★0.5個で、プレイングが採用されなかったら全額返金されます。
 プレイングが採用されたら、その結果は400文字程度のリプレイと「成功度」で表現されます。成功度は結果に応じて変化します。

 大成功🔵🔵🔵
 成功🔵🔵🔴
 苦戦🔵🔴🔴
 失敗🔴🔴🔴
 大失敗[評価なし]

👑の数だけ🔵をゲットしたら、次章に進めます。
 ただし、先に👑の数だけ🔴をゲットしてしまったら、残念ながらシナリオはこの章で「強制終了」です。

※自分とお友達で、それぞれ「お互いに協力する」みたいな事をプレイングに書いておくと、全員まとめてひとつのリプレイにして貰える場合があります。


挿絵イラスト